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眼内リンパ腫

2013年3月31日 日曜日

特集●ぶどう膜炎の研究最前線2013あたらしい眼科30(3):337~341,2013特集●ぶどう膜炎の研究最前線2013あたらしい眼科30(3):337~341,2013眼内リンパ腫IntraocularLymphoma岩橋千春*大黒伸行**はじめに眼内悪性リンパ腫には全身の悪性リンパ腫の経過中に眼内に病変を生じる場合と,眼および中枢神経を原発とするリンパ腫があり,眼が初発のリンパ腫を眼原発悪性リンパ腫(primaryintraocularlymphoma:PIOLあるいはprimaryvitreoretinallymphoma:PVRL)とよぶ.眼内悪性リンパ腫は組織学的にはその大部分が非Hodgkinびまん性大細胞型B細胞リンパ腫であり,悪性度がきわめて高い.臨床的にはステロイド薬治療抵抗性のぶどう膜炎,いわゆる仮面症候群(非炎症疾患であるにもかかわらず眼内に細胞浸潤を伴っている病態を呈する症候群)の一つであり,診断に苦慮することが多く,長期間にわたりぶどう膜炎として加療され診断まで時間を要することも多い.仮面症候群はわが国の2009年度の疫学調査では7位(2.5%)を占める疾患であり1),常に難治性ぶどう膜炎の鑑別診断の一つとして考えるべき疾患である.I患者背景わが国での25施設から217の眼内悪性リンパ腫症例(眼原発・中枢神経原発を含む)を集めた報告2)によると,初診時の年齢は63.4歳(35~90歳)であり,男性85人,女性132人と女性に多い傾向であった.平均41.3カ月の観察期間中では148症例が両眼性,69症例が片眼発症であった.初診時の自覚症状は視力低下・霧視が72.4%,飛蚊症が22.1%であった.II眼所見PIOLの臨床所見は網膜下に黄白色の斑状病巣を形成する「眼底型」と,多くの細胞を含むオーロラ状の硝子体混濁を呈する「硝子体型」に大別されるが,両者が混在する場合もある.前眼部所見には辺縁が棘状で粗造な角膜後面沈着物(図1)を伴う前眼部炎症を伴うことがある.1.眼底型黄白色調で比較的境界が鮮明な網膜下の隆起病変(図2)がみられることが多く,光干渉断層計(optical図1棘状の角膜後面沈着物*ChiharuIwahashi:大阪大学大学院医学系研究科眼科学教室**NobuyukiOguro:大阪厚生年金病院眼科〔別刷請求先〕岩橋千春:〒565-0871吹田市山田丘2-2大阪大学大学院医学系研究科眼科学教室0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(51)337 図2網膜への黄白色浸潤病巣図5帯状の硝子体混濁図3図2の黄斑部水平断のOCT図4癒合した網膜病変338あたらしい眼科Vol.30,No.3,2013図6ドーナツ状の硝子体混濁coherencetomography:OCT)では網膜色素上皮下に病変がみられるため,図3に示すように網膜色素上皮(retinalpigmentepithelium:RPE)のラインが不整となる.また,病巣同士が癒合傾向を示す場合もある(図4).進行とともに,網膜出血,硝子体出血,網膜.離を生じることもある.2.硝子体型前部硝子体にやや大きめの細胞の浮遊がみられ,帯状の混濁を示す(図5).全体的な混濁のパターンとして(52) は,周辺の混濁が強く中心部は軽い,いわゆるドーナツ状の混濁を呈し(図6),そのため混濁の割には視力が良いこともPIOLの特徴の一つである.III診断PIOLの診断は硝子体生検が基本である.PIOLは生命予後が悪い疾患であるため,PIOLが疑われる場合には混濁除去による視機能向上を兼ねて早期診断目的で積極的に硝子体手術を行うことが望ましい.なお,臨床像からPIOLを強く疑う場合には,硝子体生検を予定すると同時に頭部MRI(磁気共鳴画像)検査で中枢神経病変の検索を行う.硝子体生検では,術中無灌流下で硝子体を採取し,得られたサンプルを遠心し上清をサイトカイン測定に,沈殿物を細胞診,残りのサンプルを遺伝子再構成の確認に用いる.1.細胞診細胞診は一見中心となる検査であるが,悪性細胞は壊死しやすく,特に酸素分圧の低い硝子体内では選択的に壊死する可能性があり,また硝子体カッターでの硝子体切除時や標本作製時にも腫瘍細胞は壊れやすく,正確な細胞診が困難であることが多い.具体的にはClassIV(細胞学的に強く悪性を疑う)以上が出れば確定診断でよいが,実際にはClassIII以下(細胞学的に悪性を疑うが確定的ではない)であることも多い.ClassIII以下の結果が返ってきた場合には,下記の検査結果や臨床像と併せて診断する.2.サイトカイン測定PIOLでは眼内液中のサイトカインであるインターロイキン(IL)-10/IL-6比が1より大きいことが報告されている3).IL-10はPIOLでは100pg/ml以上であり,正常眼ではIL-10は検出限界以下のことが多いが,ぶどう膜炎などの炎症性眼疾患では軽度上昇することもある.炎症性サイトカインであるIL-6との比が1より大きい,あるいはIL-10が100pg/ml以上であればPIOLと考えられる.(53)表1眼内悪性リンパ腫に対する各検査の陽性率診断法陽性率(%)細胞診44.5IL-10/IL-6>1.091.7遺伝子再構成80.63.PCR法による免疫グロブリンJH遺伝子再構成の検索Polymerasechainreaction(PCR)法による免疫グロブリン遺伝子JH部位の再構成を検索する.リンパ球は多種多様な抗原に対応するために分化,成熟する際に免疫グロブリン,T細胞受容体の遺伝子を組み換えるため,遺伝子再構成検索でモノクローナリティが検出されるとリンパ球の腫瘍性増殖の証となる.眼内悪性リンパ腫症例を対象とした上述のわが国での調査報告によると,上記3検査の陽性率は表1に示すとおりであり,細胞診の陽性率は他の2検査に比べてかなり低い結果であった.また,3つの検査をすべて施行した52症例のうち,すべて陽性であったのは10症例(19.2%)にすぎず,2項目陽性が29症例(55.8%),1項目陽性が11症例(21.2%),すべて陰性が2症例(3.8%,いずれも中枢神経原発の症例である)という結果であり,臨床像と併せての総合的な判断が必要であることがうかがえる.IV治療PIOLの治療の目的は眼内腫瘍の消退を図るとともに,全身病巣出現(特に脳病巣)を予防することである.前者については眼窩への放射線治療あるいはメトトレキサート(MTX)硝子体内投与が選択肢としてある.後者については放射線治療(全脳照射),MTX全身大量投与,MTX髄腔内投与の選択肢があるが,いずれも眼外病巣出現予防に対する有効性について明確に確認した報告はない4).現在のところPIOLに対するエビデンスのある確立された治療プロトコールはなく,治療方針は施設により少しずつ異なる.以下に,大阪大学眼科での治療方針を紹介する.PIOLと診断された場合には,速やかに血液内科と連あたらしい眼科Vol.30,No.3,2013339 携し,頭蓋内造影MRI検査,髄液検査(細胞診)などの全身検索を施行する.原則として70歳未満の症例では,血液内科に依頼してMTXの全身大量投与を行い,脳病巣出現予防に努めている5).ただ,この治療では眼内病巣は消失しないので,後述するMTXあるいはリツキシマブの硝子体内化学療法を行う.70歳以上の症例では,MTX全身投与による白質脳症出現頻度が増加するとの報告があるため,全身投与は避けMTX髄腔内投与とMTXあるいはリツキシマブの硝子体内投与を行う5).PIOLの治療における硝子体内投与の位置づけについては,硝子体内化学療法が眼病変の改善に有効であることはすでに多くの報告があるが,脳病巣出現予防効果については否定的な意見のほうが多い.1.MTX硝子体内化学療法1997年にPIOLの治療にMTXの硝子体内注射が安全かつ有効であることが報告された6).方法は,一般的な硝子体内注射と同様に,結膜.および眼表面を消毒した後に前房水を0.1ml抜き(この前房水のIL-10,IL-6濃度を測定すると治療効果の判定に使える),MTX400μgを眼内灌流液であるオペガードR0.05mlあるいは0.1mlに溶解したものを毛様体扁平部より30ゲージ1/2inch注射針にて硝子体内投与する.導入療法とし週2回1カ月間,強化療法として週1回1カ月間,維持療法として月1回の注射を行う.副作用の一つに角膜上皮図7メトトレキセート硝子体内投与による角膜障害障害があるため(図7),注射施行の際には薬液が眼表面になるべく触れないよう,注射後に眼表面を生理食塩水で洗い流すようにしている.症例によっては角膜障害が重症で投与を中断しないといけないことが多いが,可逆的である.その他,一般的な硝子体内注射の副作用である硝子体出血や網膜.離,感染のリスクなどがある.注射が奏効すると硝子体内のIL-10値は検出限界以下となる.実際,筆者らも第一選択としてMTXの硝子体内投与を行っており良い結果を得ている5).2.リツキシマブ硝子体内化学療法リツキシマブはヒト免疫グロブリンIgGkの定常領域と抗CD20マウスモノクローナル抗体IgG1の可変領域からなるキメラ型抗CD20抗体である.CD20はB細胞の表面抗原であり,リツキシマブはCD20陽性B細胞非Hodgkinリンパ腫に対する標準治療として広く認知されている.筆者らは,MTX硝子体内投与を繰り返し行い角膜障害が顕著となった症例に対し,リツキシマブ硝子体内投与を施行してある程度の効果を得ている7).具体的にはリツキシマブ1mgを硝子体内に週1回,4週連続投与する.副作用としては豚脂様角膜後面沈着物を伴った眼内炎症と一過性眼圧上昇を筆者らは経験している.本治療方法は,MTXに比較して評価が定まっているとは言い難く,今後症例数の積み重ねが必要である.V予後眼内悪性リンパ腫症例を対象とした上述のわが国での調査報告によると,経過を追えた195症例の5年生存率は61.1%であった.また,海外からの報告では,平均生存率は58カ月,原発性中枢神経リンパ腫患者の約15%が眼内にも発症し,一方,眼内悪性リンパ腫の65~90%が中枢神経病変を発症するとされている4).すなわち,眼局所の治療を行っても中枢神経病変の出現を抑制できるわけではなく,MRI撮影によるモニタリングが必要である.PIOLの治療における主たる目的が脳病巣出現予防であることを考えると,現在の治療法は決して満足できるものではなく,脳病巣出現予防のための効340あたらしい眼科Vol.30,No.3,2013(54) 果的治療方法の解明が待たれるところである.文献1)OhguroN,SonodaKH,TakeuchiMetal:Aprospectivemulti-centerepidemiologicsurveyofuveitisinJapan:A2009survey.JpnJOphthalmol56:432-435,20122)KimuraK,UsuiY,GotoHetal:Clinicalfeaturesanddiagnosticsignificanceoftheintraocularfluidof217patientswithintraocularlymphoma.JpnJOphthalmol56:383-389,20123)ChanCC,WhitcupSM,SolomonDetal:Interleukin-10inthevitreousofpatientswithprimaryintraocularlymphoma.AmJOphthalmol120:671-673,19954)CahnCC,RubensteinJL,CouplandSEetal:Primaryvitreoretinallymphoma:areportfromaninternationalprimarycentralnervoussystemlymphomacollaborativegroupsymposium.Oncologist16:1589-1599,20115)SouR,OhguroN,MaedaTetal:Treatmentofprimaryintraocularlymphomawithintravitrealmethotrexate.JpnJOphthalmol52:167-174,20086)FishburmeBC,WilsonDJ,RosenbaumJTetal:Intravitrealmethotrexateasanadjunctivetreatmentofocularlymphoma.ArchOphthalmol115:1152-1156,19977)OhguroN,HashidaN,TanoY:Effectofintravitreousrituximabinjectionsinpatientswithrecurrentocularlesionsassociatedwithcentralnervoussystemlymphoma.ArchOphthalmol126:1002-1003,2008(55)あたらしい眼科Vol.30,No.3,2013341

