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タブレット型PCの眼科領域での応用 22.さまざまな障害児童におけるタブレット型PCの活用①

2014年3月31日 月曜日

タブレット型PCの眼科領域での応用タブレット型PCの眼科領域での応用シリーズ三宅琢(TakuMiyake)永田眼科クリニック第22章さまざまな障害児童におけるタブレット型PCの活用①■はじめに第22章で取り上げる端末は,私が代表を務めるGiftHandsの活動や東京大学先端科学技術研究センターにおいて,さまざまな障害をもつ児童とのコミュニケーションに活用しているタブレット型PC“iPadAir”と“iPhone5s”(いずれも米国AppleInc)のiOSバージョン7.0.6です.この章では学習障害や発達障害をもつ児童の現状について紹介させていただきます.■読み書き障害(ディスレクシア)とはディスレクシア(Dyslexia)は,1884年にドイツの眼科医RudolfBerlinにより報告され,命名された学習障害の疾患概念です.「学習障害とは,基本的には全般的な知的発達に遅れはないが,聞く,話す,読む,書く,計算する,または推論する能力のうち,特定のものの習得と使用に著しい困難を示すさまざまな状態をさすもの図1DO.ITの年次レポートDO-ITJapanのWebページでは過去の活動レポートを閲覧・ダウンロードすることができる(http://doit-japan.org/doit/index.php/).であり,その原因として中枢神経系になんらかの機能障害があると推定されるが,視覚障害,聴覚障害,知的障害,情緒障害などの障害や,環境的な要因が直接の原因となるものではない」と定義されています.現在,私の所属する東京大学先端科学技術研究センターでは,「DO-ITプロジェクト」などで,学習障害やアスペルガー症候群,注意欠陥・多動性障害などに代表される発達障害を含むさまざまな障害をもつ児童とのコミュニケーションに,タブレット型PCやスマートフォンを活用することが試みられています(図1).私はこれまで視覚障害の分野でのタブレット型PCやスマートフォン活用の意義を紹介してきましたが,同プロジェクトに代表されるように,デジタル機器を活用することでコミュケーション障害や情報へのアクセス障害をもつ人々の生活を改善しようという試みが始まっていて,私自身も眼科医としてこれらプロジェクトに参加することで,さらなる活用の可能性を発見できると確信しています.■眼科医として学習障害・発達障害に向きあう眼科医の私にはこれらの障害はあまりなじみがなく,プロジェクトに参加する以前は,これらの障害を外来で意識したことはあまりありませんでした.しかし,これ(85)あたらしい眼科Vol.31,No.3,20143890910-1810/14/\100/頁/JCOPY 図2病院の電子式視力検査器対象となる指標がわかりやすい.らの障害をもつ児童らの言葉に耳を傾けることで,眼科医にとってもとても興味深い障害であることに気づかされました.ある発達障害をもつ児童の言葉につぎのようなものがありました.「周りの音がうるさくて,先生が何を言っているか聞きとれない」発達障害をもつ児童の一部には,高周波数の音が過剰に大きく聞こえるなどの聴覚過敏の症状のある児童がいます.そのような場合は,高周波数の雑音を軽減するノイズキャンセル機能のあるヘッドフォンを使用することで,聴覚過敏による障害が軽減され,快適に授業に参加することが可能になります.聴覚過敏によって,授業についていくことが困難になる児童が存在するのです.また,臨床の現場で,学校と病院での視力検査の結果に大きな乖離を認める児童に遭遇することがあります.これまでは眼科疾患や視機能の異常の有無のみを精査して,眼科的な異常所見が認められなかった場合は,集中力や小児特有の精神的な問題として経過観察をしてしまう傾向がありました.実際に学校と病院での視力検査に乖離を認めた児童の言葉には以下のようなものがありました.「学校では壁に張られた紙の視力表を使った視力検査なので,先生が指さす先がどこを意味しているのか理解できない.病院の視力検査では,視力表の電子ボードが390あたらしい眼科Vol.31,No.3,2014光るので,どこを見ればいいかすぐに理解できるから,答えることができる」これは,物の配置や位置関係の把握にかかわる空間認識能力が低く,先生の指さしている場所を正確に把握することが困難なために,実際よりも低い視力と評価されていることがわかりました(図2).小学校の視力検査で「異常」となり,眼科の医療機関を受診したものの,視機能に異常はないとされ,そのまま放置される児童が多くいますが,空間認識能力の低下や聴覚過敏を有するために「視力異常」となる児童も存在することを実感しました.これらの児童が最初に受診する機関が眼科であることは,われわれ眼科医にとって非常に重要な意味をもっています.また,読み書き障害の児童の言葉には以下のようなものがあります.「文字を見ていると,文字の順番が入れ替わってしまったり,鏡文字に見えてしまったりして,想像しながら内容を理解するのでとても疲れます」視機能の低下を伴わない読字障害のメカニズムは未だ不明な点も多いのですが,彼の言葉からもわかるように,視機能に異常を伴わなくても,社会生活において情報へのアクセス障害をもつ人々は確実に存在しています.局所的ロービジョンともいえるこれらの疾患の存在を認識することは,デジタルデバイスでロービジョンケアを推奨する私にとって必須であると強く実感しています.聴覚過敏や空間認識能力の低下に伴う視力検査への影響は,とくに視力低下を主訴とする児童や,学校と医療機関での視機能に乖離を認める児童を扱う際には,意識すべきであると私は感じています.一人でも多くの眼科医が,読み書き障害や発達障害の存在を意識することが,小児における局所的ロービジョンケアの入り口として,とても重要であると私は信じています.本文の内容や各種セミナーの詳細に関する質問などはGiftHandsのホームページ「問い合わせのページ」よりいつでも受けつけていますので,お気軽に連絡ください.GiftHands:http://www.gifthands.jp/(86)

硝子体手術のワンポイントアドバイス 130.Nd:YAGレーザーによる外傷性黄斑円孔に対する硝子体手術(中級編)

2014年3月31日 月曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載130130Nd:YAGレーザーによる外傷性黄斑円孔に対する硝子体手術(中級編)池田恒彦大阪医科大学眼科●Nd:YAGレーザーによる外傷性黄斑円孔の特徴Nd:YAGレーザーによる黄斑外傷は過去に数多くの報告があり,工学部や企業の研究室などで発生することが多い.大半は保護用眼鏡を装用せずに誤ってレーザーの反射光が眼内に照射されることで生じる.受傷直後は網膜に出血や浮腫が生じるが,黄斑部の傷害が大きいと外傷性黄斑円孔に進行することがある.●症例提示自験例を提示する.症例は30歳,女性.微粒子粉の研究のための実験中に工業用のNd:YAGレーザーの反射光を左眼に受け,直後より視力低下と中心暗点を自覚し近医受診.翌日当科紹介受診となった.左眼視力は0.09(0.3).硝子体出血のため眼底の透見性がやや不良であったが,黄斑出血とその周囲の網膜浮腫を認めた(図1).この時点のOCTでは網膜内出血と浮腫を認めたが,黄斑円孔は生じていなかった.しかし,初診10日後には約1/3乳頭径大の全層性黄斑円孔となった(図2a,b)ため,硝子体手術を施行した.若年のため後部硝子体.離作製はやや困難であったが,トリアムシノロンで硝子体を可視化し,後極から周辺に向かって人工的後部硝子体.離を作製した.その後,黄斑円孔周囲の内境界膜を.離し,バックフラッシュニードルで黄斑円孔縁の網膜を求心的に牽引して(図3),眼内液空気同時置換術を行った.術後円孔は閉鎖したが,徐々に瘢痕化し,視力は0.05(0.2)に留まった(図4).●特発性黄斑円孔との違い通常の特発性黄斑円孔との相違点は,1)比較的若年者に生じることが多いので,人工的後部硝子体.離がやや難しい,2)網膜出血や浮腫を伴うことが多い,3)円孔縁がやや不規則,4)網膜組織だけでなく色素上皮も傷害されていることが多く,病巣が瘢痕化しやすいため(83)0910-1810/14/\100/頁/JCOPY図1受傷直後の左眼眼底写真軽度の硝子体出血に加えて黄斑出血とその周囲の網膜浮腫を認めた.図2受傷10日後の左眼眼底写真(a)とOCT(b)約1/3乳頭径大の全層性黄斑円孔を認めた.OCTでは色素上皮の傷害も認めた.図3硝子体手術中の所見黄斑円孔縁の網膜の伸展性はやや低下しており,バックフラッシュニードルで黄斑円孔縁の網膜を求心的に牽引した.図4術後の眼底黄斑円孔は閉鎖したが,徐々に瘢痕化し,視力は(0.2)に留まった.ab視力改善度はあまり良くない,などの特徴がある.防止には保護眼鏡を義務づけることがなにより重要である.あたらしい眼科Vol.31,No.3,2014387

