監修=坂本泰二◆シリーズ第162回◆眼科医のための先端医療山下英俊HPOCTとは高侵達光干渉断層計による加齢黄斑変性の観察佐柳香織(大阪大学医学部眼科学教室)はじめに光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)は保険収載されたことにより,多くの施設で採用され,いまや網膜画像診断には欠かせない機器となってきています.加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD)の診断や治療効果判定には,これまで造影検査が主に用いられてきましたが,OCTが加わることで診断精度が増し,造影検査の試行回数が減ってきています.筆者の施設でもAMDの診断の際には造影検査とOCTの両者を用いていますが,経過観察中は病態に大きな変化がない場合は,OCTのみで行っていることも多くなっています.OCTは技術の進歩に伴い,time-domain(TD)からspectral-domain(SD)へと進化し大幅に撮影時間が短縮し,画像解像度が向上しました.高侵達OCT(highpenetrationopticalcoherencetomography:HPOCT)はTDOCTやSDOCTの波長よりも長波長の光源を用いることで,より深部組織まで光が到達し,硝子体から強膜,脈絡膜まで観察が可能になりました.本稿ではHPOCTのAMD診断への有用性を解説したいと思います.HPOCTは従来のOCTと比較して長波長の光源(1,000.1,060nm)を用いて組織への侵達度を高めた機器です(図1).技術的な面から,ほとんどがsweptsourceを採用しています.組織への侵達度が高いことから,網膜色素上皮下や脈絡膜の組織,病変の観察に優れていています1).SDOCT同様,linescanだけでなく一定面積の走査ができるため,病変の全体像を把握でき,黄斑外の病変でも見のがしが少なくなっています.従来のOCTと比べ,白内障による影響も少ないとの報告もあります.同様に網膜色素上皮下や脈絡膜を観察する方法として,SDOCTを用いたenhanceddepthimaging(EDI)があります2).現在,HPOCTはTopcon社から市販されています.このHPOCTは中心波長1,050nm,深さ方向解像度は8μm,横方向分解能は20μm,スキャンスピードは100,000A-scan/秒です.撮影方法は市販のSDOCTと同様にlinescan,crossscan,radialscan,circlescan,3Dスキャンがあり,走査長は最大12mm,またB-scan画像を最大50枚まで重ね合わせることによって,よりコントラストが高い画像を得ることも可能です.また,3Dスキャンで撮影した画像から冠状断画像(en-face画像)も構築できます.AMDへの応用1.網膜色素上皮下病変の観察AMDは主に網膜色素上皮上(II型)あるいは網膜色素上皮下(I型)に脈絡膜新生血管(choroidalneovas-cularization:CNV)が発生する典型的AMDと,その特殊型である網膜色素上皮下にポリープ状病巣と異常血図1正常眼左がSDOCT,右がHPOCT画像である.SDOCT画像と比較して,脈絡膜の血管構造が詳細に描出されている.(81)あたらしい眼科Vol.31,No.6,20148550910-1810/14/\100/頁/JCOPY図2加齢黄斑変性左がSDOCT,右がHPOCT画像である.HPOCT画像では網膜下出血内に網膜色素上皮.離があることがわかる.また,脈絡膜まで描出されている.管網が存在するポリープ状脈絡膜血管症(polypoidalchoroidalvasculopathy:PCV),網膜内の血管腫が網膜下へと進展する網膜内血管腫状増殖(retinalangiomatousproliferation:RAP)に分類されます.AMDの診断,治療効果の判定には従来,蛍光造影検査が用いられてきて,現在でも必須の検査ではありますが,最近では非侵襲的で定量性のあるOCTを併用している施設が多くなっています.とくにOCTの定量性を利用し,網膜内浮腫や網膜下液などの滲出性変化を数値化して,AMD治療の主流となっている抗VEGF薬治療の際の再治療判定に用いています.SDOCTは出血やfibrinなどの高輝度を示す病変の下や網膜色素上皮.離内の病変の観察ではシグナルが減衰するためやや劣っており,HPOCTのほうが優れています.たとえば,濃いfibrin下のCNVがI型かII型かどうかの判定は,HPOCTでは簡単にできる場合があります(図2).2.脈絡膜の変化HPOCTのもう一つの特徴として,従来のOCTと比較して脈絡膜の描出にも優れている点があげられます.これまで正視眼の脈絡膜厚は,組織学的検討により170.220μmとされてきました.また,年齢を追うごとに薄くなっていくことが知られています.また,日内変動があることも報告されています.OCTを用いた脈絡膜厚は網膜色素上皮から強膜脈絡膜境界までの長さをさし,機器に内蔵されたキャリパーを用いてマニュアルで測定します3).AMDには先述のように典型的AMD,PCV,RAPのサブタイプがあり,既報ではAMDの中心窩脈絡膜厚204.245μm,PCVは243.319μmとなっており,多くの報告でPCVの方が典型AMDよりも中心窩脈絡膜厚は厚いとしています4,5).また,治療によって脈絡膜厚が変化することも報告されており,抗VEGF薬投与単独では脈絡膜には影響が少ないが,光線力学的療法後には脈絡膜厚は減少するといわれています6,7)(発症時脈絡膜が厚くなる原田病や中心性漿液性脈絡膜症では,治療によって脈絡膜厚が減少することが報告されています).