監修=大橋裕一連載MyboomMyboom第23回「大久保真司」本連載「Myboom」は,リレー形式で,全国の眼科医の臨床やプライベートにおけるこだわりを紹介するコーナーです.その先生の意外な側面を垣間見ることができるかも知れません.目標は,全都道府県の眼科医を紹介形式でつなげる!?です.●は掲載済を示す(●は複数回)連載MyboomMyboom第23回「大久保真司」本連載「Myboom」は,リレー形式で,全国の眼科医の臨床やプライベートにおけるこだわりを紹介するコーナーです.その先生の意外な側面を垣間見ることができるかも知れません.目標は,全都道府県の眼科医を紹介形式でつなげる!?です.●は掲載済を示す(●は複数回)自己紹介大久保真司(おおくぼ・しんじ)金沢大学医薬保健研究域医学系視覚科学私は,平成3年に島根医科大学を卒業し,同年に金沢大学眼科に入局いたしました.入局当時の河崎教授は網膜電図(ERG)が専門でしたので,大学院時代はウサギのERGの研究をおもに行い,レボフロキサシン(クラビットR)の硝子体内注射後の眼毒性と眼内クリアランスを測定し,学位をいただきました.大学院時代に所属した「眼毒性ERGグループ」では私が1番下のメンバーでしたが,私の学位研究のために先輩方に助けていただき本当にお世話になりました.眼毒性ERGグループは私の学位が最後になり,先輩方にはお世話になったご恩を返すことができませんでした.しかし,その分自分もほかの分野で後輩のお手伝いをすることで恩返しできたらと思っています.杉山教授が就任されてからは,おもに緑内障の臨床および研究と神経眼科の臨床に携わらせていただいています.パック入りケーキの中身の一つがなぜモンブランなのか?とくにこれといった趣味はなく,基本的には物事にあまりこだわりのないほうだと私自身では思っています.ただ,食べることは大好きです.そこで「食べ物」を視点に自分自身を振り返ってみると,このテーマである「執着」にあてはまることがあります.子供の頃に近所にはケーキ屋さんがなく,「ケーキ屋さんのケーキ」が食べられるのは特別の日限定でした.(79)0910-1810/13/\100/頁/JCOPYでも,「ちょっといいこと」があると,母親が近所の八百屋(のちに名前だけスーパーに変わる)で,パックに入った3個入りのケーキを買ってくれました.多分私の地元限定の話かもしれませんが,そのパックの中身が問題で,「イチゴショートケーキ」「チョコレートケーキ」ここまでは理解できたのですが,その3個目が「モンブラン」でした.子供ながら,ラーメンをのせたようなただ甘いケーキが,なぜイチゴショートケーキやチョコレートケーキと肩を並べてケーキの3本柱の1つとしてパックに入っているのかが毎回,理解できませんでした.いつの間にかそんなことも忘れていたのですが,働くようになって自らケーキを買う機会が増えてくると,なぜあの「パックに入った3個入りケーキの1個がラーメンをのせたようなケーキのモンブランなのか?」ということが,無性に気になりだしました.そこで,いつしか初めてのケーキ屋さんに行くときはモンブランがあれば必ずモンブランを買うようになっていました.そして,ついに4年前に私なりに納得できるモンブランに出会いました.そのケーキ屋さんは,季節のフルーツを使ったショートケーキが評判のお店です.栗の季節の秋にいつものように購入して,何気なく食べました.それは,40年前から続く「疑問」の答えとなるモンブランでした.栗の味が生かされていて,本当においしくて感動しました.これなら,ケーキの3本柱になりうると思い,それ以来,秋にモンブランを食べるのが楽しみになっています.臨床の疑問点から考える眼科医になった2年目のときに,外来で変な水晶体の症例に遭遇しました.アトラスを調べると「前円錐水晶体」であることがわかりました.アトラスには原因がいあたらしい眼科Vol.30,No.12,20131727〔写真1〕私のお気に入りのモンブランくつか記載されていましたが,引用してある論文を読んでいくと,前円錐水晶体はAlport症候群に特有なものであることがわかりました.患者さんは数十年前から腎障害で透析を受けており,自分のなかではAlport症候群と診断しました.しかし,内科の先生には腎臓は末期状態だから何でもありだよといわれ,内科的な診断はいただけませんでした.その患者さんが,白内障手術をすることになり,その前.を光顕で観察しましたが,普段水晶体.の病理など見慣れていなかったこと,コントロールもとっておらず,異常に気づきませんでした.自分自身,消化できない部分がありましたが,病院が変わったこともあり,しばらくこのことは忘れていました.何年か後に,Alport症候群がIV型コラーゲンの異常が原因であるという総説を偶然見つけ,また前円錐水晶体の原因が気になるようになりました.2年目に所属していた病院の部長(私の臨床の恩師の一人)に,この患者さんの反対眼の白内障手術をするときには,検体をとりに行きたいので私の研究日に手術を予約していただくようにお願いしました.それと同時に電顕をみてもらうために病理の教室を紹介していただきました.患者さんからの手術の申し出を待ちながら準備を進めていくうちに,小児科,腎臓内科領域ではIV型コラーゲンの中でも,a3,4,5のいずれかが悪く,それによって遺伝様式が異なるという論文が報告されていました.私も前.のコラーゲンの染色をしたいと思いましたが,抗体が市販されていないことが判明しました.河崎教授の許可を得て,思い切って著者に手紙を書いてみました.その小児科の先生は,実際に抗体を作っていらっしゃる先生を〔写真2〕2012年シカゴのAAOにて(緑内障研究での出会い.杉山教授ご夫妻を囲んで.杉山教授に感謝.)紹介してくださり,共同研究をさせていただけることになり,無事抗体も入手でき,手術までに十分な準備が整いました.患者さんが反対眼の手術を決意されたのは片眼の手術から5年以上たっていました.そして,術後に病理の教室に遊びに行き,免疫染色をさせてもらいました.コントロールでは前.にもa3,4,5が存在しましたが,前円錐水晶体を呈したAlport症候群の前.はa3,4,5が存在しないことが明らかになり,電顕でみると基底膜が菲薄化していることがわかりました.そして,教室の東出先生と桜井さんに遺伝子検索をしてもらい,遺伝子異常もみつかりました.というわけで,約10年越しで「Alport症候群と前円錐水晶体の疑問」を解決することができました.なぜだろう?という「疑問」が生じ,「執着心」が芽生えたとき,それを解決する過程ではたくさんの経験や出会いがあります.協力していただいた方々とその出会いに本当に感謝しています.現在は,緑内障の疑問点,とくに杉山教授のメインテーマである乳頭出血の発現機序がもっとも気になります.次回のプレゼンターは,いつお会いしても色々なことに疑問をもち,大胆な視点で物事を考えておられる鹿児島大学の山下高明先生です.よろしくお願いします.注)「Myboom」は和製英語であり,正しくは「Myobsession」と表現します.ただ,国内で広く使われているため,本誌ではこの言葉を採用しています.1728あたらしい眼科Vol.30,No.12,2013(80)