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My boom 23.

2013年12月31日 火曜日

監修=大橋裕一連載MyboomMyboom第23回「大久保真司」本連載「Myboom」は,リレー形式で,全国の眼科医の臨床やプライベートにおけるこだわりを紹介するコーナーです.その先生の意外な側面を垣間見ることができるかも知れません.目標は,全都道府県の眼科医を紹介形式でつなげる!?です.●は掲載済を示す(●は複数回)連載MyboomMyboom第23回「大久保真司」本連載「Myboom」は,リレー形式で,全国の眼科医の臨床やプライベートにおけるこだわりを紹介するコーナーです.その先生の意外な側面を垣間見ることができるかも知れません.目標は,全都道府県の眼科医を紹介形式でつなげる!?です.●は掲載済を示す(●は複数回)自己紹介大久保真司(おおくぼ・しんじ)金沢大学医薬保健研究域医学系視覚科学私は,平成3年に島根医科大学を卒業し,同年に金沢大学眼科に入局いたしました.入局当時の河崎教授は網膜電図(ERG)が専門でしたので,大学院時代はウサギのERGの研究をおもに行い,レボフロキサシン(クラビットR)の硝子体内注射後の眼毒性と眼内クリアランスを測定し,学位をいただきました.大学院時代に所属した「眼毒性ERGグループ」では私が1番下のメンバーでしたが,私の学位研究のために先輩方に助けていただき本当にお世話になりました.眼毒性ERGグループは私の学位が最後になり,先輩方にはお世話になったご恩を返すことができませんでした.しかし,その分自分もほかの分野で後輩のお手伝いをすることで恩返しできたらと思っています.杉山教授が就任されてからは,おもに緑内障の臨床および研究と神経眼科の臨床に携わらせていただいています.パック入りケーキの中身の一つがなぜモンブランなのか?とくにこれといった趣味はなく,基本的には物事にあまりこだわりのないほうだと私自身では思っています.ただ,食べることは大好きです.そこで「食べ物」を視点に自分自身を振り返ってみると,このテーマである「執着」にあてはまることがあります.子供の頃に近所にはケーキ屋さんがなく,「ケーキ屋さんのケーキ」が食べられるのは特別の日限定でした.(79)0910-1810/13/\100/頁/JCOPYでも,「ちょっといいこと」があると,母親が近所の八百屋(のちに名前だけスーパーに変わる)で,パックに入った3個入りのケーキを買ってくれました.多分私の地元限定の話かもしれませんが,そのパックの中身が問題で,「イチゴショートケーキ」「チョコレートケーキ」ここまでは理解できたのですが,その3個目が「モンブラン」でした.子供ながら,ラーメンをのせたようなただ甘いケーキが,なぜイチゴショートケーキやチョコレートケーキと肩を並べてケーキの3本柱の1つとしてパックに入っているのかが毎回,理解できませんでした.いつの間にかそんなことも忘れていたのですが,働くようになって自らケーキを買う機会が増えてくると,なぜあの「パックに入った3個入りケーキの1個がラーメンをのせたようなケーキのモンブランなのか?」ということが,無性に気になりだしました.そこで,いつしか初めてのケーキ屋さんに行くときはモンブランがあれば必ずモンブランを買うようになっていました.そして,ついに4年前に私なりに納得できるモンブランに出会いました.そのケーキ屋さんは,季節のフルーツを使ったショートケーキが評判のお店です.栗の季節の秋にいつものように購入して,何気なく食べました.それは,40年前から続く「疑問」の答えとなるモンブランでした.栗の味が生かされていて,本当においしくて感動しました.これなら,ケーキの3本柱になりうると思い,それ以来,秋にモンブランを食べるのが楽しみになっています.臨床の疑問点から考える眼科医になった2年目のときに,外来で変な水晶体の症例に遭遇しました.アトラスを調べると「前円錐水晶体」であることがわかりました.アトラスには原因がいあたらしい眼科Vol.30,No.12,20131727 〔写真1〕私のお気に入りのモンブランくつか記載されていましたが,引用してある論文を読んでいくと,前円錐水晶体はAlport症候群に特有なものであることがわかりました.患者さんは数十年前から腎障害で透析を受けており,自分のなかではAlport症候群と診断しました.しかし,内科の先生には腎臓は末期状態だから何でもありだよといわれ,内科的な診断はいただけませんでした.その患者さんが,白内障手術をすることになり,その前.を光顕で観察しましたが,普段水晶体.の病理など見慣れていなかったこと,コントロールもとっておらず,異常に気づきませんでした.自分自身,消化できない部分がありましたが,病院が変わったこともあり,しばらくこのことは忘れていました.何年か後に,Alport症候群がIV型コラーゲンの異常が原因であるという総説を偶然見つけ,また前円錐水晶体の原因が気になるようになりました.2年目に所属していた病院の部長(私の臨床の恩師の一人)に,この患者さんの反対眼の白内障手術をするときには,検体をとりに行きたいので私の研究日に手術を予約していただくようにお願いしました.それと同時に電顕をみてもらうために病理の教室を紹介していただきました.患者さんからの手術の申し出を待ちながら準備を進めていくうちに,小児科,腎臓内科領域ではIV型コラーゲンの中でも,a3,4,5のいずれかが悪く,それによって遺伝様式が異なるという論文が報告されていました.私も前.のコラーゲンの染色をしたいと思いましたが,抗体が市販されていないことが判明しました.河崎教授の許可を得て,思い切って著者に手紙を書いてみました.その小児科の先生は,実際に抗体を作っていらっしゃる先生を〔写真2〕2012年シカゴのAAOにて(緑内障研究での出会い.杉山教授ご夫妻を囲んで.杉山教授に感謝.)紹介してくださり,共同研究をさせていただけることになり,無事抗体も入手でき,手術までに十分な準備が整いました.患者さんが反対眼の手術を決意されたのは片眼の手術から5年以上たっていました.そして,術後に病理の教室に遊びに行き,免疫染色をさせてもらいました.コントロールでは前.にもa3,4,5が存在しましたが,前円錐水晶体を呈したAlport症候群の前.はa3,4,5が存在しないことが明らかになり,電顕でみると基底膜が菲薄化していることがわかりました.そして,教室の東出先生と桜井さんに遺伝子検索をしてもらい,遺伝子異常もみつかりました.というわけで,約10年越しで「Alport症候群と前円錐水晶体の疑問」を解決することができました.なぜだろう?という「疑問」が生じ,「執着心」が芽生えたとき,それを解決する過程ではたくさんの経験や出会いがあります.協力していただいた方々とその出会いに本当に感謝しています.現在は,緑内障の疑問点,とくに杉山教授のメインテーマである乳頭出血の発現機序がもっとも気になります.次回のプレゼンターは,いつお会いしても色々なことに疑問をもち,大胆な視点で物事を考えておられる鹿児島大学の山下高明先生です.よろしくお願いします.注)「Myboom」は和製英語であり,正しくは「Myobsession」と表現します.ただ,国内で広く使われているため,本誌ではこの言葉を採用しています.1728あたらしい眼科Vol.30,No.12,2013(80)