脈絡膜厚にはもともと個体差がありますから,脈絡膜厚だけで診断することはできませんが,診断に迷った際には補助的な役割をはたします.また,治療法による脈絡膜厚変化の解析が進めば,治癒機序の解明や治療の選択基準の確立に役立つのではと期待されます.おわりにAMDの診断の際,従来の造影検査にOCTを併用することで診断精度を上げることができます.冠状断像に関しても,今後,解像度がさらに高まれば,インドシアニングリーン蛍光造影(indocyaninegreenangiography:ICGA)の代わりとして非侵襲的な脈絡膜循環の評価が可能となるでしょう.また,AMDの発症機序についても,脈絡膜や網膜色素上皮下の観察が欠かせません.本稿が高侵達OCTの理解を深める一助となりましたら幸いです.文献1)SayanagiK,GomiF,IkunoYetal:Comparisonofspec-tral-domainandhigh-penetrationOCTforobservingmorphologicchangesinage-relatedmaculardegenerationandpolypoidalchoroidalvasculopathy.GraefesArchClinExpOphthalmol252:3-9,20142)MargolisR,SpaideRF:Apilotstudyofenhanceddepth856あたらしい眼科Vol.31,No.6,2014(82)imagingopticalcoherencetomographyofthechoroidinnormaleyes.AmJOphthalmol147:811-815,20093)IkunoY,KawaguchiK,NouchiTetal:ChoroidalthicknessinhealthyJapanesesubjects.InvestOphthalmolVisSci51:2173-2176,20114)KoizumiH,YamagishiT,YamazakiTetal:Subfovealchoroidalthicknessintypicalage-relatedmaculardegenerationandpolypoidalchoroidalvasculopathy.GraefesArchClinExpOphthalmol249:1123-1128,20115)ChungSE,KangSW,LeeJHetal:Choroidalthicknessinpolypoidalchoroidalvasculopathyandexudativeage-relatedmaculardegeneration.Ophthalmology118:840845,20116)YamazakiT,KoizumiH,YamagishiTetal:Subfovealchoroidalthicknessafterranibizumabtherapyforneovascularage-relatedmaculardegeneration:12-monthresults.Ophthalmology119:1621-1627,20127)MarukoI,IidaT,SuganoYetal:Subfovealretinalandchoroidalthicknessafterverteporfinphotodynamictherapyforpolypoidalchoroidalvasculopathy.AmJOphthalmol151:594-603,2011■「高侵達光干渉断層計による加齢黄斑変性の観察」を読んで■今回は大阪大学医学部眼科学教室の佐柳香織先生にでの臨床医学の歴史で臨床医が経験してきたことでよる高侵達光干渉断層計(HPOCT)の仕組みと臨床す.とくに眼科学は臨床検査を眼科医自らの手で多く的な意義についての解説です.学会でも注目の分野でを行う診療科ですから,新しい技術を眼科疾患の診療あり,読者の先生方が学会に出席した場合に,今後,に応用する力をもち,技術開発を担当する技術者には発表のなかで多く接することになると考えます.っきりとした目的をもって要求することができる眼科波長を長波長の光源(1,000.1,060nm)とすること医は,技術開発のキーになれると考えます.昨今,日で組織への侵達度,とくに網膜下のCNVや脈絡膜へ本の成長戦略で医療技術を世界に売り出すことが大きの侵達度を高めた機器であることを明解に説明していな柱となっています.世界が高齢化し眼科医療への需ただきました.これにより,出血やfibrinなどの高輝要がますます高まり,産業としての眼科医療機器の開度を示す病変の下や網膜色素上皮.離内の病変の観察発への期待も大きくなってくると考えます.佐柳先生でHPOCTのほうが優れていて,fibrin下のCNVがの紹介されたHPOCTの開発と日常臨床への応用は,I型かII型かどうかの判定を可能にするとのこと,日大きなヒントをこのような医療機器開発の世界に投げ常臨床での有用性が大きいことがわかります.また,かけていると考えます.日本発信の眼科医療機器が世これまで検査法の発達が臨床的な意味づけに比較して界の眼科医療に貢献し,それにより日本の医療機器産遅れていた脈絡膜の病態を新たに観察する手段として業が大きな恩恵を受けることは,国民の眼科医療の充HPOCTがきわめて有用で,今後の大きな可能性をも実にもつながることですので,われわれ眼科医が日常つことをわかりやすく説明していただきました.臨床から育んだアイデアを形にするようなシステムの新しい技術が新たな疾患概念を作り,それが実際の構築が望まれます.疾患の診断,治療に大きな役割をはたすことはこれま山形大学眼科山下英俊☆☆☆(83)あたらしい眼科Vol.31,No.6,2014857