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黄斑部疾患に対する眼底視野計maiaTMを用いた偏心視獲得訓練の効果

2015年1月30日 金曜日

144あたらしい眼科Vol.32,No.1,2015(144)144(144)0910-1810/15/\100/頁/JCOPY《原著》あたらしい眼科32(1):144.148,2015cはじめに黄斑疾患では薬物治療や手術治療により黄斑病変が改善した後も視力改善が十分でない症例が多くみられる.変視があり,中心暗点も残存している場合が多い.中心暗点のある患者は見ようとするところに視線を向けても目的のものが見えない.そのため良く見える場所に視線を移動させて見る偏心視が必要になる.しかし,どこへ視線を動かせばよいか患者自身で模索していることが多く,偏心視を確立できていない.偏心視を確立するためには偏心領域preferredretinallocus(PRL)の確認が必要である.〔別刷請求先〕林由美子:〒930-0194富山市杉谷2630富山大学大学院医学薬学研究部眼科学講座Reprintrequests:YumikoHayashi,DepartmentofOphthalmology,GraduateSchoolofMedicineandPharmaceuticalSciences,UniversityofToyama,2630Sugitani,Toyama930-0194,JAPAN黄斑部疾患に対する眼底視野計maiaTMを用いた偏心視獲得訓練の効果林由美子林顕代奥村詠里香中川拓也掛上謙追分俊彦林篤志富山大学大学院医学薬学研究部眼科学講座EffectivenessofEccentricViewingTrainingforPatientswithMacularDiseasesbyUseofMacularIntegrityAssessment(maiaTM)MicroperimetryYumikoHayashi,AkiyoHayashi,ErikaOkumura,TakuyaNakagawa,KenKakeue,ToshihikoOiwakeandAtsushiHayashiDepartmentofOphthalmology,GraduateSchoolofMedicineandPharmaceuticalSciences,UniversityofToyama目的:黄斑疾患のため中心暗点のある患者は目標物を見るために視線を移動させて見る偏心視が必要になる.そこで偏心視を獲得するため眼底視野計MacularIntegrityAssessment(以下,maiaTM)の偏心領域preferredretinallocus(PRL)トレーニングモジュールを使用し訓練を試みたので報告する.対象および方法:対象は黄斑部疾患があり治療されたが視力回復が十分に得られない患者18例である.maiaTMでPRLトレーニングモジュールを使用し偏心視獲得訓練を行った.結果:18例の訓練前の矯正視力はlogMAR値で平均0.77±0.32(小数視力0.16±0.48)であり,訓練後はlogMAR値で平均0.46±0.23(小数視力0.34±0.59)と向上した(p<0.0001).訓練後の最大読書速度も向上した.結論:眼底視野計maiaTMによる偏心視獲得訓練は黄斑部疾患があり中心暗点を有する患者の視力向上に有用である.Objective:Toimprovevisualacuity(VA),patientswithcentralscotomaduetomaculardiseasesshouldreor-ganizefixationpointsaroundthefoveaknownasparafovealfixation,whichisatechniquethathelpsthepatientsfixateobjectsbymovingtheireyesinsteadoftheirheads.Inthisstudy,wereporteccentricviewingtraininginpatientswithmaculardiseasesbyuseoftheMacularIntegrityAssessment(maiaTM)VisionTrainingModule(Cen-terVue,Inc.,Padova,Italy)toidentifythepreferredretinallocus(PRL).SubjectsandMethods:Thisstudyinvolved18patientswithmacular-disease-associateddecreasedVAwhounderwentvisualrehabilitationbyuseofthemaiaTMVisionTrainingModuletoestablishthePRL.Results:Priortothetraining,themeancorrectedVAwas0.77±0.32logMAR(decimalVA:0.16±0.48).Posttraining,themeanVAimprovedto0.46±0.23logMAR(decimalVA:0.34±0.59)(p<0.0001).Furthermore,thetrainingincreasedthemaximumreadingspeedofeachpatient.Conclusion:VisualrehabilitationbyuseofthemaiaTMVisionTrainingModuletoestablishthePRLwasfoundtobeeffectiveandusefulforpatientswithmacular-disease-relatedcentralscotoma.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(1):144.148,2015〕Keywords:黄斑疾患,偏心視獲得訓練,眼底視野計,maiaTM,最大読書速度.maculardiseases,effectivenessofeccentricviewingtraining,microperimeter,maiaTM,maximumreadingspeed.32,No.1,2015(144)144(144)0910-1810/15/\100/頁/JCOPY《原著》あたらしい眼科32(1):144.148,2015cはじめに黄斑疾患では薬物治療や手術治療により黄斑病変が改善した後も視力改善が十分でない症例が多くみられる.変視があり,中心暗点も残存している場合が多い.中心暗点のある患者は見ようとするところに視線を向けても目的のものが見えない.そのため良く見える場所に視線を移動させて見る偏心視が必要になる.しかし,どこへ視線を動かせばよいか患者自身で模索していることが多く,偏心視を確立できていない.偏心視を確立するためには偏心領域preferredretinallocus(PRL)の確認が必要である.〔別刷請求先〕林由美子:〒930-0194富山市杉谷2630富山大学大学院医学薬学研究部眼科学講座Reprintrequests:YumikoHayashi,DepartmentofOphthalmology,GraduateSchoolofMedicineandPharmaceuticalSciences,UniversityofToyama,2630Sugitani,Toyama930-0194,JAPAN黄斑部疾患に対する眼底視野計maiaTMを用いた偏心視獲得訓練の効果林由美子林顕代奥村詠里香中川拓也掛上謙追分俊彦林篤志富山大学大学院医学薬学研究部眼科学講座EffectivenessofEccentricViewingTrainingforPatientswithMacularDiseasesbyUseofMacularIntegrityAssessment(maiaTM)MicroperimetryYumikoHayashi,AkiyoHayashi,ErikaOkumura,TakuyaNakagawa,KenKakeue,ToshihikoOiwakeandAtsushiHayashiDepartmentofOphthalmology,GraduateSchoolofMedicineandPharmaceuticalSciences,UniversityofToyama目的:黄斑疾患のため中心暗点のある患者は目標物を見るために視線を移動させて見る偏心視が必要になる.そこで偏心視を獲得するため眼底視野計MacularIntegrityAssessment(以下,maiaTM)の偏心領域preferredretinallocus(PRL)トレーニングモジュールを使用し訓練を試みたので報告する.対象および方法:対象は黄斑部疾患があり治療されたが視力回復が十分に得られない患者18例である.maiaTMでPRLトレーニングモジュールを使用し偏心視獲得訓練を行った.結果:18例の訓練前の矯正視力はlogMAR値で平均0.77±0.32(小数視力0.16±0.48)であり,訓練後はlogMAR値で平均0.46±0.23(小数視力0.34±0.59)と向上した(p<0.0001).訓練後の最大読書速度も向上した.結論:眼底視野計maiaTMによる偏心視獲得訓練は黄斑部疾患があり中心暗点を有する患者の視力向上に有用である.Objective:Toimprovevisualacuity(VA),patientswithcentralscotomaduetomaculardiseasesshouldreor-ganizefixationpointsaroundthefoveaknownasparafovealfixation,whichisatechniquethathelpsthepatientsfixateobjectsbymovingtheireyesinsteadoftheirheads.Inthisstudy,wereporteccentricviewingtraininginpatientswithmaculardiseasesbyuseoftheMacularIntegrityAssessment(maiaTM)VisionTrainingModule(Cen-terVue,Inc.,Padova,Italy)toidentifythepreferredretinallocus(PRL).SubjectsandMethods:Thisstudyinvolved18patientswithmacular-disease-associateddecreasedVAwhounderwentvisualrehabilitationbyuseofthemaiaTMVisionTrainingModuletoestablishthePRL.Results:Priortothetraining,themeancorrectedVAwas0.77±0.32logMAR(decimalVA:0.16±0.48).Posttraining,themeanVAimprovedto0.46±0.23logMAR(decimalVA:0.34±0.59)(p<0.0001).Furthermore,thetrainingincreasedthemaximumreadingspeedofeachpatient.Conclusion:VisualrehabilitationbyuseofthemaiaTMVisionTrainingModuletoestablishthePRLwasfoundtobeeffectiveandusefulforpatientswithmacular-disease-relatedcentralscotoma.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(1):144.148,2015〕Keywords:黄斑疾患,偏心視獲得訓練,眼底視野計,maiaTM,最大読書速度.maculardiseases,effectivenessofeccentricviewingtraining,microperimeter,maiaTM,maximumreadingspeed. 眼底を直接観察しながら視野測定ができるNIDEK社製Microperimeter-1(以下,MP-1)は黄斑部の網膜感度を測定し,PRLが確認でき,黄斑疾患における視機能評価に有用である1).固視安定度による弱視治療の予後判定の報告もある2).しかし,MP-1は操作性,トラッキング精度,検査時間などの問題があった.2009年にトプコン社から共焦点ライン走査技術を用いることでトラッキング精度が向上され,操作も簡単な眼底視野計MacularIntegrityAssessment(以下,maiaTM)が発売された.maiaTMは黄斑部中心10°の視野検査時間が片眼5分と短く操作性も簡便であり,梶田らはMP-1と比較してより高い網膜感度の測定が可能になり,黄斑部の視野測定に有用であると述べている3).フォローアップ機能により同網膜部位での経時的感度変化も確認できる.そこでmaiaTMに付属されているPRLTrainingModuleを使用して中心暗点のある患者に感度の良好な網膜領域への偏心視獲得訓練を試みたので報告する.I対象および方法対象は富山大学附属病院眼科において黄斑部変性を有する,あるいは黄斑疾患に対し薬物治療または硝子体手術を施行され,半年以上経過後病変が安定しているが中心暗点が残存しており視力改善が十分に得られない18例(男性9名,女性9名)である.年齢は25.81歳(平均65±16歳)であった.18例に対し2013年2月から2014年7月までの期間に3回以上のmaiaTMによる偏心視獲得訓練を施行した.18例の疾患内訳は加齢黄斑変性6例,黄斑前膜3例,黄斑下出血2例,中心性漿液性網脈絡症2例,錐体杆体ジストロフィ1例,網膜分離症1例,黄斑光外傷1例,Coats病1例,糖尿病網膜症1例であった.訓練前の遠見矯正視力は0.04.0.6であった.訓練前に遠見矯正視力検査,時計チャートによる自覚的な偏心視方向確認,MNREAD-Jによる読書速度測定,maiaTMによる眼底視野検査を行った.眼底視野検査後,時計チャートで確認した自覚的な偏心視方向を考慮し,眼底視野の画面上のなるべく固視点付近の網膜感度の良好な箇所を新たな固視点「PRLrelocationTarget」(以下,PRT)として選定した.訓練中は検者がPRTへ誘導するよう声を掛ける.訓練中はビープ音が鳴りPRT2度以内に固視が近づけばビープ音の速度が速まり,PRT1度以内では音は連続音となり患者自身にも固視の安定がわかる.訓練は1回10分間行い,4カ月間で3回から5回行った.訓練後に矯正視力を測定し,最終訓練終了時に対象眼のMNREAD-J読書速度測定を行った.訓練効果は訓練前後の矯正視力値,固視成功率(以下P1),最大読書速度についてWilcoxon検定とSpearman順位相関係数を用い検討した.有意水準はp<0.05とした.小数視力はlogMAR値に変換し検討した.II結果全症例の結果を示す(表1).小数視力で1段階以上の視力改善例は18例中15例,不変は3例であった.P1および読書速度は全例改善した.自覚的には全例が見やすくなったと感じていた.両眼視で複視を自覚する症例はなかった.訓練前後の視力変化と読書速度の変化およびP1を示す(図1a,b,c).小数視力はlogMAR値に変換し平均値を計算した.訓練前の矯正視力の平均は0.16±0.48であったが訓練後は0.34±0.59と有意に改善した(p<0.0001).読書速度は訓練前0.382文字/分(平均124±113文字/分)であったが,訓練後は28.422文字(平均163±126文字/分)と有意に改善した(p<0.0001).訓練初回ではP1は5.99%(平均45.33%)を示し固視は不安定であったが,訓練終了後では11.100%(平均56.94%)と有意に改善した(p<0.0007).訓練後矯正視力とP1は有意に相関した(r=.0.57,p=0.01)(図2a).P1と訓練後読書速度も有意に相関した(r=0.48,p=0.04)(図2b).訓練後矯正視力と訓練後読書速度は相関しなかった(r=.0.24,p=0.34)(図2c).つぎに症例を示す.症例1は2012年5月ゴーグルをせずに顕微鏡下で貴金属溶接時の反射光(YAGレーザー工業用class4)を見た.その後,右視力低下を自覚し,近医で黄斑出血を指摘され富山大学附属病院眼科を受診した.初診時矯正視力は右眼(0.08),左眼(1.2)であった.2012年6月に右眼黄斑前膜,黄斑円孔の診断にて硝子体手術を施行された.術後矯正視力は右眼(0.3)であった.黄斑円孔は閉鎖したが脈絡膜萎縮,脈絡膜欠損が残存した.中心暗点があり6カ月経過観察するも視力改善は困難と考えられ,maiaTMによる偏心視訓練を試みることとなった.右眼黄斑部の眼底視野の結果を示す(図3).障害部位に相当する中心窩から鼻側網膜に感度0の箇所があった.時計チャートでは6時から8時方向への偏心視で見えやすいと自覚していたため下耳側にPRTを選定し,訓練を行った.訓練初回と訓練5回目のmaiaTM画像を示す(図4a,b,c,d).訓練初回では固視は安定しておらず訓練後の矯正視力は右眼(0.4)であった(図4a,b).訓練5回目では固視は初回より安定しており矯正視力は(0.7)と向上した(図4c,d).自覚的にも視標が探しやすくなったと感じていた.最大読書速度は訓練前171文字/分であったが,訓練後は278文字/分に改善した.III考按三輪4)は,拡大読書機を使用して偏心視獲得訓練を行う方法を紹介している.訓練は入院して行い同時にロービジョンケアを行い,読書速度は向上し日常生活もしやすくなった症あたらしい眼科Vol.32,No.1,2015145 表1maiaTM訓練症例症例年齢疾患名左右訓練回数PRT感度(dB)小数視力読書速度(文字数/分)固視成功率(%)自覚コメント訓練前訓練後訓練前訓練後初回訓練後125黄斑光外傷右5180.30.71712315184視標が探しやすくなった277加齢黄斑変性右360.20.315502843視標がすぐわかる,見やすい368黄斑下出血左4190.060.22252581961日常で見やすくなった472網膜分離症左4140.150.31872455369たまによく見える572錐体杆体ジストロフィ右4120.150.375167719訓練はむずかしい666糖尿病網膜症左4190.30.515233137視標が探しやすい774加齢黄斑変性左470.150.216288681少しだけ見やすい875加齢黄斑変性右340.20.26489615少しだけ見やすい,むずかしい981黄斑下出血右360.040.3028511眼を動かすことがわかった,むずかしい1065中心性漿液性網脈絡膜症左3140.20.449687677探しやすい1123コーツ病右3110.060.21171341620見える1264加齢黄斑変性右4180.30.6781389098探しやすい1357黄斑前膜右3170.30.41071417279少し見やすい1476黄斑前膜左3180.080.2741172539見やすい1577加齢黄斑変性右3190.10.362691432少し見やすい1650中心性漿液性網脈絡膜症左3200.50.83824226891探しやすい1767加齢黄斑変性右3220.61.03223849999少し良い1876黄斑前膜右3100.150.22883247069変わらない1.65001201.4400100文字数/分1.2logMAR値P1(%)10020801.03000.80.60.460200400.2000訓練前訓練後初回訓練後a平均0.77logMAR0.47logMARb平均124文字/分163文字数/分c平均45.3%56.9%図1訓練結果a:訓練前後の矯正視力(p<0.0001),b:訓練前後の最大読書速度(p<0.0001),c:訓練前後の固視成功率(p=0.0007).訓練前訓練後読書速度(文字数/分)500読書速度(文字数/分)500400300200100000.20.40.60.8120000.20.40.60.8400300200100010080P1(%)050100150a訓練後視力(logMAR値)b訓練後P1(%)c訓練後視力(logMAR値)図2訓練後の固視成功率と視力,読書速度の関係a:訓練後矯正視力と固視成功率(r=.0.57,p=0.01),b:固視成功率と訓練後読書速度(r=0.48,p=0.04),c:訓練後矯正視力と訓練後読書速度(r=.0.24,p=0.34).(146) (147)あたらしい眼科Vol.32,No.1,2015147例を報告しているが,入院しての訓練は困難であることが多い.そこで外来で簡便に偏心視訓練を行えるmaiaTMによる偏心視獲得訓練を中心暗点のある18例に施行した.15例は視力が改善し,訓練前は0.1以下であった5例は0.2から0.3へと改善した.視力が0.6以上に改善したのは4例であった.4例はいずれも黄斑の障害部位が中心窩から傍中心窩に限局しており網膜感度が18.以上の網膜部位にPRTを選定できたため,偏心視が容易に獲得でき視力改善できたと考えられる.視力不変であった3例は中心暗点が広範でありPRTの網膜感度が10.以下だったためと考えられた.しかし,すべての症例で視標を探しやすくなり読書速度は向上し,自覚的には良かったと答えていた.50歳以上の正常者の最大読書速度の平均は307文字/分であるが5),中心暗点が存在すると読書速度は正常者に比べ有意に低下すると報告がある6,7).今回の結果でも訓練前の対象眼の最大読書速度は平均124文字/分であったが,偏心視獲得訓練後には平均163文字/分と改善した.陳ら7)の報告では,MP-1における固視安定度と最大読書速度は正の相関を示すと報告しているが,今回の結果でも固視の安定を示すP1と読書速度は有意な相関を示し,P1と訓練後矯正視力も有意な相関を示した.固視安定度が視力改善と読書速度改善に不可欠であると考えられる.藤田8)の報告では,PRLは中心窩から萎縮瘢痕病巣辺縁までの最も距離の短いところに確立するとし,黄斑所見からPRT.★図3症例1の右眼眼底視野中心に感度0の部位あり.星印の個所をPRTとして設定.a訓練1回目c訓練5回目bd図4症例1の訓練1回目と5回目の固視安定度a:訓練1回目の固視プロット図,b:1回目のfixationstabilityグラフ,c:訓練5回目の固視プロット図,d:5回目のfixationstabilityグラフ.訓練3回後はPRTに固視点が移動し固視も安定していることがわかる.あたらしい眼科Vol.32,No.1,2015147例を報告しているが,入院しての訓練は困難であることが多い.そこで外来で簡便に偏心視訓練を行えるmaiaTMによる偏心視獲得訓練を中心暗点のある18例に施行した.15例は視力が改善し,訓練前は0.1以下であった5例は0.2から0.3へと改善した.視力が0.6以上に改善したのは4例であった.4例はいずれも黄斑の障害部位が中心窩から傍中心窩に限局しており網膜感度が18.以上の網膜部位にPRTを選定できたため,偏心視が容易に獲得でき視力改善できたと考えられる.視力不変であった3例は中心暗点が広範でありPRTの網膜感度が10.以下だったためと考えられた.しかし,すべての症例で視標を探しやすくなり読書速度は向上し,自覚的には良かったと答えていた.50歳以上の正常者の最大読書速度の平均は307文字/分であるが5),中心暗点が存在すると読書速度は正常者に比べ有意に低下すると報告がある6,7).今回の結果でも訓練前の対象眼の最大読書速度は平均124文字/分であったが,偏心視獲得訓練後には平均163文字/分と改善した.陳ら7)の報告では,MP-1における固視安定度と最大読書速度は正の相関を示すと報告しているが,今回の結果でも固視の安定を示すP1と読書速度は有意な相関を示し,P1と訓練後矯正視力も有意な相関を示した.固視安定度が視力改善と読書速度改善に不可欠であると考えられる.藤田8)の報告では,PRLは中心窩から萎縮瘢痕病巣辺縁までの最も距離の短いところに確立するとし,黄斑所見からPRT.★図3症例1の右眼眼底視野中心に感度0の部位あり.星印の個所をPRTとして設定.a訓練1回目c訓練5回目bd図4症例1の訓練1回目と5回目の固視安定度a:訓練1回目の固視プロット図,b:1回目のfixationstabilityグラフ,c:訓練5回目の固視プロット図,d:5回目のfixationstabilityグラフ.訓練3回後はPRTに固視点が移動し固視も安定していることがわかる. PRLの位置を予想することはPRLを誘導するための有用な情報であると述べている.maiaTMの利点として,1)網膜直視下で中心窩に近い感度の良い網膜領域をPRTに選定でき,操作は簡便である点,2)ビープ音で患者自身にも固視の安定が理解できるため,PRTへの誘導が容易である点が挙げられる.中心暗点がある患者は,視力検査の際,暗点を避けて視標を見ようと顔を動かしているが,顔を大きく動かしているほどには視線は動いておらず,偏心視を確立できているとはいえない状態である.偏心視が確立できていれば顔を大きく動かさずとも視標を捉えられる.maiaTMによる偏心視獲得訓練では訓練後に視力測定を行うが,訓練直後は顔を大きく動かさずとも視標を捉えられるため,偏心視で見えることに患者自身も理解できてくる.今回,筆者らは,眼底視野計maiaTMを使用して中心暗点を有する患者に偏心視獲得訓練を行い,固視安定と遠見視力と最大読書速度の改善を得た.maiaTMは画面上から網膜感度を確認し,感度良効な網膜部位を使用するため,訓練に対する患者の理解が得られやすく,効果が患者自身で納得できるため偏心視獲得訓練に有効であると考えられた.文献1)鈴木リリ子,高野雅彦,飯田麻由佳ほか:Microperimeter-1(MP-1TM)を用いた黄斑円孔術前後の視機能評価.あたらしい眼科29:691-695,20122)平野美恵子,毛塚剛司,菅野敦子ほか:マイクロペリメーター(MP-1)による固視評価を利用した弱視治療の予後判定.眼臨紀4:748-751,20113)梶田房枝,新井みゆき,山本修一:正常者における2種類の眼底直視下微小視野計の計測結果の比較.あたらしい眼科29:1709-1711,20124)三輪まり枝:拡大読書器を用いたPreferredRetinalLocus(PRL)の獲得および偏心視の訓練.日本ロービジョン学会誌10:23-30,20105)藤田京子,成瀬睦子,小田浩一ほか:加齢黄斑変性滲出型瘢痕期の読書成績.日眼会誌109:83-87,20056)藤田京子,安田典子,小田浩一ほか:緑内障による中心視野障害と読書成績.日眼会誌110:914-918,20067)陳進志,涌澤亮介,阿部俊明ほか:微小視野計MP-1で測定した偏心固視症例における固視と視力,読書能力との関係.臨眼62:1245-1249,20088)藤田京子:PreferredRetinalLocus(PRL)の評価.日本ロービジョン学会誌10:20-22,2010***(148)

