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抗VEGF治療:網膜静脈閉塞症と抗VEGF薬

2013年2月28日 木曜日

●連載⑨抗VEGF治療セミナー─病態─監修=安川力髙橋寛二7.網膜静脈閉塞症と抗VEGF薬平原修一郎吉田宗徳名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学網膜静脈閉塞症(retinalveinocclusion:RVO)では,高率に黄斑浮腫を合併し,視力低下の原因となる.RVOの黄斑浮腫に対して,抗血管内皮増殖因子(VEGF)薬の臨床試験が実施され,既存の網膜光凝固やステロイド投与よりも優れた視力改善効果が示されている一方,頻回投与の長期的な視力予後への意義に関しては今後の検討が必要である.網膜静脈閉塞症(retinalveinocclusion:RVO)の黄斑浮腫に対する治療は,網膜光凝固,硝子体手術,薬物治療の3つに分けることができる.このうち,薬物治療としては,ステロイドと抗VEGF薬による治療がある.ステロイド治療には,トリアムシノロンアセトニドのTenon.下投与および硝子体内注射,デキサメタゾン硝子体内インプラントがあり,有用性が報告されている.近年は,抗VEGF薬の硝子体内投与による治療が盛んに研究されている.抗VEGF薬はベバシズマブ(アバスチンR),ペガプタニブ(マクジェンR),ラニビズマブ(ルセンティスR),アフリベルセプト(アイリーアR)の4種類に関する研究報告がなされている.眼科領域において適用外使用となるがベバシズマブを用いた臨床研究でRVOに対する有効性を述べた報告や,加齢黄斑変性に適用のあるペガプタニブの有効性を述べた臨床報告があるが,本稿では,現在,日本において網膜静脈分枝閉塞症(branchretinalveinocclusion:BRVO)および網膜中心静脈閉塞症(centralretinalveinocclusion:CRVO)に対する第Ⅲ相臨床試験が行われているラニビズマブと,CRVOに対して第Ⅲ相臨床試験が行われているアフリベルセプトについてBRVO,CRVOそれぞれに対する臨床試験の結果を解説する.BRVOラニビズマブを用いた海外における第Ⅲ相臨床試験(BRAVOstudy1))が2010年に報告されており,ラニビズマブ(0.3mg,0.5mg)硝子体内注射,偽注射を毎月実施した結果,6カ月後のデータとして,ラニビズマブ投与群(0.3mg,0.5mg)において,ETDRSスコアは,それぞれ16.6文字,18.3文字改善し,15文字以上(89)0910-1810/13/\100/頁/JCOPYの改善率は,55.2%,61.1%であり,偽注射群の7.3文字改善,改善率28.8%に対し,有意に改善がみられた.その後,さらに6カ月間の経過を追った報告2)では,最初の6カ月をラニビズマブ投与し,その後6カ月随時投与した群(ラニビズマブ投与群)と,最初の6カ月を偽注射で,その後6カ月ラニビズマブ(0.5mg)を随時投与した群(偽注射+随時投与群)を比較した.ラニビズマブ投与群(0.3mg,0.5mg)において,平均視力はそれぞれ16.4文字,18.3文字の改善,15文字以上の改善率は,56.0%,60.3%と6カ月後に得られた視力改善を維持した.一方,偽注射+随時投与群でも,12.1文字改善,改善率43.9%とラニビズマブの随時投与でさらなる平均視力の改善が得られたが,ラニビズマブ投与群より劣っていた.BRAVOstudy参加症例を,3カ月ごとの経過観察で,ラニビズマブを随時投与しながらさらに1年間経過観察した報告(HORIZONstudy3))では,ラニビズマブ投与3mg,0.5mg)において,ETDRSスコアはそれ.群(0ぞれ14.9文字,17.5文字改善し,15文字以上の改善率は,50.0%,60.3%であった.興味深いことに,偽注射+随時投与群でも15.6文字改善が得られ,視力改善率も51.5%と,初めの1年でみられたラニビズマブ投与群との差はなくなった(図1).BRVOのまとめ①ラニビズマブ投与群と偽注射(6カ月以降ラニビズマブ随時投与)群と比較すると,6カ月後,12カ月後では,ラニビズマブ投与群において視力改善効果が優れていた.②しかし,さらに3カ月ごとに随時投与を行い1年の経過をみると,偽注射(6カ月以降ラニビズマブ随あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013223 :ラニビズマブ投与群(0.5mg):ラニビズマブ投与群(0.3mg):偽注射+随時投与(0.5mg)MeanChangefromBaseline(Letters)2520151050+19.2+16.8+13.2+17.5+14.9+15.6BRAVOHORIZONRVOBaselineM1236912Month図1BRVOに対するBRAVOstudy(1年目)とHORISONstudy(2年目)の平均視力の改善文字数ラニビズマブ投与群は6カ月,12カ月後に偽注射+随時投与群に対して有意な視力改善効果がみられた.さらに3カ月ごとに随時投与を行い,24カ月後においても視力改善効果が維持されている.この時点で,偽注射+随時投与群も同様の視力改善が得られている(グラフ中の改善した平均文字数は,HORIZON試験参加症例に限る).(文献3より改変・転載)時投与)群でも視力改善を認め,両群の差はなくなった.CRVOラニビズマブを用いた海外における第Ⅲ相臨床試験(CRUISEstudy4))が2011年に報告されており,ラニビズマブ(0.3mg,0.5mg)硝子体内注射,偽注射を毎月実施した結果,6カ月後のデータとして,ラニビズマブ投与群(0.3mg,0.5mg)において,平均視力はそれぞれ12.7文字,14.9文字改善し,15文字以上の改善率は,46.2%,47.7%であり,偽注射群の0.8文字改善,改善率16.9%に対し,有意に改善がみられた.その後,さらに6カ月経過を追った報告5)では,最初の6カ月をラニビズマブ投与し,その後6カ月随時投与した群(ラニビズマブ投与群)と,最初の6カ月を偽注射で,その後6カ月ラニビズマブ(0.5mg)を随時投与した群(偽注射+随時投与群)を比較した.ラニビズマブ投与群(0.3mg,0.5mg)において,平均視力はそれぞれ13.9文字,13.9文字の改善を維持し,15文字以上の改善率は,47.0%,50.8%であった.一方,偽注射+随時投与群の7.3文字改善,改善率33.1%とラニビズマブの随時投与で平均視力はある程度改善したが,ラニビズマブ投与群には劣っていた.CRUISEstudy参加症例を,3カ月ごとの経過観察で,224あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013ラニビズマブを随時投与しながらさらに1年間経過観察した報告(HORIZONstudy3))では,ラニビズマブ投与3mg,0.5mg)において,ETDRS視力はそれぞ.群(0れ5.2文字,4.1文字悪化し,また偽注射+随時投与群でも4.2文字の視力低下がみられ,最終的にはCRUISEstudyによる治療開始時と比べるとそれぞれ8.2文字,12.0文字,7.6文字の視力改善にとどまり,BRVOと比べて長期的な加療の必要性や視力維持の難しさが示唆された(図2).アフリベルセプトを用いた第Ⅲ相臨床試験(COPERNICUSstudy6))の結果が2012年5月に報告され,アフリベルセプト硝子体内注射,偽注射を毎月投与した結果,6カ月後,アフリベルセプト投与群において,平均視力は17.3文字改善し,15文字以上の改善率は56.1%であり,偽注射群の4文字悪化,改善率12.3%に対し,有意な改善を認めた.その後,さらに6カ月経過を追った報告が2012年12月に報告されたばかりで7),最初の6カ月をアフリベルセプト投与し,その後6カ月随時投与した群(アフリベルセプト投与群)と,最初の6カ月を偽注射で,その後6カ月アフリベルセプトを随時投与した群(偽注射+随時投与群)を比較したところ,アフリベルセプト投与群において,平均視力は16.2文字の改善を維持し,15文字以上の改善率は55.3%であり,偽注射+随時投与群の3.8文字改善,改善率30.1%に対(90) :ラニビズマブ投与群(0.5mg):ラニビズマブ投与群(0.3mg):偽注射+随時投与(0.5mg)MeanChangefromBaseline(Letters)2520151050-5+16.2+14.9+9.4+12.0+8.2+7.6CRUISEHORIZONRVOBaselineM1236912Month図2CRVOに対するHORISONstudy(1年目)とCRUISEstudy(2年目)の平均視力の改善文字数ラニビズマブ投与群は6カ月,12カ月後に偽注射+随時投与群に対して有意な視力改善効果がみられた.さらに3カ月ごとに随時投与を行ったところ,いったん改善した視力の悪化がみられた(グラフ中の改善した平均文字数は,HORIZON試験参加症例に限る).し,有意に改善が得られている.CRVOのまとめ①ラニビズマブ,アフリベルセプト両薬剤とも,投与6カ月後,12カ月後において,偽注射(6カ月以降随時投与)群と比較して有意な視力改善効果が得られた.②しかし,ラニビズマブ投与群に関して,さらに3カ月ごとに随時投与を行い1年の経過をみると,いったん改善した平均視力の悪化がみられた.おわりにRVOの黄斑浮腫の治療の現状は,日本ではまだ十分確立しているとは言い難いが,抗VEGF薬治療を中心とした薬物治療の臨床試験が進められてきており,今後の治療方針にかかわるエビデンスの構築に注目していきたい.文献1)CampochiaroPA,HeierJS,FeinerLetal:Ranibizumabformacularedemafollowingbranchretinalveinocclusion:six-monthprimaryendpointresultsofaphaseIII(文献3より改変・転載)study.Ophthalmology117:1102-1112,20102)BrownDM,CampochiaroPA,BhisitkulRBetal:Sustainedbenefitsfromranibizumabformacularedemafollowingbranchretinalveinocclusion:12-monthoutcomesofaphaseIIIstudy.Ophthalmology118:1594-1602,20113)HeierJS,CampochiaroPA,YauLetal:Ranibizumabformacularedemaduetoretinalveinocclusions:long-termfollow-upintheHORIZONtrial.Ophthalmology119:802809,20124)BrownDM,CampochiaroPA,SinghRPetal:Ranibizumabformacularedemafollowingcentralretinalveinocclusion:six-monthprimaryendpointresultsofaphaseIIIstudy.Ophthalmology117:1124-1133,20105)CampochiaroPA,BrownDM,AwhCCetal:Sustainedbenefitsfromranibizumabformacularedemafollowingcentralretinalveinocclusion:twelve-monthoutcomesofaphaseIIIstudy.Ophthalmology118:2041-2049,20116)BoyerD,HeierJ,BrownDMetal:VascularendothelialgrowthfactorTrap-Eyeformacularedemasecondarytocentralretinalveinocclusion:six-monthresultsofthephase3COPERNICUSstudy.Ophthalmology119:10241032,20127)BrownDM,HeierJS,ClarkWLetal:IntravitrealAfliberceptInjectionforMacularEdemaSecondarytoCentralRetinalVeinOcclusion:1-YearResultsFromthePhase3COPERNICUSStudy.AmJOphthalmol2012Dec3(e-pub)(91)あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013225

