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硝子体手術のワンポイントアドバイス 129.瘢痕期未熟児網膜症に生じた硝子体出血に対する硝子体手術(中級編)

2014年2月28日 金曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載129129瘢痕期未熟児網膜症に生じた硝子体出血に対する硝子体手術(中級編)池田恒彦大阪医科大学眼科●瘢痕期未熟児網膜症の眼合併症小児の硝子体出血の原因としては外傷が7割以上を占めもっとも多いが,瘢痕期未熟児網膜症も5.6%と比較的頻度が高い.瘢痕期未熟児網膜症の眼合併症としては,屈折異常,弱視,眼位異常,緑内障,網膜.離,硝子体出血などがある.硝子体出血は自然に消退することも多いが,出血量が多い症例では硝子体手術の適応となる.●瘢痕期未熟児網膜症に生じた硝子体出血に対する硝子体手術自験例を提示する.症例は9歳男児.生下時体重860g.両眼に網膜光凝固術が施行された.その後,網膜症は鎮静化していたが,左眼に急激な視力低下を自覚し,近医にて硝子体出血と診断.自然吸収を認めないため紹介受診となった.視力はRV=0.06(1.0),LV=光覚弁.水晶体の後面に多量の硝子体出血を認めた(図1).超音波Bモード検査では硝子体腔に多量の出血を認めたが,明らかな網膜.離は認めなかった(図2).全身麻酔下で水晶体を温存した硝子体手術を施行した.後部硝子体は未.離で,濃厚な出血を伴った硝子体ゲルが網膜前に認められた(図3).後極から周辺に向かって人工的後部硝子体.離を作製したが,実際に.離可能だったのは後極のみで,光凝固部位は癒着が強固で意図的に硝子体を残存させた.網膜無血管には薄い増殖膜が複数箇所認められた.術後,眼底の視認性は改善し,矯正視力は0.8に回復した(図4).●硝子体手術時の注意点未熟児網膜症に限らず,小児の網膜硝子体疾患では後部硝子体が未.離かつ癒着が強固であるため,人工的後部硝子体.離作製がむずかしい.今回の提示例のように図1細隙灯顕微鏡所見水晶体の後面に多量の硝子体出血を認める.図2超音波Bモード検査所見硝子体腔に多量の出血を認めるが,明らかな網膜.離は認めない.図3術中所見後部硝子体は未.離で,濃厚な出血を伴った硝子体ゲルが網膜前に認められる.図4術後眼底写真眼底の視認性は改善し,矯正視力は0.8に回復した.耳側に広範な光凝固の瘢痕を認める.網膜.離のない症例では,あまり無理をせず,人工的後部硝子体.離は後極のみにとどめ,無血管野は意図的に硝子体を残存させるほうが医原性裂孔形成を回避しやすい.水晶体後面の混濁した出血も成人よりも切除しにくいが,硝子体カッターの吸引で水晶体に接触しないように分離させ切除する.周辺部の硝子体を切除するにしたがい分離しやすくなる.なお,網膜.離を併発した硝子体出血例の難易度は極めて高い.(75)あたらしい眼科Vol.31,No.2,20142350910-1810/14/\100/頁/JCOPY

