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網膜硝子体界面疾患

2024年3月31日 日曜日

網膜硝子体界面疾患VitreoretinalInterfaceDiseases森實祐基*はじめに網膜硝子体界面疾患は,網膜と硝子体の境界面に発症する疾患の総称である.とくに黄斑と硝子体の境界面に発症する頻度が高く,黄斑円孔(macularhole:MH),網膜上膜(epiretinalmembrane:ERM),分層黄斑円孔(lamellarmacularhole:LMH)とその類縁疾患,硝子体黄斑牽引症候群(vitreomaculartractionsyndrome:VMTS)などが臨床上重要である.網膜硝子体界面疾患と光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)とのかかわりは深く,近年の網膜硝子体界面疾患の病態解明と治療法の開発はOCTなしには達成しえなかったといっても過言ではない.本稿では,網膜硝子体界面疾患の診療におけるOCTの活用法について最新の知見を交えて解説する.I網膜硝子体界面の解剖と加齢による変化網膜硝子体界面疾患の病態を理解するためには,網膜硝子体界面の解剖と加齢による変化を理解する必要がある.OCTの登場により,これまでに数々の重要な知見が明らかにされた.そのなかでもとくに重要な知見を以下に示す.1.硝子体による黄斑牽引は周中心窩後部硝子体.離によって生じる学童期に黄斑の前方にポケット上の液化腔(後部硝子体皮質前ポケット)が形成される1)(図1).液化腔の後壁は硝子体皮質であり,加齢とともに後壁が接線方向に収縮すると,弧が弦になろうとする力が発生し,硝子体皮質は網膜から.離しようとする.しかし,硝子体は中心窩と強く接着しているため,中心窩以外の網膜で後部網膜硝子体.離(posteriorvitreousdetachment:PVD)が生じる.すなわち周中心窩後部硝子体.離(perifovealposteriorvitreousdetachment:perifovealPVD)である.中心窩には前方に向かう牽引力が生じる(図1).この牽引力が網膜硝子体界面疾患の原因である.2.Mullercellconeは中心窩の構造を求心性につなぎとめる硝子体による中心窩の牽引によって網膜外層の構造の変化や網膜.離が生じる理由はよくわかっていなかった.Gassは中心窩にはMullercellconeというMuller細胞の集合体が存在し,中心窩の構造を求心性につなぎとめていると考えた2).たとえばMHの形成過程において,perifovealPVDによる中心窩の牽引によってMul-lercellconeが網膜からはずれると,遠心性に網膜外層の円孔が拡大する.Mullercellconeの存在は組織学的に十分解明されていないため,あくまでも概念的な構造と考えられている.II黄斑円孔診療におけるOCTの使い方MHは中心窩にみられる網膜全層の円孔である.特発性MHは前述のperifovealPVDによって中心窩に裂隙*YukiMorizane:岡山大学大学院医歯薬学総合研究科眼科学〔別刷請求先〕森實祐基:〒700-8558岡山県岡山市北区鹿田町2-5-1岡山大学大学院医歯薬学総合研究科眼科学0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(15)251ab図1周中心窩後部硝子体.離(PerifovealPVD)後部硝子体皮質前ポケットおよびperifovealPVDの模式図(a)とOCT画像(b).aの*は後部硝子体皮質前ポケットを示す.PerifovealPVDにより,中心窩に(b)の方向の牽引がかかる.表1難治性黄斑円孔大型黄斑円孔(最小円孔径がC400Cμm以上)陳旧性黄斑円孔近視性黄斑円孔増殖性網膜病変に合併する黄斑円孔ぶどう膜炎,網膜色素変性に合併する黄斑円孔外傷性黄斑円孔be図2OCTBスキャン画像に基づいた黄斑円孔の病期分類a:Stage1A:中心窩内層の.胞.Cb:Stage1B:中心窩外層の網膜間隙(中心窩.離).c:Stage2:中心窩内層の裂隙.Cd:Stage3:全層の円孔.視神経乳頭につながる硝子体()と偽円孔蓋()を認める.翻転したILM増殖/遊走するグリア細胞図4進行した網膜上膜のOCTBスキャン画像網膜上膜(),異所性の網膜内層(*,ectopicCinnerCfoveallayer:EIFL)を認める.網膜の内層()と外層()に.胞様腔を認める.図3黄斑円孔に対する内境界膜(ILM)翻転a~c:ILM翻転後の黄斑円孔の閉鎖過程の模式図.翻転したILMを足場として活性化したグリア細胞が増殖・遊走し円孔閉鎖を促す.Cd~e:ILM翻転前(Cd)と術翌日(Ce)のOCTCBスキャン画像.眼内にガスが存在している状況でCsweptCsourceOCTを用いて撮影したCBスキャン画像(Ce)において,翻転したCILMが黄斑を被覆していることがわかる().図5網膜上膜にみられる網膜しわを用いた網膜牽引力の評価a:OCTenface画像で可視化された網膜上膜().b:深層にみられる網膜しわ().c~e:膜(Cc)に圧縮応力Cfを加えるとしわが生じる(Cd).fよりもさらに強い圧縮応力CFを加えると生じるしわの振幅(L)は圧縮応力Cfによるしわの振幅(l)よりも大きくなる(Ce).このことから,ERMによって生じるしわの深さを定量化することで網膜への牽引力を評価できる.表2分層黄斑円孔と類縁疾患のOCTBスキャン画像による分類分層黄斑円孔網膜上膜による中心窩分離黄斑偽円孔必須項目不整な中心窩形状黄斑前膜中心窩を避ける黄斑前膜中心窩の空洞(網膜面と円孔縁がなす角<9C0°)Henle線維層での網膜分離(網膜面と網膜分層縁がなす角≧9C0°)急峻な中心窩形状(網膜面と円孔縁がなす角≒90°)網膜厚の増加中心窩組織の欠損Epiretinalproliferation内顆粒層の微小.胞内顆粒層の微小.胞正常中心網膜厚C参考項目C中心窩外層の隆起網膜厚の増加Ellipsoidzoneの途絶網膜皺襞図6分層黄斑円孔のOCT画像所見分層黄斑円孔のCBスキャン画像(Ca:水平スキャン,Cb:垂直スキャン)とCEnface画像(Cc,d).aおよびCbの*は不整な中心窩形状を示し,はCepiretinalCproliferation(EP)を示す.Ccのは網膜上膜とCEPから構成される膜組織を示す.Ccよりも深い層で撮影したCenface画像において,網膜しわの形成はみられなかった(Cd).そのため,この症例の病態への網膜牽引の関与は少ないと考えられた.e図7分層黄斑円孔(LMH)に対するepiretinalproliferation(EP)埋没法a,b:LMHにみられたCEPの術中写真.EPは黄斑色素に富み,柔軟で伸展性があり(Cb),LMH縁と一体化している.そのため.離除去することが困難であることが多い.Cc~e:LMHに対してCEP埋没法(EPembedding)を行った一例の術前(Cc,矯正視力C0.8),術後C1週(Cd),術後C1カ月(Ce)のCBスキャン画像.術後早期には埋没したCEPが観察されたが(Cd,),1カ月後には観察されなくなり中心窩の形態と視力が改善した(Ce,矯正視力C1.5).(文献C13より引用)b図8硝子体黄斑牽引症候群のBスキャン画像硝子体黄斑牽引症候群(focaltype)の術前(Ca)および術後(Cb)のCBスキャン画像.Ca:術前に中心窩.離()をきたしており,黄斑円孔のCStage1Bといえる.Cb:視力が低下していたため硝子体手術を行い牽引を解除した.

OCTA の原理

2024年3月31日 日曜日

OCTAの原理ThebasisofOpticalCoherenceTomographyAngiography(OCTA)宇治彰人*はじめに光干渉断層血管撮影(OpticalCoherenceTomogra-phyCAngiography:OCTA)は近年注目を集めるCOCTの新機能であり,非侵襲的に網膜の血管叢を面状に抽出できるものである.従来の蛍光造影(.uoresceinCangi-ography:FA)と比較すると,造影剤を用いないで非侵襲的に描出できる点,緻密に毛細血管を描出できる点,また網膜血管叢を三次元で捉えることが可能である点などが,その特徴としてあげられる.一方で,造影剤を用いないからこそ,蛍光漏出や貯留,経時変化などは可視化できず,今なおCFAとの棲み分けが議論となっているが,診療ではその「使いどころ」を理解することが重要である.CIOCTAの原理OCTAで造影剤を用いずに血管を描出する方法としておもに利用されているのが,画像処理によって連続画像から差分を検知する方法である.動画撮影した画像に移動する物体が捉えられているとき,この移動体は,同一背景を有する連続する複数枚の画像上に経時的に位置が変わる物体として表示されているが,これら複数枚の画像間で移動体を画像間の「差分」として検出することで背景から区別して抽出することが可能である.この処理はCOCTA以外の画像を用いてよく説明されることがあるが,正しくはこれら例をあげた説明は誤りであることも多い.多くの例で使用されるのが,平面上を動く物体であり,血管内を移動する血球を連想させるものだが,実際には平面(enface)上ではなくCBスキャン上で処理する.なぜならばそもそもCenface画像はCBスキャンで得た三次元画像から再構成されるものであり,現状の技術では血流を捉えられるほどの十分なスキャン速度が得られないからである.また,最終的な目標が三次元画像の取得であることを考えれば,エラーの発生しやすいセグメンテーション処理を要するCenCface画像ベースで処理する理由はまったくないからである.Bスキャン上では血管は幅の短い断面で表示されるため,連続するCBスキャンの動画では血球は移動体としては捉えられず明滅する点として表示される(図1).これは血管内腔において,血漿成分は輝度が低く,赤血球などの血球は輝度が高く映るからであり,高速で流れる血流の断面はスキャンごとに輝度が激しく変わる.Bスキャン上で処理する場合,眼底の同じ位置で短い時間で複数回スキャンを繰り返し,これらCBスキャン群ごとに「差分」を検出し“OCTAの”Bスキャン画像を得る.この処理では,理想的には明滅する血管断面のみがOCTAの信号として検出されるはずである.この処理を少しずつ平面上で移動させ三次元画像としてのCOCTAを得るわけだが,よくCOCTA画像として紹介されるのは,ここからCenface画像を切り出した二次元画像である.実際には血管のみ抽出というのは困難で,血管以外の背景にもCOCTA信号が雑音として混じってしまうが,適切な閾値設定により余分な信号を落としていく.*AkihitoUji:宇治眼科〔別刷請求先〕宇治彰人:〒512-0923三重県四日市市高角町C1556-1四日市メディカルビレッジ内宇治眼科C0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(9)C245図1OCTを用いた血流信号の抽出a:OCTのCBスキャン画像.Cb:連続撮影したCBスキャンから差分を計算した画像.血管断面が(白く輝度が高く)表示されている.Cc:bの強調画像.血管断面の血流信号以外にも細かな点状の高輝度粒子が雑音として表示されている.Cd:aの画像の上に抽出したCOCTA信号をマージさせたもの.=図2面分解能が低いOCTA画像a:DCPのCOCTA画像.渦静脈様の血管構造が複数観察される.Cb:aの黄色の枠線で囲んだ部位の拡大図.Cc:OCTAよりも面分解能の高い補償光学走査型レーザー検眼鏡で撮影した同じ範囲のCDCP.血管はCbと比較して明らかに細く描出されている.図3SCPに認められる葉状の血管構造毛細血管網(Cc)は細動脈(Ca)に囲まれている.細静脈(Cv)は毛細血管網(Cc)の中央から延びている.図5OCTAスキャンのずれによって生じる白線図4OCTAにみられる背景ノイズa:OCTAの血管は破線で描かれている.また,血管がない部位にも細かい点状のノイズが存在する.Cb:加算平均処理でノイズを低減させた画像.

OCT の基礎知識

2024年3月31日 日曜日

OCTの基礎知識TheBasicsofOpticalCoherenceTomography(OCT)橋谷臨*丸子一朗*はじめに光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)は,赤外線での光干渉現象を利用し,網膜の断層構造をまるで顕微鏡観察の組織標本のように描出可能な機器である.OCTは測定原理によりC2種類に分類され,最初に実用化されたものが光干渉を実空間で行うタイムドメインCOCT(timeCdomainOCT:TD-OCT)であり,のちに出てきたのが光干渉をCFourier空間で行うフーリエドメインCOCT(FourierCdomainOCT:FD-OCT)である.FD-OCTはさらにスペクトラルドメインCOCT(spectralCdomainOCT:SD-OCT)とスウェプトソースCOCT(sweptCsourceOCT:SS-OCT)に分類され,現在広く一般に使用されている(図1).OCTは時代とともにCTD-OCT→CSD-OCT→CSS-OCTというように高分解能かつ高速化へと進歩し続けてきた.非侵襲的に前眼部から後眼部まで眼球の構造を観察できるようになり,さまざまな眼科疾患の病態理解と診断技術が向上した.これまでCOCTに関連した数多の論文が発表され,2021年のピーク時にはCPubMedデータベースで年間4,161本の論文が投稿された.OCTの登場により眼科分野での研究が飛躍的に進歩したのはいうまでもない.学会では,OCTやさまざまな最新機器による画像研究を行ったイメージングという部門が登場して久しい.本稿ではとくに後眼部を中心としたCOCTの基本と正常網脈絡膜イメージングの話に絞って解説する.図1OCTの分類IOCTの基本1.測定原理と光学的特性OCTは光の干渉性を利用し,測定対象の構造を高分解能・高速で撮影する技術である.近赤外光を生体内に照射すると,測定対象から散乱して戻ってくる光(散乱光)が生じる.OCTでは通常,入射光と同軸に反射する散乱光を検出する.これには深さ情報と反射強度の情報が含まれるが,シグナルが微弱なため参照光と干渉させ,増幅することで画像化している.図2に正常な網膜色素上皮(retinalpigmentCepithelium:RPE)に対して垂直に測定光を入射した場合と,斜めに入射させた場合のCOCT画像を示す.OCTでは入射光と同軸に戻る反射光のみが画像化されるため,斜めに走行するCHenle線維層は,図2aではほとんど可視化されていないが,RPEを斜めにしてCOCTを撮影した図2bでより顕著に映し出されるようになる.*NozomuHashiya&IchiroMaruko:東京女子医科大学眼科学教室〔別刷請求先〕橋谷臨:〒162-8666東京都新宿区河田町C8-1東京女子医科大学眼科学教室C0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(3)C239図2OCTの特性a:入射光と同軸に戻る反射光のみが画像化される.b:斜めに走行するCHenle線維層は,RPEを斜めにしてOCTを撮影することで映し出される.傾斜乳頭症候群などでCRPEが自然と傾いている症例でもCHenle線維層はみられる.図3加算平均処理(DRIOCTTriton,トプコン)Volumescan時の加算平均処理前後の画像.Ca:加算なし.全体に画質が荒く,スペックルノイズがみられる.Cb:加算処理後.スペックルノイズが除去され全体の画質が向上している.最大C128枚加算が可能である.図4光減衰特性a:中心窩の硬性白斑のブロックにより後方は光減衰が生じて脈絡膜の描出が不鮮明である.Cb:正常眼垂直断.網膜血管()の後方で光減衰が生じている.図5加齢黄斑変性に対するEDI-OCT(SpectralisOCT,Heidelberg社)の使用例a:脈絡膜の画質が下方で減衰しており,脈絡膜強膜境界部が不鮮明である.b:EDI-OCTでは鏡面像となり上方に焦点が合うことで脈絡膜強膜境界部が鮮明となり,脈絡膜厚の測定が可能となった.図6SS-OCT(PlexElite9000,Zeiss社)による正常眼底像硝子体から脈絡膜,強膜まで強調された高解像度の画像が得られる.図7SS-OCT(XephilioOCT-S1,キヤノン)による広角OCT画像より広角な画角へ.23Cmmの広角・高深達型CSS-OCTである.広角に撮影することで多くの網膜疾患の診断や経過観察や治療戦略に有用である.図8網膜層構造の名称①硝子体,②内境界膜(ILM),③神経線維層,④神経節細胞層,⑤内網状層,⑥内顆粒層,⑦外網状層,⑧外顆粒層,⑨外境界膜(ELM),⑩Cellipsoidzone(EZ),⑪Cinterdigitationzone(IZ),⑫Cfovealbulge,⑬網膜色素上皮(RPE),⑭脈絡膜,⑮脈絡膜強膜接合部.