緑内障:EX-PRESS®緑内障フィルトレーションデバイス

2013年2月28日 木曜日

●連載152緑内障セミナー監修=岩田和雄山本哲也152.EX.PRESSR緑内障フィルトレーション石田恭子岐阜大学大学院医学系研究科神経統御学講座眼科学分野デバイス線維柱帯切除術は,緑内障濾過手術のゴールドスタンダードではあるが,常に合併症のリスクがつきまとう.EX-PRESSR併用濾過手術では,内腔50μmのデバイスを通して房水を流出させ,濾過量を一定にすることで,術早期の過剰濾過に伴う合併症の発生を軽減し,再現性のある手術を目指す.●EX.PRESSRの原理と特徴AlconREX-PRESSRGlaucomaFilterationDevice(AlconLaboratories,Inc.,FortWorth,TX)は調圧弁をもたないglaucomadrainagedeviceで,線維柱帯切除術(Trab)と同様の強膜弁下から前房内に挿入し,デバイスを通じて房水を結膜下へ導き結膜濾過胞に貯留させ,眼圧を下降させる.わが国で発売されているモデルP-50は,全長が2.64mm,shaftの太さが400μm,内腔が50μm,眼内迷入や眼外突出を防ぐ目的で,前房側にかえし,強膜側に鍔が付いている.房水の流入口は2カ所あり,先端部が閉塞した場合に備えて,上側面にも流入口が設けられている.また,鍔にはverticalchannelとよばれる溝が付いており,デバイスを通じて前房から強膜弁下に流れ込んだ房水がより後方へ流れるように工夫されている.EX-PRESSR本体は,専用のデリバリーシステム(EXPRESSRdeliverysystem)に搭載された状態で販売されている(図1).EX-PRESSRは,心臓血管治療用ステントと同じ素材AB図1EX.PRESSRdeliverysystemA:EX-PRESSRdeliverysystemの保持例:ペン型のEXPRESSRdeliverysystemの先端には,EX-PRESSRが搭載されている.B:EX-PRESSR搭載時のEX-PRESSRdeliverysystemの先端部:EX-PRESSRdeliverysystem先端に搭載されたEX-PRESSR.(87)0910-1810/13/\100/頁/JCOPYのステンレス鋼製で生体適合性を有し,3テスラ以下の磁場強度でのMRI撮影であれば偏位や熱発生はなく安全とされている.●EX.PRESSRの適応と禁忌Trabと同様に,輪部濾過胞の形成に適した結膜を有する症例では,初回手術(図2),白内障および緑内障手術既往眼,角膜移植既往眼,硝子体手術既往眼などでも奏効することが報告されている1).一方,眼感染症,重度のドライアイ,重度の眼瞼炎などのTrabと同様の禁忌例の他に,器具特有の手術禁忌例に注意する必要がある.デバイス内腔が閉塞する可能性のあるぶどう膜炎,EX-PRESSRを挿入するスペースが確保できず虹彩と接触したり,虹彩前癒着のためデバイスが前房内に穿孔しないなどの合併症が予想される閉塞隅角緑内障,金属アレルギーの既往歴を有する症例では,EX-PRESSRの使用は禁忌である.●EX.PRESSR併用濾過手術の利点と成績挿入が比較的容易であること,流出路の大きさが標準図2EX.PRESSR併用濾過手術例抗凝固剤継続使用例に対し,EX-PRESSR併用濾過手術を施行した.あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013221 100806040200経過観察期間(月)図3EX.PRESSR併用濾過手術と線維柱帯切除術の手術成績紫線はEX-PRESSR併用濾過手術,青線は線維柱帯切除術の累積手術成功率を示す.両群の最終成功率はそれぞれ85.6%,84.3%で有意差はない.成功の定義:5<IOP≦21mmHg(文献2より改変)化(50μm)できること,虹彩切除や線維柱帯切除が不要であることがその利点としてあげられる.挿入が比較的容易であることから,前房開放時間および手術時間の短縮,ラーニングカーブが高いことが報告されている.流出路の大きさが標準化できることから,過剰濾過に伴う合併症を減少させることができる.EX-PRESSR併用濾過手術とTrabを比較した自験例では,手術成功を5≦眼圧≦21mmHgと定義すると,両術式の手術成績は同等(図3)であるが,術後1週間以内の低眼圧(眼圧<5mmHg)や脈絡膜.離の発生は優位に少なかった(図4)2).虹彩切除や線維柱帯切除を行わないため,術中の出血や炎症が少なくなり,流出路の閉塞や濾過胞の瘢痕化を軽減でき,長期成績が改善される可能性がある3,4).EX-PRESSR併用濾過手術とTrabを比較した5年成績では,術後3年目までの眼圧,術後4年目までの投薬数は,EX-PRESSR群が有意に低く,術後5年目の眼圧(および投薬数)は,EX-PRESSR群が,11.3mmHg(0.85),Trab群が,11.2mmHg(1.10)であった3).また,術後炎症の程度が比較的軽く合併症が少ないため,線維柱帯切除術と比較し術後視力回復も早い(術前と同等の視力レベルに回復するまでの期間が,Trabでは1カ月,EX-PRESSRでは1週間)と報告されている5).まとめ種々の研究報告から,EX-PRESSR併用濾過手術は,少なくともTrabと同等以上の長期成績が得られるうえ222あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013EX-PRESS:85.6%線維柱帯切除:84.3%p=0.594成功率(%)0246810121416*p<0.0014035302520151050**低眼圧脈絡膜滲出■EX-PRESSR■線維柱帯切除術図4過剰濾過に伴う合併症紫はEX-PRESSR併用濾過手術,青は線維柱帯切除術の過剰濾過に伴う合併症を示す.術後1週間以内の低眼圧(眼圧<5mmHg)や脈絡膜.離はEX-PRESSR併用濾過手術で有意に少ない.(文献2より改変)に,術早期の合併症発生頻度を軽減できる.しかしながら,手術コストが高いという不利益もある.コスト面を考慮してもなお,従来のTrabよりもEX-PRESSR併用濾過手術の恩恵を受けることができうる症例としては,出血リスクの高い抗凝固剤継続例や,過剰濾過に伴う合併症発生の高リスク群(若年,強度近視例,過剰濾過既往例),虹彩切除に伴う硝子体脱出のリスクがある症例(落屑症候群など),早期視力回復が望まれる単眼例などである.こうした症例には,今後より安全に濾過手術を施行できる可能性のある術式である.文献1)KannerEM,NetlandPA,SarkisianSRJretal:Ex-PRESSminiatureglaucomadeviceimplantedunderascleralflapaloneorcombinedwithphacoemulsificationcataractsurgery.JGlaucoma18:488-491,20092)MarisPJJr,IshidaK,NetlandPA:ComparisonoftrabeculectomywithEx-PRESSminiatureglaucomadeviceimplantedunderscleralflap.JGlaucoma16:14-19,20073)deJongL,LafumaA,AguadeASetal:Five-yearextensionofaclinicaltrialcomparingtheEX-PRESSglaucomafiltrationdeviceandtrabeculectomyinprimaryopen-angleglaucoma.ClinOphthalmol5:527-533,20114)DahanE,BenSimonGJ,LafumaA:ComparisonoftrabeculectomyandEx-PRESSimplantationinfelloweyesofthesamepatient:aprospective,randomisedstudy.Eye26:703-710,20125)GoodTJ,KahookMY:AssessmentofblebmorphologicfeaturesandpostoperativeoutcomesafterEx-PRESSdrainagedeviceimplantationversustrabeculectomy.AmJOphthalmol251:507-512,2011(88)

屈折矯正手術:新収差計iDesign® を使ったLASIK

2013年2月28日 木曜日

屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─監修=木下茂●連載153大橋裕一坪田一男153.新収差計iDesignRを使ったLASIK福岡佐知子多根記念眼科病院波面収差解析装置iDesignRは,従来使用していたWaveScanRと比較して,測定時の検査データのばらつきが少なく再現性のある結果が得られ,高解像度で多収差眼でも測定が可能となった.iDesignRで得られた詳細なデータから精密な照射パターンを作製しLASIKに反映させるため,より精緻な他覚的検査データを用いたLASIKが可能と期待されている.従従来のLASIK(laserinsitukeratomileusis)による屈折矯正手術は,低次収差(球面と円柱成分)の治療に限られていたが,現在は波面収差解析装置の登場により高次収差の定量的評価が可能になり1,2),これらのデータを用いたwavefront-guided(以下WFG)LASIKが主な術式として多くの施設で取り入れられている.波面収差解析装置の代表的なものとしてHartmannShack波面センサーがある.これは瞳孔から入った光線が網膜上で反射して眼外に出てくる射出光の位相のずれを眼外に置いたCCDカメラの多数のポイントによって測定する.得られたデータはZernike多項式3)またはFourier変換に基づく解析が行われ,エキシマレーザーの照射パターンに変換して治療に用いられる4,5).当院はこの代表機種であるWaveScanRWaveFrontSystem(AMO社)を用いてWFGLASIKを行ってきたが,2012年5月に新しく登場した「iDesignRAdvancedWaveScan(以下iDesignR)」(AMO社)を導入した.ここでは両機器の比較と,短期間ではあるが手術成績について紹介する.●iDesignRの特徴波面収差解析装置であるiDesignRの特徴を表1に示す.WaveScanRと比較して測定できる屈折度数やデータ取得範囲が拡大した.また,WaveScanRは,測定光線が赤外光で色収差のため測定結果が遠視側に検出されるので,実際の照射時は自覚屈折度数を参考に術者が補正を行う必要があった.iDesignRは,色収差が除外され調節の介入を軽減しているので測定結果のままで照射ができると期待されている.さらに,iDesignRの測定ポイントがWaveScanRの約5倍に増え,そこで詳細に得られたデータをより精密な解析法(Fourie解析=Zernike16次相当)で照射パターンを作製できるようになった.●WaveScanRとiDesignRの測定結果の比較両機器の測定精度を比較するため,眼疾患のない近視を有する16人31眼,平均年齢26.6歳(21~37歳)を対象とし,1眼につき5回計測して測定結果を検討した.測定度数のばらつきを球面度数の最大値と最小値の差から検討すると,WaveScanRとiDesignRは±0.75D以下表1波面収差解析装置WaveScanRとiDesignRの比較WaveScanRiDesignR球面屈折力(f6mm).12.0~+9.0D.16.0~+12.0D円柱屈折力(f6mm)±6.0D±8.0Dデータ取得範囲f7mmf8.5mmビデオターゲット赤色の視標蜘蛛の巣様の視標Hartmann-Shack波面センサーf7mmで255ポイントf7mmで1,257ポイント波面Fourier解析Zernike6次相当Zernike16次相当解像度400μm177μm直径7mmの測定範囲においてWaveScanRの測定ポイントが255ポイントに対し,iDesignRは5倍の1,257ポイントに増えた.(83)あたらしい眼科Vol.30,No.2,20132170910-1810/13/\100/頁/JCOPY 100%80%60%40%20%0%球面度数Hartmann-Shack波面センサー測定±0.75D以下90.3%±0.75D以下100%WaveScanRiDesignR0.250.50.7511.251.51.75表2WaveScanRとiDesignRの測定回数が増えることによる度数の影響WaveScanRiDesignR±0.25D以内24/31眼(77.4%)26/31眼(83.9%)±0.25D以上+0.30D.0.36D.0.49D.0.76D.0.26D.0.37D.0.72D+0.29D+0.39D.0.40D+0.32D+0.45D測定回数が増えることにより近視度数が増強したのはWaveScanR6眼,iDesignR1眼であった.は90.3%,100%であった(図1).また,繰り返す検査を行うことで調節が入るかどうか(近視が増すか)を測定1回目と5回目の等価球面度数の差から検討すると,.0.25D以上近視が増したものはWaveScanRでは6眼に対しiDesignRは1眼であった(表2).つまりiDesignRはばらつきが少なく再現性が高い測定が可能で,検査を繰り返しても調節が入りにくいという結果であっ218あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013図1WaveScanRとiDesignRの測定結果のばらつきの比較WaveScanRとiDesignRは±0.5D以下は74.2%,90.3%,±0.75D以下は90.3%,100%であった.測定率4眼/5眼(80%)図2回析型多焦点眼内レンズ(ZMB00:AMO社)挿入眼5眼を両機器で測定iDesignRは全例測定可能で,測定間隔が細かく描写も鮮明であった.5眼/5眼(100%)た.つぎに,iDesignRはカメラが高解像度になり複雑な波面を精密に測定できるようになった.そこで多収差眼である回折型多焦点眼内レンズ(ZMB00:AMO社)挿入眼5眼を両機器で測定し検討した(図2).WaveScanRは4眼(80%),iDesignRは5眼(100%)測定が可能であった.また,実際の測定画像は,iDsignRでは測定間隔が細かく描写も鮮明であった.以上のことからiDesignRは検者や患者のコンディションに測定結果が左右されず,多収差眼でも測定可能であり,安定した詳細なデータを治療に反映できると考えられる.●iDesignRの実際の手術成績2012年5~8月までにiDesignRを使用してiLASIKRを施行し,術後3カ月まで経過観察できた14人28眼の手術成績について検討した.平均年齢29.6歳(20~42歳).術前の自覚球面度数は.4.58±2.13D,自覚円(84) 柱度数は.1.45±0.69D,自覚等価球面度数は.5.30±2.02D,iDesignRとWaveScanRの等価球面度数は.5.61±2.13D,.5.16±1.98Dであった.小数視力経過は術前・術後1カ月・3カ月で0.07・1.32・1.31と良好な結果であった.術後の屈折値に関しては,術前に計測したiDesignR・自覚屈折度数・WaveScanRのデータをそのまま照射したと仮定すると,術後最高視力に必要な等価球面度数との差は+0.13D・.0.18D・.0.33Dとなった.iDesignRと自覚屈折度数はほぼ同等で,良好な裸眼視力が得られると考えられる.WaveScanRはそのままのデータで照射すると,やや低矯正となり良好な裸眼視力が得られず術者による補正が必要となる.今回紹介したiDesignRは多数のポイント,高解像度で取得したデータを解析し,詳細で安定したデータに基づく照射プログラムをそのまま施術することで,良好な裸眼視力が得られると考えられた.まだ症例数は少ないが,iDesignRの登場により精密な他覚的検査データを用いたLASIK手術が可能になってきたのではないかと期待する.文献1)LiangJ,GrimmB,GoelzSetal:ObjectivemeasurementofwaveaberrationsofthehumaneyewiththeuseofaHartmann-Shackwavefrontsensor.JOptSocAmAOptImageSciVis11:1949-1957,19942)MaedaN:Clinicalapplicationsofwavefrontaberrometryareview.ClinExperimentOphthalmol37:118-129,20093)黒田輝仁:Hartmann-Shack波面センサー.眼科診療プラクティス89,角膜形状解析の基礎と臨床,p104-105,文光堂,20024)南慶一郎,宮田和典:レーザー照射としてのゼルニケVSフーリエ.IOL&RS21:223-226,20075)宮田和典,加賀谷文絵,子島良平ほか:フーリエ変換波面パターン作製を用いたWavefront-guidedLASIK臨床効果.あたらしい眼科26:705-708,2009☆☆☆(85)あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013219

眼内レンズ:柴式排水器

2013年2月28日 木曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎318.柴式排水器柴宏治柴智美小髙隆平柴賢爾上水流真江柴眼科内眼手術において術野への液体貯留は視認性の低下による合併症の発生の危険性のみならず,眼内炎などの感染症の危険性も増大しうる.柴式排水器は水の表面張力,分子間力,重力を用いた新しい排液デバイスであり,眼科手術を行う者にとって良きパートナーとなるであろう.内眼手術における術野の液体貯留への既存の対策としては,電動式吸引機(以下,吸引法),外眼角へのガーゼや吸水スポンジの設置(以下,ガーゼ法),外眼角リトラクター,ソリフィスR1)などがある.柴式排水器は無動力で機能する新しい排水用デバイスで,術中の視認性確保,感染リスクの減少を目的として作製された.本器は表1に示すごとく,欠点の少ない機能的バランスが良い器具である.柴式排水器は水の表面張力,分子間力および重力を利用している.液体が術野に貯留し,フック部に接触するとフック部と皮膚との間にできた空隙に水たまり部が形成される.この水たまり部に術野の液体が水の分子間力によって引き寄せられ,眼角側に液体が移動する.移動した水は自由落下によって落ちてゆくが,この際に水路が形成され,連続排水を生み出す(図1).この原理から,本器がその効力を発揮するには,ある一定量(水路を形成するに足る量)の水量が必要であるといえる.ゆえに,点滴による自動点眼装置などのわずかな水の滴下による手術補助では,創口作製時や前.切開時などは水量が不十分となり,本器の効果が十分に得られないことがある.介助者が存在する場合においても同様であり,術野に水が貯留しそうな状態になれば,むしろ大量の水を術野に投入するという従来と正反対の介助が望ましい.また,これはガーゼ法やソリフィスR(トップ社)にもいえることであるが,水路を邪魔する物質(粘弾性物水たまり部図1柴式排水器の原理水たまり部に向かって下から上に向かって水が持ち上げられた後,自由落下にて術野の外に排液される.破線は水の流れ.質,眼脂など)が滞留すると排水力が著しく低下する.この場合も大量の水によるwashoutが必要となる.ただし,柴式排水器の場合はソリフィスRのように器具を取り外して洗浄する必要はない.ちなみに筆者らはハイドロダイセクション時に創口から多量の粘弾性物質が流出した際は,超音波チップを挿入する直前にエア抜きを兼ねてハンドピースから出る灌流液で水たまり部周辺を軽くwashoutしてから超音波を行うようにしている.本器のフック部の形状は安定した固定を得るためだけでなく,従来吸引法以外では困難であった術野の深い部分に溜まった水を引き上げて排水できるよう設計されて表1排水方法の比較柴式排水器ソリフィスR吸引法ガーゼ法外眼角リトラクター排水能良好良好良好不十分なし耳側手術問題なし困難可能問題なし問題なし設置・固定簡便・強固煩雑・やや不安定煩雑・不安定簡便・比較的強固介助技量依存しない依存しない依存する依存しない依存しない(81)あたらしい眼科Vol.30,No.2,20132150910-1810/13/\100/頁/JCOPY 図2a無処置では術野に大量の液体が貯留した状態いる(図2a,b).また,フック部が比較的細いため,本器は上下に容易に倒すことができ,類似する排水原理を有するソリフィスRでは困難であった耳側からアプローチする手術にも対応可能である.外眼角部の張りや厚みによってやや設置が困難な症例においては,敢えてフック部を外眼角の奥まで挿入しなくてもドレープや皮膚の皺などに軽く乗せて固定するだけでその効力を発揮する.図2b排水器を設置すると速やかに排水される柴式排水器は無動力で良好な排水能を有し,着脱も簡便である.本器の原理と特徴を理解して使用することで,眼科手術を行う者にとって頼もしいパートナーとなってくれるであろう.文献1)征矢耕一:新しい眼科手術用排液器─ソリフィスR─.眼科手術24:465-467,2011

