特集●黄斑疾患診療トピックスあたらしい眼科30(2):199.210,2013特集●黄斑疾患診療トピックスあたらしい眼科30(2):199.210,2013補償光学適用走査型レーザー検眼鏡(AO-SLO)AdaptiveOpticsScanningLaserOphthalmoscopy(AO-SLO)大音壮太郎*はじめに近年,スペクトラルドメイン光干渉断層計(SD-OCT)が普及し,組織切片に似た画像を用いて診療を行うことが可能となったが,細胞レベルでの観察は困難であった.しかし,OCTや走査型レーザー検眼鏡(SLO)に補償光学(adaptiveoptics:AO)技術を応用することにより,さらなる高解像度のイメージングを実現することが可能となる.本稿では,初めに補償光学技術に関する基礎的な知識を紹介し,ついで補償光学適用SLO(AOSLO)について述べ,AO-SLOにより得られた正常眼・病理眼における視細胞所見を供覧する.I補償光学とは補償光学は天文学分野への応用を目的として1950年代に提案された概念である.一般に,天体望遠鏡やカメラなどの光を使ったイメージング機器では,開口(結像レンズ)の大きさが大きいほど鮮明な像が得られる.しかし実際のところ,大型の天体望遠鏡を設置しても,開口径が10cm程度の小型の天体望遠鏡と同程度の分解能しか得られない.これは,大気のゆらぎの影響によって天体からの光の波面が歪み,さらに歪みが時間的にランダムに変動することによるためである.この問題を解決する手段が補償光学技術である.補償光学システムは,光の歪みを計測する「波面センサー」,その歪みを補正する「波面補正素子」,波面センサーからの情報に基づき波面補正素子を制御する「制御歪んだ波面波面補正素子波面センサー制御装置ビームスプリッター補正された波面図1補償光学システムの概念図装置」によって構成される(図1).これらの構成要素は電気的に結合されており,歪んだ入射波面をフラットな波面に補正する.波面補正素子には,可変形鏡と液晶空間位相変調素子の2種類があり,可変形鏡ではその表面形状を,液晶空間位相変調素子では光の位相分布を制御する.なお,時間的に変化する波面の歪みを適切に補正するために毎秒数百回以上の計測と補正を繰り返し,その結果,最終的にこの補償光学システムを通して目的の天体を観察すると,大気のゆらぎの影響が打ち消され,鮮明な天体像を取得することができる.II補償光学と眼底イメージング機器眼底カメラやSLO・OCTなどの眼底イメージング機器では,眼球の外部から内部に光を照射し,眼球光学系を通して眼底を観察する装置である.そのため,眼球光*SotaroOoto:京都大学大学院医学研究科感覚運動系外科学眼科学〔別刷請求先〕大音壮太郎:〒606-8507京都市左京区聖護院川原町54京都大学大学院医学研究科感覚運動系外科学眼科学0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(65)199学系,特に角膜と水晶体に存在する歪み(高次の収差)の影響を避けられず,面分解能が制限されていた.ここで外部から証明された眼底を観測対象の星と考え,角膜と水晶体を大気のゆらぎと考えると,眼底イメージング機器に補償光学を導入する意義がはっきりする.すなわち,眼底イメージング機器に補償光学を導入すると,角膜や水晶体に存在する歪みの影響が除去され,鮮明な眼底像を得ることができる.補償光学システムによって理論上約2.0μmの面分解能が得られ,これまで生体眼での観察が不可能であった視細胞を眼底イメージング機器で観察できるようになるのである.III補償光学システムの実際天文学用の補償光学システムを構成する3つのサブシステムには,定番の組み合わせがある.波面センサーにはシャック・ハルトマン(Shack-Hartmann)センサーか波面曲率センサーが,波面補正素子には大型の可変形鏡が利用されることが多い.また制御装置としては性能の向上に伴い,最近では汎用のパソコンが利用される.補償光学を眼底イメージング機器に組み込む場合にも,天文学とまったく同じ補償光学システムを利用するのと同様の効果が期待される.実際,眼底カメラに補償光学をはじめて組み込み,鮮明な眼底像の取得に成功した1997年の先駆的研究においては,天文学分野と同様にシャック・ハルトマンセンサー,可変形鏡,およびパソコンで構成される補償光学システムが採用された1).しかし,この補償光学システムは,大規模な装置構成・高価などの理由により,医療の現場で使用される眼底イメージング機器に設置する装置としては適切ではない.そのため,眼底イメージング機器への応用に適した補償光学システムの研究開発が盛んに進められるようになった.