シリーズ⑭シリーズ⑭タブレット型PCの眼科領域での応用三宅琢(TakuMiyake)永田眼科クリニック第14章タブレット型PCのロービジョンエイドとしての活用の現状■なぜ今ロービジョンエイドとして,タブレット型PCやスマートフォンが重要なのか本章で取り上げる端末は,私が代表を務めるGiftHandsの活動や外来業務で扱っているスマートフォンの“iPhone5R(米国AppleInc.)”とタブレット型PCである“iPadminiR(米国AppleInc.)”のiOSバージョン6.1.3です.この章では,第4章以降10回にわたり解説してきたタブレット型PCやスマートフォンのロービジョンエイドとしての活用について,私のロービジョン外来での診療と体験セミナーを通して感じたエイド導入の意義を患者の声とともに紹介します.■私のデジタルロービジョンケア―①「タブレット型PCとスマートフォンの汎用性」近年のICT(InformationandCommunicationTechnology)の進歩は,従来パソコン上でしか利用できなかった多くのプログラムや情報検索システムを携帯端末のレベルで実現できる環境へと社会を変化させました.スマートフォンに代表される汎用性の高い携帯型多機能端末の普及に伴い,私たちは天気予報から電車の乗り換え案内,日々のスケジュール管理まで日常生活に必要な多くの情報を携帯端末上で入手および管理することが可能となりました.タブレット型PCやスマートフォンは,1本の指で基本操作が可能であるというユーザビリティ(使いやすさ)の高さと,実用レベルのアクセシビリティ(障害者補助機能)の充実により,多くの障害者支援の分野での活用が試みられています.眼科領域においても第13章で述べたように2時間の体験セミナーを行うことで,全盲の患者がvoiceover機能(音声補助機能)を用いてスマートフォンでインターネット検索や電子書籍などのアプリ(101)0910-1810/13/\100/頁/JCOPYケーションソフトウェア(以下,アプリ)の使用が可能です.これらのデバイスを用いたロービジョンケアでの重要な点は,デバイスの汎用性の高さです.スマートフォンやタブレット型PCのアプリの制作者には,原則的に説明書の必要がないレベルのシンプルな操作方法と単純な画面構成が求められます.そのため患者はvoiceoverによる端末操作法を習得することで,新規に購入したアプリに関しても同様に操作することが可能です.エイドごとに操作方法を覚える必要がないため,患者がエイドとして新規のアプリを使用する際の抵抗感は軽減します.汎用性の高さはエイドとしての使用方法の多様性を意味し,一つのデバイスの操作方法を習得することによって複数のエイドをアプリとして端末の中に所持することが可能となります.「もし私が若い頃に,スマートフォンがあったら,大好きだった仕事を失うことはなかったと思う.」アプリが視覚障害者の働き方を変えることもあると実感させられた患者の言葉でした.■私のデジタルロービジョンケア―②「アプリの即効性」タブレット型PCやスマートフォンを用いたロービジョンケアのもう一つの重要な点は,ニーズに適したアプリを紹介された患者が,その場で不便さを解消できるという即効性の高さです.たとえば,新聞の閲覧を希望する患者に,本人の持参したタブレット型PCで新聞閲覧アプリを検索しインストールすることで,すぐに最適な表示サイズで新聞を閲覧することが可能となります(図1).また,全盲の患者に感光器のアプリを紹介したあたらしい眼科Vol.30,No.7,2013983図1無料版の新聞アプリで,号外新聞を閲覧している様子図1無料版の新聞アプリで,号外新聞を閲覧している様子場合,診察室を出るときには持参したスマートフォンは感光器として光量を音程で体感できるエイドに変化しています.患者のニーズに適したアプリ情報の提供が,新しい形のデジタルロービジョンケアとなる可能性をもっていると私は考えます.実際にアプリを追加する際は,Storeアプリで検索ワードを入力し,詳細情報や評価を参照にしてアプリの購入が可能であり,アプリの検索からインストールまでが同一端末上で行えるアクセス性の高さは重要です(図2).また,無料版のアプリが多数存在するため,気軽にエイドとして試用をすることが可能です.多くのアプリが無料版でロービジョンエイドとして使うための十分な機能をもっていることも,患者にとって経済的な面からも喜ばれる理由の一つです.「外来を受診している間に….今まで悩んできたことが解決するなんて,夢にも思いませんでした.」患者を救うのは,正しい情報なのだと患者は私に教えてくれます.ICTの進歩が視覚障害者に与える恩恵は非常に大き図2デバイス内のStoreアプリでの検索デバイス内のStoreアプリでキーワードを検索し,アプリの購入とインストールをすることができる.左:新聞のキーワードでの検索画面,右:アプリの画面構成や機能の詳細情報およびレビューなどの確認画面.いといえます.リハビリテーション訓練に加えて,適切な時期にICTによる機能の補助を導入することで,多くの視覚障害者が障害を不便と感じることなく生活を営めるようになると私は信じています.これまで10回にわたり,タブレット型PCやスマートフォンによるロービジョンケアの可能性について解説してきました.この連載期間に全国の約50施設で,その重要性と可能性についてセミナーを行いました.今後もGiftHandsの代表としてセミナーなどの啓発活動を継続することで,全国の視覚障害者と眼科医療にかかわるすべての方へ,タブレット型PCとスマートフォンによるロービジョンケアがもつ可能性と重要性についての正しい認識が広がることを心より願っています.本文の内容や各種セミナーの詳細に関する質問などはGiftHandsのホームページ「問い合わせのページ」よりいつでも受けつていますので,お気軽に連絡ください.GiftHands:http://www.gifthands.jp/☆☆☆984あたらしい眼科Vol.30,No.7,2013(102)