特集●役に立つ角膜疾患診療の知識あたらしい眼科32(1):83~90,2015特集●役に立つ角膜疾患診療の知識あたらしい眼科32(1):83~90,2015角膜疾患関連続発緑内障への対処法TherapeuticStrategyfortheSecondaryGlaucomaRelatedtoCornealDiseases森和彦*はじめに角膜疾患関連続発緑内障は難治緑内障の一つとされる.とくに角膜移植後に合併する緑内障は移植後の失明原因として常に上位に位置しており,角膜が透明になっても視神経障害のために失明に至る例も少なくない.術後の一過性高眼圧を除いた角膜移植後続発緑内障の発症頻度は全体では30%程度とされているが,角膜移植の原因疾患によってその頻度が大きく異なっている.たとえば無水晶体性水疱性角膜症では続発緑内障発症頻度が20~70%ともっとも高く,円錐角膜や先天性遺伝性角膜内皮ジストロフィ(congenitalhereditarycornealendothelialdystrophy:CHED)などでは低いとされている1).一般に角膜移植後の続発緑内障発症・増悪のリスクとしては,角膜移植前から存在している緑内障の既往,無水晶体無硝子体眼,眼内レンズ(intraocularlens:IOL)摘出術併用例などがあげられている.角膜疾患に関連した緑内障の眼圧上昇メカニズム(表1)は,角膜の病態や移植の有無,経過期間によって異なっており,異常な増殖組織や炎症に続発した隅角閉塞,移植後早期の前房内残留粘弾性物質,出血,炎症,角膜浮腫や浅前房による周辺虹彩前癒着(peripheralanteriorsynechia:PAS),瞳孔ブロック,ステロイド緑内障,拒絶反応に伴う炎症・虹彩前癒着の進行,悪性緑内障など,さまざまな原因があげられる.近年はシクロスポリンに代表されるステロイド以外の免疫抑制療法が広く用いられるようになり,ステロイド長期使用例の減少に伴いステロイド緑内障の頻度は減少傾向にある.いずれの病態においても角膜疾患続発緑内障では,高眼圧のみならず治療としての緑内障手術によっても惹起された炎症が角膜の透明性維持に悪影響を及ぼすため,十分な管理上の注意が必要である.I重要ポイント1.眼圧測定角膜疾患関連続発緑内障の診断においてもっとも重要なポイントは眼圧上昇の判定である.眼圧測定のゴールデンスタンダードであるGoldmann圧平眼圧計(Goldmannapplanationtonometer:GAT)は角膜厚や角膜表面性状の影響を受け,不整な眼表面状態や角膜厚が厚い水疱性角膜症では正確な眼圧が測定困難である.しかし,DSAEK(Descemet’sstrippingautomatedendothelialkeratoplasty)やDMEK(Descemet’smembraneendothelialkeratoplasty)では角膜厚は大きくは変化しないため眼圧値に対する影響は少ない.眼表面に非接触で測定可能という利点から頻用されるノンコンタクトトノメーター(non-contacttonometer:NCT)は,角膜疾患例において安定した測定値を得ることは困難であり,あくまでも参考程度にしかならない.トノペンR(Reichert社)は接触面積が小さいことから眼表面疾患でも正確に測定できる可能性が高いが,実際にはばらつきが大きく,やはり参考程度の値しか得られない.リバウンドトノメーターであるアイケアR(ICAREFINLAND*KazuhikoMori:京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学〔別刷請求先〕森和彦:〒602-0841京都市上京区河原町広小路上ル梶井町465京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(83)8384あたらしい眼科Vol.32,No.1,2015(84)度判定すら困難な場合が多いし,移植片拒絶反応や移植した上皮細胞の脱落の恐れから基本的に接触型検査自体が不可な場合もある.このような場合でも緑内障手術の適応や術式を決定するためには隅角検査が必須であることから,接触面積の少ないZeiss型やSussman型の隅角鏡を用い,スコピゾルを大量に使用したり治療用ソフトコンタクトレンズ上から行ったりすることで何とか隅角検査を試みることが大切である.そのためにも常日頃から角膜上皮に負担をかけない隅角検査手技をマスターしておくことが必要である.