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軽度円錐角膜に対する屈折矯正

2020年12月31日 木曜日

軽度円錐角膜に対する屈折矯正RefractiveCorrectioninMildKeratoconus島﨑潤*はじめに円錐角膜の検査・診断はこの10年余りの間に大きな進歩を遂げた.その結果,より早期に正確な診断が可能となり,その自然経過に関する理解も進んだ.さらに治療面でも数多くの新しい方法が開発され,患者の年齢や進行度,ライフスタイルに合わせた治療を選択する時代に入ってきている.本稿では,とくに軽度の円錐角膜患者に対する治療法と屈折に与える影響について述べる.I円錐角膜は重度になる前に介入するべき円錐角膜の治療手段が増えたとはいえ,重症例に対する治療法は限られている.ハードコンタクトレンズ(hardcontactlens:HCL)による矯正は進歩したが,最重症例ではいまでも角膜移植が唯一の治療法となることも少なくない(図1).角膜移植による治療法も,深層層状角膜移植の術式改良やフェムトセカンドレーザーの応用などで進歩しているが,できる限りこの「最後の手段」を使わずにすむように対処することが重要である.また,HCLもデザインの改良や角膜トポグラフィの結果を取り入れたフィッティング,ピギーバック法や強膜レンズの使用などの進歩があった.しかしながら,中等度以上の円錐角膜でのコンタクトレンズ使用は,異物感やレンズのずれ・脱落,角膜形状の変化に伴う頻繁なレンズ交換や紛失に伴う費用負担などにより,患者の生活の質(qualityoflife:QOL)を損なっており,こうした面でも疾患の進行抑制が重要となる.II円錐角膜の進行停止かつて円錐角膜は,「30歳をすぎると進行しない」といわれていた.しかしながら,主として検査機器の進歩により,一部の患者では30歳代以降になっても進行することがわかってきた.図2は大阪大学のグループによる円錐角膜の角膜曲率の自然経過のデータであるが,30歳代以降も進行(グラフでは右肩下がりで示される)する例が少なくないことがわかる1).グラフでの+印は,急性水腫を起こした症例である.急性水腫を起こすと,実質瘢痕のために視力回復が妨げられる例があり,また角膜移植を行う際も全層角膜移植に限定されるため,この合併症を起こさないような介入が望ましい.III円錐角膜進行予防策:角膜クロスリンキング現在までのところ,円錐角膜の進行を効果的に抑制することが証明されているのは,角膜クロスリンキング(cornealcrosslinkng:CXL)のみである.以前は,HCL(とくにフラットに処方したもの)やあとに述べる角膜内リング(intracornealringsegment:ICRS)も進行抑制効果がある可能性を指摘されていたが,現状これらは角膜形状の変化はもたらすものの,進行そのものを抑制する効果については否定的に考えられている.CXLは,角膜にリボフラビンを点眼したのちに,長波長紫外線を照射することにより光化学反応を起こして*JunShimazaki:東京歯科大学市川総合病院眼科〔別刷請求先〕島﨑潤:〒272-8513市川市菅野5-11-13東京歯科大学市川総合病院眼科0910-1810/20/\100/頁/JCOPY(47)1511角膜前面のBFS軽症87651020304050Age[years]607080[mm]重症図2円錐角膜の年齢別進行Y軸で下方にいくほど重症度が増していることを示す.(文献1より引用)図1円錐角膜の重症度別治療法の概念2020kmax0kmax10kmin0kmin10kapex0kapex10beforeCXL10yearsafterCXL0図3角膜クロスリンキング(標準法)10年間の角膜曲率および乱視度数の変化(文献6より引用)80108MeanvalueinD606404り,照射時間を短縮した方法が高速照射法である3).ただし,CXLでは酸素を消費するので,紫外線強度をC45.0CmW/cm2以上にすると架橋効果が低下する.Cc.経上皮照射法(transepithelialCXL)上皮を掻爬しないで行うCCXLである.リボフラビン点眼液に,塩化ベンザルコニウムやエチレンジアミン四酢酸(ethylenediaminetetraaceticacid:EDTA)などで上皮細胞間タイトジャンクションを弱めることでリボフラビンを実質に浸透させる4).標準法に比べて,術後の痛みが少ない,感染症の頻度が低いといった利点がある.Cd.カスタム照射法円錐角膜の角膜形状に合わせて,もっとも突出している部分に強く紫外線を照射し,その周辺に強度を弱めた紫外線を照射することで,突出部分を平坦にする試みである5).CXLに屈折矯正効果をもたせることを期待させる治療であるが,まだデータが少なく評価は定まっていない.C2.CXLは効果があるのかこれまでの数多くの報告から,少なくとも標準法においては円錐角膜の進行抑制効果が十分にあることが示されている.メタアナリシスを含むほぼすべての報告で,CXLの施行後,90%以上の症例で円錐角膜の進行が停止したとされている.近年発表されたC10年間の長期成績でも,90%以上の症例で円錐角膜の進行停止が認められ,再照射を要したものはC2眼(5.9%)であった6).年齢の若いもの,アトピー性皮膚炎を伴うもの,頻繁に眼をこする例ではCCXL施行後も進行が認められるとした報告が多い.しかし,エビデンスはないものの,こうした症例でもCCXLを施行しなかった場合と比べると進行の抑制が得られた可能性が高い.わが国ではCKatoらが行った日本人の円錐角膜症例における臨床研究で,CXLはC90%以上の症例で円錐角膜の進行を停止させていた7).高速照射法と経上皮照射法についても,一部の報告で標準法より効果が低いという報告はあるものの,大半の症例で進行抑制効果があることが示されている8.11).3.CXLの屈折矯正効果CXLの目的の第一は,その進行を抑制することにあるが,程度は少ないながら角膜の平坦化が得られる.ほとんどの報告では,裸眼視力,矯正視力の改善も認められた(図3).この結果は,歴史の長い標準法では明らかであり,高速法や経上皮照射法ではやや程度が軽いことを示唆する報告もあるが,ある程度の屈折矯正効果(遠視化,乱視軽減)が得られることが示されている6.12).C4.CXLは安全なのかCXLでは,重篤な合併症を生じることはまれであると示されている.CXLで起こりうる合併症を表1に示す.術直後は,上皮障害に伴う感染のリスクに気をつける必要がある.疼痛に対して治療用ソフトコンタクトレンズを装用させることが多いが,まれに上皮欠損の遷延が生じる.術後C1.2週間後に角膜実質の炎症細胞浸潤がみられることがある.治療はステロイド点眼の増量で大半の例で対応可能である.術後C1.3カ月では実質のびまん性混濁(haze)やCdemarcationline(架橋された表層から中層の角膜実質とされていない深層の実質との境界線の発生)などが発生する.時間の経過とともに自然治癒することが知られており,視機能にはほとんど影響しないことが多い.そのほか,頻度の低い合併症としては,術後上皮再生遅延,感染,非感染性角膜浸潤,遅発性実質瘢痕,持続性平坦化などが報告されているが,全体として術後に視機能を大きく損なうような重篤な合併症の発生はまれであり,安全な治療といえる.C5.CXLの治療における位置づけ従来,制御することができなかった円錐角膜の進行をCXLで抑制できるようになった意義は大きい.CXLはこれまで世界で数C10万件以上行われており,その効果と安全性は立証されたといえる.現在では,進行性円錐角膜の標準治療と位置づけられ,将来の角膜移植への移行を防ぐことで患者のCQOLや医療経済的にも改善をもたらすと考えられている13,14).一方で,屈折矯正手段としてはCCXLの効果は限定的であり,次項以降の屈折矯正法と組み合わせることで,安全性を高めつつ矯正効果(49)あたらしい眼科Vol.37,No.12,2020C1513表1角膜クロスリンキングの合併症発症時期合併症頻度特徴治療術後早期(数日.1週間)上皮治癒遅延まれ遷延性の上皮欠損治療用コンタクトレンズドライアイ治療感染(細菌・真菌性)まれ強い毛様充血・前房内炎症,細胞浸潤感受性のある抗菌薬投与無菌性炎症7.6%上皮掻爬縁に沿った白っぽい上皮下細胞浸潤毛様充血は感染より弱いステロイド点眼・全身投与術後1.3カ月CHazeCDemarcationlineほぼ全例浅層.中層の角膜実質に微細な混濁Hazeのある層と透明な深層との間の境界線3.6カ月で自然治癒術後C6カ月以降実質深層混濁3.0%中央.傍中央部の実質深層に混濁と平坦化術後C1年以降持続性平坦化不明術後角膜形状が平坦化し続ける.C5年以上経っても平坦化が持続する症例もある表2角膜内リングの種類IntacsCIntacsSKC*Keraringメーカーと所在国AdditionTechnology社(米国)AdditionTechnology社(米国)Mediphacos社(ブラジル)長さ(弧の角度)C150°C150°90.3C40°断面形状六角形楕円形三角形厚み0.25.C0.45Cmm0.25.C0.45Cmm0.15.C0.35Cmm中心からの距離(内径)C6.77CmmC6.0Cmm5.0.6C.0Cmm中心からの距離(外径)C8.10CmmC7.30CmmCNA*FerraraRing(AJLOphthalmic社)と同規格.図4ICRS術後の前眼部写真図5円錐角膜に対する有水晶体眼内レンズ挿入の等価球面度数と乱視度数の経時的変化(文献C24より引用)通常の近視眼とあまり違いがなく良好であった.さらに,.1.50Dを超える近視,および+1.0Dを超える遠視になった例はなく,屈折の安定性もきわめて良好であった(図5).これらのことより,円錐角膜に対する有水晶体眼内レンズの挿入は,屈折矯正手段として有用で安全あることが示めされたと考えられる.ただし,非進行性であることの見きわめが重要であることは間違いなく,また収差に関連する視機能の不良は解決されないことには留意が必要である.文献1)FujimotoH,MaedaN,ShintaniAetal:Quantitativeeval-uationCofCtheCnaturalCprogressionCofCkeratoconusCusingCthree-dimensionalCopticalCcoherenceCtomography.CInvestOphthalmolVisSci57:OCT169-OCT175,C20162)WollensakG,SpoerlE,SeilerT:Ribo.avin/ultraviolet-a-inducedcollagencrosslinkingforthetreatmentofkerato-conus.AmJOphthalmol135:620-627,C20033)GatzioufasZ,RichozO,BrugnoliEetal:Safetypro.leofhigh-.uencecornealcollagencross-linkingforprogressivekeratoconus:preliminaryCresultsCfromCaCprospectiveCcohortstudy.JRefractSurg29:846-848,C20134)DaxerCA,CMahmoudCHA,CVenkateswaranRS:CornealCcrosslinkingandvisualrehabilitationinkeratoconusinoneCsessionCwithoutCepithelialdebridement:newCtechnique.CCornea29:1176-1179,C20105)SeilerTG,FischingerI,KollerTetal:Customizedcorne-alcross-linking:one-yearCresults.CAmCJCOphthalmolC166:14-21,C20166)RaiskupCF,CTheuringCA,CPillunatCLECetal:CornealCcolla-gencrosslinkingwithribo.avinandultraviolet-Alightinprogressivekeratoconus:ten-yearCresults.CJCCataractCRefractSurg41:41-46,C20157)KatoCN,CKonomiCK,CShinzawaCMCetal:CornealCcrosslink-ingCforCkeratoconusCinJapaneseCpopulations:oneCyearCoutcomesCandCaCcomparisonCbetweenCconventionalCandCacceleratedCprocedures.CJpnCJCOphthalmolC62:560-567,C20188)KobashiCH,CTsubotaK:AcceleratedCversusCstandardCcor-nealCcross-linkingCforCprogressivekeratoconus:aCmeta-analysisCofCrandomizedCcontrolledCtrials.CCorneaC39:172-180,C20209)ShajariCM,CKolbCCM,CAghaCBCetal:ComparisonCofCstan-dardCandCacceleratedCcornealCcross-linkingCforCtheCtreat-mentCofkeratoconus:aCmeta-analysis.CActaCOphthalmolC97:e22-e35,C201910)ZhangCX,CZhaoCJ,CLiCMCetal:ConventionalCandCtransepi-thelialcornealcross-linkingforpatientswithkeratoconus.PLoSOne13:e0195105,C2018(53)11)ZiaeiCM,CVellaraCH,CGokulCACetal:ProspectiveC2-yearCstudyCofCacceleratedCpulsedCtransepithelialCcornealCcross-linkingCoutcomesCforCKeratoconus.Eye(Lond)C33:1897-1903,C201912)LiJ,JiP,LinX:E.cacyofcornealcollagencross-linkingfortreatmentofkeratoconus:ameta-analysisofrandom-izedcontrolledtrials.PLoSOne10:e0127079,C201513)GodefrooijCDA,CGansCR,CImhofCSMCetal:NationwideCreductionCinCtheCnumberCofCcornealCtransplantationsCforCkeratoconusfollowingtheimplementationofcross-linking.ActaOphthalmol94:675-678,C201614)LeungVC,PechlivanoglouP,ChewHFetal:CornealcolC-lagenCcross-linkingCinCtheCmanagementCofCkeratoconusCinCanada:aCcost-e.ectivenessCanalysis.COphthalmologyC124:1108-1119,C201715)ColinJ,CochenerB,SavaryGetal:Correctingkeratoco-nusCwithCintracornealCrings.CJCataractCRefractCSurgC26:C1117-1122,C200016)MiraftabM,HashemiH,HafeziFetal:Mid-termresultsofCaCsingleCintrastromalCcornealCringCsegmentCforCmildCtoCmoderateCprogressiveCkeratoconus.CCorneaC36:530-534,C201717)ZareCMA,CHashemiCH,CSalariMR:IntracornealCringCseg-mentCimplantationCforCtheCmanagementCofkeratoconus:CsafetyCandCe.cacy.CJCCataractCRefractCSurgC33:1886-1891,C200718)CoskunsevenE,KymionisGD,TsiklisNSetal:Complica-tionsCofCintrastromalCcornealCringCsegmentCimplantationCusingCaCfemtosecondClaserCforCchannelcreation:aCsurveyCofC850CeyesCwithCkeratoconus.CActaCOphthalmolC89:C54-57,C201119)日本眼科学会屈折矯正委員会:屈折矯正手術のガイドライン(第C7版).日眼会誌C123:167-169,C201920)AlfonsoCJF,CFernandez-VegaCL,CLisaCCCetal:CollagenCcopolymertoricposteriorchamberphakicintraocularlensinCeyesCwithCkeratoconus.CJCCataractCRefractCSurgC36:C906-916,C201021)AlfonsoCJF,CPalaciosCA,CMontes-MicoR:MyopicCphakicCSTAARcollamerposteriorchamberintraocularlensesforkeratoconus.JRefractSurg24:867-874,C200822)KatoCN,CTodaCI,CHori-KomaiCYCetal:PhakicCintraocularClensCforCkeratoconus.COphthalmologyC118:605-605,Ce602,C201123)SedaghatCM,CAnsari-AstanehCMR,CZarei-GhanavatiCMCetal:ArtisanCiris-supportedCphakicCIOLCimplantationCinCpatientswithkeratoconus:areviewof16eyes.JRefractSurg27:489-493,C210024)KamiyaCK,CShimizuCK,CKobashiCHCetal:Three-yearCfol-low-upofposteriorchambertoricphakicintraocularlensimplantationCforCtheCcorrectionCofChighCmyopicCastigma-tismineyeswithkeratoconus.BrJOphthalmol99:177-183,C2015あたらしい眼科Vol.37,No.12,2020C1517

