‘記事’ カテゴリーのアーカイブ

My boom 2.

2012年3月31日 土曜日

監修=大橋裕一連載②MyboomMyboom第2回「奥村直毅」本連載「Myboom」は,リレー形式で,全国の眼科医の臨床やプライベートにおけるこだわりを紹介するコーナーです.その先生の意外な側面を垣間見ることができるかも知れません.目標は,全都道府県の眼科医を紹介形式でつなげる!?です.●は掲載済を示す連載②MyboomMyboom第2回「奥村直毅」本連載「Myboom」は,リレー形式で,全国の眼科医の臨床やプライベートにおけるこだわりを紹介するコーナーです.その先生の意外な側面を垣間見ることができるかも知れません.目標は,全都道府県の眼科医を紹介形式でつなげる!?です.●は掲載済を示す自己紹介奥村直毅(おくむら・なおき)同志社大学生命医科学部医工学科ティッシュエンジニアリング研究室・助教私は2001年に京都府立医科大学を卒業し眼科学教室に入局しました.大学病院での研修医生活に続いて,高知県にある町田病院で勉強させていただきました.2006年から京都府立医科大学大学院で角膜内皮疾患に対する新規治療法の開発を目指した研究を行いました.2011年からは現職である同志社大学に助教として着任しました.現在は少し臨床のウエイトを減らして,京都府立医科大学の木下茂教授,同志社大学の小泉範子教授のご指導のもと角膜内皮疾患の研究に重きをおいた生活をしております.研究のmyboom2001年の入局当時,京都府立医科大学では重症眼表面疾患に対しての培養粘膜上皮移植を始めた直後ということもあり,日本および世界からも多くの先生方が常に見学に来られており活発なディスカッションが行われていました.大学卒業直後の私にはとても華やかで輝いて見えておりましたので,そうした空気のなかで自分も研究をしてみたいと,なんとなく感じていました.もちろん研修医当時はどこでもそうなのでしょうが労働基準法の適用外でしたので,そのうちいつかはといった程度のものでした.大学院入学後に,いよいよ木下茂教授に研究テーマを相談させていただくことになりましたが,研修医当時の培養粘膜上皮移植の華やかさの刷り込みのためか,臨床応用につながるものが良いと信じておりま(85)0910-1810/12/\100/頁/JCOPYしたので,当時サルをモデルとしての培養角膜内皮移植実験を進めておられた小泉範子先生にお願いして角膜内皮の研究を始めさせていただきました.基本的には何をやってもうまくいかない時期が続きましたが,当初は大学院の期間限定での研究かと思って,大して気にせず過ごしておりました.そんなことで大学院生として自覚に欠けた生活をしておりましたが,Rhoキナーゼ阻害薬という薬剤に出会い,それが角膜内皮に興味深い作用を幾つかもっていることを明らかにすることができました.このあたりからすっかり夢中になっております.興味深い作用のうちの一つは培地に加えると細胞が増殖するという現象でしたが,点眼したらどうだろうかというやや飛躍した思い込みのもと,ウサギ,サルの角膜内皮障害モデルに点眼してみることにしました.結果は驚くべきことに非常に良いものであり,木下教授らの強力なリーダシップのもと水疱性角膜症患者に対する臨床研究がスタートしました.現在はまだ安全性試験という位置づけですが,一部の患者さんでは視力が1.5と劇的に改善して予定していた角膜移植をキャンセルするに至りました.もちろんすべての水疱性角膜症がこの点眼薬で治るというわけではないのでしょうが,今後の展開に大いに期待しています.私たちの研究グループでは薬物療法のみならず,培養角膜内皮移植の研究開発を行っています.当初はシート状に培養した角膜内皮を移植することを想定していましたが,一つの有力なオプションとして培養細胞を懸濁液として前房内に注入することを考えています.このこと自体は東京大学の三村達哉先生など何人かの研究者がすでに提唱されていたアイデアです.問題は,普通に培養細胞を注入するだけだと前房水に流されてしまうということです.私たちはRhoキナーゼ阻害薬が角膜内皮細胞の細胞接着を促進するということを明らかにしましたが,懸濁液に混ぜて前房内に注入するとうまい具合に角あたらしい眼科Vol.29,No.3,2012373 〔写真1〕京都府立医科大学眼科医局セミナーの配信サイト膜にくっつくのではないかと,ここでもやや飛躍した思いのもと動物実験を繰り返しました.結果は非常に望ましいもので,現在臨床応用を目標とした研究を行っています.現在私は,Rhoキナーゼ阻害薬点眼薬と培養角膜内皮移植の開発を目標とした研究に情熱を注いでいます.期間限定で華やかな世界に憧れて始めた研究ですが,すっかりはまってしまっておりますので,まさにmyboomかと思っています.いろいろな取り組みのmyboom京都府立医科大学の眼科学教室では医局セミナーをすべて録画して,専用のウェブサイトでいつでも見られるようにしています(写真1).もちろん医局の先生方の協力があってのことで私の仕事ではありませんが,サイトの設計に少し関係しましたので紹介させていただきます.具体的にはセミナーでの発表がすべてサイトにアップロードされYouTubeのようなイメージで端末を選ばず見ることができます.公開範囲は,現在のところ大学内と関連病院の先生方に限っていますが,今後教育的な内容や演者の許可が得られたものについては広く公開を予定しています.私自身も特に教育的な内容については374あたらしい眼科Vol.29,No.3,2012〔写真2〕第10回YOBC(若手医師交流会)の集合写真電車での移動時間によくiPadで視聴しています.もちろん最新の研究に関する公開に適さないものや,講演内容の著作権に関する問題には十分な注意が必要ですが,今後の有力な情報ソースになるのではないかと感じております.ところで,せっかく「あたらしい眼科」にフリーな内容で執筆できるスペースを頂きましたのでYOBC(YoungOphthalmologists’BorderlessConference)という会について本連載第1回目の鈴木先生に続いて紹介させていただきたいと思います.YOBCは,親しい先生方と持ち回りで幹事をしながら,若い眼科医同士が知り合いを作って楽しいお酒を飲むことを目的として日本臨床眼科学会,日本眼科学会の際の年2回のペースで集まっています.前回は第10回の記念大会でしたので,木下教授が若い医師に向けて真面目な話あり,笑いありの記念講演をしてくださいました(写真2).すでに会も10回を数え,私も若い眼科医というには微妙に苦しくなってはおりますが,医局の枠を超えて仲の良い先生たちとのお酒が楽しくて参加を続けております.幹事の不備をいつも皆に叱られていますので,この場をお借りして宣伝させていただくことにいたします.次回のプレゼンターは東京医科大学の臼井嘉彦先生です.優秀かつパワフルな親しい友人であり,密かに尊敬している人物です.注)「Myboom」は和製英語であり,正しくは「Myobsession」と表現します.ただ,国内で広く使われているため,本誌ではこの言葉を採用しています.(86)