日米の眼研究の架け橋 Jin H. Kinoshita先生を偲んで 12.Jin H. Kinoshita先生有り難うございました

2013年12月31日 火曜日

JinH.Kinoshita先生を偲んで日米の眼研究の架け橋★シリーズ⑫責任編集浜松医科大学堀田喜裕JinH.Kinoshita先生を偲んで日米の眼研究の架け橋★シリーズ⑫責任編集浜松医科大学堀田喜裕JinH.Kinoshita先生有り難うございました矢島保道(YasumichiYajima)矢島眼科医院1971年順天堂大学医学部卒業.眼科入局.1972年同大学眼科助手.1978年ソ連フェドロフ研究所留学.1979年NEIVisitingScientist.1982年防衛医科大学校講師.1983年同大学校助教授.1989年矢島眼科医院開院.院長.現在に至る.集合写真は(写真1),1981年6月17日のNEIに勤務していたほぼ全員です.桑原登一郎先生から記念として頂戴いたしました.この写真を撮影した少し前の1年9カ月間は,Jinさんとは研究室も違いましたので「おはようございます」「今日は」「さようなら」の挨拶以外に言葉を交わした記憶がありません.しかし,この年のARVOの最終日頃だったと思います.偶然にお会いしたJinさんが私の発表した研究を褒めてくださいました.このときを境に少しずつお会いする機会が増えて行きましたので,まずJinさんと話をするきっかけとなったNIHでの研究の話から始めて行きたいと思います.1979年8月15日,アメリカに着いた私達家族を前任者の田中稔先生(本シリーズ⑧)が迎えてくださいました.早速うかがった桑原先生に今後の仕事について相談をすると,幼若マウスの水晶体組織を研究しなさいという.ところが始めてみるとこの幼若マウスの水晶体は大変な曲者で,電子顕微鏡で見ると皮質の部分はどのような固定条件でも組織像に大差はないのですが,核部分は写真2A,Bのように全く異なった電顕像が得られてしまうのです.桑原先生との間には研究の進捗状況を1カ月に1度は報告するとの取り決めがありました.初めての報告でこの核部の電顕像の差異について説明すると,そうだろうというお顔でまあ頑張りなさいという.それが2カ月,3カ月になるとまだそんなところで停まっているのかというお顔になってしまい,さらに6カ月も過ぎた頃には,君ね!もう止めなさい!10年経ったって1編の論文も書けやしないよ,とおっしゃる.そして10カ月も経った頃にはお会いしてもくれなくなってしまいました.ところが私自身はこのartifactsを解(77)決しない限りにはもう先には進めないと思うようになっておりました.それまでただ漫然と同じことばかりを繰り返していたのではありません.固定液の種類,濃度,温度,pH,固定時間などの固定条件を変えて,またマウスの日齢の違いによる組み合わせも調べていました.これらすべてを包理,切片作製,光学顕微鏡,電子顕微鏡で調べて行くのは膨大な時間を要したものです.このような固定条件の違いによる組織像の違いはどこからくるのでしょうか.それは水晶体蛋白質のクリスタリン粒子が水晶体線維内を移動するからです.低温で固定すれば写真2Aのように水晶体線維内にクリスタリン粒子は球状の集合体を作り,結果として寒冷白内障の組織像を見ることになります.暖かい温度で固定すれば,固定液の浸透してくる方向にクリスタリン粒子が引き寄写真11981年6月17日のNEIのメンバー前列左,桑原先生,左より6番目,Kinoshita先生,2列目左より5番目,石川先生,3列目左より3番目,筆者.あたらしい眼科Vol.30,No.12,201317250910-1810/13/\100/頁/JCOPY 写真2A:幼若マウス水晶体核部電子顕微鏡写真,低温固定.B:暖かい温度固定.C:還元型グルタチオン使用の固定.せられて,写真2Bのような電顕像を作ってしまいます.この現象は何だろう.図書館にこもり論文を読みあさって見つけたのが温度の変化により蛋白質が集合,離散をするprotein-waterphaseseparation現象でした.では固定時に水晶体線維内のクリスタリン粒子を動かなくするにはどうしたら良いのだろうか.考えついたのが暖かい温度で幼若マウス水晶体をアミノ酸に浸しながら固定するという方法でした.アミノ酸は同じ時期に桑原先生のところで「アミノ酸と網膜の関係」を研究していた九州大学の石川裕二郎先生から分けてもらいました.しかし,決定的な組織像が得られません.そこに閃いたのがグルタチオンでした.しかし,グルタチオンは水晶体wholelensの水晶体.を透過ができず,やむなく水晶体を半切して,還元型グルタチオンに浸して得られた幼若マウス水晶体核部の電子顕微鏡像が写真2Cです(InvestOphthalmol24:1311,1983,あたらしい眼科4:1551,1987).早速桑原先生に電顕写真を見ていただ1726あたらしい眼科Vol.30,No.12,2013くと,本当か?本当か?と半信半疑のご様子でARVOの応募に許可をくださいました.そして,これがJinさんの目に留まったのでした.1981年の夏頃だったと思います.Jinさんの部屋に呼ばれました.PaulRussell博士と組んで網膜芽細胞腫の腫瘍細胞を使って,免疫組織化学的にアルドース還元酵素(AR)の局在を調べて欲しいと依頼されました.それがほぼ終わりかけてきた頃に赤木好男先生(本シリーズ⑥)が赴任されてまいりました.何度かJinさんにお会いしていると,さらにPeterKador博士とのARの共同研究を勧められました.さらなる免疫組織化学的研究については何かとご助言をいただいておりました赤木先生も仲間に加えてくださるようにJinさんに頼み込みました.そんな1981年も暮れる頃に母校の順天堂大学から帰国の打診が入ってきたのです.そして慌ただしい帰国前のNEIで,幼若マウス水晶体の固定方法とARの免疫組織化学についての「さよなら講演」をする機会が与えられました.その講演後にJinさんから幼若マウス水晶体の固定方法の論文の投稿について尋ねられました.NEIにいるうちには投稿はできないだろうとお話しすると,桑原先生との間で話がついたから,日本に帰国してから投稿しなさいとのご許可をくださいました.JinH.Kinoshita先生有り難うございました.論文のアメリカでの投稿には時間的な制約もありましたが,桑原先生としても日本からの眼科医が水晶体形態学の難問を解いてしまったかたちで,詳細な検証をしなければ投稿に許可を与えることはできなかったと思っています.帰国のご挨拶に桑原先生にお会いすると,いつの間に用意してくださったのかNIHのdirectorを筆頭に4名のサインのある留学証明書を手渡してくださいました.そして君は実験を繰り返して行い,手順が完全に決まったら,最後に他人に同じ実験をしてもらいなさいとの忠告も頂戴しました.1982年1月27日に帰国しました.その後Jinさんからは毎年の交換クリスマスカードとアメリカの美しい風景写真のカレンダーが送られてきました.あるとき奥様からJinさんが歩行ができなくなったと悲痛な文面のご連絡をいただき,慌ててご返書いたしましたが,詳細がわからないままに訃報に接することになりました.NEIの時代は良い思い出として残っております.これも偏にJinさんとの出会いがあったからだと思っています.(78)

現場発,病院と患者のためのシステム 23.医療機関向けERP(Enterprise Resource Planning:統合情報システム)

