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眼感染アレルギー:微生物認識受容体とインフラマソーム

2011年9月30日 金曜日

あたらしい眼科Vol.28,No.9,201112910910-1810/11/\100/頁/JCOPY細菌,真菌やウイルスなどの病原微生物の侵入に対する感染防御機構は,自然免疫と獲得免疫に分類される.獲得免疫は,抗原特異的Tリンパ球とBリンパ球によって誘導されるが,クローン増殖する必要があるために,機能するまでに数日かかる.これに対して自然免疫は,獲得免疫が働く前の感染早期に働く防御機構である.この自然免疫において,Toll様受容体(TLRs)をはじめとする微生物認識受容体が重要な役割を担っていることが明らかとなっている.微生物認識受容体は,微生物由来のさまざまな構成分子の構造,すなわち,糖や脂質,蛋白質,核酸からなる分子パターンを特異的に認識する.微生物認識受容体は,大きく膜貫通型と細胞質型に分類され,膜貫通型としてTLRsファミリーが,細胞質型としては,RIG-I様受容体(RLRs)ファミリーとNod様受容体(NLRs)ファミリーが存在する1).TLRは,ロイシンに富む領域(leucin-richrepeat:LRR)を細胞外に有し,それを介して細菌,ウイルス,または真菌といったさまざまな病原微生物の構成成分を認識する.ヒトでは10種類のTLRが同定されている.TLR2は,グラム陽性菌の細胞壁に多量に含まれるペプチドグリカンの一成分であるリポ蛋白質を認識する.TLR1とTLR6は,そのTLR2と共役して,それぞれTLR1はトリアシル基をもつリポ蛋白質(細菌由来リポ蛋白)を,TLR6は,ジアシル基をもつリポ蛋白質(マイコプラズマ由来リポ蛋白)を認識する.TLR2とTLR6は,真菌の細胞壁成分であるチモザンの認識にもかかわる.TLR5は,細菌が遊走する際に使用する鞭毛の構成成分であるフラジェリンを,TLR4はグラム陰性菌の細胞壁成分であるリポ多糖(LPS)をそれぞれ認識する.またTLRは,真菌や細菌のみならずウイルスの構成成分も認識する.DNAウイルスのゲノムDNAは,哺乳動物のゲノムDNAと比べて非メチル化CpGモチーフを多量に有している.その非メチル化CpGDNAは,TLR9によって認識される.RNAウイルスのなかにはゲノム成分が一本鎖RNAのものが存在し,その一本鎖RNAは,TLR7とTLR8により認識される.ウイルスの生活環中に宿主細胞質中で生じ何らかの形で細胞外に放出された二本鎖RNAは,TLR3によって認識される.RLRは,細胞質内でウイルス核酸を認識する微生物認識受容体であり,N末端側には,CARD(caspaserecruitmentdomain)に類似したドメインを,C末端側には,核酸をほどく活性をもつRNAヘリカーゼドメインを有する.RNAヘリカーゼドメインがウイルスの認識に関与する.RLRの代表は,RIG-IやMDA5であり,細胞がウイルスに感染したときに細胞質に入った二本鎖RNAを認識する.つまり,ウイルス由来の二本鎖RNA(71)眼感染アレルギーセミナー─感染症と生体防御─●連載監修=木下茂大橋裕一29.微生物認識受容体とインフラマソーム上田真由美京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学微生物認識受容体は,微生物由来のさまざまな構成分子の構造,すなわち,糖や脂質,蛋白質,核酸からなる分子パターンを特異的に認識し,自然免疫において重要な役割を担っている.また,膜貫通型と細胞質型に分類され,膜貫通型としてToll様受容体が,細胞質型としては,RIG-I様受容体とNod様受容体が存在する.??????????IPS1????????????????????RIG-IMDA5I??????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????TLR3図1微生物認識受容体によるウイルス由来二本鎖RNAの認識ウイルス由来の二本鎖RNAは,細胞外に存在する場合はTLR3により認識されアダプター因子TRIFを介して1型インターフェロンを誘導する.一方,ウイルス感染後に細胞質に存在する場合は,RIG-IやMDA5によって認識されアダプター因子IPS-1を介して,炎症性サイトカインや1型インターフェロンを誘導する.1292あたらしい眼科Vol.28,No.9,2011は,細胞外に存在する場合はTLR3により認識され,ウイルス感染後に細胞質に存在する場合は,RIG-IやMDA5によって認識され,炎症性サイトカインや1型インターフェロンを誘導する(図1)2).NLRも,細胞質内の微生物認識受容体であり,N末端側に蛋白質相互作用ドメインとして,CARD,ピリンドメインなどを,中央には多量体形成に必要なNOD(nucleotide-bindingandoligomerizationdomain)ドメインを,C末端側にはリガンドとの結合に関与するLLRをもつ.NOD1やNOD2がその代表であり,それぞれ細菌外壁のペプチドグリカン由来の特殊な分子構造を認識する.つまり,細菌外壁のペプチドグリカンは,細胞外に存在する場合はTLR2により認識され,何らかの機構で細胞内に入った場合はNOD1やNOD2によって認識される(図2).NOD2は,炎症性腸疾患であるクローン病の原因遺伝子であることがわかっており,常在細菌との相互作用に重要な役割を担っていると考えられている.NLRP3は,細菌由来のRNA,毒素などの微生物成分に加えて,宿主由来の核酸代謝産物である尿酸やATPを認識する.NLRP5とIPAFは,サルモネラ菌などのフラジェリンを認識する.NLRP3,NLRP5やIPAFは,インフラマソームの形成において重要な役割を担っている.インフラマソームとは,NLRとアダプター蛋白質およびcaspase-1から構成される蛋白複合体であり,(72)TLRsをはじめとした種々の刺激により産生された前駆型IL(インターロイキン)-1bならびにIL-18を,活性型IL-1bならびにIL-18に変換する(図3).このように,IL-1bならびにIL-18の細胞外への分泌は,1段階目の前駆型の産生,つづいて2段階目の活性型への変換を介して行われる.炎症反応は生体防御においてきわめて重要な反応であるが,その一方過剰な炎症反応は組織障害をひき起こし,疾患や合併症の原因となる.種々の微生物認識受容体の遺伝的な異常により自己炎症性疾患が生じることが報告されている.これらの微生物認識受容体の眼における役割について解明することが,各種眼炎症疾患の病態解明につながるかもしれない.文献1)KawaiT,AkiraS:TherolesofTLRs,RLRsandNLRsinpathogenrecognition.InternationalImmunology21:317-337,20092)UetaM,KawaiT,YokoiNetal:ContributionofIPS-1topolyI:C-inducedcytokineproductioninconjunctivalepithelialcells.BiochemBiophysResCommun404:419-423,2011図3NLRによるインフラマソームの形成ならびにIL?1bの活性化インフラマソームとは,NLRとアダプター蛋白質およびcaspase-1から構成される蛋白複合体であり,TLRsをはじめとした種々の刺激により産生された前駆型IL-1bならびにIL-18を,活性型IL-1bならびにIL-18に変換する.NOD????NOD1NOD2??????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????NOD??????????????κ??TLR2????????????????????????TLRsIL-1β??IL-18??????????????????IL-1β??IL-18??????????????IL-1β??IL-18????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????ATP??????????????図2微生物認識受容体による細菌外壁成分ペプチドグリカンの認識細菌外壁のペプチドグリカンは,細胞外に存在する場合は,TLR2により認識されアダプター因子Myd88を介して炎症性サイトカインを誘導する.一方,細胞内に入った場合は,NOD1やNOD2によって認識され,デフェンシンなどの抗菌物質の産生を誘導する.

