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屈折矯正手術セミナー:放射状角膜切開術後の長期角膜屈折力変化

2024年3月31日 日曜日

●連載◯286監修=稗田牧神谷和孝286.放射状角膜切開術後の長期角膜岩本悠里高静花大阪大学医学部眼科学教室屈折力変化放射状角膜切開術(RK)後に進行性の角膜扁平化が生じることは知られている.RK後C20年以上経過した患者の長期的な角膜屈折力の変化の検討でも,角膜扁平化や不正乱視の増加,屈折力の変動が大きいことがわかった.白内障手術目的でCRK後患者が受診した際には,とくに眼内レンズ選択において十分な注意が必要である.●はじめに放射状角膜切開術(radialkeratotomy:RK)はC1980.1990年代にかけて行われていた屈折矯正手術である.前方角膜を放射状に切開することで角膜中央部を平坦にし,近視を矯正する.術後C10年の長期報告によれば,RKは妥当な安全域を有しているとされているが1),RKに伴う術後合併症には以下のようなものが知られている.術後長期にわたる遠視化,正乱視および不正乱視の増加,屈折の日内変動,ハロー・グレアの出現,角膜生体力学的強度の低下,角膜穿孔,角膜内皮機能障害,三叉神経切断に伴うドライアイ,感染症などである2).新しい屈折矯正手術の出現によりCRKは現在ではほぼ行われていない.C●角膜屈折力の経時的変化RK後に角膜扁平化が生じることは知られており,Scheimp.ugカメラを用いた既報においても角膜前面および後面の曲率半径の球面成分の減少がみられ,角膜前面および後面の平衡性の崩れ,角膜曲率の前後比の減少も報告されている3).RK後C20年間の視力やケラトメトリーの値に関する症例報告は知られているが,長期にわたって角膜前面,後面について経時的に検討した報告は知られていない.1990年代にCRKを受け,術後C20年以上経過した患者について,前眼部光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)を用いて長期的な角膜屈折力の変化を後ろ向きに検討したので紹介する4).C●症例初診時C41歳,男性.1993年に両眼CRK施行.術後から霧視の訴えがあり,1997年当科紹介受診.細隙灯顕微鏡検査で両眼角膜に8本の放射状切開痕,微小穿孔(microperforation:MP)を認め,左眼には乱視矯正角膜切開術(astigmatickeratotomy:AK)も併用されていた(図1).(83)C0910-1810/24/\100/頁/JCOPY図1症例1の細隙灯顕微鏡検査写真両眼ともにC8本切開のCRK痕が認められる..はMP,.はAKの瘢痕を示している.(文献C4より改変引用)初診時右眼視力はC0.1(0.5×sph+11.0(cyl.5Ax5°),左眼はC0.07(0.5×sph+13.0(cyl.5Ax180°)と強い遠視化を認めた.初診時から両眼ともに球面ハードコンタクトレンズ装用を開始,2023年現在も継続している.RKの術中角膜穿孔はCMPとCmacroperforationに分類される.Macroperforationと異なりCMPは通常,縫合や手術の中止を必要としないがCMPによる瘢痕は不正乱視を誘発する可能性があり,約C2.35%の患者に発生する.OCTを用いた屈折力の評価は,Fourier解析を用いて球面成分,正乱視成分,非対称成分,高次不整成分のC4成分に分類し,それぞれ定量化した.後者二つの非対称成分,高次不整成分が角膜不正乱視である.片眼または両眼にCMPを生じたC3人の患者においてC8年以上COCTを用いて角膜屈折力を評価したところ,総じて「角膜扁平化,不正乱視が強い,また観察期間中の変動が大きいことがわかった(図2).角膜前面および後面の不正乱視がともに大きく,経過中の変動が大きい傾向があった.前面の非対称成分は観察期間中に減少傾向を認めた.提示症例のように片眼のみに乱視矯正角膜切開術が追加された症例では,前面および後面の正乱視成分と後面の非対称成分の両方で値が大きかった.RKの術前および術中の情報がないため詳細は不明だが,手術適応および術式が適切であったかどうかが不正乱視の量に影響している可能性がある.あたらしい眼科Vol.41,No.3,2024319a球面成分(D)角膜前面50454035302520151050192021222324252627282930(Y)c非対称成分角膜前面(D)(D)122.510281.56140.5200192021222324252627282930(Y)192021222324252627282930(Y)Case1RCase1LCase3RCase3L(D)角膜後面0-1-2-3-4-5-6192021222324252627282930(Y)角膜後面b正乱視成分角膜前面(D)3.5(D)0.7角膜後面30.62.50.521.510.50192021222324252627282930(Y)d高次不整成分(D)角膜前面2.521.510.50192021222324252627282930(Y)Case2RCase2LCase4RCase4L0.40.30.20.10192021222324252627282930(Y)(D)角膜後面0.80.70.60.50.40.30.20.10192021222324252627282930(Y)図2角膜屈折力変化(角膜前面,後面)横軸はCRK後の年数.Case1とCCase3は両眼に,Case2は右眼のみにCMPを伴っている.Case4は術後裸眼視力含め経過良好なCRK後の症例を対照例として示した.(文献C4より改変引用)●RK患者を診たら現在CRKが行われることはなくなった.しかし,RK後の患者が加齢に伴って白内障手術のために眼科を受診する機会は増えてきている.もともと近視眼ゆえ,緑内障,網膜疾患などの診断および治療で受診する可能性も十分にある.RK眼では前述のとおり,前後面の角膜曲率半径の比率が変化するため,標準的な眼内レンズ(intraocularlens:IOL)度数計算式では換算屈折率の誤差が大きく,IOLの度数ずれを引き起こす可能性が高い.術後のCIOL度数計算式の比較について数多くの研究がなされている.術後屈折値のより正確な予測のためには,BarrettTrueK式,標準CHaigis式,またはそれらの式を含め,平均C3種類以上の計算式を用いることが推奨されている5).術後のCIOL度数ずれについても患者に十分な術前説明が必要である.不正乱視の増大やハロー・グレアなどの合併症を伴う患者も多く,多焦点IOLは推奨されない.術中にCRK切開部の.離や,同部位の穿孔リスクがあることから,切開の部分を適切に計画することも重要である.C●おわりにRK施行眼では術後C20年以上経過しても角膜屈折力C320あたらしい眼科Vol.41,No.3,2024の変動が見られるため,術後長期経過後も注意深い観察が必要である.RK後の患者が受診した際には十分な説明,とくに白内障手術の際はCIOLの選択に注意を要する.文献1)WaringCGOCIII,CLynnCMJ,CMcDonnellPJ:ResultsCofCtheCprospectiveevaluationofradialkeratotomy(PERK)study10yearsaftersurgery.ArchOphthalmolC112:1298-1308,C19942)山口達夫:角膜全面放射状切開術の現況.眼科手術C5:C19-30,C19923)CamellinCM,CSaviniCG,CHo.erCKJCetal:Scheimp.ugCcam-erameasurementofanteriorandposteriorcornealcurva-tureCinCeyesCwithCpreviousCradialCkeratotomy.CJCRefractCSurgC28:275-279,C20124)IwamotoCY,CKohCS,CInoueCRCetal:Long-termCcornealCrefractiveCpowerCchangesCtwoCdecadesCqfterCradialCkera-totomywithmicroperforations.EyeContactLens49:258-261,C20235)Do.owiec-KwapiszCA,CMisiuk-Hoj.oCM,CPiotrowskaH:CCataractCsurgeryCafterCradialCkeratotomyCwithCnon-di.ractiveCextendedCdepthCofCfocusClensCimplantation.Medicina(Kaunas)C58:689,C2022(84)

