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光干渉断層計を用いて神経節細胞複合体厚および乳頭周囲網膜神経線維層厚の経時的変化を観察できた小児外傷性視神経症の1例

2014年5月31日 土曜日

《原著》あたらしい眼科31(5):763.768,2014c光干渉断層計を用いて神経節細胞複合体厚および乳頭周囲網膜神経線維層厚の経時的変化を観察できた小児外傷性視神経症の1例荒木俊介*1後藤克聡*1水川憲一*1三木淳司*1,2山下力*1,2仲河正樹*1桐生純一*1*1川崎医科大学眼科学教室1*2川崎医療福祉大学医療技術学部感覚矯正学科ACaseofPediatricTraumaticOpticNeuropathywithThinningofGanglionCellComplexandCircumpapillaryRetinalNerveFiberLayerThicknessUsingOpticalCoherenceTomographySyunsukeAraki1),KatsutoshiGoto1),KenichiMizukawa1),AtsushiMiki1,2),TsutomuYamashita1,2),MasakiNakagawa1)andJunichiKiryu1)1)DepartmentofOphthalmology,KawasakiMedicalSchool,2)DepartmentofSensoryScience,FacultyofHealthScienceandTechnology,KawasakiUniversityofMedicalWelfare目的:小児の外傷性視神経症(TON)において,スペクトラルドメイン光干渉断層計(SD-OCT)を用いて神経節細胞複合体(GCC)厚および乳頭周囲網膜神経線維層(cpRNFL)厚の経時的変化を観察できた1例を報告する.症例:11歳,男児.左眼窩縁付近を打撲後に視力低下を自覚.左眼視力0.1,相対的瞳孔求心路障害と中心フリッカー値低下を認め,左眼TONと診断.ステロイドパルス療法後,視機能が改善したにもかかわらず,GCC厚およびcpRNFL厚は,受傷後から不可逆的な菲薄化が進行した.結論:小児のTONにおいて,受傷後から経時的に神経節細胞や神経線維の萎縮を捉えることができた.自覚的検査の信頼性が低い幼小児において,SD-OCTを用いたGCC厚やcpRNFL厚の測定は,短時間で容易に構造的変化を捉えることができ,病態把握や経過観察およびTON診断の一助としても有用であると考えられる.Purpose:Wereportachildwithtraumaticopticneuropathy(TON)inwhichthetimecourseofganglioncellcomplex(GCC)andcircumpapillaryretinalnervefiberlayer(cpRNFL)thinningwereobservedusingspectral-domainopticalcoherencetomography(SD-OCT).Case:An11-year-oldmalerealizedvisuallossinhislefteyeaftertraumaticinjurytothelateralorbitalmargin.Correctedvisualacuitywas0.1.RelativeafferentpupillarydefectOSanddecreasedcriticalflickerfrequencyOSwerenoted,andhewasdiagnosedwithTONOS.Althoughvisualfunctionimprovedaftersteroidpulsetherapy,GCCandcpRNFLthinningsubsequentlyprogressed.Conclusion:WewereabletodetectlongitudinalchangesinganglioncellandretinalnervefiberatrophyinpediatricTON.Inyoungchildrenwithlowreliabilityinsubjectivetesting,SD-OCTcaneasilydetectstructuralchange,soisconsideredusefulforpathologicalassessment,follow-upanddiagnosisofTON.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(5):763.768,2014〕Keywords:外傷性視神経症,小児,光干渉断層計,神経節細胞複合体厚,乳頭周囲網膜神経線維層厚.traumaticopticneuropathy,child,opticalcoherencetomography,ganglioncellcomplexthickness,circumpapillaryretinalnervefiberlayerthickness.〔別刷請求先〕荒木俊介:〒701-0192倉敷市松島577川崎医科大学眼科学教室1Reprintrequests:SyunsukeAraki,DepartmentofOphthalmology,KawasakiMedicalSchool,577Matsushima,Kurashiki701-0192,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(137)763 はじめにスペクトラルドメイン光干渉断層計(spectral-domainopticalcoherencetomography:SD-OCT)では,スキャンスピードと空間解像度の向上に伴い,網膜各層のセグメンテーションが可能となった.RTVue-100R(Optovue社)では網膜神経線維層(retinalnervefiberlayer:RNFL)・神経節細胞層(ganglioncelllayer:GCL)・内網状層の3層をまとめて神経節細胞複合体(ganglioncellcomplex:GCC)として測定することが可能である.GCC厚の菲薄化は,網膜神経線維と軸索輸送障害に伴う網膜神経節細胞の障害を反映していると考えられており,緑内障性視神経症ではGCC厚が菲薄化するとされている1).また,GCC厚測定における緑内障の診断力は乳頭周囲網膜神経線維層(circumpapillaryretinalnervefiberlayer:cpRNFL)厚の測定に匹敵すると報告されており2),その有用性は高い.神経眼科領域においても多発性硬化症や視神経炎において,脱髄や炎症に伴う網膜神経線維や神経節細胞の萎縮を経時的に捉えるために,SD-OCTを用いてGCC厚やcpRNFL厚の検討がなされている3,4).以前に,筆者らは小児の視神経乳頭炎において治療により視機能が改善したにもかかわらずGCC厚が不可逆的に菲薄化したことを報告した5).外傷性視神経症(traumaticopticneuropathy:TON)においては,これまでtime-domeinOCTやscanninglaserpolarimeterを用いて黄斑部網膜厚やcpRNFL厚の菲薄化が報告されているが6.8),SD-OCTを用いたGCC厚やcpRNFL厚の経時的変化に関する報告は少なく9),小児での報告は筆者らの知る限りではない.今回,SD-OCTを用いてGCC厚およびcpRNFL厚の経時的変化を観察できた小児のTONの1例を報告する.なお,本研究は本学倫理委員会の承認を得ており,また,患者の同意を得て実施した.I症例患者:11歳,男児.主訴:左眼視力低下.既往歴,家族歴:特記事項なし.現病歴:2011年12月25日,サッカー中に友人の頭部で左眼窩縁付近を打撲し,視力低下を自覚したため近医を受診した.左眼のTONを疑われ,その翌日に川崎医科大学附属病院眼科を紹介受診となった.初診時所見:視力は右眼1.5(矯正不能),左眼0.1(矯正不能),眼圧は右眼15mmHg,左眼15mmHgであった.対光反射は左眼の直接反射が弱く,相対的瞳孔求心路障害(relativeafferentpupillarydefect:RAPD)が陽性,ハンディフリッカHFR(NEITZ)による中心フリッカー(criticalflickerfrequency:CFF)値は右眼41Hz,左眼15.20Hzで764あたらしい眼科Vol.31,No.5,2014あった.Goldmann視野検査では,右眼は正常,左眼は中心10°以内の中心暗点および下方の水平半盲傾向を認めた(図1a).前眼部,中間透光体,眼底に異常所見はなく,磁気共鳴画像検査,コンピュータ断層撮影法検査においても眼窩および視神経に異常を認めなかった.以上の結果より,左眼TONと診断した.経過:即日入院とし,ソル・メドロールR1,000mgによるステロイドパルス療法を2クール施行した.左眼視力の経過は受傷後翌日で(0.1),1カ月で(0.5),3カ月で(0.6),8カ月で(0.5),12カ月で(0.4)であった.CFF値は受傷後翌日で15.20Hz,1カ月で25Hz,3カ月で33Hz,8カ月で38Hz,12カ月で36Hzであった.また,12カ月後のGoldmann視野検査では,中心暗点の改善および下方視野の拡大を認めたが,下方の暗点は残存した(図1b).SD-OCT(RTVue-100R,Optovue社)による平均GCC厚は,受傷後翌日,1カ月,3カ月,8カ月,12カ月において,右眼でそれぞれ,96.63μm,97.06μm,97.18μm,98.13μm,99.13μm,左眼で95.28μm,72.95μm,72.67μm,64.44μm,64.08μmであった(図2a).左眼の平均GCC厚は,健眼である右眼と比較し,受傷後翌日で1.4%,1カ月で24.8%,3カ月で25.2%,8カ月で34.3%,12カ月で35.4%減少していた.GCCThicknessMapでは,右眼は経過を通じて明らかな変化はみられなかったが,左眼では経過とともに中心窩周囲,特に鼻側と上方で菲薄化が進行した(図2b).平均cpRNFL厚は受傷後翌日,1カ月,3カ月,8カ月,12カ月において,右眼でそれぞれ116.35μm,113.67μm,114.54μm,118.17μm,114.12μm,左眼で108.86μm,81.3μm,67.85μm,61.12μm,64.25μmであった(図3a).左眼の平均cpRNFL厚は,健眼である右眼と比較し,受傷後翌日で6.4%,1カ月で28.5%,3カ月で40.8%,8カ月で48.3%,12カ月で43.7%減少していた.cpRNFLThicknessMapでは,右眼は経過を通じて明らかな変化はみられなかったが,左眼では,経過とともに菲薄化が進行し,特に上方および耳側で顕著であった(図3b).さらに,平均cpRNFL厚を視神経乳頭上方,耳側,下方,鼻側の4象限に分けた象限別平均cpRNFL厚は,受傷後翌日,1カ月,3カ月,8カ月,12カ月において,それぞれ上方が右眼で145μm,146μm,138.5μm,151.5μm,138μm,左眼で127.5μm,96μm,70μm,74μm,80.5μmであった.耳側が右眼で82μm,94.5μm,97.5μm,103μm,93.5μm,左眼で87.5μm,44μm,39μm,35.5μm,41μmであった.下方が右眼で157μm,145μm,150μm,147.5μm,153.5μm,左眼で152μm,117μm,98μm,89μm,93μmであった.鼻側が右眼で81.5μm,69.5μm,72.5μm,70μm,71μm,左眼で68.5μm,67.5μm,63.5μm,(138) ab図1左眼Goldmann視野所見の経過a:受傷後翌日.中心10°以内の中心暗点および下方の水平半盲傾向を認めた.b:受傷後12カ月.中心暗点の改善および下方視野の拡大を認めたが下方の暗点は残存した.a1051009590858075706560受傷後翌日1カ月3カ月8カ月12カ月:右眼GCC厚:左眼GCC厚GCC厚(μm)b:GCCThicknessMap右眼左眼図2平均GCC厚の経時的変化a:平均GCC厚の経時的変化.左眼の平均GCC厚は受傷後1カ月で右眼に比べ急激な菲薄化を認め,その後,経過とともに減少傾向にあった.b:GCCThicknessMap.左眼において,経過とともに中心窩周囲,特に鼻側と上方で菲薄化が進行した.GCC:ganglioncellcomplex.(139)あたらしい眼科Vol.31,No.5,2014765 cpRNFL厚(μm)a1251151059585756555:右眼cpRNFL厚:左眼cpRNFL厚受傷後翌日1カ月3カ月8カ月12カ月b:cpRNFLThicknessMap右眼左眼図3平均cpRNFL厚の経時的変化a:平均cpRNFL厚の経時的変化.左眼の平均cpRNFL厚は平均GCC厚と同様に,受傷後1カ月で右眼に比べ急激な菲薄化を認め,その後,経過とともに減少傾向にあった.b:cpRNFLThicknessMap.左眼において,経過とともに菲薄化が進行し,特に上方および耳側で顕著であった.cpRNFL:circumpapillaryretinalnervefiberlayer,GCC:ganglioncellcomplex.46μm,42μmであった(図4).解析に用いたデータは,SignalStrengthIndexが50以上得られたデータとし,固視不良やセグメンテーションエラーがある場合は複数回の測定を行い,最も信頼性のあるデータを採用した.受傷後翌日では,平均GCC厚および平均cpRNFL厚ともに右眼(健眼)と左眼(患眼)で大きな差がみられなかったが,その後,受傷後1カ月で左眼視力は改善を認めたにもかかわらず,平均GCC厚および平均cpRNFL厚はともに減少した.また,象限別平均cpRNFL厚では受傷後翌日において,欠損のあった下方視野に対応する上方cpRNFL厚は右眼に比べて左眼で軽度減少していた.その後,12カ月後では右眼に比べて左眼は全象限においてcpRNFL厚の減少を認めた.766あたらしい眼科Vol.31,No.5,2014II考按小児のTONにおいて視力やCFF値などの視機能が改善したにもかかわらず,GCC厚やcpRNFL厚は経過とともに急速に菲薄化が進行し,受傷後12カ月においても菲薄化が残存した.TONは,広義にはいくつかの分類に分けられるが,眉毛部外側の鈍的打撲により介達性に同側の視神経機能が急激に障害されるものが一般的である.その病態は,衝撃が眼窩上壁の骨を経由して介達性に視神経管に到達した際,視神経管内視神経部で浮腫や出血が生じ,視神経を圧迫することが主たるものと考えられている10).本症例では,左眼窩縁付近の鈍的衝撃の直後に,同側の急激な視神経機能の低下を認めた.また,開放性の損傷はなく,視神経管骨折や眼球直後に生じる視神経乳頭離断も認めなかったことから,眼窩後方の(140) 右眼160140120cpRNFL厚100:上方:耳側80:下方:鼻側604020受傷後翌日1カ月3カ月8カ月12カ月160140120cpRNFL厚100:上方:耳側80:下方:鼻側604020図4象限別平均cpRNFL厚の経時的変化受傷後翌日において,上方cpRNFL厚が右眼に比べて左眼で軽度減少していた.その後,左眼は受傷後12カ月では全象限においてcpRNFL厚の減少を認めた.cpRNFL:circumpapillaryretinalnervefiberlayer.視神経管近傍に生じたいわゆる狭義の介達性TONであったと考えられる.TONにおけるSD-OCTを用いたGCC厚およびcpRNFL厚の検討については,Kanamoriら9)が成人例においてGCC厚およびcpRNFL厚は,受傷後2週目から健眼に比べて有意に減少しはじめ,20週間後には頭打ちになることを報告し,機能検査でしか捉えられなかった受傷後の経過を構造的に評価している.本症例においても治療後に視力や視野などの視機能が改善したにもかかわらず,受傷後1カ月からGCC厚およびcpRNFL厚の減少が認められた.TONにおけるGCC厚とcpRNFL厚の菲薄化は,浮腫や出血による視神経圧迫に伴う軸索損傷が原因の不可逆的なGCLやRNFLの萎縮を捉えたものと考えられる.しかし,本症例では受傷後翌日から受傷後1カ月までGCC厚およびcpRNFL厚の評価が行えておらず,菲薄化が検出されはじめる詳細な期間については検討できていない.また,cpRNFL厚の象限別検討では,受傷後翌日で健眼に比べて,患眼の上方cpRNFL厚が軽度減少していた.これまで,TONでは急性期におけるcpRNLF厚は正常か網膜神経線維の増大による肥厚を示す11)とされている.しかし,(141)cpRNFL厚(μm)cpRNFL厚(μm)左眼受傷後翌日1カ月3カ月8カ月12カ月受傷後早期にcpRNFL厚の有意な変化が捉えられるかどうかについては,今後症例数を増やし詳細な検討が必要である.これまで視神経炎においてcpRNFL厚の減少と視力や視野の障害に相関があると報告されている12,13)が,TONではGCC厚およびcpRNFL厚と視機能の相関についての報告はない.しかし,乳頭黄斑線維がおもに障害される視神経炎と異なり,TONでは視神経実質内の浮腫の部位により,さまざまな視野変化が起こりうることから視力や中心視野との相関は一様でないことが推察される.本症例では,GCC厚やcpRNFL厚の菲薄化が進行したにもかかわらず視力や視野が保持されていた.その理由として,Quigleyら14)はGoldmann視野計では網膜神経節細胞の約50%が障害されないと中心視野の異常を検出できないと報告しており,本症例でも視力検査やGoldmann視野検査ではGCC厚やcpRNFL厚の形態的変化が網膜神経節細胞の余剰性により機能異常として検出できなかった可能性が考えられる.TONの診断は,眉毛部外側の打撲の既往と視力・視野障害,RAPDの存在があれば,診断は比較的容易であるが,幼小児においては自覚的な訴えが曖昧なことが多く,外傷による皮下出血や挫滅創のない場合には診断が困難である15).このような場合,swingingflashlighttestによるRAPDの検出がほとんど唯一の他覚的所見であるとされてきたが,GCC厚やcpRNFL厚の測定は他覚的にGCLやRNFLの萎縮を捉えることができ,自覚的検査の信頼性が低い幼小児において,病態把握や経過観察に有用であると考えられる.また,幼小児のTONにおいて鑑別すべき疾患としては,外傷をきっかけとした心因性視覚障害16)や弱視17)などがあげられる.弱視眼ではGCC厚の菲薄化は認めないと報告されており18),弱視や心因性視覚障害とTONをはじめとする視神経疾患との鑑別の一助としてもGCC厚およびcpRNFL厚の測定は有用であると思われる.今回,小児のTONにおいて,SD-OCTを用いたGCC厚およびcpRNFL厚の測定により,不可逆的なGCLやRNFLの萎縮を捉えることができた.SD-OCTは,短時間の固視や座位の保持が可能であれば幼小児でも比較的容易に撮影が可能であるため,GCC厚やcpRNFL厚の測定が幼小児の視神経疾患における病態把握,経過観察および診断の一助としても有用であると考えられる.今後,TONにおけるGCC厚およびcpRNFL厚の減少と視機能との相関について,症例数を増やしてさらに詳細な検討を行う予定である.文献1)MorookaS,HangaiM,NukadaMetal:Wide3-dimensionalmacularganglioncellcompleimagingwithspectral-domainopticalcoherencetomographyinglaucoma.Investあたらしい眼科Vol.31,No.5,2014767 OphthalmolVisSci53:4805-4812,20122)KimNR,LeeES,SeongGJetal:Structure-functionrelationshipanddiagnosticvalueofmacularganglioncellcomplexmeasurementusingFourier-domainOCTinglaucoma.InvestOphthalmolVisSci51:4646-4651,20103)FjeldstadC,BembenM,PardoG:Reducedretinalnervefiberlayerandmacularthicknessinpatientswithmultiplesclerosiswithnohistoryofopticneuritisidentifiedbytheuseofspectraldomainhigh-definitionopticalcoherencetomography.JClinNeurosci18:1469-1472,20114)SycSB,SaidhaS,NewsomeSDetal:Opticalcoherencetomographysegmentationrevealsganglioncelllayerpathologyafteropticneuritis.Brain135:521-533,20125)後藤克聡,水川憲一,三木淳司ほか:神経節細胞複合体の急激な菲薄化を認めた小児視神経炎の2例.日眼会誌117:1004-1011,20136)VessaniRM,CunhaLP,MonteiroML:Progressivemacularthinningafterindirecttraumaticopticneuropathydocumentedbyopticalcoherencetomography.BrJOphthalmol91:697-698,20077)MedeirosFA,MouraFC,VessaniRMetal:Axonallossaftertraumaticopticneuropathydocumentedbyopticalcoherencetomography.AmJOphthalmol135:406-408,20038)MiyaharaT,KurimotoY,KurokawaTetal:Alterationsinretinalnervefiberlayerthicknessfollowingindirecttraumaticopticneuropathydetectedbynervefiberanalyzer,GDx-N.AmJOphthalmol136:361-364,20039)KanamoriA,NakamuraM,YamadaYetal:Longitudinalstudyofretinalnervefiberlayerthicknessandganglioncellcomplexintraumaticopticneuropathy.ArchOphthalmol130:1067-1069,201210)河合一重:外傷.眼科診療プラクティス12やさしい神経眼科(安達惠美子編),p60-63,文光堂,199411)藤本尚也,横山暁子:視神経疾患のOCTとHumphrey静的視野検査.あたらしい眼科29:743-749,201212)NovalS,ContrerasI,RebolledaGetal:Opticalcoherencetomographyversusautomatedperimetryforfollow-upofopticneuritis.ActaOphthalmolScand84:790-794,200613)CostelloF,HodgeW,PanYIetal:Trackingretinalnervefiberlayerlossafteropticneuritis:aprospectivestudyusingopticalcoherencetomography.MultScler14:893-905,200814)QuigleyHA,AddicksEM,GreenWR:Opticnervedamageinhumanglaucoma.III.Quantitativecorrelationofnervefiberlossandvisualfielddefectinglaucoma,ischemicneuropathy,papilledema,andtoxicneuropathy.ArchOphthalmol100:135-146,198215)三村治:眼のかすみを起こす疾患視神経疾患.あたらしい眼科27:191-195,201016)鈴木利根,瀬川敦,杉谷邦子ほか:中学・高校の運動部活動に関連し外傷を契機とした心因性視力障害.眼臨101:708-711,200717)波田順次,中筋康夫,中村誠ほか:健眼遮閉により視力改善をみた小児外傷性視神経症の1例.眼臨93:204-206,199918)FiratPG,OzsoyE,DemirelSetal:Evaluationofperipapillaryretinalnervefiberlayer,maculaandganglioncellthicknessinamblyopiausingspectralopticalcoherencetomography.IntJOphthalmol6:90-94,2013***768あたらしい眼科Vol.31,No.5,2014(142)