緑内障:緑内障における乳頭出血と網膜神経線維層欠損の拡大との関連性を評価する

2011年9月30日 金曜日

あたらしい眼科Vol.28,No.9,201112890910-1810/11/\100/頁/JCOPY網膜神経節細胞の軸索である網膜神経線維層(NFL)は,欠損するとスリット状・楔状・びまん性にNFLの走行に沿ってdarkareaが観察される.網膜神経線維層欠損(NFLD)と乳頭出血(DH)との関連については,高眼圧症の症例においてNFLDが臨床的に検出される前にしばしばDHがみられるとされている.正常眼圧緑内障(NTG)でも原発開放隅角緑内障でも,限局した楔状NFLDは,DH(?)群よりDH(+)群で有意にしばしば認められる1).NFLの厚みは,鼻側≒耳側,上耳側,下耳側の順で厚くなるので,DHが出現しやすい下耳側のNFLの厚みの変化は過少評価されやすい可能性がある.また,NFLの崩壊過程でDHが出現するという考え方からすれば,下耳側はNFLの余剰性が大きいのでNFLの崩壊には時間がかかるためにその過程においてDHを頻発するのではないかと推察される.中長期にわたりNTGを管理していると,ある時期にDHが集中する症例や10年間に10回以上DHが出現した症例をときどき経験する(図1).当院は2002年より電子カルテを導入しているので,そのような症例では当初の眼底写真と現在の写真を見比べると,NFLDが明らかに拡大していることがある.そこで筆者ら2)は3年以上経過観察できたNTGのNFLDを青成分のみを抽出し白黒に加工した写真でその角度を測定し,NFLDの拡大の有無を判定し,DHとNFLD拡大との関連に(69)●連載135緑内障セミナー監修=岩田和雄山本哲也135.緑内障における乳頭出血と網膜神経線維層欠損の拡大との関連性を評価する新田耕治福井県済生会病院眼科/金沢大学医薬保健研究域視覚科学(眼科)乳頭出血(DH)のほとんどが網膜神経線維層欠損(NFLD)の近傍に出現し,緑内障性視野障害の悪化とともにDHが頻発しNFLDは黄斑側に拡大することが多く,NFLDの境界線が緑内障視神経乳頭障害進行の最も活動性の高いactivesiteと考えられる.図1乳頭出血を頻発したNTG症例2000年初診で,初診時年齢36歳,女性のNTG.ベースライン眼圧が18mmHg,経過中点眼加療により常に眼圧下降率20%以上を達成するも,2008年3月4日以降にDHが頻発し,MDslopeは?1.44dB/年である.2001.42008.102009.122010.112011.32004.112011.3??????????????????????????????DHDHDHDHbayoneting2000.122003.12004.12006.22007.82008.32009.92011.1DHDHDHDHDHDHDHDHDHDHDH1290あたらしい眼科Vol.28,No.9,2011ついて検討した(表1).DH出現頻度はNFLD拡大群にて有意に高頻度であった(63.6%vs15.8%,p<0.0001).DHの再発もNFLD拡大群にて有意に高頻度であった(38.2%vs7.9%,p<0.0001).NFLD拡大群の84.0%でDH出現方向にNFLDは拡大し,87.3%でNFLDは黄斑側に拡大した.97DHのうち85DH(87.6%)がNFLDの近傍に出現した.NFLD拡大群(10年生存率:0.52±0.11)はNFLD不変群(10年生存率:0.89±0.08)と比較して有意に視野が悪化した.また,筆者らの別報3)にて,境界明瞭なNFLDを有するNTGにおけるDHと視野障害の進行速度(MDslope,TDslope)やNFLD拡大速度について検討した.MDslopeがDH群にて有意に急峻であり(?0.30dB/yvs?0.13dB/y,p=0.0027),NFLD拡大速度もDH群にて有意に急峻であった(1.90°/yvs0.64°/y,p<0.0001).DH回数が増加するにつれTDslope(r=?0.263,p=(70)0.0056)とNFLD拡大速度(r=0.410,p<0.0001)は有意に加速した(図2).現在のところDHのメカニズムは不明だが,Quigleyら4)は神経線維束が消失し篩板が後方に移動するにつれ,前部の毛細血管は傍視神経乳頭の放射状毛細血管との結合を維持するために強固に引き伸ばされている可能性があり,このような伸展の結果,DHを生じると予測している.視神経乳頭のrimnotchとそれに続くNFLDの境界線が,緑内障視神経乳頭障害進行の最も活動性の高いactivesiteと考えられ,緑内障進行の過程でこの境界線でrim組織とNFLの消失とそれに伴う神経線維周囲の毛細血管の退行変性が起こり,その過程で二次的にDHを生じると筆者らは考えている(緑内障activesite仮説)(図3).文献1)SugiyamaK,UchidaH,TomitaGetal:Localizedwedgeshapeddefectsofretinalnervefiberlayeranddischemorrhageinglaucoma.Ophthalmology106:1762-1767,19992)NittaK,SugiyamaK,HigashideTetal:Doestheenlargementofretinalnervefiberlayerdefectsrelatetodischemorrhageorprogressvisualfieldlossinnormaltensionglaucoma?JGlaucoma20:189-195,20113)新田耕治,杉山和久,棚橋俊郎:境界明瞭な網膜神経線維層欠損を有する正常眼圧緑内障における乳頭出血出現や網膜神経線維層欠損拡大と視野進行との関連.日眼会誌(印刷中)4)QuigleyHA,AddicksEM,GreenWRetal:Opticnervedamageinhumanglaucoma.II.Thesiteofinjuryandsusceptibilitytodamage.ArchOphthalmol99:635-649,1981表1NFLD拡大群とNFLD不変群の臨床的背景NFLD拡大群55例55眼NFLD不変群38例38眼p値初診時年齢(歳)55.8±7.752.1±10.00.0515性別(男/女)27/2822/160.4032経過観察期間(年)8.2±2.18.1±2.10.8284ベースライン眼圧(mmHg)15.1±2.715.6±3.00.4168経過眼圧(mmHg)12.4±2.012.9±2.00.2638眼圧下降量(mmHg)2.7±1.92.7±2.20.9844眼圧下降率(%)16.7±10.715.8±12.30.7216ベースラインMD(dB)?4.5±3.1?4.3±2.70.7742最終MD(dB)?6.3±3.6?4.5±2.70.0092ΔMD(dB)?1.8±2.4?0.2±1.00.0001ベースラインRNFLD角度(°)34.7±17.136.6±16.50.5988最終RNFLD角度(°)51.5±24.337.1±16.50.002ΔRNFLD角度(°)16.8±14.90.5±1.1<0.0001性別:Fisher’sexacttest,その他:Mann-WhitneyUtest.(文献2より改変)図2乳頭出血の回数と視野進行速度との関係DH回数が増加するにつれTDslope(r=?0.263,p=0.0056)は有意に加速した.DHの出現が多くなればなるほど,緑内障進行に大きな影響を及ぼすことを表している.-3-2-101012345678DH回数(回)TDslope(dB/年)図3緑内障activesite仮説DHは緑内障進行の過程で神経線維とともに消失する毛細血管網の崩壊によって生じる.よって,rimnotch,NFLDの境界線が緑内障進行のactivesiteであると考えられる.??????????

屈折矯正手術:円錐角膜への新しい治療

2011年9月30日 金曜日

あたらしい眼科Vol.28,No.9,201112870910-1810/11/\100/頁/JCOPY円錐角膜は,角膜中央部が菲薄化して突出する非炎症性の疾患で,眼鏡では矯正できない近視と不正乱視が進行する.治療の基本はハードコンタクトレンズ(HCL)装用で,重症例になるとHCL装用が困難になり全層角膜移植術が必要となる.近年,角膜移植までの治療としてICRS(intracornealrings)1),TGCK(topography-guidedconductivekeratoplasty)2),phakicIOL(有水晶体眼内レンズ)3)などの新しい外科治療が登場した.また,円錐角膜の進行を予防できる画期的な治療として角膜クロスリンキング4)も行われるようになった.ここでは,バプテスト眼科クリニックで行っているICRSと角膜クロスリンキングの治療経過について紹介したい.ICRSは,フェムトセカンドレーザーで瞳孔周辺の角膜実質内に円弧状のトンネル(リングを留置するグルーブ)を作製したのち,2枚の透明なプラスチック製の半円形リングを挿入する(図1).これにより,突出していた角膜の曲率が変化して乱視が軽減し,裸眼視力と眼鏡矯正視力が改善する.ICRSは,LASIK(laserinsitukeratomileusis)目的で受診した患者の中で円錐角膜の疑いがある症例(ただし?3~4Dまでの近視),LASIK術後のkeratoectasia,HCL不耐症が対象になり,リング挿入部の角膜厚が400μm以上あることが条件となる.これまでに行った症例の術後経過は図2に示すとおりで,裸眼視力および自覚等価球面度数において改善を認めている.ICRS術後は角膜強度が増して円錐角膜の(67)屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─●連載136監修=木下茂大橋裕一坪田一男136.円錐角膜への新しい治療東原尚代ひがしはら内科眼科クリニック/京都府立医科大学眼科近年,円錐角膜の病期に合わせた外科治療が選択できるようになった.治療の基本はハードコンタクトレンズ(HCL)であるが,HCL不耐症の場合は角膜内リングが適応となり,フェムトセカンドレーザーを用いて安全かつ確実に施行できる.また,円錐角膜進行予防として角膜クロスリンキングも登場し,今後の治療経過が期待される.図1ICRS術後の前眼部写真-10-8-6-4-2000.20.40.60.811.21.4術後の裸眼logMAR視力術後の自覚等価球面度数術前(n=11)術翌日術1W術1M術2M(n=8)術3M(n=5)術前(n=11)術翌日術1W術1M術2M(n=8)術3M(n=5)図2ICRS術後経過上:自覚的等価球面度数の経時的変化.下:裸眼logMAR視力の経時的変化.1288あたらしい眼科Vol.28,No.9,2011進行予防も期待され,今後の研究結果が待たれる.角膜クロスリンキングは,角膜上皮を?がしてリボフラビン(ビタミンB2)を点眼したのち,370nmの紫外線を30分間照射する.角膜内にフリーラジカルが発生し,角膜実質を構成するコラーゲン線維がナノサイズの微細な線維で架橋され剛性が増す.バプテスト眼科クリニックで施行した症例はまだ10例未満であるが,治療前は進行していた角膜形状も治療後は形状に変化はなく進行を抑制できている(図3).角膜クロスリンキングでも角膜厚は少なくとも450μm以上が必要となる.現在は成人を対象に治療を行っているが,将来,特に病状が進行しやすい若年者への適応が期待される.円錐角膜は進行すると著しい視力低下をきたして患者のqualityofvision(QOV)が低下する.社会的にも活動性の高い年代の疾患であり,円錐角膜の進行をいかに予防するか,いかにQOVを向上させるかが大切になってくる.文献1)ColinJ,CochenerB,SavaryGetal:Correctingkeratoconuswithintracornealrings.JCataractRefractSurg26:1117-1122,20002)KatoN,TodaI,KawakitaTetal:Topography-guidedconductivekeratoplasty:treatmentforadvancedkeratoconus.AmJOphthalmol150:481-489,20103)KamiyaK,ShimizuK,AndoWetal:Phakictoricimplantablecollamerlensimplantationforthecorrectionofhighmyopicastigmatismineyeswithkeratoconus.JRefractSurg24:840-842,20084)WollensakG,SpoerlE,SeilerT:Riboflavin/ultraviolet-ainducedcollagencrosslinkingforthetreatmentofkeratoconus.AmJOphthalmol135:620-627,2003(68)☆☆☆図3角膜クロスリンキングの術前(左)と術後(右)のトポグラフィ

