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レンティスコンフォートとアイハンスの利点と限界

2024年2月29日 木曜日

レンティスコンフォートとアイハンスの利点と限界AdvantagesandLimitationsofLENTISComfortandTECNISEyhanceIOLs鈴木久晴*西山美穂*はじめに白内障手術は混濁した水晶体を除去するという開眼手術から,術後の見え方をどのように改善し,患者の生活の質を向上させるかという観点の屈折矯正手術的な意味合いとなって久しい.よって,眼内レンズ(intraocularlens:IOL)の選択は,屈折矯正手術としての白内障手術の大きな部分を占めている.日本における医療は,国民皆保険を基本としており,水晶体再建術としてのコストは決まっている.その中でどのようなIOLを選ぶかには制限があり,IOLそのもののコストが高額である場合には選定療養もしくは自由診療で治療しなければならない.よって,患者に対して高額な治療費を請求しなければならないこととなり,IOLの決定においては,患者個人の経済状態に大きく依存する形となってきた.IOLの説明時には,単焦点か多焦点かの違いによって患者のコスト負担が大きく変わるだけでなく,IOLのそれぞれの特性も説明しなければならず,医師の負担は非常に大きなものとなっている.その中で,保険診療内で用いることができる焦点深度の拡張効果をもったレンティスコンフォート(参天製薬)とアイハンス(AMOジャパン)については適応患者をしっかりと選択すれば患者の満足度は非常に高くなり,より高度な医療を提供できる.今回,保険診療内で用いることができるこの二つのIOLについて概要を解説し,その使い分けを提示する.I保険診療における高機能レンズの位置づけ保険診療内で用いることが可能で,眼鏡の依存度を減らすことができるカテゴリーとして,焦点深度拡張効果をもったIOLがある.これらのIOLの適応は,大きく二つの項目を満たすことと考える.まずは患者が眼鏡の依存度を減らしたいかどうかである.眼鏡をかけることに不自由を感じていない患者は基本的には適当とならない場合が多い.しかし,焦点深度拡張効果に関しては単眼で眼鏡完全フリーをめざすことができる可能性は低いことをまず患者に伝えるべきである.もちろん,眼鏡完全フリーをめざすのであれば,選定療養の範囲内である回折構造を中心とした多焦点IOLを勧めるべきである.ただし,その際にも適応はきちんと守らなければならない.次に他に重度の眼疾患に罹患していないかどうかである.黄斑疾患などの網膜疾患,また重度の緑内障などの場合は,絶対禁忌ではないにしても用いないほうがよい.しかし,選定療養の中で用いる多焦点IOLと比べると適応範囲は広く,軽度の網膜疾患や緑内障でも用いることができることもある.IIレンティスコンフォートの概要レンティスコンフォートは,+1.5D加入度数のレンズが下方に約1/3入っている屈折型で,異なる二つの単焦点機構をもつ低加入度数分節IOLであり,いわゆる屈折型の2焦点IOLである(図1).よって,屈折型多*HisaharuSuzuki&MihoNishiyama:善行すずき眼科〔別刷請求先〕鈴木久晴:〒251-0871神奈川県藤沢市善行1-22-2善行すずき眼科0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(35)145図1レンティスコンフォート(参天製薬)の外観遠用ゾーンと+1.5D加入された中間ゾーンに分かれている.図2レンティスコンフォートのトーリックバージョンプレート型であるため軸合わせに若干の慣れを必要とする.軸のマーキングは太く見やすい.(参天製薬提供)ab図3アイハンス(AMOジャパン)図4アイハンスの光学マップa:通常のアイハンス.Cb:トーリックバージョン.従来のテアイハンス(Ca)は通常のテクニス(Cb)に比べて中心部が急峻クニスプラットフォームを用いているため,挿入にストレスはになっている.(ジョンソン・エンド・ジョンソン社提供)ない.図5Zernike多項式アイハンスはC6次の高次収差に影響する高次非球面構造である.logMAR視力5m1m70cm50cm40cm30cm-0.100.10.20.30.40.50.60.70.8レンティスアイハンスレンティスn=20対応のないt検定アイハンスn=20全距離において有意差なし図6全距離裸眼視力レンティスコンフォートをレンティスとしてブルーのライン,アイハンスはグリーンのラインで示す.グレアなしグレアあり****2.52.5221.51.5110.50.500C3c/dC6c/dC12c/dC18c/dC3c/dC6c/dC12c/dC18c/d*****20-55歳標準レンティスアイハンス20-55歳標準レンティスアイハンスレンティスn=20対応のないt検定アイハンスn=20p<0.05*p<0.01**図7コントラスト感度視力レンティスコンフォートをレンティスとしてブルーのライン,アイハンスはグリーンのラインで示す.+2.00+1.000-1-2-3-4logMAR視力-0.3-0.10.10.30.50.70.91.1レンティスn=7対応のないt検定アイハンスn=10全距離において有意差なし図8両眼の焦点深度曲線レンティスコンフォートをレンティスとしてブルーのライン,アイハンスはグリーンのラインで示す.

なぜEDOFか

2024年2月29日 木曜日

なぜEDOFかReasonsforChoosingtoUseanExtendedDepthofFocus(EDOF)IOL佐々木洋*はじめに2020年4月から老視矯正眼内レンズ(intraocularlens:IOL)は選定療養の適用となり,白内障手術において屈折矯正に加え老視矯正も希望する患者に選択されている.国内で認可されている老視矯正IOLは,回折型の3焦点あるいは連続焦点と焦点深度拡張型(extend-eddepthoffocus:EDOF)がある.それぞれメリット・デメリットがあり,その特徴を十分に理解して選択する必要があるが,EDOFIOLは単焦点IOLと比較してデメリットが非常に少ないため,最近は老視矯正IOLに占めるEDOFの割合は増加傾向にある.本稿ではEDOFの特徴および使用法について解説する.I3焦点・連続焦点IOLの特徴と問題点回折型2焦点IOLは遠方と近方の2カ所にフォーカスをもつ老視矯正IOLで,中間距離が見えにくく,コントラスト感度の低下,waxyvisionを自覚することがあり,不快光視現象も強いなど,単焦点IOLと比べデメリットが多く,必ずしも患者満足度の高いIOLではなかった.その後,中間距離の見え方が改善された3焦点や連続焦点IOLが登場し,より自然な見え方が獲得できるようになり,術後満足度は著しく向上した.しかし,コントラスト感度の低下や不快光視現象については,2焦点に比べて顕著な改善は得られていない.現在,国内で使用可能な3焦点IOLとしてはPanOp-tix(以下,PO,アルコン社),FINEVISIONHP(以下,FV,BVI社),連続焦点IOLとしてSynergy(以下,SN,ジョンソン・エンド・ジョンソン社)がある(図1).全距離視力に関して遠方視力は3種のIOLで差はないが,中間距離はFVに比べてPOおよびSNが良好,近方視力はSNがPOおよびFVより良好1),近方視力がPOに比べてSNで良好2)との報告があり,國正らもPOとSN挿入眼の比較で,焦点深度曲線では.3.0Dで有意にSNが良好であるが,それ以外の距離では両IOL間に有意差はないことを報告している(図2)3).また,POおよびSNは屈折誤差,残余乱視への許容性は小さく,いずれも0.5D以下にコントロールすることでIOL本来のパフォーマンスが発揮されるが,屈折ずれあるいは残余乱視が大きい場合,裸眼全距離視力およびコントラスト感度は著明に低下する3).近方視の質の評価として読書スピードを指標とした研究では,FVに比べてSNで有意であったと報告されている4).また,0.1logMAR以上の視力が得られた実験的な光学特性の比較では,瞳孔径3~4.5mmの遠見の変調伝達関数(modulationtransferfunction:MTF)はSNに比べFV,POが良好であり,近見のMTFはSNがPOより良好な傾向がみられたと報告されている5).IOL挿入眼のコントラスト感度は若年者に比べて高齢者で不良であることが知られている.自験例において6種類のIOL挿入眼の年代別遠見コントラスト感度を比較した結果では,POでは75歳以上でコントラスト感度が著明に低下,SNでは全年代で他のIOLより不良であり(図3),*HiroshiSasaki:金沢医科大学眼科学講座〔別刷請求先〕佐々木洋:〒920-0293石川県河北郡内灘町大学1-1金沢医科大学眼科学講座0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(25)135PanOptixSynergyFINEVISIONHP図1選定療養で使用できる回折型老視矯正IOL視力(logMAR)-0.4-0.20.00.20.40.60.8SynergyPanOptixn=16(60.8±14.0歳)n=29(58.6±9.9歳)1.51.00.50.0-0.5-1.0-1.5-2.0-2.5-3.0-3.5等価球面値(D)t検定:*p<0.05図2SynergyとPanOptix挿入眼の焦点深度曲線(文献3より引用)*****************単焦点高次非球面65歳未満65歳未満1.691.691.571.5765歳以上65歳以上75歳未満75歳未満1.491.481.561.5675歳以上75歳以上1.481.481.501.50低加入度数分節型1.591.591.551.561.471.47焦点深度拡張型1.541.541.501.501.501.503焦点1.91.59.541.541.321.32連続焦点型1.461.461.421.421.361.36Turkey:*p<0.05,**p<0.01・単焦点(94眼):72.8±7.8歳・高次非球面(93眼):71.3±9.5歳・低加入度数分節型(LC,185眼):70.6±7.2歳・焦点深度拡張型(SF,171眼):63.0±11.0歳・3焦点(PO,163眼):64.6±11.3歳・連続焦点(SN,169眼):62.8±14.8歳図36種IOL挿入眼の年代別コントラスト感度(明所グレアo.:AULCSF)小数視力logMAR65歳未満PanOptixSynergy44例63眼39例65眼小数視力logMAR65歳未満-0.4065歳以上75歳未満46例86眼-0.4065歳以上75歳未満45例66眼75歳以上23例35眼75歳以上11例22眼1.5-0.201.5-0.201.00.001.00.000.200.200.40.400.40.400.600.600.20.20.800.801.001.0030cm40cm50cm70cm100cm5m30cm40cm50cm70cm100cm5m●65歳未満0.640.870.940.970.991.32*●65歳未満0.580.911.000.960.911.28*******************●65歳以上75歳未満0.580.800.900.910.841.11******●65歳以上75歳未満0.49**0.74**0.85**0.820.78*1.17*******●75歳以上0.440.680.700.710.770.94●75歳以上0.490.650.790.770.700.95ANOVAwithtukey:*:p<0.05,**:p<0.01図4PanOptixとSynergy挿入眼の年代別全距離視力(文献6より引用)単焦点PanOptixSynergyFINEVISIONHP図5PPTによる不快光視現象の比較術後1カ月での平均的な見え方.(%)100n=34(62.8±11.4歳)****:p<0.05806040200%0%0グレアハロースターバースト夜間運転満足度術前明所下みかけ瞳孔径:3.0mm未満(24%)3.0~3.4mm(24%)3.5mm以上(52%)・術前瞳孔径3.5mm以上では不快光視現象のリスクが高いので連続焦点型適応には注意・術前瞳孔径3.0mm未満では不快光視現象のリスクは低く連続焦点型のよい適応図6Synergy挿入眼における術前瞳孔径別での術後不快光視現象・夜間運転不満例の頻度(術後3カ月でのアンケート調査)Fisherの正確検定SymfonylogMAR-0.20-0.100.000.100.200.300.400.500.600.700.80Vivity図7焦点深度拡張型IOLLENTISComfort30cm40cm50cm70cm100cm5mANOVAwithtukey:*:p<0.05,**:p<0.01図83種類のEDOFIOLの全距離視力値であるほど良好な眼球光学系であることを客観的に示す指標として有用であり,HDAnalyzerあるいはCTFAnalyzer(Visiometrics社)により測定できる14,15).異なるCIOL間でのCOSIの比較の報告は少ないが,単焦点IOL挿入眼に比べて,多焦点CIOL挿入眼のCOSIは有意に高値であることが報告されており(16),EDOFに関しては,VVとCSF挿入眼におけるCOSIが同等であるとされている17).単焦点CIOLに比べてコントラスト感度が不良である多焦点CIOLでCOSIが高いことはCOSIが視機能評価指標として有用であることを示す結果であり,VVとCSFのCOSIが同程度であることは両CIOLにおけるコントラスト感度に差がないことの裏付けになるとも考えられる.不快光視現象については,VVは単焦点CIOLと同等であることが報告されている18).一方で,SFでは不快光視現象を自覚する割合は高く,POと同等7),VVより有意に強く自覚すること13)などが報告されている.LCでは翌日~1週目までは中程度以上のグレア,ハローを自覚することがあるが,1カ月目以降は重篤な症状を自覚する症例はほとんどない19).MitoらはCPPTによりCLCでの不快光視現象を測定し,中間部領域挿入方向に一致した扇状ハローが確認されることを報告した20).また,挿入方向により自覚症状に差はなく,ほとんどの症例で自覚症状はないか,ごく軽度であることを報告している.CIIIEDOFの適応と実際の使用法EDOFの特徴を一言で表現すると「デメリットの少ない老視矯正CIOL」といえる.VVの場合,国内でこれまで一般的に使用されているワンピースCIOLであり,素材も改良がありCglisteningやCsub-surfaceCnano-glis-tening(SSNG)の懸念も払拭されている21~23).さらにコントラスト感度は単焦点CIOLよりもわずかに不良ではあるが,患者がそれを強く自覚する可能性は低く,不快光視現象も単焦点とほぼ同等である.年齢,瞳孔径,高次収差,残余乱視などの視機能への影響については今後の検討が必要であるが,IOL光学部の構造がシンプルであるためにC3焦点・連続焦点に比べて影響は少ない可能性が高い.従来の回折型老視矯正CIOLの適応は単焦点CIOLにおける適応基準とはまったく異なるのに対して,VVの適応基準に関しては高度の角膜高次収差,黄斑疾患,進行した緑内障,視神経疾患,活動性のぶどう膜炎など単焦点CIOLでも十分な視力改善が期待できない症例以外であれば,単焦点と同等の遠方視機能に加え明視域の拡大というメリットを享受できる可能性が高いので,適応としてよいかもしれない.しかし,単焦点とは違い患者は選定療養での費用負担があるので,術後視機能への期待度は保険適用CIOLでのそれとは違うため,見え方の限界についての十分な術前説明は必須である.メリットの多いCEDOFであるが,最後に使用法のポイントについて述べる.図9は両眼CLCの自験例で,両眼とも正視(正視群)と優位眼正視,非優位眼がC.0.5あるいは.0.75D(micro-monovision群)の患者の裸眼での両眼全距離視力である.有意差があったのはC50cmのみだが,遠方視力に差がなく,ほぼ全距離でCmicro-monovision群が良好であった.近用眼鏡装用率は細かい文字を読むときのみ使用,あるいはほとんど使用しない患者の割合が正視群(59%)に比べてCmicro-monovi-sion群(82%)と有意に高く,8割程度の患者ではmicro-monovision法を用いることでほぼ眼鏡フリーの生活が可能になる(図10).患者は片眼ずつでの見え方を重要視する傾向があるため,両眼正視を希望するケースも多い.しかし,日常生活において片眼視することは少なく,優位眼で良好な遠方裸眼視力が獲得できていれば,非優位眼の遠方裸眼視力が若干低下していても両眼での遠方の見え方への影響は少ない.優位眼の術後にCfellow-eyeself-tuning法(FEST法)を用い,優位眼の全距離視力を測定し非優位眼の屈折値を決定することで,より正確で患者の希望に近い見え方を提供することができる24).3焦点,連続焦点に比べると近用眼鏡装用率はやや高いが,他のデメリットが少ないことを勘案するとCmicro-monovision法での全距離視力はきわめて良好であり,患者満足度も高く有用である.優位眼にCEDOF,非優位眼にC3焦点あるいは連続焦点を使用するCMixC&Match法も有用である25).優位眼にCEDOFを挿入後,FEST法により全距離視力を測定し,micro-monovision法で遠方視力の著明な低下を生じるか良好な近方視力が得られない場合は,非優位眼に3焦点あるいは連続焦点を使用することで良好な全距離140あたらしい眼科Vol.C41,No.2,2024(30)小数視力1.00.80.60.50.4logMAR-0.30-0.20-0.100.000.100.200.300.400.500.600.703030cm40c40cm50cm50cm60cm60cm70cm70cm100cm100cm5m5m両眼0D0.40240.580.160.690.090.810.030.93-0.031.07-0.41.38micro-mono340.46180.660.070.850.020.95-0.021.05-0.071.17-0.31.35T-test●両眼正視:40例(71.1±6.7歳)●micro-monovision(優位眼-0.25D≦MRSE≦+0.25D,非優位眼-1.0D

