●連載159緑内障セミナー監修=岩田和雄山本哲也159.緑内障視野の進行判定溝上志朗愛媛大学大学院医学系研究科医学専攻視機能再生学講座緑内障視野の進行判定法にはトレンド解析とイベント解析があるが,両者は相補的関係にあり,症例に応じて総合的に判断することが望ましい.患者の検査への慣れ,白内障の進行,および眼底疾患や視路病変の合併など,緑内障の進行と誤認しやすい場合があるので注意が必要である.緑内障治療の目的は患者に残された視機能を生涯不自由のないように維持することにある.患者の視機能を評価する手段は現時点で視野計測しかなく,特にその進行判定は治療プランの決定や変更にかかわるため患者の予後を左右する.よって緑内障診療に携わるすべての眼科医には的確な進行判定を行うスキルが求められる.●進行判定の方法視野障害の進行を判定する方法は,大きく2つに分類される.一つはトレンド解析であり,もう一つはイベント解析である.トレンド解析とは,経過中のパラメータをすべてプロットし,その回帰直線の有意性を判定する方法である.一般的にはMD(meandeviation)スロープが用いられる.トレンド解析は,測定結果に変動がなく,かつ連続的に悪化する場合には鋭敏な判定が期待できる.しかし,結果の変動が大きい場合には判定に時間トレンド解析-3-4MD-5(HFA)-6-7-0.02dB/Y±0.05(ns)-4.7-6.09-4.21-4.16-4.16-5.05-5.12-6.63-3.7-4.44-4.59-0.02dB/Y±0.05SD=0.88CC=-0.06DF=9TS=0.18MD-4.59dBを要する欠点がある.一方,イベント解析はベースラインデータから一定の低下を示した時点で進行と判定する方法であり,代表的なものにGPA(glaucomaprogressionanalysis)がある.GPAでは測定点ごとにイベント解析を行うが,これは局所の進行を判定するのは鋭敏であるのに対し,ベースライン視野の信頼性により判定が左右されるという欠点がある.実際の臨床では,どちらか一方の結果のみで進行を判定するのではなく,両者の長所と短所をよく理解したうえで,総合的に判断するのが望ましい(図1).●理想的な視野検査間隔緑内障視野の進行を診断するための理想的な検査間隔に関する最近の報告がある1).これによると,MD値が1年で.2.0dBと急速に進行しているケースで,検査データが中等度に変動する,と仮定した場合,進行判定GPA:2回連続悪化:3回以上連続悪化MD-4.16dB判定:進行の可能性あり図1トレンド解析では進行がないものの,GPAで進行と判定された例ある正常眼圧緑内障患者の6年間の視野の経過.トレンド解析とイベント解析は,どちらか一方の結果だけで判定せず,総合的に判断する.(61)あたらしい眼科Vol.30,No.9,201312610910-1810/13/\100/頁/JCOPYに必要な期間は,検査が半年間隔で行われる場合でも3年を要し,さらに1年間隔になると実に6年もかかることが明らかにされた.一方,検査間隔を4カ月にすると,2年間で判定できることから,進行速度をより短期間で見きわめるために4カ月ごとの視野測定を提唱している.しかしながら実際の臨床では,MDスロープの傾きの有意性が確認されるまで経過を追っていては治療の開始や方針の変更のタイミングが遅きに失する恐れがある.そこで,経過中のMD値の連続悪化を目安に予測するのも一法である.視野の長期経過を観察できた218眼(平均経過観察期間6.6年,平均検査回数約12.6回)を調査した筆者らのデータでは,MDスロープが将来的に有意に悪化するリスクは,MD値が3回連続して悪化すると,連続悪化がみられない症例よりも約2.6倍高くなり,さらに4回連続して悪化すると約4倍になると試算された.●本当に緑内障による悪化なのか?正確な検査結果を得るうえで,患者の視野検査への慣れは重要である.まだ検査慣れしていない時期は,一般的に固視不良や疑陽性反応が多く信頼性に劣るが,その後,検査に習熟するにつれて,信頼性が徐々に改善してくるケースが多い.しかしこの過程で,緑内障視野の進行と誤認されることもあり注意が必要である(図2).また,白内障の進行にも注意が必要である.経過観察期間が長期に及ぶと,白内障が視野に影響を及ぼすことも多い.しかしこの場合,緑内障の進行とは異なるパターンを示すことから,ある程度の鑑別は可能である.つまり白内障による感度低下は,多くの場合,トータル合併前合併後初回固視不良13/213カ月後固視不良7/23約1年後固視不良4/23図2固視改善による見かけ上の視野悪化が疑われる症例ある正常眼圧緑内障の経過.進行判定には視野の信頼性のチェックも重要である.偏差の悪化が目立つのに対し,パターン偏差には大きな変化がみられない.その理由としては,トータル偏差が実測視野感度の健常人の年齢別正常感度からの差であること,そしてパターン偏差は白内障や縮瞳などによる全体的な感度低下をトータル偏差から差し引いていることによる.これら以外にも,眼圧コントロールが良好であるのに,急速な進行を認めたり,非定型的な進行パターンを示したりする場合は,眼底や視路疾患の合併を念頭に置いて精査することが望ましい(図3).文献1)ChauhanBC,Garway-HeathDF,GoniFJetal:Practicalrecommendationsformeasuringratesofvisualfieldchangeinglaucoma.BrJOphthalmol92:569-573,2008図3緑内障に網膜中心静脈分枝閉塞症を合併した例70歳,女性.原発開放隅角緑内障.網膜中心静脈分枝閉塞症による下方の視野障害が緑内障の進行と誤認されやすいので,注意が必要である.1262あたらしい眼科Vol.30,No.9,2013(62)