眼鏡,コンタクトレンズ処方

2020年12月31日 木曜日

眼鏡,コンタクトレンズ処方PrescriptionofContactLensesandGlasses梶田雅義*はじめに従来の眼鏡やコンタクトレンズ(contactlens:CL)処方は遠方視力を基準にして処方されていた.しかし,現代の情報化社会では近くに多くの情報が集中しているため,眼鏡やCLの処方にも近方視の配慮が必要になってきている.近方視で問題になるのは,近方にピントを合わせるための調節と,近方を両眼視するための輻湊の負荷の増大である.たとえ,両眼で良好な視力と両眼視ができていても,それらの負荷が大きければ,眼精疲労の原因になりうる.実際に,調節と輻湊負荷が原因で眼精疲労を発症している患者は急増してきている.本稿では,現代人の眼に快適な矯正を提供する方法について述べる.I現代人の視環境の変化IT機器の進歩によって,視機能にかかる負担が変化してきている.1980年代にデスクトップタイプのパーソナルコンピューター(パソコン)が普及しはじめたときに,眼精疲労を訴える患者が増加し,巷ではテクノストレス眼症とよばれるようになった.その対象は中高齢者であった.その後,ノート型パソコンが普及しはじめると,眼精疲労を訴える患者はさらに増加し,IT眼症ともよばれるようになった.対象者は若い世代までに広がった.そして2010年代になり,スマートフォンが普及しはじめると,眼精疲労を訴える患者は急激に増加し,巷では,スマホ老眼・スマホ斜視などとよばれるようになり,その対象は全世代に拡散してきている.II屈折異常のタイプによって異なる視機能異常1.近視裸眼で近くは見えるが,遠方視には矯正用具の補助が必要である.この裸眼で近くがよく見えるが,スマホ老眼やスマホ斜視を引き起こしている.裸眼で近くが見えるため,長時間の近方視には矯正用具の使用が煩わしく感じられるため,裸眼で過ごしてしまう習慣ができてしまう.日常の生活も眼鏡やCLを使用せずに裸眼で過ごしてしまう状態が常在化してしまった結果,どうしても遠くを見なければならない事情が生じた場合に,これまで快適に使用できていた眼鏡を装用すると,視野は歪み,近方視時に強く輻湊していた効果が残存して,複視を生じる(スマホ斜視).眼鏡を通して近くを見ようとするとピントが合わせられない(スマホ老眼).外斜位傾向のある症例では,裸眼での近方視時にかかる輻湊負荷を回避するために,近方を片眼視する習慣が定着し,外斜視を発症していることも多く,複視の自覚を回避するための視野闘争が生じている症例も増加している.2.遠視一般には遠くがよく見える眼と思われているが,実際には調節努力を行わなければ近くにも遠くにもピントが*MasayoshiKajita:梶田眼科〔別刷請求先〕梶田雅義:〒108-0023東京都港区芝浦3-6-3協栄ビル4F梶田眼科0910-1810/20/\100/頁/JCOPY(39)1503合わない眼である.長時間の近方視を強いられることによって,調節機能に異常が生じやすい.完全な老視眼になる前であれば,視力測定では遠方視力も近方視力も良好であり,調節力も十分に発揮できることから,視機能に異常なしと判断され,眼精疲労の原因が特定されず,体調不良に陥っている症例が増加している.これに眼位異常が加われば,めまいや悪心・嘔吐の症状も加わり,治療の主体が眼科から遠ざかっていることも少なくない.3.乱視一経線方向とそれと直交する方向に同時にピントが合わない眼である.本人は生まれながらにそのような見え方をしているので,ほとんど気にしていない場合が多い.日常生活や大きな文字ならばそれほど問題になることはないが,パソコンやスマホで数値を扱ってみると,1・4・7や3・6・8の数字の判別が困難な症例が多いが,ほとんど自覚していない.「表計算などでミスを犯すことが多くありませんか?」と問うとほとんど適中する.情報端末が小型化している社会では,乱視を適切に矯正することは必須の条件である.III現代人に必要な視機能矯正情報過密化社会にあっては,あらゆる距離に情報が提示されているため,社会適応をするためには,遠方から近方までどの距離も快適に明視することが望まれる.従来のように手元が見えづらくなったら老眼鏡を処方するという方法では対応できない.携帯情報端末を使用する機会が多い患者では,屈折検査に続いて必ず眼位検査を行い,内斜位傾向がある場合には調節輻湊介入の可能性を念頭に,外斜位傾向にある場合には斜位近視介入の可能性を念頭に,矯正を進めることが必要である.1.近視眼の矯正眼位異常がない場合には,片眼の自覚屈折値を参考に両眼同時雲霧法で,両眼視で快適な視力が得られる屈折値を求めて,矯正度数を決定する.内斜位傾向がある場合には,調節緊張状態である可能性が疑われるため,調節機能検査を行い,必要に応じて調節治療を行ってから矯正度数を決定する.外斜位傾向がある場合には,眼位矯正に必要なプリズム量を求め,プリズムなしで測定した両眼同時雲霧法の結果と,プリズムを入れて測定した両眼同時雲霧法の結果を比較し,プリズムを入れないほうが過矯正傾向にある場合にはプリズムを入れた矯正度数で処方する.2.遠視眼の矯正矯正度数の求め方は近視眼の場合と同じでよいが,矯正経験のない遠視眼では,眼鏡を通した見え方に適応できない場合も少なくない.この場合には,遠用度数は自覚的に満足できるギリギリまで低矯正にして,遠近両用累進屈折力レンズを用いて低矯正にした分くらいを加入度数に入れると,初期装用感を改善できる.3.乱視眼の矯正0.75D以上の乱視がある場合には,数字の読み取りミスが起こりやすいことを説明し,「ミスが多くなると他人からの信頼度が低くなる」ことを伝えると,乱視矯正に同意が得られやすい.乱視矯正したあとの球面度数の求め方は近視眼の場合と同じである.小児の頃から乱視を矯正していた中等度以上の乱視眼患者は,眼鏡による矯正にまったく問題のないことが多い.しかし,眼鏡で乱視が適切に矯正される面積は乱視が強くなるほど狭くなるため,眼の疲れや数字の読み取りミスが多いなどの状態が聞き出せた場合には,CLによる乱視矯正が奏効する.乱視が強すぎてCLで乱視が十分に矯正しきれない場合には,CLと眼鏡をあわせて矯正するのも快適矯正の一つの方法である.IVIT機器の変遷に伴う処方眼鏡レンズの変化梶田眼科で処方した処方眼鏡の種類を集計してみた.30.60歳を対象とした.調査の範囲を1期:ノートパソコンが普及した2004年,2期:スマートフォンが普及しはじめた2008年,3期:スマートフォンがすべての世代に普及した2018年,そしてテレワークが推奨されるようになったコロナ禍の2020年5月.10月に処方した眼鏡の種類を集計した.対象者は1期:73例,1504あたらしい眼科Vol.37,No.12,2020(40)表1眼鏡処方実数(割合%)表2処方実数(プリズム入り眼鏡の数)1期2期3期コロナ禍期遠用単焦点遠近用累進屈折力中近用累進屈折力近近用累進屈折力近用単焦点遠用累進屈折力15(20.5)53(15.2)16(1.9)11(3.4)37(50.7)205(58.9)821(95.1)297(91.1)0(0.0)0(0.0)2(0.2)4(1.2)18(24.7)35(10.1)14(1.6)14(4.3)3(4.1)35(10.1)4(0.5)0(0.0)0(0.0)20(5.7)6(0.7)0(0.0)計733488633261期2期3期コロナ禍期遠用単焦点遠近用累進屈折力中近用累進屈折力近近用累進屈折力近用単焦点遠用累進屈折力2(13.3)16(30.2)6(37.5)6(54.5)1(2.7)85(41.5)413(50.3)257(86.5)0(0.0)0(0.0)1(50.0)2(50.0)0(0.0)14(40.0)5(35.7)11(78.6)1(33.3)1(2.9)1(25.0)0(0.0)0(0.0)9(45.0)3(50.0)0(0.0)1期:2004年5月.10月.2期:2008年5月.10月.3期:1期:2004年5月.10月.2期:2008年5月.10月.3期:2018年5月.10月.コロナ禍期:2020年5月.10月.2018年5月.10月.コロナ禍期:2020年5月.10月.表3視力判定基準標準閾値準標準閾値1視標1正答2視標2正答3視標3正答4視標3正答5視標3正答5視標4正答6視標4正答7視標4正答8視標5正答9視標5正答10視標6正答Landolt環だけの視標であれば,標準閾値を用いる.文字視標も含む視標であれば,準標準位置値を用いる.cdbe図1調節機能解析装置a:ライト製作所社製アコモレフ2.b:ニデック製AA-2.c:スマホ老眼衰弱タイプのFk-map所見.16歳女性.弱度の近視で,眼鏡を使用しないでスマホを操作していた.眼鏡をかけると近くがぼけると訴えて来院した.眼鏡を常用するように指導したところ,症状は改善してきた.d:スマホ老眼緊張タイプのFk-map所見.11歳男児.右眼が弱度近視性乱視,左眼が弱度混合乱視の不同視.眼鏡は所持していない.最近,眼の奥の痛みを訴えて来院した.調節ができていない割に,HFC値は高かった.眼鏡を処方し,常用を行ったところ,症状は改善した.e:スマホ老眼テクノストレス眼症傾向のFk-map所見.11歳女児.両眼弱度近視眼で不同視.眼鏡は所持していない.最近,眼が外に向くことが多くなったと母親が気になり来院した.外斜位を認めた.調節が十分にできないため,右眼は遠方,左眼は近方と交代視になっており,60.70cmの距離にピントが合わない状態であることがわかる.眼鏡を処方し,装用したところ,眼位は正位を維持できた.表4両眼同時雲霧法の手順1.両眼とも良好な矯正視力が得られており,不同視がないことを確認する.(球面屈折値の左右差が2D以下)2.自覚的屈折測定で得られている円柱レンズ度数および軸度を採用し,検眼枠に装入する.3.自覚的屈折測定で得られている球面レンズ度数に+3.0Dを加えた検眼球面レンズを両眼に装入する.4.両眼開放の状態で,両眼を同時に0.50Dずつ視力を確認しながら,レンズ交換法に従って検眼レンズ度数をマイナス側に移す.5.矯正視力値が0.5.0.7程度に達した状態で,左右眼のバランスを調整する.6.さらに,両眼同時に0.25Dづつレンズ交換法を継続し,両眼視で適切な矯正視力が得られる屈折値を求める.表5トライアルレンズのベースカーブ選択基準角膜乱視選択のベースカーブ参考値0.00.0.50D弱主経線の曲率半径よりも0.1mmほど大きい値0.75.1.25D弱主経線の曲率半径よりも0.05mmほど大きい値1.50D弱主経線の曲率半径にほぼ一致するもの1.75.2.00D弱主経線の曲率半径よりも0.05mmほど小さい値2.25.2.75D弱主経線の曲率半径よりも0.1mmほど小さい値涙液HCL角膜フィッティングフラットパラレルスティープ涙液レンズマイナスレンズプラノレンズプラスレンズ図2ハードコンタクトレンズのフィッティング上段:フィッティングの評価フラット:角膜曲率に対してHCLのベースカーブがゆるい状態.角膜前面とHCL後面の間にマイナス度数を持つ涙液レンズが形成される.パラレル:角膜曲率とHCLのベースカーブが一致している状態.角膜前面とHCL後面の間に涙液レンズは形成されない.スティープ:角膜曲率に対してHCLのベースカーブがきつい状態.角膜前面とHCL後面の間にプラス度数をもつ涙液レンズが形成される.涙液レンズは矯正度数として機能するため,眼鏡矯正度数からHCL度数を換算するときには,矯正に必要なコンタクト度数に加減する必要がある.標準のベースカーブの範囲ならば,角膜弱主経線曲率半径とベースカーブの差0.05mmが0.25Dと近似できる.下段:涙液のフルオレセイン染色HCLの中央(赤線枠内)の染色を観察する.フラット:中央部は角膜に強く接触し,周辺部には浮きが生じるため,中央部のフルオレセイン染色はほとんどなく,周辺部涙液が強く染色される.中央部は暗く,周辺部が明るく観察される.パラレル:範囲内はほぼ均一に薄く染色される.この写真はわずかにフラット気味である.スティープ:中央部に染色された涙液がプールしているため,中央部は明るく,周辺部は暗く観察される.スカーブ/球面度数/サイズを記載する.角膜乱視が3.50を超える場合には,後面トーリックHCL,両面トーリックHCL,ベベルトーリックHCLの処方を検討する.2.SCLの処方手順a.ベースカーブの選択SCLの理想的なベースカーブは角膜弱主経線に0.8.1.2mmを加えた値であることを念頭に置いて,レンズ銘柄によって異なるベースカーブを選択する.角膜曲率は中央部と周辺部で大きく異なっている場合もあるので,実際にはフィッティングで確認する以外にない.SCLのフィッティング確認のポイントは,①瞬目ごとに適度な動きがある.正面視で動きがわずかでも,上方視の瞬目で適切な動きが観察されればよい.瞬目によってまったく動きが観察されない場合には,指で下眼瞼を押し上げたときにSCLがスムーズに動けばよい(プッシュアップ法).②SCLのセンタリングがよく,角膜を十分に覆っている.下方へずれる場合にはベースカーブを大きくする.上方にずれる場合にはベースカーブを小さくする.③SCLの周辺部が結膜を圧迫していない.SCL周辺部で結膜に段差ができていたり,結膜血管に脈流がみられたりする場合には,フィッティングはタイトである.固着していれば別の銘柄のレンズを試し装用する.適切なフィッティングはSCLを安全に使用するために非常に大切である.b.レンズサイズの選択一部のSCL以外ではレンズサイズは銘柄ごとに定められており変更できない.c.レンズ度数の決定眼鏡レンズで快適な視力が得られる矯正度数の円柱度数が0.75D以下であれば,等価球面度数を頂点間距離補正した値に近い度数のトライアルレンズを選択して試し装用を行う.乱視が1.00.3.50Dの範囲であれば,眼鏡レンズで快適な視力が得られる矯正度数の強弱主経線それぞれの頂点間距離補正を求め,SCLで必要な乱視度数と球面度数を求め,それに近い値のトライアルレンズを装用して目的とする良好な矯正視力が得られれば,処方は完了で(45)ある.d.処方データの決定試し装用に用いたトライアルレンズの銘柄とベースカーブ,球面度数・サイズ,乱視用SCLならば銘柄とベースカーブ,球面度数・円柱度数・円柱軸度,サイズを記載する.HCLもSCLも銘柄によってフィッティングも矯正効果も異なるため,処方時には必ず銘柄も記載することが必要である.眼の疲労の訴えがある場合には,遠近両用CLが奏効することも多いので,試すことをお勧めする.VIII眼位異常者へのCL処方眼鏡ではプリズム矯正が可能であるが,CLではプリズム矯正ができない.しかし,強度の屈折異常眼では眼鏡よりもCLのほうが視野の歪みが少なく,快適な視界が得られるため,眼位異常があっても,CL矯正を望む人も少なくない.このような場合には,①左右眼の矯正に0.75.1.50Dの差を付けたモノビジョン矯正を行う.②強度屈折異常はCLで矯正し,CLとプリズム眼鏡を同時に使用する.などで対応すると快適な矯正を提供できることがある.おわりに携帯情報端末の普及によって作業環境が大きく変化してきており,従来のデスクトップモニターを使用していた時代に比べて,スマートフォンやタブレットPCのような小さな画面は自ずと視距離が短くなっている.これに伴い,ピント合わせの調節にかかる負担も両眼視のための輻湊にかかる負担も大きくなってきている.老視を自覚し,近方視に不自由が生じてきてから老眼鏡を提供するというような処方では適切とはいえない.年齢に関係なく,個人の調節機能・眼位状態に配慮した矯正が必要である.眼鏡・CLで提供したいのは,良好な遠方視力だけではなく,快適な視界,社会適応しやすい視機能である.あたらしい眼科Vol.37,No.12,20201509