コンタクトレンズ:コンタクトレンズ基礎講座【ハードコンタクトレンズ編】 過矯正にならないためのパワー決定法(3)

2013年2月28日 木曜日

コンタクトレンズセミナー監修/小玉裕司渡邉潔糸井素純コンタクトレンズ基礎講座【ハードコンタクトレンズ編】344.過矯正にならないためのパワー決定法(3)梶田雅義梶田眼科視や老視の矯正をハードコンタクトレンズ乱(HCL)で行うときに,近視の過矯正は満足度を低下させ,眼精疲労の原因になるが,患者はもちろんのこと,処方者も過矯正が原因であることに気づいていないことが少なくない.●乱視眼の場合眼鏡で乱視を矯正すると,レンズの中心部分では適切に矯正されるが,レンズの中心からずれたところを通して見ると,適切には矯正されていない.このため,日常視ではしっかり見たいという気持ちが調節を促して,調節緊張状態に陥っている場合と,眼と眼鏡による合成乱視の見え方に妥協して,あまり調節しないで見ている場合とがある.乱視の原因が角膜にある場合には,球面HCLを装用すると乱視は完全に矯正される.このときに,十分な雲霧を行って追加矯正を行わないと,調節緊張状態にある場合には容易に過矯正を提供してしまう.また,調節をあまり使用していなかった場合には完全矯正を提供すると,易疲労感を訴えることがある.いずれの場合であっても,矯正される乱視分程度を球面レンズで低矯正にした検眼レンズを20分間程度装用して,屈折が安定したところで,慎重に追加矯正度数を求めるのが望ましい.●遠近両用HCLの場合現在提供されている遠近両用HCLデザインは同心円型がほとんどであり,同心円型のすべてが中心遠用でその周囲に近用度数を配置したものである(表1).遠用部から近用部にかけて累進的にレンズ度数を連続して変化させているもの,遠用部と近用部がそれぞれ単焦点であるもの,遠用部と近用部がそれぞれ累進屈折であるものがある1,2).遠用部と近用部の間にはレンズ度数をスムーズに接合する部分が存在する.これらのデザインの違いは遠く,中間距離と近くの見え方に大きく影響する.●レンズ光学部全体が累進屈折力の場合鮮明にピントが合う距離は存在しないが,見え方に妥協できれば,どの距離もそれなりにピントが合う.中間距離が最も快適に見えるデザインである.鮮明な遠方視表1遠近両用ハードコンタクトレンズデザイン遠用部近用部メーカー製品名セグメント単焦点単焦点アイミーバイフォーカルIIメニコンメニフォーカルZ単焦点単焦点アイミークリアライフサンコンタクトレンズマイルドEpi単焦点累進屈折力シードマルチフォーカルO2ノアエイコーマルチ1同心円レインボークレールレインボークレールDXコンフォール累進屈折力累進屈折力東レプレリーナニチコンプラスビューHOYAマルチビューEXHOYAマルチビューEXライト累進屈折力シードマルチフォーカルO2それぞれ光学特性が異なり,見え方にも差がある.(79)あたらしい眼科Vol.30,No.2,20132130910-1810/13/\100/頁/JCOPY 力を要求する人に処方しようとすると,適正な矯正であれば中間距離に位置する矯正度数で遠方を矯正する度数が要求されることになる.その結果,近視過矯正の状態になり,近方視力が不足する.反対に鮮明な近方視力を要求する場合には,中間距離に位置する度数で近方度数を提供することになって,遠方視力が不足する.これに対処するため,加入度数を大きくすれば,どの距離も快適には見えなくなってしまう.●レンズ光学部の遠用部と近用部が累進屈折力レンズの場合すべての距離に比較的安定した視力を提供できるデザインである.しかし,遠方の見え方も近方の見え方にも累進屈折力レンズ特有のコントラスト低下がある.このコントラスト低下に対して矯正度数を強くして解決しようとすると,遠方のコントラストは多少解消されるものの,近方の見え方は不良になる.●レンズ光学部の遠用部と近用部が単焦点レンズの場合遠方と近方のどちらも安定した視力が提供できる反面,中間距離の見え方に物足りなさを感じる.これを解消するために,遠用度数を強めて,中間距離の見え方を改善しようとして,遠方矯正度数を強めると,近用度数で中間距離を見ることになり,中間距離の見え方は改善するが,近方視は損なわれ,かつ遠方は過矯正のために疲れやすくなる.また,トライアルレンズの度数が矯正度数よりも強い場合には,トライアルレンズを装用した状態で,近視過矯正状態になっているため,プラスレンズの検眼レンズで追加補正することに抵抗が生じ,近用度数で遠方を見るような矯正を要求されることがある.屈折矯正を行うときに,見えにくさを解決するために近視度数を強めればよいと思っている人が少なくない.確かに,過矯正状態になると屈折値に強い震え(調節微動)が生じるため,矯正視力が向上したかのように感じることがある.しかし,近視が過矯正状態である場合には,調節を緩めたときには遠方にも近方にもピントが合わない状態になっている.過矯正で眼の疲れを訴える場合には,度数を少し弱めただけでも遠方視力の低下に対する苦情が強くなるため,その後の対応は容易ではない.遠近両用HCLを処方するときには,患者の視環境を考慮してレンズデザインを選択し,適正な矯正度数を提供したときの見え方を受け入れてもらうように導くことがとても大切である.文献1)梶田雅義:二重焦点コンタクトレンズ.眼科44:10651072,20022)植田喜一:遠近両用コンタクトレンズ.眼科プラクティス27,標準コンタクトレンズ診療(坪田一男編),p208-212,文光堂,2009☆☆☆214あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013(80)

写真:著名な実質浮腫を生じた円錐角膜急性水腫

2013年2月28日 木曜日

写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦345.著明な実質浮腫を生じた山岸景子*1東原尚代*2*1西陣病院眼科円錐角膜急性水腫*2ひがしはら内科眼科クリニック①②図2図1のシェーマ①:Descemet膜破裂は非常に小さい.②:上皮下に多数のcleftを形成している.図1急性水腫の前眼部OCT(光干渉断層計)(VisanteTMOCT:カールツァイス社)写真20歳,男性.両眼の円錐角膜の患者が左眼の急激な視力低下を訴えて来院.左眼の急性水腫を認め,視力はVS=光覚弁(n.c.)であった.前眼部OCTで角膜の断面を観察すると,上皮下~実質に著明な浮腫があり,角膜全体がキノコ雲のように前方へ突出している.角膜実質の浮腫が強い割にDescemet膜破裂部位は小さく,比較的早期に急性水腫が軽快することが予想された.図3円錐角膜急性水腫の細隙灯顕微鏡写真図1と同一症例.スリット光で実質内に多数の水疱が形成されている.強い実質浮腫と混濁のために,Descemet膜破裂部位の詳細な観察ができない.図4円錐角膜急性水腫治癒後の細隙灯顕微鏡写真図1と同一症例.急性水腫発症から3週間で浮腫は消失し瘢痕治癒した.角膜混濁のために視力は,VS=(0.1×HCL)と不良であった.(77)あたらしい眼科Vol.30,No.2,20132110910-1810/13/\100/頁/JCOPY 急性水腫とは,Descemet膜破裂によって角膜実質と上皮に浮腫を生じる病態で,進行した円錐角膜や鉗子分娩,外傷などでみられる.Descemet膜に亀裂を生じることで房水が角膜内に流入して角膜に強い浮腫を生じる.急性水腫発症時には,角膜実質の強い浮腫と混濁のためにDescemet膜破裂部位を詳細に観察することができない.近年,前眼部OCT(光干渉断層計)を用いた円錐角膜急性水腫の観察に関する報告が散見され1,2),実質浮腫の観察やDescemet膜の治癒過程を把握するのに有用な検査方法と考えられている.本症例は円錐角膜眼であったが,前眼部OCTで角膜の断面を観察すると,上皮下~実質に水疱が多数形成されてキノコ雲のように前方へ突出しているのがわかる(図1,3).しかし,角膜実質の浮腫が強い割にDescemet膜破裂部位は小さく,比較的早期に急性水腫が軽快することが予想された.実際,ハードコンタクトレンズ(HCL)の装用中止と,抗菌薬眼軟膏の点入,低力価ステロイド薬点眼,炭酸脱水酵素阻害薬内服,圧迫眼帯で経過観察したところ3週間で角膜浮腫は完全に消失した(図4).今回の症例では実質浮腫が著明であったが,Descemet膜の破綻部位が小さかったために,裂けたDescemet膜領域に周辺角膜内皮細胞が伸展・被覆する時間があまりかからず,結果として急性水腫の回復が早かったのではないかと考えられた.急性水腫後の角膜前面形状は発症前よりも改善しているにもかかわらず(図5),角膜混濁が広い範囲に残存したために視力に関しては急性水腫発症前のVS=(0.5×HCL)に比して,急性水腫後はVS=(0.1×HCL)と低下した.前眼部OCTによるDescemet膜の破綻部位の大きさの観察は,急性水腫が軽快するまでの期間を予測するメルクマールになりうるが,急性水腫が比較的早くに軽快しても,角膜浮腫の程度が強いとその後の角膜混濁も強くなり視力予後に影響すると図5急性水腫発症前後の角膜形状解析図1と同一症例.上:発症前,下:治癒後.考えられた.文献1)KucumenBR,YenerelNM,GorgunEetal:Anteriorsegmentopticalcoherencetomographyfindingsofacutehydropsinapatientwithkeratoconus.OphthalmicSurgLesersImaging41:S114-S116,20102)東原尚代:前眼部OCTによる急性水腫の観察.あたらしい眼科28:73-74,2011212あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013(00)

補償光学適用走査型レーザー検眼鏡(AO-SLO)