なかでも波面補正素子が,システム全体の価格と性能を決定する重要な鍵となる.現在のところ眼底イメージング機器に適した小型で安価な波面補正素子として,MEMS(microelectromechanicalsystems)技術を応用した可変形鏡やLCOS型液晶空間位相変調素子(LCOSSLM:liquid-crystal-on-siliconspatiallightmodulator)が注目されている.200あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013IV新しい眼底イメージング機器:AO-SLO近年欧米において,AOイメージング,とりわけAO-SLOの研究開発が進められている2).筆者らは新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)による助成事業「高精度眼底イメージング機器研究開発プロジェクト」の一環として,ニデック社・浜松ホトニクス社・産業技術総合研究所と共同で,また文部科学省科学技術振興調整費「京都大学・キヤノン協同研究プロジェクト(CKプロジェクト)」の一環として,キヤノン社と共同でAO-SLOの研究開発を行っている.その光学系の概念図を図2に示す.イメージング用の入射光(スーパールミネッセントダイオード,840nm)は波面補正素子であるLCOS-SLMを経由して鋭くフォーカスされ,眼底上に輝点を形成する.眼底からの反射光は,同じ経路を逆向きに進み,光検出器(APD)の直前に置かれたピンホール上に再びフォーカスされる.ここで眼底上の輝点を二次元的に走査すると,共焦点の効果によりコントラストの高い高倍率の眼底像が取得される.つぎに,眼球光学系の収差の影響を除去すべく補償光学系を動作させる.そのためには,まずイメージング用の入射光と同様に,波面測定用のレーザー(レーザーダイオード,780nm)を眼に入射し,眼底上に輝点を形成する.眼底上の輝点は一様に散乱され,角膜や水晶体などの眼球光学系の収差の影響を受けて歪んだ波面が眼から出射される.その光波の歪みを波面センサー(シャック・ハルトマンセンサー)で計測し,それを打ち消すようにLCOS-SLMの位相を素早く制御する.その結果,イメージング用の光波についても収差の影響が除去され,光検出器上に理想的な輝点を形成することができるため,高分解能の眼底像を取得することが可能となる.補償光学が作動したときと作動していないときの取得画像を図3に示す.細胞レベルでの観察を行うためには,補償光学がいかに重要な役割を果たしているかがわかる.(66)⑥記録LCOS-SLM(波面補正素子)高分解能(840nm)点灯位置制御高分解能画像/OCT光路切替OCT(840nm)波面検出用光源(780nm)波面センサ-(780nm)前眼部観察固視灯広画角①②③④⑤⑥記録LCOS-SLM(波面補正素子)高分解能(840nm)点灯位置制御高分解能画像/OCT光路切替OCT(840nm)波面検出用光源(780nm)波面センサ-(780nm)前眼部観察固視灯広画角①②③④⑤高解像度画像撮影位置制御図2AO-SLO光路図高解像度AO-SLO画像(①)は広画角SLO(②)とリンクしていて,カーソル移動により後極部の任意の位置を撮影することができる.③:補償光学システム,④:OCT,⑤:前眼部モニター(撮影補助用),⑥:内部固視灯.図3補償光学の効果補償光学が作動しているとき(AO-ON)は視細胞像が観察されるが,補償光学を切断する(AO-OFF)と不明瞭な像となる.V正常眼におけるAO-SLO画像と画像解析方法現在AO-SLOでとらえられている像として,網膜神経線維束・大血管および毛細血管内の血球動態・視細胞があげられる(図4).筆者らの開発したAO-SLOで見えている視細胞はすべて錐体細胞であるが,最新の研究では,杆体細胞も描出可能な次世代AO-SLOシステムの開発が報告されている(図5)3).正常眼における視細胞パノラマ像を図6に示す.黄斑部の組織学的所見では,中心窩においては小さな錐体細胞が密に配列しているのに対し,周辺では大きな錐体細胞の間を小さな杆体細胞がうめる構造をとる.AO-SLOにより得られる錐体細胞モザイクにおいても,中心窩近傍では小さな錐体細胞が密に配列しているのに対し,中(67)あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013201図4AO-SLOにより得られる画像左:視細胞.中:網膜神経線維束.右:血管内の血球動態.図5次世代AO-SLOによる杆体細胞の可視化錐体細胞のまわりに小型の杆体細胞が多数存在している.(文献3より改変)心窩からの距離が離れるに従って,個々の細胞が大きくなり,密度が低下することがわかる.