近視の外科的治療

2020年12月31日 木曜日

近視の外科的治療SurgicalTreatmentofMyopia稗田牧*I近視の外科的治療のいま近視矯正手術は大都会の専門クリニックで行われる特殊な手術で,受けるためには長距離移動をしなくていけないというわが国の近視矯正手術事情も,「新しい生活様式」で変わりはじめている.新型コロナウィルスの影響で,三密を避ける,マスクを装用するに加えて,移動を少なくすることも普通のことになりつつある.これからは,地域に根ざした保険診療にも取り組んでいる総合的な眼科施設で近視矯正手術を受けることが増えるはずである.近視は日本でもっとも有病率の高い疾患であり,近視が失明や低視力の原因1)であり,経済活動のマイナス要因になる2)ことを示す報告がこの数年,あいついでなされている.近視進行予防,光学的矯正,病的近視の治療に近視矯正手術も加えて,近視を総合的に診療していかなくてはならない.CII近視矯正手術の種類と診療形態近視の矯正手術には大きく分けて,角膜屈折力を変化させる角膜屈折矯正手術(cornealCrefractivesurgery)と,眼内レンズを使った手術(lens-basedsurgery)とがある.眼球光学系の屈折要素に変化を与えることで効果を発揮する治療である.特殊な近視として角膜屈折力が著しく増加した円錐角膜がある.ハードコンタクトレンズによる矯正が標準治療ではあるものの,進行予防,矯正手術などの外科治療が世界的に標準的な治療となっている.わが国では角膜クロスリンキング(cornealcrosslinkig:CXL),角膜内リングは未承認の治療である.白内障による近視もある.核白内障では近視化が進み,皮質白内障では遠視化をきたす.この場合,白内障手術を行うことで,保険診療の範囲内で近視と水晶体混濁を治療できる.多焦点眼内レンズを使用すると眼鏡依存度をさらに減らすことができる.これらの屈折矯正手術の多くはC100%自己負担の自由診療として行われている.国内で承認された多焦点眼内レンズについては選定療養という枠組みでレンズ代だけ自己負担で診療が行われている.眼鏡,コンタクトレンズ費用が自己負担C100%であることに比較すると,保険診療で行われる白内障手術では眼内レンズはC30%の負担ですんでいる.自由診療のなかでも,承認された医療機器,薬剤を使用している場合と,未承認のものを使用する場合とでは,その意味合いは異なってくる(図1).承認されたものであれば,自由診療で行うことは自由である.しかし,未承認の医療機器や薬剤を使った治療を導入する前向き臨床研究を行う場合には特定臨床研究となり,厚生労働大臣に研究計画書を提出しなくてはならない(図2).未承認の医療機器や薬剤による治療は,患者に最適な治療として,医師の裁量で行われることは禁止されてい*OsamuHieda:京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学〔別刷請求先〕稗田牧:〒602-0841京都市上京区河原町広小路上ル梶井町C465京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学C0910-1810/20/\100/頁/JCOPY(33)C1497図1保険診療か保険診療以外か自由診療のなかには承認された治療と未承認の治療がある.コンタクトレンズ処方は保険診療なので自己負担はC30%ですむ.図2臨床研究法時代の未承認治療の位置づけ未承認治療の有効性・安全性を確かめる研究を行うには特定臨床研究をしなくてはならない.図3レーシック図4PRKフラップを作製して角膜実質にエキシマレーザーを角膜上皮を.離してCBowman膜からエキシマレー照射する.ザーを照射する.図5角膜クロスリンキング図6角膜内リングリボフラビンが浸透した角膜に紫外線を照射することで角膜実質内の深い位置にプラスチック製のリングが埋めコラーゲンを架橋する.込まれている.図7アイシーエル毛様溝にソフト素材のレンズが挿入されている.水晶体とレンズの間に空隙がある.表1レーシックとアイシーエルの違いレーシックアイシーエル矯正精度中程度近視まで良好変化なし強度近視で増加強度近視で良好強度近視で改善する変化なし増加(スリット型)コントラスト感度高次収差円錐疑い不適応適応のことあり眼内操作なし角膜潰瘍あり眼内炎感染症アイシーエルの高次収差は測定機器によって差が大きい.