2013年2月28日 木曜日

特集●黄斑疾患診療トピックスあたらしい眼科30(2):199.210,2013特集●黄斑疾患診療トピックスあたらしい眼科30(2):199.210,2013補償光学適用走査型レーザー検眼鏡(AO-SLO)AdaptiveOpticsScanningLaserOphthalmoscopy(AO-SLO)大音壮太郎*はじめに近年,スペクトラルドメイン光干渉断層計(SD-OCT)が普及し,組織切片に似た画像を用いて診療を行うことが可能となったが,細胞レベルでの観察は困難であった.しかし,OCTや走査型レーザー検眼鏡(SLO)に補償光学(adaptiveoptics:AO)技術を応用することにより,さらなる高解像度のイメージングを実現することが可能となる.本稿では,初めに補償光学技術に関する基礎的な知識を紹介し,ついで補償光学適用SLO(AOSLO)について述べ,AO-SLOにより得られた正常眼・病理眼における視細胞所見を供覧する.I補償光学とは補償光学は天文学分野への応用を目的として1950年代に提案された概念である.一般に,天体望遠鏡やカメラなどの光を使ったイメージング機器では,開口(結像レンズ)の大きさが大きいほど鮮明な像が得られる.しかし実際のところ,大型の天体望遠鏡を設置しても,開口径が10cm程度の小型の天体望遠鏡と同程度の分解能しか得られない.これは,大気のゆらぎの影響によって天体からの光の波面が歪み,さらに歪みが時間的にランダムに変動することによるためである.この問題を解決する手段が補償光学技術である.補償光学システムは,光の歪みを計測する「波面センサー」,その歪みを補正する「波面補正素子」,波面センサーからの情報に基づき波面補正素子を制御する「制御歪んだ波面波面補正素子波面センサー制御装置ビームスプリッター補正された波面図1補償光学システムの概念図装置」によって構成される(図1).これらの構成要素は電気的に結合されており,歪んだ入射波面をフラットな波面に補正する.波面補正素子には,可変形鏡と液晶空間位相変調素子の2種類があり,可変形鏡ではその表面形状を,液晶空間位相変調素子では光の位相分布を制御する.なお,時間的に変化する波面の歪みを適切に補正するために毎秒数百回以上の計測と補正を繰り返し,その結果,最終的にこの補償光学システムを通して目的の天体を観察すると,大気のゆらぎの影響が打ち消され,鮮明な天体像を取得することができる.II補償光学と眼底イメージング機器眼底カメラやSLO・OCTなどの眼底イメージング機器では,眼球の外部から内部に光を照射し,眼球光学系を通して眼底を観察する装置である.そのため,眼球光*SotaroOoto:京都大学大学院医学研究科感覚運動系外科学眼科学〔別刷請求先〕大音壮太郎:〒606-8507京都市左京区聖護院川原町54京都大学大学院医学研究科感覚運動系外科学眼科学0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(65)199 学系,特に角膜と水晶体に存在する歪み(高次の収差)の影響を避けられず,面分解能が制限されていた.ここで外部から証明された眼底を観測対象の星と考え,角膜と水晶体を大気のゆらぎと考えると,眼底イメージング機器に補償光学を導入する意義がはっきりする.すなわち,眼底イメージング機器に補償光学を導入すると,角膜や水晶体に存在する歪みの影響が除去され,鮮明な眼底像を得ることができる.補償光学システムによって理論上約2.0μmの面分解能が得られ,これまで生体眼での観察が不可能であった視細胞を眼底イメージング機器で観察できるようになるのである.III補償光学システムの実際天文学用の補償光学システムを構成する3つのサブシステムには,定番の組み合わせがある.波面センサーにはシャック・ハルトマン(Shack-Hartmann)センサーか波面曲率センサーが,波面補正素子には大型の可変形鏡が利用されることが多い.また制御装置としては性能の向上に伴い,最近では汎用のパソコンが利用される.補償光学を眼底イメージング機器に組み込む場合にも,天文学とまったく同じ補償光学システムを利用するのと同様の効果が期待される.実際,眼底カメラに補償光学をはじめて組み込み,鮮明な眼底像の取得に成功した1997年の先駆的研究においては,天文学分野と同様にシャック・ハルトマンセンサー,可変形鏡,およびパソコンで構成される補償光学システムが採用された1).しかし,この補償光学システムは,大規模な装置構成・高価などの理由により,医療の現場で使用される眼底イメージング機器に設置する装置としては適切ではない.そのため,眼底イメージング機器への応用に適した補償光学システムの研究開発が盛んに進められるようになった.なかでも波面補正素子が,システム全体の価格と性能を決定する重要な鍵となる.現在のところ眼底イメージング機器に適した小型で安価な波面補正素子として,MEMS(microelectromechanicalsystems)技術を応用した可変形鏡やLCOS型液晶空間位相変調素子(LCOSSLM:liquid-crystal-on-siliconspatiallightmodulator)が注目されている.200あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013IV新しい眼底イメージング機器:AO-SLO近年欧米において,AOイメージング,とりわけAO-SLOの研究開発が進められている2).筆者らは新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)による助成事業「高精度眼底イメージング機器研究開発プロジェクト」の一環として,ニデック社・浜松ホトニクス社・産業技術総合研究所と共同で,また文部科学省科学技術振興調整費「京都大学・キヤノン協同研究プロジェクト(CKプロジェクト)」の一環として,キヤノン社と共同でAO-SLOの研究開発を行っている.その光学系の概念図を図2に示す.イメージング用の入射光(スーパールミネッセントダイオード,840nm)は波面補正素子であるLCOS-SLMを経由して鋭くフォーカスされ,眼底上に輝点を形成する.眼底からの反射光は,同じ経路を逆向きに進み,光検出器(APD)の直前に置かれたピンホール上に再びフォーカスされる.ここで眼底上の輝点を二次元的に走査すると,共焦点の効果によりコントラストの高い高倍率の眼底像が取得される.つぎに,眼球光学系の収差の影響を除去すべく補償光学系を動作させる.そのためには,まずイメージング用の入射光と同様に,波面測定用のレーザー(レーザーダイオード,780nm)を眼に入射し,眼底上に輝点を形成する.眼底上の輝点は一様に散乱され,角膜や水晶体などの眼球光学系の収差の影響を受けて歪んだ波面が眼から出射される.その光波の歪みを波面センサー(シャック・ハルトマンセンサー)で計測し,それを打ち消すようにLCOS-SLMの位相を素早く制御する.その結果,イメージング用の光波についても収差の影響が除去され,光検出器上に理想的な輝点を形成することができるため,高分解能の眼底像を取得することが可能となる.補償光学が作動したときと作動していないときの取得画像を図3に示す.細胞レベルでの観察を行うためには,補償光学がいかに重要な役割を果たしているかがわかる.(66) ⑥記録LCOS-SLM(波面補正素子)高分解能(840nm)点灯位置制御高分解能画像/OCT光路切替OCT(840nm)波面検出用光源(780nm)波面センサ-(780nm)前眼部観察固視灯広画角①②③④⑤⑥記録LCOS-SLM(波面補正素子)高分解能(840nm)点灯位置制御高分解能画像/OCT光路切替OCT(840nm)波面検出用光源(780nm)波面センサ-(780nm)前眼部観察固視灯広画角①②③④⑤高解像度画像撮影位置制御図2AO-SLO光路図高解像度AO-SLO画像(①)は広画角SLO(②)とリンクしていて,カーソル移動により後極部の任意の位置を撮影することができる.③:補償光学システム,④:OCT,⑤:前眼部モニター(撮影補助用),⑥:内部固視灯.図3補償光学の効果補償光学が作動しているとき(AO-ON)は視細胞像が観察されるが,補償光学を切断する(AO-OFF)と不明瞭な像となる.V正常眼におけるAO-SLO画像と画像解析方法現在AO-SLOでとらえられている像として,網膜神経線維束・大血管および毛細血管内の血球動態・視細胞があげられる(図4).筆者らの開発したAO-SLOで見えている視細胞はすべて錐体細胞であるが,最新の研究では,杆体細胞も描出可能な次世代AO-SLOシステムの開発が報告されている(図5)3).正常眼における視細胞パノラマ像を図6に示す.黄斑部の組織学的所見では,中心窩においては小さな錐体細胞が密に配列しているのに対し,周辺では大きな錐体細胞の間を小さな杆体細胞がうめる構造をとる.AO-SLOにより得られる錐体細胞モザイクにおいても,中心窩近傍では小さな錐体細胞が密に配列しているのに対し,中(67)あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013201 図4AO-SLOにより得られる画像左:視細胞.中:網膜神経線維束.右:血管内の血球動態.図5次世代AO-SLOによる杆体細胞の可視化錐体細胞のまわりに小型の杆体細胞が多数存在している.(文献3より改変)心窩からの距離が離れるに従って,個々の細胞が大きくなり,密度が低下することがわかる.中心窩から0.2,0.5,1.0mmの部位における平均視細胞密度は,67,900,33,320,14,450個/mm2であり,組織学的研究の結果とほぼ一致している4).得られた視細胞画像を用いて,視細胞密度の測定や,視細胞配列の解析を行うことができる.まず血管によるシャドウの少ない領域を選び,個々の視細胞の重心をソ*図6正常眼視細胞像左:通常SLO画像.拡大しても視細胞は確認できない.右:同部位のAO-SLO画像および拡大像.個々の視細胞が解像され,中心窩近傍(上方)では細胞が小さく,視細胞密度も高いが,中心窩から離れるに従って細胞は大きくなり,密度も低下する.*:中心窩.(文献4より改変)202あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013(68) 図7視細胞重心の自動検出左:血管によるシャドウの少ない部位を選択.右:視細胞の重心をソフトウェアにより自動検出(緑で表示).図8視細胞重心から得られるVoronoi図各視細胞重心の垂直二等分線を引くことにより得られる.視細胞配列の解析に使用.緑は六角形,青は五角形,黄色は七角形を示す.緑で表される六角形の割合が高いほど配列に規則性があると考えられる.図9網膜神経線維パノラマ画像A:後極部の網膜神経線維束パノラマ像.B:Aの白枠の拡大.個々の神経線維束が描出されている.フトウェアにより自動検出する.眼軸長によるスキャン(文献5より改変)長補正を行ったのち,視細胞数/面積の計算により各部位における視細胞密度を算出することができる(図7).また,得られた各視細胞重心からの垂直二等分線を引く得られ,視細胞配列の規則性を解析することができることにより,Voronoi図(ある距離空間上の任意の位置(図8).一般に1つの視細胞は6つの視細胞に近接したに配置された複数個の点に対して,同一距離空間上の他配列をとっており,Voronoi図の六角形の割合が多いほの点がどの母点に近いかによって領域分けされた図)がど配列が規則的であると考えられている.(69)あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013203 5045403530252015網膜神経線維束幅(AO-SLO)10500°30°60°90°120°150°180°210°240°270°300°330°250200150100500網膜神経線維層厚(SD-OCT)0°30°60°90°120°150°180°210°240°270°300°330°Position図12中心性漿液性脈絡網膜症における視細胞異常A:初診時SD-OCT水平断.漿液性網膜.離(SRD)を認める.1カ月でSRDは自然寛解した.B,C:4カ月後.B:SD-OCT水平断.SRDは消失している.IS/OS:視細胞内節外節接合図10視神経乳頭周囲における網膜神経線維束幅と神経線維部,COST:視細胞外節先端.C:中心窩のAO-SLO画像.視層厚細胞モザイク内に斑状のdarkregionを認め,視細胞の欠損とAO-SLOにおける神経線維束幅は二峰性を示し,OCTにおけ考えられる.視細胞密度は低下している.*:中心窩.スケーる神経線維層厚と相関する.(文献5より改変)ルバー:100μm.(文献4より改変)図11視神経篩状板孔の観察篩状板孔は眼底写真より鮮明に描出され,緑内障眼での研究に有用である.(文献6より改変)204あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013(70) 図9に示すのは正常眼における網膜神経線維束のパノラマ像である5).AO-SLOにより個々の神経線維束が描出可能となり,既存のOCTなどでは不可能な神経線維束幅の計測が可能となる.興味深いことに,乳頭周囲の神経線維束幅は二峰性を示し,SD-OCTにより得られた神経線維層厚と相関を示す(図10)5).また,AO-SLOは視神経篩状板孔の観察にも利用可能である(図11)6).このような検討は緑内障研究で有用と考えられる.VI病理眼におけるAO-SLO画像(視細胞像)1.中心性漿液性脈絡網膜症寛解後の視細胞構造異常(図12)4)中心性漿液性網脈絡膜症(CSC)では多くの症例で漿液性網膜.離は自然消退し,視力が回復するが,漿液性網膜.離消退後も比較暗点や変視症・色覚異常を自覚することが多い.また,慢性型では恒久的な視力障害を残すことが知られている.これまでOCTを用いた研究により,CSC症例で視細胞内節外節接合部(IS/OS)に異常をきたすことや,中心窩網膜厚が菲薄化することが報告され,CSCでは視細胞層に障害がもたらされていることが示唆されてきたが,個々の視細胞にどのような異常が生じているのかは不明であった.