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医薬品医療機器総合機構

2017年11月30日 木曜日

医薬品医療機器総合機構CommentaryonPharmaceuticalsandMedicalDevicesAgency:PMDA菅原岳史*I何をするところ?筆者は2012年1月から2年半,眼科医としては日本で初めて医薬品医療機器総合機構(PharmaceuticalsandMedicalDevicesAgency:PMDA)(用語解説参照)に勤務した経験から,眼科の患者に対する医療環境向上のため,本稿でPMDAについて紹介する(個人見解).PMDAが扱うのは主として治験データなので,フェーズIIとかフェーズIIIという試験の相が大事だが,本稿ではあえてそれにはまったく触れずに,PMDAについてコメントする.患者を治したいという湧き上がる情熱から生まれた医師や研究者の研究成果を,より大勢の患者に届けることを「一般化」とよぶ.一般化には,最終的に必ず企業の協力が必要になる.一般化されれば全国津々浦々の医療施設で使用される.これが「流通」である.流通させるためには国の「承認」が必要である.承認に向けた審査を実施するのが厚生労働省管轄であるPMDAである.PMDAで審査された医薬品,医療機器,再生医療等製品などは,最終的には厚生労働省で承認される.流通すれば独り歩きし,不用意に使用されかねないので,慎重に審査される.いわば,成果物に◯か×をつけて,流通を許可する関所(図1)であり,△はない.これがPMDA三大業務「救済」「安全」「審査」の一つである「審査」業務(図2).PMDAには三大業務に該当しないレギュラトリーサイエンス部や国際部などもある.本稿では救済と安全の業務も割愛し,審査業務について内容で紹介する.なお,審査業務には相談業務や信頼性業務もある.審査部には,新薬審査部(第1.第5),医療機器審査部(第1.第3),再生医療製品等審査部やワクチン等審査部などがある.審査関連部署としては相談業務の窓口であるレギュラトリーサイエンス相談室,モノ自体や治験体制のクオリティを調査する品質管理部や信頼性保証部などがある.審査業務の中心は治験の申請資料を読むことと審査報告書を書くこと(図3).それらが添付文書に反映される.わが国で唯一の組織なので,PMDAで承認されないと開発してもゴールにたどり着かない.海外の似た組織として,米国のFDA(用語解説参照)や欧州のEMA(用語解説参照)がある.一方で,誤解されがちだが,PMDAは医療技術を審査する先進医療や保険収載業務とは無関係である.II大学とのかかわり方は?PMDAは企業の方々には馴染み深い組織で,「パンダ」とか「機構」とよばれているが,大学とのかかわりはきわめてまれであった.筆者もPMDAに行くまでは,PMDAという名も知らなかった.企業が新薬を開発するには何十億円を費やし,PMDAとの交渉は経営に直結するので,PMDAの名前を知ら*TakeshiSugawara:千葉大学医学部付属病院臨床試験部・眼科〔別刷請求先〕菅原岳史:〒260-8677千葉市中央区亥鼻1-8-1千葉大学医学部付属病院臨床試験部・眼科0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(79)1563PMDAは流通の関所図3審査業務の読み書き治験など開発に関する総括報告書を読み,審査報告書を作る.図2PMDAの三大業務表1大学がPMDAと頻繁にかかわるようになってきた背景治験は研究のトップ治験山小屋PMDA研究者一定のルールに基づいた結果しか行政の目に留めない!PMDA相談登山計画・登頂目的・登山経験・登山体制・登山装備登頂ルート外観(霞が関ビル側から)図4開発をめざし治験の山を登るにはPMDA相談が不可欠図5PMDAの外観内観ロビー(2F)図6PMDAの内観各医療機関における臨床研究の中核的人材として活躍臨床審査員(2年~4年)図7キャリアパスにおけるPMDA国内留学留学や基礎系に所属する感覚でPMDAに所属されてはいかが?(PMDAホームページ掲載資料より改変)表2筆者が担当したおもな診療科領域図8行政に関係した眼科医の懇親会レギュラトリーサイエンス(レギサイ)懇親会許可を得て掲載(2017年6月初旬,都内にて),友人である東邦大学の堀裕一教授も参加(後列左から2番目が筆者).さまざまな情報交換が炸裂する.本特集の執筆者らが多数参加.■用語解説■PMDA:PharmaceuticalsandMedicalDevicesAgen-cy.独立行政法人・医薬品医療機器総合機構.通称パンダ.日本における開発の規制当局.FDA:FoodandDrugAdministration.米国の規制当局.EMA:EuropeanMedicalAgency.欧州の規制当局.ARO:AcademicResearchOrganization.大学における,臨床研究センターや臨床試験支援部等の総称.AMED:JapanAgencyforMedicalResearchandDevelopment.国立研究開発法人日本医療研究開発機構.特集の別項目参照.知的財産:特許のこと.レギュラトリーサイエンス:社会に調和させるように成果を届けるための科学.ポンチ絵:一枚のパワーポイントのスライドや配布資料図9PMDAレギュラトリーサイエンス相談の流れにイラスト,図表やコメントを満載にした行政特有のプレゼン資料のこと.眼科的にはビジーと思われるが,PMDA,AMED,厚生労働省ともに愛用.マイルストーン:どの時期にはどこまで実施しているべきという目安.架空の話とは思われないために,机上でシミュレーションしておく必要がある.ガントチャート:進捗管理表.横軸が時間で,縦軸が業務項目の表.開発は自動車製造と同じなので,事前に細かい業務分担管理がないと実施は困難.ロードマップ:臨床研究や治験はプロジェクトの一つに過ぎないので,数年のロードマップ上のどこの話であるか説明するのに必要.一足飛びに成功はしない.申請パッケージ:モノそのものの品質,非臨床(動物実験や基礎研究)ならびに複数の臨床試験の組み合わせを申請パッケージとよぶ.治験は基礎研究や臨床研究や関連情報(既報の論文)を含めた詰め合わせセットの一部である.すなわち,治験のデータそのものと同時に,詰め合わせ全体のバランスも,PMDA的には大事である.QOL:qualityoflife.生活の質.

日本医療研究開発機構

2017年11月30日 木曜日

日本医療研究開発機構OverviewofJapanAgencyforMedicalResearchandDevelopment:AMED三宅正裕*I日本医療研究開発機構とは日本医療研究開発機構(JapanAgencyforMedicalResearchandDevelopment:AMED)は2015年4月に発足した国立研究開発法人で,わが国の医療研究開発に関する研究費をとりまとめ,研究者・研究機関に配分する組織である.配分にあたっては医療研究開発に関する動向を見定め,国としてどの分野に投資すべきかを内閣府や各省庁と調整するほか,それらの研究費が適切に執行され開発が進捗しているかをマネジメントして必要に応じて介入するなど,医療研究開発の司令塔としての役目をもつ.AMEDの歴史はそもそも,わが国の基礎研究の成果を質の高い臨床研究・治験へと橋渡しすることで革新的な医療技術をいち早く実用化し,国際展開をめざす,そのための司令塔となる組織を創設することが,2013年6月14日に閣議決定された日本再興戦略に明記されたことから始まる.その後,2014年5月23日に健康医療戦略推進法および独立行政法人日本医療研究開発機構法という二つの法律が参議院本会議を通過し,その構想が実現することが決まった.当初は米国国立衛生研究所(NationalInstituteofHealth:NIH)にちなんで「日本版NIH構想」とよばれていたが,実際にはNIHのように研究施設を傘下にもたず,ファンディングする研究も研究開発目的のものに限られているなど,NIHの機能の一部を担っているに過ぎない.2015年4月にAMEDが設立されるまでは各省庁が縦割りにファンディングを行っており,それらに横串を刺して調整することが困難であったため,相乗効果が得にくいばかりか重複を十分に排除することができず,効率の悪い運用となっていた.AMED設立後も,各省庁の政策と直接的に関連するような研究費は引き続き各省庁が所管することとなっているが,その他の研究開発費については,内閣総理大臣を本部長とする健康・医療戦略推進本部が決定する予算配分の方針に基づいて各省庁が予算を要求し,認められたものについては補助金としてAMEDに交付される.AMEDは文部科学省,厚生労働省,経済産業省,総務省から交付される補助金を一元化し,メリハリをつけて配分する.AMEDの所管は内閣府であり,大きな方針は健康・医療戦略推進本部が開催する健康・医療戦略推進会議の事務局を務める内閣官房健康・医療戦略室と調整を行う.一方で,実務レベルでの配分については,AMEDの各事業課室と各省庁の担当部署ならびにプログラムディレクター(PD),プログラムスーパーバイザー(PS)およびプログラムオフィサー(PO)との調整が中心となる.以上がAMEDの概要である.一般的な認識としては,「医療研究開発に対する公的ファンディングを一手に担う組織」という認識でよい.*MasahiroMiyake:京都大学大学院医学研究科眼科学〔別刷請求先〕三宅正裕:〒606-8507京都市左京区聖護院川原町54第2臨床研究棟8階京都大学大学院医学研究科眼科学0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(73)1557図1日本医療研究開発機構(AMED)の組織図(AMEDホームページより)研究開発・研究基盤整備、生物資源等の整備、国際展開他)図2各省連携プロジェクト(AMEDホームページより)算が決定する時期がおおむね決まっていることから,スケジュールを押さえておくことで心の準備ができる.また,毎年継続的に募集される課題もあるので,そのような課題については事前準備も可能である.各年度の一次公募は原則として4月から契約して研究を開始できるよう,前年度のうちに公募・採択を終える.わかりやすいように2018年度の研究費で考えると,公募開始の時期は2017年12月末になるのが基本であるが,多くの課題は11月.12月に公募開始となる.この理由は,2017年12月末に2018年度予算案が閣議決定され,概算要求していた予算がどの程度まで削減されるかがほぼ確定するからである(※実際に確定するのは国会通過後).逆にいうと,それ以前に開始された公募は予算額の根拠が不完全であるため,実際には1課題あたりの研究費や採択課題数が公募要領よりも圧縮されることがある.また,上記の予算に加えて,医療分野の研究開発について,研究の進捗状況や新規に募集する研究の内容などを踏まえた予算配分を各省間をまたいで機動的かつ効率的に行うため,内閣府「科学技術イノベーション創造推進費」(500億円)のうち35%にあたる175億円が調整費として充当される.これまでこの175億円は春と秋の2回に分けて配分されており,おおむね春に150億円,秋に25億円が配分されてきた.2017年度は6月14日に春の調整費が確定して7月.9月頃に二次公募が開始されており,2016年度は11月21日に秋の調整費が確定して12月.1月頃に二次または三次公募が開始されている(※すべての事業に調整費が配分されるわけではないため,必ずしも二次・三次公募があるわけではない).このほか,予期しない時期に公募が行われることもあるため,タイムリーに公募情報を入手するためにはAMEDが配信するメールマガジンに登録しておくことが勧められる.IVAMEDが重視するポイントAMEDは基礎研究から実用化への橋渡しを強くめざす組織(図3)であり,したがって実用化をしっかりと意識した申請書が評価される.AMEDは基礎研究にもファンディングしているが,priorityは原理の解明や学問の探究ではなく,いかに患者に還元できるかという点にある.この「患者への還元」という観点は,単に医学的に役に立つかどうかという点だけでなく,きちんと製薬会社などが製造販売承認を取得してくれるのかという点も含まれるもので,「いくらよいものであっても企業が製品化しない限りは社会に届かない」という実質的な視点である.企業が製品化してくれるかどうかという点をもう少し掘り下げると,いくつかのチェックポイントも浮かび上がってくる.たとえば,知財がしっかりと押さえられるものかどうか,作用機序の新規性が高いかどうか,マーケットは広いか,医薬品医療機器総合機構(PMDA)と適切に協議しているか,薬価がどの程度と想定されるか,その薬価で採算が取れるものか,これらを含めたロードマップが適切に立てられているかなどである.とくにターゲットとなる患者(マーケット)についてはよく考える必要があり,単に〇〇病ということではなく,そのなかでも標準治療が効かなかった患者に使用するものなのか,標準治療に代替しうるものなのかによってマーケットは大きく変わってくる.もちろん,必ずしも研究者がここまで完全に作り上げる必要はないが,パートナーたり得る企業を探す時点でこのような視点は求められるだろう.また,研究開発が主眼となる以上,プロジェクトマネジメントは重要である.しっかりと上記のような観点を把握して研究全体をタイムキープし,必要に応じてプロジェクト自体を諦めるという判断が求められることもある.研究開発とは,かくも厳しいものである.V混同しやすい組織・研究費1.PMDAとの違い同じ4文字の政府系機関ということでAMEDとPMDAを混同してしまう方が多いが,ここまでお読みいただいた方はおわかりのようにその役割はまったく違う.詳細は本稿およびPMADの稿をご覧いただければと思うが,PMDAは製造販売承認(いわゆる薬事承認)の審査を行う専門の独立行政法人で,所管省庁は厚生労働省の医薬食品・生活衛生局である.1560あたらしい眼科Vol.34,No.11,2017(76)医療分野研究開発推進計画に基づくトップダウンの研究医療に関する研究開発の実施■プログラムディレクター(PD)、プログラムオフィサー(PO)等を活用したマネジメント機能●医療分野研究開発推進計画に沿った研究の実施、研究動向の把握・調査●優れた基礎研究の成果を臨床研究・産業化につなげる一貫したマネジメント(個別の研究課題の選定、研究の進捗管理・助言)■PDCAの徹底■ファンディング機能の集約化■適正な研究実施のための監視・管理機能●研究不正(研究費の不正使用、研究における不正行為)防止、倫理・法令・指針遵守のための環境整備、監査機能◆知的財産権取得に向けた研究機関への支援機能●知的財産管理・相談窓口、知的財産権取得戦略の立案支援◆実用化に向けた企業連携・連携支援機能●医薬品医療機器総合機構(PMDA)と連携した有望シーズの出口戦略の策定・助言●企業への情報提供・マッチング臨床研究等の基盤整備■臨床研究中核病院、早期・探索的臨床試験拠点、橋渡し研究支援拠点の強化・体制整備●専門人材(臨床研究コーディネーター(CRC)、データマネージャー(DM)、生物統計家、プロジェクトマネージャー等)の配置支援●EBM※(エビデンス)に基づいた予防医療・サービス手法を開発するためのバイオバンク等の整備(※EBM:evidence-basedmedicine)(AMEDホームページより)図3基礎研究から実用化への橋渡しをする組織