眼科医のための先端医療 159.網膜細胞分化におけるエピジェネティック機構とmicroRNAの役割

2014年3月31日 月曜日

監修=坂本泰二◆シリーズ第159回◆眼科医のための先端医療山下英俊網膜細胞分化におけるエピジェ網膜細胞の分化脊椎動物の神経網膜は7種類の細胞から構成され層構ネティック機構とmicroRNA造を形成していますが,これらの多様な細胞は,網膜発の役割生過程において,胎生期に存在する同じ多能性網膜前駆臼井亜由美細胞が,内因性因子(転写因子など)や外因性因子(増(順天堂大学医学部附属浦安病院・眼科)殖因子など)の制御により,その分化能を変化させながら発生時期特異的に分化してきます1).マウス網膜では,胎生期12日頃から細胞の分化が始まり,次第に層構造を形成して,生後14日頃に成熟した網膜が完成します.初めに神経節細胞が分化し,つぎに錐体,アマクリン細古くから網膜は,中枢神経発生の基礎研究において良胞,水平細胞がほぼ同時期に発生し,発生後期にかけていモデル系として広く用いられてきましたが,そのメカ桿体,双極細胞,最後にミュラーグリア細胞が分化発生ニズムを解明することは,先端医療として世界中で研究するという順序をとります.これまでの研究により,が進められている網膜再生医療において,重要な研究課WntやNotchなどシグナル伝達経路,細胞特異的な転題です.とくに近年の研究により,エピジェネティック写因子の組み合わせによって,この時期特異的な細胞の機構やmicroRNA(miRNA)が網膜細胞分化に重要な役運命決定がなされることが知られていますが,近年の研割を果たしていることが解明されてきています.本稿で究により,この時期特異的,細胞特異的な遺伝子発現がはその一端を紹介したいと思います.エピジェネティック機構やmiRNAによって制御されてはじめにいることが明らかとなってきました(図1).Let-7miRNAの発現DicermiR-9miR-125などクロマチンリモデリングBrg1Brmヒストンの脱アセチル化HDAC1シグナル伝達経路WntNotch分化能の変化網膜前駆細胞Math5Pax6など神経節細胞Math3Ptf1Six3Prox1など早期分化型水平細胞網膜細胞NeuroDMash1CrxOtx2Sox11など錐体細胞NeuroDMath3Ptf1Pax6Six3などアマクリン細胞NeuroDMash1CrxOtx2など桿体体細胞Mash1Math3Chx10など後期分化型双極細胞網膜細胞Hes1Hes5Hesr2RaxなどミュラーグリアE11E14E17出生P3P6P9P12マウス網膜発生過程図1脊椎動物(マウス)の網膜発生過程における経時的網膜細胞分化(79)あたらしい眼科Vol.31,No.3,20143830910-1810/14/\100/頁/JCOPY エピジェネティック機構と網膜発生エピジェネティック機構と網膜発生エピジェネティック機構とは,DNAの塩基配列の変化を伴わない遺伝子発現制御を行う機構ですが,DNAメチル化,クロマチン構造変換,ヒストン修飾(アセチル化,脱アセチル化,メチル化,リン酸化など)といった3つの互いに相関した機構が,クロマチン動態を介してエピジェネティクスを制御しています.ヒストンの脱アセチル化はヒストンへのDNAの巻き付きを強めて,おもに遺伝子発現を抑制するエピジェネティック遺伝子制御機構ですが,ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)が抑制された状態では網膜細胞の分化が阻害されることから2),ヒストンの脱アセチル化は,網膜細胞の分化において重要なファクターを担っていることがわかっています.さらに網膜発生過程で多くの転写因子のヒストン修飾が変化することで,網膜細胞分化に必要な遺伝子の活性化が起こっています3,4).また,クロマチンリモデリング複合体はATP依存的にヌクレオソームの構造を変化させ,DNA二重鎖へのDNA結合蛋白質の集積を制御することにより,DNAの転写,複製,修復など,細胞生存に必須な活動を統御するエピジェネティック遺伝子制御機構ですが,なかでもSWI/SNFクロマチンリモデリング複合体を形成する蛋白質をコードする遺伝子群は,網膜細胞の分化に重要な役割をもつことが報告されています.SWI/SNF複合体は,触媒サブユニットとしてBrmまたはBrg1のいずれか一方を1分子ずつもつことが知られていますが,Brmは網膜前駆細胞の未分化性を維持するNotchシグナルを5),Brg1は,神経発生に重要なMAPキナーゼに作用して網膜細胞分化に関与することなどが報告されています6).microRNAと網膜発生miRNAは長さ20塩基ほどの蛋白質へ翻訳されない一本鎖non-cordingRNAです.さまざまな生物種において,遺伝子発現の抑制に働くことで多様な生命現象を制御していることが知られています.miRNAは,まず核内でゲノムから転写されたprimarymiRNA(primiRNA)から,Drosha-DGCR8複合体によってprecursormiRNA(pre-miRNA)が切り出されます.PremiRNAは核外に輸送されたのち,Dicerによって切断され,一本鎖化された成熟miRNAが標的mRNAに結384あたらしい眼科Vol.31,No.3,2014合することによって,標的遺伝子の発現を転写後レベルで抑制します.これまでに網膜特異的Dicer欠損マウスが,網膜前駆細胞の分化能の変化により,早期分化型の網膜細胞が過剰に産生され,後期分化型の網膜細胞の産生が抑制されるなどの分化異常を示し7),網膜前駆細胞のアポトーシスが亢進することで小眼球をきたす表現型を呈したことから,miRNAの発現が適切な網膜細胞分化と網膜前駆細胞の生存に必須であることが示されました8).近年,個々のmiRNAにおいても,let-7,miR-9,miR1259),miR-129,miR-155,miR-214,miR-22210)などが網膜細胞分化に重要であり,miR-24a11),miR-124a12)などが網膜細胞の生存に重要であることなどが解明されてきています.おわりにこれまで発生学研究では,転写因子やシグナル伝達経路に注目して研究が展開されていました.近年は,このようにエピジェネティック機構や機能性RNAなどが新たな役者として注目を集め,従来のメカニズムとの関係性が明らかにされつつありますが,未知なる部分が多いのが現状です.網膜再生医療がまさに臨床応用されようとしている現在,人体における網膜発生過程のこれらのメカニズムを解明することは,再生医療の有用性や安全性を考えるうえでも急務であると考えられます.文献1)LiveseyFJ,CepkoCL:Vertebrateneuralcell-fatedetermination:Lessonsfromtheretina.NatRevNeurosci2:109-118,20012)YamaguchiM,Tonou-FujimoriN,KomoriAetal:Histonedeacetylase1regulatesretinalneurogenesisinzebrafishbysuppressingWntandNotchsignalingpathways.Development132:3027-3043,20053)UsuiA,MochizukiY,IidaAetal:TheearlyretinalprogenitorexpressedgeneSox11regulatesthetimingofthedifferentiationofretinalcells.Development140:740-750,20134)UsuiA,IwagawaT,MochizukiYetal:ExpressionofSox4andSox11isregulatedbymultiplemechanismsduringretinaldevelopment.FEBSLett14:358-363,20135)DasAV,JamesJ,BhattacharyaSetal:SWI/SNFchromatinremodelingATPaseBrmregulatesthedifferentiationofearlyretinalstemcells/progenitorsbyinfluencingBrn3bexpressionandNotchsignaling.JBiolChem282:35187-35201,20076)GreggRG,WillerGB,FadoolJMetal:Positionalcloning(80) oftheyoungmutationidentifiesanessentialrolefortheBrahmachromatinremodelingcomplexinmediatingretinalcelldifferentiation.ProcNatlAcadSci27:6535-6540,20037)GeorgiSA,RehTA:Dicerisrequiredforthetransitionfromearlytolateprogenitorstateinthedevelopingmouseretina.JNeurosci30:4048-4061,20108)IidaA,ShinoeT,BabaYetal:Dicerplaysessentialrolesforretinaldevelopmentbyregulationofsurvivalanddifferentiation.InvestOphthalmolVisSci52:3008-3017,20119)LaTorreA,LaGeorgiS,Reh,TA:ConservedmicroRNApathwayregulatesdevelopmentaltimingofretinalneurogenesis.ProcNatlAcadSci110:2362-2370,201310)DecembriniS,BressanD,VignaliRetal:MicroRNAscouplecellfateanddevelopmentaltiminginretina.ProcNatlAcadSci106:21179-21184,200911)WalkerJC,HarlandRM:microRNA-24aisrequiredtorepressapoptosisinthedevelopingneuralretina.GenesDev23:1046-1051,200912)SanukiR,OnishiA,KoikeCetal:miR-124aisrequiredforhippocampalaxogenesisandretinalconesurvivalthroughLhx2suppression.NatNeurosci14:1125-1134,2011■「網膜細胞分化におけるエピジェネティック機構とmicroRNAの役割」を読んで■今回,臼井先生に網膜発生におけるエピジェネティすいことになりますが,これは加齢黄斑変性患者にはクス機構の重要性を解説していただきました.このIL17RC陽性の単球が増加しているという過去の報告コーナーを担当させていただいて久しくなりますが,をうまく説明できます.また,別の研究では,加齢黄研究の意義について,これほどわかりやすく,かつ明斑変性患者の網膜色素上皮において,抗酸化作用をも確に執筆していただいたことはあまり記憶にありませつGlutathioneStransferasesのプロモーター領域にん.私が付け加えることはないので,エピジェネティ強いメチル化がしばしばみられると報告されました.クス機構と一般疾患について,少し解説いたします.これは逆に活性酸素毒性を減弱させる作用が不足する加齢黄斑変性の発症過程には,DNA変異が重要なことになるので,加齢黄斑変性が起こりやすいことと役割を果たしていることが広く知られていますが,エ矛盾しません.ピジェネティクス機構も関与していることが証明されかつてはDNA研究こそが病態解明の本質と思われつつあります.たとえば,遺伝子がまったく同一であていましたが,現在はエピジェネティクス機構の解明る一卵性双生児ペアのうちで,一方だけが加齢黄斑変も同じように重要な研究領域とされています.臼井先性に罹患したペアについて調べると,加齢黄斑変性に生をはじめとした若い研究者が,この未知の領域を開罹患したグループにはIL-17RCやIL-17Aの受容体拓してくれることを大いに期待しています.のプロモーター領域のメチル化が少ないことが報告さ鹿児島大学眼科坂本泰二れました.つまり,Th17炎症反応が過剰に起こりや☆☆☆(81)あたらしい眼科Vol.31,No.3,2014385

