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タブレット型PCの眼科領域での応用 14.タブレット型PCのロービジョンエイドとしての活用の現状

2013年7月31日 水曜日

シリーズ⑭シリーズ⑭タブレット型PCの眼科領域での応用三宅琢(TakuMiyake)永田眼科クリニック第14章タブレット型PCのロービジョンエイドとしての活用の現状■なぜ今ロービジョンエイドとして,タブレット型PCやスマートフォンが重要なのか本章で取り上げる端末は,私が代表を務めるGiftHandsの活動や外来業務で扱っているスマートフォンの“iPhone5R(米国AppleInc.)”とタブレット型PCである“iPadminiR(米国AppleInc.)”のiOSバージョン6.1.3です.この章では,第4章以降10回にわたり解説してきたタブレット型PCやスマートフォンのロービジョンエイドとしての活用について,私のロービジョン外来での診療と体験セミナーを通して感じたエイド導入の意義を患者の声とともに紹介します.■私のデジタルロービジョンケア―①「タブレット型PCとスマートフォンの汎用性」近年のICT(InformationandCommunicationTechnology)の進歩は,従来パソコン上でしか利用できなかった多くのプログラムや情報検索システムを携帯端末のレベルで実現できる環境へと社会を変化させました.スマートフォンに代表される汎用性の高い携帯型多機能端末の普及に伴い,私たちは天気予報から電車の乗り換え案内,日々のスケジュール管理まで日常生活に必要な多くの情報を携帯端末上で入手および管理することが可能となりました.タブレット型PCやスマートフォンは,1本の指で基本操作が可能であるというユーザビリティ(使いやすさ)の高さと,実用レベルのアクセシビリティ(障害者補助機能)の充実により,多くの障害者支援の分野での活用が試みられています.眼科領域においても第13章で述べたように2時間の体験セミナーを行うことで,全盲の患者がvoiceover機能(音声補助機能)を用いてスマートフォンでインターネット検索や電子書籍などのアプリ(101)0910-1810/13/\100/頁/JCOPYケーションソフトウェア(以下,アプリ)の使用が可能です.これらのデバイスを用いたロービジョンケアでの重要な点は,デバイスの汎用性の高さです.スマートフォンやタブレット型PCのアプリの制作者には,原則的に説明書の必要がないレベルのシンプルな操作方法と単純な画面構成が求められます.そのため患者はvoiceoverによる端末操作法を習得することで,新規に購入したアプリに関しても同様に操作することが可能です.エイドごとに操作方法を覚える必要がないため,患者がエイドとして新規のアプリを使用する際の抵抗感は軽減します.汎用性の高さはエイドとしての使用方法の多様性を意味し,一つのデバイスの操作方法を習得することによって複数のエイドをアプリとして端末の中に所持することが可能となります.「もし私が若い頃に,スマートフォンがあったら,大好きだった仕事を失うことはなかったと思う.」アプリが視覚障害者の働き方を変えることもあると実感させられた患者の言葉でした.■私のデジタルロービジョンケア―②「アプリの即効性」タブレット型PCやスマートフォンを用いたロービジョンケアのもう一つの重要な点は,ニーズに適したアプリを紹介された患者が,その場で不便さを解消できるという即効性の高さです.たとえば,新聞の閲覧を希望する患者に,本人の持参したタブレット型PCで新聞閲覧アプリを検索しインストールすることで,すぐに最適な表示サイズで新聞を閲覧することが可能となります(図1).また,全盲の患者に感光器のアプリを紹介したあたらしい眼科Vol.30,No.7,2013983 図1無料版の新聞アプリで,号外新聞を閲覧している様子図1無料版の新聞アプリで,号外新聞を閲覧している様子場合,診察室を出るときには持参したスマートフォンは感光器として光量を音程で体感できるエイドに変化しています.患者のニーズに適したアプリ情報の提供が,新しい形のデジタルロービジョンケアとなる可能性をもっていると私は考えます.実際にアプリを追加する際は,Storeアプリで検索ワードを入力し,詳細情報や評価を参照にしてアプリの購入が可能であり,アプリの検索からインストールまでが同一端末上で行えるアクセス性の高さは重要です(図2).また,無料版のアプリが多数存在するため,気軽にエイドとして試用をすることが可能です.多くのアプリが無料版でロービジョンエイドとして使うための十分な機能をもっていることも,患者にとって経済的な面からも喜ばれる理由の一つです.「外来を受診している間に….今まで悩んできたことが解決するなんて,夢にも思いませんでした.」患者を救うのは,正しい情報なのだと患者は私に教えてくれます.ICTの進歩が視覚障害者に与える恩恵は非常に大き図2デバイス内のStoreアプリでの検索デバイス内のStoreアプリでキーワードを検索し,アプリの購入とインストールをすることができる.左:新聞のキーワードでの検索画面,右:アプリの画面構成や機能の詳細情報およびレビューなどの確認画面.いといえます.リハビリテーション訓練に加えて,適切な時期にICTによる機能の補助を導入することで,多くの視覚障害者が障害を不便と感じることなく生活を営めるようになると私は信じています.これまで10回にわたり,タブレット型PCやスマートフォンによるロービジョンケアの可能性について解説してきました.この連載期間に全国の約50施設で,その重要性と可能性についてセミナーを行いました.今後もGiftHandsの代表としてセミナーなどの啓発活動を継続することで,全国の視覚障害者と眼科医療にかかわるすべての方へ,タブレット型PCとスマートフォンによるロービジョンケアがもつ可能性と重要性についての正しい認識が広がることを心より願っています.本文の内容や各種セミナーの詳細に関する質問などはGiftHandsのホームページ「問い合わせのページ」よりいつでも受けつていますので,お気軽に連絡ください.GiftHands:http://www.gifthands.jp/☆☆☆984あたらしい眼科Vol.30,No.7,2013(102)

硝子体手術のワンポイントアドバイス 122.液体パーフルオロカーボン網膜下迷入の予防と対策(中級編)

2013年7月31日 水曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載122122液体パーフルオロカーボン網膜下迷入の予防と対策(中級編)池田恒彦大阪医科大学眼科●液体パーフルオロカーボンの合併症液体パーフルオロカーボン(LPFC)は巨大裂孔網膜.離や脱臼水晶体などに対する硝子体手術で用いることが多い1)が,最近では通常の裂孔原性網膜.離での使用頻度も増えている.LPFCの合併症としては,網膜下迷入と眼内残留の頻度が高い.●網膜下に迷入しやすい症例LPFCの最も一般的な適応と考えられる巨大裂孔網膜.離では,十分な硝子体切除後に視神経乳頭上からゆっくりとLPFCが一塊となるように注入するが,急激に注入しようとするとLPFCがバブル状となり網膜下に迷入しやすくなるので注意が必要である.網膜の伸展性が十分に保持されている症例では,巨大裂孔縁を越えてLPFCを注入しても網膜下にLPFCが迷入することは少ないが,LPFCのバブルが周辺部に残存しているとLPFCとシリコーンオイル置換時に裂孔縁から網膜下に迷入することがある.網膜の伸展性が低下している増殖硝子体網膜症(PVR)では,硝子体を十分に切除するとともに増殖膜を確実に.離し,網膜の伸展性を回復しておかないとLPFC注入時に既存の裂孔からLPFCが網膜下に迷入しやすい(図1).LPFC注入時にテント状に網膜が挙上されるなど,明らかに網膜の伸展性が不良であると判断された場合には,注入を中止しさらに牽引除去に努める.術中にLPFCが網膜下に迷入した場合には,一旦LPFCを抜去し,既存の裂孔からLPFCを確実に吸引除去する.●網膜下LPFC迷入例の処置術後に網膜下LPFCが確認された場合,少量で視力にあまり影響がない場合には,そのまま経過観察することが多い.ただし,不幸にして中心窩下にLPFCが認められた場合には可及的速やかに抜去する必要がある(図2).この場合,バックフラッシュニードルなどで網982あたらしい眼科Vol.30,No.7,2013図1アトピー性皮膚炎に合併した増殖硝子体網膜症例複数回の硝子体手術を施行され,後極に多数の裂孔が生じている.増殖膜処理後にLPFCで網膜を伸展させ,眼内光凝固,周辺部輪状締結術,シリコーンオイルタンポナーデを施行した.図2術後の眼底写真シリコーンオイル下でLPFCが中心窩下に迷入している所見が観察された.図3抜去後の眼底写真中心窩近傍に意図的裂孔を作製しLPFCを抜去した.膜下LPFCを中心窩外に移動させて意図的裂孔から抜去すべきであるが,筆者の経験では予想外に網膜下LPFCは移動しにくい.自験例では中心窩のすぐ近傍に25ゲージVランスで切開を加え,バックフラッシュニードルで抜去した(図3).LPFCは粘性がきわめて低いので,非常に小さな切開創からでも容易に吸引除去が可能である.文献1)池田恒彦:液体パーフルオロカーボンと眼科手術.臨眼47:915-921,1993(100)0910-1810/13/\100/頁/JCOPY