Behcet病

2013年3月31日 日曜日

特集●ぶどう膜炎の研究最前線2013あたらしい眼科30(3):329.335,2013特集●ぶどう膜炎の研究最前線2013あたらしい眼科30(3):329.335,2013Behcet病Behcet’sDisease蕪城俊克*川島秀俊**はじめにBehcet病は口腔内アフタ,ぶどう膜炎,外陰部潰瘍,皮膚症状を主症状とする原因不明の難治性全身性炎症性疾患である.炎症は急性一過性で,再発を繰り返すことが特徴とされている.Behcet病患者の約70%にぶどう膜炎がみられるが,男性では女性より重症となりやすい.適切な治療を行わないとぶどう膜炎の急性増悪(眼炎症発作)を反復し,徐々に黄斑変性や視神経萎縮となり,不可逆的な視機能障害に至ることが多い.治療としてステロイド薬局所療法に加え,コルヒチン,シクロスポリン内服などが行われてきた.2007年に腫瘍壊死因子(tumornecrosisfactor:TNF)-aに対するモノクローナル抗体製剤であるインフリキシマブ(infliximab:IFX,商品名レミケードR)がわが国で世界に先駆けて認可され,本症に対して著明な効果を示している.IFXの登場でBehcet病の臨床像は大きく変化しつつあるが,本稿ではBehcet病の研究に関する最近の話題について述べる.I病態の免疫学的解析Behcet病の免疫異常については,古くからさまざまな研究がなされており,好中球主体の炎症(前房蓄膿はほとんどが好中球)であること,炎症局所に病原体は検出されないこと,自己抗体が証明されないこと,などがその特徴として知られていた.免疫反応は,大きく抗原非特異的な自然免疫系(マクロファージ,樹状細胞,好中球などが中心となる)と,抗原特異的な獲得免疫系(リンパ球,つまりT細胞やB細胞が中心となる)に分けられる(図1).これまでBehcet病の免疫異常の解析は,リンパ球の分画に関する研究(獲得免疫系の異常の研究)が主流であった.しかし近年,自然免疫系の異常の可能性についても研究がなされている.獲得免疫で特に免疫反応の起点となる重要な細胞はヘルパーT(helperT:Th)細胞である.獲得免疫では,まず抗原に曝露されていないナイーブT細胞が,病原体などを貪食した樹状細胞やマクロファージ(抗原提示細胞)から抗原提示を受け,特定の抗原に特異的に反応する活性化ヘルパーT細胞となる(図1).この活性化ヘルパーT細胞にサブセットとして,以前からinterferon(IFN)-gを産生しぶどう膜炎を増悪させるTh1細胞と,interleukin(IL)-4,IL-10を産生して炎症に抑制的に働くTh2細胞が知られていた.Th1とTh2は互いに抑制しあう関係にあることから,このバランスが炎症反応の方向性を決めていると考えられてきた.実際,活動性のBehcet病ぶどう膜炎患者の末梢血単核球ではTh1細胞が増加している1).しかし,近年IL-17,IL-23を産生し好中球主体の炎症をひき起こすTh17細胞や,IL-10,TGF-bを産生して炎症抑制性に働く免疫抑制性T(regulatoryT:Treg)細胞などの新しいヘルパーT細胞のサブセットが明らかとなり,炎症性疾患の免疫学的機序の解析は複雑になってきている(図1).*ToshikatsuKaburaki:東京大学大学院医学系研究科外科学専攻感覚・運動機能講座眼科学**HidetoshiKawashima:自治医科大学眼科学講座〔別刷請求先〕蕪城俊克:〒113-8655東京都文京区本郷7-3-1東京大学大学院医学系研究科外科学専攻感覚・運動機能講座眼科学0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(43)329 病原体異物樹状細胞マクロファージ病原体を貪食炎症反応炎症性サイトカイン好中球インターフェロンウイルスを攻撃(未熟)T細胞自然免疫獲得免疫抗原を貪食抗原提示Th1細胞Th2細胞IFN-γウイルス,細菌,腫瘍を攻撃,自己免疫反応(細胞性免疫)IL-4,IL-10,IL-13アレルギー反応(液性免疫)Th17細胞IL-17,TNF-α,IL-6,IL-23真菌,細菌を攻撃,自己免疫反応(慢性),好中球主体Cytotoxic/killerT細胞を活性化IL-12IL-4TGF-β(IL-6なし)TGF-β+IL-6Treg細胞IL-10,TGF-βTh1,Th17優位の炎症反応を抑制CD4+CD25+Foxp3+作用B細胞を活性化図1自然免疫と獲得免疫自然免疫では,マクロファージ,樹状細胞,好中球などが中心となり,病原体などの侵入に対して迅速に抗原非特異的な免疫反応を起こす.それに対し,獲得免疫では,マクロファージや樹状細胞から抗原提示を受けて活性化したリンパ球(T細胞やB細胞)が主役となり,抗原特異的な免疫反応を起こす.Chiらは,Behcet病ぶどう膜炎患者の末梢血中で,Th1細胞だけでなくTh17細胞も増加していることを報告した2).さらにBehcet病患者の末梢血では,正常人と比べてTh17/Th1細胞比が有意に上昇していることから,Th1細胞だけではなくTh17細胞もBehcet病の病態形成に重要な役割を担っていると考えられるようになってきている3).これらの結果は,Behcet病が好中球主体の炎症反応であることと辻褄の合うものであり,興味深い(図1).また,免疫抑制性のT細胞分画であるTreg細胞についても報告がなされている.GeriらはBehcet病患者の末梢血ではTh17細胞が増加するのみならず,Treg細胞が減少していること,活動期のBehcet病患者では末梢血中のIL-21濃度やIL-21産生細胞数が非常に増加していることを明らかにした4).同時にinvitroの実験においてIL-21がヒトCD4陽性T細胞をTh1細胞,Th17細胞へと分化誘導すること,Treg細胞への誘導を阻害することも明らかにした4).これらの結果から,Behcet病患者の血清中IL-21はBehcet病の病態形成に重要な役割を担っており,IL-21が新たな治療標的となりうると報告している.また,Sugitaらは,抗TNFa阻害薬であるIFXが,Behcet病患者の末梢血中のTreg細胞数を増加させ5),Th17細胞を減少させる6)ことにより,ぶどう膜炎の再発抑制に働いている可能性を報告している.これら新しいヘルパーT細胞分画の登場で,Behcet病の病態がより詳細に説明できるようになってきているといえる.一方,近年自己免疫,アレルギー,免疫不全などの従来からいわれてきた免疫疾患とは合致しない疾患群として,自己炎症症候群という概念が提唱されている.自己炎症症候群は,原因が明らかではない炎症所見,高力価の自己抗体や自己反応性T細胞が存在しない,先天的な自然免疫の異常,の3項目によって定義付けられる疾患群で,家族性地中海熱(familialmediterraneanfever:FMF)やBlau症候群などが代表疾患とされている.そして,Behcet病が自己炎症症候群のFMFやBlau症候群などと多くの類似点が認められることから,両者の関連性が注目されてきている(表1)7).実際に,Behcet病とFMF,Blau症候群とは,臨床症状,好発地域,発症年齢などで類似点がみられるほか,FMFでは有意にBehcet病の合併率が高いことや,両疾患ともコルヒチンで治療効果が認められることなど類似点が多330あたらしい眼科Vol.30,No.3,2013(44) 表1Behcet病と地中海熱の類似性Behcet病家族性地中海熱Blau症候群発症年齢20.40歳小児期(20歳まで)小児期好発地域地中海.シルクロード沿い地中海沿岸─遺伝形式なし常染色体劣性常染色体優性原因遺伝子直接関与する遺伝子はないMEFVNOD2反復性の発熱ありありなし口腔内アフタ98%.70%なし眼症状65%(ぶどう膜炎)まれぶどう膜炎陰部潰瘍73%まれなし皮膚症状結節性紅斑,毛.炎様皮疹丹毒様皮疹丘疹様紅斑関節症状大関節の単関節炎膝・股の単関節炎.腫瘍関節炎漿膜炎なしありなしコルヒチン治療有効有効おそらく無効い.Behcet病の病態に自然免疫系の異常が関与している可能性も考えられ,現在研究が進められている.II疾患感受性遺伝子Behcet病の発症機序は未だ明確ではないが,シルクロード沿いの国々で頻度が高いこと,HLA(ヒト白血球抗原)-B51陽性者が民族の違いを超えて多いこと,その一方で同じ日系人でもハワイやブラジルへ移住した人からは発症がみられないことから,遺伝性素因に加えて何らかの外的環境要因が作用して発症するものと考えられている.ヒトの疾患の原因を明らかにする方法の一つに,正常人と患者の間での遺伝子の相違を検索する方法があり,ゲノム疫学研究とよばれる.そのなかで近年最もよく用いられている手法に,一塩基多型(singlenucleotidepolymorphism:SNP)の解析用のDNAチップを用いたゲノムワイド関連解析(genome-wideassociationstudy:GWAS)がある.2006年にGWAS用のDNAチップが商品化されてからは,GWAS研究は急速に進展した.2010年にMizukiら8),Remmersら9)によってBehcet病患者のGWAS解析の結果が報告された.Mizukiらの報告では,まず日本人Behcet病患者612人と健常人740人を対象としてGWASが行われ8),その結果の再現性を確認するために,トルコ人Behcet病患者1,215人と健常人1,278人でGWASが行われた9).(45)(文献7より改訂)その結果,既知のとおりまずHLA-B領域(特にHLAB51)にp=1.8×10.26と非常に高いBehcet病との関連性がみられた.一方,HLA領域以外では1番染色体の長腕(1p31.33)と短腕(1q32.1)領域でBehcet病と高い関連性がみられた.前者の領域で最も相関性の高いSNPは,炎症性サイトカインの受容体であるIL-23RとIL-12RB2の間のイントロン領域であった(p=2.7×10.8).後者の領域では炎症抑制性サイトカインであるIL-10遺伝子のプロモーター領域であった(p=8.0×10.8).トルコ人による再現性試験でもまったく同じ結果が得られ,HLA領域,IL-23RまたはIL-12RB2遺伝子,IL-10遺伝子が民族を超えてBehcet病の疾患感受性遺伝子であることが明らかとなった.血液中のヘルパーT細胞(Th)は,免疫反応の司令塔の役割を担い,そのサイトカイン産生パターンよりTh1細胞,Th2細胞,Th17細胞などに分けられる.このうちTh1細胞,Th17細胞は自己免疫疾患の発症・増悪に関与し,Th2細胞はその抑制の役割を担う.今回,Behcet病との関連が明らかとなったIL-12受容体はTh1細胞,IL-23受容体はTh17細胞に発現する遺伝子である.Mizukiらは,これらの受容体の遺伝子変異により,易刺激性が亢進してBehcet病の炎症反応に促進的に働いている可能性を推測している(図2).実際,IL-23R/IL-12RB2遺伝子領域は,炎症性腸疾患,尋常性乾癬,乾癬性関節炎,強直性脊椎炎などとも関連が報告されている.一方,IL-10はおもにTh2細胞があたらしい眼科Vol.30,No.3,2013331 産生する炎症抑制性のサイトカインで,マクロファージター領域のSNP(rs1518111)がAA型の人がBehcetの活性化やナイーブT細胞のTh1細胞への分化増殖を病に多く,このタイプではAG型,GG型の人と比べ有抑制する.Remmersらの報告9)では,IL-10プロモー意に末梢血単核球におけるIL-10産生能が低いことも推定される誘因・レンサ球菌(Streptococcussanguinis)・ウイルス(ヘルペスウイルス)・熱ショック蛋白遺伝学的素因・HLA-B5101・HLA-A26・SNPIL-10・SNPIL-12R-IL23R樹状細胞(未熟)T細胞抗原提示Th1細胞↑Th2細胞IFN-γウイルス,細菌,腫瘍を攻撃,自己免疫反応(細胞性免疫)↑IL-4,IL-10,IL-13アレルギー反応(液性免疫)Th17細胞↑IL-17,TNF-α,IL-6,IL-23真菌,細菌を攻撃,自己免疫反応(慢性),好中球主体の炎症↑Cytotoxic/killerT細胞を活性化↑IL-12IL-4TGF-β(IL-6なし)TGF-β+IL-6Treg細胞IL-10,TGF-βTh1,Th17優位の炎症反応を抑制CD4+CD25+Foxp3+作用B細胞を活性化貪食,抗原提示××IL-12RIL-23R図2現在推定されているBehcet病の病態Behcet病の発症には,HLA-B51などの遺伝性素因に加えて,何らかの外的環境要因(レンサ球菌,熱ショック蛋白など)が作用して発症すると推定されている.近年明らかになったBehcet病の感受性遺伝子であるIL-23R/IL-12RB2遺伝子のうち,IL-12受容体遺伝子はTh1細胞,IL-23受容体遺伝子はTh17細胞に発現している.Behcet病に多い遺伝子変異が,これらの受容体の刺激性を亢進させてTh1,Th17細胞の活性化に働いている可能性がある.また,Behcet病に多いIL-10の遺伝子多型は,IL-10の発現量を低下させるために炎症反応の抑制が働きにくくなり,炎症の増悪に関与すると推測される.表2Behcet病の疾患感受性遺伝子遺伝子HLA-B51HLA-A26IL-23R/IL-12RB2IL-10CPLX1IL1R2STAT4CCR1CCR3IL12AMICA蛋白質HumanleukocyteantigenB51HumanleukocyteantigenA26Interleukin23receptor/interleukin12receptorbeta2Interleukin10Complexin-1Interleukin1receptortype2Signaltransducerandactivatoroftranscription4Chemokine(C-Cmotif)receptor1Chemokine(C-Cmotif)receptor3Interleukin12alphaMHCclassIchain-relatedAオッズ比(信頼区間)3.49(95%CI2.95.4.12)2.50(95%CI1.73.3.62)1.28(95%CI1.18.1.39)1.45(95%CI1.34.1.58)1.16(95%CI1.07.1.27)1.28(95%CI1.14.1.44)1.27(95%CI1.13.1.42)1.40(95%CI1.18.1.66)1.29(95%CI1.15.1.46)1.63(95%CI1.30.2.03)1.69(95%CI1.43.1.99)(文献10より一部改訂)332あたらしい眼科Vol.30,No.3,2013(46) 示された.したがって,このSNPは炎症抑制性サイトカインであるIL-10の発現量を低下させることでBehcet病発症のリスクファクターとなっていると考えられている(図2).Behcet病の疾患感受性遺伝子の研究は現在も継続して行われており,これまでにさまざまな遺伝子が報告されている(表2)10).これらの結果はBehcet病の病態を推測するうえで意義深いものであり,今後さらなる研究の進展に期待したい.IIIインフリキシマブ(IFX)治療Behcet病ぶどう膜炎に対するIFXの臨床試験は,2000年から世界に先駆けてわが国で行われ,眼炎症発作を著明に抑制することが明らかとなった11).その結果を受けて2007年から難治性のBehcet病による網膜ぶどう膜炎に対して保険適用が認められている.現在,わが国のBehcet病患者約16,000人のうち,1,000人程度の患者がIFX治療を受けていると推定されている.Behcet病ぶどう膜炎に対するIFX治療の成績について幾つかの報告がなされている.Yamadaらは,Behcet病ぶどう膜炎患者に対してシクロスポリン治療(20例)またはIFX治療(17例)を半年間以上行った症例について,治療成績を後ろ向きに解析した12).その結果,シクロスポリンでは半年間の眼発作回数が3.3±2.4回から1.2±1.2回に減少したのに対し,IFXでは3.1±2.7回から0.4±1.0回に減少した.この結果は,IFX治療のほうがシクロスポリン治療よりも眼発作抑制効果が高いことを示唆している.Okadaらは,わが国でBehcet病ぶどう膜炎のIFX治療を多く行っている8大学病院での治療成績を報告した13).臨床効果については50症例を対象として検討が行われ,半年間における眼発作回数はIFX導入前には平均2.66回であったのに対し,導入後には0.44回に減少していた(表3).眼発作の重症度についても,IFX導入前には72%の眼発作が中等度から高度であったのに対し,導入後には68%が軽度となり,眼発作の軽症化がみられた.さらに,IFX治療の有効性を規定する因子についての研究もなされている.Sugitaらは,IFXの血液中濃度と臨床効果の関連性を報告した14).IFXを8週ごとに投与している患者20例について,IFX投与直前と投与直後に血液を採取し,IFXの濃度を測定した.その結果,投与直前の血清中IFX濃度が1.0μg/ml以上の症例では,16例中14例で経過中に眼発作は起こらなかったのに対し,IFX濃度が1.0μg/ml未満の症例では,4例中3例で眼発作が起きていた.この結果から,次回のIFX投与直前における血液中IFX濃度(トラフレベル)が1.0μg/ml以上に保たれているかどうかが,ぶどう膜表3インフリキシマブ開始前後の眼発作回数の変化インフリキシマブインフリキシマブインフリキシマブ開始前6カ月間開始後1.6カ月開始後7.12カ月症例数50例50例48例眼発作回数133回(2.66回)22回(0.44回)***38回(0.79回)***眼発作の部位前部16回(0.32回)2回(0.04回)**10回(0.21回)中間部50回(1.00回)7回(0.14回)***14回(0.29回)***後部65回(1.30回)12回(0.24回)***14回(0.29回)***不明2回(0.04回)1回(0.02回)0回(0.00回)眼発作の重症度軽度35回(0.70回)15回(0.30回)*24回(0.50回)中等度56回(1.12回)3回(0.06回)***5回(0.10回)***高度40回(0.80回)4回(0.08回)***9回(0.19回)***不明2回(0.04回)0回(0.00回)0回(0.00回)()内は1例当たりの平均値.*p<0.05,**p<0.01,***p<0.001,Wilcoxon’ssigndranktest.(文献13より要約)(47)あたらしい眼科Vol.30,No.3,2013333 炎のコントロールと関連すると結論付けている.Iwataらは,Behcet病ぶどう膜炎に対しIFX治療と血液中の抗核抗体の関連性を報告した15).17例の患者のうちIFX治療開始前には抗核抗体陽性は1例(6%)のみであったが,治療開始後6カ月で新たに11例(65%)が抗核抗体陽性となり,徐々に抗体価の上昇がみられた.さらにIFX治療開始後に眼発作がみられた5例は全例が抗核抗体陽性患者であった.このことから,血清中の抗核抗体価がIFX治療開始後の眼発作の予測マーカーとなりうる可能性を指摘している.Yoshidaらは,Behcet病ぶどう膜炎に対しIFX治療を開始した後に,眼発作が消失した群と眼発作が残存した群に分けて患者背景の違いを比較検討した16).その結果,IFX治療開始後に眼発作が消失する症例は,ぶどう膜炎発症からIFX開始までの期間が長い症例が多く,開始前の眼発作回数(特に眼底型の眼発作回数)も少ない症例に多かった.このことから,IFX治療により眼発作が完全に消失する症例は,治療開始前から活動性の低いことが原因ではないかと推測している.おわりにBehcet病は,免疫学的な病態解析,疾患感受性遺伝子,および新しい治療法の開発など近年著しく研究が進んだ疾患である.本稿ではその一部を要約して紹介した.長年,失明率の高い難治性疾患であったBehcet病も,IFXの登場でかなりコントロール可能な疾患となってきている.今後さらなる研究の進展や新しい治療の開発に期待したい.文献1)FrassanitoMA,DammaccoR,CafforioPetal:Th1polarizationoftheimmuneresponseinBehcet’sdisease:aputativepathogeneticroleofinterleukin-12.ArthritisRheum42:1967-1974,19992)ChiW,ZhuX,YangPetal:UpregulatedIL-23andIL-17inBehcetpatientswithactiveuveitis.InvestOphthalmolVisSci49:3058-3064,20083)KimJ,ParkJA,LeeEYetal:ImbalanceofTh17toTh1cellsinBehcet’sdisease.ClinExpRheumatol28(4Suppl60):S16-19,20104)GeriG,TerrierB,RosenzwajgMetal:CriticalroleofIL-21inmodulatingTH17andregulatoryTcellsin■用語解説■インフリキシマブ:腫瘍壊死因子(tumornecrosisfac-tor:TNF)-aに対するモノクローナル抗体製剤で,点滴静注で投与する薬剤である.初回投与の後,2週目,6週目,それ以降は8週間隔で投与する.従来の治療に抵抗する難治性のBehcet病ぶどう膜炎に対して2007年に保険適用を受けた.ヘルパーT細胞:T細胞受容体をもつリンパ球(T細胞)のうち,細胞表面にCD4を発現したリンパ球の亜集団.抗原提示細胞から抗原情報を受け取って活性化し,サイトカインを産生して獲得免疫の司令塔的な役割を担う.産生するサイトカインによってTh1,Th2,Th17などのサブグループに細分化される.一塩基多型:同じ民族集団のなかで,ある遺伝子のゲノム塩基配列中に一塩基だけが変異した多様性がみられ,その変異が集団内で1%以上の頻度でみられるとき,これを一塩基多型(singlenucleotidepolymorphism:SNP)とよぶ(1%未満の場合は突然変異とよばれる).SNPはDNAチップなどを用いて一度に大量に判定することができるため,SNPをマーカーとして利用することで,疾患関連遺伝子の染色体上の位置の絞り込みが可能となる.イントロン:DNA配列のうち,転写(DNAからメッセンジャーRNAを合成する段階)はされるが,最終的に機能する転写産物からは除去される塩基配列を指す.つまり,イントロンはアミノ酸配列には翻訳(メッセンジャーRNAの情報に基づいてアミノ酸を合成すること)されない.一方,除去されることなくアミノ酸配列に翻訳される部位をエクソンとよぶ.プロモーター:DNA配列のうち,転写の開始に関与する遺伝子の上流領域を指す.遺伝子の上流のプロモーター領域に転写因子(転写を促進する物質)が結合することによって転写が始まる.Behcetdisease.JAllergyClinImmunol128:655-664,20115)SugitaS,YamadaY,KanekoSetal:InductionofregulatoryTcellsbyinfliximabinBehcet’sdisease.InvestOphthalmolVisSci52:476-484,20116)SugitaS,KawazoeY,ImaiAetal:InhibitionofTh17differentiationbyanti-TNF-alphatherapyinuveitispatientswithBehcet’sdisease.ArthritisResTher14:R99,20127)石ヶ坪良明,寒川整:自己炎症疾患の新しい知見.自己炎症疾患としてのBehcet病.日本臨床免疫学会雑誌34:408-419,20118)MizukiN,MeguroA,OtaMetal:Genome-wideassociationstudiesidentifyIL23R-IL12RB2andIL10asBehcet’sdiseasesusceptibilityloci.NatGenet42:703-706,2010334あたらしい眼科Vol.30,No.3,2013(48) 9)RemmersEF,CosanF,KirinoYetal:Genome-wideassociationstudyidentifiesvariantsintheMHCclassI,IL10,andIL23R-IL12RB2regionsassociatedwithBehcet’sdisease.NatGenet42:698-702,201010)PinetondeChambrunM,WechslerB,GenGetal:NewinsightsintothepathogenesisofBehcet’sdisease.AutoimmunRev11:687-698,201211)OhnoS,NakamuraS,HoriSetal:Efficacy,safety,andpharmacokineticsofmultipleadministrationofinfliximabinBehcet’sdiseasewithrefractoryuveoretinitis.JRheumatol31:1362-1368,200412)YamadaY,SugitaS,TanakaHetal:Comparisonofinfliximabversusciclosporinduringtheinitial6-monthtreatmentperiodinBehcetdisease.BrJOphthalmol94:284-288,201013)OkadaAA,GotoH,OhnoSetal:MulticenterstudyofinfliximabforrefractoryuveoretinitisinBehcetdisease.ArchOphthalmol130:592-598,201214)SugitaS,YamadaY,MochizukiM:RelationshipbetweenseruminfliximablevelsandacuteuveitisattacksinpatientswithBehcetdisease.BrJOphthalmol95:549552,201115)IwataD,NambaK,MizuuchiKetal:CorrelationbetweenelevationofserumantinuclearantibodytiteranddecreasedtherapeuticefficacyinthetreatmentofBehcet’sdiseasewithinfliximab.GraefesArchClinExpOphthalmol250:1081-1087,201216)YoshidaA,KaburakiT,OkinagaKetal:Clinicalbackgroundcomparisonofpatientswithandwithoutocularinflammatoryattacksafterinitiationofinfliximabtherapy.JpnJOphthalmol56:536-543,2012(49)あたらしい眼科Vol.30,No.3,2013335