非接触式検査である前眼部光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)による画像解析は,隅角検査が不可能な症例の隅角形状を判断する際の次善の策として有用である.現在利用できる前眼部OCTの中では,タイムドメイン型のVisanteTM(CarlZeiss社)と比較して,スペクトラルドメイン型のCasiaR(トーメーコーポレーション)のほうが短時間かつ高解像度で全周の隅角をスキャンできるため有用性に勝る.ただ非接触式であるがゆえに機能的閉塞と器質的閉塞の差のような動的変化を捉えることは困難である.また,あくまでもカラー情報をもたず隅角形状を捉えるのみであることから,隅角の異常所見を捕捉する能力としては隅角検査に劣ることを認識すべきである.また,さらに後方の虹彩裏面や毛様体突起部などの所見を得るためには,超音波生体顕微鏡(ultrasoundbiomicroscope:UBM)が有用であるが,接触式検査であるために隅角検査と同様の制限がある.4.眼表面性状と炎症点状表層角膜症や遷延性角膜上皮欠損の有無,涙液動態などの眼表面性状は,緑内障点眼治療における薬剤選択に影響する因子として重要であるため,フルオレセイン染色を用いてしっかりと確認する必要がある.また,通常は見落とされがちな上方もしくは下方結膜の状態に関しても,緑内障の術式選択に当たって濾過手術やチューブシャント手術を成功させるために非常に重要な所見であり,瘢痕性変化や瞼球癒着,結膜.短縮の有無などについて十分な診察が必要である.社)は接触面積がさらに小さいことからかなり正確な眼圧値が得られるが,GATと同様に角膜厚の影響を受けるので当てる場所によって値が大きく異なることがある.さらには培養角膜上皮移植や羊膜移植などの眼表面再建術の術後早期には角膜に触れることすら差し控えざるを得ない.最終的にはGATとNCT,その他の眼圧計の値を参考にしながら,眼瞼上から強膜越しに眼球に触れて判断するタクタイル法で眼圧上昇を確認するのがもっとも確実である.そのためにも常日頃から眼球を触診し,眼瞼上から眼圧を推測する感性を養っておく必要がある.2.眼圧上昇は一過性か持続性か次に重要なポイントは原疾患の治療経過と眼圧上昇との関係である.たとえば角膜移植後早期には,前房内の残存粘弾性物質や炎症により眼圧が高値を示すことが多いが,これらは経過をみているうちに下降してくる一過性のものである.一方,移植後を含めた角膜疾患の経過中には点眼・内服を含めてステロイド薬を使用することが多く,眼圧上昇例の中には高頻度にステロイド緑内障が含まれている.したがって治療経過,とくにステロイド使用歴と眼圧上昇との時間的関係について知っておくことはきわめて重要である.通常,ステロイドレスポンダーはステロイド使用開始後,2週間程度経過してから眼圧が上昇してくることが多いが,線維柱帯からの房水流出に余裕のない場合にはステロイド開始後,短期間で眼圧上昇をきたすこともある.また,眼内炎症遷延時には炎症に伴って眼圧が上昇している場合もあり,炎症程度との関連性も眼圧上昇機序を理解するうえで重要となる.さらに症例によっては基礎疾患として原発緑内障や外傷性緑内障などを有している場合もあり,問診による既往歴の聴取も重要となる.3.隅角所見PASの有無は緑内障の治療法や予後に影響を与えるもっとも重要な因子であり,vanHerick法によって隅角開大度を判定するのはもちろんのこと,眼表面状態が許されるなら隅角検査を実施すべきである.ただ角膜疾患の中には混濁のためにvanHerick法による隅角開大あたらしい眼科Vol.32,No.1,201585(85)し,小さな光源を用いるOCTでは乱反射が少なく網膜や視神経の画像が撮れることもある.また,V-4の視標を用いた大まかな視野検査だけでも緑内障性視野障害の程度を知るためには重要な手がかりとなる.ゆえに,たとえ混濁によって眼底がみえそうもない症例でも,何とかしてみようとする努力,視野を取ろうとする努力を怠ってはならない.5.視神経乳頭と視野所見眼表面疾患を有する場合には眼底透見困難で視野検査も施行できないことが多いため,えてしてこれらの検査がなおざりにされてしまう危険性がある.