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補償光学適用走査型レーザー検眼鏡(AO-SLO)

2013年2月28日 木曜日

特集●黄斑疾患診療トピックスあたらしい眼科30(2):199.210,2013特集●黄斑疾患診療トピックスあたらしい眼科30(2):199.210,2013補償光学適用走査型レーザー検眼鏡(AO-SLO)AdaptiveOpticsScanningLaserOphthalmoscopy(AO-SLO)大音壮太郎*はじめに近年,スペクトラルドメイン光干渉断層計(SD-OCT)が普及し,組織切片に似た画像を用いて診療を行うことが可能となったが,細胞レベルでの観察は困難であった.しかし,OCTや走査型レーザー検眼鏡(SLO)に補償光学(adaptiveoptics:AO)技術を応用することにより,さらなる高解像度のイメージングを実現することが可能となる.本稿では,初めに補償光学技術に関する基礎的な知識を紹介し,ついで補償光学適用SLO(AOSLO)について述べ,AO-SLOにより得られた正常眼・病理眼における視細胞所見を供覧する.I補償光学とは補償光学は天文学分野への応用を目的として1950年代に提案された概念である.一般に,天体望遠鏡やカメラなどの光を使ったイメージング機器では,開口(結像レンズ)の大きさが大きいほど鮮明な像が得られる.しかし実際のところ,大型の天体望遠鏡を設置しても,開口径が10cm程度の小型の天体望遠鏡と同程度の分解能しか得られない.これは,大気のゆらぎの影響によって天体からの光の波面が歪み,さらに歪みが時間的にランダムに変動することによるためである.この問題を解決する手段が補償光学技術である.補償光学システムは,光の歪みを計測する「波面センサー」,その歪みを補正する「波面補正素子」,波面センサーからの情報に基づき波面補正素子を制御する「制御歪んだ波面波面補正素子波面センサー制御装置ビームスプリッター補正された波面図1補償光学システムの概念図装置」によって構成される(図1).これらの構成要素は電気的に結合されており,歪んだ入射波面をフラットな波面に補正する.波面補正素子には,可変形鏡と液晶空間位相変調素子の2種類があり,可変形鏡ではその表面形状を,液晶空間位相変調素子では光の位相分布を制御する.なお,時間的に変化する波面の歪みを適切に補正するために毎秒数百回以上の計測と補正を繰り返し,その結果,最終的にこの補償光学システムを通して目的の天体を観察すると,大気のゆらぎの影響が打ち消され,鮮明な天体像を取得することができる.II補償光学と眼底イメージング機器眼底カメラやSLO・OCTなどの眼底イメージング機器では,眼球の外部から内部に光を照射し,眼球光学系を通して眼底を観察する装置である.そのため,眼球光*SotaroOoto:京都大学大学院医学研究科感覚運動系外科学眼科学〔別刷請求先〕大音壮太郎:〒606-8507京都市左京区聖護院川原町54京都大学大学院医学研究科感覚運動系外科学眼科学0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(65)199 学系,特に角膜と水晶体に存在する歪み(高次の収差)の影響を避けられず,面分解能が制限されていた.ここで外部から証明された眼底を観測対象の星と考え,角膜と水晶体を大気のゆらぎと考えると,眼底イメージング機器に補償光学を導入する意義がはっきりする.すなわち,眼底イメージング機器に補償光学を導入すると,角膜や水晶体に存在する歪みの影響が除去され,鮮明な眼底像を得ることができる.補償光学システムによって理論上約2.0μmの面分解能が得られ,これまで生体眼での観察が不可能であった視細胞を眼底イメージング機器で観察できるようになるのである.III補償光学システムの実際天文学用の補償光学システムを構成する3つのサブシステムには,定番の組み合わせがある.波面センサーにはシャック・ハルトマン(Shack-Hartmann)センサーか波面曲率センサーが,波面補正素子には大型の可変形鏡が利用されることが多い.また制御装置としては性能の向上に伴い,最近では汎用のパソコンが利用される.補償光学を眼底イメージング機器に組み込む場合にも,天文学とまったく同じ補償光学システムを利用するのと同様の効果が期待される.実際,眼底カメラに補償光学をはじめて組み込み,鮮明な眼底像の取得に成功した1997年の先駆的研究においては,天文学分野と同様にシャック・ハルトマンセンサー,可変形鏡,およびパソコンで構成される補償光学システムが採用された1).しかし,この補償光学システムは,大規模な装置構成・高価などの理由により,医療の現場で使用される眼底イメージング機器に設置する装置としては適切ではない.そのため,眼底イメージング機器への応用に適した補償光学システムの研究開発が盛んに進められるようになった.なかでも波面補正素子が,システム全体の価格と性能を決定する重要な鍵となる.現在のところ眼底イメージング機器に適した小型で安価な波面補正素子として,MEMS(microelectromechanicalsystems)技術を応用した可変形鏡やLCOS型液晶空間位相変調素子(LCOSSLM:liquid-crystal-on-siliconspatiallightmodulator)が注目されている.200あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013IV新しい眼底イメージング機器:AO-SLO近年欧米において,AOイメージング,とりわけAO-SLOの研究開発が進められている2).筆者らは新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)による助成事業「高精度眼底イメージング機器研究開発プロジェクト」の一環として,ニデック社・浜松ホトニクス社・産業技術総合研究所と共同で,また文部科学省科学技術振興調整費「京都大学・キヤノン協同研究プロジェクト(CKプロジェクト)」の一環として,キヤノン社と共同でAO-SLOの研究開発を行っている.その光学系の概念図を図2に示す.イメージング用の入射光(スーパールミネッセントダイオード,840nm)は波面補正素子であるLCOS-SLMを経由して鋭くフォーカスされ,眼底上に輝点を形成する.眼底からの反射光は,同じ経路を逆向きに進み,光検出器(APD)の直前に置かれたピンホール上に再びフォーカスされる.ここで眼底上の輝点を二次元的に走査すると,共焦点の効果によりコントラストの高い高倍率の眼底像が取得される.つぎに,眼球光学系の収差の影響を除去すべく補償光学系を動作させる.そのためには,まずイメージング用の入射光と同様に,波面測定用のレーザー(レーザーダイオード,780nm)を眼に入射し,眼底上に輝点を形成する.眼底上の輝点は一様に散乱され,角膜や水晶体などの眼球光学系の収差の影響を受けて歪んだ波面が眼から出射される.その光波の歪みを波面センサー(シャック・ハルトマンセンサー)で計測し,それを打ち消すようにLCOS-SLMの位相を素早く制御する.その結果,イメージング用の光波についても収差の影響が除去され,光検出器上に理想的な輝点を形成することができるため,高分解能の眼底像を取得することが可能となる.補償光学が作動したときと作動していないときの取得画像を図3に示す.細胞レベルでの観察を行うためには,補償光学がいかに重要な役割を果たしているかがわかる.(66) ⑥記録LCOS-SLM(波面補正素子)高分解能(840nm)点灯位置制御高分解能画像/OCT光路切替OCT(840nm)波面検出用光源(780nm)波面センサ-(780nm)前眼部観察固視灯広画角①②③④⑤⑥記録LCOS-SLM(波面補正素子)高分解能(840nm)点灯位置制御高分解能画像/OCT光路切替OCT(840nm)波面検出用光源(780nm)波面センサ-(780nm)前眼部観察固視灯広画角①②③④⑤高解像度画像撮影位置制御図2AO-SLO光路図高解像度AO-SLO画像(①)は広画角SLO(②)とリンクしていて,カーソル移動により後極部の任意の位置を撮影することができる.③:補償光学システム,④:OCT,⑤:前眼部モニター(撮影補助用),⑥:内部固視灯.図3補償光学の効果補償光学が作動しているとき(AO-ON)は視細胞像が観察されるが,補償光学を切断する(AO-OFF)と不明瞭な像となる.V正常眼におけるAO-SLO画像と画像解析方法現在AO-SLOでとらえられている像として,網膜神経線維束・大血管および毛細血管内の血球動態・視細胞があげられる(図4).筆者らの開発したAO-SLOで見えている視細胞はすべて錐体細胞であるが,最新の研究では,杆体細胞も描出可能な次世代AO-SLOシステムの開発が報告されている(図5)3).正常眼における視細胞パノラマ像を図6に示す.黄斑部の組織学的所見では,中心窩においては小さな錐体細胞が密に配列しているのに対し,周辺では大きな錐体細胞の間を小さな杆体細胞がうめる構造をとる.AO-SLOにより得られる錐体細胞モザイクにおいても,中心窩近傍では小さな錐体細胞が密に配列しているのに対し,中(67)あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013201 図4AO-SLOにより得られる画像左:視細胞.中:網膜神経線維束.右:血管内の血球動態.図5次世代AO-SLOによる杆体細胞の可視化錐体細胞のまわりに小型の杆体細胞が多数存在している.(文献3より改変)心窩からの距離が離れるに従って,個々の細胞が大きくなり,密度が低下することがわかる.中心窩から0.2,0.5,1.0mmの部位における平均視細胞密度は,67,900,33,320,14,450個/mm2であり,組織学的研究の結果とほぼ一致している4).得られた視細胞画像を用いて,視細胞密度の測定や,視細胞配列の解析を行うことができる.まず血管によるシャドウの少ない領域を選び,個々の視細胞の重心をソ*図6正常眼視細胞像左:通常SLO画像.拡大しても視細胞は確認できない.右:同部位のAO-SLO画像および拡大像.個々の視細胞が解像され,中心窩近傍(上方)では細胞が小さく,視細胞密度も高いが,中心窩から離れるに従って細胞は大きくなり,密度も低下する.*:中心窩.(文献4より改変)202あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013(68) 図7視細胞重心の自動検出左:血管によるシャドウの少ない部位を選択.右:視細胞の重心をソフトウェアにより自動検出(緑で表示).図8視細胞重心から得られるVoronoi図各視細胞重心の垂直二等分線を引くことにより得られる.視細胞配列の解析に使用.緑は六角形,青は五角形,黄色は七角形を示す.緑で表される六角形の割合が高いほど配列に規則性があると考えられる.図9網膜神経線維パノラマ画像A:後極部の網膜神経線維束パノラマ像.B:Aの白枠の拡大.個々の神経線維束が描出されている.フトウェアにより自動検出する.眼軸長によるスキャン(文献5より改変)長補正を行ったのち,視細胞数/面積の計算により各部位における視細胞密度を算出することができる(図7).また,得られた各視細胞重心からの垂直二等分線を引く得られ,視細胞配列の規則性を解析することができることにより,Voronoi図(ある距離空間上の任意の位置(図8).一般に1つの視細胞は6つの視細胞に近接したに配置された複数個の点に対して,同一距離空間上の他配列をとっており,Voronoi図の六角形の割合が多いほの点がどの母点に近いかによって領域分けされた図)がど配列が規則的であると考えられている.(69)あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013203 5045403530252015網膜神経線維束幅(AO-SLO)10500°30°60°90°120°150°180°210°240°270°300°330°250200150100500網膜神経線維層厚(SD-OCT)0°30°60°90°120°150°180°210°240°270°300°330°Position図12中心性漿液性脈絡網膜症における視細胞異常A:初診時SD-OCT水平断.漿液性網膜.離(SRD)を認める.1カ月でSRDは自然寛解した.B,C:4カ月後.B:SD-OCT水平断.SRDは消失している.IS/OS:視細胞内節外節接合図10視神経乳頭周囲における網膜神経線維束幅と神経線維部,COST:視細胞外節先端.C:中心窩のAO-SLO画像.視層厚細胞モザイク内に斑状のdarkregionを認め,視細胞の欠損とAO-SLOにおける神経線維束幅は二峰性を示し,OCTにおけ考えられる.視細胞密度は低下している.*:中心窩.スケーる神経線維層厚と相関する.(文献5より改変)ルバー:100μm.(文献4より改変)図11視神経篩状板孔の観察篩状板孔は眼底写真より鮮明に描出され,緑内障眼での研究に有用である.(文献6より改変)204あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013(70) 図9に示すのは正常眼における網膜神経線維束のパノラマ像である5).AO-SLOにより個々の神経線維束が描出可能となり,既存のOCTなどでは不可能な神経線維束幅の計測が可能となる.興味深いことに,乳頭周囲の神経線維束幅は二峰性を示し,SD-OCTにより得られた神経線維層厚と相関を示す(図10)5).また,AO-SLOは視神経篩状板孔の観察にも利用可能である(図11)6).このような検討は緑内障研究で有用と考えられる.VI病理眼におけるAO-SLO画像(視細胞像)1.中心性漿液性脈絡網膜症寛解後の視細胞構造異常(図12)4)中心性漿液性網脈絡膜症(CSC)では多くの症例で漿液性網膜.離は自然消退し,視力が回復するが,漿液性網膜.離消退後も比較暗点や変視症・色覚異常を自覚することが多い.また,慢性型では恒久的な視力障害を残すことが知られている.これまでOCTを用いた研究により,CSC症例で視細胞内節外節接合部(IS/OS)に異常をきたすことや,中心窩網膜厚が菲薄化することが報告され,CSCでは視細胞層に障害がもたらされていることが示唆されてきたが,個々の視細胞にどのような異常が生じているのかは不明であった.筆者らはAO-SLOを用いて,CSCの漿液性網膜.離消退後の視細胞構造について検討を行った.漿液性網膜.離の消失を認めたCSC症例は全例で5.100細胞大の視細胞欠損像が斑状に観察された.中心窩から0.2,0.5,1.0mmの部位における平均視細胞密度は31,290,18,760,9,980個/mm2であり,正常眼に比べ有意に低下していた.中心窩から0.2mmの部位における平均視細胞密度は平均視力および中心窩平均網膜厚と有意な相関がみられた.また,SD-OCT像でのIS/OS不整群はIS/OS正常群に比べ有意に視細胞密度が低かった.このようにAO-SLOによりCSCおける網膜復位後の視細胞構造異常が明らかとなった.CSCではSRD消失後も視細胞密度が減少し,残存視細胞密度は視力・網膜厚と相関する.すなわち,CSCでは視細胞密度の減少が視力障害に関係しており,治癒後の比較暗点や色覚異(71)常にも関与すると考えられる.2.黄斑円孔術後における視細胞構造異常(図13,14)7)近年手術機器・手技の進歩により,硝子体手術による黄斑円孔閉鎖率は高くなったが,円孔の閉鎖が必ずしも良好な視力回復をもたらすとは限らず,閉鎖後も比較暗点や変視症を自覚する場合が多い.これまでOCTを用いた研究により,黄斑円孔閉鎖後もIS/OSや外境界膜(ELM)に異常をきたしていることが報告され,視細胞層の障害が術後視機能に影響していることが示唆されてきたが,個々の視細胞構造異常は不明のままであった.筆者らはAO-SLOを用いて黄斑円孔閉鎖後の視細胞構造異常について前向き研究を行い,術前因子との関連を検討した.特発性黄斑円孔症例を対象として,硝子体手術後6カ月でAO-SLO・SD-OCT・マイクロペリメトリーの測定を行ったところ,全例で視細胞欠損所見が確認され,平均視細胞密度は正常眼に比べ有意に低下していた.視細胞密度および視細胞欠損面積は,視力・網膜感度と相関を認め,術前のSD-OCTにおける視細胞外節欠損所見と関連していた.また,症状の持続期間と視細胞欠損面積とは正の相関を認めた.このようにAO-SLOにより黄斑円孔術後の視細胞構造異常が明らかとなり,視細胞欠損の程度が視機能に関連していることが示された.黄斑円孔発生時に後部硝子体からの牽引が視細胞層に欠損をもたらし,持続期間が長くなれば視細胞障害が進み,術後も視細胞構造異常が残存するものと考えられる.3.黄斑上膜症例における視細胞配列異常(図15,16)8)黄斑上膜症例の視機能異常として変視症があることはよく知られている.これまでOCTを用いた研究により,黄斑上膜症例でIS/OSに異常をきたすことや,中心窩における外顆粒層厚が増加することが判明し,黄斑上膜は視細胞層へ影響を及ぼすことが示されてきたが,変視症のメカニズムは不明のままである.筆者らはAO-SLOを用いて黄斑上膜症例の視細胞構造について検討を行あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013205 図13特発性黄斑円孔術後における視細胞異常一段目:初診時SD-OCT水平断.特発性黄斑円孔を認め,外境界膜(ELM)の外側に存在すべき視細胞内節外節接合部(IS/OS)の反射低下(青矢頭)および欠損像(赤矢印)を認める.二段目:硝子体手術後.黄斑円孔は閉鎖したが,中心窩周囲の網膜感度の低下(右)を認める.三段目,四段目:SD-OCT(二段目の緑矢印部位のスキャン).IS/OSの欠損(青矢頭)および中心窩に高反射領域(*)を認める.ONL:外顆粒層,COST:視細胞外節先端,RPE:網膜色素上皮.(文献7より改変)図14特発性黄斑円孔術後のAO-SLO画像図13と同一症例(二段目の白枠部位に相当).視細胞欠損像を認め(黄矢印),網膜感度低下領域と一致している.*:中心窩.(文献5より改変)206あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013(72) 図15黄斑上膜における視細胞異常A:眼底写真にて黄斑上膜を認める.B:IR画像.C:アムスラーチャートにて広範囲な変視症を認める.D:SD-OCT水平断(Bの緑矢印部位).黄斑上膜(黒矢印)を認める.中心窩IS/OSは不規則である(青矢印).E:SD-OCT垂直断(Bの緑矢印部位).F:AO-SLO画像(Bの白枠,D・Eの両矢印部位に相当).視細胞モザイク内に多数のmicrofold(赤・黄矢印)を認める.*:中心窩,スケールバー:100μm.図16正常眼および黄斑上膜症例の視細胞配列正常眼(左)および黄斑上膜症例(右)における視細胞重心Voronoi図.正常眼では緑で示される六角形の割合が高いが,黄斑上膜では低下している.(文献8より改変)い,変視症への関与を考察した.黄斑上膜症例では,視細胞間に多数の皺襞様低反射像を認め,筆者らはこの所見を“microfold”と名付けた.Microfoldを中心窩に認める症例では,アムスラーチャートで固視点付近に変視症が認められ,M-CHARTSにおける変視スコアも悪かった.また,Voronoi図における六角形の割合は正常眼に比べ有意に低い結果となり,(73)(文献8より改変)視細胞配列の規則性が低下していた(図16).この研究により,黄斑上膜症例において,既存のSLOやSD-OCTでは検出不可能な黄斑上膜特有の視細胞配列異常が判明し,変視との関係が認められた.黄斑上膜症例において,microfoldに表される視細胞配列の乱れが変視症の形成に関与していることが示唆される.黄斑上膜による求心性の収縮が網膜の肥厚を起こすのみでなく,視細胞層にもさまざまな程度の歪みを生じさせ,microfold・配列の規則性低下をひき起こすと考えられる.4.黄斑部毛細血管拡張症における視細胞異常と蛍光眼底造影所見(図17,18)9)黄斑部毛細血管拡張症(MacTel)は近年注目されている疾患である.MacTeltype2は種々のイメージング機器での異常所見が報告されており,OCTでは網膜内層・外層に萎縮性の変化をきたすことや,初期から外顆粒層に高輝度点が認められることが報告され,病態に視細胞障害が関与していると考えられていたが,病態メカあたらしい眼科Vol.30,No.2,2013207 図17黄斑部毛細血管拡張症における視細胞異常A:眼底写真にて黄斑部毛細血管拡張および網膜の透明性低下を認める.B:フルオレセイン蛍光眼底造影にて蛍光漏出を認める.C:眼底自発蛍光にて黄斑部自発蛍光の増強を認める.D:SLOredfree画像にて黄斑部反射増強(黄矢印)を認める.E:マイクロペリメトリーにて傍中心窩の網膜感度低下を認める.F:IR画像.G:SD-OCT水平断(Fの緑矢印部位).外顆粒層に高輝度点(黒矢頭)を認める.中心窩IS/OSは不規則である(青矢印).H:SD-OCT垂直断(Fの緑矢印部位).(文献9より改変)ニズムについては依然と不明のままである.筆者らは傍中心窩領域にかけて視細胞欠損像が斑状・輪状に観察AO-SLOを用いてMacTeltype2症例の視細胞構造にされ,視細胞密度の低下を認めた.視細胞密度とマイクついて検討を行い,蛍光眼底造影など他のイメージングロペリメトリーにて測定した網膜感度とは相関がみら機器から得られた所見と比較検討した.れ,視細胞障害が視機能に関与していることが示唆されMacTeltype2においては,中心窩からおもに耳側のる.また,AO-SLOで視細胞構造に異常を認める領域208あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013(74) はフルオレセイン蛍光眼底造影(FA)にて蛍光漏出を認めない範囲にまで視細胞異常が広がっていた.さらにFAでの蛍光漏出は認めないGass分類stage1の早期症例においても,AO-SLOにより斑状の視細胞異常が確認された.これらの所見は,視細胞異常が血管病変に先行して出現することを示唆するものである.MacTeltype2は網膜血管疾患ではなく,視細胞やその支持細胞であるMuller細胞の変性が本態であると推察される.以上のように,AO-SLOにより得られる視細胞密度・視細胞配列と視機能や他のイメージング機器から得られる所見を比較することにより,さまざまな眼底疾患の病態理解を深めることができる.VIIAO-OCTの可能性補償光学技術はOCTにも応用可能である.2003年図19AO-OCTによる高解像度三次元画像NFL:網膜神経線維層.GCL:神経節細胞層.OPL:外網状層.OS:視細胞外節.(文献10より)0.4mm0.3mm図18黄斑部毛細血管拡張症のAO-SLO画像図17と同一症例(Fの白枠部位に相当).輪状の視細胞欠損(黄矢印)および小型・斑状の視細胞脱落像(赤矢印)を認める.蛍光眼底造影にて蛍光漏出のない中心窩下方領域まで視細胞異常が認められる.*:中心窩.(文献9より改変)AO-OCTVolumeImageofRetinaNFLGCL0.25mmOPLOS(75)あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013209 にはタイムドメインOCTに,2005年にはFourierドメインOCTに補償光学が導入された.研究室レベルでは,面分解能・深さ分解能ともに3μmである超高解像度の3D画像が示されている(図19)10).まさに眼底を‘virtualbiopsy’するような画像といえる.AO-SLOでは深さ分解能は高くなく,解析はおもに視細胞層・網膜神経線維層に限られるが,深さ方向の分解能も高いAOOCTはまさに究極の眼底イメージング機器となりうる.病理眼に応用し,診療で使用できるレベルに達するにはスキャン速度の高速化・固視微動の除去・光量の問題などさまざまな問題を解決する必要があるが,AO-OCTが市場に登場すれば眼科の世界が変わる可能性がある.おわりに眼底カメラ・SLO・OCTにそれぞれ補償光学が導入され,眼底イメージングにおける補償光学の重要性が広く認識されてきた.補償光学は眼球光学系の歪みの影響を除去し,分解能の飛躍的向上を可能にする.同時に,コントラストやSN(signal-to-noise)比の改善も期待されるため,取得される眼底像の品質向上に大いに貢献する技術となる.近い将来,角膜のスペキュラを使うようにAO-SLOを用いて視細胞密度を数え,また生検を行うかのようにAO-OCTを用いて網膜biopsyscanを行って,網膜疾患や緑内障の治療適応を検討し,治療の効果判定に利用する時代が来ると考えている.文献1)LiangJ,WilliamsDR,MillerDT:Supernormalvisionandhigh-resolutionretinalimagingthroughadaptiveoptics.JOptSocAmAOptImageSciVis14:2884-2892,19972)RoordaA,Romero-BorjaF,DonnellyWJIIIetal:Adaptiveopticsscanninglaserophthalmoscopy.OptExpress10:405-412,20023)DubraA,SulaiY,NorrisJLetal:Noninvasiveimagingofthehumanrodphotoreceptormosaicusingaconfocaladaptiveopticsscanningophthalmoscope.BiomedOptExpress2:1864-1876,20114)OotoS,HangaiM,SakamotoAetal:High-resolutionimagingofresolvedcentralserouschorioretinopathyusingadaptiveopticsscanninglaserophthalmoscopy.Ophthalmology117:1800-1809,20105)TakayamaK,OotoS,HangaiMetal:High-resolutionimagingoftheretinalnervefiberlayerinnormaleyesusingadaptiveopticsscanninglaserophthalmoscopy.PLoSONE7:e33158,20126)AkagiT,HangaiM,TakayamaKetal:Invivoimagingoflaminacribrosaporesbyadaptiveopticsscanninglaserophthalmoscopy.InvestOphthalmolVisSci53:41114119,20127)OotoS,HangaiM,TakayamaKetal:Photoreceptordamageandfovealsensitivityinsurgicallyclosedmacularholes:anadaptiveopticsscanninglaserophthalmoscopystudy.AmJOphthalmol154:174-186,20128)OotoS,HangaiM,TakayamaKetal:High-resolutionimagingofthephotoreceptorlayerinepiretinalmembraneusingadaptiveopticsscanninglaserophthalmoscopy.Ophthalmology118:873-881,20119)OotoS,HangaiM,TakayamaKetal:High-resolutionphotoreceptorimaginginidiopathicmaculartelangiectasiatype2usingadaptiveopticsscanninglaserophthalmoscopy.InvestOphthalmolVisSci52:5541-5550,201110)MillerDT,KocaogluOP,WangQetal:Adaptiveopticsandtheeye(superresolutionOCT).Eye25:321-330,2011210あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013(76)