Vogt-小柳-原田病とぶどう膜炎の新しい画像診断

2013年3月31日 日曜日

特集●ぶどう膜炎の研究最前線2013あたらしい眼科30(3):321.328,2013特集●ぶどう膜炎の研究最前線2013あたらしい眼科30(3):321.328,2013Vogt-小柳-原田病とぶどう膜炎の新しい画像診断NewImagingTechniqueforVogt-Koyanagi-HaradaDiseaseandOtherUveitis山木邦比古*はじめにぶどう膜炎は脈絡膜や網膜色素上皮に病変の主体があるが,これまでの光学機器〔検眼鏡,蛍光眼底撮影,従来のOCT(光干渉断層法)など〕では直接観察困難な部位であるため炎症の存在は推測されるが,その存在を確認することは不可能であった.また,脈絡膜に炎症があれば網膜色素上皮,視細胞にも影響が及ぶことは容易に推測されるが,視細胞の微細な変化を直接捉えることは困難であった.近年開発された光学機器は脈絡膜,条件によっては強膜までを捉えることができるようになり,ぶどう膜に存在すると推定されてきた炎症像を画像として捉えることができる可能性が期待される.また,ぶどう膜に炎症があればこれにより栄養されている網膜視細胞には影響があることが推測されるが,視細胞の微細構築を画像として捉えることも,これまでは不可能であり,ぶどう膜炎を診察することの多い眼科医にとってもどかしい限りであった.I補償光学眼底カメラによるVogt-小柳原田病(VKH)患者,ぶどう膜炎患者の視細胞微細構造補償光学は宇宙空間から地球を偵察するために開発された技術で,地球を取り巻く大気の揺らぎによる画像のぶれを補正し,鮮明な画像を得る技術の応用である.この技術を眼底カメラにコンパクトに収めた眼底カメラが近年実用化された(図1).このカメラでは錐体細胞一つひとつを同定することができるが,一つの画角は4°と狭い(図2).また,中間透光体に強い混濁があると正確な画像を得ることができない.まだ正常コントロールを確定する作業と同時進行で,しかも炎症眼で,鮮明な画像を得るためには制約が多いが,脈絡膜での炎症の影響を一つひとつの錐体細胞レベルで解析が始められている.DistortedlightbeamDeformablemirrorCalculatorWavefrontanalyzer図1実際に使用されている補償光学眼底カメラと基本原理カメラに入射した光は生体眼球の光透過性の不均一(揺らぎ)があるためある程度以上は鮮明とならない.この揺らぎを瞬時に計算し,鏡をこの揺らぎを打ち消すように歪ませ(変形)鮮明な画像を得る.*KunihikoYamaki:日本医科大学千葉北総病院眼科〔別刷請求先〕山木邦比古:〒270-1694印西市鎌苅1715日本医科大学千葉北総病院眼科0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(35)321 SLOAdaptiveoptics2~4μmAdaptiveopticsSLOAdaptiveoptics2~4μmAdaptiveoptics20μm図2Scanninglaserophthalmoscope(SLO)(走査レーザー検眼鏡)とadaptiveoptics(AO)(補償光学)との画像比較SLOでは視細胞一つひとつは観察できないが,AOでは錐体細胞が観察される.1.VKHを含むぶどう膜炎ではフルオレセイン蛍光造影(FA)などで消炎後も視細胞に障害が残存するこれまではVKHでは急性期炎症が消炎すればconvalescentstage(回復期)とされ,FAでも炎症に伴う漏出はみられなくなる.しかし,インドシアニングリーン(ICG)ではこの時期でも脈絡膜に炎症が存在し,ダークスポットとその周囲からのICGの漏出として捉えられることがある.この時期での網膜変化の詳細は把握することが困難であった.補償光学眼底カメラによる定時的観察ではVKH急性炎症消炎後も比較的長期にわたり視細胞数に影響が残ることが明確となった(図3).VKH以外のぶどう膜炎でも同様の変化がみられ,ぶどう膜にある炎症は長期にわたり視細胞に影響を与えることが判明した.2.SweptsourceOCTによるぶどう膜炎病態観察SweptsourceOCTは網膜色素上皮を透過し,脈絡膜まで,一部では強膜まで観察することができる(図4).ぶどう膜にあると推測される炎症の存在は網膜色素上皮にブロックされ,炎症により網膜色素上皮が萎縮,瘢痕化した部位以外通常の眼底検査,FAなどでは十分な情報は得られなかった.SweptsourceOCTは波長1,050nmを用いることにより色素上皮にブロックされることなく色素上皮より後方にある病巣を描出することが可能となった.3.ぶどう膜炎のぶどう膜OCT画像これまでに網膜のOCT画像は多数蓄積され,他の検査との突き合わせも確立しつつある.しかし,脈絡膜のOCT画像についてはまだ蓄積がなく,ICGなどの他の322あたらしい眼科Vol.30,No.3,2013(36) 3週4週10週5カ月錐体細胞密度図3補償光学眼底カメラによる原田病患者視細胞の計時的変化同一患者,同一部位を発症3週間,4週間,10週間,5カ月後に撮影し,桿体細胞密度を計測した.上段は原画,下段は錐体細胞密度を計測し,カラー表示させている.網膜下滲出物が完全に吸収された5カ月後でも錐体細胞密度の低い部分が残存している.図4SweptsourceOCTによる後眼部所見網膜,脈絡膜,強膜まで描出されている.検査や組織像との突き合わせにより,病態の把握を進めなければならない.筆者らのこれまでの蓄積からは炎症の存在様式,存在部位が徐々に判明しつつあるが,確定したものではなく,あくまでも私見であることを念頭においていただきたい.図5VKH急性期OCT所見脈絡膜が肥厚し,びまん性の細胞浸潤と推測される像がみられ,脈絡膜大血管層がこれにより一部圧排されている.4.VKHの脈絡膜変化a.VKH急性期変化急性期変化はこれまでにも報告があるように著明な脈絡膜の肥厚である.肥厚する部位は脈絡膜全層にわたり,部位を特定することは困難であった.これは組織学的にも脈絡膜の固有組織構築がまったく判別不可能なほ(37)あたらしい眼科Vol.30,No.3,2013323 ABABC図7ConvalescentstageでのsweptsourceOCT画像肥厚した脈絡膜に高輝度像が網膜側から強膜側までびまん性にみられ,脈絡膜大血管像が不鮮明となっている.おそらく脈絡膜大血管も炎症性細胞の浸潤により圧排されているものと推測される.また,正常では強膜側に接して存在する脈絡膜大血管層よりも強膜側にもびまん性の高輝度像がみられ,炎症性細胞の浸潤が推測される.網膜色素上皮細胞にも炎症による変化がみられる.324あたらしい眼科Vol.30,No.3,2013図6ConvalescentstageでのFA,ICG所見A,B:FA所見.造影後期となっても蛍光色素の漏出はみられない.C:ICG所見.多数のダークスポットとその周囲からの漏出がみられる.どに肥厚するのによく一致していた.急性期組織所見でみられる無数のリンパ球のびまん性浸潤と細胞の集簇したと推測される形態が描出されているが,組織学的裏付けがなく,さらなるデータの蓄積によって所見を確定しなければならない(図5).また,他のぶどう膜炎でもみられる所見であるが,脈絡膜大血管の拡張はぶどう膜炎時の共通の所見と思われる.b.VKH亜急性期OCT所見急性期(眼病期)の後convalescentstageとなるが,このステージでは炎症は消退期であり,初期ステロイドパルスあるいは大量療法後の減量を行えば良いと考えられていた.しかし,約60%もの患者が夕焼け状眼底に進展することに加え,この時期にやはり眼外症状が出現することとは矛盾すると思われる.まったく炎症がない状態で脈絡膜,網膜色素上皮が萎縮し,夕焼け状眼底に進展するのは論理的にはありえないが,これまでは炎症の存在を確認できなかった.近年ICG検査によりこのステージにも脈絡膜に炎症があり,治療継続の指標として使用することが推奨されつつある(図6).ICG検査が有用な検査であることは論を俟たないが,脈絡膜の炎症を直接画像としてみることはできなかった.この時期で(38) BBDもsweptsourceOCTでは脈絡膜炎,網膜色素上皮に炎症の存在が示され,補償光学眼底カメラによる観察でも錐体数の減少や形態異常が検出される(図3,7).5.視神経乳頭変化VKHでは急性炎症期,亜急性期,炎症の持続する症例では慢性期に及ぶ視神経乳頭の発赤腫脹がみられることが多い.この所見は炎症の存在を示唆するものである図8SweptsourceOCT視神経所見視神経乳頭浮腫がみられ,網膜色素上皮直上視神経周囲に炎症性細胞の集簇と推測される陰影が観察される.強膜貫通部後方にも炎症性細胞が存在すると推測されるが,この画像では特定困難である.AE図9夕焼け状眼底を呈し,長期間経過するが,炎症を繰り返している症例の炎症消退時SD-OCT所見A:通常のSD-OCTでも強膜まで描出できる.脈絡膜はほとんど構築をもたない1枚の紙のように描出される.脈絡膜厚は37μmである.B:同じ症例の前眼部炎症出現時の脈絡膜厚は147mmと炎症消退時に比較して著明な肥厚を示す.C:同じ症例にケナコルトRTenon.内注射を行った3カ月後の脈絡膜厚は61μmに戻った.D:眼底所見.夕焼け状眼底を通りすぎ,むしろ強膜が透見され,白色調をきたしつつある.E:前眼部炎症出現時FA所見.FAでは造影後期となっても蛍光の脈絡膜からの漏出はみられない.しかしSD-OCTでは脈絡膜の肥厚があり,後眼部にも炎症が存在することが推測される.(39)あたらしい眼科Vol.30,No.3,2013325 ことは明らかであるが,視神経所見のみが長期に残存することも多く,その組織像や周囲の組織の炎症との関連などが不明である.臨床的にも他の炎症が消退後も長期間持続する場合の病態をどのように評価するかはいまだ一定の見解がない.それは視神経乳頭の色調,境界の明瞭さなどは個人差が多く,VKH発病前の所見がなければ比較ができないため,また長期間視神経乳頭の発赤腫脹が持続しても徐々に消退していく場合と再発する場合があり区別が困難であったためである.SweptsourceOCTではかなり鮮明に視神経乳頭とその周囲組織の画像を得られる.視神経乳頭の浮腫の程度については鮮明に判定できるが,画像から得られるその他の詳細な所見については現時点では定まったものはない.さらなる症例の蓄積が必要であるが,参考となると思われる所見を示す(図8).6.慢性期,遷延期所見VKH遷延期あるいは慢性期には明らかな炎症の再燃,持続する症例も含め夕焼け状眼底に進展する症例は約60%とされている.これらの症例のうち前眼部や眼底に明らかな炎症が持続する場合は積極的な治療の対象とされてきた.しかし,多くの症例では前眼部の弱い炎症のみが持続し,後眼部には炎症がないように観察される.この時期でもICGではダークスポットとその周囲からの蛍光の漏出がみられ,前眼部に炎症があれば必ず後眼部にも炎症が存在するとされるようになった.前眼部に微弱な炎症があり,夕焼け状眼底が長期間続く症例では,病巣部を的確に捉えれば,この時期ではsweptsourceOCTでなくともspectral-domainOCT(SDOCT)でも炎症の存在が示唆される所見が観察されることも多い.脈絡膜はおおむね萎縮,菲薄化し,固有の組織構築を失い,1枚の菲薄な膜のごとき像を呈している.また,1枚の紙のような脈絡膜でも治療による炎症の消退,再燃に一致して脈絡膜厚が変化する(図9).また,眼底の灰白色斑部は脈絡膜が萎縮し,強膜が網膜に直接接するような像がみられ,萎縮斑のことが多いが,これにDalen-Fuchsと思われる肉芽腫性変化も混じり,眼底検査のみでは判別困難である.夕焼け状眼底と灰白色萎縮斑が多数みられ,荒廃した眼底様像を呈する症例でも比較的強い炎症が持続する場合には脈絡膜は肥厚し,炎症の程度に一致して増減する(図10).前眼部に炎症のあるVKHでは必ず後眼部を含む眼球全体に炎症が存在することがICG所見からすでに得られているが,sweptsourceOCTを含むOCT所見でもこのことが確認された.また,夕焼け状眼底を呈するのは炎症の消退した後の萎縮によるものでありこの時期には炎症は存在しないとされてきたが,sweptsourceOCTでは炎症の存在が示唆された.これらの事実はVKHのこれまでの治療方針を見直さなければならないことを示A図10適切な初期治療が行われず,遷延した症例A:ステロイドパルス,シクロスポリン,免疫抑制薬にも抵抗して炎症が発症以来長期間持続している.このような症例でも炎症が存在すると脈絡膜は肥厚していることがわかる.B:眼底はやはり長期間の炎症持続により夕焼け状眼底を通り越し白色調を帯び,脈絡膜萎縮部位に強膜が白色に透見される.B326あたらしい眼科Vol.30,No.3,2013(40) ABABC図11他病院から転移性脈絡膜腫瘍として紹介された症例A:眼底所見ではいかにも転移性脈絡膜腫瘍と思われる.B:ICG眼底造影.ICGでも腫瘍部に血管陰影は描出されなかった.C:SweptsourceOCT像.SweptsourceOCTでは血管陰影と推唆しているように思える.さらに症例を蓄積し,各病期における治療指針となるようなスタンダードなOCT所見を確立する必要がある.IIVKH以外のぶどう膜炎(ぶどう膜疾患)のsweptsourceOCTと補償光学眼底カメラによる視細胞変化補償光学眼底カメラではMEWS(multipleevanescentwhitedotsyndrome)のwhitedotが検眼鏡的には消失した後にも視細胞数の減少がみられ,障害が持続することが判明した.また,OCTにても病巣が消失したように観察される部位でも網膜色素上皮の障害と脈絡膜での炎症を示唆する所見がみられる.炎症以外のぶどう膜疾患でもsweptsourceOCTは脈絡膜の組織構築を推測可能な像を得られると思われる.たとえば,脈絡膜血管腫では脈絡膜悪性黒色腫や転(41)測される低輝度の集簇がみられる.眼球以外にも良性血管腫があり,経過観察とした.この症例ではsweptsourceOCTが診断の決定に必要であった.移性脈絡膜腫瘍との鑑別などに有用である(図11).おわりに一般にぶどう膜に炎症が存在すればぶどう膜は肥厚する.これは炎症性細胞の脈絡膜への浸潤と炎症性サイトカインによる脈絡膜固有層の浮腫によるものと推測されるが,細胞浸潤と固有組織の浮腫とを鑑別することはいまだ困難である.炎症時には現時点では脈絡膜大血管が腫脹することが原因の如何を問わずみられることが多い.今後症例を蓄積すれば炎症の有無だけでなく,それぞれ固有の疾患に特異的あるいは比較的多い画像の特徴を特定することができるものと期待している.また,これまではぶどう膜炎での網膜への波及は詳細には触れられなかった.今後補償光学眼底カメラによる定時的観察などにより,視機能への影響を考慮した治療も検討できる可能性がある.文献1)HerbortCP,MantovaniA,BouchenakiN:IndocyaninegreenangiographyinVogt-Koyanagi-Haradadisease:angiographicsignsandutilityinpatientfollow-up.IntOphthalmol27:173-182,20072)KnechtPB,MantovaniA,HerbortCP:Indocyaninegreenangiography-guidedmanagementofVogt-Koyanagi-Harあたらしい眼科Vol.30,No.3,2013327 adadisease:differentiationbetweenchoroidalscarsandactivelesions.IntOphthalmol2013Jan1〔Epubaheadofprint〕3)CheeSP,JapA,CheungCM:TheprognosticvalueofangiographyinVogt-Koyanagi-Haradadisease.AmJOphthalmol150:888-893,20104)daSilvaFT,SakataVM,NakashimaAetal:Enhanceddepthimagingopticalcoherencetomographyinlong-standingVogt-Koyanagi-Haradadisease.BrJOphthalmol97:70-74,20135)NakayamaM,KeinoH,OkadaAAetal:EnhanceddepthimagingopticalcoherencetomographyofthechoroidinVogt-Koyanagi-Haradadisease.Retina32:2061-2069,2012328あたらしい眼科Vol.30,No.3,2013(42)

サルコイドーシス

2013年3月31日 日曜日

特集●ぶどう膜炎の研究最前線2013あたらしい眼科30(3):313~319,2013特集●ぶどう膜炎の研究最前線2013あたらしい眼科30(3):313~319,2013サルコイドーシスSarcoidosis高瀬博*江石義信**はじめにサルコイドーシスは全身の複数臓器に非乾酪壊死性の類上皮細胞肉芽腫を形成し,その多くで眼や肺,皮膚などが侵される原因不明の疾患である.サルコイドーシス患者で最も多い罹患臓器は肺であるが,ついで30~60%に両眼性の肉芽腫性ぶどう膜炎を中心とした眼症状を呈することが知られており1~3),わが国のぶどう膜炎の原因として近年最も頻度が高い疾患である4,5).本症はステロイド治療に良好に反応するため視力予後は比較的良好であり,一部には自然治癒例が存在することも事実ではある.しかし,その多くは慢性再発性の経過を辿るため,続発緑内障などによる不可逆的な視覚障害に陥る症例も決して少なくない.また,全身的にも肺線維症や心臓サルコイドーシスなどによる死亡例もあり,サルコイドーシスの正確な診断と長期的な経過観察,適切なステロイド治療を行うことは患者の視力予後,生命予後を守るうえでは大変重要である.しかし,長期にわたるステロイド治療には多くの副作用を伴い,全身投与では耐糖能異常や骨粗鬆症,中心性肥満,局所投与ではステロイド緑内障や白内障などが問題となる.そのため,サルコイドーシスの根本的な原因の解明と治療法の開発が切望されている.本稿では,サルコイドーシスの国際診断基準の作成とその妥当性の評価に関する研究,そしてサルコイドーシスの病態解明のために現在までに行われている研究について概説する.I眼サルコイドーシスの国際診断基準1.眼サルコイドーシス国際診断基準の作成サルコイドーシスは国内のみならず海外諸国でもぶどう膜炎の主要原因疾患であるが,各国での診断基準はさまざまである.サルコイドーシス診断のgoldstandardはいうまでもなく組織学的診断による非乾酪壊死性類上皮細胞肉芽腫の証明であるが,眼内の肉芽腫に対する生検は,その侵襲の高さから通常行われることは少なく,また自覚症状が眼症状のみであるぶどう膜炎患者に対して眼外臓器の組織生検を行うことは容易でない場合も多い.これは医療事情が異なる海外諸国では,よりむずかしい場合が多いといえる.そのため,ぶどう膜炎が主体のサルコイドーシス患者診断のために,臨床所見と検査所見の組み合わせによる,非侵襲的かつ国際的に共通なサルコイドーシス診断基準の作成が望まれた.これに対して,“TheFirstInternationalWorkshoponOcularSarcoidosis”(IWOS)が2006年10月に東京で開催され,眼科医の立場からサルコイドーシスによるぶどう膜炎の国際診断基準について討議が行われた.その結果,サルコイドーシスを示唆する眼所見7項目と全身検査所見5項目があげられ,これらを組み合わせることでDefiniteocularsarcoidosis(OS),PresumedOS,ProbableOS,PossibleOSの4段階に分類する眼サルコイドーシス国際診断基準が提唱された(表1)6).*HiroshiTakase:東京医科歯科大学医歯学総合研究科眼科学**YoshinobuEishi:同人体病理学〔別刷請求先〕高瀬博:〒113-8519東京都文京区湯島1-5-45東京医科歯科大学医歯学総合研究科眼科学0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(27)313 表1眼サルコイドーシスの国際診断基準眼サルコイドーシスを示唆する眼所見1.豚脂様角膜後面沈着物または虹彩結節(Koeppe結節,Busacca結節)2.隅角結節またはテント状周辺虹彩前癒着3.雪玉状または数珠状硝子体混濁4.眼底周辺部の多発性網脈絡膜病巣(活動性または非活動性)5.網膜血管周囲炎,血管周囲結節または網膜動脈瘤6.視神経乳頭肉芽腫または脈絡膜肉芽腫7.両眼罹患眼サルコイドーシスを支持する全身所見1.ツベルクリン反応の陰転化2.血清アンギオテンシン変換酵素(ACE)またはリゾチームの上昇3.胸部X線でBHL陽性4.血清肝酵素の上昇5.胸部X線でBHL陰性症例における,胸部CTでの肺病変の検出眼サルコイドーシスの診断基準と分類1.DefiniteOS:生検陽性かつサルコイドーシスに矛盾しないぶどう膜炎を有する2.PresumedOS:生検未施行,BHL陽性かつサルコイドーシスに矛盾しないぶどう膜炎を有する3.ProbableOS:生検未施行,BHL陰性かつ眼所見3項目と全身所見2項目を満たす4.PossibleOS:生検(TBLB)陰性かつ眼所見4項目と全身所見2項目を満たすOS:ocularsarcoidosis,TBLB:経気管支肺生検,ACE:アンギオテンシン変換酵素,BHL:両側肺門リンパ節腫脹.表2Presumed/PossibleOSに分類された対照患者14名の陽性臨床所見数および検査所見結果ツ反ACEBHL肝酵素BHL診断TBLB陽性眼所見数陰性上昇(胸部X線)異常(胸部CT)Presumed未施行1(両眼罹患)+++.Presumed未施行4+++.Presumed未施行4+++.Presumed未施行2.++.Possible陰性5+.+.Possible陰性4+++.Possible陰性4+++.Possible陰性4+++.Possible陰性4+++.Possible陰性4+.+.Possible陰性5.++.Possible陰性5+…+Possible陰性4+…+Possible陰性4未施行+..+OS:ocularsarcoidosis,TBLB:経気管支肺生検,ACE:アンギオテンシン変換酵素,BHL:両側肺門リンパ節腫脹.2.眼サルコイドーシス国際診断基準の妥当性の検証OSに分類される一方,対照患者として用いたその他のこの診断基準の妥当性について,ぶどう膜炎患者370ぶどう膜炎患者320名のうち4名がPresumedOS,10名(サルコイドーシス組織診断群50名,対照として他名がPossibleOSに分類された.これらを合わせた14のぶどう膜炎患者320名)を対象に検討を行った7).こ名の患者でみられた臨床所見の内訳をみると,胸部単純れらの患者を国際診断基準に当てはめ分類すると,サルX線または胸部CT(コンピュータ断層撮影)によりコイドーシス組織診断群患者50名はすべてDefiniteBHL(両側肺門リンパ節腫脹)が全例で陽性であり,ま314あたらしい眼科Vol.30,No.3,2013(28) 表3国際診断基準で用いられる眼所見および全身所見の診断パラメータ眼所見の眼所見感度特異度PPVNPV診断パラメータ豚脂様角膜後面沈着物,虹彩結節0.5800.7880.2990.923隅角結節,テント状周辺虹彩前癒着0.7600.7310.3060.951雪玉状,数珠状硝子体混濁0.5400.8030.3000.918多発性網脈絡膜病変0.4000.8880.3570.904網膜静脈周囲炎,網膜細動脈瘤0.3800.9380.4870.906視神経乳頭または脈絡膜肉芽腫0.0601.0001.0000.872両眼罹患0.9800.3470.1900.991全身検査所見の全身検査所見感度特異度PPVNPV診断パラメータツ反陰性0.8950.6170.2640.975血清ACE/リゾチーム上昇0.6200.9250.5640.939胸部X線によるBHL陽性0.7200.9200.5900.953肝酵素異常0.0200.9720.1000.864胸部CTによるBHL陽性0.8600.7190.5780.920PPV:陽性的中率,NPV:陰性的中率,ACE:アンギオテンシン変換酵素,BHL:両側肺門リンパ節腫脹.た陽性となった眼所見が両眼罹患のみだった1名を除いた13名はわが国のサルコイドーシス臨床診断群に合致した(表2).つぎに,国際診断基準で用いられた眼所見7項目,全身検査所見5項目のそれぞれについて,サルコイドーシス組織診断群患者における診断パラメータ,すなわち感度,特異度,陽性予測度(PPV),陰性予測度(NPV)を,その他のぶどう膜炎を対照として計算した.その結果,眼所見,全身所見ともにばらつきがみられたものの,総じて高い診断パラメータが得られた(表3).しかし,肝酵素に関しては感度は低く,サルコイドーシス組織診断群とその他のぶどう膜炎の間でその出現頻度に差はなかった(p=0.74).国際診断基準は,眼所見と臨床検査所見の多くで妥当なものと考えられるが,検査項目や分類などに対して今後さらなる改訂を要するものと思われる.現在IWOSによる国際多施設共同研究として,国際診断基準の妥当性を検討する前向き調査が行われており,その結果が待たれる.IIサルコイドーシスの病態と病因に関する研究1.サルコイドーシスの病因探索の歴史サルコイドーシスを特徴付ける最も基本的な病態は,乾酪壊死を伴わない類上皮細胞肉芽腫の存在である.肉(29)芽腫の形成は炎症反応により排除できない起炎物質を局所に封じ込める生体防御機構の一つであるが,サルコイドーシスにおいても何らかの起炎物質を取り込んで増殖したマクロファージがTh1型の免疫反応(用語解説)を展開することで,壊死を伴わずに類上皮細胞や巨細胞に変容し,肉芽腫が形成されていくと考えられている.では,この起因物質とは何であろうか?サルコイドーシスで生じる肉芽腫は,乾酪壊死が生じていないことを除けば結核性の肉芽腫に類似していること,ツベルクリン反応が陰転化することなどから,欧米諸国では古くから結核との関連が疑われていた.しかしサルコイドーシスには感染性はなく,また病変部組織から結核菌が培養されることもない.これに対して,わが国では1970年代に厚生省難病研究班により,サルコイドーシス患者病変部組織に対する徹底的な微生物学的検索が行われた.その結果,唯一分離された微生物がアクネ菌(Propionibacteriumacnes)であった8).一方で結核菌を含む他の細菌,ウイルス,真菌類などはまったく検出されなかったことから,わが国ではアクネ菌がサルコイドーシスの原因細菌として注目を集めることとなった.しかし,その後しばらくの間は,アクネ菌が皮膚常在菌であるためコンタミネーションの可能性を完全に否定できなかったこと,アクネ菌の分離検出に疾患特異性が認められないことなどから,研究に著しい展開はみられなかった.あたらしい眼科Vol.30,No.3,2013315 2.サルコイドーシスの病変局所におけるアクネ菌の同定1999年になり日本人のサルコイドーシス患者のリンパ節生検検体のパラフィン切片の解析において,アクネ菌あるいはアクネ菌と同じ皮膚常在菌であるPropionibacteriumgranulosumのDNAが定量的PCR法(用語解説)により多量に検出された9).またinsituhybridization法(用語解説)によりサルコイドーシスの病変部局所の肉芽腫内部にアクネ菌のDNAが集積して存在することも明らかとなり10),アクネ菌がサルコイドーシスの肉芽腫形成に積極的に関与していることが改めて強く示唆された.一方,サルコイドーシス患者の病変部リンパ節の組織懸濁液をマウスに免疫することで,肉芽腫の内部に存在する未知の起因物質に対する単クローン抗体を作製したところ,この抗体はアクネ菌のみに対して特異的に反応し,結核菌などの他の菌類にはまったく反応しなかったため,これもサルコイドーシス病変部肉芽腫にアクネ菌が関与することを強く示唆するものとなった11).このようにして作製された単クローン抗体の一つで,アクネ菌の菌体細胞膜から細胞壁を貫いて分布する糖脂質抗原(リポタイコ酸)を認識するPAB抗体を用aいてサルコイドーシス患者の各種臓器の生検組織切片に対する免疫染色を行った結果,罹患臓器にかかわらず高い陽性率を示した(表2,図1).これらの結果より,サルコイドーシスの罹患臓器におけるアクネ菌の関与が強く示された.一方,ぶどう膜炎へのアクネ菌の関わりについては,サルコイドーシス患者の硝子体液からPCR法でアクネ菌DNAを検出した報告が1報12)あるのみであり,サルコイドーシスの硝子体混濁を手術で採取したものにPAB抗体を用いた自験例ではこれまでに陽性像は得ら表4サルコイドーシスの各種罹患臓器肉芽腫内でのPAB抗体陽性率臓器採取法総数陽性数陽性率リンパ節生検817188%肺VATZ272074%皮膚生検231983%脾臓手術6583%脳・神経生検66100%心臓切除生検6583%骨格筋生検77100%VATZ:ビデオ補助胸腔鏡手術.b図174歳,女性の皮膚サルコイドーシスの生検標本a:HE染色標本.完成途上にある類上皮細胞肉芽腫が真皮層内に広く分布しており,ところどころで緻密なリンパ球浸潤を伴っている.矢印で示す代表的な類上皮細胞肉芽腫では,辺縁の縁取りが不明瞭でややリンパ球浸潤が目立つ.b:同一部位のPAB抗体免疫染色像.aとまったく同一部位のPAB抗体免疫染色像を示す.大小さまざまな類上皮細胞肉芽腫に対して肉芽腫の周囲および内部に多数のPAB抗体陽性下流が認められる.a矢印で示した肉芽腫と同一部位を矢印で示す.その部位の強拡大像をインセットに示す.大小さまざまのPAB抗体陽性顆粒が肉芽腫細胞内に認められる.肉芽腫中心部ではすでに細胞内消化を受けて陽性強度の減弱した顆粒も散見される.316あたらしい眼科Vol.30,No.3,2013(30) 図2アクネ菌病因説に基づいたサルコイドーシス肉芽腫形成機構細胞内に不顕性感染したアクネ菌は,細胞壁を欠失した冬眠状態で細胞内に潜伏感染する(左).その後なんらかの環境要因を契機として,冬眠状態のアクネ菌が内因性に活性化され,小型円形の感染型アクネ菌として細胞内増殖する(中).この感染型アクネ菌はリンパ・血液を介して全身に拡散し,新たな細胞内感染をひき起こす.しかし,宿主要因として本菌に対するアレルギー素因を有する個体では,感染型アクネ菌の細胞内増殖を契機に過度のTh1型免疫反応が起こり,感染型アクネ菌の拡散防止を目的とした肉芽腫形成が生じるものと考えられる(右).れていない.サルコイドーシスによるぶどう膜炎眼内における肉芽腫・結節が他臓器におけるそれと同一な機序で形成されていることは想像に難くないが,手術により得られる検体が微量であり,網脈絡膜内の肉芽種の採取には大きな侵襲を伴うことなどが,研究の進展を阻んでいるものと考えられる.今後は眼科領域においても,手術法や検体解析法の進歩などによる,ぶどう膜炎におけるアクネ菌の関与についての研究の進展が期待される.3.サルコイドーシスのアクネ菌病因説と治療戦略これまでの研究経緯から,アクネ菌はヒトの末梢肺組織や肺門部リンパ節からも約半数の症例で培養可能であることが明らかとなった13).これはアクネ菌が外部環境から経気道的に生体内に侵入した結果,不顕性感染を生じたものであり,その後何らかの環境要因(ストレス,生活習慣など)を契機に内因性に活性化し細胞内増殖するものと考えられる.宿主要因としてアクネ菌に対するアレルギー素因を有する患者では,アクネ菌の細胞内増殖を契機に感染臓器局所で過度のTh1型免疫反応が起こり,感染型アクネ菌の拡散防止を目的とした肉芽腫形成が生じる(図2).細胞内増殖の際に肉芽腫による封じ込めを逃れたいわゆる感染型アクネ菌は,病変部局所に新たな潜伏感染をひき起こすのみならず,リンパ向性あるいは血行性に全身諸臓器に新たな潜伏感染と,それに続く再度の内因性活性化と肉芽腫形成を生じると考えられ,サルコイドーシスにおけるぶどう膜炎はこの段階で(31)不顕性感染感染型アクネ菌の拡散リンパ向性および血行性外部からの初感染経気道的内因性活性化肺および肺門部リンパ節アレルギー反応潜伏感染細胞内増殖肉芽腫形成心臓,皮膚,眼,肝,脾,骨格筋,中枢神経,その他図3サルコイドーシスのアクネ菌病因説皮膚常在菌であるアクネ菌は,経気道的に肺および肺門部リンパ節に潜伏感染を生じる.これがなんらかの環境要因により感染型アクネ菌となり細胞内増殖を起こすと,アクネ菌にアレルギー素因を有する個体では肉芽腫が形成されると同時に,感染型アクネ菌はリンパ向性および血行性に全身に拡散し,眼や皮膚を中心とした全身諸臓器に新たな細胞内感染および肉芽腫を生じることとなる.生じるものと推察される(図3).サルコイドーシスにおける全身多臓器に生じる病変と,長期にわたり慢性・再発性に生じる病態が,アクネ菌の細胞内増殖と全身への播種により生じるものであると考えた場合,現在行われている治療,すなわちステロイドやメトトレキサート,抗TNF(腫瘍壊死因子)-a製剤を代表とする生物製剤による治療は肉芽腫形成による感染型アクネ菌の封じ込めを阻害することとなり,対症的には炎症を抑制するものの,結果としてはアクネ菌の再活性化による新たな潜伏感染をひき起こす危険性をはらむものとなりうる.したがって,サルコイドーシスあたらしい眼科Vol.30,No.3,2013317 からの完全寛解を目指すためには,細胞内増殖を生じている感染型アクネ菌および細胞内持続感染状態のアクネ菌に対する除菌療法が必要であると考えられる.現在までに,サルコイドーシスに対して抗生物質の内服投与を行った報告は,皮膚や肺病変に対するものが散見されるが,いまだまとまった報告はなく,その効果については定かではない.そのため,今後は多施設による前向きの臨床試験の施行が望まれている.サルコイドーシスにより生じる数ある臓器所見のなかで,眼所見は他の臓器に比べ寛解・増悪の変化が鋭敏に検出されやすいこと,眼内炎症の程度を定量評価しやすい点から,ぶどう膜炎は除菌療法の対象疾患として期待されている.4.サルコイドーシスの病態解明に関わる今後の研究の展望サルコイドーシスの病因に関する国際的に合意の得られた基本的な考え方は,サルコイドーシスは,1)疾患感受性を有する患者が,2)何らかの環境要因を契機に,3)特定の起因物質に曝露されて発症するというものである.このなかで,1970年代からわが国において開始された起因物質の探索は,常在菌であるアクネ菌の特定という形で実を結びつつある.このアクネ菌のサルコイドーシス発症における位置づけを考えるには,いわゆる日和見感染のような従来の感染症の概念とは異なり,その菌体成分に対する過敏性免疫反応を原因として疾病を生じるという新しい内因性感染症の概念を用いる必要がある.これは,感染微生物の関与が疑われながらもいまだに原因が不明のままである他の多くの難治性疾患の原因を追及するうえで,われわれが念頭におくべき重要な考え方であると言えるだろう.サルコイドーシスの発症機構の全容の解明には,さらに患者要因ならびに環境要因について研究が必要である.現在,横浜市立大学を中心に国内多施設から収集したサルコイドーシス患者末梢血に対する疾患感受性遺伝子の網羅的な解析研究が進行中であり,その結果が期待される.おわりにこれまでにサルコイドーシス病変局所におけるアクネ318あたらしい眼科Vol.30,No.3,2013■用語解説■Th1型の免疫反応:生体の防御を司る免疫機構は,抗体を中心とした液性免疫系と,マクロファージなどの貪食細胞やヘルパーT細胞を中心とした細胞性免疫系に大別される.細胞性免疫系は種々の免疫担当細胞による複雑なネットワークを形成しているが,このうちインターフェロンgとよばれる蛋白質(サイトカイン)を産生するヘルパーT細胞はTh1細胞とよばれ,Th1細胞を中心とした免疫反応(Th1型の免疫反応)は外来性抗原(異物,細菌,真菌など)の貪食,除去や,種々の自己免疫性疾患の病態に重要な役割を果たす.サルコイドーシス患者の眼内においても,Th1型の免疫反応の存在が確認されている14,15).定量的PCR法:PCRとはポリメラーゼ鎖反応(polymerasechainreaction)の略であり,生物の遺伝情報を担うDNAのある特定の領域を増幅する手法である.プライマーとよばれる一対の短い核酸断片に挟まれた領域のDNAを,DNA合成酵素を用いて増幅する.このプライマーに蛍光物質を標識すれば増幅されたDNAの量を蛍光強度として検出できるため,PCRにより増幅の対象とするDNAを定量することができる.Insituhybridization法:ある特定のDNAに結合するプローブとよばれる核酸断片を用い,そのDNAの存在を検出する方法はハイブリダイゼーション(hybridization)法とよばれる.この手法を,細胞や組織の病理標本に対して直接用いる方法が,insituhybridization法であり,これにより標的とするDNAの分布を病理標本上で直接調べることができる.菌の解析は欧米諸国における患者検体も含め,国際共同研究として行われているが,これはおもに内科分野のものに限られている.今後,アクネ菌の除菌療法の検討については眼科も大きな役割を担うこととなると思われるが,国際共同研究を行う際に大きな前提となるのは共通の診断基準の存在である.そのため,日本国内でのサルコイドーシスに対する除菌療法のパイロットスタディを開始するとともに,国際診断基準のブラッシュアップを行っていくことが今後の課題である.文献1)CrickRP,HoyleC,SmellieH:TheEyesinSarcoidosis.BrJOphthalmol45:461-481,19612)JabsDA,JohnsCJ:Ocularinvolvementinchronicsarcoi(32) dosis.AmJOphthalmol102:297-301,19863)ObenaufCD,ShawHE,SydnorCFetal:Sarcoidosisanditsophthalmicmanifestations.AmJOphthalmol86:648655,19784)GotoH,MochizukiM,YamakiKetal:EpidemiologicalsurveyofintraocularinflammationinJapan.JpnJOphthalmol51:41-44,20075)OhguroN,SonodaKH,TakeuchiMetal:The2009prospectivemulti-centerepidemiologicsurveyofuveitisinJapan.JpnJOphthalmol56:432-435,20126)HerbortCP,RaoNA,MochizukiM:Internationalcriteriaforthediagnosisofocularsarcoidosis:resultsofthefirstInternationalWorkshopOnOcularSarcoidosis(IWOS).OculImmunolInflamm17:160-169,20097)TakaseH,ShimizuK,YamadaYetal:Validationofinternationalcriteriaforthediagnosisofocularsarcoidosisproposedbythefirstinternationalworkshoponocularsarcoidosis.JpnJOphthalmol54:529-536,20108)AbeC,IwaiK,MikamiRetal:FrequentisolationofPropionibacteriumacnesfromsarcoidosislymphnodes.ZentralblBakteriolMikrobiolHygA256:541-547,19849)IshigeI,UsuiY,TakemuraTetal:QuantitativePCRofmycobacterialandpropionibacterialDNAinlymphnodesofJapanesepatientswithsarcoidosis.Lancet354:120123,199910)YamadaT,EishiY,IkedaSetal:InsitulocalizationofPropionibacteriumacnesDNAinlymphnodesfromsarcoidosispatientsbysignalamplificationwithcatalysedreporterdeposition.JPathol198:541-547,200211)NegiM,TakemuraT,GuzmanJetal:Localizationofpropionibacteriumacnesingranulomassupportsapossibleetiologiclinkbetweensarcoidosisandthebacterium.ModPathol25:1284-1297,201212)YasuharaT,TadaR,NakanoYetal:ThepresenceofPropionibacteriumspp.inthevitreousfluidofuveitispatientswithsarcoidosis.ActaOphthalmolScand83:364369,200513)IshigeI,EishiY,TakemuraTetal:Propionibacteriumacnesisthemostcommonbacteriumcommensalinperipherallungtissueandmediastinallymphnodesfromsubjectswithoutsarcoidosis.SarcoidosisVascDiffuseLungDis22:33-42,200514)TakaseH,FutagamiY,YoshidaTetal:Cytokineprofileinaqueoushumorandseraofpatientswithinfectiousornoninfectiousuveitis.InvestOphthalmolVisSci47:15571561,200615)TakaseH,SugitaS,TaguchiCetal:CapacityofocularinfiltratingThelpertype1cellsofpatientswithnoninfectiousuveitistoproducechemokines.BrJOphthalmol90:765-768,2006(33)あたらしい眼科Vol.30,No.3,2013319