多焦点眼内レンズ:多焦点眼内レンズと高次収差

2011年9月30日 金曜日

あたらしい眼科Vol.28,No.9,201112850910-1810/11/\100/頁/JCOPY視覚の質(qualityofvision:QOV)がますます問われるようになった現在の眼科診療において,従来の視力やコントラスト感度などといった自覚的な評価だけでなく,高次収差を定量化して術後の視機能を他覚的に評価をすることが盛んに行われている.たとえば,wavefront-guidedLASIK(laserinsitukeratomileusis)や白内障手術時に挿入する非球面眼内レンズ(IOL)はいずれも高次収差を考慮した治療コンセプトとなっている.近年,白内障術後の網膜保護効果や高コントラスト効果を期待して,IOLに着色化や非球面化などの付加価値をつけたプレミアムIOLが登場し,臨床の場では日常的に使用されるようになっている.さらに老視矯正効果を期待した多焦点IOLが登場し普及しつつある.わが国においては,2007年にNXG1(屈折型,ReZoomR,AMO社)とSA60D3(回折型,ReSTORR,Alcon社)が医療材料として承認され,その後も材質,着色化,非球面化,加入度数の違いなどの機能が加わった多焦点IOLが次々に開発されている.多焦点IOLを使用した白内障手術は2008年7月に先進医療として認可され現在に至る.多焦点IOLの光学特性は,光学部の構造により高次収差を増加させることにほかならないが,実際にその定量的な評価はむずかしいとされている.理由として,複雑に光学部が設計されている多焦点IOL挿入眼の高次収差をどの程度正確に波面センサーで測定できているのかという問題が未解決だからである1).回折型多焦点IOLには波長依存性があり,可視光の中心波長で遠方視と近方視の焦点に集光する光の強度が同等になるように設計されている.しかし,この二重焦点バランスをすべての波長においても一定にすることは困難であり,波長が長波長ほど近方視に関する回折効率が低下するため遠方視の光量が増加し,逆に短波長ほど近方視に関する回折効率が高くなり近方視の光量が大きくなる2).したがって,長波長側の近赤外光では遠方視の特性を反映しやすく,短波長側の可視光では近方視の特性を反映しやすいと考えられる.現在,OPD-scan(NIDEK社)を含めほとんどの波面センサーでは近赤外光が測定光源として採用されている.したがって,回折型多焦点IOL挿入眼では遠方視の特性を反映した高次収差が測定されると思われる.一方,屈折型多焦点IOL挿入眼では回折型のような波長依存性がみられないため,遠方視と近方視の両方の特性が混在した高次収差が測定されると思われる.また,波面センサーと同様に他覚屈折検査として使用されるオートレフについても,近赤外光を測定光源として採用している.よって多焦点IOL挿入眼では,瞳孔径や瞳孔の位置によってオートレフ値が影響を受けると考えられ測定結果に注意が必要である.そこで,多焦点IOLのSA60D3(回折型)とNXG1(屈折型)挿入眼および単焦点IOL(SN60AT,Alcon社)挿入眼(それぞれ6眼)の眼球の全高次収差と球面(65)●連載多焦点眼内レンズセミナー監修=ビッセン宮島弘子21.多焦点眼内レンズと高次収差山村陽*1稗田牧*2*1バプテスト眼科クリニック*2京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学多焦点眼内レンズ挿入眼の高次収差は,視覚の質(qualityofvision:QOV)に影響を及ぼす重要な要素であるが,屈折型と回折型では光学部の構造や波長依存性の有無といった違いがある.したがって近赤外光を測定光源とした波面センサーを用いて高次収差を評価する際には,測定結果の解釈に注意する必要がある.0.170.150.140.270.270.240.430.450.380.840.690.561.41.210.80.60.40.203456解析径(mm)高次収差量(μm)□:NXG1■:SA60D3■:SN60AT図1全高次収差(眼球)平均値を記載.解析径にかかわらずIOL間に有意差はなく,解析径が増加するにつれ収差量も増加していた.1286あたらしい眼科Vol.28,No.9,2011収差についてOPD-scanを用いて評価してみた3).その結果,全高次収差については,解析径の増加につれて3種のIOLで増加していたが,特に解析径6mmでは症例数が少ないために有意差はなかったが,NXG1の高次収差が大きかった(図1).球面収差については,解析径の増加につれてSA60D3,SN60ATでは増加していたが,NXG1では解析径5,6mmでは減少していた(図(66)2).NXG1は中央より同心円状の5つのゾーンを設け,Zone1,3,5は遠方視用として,Zone2,4は3.5Dの屈折力が加入され近方視用に用いられる.OPD-scanのOPDmap(眼屈折度数誤差分布)でもそれがはっきりとわかる(図3).NXG1挿入眼では遠方視と近方視の両方の特性が混在した高次収差が測定されるため,SA60D3やSN60AT挿入眼とは異なる高次収差の変化を生じたのではないかと考えられた.以上,近赤外光を測定光源とした波面センサーを用いて多焦点IOL挿入眼の高次収差を評価する際には,測定結果の解釈に注意する必要がある.文献1)CharmanWN,Montes-MicoR,RadhakrishnanH:CanwemeasurewaveaberrationinpatientswithdiffractiveIOLs?.JRefractSurg33:1997,20072)三橋俊文,不二門尚:高次波面収差の測定法.臨眼64:96-101,20103)山村陽,稗田牧,木下茂ほか:多焦点眼内レンズ挿入眼の高次収差.あたらしい眼科27:1449-1553,2010☆☆☆10.80.60.40.20-0.2-0.434******56解析径(mm)**:p<0.01高次収差量(μm)□:NXG1■:SA60D3■:SN60AT0.050.020.010.120.050.050.020.110.14-0.240.190.25図2球面収差(眼球)平均値を記載.解析径3,4mmではIOL間に有意差はなかったが,5,6mmではNXG1とそれ以外のIOL間に有意差を認めた.NXG1では解析径5,6mmで球面収差が減少し,6mmでは負の収差を生じていた.図3OPDmapNXG1ではZone2(白矢印)に一致して眼屈折力の高い円環状の部位がみられる.NXG1SA60D3SN60AT

眼内レンズ:高分子寒天を用いた模擬核

2011年9月30日 金曜日

あたらしい眼科Vol.28,No.9,201112830910-1810/11/\100/頁/JCOPY以前より当院では,超音波水晶体乳化吸引術(PEA)の乳化効率を実験的に検討するにあたり,寒天模擬核を使用してきた.市販の寒天粉末を用いると,簡便だが,硬さにばらつきを生じることがあり,特に硬い核を作製するのがむずかしいのが難点であった.安定して人眼の水晶体の硬度に近い模擬核を作製できれば,より臨床応用しやすい,定量化した検討も可能になる.今回,高分子量の食品工業用寒天(カリコリカン:伊那食品工場)を使用し,より人眼に近い硬度の模擬核を作製したので紹介する.●高分子寒天模擬核の作製方法(図1)高分子寒天(カリコリカン)は,市販の寒天の分子量7万よりはるかに高い50万分子量を有するのが特徴である.値段は,1kgで7,000~8,000円程度で,医薬品系の卸店で取り扱いがあるため,薬局などで相談のうえで購入可能である.模擬核の作製方法は,以下のとおりで,溶解性は市販の寒天より良好であるため,非常に作製しやすくなっている.①鍋の中に,一定量の水を入れ,フルオレセイン用紙などで染色する.②染色した水を,約90℃まで熱する.(沸騰させないくらいに火を調整する)(63)③粉末の寒天を,少しずつ入れ,かき混ぜて溶解させる.(市販の寒天より溶けやすい)④シャーレに寒天溶液を流し入れ,室温で固める.人眼の核硬度については,張野1)の摘出水晶体核の硬度測定の報告に準じた.これは,?外摘出した人眼の水晶体核硬度を錠剤用硬度計で測定し,術前のEmery-Little分類の所見と比較したものであり,今回は,文献内の実測値のなかに,人眼の水晶体の硬さがあると考え,硬さを1.2kg/cm2(軟度),1.9kg/cm2(中度),2.6kg/cm2(硬度)と定義した(図2).これらの硬度に近い寒天模擬核を作製するため,寒天早田光孝昭和大学藤が丘リハビリテーション病院眼科眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎301.高分子寒天を用いた模擬核高分子量の食品工業用寒天(カリコリカン:伊那食品工場)を使用し,摘出人眼の水晶体の硬度に準じた模擬核を作製した.高分子寒天を用いることで安定した硬度の模擬核を作製でき,特に硬度の高い模擬核も再現可能であった.白内障手術の乳化効率などの実験的検討に有用と考えられる.GradeHardness(kg/cm2)n=12n=36n=23n=13n=11軟中硬32112345分類基準値公差軟1.2中1.9±0.2硬2.6図2人眼の摘出水晶体核硬度の設定(文献1より)お湯をフルオレセイン用紙で完成染色し,90℃くらいまで熱する粉末寒天をお湯に入れ,かき混ぜて溶解するシャーレに移し,室温で冷ます図1高分子寒天作製方法濃度を1,1.5,2.0,2.5,3.0%とし,作製した寒天を4mmの立方形に切りだし,切り出した寒天を加重測定機(井元製作所)を用いて,硬度を各条件で5回ずつ測定し検討した(図3).その結果,寒天濃度1.5%群で1.04±0.16kg/cm2:軟度,寒天濃度2.5%群で1.86±0.07kg/cm2:中度,寒天濃度3.0%群で2.6±0.08kg/cm2:高度,とそれぞれ目標値に類似した硬度の寒天模擬核を作製できた.さらに,作製した4mm立方形の寒天模擬核をテストチャンバー内で乳化吸引し,超音波(US)時間,エネルギーを5回ずつ測定した(図4).軟度,中度,高度の3群間でUS時間,エネルギーともに有意差を認め,ばらつきも少ない傾向があった(図5,6).実際に乳化した感触も,3群間で明らかに硬さが異なっているのがわかり,個々の寒天模擬核の硬さのばらつきも少なかった.高分子寒天は,市販の寒天より溶解性が高いため,安定した硬度の模擬核を作製でき,特に硬度の高い模擬核も再現可能であった.現在,PEAのUS発振形式は各社工夫を凝らしており多様化している.臨床に用いる前に,実験的な検証を行い,特徴を把握することは重要である.その際,高分子寒天を用いれば,硬度別の検討も含め,安定した検証ができ有効と考える.文献1)張野正誉:人摘出水晶体核の硬度と白内障超音波乳化吸引術の新しい適応基準.眼紀38:780-789,19870.05.010.015.020.025.030.035.040.0軟中高***p<0.05図5超音波発振時間軟度,中度,高度の3群間で有意差を認める.軟度硬度図4寒天模擬核をテストチャンバー内で乳化吸引4mm図34mm立方形に作製した寒天模擬核を加重測定機(井元製作所)にて硬度を測定0.05.010.015.020.025.0軟中高***p<0.05図6超音波エネルギー軟度,中度,高度の3群間で有意差を認める.