球面収差と色収差の意味と意義 

2024年2月29日 木曜日

球面収差と色収差の意味と意義TheMeaningandSigni.canceofSphericalandChromaticAberrations小島隆司*はじめに現在,白内障手術は混濁除去による開眼手術にとどまらず,患者に合わせた正確な屈折矯正や見え方の質をより高めるニーズが高まっている.このような流れを受け,眼内レンズ(intraocularlens:IOL)は着色CIOL,非球面眼内レンズ,トーリックIOL,多焦点IOL,調節IOLなど付加価値をもつようになり,視機能改善,屈折矯正,老視矯正を目的として進歩してきている.本稿では,球面収差と色収差の基本事項および臨床での留意事項にスポットを当てて解説する.CI収差とはまず,収差(aberration)についての解説から始める.収差とは「1点から出た光が光学系を通過後,1点に収束しない現象」をいう.近視,遠視,乱視もこの収差の一種である.眼鏡矯正できるものは低次収差,できないものは高次収差と分類される.また,収差を幾何学的に捉えた場合は,単色収差と色収差に分類される.単色収差はさらにCSeidelのC5収差に分類される.SeidelのC5収差は,①球面収差,②コマ収差,③非点収差,④像面弯曲,⑤歪曲収差である.CII球面収差とは平行な光線が前面後面ともに凸面の球面レンズに入射すると,レンズ周辺部を通った光ほどレンズに近い光軸上の点に結像する.このような場合は正の球面収差となる.逆に非球面レンズなどで,レンズ周辺部を通った光ほどレンズから遠い位置の光軸上に結像する場合は負の球面収差となる1).角膜はC6Cmm径で約C0.2.0.3Cμmの正の球面収差をもつ(図1a)2).角膜の高次収差の変化は,水晶体に比較すると小さいことが知られている.水晶体は若年では負の球面収差をもち(図1b),加齢とともに正の球面収差に変化していく3).眼球全体で考えると,若年では角膜の正の球面収差を水晶体の負の球面収差が打ち消しているが(図1c),加齢とともにそのキャンセル効果が効かなくなり,網膜像にボケが生じるようになる.CIII非球面眼内レンズ上述したように角膜は正の球面収差を有するレンズである.非球面CIOLは,この角膜の球面収差を低減するように負の球面収差をもたせたCIOLである.過去に数多くの球面CIOLと非球面CIOLを比較した研究が報告されているが,ここではそれらをまとめたメタ解析を紹介する.43のランダム化比較試験を調査したこの研究4)では,非球面CIOLのほうが有意に矯正視力,明所および暗所コントラスト感度が球面CIOLよりも良好であった.ただし矯正視力,明所コントラスト感度に関しては小さい差であり,一番大きな差は暗所コントラスト感度であった.しかし,患者の自覚としては見え方に大きな差はないことが示された.暗所でコントラスト感度が改善する理由には瞳孔径が関係している.明所のように瞳*TakashiKojima:名古屋アイクリニック〔別刷請求先〕小島隆司:〒456-0003愛知県名古屋市熱田区波寄町C24-14CCOLLECTMARK金山C2F名古屋アイクリニックC0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(21)C131a角膜における球面収差b水晶体における球面収差c眼球全体の収差図1若年における角膜,水晶体,眼球全体の球面収差の関係a:角膜は正の球面収差をもち,周辺部を通過した光はより角膜側で結像する.b:水晶体は負の球面収差をもち,水晶体周辺部を通過した光は,網膜側に結像する.Cc:角膜と水晶体を通過した光は,角膜の正の球面収差が水晶体の負の球面収差である程度打ち消される.図2軸上色収差と倍率色収差(文献C6より改変引用)響が出るのかを検討した研究では,コントラストの向上が得られることが示されている8).色収差がC1.5D程度もありながら,日常で色のボケは感じにくい.これは,視感度曲線のピークが明所では555Cnmにあり,赤や青の光は人間の明るさ感覚に与える波長の影響が小さいためである.色収差は屈折力が強く,Abbe数(物質固有の値で,透明体の色分散(屈折率の波長による変化)を評価する指標)が小さいほど増加する6).CVII眼内レンズにおける色収差IOLによる色収差は,上述したようにCAbbe数によって色収差が異なるため,IOLの素材によって大きく異なる.PMMAはC58,シリコーンはC57,アクリソフはC37程度のCAbbe数であるため,アクリソフよりもCPMMAやシリコーン素材のCIOLは色収差が小さくなる7).正常水晶体のCAbbe数がC50であるため,現在主流であるアクリソフは正常水晶体と比較しても色収差が大きいといえる.IOLの選択の観点では,色収差のみに限っていえば,Abbe数が大きいものを選択することが望ましい.実際に過去に根岸らは,Abbe数の小さいアクリソフIOL挿入眼において,色収差によってコントラスト感度低下が起こりうることを示している9).CVIII色収差の生理的役割色収差はコントラスト低下を起こす負の側面ばかりではなく,メリットも存在すると考えられている.それが調節と色立体視である.調節に関しては,単色光での調節刺激は白色光に比べて弱いことがわかっている10).色立体視は,長波長光ほど短波長光の物体よりも近くに見えるという現象である.色収差をなくす(色消し)と立体視にも影響する可能性がある.CIX球面収差,色収差を補正したIOL近年,IOLの主流になりつつある非球面CIOLであるが,球面収差を低減することによりコントラスト感度上昇が期待されるが,色収差の影響でその影響は限定的であることが報告されている11,12).さらに最近発売されているCIOLには,球面収差とともに色収差を低減するものもある.色収差は前述したように立体視にも影響するため,どこまでCIOLで補正すべきかは議論の余地がある.おわりに白内障手術の進歩によって,術後の低次収差だけでなく,高次収差のコントロールが可能な時代に突入してきている.また人生C100年時代といわれるように,患者が白内障術後にアクティブに過ごす時間が長くなり,手術後早期だけではなく長期の見え方も考慮する必要が生じてきている.IOLの耐久性は十分にあると思われるが,Zinn小帯などCIOLを支える組織の変化はCIOLの位置を変化させ高次収差に影響する可能性がある.また,技術が進むことによって,これまでは正常の眼球光学系よりも色収差を低減することなどが可能になってきているが,前述したように色収差は立体視にも影響しており,どこまで収差を補正することがよいのか,今後さらなる研究が必要な分野である.文献1)大沼一彦:不正乱視の基礎と臨床研究(3-1)球面収差の基礎.視覚の科学C28:132-139,C20082)BeikoCGH,CHaigisCW,CSteinmuellerA:DistributionCofCcor-nealCsphericalCaberrationCinCaCcomprehensiveCophthalmolo-gyCpracticeCandCwhetherCkeratometryCcanCpredictCaberra-tionCvalues.CJCataractRefractSurg33:848-858,C20073)ArtalCP,CBerrioCE,CGuiraoCACetal:ContributionCofCtheCcor-neaCandCinternalCsurfacesCtoCtheCchangeCofCocularCaberra-tionsCwithCage.CJCOptCSocCAmCACOptCImageCSciCVisC19:C137-143,C20024)SchusterCAK,CTesarzCJ,CVossmerbaeumerU:TheCimpactConCvisionCofCasphericCtoCsphericalCmonofocalCintraocularClensesCinCcataractsurgery:aCsystematicCreviewCwithCmeta-analysis.COphthalmology120:2166-2175,C20135)ラウ・ツンデウオ:各種眼内レンズの位置ズレによる波面収差と見え方への影響.日視能訓練士協誌C46:35-39,C20176)大沼一彦:不正乱視の基礎と臨床研究(4-1)色収差の基礎.視覚の科学C29:3-11,C20087)根岸一乃:不正乱視の基礎と臨床研究(4-2)色収差の臨床.視覚の科学C29:12-15,C20088)鶴田匡夫:第C7・光の鉛筆C.光技術者のための応用光学.p480-494,アドコム・メディア,20069)NegishiCK,COhnumaCK,CHirayamaCNCetal;Policy-BasedCMedicalCServicesCNetworkCStudyCGroupCforCIntraocularCLensCandCRefractiveSurgery:E.ectCofCchromaticCaberra-(23)あたらしい眼科Vol.C41,No.2,2024C133