高度涙小管閉塞症に対する涙丘・結膜弁移動による結膜涙囊鼻腔吻合術の治療成績

2014年5月31日 土曜日

《第2回日本涙道・涙液学会原著》あたらしい眼科31(5):759.762,2014c高度涙小管閉塞症に対する涙丘・結膜弁移動による結膜涙.鼻腔吻合術の治療成績廣瀬浩士服部友洋伊藤和彦佐久間雅史鬼頭勲田口裕隆津山孝之国立病院機構名古屋医療センター眼科EvaluationofConjunctivodacryocystorhinostomywithTranscaruncularPlacementbyCaruncularandConjunctivalPedicleFlapHiroshiHirose,TomohiroHattori,KazuhikoIto,MasashiSakuma,IsaoKito,HirotakaTaguchiandTakayukiTsuyamaDepartmentofOphthalmology,NationalHospitalOrganization,NagoyaMedicalCenter高度涙小管閉塞症に対し,種々の結膜有茎弁を用いた結膜涙.鼻腔吻合術を行い,それぞれの成績について後向きに検討を行った.2005年2月から2012年10月まで,術後6カ月以上経過観察可能であった25例28側(平均年齢64.3±12.2歳)を対象とした.術前後の涙液の他覚的評価として,通水試験,フルオレセイン染色スコア,tearmeniscusheight(TMH)を観察した.結膜有茎弁による移植法は,涙丘移動単独(I群:2例),涙丘・鼻側結膜移動(II群:8例),涙丘・下方円蓋部結膜移動(III群:18例)の方法で行った.吻合部狭窄例には,Jonesチューブ(JT)を留置した.II群の1例は閉塞し,他27例は通水陽性であったが,7例はJTを留置した.通水陽性であった全例でTMHは減少したが,TMHが軽度で,自覚的改善度が高かった症例は7例(JT4例)に留まった.術後,II群の7例,III群の1例で外転障害をきたした.結膜有茎弁と遊離した涙丘を涙.粘膜に縫合し,新涙道を裏打ちする結膜涙.鼻腔吻合術は,流涙の軽減が得られるが,JTの留置が必要な場合が多い.Thepurposeofthisstudywastoevaluateoutcomesofconjunctivodacryocystorhinostomy(CDCR)withthreetypesoftranscaruncularplacementbyconjunctivalpedicleflap.Duringa7-yearperiod,25patients(meanage64.3±12.2years)withsevereupperlacrimalsystemobstructionunderwent28CDCRsurgicalproceduresatNagoyaMedicalCenter.The28casesweredividedinto3groups:groupIwithcaruncularconjunctivalpedicleflap(2cases),groupIIwithconjunctivaldoublevalvemethod(8cases)andgroupIIIwithcaruncularpedicleflapandfornicalconjunctivalflap(l8cases).CaseswithstenosispostoperativelyunderwentJonestubeplacement.Improvementintearingwasachievedin27surgicalcases,including7casesofJonestubeplacement.Eyemovementdisturbancewasrecognizedin7casesofgroupIIand1caseofgroupIII.CDCRwithtranscaruncularplacementbycaruncularandconjunctivalpedicleflapresultedinpartialresolutionoftearinginmanycases,althoughJonestubeplacementwasrequiredinsomecases.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(5):759.762,2014〕Keywords:結膜涙.鼻腔吻合術,Jonesチューブ,涙丘移動,結膜有茎弁,TS-1R,眼球運動障害.conjunctivodacryocystorhinostomy,Jonestube,transcaruncularplacement,conjunctivalpedicleflap,TS-1R,disturbanceofeyemovement.はじめにチューブ2)(JT)の留置は,高度涙小管閉塞症の標準的治療涙小管閉塞の原因として,外眼部炎症に続発する例,抗癌であるが,チューブの偏位,迷入,肉芽腫形成など合併症も剤など薬物に起因する涙小管閉塞症1)は,高度の閉塞例が多多く,また,チューブ脱落により容易に閉塞をきたし,術後く,シリコーンチューブ留置のみでは完治しがたい.Jones管理の大変さもあり,さまざまな変法3.5)が開発されてきた〔別刷請求先〕廣瀬浩士:〒460-0001名古屋市中区三の丸4-1-1国立病院機構名古屋医療センター眼科Reprintrequests:HiroshiHirose,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,NationalHospitalOrganization,NagoyaMedicalCenter,4-1-1Sannomaru,Naka-ku,Nagoya460-0001,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(133)759 Ⅰ群:涙丘移動単独1.涙丘を結膜側より.離.2.涙丘・内眼角間を切開,トンネル形成.3.涙丘を移動し,鼻側端を総涙小管部の涙.粘膜に縫合.Ⅱ群:涙丘・鼻側結膜移動1.涙丘を結膜側より.離.2.涙丘とTenon.間を切開,トンネル作製鼻側結膜をTenon.から.離.3.トンネルの天井を涙丘,床を鼻側結膜で覆い,それぞれを涙.粘膜に縫合.Ⅲ群:涙丘・下方円蓋部結膜移動1.涙丘を結膜側より.離.2.涙丘とTenon.間を切開,トンネル作製.3.下方円蓋部結膜をTenon.から.離.4.トンネルの天井を涙丘,下方円蓋部結膜は床として覆い,涙.粘膜に縫合.図1結膜有茎弁による移植法が,根治的な治療法であるのにかかわらず,普及していない.JTを必要としない方法として,結膜筒状弁による結膜涙.鼻腔吻合術6,7)は,鼻汁の逆流が少なく,再建された涙760あたらしい眼科Vol.31,No.5,2014道にポンプ作用があるため,より生理的であるなど利点は多いが,健常結膜を利用することの是非や,手術操作の複雑さにより多くは行われていない.今回,筆者らは,高度の涙小管閉塞症例に対し,種々の結膜有茎弁を用いた結膜涙.鼻腔吻合術を行い,それぞれの成績について検討を行ったので報告する.I対象2005年2月から2012年10月まで,上下涙小管が強度の閉塞をきたした高度涙小管閉塞症例(矢部分類8)3度以上)で,インフォームド・コンセントが得られた25例28側,男性9例(10側),女性16例(18側)を対象とした.平均年齢は,64.3±12.2歳(21.81歳)で,術後6カ月以上の経過観察を行った.原因として,テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム(以下,TS-1R)使用後10例11側,眼瞼ヘルペス3例3側,外傷1例1側,その他11例13側であった.II方法術前後の涙液の他覚的評価として通水試験,Schirmer試験,フルオレセイン染色スコア,tearmeniscusheight(TMH)の観察によって行った.1.結膜有茎弁による移植法(図1)鼻外法により涙.切開後,逆行性に閉塞部位をさぐり,高度の涙小管閉塞であることを確認した.涙丘および結膜を切開後,結膜有茎弁を作製し,涙丘切開部より涙.の総涙小管部まで,クレッセントナイフにて水平に切開し,新涙道のトンネルとした.結膜有茎弁の作製にあたって,涙丘移動単独例2例をI群,涙丘・鼻側結膜移動例8例をII群,涙丘・下方円蓋部結膜移動例18例をIII群とした.I群:涙丘移動単独涙丘を鼻側で切開後,結膜側へ向かって.離し,涙丘結膜有茎弁とした.涙丘・内眼角間にトンネルを作製後,涙丘結膜弁をトンネル内に挿入し,鼻側端を総涙小管部の涙.粘膜に縫合した.II群:涙丘・鼻側結膜移動(結膜2重弁法)9)涙丘を耳側で切開し,涙丘全体を鼻側へ.離し,涙丘結膜有茎弁とした.涙丘・鼻側結膜間にトンネルを作製後,鼻側結膜を角膜輪部で切開し,台形上に切開.Tenon.膜は切除せず,そのままトンネル内に滑らせ,床とした.涙丘結膜弁も同様にトンネル内へ移動させ,天井とし,それぞれの弁を涙.の総涙小管部の開口部で縫合した.III群:涙丘・下方円蓋部結膜移動涙丘を結膜側より.離後,涙丘とTenon.間を切開し,トンネルを作製.下方円蓋部結膜をTenon.から.離後,トンネルの天井を涙丘,下方円蓋部結膜は涙丘外側では.離(134) 表1他覚的検査表2自覚症状通水術後TMHJT留置JT後TMH+.中等度軽度中等度軽度I群II群III群2711826112619154TMH中等度:0.3.0.4mm,軽度:0.1.0.2mm.せず,遠位端をトンネル内に移動,床として覆い,それぞれを涙.粘膜に縫合した.2.結膜涙.鼻腔吻合術骨窓作製後,鼻粘膜を鼻背に平行に切開し,前弁と後弁を作製後,後弁は切除した.網膜.離手術用強膜シリコーンスポンジ(マイラAU-506S,3×5mm,長さ100mm,楕円形)をステントとしてトンネル内から鼻腔に留置し,6-0吸収糸にて鼻粘膜前弁を涙.粘膜の前弁と縫合し,7-0ナイロン糸にて皮下,皮膚を縫合した.シリコーンスポンジは,7-0ナイロン糸にて内眼角部から突出しない程度に皮膚に固定した.術後,抗生剤,ステロイド,非ステロイド点眼剤とともに鼻内の抗炎症用としてステロイド点鼻薬を約3カ月間使用した.シリコーンスポンジは約2カ月後に抜去した.III結果閉塞の程度は,Grade3が5例5側,Grade4が20例23側であった.Grade4の1例1側が術後,再閉塞をきたしたが,他の27側は全例通水陽性であった.TS-1R使用例は,II群3例,III群8例であった.シリコーンスポンジ抜去後,通水があっても流涙が残存したり,新涙道が狭窄傾向を示した例にはJTを留置した(II群1側,III群9側,うちTS-1R使用例4側).Schirmer試験は,再閉塞例を除き,全例減少した.最終的に通水陽性27側中,TMHが中等度(0.3.0.4mm)であったものが20側(I群2側,II群6側,III群12側,JT挿入例II群1側,III群5側),軽度(0.1.0.2mm)であったものは7側(II群1側,III群6側,JT挿入例III群4側)であった(表1,2).全例でフルオレセイン染色スコアに変化はなかった.術後,外転制限を中心とした眼球運動障害がII群で7例,III群で1例認められた.II群の4例は,高度の外転運動障害であったため,結膜癒着.離および羊膜移植術を施行した.IV考按高度涙小管閉塞症に対する有効な方法として,JTを留置しない結膜2重弁による結膜涙.鼻腔吻合術9)が報告され,当院でも,今回,II群として報告したように積極的に手術を行った.他の涙道手術に比べ複雑な手技が必要だが,ステン流涙消失やや残存残存不変総計%28100310.71142.91342.913.5JT10154I群II群III群28(1)18(9)12(1)12(1)9(5)147(2)1()は,Jonesチューブ挿入例数.トを必要とせず,JTに比べより生理的な導涙機構が構築されることで自覚症状も軽減し,大変有用な方法であると考えられた.ただし,術後,高頻度で内眼角部でのTenon.膜の癒着が起こり,眼球運動障害や複視が発症したため,結膜癒着.離,羊膜移植術を行わざるをえず,この点を改善する方法が必要と考えた.結膜2重弁法の導入前は,今回のI群で報告した涙丘移動のみの方法で行った.この方法は,連続した結膜組織による再建で自然な導涙機構の構築が可能であり,トンネル内から涙.粘膜までの移動は容易であるが,粘膜に覆われている部分は床のみであるため,通水は得られても吻合部は狭窄し,流涙は残存した.2001年から5例ほど施行したが,電子カルテ導入により5年前の紙カルテ破棄に伴い,経過観察が可能であった2側のみの登録となった.III群は,これらの点を改善するべく考案された.トンネル内の粘膜の裏打ちを天井,床に行い,術後の狭窄の軽減を期待した.また,下方結膜円蓋部の利用は,結膜筒状弁で使用する領域の半分ほどであり,涙丘付近での有茎弁のため,Tenon.を刺激することなく,結膜組織の移動が可能である.術後の癒着も改善され,1例に認めるのみであった.ただし,自覚症状の軽減は得られるものの残存例が多く,最終的にJTの留置が必要な場合が多かった.この原因として,TS-1Rの使用や高齢により眼瞼のポンプ機能が低下し10),有効な導涙機構が構築されていないことが考えられる.実際,III群のJT留置例で,TMH中等度の5例の平均年齢は68.6±4.7歳,減少例は4例では59±17歳と減少例で年齢が低い傾向がみられたが,明らかな結膜弛緩などの症例はなかった.III群による利点としては,原則的にJT挿入を必要としないが,必要な場合でも外来にて容易にJTの挿入が可能である,また,JTが脱落してもすぐに閉塞には至らず,再挿入が容易である,埋没例が少ないなどが挙げられる.JTにより自覚症状の改善は得られるが,普及に際しては,JTの安定的な供給とともに,ステントを必要としない新たな涙道再建術の考案が必要と考える.(135)あたらしい眼科Vol.31,No.5,2014761 利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)EsmaeliB,GolioD,LubeckiL:Canalicularandnasolacrimalductblockage:anocularsideeffectassociatedwiththeantineoplasticdrugS-1.AmJOphthalmol40:325327,20052)JonesLT:Conjunctivodacryocystorhinostomy.AmJOphthalmol59:773-783,19653)田邊吉彦,村上正建,柳田則夫:保存強膜を利用した眼形成手術(III)結膜涙.鼻腔吻合術への応用.臨眼33:14411445,19794)原吉幸,島千春,田上美和ほか:結膜涙.鼻腔吻合術鼻内法.臨眼62:1131-1133,20085)MombaertsI,CollaB:ModifiedJones’lacrimalbypasssurgerywithanangledextendedJones’tube.Ophthalmology114:1403-1408,20076)酒井成身,田邊博子,山中美和:結膜筒状弁による涙道再建術.眼科33:573-577,19917)矢部比呂夫:結膜筒状弁による結膜涙.鼻腔吻合術.臨眼51:800-801,19978)矢部比呂夫:涙小管閉塞.眼科診療プラクテイス19.外眼部の処置と手術.p204-211,文光堂,19959)新田安紀芳:新しい結膜涙.鼻腔吻合術:結膜2重弁法.眼科手術21:121-126,200810)KakizakiH,ZakoM,MiyaishiOetal:ThelacrimalcanaliculusandsacborderedbytheHorner’smuscleformthefunctionallacrimaldrainagesystem.Ophthalmology112:710-716,2005***762あたらしい眼科Vol.31,No.5,2014(136)

