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特別企画 WOC2014を終えて:社交行事委員会からのご報告

2014年9月30日 火曜日

〈特別企画〉監修小椋祐一郎木下茂WOC2014を終えて社交行事委員会からのご報告1万9千人を超える参加者の中,WOC2014は成功裏に幕を閉じました.洗練された運営の中,眼科医療の先進性,社会貢献,先端研究の成果など,最新の情報が余すところなく披瀝され,京都で開催された1978年大会と同様,「日本ここにあり!」という心意気を世界に示すことができました.さて,私は今回のWOC2014では社交委員会を担当させていただきました.他のメンバーは山本哲也教授と村上晶教授というお二人の副委員長,前田直之教授,アナベル岡田あやめ教授,小沢忠彦常任理事の学会運営委員の各先生方で,WOCの呼び物の一つであるOpeningCeremony,それに引き続いて開催されるWelcomeReception,大会の総仕上げとなるJapanNightの企画に専念して活動しました.社交行事委員会委員長大橋裕一(愛媛大学)中でもOpeningCeremonyには一番力を入れました.JTBやロボットという映画制作チームの方々とも打ち合わせを重ね,「アブダビに負けるな!」を合い言葉にオープニングビデオやコンセプトビデオの作成に精魂を傾けました.当日,会場のホールAは超満員となりました.オープニングビデオでは「目」をテーマに日本の四季をお届けした後に現代日本をフィーチャーした「CoolJapan」へと展開,最後は桜吹雪で締めさせていただきました(写真1).その後は,大鹿会長の開会宣言に引き続いて多くの学会表彰が行われ,最後に皇太子殿下からも温かいメッセージをいただくことができました.写真1OpeningCeremonyでの一コマ.桜吹雪が実に華やかです(71)あたらしい眼科Vol.31,No.9,201413190910-1810/14/\100/頁/JCOPY 写真2WelcomeReceptionの様子シンボルの桜が美しくライトアップされています.眼科医療の継続性をテーマにしたフィナーレのコンセプトビデオ『VisionofLife』では,30年後の眼科診療風景というサプライズ映像もあって,みなさまにお楽しみいただけたのではないかと考えております.お陰様で国内外の先生方からも素晴らしいご評価をいただけました.これもすべて委員会メンバー,そして制作チーム,日眼事務局の努力の結晶であり,素晴らしいチームワークで仕事ができたことを幸運に思っています.OpeningCeremonyの後は会場をフォーラム広場に移してのB級グルメパーティ.特別に準備した桜の大木がライトに浮かび上がる中,大勢の先生方で賑わいました(写真2).初日から参加者同士が和気藹々と語らえたことで,いい雰囲気作りができたのではないかと思います.もう一つの企画であるJapanNightも日本の文化,とくに「祭り」に焦点を当て,海外からのお客様に日本の良さを堪能していただきました.場所は有明の東京ビッグサイト,チケット完売の中,日本酒をはじめとする日本の食材の素晴らしさ,繊細さを堪能していただきました(写真3).幸いにも桜は満開!ほんとによかったですね!写真3JapanNightの一コマ日本のお祭りがテーマでした.1320あたらしい眼科Vol.31,No.9,2014(72)

特別企画 WOC2014を終えて:WOC プログラム委員会報告とおもてなし

2014年9月30日 火曜日

〈特別企画〉監修小椋祐一郎木下茂WOC2014を終えてWOCプログラム委員会報告とおもてなしWOCが2万人近い参加者を集めて,成功裏に終わったことにほっとしています.大鹿哲郎会長を補佐して,組織委員会副委員長,プログラム委員会委員長という大役を無事務められたのも,お世話になりました皆様のおかげです.日本眼科学会戦略企画会議の第一委員会を中心としてWOC組織委員会が設置され,数年前からいろいろ準備をしてきました.また,ICOのプログラム委員会ではPeterWiedemann委員長の下,副委員長を務め,日本からの意向を多く取り入れていただきました(写真1,2).今回のWOCでは,シンポジウムが204企画されて,1,300題を超える演題が発表されました.その他に,インストランクションコースが120コース行われ,ビデオシンポジウムも3つありました.一般演題は,口演が588題,ポスターが1,885題,ビデオが128題の採択があり,すべての演題を合計すると4,000題以上となり,WOC史上過去最高の演題数でプログラム委員会委員長小椋祐一郎(名古屋市立大学)した.講演会場も多くの会場がほぼ満員の状態で,とくに海外からの参加者が目立ち,みんな非常に熱心に聴講されていました.今回は,プログラム委員長としての役目とは別に,PresidentialDinnerの飲み物のセレクションも担当しましたので,番外編として書かせていただきます.特別なディナーに飲み物のチョイスは非常に重要です.あとで,思い返してみると,その時何を食べたかは覚えていなくても,どんなワインを飲んだかは結構記憶に残っているものです.とくに感動するようなワインに出会ったときには,その感動は一生続きます.そのような訳で,大鹿会長にお願いしてPresidentialDinnerのワインを担当させていただきました.パーティーでのワインセレクションは,お料理に合わせてシャンパンのようなスパークリングワイン,白ワイン,赤ワインと順序があります.今回は日本でのWOCということもあって,外国の先写真1左から,筆者,PeterWiedemann教授(ICOプログラム委員長),SebastianWolf教授(スイス,ベルン大学).(69)あたらしい眼科Vol.31,No.9,201413170910-1810/14/\100/頁/JCOPY 写真2組織委員会メンバーで記念撮影.生に日本を代表する美味しい日本酒を飲んでいただこうと考えました.最近,発泡性の日本酒が少しブームになっていますので,ウェルカムドリンクは「梵」という酒蔵が出している「プレミアムスパークリング」を選択しました.外国の先生は日本酒のスパークリングの存在をほとんどご存じなかったので,たいへん好評でした.続いて乾杯のお酒ですが,パフォーマンスとして鏡割りが予定されていたので,「黒龍酒造」にお願いして「いっちょらい」という吟醸酒の樽酒を特別に造っていただきました.「黒龍酒造」は福井県にありますが,「いっちょらい」というのは福井の方言で「一張羅」のことで「自分にとって一番いいもの」という意味です.鏡割りの後,WOCのロゴの入った枡で「いっちょらい」を全員に配り,乾杯が行われました.次は,通常は白ワインですが,オードブルを日本食にしたので,黒龍の「しずく」という大吟醸酒を合わせました.通常,日本酒はその製造過程で酒袋に重しをのせて絞るのですが,「しずく」はその名前の通り,重しを使わずに酒袋より自然に滴り落ちる一滴から造られる大吟醸酒です.香りも良く,透き通るような味わいです.「しずく」は日本の先生にも大好評でした.その後は,ブルゴーニュの白ワイン(モレサンドニクロ・デ・モンリュイザン・ブラン2003),赤ワイン(オスピス・ド・ボーヌボーヌ・プルミエクリュニコラ・ロラン2006,クロ・ド・ヴージョドメーヌ・ジャングリヴォ2004)と続きました(写真3).今回のWOCの大成功を今後の日本の眼科医療の発展につなげていくことができれば,企画したものの一人として望外の喜びです.本当にどうもありがとうございました.写真3PresidentialDinnerで談笑するDavidParke先生(AAOのCEO),筆者,大鹿哲郎WOC会長.1318あたらしい眼科Vol.31,No.9,2014(70)

特別企画 WOC2014を終えて:第29 回APAO 会長の立場からと少し昔の話

2014年9月30日 火曜日

〈特別企画〉監修小椋祐一郎木下茂WOC2014を終えて第29回APAO会長の立場からと少し昔の話今回の国際眼科学会(WOC)日本開催が決まったのは2007年3月23日のケープタウンでのICOの会議の時でした.当時としては7年も先の遠い未来の話であり,実感も湧かねば,イメージも浮かばないという状況でしたが,終わってみれば文字通りあっという間の7年でした.WOCは第1回がブリュッセルで1859年開催と,臨床医学系では最も古い国際学会で,前回日本で行われたWOCは第23回(1978年)でした.往時の事務局長をされた三島済一教授の下の研修医であった自分の記憶は,日本で国際眼科学会を開催するのはとても大変!ということでした.当時はほとんど現地(日本眼科学会)の手作りに近かったはずで,我々下っ端もシンポジウムの会場係とスライド係をやらされた訳で,講師や助教授の先生方は,当然もっと大変,教授ともなればさらに大変,事務局長でもやろうものなら死ぬほど大変というのがWOC主催の印象でした.プログラムを決める現地プログラム委員会(当時はWOCのプログラム委員会などはなかったはずです)に関して「そんな所に入れるなんてHoytはとても難しい人だということを知らんからだ!」とたまたま呼ばれて入った教授室で三島教授が電話に怒鳴っていたことがとても印象に残っています.開催があと2年と迫った夏(1976年)に,突如三島先生が「自分が国際眼科学会準備でこんなに忙しいのに,研修医の夏休みが長すぎるのがけしからん!」といったため,研修医の夏休みは1週間短縮となってしまいました.なぜこんな36年も前のことを述べたかというと,(67)0910-1810/14/\100/頁/JCOPY第29回APAO会長新家眞(公立学校共済組合関東中央病院病院長,東京大学名誉教授)実は2007年か2008年のある時に,田野先生から「今度の日本でのWOCでの事務局長をやってくれない?」と依頼されたからです.常務理事会に来るのが何時も一番遅い私ごときが最初の候補になるはずはない訳で,「誰か複数に依頼して断られたな」が次の瞬間に頭に浮かんだことで,その次が前回日本でのWOCでの三島先生の「大変そうさ」でした.「とても自分には向かない.O先生はこういったことには適任ですよ!」といったせいか,最初から田野先生もそう思っていたのかは知りませんが,それが大正解であったことは今更いうまでもないことだと思います.学会開催で一番大事なことは事務局長のMotivationとAbilityにあることは論を待たず,私に功績が有るとしたら,間違いなく事務局長を自分で引き受けず,O先生を推薦したことにあると思います.誰もが予想もせず,そしてとても不幸なことに,田野先生が2009年1月に急逝された時,「熟練の棹使いの船頭が突如いなくなった天竜下りの船のような状況!この先の急流難所即ち5年後のWOCはどうなるんだろう?」と思った訳ですが,その次に思ったことは「事務局長をもし受けていたら,自分も死んだな」でした.AsiaでWOCが行われる時は,APAOを併催することが決まっており,自然第29回APAO2014は東京でやることになりました.APAOは1958年のブリュッセル(第1回と同じ)での第19回WOCの際に設立が合意され,1960年に第1回がマニラで,1991年第13回は三島東大名誉教授会長の下,京都で開かれています.当時はまだ日本はAsiaでは大きあたらしい眼科Vol.31,No.9,20141315 な顔をできていたはずですが,23年後の今は違います.また,近場ということもあり,当然APAO諸国からの出席は当てにしなければいけません.今度WOCのプログラム委員長が,APAOのSecretaryGeneralである香港のクレメント・タム(譚智勇)になったことからもわかるようにAPAOのレベルアップ(勢力拡大)は目覚ましいものがあり,日本がAPAOの中で重んじられないようなら世界で重んじられるということはあり得ないという事実を認識せざるを得ません.終わってしまえば,過去の一事象にすぎませんが,今回のWOC/APAO2014の「HugeSuccess」を当初の目的通り,これからの日本の眼科にどう生かすか,すなわち,どのように国内的に役立てるか?日本の国際的presence向上にどう寄与させるかが今後の課題とし残っています.しかし,「今回のHugeSuccess」は,のこれら課題遂行に対しての大きな自信となったと思います.1316あたらしい眼科Vol.31,No.9,2014(68)