小児白内障に対する眼内レンズの選択

2020年12月31日 木曜日

小児白内障に対する眼内レンズの選択OptimalIOLSelectionforPediatricCataractSurgery日下俊次*はじめに小児白内障に対する手術は症例数が少ないことや全身麻酔が必要なこともあり,治療をてがける施設は限られているが,患児の術後何十年に及ぶ期間の視機能を左右する重要なものである.小児では眼が解剖学的,機能的に成長途上にあるため,術後に屈折値変化が生じること,形態覚遮断弱視になっている場合には弱視治療が必要となることなど,成人と違ったさまざまな特徴がある.また,とくに低年齢児では外来での眼軸長測定,角膜屈折値測定が困難で,しばしば全身麻酔下でこれらの検査を行う必要があるといったことも,成人例に対する治療との相違点としてあげられる.本稿では小児白内障のさまざまな問題点のうち,眼内レンズ(intraocularlens:IOL)の選択を中心に概説する.CIIOLの適応小児に対するCIOL挿入は,添付文書上,永らく禁忌とされてきた.しかし,日本眼科学会などによる要望を受け,平成C23年にCIOL適応の見直しがなされ,小児に対するCIOL使用は他のぶどう膜炎や進行性糖尿病網膜症などとともに禁忌ではなくなった.現在,IOLの添付文書には以下のように記載されている.「小児については,小児の特性等について十分な知識と経験を有する眼科専門医のもとで眼内レンズ挿入術を行うこと.特にC2歳未満の小児においては,眼球のサイズから器具の挿入や操作が難しくなること,成長に伴う眼軸長の変化によって再手術の可能性が高くなることが報告されていることからも,その旨を含めた十分なインフォームドコンセントを保護者に対して行うとともに,リスクとベネフィットを考慮の上で慎重に適用すること」.すなわち,この文言に則って診療を行う限り,年齢制限は撤廃されたと考えることができる.では実際にはどうすべきであろうか.近年,米国で行われた生後C1.6カ月の片眼性白内障を対象とした多施設前向きランダム化比較試験(InfantCAphakiaTreatmentStudy:IATS)1)では,IOL挿入例とCIOL非挿入例(術後はコンタクトレンズ矯正)のC4歳半時点での成績を比較し,両群間で矯正視力に差はないものの,IOL挿入例で有意に術後合併症や追加手術が多かったことが示された.この結果を受けて,現在,米国では生後C6カ月以内の児にCIOL挿入は原則行われていない.また,生後C3カ月の水晶体直径はC7.1Cmm,生後3.6カ月でC7.7Cmm,核と皮質を吸引し水晶体.の状態でもこれにC1Cmm程度加えたサイズであるため2),全長10Cmm以上あるCIOLを挿入するにはかなり無理があると思われる.また,この時期は眼球の成長も速く,適切なCIOLの度数設定が困難である.わが国での小児白内障に対する多施設アンケートの結果3)によると,IOL挿入を行う最小年齢は,2歳がC41.2%ともっとも多く,55.8%の施設がC2歳以上であった.ただし,2歳未満がC17.6%,年齢制限を設けていないと回答した施設もC23.5%あり,施設による適応の違いが*ShunjiKusaka:近畿大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕日下俊次:〒589-8511大阪狭山市大野東C377-2近畿大学医学部眼科学教室C0910-1810/20/\100/頁/JCOPY(27)C1491ある.現在,近畿大学病院(以下,当院)では,基本的に対象症例がC1歳半以上であれば両親とよく相談し,希望された場合にCIOL挿入を行っている.それより低年齢の児では水晶体切除のみを行うことを基本とし,2.3歳以上に成長した時点で両親の希望があればCIOLの二次挿入を行っている.ただし,コンタクトレンズ,眼鏡などで良好な視機能が得られていれば,できる限り大きくなるまで手術を遅らせるようにアドバイスしている.また,水晶体.が虹彩が癒着しているとCIOL挿入を.内,あるいは毛様溝に固定することは容易ではない.IOLの毛様溝縫着あるいは強膜内固定まで想定して手術を行うのかといった慎重な検討が必要である.CIIIOLの度数計算および術後屈折値おおむねC3,4歳以上では成人例と同様に外来での眼軸長測定,角膜曲率測定が可能であることが多いが,低年齢児,精神発育遅滞がある児などでは外来での検査施行が困難なので,手術直前に全身麻酔下での検査(examinationCunderanesthesia:EUA)を他の眼底検査などとあわせて行う必要がある.しかし,EUAでの眼軸長測定は超音波CAモードのプローブを手に持って測定することや,角膜曲率半径も開瞼器をかけた状態(生理的状態とは異なる状態)で手持ちケラトメータを用いて測定するために,精度に劣るという大きな問題がある.IOL度数の計算式に関しては小児白内障であっても,CHolladay1やCSRK/T式で安定した結果が得られていることが報告されている4).小児の場合,術後の狙い度数設定は視力発達・弱視予防の観点から非常に重要である.乳幼児の眼軸長は成長とともに伸長するため,将来の近視化を鑑み,術後屈折値を遠視側に設定することが推奨されている.Enyediら5)は,1歳では+6.0D,2歳では+5.0D,3歳では+4.0D,4歳では+3.0D,5歳では+2.0Dを目標にすることを提唱している.しかし,たとえば術後+6.0Dの遠視としてしまうと,術後早期に眼鏡装用が必要となり,視力発達,弱視予防の観点からは不利である.また,近視化の程度には個人差があり,近視化の程度が弱いと,将来的に遠視が残ってしまうことになる.一方,術後屈折値を正視に設定すると,術直後は眼鏡装用が不要となり,視力発達を促しやすくなる利点がある.しかし,その場合はCIOL度数が+30.0Dを超えてしまう可能性があり,使用できるCIOLがないということも想定される.また,挿入されたCIOL度数が大きいほど,たとえ同じ眼軸長変化であっても近視化の程度が強いとの説6)もある.当院では,Enyediらの報告を参考にしているが,術直後強い遠視になることのデメリット,とくにCEUAで検査を行う場合には狙いよりさらに遠視側にずれてしまうリスクを考慮し,彼らの推奨値より控えめの遠視度数とし,とくに+3.0以上の狙い度数を避けるようにしている.CIIIIOLの径先述の通り,低年齢児では水晶体.は小さく,7Cmm径のCIOLは挿入困難である.この点ではC5.5Cmm径のIOLが適しているかも知れないが,現時点でCIOLをC5.5mm径に限定するとシリコーン製,PMMA(polymethylmethacrylate)製のCrigidIOLといった選択肢となってしまう.当科ではおもにC6Cmm径のCIOLを使用している.Pandeyら7)はC2歳未満およびC2歳以上のそれぞれの群で,摘出された小児CIOL挿入眼におけるCIOLの状態を検討し,もっとも水晶体.の歪みが少なかったのは,光学部径がC5.5Cmmで光学部・支持部ともにアクリル素材でできているワンピースCIOLであったこと,また,光学部径がC6.0Cmmで支持部がCPMMAの場合は,水晶体.が支持部に牽引され,.が大きく変形していたことを報告した.しかしながら,5.5Cmm径のアクリル製ワンピースCIOLであっても,生後C5カ月の患児に対して挿入された例では水晶体.の歪みを呈していたことから,やはり生後C6カ月未満の場合,水晶体.の大きさが十分ではなくCIOL挿入は適していないと考えられる.一方,成人と同定度の水晶体.を有するC3,4歳以上の症例では光学径が大きいCIOLのほうが成人,とくに高齢者に比し瞳孔径の大きな小児では適しており,この点ではC7Cmm径CIOLがよいであろう.当院では視軸域の透明性が長期にわたって維持されるCOpticCapture法8)を好んで用いているが,7Cmm径CIOLではレンズ径が大きすぎて,適切な大きさの後.切開を作製することが技1492あたらしい眼科Vol.37,No.12,2020(28)図1小児白内障に対するIOL挿入の手術例患者はC5歳,女児.Ca:層間白内障を認める.b:水晶体吸引はサイドポートから前.下の水晶体上皮細胞も可能な限り吸引,除去した.Cc:後.の連続環状切開を行っているところ.Cd:ワンピースCIOL(本症例はトーリックIOL)を挿入した.Ce:マーカーレスシステム(Callistoeye,CarlZeiss社)を使用し,トーリックCIOLの軸合わせを施行しているところ.Cf:術終了直前.Opticcaptureを用い,IOL支持部は.内,光学部を後.下に固定した.中央部の混濁はCIOL挿入時に迷入した出血で,後.下にあるため洗浄できないが,翌日には消失した.術的に困難である.このような理由もあり,筆者らはおもにC6Cmm径のCIOLを使用している(図1).CIVIOLの種類および素材IOLの素材は,成人と同様に長期間透明性を保持できる疎水性アクリル素材(hydrophobicCacrylic)が多く選択されている.最近,いわゆるCglistening,whiteningなどのCIOLの透明性低下をきたす現象に関して理解が進んできている.同じアクリル素材でも製法などによってはCglistening,whiteningなどをきたしやすいとか,あるいは長期にわたって透明性維持が期待できる,などといった知見も得られてきている.小児の場合,IOLの透明性が長期にわたって維持できるというのはきわめて重要であるので,これらの知見を参考にしてCIOLを選択すべきであろう.デザインとしてはワンピース,スリーピースのどちらも使われているようであり,筆者らが知る限りどちらかが優れているといったエビデンスはない.当院では小さな創口で挿入できること,.が小さな症例でも挿入可能であることなどの理由でワンピースCIOLをおもに使用している.また,筆者らが知る限り着色IOLがよいのかといった点でもエビデンスは得られていないと思われる.筆者らは児の術後の長い人生に鑑み,着色CIOLをおもに使用しているが,これが果たして正しい選択なのか否かは現時点では不明である.CV単焦点IOL,多焦点IOL,トーリックIOL単焦点CIOLで失われる調節力を考慮すると多焦点IOLが,とくに片眼性白内障の児では適しているかもしれない.ただし,小児では術後に屈折値が変化する可能性が高いこと,術後の屈折値が狙いからはずれてしまうこともしばしばみられること,形態覚遮断弱視の可能性がある眼ではコントラスト感度などで単焦点に劣る多焦点CIOLを入れることのデメリットが考えられることなどから,多焦点CIOLが使用されることはほとんどない.当科では単焦点CIOLをもっぱら使用しており,補足的に累進屈折力レンズを眼鏡に用いることで近見,遠見の立体視改善を図っている9).一方,トーリックCIOLに関してはコントラスト感度低下といった問題がなく,小児白内障眼ではしばしば強い直乱視を認める症例があることから,筆者らは積極的に用いている.ただし,加齢に伴う倒乱視化を考慮し,乱視度数の完全矯正ではなく,直乱視を残すようにしている.おわりに小児白内障に対する手術は,難易度が高く,術前後の検査や術後の視能訓練などに手間と時間がかかる割には診療報酬が低く設定されており,経営的な側面からは割に合わない診療となってしまっている.しかし,小児白内障を早期に発見して,適切なタイミングで適切な方法で手術を行うことは,その児の術後の長い人生に大きな影響を与える重要な診療である.IATS1)によってようやくエビデンスレベルの高いデータが得られてきているが,それでもなお,IOLの狙い度数,IOLの素材,デザインなどに関して統一された見解はない.今後は多施設が連携して,IATSのようなエビデンスレベルの高いスタディを日本でも行う必要があると考えられる.文献1)InfantCAphakiaCTreatmentStudyCGroup;LambertCSR,CLynnMJ,HartmannEEetal:Comparisonofcontactlensandintraocularlenscorrectionofmonocularaphakiadur-inginfancy:arandomizedclinicaltrialofHOTVoptotypeacuityatage4.5yearsandclinical.ndingsatage5years.CJAMAOphthalmolC132:676-682,C20142)BluesteinEC,WilsonME,WangXHetal:DimensionsoftheCpediatricCcrystallinelens:implicationsCforCintraocularClensesCinCchildren.CJCPediatrCOphthalmolCStrabismusC33:C18-20,C19963)NagamotoT,OshikaT,FujikadoTetal:AsurveyofthesurgicalCtreatmentCofCcongenitalCandCdevelopmentalCcata-ractsinJapan.JpnJOphthalmolC59:203-208,C20154)VanderveenCDK,CTrivediCRH,CNizamCACetal;InfantCAphakiaCTreatmentStudyCGroup:PredictabilityCofCintra-ocularClensCpowerCcalculationCformulaeCinCinfantileCeyesCwithCunilateralCcongenitalcataract:resultsCfromCtheCInfantAphakiaTreatmentStudy.AmJOphthalmol156:C1252-1260,C20135)EnyediCLB,CPeterseimCMW,CFreedmanCSFCetal:Refrac-tiveCchangesCafterCpediatricCintraocularClensCimplantation.CAmJOphthalmolC126:772-781,C19986)McClatcheyCSK,CHofmeisterEM:TheCopticsCofCaphakicCandCpseudophakicCeyesCinCchildhood.CSurvCOphthalmolC55:174-182,C20101494あたらしい眼科Vol.37,No.12,2020(30)

子どもの遠視への対処法

2020年12月31日 木曜日

子どもの遠視への対処法TreatmentforHyperopiainChildren根岸貴志*I屈折の経年変化と弱視の疫学小児の屈折状態は,出生直後には短い眼軸長の影響でわずかに遠視傾向にあり,幅の広い正規分布を示すが,その後正視を中心に幅の狭い正規分布に変化する.これを正視化(emmetropization)といい,生理的な適応反応と考えられている.屈折状態はC6~9歳ごろまでわずかに遠視が増大し,その後近視化をたどるという古い報告1)があるが,近年は近業作業負荷の低年齢化の影響で,遠視が一時増大することなく一方的に近視化が進行するという報告が増えている.強度遠視は弱視の原因となる.わが国では人口のC0.6%が弱視であると考えられており2),3歳児健診でC4%は要精査となり,要精査として受診した中で弱視は14.6%とメタアナリシスで数値が得られている.弱視は不同視弱視C54%,屈折異常弱視C16%,斜視弱視と不同視弱視の合併がC10%3)といわれており,合計すると弱視のC80%になんらかの屈折異常を伴う(器質性視力障害を除く).その多くが遠視性であり,小児の弱視治療のほとんどは遠視に対する治療と考えてよい.CII遠視の眼鏡処方の目安遠視に対する弱視治療の目安として,米国眼科学会(AmericanCAcademyCofOphthalmology:AAO)のC“PreferredCPracticePattern”の“AmblyopiaCPPP-2017”に表1,2のような指標が示されている4).それに表1弱視になる屈折異常0~1歳1~2歳2~3歳3~4歳近視C≧-5.00C≧-4.00C≧-3.00C≧-2.20C遠視斜視なしC≧+6.00C≧+5.00C≧+4.50C≧+3.50C遠視斜視ありC≧+3.00C≧+2.00C≧+1.50C≧+1.50C乱視C≧3.00C≧2.50C≧2.00C≧1.50C(Preferredpracticepattern.Amblyopiahttp://www.aao.org/ppp)(文献C4より改変引用)表2弱視になる不同視度0~1歳1~2歳2~3歳3~4歳近視C≧-4.00C≧-3.00C≧-3.00C≧-2.50C遠視C≧+2.50C≧+2.00C≧+1.50C≧+1.50C乱視C≧2.50C≧2.00C≧2.00C≧1.50C(Preferredpracticepattern.Amblyopiahttp://www.aao.org/ppp)(文献C4より改変引用)よると,3歳で斜視のない遠視は,両眼とも+3.5D以上であれば,眼鏡を処方したほうがいいとされている.また,3歳で左右差がC1.5D以上ある遠視性不同視がみられた場合は,眼鏡を処方したほうがいいとされている.これはあくまでガイダンスであり,専門家によるコンセンサスに基づいて作成されていて,統計学的な科学的根拠には乏しいという注記も添えられているが,現状はこの値に基づいて診療を行うことが望ましいとされて*TakashiNegishi:順天堂大学大学院医学研究科眼科学〔別刷請求先〕根岸貴志:〒113-8431東京都文京区本郷C3-1-3順天堂大学大学院医学研究科眼科学C0910-1810/20/\100/頁/JCOPY(23)C1487いる.CIII眼鏡処方の手順小児の遠視に対してはじめにしなければいけないことは,眼位の確認である.調節性内斜視を惹起していないかどうか,交代遮閉試験で確認する.角度が大きい場合はCHirshberg試験で確認できるが,不同視弱視の中には微少角斜視を伴うこともあるため,注視を促して交代遮閉試験を行うようにする.つぎに行うのはアトロピン調節麻痺下屈折検査である.硫酸アトロピン点眼液C1%を,両眼にC1日C2回C5日間点眼し,屈折状態を測定する.乳児ではアトロピン眼軟膏を用いても同様の効果が得られるとされる.点眼の期間は施設によって異なるがC5~7日が多い.点眼による副作用として散瞳による羞明がみられるが,抗ムスカリン作用による心拍数増大,顔面の紅潮などの全身合併症を伴う場合もある.これらは鼻粘膜から網細血管内に吸収されて起きるため,鼻根部を点眼後C5分ほど圧迫することで抑制することが可能である.全身合併症は数時間で消失することから,次の点眼時まで持続することは少なく,消失した場合には再度点眼するように指導している.アトロピン調節麻痺下での屈折検査として,据え置き型オートレフラクトメーター,手持ち型オートレフラクトメーターなどを使用することができれば,その値を参考に眼鏡を処方する.据え置き型オートレフラクトメーターは近接性調節の影響を受けやすいことに注意する.手持ち型のオートレフラクトメーターの代表格はCReti-nomax(ライト製作所)である.こちらも近接性調節の影響を受けやすい.スポットビジョンスクリーナー(WelchAllyn社)はC1Cmから測定できるが,極大散瞳状態では測定できず,測定範囲もC±7.5Dまでであることに注意が必要である.スクリーナーという名前の通り,誤差範囲も広く,エラーを拾いやすいことから,参考値にとどめることが望ましい.どうしても測定がむずかしい場合には,検影法で屈折を得る.検査で得られた屈折値に対する眼鏡処方は,5歳未満であれば屈折値そのままを処方する.乱視はC1D未満であれば無視してよい.自然緊張を考慮した屈折値の減弱は行わない.これは低矯正の眼鏡では潜在性の調節性内斜視が誘発されてしまうことがあるためである.また,プリズム効果を考慮して,瞳孔間距離は広めに処方することが望ましい.遠視では瞳孔間距離を大きく処方すると基底外方のプリズム効果が出るために内斜視に対して陽性の影響が出ることと,将来的な骨格の成長に対して備えることもできるからである.5歳以上ですでに眼鏡を装用している場合には,シクロペントラート塩酸塩点眼液C1%を用いて屈折検査をすることもできる.硫酸アトロピン点眼液に比べて調節麻痺効果が少ないことに留意する.また,硫酸アトロピン点眼液に比べて中枢性興奮の副作用が出現しやすいことから,院内でC5分ごとにC3回点眼し,待合室に待機のうえでC1時間後に測定する.5歳以上では調節麻痺下の屈折値そのままを処方してしまうと,生理的調節緊張による近視化により眼鏡が過矯正となり,装用ができない場合がある.シクロペントラート塩酸塩点眼液C1%での調節麻痺下では瞳孔径が極大まで散瞳しないことから,点眼C1時間後に検眼レンズでの眼鏡トライアルを行うことも可能である.調節麻痺下での自覚視力により眼鏡を処方することで,過矯正による度数変更をある程度まで防ぐことが可能である.トライアルがむずかしい場合は,減弱幅として遠視度数の1/2まででC2.0Dを超えない量を生理的調節緊張として調節麻痺下屈折値から差し引くことが可能である.CIV療養費と処方後の留意点弱視および斜視に対して治療用眼鏡を処方した場合,療養費の支給を受けることができる.眼鏡店では立て替え払いとなるが,市区町村担当窓口(国民健康保険の場合),もしくは健保組合や共済組合に療養費支給申請書を請求し,家族が記載して提出する.その際に必要なのが眼鏡処方箋であり,病名と検査項目が記載されていることが必要である.フォーマットは決まっていないが日本眼科医会がひな形を用意しており,『日本の眼科』誌や日本眼科医会のホームページからダウンロードすることもできる.5歳未満ではC1年にC1回,5歳以上ではC2年にC1回給付を受けられ,9歳を越えると対象外となる.眼鏡作製後は装用状態を確認することが必要である.1488あたらしい眼科Vol.37,No.12,2020(24)モダンノーズパッド図1眼鏡の部位名成人用モダン+アタッチメント二段階曲げモダンケーブルタイプモダン図2モダンの形状図3レンズのタイプa:Franklinタイプレンズ.Cb:小玉タイプレンズ.c:累進多焦点レンズ.図4バイフォーカルレンズ(ハイドロタック)