筆者らはAO-SLOを用いて,CSCの漿液性網膜.離消退後の視細胞構造について検討を行った.漿液性網膜.離の消失を認めたCSC症例は全例で5.100細胞大の視細胞欠損像が斑状に観察された.中心窩から0.2,0.5,1.0mmの部位における平均視細胞密度は31,290,18,760,9,980個/mm2であり,正常眼に比べ有意に低下していた.中心窩から0.2mmの部位における平均視細胞密度は平均視力および中心窩平均網膜厚と有意な相関がみられた.また,SD-OCT像でのIS/OS不整群はIS/OS正常群に比べ有意に視細胞密度が低かった.このようにAO-SLOによりCSCおける網膜復位後の視細胞構造異常が明らかとなった.CSCではSRD消失後も視細胞密度が減少し,残存視細胞密度は視力・網膜厚と相関する.すなわち,CSCでは視細胞密度の減少が視力障害に関係しており,治癒後の比較暗点や色覚異(71)常にも関与すると考えられる.2.黄斑円孔術後における視細胞構造異常(図13,14)7)近年手術機器・手技の進歩により,硝子体手術による黄斑円孔閉鎖率は高くなったが,円孔の閉鎖が必ずしも良好な視力回復をもたらすとは限らず,閉鎖後も比較暗点や変視症を自覚する場合が多い.これまでOCTを用いた研究により,黄斑円孔閉鎖後もIS/OSや外境界膜(ELM)に異常をきたしていることが報告され,視細胞層の障害が術後視機能に影響していることが示唆されてきたが,個々の視細胞構造異常は不明のままであった.筆者らはAO-SLOを用いて黄斑円孔閉鎖後の視細胞構造異常について前向き研究を行い,術前因子との関連を検討した.特発性黄斑円孔症例を対象として,硝子体手術後6カ月でAO-SLO・SD-OCT・マイクロペリメトリーの測定を行ったところ,全例で視細胞欠損所見が確認され,平均視細胞密度は正常眼に比べ有意に低下していた.視細胞密度および視細胞欠損面積は,視力・網膜感度と相関を認め,術前のSD-OCTにおける視細胞外節欠損所見と関連していた.また,症状の持続期間と視細胞欠損面積とは正の相関を認めた.このようにAO-SLOにより黄斑円孔術後の視細胞構造異常が明らかとなり,視細胞欠損の程度が視機能に関連していることが示された.黄斑円孔発生時に後部硝子体からの牽引が視細胞層に欠損をもたらし,持続期間が長くなれば視細胞障害が進み,術後も視細胞構造異常が残存するものと考えられる.3.黄斑上膜症例における視細胞配列異常(図15,16)8)黄斑上膜症例の視機能異常として変視症があることはよく知られている.これまでOCTを用いた研究により,黄斑上膜症例でIS/OSに異常をきたすことや,中心窩における外顆粒層厚が増加することが判明し,黄斑上膜は視細胞層へ影響を及ぼすことが示されてきたが,変視症のメカニズムは不明のままである.筆者らはAO-SLOを用いて黄斑上膜症例の視細胞構造について検討を行あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013205 図13特発性黄斑円孔術後における視細胞異常一段目:初診時SD-OCT水平断.特発性黄斑円孔を認め,外境界膜(ELM)の外側に存在すべき視細胞内節外節接合部(IS/OS)の反射低下(青矢頭)および欠損像(赤矢印)を認める.二段目:硝子体手術後.黄斑円孔は閉鎖したが,中心窩周囲の網膜感度の低下(右)を認める.三段目,四段目:SD-OCT(二段目の緑矢印部位のスキャン).IS/OSの欠損(青矢頭)および中心窩に高反射領域(*)を認める.ONL:外顆粒層,COST:視細胞外節先端,RPE:網膜色素上皮.(文献7より改変)図14特発性黄斑円孔術後のAO-SLO画像図13と同一症例(二段目の白枠部位に相当).視細胞欠損像を認め(黄矢印),網膜感度低下領域と一致している.*:中心窩.(文献5より改変)206あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013(72) 図15黄斑上膜における視細胞異常A:眼底写真にて黄斑上膜を認める.B:IR画像.C:アムスラーチャートにて広範囲な変視症を認める.D:SD-OCT水平断(Bの緑矢印部位).黄斑上膜(黒矢印)を認める.中心窩IS/OSは不規則である(青矢印).E:SD-OCT垂直断(Bの緑矢印部位).F:AO-SLO画像(Bの白枠,D・Eの両矢印部位に相当).視細胞モザイク内に多数のmicrofold(赤・黄矢印)を認める.*:中心窩,スケールバー:100μm.図16正常眼および黄斑上膜症例の視細胞配列正常眼(左)および黄斑上膜症例(右)における視細胞重心Voronoi図.正常眼では緑で示される六角形の割合が高いが,黄斑上膜では低下している.(文献8より改変)い,変視症への関与を考察した.黄斑上膜症例では,視細胞間に多数の皺襞様低反射像を認め,筆者らはこの所見を“microfold”と名付けた.Microfoldを中心窩に認める症例では,アムスラーチャートで固視点付近に変視症が認められ,M-CHARTSにおける変視スコアも悪かった.また,Voronoi図における六角形の割合は正常眼に比べ有意に低い結果となり,(73)(文献8より改変)視細胞配列の規則性が低下していた(図16).この研究により,黄斑上膜症例において,既存のSLOやSD-OCTでは検出不可能な黄斑上膜特有の視細胞配列異常が判明し,変視との関係が認められた.黄斑上膜症例において,microfoldに表される視細胞配列の乱れが変視症の形成に関与していることが示唆される.黄斑上膜による求心性の収縮が網膜の肥厚を起こすのみでなく,視細胞層にもさまざまな程度の歪みを生じさせ,microfold・配列の規則性低下をひき起こすと考えられる.4.黄斑部毛細血管拡張症における視細胞異常と蛍光眼底造影所見(図17,18)9)黄斑部毛細血管拡張症(MacTel)は近年注目されている疾患である.MacTeltype2は種々のイメージング機器での異常所見が報告されており,OCTでは網膜内層・外層に萎縮性の変化をきたすことや,初期から外顆粒層に高輝度点が認められることが報告され,病態に視細胞障害が関与していると考えられていたが,病態メカあたらしい眼科Vol.30,No.2,2013207 図17黄斑部毛細血管拡張症における視細胞異常A:眼底写真にて黄斑部毛細血管拡張および網膜の透明性低下を認める.B:フルオレセイン蛍光眼底造影にて蛍光漏出を認める.C:眼底自発蛍光にて黄斑部自発蛍光の増強を認める.D:SLOredfree画像にて黄斑部反射増強(黄矢印)を認める.E:マイクロペリメトリーにて傍中心窩の網膜感度低下を認める.F:IR画像.G:SD-OCT水平断(Fの緑矢印部位).外顆粒層に高輝度点(黒矢頭)を認める.中心窩IS/OSは不規則である(青矢印).H:SD-OCT垂直断(Fの緑矢印部位).(文献9より改変)ニズムについては依然と不明のままである.筆者らは傍中心窩領域にかけて視細胞欠損像が斑状・輪状に観察AO-SLOを用いてMacTeltype2症例の視細胞構造にされ,視細胞密度の低下を認めた.視細胞密度とマイクついて検討を行い,蛍光眼底造影など他のイメージングロペリメトリーにて測定した網膜感度とは相関がみら機器から得られた所見と比較検討した.れ,視細胞障害が視機能に関与していることが示唆されMacTeltype2においては,中心窩からおもに耳側のる.また,AO-SLOで視細胞構造に異常を認める領域208あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013(74) はフルオレセイン蛍光眼底造影(FA)にて蛍光漏出を認めない範囲にまで視細胞異常が広がっていた.さらにFAでの蛍光漏出は認めないGass分類stage1の早期症例においても,AO-SLOにより斑状の視細胞異常が確認された.これらの所見は,視細胞異常が血管病変に先行して出現することを示唆するものである.MacTeltype2は網膜血管疾患ではなく,視細胞やその支持細胞であるMuller細胞の変性が本態であると推察される.以上のように,AO-SLOにより得られる視細胞密度・視細胞配列と視機能や他のイメージング機器から得られる所見を比較することにより,さまざまな眼底疾患の病態理解を深めることができる.VIIAO-OCTの可能性補償光学技術はOCTにも応用可能である.2003年図19AO-OCTによる高解像度三次元画像NFL:網膜神経線維層.GCL:神経節細胞層.OPL:外網状層.OS:視細胞外節.(文献10より)0.4mm0.3mm図18黄斑部毛細血管拡張症のAO-SLO画像図17と同一症例(Fの白枠部位に相当).輪状の視細胞欠損(黄矢印)および小型・斑状の視細胞脱落像(赤矢印)を認める.蛍光眼底造影にて蛍光漏出のない中心窩下方領域まで視細胞異常が認められる.*:中心窩.(文献9より改変)AO-OCTVolumeImageofRetinaNFLGCL0.25mmOPLOS(75)あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013209 にはタイムドメインOCTに,2005年にはFourierドメインOCTに補償光学が導入された.研究室レベルでは,面分解能・深さ分解能ともに3μmである超高解像度の3D画像が示されている(図19)10).まさに眼底を‘virtualbiopsy’するような画像といえる.AO-SLOでは深さ分解能は高くなく,解析はおもに視細胞層・網膜神経線維層に限られるが,深さ方向の分解能も高いAOOCTはまさに究極の眼底イメージング機器となりうる.病理眼に応用し,診療で使用できるレベルに達するにはスキャン速度の高速化・固視微動の除去・光量の問題などさまざまな問題を解決する必要があるが,AO-OCTが市場に登場すれば眼科の世界が変わる可能性がある.おわりに眼底カメラ・SLO・OCTにそれぞれ補償光学が導入され,眼底イメージングにおける補償光学の重要性が広く認識されてきた.補償光学は眼球光学系の歪みの影響を除去し,分解能の飛躍的向上を可能にする.同時に,コントラストやSN(signal-to-noise)比の改善も期待されるため,取得される眼底像の品質向上に大いに貢献する技術となる.近い将来,角膜のスペキュラを使うようにAO-SLOを用いて視細胞密度を数え,また生検を行うかのようにAO-OCTを用いて網膜biopsyscanを行って,網膜疾患や緑内障の治療適応を検討し,治療の効果判定に利用する時代が来ると考えている.文献1)LiangJ,WilliamsDR,MillerDT:Supernormalvisionandhigh-resolutionretinalimagingthroughadaptiveoptics.JOptSocAmAOptImageSciVis14:2884-2892,19972)RoordaA,Romero-BorjaF,DonnellyWJIIIetal:Adaptiveopticsscanninglaserophthalmoscopy.OptExpress10:405-412,20023)DubraA,SulaiY,NorrisJLetal:Noninvasiveimagingofthehumanrodphotoreceptormosaicusingaconfocaladaptiveopticsscanningophthalmoscope.BiomedOptExpress2:1864-1876,20114)OotoS,HangaiM,SakamotoAetal:High-resolutionimagingofresolvedcentralserouschorioretinopathyusingadaptiveopticsscanninglaserophthalmoscopy.Ophthalmology117:1800-1809,20105)TakayamaK,OotoS,HangaiMetal:High-resolutionimagingoftheretinalnervefiberlayerinnormaleyesusingadaptiveopticsscanninglaserophthalmoscopy.PLoSONE7:e33158,20126)AkagiT,HangaiM,TakayamaKetal:Invivoimagingoflaminacribrosaporesbyadaptiveopticsscanninglaserophthalmoscopy.InvestOphthalmolVisSci53:41114119,20127)OotoS,HangaiM,TakayamaKetal:Photoreceptordamageandfovealsensitivityinsurgicallyclosedmacularholes:anadaptiveopticsscanninglaserophthalmoscopystudy.AmJOphthalmol154:174-186,20128)OotoS,HangaiM,TakayamaKetal:High-resolutionimagingofthephotoreceptorlayerinepiretinalmembraneusingadaptiveopticsscanninglaserophthalmoscopy.Ophthalmology118:873-881,20119)OotoS,HangaiM,TakayamaKetal:High-resolutionphotoreceptorimaginginidiopathicmaculartelangiectasiatype2usingadaptiveopticsscanninglaserophthalmoscopy.InvestOphthalmolVisSci52:5541-5550,201110)MillerDT,KocaogluOP,WangQetal:Adaptiveopticsandtheeye(superresolutionOCT).Eye25:321-330,2011210あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013(76)