眼研究こぼれ話 27.ハローウィンのお化け 「第三眼」持つハ虫類

2012年3月31日 土曜日

●連載眼研究こぼれ話桑原登一郎元米国立眼研究所実験病理部長ハローウィンのお化け「第三眼」持つハ虫類10月31日はハローウィンである.どこの国でも,1年に一度は,化け物が出たり幽霊におどかされたりする日がある.この日は小さい子供たちにとって,とても恐ろしい日である.子供たちは,9月の終わりになるころから,この夜のことを心配し,びくびくし始めると同時に,どのようにして友達をおどかしてやろうかと計画にとりかかる.10月31日の夕刻になると,それぞれ仮装した子供たちが,冷気のする戸外に出て,「トリックオアトリート」と言いながら近所の家のドアベルを鳴らして歩く.子供たちのやって来るのを待っている隣人たちは,戸口の電気を明るくつけて,チョコレート,キャンデーをたくさん袋に入れてくれる.ちゃっかりした大きな子供たちは,本当にかせぎまくるのもいる.大型買い物袋に,キャンデーを数袋もらってくるのである.なかには子供らに負けないで,魔法使いの服装をして待っている大人もいる.また,幽霊になっておどかす大人もいる.子供にとって,忘れることのできない,楽しく,こわい夕べである.小さい子供たちは,1年に一度許される夜更かしに興奮し,疲れ果ててキャンデーの袋をかかえて寝入るのである.こんな夜,いろいろな化け物が出るのであるが,眼玉が正常でない化け物もいるに違いない.一つ目はどうだろう.いるいる.まれではあるが,眼が額の真ん中に一つしかない児(こ)が生まれることがある.このような異常な一つ目を顕微鏡で調べると,実は,二つの目が,一つに融合しているので,前眼部や,角膜は一つでも,内部は普通二つに分かれていることが多い.このような先天性異常は大変(83)▲ハローウィンの夕刻,家にやって来た近所の子供たちまれであり,生まれても数時間以内に死んでしまうので,夕闇(─やみ)に出て来ておどかすようなことはない.次は二つ目.そこらにうじゃうじゃしている二つ目と異なって,こわいのが生まれることがある.それは全く頭と脳のない子供である.ところが不思議なことに,完全に無脳の異常児の眼は,比較的よく発達しているのである.胎生学的に,眼は脳ができるより先に発生するので,この無脳症の原因は,眼ができてよりあとに起こると考えられる.このような児も全く育たない.私の研究所にはこのような一つ目,二つ目の標本がよく集まって来る.次に三つ目であるが,ホ乳類にはないようである.ところが鳥より下等の動物となると,正常で,三つ目なのである.特に,両せい類,ハ虫類でははっきりしている.これらの動物ではちょうど,頭の中心に小さな窓があって,その下に網膜と同じ細胞を持った第三の眼をつくっている.第三眼とは学用名である.この眼は食物,敵または相棒を見つける本当の眼とは別あたらしい眼科Vol.29,No.3,20123710910-1810/12/\100/頁/JCOPY 眼研究こぼれ話眼研究こぼれ話に,環境の明るさを感じているらしい.強い日光とが,光の状態で,ホルモンの調整をしていることがか,木陰などの判別をしているのである.例えば昼わかっている.白ネズミを明るい所に長くおいてお寝をしているカメ君は,第三の眼はよく開けて,家くと,松果腺の細胞がうんと増える.このような原路につかねばならない日暮れの来るのを,ちゃんと理を応用して,例えば,寝室の照明度の加減で,産知っているのである.児制限ができることをまじめに研究している学者もこの第三眼はホ乳類ではもっと分化して,松果腺いる.(─せん)となり,網膜様の構造はなくなっている(原文のまま.「日刊新愛媛」より転載)☆☆☆372あたらしい眼科Vol.29,No.3,2012(84)

現場発,病院と患者のためのシステム 2.紙カルテを単純に電子化したのでは,使い勝手で紙を超えられない

2012年3月31日 土曜日

連載②現場発,病院と患者のためのシステム連載②現場発,病院と患者のためのシステム杉浦和史*紙カルテを単純に電子化したのでは,使い勝手で紙を超えられない.問題提起紙カルテの時代は長く,院内諸業務すべてがこれを前提にして動いていた.この中で,作業実態を踏まえない電子カルテが登場すれば拒否反応がでてくるのは当然である.しかし,そうかといって,紙カルテの使い勝手をそのまま電子化すればよいということではない.電子化する際には新たな発想が必要である.長年使い慣れ,約束事なく何でも書け,メモ類を貼り付けられ,イレギュラーな場面にも問題なく対応できた紙のカルテに対し,習熟に時間を要し,約束事が多い電子カルテに不都合が多いと感じる医師は多い.そこを狙って,できるだけ紙カルテの感覚で使えることをアピールする電子カルテが出回っている.紙カルテはそのままに,1号,2号用紙,検査データをスキャンして保存し,参照できるというものまで現れ,ペーパーレスだし,代診の医師でも問題なく対応できるという触れ込みである.紙カルテを残しておいてペーパーレスとは驚きだが,敷居を低くして,電子カルテに二の足を踏んでいる多くの医師に,その気になってもらう苦肉の策といえる.一方,ITだからこそ可能な特長を活かそうと,一つの画面から何でもできるという,見るからに使いづらく見える煩雑な画面レイアウトのものもある.いずれも問題であるが,一般的に,システムを設計する際には,業界・業種・業務を問わず,そのシステムが対象とする業務を調査し,業務の目的に沿って,必要となる機能,情報を洗い出し,無理無駄を省いてから,仕様を決める.紙カルテの使い勝手を電子的に実現するという発想や,何でもできるという仕様は,このステップを踏んでいるか疑問である.紙と鉛筆の世界から,ディスプレイとキーボード,マウス,手書き,音声という表現手段への変化を踏まえ,根本的に見直した発想による設計が必要になると思われる..紙と画面,鉛筆と,電子的入出力,表示手段の違いを踏まえたユーザーインターフェイス手段の違いを理解すると,今までの仕事の仕方をそのままにシステムに写し取ることの問題が浮上する.1.ぺージめくり(図1)診察時には,紙カルテをパラパラとめくり,しばし見てから,戻ったり,めくったりする.この動作はどのような意味があるのか.これを考えず,単に画面上に表示されたカルテを,紙カルテのようにパラパラ感をもって見られるようにすることを競っているのが,今の電子カルテのユーザーインターフェイス.最近の電子ブックは,あたかも本物の紙をめくるような動きをするものがあるが,これと同じようにできたらよいと思う医師もいることと思われる.紙と人の手の動きをもってパラパラとめくり,少し戻って,まためく図1診療現場におけるカルテのページめくり*KazushiSugiura:宮田眼科病院CIO(81)あたらしい眼科Vol.29,No.3,20123690910-1810/12/\100/頁/JCOPY るという動作を電子的に実現することに知恵を絞るのは結構だし,技術者には興味を引くテーマといえる.しかし,どうしてめくったり戻ったりするのかの本質を考えるべきではないか.そのうえで,必要とされる場合には,できるだけ自然な感じでパラパラできる機能を開発し,実装して欲しい.では,めくったり,戻ったりするのはどうしてか.視力,眼圧などの推移であり,その時の処方,指示に関する情報を見たいからである.紙カルテは,情報と媒体が一体になっていて切り離せないが,情報を電子的に取り扱えるシステムは,それらの情報を抽出して時系列に表示することができる.数字ではなくイメージで捉えたかったら一瞬でグラフにもできるし,関連する情報を並列表示することも容易にできる.検査結果,所見,処方・指示を同時に表示し,何世代も遡って見たいという場合には,操作性よくめくる機能は必要になるが,通常の使い方では,時系列表示機能があれば,パラパラめくる機能はいらないということである.2.カルテ添付のメモ類(図2)紙のカルテには多種多様なメモが貼り付けてあり,重なっている場合も珍しくない.見落とされないよう,紙の色,字の大きさ,体裁を工夫するなどしている.当院では,カルテに添付しているメモ類を調べたが,300種類を超えていた.メモに対応するために,紙のポストイットを電子的に実現した電子ポストイットがあるが,これもぺージめくり機能同様,紙を電子に置き換えただけの単純な発想である.この機能を使って約300種類もあるメモをそのまま電子化したらどうなるか.メモの目的を明確にしてから,重複しているものを排除し,次に重要性,緊急性を調べ,誰に見て欲しいのか,見て欲しいタイミングなどを分類し,整理するところから始めなければならない.とかく,今使っているこのメモはどう電子化されるかを気にするが,このようなことに気を配らなければならない.確実にドクターに見てもらわなければならない重要なメモについては,補足的な意味合いがあるメモという位置づけではなく,正規の機能として整備すべきである.図2カルテに貼り付けられているメモ類相互に関係するメモや,同じような目的をもったメモはあちこちに点在するのではなく,ひとまとめにして入力,指定できるようにするなど,電子化に際しては,根本的な見直しを行わなければならない.紙時代の仕事の習慣をそのまま投影したシステムでは,電子化の効果は出にくい.当院では,メモを見直し,分類整理した結果,約300種類以上あったメモを4分の1以下に減らすことができた.そのうえで,電子的に処理できるようにする計画である.3.作業環境を考えた機能医師,看護師などコメディカルが,常に画面の前に座ってはいない,ということを想定した仕様になっているか.メッセージを画面に表示しても,それをタイムリーに見る人がいなければ,伝えようとした情報の価値は大幅に減少してしまう.頻繁に画面をのぞくようにするという躾もあるが,それではストレスがたまるし,見落としもある.通常の作業をしつつ,メッセージをキャッチする方法はないか.メッセージ到着を知らせる音を鳴らすことはもちろん可能だが,音声合成技術を使ってメッセージの内容を発声させれば,他の作業をしながらでも,メッセージの到着とその内容を知ることができる.単にメッセージを表示させて機能を果たしたと思わず,そのメッセージをどのような目的で表示し,どのようなアクションを期待するかを考えれば,このような処理は当然組み込まれるべきである.☆☆☆370あたらしい眼科Vol.29,No.3,2012(82)