近業による近視化への対処法(ポストコロナ時代を見据えて)

2020年12月31日 木曜日

近業による近視化への対処法(ポストコロナ時代を見据えて)InsightsonMyopiaDuetoRecentNear-VisionWork-AspectsofthePostCorona-VirusEra不二門尚*はじめに学童の裸眼視力1.0に満たない頻度(多くは近視)は,右肩上がりに増加しており(図1a),その理由として屋外活動の減少と近業の増加が考えられている.小学生のスマートフォンの所持率(図1b)は近年急増しており,使用頻度も増加していると考えられる.新型コロナウイルス感染症の影響でリモート授業が行われている学校もa「裸眼視力1.0未満の者」の割合の推移■,■,■,■過去最多あり,今後さらに近視の頻度が増加することが危惧される.本稿では,スマートフォンなどのデジタルデバイスも含めた近業と近視化の関係について,疫学,実験近視からの視点,予防法に関して述べる.bスマートフォン(計)・携帯電話(計)の所有・利用率携帯電話(計)の所有・利用率スマートフォン(計)の所有・利用率55.5%50.2%50.4%46.1%36.6%32.6%30.9%29.9%27.5%28.2%20.9%20.3%30.6%25.4%20.9%20.3%6.0%23.7%27.0%29.4%2.1%17.1%平成平成平成平成平成平成平成平成2223242526272829年度年度年度年度年度年度年度年度小学校図1裸眼視力1.0未満の子どもの割合の推移と小学生のスマートフォン・携帯電話の所有・利用率の推移a:令和元年度学校保健統計(学校保健統計調査報告書).b:平成29年度青少年のインターネット利用環境実態調査(内閣府).裸眼視力1.0未満の者の割合が右肩上がりに増加し,小学生のスマートフォン所持率の急激な増加が示されている.*TakashiFujikado:大阪大学大学院生命機能研究科特別研究講座〔別刷請求先〕不二門尚:〒565-0871大阪府吹田市山田丘1-3大阪大学大学院生命機能研究科特別研究講座0910-1810/20/\100/頁/JCOPY(17)1481---acLensAdded(D)bRef(L-R)(D)-20-10010網膜より後ろに焦点を結ぶボケ→眼軸長延長図2ヒヨコに対する凹レンズ付加による近視モデルヒヨコの近視モデル(ゴーグル型のレンズ付加)(a).凹レンズ付加により眼軸長は伸びる(Cb).付加度数に応じて近視が増加する(Cc).網膜より後ろに焦点を結ぶ遠視性のボケが眼軸長延長のトリガーになると考えられている(Cd).(文献C5より引用)屈折度(D)耳側に凹レンズ付加全視野に凹レンズ付加鼻側に凹レンズ付加-4図3ヒヨコに対する半視野への凹レンズ付加による近視化凹レンズ付加に一致した網膜領域の近視化が有意にみられる.横の点線は対照眼の屈折を示し,横の実線は凹レンズ付加眼の屈折を示す(***p<0.001).網膜局所の遠視性のボケが,近視化を誘起することを示している.(文献C7より改変引用)Ca44書籍b35***40-60-40-200204060水平視野角(°)40-2.5303842362534視距離(cm)調節(D)輻湊角(deg)32-3.0302028-3.5261524-4.02220-5.0101816-6.051412-8.0100①②③④⑤⑥⑦20304050スマートフォン視距離(cm)図4スマートフォン使用時の視距離(a),視距離と輻湊角の関係(b)若年者の書籍読書時の視距離は平均C30Ccmであるのに対して,スマートフォン使用時の視距離は平均C20Ccmと近い.視距離が近いと輻湊角は指数関数的に大きくなる.(文献C10より引用)水平眼位ずれ量(deg)***0.60.40.20.0-0.2-0.4-0.6-0.8-1.0-1.2視距離(cm)図5スマートフォン使用時の視距離と両眼の固視点のずれの関係若年者において,視距離C30Ccm,50Ccmと比較して,視距離C20Ccmでは固視点のずれは有意に大きい.(文献C11より引用)503020視距離∞固視点のずれ=小さい30~50cm固視点のずれ=大きい20cm図6視距離と両眼の固視点のずれのシェーマ視距離C50CcmとC30Ccmでは固視点のずれは小さく有意差はないが,視距離C20Ccmでは有意にずれが大きい.つまり,左右眼で融像できるギリギリのところで見ていることになり,視覚負荷が大きいことを示唆する.遠用近用+プリズム加入:+1.50Dプリズム:3基底内方Δ図7近用部に基底内方にプリズムを組み込んだ遠近両用眼鏡近方視時に輻湊努力を軽減する作用がある.この効果と近用部のプラス度数の加入の効果で,近視進行が抑制されたと報告されている.(文献C12より引用)CabAccommodation[D]/Vergence[MA]Accommodation[D]/Vergence[MA]10-1-2-3-4-51調節0-1-2輻湊-3-4-505,00010,00015,00020,00025,000TIME[msec]05,00010,00015,00020,00025,000TIME[msec]プリズムなしプリズムあり図8近見外斜位の若年者におけるプリズム内方付加時の輻湊と調節の関係視標をC5mからC40cmにステップ状に変化させたときの輻湊(黄線)と調節(赤線右眼,青線左眼)を両眼波面センサーで測定した例.プリズム内方付加時(Cb)に調節反応量が付加しない時(Ca)と比較して減少することがわかる.CIVスマートフォンの視距離と視覚負荷同様に増加するので(図4b),視距離C20cmではC33cmと比較して理論的に視覚系への負荷は大きいといえる.スマートフォン使用時の視距離は平均C20cmと,書筆者らは,スマートフォンで距離を変えて文章を読ん籍を読む場合の視距離(平均C33cm)と比較して短いこだ場合の視線解析を行った.その結果,視距離C50cm,とが報告されている(図4a)10).視距離C20cmをC3330cmと比較して,視距離C20cmでは有意に左右の固視cmと比較すると,調節力はC5D/3DとC1.7倍,輻湊角も点のずれが大きくなった(図5).このことは,20cmの(21)あたらしい眼科Vol.37,No.12,2020C1485-’C-

