眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋337.浅前房・閉塞隅角眼の白内障手術適応栗本康夫神戸市立医療センター中央市民病院眼科白内障手術は閉塞隅角に対する強力な治療手段である.しかし,浅前房・閉塞隅角症例の白内障手術は合併症リスクが通常よりも高いので,前房が少し浅いようだから,あるいは隅角が少し狭いようだからといって安易に手術を適応すべきではない.白内障の程度と隅角閉塞のリスクをよく吟味したうえで治療適応を決める必要がある.●はじめに原発閉塞隅角緑内障(primaryangleclosureglaucoma:PACG)は,隅角が閉塞することで房水の流出路が閉ざされて眼圧が上昇する緑内障病型であり,一般に狭い隅角や浅い前房を解剖学的特徴とする.治療の第一義は狭隅角の原因となっている解剖学的問題の解決にあり,そのための治療として白内障手術はきわめて有効な選択肢である.ただし,原発閉塞隅角症(primaryangleclosure:PAC)とPACGの白内障手術は,通常の白内障症例における手術に較べて合併症リスクが高いので,その適応は慎重に検討されねばならない.●手術適応手術適応の大原則は,手術のリスクに対してベネフィットが上回ることであるが,PACの白内障手術では白内障による視機能障害と閉塞隅角のリスクの2つの観点から適応を検討する.以下に,閉塞隅角に対する白内障手術の適応について,対象症例が白内障そのものの治療適応を有するかどうかに分けて述べる.閉塞隅角については,病期別に手術適応を考えていく.白内障の治療適応がある場合:原発閉塞隅角症疑い(primaryangleclosuresuspect:PACS),PAC,PACGのすべての病期において,白内障手術を閉塞隅角治療の第一選択とすべきである.白内障手術による閉塞隅角の治療効果は強力で汎用性も高いので,レーザー治療などを迂回することなく,一期的に白内障手術を施行すべきである.白内障の治療適応が弱い,もしくはない場合:まずは閉塞隅角に対する治療適応があるかどうかを検討し,治療適応ありと診断されれば,白内障手術が最適な治療選(69)0910-1810/14/\100/頁/JCOPY択肢かどうかの検討を行う.PACにおける隅角閉塞のメカニズムは,瞳孔ブロック,プラトー虹彩,水晶体因子,悪性緑内障因子の4つに分類され,隅角閉塞のメカニズムが異なれば有効な治療方法も異なる(表1).白内障手術は,瞳孔ブロック,プラトー虹彩,および水晶体因子の3つのメカニズムに対して有効なので,これらのメカニズムに基づく閉塞隅角は白内障手術の適応となりえる.以下,病期別に適応について述べる.●PACS(原発閉塞隅角症疑い)まだ疾患は発症していないので,原則は経過観察とし,PACに進行した時点で治療を検討する.ただし,急性原発閉塞隅角症(acuteprimaryangleclosure:APAC)発症のリスクが高い眼は予防的治療の適応となる.APAC発症を予見することはむずかしいが,筆者の多数例の経験からは,中心前房深度2.0mm以下の症例ではAPACを発症するリスクがあり,1.7mm未満の症例ではAPACのリスクはかなり高い.前房深度1.7mm未満の症例と1.7~2.0mmで強い瞳孔ブロックを認めるか,暗室うつむき試験で陽性もしくは疑い陽性を示す症例では予防的治療を検討する.APACにおける主要な隅角閉塞メカニズムは瞳孔ブロックなので,レー表1隅角閉塞メカニズムと治療の有効性瞳孔ブロックプラトー虹彩形状水晶体因子悪性緑内障因子レーザー虹彩切開術◎×××レーザー隅角形成術×~○○××白内障手術◎○◎×~?◎:著効,○:有効,×:無効あたらしい眼科Vol.31,No.11,20141635手術前手術後手術前手術後図1浅前房・閉塞隅角眼に対図2浅前房・閉塞隅角眼に対する白内障手術する白内障手術前後浅前房・閉塞隅角眼に対する白浅前房・閉塞隅角眼に白内障手内障手術は通常症例よりも難易術を施行すると,劇的に前房は度が高いので,個々の症例に応深化し,隅角は開大する.じて手術適応とリスクを丁寧に検討する必要がある.ザー虹彩切開術を選択してもよい.ただし,PAC症例には遠視が多く,高齢者では老視もある.こうした症例では屈折矯正上のメリットも考慮してよいだろう.また,レーザー虹彩切開術後の水疱性角膜症を避けるため,あるいはPACGへの進行を防ぐために長期的な観点から白内障手術を優先的に選択すべきと考える専門家は多く,筆者もその1人であるが,この点については議論がある.高齢者のPACS症例では程度の差はあれども白内障を認めない症例はないので,白内障手術を他の治療方法と比較したメリットとデメリットおよびリスクをよく説明し,患者と相談のうえで治療方法を決定するのがよいだろう.●PAC(原発閉塞隅角症)すでに閉塞隅角が生じており,放置すれば緑内障性視神経症(glaucomatousopticneuropathy:GON)を発症してPACGに進行する可能性が高い.したがって,原則として治療適応である.ただし,隅角所見にてPACに分類される症例でも,眼圧が正常で負荷試験でも問題を認めない症例については,慎重な経過観察でもよい可能性がある.治療方法については,瞳孔ブロックが支配的な症例ではレーザー虹彩切開術,プラトー虹彩形状が主体の症例ではレーザー隅角形成術を選択してもよいが,屈折矯正上のメリットや長期的予後の観点から白内障手術を選択すべきとの考え方があるのはPACSの項で述べたとおりである.白内障を認めず調節力も健常な若年のプラトー虹彩形状主体の症例に対しては,レーザー隅角形成術や低濃度ピロカルピン点眼を先行し,その効果を見きわめたうえで白内障手術の適応を検討するのがよいだろう.一方,高齢者のマルチメカニズムによるPAC症例では白内障手術を第一選択に考えるのが合理的である.●PACG(原発閉塞隅角緑内障)PACGは失明リスクの高い緑内障病型であり,適切に治療しなければ,短期間にGONが進行することも珍しくない.最も汎用性が高く強力な治療法である白内障手術を第一選択にすべきと筆者は考えている.ただし,若年者については,GONが軽度で視野にまだ余裕があるならば,まず他の治療を施行し,その経過をみたうえで白内障手術の適応を検討するのもよいだろう.一方,GONが進行している症例では,より低い術後眼圧を得るために濾過手術との同時手術も検討する.●おわりに白内障手術はPACにおける機能的隅角閉塞を解除する治療として最強の治療手段で,病初期に施行すれば事実上の治癒に持ち込むことが可能である.その一方で手術のリスクは通常の白内障症例よりも高く,手術合併症のために,緑内障進行例では視神経が致命的なダメージを受けかねない.白内障手術の効力をPACG診療で存分に発揮するためには,個々の症例に応じて適応とリスクを丁寧に検討すると同時に,術者の技量や手術設備と術後管理体制についても,慎重な吟味を行うことが重要である.