眼科医のための先端医療 158.インスリンによる糖尿病網膜での血管透過性亢進

2014年2月28日 金曜日

監修=坂本泰二◆シリーズ第158回◆眼科医のための先端医療山下英俊インスリンによる糖尿病網膜での血管透過性亢進杉本昌彦(三重大学大学院医学系研究科臨床医学系講座眼科学教室講師)はじめに糖尿病(diabetesmellitus:DM)は先進国における失明原因の上位に位置する.過去の研究が示すように,血糖コントロールは糖尿病網膜症(diabeticretinopathy:DR)や糖尿病黄斑浮腫(diabeticmacularedema:DME)の進行阻止に重要である.とくにインスリンはコントロールに欠かせない薬剤である.ノーベル賞受賞となったBantingとMacleodによるインスリンの発見は,それまで致死とされたDMの治療に革命をもたらした.しかし興味深いことに,疫学研究で有名な糖尿病トライアルデータベースWESDRでは2型糖尿病の長期経過観察ではDMEの発症がインスリン投与群では25%,非投与群では14%と投与群で増加するという結果が示されている1).また,急激な血糖コントロールにBRBの綻破50.0040.0030.0020.0010.000.00*****DM―+―+インスリン――++図1インスリンによる網膜血管透過性は亢進するマウス網膜における血管透過性を定量評価した.糖尿病ならびにインスリン投与糖尿病マウス群において有意な透過性亢進を認めた.(文献9より転載)**:p<0.05,***:p<0.01.(71)0910-1810/14/\100/頁/JCOPY伴い網膜症が急速に進行するearlyworsening(EW)も広く知られ,急激なコントロールを受けた症例の13.1%に生じたとされている2).経口血糖降下薬をインスリンに変更することでDRが進行するという報告もあり3),インスリンの使用がDR/DMEの管理においてピットフォールとなってしまう側面もある.Blood.retinalbarrierとベタセルリンBlood-retinalbarrier(BRB)は網膜を外界と隔絶する壁であり,電解質バランスの維持や毒性からの保護など,ホメオスターシス維持に貢献している.BRBは網膜血管内皮細胞からなるinnerBRBと,網膜色素上皮からなるouterBRBの2つがある.BRBを考えてゆくうえで構成コンポーネントであるtightjunction(TJ)は重要である.さまざまな分子がその維持に関与しており,この破綻による透過性亢進はDRやDMEの原因である.ベタセルリン(Betacellulin:Btc)はepidermalgrowthfactor(EGF)ファミリーに属する32kDaの分子で,マウス膵b腫瘍細胞の培養上清から発見された4).強い血管新生作用を有し5),筆者らは糖尿病マウスモデルにARPE-19PBS1ng100ngBtc図2ベタセルリン(Btc)によりTightjunction(TJ)は傷害される培養網膜色素上皮細胞ARPE-19にBtcを投与し,ZO-1染色(赤色)で評価した.ZO-1はTJ構成蛋白質であり,従来は細胞間をシールする形で局在している(上段).Btcにより濃度依存性に局在がまばらになり(下段)TJの傷害を反映している.(文献9より転載)あたらしい眼科Vol.31,No.2,2014231 a.コントロールb.コントロールインスリン(-)インスリン(+)インスリン(-)インスリン(+)インスリン(+)SiBtc(+)インスリン(-)AG1478(+)インスリン(+)AG1478(+)図3ベタセルリン(Btc)の阻害はTightjunction(TJ)を保護する同様にTJの変化をZO-1染色で評価した.a:未処理のコントロールではTJは健常である(左上).インスリンを投与するとTJが傷害される(右上,矢頭).BtcsiRNAで処理した後にインスリンを添加するとTJの傷害は消失する(下段).b:選択的EGFR阻害薬であるAG1478で処置した後にインスリンを投与すると同様にインスリンによるTJ傷害(右上,矢頭)は消失した(右下).(文献9より転載)おいて網膜血管透過性を亢進することを見いだした6).1,200.00また,インスリンレセプターはEGF伝達系とクロストークして,成長や分化に作用することが報告されてい1,000.00****800.00600.00400.00る7).このことから,BtcがインスリンによるDR/DMEの増悪に関与していると考えた.インスリンはBtcを介して細胞間接着装置を破壊するインスリンがDMEを増悪させるならば,BRBが破網膜血管からの漏出(%)綻されるはずである.Poulakiらは,DMモデルラットにインスリンを投与することで網膜血管透過性が亢進していることを示した8).筆者らは,DMモデルマウスでも同様に網膜血管透過性が亢進しており,その際に網膜でBtcの発現が増強していることを見いだした9)(図1).つぎに網膜に発現したBtcはどのようにBRBに作用するのだろうか.培養網膜色素上皮細胞ARPE-19にBtcを添加したところ,BtcはTJを傷害した(図2).また,ARPE-19にインスリンを添加すると,濃度依存性にBtcの発現は増強していた.以上から,インスリンにより増えたBTCがBRBを傷害すると考え,Btcの抑制がBRBを保護するのではないかと考えた.siRNAを用いてBtc発現をmRNAレベルで抑制した後にインスリンを投与すると,インスリンによるTJへの傷害から保護することができた(図3a).以上からBtcの抑制232あたらしい眼科Vol.31,No.2,2014200.000.00図4EGFRに対するモノクローナル抗体製剤セツキシマブはインスリンによる網膜血管透過性を抑制するDMならびにインスリン投与DMモデルマウスにセツキシマブを腹腔内投与し,網膜血管透過性を定量評価した.セツキシマブ投与により,網膜血管透過性は有意に低下した.(文献9より転載)**:p<0.05.がTJ,つまりBRBの維持に重要であることが示唆された.BtcをはじめとするEGFfamilyはEGFRを介した情報伝達により機能している.TyrosinekinaseinhibitorであるAG1478はEGFRの選択的阻害薬である.(72)DM+インスリンErbituxDM+インスリン+Erbitux AG1478を添加したARPE-19にインスリンを投与すると,BTCsiRNAでみられた結果と同様にTJは保護された(図3b).セツキシマブ(アービタックスR)はEGFRを標的とするモノクローナル抗体製剤で,結腸・直腸癌に対し承認されている.薬剤によりBtcを抑制することがBRB保護につながることがわかったが,BtcsiRNAもAG1478も臨床使用することは現実的にまだむずかしい.そこで,すでに市販されているセツキシマブをマウス腹腔内に投与したところ,網膜血管透過性は有意に抑制された(図4).以上から,インスリンによるBRB傷害はセツキシマブにより防止できる可能性があり,臨床応用が期待される.まとめインスリンはBtcを介してBRBを傷害することを明らかにした.しかし,この結果はインスリンの有効性を否定するものではない.インスリンは糖取り込みを促進する作用,すなわち血糖降下作用がよく知られているが,蛋白の合成や組織成長の促進という作用も併せもつ.あらゆる薬剤の作用は単一ではなく,その有効性の裏に思わぬ作用を孕んでいることがあり,インスリンのこのような作用は結果として網膜に影響を与えているのかもしれない.なじみ深いインスリンも思わぬ合併症を起こすかもしれず,注意が必要である.以上,インスリンによる糖尿病網膜における血管透過性亢進と,これが薬剤により防止できる可能性を示した.これは,眼科医のみならず内科医も悩ませるEWの治療に今後応用が期待され,安全な血糖コントロールに結びつくと考えている.文献1)KleinR,MossSE,KleinBEetal:TheWisconsinepidemiologicstudyofdiabeticretinopathy.XI.Theincidenceofmacularedema.Ophthalmology96:1501-1510,19892)TheDiabetesControlandComplicationsTrialResearchGroup:EarlyworseningofdiabeticretinopathyintheDiabetesControlandComplicationsTrial.ArchOphthalmol116:874-886,19983)HenricssonM,JanzonL,GroopL:ProgressionofretinopathyafterchangeoftreatmentfromoralantihyperglycemicagentstoinsulininpatientswithNIDDM.DiabetesCare18:1571-1576,19954)ShingY,ChristoforiG,HanahanDatal:Betacellulin:amitogenfrompancreaticbetacelltumors.Science259:1604-1607,19935)KimHS,ShinHS,KwakHJetal:Betacellulininducesangiogenesisthroughactivationofmitogen-activatedproteinkinaseandphosphatidylinositol3’-kinaseinendothelialcell.FASEBJ17:318-320,20036)Anand-ApteBA,EbrahemQ,CutlerAetal:Betacellulininducesincreasedretinalvascularpermeabilityinmice.PLoSOne5:e13444,20107)Murillo-MaldonadoJM,ZeineddineFB,StockRetal:Insulinreceptor-mediatedsignalingviaphospholipaseC-gregulatesgrowthanddifferentiationinDrosophila.PLoSOne6:e28067,20118)PoulakiV,QinW,JoussenAMetal:Acuteintensiveinsulintherapyexacerbatesdiabeticblood-retinalbarrierbreakdownviahypoxiainduciblefactor-1alphaandVEGF.JClinInvest109:808-815,20029)SugimotoM,CutlerA,ShenBetal:InhibitionofEGFsignalingprotectsthediabeticretinafrominsulin-inducedvascularleakage.AmJPathol183:987-995,2013■「インスリンによる糖尿病網膜での血管透過性亢進」を読んで■今回は三重大学の杉本昌彦先生による,インスリン臨床的な観察から推測されてきたことによります.この生物学的な作用と糖尿病網膜症病態の関連についてのような臨床的な観察は大変重要な側面をとらえていの分子生物学的な研究の紹介です.糖尿病網膜症とイる反面,なかなか分子レベルでの病態解明に結びつきンスリンとの関連の研究はこれまでにもいろいろと報ません.それは,いろいろな因子が同時に動く臨床例告されてきました.それは杉本先生も紹介していらっで,分子ターゲットを絞り込むことのむずかしさを示しゃる2型糖尿病における長期経過観察で,DMEのしているのかもしれません.杉本先生の研究では,ベ発症とインスリ治療が関連すること,急激な血糖コンタセルリンの作用が血液網膜柵を傷害するメカニズムトロールに伴い網膜症が急速に進行するearlyworsが網膜症の病態に関連するというものです.そして,ening(EW)が起こることといった臨床的な観察結果インスリンがベタセルリンを介して網膜症の病態を惹から,インスリンは糖尿病治療に有益である反面,網起するとの仮説は大変魅力的で,上記のような臨床的膜症発症,進展の病態に関連するのではということがな観察結果を説明できるものです.網膜症の病態は現(73)あたらしい眼科Vol.31,No.2,2014233 在,血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthトカインとして作用する原因物質とするメカニズムfactor:VEGF)を中心とし,炎症性のサイトカインは,臨床的な観察を出発点としていることから臨床的などをからめて解明が進んできました.これは抗な意義が明確であり,分子ターゲットとして糖尿病網VEGF薬やステロイドの治療効果により病態を説明膜症治療戦略に加えることが有用と考えられます.わできることがわかりましたが,これだけですべての網れわれ臨床医のもつ臨床経験は臨床研究の出発点であ膜症を治癒に導くことはできません.多様な病態を積り,また,エンドポイントでもあります.杉本先生のみ重ねることにより,糖尿病網膜症というきわめて複研究が発展して,新しい治療薬が開発されることを,雑な分子病態をもつ疾患の全体像に迫ることができる一臨床医として心から願っています.と考えられます.今回の杉本先生のインスリンをサイ山形大学眼科山下英俊☆☆☆234あたらしい眼科Vol.31,No.2,2014(74)