しかしながら,倒像鏡もしくは細隙灯顕微鏡の光量を可能な限り少なくし,光軸も絞り込むことで混濁角膜からの乱反射を防止すれば,視神経乳頭を何とか透見できることも多い表2角膜原疾患と眼圧上昇機序原疾患眼圧上昇機序ICE/PPD/眼内上皮増殖直接的隅角閉塞円錐角膜ステロイドLI後水疱性角膜症炎症/基礎疾患としてのPACG化学外傷炎症/ステロイド/直接障害感染症炎症眼表面再建炎症/ステロイドICE:虹彩角膜内皮症候群,PPD:後部多形性角膜変性症LI:レーザー虹彩切開術,PACG:原発閉塞隅角緑内障表1角膜疾患関連続発緑内障眼圧上昇隅角形状炎症との関連ステロイド使用診断持続性開放なしありステロイド緑内障なしなしPOAG合併/線維柱帯障害などあり炎症反応性眼圧上昇閉塞あり炎症性続発閉塞隅角緑内障/瞳孔ブロック/悪性緑内障/異常増殖組織による閉塞一過性術後炎症/残存粘弾性物質POAG:原発開放隅角緑内障cleftofTMIOP=13mmHgIOP=39mmHgABCDE図1化学外傷後続発緑内障酸による化学外傷後.右眼瘢痕性角膜混濁(A)に対し,全層角膜移植術+眼表面再建術を施行したところ眼圧が著明に上昇(39mmHg,B).鼻下側にて線維柱帯切開術を施行(C,D)し,13mmHgに下降.前眼部OCTにて線維柱帯切開部が確認できる(E)表2角膜原疾患と眼圧上昇機序原疾患眼圧上昇機序ICE/PPD/眼内上皮増殖直接的隅角閉塞円錐角膜ステロイドLI後水疱性角膜症炎症/基礎疾患としてのPACG化学外傷炎症/ステロイド/直接障害感染症炎症眼表面再建炎症/ステロイドICE:虹彩角膜内皮症候群,PPD:後部多形性角膜変性症LI:レーザー虹彩切開術,PACG:原発閉塞隅角緑内障表1角膜疾患関連続発緑内障眼圧上昇隅角形状炎症との関連ステロイド使用診断持続性開放なしありステロイド緑内障なしなしPOAG合併/線維柱帯障害などあり炎症反応性眼圧上昇閉塞あり炎症性続発閉塞隅角緑内障/瞳孔ブロック/悪性緑内障/異常増殖組織による閉塞一過性術後炎症/残存粘弾性物質POAG:原発開放隅角緑内障cleftofTMIOP=13mmHgIOP=39mmHgABCDE図1化学外傷後続発緑内障酸による化学外傷後.右眼瘢痕性角膜混濁(A)に対し,全層角膜移植術+眼表面再建術を施行したところ眼圧が著明に上昇(39mmHg,B).鼻下側にて線維柱帯切開術を施行(C,D)し,13mmHgに下降.前眼部OCTにて線維柱帯切開部が確認できる(E)86あたらしい眼科Vol.32,No.1,2015(86)前房であるうえに前房内炎症が高度に生じることから,続発閉塞隅角緑内障をきたしやすい.さらに化学外傷後(図1)には,化学物質による直接的な房水流出路障害,化学物質による炎症の影響,消炎のためのステロイドの影響の3要因が相互に絡み合って眼圧上昇が発症するため,隅角形状や眼表面状態をしっかりと判断する必要がある.III角膜疾患関連続発緑内障の治療方針治療の基本は他の続発緑内障ととくに変わるところはない.視神経の障害程度を見きわめたうえで,必要最小限の薬物で最大限の効果を狙いつつ眼圧上昇の原因に応じた治療を行う.しかしながら,角膜疾患眼の特殊性として眼底透見性が不良なことが多いため,つい原疾患の対象である前眼部ばかりに目が行きがちとなり,経過観察中に気づいた頃には視野検査や視神経乳頭検査がまったくなされていなかったということのないように留意すべきである.緑内障治療の面からはかなり制限を課された状況下で診断・治療を進めてゆかねばならない点で,II診断へのアプローチ前述のポイントをもとに緑内障の重症度や病型を診断することになる(表1)が,角膜疾患の種類によって,ある程度は眼圧上昇機序の類推が可能である(表2).虹彩角膜内皮症候群(図3~5)や後部多形性角膜変性症(posteriorpolymorphouscornealdystrophy:PPD),眼内上皮増殖(epithelialingrowth)などでは増殖細胞により隅角が閉塞されPASを生じる続発閉塞隅角機序により眼圧上昇をきたす.一方,角膜移植後緑内障(図1~4)においては一般的にステロイドを使用していることから,眼圧上昇には多かれ少なかれステロイドの影響が加味されている.中でも円錐角膜に対する全層角膜移植術後症例では,若年者の割合が多いことからもステロイド緑内障の頻度が非常に高い.また,それ以外の角膜疾患であっても,基礎疾患として緑内障を有さず,明らかに開放隅角かつ眼内炎症が軽微であればステロイド緑内障を強く疑う根拠となる.レーザー虹彩切開術後の水疱性角膜症に対する全層角膜移植術後症例では,元来浅IOP=17mmHgIOP=27mmHgABCD図2DSAEK眼への線維柱帯切開術原発閉塞隅角緑内障発作後の水疱性角膜症(A).DSAEK施行後に眼圧上昇(27mmHg,B).