コンタクトレンズ:コンタクトレンズ基礎講座【ハードコンタクトレンズ編】 フルオレセインパターン判定法(1)

2011年9月30日 金曜日

あたらしい眼科Vol.28,No.9,201112810910-1810/11/\100/頁/JCOPYハードコンタクトレンズ(HCL)の臨床において,フルオレセインパターンの評価は非常に重要である.HCL処方時のみならず,定期検査やコンタクトレンズトラブルで来院したときもフルオレセインパターンを評価することにより,数多くの情報を得ることができる.HCLのフィッティングをフルオレセイン色素を用いないでレンズの動きやレンズのセンタリングのみで正確な評価をすることは不可能である.必ずフルオレセインパターンの評価を同時に実施しなければならない.その一方で,フルオレセイン色素で染色し,ただ漠然とフルオレセインパターンを眺めていたのでは,トラブル症例への対応などレベルの高いコンタクトレンズ診療はできない.フルオレセインパターンには実に数多くの情報が含まれている.本セミナーでは,フルオレセインパターンを単にフラット,スティープと判定するのではなく,より有用な情報を得るためのフルオレセインパターンの判定法を4回に分けて解説する.●フルオレセインパターンを理解するための基礎知識1.ハードコンタクトレンズのレンズデザインフルオレセインパターンを理解するには,HCLの基本的なレンズデザインを把握しておかなければならない.通常のHCLのデザインを図1に示す.HCLの後面とエッジの形状がフルオレセインパターンに影響する.2.フルオレセインパターンは何を表しているか?HCLを装用すると,角膜とHCLの間に,涙の層が形成される(図2).少量のフルオレセインで涙を染め,ブルーフィルターを利用して観察することにより,涙が黄緑色に染色され,涙の層の厚みを知ることができる.明るく染色されれば,角膜とHCLの間の涙の層が厚いこと,染色が暗ければ,涙の層が薄いことを示す.また瞬目とともに,フルオレセインパターンが変化すれば,涙の流れを知ることができる.(61)●正確に判定するための注意事項1.フルオレセイン量は適量に!フルオレセイン色素の量が多いと,HCLと角膜の間のみならず,HCLの表面にも多量にフルオレセイン色素が流れ,正確なフルオレセインパターンの判定ができない.また少なすぎても,フルオレセインの濃淡がわかりにくく,どのようなパターンでも同じように見えてしまう.筆者は昭和薬品化工株式会社のフローレス眼検査用試験紙0.7mgRを三等分(図3)し,色素部分に少量の生理的食塩水を滴下して使用している.HCLのフルオレセインパターンを評価するための色素の量として適量であり,染色時の眼瞼結膜への刺激も少ない.その他に,蛍光眼底造影で使用するフルオレセイン注射液(フルオレサイトR静注500mg)を生理的食塩水で10倍に希釈し,少量の抗生物質を加え,それを少量,硝子棒の先端に付け,眼瞼結膜に接触させる方法もある.2.フルオレセインの染色方法上方視させ,下眼瞼を軽く押し下げ,下眼瞼の眼瞼結膜にフルオレセイン色素を接触させる方法と,下方視させ,上眼瞼を挙上し,上方の眼球結膜に接触させる方法糸井素純道玄坂糸井眼科医院コンタクトレンズセミナー監修/小玉裕司渡邉潔糸井素純コンタクトレンズ基礎講座【ハードコンタクトレンズ編】327.フルオレセインパターン判定法(1)レンズサイズフロントカーブベースカーブエッジリフトエッジ中心厚フロントベベルオプティカルゾーンベベル図1ハードコンタクトレンズのデザインハードコンタクトレンズ角膜図2角膜とハードコンタクトレンズ間の涙の層の分布1282あたらしい眼科Vol.28,No.9,2011(00)がある.筆者は前者を用いている.角膜,眼球結膜とフルオレセイン試験紙との距離を確保できるので,不意な眼球の動きにより,フルオレセイン試験紙の先端が角膜に触れる危険性が少ない.この際,円錐角膜や角膜移植術後では,下眼瞼を押し下げるとHCLがずれることがある.この場合,下眼瞼の縁から少し下の部分を,指先で斜め下45°方向から,押し上げるようにして,下眼瞼を反転し,フルオレセイン色素を接触させると,レンズがずれにくい(図4).3.フルオレセインパターン判定のタイミングHCL未経験者では,装用直後に判定を行うと,流涙のために正確な判定ができない.このような場合は20?30分間,HCLに慣れてから判定を行う.時間をおいても流涙がおさまらないときは,ベノキシールR点眼などの表面麻酔点眼を使用する.最初から一律にベノキシールR点眼を使用しないほうがよい.HCL経験者で,HCLによる眼刺激症状がほとんどないときは,装用直後でもフルオレセインパターンの判定は可能である.4.フルオレセインパターンの評価は必ず角膜中央部で行う通常,角膜中央部がHCLの静止位置となるように処方する.しかし静止位置が必ずしも角膜中央部と一致するとは限らない.フルオレセインパターンの判定はHCLを眼瞼の上から軽く保持し,HCLを誘導して,必ず角膜中央部で評価するようにする.図4HCLがずれにくい染色方法下眼瞼の縁から少し下の部分を,指先で斜め下45°方向から,押し上げるようにして,下眼瞼を反転し,フルオレセイン色素を接触させる.図3昭和薬品化工株式会社のフローレス眼検査用試験紙0.7mgR

写真:角膜上皮基底膜変性症

2011年9月30日 金曜日

あたらしい眼科Vol.28,No.9,201112790910-1810/11/\100/頁/JCOPY(59)写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦328.角膜上皮基底膜変性症三田村さやか江口洋徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部・眼科学分野図1角膜上皮基底膜変性症によるLAISK後の再発性角膜びらん(51歳,女性)LASIK後に植物の葉で眼を突いたことが契機となり,再発性角膜びらんを発症.中央に角膜びらんと角膜上皮接着不良領域を認める.当初は感染性角膜潰瘍として治療されていた.①②③図2図1のシェーマ①:上皮接着不良域.②:角膜びらん.③:フラップのライン.1秒後図3微小?胞本症例での無症候時に認められた微小?胞.一見すると涙液中のdebrisのようにみえるが,1秒間隔で撮影した写真にて,debris(赤丸)は移動しているが,微小?胞(矢印)は同じ位置であることがわかる.1280あたらしい眼科Vol.28,No.9,2011(00)角膜上皮基底膜変性症(epithelialbasementmembranedystrophy:EBMD)は1964年に初めて報告したCoganの名を取ってCoganmicrocysticdystrophyとよばれているが,細隙灯顕微鏡で特徴的な上皮所見を示し,地図状の上皮混濁(=map)や,上皮内の微小?胞(=dot),上皮の指紋状の皺襞(=fingerprint)がみられるためmap-dot-fingerprintdystrophyともよばれている.病理組織学的には基底膜の重層化,基底膜の上皮層内への侵入や細胞核や細胞質の遺残物を含む上皮層内の?胞が認められ,未発達なヘミデスモゾーム,anchoringfibrilsの欠損により上皮のBowman膜への接着が弱くなっている1).よって些細な外傷が契機となって容易に再発性角膜びらんとなる.実際,再発性角膜びらんの原因のなかでEBMDが約30%を占めるともいわれており,角膜ジストロフィのなかでは頻度が高い疾患である.しかし多くが見逃されていると考えられ,わが国でのEBMDの発生頻度は不明である.近年ではEBMDがあるとlaserinsitukeratomileusis(LASIK)術中・術後のさまざまな合併症のリスクが増えることが報告されている2).マイクロケラトームによるフラップ作製時に上皮欠損や上皮の偏位を生じた場合,EBMDを積極的に疑う必要がある.術後早期ではフラップの皺襞や,epithelialingrowthが,1カ月以降の晩期ではdiffuselamellarkeratitis,フラップの融解などの合併症が比較的高率に生じる.無症候性のEBMDがLASIKを機に症候性になるとの報告もある.よって典型的かつ症候性のEBMDに対するLASIKは推奨されない.無症候性EBMDでは注意深くLASIKを施行するか,もしくはphotorefractivekeratectomy(PRK)を考慮すべきである.したがって屈折矯正手術前検査時は,注意深く細隙灯顕微鏡検査を行って,EBMDを疑う所見の有無を細隙灯顕微鏡で確認する必要がある.EBMDの治療は,角膜上皮の保護を目的としたヒアルロン酸ナトリウムや人工涙液の点眼,ビタミン剤や抗菌薬の眼軟膏の点入を基本とし,不十分な場合は自己血清点眼や治療用コンタクトレンズを適宜使用する.これらの保存的治療でも再発をくり返す症例には角膜実質穿刺,stromalpunctureやphototherapeutickeratectomy(PTK)が有効とされている3).文献1)RodriguesMM:Disordersofthecornealepithelium;aclinicopathologicstudyofdot,geographic,andfingerprintpatterns.ArchOphthalmol92:475-482,19742)DastgheibKA:Sloughingofcornealepitheliumandwoundhealingcomplicationsassociatedwithlaserinsitukeratomileusisinpatientswithepithelialbasementmembranedystrophy.AmJOphthalmol130:297-303,20003)JohanJ:Clinicaloutcomeandrecurrenceofepithelialbasementmembranedystrophyafterphototherapeutickeratectomy.Ophthalmology118:515-522,2011