0.0015%タフルプロスト/0.5%チモロール配合点眼液(DE-111点眼液)の開放隅角緑内障および高眼圧症を対象としたオープンラベルによる長期投与試験

2015年1月30日 金曜日

《原著》あたらしい眼科32(1):133.143,2015c0.0015%タフルプロスト/0.5%チモロール配合点眼液(DE-111点眼液)の開放隅角緑内障および高眼圧症を対象としたオープンラベルによる長期投与試験桑山泰明*:DE-111共同試験グループ*福島アイクリニックALong-term,Open-labelStudyofFixedCombinationTafluprost0.0015%/Timolol0.5%(DE-111)inPatientswithOpen-angleGlaucomaorOcularHypertensionYasuakiKuwayama1):DE-111CollaborativeTrialGroup1)FukushimaEyeClinic目的:0.0015%タフルプロスト/0.5%チモロール配合点眼液(DE-111点眼液)の52週間投与時の有効性と安全性を検討する.対象:2剤以下の治療,または無治療で両眼の眼圧13mmHg以上の開放隅角緑内障および高眼圧症患者136例を対象とした.デザイン:オープンラベルによる多施設共同試験とした.方法:導入期は0.0015%タフルプロスト単剤,0.5%チモロール単剤,または両剤の併用に無作為に割り付け,4週間点眼した.治療期はDE-111点眼液を52週間点眼した.結果:治療期間を通じて治療期0週に比べ.1.3±2.2..1.8±2.3mmHgと安定した眼圧下降作用を示し,治療期終了時の眼圧は.1.7±2.4mmHgと有意に低下した.副作用発現率は44.1%であり,その多くは軽度であった.結論:本剤の長期投与における安定した眼圧下降作用および安全性が確認された.Purpose:Theaimofthisstudywastoevaluatetheefficacyandsafetyofthefixedcombinationophthalmicsolutionof0.0015%tafluprost/0.5%timolol(DE-111),administeredfor52weeks.Subjects:Involvedwere136patientswithopen-angleglaucomaandocularhypertension,whoseintraocularpressure(IOP)inbotheyeswasnotlessthan13mmHgundertreatmentwithtwoorfewerdrugs,orwithouttreatment.Design:Open-label,multicenterstudy.Method:Patientswererandomlyassignedtothetafluprost,timololorconcomitantgroup,theinitialdrugbeinginstilledfor4weeks,followedbyDE-111for52weeks,asatreatmentperiod.Result:IOPreductionfrombaselinewasstableintherangeof.1.3±2.2mmHgto.1.8±2.3mmHgthroughoutthetreatmentperiod,andwassignificantlyloweredby.1.7±2.4mmHgattheendoftreatment.Adversedrugreactionswereobservedin44.1%;mostofsuchcasesweremild.Conclusion:DE-111showedastableandexcellentIOP-loweringeffect,andwassafeinlong-termtreatment.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(1):133.143,2015〕Keywords:緑内障,配合点眼液,タフルプロスト,チモロール,DE-111.glaucoma,fixedcombination,tafluprost,timolol,DE-111.はじめに緑内障治療の目的は,患者の視機能を維持することであるが,唯一エビデンスが得られている治療法は眼圧を下降させることである.通常,緑内障治療の第一選択となるのは薬物治療であり,まず単剤から治療が開始される.しかし,単剤治療ですべての患者に対して十分な眼圧が達成できない場合もあり,2剤以上の薬剤が併用されている患者は少なくない1,2).併用治療では,薬剤数と点眼回数が増加するため,負担を感じる患者は多い.実際に,2000年に実施された緑内障患者へのアンケート調査3)でも,理想の点眼薬としては「少ない点眼回数でよいこと」が最上位に挙げられている.また,慢性疾患である緑内障は明確な自覚症状のない患者や〔別刷請求先〕桑山泰明:〒553-0003大阪市福島区福島5-6-16福島アイクリニックReprintrequests:YasuakiKuwayama,M.D.,FukushimaEyeClinic,5-6-16Fukushima,Fukushima-ku,Osaka553-0003,JAPAN0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(133)133 高齢者の患者も多く,多剤併用療法が必要な患者において複数の点眼液を規定どおりに点眼し続けることは容易ではない.規定どおりの点眼回数や推奨される点眼間隔が守られていなければ期待した眼圧下降効果が得られず,視野障害の進行を十分抑制できないため,良好なアドヒアランスが得られやすい薬剤を選択することが重要である.配合点眼液は薬剤数および1日の点眼回数を減らし,患者の利便性,アドヒアランスおよびQOL(qualityoflife)を改善しうる.このことから,近年国内では,緑内障の治療薬として配合点眼液が次々と販売され臨床使用されるようになった.『緑内障診療ガイドライン』(第3版)4)では「原則として配合点眼液は多剤併用時のアドヒアランス向上が主目的であり,第一選択薬ではない」と配合点眼液が位置づけされており,「原則的に初回から配合点眼液を使用することなく,単剤併用により副作用の有無や眼圧下降効果を評価することが望ましい」と述べられている.このことから,臨床現場では治療効果が不十分な単剤あるいは多剤併用からの切り替えで配合点眼液が使用されることが原則となっている.また,慢性疾患である緑内障の治療において,視神経障害の進行を阻止しうる眼圧を長期間にわたり維持していくことが重要であることから,長期間の投与で安定した眼圧下降作用および忍容性を有することが配合点眼液にとって必要である.DE-111点眼液は,有効成分としてタフルプロストを0.0015%,チモロール0.5%相当量のチモロールマレイン酸塩を含有する1日1回点眼の配合点眼液であり,両点眼液の併用治療に比べて患者の利便性,アドヒアランスおよびQOLを改善し,緑内障の治療効果を高めることが期待される.今回,開放隅角緑内障または高眼圧症患者を対象に,0.0015%タフルプロスト点眼液,0.5%チモロール点眼液,または0.0015%タフルプロスト点眼液および0.5%チモロール点眼液の併用からDE-111点眼液へ切り替えた際の52週間投与における安全性および眼圧下降効果を,オープンラベルによる多施設共同試験により検討したので,その結果を報告する.なお,本試験はヘルシンキ宣言に基づく原則に従い,薬事法第14条第3項および第80条の2ならびに「医薬品の臨床試験の実施の基準(GCP)」を遵守し実施された.また,試験登録はClinicalTrials.gov(IdentifiedNo.NCT01343082)に行った.I対象および方法1.実施医療機関および試験責任医師本臨床試験は全国11医療機関において各医療機関の試験責任医師のもとに実施された(表1).試験責任医師は,被験者選定および同意の取得,実施計画書に沿った試験の実施,データ収集の役割を担った.試験の実施に先立ち,各医療機関の臨床試験審査委員会において試験の倫理的および科学的妥当性が審査され,承認を得た.表1DE-111共同試験グループ試験実施医療機関一覧(順不同)医療機関名試験責任医師名医療法人大宮はまだ眼科濱田直紀医療法人社団秀光会かわばた眼科川端秀仁医療法人社団平和会葛西眼科医院村瀬洋子医療法人頼母会ごうど眼科神戸孝医療法人栗山会飯田病院眼科浅井裕子医療法人社団富士青陵会なかじま眼科中島徹尾上眼科医院尾上晋吾杉浦眼科杉浦寅男たはら眼科田原恭治医療法人永山眼科クリニック永山幹夫医療法人社団越智眼科越智利行,朝比奈恵美表2おもな選択基準および除外基準1)おもな選択基準(1)20歳以上(2)性別:不問(3)入院・外来の別:外来(4)両眼の眼圧が2剤(配合剤1剤は2剤に数える)以下の治療,または無治療で13mmHg以上,34mmHg以下2)おもな除外基準(1)以下の①.③のいずれかに該当する〔①気管支喘息,またはその既往を有する,②気管支痙攣,重篤な慢性閉塞性肺疾患を有する,③心不全,洞性徐脈,房室ブロック(II,III度),心原性ショックを有する〕(2)角膜屈折矯正手術の既往を有する(3)導入期開始前90日以内に前眼部または内眼の手術〔緑内障手術(レーザー線維柱帯形成術,濾過手術,線維柱帯切開術など)を含む〕の既往を有する(4)試験期間中にコンタクトレンズの装用を必要とする(5)安全性上不適格と判断される合併症または臨床検査値異常を有する(6)試験責任医師・試験分担医師が本試験の対象として不適当と判断した134あたらしい眼科Vol.32,No.1,2015(134) 同意取得0週登録/割付登録0週登録/割付登録導入期4週間治療期52週間タフルプロストDE-111併用(タフルプロスト+チモロール)チモロールオープン無作為化,オープン【導入期】導入期タフルプロスト群:0.0015%タフルプロスト点眼液1回1滴,1日1回(朝),両眼点眼導入期チモロール群:0.5%チモロール点眼液1回1滴,1日2回(朝,夜),両眼点眼導入期併用群:0.0015%タフルプロスト点眼液1回1滴,1日1回(朝),両眼点眼0.5%チモロール点眼液1回1滴,1日2回(朝,夜),両眼点眼【治療期】DE-111:DE-111点眼液1回1滴,1日1回(朝),両眼点眼図1試験デザイン2.目的DE-111点眼液の長期投与(52週間)における眼圧下降効果および安全性を検討することを目的とした.3.対象対象は両眼が原発開放隅角緑内障(広義)(原発開放隅角緑内障または正常眼圧緑内障),落屑緑内障,色素緑内障または高眼圧症と診断され,両眼の眼圧が2剤(配合剤1剤は2剤に数える)以下の治療,または無治療で13mmHg以上,34mmHg以下であり,選択基準を満たし除外基準に抵触しない患者とした.なお,表2におもな選択基準および除外基準を示した.試験開始前に,すべての被験者に対して試験の内容および予想される副作用などを十分に説明し,理解を得たうえで,文書による同意を取得した.4.方法a.試験デザイン・投与方法本試験はオープンラベルによる多施設共同試験として実施した.今回の試験では,臨床の使用状況と同じになるよう,治療期の前に導入期を設けた.被験者から文書による同意取得後,選択基準に適合し,除外基準に抵触しない被験者に導入期点眼液を無作為に割り付けた.導入期点眼液は0.0015%タフルプロスト点眼液(導入期タフルプロスト群),0.5%チモロール点眼液(導入期チモロール群),または0.0015%タフルプロスト点眼液および0.5%チモロール点眼液の併用(導入期併用群)のいずれかとし,導入期開始前の治療状況に関係なく各群1:1:1となるよう無作為に割り付けた.このとき,タフルプロストは1日1回朝両眼に,チモロールは(135)1日2回朝夜両眼に点眼した.なお,前治療薬の影響を消失させ,導入期点眼液の効果が一定となる期間として,導入期を4週間と設定した.治療期0週当日朝は導入期点眼液を点眼せず来院し眼圧を測定したのちに,治療期開始登録を行って,52週間の治療期に移行した.治療期にはDE-111点眼液を1日1回朝両眼に点眼した.試験デザインを図1に示した.なお,点眼はいずれも1回1滴とするよう指導した.b.試験薬剤被験薬であるDE-111点眼液は,1ml中にタフルプロストを0.015mgおよびチモロールを5mg含有する無色澄明の水性点眼液である.なお,導入期点眼液の割付は,試験薬割付責任者が置換ブロック法・封筒法による無作為化(ブロックサイズ3,割付割合1:1:1)により行い,キーコードは全例の治療期開始が確認されるまで封入し試験薬割付責任者が保管した.c.症例数日米EU医薬品規制調和国際会議(ICH)E1ガイドライン「致命的でない疾患に対し長期間の投与が想定される新医薬品の治験段階において安全性を評価するために必要な症例数と投与期間」(1995年)を参考として52週点眼例を100例以上とし,中止率を考慮して目標症例数を126例と設定した.5.検査・観察項目試験期間中は検査・観察を表3のとおり行った.あたらしい眼科Vol.32,No.1,2015135 表3検査・観察スケジュール導入期治療期.4週0週4,8,12,16,20,24週28週32,36,40,44,48週52週/中止時文書同意●被験者背景●点眼遵守状況●●●●●血圧・脈拍数測定●●●●●●細隙灯顕微鏡検査●●●●●●眼圧測定(9.10時)●(午前中)●●●●●隅角検査●視力検査●●●視野検査●●●眼底検査●●●臨床検査(血液・尿・尿中hCG)●●●前眼部写真撮影●有害事象●a.被験者背景性別,生年月日,合併症(眼および眼以外),既往歴などの被験者背景は,試験薬投与開始前に調査確認した.b.試験薬の点眼状況治療期以降の来院ごとに,前回の来院直後からの点眼遵守状況について問診で確認した.c.各種検査・測定血圧・脈拍数測定,細隙灯顕微鏡検査,眼圧測定,隅角検査,視力検査,視野検査,眼底検査,臨床検査(血液・尿)および前眼部写真撮影を表3のスケジュールで実施した.眼圧測定は,導入期開始時,治療期0週,および治療期4週ごとに,または中止時にGoldmann圧平眼圧計にて測定した.眼圧測定時刻は,導入期開始時は午前中,治療期0.52週は朝点眼前の午前9.10時とした.中止時の眼圧測定時刻は規定しなかった.なお,細隙灯顕微鏡検査における角膜フルオレセイン染色スコアは,評価基準0:フルオレセインで染色されない,1:限局的に点状のフルオレセイン染色が認められる,2:限局的に密なまたはびまん性の点状のフルオレセイン染色が認められる,3:びまん性に密な点状のフルオレセイン染色が認められる,とした.d.有害事象試験期間中に発現・悪化したすべての好ましくない,または意図しない疾病,またはその徴候を収集した.6.併用禁止薬および併用禁止療法試験期間を通じて,緑内障または高眼圧症に対する治療136あたらしい眼科Vol.32,No.1,2015薬,すべてのb遮断薬,副腎皮質ステロイド薬および他の臨床試験薬の投与を禁止した.また,試験期間中の,眼科レーザー手術,コンタクトレンズの装用などを禁止した.7.評価方法a.有効性の評価評価項目は,試験薬投与前後の朝点眼前の眼圧測定時(9.10時)の眼圧変化量とした.b.安全性の評価有害事象,臨床検査,血圧・脈拍数および眼科的検査をもとに安全性を評価した.8.解析方法a.有効性解析対象有効性は,被験薬を少なくとも1回点眼し,治療期の朝点眼前の眼圧測定値が1回でも得られた被験者(有効性解析対象集団)を対象とした.有効性評価眼は,治療期0週(朝点眼前)の眼圧の高いほうの眼(左右が同値の場合は右眼)とした.b.安全性解析対象安全性は,被験薬を少なくとも1回点眼し,安全性に関する何らかの情報が得られている被験者(安全性解析対象集団)を対象とした.c.