コンタクトレンズセミナー:英国コンタクトレンズ協会のエビデンスに基づくレポートを紐解く コンタクトレンズの湿潤性,洗浄,消毒および涙液との相互作用(前編

2024年3月31日 日曜日

■オフテクス提供■3.コンタクトレンズの湿潤性,洗浄,消毒土至田宏順天堂大学医学部附属静岡病院眼科および涙液との相互作用(前編)松澤亜紀子聖マリアンナ医科大学,川崎市立多摩病院眼科英国コンタクトレンズ協会の“ContactCLensCEvidence-BasedCAcademicReports(CLEAR)”の第C3章は,コンタクトレンズの湿潤性や洗浄・消毒,および涙液との相互作用をとりあげている1).今回は前編として,湿潤性や物性について解説する.はじめに今回は第C3章でとりあげているCCLのポリマーとレンズ表面について,また,これらと酸素透過性,湿潤性,涙液との相互作用について解説する.酸素透過性CLの素材は過去C20年間で大きな進歩をとげており,とくにシリコーンハイドロゲル素材の導入は注目に値する.その登場はCCL装用における低酸素症の問題を解決させた一方,とくにCCL装用時の快適性の追求など,CLの処方成功とその後の装用継続のための要因に関する研究はさらに必要だとしている.研究室レベルでの実験では,CLの酸素透過性の向上によって,レンズに吸着される蛋白質や脂質などの涙液成分の種類や,付着する微生物の種類に変化が生じた.これらの変化は,酸素透過性を高めるために使用されるポリマー固有の疎水性によって引き起こされた可能性がある.CLの生体適合性はレンズ表面の湿潤性と関連しており,湿潤性向上への取り組みが行われている.湿潤性の研究成果CLの湿潤性とCCL装用中の快適性に関する研究が展開されている.以下に湿潤性に関連する用語のいくつかを解説する.C①CDynamicCsessileCdropConCinclinedsubstrates:板上の水滴などの液滴が,板を傾け基板上を動き出す直前に,液滴の前進および後退接触角を測定する方法.その挙動を通じて,CL材料の湿潤性や液体との相互作用や表面特性の評価を行う.C②CDynamicCsessiledropCgoniometry:動的な液滴角度測定法(伸縮法)で,斜面での液滴の移動により液滴の体積を変化させ,接触角を前進および後退時に測定する方法.材料表面の湿潤性,液体の滴が表面をどれだけ速く拡散するか,液体滴の移動における相互作用,固体表面の特性などを評価する.C③CDynamicCcaptiveCbubblemethod:固体の表面に触れた気泡を拡大・収縮させて,前進および後退接触角を測定する方法.材料の表面特性や液体との相互作用の評価に有用である.C④CWilhelmyplate:サンプルを液体に浸すときと引き表1国際標準化機構(InternationalOrganizationforStandardization,ISO)による,ISO18369-1:2017に基づくソフトコンタクトレンズ(SCL)素材の分類2)グループレンズタイプ特性CIIIIIIIVVVAVBVC低含水率・非イオン性高含水率・非イオン性低含水率・イオン性高含水率・イオン性高酸素透過性素材(例:シリコーンヒドロゲル,シリコーンエラストマー)イオン性サブタイプ高含水サブタイプ低含水サブタイプ含水率がC50%未満であり,pH6.8で非イオン性のモノマーがC0.5質量%以下含まれている素材C含水率がC50%以上であり,pH6.8で非イオン性のモノマーがC0.5質量%以下含まれている素材C含水率がC50%未満で,pH6.8でイオン性のモノマーがC0.5質量%以上含まれている素材C含水率がC50%以上で,pH6.8でイオン性のモノマーがC0.5質量%以上含まれている素材C酸素透過率(CDk)がC40CDk単位以上であり,そのCDk値が材料の水分含有量のみを基準として予想されるCDk値よりも高い素材CグループⅤに該当し,pH6.8でイオン性のモノマーまたはオリゴマーを含むサブグループCグループⅤに該当し,含水率がC50%以上で,CpH6.C8でイオン性のモノマーまたはオリゴマーを含まないサブグループCグループⅤに該当し,含水率がC50%未満で,CpH6.C8でイオン性のモノマーまたはオリゴマーを含まないサブグループ注:FAD分類とは異なる(I.IVも一部異なっている)(81)あたらしい眼科Vol.41,No.3,2024C3170910-1810/24/\100/頁/JCOPY上げるときに必要な力を測定して,前進接触角と後退接触角を算出する方法で,界面活性剤の表面吸着や材料の浸透性,液体の湿潤性などの評価に有用である.湿潤性と快適性の明確な関連性は不明確であり,研究の方法や被験者の違い,環境要因などが影響している.湿潤性を測定する方法はいくつかあるが,臨床的に確立されたものはまだなく,さらなる研究が必要である.非侵襲的な表面乾燥時間(non-invasiveCtearCbreak-uptime:NIBUT)はCCLの湿潤性を評価するためのもっとも一般的な方法の一つであるが,再現性に課題がある.CLへの涙液成分の付着は装用開始後数分で発生する可能性があり,これがCCL表面の湿潤性に影響を及ぼすことから,湿潤性を維持し,眼へのCCL装用中の快適さを長期間保つ必要がある.湿潤性の維持レンズ表面の湿潤性は装用中に変化し,快適性に影響を与える可能性がある.個々の要因,たとえば涙液組成,瞬目に伴う涙液の蒸発,眼表面温度,レンズの材質,装用時間,レンズ交換スケジュールなどが湿潤性に影響を及ぼす可能性がある.①ブリスターパック内の保存液:CLの湿潤性を向上させる方法の一つは,ブリスターパック内の保存液の表面張力を低減させる手法である.以前は緩衝剤が使用されたが,最近では各種界面活性剤が使用され,CL装用時の快適性向上に寄与している.しかし,保存液の表面張力,粘度,pHなどの物理的特性も湿潤性に影響を及ぼす可能性がある点に要注意である.②瞬目と涙液の蒸発:CLの湿潤性を保つ実用的な方法の一つは,瞬目頻度を適切に保つことである.瞬目は眼表面で涙液を均等に広げることによりレンズ表面の湿潤性を向上させる.高度な作業やデバイスの使用は瞬目頻度を減少させ,涙液の不安定性を引き起こす可能性がある.瞬目不全は症状を悪化させ,快適性に影響を及ぼす可能性がある.③湿潤液:CL装用者の眼の乾燥と不快感を緩和するために湿潤液が使用されるが,その効果は一時的である.涙液の状態改善のために点眼薬も使用される.これらはそれぞれ特性が異なり,CLの材料とも相互作用が異なる.また,CLの湿潤性に対する影響は個人差があり,効果判定まで数カ月かかることもある.涙液や粘膜の分泌を促進する薬剤もCCLの湿潤性向上に寄与する可能性がある.CLの湿潤性向上には,点眼薬の種類や成分,使用期間による効果の違いがあり,とくにヒアルロン酸ナトリウムを含む点眼薬が有益であることが示唆された.④レンズケア剤:レンズケア剤は消毒と洗浄,保存を目的とし,一般に抗菌薬,界面活性剤,緩衝剤,キレート剤,保存料を含む.SCLの場合,保存中にもレンズを湿潤させる必要がある.レンズケア溶液は,湿潤剤やCCLの特性によって異なる相互作用が生じる.研究によってその効果はCCLの湿潤性についても一致した結論はまだ得られていない.おわりに今回はCCLEARの第C3章の前半を要約し解説した.日本では湿潤液の使用の有無やレンズケア剤の種類など,いくつかの点で英国での事情とは異なることに留意しておく必要がある.とくに表1の国際標準化機構(ISO)によるCSCLの分類2)は,米国食品医薬品局(FDA)による含水性CSCLの素材別に分類したCFDA分類とは異なる点に注意を要する.ISO分類では一部素材の割合が異なるほか,FDA分類にはまだないグループⅤとそのサブタイプがある.このグループⅤにはシリコーンハイドロゲル素材が,シリコーンエラストマーとともに分類されている.文献1)WillcoxM,KeirN,MaseedupallyVetal:CLEAR-Con-tactlenswettability,cleaning,disinfectionandinteractionswithtears.ContLensAnteriorEyeC44:157-191,C20212)ISO18369-1:2017.Ophthalmicoptics-contactlenses-part1:vocabulary,Cclassi.cationCsystemCandCrecommen-dationsCforClabellingCspeci.cations.C2017.Chttps://www.iso.Corg/standard/66338.htmlC

写真セミナー:Thiel-Behnke角膜ジストロフィ

2024年3月31日 日曜日

写真セミナー監修/福岡秀記山口剛史478.Thiel-Behnke角膜ジストロフィ下田悠元福岡秀記京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学図2図1のシェーマ①ハニカム状混濁図1紹介受診時の前眼部写真(左眼)中央およびその周辺の角膜上皮から実質浅層にかけて,ハニカム状の上皮下混濁を認めた.図4前眼部OCT所見中輝度の沈着物がCBowman層から角膜上皮層に向かって鋸歯状のパターンで認められた.図3前眼部所見(フルオレセイン染色による観察)角膜上皮の凹凸を認めた.(79)あたらしい眼科Vol.41,No.3,2024C3150910-1810/24/\100/頁/JCOPY幼少期より両眼の角膜びらんの再発を繰り返し眼科に通院していた症例(61歳,女性)を提示する.成人後は角膜びらんの再発はなくなったが,びらんの治癒過程で生じた角膜混濁は残存しており,視力低下を認めていた.白内障手術後から視力低下およびコントラストの低下といった自覚症状が増悪してきたため,精査および加療目的で京都府立医科大学附属病院を紹介を受診した.初診時所見として,細隙灯顕微鏡および前眼部光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)で両眼の角膜中央から周辺部に,上皮から実質浅層のハニカム状の混濁を認めた(図1~3).また,角膜不正乱視を認め,両眼の矯正視力は右眼(0.5),左眼(0.6)と不良であった.家族歴としては父親が両眼に同様の角膜混濁があり視力不良であった.同胞の弟には角膜混濁を認めなかった.病歴および各種検査所見から角膜ジストロフィを疑って遺伝子検査を行ったところ,後日,transformingCgrowthCfactorCbetainduced(TGFBI)遺伝子のCArgC-555Glnの変異を認め,Thiel-Behnke角膜ジストロフィ(Thiel-Behnkecornealdystrophy:TBCD)の診断となった.角膜不正乱視の補正目的で両眼のソフトコンタクトレンズ(softcontactlens:SCL)の装用を行ったところ,矯正視力はCSCL装用下で右眼(0.7),左眼(1.0)と視力の改善を認めた.TBCDはCTGFBI遺伝子の変異により引き起こされる,角膜上皮からCBowman層,実質浅層にかけてハニカム状の混濁を示すまれな角膜ジストロフィの一種である1).幼少期より両眼性の角膜混濁や再発性角膜びらん,緩徐に侵攻する視力低下が生じることが特徴であり,TGFB1遺伝子に変異を認めることが多く,常染色体優性遺伝の遺伝形式をとる.診断は遺伝子検査や前眼部COCT,invivo共焦点顕微鏡などによって行われる.わが国では角膜ジストロフィに対する遺伝子検査は保険適用であり,TGFBI遺伝子においてCArg555Glnの変異が認められればCTBCDの確定診断となる2).前眼部COCTでは中輝度の沈着物がBowman層から角膜上皮層に向かって鋸歯状のパターンで認められ3),また,invivo共焦点顕微鏡にて角膜上皮層からCBowman層にかけて高輝度の沈着物が認められることでCTBCDの診断となる4).治療は,角膜不正乱視に対してはCSCL装用やハードコンタクトレンズ装用が行われる.角膜混濁に対しては治療的表層角膜切除術(phototherapeuticCkeratecto-my:PTK),全層角膜移植術(penetratingCkeratoplas-ty:PKP),表層角膜移植術(lamellarkeratoplasty:LKP)などが行われる.PTKはCPKPやCLKPと比較し,低侵襲で回復も早く比較的安全な術式であるが,術後合併症として遠視化や角膜不正乱視などが認められる.近年,PTKに波面収差を用いたレーザー屈折矯正術を併用することで,遠視化や高次収差を減少させることができたという報告もある5,6).文献1)ThielCHJ,CBehnkeH:AChithertoCunknownCsubepithelialChereditaryCcornealCdystrophy.CKlinCMonblCAugenheilkdC150:862-874,C19672)YuCY,CQiuCP,CZhuCYCetal:ACnovelCphenotype-genotypeCcorrelationCwithCanCArg555TrpCmutationCofCTGFBICgeneCinThiel-BehnkecornealdystrophyinaChinesepedigree.BMCOphthalmolC15:131,C20153)NishinoT,KobayashiA,MoriNetal:InvivoimagingofReis-BucklersCandCThiel-BehnkeCcornealCdystrophiesCusingCanteriorCsegmentCopticalCcoherenceCtomography.CClinOphthalmol14:2601-2607,C20204)KobayashiA,SugiyamaK:Invivolaserconfocalmicros-copyC.ndingsCforCBowman’slayerCdystrophies(Thiel-BehnkeandReis-Bucklerscornealdystrophies).Ophthal-mologyC114:69-75,C20075)HiedaCO,CKawasakiCS,CWakimasuCKYCetal:ClinicalCout-comesCofCphototherapeuticCkeratectomyCinCeyesCwithCThiel-Behnkecornealdystrophy.AmJOphthalmolC155:C66-72,C20136)HsiaoCC,HouYC:Combinationofphototherapeuticker-atectomyCandCwavefront-guidedCphotorefractiveCkeratec-tomyCforCtheCtreatmentCofCThiel-BehnkeCcornealCdystro-phy.IndianJOphthalmol65:318-320,C2017