超広角走査型レーザー検眼鏡の黄斑疾患への応用

2013年2月28日 木曜日

特集●黄斑疾患診療トピックスあたらしい眼科30(2):193.197,2013特集●黄斑疾患診療トピックスあたらしい眼科30(2):193.197,2013超広角走査型レーザー検眼鏡の黄斑疾患への応用ClinicalUseofUltra-WideFieldScanningLaserOphthalmoscopeforMacularDiseases吉田宗徳*小椋祐一郎*はじめに黄斑疾患の診断にフルオレセイン蛍光眼底造影(fluoresceinangiography:FA)やインドシアニングリーン蛍光眼底造影(indocyaninegreenangiography:IA),眼底自発蛍光(fundusautofluorescence:FAF)などの眼底カメラを用いた検査が活用される.これまでの眼底カメラによる眼底撮影は画角が35°.50°程度であり,眼底の周辺部を捉えるためには被験者に眼球を動かしてもらったり,カメラを動かす必要があった.眼底全体像を記録するためには何枚もの写真を撮影し,パノラマ写真を作成しなければならなかった.しかもそこまでしてもなお眼底の最周辺部を撮影することはほぼ不可能であった.最近開発されたOptosR200Tx(図1)を用いた超広角眼底撮影では,一度の撮影で眼底の約80%以上にあたる200°の広角の画像を得ることができる(図2)1).加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD)に代表される黄斑疾患では黄斑部におもな病変があり,これまで眼底周辺部の所見はあまり注目されていなかったが,この新しい機械の登場によって黄斑疾患の眼底周辺部の変化が注目されるようになった.IOptosR200TxとはOptosR200Txは走査型レーザー検眼鏡の原理を用い,一度に200°の範囲の眼底を撮影することのできる装置である.OptosR200Txでは瞳孔面に眼底をスキャンする基準の地点(バーチャルスキャンポイント)を置図1OptosR200Txの外観き,そこを中心として円を描くように眼底を約200°スキャンする形で撮影している.1回の撮影に要する時間は約0.3秒である.波長532nm(緑色)のレーザー光で眼底の浅い部分,波長633nm(赤色)のレーザーで眼底の深部を撮影し,合成したうえで疑似カラーを着色してカラー写真を作成する(図3).また,OptosR200Txではカラー眼底のほか,広角のFAとFAFも撮影することができる.IAに関しては現モデルでは撮影できないが,近いうちにIAも撮影できるモデルが開発される予*MunenoriYoshida&YuichiroOgura:名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学〔別刷請求先〕吉田宗徳:〒467-8602名古屋市瑞穂区瑞穂町川澄1名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(59)193 ABAB図2通常の眼底カメラとOptosR200Txで撮影された眼底の画像糖尿病網膜症で光凝固後の眼底である.A:通常の眼底カメラ(画角50°)で撮影したもの.B:OptosR200Txで撮影したもの.(文献1より)図3OptosR200Txによる眼底撮影OptosR200Txでは異なる2つの波長(532nm,633nm)のレーザーを用いて撮影した画像を合成し,疑似カラーをつける方法をとっている.A:波長532nmのレーザー光を用いて撮影された画像.網膜など眼底の浅層が撮影されている.B:同じく波長633nmでの像.脈絡膜などの眼底の深層が撮影されている.C:AとBを合成し,疑似カラーをつけて完成した眼底像.通常はこのような画像で表示される.(文献1より)ACB194あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013(60) 定である.FAには波長488nm(青色)のレーザーが,FAFには532nmが用いられる.II黄斑疾患における超広角眼底撮影黄斑疾患では,黄斑部のみに目が向きがちではあるが,糖尿病黄斑浮腫(diabeticmacularedema:DME)や網膜静脈閉塞症(retinalveinocculusion:RVO)に伴う黄斑浮腫などでは,当然周辺部の網膜の虚血性変化などが黄斑浮腫に関係してくるし,AMDでも黄斑部網膜以外にも網膜の異常が起こっていることがわかってきている.黄斑上膜では周辺部に黄斑上膜の原因がある場合があるし,黄斑円孔では比較的高率に眼底周辺部に網膜変性がみられる.OptosR200Txでは,一度の撮影で眼底の周辺部までの変化が捉えられ,しかも無散瞳での撮影が可能である.OptosR200Txの画像では全体像を一度につかめるため,病変のオリエンテーションをつけるには非常に適しているといえる.逆にOptosR200Txは広角撮影を行うが,写真の解像度が非常に高いため,黄斑部のみを拡大しても通常の眼底撮影とほぼ同等の十分な画質を備えている.Csutakらは従来型眼底カメラを用いた45°撮影とOptosR200Txの類似型機であるOptosRP200CAFを用いた200°撮影とでAMDおよびARM(age-relatedmaculopathy)の写真によるグレーディングを行い,両者を比較したところ,96%以上が一致したと報告しており2),OptosR200Txの画像のみでもAMD診療に十分用いることができることが示されている.また,OptosR200Txを用いれば容易に電子カルテ上に眼底周辺部を含む所見を記録することができる.III超広角FA従来は周辺部のFAの評価には眼底写真を合成してパノラマ写真を作ることが多かった.この方法では1枚1枚の写真そのものが光の入り方にばらつきがあるうえ,写真間の時間差や明るさのばらつきもあって,ムラのないパノラマ写真を作成することは困難であった.しかし,超広角FAでは1回の撮影で容易に全体像が撮影可能である.しかも従来の撮影では見ることができなかった周辺部までも撮影することができる(図4).さらに無(61)図4OptosR200Txによるフルオレセイン蛍光眼底造影増殖糖尿病網膜症の症例.周辺部の網膜新生血管や網膜無灌流領域がきれいに描出されている.(文献1より)散瞳,短時間で撮影が行えることは患者負担の軽減にもつながるし,糖尿病などで散瞳の悪い症例でもクオリティのよい撮影ができる利点もある.AMD患者で超広角FAを撮影すると時々眼底周辺部に血管からの蛍光漏出や無灌流域などの所見がみられることがある(図5).ただし,このような所見はRVOなど他の疾患でもみられることがあり,AMDに特異的なものかどうかはまだわかっていない.IV超広角FAFFAFはおもに網膜色素上皮(retinalpigmentepithelium:RPE)に含まれるリポフスチンから発せられると考えられている.FAFでは,視神経乳頭,網膜血管,黄斑部は正常でも低蛍光となるが,それ以外に低蛍光が存在するときは出血その他による蛍光のブロックを除けば,おおむねRPEが変性・萎縮していることを示している.逆に過蛍光はRPEが変性を起こしかけていることを示している.典型的には変性が進んだ部分のRPEが萎縮して低蛍光となり,その周囲に過蛍光の部分がみられる.OptosR200TxではFAFの励起波長に532nm(緑色)が用いられる.FAFに用いられる励起波長には他に488nm(青色)などがあるが,532nmを用いたほあたらしい眼科Vol.30,No.2,2013195 うがよりリポフスチンの発する蛍光,すなわちRPEの状態をより反映しているとの報告もある3).OptosR200Txによってこれまではむずかしかった眼底周辺部のFAFが撮影できるようになって,AMD患者での眼底周辺部のFAF異常が報告されるようになった.AMD患者の周辺FAF異常の自験例を示す(図6).ReznicekらはFAFが黄斑部だけではなく,周辺部で196あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013図5OptosR200TxによるAMDのFA眼底周辺部に血管からの蛍光漏出(矢印)や無灌流領域(矢頭)などの所見がみられる.図6OptosR200TxによるAMDのFAF黄斑部にはRPE萎縮による低蛍光とそれを取り囲む過蛍光(RPEの異常が進行しつつある部分)がみられる.眼底周辺部には顆粒状の蛍光異常がみられる(矢印).も年齢とともに増加することを報告した.また,年齢をマッチさせたAMD患者と非AMD患者を比較するとAMD患者のほうが周辺部のFAFが有意に強かった.AMD患者間で抗VEGF治療を受けている患者と受けていない患者では周辺部FAFに有意差はなかった.黄斑部のFAFは抗VEGF治療群が非AMD患者に対して有意に増加していたが,VEGF治療を受けていない群(62) では非AMD患者と差はなかった.周辺部FAFの不均一度(眼底をいくつかの領域に分けて,その領域間でのばらつき具合を標準偏差の大きさで評価する)はAMD患者が非AMD患者と比較して有意に増加していた.AMD患者間では抗VEGF治療群が非治療群よりも高い不均一度を示したが,有意差はなかった4).Witmerらは周辺部FAFの異常所見はAMD眼で64%と非AMD眼の36%と比べて有意に高かったと述べている.異常FAFのうち顆粒状蛍光と斑状の低蛍光は進行したAMD患者で早期AMDや正常者よりも有意に多くみられた.また,顆粒状蛍光は脈絡膜新生血管(choroidalneovascularization:CNV)や地図状萎縮(geographicatrophy:GA)のある眼で有意に多くみられた.斑状低蛍光はGAのある眼で有意に多くみられた5).これらの研究結果から,AMD患者では黄斑部だけではなく,周辺のFAFも増加すること,さらに周辺のFAFはAMD患者では顆粒状の変化や斑状の低蛍光などの乱れを生じ,それがAMDの進行度合いと比例していることが示された.言い換えれば,FAFで検出されるRPEの変化は黄斑部だけでなく,眼底全体で進行しており,その進行度が黄斑変性の進行度とも相関していると考えられる.また,今後の研究が進めば周辺部のFAFを調べることによって,将来のAMDの発生や治療効果が予測できるようになるかもしれない.おわりに超広角眼底撮影が可能になったことで,特に眼底周辺部のFAやFAFが評価できるようになったことは,眼底疾患の病態の理解に大きな進歩をもたらすものと考えられる.糖尿病網膜症やRVOはもちろんのこと,AMDなどの黄斑疾患も例外ではなく,むしろこれまで注目が低かった周辺部眼底の研究は大きな成果をもたらす可能性もあり,今後が注目される.文献1)吉田宗徳:超広角走査型レーザー検眼鏡Optos200Tx.眼科手術25:379-382,20122)CsutakA,LengyelI,JonassonFetal:Agreementbetweenimagegradingofconventional(45°)andultrawide-angle(200°)digitalimagesinthemaculaintheReykjavikeyestudy.Eye24:1568-1575,20103)HammerM,KonigsdorfferE,LiebermannCetal:Ocularfundusauto-fluorescenceobservationsatdifferentwavelengthsinpatientswithage-relatedmaculardegenerationanddiabeticretinopathy.GraefesArchClinExpOphthalmol246:105-114,20084)ReznicekL,WasfyT,StumpfCetal:Peripheralfundusautofluorescenceisincreasedinage-relatedmaculardegeneration.InvestOphthalmolVisSci53:2193-2198,20125)WitmerMT,KozbialA,DanielSetal:Peripheralautofluorescencefindingsinage-relatedmaculardegeneration.ActaOphthalmol90:e428-433,2012(63)あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013197