データの取り扱い規定来院日の許容範囲内に複数の検査値がある場合,検査当日朝の点眼遵守状況がより良好な検査値を採用した.なお,中止の来院時で得られた検査値は,中止時データとして採用した.(136) 文書同意を得た被験者:162例無作為割付された被験者:148例無作為割付されなかった被験者:14例試験開始後に不適格が判明:11例その他:3例導入期タフルプロスト群:51例導入期チモロール群:49例導入期併用群:48例導入期点眼液が投薬された被験者:147例導入期タフルプロスト群:51例導入期チモロール群:48例導入期併用群:48例導入期点眼液未投与例:1例導入期タフルプロスト群:0例導入期チモロール群:1例導入期併用群:0例治療期に組み入れられた被験者:136例導入期中止例:11例導入期タフルプロスト群:48例導入期チモロール群:45例導入期併用群:43例導入期タフルプロスト群:3例導入期チモロール群:3例導入期併用群:5例DE-111点眼液が投薬された被験者136例DE-111点眼液未投与例:0例試験を完了した被検者:110例治療期中止例:26例文書同意を得た被験者:162例無作為割付された被験者:148例無作為割付されなかった被験者:14例試験開始後に不適格が判明:11例その他:3例導入期タフルプロスト群:51例導入期チモロール群:49例導入期併用群:48例導入期点眼液が投薬された被験者:147例導入期タフルプロスト群:51例導入期チモロール群:48例導入期併用群:48例導入期点眼液未投与例:1例導入期タフルプロスト群:0例導入期チモロール群:1例導入期併用群:0例治療期に組み入れられた被験者:136例導入期中止例:11例導入期タフルプロスト群:48例導入期チモロール群:45例導入期併用群:43例導入期タフルプロスト群:3例導入期チモロール群:3例導入期併用群:5例DE-111点眼液が投薬された被験者136例DE-111点眼液未投与例:0例試験を完了した被検者:110例治療期中止例:26例図2被験者の内訳d.解析方法有効性の評価の解析は,治療期0週からの変化量の平均,標準偏差を示し,対応のあるt検定を行った.安全性の解析のうち,有害事象については,発現例数と発現率を集計した.また,臨床検査値については,各検査項目別の異常変動の発現例数と発現率を集計し,連続量データについては,対応のあるt検定を,順序尺度データに関しては符号検定を行った.血圧・脈拍数については対応のあるt検定を行った.眼科的検査(細隙灯顕微鏡検査,視力検査)については符号検定を行った.検定の有意水準は両側5%とし,区間推定の信頼係数は両側95%とした.解析ソフトはSASversion9.2(株式会社SASインスティチュートジャパン)を用いた.なお,解析は参天製薬株式会社が実施した.II結果1.被験者の構成被験者の内訳を図2に示した.文書同意を得た被験者は162例で,導入期点眼液が無作為化割り付けされた被験者は148例,そのうち,導入期点眼液が投薬された症例は147例,導入期で中止となった症例が11例であった.この後,治療期に組入れられた症例は136例,治療期中に26例が治験を中止し,110例が試験を完了した.治療期に組み入れられた136例を有効性解析対象集団および安全性解析対象集団とした.被験者背景を表4に示した.(137)合併症では高血圧症の合併率が最も高くタフルプロスト群39.6%(19/48例),チモロール群57.8%(26/45例),併用群46.5%(20/43例)であった.眼合併症を有していた症例はタフルプロスト群47.9%(23/48例),チモロール群55.6%(25/45例),併用群51.2%(22/43例)であり,最も多かった合併症は白内障であった.各群の合併症の種類および合併率に特徴的な相違は認められなかった.2.有効性導入期.4週の眼圧平均値は17.8mmHg,治療期0週の眼圧平均値は16.7mmHgで有意に下降していた.治療期では,さらに眼圧下降がみられ,その眼圧下降は治療期0週と比較してすべての測定時点において有意であった.各測定時点の眼圧変化量の平均は,.1.3mmHg(p<0.001)..1.8mmHg(p<0.001)で推移しており,52週間眼圧下降効果の減弱はなかった(表5,図3).病型別でみると,治療期終了時での眼圧変化量の平均は,原発開放隅角緑内障(狭義).1.6mmHg(治療期0週:17.2mmHg),正常眼圧緑内障.1.5mmHg(治療期0週:15.2mmHg),高眼圧症.1.9mmHg(治療期0週:17.6mmHg)といずれの病型においても有意な眼圧下降(p<0.001)を示し,病型による差はなかった(表6).導入期点眼液別に比較すると,導入期タフルプロスト群では,導入期.4週から治療期0週に.1.3mmHg(p=0.002)の有意な眼圧下降を示し,DE-111点眼液に切り替えた治療期4週には治療期0週と比較して.1.7mmHg(p<0.001)と,さらに有意な眼圧下降を示した.治療期52週.2.2あたらしい眼科Vol.32,No.1,2015137 表4治療期に組み入れられた被験者背景項目分類導入期タフルプロスト群導入期チモロール群導入期併用群全体例数484543136病型原発開放隅角緑内障(狭義)17(35.4)16(35.6)15(34.9)48(35.3)正常眼圧緑内障16(33.3)16(35.6)16(37.2)48(35.3)落屑緑内障0(0.0)2(4.4)0(0.0)2(1.5)色素緑内障0(0.0)0(0.0)0(0.0)0(0.0)高眼圧症15(31.3)11(24.4)12(27.9)38(27.9)性別男22(45.8)15(33.3)18(41.9)55(40.4)女26(54.2)30(66.7)25(58.1)81(59.6)年齢65歳未満24(50.0)22(48.9)16(37.2)62(45.6)65歳以上24(50.0)23(51.1)27(62.8)74(54.4)最小.最大28.8225.8337.8525.85平均値±標準偏差62.5±12.763.7±12.166.0±11.064.0±12.0緑内障前治療薬なし9(18.8)5(11.1)6(14.0)20(14.7)あり39(81.3)40(88.9)37(86.0)116(85.3)合併症なし8(16.7)4(8.9)4(9.3)16(11.8)あり40(83.3)41(91.1)39(90.7)120(88.2)導入期の隅角(Shaffer分類)349(18.8)39(81.3)8(17.8)37(82.2)12(27.9)31(72.1)29(21.3)107(78.7)導入期の緑内障性の視野異常なしあり21(43.8)27(56.3)17(37.8)28(62.2)22(51.2)21(48.8)60(44.1)76(55.9)導入期の緑内障性の眼底異常なしあり15(31.3)33(68.8)11(24.4)34(75.6)13(30.2)30(69.8)39(28.7)97(71.3)導入期開始時の眼圧最小.最大14.0.30.013.0.23.013.0.27.013.0.30.0平均値±標準偏差18.3±3.417.2±2.917.8±3.317.8±3.2導入期終了時の眼圧最小.最大13.0.24.511.0.24.010.0.24.010.0.24.5平均値±標準偏差17.0±2.417.1±2.715.8±3.016.7±2.7例数(%).mmHg(p<0.001)と眼圧下降効果は維持された.導入期チモロール群では,導入期.4週から治療期0週に.0.1mmHgの眼圧下降を示した.DE-111点眼液に切り替えた治療期4週には治療期0週と比較して.2.1mmHg(p<0.001)と,さらに有意な眼圧下降を示し,治療期52週.2.7mmHg(p<0.001)とその効果は維持された.導入期併用群では,導入期.4週から治療期0週に.2.0mmHg(p<0.001)の有意な眼圧下降を示した.DE-111点眼液に切り替えた後の治療期4週には治療期0週と比較して.0.4mmHgと有意な変動はなく,治療期52週も.0.4mmHgとその効果は維持された(図4,5).3.安全性a.有害事象および副作用治療期全体の有害事象の発現率は72.8%(99/136例)で138あたらしい眼科Vol.32,No.1,2015あり,そのうち,DE-111点眼液との因果関係が否定できない有害事象(副作用)は44.1%(60/136例)であった(表7).DE-111点眼液の副作用により試験中止に至った被験者は,全身性皮疹を発現した1例および頭痛を発現した1例であり,いずれも投与中止後に回復した.また,重篤な副作用の発現はなかった.おもな副作用は,睫毛の成長(24.3%,33/136例),結膜充血(9.6%,13/136例),点状角膜炎(8.1%,11/136例),および眼瞼色素沈着(6.6%,9/136例)であった(表8).副作用の重症度は,中等度と判断された全身性皮疹(0.7%,1/136例)を除き,すべて軽度であった.また,全身性皮疹(0.7%,1/136例),頭痛(0.7%,1/136例)および多毛症(2.2%,3/136例)を除き,すべて眼障害であった.副作用の初回発現時期は,治療期開始後0.29日:17例,30.59(138) 日:11例,60.89日:8例,90.119日:7例,120.149日:4例,その後329日まで30日ごとに1.3例で推移し,330日以降に新たな発現は認められず,投与期間が長くなっても発現頻度が高まることはなかった.また,おもな副作用別に発現時期をみると,睫毛の成長は30.59日:6例,60.89日:4例,90.119日:5例に,眼瞼色素沈着は60.89日:5例に,結膜充血は0.29日:6例に発現頻度が高かった.点状角膜炎は治験期間中30日ごとに0.2例で推移した.年齢別の有害事象発現率は,65歳未満で72.6%(45/62例),65歳以上で73.0%(54/74例)であった.そのうち副作用は,65歳未満で45.2%(28/62例),65歳以上で43.2%(32/74例)であり,65歳未満と65歳以上に差異は認められなかった.個別事象では65歳未満,65歳以上ともに睫毛の成長(65歳未満:27.4%,17/62例,65歳以上:21.6%,16/74例)が最も多く認められ,眼瞼色素沈着(65歳未満:6.5%,4/62例,65歳以上:6.8%,5/74例)も共通して認められた.その他,結膜充血(65歳未満:14.5%,9/62例,65歳以上:5.4%,4/74例)は65歳未満で多く,点状角膜炎(65歳未満:3.2%,2/62例,65歳以上:12.2%,9/74例)は65歳以上で多い傾向であったが,いずれの事象もすべて軽度であった.導入期点眼液群別にみると,導入期とDE-111点眼液に切り替えた際の治療期4週時点までの副作用発現率を比較すると,導入期タフルプロスト群で導入期6.3%(3/48例)治療期4週8.3%(4/48例),導入期チモロール群で導入期(,)2.2%(1/45例),治療期4週20.0%(9/45例),導入期併用群で導入期7.0%(3/43例),治療期4週14.0%(6/43例)2422201816141210-4048121620週週週週週週週眼圧(mmHg)であり(表9),導入期チモロール群で治療期4週時点までの副作用発現率が最も高かった.b.臨床検査臨床検査の各項目平均値では,治療期28週に赤血球数,ヘモグロビン量,ヘマトクリット値,血小板数,Al-P,アルブミン,総コレステロール,K,Clが,治療期52週に尿酸,Al-P,アルブミン,K,Clが投与前に比し有意な変動を示したが,これらの変動に関連する副作用は認められなか表5眼圧実測値および眼圧変化値の推移DE-111群時期実測値(mmHg)変化値(mmHg)p値.4週17.8±3.2(136)0週16.7±2.7(136).1.1±2.8*(136)<0.0014週15.2±3.0(136).1.4±2.3(136)<0.0018週15.2±2.9(131).1.5±2.2(131)<0.00112週15.2±3.0(126).1.4±2.1(126)<0.00116週15.1±2.9(120).1.4±2.3(120)<0.00120週15.0±2.5(118).1.4±2.2(118)<0.00124週14.9±2.7(116).1.5±2.2(116)<0.00128週15.1±2.9(115).1.3±2.2(115)<0.00132週15.1±2.6(114).1.3±2.2(114)<0.00136週15.0±2.8(113).1.5±2.3(113)<0.00140週14.7±2.7(113).1.7±2.2(113)<0.00144週14.8±2.6(112).1.7±2.3(112)<0.00148週14.7±2.8(110).1.8±2.3(110)<0.00152週14.7±2.5(111).1.8±2.2(111)<0.001治療期終了時15.0±2.8(136).1.7±2.4(136)<0.001平均値±標準偏差,()内は例数,p値:対応のあるt検定,*:0週は.4週からの変化値.**************************##:DE-1112428323640444852週週週週週週週週図3眼圧実測値の推移##p<0.001(対応のあるt検定,.4週との比較).**p<0.001(対応のあるt検定,0週との比較).平均値±標準偏差.(139)あたらしい眼科Vol.32,No.1,2015139 表6眼圧実測値および0週からの変化値の推移(病型別)原発開放隅角緑内障(狭義)正常眼圧緑内障高眼圧症落屑緑内障時期実測値(mmHg)変化値(mmHg)p値実測値(mmHg)変化値(mmHg)p値実測値(mmHg)変化値(mmHg)p値実測値(mmHg)変化値(mmHg).4週17.6±3.1(48)15.8±1.8(48)20.4±3.0(38)20.0±1.4(2)0週17.2±2.7(48)15.2±2.0(48)17.6±2.9(38)19.5±0.7(2)4週16.1±3.1(48).1.1±2.4(48)0.00313.6±2.2(48).1.7±2.2(48)<0.00116.1±3.1(38).1.4±2.3(38)<0.00116.0±0.0(2).3.5(2)8週16.1±2.9(46).1.3±2.3(46)0.00113.7±2.2(46).1.5±2.1(46)<0.00116.0±2.9(37).1.6±2.3(37)<0.00116.5±2.1(2).3.0(2)12週15.9±3.0(44).1.4±2.2(44)<0.00113.8±2.1(46).1.4±2.0(46)<0.00116.2±3.5(34).1.0±2.2(34)0.00915.3±2.5(2).4.3(2)16週15.8±2.9(40).1.4±2.5(40)0.00113.8±2.2(46).1.4±2.2(46)<0.00115.8±3.3(32).1.2±2.1(32)0.00216.5±0.7(2).3.0(2)20週15.8±2.9(40).1.3±2.4(40)0.00114.0±2.1(46).1.2±2.2(46)<0.00115.4±2.0(30).1.5±2.1(30)<0.00116.8±0.4(2).2.8(2)24週15.8±2.8(40).1.4±2.3(40)0.00113.9±2.5(44).1.4±2.2(44)<0.00115.4±2.6(30).1.6±2.0(30)<0.00115.0±1.4(2).4.5(2)28週16.0±3.0(39).1.2±2.5(39)0.00513.7±2.6(44).1.6±2.3(44)<0.00115.8±2.5(30).1.1±2.0(30)0.00417.3±1.8(2).2.3(2)32週15.9±2.8(39).1.2±2.7(39)0.00713.8±2.3(43).1.5±2.2(43)<0.00115.7±2.2(30).1.2±1.6(30)<0.00117.5±0.7(2).2.0(2)36週15.9±2.6(38).1.3±1.9(38)<0.00113.5±2.6(43).1.8±2.5(43)<0.00115.8±2.8(30).1.1±2.4(30)0.01415.5±0.0(2).4.0(2)40週15.7±2.3(38).1.6±2.1(38)<0.00113.5±2.5(43).1.8±2.5(43)<0.00115.1±2.6(30).1.8±2.2(30)<0.00118.0±0.0(2).1.5(2)44週15.8±2.3(37).1.5±2.1(37)<0.00113.4±2.3(43).1.9±2.5(43)<0.00115.1±2.4(30).1.8±2.3(30)<0.00119.8±3.2(2)0.3(2)48週15.6±2.4(36).1.7±2.2(36)<0.00113.3±2.7(42).2.1±2.6(42)<0.00115.5±2.5(30).1.5±2.0(30)<0.00118.8±2.5(2).0.8(2)52週15.5±2.2(37).1.8±2.3(37)<0.00113.5±2.4(42).1.9±2.4(42)<0.00115.1±2.3(30).1.9±2.0(30)<0.00117.5±0.7(2).2.0(2)治療期終了時15.7±2.5(48).1.6±2.3(48)<0.00113.7±2.4(48).1.5±2.6(48)<0.00115.6±3.0(38).1.9±2.2(38)<0.00117.5±0.7(2).2.0(2)平均値±標準偏差,()内は例数,p値:対応のあるt検定.