トーリックに必須の知識

2024年2月29日 木曜日

トーリックに必須の知識EssentialClinicalKnowledgeforToricIOL二宮欣彦*はじめにトーリック眼内レンズ(intraocularlens:IOL)には球面度数〔単位はディオプトリ(D)〕と円柱度数(スタイルもしくはモデルとして表される)の二つの度数の組み合わせがあり,術前にはこの度数の組み合わせと角膜の強主経線を決定する.手術では,角膜の強主経線に対してトーリックIOLの弱主経線(トーリック軸マークを結んだ線)を合わせることで乱視を矯正する.本稿では,スタイル選択そして術前検査で最低限必要なことを示し,手術についてはサージカルガイダンスだけでなく,簡便な方法について紹介する.また,せっかくのトーリックIOLを用いた手術の結果を台なしにしかねない落とし穴とその対策についてわかりやすく解説する.IトーリックIOLのスタイルとは世界で初めて商用化され普及したトーリックIOLはアルコン社のもので,先行した非トーリックモデルと同じプラットフォームにそのトーリックモデルが追加された.トーリックモデルには複数の異なる円柱度数のものが用意され,円柱度数の小さいものから簡易的にT3,4,5,6…というスタイル名でよばれるようになった.このため本稿では円柱度数を表すのに,レンズのモデルとは区別しスタイルとよぶことにする.ケラトメータなどで測定できる角膜乱視の円柱度数と,その矯正のために用いられるトーリックIOLの円表1角膜乱視の円柱度数とトーリックIOLの円柱度数が完全に同じとはならない理由キーワード説明①度数の刻みトーリックIOLの円柱度数には刻み(ピッチ)があるから②頂間補正角膜面とIOL面の間には距離があり頂間補正が必要であるから③角膜後面乱視ケラトメトリーでは測定できない角膜後面乱視などを加味する必要があるから柱度数は完全に同じとはならない.その理由を表1に示す.表中の①,②,③について順に説明する.①についてはケラトメトリーの角膜面での乱視を0.5D刻みで矯正するようにスタイルが決定されている.表2の第3列「角膜面換算の円柱度数(D)」でT3以降は0.5刻みとなっていてわかりやすい.なお,わが国では現在,T2は3焦点レンズのPanOptix(アルコン社)のみ設定されていて,「IOL面換算の円柱度数(D)」だけは例外的にこの刻みに従っておらず,1.0である.同じく「角膜面換算の円柱度数(D)」も例外的に,表2下の「IOL面換算:角膜面換算=1:約2/3」の換算式に照らして,IOL面の円柱度数1.0Dから計算して約2/3倍,すなわちきりのよい0.65Dであると覚えておけばよい.②については先述のIOL面換算と角膜面換算の違いを理解するとよい(表2).「IOL面換算の円柱度数」とは,IOLの球面度数同様,IOLのもつ円柱レンズ度数そ*YoshihikoNinomiya:行岡病院眼科〔別刷請求先〕二宮欣彦:〒530-0021大阪市北区浮田2-2-3行岡病院眼科0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(15)125表2トーリックIOLの円柱度数スタイルIOL面換算の円柱度数(D)角膜面換算の円柱度数(D)CT2C1.0C0.65CT3C1.5C1CT4C2.25C1.5CT5C3.0C2CT6C3.75C2.5CT7C4.5C3CT8C5.25C3.5CT9C6C4IOL面換算:角膜面換算=1:約2/3.円柱度数は角膜面ではCIOL面の約C2/3倍(=0.65倍)となる.===表3トーリックIOLによる乱視矯正の成果を左右するものA)術前の角膜正乱視の定量的評価が正しくできているかCa.角膜不正乱視の検出Cb.正乱視のみを抽出し,トーリックCIOLで矯正(ただし円錐角膜などには注意)B)術前のトーリックCIOLのスタイル・固定軸決定が適切に行われているかC)手術におけるトーリックCIOLの固定(軸のアライメント)が正確に行われているかD)術後回旋が起こっていないかCa.長眼軸長眼に起こりやすいCb.IOLによって異なるCc.術後安静が関係する可能性表4Baylornomogramをわかりやすくした換算表トーリックCIOL乱視の種類スタイル角膜面換算の円柱度数(D)直乱視(D)倒乱視(D)CT3C1C1.7C0.4CT4C1.5C2.2C0.8CT5C2C2.7C1.3CT6C2.5C3.2C1.8CT7C3C3.8C2.3CT8C3.5C4.4C2.8CT9C4C5C3.3トーリックCIOLの各スタイルの角膜面換算の円柱度数に対し,その乱視の種類によって適応範囲を増減している.直乱視ではC0.7Dだけ消極的に(),倒乱視ではC0.7Dだけ積極的に()適応を推奨するノモグラム.(文献C4から改変引用)C3C斜乱視そのまま図1後面乱視も考慮した簡便なトーリックIOLのスタイルおよび固定軸の決定ab図2IOLマスター700の前眼部写真と実際の手術でのトーリック固定軸表示(右眼)a:IOLマスターC700(CarlZeiss社)の前眼部写真とトーリックカリキュレーターで求められたトーリック固定軸.Cb:実際の手術でのトーリック軸表示(surgeonC’sviewで術者は患者の上耳側に座している.画面下が患者の頭側).IOLマスターC700と手術顕微鏡CLumera700への連携であるカリストアイ(CALLISTOeye;CarlZeiss社)により,トーリックカリキュレーターで求められたトーリック固定軸が術野にオーバーレイされる.黄色の破線はC180°の基準線,青色のC3本線は固定軸を表す.図3IOLマスター700に搭載されたBarretttoriccalculatorの表示(図2と同一眼)青色四角で囲んだ部分:角膜前面のケラトメトリーの情報から全角膜屈折力を数学的に考慮して球面および円柱レンズ度数および固定軸角度の計算を行う,BarrettToricの結果を表したもの.赤色四角で囲んだ部分:前面だけでなく後面を考慮した,全角膜屈折力測定(TotalKeratometry:TK)を用いて球面および円柱レンズ度数および固定軸角度の計算を行う,BarrettTKToricの結果を表したもの.青・赤色の楕円:それぞれの式において,術後乱視ゼロを得るための最適の円柱度数と固定軸角度を示したもの.b図4マニュアルで基準点マーキング,固定軸マーキングを順に行う方法ディスポのトーリックゲージ/マーカー(カイインダストリーズ)を用いた例.Ca:術前に細隙灯顕微鏡で付けられたC6時の基準点マーキング()に分度器のC.90°()を合わせる.Cb:固定軸マーキング.Cc:圧痕()で視認性は十分あり,インクは用いていない(は術前に付けられたC6時の基準点マーキング).