2013年12月31日 火曜日

連載現場発,病院と患者のためのシステム連載現場発,病院と患者のためのシステム情報システムが企業の効果的な経営に寄与する医療機関向けERP(EnterpriseResourcePlanning:統合情報には,当該企業の業務全体を俯瞰し,今までの仕システム)事の仕方にこだわらずに無理無駄を廃し,作業*(機能,情報)の連続性に配慮した業務プロセス杉浦和史になっている必要があります.これを具体化したのがERP(EnterpriseResourcePlanning)はじめに効率的な企業・組織活動を支援するためには,全業務をカバーする機能,情報が有機的に連携した情報システムを整備しなければなりません.構想は大分前からありという概念と,それをソフトウェアで実現したアプリケーションシステムです.今回は医療機関にも必要になるこのERP構築に必要な事柄を簡単に解説します.ました.二昔前は,統合情報システム(IntegratedInformationSystem),一昔前は,戦略情報システム(SIS/StrategicInformationSystem)と呼ばれ,7,8年前からはERP(EnterpriseResourcePlanning)といわれています.英字3文字の呼称は変わっても,構想の基本は変わっておらず,ブームや言葉の言い換えに惑わされてはいけません.筆者は昔ながらの統合情報システムと呼んでいます.いささか古めかしい響きがありますが,本質をとらえた言い方です..ERPとはGoogleで調べると,いろいろな解説が出てきますが,“企業全体を,経営資源の有効活用の観点から統合的に管理し,経営の効率化を図るための手法・概念,およびこれを実現するITシステムやソフトウェア”(出典:http://e-words.jp/w/ERP.html)という説明が単純明快です.当院が開発中の院内業務総合電子化計画Hayabusaはこれを目指しています.当初から点眼,処置など,人間ならでは作業を除き,全業務をシステム化の対象とし,有形無形な資源(医師,看護師,ベッド,検査機器,的確な診察,手技など)を効率的に活かす機能をもっています.病院ERPと称する製品群を提供しているベンダもありますが,必要になったもの,ニーズがありそうなものをその都度開発してシリーズ化したものがほとんどです.このようにして作られたシステムは,結果的に屋上屋を重ねることになり,機能,情報の連携において難があります.業務種類ごとに,それを得意とするベンダが提供する(75)0910-1810/13/\100/頁/JCOPYシステムを寄せ集めてもERPにはならないことは,いうまでもありません.それどころか,さまざまな弊害があることは,連載で述べたとおりです.しかしながら,往々にしてそれをやってしまう実態があり,注意すべきところです.ERPを企画するときは,一時の思いつきやブームに迎合したり,ポイントをはずした方針で,見切り発車することは禁物です.これらに気がついた関係者がいたとしても,それを言いだしにくい雰囲気があると,問題点を抱えたままのシステムができあがってしまいます.こうなると,一時的な効果をはるかに超える損失となることを知っておいて損はありません.小田原評定ではいけませんが,はずしてはいけない要点を抑えるための時間,議論を惜しんではならず,鶴の一声や時間切れで突っ走ってはいけません.“走りながら考える”という,現実的に思える耳障りの良い言葉があります.一見良さそうで受け入れやすいこの考え方は,目先の現実に流され,モグラ叩きのその日暮らしになってしまう危険をはらんでいることを忘れてはいけません.ERPは対象とする業務の規模が大きく,改めて業務全般を見直すと理にかなわない部分が発見されることが多々あります.これらをひとつずつ解決するには,時間も予算も必要です.発見された問題点を,その場しのぎの策で解決したり,整備方針がブレると,思いつき企画*KazushiSugiura:宮田眼科病院CIO/技術士(情報工学部門)あたらしい眼科Vol.30,No.12,20131723 →実行→不具合発生→思いつきの対策→不具合発生→思いつきへの対策,という負の連鎖になってしまいます.また,気を付けなければならないことは,権威を背景にした上意下達です.議論ではなく結論がでてしまい,議論がセレモニーになってしまうケースです.“手順を踏んだ”というだけで,中身がありません.ERPは,焦らず,腰を据えて取組むことが重要です..新技術は必要かシステムを企画,設計する際,最初に行うべきは,BPR(パラダイムシフトして業務を見直す)済みの業務プロセスにすることです.つぎに,権限の最適再配分を行い,それを踏まえた指揮命令系統を整備します.ここには,既得権とか,見直されずに昔から続いていた仕事の仕方を,そのまま継承する発想はありません.技術はこの作業の後の実現方法の段階で議論すべきです.とかく,耳障りよく,何となく格好良いトレンドになっている技術の話を先にしがちですが,技術は構想を実現するための手段であり,主役ではないことを理解しておくべきでしょう.早期の技術的な変化,陳腐化に気を付けながらですが,いたずらに新技術,新構想を採用することは不要です.枯れた確実な技術を忘れてはいけません.ただし,ドッグイヤーどころかマウスイヤーといわれる今,ハードルの高かった技術や,コスト的に採用を見送っていた製品が,利用可能になっている場合が少なからずあります.アンテナを高くして情報を収集するとともに,システムを構築するうえで,その技術,製品が必要か否かを検討し,採否を決める評価能力が求められます.筆者がIT業界紙と組んで過去3年にわたり,一部上場企業を含む約150社のCIO(情報システム最高責任者),情報システム責任者に取材した結果では,情報システム整備に最先端の技術が必要だった例は,わずか3社でした.ブームに踊らされることなく,落ち着いて技術,製品選択をしている賢明な判断がみてとれます..権限の最適再配分,指揮命令系統の見直しこれらはとくに重要です.これによって業務プロセス(業務を構成する作業群とその作業順)も違ってきてしまうことは,システムを企画,設計した者は,皆さん経験しているはずです.整理整頓し,無理無駄を省く過程で障害になるのは,既得権,権限,権威をもっている層の有形無形な主張です.資格に基づくもの,経験に基づくものなどいろいろありますが,一度リセットして考える必要があります.情報システム化の歴史の長い製造業,流通業でも,当初は抵抗があり,難航しました.しかし,同業他社との熾烈な競争にさらされ,既存の延長線での改善では間に合わず,パラダイムシフトを余儀なくされ,改革の必要性に迫られ,今日に至っています.医療機関での権限の再配分や,それを踏まえた指揮命令系統の整備は,対象が人間であり,QOL(qualityoflife),QOV(qualityofvision)に直接関係する業種であることから,単純に他業種と比較するのはむずかしい面があります.しかし,経営を支援する全業務対象の統合情報システム整備には,聖域なき改革が必要であることを理解しなければなりません.聖域とされているなかに,無理無駄がたくさん隠れている場合があるからです..プロジェクトリーダ一般的に規模の大きなERPを開発するプロジェクトを取り仕切るリーダの資質は,成功要因の一つです.リーダシップに名を借りた独断専横なリーダ,逆に安易に決断し,安易に変更する朝令暮改的リーダはいけません.決断できない優柔不断なリーダでは,ERPどころか単発のシステムも作れません.知識・経験が不足し,人望もないリーダの指揮下では優れたシステムの企画,開発,運用,効果の享受は望むべくもありません.プロジェクトリーダにふさわしい人材をみつけることは,ERP開発,導入を成功させる大きなポイントといえるでしょう.☆☆☆1724あたらしい眼科Vol.30,No.12,2013(76)

タブレット型PCの眼科領域での応用 19.人をつなぐデジタルコミュニケーションツール

2013年12月31日 火曜日

シリーズ⑲シリーズ⑲タブレット型PCの眼科領域での応用三宅琢(TakuMiyake)永田眼科クリニック第19章人をつなぐデジタルコミュニケーションツール■想いをつなぐコミュニケーションツールとしての意義第19章で取り上げる端末は,私が代表を務めるGiftHandsの活動や外来業務で扱っているタブレット型PC“iPadRetina”ディスプレイモデルと“iPadmini”“iPhone5s”(いずれも米国AppleInc)のiOSバージョン7.0.3です.この章ではタブレット型PCやスマートフォンの視覚障害者と視覚障害者の家族との間におけるデジタルコミュ二ケーションツールとしての活用法とその意義について,視覚障害者の声とともに紹介していきます.■家族間のコミュケーションツールとしての活用法タブレット型PCやスマートフォンの登場とその普及に伴い,人々のコミュケーションの形は大きく変化しつつあります.社会的ネットワークをインターネット上で構築するサービスであるソーシャル・ネットワークキングシステムの普及もあり,写真や動画を用いたインターネット上での情報共有という行為は,現代人のコミュニケーションツールとして確立されつつあります.また,タブレット型PCやスマートフォンに音声によるテキスト入力システムやテキストデータの音声読み上げシステムが標準的に搭載されるようになったことは,視覚障害者がスマートフォンやタブレット型PCを利用するうえでとても重要な要素であります.しかし,現状の音声入力・読み上げシステムには,漢字の変換ミスや音読み訓読みの誤りなど改善すべき問題が残されているのも事実です.そんななか,最近ではより機能を特化することでシンプルになったアプリケーションソフトウェア(以下アプ(73)0910-1810/13/\100/頁/JCOPYリ)が多数登場してきて,視覚障害者を取り巻くソフトウェア環境は大きく変化しつつあります.以下に,実際に私の外来に通う視覚障害者が利用しているコミュケーションアプリの活用法とその意義について紹介していきます.①音声メール,音声付き画像メッセージの活用音声データで直接相手とやりとりのできる音声メールのアプリや,静止画像に音声データをつけて相手に送ることができるアプリなどを利用する患者の声はつぎのようなものです.「音声メールのほうが家族の声も聞けるし,メッセージを送るときも受けるときも,文字を目で確認する必要がないので,とても便利です.」「送られてくる写真を拡大して見ることができるし,音声での説明や雰囲気も伝わってくるから,とても嬉しいです.」簡単なメッセージを送る際のテキスト化という行程を排除することで,より自然な意志の疎通が可能となり,画像に音声の説明が補助データとして付加されることで,視覚障害者にとって受け取った情報へのアクセス性と理解度は大きく向上すると考えられます(図1).②手書きメール,手書き文字認識アプリの利用手書きの文字をテキストデータに変化させることが可能なアプリや,手書きの文字をそのまま画像データとして送ることのできるアプリを利用する視覚障害者もいます.これらのアプリは,キーボードによるテキスト入力が困難な視覚障害者にはとても便利です(図2).タッチパネル式の端末の操作における最大の難所でああたらしい眼科Vol.30,No.12,20131721 図1画面下部の大きなアイコンを押して音声を入力し,音声メールとして相手に送信することが可能(HeyTell:開発元Voxilate)るテキスト入力に,手書き入力を用いることで,文字入力に関するハードルは大きく低下します.これらの情報端末を用いて情報発信を望む視覚障害者は非常に多く,これまで最大の問題点であった文字入力を,外付けのキーボードなどを用いずに,単一の端末上で完結することができます.このことは持ち運ぶ必要のあるエイドの軽減にもつながり,これらのデバイスが実際に使い続けられるエイドとなるうえでとても重要です.③インターネットテレビ通話アプリFaceTime(AppleInc.)やSkype(MicrosoftCorp.)に代表されるインターネットテレビ通話の普及は視覚障害にとっても大きな変化の一つです.スマートフォンとタブレット型PCとの間では,携帯電話回線を利用してインターネットテレビ通話を利用することが可能です.通話頻度の高い連絡先をショートカットアイコンとしてホーム画面に作成することが可能なアプリなどを利用する視覚障害者の言葉はつぎのようなものでした.「道に迷ったらすぐに家族や友人にテレビ通話をして,道案内をしてもらっています.困ったときにテレビ通話ができる友人が,まるでポケットの中にいてくれるよう図2下段の枠内にフリーハンドで記載した文字が,リアルタイムにテキストデータへと変化するアプリ(7notesforiPad:開発元7KnowleCorporation)で,とても安心です.」デジタル端末によるロービジョンケアにおいてもっとも大切なことは,人とのつながりの構築であると私は考えます.■患者間のコミュニケーションツールとしてのデジタルデバイス導入の意義テキストを介さない音声による意志疎通や,端末のカメラが介助してくれる友人の目として機能する時代,視覚障害者が情報障害者とならないために大切なことは,各個人に合った不便さを感じることのないコミュケーション法の確立にあると私は考えます.デジタルデバイスをとおして,人と人とが障害を超えてつながることで,初めてデジタルデバイスは本当の意味でのデジタルロービジョンエイドとして機能しはじめると私は信じています.本文の内容や各種セミナーの詳細に関する質問などはGiftHandsのホームページ「問い合わせのページ」よりいつでも受けつけていますので,お気軽に連絡ください.GiftHands:http://www.gifthands.jp/1722あたらしい眼科Vol.30,No.12,2013(74)