中心窩から0.2,0.5,1.0mmの部位における平均視細胞密度は,67,900,33,320,14,450個/mm2であり,組織学的研究の結果とほぼ一致している4).得られた視細胞画像を用いて,視細胞密度の測定や,視細胞配列の解析を行うことができる.まず血管によるシャドウの少ない領域を選び,個々の視細胞の重心をソ*図6正常眼視細胞像左:通常SLO画像.拡大しても視細胞は確認できない.右:同部位のAO-SLO画像および拡大像.個々の視細胞が解像され,中心窩近傍(上方)では細胞が小さく,視細胞密度も高いが,中心窩から離れるに従って細胞は大きくなり,密度も低下する.*:中心窩.(文献4より改変)202あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013(68)図7視細胞重心の自動検出左:血管によるシャドウの少ない部位を選択.右:視細胞の重心をソフトウェアにより自動検出(緑で表示).図8視細胞重心から得られるVoronoi図各視細胞重心の垂直二等分線を引くことにより得られる.視細胞配列の解析に使用.緑は六角形,青は五角形,黄色は七角形を示す.緑で表される六角形の割合が高いほど配列に規則性があると考えられる.図9網膜神経線維パノラマ画像A:後極部の網膜神経線維束パノラマ像.B:Aの白枠の拡大.個々の神経線維束が描出されている.フトウェアにより自動検出する.眼軸長によるスキャン(文献5より改変)長補正を行ったのち,視細胞数/面積の計算により各部位における視細胞密度を算出することができる(図7).また,得られた各視細胞重心からの垂直二等分線を引く得られ,視細胞配列の規則性を解析することができることにより,Voronoi図(ある距離空間上の任意の位置(図8).一般に1つの視細胞は6つの視細胞に近接したに配置された複数個の点に対して,同一距離空間上の他配列をとっており,Voronoi図の六角形の割合が多いほの点がどの母点に近いかによって領域分けされた図)がど配列が規則的であると考えられている.(69)あたらしい眼科Vol.30,No.2,20132035045403530252015網膜神経線維束幅(AO-SLO)10500°30°60°90°120°150°180°210°240°270°300°330°250200150100500網膜神経線維層厚(SD-OCT)0°30°60°90°120°150°180°210°240°270°300°330°Position図12中心性漿液性脈絡網膜症における視細胞異常A:初診時SD-OCT水平断.漿液性網膜.離(SRD)を認める.1カ月でSRDは自然寛解した.B,C:4カ月後.B:SD-OCT水平断.SRDは消失している.IS/OS:視細胞内節外節接合図10視神経乳頭周囲における網膜神経線維束幅と神経線維部,COST:視細胞外節先端.C:中心窩のAO-SLO画像.視層厚細胞モザイク内に斑状のdarkregionを認め,視細胞の欠損とAO-SLOにおける神経線維束幅は二峰性を示し,OCTにおけ考えられる.視細胞密度は低下している.*:中心窩.スケーる神経線維層厚と相関する.(文献5より改変)ルバー:100μm.(文献4より改変)図11視神経篩状板孔の観察篩状板孔は眼底写真より鮮明に描出され,緑内障眼での研究に有用である.(文献6より改変)204あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013(70)図9に示すのは正常眼における網膜神経線維束のパノラマ像である5).AO-SLOにより個々の神経線維束が描出可能となり,既存のOCTなどでは不可能な神経線維束幅の計測が可能となる.興味深いことに,乳頭周囲の神経線維束幅は二峰性を示し,SD-OCTにより得られた神経線維層厚と相関を示す(図10)5).また,AO-SLOは視神経篩状板孔の観察にも利用可能である(図11)6).このような検討は緑内障研究で有用と考えられる.VI病理眼におけるAO-SLO画像(視細胞像)1.中心性漿液性脈絡網膜症寛解後の視細胞構造異常(図12)4)中心性漿液性網脈絡膜症(CSC)では多くの症例で漿液性網膜.離は自然消退し,視力が回復するが,漿液性網膜.離消退後も比較暗点や変視症・色覚異常を自覚することが多い.また,慢性型では恒久的な視力障害を残すことが知られている.これまでOCTを用いた研究により,CSC症例で視細胞内節外節接合部(IS/OS)に異常をきたすことや,中心窩網膜厚が菲薄化することが報告され,CSCでは視細胞層に障害がもたらされていることが示唆されてきたが,個々の視細胞にどのような異常が生じているのかは不明であった.