新しい治療と検査シリーズ 214.27ゲージ硝子体手術システム

2014年2月28日 金曜日

新しい治療と検査シリーズ214.27ゲージ硝子体手術システムプレゼンテーション:井上順治大島佑介西葛西井上眼科病院コメント:門之園一明横浜市立大学附属市民総合医療センター眼科.バックグラウンド25ゲージ(G)(0.5mm)に始まった小切開硝子体手術は,手術器具の剛性や眼内照明の明るさの問題で,その後いったんは23G(0.63mm)に落ち着くようにみえたが,ここ数年の手術装置と手技のめざましい進歩によって,より安全かつ確実な創口の自己閉鎖を求めて,再びより小さな口径の25Gの手術システムへと移行してきた1,2).しかし,現在の25Gシステムでもってしても,創口の自己閉鎖を得るためにはカニューラの設置に特殊な創口作製の手法が必要とされ,それでも自己閉鎖が得られず,縫合が必要な症例も少なくない3).一方,硝子体手術後の眼内の液・空気置換などの処置に我々は長らく27G針を使用してきたが,創口の閉鎖不全に起因するような合併症を経験したことはなく,これまでそのような報告も見当たらない.すなわち,27G(0.4mm)こそ特殊な技法を要せずとも,簡単に強膜創口の自己閉鎖を得る最大の口径であると考えられ,もし小切開硝子体手術を27Gまで進化させることができれば,より安全かつ一段とクオリティーの高い手術に昇華させることができるかもしれない4).最近ようやく高性能な27Gの硝子体システムが完成したので,本稿では,27G硝子体手術の現状と今後の展望について紹介する..27Gのラインアップ25Gシステムが開発された当初の問題点,すなわち,眼内照明の暗さ,器具の脆弱性,そして硝子体吸引効率の低下がそのまま27Gの開発当初でも懸念されたが,予想に反して,ここ数年のめざましい手術機器の開発と手術環境の整備によって,このシステムの実現化にはさほどの歳月を要しなかった.27G硝子体手術システムの開発と販売は世界中の複数の会社で現在も進んでおり,本システムを世界に先駆けて開発してきたオランダ(67)0910-1810/14/\100/頁/JCOPYのDORC社,硝子体カッターと照明光源に定評のある米国のSynergetics社,そして新しい駆動方式の高速回転硝子体カッターを開発した米国のAlcon社からの27Gシステムが発売されている.各社とも硝子体カッターやトロカール・カニューラのほか,シャンデリア照明ファイバー,マイクロセッシ,レーザープローブやジアテルミーなどの従来の25Gシステムと同じバリエーションの27G手術器具を製作しており,とりわけAlcon社の最新の硝子体手術装置(ConstellationVisionSystem)に接続する27Gカッターは,高いデューテーサイクルを維持しながら7,500回転の切除速度を実現したことで,これまで懸念されていた硝子体切除効率の問題はかなり解消された..27Gシステムの適応と使用法筆者らは,これまで黄斑円孔や黄斑上膜などの黄斑疾患や単純硝子体出血などの比較的に手術操作の単純な疾患から27Gシステムを導入し,最近では硝子体カッターの性能の改良とともに,周辺部硝子体廓清を必要とする裂孔原性網膜.離や膜処理を必要とする増殖糖尿病網膜症まで適応を拡大している.これまでの多数例の臨床経験では,術中に25Gなどのシステムにコンバートした症例はなく,また,全例ともトロカール・カニューラは強膜に対してほぼ垂直に刺入して設置したにもかかわらず,術終了時は単純にカニューラを抜き,軽くマッサージしただけで,創口は簡単に自然閉鎖した.術直後に創口から少量の眼内液の流出があっても,術翌日には全例とも簡単に創口は自己閉鎖し,縫合などの処置が必要な症例はなく,術後に創口の閉鎖不全やこれによる低眼圧などの合併症もなかった.27Gの手術器具の剛性は25Gや23Gに劣るものの,これは広角眼底観察システムと明るい光源装置を有することで簡単にクリアできるハードルである.すなわち,シャンデリア眼内照明下であたらしい眼科Vol.31,No.2,2014227 abcdefabcdef図1Alcon社の27Gシステムによる裂孔原性網膜.離の硝子体手術a:クロージャバルブ付き27Gカニューラと25Gシャンデリア照明ファイバーを設置.b:広角眼底観察システムによる観察下で硝子体切除を行う.c:パーフルカーボンにて.離網膜を平坦化し,強膜圧迫下で周辺部硝子体切除.d:27Gレーザーブローブで裂孔周囲に光凝固.e:バックフラッシュニードルにて眼内排液と液・空気置換.f:カニューラとシャンデリアファイバーを抜去し,手術を終了する.の広角眼底観察によって,過度に眼球を動かすことなく27G器具による眼内操作は可能であり,軽度の強膜圧迫で十分に周辺部網膜までの硝子体切除ができる(図1).現行の27G硝子体手術システムで適応可能な疾患群を表1に列挙した.いうまでもなく今後の技術革新によって27Gシステムの適応はさらに拡大する可能性を秘めているが,あらゆる手術において,手術適応の判断は個々の術者の技量と経験に基づくところも多く,先ずはシンプルなケースからシステムに慣れ,徐々に適応を拡大するのが望ましい..アドバンテージ27G硝子体手術はこれまでの25Gや23Gのものと比較して,システム構成に何ら違いはないが,手術においてもっとも重要な「経結膜的に作製した強膜創口は刺入角度にかかわらず,すべてが術翌日には必ず自己閉鎖する」という確実性と安全性の向上に貢献するところは大きい.また,眼内灌流速度が緩やかで灌流量も少ないことは,網膜をはじめとする眼内組織に対する侵襲性が低いといえる.もちろん,硝子体カッターなどの手術器具やカニューラの抜去時にみられた強膜創への硝子体嵌頓のリスクは,23Gや25Gに限らず27Gでも懸念されることであるが,内径がより小さい分だけ,27Gでは硝228あたらしい眼科Vol.31,No.2,2014表127G硝子体手術の適応疾患1.黄斑疾患(黄斑円孔,黄斑前膜,黄斑浮腫など)2.単純硝子体出血(硝子体生検を含む)3.網膜下出血4.裂孔原性網膜.離5.増殖糖尿病網膜症(ただし,広範囲な牽引性網膜.離は除く)6.水晶体再建術時の破.処理など子体嵌頓が軽微で,合併症に至るリスクも低いと期待できるかもしれない..今後の展望27Gシステムは,これまでの小切開硝子体手術のコンセプトを踏襲して,自己閉鎖創の作成をシンプル化し,不確実だった自己閉鎖性を高めたに過ぎないが,今後のさらなるテクノロジーやテクニックの開発によって,まだスタートしたばかりのこの最小サイズの手術システムの適応がさらに広がり,近い将来には万人に受け入れられる術式として成熟していくことを期待している.文献1)FujiiGY,DeJuanEJr,HumayunMSetal:Anew25gaugeinstrumentsystemfortransconjunctivalsutureless(68) vitrectomysurgery.Ophthalmology109:1807-1812,20022)EckardtC.Transconjunctivalsutureless23-gaugevitrectomy.Retina25:208-211,20053)OshimaY,OhjiM,TanoY:Surgicaloutcomesof25gaugetransconjunctivalvitrectomycombinedwithcataractsurgeryforvitreoretinaldiseases.AnnAcadMedSingapore35:175-80,20064)OshimaY,WakabayashiT,SatoTetal:A27-gaugeinstrumentsystemfortransconjunctivalsuturelessmicro-incisionvitrectomysurgery.Ophthalmology117:93-102,2010.本治療法に対するコメント.27ゲージ硝子体手術は,大島先生により世界で初くなることによる操作性の低下の問題,吸引流量の低めて報告された新しい小切開硝子体手術システムであ下による切除効率の減少の問題がある.しかし,本稿る.口径がさらに小さくなることで網膜の挙動がよりに記載されているような新たな器具の開発や手技の向減少し,周辺部硝子体切除や増殖膜のカッターによる上が今後行われるに従い,27ゲージ硝子体手術の有切除が安全に行われるようになること,また術後の理用性が向上する可能性がある.硝子体手術システムの想的な創閉鎖の向上が期待される.一方,ゲージが細ネクストチェンジは,早晩訪れるかもしれない.☆☆☆(69)あたらしい眼科Vol.31,No.2,2014229