超広角走査型レーザー検眼鏡の黄斑疾患への応用

2013年2月28日 木曜日

特集●黄斑疾患診療トピックスあたらしい眼科30(2):193.197,2013特集●黄斑疾患診療トピックスあたらしい眼科30(2):193.197,2013超広角走査型レーザー検眼鏡の黄斑疾患への応用ClinicalUseofUltra-WideFieldScanningLaserOphthalmoscopeforMacularDiseases吉田宗徳*小椋祐一郎*はじめに黄斑疾患の診断にフルオレセイン蛍光眼底造影(fluoresceinangiography:FA)やインドシアニングリーン蛍光眼底造影(indocyaninegreenangiography:IA),眼底自発蛍光(fundusautofluorescence:FAF)などの眼底カメラを用いた検査が活用される.これまでの眼底カメラによる眼底撮影は画角が35°.50°程度であり,眼底の周辺部を捉えるためには被験者に眼球を動かしてもらったり,カメラを動かす必要があった.眼底全体像を記録するためには何枚もの写真を撮影し,パノラマ写真を作成しなければならなかった.しかもそこまでしてもなお眼底の最周辺部を撮影することはほぼ不可能であった.最近開発されたOptosR200Tx(図1)を用いた超広角眼底撮影では,一度の撮影で眼底の約80%以上にあたる200°の広角の画像を得ることができる(図2)1).加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD)に代表される黄斑疾患では黄斑部におもな病変があり,これまで眼底周辺部の所見はあまり注目されていなかったが,この新しい機械の登場によって黄斑疾患の眼底周辺部の変化が注目されるようになった.IOptosR200TxとはOptosR200Txは走査型レーザー検眼鏡の原理を用い,一度に200°の範囲の眼底を撮影することのできる装置である.OptosR200Txでは瞳孔面に眼底をスキャンする基準の地点(バーチャルスキャンポイント)を置図1OptosR200Txの外観き,そこを中心として円を描くように眼底を約200°スキャンする形で撮影している.1回の撮影に要する時間は約0.3秒である.波長532nm(緑色)のレーザー光で眼底の浅い部分,波長633nm(赤色)のレーザーで眼底の深部を撮影し,合成したうえで疑似カラーを着色してカラー写真を作成する(図3).また,OptosR200Txではカラー眼底のほか,広角のFAとFAFも撮影することができる.IAに関しては現モデルでは撮影できないが,近いうちにIAも撮影できるモデルが開発される予*MunenoriYoshida&YuichiroOgura:名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学〔別刷請求先〕吉田宗徳:〒467-8602名古屋市瑞穂区瑞穂町川澄1名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(59)193 ABAB図2通常の眼底カメラとOptosR200Txで撮影された眼底の画像糖尿病網膜症で光凝固後の眼底である.A:通常の眼底カメラ(画角50°)で撮影したもの.B:OptosR200Txで撮影したもの.(文献1より)図3OptosR200Txによる眼底撮影OptosR200Txでは異なる2つの波長(532nm,633nm)のレーザーを用いて撮影した画像を合成し,疑似カラーをつける方法をとっている.A:波長532nmのレーザー光を用いて撮影された画像.網膜など眼底の浅層が撮影されている.B:同じく波長633nmでの像.脈絡膜などの眼底の深層が撮影されている.C:AとBを合成し,疑似カラーをつけて完成した眼底像.通常はこのような画像で表示される.(文献1より)ACB194あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013(60) 定である.FAには波長488nm(青色)のレーザーが,FAFには532nmが用いられる.II黄斑疾患における超広角眼底撮影黄斑疾患では,黄斑部のみに目が向きがちではあるが,糖尿病黄斑浮腫(diabeticmacularedema:DME)や網膜静脈閉塞症(retinalveinocculusion:RVO)に伴う黄斑浮腫などでは,当然周辺部の網膜の虚血性変化などが黄斑浮腫に関係してくるし,AMDでも黄斑部網膜以外にも網膜の異常が起こっていることがわかってきている.黄斑上膜では周辺部に黄斑上膜の原因がある場合があるし,黄斑円孔では比較的高率に眼底周辺部に網膜変性がみられる.OptosR200Txでは,一度の撮影で眼底の周辺部までの変化が捉えられ,しかも無散瞳での撮影が可能である.OptosR200Txの画像では全体像を一度につかめるため,病変のオリエンテーションをつけるには非常に適しているといえる.逆にOptosR200Txは広角撮影を行うが,写真の解像度が非常に高いため,黄斑部のみを拡大しても通常の眼底撮影とほぼ同等の十分な画質を備えている.Csutakらは従来型眼底カメラを用いた45°撮影とOptosR200Txの類似型機であるOptosRP200CAFを用いた200°撮影とでAMDおよびARM(age-relatedmaculopathy)の写真によるグレーディングを行い,両者を比較したところ,96%以上が一致したと報告しており2),OptosR200Txの画像のみでもAMD診療に十分用いることができることが示されている.また,OptosR200Txを用いれば容易に電子カルテ上に眼底周辺部を含む所見を記録することができる.III超広角FA従来は周辺部のFAの評価には眼底写真を合成してパノラマ写真を作ることが多かった.この方法では1枚1枚の写真そのものが光の入り方にばらつきがあるうえ,写真間の時間差や明るさのばらつきもあって,ムラのないパノラマ写真を作成することは困難であった.しかし,超広角FAでは1回の撮影で容易に全体像が撮影可能である.しかも従来の撮影では見ることができなかった周辺部までも撮影することができる(図4).さらに無(61)図4OptosR200Txによるフルオレセイン蛍光眼底造影増殖糖尿病網膜症の症例.周辺部の網膜新生血管や網膜無灌流領域がきれいに描出されている.(文献1より)散瞳,短時間で撮影が行えることは患者負担の軽減にもつながるし,糖尿病などで散瞳の悪い症例でもクオリティのよい撮影ができる利点もある.AMD患者で超広角FAを撮影すると時々眼底周辺部に血管からの蛍光漏出や無灌流域などの所見がみられることがある(図5).ただし,このような所見はRVOなど他の疾患でもみられることがあり,AMDに特異的なものかどうかはまだわかっていない.IV超広角FAFFAFはおもに網膜色素上皮(retinalpigmentepithelium:RPE)に含まれるリポフスチンから発せられると考えられている.FAFでは,視神経乳頭,網膜血管,黄斑部は正常でも低蛍光となるが,それ以外に低蛍光が存在するときは出血その他による蛍光のブロックを除けば,おおむねRPEが変性・萎縮していることを示している.逆に過蛍光はRPEが変性を起こしかけていることを示している.典型的には変性が進んだ部分のRPEが萎縮して低蛍光となり,その周囲に過蛍光の部分がみられる.OptosR200TxではFAFの励起波長に532nm(緑色)が用いられる.FAFに用いられる励起波長には他に488nm(青色)などがあるが,532nmを用いたほあたらしい眼科Vol.30,No.2,2013195 うがよりリポフスチンの発する蛍光,すなわちRPEの状態をより反映しているとの報告もある3).OptosR200Txによってこれまではむずかしかった眼底周辺部のFAFが撮影できるようになって,AMD患者での眼底周辺部のFAF異常が報告されるようになった.AMD患者の周辺FAF異常の自験例を示す(図6).ReznicekらはFAFが黄斑部だけではなく,周辺部で196あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013図5OptosR200TxによるAMDのFA眼底周辺部に血管からの蛍光漏出(矢印)や無灌流領域(矢頭)などの所見がみられる.図6OptosR200TxによるAMDのFAF黄斑部にはRPE萎縮による低蛍光とそれを取り囲む過蛍光(RPEの異常が進行しつつある部分)がみられる.眼底周辺部には顆粒状の蛍光異常がみられる(矢印).も年齢とともに増加することを報告した.また,年齢をマッチさせたAMD患者と非AMD患者を比較するとAMD患者のほうが周辺部のFAFが有意に強かった.AMD患者間で抗VEGF治療を受けている患者と受けていない患者では周辺部FAFに有意差はなかった.黄斑部のFAFは抗VEGF治療群が非AMD患者に対して有意に増加していたが,VEGF治療を受けていない群(62) では非AMD患者と差はなかった.周辺部FAFの不均一度(眼底をいくつかの領域に分けて,その領域間でのばらつき具合を標準偏差の大きさで評価する)はAMD患者が非AMD患者と比較して有意に増加していた.AMD患者間では抗VEGF治療群が非治療群よりも高い不均一度を示したが,有意差はなかった4).Witmerらは周辺部FAFの異常所見はAMD眼で64%と非AMD眼の36%と比べて有意に高かったと述べている.異常FAFのうち顆粒状蛍光と斑状の低蛍光は進行したAMD患者で早期AMDや正常者よりも有意に多くみられた.また,顆粒状蛍光は脈絡膜新生血管(choroidalneovascularization:CNV)や地図状萎縮(geographicatrophy:GA)のある眼で有意に多くみられた.斑状低蛍光はGAのある眼で有意に多くみられた5).これらの研究結果から,AMD患者では黄斑部だけではなく,周辺のFAFも増加すること,さらに周辺のFAFはAMD患者では顆粒状の変化や斑状の低蛍光などの乱れを生じ,それがAMDの進行度合いと比例していることが示された.言い換えれば,FAFで検出されるRPEの変化は黄斑部だけでなく,眼底全体で進行しており,その進行度が黄斑変性の進行度とも相関していると考えられる.また,今後の研究が進めば周辺部のFAFを調べることによって,将来のAMDの発生や治療効果が予測できるようになるかもしれない.おわりに超広角眼底撮影が可能になったことで,特に眼底周辺部のFAやFAFが評価できるようになったことは,眼底疾患の病態の理解に大きな進歩をもたらすものと考えられる.糖尿病網膜症やRVOはもちろんのこと,AMDなどの黄斑疾患も例外ではなく,むしろこれまで注目が低かった周辺部眼底の研究は大きな成果をもたらす可能性もあり,今後が注目される.文献1)吉田宗徳:超広角走査型レーザー検眼鏡Optos200Tx.眼科手術25:379-382,20122)CsutakA,LengyelI,JonassonFetal:Agreementbetweenimagegradingofconventional(45°)andultrawide-angle(200°)digitalimagesinthemaculaintheReykjavikeyestudy.Eye24:1568-1575,20103)HammerM,KonigsdorfferE,LiebermannCetal:Ocularfundusauto-fluorescenceobservationsatdifferentwavelengthsinpatientswithage-relatedmaculardegenerationanddiabeticretinopathy.GraefesArchClinExpOphthalmol246:105-114,20084)ReznicekL,WasfyT,StumpfCetal:Peripheralfundusautofluorescenceisincreasedinage-relatedmaculardegeneration.InvestOphthalmolVisSci53:2193-2198,20125)WitmerMT,KozbialA,DanielSetal:Peripheralautofluorescencefindingsinage-relatedmaculardegeneration.ActaOphthalmol90:e428-433,2012(63)あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013197

眼底自発蛍光最前線

2013年2月28日 木曜日

特集●黄斑疾患診療トピックスあたらしい眼科30(2):185.192,2013特集●黄斑疾患診療トピックスあたらしい眼科30(2):185.192,2013眼底自発蛍光最前線CuttingEdgeofFundusAutofluorescencePhotography古泉英貴*はじめに眼底自発蛍光撮影は非侵襲的に網膜色素上皮(RPE)の機能を評価できる比較的新しい検査法であり,2012年4月には正式に保険収載もされている.特殊なフィルターを用いることで造影剤を使用せずに簡便かつ短時間に撮影が可能であり,現在の眼底疾患診療におけるホットトピックスの一つとなっている.しかし現時点では,その臨床的意義は広く認識されていない状況であり,そのことが同検査法の普及の妨げになっているようにも思われる.一見とっつきにくい検査のように思えるが,基本的事項さえ理解しておけばその読影は決してむずかしくない.本稿では,眼底自発蛍光撮影の原理,正常所見,撮影機器の違いによる差異,代表的な異常所見の解釈,そしていくつかの最近のトピックスにつき概説する.I眼底自発蛍光撮影の原理RPEは視細胞外節を絶えず貪食・刷新する役割を担っており,1つのRPE細胞はその生涯で約30億個の視細胞外節を貪食するとされている.貪食された視細胞外節はRPE細胞内で代謝処理されるが,加齢などによりRPEの処理能力が低下すると,余剰産物がリポフスチンとして蓄積する.そのリポフスチンに青色光などの短波長光を照射することで励起される特有の蛍光を,フィルターを用いて検出するのが眼底自発蛍光撮影の原理である(図1).リポフスチンの構成成分としておもなもの図1眼底自発蛍光撮影の原理RPE細胞内に存在するリポフスチンに短波長光を照射することで励起される特有の蛍光を,フィルターを用いて検出する.図2眼底自発蛍光の模式図正常なRPEでもある程度の自発蛍光を発する(左).過剰なリポフスチンが蓄積したRPEは過蛍光を呈するようになり(中),最終的にRPE細胞死に至ると低蛍光となる(右).*HidekiKoizumi:東京女子医科大学眼科学教室〔別刷請求先〕古泉英貴:〒162-8666東京都新宿区河田町8-1東京女子医科大学眼科学教室0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(51)185 図3正常眼の眼底自発蛍光写真cSLO型装置(ハイデルベルグ社HRA2)(左)および眼底カメラ型装置(トプコン社TRC-50DX)(右)で撮影.視神経乳頭および網膜中大血管の部位では低蛍光となっている.cSLO型装置では良好なコントラストが得られるが,黄斑色素の影響で中心窩とその周囲はやや暗い.眼底カメラ型装置ではややコントラストは弱いが,中心窩とその周囲の情報は明瞭であり,広画角の画像が得られる.はビタミンAサイクルで生成されるA2Eという物質である.A2Eは視細胞外節に存在するA2PEを元にRPE細胞内で生成される1).正常でも70歳の時点でRPE細胞の体積の25%をリポフスチンが占めているため,ある程度の自発蛍光を発する.加齢や病的状態などのストレスにより過剰にリポフスチンを含有したRPEは過蛍光を発するようになり,最終的にはRPE細胞死に至ることで低蛍光を呈する(図2).II正常眼の眼底自発蛍光所見眼底自発蛍光撮影には大きく分けてハイデルベルグ社のHeidelbergRetinaAngiograph2(HRA2)などの共焦点走査レーザー検眼鏡(cSLO)型装置を用いる方法と眼底カメラ型装置を用いる方法がある.図3に正常眼の眼底自発蛍光画像を示す.視神経乳頭および網膜中大血管の部位では自発蛍光は通常ほとんど検出されない.cSLO型装置を用いた眼底自発蛍光撮影は共焦点レーザーを励起光として用いるため,水晶体由来の蛍光の影響が少ないことが利点である.フルオレセイン蛍光眼底造影(FA)と同じフィルター装置を使用するため,HRA2などの機器があればそのまま眼底自発蛍光撮影が可能である.その一方,FA施行後には眼底自発蛍光186あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013撮影はできない.また黄斑色素の影響で中心窩とその周囲はやや暗く写る.これはcSLO型装置(HRA2で488nm)では眼底カメラ型装置(トプコン社TRC-50DXで535.585nm)よりも短波長領域の励起光を用いることにより,RPEに到達する前に黄斑色素による励起光の吸収効果がより強く出てしまうためである.さらに評価に値する画像を得るためには多数の画像の加算平均処理が必要である.一方,眼底カメラ型装置を用いた眼底自発蛍光撮影は加算平均処理の必要がなく簡便であり,通常の眼底写真と同じ感覚で撮像が可能である.cSLO型装置と比較して画角の広い画像が得られ,またFAよりもやや長波長帯の励起光を用いるため,FA施行後でも画像の取得ができることも利点である.最近はフィルター特性の改良により,水晶体由来の自発蛍光の影響も少ない2).また,cSLO型装置と比較して黄斑色素による励起光の吸収効果は弱いため,中心窩およびその周囲の情報も明瞭である.しかし,画像のコントラストはcSLO型装置に比較してやや弱く,またFAと同じフィルターでは撮影できないため,あらかじめ眼底自発蛍光撮影専用のフィルターが組み込まれた装置を使用する必要がある.以下,異常所見,すなわち過蛍光や低蛍光といった所見をどのよ(52) うに解釈するかという点につき述べる.III異常所見の解釈1.過蛍光先述のごとく,加齢などによるRPE内の過剰なリポフスチンの蓄積がその主たる原因であることが多い(図4).加齢以外でもRPE内に過剰なリポフスチンの蓄積を生じるStargardt病では画像全体が著明な過蛍光を呈する3)(図5).しかし,それ以外でも過蛍光の原因となりうるものとして,視細胞外節由来の過蛍光がある.ビタミンA代謝サイクルにおいて,リポフスチンのおもな構成成分であるA2Eの前駆物質であるA2PEはおもに視細胞外節に存在し,A2Eと同様に自発蛍光活性を有することが知られている.通常はA2PEを主とした図4加齢に伴う過蛍光所見70歳,男性.初診時(左)と比較して,3年後(右)には中心窩周囲の過蛍光が明瞭になっている(矢印).図5Stargardt病カラー写真(左)では黄斑部の萎縮性変化がみられる.眼底自発蛍光写真(右)ではRPEへの過剰なリポフスチンの蓄積を反映して,全体に著明な過蛍光を呈する.黄斑部はRPEの萎縮により低蛍光を示している.加えて多数の斑状の低蛍光斑が散在しており,これも診断的意義の高い所見である.(53)あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013187 図6黄斑部網膜.離OCT(左)で中心窩とその周囲に視細胞外節の延長所見(矢印)を認め,眼底自発蛍光写真(右)でも同部位に一致して多数の顆粒状過蛍光所見(矢印)がみられる.丈の高い網膜.離の存在による蛍光ブロックにより,黄斑部の下方は低蛍光となっている(矢頭).図7Best病カラー写真(左)で黄斑部網膜下に黄白色物質の沈着がみられ,眼底自発蛍光写真(右)で同部位は著明な過蛍光所見を示す.視細胞外節由来の蛍光は画像自体への影響は少ないが,何らかの原因で視細胞外節由来物質の網膜下への蓄積が起こると,RPE由来の蛍光に加えて視細胞外節由来の物質も有意な蛍光を発するようになる.その代表的な例としては中心性漿液性脈絡網膜症(CSC)などでみられる黄斑部網膜.離と卵黄様黄斑変性(Best病)がある.黄斑部網膜.離が遷延すると,通常はRPEに貪食されるべき視細胞外節の延長が起こる.この所見は光干渉断188あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013層計(OCT)でも観察することができる.その延長した外節そのもの,あるいは外節を貪食したマクロファージ由来の自発蛍光が過蛍光として観察される4.6)(図6).また,Best病ではRPEのクロライドチャンネルの異常により貪食作用が障害されるため,貪食されなかった視細胞外節由来物質が網膜下に蓄積し,眼底自発蛍光撮影では著明な過蛍光を生じる7)(図7).Best病の類縁疾患であり,滲出型加齢黄斑変性(AMD)との鑑別が重要な(54) 図8成人型卵黄様黄斑変性カラー写真(左)で中心窩に黄白色病変を認め,眼底自発蛍光写真(右)で同部位が過蛍光を示している.図9萎縮型加齢黄斑変性72歳,男性.初診時,黄斑部に過蛍光を認め(左),その2年後には同部位がRPE萎縮を反映して境界明瞭な低蛍光に転じている(右).低蛍光領域に隣接した部位ではストレスを受けたRPEが過蛍光を示している(矢印).成人型卵黄様黄斑変性においても同様の過蛍光を生じる代表的なものに萎縮型AMDがある.通常検眼鏡的に境ため8),スクリーニング検査として非常に有用である(図界明瞭な萎縮巣を認め,その部位に一致した低蛍光所見8).を認める(図9).低蛍光領域の周囲にはストレスを受けたRPEがさまざまな過蛍光パターンを示すが,特有の2.低蛍光過蛍光パターンでは経時的に萎縮が拡大しやすいことが低蛍光の原因は大きく分けて2つあり,①RPE細胞報告されており9),病変進行の予測因子としての役割がの萎縮,②RPEよりも前方に位置する物質による蛍光注目されている.さらに補助診断として有用な所見もいブロックである.RPE細胞の萎縮をきたす疾患としてくつかある.その一つは網膜色素上皮裂孔であり(図(55)あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013189 図10網膜色素上皮裂孔滲出型AMDの診断で経過観察中であったが,最近急激に視力低下を自覚したとのことで来院.カラー写真(左)でははっきりしないが,眼底自発蛍光写真(右)で明瞭な低蛍光領域を認める(矢頭).矢印の部位ではローリングしたRPEが重層化するため,やや過蛍光の所見となっている.図11慢性CSC黄斑部の網膜.離が遷延すると,網膜下液は重力に従って下方に移動する.その状態が長期間続くことで,RPE萎縮を反映した特徴的な帯状の低蛍光領域(atrophictract)がみられる.10),裂孔の部位は境界明瞭な低蛍光所見を呈するため,急速に視機能の低下した滲出型AMDではスクリーニング検査として,まず眼底自発蛍光撮影を行うと良い.CSCでは遷延した網膜.離が重力に従って下方に移動するため,帯状のRPE萎縮を反映した低蛍光所見を呈することがある.この所見はatrophictractとよばれ(図11),過去のCSCの既往を疑わせる有用な所見である.わが国における滲出型AMDの二大サブタイプである典型AMDとポリープ状脈絡膜血管症(PCV)はインドシアニングリーン蛍光眼底造影(IA)で脈絡膜新生血管網の形態の差異を示すが,最近筆者らは眼底自発蛍光撮影においてPCVの特徴的所見であるポリープ状病巣の部位に一致して過蛍光リングに囲まれた円形の低蛍光領域(punched-outlesion)を高頻度に認めること,ま図12PCVIA(左)でPCVに特徴的な複数のポリープ状病巣を認め(矢印),眼底自発蛍光写真(右)ではポリープ状病巣に一致して過蛍光リングに囲まれた円形の低蛍光(punched-outlesion)(矢印)がみられる.加えて黄斑部以外にも広範囲に低蛍光が散在している(矢頭).190あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013(56) 図13網膜下出血新鮮な網膜下出血(左上)では眼底自発蛍光写真で蛍光ブロックにより低蛍光を示す(右上)が,少し時間の経過した網膜下出血(左下)ではむしろ過蛍光所見を呈する(右下).た患眼のみならず僚眼においてもPCVでは広範に低蛍光領域が散在していることを発見し,病態理解や補助診断としての有用性が高いことを報告した10)(図12).もう一つの低蛍光の原因となる蛍光ブロックの要因としては,RPEよりも前方に位置する硬性白斑や出血などがあげられるが,時間の経過した網膜下出血はむしろ過蛍光を示すことがあり11)(図13),所見の解釈には注意が図14近赤外光を用いた眼底自発蛍光撮影53歳,女性.Vogt・小柳・原田病発症より2カ月後.青色光による眼底自発蛍光写真(左)と比較して,近赤外光による眼底自発蛍光写真(右)では異常な過蛍光所見がより明瞭かつ広範にみられる.必要である.IV最近のトピックス従来,眼底自発蛍光撮影には青色光などの短波長光がおもに用いられてきたが,最近ではIAで使用する近赤外光を用いた眼底自発蛍光撮影も注目されている12.15)(図14).近赤外光を用いた自発蛍光の起源はおもに眼(57)あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013191 底のメラニンであるとされ,その変化は青色光を用いた自発蛍光よりも早期の眼底の代謝変化を検出しているとの報告もあるが,まだまだ病態との関連で不明な点も多い.今後さまざまな疾患での応用により,その意義が解明されることが望まれる.また,cSLO型装置において連続的に動画撮影を行うことで自発蛍光の経時的な輝度変化を測定し,視細胞の機能を定量化する試みも報告されており16),今後の発展に期待したい.おわりに眼底自発蛍光撮影は造影剤を必要とせず,非侵襲的にRPEの機能を観察することができる画期的な検査法であり,OCTなどとともに近未来の眼底疾患診療の中心的役割を担っていくことが期待される.本稿が眼底自発蛍光撮影のより良い理解と普及の一助になれば筆者にとって望外の喜びである.文献1)SparrowJR,Gregory-RobertsE,YamamotoKetal:Thebisretinoidsofretinalpigmentepithelium.ProgRetinEyeRes31:121-135,20122)Schmitz-ValckenbergS,HolzFG,BirdACetal:Fundusautofluorescenceimaging:reviewandperspectives.Retina28:385-409,20083)LoisN,HalfyardAS,BirdACetal:FundusautofluorescenceinStargardtmaculardystrophy-fundusflavimaculatus.AmJOphthalmol138:55-63,20044)SpaideRF:Autofluorescencefromtheouterretinaandsubretinalspace:hypothesisandreview.Retina28:5-35,20085)MarukoI,IidaT,OjimaAetal:Subretinaldot-likeprecipitatesandyellowmaterialincentralserouschorioretinopathy.Retina31:759-765,20116)MatsumotoH,KishiS,SatoTetal:Fundusautofluorescenceofelongatedphotoreceptoroutersegmentsincentralserouschorioretinopathy.AmJOphthalmol151:617623,20117)SpaideRF,NobleK,MorganAetal:Vitelliformmaculardystrophy.Ophthalmology113:1392-1400,20068)ParodiMB,IaconoP,PedioMetal:Autofluorescenceinadult-onsetfoveomacularvitelliformdystrophy.Retina28:801-807,20089)HolzFG,Bindewald-WittichA,FleckensteinMetal:Progressionofgeographicatrophyandimpactoffundusautofluorescencepatternsinage-relatedmaculardegeneration.AmJOphthalmol143:463-472,200710)YamagishiT,KoizumiH,YamazakiTetal:Fundusautofluorescenceinpolypoidalchoroidalvasculopathy.Ophthalmology119:1650-1657,201211)SawaM,OberMD,SpaideRF:Autofluorescenceandretinalpigmentepithelialatrophyaftersubretinalhemorrhage.Retina26:119-120,200612)KoizumiH,MaruyamaK,KinoshitaS:Bluelightandnear-infraredfundusautofluorescenceinacuteVogt-Koyanagi-Haradadisease.BrJOphthalmol94:1499-1505,201013)SekiryuT,IidaT,MarukoIetal:Infraredfundusautofluorescenceandcentralserouschorioretinopathy.InvestOphthalmolVisSci51:4956-4962,201014)TojuR,IidaT,SekiryuTetal:Near-infraredautofluorescenceinpatientswithidiopathicsubmacularchoroidalneovascularization.AmJOphthalmol153:314-319,201215)KeilhauerCN,DeloriFC:Near-infraredautofluorescenceimagingofthefundus:visualizationofocularmelanin.InvestOphthalmolVisSci47:3556-3564,200616)SekiryuT,IidaT,MarukoIetal:Clinicalapplicationofautofluorescencedensitometrywithascanninglaserophthalmoscope.InvestOphthalmolVisSci50:2994-3002,2009192あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013(58)