TS-1®による涙道閉塞に対する3側の涙小管形成術を併用した涙囊鼻腔吻合術

2014年5月31日 土曜日

《第2回日本涙道・涙液学会原著》あたらしい眼科31(5):755.758,2014cTS-1Rによる涙道閉塞に対する3側の涙小管形成術を併用した涙.鼻腔吻合術久保勝文*1櫻庭知己*2*1吹上眼科*2青森県立中央病院眼科ThreeCasesofExternalDacryocystorhinostomywithCanaliculoplastyforCanalicularObstructionDuetoTS-1.MasabumiKubo1)andTomokiSakuraba2)1)FukiageEyeClinic,2)DepartmentofOphthalmology,AomoriPrefecturalCentralHospitalTS-1.による涙小管閉塞に,観血的に涙小管閉塞を開放しチューブ留置を行う涙小管形成術(CP)を併用した涙.鼻腔吻合術(DCR)の結果について報告する.症例1は,原疾患が未確定の56歳,女性.症例2は,骨転移した乳癌の57歳,女性.2症例ともにTS-1.内服後から両眼充血・流涙が出現し,上下涙小管が閉鎖していた.症例1は,術中に5mm幅程度の涙小管閉塞を開放しCPを併せて両側のDCRを行った.症例2は,上下涙小管全体の硬い狭窄を開放するCPを併せて左DCRを行った.2例3側の術後は,涙腺の通過性は良好で流涙も消失した.DCRの利点は,切開した涙.からの逆行性ブジーと順行性ブジーが同時に可能となり,涙小管の閉塞部位の開放を容易にする.CPを併用したDCRは,涙管チューブ挿入術や結膜涙.鼻腔吻合術とともにTS-1.による涙道閉塞治療の選択肢の一つとして有用と考えられる.Weevaluatedtheeffectivenessandsurgicalresultsofexternaldacryocystorhinostomy(DCR)withcanaliculo-plasy(CP)inpatientsreceivingTS-1.whohadcanalicularobstructionatFukiageEyeClinic.Patient1:A56-year-oldfemalewithcancerofunknownorigin,treatedwithTS-1..Patient2:A57-year-oldfemalewithmetastasisofbreastcancer,treatedwithTS-1..Thepunctuminthe2casescouldnotbeobserved,butthepatientsdidnotchooseconjunctivodacryocystorhinostomy.Wetreatedthe2casesbybothDCRusingthetwo-flaptechniqueandCPwithanterogradeandretrogradeprobing.Epiphoraimprovedin3systemsof2casesfor3monthsafterDCR.DCRenabledsimultaneousretrogradeprobingandanterogradeprobing.DoubleprobingfacilitatedthecompletionofCP.WebelievedthatDCRwithCPcanbeasurgicaltherapyforpatientsreceivedTS-1.whohavecanalicularobstruction.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(5):755.758,2014〕Keywords:TS-1.,涙小管形成術,涙.鼻腔吻合術,逆行性ブジー,順行性ブジー.TS-1.,canaliculoplasy,dacryocystorhinostomy,retrogradeprobing,anterogradeprobing.はじめに抗癌剤TS-1.により投与患者の10%程度に,涙点・涙道閉塞症が生じると報告されている1.3).TS-1.による閉塞は,涙点から涙小管まで広く閉塞していることも多いと考えられる.受診までの期間が短期間であれば閉塞は短く軟らかく,受診までが長期間であれば閉塞が長く硬いとされている.しかし,流涙が発症してからの期間が不明な症例や,発症してから長期の受診や重症例も多い.早期で軽症の涙小管狭窄では,涙管チューブ挿入術が用いられる1,2).閉塞が穿破できない場合や,涙管チューブ挿入ができない場合は,片側のみの涙管チューブ挿入となる場合もある1).重症であれば結膜涙.鼻腔吻合術(conjuctivo-dacryocystorhinostomy:CDCR)が選択される1,3,4).CDCRではジョーンズチューブ(Jonestube:JT)の脱出や埋没な〔別刷請求先〕久保勝文:〒031-0003青森県八戸市吹上2丁目10-5吹上眼科Reprintrequests:MasabumiKubo,M.D.,Ph.D.,FukiageEyeClinic,2-10Fukiage,Hachinohe031-0003,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(129)755 ど,術後合併症率が高く,術者および患者ともにストレス度の高い手術である.このような治療困難なTS-1.による涙小管閉塞症に対する涙.鼻腔吻合術(dacryocystorhinostomy:DCR)および涙小管形成術の結果についての報告は少ない3).今回,TS-1.による涙小管閉塞2症例3側のDCRを行った結果について報告する.I対象および方法症例1は,56歳,女性.原発不明癌に対するTS-1.内服開始後に流涙が出現した.他院にて両側の涙点・涙小管閉塞に対し,右涙管チューブ挿入術を試みるも留置できず吹上眼科紹介となった.視力,眼底に異常なし.涙点は図1に示すように閉塞していた.涙点拡張後のプロービングでは,右眼上涙小管が2mm程度残っていたがそれ以降は完全閉塞し,下涙小管は全体的な強い狭窄を認め,涙管チューブ挿入術およびCDCRを希望されず,右側のDCRを行った.症例2は,57歳,女性.左乳癌および多発骨転移に対するTS-1.内服後から両眼の充血・流涙が出現し来院した.視力,眼底に異常なし.図2に示すように上下の涙点は閉鎖していた.涙点拡張後のプロービングにて,上下涙小管は全体的な強い狭窄を認めた.CDCRを希望せず左側のDCRを行った.2症例とも術前に今回のDCR対するインフォームド・コンセントを得ている.従来行っていたDCR5)と今回,2症例3側DCRで変更した点を以下に述べる.1.内眥靱帯の全体が確認できるように,最初の皮膚切開を2.3mm程度拡大した.2.内眥靱帯を糸で上方に牽引し,涙.内の観察が容易になるようにした.3.涙小管の閉塞は,順行性および逆行性ブジーをすり合わせるようにして穿破した.4.閉塞穿破後は涙.から剪刀を用いて閉塞をできるだけ大きく解除した.また,症例2の上涙小管への涙管チューブ挿入が通常の手技では困難であったために,涙.側より逆行性にブジー(はんだや,HS-2571,小川氏涙管拡張針)を挿入し18Gのアンギオカット留置針の外筒を先端に装着し,ブジー抜去する際に外筒を涙小管内に留置した.つぎに外筒の中に涙管チューブを留置し,外筒を抜去しながら涙管チューブのみを留置した(図3a,b).図1症例1:右眼上下涙点は,完全に閉塞している.図2症例2:左眼上下涙点は完全に閉塞している.756あたらしい眼科Vol.31,No.5,2014(130) ブジー18Gアンギオカット針a:涙.側より逆行性にブジーを挿入し18Gのアンギオカット留置針の外筒を先端に装着し,ブジーの抜去後に外筒を留置した.b:涙小管内に留置した外筒の内腔に涙管チューブを留置し,涙.側より外筒を抜去しつつ涙管チューブを留置した.図3症例2における上涙小管への涙管チューブ挿入手技II結果症例1の右側は上涙小管の閉塞幅は5mm程度で,涙点側の涙小管閉塞に硬い部分があったが涙.の手前の涙小管閉塞は軟らかく,下涙小管とともにブジーで穿破が可能で井上1)の方法で涙管チューブ挿入が可能だった.右側のDCR後に流涙が消失し,患者が手術を希望したため左側も同様にDCRを行った.左側の上下涙小管の閉塞幅は5mm程度で,涙点側の涙小管閉塞は硬い閉塞だったが,近位側は強固でなかった.術後は,両眼ともに流涙なく経過良好である.症例2も,左DCR後に流涙が消失し通水も良好である(図4).術後は,2症例3側ともに最長7カ月の経過観察だが,涙小管再閉塞もなく流涙もなく良好である.抗癌剤による感染症および創傷遅延については認められなかった.III考察TS-1.による高度な涙点および涙小管閉塞に対する治療の選択として今回DCRおよび涙小管形成術を,2例3側に対して行った.皮膚切開,骨窓作製での出血は,特に多量ではなかった.また術中・術後の出血,創傷遅延を認めなかった.涙点付近の涙小管閉塞は強固であったが,順行性および逆行性のブジーにより容易に開放できた.一見,閉塞が強く涙管チューブ挿入術が困難な状態でも,涙管チューブが挿入可能だった.難治の涙小管閉塞の穿破および涙管チューブ挿入術については,中村6)や鈴木7)の報告のように,皮膚切開および涙小管閉塞解除を顕微鏡下で確実に行い涙管チューブを鼻涙管に挿入する方法の報告がある.しかし,これらの方法では鼻涙(131)図4症例2の術後術後7カ月経過し,流涙は消失.管へ涙液が流れるために,涙液中のTS-1.が鼻涙管閉塞を新たに惹起する可能性があると考える.涙小管形成後に鼻涙管閉塞を起こした場合には,再度皮膚切開を行うDCR鼻外法が必要になる.しかし,癌治療を受けている患者に大きな負担を強いることになり,再手術について患者の納得を得るのは容易ではないと考え,今回はこのような術式を選択した.TS-1.による涙小管閉塞術の治療において,涙管チューブ挿入術1,2)は涙道内視鏡下での施行が望ましいため,施行できる施設が限られてしまう.CDCRの報告は,術後の合併症の頻度が高く満足度も低いとされ8,9),初回手術として選択しにくい.TS-1.による涙道障害が報告される以前の涙点閉鎖,涙小管閉塞に対する治療報告10.12)もあるが,涙小管閉塞の原因により,術後成功率が0.100%と差があることが示されている10).これらと比較すると,今回のTS-1.による涙点・涙小管閉鎖は,障害の程度が軽度であった可能性は否定できないが,順行性および逆行性ブジーを同時に行うことによって良好な成績を得られたと考える.DCRは多くの術者によって施行されている手術であり,あたらしい眼科Vol.31,No.5,2014757 今回の手技の導入は困難ではないと考える.将来,CDCRでJTの使用が必要となっても,骨窓がすでにあるため留置が容易であることも利点である.しかし涙小管そのものの狭窄の可能性は避けられず,症例によって骨窓を作る作業が過剰な侵襲となる可能性7)もあり,今後,DCRと涙小管形成術単独との術後長期成績や合併症の比較検討が必要であろう.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)井上康:TS-1.による涙道閉塞.眼科手術25:391-394,20122)SasakiT,MiyashitaH,MiyanagaTetal:Dacryoendoscopicobservationandincidenceofcanalicularobstruction/stenosisassociatedwithS-1,anoralanticancerdrug.JpnJOphthalmol56:214-218,20123)坂井譲,井上康,柏木浩哉ほか:TS-1.による涙道障害の多施設研究.臨眼66:271-274,20124)塩田圭子,田邊和子,木村理ほか:経口抗癌薬TS-1投与後に発症した高度涙小管閉塞症の治療成績.臨眼63:1499-1502,20095)久保勝文,櫻庭知己:日帰り涙.鼻腔吻合術鼻外法18例20眼の検討.眼科手術18:283-286,20056)中村泰久:安全確実なシリコーンチューブ留置術.臨眼50:1458-1460,19967)鈴木亨:涙小管閉塞症の顕微鏡下手術における術式選択.眼科手術24:231-236,20018)RosenN,AshkenaziI,RosnerM:PatinetdissatisfactionafterfunctionallysuccessfulconjunctivodacryocystorhinostomywithJonestube.AmJOphthalmol117:636-642,19949)SekharGC,DortzbachRK,GonneringRSetal:Problemsassociatedwithconjunctivodacryocystorhinostomy.AmJOphthalmol112:502-506,199110)WearneMJ,BeigiB,DavisGetal:Retrogradeintubationdacryocystorhinostomyforproximalandmidcanalicularobstruction.Ophthalmology106:2325-2329,199911)McNabAA:Lacrimalcanalicularobstructionassociatedwithtopicalocularmedication.AustNZJOphthalmol26:219-223,199812)TrakosN,MvrikakisE,BoboridisKGetal:Amodifiedtechniqueofretrogradeintubationdacryocystorhinostomyforproximalcanalicularobstruction.ClinOphthalmol3:681-684,2009***758あたらしい眼科Vol.31,No.5,2014(132)