近視進行の抑制法

2020年12月31日 木曜日

近視進行の抑制法ControllingtheProgressionofMyopia中村葉*はじめに近視は進行し強度近視となると,網膜脈絡膜萎縮,黄斑変性症,緑内障,網膜.離などの病態につながる可能性がある疾患であり,一度強度近視となると不可逆性の変化を生じてしまう.近年の視環境の変化により,近視人口は増加傾向にある.2050年には全世界人口の半数が近視となり,それに伴って強度近視人口も約1割となる可能性が高いと試算されている.これらの報告を受け,WHOは近視を「深刻な公衆衛生上の懸念」であるとして緊急の対策が必要であると指摘している.近視人口の増加は,近視の発症には遺伝因子のみではなく,環境因子が大きく関連していることを示しており,屋外活動が多いほど近視進行が抑制されることも報告されている.屋外活動における近視進行抑制の関連因子についてはいくつか仮説があるが,網膜における光誘導性ドーパミンが関連因子ではないかとの説が有力である.直射日光でなく,建物の陰や木陰における光環境でも効果のあることが示されてきており,可能であれば1日2時間,少なくとも1時間以上の屋外活動が推奨されている1).近視の進行抑制法として,これまでさまざまな光学的な矯正方法や薬物療法が研究されてきた.本稿では,そのなかで近年エビデンスのある方法としてメタ解析でも有効性が示されている低濃度アトロピン点眼,オルソケラトロジー(orthokeratology:OK),特殊デザインソフトコンタクトレンズ(softcontactlens:SCL)について説明する.また,新しい方法として報告されているデフォーカス組み込み(defocusincorporatedmultiplesegment:DIMS)眼鏡も紹介する.I低濃度アトロピン点眼1.基礎知識と作用機序アトロピンはムスカリン受容体拮抗薬(M1.M5)であり,副交感神経末端から放出される神経伝達物質アセチルコリン刺激を抑制し,副交感神経活動を抑制する.ムスカリン受容体は眼のさまざまな部位に存在しており,とくにM3受容体は毛様体,瞳孔括約筋に存在することにより,アトロピンの作用として散瞳,調節麻痺作用が明らかとなる.これまで,このM3受容体を介しての調節麻痺作用が近視進行抑制と関連すると考えられていたが,そのほかの機序として網膜アマクリン細胞におけるドーパミン産生との関連性,強膜や脈絡膜における受容体との関連性などさまざまな機序が考えられており,解明には至っていない.2.近視進行抑制効果低濃度アトロピン点眼液による近視進行抑制効果については1970年代よりいくつかの後ろ向き研究が行われ,1980年代以降ランダム化比較試験も行われるようになってきた.そのなかで,低濃度アトロピンの有効性についてのエビデンスを確立してきた報告として,ATOM1,ATOM-2,ATOM-J,LAMPstudyがある.*YoNakamura:四条烏丸眼科小室クリニック〔別刷請求先〕中村葉:〒604-8152京都市中京区手洗水町652烏丸ハイメディックコート4階四条烏丸眼科小室クリニック0910-1810/20/\100/頁/JCOPY(9)1473等価球面度数の変化量(D)0.00-0.20-0.40-0.60-0.80-1.00-1.20-1.40ベースライン4カ月8カ月12カ月16カ月20カ月24カ月アトロピン0.05%アトロピン0.025%アトロピン0.01%プラセボより変更図1低濃度アトロピン点眼(0.05%,0.025%,0.01%)とプラセボ点眼による屈折度の変化(LAMPstudy)濃度依存性に近視の進行が抑制されている.プラセボ群は1年経過後に0.05%アトロピン点眼に変更することによって近視進行が抑制された.(文献5より改変引用)0.70眼軸長の変化量(mm)0.600.500.400.300.200.100.0ベースライン4カ月8カ月12カ月16カ月20カ月24カ月アトロピン0.05%アトロピン0.025%アトロピン0.01%プラセボより変更図2低濃度アトロピン点眼(0.05%,0.025%,0.01%)とプラセボ点眼による眼軸長の変化(LAMPstudy)図1の屈折度の変化と同様,眼軸長の伸びでも濃度依存性に近視進行抑制効果が認められた.(文献5より引用改変)認められている.さらに,至適濃度を検討するために現在日本においてCDE-127試験が実施されており,3年間の経過観察中である.また,香港においてもCLAMPstudyが行われた.この研究では,0.05%,0.025%,0.01%,プラセボ群のC4群間での比較が行われた(図1,2)5).1年後にプラセボ群はC0.05%アトロピン点眼に変更し,さらにC2年間の経過観察を行った.結果は濃度依存性に近視進行抑制効果は大きく,プラセボからC0.05%アトロピン点眼に変更した群では,点眼変更後明らかに近視進行は抑制されていた.この報告では,0.05%アトロピン点眼は副作用も少なく近視進行抑制効果が高いと結論づけている5).これまでの研究において,0.01%アトロピン点眼では,2年間に屈折度としてC0.22.0.70D,眼軸長C0.10から0.14Cmmの近視進行抑制効果を認めている.また,0.05%アトロピン点眼では,2年間で屈折度ではC1.08D,眼軸長ではC0.42Cmmの抑制効果を認めている.C3.副作用と問題点副作用としては,M3受容体を介したアトロピンの作用としての散瞳作用による羞明感,調節麻痺作用がある.LAMPstudyが行われた香港においては,通常眼鏡装用時においても紫外線があたると遮断することのできる調光レンズを処方することが多く,0.05%アトロピン点眼処方症例においても調光レンズ眼鏡の装用によって羞明などによる脱落が少なく,問題がなかったようである.しかし,濃度が高くなると羞明感や近見障害が起こる可能性が高くなる.現在すでにC0.01%アトロピン点眼薬はシンガポールでは市販されているが,もっとも効果的な至適濃度についてはさらなる検討が必要であると考えられている.副作用が少ない,近視進行抑制効果が高い,リバウンドを生じにくいといった条件を満たす至適濃度の検討が必要である.CIIオルソケラトロジー1.基礎知識と作用機序OKは,夜間就寝時に酸素透過性ハードコンタクトレンズ(hardcontactlens:HCL)を装用し,角膜を平坦化することによって,日中は裸眼で過ごすことのできる近視矯正法である.現在用いられているレンズの構造は四つのカーブをもっており,中央のベースカーブにより角膜を圧迫するとともに,続くリバースカーブへの上皮の移動によってさらに角膜を平坦化する効果を強めている.圧迫するという性質上,適応度数には制限があり,C.4.0Dくらいまでの屈折度の症例に適した方法である.OKによる近視進行抑制効果の作用機序としては,軸外収差説が考えられている.OKの矯正において,視軸の焦点は網膜上にあるが,周辺では角膜のスティープ化により焦点がやや手前に合うため,単焦点眼鏡のような周辺における遠視性デフォーカスが起こらないためであるという説である(図3)6).しかし,OKの近視進行抑制効果の作用機序については,多焦点性などほかの機序の関与も示唆されており,解明されていない部分もある.C2.近視進行抑制効果2年間の比較試験での報告がいくつか出ており,2011年CKakitaら7),2012年CChoら8),Santodomingo-Rubi-doら9)の報告によると,単焦点眼鏡と比較してそれぞれC36%,42%,32%の眼軸長による近視進行抑制効果が認められている.また,トーリックレンズによる矯正でも近視進行抑制効果が認められており,52%の効果があったとの報告がその後なされている10).OKには矯正限界があるが,残った屈折は眼鏡で追加矯正を行っても近視進行抑制効果が認められ,63%の強い効果があったとの報告もある11).これまでの報告から眼軸長による検討においてC30.60%と効果にばらつきはあるが,効果のあることは明らかになってきている.OKは中国やシンガポール,香港などの東アジア,ヨーロッパを中心として処方されており,そのほとんどが学童に対する近視進行抑制効果を期待しての処方となっているのが現状である.2016年,日本国内のアンケート調査でもC25%が小学生,41%が中学生.19歳に対する処方となっていた.2017年ガイドラインが,20歳未満に対する処方について慎重処方と変更になったこともあり,近視進行抑制を期待しての学童への処方が増えつつある.(11)あたらしい眼科Vol.37,No.12,2020C1475ab角膜周辺部がスティープ化網膜後方に結像してしまう図3オルソケラトロジー(OK)による近視進行抑制効果のメカニズムa:通常眼鏡矯正の場合の周辺部の焦点位置.通常眼鏡による矯正では周辺部の焦点位置が網膜面よりも後方に生じる.このことが眼軸長を伸長させるきっかけとなると考えられている.Cb:OKレンズ矯正の場合の周辺部の焦点位置.OKレンズにより角膜周辺部は上皮の移動を含む形状変化によりスティープ化する.このため焦点位置は網膜面より後方に生じることはなく,眼軸長伸長を抑制できる可能性がある.(文献C6より引用)ab図4MiSightのレンズデザインa:中心は遠用,周辺に向けて同心円状に遠近の屈折度数が配列する多焦点コンタクトレンズ(MSCL).中心の遠用部はC3.36Cmm,加入度数は+2.0D.Cb:遠用部と近用部があることにより,網膜面状に焦点を結ぶと同時に,網膜前方に二つ目の焦点を結んでいる.(CooperVisionMiSight1dayホームページより改変引用)Cab4332.52211.501-10.5-20-3-0.5-4-1Opticzonediameter(mm)図5累進屈折型多焦点ソフトコンタクトレンズのデザイン(EDOFとDISC)a:Extendeddepthoffocus(EDOF)効果を示す累進屈折型MSCL.さまざまな屈折度をもつレンズの組み合わせによってCEDOF効果を生じ,近視進行抑制効果が得られると考えられている.MYLOとして市販されている.Cb:DefocusCincorporatedCsoftCcontactClens(DISC)のデザイン.中心遠用,周辺に遠用と+2.5D加入の近用部位を交互に同心円状に組み入れ,周辺の焦点位置をぼやけさせている.(文献C17より改変引用)Opticzonediameter(mm)-4-3-2-101234中心9mmのみ遠用+3.5D加入の入った矯正度数傍中心部径3.3cmの部分に約400個のセグメント図6Defocusincorporatedmultiplesegment(DIMS)眼鏡のデザイン(文献C19より引用改変)ザインを比較するとドットデザインのほうが眼軸伸長抑制効果が高かったことより,ドットデザインのデフォーカス組み込み(defocusincorporatedmultiplesegment:DIMS)眼鏡が作製され,海外では市販されている.しかし,焦点のばらつきがあると眼軸伸長の制御機構が機能しない可能性も指摘されている.図6に示すように,DIMS眼鏡は中心C9Cmmの遠用度数の周囲に約C1Cmm径の+3.5Dのドット状の加入レンズを散りばめたデザインとなっている19).日本では市販されていないが,香港と中国では市販されている眼鏡である.C2.近視進行抑制効果現在のところ多施設研究などはまだ行われていないが,2年間の比較試験で屈折度C52%,眼軸長C62%と良好な近視進行抑制効果が認められている.SCLでは装用時間にばらつきが出てしまうが,眼鏡装用時間はC1日15時間程度とかなり長時間装用となっていることが大きな効果を生んでいる可能性もある.現在,中国では多施設研究が行われているようであり,今後の結果が待たれる.C3.合併症と問題点一部の症例では周辺部のぼやけの訴えが一時的にあったが,ほとんどの症例で問題なく装用できており,自覚的な訴えとしては単焦点眼鏡と差はなかったと報告されている.多施設研究においても有効性が証明されれば,有効な近視進行抑制手段となる可能性がある.おわりに現在のところ,さまざまな方法の比較をしたレビュー論文では,アトロピン点眼,OK,多焦点CSCLについては有効性が認められてきている20).また,低濃度アトロピン点眼とCOKの併用の有効性も報告されている21).現在もさまざまな薬物療法や光学的方法が試みられており,もっとも効果的で安全な近視進行抑制法の確立が求められている.文献1)SherwinCJC,CReacherCMH,CKeoghCRHCetal:TheCassocia-tionbetweentimespentoutdoorsandmyopiainchildrenandadolescents:aCsystematicCreviewCandCmeta-analysis.COphthalmologyC119:2141-2151,C20122)ChuaCWH,CBalakrishnanCV,CChanCYHCetal:AtropineCforCtheCtreatmentCofCchildhoodCmyopia.COphthalmologyC113:C2285-2291,C20063)TongL,HuangXL,KohALetal:Atropineforthetreat-mentCofCchildhoodmyopia:e.ectConCmyopiaCprogressionCafterCcessationCofCatropine.COphthalmologyC116:572-579,C20094)ChiaCACChuaCWH,CWenCLCetal:AtropineCforCtheCtreat-mentCofCchildhoodmyopia:changesCafterCstoppingCatro-pine0.01%C,0.1%and0.5%C.AmJOphthalmolC157:451-457,C20145)YamJC,LiFF,ZhangXetal:Two-yearclinicaltrialoftheClow-concentrationCatropineCforCmyopiaCprogression(LAMP)study:Phase2report.OphthalmologyC127:910-919,C20206)平岡孝浩:近視進行予防の治療2.オルソケラトロジー.あたらしい眼科37:527,C20207)KakitaCT,CHiraokaCT,COshikaT:In.uenceCofCovernightCorthokeratologyConCaxialCelongationCinCchildhoodCmyopia.CInvestOphthalmolVisSciC52:2170-2174,C20118)ChoCP,CCheungSW:RetardationCofCmyopiaCinCorthokera-tology(ROMIO)study:aCrandomizedCcontrolledCtrial.CInvestOpthalmolVisSciC53:7077-7085,C20129)Santodomingo-RubidoJ,Villa-CollarC,GilmartinBetal:CMyopiaCcontrolCwithCorthokeratologyCcontactClensesCinSpain:refractiveCandCbiometricCchanges.CInvestCOphthal-molVisSci53:5060-5065,C201210)ChenCC,CCheungCSW,CChoP:MyopiaCcontrolCusingCtoricorthokeratology(TO-SEEstudy)C.CInvestCOphthalmolCVisCSciC54:6510-6517,C201311)CharmCJ,CChoP:HighCmyopia-partialCreductionCortho-k:aC2-yearCrandomizedCstudy.COptomCVisCSci90:530-539,C201312)日本眼科医会:オルソケラトロジーに関するアンケート調査の集計結果報告(平成C30年度).日本の眼科C90:198-206,C201913)FujikadoT,NinomiyaS,KobayashiT:E.ectoflow-addi-tionsoftcontactlenseswithdecenteredopticaldesignonmyopiaCprogressionCinchildren:aCpilotCstudy.CClinCOph-thalmol23:1947-1956,C201414)Ruiz-PomedaA,Perez-SanchezB,VallsIetal:MiSightassessmentstudyCSpain(MASS)C.CAC2-yearCrandomizedCclinicalCtrial.CGraefesCArchCClinCExpCOphthalmolC256:C1011-1021,C201815)ChamberlainCP,CPeixoto-de-MatosCSC,CLoganNSCetal:AC3-yearrandomizedclinicaltrialofMiSightlensesformyo-piacontrol.OptomVisSciC96:556-567,C2019(15)あたらしい眼科Vol.37,No.12,2020C1479-