眼科医のための先端医療 151.ディスポーザブル開瞼器を用いたOptos®200Txの使用

2013年7月31日 水曜日

監修=坂本泰二◆シリーズ第151回◆眼科医のための先端医療山下英俊EzSpecを用いたOptosR200Txの撮影ディスポーザブル開瞼器を用いたOptosR200Txの使用井上麻衣子(横浜市立大学附属市民総合医療センター眼科)OptosR200TxとはOptosR200Txとは,無散瞳・非接触で撮影可能な走査型レーザー検眼鏡です.1回の撮影で画角200°の範囲が撮影でき,眼底の80%以上の領域が観察可能です.したがって,網膜裂孔,裂孔原性網膜.離,増殖糖尿病網膜症などさまざまな網脈絡膜疾患の診断や治療効果の判定に有用です.また,カラー眼底写真のみならず蛍光眼底造影写真や自発蛍光所見などもこれ1台で取得できます.OptosR200Txの精度しかし,広範囲の撮影が可能とはいってもOptosR200Txの撮影のみで診断を確定することには注意が必要です.過去には別機種(OptosROptomapPanoramic200)を使用したものですが,周辺の網膜病変を検出する際の感度,特異度について調べた報告がありました1).1人の網膜専門医が強膜圧迫しながら眼底検査を行い,周辺部に網膜病変を認めた60人の患者がこの研究の対象です.同時に2人の網膜専門医が独立してOptomapを読影し,網膜病変を指摘します.この2人の判定結果の一致率はk検定にて評価されます.Optomapで指摘された病変を,眼底検査で認められた病変の数で除したものが感度となります.また,対象患者の僚眼において,Optomapで異常を認めなかった患者数を,眼底検査で異常がなかった患者数で除したものが特異度となります.その結果,赤道部より後方の網膜病変の感度は74%でしたが,赤道部より前方では45%と大幅に低下しました.また,特異度は85%でした.赤道部より前方にて感度が大きく低下する理由としては,撮影範囲内にない領域であることや画質の低下などがあげられますが,特に睫毛のアーチファクトが下方領域の撮影を妨げているという問題があげられました.(95)0910-1810/13/\100/頁/JCOPYそこで,筆者らはOptosR200Txの撮影時に睫毛のアーチファクトを取り除くことを検討しました.一般に眼科手術に使用されているようなバラッケ氏開瞼器では(テガダームを使用しない限り)睫毛が隠れず,またバンガーター氏開瞼器では座位では取れてしまったり,ずれてしまったりしてうまくいきません.そこで硝子体注射用に開発されたディスポーザブル開瞼器,EzSpec(HOYA株式会社)を用いて撮影を施行しました.EzSpecは2つの開瞼鈎部およびそれを連結するアーム部から構成され,アーム部の戻る力により眼瞼を開けた状態に保持する樹脂製の単回使用開瞼器です(図1).EzSpecは硝子体注射に使用する際には,ずれることなく大きく開瞼することが可能であり,同時に広範囲に睫毛を覆うことができます(図2)2).また,簡易に着脱ができる弾性も併せ持っています.その結果,撮影時にはずれたりすることなく睫毛を完全に避けて画像を撮ることができました3).図3を見ていただければその違いが図1EzSpecアーム径2.2mmと2.4mmの2種類がある.(文献3より)図2硝子体注射時にEzSpecを装着している様子あたらしい眼科Vol.30,No.7,2013977 abab図3EzSpec無装着時(a)および装着時(b)の筆者の眼底bでは睫毛を避けて撮影できている.(文献3より)一目瞭然であることがおわかりいただけるかと思います.OptosR200Txはあくまで診断のための補助検査として施行すること,眼底検査を決して怠ってはいけないことに変わりはありませんが,やはり無散瞳にて一瞬で撮影でき,ほぼすべての網膜病変を検出できることはスクリーニングとして非常に有用です.さらに,EzSpecを用いてOptosR200Txを撮影できることで病変検出力はさらに上がると思われます.このように最新の眼科機器を組み合わせることでOptosR200Txはさらに魅力的なものとなります.しかし,問題はコストです.EzSpecは定価1,200円/個であり,これを用いてOptosR200Txで一人ひとり撮影していれば赤字となることは間違いないでしょう.また,装着の際は点眼麻酔薬が必要なので少し手間もかかります.たとえば,学会発表用などできれいな写真を撮りたいときはこの組み合わせ,とても有用かもしれませんね!文献1)MackenziePJ,RussellM,MaPEetal:Sensitivityandspecificityoftheoptosoptomapfordetectingperipheralretinallesions.Retina27:1119-1124,20072)GomiF,MatsudaY,FutamuraHetal:Disposableeyelidspeculumdesignedforintravitrealinjection.Retina31:1972-1973,20113)InoueM,YanagawaA,YamaneSetal:Wide-fieldfundusimagingusingtheOptosOptomapandadisposableeyelidspeculum.JAMAOphthalmol131:226,2013■「ディスポーザブル開瞼器を用いたOptosR200Txの使用」を読んで:日本の強さの源泉■診断機械の性能は,年々向上しており,その進歩のアーチファクトこそが,診断を妨げている点であるこ速さは驚くべきものです.しかし,機械のハード面のとを科学的に証明しました.さらに開瞼器を改善する進歩に比べると,診断能力の進歩はそれほどとも言えことにより,この作業仮説を実証することに成功しまません.一般に,機械の開発者は,機械を理論的に改した.良することはできますが,実際の運用を知ることがで本稿をただ斜め読みしても,開瞼器を使った撮影技きないので,ハード面の改良が診断能力向上に必ずし術の向上についての論文が,なぜ一流誌に掲載されたも結びついていないのです.診断機械の目的が,診断のかわからないかもしれません.しかし,この論文の能力の向上であることを考えると,これは深刻な問題本質は開瞼器云々といった卑小な問題ではなく,「作だと言えます.業工程の見直し→問題の列挙→科学的解析による問題今回,井上麻衣子先生たちは,この問題をk係数点の描出→解決法の案出→実証→新たなる作業工程のという優れた方法を用いて分析し,睫毛による撮影見直し」という一連の流れを示したということにある978あたらしい眼科Vol.30,No.7,2013(96) のです.すでにおわかりの方もおられるでしょうが,映することはよく知られていますが,カイゼンはわがこれこそが日本製造業のお家芸「カイゼン」です.国の文化であることを,今更ながら思い知りました.1980年代にわが国の製造業は世界中を席巻しました見識のある論文査読者であれば,この論文の有用性のが,その理由について米国政府およびマサチューセッみならず,背景にある優れた文化にも気付いたでしょツ工科大学が分析したところ,トヨタを中心とした上うから,この論文がただちに採択されたことも不思議記のカイゼン運動こそがその源泉であると結論付けまではありません.昨今,わが国の国力が低下しているした.そのためカイゼンは世界中に広まり,今では国という悲観論が広がっていますが,このような研究お際語として通用しています.よび文化がある限り,わが国の力は衰えることはない私が特に感銘を受けたのは,このようなカイゼン運という自信をもつことができました.この論文はその動が,トヨタなどの大企業ではなく,眼科臨床現場とような深い意味をもつものだと言えます.いった小さな組織でも自然に行われているという点で鹿児島大学医学部眼科学坂本泰二す.科学研究は,その国の国力のみならず,文化も反☆☆☆(97)あたらしい眼科Vol.30,No.7,2013979