急性網膜壊死

2013年3月31日 日曜日

特集●ぶどう膜炎の研究最前線2013あたらしい眼科30(3):307.312,2013特集●ぶどう膜炎の研究最前線2013あたらしい眼科30(3):307.312,2013急性網膜壊死AcuteRetinalNecrosis奥貫陽子*後藤浩*はじめに急性網膜壊死(acuteretinalnecrosis:ARN)の治療に抗ウイルス薬が使用されるようになって30年余りが経過した.この間,硝子体手術の技術は向上し,ウイルス検出技術の進歩によってより正確に眼内のウイルス感染が診断できるようになり,薬物療法も多くの検討がなされてきた.それに伴いARNの治療成績も年々向上していると期待したいところである.しかし,過去の治療成績を比較したいくつかの報告にあるように,ARNの予後はここ20.30年間あまり変化がないようでもある1,2).世界的にもARNの治療はさらに改善の必要性があると認識されている証拠に,最近も各国から治療法に関するさまざまな研究報告がみられる.本稿では,ARNの基本的事項についてまとめるとともに,最近の研究報告を紹介する.I病因・疫学ARNはVZV(varicellazostervirus)またはHSV(herpessimplexvirus)の眼内局所感染によってひき起こされる網膜ぶどう膜炎である.自験例80例の検討では原因ウイルスとしてVZVが83.8%,HSVが16.3%検出されている3).平均年齢はVZV-ARNでは50.4歳,HSV-ARNでは38.6歳であり,HSV-ARNはVZVARNより若い年齢層に発症していた3).HSVよりVZVの検出頻度が高く,HSV-ARNの平均年齢が低い点は,他の報告でもほぼ共通している.HSV-ARNの原因は1型(HSV-1)と2型(HSV-2)に分けられるが,わが国ではHSV-ARNのほとんどがHSV-2によって生じている.ARNは非常にまれな疾患であるため,発症頻度の報告は数少ないが,わが国の大学病院を対象とした調査では,新患患者に占めるARNの割合は1.3.1.4%であり4,5),英国においては1年間にARNを発症する患者は160.200万人に1人と報告されている6).II初発症状ARNの初発症状は充血(46.9%),霧視(40.7%)が多く,ついで視力低下(16.0%)や眼痛(11.1%)と続く3).充血が初発症状の大きな割合を占め,ときに眼圧上昇をきたす症例もあるため前眼部疾患として加療が開始される症例も多く,注意を要する.さらに,病初期には眼窩蜂巣炎様所見7)や強膜炎様症状8)が顕著となって発症する非典型例があり,診断が困難な場合もある.ヘルペスウイルスは三叉神経節に潜伏感染するため,神経支配領域に一致した強膜や眼窩にも炎症をひき起こすことがその原因と考えられる.III眼所見病初期には豚脂様角膜後面沈着物を伴った虹彩毛様体炎(図1A)を生じ,まれにDescemet膜皺襞を伴うこともある(図1B).やがて網膜周辺部に黄白色顆粒状病変が出現する(図2B)が,病初期の眼底所見は滲出斑が軽微で限局的であるため,無散瞳下での眼底観察では初*YokoOkunuki&HiroshiGoto:東京医科大学眼科学教室〔別刷請求先〕奥貫陽子:〒160-0023東京都新宿区西新宿6-7-1東京医科大学眼科学教室0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(21)307 AAB図1VZV.ARNの2例A:59歳,女性.軽度の前房炎症とともに,わずかに色素を含む角膜後面沈着物を認める.B:40歳,男性.Descemet膜皺襞を伴う前房炎症を認める.ABC期病変を見逃しやすい(図2A).黄白色の滲出斑は急速に癒合,拡大し(図2C),典型例では眼底周辺部のほぼ全周に及ぶ濃厚な黄白色病巣となる(図3).病巣の拡大に伴い硝子体混濁も増悪し,しばしば眼底の詳細な観察図2VZV.ARN(50歳,男性)初診翌日よりバラシクロビルとステロイド薬を全身投与した.A:初診時の眼底後極部.軽度の硝子体混濁,視神経乳頭発赤を認めるが,積極的にARNを疑う所見を認めない.B:初診時の眼底周辺部.黄白色顆粒状病変を認めるが,癒合傾向は明らかではない.矯正視力0.6.C:4日後の眼底.Bとほぼ同じ撮影部位.黄白色の壊死性病変が癒合拡大している.矯正視力0.8.が困難になる.網膜血管は閉塞性血管炎による出血の他,病期の進行に伴って著明に狭小化し,網膜動脈が白線化することもあり(図4),ウイルス感染による網膜障害と免疫反応に加えて,閉塞性血管炎による網膜循環障308あたらしい眼科Vol.30,No.3,2013(22) 図3VZV.ARN(67歳,男性)眼底下方を中心に,円周性に癒合拡大した黄白色の壊死性病変を認める.硝子体混濁のために透見性が低下している.矯正視力0.3.害が視機能低下に拍車をかけていることになる.一般に抗ウイルス薬の投与を開始すると病巣の進展は緩やかになり,2週間程度で停止する.寛解期には壊死に至った網膜は萎縮巣となり硝子体の牽引も加わると多発裂孔を生じるようになる.そのため50.75%の症例で経過中に網膜.離を発症すると報告されており,自験例でも61.3%の症例で網膜.離を生じた3).最終的に視力予後が不良となる原因としては,増殖硝子体網膜症と視神経萎縮が考えられる3).寛解期の症例について,僚眼と比較して罹患眼の乳頭周囲網膜神経線維厚が減少し,視神経乳頭辺縁部の形態異常と乳頭陥凹の拡大がみられたことからも,ARNの視力予後には網膜障害だけではなく視神経障害が関与していることが推測される9).IV診断臨床所見と眼内液からヘルペスウイルスを検出することで診断する.所見の判断には1994年にAmericanUveitisSocietyから発表されたARNの診断基準が参考となる(表1)10).現在は外注検査によるウイルスの検出が広く普及しており,実際には臨床所見と眼内液からのウイルス検出をもって確定診断とすることが多い.具体的には,所見からARNが疑われた時点で前房水を採取(23)図4図3と同一患者の鼻下側拡大写真図3の5日後.網膜動脈は高度に白線化し,強い網膜循環障害を生じていることが推測される.表1急性網膜壊死の臨床所見診断に必須の所見・眼底周辺部の境界鮮明な網膜壊死病変・急速かつ円周性に進行する壊死病変(抗ウイルス療法未施行の場合)・閉塞性血管病変の所見・硝子体および前房中の著明な炎症反応参考所見視神経萎縮,強膜炎,疼痛(文献8に基づく)し,HSVとVZVのPCR(polymerasechainreaction)(可能であれば定量PCR)を行う.外注検査では結果が出るまでに数日を要するため,臨床所見からARNが濃厚に疑われたら結果を待たずに抗ウイルス薬の投与を開始することが多い.疑い例の場合は連日診察を行う.PCRでHSVが検出された場合は再度ウイルス型判別目的のPCRを行い,HSV-1かHSV-2かを確認することもある.初回のPCRでヘルペスウイルスが検出されない場合でも,ARNの疑いが強ければ2.3回検査を繰り返すことで,ほぼ100%ウイルスを検出することができる.抗ウイルス薬投与前と投与後,すなわち硝子体手術施行時に前房水を採取し,両者のウイルス量を比較した自験例の検討では,ウイルス量自体は抗ウイルス薬投与後もほあたらしい眼科Vol.30,No.3,2013309 とんど減少していなかった.この事実からも,抗ウイルス薬投与開始後1.2週の間は眼内のウイルス量に大きな変化はないと推測され,初回が陰性であったとしてもウイルス検出の試みは複数回行うことの意義は大きいと思われる.V薬物療法の実際本症が疑われたらまず速やかに抗ウイルス療法を開始する.抗ウイルス療法としてアシクロビル(ビクロックスR)30mg/kg/日を目安に1日3回に分けて点滴静注する.この用量は血中濃度を基準にしたものであり,血中より眼内移行が悪いことや,HSVよりVZVのアシクロビルに対する感受性が低いことを考慮すると,VZVARNではアシクロビルをさらに増量(45mg/kg/日程度)する場合もある.ただし,まれではあるが本剤によって肝・腎機能障害を生じることがあるので,副作用の有無のモニタリングを定期的に行う必要がある.点滴静注は約2週間継続し,その後はアシクロビルのプロドラッグであるバラシクロビル(バルトレックスR)3,000mg/日の内服を数週間続ける.これは,アシクロビル全身投与によって後発眼の発症が予防できる可能性があること,両眼発症例の後発眼発症時期の多くは2カ月以内で,約70%は1カ月以内であることに基づいている.消炎目的には副腎皮質ステロイド薬(ステロイド薬)を併用する.プレドニゾロン換算で40.80mg/日の点滴静注もしくは内服投与を行い,5.10mg/週のペースで漸減していく.臨床所見からARNがほぼ確実で,かつ硝子体混濁などの炎症所見が強い症例では,抗ウイルス薬とステロイド薬を同時に投与開始するが,疑診例などに対してはまず抗ウイルス薬のみ投与し,所見の反応をみることも大切である.なお,閉塞性網膜血管炎に対して低用量のアスピリン(100mg/日程度)が用いられることもあるが,その効果については議論もある.前眼部炎症に対してはベタメタゾン(リンデロンR)と散瞳薬(ミドリンMRなど)の点眼を使用する.プロドラッグは消化管からの吸収効率が高いため,抗ウイルス薬については内服でもアシクロビル点滴静注と同様の効果が見込まれることから,バラシクロビルやファムシクロビル(ファムビルR:ペンシクロビルのプ310あたらしい眼科Vol.30,No.3,2013ロドラッグ)の内服のみで加療することもあり,比較的良好な結果が報告されている11,12).欧米では,後極に病変が及ぶ症例やアシクロビル全身投与の効果が乏しい症例に対してホスカルネットやガンシクロビル(デノシンR)の硝子体内投与の報告もある13).特にホスカルネットはアシクロビルやガンシクロビルと作用機序が異なるため,アシクロビル耐性が疑われる症例などで効果が期待できるが,腎毒性が強く,高用量の全身投与は行いにくいため硝子体内投与が行われる.しかし,これらの製剤はわが国では後天性免疫不全症候群によるサイトメガトウイルス網膜炎のみが適応であるため,現状ではofflabelの使用となる.VI手術療法ARNに対する手術の主たる目的は網膜.離の治療または予防である.硝子体手術とともに水晶体再建術,輪状締結術,長期滞留ガスまたはシリコーンオイルタンポナーデの併用が必要となることが多い(図5,6).手術が行われる時期は,①後部硝子体.離(PVD)発生前,②PVD発生後,③網膜.離発症後に分けられる.手術時期と術後経過について検討した報告は複数あるが,網膜.離が起こる前に行う予防的硝子体手術の有効性については統一した見解が得られていない.わが国では予防的硝子体手術に優位性がないという報告1,14)や,壊死性病変が中間周辺部を越えない症例に限って有効であったとの報告15)がある.海外では網膜.離発症後の手術より予防的手術を施行した症例のほうが,最終的に増殖硝子体網膜症へ移行した症例が減少し,最終視力が改善したとの報告16)などがある.軽症例では硝子体手術を施行しなくても網膜.離が発生することなく推移する症例もあるため,ある程度重症度を見きわめてから手術時期を検討するべきである.なお,両眼発症例の後発眼は基本的に先発眼より軽症であるため,手術を必要としないことが多い.網膜光凝固の有効性についても議論が分かれるところである.壊死性病変が限局的で手術を必要としない症例については,裂孔が生じても網膜.離に進展しないように病巣周囲を光凝固で囲む処置をしておくことの意義は大きい(図7).逆に,強い壊死性病変を生じ硝子体手術(24) 図5図2と同一症例図6図2と同一症例初診から11日目.眼底下方を中心に癒合した黄白色壊死性病初診から13日目に予防的手術(硝子体切除術および輪状締結変を認める.抗ウイルス薬の投与により所見の改善がみられる術)を施行した.術後5日目.シリコーンオイル下で網膜は復時期であるが,病変部位の網膜は著しく菲薄化し,裂孔を形成位しているが,下方のバックル上の網膜は高度に菲薄化し,裂する可能性が高い.矯正視力0.3.孔を多発している.AB図7HSV.ARN(HSV.2)(26歳,女性)A:壊死性病巣は限局的であったが,菲薄化した網膜に裂孔を生じたため,壊死病巣周囲に網膜光凝固を施行している.B:約1年後.壊死病巣部の裂孔は拡大しているが,網膜.離には至っていない.を必要とする症例については,壊死性病変の後極側に光VII両眼発症例について凝固を2.3列置く考えもあるが,網膜.離の予防に対する有効性は定かではない.一見健常に見える網膜も非両眼発症例の多くは先発眼の発症後3カ月以内に僚眼常に菲薄化していることが多く,凝固斑が新たな裂孔形に発症するが,なかには数年後,あるいは10年以上経成の原因になる可能性もあり,円周性の壊死性病変が存過してから僚眼に発症する例も存在する.自験例の連続在する症例では積極的な適応はないと考えられる.108例のうち,両眼発症例は13例あり,そのうち9例は先発眼発症後2カ月以内に僚眼に発症した.他4例の僚眼発症時期は,先発眼発症後3年半から19年後であ(25)あたらしい眼科Vol.30,No.3,2013311 り17),また20年以上経過してから僚眼に発症した報告もある18).ARNの治療に抗ウイルス薬が適用となる前は約1/3の患者が僚眼にもARNを発症していたが,抗ウイルス薬の導入によって両眼発症例は減少していったものと考えられる.わが国では抗ウイルス薬の全身投与期間は2カ月程度とする報告が多いが,僚眼の発症予防を考慮すれば,抗ウイルス薬の長期投与(14週間以上)も必要であるかもしれない19).実際,欧米では3.4カ月間の投与を基本とする報告が多い.しかし,自験例でも他の報告でも3カ月以降の僚眼発症は頻度が激減するため,あまりに長期にわたる投与は副作用や耐性ウイルスの出現なども危惧されることから,投与の必要性を十分に検討する必要がある.また,機序は不明であるが,後発眼は先発眼より軽症であることがほとんどであり,この傾向は抗ウイルス薬投与期間中に僚眼に発症した早期発症例でも,長期経過した後の僚眼発症例でも同様であるおわりにARNはヘルペスウイルス感染によってひき起こされる疾患であるため,抗ウイルス薬の投与が治療の中心となる疾患であると錯覚しがちであるが,現状では抗ウイルス薬の全身投与と手術療法だけでは満足のいく結果が得られない症例が多く存在する.治療効果をさらに上げるためには,より効果の高い抗ウイルス薬のほか,閉塞性血管炎による網膜循環障害やウイルスに対する免疫反応の十分なコントロールが今後の課題と思われる.文献1)臼井嘉彦,竹内大,山内康之ほか:硝子体手術を施行した急性網膜壊死(桐沢型ぶどう膜炎)52例の検討.日眼会誌114:362-368,20102)TibbettsMD,ShahCP,YoungLHetal:Treatmentofacuteretinalnecrosis.Ophthalmology117:818-824,20103)臼井嘉彦,竹内大,毛塚剛司ほか:東京医科大学における急性網膜壊死(桐沢型ぶどう膜炎)の統計学的観察.眼臨101:297-300,20074)GotoH,MochizukiM,YamakiKetal:EpidemiologicalsurveyofintraocularinflammationinJapan.JpnJOphthalmol51:41-44,20075)OhguroN,SonodaKH,TakeuchiMetal:The2009prospectivemulti-centerepidemiologicsurveyofuveitisinJapan.JpnJOphthalmol56:432-435,20126)MuthiahMN,MichaelidesM,ChildCSetal:Acuteretinalnecrosis:anationalpopulation-basedstudytoassesstheincidence,methodsofdiagnosis,treatmentstrategiesandoutcomesintheUK.BrJOphthalmol91:1452-1455,20077)鈴木潤,臼井嘉彦,坂井潤一ほか:眼窩蜂巣炎様症状を併発した桐沢型ぶどう膜炎の1例.あたらしい眼科27:1307-1309,20108)伊丹彩子,臼井嘉彦,森秀樹ほか:強膜炎症状を呈したため診断に苦慮した単純ヘルベスウイルス2型による急性網膜壊死の1例.眼科53:719-724,20119)臼井嘉彦,毛塚剛司,竹内大ほか:急性網膜壊死患者における網膜神経線維層厚と乳頭形状の検討.あたらしい眼科27:539-543,201010)HollandGN:Standarddiagnosticcriteriafortheacuteretinalnecrosissyndrome.ExecutiveCommitteeoftheAmericanUveitisSociety.AmJOphthalmol117:663667,199411)AizmanA,JohnsonMW,ElnerSG:Treatmentofacuteretinalnecrosissyndromewithoralantiviralmedications.Ophthalmology114:307-312,200712)TaylorSR,HamiltonR,HooperCYetal:Valacyclovirinthetreatmentofacuteretinalnecrosis.BMCOphthalmol12:48,201213)WongR,PavesioCE,LaidlawDAetal:Acuteretinalnecrosis:theeffectsofintravitrealfoscarnetandvirustypeonoutcome.Ophthalmology117:556-560,201014)Iwahashi-ShimaC,AzumiA,OhguroNetal:Acuteretinalnecrosis:factorsassociatedwithanatomicandvisualoutcomes.JpnJOphthalmol57:98-103,201315)IshidaT,SugamotoY,SugitaSetal:Prophylacticvitrectomyforacuteretinalnecrosis.JpnJOphthalmol53:486489,200916)LuoYH,DuanXC,ChenBHetal:Efficacyandnecessityofprophylacticvitrectomyforacuteretinalnecrosissyndrome.IntJOphthalmol5:482-487,201217)OkunukiY,UsuiY,KezukaTetal:Fourcasesofbilateralacuteretinalnecrosiswithalongintervalaftertheinitialonset.BrJOphthalmol95:1251-1254,201118)MartinezJ,LambertHM,CaponeAetal:Delayedbilateralinvolvementintheacuteretinalnecrosissyndrome.AmJOphthalmol113:103-104,199219)JeonS,KakizakiH,LeeWKetal:Effectofprolongedoralacyclovirtreatmentinacuteretinalnecrosis.OculImmunolInflamm20:288-292,2012312あたらしい眼科Vol.30,No.3,2013(26)

