特集●ロービジョンケアあたらしい眼科30(4):471.477,2013特集●ロービジョンケアあたらしい眼科30(4):471.477,2013発達障害児・者のロービジョンケア―視覚の発達に課題(遅延もしくは障害)を抱える子ども・者のロービジョンケア―LowVisionCareforChildrenandAdultswithDevelopmentalDisabilities松久充子*川端秀仁**はじめに日頃,眼科医が診療に際して検査をしているのは,視力・視野・両眼視機能などの視機能である.しかし,行動する(「読む」「書く」「推論する」「運動する」)ためには,見ている対象が何であるかを理解することが必要である.本稿では,見ている対象を正確に捉えて理解するところまでを広い意味での視覚=ビジョンとして述べる.I学習障害とは学習障害は,単に学業不振の状態を指す概念ではなく,発達障害に含まれる疾患である.文部科学省では「基本的には全般的な知的発達に遅れはないが,聞く,話す,読む,書く,計算する又は推論する能力のうち特定のものの習得と使用に著しい困難を示すさまざまな状態を示すものである.学習障害は,その原因として,中枢神経系に何らかの機能障害があると推定されるが,視覚障害,聴覚障害,知的障害,情緒障害などの障害や,環境的な要因が直接的な原因となるものではない」障害と定義している1,2).II発達障害とは発達障害は,医学的には脳性まひや知的障害を含むが,発達障害者支援法(平成17年4月1日施行)では,自閉症,アスペルガー(Asperger)症候群とその他の広汎性発達障害,学習障害,注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するものとしており,発達障害者に対し,その心理機能の適正な発達を支援し,及び円滑な社会生活を促進するために行う発達障害の特性に対応した医療的,福祉的及び教育的援助を発達支援としている.発達障害は中枢神経系の機能障害であるが,その様子や行動から「だらしがない」「わがまま」「怠けている」「躾けが悪い」などの非難・中傷・叱責を受けることが多く,それらによって傷つき,自尊心が失われ,うつや不登校・ひきこもりなどの二次障害に発展する例も少なくない2).発達障害者支援法の精神に則り,教育現場では,障害のある幼児・児童・生徒を支援するために,平成19年4月から特別支援教育が実施された.III学習障害の頻度その実施状況を把握するために,文部科学省は平成24年2月から3月にかけて「通常学級に在籍する発達障害の可能性のある特別な教育支援を必要とする児童生徒に関する調査」を全国(岩手・宮城・福島の3県を除く)の公立小・中学校各6,000校(対象児童生徒数53,882人)を抽出して実施した3).知的発達に遅れはないものの学習面または行動面で著しい困難を示すと担任教員および特別支援教育コーディネーターまたは教頭が提出した回答に基づくものであり,発達障害の専門家チームによる診断や医師による診断によるものではない.その結果,発達障害の可能性のある小・中学生は6.5%*AtsukoMatsuhisa:さくら眼科**HidehitoKawabata:かわばた眼科〔別刷請求先〕松久充子:〒420-0816静岡市葵区沓谷5丁目7-4さくら眼科0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(43)471(男子全体の9.3%,女子3.6%)で,学年が上がるにつれて減少し小1では9.8%,中3では3.2%だった.このうち,「聞く」「話す」「読む」「書く」「計算する」「推論する」などの学習面に著しい困難を示す学習障害(LD)の可能性がある小・中学生は4.5%,「不注意」「多動性衝動性」などの行動面に著しい困難を示す注意欠陥多動性障害(ADHD)は3.1%,対人関係やこだわりなどの行動面に著しい困難を示す高機能広汎性発達障害(PDD)は1.1%にみられ,さらにこれらの障害が重複して学習面と行動面ともに著しい困難を示す児童生徒は1.6%だった.対象の児童生徒のうち58.2%は,教員がより丁寧に教えたり教卓に近い席に座らせたりするなどの支援を受けているが,38.6%はまったく支援されていなかった.