私の緑内障薬チョイス 9.多剤併用例にadd onしてもさらに眼圧が下降する可能性のあるアイファガン®点眼

2014年2月28日 金曜日

連載⑨私の緑内障薬チョイス企画・監修山本哲也連載⑨私の緑内障薬チョイス企画・監修山本哲也9.多剤併用例にaddonしてもさらに眼圧が下降新田耕治福井県済生会病院する可能性のあるアイファガンR点眼アイファガンR点眼は,毛様体における房水産生抑制およびぶどう膜強膜流出路を介した房水流出促進のデュアル作用を兼ね備えた点眼である.Low-pressureGlaucomaTreatmentStudy(LoGTS)にて,アイファガンR点眼には神経保護作用が存在する可能性が示唆された.また,最大耐用点眼使用例にアイファガンR点眼をaddonすることで,さらに眼圧下降が得られることがある.本人の緑内障の7割以上を占める正常眼圧緑内障日(normal-tensionglaucoma:NTG)で,プロスタグランジン製剤点眼+b遮断薬点眼+炭酸脱水酵素阻害薬点眼の3種を使用しても視野障害の進行を止めることができず,トラベクレクトミーを選択しなければならない患者では,目標眼圧は1桁台の場合も多く,手術を決断する際にさまざまな術後合併症や併発症が頭をよぎる.術後早期には乱視の増悪,房水漏出,過剰濾過による低眼圧黄斑症,駆逐性出血,術後中期以降には濾過胞の限局化,白内障の進行,濾過胞炎,眼内炎,そのほか数々の周術期合併症がある.緑内障による視力障害を自覚していない症例に手術を施行した場合に,手術により目標眼圧にコントロールできても,手術後に日常生活に支障をきたすような視機能障害を患者本人が自覚するようになってしまっては,患者との信頼関係が損なわれかねない.そこで筆者は手術を最終的に決断する前に,アイファガンR点眼(図1)を追加することにしている.患者にはできれば手術を回避したいという切実な思いがあるので,点眼薬がさらに増えてもアドヒアランスが良好なことが多く,アイファガンR点眼のaddonによりさらに眼圧下降が得られることがある(図2).これはアイファガンR点眼が毛様体における房水産生抑制およびぶどう膜強膜流出路を介した房水流出促進のデュアル作用を兼ね備えた点眼であることが一因である可能性がある.アイファガンR点眼以前に,平均10.2mmHgで一見眼圧コントロール良好な症例に,点眼治療を強化して平均8.1mmHgになったことで,視野進行の平均速度MDslopeが.1.14dB/yearから.0.16dB/yearに緩徐になったNTGを経験している.このように,NTG症例の中には,さらに1mmHgでも2mmHgでも眼圧を下降(65)0910-1810/14/\100/頁/JCOPY図1アイファガンRできれば視野障害を遅らせることができるような症例があり,アイファガンR点眼が大いに期待される.また,LoGTSはアイファガンR点眼の神経保護作用の可能性について示唆している.チモロールとの多施設共同無作為化二重盲検比較試験にて,アイファガンR点眼の眼圧下降効果とチモロール点眼の眼圧下降効果には差がないものの,視野障害の維持効果はアイファガンR点眼にて有意に優れていたとの報告がなされた1)(図3).また,チモロール点眼とアイファガンR点眼との12カ月点眼後の網膜神経線維層厚の比較では,チモロール点眼群では,上下耳鼻側すべてで点眼開始前より有意に菲薄化していたが,アイファガンR点眼群では上下耳鼻側すべてで点眼開始前との差がなかったので,アイファガンR点眼は網膜神経線維層の菲薄化を抑制できる可能性があると報告された2)(表1).日本人でのアイファガンR点眼による視神経保護作用についての報告はまだない本欄の記載内容は,執筆者の個人的見解であり,関連する企業とは一切関係ありません(編集部).あたらしい眼科Vol.31,No.2,2014225 眼圧推移左右デタントールタプロスコソプトアイファガンアイファガンSLTSLTデタントールタプロスコソプト眼圧推移左右デタントールタプロスコソプトアイファガンアイファガンSLTSLTデタントールタプロスコソプト図2最大耐用点眼を使用してもなお進行する正常眼圧緑内障眼で,アイファガンR点眼のaddonにより眼圧下降が得られた症例初診時58歳,男性.視力:RV=0.02(0.8×.4.25D(cyl.1.0×.0.01(0.06=),LV°09DAx4.5D(cyl.0.5DAx105°).左眼中心視野消失,右眼ハンフリーMD.21.96dB.初診時にすでにタフルプロスト点眼,b遮断薬+炭酸脱水酵素阻害薬配合点眼,ブナゾシン点眼を使用.当院ではさらにレーザー線維柱帯形成術を施行しても眼圧は10.12mmHgに推移したため,アイファガンR点眼を追加.1年以上,眼圧は常に一桁台を推移するようになった.0.00.10.20.30.40.50.7チモロールブリモニジン0.6累積視野障害進行率ついては症例を積み重ねて機会があれば報告したい.長期に緑内障患者を管理していると,自分が使用できる緑内障治療のツールが1つでも増えることは大変ありがたいことである.緑内障進行予防に,すべての緑内障点眼と併用可能なアイファガンR点眼の効果を期待したい.04812162024283236404448観察期間(月)図3LoGTSにおけるアイファガンR点眼とチモロール点眼の累積視野障害進行率アイファガンR点眼はチモロール点眼よりも有意な視野維持効果を示した(p=0.001logrank検定).両群間に眼圧下降効果の差がなかったことから,アイファガンR点眼の視野維持効果には眼圧非依存性因子の関与が示唆される.(文献1より)が,上記の結果から,眼圧が良好にコントロールされていても進行するNTGの場合に,筆者は積極的にアイファガンR点眼を使用するようにしている.その効果に文献1)KrupinT,LiebmannJM,GreenfieldDSetal:Arandomizedtrialofbrimonidineversustimololinpreservingvisualfunction:resultsfromtheLow-PressureGlaucomaTreatmentStudy.AmJOphthalmol151:671-681,20112)TsaiJC,ChangHW:Comparisonoftheeffectsofbrimonidine0.2%andtimolol0.5%onretinalnervefiberlayerthicknessinocularhypertensivepatients:aprospective,unmaskedstudy.JOculPharmacolTher21:475-482,2005表1チモロール群とアイファガンR群の網膜神経線維厚の変化baseline点眼開始12カ月後p値IOP(mmHg)アイファガンR群チモロール群24.2±1.3(22.0.27.0)23.9±1.1(22.5.26.0)18.6±0.9(17.0.20.0)18.7±1.1(17.0.20.5)<0.0001<0.0001Ellipseaverage(μm)アイファガンR群チモロール群71.5±9.5(57.1.94)71.7±12.1(49.4.98.3)71.5±9.4(55.3.89.2)68.7±12.4(47.3.96)0.970.004IOP:intraocularpressure(文献2より)226あたらしい眼科Vol.31,No.2,2014(66)

