0910-1810/10/\100/頁/JCOPYgrowthfactor:VEGF)をターゲットとした抗VEGF療法の時代となり,現在では,眼内に薬物を簡便に直接に送り込める硝子体内投与が広く受け入れられるようになった.1回の硝子体内投与で,4mgのトリアムシノロン・アセトニドが約12週間,ラニビズマブ(ルセンティスR)が約4週間,ペガプタニブ(マクジェンR)が約6週間,有効性を維持できる.しかし,これらの脂溶性のステロイドや高分子量の蛋白質や核酸製剤は例外であり,眼内での半減期が数時間と短い低分子量の水溶性はじめに視覚を担う眼球はその内部の透明性維持のために,血液網膜関門,血液房水関門や強膜などで眼外や血液からの物質移動が厳格に制御されている(図1)1).このため,網膜硝子体疾患に対しては,点眼,軟膏などの局所投与,内服,点滴などの全身投与のいずれにおいても有効濃度に到達,維持させることが困難である.このような背景で,トリアムシノロン・アセトニドの硝子体内投与に始まり,血管内皮増殖因子(vascularendothelial(55)1377*TsutomuYasukawa:名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学〔別刷請求先〕安川力:〒467-8601名古屋市瑞穂区瑞穂町川澄1名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学特集●眼科薬物療法の新たな展開あたらしい眼科27(10):1377.1384,2010新しい眼科ドラッグデリバリーシステムNewOcularDrugDeliverySystems安川力*涙液ターンオーバー上皮実質内皮虹彩血管内皮毛様体上皮(血液房水関門)強膜網膜血管内皮(内側血液網膜関門)網膜色素上皮(外側血液網膜関門)角膜房水の流れ水晶体硝子体内境界膜ぶどう膜強膜流出路上強膜血管からの流出脈絡膜血管からの流出図1眼内薬物移行の障害となるもの眼内への薬物移行を制限するものとしては,(1)角膜上皮,角膜内皮,網膜色素上皮,網膜血管内皮,毛樣体無色素上皮,虹彩血管内皮など密着結合をもつ上皮や内皮と内境界膜,(2)涙液,房水の流れ,(3)結膜や脈絡膜の血液循環(細胞外液の体循環への回収)があげられる.水溶性薬剤に関して特に眼内への移行は制限されるため,硝子体内投与が最も有効であるが眼内半減期は短いため頻回投与を必要とする.無硝子体眼では眼内の薬物滞留性はさらに低下する.1378あたらしい眼科Vol.27,No.10,2010(56)II眼局所での薬物徐放化:コントロールドリリースコントロールドリリースのための眼科DDS製剤の形状としては,手術により眼内に埋植が必要なインプラントと,注射針で簡便に注入可能なロッド状製剤やマイクロスフェアのような微粒子製剤に大別される.また,薬物を内包し製剤の形状を保持する基材として,非分解性高分子または生体内分解性高分子が使用され,それぞれ長所,短所がある(図2,表1)1,3).非分解性インプラントは,薬物を非分解性高分子の被膜で包み込んでインプラントとして成型したものであり,内部に大量の薬剤を貯蔵でき(リザーバー型),薬物放出が被膜の薬物透過率と表面積のみで制御できるため,後述する生体内分解性の製剤よりも長期(半年~数年)に安定した薬物徐放が可能である反面,内包する薬物がなくなっても眼内にインプラントは残留することになる(表1)1,4,5).生体内分解性インプラントの最大の長所は,体内において分解消失するので,除去手術が不要な点である1,3,6,7).生体内分解性高分子を基材として薬物と均質に混合して成型され(モノリシック型),水中で徐々に基材の膨化,加水分解に伴い,内封されている薬物が徐放される(表1).リザーバー型のような高分子の被膜を必要としないため,ロッド状製剤やマイクロスフェアのような微粒子製剤など適当な形状に加工が容易である.