筆者らはAO-SLOを用いて,CSCの漿液性網膜.離消退後の視細胞構造について検討を行った.漿液性網膜.離の消失を認めたCSC症例は全例で5.100細胞大の視細胞欠損像が斑状に観察された.中心窩から0.2,0.5,1.0mmの部位における平均視細胞密度は31,290,18,760,9,980個/mm2であり,正常眼に比べ有意に低下していた.中心窩から0.2mmの部位における平均視細胞密度は平均視力および中心窩平均網膜厚と有意な相関がみられた.また,SD-OCT像でのIS/OS不整群はIS/OS正常群に比べ有意に視細胞密度が低かった.このようにAO-SLOによりCSCおける網膜復位後の視細胞構造異常が明らかとなった.CSCではSRD消失後も視細胞密度が減少し,残存視細胞密度は視力・網膜厚と相関する.すなわち,CSCでは視細胞密度の減少が視力障害に関係しており,治癒後の比較暗点や色覚異(71)常にも関与すると考えられる.2.黄斑円孔術後における視細胞構造異常(図13,14)7)近年手術機器・手技の進歩により,硝子体手術による黄斑円孔閉鎖率は高くなったが,円孔の閉鎖が必ずしも良好な視力回復をもたらすとは限らず,閉鎖後も比較暗点や変視症を自覚する場合が多い.これまでOCTを用いた研究により,黄斑円孔閉鎖後もIS/OSや外境界膜(ELM)に異常をきたしていることが報告され,視細胞層の障害が術後視機能に影響していることが示唆されてきたが,個々の視細胞構造異常は不明のままであった.筆者らはAO-SLOを用いて黄斑円孔閉鎖後の視細胞構造異常について前向き研究を行い,術前因子との関連を検討した.特発性黄斑円孔症例を対象として,硝子体手術後6カ月でAO-SLO・SD-OCT・マイクロペリメトリーの測定を行ったところ,全例で視細胞欠損所見が確認され,平均視細胞密度は正常眼に比べ有意に低下していた.視細胞密度および視細胞欠損面積は,視力・網膜感度と相関を認め,術前のSD-OCTにおける視細胞外節欠損所見と関連していた.また,症状の持続期間と視細胞欠損面積とは正の相関を認めた.このようにAO-SLOにより黄斑円孔術後の視細胞構造異常が明らかとなり,視細胞欠損の程度が視機能に関連していることが示された.黄斑円孔発生時に後部硝子体からの牽引が視細胞層に欠損をもたらし,持続期間が長くなれば視細胞障害が進み,術後も視細胞構造異常が残存するものと考えられる.3.黄斑上膜症例における視細胞配列異常(図15,16)8)黄斑上膜症例の視機能異常として変視症があることはよく知られている.これまでOCTを用いた研究により,黄斑上膜症例でIS/OSに異常をきたすことや,中心窩における外顆粒層厚が増加することが判明し,黄斑上膜は視細胞層へ影響を及ぼすことが示されてきたが,変視症のメカニズムは不明のままである.筆者らはAO-SLOを用いて黄斑上膜症例の視細胞構造について検討を行あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013205図13特発性黄斑円孔術後における視細胞異常一段目:初診時SD-OCT水平断.特発性黄斑円孔を認め,外境界膜(ELM)の外側に存在すべき視細胞内節外節接合部(IS/OS)の反射低下(青矢頭)および欠損像(赤矢印)を認める.二段目:硝子体手術後.黄斑円孔は閉鎖したが,中心窩周囲の網膜感度の低下(右)を認める.三段目,四段目:SD-OCT(二段目の緑矢印部位のスキャン).IS/OSの欠損(青矢頭)および中心窩に高反射領域(*)を認める.ONL:外顆粒層,COST:視細胞外節先端,RPE:網膜色素上皮.(文献7より改変)図14特発性黄斑円孔術後のAO-SLO画像図13と同一症例(二段目の白枠部位に相当).視細胞欠損像を認め(黄矢印),網膜感度低下領域と一致している.*:中心窩.(文献5より改変)206あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013(72)図15黄斑上膜における視細胞異常A:眼底写真にて黄斑上膜を認める.B:IR画像.C:アムスラーチャートにて広範囲な変視症を認める.D:SD-OCT水平断(Bの緑矢印部位).黄斑上膜(黒矢印)を認める.中心窩IS/OSは不規則である(青矢印).E:SD-OCT垂直断(Bの緑矢印部位).F:AO-SLO画像(Bの白枠,D・Eの両矢印部位に相当).視細胞モザイク内に多数のmicrofold(赤・黄矢印)を認める.*:中心窩,スケールバー:100μm.図16正常眼および黄斑上膜症例の視細胞配列正常眼(左)および黄斑上膜症例(右)における視細胞重心Voronoi図.正常眼では緑で示される六角形の割合が高いが,黄斑上膜では低下している.(文献8より改変)い,変視症への関与を考察した.