眼圧(mmHg)2422201816141210-40481216202428323640444852****************************************************###:導入期タフルプロスト群:導入期チモロール群:導入期併用群週週週週週週週週週週週週週週週図4導入期薬剤別の眼圧実測値の推移#p<0.01,##p<0.001(対応のあるt検定,.4週との比較).**p<0.001(対応のあるt検定,0週との比較).平均値±標準偏差.140あたらしい眼科Vol.32,No.1,2015(140) 眼圧(mmHg)76543210-1-2-3-4-5-6-70481216202428323640444852:導入期タフルプロスト群********************************:導入期チモロール群:導入期併用群********************週週週週週週週週週週週週週週図50週からの眼圧変化量の推移**p<0.001(対応のあるt検定,0週との比較).平均値±標準偏差.表7有害事象と副作用の発現例数および発現率安全性解析対象集団例数136導入期有害事象発現例数(%)14(10.3)副作用発現例数(%)7(5.1)治療期有害事象発現例数(%)99(72.8)副作用発現例数(%)60(44.1)表9導入期点眼液別の副作用の発現例数および発現率(導入期と治療期4週までの比較)導入期タフル導入期チモ導入期プロスト群ロール群併用群安全性解析対象集団例数484543導入期(4週間)副作用発現例数(%)3(6.3)1(2.2)3(7.0)治療期4週まで副作用発現例数(%)4(8.3)9(20.0)6(14.0)った.また,薬剤との因果関係が否定できないとされた臨床検査値の異常変動は1.5%(2/136例,項目:白血球数,尿ウロビリノーゲン)に認められたが,点眼を継続しても尿ウロビリノーゲンは試験中に,白血球数は終了後に試験開始時と同程度に回復した.c.血圧・脈拍数血圧の平均値は,収縮期血圧の治療期0週からの有意な上昇が8週(変化量の平均値±標準偏差:2.36±12.27mmHg,p=0.030),20週(2.63±14.17mmHg,p=0.046),28週(3.42±15.05mmHg,p=0.016)に認められた.拡張期血圧の治療期0週からの有意な上昇が8週(変化量の平均値±標表8治療期副作用一覧安全性解析対象集団例数136副作用発現例数(%)60(44.1)眼障害眼瞼色素沈着9(6.6)眼瞼炎1(0.7)結膜沈着物1(0.7)結膜出血2(1.5)アレルギー性結膜炎2(1.5)眼乾燥4(2.9)眼刺激4(2.9)くぼんだ眼1(0.7)涙液分泌低下1(0.7)眼充血1(0.7)点状角膜炎11(8.1)睫毛乱生2(1.5)睫毛の成長33(24.3)眼の異物感2(1.5)結膜充血13(9.6)眼瞼そう痒症1(0.7)眼そう痒症1(0.7)眼障害以外頭痛1(0.7)多毛症3(2.2)全身性皮疹1(0.7)準偏差:2.09±7.78mmHg,p=0.003),12週(1.43±7.61mmHg,p=0.037)に,治療期0週からの有意な下降が48週(.1.80±8.42mmHg,p=0.026),52週(.1.65±8.07mmHg,p=0.035)に認められた.ただし,その変化量は臨床上問題ない程度であった.脈拍数の平均値は,いずれの観察時点においても治療期0週からの有意な上昇を認めたが,その変化量は1.8.4.4拍/(141)あたらしい眼科Vol.32,No.1,2015141 分と臨床上問題ない程度であった.導入期点眼液群別に検討したところ,収縮期血圧および拡張期血圧は,どの群でも治療期0週に比較して治療期4週時点で有意な変動は認めなかった.脈拍数の平均値は,導入期チモロール群または導入期併用群において治療期0週から治療期4週に有意な上昇を認めたが,その変化量は臨床上問題ない程度であった.なお,以上の血圧,脈拍数の変動に関連する副作用はなかった.d.眼科的検査(細隙灯顕微鏡検査,視力検査,視野検査)細隙灯顕微鏡検査所見の角膜フルオレセイン染色スコアは,治療期0週と比較した有意なスコアの上昇が治療期16週の左眼,20週の右眼,24週の左眼,28週の左眼,40週の左眼,44週の両眼に認められた.その他の項目に有意なスコアの変動は認められなかった.視力検査では,導入期.4週と比較して治療期の28週右眼についてのみ視力低下が25例,変動なしが95例,改善が12例と低下例が有意に多かった.しかし,治療期52週では両眼とも有意な差は認められなかった.また,視力低下を伴う有害事象として,網脈絡膜萎縮が1例(0.7%),後.部混濁が2例(1.5%)に認められたものの,DE-111点眼液との因果関係は否定された.視野検査では,緑内障性視野異常の有無に有意な変動は認められなかった.Humphrey視野計を用いた視野感度の平均偏差値は,導入期.4週と比較した有意な感度低下が治療期28週の両眼に認められたが,治療期52週では認められなかった.Octopus視野計を用いた視野感度の平均欠損値はいずれの測定時点でも有意な変動は認められなかった.また,視野の感度低下を伴う有害事象として,後.部混濁が1例(0.7%)に認められたものの,DE-111点眼液との因果関係は否定された.III考察近年国内では,プロスタグランジン(PG)関連薬とb遮断薬,あるいはb遮断薬と炭酸脱水酵素阻害薬を配合した配合点眼液が次々に発売され,臨床で使用されている.DE-111点眼液もPG関連薬であるタフルプロストとb遮断薬であるチモロールを含有する配合点眼液である.これらの配合点眼液は第一選択薬としてではなく,治療効果が不十分な単剤あるいは多剤併用からの切り替えで使用されることが原則である.このことから,本試験では,単剤あるいは多剤併用から配合点眼液へ切り替えた場合の有効性および安全性を確認するため,導入期としてタフルプロスト,チモロールまたはそれらの併用を4週間投与した後,治療期としてDE-111点眼液に切り替え52週間投与する試験デザインとした.142あたらしい眼科Vol.32,No.1,2015DE-111は,治療期のすべての測定時点において,治療期0週と比較して眼圧変化量が有意に下降し,その効果は治療期52週まで減弱を認めなかった.また,日本での有病率が高い正常眼圧緑内障5)を含む緑内障病型別において眼圧下降作用に差異は認めず,安定した眼圧下降作用を示すことが確認された.導入期点眼液別にみると,導入期タフルプロスト群と導入期チモロール群では,治療期0週と比較して有意な眼圧下降が治療期4週に得られ,その後52週まで眼圧下降効果の減弱は認めなかった.導入期併用群では,治療期0週と比較して眼圧値に有意な変動はなく,治療期52週まで安定した眼圧推移を示した.このことから,DE-111点眼液は治療強化のために単剤治療から切り替えた場合はさらなる眼圧下降効果が期待でき,利便性やアドヒアランスの改善のために併用治療から切り替えた場合は併用治療時と同程度の眼圧下降効果が期待できる臨床的に有用な配合点眼液と考えられる.安全性については,試験期間を通じて,重篤な副作用はみられなかった.おもな副作用は睫毛の成長(24.3%,33/136例),結膜充血(9.6%,13/136例),点状角膜炎(8.1%,11/136例)および眼瞼色素沈着(6.6%,9/136例)であった.発現時期は,睫毛の成長は投与1.4カ月後に,眼瞼色素沈着は投与2.3カ月後に,結膜充血は投与1カ月後に多く認められ,点状角膜炎は治験期間中を通じて認められた.副作用の多くは眼障害であり,すべて軽度であった.これらは,PG関連薬の副作用として知られていることから6.8),DE-111点眼液の有効成分の一つであるタフルプロストに由来していると考えられた.各導入期点眼液群からDE-111点眼液に切り替えた際の副作用発現率を治療期4週時点までと比較すると,導入期チモロール群からの切り替えで最も高かった.導入期チモロール群からDE-111点眼液に切り替えて発現した副作用の内訳は結膜充血が3件のほか,眼瞼色素沈着,点状角膜炎,睫毛の成長,眼の異物感,眼瞼そう痒症,全身性皮疹が各1件であった.これらの多くはPG関連薬に特徴的な副作用であることから,DE-111点眼液の有効成分の一つであるタフルプロストが要因と考えられた.年齢別の比較では,65歳未満と65歳以上に副作用の発現頻度の差異は認められなかった.個別事象における副作用では結膜充血は65歳未満で,点状角膜炎は65歳以上で多く認められたが,睫毛の成長,眼瞼色素沈着などでは年齢の影響は認めなかった.また,臨床検査値,眼科的検査(細隙灯顕微鏡検査所見,視力および視野),血圧,脈拍数についても,特に安全性上問題となるものは認められなかった.これまで,わが国において発売されているPG関連薬とb遮断薬の配合点眼液としては,ラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液(ザラカムR配合点眼液)とトラボ(142) プロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液(デュオトラバR配合点眼液)があり,日本人緑内障患者を対象とした臨床試験について数報の論文報告がある9.12).このうち,12カ月間の長期投与試験として,正常眼圧緑内障を含む原発開放隅角緑内障患者を対象とし0.005%ラタノプロスト点眼液と0.5%チモロール点眼液の併用治療を3カ月以上行った後に,washout期間を設けずにザラカムR配合点眼液に切り替え,12カ月間投与した報告12)では,配合点眼液による治療開始時の眼圧平均値は15.2mmHgであり,12カ月間点眼後の眼圧平均値は15.1mmHgであった.本試験では,併用群の治療期0週の眼圧平均値は15.8mmHg,治療期終了時の眼圧平均値は15.4mmHgであり,同様の結果であった.また,ザラカムR配合点眼液12カ月間投与では,眼圧下降不十分あるいは副作用により19.1%(31/162例)が試験中に中止していた.一方,今回の試験では併用からDE-111点眼液に切り替え後に,眼圧下降不十分あるいは有害事象による中止は11.6%(5/43例)であった.以上,日本での有病率が高い正常眼圧緑内障を含む開放隅角緑内障および高眼圧症患者において,DE-111点眼液は,52週間にわたり良好かつ安定した眼圧下降を示し,長期点眼時の安全性についても,問題ないことが確認された.このことから,DE-111点眼液は,長期にわたる緑内障治療において有用性の高い配合点眼液である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)井上賢治,塩川美菜子,増本美枝子ほか:多施設による緑内障患者の実態調査2009年度版─薬物治療─.あたらしい眼科28:874-878,20112)石澤聡子,近藤雄司,山本哲也:一大附属病院における緑内障治療薬選択の実態調査.臨眼69:1679-1684,20063)生島徹,森和彦,石橋健ほか:アンケート調査による緑内障患者のコンプライアンスと背景因子との関連性の検討.日眼会誌110:497-503,20064)緑内障診療ガイドライン(第3版).日眼会誌116:3-46,20125)鈴木康之,山本哲也,新家眞ほか:日本緑内障学会多治見疫学調査(多治見スタディ)総括報告.日眼会誌112:1039-1058,20086)相原一:プロスタグランジン関連薬.あたらしい眼科29:443-450,20127)InoueK,ShiokawaM,HigaRetal:Adverseperiocularreactionstofivetypesofprostaglandinanalogs.Eye(Lond)26:1465-1472,20128)YoshinoT,FukuchiT,ToganoTetal:Eyelidandeyelashchangesduetoprostaglandinanalogtherapyinunilateraltreatmentcases.JpnJOphthalmol57:172-178,20139)KashiwagiK:Efficacyandsafetyofswitchingtotravoprost/timololfixed-combinationtherapyfromlatanoprostmonotherapy.JpnJOphthalmol56:339-345,201210)InoueK,FujimotoT,HigaRetal:Efficacyandsafetyofaswitchtolatanoprost0.005%+timololmaleate0.5%fixedcombinationeyedropsfromlatanoprost0.005%monotherapy.ClinOphthalmol6:771-775,201211)InoueK,SetogawaA,HigaRetal:Ocularhypotensiveeffectandsafetyoftravoprost0.004%/timololmaleate0.5%fixedcombinationafterchangeoftreatmentregimenfromb-blockersandprostaglandinanalogs.ClinOphthalmol6:231-235,201212)InoueK,OkayamaR,HigaRetal:Assessmentofocularhypotensiveeffectandsafety12monthsafterchangingfromanunfixedcombinationtoalatanoprost0.005%+timololmaleate0.5%fixedcombination.ClinOphthalmol6:607-612,2012***(143)あたらしい眼科Vol.32,No.1,2015143