特別企画 WOC2014を終えて:日本の力を世界に示したWOC2014

2014年9月30日 火曜日

〈特別企画〉監修小椋祐一郎木下茂WOC2014を終えて日本の力を世界に示したWOC2014WorldOphthalmologyCongressR(WOC)2014,無事に終えることができました.多大なご支援とご協力をいただいた先生方および関係の皆様に厚くお礼を申し上げます.約2万人(135カ国)という,予想を遙かに超える多数の方々にご参加いただきました.これは,WOCとして過去最大であるだけではなく,日本で行われた医学関係の国際学会でも最大,さらには医学のみならずすべての分野を含めても,単一の会で最大の規模ということです.過去のWOCの参加者数は概ね1万人程度で,2008年香港の1万3千人というのがこれまでの最大でした.今回は島国・日本での学会であり,また福島原発事故の影響が心配される時期であったため,1万2千人を目標として計画を立てました.そこに約2WOC2014会長大鹿哲郎(筑波大学)万人の方においでいただいたのですから,嬉しい悲鳴です.ネームタグやプログラム,コングレスバックなど,あらゆる物が不足しました.ご不便をお掛けした先生にお詫び申し上げます.参加者数だけでなく,内容や質についても最大級の賛辞をいただきました.今まででベストのWOCである,これまで参加した中で最高の学会である,といった嬉しい声が我々の元に数多く届けられています.まさに,日本の力を世界に示したWOCといっていいでしょう.運営に関しては,細部に対する心配りや,きめの細かさという点で,日本に比肩する国はありません.正確・確実な学会運営は,我々が最も得意とするところです.プログラム内容に関しては,ICO学術委員会と日本人を含むコーディネーターが協力し,素写真1オープニングセレモニーでの挨拶(65)あたらしい眼科Vol.31,No.9,201413130910-1810/14/\100/頁/JCOPY 写真2皇太子殿下のスピーチ晴らしいものを作ってくれました.学会場の広さや便利さというハード面では,海外に比べて我々は圧倒的に不利です.物価も決して安いとはいえません.その中で,なぜこれだけ成功したのか.それは我々が日本人であるからだと思います.すなわち,日本人の勤勉さ,実直さ,細部へのこだわり,おもてなしの心,優しさ,遵法精神がダイレクトに参加者に伝わったのでしょう.各種行事の中で特筆すべきはやはり,オープニングセレモニーです(写真1).皇太子殿下のご臨席を賜り,荘厳な中にも華やかに行われました(写真2).日本の伝統文化と最新テクノロジーの両者を含む“クール”な映像をふんだんに使用しました.海外の方にはもちろん,日本人にも日本の良さを改めて感じていただけたのではないでしょうか.日本の眼科が世界に果たしてきた功績を紹介し,最後には老眼科医が未来の眼科医にバトンを繋ぐ過程を描くオリジナル映画を公開しました.映画には多くの観衆が真剣に見入り,終了後には涙を流している方も少なくありませんでした.また,JapanNightにも実に多数の方々がご出席くださいました(写真3).1978年の京都国際眼科学会に出席された先生方は,素晴らしい学会だった,いろんな人に会えたと,36年経った今でも嬉しそうに懐かしそうに語ってくれます.WOC2014に出席された先生方にも,これから将来にわたって,今回の経験を後輩達に語り伝えていただければと思います.写真3JapanNightでの乾杯1314あたらしい眼科Vol.31,No.9,2014(66)

時の人 堀 裕一 先生

2014年9月30日 火曜日

人人の時東邦大学医学部眼科学講座(大森)教授ほりゆういち堀裕一先生東邦大学医学部は来年創立90周年を迎える.前身の帝国女子医学専門学校時代からの伝統は眼科学教室にも脈々と受け継がれ,歴代教授には大岡良子,河本道次,松橋正和,杤久保哲男といった錚々たる名前が並んでいる.その東邦大学医学部眼科学教室(大森)の新教授に本年4月に就任したのが,大阪生まれで大阪大学医学部出身の堀裕一先生(45歳)である.*堀先生は京都の洛星高校から大阪大学に進学し,1995年同大医学部卒業後,故・田野保雄教授の主宰する大阪大学眼科学教室に入局した.専門分野は「その頃に多くの角膜疾患患者の主治医になった関係で興味をもった」ことから,角膜疾患,とくに角膜移植である.2001年から3年間在籍したHarverd大学Schepens眼研究所では,IleneGipson教授のもとで「眼表面におけるムチン発現」をテーマに基礎研究に打ち込み,これがライフワークとなった.帰国後は大阪大学に戻り,西田幸二先生(現・大阪大学眼科学教授)のもとで培養口腔粘膜上皮シート移植の臨床研究を,前田直之先生のもとで角膜内皮移植術(DSAEK)を手掛けるなど,臨床と研究の両面で研鑽を積んだ.2009年,同大の前野貴俊先生が東邦大学医療センター佐倉病院(千葉県佐倉市)眼科教授に就任したのを機に,一緒に同病院に移った.ここで約5年間,角膜外来の立ち上げや角膜移植のシステムの構築などに携わったことで,同大の医師だけでなく,関東一円に人脈が広がったという.とくに竹内忍・同大佐倉病院初代眼科教授の存在が大きく,「竹内先生は田野保雄先生の大親友でいらしたご縁もあって,ことあるごとに声をかけていただき,多くの先生方をご紹介いただきました」.また,前野貴俊・現教授からは「自分のもつ知識のすべてを後進に伝えるべく指導する姿を学び,教育の重要性を再認識しました」.*東邦大学医療センター大森病院は東京都大田区にあり,地域の眼科医療の中心として緑内障,網膜硝子体疾患,水晶体疾患,小児眼科など幅広い分野に対応している.年間手術件数は約1,500件.堀先生の赴任以降は角膜・前眼部の診療も本格的に始動し,本年7月からは本格的に角膜移植手術を行えるようになった.そのため,現在,手術紹介の患者さんが急増しているそうである.堀先生は大森教室を主宰するにあたって,3つの目標を掲げた.「明るく楽しい眼科」「皆様に愛される眼科」「情報を発信できる眼科」である.この目標には,「医局員だけでなく,眼科に携わるスタッフ全員が幸せに毎日を過ごせるように環境を整えることが私の使命だと思っています.それにより,大学病院として患者に良質の医療を提供することが可能となり,社会に情報を発信できると考えています」という堀先生の気持ちが籠められている.また,東邦大学眼科全体の教育方針について,「東邦大学には3病院があり,大橋病院(東京都目黒区)の富田剛司教授は緑内障,佐倉病院の前野貴俊教授は網膜硝子体,それに大森病院の私が角膜と,教授の専門が分かれていますから,今後は3病院で充実した研修システムを構築し,人事交流を積極的に行いながら,視野の広い,高い志をもった若手眼科医を育成していきたいと考えています」と抱負を語ってくれた.*中学高校時代は野球部,大学時代はボート部とずっと体育会系だったという堀先生だが,「今はもっぱら見る方に専念しています」.普段はテレビ観戦だが,昨年のシカゴのAAOでは,シカゴブルズの試合に足を運んだそうだ.「ただ,これからは体力勝負の仕事なので,なにかスポーツをはじめようと思っています」とのこと.一層パワーアップされた堀先生の縦横の活躍が期待される.(63)あたらしい眼科Vol.31,No.9,201413110910-1810/14/\100/頁/JCOPY

硝子体手術の位置づけ

2014年9月30日 火曜日

特集●眼炎症(ぶどう膜炎・強膜炎)の治療方針あたらしい眼科31(9):1303.1309,2014特集●眼炎症(ぶどう膜炎・強膜炎)の治療方針あたらしい眼科31(9):1303.1309,2014硝子体手術の位置づけTheRoleofParsPlanaVitrectomyinUveitis永田健児*丸山和一**はじめにぶどう膜炎に対する硝子体手術は副腎皮質ステロイドや免疫抑制薬による内科的治療への治療抵抗性のある硝子体混濁や黄斑上膜,黄斑浮腫に対して施行されてきた.硝子体手術が必要のない症例もあるが,一方で手術のタイミングを逸すると不可逆性の変化をきたし,その後に手術を行っても視力改善の得られない場合がある.また,内科的治療に抵抗性のある疾患のなかには眼内リンパ腫が存在し,診断が遅れることで病態が進行してしまうことがある(図1).近年,硝子体手術は可視化剤,小切開化,高速回転カッターや広角観察システムの登場といった進化により安全性が向上し,低侵襲化が得られてきた.また,手術中に得られたサンプルの解析が進み,診断と治療を目的としてこれまでより早期に硝子体手術に踏み切る症例も増加し,ぶどう膜炎における硝子体手術の位置づけは変化しつつある.そこで本稿では,硝子体手術の適応から意義,硝子体の解析で得られる結果について解説する.I手術目的・適応ぶどう膜炎とはいっても,そのなかには感染症や,炎症と紛らわしい疾患として眼内リンパ腫やアミロイドーシスなどもあり,原因疾患により手術の目的,適応は大きく異なる.筆者が近年施行したぶどう膜炎に対する硝図1軽度の硝子体混濁を認める症例ステロイドTenon.下注射で経過観察したところ,1カ月後に中枢神経系病変を発症した.*KenjiNagata:京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学**KazuichiMaruyama:東北大学大学院医学系研究科神経・感覚器病態学講座眼科・視覚科学分野〔別刷請求先〕永田健児:〒602-0841京都市上京区河原町広小路上ル梶井町465京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(55)1303 表1ぶどう膜炎に対する硝子体手術の内訳(2010年4月から2014年5月に筆者が施行)原因疾患症例数(眼)割合(%)サルコイドーシス3027.5サルコイドーシス疑い2522.9原因不明2220.2眼内リンパ腫1110.1内因性眼内炎65.5CMV網膜炎54.6急性網膜壊死21.8トキソカラ症21.8Vogt-小柳-原田病21.8Behcet病10.9アミロイドーシス10.9HTLV-1関連ぶどう膜炎10.9強膜炎に合併した黄斑上膜10.9サルコイドーシスあるいはその疑いで半数を占めるが,眼内リンパ腫も10%に及び注意が必要である.CMV:サイトメガロウイルス,HTLV:ヒトT細胞白血病ウイルス.子体手術の内訳を表に示す(表1).サルコイドーシスとその疑い症例で約半数を占める.このなかで治療法に悩むのはおそらくサルコイドーシスあるいはその疑い症例,さらには原因不明症例であろう.また,特筆すべきは眼内リンパ腫が10%を占めることである.原因不明症例のなかには眼内リンパ腫も疑って手術を施行したが,手術で得られた検体の検査結果により否定された症例も含まれ,リンパ腫の検査目的の症例はぶどう膜炎に対する手術症例のうち筆者らの結果では10%を超えることになる.日本における大学病院を受診したぶどう膜炎患者の疫学調査では,2.5%が眼内リンパ腫であったことが報告されており1),ぶどう膜炎患者をみたときには鑑別が重要な疾患である.手術の目的は大きく診断と治療に分けられる.原因疾患のなかで,診断目的のものはおもに眼内リンパ腫やアミロイドーシスである.治療を目的としたものは内因性眼内炎や急性網膜壊死のほか,診断がすでについたうえでの黄斑上膜や黄斑浮腫,治療抵抗性の硝子体混濁などが含まれる.さらに最近多くなってきているのが,診断と治療を兼ねた目的の手術であり,後述するように手術時に得られる硝子体のさまざまな解析が行われるようになったことによりその意義が高まってきている.研究レ1304あたらしい眼科Vol.31,No.9,2014ベルでの検査も多く,その手術適応は施設ごとに考慮する必要がある.また,術前には眼底透見性が不良な症例もあり,手術中に眼底を観察することで疑うべき疾患を検討して必要な検査を行わなければならない.1.眼内リンパ腫眼内リンパ腫は仮面症候群の一つとされ,特に網膜下浸潤病巣を伴わない硝子体混濁がみられる症例では,しばしばぶどう膜炎と鑑別が困難なことがある.こういった症例では診断目的に硝子体手術を行い,細胞診,フローサイトメトリー解析,サイトカイン解析,免疫グロブリンの遺伝子再構成といった検査を行う必要がある.眼内リンパ腫は中枢神経系に病変が出現することが多く,少なくとも高齢者の原因不明の硝子体混濁でステロイドに反応の乏しい症例はリンパ腫を疑って積極的に手術を行う必要がある.ただし,一時的にはステロイドに反応する症例もあり,治療後も再燃する症例では注意すべきである.2.内因性眼内炎内因性眼内炎では,他臓器に感染した細菌あるいは真菌が血流によって眼に感染する.術後眼内炎と異なり感染が後眼部から始まり,特に細菌性ではきわめて急速に進行する.細菌性では抗菌薬の全身投与や硝子体注射では奏効しないことが多く,ドレナージを目的として早急に手術を行うことが必要である.前房蓄膿がみられ,眼底透見は不能なことが多く,急性前部ぶどう膜炎やBehcet病を鑑別する必要があるが,特に急性前部ぶどう膜炎との鑑別には迷うことがある(図2).超音波検査に加えて,血液検査での白血球数やC反応性蛋白(CRP),血沈などの炎症反応が参考になる.手術の際には眼内液から原因菌の検索,薬剤感受性検査を行い,さらに他臓器の原因病巣の検索を行うことが重要である.3.急性網膜壊死急性網膜壊死では,主に周辺部網膜から壊死が始まり徐々に拡大する.近年,単純ヘルペスウイルス(HSV)や水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)が患者の眼内から検出されることが判明し,その原因と考えられている.特(56) 図2内因性眼内炎の代表症例前房蓄膿を認め,虹彩後癒着のため眼底透見は不能であったが,超音波B-modeにて硝子体混濁を認めたため手術を行った.急性前部ぶどう膜炎と比較すると瞳孔領のフィブリンもやや毛羽立った印象である. abab図3黄斑浮腫に対しステロイド投与を繰り返された症例a:術前,b:術後.ステロイド投与でも黄斑浮腫を繰り返すため硝子体手術を行い浮腫は改善したが,IS/OSラインは不明瞭であり,視力は不良である.サルコイドーシス,原因不明リンパ腫を疑うか種々の原因検索目的noyes硝子体手術全身症状があるかyesnoステロイド内服黄斑上膜があるかnoyes硝子体手術ステロイド局所注射効果があるかyesno硝子体手術硝子体手術経過観察図4サルコイドーシスや原因不明のぶどう膜炎において硝子体手術を検討するタイミング全身検査や前房水の検査,その他の背景因子などを考慮して選択する. あたらしい眼科Vol.31,No.9,20141307(59)2.フローサイトメトリーぶどう膜炎に対し原因検索を目的とした硝子体手術では,非灌流下で採取した硝子体は細胞診やPCR,サイトカイン測定などに使用する.一方,灌流下で採取した硝子体サンプルに関してはフローサイトメトリー解析が有用である.眼内リンパ腫の多くはB細胞性であり,CD19やCD20といった細胞表面マーカーを用いて解析を行う.通常のぶどう膜炎であれば硝子体中にみられる炎症細胞のほとんどはT細胞であるが,リンパ腫であればB細胞の割合が増加する.さらにリンパ腫では免疫グロブリン軽鎖の発現を解析しk鎖あるいはl鎖のどちらかに偏りがあればB細胞のモノクロナリティを示すことになる.また,ぶどう膜炎においてはCD3陽性のTリンパ球に対するCD4,CD8による解析が非常に有用である.や変視をきたすことがあり,このような症例には硝子体手術が必要である.可能な限り投薬で原因疾患の活動性を抑えた状態で手術することが望ましい.II手術方法硝子体手術は近年,結膜切開を必要としない極小切開硝子体切除術が可能となり,手術侵襲が軽減してきた(図5a).緑内障を合併しやすいぶどう膜炎においては可能な限り小さな切開で瘢痕を残さないことが望ましい.また,広角観察系を併用することで術中に生じうる合併症を最小限とし,術中操作による手術侵襲を最小限に抑えるよう努める必要がある(図5b).手術の開始時には非灌流下,灌流下でサンプルを採取し,後述する検査を行うことが望ましい.ぶどう膜炎では術後の合併症を最小限にするため,広角観察系のもとで最周辺部まで処理を行うようにしている.そのうえで黄斑部の処理を行う.III硝子体解析ぶどう膜炎に対し硝子体手術を行う場合,手術中に硝子体サンプルを採取し,さまざまな検査を行うことで,原因疾患の検索から術後炎症のコントロール,さらには炎症再燃時の治療法検討に非常に有用である.筆者らの施設では,フローサイトメトリー解析を必ず行い,サイトスピン標本で細胞を観察している.その他PCR(polymerasechainreaction)やサイトカインの解析は手術中の所見により必要性を判断することとしている.1.細胞診眼内リンパ腫を疑う症例に対しては必須の検査項目である.おもには異型細胞の有無から腫瘍か否かの判定を行うことを目的としている.しかしながら,硝子体は安全に採取できる量が限られており,その判定のみでは診断できないことも多い.つまり悪性腫瘍が否定的なclassⅠから悪性腫瘍のclassⅤまでの5段階で判定されるが,眼内リンパ腫ではclassⅢなどと判定されることも多い.したがって後述する検査と組み合わせて,診断する必要がある.図5硝子体手術のセッティングa:現在日本において広く使用されている25G硝子体手術.結膜切開は必要なく,ぶどう膜炎の硝子体手術に適している.b:広角観察系を使用したサルコイドーシス症例の術中写真.かなり周辺部まで観察できる.ab図5硝子体手術のセッティングa:現在日本において広く使用されている25G硝子体手術.結膜切開は必要なく,ぶどう膜炎の硝子体手術に適している.b:広角観察系を使用したサルコイドーシス症例の術中写真.かなり周辺部まで観察できる.ab ぶどう膜炎に対する硝子体手術の効果硝子体混濁の除去黄斑上膜の除去内境界膜.離による黄斑浮腫浮腫改善効果サイトカイン除去炎症細胞の除去クリアランスの改善硝子体解析物理的な効果炎症への効果原因検索ぶどう膜炎に対する硝子体手術の効果硝子体混濁の除去黄斑上膜の除去内境界膜.離による黄斑浮腫浮腫改善効果サイトカイン除去炎症細胞の除去クリアランスの改善硝子体解析物理的な効果炎症への効果原因検索図6ぶどう膜炎に対する硝子体手術により期待される効果 -