VDT作業に伴うドライアイに対する3%ジクアホソルナトリウム点眼液と人工涙液の効果比較

2014年5月31日 土曜日

《第2回日本涙道・涙液学会原著》あたらしい眼科31(5):750.754,2014cVDT作業に伴うドライアイに対する3%ジクアホソルナトリウム点眼液と人工涙液の効果比較浅井景子*1岡崎嘉樹*1御子柴雄司*1中村竜大*2石川浩平*3*1静岡済生会総合病院眼科*2中村眼科医院*3石川眼科医院ComparativeEfficacyof3%DiquafosolTetrasodiumandArtificialTearFluidforDryEyeinVDTUsersKeikoAsai1),YoshikiOkazaki1),YujiMikoshiba1),TatsuhiroNakamura2)andKoheiIshikawa3)1)DepartmentofOphthalmology,ShizuokaSaiseikaiGeneralHospital,2)NakamuraEyeClinic,3)IshikawaEyeClinicドライアイを伴うvisualdisplayterminals(VDT)作業者に対する3%ジクアホソルナトリウム点眼液(ジクアスR点眼液:以下,DQS)と人工涙液(マイティアR:以下,AT)の効果を比較した.点眼開始日から2・4・8週目のいずれかに問診および検査を行ったVDT作業者のドライアイ確定例および疑い患者40例40眼(DQS群19例,AT群21例)を後ろ向きに抽出した.両群間の涙液層破砕時間(tearfilmbreakuptime:BUT),角結膜上皮障害スコアおよび自覚症状12項目について比較検討した.DQS群ではBUTが3.37±1.54秒から5.11±2.47秒(p=0.0002),角結膜上皮障害が1.68±1.29点から0.84±0.83点(p=0.0002),自覚症状累計点が21.00±6.79点から14.78±6.90点(p=0.0002)と有意に減少し,AT群では変化がなかった.最終観察時には群間に有意差がみられた(p=0.0093,p=0.0220,p=0.0229).DQSはVDT作業に伴うドライアイにおける自覚症状・他覚所見の改善に有効と考えられた.Wedidacomparativeexaminationoftheeffectof3%diquafosolsodium(DiqasR:DQAF)andartificialtears(AT)invisualdisplayterminal(VDT)userswhosufferedfromdryeyedisease.Weextractedbackward40VDTusers(40eyes)withdefiniteorprobabledryeyediseaseineitherweek2,4or8afterinitiatingeyedropapplication,andevaluatedtheirtearfilmbreakuptime(BUT),keratoconjunctivalstainingscoreandsubjectivesymptoms.AlthoughDQAFshowedpredominantimprovementinkeratoconjunctivalstainingscore(from1.68±1.29to0.84±0.83;p=0.0002),BUT(from3.37±1.54to5.11±1.54seconds;p=0.0002)andsubjectivesymptoms(from21.00±6.79to14.78±6.90;p=0.0002),ATdidnot.WeconcludethatDQAFiseffectiveinimprovingdryeyediseaseinVDTusers.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(5):750.754,2014〕Keywords:VDT作業,ドライアイ,ジクアホソルナトリウム,人工涙液,効果比較.VDToperation,dryeye,diquafosolsodium,artificialtearfluid,comparativeefficacy.はじめにパーソナル・コンピュータやスマートフォンなどのIT(informationtechnology)機器の使用率の上昇に伴い,VDT(visualdisplayterminals)作業者の割合も増加しており,2008年に行われた厚生労働省の調査結果によると,VDT作業を行っている事業所は全体の97.0%とされている.そのうち,VDT作業に伴う何らかの自覚症状がある作業者は約68.6%であったが,最も多い症状が「目の疲れ・痛み」で,全体の90.8%を占めていた.また,過去5年間と比較して「目の疲れを訴えるものが増えた」とする事業所の割合は,肩こりなどの身体的疲労や精神的ストレス,環境面での苦情などと比較すると,2003年の調査と変わらず1番多い割合を占めている1).このことから,VDT作業は特に目にとって多大な負担をかけるものであることが示唆される.ドライアイはさまざまな要因から発症する疾患であるが,特にVDT作業は瞬目回数の減少による開瞼時間の延長から〔別刷請求先〕浅井景子:〒422-8527静岡市駿河区小鹿1-1-1静岡済生会総合病院眼科Reprintrequests:KeikoAsai,DepartmentofOphthalmology,ShizuokaSaiseikaiGeneralHospital,1-1-1Oshika,Suruga-ku,Shizuoka422-8527,JAPAN750750750あたらしい眼科Vol.31,No.5,2014(124)(00)0910-1810/14/\100/頁/JCOPY 涙液層破砕時間(tearfilmbreakuptime:BUT)を短縮させること2),また作業年数が8.12年とVDT作業が長期にわたる場合は涙液分泌量の減少もみられることが報告されており3),コンタクトレンズ装用などと同じくドライアイ発症の重要な一因となっている4,5).2006年ドライアイ診断基準により,ドライアイの定義は「様々な要因による涙液および角結膜上皮の慢性疾患であり,眼不快感や視機能異常を伴う」と改訂され6),それまで診断基準となっていた涙液の質的・量的な異常および角結膜上皮障害以外に,新たに自覚症状や視機能異常が追加されたことから,近年,眼精疲労や眼不快感など自覚症状を強く訴えるタイプや,高次収差の乱れによる視機能の低下のため見えにくさの訴えが強いタイプのドライアイなどが注目されてきている7,8).VDT作業に伴うドライアイも視力低下や眼精疲労・眼不快感の一因となっていると考えられ,VDT作業者の増加に伴い,治療方法の模索が必要となってきている4,5,9).そこで筆者らは,近年,ドライアイに対する研究の進歩に伴い新しい涙液層の概念が提唱され,それぞれの涙液層に働きかける新しい薬剤としてジクアホソルナトリウム点眼(ジクアスR:以下,DQS点眼)が開発されたことから,今までの涙液成分を補充するのみの作用を持つ人工涙液(マイティアR:以下,AT点眼)と比較して,この新しい薬剤であるDQS点眼がVDT作業に伴うドライアイに対してどの程度有効性が高いかについて検討した.I対象および方法静岡済生会総合病院,中村眼科医院,石川眼科医院の参加3施設において,1日3時間以上のVDT作業に従事しており,調査開始時までにジクアホソルナトリウム点眼の処方経験がなく,2006年ドライアイ診断基準6)においてドライアイ確定もしくは疑いと判定された患者40例40眼(DQS群19眼,AT群21眼)のなかで,薬剤投与開始日より2週目,4週目,8週目のいずれかにおいて再診があり,かつ問診・検査を実施した患者をカルテより後ろ向きに抽出し,DQS群とAT群の点眼投与前と最終受診時を比較検討した.除外基準は,ソフトコンタクトレンズ装用患者,糖尿病・アレルギー・結膜弛緩症の既往がある患者,経過観察期間中に薬剤の変更または追加があった患者,今回の研究に組み入れる3カ月以内に手術既往のある患者,および担当医が不適切と判断した患者とした.観察項目は,フローレス試験紙による染色検査,BUT測定,自覚症状,VDT作業状況の4項目とし,薬剤投与開始日より2週目,4週目,8週目のいずれかにおいて再診がある患者の点眼投与前と最終観察時の状態について,問診票から自覚症状を,カルテから他覚所見を収集した.他覚所見は,フローレス試験紙を用いて角結膜を染色した後,メトロ(125)ノームを用いてBUTを測定し,その後,ブルーフリーフィルターで角結膜を観察し,スコアリングした.染色スコアは,ドライアイ研究会の診断基準6)に従い,結膜鼻側・耳側,角膜上・中・下,各3点ずつ合計15点として算定した.自覚症状は,観察期間中,診察ごとに問診票を用い,「眼精疲労(目が疲れやすい)」「眼痛(目が痛い)」「眼脂(めやにが出る)」,「異物感(目が(,)ゴロゴロする)」,「(,)流涙(涙が出る)」「霧視(物がかすんで見える)」「掻痒感(目がかゆい)」「(,)鈍重感(重たい感じがする)」「(,)充血(目が赤い)」「眼不快(,)感(目に不快感がある)」「乾燥(,)感(目が乾いた感じ(,)がする)」「羞明(光をまぶしく感(,)じる)」の12項目の自覚症状につい(,)て,0:まったくない,1:まれにある,2:時々ある,3:よくある,4:いつもある,の5段階(0.4点)で自己評価させ,点眼投与前と投与後の状態を比較した.統計解析は,Wilcoxon符号付順位検定を用い,有意水準は両側5%(p<0.05)とした.本文中の記述統計量は,原則として平均値±標準偏差の表記法に従った.II結果対象患者の性別は,男性14眼,女性26眼(内訳は,DQS群男性5眼,女性14眼.AT群男性9眼,女性12眼)であった.平均年齢は,DQS群53.1±15.3歳,AT群51.1±13.1歳であった.平均観察期間は,DQS群で43.4±19.7日,AT群で38.4±18.3日,平均VDT時間は,DQS群で平均4.63時間,AT群で6.02時間であった(p=0.2148).1.他覚所見角結膜上皮障害は,点眼開始前と最終観察時を比較して,DQS群で1.68±1.29点から0.84±0.83点と有意な改善がみられた(p=0.0002)が,AT群では2.24±1.87点から1.67±1.80点と有意差はみられなかった(図1).BUTも同じく,点眼開始前と最終観察時を比較して,DQS群では3.37±1.54秒から5.11±2.47秒と有意な延長がみられた(p=0.0002)が,AT群では3.43秒±1.29秒から3.62±2.97秒と有意差はみられなかった(図2).2.自覚症状DQS群では,点眼開始前と最終観察時を比較して,「眼精疲労」が3.00±0.82点から2.06±1.06点(p=0.0093),「眼痛」が1.89±1.23点から1.22±1.00点(p=0.0088),「眼脂」が0.72±0.75点から1.00±0.84点,「異物感」が1.89±1.08点から1.06±0.80点(p=0.0002),「流涙」が0.83±0.71点から0.94±0.64点,「霧視」が1.89±1.08点から1.39±1.14点(p=0.0332)「掻痒感」が1.11±0.90点から0.72±0.96点,「鈍重感」が1.(,)89±1.28点から1.17±0.92点(p=0.0088),「充血」が1.00±1.08点から0.83±0.79点,「眼不快感」が2.44±1.15点から1.61±1.04点(p=0.0039)「乾燥感」が2.61±1.24点から1.67±1.14点(p=0.0103「羞明」が),(,)あたらしい眼科Vol.31,No.5,2014751 *:p<0.05Wilcoxonの1標本検定10*:p<0.05対応のあるt検定:DQS■:AT3.375.113.433.62p=0.0134981.680.842.241.67:DQS■:ATp=0.00221角膜上皮障害スコア(点)7BUT(秒)654310.50開始時最終観察時0点眼開始時最終観察時図1角膜上皮障害スコアの比較図2BUTの比較3.5*:p<0.05Wilcoxonの1標本検定3.001.890.721.890.801.891.111.891.002.442.611.722.061.221.001.060.91.390.721.170.831.611.671.11眼疲労感眼痛眼脂異物感流涙霧視眼掻痒感鈍重感眼充血眼不快感眼乾燥感羞明感:点眼開始前■:最終観察時自覚症状スコア(点)32.521.510.50図3DQSにおける自覚症状12項目の比較1.72±1.41点から1.11±1.08点(p=0.0176)と,DQS群で1)p<0.01Wilcoxonの1標本検定は8項目で点眼投与前と最終観察時で有意差がみられた(図502)p<0.05Wilcoxonの2標本検定p=0.0021):DQS■:AT21.0014.7815.6713.67点眼開始前最終観察時45自覚症状累計スコア(点)3)が,AT群では「眼精疲労」が2.62±0.74点から2.38±401.07点,「眼痛」が1.00±1.18点から0.86±1.20点,「眼脂」35が0.76±0.94点から0.57±0.87点,「異物感」が1.48±1.40302520点から1.00±1.14点,「流涙」が0.81±1.08点から0.57±1.03点,「霧視」が1.38±0.97点から1.57±1.08点,「掻痒15感」が0.71±1.06点から0.52±0.93点,「鈍重感」が0.95±101.24点から0.81±1.25点,「充血」が1.33±1.49点から1.4350±1.25点,「眼不快感」が1.71±1.35点から1.48±1.29点,「乾燥感」が1.81±1.54点から1.52±1.17点,「羞明」が図4自覚症状累計スコア1.10±1.30点から0.95±1.24点と,すべての項目において,点眼投与前と最終観察時で有意差はみられなかった.752あたらしい眼科Vol.31,No.5,2014(126) また,最終観察時のDQS群とAT群の群間においても,「眼精疲労」では,DQS群が2.06±1.06点に対し,AT群では2.38±1.07点(p=0.0093),「霧視」では,DQS群が1.39±1.14点に対し,AT群では1.57±1.08点(p=0.0220),「鈍重感」ではDQS群が1.17±0.92点に対し,AT群では0.81±1.25点(p=0.0249)と,以上の3項目では有意差がみられた.自覚症状12項目の累計点は,DQS群で21.00点から14.78点と有意な減少がみられたが(p=0.0002),AT群では15.67点から13.67点と有意差はみられなかった.また,最終観察時のDQS群とAT群との群間に有意差がみられた(p=0.0267)(図4).III考按はじめにも述べたが,VDT作業に伴うドライアイにはBUT短縮型ドライアイが多く認められることから,このタイプのドライアイの治療薬として,ムチンの異常を改善し,涙液の安定性の低下を改善する働きをするDQSは,非常に有効性が高いものであると考えられる.従来ドライアイに対して用いられてきた治療薬であるATは,一時的な水分および電解質の補充の効果のみが期待できるものであり,またヒアルロン酸ナトリウム点眼(ヒアレインR,以下HA)は,角膜上皮の接着および伸展作用と保水作用を有し,ドライアイを含めた角結膜上皮障害改善薬としての効果が認められているが,両者ともにムチンの分泌促進能は認められず,ムチンの被覆度が低下している症例に対しての効果が弱いと考えられている10).HAとDQSを比較したラット眼窩外涙腺摘出ドライアイモデルにおける角膜上皮障害に対する調査では,点眼6週間後にはDQS群ではHA群に比べて有意に角膜染色スコアが改善したとの報告,また,多施設共同無作為化二重盲検並行群間比較試験でもHAに対してDQSは非劣性を示したとの報告がある11).今回の検討では,対象者はAT群,DQS群ともにBUTが短縮しているが,角結膜上皮障害の軽度なドライアイ,つまりBUT短縮型ドライアイが大きな割合を占めていることから,やはりVDT作業に伴うドライアイにはBUT短縮型ドライアイが多いことがわかった.DQS群では,点眼開始前と最終観察時で,BUTの延長および角結膜上皮障害の改善の程度に有意差がみられたが,ATでは有意差がみられなかったことから,DQSはVDT作業に伴うドライアイの治療に対して有効であることがわかった.また,BUTの延長によって「乾燥感」の軽減,角結膜上皮障害の改善効果で「眼痛」や「異物感」の軽減,両者によって「羞明」の軽減が認められたと推察されるが,最終観察時のAT群とDQS群の群間に有意差が出たことから,特にDQSによるムチンや水分の分泌促進能などにより涙液層の安定性の低下が改善されたことによって「眼精疲労」「霧視」「鈍重感」が軽減したと考えられた.涙液層は,マイボーム腺より分泌される脂による油層と,涙腺・結膜から分泌される水層の2層でできており,水層に濃度勾配をもって結膜杯細胞から発現した分泌型ムチンが含まれている12).この分泌型ムチンの一種であるMUC5ACは,涙液水層の表面張力を低下させ,涙液水層を角膜上皮表面に広がりやすくさせる働きをしていることがわかっている13,14).また,角膜および角膜上皮表層には,角膜上皮由来の膜型ムチンが存在しているが15),この膜型ムチンは上皮表面を親水性に変える働きを持っているため,この膜型ムチンに異常が起こると上皮の水濡れ性の低下が引き起こされ,涙液層の安定性が低下する原因となる12,16).平均VDT時間が8時間以上のVDT作業従事者を対象に行われた調査では,非ドライアイ群に対して,ドライアイ群では涙液中のMUC5AC濃度が減少しており,それは5時間未満の群に比べて7時間以上の群で有意に低かったことが報告されていることから涙液中のMUC5ACがドライアイに強い影響を及ぼしていることが示唆されるとともに,VDT作業がドライアイを引き起こす原因の一つとなっていることがわかる16).DQSは結膜細胞膜上のP2Y2受容体に結合し,細胞内カルシウムイオン濃度の上昇を介して眼表面へのMUC5ACの分泌促進作用を有することがわかっており17.20),このことからもDQSはVDT作業に伴うドライアイに対して有効であると考えられる.DQSは,ムチンの異常が大きく関係していると考えられるBUT短縮型ドライアイに対する治療効果が高いと推察され,VDT作業に伴うドライアイ治療に対し有効であると考えられた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)厚生労働省:平成20年技術革新と労働に関する実態調査,20082)TsubotaK,NakamoriK:Dryeyesandvideodisplayterminals.NEnglJMed328:584,19933)NakamuraS,KinoshitaS,YokoiNetal:Lacrimalhypo-functionasanewmechanismofdryeyeinvisualdisplayterminalusers.PLoSOne5:el1119,20104)横井則彦:蒸発亢進型ドライアイの原因とその対策.日本の眼科74:867-870,20035)内野美樹,内野裕一,横井則彦ほか:VDT作業者におけるドライアイの有病率と危険因子.FrontiersinDryEye7:36,20126)島﨑潤:2006年ドライアイ診断基準.あたらしい眼科24:181-184,2007(127)あたらしい眼科Vol.31,No.5,2014753 7)GotoE,YagiY,MatsumotoYetal:Impairedfunctionalvisualacuityofdryeyepatients.AmJOphthalmol133:181-186,20028)IshidaR,KojimaT,DogruMetal:Theapplicationofanewcontinousfunctionalvisualacuitymeasurementsystemindryeyesyndromes.AmJOphthalmol139:253258,20059)TodaI,FujishimaH,TsubotaK:Ocularfatigueisthemajarsymptomofdryeye.ActaOphthalmol71:347352,199310)ShimmuraS,OnoM,ShinozakiKetal:Sodiumhyaluronateeyedropsinthetreatmentofdryeyes.BrJOphthalmol79:1007-1011,199511)藤原豊博:ドライアイ研究会:ドライアイの治療に革新をもたらしたジクアホソルナトリウム点眼液(ジクアスR点眼液3%)の基礎と臨床.薬理と治療39:563-584,201112)ArguesoP,Gipdon,IK:Epithelialmucinsoftheocularsurface:structure,biosynthesisandfunction.ExpEyeRes73:281-289,200113)渡辺仁:ムチン層の障害とその治療.あたらしい眼科14:1633-1647,199714)DillyPN:Structureandfunctionofthetearfilm.AdvExpMedBiol350:239-247,199415)ButovichIA:TheMeibomianpuzzle:combiningpiecestogether.ProgRetinEyeRes28:483-498,200916)YokoiN,SawaH,KinoshitaS:Directobservationoftearfilmstabilityonadamagedcornealepithelium.BrJOphthalmol82:1094-1095,199817)坪田一男:日本の最新疫学データ!「OsakaStudy」とは?FrontiersinDryEye7:47-48,201318)七條優子,阪本明日香,中村雅胤:ジクアホソルナトリウムのウサギ結膜組織からのMUC5AC分泌促進作用.あたらしい眼科28:261-265,201119)七條優子,篠宮克彦,勝田修ほか:ジクアホソルナトリウムのウサギ結膜組織からのムチン様糖蛋白質分泌促進作用.あたらしい眼科28:543-548,201120)七篠優子,村上忠弘,中村雅胤:正常ウサギにおけるジクアホソルナトリウムの涙液分泌促進作用.あたらしい眼科28:1029-1033,2011***754あたらしい眼科Vol.31,No.5,2014(128)

シース誘導内視鏡下穿破法施行時にシースが涙道内に迷入した1例

2014年5月31日 土曜日

《第2回日本涙道・涙液学会原著》あたらしい眼科31(5):747.749,2014cシース誘導内視鏡下穿破法施行時にシースが涙道内に迷入した1例髙嶌祐布子*1加藤久美子*1松永功一*1小林正佳*2近藤峰生*1*1三重大学大学院医学系研究科臨床医学系講座眼科学教室*2三重大学大学院医学系研究科耳鼻咽喉・頭頸部外科LossofSheathduringSheath-GuidedEndoscopicProbingofLacrimalDuctYukoTakashima1),KumikoKato1),KoichiMatsunaga1),MasayoshiKobayashi2)andMineoKondo1)1)DepartmentofOphthalmology,MieUniversityGraduateSchoolofMedicine,2)DepartmentofOtorhinolararyngology-HeadandNeckSurgery,MieUniversityGraduateSchoolofMedicine58歳,女性が左涙.炎後の左眼の流涙症治療を希望して三重大学医学部附属病院眼科を受診した.涙管通水試験にて分泌物の逆流を認め,通水しなかった.涙道内視鏡施行時,涙.内に多量の分泌物を認め視認性が低かったため,シース誘導内視鏡下穿破法(sheath-guidedendoscopicprobing:SEP)を試みた.鼻涙管開放時にシースの把持が不十分であったためシースが涙道内に迷入したが,鼻咽腔ファイバースコープ下にて下鼻道に突出したシースを確認して無事回収することができた.SEPを行う際は十分な長さのシースを作製し,シースを把持する手技に習熟する必要があると考えた.A58-year-oldfemalewithahistoryofleftdacryocystitispresentedwithepiphoraofherlefteye.Irrigationofthelacrimalductresultedinretrogradeflowoutoftheupperpunctum.Shewasdiagnosedwithlacrimalductobstructionandunderwentdacryoendoscopicprobingofthelacrimalduct.Becausethelacrimalsacappearedhazywithsecretion,sheath-guidedendoscopicprobing(SEP)wasperformed.Duringtheprocedure,wewereabletounblocktheobstruction,butlostthesheath,mostlikelybecausewedidnotholdontoitfirmlyduringtheprobing.Rhinoscopyshowedthesheathintheinferiornasalmeatus;itwasrecoveredwithnocomplications.Werecommendthatwhenthelacrimalductisexploredbyshield-guideddacryoendoscopicprobing,itisimportantthatthesheathbelongenoughtobesecurelygraspedbytheotherhand.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(5):747.749,2014〕Keywords:涙道内視鏡,鼻涙管閉塞,シース誘導内視鏡下穿破法(SEP),シース迷入.dacryoendoscopy,lacrimalductobstruction,sheath-guidedendoscopicprobing,lostsheath.はじめに涙道閉塞に対し,涙道内視鏡下涙道再建術が広く行われるようになった.涙道内視鏡では内視鏡直接穿破法(directendoscopicprobing:DEP)が汎用されている1).DEPは涙道内の閉塞部位を観察しながら穿破することができる画期的手法であるが,内視鏡の先端が粘膜に接しているときには穿破する過程を観察することが不可能であった.そのため,2007年杉本は,テフロン製チューブもしくは血管留置用18Gエラスター針を涙道内視鏡の外筒(以下,シース)として装着し,先行したシース先端で閉塞部を開放するシース誘導内視鏡下穿破法(sheath-guidedendoscopicprobing:SEP)を報告した2).今回SEP時にシースが涙道内に迷入した症例を経験したので報告する.I症例患者:58歳,女性.主訴:左眼流涙.家族歴:特記事項なし.現病歴:1週間前より左眼周囲の腫脹,発赤を認め,近医受診.左涙.炎と診断され,抗生剤内服,点眼にて涙.炎は〔別刷請求先〕髙嶌祐布子:〒514-8507三重県津市江戸橋2-174三重大学大学院医学系研究科臨床医学系講座眼科学教室Reprintrequests:YukoTakashima,M.D.,DepartmentofOphthalmology,MieUniversityGraduateSchoolofMedicine,2-174Edobashi,Tsu-shi,Mie-ken514-8507,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(121)747 治癒したが左眼流涙症が残り,治療目的で三重大学医学部附属病院眼科を紹介され受診した.既往歴:特記事項なし.初診時所見:眼位,眼球運動,対光反応,前眼部,中間透光体,眼底に異常なし.左涙管通水試験では通水せず,涙.洗浄で分泌物の逆流を認めた.検査所見より左鼻涙管閉塞と考え,同日涙道内視鏡下涙道再建術を施行した.涙道内視鏡所見:涙.内に分泌物が多量に認められ視認性が低下していた.DEPを行ったが,涙道内にエアーが入りさらに視認性が低下した.シースを先行させることで視認性を確保しようと考え,SEPを施行した.左手で涙道内視鏡を固定しながら右手でシースを把持してSEPを行っていたが,鼻涙管を開放する際に涙道内視鏡を右手に持ち替えた.その際に左手でシースを把持せずに,右手で涙道内視鏡を操作し鼻涙管を開放した.涙道内視鏡にて鼻涙管が開放されたことを確認した.涙道内視鏡を抜去する際にシースが涙道内視鏡に付いていないことに気づいた.涙点から鑷子でシースを摘出しようと顕微鏡下で涙点を拡大して観察したが,シースを確認することができなかった.その後,シースの位置を確認するために,上涙点から涙道内視鏡を挿入した.シースシース涙.底部鼻涙管にシースが入ってる図1涙道内に迷入したシース涙道内に迷入したシースを上涙点から挿入した涙道内視鏡で観察した.748あたらしい眼科Vol.31,No.5,2014後端は涙.入口付近に,シース先端は鼻涙管内にあり(図1),涙点からのシース回収は不可能であった.経鼻的にシースを回収することを考え,鼻内視鏡を施行した.シース先端は鼻腔内に露出しており(図2),鼻咽腔ファイバースコープ下に鑷子でシースを回収した.回収したシースの全長を測定したところ48mmであった.シース回収後,チューブの留置を行ったが,チューブ抜去後再閉塞をきたしたため,涙.鼻腔吻合術鼻内法を施行した.現在はチューブ留置中ではあるが,涙管通水試験では通水を認め,経過良好である.II考按本症例では,SEPにて鼻涙管下部の閉塞を開放する際に,涙道内にシースが迷入してしまった.その原因として3点が考えられる.1つ目は,涙道内視鏡施行時に視認性が低下しており,モニターに集中するあまり手元への意識が薄くなったことである.視認性の低下は涙道内の貯留物のためと考えられ,もう一方の涙点から貯留物の逆流を認める場合は,まず内視鏡下で十分に灌流を行い,内容物を除去するなど,視認性を向上させるよう努めるべきであった.2点目は,内視鏡とシースを操作する手を途中で持ち替えたこと,3点目は,シースを把持せずに内視鏡操作を行ったことである.モニターの画像を観察しながら内視鏡を操作する場合でも,シースを必ず把持する手技に習熟する必要がある.また,シースが迷入した場合でも,シースを回収することができるよう十分図2下鼻道に露出したシースシースを矢印で示した.鼻咽頭ファイバースコープにて下鼻道側壁に突き刺さっているシースを確認した.鼻腔が狭いため鼻涙管開口部は確認できなかった.下鼻甲介下鼻道側壁上下右左(122) な長さのシースを作製する必要がある.また,本症例は鼻中隔弯曲および鼻中隔結節を合併しており,後に行ったDCR(涙.鼻腔吻合術)鼻内法では鼻粘膜下組織減量が必要と考えられるほど,鼻腔が狭い症例であった.そのため,涙道内視鏡下涙道再建術時に鼻内視鏡にて鼻涙管開口部は確認できず,本症例で再閉塞した原因として,本来の鼻涙管が開放できていなかった可能性が考えられた.涙道は,涙点から下鼻道の外側壁にある鼻涙管下開口部までをいう3).栗橋は,日本人の成人の涙道の各部の長さは,涙点から内総涙点までが平均11mm,涙.の左右径が平均3mm,涙.の長さは平均10mm,鼻涙管全長は平均17mmと述べている4).これによると,涙道の長さは平均して約38mmとなる.ただ,涙道の長さは個体差が大きく,30.45mmとされている5).井上はSEPの際に18Gエラスター針を用いる際は,迷入を避けるために45mm以上のものを使用することが必要であると述べている6).今回は48mmの長さで作製していたがシースが迷入してしまった.シース先端が鼻腔内に露出していたため経鼻的にシースを回収することが可能であった.しかしながら,鼻内視鏡を用いずに涙道内視鏡を施行している施設も多数あり,その際にはこの長さでは涙道へのシースの迷入,回収不能に陥るケースを防ぐことができない.どのような施設でも安全にSEPを行うためには,さらに長いシースを作製する必要がある.現在筆者らがシース作製に用いている血管内留置針は全長が64mmある(TERUMOR).シースを作製する際に,切り取らず64mmのまま使用することで涙道内へのシース迷入が防げるのではないかと考えた.今回筆者らは,涙道内視鏡下涙道再建術時にシースが涙道内に迷入した1例を経験した.SEPを施行する際には十分な長さのシースを作製することに加え,涙道内視鏡の視認性を低下させないように努めること,モニターに集中しながらも内視鏡のハンドピースやシースを的確に操作する手技に習熟することが重要であると考えられた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)鈴木亨:内視鏡を用いた涙道手術(涙道内視鏡手術).眼科手術16:485-491,20032)杉本学:シースを用いた新しい涙道内視鏡下手術.あたらしい眼科24:1219-1222,20073)宮久保純子:涙道の解剖.あたらしい眼科30:885-889,20134)栗橋克昭:涙.鼻腔吻合術と眼瞼下垂手術I涙.鼻腔吻合術.涙.鼻腔術─涙道疾患,眼瞼下垂症,交感神経過緊張,セロトニン神経─.眼科診療プラクティス80,p1-10,文光堂,20085)後藤英樹,後藤聡:眼付属器疾患とその病理.涙道の解剖.眼科診療クオリファイ10:136-140,20126)井上康:涙道内視鏡による標準的治療.眼科手術24:155-159,2011***(123)あたらしい眼科Vol.31,No.5,2014749