眼球形状の経年変化

2020年12月31日 木曜日

眼球形状の経年変化Age-RelatedChangesinEyeballShape山下高明*はじめに屈折は角膜屈折力,水晶体屈折力,眼軸長のC3要素で決まる.角膜形状と眼軸長によるピントのズレを補正するように変化する水晶体を除くと,角膜形状と眼軸長,すなわち眼球形状の個人差によって近視・遠視・乱視のような屈折の個人差が生じることになる.眼球形状の個人差がどの時点でどんな原因によって決まるかという視点から考えると,新たな検討すべき屈折異常の要因が浮かび上がってくる.今回は緑内障専門医の立場から眼球形状の経年変化について考察する.CI遺伝と胎内での眼球形状変化本稿では詳しく述べないが,顔かたちの個人差に遺伝の影響が大きいように,眼球形状に対しても遺伝は大きな要因であることは間違いない1).一方で,胎内での眼球発生の個人差についての報告はほとんどなく,胎内の眼球形状を低侵襲で簡便に測定できる機器の開発が待たれる.現時点では,遺伝子と発生の結果としての出生時の眼球形状から,胎内での眼球形状の変化を推察することになる.妊娠週数C32.40週で出生した新生児の眼軸長,前房深度,硝子体長を比較すると,週数が長くなるにつれて,それぞれ週あたりC0.14mm,0.028mm,0.11.mm大きくなったが,水晶体厚は有意な変化を認めなかった2).妊娠週数C32週以降の胎内では前眼部,後眼部ともに眼球全体が急速に大きくなっていると推察される.II乳児期出生時の眼軸長には個人差があり,平均では約C16.mmと報告されている3).成人では正視の眼軸長はC24.mm程度なので,眼軸長としてはC1.5倍,眼球容積としてはC1.5のC3乗で約C3倍に拡大することになる.妊娠後期に引き続いて乳幼児期も眼球は前眼部も後眼部も急速に大きくなる(図1,proportionalCenlargement).角膜曲率半径が大きくなることで角膜屈折力は低下するが,眼軸長が長くなるため相殺されて屈折の変化は少ない.眼軸長としてはC2歳までに約C22.mmまで大きくなるが,個人差も大きくなりC20.mm以下の眼やC25.mm以上の眼も出てくる4).2歳ごろまでの眼球拡大に関してもっとも影響を与えると考えられているのは,眼圧と角強膜伸展性である.小児緑内障では病的な眼圧上昇によって,角膜径の含め眼球全体が大きくなり牛眼と呼ばれる状態になる.正常眼でも判で押したようにすべての眼の眼圧と眼球壁伸展性が一緒ということはありえず,個人差がある.角強膜伸展性が大きく,眼圧が高い眼では眼球全体が大きくなり,逆に角強膜伸展性が小さく,眼圧が低い眼では眼球全体が小さくなる.未熟児と満期産児を比較すると未熟児のほうが眼圧が高く(13.25Cvs12.22.mmHg),角膜厚も厚い(524.720Cvs489.650.μm)5).つまり眼圧と角強膜伸展性の間でバランスがとれるまで,眼圧によって眼球が拡大していくと考えられる.ただし,正確な眼内圧(真の眼圧)を測定することは,成*TakehiroYamashita:鹿児島大学大学院医歯学総合研究科感覚器病学眼科学〔別刷請求先〕山下高明:〒890-8520鹿児島市桜ケ丘C8-35-1鹿児島大学大学院医歯学総合研究科感覚器病学眼科学C0910-1810/20/\100/頁/JCOPY(3)C1467眼圧,強膜伸展性栄養強膜硬化核白内障前眼部・後眼部ともに拡大主に赤道部が拡大ProportionalenlargementExcessiveenlargement眼球拡大停止または持続後眼部局所が拡大Focalenlargement眼球拡大が大きく持続する場合後部ぶどう腫・病的近視図1眼球形状の経年変化時期によって影響する要因が変化する.学童期に眼球の伸びる方向図2卵型眼球での成長期の眼底変化眼球赤道部が伸びると眼底写真では矢印のように黄斑に向かって伸びることになる.視神経乳頭耳側ではコーヌスが拡大し,上下ではアーケード血管が黄斑方向にシフトし,鼻側では神経線維が視神経乳頭に乗り上げてくる.く,平均身長がほとんど変化していないインドとバングラディッシュでは若年世代ほど近視頻度が増加する傾向はない.逆に老年世代ほど近視頻度が増加しているが,これは低栄養で加齢が早くなり,核性近視が増加したことが原因とされている13).先進国では現在のC90歳代と比較するとC60歳以下は,身長は高く,スタイルはよく,顔は立体的になっているのに,眼球形状だけ変化しないということはありえない.日本の久米島疫学調査でも世代が若いほど身長が高く,眼軸長が長い傾向があった13).現代の日本人小学生を対象にした研究では,食事が日本的よりも西洋的なほうがCbodyCmassindexが大きく,眼軸長が長かったことから14),小児期の栄養状態が身長だけでなく,眼軸長にも影響しているといえる.CIV学童期赤道部の眼球壁が伸びていく要素が大きい眼では,眼底に大きな変化が生じてくる.図2のように赤道部が伸びる場合に眼底写真では黄斑に向かって伸びることになる.このような卵形の眼の成長期の眼底写真変化は,図2の同一眼のC9歳時とC14歳時を見比べるとわかる.視神経乳頭およびその周辺の変化が大きいことがわかる.視神経はほとんど動かないため,眼球壁が進展するにしたがって,視神経乳頭が傾斜し,視神経乳頭の上下ではアーケード血管が黄斑側へシフトし15),耳側ではコーヌスが大きくなり,鼻側では神経線維が乗り上げて隆起してくる16).図2の光干渉断層計の横断面では,耳側のコーヌスが拡大し,鼻側の神経線維の乗り上げ(乳頭周囲神経線維隆起)が高くなっているのがわかる.これらの個人差は,緑内障の視野障害パターンや正常眼データベースと比較する光干渉断層計の緑内障診断に影響してくる17).CV成人成長期が終わると眼球の成長も止まる眼が多いが,一部の眼では成人になっても眼軸長が伸び続ける.それは強度近視眼だけではなく,遠視眼でも起こる.病的近視が含まれない開放隅角緑内障C125眼で約C5年間の眼軸伸長を測定したところ平均C0.035Cmm伸びており,予想に反して最初の時点での眼軸長が短いほど,眼軸長の伸びが大きい傾向がみられた18).このことから成人してから眼軸長が伸びる眼は,眼軸長に限らず,眼球伸長が止まる要素が完全に働かなった眼であると考えられる.現在のところなぜ眼球の成長が止まったり,止まらなかったりするのかはわかっていないが,眼球壁の硬化が影響しているのではないかと筆者は考えている.おわりに緑内障研究で,バイオメカニクスの重要性に気づき,さまざまな仮説を立てて研究してきたが,眼球形状の個人差とは顔かたちの個人差に似ており,単純ではない.今回は経年変化という時間軸で要因を述べたが,地域差,世代間の差も考慮する必要がある.時間軸の要因も人によって長く続く場合もあれば,強い場合もあり,それを統計学で仕分けていく必要がある.眼球形状の個人差の研究はまだ始まったばかりであり,本稿をみた先生方が眼球形状のたくさんの謎に興味をもって,少しでも解明されることを願っている.文献1)SpaideCRF,COhno-MatsuiCK,CYannuzziLA:PathologicCmyopia.CSpringer.C20142)YangCJ,CWangCQ,CLiCCCetal:TheCdevelopmentCofCocularCbiometricCparametersCinCprematureCinfantsCwithoutCreti-nopathyCofCprematurity.CCurrCEyeCRes.CEpubCaheadCofCprint,C20203)Axer-SiegelCR,CHerscoviciCZ,CDavidsonCSCetal:EarlyCstructuralCstatusCofCtheCeyesCofChealthyCtermCneonatesCconceivedCbyCinCvitroCfertilizationCorCconceivedCnaturally.CInvestOphthalmolVisSci48:5454-5458,C20074)LinCH,CLinCD,CChenCJCetal:DistributionCofCaxialClengthCbeforeCcataractCsurgeryCinCchineseCpediatricCpatients.CSciCRepC29:23862,C20165)UvaCMG,CReibaldiCM,CLongoCACetal:IntraocularCpressureCandCcentralCcornealCthicknessCinCprematureCandCfull-termCnewborns.CJAAPOSC15:367-369,C20116)GroverCS,CZhouCZ,CHajiCSCetal:IntraocularCpressureCinCprematureClowCbirthCweightCinfants.CJPediatrOphthalmolStrabismusC53:300-304,C20167)LiCSM,CIribarrenCR,CLiCHCetal:IntraocularCpressureCandCmyopiaCprogressionCinCChinesechildren:theCAnyangCChildhoodCEyeCStudy.CBrJCOphthalmolC103:349-354,C20198)MayCA:Non-vascularCsmoothCmuscleCcellsCinCtheChumanchoroid:distribution,CdevelopmentCandCfurtherC1470あたらしい眼科Vol.C37,No.C12,2020(6)’C-

序説:屈折矯正に関する話題

2020年12月31日 木曜日

屈折矯正に関する話題UpdatedMedicalInformationrelatedtoRefractiveErrorsandTheirCorrections木下茂*今回の特集では,盛花的ではあるが,今,注目されている,そして話題となっている,屈折矯正に関する内容を集めてみた.『あたらしい眼科』は,発刊当初から「重厚長大ではなく軽薄短小」をめざしてきた.一口で言えば,寝転がっても読める,そして診療に役立つ,そのような内容と書きぶりをめざしてきた.もちろん内容そのものはサイエンスに裏付けされていることが必要である.さて,ここでは,編者としてというよりは私の個人的な立場で屈折矯正についてのいくつかの妄想(?)を述べさせていただく.まず,角膜形状そして眼球形状の変化についてである.正常者の角膜形状の多くは角膜直乱視あるいは角膜倒乱視であり,角膜斜乱視は珍しい.加齢との関係でいえば,加齢とともに角膜倒乱視の人が増加してくる.この現象は,角膜の骨格を形成しているコラーゲンの走行と角膜輪部あたりへのアンカリング構造にも関係しているようである.実際,英国のCKeithMeekらはCX線解析でこの構造のあらましを証明している1).さらに,角膜表層と角膜深層のコラーゲン走行に違いがあることも見逃せない.この観点からみれば円錐角膜はユニークである.多くの場合,円錐角膜の極く初期は角膜斜乱視から始まるように思われるからである.角膜の骨格を形作るコラーゲン構造の伸展と部分的断裂が不規則に生じていることを想像させる.眼球形状を考えると軸性近視で眼軸長が延長していくときには,黄斑を中心に後方に伸展していくことが多いようであり,視神経の眼球付着部,すなわち乳頭近傍では経年的には解剖学的ひずみが強くなっていくことが指摘されている.高度近視と正常眼圧緑内障の関連からみると非常に興味あるところである.以上のような視点も含めて,山下高明先生の眼球形状の経年変化,さらには島﨑潤先生の軽度円錐角膜の屈折矯正手段を読み進めてみると面白い.次に,小児の屈折異常,とくに近視とその進行抑制についてである.私が研修医を始めたC50年ほど前には,近視発生機序については,大塚任先生の屈折・眼軸長両因説と佐藤邇先生の水晶体屈折説をめぐる大論争があった.基本的には,そのような議論の延長線上から近視進行抑制法として周辺網膜面上の遠視性デフォーカスを改善させる複数の手段が認められてきたように思われる.スマホ近視の発生機序も形は違うが古くから考えられていたことになる.近視発症の研究に興味ある方々は近視論争にかかわった原著を振り返ると面白いだろう.ここでは,中村葉先生の小児の近視の進行抑制法,根岸貴志先生の子どもの遠視への対処法,日下俊次先生*ShigeruKinoshita:京都府立医科大学感覚器未来医療学講座C0910-1810/20/\100/頁/JCOPY(1)C1465