新しい治療と検査シリーズ 215.ストリップメニスコメトリー(Strip Menisucometry)

2014年3月31日 月曜日

新しい治療と検査シリーズ215.ストリップメニスコメトリー(StripMeniscometry)プレゼンテーション:村戸ドール慶應義塾大学医学部眼科学教室コメント:山口昌彦愛媛大学大学院医学系研究科眼科学.バックグラウンド涙液貯留量の評価は,眼表面涙液量を評価する点で有用であり,その検査値はドライアイにおける上皮障害の病態を理解するうえで重要なパラメーターとなりうる.流涙メニスカス(tearmeniscus)に眼表面に存在している涙液量の7~9割が貯留していると報告されており,涙液貯留量とテストの間に相関性があるといわれている.Schirmerテストは未だに涙液量の測定法としてゴールデンスタンダードとされているが,再現性に乏しいことや痛みに伴って涙の反射性分泌を起こす欠点がある.横井らは,メニスコメトリーを用いての涙液メニスカスの測定が,ドライアイのスクリーニングにもっとも有用であることをすでに報告している..新しいドライアイ検査法筆者らは,涙液メニスカスにおける涙液貯留量の新測定法としてストリップメニスコメトリー(stripmeniscometry:SM)を開発した.具体的にSMは,おもにニトロセルロース,レーヨン,アセテート,親水性ポリエテルスルホンよりからなる細長い吸収材を含んでおり,吸収部材中央の長さ方向にわたってプレス加工により溝が施されている.また,SMに吸収される涙液が横に広がらず上にギュッとあがるように真ん中の溝の両側仕様:おもに,親水性ポリエテールスルホン(低蛋白吸着性)レーヨン,アセテート,ニトロセルロースサイズ:幅:3mm長さ:45mmプレス溝プレス溝の幅:0.5mmプレス溝の深さ:~100μmメンブランのボアーサイズ:8μmメンブランマスキング5mm天然青色1号涙液図1ストリップの構造,寸法および実物(75)あたらしい眼科Vol.31,No.3,20143790910-1810/14/\100/頁/JCOPY ab図2SM検査の様子a:ストリップを結膜に触れさせないで軽く流涙メニスカス内に浸す.b:5秒後の試験の様子.涙液がストリップの真ん中の溝に吸収されている.検査の値は5.5mmである.ab図2SM検査の様子a:ストリップを結膜に触れさせないで軽く流涙メニスカス内に浸す.b:5秒後の試験の様子.涙液がストリップの真ん中の溝に吸収されている.検査の値は5.5mmである.に防水性のマスキングフィルムが設けられており,検査の値を正確に測定するため,先端部からある距離をおいて天然青色1号がつけられている.図1にストリップの寸法および実物を示す.SM検査ではストリップを下眼瞼耳則より眼表面に当たらない程度で軽く5秒間,流涙メニスカスの中に入れ,涙液に触れさせ,ストリップに吸収される涙液の高さを検査の値とした(図2)..検査の実際筆者らは,本検査法をさまざまな臨床試験を通じて試した.日本ドライアイ研究会「ドライアイ診断基準」にてドライアイと確定診断された50例100眼(男性:19人,女性:31人;平均年齢:54.3歳)と全身疾患ならびに眼疾患を認めない正常人40例80眼(男性:12人,女性:28人;平均年齢:50.8歳)を対象とした.これ380あたらしい眼科Vol.31,No.3,2014表1SM検査と涙液機能検査・生体染色検査を併用した場合の感受性と特異度併用検査感受性(%)特異度(%)SM83.358.1SM+Schirmer38.3100SM+BUT80.599SM+F65.5100SM+RB48.0100SM:ストリップメニスコメトリー.BUT:涙液層破壊時間.F:フルオレセイン染色.RB:ローズベンガル染色.ら症例に涙液機能検査としてDR-1による涙液油層干渉像の観察,SM検査,涙液層破壊時間検査(BUT),Schirmerテスト第1法,眼表面検査としてフルオレセイン染色およびローズベンガル染色を施行した.また,涙点プラグ挿入術を行った17眼において,プラグ挿入2週目の時点で上述した涙液機能検査ならびに眼表面検査を施行した.また,追加検討項目としてSMを他のドライアイ検査と併用した場合の検査の感受性と特異度を調べた.SMの平均値の比較は,正常人では5.5±1.3mmに対し,ドライアイ症例で0.82±0.43mmと有意に低値を示していた.Spearman’scorrelationbyrankテストにてSMと各涙液機能・生体染色検査の値の間の相関を調べたところ,SchirmerテストとSMの値の間に有意な相関性が認められた.BUTとSMテストの値の間にも有意な相関があった.フルオレセイン染色スコアにおいてもローズベンガル染色スコアにおいても有意な相関を認めた.DR-1グレードとSMの値の間にも有意な相関がみられた.SM検査の感度と特異度に関しては,ROC法にてAUC値は0.93で検査のcut-off値を4mmに設定した場合の感度は86%,特異度は96%になっていた.SM検査をBUTと併用した場合の感受性と特異度はそれぞれ80.5%と100%であった(表1).涙点プラグ挿入術を行った17眼において,プラグ挿入2週目の時点で涙液機能および眼表面所見の改善が得られ,SM値も7.0±1.7mmと高くなっていることがわかった..検査の利点筆者らが開発したSMの特徴としては,親水性素材を含んでいることにより水分が吸収されやすいことや,吸収部材真ん中の長さ方向にわたってプレス加工により溝とその両側に防水性のマスキングフィルムが施されていることによって,吸収される水が短期間で横に広がらず,上に上がれる構造などがあげられる.SMは“capil(76) larytubeeffect”によるシンプルな原理に基づいており,涙液メニスカスの貯留程度を短時間で定量的に測定することを可能としている.本検査の値はドライアイ例では低く,また,Schirmerテストの値,涙液の安定性,DR-1グレード,生体染色スコアとも有意な相関をもっている.SM検査は短期間で施行できるのでドライアイの大規模な疫学調査の際に容易に応用できると思われる.本検査法は再現性もよく,今回のstudyでは検査時に“不快感や痛み”を訴えるものもいなかったので非浸襲的な方法であると思われる.よって本検査法による涙液の反射性分泌が少ないことが推測される.涙点プラグを挿入した症例においてSMの値が改善し,SMは治療効果の評価にも便利であると思われる..StripMeniscometryに対するコメント.ドライアイ診断における涙液貯留量定量の重要性はを要するように見受けられるが,実際,検者が誰で議論の余地がないところであり,StripMeniscometryあっても再現性よく測定できることが,広く普及する(SM)法は,その涙液貯留量を簡便な装置により短時うえで重要なポイントになると思われる.また,SM間で定量できる点において,オリジナリティに富む方は他の涙液検査との相関は良好であるが,他の涙液貯法であるといえる.Schirmer試験は,その再現性に留量の評価法(とくに臨床的に確立された方法である問題はあるものの,涙液分泌能の評価法としてはゴーOCTを用いた涙液メニスカス高・面積の定量やメニルデンスタンダードであり,その理由の一つに,コメスコメトリー法)とSMとの相関性も良いということディカルでも検査が簡単に行える点があげられる.になれば,簡便に行えるSMの臨床的価値がさらに高SMは,テクニック上,Schirmer試験よりも精密さまるであろう.☆☆☆(77)あたらしい眼科Vol.31,No.3,2014381