ぶどう膜炎(Vogt・小柳・原田病)

2024年3月31日 日曜日

ぶどう膜炎(Vogt・小柳・原田病)Uveitis(Vogt-Koyanagi-HaradaDisease)長谷川英一*はじめにぶどう膜炎疾患では眼内全体に炎症が起こる可能性がある.とくに後眼部に炎症が波及した場合は,網膜に加えて脈絡膜にも種々の変化が起きる.光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)では検眼鏡的に観察のむずかしい脈絡膜の描出が可能であり,診断や治療効果判定に有用である.本稿では,ぶどう膜炎をきたす疾患として頻度が高いCVogt・小柳・原田病(Vogt-Koyanagi-Haradadisease:VKH)におけるCOCTの活用と治療について概説する.CIVogt・小柳・原田病のOCT所見VKHは霧視や羞明などを伴う視力低下を自覚し,典型例では急性期に黄斑部や視神経乳頭周囲を中心に両眼性の漿液性網膜.離を生じる.OCTにてこの漿液性網膜.離を観察すると,視細胞外節が網膜色素上皮から.離した網膜.離の像がみられる(図1).さらに分離した視細胞内節と外節の間に滲出液が貯留し,フィブリンによる隔壁を伴い多房性を呈することがある(図2).また,OCTでみられる特徴的な所見として脈絡膜皺襞と脈絡膜肥厚がある.脈絡膜皺襞は網膜色素上皮がひだ状に波打つ像で,これは脈絡膜が肥厚することで網膜色素上皮細胞層が隆起することによる(図3).VKHでは脈絡膜に存在するメラノサイトを標的として,類上皮細胞やリンパ球など多数の炎症細胞が脈絡膜に浸潤することにより脈絡膜が肥厚する(図4).通常,脈絡膜厚は平均250CumでCOCTでは脈絡膜と強膜の境界を容易に確認することができるが,病初期には脈絡膜厚の肥厚がみられ,ときにC800Cum以上に肥厚することもあり,脈絡膜と強膜の境界が不明瞭となる.漿液性網膜.離とびまん性の脈絡膜肥厚はCVKHの診断基準に含まれており,これらの所見をCOCTで確認することは診断に重要となる.乳頭浮腫型のCVKHでは視神経乳頭炎がおもであり,漿液性網膜.離を呈さないこともあるが,脈絡膜皺襞と脈絡膜肥厚はみられるので診断の補助となる.CIIVogt・小柳・原田病の治療とOCT所見VKHでは発症早期に十分な炎症抑制を行うことが,のちの再発や遷延化の予防に重要である1,2).一般的にはステロイドパルス療法を行うことが多く,メチルプレドニゾロン(mPSL)1,000Cmg/日をC3日間点滴静注したのち,プレドニゾロン(PSL)内服をC40.60Cmg/日から開始し,5.10Cmg/日ずつ内服量を数カ月かけて漸減しながら継続する3).1回目のステロイドパルス療法でも炎症が強く残存し漿液性網膜.離や脈絡膜皺襞所見の改善に乏しい場合は,続けてC2回目のステロイドパルス療法を行うこともある.ステロイドが奏効し炎症の鎮静化が得られると,漿液性網膜.離や脈絡膜皺襞は消失し,肥厚した脈絡膜も正常化していく(図5).ステロイドパルス療法直後から所見が正常化し視力回復がみられる患者もいれば,PSL内服を継続しながら数週間から数カ月かかって徐々に所見が正常化し視力が回復する患者も*EiichiHasegawa:国立病院機構九州医療センター眼科〔別刷請求先〕長谷川英一:〒810-8563福岡市中央区地行浜C1-8-1国立病院機構九州医療センター眼科C0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(75)C311図1VKHでみられる漿液性網膜.離図2多房性の漿液性網膜.離隔壁内にはフィブリンの貯留もみられる.図3脈絡膜皺襞図4脈絡膜肥厚網膜色素上皮が波打っている像がみられる.脈絡膜と強膜の境界線が不明瞭となっている.図5図4の治療寛解後図6脈絡膜の菲薄化(遷延型の寛解後)漿液性網膜.離は消失している.脈絡膜厚も正常化し,脈絡膜脈絡膜が菲薄化している.と強膜の境界線が明瞭となっている.PSLを増量し治療の強化を図る.当院では再発時のPSL投与量よりプロトコル上C2段階多いCPSL投与量へ戻したうえで,投与期間をC2倍に延ばして再度漸減を行っている.再発の場合でもステロイド治療の強化により多くの患者では炎症の鎮静化を得られるが,この際にステロイドの総投与量に気をつけておかねばならない.ステロイドの総投与量が増えるにつれて,白内障や緑内障などの眼疾患はもちろん大腿骨頭壊死や胸腰椎圧迫骨折などの全身合併症の出現するリスクが高くなるとされる5).再発を繰り返す患者では,炎症鎮静化を得るためにも,またステロイドの総投与量が増えることを避けるためにも,免疫抑制薬や生物学的製剤の導入が必要である.CIII免疫抑制薬と生物学的製剤による治療免疫抑制薬のシクロスポリン(CYA)はC2013年に非感染性ぶどう膜炎に対して保険適用となり,VKHでも使用される.CYAはステロイドを減量するたびに再発する難治患者に対してステロイド内服薬と併用することで,ステロイドを減量することを目的として用いられている.CYAを導入する場合は,ステロイドを有効容量まで増量し消炎が得られたのちにCCYAを導入する.炎症所見の軽快,再燃がないことをCOCTでも確認しながら,ステロイドは漸減していく.CYAの投与量については2.3.mg/kg/日から開始し,1.2.mg/kgずつ増減しながら,最終投与からC12時間後の血中濃度(トラフ値)がC100.ng/mlを目標としC150.ng/mlを超えないようにする.CYAの代表的な副作用として腎障害や肝障害があり,使用中は血中濃度の定期的な測定と同時に肝腎機能のモニタリングも必要である.CYAによる副作用が出現した場合は使用を中止し,生物学的製剤の導入を検討する.生物学的製剤である抗腫瘍壊死因子(tumorCnecrosisfactor:TNF)Ca抗体のアダリムマブ(ADA)はC2016年に非感染性の中間部,後部または汎ぶどう膜炎に適応となった.ステロイド増量やCCYA併用による治療強化を行っても再発を繰り返す難治性のCVKHではCADAを導入する.ADAは結核やCB型肝炎などの各種感染症や悪性疾患の出現リスクがあり,導入に際して事前のスクリーニング検査が必須である.また,使用中も全身状態の定期的な観察が必要であり,内科医との密な連携が求められる.Behcet病による難治性ぶどう膜炎に対して使用されているCTNF阻害薬のインフリキシマブは点滴静注による投与であるのに対し,ADAは自己による皮下投与であるため比較的安易に導入され管理が不十分になる可能性があることから,日本眼炎症学会から使用する医師と施設の基準が示されている6).医師基準は,眼科専門医かつ眼炎症学会の会員でぶどう膜炎診療の十分な経験があること,eラーニング講習を受講しCTNF阻害薬の知識を習得することである.また,施設基準は,副作用の定期的な検査や副作用に迅速に対応できること,TNF阻害薬の使用に精通した内科医との連携が可能なこととされている.ADAの投与方法は,初回にC80Cmgを皮下投与し,1週間後にC40Cmgを,以降はC2週間ごとにC40Cmgを投与する.投与開始後はC2.3カ月ごとに眼所見,全身所見の経過観察をしっかり行う.ADAの導入もやはり炎症の改善とともにステロイドの減量が目的であり,投与後は炎症所見の改善を確認しながらステロイドを漸減していく.日本人の非感染性ぶどう膜炎患者に対するCADA使用の市販後調査では,炎症所見の改善に伴い導入前にはC14.6Cmg/日であった平均ステロイド投与量が,導入C1年後にはC7.2Cmg/日まで減量されており,ADAのステロイド減量効果が示されている7).おわりにVKHの治療においては炎症抑制のための早期の治療導入,また病状に合わせたステロイド量の調整,免疫抑制薬や生物学的製剤の適切な導入が重要である.OCTで病状を正しく把握し治療を行うことで,早期寛解や再発の防止につなげたい.文献1)IwahashiCC,COkunoCK,CHashidaCNCetal:IncidenceCandCclinicalCfeaturesCofCrecurrentCVogt-Koyanagi-HaradaCdis-easeCinCJapaneseCindividuals.CJpnCJCOphthalmolC59:157-163,C20152)LaiCTY,CChanCRP,CChanCCKCetal:E.ectsCofCtheCdurationCofCinitialCoralCcorticosteroidCtreatmentConCtheCrecurrenceCofCin.ammationCinCVogt-Koyanagi-HaradaCdisease.CEye(Lond)C23:543-548,C2009(77)あたらしい眼科Vol.C41,No.3,2024C313