時の人 緒方 奈保子 先生

2011年9月30日 金曜日

1278あたらしい眼科Vol.28,No.9,2011(58)2010年9月,奈良県立医科大学眼科学教室の第7代目の主任教授に緒方奈保子先生が就任された.同教室は,奈良県立医科大学の前身である奈良県立医学専門学校が戦時中の昭和20年4月に設立されたのに伴い水川孝先生を教授に迎え創設された.しかし水川先生がほどなく応召・出征されたため,周々木三千太郎教授があとを継がれ,その後,昭和24年からは神谷貞義教授のもとに戦後の混乱期を乗り越え,眼科学教室の形を整えられた.その礎は中尾恵一教授へと引き継がれ,中尾先生は特に屈折,矯正の研究の発展に尽力された.この間,昭和27年に現在の奈良県立医科大学に改称.更に西信元嗣教授が昭和58年に就任され,屈折,矯正の研究をより発展させて人工角膜の開発,調節力をもった眼内レンズの開発,人工硝子体の開発など幅広い研究を進められた.平成12年に就任された原嘉昭教授は引き続き人工水晶体・人工硝子体の研究のいっそうの発展に尽力された.そして昨年9月より,緒方先生による新たな体制のもとに教育,研究.そして診療に医局員一同励んでおられる.*緒方先生は1983年3月関西医科大学卒業,同年5月より1年間,宇山昌延先生主宰の眼科学教室にて研修.1984年に同大学大学院医学研究科博士課程(眼科学専攻)に進まれて大熊?先生,金井清和先生の指導のもと網膜色素上皮細胞の組織学的研究により学位を取得.1988年4月より同大学眼科助手を務められ,1991年2月から1993年4月までUniversityofSouthFloridaの臨床免疫学教室に留学.帰国後の同年5月,関西医科大学眼科助手に復職,以後1994年4月同医科大学眼科講師,2003年7月同助教授,2007年同准教授を経て,2010年3月同医科大学附属滝井病院病院教授(併任),2010年7月同医科大学附属香里病院病院教授・眼科部長(併任)を歴任の後,同年9月に最初に紹介したように奈良県立医科大学眼科学教室の7代目の教授に就任された.*1991年に留学されたUniversityofSouthFloridaでは骨髄移植を世界で最初に行った“近代免疫学の父”と呼ばれたRobertA.Good先生のもとで,当時最先端だった分子生物学的手法の研究に従事された.帰国後,関西医科大学眼科助手に復職,分子生物学的手法をはじめ留学中に得られた知識と手技を教室に導入し(『その間,自由に活動させて下さった宇山名誉教授には今も感謝しています』),それがその後の神経保護,眼内血管新生(糖尿病,加齢黄斑変性)等を中心に広く行うことができた基礎研究,臨床研究へとつながった.加齢黄斑変性に関しては,髙橋寛二先生が主に臨床面を担当され,緒方先生は基礎研究面を担当してこられた.更に近年は,pigmentepithelium-derivedfactor:PEDF(色素上皮由来因子)についての基礎研究および臨床研究を精力的に進めてこられ,眼内新生血管発生新生機序とPEDFとの関わり,さらにPEDFを用いた眼内新生血管治療を中心に研究されている.臨床では恩師の松村美代先生から緑内障手術,網膜硝子体手術,そして西村哲也先生から網膜硝子体手術の基本を学び,多くの症例を経験される一方,研修医や専修医の手術教育を担当され,『若い先生の教育がいかに大事かということを実感』してこられた.*先生は,信条・抱負として『臨床の疑問を研究に,研究の成果を臨床に,といわゆるトランスレーショナルリサーチをめざして日々患者の立場に立った診療に努め,また,診療を通じて常に考えながら医療に従事する人材の育成を図り,優秀な臨床医を養成していきたい.そのために自分を育てて下さった多くの恩師から受けた恩と経験のすべてをこれからに生かしていきたい』と述べられ,最後に趣味をお尋ねしたところ『人に言えるような趣味はなく,特技は大食いです』と謙遜された.0910-1810/11/\100/頁/JCOPY時の人奈良県立医科大学眼科学・教授緒お方がた奈なほこ保子先生