ただ,薬物徐放には,生体内分解性高分子の種類,分子量,薬物との配合率,薬物の溶解度,製剤の表面積,体積など,多くの因子が影響するため,非分解性インプラントと比較して安定した徐放製剤の開発設計がむずかしく,数カ月の徐放に留まるが,より長期で安定した徐放のための改良の余地を残している.1.眼内埋植型ステロイド徐放製剤:RetisertRRetisertR(米国ボシュロム社)は,VitrasertRと類似の非分解性眼内インプラントで,2005年に米国にて非感染性後部ぶどう膜炎に対して実用化され,わが国においても臨床試験中である.0.59mgのフルオシノロンを貯蔵しており,ポリビニルアルコールでコーティングさ薬剤2)や,1回投与量が制限される高濃度で毒性を認める代謝拮抗剤などの薬物は,有効濃度維持のためには数日ごとの硝子体内投与が要求されるため,加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD),黄斑浮腫,網膜色素変性症など,慢性経過をたどる網膜硝子体疾患を標的とした治療のコンプライアンスは乏しい.このような薬物濃度維持の困難を克服した最初の眼内ドラッグデリバリーシステム(drugdeliverysystem:DDS)製剤として,1996年に米国にて非分解性眼内インプラント(VitrasertR:米国ボシュロム社)が実用化された1).エイズ患者にしばしば合併するサイトメガロウイルス網膜炎を対象に,ガンシクロビルを眼内に5~8カ月もの長期間,徐放可能である.この頃のDDS製剤の開発競争で得られた知識を元に各種の眼科DDS製剤が今や実用化目前である.本稿では現在臨床試験が行われている新規DDS製剤について解説する他,今後,開発が進んでくるであろうDDS研究や将来の展望について紹介する.IDDSの種類DDSの概念に基づき,眼内へのDDS開発の可能性として以下の三つに分類される1).(1)眼局所での薬物徐放化(コントロールドリリース)(例:VitrasertR)(2)全身投与で眼組織への薬物標的指向化(ターゲティング)(例:光線力学的療法)(3)強膜,細胞膜その他の隔壁通過促進(例:遺伝子導入,イオントフォレーシス)このなかでもVitrasertRをはじめとした(1)コントロールドリリースシステムの開発が活発に行われており,市場に出ているものや臨床試験中にあるものなど多数存在する.(2)ターゲティング療法は,ベルテポルフィンの脈絡膜新生血管周囲への集積する性質と局所への光線照射を組み合わせた光線力学的療法が良い例である.遺伝子導入なども,(3)細胞内への導入効率を向上させるための工夫,技術や,導入により得られる標的蛋白の持続的な発現促進や抑制という点で広義のDDSに含まれる.(57)あたらしい眼科Vol.27,No.10,20101379RetisertR移植前に40~54%であったものが移植後34週の時点で7~14%に減少し,ステロイドの全身投与,結膜下注射,点眼の必要性も大幅に減少している4,5).れて,長さ5mm,幅2mm,厚み1.5mmに成型されている(図3A).実に30カ月もの間,安定して硝子体腔へ薬物徐放が可能である.ぶどう膜炎の再発率が表1各種コントロールドリリース製剤の長所・短所非分解性インプラント生体内分解性インプラント微粒子製剤製剤例VitrasertR,RetisertRSK-0503(OzurdexTM)DE-102IluvienR,I-vationTMトリアムシノロン・アセトニド***使用基剤非分解性高分子生体内分解性高分子生体内分解性高分子ポリビニルアルコール乳酸-グリコール酸共重合体乳酸-グリコール酸共重合体エチレンビニルアセテートポリ乳酸ポリ乳酸シリコーンラミネートなどゼラチンなどゼラチンなど薬物封入タイプ貯蔵(リザーバー)型均質(モノリシック)型均質(モノリシック)型徐放期間半年~数年数カ月**数カ月**長所長期間の安定した徐放除去手術不要注入可能さまざまな形状に成型可能注入部位選択可能短所被膜破損時の薬物大量放出*初期,後期薬物大量放出**初期薬物大量放出**製剤がやや大型有害事象出現時に回収困難ときに除去手術が必要*埋植手術時,破損に注意を要する.