監修=大橋裕一連載MyboomMyboom第22回「内藤知子」本連載「Myboom」は,リレー形式で,全国の眼科医の臨床やプライベートにおけるこだわりを紹介するコーナーです.その先生の意外な側面を垣間見ることができるかも知れません.目標は,全都道府県の眼科医を紹介形式でつなげる!?です.●は掲載済を示す(●は複数回)連載MyboomMyboom第22回「内藤知子」本連載「Myboom」は,リレー形式で,全国の眼科医の臨床やプライベートにおけるこだわりを紹介するコーナーです.その先生の意外な側面を垣間見ることができるかも知れません.目標は,全都道府県の眼科医を紹介形式でつなげる!?です.●は掲載済を示す(●は複数回)自己紹介内藤知子(ないとう・ともこ)岡山大学大学院医歯薬総合研究科機能再生・再建科学専攻生体機能再生・再建学講座眼科学分野平成9年岡山大学卒業,平成15年より緑内障外来のチーフを任され,多くの先生方にご指導をいただきながら,なんとか10年間やってきました.未だにレクトミーをする恐さ・しない恐さ,自問自答です(一段と,というべきでしょうか…).私生活では8歳になる息子の毎朝のお弁当作りに奮闘しています.昔やっていたピアノを最近また弾き始め,ワインを飲みながら猫と戯れるのが,私のストレス解消法です.小さな屏風それはとても蒸し暑い梅雨のさなかでした.一人のご高齢の女性が紹介されました.患者さんは御年89歳,腰は大きく曲がり,移動も歩行器の助けを借りながらやっと,という風情です.問診すると,最近,急に視力低下が進行したとのこと,さらに以前より高度の難聴にも悩まされているようです.早速,診察させていただくと,両眼ともに水晶体に乳白色の混濁を認め,いわゆる成熟白内障になっていました.さらに隅角の閉塞も伴い,眼圧も上昇していました.このままでは母は,音だけでなく,光も失ってしまう…今にも泣き出しそうな心配顔で連れてこられた娘さんに,病状をご説明し,一刻も早く白内障手術を行わなければ,失明の危険があることを告げ,手術をさせていただきました.幸いにして両眼ともに無事に眼内レンズを挿入でき,術後は眼圧も正(97)0910-1810/13/\100/頁/JCOPY常化しました.そして長かった梅雨も明け,燦々と太陽光が降り注ぐある日,満面の笑みを浮かべた患者さんが外来を訪れました.「先生,手術をしてもろうてから,まるで別世界にいるようじゃ」言い終わるが早いか,とても恥ずかしそうに,小さな茶封筒を私に差し出しました.「これ,私が心をこめて書いたんじゃけど,受け取ってもらえるじゃろうか」その中に入っていたものが,この小さな屏風です(写真1).大学病院で外来診療を続けていくことは,実は正直とても辛く感じることもあります.ときには逃げ出したい気持ちにもなります.でも,たまにこんな嬉しいことがあるからこそ,続けることができるのかもしれません.今でも辛いとき,悲しいとき,そして心が折れそうなとき,医局の机の片隅の,この小さい屏風を見つめては,気持ちを整えているのです.“きっかけ”をくれた師匠たち私は現在,大学で緑内障の臨床研究を細々と続けています.大学にいるなら当たり前じゃないか,との声が聞こえてきそうですが.実はある“きっかけ”がなければ多分,今のこの状況はあり得なかったでしょう.その“きっかけ”は,6年ほど前に訪れました.近くの大学の知り合いの先生に,関東で緑内障を専門にしている先生たちを紹介していただいたのです(写真2).実は,それが今の私の師匠たちになるのです.それまでの私は,まだ専門医になって間もない頃から緑内障外来のチーフを任され,日々の外来診療と手術を無事にこなすのがやっと,という状態で,家に帰っても育児と家事に振り回され,とてもデータをまとめて学会発表をする精神的,体力的な余裕はありませんでした.しかし,師匠たちは違いました.私よりもはるかに忙しい日常業務を淡々とこなしながら,緑内障の診断や薬あたらしい眼科Vol.30,No.11,20131589写真1患者さんからいただいた小さな屏風物治療に関する臨床研究をいくつも同時に行い,その成果を毎回のように学会で発表しているのです.そして,実に楽しそうなんです.いつしか私もそんな師匠たちの姿に触発され,見よう見まねで臨床研究を行うようになっていました.これには私自身がとても驚きました.診療は相変わらず忙しいままなのに,できたのです.そうして以前は単に人の発表を聴くだけだった学会も,いつしか自らも発表できるようになっていました.そうです,師匠たちに出会うまでの私は,日常の忙しさにかまけ,研究などできっこないと勝手に思い込んでいただけだったのです.このような“きっかけ”を作っていただいた師匠たちには今でも心より感謝しています.そして,今度は私自身がそんな素敵な“きっかけ”を演出できるような人になりたいと思う今日このごろです.美味しいお店美味しいものに目がありません.とくに学会の夜,美食巡りをするのが私のマイブームです.また私自身も料理好きなので,感動した味を家で再現するのも楽しみの一つです.とてもプロのようにはいきませんが,よく似せた味の料理を肴に好きなワインを傾けるひとときは本当に癒されます.そんなお店巡りを続けるうちに,美味しいお店には,ある法則があることに気が付きました.それは美味しいお店は,決まって雰囲気がいいことです.お店の雰囲気を構成する要素は,シェフや店員さんの立ち居振る舞い,接客,椅子やテーブルなどの調度品,そして照明など,さまざまな因子があると思います.しかし私は何よりも,最大の決定要素はお店に集う1590あたらしい眼科Vol.30,No.11,2013写真2師匠たちとその仲間(今年のWorldGlaucomaCongress,バンクーバーにて)お客さんだと思います.美味しいお店には,やはり,美味しい物を愛する同好の志が集まります.その人々が本当に美味しいものに出会ったときに発する言葉と言葉,笑顔と笑顔が重なり,とても心地良いハーモニーを奏でます.当然カジュアルな店では,大きな話し声や,笑い声がお店中に響き渡ります.でも決してそれらが騒々しい雑音ではなく,とても心地よいBGMになるのです.そんなお店で食事をすることは,お料理がさらに美味しく感じられ,何より,元気をもらうことができて,とても好きです.小さな屏風,“きっかけ”をくれた師匠たち,そして,美味しいお店,これらのマイブームは一見脈絡がないようです.しかし,どれも人と人との繋がりが如何に大切であるかということを私に教えてくれました.何人もの人に支えられ,励まされ,そして元気を与えられて生きていることに感謝する毎日です.次回のプレゼンターは石川県の大久保真司先生(金沢大学)です.緑内障のなかでも視野・OCTでは大変なスペシャリストでいらっしゃいます.私も困ったときにはしょっちゅうご指導を仰いでいますが,いつも優しく教えてくださり,大変に尊敬している先生です.よろしくお願いします.注)「Myboom」は和製英語であり,正しくは「Myobsession」と表現します.ただ,国内で広く使われているため,本誌ではこの言葉を採用しています.(98)