硝子体手術のワンポイントアドバイス 106.多発性網膜細動脈瘤を伴う特発性網膜血管炎に対する硝子体手術(中級編)

2012年3月31日 土曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載106106多発性網膜細動脈瘤を伴う特発性網膜血管炎に対する硝子体手術(中級編)池田恒彦大阪医科大学眼科はじめに多発性網膜細動脈瘤を伴う特発性網膜血管炎(idiopathicretinitis,vasculitis,aneurysms,andneuroretini-tis:IRVAN)は1995年Changらによって提唱された疾患で,網膜血管炎,多発性網膜細動脈瘤,神経網膜炎を特徴とする1).後極部に細動脈瘤や硬性白斑を生じ,進行すると周辺部に広範な無血管野をきたし網膜新生血管が生じる.さらに進行すると網膜前出血,硝子体出血,牽引性網膜.離をきたすこともある.本疾患は比較的まれと考えられているが,原因不明の硝子体出血例のなかに混ざっていることがある.●IRVANの鑑別疾患新生血管からの色素漏出,周辺部網膜の無血管野と動静脈吻合,多発性細動脈瘤などの眼底所見を特徴としているため,大動脈炎症候群,サルコイドーシス,抗リン脂質抗体症候群,結核などの全身疾患との鑑別が必要である.IRVANはこれらの疾患を示唆する異常所見は認めない.一方,IRVANの近似疾患としてEales病やCoats病などがある.Eales病は通常両眼性で20.30歳代の男性に多く,おもに静脈閉塞をきたす.Coats病は10歳以下の男児に好発し,血管拡張と黄白色の滲出性病変が特徴的である.●IRVANに対する治療IRVANの治療としては,網膜無血管野や新生血管に対して汎網膜光凝固術,動脈炎症状に対してステロイド全身投与などが行われている.再発性の硝子体出血や牽引性網膜.離をきたした場合に硝子体手術の適応となる(図1~3).●硝子体手術時の注意点IRVANの網膜無血管野は,中間周辺部から周辺部に図1硝子体手術前の眼底写真右眼視神経乳頭鼻側から下方に線維血管性増殖膜とその周囲に牽引性網膜.離を認める.図2蛍光眼底写真右眼の耳側周辺部網膜の広範な無血管野,血管吻合を認める.図3硝子体手術後の眼底写真硝子体手術後網膜は復位し,血管炎も鎮静化している.かけて,虫食い状の不規則な形を呈することが多く,眼底透見可能例では術前に蛍光眼底検査を行い網膜虚血範囲に光凝固を確実に施行する必要がある.牽引性網膜.離は網膜虚血に起因する線維血管性増殖膜の発育と後部硝子体.離の進行によって生じるが,増殖糖尿病網膜症と同様の手術手技で対応する2).血管炎は硝子体手術後に鎮静化することが多いが,炎症が遷延する場合にはステロイド薬の追加投与を考慮する.文献1)ChangTS,AylwardGW,DavisJLetal:Idiopathicretinalvasculitis,aneurysmsandneuro-retinitis.Ophthalmology102:1089-1097,19952)鶴原泰子,石崎英介,服部秀嗣ほか:IRVANに対して硝子体手術を施行した1例.眼科手術24:63-66,2010(79)あたらしい眼科Vol.29,No.3,20123670910-1810/12/\100/頁/JCOPY

第12回眼科DNAチップ研究会 報告書

2012年3月31日 土曜日

第65回日本臨床眼科学会専門別研究会2011年10月7日(金)東京国際フォーラム第12回眼科DNAチップ研究会報告書*1京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学*2山形大学医学部眼科学講座上田真由美*1山下英俊*2木下茂*1はじめに今年(2011年)で第12回を迎える眼科DNAチップ研究会が第65回日本臨床眼科学会の専門別研究会の一つとして2011年10月7日金曜日に行われた.今年は,専門別研究会としては最後になることもあり,シンポジウム3演題,教育講演1題,そして特別講演1題と例年になく内容豊かなプログラムとなり,ゲノムワイド関連解析を中心とした遺伝子多型解析ならびにバイオインフォマティクスに関する高度な研究内容を聞くことができた.シンポジウム3人の演者によるシンポジウムが開催された.初めの演者は,京都大学の山城健児先生で,“病的近視感受性遺伝子の同定”という演題名で,ゲノムワイド関連解析の結果をもとに,病的近視関連遺伝子多型についてお話しされた.続いて,横浜市立大学の水木信久教授が,“ゲノム研究が拓く眼科医療の未来”という演題名で,最近NatureGeneticsに掲載されたベーチェット病のGenome-WideAssociationStudy(GWAS)解析の結果について詳細にご説明いただき,かつ,今後の進行性についてもご講演された.シンポジウム最後の演者は,京都府立医科大学眼科の上田真由美で,“眼合併症を伴うStevens-Johnson症候群の遺伝子多型解析”という演題名で,候補遺伝子解析からゲノムワイド関連解析の結果,さらには,疾患関連遺伝子の機能解析についてお話しさせていただいた.シンポジウムの発表はどれも,日本のゲノム解析を代表する素晴らしい発表であった.教育講演1時間のシンポジウムの後,京都府立医科大学ゲノム医科学の中野正和助教から“これからのゲノムワイド関連解析における次世代技術の活用法”という演題名の教育講演が行われた.次世代シークエンサーを中心にゲノムワイド関連解析の次世代技術についての詳細な説明とともに今後の方向性についてわかりやすくご講演いただいた.特別講演教育講演の後は,九州大学の生体防御医学研究所附属遺伝情報実験センターの山本健准教授により,“DNAチップの可能性─相関,連鎖,エピジェエネティクス─”という演題名の特別講演をしていただいた.ゲノムワイド関連解析による遺伝子多型解析,SNP(一塩基多型)チップを用いた単一遺伝病の連鎖領域同定,DNAメチル化サイトチップを用いたエピジェエネティクス固体差解析についてご講演いただいた.☆☆☆(77)あたらしい眼科Vol.29,No.3,20123650910-1810/12/\100/頁/JCOPY

