屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─監修=木下茂●連載173大橋裕一坪田一男173.角膜屈折矯正術後眼における栗林洋子*1稗田牧*2*1大津市民病院眼科*2京都府立医科大学眼科眼内レンズ度数計算眼内レンズ度数計算法として多くの計算式が存在する.角膜屈折矯正手術後眼に眼内レンズを挿入する場合は,いくつかの計算法で眼内レンズ度数を算出し,結果を比較して挿入レンズ度数を決定する必要がある.とくに良好な遠方裸眼視力への期待が大きく,術後に生じうる屈折誤差について十分に説明し,同意を得ることが重要である.●はじめにLaserinsitukeratomileusis(LASIK),epipolisLASIK(epi-LASIK),laser-assistedsub-epithelialkeratectomy(LASEK),photorefractivekeratectomy(PRK)などの屈折矯正手術後の白内障手術症例は,今後ますます増加していくことが予想される.第三世代理論式であるSRK/T式は一般的によく用いられており,極端に眼軸長に長短がなければ精度が良いが,角膜前面のケラトメーターで測定した角膜屈折力と眼軸長を用いており,屈折矯正術後眼に用いると遠視方向の誤差が生じることが問題となる.●遠視方向の誤差の原因1.ケラトメーターの原理による測定誤差ケラトメーターは角膜前面傍中央の直径約3mm付近を測定し,中央の角膜屈折力としている.角膜の形状は,通常中央と傍中央はおよそ球面であるが,屈折矯正術後は角膜前面中央が傍中央よりフラット化(屈折矯正度数により変化)しているため,角膜屈折力が過大評価される.2.換算屈折力の問題ケラトメーターは角膜前面曲率から角膜全屈折力を換算屈折率により算出している.屈折矯正術後では,前面形状がフラット化し後面の形状はほぼ変化がないため,通常の角膜換算屈折率(1.3375)を用いると角膜屈折力が過大評価される.3.予想前房深度の問題SRK/T式は,角膜を球面とした曲率半径から術後前房深度を予測している.屈折矯正術後は角膜がフラット化するため,前房深度が浅く予想される.(55)0910-1810/14/\100/頁/JCOPY●計算式と特徴(表1)簡便であり精度もよいとされている方法には,Haigis-L,OKULIXがある.Haigis-LはCarlZeiss社製IOLマスターに搭載されており,角膜屈折力に補正をかけ,角膜曲率のみに依存せず,前房深度の実測値も使用する方法1)である.IOLマスターがあれば眼内レンズ度数計算は表示画面を変えるのみで行うことができる.OKULIXは光線追跡法を用いた眼内レンズ計算ソフトで,角膜トポグラフィーから得られた角膜中央部の前面の曲率,眼軸長,眼内レンズの光学的情報をもとに,中心窩より角膜方向への光線の軌道計算を行う2).角膜の形状と眼軸長から予想前房深度を推定し,直径6mm内の角膜前面曲率をもとに,離心率より非球面性を反映した角膜曲率半径を算出する.角膜トポグラフィーがあれば眼軸長を入力するのみで眼内レンズ度数の計算ができるため,簡便で有用である.Camellin-Calossi式は,白内障手術前の前房深度・水表1計算式と特徴計算式方法の特徴(機器および使用データ)Haigis-LIOLマスターに搭載角膜トポグラフィーOKULIXTMS-4A(前面角膜屈折力)TMS-5/CASIA(前後面角膜屈折力)OPD-ScanIOLstation屈折矯正量Camellin-Calossi式Pentacam・Orbscanの角膜厚Double-K法SRK-T式Pentacam/Orbscan(前後面角膜屈折力)A-P法Pentacamに搭載(文献4)表1を改変して掲載)あたらしい眼科Vol.31,No.10,20141477図1ASCRSのホームページから利用できるIOLcalculator晶体厚・眼軸長から術後の前房深度を計算する.NIDEK社製の角膜形状・波面収差解析装置であるOPD-ScanのIOL-Stationに本式が搭載されている.また,本式には屈折矯正術前のデータを用いる方法と,術後データのみを用いる方法がある.OCULUS社製の角膜前後面解析装置PentacamやBausch&Lomb社製の角膜前後面解析装置Orbscanは,角膜の前後面の曲率半径を測定することができるため,その値を用いて屈折矯正術後としての補正された角膜屈折力を導き出すことができる.Camellin-Calossi式で術後データのみを使用する場合,PentacamまたはOrbscanの直径6mm(NIDEK社の推奨値)の8点の角膜厚と中心角膜厚の合計9点を使用する.これは,角膜厚の差のみを使用しており,角膜屈折力はOPD-Scanの前面の値を用い,前面形状と角膜厚より後面形状を予測し,白内障術前の前房深度と水晶体厚より術後の前房深度を予測している.Camellin-Calossi式は比較的精度がよいことが報告3,4)されており,本法を用い,他の方法での結果と比較・検討することが有用であると考える.IOLマスターで角膜屈折力を測定し,SRK-T式を用いたDouble-K法を使用する方法には専用のソフトがある.A-P法は,A-PCalculatorとしてPentacam(version1.20r02以降)に搭載可能となっている.屈折矯正術後のデータから術前の角膜屈折力を推定してSRK/T式を用いるDouble-K法である.眼軸長,術後目標屈折度数を入力して眼内レンズの種類を選択するのみで眼内レンズ度数の計算ができる.●おわりに実際には,施設によって眼軸長測定機器の種類が異なり,また角膜トポグラフィーの有無,角膜形状・波面収差解析装置の有無,角膜前後面解析装置の有無により自院でできる方法には限りがある.米国白内障屈折手術学会(AmericanSocietyofCataractandRefractiveSurgery:ASCRS)のホームページの“Post-refractivesurgeryIOLcalculator”は無料でダウンロードして利用することができ,複数の計算式で眼内レンズ度数を算出することができ有用である(図1).術前のデータを使用する方法と使用しない方法に分けられ,複数の計算式での眼内レンズ度数の算出ができる.重要なことは,必ず複数の計算式を使用すること,それぞれの結果を比較することで,度数ずれをできるだけ生じないように最終的に挿入する眼内レンズ度数を決定すること,術後に生じうる屈折誤差について術前に十分説明し同意を得ることである.文献1)HaigisW:Intraocularlenscalculationafterrefractivesurgeryformyopia:Haigis-Lformula.JCataractRefractSurg34:1658-1663,20082)大谷伸一郎,南慶一郎,本坊正人ほか:エキシマレーザー角膜手術後眼の眼内レンズ度数計算における光線追跡法の有用性.あたらしい眼科27:1717-1720,20103)根岸一乃:屈折矯正手術後の眼内レンズ度数計算.あたらしい眼科29:195-199,20124)尾藤洋子,稗田牧:特殊角膜における眼内レンズ度数決定3.エキシマレーザー近視矯正手術後眼の眼内レンズ度数決定.あたらしい眼科30:607-614,20135)白山真理子,WangL,KochDDほか:角膜屈折矯正手術後の白内障眼における眼内レンズ度数計算方法.眼科手術23:221-227,20101478あたらしい眼科Vol.31,No.10,2014(56)