抗VEGF治療:加齢黄斑変性とアバスチン®

2014年2月28日 金曜日

●連載抗VEGF治療セミナー─薬剤選択─監修=安川力髙橋寛二鈴木三保子1.加齢黄斑変性とアバスチンR大阪大学大学院医学系研究科眼科学教室/VitreousRetinaMaculaConsultantsofNewYorkベバシズマブ(アバスチンR)は,眼科領域で臨床応用されている他のVEGF阻害薬であるペガプタニブ(マクジェンR),ラニビズマブ(ルセンティスR),アフリベルセプト(アイリーアR)と異なり,大腸癌に対する静脈内投与が本来の適用である.それにもかかわらず,加齢黄斑変性を含む眼内新生血管に対する硝子体内投与は世界中で未認可(オフラベル)のまま広まった.現時点でアバスチンRとルセンティスRは,加齢黄斑変性に伴う脈絡膜新生血管に対してほぼ同等の有効性をもつと考えられている.一方,全身性の重篤な副作用については,両者に差があるかどうかは,はっきりとわかっていない.larDegenerationTreatmentsTrials:CATT)で,アアバスチンRの有効性バスチンRとルセンティスRの視力改善効果はほぼ同等アバスチンRは,すべてのVEGFアイソフォームをであるという結果が報告された1).図1に,CATT阻害する抗VEGF中和抗体で,本来は大腸癌に対するstudyにおける2年間の視力変化を示す.この結果は実点滴静注用の抗悪性腫瘍薬である.眼科での投与は適用際の臨床現場で受ける印象と一致していると感じる読者外使用であり,そのため医療施設によっては使用できなが多いと思われるが,オフラベルのアバスチンRと,他い場合もある.の認可されている抗VEGF薬の選択は,薬剤費の違い,アバスチンRは,同じ抗VEGF抗体をもとにして作そしてつぎに述べるアバスチンRの副作用なども考慮す製されたルセンティスRより分子量は大きく(150kDa),る必要がある.日本人におけるアバスチンRの効果は,VEGFとの親和性についてはどちらが優位であるかは欧米と同様に1型脈絡膜新生血管(網膜色素上皮下脈絡っきりとはわかっていない.2012年に加齢黄斑変性治膜新生血管)よりも2型脈絡膜新生血管(網膜色素上皮療の比較臨床試験(ComparisonofAge-relatedMacu-上脈絡膜新生血管)のほうが速やかに表れることが多111098765432100ルセンティスR月1回投与アバスチンR月1回投与ルセンティスR必要時投与アバスチンR必要時投与7688104経過観察期間(週)図1治療2年間の各群の視力平均変化量(文献1をもとに改変)41224365264(63)あたらしい眼科Vol.31,No.2,20142230910-1810/14/\100/頁/JCOPY視力スコアの平均変化量(文字数) 初診時1年後図22型脈絡膜新生血管に対するアバスチンR治療前と治療1年後の眼底変化初診時視力0.6,蛍光眼底造影検査でpredominantlyclassic型の病変を有しており,滲出性変化と網膜下出血を伴っていた.8カ月後に再燃したためアバスチンRを再投与した.1年後視力は1.2である.い2)(図2).しかしながら,再燃することもあり注意深い経過観察が必要である.アバスチンRの副作用全身性の抗VEGF治療でもみられる動脈血栓性事象,全身性出血,うっ血性心不全,静脈血栓性事象,高血圧が認められるほか,アバスチンRを静脈内投与したときの副作用としてあげられていた胃腸障害が,硝子体内投与でも同様にみられ,ルセンティスRに比べて有意に高頻度であることがCATTstudyで報告されている.CATTstudyでは,死亡や脳卒中のような重篤な事象224あたらしい眼科Vol.31,No.2,2014の発現率の差は評価できていない.文献1)ComparisonofAge-relateedMacularDegenerationTreatmentsTrials(CATT)ResearchGroup(MartinDF,MaguireMG,FineSLetal:Ranibizumabandbevacizumabfortreatmentofneovascularage-relateddegeneration:twoyearresults.Ophthalmology119:1388-1398,20122)SuzukiM,GomiF,SawaMetal:Bevacizumabtreatmentforchoroidalneovascularizationduetoage-relatedmaculardegenerationinjapanesepatients.JpnJOphthalmol54:124-128,2010(64)

緑内障:Cirrus HD-OCT

2014年2月28日 金曜日

●連載164緑内障セミナー監修=岩田和雄山本哲也164.CirrusHD.OCT石澤聡子岐阜大学大学院医学系研究科神経統御学講座眼科学分野Spectral-domainOCTであるCirrusHD-OCTには3つの測定用スキャンパターンがあり,緑内障の診断・進行程度を判断することができる.また,網膜神経節細胞層+内網状層厚の解析や緑内障進行解析が可能となっている.これらを上手に利用して緑内障診療に役立てたい.●CirrusHD.OCTとはCirrusHD-OCTはCarlZeissMeditec社製のspec-tral-domainOCTである.前身であるtime-domainOCTのStratusOCTと比べ高解像度・高速化し,種々の測定プログラムや解析により緑内障診断能力は飛躍的に向上した.●測定プログラムCirrusHD-OCTにはOpticDiscCube200×200(図1),MacularCube,HD5LineRasterの3つの測定用スキャンパターンが搭載されている.OpticDiscCubeは視神経乳頭を中心に6mm×6mmをスキャンし,網膜神経線維層(retinalnervefiberlayer:RNFL)厚を測定し解析するプログラムで,Ver.5.0から視神経乳頭解析パラメータが表示されるようになった.MacularCubeは黄斑部を中心に6mm×6mmの範囲でスキャンするプログラムで黄斑を中心とした網膜厚を測定する.NFLDや黄斑浮腫などを視覚的に把握することができる.HD5LineRasterは黄斑を中心に5本線でスキャンするプログラムで,緑内障ではRNFLや網膜神経節細胞層(ganglioncelllayer:GCL)の菲薄化を捉えることができる.●Ver.6.5からの新しい解析最新ソフトウェアであるVer.6.5では,MacularCubeにてGCL+内網状層(innerplexiformlayer:IPL)の厚みを測定し解析するGCA(ganglioncellanal-ysis)(図2)が追加となった.RNFL+GCL+IPLであるganglioncellcomplex(GCC)では層厚と視野の感度が相関することが報告されているが1),GCA開発にあたりRNFLは正常でのバリエーションが多く,これを含むとGCL本来の厚みの均質性が得られにくいため,GCCではなくGCL+IPL厚測定となった.CirrusHD図1OpticDiscCube200×200各データは年齢別正常データからの偏差値の5%未満が黄色,1%未満が赤色で示される.①Deviationmap:RNFLの障害部位を示す.②視神経乳頭解析.③rimの厚さ:耳側-上方-鼻側-下方-耳側の順に表示.④RNFLTSNITnormativedata:乳頭中心から1.73mmの部分でRNFLを測定し,耳側-上方-鼻側-下方-耳側の順に示す.正常では上下でpeakをもつ2つの山を形成(doublehump)する.⑤乳頭中心から半径1.73mmの円を4分割,12分割した平均RNFL厚.(61)あたらしい眼科Vol.31,No.2,20142210910-1810/14/\100/頁/JCOPY OCTでのGCL+IPL厚,RNFL厚,視神経乳頭パラメータではどれも診断において有意差はないとする報告もあるが2),GCAの有用性については今後の検討が必要である.●緑内障進行解析CirrusHD-OCTでは,GPA(guidedprogressionanalysis)を用いて緑内障進行解析を行うことができる(図3).Deviationmapでは初回2回をベースラインとし,3回目以降の変化をみるイベント解析を行い,平均・上・下RNFL厚では4回以上の測定結果で回帰直線によるトレンド解析とポイントごとに表示されるイベント解析を行う.Ver.6.5では平均C/D比の解析も可能222あたらしい眼科Vol.31,No.2,2014図2GanglionCellAnalysis(GCA)①Deviationmap:GCL+IPL厚の異常を5%未満を黄色,1%未満を赤色で示す.②Thicknessmap:GCL+IPLの厚みをカラーマップで表示.異常所見では水平子午線上で分離する.③セクター解析:上下に区分した6セクターでの正常との比較.④平均・最小GCL+IPL厚.図3GuidedProgressionAnalysis(GPA)ベースライン2回の平均からばらつき以上の変動があった場合は黄色(possibleloss),2回連続して変動があった場合は赤色(likelyloss)で示される.①Deviationmap:RNFL厚の経時変化.②平均・上・下RNFL厚の変化:有意差が出ると回帰直線による有意な変化か検討される.③RNFLTSNITnormativedataの変化.④RNFLsummary:各解析結果で有意な変化があれば黄色(possibleloss),赤色(likelyloss)でチェックされる.になった.RNFL厚では平均と上下の解析であり,局所的な変化についてはやや鋭敏さに欠ける面もあるが,これらの解析結果は日々の緑内障診療に役立てていけるであろう.文献1)KimNR,LeeES,SeongGJetal:Structure-functionrelationshipanddiagnosticvalueofmacularganglioncellcomplexmeasurementusingFourier-domainOCTinglaucoma.InvestOphthalmolVisSci51:4646-4651,20102)JeoungJW,ChoiYJ,ParkKHetal:Macularganglioncellimagingstudy:glaucomadiagnosticaccuracyofspectral-domainopticalcoherencetomography.InvestOphthalmolVisSci54:4422-4429,2013(62)