眼科医のための先端医療 135.眼内血管新生の治療標的としてのクリスタリン蛋白

2012年3月31日 土曜日

監修=坂本泰二◆シリーズ第135回◆眼科医のための先端医療山下英俊眼内血管新生の治療標的としてのクリスタリン蛋白加瀬諭(北海道大学大学院医学研究科眼科学分野)クリスタリン蛋白と眼疾患の関わり脊椎動物におけるクリスタリン(crystallin)蛋白は,a,b,gの3つのファミリーに分かれ,特に近年,aクリスタリンが種々の眼疾患に重要な役割を果たすことが示唆されてきました.a-クリスタリンは熱ショック蛋白(HSP)におけるaA,aBという二つの異なるファミリーより成ります.a-クリスタリンは水晶体構成蛋白として発見され,その後水晶体のみならず網膜や網膜色素上皮(RPE)にも発現されていることが確認されております.加えて,a-クリスタリンは,熱刺激のみならず虚血,低酸素や炎症など,種々のストレスでその発現が誘導され,細胞の増殖制御やアポトーシス,細胞の分化に関与しております.分子シャペロン機能を有しており,種々の蛋白質に結合して,標的蛋白の分解制御を行っています.眼疾患では,まず糖尿病眼と網膜芽細胞腫(RB)において,a-クリスタリン蛋白の関わりについて示します.網膜症の発生がみられない段階における糖尿病眼の網膜においては,正常に比較して,aA-クリスタリンが高発現していましたが,aB-クリスタリンの発現上昇はありませんでした1).同様に,最終糖化産物(AGE)の発現を調べたところ,糖尿病眼では網膜の血管に高発現していました.この結果を踏まえ,リコンビナントAGE蛋白をマウスの硝子体に注入し,網膜を摘出してa-クリスタリンの発現を調べたところ,aA-クリスタリンの発現が誘導されました1).以上より,糖尿病眼において,aA-クリスタリンの発現が網膜のアポトーシス制御に重要な役割を果たすことが示唆されました.RBにおいては,酸化ストレスに反応して培養RB細胞におけるa-クリスタリンの発現が誘導されました2).また,ヒトのRBによる摘出眼球においても,化学療法後に摘出された組織でaB-クリスタリンが残存する腫瘍細胞に高発現していることが判明しました3).(73)0910-1810/12/\100/頁/JCOPYこれは腫瘍細胞における化学療法への抵抗性の獲得に,a-クリスタリン蛋白の発現が関与していることを示唆します3).化学療法の既往のないRBの病理組織学的研究により,腫瘍細胞におけるa-クリスタリンの発現とそのアポトーシスに負の相関がありました2).a-クリスタリンは分子シャペロン機能により,アポトーシス関連蛋白と結合し,RBのアポトーシスに重要な役割を果たすことが示唆されました.以上の研究により,種々の眼疾患,病態において,aA-とaB-クリスタリンでは発現分布や発現量が異なり,各々異なる役割を果たす可能性があります.a.クリスタリンと眼内血管新生一方で,これまで眼内血管新生における分子シャペロンの役割を解析した報告はあまりみられません.Wuらは,熱ショック蛋白の一つであるHSP90の阻害薬を用いた実験を行い,HSP90を阻害することにより,低酸素に反応する血管内皮増殖因子(VEGF)の発現が抑制されたことを確認し,分子シャペロンが眼内血管新生疾患の治療標的になりうることを示しました4).筆者らは,マウス眼内血管新生の過程において,aB-クリスタリンがVEGFと結合し,VEGFの分解を抑制していることを見出しました5).さらに実際のヒトの組織について,a-クリスタリンの発現を糖尿病網膜症の増殖組織を用いて解析したところ,網膜新生血管の血管内皮細胞にaB-クリスタリンの発現がみられ,かつVEGFと共発現していることを二重染色法で確認しました6).脈絡膜新生血管(CNV)の形成において,RPE細胞におけるVEGFの発現,分泌が重要であることが知られております.aB-クリスタリンは水晶体構成蛋白の一つのみならずRPE細胞にも発現されています.加えて,aB-クリスタリンは,RPE細胞の増殖,アポトーシスの制御に重要な役割を果たすことも示されてきました.以上のことから,CNVの形成,発達においても,aBクリスタリンが関与している可能性が考えられました.実際,aB-クリスタリンノックアウト(KO)マウスと野生型(WT)マウスを使用して,レーザー誘導CNVモデルを作製したところ,aB-クリスタリンKOマウスにおいて,有意にCNVの形成が抑制されました5).Invitroの実験にてaB-クリスタリンのRNA干渉(siRNA)トランスフェクションを行い,aB-クリスタリンの発現を低下させると,VEGFの分解が促進され,血管内皮細あたらしい眼科Vol.29,No.3,2012361 レーザー照射レーザー照射VEGFmRNA↑VEGFprotein産生↑aB-クリスタリン発現低下aB-クリスタリンとVEGFVEGF蛋白との結合凝集,変性↑機能的VEGF蛋白VEGF分解促進血管新生血管新生の抑制図1脈絡膜新生血管(CNV)におけるa.クリスタリンの関与虚血や炎症による刺激に対して,眼内血管内皮増殖因子(VEGF)のmRNAおよび蛋白発現が亢進する.aB-クリスタリンが正常に働く状況では,aB-クリスタリンはVEGFと結合してVEGF蛋白を保持し,VEGFのシグナル伝達をサポートする.しかし,aB-クリスタリンの発現が低下した場合には,VEGFの変性,凝集が起こり分解が促進され,眼内血管新生が結果的に抑制されることが示された.胞がアポトーシスに陥る現象を確認しました.これらのことから,眼内血管新生におけるa-クリスタリンの役割をまとめますと,虚血や炎症による刺激に対して,眼内VEGFのmRNAおよび蛋白発現が亢進します.aBクリスタリンが正常に働く状況では,aB-クリスタリンはVEGFと結合してVEGF蛋白を保持し,VEGFのシグナル伝達をサポートします.しかしaB-クリスタリンの発現が低下した場合には,VEGFの分解が促進され,眼内血管新生が結果的に抑制されることが示されました(図1).眼内新生血管の治療標的としてのa.クリスタリン加齢黄斑変性(AMD)は先進国における高齢者の主要な失明原因の一つとなっています.滲出型AMDは視力を脅かす疾患の一つであり,異常な血管漏出をきたすCNVによって黄斑部に出血や滲出性変化が起きます.CNVの発生病理に,黄斑部網膜下に浸潤したマクロファージやRPEが重要な役割を果たすと考えられています.これらはVEGFなどの血管新生因子の産生源であり,炎症部位における血管新生の発達に関与しています.CNVに対して以前は局所光凝固や手術的な治療が行われていましたが,CNVの近傍にある感覚網膜やRPEへの侵襲が強く,加療後の良好な視機能改善には限界がありました.これまでの病理学的な研究により,VEGFがCNVの血管膜において発現が上昇していることが明らかとなっています.実際,CNVに対して抗VEGF抗体の硝子体内注射が臨床応用されています.しかしながら臨床上の問題点として,CNV抑制のために抗VEGF抗体の反復投与が必要なこと,抗VEGF抗体の無効例が存在すること,抗VEGF抗体投与による網膜神経細胞の障害の可能性が報告されていることがあげられます.したがって,滲出型AMDの治療標的として,VEGFの直接的な抑制が主流ですが,課題も多く残されています.新生血管に対するa-クリスタリンの研究は,直接的なVEGF蛋白質を標的とするのではなく,その蛋白分解を制御している分子を治療標的にすることにより,抗VEGF抗体治療の効果の増強,反復投与の軽減効果が期待されます.文献1)KaseS,IshidaS,RaoNA:IncreasedexpressionofalphaA-crystallininhumandiabeticeye.IntJMolMed28:505-511,20112)KaseS,ParikhJG,RaoNA:Expressionofalpha-crystallininretinoblastoma.ArchOphthalmol127:187-192,20093)KaseS,ParikhJG,RaoNA:Expressionofheatshockprotein27andalpha-crystallinsinhumanretinoblastomaafterchemoreduction.BrJOphthalmol93:541-544,20094)WuWC,KaoYH,HuPSetal:Geldanamycin,aHSP90inhibitor,attenuatesthehypoxia-inducedvascularendothelialgrowthfactorexpressioninretinalpigmentepitheliumcellsinvitro.ExpEyeRes85:721-731,20075)KaseS,HeS,SonodaSetal:alphaB-crystallinregulationofangiogenesisbymodulationofVEGF.Blood115:33983406,20106)DongZ,KaseS,AndoRetal:AlphaB-crystallinexpressioninepiretinalmembraneofhumanproliferativediabeticretinopathy.Retina,inpress■「眼内血管新生の治療標的としてのクリスタリン蛋白」を読んで■多くの眼科医は,クリスタリンと聞くと,「あぁ,ストレスによって水晶体の透明性が低下しないように水晶体を構成している蛋白だ」と思うのではないでする能動的機能を備えています.たとえば,a-クリしょうか.しかし,クリスタリンはそれだけでなく,スタリンは,変性したb-およびg-クリスタリンを正362あたらしい眼科Vol.29,No.3,2012(74) 常に戻し,会合を防ぐ機能(シャペロン)をもつことがあることです.つまり,病的あるいはストレス下にが判明しており,これによりb-とg-クリスタリンはおいては,VEGFとa-クリスタリンは血管新生の正水晶体の透明性維持や,光の屈折率を高める機能を保のフィードバックを形成して爆発的に血管新生を亢進つことができています.実際,a-クリスタリン欠損している可能性があります.免疫反応においては,生マウスは軽度のストレスにより水晶体混濁を起こしま体は必要なときには必要な生体反応だけを起こす特殊す.最近このクリスタリンが血管新生にも重要な働きな仕組みがありますが,血管新生においてもこの正のをしていることがわかってきました.固形腫瘍が増大フィードバックにより,必要な部位だけに血管新生をする過程で,腫瘍内部への酸素供給が不十分になり,起こすことができるのです.しかし,逆にいえば,こ腫瘍中心部は虚血状態になりますが,それが誘因になの正のフィードバックを抑制することで,血管新生をり血管新生が誘導され,その結果虚血状態が改善さ“爆発的に”抑制することも可能です.そのことを,れ,さらなる腫瘍の増大を招く現象は広く知られてい最初に眼科領域で示した加瀬諭先生の研究は画期的ます.ところが,a-クリスタリン欠損動物ではそのなものなのです.現在の血管新生抑制薬は,抗VEGF現象が起こらないことから,a-クリスタリンが血管薬が主体となっていますが,さらに効果的な薬物はあ新生のカギとなる物質であると考えられています.特まりなさそうです.しかし,この正のフィードバックに,重要なことはa-クリスタリンは部分的に変性しを抑制する薬物があれば,現行薬よりも効果的なものた血管内皮増殖因子(VEGF)を正常に修正して,そになりうる可能性があります.このことが,早く眼科の機能を高めるだけでなく,ストレス下ではVEGF領域で実現することを祈ります.がa-クリスタリンの発現とリン酸化を亢進する作用鹿児島大学医学部眼科坂本泰二☆☆☆(75)あたらしい眼科Vol.29,No.3,2012363