光干渉断層計(OCT)最前線

2013年2月28日 木曜日

特集●黄斑疾患診療トピックスあたらしい眼科30(2):177.184,2013特集●黄斑疾患診療トピックスあたらしい眼科30(2):177.184,2013光干渉断層計(OCT)最前線UpdateonOpticalCoherenceTomography丸子一朗*はじめに光干渉断層計(OCT)は,1997年にわが国に導入されて以来さまざまな黄斑疾患の形態評価に利用されている.2006年にはじめて市販化されたスペクトラルドメイン(SD)OCTはさらに高速化・高解像度化され現在では臨床だけではなく研究レベルにおいてもなくてはならないものとなり,各種黄斑疾患の病態解明に大きな役割を果たしている.最近では,撮影画像を複数枚重ね合わせる①加算平均処理により,1枚のみ撮影した画像では描出されなかった病変が描出でき,また逆に映り込んでしまったアーチファクトなどのノイズを軽減することが可能となった.さらに,この方法に加えて後述する②enhanceddepthimaging(EDI)とよばれる手法を用いることで脈絡膜の観察が簡単に可能となった.一方で,通常のOCTよりも長波長の光源を使用した③高侵逹(SS)OCTが研究・開発され,それを用いた網膜だけでなく深部の脈絡膜・強膜を観察する試みも進んでいる.本稿では,これまでは描出できずに観察できていなかったOCT所見について具体的な症例を紹介しながら,特に①②③で示した新しい手法や装置について解説する.IOCT最前線①:加算平均処理加算平均処理をすることで,OCT上のアーチファクトやノイズを軽減できることはわかっていたが,初期のOCT,いわゆるタイムドメイン(TD)OCTでは1枚の画像を撮影するのに約1秒程度の時間を要していたため複数枚の画像が同じ位置の画像であると証明できないことから,それらの画像を重ね合わせてもノイズを軽減するどころか逆に実際の画像とかけ離れてしまうため実用的ではなかった.SD-OCTの時代になると撮影速度が大幅に速くなったためほんの一瞬で複数枚の撮影が可能となり,ほとんどずれも生じなくなったことで実用レベルでの加算平均処理が可能となった.またHeidelberg図1加算平均処理によるOCT画像重ね合わせの枚数によって画像の鮮明さが増しているのがわかる.上段:重ね合わせなし,中段:10枚加算,下段:100枚加算.*IchiroMaruko:福島県立医科大学医学部眼科学講座〔別刷請求先〕丸子一朗:〒960-1295福島市光が丘1番地福島県立医科大学医学部眼科学講座0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(43)177 社のSpectralisOCTのように自動固視追尾機能(eyetracking)がついている装置では固視微動が生じたり瞬目したりしてもほぼずれることなく画像を撮影可能で重ね合わせ画像取得がより簡便である(図1).最近ではその他NIDEK社のRS-3000の最上位機種でも自動追尾機能が付属している.ここでは加算平均処理で新たに注目されるようになったhyperreflectivefociおよび視細胞内節外節境界(IO/OS)ラインと網膜色素上皮ラインの間に観察されるいわゆる第3のラインについて紹介する.1.Hyperreflectivefoci初期の糖尿病網膜症の視力低下の原因の一つに黄斑部に浮腫をきたす糖尿病黄斑症がある.糖尿病黄斑症では黄斑部網膜の肥厚が生じているが,これは黄斑部網膜血管の内皮異常に伴う血管透過性亢進による網膜の膨化,.胞様黄斑浮腫,中心窩網膜.離によって起こる1).実際にOCTで詳細に観察するとそのいずれもが別個に起図2糖尿病黄斑症(75歳,男性.右眼矯正視力0.3)上:眼底写真.網膜出血,硬性白斑,黄斑浮腫が眼底後極部全体に観察される.下:OCT水平断.黄斑浮腫だけでなく,一部漿液性網膜.離もみられる.Hyperreflectivefociを示す高反射点が多数みられる.こっているわけではなく,同時に観察されることも多い.近年,加算平均処理によりノイズを除去したSDOCT画像において糖尿病黄斑症例を観察すると網膜浮腫を生じている部位に多数の高反射点が存在していることが報告され,これをhyperreflectivefociとよんだ2)(図2).これまでのTD-OCTや重ね合わせなしのSD-OCTでも高反射点は描出されていたが,微細な病変であるためこれらのOCTでは再現性が低くノイズと解釈されていたと考えられる.Hyperreflectivefociは通常網膜外網状層を中心に観察されるが,中心窩.離を伴う症例では網膜.離内にも存在が確認されることもある.これは網膜内に貯留されている滲出液が網膜下に移動し中心窩.離が形成される際に外網状層に蓄積されていたhyperreflectivefociが滲出液と一緒に網膜下に流入するからと考えられている.糖尿病黄斑症では中心窩への硬性白斑の蓄積は視力を極度に低下させる因子であるが,hyperreflectivefociが多く描出される症例で中心窩での硬性白斑の沈着が多いことも報告されている.このため,hyperreflectivefociは硬性白斑の前駆物質であり,網膜下での蓄積が中心窩への硬性白斑の沈着の原因になっている可能性が指摘されており,注目されている3).同様の所見は網膜静脈分枝閉塞症による黄斑部浮腫でも観察されている4).2.第3のラインSD-OCTでは網膜10層の詳細な観察が可能となった.このなかで外境界膜は解剖学的には膜が形成されているわけではないが,光学的な境界面が形成されることから高反射のラインとして観察される.また,視細胞層内には10層の分類に含まれない高反射帯が観察されることがわかってきた.このラインは解剖学的にははっきりしたものがあるわけではないが,外境界膜が描出されるのと同様の機序で視細胞の内節と外節の境界部に光学的に強い反射が起こっていることが推察され,現在でも一般的にIS/OSラインとよばれている.実際,網膜色素変性や網膜.離術後の症例などにおいて視力不良例でIS/OSの描出が不良なことが多いことからさまざまな黄斑疾患でIS/OSが観察できるかどうかは視力予後を推測するうえで重要である.178あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013(44) さらに最近加算平均処理によるノイズ軽減によって,IS/OSと網膜色素上皮細胞の高反射の間にもう一つの高反射帯が描出されることがわかってきた.これについては,まだ完全に解釈されたわけではないことから外境図3正常眼OCT画像(50歳,男性)網膜の各層が鮮明に描出され,第3のラインも途切れなく観察できる.界膜,IS/OSラインから数えて3番目のラインということで第3のライン(3rdlineor3rdband)とよばれている(図3).第3のラインは基本的にIS/OSおよび網膜色素上皮のラインと平行に走っているが,中心窩ではIS/OSがやや上に凸の山型になっているのに対し,第3のラインは網膜色素上皮と平行のままで凹凸は観察されない.分子解剖学レベルでは視細胞外節の末端は網膜色素上皮細胞の微絨毛まで続いているが,中心窩では傍中心窩よりも視細胞外節がやや長いことが示されていることから,第3のラインは視細胞外節末端(coneoutersegmenttips:COST)と考えられるようになった.一方で,Spaideら5)は解剖学的所見およびOCTによる網膜外層ラインの位置関係を詳細に比較することでこ図4中心暗点を主訴に来院したが,矯正視力1.2と視力良好で,初期occultmaculardystrophyと診断された症例(61歳,男性)上左:マイクロペリメトリー.感度が良好な部位と不良な部位が混在している.上右:多局所網膜電図.ほぼ正常だが,中心窩部分だけ振幅が小さい.下:OCT画像.網膜全体がやや菲薄化し,第3のラインが中心窩で不鮮明になっている.(45)あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013179 れまでの考え方と異なる見解を示している.それによれば,IS/OSや第3のラインにしても光学的境界面というだけにしては厚みをもった組織としてOCTで描出されていることから,この2つはもう少し広い範囲を表しており,IS/OSとしているラインは視細胞内節のミオイドとエリプソイドのミトコンドリアを多く含むエリプソイド全体を,第3のラインは外節末端ではなく外節末端を含む網膜色素上皮の微絨毛に包まれている全体(conesheathorcontactcylinder)と推察している.これが正体だとするとこれまでのIS/OSラインやCOSTラインというように“線”というよりも2ndbandや3rdbandのように“帯”とよぶほうが適切かもしれない.なお,本稿では,これ以降も読者にわかりやすいようにIS/OSと第3のラインの呼称を使用する.第3のラインは正常眼においても必ず描出できるわけではないことがわかっている.Riiら6)はSD-OCTで正常眼の46眼中44眼(96%)で第3のラインが描出可能であったと報告している.自験例では中心窩部位を斜めにすることなくまっすぐ水平に撮影することで117眼中115眼(98.3%)において第3のラインは描出可能であった.描出できない症例において実際第3のラインが存在しないのか解像度が不足しているのかについては今のところ不明であり,今後の研究が待たれる.また,これまでoccultmaculadystrophy(図4)やBest病,AZOOR(acutezonaloccultouterretinopathy)7)などで第3のラインの描出不良が指摘されているが,その描出の有無が視力や網膜感度などとどれほど関連しているかも詳細は不明である.IIOCT最前線②:EDI.OCT脈絡膜は全眼球血流の80.90%を占めるとされ,視細胞を含む視機能への影響は少なくないことは明らかである.ただし,脈絡膜血流や形態的な変化が生じても網膜への直接的な影響がなければ,それはサブクリニカルな変化であり自覚症状も生じないことからその発見および評価は困難であった.これまでもインドシアニングリーン蛍光眼底造影検査(IA)を用いれば脈絡膜血流はある程度評価可能であったが,侵襲的な検査であることやもともと三次元的な組織で厚みのある脈絡膜を二次元的180あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013にしか観察できないなどの限界があった.2008年にSpaideら8)が市販のOCT装置を用いた脈絡膜を観察する方法としてEDI-OCTの手法を報告した.通常SDOCTにおいては,光源の至適距離から遠ざかるほど画質は低下し,逆に近いとより高い画質が得られる.実際臨床的にOCT撮影をしているときには,上方が硝子体側,下方が脈絡膜側を表示することが一般的で,その場合は光源の至適距離に網膜が近接するようになるので網膜側が高感度な画像が得られる.この特性を脈絡膜観察に利用するのがEDI-OCTの手法である.Heidelberg社のSpectralisOCTでは,OCT装置を近接させることで画面全体に通常とは上下反転した画像が得られる.この画像は,光源からの至適位置が脈絡膜側になるため,脈絡膜が鮮明に映しだされている.SpectralisOCTではこれにさらに先述した固視の自動追尾機能と加算平均処理を組み合わせることで,より鮮明な脈絡膜像の取得が可能である.現在はモニター上にEDIボタンがあり,それをマウスでクリックしただけで,EDIモードで撮影が可能であり,その場合には自動的に上下反転を元に戻してくれるため観察が容易である.他のOCT装置でもEDI-OCTの手法は可能で,トプコン社の3D-OCT,NIDEK社のRS-3000,Optvue社のRTvueなどでも脈絡膜観察用の設定がソフトウェアとして組み込まれている.脈絡膜をOCTで観察してみると正常や疾患眼に限らず加齢,眼軸延長,眼屈折値に伴い薄くなる傾向が示されている.筆者は脈絡膜をOCTで観察可能となったことの現在までの最大のメリットは,脈絡膜の厚みを数値として評価可能にしたことと考えている.これによって各疾患や症例ごとの脈絡膜が比較可能となった.各OCT装置にはそれぞれ網膜厚を測定するためにキャリパー機能が付属しており,これをそのまま脈絡膜厚測定に用いることができる.脈絡膜厚の測定は,網膜色素上皮ラインの下縁から脈絡膜-強膜境界(CSI)までと定義できるが,症例によっては,鮮明に描出されない場合もあり注意が必要である.現在のところ網膜厚測定のように自動測定可能なソフトウェアはなく,あってもまだ未完成であるため必要に応じてマニュアル測定をしなければならない.これため測定者や装置によって同じ症例,(46) 図5慢性型中心性漿液性脈絡網膜症(63歳,男性.右眼矯正視力0.6)左上:眼底写真.中心窩から下方にかけて漿液性網膜.離がみられる.左下:EDI-OCT垂直断.中心窩を含む漿液性網膜.離がみられる.脈絡膜は肥厚し,中心窩下脈絡膜厚は459μm.右上:フルオレセイン蛍光眼底造影.黄斑部に過蛍光がみられるが,漏出点は特定できない.右下:インドシアニングリーン蛍光眼底造影.黄斑部に脈絡膜血管透過性亢進を示す過蛍光が観察できる.同じ画像での再現性の問題も指摘されている.最近までに,正常眼9,10)を含め中心性漿液性脈絡網膜症(CSC)10,11)(図5),Vogt-Koyanagi-Harada(原田)病12,13)(図6),加齢黄斑変性14.16),強度近視17,18)(図7)などのさまざまな疾患でEDI-OCTを用いた脈絡膜観察について報告されている.正常眼の脈絡膜厚に関してMalgolisら9)は,中心窩下脈絡膜厚は287μmで鼻側視神経乳頭周辺に近づくにつれて薄くなっていることを報告している.自験例では177眼で調査して平均中心窩下脈絡膜厚は250μmであった10).最近中国での50歳以上の正常異常を問わない3,233例(平均65歳)における多数例のpopulationbasedstudyでも中心窩下脈絡膜厚は253.8μmであった19).疾患ごとの脈絡膜の違いとして厚くなる症例の代表はCSCや原田病であり,薄くなる代表では強度近視があげられる.Imamuraら11)はEDI-OCTの手法を用いてCSC症例19例28眼の脈絡膜を観察し,その平均中心窩脈絡膜厚は505μmと肥厚していることを初めて報告した.自験例では片眼発症のCSC症例66例の脈絡膜厚をEDI-OCTの手法で測定して,平均中心窩下脈絡膜厚は414μmと年齢調整した正常眼と比較して有意に肥厚していることを報告した10)(図5).また,原田病は脈絡膜でメラノサイトへの自己免疫反応による炎症が起きていることが知られており,急性期には肥厚しているとされる.筆者らは8例16眼の急性期原田病の脈絡膜をEDI-OCTの手法で観察してみたところ,治療前の平均中心窩下脈絡膜厚は805μm(47)あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013181 図6原田病(21歳,女性.左眼矯正視力0.6)上段:初診時.中心窩に滲出性網膜.離がみられる.脈絡膜は肥厚しており,脈絡膜厚は900μm以上で測定できない.中段:ステロイド治療3日後.網膜.離はやや減少している.脈絡膜は全層観察可能で,中心窩下脈絡膜厚は580μm.下段:ステロイド治療1カ月後.網膜.離は消失.中心窩下脈絡膜厚は348μmまで減少している.と著しく肥厚していた.また,全例でステロイド治療を実施し1カ月後に滲出性網膜.離は消失したが,経過中は治療3日後524μm,2週間後には341μmと脈絡膜での炎症が治療に反応して抑制されたことで脈絡膜が急速に薄くなることが示された12).Nakayamaら13)も同様に急性期の肥厚があること,症例によっては治療後一度薄くなっても再度厚くなるようなリバウンドを示すことがあると報告している.眼軸延長をきたす強度近視眼では,脈絡膜の菲薄化が報告されている.これはEDIOCTでなく通常の撮影方法でSD-OCTを撮っても脈絡膜が観察できることからもわかる.Ikunoら17)は強度近182あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013図7強度近視眼(33歳,男性.眼軸長34mm.右矯正視力0.3)上:眼底写真.黄斑部萎縮が著明.下:高侵逹OCT水平断.網膜はほぼ正常だが,脈絡膜が菲薄化しているのがわかる.強膜は全層観察可能で,その後方に一部眼窩脂肪がみえる.視眼をSD-OCTで観察し平均中心窩下脈絡膜厚は99.3μmであることを報告している.これはEDI-OCTによるFujiwaraら18)の報告である93μmとほぼ同等であった.強度近視眼には後部ぶどう腫を伴う症例があるが,その特殊型として中心窩がドーム状に隆起したdome-shapedmaculaがある.Imamuraら20)はこのような症例では脈絡膜および強膜も薄いが,中心窩で強膜が他の部位と比較して相対的に厚くなっているためドーム状になると考察している.IIIOCT最前線③:SS.OCTEDI-OCTの手法で各種疾患の脈絡膜観察における研(48) 究は進んだが,光源の特性上網膜の深部から脈絡膜を観察する場合にはどうしても限界が存在する.さらなる深部観察のために,通常の光源よりも長波長の1,050nmのSLDを用いたOCTが研究,開発されてきた.理論上より深く達することが可能であり,その侵逹性から高侵逹(highpenetration:HP)OCTともよばれる.ただし,現在ではこの光源を用いた装置はsweptsource(SS)方式の撮影方法を導入しているため一般的にはSS-OCTとよばれている.SS-OCTの原理および構造的特徴は既報に譲るが,その特性としては,通常のSD-OCTより高速化し,光源の深度による減衰が少ないという利点がある.つまり,SS-OCTでは脈絡膜・強膜だけでなく網膜や硝子体側でも光の減衰なく深さによらず高解像度の画層を取得でき,臨床上有用である.強度近視眼についてはEDI-OCTの項でも触れたが,.8D以上の近視眼を指すことが多く通常眼軸長が26.5mm以上と延長している.筆者らは強度近視症例35例58眼(男性7例,女性28例,平均65.5歳)に対してSS-OCTで脈絡膜・強膜を観察した21).その結果,平均中心窩下脈絡膜厚および強膜厚はそれぞれ52±38μm,335±130μmであった.正常眼の剖検眼では強膜厚は約1mm程度とされていることから強度近視眼では強膜が菲薄化していることがわかる(図7).同時に中心窩から上下および鼻側,耳側3mmで強膜厚を測定してみると中心窩下が相対的に厚くなっていることが確認された.このことは眼軸が延長しても眼底後極部の強膜はある程度厚みを残すような機構の存在を示唆している.前述のdome-shapedmaculaではそれが極端にドーム状に隆起している場合を指すと考えられる.傾斜乳頭症候群は胎生期の眼杯閉鎖不全によって生じる視神経乳頭の先天異常であるが,多くの症例で視神経乳頭傾斜に端を発して下方にぶどう腫形成をみる.ぶどう腫の上縁が黄斑部を横断するような症例では黄斑部萎縮を伴い,しばしば中心窩.離を生じ視力不良となる.筆者らは傾斜乳頭症候群9例14眼に対してSS-OCTで垂直断撮影を実施したところ22),平均中心窩下脈絡膜厚は144μmでその上下方1.5mm部位(上211μm,下156μm)と比較すると上方のぶどう腫外より有意に薄くなっていた.また,そのときの平均中心窩下強膜厚は(49)図8傾斜乳頭症候群(72歳,女性.左矯正視力0.9)上:眼底写真.視神経乳頭の下方への傾斜とそれから下方に続くぶどう腫が確認できる.下方ぶどう腫の上縁は黄斑部を横断し,同部位には萎縮巣が観察できる.下:高侵逹OCT垂直断.上方から下方のぶどう腫にかけて斜めに観察される.脈絡膜は中心窩付近で最も薄くなっており,同部位で網膜色素上皮のラインが不整になっている.493μmで,同様に上下1.5mm部位(上414μm,下398μm)と比較すると有意に中心窩下で厚くなっていた(図8).このことは相対的ではあるものの中心窩の強膜がその上下と比較して厚くなっていることを示している.これはその発生機序はまったく異なるが局所的にdome-shapedmaculaと類似しており両疾患の発症メカニズムを知るうえで興味深い.おわりに本稿ではOCT最前線として,OCT研究が進むにあたりポイントとなった技術的または機械的な革新に関する①加算平均処理,②EDI-OCT,③SS-OCTについて解説した.こうしてみてみると,それぞれの段階を経あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013183 て硝子体,網膜,脈絡膜,強膜と眼底後極部を形成しているすべての部位がOCTで少なからず観察できるようになってきていることがわかる.実際にはこれ以外にも,超広角OCT,補償光学を用いたOCT,偏光OCT,ドップラーOCTなどのさらに進化したOCTの開発が進んでいる.今後はこれらを含めた形態学的解析が今以上に進むことと,さらには形態学的だけでなく機能的な評価も合わせて行われ,さらなる病態解明が進むことが期待される.文献1)OtaniT,KishiS,MaruyamaY:Patternsofdiabeticmacularedemawithopticalcoherencetomography.AmJOphthalmol127:688-693,19992)BolzM,Schmidt-ErfurthU,DeakGetal:Opticalcoherencetomographichyperreflectivefoci:amorphologicsignoflipidextravasationindiabeticmacularedema.Ophthalmology116:914-920,20093)UjiA,MurakamiT,NishijimaKetal:Associationbetweenhyperreflectivefociintheouterretina,statusofphotoreceptorlayer,andvisualacuityindiabeticmacularedema.AmJOphthalmol153:710-717,20124)OginoK,MurakamiT,TsujikawaAetal:Characteristicsofopticalcoherencetomographichyperreflectivefociinretinalveinocclusion.Retina32:77-85,20125)SpaideRF,CurcioCA:Anatomicalcorrelatestothebandsseenintheouterretinabyopticalcoherencetomography:literaturereviewandmodel.Retina31:1609-1619,20116)RiiT,ItohY,InoueMetal:Fovealconeoutersegmenttipslineanddisruptionartifactsinspectral-domainopticalcoherencetomographicimagesofnormaleyes.AmJOphthalmol153:524-529,20127)TsunodaK,FujinamiK,MiyakeY:Selectiveabnormalityofconeoutersegmenttiplineinacutezonaloccultouterretinopathyasobservedbyspectral-domainopticalcoherencetomography.ArchOphthalmol129:1099-1101,20118)SpaideRF,KoizumiH,PozzoniMC:Enhanceddepthimagingspectral-domainopticalcoherencetomography.AmJOphthalmol146:496-500,20089)MargolisR,SpaideRF:Apilotstudyofenhanceddepthimagingopticalcoherencetomographyofthechoroidinnormaleyes.AmJOphthalmol147:811-815,200910)MarukoI,IidaT,SuganoYetal:Subfovealchoroidalthicknessinfelloweyesofpatientswithcentralserouschorioretinopathy.Retina31:1603-1608,201111)ImamuraY,FujiwaraT,MargolisRetal:Enhanceddepthimagingopticalcoherencetomographyofthechoroidincentralserouschorioretinopathy.Retina29:14691473,200912)MarukoI,IidaT,SuganoYetal:SubfovealchoroidalthicknessaftertreatmentofVogt-Koyanagi-Haradadisease.Retina31:510-517,201113)NakayamaM,KeinoH,OkadaAAetal:EnhanceddepthimagingopticalcoherencetomographyofthechoroidinVogt-Koyanagi-Haradadisease.Retina32:2061-2069,201214)ChungSE,KangSW,LeeJHetal:Choroidalthicknessinpolypoidalchoroidalvasculopathyandexudativeage-relatedmaculardegeneration.Ophthalmology118:840845,201115)KoizumiH,YamagishiT,YamazakiTetal:Subfovealchoroidalthicknessintypicalage-relatedmaculardegenerationandpolypoidalchoroidalvasculopathy.GraefesArchClinExpOphthalmol249:1123-1128,201116)MarukoI,IidaT,SuganoY:Subfovealretinalandchoroidalthicknessafterverteporfinphotodynamictherapyforpolypoidalchoroidalvasculopathy.AmJOphthalmol151:297-302,201117)IkunoY,TanoY:Retinalandchoroidalbiometryinhighlymyopiceyeswithspectral-domainopticalcoherencetomography.InvestOphthalmolVisSci50:3876-3880,200918)FujiwaraT,ImamuraY,MargolisRetal:Enhanceddepthimagingopticalcoherencetomographyofthechoroidinhighlymyopiceyes.AmJOphthalmol148:445450,200919)WeiWB,XuL,JonasJBetal:Subfovealchoroidalthickness:thebeijingeyestudy.Ophthalmology120:175180,201320)ImamuraY,IidaT,MarukoIetal:Enhanceddepthimagingopticalcoherencetomographyofthescleraindome-shapedmacula.AmJOphthalmol151:297-302,201121)MarukoI,IidaT,SuganoYetal:Morphologicanalysisinpathologicmyopiausinghigh-penetrationopticalcoherencetomography.InvestOphthalmolVisSci53:38343838,201222)MarukoI,IidaT,SuganoYetal:Morphologicchoroidalandscleralchangesatthemaculaintilteddiscsyndromewithstaphylomausingopticalcoherencetomography.InvestOphthalmolVisSci52:8763-8768,2011184あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013(50)