病的近視

2024年3月31日 日曜日

病的近視PathologicMyopia佐柳香織*はじめに強度近視は.6.0Dより強い近視と定義されている.近年,近視が増加傾向で,強度近視も増加傾向にあり,日本では40歳以上の成人の約5.0%を占める1).病的近視の定義は2015年にMETA-analysisofPathologicMyopia(META-PM)studygroupによって「びまん性萎縮以上の網脈絡膜萎縮を伴う,もしくは後部ぶどう腫を有する近視眼」と定義された2).病的近視は近視性黄斑部新生血管(myopicmacularneovascularization:近視性MNV),硝子体黄斑牽引症候群(vitreomaculartractionsyndrome:VMTS)などさまざまな病変を生じ,ときに重篤な視力低下をきたす.I近視性脈絡膜血管症(近視性MNV)近視性MNVは「病的近視眼に合併する脈絡膜血管新生(macularneovascularization:MNO)」である.発症頻度は強度近視の約10%で,30.40%は両眼にみられる3).網膜色素上皮上に存在する2型の小型MNV(通常1乳頭径以下)が多く,自然退縮すると黒い色素沈着を伴うFuchs斑を経て広範囲に網脈絡膜萎縮を生じ,高度の視力障害をきたす.10年後には96.3%が黄斑部脈絡膜萎縮を生じて視力が0.1以下になるとの報告もある4).一方,病的近視眼でない強度近視にもMNVは生じる.この場合,有意に男性に多く,眼軸が短く,ベースラインgreatestlineardimension(GLD)が大きく,ラッカークラックが少なく,ポリープ状脈絡膜血管症(pol-ypoidalchroidalvascuiopathy:PCV)やoccultが多く,対側眼のドルーゼンが多いという加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD)に似た特徴をもち,治療回数も近視性MNVより多い5).「病的近視かどうか」の判定に眼底写真だけでなく,光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)での脈絡膜厚(乳頭周囲びまん性萎縮は鼻側脈絡膜厚56.5μm以下,黄斑部びまん性萎縮は中心窩脈絡膜厚62μm以下)も参考にする6).1.近視性MNVの診断(図1)患者は急な視力低下や歪視を主訴に来院することが多い.網脈絡膜萎縮のために検眼鏡的にMNVや出血を確認できない場合でも,自覚症状がある場合はOCTや光干渉断層血管撮影(OCTangiography:OCTA)で確認する.a.OCT所見OCTでは少量の滲出性変化を伴うドーム状高輝度隆起性病変を網膜下に認める.出血やフィブリンを伴う患者ではMNV上に淡い高輝度塊(subretinalhyperre.ectivematerial:SHRM)が,また外境界膜の不鮮明化も観察される.近視性MNVは小型なため,中心窩スキャンで病変をみつけられない場合があり,中心窩周囲の画像も確認する.近視性網膜分離症などを合併し,MNVの活動性がわかりにくい場合は,造影検査でMNVからの漏*KaoriSayanagi:さやなぎ眼科〔別刷請求先〕佐柳香織:〒666-0017兵庫県川西市火打1-16-6オアシスタウンキセラ川西2階さやなぎ眼科0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(67)303図1近視性MNV典型例70代,男性.眼軸長C29.06mm,RV=(1.5).歪視にて受診.a~f:治療前.a:眼底写真.黄斑部に黄白色塊.b:OCT.網膜下液を伴う網膜下高輝度隆起性病変.Cc:OCTA.ORCCslabで血管シグナル.Cd:フルオレセイン蛍光造影.TypeC2MNV.Ce:インドシアニングリーン蛍光造影(初期).中心窩にCMNV.Cf:インドシアニングリーン蛍光造影(後期).ラッカークラック.Cg~i:抗CVEGF療法C1カ月後.Cg:眼底写真.周辺に色素を伴うCMNV.Ch:OCT:網膜下液は消失.MNVはRPEで囲い込まれている.Ci:OCTA.血管シグナルは治療前より小さくなっている.図2単純出血の例70代,女性.眼軸長C26.57mm,LV=(0.9).a~f:初診時.a:眼底写真.黄斑部に出血.b:OCT.網膜下高輝度病変.RPEラインは保たれている.c:OCTA.CCslabで血管シグナルはみられない.Cd:フルオレセイン蛍光造影.出血によるブロックのみ.e,f:インドシアニングリーン蛍光造影(初期,後期).中心窩に小さなラッカークラック.g~i:半年後.g:眼底写真.出血は消退.h:OCT.高輝度病変は消失.i:OCTA.血管シグナルはみられない.図3近視性MNVの例80代,女性.LV=(0.6).a:OCT.中心窩下にCPREに囲われたCMNVを認める.網膜分離症を伴っている.Cb:OCT.MNVの境界が不明瞭となり,MNV上部にCSHRMを認める().図4近視性網膜分離症の分類(OCTによる)a:S0.明らかな網膜分離なし.Cb:S1.中心窩外網膜分離.Cc:S2.中心窩のみの網膜分離.Cd:S3.中心窩だが黄斑全体に及ばない網膜分離.e:S4.黄斑全体に及ぶ網膜分離.図5網膜分離症の進行80代,女性,眼軸長C28.75mm.Ca:眼底写真では黄斑部に萎縮を認める.b:外層CLMHを伴う網膜分離症.Cc:分離症の丈が高くなってきている.Cd:網膜分離症内にCRDを生じている.内層CLMHも認める.Ce:硝子体手術後.網膜分離,RDともに一部を残して復位している.e図6近視性MHの例a:外層LMH.網膜分離症を伴っている.硝子体や内境界膜による牽引もみられる.Cb:MH(.at型).c:MH(schisis型).Cd:MHRD..離丈が高いため画像が一部反転している.C–’C—