序説:ベストの治療をめざす! 網膜 OCT・OCTA の使い方

2024年3月31日 日曜日

ベストの治療をめざす!網膜OCT・OCTAの使い方OpticalCoherenceTomographyandOpticalCoherenceTomographyAngiographyfortheBestTreatmentofRetinalDisorders古泉英貴*はじめに光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT),光干渉断層血管撮影(OCTangiography:OCTA)は近年の高速化,高解像度化,広角化により,従来とは比較にならない高画質の画像を得られるようになり,それなしでの網膜診療は考えられない時代となった.多くの疾患において日々新たな知見の報告があいついでおり,研究面でも花盛りの状況である.ただし,OCT・OCTAに関する総説を改めて見返してみると,研究に関する知見が総花的に盛り込まれている一方,患者の「治療」に特化し,明日からの診療に直接役立つ実践的な総説は意外と少ないことに気がついた.このような背景から,今回は「治療」をキーワードに,難解な研究の話題をできるだけ避け,実臨床で目の前の患者のOCT・OCTA所見をどう読み,どのように解釈し,現存するベストの治療につなげていくかを主眼に本特集を企画した.そのような主旨から,対象疾患は日常診療で遭遇する頻度が比較的高いものに限定し,現時点で一般眼科医の治療対象にならないと考えられる,網膜変性疾患や腫瘍性病変は割愛している.各疾患における異常所見を読み解くには,機器の原理を含めた基本知識をきちんと押さえておく必要がある.OCTに関しては橋谷臨先生・丸子一朗先生(東京女子医科大学),OCTAに関しては宇治彰人先生(宇治眼科)に,網膜疾患の治療を理解するために最低限必要な背景知識,正常所見,知っておくべきアーチファクトなどにつき,わかりやすくご教示いただいた.OCTの進化により透明組織である硝子体が容易に描出可能になったこと,従来はBスキャンのみで評価されてきた網膜硝子体界面をenfaceスキャンを用いて観察することで,実臨床にも有用な新知見が報告されてきている.黄斑前膜,黄斑円孔,硝子体黄斑牽引症候群などのOCT所見とそれに基づいた治療の考え方を中心に,森實祐基先生(岡山大学)に詳細に解説いただいた.糖尿病網膜症,網膜静脈閉塞症は日常臨床でもよく遭遇する疾患であり,治療に関連するOCTの読み方は確実に押さえておきたいところである.また,OCTAの進歩が患者の福音にそのまま直結している疾患でもある.糖尿病網膜症は村上智昭先生(京都大学),網膜静脈閉塞症は坪井孝太郎先生(愛知医科大学)に,実践的な観点から解説いただいた.AZOOR,MEWDSなどの網膜外層疾患は遭遇する頻度はあまり高くはないが,病名も所見も混乱しやすく,苦手意識をもつ読者も多いのではないだろ*HidekiKoizumi:琉球大学大学院医学研究科医学専攻眼科学講座0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(1)237