校内委員会で支援が必要とされたのは18.4%だが,個々の状況に応じた指導計画を作成されているのは11.7%にとどまった.「読む」「書く」は視機能・視覚のかかわりなくして成立しえない.したがって,学習障害の支援において眼科医として果たすべき役割は重要であるはずだが,これまで眼科医および眼科学校医は当該児童生徒の発達支援に医療的立場からどの程度参加できてきただろうか.視力検査・前眼部の診察だけの定期学校健診に終始して,目の前の児童生徒の視覚による苦労を見過ごしてきたのかもしれない.IV視覚認知とは視覚を認知することとは,外界の情報を取り入れる入力系(視力,屈折,調節機能,眼球運動,両眼視機能など),入力された情報を処理する視覚情報処理系(=狭義の視覚認知:形態,空間位置関係,動きなどを認識する機能),視覚情報を運動機能(読み,書き,目と手の協応など)へ伝える出力系からなる4).視覚システムは,網膜神経節細胞から始まり,外側膝状体,視放線,後頭葉の第一視覚野(V1・有線皮質)を経て,V1より始まりV2,背内側野,V5(MT野)を通過し後頭頂皮質へと向かい,視対象の動きや時空間位置を把握するwhere経路(背側皮質視覚路)と,V1より始まりV2,V4を通過し下側頭皮質へと向かい,色や形態およびその意味を把握するwhat経路(腹側皮質視472あたらしい眼科Vol.30,No.4,2013WhereWhereWhere(togo)(togo)(togo)の経路の経路の経路M-CellM-CellM-CellV3/V3aV2V1図1視覚情報の2つの流れ外側膝状体(LGN),下側頭葉(IT:inferiortemporal),後頭頂葉(PP:posteriorparietal).運動頭頂葉前頭葉側頭葉状体PPcomplex眼外側膝ITcomplexV4V5Whatの経路P-Cell覚路)の2つのチャネルがあることが知られている5)(図1).Where経路は,主として外側膝状体の大細胞(MagnocellularCell:M-Cell)系からの情報を処理し,what経路は,主として小細胞(ParvocellularCell:P-Cell)系からの情報を処理している5).V1を含む視覚領野で,視覚像の輪郭を形成する線分の傾きや色などの要素が細かく分析される.つぎに,対象によって各々の専門領域が存在し,そこで対象の特徴が分析され知覚される.たとえば,顔の分析は右大脳半球の紡錘状回と下側頭回でおもに行われ,風景の分析は両半球の海馬傍回から後頭-側頭境界領域にかけての領域でおもに行われる.この部分は感情を左右する扁桃体に隣接しており顔の分析結果はただちに感情(平穏,安心,不安,快,不快,恐怖などのいずれかの心理状態)に反映される.自閉症では顔の認知を扁桃体から離れて位置する下側頭回で行うという報告もある.これは自閉症児では人の感情把握がむずかしいことを裏付ける証拠とも考えられる.ものの認知は,カテゴリーごとに異なる脳部位で処理されており,文字の分析に関与する脳の領域なども知られている.背側および腹側経路からの情報は前頭葉で統合され,視野全体のなかで今注目するものがどの位置にあり,いかなる形態をしているかを認知し,自らの意思に沿った(44)合目的的な運動を遂行する.LDを含む発達障害では,M-Cell系障害を伴うとする報告が多い4).V学校健診による発見児童生徒の最も身近な存在である眼科学校医は,視覚の発達に課題がある児童生徒を見出すことが第一歩である.眼科健診時には眼球運動の可動域を確認するのではなく,衝動性・追従性眼球運動がスムーズでありかつ各方向への注視を継続できるかどうかに注意して診るべきであろう.後述するNSUCO(NortheasternStateUniversityCollegeofOptometry)OculomotorTest6)を,簡単に実施して明らかな異常と思われる児童生徒については,担任から学習に差し支えるようなことがないかを確認したうえで眼科受診を勧める.さらに,担任には健診前に下記の20項目について,気になる児童生徒のその気になる点を聞き取り,複数の項目に該当する問題点があり視覚の発達に課題があると思われる児童生徒にも眼科受診を勧める.