ドップラーOCTによる黄斑疾患の観察

2011年9月30日 金曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPYることができない.具体例としてポリープ状脈絡膜血管症のOCT画像を図1に示した.OCTを使った臨床研究によれば,ポリープ状脈絡膜血管症ではBruch膜と網膜色素上皮の間の間隙(doublelayersign)が特徴的とされ,その間隙に異常血管があると報告されている.他方,異常血管網は脈絡膜内に主として存在するという報告もあり,結論はでていない.これは従来のOCTでは血流の存在そのものを確認することができないため,OCT所見が異常血管なのかどうかの議論が単なる推測に基づくためである.この問題の根本的な解決のためには,血流の存在という組織特性をOCT画像内で確認する必要がある.このような通常のOCTでは得られない組織特性(血流,組織弾性,複屈折,偏光解消性,酸素分圧,光刺激反応,など)を調べるOCTを,広い意味でfunctionalOCTとよんでおり,第三世代OCTとしI次世代光干渉断層計(OCT)光干渉断層計(OCT)は組織からの後方散乱光強度を干渉計を使って測定し,組織の断面画像を得る装置である.OCTの眼科応用には2段階のブレークスルーがあった1).まずは1991年にHuangらによって発表されたタイムドメインOCTである.タイムドメインOCTの出現により,それまで仮説にすぎなかった患者網膜の断面像を観察することが可能になった.つぎのブレークスルーはWojtkowskiらによって2002年に発表されたフーリエ(Fourier)ドメインOCTである.フーリエドメインOCTの出現により,OCTの撮影速度は飛躍的に高速化され,高密度画像,画像加算,三次元画像解析が可能になった.この二つのブレークスルーを補完する技術として,脈絡膜画像(1μm)や前眼部画像(1.3μm)に特化した光源の使用や,超広帯域光源と補償光学による超高解像度OCTが考案されてきた1).今回の特集号で紹介されている,EDI(enhanceddepthimaging)-OCTや高侵達OCTやAO-OCT(補償光学OCT)は二つのブレークスルーの応用技術として生まれたものである.それではOCTにつぎのブレークスルーはあるだろうか.本稿で解説するドップラー(Doppler)OCTは次世代OCTとして期待されているfunctionalOCTの一つである.従来の臨床用OCTは組織からの反射光の強さのみを計測しているが,これだけでは組織のもつ特性を確認す(51)1271*MasahiroMiura:東京医科大学茨城医療センター眼科〔別刷請求先〕三浦雅博:〒300-0395茨城県稲敷郡阿見町中央3-20-1東京医科大学茨城医療センター眼科特集●黄斑疾患の病態解明に迫る光干渉断層計あたらしい眼科28(9):1271?1276,2011ドップラーOCTによる黄斑疾患の観察DopplerOpticalCoherenceTomographyImagingofMacularDisease三浦雅博*図1ポリープ状脈絡膜血管症の通常のOCT画像異常血管の存在はわからない.(文献7の図を改変)1272あたらしい眼科Vol.28,No.9,2011(52)遠ざかる場合と近づく場合の2種類に分類される.正のドップラー信号および負のドップラー信号とよばれる.これら2種類のドップラー信号情報をOCT画像に重ね合わせたものをドップラーOCT画像とよんでいる.図3のドップラーOCT画像では,血流が観測者方向に向かう場合を白色,遠ざかる場合を黒色で表現している.ドップラー信号は血流速度を反映するため,ドップラーOCTを使えば網膜血流速度が算出できる.しかし図2に示すようにドップラー信号は,血流速度のうち入射光て期待されている1).FunctionalOCTにはドップラーOCT,偏光OCT,opticalcoherenceelastography,分光OCT,photo-thermalOCT,狭義のfunctionalOCT(網膜内因性信号計測)などがあるが,このなかで眼科臨床応用が報告されているのは偏光OCTとドップラーOCTである.本稿では,ドップラーOCTの眼科臨床応用について解説したい.IIドップラーOCTドップラーOCTは,ドップラー効果を検出することを可能にしたOCTである.ドップラー効果は1842年にオーストリアの物理学者ChristianDopplerによって体系づけられた現象で,波(音波,光波,電波など)の発生源が観測者に対して相対的に動くときに,波の周波数が異なって観察される現象である.ドップラー効果は物体の動きを計測するのに用いられ,天文学(赤方偏移によるビッグバンの観察),速度取締(ドップラーレーダー),球速計測(スピードガン)などさまざまな分野に応用されている.医療現場ではもっぱら血流計測に用いられており,眼科分野ではlaserDopplerflowmetryによる網膜血流計測や,超音波ドップラーによる眼球近傍の血流計測が行われてきた.ドップラー効果はOCTでも計測可能であり,ドップラーOCTまたはopticalDopplertomographyとよばれている.ドップラーOCTではOCT画像内に血流情報を付加することが可能であり,さまざまな網膜疾患の病態研究への利用が期待されている.また,臨床用OCTで一般に採用されているフーリエドメイン方式では,通常の高密度OCT画像を演算処理することによりドップラーOCT画像を算出することが可能であり,特別な装置改造の必要はない.これらの点からドップラーOCTは次世代OCTの有力候補の一つとなっている.現在ドップラーOCTの眼科分野への応用としては,網膜血流計測と網脈絡膜血管三次元画像の二つが考えられている.III網膜血流計測図2に示すようにドップラー信号計測では,血流速度のベクトルのうち,入射光に平行なベクトル成分のみが検出される.ドップラー信号は観測者から見て,血流がOCT図2ドップラー信号の検出ドップラー信号計測では,血流速度のうち入射光に平行なベクトル成分のみが検出可能である.AB図3通常のOCT画像(A)とドップラーOCT画像(B)黒矢印は網膜内の血流,白矢印は脈絡膜内の血流を示している.(文献7より)(53)あたらしい眼科Vol.28,No.9,20111273像内に血流の存在が追加表示される.OCAではドップラーOCT画像を連続撮影して,ドップラー信号分布(血流分布)を三次元表示することにより,網脈絡膜血管三次元画像を算出する.さらにOCAでは,ドップラーOCT画像を網膜色素上皮層で分割することにより,脈絡膜と網膜の血管三次元画像を別々に表示することが可能である.図4Aは筆者の右眼のOCA画像(網脈絡膜血管三次元画像)で,図4BはOCAの平面画像である.図4Bで示した画像は,実際のインドシアニングリーン(ICG)造影画像初期相(図4C)とほぼ一致しており,実際の血管構築を描出していることがわかる.OCAはポリープ状脈絡膜血管症の臨床研究にすでに用いられており,病態に関する新しい知見をもたらしている7).最初に解説したように,図1に示したポリープ状脈絡膜血管症のOCT画像では,血流の存在を確認することが病態解明に重要である.そこでドップラーOCTを使って,図1に示した画像を改めて検討してみたい.その結果,Bruch膜と網膜色素上皮の間にドップラー信号,すなわち血流の存在が確認された(図5).続いてOCA画像を元に,この血流の存在範囲を検討した.すると,Bruch膜と網膜色素上皮の間に確認された血流(ドップラー信号)の分布は,ポリープ状脈絡膜血管症の異常血管網の分布に一致することがわかった(図6).このことから,ポリープ状脈絡膜血管症の異常血管網のうち,少なくともかなりの部分が網膜色素上皮とBruchに平行なベクトル成分しか反映していないため,実際の血流速度を計算するためには血管走行角度を調べる必要がある.網膜血管走行角度の計測方法としては,1)乳頭周囲を円周方向に2カ所測定する方法(doublecircularscanmethod)2),2)三次元OCT画像を基に血管走行の全体像を把握する方法3),3)入射角度の異なる2系統のドップラーOCT計測を実施する方法4),が考案されているが,このなかでdoublecircularscanmethodのみの臨床応用が報告されている.Wangら4)は市販機OCT(RTVue)を用いてdoublecircularscanmethodを実施し,網膜から流出する静脈血流量の合計を検討した2).その結果,増殖糖尿病網膜症,虚血性視神経炎,網膜静脈分枝閉塞,緑内障では血流量が減少していたことを報告している.しかしこれらの知見は,超音波ドップラーやscanninglaserDopplerflowmetryによってすでに確認された所見であり,まだドップラーOCTによる新知見はない.今後の研究成果が待たれる.IV網脈絡膜血管三次元画像(OCA)網脈絡膜血管三次元画像は,ドップラー効果から血管位置情報を得ることにより血管構築の三次元画像を得る技術で,2006年にMakitaら5)によってopticalcoherenceangiography(OCA)として報告された後,opticalmicro-angiography6)という呼称でも報告されている.図2に示したようにドップラーOCT画像ではOCT画ABC図4正常眼のOCA画像A:OCAによる網脈絡膜血管三次元画像,B:OCAによる網脈絡膜血管平面画像,C:同じ領域のICG造影早期画像.(文献7の図を改変)1274あたらしい眼科Vol.28,No.9,2011(54)でMakitaらは広範囲かつ高感度のOCA画像を可能にする,超高感度ドップラーOCT(dualbeamDopplerOCT)を考案した8).DualbeamDopplerOCTは2軸のOCT計測を同時に行うことにより,広範囲の高感度ドップラーOCT計測を可能にする技術である.図7はdualbeamDopplerOCTによる中心窩網膜のOCA画像である.DualbeamDopplerOCTを用いることにより,フルオレセイン蛍光眼底撮影とほぼ同等の網膜血管OCA画像が得られることがわかる.さらにdualbeamDopplerOCTでは図8に示すような広範囲の撮影が可能であり,通常の蛍光眼底と比較しても遜色はない.また網膜色素上皮で画像を分割することにより,網膜血管画像と脈絡膜血管を完全に分離して観察することも可能である.DualbeamDopplerOCTは臨床応用も試みられており,図9に示すようにポリープ状脈絡膜血管症の異常血管を,通常のICG造影画像と何の遜色もなく描出できる.DualbeamDopplerOCTは通常の造影検査とほぼ同等の画像を描出することが可能であり,眼科臨床分野への応用が大いに期待できる.VIドップラーOCTの課題と今後ドップラーOCTは次世代の眼科用OCTとして期待されるが,臨床応用のためには克服しなければならない膜との間の間隙(doublelayersign)に存在することが実証された.これは,ポリープ状脈絡膜血管症の異常血管網の走行がtype1の脈絡膜新生血管に類似している可能性を示唆している.これらの所見から,ドップラーOCTが網脈絡膜疾患解明の有力な道具になりうることがわかった.V超高感度ドップラーOCT(dualbeamDopplerOCT)図3?7に示したドップラーOCT画像は,通常のフーリエドメインOCT(高侵達OCT)を用いて算出したものである.この方式では,既存のOCTを使える利点はあるが,いくつかの課題がある.まず超高密度のA-scanが必要なため狭い範囲の撮影しかできない.また微小血管の検討のためには測定感度が足りない.そこ図5図1に示したポリープ状脈絡膜血管症のドップラーOCT画像Doublelayersign内にドップラー信号(血流)の存在が確認できる.(文献7の図を改変)AB図6ポリープ状脈絡膜血管症の画像A:ICG造影画像,B:OCA画像で,doublelayersign内の血流分布を黒色で示した.(文献7の図を改変)図7正常人眼の中心窩のdualbeamDopplerOCT画像(文献8より)(55)あたらしい眼科Vol.28,No.9,20111275ている.ドップラー計測では血流速度のうち入射光に平行なベクトル成分を測定しているため,入射光に対して血流が垂直に走行していた場合は,ドップラー信号は測定できなくなってしまう.このような場合はOCTを傾けて入射光の角度を調整してやる必要がある.このように現行のドップラーOCTによる血流速度計測では,ドップラーOCTの設定と入射角度を,対象となる血管ごとに調整する必要があり,眼科臨床応用に使う場合は操作が煩雑になる.またドップラー信号計測には時間差で測定したOCT信号を使うため,眼球運動によってOCT信号の測定位置がずれると,測定誤差が大きくなってしまう.これらの課題を乗り越えることができれば,ドップラーOCTによる血流速度測定は広く臨床現場に普及する可能性がある.網脈絡膜血管三次元画像(OCA)については臨床現場への即戦力として期待できる.本稿で示したポリープ状脈絡膜血管症に関する知見は,従来の臨床研究では不可能だったものであり,OCAがいかに有用であるかを示したものである.ドップラーOCTの計測は数秒で終わいくつかの課題がある.まず血流計測を実施する際,つぎのような課題がある.現行のドップラーOCTは,計測可能な血流速度の範囲が設定によって変わってくる.そのため,対象となる血管の血流速度にある程度合わせて,ドップラーOCTの設定を変える必要がある.他の問題点としては血流の走行角度がある.網脈絡膜血管のかなりの部分は,網膜表面に対して平行に走行しており,ドップラーOCTの入射光に対しては垂直に走行し網膜血管脈絡膜血管図8DualbeamDopplerOCTによる網膜血管と脈絡膜血管の画像(文献8より)AB図9ポリープ状脈絡膜血管症の画像A:ICG造影画像,B:dualbeamDopplerOCTによる画像.(文献8の図を改変)1276あたらしい眼科Vol.28,No.9,2011り,造影剤も必要としない.そのため,蛍光眼底造影と比較して患者への負担ははるかに少ない.しかも蛍光眼底造影では不可能な深さ方向の三次元解析が可能である.また血流速度測定と違って,血流の存在のみを確認すればよいので,ドップラーOCTの設定や入射角度を微調整する必要性は少ない.しかしドップラーOCTによる網脈絡膜血管三次元画像にも弱点はある.ドップラーOCTでは血流の存在そのものは確認できても,血管からの漏出という重要な所見を確認することができない.そのため,網膜新生血管や脈絡膜新生血管の診断,黄斑浮腫の原因病巣の確認,などの能力では蛍光眼底造影におきかわることはできない.そこで臨床現場での使い方としては,1)蛍光眼底造影と一緒に撮影して蛍光眼底造影の所見を補完する,2)最初は蛍光眼底造影で診断し,経過観察はドップラーOCTを使う,3)蛍光眼底造影が,副作用や全身状態の問題でできない患者に代用品として用いる,といったことが考えられる.ドップラーOCTによる網脈絡膜血管三次元画像(OCA)は網膜外来における,強力な戦力として期待できる.そう遠くない将来に,ドップラーOCTが次世代OCTとして臨床現場で広く使われる日がくるものと思われる.本稿の擱筆にあたり,御指導,御協力いただいたCOG筑波大学の安野嘉晃先生と巻田修一先生に深謝します.文献1)DrexlerW,FujimotoJG:State-of-the-artretinalopticalcoherencetomography.ProgRetinEyeRes27:45-88,20082)WangY,FawziAA,VarmaRetal:Pilotstudyofopticalcoherencetomographymeasurementofretinalbloodflowinretinalandopticnervediseases.InvestOphthalmolVisSci52:840-845,20113)MakitaS,FabritiusT,YasunoY:Quantitativeretinalbloodflowmeasurementwiththree-dimensionalvesselgeometrydeterminationusingultrahigh-resolutionDoppleropticalcoherenceangiography.OptLett33:836-838,20084)WerkmeisterRM,DragostinoffN,PircherMetal:BidirectionalDopplerFourier-domainopticalcoherencetomographyformeasurementofabsoluteflowvelocitiesinhumanretinalvessels.OptLett33:2967-2969,20085)MakitaS,HongY,YamanariMetal:Opticalcoherenceangiography.OptExpress14:7821-7840,20066)AnL,WangRK:Invivovolumetricimagingofvascularperfusionwithinhumanretinaandchoroidswithopticalmicro-angiography.OptExpress16:11438-11452,20087)MiuraM,MakitaS,IwasakiTetal:Three-dimensionalvisualizationofocularvascularpathologybyopticalcoherenceangiographyinvivo.InvestOphthalmolVisSci52:2689-2695,20118)MakitaS,JaillonF,YamanariMetal:Comprehensiveinvivomicro-vascularimagingofthehumaneyebydualbeam-scanDoppleropticalcoherenceangiography.OptExpress19:1271-1283,2011(56)