私の緑内障薬チョイス 10.キサラタン®とラタノプロストPF

2014年3月31日 月曜日

連載⑩私の緑内障薬チョイス企画・監修山本哲也連載⑩私の緑内障薬チョイス企画・監修山本哲也10.キサラタンRとラタノプロストPF生杉謙吾三重大学大学院医学系研究科臨床医学系講座眼科学私の緑内障薬物治療のファーストチョイスは,治療効果と安全性のバランスに優れているキサラタンRである.一方,ドライアイやアレルギー疾患など眼表面の副作用によりその使用が困難な場合には,特徴のある後発医薬品であるラタノプロストPFにて治療を行っている.キサラタン開発の歴史キサラタンR(ラタノプロスト)は,プロスタグランジン(PG)F2a誘導体製剤として1999年から国内で販売され,それまでの薬物を凌ぐ強力な眼圧下降効果を示すことで緑内障治療を一変させた.さて2012年8月に薬効分類名が変更されイオンチャンネル開口薬となったレスキュラR(イソプロピルウノプロストン)を除くと現在PG関連薬は4種類あるが,それらの中で筆者の第一選択薬はキサラタンRである.理由は,キサラタンRは,一般に長期投与される緑内障点眼薬としてもっとも大切な「治療効果と安全性のバランス」に優れていると考えるからである.キサラタンRはDr.Camrasと彼のリサーチアドバイザーであるDr.Bitoにより開発された.PGはぶどう膜炎などの炎症を誘発するため,眼局所には有害であると考えられていた1970年代中頃,当時エール大学の学生であったDr.Camrasは,早くからPGの眼圧下降効果に注目していた.その後,コロンビア大学医学部に進学した彼は,Dr.BitoにPGの眼圧下降に関する研究をもちかけ,基礎研究を積み重ねたのち,1992年にPGの高眼圧症患者に対する有効性を報告した1).実は10年程前,筆者が留学させていただいた米国NebraskaMedicalCenter眼科の主任教授がDr.Camrasであったことも,キサラタンRに親しみを感じている理由の一つである.残念ながらDr.Camrasは2009年に55歳の若さで他界されたが,ラタノプロスト開発の歴史やエピソードについては,妻のNancyさんがSpecialarticleとしてまとめ発表されている2).後発医薬品さて,キサラタンRは2009年9月に国内での化合物(73)0910-1810/14/\100/頁/JCOPY図1キサラタンRとラタノプロストPFの点眼瓶点眼瓶はキサラタンRに比べ,ラタノプロストPFの方がやや大きい.特許が満了し,2010年よりその後発医薬品(後発品)が販売されている.先発医薬品(先発品)より薬価の低い後発品は,医療費抑制策の一つとしてその普及へ向け厚生労働省主導で政策が進められているが,米国での後発品は主成分・添加物ともに先発品と同一である一方,日本では先発品と後発品とでは主成分は同じであるが,添加物は異なることが多い.このような背景から日本では後発品の信頼性に不安を感じるとの声もあるが,一方で日本における後発品の中には先発品とは異なった特徴をもっているものもある.キサラタンRの後発品は現在20数種類あるが,その中でもとくにユニークな特徴をもっているのが,ラタノプロストPFである.ラタノプロストPFの特徴ラタノプロストPFは,PFデラミ容器Rとよばれる本欄の記載内容は,執筆者の個人的見解であり,関連する企業とは一切関係ありません(編集部).あたらしい眼科Vol.31,No.3,2014377 図2ラタノプロストPFへの切り替えによる角膜所見の改善例左眼落屑緑内障の71歳,男性.防腐剤を含むPG関連薬およびb遮断薬の併用療法からラタノプロストPFおよびアイファガンR(BAC非含有である)の併用療法に変更したところ,2カ月後には点状表層角膜症が軽快,眼圧も27mmHgから16mmHgへ下降した.0.2μmメンブランフィルターを使用した容器を利用することにより,外部からの細菌,真菌などの侵入を防ぎ,開封後,防腐剤がなくても容器内の無菌性を担保している防腐剤フリー(PreservativeFree)の点眼液である.室温保存が可能で,使用期間は製造後未開封の場合3年間となっている.キサラタンRには防腐剤として塩化ベンザルコニウム(BAC)が0.02%含まれているため,ドライアイやアレルギー疾患をもつ患者では,眼表面の副作用により使用が困難となることがあるが,筆者はそのような場合,防腐剤がまったく含まれていないラタノプロストPFを使用している.図2のような薬剤性角膜上皮障害例に対しては,ラタノプロストPFへ変更することにより,角膜上皮障害の改善がみられた.また,BACは眼内移行性に影響を及ぼすとされ,BACの濃度を減らすと薬剤の眼内移行が低下するといわれているが,一方でやや眼内移行が低下しても従来十分な薬剤濃度が眼内に移行しているため,臨床上重要な眼圧下降効果には差がないともいわれている.実際,キサラタンからラタノプロストPFへの切り替え試験を行った自験眼圧値(mmHg)n.s.n.s.20151050baseline3カ月6カ月15.614.814.4図3キサラタンRからラタノプロストPFへの切り替え前後の眼圧変化キサラタンR単剤にて治療中の原発開放隅角緑内障患者18例18眼を対象に,ウォッシュアウト期間なしにラタノプロストPFに切り替え,baseline時,3カ月後,6カ月後の眼圧値を検討した(平均値±標準偏差,n.s.:notsignificant,Dunnettの多重検定).例でも,眼圧下降効果に有意な差はみられず,過去の同様の報告3)からも,ラタノプロストPFについては,眼表面への保護効果と同時に十分な眼圧下降効果が期待できると考えている.このように,筆者は日々の緑内障診療にキサラタンRと,その特徴のある後発品であるラタノプロストPFの2つの緑内障点眼薬を使い分けている.文献1)CamrasCB,SchumerRA,MarskAetal:IntraocularpressurereductionwithPhXA34,anewprostaglandinanalogue,inpatientswithocularhypertension.ArchOphthalmol110:1733-1738,19922)CamrasNL:CarlBCamras,MD:reflectionsonhiscontributionstoglaucomaresearchandclinicalpractice.ArchOphthalmol130:1456-1460,20123)井上賢治,増本美枝子,若倉雅登ほか:防腐剤無添加ラタノプロスト点眼薬の眼圧下降効果と安全性.あたらしい眼科28:1635-1639,2011378あたらしい眼科Vol.31,No.3,2014(74)