厚生労働省

2017年11月30日 木曜日

厚生労働省MinistryofHealthLabourandWelfare:MHLW許斐健二*はじめに厚生労働省と聞いて,その名称を知らない眼科医はおそらくいないと思うが,どこにあって,どんな業務を行っていて,どんな人が働いているのか,聞かれてすらすら答えることのできる眼科医はとても少ないのではないだろうか.また,医師国家試験の結果を講堂まで見に行ったことのある眼科医はいるかもしれないが,その後の医師としての日常のなかで,厚生労働省まで行って何かの作業に加わった経験のある眼科医はそれほど多くないと思われる.そこで多くの眼科医が知らない厚生労働省について紹介するとともに,眼科医としての業務を行っていく際に知っておくと少し役に立つかもしれないことについて記載する.Iどこにある?所在地:東京都千代田区霞が関1-2-2地図ソフトで調べるとすぐにわかるが,目の前には日比谷公園があり,最寄りの駅は「霞が関」である.合同庁舎5号館(テレビによく映っている)の中に厚生労働省があり,各階でエレベーターを降りると国会議事堂側(西側)と日比谷公園側(東側)に分かれている.日比谷公園と反対側の国会議事堂側には農林水産省(MinistryofAgriculture,ForestryandFisheries:MAFF)が,道を挟んで南側には経済産業省(MinistryofEconomy,TradeandIndustry:METI)がある.IIいつから?平成13年の中央省庁再編時に厚生省と労働省が統合されて現在の厚生労働省になった.同様に,文部省と科学技術庁が統合されて現在の文部科学省(MinistryofEducation,Culture,Sports,ScienceandTechnology:MEXT)になっている.IIIどんな任務があるの?厚生労働省の任務については厚生労働省設置法に以下のように記載されている.「厚生労働省は,国民生活の保障及び向上を図り,並びに経済の発展に寄与するため,社会福祉,社会保障及び公衆衛生の向上及び増進並びに労働条件その他の労働者の働く環境の整備及び職業の確保を図ることを任務とする」またこの他に,「引揚援護,戦傷病者,戦没者遺族,未帰還者留守家族等の援護及び旧陸海軍の残務の整理を行うことを任務とする.」と戦後の整理についても任務になっており,その業務は多岐にわたっている.後者を除き,おもな業務についてわかりやすく記載すると図1のようなイメージとなる.IVどんな人が働いている?総合職,技官,一般職の三つの職種がある(図2).以前のいわゆる国家公務員試験第一種に合格し採用された者が就くのが総合職である.医師は技官に属する.これ*KenjiKonomi:慶應義塾大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕許斐健二:〒160-8582東京都新宿区信濃町35慶應義塾大学医学部眼科学教室0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(65)1549図1厚生労働省のおもな業務図2厚生労働省の職種図3組織図(厚生労働省の組織再編について,平成29年7月4日)図4医系技官の本省以外のおもな勤務先・施策に関する知識・高い志・調整力・構想力・広い視野・公平・公正性・豊かな人間性など・コミュニケーション能力など図5医系技官に必要なもの①穏やかな一日の例9時半登庁午前中メールの処理など12時銀座までランチ(地下鉄1駅)13~15時省内で会議15~18時資料作成など18時国会開会中のため待機21時厳重居所となり帰宅②多忙な一日の例8時与党の部会9時半登庁10時他省で会議12時半昼食13~15時省内で会議15時議員からの質問通告18時問取り→答弁書き25時セット版(最終版)確定→タクシーで帰宅翌7時大臣に説明(レク)10時国会随行図6医系技官の一日(例)予算法律専門委員会事業図71年間の流れ〇健康課生活習慣病や,たばこやアルコール対策に関すること.〇がん・疾病対策課がんその他の悪性新生物に関する政策の企画・立案,調整等に関すること.〇結核感染症課エイズ,結核やその他の感染症などに関すること.〇難病対策課治療方法が確立していない疾病の予防や治療法などに関すること.〇移植医療対策推進室角膜移植を含む臓器移植や造血幹細胞移植などに関すること.4.医薬生活衛生局医薬品,医療機器,再生医療等製品や化粧品,医薬部外品などの有効性や安全性に関することや,血液事業,麻薬覚せい剤対策などを行う.〇医薬品審査管理課医薬品,医薬部外品や化粧品の製造や製造販売に関すること.〇医療機器審査管理課医療機器,対外診断用医薬品や再生医療等製品の製造や製造販売に関すること.〇医薬安全対策課医薬品などの安全性の確保に関すること.〇監視指導・麻薬対策課不良な医薬品や不正な表示のされた医薬品などの取り締まりに関することや,麻薬,覚醒剤などに関する取締りなどに関すること.5.保険局医療保険制度や後期高齢者医療制度に関すること.〇医療課診療報酬に関連すること.眼科の診療報酬もこちらが担当課である.これまでは2年ごとに診療報酬が改訂されてきたが,今後変わることがあるかもしれない.XI法令・指針など医学部で習うおもな法律は,医師法と医療法が中心であったと思う.しかし,これらに加えて,「再生医療等の安全性の確保等に関する法律」が平成26年に施行され,さらに平成30年からは臨床研究法が施行予定であるので,今まで以上に法律を理解して臨床業務を行う必要が出てきた.法律以外にも種々の臨床研究を実施しようとする場合には,「〇〇に関する指針」を遵守する必要があるが,指針と法律は異なるものである.法律が世に出てくるためには,種々の作業・過程を経た法案が国会に提出され,提出された法案が国会で審議され,可決されれば成立し,公布に至る.その後施行されて初めて法律の効力が作用することになる.法律が公布された途端,その日から急に法律通りにやりなさい,ということには通常はならない.たとえば,「再生医療等の安全性等に関する法律」では,平成25年11月27日に公布されたが,公布日から突然,同法律に従って再生医療などを実施しないと法律違反になるということはなく,施行日は平成26年11月25日とほぼ1年経ってからであった.法律にはその法律を施行するにあたって,施行令(政令),施行規則(省令)やこれらの扱いについての通知(政令や省令等で規定された事項を遵守し,適正に業務が実施されるようにさらに取りまとめた留意事項)といったより細かい規定が法律の下に置かれる.法律の公布後,施行日までにこれらの準備が整うことになる.一方,指針は法律のように国会で審議されることはなく,罰則規定もない.たとえば「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」は,厚生労働省と文部科学省が共管しているが,二つの省が開催した専門委員会で議論されたものが指針案となり,パブリックコメントを経た後,審議会で審議され,最終的に指針として告示されている.指針には罰則規定がないとはいえ,指針違反をすれば社会的にペナルティが課されることになる.法律も指針も人が作成するものであるから,必ずしも完璧なものとは限らない.また,その時代時代に即した(71)あたらしい眼科Vol.34,No.11,20171555