白内障手術はいかにして小切開化へ向かったのか

2024年2月29日 木曜日

白内障手術はいかにして小切開化へ向かったのかTheTransitiontoSmallerIncisionsinCataractSurgery柴琢也*はじめに現在の白内障手術はめざましい進歩を遂げており,水晶体乳化吸引術(phacoemulsi.cationCandaspiration:PEA)とCfoldable眼内レンズ(intraocularlens:IOL)による小切開創白内障手術によって,ほぼ完成された術式となっている.その結果,白内障手術は白内障を治療する開眼手術から,より質の高い術後視機能を獲得する復眼手術へとその意味合いが変化してきている.小切開創の厳密な定義はないが,切開創は時代とともに小さくなってきている1,2).本稿では,おもにCPEAの普及前後から現在までの白内障手術における切開創の大きさの変遷について考察する.CIPEAの普及前までKelmanがCPEAを発表3)したC1960年代は,白内障手術のほとんどは白内障.内摘出術(intracapsularcata-ractextraction:ICCE)で施行されていた.世界最初のPEA装置であるKelman-CavitronCphacoemulsi.erCaspiratorCmodel7001(CavitronSurgicalCSystem)(図1a)は水晶体摘出をC3.0Cmmの切開創から行うことができたが,ポリメタクリル酸メチル樹脂(polymethylmethacrylate:PMMA)製の虹彩支持型CIOLや前房IOLを挿入するために,切開創を倍以上に拡大する必要があった.その数年後にCI/Aの吸引圧をC2段階に調整できるなどの改良がなされたCCavitron8000V(クーパービジョン)(図1b)がわが国に導入された.まったく新しい術式の登場は大きな注目を集めたことは間違いないが,当時すでに術式として確立していたCICCEや白内障.外摘出術(extracapsularCcataractextraction:ECCE)の牙城を崩すには至らなかった.PEA装置自体や手術顕微鏡の性能・洗練度が低かったことのみならず,連続円形切.術(continuousCcurvilinearCcapsulor-rhexis:CCC)4,5)や核分割方法6)などの手術手技が確立されていなかったことにより,特別な技量をもった一部の術者のみが行う術式と認識されて,逆に危険な術式との評価もされていた.そして何よりも,大変な思いをして手術を行っても,結局はCPMMAIOLを挿入するために切開創を拡大する必要があることが,この術式の必然性を低下させていた.この頃の手術は,8.5~12Cmmの強角膜切開創を作製してCECCEを行い,直径C6.0Cmm以上のCPMMA製CIOLを挿入して切開創を縫合する方法が主流であった.切開幅が広いため上方切開の場合には倒乱視化は避けられなかったが,この頃はさまざまな縫合方法や縫合糸の違いによる術後角膜乱視のコントロールが研究されていた7).CIIPEAの普及とFoldableIOLの登場前までICCEやCECCEが白内障手術の第一選択であった時代には,白内障手術における惹起乱視の検討はされていたが8,9),現在のCPEAに比べると惹起乱視が大きく長期にわたり変動しており,現在のように詳細に解析すること*TakuyaShiba:六本木柴眼科〔別刷請求先〕柴琢也:〒106-0032東京都港区六本木C1-7-28-201六本木柴眼科C0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(9)C119abcdb図1世界初のPEA装置とその改良型a:Kelman-Cavitronphacoemulsi.eraspiratormodel7001(CavitronSurgicalCSystem),b:Cavitron8000V(クーパービジョン)図2代表的な外方切開線のデザインa:直線切開,b:smile切開,Cc:frown切開,Cd:chevron切開.cやCdは,IOLの大きさに比べて小さな外方切開創でCIOLを挿入できるばかりでなく,切開創中央部の強角膜トンネルを短くできるため,手術器具の操作性も良好である.bca図3初期~2000年に発売されたシリコーン製foldableIOLの例a:AA-4203C(スターサージカル),b:SA30AL(アルコン),c:SA60AT(アルコン)ab図4Bimanualphacoスリーブをはずした超音波チップと,灌流フックを分けて使用する.小切開化以外にも,灌流液の方向を超音波チップと独立させてコントロールできるなどの利点があった.図5極小切開創から挿入可能なfoldableIOL(初期モデル)a:Y-60H(HOYA),b:Acri.Smart(AcriTec)図6Woundassistedimplantation法カートリッジの先端のみを切開創に当ててCIOL挿入を行い,切開創内をカートリッジ内腔として利用する.広げたフレアチップが開発された.また,スリーブ内面に溝を作ることにより,超音波チップに対して余裕のない大きさのスリーブでもその溝が灌流液の流れ道となるために,超音波チップの冷却および前房の維持が可能になった.超音波発振では昔からあるパルスモードをさらに細かく制御することにより,超音波チップの温度が上がりにくい発振方法が開発され29),現在の機器では標準装備となっている.また,コンピューター技術の進歩などによりC.uidicsが洗練されたため,術中の前房安定性が向上した.これらにより,慣れ親しんだ方法でC2.0Cmm前後の切開創から白内障手術を行うことが可能になり,現在のスタンダードとなっている.CVI現在および今後の展望現在は前述のとおりCPEA装置の性能向上や,IOLおよびインジェクターの進歩により,切開創を小さくするためのリスクを冒さずに極小切開創白内障手術が試行可能になった.日本白内障屈折矯正手術学会の会員を対象にしたC2023年のサーベイ2)によると,切開幅はC2.3~2.4CmmがC59%で最多であり,2.2Cmm以下でもC13%であった.20年以上前ではごく一部の術者しか行っていなかった極小切開創白内障手術が今や当たり前の術式となっていることの表れであろう.術後視機能を左右するような予測不能な惹起乱視もなく,toricIOLや多焦点IOLなどの良好な術後視機能を獲得することを目的とした屈折矯正白内障手術の時代にわれわれはいるのであろう.そのためか,切開幅や惹起乱視に関しての研究が昔に比べて盛んに行われていないが,歴史は繰り返すのであれば,何らかのCbreakthroughが今後出てきたとき,次の時代が始まるものと思われる.参考文献1)大鹿哲郎,増田寛次郎,林文彦ほか:1992日本眼内レンズ学会会員アンケート.IOLC7:154-170,C19932)佐藤正樹,田淵仁志,神谷和孝ほか:2023JSCRSClinicalSurvey.IOL&RSC37:358-381,C20233)KelmanCD:Phaco-emulsi.cationCandCaspiration.CACnewCtechniqueofcataractremoval.Apreliminaryreport.AmJOphthalmol6423-35,C19674)GimbelCHV,CNeuhannT:Development,CadvantagesCandCmethodsCofCtheCcontinuousCcircularCcapsulorhexisCtech-nique.JCataractRefractSurg16:31-37,C19905)NeuhannT:TheorieCundCOperationstechnikCderCKapsu-lorhexis.KlinMonatsblAugenheilkd190:542-545,C19876)GimbelHV:DivideCandCconquerCnucleofractisCphacoe-mulsi.cation:developmentCandCvariations.CJCCataractCRefractSurg17:281-291,C19917):Long-termCcornealCastigmatismCrelatedCtoCselectedCelas-tic,Cmono.lament,CnonabsorbableCsutures.CJCCataractCRefractiveSurgC15:61-69,C19898)Ili.CE,KhodadoustA:Thecontrolofastigmatismincat-aractsurgery.TransAmOphthalmolSocC65:160-167CetCpassim,19679)Ili.CE,KhodadoustA:Controlofastigmatismincataractsurgery.AmJOphthalmolC65:378-382,C196810)OlsenT,BargumR:Outcomemonitoringincataractsur-gery.ActaOphthalmolScandC73:433-437,C199511)NeumannAC,McCartyGR,SandersDRetal:Smallinci-sionsCtoCcontrolCastigmatismCduringCcataractCsurgery.CJCataractRefractSurg15:78-84,C198912)DavisPL:ComparisonCofCfunctionCandC.xationCofCsmallCincisioncircularandovalpoly(methylmethacrylateintra-ocularlenses.JCataractRefractSurg18:136-139,C199213)SingerJA:FrownCincisionCforCminimizingCinducedCastig-matismCafterCsmallCincisionCcataractCsurgeryCwithCrigidCopticintraocularlensimplantation.JCataractRefractSurg17(Suppl):677-688,C199114)VassC,MenapaceR,RainerGetal:Cornealtopographicchangesafterfrownandstraightsclerocornealincisions.JCataractCRefractSurg23:913-922,C199715)PallinSL:ChevronCincisionCforCcataractCsurgery.CJCCata-ractRefractSurg16:779-781,C199016)MazzoccoTR:ProgressCreport:siliconeCIOLs.CCataractC1:18-19,C198417)DickB,SchwennO,Sto.elnsetal:[LatedislocationofaplatehapticsiliconelensintothevitreousbodyafterNd:CYAGcapsulotomy.acasereport]OphthalmologeC95:181-185,C199818)HabibCNE,CSinghCJ,CAdamsCADCetal:CrackedCcartridgesCduringCfoldableCintraocularClensCimplantation.CJCCataractCRefractSurgC22:630-632,C199619)BathPE,RombergerA,BrownPetal:Quantitativecon-ceptsCinCavoidingCintraocularClensCdamageCfromCtheNd:CYAGClaserCinCposteriorCcapsulotomy.CJCCataractCRefractCSurg12:262-266,C198620)ShibaCT,CMitookaCK,CTsuneokaH:InCvitroCanalysisCofCAcrySofintraocularlensglisteningEurJOphthalmol13:C759-763,C200321)LaneSS,BurgiP,MiliosGSetal:Comparisonofthebio-mechanicalbehavioroffoldableintraocularlenses.JCata-ractRefractSurg30:2397-2402,C200422)WirtitschMG,FindlO,MenapaceRetal:E.ectofhapticdesignonchangeinaxiallenspositionaftercataractsur-gery.JCataractRefractSurg30:45-51,C2004(13)あたらしい眼科Vol.41,No.2,2024C123