クリプトコックスによる真菌性眼内炎の1例

2020年11月30日 月曜日

《原著》あたらしい眼科37(11):1455.1458,2020cクリプトコックスによる真菌性眼内炎の1例福井歩美*1,2永田健児*1寺尾信宏*1外園千恵*1*1京都府立医科大学大学院医学研究科視機能再生外科学*2京都府立医科大学附属北部医療センターCARareCaseofEndophthalmitisCausedbyCryptococcusneoformansCAyumiFukui1,2)C,KenjiNagata1),NobuhiroTerao1)andChieSotozono1)1)DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,2)NorthMedicalCenter,KyotoPrefecturalUniversityofMedicineC眼内炎を契機にクリプトコックス感染症を診断した症例を経験した.症例はC85歳,男性.右眼の飛蚊症を主訴に受診した.初診時に右眼底に白色の滲出斑,硝子体混濁を認めた.全身検査を行うも原因の特定には至らず,CbDグルカンは陰性であり,ステロイドCTenon.下注射を施行した.一時的に視力,症状は改善したが,3カ月後に硝子体混濁が増悪したため硝子体手術を施行した.硝子体塗抹から酵母型真菌を認め,術翌日より抗真菌薬の全身投与を開始した.その後,硝子体培養よりCCryptococcusneoformansを検出した.抗真菌薬の長期内服により白色病変は徐々に縮小したが,術後約C7カ月で他疾患のため死亡した.クリプトコックス属は莢膜に菌体が包まれており,CbDグルカンは検出されず陰性となる.真菌性眼内炎を疑い,CbDグルカンが陰性の場合はクリプトコックス抗原の検査や硝子体液の培養を行うことが有用である.CPurpose:ToCreportCaCrareCcaseCofCendophthalmitisCcausedCbyCCryptococcusCneoformans.Casereport:An85-year-oldmalepresentedafterbecomingawareofa.oaterinhisrighteye.Uponexamination,whiteexudatesandvitreousopacitywereobservedontherightfundus.Sincetheresultsofasystemicexaminationfailedtoiden-tifyCtheCcauseCofCintraocularCin.ammation,CandCb-D-glucanCwasCnegative,CaCsub-tenonCinjectionCofCtriamcinoloneCacetonidewasperformed.Althoughhissymptomstemporarilyimproved,vitreousopacityworsenedfor3months,soCvitrectomyCwasCperformed.CAtC1-dayCpostoperative,CaCvitreousCsmearCrevealedCaCyeastCfungus,CandCsystemicCadministrationCofCanCantifungalCdrugCwasCstarted.CC.CneoformansCwasCthenCdetectedCinCtheCvitreousCculture.CTheClong-termCadministrationCofCtheCantifungalCdrugCgraduallyCreducedCtheCwhiteClesion,Chowever,CtheCpatientCdiedCofCanotherCdiseaseC7CmonthsCafterCsurgery.CConclusion:SinceCtheCCryptococcusCbodyCisCencapsulated,CitCcannotCbeCdetectedbyb-D-glucan.Thus,incasesofendophthalmitiswithsuspectedfungalinfectionyetnegativeb-D-glu-can.ndings,avitreouscultureshouldbecheckedfortheCryptococcusCantigen.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C37(11):1455.1458,C2020〕Keywords:クリプトコックス眼内炎,クリプトコックス・ネオフォルマンス,CbDグルカン,抗真菌薬,フルコナゾール.cryptococcalendophthalmitis,Cryptococcusneoformans,bD-glucan,antifungaldrug,.uconazole.Cはじめにクリプトコックス症はCCryptococcus属による感染症で,真菌感染症の一種である.おもに肺や皮膚から感染して病巣を形成する.肺炎として発症する肺クリプトコックス症が多いが,とくに中枢神経系に播種し,髄膜炎へ移行すると予後が悪いとされる1).また,クリプトコックス髄膜炎は約C40%に視力低下や眼筋麻痺,眼内炎,乳頭浮腫やCMariotte盲点拡大,視神経萎縮などの眼症状を合併するという報告2.5)がある.しかし,クリプトコックス感染症において,クリプトコックス眼内炎のみを認める報告はきわめてまれ6,7)であり,クリプトコックス眼内炎の治療法は確立されていない8,9).すでに他臓器がクリプトコックス症に罹患している場合は,上記の眼症状を認めた際に眼球への感染を疑う10)ことができるが,眼症状のみの場合にクリプトコックス症を鑑別にあ〔別刷請求先〕永田健児:〒602-0841京都市上京区河原町通広小路上ル梶井町C465京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学Reprintrequests:KenjiNagata,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,465Kajii-cho,Hirokoji-agaru,Kawaramachi-dori,Kamigyo-ku,Kyoto602-0841,JAPANC図1初診時の画像検査a:初診時の広角眼底写真.塊状の硝子体混濁(.)を認めた.b:初診時の光干渉断層計(OCT).上:網膜上に沈着物(.)を認めた.下:白色病巣のCOCT.網膜内層に高輝度な病変(.)を認めた.Cc:初診時のフルオレセイン蛍光造影.病巣部位は低蛍光(.)であり,病巣の近傍の血管から淡い漏出(.)を認めた.げることは容易ではない.今回,眼症状を契機にクリプトコックス感染症と診断され,抗真菌薬の長期投与により軽快した症例を経験したので報告する.CI症例患者:85歳,男性.既往歴:高血圧,糖尿病,肝硬変,腹部大動脈瘤術後,肺癌,前立腺癌.中心静脈栄養や免疫抑制薬の使用はなかった.現病歴:10日前より右眼に飛蚊症と霧視を自覚し,当科を受診した.鳥類の飼育歴はなく,野生の鳥類との接触もなかった.初診時所見:視力は右眼(0.8),左眼(1.0),眼圧は右眼17CmmHg,左眼C14CmmHgであった.右眼には角膜後面沈着物,白内障と塊状の硝子体混濁,網膜に白色病巣を認めた(図1a).左眼は異常所見を認めなかった.光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)では右眼の網膜内層に高輝度な病変を認め,網膜上には沈着物を認めた(図1b).病巣部に脈絡膜肥厚は認めなかった.フルオレセイン蛍光造影では病巣部位は低蛍光であり,病巣の近傍の血管から淡い漏出を認めた.視神経乳頭の造影は正常であった(図1c).全身検査所見:白血球数は正常範囲であり,CRP(反応性蛋白)はC0.87Cg/dlと軽度上昇していた.その他一般血液検査に明らかな異常所見を認めなかった.可溶性インターロイキンC2レセプターは軽度上昇(530CIU/ml)を認め,アンギオテンシンCI転換酵素(ACE)はC9.1U/mlと正常であり,CbDグルカンは陰性であった.結核菌CIFN-g測定(T-SPOT.TB)は陽性であったが追加で行った喀痰検査で抗酸菌は陰性であったことから,結核の既感染が示唆された.胸部CX線では肺癌治療後の瘢痕性病変は認めるものの,肺門リンパ節腫脹や肺炎などを疑う所見は認めなかった.臨床経過:原因不明のぶどう膜炎として,まずはトリアムシノロンアセトニドCTenon.下注射(sub-TenonCtriam-cinoloneCacetonideinjection:STTA)を施行した.注射後一時的に視力はC1.0まで回復し,硝子体混濁の改善を認めたが,STTA80日後には視力がC0.02まで低下し,硝子体混濁も悪化したため硝子体手術を施行した(図2).硝子体は全体的に混濁しており,透見不良で,網膜血管に沿った白色沈着物と黄斑の耳側に白色病巣を認めた(図3a).術中に採取した硝子体の塗抹検査で酵母型真菌が検出されたため,真菌性眼内炎として,術翌日からボリコナゾールC400Cmg/日の内服で治療を開始した.術後C9日目に硝子体培養よりCCryptococ-cusneoformans(図3b)を検出し,追加で行った血液検査よりCCryptococcusneoformans抗原を検出した.これらの結果からクリプトコックス性眼内炎と診断し,眼球以外の病変検図2STTA80日後の広角眼底写真硝子体混濁(.)が増悪し,網膜血管に沿った白色沈着物(.)を認めた.図4最終受診時の広角眼底写真硝子体混濁は改善し,白色病巣(.)は縮小している.血管に沿った沈着物は著明に改善した.索を行った.神経学的所見に異常はなく,髄膜刺激症状も認めないことから髄膜炎は否定的であった.喀痰検査と血液培養は陰性,胸部CCTにて肺野に感染巣を疑う所見はなく,ガリウム(Ga)シンチグラフィにおいても右眼球以外に明らかな異常集積は認めなかった.その後,ボリコナゾールの硝子体内注射をC2回施行したが効果は明らかではなかったため,内服薬をクリプトコックスの第一選択薬のフルコナゾールC400Cmg/日に変更した.しかし,改善が乏しかったためにアムホテリシンCBリポソーム150Cmg/日の投与に変更したが,全身倦怠感,低CK血症,嘔気,食欲減退などのアムホテリシンCBの副作用を生じたため継続困難となり,フルコナゾールの内服を再開した.その後はフルコナゾールを漸減し(200Cmg/日),約C7カ月にわた図3術中写真と培養結果a:術中写真.硝子体混濁を取り除くと,網膜血管に沿った白色沈着物と黄斑の耳側に白色病巣(.)を認めた.Cb:採取した硝子体の培養からCCryptococcusneoformansの菌体を認めた(墨汁染色).る長期内服を行った.内服を開始した当初の数カ月は眼底の白色病巣は徐々に縮小したが,内服期間が長期になるにつれて,改善速度は低下したものの,視力は緩徐に改善した.なお,本症例は当科で治療中に,消化器内科にて肝臓癌が指摘され,放射線治療が開始されたが改善に乏しく,術後C7カ月の眼科診察の後に死亡した.最終来院時の視力はC0.5であった(図4).CII考按クリプトコックス症はCCryptococcus属真菌により発症し,おもにCCryptococcusneoformansが原因真菌であることが多い.Cryptococcusneoformansは通常土壌に生息し,ハトなどの鳥類の糞便中で増殖する.乾燥することで空気中に飛散し,吸入され,肺に感染巣を作ることが多い11).また,クリプトコックス症は多くの場合,悪性腫瘍,糖尿病,膠原病,血液疾患,ステロイド・免疫抑制薬投与や腎移植後,HIV感染症などの基礎疾患をもつ患者に発症し,基礎疾患をもたない健常人の発症は全体のC20%とされる12).本症例については,鳥類の飼育歴やハトなどの野生の鳥の接触歴はなく,具体的な感染経路は特定できなかった.しかし,高齢であり,糖尿病や肺癌,前立腺癌など基礎疾患が多数認められることや,治療中に肝臓癌が発見されたことから,感染のリスクは健常人に比べ高いと考えられた.また,肺癌に対して放射線,化学療法後であったことや,以前より胸水貯留を認めていたことから,肺野の評価が困難であった.したがって,胸部CCTで明らかな感染巣は認めなかったものの,肺が感染源の可能性が高い.本症例では前眼部に角膜後面沈着物,中間透光体には塊状の硝子体混濁,眼底には網膜に白色病巣を認め,OCTでは網膜内層を中心とした病変を認めたことから,サルコイドーシスや真菌性眼内炎が鑑別疾患にあげられた.血液検査では,可溶性インターロイキンC2レセプターが軽度上昇しており,bDグルカンは陰性であった.さらに中心静脈栄養の既往もなく,真菌性眼内炎と診断する根拠がないため,原因不明のぶどう膜炎としてCSTTAを施行した.STTAで一時的に所見が改善したが,硝子体混濁の悪化がみられたため硝子体手術を行い,採取した硝子体の解析を行った.Cryptococ-cus属は莢膜に菌体が包まれており,真菌のマーカーであるCbDグルカンは検出されず陰性となる11).診断には墨汁染色による菌体の確認や培養検査,抗原検査が有用である.本症例においては,CbDグルカンは陰性であったが,クリプトコックス抗原の検査や,硝子体液の培養でCCryptococcusneoformansの菌体を検出したことで,クリプトコックス性眼内炎と診断した.一般的にステロイド治療への反応が不良なぶどう膜炎では,硝子体網膜リンパ腫の可能性を考えることが多い.本症例は採取した硝子体における種々の解析結果から,硝子体網膜リンパ腫は否定的であった.このような場合はクリプトコックス眼内炎も鑑別にあげる必要がある.クリプトコックス症の抗真菌薬治療についてわが国の「深在性真菌症の診断・治療ガイドライン」8)では,クリプトコックス脳髄膜炎と肺クリプトコックス症の治療方針は定められているが,本症例のような眼球内のみといった単一部位感染についての治療方針は定められておらず,同様の報告は数例のみであった6,7).それらの報告では,クリプトコックス症が眼球内のみに認められた症例に対して,アムホテリシンCBやフルシトシン,ボリコナゾールなどの抗真菌薬の長期内服を行うことで,病状が改善したと報告されている6,7).本症例においても,抗真菌薬長期投与により良好な経過をたどることができたが,その経過は投与直後から治療効果が顕著に現れるというものではなく,長期的にみて少しずつ改善しているというものであった.前述のガイドライン8)にて,維持療法での第一選択薬はフルコナゾールを推奨されていたため,長期投与の抗真菌薬としてフルコナゾールを選択した.フルコナゾールはアゾール系抗真菌薬の一種であり,真菌の細胞膜の主成分であるエルゴステロールの合成を阻害する.静脈投与と経口投与があり,いずれも生物学的利用能が高く,安全性も高いとされ,長期投与のため経口投与が有用であった.本症例を経て,真菌性眼内炎を疑う症例ではCbDグルカンが陰性であったとしても,クリプトコックス性の眼内炎を鑑別にあげ,クリプトコックス抗原の検査や硝子体液の培養を行うことが有用であることがわかった.また,クリプトコックス性眼内炎の治療には抗真菌薬長期投与が必要であると考えられた.文献1)PerfectJR,DismukesWE,DromerFetal:Clinicalprac-ticeCguidelinesCforCtheCmanagementCofCcryptococcalCdis-ease:2010CupdateCbyCtheCinfectiousCdiseasesCsocietyCofCamerica.ClinInfectDisC50:291-322,C20102)OkunE,ButlerWT:Ophthalmologiccomplicationsofcryp-tococcalCmeningitis.ArchOphthalmolC71:52-57,C19643)HissPW,ShieldsJA,AugsburgerJJ:Solitaryretinovitre-alCabscessCasCtheCinitialCmanifestationCofCcryptococcosis.COphthalmologyC95:162-165,C19884)HilesCDA,CFontRL:BilateralCintraocularCcryptococcosisCwithCunilateralCspontaneousCregression.CReportCofCaCcaseCandreviewoftheliterature.AmJOphthalmolC65:98-108,C19685)KhodadoustAA,PayneJW:Cryptococcal(torular)retiniC-tis.Aclinicopathologiccasereport.AmJOphthalmolC67:C745-750,C19696)VelaCJI,CDiaz-CascajosaCJ,CSanchezCFCetal:ManagementCofendogenouscryptococcalendophthalmitiswithvoricon-azole.CanJOphthalmolC44:e61-e62,C20097)SheuSJ,ChenYC,KuoNWetal:Endogenouscryptococ-calendophthalmitis.OphthalmologyC105:377-381,C19988)深在性真菌症のガイドライン作成委員会:深在性真菌症の診断・治療ガイドライン.2014.協和企画,20149)CustisCPH,CHallerCJA,CdeCJuanCE,Jr:AnCunusualCcaseCofCcryptococcalendophthalmitis.RetinaC15:300-304,C199510)設楽幸治,土屋櫻,矢島照紘ほか:クリプトコッカス球後視神経炎のC1例.あたらしい眼科C16:1745-1748,C199911)武田和明,泉川公一:2.クリプトコックス症.日本胸部臨床73:1019-1028,C201412)PappasPG,PerfectJR,CloudGAetal:CryptococcosisinhumanCimmunode.ciencyCvirus-negativeCpatientsCinCtheCeraofe.ectiveazoletherapy.ClinInfectDisC33:690-699,C2001C***