補償光学(AO)イメージングによる黄斑疾患の観察

2011年9月30日 金曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPYサー」,その歪みを補正する「波面補正素子」,波面センサーからの情報に基づき波面補正素子を制御する「制御装置」によって構成される(図1).これらの構成要素は電気的に結合されており,歪んだ入射波面をフラットな波面に補正する.波面補正素子には,可変形鏡と液晶空間位相変調素子の2種類あり,可変形鏡ではその表面形状を,液晶空間位相変調素子では光の位相分布を制御する.なお,時間的に変化する波面歪みを適切に補正するために毎秒数百回以上の計測と補正をくり返し,その結果,最終的にこの補償光学システムを通して目的の天体を観察すると,大気のゆらぎの影響が打ち消され,鮮明な天体像を取得することができる.II補償光学と眼底イメージング機器眼底カメラやSLO・OCTなどの眼底イメージング機はじめに近年,スペクトラルドメイン光干渉断層計(SD-OCT)が普及し,組織切片に似た画像を用いて診療を行うことが可能となったが,細胞レベルでの観察は困難であった.しかしOCTや走査型レーザー検眼鏡(SLO)に補償光学(adaptiveoptics:AO)技術を応用することにより,さらなる高解像度のイメージングを実現することが可能となる.本稿では,初めに補償光学技術に関する基礎的な知識を紹介し,ついで補償光学適用SLO(AOSLO)について述べ,AO-SLOにより得られた正常眼・病理眼における視細胞所見を供覧する.最後に究極の眼底イメージング機器として,補償光学適用OCT(AOOCT)の可能性について紹介したい.I補償光学とは補償光学は天文学分野への応用を目的として1950年代に提案された概念である.一般に,天体望遠鏡やカメラなどの光を使ったイメージング機器では,開口(結像レンズ)の大きさが大きいほど鮮明な像が得られる.しかし実際のところ,大型の天体望遠鏡を設置しても,開口径が10cm程度の小型の天体望遠鏡と同程度の分解能しか得られない.これは,大気のゆらぎの影響によって天体からの光の波面が歪み,さらに歪みが時間的にランダムに変動することによるためである.この問題を解決する手段が補償光学技術である.補償光学システムは,光の歪みを計測する「波面セン(43)1263*SotaroOoto:京都大学大学院医学研究科感覚運動系外科学眼科学〔別刷請求先〕大音壮太郎:〒606-8507京都市左京区聖護院河原町54京都大学大学院医学研究科感覚運動系外科学眼科学特集●黄斑疾患の病態解明に迫る光干渉断層計あたらしい眼科28(9):1263?1270,2011補償光学(AO)イメージングによる黄斑疾患の観察AdaptiveOpticsImaginginMacularDiseases大音壮太郎*制御装置波面センサー波面補正素子歪んだ波面ビームスプリッター補正された波面図1補償光学システムの概念図1264あたらしい眼科Vol.28,No.9,2011(44)tor)が注目されている.IV新しい眼底イメージング機器:AO?SLO近年欧米において,AOイメージング,とりわけAO-SLOの研究開発が進められている2).筆者らは新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)による助成事業「高精度眼底イメージング機器研究開発プロジェクト」(平成17?21年度)の一環として,ニデック社・浜松ホトニクス社・産業技術総合研究所と共同でAOSLOの研究開発を行った3,4).その光学系の概念図を図2に示す.イメージング用の入射光(スーパールミネッセントダイオード,840nm)は波面補正素子であるLCOS-SLMを経由して鋭くフォーカスされ,眼底上に輝点を形成する.眼底からの反射光は,同じ経路を逆向きに進み,光検出器(APD)の直前に置かれたピンホール上に再びフォーカスされる.ここで眼底上の輝点を二次元的に走査すると,共焦点の効果によりコントラストの高い高倍率の眼底像が取得される.つぎに眼球光学系の収差の影響を除去すべく補償光学系を動作させる.そのためには,まずイメージング用の入射光と同様に,波面測定用のレーザー(レーザーダイオード,780nm)を眼に入射し,眼底上に輝点を形成する.眼底上の輝点は一様に散乱され,角膜や水晶体などの眼球光学系の収差の影響を受けてひずんだ波面が眼から出射される.その光波のひずみを波面センサー(シャック・ハルトマンセンサー)で計測し,それを打ち消すようにLCOS-SLMの位相を素早く制御する.その結果,イメージング用の光波についても収差の影響が除去され,光検出器上に理想的な輝点を形成することができるため,高分解能の眼底像を取得することが可能となる.補償光学が作動したときと作動していないときの取得画像を図3に示す.細胞レベルでの観察を行うためには,補償光学がいかに重要な役割を果たしているかがわかる.器では,眼球の外部から内部に光を照射し,眼球光学系を通して眼底を観察する装置である.そのため,眼球光学系,特に角膜と水晶体に存在する歪み(高次の収差)の影響を避けられず,面分解能が制限されていた.ここで外部から照明された眼底を観測対象の星と考え,角膜と水晶体を大気のゆらぎと考えると,眼底イメージング機器に補償光学を導入する意義がはっきりする.すなわち,眼底イメージング機器に補償光学を導入すると,角膜や水晶体に存在する歪みの影響が除去され,鮮明な眼底像を得ることができる.補償光学システムによって理論上約2.0μmの面分解能が得られ,これまで生体眼での観察が不可能であった視細胞を眼底イメージング機器で観察できるようになるのである.III補償光学システムの実際天文学用の補償光学システムを構成する3つのサブシステムには,定番の組み合わせがある.波面センサーにはシャック・ハルトマン(Shack-Hartmann)センサーか波面曲率センサーが,波面補正素子には大型の可変形鏡が利用されることが多い.また制御装置としては性能の向上に伴い,最近では汎用のパソコンが利用される.補償光学を眼底イメージング機器に組み込む場合にも,天文学とまったく同じ補償光学システムを利用するのと同様の効果が期待される.実際,眼底カメラに補償光学をはじめて組み込み,鮮明な眼底像の取得に成功した1997年の先駆的研究においては,天文学分野と同様にシャック・ハルトマンセンサー,可変形鏡,およびパソコンで構成される補償光学システムが採用された1).しかしこの補償光学システムは,大規模な装置構成・高価などの理由により,医療の現場で使用される眼底イメージング機器に設置する装置としては適切ではない.そのため,眼底イメージング機器への応用に適した補償光学システムの研究開発が盛んに進められるようになった.なかでも波面補償素子が,システム全体の価格と性能を決定する重要な鍵となる.現在のところ眼底イメージング機器に適した小型で安価な波面補正素子として,MEMS(microelectromechanicalsystems)技術を応用した可変形鏡やLCOS型液晶空間位相変調素子(LCOSSLM:liquid-crystal-on-siliconspatiallightmodula(45)あたらしい眼科Vol.28,No.9,20111265V正常眼におけるAO?SLO画像と画像解析方法現在AO-SLOでとらえられている像として,網膜神経線維束・大血管および毛細血管内の血球動態・視細胞があげられる(図4).これまでの研究から,AO-SLOで見えている視細胞は,すべて錐体細胞と考えられている.正常眼における視細胞パノラマ像を図5に示す.黄斑部の組織学的所見では,中心窩においては小さな錐体細胞が密に配列しているのに対し,周辺では大きな錐体細胞の間を小さな杆体細胞が埋める構造をとる.AO-SLOにより得られる錐体細胞モザイクにおいても,中心窩近傍では小さな錐体細胞が密に配列しているのに対し,中心窩からの距離が離れるに従って,個々の細胞が大きく??????LCOS-SLM(????????????)????????(840nm)????????????????????????????????????????????????/OCT????????OCT??????????(840nm)????(780nm))??????????-(780nm)????????????????????????????????図2AO?SLO光路図高解像度AO-SLO画像(①)は広画角SLO(②)とリンクしていて,カーソル移動により後極部の任意の位置を撮影することができる.AO-SLO画像の画角は1.5°×1.5°.③:補償光学システム,④:OCT,⑤:前眼部モニター(撮影補助用),⑥:内部固視灯.図3補償光学の効果補償光学が作動しているとき(AO-ON)は視細胞像が観察されるが,補償光学を切断する(AO-OFF)と不明瞭な像となる.1266あたらしい眼科Vol.28,No.9,2011(46)図4AO?SLOにより得られる画像左:視細胞.中:網膜神経線維束.右:血管内の血球動態.*図5正常眼視細胞像左:通常SLO画像.拡大しても視細胞は確認できない.右:同部位のAO-SLO画像および拡大像.個々の視細胞が解像され,中心窩近傍(上方)では細胞が小さく,視細胞密度も高いが,中心窩から離れるに従って細胞は大きくなり,密度も低下する.*:中心窩.図6視細胞重心の自動検出左:血管によるシャドウの少ない部位を選択.右:視細胞の重心をソフトウェアにより自動検出(緑で表示).(47)あたらしい眼科Vol.28,No.9,20111267VI病理眼におけるAO?SLO画像(視細胞像)1.中心性漿液性脈絡網膜症寛解後の視細胞構造異常(図8)3)中心性漿液性脈絡網膜症(CSC)は黄斑部の漿液性網膜?離(SRD)を特徴とする疾患である.多くの症例ではSRDは自然消退し,視力が回復するが,SRDが消退後も比較暗点や変視症・色覚異常を自覚する症例も多い.また,慢性型では恒久的な視力障害を残すことが知られている.これまで光干渉断層計を用いた研究により,CSC症例で視細胞内節外節接合部(IS/OS)に異常をきたすこなり,密度が低下することがわかる.