強度近視の眼底イメージング

2013年2月28日 木曜日

特集●黄斑疾患診療トピックスあたらしい眼科30(2):165.176,2013特集●黄斑疾患診療トピックスあたらしい眼科30(2):165.176,2013強度近視の眼底イメージングImagingofPosteriorFundusinEyeswithPathologicMyopia大野京子*島田典明*はじめに光干渉断層計(OCT)を用いて群馬大学の岸教授らが,病的近視眼では黄斑円孔網膜.離になる前にすでに網膜分離がみられることを報告1)したのが,ついこの間のような気がするが,実はもう今から10年以上前になる.この,病的近視の網膜分離はOCTがその病態解明や治療法の確立に最も寄与した病態の一つであると言っても過言ではないほどである.その後,この網膜分離は,後部強膜ぶどう腫を伴う強度近視眼の約9%にみられること2),検眼鏡的所見から視力障害の原因を同定できない症例の多くがこの網膜分離によるものであることなどが明らかになった.これらの発見を機に,網膜分離に対する硝子体手術が行われるようになり,多数の患者に福音をもたらした.その後,OCTの画像解像度の向上により,分離網膜内の,より微細な所見を捉えることができるようになり,本病態に対する理解がますます進んできた.さらに最近のenhanceddepthimaging(EDI)-OCTやsweptsourceOCTを用いると,網脈絡膜の菲薄化した強度近視眼では,強膜の全層を観察することが可能である.これらを用いて,dome-shapedmaculaという特殊な強膜形状と,それにより生じる黄斑部病変が明らかになるとともに,病的近視眼の強膜内および強膜後方の構造までをも生体眼で観察可能となった.以上により,今や眼底イメージングにより,強度近視眼ではこれまでわれわれがまったく観察できなかった眼球後方にまで及ぶ深部構造の観察が可能となった.本稿ではおもにOCTを主体に,強度近視眼に対する眼底イメージングの進歩によりもたらされた知見を解説する.I近視性牽引黄斑症(myopictractionmaculopathy:MTM)MTMは,強度近視眼での牽引に伴った黄斑部網膜障害を示す総称である.Panozzoらによれば,近視性牽引黄斑症の診断は病的近視眼底に加えて,表1に示した網膜前の牽引か牽引に伴う網膜の障害の計6つのうち,いずれかを認めることによる3).網膜分離だけではなく,黄斑前膜や硝子体黄斑牽引,分層黄斑円孔,網膜.離も範疇に入れることで,黄斑円孔や黄斑円孔網膜.離の前駆病変として位置づけされ,黄斑円孔や黄斑円孔網膜.離への進行予防の治療にスムーズにつなげることができる(図1).なお,全層黄斑円孔や黄斑円孔網膜.離は全表1近視性牽引黄斑症(MTM)の診断基準1.網膜前の牽引1.黄斑前膜2.硝子体黄斑牽引2.牽引に伴う黄斑部網膜の障害1.網膜の肥厚(中心窩厚>200μm)2.網膜分離3.網膜.離4.分層黄斑円孔診断は病的近視眼底に加えて,上記の計6項目のうち,いずれかを認めることによる.*KyokoOhno-Matsui&NoriakiShimada:東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科眼科学分野〔別刷請求先〕大野京子:〒113-8519東京都文京区湯島1-5-45東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科眼科学分野0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(31)165 図1近視性牽引黄斑症(MTM)のOCT像これらすべてが全層黄斑円孔や黄斑円孔網膜.離の前駆病変と考えられる.左上:網膜分離が中心窩とその周囲に薄くみられる症例.左下:中心窩に内層分層黄斑円孔を伴う症例.右上:網膜前膜による中心窩癒着牽引を認める症例.右下:内層分層黄斑円孔に網膜.離を合併した症例.網膜分離(retinoschisis)の範囲による分類S0分離なしS1分離が中心窩外のみS2分離が中心窩内のみS3分離が中心窩含むが黄斑全体を含まないS4分離が黄斑全体に広がっている合併病変網膜前膜硝子体黄斑牽引黄斑内層分層円孔網膜.離(M)(V)(L)(D)網膜分離の範囲のシェーマS0S1S2S3S4黄斑部(直径6mm)中心窩(直径1.5mm)網膜分離層網膜裂孔を伴った病態であり,MTMという名称は通常用いない.筆者らは,網膜分離の有無または範囲と合併病変の有無によりMTMを分類している(図2)4).まず,網膜分離の有無または範囲によって,S0(網膜分離なし),S1(中心窩以外の網膜分離),S2(中心窩内の網膜分離),S3(S2+S3でS4に至ってないもの),S4(黄斑全域の網膜分離)に分類し,黄斑前膜,硝子体黄斑牽引,黄斑部網膜.離,黄斑内層分層円孔の有無によりさらに細かく分類している.黄斑部網膜.離についてはさらに,166あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013図2近視性牽引黄斑症(MTM)の分類網膜分離の有無または範囲によって,S0(網膜分離なし),S1(中心窩以外の網膜分離),S2(中心窩内の網膜分離),S3(S2+S3でS4に至っていないもの),S4(黄斑全域の網膜分離)に分類し,黄斑前膜,硝子体黄斑牽引,黄斑部網膜.離,黄斑内層分層円孔の有無によりさらに細かく分類する.(文献4より)網膜分離のみの状態から,黄斑外層分層円孔を伴って黄斑部網膜.離に進行する4つのステージに分類している(図3)5).まず,黄斑部網膜分離のみの状態では網膜分離層の外側の網膜外層に異常はなく,つぎに,黄斑部の網膜外層の乱れあるいはわずかな上昇が認められる(stage1).つぎに,同部位に網膜外層の分層円孔が生じ(stage2),その後,この分層円孔が上昇したように見え,網膜分離と.離は共存する(stage3).最後に,分層円孔の端の網膜外層が網膜内層にくっついて見える状態となる(stage4).これらの分類により,多彩な(32) 図3近視性牽引黄斑症(MTM)における網膜.離の進行過程(すべて非同一症例)左上:ステージ0.網膜分離のみの段階.視細胞内節外節接合部(IS/OS)の障害も明らかでない.左下:ステージ1.中心窩のIS/OSに不整があり,反射が上昇している.中上:同じくステージ1.IS/OSが牽引により網膜内方へやや上昇している.同様にIS/OSの反射が上昇している.中下:ステージ2.IS/OSに亀裂が生じ(外層分層黄斑円孔)ている.右上:ステージ2.この分層円孔が上昇し,網膜分離と.離は共存する.右下:ステージ4.分層円孔の端の網膜外層が網膜内層にくっついて見える状態となり,元の分層円孔の部位はよくわからなくなる.MTMの病変の程度や予後がなんとなく理解できるようになる.治療は現時点では硝子体切除に加えて,内境界膜.離が広く行われ,おおむね良好な成績が報告されているが,術後の合併症の黄斑円孔や黄斑円孔網膜.離を予防する目的で,網膜.離により中心窩の残存網膜が菲薄化したものに対しては,中心窩の内境界膜は残して内境界膜.離と硝子体切除を行い良好な経過を得ている6).さらに,オクリプラスミン7)をはじめとする酵素的硝子体融解薬の登場により,今後はMTMへのさらに安全で効果的な治療への期待ができる.将来的にはOCTのさらなる普及やこのような治療の進歩により,黄斑円孔網膜.離の根絶を実現することができるかもしれない.IIDome.shapedmacula(DSM)DSMはGaucherら8)により初めて報告された病態で,強度近視眼の黄斑部がドーム状に前方に突出した状態であり,OCTを用いて140眼中15眼に認めたとしている(図4).彼らの報告ではフルオレセイン蛍光眼底造影図4Dome.shapedmacula(DSM)のOCT所見中心窩下の強膜が局所的に肥厚し,前方に盛り上がっている.中心窩下には脈絡膜新生血管も認められる.(FA)で全例に網膜色素上皮(RPE)の萎縮性変化を認め,うち半数に色素漏出,さらに15眼中10眼ではDSMの部位に一致して漿液性網膜.離を認めたとした.なぜ黄斑部がドーム状に突出するかは不明であったが,Imamuraら9)は,EDI-OCTを用いてDSMの症例を観察し,DSMを有する強度近視眼では中心窩下強膜厚が平均570±221μmと,DSMのない強度近視眼の平均281±85μmに比較し有意に肥厚していることから,DSMは黄斑部の強膜の局所的肥厚であり,従来のCurtinのぶどう腫分類のいずれにも属さない,より複雑な眼球形状であると述べた.ごく最近Ellabbanら10)(33)あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013167 図5Dome.shapedmacula(DSM)の三次元OCT画像眼底写真で示されたスキャン範囲(緑の四角)では,DSMによる強膜の突出は黄斑を通る垂直スキャン(左下)で,水平スキャン(右下)よりも著明である.OCT画像を三次元化構築したマップでも,突出は黄斑を通って水平のridge状の様相を呈している.(文献10より)ABCDE図7Dome.shapedmacula(DSM)の症例のOCT所見網膜分離がDSM周囲で止まっている.中心窩下には脈絡膜新生血管もみられる.図6Dome.shapedmacula(DSM)の症例の3DMRI所見A:眼底では黄斑の上下に限局性萎縮病巣が多数散在している.B:同症例の3DMRI画像を眼球後方からみた図.眼球後部に鼻側,および黄斑上方,黄斑下方の3つのprotrusionが存在している.C:眼球3DMRI画像を下から見た図.D:眼球3DMRI画像を鼻側から見た図.黄斑の上下に2つの突出があるのがわかる.E:同症例のOCT画像はDSMを示す.(文献11より)168あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013(34) は,DSMを有する51眼の強度近視眼をsweptsourceOCTで詳細に解析を行ったところ,垂直および水平の両方のスキャンでドーム状に黄斑が突出しているDSMは9眼のみであったが,残り42眼では中心窩を含む垂直方向のスキャンのみで突出しているridge状の突出であった.Ridge状の突出の上下に2つの後部強膜ぶどう腫があり,ridgeは2つのぶどう腫の境界に位置していた(図5).これは筆者ら11)が3DMRI(magneticresonanceimaging)を用いて報告した,DSM症例の眼球形状(図6)を支持する所見であると述べている.Ellabbanら10)は,51眼のDSM症例の黄斑合併症についても調べ,黄斑分離症はあっても中心窩付近で分離が止まっていることが多く,DSMが自然の黄斑バックルのように網膜分離症の進行に対してprotectiveに働いているのではないかとしている(図7).さらに特筆すべきはDSMの41%に脈絡膜血管新生(CNV)を合併していたことであ図8黄斑部intrachoroidalcavitation(ICC)のOCT画像左上の眼底写真では,黄斑の上下に2カ所の小型の限局性萎縮病変を認める(矢印).下方の限局性萎縮の水平スキャンを右上(A),中左(B),中右(C)に示す.OCTでは限局性病変の周囲にchoroidalcavitation(矢頭)がみられ,網膜が嵌頓している(白矢印).ICCに近接して強膜内を走行する血管の陰影がみられる(黒矢印).左下の眼底写真では,黄斑の上下,耳側に3カ所の限局性萎縮病変がみられる(矢印).萎縮部位のOCTスキャン(右下)では,ICC部位(矢頭間)では強膜がやや後方に偏位しており,そこに向かって網膜が嵌頓している(矢印).(文献17より)る.筆者らの症例でもDSMにCNVを合併することがしばしばあり,漿液性網膜.離に加え,注意すべき黄斑合併症と思われる.CNVが続発する機序については検討を要するが,傾斜乳頭症候群のぶどう腫縁にも同様にCNVが生じることがあり,ドーム状に突出した強膜により中心窩網膜が圧迫され,慢性的な網膜色素上皮障害が生じることが要因かもしれない.いずれにしても,高い発生率を考えると,DSMの症例には常にCNVの発生に注意して経過をみる必要があると考えられる.IIIMacularICCICCは従来,病的近視眼の視神経乳頭下方にみられる黄色.オレンジ色の三日月状病変であり,OCTを用いてFreundら12)が当初,網膜色素上皮.離として報告した病態である.その後,本病変が脈絡膜内のcavityであることが,舘野ら13),Toranzoら14)の研究から明ら(35)あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013169 かとなり,intrachoroidalcavitation(ICC)と名称が変わった.Spaideら15)は,ICCの部位では強膜のカーブが後方に偏位しており,それに伴いICCができていること,ICCのエッジにはしばしば網膜欠損を伴い,欠損部位を通じて硝子体腔とICCが交通していることを明らかにした.またごく最近,台湾のYehら16)は122眼のICCを対象に詳細な解析を行い,ICCが強度近視だけでなく弱度近視や,まれに正視,遠視にもみられ,強度近視に限定的な病変ではなく,加齢に伴う変性所見であるかもしれないと述べている.病理組織学的には,コーヌスと限局性病変は類似した病態である.筆者らは,病的近視患者の黄斑部をswept図9黄斑ICC周囲に網膜分離がみられる症例左上:眼底写真では黄斑耳側と黄斑耳下側に複数の限局性萎縮病変がみられる.中上:限局性病変の周囲に比較して,乳頭周囲のICC様にオレンジ色色調を有する病変が観察される(矢頭).右上:フルオレセイン蛍光眼底造影(FA)では限局性病変周囲にみられたオレンジ色の範囲が造影早期には低蛍光を,造影後期(2段目左)には過蛍光を示す.OCT所見では,ICCの範囲(矢頭間)では強膜が後方に偏位しており,そこに網膜が嵌頓している(白矢印).嵌頓網膜の周囲に網膜分離がみられる.ICCの近傍には強膜内を走行する血管が観察される(黄矢印).下段:3D化したOCT画像では,ICCは中心窩様の陥凹としてみられ(矢印),偽中心窩様所見を示す.(文献17より)170あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013(36) sourceOCTを用いてスキャンした結果,限局性萎縮病変の周囲に,乳頭周囲のICCと同様の所見がみられることを報告した(図8)17).限局性萎縮病変を有する強度近視眼56眼において萎縮周囲のOCTを施行したところ,31眼(55.4%)に強膜が後方に突出するICC特有の所見がみられた.うち3眼では硝子体腔とICCとの間に直接交通がみられた.また,ICC部位に網膜が嵌頓することにより,ICC周囲の網膜に分離症が高頻度にみられた(図9).以前筆者らは,網膜分離症は萎縮が高度な眼に多いことを報告した2)が,その理由の一つとして,このmacularICC部位への網膜の嵌頓があるのかもしれない.さらに,macularICCのすぐ近傍を強膜内の太い血管が走行していることが多かった.以上から,macularICCのできる原因として,限局性萎縮病変に加えて,その周囲の強膜内を太い血管が走行しており,ただでさえ薄い強膜がさらに構造的に脆弱化していると思われる部位に内圧がかかって後方に強膜が突出してしまうのではないかと考えられる.IV強膜全層の観察網脈絡膜の菲薄化した強度近視眼では,sweptsourceOCTを用いると強膜の全層を観察することが可能である(図10).さらに強膜の全層に加え,強膜外側にある上強膜またはTenon.,さらに眼窩脂肪まで観察可能である.Marukoら18)は,58眼の強度近視眼(平均眼軸長29.0mm)をsweptsourceOCTで精査し,全例で強膜全層を観察できたとした.彼らの報告では,中心窩下強膜厚は平均335±130μmであった.筆者らは,強度近視眼488眼(平均年齢57.1歳,平均屈折度.13.3D,平均眼軸長29.9mm)をsweptsourceOCTでスキャンしたところ,278眼(57.0%)で強膜の全層を観察できた19).病的近視眼の眼球後部の強膜の形状は,乳頭傾斜型,対称型,非対称型,不規則型の4つの形状に分けられ(図11),不規則型を有する症例では他の強膜形状に比べて有意に年齢が高く,眼軸長が長く,また強膜厚が有意に薄かった.中心窩下強膜厚は全症例の平均227.9±82.0μmであったが,不規則型では平均189.1±60.9μmで図10SweptsourceOCTを用いた病的近視眼における強膜全層の観察BはAの,DはCのシェーマを示す.シェーマではオレンジ色は強膜,茶色は上強膜もしくはTenon.,黄色は眼窩脂肪を示す.E,Fでは強膜と上強膜の間を走行する血管の断面(赤矢頭)も観察される.Tenon.は,いくつかの細かい線維の束に分かれて眼窩脂肪の中に混じっていく(矢印).(文献19より)ACEBDF(37)あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013171 ABCDEFHGABCDEFHG図11正視眼(A~D)と病的近視眼(E~H)における強膜のカーブ正視眼の網膜色素上皮(RPE)のカーブには2つのタイプがある.黄斑を通る垂直スキャンでRPEがほぼ一直線であり,水平スキャンでは乳頭が最も底にあるタイプ(A,B)と,水平・垂直スキャンとも中心窩を底にしたお椀状のカーブをとるタイプ(C,D)である.ただ,いずれの場合にも正視眼では中心窩下脈絡膜厚が厚いために強膜内面のカーブは中心窩を底にしたお椀状になる.強度近視眼の強膜形状の4つのタイプ(E~H).E:乳頭に向かって直線状に傾斜する乳頭傾斜型,F:中心窩が底にある対称型,G:中心窩が眼球突出の底からずれてしまっている非対称型,H:まったく不規則な強膜形状をとる不規則型.ON:視神経,SAS:くも膜下腔.(文献19より)あり,他の強膜形状を有する眼に比較して有意に菲薄化V強膜内および球後血管の観察していた.このことから,おそらく強膜はある程度以上に菲薄化するともはや正常の円弧を維持できず,最終的強度近視眼では強膜内の血管および球後の血管をもにまったく不規則な形状に至るのではないかと考えられOCTで観察することが可能である20).強膜内を走行すた.また,不規則型の症例では,他の強膜形状を有するる長後毛様動脈は,強膜の外層2/3くらいのあたりを症例に比較し,近視性眼底病変を有意に高頻度に合併し強膜カーブに沿って走る低反射像として観察できる(図ていた.12).また,短後毛様動脈の血管断面も円形の低反射として観察される(図13).さらに強膜後方の眼窩血管も観察できる(図14).病的近視眼では後部強膜の伸展に172あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013(38) ABCDEABCDE図12OCTによる長後毛様動脈の観察A:眼底はびまん性萎縮を呈する.B:ICG赤外蛍光眼底造影では乳頭耳側に球後の血管がループ状にみられ(矢印間),そこから引き続き直線状の長後毛様動脈(LPCA)が描出される.耳側末端部で血管陰影が描出されなくなり,脈絡膜血管への連続性がないことからも,短後毛様動脈でないと考えられる.C:OCTスキャンの方向を示す.D:LPCAは強膜の後方から刺入し,強膜のやや外層を強膜カーブに沿って走行する低反射像としてみられる(矢頭).E:球後の血管の断面(矢印)と,強膜内を走行するLPCAがみられる(矢頭).(文献20より)ABCDEFG図13短後毛様動脈(SPCA)のOCT所見A:眼底では黄斑萎縮がみられる.萎縮内を透かして走行するSPCAが部分的に観察できる(矢頭).B:ICG赤外蛍光眼底造影(IA)では,球後の血管の描出(矢印)にひきつづき,黄斑下方を水平に走行し,正常眼より耳側周辺で脈絡膜血管に移行するSPCAがみられる(矢頭).強度近視ではこのようにSPCAが脈絡膜に入る位置がぶどう腫縁に偏位していることが多い.C:OCTスキャン位置を示す.D~G:SPCAの血管断面が円形の低反射像としてみられる(矢頭).耳側に行くに従い,徐々に球後から強膜内へと深さが変化してくるのがわかる.(文献20より)(39)あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013173 ABCDEFHIGABCDEFHIG図14球後の血管の描出A:眼底では黄斑下方に限局性萎縮がみられる.矢頭はICG赤外蛍光眼底造影(IA)の位置の指標として用いた網膜血管を示す.B:IAでは強い過蛍光を示す球後の血管がみられる(矢頭).C:GでのOCTスキャン部位を示す.D:眼底では黄斑萎縮がみられる.矢頭,矢印はIAでも同じ部位を示す.E:IAでは黄斑部に強い過蛍光の球後血管がみられる.F:H,IでのOCTスキャン部位を示す.G:球後血管の断面が円形の低反射として強膜の外側にみられる(矢頭).H,I:強膜の後方に多数の球後血管の断面が認められる(矢頭,矢印).Iの赤矢印の部位ではやや長い断面が描出されている.(文献20より)ABCDEF図15黄斑渦静脈のOCTでの描出A:眼底では黄斑部に渦静脈がみられる.B:ICG赤外蛍光眼底造影(IA)では渦静脈が黄斑部で膨大部を形成して眼外に流出する様子がみられる(矢印).C,D:渦静脈の分枝は強膜内を走行したのち(矢印),黄斑部付近で強膜を貫いて眼外に流出する(矢頭).E:眼底で黄斑渦静脈がみられ,中心窩付近で膨大部を形成する(矢印).F:黄斑渦静脈の枝(矢印)が,黄斑付近で強膜を貫いて眼外に流出する(矢頭).(文献20より)174あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013(40) 伴い,これらの強膜内血管の走行が変化していることが考えられ,今後の解明が期待される.以前に筆者らは,強度近視眼の1/4に黄斑部に渦静脈がみられることを報告した21)が,sweptsourceOCTで観察すると,黄斑部に存在する渦静脈が眼底後極部で強膜を貫いて眼外に流出する様子を明瞭に観察することができる(図15).また,視神経乳頭周囲に存在する血管吻合であるZinn-Haller動脈輪は,強膜内もしくは強膜後方に位置する血管構造であり,従来生体眼では観察不可能であった.筆者らは以前に病的近視眼ではコーヌスを通してこの動脈輪がインドシアニングリーン(ICG)赤外蛍光眼底造影(IA)で観察できることを報告した22)が,IAだけでは観察された血管が本当に強膜内に存在するのかは断定できなかった.Spectralisを用いてIAとOCTの同時撮影を行うと,IAで描出されたZinn-Haller動脈輪が確かに強膜内に位置することがわかる.さらに動脈輪から視神経に向かう分枝も観察可能である.ZinnHaller動脈輪は,強度近視眼では特に水平方向で視神経乳頭から遠ざかっており23),形状も円形ではなく三角状または菱形としてみられることがある.乳頭周囲の伸展に伴う,このような血管構築の変化が,病的近視の視野障害に関与する可能性があるのか,今後の検討が期待される.おわりに以上,最新の画像診断の進歩により,明らかにされてきた病的近視の新知見を紹介した.OCTの進歩は,より深部の構造の観察を可能にしたが,病的近視は,網膜脈絡膜の菲薄化やコーヌスなどにより,深部がより観察しやすい状態である.そして観察される深部構造の変化が,視覚障害に結びつくさまざまな眼底病変の発生,進行につながると考えられる.今後のさらなる新知見の解明に期待したい.文献1)TakanoM,KishiS:Fovealretinoschisisandretinaldetachmentinseverelymyopiceyeswithposteriorstaphyloma.AmJOphthalmol128:472-476,1999(41)2)BabaT,Ohno-MatsuiK,FutagamiSetal:Prevalenceandcharacteristicsoffovealretinaldetachmentwithoutmacularholeinhighmyopia.AmJOphthalmol135:338342,20033)PanozzoG,MercantiA:Opticalcoherencetomographyfindingsinmyopictractionmaculopathy.ArchOphthalmol122:1455-1460,20044)所敬,大野京子:近視─基礎と臨床─.金原出版,20125)ShimadaN,Ohno-MatsuiK,YoshidaTetal:Progressionfrommacularretinoschisistoretinaldetachmentinhighlymyopiceyesisassociatedwithouterlamellarholeformation.BrJOphthalmol92:762-764,20086)ShimadaN,SugamotoY,OgawaMetal:Fovea-sparinginternallimitingmembranepeelingformyopictractionmaculopathy.AmJOphthalmol154:693-701,20127)StalmansP,BenzMS,GandorferAetal:Enzymaticvitreolysiswithocriplasminforvitreomaculartractionandmacularholes.NEnglJMed367:606-615,20128)GaucherD,ErginayA,Lecleire-ColletAetal:Domeshapedmaculaineyeswithmyopicposteriorstaphyloma.AmJOphthalmol145:909-914,20089)ImamuraY,IidaT,MarukoIetal:Enhanceddepthimagingopticalcoherencetomographyofthescleraindome-shapedmacula.AmJOphthalmol151:297-302,201110)EllabbanAA,TsujikawaA,MatsumotoAetal:Threedimensionaltomographicfeaturesofdome-shapedmaculabyswept-sourceopticalcoherencetomography.AmJOphthalmol155:320-328,201311)MoriyamaM,Ohno-MatsuiK,HayashiKetal:Topographicalanalysesofshapeofeyeswithpathologicmyopiabyhigh-resolutionthreedimensionalmagneticresonanceimaging.Ophthalmology118:1626-1637,201112)FreundKB,CiardellaAP,YannuzziLAetal:Peripapillarydetachmentinpathologicmyopia.ArchOphthalmol121:197-204,200313)舘野博子,高橋寛二,福地俊雄ほか:近視眼の視神経乳頭周囲にみられる脈絡膜分離のOCT3所見.臨眼59:327331,200514)ToranzoJ,CohenSY,ErginayAetal:Peripapillaryintrachoroidalcavitationinmyopia.AmJOphthalmol140:731-732,200515)SpaideRF,AkibaM,Ohno-MatsuiK:Evaluationofperipapillaryintrachoroidalcavitationwithsweptsourceandenhanceddepthimagingopticalcoherencetomography.Retina32:1037-1044,201216)YehSI,ChangWC,WuCHetal:CharacteristicsofPeripapillaryChoroidalCavitationDetectedbyOpticalCoherenceTomography.Ophthalmology2012;1(12):00812-3.〔Epubaheadofprint〕17)Ohno-MatsuiK,AkibaM,MoriyamaMetal:Intrachoroidalcavitationinmacularareaofeyeswithpathologicあたらしい眼科Vol.30,No.2,2013175 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網膜静脈閉塞症:治療のアップデート