ブックレビュー:市川一夫著 『手術法とレンズで選ぶ 白内障治療』

2013年7月31日 水曜日

ブックレビューブックレビュー■市川一夫著『手術法とレンズで選ぶ白内障治療』(四六判・並製,本文208頁,定価(本体1,300円+税),ISBN978-4-344-99949-7/C0047,2013,幻冬舎メディアコンサルティング)現代医学の進歩は著しく,いろいろな病気が治るようになってきました.白内障もそのうちの一つで,進行した白内障でも手術を受けることで,視機能を大幅に改善することができます.しかし,白内障は高齢者に多い病気であることから,見えないのは老化現象のせいであると治療を諦めたり,手術に対する不安から眼科受診を避けている患者さんが,今現在,多くいるのは事実です.また,専門の眼科病院,クリニックもたくさんあるので,どの施設を受診すれば良いのか悩んでしまうこともあるでしょう.本書「手術法とレンズで選ぶ白内障治療」(幻冬舎メディアコンサルティング)は,白内障について初歩的な知識から,手術や眼内レンズを含めた専門的な最新情報まで,患者さんが理解しやすいように平易な言葉とわかりやすいイラストを活用し,解説されています.前半では,目の仕組みから白内障発症のメカニズム,白内障の予防,手術が必要な症状・病態が,読み進めるに従い納得できます.白内障手術の項目では,手術を行うまでに必要な検査についての説明や,患者さんにとって深刻な問題である他の内科・眼科疾患をもっている場合の注意点,何と言っても心配な麻酔方法と手術方法のポイントを,そして手術にかかる費用についても書かれています.前もって本書を読むことで,受診時から検査と手術までの流れがわかるので,実際の受診に際しての心構えと準備ができるようになります.後半では,現在行われている白内障の手術方法や,白内障のために混濁した水晶体の代わりに眼内に入れるさまざまなレンズ(単焦点,多焦点,非球面,トーリックなど)の特徴から,患者さんのライフワークに適した眼内レンズの選び方までが詳しく述べられています.患者さんにとって術前術後の日常生活についての注意事項は,術後の視機能の回復を考えると大変気になるところです.そこで,患者さん自身が白内障治療について詳しい知識を身につけ,自分に適した白内障手術と眼内レンズを選び,術前術後のケア,術後に心配される合併症までを把握できれば,安心して白内障手術をうけられるようになるでしょう.また,要所に挿入されているセルフチェック項目が白内障の症状から手術の適応,自分に適した眼内レンズの選択までを手助けしてくれるので,とても効果的です.本書は,白内障が発症している可能性がある中高年の方,特にこれから白内障手術を受けられる方が,自分の病気を理解するために必要な1冊と思います.また,70,000眼に及ぶ手術成績をもつ筆者の経験からくる語りは,われわれ眼科医にとってもインフォームド・コンセントを行うときのヒントになる,よき参考書であります.(獨協医科大学眼科学教室・准教授松島博之)☆☆☆(93)あたらしい眼科Vol.30,No.7,20139750910-1810/13/\100/頁/JCOPY