硝子体手術のワンポイントアドバイス 127.糖尿病合併ぶどう膜炎に対する硝子体手術(中級編)

2013年12月31日 火曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載127127糖尿病合併ぶどう膜炎に対する硝子体手術(中級編)池田恒彦大阪医科大学眼科●はじめにぶどう膜炎治療は薬物療法が基本となるが,硝子体混濁,続発黄斑上膜,牽引性網膜.離などの併発例では,硝子体手術を施行することがある.本疾患についてはおおむね良好な治療成績の報告が多いが,術後に高度の炎症が生じて,種々の合併症を惹起する難治例に遭遇することがある.このような症例では,全身的に糖尿病を有していることがある1).●症例69歳,女性.両眼ともぶどう膜炎に起因する硝子体腔混濁と糖尿病網膜症による眼底出血を認めた(図1).蛍光眼底検査(FA)では一部網膜無灌流域に加えて,著明な血管透過性亢進を認めた(図2).全身的にコントロ.ル不良の糖尿病があったため,血糖値に注意しながらステロイド内服加療を行うも,硝子体混濁の増強,続発黄斑上膜が生じてきたため,硝子体手術を施行した.術後,眼内炎症が遷延して高度の続発黄斑上膜を生じた(図3)ため,再手術を施行した.その後,眼底の状態は落ち着いたが,矯正視力は0.02に留まった.左眼も同様に硝子体混濁と続発黄斑上膜をきたし,硝子体手術を施行した.術後の消炎目的でシリコーンオイルタンポナーデを併施した.しかし,シリコーンオイル抜去後も炎症が遷延し,矯正視力は(0.1)に留まった.●糖尿病合併ぶどう膜炎の特徴ぶどう膜炎を合併すると糖尿病網膜症が重症化しやすいとする報告は過去に散見される.Knolらは,片眼にトキソプラズマ網脈絡膜症,急性網膜壊死の既往のある糖尿病患者の2例で,健眼は経過中,糖尿病網膜症を認めなかったか軽症であったにもかかわらず,患眼は糖尿病網膜症が急激に進行したと述べている2).また,Devらは,糖尿病を合併した内眼炎患者6眼中4眼で糖尿病(71)0910-1810/13/\100/頁/JCOPY図1術前の右眼眼底写真硝子体混濁,続発性黄斑上膜を認める.図2術前の右眼フルオレセイン蛍光眼底写真限局性の網膜無灌流域に加えて,網膜血管からの蛍光漏出を認める.図3初回硝子体手術後の眼底写真炎症が遷延し,著明な続発性黄斑上膜が形成された.網膜症の急激な進行を認めたと述べている3).これらのことから,糖尿病患者に内眼炎が生じると炎症が重症化しやすい可能性がある.これは糖尿病細小血管障害が,ぶどう膜炎の増悪に関与している可能性を示唆している.糖尿病合併ぶどう膜炎に対して硝子体手術を施行する場合には上記のことを念頭に置き,術後の消炎に留意する必要がある.文献1)鈴木浩之,南政宏,土師正也ほか:硝子体手術を施行した糖尿病合併重症ぶどう膜炎の2例.眼紀58:622-626,20072)KnolJA,vanKooijB,deValkHWetal:Rapidprogressionofdiabeticretinopathyineyeswithposterioruveitis.AmJOphthalmol141:409-412,20063)DevS,PulidoJS,TesselerHHetal:Progressionofdiabeticretinopathyafterendophthalmitis.Ophthalmology106:774-781,1999あたらしい眼科Vol.30,No.12,20131719