2013年2月28日 木曜日

特集●黄斑疾患診療トピックスあたらしい眼科30(2):155.163,2013特集●黄斑疾患診療トピックスあたらしい眼科30(2):155.163,2013網膜静脈閉塞症:治療のアップデートUpdateonTreatmentofRetinalVeinOcclusion柳靖雄*はじめに最近になるまで網膜静脈閉塞症(RVO)の治療の選択肢は限られたものであった.RVOによる視力低下の原因は黄斑浮腫と新生血管に合併する硝子体出血などと血管新生緑内障である.大規模臨床試験は10年以上も昔になされたBranchVeinOcclusionStudy(BVOS)1)ならびにCentralVeinOcclusionStudy(CVOS)2)だけであり,黄斑浮腫に対する治療として確立したものは網膜静脈分枝閉塞症(BRVO)の格子状光凝固のみで,網膜中心静脈閉塞症(CRVO)の黄斑浮腫に対しては経過観察のみ推奨されており,確立された治療は新生血管が生じた際の汎網膜光凝固のみであった.また,BRVOによる黄斑浮腫に関しても,症例は限定されており,慢性期に矯正視力0.5以下で,傍中心窩毛細血管網が正常な症例に対して,発症から3カ月待っての黄斑部への格子状光凝固が勧められていた.その結果も視力改善は平均1.33ラインにとどまっていた.このために,特に黄斑浮腫に対しては明確なエビデンスがないまま,硝子体手術,ステロイド薬局所療法(わが国では主としてトリアムシノロンのTenon.下注入),抗VEGF(血管内皮増殖因子)療法(アバスチンRの適応外使用)などがなされてきた.ところがこの1,2年で新たに大規模臨床試験の結果が発表され,RVOの治療は大きく変わってくると考えられる.特に,黄斑浮腫に対しての,1)ステロイド薬局所療法(トリアムシノロンおよび徐放化剤),2)抗VEGF療法について,BRVOならびにCRVOの各々について報告が相次いでなされている.本稿では,これらの大規模臨床試験の結果をもとにこれからのRVOの治療について考えてみたい.I疾患概念RVOは糖尿病網膜症についで多い網膜血管疾患である.大まかにはBRVOとCRVOに分類される(図1).両者とも静脈閉塞によって続発する血流障害であり,黄斑浮腫をきたす(図1,2).BRVOは網膜動静脈交差部で静脈壁が動脈により圧排され静脈内で乱流が生じ,網膜静脈の分枝が閉塞するために生じる疾患である.すなわち,網膜動静脈交差部位で細動脈と細静脈が血管外膜を共通鞘により共有しているため,動脈硬化が進行すると静脈壁が圧迫される.圧迫による網膜静脈の管腔狭窄により,血流障害,乱流が生じ,血管内皮細胞が障害され血栓を形成することが疾患発症の原因である.自覚症状は閉塞した静脈部位による違いがあり,無症状から強い視力低下までさまざまである.疫学調査では0.3.1.1%の頻度と報告されている.高血圧,動脈硬化などの生活習慣病患者によくみられる.一方でCRVOは視神経内で網膜静脈が閉塞し,網膜血管拡張,視神経乳頭のうっ血や充血,網膜全周の出血を認める疾患であり,強い黄斑浮腫のために視力低下をきたす.視神経内でも網膜の動静脈の壁共有があり,加齢性の変化,緑内障眼などで線維性組織の硬化性変化を生じると篩状板後方,視神経内で網膜中心静脈が圧排,*YasuoYanagi:東京大学大学院医学研究科外科学専攻感覚・運動機能講座眼科学〔別刷請求先〕柳靖雄:〒113-8655東京都文京区本郷7-3-1東京大学大学院医学研究科外科学専攻感覚・運動機能講座眼科学0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(21)155 156あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013(22)IIBRVOとCRVOの分類BRVOもCRVOも閉塞の部位およびその程度により網膜虚血の程度は異なるため,タイプにより予後が異なる.BRVOは閉塞の生じた動静脈交差部位によってmajor(first-order,第一分枝閉塞)とmacular(second-order,第二分枝閉塞)に分類される.狭窄されるために生じる閉塞が原因であると推察されている.篩状板付近の静脈閉塞で生じるhemisphericretinalveinocclusion(HRVO)は一般的にはCRVOに分類される.主たる合併症として黄斑浮腫,硝子体出血,虹彩新生血管(ルベオーシス)による血管新生緑内障がある.動静脈交差部位で細動脈と細静脈は血管外膜を共有→動脈硬化により,静脈壁が圧迫→生じた管腔の狭窄により,血流障害,乱流→血管内皮細胞が障害され血栓を形成する視神経線維層に刷毛状出血黄斑浮腫,漿液性網膜.離視神経内:網膜の動静脈の壁共有→加齢,緑内障眼:線維性組織の硬化性変化→視神経内で静脈が圧排,狭窄網膜出血,黄斑浮腫黄斑浮腫,漿液性網膜.離網膜静脈分枝閉塞症網膜中心静脈閉塞症図1網膜静脈閉塞症網膜静脈分枝閉塞症(左図)と網膜中心静脈閉塞症(右図).典型的な眼底所見より診断は容易である.各々で治療方針が異なるので両者の治療のエビデンスをよく理解する必要がある.動静脈交差部の血管壁の共有動脈硬化静脈内腔を圧迫血栓形成静脈閉塞静脈動脈乱流せき止め血栓静脈内圧の上昇血液成分の漏出(Starlingの法則)+虚血網膜からのVEGFの放出黄斑浮腫図2静脈閉塞症の黄斑浮腫発症メカニズム静脈内に生じる血栓形成のため血管内圧が上昇し,Starlingの法則に従って血液成分の血管外への漏出が生じる.同時に虚血網膜からVEGFが放出され,黄斑浮腫を悪化させる. CRVOは虚血の程度によって虚血型と非虚血型に分類される.虚血型は蛍光眼底造影で10乳頭面積以上の無灌流領域を認めるものを指す.CRVOでは初診時に非虚血であった症例も3年以内に1/3が虚血型に移行するとされているので注意が必要である.III黄斑浮腫の病態(図2)静脈内の血栓が血流障害をきたし,その結果として血管内腔の圧上昇をきたす.血管内腔の圧が高ければ,Starlingの法則(毛細血管壁を通じての水分の移動方向と移動速度は毛細血管内外の静水圧・膠質浸透圧・濾過膜としての管壁の性質に依存するという考え)に従って血管内液から網膜内に血液成分の滲出をきたす.その結果として網膜浮腫や蛋白漏出の変化が生じる.感覚網膜組織内への蛋白漏出は膠質浸透圧の上昇につながり組織浮腫をきたす.その組織浮腫の結果,毛細血管の閉塞や虚血が促進される.また,VEGFが硝子体中や前房中で上昇していることが示されてきた.すなわち,浮腫の形成には浸透圧変化以外に各種サイトカインも関与していることが明らかとなっており,IL(インターロイキン)-6,IL-8,MCP-1(monocytechemoattractantprotein-1)といった炎症性のサイトカインとともにVEGFも硝子体内で上昇していることが示されている.VEGFは組織の虚血によって誘導される因子で過剰な発現は血管拡張や網膜血管柵の破綻をきたす.すなわち,VEGFはRVOの虚血によって発現が誘導され浸透圧の変化によってもたらされる黄斑浮腫を促進する因子として働くと考えられる.IV治療1.自然経過BRVOのメタ解析3)によると黄斑浮腫は18%が4.5カ月で改善し,7.5カ月で41%が改善すると報告されている.自然経過では1/3の症例が2ライン以上の視力改善を認め,平均視力の改善は3カ月で1文字,18カ月で15文字とされるが,矯正視力0.5以上の改善はあまり認めない.一方,CRVOはBRVOと比較すると重篤な視力障害(23)をきたす4).CVOSによると最終視力は初診時視力に依存する.自然経過は初診時視力0.1以下の症例の80%が視力改善しなかった一方で,0.5以上の症例の65%の症例では視力が維持されたとされている.また,CRVOの虚血型と非虚血型の予後は非常に異なり,最終視力は虚血型では視力は全体の87%の症例で0.05以下であったと報告されているが,非虚血型では0.7以上の症例が全体の57%であったと報告されている.RVOの治療は急性期にみられる黄斑浮腫に対する治療と慢性期における新生血管予防を目的とした治療に分けて考えられる.先述のようにBRVOに関しては発症から時期の経っている慢性期の症例では検討しても良いが,治療後の暗点についてはあらかじめ患者に対しての注意が必要であり,視力の改善も限定的である.CRVOの黄斑浮腫に対して格子状光凝固は黄斑浮腫の軽減に有用であるが,自然経過と比較して視力の改善は認めなかったため,CRVOにおいては黄斑浮腫に対する格子状光凝固は推奨されない.このように古典的な格子状光凝固についてあまり良好とはいえない結果が出されていたなかで,ステロイド薬の硝子体内投与による大規模臨床試験がなされて,その結果が数年前に公表され,さらに,2年前から抗VEGF療法による治療に関するエビデンスレベルの高い臨床試験の結果が報告されている.2.ステロイド薬欧米では以前は硝子体内投与が行われていたが,わが国ではトリアムシノロンのTenon.下注入が行われることがある.SCOREstudy(TheStandardCarevs.CorticosteroidforREtinalVeinOcclusionStudy)では,標準治療(BRVOでは光凝固,CRVOでは経過観察)とトリアムシノロン硝子体内投与(TrivarisR1mg,4mg)の比較がなされた(この研究ではHRVOはBRVOに分類されている).症例は4週ごとに診察をうけ,必要に応じてトリアムシノロンの硝子体内投与を受け,1)診療医が治療成功あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013157 と見なした場合,すなわち視力が20/20以上もしくは中心窩網膜厚が250μm以下,2)眼圧上昇により投与禁忌とされた場合,3)治療が不成功,すなわち8カ月間の経過で視力改善や網膜厚の改善がなかった場合,に治療を中断した.BRVO,CRVOで異なった結論が出されている.SCOREによるBRVOの結果6)光凝固群と比較してはじめ数カ月は視力改善良好であったものの,1年目にはトリアムシノロンの優位性を示すことはできず,その結果は2,3年目も同様であり,アバスチン.(適応外使用)BRVO,60歳,女性いずれの時期においてもトリアムシノロンが優位性を示すことはなかった.このため,現在ではステロイド薬の使用は推奨されていない.SCOREによるCRVOの結果7)トリアムシノロン群では12カ月で1.2文字の低下であったのに対して,自然経過では12.1文字の低下であり,トリアムシノロン群が有意に視力の低下が軽度であった.また,トリアムシノロン群では約1/4の症例で3ライン以上の改善を認めており,シャム群よりも有意率が高かった.この結果から,ステロイド薬の硝子体内投1Mo(1.0)2Mo(0.9)3Mo(0.9)5Mo(0.9)6Mo(0.9)8Mo(0.9)10Mo(0.9)12Mo(1.0)15Mo(0.8)16Mo(0.9)BaselineVDVDVDVDVDVDVDVDVDVDVDVDVDVDVDVD(0.3)+IVB11Mo(0.9)+IVB4Mo(0.8)+IVB14Mo(0.9)+IVB18Mo(0.9)+IVB7Mo(0.9)+IVB図3抗VEGF療法の実際ベバシズマブ(適応外使用)の治療の実際.反応が良好な多くの例では黄斑浮腫は治療により消失する.また,経過観察に基づいて追加治療を行うことによって,長期にわたって視力は維持される.ただし,数カ月後に生じる再発が問題であり,繰り返しの治療が必要である.本症例でも初診時から18カ月以降も継続的な治療が必要であった.IVB:intravitrealbevacizumab.158あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013(24) 与はCRVOの黄斑浮腫の治療効果があると考えられる.一方で,副作用に関してはトリアムシノロン群では眼圧上昇をきたす症例が多く,また,手術を必要とする白内障の頻度が高いことが報告されている.3.抗VEGF療法まず,これまでにRVOの黄斑浮腫に対して多くの臨床研究がベバシズマブ(アバスチンR)でなされており,その有用性が示されてきた(図3).しかしながら,アバスチンRは適応外使用であり,眼科用に開発された薬剤ではないのでその硝子体内投与に際しては注意が必要である.近年ラニビズマブ,ならびにアフリベルセプトによる臨床試験の結果が報告され,これらの薬剤が保険適用になると期待されている(図4).a.ラニビズマブ(ルセンティスR)7)1)BRVOに対してのBRAVO(theRanibizumabfortheTreatmentofMacularEdemafollowing2520151050310-1-3-5-702468MonthMeanBCVAChangefromMeanChangefromBaselineHORIZONBaseline(Letters)(Letters)BaselineM1239126Month製剤ラニビズマブベバシズマブアフリベルセプトルセンティスRアバスチンRアイリーアR標的すべてのVEGFすべてのVEGFすべてのVEGFならびにPlGFRCTCRUISE*BRAVO‡COPERNICUS†構造VEGFR1VEGFR2FcportionofIgG分子量48kDa149kDa110kDaRCT:RandomizedControlledTrial.*:CentralRetinalVeinOcclUsIonStudy.‡:BRAnchRetinalVeinOcclusion:EvaluationofEfficacyandSafetytrial.†:ControlledPhase3EvaluationofRepeatedintravitrealadministrationofVEGFTrap-EyeinCentralretinalveinocclusion.図4RVOの黄斑浮腫に対する抗VEGF療法ラニビズマブ,ベバシズマブ,アフリベルセプトの特徴.ラニビズマブ,アフリベルセプトの臨床試験については本文参照.ベバシズマブは適応外使用である.前2者は抗体製剤であり,アフリベルセプトはFc融合蛋白質(VEGFR1とVEGFR2のリガンド結合領域とIgGのFc部位の融合蛋白質)である.:Ranibizumab0.5mg:Ranibizumab0.3/0.5mg:Sham/0.5mg1012図5ラニビズマブのBRVOに対する効果:BRAVO.HORIZON試験12カ月目以降は延長試験(HORIZON試験)の結果.詳細は本文を参照.A:24カ月目までは視力,中心窩網膜厚も比較的維持される.B:12カ月以降も視力はおおむね維持されている.(文献7より改変)(25)あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013159 BranchRetinalVeinOcclusion:EvaluationofEfficacyandSafety)study(図5)ラニビズマブ毎月投与(0.3mg群,0.5mg群)とシャム注射群を用いたBRVOの検討がなされている.6カ月目,シャム群では7.3文字の改善であったのに対して,0.3mg群および0.5mg群ではそれぞれ16.6文字,18.3文字であり,有意に良好な視力の改善が得られた.15文字以上の改善はシャム群では28.8%であったのに対して,0.3mg群および0.5mg群ではそれぞれ55%,61%であった.2)CRVOに対してのCRUISE(RanibizumabfortheTreatmentofMacularEdemaafterCentralRetinalVeinOcclUsIonStudy:EvaluationofEfficacyandSafety)study(図6)ラニビズマブの毎月投与(0.3mg群,0.5mg群)とシャム注射の検討がなされている.6カ月目,シャム群2520151050-5BaselineM123310-1-3-5-70246Monthでは0.8文字の改善であったのに対し,0.3mg群および0.5mg群では12.7文字,14.9文字と,シャム群と比較すると有意に視力の改善が得られることが示されている.15文字以上の改善はシャム群では16.9%であったのに対して,0.3mg群,0.5mg群でそれぞれ46.2%,47.7%であった.解剖学的にはOCT(光干渉断層計)で検討がなされており,BRAVOおよびCRUISEstudyのいずれでも黄斑浮腫の有意な改善を認めている.3)中長期の成績(12カ月ならびに24カ月)BRAVO,CRUISEともに6カ月目以降は毎月の経過観察に基づき,必要に応じての投与がなされた.投与は0.3mg群,0.5mg群いずれも6カ月目以降は0.5mg投与がなされており,シャム群でも6カ月目以降はラニビズマブ0.5mgが必要に応じて投与された(シャム/ラニビズマブ群).その結果BRVOでは12カ月目までは改6912:Ranibizumab0.5mgMonth:Ranibizumab0.3/0.5mg:Sham/0.5mg81012MeanBCVAChangefromMeanChangefromBaselineHORIZONBaseline(Letters)(Letters)図6ラニビズマブのCRVOに対する効果:CRUISE.HORIZON試験12カ月目以降は延長試験(HORIZON試験)の結果.詳細は本文を参照.12カ月目までは視力,中心窩網膜厚も比較的維持される.A:12カ月目から24カ月目までも個々の症例のラニビズマブの反応に基づいた厳密なフォローアップのうえ,必要に応じて投与すべきであることが示唆される.B:12カ月目以降はやや視力の低下がみられる.(文献7より改変)160あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013(26) 善した視力が維持されており(0.5mg群+18.3文字,0.3mg/0.5mg群+16.4文字)シャム/ラニビズマブ群でも視力改善12.1文字であった.また,CRVOでも同様にラニビズマブ群では改善した視力が維持されていた(0.5mg群+14.9文字,0.3mg/0.5mg群+12.7文字)が,シャム/ラニビズマブ群では視力改善は7.3文字にとどまった.さらに,HORIZON試験とよばれるopen-labelの延長試験においてBRAVOおよびCRUISE試験を終了した患者における2年目までの成績が報告されている.この延長試験においては,投与プロトコールは12カ月目までの厳密なプロトコールでなく,診療する医師,患者にある程度の自由度が認められている.すなわち,患者は少なくとも3カ月ごとの診察を受け,必要に応じて0.5mgのラニビズマブの投与を受けるというプロトコールで治療が行われた.最終時まで観察された症例は63%であった.その結果,BRVOでは12カ月目から24カ月目までの視力変化はシャム/0.5mg,0.3/0.5mg,および0.5mgにおいてそれぞれ+0.9,.2.3,.0.7文字であり,視力は維持されていた.各群の治療回数はそれぞれ2.0,2.4,2.1回であった.一方でCRVOにおいては12カ月目から24カ月目までの視力変化はシャム/0.5mg,0.3/0.5mg,および0.5mgにおいて.4.2,.5.2,.4.1文字で,視力の低下を認めた.また,各群の治療回数はそれぞれ2.9,3.8,3.5回であった.この結果からRVO治療においては診療間隔を画一的に決定することは困難であり,CRVOにおいてはより高頻度に経過観察することが必要である可能性が示唆された.また,BRAVO,CRUISE試験では眼局所,全身性の副作用ともにまれであった.b.アフリベルセプト(アイリーアR):CRVOに対するCOPERNICUS試験8)(図7)シャム群とアフリベルセプト2mg毎月投与群の比較試験である.6カ月目まではアフリベルセプト2mgの毎月投与がなされ,24.52週目までは両群とも必要に応じて投与がなされ,現在までのところ52週の結果が公表されている.その結果,24週で15文字以上の視力改善はアフリベルセプト群では56.1%であったのに対して,シャム群では12.3%であった.24週での視力変化はアフリベルセプト群では+17.3文字,シャム群では.4.0文字であった.52週においては15文字以上の改善はアフリベルMeanChangeinCentralRetinalThickness(μm)-144.8-413.0-381.8:IAI2Q4+PRN:Sham+IAIPRN20:IAI2Q4+PRN:Sham+IAIPRN+17.3180-100-200-300-40012.4letterdifference+16.2+3.8-4.0AllPatientsPRNMeanChangeinETDRSLetters1614121086420-2-4-6-457.2AllPatientsPRN-50004812162024283236404448520481216202428323640444852WeeksWeeks図7アフリベルセプトのCRVOに対する効果:COPERNICUS試験投与群ではラニビズマブと同様に6カ月目までは毎月の投与,シャム群では6カ月目まで投与は行われなかった.両群とも,6カ月目以降は毎月の経過観察に基づいて必要に応じての投与が行われている.シャム群で視力低下がCRUISE試験と比較して著しいのはCOPERNICUSでは虚血型が多く含まれていたからであると推察されている.シャム/IAI群では治療群と比較して12カ月目においても視力が有意に不良であり,CRUISE試験の結果と同様にCRVOでは早めの介入が望まれると結論づけられる.IAI:intravitrealafliberceptinjection.(文献8より改変)(27)あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013161 セプト群では55.3%,シャム/アフリベルセプト群では30.1%であった.視力変化はアフリベルセプト群では+16.2文字,シャム群では+3.8文字であった.CRUISEstudy同様,治療が遅れると視力改善には限界があることを示すと考えられる.また,COPERNICUSでは虚血型のCRVOが15.5%含まれる(CRUISEでは1.5%).サブ解析によると虚血型では非虚血型よりもやや視力改善は悪いもののアフリベルセプトにより視力改善を得ている.4.新生血管の予防の光凝固BRVOにおいては5乳頭径以上の広範な無血管野が存在するときであっても米国のガイドラインでは網膜新生血管が発症するまでは光凝固をせずに経過をみてよいとされているが,わが国では新生血管発症予防のために光凝固を考慮してよいと考えられている.特に後部硝子体.離のない眼では後部硝子体のある眼に比較すると網膜新生血管が生じやすい.ただし,早期の光凝固は治療的に意味がないばかりでなく,光凝固が網膜内層を障害し,炎症を惹起して黄斑浮腫を悪化させるので行ってはならない.通常はBRVOでは発症後しばらく時間が経って出血がひいてから造影検査を行い,無灌流領域を判定し状況によっては無灌流領域に対して光凝固を行うのがよいと考えられる.CRVOでは一般的には虚血型では高率に虹彩新生血管を生じ,血管新生緑内障を生じやすい.米国のガイドラインでは新生血管を認めるまで経過観察を行い,新生血管が観察されれば光凝固が勧められる.しかし,血管新生緑内障は非常に予後が不良であるため,わが国では一般的に比較的早期に造影検査を行い,虚血の範囲を判定し虚血の程度が強ければ汎光凝固が施行されている.5.その他a.網膜光凝固“Laser-inducedchorioretinalvenousanastomosis”が有効であるという報告9)もあるが,有効性が広く認識されている治療とはいえない.b.ステロイド薬の徐放剤デキサメタゾンのインプラント(Ozurdex:GENEVA162あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013study)では治療群での早期の視力改善が認められており10),FDA(米国食品・医薬品局)承認を受けている.c.硝子体手術エビデンスのレベルは低いが硝子体手術〔内境界膜.離,BRVOに対してのsheathotomy,CRVOに対する放射状視神経乳頭切開術(radialopticneurotomy)〕がなされることもある.d.抗VEGF療法と汎光凝固血管新生は抗VEGF療法を継続して行うことで抑制できると考えられている.血管新生の発症抑制のための汎光凝固の必要性がなくなるか否かに関しては今後の研究の成果が待たれる.おわりに:網膜静脈分枝閉塞症治療の今後抗VEGF療法の臨床試験の良好な結果,高い安全性から,わが国でも将来は,RVOの黄斑浮腫に対しては抗VEGF療法が黄斑浮腫の治療の主体になる可能性が高い.しかし,大規模臨床試験では選択された症例にあらかじめ厳密に決められたスケジュールでの来院投与がなされていることは銘記すべきであり,実際の臨床現場で大規模臨床試験と同等の治療成績を得ることが可能であるかは臨床使用報告を待たねばならない.抗VEGF療法では患者の経過観察に基づく頻回の投与が必要であり,治療は長期にわたる.今後は抗VEGF療法における頻回の投与による患者,医療者側への負担軽減のために,併用療法(抗VEGF療法+ステロイド薬など)の有効性が検討されると思われる.その際には硝子体内へのステロイド薬の投与は白内障の発症のリスクを高めるため,偽水晶体眼において検討されるべきであろう.また,再発を繰り返す症例には硝子体手術の有効性が見直されてもよいかもしれない.また,超広角眼底カメラを用いた蛍光眼底造影検査により網膜最周辺部の虚血が黄斑浮腫と関連している可能性が指摘され,最周辺部の虚血部位に対する光凝固が黄斑浮腫の再発抑制に関与するかもしれないと考えられるようになってきている.現在,薬物療法に加えて虚血部位に対する光凝固を併用することで再発率を低く抑制できるか検討が進められている.本来,RVOは網膜静脈の血栓に起因する閉塞症であ(28) るので,その塞栓の解除が根本的な治療になると考えられる.これまで,さまざまな根治治療の試みがなされてきたが芳しい成功は得られてこなかった.薬物療法は大きな治療のパラダイムの変化をもたらしたことに間違いないが,一方でRVOに伴う慢性的な黄斑浮腫に対しての対症療法にすぎない.今後のさらなる病態解明に基づく治療法の開発が急務である.文献1)BVOS:Argonlaserphotocoagulationformacularedemainbranchveinocclusion.TheBranchVeinOcclusionStudyGroup.AmJOphthalmol98:271-282,19842)CentralVeinOcclusionStudyGroup:Naturalhistoryandclinicalmanagementofcentralretinalveinocclusion.ArchOphthalmol115:486-491,19973)RogersSL,McIntoshRL,LimLetal:Naturalhistoryofbranchretinalveinocclusion:anevidence-basedsystematicreview.Ophthalmology117:1094-1101.e5,20104)McIntoshRL,RogersSL,LimLetal:Naturalhistoryofcentralretinalveinocclusion:anevidence-basedsystematicreview.Ophthalmology117:1113-1123,20105)ScottIU,IpMS,VanVeldhuisenPCetal:Arandomizedtrialcomparingtheefficacyandsafetyofintravitrealtriamcinolonewithstandardcaretotreatvisionlossassociatedwithmacularedemasecondarytobranchretinalveinocclusion:theStandardCarevsCorticosteroidforRetinalVeinOcclusion(SCORE)studyreport6.ArchOphthalmol127:1115-1128,20096)SCOREStudyResearchGroup:Arandomizedtrialcomparingtheefficacyandsafetyofintravitrealtriamcinolonewithobservationtotreatvisionlossassociatedwithmacularedemasecondarytocentralretinalveinocclusion:theStandardCarevsCorticosteroidforRetinalVeinOcclusion(SCORE)studyreport5.ArchOphthalmol127:1101-1114,20097)HeierJS,CampochiaroPA,YaulLetal:Ranibizumabformacularedemaduetoretinalveinocclusions:long-termfollow-upintheHORIZONtrial.Ophthalmology119:802809,20128)BrownDM,HeierJS,ClarkWLetal:IntravitrealAfliberceptInjectionforMacularEdemaSecondarytoCentralRetinalVeinOcclusion:1-YearResultsFromthePhase3COPERNICUSStudy.AmJOphthalmol2012〔Epubaheadofprint〕9)McAllisterIL,GilliesME,SmithiesLAetal:TheCentralRetinalVeinBypassStudy:atrialoflaser-inducedchorioretinalvenousanastomosisforcentralretinalveinocclusion.Ophthalmology117:954-965,201010)HallerJA,BandelloE,BelfortRJretal:Dexamethasoneintravitrealimplantinpatientswithmacularedemarelatedtobranchorcentralretinalveinocclusiontwelvemonthstudyresults.Ophthalmology118:2453-2460,2011(29)あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013163