①近くを見るときに顔を近づけたり傾けたり大きく顔や体を動かす②指さしたり提示したりしたものをすばやく見つけられない③音読が苦手,読み飛ばし・繰り返し読み・読んでいる場所がわからなくなる④指でたどりながら読む・形が似た字を読み間違える⑤表の縦や横の列を見誤る⑥黒板を写すのが苦手・遅い⑦文字を書くと形が崩れる,一列に揃わない,マスからはみ出す⑧かな文字・漢字・数字の習得にとても時間がかかる⑨積木やパズルが嫌い・苦手,図形問題が苦手⑩長短・大小の比較が難しい⑪図形や絵を見て描き写すことが苦手⑫地図を読み取るのが苦手⑬定規の目盛が読み取りにくい⑭折り紙・ハサミ・コンパス・定規・分度器が使え(45)ない⑮ピアニカやリコーダーが演奏できない⑯蝶々結び・箸使い・ボタンのはめはずしができない⑰とんでくるボールを受ける・打つのが苦手⑱下り階段や高い遊具への昇降を怖がる⑲ダンスや体操で真似をして体を動かすことが苦手⑳読んで聞かせれば理解できるが,自分で読んで問題を解くことができない7)眼科での検査先に述べたように,これまでこれらの児童生徒のほとんどは眼科を受診しても屈折・調節・両眼視・眼位検査とその診断に基づく治療に終始してきたと思われる.視覚の発達に関する検査を実施しないまま眼科医が異常なしと診断してしまうことは,視覚の発達検査などによる何らかの支援に結びつく可能性を断ち切ることになる.問診や主訴から問題点を把握して,詳細は視覚の検査ができる眼科や発達小児科につなぐことが大切である.1)視力検査では必ず遠見視力と近見視力を測定する.当該症例では遠見視力は良好でも近見視力が不良な例は珍しくない.調節機能の不良な場合は,遠近のピントの切り替え(調節融通性)を調節フリッパーレンズにより測定する調節融通性検査法が優れている(図2)4,8).輻湊開散・眼位(遠見・近見)・両眼視機能(同時視・立体視・融像)・色覚検査は必須である.さらに,必要であれば調節麻痺剤による負荷屈折検査や精密眼底検査・視野検査などを実施する.眼疾患の有無をしっかり調べて対処することが眼科医としての第一であることは言うまでもない.落ち着きがないために待っていられない,検査台に顔を置けない,じっとして検査を受けられない,触れられることが苦手のために眼鏡試験枠をかけさせない,検査光を異常にまぶしがり検査させない,などを理由に十分な検査を受けられずに眼疾患(屈折調節など)が放置されている場合が少なからずみられる.このような場合は,一度にすべての検査を実施しようとせずに複数回に分けて検査をすること,予約制にして待ち時間を減らすこと,同時検査の人数を減らして落ち着いた環境づくりをすること,なるべく顔や眼部に触れない検査を選択あたらしい眼科Vol.30,No.4,2013473おこそふこみつひやろさうけともわはさにむなあいりきねほよゆえせてこさとよおしみくすめまうかちうへわむいほえねろたなてえゆあろわえをさたくへちりことすのくまみちはむおくなゆすはあこむこせわくみねくうとろるえつらすむやへなきせのねまにひやけてへえそいふつひはもうゆてよちのむこかやしくなのれひやとむあちみさよくゆはわりたうのむすにかさもたろらこませやへうるえそふもいたこひすめいふことれはたのよさきうねい図2調節フリッパーレンズによる調節融通性検査法眼前に置いたプラスレンズとマイナスレンズからなる調節フリッパーレンズを交互に反転させながら,視距離30cmに置いた近見視力表を明視する様子を観察する.60秒間で繰り返せる回数のほか,プラス,マイナスどちらでピントが合わせやすいか,合わせにくいかの様子も観察する.ピントの調節不全の場合マイナスレンズが眼前にあるときピント合わせがむずかしく,プラスレンズが眼前にあるときピントは合わせやすい.プラスレンズが眼前にあるときピントが合いにくい場合は調節緊張が疑われる.プラス,マイナスともピント合わせが困難な場合,調節痙攣か,調節反応不良が疑われる.30秒間での繰り返し回数の平均値は片眼では5.6回,両眼では3回程度である4).し,触れる場合は顔や目から遠いところから順番に触れていくこと,先に検査の内容を説明して終わりまでの流れを知らせておくこと,施設や環境に慣れてもらうようになるべく同じスタッフが検査をすること,前回の癖や話題を記録して,検査の手順をなるべく同じにすることなどが大切である.