私の緑内障薬チョイス 2.ドルゾラミド/チモロール配合剤の利便性とアドヒアランス

2013年7月31日 水曜日

連載②私の緑内障薬チョイス企画・監修山本哲也連載②私の緑内障薬チョイス企画・監修山本哲也2.ドルゾラミド.チモロール配合剤の利便性とアドヒアランス内藤知子岡山大学大学院医歯薬学総合研究科機能再生・再建科学専攻生体機能再生・再建学講座(眼科学分野)ドルゾラミド/チモロール配合剤は,2剤併用した場合とほぼ同等の眼圧下降効果があるといわれている.同剤への切り替えによる点眼回数の減少は,アドヒアランス向上に寄与するが,一部の症例では効果が得られないこともある.ドルゾラミド/チモロール配合剤は適切に用いれば緑内障薬物治療の有力な選択肢の一つとなる.はじめに緑内障は慢性の進行性視神経症であり,その予後は眼圧をいかに低くコントロールできるか否かにかかっている.したがって,長期にわたり多剤の抗緑内障点眼薬の併用を余儀なくされるケースが多い.しかしながら,一般的に薬剤数が増えるにつれ患者の負担は増し,アドヒアランスは悪化すると報告されている1).そして最近,このような症例に対し積極的に配合剤を処方する機運が高まりつつある.しかし,この配合剤の眼圧下降効果は併用療法と同等なのか,またアドヒアランス改善効果はどれほどなのか.ドルゾラミド/チモロール配合剤を手がかりに探ってみたい.配合剤切り替え後の眼圧当科で加療中の患者のうち,プロスタグランジン点眼剤(prostaglandin:PG),b遮断剤,および炭酸脱水酵素阻害剤(carbonicanhydraseinhibitor:CAI)の3剤を併用していたものを対象に,PGは変更せず,b遮断剤とCAIをドルゾラミド/チモロール配合剤に切り替えた後の眼圧変化と,アドヒアランスについて検討した.広義の原発開放隅角緑内障および高眼圧症の患者59例59眼(男性33例,女性26例,平均年齢69.2歳)が対象として選択された.その結果,b遮断剤とCAIをドルゾラミド/チモロール配合剤へ変更すると,眼圧は変更前の15.6±3.7mmHgに対し,変更1カ月後15.4±3.5mmHg,さらに3カ月後15.6±3.8mmHgとなり,切り替え前後の平均眼圧に変化は認めなかった(図2).個々の眼圧変化の内訳をみると,切り替えにより2mmHg以上下降したものが11眼(18.6%),不変が37眼(62.7%),2mmHg以上上昇したものが11眼(18.6%)であり,約8割の症例は切り替えても眼圧は変わらないか,むしろさらなる眼圧下降が得られていた(図3).(91)0910-1810/13/\100/頁/JCOPY図1点眼瓶と遮光袋遮光袋は点眼瓶のキャップと同じオレンジ色をしている.袋に点眼する側の点眼回数を記載し,キャップの色とそろえることで,点眼する側・点眼回数などの間違いを極力減らすことを図っている.これらの結果の解釈であるが,切り替え後に眼圧が下降した症例に関しては,併用時の点眼間隔をあける必要がなくなり,いわゆる洗い流し効果がなくなったことや,利便性の改善により後述するアドヒアランスが向上したことが一因として考えられる.逆に,切り替え後に眼圧が上がった症例については,3剤併用と比べたとき本剤の薬理学的弱点,つまりCAIの点眼回数が昼間1回分少ない点が反映された可能性は否定できない.また,これはあくまで筆者の個人的印象ではあるが,配合剤に切り替えて眼圧が上昇するケースは,切り替え前の3剤併用時のアドヒアランスが特に良好であった症例に多い気がする.そのような症例では,配合剤に切り替えた際に,その薬理学的弱点が露呈してしまうのかもしれ本欄の記載内容は,執筆者の個人的見解であり,関連する企業とは一切関係ありません(編集部).あたらしい眼科Vol.30,No.7,2013973 PGCAIbPGPGCAIbPG(mmHg)p=0.2759p=0.854615.6±3.7mmHg(対応のあるt検定)15.51515.6±3.8mmHg15.4±3.5mmHg0W4W12W図2配合剤切り替え後の眼圧(1)プロスタグランジン点眼剤(PG),b遮断剤,および炭酸脱水酵素阻害剤(CAI)の3剤を併用していた広義の原発開放隅角緑内障および高眼圧症の患者59例59眼に,PGは変更せず,b遮断剤とCAIをドルゾラミド/チモロール配合剤に切り替えた後の眼圧変化を示す.4・12週後ともに平均眼圧に変化は認めない.ない.配合剤切り替えとアドヒアランスアドヒアランスに影響を与える因子に関して,まずドルゾラミド/チモロール配合剤の点眼に伴う不快感についてたずねたところ,50.8%の症例が刺激感を,44.1%が霧視を訴えたが,いずれも本剤の点眼継続を忌避するほどのものではなかった.さらに27.1%に点眼忘れの減少を認め,「切り替え前の3剤併用と効果が同じだとしたら,どうしたいか」と問うと,69.5%の症例が配合剤の継続処方を希望した.その理由として最も多かったものは「点眼回数を減らせるから」であった.このように3剤併用している症例のb遮断剤とCAIをドルゾラミド/チモロール配合剤に変更することにより,点眼本数と点眼回数がともに減少し利便性が向上することを歓迎する声は大きい.特に点眼本数については,増えるほど点眼を忘れる頻度は有意に増加することが筆者らの調査でも明らかになっており2),その減少はそのままアドヒアランスの向上に寄与することは想像に難くない.しかしながら,最初から「ほとんど点眼ができていな11眼(18.6%)11眼(18.6%)37眼(62.7%)2mmHg以上の眼圧下降不変2mmHg以上の眼圧上昇図3配合剤切り替え後の眼圧(2)約8割の症例で,切り替えても眼圧は不変か,もしくは,さらなる眼圧下降が得られている.い」症例に関しては,配合剤を処方したからといって,アドヒアランスが向上するわけではない.もともとのアドヒアランス不良例に対しては,点眼本数を減らしても効果がないことも報告されているように3),アドヒアランス向上には,患者の病態理解度・病状認知度の向上がかかせない.ここにわれわれが努力を必要とするゆえんがある.緑内障治療の最終目的は,患者の視機能を維持することにあり,現時点で最も確実な手段は眼圧下降しかない.配合剤は適切に用いれば,その目的達成ための有力な選択肢となり得る.文献1)RobinAL,CovertD:Doesadjunctiveglaucomatherapyaffectadherencetotheinitialprimarytherapy?Ophthalmology112:863-868,20052)高橋真紀子,内藤知子,吉川啓司ほか:緑内障点眼薬使用状況のアンケート調査“第二報”.あたらしい眼科29:555-561,20123)DjafariF,LeskMR,HarasymowyczPJetal:Determinantsofadherencetoglaucomamedicaltherapyinalong-termpatientspopulation.JGlaucoma18:238-243,2009●974あたらしい眼科Vol.30,No.7,2013(92)