抗VEGF治療:アフリベルセプト

2014年3月31日 月曜日

●連載抗VEGF治療セミナー─薬剤別─監修=安川力髙橋寛二2.アフリベルセプト本田美樹順天堂大学浦安病院眼科近年,滲出型加齢黄斑変性(AMD)の薬物治療は大きな変化を遂げ,アフリベルセプト(商品名:アイリーアR)という新たなVEGF阻害薬の開発と臨床導入により,抗VEGF療法は新しい局面を迎えようとしている.本稿ではアフリベルセプトの薬剤特性と臨床試験,そして市販後の使用経験について概説する.齢黄斑変性(age-relatedmaculardegenetation:AMD)に対して行われた国際共同第Ⅲ相臨床試験(VIEW1試験およびVIEW2試験)の結果に基づき承認されたVEGF阻害薬であり,わが国では,AMDに対して2012年9月に承認,11月に発売された.網膜中心静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫にも2013月11月に適応拡大され,さらに強度近視脈絡膜新生血管(choroidalneovascularization:CNV),糖尿病網膜症の黄斑浮腫に対しても臨床試験が行われ,今後の適応拡大が期待されている.VIEWStudyによる治療成績これまでの臨床試験成績から,AMDのVEGF阻害薬硝子体内注入は,毎月の固定投与により視力が改善すると報告された.そして治療回数の負担を軽減するため,導入期3回投与後治療間隔を3カ月ごとに延長したが,十分な治療効果は得られなかった.その後,導入期3回投与後,毎月OCTなどでモニタリングを行い,悪化を認めたら投与を行うPRN(prorenata)が治療の主流になった.しかし,毎月のモニタリングは患者,医療者の負担が大きく,厳密なPRNを続けるのは困難なのが現状である.VIEWStudyではアフリベルセプトを導入期3回の投与後,2カ月ごとの計画的投与群を含む(71)0910-1810/14/\100/頁/JCOPYアフリベルセプトの薬剤特性アフリベルセプトはVEGFR1およびVEGFR2のVEGF結合ドメインとIgG1のFcドメインからなる遺伝子組み換え融合糖蛋白である.そのため,可溶性のデコイ受容体としてVEGF-Aのアイソフォームすべてに結合するだけでなく,VEGF-Bおよび胎盤成長因子(placentalgrowthfactor:PlGF)に結合するという特徴がある.本剤は中心窩脈絡膜新生血管を伴う滲出型加多施設共同実薬対照二重遮蔽試験VIEW1試験(N1217);VIEW2試験(N1240)ラニビズマブ2mg4週ごと0.5mg4週ごと0.5mg4週ごと主要評価項目:52週目に視力を維持(ETDRSチャート判読文字数の低下が15文字未満と定義)している患者の割合VEGFTrap-Eye無作為化1:1:1:12mg8週ごと**導入期(4週ごと投与を3回連続)後図1VIEW試験デザインVEGF-TrapEye:アフリベルセプトの臨床試験時の薬剤名3用法用量群と,ラニビズマブ毎月投与群とで治療効果の比較を行った.VIEW1試験は米国,カナダの2カ国154施設で,VIEW2試験はインド,アジア太平洋地域(日本を含む),オーストラリア,欧州,ラテンアメリカ,イスラエルの26カ国186施設で実施された,ラニビズマブ対照群とした多施設共同二重遮蔽試験である.適格とされた被験者を4群(月1回の投与を3回行う導入期後,アフリベルセプト2mgを8週ごと,2mgを4週ごと,0.5mgを4週ごと,ラニビズマブ0.5mgを4週ごと)に割り付け,52週目に視力が維持(ETDRS視力表による最高矯正視力文字数の低下が15文字未満)された被験者の割合を主要評価項目として実施された(図1).52週以降96週目までは,毎月モニタリングを行い,前回の投与から12週経過した場合は投与を必須とし,再投与基準に合致した場合には12週経過前においても投与を可能とした.アフリベルセプト2mg8週ごとの投与群ではラニビズマブに対する非劣性が確認され,安全性についてはすべての群でほぼ同等であった.また,52週目以降96週あたらしい眼科Vol.31,No.3,2014375 投与1週間後f投与前投与前adb投与翌日e図2PCVに対するアフリベルセプトの治療効果a~d:投与前.視力1.0.丈の高いPED,漿液性網膜.離と網膜浮腫を認めた.a:カラー眼底.b:蛍光造影(FA).c:インドシアニングリーン蛍光造影(IA).d:投与前OCT.e:投与翌日OCT.PEDは著明に減少し,網膜浮腫は消失した.f:投与1週間後OCT.PEDと漿液性網膜.離は消失,中心窩の形状はほぼ正常となった.目においても全投与群で90%を超える視力の維持が得られ,2年目以降は治療期間を3カ月ごとに延長できる可能性を示唆する結果となっている1).アフリベルセプトの使用例抗VEGF療法では治療にまったく反応しないか,あるいは治療を継続していると薬剤が反応しにくくなる症例,いわゆるノンレスポンダーや耐性例が存在する.このような症例にアフリベルセプトを使用した場合,滲出性変化が退縮するという報告が散見される.さらにポリープ状脈絡膜血管症(polypoidalchoroidalvasculopathy:PCV)では滲出性AMDに比べVEGFの関与が少ないため,抗VEGF療法に対する効果が低いとされているが2),PCVや色素上皮.離(pigmentepithelialdetachment:PED)を伴う症例に対してのアフリベルセプト治療効果が期待されている.筆者らは,PCVやPEDを伴う症例に対してアフリベルセプトを投与した結果,投与後1週間でPEDが消退した症例をしばしば経験している(図2).PEDを伴う376あたらしい眼科Vol.31,No.3,2014CNVに対する注意点として,色素上皮裂孔の合併があげられるが,現時点では投与後に色素上皮裂孔を合併した症例の経験はない.VIEWStudyの結果は,今後,AMD治療は滲出性変化が生じてから再投与を行うreactiveな治療ではなく,滲出性変化が起こる前に投与するproactiveという方針に変わっていく可能性を示している.また,これまでのアフリベルセプトの臨床使用経験から,本剤は既存の抗VEGF薬とは異なる作用メカニズムを有する可能性が示唆されており,今後の臨床研究によって作用機序,使用方法の最適化,そして長期使用の安全性評価が検討されるであろう.文献1)Schmidt-ErfurthU,KaiserPK,KorobelnikJFetal:IntravitrealAfliberceptinjectionforneovascularage-relatedmaculardegeneration:Ninety-six-weekresultsoftheVIEWStudies.Ophthalmology28:193-201,20142)NakashizukaH,MitsumataM,OkisakaSetal:Clinicopathologicfindingsinpolypoidalchoroidalvasculopathy.InvestOphthalmolVisSci49:4729-4737,2008(72)