糖尿病黄斑浮腫の治療選択

2013年2月28日 木曜日

特集●黄斑疾患診療トピックスあたらしい眼科30(2):147.154,2013特集●黄斑疾患診療トピックスあたらしい眼科30(2):147.154,2013糖尿病黄斑浮腫の治療選択Up-To-DateTreatmentOptionsforDiabeticMacularEdema藤川正人*大路正人*はじめに糖尿病網膜症は長らくわが国における中途失明の原因として第1位であったが,厚生労働省の報告によると第1位を緑内障(20.7%)に譲りはしたものの,僅差で第2位(19.0%)に位置している1).同時に,糖尿病患者総数はますます増加傾向にあり,糖尿病患者総数は予備軍も含めると約2,210万人にも達すると報告されており,われわれ眼科医はこれまで同様決して軽視することができない2).糖尿病網膜症に対する治療の進歩とともに,一昔前のように重度の増殖糖尿病網膜症患者を診る機会はやや少なくなった感はあるが,一方で糖尿病網膜症のいずれの段階からも発症しうる糖尿病黄斑浮腫(diabeticmacularedema:DME)による視力低下が糖尿病による視力低下の重要な要因となっている.これまでDMEの診断は,おもに検眼鏡とフルオレセイン蛍光眼底造影によって行われてきたが,最近では非侵襲的検査である光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)の普及とテクノロジーの進歩により,ますますDMEの定性化と定量化が容易かつ高精度なものとなってきている.また,DMEの発症には血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)に代表される硝子体中に存在する種々のサイトカインが深く関与していることが解明されてきている.一方,DMEの治療に関しては,古典的な網膜光凝固に始まり,わが国で広く行われてきた硝子体手術,さらにはステロイド薬や抗VEGF薬による薬物療法が試みられているが,有用性と安全性についてはいまだ定見がなく,これら多岐にわたる治療選択肢のなかから最も有効と考えられる治療法を単独あるいは併用療法のかたちで行われているのが実状である.とりわけ薬物療法に関しては,これまでに行われた複数の大規模臨床試験で網膜光凝固と同等以上の視力改善が認められ,新たな治療法として注目を集めつつある.DMEの病態生理や画像診断についての詳説は他稿に譲り,本稿では現在の治療選択肢である光凝固・硝子体手術・薬物療法につき概説する.I光凝固硝子体手術が普及する以前よりDMEに対する最も標準的な治療は網膜光凝固であった.米国で行われた多施設大規模比較研究試験であるETDRS(EarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudy)の結果によると,DMEの治療の柱になるのは局所/格子状光凝固であり,現在においても世界的には第一選択となっている3).局所光凝固は局所的な漏出の原因となっている毛細血管瘤を直接凝固し閉塞させる方法で,特に輪状の硬性白斑を伴うDMEに有効である(図1).蛍光眼底造影で漏出部位が特定された場合,黄斑浮腫の拡大と硬性白斑の沈着が中心窩に及んで視力低下が生じる前になるべく早期に施行されることが望ましい.DMEが広範囲に及んだ場合には後述するステロイドTenon.下投与を行い,*MasatoFujikawa&MasahitoOhji:滋賀医科大学眼科学講座〔別刷請求先〕藤川正人:〒520-2192大津市瀬田月輪町滋賀医科大学眼科学講座0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(13)147 a.治療前b.治療後3カ月図1輪状の硬性白斑を伴う局所性浮腫に対する局所光凝固のカラー眼底写真とOCT画像一時的に浮腫の軽減を図るとともに漏出の中心となっている毛細血管瘤を同定したうえで局所光凝固を行うとよい4).漏出部位の特定が困難なびまん性の黄斑浮腫は局所性浮腫とは異なりびまん性の血液-網膜柵の破綻が関与しているとされ,網膜外層すなわち網膜色素上皮細胞層や視細胞層を標的として黄斑部に格子状光凝固を行うことで浮腫の軽減を図る.その作用機序については諸説あるが現在でも未解明である.世界的にはゴールドスタンダードとして広く行われている方法であるが,わが国では今日まであまり行われることがなかった.本法も局所光凝固と同様に,DMEが広範に及んだ場合にはステロイドTenon.下投与を行った後に格子状光凝固を行うと総出力を低減させることができる5).従来の光凝固の副作用として,凝固斑の拡大による不可逆的な黄斑部萎縮や過剰な熱による浮腫の増悪が問題視され,これらを減らす方法が模索されてきた.近年,PASCALR(トプコン)やVISULASTRIONIIVITER(カールツァイスメディテック)などのパターンスキャンレーザーとよばれる短時間高出力連続照射機能を有した新世代のレーザー照射装置が登場し,普及しつつある.この装置では短時間に高出力のレーザー照射により発生する熱の拡散が少なく酸素消費の主体となる網膜外層のみが選択的に凝固され,照射後の凝固斑が拡大しな148あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013(14) 図2VISULASTRIONIIVITERによるパターン照射後のカラー眼底写真画像い(図2).疼痛の軽減と施術時間の短縮により患者・医師双方の負担減も長所である6).現在スタンダードとなる照射条件,照射方法は確立されていないものの,今後のエビデンスが期待される.これら光凝固の施行後は1.3カ月かけて緩徐に浮腫が吸収されてくるため,OCTの網膜厚マップ所見を参考にしながら経過観察を行う.II硝子体手術牽引性網膜.離や硝子体出血の場合はもとより,DMEの原因が硝子体や線維膜による網膜の機械的牽引である場合には第一選択となる7).わが国ではDMEに対する硝子体手術が海外に比べ広く行われ,その有効性が多数報告されている.最近では従来の20ゲージ(G)システムから23G,25G,27GシステムといったMIVS(microincisionvitreoussurgery)の普及とともにますます低侵襲かつ安全性が向上しており,VEGFや炎症性サイトカインの産生の場となる硝子体を除去することでこれらサイトカインの濃度を下げると同時に,網膜への酸素分圧を向上させることで浮腫の低減を図る8,9).内境界膜.離を行うかどうかは議論の分かれるところで(15)a.術前VD=(0.2),中心網膜厚=561μm.b.術後12カ月VD=(0.5),中心網膜厚=338μm.図3DMEに対し硝子体手術時に内境界膜.離を併施した症例のOCT画像あるが,DMEにおける内境界膜の病理組織所見は肥厚と炎症性細胞の集簇が認められる10).インドシアニングリーンによる染色は用いずにトリアムシノロンもしくはブリリアントブルーG,あるいは非染色で内境界膜を.離することで網膜に与えるダメージを最小限に抑えつつ牽引解除を確実にすると同時に炎症反応の沈静化にもつながる可能性があり,エビデンスの蓄積が待たれるものの,リーズナブルな手技である.有効であれば単回の治療で恒久的に浮腫の再発を認めないケースもあり,薬物療法が台頭してきた今日でも治療選択肢から外れることはないといえよう(図3).DRCR.netでは硝子体牽引を伴うDMEに対し,内境界膜.離を併施しない硝子体手術を行った結果,術後6カ月で43%の症例において中心窩網膜厚が250μm未満まで減少したと報告されている11).あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013149 III薬物治療1.ステロイド薬DMEは眼内の炎症性サイトカインが高値を示し炎症性疾患としての側面をもつ.ステロイド薬には炎症性サイトカインのみならずVEGFの発現をも抑制する作用があり,黄斑浮腫を抑制する作用は強力である反面,緑内障や白内障に代表される副作用も生じやすい.顆粒状の剤形であるトリアムシノロンアセトニド(triamcinoloneacetonide:TA)が用いられ,投与方法としてはTenon.下投与と硝子体内投与がある.硝子体内投与はTenon.下投与よりも効果的であるが,眼内炎・白内障・緑内障などの合併症のリスクがTenon.下投与よりも高い.TAはこれまでケナコルトAR筋注用(ブリストル・マイヤーズ)が用いられ硝子体内投与はわが国では未認可であった.2010年12月にベンジルアルコールなどの添加剤を含まないマキュエイドR(わかもと製薬)が眼科手術補助剤として発売され,2012年10月には,DMEに対する硝子体内投与への適応が追加され,日常診療においても一般的な治療として使用可能となった.DRCR.netによるとTA(20/40mg)の前部/後部Tenon.下投与と局所光凝固単独もしくは併用で比較したところ,網膜厚と視力の改善に有意差はなかったと報告されている(図4)12).TA局所投与の効果は注射後3カ月目に視力改善のピークを認めるが,その効果はおよそ6カ月で消失するため,頻回の硝子体内注射が必要となる.最近では徐放性の硝子体内留置インプラントも登場している.フルオシノロン製剤であるRetisertR(ボシュロム)は米国においてぶどう膜炎に対する治療薬として認可されているが,眼圧上昇の副作用のリスクがきわめて高いことから360340320300280260240Baseline4Week8Week17Week34WeekCentralsubfieldthickness(μm):Anterior:Anterior+laser:Posterior:Posterior+laser:Laser図4DRCR.netによる平均中心網膜厚(meancentralsubfieldthickness)の経過(文献12より)Baseline:OCT608μm,BCVA54lettersWeek1:OCT272μm,BCVA67lettersWeek8:OCT214μm,BCVA70lettersWeek13:OCT231μm,BCVA67lettersWeek20:OCT424μm,BCVA54lettersWeek26:OCT475μm,BCVA57letters図5DMEを伴う無硝子体眼に対するOzurdexR投与後のOCT所見長期に及ぶ中心網膜厚(centralsubfieldthickness)とETDRS視力の改善を認める.(文献13より)150あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013(16) DMEに対しては未認可である.これを改良したIluvienR(アリメラサイエンシーズ)が登場し,安全性と有効性が現在検討されている.RetisertRとIluvienRは生体内で非分解性であるため徐放が終了すればインプラントを除去する必要がある.他方,デキサメタゾン製剤であるOzurdexR(アラガン)は生体内分解性があり徐放終了後にインプラントを除去する必要がないもので,網膜静脈閉塞症とぶどう膜炎に対し米国で認可されており,VEGF抗体のクリアランスが速い無硝子体眼におけるDMEに対しても長期にわたり網膜厚の低減と視力の改善を認めたと報告されている(図5)13).同薬はわが国でも三和化学研究所により網膜静脈分枝閉塞症に対し治験が行われており第II/III相試験の段階にある.2.抗VEGF製剤前述のように,ステロイド薬には副作用の問題が常に付きまとうので抗VEGF製剤の使用が注目されるようになった.眼科領域では加齢黄斑変性の治療薬としてpegaptanibsodiumとranibizumabが国内承認されているが,現在わが国ではDMEを適応として承認されている抗VEGF薬は存在せず,bevacizumabが眼科領域では未承認だが抗癌薬として利用されているため入手しやすいことから,倫理委員会の審査を受けたうえでDMEの治療に用いられている.Pegaptanibsodium(マクジェンR,ファイザー製薬)は2004年に米国で滲出型加齢黄斑変性の治療薬として12初めて上市された抗VEGF薬で,VEGFのアイソフォームのうち,病的血管新生に関わるVEGF165のみを選択的に阻害するRNAアプタマー製剤である.2005年にはDMEにおける有効性が報告された14)が,欧米でも承認には至っていない.Bevacizumab(アバスチンR,Genentech)は元来結腸癌に対する静注用治療薬として承認された抗VEGF作用を有するヒト化モノクローナル抗体であり,すべてのVEGFアイソフォームを阻害する.Ranibizumab(ルセンティスR,Novartis)は抗VEGF抗体のFabフラグメントで,抗体全体に比べ分子量が約3分の1のため組織移行性が良好である反面,眼内からのクリアランスも速い.欧州を中心に行われた大規模臨床調査RESOLVEStudyではranibizumabが単独で用いてもDMEに対し有効であることが証明された(図6)15).米国におけるRISEandRIDEStudyはDMEに対しranibizumabを24カ月間反復投与することでranibizumabの視力改善の最大効果を調べたもので,無治療群のわずか2.3.2.6文字の改善に対しranibizumab群は10.9.12.5文字と大幅な視力改善を認めたと報告されている(図7)16).Ranibizumabと光凝固の比較に関しては,米国の大規模臨床試験DRCR.netによると,光凝固単独群よりranibizumab単独ないし併用群が視力の改善率が良好で,平均投与回数は1年目が8.9回を要したが,2年目には2.3回,3年目は1.2回のみであったと報告され,早期からの局所/格子状光凝固は晩期における視力50-1.410.3:Pooledranibizumab(n=102):Sham(n=49)MeanchangeinBCVA(SE)frombaselinetomonth12(letters)-194.2-48.4:Pooledranibizumab(n=102):Sham(n=49)MeanchangeinBCVA(SE)frombaselinetomonth12(letters)1086420-2-40-50-100-150-2000D8123456789101112Month0D8123456789101112Month-6-250図6RESOLVEStudyによるETDRS視力と中心網膜厚(CRT)の経過(文献15より)(17)あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013151 MeanchangeinCFT(μm)MeanchangeinvisualacuityRISERIDE151512.512.011.910.91010552.62.30004812162024(ETDRSletters)04812162024Day7MonthDay7Month00-50-50-100-100-133.4-125.8-150-150-200-200-250.6-250-250-259.8-270.7-300-253.1-3000123612182401236121824Day7MonthDay7Month:Sham:Ranibizumab0.3mg:Ranibizumab0.5mg図7RISEandRIDEStudyによるETRDS視力と中心網膜厚(CFT)の経過(文献16より)011109876543210:B:CChangeinvisualacuityfrombaseline(letterscore)8162432404868841041201361564122028364452Visitweek低下をきたす可能性があり推奨しないとされている(図8)17.19).欧州のRESTOREStudyでも光凝固単独よりranibizumab単独ないし併用が良好な結果をもたらしたと報告されている(図9)20).RESOLVEStudyとRESTOREStudyの結果に基づき,DMEに対する治療薬としてranibizumabが2011年1月にEUで承認され,RISEandRIDEStudyの結果より2012年8月に米国Opentriangle(B)=ranibizumab+promptlasertreatmentでも承認された.これら抗VEGF製剤はステロイド薬Closedsquare(C)=ranibizumab+deferredlasertreatment526884104120136156の硝子体内注射に比して副作用は問題となりにくいが,weeksweeksweeksweeksweeksweeksweeksRanibizumab+prompt165157155156143140144まれに脳血管障害のリスクを高める可能性があるため注lasertreatment,nRanibizumab+deferred173167160161149143147意が必要である.lasertreatment,n図8DRCR.netによる3年間のETDRS視力の経過Aflibercept(アイリーアR,バイエル薬品/参天製薬)B:Ranibizumab+即時レーザー群,C:Ranibizumab+後期は滲出型加齢黄斑変性の治療薬としてわが国でも2012レーザー群.(文献19より)年11月に発売されたばかりの製品で,ヒトVEGF受容152あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013(18) Meanchange(±SE)inBCVAletterscorefrombaselinetomonth121086420-201234567891011126.86.40.9Month0123456789101112-160-140-120-100-80-60-40-20020MonthMeanchange(±SE)inCRTfrombaselinetomonth12(μm):Ranibizumab(n=115):Ranibizumab+laser(n=118):Laser(n=110)-61.3-118.7-128.3図9RESTOREStudyによるETDRS視力と中心網膜厚(CRT)の経過(文献20より)体1と受容体2の細胞外ドメインの一部をヒトIg(免疫1412グロブリン)G1のFcドメインと融合させた遺伝子組みETDRSletters1086420換え融合蛋白質からなり,緩徐に分解するように作られているため半減期が長く,胎盤成長因子(placentalgrowthfactor:PlGF)の作用も抑制する.大規模臨床調査DAVINCIStudyの結果ではaflibercept単独での治療は光凝固単独と比して有意な視機能改善を認めたと-20481216202428323640444852報告され,抗体製剤が4週間ごとの追加投与であるのに対し,8週間ごとの追加投与でも良好であったことが特筆すべき点である21,22).これらの薬物は2.3カ月で効果がなくなり再投与が必要になり,無硝子体眼であれば半減期が短縮するなどの問題点がある23)が,DME治療のゴールドスタンダードが現在の光凝固から抗VEGF療法へ代わる可能性もある.確かに,抗VEGF薬は目立った副作用が少なく,Centralretinalthickness(μm)Weeks0-50-100-150-200-2500481216202428323640444852即効性があるため比較的容易に用いることができる.たWeeksだし,その効果は数カ月しか存続しないため,高価な薬剤を頻繁に追加投与しなければならず,患者と医師の負担は決して軽くはない.おわりに近い将来,安全な長時間作用薬が入手できるまでは現在入手可能な薬物療法と光凝固の併用がより現実的で継続可能なアプローチであると考えられる.臨床試験で薬物治療のエビデンスが作られても,レーザー光凝固や硝(19):0.5q4:2q4:2q8:2PRN:Laser図10DAVINCIStudyによる1年間のETDRS視力と中心網膜厚(centralretinalthickness)の経過Aflibercept0.5mgを4週ごと(0.5q4),2mgを4週ごと(2q4),2mgを3カ月連続投与後に8週ごと(2q8),2mgを3カ月連続投与し必要に応じて追加投与(2PRN).(文献22より)あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013153 子体手術との選択や組み合わせによる,より安全かつ有効なDME治療プロトコールの樹立は今後も検討されていくべき課題であろう.