さらに,視覚の発達に課題を抱えると疑われる場合には,下記のような検査を追加する必要がある.2)衝動性・追従性眼球運動検査・NSUCOOculomotorTest6)衝動性眼球運動:子どもから40cm以内の距離に水平方向に20cmほど離した視標を連続5往復して能力・474あたらしい眼科Vol.30,No.4,2013正確さ・頭の動き・体の動きを評価する.追従性眼球運動:子どもから40cm以内の距離に直径20cmの円を描くように時計回りと反時計回りに2周ずつゆっくり動く視標を見つめさせて能力・正確さ・頭の動き・体の動きを評価する.視標を続けて追うことができない,修正が多い,頭や体の動きが多いと不良である.課題を抱える子どもの場合は,見てもすぐに中央に戻してしまう,見続けることが困難,頭が一緒に動くなどの特徴がある.・DEM(DevelopmentalEyeMovement)Test:衝動性眼球運動の正確性を測定する検査近見遠見視写検査:視写には眼球運動,視覚,目と手の協応などが深くかかわっている.文字列を見て書き写す能力を測定することが目的である.タイム,自己修正,はみ出し数をカウントする.視写中の書き写し方(1個ずつ,3個ずつなど),姿勢,鉛筆の持ち方なども観察し記載しておくとよい.3)視覚閉合(部分的に欠けていたり不完全に見えていたりするものでも形状を認識できる能力)・視覚の恒常性(背景が変わったり,位置や大きさが変化しても,同じものであると認識できる能力)・視覚弁別(ものの基本的な特徴,形,大きさ,位置,色などを認識する能力)・図地弁別(対象物と背景を区別できる能力)・視覚的記憶(見たものを記憶し思い出す能力)・目と手の協応(視覚情報と微細協調運動を組み合わせること)・視空間認知(ものや自分自身の,空間の中での位置関係や向きを認識する能力)の検査9)・フロスティッグ視知覚発達検査(DevelopmentalTestofVisualPerception):手と運動の協応,図と地,形の恒常性,空間における位置,空間関係の5つの視知覚技能を測定する.4歳0月.7歳11月の子どもの視知覚上の問題点を発見することを目的とし,日本人の子どもでも標準化されている.日本文化社にて販売され,診療報酬では発達および知能検査(操作が容易なもの)に該当する.・DTVP-2(DevelopmentalTestofVisualPerception2ndedition):フロスティッグ視知覚発達検査のアメリカにおける改訂版であるが,日本では発売されてい(46)ない.4歳0月.10歳11月の子どもの,目と手の協応,空間における位置,模写,図と地,空間関係,視覚形態完成,視覚運動速度,形の恒常性が含まれ,視知覚と視覚運動統合のスキルを評価することができる.奥村らによって日本人の平均値と標準偏差の参考値が出されている7).・DTVP-A(DevelopmentalTestofVisualPerceptionAdolescentandAdult):フロスティッグ視知覚発達検査の11歳0月.74歳11月までを対象とするものだが,日本では販売されていない.4)Wechsler式知能検査(WISC-III,WISC-IV)(発達障害の専門家や発達小児科医にて実施する):全検査IQ(FSIQ),言語性IQ(VIQ),動作性IQ(PIQ)に加えて,言語理解(VC),知覚統合(PO),注意喚起(FD),および処理速度(PS)の指標がある.言語性IQに対して動作性IQが非常に低い場合,かつ処理速度(PS)が低い場合は読字・書字障害が疑われる.5)読字検査:WISC-IIIなどの知能検査でFIQ,VIQ,PIQのいずれかが85以上(正常)であるにもかかわらず読字書字困難を呈している場合は,特異的発達障害の診断・治療のための実践ガイドライン10)に沿った読み書き症状チェック表を確認して7項目以上に陽性の場合は読字検査を実施する.単音連続読み検査(ひらがな50文字を連続音読),単音速読検査(有意味語30個,無意味語30個の連続音読),短文音読検査を実施して異常がある場合は読解力などの検査を実施して診断する.6)聴写検査:「小学生のための読み書きスクリーニング検査」などを用いる11).診断と治療(トレーニングを含む)およびロービジョンケア(発達小児科医・発達支援組織・発達支援教育との連携):(1)屈折異常:強度の近視や遠視,乱視に眼鏡処方をすることは当然であるが,軽度の近視・遠視・乱視であっても視覚の発達に課題を抱える場合は眼鏡処方したい.