緑内障:緑内障配合点眼薬の位置づけ

2014年3月31日 月曜日

●連載165緑内障セミナー監修=岩田和雄山本哲也165.緑内障配合点眼薬の位置づけ庄司拓平埼玉医科大学医学部眼科学教室わが国では2010年に3剤の配合剤点眼薬が発売された.海外で先行販売されていたことから,海外文献は多数あるものの,国内でのデータはまだ豊富ではない.今後も増加することが予想される配合点眼薬をどのように処方すべきか.国内外の配合点眼薬の現状と今後を筆者らのデータを交えながらまとめてみる.●はじめに緑内障診療ガイドライン第3版1)では,「現在,緑内障に対するエビデンスに基づいた唯一確実な治療法は眼圧を下降することである」「原発開放隅角緑内障の治療は薬物治療を第1選択とする」「薬物治療は眼圧降下点眼薬の単剤療法から開始し,有効性が確認されない場合には他剤に変更し,有効性が十分でない場合には多剤併用(配合点眼薬を含む)を行う」とされている.また,ヨーロッパやアメリカのガイドラインでは開放隅角緑内障の第1選択にはプロスタグランジン(PG)関連薬が推奨されている2,3).日本において,単剤で進行抑制が可能,または目標眼圧を達成可能な緑内障患者の割合についての明確なエビデンスはないが,TheOcularHypertensionTreatmentStudyによると,約40%の患者が2剤以上の点眼薬が必要となったと報告されている4).●増え続ける緑内障配合点眼薬わが国では2010年に3剤の配合剤点眼薬が発売された.この3剤を含め,配合剤の多くは海外で先行承認・発売されており,さらに開発中の薬剤も含めると,その種類は表1のとおり多岐にわたる.今後も上市が予定されている配合剤としてはタフルプロスト+チモロール,ブリンゾラミド+チモロール,ブリモニジン+チモロール,ブリンゾラミド+ブリモニジンがあり,配合剤の種類は今後増加することが予想される.●配合点眼薬のメリット・デメリット点眼薬の選択肢が増えることにより,治療の幅が広がるというメリットがある一方で,今後さらに種類が増すと,現場の医師・患者双方が点眼剤の種類が多いことにより混乱をきたす可能性もある.配合点眼薬の種類が増えたといっても,新しい作用機序の点眼薬が登場したわけではない.「転院してきた患者さんが使用していた点眼薬が院内採用されていない」といった状況は現在でもすでにしばしば遭遇する.配合剤のメリットは,①点眼回数の減少によるアドヒアランスの向上,②点眼回数減少に伴う防腐剤曝露の減表1国内外の配合剤点眼薬一覧商品名成分カテゴリー海外承認年日本での承認年備考コソプトRザラカムRデュオトラバRGanfortRタプコムRCOMBIGANRアゾルガRSIMBRINZAR0.5%Timolol+1%Dorzolamide0.005%Latanoprost+0.5%Timolol0.004%Travoprost+0.5%Timolol0.03%Bimatoprost+0.5%Timolol0.0015%Tafluprost+0.5%Timolol0.5%Timolol+0.2%Brimonidine0.5%Timolol+1%Brinzolamide1%Brinzolamide+0.2%Brimonidineb+CAIPG+bPG+bPG+bPG+bb+a2b+CAICAI+a21998200120062006─200720082013201020102010─2013─2013─海外では2%Dorzolamide防腐剤は海外ではBAC,国内ではソフジアR国内で販売されているBrimonidine単剤は0.1%国内で販売されているBrimonidine単剤は0.1%(69)あたらしい眼科Vol.31,No.3,20143730910-1810/14/\100/頁/JCOPY 16141210Period1Period2図1配合剤点眼薬の眼圧値の推移(文献7より一部改訂)ドルゾラミド+チモロール(DTFC)を12週間点眼した時点をベースラインとし,その後,無作為に2群に分け,1群はラタノプロスト+チモロール(LTFC)を12週間点眼後,トラボプロスト+チモロール(TTFC)を12週間点眼し,もう1群は逆の順序で点眼した.TTFC点眼期間に眼圧が低下していた.少により,眼表面副作用頻度の低下,③点眼間隔をなくすことによるwashoutリスクの軽減,があげられている5).PG関連薬との併用では,交感神経b受容体遮断薬,炭酸脱水酵素阻害薬,交感神経a2受容体作動薬はいずれも有意に眼圧を下げると報告されているが,その優劣は報告により異なる.国内でも3剤以上の点眼薬はアドヒアランスを有意に低下させるとの報告があり6),アドヒアランスを維持しつつ点眼薬で最大の眼圧下降効果を期待するには,将来的には1剤または複数の配合点眼薬を使用する必要があるかもしれない.●配合剤点眼薬の眼圧下降効果は?配合剤点眼薬は上述のように海外で先行発売されているため,多くの報告がなされているが,つぎに列挙するような点に注意が必要である.1)今まで発表されている多くのスタディは欧米諸国で行われたものであり,日本人を含むアジア人での報告はいまだ多くはない.2)点眼薬の主成分は同じでも,点眼薬の濃度や防腐剤は国により異なる.例えばトラボプロスト+チモロール(TTFC)は海外では塩化ベンザルコニウムを用いているのに対し,日本ではソフジアを使用している.また,海外で販売されているブリモニジン配合点眼薬の濃度(0.2%)は日本で発売されているブリモニジン濃度(0.1%)と異なる.374あたらしい眼科Vol.31,No.3,2014TTFC>LTFCLTFC>TTFCIOP(mmHg)Baseline48124812(週)3)スタディが企業から助成を受けていた場合,その企業に有利な結果となる傾向がある.4)点眼薬の効きめは個人差が大きいが,群間の平均差は小さいため,単純に2群に分けたデザイン(並行群間比較試験:parallelgroupstudy)では,有意差が出にくい.上記問題点を踏まえ,著者らは日本人の正常眼圧緑内障患者を対象にrun-in期間にドルゾラミド+チモロール(DTFC)を12週間点眼したのち,ラタノプロスト+チモロール(LTFC)とTTFCを点眼するクロスオーバー試験を行った7).結果は図1に示すとおりTTFCがLTFC,DTFCと比べ有意に眼圧下降効果は強く,副作用発現頻度はLTFCと同様であった.●配合点眼薬の今後2010年に配合点眼薬が発売されて以来3年が経過するが,現在(平成26年2月現在)UMIN(UniversityHospitalMedicalInformationNetwork)に登録されている配合点眼薬関連の臨床試験は12本であった.今後国内での配合点眼薬の評価を定めるには,さらなる研究が必要であると考えられる.文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:特集緑内障診療ガイドライン(第3版).日眼会誌116:3-46,20122)AmericanAcademyofOphthalmologyGlaucomaPanel:PreferredPracticePatternGuidelines.PrimaryOpen-AngleGlaucoma.AmericanAcademyofOphthalmology,SanFrancisco,2010[www.aao.org/ppp]3)EuropeanGlaucomaSocietyGuidelines:TerminologyandGuidelinesforGlaucoma,3rded.p117-153,DOGMA,Savona,20084)KassMA,HeuerDK,HigginbothamEJetal:TheOcularHypertensionTreatmentStudy:arandomizedtrialdeterminesthattopicalocularhypotensivemedicationdelaysorpreventstheonsetofprimaryopen-angleglaucoma.ArchOphthalmol120:701-713,20025)ChengJW,ChengSW,GaoLDetal:Intraocularpressure-loweringeffectsofcommonlyusedfixed-combinationdrugswithtimolol:asystematicreviewandmeta-analysis.PLoSOne7:e45079,20126)小林博:緑内障治療のアドヒアランスを妨げる原因:点眼時間別でのクラスター解析を用いた検討.日眼会誌115:1086-1093,20117)ShojiT,SatoH,MizukawaAetal:Hypotensiveeffectoflatanoprost/timololvs.travoprost/timololfixedcombinationsinNTGpatients:randomized,multicenter,crossoverstudy.InvestOphthalmolVisSci54:6242-6247,2013(70)