文献1)厚生労働科学研究費科学研究費補助金難治性疾患克服研究事業網脈絡膜・視神経萎縮症に関する研究平成17年度総括・分担研究報告書,p263-267,20062)厚生労働省平成19年国民健康・栄養調査:4,20073)Photocoagulationfordiabeticmacularedema.EarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudyreportnumber1.EarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudyresearchgroup.ArchOphthalmol103:1796-1806,19854)ShimaC,OgataN,MinaminoKetal:Posteriorsub-Tenoninjectionoftriamcinoloneacetonideaspretreatmentforfocallaserphotocoagulationindiabeticmacularedemapatients.JpnJOphthalmol52:265-268,20085)ShimuraM,NakazawaT,YasudaKetal:Pretreatmentofposteriorsubtenoninjectionoftriamcinoloneacetonidehasbeneficialeffectsforgridpatternphotocoagulationagainstdiffusediabeticmacularoedema.BrJOphthalmol91:449-454,20076)NagpalM,MarlechaS,NagpalK:Comparisonoflaserphotocoagulationfordiabeticretinopathyusing532-nmstandardlaserversusmultispotpatternscanlaser.Retina30:452-458,20107)LewisH,AbramsGW,BlumenkranzMSetal:Vitrectomyfordiabeticmaculartractionandedemaassociatedwithposteriorhyaloidaltraction.Ophthalmology99:753759,19928)MiyakeT,SawadaO,KakinokiMetal:Pharmacokineticsofbevacizumabanditseffectonvascularendothelialgrowthfactorafterintravitrealinjectionofbevacizumabinmacaqueeyes.InvestOphthalmolVisSci51:16061608,20109)StefanssonE:Ocularoxygenationandthetreatmentofdiabeticretinopathy.SurvOphthalmol51:364-380,200610)TamuraK,YokoyamaT,EbiharaNetal:Histopathologicanalysisoftheinternallimitingmembranesurgicallypeeledfromeyeswithdiffusediabeticmacularedema.JpnJOphthalmol56:280-287,201211)HallerJA,QinH,ApteHSetal:Vitrectomyoutcomesineyeswithdiabeticmacularedemaandvitreomaculartraction.Ophthalmology117:1087-1093e3,201012)ChewE,StrauberS,BeckPetal:Randomizedtrialofperibulbartriamcinoloneacetonidewithandwithoutfocalphotocoagulationformilddiabeticmacularedema:apilotstudy.Ophthalmology114:1190-1196,200713)BoyerDS,FaberD,GuptaSetal:Dexamethasoneintravitrealimplantfortreatmentofdiabeticmacularedemainvitrectomizedpatients.Retina31:915-923,201114)CunninghamETJr,AdamisAP,AltaweelMetal:AphaseIIrandomizeddouble-maskedtrialofpegaptanib,ananti-vascularendothelialgrowthfactoraptamer,fordiabeticmacularedema.Ophthalmology112:1747-1757,200515)MassinP,BandelloF,GarwegJGetal:Safetyandefficacyofranibizumabindiabeticmacularedema(RESOLVEStudy):a12-month,randomized,controlled,double-masked,multicenterphaseIIstudy.DiabetesCare33:2399-2405,201016)NguyenQD,BrownDM,MarcusDMetal:Ranibizumabfordiabeticmacularedema:resultsfrom2phaseIIIrandomizedtrials:RISEandRIDE.Ophthalmology119:789-801,201217)ElmanMJ,AielloAP,BeckRWetal:Randomizedtrialevaluatingranibizumabpluspromptordeferredlaserortriamcinolonepluspromptlaserfordiabeticmacularedema.Ophthalmology117:1064-1077e35,201018)ElmanMJ,BresslerNM,QinHetal:Expanded2-yearfollow-upofranibizumabpluspromptordeferredlaserortriamcinolonepluspromptlaserfordiabeticmacularedema.Ophthalmology118:609-614,201119)ElmanMJ,QinH,AielloLPetal:Intravitrealranibizumabfordiabeticmacularedemawithpromptversusdeferredlasertreatment:Three-yearrandomizedtrialresults.Ophthalmology119:2312-2318,201220)MitchellP,BandelloF,Schmidt-ErfurthUetal:TheRESTOREstudy:ranibizumabmonotherapyorcombinedwithlaserversuslasermonotherapyfordiabeticmacularedema.Ophthalmology118:615-625,201121)DoDV,Schmidt-ErfurthU,GonzalezVHetal:TheDAVINCIStudy:phase2primaryresultsofVEGFTrap-Eyeinpatientswithdiabeticmacularedema.Ophthalmology118:1819-1826,201122)DoDV,NguyenQD,BoyerDetal:One-yearoutcomesoftheDAVINCIStudyofVEGFTrap-Eyeineyeswithdiabeticmacularedema.Ophthalmology119:1658-1665,201223)KakinokiM,SawadaO,SawadaTetal:EffectofvitrectomyonaqueousVEGFconcentrationandpharmacokineticsofbevacizumabinmacaquemonkeys.InvestOphthalmolVisSci53:5877-5880,2012154あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013(20)

加齢黄斑変性と遺伝子

2013年2月28日 木曜日

特集●黄斑疾患診療トピックスあたらしい眼科30(2):143.146,2013特集●黄斑疾患診療トピックスあたらしい眼科30(2):143.146,2013加齢黄斑変性と遺伝子GeneticAssociationswithAge-RelatedMacularDegeneration山城健児*はじめに加齢黄斑変性は遺伝しますか?と患者に聞かれたときに,自信をもって答えられる眼科医は意外に少ないのではないだろうか.遺伝病ではないので,優性遺伝や劣性遺伝の形式をとるわけではないことは眼科医であれば誰もが知っているはずである.一方でCFH遺伝子やARMS2/HTRA1遺伝子が加齢黄斑変性の疾患感受性遺伝子であるということは聞いたことがあっても,これらの遺伝子と加齢黄斑変性の遺伝性との関係は直感的には理解しづらいのではないだろうか.さらに,CFH遺伝子やARMS2/HTRA1遺伝子が加齢黄斑変性の疾患感受性遺伝子であるということがわかったところで,臨床家にとってはなんの役にも立たないのではないかと考えている眼科医も多いだろう.本稿では,最近わかってきた加齢黄斑変性に関するゲノム研究の成果を紹介し,臨床の現場にどう生かせば良いのかを解説したい.I疾患感受性遺伝子とは疾患のなかには網膜色素変性のように原因遺伝子に生じた変異によって発症するものもあれば,外傷のように遺伝的背景とは無関係に生じる疾患もある.加齢黄斑変性の発症には遺伝的背景と環境因子の両方が関与していると考えられており,そのような疾患を多因子疾患とよび,多因子疾患の発症に影響を与える遺伝子を疾患感受性遺伝子とよぶ.加齢黄斑変性の発症に関係する遺伝子としてはCFH210210210210CFH1410996HTRA1rs11200638010101012CFHY402HCFHI62Vオッズ比500リスクアレル数図1リスクアレル数による加齢黄斑変性の発症確率CFH遺伝子中の一塩基多型(Y402H,I62V,rs1410996)およびHTRA1遺伝子中の一塩基多型rs11200638のすべてにリスクアレルをもっていない人を基準にすると,すべてに2つずつリスクアレルをもっている人は約70倍もの高いリスクをもっていることがわかる.(文献1より改変)遺伝子とARMS2/HTRA1遺伝子が有名で,遺伝子型の組み合わせによって加齢黄斑変性が発症する可能性が数倍.数十倍に高まることがわかっている1)(図1).II加齢黄斑変性の感受性遺伝子1.ARMS2遺伝子ARMS2遺伝子は10番染色体の長腕に存在し,107*KenjiYamashiro:京都大学大学院医学研究科感覚運動系外科学講座眼科学〔別刷請求先〕山城健児:〒606-8507京都市左京区聖護院川原町54京都大学大学院医学研究科感覚運動系外科学講座眼科学0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(9)143 10番染色体程度のアミノ酸からなる小さい蛋白質をコードしている.図2のようにそのDNA配列を抜き出してみると,69番目のアミノ酸をコードしているコドンの配列が日本人ではGCT(alanine)になっている人が約6割で,TCT(serine)になっている人が約4割いることがわかっている.このように塩基が一つ変異を起こした状態が1%以上の人にみられる場合,その変異は一塩基多型(singlenucleotidepolymorphism:SNP)とよばれ,例にあげたSNPでは69番目のアミノ酸がアラニン(A)からセリン(S)に変わることから,このSNPはA69S多型ともよばれる.ARMS2遺伝子のなかには他にも複数のSNPがあるが,特にA69S多型と加齢黄斑変性の発症との関連が広く研究されてきた.ARMS2遺伝子は父親と母親の双方から受け継いだものをもっているため,それぞれのA69S多型について調べると,2つともGの人(GG型),片方がGでもう片方がTの人(GT型),両方がTの人(TT型)の3種類に分けられる.日本人ではGG型が約5割,GT型が約4割,TT型が約1割となっており,オッズ比から考えると,GG型の人に比べてGT型では1.5倍,TT型では5倍も加齢黄斑変性を発症しやすくなるということがわかっている2).両親がともにTT型であればその子供もTT型になると考えられ,両親がともにGT型であれば25%の確率で子供がTT型になると考えられることから,加齢黄斑変性については発症リスクが遺伝すると考えるべきである.2.他の遺伝子これまでにさまざまな遺伝子が加齢黄斑変性の感受性遺伝子として発表されてきた.しかし,感受性遺伝子であるかどうかを判断するためには複数の施設からの報告を総合的に検討する必要があり,これまでにもTLR3144あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013図2ARMS2遺伝子A69S多型ARMS2遺伝子は10番染色体の長腕に存在し,その塩基配列の一部を調べると,「CAGCTGCTAAAA」という配列をもっている場合と,「CAGCTTCTAAAA」という配列をもっている場合とがある.表1加齢黄斑変性の発症に関与する感受性遺伝子ARMS2/HTRA1CFICFHCETPC2/CFBTNFRSF10AC3やC1INといった遺伝子が感受性遺伝子として報告された後に,他施設からの複数の追試によって感受性遺伝子ではなかったということが判明している.現在,追試によって日本人の加齢黄斑変性の発症に関連があることが確認できている遺伝子を表1にまとめる.なお,ARMS2遺伝子とHTRA1遺伝子は10番染色体上の近傍に存在しているため,どちらが加齢黄斑変性の発症に影響を与えているのかがわかっていないことから,ARMS2/HTRA1と表記することが多い.III感受性遺伝子と病変サイズ,両眼性加齢黄斑変性患者から「反対の目にも発症するのですか?」と聞かれたときに,「両眼に発症するのは10人に1人か2人程度ですよ」と答えるだけで十分だろうか.最近になってARMS2の遺伝子型によって両眼に加齢黄斑変性が発症する確率が違うことがわかってきた.複数の施設から上述のA69S多型にTをもつと両眼発症の可能性が高くなるという報告がなされており,片眼に加齢黄斑変性を発症している患者を10年間経過観察すると,GG型の患者では1割程度にしか僚眼発症がみられないのに対して,TT型の患者では約7割の患者で僚眼に加齢黄斑変性が発症するということがわかっている3)(図3).他にもTT型の患者では病変サイズが大きいことや,進行が速いこともわかっており,ARMS2遺伝子のA69S多型を調べることによって患者に予後をより正し(10) 僚眼発症10.90.80.70.60.50.40.30.20.10:GG:GT:TT020406080100120140160180経過観察期間(月)図3片眼発症例における僚眼の加齢黄斑変性の発症A69S多型の遺伝子型がGGの片眼発症患者では10年以上経過観察を続けても1割程度にしか僚眼の発症を認めていないのに対して,TTの患者では7割近くに僚眼発症を認めている.(文献3より改変)く説明することができるはずである.また,ポリープ状脈絡膜血管症ではTT型の患者に硝子体出血や網膜下出血が多いという報告もあり,合併症の予測にも役に立つかもしれない.IV遺伝子診断法このように臨床医にとっても,遺伝子診断を行うことによって加齢黄斑変性患者に対してより良い医療を提供できることがわかってきたが,まだ誰もが簡単に患者の遺伝子型を調べられるわけではない.通常,ゲノム研究としてSNPを調べる際にはTaqManSNPGenotypingAssayやSequenomMassArraysystemといった検査を行う必要があり,どこでも誰でも行える検査とはいえない.しかし,最近ではdeCODEme,MaculaRisk,23andMe,AsperBiotech,INTERNATIONALBIOSCIENCES,RetnaGENEAMDといった企業ベースの加齢黄斑変性の遺伝子リスク検査が可能になっている.さらに,京都大学とダナフォームが共同開発したA69S多型の迅速診断キットを用いると,リアルタイムPCR(polymerasechainreaction)システムさえあれば簡単に診断ができるようにもなった.このキットでは患者の末梢血5μlを試薬に混ぜて1分間加熱し,その後1μlを取り出して反応液に混ぜて機器にセットするだけ(11)で,20分程度で解析画面に結果が表示されるため,研究補助員程度の知識があれば簡単に検査が可能である.V個別化医療内科領域では肺癌治療の際に,EGFR遺伝子の変異を調べることによってイレッサを使用するかどうかを決めることが推奨されている.同様にワーファリンRを使用する前にCYP2C9とVKORC1の遺伝子多型を調べると,各患者に必要なワーファリンRの投与量がわかることも広く知られている.眼科でも加齢黄斑変性の治療を行う前に,いくつかの遺伝子の多型を調べることによって治療の効果を予測し,各患者に最適な治療方法を選択するという個別化医療を実現するためにさまざまな研究が行われてきた.日本人における光線力学的療法(PDT)の効果とA69S多型との関係については多数の報告があり,GG型の患者でより良い視力予後が得られることがわかっている1,4,5).白人ではA69S多型と視力予後の間には関連はないという報告もあるが,日本人では治療前にA69S多型を調べることによってPDTの効果を予測できる可能性が高そうである.一方,抗VEGF(血管内皮増殖因子)治療の効果を予測するための遺伝子多型についてはまだ決定的な結果が出ていない.CFHおよびARMS2/HTRA1遺伝子の多型については10報以上の結果が報告されているが,いまだ一定の見解は得られておらず,治療方法の選択には活用できそうにない.他にもいくつかの遺伝子の多型と抗VEGF治療の効果との関連を調べた研究結果が多数報告されており,特にVEGF遺伝子の多型と抗VEGF治療後の視力との間には関連がありそうだが,この関連を否定する報告もあり,やはりまだ決定的な結論には至っていないと考えるべきだろう.現在,抗VEGF治療の結果を予測できる遺伝子を探すための多施設前向き研究が行われている.この研究では約300例の加齢黄斑変性患者に対して抗VEGF治療を行い,全患者からDNAを採取して250万のSNPを調べることによって治療結果と関連を認めるSNPおよび遺伝子を探す予定となっており,さらに300例の追加症例を用いてその関連の再現性も確認することになっあたらしい眼科Vol.30,No.2,2013145 ている.この研究の結果次第では,抗VEGF治療の効果を予測できる遺伝子多型が判明するはずで,治療を行う前に遺伝子診断を行い,抗VEGF治療かPDTかどちらがより効きそうであるかを予測したうえで,治療方法を選択することが可能になるかもしれない.おわりに2005年にCFH遺伝子が加齢黄斑変性の感受性遺伝子として発表されてから,ほぼ8年が経過した.2013年中には大規模な多施設研究の結果が判明し,加齢黄斑変性の疾患感受性遺伝子は20を超えることになりそうである.加齢黄斑変性の病態の解明につながれば新たな治療方法の開発につながるかもしれない.また,加齢黄斑変性患者の遺伝子を調べることによって,僚眼の発症予測や進行速度の予測が可能になりそうであり,臨床家にとっても日常の診療に遺伝子診断を活用する必要が出てくるかもしれない.特に治療効果の予測に遺伝子多型が有用であることがわかれば,遺伝子診断は加齢黄斑変性治療に必須の検査となるだろう.文献1)TsuchihashiT,MoriK,Horie-InoueKetal:ComplementfactorHandhigh-temperaturerequirementA-1genotypesandtreatmentresponseofage-relatedmaculardegeneration.Ophthalmology118:93-100,20112)HayashiH,YamashiroK,GotohNetal:CFHandARMS2variationsinage-relatedmaculardegeneration,polypoidalchoroidalvasculopathy,andretinalangiomatousproliferation.InvestOphthalmolVisSci51:5914-5919,20103)TamuraH,TsujikawaA,YamashiroKetal:AssociationofARMS2genotypewithbilateralinvolvementofexudativeage-relatedmaculardegeneration.AmJOphthalmol154:542-548,20124)SakuradaY,KubotaT,ImasawaMetal:AssociationofLOC387715A69Sgenotypewithvisualprognosisafterphotodynamictherapyforpolypoidalchoroidalvasculopathy.Retina30:1616-1621,20105)BesshoH,HondaS,KondoNetal:Theassociationofage-relatedmaculopathysusceptibility2polymorphismswithphenotypeintypicalneovascularage-relatedmaculardegenerationandpolypoidalchoroidalvasculopathy.MolVis17:977-982,2011146あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013(12)