新しい治療と検査シリーズ 206.ルテインによる加齢黄斑変性予防の可能性

2012年3月31日 土曜日

新しい治療と検査シリーズ206.ルテインによる加齢黄斑変性予防の可能性プレゼンテーション:小沢洋子慶應義塾大学医学部眼科学教室コメント:尾花明聖隷浜松病院眼科.バックグラウンド加齢黄斑変性は国内の失明原因の4位を占め,高齢化社会にあっては避けて通れない疾患である.滲出型に対する治療法は普及したが,治療をうけても視機能障害を残すことは珍しくなく,また萎縮型には今のところ治療法がない.そこで,予防療法に期待が寄せられる.加齢黄斑変性発症の背景には,慢性炎症とそれに伴う酸化ストレスの遷延があると考えられており,その抑制が発症予防につながるという考え方は,受け入れやすい.この酸化ストレス抑制の観点から,米国ではビタミンC,E,b-カロテンと亜鉛からなるサプリメント(AREDSformula)の摂取により加齢黄斑変性の進行が予防できるかを検証する大規模臨床試験(Age-relatedEyeDiseaseStudy:AREDS)が行われた.米国では,その結果1)を受けて,すでに医師が患者にこれらのサプリメント摂取を勧めている2).米国では現在,さらなる予防効果を求めて新たな臨床試験AREDS2を行っている(図1).AREDS2では,AREDSformulaに加えて摂取するサプリメントとして,ドコサヘキサエン酸/エイコサペンタエン酸(DHA/EPA)とルテイン/ゼアキサンチンを取り上げた.ルテインはこれまでの小規模な介入試験から有望視され,AREDS2に組み込まれた..期待される予防療法(原理)元来,生物には,酸化ストレスを自己処理する機構がある.しかし,炎症などによりその能力を超えた酸化ストレスが発生すると,もしくは加齢によりその防衛能力が低下すると,酸化ストレスが蓄積し病態が発生すると考えられている.そこで,抗酸化作用のある物質を摂取して病態予防をもくろむ.現時点では,加齢黄斑変性予防のための認可をもつ抗酸化剤はなく,患者の選択でサプリメント(食品扱い)を摂取する方法が選択される.そのなかでもルテインに注目するには理由がある.ルテインは動物の生体内では産生できず,植物を食するこ(71)0910-1810/12/\100/頁/JCOPY1.Placebo2.Lutein/Zeaxanthin10mg/2mg3.DHA/EPA*350mg/650mg4.2+3*DHA:ドコサヘキサエン酸(docosahexsaenoicacid)EPA:エイコサペンタエン酸(eicosapentaenoicacid)図1Age.RelatedEyeDiseaseStudy2(AREDS2)において検証中のサプリメントによる群わけAREDS2は50.85歳の加齢黄斑変性患者約4,000人を対象とした,米国における大規模臨床試験である.患者をAREDSformula(本文参照)に加え図のサプリメントを摂取する群に分け,5年後までに加齢黄斑変性の進行がみられるかを検証する.とで摂取される.ルテインは腸上皮から吸収され,血中を運ばれ,各臓器に蓄積されるが,そのなかでも網膜には皮膚などとともに,多く存在する.特に,黄斑には集中して存在しゼアキサンチンとともに黄斑色素を構成する.すなわち,ルテインには,元来,経口摂取したものが網膜に運搬される経路がある.サプリメントにより摂取強化を図れば,網膜に蓄積してより抗酸化能を発揮する可能性がある.また,ルテインの網膜内酸化ストレスの抑制効果については,動物実験の結果が各種報告され3),その面からも生体内の効果を期待できる抗酸化剤である..実際の勧め方まず,サプリメント摂取は,認可を受けた治療法ではないことをはっきりと説明する(表1).AREDS2は進行中でありまだ結果は出ていないこと,その結果は欧米人におけるものであり,日本人の加齢黄斑変性の予防効果に直結するかどうかは,検討の余地が残ることも,認識させることが重要である.そのうえで,AREDS2の結果を待っている間に発症してしまう可能性を少しでも減少させるためには,患者の理解のうえで,抗酸化剤の継続的摂取という選択肢があることをお話しする.まあたらしい眼科Vol.29,No.3,2012359 表1サプリメント(ルテイン)を勧める際の注意点1.サプリメント摂取は,認可を受けた治療法ではない2.AREDS2は進行中でありまだ結果は出ていない3.AREDS2の結果は欧米人における結果であり,日本人で加齢黄斑変性の予防効果があるかについては検討の余地が残る4.今後,AREDS2の結果が出ても,5年間摂取の結果に限られており,それ以上の期間の結果は出ない5.変化がなければ,予防効果を示していると考えられる6.年余にわたり継続摂取する方針が必要である7.AREDS2の結果を待っている間に発症してしまう可能性があるため,そのリスクを少しでも減少させるためには,以上のことを理解したうえで,抗酸化剤の継続的摂取をする選択肢がある=ルテインを選ぶ理由=・一般的に抗酸化作用をもつ物質である・元来動物においては,ルテインは体外から摂取されるものであり,網膜に運ばれる経路がある・動物実験から,生体網膜内での抗酸化作用が明らかになってきた患者には,加齢黄斑変性の病態や予後とともに,表の内容を伝える.た,摂取中に眼所見に変化がなければ,すなわちそれが予防効果を示していることに他ならず,年余にわたり継続摂取する方針が必要であることをお話しする.そして,ルテインを選ぶ理由(「期待される予防療法」の項参照)をお話しする.筆者らのアンケート結果からは,患者がサプリメントを摂取するかどうかの判断には,医師の言葉が大きく関与することが明らかになっており4),サプリメント摂取は(医師の処方ではなく)患者の自己選択・自己購入に任されるとはいえ,医師の言葉の重要性と責任は大きい..本方法の利点サプリメントは医師の処方なしに購入が可能であり,診断が確定していなくても摂取を開始することが可能である.また,ルテインにおいては,これまで各種小規模試験が行われたり,さらに食品として市販されたりしているが,大きな副作用が話題になったことは今のところない.ただし,世界的に公式な大規模臨床試験の結果はまだ出ておらず,効果・副作用いずれに関しても確固たるエビデンスが今のところないのは認識すべきである.文献1)Age-RelatedEyeDiseaseStudyResearchGroup:Arandomized,placebo-controlled,clinicaltrialofhigh-dosesupplementationwithvitaminsCandE,betacarotene,andzincforage-relatedmaculardegenerationandvisionloss:AREDSreportno.8.ArchOphthalmol119:14171436,20012)JagerRD,MielerWF,MillerJW:Age-relatedmaculardegeneration.NEnglJMed358:2606-2617,2008.Review.Erratumin:NEnglJMed359:1736,20083)OzawaY,SasakiM,TakahashiNetal:Neuroprotectiveeffectsofluteinintheretina.CurrPharmDes18:51-56,20124)SasakiM,ShinodaH,KotoTetal:Useofmicronutrientsupplementforpreventingadvancedage-relatedmaculardegenerationinJapan.ArchofOphthalmol,130:254-255,2012■本方法に対するコメント■ルテインに関するエビデンスを一言で表すと,状況ンチンも存在します.AREDS2ではルテイン対ゼア証拠は多数あるが,決定的物証がない,というところキサンチンの比率が5:1の製剤を使用していますが,です.AREDS2試験がその物証になるものと期待さその妥当性の証明は不十分です.れています.ただ,注意すべきは,著者の指摘のよう小腸で吸収されたルテインが視細胞の神経突起に分に,AREDS2は欧米人中心の試験で,体格や食生活布するまでの経路はかなり解明され,複数の輸送蛋白の異なる日本人にそのまま当てはめてよいのかは疑問の関与が示されていますが,それら輸送系の遺伝的差です.また,AREDS2では他の抗酸化ビタミンやミ異により,網膜の蓄積量に個人差ができます.食べるネラルを併用しているので,ルテイン単独の効果はわ量は個人によって違うのに,サプリメントは一律同じからないこと,あくまでも予防効果の検討なので,す量というのも理にそぐわない話で,まだまだ,解明すでに発症した患者に対する治療効果は不明な点もあげべきことは多いと思います.られます.さらに,網膜にはルテイン以外にゼアキサ360あたらしい眼科Vol.29,No.3,2012(72)