特殊ケース:妊婦,小児,高齢者

2014年9月30日 火曜日

特集●眼炎症(ぶどう膜炎・強膜炎)の治療方針あたらしい眼科31(9):1295~1301,2014特集●眼炎症(ぶどう膜炎・強膜炎)の治療方針あたらしい眼科31(9):1295~1301,2014特殊ケース:妊婦,小児,高齢者SpecialCases:PregnantWomen,Children,andtheElderly中尾久美子*はじめに眼炎症の治療に用いられる薬を点眼や局所注射する場合,妊婦,小児,高齢者でもほぼ安全で問題はないと考えられるが,全身投与する場合には注意が必要である.妊婦では胎児の存在と妊婦特有の代謝の変化,小児では成長・発達の過程にあること,高齢者では身体諸機能の低下などを考慮し,これらの特性に関連した特有の副作用に留意して薬剤を使用することが重要である.妊婦,小児,高齢者に,眼炎症の治療として消炎を目的とした薬や感染に対する薬を全身投与する場合の注意事項について概説する.I妊婦における眼炎症の治療妊婦の眼炎症を治療する際に最も注意すべきことは,妊娠中の投薬は胎児へ影響する可能性があるということである.全身投与した薬剤は一部の例外を除いて胎盤を通過して胎児へ到達する.薬の胎児への影響には催奇形性と胎児毒性とがあるが,催奇形性という点からは,特に妊娠4~7週末の絶対過敏期の投薬に注意が必要である.また,妊娠中や出産後は,内因性のステロイドを含むホルモンや免疫の変化により眼炎症が軽快または悪化する可能性があるので,妊婦の眼炎症の治療に際してはこのことにも留意する.1.妊娠による薬物動態の変化表1に示すような妊娠期の薬物動態の変化により,妊娠中は薬物血中濃度が通常より低下する傾向にある.これを考慮して妊婦には薬を処方する必要がある.2.薬剤の胎盤通過性薬剤の胎盤通過性は妊婦へ投与する薬を選択するうえで重要な因子である.胎盤通過性を規定する因子として,薬剤の分子量,蛋白結合率,脂溶性などの物理化学的な特性や,胎盤の血流,胎盤における薬剤の代謝などがあげられる.1)分子量:分子量が300~600程度の薬剤は比較的容易に胎盤を通過し,1,000以上になると通過しにくい.2)脂溶性:脂溶性の薬剤は,水溶性の薬剤より容易に胎盤を通過する.3)蛋白結合率:蛋白結合率が高いほど通過しにくい.4)イオン化の程度:イオン化が強いほど通過しにくい.5)胎盤による薬物代謝:胎盤では11b-hydroxysteroiddehydrogenaseの活性が高く,母体血中のヒドロコルチゾンやプレドニゾロンは胎児に移行する前に不活性型に代謝され,活性型として胎児に到達するのは母体血中の10%以下とされる.一方,ベタメタゾンやデキサメタゾンはほとんど代謝されずに胎盤を通過して胎児に移行する.3.妊娠中に使用する薬剤の胎児への危険度妊娠中に使用する薬剤の安全性に関する基準には米国*KumikoNakao:鹿児島大学大学院医歯学総合研究科先進治療科学専攻感覚器病学講座眼科学分野〔別刷請求先〕中尾久美子:〒890-8544鹿児島市桜ヶ丘8-35-1鹿児島大学大学院医歯学総合研究科先進治療科学専攻感覚器病学講座眼科学分野0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(47)1295 表1妊婦・小児・高齢者における薬物動態妊婦小児高齢者吸収変化なし消化管通過時間が短く,薬物が吸収されにくいことがあるあまり変化なし分布血漿容積が50%,心泊出量が30%増加し,体水分量が平均8リットル増加するため,多くの薬物の血中濃度が低下体重あたりの水分量(特に細胞外液)が多く,体内の薬物の分布容積が大きくなり,血中濃度のピークは低くなる傾向細胞内水分が減少し,水溶性薬物の血中濃度が上昇しやすい脂肪量が増加するため脂溶性薬物は血中濃度が低下するが,蓄積効果がでやすい血清アルブミンの低下により薬物の蛋白結合率が減少し,遊離型薬物が増加代謝変化なし新生児期の肝臓における薬物代謝酵素活性は低く,薬物代謝速度は遅い肝血流,肝機能の低下により薬物代謝は低下排泄腎血流量が増えて腎排泄が増大腎臓の糸球体機能,尿細管機能は新生児から乳幼児は低く,腎排泄型の薬剤の半減期は延長腎血流量が低下するため腎排泄が低下 表2眼炎症治療に使われる薬の胎児への危険度区分一般名FDA分類妊婦への投与消炎鎮痛薬非ステロイド性抗炎症薬全般初期:B~C末期:D慎重~禁忌(後期~全期)コルチゾンD有益性投与ヒドロコルチゾンC有益性投与プレドニゾロンC有益性投与副腎皮質ホルモンメチルプレドニゾロンC有益性投与トリアムシノロンC有益性投与デキサメタゾンC有益性投与ベタメタゾンC有益性投与シクロスポリンC禁忌タクロリムスC禁忌免疫抑制薬タクロリムス(点眼液)禁忌アザチオプリンD禁忌ミゾリビンX禁忌モフェチルD禁忌葉酸代謝拮抗薬メトトレキサートD禁忌痛風治療薬コルヒチンD禁忌生物学的製剤抗TNFa抗体B有益性投与ペニシリン系全般B有益性投与セフェム系全般B有益性投与エリスロマイシンB有益性投与マクロライド系クラリスロマイシンC有益性投与アジスロマイシンB有益性投与抗生物質アセチルスピラマイシン有益性投与テトラサイクリン系全般D投与禁希望アミノグリコシド系全般C~D有益性投与クリンダマイシンB投与禁希望その他ホスホマイシンB投与禁希望バンコマイシンC有益性投与抗菌薬ニューキノロン系全般C禁忌その他ST合剤C禁忌抗結核薬リファンピシンC投与禁希望イソニアジドC投与禁希望エタンブトールB有益性投与イトラコナゾールC禁忌抗真菌薬フルコナゾールC禁忌アムホテリシンBB有益性投与フルシトシンC禁忌抗ヘルペスウィルス薬アシクロビルB有益性投与バラシクロビルB有益性投与抗サイトメガロウィルス薬ガンシクロビルC禁忌バルガンシクロビルC禁忌FDA分類:米国食品医薬品局の薬剤胎児危険度分類.A:ヒト対照試験で危険性がみいだされない,B:ヒトでの危険性の証拠はない,C:危険性を否定することができない,D:危険性を示す確かな証拠がある,X:妊娠中は禁忌.禁忌:投与しないこと,投与禁希望:投与しないことが望ましい,有益性投与:治療上の有益性が危険を上回ると判断される場合にのみ投与すること,慎重:慎重に投与すること.(49)あたらしい眼科Vol.31,No.9,20141297 1298あたらしい眼科Vol.31,No.9,2014(50)乳へ移行し,母体への投与が80mg/日の場合でも,新生児が母乳から摂取するのは新生児の生理的分泌量の10%以下と報告されている.プレドニゾロン内服が1回20mg以下で1日1~2回投与なら新生児や乳児への影響はほとんどない.また,1回20mg以上内服する場合は,内服4時間後に1回搾乳廃棄し,その後の母乳を与えることが勧められる.II小児における眼炎症の治療小児は発育の過程にあって身体能力が未熟であり,薬剤の副作用が発現しやすい.小児に特有の副作用や投与禁忌・注意薬剤を認識し,薬物動態や薬剤感受性の年齢による変化を考慮し,副作用が極力抑えられる治療をすることが大切である.1.小児における薬物動態消化吸収機能,細胞外液量,肝機能,腎機能などが年齢により変化するため,薬剤の吸収,分布,代謝,排泄が年齢により異なることに留意する.吸収不良や分布容積が大きいために血中濃度が低くなる傾向がある一方,代謝や排泄は遅い傾向がある(表1).2.小児の薬用量小児の薬物療法において重要な点は,投与量が年齢や体重の増加に伴い変動することである.小児薬用量算出には体表面積に基づく方法が優れているとされ,2歳以上では年齢から算出できる体表面積比に近似したAugs-berger式(II):成人用量×(年齢×4+20)/100がよく用いられる.Augsberger式から求めた小児薬用量を近似したvonHarnackの表も簡便でよく用いられている(表3).抗菌薬の投与量は体重当たり(/kg)の投与量から薬用量を計算する方法がよく用いられるが,年長児や過体重児では投与量が成人量を超えないよう注意する.循環血液量や腎機能に大きく影響される薬物などでは体表面積当たり(/m2)の投与量が提示されている場合がある.3.小児に特別な注意を要する抗菌薬テトラサイクリン系の抗生物質は8歳未満の小児に投はカテゴリーCで,催奇形性の報告はないが,妊娠中の安全性が確立していないということで禁忌になっている.抗真菌薬のうちアンホテリシンBはカテゴリーBで比較的安全であるが,アゾール系とピリミジン系の抗真菌薬はカテゴリーCで,催奇形性を疑う報告があり禁忌となっている.抗ヘルペスウイルス薬はカテゴリーBで妊婦にも投与可能であるが,抗サイトメガロウイルス薬はカテゴリーCで禁忌である.4.妊婦へのステロイド大量全身投与Vogt-小柳-原田病のように基本的にステロイドの大量全身投与が必要となる眼炎症が妊婦に発症した場合,どのように治療するかが問題となる.妊娠中の全身性エリテマトーデスのステロイド療法では,病状の悪化がなければ妊娠前の投与量がそのまま維持されるのが原則であり,病状の悪化により30~60mg/日に増量することも可能で,また,ステロイドの増量で対処できなければ,ステロイドパルス療法の適応となる.これを参考にすると,必要があれば妊婦にステロイドを大量全身投与することは可能である.これまでに報告されている妊婦に発症した原田病では,妊娠初期は催奇形性の問題からステロイド局所投与で治療している症例が多く,妊娠中期から後期では全身投与している症例が多い.ステロイド大量全身投与してもほとんどの症例が有害事象を生じていないが,因果関係は不明であるものの,妊娠30週で原田病を発症し,ステロイド大量点滴治療中に突然の胎児死亡をきたした症例が報告されている.これらを踏まえて,まずトリアムシノロンのTenon.下注射による治療を試みて,改善がみられなければステロイド大量全身投与を検討するのが安全と考えられる.最終的には,局所投与と全身投与の利点と問題点を患者に説明し,産婦人科にもよく相談したうえで治療法を決めるべきであろう.5.授乳による新生児・乳児への影響出産後も引き続いて薬剤を全身投与する場合,母乳を介する新生児や乳児への影響が懸念されるが,一般に,表2で妊婦に投与可能な薬剤は授乳時も安全に使用可能である.プレドニゾロンは母体血中濃度の5~25%が母 あたらしい眼科Vol.31,No.9,20141299(51)1.