屈折ターゲットの考え方

2024年2月29日 木曜日

屈折ターゲットの考え方ApproachestoTargetRefraction飯田嘉彦*はじめに白内障手術は眼内レンズ(intraocularlens:IOL)出荷ベースで年間約C170万枚を超えるほど,眼科の中ではポピュラーに行われている手術である.現在の白内障手術の特徴として,光学式眼軸長測定装置の普及による眼軸長測定精度の向上1,2)や,長きにわたり使用されてきた第三世代のCIOL度数計算式であるCSRK/T式に代わり,BarrettUniversalII式をはじめとする新世代のIOL度数計算式が登場し,術後屈折の予測精度が向上3)したこと,ならびに急速に普及しつつあることがあげられる4).また,乱視矯正が可能なトーリックCIOLにおいては,単焦点CIOLだけでなく,多焦点CIOLや明視域の拡大効果が期待されるCIOLが導入され,乱視のコントロールも可能となった.以上のような背景から,現在の白内障手術は「屈折矯正手術」との認識が広まり,さらに白内障手術による調節力の喪失をカバーするべく,多焦点CIOLの使用や,意図的に左右の屈折差をつけることにより明視域を拡大させるモノビジョン法など「老視矯正手術」の側面も広がってきている.良好な視機能をめざすための選択肢が増えたことは医師と患者にとって喜ばしいことであるが,ときに術後の見え方に対して不満を抱く患者に遭遇することがある.最新の計算式や高機能のCIOLを使い,どんなにすばらしい手術をしても,患者が期待していた見え方と異なり納得していなかったとしたら,それでは手術が成功したとはいえない.術後の見え方に対する期待が高まるなか,最適なレンズ選択や屈折ターゲットの設定など,医師側には適切な手術プランの提案力が求められている.本稿では,おもに単焦点CIOLを使用する場合の一般的な屈折ターゲットの決め方や,日常でよく遭遇するが注意を要するケースを紹介する.CI屈折ターゲットを決定するうえでの原則筆者は屈折ターゲットを考えていくうえで,まず患者のもともとの屈折を基準とし,遠視・正視眼は正視合わせ,近視眼は近方合わせとすることを原則としている.現在の屈折は白内障の進行により変化している場合もあり,患者に以前の屈折状態を確認するとともに,屈折に影響する要素である眼軸長と角膜屈折力に着目する.標準眼軸長であっても,角膜屈折力が大きい患者は本来の屈折が正視ではなく近視である可能性があり,逆に長眼軸長眼では角膜屈折力が小さい患者では軽度の近視や正視に近い場合もある.また,角膜屈折力が標準的なものより大きい場合,小さい場合にはClaserCinCsituCker-atomileusis(LASIK)などの角膜屈折矯正手術を受けているが,患者からの申告がない場合も考えられるし,角膜乱視が大きい患者ではトーリックCIOLの使用も選択肢となりうるが,円錐角膜などの不正乱視を伴っている場合もあるので,角膜形状解析を行うことも考えたい(図1).この原則は,これまで数十年にわたりなじんできた見え方と極端に異なる屈折は術後に違和感を生じる可能性*YoshihikoIida:北里大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕飯田嘉彦:〒252-0374神奈川県相模原市南区北里C1-15-1北里大学医学部眼科学教室C0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(3)C113眼鏡図1角膜形状解析ケラトメータで大きな角膜乱視を認めた場合,トーリックCIOLの使用も選択肢となりうるが,正乱視か円錐角膜などの不正乱視かの鑑別は重要であり,角膜形状解析を行う.表1屈折矯正の方法や状態の確認作製時期の確認眼鏡の度数眼鏡装用下での視力(遠方・近方),屈折度数遠近両用眼鏡の使用の有無CL作製時期CLの度数CLの装用下での視力(遠方・近方),屈折度数・完全屈折矯正か低矯正か・CL装用下での近方視の方法CL+老眼鏡遠近CCL低矯正:調節力の有無,遠方視など眼鏡の必要性はC?モノビジョン:どの程度の屈折差としているか,どちらの眼を遠方に矯正しているかHCL:角膜乱視(正乱視・不正乱視)の評価・術後にCHCLを装用する可能性があるかことはないのか,どの程度の遠方視力が得られているのか,その距離感で満足できているのかも,白内障の程度が軽度であれば確認しておきたい.ハードコンタクトレンズ(hardcontactlens:HCL)を装用している場合は,角膜乱視(正乱視・不正乱視ともに)を矯正できているため,白内障術後の裸眼での見え方が術前のCHCL装用時よりも低下する可能性がある.HCLの装用を術前検査前にC10日以上〔ソフトコンタクトレンズ(softcontactlens:SCL)ではC3日.1週間程度〕はずした状態で角膜形状解析を行い,正乱視であればトーリックCIOLを用いた矯正を検討するか,近方合わせにして眼鏡装用,またはCCLを術後も装用するという選択肢も検討する必要がある.術後もCHCLを装用する予定であればトーリックCIOLを選択することはできなくなるため,術後にどのような屈折矯正を行うつもりなのかも確認したうえでCIOLを選択する必要がある.CIII度数設定の注意点と工夫術前の屈折が.1.00D程度の近視眼の場合は,そのまま.1.00Dに合わせても術前より明視域が狭くなったと感じることがあり,遠方も近方も物足りないという結果になりかねず,度数設定は悩ましいところである.単焦点CIOLであれば,正視合わせと近方合わせ(C.2.00.C.2.50D)のどちらを重視するかなどを患者と相談し,見えにくくなる距離は眼鏡を使用するように説明する.そのほか,焦点深度拡張型CIOLなどもよい選択肢となりうると考えられる.筆者は眼軸長差がある患者では,眼軸長差を生かす度数設定とすることを心がけている.とくに近視眼では,左右の屈折差が逆転すると違和感を訴えることが多いため,逆転しないようにCIOL度数を選択する.一般的に眼軸長がC1Cmm変化するとCIOLでは約C3Dの度数が変化することが知られているが,実際にCIOL度数を選択する際には,同度数のCIOLをそれぞれ挿入した場合の予測屈折値を確認し,あまりに大きく屈折差がついてしまうようであれば,眼軸長差C1CmmにつきC1D程度を目安に屈折差をつけるようにCIOL度数を選択している.両眼開放下における明視域を拡大させることを目的に単焦点CIOLを用いてモノビジョン法を行う場合は,優位眼を遠方,非優位眼を近方に矯正する.近方に合わせる屈折ターゲットは.1.25.C.2.75Dとする報告が多い5.7)が,加齢とともに小さくなる瞳孔径も考慮し,瞳孔径がC2.5Cmm以下(70歳代の近方視時の平均瞳孔径に相当8))の場合は,瞳孔径による焦点深度が深くなることを考慮して,ターゲットをC.1.50D前後とすることが可能である9).また,瞳孔径が小さくない場合でも,焦点深度拡張型CIOLなどと組み合わせれば,より屈折差を少なくした状態でモノビジョンを行うことも可能である.CIV距離のイメージや言葉のニュアンスを患者と共有する実際に屈折ターゲットを決定する際には,眼軸長や角膜屈折力を参考に,前述したように視力検査で確認した現在の見え方,屈折矯正方法も踏まえつつ,患者の希望を確認する.ここで注意しておきたいことは,医療者側と患者側で距離感のイメージが食い違っていることがあるため,距離のイメージや言葉のニュアンスを共有できた状態で話を進めていかなければならないということである.患者にとっての「遠方」とは,しばしば非常に遠くの対象をさすことがあり,「30.40Cm先の…」といった距離を想定していることがある.そういった患者に対しては,かなりしっかりと正視を狙うCIOLを選択する必要がある.ちなみにC.0.50DはC2Cmの距離になるわけであるが,このように発言する患者にとってはこの距離は「近く」と認識されている場合もある.また,われわれが中間距離と認識しているC1Cm近辺の距離は,患者によっては「身の回り」とか「近場」という言葉で表現されることがあり,われわれが近方と認識して説明している距離は,患者にとっては「手元」という言葉で表現されるなど,微妙にニュアンスが異なることがある.こういったニュアンスの違いが,近方合わせのつもりで説明して患者も納得していると思っていたのに,手術後に「手元は見えているけど,1Cmくらいの距離が見えない」「思ったより見えない.こんなはずではなかった…」という不満足例となってしまうケースは意外とあるのではないだろうか.対策としては,患者の生活スタイ(5)あたらしい眼科Vol.41,No.2,2024C115ルを聴取したうえで,眼鏡が不要な場面と必要な場面を具体的に説明して術後の見え方のイメージを共有してもらうことが大切である.言葉で説明するだけでなく,シミュレーション画像などのさまざまなツールが公開されているので,そのようなツールを活用してイメージしてもらうことも有効である.CV患者の希望との乖離患者の希望とわれわれが提案する屈折ターゲットが必ずしも一致しない場合もある.原則に基づき屈折ターゲットを提案した場合に,近視の患者は裸眼で遠方を見たいと遠方合わせを,逆に遠視の患者は裸眼で読書がしたいと近方合わせを希望される場合がある.ここで患者に確認すると,今までと逆の屈折になることにより,これまで裸眼で見えていた距離が見えなくなるというイメージがない患者もいる.この点を十分説明せずに「患者が希望したから希望どおりの屈折ターゲットにしただけだ」といういい分は,患者の希望を尊重しているかのようではあるが,医師側の努力不足であるといわざるを得ない.屈折ターゲットの設定については,基本的には屈折をどのように設定するか,つまり焦点距離がどのあたりになるかということを患者と相談して決めていくわけで,どのくらいの視力になるというのはさまざまな要因に影響されるので,視力の目安を患者に説明することには注意しなくてはならないが,このような場合に備えて自覚屈折値と裸眼視力のおおよその目安は把握しておくとよい.たとえば,患者の希望する屈折ターゲットに設定すると,遠方はこの程度しか裸眼視力では見えない可能性が高いというような目安を示すことも,術後の見え方のイメージの共有や提案する屈折ターゲットの理解につながる10).患者の希望を確認していくうえで,患者が自覚している「見える」という見え方がどの程度であるかを把握しておくことも必要である.遠視眼に対して,術後の屈折ターゲットを正視合わせに設定し,手元は老眼鏡が必要であることを説明した際に,今は近くも見えているし,眼鏡も使っていないという患者に遭遇することがある.このような場合には患者とイメージで話をし続けるのではなく,実際に近方裸眼視力を測定することにより,患者が「見えている」と自覚できている視力を把握することができる.以上のことを踏まえても,それでも患者が術後の見え方をイメージできていないと思われる場合は,CLや眼鏡により希望する屈折に矯正したシミュレーションを行い,見えるところ,見えないところを実感してもらうことも必要である.そのうえで患者が納得して,自分の希望を通したいというのであればその屈折ターゲットに合わせてCIOL度数を選択するが,その際はCIOL交換や追加矯正などの選択肢やそれに伴う費用,合併症のリスクについても併せて説明しておく必要がある.また,明らかに患者が納得していない場合や,まだ迷っていて先に進めないような状況であれば,白内障手術予定ありきで進めてしまうのではなく,ときに手術の判断を待つことも必要である.おわりに患者の白内障手術後の見え方に対する期待値は年を追うごとに高まりをみせている.インターネットにはCIOLに関するさまざまな情報があふれているが,患者がその情報をすべて正しく理解し,適切に判断できているとは限らず,患者にとって都合のよい情報しかもっていない場合もあるだろう.ライフスタイルの多様化が進み,一人ひとりのライフスタイルや個々のニーズに合わせたカスタマイズが求められる時代であり,画一的な聴取方法だけで済ませるのではなく,それを元に根掘り葉掘り具体的に聞き出し,患者の希望や日常生活における視環境を細かく把握することが必要である.手術後の満足度を高めるためには,単に情報を提供するだけでなく,患者とともに術後の見え方のイメージを共有し,患者に適したCIOL選択や屈折ターゲットの設定について提案できるような「引き出し」を増やしていく必要がある.文献1)OlsenT:Sourcesoferrorinintraocularlenspowercalcu-lation.JCataractRefractSurgC18:125-129,C19922)NorrbyS:Sourcesoferrorinintraocularlenspowercal-116あたらしい眼科Vol.41,No.2,2024(6)

序説:眼内レンズの知識が白内障手術の執刀パスポート

2024年2月29日 木曜日

眼内レンズの知識が白内障手術の執刀パスポートYourExpertiseinIOLsisYourPassportasCataractSurgeons大内雅之*辻川明孝**白内障手術は,病巣切除ではなく新しい眼を作る手術であり,ウェートは手技が半分,眼内レンズ選択が半分である.しかし,依然として「単焦点か多焦点か」「遠くか近くか(正視か.3Dか)」だけの浅い計画で手術が進められていることも多く,きめ細かな眼内レンズ戦略で患者ニーズを捉えている施設がたくさんあるなか,眼内レンズ教育に関しては,施設間格差が広がっている.新規薬物療法の開発などにより,失明に至る多くの疾患に治療の光が当たり,手術機器の進歩は,これまでアンタッチャブルだった領域に踏み込むことを可能にした.これら難治性疾患の治療や後眼部手術は,発展の余地が多く,研究テーマとしても魅力的で,研究者の心を強く引きつける領域である.しかし,その一方で,白内障手術は,小切開超音波手術がスタンダードとなり,ポンプシステムの改良をはじめとした手術機器のめざましい進歩の助けも借りて,卒後間もない若手医師でも無事に手術を「終了」できる場面が多くなっている.まさに患者にとっては福音であるが,そのために,白内障手術が,眼科手術医としての単なる登竜門=通過点となってしまい,次の努力や興味の対象が別の疾患に向かって行くようになって久しい.しかし,その裏で,実は眼内レンズのバリエーション拡大,機能の細分化・多機能化は激しい勢いで進んでおり,矯正精度の向上とともに,個々に最適な屈折設定に関する概念も,以前とは比較できないくらいに膨らんでいる.これらの情報を,眼内レンズメーカーからのアナウンスとしてしか捉えずに,手術の手技(手術時間の短縮化)にだけ邁進している術者がいるのは遺憾なことで,酷いところでは,一度も患者と顔を合わせたこともない人が,漫然と濁った水晶体を取って眼内レンズを入れる「作業」をして帰る施設もあると聞く.繰り返すが,白内障手術は手技と眼内レンズ選択の両方で完結するものである.あるいは,近年では後者のほうがウェートが重いかもしれない.極論すれば,角膜浮腫や前房炎症は,ある程度時間が解決してくれるものだが,眼内レンズが気に入らなければ,それは一生だからである.今や,その眼内レンズに関する情報は巷にもあふれ,下手をすると,一般患者のほうが情報強者である場面もある.もちろん,それら流布する情報は良莠不鮮であるが,であるからこそ,われわれ術者は全員がそれを身につけ,患者を導く必要があり,眼内レンズの知識を学ぶ姿勢のないものは,白内障手術に手を染めるべきではない.その点では,現状,すべての施設が等しい水準で眼内レンズ教育をしているとは,残念なが*MasayukiOuchi:大内雅之アイクリニック**AkitakaTsujikawa:京都大学大学院医学研究科眼科学0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(1)111