未治療の糖尿病患者に発症し,網膜剝離に至ったサイトメガロウイルス網膜炎の1例

2014年5月31日 土曜日

《第47回日本眼炎症学会原著》あたらしい眼科31(5):742.746,2014c未治療の糖尿病患者に発症し,網膜.離に至ったサイトメガロウイルス網膜炎の1例藤井朋子*1小林崇俊*1高井七重*1丸山耕一*1,2多田玲*1,3竹田清子*1庄田裕美*1池田恒彦*1*1大阪医科大学眼科学教室*2川添丸山眼科*3多田眼科ACaseofCytomegalovirusRetinitiswithRetinalDetachmentAnUntreatedDiabeticPatientTomokoFujii1),TakatoshiKobayashi1),NanaeTakai1),KouichiMaruyama1,2),ReiTada1,3),SayakoTakeda1),HiromiShouda1)andTsunehikoIkeda1)1)DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollege,2)KawazoeMaruyamaEyeClinic,3)TadaEyeClinic目的:未治療の糖尿病患者にサイトメガロウイルス(CMV)網膜炎が発症し,網膜.離に至った1例を報告する.症例:45歳,男性.右眼の霧視を主訴に近医受診.その後,精査加療目的にて大阪医科大学附属病院眼科を受診した.初診時,矯正視力は右眼(1.0),左眼(1.2).右眼に前房内炎症を認め,網膜出血と網膜動脈の白鞘化,上耳側の網膜周辺部に顆粒状白色病変を認めた.糖尿病はあるものの,CD4陽性Tリンパ球は473/μlと免疫能は正常と考えられた.前房水からCMV-DNAが検出され,ガンシクロビルの点滴静注を開始.しかし,硝子体出血を生じ,網膜.離に至った.硝子体手術を施行して網膜は復位し,現在矯正視力は(1.0)である.結論:健常人におけるCMV網膜炎の発症がまれに報告されており,糖尿病を基礎疾患に持つ症例の報告も散見される.本症例のように重篤な症例もあり,十分な治療と経過観察が必要である.Purpose:Wedescribeararecaseofcytomegalovirus(CMV)retinitisinanuntreateddiabeticpatient.CaseReport:A45-year-oldmalewasreferredtoourhospitalafterpresentingatanothereyeclinicwithcomplaintofblurredvisioninhisrighteye.Initialexaminationshowedbest-correctedvisualacuity(BCVA)of1.0ODand1.2OS.Slit-lampexaminationdisclosedaqueouscellsinhisrighteye;funduscopicexaminationrevealedretinalhemorrhage,retinalarterysheathingandgranularwhiteretinallesionattheinferotemporalmid-peripheryinhisrighteye.Hehaddiabetesmellitus,butweevaluatedhimasanalmostsystemicallyhealthyindividual,becausehisCD4-positivelymphocytecountwas473/μl.AfterpolymerasechainreactionanalysisofanaqueoustaprevealedCMV-DNA,hewastreatedwithganciclovir,butvitreoushemorrhageandretinaldetachmentoccurred.Aftervitreoussurgery,hisBCVAwas1.0OD.Conclusion:SomehealthyadultswithCMVretinitishavediabetesmellitus;carefulobservationandtreatmentarenecessaryinespeciallyseverecases.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(5):742.746,2014〕Keywords:サイトメガロウイルス網膜炎,ガンシクロビル,硝子体出血,網膜.離.cytomegalovirusretinitis,ganciclovir,vitreoushemorrhage,retinaldetachment.はじめにサイトメガロウイルス(cytomegalovirus:CMV)はbヘルペスウイルスの一種で,感染すると生涯,潜伏感染状態となり,日本人では成人までに95%以上が既感染になるといわれている1).CMVは,後天性免疫不全症候群(acquiredimmunodeficiencysyndrome:AIDS),あるいは悪性腫瘍,臓器移植後などの,高度の免疫不全状態になると,ウイルスの再活性化が生じ種々の臓器に感染症を発症する.今回,筆者らは,未治療の糖尿病以外に背景因子のない患者がCMV網膜炎を発症し,硝子体出血を生じたのちに,急速に網膜.〔別刷請求先〕藤井朋子:〒569-8686大阪府高槻市大学町2-7大阪医科大学眼科学教室Reprintrequests:TomokoFujii,M.D.,DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollege,2-7Daigaku-cho,Takatsuki-shi,Osaka569-8686,JAPAN742742742あたらしい眼科Vol.31,No.5,2014(116)(00)0910-1810/14/\100/頁/JCOPY 離に至った1例を経験したので報告する.I症例患者:45歳,男性.主訴:右眼の霧視.既往歴:糖尿病(未治療).家族歴:特記すべきことなし.現病歴:平成24年8月,右眼の霧視を主訴に近医眼科を受診.自覚症状が悪化し,9月に他院眼科を受診して網膜血管炎を指摘され,9月14日精査加療目的にて大阪医科大学附属病院(以下,当院)眼科を紹介受診した.初診時所見:視力は右眼1.0(矯正不能),左眼0.8(1.2×cyl.0.75DAx80°),眼圧は右眼15mmHg,左眼13mmHgであった.右眼前眼部には微細な角膜後面沈着物と前房内に1+の炎症細胞がみられた.右眼眼底に網膜血管に沿った網膜出血と,網膜動脈の一部白鞘化,さらに上耳側の網膜周辺部に顆粒状の白色病変を認めたが,硝子体混濁はほとんどなかった(図1).左眼は前眼部,眼底ともに明らかな病変はなかった.フルオレセイン蛍光眼底造影(fluoresceneangiography:FA)検査では,血管炎による充盈遅延と蛍光漏出を認めた(図2).FA撮影途中に顔面,体幹に発疹が出現したためただちに撮影を中断し,以降はFA検査の実施は危険性が高いと考えて見合わせた.血液検査所見:赤血球461×104/μl,白血球8,630/μl,血小板297×103/μl,ヘモグロビン15.1g/dl,CRP(C-reactiveprotein)0.19mg/dl,血沈8mm/hrと正常.生化学的検査,肝機能,腎機能異常なし.血糖値146mg/dl.ヘモグロビンA1C(HbA1C)9.5%(NGSP).ACE(アンジオテンシン変換酵素)6.9U/l(基準値8.3.21.4),CMVIgM抗体0.41(基準値0.80未満),CMVIgG抗体5.9(基準値2.0未満)であった.ツベルクリン反応は12mm×16mm.CMVpp65抗原(C7HRP)は陰性,HIV(humanimmunodeficiencyvirus)抗体陰性,CD4陽性Tリンパ球は473/μl(基準値300/μl以上)であった.経過:前眼部,眼底所見からウイルス性網膜炎を疑い,9月16日に右眼の前房水を採取し,ウイルスDNAを調べるためにpolymerasechainreaction(PCR)検査に提出した.広範囲の網膜血管炎と上耳側の顆粒状白色病変から,当初は急性網膜壊死の可能性が高いと考え,9月17日より入院にてアシクロビルの点滴静注とステロイド薬の内服を開始した.しかし,9月21日に上耳側の白色病変が拡大.同日に前房水のPCR検査の結果が判明し,CMV-DNAが検出された.同時に検査した単純ヘルペスウイルスと水痘・帯状疱疹ウイルスのDNAは検出されなかった.ただちにステロイド薬の内服を中止し,ガンシクロビル(GCV)の点滴静注を700mg/dayより開始した.9月28日,上耳側の白色病変は縮小しつつあったが,視神経乳頭上に出血と,下方周辺部に硝子体出血を認めた(図3).検眼鏡的に明らかな新生血管がなかったため,そのまま様子をみることにし,上耳側の白色病変が徐々に縮小してきたため,10月13日にGCVの投与量を半分に減量した(350mg/day).その後10月26日に上耳側の白色病変がほぼ消失したため,GCVを中止してバルガンシクロビルの内服(900mg/day)に変更,10月29日に退院となった.なお,糖尿病については入院中に当院の糖尿病内科を受診し,治療が開始された.退院後,11月2日の再診時には上耳側の白色病変は消失しており,硝子体出血は薄く残存するものの右眼の矯正視力は(1.0)であった.ところが11月14日に再度硝子体出血が生じ,経過とともに徐々に増悪し,次第に眼底の透見が困難となった.平成25年1月23日,超音波Bモード検査にて図1初診時右眼眼底写真網膜血管に沿った網膜出血と,網膜動脈の一部白鞘化,上耳側の網膜周辺部に顆粒状の白色病変を認める.図2当科初診時の右眼FA写真(造影開始4分25秒)血管炎による充盈遅延と蛍光漏出を認める.(117)あたらしい眼科Vol.31,No.5,2014743 図3硝子体出血発症時の右眼眼底写真上耳側の白色顆粒状病変は縮小しつつあったが,視神経乳頭上に出血と,下方周辺部に硝子体出血を認めた.図5右眼の術後眼底写真網膜は復位している.網膜.離を疑う所見を認めたため,1月29日に入院のうえ,経毛様体扁平部水晶体切除術および硝子体切除術を施行した.術中,硝子体出血を除去するとその下に丈の低い網膜.離を認め,上耳側の顆粒状白色病変であった箇所に壊死性の網膜裂孔を確認した.また視神経乳頭の周囲から鼻側にかけて線維血管性増殖膜を認め,硝子体鑷子で.離除去した(図4).その後,気圧伸展網膜復位術,裂孔周囲へのレーザー光凝固を行い,周辺部輪状締結術を併用のうえ20%SF6(六フッ化硫黄)によるガスタンポナーデを施行し,手術は終了した.744あたらしい眼科Vol.31,No.5,2014図4硝子体手術の術中写真硝子体鑷子で線維血管増殖膜を切除している.術後,網膜は復位し,炎症の再燃もなく良好に経過したため,4月26日に眼内レンズ二次挿入術を施行した.平成25年7月現在,右眼の矯正視力は(1.0)となっている(図5).II考按CMV網膜炎は通常,免疫抑制状態の患者に起こる疾患であり,今回のように糖尿病以外に背景因子のない患者に生じた報告はまれである.本症例では,片眼の眼底に動脈炎が主体の網膜血管炎と,特徴的な白色顆粒状の網膜病変がみられたこと,前房水のPCR検査からCMV-DNAが検出されたこと,GCV投与により網膜病変が縮小したこと,などからCMV網膜炎と診断した.また,本症例においては,未治療の糖尿病を認めたものの,免疫能の指標であるCD4陽性Tリンパ球数の著明な低下はなく,その他に明らかな免疫抑制状態をきたす全身疾患や感染症もなく,免疫能は正常であると考えた.免疫能正常者に生じたとするCMV網膜炎の過去の報告では,基礎疾患のない症例も散見されるが2.5),糖尿病を基礎疾患に持つ症例が複数報告されており5.7),糖尿病は危険因子の一つであると考える.既報では糖尿病の指標であるHbA1Cが5%台から9%台のものまでさまざまであるが,一般的に糖尿病は易感染性ということは以前から広く知られている.川上8)によれば,高血糖は多核白血球の貪食能や殺菌能を抑制し,細胞性免疫を抑制すると述べられており,また,きわめてまれな感染症とされる気腫性胆.炎やムコール症など,糖尿病に特有の感染症の存在も指摘されている.したがって,糖尿病患者における原因不明のぶどう膜炎を診察する場合,たとえ免疫能が正常であったとしても,CMV網膜炎も重要な鑑別診断の一つとして考慮すべきではないかと考える.さらに,Radwanらは,免疫能正常者に生じた(118) CMV網膜炎の海外の報告をまとめ,12例中6例に糖尿病をには,未治療の糖尿病に罹患していたという点以外にも,何併発していること,4例に網膜静脈閉塞症を併発しているこか別の要因があったのではないかと考えている.確かにと,免疫能正常者に発症したCMV感染症の約3分の1の患CD4陽性Tリンパ球数は,経過中に低下することなく一貫者に血栓症が見つかったこと,などの特徴から,糖尿病だけして正常範囲内であったが,CD4陽性Tリンパ球数はいくではなく,高血圧や易凝血性も危険因子であると述べていつかの免疫能の指標のなかの一つであって14),筆者らが行っる5).本症例では,高血圧や易凝血性は認めていないが,た検査では測定できていない免疫能の低下が,CMV網膜炎CMV感染と動脈硬化の関連は以前から報告されており9),の罹患当初に存在したのかもしれない.そのため,本症例の今後注意していく必要がある.ようにIRUとも考えられる病態が生じ,45歳という比較的つぎに,本症例が硝子体出血を繰り返し生じた原因につい若年で眼内の増殖機転が旺盛であったことも相まって,硝子ては,術中に視神経乳頭付近に線維血管性増殖膜を認めた所体出血や網膜.離に至ったのではないかと推測している.実見から,視神経乳頭付近に生じた新生血管が原因となった可際,Bogieら10)の報告のなかにも,AIDSを併発した症例で能性が高いと考えている.CMV網膜炎に硝子体出血を生じIRUと考えられる経過をたどった1例があり,アーケードた過去の報告では,本症例のように硝子体手術を施行した症血管の下方に新生血管を生じている.例も散見される.二宮ら2)とBogieら10)は,視神経乳頭上新最後に,本症例は初診時のFA撮影の途中に発疹を生じた生血管を含む増殖膜が原因となった硝子体出血に対し,硝子ことから,今後再検査をするとアレルギー反応が生じる危険体手術を施行した症例を報告している.両者とも,術前と術性が高いと考え,その後はFA撮影を行っておらず,無血管中にレーザー光凝固を行うも,再手術を要しているが,二宮野の詳細を把握できていない状況にある.そのため,今後再らは,新生血管は消退したとしてレーザー光凝固の有用性を増殖を生じる可能性が十分にあり,慎重な経過観察が必要で述べており,Bogieらは血管閉塞の背景としてHIVによるあるとともに,再増殖の際は橋本ら11)のようにレーザー光微小血管障害の関与を示唆している.また,橋本らは,血友凝固を含めた対応を検討する必要があると考えている.病を伴うHIV感染を基礎疾患とするCMV網膜炎の1例について報告し,片眼が新生血管からの硝子体出血によって予後不良となるも,僚眼ではレーザー光凝固を行うことによっ利益相反:利益相反公表基準に該当なして新生血管を減少させ,経過中に硝子体出血を予防できたと述べている11).筆者らの症例では無血管野の範囲が不明であ文献り,術後の炎症も懸念されたことから,硝子体手術の術中に1)安岡彰:サイトメガロウィルス感染症.化学療法の領域は,裂孔周囲以外にレーザー光凝固は施行しなかった.26:1997-1999,2010他に,特に海外では,GCVの毛様体扁平部へのインプラ2)二宮久子,小林康彦,田中稔ほか:健康な青年にみられント挿入症例に硝子体出血が生じたとする報告もあるが12),たサイトメガロウィルス網膜炎の1例.あたらしい眼科現在はわが国では同様の治療はほとんど行われていない.さ10:2101-2104,19933)北善幸,藤野雄次郎,石田政弘ほか:健常人に発症したらに硝子体出血の別の機序として,GCV投与の副作用で血著明な高眼圧と前眼部炎症を伴ったサイトメガロウイルス小板減少となり,その結果硝子体出血が生じたとする報告も網膜炎の1例.あたらしい眼科22:845-849,2005あるが13),今回,GCVに伴う骨髄抑制などの副作用は生じ4)菅原道孝,本田明子,井上賢治ほか:免疫正常者に発症しなかった.たサイトメガロウイルス網膜炎の1例.あたらしい眼科28:702-705,2011一方,本症例のように,十分にGCVを投与しているにも5)RadwanA,MetzingerJL,HinkleDMetal:Cytomegaloかかわらず,網膜炎が徐々に増悪した経過となった背景にvirusretinitisinimmunocompetentpatients:casereportsは,菅原ら4)や吉永ら6)の報告に指摘があるように,免疫回andliteraturereview.OculImmunolInflamm21:324復ぶどう膜炎(immunnerecoveryuveitis:IRU)のような328,20136)吉永和歌子,水島由佳,あべ松徳子ほか:免疫正常者に発反応が生じた可能性があるのではないかと考えている.IRU症したサイトメガロウイルス網膜炎.日眼会誌112:684はHIVに罹患後AIDSを発症した患者が,HAART(highly687,2008activeantiretroviraltherapy)療法によって免疫能が回復す7)TakayamaK,OgawaM,MochizukiMetal:Cytomegaloることに伴い炎症が惹起される,ということが本来の発症様virusretinitisinapatientwithproliferativediabetesretinopathy.OculImmunolInflamm21:225-226,2013式であり,本症例は該当しないのかもしれない.しかし,今8)川上正舒:糖尿病と感染症.化学療法の領域28:1518回のように健康であった成人男性が,CMV網膜炎を発症し1523,2012たことに加え,十分量のGCVを投与しているにもかかわら9)HendrixMG,SalimansMM,vanBovenCPetal:Highず徐々に増悪する,というきわめてまれな経過を辿った背景prevalenceoflatentlypresentcytomegalovirusinarterial(119)あたらしい眼科Vol.31,No.5,2014745 wallsofpatientssufferingfromgradeIIIatherosclerosis.AmJPathol136:23-28,199010)BogieGJ,NandaSK:Neovascularizationassociatedwithcytomegalovirusretinitis.Retina21:85-87,200111)橋本知余美,松浦豊明,湯川英一ほか:ガンシクロビルとレーザー光凝固を併用して有効であったサイトメガロウイルス網膜炎.臨眼50:581-583,199612)SrivastavaSK,MartinDF,MellowSDetal:Pathlogicalfindingsineyeswiththeganciclovirimplant.Ophthalmology112:780-786,200513)RobinsonMR,TeitelbaumC,Taylor-FindlayC:Thrombocytopeniaandvitreoushemorrhagecomplicatingganciclovirtreatment.AmJOphthalmol107:560-561,198914)板東浩:免疫機能・生活習慣.アンチ・エイジング医学2:48-54,2006***746あたらしい眼科Vol.31,No.5,2014(120)