加齢による薬物動態・薬物反応性の変化加齢による薬物動態の変化(表1)により,若年成人ではみられない薬物有害反応が発現しやすい.さらに,恒常性維持機構の加齢による低下があり,薬剤の生体内における作用は若年成人より強く現れ,若年成人と比較して薬物有害反応の頻度は高く,程度もより強い.このため高齢者に薬物投与する場合は,腎機能や体重などから投与量を設定するとともに,急性期に十分量を投与する必要がある場合を除き,少量(成人常用量の1/3~1/2程度)から開始して,効果と有害反応をチェックしながら増量することが重要である.薬剤によっては血中濃度をモニターしながら投与量を決定する.高齢者に対して特に慎重な投与を要する薬物のリストのなかに,消化性潰瘍や腎障害が出やすいということでCOX(シクロオキシゲナーゼ)阻害薬以外の長時間作用型非ステロイド性抗炎症薬(常用量)が含まれている.2.多剤服用の問題高齢者では合併疾患の増加に伴って服用薬剤数が増加する.なかにはびっくりするくらい多種類の薬を内服している症例もある.多剤服用している症例に眼炎症に対する治療薬を投与する場合,薬物相互作用による有害反応がでる可能性に注意する必要がある.すなわち,自分が投与した薬剤の副作用に注意するだけでなく,すでに処方されている薬剤の副作用がでる可能性にも注意しなくてはなららない.おもな全身疾患治療薬に眼炎症治療に使われる薬が加わるとどのような相互作用がみられるかを表4にあげた.多くの薬物は肝細胞に存在するチトクロームP450(CYP)やその他の酵素の働きによって代謝されるが,CYPのなかでも特に重要なCYP3Aを阻害するアゾール系抗真菌薬やマクロライド系抗菌薬を併用すると,CYP3Aで代謝される薬物の血中濃度が上昇して有害反応が出現する可能性が大きくなる.逆に与した場合,歯牙の着色,エナメル質形成不全などを起こすことがあるので使用しない.クロラムフェニコールは嘔吐,下痢,皮膚蒼白,虚脱,呼吸停止などが現れるGray症候群を発症する恐れがあり,新生児には投与禁忌である.ST(スルファメトキサゾール・トリメトプリム)合剤はサルファ剤を含有するため,低出生体重児,新生児には,高ビリルビン血症を起こすことがあり投与禁忌である.小児用ノルフロキサシン以外のニューキノロン系抗菌薬は15歳未満の小児には使用しない.4.小児で特に注意すべきステロイドの副作用成長障害(低身長)は小児に特有の副作用の一つであり,プレドニゾロン3~5mg/m2/日の連日長期投与で低身長をまねく危険がある.ステロイド緑内障は成人よりも発症しやすいので注意する必要がある.低年齢児では協力が得られずに眼圧を正確に測定できないことが多いが,根気よく何度も眼圧測定を試みて検査に少しずつ慣れさせて,必ず眼圧をチェックすることが大事である.満月様顔貌,中心性肥満,.瘡などの容姿に関する副作用は,大人が考える以上に小児にとっては重大な問題であり,心理的ストレスが大きい.特に思春期ではこれらの副作用のために勝手に内服を中断する場合もあるので,心理的ケアを含めた注意深い観察が必要である.III高齢者における眼炎症の治療高齢者では加齢による薬物の代謝・排泄能の低下,全身合併症とそれに伴う多剤服用,薬の飲み忘れ・飲み間違いの発生率増加を背景とする薬物有害反応が出現しやすいことに留意して薬物治療を行うことが大切である.表3vonHarnackの換算表年齢未熟児新生児6カ月1歳3歳7.5歳12歳対成人薬用量1/101/81/51/41/31/22/3vonHarnackGA.MonatsschrKinderheilkd,1956表3vonHarnackの換算表年齢未熟児新生児6カ月1歳3歳7.5歳12歳対成人薬用量1/101/81/51/41/31/22/3vonHarnackGA.MonatsschrKinderheilkd,1956 表4全身疾患治療薬と眼炎症治療薬の相互作用全身疾患治療薬眼炎症の治療に使う薬剤相互作用降圧薬Ca拮抗薬イトラコナゾールリファンピシンシクロスポリンCa拮抗薬の代謝を抑制し,下肢浮腫を増強Ca拮抗薬の代謝を促進し,効果を減弱両薬物の代謝が競合的に阻害され,血中薬物濃度が上昇ACE阻害薬非ステロイド性抗炎症薬尿中K排泄量が減少し,高カリウム血症をきたす危険性直接的レニン阻害薬シクロスポリンイトラコナゾール直接的レニン阻害薬の血中濃度が著しく上昇する危険性高脂血症治療薬HMG-CoA還元酵素阻害薬アゾール系抗真菌薬シクロスポリン血中HMG-CoA還元酵素阻害薬濃度が上昇し,横紋筋融解症をきたしやすい血中HMG-CoA還元酵素阻害薬濃度が上昇し,横紋筋融解症をきたしやすいエゼチミブシクロスポリンエゼチミブの吸収が増加し,有害反応がでやすい血液凝固阻害薬ワルファリン非ステロイド性抗炎症薬抗菌薬選択的COX-2阻害薬遊離型ワルファリン量を増やし,ワルファリンの作用を増大させる体内のビタミンKを減少させ,ワルファリンによる出血のリスクを増大させる.非結合型ワルファリン濃度を増加させ,代謝を阻害し,効果を増強CYP2C9を阻害することによりワルファリンの作用を増強強心薬ジゴキシンマクロライド系抗菌薬アジド系抗菌薬イトラコナゾールジゴキシンの消化管内での不活化を阻害し,ジゴキシンの作用を増強ジゴキシンの尿細管分泌を阻害し,血中濃度が上昇して中毒症状がでやすい不整脈治療薬ジソピラミドマクロライド系抗菌薬ジソピラミドの代謝を阻害して血中濃度を上昇させ,心室性不整脈や低血糖を誘発する可能性抗不整脈薬リファンピシン抗不整脈薬の代謝を亢進し,吸収量を低下させ,抗不整脈薬の効果が減弱気管支喘息治療薬テオフィリンフルオロキノロン系抗菌薬マクロライド系抗菌薬リファンピシンテオフィリンの代謝を阻害し,血中濃度を上昇させ,中毒症状が出現しやすいテオフィリンの代謝を促進し,血中濃度を低下させ,気管支拡張作用減弱抗菌薬ニューキノロン系抗菌薬非ステロイド性抗炎症薬GABAA受容体に対するニューキノロン系抗菌薬の阻害作用を増強し,痙攣発作を生じやすい抗うつ薬アミトリプチリンフルコナゾール血中濃度を上昇させ,有害反応が出現する可能性催眠鎮静薬トリアゾラムアゾール系抗真菌薬血中濃度が上昇し,作用の増強および作用時間の延長が起こる危険性抗精神病薬クロザピンマクロライド系抗菌薬アゾール系抗真菌薬血中濃度を上昇させ副作用を増強抗てんかん薬バルプロ酸ナトリウムカルバペネム系抗菌薬血中濃度を低下副腎皮質ホルモンメチルプレドニゾロンアゾール系抗真菌薬マクロライド系抗菌薬リファンピシンメチルプレドニゾロンの代謝を阻害し,血中濃度を上昇メチルプレドニゾロンの代謝を亢進し,血中濃度を減少免疫抑制薬シクロスポリンリファンピシン非ステロイド性抗炎症薬シクロスポリンの代謝を促進し,血中濃度が低下併用により腎血流量が減少し,腎機能低下を惹起タクロリムスマクロライド系抗菌薬アゾール系抗真菌薬タクロリムスの代謝が阻害され,血中濃度が上昇抗悪性腫瘍薬エベロリムスアゾール系抗真菌薬マクロライド系抗菌薬エベロリムスの代謝が阻害され,血中濃度が上昇メトトレキサート非ステロイド性抗炎症薬メトトレキサートの腎からの排泄遅延Ca:カルシウム,ACE:アンジオテンシン変換酵素,HMG-CoA:3-hydroxy-3-methylglutarylcoenzymeA,COX:シクロオキシゲナーゼ,GABA:g-アミノ酪酸. あたらしい眼科Vol.31,No.9,20141301(53)CYP3Aを誘導するリファンピシンやデキサメタゾンを併用すると,血中濃度が低下して薬効が減弱する場合がある.さらに毒性の代謝物が生成されて有害反応をきたす原因にもなる.3.服薬管理能力の低下高齢者では服薬管理能力の低下を認めることが多い.多剤服用している場合にはさらに服薬管理能力が低下しやすい.期待した薬効が得られない場合は,薬剤を変更または追加する前にアドヒアランスが保たれているかどうかを確認する必要がある4.高齢者特有の薬の副作用―薬剤起因性老年症候群老年症候群は,加齢に伴う心身の機能の衰えによって現れる身体的および精神的諸症状・疾患の総称で,おもな症状は,認知症,せん妄,うつ,めまい,骨粗鬆症,転倒,尿失禁,食欲不振などであるが,薬の副作用により薬剤起因性老年症候群を呈することに注意する必要がある.特に多剤服用している場合,薬剤起因性老年症候群を惹起しやすい.薬剤起因性老年症候群のおもな原因薬剤のなかには眼炎症治療に用いる薬剤も含まれており,副腎皮質ステロイドではせん妄,非ステロイド性抗炎症薬,抗菌薬では食欲低下をきたす可能性がある.薬剤起因性老年症候群を発症していても,病気や年齢のせいと思われて,薬の副作用であることが見過ごされていることも多いので注意が必要である.5.高齢者で特に注意すべきステロイドの副作用高齢者は骨粗鬆症,糖尿病,高血圧,循環器系および呼吸器系の全身合併症を有していることが多いので,ステロイドの投与量や投与期間について十分検討し,投与中の副作用の出現に注意をはらう必要がある.高齢者における特に重要な副作用は,骨粗鬆症と感染症である.骨粗鬆症とそれによる脊椎圧迫骨折や大腿骨骨折は,患者の日常生活の活動性を著しく低下させてしまう.65歳以上の高齢者では,潜在的に骨脆弱性があると考え,ステロイド治療早期からビスフォスフォネートを投与することが望ましい.感染症は高齢者では致命的になる可能性があるが,高齢者では感染症の特徴〔発熱・CRP(C反応性蛋白)上昇など〕を必ずしも示さない症例もあるので注意が必要である.文献1)山下晋:妊婦・授乳婦への薬物投与時の注意改訂6版.p111-313,医療ジャーナル社,20072)石川睦男,柳沼裕二:自己免疫疾患をもつ妊婦の管理2SLE.臨婦産50:774-776,19963)穂苅量太,高本俊介,渡邊知佳子ほか:妊娠・出産と炎症性腸疾患.診断と治療100:1007-1012,20124)横田俊平:小児例への投与.ステロイドの使い方コツと落とし穴(水島裕編),p130-131,中山書店,20065)藤村昭夫,熊崎雅史,小林瑛子ほか:絶対覚えておきたい疾患別薬物相互作用(藤村昭夫編),p19-356,日本医事新報社,20136)秋下雅弘:高齢者に対する薬物療法の考え方.診断と治療102:185-191,2014