ゲノム医療

2017年11月30日 木曜日

ゲノム医療GenomicMedicine虎島泰洋*はじめに近年の科学技術の発展のなかでも,ゲノム科学はとりわけ著しく進展し,その成果を医療に実装しようとする動きは世界,そして日本でも急速に進みつつある.ゲノム科学においては,遺伝情報の総体であるゲノムだけでなく,細胞中に存在するすべてのRNA情報であるトランスクリプトーム,生体内に存在するタンパク質の総体であるプロテオーム,代謝物質であるメタボローム,そしてまたメチル化・アセチル化といったゲノムに修飾される情報であるエピゲノム変化といったオミクス全体を扱うようになってきている(図1).本稿では,個人のゲノム情報などをもとにして,その個人の体質や病状に適した医療を行う「ゲノム医療」について,それにかかわる環境や制度を解説する.なお,患者の細胞に遺伝子を導入するなどで病気を治療する遺伝子治療や,標的遺伝子を直接改変するゲノム編集についてはここでは触れない.Iゲノム医療の歴史ヒトゲノムの全塩基配列30億塩基対を解析すべく1990年に国際的なプロジェクトとして開始されたヒトゲノム計画は,1953年にジェームズ・ワトソンとフランシス・クリックがDNAの二重らせん構造を発見して50年となる2003年に完成版が公開された.そして2000年半ばに登場した次世代シークエンサー(nextgenerationsequencer:NGS)によってこの分野は一段と加速することとなった.従来のシークエンサーはサンガー法を用い一つ一つDNA配列を読み取るものであったが,NGSは多数のDNA配列を同時に解析することで時間とコストを飛躍的に改善させた.その後も技術革新は続き,毎年2倍以上というムーアの法則を超えるスピードでNGSデータ出力量が増加し,併せてコストも低下している(図2).ヒトゲノム計画では全塩基配列解読に13年という期間と30億USドルもの費用がかかったが,現在では,高い信頼性を保ちながらも数日内に1,000USドルで解読できるまでになった.2015年に当時米国大統領であったバラク・オバマ氏が「PrecisionMedicineInitiative」を発表した.平均的な患者のためにデザインされた従来型医療から脱却し,遺伝子,環境,ライフスタイルに関する個人ごとの違いを考慮した予防や治療法を確立するため,100万人以上の全米研究コホートを創設し,2億USドル以上の予算をかけ新しい癌の治療法開発などを推進するというものであり,これによって世界がゲノム医療実用化へ大きく舵を切ることとなった.また,2013年に米国の女優,アンジェリーナ・ジョリーが遺伝性乳癌・卵巣癌症候群の関連遺伝子,BRCA1/2遺伝子変異に基づき,予防的な乳房切除を行ったことが話題となり,ゲノム医療そして遺伝子検査が一般的にも認知されることとなった.*YasuhiroTorashima:長崎大学大学院移植・消化器外科〔別刷請求先〕虎島泰洋:〒852-8501長崎市坂本1-7-1長崎大学大学院移植・消化器外科0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(53)1537メチル化アセチル化フェノタイプDNARNAProteinMetabolites図1オミクスゲノムと遺伝子について研究するゲノミクスを始め,転写物-ランスクリプトミクス,タンパク質-プロテオミクス,代謝物-メタボロミクスなどの生体内に存在する分子全体を網羅的に研究するオミクスが進展している.$100M$10M$1M$100K$10K200120022003200420052006200720082009201020112012201320142015図2ヒトゲノム解析コストの推移ヒトサイズのゲノムを解析するコストは2007年を境に急激に低下し,ついに1,000ドル時代を迎えている.(NHGRIGenomeSequencingProgram資料より抜粋)ジストロフィンDNAMLPAや網膜芽細胞腫のRB1遺伝子など,単一遺伝子などの異常が原因となる疾患に関する遺伝学的検査がある.欧米における遺伝学的検査は4,600項目以上にのぼるのに対し,日本では144項目(保険収載は36疾患)にとどまっていたことで対応の遅れを指摘されてきたが,2016年度の診療報酬改定において遺伝学的検査が診断に必須とされる指定難病が追加された.しかし,いまだその多くの疾患が検査項目や検査方法が明確化されていないものも多く,また疾患が希少であるため衛生検査所で実施していない項目も多い(表1).遺伝子関連検査を行う場合,医療機関自らが保険適用されていない試薬を用いて行う自家調整検査法(labora-torydevelopedtest:LDT)や,医療機関内でブランチラボに業務委託される検体検査,衛生検査所に業務委託するものが行われているが,オミクス検査や遺伝子関連検査に特化した基準がないままに広く流通してきたことを踏まえ,2017年には医療法が改正され,LDTの品質・精度管理にかかる基準を定める根拠規定が新設された.今後具体的な基準などが定められる省令などを注意深く確認する必要がある.また近年,日本でも消費書直販型(direct-to-consum-er:DTC)遺伝子検査という医療機関を介さない検査サービスに大手IT事業者が参入し話題をよんでいる.インターネットで申し込み,送られてきた検査キットで唾液などの検体を採取して送り返すと,体質や疾患リスクを多項目にわたり分析した結果が直接返される.医行為ではないため診断は行えないが,環境要因が疾患の発症にかかわる多因子疾患を対象としており,利用者に気づきを与え,自らの行動変容を促すサービスとされている.しかし,十分な内容説明を提供されずに検査を受けること,検査の品質が担保されていないこと,科学的な根拠が乏しい場合があることなどの問題が指摘され,さらに個人情報保護の規定を加えた経済産業省のガイドラインが発出されたことを受け,業界団体(NPO法人個人遺伝情報取扱協議会)の自主基準が策定された.また,羊水ではなく,母体血を用いて胎児の染色体数的異常が判定できるとして,無侵襲的出生前遺伝学的検査(non-invasiveprenatalgenetictest:NIPT)も話題となり,2013年に日本産婦人科学会により指針が策定された.現在,限定した施設,限定した条件下に臨床研究として行われている.いずれの遺伝子関連検査においても,留意すべき重要なものの一つに遺伝カウンセリングがある.遺伝学的検査では診断が生涯変化せず,血縁者にも影響を与えうる遺伝情報を扱うこととなる.検査結果が示す意味を正確に理解することが困難であったり,疾病の将来予測性に対してどのように対処すればよいか本人や家族が不安をもったり,ということが考えられる.2011年に日本医学会により策定された「医療における遺伝学的検査・診断に関するガイドライン」においては,各診療科の医師自身が遺伝に関する十分な理解と知識および経験をもつことが重要であること,検査の意義や目的の説明とともに,結果が得られた後の状況や検査結果が血縁者に影響を与える可能性があることなどについて十分に説明し,患者・被験者の自律的選択が可能となるような心理的社会的支援ができるように,習熟した者が協力し,チーム医療としてカウンセリングを実施する体制を整えることとしている.III日本におけるゲノム研究の推進2014年の健康・医療戦略において,「環境や遺伝的背景といったエビデンスに基づく医療を実現するため,その基盤整備や情報技術の発展に向けた検討を進める」「ゲノム医療の実現に向けた取組を推進する」とし,2016年に閣議決定された「日本再興戦略」では,ゲノム解析などの技術革新を最大限に活用し,医療・介護の質や生産性の向上,国民の生活の質の向上,革新的な医薬品・医療機器などの開発・事業化につなげ,世界最先端の健康立国の実現をめざすとともに,グローバル市場の獲得をめざすことが掲げられた.2015年には健康医療戦略推進会議の下に「ゲノム医療実現推進協議会」が設置され,ゲノム医療の実現に向けオールジャパン体制での強化を図るとし,中間とりまとめが発表された.同年には,厚生労働省事務局による「ゲノム情報を用いた医療等の実用化推進タスクフォース」が設置され,改正個人情報保護法,医療制度における課題,社会環境整備について意見がとりまとめられて(55)あたらしい眼科Vol.34,No.11,20171539D006-4遺伝学的検査3,880点表1D006.4遺伝学的検査検査検査項目検査方法アデュシェンヌ型筋ジストロフィジストロフィンDNAMLPAMLPAベッカー型筋ジストロフィジストロフィンDNAMLPAMLPA福山型先天性筋ジストロフィ福山型筋ジストロフィDNA挿入PCR栄養障害型表皮水疱症──家族性アミロイドーシスTTR遺伝子変異解析(トランスサイレチン遺伝子変異解析)ダイレクトシークエンス法先天性QT延長症候群──脊髄性筋萎縮症──イハンチントン病HTT遺伝子CAG反復配列解析PCR球脊髄性筋萎縮症AR遺伝子CAG反復配列解析PCR法網膜芽細胞腫──甲状腺髄様癌RET遺伝子検査多発性内分泌腫瘍症2型(MEN2)遺伝子診断ダイレクトシークエンス法ウフェニルケトン尿症──メープルシロップ尿症──ホモシスチン尿症──シトルリン血症(1型)──アルギノコハク酸血症──メチルマロン酸血症──プロピオン酸血症──イソ吉草酸血症──メチルクロトニルグリシン尿症──HMG血症──複合カルボキシラーゼ欠損症──グルタル酸血症1型──MCAD欠損症──VLCAD欠損症──MTP(LCHAD)欠損症──CPT1欠損症──筋強直性ジストロフィDMキナーゼDNACTG反復配列解析サザンハイブリダイゼーション法隆起性皮膚線維肉腫──先天性銅代謝異常症──色素性乾皮症──先天性難聴先天性難聴の遺伝子解析NSG法+Invader法ロイスディーツ症候群──家族性大動脈瘤・解離──検査検査項目検査方法エ神経有棘赤血球症──先天性筋無力症候群──ライソゾーム病──プリオン病──原発性免疫不全症候群──クリオピリン関連周期熱症候群──神経フェリチン症──ペリー症候群──先天性大脳白質形成不全症──環状20番染色体症候群──PCDH19関連症候群──低ホスファターゼ症──ウィリアムズ症候群ウィリアムズ症候群(7番染色体)FISH法クルーゾン症候群──アペール症候群──ファイファー症候群──アントレー・ビクスラー症候群──ロスムンド・トムソン症候群──プラダー・ウィリ症候群プラダー・ウィリ症候群(15番染色体)FISH法Prader-willi/Angelman症候群遺伝子解析メチレーションPCR1p36欠失症候群特定染色体サブテロメア領域解析FISH法4p欠失症候群4染色体Wolf-Hirschhorn症候群FISH法5p欠失症候群特定染色体サブテロメア領域解析FISH法第14番染色体父親性ダイソミー症候群──第14番染色体父親性ダイソミー症候群──アンジェルマン症候群アンジェルマン症候群(15番染色体)FISH法Prader-willi/Angelman症候群遺伝子解析メチレーションPCRスミス・マギニス症候群──22q11.2欠失症候群22番染色体22q11.2欠失解析FISH法エマヌエル症候群──脆弱X症候群関連疾患脆弱X症候群脆弱X症候群脆弱X症候群の遺伝子解析サザンハイブリダイゼーション法ウォルフラム症候群──タンジール病──高IgD症候群──化膿性無菌性関節炎・壊疽性膿皮症・アクネ症候群──先天性赤血球形成異常性貧血──若年発症型両側性感音難聴先天性難聴の遺伝子解析(対象遺伝子:TMPRSS3,KCNQ4,WFS1,TECTA,COCH,CDH23,ACTG1)NSG法+Invader法尿素サイクル異常症OTC遺伝子塩基配列決定全翻訳領域PCR-RFLP法ダイレクトシークエンス法Nested-PCR法マルファン症候群──エーラスダンロス症候群(血管型)──2016年度の診療報酬改定にてエの項目が追加された.しかし,検査項目や検査方法が明確化されていないものも多く,また疾患が希少であるため衛生検査所で実施していない項目も多い.(厚生科学審議会疾病対策部会第46回難病対策委員会資料より抜粋改変)図3ゲノム医療実現への出口を見据えた研究開発フェーズ医療への実利用が近い単一遺伝子疾患などの第1グループ,多くの国民が罹患する一般的な疾患である第2グループをさらにStageごとに分類し,進捗管理が行われる.(ゲノム医療実現推進協議会,平成28年度報告より抜粋)図4疾病克服に向けた医療実現プロジェクト省庁連携プロジェクトとして,多くの事業が研究基盤の整備や試行的・実証的な研究を一体的に推進するとして176億円の予算が要求されている.(平成30年度医療分野の研究開発関連予算の概算要求のポイントより抜粋)図5臨床ゲノム情報統合データベース事業がん,希少疾患・難病,感染症,認知症,その他の個々の症例から得られた臨床情報とゲノム情報を集積・統合する臨床ゲノム情報統合データベースを構築している.図6未診断疾患イニシアチブ(IRUD)診断体制希少・未診断疾患患者をIRUD拠点病院において体系的に診断し,患者情報を収集蓄積,開示するシステムを構築している.(「未診断疾患イニシアチブのご案内」改訂第2版より抜粋)図7がんゲノム医療推進コンソーシアム懇談会報告書の概要がんゲノム医療実現のための新たな体制として,がんゲノム中核拠点病院やがんゲノム情報管理センター,がんゲノム医療推進コンソーシアムの設立が示された.(がんゲノム医療推進コンソーシアム懇談会資料より抜粋)て行い,そこで明らかとなった新しい変異を組み込むことで遺伝子パネル検査の充実をめざす,とした.そのため,ゲノム医療を受けた患者のゲノム情報と,治療後の転帰情報を含めたリッチな臨床情報を併せて集約し,研究での利活用をうながす仕組みを提案している.質の高いがんゲノム医療を提供するため,がんゲノム医療中核拠点病院に限定した医療提供が適切であるとし,そこから産出されるデータは,がんゲノム情報レポジトリーと人工知能を利用した知識データベースを備えた情報管理センターに集約される(図7).これらを受け,がん診療体制のあり方検討会において,がんゲノム中核病院の指定要件が議論された.施設・体制,人員,実績,診療連携・人材育成の観点で要件が示され,全国に10程度の施設が指名される見込といわれている.がん遺伝子パネルが保険収載されるまでは,パネルを用いた医療を先進医療として行うことが決定している.がんゲノム情報管理センターが稼働するまでは,AMED研究である臨床ゲノム情報統合データベース事業のなかでシステムを整備し,プロトタイプとして運用していくこととなった.さらに,がん患者のゲノム解析の結果,未承認・適応外薬が治療の選択肢となった場合に備え,治験・臨床試験の情報を一元管理したうえで必要な医師主導治験を促すような適切な治療薬の選択肢をタイムリーに提供できる体制の整備も併せて行うこととなっている.VI国際的な動向前述のPrecisionMedicineInitiativeの下,アメリカ国立衛生研究所(NationalHumanGenomicResearchInstitute:NIH)は,一般的な疾患から希少疾患までゲノム医療を多角的に推進し,世界をリードしている.全米に存在する既存のゲノムコホートを有機的に連携し,100万人以上の研究コホートを構築することによって,健康に影響を与える遺伝要因と環境要因の関係性を明らかにすることを目標としている.遺伝子変異・多型にかかる知識・データを集約・整理し,共有するための公的な基盤として,「ClinVar」が運用されており,すでに全世界で単一遺伝病の検査に欠かせないものとなっている.英国では,GenomicsEnglandを英国保健省が10万人のゲノムプロジェクトのために設立し,NGSの世界トップ企業であるイルミナ社と共同でシーケンス解析を実施している.さらに英国は欧州最大規模のUKBio-bankを有し,2006.2010年の5年間で全国から健常人50万人の血液,尿,唾液などの生体試料と病歴などの情報を収集保存し,多くの研究に利用され世界のバイオバンクのモデルとなっている.アジアにおいても,中国ではChinaKadoorieBio-bankが2008年に50万人の試料収集を達成し,台湾ではTaiwanBiobankに20万人,韓国ではKoreaBio-bankNetworkが健常人30万人,患者20万人の収集をめざしており,世界中で競い合うようにコホート研究が進んでいる.多因子疾患の解明のためには,より大規模なコホートが必要とされており,人種間などの差異を考慮しつつ,国際連携を進めることも重要であろう.また2017年,米食品医薬品局(FoodandDrugAdministration:FDA)は抗PD-1抗体ペムブロリズマブ(キイトルーダR)について,マイクロサテライト不安定性が高い(MSI-H),またはミスマッチ修復機構の欠損(dMMR)の固形癌を対象に迅速承認を行った.これは細胞内のDNA修復系が不十分となるため遺伝子変異数が多くなるものであるが,腫瘍の原発部位によらずバイオマーカーで薬剤を承認した初めての事例であり,今後の薬剤開発の方向性として大きな一歩となると思われる.さらにFDAは,DTCのサービス最大手である23andMe社に対し,2013年には検査サービスの停止命令を出していたが,2017年になって10の疾患や症状を対象に発症するリスクが高いかどうかを提示することを許可した.がんゲノムにおいては,300以上のがん関連遺伝子を一度に診断できる遺伝子パネルFoundation-OneRがFDAにより迅速審査プログラムに指定されたが,すでにそれをカバーする民間健康保険も販売されており,ゲノム医療の普及が本格化している.おわりにゲノム医療は,今回触れなかったゲノム情報を利用した創薬研究であるファーマコゲノミクスも含め,世界中で激しい競争が繰り広げられている.研究のための研究1546あたらしい眼科Vol.34,No.11,2017(62)