制御性T細胞によるぶどう膜炎治療

2013年3月31日 日曜日

特集●ぶどう膜炎の研究最前線2013あたらしい眼科30(3):295.299,2013特集●ぶどう膜炎の研究最前線2013あたらしい眼科30(3):295.299,2013ImmunePrivilegeoftheEye園田康平*はじめに眼は「免疫学的に特権的な(特別な)部位(immuneprivilegedsite)」とされる.内外のストレスに対し,眼は炎症反応が起こりにくい機構を備えている.Immuneprivilegeは,通常の免疫炎症反応が起こってはかえって組織障害・機能障害が強くなるような脆弱な臓器で,その機能を守るために存在する「生理機構」と捉えることができる.眼の他にも脳,精巣などがimmuneprivilegedsiteといわれる.眼のimmuneprivilegeは,永く解剖学的血液-眼バリアによる受動的なものと考えられてきた.しかし,近年は「いくつかの要因により能動的に形成されたもの」と理解されている1).たとえば眼房水は,transforminggrowthfactor-b(TGF-b),a-melanocyte-stimulatinghormone(a-MSH),calcitoningene-relatedpeptide(CGRP)などの免疫抑制性の液性因子を含む2).また,角膜内皮,虹彩色素上皮細胞には恒常的にFasリガンドが存在し,Fas陽性の炎症細胞にアポトーシスを誘導する3).虹彩色素上皮細胞・網膜色素上皮細胞はそれぞれ異なるメカニズムで炎症性リンパ球の活性を抑制する4,5).また,角膜内皮細胞はGITRL(glucocorticoidinducedtumornecrosisfactorreceptorfamily-relatedproteinligand)を介して抑制型Tリンパ球を誘導する6).さらにこうした眼局所機構に加えて,前房関連免疫偏位(anteriorchamberassociatedimmunedeviation:ACAID)といわれる全身免疫寛容(トレランス)機序が存在する.本稿では,眼のimmuneprivilege,特に全身の免疫寛容についての研究成果を紹介する.I眼球関連免疫偏位について眼球に関連した全身免疫寛容としてStreileinらによって前房関連免疫偏位が提唱・確立された7).前房関連免疫偏位は前房内抗原に対して全身の炎症反応が抗原特異的に抑制される現象である.前房中に異物が入ると,まず眼固有抗原提示細胞によって末梢リンパ臓器(脾臓,リンパ節など)に運ばれる.ここで眼由来抗原提示細胞はTリンパ球に対し抗原提示細胞として作用するが,抑制型Tリンパ球を優先的に誘導する.全身レベルで炎症反応そのものの質を変えることで,混入異物に対する眼組織ダメージを最小限に抑制する機構である.前房関連免疫偏位が最もわかりやすい臨床モデルが角膜移植である.移植が手技的に成功した場合,ドナー由来の角膜構成成分がレシピエント前房内に遊出する.前房内にある骨髄由来抗原提示細胞がそれを捕食し,末梢リンパ臓器でドナー抗原に対する抑制型Tリンパ球を誘導する(ドナー抗原に対する前房関連免疫偏位の成立).抑制型Tリンパ球は本来起こるはずの拒絶反応を逆に抑制するため,角膜移植は強力な全身免疫抑制を行わずとも長期生着が可能となる.一方,眼球に関連した免疫偏位は特に前房にはこだわらないと考えるのが自然である.前房と硝子体は細胞成分が少なく光が透過するためにきわめて透明性が高いと*KoheiSonoda:山口大学大学院医学系研究科眼科学〔別刷請求先〕園田康平:〒755-8505宇部市南小串1-1-1山口大学大学院医学系研究科眼科学0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(9)295 いう共通の特徴があり,似たような仕組みが備わっていることが容易に想像できる.Jiangらはアロ抗原を用いた実験系で,硝子体による免疫偏位の存在を報告した8,9).筆者らも可溶性抗原においても同様に免疫偏位が誘導されることを確認し,硝子体腔関連免疫偏位(vitreouscavityassociatedimmunedeviation:VCAID)として報告した10).網膜下に抗原を注入しても,同様の硝子体腔関連免疫偏位前房関連免疫偏位ヒアロサイト脾臓(末梢リンパ臓器)で抑制型Tリンパ球誘導図1眼球関連免疫偏位のメカニズム眼球に存在する異物抗原に対して,免疫寛容が誘導される.異物抗原は眼球固有の抗原提示細胞に捕食され,抗原提示細胞ごと末梢リンパ臓器である脾臓に移動する.脾臓では眼球固有の抗原提示細胞の作用により,抗原特異的抑制型Tリンパ球が優先的に誘導される.前房に局在する抗原提示細胞血流を介して脾臓へ経年変化+炎症さらなる炎症残存硝子体のスポンジ効果で,炎症因子を硝子体腔に貯留→黄斑浮腫等の合併症誘発ぶどう膜炎における硝子体の変化全身免疫偏位を誘導できることも示されている11).前房関連免疫偏位に始まった研究は徐々に眼球全体に拡大され,眼球全体に免疫寛容を誘導する能力が備わっていることから「眼球関連免疫偏位:eyeassociatedimmunedeviation(EyeAID)」というように考えるべきであろう(図1).II眼球関連免疫偏位成立に関与する因子上述のとおり前房関連免疫偏位が存在するおかげで,移植角膜が長期生着する.しかし,手技的に問題のある場合や術前感染症などのハイリスク症例では,強い術後前房炎症によって前房関連免疫偏位機構が阻害される.こうした炎症状態では他臓器移植と同様にドナー角膜に対して拒絶反応が簡単に誘導される.動物実験でも前房中に炎症惹起性のサイトカインであるIL(インターロイキン)-6を注入することで前房関連免疫偏位が停止することが示されている12).既存の前房炎症が角膜移植の成否に密接に関与することを示唆する.近年,ぶどう膜炎患者に対する硝子体手術の適応が拡大している.ぶどう膜炎に伴う硝子体混濁や黄斑浮腫に対しては,ステロイド薬局所治療が基本である.しかし,消炎が図られた後でも(痕跡的に)残った硝子体混濁や,図2炎症眼における硝子体正常眼よりも硝子体は早く変性する.残存硝子体はタンポナーデ効果を失っているのみならず,スポンジ効果で液性炎症因子を眼内にため込み,ぶどう膜炎遷延化の原因となる可能性がある.296あたらしい眼科Vol.30,No.3,2013(10) 眼内炎症性液性因子によって慢性的にもたらされていると考えられる遷延性黄斑浮腫に対しては,いたずらに薬物治療を強化するよりは思い切って硝子体手術に踏み切るほうが賢明である.術後硝子体混濁除去によって視認性が高まるのと同時に,房水のクリアランスが向上するため炎症性液性因子が貯留しにくい眼球構造になり,黄斑浮腫の遷延化を軽減できる可能性が高い(図2).一方で術中網膜裂孔などが形成されると,通常よりも高頻度に増殖硝子体網膜症などの重篤な合併症を起こす危険性も指摘されている.筆者らは術前に存在する炎症によって硝子体腔における眼のimmuneprivilegeが失われている可能性を考えて動物実験を行った10).眼内炎症モデルとしては,IRBP(interphotoreceptorretinoidbindingprotein)で誘導されるマウス実験的自己免疫性ぶどう膜炎を用いた.このぶどう膜炎の経過は詳しく解析されており,炎症は抗原注射後10.16日で最高の強さになるものの以後は自然におさまり,28日後にはほぼ平常状態に戻る.さらに,この方法は眼球に直接触れずに,硝子体に炎症を起こすことができるので,眼球操作によるアーチファクトを排除できる.眼内炎症を起こした状態で抗原として卵アルブミンを硝子体腔に注入すると,炎症が最も強い10.16日目は抗原特異的制御性Tリンパ球を誘導できなかった.一方,炎1,000IL-6*1,000IL-8症が軽度である3日目,7日目,28日目には抗原特異的制御性Tリンパ球を誘導することができた.この結果は,術前炎症眼においては自己炎症制御機構が麻痺しているため,硝子体手術の合併症が起こりやすいことを示唆する.IIIぶどう膜炎とimmuneprivilegeぶどう膜炎(内眼炎)の原因は,自己免疫疾患など全身疾患に合併するものや,細菌・ウイルス・寄生虫感染によるものなどさまざまである.他の部位の炎症と同様,眼局所でのサイトカイン・ケモカイン発現はぶどう膜炎発症に深く関与している.しかし現在のところ,どのようにこれらサイトカイン・ケモカインがネットワークを形成し実際のぶどう膜炎成立にかかわるのか不明な点が多い.実験動物レベルでは急性期炎症やぶどう膜炎発症機序が論じられることが多い.しかし,実際医療機関を受診する患者で,本当に新鮮な眼炎症があることはむしろまれである.ぶどう膜炎は慢性疾患であり幾度も眼炎症発作を繰り返し,慢性的に眼炎症が持続することにより初期の炎症は修飾され,独特の臨床像を呈する.眼発作を繰り返すBehcet病,治療抵抗性の遷延型原田病などが臨床的に問題になる.上記の理由で筆者らは急性期ぶどう膜炎ではなく,上*4,000MCP-1*pg/mlpg/mlpg/mlpg/mlpg/mlpg/mlpg/ml5005002,00000対照群ぶどう膜炎群対照群ぶどう膜炎群0対照群ぶどう膜炎群IFN-gIL-2TNF-a200200200pg/mlpg/ml100100100NDNDNDNDNDND000対照群ぶどう膜炎群対照群ぶどう膜炎群対照群ぶどう膜炎群IL-12IL-4VEGF200200200100100100NDNDNDND000対照群ぶどう膜炎群対照群ぶどう膜炎群対照群ぶどう膜炎群図3慢性期ぶどう膜炎硝子体液での液性因子遷延化ぶどう膜炎群(21例)とコントロール群(黄斑円孔または黄斑上膜,58例)の比較.硝子体手術で得られた検体における液性因子濃度をルミネクスRを用いて測定した.ND:notdetectable(検出できず).(11)あたらしい眼科Vol.30,No.3,2013297 記慢性期炎症にフォーカスをあてた.硝子体腔は前房と比較して眼内液の房水によるターンオーバーが遅い.また,硝子体が存在するため,起炎症分子をトラップし,眼炎症慢性化病態に関与する可能性を考えた.ゆえに慢性期ぶどう膜炎で硝子体手術を行った硝子体液の解析を行った.コントロール群は他に合併症のない黄斑円孔,黄斑上膜とした.手術開始時に硝子体液を採取し,採取した硝子体液を蛍光マイクロビーズアレイシステム(ルミネクスR)を用いて液性因子の濃度を多症例同時測定した13).スクリーニング項目はサイトカイン:11因子(IL-1b,IL-2,IL-4,IL-5,IL-6,IL-10,IL-12,IL-13,IL-15,IFN-g,TNF-a),ケモカイン:7因子(IL-8,eotaxin,IP-10,MCP-1,MIP-1a,MIP-1b,RANTES),増殖因子:5因子(EGF,VEGF,bFGF,G-CSF,GMCSF),計23因子を同時解析した.その結果,当初当然上昇すると考えていたTNF-a,IFN-g,IL-2,IL-4といったリンパ球に作用するサイトカインはほとんど検出されない一方で,IL-6,IL-8,MCP-1といった好中球,マクロファージに作用するサイトカイン・ケモカインの上昇を認めた(図3).また,上述のマウス硝子体腔関連免疫偏位誘導実験において,事前にIL-6の硝子体内注入をすることで抗原特異的制御性Tリンパ球誘導が阻害された10).以上の結果から,ぶどう膜炎患者においてGFP遺伝子導入マウスは,液性因子の観点からも眼のimmuneprivilege機構が破綻していることが裏付けられた.IV抗原提示細胞と眼球関連免疫偏位前房関連免疫偏位においては,抗原を前房内で認識する抗原提示細胞が重要である.前房の抗原提示細胞は,前房中の免疫抑制性サイトカインにより,あらかじめ性質が炎症抑制型に変換されている.これが抗原を認識した状態で抗原血流を介して脾臓へ到達し,抗原特異的な抑制型Tリンパ球を誘導することにより,全身の細胞性免疫が抑制される7).硝子体腔関連免疫変異の場合も,抗原を直接硝子体内に投与する代わりに,あらかじめ抗原に曝露させたマクロファージを硝子体内に投与しておいて,抑制型Tリンパ球の誘導を調べると,抗原を硝子体に入れないにもかかわらず誘導が可能であった10).硝子体腔関連免疫変異も抗原提示細胞を介したもので,かつ抗原提示細胞が正常硝子体環境下に曝露され炎症抑制型に変換される必要があることがわかる.前述のように,硝子体腔注入抗原に対する抑制型Tリンパ球の誘導には,硝子体腔で抗原提示細胞が抗原を認識する必要がある.硝子体腔での抗原提示細胞の候補としては,全身循環をしている血管内のマクロファージなどまたは硝子体内に固有に存在する細胞などが考えら骨髄キメラマウス図4骨髄キメラマウス左:GreenFluorescentProtein(GFP)遺伝子導入マウス.体全体が緑蛍光を発する.右:正常マウスに致死量放射線を照射した後に,GFP遺伝子導入マウス由来の骨髄細胞を移植してキメラマウスを作製する.頭部は眼内放射線障害を予防するためにシールドしているのでもとの黒色毛が残っている.骨髄はすべてGFP遺伝子導入マウス由来のものに置き換わるため,骨髄由来細胞の動向を観察するのに優れたシステムである.298あたらしい眼科Vol.30,No.3,2013(12) れる.そこで,骨髄キメラマウスに抗原を投与した際の,硝子体の細胞の動向を調べた.骨髄キメラマウスは通常のマウスに致死量放射線を照射した後に,GreenFluorescentProtein(GFP)遺伝子導入マウス由来の骨髄細胞を移植して作製する(図4).キメラマウスにおいては以後骨髄由来血球がすべてGFP陽性の緑蛍光を発するため,硝子体腔内に骨髄由来細胞が混入すればGFPをマーカーにして同定することが可能である.キメラマウスにおいては,抗原を硝子体内に投与しても,硝子体腔内に骨髄由来細胞が入ることはなかった7).また,網膜色素上皮細胞や網膜のグリア細胞が硝子体内に流入していく所見もなかった.このことから,硝子体内の抗原認識は硝子体内の固有の細胞により行われている可能性が高い.硝子体内の固有の細胞は広義のヒアロサイトであり,硝子体腔関連免疫偏位における抗原認識および抗原提示を担う細胞候補としてヒアロサイトが考えられた.おわりに眼のimmuneprivilegeは眼の恒常性維持に大きく関与している機構である.眼球関連免疫偏位はさまざまな臨床的意味合いをもつ.眼炎症を見たときに,単に眼局所の要因のみでなく,全身レベルで眼球関連免疫偏位が正常に働けないため眼炎症が起こっている可能性を考える必要がある.文献1)StreileinJW:Immunoregulatorymechanismoftheeye.ProgRetinEyeRes18:357-370,19992)StreileinJW:Immuneprivilegeastheresultoflocaltissuebarriersandimmunosuppressivemicroenvironments.CurrOpinImmunol5:428-432,19933)GriffithTS,BrunnerT,FletcherSMetal:Fasligandinducedapoptosisasamechanismofimmuneprivilege.Science270:1189-1192,19954)SugitaS,StreileinJW:IrispigmentepitheliumexpressingCD86(B7-2)directlysuppressesTcellactivationinvitroviabindingtocytotoxicTlymphocyte-associatedantigen4.JExpMed198:161-171,20035)SugitaS,NgTF,LucasPJetal:B7+irispigmentepitheliuminduceCD8+Tregulatorycells;bothsuppressCTLA-4+Tcells.JImmunol176:118-127,20066)HoriJ,TaniguchiH,WangMetal:GITRligand-mediatedlocalexpansionofregulatoryTcellsandimmuneprivilegeofcornealallografts.InvestOphthalmolVisSci51:6556-6565,20107)StreileinJW:Ocularimmuneprivilege:therapeuticopportunitiesfromanexperimentofnature.NatRevImmunol3:879-889,20038)JiangLQ,JorqueraM,StreileinJW:Subretinalspaceandvitreouscavityasimmunologicallyprivilegedsitesforretinalallografts.InvestOphthalmolVisSci34:3347-3354,19939)JiangLQ,StreileinJW:Immuneprivilegeextendedtoallogeneictumorcellsinthevitreouscavity.InvestOphthalmolVisSci32:224-228,199110)SonodaKH,SakamotoT,QiaoHetal:Theanalysisofsystemictoleranceelicitedbyantigeninoculationintothevitreouscavity:vitreouscavity-associatedimmunedeviation.Immunology116:390-399,200511)WenkelH,StreileinJW:Analysisofimmunedeviationelicitedbyantigensinjectedintothesubretinalspace.InvestOphthalmolVisSci39:1823-1834,199812)OhtaK,YamagamiS,TaylorAWetal:IL-6antagonizesTGF-betaandabolishesimmuneprivilegeineyeswithendotoxin-induceduveitis.InvestOphthalmolVisSci41:2591-2599,200013)YoshimuraT,SonodaKH,OhguroNetal:InvolvementofTh17cellsandtheeffectofanti-IL-6therapyinautoimmuneuveitis.Rheumatology48:347-354,2009(13)あたらしい眼科Vol.30,No.3,2013299