屈折矯正手術:KeraKlear人工角膜

2014年2月28日 金曜日

屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─監修=木下茂●連載165大橋裕一坪田一男福井正樹165.KeraKlear人工角膜南青山アイクリニック,国立病院機構東京医療センターKeraKlear人工角膜は折り畳み式アクリル性レンズである.術式が簡便であり,生体角膜が不要で眼球穿孔の必要がない.自験例2例では視力向上が得られ,合併症は認めなかった.長期予後に検討が必要だが,KeraKlear人工角膜は生体角膜移植高リスク例のみならず,生体角膜移植前にも適応できる新たな治療法として期待できる.はじめに角膜移植は,生体移植として全層角膜移植,層状角膜移植,内皮移植術などが,その後,人工角膜移植としてOsteo-odonto-keratoprosthesis(OOKP),BostonKeratoprosthesis(BostonKpro),AlphaCorartificialcornea(AlphaCor)などが行われてきた.しかし,生体角膜移植,BostonKproは生体角膜が必要であり,ドナー角膜の不足している日本では欠点となる.また,内皮移植以外は縫合が必要であり,縫合に伴う屈折変化,感染や免疫反応の問題が起こりうる.また,全層角膜移植,OOKP,BostonKpro,AlphaCorは術中に眼球解放状態(opensky)になるため,駆逐性出血などの合併症リスクを負うことになる.OOKPは3期手術,AlphaCorは2期手術であり,手術回数が増えたり,最終手術まで時間を要したりすることも負担になる.これらの改善が期待できる新たな人工角膜,KeraKlear人工角膜(K3)が開発されたので紹介する.●K3についてK3は直径7mmの中心に直径4mmの光学部をもつ,折り畳み式のアクリル性レンズである.光学部は周辺部に比べやや厚みがあり,44Dのレンズ機能をもつ.光学部周囲のplateには栄養交換や縫合のための18個の孔が設けられている(図1).なお,K3はCEマークを取得しているが,日本では厚生労働省未認可品であるため個人輸入になる.●術式角膜上皮から300μmの深さに直径8mmのポケットをフェムトセカンドレーザーで作製する.中央に直径3.5mmの光学部ウィンドウをフェムトセカンドレーザーで300μmの深さまで作製する.光学部ウィンドウ(59)0910-1810/14/\100/頁/JCOPYacb図1KeraKlear人工角膜(K3)a:K3の全容と規格.b:K3は折り畳み式であり,これにより手術を簡便にしている.c:K3の移植後模式図.ab図2KeraKlear人工角膜(K3)移植術術式a:フェムトセカンドレーザーで光学部ウィンドウならびにプレート部のポケットを作製した後,光学部ポケットに沿ってその上の角膜実質を.離・除去している.b:プレート部のポケットが360°開いているのを確認後,K3を折り畳みながらポケットに挿入している.部の角膜を除去し,プレート部のポケットが360°空いていることを確認してK3を挿入する.プレートを縫合し,コンタクトレンズを載せ,術終了となる(図2).筆者らはフェムトセカンドレーザーで光学部ウィンドウおよびプレート部ポケットを作製したが,原法ではナイフを用いた手動で作製する方法も紹介されている.また,プレートの深さは300μmの深さに置くが,光学部あたらしい眼科Vol.31,No.2,2014219 acbdacbd図3KeraKlear人工角膜(K3)移植症例膠状滴状角膜変性へのK3移植例.a:術前の前眼部写真.b:前眼部OCT写真.c:術後の前眼部写真.d:前眼部OCT写真.は全層に穿孔させる方法もある.K3のプレート縫合は不要ともいわれているが,検討を要する.●症例53歳,男性.膠状滴状角膜変性で,15年前と1年前に右眼治療的レーザー角膜除去術(phototherapeutickeratectomy:PTK)を行った既往のある患者.PTK術後も角膜実質混濁のため視力向上が得られず,K3移植術を行った.術前視力V.d.=0.03(0.06×S+6.00D(Cyl.1.50DAx170°),角膜実質浅層の混濁とPTKに伴う角膜菲薄化を認めた.術式は前述の通り行ったが,角膜の菲薄化を認めていたため,光学部ポケットを除去する際に角膜穿孔を認めた.しかし,穿孔の範囲が狭かったことから予定通り手術終了した.術後,K3の位置補正を行ったが,合併症なく,視力もV.d.=0.5(1.0×SCL)まで改善した(図3).●手術適応手術適応は光学的治療を要する角膜疾患(角膜混濁や水疱性角膜症)で,角膜厚が350μm以上あることが条件である.ただし,ドライアイを伴う症例には,感染や上皮障害が起こりやすくなることから注意が必要である.理論的には,穿孔をさせないK3移植術ではK3下に角膜実質が残るので,角膜深層の混濁への適応には慎重になる必要がある.角膜浅層の混濁にはよい適応と思われる.Stevens-Johnson症候群や化学外傷後など輪部機能不全を伴う上皮障害によい適応と考えられるが,重症220あたらしい眼科Vol.31,No.2,2014ドライアイが併発していることがほとんどであり,前述の通り術後管理に注意が必要である.また,これまでの人工角膜は,拒絶反応を繰り返したり,角膜輪部機能不全を伴い組織侵入を繰り返したり,再移植を繰り返している症例に適応があったが,K3のコンセプトは角膜移植未施行例に対して行うことにある.これによりドナー角膜が不足しているような状況でも視力の向上を得られ,ドナーの提供を受けた際に角膜移植を行うこともできる.●課題K3は光学部の屈折が一つ(44D)しかなく,患者個々に合わせた屈折がK3で調整できないのは今後の課題である.また,筆者らの経験した2症例では,K3移植後6カ月の時点でもmedicalusecontactlens(MUCL)の装用を必要としている.MUCLなしでは疼痛があり,2週間に一度の診察で交換を行っている.MUCLからの離脱は今後検討が必要と考えている.そして,人工角膜の術後管理に必要な抗菌薬はK3でも必要となり,原則使用し続けることになる.耐性菌の観点から数カ月毎に抗菌薬の種類の変更を考慮しないといけない.現在のところ,この2症例では角膜上皮障害,角膜融解,炎症所見,感染などの合併症を認めていないが,長期的な予後に関して今後の検討が必要と思われる.●まとめK3は術式が比較的簡便で,術翌日から視力向上が期待できる人工角膜である.手術適応は350μm以上の角膜厚のある角膜移植術適応患者である.K3は術後に生体角膜移植を行えるという利点がある.そのため,ドナー角膜の不足している日本では生体角膜移植までの間の視力向上として,あるいは生体角膜移植を遅らせ,移植回数を減らすために使用するという新たな治療選択肢になりうる.現在のところ短期成績は良好であるが,中長期成績については今後さらなる経過観察,検討が必要である.文献1)PinedaRII,ShiueyY:TheKeraKlearArtificialCornea:ANovelKeratoprosthesis.TechOphthalmology7:101104,2009(60)