黄斑疾患の疫学

2013年2月28日 木曜日

特集●黄斑疾患診療トピックスあたらしい眼科30(2):137.141,2013特集●黄斑疾患診療トピックスあたらしい眼科30(2):137.141,2013黄斑疾患の疫学EpidemiologyofMacularDiseases安田美穂*はじめに厚生労働省の難治性疾患克服研究事業の研究班によるわが国の視覚障害の原因疾患の報告1)では,1991年は第1位:糖尿病網膜症,第2位:白内障,第3位:緑内障,第4位:網膜色素変性,第5位:強度近視であったが,2005年では第1位:緑内障,第2位:糖尿病網膜症,第3位:網膜色素変性,第4位:加齢黄斑変性,第5位:強度近視となり,黄斑疾患が視覚障害の主原因にみられるようになってきた(表1).黄斑疾患による視覚障害は不可逆性の場合も多く,少なくとも現時点においては予防的治療が最も重要である.予防的治療を確立するために,黄斑疾患の現状を把握するとともに,危険因子や予防因子を確立することが重要である.I加齢黄斑変性加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD)は欧米をはじめとした先進国において成人の失明や視力低下の主原因となっており(表2),近年ますます増加傾向が認められている.わが国においても,2006年の岐阜県多治見市における多治見スタディの報告で,AMDは視力0.05から0.3までのlowvisionの原因疾患の第4位と報告されている2).今後も高齢人口が急速に増加するのに伴いAMDがますます増加することが予想される.福岡県久山町の50歳以上の一般住民を対象として,1998年と2007年にAMDの有病率を調査したところ,表1わが国における視覚障害者手帳の新規交付状況に基づく視覚障害の原因疾患1991年2005年1位糖尿病網膜症18.3%緑内障20.7%2位白内障15.6%糖尿病網膜症19.0%3位緑内障14.5%網膜色素変性13.7%4位網膜色素変性12.2%加齢黄斑変性9.1%5位強度近視10.7%強度近視7.8%(厚生労働省難治性疾患克服事業網膜・脈絡膜・視神経萎縮調査研究班)1998年のAMDの有病率は0.8%で,おおよそ100人に1人の頻度であり,病型別では滲出型の有病率が0.6%,萎縮型の有病率が0.2%で,滲出型が萎縮型よりも多くみられた(図1).また,女性(0.3%)に比べて男性(1.7%)の有病率が有意に高かった.2007年にはAMDの有病率は1.3%に増加し,おおよそ80人に1人の頻度となった.病型別では,滲出型の有病率が1.2%,萎縮型の有病率が0.1%であり,この9年間で滲出型の有病率が2倍に増加していた3).欧米のpopulation-basedstudyによる報告では,AMDの有病率および発症率は女性に多いと報告しているものが多く,わが国で男性のほうが女性より有意に有病率が高いということは非常に興味深い.また,わが国のAMDの有病率を欧米の結果と比較してみると,日本人では白人より少なく黒人より多い(表3).これらの人種差の原因は明らかではないが,遺伝的な要因や環境因*MihoYasuda:九州大学大学院医学研究院眼科学分野〔別刷請求先〕安田美穂:〒812-8582福岡市東区馬出3-1-1九州大学大学院医学研究院眼科学分野0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(3)137 表2世界における失明の原因疾患研究国第1位第2位第3位BlueMountainsEyeStudyオーストラリア加齢黄斑変性白内障,網膜中心動脈閉塞症などRotterdamEyeStudyオランダ加齢黄斑変性緑内障近視性黄斑変性CopenhagenCityEyeStudyデンマーク加齢黄斑変性近視性黄斑変性緑内障LosAngelsLatinoEyeStudy米国(ラテン人)加齢黄斑変性糖尿病網膜症近視性黄斑変性BeijingEyeStudy中国白内障角膜混濁近視性黄斑変性ShinpaiEyeStudy台湾加齢黄斑変性糖尿病網膜症,緑内障TajimiStudy日本近視性黄斑変性緑内障外傷有病率(%)1.510.501.2*0.60.20.1*p<0.05(1998vs.2007)滲出型萎縮型■:1998:2007図1加齢黄斑変性の病型別有病率の変化(久山町1998.2007年)(WHO世界標準人口を使用して直接法により,年齢調整を行ったもの)子によるものと考えられている.久山町における追跡調査の結果,日本人におけるAMD発症にも加齢,喫煙,白血球数の増加がAMD発症の危険因子として関与していることがわかった.AMD発症を予防するための危険因子としては喫煙が重要である.特に日本人の男性においては喫煙の影響により発症率が増加していることが推測されるため,AMDの予防のためには禁煙を推奨する必要がある.II近視性黄斑変性強度近視は,先進諸国において失明原因の上位を占める疾患である(表2).近視性眼底病変には視力予後の異なるものが混在しており,なかでも黄斑部に生じる近視性脈絡膜新生血管および瘢痕形成による近視性黄斑変性は,中心視力を著しく障害し視力予後不良である.強度近視では眼軸の延長に伴い,眼底後極部にさまざまな近視性眼底病変をきたし,視力低下の原因となる.両眼性であることが多く,不可逆性で,働き盛りの年代の人の視力を障害することも少なくない.近視性黄斑変性に対しては,これまであまり有効な治療法がなく,多くの症例で診断されても経過観察されていたのみであったが,近年,近視性脈絡膜新生血管に対しても光線力学的療法や抗VEGF(血管内皮増殖因子)抗体硝子体注射などの新しい治療法の有効性が報告されている.このように強度近視は社会経済的な観念からも重要な疾患である一方,その有病率や危険因子についての報告は少ない.福岡県久山町の40歳以上の一般住民を対象として,2005表3加齢黄斑変性の有病率の比較対象人数対象年齢AMDの有病率(%)研究(人)(歳)男性女性TotalRotterdamEyeStudy(オランダ,白人,1995年)*6,25155.1.41.91.7BlueMountainsEyeStudy(豪州,白人,1995年)3,65455.1.32.41.9BarbadosEyeStudy(西インド諸島,黒人,1992年)3,44440.0.30.90.6久山町研究(福岡,日本,1998年)1,48650.1.70.30.9久山町研究(福岡,日本,2007年)2,67650.2.20.71.3*wettypeAMDのみ.138あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013(4) 表4年齢階級別および性別の近視性網膜症の頻度:久山町研究(2005)男性女性男女込み年齢(歳)人数(人)近視性網膜症(%)人数(人)近視性網膜症(%)人数(人)近視性網膜症(%)40.491/841.21/1460.72/2300.950.591/1630.62/2920.73/4550.760.692/2710.76/3461.78/6171.370以上5/2581.915/3324.520/5903.4合計9/7761.224/1,1162.233/1,8921.7表5眼軸階級別近視性網膜症の有病率:久山町研究(2005)眼軸(mm)全体近視性網膜症眼数*(眼)(%)眼数(眼)(%)23未満1,37436.600.023.241,29634.520.224.2563516.910.225.262466.620.826.271183.186.827.28471.31123.428以上411.12253.7合計3,757100461.2*眼軸長のデータが得られなかった27眼を除く.年に近視性網膜症の有病率を調査したところ,近視性網膜症は33人47眼に認め,有病率は1.7%であった4).所見別の内訳は,びまん性萎縮病変32人44眼(1.7%),限局性萎縮病変8人10眼(0.4%),lacquercracks3人4眼(0.2%),近視性黄斑変性7人9眼(0.4%)であった.年齢階級別および性別に有病率をみると,男性1.2%,女性2.2%と,男性より女性において有病率が高いことが明らかになった.また,高齢になるほど近視性網膜症の有病率が統計学的に有意に増加する傾向を認めた(表4).近視性網膜症の有無別で眼軸長,屈折度数(等価球面度数)の平均値を比較すると,近視性網膜症のない群ではそれぞれ23.5±1.2mm,.0.4±2.4Dであったのに対し,近視性網膜症のある群では28.2±2.2mm,.8.3±5.2Dで,眼軸長,屈折値ともに両群間で有意差(p<0.001)を認めた.また,表5に示すように,眼軸が長くなるほど近視性網膜症の有病率が高くなり,眼軸長26.0mm未満では近視性網膜症の有病率は0.1%であったのに対し,眼軸長28.0mm以上では53.7%であった.同様に近視度数が大きくなるほど近視性網膜症の有(5)表6屈折度数階級別近視性網膜症の有病率:久山町研究(2005)全体近視性網膜症屈折度数(D)眼数*(眼)(%)眼数(眼)(%)0<1,68551.010.10..21,03331.310.1.2..43019.141.3.4..61655.031.8.6..8752.345.3.8..10260.8519.2≦.10190.6736.8合計3,304100250.8*白内障術後および屈折度数のデータが得られなかった480眼は除く.屈折度数は等価球面度数で示した.病率は高くなる傾向を認め(表6),.6D未満の近視では有病率は0.3%であったのに対し,.10D以上の近視では36.8%であった.臨床経験的に,近視性網膜症は女性に多いとされる.近視性眼底病変に関する多くのhospital-basedstudyを調べたところ,ほとんどすべてにおいて,女性患者数は男性患者数よりも多いと報告されている.たとえば,近視性網膜症の連続患者429人を調査した林らの報告によると,女性患者数282人に対し,男性患者数は147人であり,女性患者数は男性患者数の約2倍であった5).久山町研究の結果においても,女性の有病率2.2%に対し,男性1.2%と,女性の有病率は男性の約2倍であった.他のpopulation-basedstudyにおいては,BlueMountainsEyeStudyでは,女性0.4%,男性0.06%であった.BeijingEyeStudyでは,男女別の近視性網膜症の有病率は示されていないものの,近視性網膜症のない群における男女比(女/男=570/489)と近視性網膜症のありの群の男女比(女/男=75/57)を示しており,近視性網膜症ありの群のほうが女性の割合が高い.一方,あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013139 他の多くの疫学研究同様,本研究における眼軸長の平均値は,男性23.8±1.3mm,女性23.4±1.4mmと,男性のほうが有意に長かった.久山町研究で得られた結果から,日本における近視性網膜症の有病率は1.7%であり,なかでも視力予後不良である近視性黄斑変性の有病率は0.4%であることがわかった.これを日本人40歳以上の総人口に換算すると,近視性網膜症の患者数は113万人,近視性黄斑変性の患者数は25万人にものぼることが推定される.また,近視性網膜症の発症には眼軸の延長だけでなく,加齢や性別が影響している可能性が示唆される.III糖尿病黄斑症厚生労働省による2007年の糖尿病実態調査ではわが国における糖尿病患者総数は約890万人,糖尿病の可能性が否定できない人は約1,320万人,合わせて約2,210万人と報告されている.毎年,糖尿病患者の数は増加しており,今後もその傾向は変わらないと予想される.糖尿病網膜症,糖尿病黄斑症は糖尿病の代表的な合併症であり.糖尿病の急増に伴い患者数も増加することが容易に想像できる.久山町研究も含めた世界の35の疫学調査をまとめたメタスタディの結果では,糖尿病黄斑症は糖尿病の約6.8%にみられ,糖尿病罹病期間,ヘモグロビンA1C,高血圧,高脂血症が黄斑症発症の危険因子であると報告されている5).黄斑症を予防するには網膜症と同様に血糖コントロールに加えて,高血圧や高脂血症などの全身疾患の管理が重要である.IV網膜静脈閉塞症網膜静脈閉塞症は,中高年に多くみられる疾患で,高血圧や動脈硬化などが発症に関与していると考えられており,生活習慣病の増加や高齢化とともに今後も発症頻度が増加するものと予想されている.網膜静脈閉塞症の有病率を調べた疫学研究には,白人,ヒスパニック,中国人,マレー人などを対象としたpopulation-basedstudyがある.その有病率は0.3.1.6%であり,民族や人種により有病率が異なることが報告されている.オーストラリアのBlueMountainsEyeStudy(49歳以上)において白人の有病率は1.6%,アジアでは,中国のBeijingEyeStudy(40歳以上)において中国人の有病表7網膜静脈閉塞症の有病率の比較人種症例/対象有病率MitchellPetalAustralian59/3,6541.6%TheBlueMountainsEyeStudyBranch:1.2%(ArchOphthalmol1996)Central:0.4%KleinRetalWhite38/4,8220.8%TheBeaverDamEyeStudyBranch:0.7%(TransAmOphthalmolSoc2000)Central:0.1%WongTYetalU.S.39/15,4660.3%(Ophthalmology2005)(White/Blacks/Branch:0.2%Hispanics/Chinese)Central:0.1%LiuWetalChinese58/4,3351.3%TheBeijingEyeStudyBranch:1.2%(Ophthalmology2007)Central:0.1%LimLLetalMalay22/3,2650.7%TheSingaporeMalayEyeStudyBranch:0.6%(BrJOphthalmol2008)Central:0.1%CheungNetalU.S.66/6,1471.1%(InvestOphthalmolVisSci2008)(White/Blacks/Branch:0.9%Hispanics/Chinese)Central:0.2%久山町研究(1998)Japanese38/1,7752.1%(2007)72/3,0862.3%140あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013(6) 率は1.3%,シンガポールのSingaporeMalayEyeStudy(40歳以上)においてマレー人の有病率は0.7%と報告されており,アジア人では欧米と比較すると有病率は低いとされてきた.福岡県久山町の40歳以上の一般住民を対象として,1998年と2007年に網膜静脈閉塞症の有病率を調査したところ,1998年の有病率は2.1%,2007年の有病率は2.3%であり,網膜静脈閉塞症と年齢,高血圧,ヘマトクリット値に有意な関連が認められた7).これまで報告されてきたどのpopulation-basedstudyよりも日本人の有病率は高率であり,日本人では白人,ヒスパニック,中国人,マレー人などの他の人種と比較して有病率が高いことがわかった(表7).これらの他の疫学調査の対象集団と久山町研究の対象集団を比較してみると,平均年齢,性別,高血圧の頻度には差がなかったが,収縮期血圧,拡張期血圧の平均値が久山町の対象集団ではそれぞれ10mmHg程度高かった.網膜静脈閉塞症の有病率における人種や民族差の原因は明らかではないが,日本人において有病率が高いのは対象集団の血圧レベルが高いことが原因であるかもしれない.網膜静脈閉塞症の危険因子として高血圧は多くの論文(population-basedstudy,case-controlstudy,clinical-basedobservations)で共通して指摘されている.網膜静脈閉塞症の病因は今のところ明らかではないが,高血圧などにより生じた網膜細動脈の動脈硬化により隣接した静脈壁が圧迫され,局所的な血流変化が起こり静脈に血栓を生じると推測されている.久山町研究のデータでも血圧レベルが上がるほど網膜静脈閉塞症の有病率が有意に増加しており,十分な血圧コントロールが網膜静脈閉塞症の予防に重要である.特に片眼に網膜静脈閉塞症のある人は他眼を発症する確率が2年間で8%,4年間で12%という報告もあり,他眼の発症を予防するうえでも適切な血圧の管理が必要である.また,ヘマトクリットは血液中の赤血球の濃度であり,ヘマトクリット値の上昇は血液粘度の増加を示している.ArendらやGlacet-Bernardらのcase-controlstudyにおいて,ヘマトクリット値の上昇と網膜静脈閉塞症の有意な関連が報告されている.久山町研究においても,ヘマトクリット値の上昇と網膜静脈閉塞症には有意な関連を認め,ヘマトクリット値が上がるほど有病率が有意に増加していることが示された.また,他にも血液粘度の増加する多発性骨髄腫やマクログロブリン血症で網膜静脈閉塞症が多くみられるという報告があり,血液粘度の増加は網膜の静脈閉塞をひき起こす可能性が示唆される.そのため,網膜静脈閉塞症では血液粘度の検査を行い,血液粘度の増加があればそれに対する抗凝固治療が静脈閉塞の再疎通を促し予後を改善させる可能性がある.文献1)石橋達朗ほか:厚生労働科学研究費補助金難治性疾患克服研究事業網膜脈絡膜・視神経萎縮症に関する研究平成17年度研究報告書2)IwaseA,AraieM,TomidokoroAetal:PrevalenceandcausesoflowvisionandblindnessinaJapaneseadultpopulation:theTajimiStudy.Ophthalmology113:13541362,20063)YasudaM,KiyoharaY,HataYetal:Nine-yearincidenceandriskfactorsforagerelatedmaculardegenerationinadefinedJapanesepopulation:theHisayamastudy.Ophthalmology116:2135-2140,20094)AsakumaT,YasudaM,NinomiyaTetal:PrevalenceandriskfactorsformyopicretinopathyinaJapanesepop-ulation:theHisayamaStudy.Ophthalmology119:17601765,20125)HayashiK,Ohno-MatsuiK,ShimadaNetal:Long-termpatternofprogressionofmyopicmaculopathy:anaturalhistorystudy.Ophthalmology117:1595-1611,20106)YauJ,RogersS,KawasakiRetal:Globalprevalenceandmajorriskfactorofdiabeticretinopathy.DiabetesCare35:556-564,20117)YasudaM,KiyoharaY,HataYetal:PrevalenceandsystemicriskfactorsofretinalveinocclusioninageneralJapanesepopulation:TheHisayamaStudy.InvestOphthalmolVisSci51:3205-3209,2010(7)あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013141

序説:黄斑疾患診療トピックス

2013年2月28日 木曜日

●序説あたらしい眼科30(2):135.136,2013●序説あたらしい眼科30(2):135.136,2013黄斑疾患診療トピックスCurrentTopicsinMacularDisease飯田知弘*最近の眼科診療の進歩は著しいが,そのなかでも黄斑疾患に関する進歩には目を見張るものがある.国内外の学会でも網膜,特に黄斑疾患領域の演題数は群を抜いている.黄斑を専門にしているわれわれでもその情報の多さに圧倒され,すべてを理解しているとは言い難い.ましてや黄斑を専門としない先生方や研修医にとってはなおさらであろう.そこで,疫学から診断・治療へと幅広く黄斑疾患診療に関連する重要項目を網羅した9つのトピックスを取り上げ,その道のエキスパートの先生方に解説いただいた.他にも知っておきたい事項はたくさんあるが,誌面の関係上,他稿に譲ることとしたい.黄斑疾患の疫学(九州大・安田美穂先生)では,久山町研究を中心に加齢黄斑変性,近視性黄斑変性,糖尿病黄斑症,網膜静脈閉塞症に関する最新のデータを示していただき,各疾患の背景を理解するうえで大変参考になる.2012年の報告では近視性黄斑変性の有病率は0.4%で,わが国での患者数は25万人にものぼると推定されている.視覚障害の原因疾患の上位に強度近視があげられることが疫学研究からも裏付けられる.疫学で取り上げられた4疾患では,加齢黄斑変性と遺伝子(京都大・山城健児先生),糖尿病黄斑浮腫の治療(滋賀医大・藤川正人先生,大路正人先生),網膜静脈閉塞症の治療(東京大・柳靖雄先生),強度近視の画像診断(東京医歯大・大野京子先生,島田典明先生)に関するトピックスをご執筆いただいた.加齢黄斑変性は,この約10年間に病態研究,診断,治療のどの分野においても著しい進歩がみられ,これは他疾患の比ではない.特に,抗VEGF(血管内皮増殖因子)療法の登場により加齢黄斑変性患者の視力予後は大きく改善した.さらに,最近は,疾患感受性遺伝子と治療効果や臨床像との関わりが次第に明らかとなってきており,近い将来には個別化医療が実現する可能性もある.ゲノム研究の臨床への応用は眼科医にとって必須の知識になると思われる.山城先生には,臨床医にとっては少し敬遠しがちなテーマをとてもわかりやすく解説いただいている.最近,糖尿病黄斑浮腫と網膜静脈閉塞症に対する薬物治療の大規模臨床試験の結果が相次いで報告された.藤川・大路先生と柳先生には両疾患治療に関する最新情報を網羅し,そのポイントをまとめていただいている.欧米ではすでに承認された薬剤もあり,わが国でも近い将来に臨床使用が開始されることが予想され,その結果を知り,理解しておくことは臨床医として重要である.一方,臨床試験でエビデンスが得られても,薬物療法のもつ種々の問題点*TomohiroIida:東京女子医科大学眼科学教室0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(1)135 や限界があることは加齢黄斑変性治療薬で経験した.糖尿病黄斑浮腫と網膜静脈閉塞症に関しても,従来のレーザー光凝固・硝子体手術と新規薬剤との適切な選択ないし組み合わせは,今後,臨床現場で解決すべき課題であろう.強度近視眼における黄斑病変の理解が,画像診断,特に光干渉断層計(OCT)の進歩により急速に深まっている.特にenhanceddepthimaging(EDI)OCTとswept-source(SS)OCTにより眼球の深部構造が描出できるようになり,特に強度近視眼では威力を発揮する.この分野の研究の多くが東京医科歯科大のグループによるもので,大野・島田先生に最新の知見をご紹介いただいた.わが国で頻度が多く,高度の視力障害をきたす強度近視眼に関する病態解明により,将来の治療へと結びつくことを期待したい.眼底画像診断法は,OCTを筆頭に著しい進歩をとげ,研究応用から一般臨床へと広く普及した.その代表であるOCT(福島県医大・丸子一朗先生),眼底自発蛍光(東京女子医大・古泉英貴先生),超広角走査型レーザー検眼鏡(名古屋市大・吉田宗徳先生,小椋祐一郎先生),補償光学適用走査型レーザー検眼鏡(AO-SLO)(京都大・大音壮太郎先生)に関する最新情報と今後の展望を解説していただいた.OCTは黄斑疾患診療を変えた診断機器といっても過言ではなく,一度手にしたら手放せない検査法であり,その有用性から一般診療にも著しい勢いで普及している.最近のトピックスとして,市販機を使った加算平均処理やEDI,新しい装置のSSOCTにより,それまでは観察できなかった視細胞の微細構造,脈絡膜・強膜の画像を取得できるようになり,病態の理解が深まっていることがあげられる.また,眼底自発蛍光は2012年に保険収載され,今後の普及が期待される検査法である.OCTのような画像から受けるインパクトは少ないが,眼底に存在するバイオマーカーのイメージングであり,そこに存在する情報を十分に引き出せば,研究と診療の両面で新たな展開が得られると考える.超広角眼底撮影装置は研究施設よりも,むしろ診療所での導入が進んでいると聞く.本装置では200°の広角眼底画像を瞬時に得ることができる.無散瞳でも周辺部眼底の撮影が可能であること,眼底全体像を簡便に記録できることなど日常診療での有用性の他に,周辺部眼底病変を新たな視点で解釈できることが期待される.これらの画像診断法を用いた各種疾患における最新の研究成果と臨床応用を,それぞれ丸子先生,古泉先生,吉田・小椋先生に概説いただいた.今後注目を集める検査法として,補償光学技術を用いた細胞レベルの眼底イメージングがあげられる.すでに市販機も登場しており,個々の視細胞を観察しながら治療戦略を立てる時代もそう遠くなさそうである.この分野の研究を推進している大音先生にAO-SLOの可能性と臨床応用について述べていただいた.すべての項目において最新情報が満載で,黄斑疾患診療の今,そして近未来を見ることができる.黄斑疾患の専門医だけでなく,研修医や一般の先生方にもぜひ一読していただきたい.136あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013(2)