隅角癒着解離術+線維柱帯切開術を施行し(C,D),眼圧はよく下降(17mmHg).IOP=17mmHgIOP=27mmHgABCD図2DSAEK眼への線維柱帯切開術原発閉塞隅角緑内障発作後の水疱性角膜症(A).DSAEK施行後に眼圧上昇(27mmHg,B).隅角癒着解離術+線維柱帯切開術を施行し(C,D),眼圧はよく下降(17mmHg).あたらしい眼科Vol.32,No.1,201587(87)ロスタグランジン製剤などの点眼や炭酸脱水酵素阻害薬の点眼・内服治療から開始する.ステロイドは可能であるならば,より力価の弱いものに変更するか完全に中止するかして,シクロスポリンなどのステロイド以外の免疫抑制療法に切り替える.炭酸脱水酵素は角膜内皮にも角膜疾患関連続発緑内障は他の続発緑内障と比べてきわめて特殊であるといえる.IV薬物療法の基本通常,早期の眼圧上昇に対しては,bブロッカーやプIOP=22mmHgABCDIOP=19mmHgIOP=29mmHgEFGHIOP=8mmHgIJ図3虹彩角膜内皮症候群(Chandler症候群)に対するDSAEK後緑内障隅角変化の少ない虹彩角膜内皮症候群(A,B).DSAEK施行時に虹彩縫合を試み,PASの進行を予防(D~F).眼圧上昇に対し,エクスプレスRフィルトレーションデバイスを用いた濾過手術施行.異常角膜内皮の増殖はチューブ先端にまでは及びにくく,濾過胞形成良好(H,I).IOP=22mmHgABCDIOP=19mmHgIOP=29mmHgEFGHIOP=8mmHgIJ図3虹彩角膜内皮症候群(Chandler症候群)に対するDSAEK後緑内障隅角変化の少ない虹彩角膜内皮症候群(A,B).DSAEK施行時に虹彩縫合を試み,PASの進行を予防(D~F).眼圧上昇に対し,エクスプレスRフィルトレーションデバイスを用いた濾過手術施行.異常角膜内皮の増殖はチューブ先端にまでは及びにくく,濾過胞形成良好(H,I).ABCDEF図4本態性虹彩萎縮に対する全層角膜移植後緑内障周辺部虹彩萎縮を伴う水疱性角膜症(A,B).全層角膜移植後に眼圧上昇(C).広範なPASを認め上方結膜の瘢痕も高度であったため,経毛様体扁平部硝子体手術と後眼部型バルベルトR緑内障インプラント挿入術を施行し,術後の眼圧は安定化(D~F).ABCEFDIOP=15mmHg図5虹彩角膜内皮症候群(Cogan.Reese症候群)に合併した緑内障虹彩表面を膜状組織が被覆(A,B).PASのない部位でエクスプレスRフィルトレーションデバイスを用いた濾過手術施行.術後3年の時点では濾過良好(D~F).存在し,角膜の透明性維持に関与していることから,内な限り添加されていないか濃度が少ないほうが望まし皮細胞が減少しているような状況下では可能な限り使用い.しかしながら,抗緑内障薬は眼圧下降を主目的としを制限したほうが望ましい.塩化ベンザルコニウムなどていることから,その決定に当たっては主剤の効果を基の防腐剤は眼表面に対して障害的に作用するため,可能準にすべきであり,副作用を恐れて眼圧下降効果の劣る88あたらしい眼科Vol.32,No.1,2015(88)あたらしい眼科Vol.32,No.1,201589(89)薬剤を投与することは本末転倒である.抗緑内障点眼薬はいずれも角膜上皮障害ならびに結膜充血などの副作用を引き起こす可能性があるので,基本的には多剤併用は可能な限り3剤までにとどめるべきであり,点眼薬使用中には眼表面状態の十分な管理・注意が必要である.なお,新しい抗緑内障薬として上市されたROCK阻害薬については,角膜内皮や眼表面に対する影響など未知のことが多く,今後の検討が必要である.V角膜疾患関連続発緑内障に対する手術療法先に述べた内科的療法によっても眼圧がコントロールできない場合には,観血的療法を選択せざるを得ない.角膜移植後緑内障に対する緑内障術式としては,移植した角膜内皮に対する影響や免疫抑制に伴う易感染性を考慮すれば,少しでも適応があるならまずは線維柱帯切除術よりも線維柱帯切開術を選択したほうが良い(図1).すなわち,角膜の透明性が良好で隅角の状態が確認できPASが少ない症例では,眼圧上昇の機序としてステロイド緑内障の関与が強く疑われるため,線維柱帯切開術が良い適応となる.部分的なPASが存在していても癒着期間が短い場合,もしくは面状ではなく線状に癒着をきたしている場合であれば,隅角癒着解離術と線維柱帯切開術の併用が可能である(図2).