My boom 36.

2015年1月30日 金曜日

監修=大橋裕一連載.MyboomMyboom第36回「木村修平」本連載「Myboom」は,リレー形式で,全国の眼科医の臨床やプライベートにおけるこだわりを紹介するコーナーです.その先生の意外な側面を垣間見ることができるかも知れません.目標は,全都道府県の眼科医を紹介形式でつなげる!?です.●は掲載済を示す(●は複数回)連載.MyboomMyboom第36回「木村修平」本連載「Myboom」は,リレー形式で,全国の眼科医の臨床やプライベートにおけるこだわりを紹介するコーナーです.その先生の意外な側面を垣間見ることができるかも知れません.目標は,全都道府県の眼科医を紹介形式でつなげる!?です.●は掲載済を示す(●は複数回)自己紹介木村修平(きむら・しゅうへい)岡山大学医学部眼科学教室私は岡山大学医学部を卒業後,2001年に岡山大学医学部眼科学教室に入局し,倉敷中央病院内科系レジデント,岡山大学大学院,倉敷成人病センター,姫路赤十字病院を経て,2012年より岡山大学に戻り,網膜硝子体グループの一員として現在に至っております.研究現在,岡山大学眼科の大学院生が基礎研究と格闘している一方,私は大学院時代(現在,川崎医科大学眼科学2教室の教授になられた長谷部聡先生の下,近視学童の臨床比較研究をしました)から現在に至るまで,もっぱら研究は臨床研究をしています.幸い2013年に白神史雄教授が戻ってこられて,どんどん新しい硝子体手術にふれることができ,さらには手術件数も増えており,質,量ともに臨床研究するには恵まれた環境にいます.以前,白神先生から,「新しい術式は深夜にベランダで思いつく」と教えていただきましたが,私の場合はいくらベランダに出ても良いアイディアはまったく浮かんできませんので,今は地道に論文検索の日々です.そんな中,一つ興味があるのは「眼内レンズ縫着」です.現在,日本の眼科全体が強膜内固定への大きな流れがある中で,何を今さらと思われる先生が多いと思いますが,コンサバに眼内レンズ縫着をいかに効率よく行うかを考えています.調べてみると先人がすでにいろいろと開発した方法があり,トラブルシューティング的にも勉強に(119)0910-1810/15/\100/頁/JCOPYなっています.臨眼2014この度,神戸で行われた臨眼ですが,岡山大学が主催しました.昨年から準備を進め,無事終了することができ,ほっとしております.ご尽力,ご協力いただいたすべての方々に感謝いたします.これまで学会は参加するものでしたが,初めて学会を主催する機会に恵まれ,プログラム委員会との打ち合わせ,企業への説明会,会長招宴などなど,事務局をしなければ知らなかったことを次々体験しました(知っていてもこれまで出ていなかった開会式と閉会式,市民公開講座も,今回初めて参加しました!).詳しく書くとこのコラムがそれだけで終わってしまいますので詳細は書けませんが,多くの方々の努力のお陰で学会が成り立っていることを知り,今度の学会はこれまでとは違う視点で楽しめそうです.外勤私は備前市にある日生(ひなせ)病院,という病院に毎週出張しています.岡山から約40km,途中からブルーラインという,ほとんど信号のない道で通っています.最近のマイブームはラジオを聞きながらのドライブ(通勤)です.近頃はインターネットを使って録音できるソフトがあり,1週間とりためた番組を聞きながらの通勤は何よりの気分転換となっています.日生は牡蠣が有名なのですが,もちろん他の魚介類もおいしく,年に数回,手術がないお昼休みに,他科の先生と外食するのも楽しみの一つです.最近の日生の話題といえば,病院すぐ横に“日生大橋”という大きな橋ができつつあることです.2015年春に完成予定で,すでにほとんどできあがっています.これが開通すると,これまで船で渡って検診に行っていた小学校に,ものの10分の運転で行あたらしい眼科Vol.32,No.1,2015119 写真1「2014臨眼」開会式スライド開会式リハーサル時に撮影しました.“Academism”という今回のテーマにぴったりのデザインだったと思います.くことができるそうです.便利になるような,もう船に乗れなくなるのが残念なような複雑な感じですが,橋ができたらぜひ一度渡ってみたいと思っています.趣味クロスバイク(自転車)やおいしいものを食べに行くのも好きなのですが,取り立ててブームでないので割愛いたします.現在,学生時代に始めた空手に対するマイブームが再燃してきております.道場も病院の敷地内ですので,気分転換に練習に顔を出しています.そもそも空手といってもピンと来る方は少ないと思いますので解説いたしますと,現在の空手は昔からある「伝統派」と「極真」に大きく分かれます.私がしているのは伝統派で,さらに細かくいうと「松濤館流」という流派になります.競技内容は「型」と「組手」があるのですが,私はもっぱら組手が好きです.組手は一応,寸止めで,相手には打撃を直接当てないという名目なのですが,実際にはバシバシ当たってしまいます(ですので残念ながら怪我が怖くて今は組手の試合はしておりません).先日,一大イベントである「西医体」に浜松まで観戦に行ってきました.結果は惜しくも準優勝でしたが,母校の応援写真2日生病院の食堂から見える景色おだやかな瀬戸内海が目の前に広がっています.ちなみに右下から左中央につながる道が,現在建設中の日生大橋です.には熱が入りすぎて,翌日は声が枯れてしまっていました.来年はお隣の兵庫県(姫路市)で西医体が予定されています.来年は学生時代に一緒に練習したOB・OGに声をかけて,大応援団で西医体に臨みたいと思っております(本当は,前日の飲み会が一番楽しみなのですが).現在私が知っている空手経験者の眼科医は,同門で4名,お隣の県で1名おられます.なかなか空手の話ができる眼科医を存じあげませんので,もし学生時代に空手をしていた先生がおられましたら,ぜひお声をかけていただきたいです.次回は,広島市民病院の寺田佳子先生です.私が眼科初期研修時代からご指導いただいておりますが,ご専門の網膜疾患に限らず,広い分野に深い知識をもっておられ,寺田先生の診療スタイルは私のお手本です.どうぞよろしくお願いいたします!注)「Myboom」は和製英語であり,正しくは「Myobsession」と表現します.ただ,国内で広く使われているため,本誌ではこの言葉を採用しています.☆☆☆120あたらしい眼科Vol.32,No.1,2015(120)