再生医療法

2017年11月30日 木曜日

再生医療法ActionsfortheActontheSafetyofRegenerativeMedicine今井浩二郎*はじめに「再生医療等の安全性の確保等に関する法律(再生医療等安全性確保法)」(以後,再生医療法)が施行されて3年が経過した.再生医療法が成立する前は「ヒト幹細胞を用いる臨床研究に関する指針」(以後,ヒト幹指針)のもと,臨床研究にのみ枠組みが整備されていたが,再生医療法により臨床研究のみならず,医療として提供される再生医療・細胞治療にも法の対象が広がった.現在,届出がなされている再生医療等提供計画はC3,000件を超え(2017年8月31日付1)),その多くのカテゴリーは「治療」である.再生医療法として当初の目的は達成したかに考えられるが,再生医療法を遵守していない案件も未だに存在する.本稿では,再生医療法の成立時の状況を振り返るとともに,再生医療法で定められている手続きおよび再生医療法下における再生医療などの実施状況などを概説する.その他,改正薬事法や臨床研究法との関係,眼科における再生医療法の役割などにも触れる.CI再生医療法の成立日本において,治験に関する枠組みが示されたのは,1997年のCGCP制定時と考えられる(図1).また,研究に関する枠組みは,2003年に臨床研究に関する倫理指針が施行され,徐々に体制が整い始めた.研究における再生医療については,2006年にヒト幹指針が制定され,2014年までにC100例を超す臨床研究が,厚生科学審議会科学技術部会にて了承された.当初は,安全性の確認を主とした研究が多かったが,徐々に有効性の検討を行う研究も増え始めた.また一貫して,投与される細胞加工物の品質に関するレビューを行った.わが国における再生医療の立ち上がりをヒト幹指針は支えたといっても過言ではないだろう.しかしながら,メディカル・ツーリズムで来日し,京都で幹細胞治療をC2010年に受けた韓国人が,肺動脈塞栓症で死亡したという事例が発生した.この治療の安全性を担保する枠組みが当時の日本には存在しなかった.この事態を重視した再生医療学会は,2011年に声明文2)を発出している.未認可の幹細胞治療には学会員は関与しないこと,患者側は冷静に判断すること,行政は適切な新しい医療提供体制の構築を進めることをそれぞれ求めた.厚生労働省では,2012年C9月より新たな枠組みに関する検討会を設置し,2013年C11月に再生医療法を公布,2014年C11月には施行に至り,異例のスピードで整備が進められた.2012年に山中伸弥教授がノーベル賞を受賞し,iPS細胞を含む再生医療を後押しするにあたり,法律による再生医療などの安全性の確保が急務となったことも大きく影響したと考えられる.CII再生医療法とは再生医療法は,54条に雑則C4条を加えたC58条から構成されている(表1).第二章は,再生医療等の提供に関して,第三章は認定再生医療等委員会に関して,第四章*KojiroImai:京都府立医科大学大学院医学研究科医療フロンティア展開学〔別刷請求先〕今井浩二郎:〒602-0841京都市上京区河原町広小路上ル梶井町C465京都府立医科大学大学院医学研究科医療フロンティア展開学0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(47)C15311997/42003/72006/92013/52014/11「GCP省令」施行表1再生医療法「臨床研究に関する倫理指針」施行「ヒト幹細胞を用いる臨床研究に関する指針」施行「再生医療を国民が迅速かつ安全に受けられるようにするための施策の総合的な推進に関する法律」施行「ヒト幹細胞を用いる臨床研究に関する指針」廃止「再生医療法」施行「薬事法改正法」施行図1再生医療法にかかわる年表第一種再生医療等第二種再生医療等第三種再生医療等提供計画の作成厚生科学審議会提供開始※:第三種再生医療等の審査は特定認定再生医療等委員会でも可能図2リスクに応じた手続き表2特定認定再生医療等委員会のカテゴリーによる構成要件・成立要件3)1.分子生物学,細胞生物学,遺伝学,臨床薬理学または病理学の専門家2.再生医療などについて十分な科学的知見および医療上の識見を有する者3.臨床医4.細胞培養加工に関する識見を有する者5.法律に関する専門家6.生命倫理に関する識見を有する者7.生物統計その他の臨床研究に関する識見を有する者8.一般の立場の者(技術専門委員)1名1名1名1名1名※3※1:構成要件として男女両性各C2名以上,同一医療機関半数未満など別要件あり.C※2:成立要件として委員の過半数出席,男女両性各C2名以上出席,対象の医療機関と利害関係を有しない委員が過半数含まれることなど別要件あり.※3:構成要件C2またはC3が専門的知識を有する場合は技術専門委員にあてることができる.①承認申請②承認申請治験:安全性確認,有効性推定.フェーズ2まで.①承認申請:条件・期限付き承認を与える.①市販後:市販後調査を定められた年限,計画で実施する.②承認申請:市販後調査の結果により承認を与える.(文献4を一部改変)図3条件・期限付き承認制度再生医療ではヒトに由来する細胞を用いることによる不均一性により,治験で有効性に関するデータを得るためには長期の時間を要し,患者へ治療が届かない恐れがある.患者へのアクセスを早めるための制度.表3臨床研究法図4わが国の再生医療