生物学製剤の使い方の基本

2014年9月30日 火曜日

特集●眼炎症(ぶどう膜炎・強膜炎)の治療方針あたらしい眼科31(9):1287.1294,2014特集●眼炎症(ぶどう膜炎・強膜炎)の治療方針あたらしい眼科31(9):1287.1294,2014生物学製剤の使い方の基本BasicConceptsofBiologicDrugTherapy蕪城俊克*田中理恵*I生物学製剤とは生物学製剤とは,バイオテクノロジーを用いて生物から産生させた物質を利用した薬剤と定義される.古くは,微生物ワクチン,トキソイド,抗血清,血液製剤などがそれに当たるが,最近では分子生物学的手法を用いて細胞にサイトカイン,細胞表面分子,あるいはそれらに対するモノクローナル抗体などを産生させ,薬剤として用いるものを指すことが多い.後者は分子標的治療ともよばれる.具体的には,肝炎に対するインターフェロン製剤,腫瘍に対するインターロイキン(IL)-2製剤,サイトカインに対するモノクローナル抗体製剤,サイトカイン受容体に対するアンタゴニストとして作用する可溶性受容体製剤などがある.眼科領域で用いられている生物学製剤には,眼瞼痙攣に対するボツリヌス毒素製剤,加齢黄斑変性・糖尿病黄斑浮腫に対する抗vascularendothelialgrowthfactor(VEGF)抗体製剤のほか,Behcet病ぶどう膜炎に対する抗tumornecrosisfactor-a(TNFa)抗体製剤であるインフリキシマブ(レミケードR)がある.生物学製剤の特性は,疾患の増悪の機序に関与するサイトカインなどを直接ブロックするため有効性が高いこと,薬剤の投与間隔が長いこと,ステロイド全身投与などと比べ長期間継続しても副作用が少ないことがあげられる.その反面,薬剤が非常に高価であることから患者の金銭的負担を考慮する必要があること,生物学製剤独特の副作用(日和見感染,結核,投与時反応など)に注意する必要がある.幸いBehcet病に関しては,特定疾患の医療費の助成制度があり,これを申請してから導入するのが通常である.本稿では,現在ぶどう膜炎に対して唯一保険適用のあるBehcet病ぶどう膜炎に対するインフリキシマブ治療の使用法と注意点について述べる.IIBehcet病ぶどう膜炎とインフリキシマブインフリキシマブはTNF-aに対するキメラ型モノクローナル抗体製剤で,2007年1月にBehcet病による難治性網膜ぶどう膜炎に対して保険適用となった.Behcet病ぶどう膜炎に対するインフリキシマブの臨床治験(第2相前期試験)は,シクロスポリン,ステロイド投与を中止し,インフリキシマブと切り替えるプロトコールで行われた.インフリキシマブ投与は5mg/kgと10mg/kg投与の2群で行われたが,いずれの群も著明な眼発作回数の減少がみられた1)(図1).この結果から,従来の治療法では眼発作のコントロールが困難なBehcet病ぶどう膜炎の難治例に対してもインフリキシマブが著明な眼発作抑制効果を示すことが明らかとなり,わが国で世界に先駆けて認可された.インフリキシマブは,現在までにCrohn病,関節リウマチ,Behcet病による難治性網膜ぶどう膜炎のほか,乾癬,潰瘍性大腸炎,強直性脊椎炎に対して保険適用が認められている.本剤は点滴による全身投与であるため,全身的な副*ToshikatuKaburaki&RieTanaka:東京大学大学院医学系研究科外科学専攻感覚・運動機能講座眼科学〔別刷請求先〕蕪城俊克:〒113-8655東京都文京区本郷7-3-1東京大学大学院医学系研究科外科学専攻感覚・運動機能講座眼科学0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(39)1287 5mg/kg投与群(n=7)910mg/kg投与群(n=6)4.0±2.2p=0.031*1.0±2.23.8±1.90.2±0.4p=0.031*8眼発作回数(回/14週)432眼発作回数(回/14週)7654321観察期間有効性0観察期間有効性評価期間評価期間眼発作回数は,14週間当たりの回数として換算(*:Wilcoxon’sranktest)図1Behcet病ぶどう膜炎におけるインフリキシマブの眼発作抑制効果Behcet病ぶどう膜炎に対するインフリキシマブの臨床試験の成績.5mg/kg投与群(7例),10mg/kg投与群(6例)におけるインフリキシマブ開始前後の14週間当たりの眼発作回数の変化を示す. 表1インフリキシマブのおもな副作用〈おもな副作用〉鼻咽頭炎(23.4%),発熱(10.7%),発疹(9.0%),頭痛(5.1%),血圧上昇(5.0%),ALT(GPT)増加(9.6%),AST(GOT)増加(7.4%),LDH増加(6.7%),血尿(尿潜血)(5.7%),白血球数増加(5.4%),尿沈渣(5.3%),g-GTP増加(5.2%)など〈重篤な副作用(頻度不明)〉1.敗血症,肺炎(カリニ肺炎を含む),真菌感染症などの日和見感染症2.結核3.重篤な投与時反応(ショック,アナフィラキシー様症状)4.脱髄疾患(多発性硬化症,視神経炎,Guillain-Barre症候群など)5.間質性肺炎6.肝機能障害7.遅発性過敏症8.抗dsDNA抗体の陽性化を伴うループス様症候群9.重篤な血液障害(汎血球減少,血小板減少,白血球減少など)ALT(GPT):alanineaminotransferase(glutamicpyruvictransaminase),AST(GOT):aspartateaminotransferase(glutamicoxaloacetictransaminase),LDH:lacticaciddehydrogenase,g-GTP:gamma-glutamyl-transpeptidase,dsDNA:double-strandeddeoxyribonucleicadid.表2インフリキシマブ導入時のスクリーニング検査と投与の是非①問診急性期の感染症の有無.結核感染の既往.結核患者への接触歴.ウイルス性肝炎の既往.うっ血性心不全.悪性腫瘍.脱髄性疾患.間質性肺炎.妊娠中・授乳中ではないか.②血液検査血算,血液生化学(GOT,GPT,gGTP,CRP,BUN,クレアチニン,CPKなど)Quantiferon-TbまたはT-SPOT(結核のスクリーニング)HBs抗原,HBc抗体,HBs抗体,HCV抗体(ウイルス性肝炎のスクリーニング)b-Dグルカン(真菌感染症のスクリーニング)③ツベルクリン反応④胸部レントゲン撮影(または胸部CT)⑤内科医への受診(インフリキシマブ導入について全身状態の確認)投与禁忌*慎重投与*活動性結核を含む感染症を有している患者非定型抗酸菌感染症の患者B型肝炎ウイルス感染者NYHA分類III度以上のうっ血性心不全を有する患者悪性腫瘍を有する患者脱髄疾患を有する患者陳旧性結核の患者(本剤による利益が危険性を上回ると判断された場合)C型肝炎ウイルス感染者NYHA分類II度以上のうっ血性心不全を有する患者悪性腫瘍の既-往歴・治療歴を有する患者前癌病変(食道,子宮頸部,大腸)を有する患者高齢者,小児*関節リウマチに対するTNF阻害療法ガイドライン(日本リウマチ学会)GOT:glutamicoxaloacetictransaminase,GPT:glutamicpyruvictransaminase,gGTP:gammaglutamyl-transpeptidase,CRP:C-reactiveprotein,BUN:bloodureanitrogen,CPK:creatinephosphokinase. 性心不全,悪性腫瘍の既往歴・治療歴,前癌病変(食道,子宮頸部,大腸)を有する患者,高齢者,小児は慎重投与となっている3).また,TNF阻害薬の胎盤,乳汁への移行が確認されており,胎児あるいは乳児に対する安全性は確立されていないため,妊娠中,授乳中の患者には投与しないことが望ましい.IVインフリキシマブ投与の実際Behcet病に対するインフリキシマブの1回の投与量は5mg/kgで,0,2,6週目,それ以降は8週間ごとに点滴により投与する2).具体的な薬剤の調整方法および投与方法は以下のとおりである.本剤1バイアル(100mg)当たり10mlの日局注射用水で溶解し,患者の体重に応じて必要本数を調整する.溶解の際には失活を防ぐためになるべく泡立てないようにし,バイアルを転がすようにして溶解する.患者の体重から換算した必要量の薬剤を約250mlの日局生理食塩液に希釈する.他の注射剤,輸液などとは混合しない.1.2ミクロン以下のメンブランフィルターを用いたインラインフィルターを通して点滴ラインにより2時間以上をかけて緩徐に点滴軽度充血,動悸,発汗,頭痛,めまい,悪心点滴遅くする中等度血圧上昇/低下(SBP20mmHg以上),悪寒を伴う体温上昇,胸部不快感,,胸部不快感,息切れ,息切れ,喘鳴体温上昇,動悸,蕁麻疹点滴中断点滴遅くまたは500~1,000ml/hrで生食点滴点滴一時中断気道確保:可能なら酸素吸入静注する.なお,本剤を3回投与して投与時反応がみられかった患者に対しては,4回目以降の投与は1時間当たり5mg/kgを超えない範囲で時間を短縮して投与することが可能である2).投与中または投与終了後2時間以内に起こりうる副作用として,投与時反応(アナフィラキシー様症状,蕁麻疹,血圧の上昇または低下,呼吸困難など)がある.したがって,点滴中は血圧,脈拍をモニタリングする必要があり,点滴終了後も2時間くらいは体調の変化に注意するように患者に周知しておく.V投与時反応への対応投与時反応はインフリキシマブ投与後0.2.2%の症例に起きるとされており,初回投与時よりも2.3回目の投与時に起こりやすいとされている.投与時反応は,ほとんどの場合インフリキシマブ点滴中か点滴終了後2時間以内に起き,動悸,発汗,頭痛,めまい,悪心,蕁麻疹,重篤な場合は,血圧の急激な変動や息切れ,喘鳴などを起こす.ほとんどは軽度か中等度の投与時反応で,重篤なものは全投与時反応の5%程度とされている.重度(5%)血圧上昇/低下(SBP40mmHg以上)・ジフェンヒドラミン(レスタミンR)(25~50mg点滴)・アセトアミノフェン(リピナジンR)(650mg内服)・WNLまで10分間隔・WNLまで5分間隔でVSのモニター・エピネフリン(1:1,000/0.1~0.5ml皮下でVSのモニター・20分待機し,その後に点滴ス投与:5分間隔で3回まで).2回目を・20分待機し,その後ピードを上げるする場合には,救急医を呼ぶに点滴スピードを上・ヒドロコルチゾン(100mgiv)またはげるメチルプレドニゾロン(20~40mgiv)・WNLまで2分間隔でVSモニターSBP:収縮期血圧,WNL:正常範囲,VS:バイタルサイン図2投与時反応発生時の対応投与時反応の重症度に応じて,インフリキシマブ点滴を遅くする,または一時中断する.