現場発,病院と患者のためのシステム 36.天動説から地動説へ,電子カルテ中心志向からの脱却

2015年1月30日 金曜日

連載現場発,病院と患者のためのシステム連載現場発,病院と患者のためのシステム天動説から地動説へ,電子カルテ中心志向からの脱却杉浦和史*.はじめに医療業界には2000~2014年まで,3年を空けて約11年間携わってきました.それ以前は,製造業,小売り業,サービス業など,医療以外の業種の業務分析,改革,必要があればシステム化を指導してきました.これら業種で共通してやってきたことは“当該組織全体のパフォーマンスの向上,ひいては収益増をめざす”です.各業種共,多種多様な業務から構成されていますが,どの業務が疎かになっても組織全体としてのパフォーマンスが最大になることはありません.各業務が機能を分担し,相互に連携し合って組織の活動が成り立っているのだから当然です..製造業の場合製造業という名前から製造にかかわる業務が一番重視されていると思いがちです.しかし,製造する前にその製品の市場性を検討しなければなりません.自社のコアコンピタンスを考慮しつつ,競合製品の有無,あれば仕様,価格,市場占有率などのチェックも必要です.そして設計.まだ製造の出番ではありません.ようやく製造の段になると,今度は,何時までにいくつ作るかという生産計画が必要になり,生産に必要な部材を納品までのリードタイムを考慮して発注します.納品された部材は在庫情報として管理しなければなりません.これで,ようやく製造業本来の製造に入ります.作られた製品は出荷を待ちますが,指定された場所,時間に注文された数量を間違いなく納品するための管理が必要になります.もちろん,配送業者との連携も必須です.図1に示すように,複数からなる業務が相互に連携しあって機能していなければ,企業活動ができないことが理解されたと思います.医療機関には医師だけではなく,看護師,薬剤師,臨床検査技師,栄養士,受付,会計,事務など多くのスタッフがいます.それぞれが与えられた役割を果たすことで,医療機関としての機能が全うされます.医師が主役であるのは異論がないところで,医療情報システムといえば常に電子カルテが主役に踊り出る所以です.しかし,それで良いのでしょうか?36回連載の最後にこの問題提起をします.営業経理人事総務生産管理製品企画設計製造検査資材マーケティング研究図1製造業を構成する業務cCAD(ComputerAidedDesign)に代表される製造業のシステムは,その後,CAM(ComputerAidedManufacturing),CAE(ComputerAidedEngineering)とカバーする範囲と深さを広げ,最終的に製造業統合情報システムCIM(ComputerIntegratedManufacturing)として今日に至っています.しかし,これらを支える資材管理,原価管理システムなど,図1に示す各部門のシステムがなければ成り立ちません.ある業務をカバーする良いシステムができても,同じレベルで周りが整備されていなければ,もっとも低いレベルに抑えられてしまい,全体のパフォーマンスが上がらないことは,リービッヒの最小律の教えるところです.ダムの水門に例えれば図2のとおりです.設計支援をする優れたCADシステムがあっても,他のシステムの完成度が低かったり,手作業であったりすると,一番低いゲートからダムの水が流れ出てしまい,結局そのレベルになって*KazushiSugiura:杉浦技術士事務所(情報工学部門)http://sugi-tec.tokyo/(117)あたらしい眼科Vol.32,No.1,20151170910-1810/15/\100/頁/JCOPY しまうことを示しています.体で機能することはできません.関連する他のシステムとの情報授受があって初めて機能が発揮されます.他のシステムが未整備な場合や,機能,情報が不足している設計支援資材調達生産管理設計支援資材調達生産管理設計支援資材調達生産管理と,人手の介在が必要になるなど作業の連続性が崩れ,効果は半減します.半減どころか一部がシステム化さ図2リービッヒの最小律(最も低いレベルに抑えられる)Rれ,一部は手作業が残っているほど面倒なことはありません.目的地に着くまでに,高速道路,一般道路,山道,あぜ道,獣道が入り乱れていると思えば理解が早い.医療業界でしょう.リービッヒの最小律を適用して表現すれば,医療機関は医師を筆頭に,看護師,薬剤師,検査技図4のようになります.師,栄養士などの職能集団で構成されています.職能間での行き来は“資格的”に不可能で,権威のピラミッド構造の最上位には医師がいます.一般的に医師の命令一下動く天動説的な仕事の仕方になっていますが,医療機関という太陽系を構成する多くの星の一つであるというコペルニクス的発想になると,業務が無理なくスムーズに流れるようになると思われます.他業種同様,各部門各業務が機能連携,情報連携し合うことで,適切な治療外来(電子カルテ)医事会計検査手術病棟が行えることを忘れないようにしなければなりません..電子カルテ厚生労働省のホームページを捜すと,図3のような医療機関に必要な情報システム群が見つかります.診察系システム・電子カルテシステム事務系システム・オーダリングシステム・財務管理システム・人事給与システム・医事会計システム・物品管理システムetc・受付・予約システム・看護支援システムその他・給食システムetc・遠隔医療支援システム画像系システム・医療統計システム・放射線情報管理システム・情報共有システムetc・医用画像管理システムetc図3医療機関に必要なシステム群(出典:厚労省HP)電子カルテとオーダリングシステムが別になっているなど,オヤッと思うものもありますが,この図でも明らかなように電子カルテシステムは医療機関で必要となる多くのシステムのうちの一つです.組織の頂点に立つ医師が使うことで最重要とされますが,このシステムが単図4医療情報システムでのリービッヒの最小律R.おわりに“カゴに乗る人,カゴ担ぐ人,そのまたワラジを作る人”という例えがあります.社会はそれぞれの役割をもった人達の持ちつ持たれつの関係で成り立っているという意味で,誰が欠けてもカゴに乗って移動することはできません.医師を中心に回っていると考える天動説的発想から,医療機関,患者さんを中心にして回っている太陽系の星の一つであるという地動説への発想の転換が必要と先述しましたが,医療情報システムも同じです.電子カルテシステムを中心に回っていると思わず,関連する業務システムが同じレベルで整備され,連携がとられてこそ医療機関のパフォーマンスを向上させることができます.個別最適ではなく,全体最適で考える時機に来ていると思います.36回の連載は今回で終わります.今後は当事務所のホームページで情報発信を続けます.関心のある方はhttp://sugi-tec.tokyoをご覧ください.☆☆☆118あたらしい眼科Vol.32,No.1,2015(118)

硝子体手術のワンポイントアドバイス 140.外傷性黄斑円孔眼に生じた網膜剥離に対する硝子体手術(初級編)

2015年1月30日 金曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載140140外傷性黄斑円孔眼に生じた網膜.離に対する硝子体手術(初級編)池田恒彦大阪医科大学眼科●はじめに一般に,黄斑円孔網膜.離は後部ぶどう腫を有する強度近視眼に生じることが多く,後部ぶどう腫が拡大し,硝子体液化が進行する中高年者に発症頻度が高い.一方,外傷性黄斑円孔例は硝子体液化の少ない若年者に多く,網膜振盪症による瘢痕病巣が黄斑部近傍に網膜と色素上皮の癒着を形成することが多く,黄斑円孔網膜.離に進行することはきわめて稀である.しかし,発症後晩期に網膜硝子体牽引が誘因となり黄斑円孔網膜.離に進行することはありうる.●自験例症例は67歳男性.27歳時に野球ボールで受傷し右眼に4分の3乳頭径大の外傷性黄斑円孔をきたした.矯正視力は0.02程度で推移していたが,受傷40年後に黄斑部から下方2象限にわたって黄斑円孔網膜.離をきたした(図1).屈折はほぼ正視であった.硝子体手術術中所見では,後部硝子体は未.離で網膜と硝子体の癒着が高度であった.トリアムシノロンアセトニドを塗布した後に,ダイアモンドイレイサーで後極から周辺に向かって人工的後部硝子体.離を作製した(図2).その後,気圧伸展網膜復位術,黄斑円孔周囲に弱い眼内光凝固,ガスタンポナーデを施行した.術後,黄斑円孔の閉鎖は得られなかったが,網膜は復位し周辺視野は改善した(図3)1).●後部硝子体未.離眼では正視眼でも黄斑円孔網膜.離は生じうる外傷性黄斑円孔発症後,晩期に黄斑円孔網膜.離が続発した症例の報告は少ないながら散見される.篠田らは外傷性黄斑円孔発症後18年後および2年後に発症した黄斑円孔網膜.離の2症例を報告しているが,いずれも(115)0910-1810/15/\100/頁/JCOPY図1初診時の右眼眼底写真4分の3乳頭径大の外傷性黄斑円孔を認め,周囲の網膜が.離していた.図2術中所見トリアムシノロンアセトニドにて硝子体を可視化し,後極から周辺に向って人工的後部硝子体.離を作製した.図3術後の右眼眼底写真術後網膜は復位し,黄斑円孔周囲に光凝固の凝固斑を認める.円孔周囲の網膜硝子体癒着が強く,硝子体による黄斑部牽引がその成因と指摘している2).岡野内らは,外傷性黄斑円孔は受傷時点では後部硝子体は未.離のことが多く,その後に生じる後部硝子体.離の進行とともに前後方向の牽引が生じて黄斑円孔網膜.離が発症すると述べている3).本症例でも術中所見からわかるように後部硝子体は未.離であった.そこに加齢による硝子体の収縮による網膜硝子体牽引が黄斑円孔周囲に加わったことが網膜.離発症の誘因と考えられる.さらに外傷性黄斑円孔が比較的大きかったこと,黄斑円孔周囲の網膜と色素上皮の癒着が強固でなかったことなどの要因が加わったと考えられる.文献1)竹田朋代,家久来啓吾,板野瑞穂ほか:陳旧性外傷性黄斑円孔眼に発症した黄斑円孔網膜.離.臨眼68:385-390,20142)篠田啓,石田晋,川島晋一ほか:外傷性黄斑円孔の2例.眼臨93:1724-1726,19993)岡野内俊雄,白神史雄:黄斑円孔による網膜.離.眼科40:427-432,1998あたらしい眼科Vol.32,No.1,2015115

眼科医のための先端医療 169.非造影脳血流画像の眼科臨床応用

2015年1月30日 金曜日

監修=坂本泰二◆シリーズ第169回◆眼科医のための先端医療山下英俊非造影脳血流画像の眼科臨床応用橋本雅人(札幌医科大学眼科学教室)はじめにMRIは今日の眼科診療において日常的に用いられる検査であり,とくに造影検査は単純画像で曖昧であった病変を明確に描出させ,診断を確定するための重要な検査法です.その一方で,近年,造影剤の副作用が重視されるようになり,MRIではガドリニウム(Gd)造影剤使用に関するガイドラインが作成され,腎障害患者における造影剤適応がクローズアップされています.たとえば長期透析中の終末期腎障害患者や,糸球体濾過量が30mL/min/1.73m2未満の慢性腎臓病患者および腎性全身性線維症患者では,他の検査法で代用すべきとしていabcd図1超急性期脳梗塞のMRI所見FLAIRでは脳に異常所見はみられないが(a),DWI(拡散強調画像)では右内頸動脈領域の梗塞を示す高信号域を認めた(b).また,ASLではDWIでみられた異常信号領域よりもさらに広範囲で脳血流の低下を示唆する所見を認めた(c).さらに,発症から10日後のFLAIRでは,初診時で示されたASL(c)の低灌流領域と同じ範囲まで梗塞巣の拡大がみられた(d).ます.また,造影剤ショックやアナフィラキシーなど薬剤過敏性の問題もあり,造影検査の適応が見直されてきているのが現状です.本稿では,MRI画像の分野において最近注目されている手法の一つである,造影剤を使用しない脳血流画像検査法について述べ,その眼科領域における臨床応用についても紹介します.造影剤を用いない脳灌流画像(ASL)とはArterialspinlabeling(ASL)は,3-Tesla高磁場MRIを用いて頸部を通過する動脈血にラジオ波で磁化を与え,標識(ラべリング)することで血液そのものを内因性トレーサーとして観測領域の脳灌流を評価する撮影法のことです.ASLはラベリング画像とコントロール画像の差分画像で脳組織の灌流状態を評価しますので,放射線医薬品であるRI(radioisotope)を用いるPET(positronemissiontomography)やSPECT(singlephotonemissioncomputedtomography)と比較して,侵襲性がなく安全に評価のできるまったく新しい脳血流検査です.図1は超急性期脳梗塞のMRI所見です.FLAIR(fluidattenuatedinversionrecovery)では異常はみられませんが,拡散強調画像(DWI)では右内頸動脈領域の梗塞が認められます.また,ASLではDWIに比べて病巣範囲が大きいことがわかります.発症10日後のFLAIRでは,発症時のASLと同様の範囲まで病0.2秒0.4秒0.6秒0.8秒図2CINEMA法による経時的MRangiography所見0.1秒の時間分解能で撮影している(1秒間に10枚撮影).開始0.4秒後に右上眼静脈の動脈相における描出(白矢印)がみられる.(111)あたらしい眼科Vol.32,No.1,20151110910-1810/15/\100/頁/JCOPY 0.2秒0.4秒0.6秒0.8秒0.2秒0.4秒0.6秒0.8秒図3右CCF塞栓術後のCINEMA法による経時的MRangiography所見術前にみられた右上眼静脈の早期描出(図2)が消失しているのがわかる.巣が拡大しており,ASLにおける脳組織低灌流域の正確性を裏付けています(図2).非造影経時的MRアンギオグラフィー(CINEMA法)の臨床応用造影剤を用いずに頭蓋内血管の血行動態を観察できる非造影経時的MRアンギオグラフィー(CINEMA法:Contrastinherentinflowenhancedmultiphaseangiography法)は,上述したASLに加え,1回撮影で時系列情報が得られるLook-Lockerサンプリング法1)を応用することで大幅な時間短縮が得られ,撮影が可能となります2).CINEMA法が診断に有用であった筆者が経験した症例を紹介します.症例:80歳,女性.主訴:右眼充血,眼球突出.全身既往歴:腎不全により数年来透析治療を行っている.現病歴:1カ月前より右眼の充血に気づき,その後眼球突出および眼痛も出現.初診時所見:視力は左右ともに1.0,眼圧:右32mmHg,左15mmHg,前眼部所見では右結膜血管の拡張を認めた.眼球突出は右20mm,左16mm,対光反応,眼球運動は正常.眼窩部単純MRIにて右上眼静脈の拡張があったため,右頸動脈海綿静脈洞瘻(carotidcavernousfistula:CCF)を疑い,CINEMA法で撮影したところ,右上眼静脈の動脈相での描出がみられ(図2),CCFと診断した.当院脳神経外科にて塞栓術を行い,術後に撮影したCINEMA法では,術前にみられた右上眼静脈の早期描出は消失していた(図3).この症例は,眼科所見よりCCFを疑い,通常ではGd造影によるダイナミックMRIを行う必要があったのですが,腎不全で透析中とのことで造影剤が使用できず,非造影のCINEMA法が早期発見早期治療に大変役立った症例でした.おわりに高解像度3-TeslaMRIを用いた非造影脳血流画像の概要と,眼科領域における臨床応用について解説しました.造影剤の適応範囲が厳粛化される昨今,このような新しい画像診断法はきわめて有用であり,眼科領域においても今後さらに幅広く臨床応用され,発展していくものと期待しています.(稿を終えるにあたり,貴重な画像写真の提供をいただいた札幌医科大学放射線部,長濱宏史先生に感謝申しあげます.)文献1)LookDC:TimesavinginmeasurementsofNMRandEPRrelaxationtimes.RevSciInstrub41:250-251,19702)中村理宣,米山正己,田淵隆ほか:CINEMA法による非造影Time-resolvedMRangiography.映像情報メディカル44:86-94,2012■「非造影脳血流画像の眼科臨床応用」を読んで■今回は橋本先生によるMRIの最新技術の眼科診療なしているでしょうか?橋本先生の総説を読んで上への応用の話題です.われわれ眼科医は独自の画像診記のような自問をしました.MRIは,もちろん視神断機器を駆使していますが,全身の診断機器を使いこ経疾患,眼窩疾患,頭蓋内疾患などで使いますが,そ112あたらしい眼科Vol.32,No.1,2015(112) の性能を十分に使いこなしていないように思います.方をさらに深化させるという2つの面から進展を期す造影剤を用いない脳灌流画像(ASL)は眼球の後方ることが必要でしょう.に原因がある循環系の疾患の診断に大変有用であるこ近年の初期臨床研修のプログラムにより,前者の眼とが,提示された貴重な症例で理解できました.ま科医の全身管理能力は各段に進歩したように感じていた,眼科を受診する患者さんが高齢化し,眼科疾患のます.山形大学医学部附属病院眼科の医局員も全身管みでなく,全身の多くの合併症をもっている場合が多理に習熟してきており,関連する内科,外科,脳外科くなりましたが,橋本先生が示されたように造影剤をなどの先生と協力して診療レベルを高く保ち,また関使わないでASLを撮ることができれば,腎機能が低連病院からの難治疾患例の紹介にも応えているように下しているために造影剤の使用が制限されている患者思います.このような素地(臨床研修での診療連携のでも,大変重要で貴重な情報を得ることができます.経験)が病.病連携,病.診連携の確立をうながし,われわれ眼科医も全身疾患を診つつ,眼科疾患の診多面的な管理が必要な患者の治療が可能になってくる療を行うことが今後ますます増加していくと予想されと考えます.橋本先生の診療でも,おそらく放射線ます.眼科医が積極的に全身に使われているいろいろ科,脳外科,内科(透析)との密な診療連携の結果がな診断技法を取り入れて,眼科医療の精度を高めてい良好な治療成績に結びついたものと考えますし,このくことが,ますます要求される時代になりつつありまように高いレベルの診療を紹介されたのも,病院内のす.このためには,眼科医の努力(全身管理能力の開診療連携の大切さを改めて示されたものと考えます.発)と,病院.病院,病院.診療所の診療連携の在り山形大学医学部眼科山下英俊☆☆☆(113)あたらしい眼科Vol.32,No.1,2015113