眼底自発蛍光最前線

2013年2月28日 木曜日

特集●黄斑疾患診療トピックスあたらしい眼科30(2):185.192,2013特集●黄斑疾患診療トピックスあたらしい眼科30(2):185.192,2013眼底自発蛍光最前線CuttingEdgeofFundusAutofluorescencePhotography古泉英貴*はじめに眼底自発蛍光撮影は非侵襲的に網膜色素上皮(RPE)の機能を評価できる比較的新しい検査法であり,2012年4月には正式に保険収載もされている.特殊なフィルターを用いることで造影剤を使用せずに簡便かつ短時間に撮影が可能であり,現在の眼底疾患診療におけるホットトピックスの一つとなっている.しかし現時点では,その臨床的意義は広く認識されていない状況であり,そのことが同検査法の普及の妨げになっているようにも思われる.一見とっつきにくい検査のように思えるが,基本的事項さえ理解しておけばその読影は決してむずかしくない.本稿では,眼底自発蛍光撮影の原理,正常所見,撮影機器の違いによる差異,代表的な異常所見の解釈,そしていくつかの最近のトピックスにつき概説する.I眼底自発蛍光撮影の原理RPEは視細胞外節を絶えず貪食・刷新する役割を担っており,1つのRPE細胞はその生涯で約30億個の視細胞外節を貪食するとされている.貪食された視細胞外節はRPE細胞内で代謝処理されるが,加齢などによりRPEの処理能力が低下すると,余剰産物がリポフスチンとして蓄積する.そのリポフスチンに青色光などの短波長光を照射することで励起される特有の蛍光を,フィルターを用いて検出するのが眼底自発蛍光撮影の原理である(図1).リポフスチンの構成成分としておもなもの図1眼底自発蛍光撮影の原理RPE細胞内に存在するリポフスチンに短波長光を照射することで励起される特有の蛍光を,フィルターを用いて検出する.図2眼底自発蛍光の模式図正常なRPEでもある程度の自発蛍光を発する(左).過剰なリポフスチンが蓄積したRPEは過蛍光を呈するようになり(中),最終的にRPE細胞死に至ると低蛍光となる(右).*HidekiKoizumi:東京女子医科大学眼科学教室〔別刷請求先〕古泉英貴:〒162-8666東京都新宿区河田町8-1東京女子医科大学眼科学教室0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(51)185 図3正常眼の眼底自発蛍光写真cSLO型装置(ハイデルベルグ社HRA2)(左)および眼底カメラ型装置(トプコン社TRC-50DX)(右)で撮影.視神経乳頭および網膜中大血管の部位では低蛍光となっている.cSLO型装置では良好なコントラストが得られるが,黄斑色素の影響で中心窩とその周囲はやや暗い.眼底カメラ型装置ではややコントラストは弱いが,中心窩とその周囲の情報は明瞭であり,広画角の画像が得られる.はビタミンAサイクルで生成されるA2Eという物質である.A2Eは視細胞外節に存在するA2PEを元にRPE細胞内で生成される1).正常でも70歳の時点でRPE細胞の体積の25%をリポフスチンが占めているため,ある程度の自発蛍光を発する.加齢や病的状態などのストレスにより過剰にリポフスチンを含有したRPEは過蛍光を発するようになり,最終的にはRPE細胞死に至ることで低蛍光を呈する(図2).II正常眼の眼底自発蛍光所見眼底自発蛍光撮影には大きく分けてハイデルベルグ社のHeidelbergRetinaAngiograph2(HRA2)などの共焦点走査レーザー検眼鏡(cSLO)型装置を用いる方法と眼底カメラ型装置を用いる方法がある.図3に正常眼の眼底自発蛍光画像を示す.視神経乳頭および網膜中大血管の部位では自発蛍光は通常ほとんど検出されない.cSLO型装置を用いた眼底自発蛍光撮影は共焦点レーザーを励起光として用いるため,水晶体由来の蛍光の影響が少ないことが利点である.フルオレセイン蛍光眼底造影(FA)と同じフィルター装置を使用するため,HRA2などの機器があればそのまま眼底自発蛍光撮影が可能である.その一方,FA施行後には眼底自発蛍光186あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013撮影はできない.また黄斑色素の影響で中心窩とその周囲はやや暗く写る.これはcSLO型装置(HRA2で488nm)では眼底カメラ型装置(トプコン社TRC-50DXで535.585nm)よりも短波長領域の励起光を用いることにより,RPEに到達する前に黄斑色素による励起光の吸収効果がより強く出てしまうためである.さらに評価に値する画像を得るためには多数の画像の加算平均処理が必要である.一方,眼底カメラ型装置を用いた眼底自発蛍光撮影は加算平均処理の必要がなく簡便であり,通常の眼底写真と同じ感覚で撮像が可能である.cSLO型装置と比較して画角の広い画像が得られ,またFAよりもやや長波長帯の励起光を用いるため,FA施行後でも画像の取得ができることも利点である.最近はフィルター特性の改良により,水晶体由来の自発蛍光の影響も少ない2).また,cSLO型装置と比較して黄斑色素による励起光の吸収効果は弱いため,中心窩およびその周囲の情報も明瞭である.しかし,画像のコントラストはcSLO型装置に比較してやや弱く,またFAと同じフィルターでは撮影できないため,あらかじめ眼底自発蛍光撮影専用のフィルターが組み込まれた装置を使用する必要がある.以下,異常所見,すなわち過蛍光や低蛍光といった所見をどのよ(52) うに解釈するかという点につき述べる.III異常所見の解釈1.過蛍光先述のごとく,加齢などによるRPE内の過剰なリポフスチンの蓄積がその主たる原因であることが多い(図4).加齢以外でもRPE内に過剰なリポフスチンの蓄積を生じるStargardt病では画像全体が著明な過蛍光を呈する3)(図5).しかし,それ以外でも過蛍光の原因となりうるものとして,視細胞外節由来の過蛍光がある.ビタミンA代謝サイクルにおいて,リポフスチンのおもな構成成分であるA2Eの前駆物質であるA2PEはおもに視細胞外節に存在し,A2Eと同様に自発蛍光活性を有することが知られている.通常はA2PEを主とした図4加齢に伴う過蛍光所見70歳,男性.初診時(左)と比較して,3年後(右)には中心窩周囲の過蛍光が明瞭になっている(矢印).図5Stargardt病カラー写真(左)では黄斑部の萎縮性変化がみられる.眼底自発蛍光写真(右)ではRPEへの過剰なリポフスチンの蓄積を反映して,全体に著明な過蛍光を呈する.黄斑部はRPEの萎縮により低蛍光を示している.加えて多数の斑状の低蛍光斑が散在しており,これも診断的意義の高い所見である.(53)あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013187 図6黄斑部網膜.離OCT(左)で中心窩とその周囲に視細胞外節の延長所見(矢印)を認め,眼底自発蛍光写真(右)でも同部位に一致して多数の顆粒状過蛍光所見(矢印)がみられる.丈の高い網膜.離の存在による蛍光ブロックにより,黄斑部の下方は低蛍光となっている(矢頭).図7Best病カラー写真(左)で黄斑部網膜下に黄白色物質の沈着がみられ,眼底自発蛍光写真(右)で同部位は著明な過蛍光所見を示す.視細胞外節由来の蛍光は画像自体への影響は少ないが,何らかの原因で視細胞外節由来物質の網膜下への蓄積が起こると,RPE由来の蛍光に加えて視細胞外節由来の物質も有意な蛍光を発するようになる.その代表的な例としては中心性漿液性脈絡網膜症(CSC)などでみられる黄斑部網膜.離と卵黄様黄斑変性(Best病)がある.黄斑部網膜.離が遷延すると,通常はRPEに貪食されるべき視細胞外節の延長が起こる.この所見は光干渉断188あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013層計(OCT)でも観察することができる.その延長した外節そのもの,あるいは外節を貪食したマクロファージ由来の自発蛍光が過蛍光として観察される4.6)(図6).また,Best病ではRPEのクロライドチャンネルの異常により貪食作用が障害されるため,貪食されなかった視細胞外節由来物質が網膜下に蓄積し,眼底自発蛍光撮影では著明な過蛍光を生じる7)(図7).Best病の類縁疾患であり,滲出型加齢黄斑変性(AMD)との鑑別が重要な(54) 図8成人型卵黄様黄斑変性カラー写真(左)で中心窩に黄白色病変を認め,眼底自発蛍光写真(右)で同部位が過蛍光を示している.図9萎縮型加齢黄斑変性72歳,男性.初診時,黄斑部に過蛍光を認め(左),その2年後には同部位がRPE萎縮を反映して境界明瞭な低蛍光に転じている(右).低蛍光領域に隣接した部位ではストレスを受けたRPEが過蛍光を示している(矢印).成人型卵黄様黄斑変性においても同様の過蛍光を生じる代表的なものに萎縮型AMDがある.通常検眼鏡的に境ため8),スクリーニング検査として非常に有用である(図界明瞭な萎縮巣を認め,その部位に一致した低蛍光所見8).を認める(図9).低蛍光領域の周囲にはストレスを受けたRPEがさまざまな過蛍光パターンを示すが,特有の2.低蛍光過蛍光パターンでは経時的に萎縮が拡大しやすいことが低蛍光の原因は大きく分けて2つあり,①RPE細胞報告されており9),病変進行の予測因子としての役割がの萎縮,②RPEよりも前方に位置する物質による蛍光注目されている.さらに補助診断として有用な所見もいブロックである.RPE細胞の萎縮をきたす疾患としてくつかある.その一つは網膜色素上皮裂孔であり(図(55)あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013189 図10網膜色素上皮裂孔滲出型AMDの診断で経過観察中であったが,最近急激に視力低下を自覚したとのことで来院.カラー写真(左)でははっきりしないが,眼底自発蛍光写真(右)で明瞭な低蛍光領域を認める(矢頭).矢印の部位ではローリングしたRPEが重層化するため,やや過蛍光の所見となっている.図11慢性CSC黄斑部の網膜.離が遷延すると,網膜下液は重力に従って下方に移動する.その状態が長期間続くことで,RPE萎縮を反映した特徴的な帯状の低蛍光領域(atrophictract)がみられる.10),裂孔の部位は境界明瞭な低蛍光所見を呈するため,急速に視機能の低下した滲出型AMDではスクリーニング検査として,まず眼底自発蛍光撮影を行うと良い.CSCでは遷延した網膜.離が重力に従って下方に移動するため,帯状のRPE萎縮を反映した低蛍光所見を呈することがある.この所見はatrophictractとよばれ(図11),過去のCSCの既往を疑わせる有用な所見である.わが国における滲出型AMDの二大サブタイプである典型AMDとポリープ状脈絡膜血管症(PCV)はインドシアニングリーン蛍光眼底造影(IA)で脈絡膜新生血管網の形態の差異を示すが,最近筆者らは眼底自発蛍光撮影においてPCVの特徴的所見であるポリープ状病巣の部位に一致して過蛍光リングに囲まれた円形の低蛍光領域(punched-outlesion)を高頻度に認めること,ま図12PCVIA(左)でPCVに特徴的な複数のポリープ状病巣を認め(矢印),眼底自発蛍光写真(右)ではポリープ状病巣に一致して過蛍光リングに囲まれた円形の低蛍光(punched-outlesion)(矢印)がみられる.加えて黄斑部以外にも広範囲に低蛍光が散在している(矢頭).190あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013(56) 図13網膜下出血新鮮な網膜下出血(左上)では眼底自発蛍光写真で蛍光ブロックにより低蛍光を示す(右上)が,少し時間の経過した網膜下出血(左下)ではむしろ過蛍光所見を呈する(右下).た患眼のみならず僚眼においてもPCVでは広範に低蛍光領域が散在していることを発見し,病態理解や補助診断としての有用性が高いことを報告した10)(図12).もう一つの低蛍光の原因となる蛍光ブロックの要因としては,RPEよりも前方に位置する硬性白斑や出血などがあげられるが,時間の経過した網膜下出血はむしろ過蛍光を示すことがあり11)(図13),所見の解釈には注意が図14近赤外光を用いた眼底自発蛍光撮影53歳,女性.Vogt・小柳・原田病発症より2カ月後.青色光による眼底自発蛍光写真(左)と比較して,近赤外光による眼底自発蛍光写真(右)では異常な過蛍光所見がより明瞭かつ広範にみられる.必要である.IV最近のトピックス従来,眼底自発蛍光撮影には青色光などの短波長光がおもに用いられてきたが,最近ではIAで使用する近赤外光を用いた眼底自発蛍光撮影も注目されている12.15)(図14).近赤外光を用いた自発蛍光の起源はおもに眼(57)あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013191 底のメラニンであるとされ,その変化は青色光を用いた自発蛍光よりも早期の眼底の代謝変化を検出しているとの報告もあるが,まだまだ病態との関連で不明な点も多い.今後さまざまな疾患での応用により,その意義が解明されることが望まれる.また,cSLO型装置において連続的に動画撮影を行うことで自発蛍光の経時的な輝度変化を測定し,視細胞の機能を定量化する試みも報告されており16),今後の発展に期待したい.おわりに眼底自発蛍光撮影は造影剤を必要とせず,非侵襲的にRPEの機能を観察することができる画期的な検査法であり,OCTなどとともに近未来の眼底疾患診療の中心的役割を担っていくことが期待される.本稿が眼底自発蛍光撮影のより良い理解と普及の一助になれば筆者にとって望外の喜びである.文献1)SparrowJR,Gregory-RobertsE,YamamotoKetal:Thebisretinoidsofretinalpigmentepithelium.ProgRetinEyeRes31:121-135,20122)Schmitz-ValckenbergS,HolzFG,BirdACetal:Fundusautofluorescenceimaging:reviewandperspectives.Retina28:385-409,20083)LoisN,HalfyardAS,BirdACetal:FundusautofluorescenceinStargardtmaculardystrophy-fundusflavimaculatus.AmJOphthalmol138:55-63,20044)SpaideRF:Autofluorescencefromtheouterretinaandsubretinalspace:hypothesisandreview.Retina28:5-35,20085)MarukoI,IidaT,OjimaAetal:Subretinaldot-likeprecipitatesandyellowmaterialincentralserouschorioretinopathy.Retina31:759-765,20116)MatsumotoH,KishiS,SatoTetal:Fundusautofluorescenceofelongatedphotoreceptoroutersegmentsincentralserouschorioretinopathy.AmJOphthalmol151:617623,20117)SpaideRF,NobleK,MorganAetal:Vitelliformmaculardystrophy.Ophthalmology113:1392-1400,20068)ParodiMB,IaconoP,PedioMetal:Autofluorescenceinadult-onsetfoveomacularvitelliformdystrophy.Retina28:801-807,20089)HolzFG,Bindewald-WittichA,FleckensteinMetal:Progressionofgeographicatrophyandimpactoffundusautofluorescencepatternsinage-relatedmaculardegeneration.AmJOphthalmol143:463-472,200710)YamagishiT,KoizumiH,YamazakiTetal:Fundusautofluorescenceinpolypoidalchoroidalvasculopathy.Ophthalmology119:1650-1657,201211)SawaM,OberMD,SpaideRF:Autofluorescenceandretinalpigmentepithelialatrophyaftersubretinalhemorrhage.Retina26:119-120,200612)KoizumiH,MaruyamaK,KinoshitaS:Bluelightandnear-infraredfundusautofluorescenceinacuteVogt-Koyanagi-Haradadisease.BrJOphthalmol94:1499-1505,201013)SekiryuT,IidaT,MarukoIetal:Infraredfundusautofluorescenceandcentralserouschorioretinopathy.InvestOphthalmolVisSci51:4956-4962,201014)TojuR,IidaT,SekiryuTetal:Near-infraredautofluorescenceinpatientswithidiopathicsubmacularchoroidalneovascularization.AmJOphthalmol153:314-319,201215)KeilhauerCN,DeloriFC:Near-infraredautofluorescenceimagingofthefundus:visualizationofocularmelanin.InvestOphthalmolVisSci47:3556-3564,200616)SekiryuT,IidaT,MarukoIetal:Clinicalapplicationofautofluorescencedensitometrywithascanninglaserophthalmoscope.InvestOphthalmolVisSci50:2994-3002,2009192あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013(58)