眼科医のための先端医療 156.OCTによる硝子体画像診断の進歩-これからの診断と治療-

2013年12月31日 火曜日

cpcp監修=坂本泰二◆シリーズ第156回◆眼科医のための先端医療山下英俊OCTによる硝子体画像診断の進歩―これからの診断と治療―板倉宏高(前橋赤十字病院眼科/群馬大学医学部眼科学教室)硝子体注射による硝子体融解療法最近,黄斑円孔などの網膜硝子体界面疾患への新しい治療法として,酵素的硝子体融解薬の硝子体注射が行われはじめています1).これは,不完全に.離した後部硝子体皮質と網膜との癒着を薬剤で融解し,硝子体の牽引を解除するという治療法です.硝子体は透明であるため,細隙灯顕微鏡のみで網膜との関係を観察するのは困難であり,硝子体注射の適応判断には光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)が欠かせません2).最近ではスペクトラルドメインOCT(SD-OCT),さらにはスウェプトソースOCT(SS-OCT)の登場で硝子体のより精密な観察が可能になりました.後部硝子体皮質前ポケットの観察ヒトの目の硝子体には,黄斑前に生理的な液化腔があります.岸らは,剖検眼でこれを観察し,「後部硝子体皮質前ポケット」と定義しました3).ポケット後壁をなす皮質は,黄斑部でさまざまな疾患に関与します.硝子体手術にトリアムシノロン染色が導入されると,生体眼右眼cp図1スウェプトソースOCTによる後部硝子体皮質前ポケットの観察30歳,男性.Cloquet管(c),後部硝子体皮質前ポケット(p)との間には隔壁があり,隔壁の前方には両者を連絡する通路(白矢印)が存在する.ポケット後壁(黄矢印)は網膜から.離しておらず,stage0(noPVD)の状態.でもポケットが可視化され4),SD-OCTやSS-OCTの登場で,正常眼でもポケット断面が描出可能となりました5).SS-OCTで観察するとポケットは扁平な舟形で,視神経乳頭から前方に伸びるCloquet管とポケットとの間には連絡通路があります(図1).房水がCloquet管を介してポケットへ流入する経路が存在するとしたら,白内障手術後などに前房中の炎症が黄斑部に影響する機序や,その治療に用いる非ステロイド性抗炎症薬(nonsteroidalanti-inflammatorydrug:NSAID)などの点眼薬が眼内移行後に黄斑に到達する経路にも関与するかもしれません.左眼cp図2スウェプトソースOCTによる黄斑円孔の観察54歳,女性.Cloquet管(c),後部硝子体皮質前ポケット(p)および両者を連絡する通路(白矢印).ポケット後壁(黄矢印)は,右眼では中心窩で接着し黄斑円孔を生じているが,左眼では中心窩から自然に.離した.矯正視力は,右眼=0.04×.7.5D,左眼=1.2×.7D.1716あたらしい眼科Vol.30,No.12,2013(00)(68)0910-1810/13/\100/頁/JCOPY 後部硝子体.離のステージ分類後部硝子体.離のステージ分類硝子体の画像診断は後部硝子体.離(posteriorvitreousdetachment:PVD)の診断にも有用です.ポケット後壁は加齢とともに黄斑周囲で厚みを増し,徐々に.離します(stage1:paramacularPVD).やがて傍中心窩PVD(stage2:perifovealPVD)となり,さらにポケットごと中心窩から離れ(stage3:vitreofovealseparation),最後に視神経乳頭から.離して完全PVD(stage4:completePVD)となります6).stage1~3のいわゆる部分PVDから完全PVDへの進展は50~60歳代にピークを迎え,黄斑円孔や裂孔原性網膜.離の好発年齢と一致します.また,stage3PVDの約3割でポケット後壁の中央に欠損があり,網膜上に皮質が残存している可能性があります.新たな治療の可能性Spaideらは,黄斑円孔の僚眼をOCTで観察し,ポケットの後壁と中心窩との接着面積が少ないほど,中心窩を挙上させる力が強く,黄斑円孔のリスクが高まると報告しています7).このようなリスクがある状態を,OCTによって黄斑円孔を生じる前段階で検出し,治療することで疾患の発症を予防できるようになるかもしれません.一方で,硝子体の牽引が自然に解除されることもあり(図2),どのタイミングで治療に踏み切るかの判断は,現時点では容易ではありません.網膜硝子体界面疾患の病態解明について,さらなる研究が期待されます.文献1)StalmansP,BenzMS,GandorferAetal(MIVI-TRUSTStudyGroup):Enzymaticvitreolysiswithocriplasminforvitreomaculartractionandmacularholes.NEnglJMed367:606-615,20122)StalmansP,DukerJS,KaiserPKetal:OCT-basedinterpretationofthevitreomacularinterfaceandindicationsforpharmacologicvitreolysis.Retina2013Jul22[EPUBaheadofprint]3)KishiS,ShimizuK:Posteriorprecorticalvitreouspocket.ArchOphthalmol108:979-982,19904)DoiN,UemuraA,NakaoKetal:Vitreomacularadhesionandthedefectinposteriorvitreouscortexvisualizedbytriamcinolone-assistedvitrectomy.Retina25:742-745,20055)ItakuraH,KishiS,LiDetal:Observationofposteriorprecorticalvitreouspocketusingswept-sourceopticalcoherencetomography.InvestOphthalmolVisSci54:3102-3107,20136)ItakuraH,KishiS:Evolutionofvitreomaculardetachmentinhealthysubjects.JAMAOphthalmol131:13481352,20137)SpaideRF,WongD,FisherYetal:Correlationofvitreousattachmentandfovealdeformationinearlymacularholestates.AmJOphthalmol133:226-229,2002■「OCTによる硝子体画像診断の進歩―これからの診断と治療―」を読んで■面白うてやがて厳しき眼科学「面白うてやがて哀しき鵜舟かな」というのは,有部に膜が形成されるかは不明でした.その解明の糸口名な芭蕉の句です.多くの研究者を巻き込んで侃侃諤を提供したのが,群馬大学の岸教授が提唱された硝子諤の論議をされていた黄斑疾患のメカニズムが,体ポケット説です.後部硝子体.離後に,硝子体ポOCTの出現により一気に解明され,ある種の静寂がケットの後壁が黄斑前に残れば,そこが細胞増殖の足訪れている現状は,芭蕉の句に似ています.場になるので,黄斑前膜の形成過程をうまく説明できOCT出現以前から,黄斑部に膜様病変がしばしばます.卓見であり多くの賛同者を得ましたが,それで出現することが知られていました.この疾患には,セも反論や異論が出され続けました.最終的に,その答ロファン黄斑症という,なんともロマンチックな名前えはOCTにより得られ,硝子体ポケット説の正しさが付けられていましたが,その原因や病態は不明でしが証明されたのはご存知のとおりです.OCTがないた.当時の研究者は,網膜からグリア細胞が出てきて時代に,論争が繰り広げられたのは先述のとおりです増殖するという説,硝子体細胞が増殖するという説,が,それぞれの説は,当時の最新の知識と最良の思考網膜色素上皮細胞が増殖するという説などを唱え,学によるものでした.ところが,OCTが出現するだけ会や学会誌上で真剣な論争が行われていました.それで,どの説が正しいかが決定されてしまったのです.ぞれの説には相応の説得力がありましたが,なぜ黄斑とても明快ではありますが,誤った説を唱えた当事者(69)あたらしい眼科Vol.30,No.12,20131717 にとっては残酷で厳しいものになりました.起こすでしょう.ただし,眼科学はそのようにして進OCTの出現により,黄斑病変の理解が一段高いレ歩してきたことを考えると,これは健全なことであベルに上りました.そして,本文で紹介されているより,次の飛躍への助走にほかならないといえます.うに,スウェプトソースOCTによる黄斑界面の詳細鹿児島大学眼科坂本泰二な観察結果とその解釈については,新しい論争を引き☆☆☆1718あたらしい眼科Vol.30,No.12,2013(70)