重症の際は,気道確保,輸液を行う.ジフェンヒドラミンなどの薬剤投与を行い,経過をみながら徐々にインフリキシマブ点滴を再開する.1290あたらしい眼科Vol.31,No.9,2014(42) あたらしい眼科Vol.31,No.9,20141291(43)は両眼とも眼発作の頻度は明らかに減少した.同じ患者の導入前と導入後の眼発作時の眼底写真を図4に示す.この患者のようにインフリキシマブ導入前と比べ,導入後では眼発作が起きても軽症であることが多い.Behcet病ぶどう膜炎に対するインフリキシマブ治療の成績についていくつかの報告がなされている.Yamadaらは,Behcet病ぶどう膜炎患者に対してシクロスポリン治療(20例)またはインフリキシマブ治療(17例)を半年間以上行った症例について,治療成績を後ろ向きに解析した6).シクロスポリンでは半年間の眼発作回数が3.3±2.4回から1.2±1.2回に減少したのに対し,インフリキシマブでは3.1±2.7回から0.4±1.0回に大きく減少した.この結果は,インフリキシマブ治療がシクロスポリン治療よりも眼発作抑制効果が高いことを示唆している.Okadaらは,わが国の8大学病院でのインフリキシマブ治療の成績を報告した7).臨床効果については50症例を対象として検討が行われ,半年間における眼発作回数はインフリキシマブ導入前には平均2.66回であったのに対し,導入後には0.44回に減少していた.44%の症例では導入後1年の間に眼発作を起こさなかった.眼発作の重症度についても,インフリキシマブ導入前には72%の眼発作が中等度から高度であったのに対し,導入後には68%が軽度となり,眼発作の軽症化がみられた.さらに,インフリキシマブ治療の有効性を規定する因子についての研究もなされている.Sugitaらは,インフリキシマブの血液中濃度と臨床効果の関連性を報告した8).インフリキシマブを8週ごとに投与している患者20例について,インフリキシマブ投与直前と投与直後に血液を採取し,インフリキシマブの濃度を測定した.その結果,投与直前の血清中インフリキシマブ濃度が1.0μg/ml以上の症例では,16例中14例で経過中に眼発作は起こらなかったのに対し,インフリキシマブ濃度が1.0μg/ml未満の症例では,4例中3例で眼発作が起きていた.この結果から,次回のインフリキシマブ投与直前における血液中インフリキシマブ濃度(トラフレベル)が1.0μg/ml以上に保たれているかどうかが,ぶどう膜炎のコントロールと関連すると結論づけている.投与時反応の対処法を図2に示す.①点滴遅くする,または一時点滴を中断する,②準備しておいたジフェンヒドラミン(レスタミンコーワR)25.50mg点滴とアセトアミノフェン(ピリナジンR末)650mg内服を行う,③血圧・脈拍をモニターしながら症状の消失を待つ,④点滴の速度を徐々に上げていく,という順に対応することで,ほとんどの場合最後までインフリキシマブを投与することこが可能である(図2)5).一度投与時反応を起こした場合,次回の投与でも起こす可能性が高く,さらに反応が強まる可能性もある.一度投与時反応を起こした患者には,筆者らの病院では,投与時反応の予防として,①抗ヒスタミン薬(ポララミンR(2)1錠内服など)を投与日の朝に内服する.②インフリキシマブ点滴前のプレメジとして,生理食塩水50mlにプレドニゾロンコハク酸エステルナトリウム(水溶性プレドニンR)20mg,クロルフェニラミンマレイン酸塩(クロール・トリメトン注R)10mg,ファモチジン(ガスター注R)20mgを溶解し,15分程度で点滴静注する,ことを行っている.これは,クロルトリメトンR(H1-blocker)とガスターR(H2-blocker)との併用によって,蕁麻疹などの1型アレルギー予防になるのではないかと考えての処方である.このような予防策を行っても投与時反応を繰り返す症例では,インフリキシマブの投与中止を検討する必要がある.VIインフリキシマブの有効性インフリキシマブを導入した実際の患者(37歳,男性)の経過図を図3に示す.この患者は2001年発症の両眼ぶどう膜炎で,口腔内アフタ,毛.炎,結節性紅斑,陰部潰瘍がみられることから完全型Behcet病と診断された.しかし,シクロスポリン(ネオーラルR)250mg/日内服を行っても年4.5回眼発作を繰り返すため,2004年3月に東京大学医学部付属病院眼科を初診した.コルヒチン0.5mg/日,シクロスポリン300mg/日,プレドニゾロン(プレドニンR)内服を併用しても両眼に網膜ぶどう膜炎の眼発作を繰り返したため,2005年11月11日よりインフリキシマブ治療を開始,開始後はコルヒチン,シクロスポリン,プレドニゾロン内服は中止している.図3に示すとおり,インフリキシマブ導入後 右眼発作左眼発作コルヒチン0.5mgインフリキシマブ210.1ネオーラル300mgプレドニン20mg→10mg→5mg→10mg:右眼視力:左眼視力図3インフリキシマブ導入例の眼発作の経過(37歳,男性)経過中の右眼の眼発作を赤矢印,左眼の眼発作を青矢印で示す.インフリキシマブ(黄色三角)の導入後には,眼発作の頻度は減少している.レミケード使用前の眼発作.(2004/7/15)レミケード使用後の眼発作.(2006/3/25)図4インフリキシマブ導入前後の眼発作(37歳,男性)インフリキシマブ導入前と比べ,導入後には眼発作を起きても軽症であることが多い. あたらしい眼科Vol.31,No.9,20141293(45)Iwataらは,Behcet病ぶどう膜炎に対しインフリキシマブ治療と血液中の抗核抗体の関連性を報告した9).17例の患者のうちインフリキシマブ治療開始前には抗核抗体陽性は1例(6%)のみであったが,治療開始後6カ月で新たに11例(65%)が抗核抗体陽性となり,徐々に抗体価の上昇がみられた.さらにインフリキシマブ治療開始後に眼発作がみられた5例は全例が抗核抗体陽性患者であった.このことから,血清中の抗核抗体価がインフリキシマブ治療開始後の眼発作の予測マーカーとなりうる可能性を指摘している.Yoshidaらは,Behcet病ぶどう膜炎に対しインフリキシマブ治療を開始した後に,眼発作が消失した群と眼発作が残存した群に分けて患者背景の違いを比較検討した10).その結果,インフリキシマブ治療開始後に眼発作が消失する症例は,ぶどう膜炎発症からインフリキシマブ開始までの期間が長い症例が多く,開始前の眼発作回数(特に眼底型の眼発作回数)も少ない症例に多かった.このことから,インフリキシマブ治療により眼発作が消失する症例は,治療開始前から活動性の低いことが原因ではないかと推測している.筆者らは,Behcet病ぶどう膜炎の活動性の新しい指標Behcetdiseaseocularattackscore24(BOS24)を考案し,国内10施設でインフリキシマブ治療を導入した150症例についてインフリキシマブ開始前後のぶどう膜炎の活動性をBOS24でスコア化して比較した11).その結果,6カ月間の眼発作回数は,インフリキシマブ導入前3.2±2.0回から導入後1.6カ月では0.5±1.1回,導入後7.12カ月では0.7±1.1回に減少した.6カ月間のBOS24の積算値は,導入前19.7±17.4から導入後1.6カ月には2.7±6.9,7.12カ月には2.9±5.7に減少した.眼発作1回当たりのBOS24も,導入前5.8±3.7から導入後1.6カ月には4.8±3.4,7.12カ月には4.2±2.6に減少した.BOS24の各パラメータのうち,インフリキシマブ導入後,特に後極部と中心窩病変のスコアの低下が著明であった.以上の結果は,インフリキシマブ導入により眼発作回数のみならず1回当たりの眼発作の大きさも軽症化すること,インフリキシマブは特に眼底後極部のぶどう膜炎の活動性を強く抑制し,視機能の維持に有用である可能性が示唆された.VII併用薬,効果不十分例への対応などインフリキシマブを開始する際に,それまで使っていた治療薬(コルヒチン,シクロスポリン,ステロイド内服など)を中止するかどうかについては,現在のところ一定の見解はない.筆者らは,コルヒチンは原則として中止し,シクロスポリンは低用量(2mg/kg程度)を残して眼症状の推移をみながらゆっくり減量することを原則としているが,シクロスポリンを中止しても構わないとする考えもある.一方,ステロイド内服は急に中止すると,眼を含めた全身の炎症所見の増悪や副腎クリーゼなどの危険があるため,0.5.2mg/月程度ずつ,数カ月.1年以上かけてゆっくり減量することを原則とする.神経Behcetや腸管Behcetなど特殊型Behcetを合併しているためにステロイド内服を行っている症例では,ステロイドの減量法は内科医の判断に委ねているが,ステロイド内服を完全には中止できない場合が多い.インフリキシマブはメトトレキサート療法で効果不十分な関節リウマチ症例の約80%に有効であるが,効果不十分例が約20%存在するとされている.Behcet病ぶどう膜炎についても,市販後調査の中間報告(2007年1月.2009年6月)から,インフリキシマブの効果不十分例が15%程度存在すると考えられる.関節リウマチでは,インフリキシマブ不十分例への対処法12)として,①体重換算で余剰となって投与しない分の薬剤を捨てずにすべてのバイアル分を投与する(残量投与),②6.7週程度の間隔で投与することを考慮する,③インフリキシマブ投与直前に水溶性プレドニン20.40mgを静注する,④投与間隔を8週ごとから若干短縮する,⑤他の生物学製剤への切り替え,などの方法がある.また,関節リウマチについては,インフリキシマブの効果不十分例に対する増量試験がすでに行われ,インフリキシマブの増量(3.10mg/kgまで増量可),あるいは投与間隔の短縮(8週ごとを4週ごとまで短縮可)が保険診療で認められている.一方,Behcet病においては,いまだ効果不十分例に対する増量や投与間隔の短縮は正式には認められていない.そのため,現状では従来の治療薬(コルヒチン,シクロスポリンなど)の 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免疫抑制薬の使い方の基本