眼瞼基底細胞癌の治療方針の検討

2024年2月29日 木曜日

《原著》あたらしい眼科41(2):223.228,2024c眼瞼基底細胞癌の治療方針の検討大沼貴哉高村浩公立置賜総合病院眼科CTreatmentStrategiesforBasalCellCarcinomaoftheEyelidTakayaOnumaandHiroshiTakamuraCDepartmentofOphthalmology,OkitamaPublicGeneralHospitalC目的:公立置賜総合病院における眼瞼基底細胞癌(BCC)に対して施行した治療法について検討すること.対象および方法:対象はC13年間に当眼科で治療した眼瞼のCBCCのC9例.5例は,腫瘍を安全域C2Cmmで真皮の深さで切除し,迅速病理検査で切除断端での腫瘍細胞陰性を確認後,皮膚欠損部をCV-Y前進皮弁(V-Yadvancement.ap)を用いて眼瞼前葉のみの眼瞼形成を行った.1例は同様の手順で腫瘍切除し,余剰皮膚を伸展させて再建した.もうC1例は,病変が瞼結膜まで浸潤していたため,眼瞼全層切除を行って瞼板結膜弁とCV-Y前進皮弁を用いて前葉・後葉を再建した.2例は生検の結果,BCCと判明したものの,さらなる治療を希望しなかったため経過観察とした.結果:腫瘍切除後に前葉のみの眼瞼形成を施行したC6例と,眼瞼の前葉・後葉の眼瞼形成を施行したC1例では,術後,整容的および機能的に問題なく経過した.生検のみを施行した症例は皮膚欠損部が肉芽形成で閉鎖し,もうC1例は腫瘍が自然退縮した.全例で再発はなく,腫瘍関連死もみられなかった.結論:BCCは瞼板まで浸潤していることは少ないので治療は眼瞼の前葉のみの切除および眼瞼形成で十分であると考えられた.ただし,術中迅速病理検査を行って切除断端に腫瘍細胞がないことを確認することが重要である.CPurpose:Toreviewthetreatmentmethodsimplementedatourhospitalforbasalcellcarcinoma(BCC)oftheeyelid.SubjectsandMethods:Thisstudyinvolved9casesofeyelidBCCtreatedattheDepartmentofOphthal-mologyofOkitamaGeneralPublicHospitalovera13-yearperiod.In5cases,thetumorwasexcisedatadepthoftheepidermiswithasafetymarginof2Cmm.Aftercon.rmingtheabsenceoftumorcellsthrougharapidpathologi-calCexamination,CeyelidCreconstructionCofCtheCanteriorClamellaConlyCwasCperformedCusingCaCV-YCadvancementC.apCfortheskindefect.In1case,thetumorwasremovedusingasimilarmethodandthesurplusskinwasstretchedandreconstructed.In1caseinwhichthelesionhadin.ltrateduptothepalpebralconjunctiva,full-thicknesseye-lidCexcisionCwasCperformedCandCtheCanteriorCandCposteriorClamellaeCwasCreconstructedCusingCaCtarsalCconjunctivalC.apandadvancement.ap.In2casesinwhichthebiopsycon.rmedBCC,wedecidedtosimplyobservetheprog-ress,asthepatientsrefusedtoundergofurthertreatment.Results:Inthe6casesthatunderwentanteriorlamellareconstructiononlyposttumorexcisionandthe1casethatunderwentbothanteriorandposteriorlamellarecon-struction,nofunctionaloraestheticcomplicationswereobservedpostsurgery.Inthe2casesinwhichonlyabiop-sywasperformed,theskindefectclosedduetogranulationinonecase,andthetumornaturallyregressedintheotherCcase.CInCallCcases,CthereCwereCnoCrecurrencesCorCtumor-relatedCdeaths.CConclusion:SinceCBCCCrarelyCin.ltratesuptothetarsus,weconcludedthattreatmentwithexcisionandanterior-lamella-onlyeyelidreconstruc-tionCisCgenerallyCsu.cient.CHowever,CitCisCcrucialCtoCcon.rmCtheCabsenceCofCtumorCcellsCatCtheCresectionCmarginsCduringsurgeryviaarapidpathologicalexamination.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C41(2):223.228,C2024〕Keywords:眼瞼基底細胞癌,腫瘍切除,眼瞼形成,眼瞼前葉.basalcellcarcinoma,tumorresection,eyelidre-construction,anteriorlamellaoftheeyelid.C〔別刷請求先〕大沼貴哉:〒992-0601山形県東置賜郡川西町西大塚C2000公立置賜総合病院眼科Reprintrequests:TakayaOnuma,M.D.,DepartmentofOphthalmology,OkitamaPublicGeneralHospital,2000Nishiotsuka,Nishikawa-machi,Higashiokitama-gun,Yamagata992-0601,JAPANCはじめに基底細胞癌(basalCcellcarcinoma:BCC)は,全身の皮膚悪性腫瘍のなかでもっとも頻度が高く,そのC80%が頭頸部に発生し,さらにそのC20%は眼瞼に発生する1.3).眼瞼悪性腫瘍のなかでもわが国を含むアジア地域では,脂腺癌と並んでそれぞれC30.40%の発症頻度とされC1位,2位を占める4.7).眼瞼悪性腫瘍の治療においては,外科的切除が第一選択とされ,その際には切除範囲を慎重に検討することが必要である.水平方向の切除範囲は安全域(safetymargin)を設定して決定するが,深度については腫瘍の深達度に応じて,眼瞼の前葉と後葉を含む全層切除を行うか,前葉のみ表層切除を行うかを決定する.全層切除と表層切除では腫瘍切除後の眼瞼再建方法の難易度が大きく変わってくる.BCCは,表皮から真皮内に限局して瞼板まで浸潤していることは少ないため前葉のみの切除で十分なことが多いとされる1,8).この点を勘案しての公立置賜総合病院眼科(以下,当科)で治療した眼瞼CBCCの症例について検討したので報告した.CI対象および方法2010年C4月.2023年C3月に当科で眼瞼CBCCと診断されたのはC12例だった.そのうち,2例は患者の希望で他院へ紹介した.1例は手術を希望しなかった.これらのC3例を除いた残りのC9例を対象とした.これらの症例について,年齢,性別,部位,腫瘍のサイズ,腫瘍の臨床像,再発の有無,生存率について検討した.CII結果(表1)C1.年齢年齢はC62.88歳で平均C76.8C±7.9歳であった.C2.性別性別は,男性C6例,女性C3例であった.C3.患側と部位患側は右側C3例,左側C6例であった.部位は上眼瞼C2例,下眼瞼C7例であった.C4.腫瘍のサイズ腫瘍のサイズは,最小でC7C×4Cmm,最大でC10C×9mmであった.C5.腫瘍の臨床像全症例が結節・潰瘍型で,表在型や斑状・強皮症型,破壊型はなかった.C6.治療法症例C1.5は,腫瘍を水平方向は安全域C2Cmmで切除した.深度は真皮の厚さとした.水平方向と深部の切除断端に対して術中の迅速病理検査を施行した.深部断端については眼輪筋の半層を切除して迅速病理検査に提出した.すべての断端に腫瘍細胞が陰性であることを確認した後,皮膚欠損部は皮下茎皮弁を付けたCV-Y前進皮弁(V-YCadvancement.ap)を作製して表層のみの眼瞼形成を行った11)(図1b,c).症例C6は腫瘍切除および術中病理検査を症例C1.5と同様に施行したが,再建には前進皮弁を作製しないで,切除範囲の上方の余剰皮膚の皮下組織を.離して表皮を伸展させて皮膚欠損部を被覆した(図2).症例C7は病変が瞼縁を越えて瞼結膜までの浸潤がみられたので安全域C2Cmmで眼瞼全層切除を行った.眼瞼欠損部は健側の右下眼瞼から瞼板結膜弁を採取して後葉を形成し,前葉はCV-Y前進皮弁で形成した(図3).症例C8とC9は生検を施行した(図4).いずれも病理検査結果がCBCCだったのでさらなる切除および眼瞼形成を勧めたが,とくに症例C9は認知症が進行していたこともあり,2例ともさらなる治療を希望しなかったためそのまま経過観察となった.C7.平均観察期間9症例の平均経過観察期間はC46.7C±35.6カ月,最短経過観察期間はC19カ月,最長経過観察期間はC144カ月であった.C8.術後経過表層のみの切除・眼瞼形成を施行したC6例,眼瞼全層切除・眼瞼形成を施行したC1例はすべて整容的・機能的にも問題はなく経過している(図1~3).結果的に生検のみで経過観察することになった症例C8は肉芽が形成されて皮膚欠損部は閉鎖した.生検のみを施行した症例C9は腫瘍が残存していたが,その後,病変は自然退縮した(図4).C9.再発の有無,生存率全例において再発は認められず,腫瘍関連死はなかった.CIII考按眼瞼悪性腫瘍のなかでCBCCは欧米ではC90%程度と圧倒的に多いが,日本を含めたアジアではCBCCと脂腺癌がそれぞれC40%程度とほぼ同じ頻度である.残りのC10.20%に扁平上皮癌やCMerkel細胞癌などが含まれる4.6).脂腺癌のほとんどは眼瞼の皮脂腺であるマイボーム腺が発生母地であり1,10),増殖速度が速く悪性度も高いため,いったん発症すると表皮側から瞼結膜側まで眼瞼の全層に浸潤することが多い.よって脂腺癌を切除するにあたっては広い安全域を設けて眼瞼を全層切除しなければならない5).それに対してCBCCは皮膚の表皮の最下層にある基底細胞や,毛包を構成する細胞が発生母地で,その増殖は緩徐であり,病変は長期間表皮から真皮内に限局していることが多い.瞼板まで浸潤していることは少ないのでCBCCを切除するにあたっては真皮までの切除で十分であることが多い1,8).腫瘍の切除にあたっては安全域が必要であるが,皮膚科的表1対象症例症例年齢性別局在サイズ長径×短径(mm)治療法経過観察期間(月)再発の有無C1C75男性左下眼瞼C13×5表層切除+皮弁形成C52無C2C84女性右下眼瞼C7×6表層切除+皮弁形成C24無(術後C6年後に肺炎で死亡)C3C77男性右下眼瞼C11×4表層切除+皮弁形成C31無C4C80男性左下眼瞼C6×5表層切除+皮弁形成C43無C5C83男性左下眼瞼C10×7表層切除+皮弁形成C19無C6C76女性左上眼瞼C10×7表層切除+皮膚伸展C22無C7C66女性左下眼瞼C9×6全層切除+眼瞼形成C144無C8C62男性右上眉毛部C10×9生検のみC62無C9C88男性左下眼瞼C7×4生検のみC23無図1表層のみの腫瘍切除と眼瞼形成を施行した症例a:症例C1の術前所見.左下眼瞼の鼻側に不整形で黒色調の病変がみられる.Cb,c:症例C1の術中所見(図の上方が頭側).腫瘍切除跡の耳側に皮弁をデザイン.皮下茎をつけたCV-Y前進皮弁を作製して切除痕へ移動.Cd:症例C1の術後C1週間の所見.Ce:症例C2の術前の所見.右下眼瞼の鼻側に色素に乏しい半球状の病変がみられる.Cf:症例C2の術後C11カ月後の所見.Cg:症例C3の術前の所見.右下眼瞼の中央に不整形で潰瘍形成を伴う病変がみられる.Ch:症例C3の術後C17カ月後の所見.Ci:症例C4の術前の所見.左下眼瞼耳側に黒色調の不整形の病変がみられる.Cj:症例C4の術後C1週間後の所見.創に血餅が付着しているが,外眼角部は形成されている.Ck:症例C5の術前の所見.左下眼瞼中央に比較的大型で不整形,潰瘍形成を伴う病変がみられる.Cl:症例C5の術後C1カ月後の所見.瞼縁にやや変形がみられるが,再発の徴候はない.図2症例6の術前・術後の所見a:術前の所見.左上眼瞼鼻側に潰瘍形成を伴う病変がみられる.Cb:腫瘍切除跡の上方の皮膚を伸展させて欠損部を被覆した.術後C3カ月後の所見.にはBCCで4Cmm以上2),悪性黒色腫ではC10.20Cmmとされているが,眼科的にはCBCCや扁平上皮癌ではC2.3Cmm,脂腺癌や悪性黒色腫ではC5Cmm程度というのが一般的である5,6,8,11).実際,10Cmm程度までの腫瘤に対してはC2.3Cmmで切除しても追加切除が必要になることはほとんどないとされる11).今回,当科では安全域はC2Cmmに設定した.眼瞼は,前葉と後葉の二つの部位から構成され,前葉は皮膚と眼輪筋,後葉は瞼板と眼瞼結膜からなる10,12).腫瘍切除後の眼瞼形成は切除後の組織の欠損の範囲,皮膚のみか眼瞼全層かという深達度によって難易度が異なる.図3症例7の術前・術後の所見a,b:術前の所見.左下眼瞼に潰瘍形成を伴う病変がみられ,瞼結膜側まで病変が浸潤している.Cc:眼瞼を全層で切除し,後葉は健側の右下眼瞼から瞼板結膜弁を採取し,前葉はCV-Y前進皮弁で形成した.術後C12年後の所見.整容的に良好である.今回,当科でのCBCCの治療戦略として意図したのは,BCCが表皮から真皮に限局していることを前提にして腫瘍切除を皮膚のみの深さで行うことである.その際には術中迅速病理検査で切除断端(とくに眼輪筋側の深部断端)に腫瘍細胞がないことを確認することは必須である.腫瘍切除後の眼瞼形成は後葉の形成が不要であるので,欠損部の周囲の眼瞼や.部から皮弁を作製して前葉を形成するのでそれほど煩雑ではなく,術後の眼瞼変形なども少ない.局所麻酔での対応も可能である.今回の症例C1.6はこの方法で治療して全症例とも整容的にも機能的にも問題はなく,再発もなく,有図4生検のみを施行した症例a:症例C8の初診時所見.右眉毛部の鼻側にドーム状の病変がみられる.切除生検を施行した.Cb:症例C8の生検C1週間後の所見.皮下組織までに及ぶ欠損がみられる.Cc:症例C8の生検C18カ月後の所見.欠損部に肉芽が形成され,欠損は修復されている.Cd:症例C9の初診時の所見.左下眼瞼中央に潰瘍形成を伴う病変がみられる.切除生検を施行した.Ce:症例C9の生検C1週間後の所見.病変の残存がみられる.Cf:症例C9の生検C2カ月後の所見.病変は縮小している.用な方法と考えられた.症例C8は病変を核出したのみで,眼瞼形成も行わないとい症例C7は病変が瞼縁を越えて瞼結膜側まで進展していたたう経過になった.結果的には腫瘍を切除するのみで欠損部のめ,眼瞼全層切除を余儀なくされた.眼瞼全層切除後の眼瞼自然な肉芽形成と上皮化を待機するというCopenCtreatment形成は,欠損範囲が瞼裂の幅のC1/3未満であれば単純縫縮,となった.Opentreatmentは母斑や脂漏性角化症などの眼それ以上なら前葉は皮弁作製,後葉は硬い瞼板および粘膜で瞼良性腫瘍で多用されるが,血流が豊富で創傷治癒が良好なある結膜の代用品を他部位から移植して作製しなければなら内眼角付近のCBCCや脂腺癌にも応用したという報告もあない9).後葉形成に硬口蓋粘膜8,13),鼻中隔軟骨,耳介軟骨なる1,11).皮膚欠損に対して自然に肉芽の形成を待つ方法(lais-どを作製したり,Hughes法10,12.14)などのさまざまな術式がCsezfaire)もある12,15).症例C8は経過観察中には再発など増あるが,いずれも手技は煩雑であり一定の経験,熟練を要す悪はみられていないが,腫瘍細胞が残存しているリスクはある.るので注意が必要である.症例C9は生検のみで終了したが,その後自然退縮した.神経芽腫,腎細胞癌,悪性黒色腫,リンパ腫,BCC,大腸癌,肺癌などの悪性腫瘍が自然縮小したという報告もあるが,それはC60,000.100,000例にC1例程度とされ,非常にまれな状況であるので最初から自然退縮を期待するという方針は適切ではないと思われる16.18).今回,検討した症例は経過観察中の再発はなかった.基本的にCBCCは術中迅速病理検査で切除断端に腫瘍細胞がないことを確認することを条件にすれば眼瞼の前葉のみの操作で腫瘍のコントロールは可能であると考えられた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)中山知倫,渡辺彰英:眼瞼の腫瘤:脂腺癌・基底細胞癌.あたらしい眼科34:1113-1118,C20172)帆足俊彦,石川雅士,上原治朗ほか:皮膚悪性腫瘍診療ガイドライン第C3版基底細胞癌診療ガイドラインC2021.日皮会誌131:1467-1496,C20213)ShiY,JiaR,FanX:Ocularbasalcellcarcinoma:abriefliteraturereviewofclinicaldiagnosisandtreatment.OncoTargetsTherC10:2483-2489,C20174)TakamuraCH,CYamashitaH:ClinicopathologicalCanalysisCofCmalignantCeyelidCtumorCcasesCatCYamagataCUniversityHospital:StatisticalCcomparisonCofCtumorCincidenceCinCJapanCandCinCotherCcountries.CJpnCJCOphthalmolC49:349-354,C20055)渡辺彰英:脂腺癌の臨床.あたらしい眼科C32:1717-1718,20156)林暢紹:基底細胞癌の臨床.あたらしい眼科C34:1743-1744,C20177)YuCSS,CZhaoCY,CZhaoCHCetal:ACretrospectiveCstudyCofC2228CcasesCwithCeyelidCtumors.CIntCJCOphthalmolC11:C1835-1841,C20188)大湊絢,尾山徳秀,張大行ほか:原発性上皮型眼瞼部悪性腫瘍の切除後の再建術についての検討.臨眼C67:C1295-1298,C20139)高村浩:眼瞼腫瘍切除と眼瞼形成.新CESCNOWCNo.2外来小手術外眼部手術達人への道.山本哲也,江口秀一郎,ビッセン宮島弘子ほか編,メジカルビュー社,p136-143,C201010)中山知倫:眼表面に配慮した眼瞼腫瘍切除再建術.あたらしい眼科38:33-41,C202111)古田実:眼瞼腫瘍切除術.あたらしい眼科C29:891-898,C201212)柿崎裕彦:眼にやさしい眼瞼腫瘍の切除後再建.臨眼C66:C1701-1708,C201213)福井歩美,渡辺彰英,中山知倫ほか:眼瞼脂腺癌の臨床像と再建術後合併症の検討.日眼会誌124:410-416,C202014)真島麻子,後藤浩,木村圭介ほか:眼瞼脂腺癌に対するHughes変法の治療成績.日眼会誌121:125-129,C201715)HarringtonJN:ReconstructionCofCtheCmedialCcanthusCbyCspontaneousgranulation(Laissez-Faire):aCreview.CAnnOphthalmolC14:956-960,C963-966,C969-970,C198216)河北一誠,武田圭佐,田中友香ほか:自然消退した上行結腸癌のC1例.日消外会誌52:106-111,C201917)村西佑介,上島康生,長谷川浩一ほか:自然退縮がみられた肺多形癌のC1例.日呼吸誌1:498-501,C201218)眞鍋公,柏木孝之:Bowen病を思わせた表在型基底細胞上皮種のC1例および名寄市立総合病院皮膚科における基底細胞上皮種の統計的観察.名寄市病誌6:40-45,C1998***