新しい治療と検査シリーズ 224.円錐角膜に対するマイクロ波による角膜熱形成後のジグザグ全層角膜移植術

2015年1月30日 金曜日

新しい治療と検査シリーズ224.円錐角膜に対するマイクロ波による角膜熱形成後のジグザグ全層角膜移植術プレゼンテーション:稗田牧京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学コメント:島﨑潤東京歯科大学市川総合病院眼科.バックグラウンド円錐角膜は非炎症性,進行性の角膜変形性疾患で,思春期に発症し徐々に進行するが,30歳前後に進行は停止することが多い.初期には眼鏡,ソフトコンタクトレンズで矯正できるが,変形が進めばハードコンタクトレンズ(HCL)でないと矯正視力が得られなくなる.HCLでも矯正できなくなれば角膜移植の適応となる.円錐角膜の全層角膜移植は,透明治癒の長期予後は良好だが,術後の乱視は平均5~6Dと比較的強いことが報告されている1).これは変形した角膜をトレパンで円形に打ち抜いてもドナー角膜とマッチせず,歪みを作ることが原因と考えられる.Businらは角膜中央部をバイポーラで焼灼後,トレパンで打ち抜く術式を開発し,術後の角膜屈折力と乱視の軽減に効果があることを報告している2).フェムトセカンドレーザーを用いたジグザグ全層移植は,術後早期の視力回復と乱視軽減効果があり,ドナー図1マイクロ波による角膜中央部の熱形成マイクロ波により,内径3.8mm・外径4.3mmの範囲を角膜表面から250μmまで65℃に上昇させ,ドーナツ状に角膜中央部を熱形成する.とホストの接合部がなめらかで,角膜ヒステレーシスは正常眼に近いなど多くのメリットを有する3).しかしながら,進行した円錐角膜においてはホストの角膜変形の影響は避けがたく,術後乱視が大きくなる傾向にあった.そこで筆者らは,進行した円錐角膜眼に対して,マイクロ波による熱形成4)を行った後にジグザグ全層角膜移植を行い,良好な成績を得ているので紹介する..マイクロ波角膜熱形成の原理筆者らが使用しているのはKeraflexR(Avedro社)という近視矯正用として開発された機器である.眼球にサクションリングを固定して,角膜中央にセンタリングしたあと,内径3.8mm・外径4.3mmのドーナツ状のプローブを角膜表面に押し当てて(図1)フットスイッチを押すだけで,簡単に角膜中央部を熱凝固できる.マイクロ波で角膜表面から250μmの深さまで65℃に上昇させ,コラーゲン線維が収縮することで角膜中央部が平図2熱形成がされた角膜にフェムトセカンドレーザーで全層切開をした術中所見熱形成の瘢痕が瞳孔を囲む白い部分.レーザーで全層切開しても前房は保たれている.(109)あたらしい眼科Vol.32,No.1,20151090910-1810/15/\100/頁/JCOPY 表1通常のジグザグ移植との比較本術式裸眼視力改善傾向眼鏡視力改善角膜屈折力平坦化屈折度遠視化乱視減少傾向坦化する.この効果は一過性のものであり,角膜移植をしなければ術後年余にわたって元の形状に戻ってゆく..使用方法マイクロ波角膜熱形成は角膜移植の約1カ月前に点眼麻酔下に手術室で行っている.術後に中央部の角膜上皮は脱落するので,治療用ソフトコンタクトレンズを乗せて上皮障害がなくなるまでコンタクトは継続する.術後炎症が強いので,最初の1週間はベタメタゾンと抗菌薬点眼を行う.熱形成後2週間以上経過すれば,フェムトセカンドレーザーを用いたジグザグ全層移植を通常と同様に行うことができる(図2).ドーナツ状に熱凝固された部位は白斑となっており,レーザー照射のセンタリングはこの白斑の中央に合わせるとよい.縫合は8糸の端端縫合と16針の連続縫合で行う.円錐角膜への通常のジグザグ切開では,場所によって角膜が薄く,ジグザグの2段目がほとんどなくなることもある.熱形成することで中央が平坦化するだけでなく,薄い角膜が中央に引き寄せられ,周辺角膜がほぼ正常な厚みとなるので,ジグザグ形状が正常角膜に近い形に作製できる..本方法の良い点(表1)円錐角膜眼は,トレパン全層角膜移植でグラフトのサイズを同一にすると著しく近視化し,強い乱視が出やすい.熱形成することで,ジグザグ全層角膜移植を同一サイズのグラフトで入れ替えても,術後角膜は正常に近く,乱視も減り,裸眼視力が改善する傾向にある.とくに眼鏡矯正視力は早期から改善する.術後患者の自覚的な反応も良く,その改善は明らかと思われる.文献1)GrossRH,PoulsenEJ,DavittSetal:Comparisonofastigmatismafterpenetratingkeratoplastybyexperiencedcorneasurgeonsandcorneafellows.AmJOphthalmol123:636-643,19972)BusinM,ZambianchiL,FranceschelliFetal:Intraoperativecauterizationofthecorneacanreducepostkeratoplastyrefractiveerrorinpatientswithkeratoconus.Ophthalmology105:1524-1529;discussion1529-1530,19983)稗田牧,脇舛耕一,川崎諭ほか:前眼部光干渉断層計によるフェムトセカンドレーザーを用いたジグザグ形状全層角膜移植とトレパン全層角膜移植における角膜後面接合部の比較.あたらしい眼科28:1197-1201,20114)BarsamA,PatmoreA,MullerDetal:Keratorefractiveeffectofmicrowavekeratoplastyonhumancorneas.JCataractRefractSurg36:472-476,2010.「円錐角膜に対するマイクロ波による角膜熱形成後のジグザグ全層角膜移植術」へのコメント.角膜クロスリンキングや角膜内リングなど,円錐角トセカンドレーザーを用いた全層角膜移植の前に,熱膜に対する新しい治療法がつぎつぎに出現し,以前よ形成を行うことで移植後の角膜形状改善を図る方法でり早期に外科的治療に踏み切るケースも増えてきた.ある.この方法は,器械さえあれば難易度は高くなしかしながら,進行例に対する角膜移植は今でも最後く,安全性も高いので有用性は高いと思われる.今後の手段として有用であり,その予後改善に向けてさまは,どの程度進行した円錐角膜に熱形成の併用が望まざまな工夫が行われている.角膜熱形成は,円錐角膜しいのか,フェムトセカンドレーザーを用いない角膜の角膜形状矯正法として以前より行われてきたが,術移植にも有用であるのかなどの検討がなされることを後角膜形状の予測性が悪いことと,屈折の戻りが大き期待する.いことが欠点であった.今回示された方法は,フェム☆☆☆110あたらしい眼科Vol.32,No.1,2015(110)

私の緑内障薬チョイス 20.配合剤か? 多剤併用か?

2015年1月30日 金曜日

連載⑳私の緑内障薬チョイス企画・監修山本哲也連載⑳私の緑内障薬チョイス企画・監修山本哲也20.配合剤か?多剤併用か?澤田明岐阜大学医学部眼科学教室2010年にわが国で初めて眼圧下降薬の配合剤ザラカムRが登場して以来,つぎつぎと配合剤が上市されている(表1).わが国では正常眼圧緑内障が多いため,プロスタグランジン関連薬以外の眼圧下降薬はその効果がわかりにくいことが多い.配合剤は利便性には非常に優れたところが確かにあるが,1剤1剤の効果を判定しながら薬物追加をするといった理念は失われないのだろうか?自験例での考察現在,眼圧下降薬における配合剤のシェアはうなぎのぼりのようであるが,本来はすべての緑内障患者に処方されるべきではない.配合剤と単剤2種の眼圧下降効果を比較した非劣性試験において,統計学的には両者はほぼ同等となっている.だが,たとえばプロスタグランジン製剤とb遮断薬の合剤では,従来1日2回点眼であったb遮断薬が実際のところ1日1回点眼となっている.したがって,眼圧下降効果はやや劣ると考えるのが自然である.図1に当科で施行したA配合剤とその併用2剤とのクロスオーバー試験(preliminaryresults)11症例の結の論文1)をみても,そうした傾向は変わらないものが多い(図2).1mmHg未満であるので問題にならないと一部の読者は思うかもしれないが,現在,一番眼圧下降作用が強いプロスタグランジン関連薬でさえ,正常眼圧緑内障症例では平均2.5mmHg程度しか眼圧下降を得ることができない2)ことから考えると,この眼圧差は無視できないものだと思う.171615平均14.813平均14.6眼圧(mmHg)果を示す.平均年齢は65.3歳,すべて女性が対象である.眼圧測定はほぼ同時刻にGoldmann圧平眼圧計で14施行した.全員,当院緑内障外来通院中の患者であり,平均14.2平均13.5点眼をしっかり守る方々だと理解していただいてさしつ12平均14.0かえないと思う.統計学的に有意な差は,A配合剤と211種併用時の眼圧で認められなかった.しかしながら,眼BaselineA配合剤2種併用A配合剤2種併用1カ月2カ月圧実測値の平均をみてみると,A配合剤使用時と2種図1自験例の結果併用時の眼圧差は0.7~0.8mmHgとなっている.海外Baselineにおいては,A配合剤1種あるいは併用2種使用.表1わが国で利用可能な眼圧下降薬の配合剤商品名発売年使用回数/日内容併用時回数/日ザラカムRデュオトラバRタプコムRコソプトRアゾルガR2010201020142010201311122ラタノプロスト+(0.5)チモロールトラボプロスト+(0.5)チモロールタフルプロスト+(0.5)チモロール(1)ドルゾラミド+(0.5)チモロールブリンゾラミド+(0.5)チモロール33354本欄の記載内容は,執筆者の個人的見解であり,関連する企業とは一切関係ありません(編集部).(107)あたらしい眼科Vol.32,No.1,20151070910-1810/15/\100/頁/JCOPY ■B配合剤群(n=255)■2種併用群(n=247)ベースライン眼圧:25.4±2.325.2±2.4AveAM8PM0PM4眼圧変化値(mmHg)-12-11-10-9-8-7-6-5-4-3-2-10-8.7-9.0-9.1-9.5-8.7-9.1-8.2-8.3p=0.15p=0.12p=0.06p=0.78図2B配合剤1種と併用2種使用の眼圧比較(文献1より改変引用)では,配合剤って悪いの?配合剤使用は2種併用よりも眼圧下降効果は総じて劣ることが多いようだが,配合薬使用のメリットもまた多い.現在,プロスタグランジン関連薬,b遮断薬,炭酸脱水酵素阻害薬にa2刺激薬を加えた4種類の眼圧下降薬が緑内障薬物治療の主流を形成している.もしこの4種を点眼併用すると,少なく見積もっても1日6回点眼しなければならない計算となるが,配合剤使用により点眼回数を減少させれば,アドヒアランスを向上させることができる.また,3種類の点眼薬投与が,薬物治療と手術療法選択との境界と考えている臨床家が多いが,そうした症例での配合剤切り替えは,もう1種類の追加点眼薬スペースを確保することになる.さらに,ほとんどの点眼薬に含有されている塩化ベンザルコニウムによる副作用軽減にもつながる.しかしながら,単に配合剤に点眼変更するのみでアドヒアランスが向上するというのは,医療側の思い込みで●ある.アドヒアランスを向上させるためには,点眼数や点眼回数のほかに,医師と患者のコミュニケーションや治療目的の理解といった患者.医師間の信頼関係にかかわる要素がからんでくる.植田ら3)は,すでに眼圧下降薬にて加療されている緑内障患者に対し,医師による小冊子を用いた疾患に関する説明(1カ月に1度,3カ月間)を行い,介入後のほうが眼圧下降効果は大きかったと報告している.配合剤の本来の目的がアドヒアランスを向上させ,さらなる確実な眼圧下降を得るところにあるため,治療目的や点眼変更の必要性をしっかり説明したうえで処方するのが望ましい.また,なかなかむずかしい問題ではあるが,配合剤変更が効果的な患者を見きわめることも重要である.そうした患者.医師間のコミュニケーションにかかわる問題をおろそかにすると,それは単なる配合剤の“乱用”にほかならなくなり,逆にアドヒアランスを低下させる要因となる.文献1)DiestelhorstM,LarssonLI:European-CanadianLatanoprostFixedCombinationStudyGroup:A12-week,randomized,double-masked,multicenterstudyofthefixedcombinationoflatanoprostandtimololintheeveningversustheindividualcomponents.Ophthalmology113:70-76,20062)SawadaA,YamamotoT,TakatsukaN:Randomizedcrossoverstudyoflatanoprostandtravoprostineyeswithopen-angleglaucoma.GraefesArchClinExpOphthalmol250:123-129,20123)植田俊彦,笹元威宏,平松類ほか:緑内障における患者教育が眼圧下降とその持続に及ぼす効果.あたらしい眼科28:1491-1494,2011108あたらしい眼科Vol.32,No.1,2015(108)