2014年9月30日 火曜日

特集●眼炎症(ぶどう膜炎・強膜炎)の治療方針あたらしい眼科31(9):1279~1286,2014特集●眼炎症(ぶどう膜炎・強膜炎)の治療方針あたらしい眼科31(9):1279~1286,2014免疫抑制薬の使い方の基本BasicConceptsofImmunosuppressiveDrugTherapy慶野博*はじめに局所治療に抵抗性を示す非感染性ぶどう膜炎に対して副腎皮質ステロイド(以下,ステロイド)による免疫抑制療法は一般臨床で広く行われているが,ステロイド以外の免疫抑制薬はsecondlineの薬剤として用いられることが多い.わが国でのぶどう膜炎領域における免疫抑制薬の使用については1987年にBehcet病網膜ぶどう膜炎に対してシクロスポリンのみが保険適用となっていたが,2013年3月,公知申請によりBehcet以外の非感染性ぶどう膜炎に対しても適用が拡大された.本稿では非感染性ぶどう膜炎や強膜炎などの炎症性眼疾患に対する免疫抑制薬の適応,免疫抑制薬導入前のスクリーニング,シクロスポリンを中心に眼科領域で使用頻度の高い免疫抑制薬の作用機序・投与法・副作用,導入後の注意点について述べる.さらに免疫抑制薬の具体的な使用法について実際の症例を示しながら概説する.I眼炎症性疾患に対する免疫抑制薬の種類・適応局所治療に抵抗する非感染性ぶどう膜炎や壊死性強膜炎などの眼炎症性疾患に用いられる代表的な免疫抑制薬にはT細胞阻害薬であるシクロスポリン,タクロリムス,代謝拮抗剤であるアザチオプリン,ミコフェノール酸モフェチル,メトトレキセート,アルキル化剤であるシクロフォスファミドなどがある(表1)1~3).これらの薬剤は長期間にわたるステロイド全身投与による副作用の軽減(steroidsparingeffect)を目的として使用される.眼炎症性疾患に対する免疫抑制薬導入の適応として,つぎの1)~4)が挙げられる.1)ステロイド全身投与の離脱が困難な症例,2)副作用でステロイド全身投与の継続が困難な症例,3)ステロイド局所療法に抵抗性を示す小児の慢性ぶどう膜炎,4)全身性炎症性疾患の合併例1~3)(表2).表1免疫抑制薬の分類分類薬剤アルキル化剤シクロフォスファミド(CPA)代謝拮抗剤プリン拮抗剤アザチオプリン(AZP),ミコフェノール酸モフェチル(MMF)葉酸拮抗剤メトトレキセート(MTX)カルシニューリン阻害剤シクロスポリン(CyA),タクロリムス(TAC)*HiroshiKeino:杏林大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕慶野博:〒181-8611東京都三鷹市新川6-20-2杏林大学医学部眼科学教室0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(31)1279 表2免疫抑制薬の適応ステロイドの離脱が困難な症例(ステロイド漸減中に再燃をきたす症例)全身の副作用でステロイドの継続投与が困難な症例ステロイド局所療法に抵抗性を示す小児の慢性ぶどう膜炎全身性炎症性疾患を合併した症例表3免疫抑制薬導入前のスクリーニング全身疾患の有無(高血圧,糖尿病,肺炎,肝・腎機能障害の有無など)血液(CBC,生化学一般)・尿検査胸部X線,心電図感染症の確認(特に結核,梅毒,B型・C型肝炎ウイルス,ヘルペスウイルスなど)小児ぶどう膜炎では小児科との連携 代謝拮抗剤(MTX,MMF,AZP)アルキル化剤(CPA)アルキル化剤(CPA)B細胞核内T細胞阻害剤(CyA)T細胞核内IL-2産生を抑制CPA:シクロフォスファミド,MTX:メトトレキセートMMF:ミコフェノール酸モフェチル,AZP:アザチオプリンCyA:シクロスポリン図1免疫抑制薬の作用部位アザチオプリン,ミコフェノール酸モフェチル,メトトレキセートなどの代謝拮抗剤,アルキル化剤であるシクロフォスファミドはおもに核酸合成を抑制する.シクロスポリンなどのカルシニューリン阻害剤はIL-2産生を抑えT細胞の増殖を選択的に抑制する. 1282あたらしい眼科Vol.31,No.9,2014(34)代謝経路のなかでdihydrofolatereductaseを競合的に阻害し,還元型葉酸への変換を抑制することでプリン合成を抑制する.また,ピリミジン合成に必要なdUTPからdTMPへの変換を阻害することでDNA合成を抑制する1,2).b.投与法と副作用週1回の経口投与1,2).2~4mgを12時間ごとに内服し,週2日以内で投与する.たとえば月曜日朝1回2mg,夕方1回2mg,翌日(火曜日)朝1回2mgの計6mg/週などである.効果発現までの期間は2~4週間と比較的短い.欧米からの報告では7.5~22.5mg/週が通常量とされるが,わが国では関節リウマチの患者に対して,平成23年2月より16mg/週までの使用が認可されている.副作用は軽症なものとして胃腸障害,口内炎,肝機能傷害があり,MTX併用中のアルコール摂取は減量・中止することが望ましい.重篤なものとして間質性肺炎,骨髄障害(腎機能低下例では要注意)などがある.特に高齢者にMTXを投与する場合,間質性肺炎を誘発する恐れがあり注意を要する.HBVキャリアの場合,劇症肝炎の報告があり投与禁忌である.催奇形性がある.葉酸の併用はMTXの副作用を軽減させるので副作用発現例やハイリスクの患者に対して葉酸5mgの週1回投与(MTX投与後24~48時間)を行う.c.効果ぶどう膜炎や強膜炎に対するMTXの有効性はShahらによって初めて報告され,その後も多数報告されている25~29).特にSamsonらは慢性非感染性ぶどう膜炎160例にMTXを投与したところ,全体の56%でステロイド投与量の減量が可能であったと報告している26).さらに最近の米国多施設共同研究の報告では1979~2007年までのステロイド治療に抵抗性のぶどう膜炎・強膜炎症例384例についてMTXの有効性を検討したところ,治療開始後1年の時点で全体の66%で寛解を維持,また全体の58%の症例でプレドニゾロン10mg/日以下への減量が可能であった30).また,副作用のため最初の1年間で全体の16%でMTXの投与が中止されたと報告している30).当院においてMTXの併用療法を行った強膜炎患者13例中12例で寛解が維持され,ステロイド3.ミコフェノール酸モフェチル(薬剤名:セルセプトR)ミコフェノール酸モフェチル(MMF)もAZPと同様,プリン拮抗薬である.MMFは腎移植においてステロイド,シクロスポリンとの併用で高い効果をあげている.a.作用機序MMFはプリン合成経路のうち,inosinemonophos-phatedehydrogenase(IMP)を抑制することでプリン体のdenovo合成が阻害される.Denovo経路のみに作用し,salvage経路には影響を与えないため活発に増殖しているリンパ球を選択的に抑制する1,2).b.投与法と副作用1~3g/日の経口投与1,2).3g/日まで増量すると副作用の発生率が上昇する.おもに白血球減少,高尿酸血症,嘔気,下痢,悪性リンパ腫などの悪性腫瘍,血栓症などの副作用が報告されているが頻度は高くない.催奇形性がある.c.効果ぶどう膜炎に対しては1998~1999年にかけて英国を中心にMMFの有効性が初めて報告され,その後米国からも多数例での有効性が示された19~22).ついでSobrinらは,メトトレキセート抵抗性のぶどう膜炎・強膜炎の約50%でMMFを導入することで寛解に至ったことを示した23).さらに2010年に米国から報告された多施設共同研究の報告によれば,1995~2007年までのステロイド治療に抵抗性のぶどう膜炎・強膜炎症例236例についてMMFの有効性を検討したところ,治療開始後1年の時点で全体の73%で寛解を維持,また全体の55%の症例でプレドニゾロン10mg/日以下への減量が可能であった24).副作用のため最初の1年間で全体の12%でMMFの投与が中止された24).4.メトトレキセート(薬剤名:リウマトレックスR)メトトレキセート(MTX)は高用量では抗悪性腫瘍薬として使用されるが,低容量ではその抗炎症作用,免疫抑制作用から免疫抑制薬としてリウマチ関連疾患や膠原病の治療などに広く用いられている.a.作用機序MTXは腸管から速やかに吸収され,内服後1~2時間で最高血中濃度に到達する.MTXは葉酸依存性核酸 投与量を5mg/日以下まで減量することが可能であった31).5.シクロフォスファミド(薬剤名:エンドキサンR)シクロフォスファミド(CPA)はアルキル化剤に分類され,DNA合成を阻害し細胞死を誘導する.特にB細胞に対する効果が大きい.抗悪性腫瘍薬として使用されるが,全身性エリテマトーデスや血管炎症候群,特にWegener肉芽腫症に対して高い有効性が報告されている.a.作用機序CPAは肝臓において,強いアルキル化能をもつ活性体(phosphoramidemustard)と膀胱毒性をもつ活性体(acrolein)に変換される.DNAのグアニン基と結合し水素をアルキル基に置換し核酸合成を阻害する.アルキル化剤は細胞毒性がありT細胞,B細胞の増殖抑制,抗体産生抑制を誘導する1,2).b.投与法と副作用1~3mg/kg/日で連日経口投与1,2).Wegener肉芽腫では寛解導入にCPAのパルス投与を施行する32).腎機能低下時には25~50%の減量が必要である.また,骨髄抑制と治療効果により投与量を調整する.注意すべき副作用として骨髄抑制(血球減少),日和見感染,出血性膀胱炎,性腺機能障害,催奇形性,長期使用により膀胱癌などの悪性腫瘍の発生が懸念される1,2,32).メスナは2次代謝産物のacroleinに結合して反応基を中和するので,CPA静注時に同時投与することで出血性膀胱炎の発症を抑制することができる.投与開始1カ月は毎週血液,尿検査を行い,寛解導入後は月1回のモニタリングを継続する.c.効果以前から難治性ぶどう膜炎や強膜炎に対する有効性について欧米を中心にいくつかの報告があるが33~35),2009年の米国の多施設研究によると215例のぶどう膜炎・強膜炎などにしてCPAが経口投与され治療開始12カ月では全体の76%で寛解が維持され,さらに併用ステロイド量を10mg/日以下まで減量できた割合が61%であったと報告している36).また,副作用のため1年以内に33%の症例で投与が中止された36).V各種免疫抑制薬の有効性・副作用・継続率の比較Galorらは眼炎症性疾患に対して使用される頻度の高い代謝拮抗薬であるMTX,AZP,MMFの有効性,副作用について比較検討を行った.その結果,寛解導入までの期間はMMFが最も短く,かつ導入できた割合もMMFが最も高かった37).副作用の発現率,投与中止率についてはAZPが最も高く,MTXとMMFはほぼ同様であった.一方,Nguyenらは非感染性ぶどう膜炎580例について免疫抑制薬の使用頻度を調査したところ,汎ぶどう膜炎(122例)ではMTXが16%と最も高く,MMF6%,AZP4%であった38).さらに上述した2009~2010年にかけて米国から報告された多施設共同研究による各種免疫抑制薬の有効性(治療開始1年以内にプレドニゾロン内服量が10mg/日以下まで減量できた割合),1年以内の副作用による中止率を比較すると(表4),有効性はCPAが最も高く,以下MTX,MMF,AZP,CyAの順であった.一方,中止率についてはCPAが33%で最も高く,以下AZP,MTX,MMF,CyAの順であった.VI症例提示症例は44歳,男性.両眼の視力低下にて当院受診.難聴などの眼外症状を認め眼底検査にて両眼の漿液性網表4各種免疫抑制薬の有効性,継続率の比較CPAMTXMMFAZPCyAステロイド減量効果*(%)61585547361年以内の投与中止例(%)3316122410CPA:シクロフォスファミド,MTX:メトトレキセート,MMF:ミコフェノール酸モフェチル,AZP:アザチオプリン,CyA:シクロスポリン.*1年以内にステロイド(プレドニゾロン)の投与量が10mg/日以下まで減量できた割合.(35)あたらしい眼科Vol.31,No.9,20141283 ABAB図2初診時の眼底写真,OCT画像A:初診時の右眼眼底写真.後極部を主体に漿液性網膜.離を認める.B:右眼OCT画像.黄斑部に著明な網膜下液を認める.寛解導入寛解再導入寛解維持ステロイドパルスステロイドパルスシクロスポリン内服PSL漸減療法PSL漸減療法シクロスポリン150mg/日PSL50再燃25PSLを漸減初診時6カ月後12カ月後18カ月後24カ月後図3治療経過(ステロイドと免疫抑制薬の投与量の推移)原田病の再燃時(眼底型)にはステロイドを用いて早期に寛解導入し,その後はシクロスポリンを併用することで寛解を維持する.所見を確認しながらシクロスポリン導入1カ月を目安にステロイドの減量を開始する.PSL:プレドニゾロン膜.離,視神経乳頭の発赤,髄液検査にて細胞増多を認めたことから原田病と診断(図2).ステロイドパルス療法を2回施行,その後プレドニゾロン(PSL)内服に切り替え漸減したが,25mg/日まで漸減したところで再度両眼の漿液性網膜.離を認めたため,寛解導入目的でステロイドパルス療法を2回施行,その後PSL50mg/日より漸減し,PSL40mg/日へと減量したのと同時にシクロスポリン(ネオーラルR:150mg/日)の併用を開始した(図3).その後PSLを漸減,シクロスポリン併用後は再燃を認めず初診から2年の時点でシクロスポリン内服のみで経過観察を行っている.上記のようなステロイドの漸減に伴い再燃を生じるような症例では寛解へと導入できた時点で免疫抑制薬を併用していくことで,再燃の予防・ステロイド総投与量の減量(steroidsparingeffect)が期待できる39).免疫抑制薬の使用中は定期的な問診,血液検査などを行い副作用の早期発見に努める.さらに免疫抑制薬導入の時点ですでに肝・腎機能低下や肺炎の合併など全身状態が不良1284あたらしい眼科Vol.31,No.9,2014(36) あたらしい眼科Vol.31,No.9,20141285(37)の場合,他科と連携をとりながら治療方針を決定することが望まれる.また挙児希望のある場合,免疫抑制薬のもつ催奇形性のリスクについて使用前に十分に説明する.おわりに難治性ぶどう膜炎や強膜炎に対して免疫抑制薬を併用することで寛解の維持,ステロイドによる副作用の軽減,ステロイドの減量・離脱が期待できる反面,さまざまな全身の副作用が生じる可能性がある.使用に際しては免疫抑制薬の投与方法,副作用について患者に十分に説明を行い,各専門科と密に連携を取りながら治療を継続していく必要がある.文献1)JabsDA,RosenbaumJT,FosterCSetal:Guidelinesfortheuseofimmunosuppressivedrugsinpatientswithocu-larinflammatorydisorders:recommendationsofanexpertpanel.AmJOphthalmol130:492-513,20002)OkadaAA:Immunomodulatorytherapyforocularinflammatorydisease:Abasicmanualandreviewoftheliterature.OculImmunolInflamm13:335-351,20053)KimEC,FosterCS:Immunomodulatorytherapyforthetreatmentofocularinflammatorydisease:Evidence-basedmedicinerecommendationsforuse.IntOphthalmolClin46:141-164,20064)日本リウマチ学会:B型肝炎ウイルス感染リウマチ性疾患患者への免疫抑制療法に関する提言(改訂)http://www.ryumachi-jp.com/info/news110906_new.pdf5)望月學ほか:非感染性ぶどう膜炎におけるネオーラルRの安全使用マニュアル2013年版.ノバルティスファーマ6)BenEzraD,CohenE,ChajekTetal:Evaluationofcon-ventionaltherapyversuscyclosporineAinBehcetsyn-drome.TransplantProc20(Suppl):136-143,19887)MasudaK,NakajimaA,UrayamaAetal:Double-maskedtrialofcyclosporineversuscolchicineandlong-termopenstudyofcyclosporineinBehcetdisease.Lancet1:1093-1096,19898)MichelSS,EkongA,BaltatzisSetal:Multifocalchoroidi-tisandpanuveitis:immunomodulatorytherapy.Ophthal-mology109:378-383,20029)MurphyCC,GreinerK,PlskovaJetal:Cyclosporinevstacrolimustherapyforposteriorandintermediateuveitis.ArchOphthalmol123:634-641,200510)NussenblattRB,PalestineAG,ChanCCetal:Random-ized,double-maskedstudyofcyclosporinecomparedtoprednisoloneinthetreatmentodendogenousuveitis.AmJOphthalmol112:138-146,199111)WakefieldD,McCluskeyP:Cyclosporinetherapyforseverescleritis.BrJOphthalmol73:743-746,198912)McCarthyJM,DubordPJ,ChalmersAetal:Cyclospo-rineAforthetreatmentofnecrotizingscleritisandcorne-almeltinginpatientwithrheumatoidarthritis.JRheuma-tol19:1358-1361,199213)後藤浩,横井秀俊,臼井正彦:強膜炎に対するシクロスポリン療法.眼臨90:132-136,199614)KacmazRO,KempenJH,NewcombCWetal:Cyclospo-rineforocularinflammatorydisease.Ophthalmology117:576-584,201015)YaziciH,PazarliH,BarnesCGetal:AcontrolledtrialofazathiopurineinBehcet’ssyndrome.NEnglJMed322:281-285,199016)HooperPL,KaplanHJ:Tripleagentimmunosuppressioninserpiginouschoroiditis.Ophthalmology98:944-951,199117)MichelSS,EkongA,BaltatzisSetal:Multifocalchoroidi-tisandpanuveitis.Ophthalmology109:378-383,200218)PasadhikaS,KempenJH,NewcombCWetal:Azathiopu-rineforocularinflammatorydisease.AmJOphthalmol148:500-509,200919)KilmartinDJ,ForresterJV,DickAD:Rescuetherapywithmycophenolatemofetilinrefractoryuveitis.Lancet352:35-36,199820)LarkinG,LightmanS:Mycophenolatemofetil.Ausefulimmunosuppressiveininflammatoryeyedisease.Ophthal-mology106:370-374,199921)BaltatzisS,TufailF,YuENetal:Mycophenolatemofetilasanimmunomodulatoryagentinthetreatmentofchron-icocularinflammatorydisease.Ophthalmology110:1061-1065,200322)SenHN,SuhlerEB,Al-KhatibSQetal:Mycophenolatemofetilforthetreatmentofscleritis.Ophthalmology110:1750-1755,200323)SobrinL,ChristenW,FosterCS:Mycophenolatemofetilaftermethotrexatefailureorintoleranceinthetreatmentofscleritisanduveitis.Ophthalmology115:1416-1421,200824)DanielE,ThroneJE,NewcombCWetal:Mycophenolatemofetilforocularinflammation.AmJOphthalmol149:423-432,201025)ShahSS,LowderCY,SchmittMAetal:Low-dosemeth-otrexatetherapyforocularinflammatorydisease.Oph-thalmlogy99:1419-1423,199226)SamsonCM,WaheedN,BaltatzisSetal:Methotrexatetherapyforchronicnoninfectiousuveitis.Analysisofacaseseriesof160patients.Ophthalmology108:1134-1139,200127)Kaplan-MessasA,BarkanaY,AvniIetal:Methotrexateasafirst-linecorticosteroid-sparingtherapyinacohortofuveitisandscleritis.OculImmunolInflamm11:131- 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ステロイド薬の使い方の基本