**前処置,基材の種類,薬物との配合率を変えることで改善可能.***基剤を必要としない.結膜.留置型OcusertR*,MydriasertR*,LacrisertR*眼内埋植型VitrasertR*,RetisertR*眼内挿入型SK-0503(OzurdexTM)**眼内挿入型IluvienR(MedidurTM)**I-VationTM**NT-501TM**微粒子製剤DE-102**,トリアムシノロン・アセトニド生体内分解性(モノリシック型)非分解性(リザーバー型)アプリケーター細胞隔離半透膜封入細胞PVAらせん型EVAorsilicone薬物図2眼科領域の薬物放出制御システム非分解性高分子の被膜によって薬物を内部に貯蔵するリザーバー型の眼内インプラントか生体内分解性高分子と薬物の均質な混合物を成型したモノリシック型の眼内インプラントや微粒子製剤に大別される.結膜.に留置する徐放製剤でピロカルピン,トロピカミド,hydroxypropylmethylcelluloseをそれぞれ徐放するOcusertR,MydriasertR,LacrisertRが以前に上市されている他,眼内へのDDS製剤としては,非分解性インプラントであるガンシクロビル徐放製剤(VitrasertR)とフルオシノロン徐放製剤(RetisertR)が米国で商品化されている(*).その他,各種DDS製剤の臨床試験が行われている(**).PVA:polyvinylalcohol,EVA:ethylenevinylacetate.1380あたらしい眼科Vol.27,No.10,2010(58)の視力改善を18%に認めている.埋植部位の強膜が長期的に耐久しうるか,抜去可能かなど評価が待たれる.3.眼内挿入型ステロイド徐放製剤:IluvienRIluvienR(旧名:MedidurTM)(pSivida社)は,RetisertRと同じくフルオシノロン・アセトニドを含有する内部貯蔵型の非分解性DDS製剤である.RetisertRと違い,3mmのロッド状の形状をしていて25ゲージ針を用いて経結膜的に硝子体内に挿入可能である.18~36カ月の長期薬物徐放が可能である.糖尿病黄斑浮腫を対象とした第III相試験が進行中である.硝子体中に固定なしで滞留するインプラントが合併症をひき起こさないか,また,必要となった場合に容易に眼外に摘出できるかなど評価が待たれる(図2).4.眼内挿入型ステロイド徐放製剤(生体内分解性):SK.0503,OzurdexTM生体内分解性デキサメタゾン徐放製剤(SK-0503:三和化学,OzurdexTM:アラガン社)が,米国に続いて,国内でも黄斑浮腫を対象に実用化に向けた臨床試験が行われている.このDDS製剤は,デキサメタゾンと生体内分解性高分子である乳酸-グリコール酸共重合体の混合物がシャープペンシルの芯のような形状で22ゲージ針の内腔に装.され,ペンシル型の特殊なアプリケーターにて経結膜的に硝子体腔へ挿入が可能であり(図3C),長期間にわたりデキサメタゾンを徐放させることが可能であり,有効性が示されつつある.後述のマイクロスフェアとともに,侵襲が少なく摘出が不要であるため,ぶどう膜炎に対しても臨床応用が可能であると考えられる.5.ステロイド徐放マイクロスフェア製剤:DE.102生体内分解性ステロイド徐放マイクロスフェア製剤(DE-102:参天製薬)の糖尿病黄斑浮腫に対する臨床試験が国内で実施されている(図3D).トリアムシノロン・アセトニドの使用経験でわかるように,微粒子製剤はさまざまな投与部位(結膜下,Tenon.下,硝子体内,網膜下など)を選択することができる.本試験ではTenon.下投与による有効性の評価を行っているが,優れた有効性を示す反面,ステロイドによる眼圧上昇と白内障の進行も顕著である.移植後34週の時点で60%の症例で眼圧下降剤を必要とし,移植後2年の時点で32%もの症例で濾過手術を必要とした.また,ほとんどの有水晶体眼の症例で白内障手術を必要としたと,RetisertRの使用上の注意に記載されている.