新しい治療と検査シリーズ 212.新しい抗VEGF剤-アイリーア®

2013年12月31日 火曜日

新しい治療と検査シリーズ212.新しい抗VEGF剤―アイリーアRプレゼンテーション:安川力名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学コメント:岡田アナベルあやめ杏林大学医学部眼科学教室.バックグラウンド滲出性加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD)に対する主な治療法は抗血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)薬の硝子体内注射と光線力学的療法である.ペガプタニブ(マクジェンR),ラニビズマブ(ルセンティスR),ベバシズマブ(アバスチンR)(適用外)の使用経験が4年以上になり,抗VEGF療法の問題点も浮き彫りになってきた.導入期の治療が有効で再発も少ない症例も多い一方,再発を繰り返す症例や,治療に抵抗する漿液性網膜.離や色素上皮.離を主病態とする症例を経験する.このような症例の長期的な視力維持はむずかしく,医師と患者の負担も大きい.そのなかで,アフリベルセプト(アイリーアR)が認可され,従来の薬剤よりも強い効果と注ペガプタニブ(マクジェン.)ラニビズマブ(ルセンティス.)ペパシズマブ(アバスチン.)第3ドメインVEGF-AVEGF-BPIGF第2ドメインアフリベルセプト(アイリーア.)射回数を減らすことができる可能性があり,期待される..新薬の効果アフリベルセプトはVEGF-A,Bおよび胎盤増殖因子(placentalgrowthfactor:PlGF)に親和性の高いVEGF受容体(VEGFR)-1の第2ドメインとVEGF-Aに親和性の高いVEGFR-2の第3ドメインをヒトIgG1のFcドメインに融合させた分子量約115,000の可溶化受容体合成蛋白である(図1)1).ラニビズマブ,ベバシズマブがVEGF-Aの全アイソフォーム,ペガプタニブがVEGF-A165に結合してVEGF-Aの作用を阻害するのに対し,アフリベルセプトはVEGF-Aの全アイソフォームに加え,VEGF-BとPlGFに結合する.抗体製剤であるラニビズマブよりVEGF-Aと数十倍以上の親図1アフリベルセプト(アイリーアR)の構造VEGF受容体であるVEGFR-1の第2ドメインとVEGFR-2の第3ドメインを抗体のFcドメインに結合させた可溶化受容体製剤で,従来の抗VEGF薬がVEGF-Aに結合するのに対し,アフリベルセプトはVEGF-A,VEGF-B,PlGFに結合する.VEGER-1VEGER-2(血管内皮・単球など)(血管内皮など)(65)あたらしい眼科Vol.30,No.12,201317130910-1810/13/\100/頁/JCOPY 0123456789101112導入期PRN毎月投与推奨)計画的(proactive)投与:再発時(reactive)投与:OCT所見によらない計画的投与OCTにて滲出あり投与OCTにて滲出なく経過観察123456789101112導入期PRN毎月投与推奨)計画的(proactive)投与:再発時(reactive)投与:OCT所見によらない計画的投与OCTにて滲出あり投与OCTにて滲出なく経過観察表1抗VEGF薬の比較一般名商品名ペガプタニブマクジェンRラニビズマブルセンティスRベバシズマブアバスチンRアフリベルセプトアイリーアR製剤のタイプ分子量眼内半減期VEGFとの親和性PlGFとの親和性規定の最小投与間隔薬価(円)3段階以上の視力改善率滲出抑制効果長所核酸(アプタマー)50,000約6日+(VEGF-A165のみ).6週間123,4575~15%弱い安全性高いプレフィルドシリンジ抗体断片48,000約3日+++(VEGF-A).4週間176,23530~40%強い血中半減期短い(比較的安全?)抗体149,000約4~6日++(VEGF-A).4~6週間45,563(80人分相当)30~40%やや強い安価(適用外)受容体合成蛋白115,000約4~5日++++(VEGF-A,B)++4~8週間159,28930~40%さらに強い他剤無効例にときに有効隔月投与でも有効?ルセンティスRより安価バイアルの液量多め導入期ありの場合図2VIEW試験の投与方法と従来のPRN計画的(proactive)投与は予防的投与である反面,過剰投与の可能性もある.一方,再発時(reactive)投与は定期的なOCT検査と適切な追加投与が視力維持に重要である.VIEW試験1年目導入期+隔月投与(アイリーアRVIEW試験2年目PRN+最低2カ月ごと投与(再発なし)PRN+最低2カ月ごと投与(再発あり)従来からの通常の使用方法(例)和性を有する.しかも,分子量がペガプタニブやラニビズマブより大きく眼内滞留期間が長く,ベバシズマブよりは小さく網膜を通過しやすいように製剤設計されている(表1).VEGF-BとPlGFは単球などに発現するVEGFR-1と結合することによる直接的効果のほか,血管内皮細胞においてVEGFR-1,2両方に親和性のあるVEGF-AのVEGFR-2への結合を優位にすることによる間接的効果で,血管新生や炎症を誘導するようである.したがって,VEGF-Aに加え,VEGF-B,PlGFを阻害するアフリベルセプトはより強力な抗炎症,抗血管1714あたらしい眼科Vol.30,No.12,2013新生作用を発揮しうる..使用方法世界中で実施された臨床試験であるVIEW1,VIEW2試験でラニビズマブに対する非劣性が示された1).1年目は,①アフリベルセプト(0.5mg)を4週ごと,②アフリベルセプト(2.0mg)を4週ごと,③アフリベルセプト(2.0mg)を最初の3回毎月投与の後,8週ごと,または,④ラニビズマブ(0.5mg)を4週ごとに硝子体内注射を行う4群に無作為に割付し,2年目は,全治療(66) 群とも,毎月の検査をもとに,滲出が残存している場合や再発時に必要時(prorenata:PRN)投与を行うことに加え,滲出を認めなくても前回の投与から3カ月目には予防的に投与を行うことと設定された(図2).視力の改善・維持は1年目,2年目とも全群,差はなかった1).アフリベルセプト(2.0mg)の導入期後に8週ごとの投与でも同等の治療効果が得られ,2年目の最投与基準でも,2.0mg投与群で,ラニビズマブ群より投与回数が少なく,約半数の症例で3カ月ごとの投与を要したのみであった.このような背景から,添付文書上の使用方法は,「アフリベルセプトとして2mgを1カ月ごとに1回,連続3回(導入期)硝子体内投与する.その後の維持期においては,2カ月ごとに1回,硝子体内投与する.なお,症状により投与間隔を適宜調節する.」と設定された(図2)..本薬剤の良い点日本より早く認可された米国より,従来の治療で滲出性変化が遷延する症例や頻回再発症例に対するアフリベルセプトへの切り替えの有効性が報告されてきている.切り替えにより,滲出性変化は高率で消失し,投与間隔も延長できそうである(表1)2~4).また,網膜色素上皮.離に対する有効性が報告されている2).国内でも,発売されまだ1年に満たないが同様な効果が経験されている.自検例でも複数回のラニビズマブ投与でも遷延していたポリープ状脈絡膜血管症の漿液性網膜.離が消失したり,色素上皮.離の平坦化が得られたりした.また,頻回再発例でも再発の間隔がルセンティスR投与時より延長する症例を認めた.アフリベルセプトのほうが強い作用を有する理由として,VEGF-B,PlGFの阻害作用によるか,VEGF-Aへの高い親和性と眼内での滞留性に優れる点が考えられる.文献1)HeierJS,BrownDM,ChongVetal(VIEW1andVIEW2StudyGroups):Intravitrealaflibercept(VEGFtrapeye)inwetage-relatedmaculardegeneration.Ophthalmology119:2537-2548,20122)KumarN,MarsigliaM,MrejenSetal:Visualandanatomicaloutcomesofintravitrealafliberceptineyeswithpersistentsubfovealfluiddespiteprevioustreatmentswithranibizumabinpatientswithneovascularage-relatedmaculardegeneration.Retina33:1605-1612,20133)YonekawaY,AndreoliC,MillerJBetal:Conversiontoafliberceptforchronicrefractoryorrecurrentneovascularage-relatedmaculardegeneration.AmJOphthalmol156:29-35,20134)ChoH,ShahCP,WeberMetal:AfliberceptforexudativeAMDwithpersistentfluidonranibizumaband/orbevacizumab.BrJOphthalmol97:1032-1035,2013.本治療薬に対するコメント.アフリベルセプトは,滲出型加齢黄斑変性(AMD)プトで推奨されている維持期の治療法は2カ月おきにに認可された3つ目の硝子体内注射薬剤であり,投与することである.このようなproactive治療法でAMD治療の選択肢が増えたことは大変喜ばしい.とは,必ず何割かの眼には過剰治療となる.この必要なくに,眼内半減期が少し長いとされているアフリベルい治療の分,当然,硝子体内注射のリスク,経済負セプトは,滲出変化が頻繁に再発する患者には,維持担,血管内皮増殖因子(VEGF)や胎盤増殖因子期中に必要とする投与回数が減少することを期待でき(PlGF)の抑制による眼および全身における影響が懸る.さらに,日本人AMDに多い病態であるポリープ念される.また,維持期の治療はいつまで継続する必状脈絡膜血管症(PCV)には網膜色素上皮.離(PED)要があるかはわかっていない.さらに,アフリベルセが合併していることがあり,アフリベルセプトの投与プト維持期の2カ月おき投与は,滲出変化を完全に抑により,他の薬剤でみられなかったPEDの軽減が経制するには不十分な症例もある.その場合,投与の間験されている.したがって,認可されてからまだ長く隔を短縮することを検討する.ないが,アフリベルセプトの短期成績は良いとはいえ以上のprosandconsを含めて,日本のAMD治療るでしょう.におけるアフリベルセプトの位置づけを評価する必要しかし,どの薬剤でもprosandconsがある.先ほがある.どはprosであったが,consとしては,アフリベルセ(67)あたらしい眼科Vol.30,No.12,20131715