真菌感染症を併発したMicrosporidiaによる角膜炎の1例

2014年5月31日 土曜日

《第50回日本眼感染症学会原著》あたらしい眼科31(5):737.741,2014c真菌感染症を併発したMicrosporidiaによる角膜炎の1例友岡真美*1鈴木崇*1鳥山浩二*1井上智之*1原祐子*1山口昌彦*1林康人*1鄭暁東*1白石敦*1宇野敏彦*2宮本仁志*3大橋裕一*1*1愛媛大学大学院医学系研究科眼科学講座*2明世社白井病院*3愛媛大学医学部附属病院診療支援部ACaseofMicrosporidialKeratitisAccompaniedwithFungalKeratitisMamiTomooka1),TakashiSuzuki1),KojiToriyama1),TomoyukiInoue1),YukoHara1),MasahikoYamaguchi1),YasuhitoHayashi1),ZhengXiaodong1),AtsushiShiraishi1),ToshihikoUno2),HitoshiMiyamoto3)andYuichiOhashi1)1)DepartmentofOphthalmology,EhimeUniversity,GraduateSchoolofMedicine,2)ShiraiHospital,3)DepartmentofClinicalLaboratory,EhimeUniversityHospitalMicrosporidia(微胞子虫)による角膜炎は,インドやシンガポールなどに認められるが,わが国では報告例はない.今回,microsporidiaによる角膜炎と思われる1例を経験したので報告する.症例は71歳,男性で,関節リウマチによる周辺部角膜潰瘍の既往があり,長期間抗菌薬点眼とステロイド点眼を投与されていた.2年前より,角膜実質の淡い顆粒状の細胞浸潤を広範囲に認めていたが,抗菌薬点眼とステロイド点眼にて軽快と増悪を繰り返していた.さらに,顆粒状細胞浸潤の再燃とともに角膜中央部に強い細胞浸潤が出現してきたため,病巣部を擦過した.直接鏡検を行ったところ,酵母様真菌を認め,培養においてもCandidaalbicansが分離されたため,ミカファンギン・ボリコナゾール点眼を開始した.治療開始後,強い細胞浸潤は消失するも,角膜全体に存在する淡い顆粒状の細胞浸潤は軽快せず,再度角膜擦過を行い,鏡検をしたところ,ファンギフローラ染色で直径2.3μmの卵形に染色される像を認め,さらに抗酸性染色であるKinyoun染色においても,赤色に染色される卵形の像を多数認めた.染色所見よりmicrosporidiaによる角膜炎を考慮し,ガチフロキサシン点眼,PHMB(polyhexamethylenebiguanide)点眼を開始したところ,徐々にではあるが,細胞浸潤は軽快している.筆者らは,真菌感染症を併発したmicrosporidiaによる角膜炎を経験した.ステロイド点眼中など,免疫状態が局所的に低下した場合,本疾患が発症する可能性が考えられた.AlthoughcasesofmicrosporidialkeratitishavebeenreportedinIndiaorSingapore,therehavebeennoreportsoftheconditioninJapan.Weexperiencedacaseofmicrosporidialkeratitis.Thepatient,a71-year-oldmalewhohaddevelopedperipheralulcerativekeratitisinassociationwithrheumatoidarthritis,hadbeengiventopicalantimicrobialagentsandsteroidsoveralongterm.For2years,hehadshowngranularinfiltrationoveralargeareaofthecornealstroma,oftenrelapsingafterinstillationofantimicrobialagentsandsteroid.Alongwithgranularinfiltration,stronginfiltrationappearedinthecentralcornea.Directmicroscopyofscrapedspecimensdisclosedthepresenceofyeast-likefungus;theculturereportsconfirmedthepresenceofCandidaalbicans.Weconsideredfungalkeratitis,andbegantreatmentwithtopicalmicafunginandvoriconazol.Althoughthestronginfiltrationdisappearedaftertherapyinitiation,thegranularinfiltrationremained;microbialexaminationofscrapedspecimenswasthereforeperformedagain.Directmicroscopyrevealednumerous2-3μmsporesstainedbyfungifloraYandmodifiedKinyoun’sacid-faststain.Sincemicrosporidialkeratitiswasdiagnosedbydirectmicroscopyfindings,weinitiatedinstillationoftopicalgatifloxacinandpolyhexamethylenebiguanide.Thegranularcellinfiltrationgraduallydecreased.WeexperiencedacaseofmicrosporidialkeratitisaccompaniedbyC.albicanskeratitis.Microsporidialkeratitiscouldbecausedinpatientswhohavelocalimmunesuppressionduetotopicalsteroids.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(5):737.741,2014〕Keywords:角膜炎,真菌,微胞子虫,鏡検,生体共焦点顕微鏡.keratitis,fungi,microspordia,smear,invivoconfocalmicroscopy.〔別刷請求先〕友岡真美:〒791-0295愛媛県東温市志津川愛媛大学大学院医学系研究科眼科学講座Reprintrequests:MamiTomooka,DepartmentofOphthalmology,EhimeUniversity,GraduateSchoolofMedicine,Shitsukawa,Toon-shi,Ehime791-0295,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(111)737 はじめにMicrosporidia(微胞子虫)はさまざまな動物やヒトの細胞内に寄生する単細胞真核生物の寄生原虫の一群で,胞子は1.40μm程度の卵形をしている.これまでに1,200種以上が知られており,昆虫,甲殻類,魚類,ヒトを含む哺乳類などに感染する病原体が多く含まれている.おもに免疫不全患者に多臓器疾患を引き起こす日和見病原体であるが,免疫正常者への感染報告もある1).一方,microsporidiaによる角膜炎は,健常者においても認められ,インド,シンガポール,台湾において報告されている2).Microsporidiaは水・家畜・昆虫などを介してヒトに感染するため,土壌汚染の可能性のある農業従事者や温泉利用者での報告例が多い3,4).また季節性の影響もあり,夏に発症頻度が高いといわれている5).リスクファクターとして,角膜外傷の既往や免疫抑制薬の使用歴,屈折矯正手術が挙げられる5).臨床所見では軽度.中等度の充血が認められ,角膜像は多発性で斑状の上皮障害から角膜膿瘍までさまざまである.診断には塗抹標本鏡検の像が用いられ,なかでも胞子が赤く染色される抗酸性染色が特に有用といわれている2).培養では増殖せず,PCR(polymerasechainreaction)検査や生体共焦点顕微鏡検査は補助診断として利用されている3,5).今回筆者らは,真菌感染症を併発したmicrosporidiaによる角膜炎が疑われた1例を経験したので,その臨床経過について報告する.なお本投稿は,本人の自由意思による同意を得ているものである.I症例患者:71歳,男性.主訴:右眼視力低下.職業:農業従事者.現病歴:昭和52年より,右眼の関節リウマチに伴う周辺部角膜潰瘍に対して,長期間抗菌薬点眼とステロイド点眼を投与されていた.2年前より右眼の角膜実質の淡い顆粒状の細胞浸潤を広範囲に認め,種々の抗菌点眼薬や,ステロイド点眼の治療により寛解と増悪を繰り返していた.しかし,平成24年12月に顆粒状細胞浸潤の再燃とともに角膜下方に比較的強い細胞浸潤が出現してきたため,12月18日加療目的にて愛媛大学病院眼科へ紹介受診となり,同日入院となった.入院時所見:矯正視力は右眼0.06,左眼0.02.眼圧は右眼5mmHg,左眼17mmHgであった.細隙灯顕微鏡検査において右眼角膜は周辺部潰瘍を繰り返しているため混濁しており,鼻側からの結膜侵入を伴っていた.混濁のない角膜中央部にはびまん性に淡い顆粒状の細胞浸潤を認め,下方に上皮欠損を伴う比較的強い浸潤病巣を認めた(図1).生体共焦点顕微鏡検査では,角膜実質表層に分節状の菌糸様の像が観察された(図2).眼底検査では,右眼において視神経乳頭陥凹の拡大を認め,左眼においては視神経乳頭の蒼白を認めた.経過:前眼部検査および生体共焦点顕微鏡検査において,真菌による角膜炎を疑い,病巣擦過物の塗抹検査を行ったところ,発芽した酵母様真菌を認め(図3),培養検査ではCandidaalbicans(C.albicans)が多数検出された.酵母真菌薬剤感受性キット(ASTY)を用いて,分離真菌に対する薬剤感受性検査では抗真菌薬に対する感受性が良好であった(表1).これらよりC.albicansによる角膜炎と診断し,0.1%ボリコナゾール・0.25%ミカファンギン点眼,イトラコナゾール(150mg/day)内服を開始した.しかし治療開始1カ月後,下方の浸潤病巣は軽快するも顆粒状の細胞浸潤は改善AB図1入院時細隙灯顕微鏡検査A:角膜中央部にはびまん性に淡い顆粒状の細胞浸潤(黒矢印)と,下方には比較的強い浸潤病巣を認める(白矢印).B:角膜下方に上皮欠損を認める.738あたらしい眼科Vol.31,No.5,2014(112) 5μmAB5μmAB図2生体共焦点顕微鏡検査A:入院時.角膜表層に分節状の菌糸様の像(黒矢印)と円形の高輝度像(白矢印)を認める.B:治療後.菌糸様の像が消失してもなお,円形の高輝度像(白矢印)は残存している.5μm図3病巣擦過物の塗抹検査発芽した酵母様真菌像(黒矢印)と直径2.3μm卵形のグラム陰性.陽性の像(白矢印)を認める.表1分離真菌に対する薬剤感受性検査薬剤ミカファンギンアムホテリシンBフルコナゾールイトラコナゾールボリコナゾールミコナゾールピマリシンMICμg/ml(判定)0.03(S)0.5(S)0.5(S)0.06(S)0.03(S)0.12(S)8しておらず(図4),診断再考の必要性があった.治療に使用したボリコナゾールやミカファンギンに対する感受性が良好であること,角膜下方の細胞浸潤は瘢痕化していること,長期ステロイド点眼投与による局所的免疫不全があることより,真菌以外の病原体による角膜炎または非感染性の角膜炎の可能性が考えられた.そこで再度入院時に施行した塗抹検査を見直してみると,酵母様真菌以外に直径2.3μm大の卵形の像を認めた(図3).また生体共焦点顕微鏡検査においても,入院時,菌糸様の像以外に円形の高輝度像を認め,真菌治療後には菌糸様の像が消失してもなお円形の高輝度像が残存していた(図2).そこで再度角膜全体の擦過を行い,擦過物に対して塗抹検査を行ったところ,ファンギフローラ染色において直径2.3μm大の卵形の像を多数認め,さらに抗酸性染色であるKinyoun染色では陽性に染色される卵形の像を認めた(図5).塗抹検査所見から角膜擦過物内野にmicrosporidiaが存在している可能性が高いことから,microsporidiaによる角膜炎の合併が考えられたため,0.02%PHMB(polyhexamethylenebiguanide)点眼,0.3%ガチフロキサシン点眼を追加し,ゆっくりではあるが角膜中央部の顆粒状の細胞浸潤は改善した.しかし遷延性上皮欠損が出現したため,薬剤毒性を考慮しボリコナゾールを中止,低濃度ステロイド点眼とレバミピド点眼を追加して上皮は修復さ(113)あたらしい眼科Vol.31,No.5,2014739 れた.残存した浸潤病巣に対しては,現在1%ボリコナゾールを点眼し外来で経過観察している.II考察Microsporidiaによる角膜炎は,非常にまれな角膜炎で筆者らが調べた限り,わが国では報告例がない.しかしながら,海外での報告例が増加していることやmicrosporidiaが環境中に存在していることより,わが国においても今後の発生には注意が必要と思われる.Microsporidiaによる角膜炎の臨床病型は,結膜炎を伴い角膜上皮に病変があるタイプと角膜実質に炎症を引き起こすタイプに分けられる.Dasらは,インドにおいて277症例のmicrosporidiaによる角膜炎を報告しているが,その誘因として外傷が21.2%,ステロ図4治療開始1カ月後の細隙灯顕微鏡検査淡い顆粒状の細胞浸潤は改善していない.5μm5μmAB図5再度施行した病巣擦過物の塗抹検査A:ファンギフローラ染色.丸.卵形の直径2.3μmの像を認める.B:Kinyoun染色.赤く染まる卵形の像を認める.イド点眼の使用が11.9%であった5).さらに,多くの症例で初期診断が困難で,41.4%で局所抗菌薬治療,23%で局所抗ウイルス薬治療が行われていた5).同報告ではすべての症例が結膜炎とともに角膜上皮に斑状の上皮欠損を伴う上皮病変であり,診断にはcalcofluorwhitestainとグラム染色によって行われていた5).一方,角膜実質炎の病型として発症する症例も存在しているが,円板状の角膜実質炎の病型を示している症例が多かった3).本症例は真菌性角膜炎との合併に加えて,関節リウマチによる周辺部角膜潰瘍の罹患歴が長いことから,臨床所見を読み取ることが困難であった.しかし抗真菌薬治療後にも残存していた角膜実質内の点状もしくは顆粒状の細胞浸潤がmicrosporidiaによる角膜炎の臨床所見と一致することから筆者らは鑑別診断として考慮した.本病原体が培養検査では検出不能であるために塗抹検査が必要であり,本症例においてはmicrosporidiaと真菌の塗抹像の違いを見きわめることが重要であった.グラム染色において真菌は陽性に染色されるが,microsporidiaは陽性だけでなく陰性の像も認められることがあり,また,抗酸性染色では真菌は染色されないのにmicrosporidiaは陽性に赤く染まることが特徴である.本症例の塗抹標本でも前述したmicrosporidiaに一致する像が認められており,本症例はC.albicans感染症だけでなくmicrosporidiaによる角膜炎の合併が最も疑わしいと考えた.Microsporidiaによる角膜炎の報告数は近年増加しているが,治療法はいまだに確立されていないのが現状である.対処療法としては,アカントアメーバ角膜炎同様に擦過除去が最も有効といわれている5).薬物治療では,駆虫薬であるアルベンダゾールやイトラコナゾールの全身投与,フルオロキノロン,ボリコナゾール,PHMB,クロルヘキシジンの局所投与が有効という報告がある4).本症例では薬物治療に加え740あたらしい眼科Vol.31,No.5,2014(114) て角膜擦過も頻回に行ったが,遷延性上皮欠損となったため,積極的治療を継続できなくなった.過去には薬物治療抵抗例に全層角膜移植(PKP)や深層層状角膜移植(DALK)を行い奏効した例が報告されている6).しかし本症例は残された唯一の眼であり,外科的治療の適応を慎重に検討しなければならない.今回真菌感染症を併発したmicrosporidiaによる角膜炎が強く疑われた症例をわが国では初めて経験した.ステロイド点眼中など,免疫状態が局所的に低下した場合,本疾患が発症する可能性があると考えられた.さらに抗酸性染色などの塗抹標本検査が診断に有用であった.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)DidierES,WeissLM:Microsporidiosis:notjustinAIDSpatients.CurrOpinInfectDis24:490-495,20112)SharmaS,DasS,JosephJetal:Microsporidialkeratitis:needforincreasedawareness.SurvOphthalmol56:1-22,20113)FanNW,WuCC,ChenTLetal:Microsporidialkeratitisinpatientswithhotspringsexposure.JClinMicrobiol50:414-418,20124)Tung-LienQuekD,PanJC,KrishnanPUetal:Microsporidialkeratoconjunctivitisinthetropics:acaseseries.OpenOphthalmolJ5:42-47,20115)DasS,SharmaS,SahuSKetal:Diagnosis,clinicalfeaturesandtreatmentoutcomeofmicrosporidialkeratoconjunctivitis.BrJOphthalmol96:793-795,20126)MurthySI,SangitVA,RathiVMetal:MicrosporidialsporescancrosstheintactDescemetmembraneindeepstromalinfection.MiddleEastAfrJOphthalmol20:80-82,2013***(115)あたらしい眼科Vol.31,No.5,2014741