加齢黄斑変性・パキコロイド関連疾患

2024年3月31日 日曜日

加齢黄斑変性・パキコロイド関連疾患Age-RelatedMacularDegenerationandPachychoroidSpectrumDisease森隆三郎*はじめに加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD)・パキコロイド関連疾患(pachychoroidspec-trumdisease:PSD)の診療において,光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)や光干渉断層血管撮影(OCTangiography:OCTA)を用いることにより,黄斑部新生血管(macularneovascularization:MNV)の有無や疾患活動性の判断が可能となり,網膜疾患専門医でなくてもフルオレセイン蛍光造影(.uoresceinangiography:FA)やインドシアニングリーン蛍光造影(indocyaninegreenangiography:IA)を施行せず,多くの患者で診断や治療後の評価が可能となっている.ベストの治療をめざすためには初診時の確定診断と治療開始後の効果判定が重要であり,そのためにOCTとOCTAの読影は正確に即時にしなければならない.本稿では,AMDとPSDの日常診療におけるOCTとOCTAの読影について画像を提示し解説する.なお,AMDはわが国の診断基準では,滲出型AMDと萎縮型AMDに分類されるが1),前者についてのみ触れる.また,PSDにはpachychoroidpigmentepitheliopa-thy(PPE),pachychoroidneovasculopathy(PNV),中心性漿液性脈絡網膜(centralserouschorioretinopa-thy:CSC),ポリープ状脈絡膜血管症(polypoidalcho-roidalvasculopathy:PCV),局所脈絡膜陥凹(focalchoroidalexcavation:FCE)やperipapillarypachycho-roidsyndrome(PPS)が含まれるが2),PCVはAMDに含め,CSCとPNVについて触れる.網膜疾患専門医ではない臨床医が診察時にOCT,OCTAをどのように読影するのかの内容に絞ったため,それぞれの疾患の病態や実際の治療方法など専門的な内容については割愛した.また,脈絡膜新生血管(choroidalneovascularization:CNV)は,海外でのAMDに関する用語変更に伴いMNVと表記した3).IOCT1.眼底疾患鑑別のファーストタッチはOCTで網膜色素上皮を確認するカラー眼底写真のみでは診断ができない黄斑疾患は多いが,AMDとそれ以外の黄斑疾患の鑑別のファーストタッチはOCTである.わが国のAMDの分類と診断基準では,主要所見以外の滲出性変化〔網膜下灰白色斑(網膜下フィブリン)〕,硬性白斑,網膜浮腫,漿液性網膜.離)と網膜または網膜下出血は,MNVに伴う二次的な所見としてのみみられる所見ではなく,特異度は高くないものとして,随伴所見と記載されている1).黄斑部の網膜色素上皮(retinalpigmentepithelium:RPE)を見て,大きさにかかわらずRPEの隆起がなければAMDおよびパキコロイド関連疾患の多くは否定できる.たとえば黄斑浮腫を伴う陳旧性網膜静脈分枝閉塞症では,急性期と異なり網膜出血がめだたず硬性白斑と網膜内浮腫がおもな所見のため,MNVに伴う滲出と診断してしまうかもしれない(図1a~c).また,網膜出血*RyusaburoMori:日本大学医学部視覚科学系眼科学分野〔別刷請求先〕森隆三郎:〒101-8309東京都千代田区神田駿河台1-6日本大学病院眼科0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(55)291図1AMDにみられる随伴所見を網膜色素上皮(RPE)の隆起の有無で鑑別a~c:陳旧性網膜静脈分枝閉塞症.a:カラー眼底写真.黄斑部に硬性白斑と網膜浮腫()と網膜出血を認める.b,c:OCT.黄斑浮腫を認めるが,RPEの隆起所見はみられない().d~f:網膜細動脈瘤.d:カラー眼底写真.黄斑部に網膜出血と上耳側に白色病変を認める().e,f:OCT.網膜下出血を認めるが,RPEの隆起所見はみられない().細動脈瘤を網膜内に認める().~~図2軟性ドルーゼンと小型の網膜色素上皮.離(PED)の鑑別RPEの隆起部内部の高輝度の有無をみる.a,b:軟性ドルーゼン.a:カラー眼底写真.黄斑部に多発する軟性ドルーゼンを認める.b:OCT.RPEの隆起部内部は高輝度を示す().c~e:小型のPED(中心性漿液性脈絡網膜症).c:カラー眼底写真.黄斑部に漿液性網膜.離と小型のPED()を認める.d:OCT.RPEの隆起部内部は高輝度を示さない().はeの漏出部位.e:フルオレセイン蛍光眼底(FA).PED上部辺縁に蛍光色素の漏出部位を認める().~~ef図3大型のPEDは辺縁のノッチで黄斑新生血管(MNV)の有無を判定a:カラー眼底写真.大型のPEDを認める.MNVなし.b~d:OCT.PED辺縁の全周囲にノッチを認めない(◯)ことからMNVの存在はおおよそ否定できる.e:FA後期.f:インドシアニングリーン蛍光造影(IA)後期.FAとIAともにMNVを示唆する過蛍光を認めない.図4CSCとVogt・小柳・原田病の鑑別脈絡膜所見で鑑別する.a:カラー眼底写真.後極部に漿液性網膜.離〔網膜下液(subretinal.uid:SRF)〕を認める.b:OCT.隔壁のあるSRF(),脈絡膜の間質の肥厚とRPEの不整な起伏所見を認める().図5CSCと脈絡膜腫瘍の鑑別脈絡膜所見で鑑別する.a,b:脈絡膜骨腫.a:カラー眼底写真.黄斑部鼻側に白色病巣を認める().b:OCT.SRF()と脈絡膜骨腫に伴うRPEの隆起所見を認める().c,d:脈絡膜血管腫.c:カラー眼底写真.黄斑部鼻側に橙赤色隆起病巣を認める().d:OCT.SRF()と脈絡膜血管腫に伴うRPEの隆起所見を認める().e,f:転移性脈絡膜腫瘍.e:カラー眼底写真.黄斑部上耳側に灰白色病変を認める().f:OCT.SRF()と転移性脈絡膜腫瘍に伴うRPEの隆起所見を認める().図6CSCの中心窩網膜厚の菲薄化視力の回復が期待できないことを把握する所見である.a:中心性漿液性脈絡網膜症.右眼中心窩網膜厚は40μmで,bの左眼の190μmと比較すると菲薄化が著明である.矯正視力右眼0.3,左眼1.2.c:右眼.光線力学的療法5カ月後,中心窩網膜厚は50μmで,矯正視力右眼0.3のままである.図7網膜色素上皮裂孔(RPEtear)の範囲a~c:Type1MNV治療前.a:カラー眼底写真.多発するドルーゼンと黄斑部下耳側にPEDを認める.b:眼底自発蛍光(FAF).黄斑部下耳側に過蛍光を認める().c:OCT.MNVに伴うRPEの不正な隆起を認める().d~f:抗VEGF薬注射20日後のRPEtear.d:カラー眼底写真.RPE欠損部位は灰黒色として認める().e:FAF.RPE欠損部位は低蛍光として認める().f:OCT.RPE欠損部位(の範囲)の脈絡膜反射は高輝度として認め(□),重積したRPEをその辺縁に認める().図8PEDのRPE菲薄化の範囲a:カラー眼底写真.黄斑部にPEDを認める.b:IA中期.低蛍光を示すPED内に過蛍光認める().c:FAF.RPE菲薄化部位は低蛍光として認める().d:OCTRPE菲薄化部位(の範囲)の脈絡膜反射は高輝度として認める(□).図9抗VEGF薬注射長期継続中のType1MNVRPE菲薄と萎縮の有無は脈絡膜反射の輝度で確認する.a:カラー眼底写真.複数回の抗CVEGF薬注射を長期継続中のCType1MNV.Cb:FAF.RPE萎縮部位は低蛍光として認める()c:OCT.RPE菲薄と萎縮部位(の範囲)の脈絡膜反射は高輝度として認める(□).診療録に毎回記載するIRF+-↑↓→SRF+-↑↓→PED+-↑↓→図10AMDの滲出液(.uid)分類a:網膜内液(IRF),b:網膜下液(SRF),c:網膜色素上皮下(sub-RPE).uid(PED).診察時にそれぞれの所見について,ある(+),なし(.),増加(↑),減少(↓),不変(→)のいずれかを診療録に記載する.図11ポリープ状脈絡膜血管症に対する抗VEGF薬注射導入期の経過同部位のスキャンラインで所見の変化を確認.a:中心窩を横切るラジアルC12本のスキャンライン(b~eのOCTは6番のスキャンライン).b:抗CVEGF薬注射前.SRF(※)とフィブリンを伴うポリープ状病巣()と異常血管網のダブルレイヤーライン()を認める.c:1カ月後.SRFは吸収し,ポリープ状病巣()の縮小化とダブルレイヤーライン()の平坦化を認める.d:2カ月後(2回目注射後C1カ月).ポリープ状病巣()の縮小化とダブルレイヤーライン()の平坦化を認める.e:4カ月後(3回目注射後C2カ月).SRFは認めないが,ポリープ状病巣()の再拡大とダブルレイヤーライン()の再隆起を認める.図12ポリープ状脈絡膜血管症PRN経過観察中(ポリープ状病巣の拡大:たけのこポリープからの出血)同部位のスキャンラインで所見の変化を確認.a:導入期後抗CVEGF薬注射追加なくC9カ月,カラー眼底写真.橙赤色隆起病巣は認めない.Cb:OCT.ポリープ状病巣は認めない.Cc:3カ月後,カラー眼底写真.橙赤色隆起病巣を認める().d:OCT.ポリープ状病巣(たけのこポリープ)の出現()を認める.Ce:3カ月後,カラー眼底写真.橙赤色隆起病巣を認める().f:OCT.たけのこポリープの拡大()を認めるも漿液性網膜.離など滲出性変化は認めない.g:17日後,カラー眼底写真.網膜下出血を認める().h:OCT.ポリープ状病巣に伴う出血性色素上皮.離を認める().C③C④図13自動層別解析画像のouterretina層とchoriocapillaris層でMNVの血管網を確認する(pachychoroidalneovasculopathy)a:カラー眼底写真.黄斑部に漿液性網膜.離を認める.b:OCT.漿液性網膜.離(※)とCRPEの不整な隆起を認める().脈絡膜は肥厚している().c:OCTA自動層別解析画像.①Csuper.cial,②Cdeep,③Couterretina,④Cchoriocapillarisの四つのセグメンテーションの画像.③Couterretinaと④Cchoriocapillarisの層でCMNVの血管網を認める.図14Subretinalhyperre.ectivematerial(SHRM)内のMNVをOCTAのB-スキャンで確認a:カラー眼底写真.黄斑部に出血を伴う灰白色病巣を認める.b:OCT.網膜下にCMNVとフィブリンを示唆する高反射病巣(SHRM)を認める(□).c:OCTA.dのC2本のライン()のセグメンテーションの範囲にCMNVの血管網を認める.d:Bスキャン.SHRM内のCMNVの血流を確認ができる().OCTで認めるCSHRMの深部のみがCMNVである.図15治療前後のMNVの血流と治療後の網膜感度〔治療前〕a:OCTA.choriocapillaris層.MNVの血管網を認める().b:OCT.SRF(※)とCRPEの不整な隆起を認める.脈絡膜は肥厚している().〔抗CVEGF注射併用光線力学療法C3年後(追加治療なし)〕c:OCTA.Choriocapillaris層.MNVの血管網は拡大している.FA(10分)面状の過蛍光を認める().d:OCT(※).RPEの不整な隆起は残存しているが(),SRFを含め滲出性所見は認めない.e:マイクロペリメトリー.OCTAで認めるCMNVの血管網の範囲の網膜感度は良好に保たれている.□はCOCTAと同範囲.