黄斑上膜症例では,視細胞間に多数の皺襞様低反射像を認め,筆者らはこの所見を“microfold”と名付けた.Microfoldを中心窩に認める症例では,アムスラーチャートで固視点付近に変視症が認められ,M-CHARTSにおける変視スコアも悪かった.また,Voronoi図における六角形の割合は正常眼に比べ有意に低い結果となり,(73)(文献8より改変)視細胞配列の規則性が低下していた(図16).この研究により,黄斑上膜症例において,既存のSLOやSD-OCTでは検出不可能な黄斑上膜特有の視細胞配列異常が判明し,変視との関係が認められた.黄斑上膜症例において,microfoldに表される視細胞配列の乱れが変視症の形成に関与していることが示唆される.黄斑上膜による求心性の収縮が網膜の肥厚を起こすのみでなく,視細胞層にもさまざまな程度の歪みを生じさせ,microfold・配列の規則性低下をひき起こすと考えられる.4.黄斑部毛細血管拡張症における視細胞異常と蛍光眼底造影所見(図17,18)9)黄斑部毛細血管拡張症(MacTel)は近年注目されている疾患である.MacTeltype2は種々のイメージング機器での異常所見が報告されており,OCTでは網膜内層・外層に萎縮性の変化をきたすことや,初期から外顆粒層に高輝度点が認められることが報告され,病態に視細胞障害が関与していると考えられていたが,病態メカあたらしい眼科Vol.30,No.2,2013207図17黄斑部毛細血管拡張症における視細胞異常A:眼底写真にて黄斑部毛細血管拡張および網膜の透明性低下を認める.B:フルオレセイン蛍光眼底造影にて蛍光漏出を認める.C:眼底自発蛍光にて黄斑部自発蛍光の増強を認める.D:SLOredfree画像にて黄斑部反射増強(黄矢印)を認める.E:マイクロペリメトリーにて傍中心窩の網膜感度低下を認める.F:IR画像.G:SD-OCT水平断(Fの緑矢印部位).外顆粒層に高輝度点(黒矢頭)を認める.中心窩IS/OSは不規則である(青矢印).H:SD-OCT垂直断(Fの緑矢印部位).(文献9より改変)ニズムについては依然と不明のままである.筆者らは傍中心窩領域にかけて視細胞欠損像が斑状・輪状に観察AO-SLOを用いてMacTeltype2症例の視細胞構造にされ,視細胞密度の低下を認めた.視細胞密度とマイクついて検討を行い,蛍光眼底造影など他のイメージングロペリメトリーにて測定した網膜感度とは相関がみら機器から得られた所見と比較検討した.れ,視細胞障害が視機能に関与していることが示唆されMacTeltype2においては,中心窩からおもに耳側のる.また,AO-SLOで視細胞構造に異常を認める領域208あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013(74)はフルオレセイン蛍光眼底造影(FA)にて蛍光漏出を認めない範囲にまで視細胞異常が広がっていた.さらにFAでの蛍光漏出は認めないGass分類stage1の早期症例においても,AO-SLOにより斑状の視細胞異常が確認された.これらの所見は,視細胞異常が血管病変に先行して出現することを示唆するものである.MacTeltype2は網膜血管疾患ではなく,視細胞やその支持細胞であるMuller細胞の変性が本態であると推察される.以上のように,AO-SLOにより得られる視細胞密度・視細胞配列と視機能や他のイメージング機器から得られる所見を比較することにより,さまざまな眼底疾患の病態理解を深めることができる.VIIAO-OCTの可能性補償光学技術はOCTにも応用可能である.2003年図19AO-OCTによる高解像度三次元画像NFL:網膜神経線維層.GCL:神経節細胞層.OPL:外網状層.OS:視細胞外節.(文献10より)0.4mm0.3mm図18黄斑部毛細血管拡張症のAO-SLO画像図17と同一症例(Fの白枠部位に相当).輪状の視細胞欠損(黄矢印)および小型・斑状の視細胞脱落像(赤矢印)を認める.蛍光眼底造影にて蛍光漏出のない中心窩下方領域まで視細胞異常が認められる.*:中心窩.(文献9より改変)AO-OCTVolumeImageofRetinaNFLGCL0.25mmOPLOS(75)あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013209にはタイムドメインOCTに,2005年にはFourierドメインOCTに補償光学が導入された.研究室レベルでは,面分解能・深さ分解能ともに3μmである超高解像度の3D画像が示されている(図19)10).まさに眼底を‘virtualbiopsy’するような画像といえる.AO-SLOでは深さ分解能は高くなく,解析はおもに視細胞層・網膜神経線維層に限られるが,深さ方向の分解能も高いAOOCTはまさに究極の眼底イメージング機器となりうる.