ぶどう膜炎と辺縁系脳炎が同時発症した アテゾリズマブによる免疫関連有害事象の1 例

2024年2月29日 木曜日

《原著》あたらしい眼科41(2):217.222,2024cぶどう膜炎と辺縁系脳炎が同時発症したアテゾリズマブによる免疫関連有害事象の1例曽谷拓之石川裕人五味文兵庫医科大学眼科学教室CACaseofImmune-RelatedAdverseEventduetoAtezolizumabwithSimultaneousUveitisandLimbicEncephalitisHiroyukiSotani,HirotoIshikawaandFumiGomiCDepartmentofOphthalmology,HyogoCollegeofMedicineHospitalC目的:免疫チェックポイント阻害薬であるアテゾリズマブ導入C2週間後に,ぶどう膜炎と辺縁系脳炎を同時発症した症例を経験したので報告する.症例:50歳,男性.肺腺癌CStageIVに対しアテゾリズマブが導入された.2週間後,発熱・嘔吐,意識レベル低下を呈し,辺縁系脳炎と診断された.ステロイドパルス療法が施行され,翌日には意識レベルは改善するも,3日後視野異常を自覚し眼科を受診した.矯正視力は右眼C0.2・左眼C0.3,前眼部・中間透光体に異常認めず,両眼底には網膜血管炎と漿液性網膜.離を認めた.アテゾリズマブによるぶどう膜炎と辺縁系脳炎の同時発症と考え,ステロイド治療を継続した.初診からC1年後,血管炎や漿液性網膜.離は改善するも,網膜外層障害は残存しており視力は改善していない.結論:免疫チェックポイント阻害薬はCT細胞の活性化により腫瘍細胞を攻撃し癌を退縮する.活性化CT細胞が他の抗原提示正常細胞を攻撃した場合には,炎症を惹起する.アテゾリズマブはまだ新しい薬剤であり,今後も非典型的なぶどう膜炎には注意が必要である.CPurpose:Toreportacaseofsimultaneousuveitisandlimbicencephalitisthatdeveloped2-weeksafterintro-ductionCofCatezolizumab.CCase:AC50-year-oldCmaleCdevelopedCfever,Cvomiting,CandCdecreasedClevelCofCconscious-nessC2CweeksCafterCreceivingCatezolizumabCforCstageCIVClungCadenocarcinoma,CandCwasCdiagnosedCwithClimbicCencephalitis.CSteroidCpulseCtherapyCwasCadministered,CandCtheChisClevelCofCconsciousnessCimprovedCtheCnextCday.CHowever,C3CdaysClater,CheCsoughtCophthalmologicalCconsultationCdueCtoCabnormalitiesCinChisCvisualC.eld.CSlit-lampCexaminationrevealedbilateralretinalvasculitisandserousretinaldetachment.Thepatientwasconsideredtohavesimultaneousuveitisandlimbalencephalitiscausedbyatezolizumab,andsteroidtherapywascontinued.At1yearaftertheinitialdiagnosis,thevasculitisandserousretinaldetachmenthadimproved,yettheextraretinaldamageremainedandhisvisualacuitydidnotimprove.Conclusion:Sinceatezolizumabisstillanewagent,itshouldbeusedwithstrictcautionincasesofatypicaluveitis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C41(2):217.222,C2024〕Keywords:免疫チェックポイント阻害薬,アテゾリズマブ,ぶどう膜炎,辺縁系脳炎免疫関連有害事象.im-munecheckpointinhibitor,atezolizumab,uveitis,limbicencephalitis,immune-relatedAdverseEvents.Cはじめに免疫チェックポイント阻害薬(immuneCcheckpointCinhibi-tor:ICI)には抗CPD-1抗体,抗CPD-L1(programmeddeath-ligand1)抗体,抗CCTLA-4抗体のC3種類が存在する.アテゾリズマブは免疫チェックポイント阻害薬の一種であり,PD-L1を標的としたヒト化CIgG1モノクローナル抗体である.現在わが国では肺癌・乳癌・肝細胞癌の一部に適応がある比較的新しい薬剤であるが,その一方で使用により従来の殺細胞性抗腫瘍薬や分子標的薬ではみられなかった免疫関連の副作用として,眼障害,内分泌障害,間質性肺疾患,消化器系障害,脳神経系障害,肝胆膵障害など,さまざまな副作用が報告されている1,2).眼障害は全体の約C1%に生じると〔別刷請求先〕曽谷拓之:〒663-8501兵庫県西宮市武庫川町C1-1兵庫医科大学眼科学教室Reprintrequests:HiroyukiSotani,DepartmentofOphthalmology,HyogoCollegeofMedicine,1-1Mukogawa-cho,Nishinomiya-city,Hyogo663-8501,JAPANC図1a初診時眼底写真アーケード血管周囲の滲出性変化と黄斑部の漿液性網膜.離を認める.図1b初診時広角眼底写真周辺部の血管にも滲出性変化を認める.され,そのなかでもおもな疾患はドライアイ(1.24%),ぶどう膜炎(約C1%)とされる3).今回アテゾリズマブ導入C2週間後に両眼後部ぶどう膜炎と自己免疫性脳炎を同時発症した症例を経験したので報告する.CI症例患者:50歳,男性.主訴:両視野異常.現病歴:肺腺癌CStageIVに対しアテゾリズマブを導入,15日後に発熱・嘔吐を主訴に緊急入院した.その翌日意識レベル低下と強直間代性けいれんが出現したため頭部造影MRIを施行され,辺縁系脳炎が疑われた.アテゾリズマブを中止し,ステロイドパルスC1,000CmgをC3日間施行され意識レベルは改善したが,両中心暗点の自覚症状があり同日眼科受診となった.既往歴:肺腺癌CStageIV(cT4N3M1a)に対し以下の抗癌剤治療を施行していた.C1stline:カルボプラチン(CBDCA)/パクリタキセル(PTX)/ベバシズマブ(Bev)/ニボルマブ(抗CPD-1抗体)4コース.C2ndlineドセタキセル(DOC)+ラムシルマブ(RAM)4コース.3rdlineアテゾリズマブ(抗CPD-L1抗体).初診時所見:初診時の視力は右眼C0.15(0.2C×sph.1.25D(cyl.1.00DAx100°),左眼C0.09(0.3C×sph.1.25D(cylC.2.50DAx90°),眼圧は右眼13mmHg,左眼12mmHg,図1c初診時動的視野検査両眼に中心比較暗点を認める.図1d初診時OCT画像漿液性網膜.離と黄斑から鼻側の一部にCEZ/IZの欠損と外顆粒層の高反射病変を認める.IR画像では特異な所見は認めない.対光反射は両眼迅速かつ十分,相対性求心性瞳孔反応欠損(relativea.erentpupillarydefect:RAPD)は陰性であった.前眼部・中間透光体には軽度白内障を認める以外異常はなく両眼眼底に滲出性変化を伴う網膜血管炎所見と漿液性網膜.離(serousCretinaldetachment:SRD)を認めた(図1a,b).動的視野検査(Goldmannperimetry:GP)では両眼に中心比較暗点を認めた(図1c).また,光干渉断層撮影(opticalCcoherencetomography:OCT)では両眼にCSRDと黄斑から鼻側にかけて視細胞外層障害を認めた(図1d).なお,全身状態を考慮し蛍光眼底造影検査は施行されなかった.経過:内科では頭部造影CMRI(図2a)や髄液検査などを施行された結果,免疫関連有害事象(immune-relatedAdverseEvents:irAE)による自己免疫性脳炎と診断,眼科では視神経疾患,腫瘍関連網膜症や他のぶどう膜炎を疑う所見は認めずCICI使用歴があることからCirAEによる後部ぶどう膜炎と診断された.眼科初診後(発症C10日後),さらにステロイドパルスC1,000Cmg3日間をC1クール施行された.パルスC2クール後にはCSRDは消失(図3),矯正視力は右眼0.3),左眼(0.2)であった.また,頭部造影CMRIでも自己免疫性脳炎は軽快(図2b)し,ステロイドC35Cmgから漸減を開始された.その後アテゾリズマブ中止からC2カ月後C4thlineカルボプラチン(CBDCA)/ペメトレキセド(PEM)を導入時点で矯正視力は両眼(0.4),発症C6カ月後にはステロイド内服を終了,GPでは中心比較暗点の改善を認めた(図図2頭部造影MRIT2WI・FLAIR像a:両側海馬全体が腫脹し高信号を示す.辺縁系脳炎が疑われる.Cb:腫脹は同程度だが信号の減弱を認める.図3ステロイドパルス療法2クール後(発症C10日後)の所見EZ/IZの不整欠損の残存はあるが漿液性網膜.離は改善を認める.4),7カ月後よりC5thlineテガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム(TS-1)が導入された.1年後時点で矯正視力は両眼(0.4),視細胞外層障害が残存した(図5).なお,患者は最終受診C1カ月後に進行性癌により死亡している.CII考按アテゾリズマブはCPD-L1を標的としたヒト化CIgG1モノクローナル抗体である.活性化CT細胞上に発現するCPD-1(programmeddeath-1)が,癌細胞や抗原提示細胞が発現するリガンドであるPD-L1に結合することによりCT細胞活性化を抑制し,癌細胞の免疫逃避が起こる.抗CPD-L1抗体は,PD-L1に結合することによりCT細胞上のCPD-1との相互作用を阻害し,その結果抑制シグナル伝達をブロックしCT細胞の活性化を維持する3).免疫系の主要な調節因子を対象とした治療であり効果がある反面,免疫学的副作用リスクも上昇する.irAEとしてのぶどう膜炎の機序は現在解明されていないが,網膜色素上皮(retinalpigmentCepithelium:RPE)細胞の表面にはCPD-L1受容体が発現しておりCT細胞上のCPD-1受容体との相互作用を遮断すると,RPE細胞に対する細胞毒性とCTh1反応が持続し,ぶどう膜炎を引き起こすとされる4,5).また,PD-L1シグナル伝達の欠如により,PD-1陽性CT細胞が炎症を起こした血管壁に浸潤し,インターフェロン-c,インターロイキン-17,インターロイキン-21などのエフェクターサイトカインを産生することがわかっておLR図4アテゾリズマブ中止から1年後の動的視野検査両眼とも暗点の残存は認めるも改善は認めている.図5発症から1年後のOCT所見両眼に視細胞外層の不整が残存している.り,その結果生じるリンパ球の蓄積が,フルオレセイン血管造影でみられる関連する静脈炎を説明する可能性がある6,7).Dowらのレビューによると報告された免疫チェックポイント阻害薬関連ぶどう膜炎C241眼のうち,37.7%(91)が前部ぶどう膜炎,0.01%(2)が中間部ぶどう膜炎,25.7%(62)が後部ぶどう膜炎,34.0%(82)が汎ぶどう膜炎を発症し,アテゾリズマブは他のCICIと比較して後部ぶどう膜炎の発生率が有意に増加していた(80.0%対C23.7%,p<0.001)8).さらに,アテゾリズマブを服用している患者のC15眼のうちC10眼は,網膜血管炎または静脈炎を伴い,しばしば網膜外層の破壊を伴う急性黄斑神経網膜症(AMN)または傍中枢性急性中部黄斑症(PAMM)に似た所見を示したとされる6,8).また他にもアテゾリズマブによる眼副作用では,前部ぶどう膜炎9)や,Vogt・小柳・原田病様ぶどう膜炎を呈した報告がある10)(表1).抗CCTLA-4抗体や抗CPD-1抗体使用後の両眼後部ぶどう膜炎と網膜.離をきたした症例11)はあるが,アテゾリズマブによる同様の症状を呈した報告は筆者らの知る限りでは本症例が最初の報告である.ただし今回C1stlineに抗CPD-1抗体のニボルマブを使用しており,ニボルマブによる遅発性irAEの可能性も考えられる11.13).本症例では両側の網膜血管炎をきたし,初診時CSD-OCT表1アテゾリズマブによる眼副作用報告と自験例との比較年齢・性別(疾患)眼所見(両眼)C/全身症状発症までの投与期間治療経過本症例50歳,男性(肺腺癌)中心比較暗点網膜血管炎・SRD/発熱・嘔吐・意識障害・強直間代性けいれん15日ステロイドパルスC1,000Cmg/3日間2クール後,経口ステロイド漸減・ステロイドパルス療法C2クール後CSRD消失・発症C6カ月後暗点改善,ステロイドオフ64歳,男性9)(非小細胞肺癌)Descemet膜皺襞角膜後面色素沈着前房細胞C2+(SUNWorkingGroup基準)/全身症状なし3週間ステロイド点眼C3時間ごと/日および散瞳薬C2回/日で開始・C14日後色素沈着減少,前房細胞・Descemet膜皺襞消失・1カ月後前部ぶどう膜炎完全消失局所ステロイド漸減76歳,女性10)(非小細胞肺癌)前房内フィブリン視神経乳頭腫脹多発性CSRD波状CRPE脈絡膜肥厚/全身症状なし17カ月ステロイドパルスC1,000Cmg/3日間後,経口・局所ステロイド漸減・開始C5日後前房内炎症消失・2カ月後CSRD完全消失・3カ月後ステロイドオフ上,黄斑部に漿液性網膜.離・黄斑から鼻側にかけて一部外顆粒層の高反射病変ならびにCellipsoidzone(EZ)とCinter-digitationzone(IZ)の不整欠損を認めた.また,眼底写真や自発蛍光画像,近赤外眼底撮影(IR)画像ではCAMNやPAMMを特徴づける有意な所見は認めなかった14).Ramto-hulらは,抗CPD-L1抗体の最初の投与から約C2週間後に発熱・インフルエンザ様症状とともに両側傍中心暗点をきたすAMN様病変で構造的・機能的障害が残存するものを「抗PD-L1抗体関連網膜症」とよんでおり6),本症例も明らかな確定所見は得られないが類似した経過をたどっており,その一部である可能性も示唆される.CIII結論眼科領域のCirAEは他臓器に対し頻度が少なく,見逃される可能性がある.免疫チェックポイント阻害薬は比較的新規の薬剤であり,今後も適応拡大が予想される.内科医との連携は重要であり,眼科的CirAE発生には注意を要する.文献1)只野裕己,鳥越俊彦:免疫チェックポイント阻害剤の免疫性副作用.JpnJClinImmunolC40:102-108,C20172)ChampiatCS,CLambotteCO,CBarreauCECetal:ManagementCofCimmuneCcheckpointCblockadeCdysimmunetoxicities:aCcollaborativeCpositionCpaper.CAnnCOncolC27:559-574,C20163)DalvinLA,ShieldsCL,Orlo.Metal:Checkpointinhibi-torimmunetherapy:systemicindicationsandophthalmicsidee.ect.RetinaC38:1063-1078,C20184)ZhouR,CaspiRR:Ocularimmuneprivilege.F1000BiolRepC2:1-3,C20105)ParikhCRA,CChaonCBC,CBerkenstockMK:OcularCcompli-222あたらしい眼科Vol.41,No.2,2024cationsCofCcheckpointCinhibitorsCandCimmunotherapeuticagents:aCcaseCseries.COculCImmunolCIn.ammC29:1-6,C20206)RamtohulP,FreundKB:Clinicalandmorphologicalchar-acteristicsCofCanti-programmedCdeathCligandC1-associatedretinopathy:expandingCtheCspectrumCofCacuteCmacularCneuroretinopathy.OphthalmolRetinaC4:446-450,C20207)ZhangH,WatanabeR,BerryGJetal:Immunoinhibitorycheckpointde.ciencyinmediumandlargevesselvasculi-tis.ProcNatlAcadSciUSAC114:E970-E979,C20178)DowER,YungM,TsuiE:Immunecheckpointinhibitor-associateduveitis:reviewCofCtreatmentsCandCoutcomes.COculImmunolIn.ammC29:203-211,C20219)MitoT,TakedaS,MotonoNetal:Atezolizumab-inducedbilateralanterioruveitis:acasereport.AmJOphthalmolCaseRepC24:101205,C202110)SuwaCS,CTomitaCR,CKataokaCKCetal:DevelopmentCofCVogt-Koyanagi-HaradaCdisease-likeCuveitisCduringCtreat-mentCbyCanti-programmedCdeathCligand-1CantibodyCforCnon-smallcelllungcancer:acasereport.OculImmunolIn.ammC30:1-5,C202111)PengCL,CMAOCQQ,CJiangCBCetal:BilateralCposteriorCuve-itisCandCretinalCdetachmentduringCimmunotherapy:aCcaseCreportCandCliteratureCreview.CFrontCOncolC10:1-8,C202012)RichardsonCDR,CEllisCB,CMehmiICetal:BilateralCuveitisCassociatedwithnivolumabtherapyformetastaticmelano-ma:acasereport.IntJOphthalmolC10:1183-1186,C201713)MiyamotoCR,CNakashizukaCH,CTanakaCKCetal:BilateralCmultipleCserousCretinalCdetachmentsCafterCtreatmentCwithnivolumab:aCcaseCreport.CBMCCOphthalmolC20:1-7,C202014)HufendiekCK,CGamulescuCMA,CHufendiekCKCetal:CClassi.cationandcharacterizationofacutemacularneuro-retinopathyCwithCspectralCdomainCopticalCcoherenceCtomography.IntOphthalmolC38:2403-2416,C2018(112)