羞明がある場合は遮光眼鏡も念頭に入れる.しかし,発達障害では眼鏡をかけることがとても我慢できない子どもがいることも理解したい.(2)調節異常:調節不全の場合は眼鏡処方する.調節不良の場合は遠近交互にピントを合わさせるようなトレ(47)ーニングを指導してみる.調節緊張には一般的な点眼加療をする.遮光眼鏡が奏効する場合があることを念頭に入れる.(3)輻湊不良:輻湊トレーニングをする.(4)衝動性・追従性眼球運動および注視の低下:正しく読む,書き写す,列を揃えて書く,ボールを受け止める,階段の昇り降りなどにはとても重要な働きである.さまざまな発達障害に併発していることが多い.眼球を動かすことができないのではなく,見るべきところで的確に止めたり,飛ばしてしっかり見たり,追いかけて見続けたりすることが苦手で,眼球運動制御発達の遅れと思われる.目だけでなく,体の制御も苦手であるためにさらに多動傾向の子どももいる.この結果,手や体と目の協応が低下している.衝動性・追従性眼球運動および注視はトレーニングによる改善が期待できる.器質的疾患を伴わない(=眼振や他の疾患に起因しない)眼球運動不良が改善することは注意関心の制御が可能になっていることの現れであり,同時に多動傾向が改善することはしばしばみられる.トレーニング方法はさまざまな成書12.15)に述べられているが,目の前の視標をとびとびに見たり,ゆっくり動く視標を追って見たり,固視したまま顔を縦横上下左右に動かしたりすることを毎日,数分.10分間継続させる.ランダムに字を読む練習,迷路たどり,ボール・ビー玉ころがし,風船つき,お手玉などのような遊びの延長で楽しくできることを提案したい.トレーニングはややむずかしいことをさせて,進歩したら誉めて達成感をもたせながら徐々に難易度を上げていくことが大切である.(5)形態覚の不良:視覚弁別:形・色・大きさによってものを分類したり,色や形の違うものを例題と同じように並べたり,パズルをしたりする.背中に書いた文字を当てさせる9).図地弁別:「ウォーリーを探せ」のようなゲーム,ジグソーパズル9).(6)空間認知の不良:図形を組み合わせたパターンを写す.点むすび・迷路.決められたように配膳するお手伝い.一緒に洗濯物たたみなどがある.(7)視覚記憶の不良:トランプゲーム,いくつかのもあたらしい眼科Vol.30,No.4,2013475のを並べて見せたあと布で隠して思い出させる.(8)空間構成スキル:同じ場所に片付ける9).(9)目と手・体の協調不良:人のポーズを見て同じ形にする練習,体操など.(10)読字困難:分かち書き,文節ごとのスラッシュ,漢字と違う色でふり仮名をふる,読みやすい方向に変換する.(11)書字困難:教育者や保護者にはひらがな・カタカナを粘土などで立体的に作りながら覚える.ひらがなからカタカナへの変化,漢字への組み合わせ・部首別分類などを指導する.罫線を大きくわかりやすくする.ページのはじめにわかりやすい色を付ける.(12)特異的読字障害,特異的書字障害:学校との連携を図り,学習方法の変更も検討する.検査時には,児童生徒の計画帳や国語算数などのノートを見ることも大切である.黒板を写したもの,ドリルを写したもの,考えて書いたもの,さまざまな特性を如実に表す貴重な診断材料である.専門家によってすでにさまざまな知能検査が終了していることもあるので,保護者の手元にある資料はすべて持参するよう来院前に指示しておくとよい.おわりに診断によって,子どもも保護者も教育者も,また当事者が大人であっても,これまで困難があった原因を知ること,すべてができないのではなく,一部の苦手なことがあるということを知ることは,二次障害に発展することを防ぎ,生きやすくさせることになる.トレーニングによってすべての視覚の発達の課題が解決するものではないが,苦手さを改善することは可能な場合も多い.また,複数の発達課題や他の発達障害を併発していることが多い.発達障害の症状を多く抱える場合には,発達小児科医と連携することが必要である.眼科医だけで発達障害や読み書き障害の診断をすることはむずかしい.発達小児科未受診の場合には,保護者に理解を求め発達小児科にコンサルトすることが大切である.