裂孔原性網膜剝離

2024年3月31日 日曜日

裂孔原性網膜.離RhegmatogenousRetinalDetachment岩瀬剛*I疾患の概念裂孔原性網膜.離(rhegmatogenousCretinalCdetach-ment:RRD)は網膜裂孔あるいは円孔から網膜下,つまり感覚網膜と網膜色素上皮層との間に硝子体液が流入することにより生じる.黄斑まで網膜.離が及ぶと視力が低下し,術後に網膜が復位したとしても視機能に影響が出るので,黄斑が.離する前に手術することが望ましい.光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)を用いることで中心窩から網膜.離がどの範囲まで及んでいるのかを正確に把握することが可能である.さらに,黄斑が.離している場合においても,急激に大量の硝子体液が流入している場合には,術前のみならず術後視力が不良であると考えられるので,速やかに手術を行うべきである.RRDの発生は二峰性でC20代とC50代にピークがある1)と考えられているが,OCT所見にはそれぞれ特徴がある.年齢などの患者背景と併せて,手術時期を考慮すべきである.CII若年者の術前のOCT所見若年のCRRDの多くは格子状変性内の萎縮円孔から発生し,後部硝子体.離(posteriorCvitreousCdetach-ment:PVD)は通常伴わない.PVDがなく硝子体の液化が軽度であることから,若年のCRRDでは萎縮円孔からの硝子体液の網膜下への流入はゆっくりである.したがって,網膜.離の進行が遅く,網膜下液の性状が粘稠で,網膜.離面が平坦であることが多い.OCT所見としては,非.離の部位に比べると.離している部位の視細胞層は伸長しており,網膜外層には波打つ所見がみられないことが多い(図1).このような患者では,アーケード血管内にまで網膜.離が進行していても,手術までの時間には余裕がある.とくに下方から網膜.離が進展している患者では進行が遅いので,緊急手術を行わなくてもすぐに中心窩が.離することはない.手術術式としては通常強膜バックリング手術を選択する.このような比較的若年者のゆっくりと進行した網膜.離で黄斑が.離している場合においても,急速に視力が悪化することは基本的にない.したがって,緊急手術を行わなくてもよく,強膜バックリング手術の予定を組んで速やかに手術を行う.OCT所見としては,多くの場合には,.離している黄斑部の視細胞層は伸長し整然と密に並んでおり(図2),黄斑が.離していても比較的術前視力が良好なことが多い.そのような患者では術後に網膜が復位した際の外層構造として,網膜外境界膜(externalClimitingmembrane:ELM),ellipsoidCzone(EZ),interdigitationzone(IZ)などの連続性が良好であることが多く,視力も良好である2).しかし,黄斑が.離している期間が長いと,若年者の網膜.離においても視細胞層が短縮し,術前視力が不良であるばかりではなく,術後網膜が復位しても網膜の外層構造は不明瞭で視力も不良である3)(図3).*TakeshiIwase:秋田大学大学院医学系研究科医学専攻病態制御医学系眼科学講座〔別刷請求先〕岩瀬剛:〒010-8543秋田市本道C1-1-1秋田大学大学院医学系研究科医学専攻病態制御医学系眼科学講座C0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(49)C285図120歳代の左眼裂孔原性網膜.離の眼底写真およびOCT画像下耳側に比較的平坦な網膜.離がみられる.OCT画像で,.離している部位の視細胞層は伸長しており(),網膜外層には波打つ所見はみられない.図320歳代の右眼裂孔原性網膜.離の術前(a)および術後(b)OCT画像a:術前.OCT画像で視細胞層が短縮しており,ほとんど観察されない.術前視力はC0.1であった.Cb:術後.網膜は復位したが網膜の外層構造は不明瞭でCELM,EZ,IZは観察されず,術後C1年での視力はC0.15であった.図210歳代の左眼裂孔原性網膜.離の術前(a)および術後(b)OCT画像a:術前.中心窩の視細胞層は伸長しており,整然と密に並んでおり,術前視力はC1.0であった.Cb:術後.網膜が復位し,術後半年での視力はC1.2であった.網膜外層のCELM,EZ,IZの連続性は良好であった.図460歳代の左眼裂孔原性網膜.離の術前眼底写真(a)およびOCT画像(b)a:上耳側の網膜裂孔による耳側網膜.離.Cb:OCT画像では中心窩近傍まで.離してきている.図550歳代の裂孔原性網膜.離の術前OCT画像数日前から,左眼視力低下を自覚した.黄斑部網膜は.離しており,中心窩外の黄斑部の網膜外層に波打っている所見がみられる().図660歳代の裂孔原性網膜.離の術前のOCT画像中心窩周囲の網膜内顆粒層や外網状層に網膜内.胞腔がみられ(*),中心窩網膜が前方に突出している.図750歳代の裂孔原性網膜.離の術前のOCT画像黄斑部の視細胞配列の欠損,網膜外層のラインの連続性の消失が観察される().図850歳代の強度近視に伴う裂孔原性網膜.離の術前画像a:眼底写真では,後部ぶどう腫に相当する領域に網膜.離がみられるが,検眼鏡的には原因裂孔は検出できない.Cb:水平断のCOCT画像では,アーケード上方の.離網膜にCmicroholeが観察される.Cc:垂直断のOCT画像では,アーケード上方と下方の.離網膜にC2個のCmicroholeが観察される.図950歳代の強度近視に伴う後部ぶどう腫内の網膜分離に網膜.離を伴う症例の術前(a),術後(b)OCT画像a:術前COCT画像では黄斑前膜,網膜分離,および網膜.離が観察された.網膜裂孔は検出されなかった.Cb:術後C3カ月後のCOCT画像では,網膜分離および網膜.離は消失した.図1020歳代の裂孔原性網膜.離に対するバックリング術前と術後1カ月後のOCT画像術前COCT画像では黄斑部網膜は.離を生じており,術前視力はC0.2であった.術後C1カ月では原因裂孔は閉鎖し,OCT画像では黄斑下液は残存していたが視細胞層は伸長しており,視力はC0.5と向上していた.

網膜外層障害を伴う急性炎症性疾患

2024年3月31日 日曜日

網膜外層障害を伴う急性炎症性疾患AcuteIn.ammatoryDiseaseAssociatedwithOuterRetinalDisturbance上野真治*はじめに網脈絡膜の炎症により網膜外層に障害を伴う疾患には,いくつかの病態が知られている.光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)の精度の向上により,これらの疾患で網膜の異常を捉えることができるようになった.さらに光干渉断層血管撮影(OCTangiography:OCTA)を含む他の画像検査とともに解析されることにより多くの疾患の病態が明らかになりつつある.本稿では,多発消失性白点症候群(multipleevanescentwhitedotsyndrome:MEWDS),急性帯状潜在性網膜外層症(acutezonaloccultouterretinopa-thy:AZOOR),点状脈絡膜内層症(punctateinnerchoroidopathy:PIC),急性後部多発性斑状色素上皮症(acuteposteriormultifocalplacoidpigmentepitheliop-athy:APMPPE)のOCTを中心とした画像所見について概説する.I多発消失性白点症候群1.疾患の概要MEWDSは1983年にJampolらによって初めて報告された網膜外層の障害をきたす炎症性疾患である.おもに20~50歳の女性が罹患し,感冒様前駆症状が先行することがある.MEWDSの典型的な症状は,片眼性の突然の視力低下や霧視,傍中心暗点(図1a),光視症である.眼底には後極部を中心とした網膜深層から網膜色素上皮(retinalpigmentepithelium:RPE)層レベルに円形の境界不明瞭な多発性白点が多発する(図1b)1).中心窩にはJampoldotsとよばれる黄色の顆粒状所見を認めることがある2).これらの眼底所見は一過性で1~2カ月以内に消失する.MEWDSの病態は脈絡膜灌流障害を伴わない視細胞およびRPEの炎症による急性の機能障害とされているが,その炎症の起源が視細胞なのかRPEなのかははっきりしない.前部硝子体中にもcellがみられることが多い.診断はOCT,眼底自発蛍光(fundusauto.uorescence:FAF)などの画像所見に加え,多局所網膜電図(electroretinogram:ERG)などを用いて行う.MEWDSは3カ月以内に自然軽快することが多いため,基本的には経過観察を行う.2.OCTを含めた画像所見MEWDSの活動期にはellipsoidzone(EZ)とinter-digitationzone(IZ)の消失や短縮がみられる.また,この障害部位にはRPEから視細胞内節外節消失部位を超えて,外顆粒層にまで伸びる高輝度反射物がいくつか観察される.この構造物は変性した外節に相当すると考えられ,とくに中心窩で観察される(図1c)1).回復期にはEZの異常が徐々に改善しEZが連続し正常化すると視力は改善する(図1c).OCTAによる網膜,脈絡膜の血流評価では,MEWDSでは異常はないとされ,診断や病態の評価においてOCTAは明らかな有用性はないと考えられる1).MEWDSでは,緑色青光を励起光するFAFにおいて,*ShinjiUeno:弘前大学大学院医学系研究科眼科学講座〔別刷請求先〕上野真治:〒036-8562青森県弘前市在府町5弘前大学大学院医学系研究科眼科学講座0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(41)277e図1MEWDS(右眼)の典型例20代,女性.右眼の視野の一部が見にくくなったことを主訴に受診.視力は矯正0.3.a:右眼のHumphrey静的視野(30-2)のグレースケール.Mariotte盲点の拡大を示す視野異常がみられた.b:眼底写真.アーケード血管周辺に淡くて比較的大きめの境界不明瞭な白点がみられる.左の眼底写真の四角で囲まれた部位の拡大を右に示す.c:初診時と17週後のOCT.初診時のOCT(上段)ではEZの異常がみられ,外顆粒層に向けて伸びる高輝度の反射物がみられる().17週後のOCTではEZも回復しIZも確認できる.d:眼底自発蛍光.眼底自発蛍光では白点の生じる部位に境界不明瞭な過蛍光病変が現れる.e:フルオレセイン蛍光造影(FA)とインドシアニングリーン造影(IA).早期(上段)ではFA,IAとも異常はみられないが,後期(下段)にFAで血管からの漏出とIAでMEWDSに特徴的な無数に点在する低蛍光斑がみられる.FAIA早期後期b6M図2視機能が回復したAZOORの一例30代,男性.4週前からの左眼の突然の光視症と視野異常を自覚して受診.視力は両眼矯正1.0.a:左眼の眼底写真.明らかな異常はない.b:左眼のHumphrey静的視野(30-2)のグレースケール.初診2週後の半盲様の視野障害(2W)が3カ月(3M),6カ月(6M)と経過中に自然に軽快した.c:OCTの経過.初診時のOCT(上)ではEZとIZの消失がみられた().その後3カ月(3M,中),12カ月(12M,下)と徐々にEZは回復した.d:超広角眼底カメラによる眼底自発蛍光.視野障害部位,OCTで網膜外層の障害部位に一致して過蛍光がみられる().この過蛍光所見は自覚症状が改善しても長期に残存した.e:多局所網膜電図(ERG)の3Dプロット.左眼の視野異常や眼底自発蛍光の過蛍光領域に一致した多局所ERGの振幅の低下がみられる.図3OCTで外顆粒層の菲薄化がみられ視機能が回復しなかったAZOORの一例20代,女性.2週前からの左眼の突然の光視症と視野異常を自覚して受診.視力は両眼矯正C1.0.Ca:左眼の眼底写真.明らかな異常はない.b:左眼のCHumphrey静的視野(30-2)のグレースケール.Mariotte盲点の拡大のような視野障害がみられ,経過観察中に視野の改善はみられなかった.Cc:OCTではCEZの消失と不鮮明化がみられた().また,一部に外顆粒層の菲薄化()がみられた.OCTではその後形態の変化は,ほとんどみられなかった.d:超広角眼底カメラによる眼底自発蛍光.視野障害部位に一致する異常はなかった.図4PICの典型例の初期像(両眼性の症例で右眼の所見を提示)20代,女性.両眼の見たい部分が影のようになったことを主訴に受診.視力は矯正右眼C0.6,左眼C1.0.Ca:右眼の眼底写真.境界明瞭な黄白色病変が黄斑を中心にみられる.Cb1:OCT,初診時.EZの消失と不鮮明化がみられた().また,RPEから限局的に隆起する構造物がみられた.右下に拡大を示す.Cb2:1カ月後.EZはほぼ回復した.Cc1:フルオレセイン蛍光造影(FA).Cc2:インドシアニングリーン蛍光造影(IA).白点に相当するところはCFAで過蛍光になり,IAで低蛍光斑になる.はお互いに一致する白点部位.図5PICに発生した脈絡膜新生血管20代,女性.中心部が歪んで見えるという主訴で受診.Ca:眼底写真.脈絡膜新生血管が中心窩上方に脈絡膜新生血管がみられた.Cb:OCT.脈絡膜新生血管に対して抗CVEGF薬投与治療前(Cb1)と治療C1カ月後(Cb2).c:OCTA.脈絡膜新生血管に対して抗CVEGF薬投与治療前(Cc1)と治療C1カ月後(Cc2).治療後,脈絡膜新生血管の退縮が確認できる.黄色線が下のCBスキャンの位置に対応(Cc3).OCTAのCBスキャン画像.黄色の破線で挟まれた部位がセグメンテーション部位(Cc4).図6PICに特有な瘢痕病巣a:眼底写真.瘢痕萎縮が後極にみられる.b:OCT.瘢痕病巣に一致する部分では網膜が色素上皮に引き込まれるPICに特徴的な所見がみられる.また,RPEの萎縮により脈絡膜の高輝度化がみられる.図7APMPPEの症例30代,男性.右眼の霧視を訴え受診,円板状白斑は右眼優位にみられた.視力は右眼矯正C0.5,左眼C1.0.Ca:眼底写真.初診時(Ca1),円板状白斑が後極中心に多発していたがC1週間後(Ca2),1カ月後(a3)では白斑の数が減少し,サイズも小さくなっている.経過とともに視力も矯正0.5からC0.8へと改善した.Cb:OCT.初診時のCOCTではCEZの一部途絶とCRPE上に高輝度の病変がみられる().c:フルオレセイン蛍光造影(FA)とインドシアニングリーン蛍光造影(IA).FA早期では低蛍光,後期には過蛍光を示す病変がみられる(=蛍光の逆転現象).一方,IAでは,早期から後期にかけて低蛍光となる.Cd:OCTA(a~cとは別の症例).OCTAの網膜全層の血流で異常はないが(Cd1),脈絡毛細管板のセグメンテーションを観察すると血流の障害があることがわかる(Cd2).この部分はCIAで低蛍光の部位に一致する(Cd3).FAIA初診時1W1Mb2