私の緑内障薬チョイス 7.コソプト®の利便性

2013年12月31日 火曜日

連載⑦私の緑内障薬チョイス企画・監修山本哲也連載⑦私の緑内障薬チョイス企画・監修山本哲也7.コソプトRの利便性廣岡一行香川大学医学部眼科学教室コソプトRは,プロスタグランジン関連薬単剤と同等の眼圧下降を有するので,プロスタグランジン関連薬が使えない症例での代替薬として選択できる.また,プロスタグランジン関連薬,b遮断薬,炭酸脱水酵素阻害薬を含む多剤併用療法の患者では,コソプトRを処方した場合にもっとも適したプロスタグランジン関連薬を選択できる.45コソプトRのメリット4035**2010年にわが国でも緑内障治療において配合剤(ザラカムR,デュオトラバR,コソプトR)が処方できるようになった.コソプトRはチモロールとドルゾラミドの眼圧(mmHg)30252015配合剤であり,チモロールとドルゾラミドを処方した場合,点眼回数は5回/日になるが,コソプトRではわずか2回/日ですむ(表1).コソプトRの眼圧下降効果は2剤併用療法と比べ,同等あるいはそれ以上の眼圧下降効果が得られると報告されている1,2).薬理学的に考えると両者の効果は同等と思われるが,コソプトRのほうが眼圧下降効果に優れているとする報告では,配合剤により点眼回数が減少したために,アドヒアランス向上が結果に関与しているものと思われる.pHは5.5.5.8と酸性であるため眼刺激感は若干あるものの(表1),処方時にあらかじめ説明をしておくと患者も不安なく点眼を継続することができる.プロスタグランジン関連薬,b遮断薬,炭酸脱水酵素阻害薬を含む多剤併用療法を行っている患者で,プロスタグランジン関連薬とb遮断薬の配合剤(ザラカムR,デュオトラバR)に切り替えた場合には,炭酸脱水酵素阻害薬は2種類(ブリンゾラミド,ドルゾラミド)あるため,組み合わせ方は2×2=4種類である.一方,プロスタグランジン関連薬は4種類(ラタノプロスト,トラボプロスト,タフルプロスト,ビマトプロスト)あるため,コソプトRを処方した場合の組み合わせ方も同様に表1チモロール,ドルゾラミド,コソプトRの比較105001カ月2カ月*p<0.01図1無治療時の眼圧が30mmHg以上の患者のコソプト処方前後での眼圧(文献3より)4種類である.しかし,プロスタグランジン関連薬の眼圧下降効果は,同一眼でも種類によりその効果が異なることが知られており,コソプトRを処方した場合は,その患者にもっとも適したプロスタグランジン関連薬を選択できるというメリットがある.どのような症例に処方しているか片眼のみ眼圧は高いが(30.40mmHg),炎症所見はなく,隅角はきれいであり,偽落屑物質も認めず,なぜ片眼だけこんなに眼圧が高いのだろうかと考えさせられる症例にときどき遭遇することがある.このような症例では最初にプロスタグランジン関連薬を使うのは何となく気味が悪く,b遮断薬あるいは炭酸脱水酵素阻害薬単剤では眼圧が十分に下がるとは思えないので,最初からコソプトRを処方している(図1).また,女性で片眼のみ眼圧下降の必要性がある場合点眼回数/日pHチモロールドルゾラミドコソプトR2326.5.7.55.5.5.95.5.5.8本欄の記載内容は,執筆者の個人的見解であり,関連する企業とは一切関係ありません(編集部).(61)あたらしい眼科Vol.30,No.12,201317090910-1810/13/\100/頁/JCOPY 352.1円/ml289.1円/ml668.0円/ml642.2円/ml図21mlあたりの薬価の比較に,プロスタグランジン関連薬ではどうしても片眼のみの睫毛伸長や虹彩色素沈着などの副作用の問題で敬遠されがちである.このような症例では,まずb遮断薬を処方しているが,眼圧下降効果が不十分な場合にはコソプトRに切り替えている.そうすることにより,点眼回数が増えることなく,炭酸脱水酵素阻害薬の追加によるさらなる眼圧下降が得られる.配合剤ならではの質問配合剤に切り替えるときに患者からときどき質問されることがある.たとえば,現在プロスタグランジン関連薬とb遮断薬,炭酸脱水酵素阻害薬を使用している患者に配合剤の話をすると,配合剤と単剤2剤とでは金額的に違うのかと尋ねられることがある.現在の薬価(2012年4月改訂)ではチモロールとドルゾラミドの合計金額よりコソプトRのほうが若干高くはなっているが(図2),ドルゾラミドは3回/日であり消費量が多くな●ることから,ほぼ同程度と考えてよい.チモロールが含まれているためb遮断薬が使えない症例では,当然コソプトRも使えないが,そうでない症例ではぜひ試していただき,コソプトRの利便性を実感していただきたい.文献1)StrohmaierK,SnyderE,DuBinerHetal:Theefficacyandsafetyofthedorzolamide-timololcombinationversustheconcomitantadministrationofitscomponents.Ophthalmology105:1936-1944,19982)FrancisBA,DuLT,BerkeSetal:Comparingthefixedcombinationdorzolamide-timolol(Cosopt)toconcomitantadministrationof2%dorzolamide(Trusopt)and0.5%timolol:arandomizedcontrolledtrialandareplacementstudy.JClinPharmTher29:375-380,20043)HendererJD,WilsonRP,MosterMRetal:Timolol/dorzolamidecombinationtherapyasinitialtreatmentforintraocularpressureover30mmHg.JGlaucoma14:267-270,20051710あたらしい眼科Vol.30,No.12,2013(62)

緑内障:Topcon 3D OCT-2000

2013年12月31日 火曜日

●連載162緑内障セミナー監修=岩田和雄山本哲也162.Topcon3DOCT.2000齋藤瞳公立学校共済組合関東中央病院眼科トプコン社の3DOCT-2000の使用経験からその特徴をあげると以下のようになる.1)眼底写真を同時撮影できる,2)黄斑部のパラメータの上下の差分を表示しており,初期緑内障眼における局所的変化をとらえやすくしている,3)日本人のデータベースが入っている,4)新たに進行解析プログラムが搭載されていることなどがあげられる.●3DOCT.2000の緑内障用撮影モード3DOCT-2000(図1)には緑内障解析用の撮影モードとして,視神経乳頭周囲の網膜神経線維層厚(retinalnervefiberlayerthickness:RNFLT)や,視神経乳頭形状を測定するためのdisc3Dモードと,黄斑部の網膜内層厚を測定するためのmacula(V)モードの2つが搭載されている.Disc3Dモード(図2)では,視神経乳頭周囲を6mm×6mmの3Dscanで撮影する.乳頭中心から直径3.4mmの円周上のRNFLTを求め,それをTSNITgraphや分割プロットに表示する.OCTの器械内には正常人データベースが搭載されており,年齢と性別に合わせた正常眼データと比較し測定値の異常確率をカラーマップで表示している.さらに,SD-OCTでは,短時間で大量の情報を取得・解析できるため,3Dscanした全範囲における各測定点の異常確率をsignificancemapの形で表示し,nervefiberlayerdefectの存在範囲を可視化することができる.また,乳頭面積やrim,cupパラメータなどの視神経乳頭の立体形状を計測することも可能である.Macula(V)モード(図3)では,緑内障性変化が出現する黄斑部の網膜内層厚を測定している.黄斑部RNFLT,網膜神経節細胞(ganglioncelllayer:GCL)厚,内網状層(innerplexiformlayer:IPL)厚などが測定される.本来緑内障変化を鋭敏にとらえているのはRNFLとGCL厚と思われるが,GCLは画像の精度により必ずしも分層できないことが多いため,IPLとの複合層(3DOCT-2000ではGCL+と名付けている)もしくはmRNFL,GCL,IPLの3層の複合層(一般的にganglioncellcomplexと呼ばれているが,3DOCT-2000(57)0910-1810/13/\100/頁/JCOPY図1トプコン3DOCT.2000の外観ではGCL++と名付けている)を代替的に用いている.また,通常の網膜疾患の観察に用いられる黄斑部の撮影では横向きのA-scanを行うが,初期緑内障は上下のいずれかの半網膜に異常が始まるため,緑内障用の黄斑部撮影はあえて縦向き(vertical)のA-scanを行っている.●3DOCT.2000の特徴3DOCT-2000の乳頭周囲RNFLTおよび黄斑部パラメータの再現性は良好と報告されている1).また平均MD値.2.5dBの初期緑内障における乳頭周囲の緑内障感度・特異度は90%を超えるとの報告もあり2),その緑内障診断能は高く評価されている.しかし,各社SD-OCTで網膜分層の定義が若干異なるため実測値の互換性は必ずしもなく,注意が必要である3).他社のSD-OCTと比較した際に3DOCT-2000の特徴として,1)眼底写真を同時撮影できるため,眼底と網膜断層図の所見部位を正確に合わせることが可能である,2)黄斑部のパラメータでは,厚みの実測値,正常あたらしい眼科Vol.30,No.12,20131705 実測値のカラーマップ正常データベースとの比較上下の差分のカラーマップ*実測値のカラーマップ正常データベースとの比較上下の差分のカラーマップ*視神経乳頭形状解析Significancemap分割プロットTSNITgraphとの比較以外に上下の差分を表示しており,初期緑内障眼における局所的変化をとらえやすくしている,3)日本人のデータベースが入っている,4)新たに進行解析プログラムが搭載されていることなどがあげられる.文献1)HirasawaH,AraieM,TomidokoroAetal:Reproducibilityofthicknessmeasurementsofmacularinnerretinallay1706あたらしい眼科Vol.30,No.12,2013図2Disc(3D)の解析結果のプリントアウト左上方に同時撮影された眼底写真,撮影範囲のRNFL厚のカラーマップ,正常データベースとの比較を示したsignificancemapが表示されている.左下方には乳頭周囲直径3.4mm上のRNFL厚をTSNITgraphや4,12,36分割で示した分割plotが表示される.右には視神経乳頭形状の解析結果が表示されている.図3Macula(V)の解析結果のプリントアウト黄斑部を縦に6mm×6mmでスキャンしている.右側には上段から,実測値のカラーマップ,正常データベースとの比較を示したsignificancemap,上下の差分量のカラーマップ(差分が大きいほど青で表示)を表示している.ersusingSD-OCTwithorwithoutcorrectionofocularrotation.InvestOphthalmolVisSci54:2562-2570,20132)MayamaC,SaitoH,HirasawaHetal:Circle-andgrid-wiseanalysesofperipapillarynervefiberlayersbyspectraldomainopticalcoherencetomographyinearly-stageglaucoma.InvestOphthalmolVisSci54:4519-4526,20133)PakravanM,PakbinM,AghazadehamiriMetal:Peripapillaryretinalnervefiberlayerthicknessmeasurementby2differentspectraldomainopticalcoherencetomographymachines.EurJOphthalmol23:289-2952013(58)*差が大きいと青で表示される.