眼内レンズ:虹彩面上に移動したSoemmering輪

2014年2月28日 金曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎330.虹彩面上に移動した塩出雄亮岡山大学大学院医歯薬学総合研究科機能再生・再建科学専攻Soemmering輪生体機能再生・再建学講座眼科学分野水晶体.外摘出術後に生じたSoemmering輪は,虹彩面上に移動すると視力低下の原因となりうる.水晶体.外摘出術後20年を経過して,左眼の虹彩面上に偏位したSoemmering輪により視力低下をきたした症例を紹介する.Soemmering輪を含む水晶体.を摘出し,術後視力は改善した.1928年にSoemmeringは,白内障手術を受けた眼の虹彩後方に,リング状の水晶体物質の混濁が存在することを報告した1).これをSoemmering輪と定義した.その後,Soemmering輪は,水晶体.の赤道部に残存した水晶体上皮細胞が線維芽細胞に分化・再生することにより,後.と前.が癒着して生じることが明らかになった.Soemmering輪は通常,虹彩後方に存在しており,散瞳などの処置を行わなければ確認することはむずかしいが,瞳孔領へ偏位を生じると視力低下の原因となることがある.筆者らは,アトピー白内障に対し水晶体.外摘出術を施行した症例において,Soemmering輪が虹彩面上へ偏位し,視力低下をきたした1例を経験したので報告する.●症例:39歳,男性.●主訴:左眼視力低下.●現病歴:1992年(19歳時),アトピー白内障に対して図1前眼部写真(術前)虹彩面上にSoemmering輪を認めた.(57)0910-1810/14/\100/頁/JCOPY左眼水晶体.外摘出術を施行(眼内レンズ挿入は行わず).術後経過は良好であり左眼矯正視力は1.2であった.2004年(31歳時),水晶体.とSoemmering輪が一体となって硝子体腔内に落下していたが,眼症状を認めなかったため経過観察としていた.今回,とくに誘因なく左眼視力低下を自覚し,近医を受診.その後当科紹介となった.●眼科所見:視力右眼(0.2×+10.0D(C.0.75DAx120°),左眼(0.4×+11.0D).眼圧右眼22mmHg,左眼20mmHg.両眼ともに人工的無水晶体眼.左眼は,虹彩面上に移動した水晶体.とSoemmering輪を認めた(図1).両眼ともに眼底にはとくに異常所見を認めなかった.●経過:虹彩面上の水晶体.,Soemmering輪が視力低下の原因となっていたので,左眼水晶体.摘出術を施行した.まず,角膜輪部にサイドポートを作製し,biman図2術中写真耳側に強角膜創を作製し,輪匙を用いてSoemmering輪を摘出した.あたらしい眼科Vol.31,No.2,2014217 図3前眼部写真(術後)良好に経過し,矯正視力1.2を得た.ualirrigation/aspirationdeviceおよびvitrectomycutter(25ゲージ)を用いて水晶体.とSoemmering輪の吸引・切除を試みた.しかし,Soemmering輪の石灰化が強く,困難であった.そこで,3.0mmの強角膜層を作製し,輪匙を用いて水晶体.とSoemmering輪を一塊として摘出した(図2).術後経過は良好で,左眼矯正視力は1.2を得た(図3).本症例では,硝子体腔内に落下していたSoemmering輪が何らかの原因により前房へ移動し,視力低下をきたした.原因として,左眼への外力(受傷,眼を擦る行為など),長時間の伏臥位,散瞳薬の使用などが考えられたが,問診では合致するものはなく,最終的に原因は不明であった.本症例のように,術後にSoemmering輪が前房へ移動した症例はこれまで数件報告散見されている2,3)が,若年で白内障手術を施行した症例,水晶体.外摘出術(眼内レンズ挿入を行わない)を施行した症例が多い.アトピー白内障では毛様小帯が脆弱であることが多く,術後の水晶体.の収縮に伴って毛様小帯が断裂することがある.本症例のように術後に毛様小帯が完全に断裂し,水晶体.とSoemmering輪が前房に移動し視力低下の原因となる場合は,積極的に摘出する必要がある.文献1)SoemmeringDW:BeobachtungenuberdieorganischenVeranderungenimAugenachStaroperationen.WLWesche,Frankfurt,18282)GuhaGS:Soemmering’sringanditsdislocations.BrJOphthalmol35:226-231,19513)AkalA,GoncuT,YuvaciIetal:PupilocclusionduetoalargedislocatedSoemmeringringinanaphakiceye.InternalOphthalmolMar1,2013