OCTA を活用した網膜静脈閉塞症診療

2024年3月31日 日曜日

OCTAを活用した網膜静脈閉塞症診療HowDoesOCTATransformtheDailyManagementofRetinalVeinOcclusion?坪井孝太郎*はじめに網膜静脈閉塞症(retinalveinocclusion:RVO)は糖尿病網膜症に次ぐ網膜循環疾患である.RVOの病態は,網膜静脈が閉塞し,網膜の虚血,出血,浮腫が生じることで視力低下を引き起こす.また,網膜虚血が強い患者では,網膜新生血管や虹彩新生血管のリスクが高い.そのため,RVO診療の基本は,①黄斑浮腫の加療と②新生血管の早期発見・治療であるといえる.本稿では,光干渉断層血管撮影(opticalcoherencetomographyangiogra-phy:OCTA)を活用したRVO診療について解説する.I網膜静脈閉塞症の分類と治療の基本RVOは閉塞部位で,網膜中心静脈閉塞症(centralretinalveinocclusion:CRVO),半側網膜静脈閉塞症(hemi-CRVO),網膜静脈分枝閉塞症(branchretinalveinocclusion:BRVO)に分けることができる.RVOに伴う視力低下は黄斑浮腫と網膜新生血管による硝子体出血がおもな原因である.そのため,新生血管発生リスクが高い虚血型RVOを判断することが重要である.CRVOにおける虚血型の定義は無灌流領域が10乳頭面積以上,BRVOにおける虚血型の定義は無灌流領域が5乳頭径以上とされており,定義の違いに注意が必要である(図1).また,BRVOでは,閉塞静脈が黄班への枝である場合はmacularBRVO,アーケード血管である場合はmajorBRVOに分類される1).虚血型,非虚血型のRVOにおける新生血管発生頻度は表12)に示すとおりである.虚血型CRVOでは虹彩,隅角新生血管のリスクが高く,新生血管緑内障に注意する必要があることがわかる.一方で,虚血型BRVO(majorBRVO)では網膜新生血管のリスクが高く,硝子体出血を合併する場合がある.黄斑部に限局するmacularBRVOでは新生血管発生リスクが低いことが報告されている.虚血型RVOに対しては網膜光凝固術が重要であるが,新生血管を伴わないRVOに対する汎網膜光凝固術の効果は限定的であることが知られており,RVOに対する汎網膜光凝固術は新生血管を検出してから行うことが望ましいとされている.近年では抗血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)薬が新生血管発生を抑制することは知られているが,効果は永続しないため,最終的な新生血管発生率は変わらないという報告もある.そのため,RVO診療においては,黄斑浮腫が落ち着いたあとも長期の新生血管発生には注意が必要である3).IIOCTAの活用RVO診療において,画像診断は欠かすことができない.古典的な眼底写真,蛍光造影検査に加え,光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)とOCTAは日常臨床において有用な画像診断ツールである.OCTは網膜断層像を観察することが可能であり,網膜を三次元で観察できる強みをもつ.さらに非侵襲的であるため,経時的な変化を捉えることが容易であることも*KotaroTsuboi:愛知医科大学眼科学教室〔別刷請求先〕坪井孝太郎:〒480-1195愛知県長久手市岩作雁又1-1愛知医科大学眼科学教室0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(33)269図1虚血型BRVO(a)と虚血型CRVO(b)の定義虚血型BRVOは無灌流領域が5乳頭径(discdiameter:DD)以上,虚血型CRVOは無灌流領域が10乳頭面積(discarea:DA)以上.表1RVOに伴う新生血管発生率TypeofOcularNeovascularizationin%TypeofRVO眼(N)虹彩NV隅角NVNVG乳頭NV網膜NVAnytypeofNV非虚血型CRVO2822.82.11.4002.8虚血型CRVO7857.747.433.35.17.766.7非虚血型HemiCRVO66000000虚血型HemiCRVO3112.96.53.229.041.958.1MajorBRVO1911.60.5011.524.128.8MacularBRVO73000000(文献2より改変引用)OCTAFANPADilatedcapillariesRetinalNVIrisNV図2蛍光造影検査(FA)とOCTAによる血管異常の所見早期浮腫改善症例浮腫遷延症例図3BRVOに伴う黄斑浮腫の遷延予測方法aの早期浮腫改善症例では患側の毛細血管脱落が強いのに対して,bの浮腫遷延症例では毛細血管脱落が限定的である.DCPICPOCTAimageMaskeddilatedcapillaryDilatedcapillaryarea図4毛細血管拡張による黄斑浮腫遷延予測方法拡張毛細血管(青部分)が大きな症例ほど,浮腫が長引く可能性が高い.OCTAFA初診時6カ月後初診時1カ月後3カ月後6カ月後図5非虚血型から虚血型へ移行したCRVO症例上段:蛍光造影検査(FA)にて初診時には明らかではなかった無灌流領域がC6カ月目に確認される.下段:OCTAでは段階的に血流が低下することが確認される.Non-conversioncaseConversioncase初診時12カ月後24カ月後VDchangeAge図6経時的な血管密度評価上段:虚血型への移行症例.血管密度(vesseldensity:VD)は段階的に低下している.下段:非虚血型で維持した症例.VDは変化は見られない.網膜全層スラブ硝子体網膜界面スラブ図7広角OCTAによる新生血管検出硝子体網膜界面スラブにて硝子体腔の異常血管()が検出された.図8虹彩新生血管の造影検査とOCTAa:虹彩新生血管による造影剤の漏出がみられる.b:OCTAでは血管の形態がはっきりと描出されている.下段:治療後新生血管は徐々に退縮していった.る新生血管緑内障もCOCTAで描出することが可能である(図8).OCTAでは造影剤の漏出がないことから,形態学的な評価が容易であるため,治療開始後の虹彩新生血管の消退を観察することが可能である12).一方で,現状のCOCTAは前眼部の撮影に最適化されておらず,実臨床で用いるにはさらなるCOCTA機器の進化が必要である.おわりにRVO診療では,黄斑浮腫の治療,新生血管の早期発見が重要になる.OCTは黄斑浮腫の発見,治療効果の判定に有効であり,また早期の虚血型移行発見を可能にする.また,OCTAは虚血の程度の判断や新生血管の検出に有効であり,非侵襲であることから,頻回な検査を可能にする.これらの検査を有効活用することで,RVO診療の質が向上すると思われる.文献1)HayrehCSS,CZimmermanMB:FundusCchangesCinCbranchCretinalveinocclusion.Retina35:1016-1027,C20152)HayrehSS,RojasP,PodhajskyPetal:Ocularneovascu-larizationCwithCretinalCvascularCocclusion-iiiCincidenceCofCocularneovascularizationwithretinalveinocclusion.Oph-thalmologyC90:488-506,C19833)TakatsuCH,CTsuboiCK,CWakabayashiCTCetal:VascularCabnormalitiesCmayCprogressCinCbranchCveinCocclusionCdespiteCresolutionCofCmacularCedema.COphthalmolCRetinaC6:252-254,C20224)IftikharM,MirTA,Ha.zGetal:Lossofpeakvisioninretinalveinocclusionpatientstreatedformacularedema.AmJOphthalmolC205:17-26,C20195)FinkelsteinD:IschemicCmacularCedema.CRecognitionCandCfavorableCnaturalChistoryCinCbranchCveinCocclusion.CArchCophthalmolC110:1427-1434,19926)HasegawaCT,CYamashitaCM,CMarukoCICetal:OpticalCcoherenceCtomographicCpredictorCofCretinalCnon-perfusedCareasineyeswithmacularoedemaassociatedwithretinalveinocclusion.BrJOphthalmol101:569-573,C2017(39)あたらしい眼科Vol.41,No.3,2024C275