臨床研究法の法制化

2017年11月30日 木曜日

臨床研究法の法制化LesislationforClinicalResearchAct加藤浩晃*はじめに「臨床研究法」1)は平成29年4月7日に参議院本会議において全会一致で可決・成立し,平成29年4月14日に公布となり,今後公布から1年以内に施行が予定されている.筆者は当時,京都府立医科大学から厚生労働省に出向しており,この「臨床研究法」を所管(担当)する医政局研究開発振興課の一員として,法律の作成段階から国会審議,そして成立,公布にかかわった.本稿ではこの「臨床研究法」の法制化の背景から内容,そして今後の展開に関して説明をする.I臨床研究法検討の背景・経緯平成25.平成26年にかけて,ディオバン事案,タシグナ事案,CASE-J事案といった臨床研究に関する不適正な事案が生じ,臨床研究にかかる法制化の必要性が話題となるきっかけとなった(図1).ディオバン事案は,ノバルティス社の高血圧症治療薬ディオバンに関する臨床研究においてデータ操作があり,試験結果の信頼性,研究者の利益相反との観点から社会問題化したものである.東京慈恵会医科大学や京都府立医科大学など複数の大学が関連していたものであったため,マスコミでも非常に大きく取り上げられた.平成26年1月には,ノバルティス社を薬事法の誇大広告禁止規定違反の疑いで刑事告発し,裁判にも発展した.この事案については今年の3月に東京地裁でノバルティス社に無罪判決が出たが,その後,すぐに原告側が控訴したため,今現在も係争中である.タシグナ事案もノバルティス社の白血病治療薬のタシグナにかかる臨床研究において,患者のデータがノバルティス社に渡っていたということが大きく取りあげられた.CASE-J事案は,武田薬品工業の高血圧治療薬ブロプレスについて,既存の高血圧治療薬との比較で心血管系疾患の発生に統計学的に有意差がないのに,有意差があるような誤解を招きかねない広告があったということで,これもマスコミで大きく取りあげられた事例である.これらの臨床研究に関する不正事案が背景となって,まず,ディオバン事案について高血圧治療薬の臨床研究事案に関する検討委員会が,平成25年8月.平成26年3月にかけて開かれた.目的としては,このディオバン事案についての状況把握と再発防止策の具体策の検討であり,平成26年4月に報告書2)の概要が提出された.この報告書には,臨床研究に関する倫理指針を見直して必要な対応を図ることと,臨床研究の信頼性回復のための法制度の必要性について検討を進めるべきという大きく二つの内容が書かれていた(図2).前者の臨床研究に関する倫理指針の見直しという点において,平成26年12月に,それまでの「臨床研究に関する倫理指針」と「疫学研究に関する倫理指針」が統合され,「人を対象とした医学研究に関する倫理指針」となり,倫理審査委員会の機能強化と審査の透明性確保のための規定の充実や,研究責任者の責務の明確化,教育・研修の規定の充実などが図られ,またデータ改ざん*HiroakiKato:京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学〔別刷請求先〕加藤浩晃:〒602-0841京都市上京区河原町広小路上ル梶井町465京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(39)1523図1臨床研究法―臨床研究に関するおもな不適正事案―図2臨床研究の不正事案に関する検討の経緯について図3臨床研究に係る制度の在り方に関する検討会図4臨床研究に係る制度の在り方に関する検討会報告書(概要)制度の必要性についてであり,この委員会において9回にわたり議論してまとめられている.「臨床研究に係る制度の在り方に関する検討会」の報告書の概要としては.法規制の必要性ということでは,不適正な事案が判明した場合の調査,再発防止策定,関係者の処分などの迅速な対応に現状の制度では限界,いわゆる倫理指針という告示の状態では限界があるということで,倫理指針の遵守だけでは十分とはいえないということが述べられた(図4).しかし,過度な規制導入は研究の萎縮をもたらすので,バランスが重要であろうとされており,欧米における臨床研究(海外では臨床研究と治験とが分かれていないので人を対象とする医学系研究と考えてほしい)の規制を参考に,一定の範囲の臨床研究に法規制が必要という報告書が出された.この報告書では法規制の範囲ということで二つが示されている.一つは未承認または適応外の医薬品・医療機器などを用いた臨床研究,もう一つは,医薬品・医療機器などの広告に用いられることが想定される臨床研究,この二つの類型について法規制の範囲とすることが妥当であろうとされた.ただし,この規制,対策の内容として,行政による研究計画の事前審査などを受けることをさらに求めることについては慎重であるべきということも記載された.これらの検討会や報告書を受け,そこでの論点を盛り込みながら今回「臨床研究法」が作成され,国会での審議のうえ,成立となった4).II「臨床研究法」の概要「臨床研究法」は,「臨床研究の実施の手続,認定臨床研究審査委員会による審査意見業務の適切な実施のための措置,臨床研究に関する資金の提供に関する情報の公表の制度等を定めることにより,臨床研究の対象者をはじめとする国民の臨床研究に対する信頼の確保を図ることを通じてその実施を推進し,もって保健衛生の向上に寄与することを目的とする」法律である(図5).この法律の内容は大きく二つに分かれている.一つは特定臨床研究の実施に関する手続,二つ目は製薬企業などの講ずべき措置である.本法律においてはまず「特定臨床研究」が定義されている.この「特定臨床研究」というのは「臨床研究に係る制度の在り方に関する検討会」の報告書で述べられた二つの類型に関する臨床研究に対応するものであり,「医薬品医療機器等法」における未承認・適応外の医薬品などの臨床研究,ならびに製薬企業から資金の提供を受けて実施される,当該製薬企業などの医薬品などの臨床研究である.特定臨床研究に関して,モニタリング・監査の実施や利益相反の管理の実施基準の遵守,インフォームド・コンセントの取得,個人情報の保護,記録の保存などを義務づけるという内容である.研究者は,特定臨床研究を行う際は実施計画を認定臨床研究審査委員会に提出し,その審査委員会が実施計画を審査し,その意見も付けて研究実施者は厚生労働大臣に実施計画を届け出たうえで,実施基準を守って臨床研究を実施するというプロセスを経て臨床研究を行わなくてはならない(図6).これはあくまでも「届け出」であり,前述の「臨床研究に係る制度の在り方に関する検討会」の報告書を受けて,「審査」ではないということに注目してほしい.臨床研究の審査に関しては認定臨床研究審査委員会において行われる.特定臨床研究以外の臨床研究を実施する者に対しては,実施基準の遵守や認定臨床研究審査委員会の意見の聴取に努めることが努力義務として課されている.手続きに違反した場合については,立入検査・報告徴収,また改善命令を出して,その改善命令を聞かない場合,研究の一部または全部の停止命令を出すことができ,これに違反した場合には罰則が適用される.特定臨床研究において重篤な疾病などが発生した際は,報告が義務づけられており,まず,特定臨床研究に起因することが疑われる疾病・死亡・障害・感染症が発生した場合には,認定臨床研究審査委員会への報告を義務づけ,そのうち予期しない重篤なものについては厚生労働大臣への報告を義務づけ,PMDAへの報告という形になっている.厚生労働大臣は,毎年度,報告を受けた特定臨床研究における疾病などの発生状況について,厚生科学審議会に報告をし,その意見を聴いて,必要な措置を取ることとされている(図7).次に製薬企業などの講ずべき措置に関しては,臨床研究法においては,製薬企業などが研究の資金援助をして当該企業の製品の臨床研究を行う場合は,臨床研究を実1526あたらしい眼科Vol.34,No.11,2017(42)図5臨床研究法の概要図6特定臨床研究の実施の手続き図7重篤な疾病などの報告の義務づけ図8法律に基づく資金提供の公表範囲図9法制度による見直しの考え方(ポイント)図10医療における規制の区分について

NDBを用いた眼科研究の可能性

2017年11月30日 木曜日

NDBを用いた眼科研究の可能性PossibilityofOphthalmologyResearchUsingNDB吉村健佑*はじめに昨今,国よりいわゆる「医療ビッグデータ」に基づく医学研究推進の重要性が示されている.そのなかで,「レセプト情報・特定健診等情報データベース(NationalDatabaseofHealthInsuranceClaimsandSpeci.cHealthCheckupsofJapan:NDB)」など,厚生労働省保有のデータベースの利活用の方策が示されつつある.NDBは厚生労働省により構築・運用され,研究者などに対するデータの提供を含め活用の実績を有している.本稿ではNDBの制度を紹介し,さらには2016年より一般に公開され,誰でも利用可能な「NDBオープンデータ」の活用方策について実例を交えて述べる.INDBの整備と利用目的の拡大2006年の医療制度改革において,国および都道府県にて医療費適正化計画を立てる枠組みが導入された.その際,医療費適正化計画の作成,実施および評価に資するため,厚生労働省が行う調査および分析に用いるデータベースとして整備されたのが,「レセプト情報・特定健診等情報データベース(NDB)」である.NDBは「高齢者の医療の確保に関する法律」第16条を根拠として厚生労働大臣が保有し,レセプト情報ならびに特定健診および特定保健指導の情報(特定健診等情報)を厚生労働省保険局において管理・運用するデータベースである.格納されているレセプト情報と特定健診等情報の両者で,データの性質やデータ件数が異なっている(図1).2008年の「医療サービスの質の向上等のためのレセプト情報等の活用に関する検討会」において,NDBは医療費適正化計画策定に資する本来の目的以外にも,医療および保健サービスの質の向上などをめざした正確なエビデンスに基づく施策の推進や,これらの施策に有益な分析・研究,また学術研究の発展に資する目的で行う分析・研究への利活用を一定の審査のうえで認めるべきとの提言がなされた.こうした背景のもと,2010年に「レセプト情報等の提供に関する有識者会議」(以下「有識者会議」とする)が設置され,2011年度より本来目的以外の目的に対しても,有識者会議の審査を経たうえでレセプト情報などの利用が認められている1).IINDBに格納されているレセプト情報の特徴厚生労働省は2006年以降レセプトについてオンラインでの請求を推進しており,2009年度診療分よりオンライン・電子媒体での請求を原則義務化した.それを受け,電子化されたレセプトがNDBに格納されている.2015年4月診療分では,電子レセプト請求の普及状況は件数ベースで98.6%となり,高い悉皆性を達成しており,NDBに格納された総レセプト件数は2016年1月診療分までで約128億件以上である(図1).レセプト情報をデータベースに格納する際には,患者氏名や生年月日の「日」,保険医療機関の所在地および名称,被保険者証などの記号・番号など,個人を特定する情報はあらかじめ削除される.*KensukeYoshimura:国立保健医療科学院医療・福祉サービス研究部〔別刷請求先〕吉村健佑:〒351-0197埼玉県和光市南2-3-6国立保健医療科学院医療・福祉サービス研究部0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(31)1515図1NBDの概要(厚生労働省保険局公表資料より作成)図2レセプトデータの内容(厚生労働省保険局公表資料より作成)図3特定健診データの内容(厚生労働省保険局公表資料より作成)以下の特徴をもつ「ハッシュ関数」を用いることで,個人の特定につながる情報を削除(「匿名化」)したうえで,同一人物の情報であることを識別できるようにし,データベースへ保管している.【ハッシュ関数の特徴】①与えられたデータから固定長の疑似乱数(ハッシュ値)を生成する.②異なるデータから同じハッシュ値を生成することはきわめて困難.③生成された値(ハッシュ値)からは,元データを再現することはできない.※個人情報(氏名,生年月日等)を基にしてハッシュ値を生成し,それをIDとして用いることで個人情報を削除したレセプト情報などについて,同一人物の情報として特定することが可能.【イメージ】過去のレセプトデータ新規レセプトデータ新規レセプトデータ新規レセプトデータ354hja9sa0s809特定健診データ④ハッシュ値を基に突合.①個人情報をもとに②個人情報を削除.ハッシュ値のみ残し,③一次ハッシュ値と独自キーにハッシュ値を生成.運用管理業者が独自キーを発生.基づき2次ハッシュ値を作成.(厚生労働省保険局公表資料より作成)図4同一人として特定する方策:ハッシュ関数の採用2011年11月よりデータ提供を開始(厚生労働省保険局公表資料より作成)図5NBDの利用フロー:大学などへの第三者提供表1データ提供実績(2017年3月時点)特別抽出サンプリングデータセット基本データセット集計表情報基本的なイメージ申出者の要望に応じ,データベースにある全データのなかから,該当する個票の情報を抽出し,提供する探索的研究へのニーズに対応し,抽出,匿名化などを施して安全性に十分配慮した,単月分のデータセット入院,外来,疾患別など目的に合わせて年度ごとに紐付けが可能で,簡易に分析することが可能なデータセット申出者の要望に応じ,データを加工して作成した集計表を提供する提供データ個票一部匿名化等を行った個票大幅に加工した個票集計表含まれているデータ項目例レセプト情報,特定健診等情報に含まれている,ほぼすべての項目希少な情報があらかじめ匿名化・削除されたレセプトデータ患者の基本属性情報以外は,主傷病名,診療識別情報,要望に応じたコードなど集計表データ提供承諾件数(計125件)71件20件2件32件研究目的でのデータ提供承諾件数(計89件)44件18件2件25件(厚生労働省:第36回レセプト情報・有識者会議資料,2017年3月)義について,厚生労働省保険局は次のように説明している.「NDBに蓄積されたデータは国民の共有財産であり,こうした貴重なデータの利活用を進めるべく,わが国における医療の実態や特定健診の結果等を,国民に解りやすく示した統計資料がNDBオープンデータである」(第1回NDBオープンデータ解説編,第1章p45)).NDBに格納されている情報を国民に広く提供し,活用を進めようという意図がよくわかる.NDBオープンデータはこれまで,2016年10月に第1回NDBオープンデータ(2014年度分レセプト情報および2013年度分特定健診情報5))が,2017年9月に第2回NDBオープンデータ(2015年度分レセプト情報および2014年度分特定健診情報6))がそれぞれ公開されている.第1回よりも第2回のほうが公開されている情報項目が拡大されている.第2回NDBオープンデータでは,大きく分けて「医科診療行為」「歯科診療行為」「歯科(傷病)」「薬剤」「特定健診(検査値)」「特定健診(標準的な質問票)」の6項目の集計結果について公表を行っている.「医科診療行為」では,医科入院/入院外レセプトおよびDPCレセプトの情報を基に,厚生労働省告示の点数表で区分された各診療行為について,「都道府県別」および「性・年齢別」の集計を行っている.また,第1回NDBオープンデータでは公表していなかった「投薬」および「注射」の区分に分類される各診療行為,各診療区分の加算項目の集計結果についても追加公表された.さらに入院基本料および入院基本料等加算についても公表された.ただしこれら入院基本料および入院基本料等加算にかかる公表項目は,でき高評価で算定される診療行為回数のみしか集計されていないことに留意を要する(DPCレセプトの包括評価項目となる入院基本料および入院基本料加算は集計されていない).第2回NDBオープンデータでは「歯科診療行為」についても「初・再診料」「医学管理等」「在宅医療」に分類される各診療行為について集計を行い,「都道府県別」および「性・年齢別」の集計結果を新たに公表し,「歯科(傷病)」については,歯科レセプトの傷病名情報に基づき,「う蝕」「歯周病」「喪失歯」の集計結果を「都道府県別」および「性・年齢別」に公表した.「薬剤」については,医科入院/入院外レセプト,DPCレセプト,調剤レセプトの情報を基に「内服」「外用」「注射」の剤形別に,「都道府県別」および「性・年齢別」の集計が行われた.薬効分類3桁ごとに処方数量の多い薬剤が公表され,第2回NDBオープンデータでは表示薬剤数を薬効分類3桁上位30品目から薬効分類3桁上位100品目まで拡大された.それぞれの薬剤の医薬品コードには,薬価基準収載コードや薬価や後発品区分も付与されている.「特定健診(検査値)」については,特定健診データの情報を基に,主たる検査項目であるBMI,腹囲,空腹時血糖,HbA1c,収縮期血圧,拡張期血圧,中性脂肪,HDLコレステロール,LDLコレステロール,AST(GOT),ALT(GPT),g-GT(g-GTP),ヘモグロビン,眼底検査の検査値階層別件数を「都道府県別/性・年齢別」のクロス集計として公表している.「特定健診(標準的な質問票)」は,第2回NDBオープンデータで新たに追加公表となった集計表である.特定健診データの情報を基に,22の質問項目の回答件数を「都道府県別/性・年齢別」のクロス集計として公表している.ただし未回答の場合は集計対象外となっている.VII眼科領域におけるNDBオープンデータの分析と診療行為の可視化では第2回NDBオープンデータ6)を活用して,実際に提供された診療行為の可視化を試みてみよう.眼科(外来および入院)で実施された眼科手術(分類コード:K199-K284)のうち,比較的算定回数が多く,NDBオープンデータ公表基準より年齢別の内訳が公開されているの二つの診療行為に注目した.「K282水晶体再建術【眼内レンズを挿入する場合:その他】」は2015年度の年間算定回数118,4600回であり,一方「K276網膜光凝固術【通常+その他特殊】」は2015年度の年間算定回数249,258回であり,ともによく行われる診療行為である.これらの性・年齢階級別(5歳刻み)のグラフを作成した(図6,7).これらをみると,それぞれの診療行為の提供されている性・年齢別の特徴がわかる.「K2821520あたらしい眼科Vol.34,No.11,2017(36)1800001600001400001200001000008000060000400002000000~3435~3940~4445~4950~5455~5960~6465~6970~7475~7980~8485~8990overmalefemaleageallages0~3435~3940~4445~4950~5455~5960~6465~6970~7475~7980~8485~8990overmale5110312110149629565044869015562346967531511208511677790621379987681female6735697376571493306773251700544757978491458491524001264216041915590total118460028472153444981111601532567794531731642579342691772170429841723271図6眼科診療行為の可視化の例(2015年度性年齢階級別)(外来+入院)K282水晶体再建術【眼内レンズを挿入する場合:その他】300002500020000150001000050000malefemaleageallages0~45~910~1415~1920~2425~2930~3435~3940~4445~4950~5455~5960~6465~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遠隔診療に関する制度