Immune Privilege of the Eye

2013年3月31日 日曜日

特集●ぶどう膜炎の研究最前線2013あたらしい眼科30(3):295.299,2013特集●ぶどう膜炎の研究最前線2013あたらしい眼科30(3):295.299,2013ImmunePrivilegeoftheEye園田康平*はじめに眼は「免疫学的に特権的な(特別な)部位(immuneprivilegedsite)」とされる.内外のストレスに対し,眼は炎症反応が起こりにくい機構を備えている.Immuneprivilegeは,通常の免疫炎症反応が起こってはかえって組織障害・機能障害が強くなるような脆弱な臓器で,その機能を守るために存在する「生理機構」と捉えることができる.眼の他にも脳,精巣などがimmuneprivilegedsiteといわれる.眼のimmuneprivilegeは,永く解剖学的血液-眼バリアによる受動的なものと考えられてきた.しかし,近年は「いくつかの要因により能動的に形成されたもの」と理解されている1).たとえば眼房水は,transforminggrowthfactor-b(TGF-b),a-melanocyte-stimulatinghormone(a-MSH),calcitoningene-relatedpeptide(CGRP)などの免疫抑制性の液性因子を含む2).また,角膜内皮,虹彩色素上皮細胞には恒常的にFasリガンドが存在し,Fas陽性の炎症細胞にアポトーシスを誘導する3).虹彩色素上皮細胞・網膜色素上皮細胞はそれぞれ異なるメカニズムで炎症性リンパ球の活性を抑制する4,5).また,角膜内皮細胞はGITRL(glucocorticoidinducedtumornecrosisfactorreceptorfamily-relatedproteinligand)を介して抑制型Tリンパ球を誘導する6).さらにこうした眼局所機構に加えて,前房関連免疫偏位(anteriorchamberassociatedimmunedeviation:ACAID)といわれる全身免疫寛容(トレランス)機序が存在する.本稿では,眼のimmuneprivilege,特に全身の免疫寛容についての研究成果を紹介する.I眼球関連免疫偏位について眼球に関連した全身免疫寛容としてStreileinらによって前房関連免疫偏位が提唱・確立された7).前房関連免疫偏位は前房内抗原に対して全身の炎症反応が抗原特異的に抑制される現象である.前房中に異物が入ると,まず眼固有抗原提示細胞によって末梢リンパ臓器(脾臓,リンパ節など)に運ばれる.ここで眼由来抗原提示細胞はTリンパ球に対し抗原提示細胞として作用するが,抑制型Tリンパ球を優先的に誘導する.全身レベルで炎症反応そのものの質を変えることで,混入異物に対する眼組織ダメージを最小限に抑制する機構である.前房関連免疫偏位が最もわかりやすい臨床モデルが角膜移植である.移植が手技的に成功した場合,ドナー由来の角膜構成成分がレシピエント前房内に遊出する.前房内にある骨髄由来抗原提示細胞がそれを捕食し,末梢リンパ臓器でドナー抗原に対する抑制型Tリンパ球を誘導する(ドナー抗原に対する前房関連免疫偏位の成立).抑制型Tリンパ球は本来起こるはずの拒絶反応を逆に抑制するため,角膜移植は強力な全身免疫抑制を行わずとも長期生着が可能となる.一方,眼球に関連した免疫偏位は特に前房にはこだわらないと考えるのが自然である.前房と硝子体は細胞成分が少なく光が透過するためにきわめて透明性が高いと*KoheiSonoda:山口大学大学院医学系研究科眼科学〔別刷請求先〕園田康平:〒755-8505宇部市南小串1-1-1山口大学大学院医学系研究科眼科学0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(9)295 いう共通の特徴があり,似たような仕組みが備わっていることが容易に想像できる.Jiangらはアロ抗原を用いた実験系で,硝子体による免疫偏位の存在を報告した8,9).筆者らも可溶性抗原においても同様に免疫偏位が誘導されることを確認し,硝子体腔関連免疫偏位(vitreouscavityassociatedimmunedeviation:VCAID)として報告した10).網膜下に抗原を注入しても,同様の硝子体腔関連免疫偏位前房関連免疫偏位ヒアロサイト脾臓(末梢リンパ臓器)で抑制型Tリンパ球誘導図1眼球関連免疫偏位のメカニズム眼球に存在する異物抗原に対して,免疫寛容が誘導される.異物抗原は眼球固有の抗原提示細胞に捕食され,抗原提示細胞ごと末梢リンパ臓器である脾臓に移動する.脾臓では眼球固有の抗原提示細胞の作用により,抗原特異的抑制型Tリンパ球が優先的に誘導される.前房に局在する抗原提示細胞血流を介して脾臓へ経年変化+炎症さらなる炎症残存硝子体のスポンジ効果で,炎症因子を硝子体腔に貯留→黄斑浮腫等の合併症誘発ぶどう膜炎における硝子体の変化全身免疫偏位を誘導できることも示されている11).前房関連免疫偏位に始まった研究は徐々に眼球全体に拡大され,眼球全体に免疫寛容を誘導する能力が備わっていることから「眼球関連免疫偏位:eyeassociatedimmunedeviation(EyeAID)」というように考えるべきであろう(図1).II眼球関連免疫偏位成立に関与する因子上述のとおり前房関連免疫偏位が存在するおかげで,移植角膜が長期生着する.しかし,手技的に問題のある場合や術前感染症などのハイリスク症例では,強い術後前房炎症によって前房関連免疫偏位機構が阻害される.こうした炎症状態では他臓器移植と同様にドナー角膜に対して拒絶反応が簡単に誘導される.動物実験でも前房中に炎症惹起性のサイトカインであるIL(インターロイキン)-6を注入することで前房関連免疫偏位が停止することが示されている12).既存の前房炎症が角膜移植の成否に密接に関与することを示唆する.近年,ぶどう膜炎患者に対する硝子体手術の適応が拡大している.ぶどう膜炎に伴う硝子体混濁や黄斑浮腫に対しては,ステロイド薬局所治療が基本である.しかし,消炎が図られた後でも(痕跡的に)残った硝子体混濁や,図2炎症眼における硝子体正常眼よりも硝子体は早く変性する.残存硝子体はタンポナーデ効果を失っているのみならず,スポンジ効果で液性炎症因子を眼内にため込み,ぶどう膜炎遷延化の原因となる可能性がある.296あたらしい眼科Vol.30,No.3,2013(10) 眼内炎症性液性因子によって慢性的にもたらされていると考えられる遷延性黄斑浮腫に対しては,いたずらに薬物治療を強化するよりは思い切って硝子体手術に踏み切るほうが賢明である.術後硝子体混濁除去によって視認性が高まるのと同時に,房水のクリアランスが向上するため炎症性液性因子が貯留しにくい眼球構造になり,黄斑浮腫の遷延化を軽減できる可能性が高い(図2).一方で術中網膜裂孔などが形成されると,通常よりも高頻度に増殖硝子体網膜症などの重篤な合併症を起こす危険性も指摘されている.筆者らは術前に存在する炎症によって硝子体腔における眼のimmuneprivilegeが失われている可能性を考えて動物実験を行った10).眼内炎症モデルとしては,IRBP(interphotoreceptorretinoidbindingprotein)で誘導されるマウス実験的自己免疫性ぶどう膜炎を用いた.このぶどう膜炎の経過は詳しく解析されており,炎症は抗原注射後10.16日で最高の強さになるものの以後は自然におさまり,28日後にはほぼ平常状態に戻る.さらに,この方法は眼球に直接触れずに,硝子体に炎症を起こすことができるので,眼球操作によるアーチファクトを排除できる.眼内炎症を起こした状態で抗原として卵アルブミンを硝子体腔に注入すると,炎症が最も強い10.16日目は抗原特異的制御性Tリンパ球を誘導できなかった.一方,炎1,000IL-6*1,000IL-8症が軽度である3日目,7日目,28日目には抗原特異的制御性Tリンパ球を誘導することができた.この結果は,術前炎症眼においては自己炎症制御機構が麻痺しているため,硝子体手術の合併症が起こりやすいことを示唆する.IIIぶどう膜炎とimmuneprivilegeぶどう膜炎(内眼炎)の原因は,自己免疫疾患など全身疾患に合併するものや,細菌・ウイルス・寄生虫感染によるものなどさまざまである.他の部位の炎症と同様,眼局所でのサイトカイン・ケモカイン発現はぶどう膜炎発症に深く関与している.しかし現在のところ,どのようにこれらサイトカイン・ケモカインがネットワークを形成し実際のぶどう膜炎成立にかかわるのか不明な点が多い.実験動物レベルでは急性期炎症やぶどう膜炎発症機序が論じられることが多い.しかし,実際医療機関を受診する患者で,本当に新鮮な眼炎症があることはむしろまれである.ぶどう膜炎は慢性疾患であり幾度も眼炎症発作を繰り返し,慢性的に眼炎症が持続することにより初期の炎症は修飾され,独特の臨床像を呈する.眼発作を繰り返すBehcet病,治療抵抗性の遷延型原田病などが臨床的に問題になる.上記の理由で筆者らは急性期ぶどう膜炎ではなく,上*4,000MCP-1*pg/mlpg/mlpg/mlpg/mlpg/mlpg/mlpg/ml5005002,00000対照群ぶどう膜炎群対照群ぶどう膜炎群0対照群ぶどう膜炎群IFN-gIL-2TNF-a200200200pg/mlpg/ml100100100NDNDNDNDNDND000対照群ぶどう膜炎群対照群ぶどう膜炎群対照群ぶどう膜炎群IL-12IL-4VEGF200200200100100100NDNDNDND000対照群ぶどう膜炎群対照群ぶどう膜炎群対照群ぶどう膜炎群図3慢性期ぶどう膜炎硝子体液での液性因子遷延化ぶどう膜炎群(21例)とコントロール群(黄斑円孔または黄斑上膜,58例)の比較.硝子体手術で得られた検体における液性因子濃度をルミネクスRを用いて測定した.ND:notdetectable(検出できず).(11)あたらしい眼科Vol.30,No.3,2013297 記慢性期炎症にフォーカスをあてた.硝子体腔は前房と比較して眼内液の房水によるターンオーバーが遅い.また,硝子体が存在するため,起炎症分子をトラップし,眼炎症慢性化病態に関与する可能性を考えた.ゆえに慢性期ぶどう膜炎で硝子体手術を行った硝子体液の解析を行った.コントロール群は他に合併症のない黄斑円孔,黄斑上膜とした.手術開始時に硝子体液を採取し,採取した硝子体液を蛍光マイクロビーズアレイシステム(ルミネクスR)を用いて液性因子の濃度を多症例同時測定した13).スクリーニング項目はサイトカイン:11因子(IL-1b,IL-2,IL-4,IL-5,IL-6,IL-10,IL-12,IL-13,IL-15,IFN-g,TNF-a),ケモカイン:7因子(IL-8,eotaxin,IP-10,MCP-1,MIP-1a,MIP-1b,RANTES),増殖因子:5因子(EGF,VEGF,bFGF,G-CSF,GMCSF),計23因子を同時解析した.その結果,当初当然上昇すると考えていたTNF-a,IFN-g,IL-2,IL-4といったリンパ球に作用するサイトカインはほとんど検出されない一方で,IL-6,IL-8,MCP-1といった好中球,マクロファージに作用するサイトカイン・ケモカインの上昇を認めた(図3).また,上述のマウス硝子体腔関連免疫偏位誘導実験において,事前にIL-6の硝子体内注入をすることで抗原特異的制御性Tリンパ球誘導が阻害された10).以上の結果から,ぶどう膜炎患者においてGFP遺伝子導入マウスは,液性因子の観点からも眼のimmuneprivilege機構が破綻していることが裏付けられた.IV抗原提示細胞と眼球関連免疫偏位前房関連免疫偏位においては,抗原を前房内で認識する抗原提示細胞が重要である.前房の抗原提示細胞は,前房中の免疫抑制性サイトカインにより,あらかじめ性質が炎症抑制型に変換されている.これが抗原を認識した状態で抗原血流を介して脾臓へ到達し,抗原特異的な抑制型Tリンパ球を誘導することにより,全身の細胞性免疫が抑制される7).硝子体腔関連免疫変異の場合も,抗原を直接硝子体内に投与する代わりに,あらかじめ抗原に曝露させたマクロファージを硝子体内に投与しておいて,抑制型Tリンパ球の誘導を調べると,抗原を硝子体に入れないにもかかわらず誘導が可能であった10).硝子体腔関連免疫変異も抗原提示細胞を介したもので,かつ抗原提示細胞が正常硝子体環境下に曝露され炎症抑制型に変換される必要があることがわかる.前述のように,硝子体腔注入抗原に対する抑制型Tリンパ球の誘導には,硝子体腔で抗原提示細胞が抗原を認識する必要がある.硝子体腔での抗原提示細胞の候補としては,全身循環をしている血管内のマクロファージなどまたは硝子体内に固有に存在する細胞などが考えら骨髄キメラマウス図4骨髄キメラマウス左:GreenFluorescentProtein(GFP)遺伝子導入マウス.体全体が緑蛍光を発する.右:正常マウスに致死量放射線を照射した後に,GFP遺伝子導入マウス由来の骨髄細胞を移植してキメラマウスを作製する.頭部は眼内放射線障害を予防するためにシールドしているのでもとの黒色毛が残っている.骨髄はすべてGFP遺伝子導入マウス由来のものに置き換わるため,骨髄由来細胞の動向を観察するのに優れたシステムである.298あたらしい眼科Vol.30,No.3,2013(12) れる.そこで,骨髄キメラマウスに抗原を投与した際の,硝子体の細胞の動向を調べた.骨髄キメラマウスは通常のマウスに致死量放射線を照射した後に,GreenFluorescentProtein(GFP)遺伝子導入マウス由来の骨髄細胞を移植して作製する(図4).キメラマウスにおいては以後骨髄由来血球がすべてGFP陽性の緑蛍光を発するため,硝子体腔内に骨髄由来細胞が混入すればGFPをマーカーにして同定することが可能である.キメラマウスにおいては,抗原を硝子体内に投与しても,硝子体腔内に骨髄由来細胞が入ることはなかった7).また,網膜色素上皮細胞や網膜のグリア細胞が硝子体内に流入していく所見もなかった.このことから,硝子体内の抗原認識は硝子体内の固有の細胞により行われている可能性が高い.硝子体内の固有の細胞は広義のヒアロサイトであり,硝子体腔関連免疫偏位における抗原認識および抗原提示を担う細胞候補としてヒアロサイトが考えられた.おわりに眼のimmuneprivilegeは眼の恒常性維持に大きく関与している機構である.眼球関連免疫偏位はさまざまな臨床的意味合いをもつ.眼炎症を見たときに,単に眼局所の要因のみでなく,全身レベルで眼球関連免疫偏位が正常に働けないため眼炎症が起こっている可能性を考える必要がある.文献1)StreileinJW:Immunoregulatorymechanismoftheeye.ProgRetinEyeRes18:357-370,19992)StreileinJW:Immuneprivilegeastheresultoflocaltissuebarriersandimmunosuppressivemicroenvironments.CurrOpinImmunol5:428-432,19933)GriffithTS,BrunnerT,FletcherSMetal:Fasligandinducedapoptosisasamechanismofimmuneprivilege.Science270:1189-1192,19954)SugitaS,StreileinJW:IrispigmentepitheliumexpressingCD86(B7-2)directlysuppressesTcellactivationinvitroviabindingtocytotoxicTlymphocyte-associatedantigen4.JExpMed198:161-171,20035)SugitaS,NgTF,LucasPJetal:B7+irispigmentepitheliuminduceCD8+Tregulatorycells;bothsuppressCTLA-4+Tcells.JImmunol176:118-127,20066)HoriJ,TaniguchiH,WangMetal:GITRligand-mediatedlocalexpansionofregulatoryTcellsandimmuneprivilegeofcornealallografts.InvestOphthalmolVisSci51:6556-6565,20107)StreileinJW:Ocularimmuneprivilege:therapeuticopportunitiesfromanexperimentofnature.NatRevImmunol3:879-889,20038)JiangLQ,JorqueraM,StreileinJW:Subretinalspaceandvitreouscavityasimmunologicallyprivilegedsitesforretinalallografts.InvestOphthalmolVisSci34:3347-3354,19939)JiangLQ,StreileinJW:Immuneprivilegeextendedtoallogeneictumorcellsinthevitreouscavity.InvestOphthalmolVisSci32:224-228,199110)SonodaKH,SakamotoT,QiaoHetal:Theanalysisofsystemictoleranceelicitedbyantigeninoculationintothevitreouscavity:vitreouscavity-associatedimmunedeviation.Immunology116:390-399,200511)WenkelH,StreileinJW:Analysisofimmunedeviationelicitedbyantigensinjectedintothesubretinalspace.InvestOphthalmolVisSci39:1823-1834,199812)OhtaK,YamagamiS,TaylorAWetal:IL-6antagonizesTGF-betaandabolishesimmuneprivilegeineyeswithendotoxin-induceduveitis.InvestOphthalmolVisSci41:2591-2599,200013)YoshimuraT,SonodaKH,OhguroNetal:InvolvementofTh17cellsandtheeffectofanti-IL-6therapyinautoimmuneuveitis.Rheumatology48:347-354,2009(13)あたらしい眼科Vol.30,No.3,2013299