屈折矯正手術:フラップレス屈折手術SMILE

2013年12月31日 火曜日

屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─監修=木下茂●連載163大橋裕一坪田一男163.フラップレス屈折手術SMILE五十嵐章史北里大学医学部眼科学教室SMILEの初期臨床成績は良好であり,フラップを作製しないことから,従来のLASIKと比較し術後の三叉神経への侵襲は少ない新たな角膜屈折矯正手術である.はじめにLaserinsitukeratomileusis(LASIK)は,高い安全性と安定した臨床成績から,現在も屈折矯正手術の主流であるが,外傷によるフラップトラブルや遷延するドライアイなどフラップに伴う合併症は長期的にも認められている.そこで近年,フラップを作製しないsurfaceablationが見直されていたなか,新たな角膜屈折矯正手術であるsmallincisionlenticuleextraction(SMILE)が登場し,注目されている.SMILEはLASIKと異なり次世代フェムトセカンドレーザーのみを使用し,角膜実質内にレンチクルを作製し除去することによって角膜形状を変化させる手術である.LASIKのように角膜表面にフラップは作製せず,3.4mmの小切開のみを作製することから,より角膜に対する侵襲が少なく,良好なオキュラーサーフェスを獲得することが期待されている.本稿では,実際のSMILEの手術方法とその臨床成績について概説する.●手術方法①通常の内眼手術と同様に消毒を行ったのちに,ドレーピング,点眼麻酔を行う.②矯正量,レーザーの設定の確認を行う.③専用のアイコーンを瞳孔中心を目標にして角膜表面に接触させ吸引固定する.④レーザー照射を行う.⑤専用のスパーテルを用いてレンチクルの上皮側を鈍的に.離する(図1).⑥同様にレンチクルの内皮側を鈍的に.離する.⑦.離したレンチクルをセッシにて除去する(図2).⑧層間を洗浄して終了.●SMILEの臨床成績Kamiyaらの報告をもとに,当院におけるSMILE術(55)0910-1810/13/\100/頁/JCOPY後6カ月の成績を述べる1).対象は26名26眼.術前の平均年齢,等価球面度数,乱視度数はそれぞれ31.5±6.2歳,.4.21±1.63D,.0.54±0.74Dであった.a.安全性,有効性矯正視力が1段階の上昇例が8%,不変例が77%,1段階の低下を認めたものが15%,2段階以上低下した例は0%であった.裸眼視力は小数視力にて0.5以上を100%,1.0以上を96%に認めた.b.予測性(矯正精度)自覚等価球面度数が0.5D以内に100%であった.c.安定性術後1週間から6カ月の自覚等価球面度数変化は0.00±0.30Dであった.d.合併症術後1週に一過性の層間混濁を19%に認めたが,その後ステロイド点眼にて全例改善を認めている.●フラップレス手術のアドバンテージ前述のとおりSMILEにおいてLASIKともっとも異なる点は,フラップを作製しない点である.フラップレスであることは角膜への侵襲が少なくなり,術後のオキュラーサーフェスや角膜強度という点でとくにアドバンテージを得られるのではないかと期待される.一般に角膜内の三叉神経はBowman膜付近にsubbasalnerveplexusと呼ばれる密な神経叢を形成しており,角膜フラップを作製する手術では,一部ヒンジを残しほぼ全周この神経叢を障害することになる.そのためLASIK術後にはドライアイが必発し,時間経過とともに改善はするものの症状が遷延する例も存在する.SMILEでは3.4mm程度の小切開のみのため神経に対する侵襲は少なく,自験例においても術後の神経線維密度は比較的温存される傾向を認める(図3).Vestergaardらの報告によるとフラップを作製するFLEx(femtosecondlentiあたらしい眼科Vol.30,No.12,20131703 図1レンチクルの.離フェムトセカンドレーザーの切断面はミシン目状に癒着しているため,スパーテルを用いて鈍的に.離を行う.100μm100μm図3術後1カ月の神経線維(共焦点顕微鏡)術後1カ月のsubbasalnerveplexusを示す.左はFLEx術後,右はSMILE術後である.術後1カ月ではフラップ作製を行うFLExでは短い神経線維(矢印)がわずかに観察できるほどだが,SMILEでは長い神経線維(矢印)が多く観察できる.culeextraction)とSMILEのオキュラーサーフェスへの影響を比較したところ,術後6カ月においてSMILE群では有意に角膜知覚低下が少なく,神経線維数・密度ともに少ない減少だったとしている.一方でSchirmer試験やBUT検査には有意な差はなく,どの程度オキュラーサーフェスに影響を与えるかは今後中長期的に自覚症状を含め評価しなければいけないだろう2).また,角膜強度に関してもいくつか報告されている.Agcaらは,ORA(OcularResponseAnalysis,ReichetInc)を用いてSMILE群とLASIK群の生体力学特性を比較したところ,有意な差は認めなかったとしている3).Reinsteinらは,SMILE,PRK(photorefractivekeratectomy),図2レンチクルの除去レンチクルの両面の.離後,セッシを用いてレンチクルを除去する.LASIKのtensilestrengthを比較したところPRKやLASIKに比べSMILEでは有意に強度が高く,よりkeratectasiaのリスクが少ないかもしれないと報告している4).臨床的に角膜強度の測定はむずかしく客観的な評価は困難であるが,外傷に対する強度という点では明らかに優位性があり,長期的にフラップトラブルの危険性はなく格闘技やボクシングを行う患者にとっては新たな選択肢となり得るであろう.文献1)KamiyaK,ShimizuK,IgarashiAetal:Visualandrefractiveoutcomesoffemtosecondlenticuleextractionandsmall-incisionlenticuleextractionforMyopia.AmJOpthalmolEqubaheadofprint,20132)VestergaardAH,GronbechKT,GrauslundJetal:Subbasalnervemorphology,cornealsensation,andtearfilmevaluationafterrefractivefemtosecondlaserlenticuleextraction.GraefesArchClinExpOphthalmol251:25912600,20133)AgcaA,OzgurhanEB,DemirokAetal:Comparisonofcornealhysteresisandcornealresistancefactoraftersmallincisionlenticuleextractionandfemtosecondlaser-assistedLASIK:Aprospectivefelloweyestudy.ContLensAnteriorEye.Equbaheadofprint,20134)ReinsteinDZ,ArcherTJ,RandlemanJB:MathematicalmodeltocomparetherelativetensilestrengthofthecorneaafterPRK,LASIK,andsmallincisionlenticuleextraction.JRefractSurg29:454-460,20131704あたらしい眼科Vol.30,No.12,2013(56)