2017年11月30日 木曜日

遠隔診療に関する制度Japan’sHealthCareSystemforTelemedicine加藤浩晃*はじめに2017年10月現在,日本でビデオ電話による医師対患者の遠隔医療(遠隔診療)を行うことは可能である.ただし,遠隔診療に関する制度として,医師法や医療法といった法律や療養担当規則,それらの解釈としての通知や事務連絡が厚生労働省から発出されており,それらを十分に理解したうえで遠隔診療を行う必要がある.筆者は日本遠隔医療学会の運営委員ならびに遠隔診療に関する分科会の会長に任命され,遠隔診療の適切な推進に尽力している.本稿では遠隔診療における制度をゼロから整理し,さらに政府が考える遠隔診療の今後の展開まで言及する.I遠隔医療と遠隔診療遠隔医療は大きく三つに分類される(図1).一つは医師がインターネットを通じてビデオ電話として患者を診察する医師対患者の遠隔医療であり,DtoP(DoctortoPatient)遠隔医療である.二つ目は医師と患者の間を医師以外の医療従事者が仲介する遠隔医療であるDtoN-toP(DoctortoNursetoPatient)であり,三つ目として専門医が他の専門医の支援をする医師対医師の遠隔医療であるDtoD(DoctortoDoctor)遠隔医療がある.DtoD遠隔医療としては医療現場ですでに行われているオンラインでの放射線科専門医による読影や病理医による病理診断などが該当する.遠隔診療は一般的には医師対患者の遠隔医療であるDtoP遠隔医療をさし,医療制度が複雑である遠隔診療について説明をする.II遠隔診療と遠隔医療相談遠隔診療に関する記事はインターネット上に多く公開されているが,内容として正確でないものも多い.その原因としては遠隔診療と遠隔医療相談という用語を正しく使い分けていないためある.そもそも診療と医療相談というのは医師法で規定されており,診察や治療などの医療行為が「診療」であり,「医療相談」は医療行為を行ってはいけない.医療行為である診療は,健康保険法で規定された「保険医療機関及び保険医療養担当規則」(以下,療養担当規則)を遵守する保険診療と,療養担当規則の範囲でない自費診療(自由診療)に分類される.これら診療や医療相談がインターネットを介して行われるのが遠隔診療や遠隔医療相談であり,「保険診療による遠隔診療」「自費診療による遠隔診療」「遠隔医療相談」の三つに分類される(図2).III遠隔診療に関連した法整備とその経緯遠隔診療に関連した法整備としては1948年7月に成立している医師法にさかのぼる.20条において医師の無診察治療などの禁止が明記されているが,インターネットの発展によって,患者と直接対面しなくてもビデオ電話ができる技術革新が起こったため,1997年12月に厚生省の健康政策局長(当時)は遠隔診療は「あくま*HiroakiKato:京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学〔別刷請求先〕加藤浩晃:〒602-0841京都市上京区河原町広小路上ル梶井町465京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(25)1509図1遠隔医療図2DtoP遠隔診療図3遠隔診療に関連した法整備図4厚生労働省医政局長事務連絡(p.43より引用)図5規制改革推進会議第1次答申図6遠隔医療で算定できる保険点数(平成28年)図7未来投資戦略2017(平成29年6月9日)安倍政権による成長戦略がまとめられたもの