実験的ぶどう膜炎

2013年3月31日 日曜日

特集●ぶどう膜炎の研究最前線2013あたらしい眼科30(3):289.294,2013特集●ぶどう膜炎の研究最前線2013あたらしい眼科30(3):289.294,2013実験的ぶどう膜炎AnimalModelsofEndogenousUveitis竹内大*はじめに内因性ぶどう膜炎には,眼だけに炎症を生じる特発性ぶどう膜炎からBehcet病,サルコイドーシス,Vogt小柳-原田病のように全身疾患に伴って発症するぶどう膜炎があり,その臨床所見もさまざまである.しかし,ぶどう膜炎の発症に至るそのプロセスには共通する要因の関与が示唆される.疾患の発症機序および病態の解明,さらには新たな検査,治療法の確立に動物モデルは不可欠であり,ぶどう膜炎においても然りである.現在,種々のぶどう膜炎動物モデルがあるが,最も広く用いられているものに実験的自己免疫性ぶどう膜網膜炎(experimentalautoimmuneuveoretinitis:EAU)があり,本稿ではEAUを中心にこれまで明らかになっているぶどう膜炎の病態について述べていきたい.IEAUの歴史穿孔性眼外傷後,受傷眼,非受傷眼の両眼にぶどう膜炎が生じる(交感性眼炎)ことから,眼内にはぶどう膜炎を誘発する抗原物質が存在することをElschnigが1910年に提唱した1).その後50年以上が経過した1960年代に入って,網膜の抽出蛋白を感受性の高い動物に接種することにより,ぶどう膜網膜炎を特異的に発症させることに成功し2),ぶどう膜網膜炎惹起能を有する自己抗原が網膜に存在することが証明された.最初に同定された網膜自己抗原は網膜視細胞層に局在するS抗原であり,このS抗原を感受性の高い動物に摂取して発症させた実験的ぶどう膜炎がEAUの初期のモデルであった3).しかしS抗原では,分子生物学的および免疫学的な解析に優れ,遺伝子操作がより簡便なマウスにEAUを発症させることはできなかったため,モデル動物としてはおもにラットが用いられていた.マウスがEAUのモデル動物として使用され始めたのは,新たな網膜自己抗原として光受容体間レチノイド結合蛋白(interphotoreceptorretinoid-bindingprotein:IRBP)が同定されてからである4).現在はIRBPまたはその部分ペプチドを用いてマウスに発症させたEAUが主流であるが,これらのほか,ロドプシン,リカバリン,フォスデュシン,RPE(retinalpigmentepithelium)-65などが網膜自己抗原として同定されている.IIEAUの発症メカニズムS抗原やIRBPを直接摂取してもEAUを惹起させることはできず,免疫強化薬である結核死菌を含んだ完全フロインドアジュバンド(completeFreund’sadjuvant:CFA)に乳化させて免疫する必要がある.CFAによりマクロファージ,樹状細胞などの抗原提示細胞(antigen-presentingcells:APC)や好中球,NKT(naturalkillerT)細胞が免疫局所に集積し,活性化する(図1).活性化したこれらの細胞からIL(interleukin)1,IL-6,TNF(tumornecrosisfactor)aなどの炎症性サイトカイン,NKT細胞からはさらにIFN(interferon)gが産生され,APCはプロフェッショナルAPC(Pro*MasaruTakeuchi:防衛医科大学校眼科学教室〔別刷請求先〕竹内大:〒359-0042所沢市並木3-2防衛医科大学校眼科学教室0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(3)289 MφTIL-1IL-6TNFαNeuTTTTTTBIgMIgGPIRBP+CFANeu所属リンパ節ProAPC活性化分化・増殖IRBPペプチドMHC複合体IRBPEAUNKTNKTIFN-γB免疫局所MφTIL-1IL-6TNFαNeuTTTTTTBIgMIgGPIRBP+CFANeu所属リンパ節ProAPC活性化分化・増殖IRBPペプチドMHC複合体IRBPEAUNKTNKTIFN-γB免疫局所APC)となる.抗原にIRBPを用いれば,これらのProAPCはIRBPを取り込み,リンパ管を介して免疫局所の所属リンパ節に遊走する.所属リンパ節に入ったProAPCは,細胞内に取り込んだIRBPをペプチドに分解後(processing),主組織適合抗原(majorhistocompatibilityantigen:MHC)クラスII分子とともに細胞表面に提示し(presentation),このIRBPペプチド-MHCクラスII分子複合体を認識できるT細胞受容体をもったCD4+T細胞はIRBPペプチド-MHCクラスII分子複合体と結合することにより活性化し,分化,増殖する.また,IRBPを認識するIg(immunoglobulin)M受容体をもったB細胞は免疫局所で活性化し,所属リンパ節で活性化したIRBP反応性CD4+T細胞から産生されるサイトカインにより抗IRBP-IgG産生細胞へと形質転換する.活性化したIRBP反応性CD4+T細胞は,さらにリンパ管を通って眼に遊走し,ぶどう膜網膜炎を惹起する.IIIEAUの眼所見および疾患感受性ラットとマウスでは,ともに後眼部に強い炎症を呈するが,ラットは前房内フィブリン析出,虹彩後癒着,後房蓄膿(マウス,ラットでは水晶体が厚いため,前房が浅く,後房が深い)を呈する激しい前眼部炎症を伴うの290あたらしい眼科Vol.30,No.3,2013図1IRBPの免疫によるEAUの発症メカニズムに対して(図2),マウスの前眼部炎症は軽度である.一方,マウスでは硝子体混濁,視神経乳頭の発赤・腫脹,網膜血管炎,網膜滲出斑,網膜出血,漿液性網膜.離などの後眼部所見が観察されるが,ラットでは強い前眼部炎症のため観察困難である.病理組織学的には,ともに硝子体内浸潤細胞,網膜血管周囲炎,網膜層内浸潤細胞,肉芽腫形成,漿液性網膜.離,脈絡膜の肥厚などの所見を呈する(図2).Behcet病やHLA(humanleucocyteantigen)-B27関連急性前部ぶどう膜炎,Vogt-小柳-原田病とHLAのハプロタイプとの間に関連がみられるように,ラット,マウスのMHCハプロタイプとバックグラウンドによりEAUの感受性が異なる.ラットのなかで最も感受性が高いのはLewisラットであり5),F344ラットなどはEAU抵抗性である.マウスにおいはB10RIIIマウスが最もEAU感受性であり,続いてB10A,B57BL/6の順である6,7).これらのマウス間ではIRBP反応性CD4+T細胞が認識するIRBP内のアミノ酸配列(T細胞抗原決定領域)が異なることも知られている.IVEAUからみたぶどう膜炎の発症に働く免疫系異常免疫系は,自然免疫と獲得免疫に分けられ,その特徴(4) 図2EAUの眼所見上:ラットにおける前眼部炎症.フィブリン析出,虹彩後癒着,後房蓄膿がみられる.下:正常マウス(左),EAUを発症しているマウス(右)の後眼部病理組織所見.硝子体,網膜,および脈絡膜内に浸潤細胞,網膜血管周囲炎,網膜層構造の破壊,視細胞層の菲薄化がみられる.を表1に示す.病原体が上皮障壁を突破し体内に侵入すると,白血球や好中球,マクロファージなどの細胞による自然免疫が働き,炎症反応が起こる.この自然免疫により病原体の侵入は阻止されるが,自然免疫だけでは排除できない場合,獲得免疫が発動する.獲得免疫はT細胞による細胞性免疫と抗体や補体による体液性免疫からなる抗原特異的な免疫反応であり,自然免疫とは表1に示すような違いがある.EAUはCFAによる自然免疫の活性化,および網膜抗原に特異的な獲得免疫により惹起されるため,免疫異常がその要因の一つと考えられている内因性ぶどう膜炎では,何らかの刺激により自然免疫が活性化し,ぶどう膜炎の発症をきたす獲得免疫異常が働いたためと考えられる.一方,網膜抗原に反応性のCD4+T細胞をinvitroで活性化させ,このCD4+T細胞のみを摂取してもEAUを発症させることができること8),しかしEAUを発症している動物の血清,また(5)表1自然免疫と獲得免疫自然免疫獲得免疫非特異的抗原認識特異的抗原認識マクロファージ,樹状細胞,好中球T細胞,B細胞Toll様受容体T細胞受容体,IgM受容体非特異的抗原認識特異的抗原認識即最大効果を発揮最大効果まで時間がかかるメモリー機能はないメモリー機能があるすべての生物にある脊椎動物のみ外来抗原により活性化自然免疫により活性化は抗IRBP抗体などの網膜抗原に対する抗体を移入してもEAUの発症はみられないことから,ぶどう膜炎の発症には網膜自己抗原反応性CD4+T細胞を主体とした獲得免疫異常の関与が強く示唆されている.あたらしい眼科Vol.30,No.3,2013291 転写因子APCS抗原IRBPILSTAT1STAT4T-betRORγtRORαSTAT3IRF4SMADFoxp3CD4+TcellSTAT6GATA3IRF4-12IFN-γIL-4IL-1βIL-6TGFβTGFβサイトカインTh1Th2Th17TregIL-2,IFN-γ,TNFIL-4,IL-5,IL-10,IL-13ITNFαL-17,IL-21,IL-22IL-10,TGFβぶどう膜炎の発症図3EAUとT細胞サブセット活性化したCD4+T細胞は,その環境における種々のサイトカインにより機能が異なる少なくとも5つの細胞に分化する.VEAUとT細胞サブセット抗原を認識し,活性化したCD4+T細胞は分化増殖するが,この分化にはその環境における種々のサイトカインが関与し,その作用により異なる転写因子が働く(図3).IL-12およびIFN-gが作用すればSTAT(SignalTransducerandActivatorofTranscription)1,STAT4,T-betなどの転写因子が働きヘルパーT(Th)1細胞へ分化するのに対して,IL-4が作用すればSTAT6,GATA3,IRF4(interferonregulatoryfactor4)などの転写因子によりTh2細胞へと分化する.IL-1bまたはIL-6とTGF(transforminggrowthfactor)bが作用すればROR(retinoic-acid-relatedorphanreceptor)gt,RORa,STAT3,IRF4によりTh17細胞に分化し,TGFbだけが作用すればSMAD,Foxp3によりFoxp3+制御性T細胞(Treg細胞)へと分化する.これらのT細胞はその産生するサイトカインにより機能が異なり,CFAを用いた網膜抗原の強化免疫ではTh1細胞とTh17細胞の分化が誘導されること9,10),また網膜抗原に特異的なマウスのCD4+T細胞をTh1細胞またはTh17細胞に分化させて移入するとEAUが発症することから,Th1細胞およびTh17細胞がぶどう膜炎におけるエフェクターT細胞と考えられている.一方,Th2細胞,Treg細胞の移入,またはTh2細胞,Treg細胞が産生するIL-10,TGFbによりEAUの発症は抑制されることから,そのヒトぶどう膜炎治療への応用が期待されている11.15).VIぶどう膜炎の発症を抑制する免疫機構「なぜ,正常な状態ではぶどう膜炎は発症しないのか?」それにはまず血液眼関門の存在,そして所属リンパ節がないことがあげられる.このような解剖学的特殊性により,S抗原やIRBPのような網膜自己抗原は全身の免疫機構から隔絶され,それらに反応するT細胞に認識されにくい(immunologicalignorance)16).しかし近年,このような受動的メカニズム以外にも,眼内にはその透明性を維持するためにぶどう膜炎を含めた炎症を能動的に抑制するメカニズムがあり,特異な免疫機構により守られた免疫特権部位(immuneprivilege)であることが明らかになった.このような眼の免疫特権は,「眼に特異な免疫機構」17)と「全身性の免疫制御機構」14,18.21)により維持され,眼における特異な免疫機構には上記の292あたらしい眼科Vol.30,No.3,2013(6) 自己抗原を認識網膜抗原を認識Foxp3陽性網膜抗原を認識しない骨髄幹細胞自己抗原を認識網膜抗原を認識Foxp3陽性網膜抗原を認識しない骨髄幹細胞アポトーシス成熟T細胞Foxp3+CD25+CD4+制御性T細胞図4胸腺でのT細胞の分化胸腺に入った骨髄幹細胞は,T細胞への分化の過程でT細胞受容体を発現する.胸腺内で網膜抗原を含め自己抗原を認識するT細胞受容体をもったT細胞は細胞死(アポトーシス)に陥り,自己抗原を認識しないT細胞受容体をもったT細胞,または自己抗原を認識してもFoxp3陽性のT細胞はアポトーシスに陥ることなく最後まで分化成熟し,末梢に出ていく.immunologicalignoranceのほか,房水中の免疫抑制物質,免疫調節機能をもつ眼組織細胞,前房関連免疫偏位(ACAID)とよばれる特異な免疫反応が知られており,全身性の免疫調節機構には,胸腺におけるぶどう膜炎を含めた臓器特異的自己免疫病を発症させるT細胞の削除,および臓器特異的自己免疫病を抑制するFoxp3+制御性T細胞の存在などがある.眼における特異な免疫機構に関しては,他項で詳しく述べられているため,本項では全身性の免疫調節機構について概説する.T細胞の前駆細胞は骨髄幹細胞であり,胸腺でT細胞に分化する.胸腺内ではAireとよばれる転写因子によりS抗原やIRBPなどの網膜抗原をはじめあらゆる臓器特異的自己抗原が発現していることが近年明らかになった22,23).これらの自己抗原を認識するT細胞受容体をもったT前駆細胞は分化の段階でアポトーシス(細胞死)に陥る(ネガティブセレクション)(図4).自己抗原を認識しないT細胞受容体をもったT前駆細胞のみが成熟T細胞まで分化し(ポジティブセレクション),胸腺から再び末梢に出ていくことができる.転写因子Aireを遺伝子操作により欠損させたAireノックアウトマウスでは,多臓器に自己免疫病が自然発症し,眼にはぶどう膜網膜炎が生じることが報告されている18).しかし,S抗原やIRBPの免疫によりEAUが惹起され,ま(7)たぶどう膜炎患者ではこれらの網膜抗原に対するT細胞の反応性が亢進していることから24,25),このメカニズムは完全ではなく,一部の自己抗原反応性T細胞はネガティブセレクションを回避し,成熟T細胞となって末梢に存在している.一方,このような自己抗原反応性のT細胞受容体をもつ細胞においても,先述した制御性T細胞への分化を促す転写因子Foxp3を発現している細胞群は,アポトーシスを回避し,Foxp3+CD25+CD4+制御性T細胞となって同じく末梢に出ていくことが知られている.胸腺で産生されるこれらの制御性T細胞は内在性Treg(naturallyoccurringretulatoryTcell:nTreg),先述した末梢のCD4+T細胞が抗原認識後,制御性T細胞に分化したものは誘導性Treg(inducedretulatoryTcell:iTreg)とよばれている.このTregを除去したマウスにおいてもぶどう膜網膜炎が自然発症し20),EAUを発症させたマウスにTregを移入するとEAUが抑制される14).おわりに実験的ぶどう膜炎と比較して,ヒトぶどう膜炎は慢性の経過を辿り,再発を繰り返す.また,S抗原やIRBPなどの網膜自己抗原に対する免疫反応の亢進がBehcet病などのぶどう膜炎患者で認められているが,これらの網膜抗原に対する免疫反応がぶどう膜炎の原因なのか,または二次的な反応なのかは不明である.しかし,実験的ぶどう膜炎の研究により新たな知見が生まれ,ヒトぶどう膜炎の病態解明の礎となっていることはいうまでもない.TNFaのように,EAUにおけるその病態への関与,抗TNFa抗体のEAU抑制効果から臨床応用されたinfliximabは,それまでの治療に抵抗性であったぶどう膜炎に対しても有効であり,これまでのところ良好な治療成績が得られている.TNFa以外にも,EAUの発症に関与するIL-1,IL-2,IL-6,IL-17,そしてT細胞の副刺激分子であるCTLA(cytotoxicTlymphocyteantigen)-4などの分子を標的としたぶどう膜炎の抗体治療が進行中である.今後の課題として,新たな分子の関与を解明することは必要であるが,これまでの研究の多くは,個々の分子に注目し,その発現を抗体でブロックする,もしくは促あたらしい眼科Vol.30,No.3,2013293 進する,または遺伝子操作することにより実験的ぶどう膜炎への直接的な関与を検討したものであった.免疫系には1つの分子の機能異常を代償するメカニズムがあることから,分子間の相互作用を網羅的に解析し,免疫系全体のフレームシフトがぶどう膜炎の病態にどのような影響を及ぼすか検討することも重要である.最後ではあるが,実験的ぶどう膜炎推進派の筆者個人としては,実験的ぶどう膜炎を用いた基礎研究にてぶどう膜炎に対する知見を積み重ねていくことが,ヒトぶどう膜炎のより効果的な診断法および治療法の確立に不可欠であると考える.文献1)ElschnigA:Studien,zursympatischenOphthalmia.AlbrechtvonGraefesArchKlinExpophthalmol76:509546,19102)WackerWB,LiptonMM:Experimentalallergicuveitis:homologousretinaasuveitogenicantigen.Nature206:253-254,19653)deKozakY,SakaiJ,ThillayeBetal:Santigen-inducedexperimentalautoimmuneuveo-retinitisinrats.CurrEyeRes1:327-337,19814)GeryI,WiggertB,RedmondTMetal:Uveoretinitisandpinealitisinducedbyimmunizationwithinterphotoreceptorretinoid-bindingprotein.InvestOphthalmolVisSci27:1296-1300,19865)CaspiRR,SilverPB,ChanCCetal:GeneticsusceptibilitytoexperimentalautoimmuneuveoretinitisintheratisassociatedwithanelevatedTh1response.JImmunol157:2668-2675,19966)CaspiRR,ChanCC,FujinoYetal:Geneticfactorsinsusceptibilityandresistancetoexperimentalautoimmuneuveoretinitis.CurrEyeRes11(Suppl):81-86,19927)CaspiRR,GrubbsBG,ChanCCetal:Geneticcontrolofsusceptibilitytoexperimentalautoimmuneuveoretinitisinthemousemodel.ConcomitantregulationbyMHCandnon-MHCgenes.JImmunol148:2384-2389,19928)CaspiRR,RobergeFG,McAllisterCGetal:Tcelllinesmediatingexperimentalautoimmuneuveoretinitis(EAU)intherat.JImmunol136:928-933,19869)LugerD,SilverPB,TangJetal:EitheraTh17oraTh1effectorresponsecandriveautoimmunity:conditionsofdiseaseinductionaffectdominanteffectorcategory.JExpMed205:799-810,200810)YoshimuraT,SonodaKH,MiyazakiYetal:DifferentialrolesforIFN-gammaandIL-17inexperimentalautoimmuneuveoretinitis.IntImmunol20:209-214,200811)RizzoLV,XuH,ChanCCetal:IL-10hasaprotectiveroleinexperimentalautoimmuneuveoretinitis.IntImmunol10:807-814,199812)KezukaT,TakeuchiM,KeinoHetal:Peritonealexudatecellstreatedwithcalcitoningene-relatedpeptidesuppressmurineexperimentalautoimmuneuveoretinitisviaIL-10.JImmunol173:1454-1462,200413)KeinoH,TakeuchiM,SuzukiJetal:IdentificationofTh2-typesuppressorTcellsamonginvivoexpandedocularTcellsinmicewithexperimentalautoimmuneuveoretinitis.ClinExpImmunol124:1-8,200114)KeinoH,TakeuchiM,UsuiYetal:SupplementationofCD4+CD25+regulatoryTcellssuppressesexperimentalautoimmuneuveoretinitis.BrJOphthalmol91:105-110,200715)ZhangL,MaJ,TakeuchiMetal:SuppressionofexperimentalautoimmuneuveoretinitisbyinducingdifferentiationofregulatoryTcellsviaactivationofarylhydrocarbonreceptor.InvestOphthalmolVisSci51:2109-2117,201016)MedawarPB:Immunitytohomologousgraftedskin;thefateofskinhomograftstransplantedtothebrain,tosubcutaneoustissue,andtotheanteriorchamberoftheeye.BrJExpPathol29:58-69,194817)StreileinJW:Ocularimmuneprivilege:theeyetakesadimbutpracticalviewofimmunityandinflammation.JLeukocBiol74:179-185,200318)AndersonMS,VenanziES,KleinLetal:Projectionofanimmunologicalselfshadowwithinthethymusbytheaireprotein.Science298:1395-1401,200219)DeVossJ,HouY,JohannesKetal:Spontaneousautoimmunitypreventedbythymicexpressionofasingleself-antigen.JExpMed203:2727-2735,200620)TakeuchiM,KeinoH,KezukaTetal:Immuneresponsestoretinalself-antigensinCD25(+)CD4(+)regulatoryT-cell-depletedmice.InvestOphthalmolVisSci45:18791886,200421)SunM,YangP,DuLetal:ContributionofCD4+CD25+Tcellstotheregressionphaseofexperimentalautoimmuneuveoretinitis.InvestOphthalmolVisSci51:383389,201022)DerbinskiJ,SchulteA,KyewskiBetal:Promiscuousgeneexpressioninmedullarythymicepithelialcellsmirrorstheperipheralself.NatImmunol2:1032-1039,200123)TakaseH,YuCR,MahdiRMetal:Thymicexpressionofperipheraltissueantigensinhumans:aremarkablevariabilityamongindividuals.IntImmunol17:1131-1140,200524)deSmetMD,BitarG,MainigiSetal:HumanS-antigendeterminantrecognitioninuveitis.InvestOphthalmolVisSci42:3233-3238,200125)TakeuchiM,UsuiY,OkunukiYetal:Immuneresponsestointerphotoreceptorretinoid-bindingproteinandS-antigeninBehcet’spatientswithuveitis.InvestOphthalmolVisSci51:3067-3075,2010294あたらしい眼科Vol.30,No.3,2013(8)

序説:ぶどう膜炎の研究最前線 2013

2013年3月31日 日曜日

●序説あたらしい眼科30(3):287.288,2013●序説あたらしい眼科30(3):287.288,2013ぶどう膜炎の研究最前線2013UveitisResearchFrontiers2013望月學*私が米国国立眼研究所(NationalEyeInstitute:NEI)に留学していた1982年頃のことである.ある日のNEI眼免疫セミナーで挨拶をされた当時のNEI所長が述べられた言葉がいまだに忘れられない.「自分が若い頃には,研究熱心な若い眼科医は決してぶどう膜炎の研究グループに入らなかった.私の教授は自分の気に入らない若者をぶどう膜炎グループに配属したものだ.しかし,それから20年経った今は,有能な若者はみんなぶどう膜炎と眼免疫研究グループに集ってくるようになった.ここNEIの眼免疫グループはまさにそのような活発な研究グループであり,所長として嬉しい限りである」.お世辞が半分以上であろうが,50年前と30年前にぶどう膜炎・眼免疫の研究を外部から見た印象が的確に語られていて興味深い.さて,時は移り,今は2013年.1982年から30年の歳月が過ぎている.この間の眼免疫とぶどう膜炎の研究の進歩・進展は筆舌に尽くし難い膨大なものがある.免疫学,分子生物学,生化学,遺伝学の進歩を取り入れてぶどう膜炎の発症分子機構とその制御機構の詳細が明らかになった.マウスにおける実験的自己免疫性ぶどう膜炎(EAU)の免疫病理機構に働くTh1,Th17細胞と炎症性サイトカイン,抗原提示細胞による抗原認識過程と,自己抗原ペプチドによるT細胞活性化の分子機構,さらには,これらを制御する制御性T細胞の発見,故Streilein博士による眼の免疫特権(immuneprivilege)の発見と眼局所免疫機構の解明は今世紀に入って最もホットな眼免疫領域の研究課題である.これらについて2013年現在の最新の研究成果を竹内大教授(実験的ぶどう膜炎),園田康平教授(ImmunePrivilege),杉田直博士(制御性T細胞)にレビューしていただいた.一方,ぶどう膜炎の臨床も格段の進歩がみられる.日本眼炎症学会が調査したわが国ぶどう膜炎の疫学調査では非常に多くのぶどう膜炎原因疾患が報告され,原因不明はわずか33.5%であり,今やサルコイドーシスがわが国では最も頻度の高いぶどう膜炎原因疾患である.かつて最も多かったBehcet病は患者数が減少したとはいえ視力予後不良の難治性疾患であることに変わりなかった.しかし,生物製剤による新しい治療によりその状況は劇的に変貌しつつある.そのような大きな変化のあるぶどう膜炎の臨床のなかにおいて,急性網膜壊死,Vogt-小柳-原田病,ぶどう膜炎の仮面症候群としての眼内リンパ腫は,その診断と治療が大きな課題であったが,それも最近の研究により解決されつつある.そ*ManabuMochizuki:東京医科歯科大学医歯学総合研究科眼科学分野0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(1)287 のぶどう膜炎の臨床研究について蕪城俊克先生・川島秀俊教授(Behcet病),高瀬博先生・江石義信教授(サルコイドーシス),奥貫陽子先生・後藤浩教授(急性網膜壊死),山木邦比古教授(Vogt-小柳-原田病),岩橋千春先生・大黒伸行先生(眼内リンパ腫)に解説していただいた.これらの総説を通して,2013年現在の最新の眼免疫とぶどう膜炎の研究の流れが理解できるように本特集を企画した.また,今回ご執筆をお願いした先生方はこれからの20年間のわが国の眼免疫,ぶどう膜炎の研究を推進する先生方であり,今後の活躍を期待するものである.288あたらしい眼科Vol.30,No.3,2013(2)