病理眼に応用し,診療で使用できるレベルに達するにはスキャン速度の高速化・固視微動の除去・光量の問題などさまざまな問題を解決する必要があるが,AO-OCTが市場に登場すれば眼科の世界が変わる可能性がある.おわりに眼底カメラ・SLO・OCTにそれぞれ補償光学が導入され,眼底イメージングにおける補償光学の重要性が広く認識されてきた.補償光学は眼球光学系の歪みの影響を除去し,分解能の飛躍的向上を可能にする.同時に,コントラストやSN(signal-to-noise)比の改善も期待されるため,取得される眼底像の品質向上に大いに貢献する技術となる.近い将来,角膜のスペキュラを使うようにAO-SLOを用いて視細胞密度を数え,また生検を行うかのようにAO-OCTを用いて網膜biopsyscanを行って,網膜疾患や緑内障の治療適応を検討し,治療の効果判定に利用する時代が来ると考えている.文献1)LiangJ,WilliamsDR,MillerDT:Supernormalvisionandhigh-resolutionretinalimagingthroughadaptiveoptics.JOptSocAmAOptImageSciVis14:2884-2892,19972)RoordaA,Romero-BorjaF,DonnellyWJIIIetal:Adaptiveopticsscanninglaserophthalmoscopy.OptExpress10:405-412,20023)DubraA,SulaiY,NorrisJLetal:Noninvasiveimagingofthehumanrodphotoreceptormosaicusingaconfocaladaptiveopticsscanningophthalmoscope.BiomedOptExpress2:1864-1876,20114)OotoS,HangaiM,SakamotoAetal:High-resolutionimagingofresolvedcentralserouschorioretinopathyusingadaptiveopticsscanninglaserophthalmoscopy.Ophthalmology117:1800-1809,20105)TakayamaK,OotoS,HangaiMetal:High-resolutionimagingoftheretinalnervefiberlayerinnormaleyesusingadaptiveopticsscanninglaserophthalmoscopy.PLoSONE7:e33158,20126)AkagiT,HangaiM,TakayamaKetal:Invivoimagingoflaminacribrosaporesbyadaptiveopticsscanninglaserophthalmoscopy.InvestOphthalmolVisSci53:41114119,20127)OotoS,HangaiM,TakayamaKetal:Photoreceptordamageandfovealsensitivityinsurgicallyclosedmacularholes:anadaptiveopticsscanninglaserophthalmoscopystudy.AmJOphthalmol154:174-186,20128)OotoS,HangaiM,TakayamaKetal:High-resolutionimagingofthephotoreceptorlayerinepiretinalmembraneusingadaptiveopticsscanninglaserophthalmoscopy.Ophthalmology118:873-881,20119)OotoS,HangaiM,TakayamaKetal:High-resolutionphotoreceptorimaginginidiopathicmaculartelangiectasiatype2usingadaptiveopticsscanninglaserophthalmoscopy.InvestOphthalmolVisSci52:5541-5550,201110)MillerDT,KocaogluOP,WangQetal:Adaptiveopticsandtheeye(superresolutionOCT).Eye25:321-330,2011210あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013(76)