Mycobacterium gordonaeによる難治性角膜炎の1例

2014年5月31日 土曜日

《第50回日本眼感染症学会原著》あたらしい眼科31(5):733.736,2014cMycobacteriumgordonaeによる難治性角膜炎の1例川口亜佐子*1三間由美子*2三宅瞳*3宮﨑大*4井上幸次*4藤原弘光*5*1鳥取県立中央病院眼科*2関西医科大学附属滝井病院眼科*3社会保険滋賀病院眼科*4鳥取大学医学部視覚病態学*5鳥取大学医学部附属病院検査部ACaseofIntractableKeratitisCausedbyMycobacteriumgordonaeAsakoKawaguchi1),YumikoMitsuma2),HitomiMiyake3),DaiMiyazaki4),YoshitsuguInoue4)HiromitsuFujiwara5)and1)DepartmentofOphthalmology,TottoriPrefecturalCentralHospital,2)DepartmentofOphthalmology,KansaiMedicalUniversityTakiiHospital,3)DepartmentofOphthalmology,SocialInsuranceShigaHospital,4)DivisionofOphthalmologyandVisualScience,FacultyofMedicine,TottoriUniversity,5)DepartmentofClinicalLaboratory,TheUniversityofTottoriHospital目的:角膜擦過物より非定型抗酸菌Mycobacteriumgordonaeが分離され,薬物治療が可能であった難治性角膜炎の報告.症例:40歳,女性.CL使用歴なし.左眼の羞明,眼痛にて前医を受診,角膜炎としてステロイド点眼を処方されたが改善せず,その後さらに2カ所の眼科を経て発症から9カ月後難治性角膜ヘルペス疑いにて紹介受診した.左眼視力30cm指数弁,左眼は著明な毛様充血を認め,角膜全体の浮腫,中央の表層性の角膜混濁とDescemet膜皺襞,不正な上皮欠損を認めた.ミノサイクリン内服とトブラマイシン点眼を使用したが改善しないため,スルファメトキサゾール/トリメトプリム(ST)合剤内服に変更したところ,角結膜の炎症所見は徐々に軽快し,同時に病巣部よりMycobacteriumgordonaeが検出された.その後ST合剤内服とアミカシン点眼を継続して初診約4カ月半後には病巣は瘢痕治癒した.結論:薬物治療に抵抗する緩徐に進行する角膜炎を診察した際には,非定型抗酸菌感染も疑って長期の抗酸菌培養を行うべきである.Purpose:ToreportacaseofintractablekeratitiscausedbyMycobacteriumgordonae,thatwassuccessfullytreatedbymedicaltherapyalone.Case:A40-year-oldfemaleconsultedalocalpractitionerwithphotophobiaandpaininherlefteye.Afterunsuccessfultreatmentwithtopicalsteroidandvarioustreatmentsat2otherclinics,shewasreferredtouswithsuspectedherpetickeratitis,9monthsafteronset.Correctedvisualacuityofthelefteyewasfingercount.Slitlampexaminationrevealedciliaryinjection,diffusecornealedema,irregularepithelialdefect,Descemet’smembranefoldandanteriorstromalinfiltratesonherleftcentralcornea.Shewastreatedwithminocyclineandtopicaltobramycin,butdidnotimproved.Afterswitchingtotrimethoprim-sulfamethoxazolecombination,therewasgradualimprovement.Mycobacteriumgordonaewasidentifiedfromthefocus.Thereafter,trimethoprimsulfamethoxazoleandtopicalamikacinwereusedcontinually,thefocusscarredafter4monthsandahalf.Conclusions:Inthediagnosisofintractable,slowlyprogressingkeratitis,thepossibilityofatypicalacid-fastbacillusinfectionshouldberecognized,andlong-termculturetargetingacid-fastbacillishouldbeconsidered.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(5):733.736,2014〕Keywords:難治性角膜炎,非定型抗酸菌,Mycobacteriumgordonae,保存的治療.intractablekeratitis,atypicalmycobacterium,Mycobacteriumgordonae,medicaltherapy.はじめにMycobacteriumchelonaeによる角膜炎の報告が急増してい非定型抗酸菌による角膜炎はきわめて稀な疾患であり,以る1).非定型抗酸菌は増殖が遅いため,角膜炎の進行も緩徐前は外傷後や全層角膜移植後の報告がほとんどであったが,で薬剤に対する反応も乏しく診断が遅れることが多い2).今近年laserinsitukeratomileusis(LASIK)の普及により回筆者らは難治性角膜ヘルペスとして紹介されたが角膜擦過〔別刷請求先〕川口亜佐子:〒680-0901鳥取市江津730鳥取県立中央病院眼科Reprintrequests:AsakoKawaguchi,M.D.,DepartmentofOphthalmology,TottoriPrefecturalCentralHospital,730Edu,Tottorishi,Tottori680-0901,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(107)733 物より非定型抗酸菌であるMycobacteriumgordonaeが分離され,それに対する薬物治療が有効であった角膜炎の1例を経験したので報告する.なお本症例報告の執筆・投稿について患者の自由意思による同意を得た.I症例患者:40歳,女性.主訴:左眼視力低下,眼痛.既往歴:なし.生活歴:発症時しいたけ栽培場でアルバイト.コンタクトレンズ(CL)使用歴なし.現病歴:2011年9月頃左眼の眼痛と羞明を自覚し近医Aを受診した.角膜炎としてステロイド点眼の処方を受けたが症状の改善がないため近医Bを受診.角膜ヘルペスを疑われアシクロビル眼軟膏の投与を受けて一旦軽快したが,減量に伴い徐々に増悪したため2012年3月総合病院Cを紹介受診した.アシクロビル眼軟膏,ベタメタゾン点眼,ガチフロキサシン点眼,ベタメタゾン内服で経過観察するも明らかな改善を認めないため,2012年6月難治性角膜ヘルペスとして鳥取大学医学部附属病院紹介となった.初診時所見:視力は右眼1.0p(1.2×cyl(.0.75DAx90°),左眼30cm指数弁(矯正不能)で,眼圧は右眼8mmHg,左眼9mmHgであった.左眼結膜に毛様充血を認めた.角膜は全体に浮腫があり,中央に不整な上皮欠損とDescemet膜皺襞,比較的境界明瞭な表層性混濁を認め,一部菲薄化を伴っていた(図1a,b).また鼻下側周辺と耳上側にも表層性混濁を認め,角膜下方に陳旧性の角膜後面沈着物を軽度認めた.前房内の細胞は角膜浮腫により確認が困難であったが,前房蓄膿およびフィブリンはなかった.角膜知覚は左右とも60mmであった.経過:前医でのオフロキサシン眼軟膏,バラシクロビル内服,ベタメタゾン内服をそのまま継続とし,病因検索のため角膜中央の病変部を擦過し各種検査に供した.鏡検ではグラム陽性球菌と桿菌を少数ながら認めたがZiehl-Neelsen染色法で抗酸菌は認めなかった.単純ヘルペスウイルス(herpessimplexvirus:HSV),水痘帯状疱疹ウイルス(varicellazostervirus:VZV),アカントアメーバのDNAをreal-timePCR(polymerasechainereaction)で検索したところいずれも陰性であり,bacteriaDNAが4,771copies/sampleであった.培養は細菌・真菌ともに陰性で,抗酸菌は初診6日目の時点で陰性であった.検査結果よりHSVの関与の可能性が否定されたため,バラシクロビル内服を中止とし,トブラマイシン点眼とミノサイクリン内服200mg/日を追加した.また,同時に2回目の角膜擦過を行い培養に提出したが細菌・真菌ともに陰性であった.初診2週後から4週後にかけてベタメタゾン内服を漸減中止したところ毛様充血と角膜734あたらしい眼科Vol.31,No.5,2014炎症が増悪したため(図2),初診4週後に3回目の角膜擦過検査を行った.鏡検ではグラム陽性球菌を少数ながら認めた.Real-timePCRではHSV,アカントアメーバDNAはともに陰性で,bacteriaDNAは2070copies/sampleであった.投薬変更後も角膜炎症の改善が得られなかったため,初診5週後にトブラマイシン点眼とミノサイクリン内服を中止としてセフメノキシム点眼とスルファメトキサゾール/トリメトプリム(以下,ST合剤)4錠/日を開始したところ,初診6週後には毛様充血,角膜浮腫の軽快傾向を示した(図3).また,この頃初診時の角膜擦過物の抗酸菌培養陽性が判明した.さらに初診8週後にはこの抗酸菌がMycobacteriumgordonaeであることが同定され,0.5%アミカシン点眼を追加した.その後,毛様充血,角膜浮腫と混濁は徐々に軽快していった.後の感受性試験の結果では,アミカシン,ST合剤ともに感受性を示し,特にST合剤に対して非常に強い感受性を示した(表1).初診18週後には角膜は瘢痕化し(図4),以後アミカシン点眼,ST合剤を漸減中止して現在まで再発を認めていない.II考按非定型抗酸菌は結核菌,らい菌以外の培養可能な抗酸菌群の総称で,現在60種類以上の菌種が確認されている.結核菌が生体内のみで繁殖するのに対して非定型抗酸菌は土壌,塵埃,湖沼などの自然界に広く存在しており,概してヒトに対する感染力や病原性は低いため,一般的に免疫不全状態や基礎疾患を有する場合に日和見感染菌として感染症を生じる3).非定型抗酸菌のなかで角膜炎を引き起こすおもなものはMycobacteriumchelonaeとMycobacteriumfortuitumであり,前者によるものが大部分を占める.Mycobacteriumchelonaeによる角膜炎の危険因子としてLASIKの他に角膜異物,眼外傷,ソフトCL装用,全層角膜移植後,白内障術後,観血的後.切開術後,角膜抜糸後,放射状角膜切開術後,ステロイド点眼使用があげられる.外傷後では2.8週後に,LASIK後は1.4週後に発症することが多い2).Mycobacteriumchelonaeによる角膜炎はまず実質内に球状の浸潤を形成し,放射状に進展しひび割れたフロントガラス様所見(crackedwindshieldappearance)を呈することが特徴とされている4).進行するとさらに実質内に広がり辺縁が不整で羽毛状の所見を呈する5).治療は病巣擦過とアミカシン点眼を主体として,クラリスロマイシンやトブラマイシン,シプロフロキサシン,第4世代キノロンなどを併用するが6,7),化学療法単独では反応が不良で,症例の約半数は角膜移植などの手術療法の併用が必要となる2).Mycobacteriumgordonaeによる角膜感染症は非常に少なく,これまでの既報のものは筆者らの調べた限り3例のみで(108) 図1a初診時前眼部写真図1b初診時フルオレセイン染色写真菲薄化を伴った不整な形状の表層性混濁を認める.不整な形状の上皮欠損を認める.図2初診4週後前眼部写真著明な毛様充血,角膜浮腫を認める.図3初診6週後前眼部写真毛様充血,角膜浮腫の軽快を認めた.図4初診18週後前眼部写真角膜中央の混濁は瘢痕化した.表1分離されたMycobacteriumgordonaeの薬剤感受性薬剤名MIC(μg/ml)ストレプトマイシンイソニアジドリファンピシンエタンブトールカナマイシンエチオナミドレボフロキサシンピラジナミドアミカシンクラリスロマイシンリファブチンST合剤<0.061<0.0320.12540.5400<0.5<0.03<0.08<0.002MIC:最小発育阻止濃度.(109)あたらしい眼科Vol.31,No.5,2014735 ある8.10).異物の飛入と角膜移植の既往が1例ずつあり,残りの1例と本症例には特に既往はない.しかし,本症例の患者は発症以前からしいたけ栽培場で働いており,洗浄用にためてある水が眼に入ることがあったといい,これが誘因となった可能性がある.罹病期間はいずれも長く,診断まで少なくとも8カ月,治癒までは12カ月以上に及んでいる.また,経過中角膜ヘルペスや原因不明の角膜炎としていずれもステロイド点眼が使用されており,これが悪化の要因となっていたと考えられる.本症例を含めて病変は境界不明瞭で羽毛状所見を呈し,時に衛星病巣を形成しており,Mycobacteriumchelonaeや実質型角膜ヘルペス,真菌(糸状菌),放線菌との鑑別が困難である.今回の症例では角膜擦過物サンプルのHSVDNA(DNApolymerase),VZVDNA(DNApolymerase),アカントアメーバDNA(18SrDNA)のreal-timePCRを行うことにより,初期からこれらの疾患を除外することができた.また,bacteriaDNA(16SrDNA)については,抗酸菌を含めてほぼすべての細菌を検出するものであり1回目のPCRで4,771copies/sample認めた.量的には少なく,眼表面の常在菌を検出していた可能性もあったため,細菌感染とこれのみで診断することはできなかったが,抗菌薬治療を継続・変更していくうえで参考となった.すべての症例でアミカシン点眼を主体とした治療を行っているが,本症例以外はすべて複数回の治療的角膜移植を必要としているおり,今回の症例はST合剤を使用し,外科的治療によらず保存的に治療しえた初めての症例である.非定型抗酸菌は,培養時のコロニーの発育速度,着色,光発色性の有無によりRunyon分類とよばれる4群に分類されている.このなかでMycobacteriumchelonaeは1週間以内に発育する迅速発育菌に,Mycobacteriumgordonaeは発育まで2.3週間かかる遅発育菌群に分類されている3).Mycobacteriumchelonaeによる角膜炎は進行が遅いために診断が困難であるが,Mycobacteriumgordonaeによる角膜炎はさらに進行が遅く,薬剤への反応に乏しくなることが推測されるため診断はより困難で難治になると思われる.本症例の経験から,薬物療法に抵抗する緩徐に進行する難治性角膜炎を診察した際には,非定型抗酸菌による可能性について検討したほうがよいと思われた.またST合剤はMycobacteriumgordonaeに対して有効である可能性が示唆された.また,本症例では,初期から抗酸菌感染を疑って,塗抹検鏡でZiehl-Neelsen染色まで行ったが,検出できておらず,おそらく菌数が少ないことによると思われるが,それにもかかわらず,6週間という長期の培養を行うことによってようやく菌の検出と同定を行うことができた.抗酸菌の感染を疑った場合は,塗抹検鏡でたとえ陰性でも,それをターゲットとして,しかも,1カ月以上長期に培養するつもりで検体を提出するべきであると考えられる.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)RevigilioV,RodriguezML,PicottiGSetal:Mycobacteriumchelonaekeratitisfollowinglaserinsitukeratomileusis.JRefractSurg14:357-360,19982)阿部達也:Mycobacteriumchelonae角膜炎.あたらしい眼科22:199-200,20053)二木芳人:非定型抗酸菌.臨床と微生物29:61-65,20024)BroadwayDC,Kerr-MuirMG,EykynSJetal:Mycobacteriumchelonaekeratitis:acasereportandreviewofpreviousreportedcases.Eye8:134-142,19945)笹川智幸,阿部達也,大石正夫:非定型抗酸菌角膜炎の1例.日眼会誌100:464-470,19966)松田英伸,酒井康弘,阿部春樹:Mycobacteriumchelonaeによる角膜炎の1例.眼臨紀3:5-9,20107)HyonJY,JooMJ,HoseSetal:Comparativeefficacyoftopicalgatifloxacinwithciprofloxacin,amikacin,andclarithromycininthetreatmentofexperimentalMycobacteriumchelonaekeratitis.ArchOphthalmol122:11661169,20048)MooreMD,NewtonC,KaufmanHE:ChronickeratitiscausedbyMycobacteriumgordnae.AmJOphthalmol102:516-521,19869)SossiN,FeldmanRM,FeldmanSTetal:Mycobacteriumgordonaekeratitisafterpenetratingkeratoplasty.ArchOphthalmol109:1064-1065,199110)TelahunA,WaringGO,GrossniklausHE:Mycobacteriumgordonaekeratitis.Cornea11:77-82,1992***736あたらしい眼科Vol.31,No.5,2014(110)