硝子体手術後のStaphylococcus lugdunensis 眼内炎の 1 例

2024年1月31日 水曜日

《原著》あたらしい眼科41(1):101.105,2024c硝子体手術後のCStaphylococcuslugdunensis眼内炎の1例福田達也*1上田晃史*1小野喬*1,2子島良平*1野口ゆかり*1佐々木裕美*3岩崎琢也*1宮田和典*1*1宮田眼科病院*2東京大学大学院医学系研究科眼科学教室*3(一財)阪大微生物病研究会CARareCaseofStaphylococcuslugdunensisCEndophthalmitisafterVitreousSurgeryCTatsuyaFukuda1),KojiUeda1),TakashiOno1,2)C,RyoheiNejima1),YukariNoguchi1),YumiSasaki3),TakuyaIwasaki1)CandKazunoriMiyata1)1)MiyataEyeHospital,2)DepartmentofOphthalmology,UniversityofTokyo,GraduateSchoolofMedicine,3)ResearchFoundationforMicrobialDiseasesofOsakaUniversityC緒言:1980年後半に発見されたCStaphylococcuslugdunensisによる術後眼内炎の臨床報告は少ない.症例:61歳,男性.飛蚊症を自覚し,裂孔原性網膜.離と白内障と診断され,局所麻酔下で経毛様体扁平部硝子体切除術および白内障手術を行った.術後C4日目に結膜・毛様充血と前房蓄膿が出現し,Bモードエコーで硝子体腔に高輝度像を認め,急性術後眼内炎と診断し,硝子体手術および眼内レンズ摘出を行った.前房水と硝子体の塗抹にグラム陽性球菌を検出し,メロペネムの静注,レボフロキサシンとセフメノキシム・ベタメタゾンの点眼を開始した.再手術後C4日で眼底の透見性は改善した.前房水・硝子体からCS.lugdunensisが分離された.最終矯正視力は(0.1)であった.結論:硝子体手術後の眼内炎の起炎菌として,S.lugdunensisにも注意が必要である.CPurpose:ToCreportCaCrareCcaseCofCStaphylococcusClugdunensisCendophthalmitisCthatCoccurredCafterCvitreousCsurgery.CCase:AC61-year-oldCmanCwasCreferredCtoCourChospitalCdueCtoC.oaters,CandCunderwentC25CGCparsCplanaCvitrectomyCandCcataractCsurgeryCforCrhegmatogenousCretinalCdetachmentCandCcataract.CAtC4-daysCpostoperative,Chyperemia,Chypopyon,CandC.brinCprecipitationCappeared.CBasedConChyper-re.ectiveCimagingCofCtheCvitreousCviaCechography,CheCwasCdiagnosedCasCacuteCendophthalmitisCandCvitreousCsurgeryCwithCintraocularClensCremovalCwasCperformed.Gram-positivecocciweredetectedintheaqueoushumorandvitreous,andtreatmentwithintravenousmeropenemandlevo.oxacin,cefmenoxime,andbetamethasoneinstillationwereinitiated.Transparencyofthefun-dusCimprovedCandCS.ClugdunensisCwasCisolatedCfromCtheCaqueousChumorCandCvitreousCatC6-daysCpostoperative.CIntravenousCantibioticsCandCdrugCinstillationsCwereCreducedCwithCimprovementCofCintraocularCin.ammation.CBest-correctedvisualacuitywas(0.1)atthe.nalvisit.Conclusion:Incasesofpostoperativeendophthalmitis,itisvitaltokeepS.lugdunensisCinmindasapossiblecausativeorganism.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C41(1):101.105,C2024〕Keywords:Staphylococcuslugdunensis,術後急性眼内炎,コアグラーゼ陰性ブドウ球菌,抗菌薬感受性.Staphy-lococcuslugdunensis,postoperativeendophthalmitis,coagulasenegativestaphylococci,antimicrobialsensitivity.Cはじめに1988年にリヨン(ラテン名CLugdunum)で発見されたCStaphylococcuslugdunensis(S.lugdunensis)はコアグラーゼが陰性のため,コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(coagulase-negativeStaphylococci:CoNS)に分類されているが1),ゲノム上の遺伝子数がC3,800台の表皮ブドウ球菌に比較し,3,000未満とかなり少なくユニークな細菌である2).また,軟部組織,骨・関節組織ならびに心血管感染では黄色ブドウ球菌感染に近似の重篤な感染を引き起こし,他のCCoNSとは異なる菌種として注目されている3.6).〔別刷請求先〕福田達也:〒885-0051宮崎県都城市蔵原町C6-3宮田眼科病院Reprintrequests:TatsuyaFukuda,M.D.,MiyataEyeHospital,6-3Kurahara,Miyakonojo,Miyazaki885-0051,JAPANC0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(101)C101C図1a眼内炎発症時の左眼の前眼部写真結膜の充血と少量の前房蓄膿がみられ,角膜にはCDescemet膜皺襞を認める.2010年代より質量分析法が細菌学的検査に広く導入されるようになり,以前に比較して菌種の同定が迅速かつ容易となり,S.lugdunensisは皮膚・眼表面の常在菌として認識されるようになり7,8),この菌種がそれほどまれな菌種でないことも明らかにされている.眼科領域の感染症として,重症角膜炎,内眼手術後や硝子体注射後の眼内炎などが報告されているが9.16),報告数は限られており,眼科領域のCS.Clug-dunensis感染症の他のCCoNS感染症との違いに関しては不明な点が多い.裂孔原性網膜.離と白内障に対してC25ゲージ経毛様体扁平部硝子体切除および白内障手術を行ったC1例で,術後C4日目にCS.lugdunensisによる急性眼内炎を発症したC1例を経験したので,その臨床経過を報告する.CI症例患者:61歳,男性.主訴:飛蚊症.既往歴:眼科ならびに内科的に特記すべき既往歴はなく,ヘモグロビンCA1cはC5.5%であった.現病歴:飛蚊症の増悪を主訴に前医を受診し,左眼)裂孔原性網膜.離の診断を受けて精査加療目的に宮田眼科病院(以下,当院)を紹介受診した.受診時所見:視力は右眼C0.05(0.9C×sph.9.50D(cylC.1.50DAx50°),左眼C0.07(0.6C×sph.7.50D),眼圧は右眼C11CmmHg,左眼C9CmmHgであった.左眼には軽度の白内障と,視神経乳頭からC6時方向に単一裂孔を伴った網膜.離を認めた.前眼部には特記すべき所見は認めなかった.術前C2日前よりC1日C4回C1.5%レボフロキサシン(LVFX)点眼を開始した.手術前室にて左眼眼瞼ならびに周囲の皮膚をC10%ポビドンヨード,眼表面はC8倍希釈ポリビニルアルコール(PA)・ヨードC30秒間の消毒を行い,ドレーピング図1b眼内炎発症時の左眼のBモードエコー画像所見硝子体内に高輝度エコーを認める.図1c眼内炎に対する硝子体手術時の術中眼底所見硝子体内は混濁し,網膜上にフィブリンの析出と出血を認めた.後に,開瞼器装着,再度CPA・ヨード消毒を実施し,左眼白内障手術,眼内レンズ挿入およびC25ゲージ経毛様体扁平部硝子体切除,100%空気によるタンポナーデを施行した.術後,1日C4回のC1.5%CLVFX点眼を継続した.経過:術中合併症はなく,術後C3日まで前眼部の炎症は軽度で,網膜は復位していた.眼圧はC10CmmHgであった.しかし,術後C4日目に結膜・毛様充血が生じ,Descemet膜皺襞とフィブリン析出を伴う前房蓄膿を認めた(図1a).眼痛はなかった.全身状態は良好で,体温はC36.7℃で,血清CC表1Staphylococcuslugdunensis分離株の薬剤感受性抗菌薬前房水分離株硝子体分離株CMIC感性CMIC感性CoxacillinC2CSC2CSCceftazidimeC8CSC8CSCceftriaxoneC4CSC2CSCcefmenoximeC1CSC1CSCmeropenemC≦0.25CSC≦0.25CSCvancomycinC≦1CSC≦1CSCtobramycinC≦1CSC≦1CSCazithromycinC≦0.25CSC≦0.25CSCmoxi.oxacinC≦0.25CSC≦0.25CSCgati.oxacinC0.5CSC0.5CSClevo.oxacinC1CSC≦0.25CSCchloramphenicolC4CSC4CSCminocyclineC≦1CSC≦1CSCimipenemC≦0.25CSC≦0.25CSMIC:minimumCinhibitoryconcentration(μg/ml),S:sus-ceptible.反応性蛋白はC0.56Cmg/dlであった.眼底が透見できないため超音波CBモードで観察したところ,硝子体腔に高輝度エコーを認めた(図1b).前眼部とエコー所見より術後眼内炎と診断し,左眼の硝子体手術・眼内レンズ摘出術を緊急に行った.手術:眼内レンズを抜去し,水晶体.を摘出し,細菌学的検査のための硝子体検体の採取後,0.002%バンコマイシン(VCM)およびC0.004%セフタジジム(CAZ)を添加したCBSSPlus(日本アルコン)で眼内を灌流しながら硝子体切除を実施した.網膜の広範囲にフィブリンが析出し,一部の網膜は虚血となっていたため(図1c),網膜裂孔に対してレーザー治療を行うことができなかったため,シリコーンオイルを注入して手術を終了した.術中に採取した前房水,硝子体,眼内レンズ,水晶体.検体の検鏡および培養検査を行った.前房水と硝子体の塗抹標本にはグラム陽性球菌を認め,好中球の貪食像も観察した(図2a,C2b).前房の標本では浸潤する細胞は好中球が主体であったが,硝子体には好中球に加えて単核球も存在し,さらに好中球は核変性を伴っているものが目立った.術後はメロペネム(MEPM)0.5CgのC1日C3回の静注に加えて,1時間ごとのC0.5%セフメノキシム(CMX)とC1.5%LVFX点眼,1日C6回のC0.1%ベタメタゾン点眼,1日C2回のブロムフェナク,1%アトロピン点眼,トロピカミド・フェニレフリン点眼,0.3%オフロキサシン(OFLX)眼軟膏塗布を開始した.再手術後C5日目には眼底の透見性ならびに炎症所見が改善傾向を示し,MEPM静注を中止し,0.5%CCMXとC1.5%LVFX点眼はC2時間ごとに漸減した.再手術後C6日目に細菌培養結果が判明し,前房水と硝子体検体からCS.lugdunen-sisが分離され,抗菌薬感受性(表1)も同一で,起因菌と判断した.点眼中のCLVFXとCCMXに感受性を確認したので,治療を継続した.その後も抗菌薬に対する反応は良好で,眼底の透見性も徐々に改善した.再手術後C7日目にC0.5%CMX,1%アトロピン,トロピカミド・フェニレフリン点眼を中止し,1.5%CLVFX点眼はC1日C6回に,0.1%ベタメタゾン点眼はC1日C4回に漸減し,11日目に退院となった.退院後,眼内炎症の再燃は認めなかったが,再手術後C18日目に眼圧がC44CmmHgと上昇し,角膜上皮浮腫を生じたため,アセタゾラミドC250Cmg内服およびカルテオロール・ラタノプロスト点眼およびブリモニジン・ブリンゾラミド点眼による治療を開始した.