緑内障:緑内障Genome-Wide Association Study最新の知見: 2.次世代シーケンサーをいかに活用するか

2012年3月31日 土曜日

●連載141緑内障セミナー監修=岩田和雄山本哲也141.緑内障Genome.WideAssociationStudy中野正和*1池田陽子*2森和彦*2京都府立医科大学大学院医学研究科*1ゲノム医科学*2同視覚機能再生外科学最新の知見:2.次世代シーケンサーをいかに活用するか最近,緑内障に関連する塩基配列の違い(バリアント)がゲノムワイド関連解析(Genome-WideAssociationStudy:GWAS)によりつぎつぎに同定されている.統計学的に関連付けられたバリアントと緑内障の病態とをつなぐ分子機序の解明がつぎの課題であり,次世代シーケンサーの有効活用が期待される.●遺伝子砂漠の生物学的役割DNAマイクロアレイを用いたGenome-WideAssociationStudy(GWAS)によって,現在までにさまざまな多因子疾患に関連する何千ものバリアントが同定されている.当初その勢いは“goldrush”といわれた1).しかし,筆者らが報告した原発開放隅角緑内障2)をはじめ大多数の疾患では,オッズ比の低い(1.2.1.5)バリアントが近傍に遺伝子の存在しない“genedesert(遺伝子砂漠)”から発見された.すなわち,統計学的に疾患に関連付けられたバリアントがどのように疾患の病態にかかわっているのか,その分子機序を解明する難問は今もなお残されている.つい最近までヒトゲノムの3%未満しか占めていない遺伝子をコードする配列から蛋白質が翻訳されることが生命現象の根幹であるとされ,それ以外のゲノム配列は“ジャンク(がらくた)”とさえよばれていた.しかし,ゲノム全体にわたるトランスクリプトーム(ある瞬間に発現している一次転写産物の総体)解析3)によって,現在では蛋白質に翻訳されない配列も遺伝子の発現調節などの重要な役割を担っていることが知られている.したがって,GWASで報告された遺伝子砂漠にも生物学的に何らかの意味のある配列が潜在し,その配列上のバリアントが疾患の病態に関与している可能性が高い.現在,遺伝子砂漠の生物学的役割として,1)rare(まれな)バリアント,2)調節配列/マイクロRNA,3)エピジェネティックマーク,のいずれかによる遠隔遺伝子の発現調節機構の存在が示唆されている(図1).そして,いずれの仮説を検証するためにも領域全体にわたる高精度な塩基配列情報の取得が必須となる.1.rare………:common………………….>1%;…………10/200…..=5%.:rare…………0.1%<……….<1%;…………1/200…..=0.5%.100….200……..DNA……………….GWAS…………………………1%……………common…………………………………………………………………………………1%…..rare………………………………………………………………2………/……..RNA……..RNA…………………………………………A………………………………………………………RNA……………………………………………………………3…………………………..CG…………………………….CGCGAG……………………………………………………………………………………………………………………………..CG……………..C………………………………………………………………DNA………………………….DNA………………………………………………………………………図1遺伝子砂漠領域の生物学的役割1)rareバリアント,2)調節配列/マイクロRNA配列,3)エピジェネティックマーク,が潜在している可能性が高い.(67)あたらしい眼科Vol.29,No.3,20123550910-1810/12/\100/頁/JCOPY ●次世代シーケンサーの活用法次世代シーケンサー(図2)の登場により,そのデータ産生量とカバー率の高さ(=精度)から,広範囲にわたるゲノム領域をこれ以上ない解像度(塩基配列)で解析できるようになった.したがって,次世代シーケンサーを活用することで上述した仮説(図1)の検証が可能になってきている.最近,次世代シーケンサーを用いたポストGWAS研…..DNADNA………………………DNA….1..1……………………………………………………………………….DNA………………究として,冠動脈疾患に関連する遺伝子砂漠(9p21)を題材とした例が報告された4).本研究では次世代シーケンサーを用いて領域内の塩基配列を決定後,1)rareバリアントを含めた全バリアントの抽出,2)調節配列予測プログラムによるエンハンサーの推定,3)Chromosomeconformationcapture(3C)法(図3)によるエンハンサーの標的配列の同定,を行っている.興味深いことにエンハンサー配列予測の結果,9p21は全ゲノムの遺伝子砂漠のなかでエンハンサーが2番目に高密度な領2.Sequencing-by-synthesis1.BridgeAmplificationReferenceGenome………………………ReferenceGenomeDNA…………………………………………………………………..㈹図2シーケンサーの技術革新次世代シーケンサーでは,1)一度に大量のDNA断片の塩基配列を決定(詳細な原理については文献5を参照)し,2)個々のDNA断片の塩基配列をReferenceGenome(ヒトゲノムプロジェクトで決定され現在も更新され続けている標準配列)に貼り付けて“答え合わせ”をすることで,高精度なシークエンスデータを短時間で取得できる.……………….図3Chromosomeconformationcapture法頭文字にCが3つ連続するので“3C”ともよばれる.エンハンサーとプロモーターが調節蛋白質を介して物理的に会合する現象を利用して,実際に………………………………….核内で相互作用している両者の塩基配列を決定することができる.(文献6より転載,一部改変)……………………………………………………………………………………………………………………DNA……………………..DNA……………….DNA………………………………………….356あたらしい眼科Vol.29,No.3,2012(68) 域であることが判明し,本領域が多数の遠隔遺伝子の発現を調節する中継地点の役割を担っていることが示唆された.また,冠動脈疾患に関連するバリアントを含むエンハンサー配列の転写因子STAT1への結合能がリスクアレルの有無によって異なることを細胞レベルで示し,さらにこのエンハンサーが約950kbも離れたIFNA21領域を始め,複数の遺伝子領域と会合していることを3C法(図3)で明らかにした.以上の結果は,統計学的に疾患と関連付けられたバリアントの機能を初めて分子レベルで捉えた画期的な成果である.今後,本研究例のように次世代シーケンサーを活用しながらGWASで同定された多数の疾患の発症機序の糸口が“第2のgoldrush”としてつぎつぎに得られることが期待される.文献1)TopolEJ,MurraySS,FrazerKA:Thegenomicsgoldrush.JAMA298:218-221,20072)NakanoM,IkedaY,TaniguchiTetal:Threesusceptiblelociassociatedwithprimaryopen-angleglaucomaidentifiedbygenome-wideassociationstudyinJapanesepopulation.ProcNatlAcadSciUSA106:12838-12842,20093)CarninciP,KasukawaT,KatayamaSetal:Thetranscriptionallandscapeofmammaliangenome.Science309:1559-1563,20054)HarismendyO,NotaniD,SongXetal:9p21DNAvariantsassociatedwithcoronaryarterydiseaseimpairinterferon-gammasignallingresponse.Nature470:264-268,20115)MetzkerML:SequencingTechnologies─thenextgeneration.NatGenet11:31-46,20106)三浦尚,CrutchleyJ:3C法による核内DNAの位置関係の解析.実験医学28:1433-1440,2010☆☆☆(69)あたらしい眼科Vol.29,No.3,2012357