ただ,ぶどう膜炎が遷延する症例ではもともと続発緑内障,併発白内障を認める場合も多く,ぶどう膜炎の鎮静化のための優れた持続効果は十分評価できる.2.経結膜ねじ込み型ステロイド徐放製剤:I.vationTMI-vationTM(SurModics社)は,ユニークな長さ5mmのらせん状のねじの形状をしていて,経強膜的に25ゲージ針にて穿刺した部位から毛様体扁平部にねじ込んで固定できるトリアムシノロン・アセトニド徐放製剤である(図3B).925μgのトリアムシノロン・アセトニドを含有し,最高2年間薬物徐放が可能である.糖尿病黄斑浮腫を対象に安全性が示され,さらなる臨床試験が予定されている.治療前の平均網膜厚が376μmに対し,治療開始6カ月の時点で230μmに改善し,15文字以上ABCD図3臨床試験中の徐放製剤A:眼内埋植型ステロイド徐放製剤(RetisertR)(米国ボシュロム社提供).B:経結膜ねじ込み型ステロイド徐放製剤(I-vationTM)(SurModics社提供).C:(生体内分解性)眼内挿入型ステロイド徐放製剤(SK-0503)(三和化学研究所提供).D:ステロイド徐放マイクロスフェア製剤(DE-102)(イメージ).(59)あたらしい眼科Vol.27,No.10,20101381相試験が行われている.カプセルの材質についても徐放したい物質に適した高分子への改良が進められているようである.実用化されるか未知の部分が多いが,抗体やサイトカインを安定供給できるシステムとして期待したい.8.眼内ゲル化製剤滲出型AMDに対する抗VEGF薬の有用性が広く認知されるなか,無硝子体眼において通常の周期での硝子体内投与が無効である問題点が浮き彫りになっている.無硝子体眼に対して有効な,または,現在の治療間隔を延長できる蛋白製剤や核酸製剤の徐放化が,現在,開発者の大きな関心事である.たとえば,SurModics社など硝子体腔に注入後ゲル化する高分子などの開発が進んでいる.ゲル化のための溶媒の網膜への悪影響はないか,ゲル化で蛋白質や核酸の眼内滞留を延長できるか,中間透光体の透明性を損なわないか,眼圧上昇やゲル材料の網膜毒性がないかなど評価が待たれる.III全身投与で眼組織への薬物標的指向化:ターゲティング光感受性物質ベルテポルフィンと光線を組み合わせた光線力学的療法も,血中のリポ蛋白というナノサイズの粒子中に移行したベルテポルフィンが新生血管組織周囲および新生血管の内皮細胞内へ集積する物理化学的,生物学的特性と,外部からの光線照射を巧みに組み合わせたターゲティング療法である.高分子が受動的に炎症や血管新生部位に効率よく送達されることは,実は,生体内で免疫反応のためBリンパ球が産出する免疫グロブリン(Ig)で実践されている.すなわち,IgGの分子量が149,000と通常の蛋白質と比較して大きいことには意味があって,血中に循環する抗体は血中半減期が長く,血管透過性亢進している炎症部位で優位に血管外に出るため,抗体が効率よく炎症部位に送達される.このように液性免疫は生体による受動的ターゲティング療法なのである(図4)8).ところで,癌組織や脈絡膜新生血管組織は透過性亢進した血管が存在するが,周囲に高分子を回収するべきリンパ管が未熟または存在しない特殊な環境下にある.したがって,抗体のような大きな分子は血硝子体内投与も可能と考えられ,無硝子体眼などでの薬物徐放にマイクロスフェア製剤は威力を発揮する可能性を秘めている.6.ステロイド水性懸濁注射液:トリアムシノロン・アセトニド世界中で適応外使用として普及したトリアムシノロン・アセトニドのTenon.下投与および硝子体内投与も生体内分解性高分子などの基材を用いない微粒子(懸濁性)製剤の一種であり,4mgの硝子体内投与で硝子体内半減期が18.6日とされており広義の薬物徐放システムである.脂溶性で局所濃度が最高に達しても有効性が毒性に勝るステロイドの特性によりなせる技である.