その後,眼圧はC19CmmHgまで低下し,内服を中止し,点眼薬も中止した.再手術後C4カ月目に眼圧がC25CmmHgまで上昇したため,タフルプロスト点眼C1日C1回を追加した.再手術後C12カ月目に眼内レンズの強膜固定が行われ,再手術後C23カ月の最終観察時,矯正視力は(0.1C×IOL×sph.1.5D)で,網膜はシリコーンオイルにて復位しており,ブリモニジン・ブリンゾラミド点眼のみで眼圧はC14CmmHgであり,感染の再燃なく経過している.なお,眼底には一部網膜動脈の白線化と局所的な網膜喪失部位を認める.分離株の細菌学的特徴:前房水ならびに硝子体検体より分離され,冷凍保存していた分離株を再度培養し,コロニーの性状,質量分析,clumpingfactor(膜型コラゲナーゼ)について検討した.その結果,コロニー性状と質量分析パターン(図2c,C2d)は一致し,ガラス板法(ウサギ血漿,デンカ)によるCclumpingfactorは両分離株とも陰性であった.CII考按本例は内科的基礎疾患を伴わない成人男性で,硝子体手術後C4日目に眼内炎を発症した.術中に採取した前房水と硝子体の塗抹標本で,同一性状のグラム陽性球菌とその貪食像を認め,両検体からCS.lugdunensisが分離され,抗菌薬感受性,コロニー性状,質量分析パターンも一致したことより,CS.lugdunensisによる内眼手術後の急性細菌性眼内炎と診断した.S.lugdunensisは眼表面の常在菌種であり,採取時のコンタミネーションの可能性もあるため,起因菌としての同定には細菌分離のみならず,塗抹標本での確認も重要と考える.また,塗抹標本では前房水では好中球の浸潤が主体であったが,硝子体では好中球に加えて,単核球も存在し,さらに好中球では核変性もみられたことより,眼内炎は硝子体に始まり,前房に広がったことが示唆された.筆者らが行った白内障術前患者の眼表面からの分離株(9,894株)の解析では,表皮ブドウ球菌がC31%(3,063株),黄色ブドウ球菌がC6.1%(601株)を占め,S.lugdunensisは図2眼内炎に対する術中に採取した左眼前房水(a),左眼硝子体(b)の塗沫検鏡像(グラム染色)と左眼前房水(c),左眼硝子体(d)のグラム陽性球菌のBurkerを使用した質的分析結果a:眼内炎に対する硝子体手術時に採取した左眼前房水の塗抹検鏡像(グラム染色).好中球が散見され,なかには多数のグラム陽性球菌を貪食する好中球を認めた().b:硝子体手術時に採取した左眼硝子体の塗抹検鏡像(グラム染色).好中球と単核球が散見され,一部の好中球は核濃縮を伴っていた.変性した好中球内に多数のグラム陽性球菌の貪食を認めた().c:左眼前房水から分離されたグラム陽性球菌のCMALDCBiotyperCMSPCidenti.cationCstandardCmethodC1.1(Bruker)を使用した質量分析結果.StaphylococcusClugdunensisCDSMC4806DSM(NCBI28035)とマッチし,ScorevalueはC2.32であった.Cd:左眼硝子体から分離されたグラム陽性球菌のCMALDBiotyperMSPidenti.cationstandardmethod1.1(Bruker)を使用した質量分析結果.StaphylococcuslugdunensisCDSM4806DSM(NCBI28035)とマッチし,ScorevalueはC2.33であった.3.9%(386株)とC3番目に多いブドウ球菌であった8).一方,て,丹らの硝子体生検と白内障手術のC1例では術後C4日目にEVSの白内障術後眼内炎の分離株(250株)の解析では,発症13),佐藤らの白内障手術のC1例では術後C8日目14),フラStaphylococcusepidermidisがC81.9%(204株)で,ついでCS.ンスのCChiquetらの白内障手術のC5例では術後C5日からC12lugdunensisとCStaphylococcusCwarneriのそれぞれがC3.6%(9日(平均C7.6日)11),台湾のCChenらの硝子体手術C1例では術株)と,CoNSが分離された術後眼内炎ではC2番目に多い菌後C41日目,白内障手術C3例では術後C3.81日16)に発症して種であった17).おり,S.lugdunensisによる術後眼内炎の発症時期は多様でCS.lugdunensisが分離された術後眼内炎の発症時期としある.本例のCS.lugdunensis分離株は,治療に使用したMEPM,CMX,LVFXを含め,検査した抗菌薬すべてに対し薬剤感受性を示した.しかし,近年ではメチシリン耐性CS.Clugdu-nensisによる術後髄膜炎感染が報告され18),また,筆者らもメチシリン耐性CS.lugdunensisを術前の眼表面より分離しており8),治療に際しては薬剤感受性結果に基づき適切な抗菌薬を選択することが重要と考えられる.CS.lugdunensisはCS.aureusのCclumpingfactorとアミノ酸の相同性を有するCFbl遺伝子を有し19,20),この遺伝子産物はフィブリノーゲンと結合し,病原性を増強している可能性が示唆されている3).一方,S.lugdunensisのすべての株がclumpingfactor陽性ではないことも判明している1).本例の眼内炎手術時に硝子体内にフィブリンの析出は認められたが,分離株はウサギ血漿を使ったCclumpingfactorは陰性であり,フィブリン析出の発症機序は不明である.他のCCoNSによる眼内炎とCS.lugdunensis眼内炎の差異に関する今後の解析が期待される.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)FreneyCJ,CBrunCY,CBesetCMCetal:StaphylococcusClugdu-nensisCspCnovCandCStaphylococcusCschleiferiCspCnov,CtwoCspeciesfromhumanclinicalspecimens.IntJSystBacteriolC38:436-439,C19882)ArgemiCX,CMatelskaCD,CGinalskiCKCetal:ComparativeCgenomicCanalysisCofCStaphylococcusClugdunensisCshowsCaCclosedCpna-genomeCandCmultipleCbarriersCtoChorizontalCgenetransger.BMCGenomicsC19:621,C20183)FrankKL,delPozoJL,PatelR:FromclinialmicrobiologytoCinfectionpathogenesis:HowCdaringCtoCbeCdi.erentCworksforStaphylococcuslugdunensis.ClinMicrobiolRevC21:111-133,C20084)BeckerCK,CHeilmannCC,CPetersG:Coagulase-negaiveCStaphylococci.ClinMicrobiolRevC27:870-926,C20145)ArgemiCX,CHansmannCY,CRiegelCPCetal:IsCStaphylococusClugdunensisCsigni.cantinclinicalsamples?.JClinMicrobi-olC55:3167-3174,C20176)HeilbronnerCS,CFosterTJ:Staphylococuslugdunensis:askinCcommensalCwithCinvasieCpathogenicCpotential.CClinCMicrobiolRevC34:e00205-20,C20217)ElaminCWF,CBallCD,CMillarM:UnbiasedCspecies-levelCidenti.cationCofCclinicalCisolatesCofCcoagulase-negativeStaphylococci:DoesitchangetheperspectiveonStaphy-lococuslugdunensis.JClinMicrobiolC53:292-294,C20158)SakisakaT,IwasakiT,OnoTetal:Changesinthepre-operativeCocularCsurfaceC.oraCwithCanCincreaseCinCpatientage:ACsurveillanceCanalysisCofCbacterialCdiversityCandCresistanceto.uoroquinolone.GraefesArchClinExpOph-thalmol(e-pub)doi.10.1007/Cs00417-023-06121,C20239)InadaN,HaradaN,NakashimaMetal:SevereStaphylo-coccuslugdunensisCkeratitis.InfectionC43:99-101,C201510)ChiquetCC,CPechinotCA,CCreuzut-GarcherCCCetal:AcuteCpostoperativeCendophtalmitisCcausedCbyCStaphylococcusClugdunensis.JClinMicrobiolC45:1673-1678,C200711)GarronCRB,CMillerCD,CFlynnCHWJr:Acute-onsetCendo-phthalmitisCcausedCbyCStaphylococcusClugdunensis.AmJOphthalmolCaseRepC9:28-30,C201812)犬塚将之,石澤聡子,小澤憲司ほか:StaphylococcusClug-dunensisによる抗血管内皮増殖因子薬硝子体内投与後眼内炎のC1例.眼科61:1535-1540,C201913)丹啓紀,池川泰民,小林武史ほか:StaphylococcusClug-dunensisによる硝子体手術後眼内炎のC1例.眼科手術34:C633-637,C202114)佐藤慧一,竹内正樹,石戸みづほほか:良好な視力経過をたどったCStaphylococcuslugdunensisによる白内障術後眼内炎のC1例.あたらしい眼科C39:644-648,C202215)AhmedCU,CNozadCL,CSaldana-VelezM:StaphylococcusClugdunensisCendophthalmitisCfollowingCintravitrealCanti-vascularCendothelialCgrowthCfactor.CCureusC14:e30439,C202216)ChenKJ,SunMH,TsaiAetal:StaphylococcuslugdunenC-sisendophthalmitis:caseCseriesCandCliteratureCreview.Antibiotics(Basel)C11:1485,C202217)BannermannCTL,CRhodenCDL,CMcAlisterCSKCetal:TheCsourceCofCcoagulase-negativeCstaphylococciCinCtheCEndo-phthalmitisVitrectomyStudy.AcomparisonofeyelidandintraocularCisolatesCusingCpulsed-.eldCgelCelectrophoresis.CArchOphthalmolC115:357-361,C199718)佐々木康弘,金丸亜佑美,内田壽恵ほか:術後にメチシリン耐性CStaphylococcuslugdunensisによる髄膜炎を起こした1例.臨床神経C56:773-776,C201619)NilssonCM,CBjerketorpCJ,CFussCBCetal:AC.brinogen-bindingCproteinCofCStaphylococcusClugdunensis.CFEMSCMicrobiolLettC241:87-93,C200420)GeogheganCJA,CGaneshCVK,CSmedsCECetal:MolecularCcharacterizationoftheinteractionofstaphylococcalmicro-bialsurfacecomponentsrecognizingadhesivematrixmol-ecules(MSCRAMM)ClfAandFiblwith.brinogen.JBiolChemC285:6208-6216,C2010***