屈折矯正手術:ジグザグ全層角膜移植(PKP)のヒステレーシス

2012年3月31日 土曜日

●連載142屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─142.ジグザグ全層角膜移植(PKP)のヒステレーシス監修=木下茂大橋裕一坪田一男脇舛耕一*1稗田牧*2*1バプテスト眼科クリニック*2京都府立医科大学大学院視覚機能再生外科学フェムトセカンドレーザーを用いたジグザグ形状の全層角膜移植(PKP)が可能となり,術後角膜強度の向上が期待されている.ヒステレーシスは粘弾性体の変形時における現象であり,これを応用した角膜生体力学特性は角膜弾性強度を反映するとされる.ジグザグPKPではこの特性が正常眼に近く,実際に術後創強度が安定している可能性を示唆している.近年,フェムトセカンドレーザー(femtosecondlaser:FSL)を用いた全層角膜移植(penetratingkeratoplasty:PKP)が可能となってきている1).FSLによる角膜切開は水平・垂直・傾斜方向の切開を組み合わせることでジグザグ形状の切開面を得られることができ(ジグザグPKP),従来のトレパンブレードによる垂直方向のみの角膜切開と比べ術後創強度の安定性が期待されている.しかし,生体の角膜強度を定量的に評価することはむずかしく,ジグザクPKP術後において実際にどれくらいの強度を保っているのかを把握する方法はまだ確立されていない.しかし,角膜強度を反映する方法として,角膜生体力学特性という概念が用いられるようになってきた.これは,粘弾性体では加圧時と減圧時の変形過程が一致しない現象(履歴現象=ヒステレーシス)を利用して,角膜図1OcularResponseAnalyzerTM(ORA)の外観(65)0910-1810/12/\100/頁/JCOPYにおけるこの粘弾性体としての性質(角膜生体力学特性)を評価する考え方である.筆者らはOcularResponseAnalyzerTM(ORA)(Reichert社,図1)2)を用いて,ジグザグPKP術後(図2)における角膜生体力学特性を解析した3).本解析では角膜生体力学特性を定量化した指標としてcornealhysteresis(CH)およびcornealresistancefactor(CRF)を測定し,FSLとしてFS-60TMまたはiFSTM(AMO社製)を用いて行ったジグザクPKPにおけるCH,CRFを,正常眼や従来のトレパンブレードによるPKPでの数値と比較検討を行った.図3が,ジグザグPKP術後における測定結果の1例である.この症例ではCH=9.3mmHg,CRF=9.8mmHgで,正常眼における結果(図4)に近い値であった.一方,トレパンブレードによるPKP術後での測定結果(図5)ではCH=5.2mmHg,CRF=5.7mmHgで,ジグザグPKP術後や正常眼に比べ低値であった.群間比較においても,CHはジグザクPKP群9.87±1.71mmHg(n=11),トレパンブレードによるPKP群8.29±1.53mmHg(n=23),正常群10.7±1.43mmHg(n=27)という結果であり,同様にCRFはそれぞれ9.86±2.30mmHg,7.73±2.29mmHg,9.90±1.58mmHgであっ図2前眼部OCT(VisanteTM)によるジグザグPKP術後画像(文献3より)あたらしい眼科Vol.29,No.3,2012353 SignalAnalysisSignalAnalysisSignalAnalysisSIGNALTIMERESPONSESIGNALTIMERESPONSESignalAnalysisTimeTime図3ジグザグPKP術後眼でのORA測定結果図4正常眼でのORA測定結果症例ではCH=9.3mmHg,CRF=9.8mmHgであった.症例ではCH=9.2mmHg,CRF=8.7mmHgであった.SIGNALTIMERESPONSEグザグPKPにおける術後の角膜弾性強度が生理的な状態に近い可能性を示唆しており,創構造が垂直方向の二次元的な切開面のみであるよりは,水平・斜め方向を加えた三次元的な切開面のほうが垂直方向の外力による位置ずれに対する抵抗性が高いとする考えを支持するものと思われる.そのことはさらに,術後早期の角膜抜糸やその後のlaserinsitukeratomileusis(LASIK)に代表されるレーザー角膜屈折矯正手術の早期施行によって,PKP術後の視機能を向上できる可能性がある.現時点ではORAによる角膜生体力学特性の定量評価が角膜強度を反映する方法であると考えられるが,ジグザグPKPにおける角膜強度をより正確に測定できる方法の開発が今後も期待されるところである.文献1)稗田牧:フェムト秒レーザーを用いた角膜移植.眼科手術24:45-48,20112)神谷和孝:新しい予防法OcularResponseAnalyzer.IOL&RS22:164-168,20083)脇舛耕一,稗田牧,加藤浩晃ほか:フェムトセカンドレーザーを用いた全層角膜移植における角膜生体力学特性.あたらしい眼科28:1034-1038,2011Time図5トレパンブレードによるPKP術後眼でのORA測定結果症例ではCH=5.2mmHg,CRF=5.7mmHgであった.た.この結果から,CH,CRFともジグザグPKP術後ではトレパンブレードによるPKP術後より有意に高く,正常群と有意差を認めなかった.CHやCRFの数値と角膜強度の間に直接的な関係があるかということは明確にはされておらず,この解析結果だけでは即座にジグザグPKPにおける術後創強度が向上しているとは言い切れない.しかし,角膜の粘弾性体としての性質をとらえた角膜生体力学特性の値がジグザグPKP術後において正常眼に近いということは,ジ☆☆☆354あたらしい眼科Vol.29,No.3,2012(66)