光干渉断層計(OCT)最前線

2013年2月28日 木曜日

特集●黄斑疾患診療トピックスあたらしい眼科30(2):177.184,2013特集●黄斑疾患診療トピックスあたらしい眼科30(2):177.184,2013光干渉断層計(OCT)最前線UpdateonOpticalCoherenceTomography丸子一朗*はじめに光干渉断層計(OCT)は,1997年にわが国に導入されて以来さまざまな黄斑疾患の形態評価に利用されている.2006年にはじめて市販化されたスペクトラルドメイン(SD)OCTはさらに高速化・高解像度化され現在では臨床だけではなく研究レベルにおいてもなくてはならないものとなり,各種黄斑疾患の病態解明に大きな役割を果たしている.最近では,撮影画像を複数枚重ね合わせる①加算平均処理により,1枚のみ撮影した画像では描出されなかった病変が描出でき,また逆に映り込んでしまったアーチファクトなどのノイズを軽減することが可能となった.さらに,この方法に加えて後述する②enhanceddepthimaging(EDI)とよばれる手法を用いることで脈絡膜の観察が簡単に可能となった.一方で,通常のOCTよりも長波長の光源を使用した③高侵逹(SS)OCTが研究・開発され,それを用いた網膜だけでなく深部の脈絡膜・強膜を観察する試みも進んでいる.本稿では,これまでは描出できずに観察できていなかったOCT所見について具体的な症例を紹介しながら,特に①②③で示した新しい手法や装置について解説する.IOCT最前線①:加算平均処理加算平均処理をすることで,OCT上のアーチファクトやノイズを軽減できることはわかっていたが,初期のOCT,いわゆるタイムドメイン(TD)OCTでは1枚の画像を撮影するのに約1秒程度の時間を要していたため複数枚の画像が同じ位置の画像であると証明できないことから,それらの画像を重ね合わせてもノイズを軽減するどころか逆に実際の画像とかけ離れてしまうため実用的ではなかった.SD-OCTの時代になると撮影速度が大幅に速くなったためほんの一瞬で複数枚の撮影が可能となり,ほとんどずれも生じなくなったことで実用レベルでの加算平均処理が可能となった.またHeidelberg図1加算平均処理によるOCT画像重ね合わせの枚数によって画像の鮮明さが増しているのがわかる.上段:重ね合わせなし,中段:10枚加算,下段:100枚加算.*IchiroMaruko:福島県立医科大学医学部眼科学講座〔別刷請求先〕丸子一朗:〒960-1295福島市光が丘1番地福島県立医科大学医学部眼科学講座0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(43)177 社のSpectralisOCTのように自動固視追尾機能(eyetracking)がついている装置では固視微動が生じたり瞬目したりしてもほぼずれることなく画像を撮影可能で重ね合わせ画像取得がより簡便である(図1).最近ではその他NIDEK社のRS-3000の最上位機種でも自動追尾機能が付属している.ここでは加算平均処理で新たに注目されるようになったhyperreflectivefociおよび視細胞内節外節境界(IO/OS)ラインと網膜色素上皮ラインの間に観察されるいわゆる第3のラインについて紹介する.1.Hyperreflectivefoci初期の糖尿病網膜症の視力低下の原因の一つに黄斑部に浮腫をきたす糖尿病黄斑症がある.糖尿病黄斑症では黄斑部網膜の肥厚が生じているが,これは黄斑部網膜血管の内皮異常に伴う血管透過性亢進による網膜の膨化,.胞様黄斑浮腫,中心窩網膜.離によって起こる1).実際にOCTで詳細に観察するとそのいずれもが別個に起図2糖尿病黄斑症(75歳,男性.右眼矯正視力0.3)上:眼底写真.網膜出血,硬性白斑,黄斑浮腫が眼底後極部全体に観察される.下:OCT水平断.黄斑浮腫だけでなく,一部漿液性網膜.離もみられる.Hyperreflectivefociを示す高反射点が多数みられる.こっているわけではなく,同時に観察されることも多い.近年,加算平均処理によりノイズを除去したSDOCT画像において糖尿病黄斑症例を観察すると網膜浮腫を生じている部位に多数の高反射点が存在していることが報告され,これをhyperreflectivefociとよんだ2)(図2).これまでのTD-OCTや重ね合わせなしのSD-OCTでも高反射点は描出されていたが,微細な病変であるためこれらのOCTでは再現性が低くノイズと解釈されていたと考えられる.Hyperreflectivefociは通常網膜外網状層を中心に観察されるが,中心窩.離を伴う症例では網膜.離内にも存在が確認されることもある.これは網膜内に貯留されている滲出液が網膜下に移動し中心窩.離が形成される際に外網状層に蓄積されていたhyperreflectivefociが滲出液と一緒に網膜下に流入するからと考えられている.糖尿病黄斑症では中心窩への硬性白斑の蓄積は視力を極度に低下させる因子であるが,hyperreflectivefociが多く描出される症例で中心窩での硬性白斑の沈着が多いことも報告されている.このため,hyperreflectivefociは硬性白斑の前駆物質であり,網膜下での蓄積が中心窩への硬性白斑の沈着の原因になっている可能性が指摘されており,注目されている3).同様の所見は網膜静脈分枝閉塞症による黄斑部浮腫でも観察されている4).2.第3のラインSD-OCTでは網膜10層の詳細な観察が可能となった.このなかで外境界膜は解剖学的には膜が形成されているわけではないが,光学的な境界面が形成されることから高反射のラインとして観察される.また,視細胞層内には10層の分類に含まれない高反射帯が観察されることがわかってきた.このラインは解剖学的にははっきりしたものがあるわけではないが,外境界膜が描出されるのと同様の機序で視細胞の内節と外節の境界部に光学的に強い反射が起こっていることが推察され,現在でも一般的にIS/OSラインとよばれている.実際,網膜色素変性や網膜.離術後の症例などにおいて視力不良例でIS/OSの描出が不良なことが多いことからさまざまな黄斑疾患でIS/OSが観察できるかどうかは視力予後を推測するうえで重要である.178あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013(44) さらに最近加算平均処理によるノイズ軽減によって,IS/OSと網膜色素上皮細胞の高反射の間にもう一つの高反射帯が描出されることがわかってきた.これについては,まだ完全に解釈されたわけではないことから外境図3正常眼OCT画像(50歳,男性)網膜の各層が鮮明に描出され,第3のラインも途切れなく観察できる.界膜,IS/OSラインから数えて3番目のラインということで第3のライン(3rdlineor3rdband)とよばれている(図3).第3のラインは基本的にIS/OSおよび網膜色素上皮のラインと平行に走っているが,中心窩ではIS/OSがやや上に凸の山型になっているのに対し,第3のラインは網膜色素上皮と平行のままで凹凸は観察されない.分子解剖学レベルでは視細胞外節の末端は網膜色素上皮細胞の微絨毛まで続いているが,中心窩では傍中心窩よりも視細胞外節がやや長いことが示されていることから,第3のラインは視細胞外節末端(coneoutersegmenttips:COST)と考えられるようになった.一方で,Spaideら5)は解剖学的所見およびOCTによる網膜外層ラインの位置関係を詳細に比較することでこ図4中心暗点を主訴に来院したが,矯正視力1.2と視力良好で,初期occultmaculardystrophyと診断された症例(61歳,男性)上左:マイクロペリメトリー.感度が良好な部位と不良な部位が混在している.上右:多局所網膜電図.ほぼ正常だが,中心窩部分だけ振幅が小さい.下:OCT画像.網膜全体がやや菲薄化し,第3のラインが中心窩で不鮮明になっている.(45)あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013179 れまでの考え方と異なる見解を示している.それによれば,IS/OSや第3のラインにしても光学的境界面というだけにしては厚みをもった組織としてOCTで描出されていることから,この2つはもう少し広い範囲を表しており,IS/OSとしているラインは視細胞内節のミオイドとエリプソイドのミトコンドリアを多く含むエリプソイド全体を,第3のラインは外節末端ではなく外節末端を含む網膜色素上皮の微絨毛に包まれている全体(conesheathorcontactcylinder)と推察している.これが正体だとするとこれまでのIS/OSラインやCOSTラインというように“線”というよりも2ndbandや3rdbandのように“帯”とよぶほうが適切かもしれない.なお,本稿では,これ以降も読者にわかりやすいようにIS/OSと第3のラインの呼称を使用する.第3のラインは正常眼においても必ず描出できるわけではないことがわかっている.Riiら6)はSD-OCTで正常眼の46眼中44眼(96%)で第3のラインが描出可能であったと報告している.自験例では中心窩部位を斜めにすることなくまっすぐ水平に撮影することで117眼中115眼(98.3%)において第3のラインは描出可能であった.描出できない症例において実際第3のラインが存在しないのか解像度が不足しているのかについては今のところ不明であり,今後の研究が待たれる.また,これまでoccultmaculadystrophy(図4)やBest病,AZOOR(acutezonaloccultouterretinopathy)7)などで第3のラインの描出不良が指摘されているが,その描出の有無が視力や網膜感度などとどれほど関連しているかも詳細は不明である.IIOCT最前線②:EDI.OCT脈絡膜は全眼球血流の80.90%を占めるとされ,視細胞を含む視機能への影響は少なくないことは明らかである.ただし,脈絡膜血流や形態的な変化が生じても網膜への直接的な影響がなければ,それはサブクリニカルな変化であり自覚症状も生じないことからその発見および評価は困難であった.これまでもインドシアニングリーン蛍光眼底造影検査(IA)を用いれば脈絡膜血流はある程度評価可能であったが,侵襲的な検査であることやもともと三次元的な組織で厚みのある脈絡膜を二次元的180あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013にしか観察できないなどの限界があった.2008年にSpaideら8)が市販のOCT装置を用いた脈絡膜を観察する方法としてEDI-OCTの手法を報告した.通常SDOCTにおいては,光源の至適距離から遠ざかるほど画質は低下し,逆に近いとより高い画質が得られる.実際臨床的にOCT撮影をしているときには,上方が硝子体側,下方が脈絡膜側を表示することが一般的で,その場合は光源の至適距離に網膜が近接するようになるので網膜側が高感度な画像が得られる.この特性を脈絡膜観察に利用するのがEDI-OCTの手法である.Heidelberg社のSpectralisOCTでは,OCT装置を近接させることで画面全体に通常とは上下反転した画像が得られる.この画像は,光源からの至適位置が脈絡膜側になるため,脈絡膜が鮮明に映しだされている.SpectralisOCTではこれにさらに先述した固視の自動追尾機能と加算平均処理を組み合わせることで,より鮮明な脈絡膜像の取得が可能である.現在はモニター上にEDIボタンがあり,それをマウスでクリックしただけで,EDIモードで撮影が可能であり,その場合には自動的に上下反転を元に戻してくれるため観察が容易である.他のOCT装置でもEDI-OCTの手法は可能で,トプコン社の3D-OCT,NIDEK社のRS-3000,Optvue社のRTvueなどでも脈絡膜観察用の設定がソフトウェアとして組み込まれている.脈絡膜をOCTで観察してみると正常や疾患眼に限らず加齢,眼軸延長,眼屈折値に伴い薄くなる傾向が示されている.筆者は脈絡膜をOCTで観察可能となったことの現在までの最大のメリットは,脈絡膜の厚みを数値として評価可能にしたことと考えている.これによって各疾患や症例ごとの脈絡膜が比較可能となった.各OCT装置にはそれぞれ網膜厚を測定するためにキャリパー機能が付属しており,これをそのまま脈絡膜厚測定に用いることができる.脈絡膜厚の測定は,網膜色素上皮ラインの下縁から脈絡膜-強膜境界(CSI)までと定義できるが,症例によっては,鮮明に描出されない場合もあり注意が必要である.現在のところ網膜厚測定のように自動測定可能なソフトウェアはなく,あってもまだ未完成であるため必要に応じてマニュアル測定をしなければならない.これため測定者や装置によって同じ症例,(46) 図5慢性型中心性漿液性脈絡網膜症(63歳,男性.右眼矯正視力0.6)左上:眼底写真.中心窩から下方にかけて漿液性網膜.離がみられる.左下:EDI-OCT垂直断.中心窩を含む漿液性網膜.離がみられる.脈絡膜は肥厚し,中心窩下脈絡膜厚は459μm.右上:フルオレセイン蛍光眼底造影.黄斑部に過蛍光がみられるが,漏出点は特定できない.右下:インドシアニングリーン蛍光眼底造影.黄斑部に脈絡膜血管透過性亢進を示す過蛍光が観察できる.同じ画像での再現性の問題も指摘されている.最近までに,正常眼9,10)を含め中心性漿液性脈絡網膜症(CSC)10,11)(図5),Vogt-Koyanagi-Harada(原田)病12,13)(図6),加齢黄斑変性14.16),強度近視17,18)(図7)などのさまざまな疾患でEDI-OCTを用いた脈絡膜観察について報告されている.正常眼の脈絡膜厚に関してMalgolisら9)は,中心窩下脈絡膜厚は287μmで鼻側視神経乳頭周辺に近づくにつれて薄くなっていることを報告している.自験例では177眼で調査して平均中心窩下脈絡膜厚は250μmであった10).最近中国での50歳以上の正常異常を問わない3,233例(平均65歳)における多数例のpopulationbasedstudyでも中心窩下脈絡膜厚は253.8μmであった19).疾患ごとの脈絡膜の違いとして厚くなる症例の代表はCSCや原田病であり,薄くなる代表では強度近視があげられる.Imamuraら11)はEDI-OCTの手法を用いてCSC症例19例28眼の脈絡膜を観察し,その平均中心窩脈絡膜厚は505μmと肥厚していることを初めて報告した.自験例では片眼発症のCSC症例66例の脈絡膜厚をEDI-OCTの手法で測定して,平均中心窩下脈絡膜厚は414μmと年齢調整した正常眼と比較して有意に肥厚していることを報告した10)(図5).また,原田病は脈絡膜でメラノサイトへの自己免疫反応による炎症が起きていることが知られており,急性期には肥厚しているとされる.筆者らは8例16眼の急性期原田病の脈絡膜をEDI-OCTの手法で観察してみたところ,治療前の平均中心窩下脈絡膜厚は805μm(47)あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013181 図6原田病(21歳,女性.左眼矯正視力0.6)上段:初診時.中心窩に滲出性網膜.離がみられる.脈絡膜は肥厚しており,脈絡膜厚は900μm以上で測定できない.中段:ステロイド治療3日後.網膜.離はやや減少している.脈絡膜は全層観察可能で,中心窩下脈絡膜厚は580μm.下段:ステロイド治療1カ月後.網膜.離は消失.中心窩下脈絡膜厚は348μmまで減少している.と著しく肥厚していた.また,全例でステロイド治療を実施し1カ月後に滲出性網膜.離は消失したが,経過中は治療3日後524μm,2週間後には341μmと脈絡膜での炎症が治療に反応して抑制されたことで脈絡膜が急速に薄くなることが示された12).Nakayamaら13)も同様に急性期の肥厚があること,症例によっては治療後一度薄くなっても再度厚くなるようなリバウンドを示すことがあると報告している.眼軸延長をきたす強度近視眼では,脈絡膜の菲薄化が報告されている.これはEDIOCTでなく通常の撮影方法でSD-OCTを撮っても脈絡膜が観察できることからもわかる.Ikunoら17)は強度近182あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013図7強度近視眼(33歳,男性.眼軸長34mm.右矯正視力0.3)上:眼底写真.黄斑部萎縮が著明.下:高侵逹OCT水平断.網膜はほぼ正常だが,脈絡膜が菲薄化しているのがわかる.強膜は全層観察可能で,その後方に一部眼窩脂肪がみえる.視眼をSD-OCTで観察し平均中心窩下脈絡膜厚は99.3μmであることを報告している.これはEDI-OCTによるFujiwaraら18)の報告である93μmとほぼ同等であった.強度近視眼には後部ぶどう腫を伴う症例があるが,その特殊型として中心窩がドーム状に隆起したdome-shapedmaculaがある.Imamuraら20)はこのような症例では脈絡膜および強膜も薄いが,中心窩で強膜が他の部位と比較して相対的に厚くなっているためドーム状になると考察している.IIIOCT最前線③:SS.OCTEDI-OCTの手法で各種疾患の脈絡膜観察における研(48) 究は進んだが,光源の特性上網膜の深部から脈絡膜を観察する場合にはどうしても限界が存在する.さらなる深部観察のために,通常の光源よりも長波長の1,050nmのSLDを用いたOCTが研究,開発されてきた.理論上より深く達することが可能であり,その侵逹性から高侵逹(highpenetration:HP)OCTともよばれる.ただし,現在ではこの光源を用いた装置はsweptsource(SS)方式の撮影方法を導入しているため一般的にはSS-OCTとよばれている.SS-OCTの原理および構造的特徴は既報に譲るが,その特性としては,通常のSD-OCTより高速化し,光源の深度による減衰が少ないという利点がある.つまり,SS-OCTでは脈絡膜・強膜だけでなく網膜や硝子体側でも光の減衰なく深さによらず高解像度の画層を取得でき,臨床上有用である.強度近視眼についてはEDI-OCTの項でも触れたが,.8D以上の近視眼を指すことが多く通常眼軸長が26.5mm以上と延長している.筆者らは強度近視症例35例58眼(男性7例,女性28例,平均65.5歳)に対してSS-OCTで脈絡膜・強膜を観察した21).その結果,平均中心窩下脈絡膜厚および強膜厚はそれぞれ52±38μm,335±130μmであった.正常眼の剖検眼では強膜厚は約1mm程度とされていることから強度近視眼では強膜が菲薄化していることがわかる(図7).同時に中心窩から上下および鼻側,耳側3mmで強膜厚を測定してみると中心窩下が相対的に厚くなっていることが確認された.このことは眼軸が延長しても眼底後極部の強膜はある程度厚みを残すような機構の存在を示唆している.前述のdome-shapedmaculaではそれが極端にドーム状に隆起している場合を指すと考えられる.傾斜乳頭症候群は胎生期の眼杯閉鎖不全によって生じる視神経乳頭の先天異常であるが,多くの症例で視神経乳頭傾斜に端を発して下方にぶどう腫形成をみる.ぶどう腫の上縁が黄斑部を横断するような症例では黄斑部萎縮を伴い,しばしば中心窩.離を生じ視力不良となる.筆者らは傾斜乳頭症候群9例14眼に対してSS-OCTで垂直断撮影を実施したところ22),平均中心窩下脈絡膜厚は144μmでその上下方1.5mm部位(上211μm,下156μm)と比較すると上方のぶどう腫外より有意に薄くなっていた.また,そのときの平均中心窩下強膜厚は(49)図8傾斜乳頭症候群(72歳,女性.左矯正視力0.9)上:眼底写真.視神経乳頭の下方への傾斜とそれから下方に続くぶどう腫が確認できる.下方ぶどう腫の上縁は黄斑部を横断し,同部位には萎縮巣が観察できる.下:高侵逹OCT垂直断.上方から下方のぶどう腫にかけて斜めに観察される.脈絡膜は中心窩付近で最も薄くなっており,同部位で網膜色素上皮のラインが不整になっている.493μmで,同様に上下1.5mm部位(上414μm,下398μm)と比較すると有意に中心窩下で厚くなっていた(図8).このことは相対的ではあるものの中心窩の強膜がその上下と比較して厚くなっていることを示している.これはその発生機序はまったく異なるが局所的にdome-shapedmaculaと類似しており両疾患の発症メカニズムを知るうえで興味深い.おわりに本稿ではOCT最前線として,OCT研究が進むにあたりポイントとなった技術的または機械的な革新に関する①加算平均処理,②EDI-OCT,③SS-OCTについて解説した.こうしてみてみると,それぞれの段階を経あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013183 て硝子体,網膜,脈絡膜,強膜と眼底後極部を形成しているすべての部位がOCTで少なからず観察できるようになってきていることがわかる.実際にはこれ以外にも,超広角OCT,補償光学を用いたOCT,偏光OCT,ドップラーOCTなどのさらに進化したOCTの開発が進んでいる.今後はこれらを含めた形態学的解析が今以上に進むことと,さらには形態学的だけでなく機能的な評価も合わせて行われ,さらなる病態解明が進むことが期待される.文献1)OtaniT,KishiS,MaruyamaY:Patternsofdiabeticmacularedemawithopticalcoherencetomography.AmJOphthalmol127:688-693,19992)BolzM,Schmidt-ErfurthU,DeakGetal:Opticalcoherencetomographichyperreflectivefoci:amorphologicsignoflipidextravasationindiabeticmacularedema.Ophthalmology116:914-920,20093)UjiA,MurakamiT,NishijimaKetal:Associationbetweenhyperreflectivefociintheouterretina,statusofphotoreceptorlayer,andvisualacuityindiabeticmacularedema.AmJOphthalmol153:710-717,20124)OginoK,MurakamiT,TsujikawaAetal:Characteristicsofopticalcoherencetomographichyperreflectivefociinretinalveinocclusion.Retina32:77-85,20125)SpaideRF,CurcioCA:Anatomicalcorrelatestothebandsseenintheouterretinabyopticalcoherencetomography:literaturereviewandmodel.Retina31:1609-1619,20116)RiiT,ItohY,InoueMetal:Fovealconeoutersegmenttipslineanddisruptionartifactsinspectral-domainopticalcoherencetomographicimagesofnormaleyes.AmJOphthalmol153:524-529,20127)TsunodaK,FujinamiK,MiyakeY:Selectiveabnormalityofconeoutersegmenttiplineinacutezonaloccultouterretinopathyasobservedbyspectral-domainopticalcoherencetomography.ArchOphthalmol129:1099-1101,20118)SpaideRF,KoizumiH,PozzoniMC:Enhanceddepthimagingspectral-domainopticalcoherencetomography.AmJOphthalmol146:496-500,20089)MargolisR,SpaideRF:Apilotstudyofenhanceddepthimagingopticalcoherencetomographyofthechoroidinnormaleyes.AmJOphthalmol147:811-815,200910)MarukoI,IidaT,SuganoYetal:Subfovealchoroidalthicknessinfelloweyesofpatientswithcentralserouschorioretinopathy.Retina31:1603-1608,201111)ImamuraY,FujiwaraT,MargolisRetal:Enhanceddepthimagingopticalcoherencetomographyofthechoroidincentralserouschorioretinopathy.Retina29:14691473,200912)MarukoI,IidaT,SuganoYetal:SubfovealchoroidalthicknessaftertreatmentofVogt-Koyanagi-Haradadisease.Retina31:510-517,201113)NakayamaM,KeinoH,OkadaAAetal:EnhanceddepthimagingopticalcoherencetomographyofthechoroidinVogt-Koyanagi-Haradadisease.Retina32:2061-2069,201214)ChungSE,KangSW,LeeJHetal:Choroidalthicknessinpolypoidalchoroidalvasculopathyandexudativeage-relatedmaculardegeneration.Ophthalmology118:840845,201115)KoizumiH,YamagishiT,YamazakiTetal:Subfovealchoroidalthicknessintypicalage-relatedmaculardegenerationandpolypoidalchoroidalvasculopathy.GraefesArchClinExpOphthalmol249:1123-1128,201116)MarukoI,IidaT,SuganoY:Subfovealretinalandchoroidalthicknessafterverteporfinphotodynamictherapyforpolypoidalchoroidalvasculopathy.AmJOphthalmol151:297-302,201117)IkunoY,TanoY:Retinalandchoroidalbiometryinhighlymyopiceyeswithspectral-domainopticalcoherencetomography.InvestOphthalmolVisSci50:3876-3880,200918)FujiwaraT,ImamuraY,MargolisRetal:Enhanceddepthimagingopticalcoherencetomographyofthechoroidinhighlymyopiceyes.AmJOphthalmol148:445450,200919)WeiWB,XuL,JonasJBetal:Subfovealchoroidalthickness:thebeijingeyestudy.Ophthalmology120:175180,201320)ImamuraY,IidaT,MarukoIetal:Enhanceddepthimagingopticalcoherencetomographyofthescleraindome-shapedmacula.AmJOphthalmol151:297-302,201121)MarukoI,IidaT,SuganoYetal:Morphologicanalysisinpathologicmyopiausinghigh-penetrationopticalcoherencetomography.InvestOphthalmolVisSci53:38343838,201222)MarukoI,IidaT,SuganoYetal:Morphologicchoroidalandscleralchangesatthemaculaintilteddiscsyndromewithstaphylomausingopticalcoherencetomography.InvestOphthalmolVisSci52:8763-8768,2011184あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013(50)