光線力学的療法を施行したラニビズマブ反応不良ポリープ状脈絡膜血管症7例

2013年2月28日 木曜日

《原著》あたらしい眼科30(2):276.281,2013c光線力学的療法を施行したラニビズマブ反応不良ポリープ状脈絡膜血管症7例井尻茂之杉山和久金沢大学医薬保健研究域視覚科学(眼科学)PhotodynamicTherapyforPolypoidalChoroidalVasculopathyRefractorytoRanibizumabShigeyukiIjiriandKazuhisaSugiyamaDepartmentofOphthalmologyandVisualScience,KanazawaUniversityGraduateSchoolofMedicalScience目的:ラニビズマブ硝子体内投与(IVR)に反応不良であったポリープ状脈絡膜血管症(PCV)7例に対し光線力学的療法(PDT)を施行したので治療経過を報告する.対象および方法:対象は,IVR単独治療を施行するも光干渉断層計(OCT)上反応不良にてPDTを施行し,PDT後6カ月以上経過観察できたPCV7例7眼である.6例は,導入期の連続3回投与後もOCTにて滲出性変化が悪化または残存したためIVR反応不良と判断した.1例は,維持期に再発した滲出性変化が計3回の投与後も残存したためIVR反応不良と判断した.7例ともポリープ状病巣は残存し,初回IVR時から視力またはOCT所見が経時的に悪化したためPDTを施行した.PDT後の平均観察期間は11.0±2.0カ月であった.PDT前後の視力,OCT所見,蛍光眼底造影所見,再治療,合併症について検討した.結果:7例中6例は,ポリープ状病巣が閉塞しPDT後6カ月までに滲出性変化の消失または改善を認めた.6例中3例は滲出性変化が再発し,3例中2例は残存異常血管網からの漏出に対しIVR単独で再治療を行い,2例とも1カ月後に滲出性変化は消失した.もう1例は,中心窩外に再発したポリープ状病巣に対し光凝固を施行し,光凝固3カ月後で滲出性変化は消失した.7例中1例は,ポリープ状病巣が閉塞せず滲出性変化も悪化した.再治療としてIVR併用PDTを施行したが,ポリープ状病巣および滲出性変化は残存した.本症例のみ,視力はPDT後3カ月までに悪化したが,最終的には全症例が維持または改善した.合併症については,1例のみPDT後に1乳頭径未満の出血性網膜色素上皮.離を生じたが,出血は自然吸収され最終観察時まで再治療なく視力を維持できた.結論:解剖学的にIVRに反応不良なPCVに対するPDTは有効であった.Purpose:Toreport7casesofpolypoidalchoroidalvasculopathy(PCV)thatunderwentphotodynamictherapy(PDT)becausetheywererefractorytointravitrealranibizumab(IVR)monotherapy.SubjectsandMethods:Weinvestigated7casesofPCVthatunderwentPDTbecausetheywererefractorytoIVRmonotherapy.Exudativechangesasevaluatedbyopticalcoherencetomography(OCT)increasedorremainedunchangedinallcases,despite3consecutivemonthlyIVRinjections.Themeanfollow-upperiod(±standarddeviation)afterPDTwas11.0±2.0months.Patientdataretrievedincludedbest-correctedvisualacuity(BCVA),OCTfindings,fluoresceinangiographicfindings,indocyaninegreenangiographic(IA)findings,re-treatmentsandcomplications.Results:IAperformedat3-monthintervalsafterPDTrevealeddisappearedpolypoidallesionsin6of7cases.ExudativechangesasevaluatedbyOCTdisappearedorresolvedby6monthsafterPDTinthese6cases,butrecurredin3ofthe6.In2ofthose3,recurringexudationswerethecauseofresidualbranchingvascularnetworkvessels.These2caseswerere-treatedwithIVR;theexudativechangeshadcompletelydisappearedat1monthafterre-treatment.Theothercasewasre-treatedwithphotocoagulation(PC)forrecurrentextrafovealpolypoidallesions;theexudativechangeresolvedby3monthsafterPC.Inoneofthe7cases,polypoidallesiononIAdidnotdisappearandexudativechangeonOCTgraduallyincreasedafterPDT.Thiscasewasre-treatedwithPDTcombinedwithIVR.Thepolypoidallesiondidnotdisappearafterre-treatment,andexudativechangeremained.BCVAdeterioratedat3monthsafterPDTin1casewithoutthepolypoidallesiondisappearing,butimprovedorwasmaintainedatfinalvisitsinall7cases.Hemorrhagicretinalpigmentepithelialdetachmentsmallerthan1discdiameter〔別刷請求先〕井尻茂之:〒920-8641金沢市宝町13番1号金沢大学医薬保健研究域視覚科学(眼科学)Reprintrequests:ShigeyukiIjiri,M.D.,DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,KanazawaUniversityGraduateSchoolofMedicalScience,13-1Takara-machi,Kanazawa-shi920-8641,JAPAN276276276あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013(142)(00)0910-1810/13/\100/頁/JCOPY wasseenat1monthafterPDTin1case.Thehemorrhagedisappearednaturally,andvisualacuitywasmaintainedatfinalvisitwithoutre-treatment.Conclusion:PDTwaseffectiveforcasesofPCVthathadpooranatomicresponsetoIVRmonotherapy.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(2):276.281,2013〕Keywords:光線力学的療法,ラニビズマブ,ポリープ状脈絡膜血管症,滲出型加齢黄斑変性,光干渉断層計.photodynamictherapy,ranibizumab,polypoidalchoroidalvasculopathy,exudativeage-relatedmaculardegeneration,opticalcoherencetomography.はじめに滲出型加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD)に対する抗血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)抗体であるラニビズマブ(ルセンティスR,ノバルティスファーマ)硝子体内注射(intravitrealranibizumab:IVR)は,2009年に臨床使用が開始され,現在AMD治療の主要な治療法として確立されている.国内外の臨床試験では,平均視力は投与開始後から急速に改善し,1カ月毎連続3回の導入期終了までにプラトーに達するという良好な結果である1.3).しかしながら,AMDに対するIVR単独治療には,約3割で解剖学的反応不良例が存在することが報告されており4,5),抗VEGF単独治療に抵抗性を示すAMDにはポリープ状脈絡膜血管症(polypoidalchoroidalvasculopathy:PCV)や網膜色素上皮.離(retinalpigmentepithelialdetachment:PED)主体のoccult脈絡膜新生血管(choroidalneovascularization:CNV)例が多いことが報告されている6.8).実際の臨床でも導入期の投与に解剖学的に反応しない症例や,導入期の投与には反応したものの維持期での追加投与に反応が不良になってくる症例を経験し,近年,このようなIVR単独治療に抵抗性を示すAMD症例への対応が問題となってきている.IVR以外のAMDに対する治療としては,ベルテポルフィン(ビスダインR,ノバルティスファーマ)を用いた光線力学的療法(photodynamictherapy:PDT)があり,2004年にわが国で臨床使用が可能となっている.PDTは,IVR治療と比較し視力に関してはその長期成績は劣るものの1),解剖学的所見の改善や視力維持効果が多数報告されており,特にPCVで有効とされている9.12).近年,抗VEGF抗体の硝子体内注射単独治療に抵抗性を示すAMDに対するPDTの有効性が報告されている7).今回,筆者らはIVR単独治療を行うも光干渉断層計(OCT)にて解剖学的に改善が得られないためPDTを施行し,PDT後6カ月以上経過観察できたPCV7例の経過を報告する.I対象および方法対象は,2009年3月から2011年3月の間に,金沢大学附属病院眼科で初回治療としてIVR単独治療を施行するもOCT上反応不良にてPDTを施行し,PDT後6カ月以上経過観察できたPCV7例7眼である.PDT後の平均観察期間は11.0±2.0カ月であった.PCVの診断は,日本ポリープ状脈絡膜血管症研究会による診断基準の確実例を満たすものとした13).症例2を除く6例は,ラニビズマブ0.5mg/0.05mlを導入期として1カ月毎連続3回投与したにもかかわらず,OCTにて網膜下液(subretinalfluid:SRF)または漿液性PEDが悪化または残存したためIVR反応不良と判断した.症例2は,導入期の連続3回投与にてSRFは消失したが,維持期に再発したSRFが計3回の投与でも消失しなかったためIVR反応不良と判断した.7例ともインドシアニングリーン蛍光眼底造影(indocyaninegreenangiography:IA)でIVR開始前に認めたポリープ状病巣はPDT前に増減なく残存し,初回IVR時から視力またはOCT所見が経時的に悪化したためPDTを施行した.各症例の治療前の背景を表1に示す.PDTは,標準の条件で施行した(ベルテポルフィンを体表面積当たり6mg/m2で10分かけて点滴静注,エネルギー50J/cm2,波長689nm,照射時間83秒).最大病変直径はIAで決定し,照射径は,病変最大直径に1mm(周囲に500μm)の縁取りをつけたものとした.全症例,PDT前とPDT後1カ月毎に小数視力(3mまたは5mで測定)とOCT(トプコン社製,3DOCT-1000MARKII)を測定し,PDT前とPDT後3カ月以降にフルオレセイン蛍光眼底造影(fluoresceinangiography:FA)およびIA(ハイデルベルグ社製,ハイデルベルグスペクトラリスHRA+OCTで撮影)を施行した.再治療は,初回PDT後3カ月以降にOCTにて滲出性変化の残存または悪化を認めた場合に施行した.再治療は,中心窩下にポリープ状病巣を認める場合にはPDTを施行し,中心窩外にポリープ状病巣を認める場合は網膜光凝固を施行した.ポリープ状病巣を認めず異常血管網のみから漏出している場合は,IVRを施行した.検討項目は,①視力およびOCT所見(PDT前,PDT1カ月後,3カ月後,6カ月後,最終観察時),②ポリープ状病巣閉塞の有無(PDT前とPDT3カ月以降に施行したIAを比較し評価),③再治療について,④合併症について,である.(143)あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013277 表1各症例のPDT前背景IVR前IVR前IVR最終IVR.PDT前PDT前PDT前のPDT前PDT前ポリPDT照射症例年齢(歳)・性BCVACFT(μm)回数PDT期間(月)BCVACFT(μm)OCT所見FA分類ープ状病巣径(μm)166・男性1.02403170.5295SRF,sPEDOccultsub4,800283・男性0.327862.50.5224SRFOccultsub6,000362・女性0.619336.00.8193sPEDOccultextra4,000466・男性0.823933.00.3557SRF,sPEDOccultsub,extra3,850573・男性0.635833.80.15422SRF,sPEDOccultsub4,200680・男性0.730632.30.7424SRFOccultsub,extra5,500767・女性0.817034.10.5147SRFOccultsub2,700PDT:photodynamictherapy,IVR:intravitrealranibizumab,BCVA(小数視力):bestcorrectedvisualacuity,CFT:centralfovealthickness,OCT:opticalcoherencetomography,SRF:subretinalfluid,sPED:serousretinalpigmentepithelialdetachment,FA:fluoresceinangiography,Occult:occultwithnoclassic,sub:subfovea,extra:extrafovea.表2各症例のPDT後の経過症例PDT前1MBCVA3M6M最終PDT前CFT(μm)1M3M6M最終ポリープ状病巣再治療合併症観察期間(月)10.50.60.30.50.7295*352*355*221*238*残存IVR併用PDTなし820.50.50.50.60.6224*175*153137132閉塞なしhPED1030.80.80.81.01.0193126107104135閉塞なしなし1240.30.30.30.70.6557*305*238215*241*再発光凝固なし1150.150.70.90.91.0422*173*188*151152閉塞IVR1回なし1360.70.80.90.90.7424*165*196166160閉塞IVR1回なし1370.50.60.70.90.9147*139150176156閉塞なしなし13PDT:photodynamictherapy,IVR:intravitrealranibizumab,BCVA(小数視力):bestcorrectedvisualacuity,CFT:centralfovealthickness,hPED:hemorrhagicretinalpigmentepithelialdetachment.*:光干渉断層計にてsubretinalfluidを認めるもの.II結果各症例のPDT後の経過を表2に示す.7例中6例(症例2,3,4,5,6,7)は,IAでポリープ状病巣が閉塞した.ポリープ状病巣が閉塞した6例のうち,PDT前にSRFのみを認めた3例(症例2,6,7)はPDT後3カ月までにSRFが消失した.PDT前に漿液性PEDのみを認めた症例3はPDT後1カ月で漿液性PEDは消失した.PDT前にSRFと漿液性PEDの両者を認めた2例のうち,症例5はPDT後1カ月までに漿液性PEDが,PDT後2カ月までにSRDが消失した.もう1例の症例4は,PDT後2カ月で一旦SRFは消失したが,PDT後6カ月でSRFが再発し,漿液性PEDは残存した.本症例は,IAでPDT前に認めた中心窩下のポリープ状病巣は閉塞していたが,中心窩外(異常血管網の末端)にポリープ状病巣が再発していた.再発したポリープ状病巣に対し光凝固を施行したところ3カ月後までにSRFは消失した.再治療については,症例5がPDT後3カ月で,症例6がPDT後11カ月でSRFが再発したが,IAではポリープ状病巣の再発は認めず異常血管網のみであった.2例ともIVRで再治療を行い,IVR1カ月後にSRFは消失した.症例1278あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013は,PDT後もSRFおよび漿液性PEDは悪化し,IAでもポリープ状病巣が残存した.再治療として初回PDTから4カ月後にIVR併用PDTを施行した(PDT7日前にIVR1回,PDT後2カ月後にIVRを2回連続施行).再治療後,SRFは減少し漿液性PEDは縮小したがいずれも残存し,ポリープ状病巣も閉塞しなかった.症例2,3,7は,初回PDT後SRFの再発は認めず,再治療は施行しなかった.視力については,ポリープ状病巣が残存しOCT所見が悪化した症例1のみPDT後3カ月までに悪化したが,最終的には全症例が維持または改善した.小数視力をlogarithmicminimumangleofresolution(logMAR)値に換算し,logMAR値0.3以上の変化を改善または悪化とすると,7眼中2眼(28.6%)が改善,7眼中5眼(71.4%)が不変であった.合併症については,症例2がPDT後1カ月時に中心窩下に1乳頭径未満の出血性PEDを認めた.PDT後6カ月までに出血は吸収され,ポリープ状病巣は閉塞し,最終観察時まで再治療なく視力を維持できた.全身的合併症は1例も認めなかった.代表例(症例7)を図1に示す.67歳女性で,中心窩下に橙赤色隆起性病巣を認め,IAで異常血管網とポリープ状病(144) BCDABCDA図1症例7(67歳,女性)A:PDT前のFA・IA同時撮影像(後期像).IAで中心窩下に異常血管網とポリープ状病巣を認めた.点線丸で病変最大長径を,実線丸で照射径(2,700μm)を示した.FAでは点状の漏出点を2カ所認めた.B:PDT前のOCT所見.中心窩下にノッチサインを伴う網膜色素上皮の隆起とSRFを認めた.C:PDT3カ月後のFA・IA同時撮影像(後期像).IAで異常血管網の縮小とポリープ状病巣の閉塞を認め,照射野に一致して低蛍光領域を認めた.FAでは蛍光漏出点は消失していた.D:PDT3カ月後のOCT所見.網膜色素上皮の隆起とSRFの消失を認めた.(145)あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013279 巣を認めた.導入期に連続3回のIVRを施行したがSRFは残存し,視力が徐々に低下するため最終IVRから4カ月後にPDTを施行した.PDT1カ月後の時点でSRFは完全に消失し,PDT3カ月後のIAで異常血管網の縮小とポリープ状病巣の閉塞を認めた.PDT後観察期間13カ月でOCT上滲出性変化の再発は認めず,視力は0.5から0.9に改善した.III考按AMDに対するIVR反応不良の治療前因子として,正らは61眼のAMD例を対象に検討を行い,年齢,男女比,治療歴,視力,病変最大直径,病型,FAによる病変タイプのすべての項目について滲出消失群(69%)と残存群(31%)に有意差を認めなかったと報告している5).一方,抗VEGF単独治療に抵抗性を示すAMDにはPCV例やPED主体のoccultCNV例が多いことが報告されている6.8).また,Koizumiらは,PCVに対するIVR反応不良の治療前因子として大きなポリープ状病巣とPEDの存在を報告している4).本報告におけるIVR反応不良PCV7例も,全例がFAでocculttypeのCNVであり,7例中4例で漿液性PEDを認めた.PCVでは抗VEGF単独治療よりも,PDTを併用したほうがポリープ状病巣の閉塞が得られやすいことが報告されている.Choらは,抗VEGF単独治療が無効のPCV9例に抗VEGF療法併用PDTを行い,8例(89%)がIAとOCTで完全寛解が得られたと報告している7).また,EVERESTstudyによると,PCVにおけるポリープ状病巣の完全閉塞率はIVR単独では28.6%,PDTを併用すれば77.8%,PDT単独でも71.4%である14).本報告でもPDTを施行することで,IVR単独では閉塞が得られなかったポリープ状病巣が7例中6例(85.7%)で閉塞した.AMDに対するPDTは長期的には再発が多いことが報告されている11,12,15).本報告でも7例中3例が再発し,再治療を必要としなかったのは2例のみであった.また,症例1は初回PDTが無効のため再治療としてIVR併用PDTを施行したが,ポリープ状病巣は閉塞せず滲出性変化が残存した.症例1は,PDT前の中心窩網膜厚や病変面積が他症例と比較し著しく大きくはなかったが,最終IVRからPDTまでの期間が顕著に長かった(症例1は17カ月,他症例は6カ月以内).今後は,長期的な再発を減らせるような治療法や,症例1のようなIVR単独にもPDT単独にもIVR併用PDTにも抵抗性を有するAMD例の治療法が課題である.PCVに対するPDT後の残存異常血管網からの漏出に対しては抗VEGF薬単独治療が有効との報告がある16,17).Saitoらは,残存異常血管網からの漏出に対する治療でIVR単独治療を施行した群はPDT単独を施行した群よりも視力予後が良好であったと報告している17).本報告でも,症例5と症280あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013例6はポリープ状病巣が閉塞したが,PDT後3カ月以降に異常血管網からの漏出によるSRFの再発を認め,IVRを施行した.2例ともIVR後1カ月でSRFは完全に消失し,良好な視力を維持できた.PDT後に約4.5%の割合で重篤な視力低下をきたすという報告9)や,PDT後にVEGF産生が亢進するとの報告があること18)から,ポリープ状病巣が閉塞したあとの残存異常血管網からの漏出に対する再治療は,PDTではなく抗VEGF単独治療を行うべきと考えられる.AMDに対するPDTの国内臨床試験の結果に基づいて作成された日本版PDTガイドラインでは,治療前視力が0.5よりも良好な患者は12カ月後の視力が有意に低下していたという結果から,視力が0.5よりも良好な症例には「推奨」または「モニタリング」とされている19).本報告では,PDT前視力が0.5よりも良好な症例は2症例存在した(症例3が0.8,症例6が0.7).症例3は,中心窩下の漿液性PEDにより強い歪視の訴えがあったためPDTを施行した.症例6は,導入期中も最終IVR後も比較的急速にSRFが増加したため速やかにPDTを施行した.本報告のまとめとして,IVR反応不良PCV例にPDTを施行した.その結果,7例中6例はポリープ状病巣が閉塞し,OCT上滲出性変化の消失と視力の改善を認めた.解剖学的にIVRに反応不良なPCVに対するPDTは有効であった.文献1)BrownDM,MichelsM,KaiserPKetal;ANCHORStudyGroup:Ranibizumabversusverteporfinphotodynamictherapyforneovascularage-relatedmaculardegeneration:Two-yearresultsoftheANCHORstudy.Ophthalmology116:57-65,20092)RosenfeltPJ,BrownDM,HeierJSetal;MARINAStudyGroup:Ranibizumabforneovascularage-relatedmaculardegeneration.NEnglJMed355:1419-1431,20063)TanoY,OhjiM;EXTEND-IStudyGroup:EXTENDI:safetyandefficacyofranibizumabinJapanesepatientswithsubfovealchoroidalneovascularizationsecondarytoage-relatedmaculardegeneration.ActaOphthalmol88:309-316,20104)KoizumiH,YamagishiT,YamazakiTetal:Predictivefactorsofresolvedretinalfluidafterintravitrealranibizumabforpolypoidalchoroidalvasculopathy.BrJOphthalmol95:1555-1559,20115)正健一郎,尾辻剛,津村晶子ほか:ラニビズマブ硝子体注射における反応不良例の検討.眼臨紀4:782-784,20116)ArosaS,MckibbinM:One-yearoutcomeafterintravitrealranibizumabforlarge,serouspigmentepithelialdetachmentsecondarytoage-relatedmaculardegeneration.Eye25:1034-1038,20117)ChoM,BarbazettoIA,FreundKB:Refractoryneovascularage-relatedmaculardegenerationsecondarytopoly(146) 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