コンタクトレンズ:コンタクトレンズ診療のギモン⑨

2014年2月28日 金曜日

提供コンタクトレンズセミナーコンタクトレンズ診療のギモン②9本コーナーでは,コンタクトレンズ診療に関する読者の疑問に,臨床経験豊富なTVCI※講師がわかりやすくお答えします.※TVCIは「ジョンソン・エンド・ジョンソンビジョンケアインスティテュート」の略称です.眼科医および視能訓練士を対象とするコンタクトレンズ講習会を開催しています.ハードコンタクトレンズからソフトコンタクトレンズに変更するときの注意点について教えてください.講師植田喜一ウエダ眼科ハードコンタクトレンズ(HCL)装用者がソフトコンタクトレンズ(SCL)への変更を希望する場合には説明しなければならないことが多いが,とくに注意すべき点を概説する.●HCLとSCLの違いSCLは柔らかく,薄く,角膜径より大きいため装用感がよく,動きが少ないのでフィット感がよいが,含水性素材であるので乾燥しやすい,角結膜に吸着しやすいという問題がある.HCL・SCLの装用でそれぞれ特徴的な眼障害が生じるので,代表的なものを説明する.例えば乾燥による障害はHCLでは3時9時方向に点状表層角膜症(SPK)が,SCLでは瞳孔領下方にスマイルマークパターンのSPKが生じる(図1).角膜障害を生じた場合,HCLでは自覚症状が現われやすいので無理な装用をせず,眼科をすぐに受診するケースが多い.一方,SCLでは自覚症状がマスクされる(バンデージ効果)ため重症化しやすい.調子が悪いときにはSCLをはずすことと,眼科を受診することを指導する.光学的にはHCLのほうが優れており,SCLに変更すると像の鮮明度が低下することがある.強度の角膜乱視眼や不正乱視眼ではHCLがよいので,ビデオケラトスコープで角膜形状を確認する必要がある.ab図1乾燥による角膜障害a:3時9時ステイニング,b:スマイルマークパターン.●取り扱いとレンズケアSCLには使用期限が定まっているものが多いので,その期限を守るように指導する.また,HCLとSCLではケア方法が異なる.HCLには消毒が義務づけられていないが,SCLは1日終日装用タイプと1週間連続装用タイプのディスポーザブルでなければ消毒を必要とする.消毒には煮沸消毒と化学消毒(マルチパーパスソリューション,過酸化水素製剤,ポビドンヨード製剤による消毒)があるのでそれらの特徴を説明する.これらは製品によって取り扱いが異なるので詳しい説明が求められる.SCLによる眼障害はレンズケアに伴うものが多いので注意したい.●CL装用に伴う角膜形状変化ディスポーザブルレンズや2週間頻回交換レンズの普及とともに,HCL装用者がこれらのSCLに変換したいという希望が増えてきた.SCLを処方して,当初はよく見えていたのにしだいに見え方が悪くなってきたという症例を経験する.HCLでの矯正視力は1.2であり,SCL変更時の矯正視力も1.2であったが,2週間後の定期検査では矯正視力は0.8に下がっていた(表1).角膜形状をビデオケラトスコープで観察すると,角膜が直乱視化していた.これは,HCLを装用することで角膜形状がHCLの内面の(55)あたらしい眼科Vol.31,No.2,20142150910-1810/14/\100/頁/JCOPY ab図2角膜形状変化a:HCL→球面SCL変更時(左眼).b:球面SCL変更後2週間(左眼).表1HCLから球面SCLへの処方変更例症例:24歳,女性初診:他眼科で処方されたHCLを2年間装用.SCLを希望球面SCLを処方右眼(1.2×球面SCL)左眼(1.2×球面SCL)2週間後:両眼のかすみ,像のにじみ右眼(0.8×球面SCL)左眼(0.8×球面SCL)↓トーリックSCLを処方右眼(1.2×トーリックSCL)左眼(1.2×トーリックSCL)(文献1より改変・引用)ベースカーブに近い形状をとっていたのが,SCLに変更したことで元の角膜形状に戻ろうとしたことが原因であると考えられる(図2).この場合,球面のSCLでの矯正視力は不十分なため,トーリックSCLにするとよい1).HCLの経験者のSCLへの変更時は,角膜の経過観察が必要である.なお,眼鏡の見え方も変化することがあるので,必要に応じて眼鏡を処方する(乱視を矯正する円柱レンズが加わることがある).文献1)植田喜一:トーリックソフトコンタクトレンズ.あたらしい眼科19:443-456,2002216あたらしい眼科Vol.31,No.2,2014(00)ZS695

写真:ハードコンタクトレンズのエッジの刺激による続発性アミロイドーシスが疑われた症例

2014年2月28日 金曜日

写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦357.ハードコンタクトレンズのエッジの刺激による糸井素啓京都府立医科大学附属北部医療センター眼科続発性アミロイドーシスが疑われた症例図2図1のシェーマ①:灰白色の隆起性病変.②:周辺結膜に充血を伴う.図1前眼部写真(54歳,男性)円錐角膜があり,若い頃からハードコンタクトレンズを装用している.最近,黒目の端が白くなり充血しやすいと訴えて受診した.診断は何か?図3フルオレセイン染色ハードコンタクトレンズ下にフルオレセインの貯留を認め,タイトなフィッティングになっている.ベベル幅は狭く,リフトエッジも低い.隆起性病変以外には角膜上皮障害は認めない.図4図1の症例のハードコンタクトレンズデザイン変更後の前眼部写真レンズエッジによる機械的刺激を軽減させるため,ベベル幅を広く,リフトエッジを高く変更した.その結果,角膜混濁を残すも,隆起性病変は改善した.(53)あたらしい眼科Vol.31,No.2,20142130910-1810/14/\100/頁/JCOPY 続発性角膜アミロイドーシスは,1966年にStaffordらが報告した二次性にアミロイドが角膜に沈着する疾患である1).発症は比較的稀とされ,わが国では1987年にHayasakaらが報告している2).アミロイドは,種々の原因で核となる蛋白質が形成され,それを中心にさまざまな蛋白質が凝集し線維様の形態を呈したものである.その前駆物質としてはラクトフェリンやケラトエピセリンなどが報告されている3)が,アミロイド形成の詳しい機序は未だ不明である.病理組織は,ヘマトキシリンエオジン染色で均一無構造物質を認め,コンゴレッド染色では橙赤色に染色される.また,偏光顕微鏡では黄緑色の複屈折を呈するという特徴を有する.角膜にアミロイドが沈着する疾患はその原因によって原発性,続発性と大別される.原発性では,格子状角膜ジストロフィ,膠様滴状角膜ジストロフィがあげられる.続発性では,睫毛乱生,外傷,コンタクトレンズ(contactlens:CL)装用が報告されている.本症例は円錐角膜患者で長期間にわたりハードコンタクトレンズ(hardcontactlens:HCL)を装用していた.使用していたHCLはタイトなフィッティングであり(図3),レンズエッジによる角膜周辺部への慢性刺激の存在が推測され,特徴的な灰白色の隆起性病変から続発性アミロイドーシスを疑った(図1).これまでにも,角膜移植後のHCL装用者で移植片周辺部の角膜突出部位に続発性アミロイドーシスを生じたという報告がある4).本症例に対しては,レンズエッジによる角膜周辺部への機械的刺激を軽減させる目的で,HCLのベースカーブをフラットに変更し,ベベル幅を広くエッジリフトを高くベベルデザインを見直した結果,約1カ月で隆起性病変の改善を認めた(図4).本症例のように,HCLに起因する慢性刺激が原因と推測される場合は,HCLの装用をできる限り控えるとともに,レンズデザインを変更してフィッティングの改善を図る必要がある.一方,円錐角膜ではHCLがもっとも擦れやすい角膜頂点部にアミロイドを形成する症例をしばしば経験するが,HCL装用の中止が困難であるため,多段階カーブ設計のHCLに変更する,あるいは,ソフトコンタクトレンズ(softcontactlens:SCL)の上にHCLを装用させるPiggyBackLensSystemを選択するといった対策も必要になる.多量のアミロイド沈着を生じ強い痛みや羞明が生じた場合は,角膜厚が十分あればphototherapeutickeratectomy(PTK)で角膜表面切除するのも有効である.PTKは早期の再発は少なく,経過は比較的良好とされている.文献1)StaffordWR,FineBS:Amyloidosisofthecornea.ArchOpthalol75:53-56,19662)HayasakaS,SetogawaT,OhmuraMetal:Secondarylocalizedamyloidosisofthecorneacausedbytrichiasis.Opyhalmologia194:77-81,19873)SuesskindD,Auw-HaedrichC,SchorderetDFetal:Keratoepithelininsecondarycornealamyloidosis.Graefe’sArchClinExpOpthalmol244:725-731,20064)YamadaM,NishiyamaT,KonishiMetal:Secondaryamyloidosisinacornealgraft.JpnJOpthalmol46:3053072002214あたらしい眼科Vol.31,No.2,2014(00)