眼内レンズの囊外偏位が原因と考えられた続発緑内障の1 例

2024年2月29日 木曜日

《原著》あたらしい眼科41(2):213.216,2024c眼内レンズの.外偏位が原因と考えられた続発緑内障の1例安次嶺僚哉力石洋平新垣淑邦古泉英貴琉球大学大学院医学研究科医学専攻眼科学講座CACaseofSecondaryGlaucomaCausedbyExtracapsularFixationofIntraocularLensRyoyaAshimine,YoheiChikaraishi,YoshikuniArakakiandHidekiKoizumiCDepartmentofOphthalmology,GraduateSchoolofMedicine,UniversityoftheRyukyusC目的:眼内レンズ(IOL)の.外偏位が原因と考えられた続発色素緑内障を経験したので報告する.症例:45歳,男性.右眼水晶体再建術後に眼圧コントロール不良で紹介となった.初診時,右眼視力はC1.0,眼圧C60CmmHg,明らかなCIOL偏位はなく隅角に全周性色素沈着を認めた.色素緑内障と診断し線維柱帯切開術を施行した.術後一時的な眼圧下降を認めるも,再上昇をきたし線維柱帯切除術を施行した.眼圧は下降したが経過中に術眼を打撲,軽度浅前房と前房出血以外に異常所見なく経過観察とした.受傷C3日後に眼痛が出現し著明な浅前房とCIOL光学部の虹彩捕獲を認め,前房形成術とCIOL整復術を施行した.術中所見はCIOL支持部の一方が.外固定であった.術後前房深度,眼圧ともに安定した.結論:IOLの.外偏位が原因と考えられた続発色素緑内障を経験した.水晶体再建術後の色素沈着を伴う続発緑内障では術後早期でもCIOLの.外偏位が原因であることも考慮すべきである.CPurpose:ToCreportCaCcaseCofCsecondaryCpigmentaryCglaucomaCcausedCbyCintraocularlens(IOL)dislocation.CCaseReport:A45-year-oldmalewasreferredtousduetopoorintraocularpressure(IOP)controlpostcataractsurgery.Uponexamination,hisright-eyevisualacuityandIOPwas1.0and60CmmHg,respectively.Hewasdiag-nosedaspigmentaryglaucomaduetohyperpigmentationinthetrabecularmeshwork,andtrabeculotomywasper-formed.Postsurgery,theIOPwaspoorlycontrolled,sotrabeculectomywasperformed.Aftertrabeculectomy,theIOPdecreasedandwaswellcontrolled.At5-dayspostoperative,theoperatedeyewasseverelyinjured,andat3daysCpostCinjury,CtheCanteriorCchamberCdepthCbecameCveryCshallowCandCirisCcaptureCofCtheCIOLCopticsCwasCobserved.CTheCIOLCwasCthenCsurgicallyCguidedCintoCtheCcapsuleCandCanteriorCchamberCdepthCbecameCdeepened.CIntraoperative.ndingsshowedthatonesideoftheIOLhapticswaslocatedoutofthecapsule.Conclusion:Sec-ondarypigmentaryglaucomaearlypostcataractsurgerymaybecausedbyIOLdislocation.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C41(2):213.216,C2024〕Keywords:続発緑内障,眼内レンズ,.外固定.secondaryglaucoma,intraocularlens,extracapsular.xation.はじめに色素緑内障は,線維柱帯への色素沈着により眼圧上昇をきたす疾患である1).原因の一つとして,眼内レンズ(intraocu-larlens:IOL)支持部と虹彩後部が接触することで,虹彩上皮から色素が過剰に遊離し,線維柱帯の流出路が障害されることにより生じると考えられている2).IOL.外固定による続発色素緑内障の発症時期は術後約C13カ月やC22カ月と,おおむね術後C1年以上と報告されている3,4).今回,筆者らは水晶体再建術後C9日目と比較的早期に発症した,IOL.外偏位が原因と考えられた続発色素緑内障のC1例を経験したため報告する.CI症例45歳,男性.家族歴や既往歴に特記事項なし.X年C3月に前医で右眼水晶体再建術(HOYAisert255,度数不明)を施行.術翌日の右眼眼圧がC42CmmHgと上昇,高張浸透圧薬の点滴および抗緑内障点眼治療にて下降した.術後C3日目の右眼矯正視力はC1.5,眼圧はC13CmmHgであった.術後C9日目に右眼の霧視と視力低下を主訴に前医受診,右眼矯正視力はC0.3,眼圧はC40CmmHg,角膜浮腫と前房内に虹彩色素を〔別刷請求先〕安次嶺僚哉:〒903-0215沖縄県中頭郡西原町字上原C207琉球大学大学院医学研究科医学科専攻眼科学講座Reprintrequests:RyoyaAshimine,DepartmentofOphthalmology,GraduateSchoolofMedicine,UniversityoftheRyukyus,207Uehara,Nishihara-cho,Nakagami-gun,Okinawa903-0215,JAPANC図1当院初診時の右眼前眼部写真角膜浮腫とCIOL上に色素沈着を認める.認めた.前述の点滴・点眼を使用するも眼圧コントロール不良のため,術後C10日目に琉球大学附属病院(以下,当院)へ紹介となった.初診時所見はCVD=0.1(1.0C×sph.3.00D(cyl.1.00DAx160°),VS=0.03(1.0C×sph.4.75D(cylC.1.00DAx5°)であり,眼圧は右眼60mmHg,左眼18mmHgであった.右眼角膜浮腫とCIOL上の色素沈着を認めた.散瞳検査は未施行でありCIOL光学部までしか観察はできず,明らかなCIOL光学部の偏位や動揺はなかった(図1).隅角鏡検査にて右眼優位の線維柱帯への全周性色素沈着を認めた.周辺虹彩前癒着は認めなかった.眼底に特記所見は認めなかった.CII経過線維柱帯への高度な色素沈着と眼圧上昇より,術後早期の続発色素緑内障と診断し,受診日当日に線維柱帯切開術を施行した.術後眼圧はC20CmmHg以下に下降したが術後C5日目に右眼視力低下のため外来受診,右眼矯正視力はC0.08,眼圧はC55CmmHgと再上昇を認めた.炭酸脱水酵素阻害薬内服および抗緑内障点眼使用にても眼圧コントロール不十分であったため,線維柱帯切開術施行C10日後に線維柱帯切除術を施行した.術後眼圧はC15CmmHg程度にコントロールされた.線維柱帯切除術後C5日目,ベッドの手すりで右眼を打撲した.前房出血があり,右眼眼圧C7CmmHgとやや低下あるものの,中心前房深度はC3.4角膜厚と保持されていたため予定どおり退院とした.退院C3日後に眼痛,嘔気を主訴に予約外受診,眼圧はC12CmmHgであったが中心前房深度はC0.5角膜厚と高度な浅前房とCIOL光学部の虹彩捕獲を認めたため,外来処置室にてオキシグルタチオン(BSS)を用いてCIOL光学部を虹彩後方に整復した.しかし,翌日診察時には再度浅前房およびCIOLの虹彩捕獲を認めた(図2).眼圧はC3CmmHgであった.細隙灯顕微鏡検査にて周辺虹彩切除部から前.上に図2打撲後,予約外診時の右眼前眼部写真a:高度な浅前房化を認める.Cb:IOL光学部の虹彩捕獲を認める.IOL支持部が観察された.この所見よりCIOL支持部.外偏位による続発色素緑内障と診断した.同日粘弾性物質を用いて,IOL支持部の水晶体.内への整復術と前房形成術を施行した.術中所見では連続円形切.(continuousCcurvilinearcapsulorhexis:CCC)径はC7Cmm程度で上方支持部は.外に偏位しており,下方支持部は.内に固定されていた.術後,IOL偏位はなかったが中心前房深度はC2.3角膜厚と浅前房化しており,右眼眼圧はC4CmmHgと低眼圧であったため過剰濾過と判断し,IOL整復術後C5日目に強膜弁を追加縫合した.その後前房形成および眼圧コントロール良好で経過している.CIII考察Changら2)はCIOLを毛様溝に挿入後に発症した続発色素緑内障について,平均発症時期は初回水晶体再建術後C21.9C±17.1カ月と報告している.一方,Micheliら3)は.内固定されたCIOLの片側が経過中に.外へ脱出したことにより術後C27日目と比較的早期に続発色素緑内障を発症した症例を報告しており(表1),支持部が脱出した要因としてCCCCが表1水晶体再建術後に続発色素緑内障を発症した期間とIOLの種類UySHetal4)CChangSHetal2)CMicheliTetal3)本症例平均発症期間C13.0±9.6カ月C21.9±17.1カ月27日9日CIOLアクリル,1ピース9眼:アクリル,1ピース1眼:シリコーンアクリル,1ピースアクリル,1ピース症例数20眼10眼1眼1眼眼圧(mmHg)図3本症例の治療と眼圧の経過7Cmmと大きかったためとしている.本症例においてもCIOL整復術中の所見で,7Cmm程度と大きめのCCCCを認めており,既報と同様,水晶体再建術後早期に片側のCIOL支持部が.外偏位し,虹彩と接触することにより色素散布が起こり眼圧上昇した可能性が考えられた.しかし,前医からの追加情報として前医の術中灌流・吸引(I/A)ハンドピース抜去時にCIOLの下方支持部が虹彩上に脱出し,整復を施行したこと,および当院でのCIOL支持部の整復術中所見では上方支持部は.外,下方支持部は.内に固定されていた所見から,前医でのCI/A抜去時にCIOL支持部は上下ともに.外へ脱出し,整復の際にCIOL上方支持部が十分に.内に戻らず.外に固定されたままであった可能性も考えられた.また,.外固定と比較して片側のCIOL支持部が脱出した場合のほうが虹彩と支持部の接触する角度がついて,より色素散布が強く起こり,早期に眼圧が上昇する可能性が考えられた.IOL支持部の偏位時期に関しては,眼球打撲時の可能性も否定できないが,受傷後の診察でも明らかなCIOL支持部の偏位は認めなかったため打撲の影響ではなく前医の術中,もしくは術後早期のCIOL支持部の.外偏位の可能性が高いと考えられた.IOLによる続発色素緑内障は虹彩とCIOLの接触が原因であるため,治療は早期に虹彩とCIOLの接触を解除することである.その後も眼圧下降が不十分な場合はレーザー線維柱帯形成術や流出路再建術,濾過手術を施行する4,5).本症例では濾過手術とCIOL整復術後,眼圧の大きな変動はなく安定した.今回は未施行だったが,既報では超音波生体顕微鏡(UBM)での虹彩とCIOL前面の接触所見は診断に有用6)とあり,術後早期の色素沈着を伴う続発緑内障ではCIOLが原因の可能性も考慮して,前眼部の画像検査が重要であると考えられた.CIV結論水晶体再建術後早期にCIOLの.外偏位が原因と考えられた続発色素緑内障の症例を経験した.水晶体再建術後早期の色素沈着を伴う続発緑内障ではCIOLの.外偏位が原因であることも考慮すべきである.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)SugarCHS,CBarbourFA:PigmentaryCglaucoma;aCrareCclinicalentity.AmJOphthalmolC32:90-92,C19492)ChangCSH,CWuCWC,CWuSC:Late-onsetCsecondaryCpig-mentaryCglaucomaCfollowingCfoldableCintraocularClensesCimplantationCinCtheCciliarysulcus:aClong-termCfollow-upCstudy.BMCOphthalmolC13:Articlenumber22,20133)MicheliCT,CLeanneCMC,CSharmaCSCetal:AcuteChaptic-inducedCpigmentaryCglaucomaCwithCanCAcrySofCintraocu-larlens.JCataractRefractSurgC28:1869-1872,C20024)UyHS,ChanPS:Pigmentreleaseandsecondaryglauco-maCafterCimplantationCofCsingle-pieceCacrylicCintraocularClensesCinCtheCciliaryCsulcus.CAmCJCOphthalmolC142:330-332,C20065)LeBoyerRM,WernerL,SnyderMEetal:Acutehaptic-inducedCciliaryCsulcusCirritationCassociatedCwithCsingle-pieceCAcrySofCintraocularClenses.CJCCataractCRefractCSurgC31:1421-1427,C20056)Detry-MorelML,AckerEV,PourjavanSetal:AnteriorsegmentimagingusingopticalcoherencetomographyandultrasoundCbiomicroscopyCinCsecondaryCpigmentaryCglau-comaCassociatedCwithCin-the-bagCintraocularClens.CJCCata-ractRefractSurgC32:1866-1869,C2006***

