連載⑧現場発,病院と患者のためのシステム連載⑧現場発,病院と患者のためのシステム杉浦和史*スタッフ満足度,待ち時間.スタッフ満足度が患者満足度につながる“風が吹けば桶屋が儲かる”の連鎖ではありませんが,患者満足度(customersatisfaction)という言葉は知られていますが,スタッフ(従業員)満足度(employeesatisfaction)という言葉はあまり聞いたことがないかも知れません.疲れたスタッフは患者さんに笑顔で接する余裕がありません.余分な負荷をなくし,本来のサービスに向けられる精神的,肉体的,時間的な余裕が生まれるスタッフ満足度が患者満足度につながる展開は,つぎのとおりです.スタッフの負担・ストレス軽減→スタッフ満足度向上→患者さんに優しく接する精神的,時間的余裕が生まれる→患者満足度向上.患者満足度を下げるもっとも大きな要因は待ち時間ですが,仮に待ち時間が減っても,ストレスが溜まり,疲れたスタッフが仏頂面で対応していては患者満足度の向上は期待できません.スタッフの負担を減らし,ストレスを溜めない環境の整備には何があるのでしょう.休憩室をより居心地のいいものに改装するなどという物理的な施策はすぐに思いつきますが,時間の経過とともに効果が薄れることは自明です.当院では業務を分析し,現場を観察し,それに基づき,重複作業や無理,無駄を省くという作業を地道に行いました.つぎに,残った作業の中からスタッフに負荷やストレスをかける要因をみつけ,それをITや作業の標準化でカバーできる部分,負荷はかかるものの人間にしかでき《システム稼働前》《システム稼働後》14時台にならないと昼食(昼休み休憩)に行けなかった外来看護師の数が,明らかに減少している.業務の改革,改善とそれをサポートするシステムの提供する機能により,効率よく捌けるようになったこと,および予約効果で,午前中の診察が効率よく捌けていることを示している.図1スタッフ満足度向上の一指標(77)0910-1810/12/\100/頁/JCOPYようにするためには何をすればよいのでしょう?ない部分に分けました.前者についてIT化を図り,それと並行して臨機応変という耳障りのよい言葉で処理されていた曖昧な部分を明確にし,作業の標準化を図りました.その結果,スタッフの負荷とストレスが軽減され,本質的な業務に時間と気持ちを使うことができるようになり,待ち時間の減少を含め,患者満足度を向上させることができました.患者満足度が向上したことは,スタッフが聞く患者さんからの評判,1カ月当たりのクレームが数十件あったものが,数件に減少したことを根拠としています..待ち時間積み木を箱に入れる際,大きさ,形を考えずにバラバラに入れると箱に入りきらずに溢れてしまいます.一方,キチンとしまえば収まります(図2).これは来院患者を捌く際にもいえることです.無理,無駄を排除し,前例にとらわれずに業務を整理整頓し,作業順を見直す○積み木…来院する患者さん○積み木の箱…過負荷なく診察可能な数キチンとしまえば収納可能なのに,いい加減にしまうと溢れてしまう.この溢れが待ち時間!図2積み木と待ち時間の関係*KazushiSugiura:宮田眼科病院CIO/技術士(情報工学部門)あたらしい眼科Vol.29,No.9,20121253■稼働前■稼働後午前1午前2午後1午後23:302:472:471:441:551:531:311:161:053:002:302:001:301:000:300:00※平均値図3待ち時間の減少ことで無駄な隙間が埋まり,処理(作業)時間を短くすることができるようになります.この時間が短くなる=待ち時間が短くなるということです.BPR(業務改革,作業の標準化,ルール)を行い,適宜ITの適用を行えば,待ち時間は確実に減少します(図3)..待ち時間削減の限界待ち時間を少なくする施策にはいろいろありますが,ある程度減らせていくと,それ以上の削減は無理という限界がみえてきます.これ以上削減できないとした場合,つぎに考えるべきは,待っている時間を退屈にさせないための施策,あるいは,逆手にとって利用する施策です.当院では,つぎの2つを考え,実施しました.1.患者さんが知りたがっている情報を提供する.どのくらい待てばいいのかの目安.どんな状態で待っているのか.全体の進捗状況2.患者さんに知って欲しい情報を流す.学会出張などで休診になる医師.保険負担の変更など,制度の改訂.新たな病院施策の紹介と協力のお願いこれらは,日頃患者さんと接している第一線のスタッフの意見を反映したものです.図4のように,診察室の前に薄型の大型テレビを置き,自分が何番目でどんなステータスで待っているのかが一目でわかるようにしました.字は視力の弱い患者さ図4情報提供図5患者さんからの礼状んでも椅子に腰掛けたまま読める大きさにしてあります.これにより,今までわからなかった状況がわかり,何時まで待てばいいのかの目安がつくことで安心してもらうことができました.また,不在時に呼ばれてしまい,後回しにされてしまうのではないかと不安になり,トイレを我慢していたという患者さんがいたことから,表示,呼び出しルールを工夫し,これを解消しました.患者さんからは,漢詩の礼状が届きました(図5).これらの施策をとおしていえるのは,スタッフ満足度向上,待ち時間削減は,識者に意見を求めるほど難しいことではなく,大上段に振りかぶるほど大仰なことでもなく,現場の声を聞き,その背景を調べれば誰でも効果的な策を考えることができるということです.1254あたらしい眼科Vol.29,No.9,2012(78)