抗VEGF治療:光線力学的療法/ステロイド/抗VEGF薬三者併用

2013年7月31日 水曜日

●連載⑭抗VEGF治療セミナー─使用方法─監修=安川力髙橋寛二4.光線力学的療法.ステロイド.抗VEGF薬白神千恵子香川大学医学部眼科学三者併用難治性加齢黄斑変性(AMD)には,光線力学的療法(PDT)+トリアムシノロン後部Tenon.下注入+抗VEGF薬併用療法が有効である症例が比較的多い.PDT,抗VEGF薬単独療法に抵抗を示す症例に対して三者併用を行うと,滲出の軽減,消失へと導くことが多々ある.特に網膜血管腫状増殖(RAP)に対しては有効で,少ない治療回数で長期間再発を回避できることが可能となる.はじめに難治性加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD)には,典型AMD(t-AMD),ポリープ状脈絡膜血管症(polypoidalchoroidalvasculopathy:PCV),網膜血管腫状増殖(retinalangiomatousproliferation:RAP)の3つの病型があるが,日本眼科学会のAMD治療指針では,t-AMDは抗VEGF薬単独療法,PCVには抗VEGF薬単独療法,あるいは光線力学的療法(photodynamictherapy:PDT)と抗VEGF薬併用療法,RAPにはPDTと抗VEGF薬併用療法が推奨されている.しかし,再発を繰り返したり,初回治療から治療に抵抗を示す症例に対しては,最終的にPDT+トリアムシノロン後部Tenon.下注入(posteriorsub-Tenoninjectionoftriamcinoloneacetonide:STTA)+抗VEGF薬併用療法(トリプル療法)が残された治療法となる.昨年から,VEGF-Aのみでなく,VEGF-B,PlGF(placentalgrowthfactor,胎盤増殖因子)も阻害する抗VEGF薬であるアフリベルセプトの投与という選択肢が増えたが,現在のところ,RAPに対する単独治療としてその有効性,安全性については明確ではない.安全性を重視するなら,過去の実績,エビデンスのあるトリプル療法を選択するほうが無難である.実際に,PDT施行前後にSTTAを併用することにより,PDT単独治療よりも効果があると報告されている1).ステロイドの効能ステロイドの血管新生抑制効果のメカニズムの一つは抗炎症作用,血管透過性亢進の抑制と考えらえている.白血球の接着因子として血管内皮細胞や網膜色素上皮細胞に発現するintercellularadhesionmolecule1(ICAM1)の発現を抑制したり,血管新生過程における細胞外基質の分解に関与するmatrixmetalloproteinaseを抑制(89)することが,新生血管の発育を抑制すると考えられている.実際,AMDで使われているステロイド,triamcinoloneacetonide(ケナオコルトAR,Bristol-Mayer社)は強い糖質コルチコイド作用と,組織内の残留性を有する特徴より,長期的な抗炎症,抗血管作用があり,懸濁液のため長期間(約3カ月)組織内に薬物が残留し,少ない投与回数で薬物濃度が持続する.以前はトリアムシノロン硝子体内注射が頻繁に行われていたが,高眼圧,易細菌感染,無菌性眼内炎,ステロイド白内障など,重篤かつ比較的頻度が高く副作用が発生することもあり,現在ではSTTAが主流となっている.トリプル療法の方法トリプル療法の方法としては,まず,通常の内眼手術に準じてポピドンヨードで洗眼を行い,4%キシロカインにて点眼麻酔を行った後,眼球の耳下側からSTTA20mgを行う.抗VEGF薬硝子体内注射は結膜切開創からなるべく離れた位置から行う.STTAはTenon.下針,あるいは眼球の形態に合わせて少し弯曲させた25ゲージ(G)の鈍針を,結膜切開後,周囲の血管を損傷しないようにTenon.を丁寧に切開し,強膜が露出すれば針先を眼球に沿わせて黄斑部近傍に到達できる深さまで針を挿入し注入する.上耳側からSTTAを行うと後に眼瞼下垂の合併症が起こるという報告もあり,なるべく下方からアプローチするほうが好ましい.硝子体内注射は,針穴が眼内に通じるため細菌感染予防目的や,結膜切開創から漏出したトリアムシノロンや出血が混入しないように,上方から注入する.硝子体内注入時は,30G針の針先を眼内の比較的深い位置まで挿入し,黄斑部に吹きかけるように注入する.針先の注入部位が浅いと薬剤が眼外へ逆流し,効果が減弱するので注意を要する.PDTと薬剤注射とのタイミングは施設によって異なあたらしい眼科Vol.30,No.7,20139710910-1810/13/\100/頁/JCOPY AAB図2図1のRAP症例のトリプル療法12カ月後視力(0.15).カラー眼底写真(A)にて出図1網膜血管腫状増殖stageIIIの症例(治療前)血は消失しており,新生血管膜も縮小して86歳,男性.視力(0.08).カラー眼底写真(A)にて黄斑部に網膜内出いる.光干渉断層計(B)では滲出は完全血と,その周囲に黄白色の新生血管膜,軟性ドルーゼンを認める.フルに消失しドライな状態である.オレセイン蛍光眼底造影(B)で新生血管からの旺盛な蛍光漏出を認め,インドシアニングリーン蛍光眼底造影(C)早期に網膜血管と新生血管の吻合所見を認める(矢印).光干渉断層計(D)ではvascularizedBCDPED,網膜内浮腫を認める.る.最近では同日に行うほうがAMD治療としては有効であるという意見もあるが,硝子体内注射後の細菌感染や裂孔原性網膜.離などの重篤な合併症が生じた場合,PDT後5日間の遮光期間に眼底検査や顕微鏡下での手術を行わねばならず,光障害による網膜ダメージのリスクを伴う.このように,合併症に対する処置が遅れる可能性も考慮し,当科では安全性を重視して,STTAと抗VEGF薬硝子体内注射は同日に行い,特に重篤な細菌性眼内炎が発症しやすい1週以内は経過観察を行って,1週後にPDTを行っている.トリプル療法の効果標準PDTの方法では,照射領域に一致してCNV周囲の正常な脈絡膜毛細血管,中大血管の無灌流や,血管壁の障害が起こり2),続発的にVEGFやVEGF受容体の産生を促し,CNVの再発を誘発するといわれている.そこで当科では,抗VEGF対策として照射エネルギー量を半量にしたRFPDT3)と,抗VEGF薬硝子体内投与の併用を行うことにより,治療後のVEGFやVEGF受容体の発現を抑制してCNV再発をさらに予防できると考え,薬剤併用RFPDTを行っている.当科にてRAP14眼に対して,bevacizumab硝子体内注射+STTA20mg+RFPDTを施行し1年の治療成績をみたところ,平均1.4回と少ない治療回数で視力維972あたらしい眼科Vol.30,No.7,2013持改善は93.3%に得られ,中心網膜厚も統計学的に有意に減少した4)(図1,2).おわりにAMD治療は抗VEGF薬治療が主流となっているが,薬剤に対してnon-responder,late-responderが存在することや,治療開始時は薬剤単独療法が有効でも,薬剤耐性ができて,治療に反応しなくなるケースが多々ある.抗VEGF薬療法主流の現在においても,PDT,TAの併用療法は欠かせないものであり,症例に応じて治療の選択肢として常に念頭においておく必要がある.文献1)VandeMoereA,SandhuSS,KakRetal:Effectofposteriorjuxtascleraltriamcinoloneacetonideonchoroidalneovasculargrowthafterphotodynamictherapywithverteporfin.Ophthalmology112:1897-1903,20052)Schmidt-ErfurthU,MichelsS,BarbazettoIetal:Photodynamiceffectsonchoroidalrevascularizationandphysiologicalchoroid.InvestOphthalmolVisSci43:830-841,20023)白神千恵子,坂本泰二:Reducedfluencephotodynamictherapy─低照射エネルギー光線力学的療法─.あたらしい眼科26:503-506,20094)ShirakataY,ShiragamiC,YamashitaAetal:One-yearresultsofbevacizumabintravitrealandposteriorsub-Tenoninjectionoftriamcinoloneacetonidewithreducedlaserfluencephotodynamictherapyforretinalangiomatousproliferation.JpnJOphthalmol56:599-607,2012(90)