糖尿病網膜症

2024年3月31日 日曜日

糖尿病網膜症FeasibilityofOCT/OCTAfortheCureofDiabeticRetinopathy村上智昭*はじめに糖尿病網膜症(diabeticretinopathy:DR)は,従来はおもに眼底検査と蛍光造影(.uoresceinangiogra-phy:FA)で血管病変の臨床的に評価していた.光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)が臨床導入され,神経網膜の形態的変化を客観的に評価できるようになってからは,とくに,神経組織の浮腫を特徴とする糖尿病黄斑浮腫診療の質が飛躍的に向上した.光干渉断層血管撮影(OCTangiography:OCTA)は三次元的に血管を描出し,新生血管や毛細血管瘤など臨床的に重要な血管病変を非侵襲的に評価できる.画像診断の進歩は,診断の客観性と定量性を高めることで,治療適応を明確化している.また,治療効果判定も容易となり,とくに,糖尿病黄斑浮腫(diabeticmacularedema:DME)診療における中心網膜厚は副次評価項目となっている.また,病態把握や予後因子解析により,オーダーメイド医療の可能性も出てきている.I糖尿病網膜症の臨床像と病態糖尿病網膜症は,糖尿病に伴う細小血管合併症の一つといわれており,網膜血管の形態的な病変と機能的障害(血管透過性亢進)が特徴である.その最初期病変は毛細血管瘤(microaneurysm)であり,糖尿病の罹病歴と併せてDRの臨床診断材料としている.進行とともに,網膜出血や硬性白斑(hardexudates),網膜浮腫など,血管透過性亢進に伴う病変が合併する.黄斑部に生じるとDMEとなり,視力低下を惹起する.さらに進行すると,毛細血管床が閉塞し,臨床的には無灌流領域(non-perfusionarea:NPA)を形成する.黄斑部では糖尿病黄斑虚血(diabeticmacularischemia:DMI)とよばれ,視機能障害の原因となる.血流障害に伴う低酸素に反応して血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)の発現が亢進すると,新生血管を生じる増殖糖尿病網膜症(proliferativediabeticretinopa-thy:PDR)となる.新生血管の周囲には線維血管膜を伴うことがあり,牽引性網膜.離や硝子体出血を生じ,重度の視力低下を起こす.また,前眼部に新生血管が生じると血管新生緑内障となり,失明の原因となる.II診療ガイドラインに基づく診断2020年に糖尿病網膜症診療ガイドラインが発表され,DRは「糖尿病に起因した特徴的眼底所見を呈する病態で,基本的には網膜における細小血管障害に起因する種々の変化が生じる」とされている1).非常に複雑な病態と多様な所見が特徴であるが,毛細血管瘤の存在と糖尿病の罹病歴をもって臨床診断を行う.DRの治療は重症度によって異なるため,重症度分類に従って適切な診断(分類)を進めることが重要である.分類法としては国際標準である国際重症度分類に加えて,国内ではよく用いられてきた新福田分類,Davis分類があり,おのおの特徴がある.PDR発症の予測に関するエビデンスに基づいて眼底所見のみで診断する国際重症度分類は今後*TomoakiMurakami:京都大学大学院医学研究科眼科学〔別刷請求先〕村上智昭:〒606-8507京都市左京区聖護院川原町54京都大学大学院医学研究科眼科学0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(23)259も主軸となる分類である.また,新福田分類は,多くの所見が網羅的に記載されており,汎網膜光凝固(panreti-nalphotocoagulation:PRP)を必要とするステージを悪性と分類し,それよりも軽症か,レーザー後の安定期を良性としている.Davis分類は,血管透過性亢進,NPA,新生血管という三病態を基準に分類しており,PDRの治療と予防の重要性を説明する際に便利である.以前のDME診療では,眼底所見とFAが重要であり,とくに,エビデンスを有する「視力を脅かす糖尿病黄斑浮腫」(clinicallysigni.cantmacularedema:CSME)は,硬性白斑と網膜浮腫という二つの眼底所見の特徴で診断する.OCTの臨床導入により,中心網膜厚(中心1mmの平均網膜厚)が基準値以上で「中心窩を含む糖尿病黄斑浮腫」(center-involvingdiabeticmacularedema:CIDME)と診断される.ガイドラインでは,これらを組み合わせて治療方針を決定することが推奨されている.III眼底イメージングの進歩とDR診療の変化DRは細小血管障害であり,眼底検査(写真)が以前から重視されてきた.また,FAにより,毛細血管レベルの病変が詳細に描出可能となり,NPAと血管透過性亢進の評価が可能となった.これらの撮像範囲は40.60°程度とごく狭い範囲であったが,近年では,超広角撮像装置でごく短時間に180°以上の広範囲の網膜を撮像でき,DR診療においては非常に有用である.OCT,とくに近年主流のspectraldomain(SD)-OCTでは,網膜の構造的変化を層別に評価できる.また,網膜厚の自動定量が可能となり,DME診療において,診断と治療経過の評価法が確立した.disorganizationoftheretinalinnerlayers(DRIL)や視細胞障害などの神経変性を示唆する所見もわかりつつある.また,hyperre.ectivefociは集簇すると硬性白斑となるが,現在も研究レベルで評価法と臨床的位置づけが検討されている.OCTAでは,血球移動によるOCTシグナルの変化を利用して,三次元的な網膜血管構造を毛細血管レベルまで撮像できる.バックグランドが低く高コントラストの画像が得られ,自動定量をしやすいのが特徴である.一方,多くのアーチファクトが存在するため,撮像と読影の際に注意が必要である.OCTとOCTAを組み合わせてneurovascularunitの障害としてのDRの評価が今後進むであろう.OCTやOCTAの広角化も進んでおり,網膜の周辺部まで評価が必要なDR診療に有用であるが,その評価法の標準化が今後の課題である.一方,補償光学(adap-tiveoptics:AO)OCTでは,従来のOCTよりも横解像度が高く,細胞レベルの描出が可能になっている.しかし,撮像できる対象が限られ,撮像時間も長いため,現時点では実臨床で用いるのは困難である.IV非増殖糖尿病網膜症のOCT・OCTA所見DRの最初期病変である毛細血管瘤は,OCTでは円形もしくは類円形の高反射病変として描出されることが多い.また,リング状の壁構造が描出されることもある.OCTAでは,内腔の状態にしたがって描出されるため,fusiform(紡錘形),saccular(.状)など多様な形態を示す.また,血流の不均一さから,描出の状況も一定しないのが特徴であり,過少評価されがちである(図1)2).OCTAを用いて,国際分類で重要な所見である数珠状静脈拡張(venousbeading)と網膜内細小血管異常(intraretinalmicrovascularabnormalities;:IRMA)も描出できる(図2).とくに,IRMAはNPAの境界部に形成され,網膜内の拡張した毛細血管として描出され,シャント血管のようにみえることが多い.IRMAと新生血管は形態的には類似しているが,網膜内,網膜前と場所の違いから,鑑別は容易である.OCT上のhyperre.ectivefociは高反射の粒子状病変として視認され,漏出したリポ蛋白か硬性白斑の前駆物質と考えられている(図3)3).集簇したhyperre.ectivefociは眼底所見の硬性白斑に一致する.いずれの層にもみられるが,外網状層付近に存在することが多い.綿花様白斑(cotton-woolspots)は局所的な虚血に一致するといわれてきたが,OCTでは網膜内層の高反射の斑状病変として描出され,OCTAでも当該部位の内層の局所的なNPAとなっている.DRの重要な所見の一つがNPAである(図2).また,260あたらしい眼科Vol.41,No.3,2024(24)図1毛細血管瘤のOCTA画像a:眼底写真.b:蛍光造影初期.c~f:3×3mmのOCTA浅層(c)と深層(d)画像と対応するstructureOCT画像(e,f).OCTでは円形もしくは類円形の形態を呈することが多いが,OCTA画像上では,多様な形態を示す().図2網膜内細小血管異常(IRMA)のOCTA画像a:12×12mmのenface画像では,無灌流領域に接して拡張した異常血管が描出される.b:断層像では.owsignalが網膜内に存在することから,新生血管でなくIRMAである.図3硬性白斑とhyperre.ectivefocia:眼底写真では,中心窩と黄斑耳側,上方に硬性白斑の沈着を認める.OCT断層像(b)とその拡大図(c).hyperre.ectivefoci()が網膜全体に散在し,集簇すると(.)眼底所見の硬性白斑として視認できる.図4黄斑部の血流障害の進行中心C3C×3CmmのCOCTA浅層(Ca)と深層(Cb)画像.局所的な無灌流領域が形成されはじめている.3年後のOCTA浅層(Cc)と深層(Cd)画像.無灌流領域が拡大し,血管密度も低下している.-図5乳頭新生血管と網膜新生血管のOCTA画像Enface画像(Ca)では乳頭新生血管を認め,断層像(Cb)では,乳頭上の後部硝子体膜にC.owsignaを伴う.(c)網膜新生血管のCenCfaceOCTA画像.(d)断層像では,網膜上に肥厚した後部硝子体膜中に点状の.owsignalを伴っている.図6牽引性網膜.離a:眼底写真ではほぼ重篤な線維血管膜による牽引で,ほぼ全.離となっている.b:SS-OCT断層像では,線維血管膜()が収縮し,網膜(*)が.離しているのがわかる.bd図7中心窩を含む糖尿病黄斑浮腫(a,b)と中心窩を含まない糖尿病黄斑浮腫(c,d)中心網膜厚(OCT二次元マップにおける中心C1Cmmの平均網膜厚)が,基準値以上である場合に,中心窩を含む糖尿病黄斑浮腫と診断する.このCOCTはCSpectralisで撮像されており,基準値は男性C320Cμm,女性C305Cμm以上となっている.患者は男性であり,右眼は基準値以上,左眼は基準値未満であった.図8糖尿病黄斑浮腫症例における形態的多様性中心窩に.胞様黄斑浮腫(cystoidmacularedema,a)や黄斑下に漿液性網膜.離(serousretinaldetachment,b)を認めることが多い.ELMELMEZRPERPE図9OCTによる黄斑部視細胞障害の評価中心窩を通るCOCT断層像(Ca,b)とその拡大図(Cc,d).a,cの症例では,視細胞の指標である外境界膜(ELM)と視細胞エリプソイドゾーン(EZ)が網膜色素上皮(RPE)上に明瞭に描出される.Cb,dの症例の黄斑部では,EZはほぼ消失し,ELMもところどころで断裂しており,視細胞障害が進行していることがわかる.