眼科医における先進医療

2017年11月30日 木曜日

眼科における先進医療AdvancedMedicalCareProgramsinOphthalmology真田昌爾*I医学系研究全般の中の位置づけ近年の医学の進歩はめざましいものがあり,眼科領域においてもそれは同様である.それを支えるいわゆる「臨床研究」とは,新しい医療技術や医薬・医療品の開発が実際のヒト,つまり健常人や患者,あるいはその試料を使って行われる段階の研究と定義される.医学系研究の中に位置づけられる臨床研究の枠組みを図1に示すが,そのなかで,製品にかかる薬事承認取得を目的とし,医薬品医療機器等法(薬機法)に基づき実施手順・体制などを規定して被験者保護を図るものが「治験」である一方,いわゆる「臨床研究」は一般的には診療行為の延長上と理解され,診療に関する患者と医師の信頼関係のうえに,さらに他事目的(個人の診療以外の目的:いわゆる研究性)に関する倫理的配慮が指針などで規定されている.そのなかで「先進医療」は,平成16年12月の厚生労働大臣と(特区・規制改革等)特命担当大臣との「基本的合意」に基づき,国民の選択肢を広げ利便性を向上する観点から薬事未承認・適応外または保険未収載の先進的医療につき,安全性・有効性などを確保しつつ,保険収載に向けてその評価を実施する「臨床研究」と規定されており,基本的には一般的な臨床研究と同様に,臨床研究に関する倫理指針などに沿って運用されるが,治験とも一般的な臨床研究とも基本的に立脚点が異なる「特別な臨床研究」であるため,国の通知による一定の追加的規制と管理を受けるという特徴をもつ療養といえる.II先進医療に求められる考え方新規の未承認・適応外医療は通常,図2に示すように,探索的な臨床研究,検証的な臨床試験(治験など)を通じてその有用性が評価され,有効性と安全性が担保されれば薬事承認される.わが国では薬事承認された製品や医療技術は,保険適用希望書を出せば原則,中医協の判断を経て保険収載される.そのような流れから,日本の薬事・保険制度上は,薬事承認と保険収載は一見同じようにもみえるが,製品が薬事承認されるとその流通が可能となり,保険診療下での使用が可能となる一方,保険収載されるとその償還価格が決定するため,「保険収載」に向けた評価を要求されている先進医療では,薬事承認をめざす治験と比べ,さらに「医療の価値」を示す要求を背負っており,基本的な考え方が異なっている.さて,先進医療を実施してその技術的・社会的妥当性を示すために,各技術が具体的に示すべき論点として先進医療会議において議論がなされ,図3に示すように,①かかる技術それ自体が有効で安全か②既存の標準療法と比較して有効で安全か③普及性があるかこの3点を示すべきと示されている.①は薬事承認に際しても同様に求められる概念であるが,②③はその先の保険収載の是非までを判断する先進医療に特異的な概*ShojiSanada:大阪大学医学部附属病院未来医療開発部臨床研究センター〔別刷請求先〕真田昌爾:〒565-0871大阪府吹田市山田丘2-2大阪大学医学部附属病院未来医療開発部臨床研究センター0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(17)1501それ以外の目的(学術目的)先進的医療技術へのアクセス促進目的薬機法の承認取得目的※人体に直接働きかける試験のほかに人体試料を用いる研究についても補完的に規定(観察研究)図1医学系研究の中の臨床研究,治験と「先進医療」先進医療は,国民の選択肢を広げ利便性を向上する観点から,安全性・有効性などを確保しつつ保険収載に向けてその評価を実施する臨床研究と規定され,治験とも一般的な臨床研究とも基本的に立脚点が異なる「特別な臨床研究」として,国の通知による一定の追加的規制と管理を受ける特徴をもつ.図2治験と先進医療の枠組みの違い新規の未承認・適応外医療は通常,探索的な臨床研究,検証的な臨床試験(治験など)を通じてその有用性が評価され,薬事承認された製品や医療技術は原則,中医協の判断を経て保険収載される.「保険収載」に向けた評価を要求される先進医療では,「薬事承認」をめざす治験と比べさらに「医療の価値」を示す要求を背負い,基本的な考え方が異なる.それ自体が有効で安全か(医療技術単独として有効性・安全性が示されているか)治験(薬事承認)でも求められる概念既存標準治療と比較して有効で安全か(既存の治療法との相対的な関係に基づいて,医療として有用であるか)普及性があるか(広く日本全国で実施できるほど普及できるかどうか)先進医療(保険収載)に特徴的な概念(2015年6月4日「第31回先進医療会議」議事録より抜粋)図3先進医療に求められる条件「先進医療の3原則」それ自体が有効で安全か,という概念に加えて,先進医療では「医療の社会的価値」に着目した要求事項が追加されている.先進医療Aで実施中の技術図4先進医療の概要先進医療は,その医療技術ごとに厚生労働大臣が定める施設基準を満たす施設における実施に限定され,先進医療Aと先進医療Bの2種類に分かれる.大臣告示技術名番号実施先進医療施設数症例数総額現在のおもな適応症(H28.6(H27.7~(H27.7~施設数現在)H28.6)H28.6)多焦点眼内レンズを用いた19水晶体再建術白内障459施設11,478例70億円602施設角膜ジストロフィーの遺伝23子解析角膜ジストロフィー4施設27例122万円4施設24前眼部三次元画像解析緑内障,角膜ジストロフィー,角膜白斑,角膜変性,角膜不正乱視,水疱性角膜症,円錐角膜もしくは86施設6,739例3.2億円138施設水晶体疾患または角膜移植術後である者にかかるものウイルスに起因する難治性31の眼感染疾患に対する迅速診断(PCR法)豚脂様角膜後面沈着物もしくは眼圧上昇の症状を有する片眼性の前眼部疾患3施設87例2,023万円7施設または網膜に壊死病巣を有する眼底疾患細菌または真菌に起因する32難治性の眼感染疾患に対する迅速診断(PCR法)前房蓄膿,前房フィブリン,硝子体混濁または網膜病3施設28例902万円5施設変を有する眼内炎図5眼科領域の先進医療(平成29年9月現在実施中のもの)現在眼科領域では先進医療Aとして5種類,先進医療Bとして2種類の技術が実施中である.このうち「多焦点眼内レンズを用いた水晶体再建術」は,年間11,478例に実施され,先先進医療Bで実施中の技術進医療にかかる総費用も全先進医療技術を併せた総費用252億円のうち70億円と実施数・金額ともにトップで,なおも施設数が増え続けている.大臣告示技術名番号実施先進医療施設数症例数総額おもな適応症(H28.6(H27.7~(H27.7~現在)H28.6)H28.6)現在の施設数自己口腔粘膜および羊膜を18用いた培養上皮細胞シートの移植術スティーブンス・ジョンソン症候群,眼類天疱瘡または1施設9例3,092万円熱・化学腐食に起因する難治性の角結膜2施設ハイパードライヒト乾燥羊膜50を用いた外科的再建術翼状片1施設1例28万円(増殖組織が角膜輪部を超えるものに限る)1施設(2017年1月12日「第49回先進医療会議」資料を改変)図6先進医療から薬事承認・保険収載へ想定されるロードマップ上段:薬事未承認・適応外の製品を含む先進医療Bは,実施が終了すると本来なら次のステップとして治験の実施を経て薬事承認を取得するが,薬事承認を迅速評価する検討会議において一定の選定基準を満たせば優先的に審査され,さらに評価基準を満たせば公知申請相当か,あるいは企業に開発要請がかかる仕組みがある.下段:薬事承認を取得済み,あるいは薬事対象外の先進医療については,診療報酬点数改正時に合わせて毎回先進医療会議で保険収載への妥当性が検討され,その意見に基づいて最終的に中医協の医療技術評価分科会で保険収載が妥当か否かの判断が行われる.①要望書見解依頼見解①要望書※「医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議」「医療ニーズの高い未承認医療機器等の早期導入に関する検討会」(※両会議の会議資料を改変)図7医療上必要性の高い医薬品・医療機器の実用化促進施策薬事承認を迅速評価する検討会議の流れ.学会・個人からあがった要望が検討会議で審査され,判断基準に合致すれば治験を経ずに薬事承認される(公知申請相当)か,あるいは企業に開発要請がかかる.②検討対象の選定【選定基準】【下線:拡大された対象範囲】【「未承認薬・適応外薬検討会議」で優先的に取り扱う対象】1)米英独仏加豪のいずれかで承認され,医療上その必要性が高い国内未承認薬2)対象となる適応が,米英独仏加豪のいずれかで承認され,または一定のエビデンスに基づき特定の用量・用法で広く使用されていることが確認でき,医療上その必要性が高い国内適応外薬3)未承認薬迅速実用化スキーム該当品目:以下のいずれかに該当し,医療上その必要性が高い,米英独仏加豪における未承認薬①国内第III相の医師主導治験が実施中または終了したもの②優れた試験成績にかかる論文が権威のある学術雑誌などで公表されているもの③先進医療Bで一定の成績があるもの【「医療ニーズの高い医療機器等の早期導入に関する検討会」での選定対象】国内未承認または適応外の医療機器等のうち,以下のいずれの条件にも該当するもの〇医療上とくに必要性が高いと認められるもの〇欧米等において承認されているもの,または以下のいずれかの要件を満たす欧米未承認の医療機器①優れた試験成績が論文などで公表されているもの②医師主導治験を実施中または終了したもの③先進医療Bで一定の実績があるもの(両会議の会議資料を改変)図8医療上必要性の高い医薬品・医療機器の実用化促進施策薬事承認を迅速評価する検討会議において優先的に取り扱う対象選定基準.国内薬事未承認であっても先進医療Bで一定の成績があるものについてはその条件に含まれることが明記されている.③「医療上の必要性」の評価【評価基準】【1.適応疾患の重篤性】ア~ウを(重篤性あり)とするア生命に重大な影響がある疾患(致死的)イ病気の進行が不可逆的で日常生活に著しい影響を及ぼす疾患ウその他日常生活に著しい影響を及ぼす疾患【2.医療上の有用性】ア~ウを(有用性あり)とするア既存の療法が国内にないイ欧米など(※未承認薬迅速実用化スキーム該当品目にあっては「国内外」と読み替え)の臨床試験において有効性・安全性などが既存療法と比べて明らかに優れているウ(※未承認薬迅速実用化スキーム該当品目にあってはウは非該当の扱い)欧米などにおいて標準的療法と位置づけられており,国内外の医療環境の違いなどを踏まえても,国内における有用性が期待できると考えられる(両会議の会議資料を改変)図9医療上必要性の高い医薬品・医療機器の実用化促進施策薬事承認を迅速評価する検討会議における評価基準.疾患の有用性と医療上の有用性の2点が対象だが,これらは臨床試験実施前から判断可能な情報なので,検討会議への申請前,あるいは試験の計画時からよく吟味しておくことが望ましい.【先進医療】コース□薬事承認へのショートトラックが認められている場合に最適迅速承認スキームにかかる「検討会議」の採択条件に合致PMDAとの間で先進医療の試験成績で薬事承認を評価しうることの合意など◆メリット:1本の試験で薬事承認と保険償還に向け両方の評価に耐えうる◆デメリット:薬事承認と保険償還に向け単試験で多数の項目を評価する必要【治験】コース□薬事承認を戦略のゴールとした場合,正式で確実なので最適他技術からの適応拡大(一変)と読める場合は必ずしも必要ない場合がある◆メリット:ON/OFFの何らかの優位性を示せば確実に薬事承認される◆デメリット:労力と多額の資金が必要,保険収載に向けた戦略は別建て【先進医療⇒治験】コース□薬事承認に向け探索的課題が残る(または残り得る)場合に最適迅速承認スキームにかかる「検討会議」の採択条件に合致しない経験症例数が少ないなどで,あらかじめ評価項目を探索する必要がある先進医療で期待される結果が得られなかったなど◆メリット:治験のパッケージを先進医療の結果を基に最適化し省力化できる◆デメリット:労力・資金・症例数の負担大,保険収載に向けた戦略は別建て図10保険収載へのロードマップにおける「治験」と先進医療の有効な使い分けとくに未承認・適応外の技術については,先進医療を選択するか否かを含め,どのような試験を組んで薬事承認・保険収載に必要なデータを獲得していくかのいわゆる「出口戦略」が不可欠となる.◆先進医療は「臨床研究なのに」目的が臨床研究とも治,験とも異なる既存標準治療に対し画期的成果が見込まれる先進的な医療に対する患者アクセスの促進「有効性・安全性」と「保険診療への貢献度」を総合評価◆先進医療は「臨床研究なのに」保険外併用療養(混合,診療)できる本来は療養担当規則で混合診療は禁止先進医療の「保険行政上」のメリット◆先進医療は「臨床研究なのに」薬事承認の迅速化施,策に優先的にアクセスできる本来は薬機法で薬事承認をめざす試験=「治験」先進医療の「薬事行政上」のメリット図11先進医療が「特別な臨床研究」と位置づけられる点これらの特徴をふまえた有効かつ効率的な「出口戦略」が求められる.