自己結膜被覆術の術後成績

2024年2月29日 木曜日

《原著》あたらしい眼科41(2):206.212,2024c自己結膜被覆術の術後成績都筑賢太郎*1輿水純子*1山口達夫*2,1,3*1聖路加国際病院眼科*2新橋眼科*3石田眼科CConjunctivalFlapSurgeryfortheTreatmentofCornealDiseaseKentaroTsuzuki1),JunkoKoshimizu1)andTatsuoYamaguchi2,1,3)1)DepartmentofOphthalmology,St.Luke’sInternationalHospital,2)ShinbashiGanka,3)IshidaEyeClinicC目的:1988年C1月.2020年C12月に,角膜の菲薄化を伴う難治性の角膜疾患に対して結膜被覆術を施行し,術後成績について検討した.方法:角膜が高度に菲薄化(穿孔例C8眼を含む)したC18例C18眼に対して,自己結膜を用いて結膜被覆術を施行した.男性C7例C7眼,女性C11例C11眼で,平均年齢はC63.3歳.対象疾患は多剤抗菌薬に耐性のある重症角膜潰瘍C12眼,真菌性角膜潰瘍C1眼,ヘルペス角膜潰瘍C2眼,眼類天疱瘡C1眼,アカントアメーバ角膜炎C2眼であった.17眼に対しては,Gundersenの方法に準じて結膜弁を作製し病巣部を被覆したが,結膜と強膜に癒着の認められたC1眼に対しては,反対眼より作製した遊離結膜弁を用いて被覆した.結果:18眼中C15眼で感染による炎症は消退し,前房は維持され,創傷は治癒した.ヘルペス角膜炎のC2眼の結膜弁は融解した.結論:自己結膜による結膜被覆術は,角膜の厚みが増すことにより角膜保護効果と同時に,血流により病巣部に薬剤を浸透させるという特徴を生かし,症例によるがよい結果が得られた.とくに細菌,真菌の感染症例に有効であった.術後の混濁など欠点もあるが,症例を的確に選択すれば,菲薄角膜の治療に有用な術式であると考えられた.CPurpose:Toevaluatethee.cacyofconjunctival.apsurgeryforthetreatmentofcornealdiseaseaccompa-niedCbyCcornealCthinning.CSubjectsandMethods:ThisCstudyCinvolvedC18CeyesCofC18patients(7CmalesCandC11females)withdeepcornealulcerswhounderwentconjunctival.apsurgeryfromJanuary1988toDecember2020.OfCtheC18Ceyes,C8CexhibitedCcornealCperforation,CandCtheCcornealCulcersCwereCcategorizedCasCbacterialCulcersCresistanttoantibiotics(12eyes),CfungalCcornealulcer(1eye),Cherpetickeratitis(2eyes),Cacanthamoebakeratitis(2eyes),Candocularcicatricialpemphigoid(1eye).Apartialpedunculatedconjunctival.apwasusedin17eyesandafreeconjunctivalC.apCwasCusedCinC1Ceye.CResults:InC15Ceyes,CconjunctivalC.apCsurgeryCsuccessfullyCstabilizedCtheCpatient’socularsurface,yetinthe2eyeswithheretickeratitis,therewaspostoperativerecurrence,astheconjunc-tival.apsmeltedandcornealperforationwasrepeated,andtheysubsequentlyunderwenttarsorrhaphyandphthi-sisbulbideveloped.Conclusion:Althoughcornealopacitywasobservedinsomecases,conjunctival.apsurgerywasfoundtobeane.ectivesurgicalprocedureforthetreatmentofcornealdiseaseaccompaniedbycornealthin-ning.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)41(2):206.212,C2024〕Keywords:結膜被覆術,角膜,角膜潰瘍,角膜穿孔.conjunctival.aps,cornea,ulcer,perforation.Cはじめに結膜被覆術は角膜疾患に対し,有茎弁にした結膜組織を用いて病変部を被覆し治療する古典的な術式であったが1),CGundersen2,3)により当初は水疱性角膜症の痛みを軽減する術式として用いられ再び注目をされるようなった.その後,再発性角膜びらん,角膜周辺部潰瘍,糸状角膜炎,神経麻痺性角膜炎,細菌性角膜炎,真菌性角膜炎,ヘルペス角膜炎,化学腐蝕などに応用されてきた4.10).わが国では北野ら11)により被覆した結膜弁の角膜中央部に位置する部位に,小さな穴を開けて瞳孔領を維持する術式開発された.近年,治療用ソフトコンタクトレンズの改良,シアノアクリレートの使用12,13),角膜の入手が以前より容易になったこと,羊膜移植術14)の普及などにより本術式の適応は狭くなってきてはいるが4,15),いまだに種々の疾患に用いられている16.22).〔別刷請求先〕都筑賢太郎:〒104-8560東京都中央区明石町C9-1聖路加国際病院眼科Reprintrequests:KentaroTsuzuki,M.D.,DepartmentofOphthalmology,St.Luke’sInternationalHospital,9-1Akashicho,Chuo-ku,Tokyo104-8560,JAPANC206(96)わが国では本術式の多数例での報告がないことより,筆者らはC1988年C1月.2020年C12月末に,角膜の菲薄化を伴う難治性の角膜病変に対し,聖路加国際病院(以下,当院)で施行した自己結膜を用いた結膜被覆術の術後成績を検討したので報告する.CI症例1988年C1月.2020年C12月末に,角膜が高度に菲薄化(穿孔例C8眼を含む)したC18例C18眼に対して,自己結膜を用いて結膜被覆術を施行した.男性C7例C7眼,女性C11例C11眼で,平均年齢はC63.3歳であった(表1).手術適応症例は,①角膜の菲薄化が進行性である,②菲薄部の穿孔が小さく前房水の漏出がないか,あっても極微量である(ソフトコンタクトレンズ,羊膜や,シアノアクリレートを用いても漏出が止まらない),③菲薄部の炎症が活動的でない,④菲薄部の感染が,拡大傾向にはないが完治しない,などである.対象疾患は,細菌培養後の検査で多剤に耐性のある重症角膜潰瘍C12眼,真菌性角膜潰瘍C1眼,ヘルペス角膜潰瘍C2眼,眼類天疱瘡C1眼,アカントアメーバ角膜炎C2眼(治療的全層角膜移植後がC1眼)であった.CII術式および治療18眼に対しては,Gundersenの方法に準じて結膜弁(有茎)を作製し病巣部を被覆した2,3,21)(図1a).結膜を被覆する部位であるが,病変の位置と大きさにより方法が異なり,1)病変が角膜中央部にあって大きい症例では上方から幅の広い結膜を用いるが(図1a,症例1,2,4,5,6,7),それだけでは足りない症例では下方の結膜を上方の方法と同様に切り出し,上下の結膜を合わせて角膜に縫合した(図1c,症例C13,18).2)病変が角膜上方あるいは中央にあるが小さい症例には上方の球結膜を用いて角膜上部を被覆した(図1d,症例8,9,10,12,14,16,17).3)病変が角膜下方にあり被覆する部位が小さい症例では下方の球結膜を用いる術式を選択した(図1b,症例3).手術は局所麻酔下にて,結膜被覆する部位の角膜上に無水アルコールを含んだCMQAを接触させただちに生理食塩水で洗い流した後,ゴルフ刀で上皮層を完全に除去し,その後,角膜輪部で結膜を切開し,術後の結膜弁の収縮を考慮し計測値よりC1.2Cmm大きめの球結膜を角膜輪部と平行に切開し,水平方向に帯状の結膜弁(有茎)を作製した.結膜弁はTenon.をなるべく厚く取るように強膜から.離した.結膜弁を角膜中央部側に移動させ病巣部を被覆した後,結膜弁が輪部と接する部位は結膜弁が張った状態になるようにC9-0バージンシルク糸を用いてしっかりと縫合し,その他のC4カ所部位は結膜弁を角膜と強膜にそれぞれC10-0ナイロン糸で端々縫合した.結膜弁を切り取った後の結膜.側の結膜断端部は,8-0吸収糸で強膜に縫合した(図1).術後の治療であるが,手術前と同じ薬剤を用い,充血が消失するまで継続した.CIII結果全症例の経過を表1に示す.全症例C18例C18眼中,症例C11,14,18を除き,15症例(症例C1.10,12,13,15.17)では感染による炎症は消退し,自己結膜被覆後の角膜創傷治癒は良好で,自己結膜は角膜上に生着した.1例に僚眼からの無茎弁移植を行ったが,術後8日目に結膜弁は生着せず脱落し,同日,羊膜移植を行った(症例C11).症例C14とC18は,術後ヘルペス角膜炎が再燃し被覆結膜が融解を起こし,術後C1年で眼瞼縫合をし,眼球癆となり現在に至っている.細菌感染例では結膜弁が融解した症例はなくC8眼中C8眼で鎮静化を認めた.術後に眼瞼下垂等の合併症は認められなかった.代表的な症例として症例C10を示す.患者:89歳,女性.主訴:左眼の疼痛.現病歴:糖尿病で定期通院中に左眼角膜周辺部に潰瘍を発症.所見・経過2008年C4月C4日:来院時左眼の角膜の高度な菲薄化を認め(図2a),同日表層角膜移植術を施行した(図2b).2008年C4月C15日:術後C10日目より角膜移植片が融解した.眼脂の検鏡と培養の結果にて,グラム陽性球菌,グラム陽性桿菌,グラム陰性桿菌,およびノカルジアが陽性であった(図2c).2008年C4月C23日:前房蓄膿とCDescemet膜瘤を認め,自己結膜被覆術を施行した.2008年C4月C30日:結膜被覆術術後よりC7日目.抗菌薬の併用で前房は維持され,前房の炎症は消退し,角膜の菲薄化も進行を認めなかった(図3a).2009年C1月C27日:結膜被覆術術後よりC9カ月目.菲薄化していた角膜は被覆した結膜に覆われており,感染は鎮静化した(図3b).CIV考按結膜被覆術の手術効果の原理であるが,結膜で角膜を覆うことから,穿孔部あるいは菲薄部の構造的な補強,難治性角膜潰瘍部への結膜血管を介しての抗菌剤の直接浸潤,免疫担当細胞の浸潤による抗炎症作用と瘢痕化の促進,その結果,原疾患が治癒し不快感や疼痛の軽減が得られるものと考えられている.他の治療法の開発に伴い適応症例は狭まっているがいまだ用いられており,手術適応としては,1)難治性角膜潰瘍,2)遷延性角膜上皮欠損,3)角膜菲薄,Descemet表1症例性年齢病名症状術式起因菌術後期間経過上方より1CFC66眼類天疱瘡菲薄化有茎弁原因不明16年1カ月感染症治癒→LKP・羊膜移植→混濁治癒角膜潰瘍上方より2CMC78(LKP後)穿孔なし有茎弁G(+)球菌不明感染症治癒→CPKP予定するも認知症で断念下方より3CMC65角膜潰瘍下方菲薄化有茎弁緑膿菌15年8カ月感染症治癒→CLKPC→CPKPC→CGraft透明治癒角膜潰瘍潰瘍・穿孔上方より4CFC73(PKP後)不明有茎弁CMRSA不明感染症治癒→CPKP予定するも希望せず角膜潰瘍・上方より5CMC63穿孔穿孔あり有茎弁培養せず12年11カ月感染症治癒→緑内障で光覚(C.)