2014年9月30日 火曜日

特集●眼炎症(ぶどう膜炎・強膜炎)の治療方針あたらしい眼科31(9):1273.1277,2014特集●眼炎症(ぶどう膜炎・強膜炎)の治療方針あたらしい眼科31(9):1273.1277,2014ステロイド薬の使い方の基本BasicConceptsofCorticosteroidDrugTherapy水内一臣*北市伸義**はじめにぶどう膜炎や強膜炎の原因は多岐にわたるが,感染によるものを除き,内因性のものの治療ではステロイド薬(副腎皮質ステロイド薬)は現在も中心的な薬剤である.しかし,その使用する薬剤の選択,投与法,適応,副作用などを正確に理解して用いなければ十分な効果が得られないばかりか,かえって病状を悪化させることにもなりかねない.本稿ではステロイド薬の使用について,その投与方法ごとに分けて解説したい.I局所療法ステロイド薬の局所療法としては点眼が最も多く用いられる.炎症が強い場合や全身状態などによりステロイド薬の全身投与がむずかしい場合,眼局所注射も行われる.1.点眼薬炎症が前眼部にある場合にはステロイド点眼薬を使用する(表1).強膜炎では通常0.1%ベタメタゾン(リンデロンR)を1日3.4回から開始する.ぶどう膜炎でも前房内の炎症の程度により0.1%ベタメタゾン(リンデロンR)を1日3.4回で開始し,消炎とともに漸減する.短期間で完全に消炎していれば中止してかまわないが,炎症を繰り返す場合は消炎していても0.1%ベタメタゾン1日1回で継続投与,あるいはぶどう膜炎では0.01%ベタメタゾン,強膜炎ではフルオロメトロン(フルメトロンR)への切り替えを考慮しても良い.サルコイドーシスは前房内に炎症細胞がみられなくても隅角結節を生じて続発緑内障を合併することがあるため,維持量として0.1%ベタメタゾン1日1回を継続投与する場合もある.HLA(humanleukocyteantigen)-B27関連ぶどう膜炎など前房内にフィブリンが析出するほどに前眼部炎症が強い場合は,0.1%ベタメタゾン頻回(1.2時間ごと)点眼に加えて虹彩後癒着を防ぐために散瞳薬点眼,場合によっては後述するステロイド薬の眼局所注射を併用する1).初診時,すでに虹彩後癒着がみられても,夜間就寝時に硫酸アトロピン眼軟膏を点入することで解除できることが多く,試みるべきである(表1)2).糖尿病虹彩炎でもときに前房蓄膿やフィブリン析出,Descemet膜皺襞を伴う強い前眼部炎症をみる.しかし,糖尿病虹彩炎は点眼と糖尿病の内科的治療が基本であり,ステロイド薬は原則として内服しない3).ステロイド薬点眼の副作用には,おもに眼圧上昇や白内障の進行がある.フルオロメトロンのような比較的弱いステロイド薬でも,その使用中は定期的に眼圧を測定する必要がある.小児では白内障・緑内障を予防するためにもその使用は最小限にするよう心がける.2.眼局所注射点眼のみでコントロールがむずかしい激しい炎症や後眼部の炎症の場合,ステロイド薬の眼局所注射を行う.急性前部ぶどう膜炎や前房蓄膿を伴うBehcet病の発*KazuomiMizuuchi:北海道大学大学院医学研究科眼科学分野**NobuyoshiKitaichi:北海道大学大学院医学研究科眼科学分野/北海道医療大学個体差医療科学センター眼科学系〔別刷請求先〕北市伸義:〒002-8072札幌市北区あいの里2条5丁目北海道医療大学個体差医療科学センター眼科学系0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(25)1273 表1急性前部ぶどう膜炎に対する処方例<軽症例>0.1%リンデロン液R1日3回ミドリンPR1日1回就寝時<中等度例>0.1%リンデロン液R1日6回ミドリンPR1日3回<重症例で虹彩後癒着を伴う場合>0.1%リンデロン液R1日6回ミドリンPR1日6回サイプレジンR1日6回ネオシネジンR1日6回リュウアト眼軟膏R1日1回就寝時デカドロンR2mgを連日結膜下注射これらで改善が不十分な場合はさらに下記内服を追加するプレドニン錠(5mg)R6錠分2朝4錠昼2錠2.4週ごとに5.10mg漸減表2後部Tenon.下注射の実施手順<鈍針を用いる場合>1.仰臥位で4%キシロカインなどを点眼後16倍イソジンなどで消毒する2.シリンジに23G針を接続(2%キシロカインを0.1ml程度混注してもよい)する3.開瞼器をかけ患者に上鼻側を注視させる4.角膜輪部から5.6mm後方下耳側スプリング剪刀で結膜・Tenon.を切開する5.鈍針の先端を強膜に沿わせながら挿入6.Tenon.下に達したら血液の逆流がないことを確認して薬液を注入する7.1週間程度の抗生物質点眼を指示する<鋭針を用いる場合>1.仰臥位で4%キシロカインなどを点眼する(通常消毒は不要)2.シリンジに25G鋭針を接続する3.患者に上鼻側を注視させる(開瞼器は不要)4.下耳側の結膜円蓋部から鋭針をベベルダウンで刺入し,刺入点を支点にして左右に針の先端を大きく振りながら強膜に沿わせ挿入する5.ほぼ垂直位でTenon.下に達したら薬液を注入する6.冷蔵庫で冷やした清浄綿(冷リント)を5分程度眼瞼上に載せて安静にする(抗生物質の点眼は不要)2 3表3ステロイド薬大量療法とパルス療法の投与例<大量療法>・プレドニゾロン(水溶性プレドニンR)200mg+生理食塩水250ml※点滴静注で治療を開始し,2日間.以後2日ごとに150,100,80mgと漸減↓・プレドニゾロン(プレドニンR)60mg+グラケーR1カプセル1日3回※内服4日間.以後40mgを7日間,30mを14日間と漸減↓・プレドニゾロン(プレドニンR)20mg+グラケーR1カプセル1日3回※内服28日間.以後28日ごとに15mg,10mg,10/5mg,5mg,5/0mgと漸減して中止<パルス療法>・メチルプレドニゾロン(ソル・メドロールR)1,000mg+生理食塩水250ml※点滴静注で治療を開始し,3日間↓・プレドニゾロン(プレドニンR)40mg+グラケーR1カプセル1日3回※内服14日間.以後30mgを14日間と漸減↓・プレドニゾロン(プレドニンR)20mg+グラケーR1カプセル1日3回※内服28日間.以後28日ごとに15mg,10mg,10/5mg,5mg,5/0mgと漸減して中止 表4ステロイド薬で予想されるおもな副作用や注意点a.眼圧上昇b.白内障の進行c.免疫力の低下d.消化性潰瘍e.血糖値の悪化f.骨粗鬆症g.精神変調h.満月様顔貌(ムーンフェイス),肥満i.離脱症候群(副腎不全)j.妊婦および授乳婦への投与k.小児の成長障害l.骨壊死(大腿骨頭壊死など)m.その他血圧の上昇,肝機能障害,腎機能障害,血栓症,動脈硬化,脂質異常症,むくみ,便秘,ステロイド.創,増毛,脱毛,生理不順,不整脈,ステロイド筋症(ミオパチー),創傷治癒遷延など= あたらしい眼科Vol.31,No.9,20141277(29)理解し,適切に管理して使用すれば大変有効な薬であり,今後もなお眼炎症治療の中心となるであろう.本稿が眼炎症にステロイド薬治療を行う際の一助になれば幸いである.文献1)北市伸義:急性前部ぶどう膜炎.眼科薬物療法.眼科54(臨増):1358-1361,20122)北市伸義:急性前部ぶどう膜炎.外傷以外で救急処置が必要な眼疾患.専門医のための眼科クオリファイ21眼救急疾患スクランブル.p316-319,中山書店,20143)北市伸義:糖尿病虹彩炎.専門医のための眼科クオリファイ16糖尿病眼合併症の新展開.p158-162-319,中山書店,20134)北市伸義:CQ眼内注射法の実際について教えてください.専門医のための眼科クオリファイ13ぶどう膜炎を斬る.p119-121,中山書店,20125)北市伸義:Vogt-小柳-原田病・交感性眼炎.眼科プラクティス23眼科薬物療法AtoZ.p136-138,文光堂,20086)KitaichiN,HorieY,OhnoS:PrompttherapyreducesthedurationofsystemiccorticosteroidsinVogt-Koyanagi-Haradadisease.GraefesArchClinExpOphthalmol246:1641-1642,2008k.小児の成長障害小児にステロイド薬を長期間投与すると低身長など成長障害を起こす可能性がある.小児科と連携しながらその必要性や投与量や投与期間を十分検討する.l.骨壊死(大腿骨頭壊死など)頻度は多くないが,ステロイド薬の投与期間が長くなると大腿骨や下腿などの骨端が壊死することがある.早期発見が大切であるが痛みを伴わないことも多く,発見が遅れることがある.m.その他血圧の上昇,肝機能障害,腎機能障害,血栓症,動脈硬化,脂質異常症,むくみ,便秘,ステロイド.創,増毛,脱毛,生理不順,不整脈,ステロイド筋症(ミオパチー),創傷治癒遷延など.おわりにぶどう膜炎や強膜炎の重要な治療薬の一つとして,ステロイド薬の選択,適応,投与法,副作用などについて解説した.ステロイド薬は局所投与・全身投与いずれの場合も,その効果と予想しうる副作用を事前にしっかり