現在臨床試験中のDDS製剤のほとんどがステロイド徐放製剤であるが,臨床での使用意義という点では,トリアムシノロンと比較して,単回投与の有効期間,治療効果,副作用,費用,治療の簡便性などに関して優れた点がなければならないだろう.または,無硝子体眼におけるトリアムシノロンの硝子体内投与後の半減期が3.2日と短縮するため,このような眼における徐放効果などで活路を見いだすことになるだろう.7.眼内埋植型カプセル化細胞製剤:NT.501生体材料,細胞工学の技術を駆使して開発された斬新なDDSとして注目されるのが,NT-501(Neurotech社)である.単離・培養したヒト網膜色素上皮細胞に,プラスミド導入により毛様体神経栄養因子(ciliaryneurotrophicfactor:CNTF)を持続的に産生するように遺伝子操作を行ったものを半透膜のカプセルに封入したまったく新しい概念のDDS製剤である(図2).抗体が透過せず,細胞性・液性免疫を回避できるため,内部の細胞は異種のものでも癌化細胞でも理論的には使用可能で,内部の細胞が生存するために必要な物質や細胞が産生した蛋白質などはカプセルを透過できるとされる.VitrasertR,RetisertRと同じく,毛様体扁平部に縫合糸で固定される.網膜色素変性症の第I相試験では安全性が示され,また,カプセル埋植後6カ月経過しても内部の細胞は生存していることが確認され,第II相試験が予定されている.現在,萎縮型AMDについても第II1382あたらしい眼科Vol.27,No.10,2010(60)の脈絡膜新生血管モデルへ集積するとの報告もある11).このEPR効果に基づく受動的ターゲティングという概念はもともと癌治療の分野で提唱されたが,眼科領域に応用できる大きな可能性を秘めている.IV遺伝子導入:siRNA(smallinterferingRNA)とAdPEDF遺伝子導入は長期に蛋白発現を誘導したり阻害したりできるため広義のDDSである.最近では,2006年の関連研究でノーベル医学生理学賞を受賞したことで有名になったsiRNAの製剤化に向けた開発が活発である.短い配列の二本鎖RNA(siRNA)を細胞内に導入することによりRNA干渉,すなわち,相補的配列をもつmRNAを分解し蛋白発現を抑制できることが哺乳類でも立証されたことにより,siRNAを用いた特定遺伝子管外に漏出した後,回収されにくく新生血管周囲に集積する傾向がある.これをenhancedpermeabilityandretentioneffect(EPR効果)とよぶ(図5)8).ただし,分子量が大きすぎると,血液循環において,肝臓,脾臓などの細網内皮系や肺組織に回収される傾向があるので,EPR効果を得るために最適な分子量というものがあり,ポリエチレングリコール,デキストランや,ポリビニルアルコールなどの直鎖型の水溶性高分子の場合,分子量22万ぐらいが最も効率よく集積効果が得られる.これらの水溶性高分子の生体適合性については,たとえばマクジェンRに安定化と眼内滞留性向上のため,ポリエチレングリコールが付加されている身近な例が示すように問題ないことは示されている.このような概念のもとで,筆者らは,血管新生阻害作用を示す低分子量薬剤のTNP-470と,ペプチド製剤としてインターフェロンを高分子化し,家兎の脈絡膜新生血管モデルで効果を調べたところ,高分子化していない同一薬剤に比較し,脈絡膜新生血管組織への集積効果(EPR効果)(図5)と,より低容量,より少ない治療頻度で治療効果の向上を確認した9,10).また,ミセル粒子が,EPR効果によりラット高分子薬剤③副作用軽減≪*②ターゲティング①血中半減期延長腎臓肺/RES正常組織網膜脳新生血管炎症部位=低分子量薬剤副作用大/効果少図4高分子の受動的ターゲティング特性通常の低分子量薬剤は尿中排泄率が高く全身に均一に分布するため,効果が得られにくく,副作用が問題となる.高分子は①血中半減期が長く,②血管透過性亢進部位(血管新生・炎症部位)に送達(ターゲティング)されやすい.同時に③副作用軽減につながる.