中心窩から0.2,0.5,1.0mmの部位における平均視細胞密度は67,900,33,320,14,450個/mm2であり,組織学的研究の結果とほぼ一致している3).得られた視細胞画像を用いて,視細胞密度の測定や,視細胞配列の解析を行うことができる.まず血管によるシャドウの少ない領域を選び,個々の視細胞の重心をソフトウェアにより自動検出する.眼軸長によるスキャン長補正を行ったのち,視細胞数/面積の計算により各部位における視細胞密度を算出することができる(図6).また,得られた各視細胞重心からの垂直二等分線を引くことにより,Voronoi図(ある距離空間上の任意の位置に配置された複数個の点に対して,同一距離空間上の他の点がどの母点に近いかによって領域分けされた図)が得られ,視細胞配列の規則性を解析することができる(図7).一般に1つの視細胞は6つの視細胞に近接した配列をとっており,Voronoi図の六角形の割合が多いほど配列が規則的であると考えられている.図7視細胞重心から得られるVoronoi図各視細胞重心の垂直二等分線を引くことにより得られる.視細胞配列の解析に使用.緑は六角形,青は五角形,黄色は七角形を示す.緑で表される六角形の割合が高いほど配列に規則性があると考えられる.図8中心性漿液性脈絡網膜症における視細胞異常A:初診時SD-OCT水平断.漿液性網膜?離(SRD)を認める.1カ月でSRDは自然寛解した.B,C:4カ月後.B:SD-OCT水平断.SRDは消失している.C:中心窩のAO-SLO画像.視細胞モザイク内に斑状のdarkregionを認め,視細胞の欠損と考えられる.視細胞密度は低下している.*:中心窩.スケールバー:100μm.(文献3より改変して転載)1268あたらしい眼科Vol.28,No.9,2011(48)膜厚と相関する.視細胞密度の減少が後遺症としての視力障害に関与していることが明らかとなり,比較暗点や色覚異常にも関与しているものと考えられる.これらは既存のSLOやSD-OCTでは検出不可能な所見であり,AO-SLOはCSCの病態理解に有用であるといえる.2.黄斑上膜症例における視細胞配列異常(図9)4)黄斑上膜症例の視機能異常として変視症があることはよく知られているが,変視症をひき起こすメカニズムはわかっていない.これまでOCTを用いた研究により,黄斑上膜症例でIS/OSに異常をきたすことや,中心窩における外顆粒層厚が増加することが判明し,黄斑上膜は視細胞層へ影響を及ぼすことが示されてきたが,個々の視細胞にどのような異常が生じているのかは不明であった.筆者らはAO-SLOを用いて黄斑上膜症例の視細胞構造について検討を行い,変視症への関与を考察した4).黄斑上膜症例25眼を対象として,AO-SLOの撮影をとや,中心窩網膜厚が菲薄化することが報告され,CSCでは視細胞層に障害がもたらされていることが示唆されてきたが,個々の視細胞にどのような異常が生じているのかは不明であった.筆者らはAO-SLOを用いてSRDの消退したCSC症例の視細胞構造について検討を行い,SD-OCT所見および視力との関係を調べた3).SRDの消失を認めたCSC症例38例45眼を対象としてAO-SLOの撮影を行ったところ,全例で5?100細胞大の視細胞脱落像が斑状に観察された.中心窩から0.2,0.5,1.0mmの部位における平均視細胞密度は31,290,18,760,9,980個/mm2であり,正常眼に比べ有意に低下していた.中心窩から0.2mmの部位における平均視細胞密度は平均視力および中心窩平均網膜厚と有意な相関がみられた.またSD-OCT像でのIS/OS不整群はIS/OS正常群に比べ有意に視細胞密度が低かった.このようにAO-SLOによりCSCにおける網膜復位後の視細胞構造異常が明らかとなった.CSCではSRD消失後も視細胞密度が減少し,残存視細胞密度は視力・網図9黄斑上膜における視細胞異常A:眼底写真にて黄斑上膜を認める.B:IR画像.C:アムスラーチャートにて広範囲な変視症を認める.D:SD-OCT水平断.黄斑上膜(黒矢印)を認める.中心窩IS/OSは不規則である(青矢印).E:SD-OCT垂直断.F:AO-SLO画像(Bの白枠,D・Eの両矢印部位に相当).視細胞モザイク内に多数のmicrofold(赤・黄矢印)を認める.*:中心窩.スケールバー:100μm.(文献4より転載)あたらしい眼科Vol.28,No.9,20111269行った.機能評価としてAmslercharts,M-CHARTSを用いて変視症を検出・定量化した.また,SD-OCTにより示される,視細胞内IS/OS不整像の有無を評価し,中心窩網膜厚・外顆粒層厚を測定した.AO-SLOにより25眼中24眼で視細胞間に多数の皺襞様低反射像を認め,筆者らはこの所見を“microfold”と名付けた.この所見は健常眼および他の網膜疾患においては認められないものである.黄斑上膜症例においてAO-SLOで認められるmicrofoldの幅は約5?10μmであり,眼底写真で認められる網膜皺襞(幅50μm以上)に比べ有意に細いものであった.Amslerchartsを用いた検査では,中心窩にmicrofoldを認める症例は13眼中12眼で固視点近傍に変視が検出されたのに対し,中心窩にmicrofoldを認めない5眼ではすべて固視点近傍に変視が認められなかった.M-CHARTSを用いて変視を定量化したところ,中心窩にmicrofoldを認める症例は認めない症例に対し,変視スコアが垂直・水平方向とも有意に高い結果となった.視細胞配列の解析を行うために得られた視細胞像からVoronoi図を作成したところ,六角形を示す割合は正常眼に比べ有意に低い結果となった(図10).一方,SD-OCTで示されるIS/OSの不整像と視力・変視スコアに関係はみられなかったが,中心窩網膜厚・外顆粒層厚は視力・変視スコアと相関を認めた.この研究により,黄斑上膜症例において,既存のSLOやSD-OCTでは検出不可能な黄斑上膜特有の視細胞配列異常が判明し,変視との関係が認められた.黄斑上膜症例において,microfoldに表される視細胞配列の乱れが変視症の形成に関与していることが示唆される.ERMによる求心性の収縮が網膜の肥厚を起こすのみでなく,視細胞層にもさまざまな程度のひずみを生じ,AO-SLOで見られるmicrofoldをひき起こすと考えている.このようにAO-SLOにより得られる視細胞密度・視細胞配列と視機能や他のイメージング機器から得られる所見を比較することにより,さまざまな眼底疾患の病態理解を深めることができる.VIIAO?OCTの可能性補償光学技術はOCTにも応用可能である.2003年にはタイムドメインOCTに,2005年にはフーリエ(Fourier)ドメインOCTに補償光学が導入された.研究室レベルでは,面分解能・深さ分解能ともに3μmである超高解像度の3D画像が示されている(図11)5).まさに眼底を“biopsy”するような画像といえる.AOSLOでは深さ分解能は高くなく,解析はおもに視細胞層・網膜神経線維層に限られるが,深さ方向の分解能も高いAO-OCTはまさに究極の眼底イメージング機器となりうる.病理眼に応用し,診療で使用できるレベルに達するにはスキャン速度の高速化・固視微動の除去などさまざまな問題を解決する必要があるが,AO-OCTが市場に登場すれば眼科の世界が変わる可能性がある.おわりに眼底カメラ・SLO・OCTにそれぞれ補償光学が導入され,眼底イメージングにおける補償光学の重要性が広く認識されてきた.補償光学は眼球光学系の歪みの影響を除去し,分解能の飛躍的向上を可能にする.同時に,(49)図10正常眼および黄斑上膜症例の視細胞配列正常眼(A,B)および黄斑上膜症例(C,D)における視細胞重心Voronoi図.正常眼では灰(A)もしくは緑(B)で示される六角形の割合が高いが,黄斑上膜では低下している.(文献4より転載)1270あたらしい眼科Vol.28,No.9,2011コントラストやSN(signal-to-noise)比の改善も期待されるため,取得される眼底像の品質向上に大いに貢献する技術となる.近い将来,角膜のスペキュラーマイクロスコープを使うようにAO-SLOを用いて視細胞密度を数え,また生検を行うかのようにAO-OCTを用いて網膜biopsyscanを行って,網膜疾患や緑内障の治療適応を検討し,治療の効果判定に利用する時代がくると考えている.文献1)LiangJ,WilliamsDR,MillerDT:Supernormalvisionandhigh-resolutionretinalimagingthroughadaptiveoptics.JOptSocAmAOptImageSciVis14:2884-2892,19972)RoordaA,Romero-BorjaF,DonnellyWJIIIetal:Adaptiveopticsscanninglaserophthalmoscopy.OptExpress10:405-412,20023)OotoS,HangaiM,SakamotoAetal:High-resolutionimagingofresolvedcentralserouschorioretinopathyusingadaptiveopticsscanninglaserophthalmoscopy.Ophthalmology117:1800-1809,20104)OotoS,HangaiM,TakayamaKetal:High-resolutionimagingofthephotoreceptorlayerinepiretinalmembraneusingadaptiveopticsscanninglaserophthalmoscopy.Ophthalmology118:873-881,20115)MillerDT,KocaogluOP,WangQetal:Adaptiveopticsandtheeye(superresolutionOCT).Eye25:321-330,2011(50)AO-OCTVolumeImageofRetinaNFLGCL????????????????????????????????OPLOS図11AO?OCTによる高解像度三次元画像NFL:網膜神経線維層.GCL:神経節細胞層.OPL:外網状層.OS:視細胞外節.(文献5より転載)