ウサギ赤血球を用いたベンザルコニウム塩化物の傷害性評価とセリシンによる保護効果

2014年5月31日 土曜日

《第33回日本眼薬理学会原著》あたらしい眼科31(5):729.732,2014cウサギ赤血球を用いたベンザルコニウム塩化物の傷害性評価とセリシンによる保護効果長井紀章*1藤田裕美*1伊藤吉將*1岡本紀夫*2下村嘉一*2*1近畿大学薬学部製剤学研究室*2近畿大学医学部眼科学教室PreventiveEffectofSericinonBenzalkoniumChlorideStimulationofRabbitRedBloodCellsNoriakiNagai1),HiromiFujita1),YoshimasaIto1),NorioOkamoto2)andYoshikazuShimomura2)1)FacultyofPharmacy,KinkiUniversity,2)DepartmentofOphthalmology,KinkiUniversitySchoolofMedicine筆者らはこれまで,点眼用保存剤ベンザルコニウム塩化物(BAC)とセリシンを併用することで,長期連続使用可能で安全な点眼用保存剤になりうることを報告してきた.本研究では,ウサギ赤血球を用いた細胞傷害評価モデルにより,セリシンでBAC細胞傷害軽減効果について検討を行った.BAC単独処理群では,10μg/mlBAC処理で溶血率は90.1%となったが,セリシン添加によりBACの溶血作用は軽減され,10μg/mlBAC溶液に0.5%セリシンを併用処理した際の溶血率は17.5%であった.また,セリシンによるBAC細胞傷害軽減作用は濃度依存的に増加した.これら結果とは異なり,セリシンで30分間前処理したものでは,BAC刺激に伴う溶血に対し保護効果を示さなかった.以上,セリシン併用処理によるBACの細胞傷害抑制機構の一つに,刺激に対する細胞膜保護が起因することを明らかとした.Wepreviouslyreportedthattheadditionofsericindecreasesthecornealdamagecausedbybenzalkoniumchloride(BAC),andthatapreservativesystemcomprisingBACandsericinprovideseffectivetherapyforpatientsrequiringlong-termeyedroptreatment.Inthepresentstudy,weinvestigatedthepreventiveeffectofsericinonBACstimulationofrabbitredbloodcells.Thehemolysisrateinredbloodcellswas90.1%after10μg/mlBACstimulationfor1h.Weadded0.5%sericintoaffecttherateofhemolysisbyBACstimulation;thehemolysisrateundercombinationtreatmentwith10μg/mlBACand0.5%sericinwas17.5%.Inaddition,thepreventiveeffectofsericinincreasedwithsericinconcentration.Ontheotherhand,thepreventiveeffectagainstBACstimulationwasnotobservedwithsericinpretreatmentfor30min.Theseresultsshowthattheadditionofsericinenhancescellmembranetolerance.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(5):729.732,2014〕Keywords:セリシン,ベンザルコニウム塩化物,ウサギ赤血球,細胞傷害,保存剤.sericin,benzalkoniumchloride,rabbitredbloodcells,cellstimulation,preservative.はじめに眼科領域における薬物療法の中心は点眼薬である.点眼薬の多くは,全身投与薬としてすでに開発されている薬物を点眼薬として製剤化することで開発されてきた.しかし点眼薬の主成分となる薬物(主剤)のみでは点眼薬は製剤として成り立たず,これに製剤設計上必要な薬剤(添加剤)が加えられ初めて製剤となる1).したがって製剤学的観点から点眼薬について考える際には,その点眼薬に含まれる添加剤の種類,添加目的(効果),傷害性(副作用)についても常に考慮しなければならない.一般的に点眼薬には保存剤〔ベンザルコニウム塩化物(BAC)など〕,等張化剤(塩化ナトリウム,ホウ酸,グリセリンなど),緩衝剤(リン酸緩衝液,ホウ酸など),また必要であれば,界面活性剤(ポリソルベート80など),安定化剤〔別刷請求先〕伊藤吉將:〒577-8502東大阪市小若江3-4-1近畿大学薬学部製剤学研究室Reprintrequests:YoshimasaIto,Ph.D.,FacultyofPharmacy,KinkiUniversity,3-4-1Kowakae,Higashi-Osaka,Osaka577-8502,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(103)729 〔エチレンジアミン四酢酸(EDTA)など〕,粘稠化剤〔ポリビニルアルコール(PVA),ヒドロキシプロピルメチルセルロース,ヒドロキシエチルセルロースなど〕などが含まれる1).これら添加剤のなかでも保存剤は,二次汚染を防止し安全に使用するために必要不可欠である.特に,BACは眼科領域において代表的な保存剤であり,パラベン類やクロロブタノールなどの他の保存剤と比較し保存効力が高く,水溶性で化学的にも安定であり,扱いやすいことから点眼薬領域の約7割で使用されている2).しかしながら,BACは細胞傷害性を有し,長期使用により薬剤性角膜上皮傷害がみられることから,近年臨床において問題視されている.このような背景から,点眼回数を減らすなどBAC曝露量を減らすといった試みがなされているが,長期にわたり多剤併用を必要とする眼疾患治療(緑内障など)においては,これらの対策はむずかしいのが現状である3,4).また,近年ではBACを含有しないポリクォッド(塩化ポリドロニウム)およびSofZia(塩化亜鉛,ホウ酸を含むソルビトール緩衝剤保存システム)をそれぞれ保存剤として用いたデュオトラバRやトラバタンズRのような製剤が開発・市販されているが5),上記保存システムはBACと比較し保存効力が低いため,欧米など日本以外の国々では使用が認可されていないのが現状である.一方,微生物の侵入を防ぐ特殊な容器を使用した保存剤非含有製剤も市販されているが,使用法およびコスト面で問題があるため,BACを基盤とした目に優しい点眼用保存システムの開発が切望されている.筆者らはこれまで,カイコ繭由来の絹タンパク質であるセリシンに注目し,セリシンとBAC併用による点眼用保存システム(BAC/セリシン保存システム)が,目に優しく長期連続使用可能な保存剤の開発へ有用であることを報告してきた6).今回,このBAC/セリシン保存システムの細胞傷害保護機構を明確にすべく,ウサギ赤血球モデルを用い,セリシンのBAC細胞傷害保護効果について検討を行った.I対象および方法1.実験動物実験には2.5.3.0kg日本白色種雌性ウサギを用いた.これらウサギは25℃に保たれた環境下で飼育し,飼料(飼育繁殖固形飼料CR-3,日本クレア)および水は自由に摂取させた.動物実験は,近畿大学実験動物規定に従い行った.2.試薬セリシン(30kDa)はセーレン(株)から供与されたものを用いた.BACおよびヘパリンナトリウムは和光純薬,リン酸緩衝生理食塩水(Dulbecco’sPhosphateBufferedSaline:PBS)はGIBCOから購入したものを用いた.3.ウサギ赤血球標品の調製ウサギ耳静脈より採血した血液1mlと100μlヘパリン730あたらしい眼科Vol.31,No.5,2014(10mg/ml)を混和後,遠心分離(3,000rpm,37oC,5min)を行った.その後上清を捨て,沈殿とPBSが1:3となるようにPBSを加え,さらに遠心分離(2,000rpm,37oC,5min)を行い,沈殿の回収を行った.これら洗浄操作を2回繰り返したものを赤血球標品として本実験に用いた.陽性対照とした完全溶血赤血球は,精製水2mlに赤血球標品40μlを添加することで作製した.4.浸透圧刺激に伴う溶血率変化の測定上記方法中「3.ウサギ赤血球標品の調製」にて示した赤血球標品40μlを0.1.0.5%セリシン含有または非含有の食塩水(125.215mOsm)2ml中に加え,37oCにて1時間インキュベートを行った.その後,遠心分離(2,300rpm,37oC,5min)にて上清を採取し,576nmにおける吸光度の測定をすることで浸透圧刺激に伴う溶血率変化を示した.また,セリシン前処理時には,赤血球標品を0.1.0.5%セリシン含有または非含有の生理食塩水にて30分間インキュベート後,生理食塩水にて洗浄を行い,上記に示した125.215mOsm食塩水により浸透圧刺激を行った.本研究では,処理後の溶血率(%)を次式(1)により算出した.溶血率(%)=(試験液吸光度.空試験吸光度)/(陽性対照吸光度.空試験吸光度)×100(1)5.BAC処理に伴う溶血率変化の測定上記方法中「3.ウサギ赤血球標品の調製」にて示した赤血球標品40μlを0.1.0.5%セリシンおよびBAC含有または非含有の生理食塩水(BAC濃度,8.12μg/ml)2ml中に加え,37oCにて1時間インキュベートを行った.その後,遠心分離(2,300rpm,37oC,5min)にて上清を採取し,576nmにおける吸光度の測定をすることでBAC刺激に伴う溶血率変化を示した.また,セリシン前処理時には,赤血球標品を0.1.0.5%セリシン含有または非含有の生理食塩水にて30分間インキュベート後,生理食塩水にて洗浄を行い,上記に示した8.12μg/mlBACにより刺激を行った実験に用いた.処理後の溶血率(%)算出には上記式(1)を用いた.6.統計学的処理実験結果は平均値±標準誤差(SE)で表した.有意差検定はJAMVer.5.1(日本SAS協会)コンピュータプログラムを用いて行った.各々の実験値はDunnettの多群間比較により解析した.また,本研究ではp値が0.05以下を有意差ありとした.II結果1.セリシンによるBAC細胞傷害保護効果図1は浸透圧変化に伴う溶血性変化とセリシンの保護効果を示す.等張時,赤血球の溶血はみられなかったが,浸透圧を下げていくことで溶血が認められた.これら溶血は200mOsm以下でみられ,140mOsmではほぼ完全に溶血した(104) 100806040200125140155170185200215Hemolyticratio(%)Osmoticpressure(mOsm)A:Saline:0.1%sericin:0.25%sericin:0.5%sericin100806040200125140155170185200215Hemolyticratio(%)B:Saline:0.1%sericin:0.25%sericin:0.5%sericin************100806040200125140155170185200215Hemolyticratio(%)Osmoticpressure(mOsm)A:Saline:0.1%sericin:0.25%sericin:0.5%sericin100806040200125140155170185200215Hemolyticratio(%)B:Saline:0.1%sericin:0.25%sericin:0.5%sericin************Osmoticpressure(mOsm)図1セリシン前処理(A)または併用処理(B)が浸透圧変化による赤血球の溶血へ与える影響平均値±標準誤差,n=5.6,*p<0.05,vs.Saline.(図1A).一方,セリシンを併用処理することで,これら赤血球溶血の保護効果がみられ,155mOsmの条件下0.5%セリシン併用処理群の溶血率は16.3%であり,非処理群と比較し有意に低値を示した(図1B).図2はBAC刺激に伴う溶血性変化とセリシンの保護効果を示す.BAC刺激により溶血が認められ,8μg/mlBAC刺激による溶血率は23.3%,10μg/mlBAC刺激では90.1%であった.セリシン併用処理はBAC刺激に対しても細胞傷害保護効果を示し,8μg/mlBAC刺激時では溶血はほとんど認められず,10μg/mlBAC刺激時における非処理群のそれの17.5%であった.また,浸透圧変化およびBAC刺激時におけるセリシンの保護効果は濃度依存的であった.これらセリシン併用処理実験の結果とは異なり,セリシンを30分間前処理したものでは,浸透圧およびBAC刺激に伴う溶血に対し保護効果を示さず,今回用いたいずれの濃度においても,溶血挙動に差はみられなかった(図1Aおよび図2A).III考按セリシンは,絹糸原糸タンパク質の約20%を占める主要成分である.従来,セリシンは絹糸精製(精練)段階で廃棄されてきた物質であったが,保湿性や抗酸化能をもつことが明らかとなり,近年では産業資材や化粧品などに利用されて(105)100806040200Hemolyticratio(%)A:Saline■:0.1%sericin■:0.25%sericin■:0.5%sericin89101112BACconcentration(mg/ml)10080604020089101112Hemolyticratio(%)B:Saline■:0.1%sericin■:0.25%sericin■:0.5%sericin************BACconcentration(mg/ml)図2セリシン前処理(A)または併用処理(B)がBAC刺激による赤血球の溶血へ与える影響平均値±標準誤差,n=5.8,*p<0.05,vs.Saline.いる7).また,皮膚炎などのアレルギー防止作用を有することも見出され,生物化学領域においても注目されている8,9).筆者らもこれまで,このセリシン溶液点眼により角膜傷害治癒促進効果がみられ,1.5%のセリシン溶液が角膜傷害治療薬として有用であることを見出してきた10).さらに,BACとセリシン併用によりBACの角膜傷害性が緩和され,0.1%のセリシンを用いることで,目に優しく長期連続使用可能な保存剤の開発に繋がる可能性を報告してきた6).本研究では,点眼用保存剤BACとこのセリシンからなるBAC-セリシン点眼用保存システムの開発研究として,ウサギ赤血球モデルを用い,セリシンのBAC細胞傷害保護効果について検討を行った.赤血球は,両面中央が凹んだ円盤状の形をしており,核を持たないことから細胞分裂などを行わないのが特徴である.このため,赤血球を用いることで,薬剤自身の直接的な刺激性やそれに対する保護作用の評価が可能である.そこで今回,この赤血球モデルを用いて浸透圧およびBAC刺激に対するセリシンの細胞保護効果を評価した.まず,浸透圧刺激に対するセリシンの細胞保護効果を検討したところ,等張時,赤血球の溶血はみられなかったが,浸透圧を下げていくことで溶血が認められた.また,セリシンを併用処理することで,赤血球溶血の保護効果がみられ,これら保護効果は濃あたらしい眼科Vol.31,No.5,2014731 度依存的であった.点眼用保存剤として用いられるBAC刺激に対するセリシンの細胞保護効果を検討したところ,本実験条件において,7μg/ml以上のBAC刺激により溶血が認められ,8μg/mlBAC刺激時の溶血率は23.3%,10μg/mlBAC刺激では90.1%の溶血率であった.さらに,浸透圧刺激と同様,セリシン併用処理はBAC刺激に対しても細胞傷害保護効果を示し,8μg/mlBAC刺激時では溶血はほとんど認められず,10μg/mlBAC刺激では非処理群のそれの17.5%であった.また,BAC刺激に対してもセリシンによる保護効果は濃度依存的であった.これらの結果から,セリシンはBACだけでなく,浸透圧などの外部刺激に対しても細胞保護効果を有し,併用処理により細胞傷害を有する点眼製剤の毒性軽減に有用であることが示唆された.一方,セリシンを前処理した際には,浸透圧およびBAC刺激に対するセリシンの保護効果はみられず,セリシン前処理群と未処理群間で浸透圧,BAC刺激に対し同様の溶血性を示した.これら前処理によりセリシンの細胞保護効果が得られなかった理由として,セリシンによる保護効果が細胞膜の活性化によるものではなく,刺激因子に対する直接的な抵抗性増加に起因するためと考えられた.筆者らはこれまで,目に優しく長期連続使用可能な保存剤の開発を目指した研究にて,invivoおよびinvitro細胞傷害性評価実験系を確立し11,12),BACへのセリシン添加が,BAC本来の使用目的である保存効果,主薬の角膜透過性亢進能および主薬の薬効に対し影響を及ぼさないことを報告してきた6).これら以前および今回の結果から,BAC/セリシン点眼用保存システムはBACの角膜上皮傷害性を抑制するとともに,点眼用保存剤として十分な高い保存効力を有し,主成分の角膜透過性および薬効に影響を及ぼさず,またBACの細胞傷害抑制機構の一つに,セリシンの膜保護能が関わっているものと考えられた.本報告は目に優しく長期連続使用可能な保存剤を開発するうえで有用であるものと考えられる.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)川嶋洋一:点眼薬の設計思想.眼科NewInsight第2巻点眼薬─常識と非常識─(木下茂ほか).p6,メジカルビュー社,19942)WhitsonJT,VarnerDL,NetlandPA:Glaucomadrugsandtheocularsurface.RevOphthalmol11:69-77,20063)PisellaPJ,PouliquenP,BaudouinC:Prevalenceofocularsymptomsandsignswithpreservedandpreservativefreeglaucomamedication.BrJOphthalmol86:418-423,20024)JaenenN,BaudouinC,PouliquenPetal:Ocularsymptomsandsignswithpreservedandpreservative-freeglaucomamedications.EurJOphthalmol17:341-349,20075)湖崎惇,大谷伸一郎,鵜木一彦ほか:トラボプロスト点眼液の臨床使用成績眼表面への影響.あたらしい眼科26:101-104,20096)NagaiN,ItoY,OkamotoNetal:Decreaseincornealdamageduetobenzalkoniumchloridebytheadditionofsericinintotimololmaleateeyedrops.JOleoSci62:159166,20137)DashR,AcharyaC,BinduPCetal:Antioxidantpotentialofsilkproteinsericinagainsthydrogenperoxide-inducedoxidativestressinskinfibroblasts.BMBRep41:236241,20088)TsubouchiK,IgarashiY,TakasuYetal:Sericinenhancesattachmentofculturedhumanskinfibroblasts.BiosciBiotechnolBiochem69:403-405,20059)TeradaS,NishimuraT,SasakiMetal:Sericin,aproteinderivedfromsilkworms,acceleratestheproliferationofseveralmammaliancelllinesincludingahybridoma.Cytotechnology40:3-12,200210)NagaiN,MuraoT,ItoYetal:EnhancingeffectsofsericinoncornealwoundhealinginOtsukaLong-EvansTokushimaFattyratsasamodelofhumantype2diabetes.BiolPharmBull32:1594-1599,200911)NagaiN,MuraoT,OeKetal:Invitroevaluationforcornealdamagesbyanti-glaucomacombinationeyedropsusinghumancornealepithelialcell(HCE-T).YakugakuZasshi131:985-991,201112)NagaiN,MuraoT,OkamotoNetal:Comparisonofcornealwoundhealingratesafterinstillationofcommerciallyavailablelatanoprostandtravoprostinratdebridedcornealepithelium.JOleoSci59:135-141,2010***732あたらしい眼科Vol.31,No.5,2014(106)

My boom 28.

2014年5月31日 土曜日

監修=大橋裕一連載MyboomMyboom第28回「難波広幸」本連載「Myboom」は,リレー形式で,全国の眼科医の臨床やプライベートにおけるこだわりを紹介するコーナーです.その先生の意外な側面を垣間見ることができるかも知れません.目標は,全都道府県の眼科医を紹介形式でつなげる!?です.●は掲載済を示す(●は複数回)連載MyboomMyboom第28回「難波広幸」本連載「Myboom」は,リレー形式で,全国の眼科医の臨床やプライベートにおけるこだわりを紹介するコーナーです.その先生の意外な側面を垣間見ることができるかも知れません.目標は,全都道府県の眼科医を紹介形式でつなげる!?です.●は掲載済を示す(●は複数回)自己紹介難波広幸(なんば・ひろゆき)山形大学医学部眼科学講座私は山形大学を卒業後,そのまま山形大学病院で2年間の初期研修を受け,山形大学眼科に入局しました.出身も山形県内なので,生粋の山形人ということになります.姓は「なんば」ですが,関西出身ではありません.ちなみに「難波」姓ですが,全国的には岡山県が断トツに多く(2,684世帯),山形県(274世帯)は4位となっております(電話帳調べ).その山形県274世帯のうち216世帯は私の出身地である山形県鶴岡市在住です.これは岡山県の3市町村に次ぐ世帯数であり,山形県鶴岡市はまさに「難波」の東のメッカといえるでしょう.完全に話がずれましたが,入局後は学位を修め,山下英俊教授のご厚意の元,前眼部・角膜分野を担当して角膜移植から感染,ドライアイまで広く診療を行っています.臨床のMYboom:「稀少症例と羊膜移植,学外連携」当教室では前眼部の担当医師が少なく,難症例はほぼお鉢が回ってきます.その中で世界的にも報告が少ない,珍しい症例に出会うことがここ数年,稀にあります.珍しいということ以上に,以前の自分であればその珍しさに気づかなかった症例もあり,成長を感じられるという意味で貴重な機会です.そして症例報告の準備をすることで,周辺疾患を含めて知識を深めることができますので,そこまで含めてmyboomといえるかもしれ(95)0910-1810/14/\100/頁/JCOPYません.またそういった紹介が増えたことも,前眼部専門医として県内で認知されてきた証であると嬉しく思っています.手術面では,羊膜移植を積極的に行っています.もちろん誰にでもというわけではなく,再発翼状片手術や結膜.の形成,角膜穿孔への対処など,他の治療と比較して優位性があると思われる場合です.その中でも山形県では,夏季に外傷,とくに草刈り機使用時の異物飛入による眼球穿孔が多くみられます.直接縫合や角膜移植での対応が必要になることもありますが,症例によっては羊膜移植のほうが励起乱視も大きくなく,望ましい場合もあります.角膜穿孔に対しての手術法については,雑誌に報告もさせていただきました.今年度から羊膜移植が保険適用になるということもあり,全国的な標準を意識しながら,症例を選んで今後も行っていこうと思います.繰り返しになりますが,当教室では前眼部の担当医師が少ないため,必然的に学会での情報収集,外部の先生との情報交換が重要になります.学会参加のほか,施設見学に行くこともありますし,最近はFacebookも活用しています.そして山下教授の人脈により,いろいろな先生方とお話しさせていただくことができました.やはり今考えるに,眼科入局を決めていた臨床研修2年目に,歩いてきた教授に「難波くーん,角膜やってみない?」と軽い口調で提案されたことが,私のターニングポイントであったことは疑いようがありません.今後は,角膜パーツ移植など今まで山形県で行われていない手術の導入もしていく必要があり,外部の先生方との交流がますます重要になると思います.研究のMyboom:「疫学統計」山形大学では「舟形町研究」として内科と共同で住民あたらしい眼科Vol.31,No.5,2014721 写真1良き仲間,ライバルである同年代の先生方(京都府立大・加藤先生,富山大・宮腰先生)と健診を行っておりまして,私の現在の研究面での取り組みは,その検査データの統計解析をすることです.具体的には屈折,乱視ベクトル,高次収差に影響する年齢とそれ以外の眼科的・内科的検査所見の解析を行っています.加齢により倒乱視化が進むことはよく知られていますが,これまでの解析により,角膜・全眼球ともに高齢になるほど,その後の乱視量がより大きく変化することが示されました.また,年齢により全眼球,角膜の高次収差が増大することが示されています.これらは元の乱視量や屈折,眼軸長などの因子にかかわらず,独立して示されました.逆に年齢以外に関連する因子として乱視の変化量については眼軸長や角膜厚,血清アルブミン値など,高次収差については角膜厚などの他に,体重や血清クレアチニン値の関連も示されました.こういった解析は自分の実績という意味もありますが,統計上での収差データの取り扱い方とその歴史,統計解析法について学ぶことができたのが,いい経験になっていると思います.今後は経時変化についてさらに解析をすることと,臨床データに応用することを検討しています.プライベートのMyboom:「旧交」毎日の仕事に追われて連絡が途切れがちでしたが,最近,旧交を温めることがmyboomになっています.きっかけは母校である小学校が,合併に伴って移転することが決まったことです.懐かしい校舎を写真に残しておきたくなり,友人と見学会を企画したところ,発案者と写真2鶴岡市立朝暘第四小学校・校舎見学会にて(上段左が筆者)いうことで実行委員長に祭り上げられました.といっても私は事務能力が皆無に等しいですので,細かいプランニングは友人がすることになりましたが.多くの同級生に連絡し,見学会とその後の食事会は好評のうちに終了しましたが,その際の連絡に活用したのがFacebookやLINEです.今回数十人をグループ化することができたので,今後の同窓会などの連絡が楽になりましたし,十数年会わなかったような友人とも気楽に会話できるようになりました.その他に,今年は全国に散らばった大学時代の悪友たちとの再会を画策しています.われわれくらいの年齢になると結婚式の嵐が落ち着いて,会う機会も激減しています.お互い忙しい身なのでなかなか予定が合いませんが,ある程度(学生時代のように)強引に皆をまきこんで,定期的に会えるようなシステムを構築したいと思っています.次回のプレゼンターは京都府立医科大学の加藤弘明先生です.加藤先生には学会でお会いするたびに仲良くしていただいて,お世話になっています.横井則彦先生の元で,次世代のドライアイの鬼として研鑽を積まれています.よろしくお願いします.注)「Myboom」は和製英語であり,正しくは「Myobsession」と表現します.ただ,国内で広く使われているため,本誌ではこの言葉を採用しています.722あたらしい眼科Vol.31,No.5,2014(96)