ただし,あまり巨大分子になると肺や細網内皮系(reticuloendothelialsystem:RES)に捕縛されやすい(*).(文献8より)ECADB脈絡膜新生血管高分子網膜色素上皮視細胞外節脈絡膜毛細血管板図5脈絡膜新生血管へのEPR効果家兎の脈絡膜新生血管モデルを作製し,脈絡膜新生血管を蛍光眼底造影(A,B)で確認後,蛍光色素標識高分子(A,C同一眼)と蛍光色素のみ(B,D同一眼)を静脈内投与24時間後に蛍光顕微鏡で観察を行う(C,D)と,脈絡膜新生血管周囲には高分子が集積しているのがわかる.眼内にリンパ管が存在しないので,脈絡膜新生血管周囲に漏出した高分子は回収されにくく集積する傾向がある(EPR効果)(E).(文献8より)あたらしい眼科Vol.27,No.10,20101383の抑制に関する臨床研究が多数行われている.滲出型AMDに対しても,VEGFを標的としたbevasiranibsodium(Cand5)(OpkoCorp.)とVEGFR-1を標的としたsirna-027(SirnaTherapeutics,Merck)による臨床試験が行われ,一定の治療効果と安全性が示されつつある.siRNAは,抗VEGF療法と異なり,すでに分泌されたVEGFの作用を阻害するのではなく,新たなVEGFやVEGF受容体の産生をおそらく持続的に抑制して作用を発揮すると考えられている.そのため,抗VEGF療法のような即効性はなく,数週間後に効果が現れてある程度持続的効果を発揮するらしい.sirna-027の単回の硝子体内投与後12週間で視力改善15%,不変77%,悪化8%であった.その他,VEGFに非依存的に血管新生に関与しているとされるRTP801遺伝子をターゲットとしたPF-04523655(Pfizer,QuarkPharmaceuticals,Inc.)による滲出型AMDと糖尿病網膜症に対する第II相臨床試験が行われている.ただ,現状では問題点も多い.遺伝子治療の分野では,細胞内への遺伝子導入の障壁となる細胞膜通過という克服すべき問題がある.遺伝子導入率向上のために,ウイルスベクターや,安全面からウイルス由来の物質の使用を避けてリポソームなどの非ウイルス性ベクターの開発に関する研究分野が存在する.siRNAに関しても例外でなく,invitroの実験ではリポフェクタミンなど陽電荷の試薬を併用することにより導入効率を上げて使用されるが,このような陽電荷試薬は細胞膜への影響力をもち,それは細胞毒性につながる要素でもある.このように,臨床試験において,単純に硝子体内投与しても導入されない可能性が高い.さらに,修飾なしのsiRNAは血中半減期が10秒と非常に不安定で,安定性を向上させるため化学修飾による工夫が施されているが,RNA干渉の活性も低下している可能性がある.さらに,特許の問題,コストの問題などが開発の障壁となっている.また,Toll-likereceptor3などを介した非特異的作用や免疫応答性などが問題となりうる12).ウイルス性ベクターを使用した薬剤の臨床試験も進んでいる.色素上皮由来因子(pigmentepitheliumderivedfactor:PEDF)は抗血管新生作用を有するサイトカインであり,アデノウイルスベクターを用いPEDF遺伝子導入のために製剤化されたものがAdPEDF(Gen-Vec社)であり,現在,硝子体内投与でphaseIが終了し,安全性が確認されている.網膜色素変性症などの遺伝疾患に対しては根本治療として遺伝子導入に期待したいが,AMDなどの加齢性の慢性炎症疾患に対する開発では抗炎症が必ずしもよいとは限らず,遺伝子発現の操作による長期的な生理機能への影響など注意して評価していく必要がある.おわりに現在,多くのDDS製剤の開発が進んでいるが,臨床応用に近いものの多くはステロイド製剤であり,トリアムシノロン・アセトニドを超える薬効が得られることが要求されるであろう.滲出型AMDを対象に,国内でも2008年以降,いわゆる抗VEGF療法の時代となり,硝子体内投与はおおむね安全で有効なものとして広く認識されるようになった.