眼瞼・結膜セミナー:結膜組織の解剖と病理を知ろう

2015年1月30日 金曜日

眼瞼・結膜セミナー監修/稲富勉・小幡博人1.結膜組織の解剖と病理を知ろう小幡博人自治医科大学眼科学講座結膜は眼表面を構成する粘膜で,正常では杯細胞(gobletcell)を含む重層立方(円柱)上皮をもつ.翼状片やドライアイなどの病的状態において,この上皮は重層扁平上皮に化生し,杯細胞が消失する.ヘルシーな結膜とは杯細胞を含む常に濡れた粘膜である.●はじめに結膜は眼球と眼瞼を結ぶ薄い粘膜組織である.また,角膜とともに眼表面を構成する.結膜の表面積は角膜の約17倍といわれ1),眼球を守るために広大な結膜が存在しているようにも想像される.●結膜上皮は何上皮?結膜は上皮と粘膜固有層からなる.結膜上皮は3.5層の重層立方ないし円柱上皮である2.5).重層扁平上皮と記載している書物も多いが,それは誤りである.重層扁平上皮とは表層の細胞が扁平になっているものをいうが,結膜の表層の細胞は扁平ではなく立方形である.重層扁平上皮である角膜上皮と比較するとよくわかる(図1).●結膜は杯細胞を含む粘膜結膜上皮内に杯細胞(gobletcell)が散在していることが結膜の特徴である.杯細胞は上皮細胞間に存在し,ab結膜上皮は重層立方上皮角膜上皮は重層扁平上皮ab図1結膜上皮と角膜上皮の違い図2結膜の杯細胞結膜上皮(a)は3.5層の重層立方ないし円柱上皮であるが,杯細胞はPAS染色(a)やAlcianblue染色(b)に陽性であり,角膜上皮(b)は表層の細胞が扁平な5.6層の重層扁平上皮で多種多様な粘液を分泌していることがわかる.ある.結膜上皮は杯細胞(矢印)を含むことも特徴である.(105)あたらしい眼科Vol.32,No.1,20151050910-1810/15/\100/頁/JCOPY 106あたらしい眼科Vol.32,No.1,2015(106)粘液(ムチン)を分泌する.このムチンは,涙液の保持,潤滑剤,異物や微生物の除去など眼表面を保護する役割を果たしている.杯細胞は中性ムコ多糖を染めるPAS染色や酸性ムコ多糖を染めるAlcianblue染色に陽性であり,多種多様な粘液を分泌している(図2).●扁平上皮化生とは?化生(metaplasia)とは,分化した細胞が別の系統の分化した細胞に変化することである.気管支を例にとると,正常な気管支上皮は線毛円柱上皮であるが,喫煙者の気管支上皮では扁平上皮化生(squamousmetaplasia)を生じている(図3).これは,線毛円柱上皮が喫煙という外的刺激から身を守るために重層扁平上皮に化けたということである.●結膜上皮は容易に扁平上皮化生し,杯細胞が消失する結膜上皮も,瞼裂斑や翼状片などの隆起性病変やドライアイなどで容易に扁平上皮化生を起こす.扁平上皮化生を生じた結膜上皮は,杯細胞が消失し,表層の上皮が扁平になっている(図4).結膜疾患の病理標本でみる結膜上皮は重層扁平上皮の形態を示すことが多いが,これは病的な結膜をみているのである.●ヘルシーな結膜とは?杯細胞が消失し,扁平上皮化生した結膜はヘルシーな結膜とは言いがたい.眼表面が常にウエットでヘルシーであるために,涙液と結膜杯細胞の存在は必要不可欠なのである.文献1)WatskyMA,JablonskiMM,EdelhauserHF:Comparisonofconjunctivalandcornealsurfaceareasinrabbitandhuman.CurrEyeRes7:483-48,19882)SnellRS,LempMA:ClinicalAnatomyoftheEye.2nded.BlackwellScience,Malden,19983)小幡博人:結膜の正常構造.大鹿哲郎(編):眼科学.第2版.文光堂,東京,p44-47,2011図4結膜の扁平上皮化生翼状片の標本であるが,表層の上皮は扁平化し,角膜上皮と同様の重層扁平上皮となっている.杯細胞が消失していることに注目.図3気管支の扁平上皮化生正常な気管支上皮は線毛円柱上皮(a)であるが,喫煙者の気管支上皮では扁平上皮化生(b)を生じており,まったく異なる上皮に化けている.ab106あたらしい眼科Vol.32,No.1,2015(106)粘液(ムチン)を分泌する.このムチンは,涙液の保持,潤滑剤,異物や微生物の除去など眼表面を保護する役割を果たしている.杯細胞は中性ムコ多糖を染めるPAS染色や酸性ムコ多糖を染めるAlcianblue染色に陽性であり,多種多様な粘液を分泌している(図2).●扁平上皮化生とは?化生(metaplasia)とは,分化した細胞が別の系統の分化した細胞に変化することである.気管支を例にとると,正常な気管支上皮は線毛円柱上皮であるが,喫煙者の気管支上皮では扁平上皮化生(squamousmetaplasia)を生じている(図3).これは,線毛円柱上皮が喫煙という外的刺激から身を守るために重層扁平上皮に化けたということである.●結膜上皮は容易に扁平上皮化生し,杯細胞が消失する結膜上皮も,瞼裂斑や翼状片などの隆起性病変やドライアイなどで容易に扁平上皮化生を起こす.扁平上皮化生を生じた結膜上皮は,杯細胞が消失し,表層の上皮が扁平になっている(図4).結膜疾患の病理標本でみる結膜上皮は重層扁平上皮の形態を示すことが多いが,これは病的な結膜をみているのである.●ヘルシーな結膜とは?杯細胞が消失し,扁平上皮化生した結膜はヘルシーな結膜とは言いがたい.眼表面が常にウエットでヘルシーであるために,涙液と結膜杯細胞の存在は必要不可欠なのである.文献1)WatskyMA,JablonskiMM,EdelhauserHF:Comparisonofconjunctivalandcornealsurfaceareasinrabbitandhuman.CurrEyeRes7:483-48,19882)SnellRS,LempMA:ClinicalAnatomyoftheEye.2nded.BlackwellScience,Malden,19983)小幡博人:結膜の正常構造.大鹿哲郎(編):眼科学.第2版.文光堂,東京,p44-47,2011図4結膜の扁平上皮化生翼状片の標本であるが,表層の上皮は扁平化し,角膜上皮と同様の重層扁平上皮となっている.杯細胞が消失していることに注目.図3気管支の扁平上皮化生正常な気管支上皮は線毛円柱上皮(a)であるが,喫煙者の気管支上皮では扁平上皮化生(b)を生じており,まったく異なる上皮に化けている.ab

抗VEGF治療:加齢黄斑変性に対するTreat and Extend法

2015年1月30日 金曜日

●連載抗VEGF治療セミナー監修=安川力髙橋寛二12.加齢黄斑変性に対する細川海音森實祐基岡山大学眼科TreatandExtend法加齢黄斑変性に対する抗VEGF薬の投与方法について,これまでにさまざまな提唱がなされているが,現在のところ一定の見解には至っていない.本稿では,抗VEGF薬の投与方法の一つであるTreatandExtend法について概説する.抗VEGF薬の投与方法加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD)に対する抗VEGF(vascularendothelialgrowthfactor)療法の維持期における投与方法は,事前に計画した間隔で投与を行うプロアクティブ投与(計画的投与)と病態の悪化がみられてから投与を行うリアクティブ投与(事後対応的投与)に分類される.プロアクティブ投与はさらに,個々の病態によらず一定の投与間隔で抗VEGF薬を投与するFixedDose法と,個々の患者に合わせて投与間隔を変更するTreatandExtend法に分類される.リアクティブ投与はPRN(prorenata:必要に応じて)法と呼ばれることが多い.FixedDose法については過去の臨床試験の結果1~3)から,1カ月ごとまたは2カ月ごとの投与によって,導入期に改善した視力を2年間維持できることが示されている.しかし,実際の臨床において,すべての患者に毎月投与を行うことは患者,医師ともに負担が大きく現実的ではない.また,現在わが国ではPRN法が広く行われているが,毎月診察が必須であり,患者,医師ともに負担の大幅な軽減には至らない.実際の臨床では治療のタイミングが遅れることも多く,臨床試験で示されたような有効性が得られないことも指摘されている.TreatandExtend法の概要TreatandExtend法は,プロアクティブかつ個別化された維持期の投与方法として提唱され4),現在,欧米を中心に普及してきている投与方法である.TreatandExtend法では,滲出所見の有無にかかわらず診察日に計画的に抗VEGF薬を投与し,再発を認めない限り1ないし2週間ずつ投与および診察の間隔を延長する.そして,再発を認めた場合は1ないし2週間ずつ投与およ(103)び診察の間隔を短縮する.その結果,滲出性変化のない状態を維持するためにもっとも適切な投与および診察の間隔を決定することが可能となる(図1).現在のところ,延長および短縮の判断基準とその期間,最大投与間隔などについては施設によって違いがみられる.抗VEGF薬投与の導入期を設けていない施設もある.TreatandExtend法の治療成績Oubrahamらは,AMD患者に対してラニビズマブを投与し,TreatandExtend法(n=38眼)とPRN法(n=52眼)による治療成績をレトロスペクティブに比較検討した.その結果,1年の経過観察時点で,TreatandExtend法はPRN法に比べて良好な視力改善効果を示した(順に+10.8±8.8ETDRS文字,+2.3±17.4ETDRS文字,p=0.036).投与回数はTreatandExtend法がPRN法よりも多かったが(7.8±1.3回,5.2±1.9回,p<0.001),来院回数では両者に差はみられなかった(8.5±1.1回,8.8±1.5回,p=0.2085)5).また,Abediらは,AMD患者に対してラニビズマブを用いてTreatandExtend法を行い(n=120眼),2年間経過を観察した.その結果,これまでに報告されたFixedDose法の臨床試験と比べて投与回数が少ない(1年目8.6回,2年目5.6回)にもかかわらず,同程度の視力改善効果が得られた1,2,6).TreatandExtend法の長所,短所TreatandExtend法は,黄斑に滲出性変化が生じる前に計画的に抗VEGF薬の再投与を行うことによって,黄斑を滲出性変化のない状態に維持することを目標とする.そのため,滲出性変化を認めてから再投与を行うPRN法と比べて,再発を繰り返すことによる黄斑の不可逆的障害を軽減できる可能性がある.また,すべてのあたらしい眼科Vol.32,No.1,20151030910-1810/15/\100/頁/JCOPY ABCDEFGV.A.=(0.9)V.A.=(0.8)ABCDEFGV.A.=(0.9)V.A.=(0.8)図1AMDに対するTreatandExtend法の治療経過78歳,女性.右眼典型AMD,occultwithnoclassicCNV.治療前視力(0.8).黄斑部に漿液性網膜.離を認めた(A,B,C).そこで,アフリベルセプトを4週間隔で計3回投与したところ滲出性変化が消退した.そのため,6週間後に4回目の投与を行った(D:4回目の投与日のOCT).4回目の投与日に滲出性変化がみられなかったため,投与間隔を8週(E),さらに経過が良好であったため10週まで延長した.すると滲出性変化が再発した(F)ので,投与間隔を8週に短縮し滲出性変化が消退した(G).現在は8週間隔で投与を継続している.投与は計画的に行われるため,PRN法のように来院時に急遽再投与を行うことはなく,患者側の不安や医師側の負担を軽減する効果もある.さらに,一定の投与間隔を継続するFixedDose法と比べて,状態の安定した患者に対しては投与および診察間隔を延長するため,結果として投与および診察回数が減り,患者や医師の負担軽減や医療経済学的な負担軽減につながる.しかし,TreatandExtend法は,FixedDose法と同様に滲出性変化の有無にかかわらず診察時に計画的に抗VEGF薬の投与を行う方法であるため,たとえば導入期以降に,抗VEGF薬を投与しなくても滲出性変化をきたさない症例に対しては,過剰投与を行ってしまう可能性がある.今後,どのような患者に対してTreatandExtend法を行うべきか検討が必要である.また,TreatandExtend法については現在のところ大規模ランダム化比較試験に基づくエビデンスがなく,今後の報告が待たれる.文献1)RosenfeldPJ,BrownDM,HeierJSetal:Ranibizumabforneovascularage-relatedmaculardegeneration.NEnglJMed355:1419-1431,20062)BrownDM,MichelsM,KaiserPKetal:Ranibizumabversusverteporfinphotodynamictherapyforneovascularage-relatedmaculardegeneration:two-yearresultsoftheANCHORStudy.OPHTHA116:57-65,20093)Schmidt-ErfurthU,KaiserPK,KorobelnikJ-Fetal:Intravitrealafliberceptinjectionforneovascularage-relatedmaculardegeneration:ninety-six-weekresultsoftheVIEWstudies.Ophthalmology121:193-201,20144)SpaideR:Ranibizumabaccordingtoneed:atreatmentforage-relatedmaculardegeneration.AJOPHT143:679680,20075)OubrahamH,CohenSY,SamimiSetal:Injectandextenddosingversusdosingasneeded:acomparativeretrospectivestudyofranibizumabinexudativeage-relatedmaculardegeneration.Retina31:26-30,20116)AbediF,WickremasingheS,IslamAFMetal:Anti-VEGFtreatmentinneovascularage-relatedmaculardegeneration:atreat-and-extendprotocolover2years.Retina34:1531-1538,2014104あたらしい眼科Vol.32,No.1,2015(104)