専門家(発達を専門とする医師・視能訓練士・臨床心理士・作業療法士・言語聴覚士・特別支援教育士など)により,それぞれの児のもつ個々の課題に応じてトータ476あたらしい眼科Vol.30,No.4,2013ルなトレーニングや教育がなされるのが理想的である.しかし,発達支援のできる専門家がいる施設がどこにでもあるわけではない.また,あったとしても収容能力は不足している.発達にかかわる施設や指示をすればトレーニングをすることが可能であると思われる関連機関(家庭・民間の支援機関・運動教室・塾・家庭教師)などと地域連携を組み立て活用していくことも一案である.眼科医だけでは決してなしえないことであるが,眼科医抜きでも成立しないことである.さらに,教育機関とも密に連携が必要である.発達支援には支援学校・支援学級・通級指導教室があり,内容は支援学校や支援学級には情緒支援・知的支援があり,通級指導教室には情緒指導・言語指導などがある.発達小児科医の診断と学校・発達支援教育専門家・保護者との話し合いによって,支援の種類・程度を分類している.視覚支援学校はおもに視力・視野障害を対象としており,当該児の支援に取り組んでいるところは少ない.いずれにせよ,支援教育士は不足している.すべての学校には特別支援コーディネーターが配置されているので,課題を抱えている点を診断して対処方法を指示することで,担任が丁寧に指導することや副担任が指導に充てられることもある.担任だけではむずかしいケースでは通級指導や支援級なども検討され,ときにケース会議が開催され指導計画が作成されている.担任や保護者が児童生徒に視覚の発達に課題があることに気が付いていないために,成果のない努力を強いる不適切な指導によって不登校や抜毛症などになって疲れ果てて当院を受診してくる子どもたちを診ると胸が痛む.まず,本疾患を知ってもらう啓発活動から始めなければならない.発達障害児・者のロービジョンケアはこれからの大きな課題であるが,知的能力がありながら活用されないわが国の財産をしっかり育てていくために,眼科医もこの重要な仕事の一端を担うべきである2).文献1)学習障害及びこれに類似する学習上の困難を有する児童生徒の指導方法に関する調査協力者会議(文部省)(1999年7月)(48)2)川端秀仁:眼科医の手引き学習障害と視覚認知.日本の眼科81:875-876,20103)「通常学級に在籍する発達障害の可能性のある特別な教育支援を必要とする児童生徒に関する調査」(文部科学省2012年12月5日)4)川端秀仁:視覚認知に問題のあるLD(LearningDisorders,LearningDisabilities)児への対応.「発達障害,LD,視覚認知,眼科」.日本ロービジョン学会誌10:31-38,20105)FarahMJ:TheCognitiveNeuroscienceofVision.p1-28,Wiley-Blackwell,Oxford,20006)MaplesWC,AtchleyJetal:NortheasternStateUniversityCollegeofOptometry’Oculomotornorms.JBehavOptom3:143-150,19927)奥村智仁,若宮久雄:学習につまずく子どもの見る力.明治図書出版,20108)GriffinJR,GrishamJDetal:BinocularAnomalies3rded.p40-42,Butterworth-Heinemann,Oxford,19959)リサ・A・カーツ,川端秀仁:発達障害の子どもの視知覚認知問題への対処法.東京書籍,201010)稲垣真澄:特異的発達障害診断・治療のための実践ガイドライン.診断と治療社,201011)宇野彰:小学生の読み書きスクリーニング検査.インテルナ出版,201112)奥村智仁:教室・家庭でできる見る力サポート&トレーニング.中央法規出版,201113)北出勝也:学ぶことが大好きになるビジョントレーニング.図書文化社,200914)北出勝也:学ぶことが大好きになるビジョントレーニング2.図書文化社,201215)内藤貴雄:子どもや伸びる魔法のビジョントレーニング.日刊スポーツ出版社,2010(49)あたらしい眼科Vol.30,No.4,2013477