角膜潰瘍上方より6CFC72(LKP後)穿孔不明有茎弁G(+)球菌不明感染症治癒→緑内障で光覚(C.)角膜潰瘍上方よりG(+)球菌,C7CFC86(PTK後)穿孔なし有茎弁黄ブ菌2年11カ月感染症治癒→悪性腫瘍にて死亡上方よりYeast,ブドウ糖C8CFC30角膜潰瘍中心穿孔あり有茎弁非発酵菌4年2カ月感染症治癒→混濁治癒上方より9CMC45角膜潰瘍中央穿孔なし有茎弁CNegative1年5カ月感染症治癒→CPKP予定角膜潰瘍・上方よりG(+)球菌C10CFC89Descemet瘤上方菲薄化G(.)桿菌1年10カ月感染症治癒→混濁治癒(LKP後)有茎弁ノカルジア角膜潰瘍僚眼より11CMC38(LKP後)移植片融解無茎弁CNegative2年融解→羊膜移植→感染症治癒→CPKP予定アカントア上方よりアカント12CFC27メーバ移植片融解有茎弁アメーバ7年感染症治癒→希望で他院でCPKP予定(PKP後)角膜潰瘍・下方の穿孔上方と下方13CFC75Descemet瘤ありより有茎弁CNegative4年感染症治癒→CPKP予定角膜潰瘍上方より14CMC61(LKP後)Descemet瘤有茎弁ヘルペス8年11カ月角膜穿孔→光覚(C.)→CTarsorraphyやや下方穿孔上方より真菌C15CFC78角膜潰瘍(Candida2年10カ月感染症治癒→混濁治癒あり有茎弁albicans)アカントア上方よりアカント16CFC29メーバ中央部穿孔7カ月感染治癒→他院に希望で転院(SCL)有茎弁アメーバ角膜潰瘍上方より17CMC80(兎眼)下方穿孔有茎弁G(+)球菌2年5カ月感染治癒→混濁治癒角膜潰瘍移植片融解上方と下方18CMC84(PTK穿孔ありより有茎弁ヘルペス7カ月角膜穿孔→眼球.→CTarsorraphyLKP後)G:グラム染色,LKP:lamellarkeratoplasty,PTK:phototherapeutickeratectomy,PKP:penetratingkeratoplasty,Tarsorraphy:眼瞼縫合,MRSA:メチシリン耐性黄色ブドウ球菌,Negative:陰性,SCL:softcontactlens.膜瘤,角膜穿孔,4)水疱性角膜症などが報告されている.術式は上方の球結膜は,幅と奥行きに余裕があることより筆者らはC1988年より角膜の菲薄化を伴う難治性の角膜疾Gundersenの術式に準じて原則,上方結膜を用いた.結膜患に対し,自己結膜を用いた結膜被覆術を施行してきた.と強膜に癒着の認められたC1眼に対しては,反対眼(僚眼)a切開線b切開線b結膜結膜c切開線d切開線結膜遊離結膜弁結膜潰瘍9-0バージンシルク糸10-0シルク糸8-0吸収糸9-0バージンシルク糸10-0シルク糸8-0吸収糸図1術式のシェーマa:上方からのC.ap.全周の輪部で結膜を切開後,上方の結膜を弧状に切開.Cb:下方からのC.ap.3時.9時の輪部で結膜を切開後,下方の結膜を弧状に切開.Cc:上・下方向からのC.ap.上方と下方の結膜弁を合わせて角膜に縫合(上方結膜→角膜→下方結膜).d:遊離結膜弁による被覆術(結膜と強膜が癒着している症例で,反対眼の上方結膜より結膜弁を作製).より作製した遊離結膜弁を用いて被覆した(症例C11,図1d).小さな病変が角膜周辺にある場合はその近くの球結膜から結膜弁を作り角膜の被覆を行っても良いし,角膜のC3時,またはC9時の周辺に病巣がある場合には,縦の結膜弁(12時からC6時)を作り被覆する方法18)もあるが,今回の症例ではこれらの術式が適応となる症例はなかった.上方の結膜弁だけでは足りずに全角膜を被覆できない場合は,下方の結膜を上方に引き上げ,上方の結膜と縫合した(図1c).病変が角膜下方の輪部近くにある場合は,下方の球結膜を帯状に切開し用いた(図1b).その他の部位に病変がある場合は,原則,上方より結膜弁を帯状に作製し用いた.18例C18眼にこの術式を施行し,15例で被覆した結膜は生着したが,他眼からの無茎弁移植のC1例とヘルペス角膜炎が再燃したC2例は被覆結膜が融解し,目的を達せなかった.本術式の利点としては,1)自己結膜を用いるのでいつでも手術が可能である,2)物理的に角膜を保護し,創部を外界から遮断する,3)結膜弁は有茎弁であり血流があるため,無茎弁に比較し創傷治癒が速い,4)前房が維持される.5)創傷治癒に伴い,結膜弁から病変部に十分な抗菌薬が供給される,6)拒絶反応がない,などがあげられる(表2).術式の選択をするときに羊膜移植術にするか結膜被覆術にするかの判断基準であるが,感染症のない角膜で小さな穿孔であれば羊膜を角膜上に被せるかあるいは穿孔部に羊膜を補.した後,羊膜を角膜上に被せる方法や,羊膜と結膜被覆術を併用する術式もある23).穿孔部が小さければ,ソフトコンタクトレンズやシアノアクリレートの使用も有効であるが,感染症がある角膜では羊膜移植術やシアノアクリレートは適応ではないと考える.当院では抗菌薬の全身投与を行っていないことより,結膜被覆術では被覆した結膜血管から抗菌薬が直接病巣部に浸透していくものと推測される.これはソフトコンタクトレンズやシアノアクリレートや羊膜移植などより優れている点と考える.感染を伴わない角膜びらんには羊膜移植術を試みてもよいaab図2症例10の前眼部写真(初診~結膜被覆術施行前)a:初診時.糖尿病で定期通院中に左眼角膜周辺部に潰瘍を発症(.).b:Lamellarkeratoplasty(LKP)術翌日.角膜の高度な菲薄化を認め,LKPを施行した.c:結膜被覆術前.LKP術後10日目にCgraftの一部にCmeltingが出現し,細菌培養にてCG(+)coccus,G(+)rod,G(.)rod,およびノカルジアが陽性.LKP術後C19日目にCdescemetoceleと前房蓄膿を認めた.が,羊膜が融解脱落後も上皮が被っていない難治性の角膜びらんでは,結膜被覆術が適応であると考える.結膜で被覆することにより角膜を保護し創部を外部から遮図3症例10の前眼部写真(結膜被覆術後)a:結膜被覆術後C7日目.LKP術後C19日目にCgraftの上に自己結膜被覆術(上方より有茎弁を作り角膜,結膜に縫合)を施行.前房の炎症は消退し,前房蓄膿は消失.前房水の漏出は認めず,前房は維持されていた.b:結膜被覆術後C9カ月目.術後経過は良好で,感染は鎮静化した.表2術式の利点と欠点.利点1)自己結膜を用いるのでいつでも手術が可能2)物理的に角膜を保護3)創傷治癒が速い(結膜からの血流を獲得)4)十分な抗生物質の供給5)拒絶反応がない.欠点1)病巣部の直接観察が困難2)角膜混濁による視力低下(視力回復のための手術が必要)3)美容面(角膜混濁)4)眼瞼下垂断することであるが,GundersenがCFuchs角膜ジストロフィによる水疱性角膜症の患者に本術式を用いて疼痛から解放したことが示すように,この術式の利点の一つであり,筆者らの症例でもC15例で術後は異物感や疼痛を感じなくなった.また種々の角膜疾患で上皮細胞の修復が遅く,ソフトコンタクトレンズなどを使用しても上皮が被らず実質層が融解した症例(症例C12)や,穿孔した症例(症例5,8,13,15.17)にも本術式は有効であった.角膜感染症で薬剤治療の効果はあるが治癒が遅く,上皮が修復せずに穿孔寸前の症例や,穿孔したが前房水の漏出が止まっている症例のC18例中C15例で本術式により感染症が治癒した.これは結膜弁が病変部を塞ぎ,創傷治癒を惹起させた後,血管から滲出した血液を介して抗菌薬が直接病変に浸透していき,感染を早く治癒させることができた結果であると考える.ただし細菌性や真菌性の角膜潰瘍で使用している薬剤の効果が得られていない症例では,結膜弁が融解する可能性があることより,そのような症例では,本術式を用いずに治療的全層角膜移植術を選択すべきと考える.既報告ではヘルペス角膜炎による角膜上皮.離に有効であるとの報告があるが8,23),ヘルペス角膜炎の再発の報告もある24,25).今回の筆者らのヘルペス角膜炎のC2症例では炎症の活動は抑えられず結膜弁が融解してしまったことより,内服薬も含め他の薬剤を併用し効果がなければ表層角膜移植術を選択すべきと考える.1眼ではあるが細菌感染が原因と思われる角膜潰瘍に対し,僚眼からの無茎弁移植を施行した症例(症例C11)ではC8日目に結膜弁は融解脱落してしまったことより,結膜被覆術ではなく,治療的全層角膜移植術を選択すべきであったと思われる.1症例の結果ではあるが,結膜被覆術を行うときは有茎弁を選択したほうがよいと考える.本術式の欠点としては,1)角膜に結膜弁が被覆されるため,病変部の観察が困難になり,とくに角膜全体を被覆してしまうと前房の状態が把握できなくなる.また,2)結膜弁が角膜中心部を覆うと視力低下をきたす.3)被覆部が結膜により混濁しているため,美容的に問題となる(表2).美容的な問題の解決には結膜弁の除去が必要であるが,感染症が完全に消炎したことが確認されてもC6カ月ほど経過観察し,血管の活動性が鎮静化するのを待ち患者の希望があれば,結膜弁の除去と全層角膜移植術や表層角膜移植術を考慮するのがよいと考える(症例9,12,13).術後合併症として,まれではあるが眼瞼下垂が起こるとの報告がある4).病変部が大きく角膜全体を被覆するには上方の結膜のみで被覆する場合,輪部からC12Cmm以上と結膜.に近いところまで結膜切開を行わなければならず,その結果,上方の結膜欠損部分で瞼球癒着が起き結膜.が浅くなり,眼瞼下垂を起こす可能性がある.今回筆者らの症例では眼瞼下垂は認められなかった.これは結膜.が本来の位置にあるように,barescleraになることを気にせずに切開された結膜断端部を強膜に縫合し,術後瞼球癒着に注意を払えば防げる合併症と思われた.結膜被覆術は古典的な術式ではあるが,的確に症例を選択し手術を行えば臨床的には有用な術式であると考える.CV結論角膜の菲薄化を伴う難治性の角膜疾患に対し,結膜被覆術を施行し良好な結果を得た.とくに,多剤抗菌薬に抵抗性を示すような重症の角膜潰瘍症例でも,術後全症例で感染は鎮静化した.抗菌薬に抵抗し,穿孔,あるいは穿孔の危険性のある重症角膜潰瘍に対し,結膜被覆術(有茎弁)は,比較的簡便であり試みてよい術式と思われた.文献1)VieiraCAC,CMannisMJ:ConjunctivalCflaps.CCORNEACIIIedition,(KrachmerCJH,CMannisCMJ,CHollandEJ)C,Cchap-ter145,p1639-1646,ElsevierMosby,Philadelphia,20112)GundersenT:Conjunctival.apsinthetreatmentofcor-nealdiseasewithreferencetoanewtechniqueofapplica-tions.ArchOphthalmolC60:880-888,C19583)GundersenT:SurgicalCtreatmentCofCbullousCkeratopathy.CArchOphthalmolC64:260-267,C19604)CockerhamCGC,CFosterCS:ConjunctivalC.aps.CcornealCsurgery,theory,thechniqueandtissue,IIIedition(Bright-billFS)C,p135-141,Mosby,StLouis,19995)早川正明,三島済一:角膜潰瘍に対する結膜瓣被覆法の効果について.臨眼C24:867-872,C197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広角光干渉断層血管撮影を用いた網膜無灌流領域の 各象限ごとの検討