屈折矯正手術:WIOL-CF®の概要

2014年3月31日 月曜日

屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─監修=木下茂●連載166大橋裕一坪田一男166.WIOL.CFRの概要荒井宏幸みなとみらいアイクリニックWIOL-CFRは,poly-focalityの原理による多焦点性とレンズの「たわみ」による調節可能性を併せもつ新しいタイプの多焦点眼内レンズである.ループのない完全な円形であり,本来の水晶体に近い材質と形状により,従来の眼内レンズにはない,光学的な優位性を獲得すべく設計されている.●WIOL.CFRの特徴現在,普及している多焦点眼内レンズは,正確には2重焦点もしくは3重焦点であり,本当の意味での多焦点ではない.WIOL-CFR(Medicem社製)はpoly-focalityをうたっており,さらに調節機能も併せもつ新しいタイプの多焦点眼内レンズである.WIOL-CFRは,1985年にDr.Wichterleにより原型が考案され,1992年に現在の素材であるWIGELRを用いてレンズが作製された.2000年に現在の形状に改良がなされている.CEマークは取得しており,FDAでは未認可である.全世界での挿入症例数は約7,000眼である.WIOL-CFRの外観を図1に示す.素材は,WIGELR架橋メタアクリル共重合体のハイドロジェルである.含水率は42%,屈折率は1.428,直径は8.6~8.9mmと大きい.中心部厚は0.8~1.7mmであり,製作範囲は+15D~+30D(0.5Dステップ)となっている.ハイドロジェルであるWIGELRは,負の電荷を帯びているため,蛋白質の吸着,バイオフィルム形成,カルシウム沈着,後.混濁の発生に対して抑制的に働いている.WIOL-CFRの直径は8.6~8.9mm,表面積は62mm2で,そのすべてが光学部として使用できる.本来の水晶体の光学部(10.5mm,87mm2)に近いサイズであり,有効光学部面積は従来の眼内レンズ(6.0mm,28mm2)の2倍である.光学部面積が大きいため,エッジグレアやハローが起こりにくい設計となっている.比較のシェーマを図2に示す.Medicem社がうたうpoly-focalityは,レンズ後面形状と水晶体.の収縮による形状変化の両方が関与している.レンズ中心部で屈折度数は最大で,周辺部に向かって徐々に減少するような多焦点双曲線形状となっている(図3).いくつかの臨床試験で,WIOL-CFRは平均2.0(67)0910-1810/14/\100/頁/JCOPY~~図1WIOL.CFRの外観レンズの厚さや直径はレンズ度数により異なる.レンズ全面が光学部として機能する(fulloptics).図2水晶体および各種眼内レンズの光学部の比較上段が直径,下段は表面積である.WIOL-CFRは,本来の水晶体にもっとも近い大きさと表面積をもつ.図3光学部の多焦点双曲線形状WIOL-CFRのもつpoly-focalityのシェーマである.レンズ内の点線は調節可能レンズとしての形状変化後におけるレンズ前面である.~2.5Dの調節力を示しており,長期間持続している.順応までの期間は3~4カ月である.あたらしい眼科Vol.31,No.3,2014371 表1術後調節力の報告報告者,発表年眼数調節力の範囲観察期間PastaJ,2003792D3年(67眼は9年フォローアップ)PastaJetal,2006262.2D12カ月以上NylanderAetal,200651>2.25D24カ月PallikarisIG,201150>2D12カ月これまでのWIOL-CFRの調節力に関する報告のまとめである.術後,中~長期にわたり2D程度の調節力が確保されていることがわかる.図4術後視力の結果(logMAR視力)術後は,遠方から近方までの均質的な視力が得られていることがわかる(Jeager視力:J1=1.0,J2=0.8,J3=0.67).UDVA:遠方裸眼視力.CDVA:遠方矯正視力.UIVA:中間裸眼視力.UNVA:近方裸眼視力.J:Jeager視力.●手術時における特徴切開創はレンズ度数により異なる.3種類のインジェクターが準備されており,+15~+18Dでは切開創は2.5mm,+18.5~+26.5Dでは2.8mm,+27.0~+30.0Dでは3.2mmある.レンズは生理食塩水に浸った状態で保存されており,BSSおよび前房水内で10~15%膨張する.そのため,レンズセッティングは挿入直前に行わなければならない.レンズが完全に膨張するのは3~5分程度である.また,外観のとおり,ループをもたない円形形状であるため,.内での位置が中心ズレを起こさないように,手術終了後3~5分程度は仰臥位での安静が必要である.●手術結果筆者の経験は4眼であり経過は良好であるが,n数が少ないため,今回はすでに発表されている他施設での結果を示す.Dr.Pallicarisらが他施設での476眼の結果をまとめ発表している.術後視力を図4に示す.また,術後調節力を測定したいくつかの施設での結果を表1に示す1~3).372あたらしい眼科Vol.31,No.3,2014●考察現在普及している多焦点眼内レンズも常に設計が進化してきており,すでに第4世代になろうとしている.世界中のレンズメーカーが製造している多焦点眼内レンズは30種類以上あり,今後も増加して行くであろう.どのメーカーも光学設計に工夫を凝らし,自然な見え方を確保し光学的なロスを減少させようとしている.このWIOL-CFRは斬新なアイデアと新しい素材により,本当の多焦点性をもつレンズを実現した点は,素晴らしい進歩といえよう.WIOL-CFRが普及するためには,まず乱視を制御しなければならない.その形状から,トーリックレンズは難しいであろう.フェムトセカンドレーザーによる乱視矯正角膜切開術などとの組み合わせが必要になるかもしれない.また,術後の仰臥位での安静時間が長いため,ストレッチャーでの移動か手術時間枠の延長が必要となってくる.こうした点が解決されないと,多くの施設での普及は難しい可能性があると思われる.また,ループがないため,後発白内障術後にレンズ偏位が認められたという報告もなされている4).より水晶体に近い形状と材質による眼内レンズ設計という発想は,斬新であり,将来の眼内レンズを予想させるものである.今後,長期的な観察も含め注目してゆきたい技術である.文献1)PallikarisIG:PreliminaryresultsafterWIOL-CFaccommodativeintraocularlensimplantation.ESCRS,Budapest,20102)PallikarisIG:OutcomesafterWIOL-CFaccommodativeintraocularlensimplantation.ESCRS,Vienna,20113)PallikarisIG,PortaliouM,PanagopoulouSI:OutcomesafterWIOL-CFaccommodativeintraocularlensimplantation.XXXCongressofESCRS,Milan,20124)KangKT,KimYC:Dislocationofpolyfocalfull-opticsaccommodativeintraocularlensafterneodymium-dopedyttriumaluminumgarnetcapsulotomyinvitrectomizedeye.IndianJOphthalmol61:678-680,2013(68)

眼内レンズ:白内障切開創への真菌感染

2014年3月31日 月曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎331.白内障切開創への真菌感染池川泰民松山赤十字病院眼科白内障術後に発症する感染症として眼内炎がよく知られている.しかしながら,まれではあるが,白内障手術時の創口部に認められる感染も存在する.白内障切開創への感染は病因診断が困難であり,ときに視力予後が不良となる症例もあることから,術後炎症の原因の一つとして考える必要がある.●白内障術後の感染症の原因菌白内障術後眼内炎は術後の感染症として良く知られているが,頻度は一般に2,000例に1例程度といわれており,決して多い数字ではない.これよりも頻度は少なくなるが,病因診断の困難さと視力予後不良となる可能性をもった術後感染症として,白内障切開創への感染がある.わが国では江本らによる創口感染の報告1)があり,海外では真菌による創口部の感染の報告2,3)が散見される.その報告の多くの原因真菌がAspergillus属であり,角膜炎として発症したものであった(図1).●Aspergillus属による感染症Aspergillus属は真菌性角膜炎の起因菌として多いものの一つであり,自然界のいたるところに広く分布している.手術時の切開創に起こる真菌感染は,感染経路が不明なものが多いが,考えられる感染経路として手術中の落下真菌などが考えられる.また,Aspergillus属は植物に付着していることも多く,植物による突き眼によって角膜炎が起こることが多いといわれており,患者背景をみると農作業にかかわっている人が多く,海外での報告もインドなどの発展途上国で多く認められる.Aspergillus属は糸状菌に分類され,進行は比較的緩徐である.そのため,感染巣が広がる前の早期に発見できれば抗真菌薬により効果的に治療を行うことができる.しかし,上記のように切開創からの感染がすべて角膜炎を生じてくれれば発見しやすいが,なかには角膜炎を生じないものもある.強角膜に炎症を起こさずに,虹彩や隅角部に炎症を引き起こすものが存在する.このような症例においては,病巣部を見ようにも角膜浮腫を引き起こしている場合が多く,隅角検査が困難な場合が多い.角膜浮腫のために隅角部の状況がわからず漫然と経過をみていくことで,角膜表面には炎症所見を認めないまま虹彩や隅角へ深く真菌が侵入していること(65)0910-1810/14/\100/頁/JCOPY図1Aspergillus角膜炎図2前眼部OCTがある.このような状況にならないために隅角を調べる一つの方法として,前眼部OCTが大変有用な検査となる可能性がある(図2).図2のように前眼部OCT検査を行うことで,角膜表面からは透見できなかった病巣が創口部と一致した強角膜内に連続していることがわかる.●抗真菌薬による治療ここまで深く真菌が侵入してしまうと内科的治療が困難になってくる.抗真菌薬には,作用機序から大きく4つの種類がある.①ポリエン系,②アゾール系,③キャンディン系,④ピリミジン系である.糸状菌に対しては,アゾール系のミコナゾールまたはポリエン系のピマリシンが第一選択であるといわれている.これらの抗真菌薬の中で唯一,眼局所用として存在するのがポリエン系のピマリシンである.この薬剤は,Aspergillus属に対するMICが1.56.3.13(μg/ml)であり,強い抗菌力あたらしい眼科Vol.31,No.3,2014369 図3角膜移植後をもち耐性菌が出現しにくい.しかし,強い結膜充血や角膜上皮障害などの副作用が起こることがあるうえ,眼移行性が悪いため,虹彩まで侵入したような症例に対しては効果が乏しい.ミコナゾールはアゾール系の中で糸状菌に対して効果を示す薬剤であるが,Aspergillus属に対するMICが0.4.>100(μg/ml)であり,抗真菌活性作用がやや低い.近年,アゾール系のボリコナゾールがAspergillus属に対して有効であるということで多く使われている.ボリコナゾールはAspergillus属に対するMICが0.19.0.5(μg/ml)であり,強い抗真菌活性作用をもっている.ボリコナゾールは,製剤として静注用か錠剤しかないため,眼科領域で使用する場合には静注用を1%(10mg/ml)に薄めて点眼として使うことが多い.ここで気になるのが,ボリコナゾールの眼移行性である.Vemulakondaらによると4),1%に薄めたボリコナゾール点眼を行ったのち,前房内と硝子体内でボリコナゾール濃度を測定すると,前房内ではAspergillus属に対するMICを超えたが,硝子体内ではAspergillus属に対するMICを超えることはなかった.また,Hariprasadらによると5),ボリコナゾールの内服による前房内濃度や硝子体内濃度の関係は,血液中の薬物濃度に対して前房内の薬物濃度が53.0%であり硝子体中の薬物濃度が38.1%であった.このことより,ボリコナゾールの眼移行性はあまり良くないことがわかる.●外科的治療法では,虹彩にまで浸潤したような真菌感染にはどのように対処していくべきか.内科的治療には限界があるため,外科的治療が有効となってくる.外科的治療としては,感染巣をすべて取り除くために強角膜切除を行い,角膜切除した部分に全層角膜移植を行う.感染巣除去後は炎症も収束に向かいやすく,術後1週間程度からステロイド点眼を開始することで,真菌感染を再燃させることなく術後炎症を早くに消炎することができる6)(図3).●まとめ白内障切開創への真菌感染は早期発見が重要であり,早期発見することができれば薬物治療も可能である.しかし,虹彩や隅角まで真菌が侵入してしまった状態で発見することもある.この場合は,外科的治療も考えていく必要があるものと思われる.文献1)江本宜暢,平形明人,三木大二郎ほか:Penicillium感染による白内障術後眼内炎の一例.眼臨紀1:122-127,20082)RoyA,SahuSK,PadhiTRetal:Clinicomicrobiologicalcharacteristicsandtreatmentoutcomeofsclerocornealtunnelinfection.Cornea31:780-785,20123)JhanjiV,SharmaN,MannanRetal:Managementoftunnelfungalinfectionwithvoriconazole.JCataractRefractSurg33:915-917,20074)VemulakondaGA,HariprasadSM,MielerWFetal:Aqueousandvitreousconcentrationsfollowingtopicaladministrationof1%voriconazoleinhumans.ArchOphthalmol126:18-22,20085)HariprasadSM,MielerWF,HolzERetal:Determinationofvitreous,aqueous,andplasmaconcentrationoforallyadministeredvoriconazoleinhumans.ArchOphthalmol122:42-47,20046)池川泰民,鈴木崇,鳥山浩二ほか:白内障手術時の切開創に発症した真菌感染の1例.あたらしい眼科30:14751478,2013