しかし,硝子体内投与をくり返すことは低頻度であっても眼内炎や脳梗塞など重篤な合併症が懸念される.また,硝子体内投与時に注射針により水晶体を損傷した場合はその後の滲出型AMDの治療に重大な影響をもたらしうるため重大な合併症である.すなわち,このような症例で進行してきた白内障では後.破損を認める場合が多く,白内障手術時に前部硝子体切除を行わざるをえない場合があるが,硝子体手術を施行した無硝子体眼と同様,術後の眼内での抗VEGF薬の滞留性が低下して,従来の1カ月ごとの硝子体内投与で有効性が得られなくなることが推定される.このように,今後,低分子量の薬物の徐放システムの開発だけでなく,ラニビズマブやペガプタニブなどの高分子量の蛋白製剤や核酸製剤の硝子体内投与の投与回数を減らすことができるDDSや無硝子体眼でも有効なDDSの開発が求められるであろう.文献1)YasukawaT,OguraY,TabataYetal:Drugdeliverysystemsforvitreoretinaldiseases.ProgRetinEyeRes23:253-281,20042)GhateD,EdelhauserHF:Oculardrugdelivery.ExpertOpinDrugDeliv3:275-287,20063)久納紀之:眼科DDS(2)放出制御.III.治療への応用.眼科における最新医工学.臨眼59(11):230-237,2005(61)1384あたらしい眼科Vol.27,No.10,20104)CallananDV:Novelintravitrealfluocinoloneacetonideimplantinthetreatmentofchronicnoninfectiousposterioruveitis.ExpertRevOphthalmol2:33-44,20075)JaffeGJ,MartinD,CallananDetal:Fluocinoloneacetonideimplant(Retisert)fornoninfectiousposterioruveitis:thirty-four-weekresultsofamulticenterrandomizedclinicalstudy.Ophthalmology113:1020-1027,20066)安川力,木村英也,小椋祐一郎:生体分解性高分子による強膜プラグ.あたらしい眼科18:15-25,20017)KimuraH,OguraY:Biodegradablepolymersforoculardrugdelivery.Ophthalmologica215:143-155,20018)安川力:加齢黄斑変性:新しい薬物療法の可能性.あたらしい眼科24:303-315,20079)YasukawaT,KimuraH,TabataYetal:Targeteddeliveryofanti-angiogenicagentTNP-470usingwater-solublepolymerinthetreatmentofchoroidalneovascularization.InvestOphthalmolVisSci40:2690-2696,199910)YasukawaT,KimuraH,TabataYetal:Targetingofinterferontochoroidalneovascularizationbyuseofdextranandmetalcoordination.InvestOphthalmolVisSci43:842-848,200211)TamakiY:Prospectsfornanomedicineintreatingagerelatedmaculardegeneration.Nanomedicine4:341-352,200912)KleinmanME,YamadaK,TakedaAetal:Sequenceandtarget-independentangiogenesissuppressionbysiRNAviaTLR3.Nature452:591-597,2008(62)