眼内レンズ:嚢内固定眼内レンズ脱臼例の走査電子顕微鏡所見

2012年3月31日 土曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎平田憲佐賀大学大学院医学系研究科眼科学307..内固定眼内レンズ脱臼例の走査電子顕微鏡所見.内固定眼内レンズ脱臼は,日常診療でときに遭遇する.特に落屑症候群はZinn小帯が脆弱で,術後数年で眼内レンズが脱臼する場合がある.外傷や硝子体手術の既往,ぶどう膜炎や高度近視,網膜色素変性なども同様の眼内レンズ脱臼をきたす.摘出した水晶体.を観察すると,前者はZinn小帯の断裂がみられ,後者は水晶体.の層状分離がみられる.眼内レンズ(intraocularlens:IOL)の偏位,脱臼はよく知られた白内障手術の術後合併症である.術中に水晶体.の破損やZinn小帯の断裂が生じ,IOLを.内に固定できずに手術を終了し,術後早期にIOLが偏位する場合(.外固定IOL脱臼)は,その機序が明確で,ほとんどの症例で術後早期(3カ月以内)に偏位がみられるため,その対処も速やかに行うことができる.一方,術中に明らかな合併症を認めず,術後も問題なかったにもかかわらず.内に固定したままでIOLが偏位,脱臼をきたす場合(.内固定IOL脱臼)は,まれであると思われてきたが,近年これらの症例に遭遇する機会が増えている.前.切開法,超音波乳化吸引術の導入,IOLの改良など,低侵襲の白内障手術が普及し,白内障手術件数が増えたこともその要因となっているのであろう..内固定IOL脱臼は硝子体腔内に落下する頻度も高く,重篤な晩期合併症となる..内固定IOL脱臼の発生頻度は,報告によりさまざまであるが,おおよそ10年で0.1.1%である1,2).落屑症候群の割合が高くなるほどその頻度も高くなる..内固定IOL脱臼に関連するとされる疾患・状態として,落屑症候群以外に外傷の既往,硝子体手術の既往,ぶどう膜炎,高度近視,網膜色素変性などがある3,4).自験例20眼の検討では,.内固定IOL脱臼の発症時平均年齢は71.2歳で,関連因子として40%に落屑症候群,15%に高度近視,外傷の既往,硝子体手術の既往がそれぞれ10%に,網膜色素変性およびぶどう膜炎の既往も各1眼にみられた.初回白内障手術からIOL脱臼までの期間は平均9.2年であった.使用されたIOLの材質に偏りはなかった5).摘出した標本を走査電子顕微鏡にて観察すると,落屑症候群を伴うか否かで所見が大きく異なることがわかる.落屑症候群を伴う.内固定IOL脱臼例(図1)では,水晶体.表面に無数の線維状の物質(落屑物質)の沈着がみられる.落屑物質はZinn小帯にも数珠状に付着し(63)0910-1810/12/\100/頁/JCOPYている.Zinn小帯は赤道部付近で全周にわたり断裂している.前.の切開縁は線維組織に覆われ,高度の前.収縮がみられる(図2).落屑物質の沈着が機械的に,あるいは蛋白分解酵素作用によりZinn小帯を断裂させると考えられており,走査電子顕微鏡所見からも,高度の前.収縮とあいまって,Zinn小帯が進行性かつ全周性に断裂し,.内固定IOL脱臼を生じていることがわかる5).図1.内固定IOL脱臼の実体顕微鏡所見落屑症候群があり水晶体.に無数のZinn小帯の付着がみられる.図2.内固定IOL脱臼の走査電子顕微鏡所見水晶体.およびZinn小帯に無数の落屑物質の付着がみられる.あたらしい眼科Vol.29,No.3,2012351 ←図3.内固定IOL脱臼の実体顕微鏡所見危険因子となる関連疾患はなく,水晶体.表面は平滑である.→図4図3と同標本の走査電子顕微鏡所見水晶体.表面はZinn小帯付着部で層状分離がみられる.一方,落屑症候群のない症例の.内固定IOL脱臼例(図3)では,摘出した水晶体.表面はきわめて平滑で,Zinn小帯の付着はほとんどみられないか,あってもわずかである.詳細に観察すると,Zinn小帯が付着していた部分は水晶体.の表層部が層状に分離し,下層の部分が露出している.分離した表層の水晶体.の縁はロールしている(図4).落屑症候群例に高頻度にみられた高度の前.収縮は3割程度で観察されるのみで,いずれも軽度である5).Zinn小帯は水晶体.との接着部位に.周囲膜(zonularlamella)とよばれる水晶体.最外層を赤道部付近で形成していることが知られている.したがって,落屑症候群のない症例の.内固定IOL脱臼例では,.周囲膜とその下層の水晶体.固有層の間の分離が生じていることが示唆される..周囲膜の分離がなぜ起こるのかは不明であるが,外傷による機械的.離,炎症や加齢による.周囲膜の脆弱化が関与しているであろうことは予想できる.これらの所見を総合すると,.内固定IOL脱臼は,Zinn小帯の進行性の断裂(zonularweakness)と,.周囲膜の脆弱化による.離(capsularweakness)があるといえよう.水晶体.の形状維持を目的に水晶体.拡張リング(capsulartensionring:CTR)を用いる場合がある.しかしながら,CTR挿入後に.内固定IOL脱臼をきたす例も多数報告されており,十分とはいえない.水晶体.の安定化を目的としたIOLのデザインも再考する必要性を感じる..内固定IOL脱臼までの平均期間が9年以上であることは,今後もますます増える合併症であることが想像できる.白内障手術は完成された術式と考えられてはいるが,今後もさらなる研究を要する領域であると思われる.文献1)MonestamEI:Incidenceofdislocationofintraocularlensesandpseudophakodonesis10yearsaftercataractsurgery.Ophthalmology116:2315-2320,20092)PueringerSL,HodgeDO,ErieJC:Riskoflateintraocularlensdislocationaftercataractsurgery,1980-2009:apop-ulation-basedstudy.AmJOphthalmol152:618-623,20113)DavisD,BrubakerJ,EspandarLetal:Latein-the-bagspontaneousintraocularlensdislocation:evaluationof86consecutivecases.Ophthalmology116:664-670,20094)HayashiK,HirataA,HayashiH:Possiblepredisposingfactorsforin-the-bagandout-of-the-bagintraocularlensdislocationandoutcomesofintraocularlensexchangesurgery.Ophthalmology114:969-975,20075)HirataA,OkinamiS,HayashiK:Occurrenceofcapsulardelaminationinthedislocatedin-the-bagintraocularlens.GraefesArchClinExpOphthalmol249:1409-1415,2011