2024年2月29日 木曜日

《第28回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科41(2):201.205,2024c広角光干渉断層血管撮影を用いた網膜無灌流領域の各象限ごとの検討山本学平山公美子居明香本田聡河野剛也本田茂大阪公立大学大学院医学研究科視覚病態学CInvestigationofEachQuadrantoftheRetinalNonperfusionAreausingWide-FieldOpticCoherenceTomographyAngiographyManabuYamamoto,KumikoHirayama,AkikaKyo,SatoshiHonda,TakeyaKohnoandShigeruHondaCDepartmentofOphthalmologyandVisualSciences,OsakaMetropolitanUniversityGraduateSchoolofMedicineC目的:広角フルオレセイン蛍光造影(FA)と広角光干渉断層血管撮影(OCTA)を用いて糖尿病網膜症(DR)の無灌流領域(NPA)の評価を各象限ごとに比較検討した.対象および方法:2021年C1月.2022年C8月に大阪公立大学医学部附属病院眼科で広角CFAと広角COCTAを撮影したC38例C76眼.広角CFAの撮影にはCOptos200Tx(Optos社,撮影画角200°)を,広角OCTAはCOCT-S1(キヤノン)を使用した.NPAの検討は,眼底を上下内外のC4象限に分け,FAを基準にCNPAの一致率を検討した.結果:各象限の所見一致率は上下内外それぞれ,80.6%,96.2%,96.8%,81.8%で下方,内側に高い傾向にあったが有意差はなかった(p=0.076).OCTAでのCNPAの感度はC72.7%,100%,100%,73.3%で有意差を認め(p<0.01),特異度はC100%,87.5%,85.7%,88.9%で有意差はなかった(p=0.737).結論:各象限ごとでCNPAの検出に違いがみられた.OCTAの特性を理解し活用することで,日常診療におけるCFAの機会の減少やより確実なCDRの評価につながると考えた.CPurpose:Tocompareandevaluatenon-perfusionareas(NPA)ofdiabeticretinopathy(DR)usingwide-.eld(WF)fundus.uoresceinangiography(FA)(WF-FA)andWFopticalcoherencetomographyangiography(WF-OCTA)ineachfundusquadrant.SubjectsandMethods:Thisstudyinvolved76eyesof38patientswhounder-wentWF-FAandWF-OCTAimaging.TheOptos200TxUltra-Wide.eldRetinalImagingDevice(OptosPlc)wasusedCforWF-FA(200°CangleCofview)C,CandCtheCXephilioOCT-S1(CanonInc.)wide-.eldCretinal-imagingCdeviceCwasusedforWF-OCTA.ForNPAexamination,thefunduswasdividedintofourquadrants(upper,lower,inner,andouter)C,andtheagreementrateofNPAwasexaminedbasedonFA.Results:Fortheupper,lower,inner,andouterCquadrants,CtheCagreementCratesCwere80.6%,96.2%,96.8%,Cand81.8%,respectively(p=0.076)C,withnosigni.cantdi.erencebetweenthelowerandinnerquadrants.ThesensitivityofNPAinOCTAwas72.7%,100%,100%,and73.3%,respectively,withasigni.cantdi.erence(p<0.01)C,andthespeci.citywas100%,87.5%,85.7%,and88.9%,respectively,withnosigni.cantdi.erences(p=0.737)C.CConclusion:Althoughthereweredi.erencesintheCdetectionCofCNPACinCeachCquadrant,CunderstandingCandCutilizingCtheCcharacteristicsCofCOCTACmayCleadCtoCaCmorereliableevaluationofDR.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C41(2):201.205,C2024〕Keywords:糖尿病網膜症,フルオレセイン蛍光造影,光干渉断層血管撮影.diabeticretinopathy,.uoresceinan-giography,opticcoherencetomographyangiography.CはじめにFA)が広く行われてきた.撮影には眼底カメラ型のものか糖尿病網膜症(diabeticretinopathy:DR)は糖尿病患者ら最近ではレーザー光を使用した広角に撮影できる広角CFAにおける重大な眼合併症であり,その病期分類の評価には従も登場し,その有用性は確立している1.4).しかし,FAは来からフルオレセイン蛍光造影(.uoresceinangiography:造影剤を使用し,アナフィラキシーショックなどの合併症リ〔別刷請求先〕山本学:〒545-8585大阪市阿倍野区旭町C1-4-3大阪公立大学大学院医学研究科視覚病態学Reprintrequests:ManabuYamamoto,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmologyandVisualSciences,OsakaMetropolitanUniversityGraduateSchoolofMedicine,1-4-3,Asahi-machi,Abeno-ku,Osaka545-8585,JAPANC表1症例の内訳特徴症例数;例(眼)38(76)性別(例)男性C26,女性C12年齢;平均(範囲)60.7(C32.C87)高血圧;例(%)28(74)高脂血症;例(%)11(29)HbA1c(%);Median(Range)7.7(C4.9.C11.6)インスリン使用歴;例(%)15(39%)糖尿病網膜症重症度;眼(%)網膜症なし2(3%)軽症増殖前網膜症11(14%)中等度増殖前網膜症22(29%)重症増殖前網膜症20(26%)増殖網膜症21(28%)スクもあるため,眼底の経過観察のために頻回に行うことは躊躇される5).FAがCDRの詳細な眼底評価検査としてゴールドスタンダードであることは論をまたないが,DRの国際重症度分類では眼底観察所見が主体であり,FA所見が採用されていないことも日常診療での判断に制約を与えているともいえる.近年,眼底の断層像撮影が可能な光干渉断層計(opticCcoherencetomography:OCT)の,動的シグナルを抽出し眼底の血流を同定する光干渉断層血管撮影(opticcoherencetomographyCangiography:OCTA)が登場し,無侵襲に網膜血流を評価できるようになってきた6).当初COCTAは画角が小さいことが欠点であったが,最近では撮影技術の向上により,広角でCOCTAを撮影できる装置も市販化されてきた.OCTAでの血流シグナルの同定はいまださまざまな問題点もあるが,DRにおいてはCOCTAを活用する報告も多くなってきている7.9).今回筆者らは,DRの活動性評価に重要な所見である無灌流領域(nonperfusionarea:NPA)について,広角COCTAを用いてCFAと比較評価し,所見の一致率や病期分類の妥当性を検討したので報告する.CI対象および方法本研究はヘルシンキ宣言に基づき,大阪公立大学医学系研究等倫理審査委員会の承認のもと,オプトアウトによる後ろ向き観察研究である.対象はC2021年C1月.2022年C8月に大阪公立大学医学部附属病院眼科を受診し,広角CFAおよび広角COCTAを同時期に行ったCDR症例C38例C76眼である.表1に症例の内訳を示す.男性C26例,女性C12例,平均年齢は60.7歳(32.87歳)であった.広角CFAの撮影にはCOptos200TX(Optos社,撮影画角約C200°)を,広角COCTAにはOCT-S1(キヤノン,撮影画角約C80°)を用いた.FAとOCTAの撮影時期はC1週間以内のものを採用した.FAの画像には造影後C1分後以降の静脈相のものを使用した.また,OCTAの画像の検出にはCdefaultのCOCTAモード(20C×23mm)で撮像し,denoise処理を行ったCsuper.cialCperiphery(網膜内層用モード)で解析したものを採用した.NPAの検討方法は,眼底を上下内外のC4象限に分け,各象限ごとにCNPAの有無を比較した(図1).NPAは長径がC1乳頭径以上のものをCNPAありとし,二人の専門医(M.Y.,A.K.)でCNPAあり,NPAなし,判定不能のC3段階で評価した.判定不能の基準は,FA,OCTAともに網膜血管の陰影が追えていることを目安とし,各象限ごとの範囲内にC50%以上判定できない領域がある場合を判定不能とした.検討項目は,FAとCOCTAで判定が可能であった割合,FA所見を基準としたCOCTAによるCNPAの検査精度(全体および各象限ごと),NPAの程度のみでレーザー網膜光凝固術の適応判定を行うと仮定した場合の一致率(NPAがC1.2象限:局所光凝固,3象限以上:汎網膜光凝固)を検討した.統計学的手法として,各機器の診断可能であった割合にはCMcNemar’stestを,各象限同士のCFAとCOCTAでの判定可能率および所見の一致率にはCChi-squaredtestを,レーザー網膜光凝固術の一致率にはCChi-squaredtestを用いた.統計解析の有意水準はCp=0.05とし,多重比較の補正にはBonferroni法を用いた.統計解析ソフトはCSPSSCver24.0(IBM社)を使用した.CII結果76眼C304カ所の象限中,NPAの判定不能であった箇所を除いた総数は広角CFAではC281カ所(92.4%),広角COCTAではC238カ所(78.3%)で,両者で判定可能であったものは225カ所(全体のC74.0%,広角CFAで判定できたもののうち80.1%)であった.このC225カ所を両機器のCNPA判定比較に採用した.また,広角CFAで判定不能とされたC23カ所では,13カ所(56.5%)が広角COCTAでCNPAの判定が可能であった.各象限ごとの両機器の比較では,全象限で広角CFAのほうが広角COCTAより判定できた割合は高く(p<0.001,CMcNemar’stest),象限ごとの判定可能率は下側で低い傾向はあったが有意差はみられなかった(p=0.18,Chi-squaredtest)(図2).広角CFA所見を基準とした場合のCNPAの検査精度を表2に示す.所見の一致率は下側,鼻側で高く,上側,耳側で低い傾向にあった(p<0.01,Chi-squaredtest).とくに上側では感度は低いが特異度は高く,外側では感度・特異度とも低い傾向にあった.NPAの象限数のみでレーザー網膜光凝固術の適応判定を行った場合,広角COCTAで非適応はC10眼(17.9%),局所網膜光凝固術はC18眼(32.1%),汎網膜光凝固術はC28眼図1FAとOCTAでの各象限の区分け黄斑部を中心とし,上側,下側,内側,外側のC4象限に分けて,各象限ごとに無灌流領域を比較した.糖尿病網膜症の診療におけるCFAの役割は,網膜症の病期判定できた割合を判定し,治療適応の可否を決定することが主体である.網膜症の病期ごとに比較した検討では,軽症よりも重症網膜症でCFAの重要性が高いという報告もある.重症であればあるほど頻度は厭わず網膜症を詳細に評価することが望ましくなる一方で,FAでは造影剤を使用するため,頻回な評価は困難である.OCTAでは,非侵襲的に網膜や脈絡膜の循環動態を観察でき,臨床上はCFAより簡便に施行できるのがメリットである7).今回の検討では,広角CFAでの診断可能率がC92.4%,広角COCTAではC78.2%であり,OCTAで割合が劣るものの,非侵襲,頻回の評価が可能なことは使用に足るものと思われる.広角CFA・OCTAで検出率の違いが生じた原因として,検出方法の違いがあげられる.今回使用したCOCTAでは,約1分程度の固視が必要であり,固視が不十分であるとCcomb-ingnoiseといわれる横縞様の水平のずれが生じてしまい,評価が困難となる.今回の検討でも,OCTAで評価不能であったもののほとんどはこのCcombingnoiseによるものであった.一方,FAでは固視不良であっても撮影可能であり,新生児や乳幼児であっても撮影可能との報告もある4,10).これが診断可能な割合の大きな原因となっているが,現行の診断機器ではCOCTAの検出技術上はむずかしい.しかし,さらなる機器の発展により克服できる可能性は十分にある.逆に,FAで評価不能であったもののうち,56.5%でCOCTA評価が可能であった.この理由の一つとして光源波長の違いがある.FAで使用されている波長はC488Cnmであるのに対表2広角FA所見を基準とした広角OCTAによるNPAの一致表3広角OCTAでのNPAの象限数によるレーザー適応判定と率と検査精度広角FAとの一致率一致率86.7%81.4%95.9%94.8%76.3%感度84.8%71.1%97.1%97.8%66.7%特異度90.0%100.0%92.9%84.6%84.4%陽性的中率93.8%100.0%97.1%95.7%78.3%陰性的中率76.6%65.6%92.9%91.7%75.0%偽陽性率10.0%0.0%7.1%15.4%15.6%偽陰性率15.2%28.9%2.9%2.2%33.3%陽性尤度比C8.48C∞C13.60C6.36C4.27陰性尤度比C0.17C0.29C0.03C0.03C0.40では,鼻側から進行しやすく周辺部へと進むものが多いこと,前述のように下側の最周辺部は検出しにくいことから,撮影画角が狭いCOCTAとの一致率は下側・鼻側で高い傾向にあったと考えられる12.14).Zengらの広角COCTAの画角に広角CFAを合わせて検討した研究では,FAとCOCTAで検出できたCNPAの面積には差はみられなかったと報告している15).この研究での画角はC81°C×68°とほぼCOCT-S1と同等のものであり,画角が同一であった場合は両者ともほぼ同一の検出率であるかもしれない.ただし,この報告では全例でCFAとCOCTAの撮影が可能であったとされているので,前述した硝子体出血などの画像構築に支障をきたす病態があると両者に違いが生じる可能性はあり,対象の違いは考慮する必要がある.さらに,富安らは,広角CFAを使用しC7.7%で最周辺部のみにCNPAを認める症例があるとしており,画角が狭いCOCTAではこのような所見を検出できていなかった可能性がある2).OCTAでも,撮影枚数を増やしパノラマ画像を作製することも可能であり,簡便さとのトレードオフになるが,眼底所見で疑わしい場合にはそのような工夫も必要かもしれない.NPAのみを判断基準とした網膜光凝固術の治療適応基準では,OCTAで非適応となったものはCFAでも非適応であり,汎網膜光凝固術が適応となったものはCFAでも適応となっていた.あくまでCNPAに限定した適応基準であり,実臨床では総合的に判断する必要はあるものの,OCTAを活用することでCFAの施行回数を少なくすることはできると考えられる.糖尿病網膜症診療ガイドラインにも示されているように,NPAの出現を早期に判断して汎網膜光凝固術を行うほうが網膜症の重症化を予防できるとされているため,頻回に検査ができることはCOCTAでの利点である1,16).今回の結果をふまえ,軽症非増殖網膜症以上の進行や前回よりも悪化がみられた場合には,FA施行の前にCOCTAを撮影することで,FAの機会を少なくしつつ網膜光凝固の適応を適切な時期に考慮できると思われる.今後もさらなる症例の蓄積,解析を行い,より精密な評価が必要と考えられる.非適応10(C17.9)C100局所網膜光凝固術18(C32.1)C66.7汎網膜光凝固術28(C50.0)C100C文献1)瓶井資,石垣泰,島田朗ほか:糖尿病網膜症診療ガイドライン(第C1版).日眼会誌C124:955-981,C20202)富安胤,平原修,野崎実ほか:超広角蛍光眼底造影による糖尿病網膜症の評価.日眼会誌C119:807-811,C20153)FalavarjaniGK,TsuiI,SaddaSR:Ultra-wide-.eldimag-ingCinCdiabeticCretinopathy.CVisionCResC139:187-190,C20174)MagnusdottirCV,CVehmeijerCWB,CEliasdottirCTSCetal:CFundusCimagingCinCnewbornCchildrenCwithCwide-.eldCscanninglaserophthalmoscope.ActaOphthalmolC95:842-844,C20175)大矢佳,中村裕,安藤伸:フルオレセイン蛍光眼底造影における副作用の危険因子と安全対策.日眼会誌C122:95-102,C20186)石羽澤明:OCTアンギオグラフィーのすべて糖尿病網膜症への応用.眼科グラフィックC5:335-339,C20167)HorieS,Ohno-MatsuiK:ProgressofimagingindiabeticretinopathyC─CfromCtheCpastCtoCtheCpresent.CDiagnostics(Basel):12,C1684,C20228)ZhangCQ,CRezaeiCKA,CSarafCSSCetal:Ultra-wideCopticalCcoherenceCtomographyCangiographyCinCdiabeticCretinopa-thy.QuantImagingMedSurgC8:743-753,C20189)SawadaCO,CIchiyamaCY,CObataCSCetal:ComparisonCbetweenCwide-angleCOCTCangiographyCandCultra-wideC.eldC.uoresceinCangiographyCforCdetectingCnon-perfusionCareasandretinalneovascularizationineyeswithdiabeticretinopathy.CGraefesCArchCClinCExpCOphthalmolC256:C1275-1280,C201810)KothariCN,CPinelesCS,CSarrafCDCetal:Clinic-basedCultra-wideC.eldCretinalCimagingCinCaCpediatricCpopulation.CIntJRetinaVitreousC5:21,C201911)CoscasCF,CGlacet-BernardCA,CMiereCACetal:OpticalCcoherenceCtomographyCangiographyCinCretinalCveinCocclu-sion:evaluationCofCsuper.cialCandCdeepCcapillaryCplexa.CAmJOphthalmolC161:160-171Ce161-e162,C201612)JacobaCMP,AshrafM,CavalleranoJDetal:AssociationofmaximizingvisibleretinalareabymanualeyelidliftingwithCgradingCofCdiabeticCretinopathyCseverityCandCdetec-tionCofCpredominantlyCperipheralClesionsCwhenCusingCultra-wide.eldimaging.JAMAOphthalmolC140:421-425,C202213)FluoresceinCangiographicCriskCfactorsCforCprogressionCofCdiabeticCretinopathy.CETDRSCreportCnumberC13.CEarlyCTreatmentCDiabeticCRetinopathyCStudyCResearchCGroup.COphthalmologyC98:834-840,C199114)JungCEE,CLinCM,CRyuCCCetal:AssociationCofCtheCpatternCofCretinalCcapillaryCnon-perfusionCandCvascularCleakageCthalmolC15:1798-1805,C2022CwithCretinalCneovascularizationCinCproliferativeCdiabetic16)JapaneseCSocietyCofCOphthalmicCDiabetologyCSotSoDRT,Cretinopathy.JCurrOphthalmolC33:56-61,C2021CSatoY,KojimaharaNetal:Multicenterrandomizedclini-15)ZengQZ,LiSY,YaoYOetal:Comparisonof24C×20CmmCcalCtrialCofCretinalCphotocoagulationCforCpreproliferative(2)swept-sourceOCTAand.uoresceinangiographyfordiabeticretinopathy.JpnJOphthalmolC56:52-59,C2012Ctheevaluationoflesionsindiabeticretinopathy.IntJOph-***

基礎研究コラム:18.ヒト角膜内皮細胞の概日時計

2024年2月29日 木曜日

ヒト角膜内皮細胞の概日時計概日リズムとは地球の自転に伴う環境変化に適応するために,生物が自らの体内に組み込んできた約C24時間周期のリズムで,バクテリアからヒトに至るほとんどの生物が普遍的に有しています.哺乳類では概日時計の中枢は視交叉上核に存在しますが,末梢のほぼすべての臓器・細胞に概日時計があることが明らかになっています1).また,概日時計は細胞分化と密接に関連しており,概日時計が備わっていないCES細胞をCinvitroで分化誘導すると,約C2週間で概日時計の振動体が形成され,逆に時計が形成された細胞をリプログラミングしiPS細胞にすると,概日時計は再び消失します2).概日リズムの本態となっているのが時計遺伝子で,時計遺伝子群が構成する転写翻訳のネガティブフィードバックループが基本骨格となって遺伝子発現リズムが形成され,生理機能の概日リズム制御が行われています(図1).眼における概日時計眼においては,眼圧,脈絡膜厚,角膜厚などに日内変動が報告されています.角膜浮腫に至った水疱性角膜症患者では,起床時がもっとも見にくく,夕方にかけてだんだん見やすくなるという訴えをしばしば聞きますが,その病態メカニズムについてはこれまで明らかになっておらず,角膜厚の調節を担う角膜内皮細胞の概日性制御についても報告はありませんでした.そこで今回,筆者のグループはヒト角膜内皮細胞における概日リズム制御を解明するため,培養ヒト角膜内皮細胞に対してC2種類のプラスミドを用いたCTol2Ctranspo-sonsystemによってCBmal1-Lucレポーターを導入し,その発光リズムを観察する実験を行いました3).その結果Cn=20以上の細胞で発光リズムを確認でき,約C24時間周期の明瞭な振動を認めました.これによりヒト角膜内皮細胞に概日時計が備わっていることを初めて明らかにしました.また,培養ヒト角膜内皮細胞のリズムを同調させたのち,4時間ごとにC48時間にわたって細胞からCRNAを抽出し,RNAシークエンスを行いました.約C24時間周期の発現リズムをもつ遺伝子をC329個同定し,それらは解糖系,ミトコンドリア機能,エネルギー恒常性や酸化ストレス応答に関する遺伝子を多く含んでおり,ヒト角膜内皮の重要な機能を表していました.環境の日内変動に対する適応機構として,角膜内皮細胞に備わる概日時計が生理機能制御にかかわっていると考えられました.中井浩子京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学時計遺伝子のコア・フィードバックループCProteinmodi.cationCRNAeditingCRNAmodi.cationCetc…CBMAL1CCLOCKBCCICBmal1CmPer1,2,3CPERCCRYアウトプットCClock-controlledgenesmCry1,2CREVCRev-erbCE-boxCRORECE-boxアウトプット生理機能の概日リズム表出CClock-controlledgenes(metabolism,functionalactivities,cellcycle,etc..)図1時計遺伝子のコア・フィードバックグループ時計遺伝子群が構成する転写翻訳のネガティブフィードバックループが基本骨格となって遺伝子発現リズムが形成され,生理機能の概日リズム制御が行われている.(京都府立医科大学統合生理学・八木田和弘教授のご厚意による)今後の展望水疱性角膜症患者の内皮細胞では概日リズムに関する遺伝子群の発現が有意に低下しているという報告があり,正常な概日時計機能が細胞の健常性と密接にかかわっていることが示唆されます.そのため,時計遺伝子発現リズムの周期や振幅,安定性などのパラメータを,角膜内皮移植に用いる細胞の機能評価に用いることができる可能性が考えられます.謝辞本研究は,京都府立医科大学大学院医学研究科統合生理学・八木田和弘教授および土谷佳樹講師の指導のもとに行ったものです.この場を借りて御礼を申しあげます.文献1)YagitaCK,CTamaniniCF,CVanCDerCHorstCGTCetal:Molecu-larCmechanismCofCtheCbiologicalCclockCinCculturedC.broblasts.CScience292:278-281,C20012)YagitaK,HorieK,KoinumaSetal:Developmentofthecircadianoscillatorduringdi.erentiationofmouseembry-onicCstemCcellsCinCvitro.CProcCNatlCAcadCSciC107:3846-3851,C20103)NakaiH,TsuchiyaY,KoikeNetal:Comprehensiveanal-ysisCidenti.edCtheCcircadianCclockCandCglobalCcircadianCgeneexpressioninhumancornealendothelialcells.InvestOphthalmolVisSci63:16,C2022(79)あたらしい眼科Vol.41,No.2,2024C1890910-1810/24/\100/頁/JCOPY