しかしながら,前述の条件を満たさないときには他の難治続発緑内障の場合と同様にマイトマイシンC(MitomycinC:MMC)併用線維柱帯切除術が必要となる症例が多い.MMC併用線維柱帯切除術の成功率は30~70%(経過観察期間1~5年)と報告によりさまざまであるが,角膜再移植例,無水晶体眼,PASによる閉塞隅角を認める症例では眼圧コントロール成績が低下する1).一方,虹彩角膜内皮症候群や眼内上皮増殖などの眼内増殖性疾患に続発する緑内障に対しては,線維柱帯切開術では切開部の増殖組織による閉鎖のため,線維柱帯切除術でも強膜弁癒着が生じやすいため,いずれも手術成績が不良となる.このような場合にはショートチューブタイプを含めたチューブシャント手術の適応と考えられる(図3,5).ただし,エクスプレスシャント(日本アルコン社)は閉塞隅角緑内障では適応外であり,挿入部位の隅角が開大していることが必要条件となる.さらに眼表面も同時に障害されている化学外傷やSte-vens-Johnson症候群,眼類天疱瘡など眼表面疾患を有する症例では,濾過胞作製部位の結膜も障害されていることから線維柱帯切除術自体が施行困難となるため,ロングチューブタイプのチューブシャント手術の適応と考えられる(図4).しかしながら,バルベルト(エイエムオー・ジャパン社)やアーメド(NewWorldMedical社)などのドレナージデバイス移植は,デバイス先端の角膜内皮への慢性的接触が発生するために,内皮脱落や移植片の拒絶反応などの合併症が多いのが難点である.毛様溝から虹彩裏面後房へ挿入する方法や毛様体扁平部から硝子体腔に挿入する方法は,角膜内皮への影響を最小化できるが,後者では必ず硝子体手術を併用する必要があるため,角膜混濁による眼底透見性の程度が硝子体手術の可否を決める条件となる.眼内内視鏡を用いた硝子体手術も盛んに行われるようになっており,角膜混濁があっても硝子体手術の制限にはならなくなってきている.以上のような観血的手術療法によっても眼圧コントロールが得られない症例には,最終手段としての毛様体破壊術を考慮せざるを得ない.半導体レーザーを用いた経強膜毛様体レーザー光凝固術がもっとも一般的であるが,眼内炎症が遷延したような症例では毛様体突起の位置自体が大幅にずれている場合もあるために術後の眼圧予測がむずかしいだけでなく,惹起された炎症による移植片拒絶反応,低眼圧,視力低下,眼球癆などの合併症がある.近年,これらの合併症を予防し過剰凝固を抑制するために,眼内内視鏡を用いて直視下に毛様体突起部のみを選択的に光凝固する手法など種々の新しい手法が開発されているが,移植角膜などに対する影響に関しては報告されていない.まとめ角膜疾患関連続発緑内障では,通常の緑内障検査を正確に行うことができないために診断が困難であり,発見や治療が遅れることが多い.しかしながら,緑内障の眼圧コントロールが角膜疾患の治療成績にも影響することから,眼圧上昇時の抗緑内障点眼薬による角膜上皮障害には十分に注意して診察する必要がある.また,眼表面炎症の抑制や角膜移植片の拒絶予防の目的で長期にわた90あたらしい眼科Vol.32,No.1,2015(90)りステロイドや免疫抑制薬を使用する例も多いため,ステロイド緑内障の発症のみならず線維柱帯切除術後の濾過胞感染にも十分な注意が必要である.文献1)SteinJD,McDonnellPJ,LeePP:Penetratingkeratoplastyandglaucoma.PrinciplesandPracticeofOphthalmology,2ndEd.(edsAlbertDM,JakobiecFA,eds),p2860-2873,Saunders,Philadelphia,20002)荒木やよい,森和彦,成瀬繁太ほか:角膜移植後緑内障に対する緑内障手術成績の検討.眼科手術19:229-232,20063)AndreMetal:Glaucomaassociatedwithtrauma.Chemi-calburns,TheGlaucomas.ClinicalScience,2ndEd.(RitchR,ShieldsMB,KrupinT,eds),Chapter59,p1271-1275,Mosby,St.Louis,19964)森和彦:角膜移植と緑内障.眼科プラクティス11緑内障診療の進めかた(根木昭編),p70-71,文光堂,2006