緑内障:甲状腺眼症と緑内障

2013年7月31日 水曜日

●連載157緑内障セミナー監修=岩田和雄山本哲也157.甲状腺眼症と緑内障井上立州オリンピア眼科病院甲状腺眼症では,高眼圧を呈することがあるが,緑内障の高眼圧ではない.球後組織の炎症や外眼筋肥大による眼球運動障害によって高眼圧をきたす.安静眼位で眼圧を測定することで,正確な眼圧測定が可能である.緑内障と視力視野障害をきたす甲状腺眼症による圧迫視神経症の鑑別に注意する必要がある.●甲状腺眼症甲状腺眼症は,甲状腺機能異常や自己免疫疾患が引き金となって発症し,それに伴うさまざまな眼症状を呈する.甲状腺眼症を呈する甲状腺機能異常は,甲状腺機能亢進症(Basedow病)が最も頻度が高いが,甲状腺機能正常Basedow病や慢性甲状腺炎(橋本病)でも起こる.●甲状腺眼症と高眼圧症甲状腺眼症で21mmHgを超える高眼圧を呈することは古くから注目されている1,2).その眼圧異常が眼外の要因によるもので,緑内障の高眼圧ではないことが明らかにされている3,4).甲状腺眼症の高眼圧は一過性のもので,眼圧測定の段階で高眼圧を示すだけで連続計測すると,下降していくものである.甲状腺眼症に対するステロイド薬治療や手術により,甲状腺眼症による高眼圧は正常化される5).●甲状腺眼症の眼位と眼圧甲状腺眼症では外眼筋肥大を伴うことが多い.外眼筋肥大が発現する例では,球後組織圧の上昇から眼球の網脈絡膜に皺襞形成をみる症例もある(図1).球後からの圧迫のためMRI(磁気共鳴画像)上,眼球に変形がみられ球後組織圧による圧迫性高眼圧をきたしやすい.甲状腺眼症例では下直筋肥大の頻度が最も高い.下直筋ではLockwoodの靱帯の部で癒着が強くなり,筋弛緩および伸展障害のため上転障害をきたす.眼圧測定は第一眼位,すなわち正面視で測定するため,下直筋肥大がある症例では,この際に眼球に圧が加わり,測定上高眼圧を呈することとなる.特にノンコンタクトトノメーターでは高眼圧を呈することが多い.上転障害がある症例では,アプラネーショ(87)図1甲状腺眼症患者にみられた網脈絡膜皺襞外眼筋肥大により,眼球が圧迫され,網脈絡膜皺襞がみられる.ントノメーターでは,額の部へある程度の厚みのある枕を置いて頭位を傾け,やや下方視をした位置で眼圧測定すると真に近い値が得られる.トノペンでは,自由な眼位で眼圧測定ができるため,上転障害のある場合,下方視をさせて眼圧測定を行うと,甲状腺眼症症例の眼圧を正確に測ることができる.トノグラフィーを用いると,初期圧は高いが,連続測定すると眼圧は下降し,大きなC(房水流出率)値が得られる.●緑内障病型と頻度甲状腺眼症では球後組織圧の上昇から上強膜静脈圧の異常をきたし続発緑内障を起こすことがある.緑内障の合併頻度では,原発開放隅角緑内障(primaryopenangleglaucoma:POAG)が多いとする報告6)や,通常の頻度と変わらないという報告5,7.8)もある.甲状腺眼症が正常眼圧緑内障の危険因子であるという報告9)もある.当院を受診した甲状腺眼症患者19,840例のうち,眼圧異常または緑内障を指摘されたことがある499例について,緑内障の有無,眼圧動態について検討した結果では,499例中150例で緑内障と診断された(図2).高眼圧例や視神経に緑内障性変化がみられたが,視野異常がみられなかった緑内障疑い例が69例,甲状腺眼症による高眼圧と考えられたものが156例あった.緑内あたらしい眼科Vol.30,No.7,20139690910-1810/13/\100/頁/JCOPY 発達緑内障2例(1.3%)分類不能Posner-Schlossman8例(5.3%)症候群3例(2.0%)続発緑内障10例(6.7%)原発開放隅角緑内障67例(44.7%)(正常眼圧緑内障38例)狭隅角眼24例(16.0%)原発閉塞隅角緑内障36例(24.0%)図2緑内障症例の病型分類眼圧正常緑内障150例(30.1%)甲状腺眼症による高眼圧(DO性高眼圧)156例(31.3%)ステロイドレスポンダー78例(15.6%)図3甲状腺眼症症例の眼圧異常の分類障と診断された症例の病型では,広義のPOAGが最も多く,ついでPACGが多かった(図3).甲状腺眼症の活動期の治療は,ステロイド薬治療となるため,ステロイドレスポンダーにも注意する必要がある.当院のデータでは,緑内障は19,840例中疑いも合わせて219例(1.1%)で,通常の成人の発現頻度と変わらなかった.●圧迫視神経症と緑内障甲状腺眼症では中心暗点や傍中心暗点を伴う圧迫視神経症がある(図4).高眼圧のため,この視力・視野障害を緑内障と誤診することがある.視神経乳頭所見に注意して鑑別する必要がある.圧迫視神経症では,乳頭発赤や乳頭浮腫などの圧迫視神経症の所見がみられる場合があるが,検眼鏡に所見のない球後視神経症の形で発症するものもある.近視性の乳頭陥凹,傾斜,乳頭周囲の変性などがあると緑内障との鑑別が困難なこともある.甲状腺眼症に特有の眼球突出や上眼瞼後退や眼瞼腫脹などの眼瞼所見や,眼球運動障害があれば,鑑別は容易であるが,高齢者では,眼球突出がない症例もあり,甲状腺機能亢進症の全身症状や,視神経乳頭の緑内障性変化が鑑別診断の鍵となる.CT(コンピュータ断層撮影),MRIによる球後軟部組織の画像診断は甲状腺眼症では970あたらしい眼科Vol.30,No.7,201346例(9.2%)緑内障疑い69例(13.8%)図4圧迫性視神経症のMRI上段:水平断,中段:矢状断,下段:冠状断.MRIで四直筋の肥大がみられ,視神経の圧迫所見がある.欠かせない.この視神経症は病期が進行すると中心暗点が絶対暗点となり,失明に至る場合もあるため注意する必要がある.文献1)BraleyAE:Malignantexophthalmos.AmJOphthalmol36:1286-1290,19532)PohjanpeltoP:Thethyroidandintraocularpressure.ActaOphthalmol(Copenh)97(Suppl):1-70,19683)井上洋一,井上トヨ子:DysthyroidOphthalmopathyにおける高眼圧について.臨眼25:1593-1600,19714)HeJ,WuZ,YanJetal:Clinicalanalysisof106caseswithelevatedintraocularpressureinthyroid-associatedophthalmopathy.YanKeXueBao20:10-14,20045)KalmannR,MouritsMP:PrevalenceandmanagementofelevatedintraocularpressureinpatientswithGraves’orbitopathy.BrJOphthalmol82:754-757,19986)OhtsukaK,NakamuraY:Open-angleglaucomaassociatedwithGravesdisease.AmJOphthalmol129:613-617,20007)ChengH:Thyroiddiseaseandglaucoma.BrJOphthalmol51:547-553,19678)CockerhamKP,PalC,JaniBetal:Theprevalenceandimplicationsofocularhypertensionandglaucomainthyroid-associatedorbitopathy.Ophthalmology104:914-917,19979)JamsenK:Thyroiddisease,ariskfactorforopticneuropathymimickingnormaltensionglaucoma.ActaOphthalmol74:456-460,1996(88)