診療報酬の枠組み

2017年11月30日 木曜日

診療報酬の枠組みRulesofJapan’sUniversalHealthCoverage三宅正裕*I保険診療の概念日本は世界に冠たる国民皆保険制度を有しており,保険診療で行われる医療についてはその大部分が公的医療保険から支払われる.全体としてのお金の流れを把握するため,保険診療の概念図を図1に示す.被保険者は保険料を医療保険者に支払っている(図1①).いわゆるサラリーマンなどは社会保険組合などが運営する社会保険に加入することになっており,保険料は給与から源泉徴収される一方,その他のすべての人(無職や自営業などの人)は市町村が運営する国民健康保険に加入し,保険料を定期的に納付(通常納付または銀行口座や公的年金からの引き落とし)する.被保険者が保険医療機関などを受診した際は,保険医療機関などは診療・治療(正確な用語としては「療養の給付」という)を行い(図1②),被保険者は自己負担割合に応じて,療養の給付にかかった金額を保険医療機関に支払う(図1③).なお,この際の「療養の給付にかかった金額」は実費ではなく,診療報酬表に設定された金額であり,政府によって2年ごとに改定される.残りの保険負担分は,保険医療機関などからの請求(図1④)に基づき,審査支払機関を通じて医療保険者から保険医療機関などに支払われることになる.この際,審査支払機関は,診療報酬の請求が保険診療のルール(健康保険法,療養担当規則,診療報酬点数表,その他各種通知など)に基づいているかを審査し,審査済みの請求書を医療保険者へ送付(図1⑤)して医療保険者より支払いを受け(図1⑥),一定の期日までに保険医療機関などへと診療報酬を支払う(図1⑦).II保険診療のルール保険診療は,保険者と保険医療機関との間の「公法上の契約」に基づくものであり,保険医療機関は,健康保険法などで規定されている保険診療のルール(契約の内容)にしたがって,療養の給付および費用の請求を行う必要がある.また,保険医は保険診療のルールに従って,療養の給付を実施する必要がある.とくに,保険医として申請して保険診療を実施する以上,本来は保険医の責務などを熟知している必要があるのだが,実際には保険診療に関係する法令や関係通知は非常に多く難解をきわめており,きちんと理解していることは少ないだろう.当然ながら本稿ですべてを網羅することは不可能であるが,どこにどういったことが記載されているのかの関係性を理解するだけで「医療制度に関する基礎体力」は大幅に向上し,今後,法律などの改正が議論される際にも,どういった問題意識から何が議論されているのかがわかりやすくなるし,また知らないうちに法律違反を犯してしまうリスクも低下すると期待される.それでは一体どのようなルールがあるのだろうか.まず,保険診療の前提として,医師および医療機関は「医師法」「医療法」「医薬品,医療機器等の品質,有効性及*MasahiroMiyake:京都大学大学院医学研究科眼科学〔別刷請求先〕三宅正裕:〒606-8507京都市左京区聖護院川原町54第2臨床研究棟8階京都大学大学院医学研究科眼科学0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(9)1493②診療サービス(療養の給付)③一部負担金の支払い⑦診療報酬の④診療報酬の請求支払い①保険料(掛金)の支払い図1保険診療の概念図(厚生労働省ホームページより)表1法律に関係する用語図2保険外併用療養制度(厚生労働省ホームページより)表2診療報酬算定のための費用の算定に関する規定(主要なもの)厚生労働省告示第52号診療報酬の算定方法の一部改正に伴う実施上の留意事項について点数表別表第一:医科診療報酬点数表別表第二:歯科診療報酬点数表別添1:医科診療報酬点数表に関する事項別添2:歯科診療報酬点数表に関する事項別表第三:調剤報酬点数表別添3:東西報酬点数表に関する事項施設基準厚生労働省告示第53号基本診療料の施設基準等基本診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて厚生労働省告示第54号特掲診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いにつ特掲診療料の施設基準等いて厚生労働省告示第55号薬価使用薬剤の薬価(薬価基準)(留意事項があれば薬剤ごとに発出)厚生労働省告示第56号特定保険医療材料の材料価格算定に関する留意事項について材料価格特定保険医療材料及びその材料価格特定保険医療材料の定義について(材料価格基準)特定診療報酬算定医療機器の定義等について保険外併用療養厚生労働省告示第59号保険外併用療養費に係る厚生労働大臣が定める医薬品等厚生労働省告示第60号厚生労働大臣の定める評価療養及び選定療養厚生労働省告示第61号保険外併用療養費に係る療養についての費用の額の算定方法健康保険法及び高齢者の医療の確保に関する法律に規定する患者申出療養の実施上の留意事項及び申出等の取扱いについて健康保険法及び高齢者の医療の確保に関する法律に規定する患者申出療養の申出等の手続の細則について保険適用の手続き等薬価算定の基準について─医療用医薬品の薬価基準収載等に係る取扱いについて(医薬品)医療用医薬品の薬価基準収載希望書の提出方法等について保険適用の手続き等特定保険医療材料の保険償還価格算定の基準について─医療機器の保険適用等に関する取扱いについて(医療機器)医療機器に係る保険適用希望書の提出方法等について保険適用の手続き等体外診断用医薬品の保険適用に関する取扱いについて(体外診断用医薬品)─体外診断用医薬品の保険適用の取扱いに係る留意事項について本診療料の施設基準等の一部を改正する件」(初診料や入院基本料等に関連するもの)「特掲診療料の施設基準等の一部を改正する件」(医学管,理料や手術手技等に関連するもの)という厚生労働大臣告示で明確化され,その手続きなどに関しては「基本診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて」「特掲診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて」という医療課長通知に記載されている.薬価や保険医療材料価格については,「使用薬剤の薬価(薬価基準)の一部を改正する件」「特定保険医療材料及びその材料価格(材料価格基準)の一部を改正する件」の厚生労働大臣告示に記載され,算定上の留意事項については,薬は個々の薬品ごとの,保険医療材料は「特定保険医療材料の材料価格算定に関する留意事項について」の医療課長通知に記載される.その他も含めて,以上に記載したことはすべて厚生労働省のホームページにまとまっている(http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000106421.html)のだが,関係性が複雑すぎるうえに一覧性がない.そのため,関係する事項が一冊にまとまった本(「医科点数表の解釈」いわゆる青本など)が重宝されることになる.筆者が保険局医療課で勤務していたときには,片時も手放せない必携の書であった.III保険適用これまで,保険診療に関連する法律や告示などをみてきたが,実際には保険適用の可否や前述の告示などの改正はどのように行われるのだろうか.もっとも有名なものは2年に一度の診療報酬改定であろう.この際にはいわゆる入院基本料やその算定要件に加え,各種管理料や手術手技などが一括で改定される.また,先進医療として実施されてきたものについても保険適用が検討される.医薬品・医療機器・体外診断薬については,随時企業から保険適用の申請を受け付けており,所定の審査などを経て所定のタイミングで保険適用がなされる.1.診療報酬改定次回は平成30年4月のいわゆる「30改定」で,3年に一度行われる介護保険の改定との同時改定である(なお,筆者は28改定の際に保険局医療課で診療報酬改定の一部を担当した).診療報酬改定に際しては,前回改定からの宿題事項や現状の問題点を踏まえて策定される診療報酬改定の骨子にしたがって,保険適用に関する事実上の意思決定会議である中央社会保険医療協議会(中医協)およびその関連部会などで議論が行われ,最終的には中医協で了承された案が厚生労働大臣の諮問に対する答申として提出され,厚生労働大臣が決定する.改定に向けては中医協の下の多数の部会などで活発な議論が交わされる.保険医療材料価格算定のルールなどを検討する「保険医療材料専門部会」,薬価算定のルールなどを検討する「薬価専門部会」,費用対効果の導入に向けた検討を進める「費用対効果評価専門部会」,入院医療の算定ルールを検討する診療報酬調査専門組織の「入院医療などの調査・評価分科会」,DPC算定ルールを検討する診療報酬調査専門組織の「DPC評価分科会」,学会の要望による医療技術の保険収載を検討する診療報酬調査専門組織の医療技術評価分科会などが,読者の先生に関係しうるところであろうか.議事録の公開までにはタイムラグがあるが,当日資料は速やかに厚生労働省ホームページで公開されるため,興味があれば適宜フォローされたい.すべては網羅できないため,ここでは保険収載をめざすなかでとくに重要な,医療技術評価分科会(いわゆる医技評)について記載しておく.厚生労働省保険局医療課は,外科系学会社会保険委員会連合(外保連)または内科系学会社会保険委員会連合(内保連)に加盟している学会から,毎年6月までに医療技術新規評価・再評価提案書の提出を受ける.各学会は,同提案書に既存技術の増点・適応拡大や新規技術の保険適用の要望について,医学的エビデンスや医療経済的効果などを含めて記載する.真剣に保険適用をめざす場合,「どのような患者に実施すれば,既存の技術などと比較してどういったメリットがあるのか」を具体的に示すことが重要である.臨床医をやっていると,「ないよりはあったほうがいい」「保険適用して使ってみないとエビデンスがでない」といった感覚で保険適用を希望しがちであるが,保険医療財政の厳しい昨今,政府も今まで以上に説明責任を求められており,政府が説明責任を果たせるだけのエ1498あたらしい眼科Vol.34,No.11,2017(14)ビデンスを,もっとも技術に詳しいわれわれが提出できないことには保険適用はあり得ない.また,「保険適用してからエビデンスが出てくる」というのは医療課目線では本末転倒で,「エビデンスがあるものは保険適用される」のである.また,テクニカルなことでは,医療技術新規評価・再評価提案書はあくまで医療技術にかかる提案であり,基本診療料や特定保険医療材料の価格に関することなどはそもそも対象外で,薬事承認のない医薬品や機器を使用するものについても対象とならないことから,提出するだけ無駄である(しかしこのような提案は提案書全体の1/6にのぼる!).相手のロジックを知り,必要な情報を適切に提示すること,またそのためのエビデンスをあらかじめ準備しておくことが肝要である.このようにして集められた提案書が医療技術評価分科会の資料としてまとめられ,例年10月頃の分科会で公開される.その後,委員による事前評価を経て,1月頃に保険収載の優先度が高い技術と対応を行わない技術が決定される.なお,先進医療からの保険適用については,前回改定では医技評とは別に先進医療会議で審議されたが,今回改定では医技評で一括して評価することとなっている.ボトムアップで保険適用が検討される数少ないチャンスであるため,適切に活用したい.2.医薬品・医療機器・体外診断薬の保険適用新規の医薬品,医療機器,体外診断薬については,保険適用希望書の提出は随時受け付けられている.企業は保険適用を希望する製品があれば厚生労働省医政局経済課に希望書を提出する.その後,当該製品は所定のプロセスを経て,保険適用の可否,価格などが決まる.本稿で取り上げたのは,このプロセスを医師が適切に理解し,戦略を立てることで,医療技術や検査などの適切な評価につながると考えるからである.医療機器の保険適用には,特定保険医療材料としての評価(B区分,C1区分)のみならず,新規技術を伴うものとして評価(C2区分)されることにより,新規技術が保険収載される場合がある.とくに眼科領域では医療材料が技術料に包括されることが多いため,活用のチャンスは多い.近年では,HOYAのシーティーアールが保険適用に際して「注」加算1,600点として収載されたほか,iSentも水晶体再建術との併施に限り27,990点(※水晶体再建術分込み)を算定できるようになった(現在は既存点数の準用であり,今回の30改定で正式に収載される見込みである).また,少し前だとバルベルトインプラントも同様にC2評価からの新規技術保険収載であった.このように,医療機器とセットで新たな技術を導入するという手法は効果的である.ただし,企業としては技術料がいくらであろうと製品が医療機関に売れればよいという立場なので,このアプローチで保険適用を狙う際には,企業が不当に低い技術料で妥協してしまわないかよく注意する必要がある.同様に,検査についても,検査キットを開発して体外診断薬の保険適用のプロセスをふむことで,能動的に保険収載を狙うことができる.保険収載の基本的な考え方である「その検査は診療方針に影響を与えるか?」という点さえきちんと押さえて,本当に必要な検査であれば保険収載の可能性は高く,非常に有用なアプローチであるといえる.3.先進医療先進医療からの保険適用は,医師側からの能動的なアプローチにより保険収載をめざすことができる第三のルートである.先進医療として認められたものは,先進医療Aは承認後一定の期間が経過していれば全例,先進医療Bは総括報告書が提出されたものについて,診療報酬改定の際に保険収載検討の対象となる.これにあたってはエビデンスが適切に構築されているかが重要であり,もっというと,研究デザインが適切であるかどうかにかかっているといっても過言ではない.逆にいうと,先進医療としての申請に際して適切なプロトコルを提示して承認されれば,良好な結果を得た場合に保険収載される可能性が高いといえ,すなわち,保険収載の可否は研究者の力量にかかっているといえる.なお,薬事未承認の医薬品などの使用が含まれている場合は保険適用検討の対象とならないため,薬事承認を飛ばして保険適用されるということはないことには留意が必要である.なお,具体的な申請などの手続きについては別稿を参照されたい.(15)あたらしい眼科Vol.34,No.11,20171499