コンタクトレンズ:コンタクトレンズ診療のギモン⑩

2014年3月31日 月曜日

提供コンタクトレンズセミナーコンタクトレンズ診療のギモン②10本コーナーでは,コンタクトレンズ診療に関する読者の疑問に,臨床経験豊富なTVCI※講師がわかりやすくお答えします.※TVCIは「ジョンソン・エンド・ジョンソンビジョンケアインスティテュート」の略称です.眼科医および視能訓練士を対象とするコンタクトレンズ講習会を開催しています.花粉症シーズンのCL装用患者独特の症状や訴えについて教えてください.講師梶田雅義梶田眼科花粉の飛散時期は,花粉症を有するコンタクトレンズ(CL)装用者にとってはつらいシーズンである.わが国では,2.4月はスギ,5月はヒノキ,5.6月はカモガヤ,8.10月はブタクサの花粉が多いといわれている.花粉症はI型アレルギーで,肥満細胞から遊離したヒスタミンが種々の症状を引き起こし,くしゃみ,鼻水,鼻炎症状などの全身症状のほかに,眼の掻痒感,結膜充血,眼脂を生じる.症状がひどくなると眼瞼結膜に乳頭増殖を生じる.全身症状を伴わずに,眼の症状だけ発症する例も少なくない.1.花粉症の眼症状CL装用者は,CLが角謨を覆っているために,かゆみを認識するのが遅いようで,花粉症が軽度の段階ではかゆみを感じるよりも先に,見え方が悪くなると訴えることが多い.結膜にアレルギー性の炎症反応が起こると,漿液性あるいは粘液性の眼脂を呈する.この眼脂がCL表面に付着し,見え方を悪くする.瞬きごとに見えたり見えなかったりする不快を訴える.上眼瞼結膜に乳頭が形成されると,乳頭と乳頭の隙間が吸盤のような状態になってCLに吸いつき,CLが上眼瞼結膜に貼りついてしまう.すると,瞬目のたびにレンズが限瞼と一緒に動くだけでなく,レンズ表面の付着物を眼瞼がふきとれず,見え方が悪化する.CLの光学部分が瞳孔領から外れて,矯正効果が失われる場合もある.このような視覚に関する不快感が生じた後に,かゆみなどの自覚症状が生じることも少なくない.(63)0910-1810/14/\100/頁/JCOPY2.花粉症対策CLの利便性のために,花粉症が発症してもCL装用を自主的に中止する症例は少なく,かなり症状が悪化してから来院する場合もある.CL装用を中止すれば症状が軽減する症例も少なくないが,CL装用による視機能のメリットを考慮すると,できる限り装用の継続をサポートしたいものである.経済的な負担は大きくなるが,花粉症の時期に1日使い捨てCLを使用することは,比較的容易な花粉症の対処方法である.なんらかの理由で1日使い捨てCLへの変更がむずかしく,毎日のケアが必要なレンズを使用する場合に大切なことは,レンズケアを行う際に花粉をレンズにすり込まないことである.花粉が付いたままで,いきなりこすり洗いをすると,花粉が壊れて破片がCLに摺り込まれてしまう.一度すり込まれた花粉は,こすり洗いを重ねるほどCL表面に密着して.がれなくなってしまう.そっとはずしたCLを,MPS(multipurposesolution)または保存液を八分目くらいまで入れた保存容器に入れて強く振り,CL表面に付着した花粉をできる限り振り落とす.その後に感染症対策のためにしっかりこすり洗いを行うように指導する.ソフトコンタクトレンズ(SCL)の種類やデザイン,素材を変更する,あるいはケア溶剤やケア方法を変更することで,花粉症の時期もCL装用を中止しないで乗り切ることのできる症例も少なくない.症例ごとにCL装用を継続できる条件を見つけだす作業も,CL外来の大切な仕事である.あたらしい眼科Vol.31,No.3,2014367 花粉症の症状を訴えて来院される方には,どのような対応をされていますか?講師梶田雅義梶田眼科花粉症を有するCL装用者には,装用を中止するように指導するケースが多いようであるが,過去の調査によれば(図1),CL装用者の91.3%が花粉飛散の時期にも装用の継続を希望していた.花粉の飛散時期であっても快適な矯正をあきらたくないと考えるCL装用者が多い.1.患者の指導花粉症を発症しやすい時期のCL装用については,装用者自身に眼の状態に注意を払うように指導することが大切である.裸眼だと鏡に映る自分の眼がよく見えない遠視眼では,凹面鏡を使うように指導するとよい.装用感はもちろん,結膜に充血が生じていないか,角膜と結膜の境目が腫れていないかなどを自分でチェックするよう指導する.ただし,異常な所見は正常な状態を見ていないと分からないので,普段から自分の眼をよく観察する習憤をつけることが大切である.そして,少しでも異常に気づいたら眼科医に相談するように指導する.2.CLの選択花粉の付着はCLの種類によって異なる.過去の調1.2%91.3%7.5%0102030405060708090100%■そう思う■どちらともいえない■そう思わない図1花粉飛散時期もできればコンタクトレンズの装用を継続したいと思いますか?使い捨てコンタクトレンズを使用している花粉症患者600人を対象に調査.(2010年Johnson&JohnsonK.K.調べ)査1)では,FDA分類のグループ1はグループ4に比べて花粉が付着しにくかった.シリコーンハイドロゲルCLは含水SCLに比べて花粉が付着しにくい印象はあるが,シリコーンハイドロゲルCL装用によってアレルギー反応が発症する例もあるので,慎重に経過観察を行い,適応を見分ける必要がある.また,繰り返しケアを行なうCLに比べて,1日使い捨てCLは花粉の蓄積がないため,花粉の飛散時期の装用に適している.3.花粉症時期の点眼花粉が飛散し始める約2週間前から,抗アレルギー点眼液の使用を開始すると効果的2)である.花粉症の症状が出現したら,副腎皮質ホルモン剤の点眼液を加える.副腎皮質ホルモン剤によって眼圧が上昇する症例が存在するため,使用中は眼圧を定期的にチェックする必要がある.眼圧上昇を認めた場合には,副腎皮質ホルモン剤の点眼を速やかに中止し,非ステロイド系消炎薬の点眼に変更してみる.これらの点眼液を使用しても症状がひどく,安定したCL装用を継続できない場合には,1日使い捨てCLに変更する.それでも終日の装用ができない場合には,どうしてもCL装用を行ないたい時間帯だけに1日使い捨てCLを用いたオケージョナル装用を勧める.1日使い捨てCLの装用でも装用直後から不具合を生じるようであれば,CLの装用を中止して,花粉の飛散時期が過ぎ去るのを待つことにする.CL装用はアレルギー性結膜炎を悪化させる要因にもなりうるため,CL装用を中止させることがもっとも容易な対処方法である.しかし,CLによる利便性が花粉症による不快に勝る場合には,できる限りCL装用を継続させてあげることも,眼科医の使命と考える.文献1)梶田雅義:スギ花粉症時期のコンタクトレンズケアについて.第60回日本臨床眼科学会一般演題,20052)アレルギー性結膜炎診療ガイドライン作成委員会:アレルギー性結膜炎診療ガイドライン.日眼110:99-134,2006368(00)あたらしい眼科Vol.31,No.3,2014ZS696