屈折矯正手術:新しい老視治療用角膜インレイ:RainDrop®

2013年7月31日 水曜日

屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─監修=木下茂●連載158大橋裕一坪田一男158.新しい老視治療用角膜インレイ:荒井宏幸みなとみらいアイクリニックRainDropR角膜に多焦点性をもたせるような形状変化をもたらす角膜インレイが開発された.160μmの角膜フラップを作製し,瞳孔中心に留置する.直径は2.2mmで,厚さは30μmである.角膜中央部が近用,周辺部が遠用屈折度数に変化し,片眼にての多焦点性を実現している.●AcuFocusRとは原理の異なるインレイ老視治療用のインレイといえば,ピンホール効果により焦点深度を増加させる原理のAcuFocusRが世界的に注目されている.良好な成績も報告されているが,一方で夜間のグレアや適応のむずかしさも指摘されている1).RainDropRは新しく開発された老視治療用インレイである2).治療の原理は,角膜曲率の分布を中央が近用に,その周辺を遠用に変化させることにより,同時視を得ようとするものである.これはエキシマレーザーによる老視プログラムや遠近両用コンタクトレンズにおいて試みられている屈折分布である.●素材と手術方法材質はハイドロジェルである.直径は2.2mmで,厚さは30μmであり,レンズとしての度数はない.非常に脆弱なため,鑷子などでつかむことはできない.フェムトセカンドレーザーにて160μmの角膜フラップを作製し,必要であればエキシマレーザーにて屈折誤差を矯正する.その際の目標矯正度数は+0.75Dである.専用のインサーターから慎重にRainDropRを角膜ベッド上に移し,ほぼ瞳孔中心に位置を補正して角膜フラップを図1RainDropRのイメージ角膜フラップ下に透明なインレイを留置する.(85)0910-1810/13/\100/頁/JCOPY整復する(図1).手術用顕微鏡では角膜フラップを通してRainDropRを確認することはできないため,術直後に細隙灯顕微鏡にて留置位置の確認をする(図2).●適応AcuFocusRでは適応選択がむずかしい.ピンホール検眼枠を使用した術前のシミュレーションでは,実際の術後の見え方を確認できないためである.RainDropRでは,前述したとおり,遠近両用コンタクトレンズによる同時視と原理的に同じであるため,術前にある程度の効果を確認することが可能である.シミュレーションで使用するコンタクトレンズは,Bausch&Lomb社製メダリストRプレミアマルチフォーカルを使用する.このコンタクトレンズは中心部が近用で周辺部が遠用になるように設計されており,RainDropRの術後の状態に近似している.また,AcuFocusRでは,夜間の運転時にグレアを訴えることが多く,適応判断における重要なポイントであ図2RainDropRの細隙灯顕微鏡写真注意深く観察しないとインレイを確認することはむずかしい.あたらしい眼科Vol.30,No.7,2013967 図3術後の角膜形状解析LASIKを併用した症例である.RainDropRを留置している中央部に限局して屈折度の高いエリアがあることがわかる.ったが,RainDropRは透明であるため夜間のグレアは少ない.適応となるのは,多焦点眼内レンズを選択するほど年齢層が高くない,初期の老視年齢である40代半ば~50代前半であろう.モノビジョンのシミュレーションにて問題がなければ,LASIK(laserinsitukeratomileusis)でよいと思われる.モノビジョンにて見え方の違和感を感じる場合,前述のコンタクトレンズによるテストを行い,問題がなければ,良い適応となろう.●手術結果術後の角膜形状解析を図3に示す.角膜中央部に限局した高屈折部分があり,RainDropRの留置部位と一致する.両眼での裸眼視力の結果を図4に示す.術後3カ月以降での両眼視の近方視力は0.8程度であり,日常生活においては十分であろう.片眼の手術であるため,遠方視力は確保されていて問題はない.見え方に慣れるまでに約3カ月程度が必要と思われる.●術後の所見・合併症細隙灯顕微鏡にても,倍率を拡大して観察しないと見えない.翌日以降の偏位は報告されておらず,位置は安定している.まれにRainDropRの周囲にhazeが起こるという報告があるが,今回の症例群では認められなかった.この手技において最も注意すべきことは,ドライアイとDLK(diffuselamellarkeratitis)であろう.160μmの角膜フラップは多くの神経線維を切断するため,術後のドライアイは必発であると考えたほうがよいであろう.必要であれば,.点プラグなどの処置を追加する968あたらしい眼科Vol.30,No.7,2013:遠方裸眼視力:近方裸眼視力1.51.20.90.60.300.241.51.311.281.271.340.160.410.570.70.780.79裸眼視力術前1D1W1M3M6M図4裸眼視力の経緯(両眼視)術後3カ月にてほぼ安定した結果となっている.か,術前に行っておいてもよい.シビアな場合でも術後2~3カ月にて軽快する.LASIKでは,角膜フラップを整復した後,フラップ下を十分に洗浄するが,RainDropRが留置されているため,フラップ下洗浄ができない.そのため術翌日に軽度のDLK(gradeⅠ)を認めることがある.DLK自体はステロイド薬が著効するため,点眼および内服を考慮しながら観察を続け,術後3~4日にて軽快することを確認する.●考察角膜インレイによる老視矯正手術は,一見すると手軽で効果的な印象を受けるが,効果の個人差が大きいため適応がむずかしい2).問題がある場合には,摘出により形態は元に戻るが,そこに至る過程での診療は苦慮することが多い.今まで,AcuFocusRしかなかった選択肢が,今後はRainDropRというオプションも増えたことによって,角膜インレイの適応が拡大したことは,大きな福音であろう.少なくとも眼内手術が何らかの理由により選択できない場合には,角膜インレイが唯一の選択肢である.いずれの角膜インレイもフェムトセカンドレーザーが必要であるため,普及には時間がかかると思われるが,今後,白内障手術用のフェムトセカンドレーザーが普及すれば,行える施設数も多くなるであろう.文献1)LindstormRL,MacraeSM,PeposeJSetal:Cornealinlaysforpresbyopiacorrection.CurrOpinOphthalmol24:281-287,20132)GarzaEB,GomezS,ChayetAetal:One-yearsafetyandefficacyresultsofahydrogelinlaytoimprovenearvisioninpatientswithemmetropicpresbyopia.JRefractSurg29:166-172,2013(86)

眼内レンズ:白内障術後に生じた穿孔性強膜軟化症

2013年7月31日 水曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎323.白内障術後に生じた穿孔性強膜軟化症菅野彰西塚弘一山形大学医学部眼科学穿孔性強膜軟化症はまれであるが,重要な白内障術後合併症の一つである.重症例では外科的治療が必要であり,保存強膜移植術は穿孔性強膜軟化症に対する有効な治療法である.白内障術後合併症のうち,追加手術を必要とする重症な合併症としては,眼内炎,網膜.離や眼内レンズ落下などがよく知られているが,白内障術後に穿孔性強膜軟化症をきたし重症化する例があることはあまり知られていない1,2).穿孔性強膜軟化症が重症化した場合は眼球虚脱,ぶどう膜露出,眼内炎をきたし失明に至ることがあり,頻度は低いが重要な白内障術後合併症の一つである.筆者らも,超音波水晶体乳化吸引術(phacoemulsificationandaspiration:PEA)後に穿孔性強膜軟化症を発症した症例を経験したので紹介したい3).●症例患者:78歳,男性.主訴:頭痛,左眼眼痛・充血.現病歴:4カ月前に近医で左眼PEAおよび眼内レンズ挿入術を受けた.術後2カ月目より頭痛,左眼の眼痛が出現し,抗菌薬点眼(ガチフロキサシン,セフメノキシム)とステロイド点眼(ベタメタゾンリン酸エステルナトリウム),抗菌薬の全身投与(レボフロキサシン)および鎮痛薬(ロキソプロフェン)の内服にて加療されたが,症状が軽快しないため紹介受診となった.初診時所見:視力は右眼1.0(1.2×+1.0D(cyl.0.75DAx100°),左眼0.5(矯正不能),眼圧は右眼11mmHg,左眼13mmHgであった.左眼上方球結膜の充血と浮腫,白内障手術創口部位に一致する菲薄化した強膜が透見され(図1),前房中に軽度炎症細胞を認めた.血液検査では白血球数,C-reactiveprotein(CRP),自己抗体価(抗核抗体,リウマトイド因子,抗好中球細胞質抗体)は正常範囲内であった.ヘモグロビンA1C10.6%(NationalGlycohemoglobinStandardizationProgram:NGSP)とコントロール不良の糖尿病を認めた.経過:抗菌薬頻回点眼で治療したが,前眼部所見に変化を認めなかったため,白内障術後の穿孔性強膜軟化症(83)0910-1810/13/\100/頁/JCOPY図1初診時前眼部写真(文献3より)を疑い手術を施行した.結膜切開し白内障手術創口部位を確認したところ,強膜は菲薄化しており,一部前房水の流出を認めたため,穿孔性強膜軟化症と診断した(図2a).強膜欠損部の短縮縫合は困難であったため,保存強膜を8-0ナイロンにて被覆縫合した(図2b).術後速やかに症状は軽快し,結膜充血および前房炎症も徐々に軽快した(図3a).術後4カ月の時点で視力は左眼(0.8×+1.00D(cyl.2.0DAx90°),結膜充血は消失した(図3b).白内障術後に生じる穿孔性強膜軟化症の発症機序としては,関節リウマチやWegener肉芽腫症などの自己免疫疾患による強膜炎の発症,コンロトール不良な糖尿病による創傷治癒遅延や傷口再離開,切開・凝固・超音波といった手術侵襲による血流障害や細胞傷害が考えられる.本症例では手術侵襲とコントロール不良な糖尿病が穿孔性強膜軟化症に至った要因と考える.穿孔性強膜軟化症の治療として,保存的にステロイド点眼薬,ステロイド薬の全身投与,免疫抑制薬の全身投あたらしい眼科Vol.30,No.7,2013965 aa与がある.保存的治療が無効であった場合は,強膜穿孔を外科的に閉鎖する必要がある.重症例では,強膜短縮縫合術による閉鎖は困難であり,保存強膜,保存角膜などによる外科的再建が必要と考える.筆者らの施設では常時保存強膜が使用可能であり,速やかに治療を行うことが可能であった.穿孔性強膜軟化症はまれであるが,白内障術後の重症な合併症の一つである.保存強膜移植術は施行できる施設の限られた手術であるが,本症例のような重症な穿孔ab図2手術所見a:白内障手術創口部位の強膜菲薄化および穿孔を認めた.b:保存強膜を8-0ナイロン14針で強膜に縫合した.(文献3より)b図3術後前眼部写真a:術後1カ月.b:術後4カ月.(文献3より)性強膜軟化症においては有効な治療法の一つである.文献1)楠哲夫,志賀早苗,眞鍋禮三ほか:両眼白内障術後に発症した穿孔性強膜軟化症の1例.眼科手術10:543-547,19972)宮本陽子,斎藤航,岩田大樹ほか:白内障術後に生じた術後壊死性強膜炎の2例.臨眼62:1501-1504,20083)菅野彰,難波広幸,結城義憲ほか:白内障術後に生じた穿孔性強膜軟化症に対する治療経験.臨眼67:511-514,2013

コンタクトレンズ:コンタクトレンズ診療のギモン②

2013年7月31日 水曜日

提供コンタクトレンズセミナーコンタクトレンズ診療のギモン②2本コーナーでは,コンタクトレンズ診療に関する読者の疑問に,臨床経験豊富なTVCI※講師がわかりやすくお答えします.※TVCIは「ジョンソン・エンド・ジョンソンビジョンケアインスティテュート」の略称です.眼科医および視能訓練士を対象とするコンタクトレンズ講習会を開催しています.球面SCL装用者に1.25Dの直乱視がありました.トーリックSCLに変更すべきでしょうか?講師塩谷浩しおや眼科一般的にソフトコンタクトレンズ(SCL)の処方時に,角膜頂点間距離補正後の乱視が1.00D程度以上ある場合には,乱視を矯正するためトーリックSCLが適応となる.しかし,実際には球面SCLの装用で残余乱視が1.00D以上あるにもかかわらず,特別な不満の訴えがないという理由で球面SCLの装用を継続しているケースに遭遇することは珍しくない.このようなケースの多くは,視力が良好であっても見え方の質は不良であるはずであり,トーリックSCLの処方を検討するに値すると考えられる.さて,見え方に不満の訴えがない1.25Dの直乱視の残余乱視が検出された球面SCLの装用者に対してトーリックSCLの処方を検討すべき状態は,見え方の質が不良であるための症状が出ている場合である.すなわ表1乱視の未矯正の自覚症状・物が二重に見える・信号や標識の文字がぼやけて見える・近くの文字が見えにくい・パソコンのモニターの文字がぶれて見える・電光掲示板の文字が二重に見える・昼間は見えても夜間は見えにくい・街灯やネオンの光がにじんで見える・目を細めて見ることが多い・眉間にしわを寄せて見ることが多い・目の乾燥感がある・まぶしい感じがする・目が疲れやすい・頭痛や肩こりがあるち,表1に示したような自覚症状がある場合が適応と考えられる.患者自身はほとんどが,乱視の未矯正が原因で,このような症状が出ているとは思っていないので,表1に示した具体的な自覚症状の例を提示して患者に質問し,該当する症状があるかどうか確認することが重要である.さらに,装用している球面SCL上から検眼レンズ(円柱レンズ)で乱視を矯正して,検査室内の掲示板やカレンダーなどの離れたものや雑誌など近くのものの文字を患者に見させ,自覚的な見え方に変化があるかどうか確認する.可能ならば使い捨てレンズや頻回交換SCLのテストレンズで実際の処方同様に屈折矯正を行い,短時間あるいは一定の期間,トーリックSCLの装用を体験させ,自覚的な見え方と自覚症状の変化を確認する.そしていずれの場合も乱視の矯正により患者の快適性が増すようであればトーリックSCLの処方を検討する.また,角膜頂点間距離補正後の乱視が1.00D程度未満の弱度の乱視では,視力が良好で見え方の質にも問題がなく,特別な不満の訴えがないケースが多いが,それでも上述したような自覚症状のあるケースが認められる.弱度の乱視を矯正することのメリットは,残余乱視を矯正することで乱視の未矯正に起因する潜在的な自覚症状を改善させることにある..(81)あたらしい眼科Vol.30,No.7,20139630910-1810/13/\100/頁/JCOPY 強度の近視眼に対しては,弱度の乱視は無視して構わないでしょうか?講師塩谷浩しおや眼科コンタクトレンズ(CL)は,強度の近視眼では,眼鏡と比べると外界の像の縮小効果がほとんどないため,眼鏡より容易に良好な矯正視力を得ることが可能である.特に初めてCLを使用するようなケースでは,ソフトコンタクトレンズ(SCL)の装用で残余乱視があったとしても,見え方に妥協して満足が得られやすい.また,強度の近視眼では,角膜頂点間距離補正により球面度数と同時に円柱度数も小さくなることで,乱視を矯正する必要のなくなるケースが多くなる(図1).このような理由からSCLの処方者は,強度の近視眼に対しては,球面度数の設定時に近視の過矯正予防には配慮する必要があるものの,球面レンズで矯正視力が良好であれば,弱度-4.25D-4.00D-3.50D-3.25D角膜頂点間距離補正S-3.50C-0.75Ax180°S-3.25C-0.75Ax180°自覚的屈折度数トーリックSCL規格-7.75D-7.00D-7.00D-6.50D角膜頂点間距離補正S-7.00C-0.75Ax180°S-6.50C-0.50Ax180°自覚的屈折度数トーリックSCL規格図1円柱度数の角膜頂点間距離補正中等度近視S.3.50Dでは円柱度数C.0.75Dは角膜頂点間距離補正の前後で変化がないが,強度近視S.7.00Dでは円柱度数C.0.75Dは角膜頂点間距離補正の後にC.0.50Dと小さくなっており,トーリックSCLの適応ではない.の乱視は無視して構わない,という考えを生むに至ることが多いのであろうと考えられる.しかし,強度の近視眼に対してSCLを処方しようとする場合,乱視を未矯正にすると,矯正視力が良好で自覚的な見え方への不満の訴えがなくても,潜在的な自覚症状をもっていることがある.そのため一般的に強度の近視眼でも乱視があれば,たとえ弱度の乱視であっても乱視を無視することはできず,トーリックSCLの適応となるかどうか検討すべきなのである.以下に実際のケースを提示する.〔症例〕35歳,女性.処方経過:酸素透過性ハードCLを20年装用してきたが,アレルギー性結膜炎のためレンズが汚れやすく,頻回交換球面SCLに変更した.自覚的屈折検査:VD=0.04(1.2×S.7.00DC.0.50DAx20°)VS=0.03(1.2×S.8.50DC.1.25DAx180°)テスト装用SCL:R)8.80/.6.00/14.0L)8.80/.7.00/14.0VD=1.0×SCL(1.2×S.0.50D)VS=0.8×SCL(1.2×S+0.50DC.1.00DAx180°)1週間のテスト装用で,左眼は二重に見えるという訴えがあった.最終処方SCL:R)8.80/.6.00/14.0L)8.60/.6.50C.0.75Ax180°/14.5VD=1.0×SCL(1.2×S.0.50D)VS=1.0×SCL(1.2×S.0.50D)左眼をトーリックSCLに変更したところ,残余乱視は消失し,良好な視力とともに自覚的な満足が得られた.964あたらしい眼科Vol.30,No.7,2013(00)