New TSAS を用いたドライアイスクリーニングの試み

2024年1月31日 水曜日

《原著》あたらしい眼科41(1):94.100,2024cNewTSASを用いたドライアイスクリーニングの試み荒木優斗*1田坂嘉孝*1,2山口昌彦*3篠崎友治*1細川寛子*1井上英紀*4坂根由梨*4白石敦*4高田英夫*5大橋裕一*1*1南松山病院眼科*2愛媛大学大学院医学系研究科視機能再生学講座*3愛媛県立中央病院眼科*4愛媛大学大学院医学系研究科眼科学講座*5株式会社トーメーコーポレーションCDryEyeScreeningUsingaNewTearStabilityAnalysisSystemYutoAraki1),YoshitakaTasaka1,2),MasahikoYamaguchi3),TomoharuShinozaki1),HirokoHosokawa1),HidenoriInoue4),YuriSakane4),AtsushiShiraishi4),HideoTakata5)andYuichiOhashi1)1)DepartmentofOphthalmology,Minami-MatsuyamaHospital,2)DepartmentofOphthalmologyandRegenerativeMedicine,EhimeUniversityGraduateSchoolofMedicine,3)DepartmentofOphthalmology,EhimePrefecturalCentralHospital,4)DepartmentofOphthalmology,EhimeUniversityGraduateSchoolofMedicine,5)TomeyCorporationC目的:ビデオケラトグラフィーを用いた非侵襲的な涙液層安定性評価法の一つであるCtearCstabilityCanalysissystem(TSAS)に改良を加えたCNewTSASを用いてドライアイスクリーニングの有用性を検討した.対象および方法:南松山病院職員ボランティアC45名(男C14名,女C31名,34.6±10.9歳)に対してドライアイ症状の問診(DEQS),CNewTSASの非侵襲的CBUTにあたるCringBUT(RBUT,秒)測定(10秒持続開瞼)を行い,15分後にフルオレセインCBUT(FBUT,秒)を測定した.解析には右眼のCRBUTとCFBUTを用い,解析可能なC43名を対象とした.結果:2016年診断基準によるドライアイ確定例はC8名(18.6%)であった.ドライアイ群および正常群の各検査値は,それぞれCDEQSがC24.8±10.2,7.4±7.8(p=0.002),FBUT(秒)がC2.9±1.9,6.8±3.3(p=0.003),RBUT(秒)がC3.9±2.1,C7.6±3.2(p=0.004)で,いずれもC2群間に有意差を認めた.また,RBUT=0.58×FBUT+3.40(r=0.595)と良好な一次相関を示した.ドライアイ診断に対するCRBUTの感度:87.5%,特異度:68.6%(カットオフ値C5.0秒),receiverCoperatingcharacteristic曲線のCareaCunderCthecurveはC0.816であった.結論:NewTSASのCRBUTはCFBUTに対して良好な相関を示した.NewTSASによる非侵襲的涙液層安定性の評価は実臨床におけるドライアイのスクリーニングにおいて有用と考えられた.CPurpose:Toexaminethee.ectivenessofCthenewly-enhancedTearStabilityAnalysisSystem(NewTSAS),aCnoninvasivemethodusingCvideokeratographytoevaluatetear-.lm(TF)stability,fordryeye(DE)screening.Sub-jectsandMethods:Forty-.veparticipants(14Cmales,31females;meanage:34.6±10.9years)seenatCtheMina-mi-MatsuyamaCHospitalwereinterviewedaboutCDEsymptoms(DERelatedQualityofCLifeScore[DEQS]).Inallsubjects,RingCbreakuptime(BUT)(RBUT;seconds),whichCistheNewTSASnon-invasiveBUT(i.e.,10secondsofCsustainedeyelidopening),wasmeasured,and.uoresceinBUT(FBUT;seconds)wasmeasured15minuteslat-er.CRBUTCandCFBUTCdataCofCtheCrightCeyeCwasCusedCforCanalysis,CandC43CsubjectsCwhoCcouldCbeCanalyzedCwereCincluded.Results:UsingCthe2016JapanesediagnosticcriteriaCforCDE,8(18.6%)ofCthe43includedsubjectswerediagnosedas“de.nitiveDE”.IntheDECgroupandnormalcontrolgroup,themeanDEQSwas24.8±10.2CandC7.4C±7.8,respectively(p=0.002),CtheCmeanCFBUTCwasC2.9±1.9CandC6.8±3.3(p=0.003),Crespectively,CandCtheCmeanCRBUTCwasC3.9±2.1CandC7.6±3.2(p=0.004)respectively.CACsigni.cantCdi.erenceCinCFBUTCandCRBUTCwasCfoundCbetweenthetwogroups.Moreover,RBUT=0.58×FBUT+3.40(r=0.595),showingCaCgoodlinearCcorrelation.AtCanRBUTcuto.Cvalueof<5seconds,thesensitivityofCtheNewTSASwas87.5%Candthespeci.citywas68.6%CfordistinguishingCbetweenCtheCnormalCandCde.nitiveCDE.CTheCareaCunderCtheCreceiverCoperatingCcharacteristicCcurveCwas0.816.Conclusion:TheNewTSASRBUTdemonstratedaCgoodcorrelationwiththeFBUT.ThenoninvasiveassessmentCofCTFCstabilityusingCtheNewTSASwasfoundtobeusefulforCDECscreeningCinclinicalpractice.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)41(1):94.100,2024〕〔別刷請求先〕田坂嘉孝:〒790-8534愛媛県松山市朝生田町C1丁目C3-10南松山病院眼科Reprintrequests:YoshitakaTasaka,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,Minami-MatsuyamaHospital,1-3-10Asoda,Matsuyama,Ehime790-8534,JAPANC94(94)Keywords:ドライアイ,非侵襲的BUT,NewTSAS,ドライアイスクリーニング.dryeye,noninvasiveBUT,NewTSAS,dryeyescreening.Cはじめに涙液層破壊時間(tearC.lmCbreakuptime:BUT)は涙液安定性の評価に有用な指標であり,ドライアイのスクリーニングには必要不可欠な検査である.通常,フルオレセイン染色により判定されるが,涙液量の増加,測定値のばらつきなどの問題があり,涙液層の客観的な評価には非接触,低侵襲な検査法へとシフトしている.とくに,涙液層への投影像を利用した非侵襲的CBUT(noninvasiveBUT:NIBUT)測定については,筆者らの教室を含めていくつかの先駆的な試みが行われてきた1.3).近年,ビデオケラトグラフィーを用いたCNIBUTの測定機器は日本製,海外製のものを含めて複数が存在し,それぞれに臨床的な有用性が報告されている4.6).以前に筆者らが考案し,RT-7000(トーメーコーポレーション)に搭載されているCtearstabilityCanalysisCsystem(TSAS)もその一つで,ビデオケラトグラフィーを毎秒連続撮影することにより,非侵襲的に涙液安定性を定量評価するシステムである4).プラチド角膜形状解析装置の特徴である「涙液の影響を受けやすい」ことを逆利用し,投影されたマイヤーリング像の歪みやにじみを解析することでCringBUT(RBUT)を算出するが,「開瞼直後の眼表面の状態に影響されやすい」ことが診断精度面での大きな課題となっていた.今回,オートレフラクトメーターCMR-6000(トーメーコーポレーション)(図1)が,マルチファンクション仕様とし図1マルチファンクション・レフラクトメーターMR-6000(トーメーコーポレーション)てリニューアルし,ドライアイやアレルギー性結膜炎に関連した前眼部所見を多角的に検査できるようシステムアップを行った.特に,ドライアイ関連では,涙液メニスカスの観察,マイボグラフィー,そして新しいCTSASの三つの機能が追加されたが,その中で今回,解析方法を大幅に変更した新バージョンのCTSAS(NewTSAS)を用いて,実際の症例およびドライアイスクリーニングにおける有用性を検討したので報告する.CI対象および方法1.ドライアイスクリーニング試験2022年C6.7月に南松山病院職員の健常者ボランティア45名(男C14名,女C31名,34.6C±10.9歳)に対してドライアイ症状の問診(dryCeyeCrelatedCqualityCofClifescore:DEQS)7)を行ったのち,MR-6000にインストールされたCNewTSASにてC10秒間の持続開瞼にてCringBUT(RBUT,秒)を測定し,15分後にフルオレセインCBUT(FBUT,秒)を測定した.解析には右眼のCRBUTとCFBUTを用い,解析可能なC43名を対象とした.コンタクトレンズ装用者C13名については検査当日,朝からコンタクトレンズを非装用とした.DEQSはドライアイの症状や日常生活への影響に関する15項目のアンケートからなり,総合的なCQOL障害度がサマリースコア(0.100)として算出される.スコアが高いほど日常生活においてドライアイによる影響を受けていることになる.2016年版の日本のドライアイの定義と診断基準8),つまり,フルオレセインCBUTがC5秒以下で,ドライアイ症状を有する対象者をドライアイと確定診断した.自覚症状については,既報に準じてCDEQSサマリースコア(0.100)が15以上の場合を有症状とした9).ドライアイ群と正常群の比較検定はCt-testを用い,0.05未満を統計学的有意差とした.なお,本研究は国立大学法人愛媛大学臨床研究審査委員会の承認を得て実施された.C2.NewTSAS従来のCTSASは,オートレフ・トポグラファーCRT-7000(トーメーコーポレーション,2006年発売)に搭載され,すでに実臨床の場でドライアイの補助診断として用いられているが,今回の機種(NewTSAS)ではおもに以下のC2点に改良を加えている.①画像の情報量の増加従来のCTSASでは毎秒C1枚だけの撮影であったが,NewTSASでは毎秒C10枚の撮影を行ってフルオレセイン染色時従来のTSAS:0秒時とn秒時を比較NewTSAS:毎秒ごとの歪み量変化をグラフ化0秒1秒2秒10秒0秒1秒2秒10秒図2画像情報量の増加従来CTSASでは毎秒C1枚だけの撮影であったが,NewTSASでは毎秒C10枚の撮影を行っている.図3NewTSASの結果画面画面には投影マイヤーリングの状況が映し出され(左図),ブレークアップした部分が赤い点として表示される(右図).下部にリング変化量(赤線)のグラフが示される.緑線:開瞼状態,水色点線:閾値,黄線:RBUT測定に用いられる変化量部分.画面右にはCRBUTが表示され,5秒以下の場合,赤色表示になる.に得られるような連続した情報量に近似させ,さまざまな涙液ブレークアップパターンに対応できるように工夫している(図2).図3にCNewTSASの結果画面を示す.画面には投影マイヤーリングの状況が映し出され,ブレークアップした箇所が赤い点で示されている.ブレークアップ領域の経時的変化の状況は動画で観察することが可能である.その下部にリング変化量(赤線)のグラフが示される.緑線は開瞼状態,水色点線は閾値,黄線はCRBUT測定に用いられる変化量部分を表している.画面右にはCRBUTが表示され,5秒以下の場合,赤色表示になる.②オフセット処理機能の搭載さまざまなアーチファクトが原因で開瞼直後からリングに乱れが生じた場合,その乱れを最初にオフセットすることで,その後のリングの乱れをより正しく評価する機能である.事前に行った準備研究において,NewTSAS測定によって得られたブレークアップ変化量のグラフは図4に示すように,パターンCA(ブレークアップがみられない例:正常型),パターンCB(ブレークアップ面積が徐々に増加する例:標準ブレークアップ型),パターンCC(高度に点状表層角膜症(super.cialpunctatekeratopathy:SPK)が存在する例:SPK型),およびパターンCD(開瞼直後からブレークアップがみられる例:初期ブレーク型)の四つに大きく分けられることがわかった.このうちのパターンA,Bについては基本的にオフセット処理を行わずに解析可能であるが,パターンCについてはオフセット機能による調整が必要となる.具体的には,パターンCCの場合にはCSPKにより開瞼直後から変化量が過大評価されているため,オフセット機能が作動して基線を補正している.パターンCDではパターンCCと同様に開瞼直後画像の歪み量は大きいが,処理を行うと点線のように基線以下のマイナス表示になってしまうため,オフセット機能は作動しない.なお,オフセット処理のオンとオフは症例ごとに自動的に切りかえられるようになっている.実際の歪み量オフセット処理前処理後パターンAパターンBパターンCパターンD経過時間歪み量歪み量閾値図4NewTSASにおけるオフセット処理パターンCA:正常型(非ドライアイ型),パターンCB:標準ブレークアップ型,パターンCC:SPK型,パターンD:初期ブレークアップ型.症例を図5に示す.CII結果本研究では登録されたC45名から解析不能のC2名を除いた43名を最終対象とした.除外したC2名のうちC1名はCFBUT測定時にC3秒,もうC1名はCNewTSAS測定時に開瞼時間が4.1秒といずれもC5秒以上の連続開瞼ができなかった症例であり,器機の不備に伴うものではなかった.対象者のうち,2016年ドライアイ診断基準8)によるドライアイ確定例はC8名(18.6%)であり,正常群(35名)との間で検査値の比較検討を行った.ドライアイ群および正常群の各検査値は,それぞれ順に,DEQSがC24.8C±10.2,7.4C±7.8(p=0.002),FBUT(秒)がC2.9±1.9,6.8C±3.3(p=0.003),RBUT(秒)がC3.9C±2.1,7.6C±3.2(p=0.004)で,いずれもC2群間に統計学的な有意差を認めた(表1).RBUTとCFBUTとの間にはCRBUT=0.58×FBUT+3.40(r=0.595)と良好な一次相関が認められた(図6左).なお,RBUTとCFBUTが乖離した症例として,RBUTがC10秒であるがCFBUTがC5秒以下である症例がC4眼,逆にCRBUTがC5秒以下であるがCFBUTがC10秒である症例がC2眼存在した.ドライアイ診断に対するCRBUTの感度はC87.5%,特異度はC68.6%(カットオフ値C5.0秒)であった.ReceiverCoperatingcharacteristic曲線(ROC曲線)のCareaunderthecurve(AUC)はC0.816であった(図6右).ブレークアップパターンCA.Dの割合は,A:19眼(44.2%),B:16眼(37.2%),C:8眼(18.6%),D:0眼(0%)であった.CIII考按BUTとは開瞼から涙液層破壊が生じるまでの時間のことで,涙液層安定性を評価するうえで有用な指標である.その測定には通常フルオレセインを用いるCFBUTで評価されてきたが,簡便に測定できるという長所を持ち合わせる一方で,フルオレセインを使用することで眼表面の涙液量の増加による影響を受けるという欠点がある.その流れの中で,さまざまな角度からドライアイに関連した眼表面の異常を評価する検査法が普及し,しかも各検査が,単一機器の中で,低侵襲かつ定量的な方向で実施されるようになっている.そのトレンドはCBUTにおいても同様であり,近年検査法は非侵襲的なCNIBUTへと進化しつつある.従来のCTSASでは毎秒C1枚の画像しか撮影できず,眼表面の変化をリアルタイムに捉えているとは言い難かった.また,実臨床で用いた場合に開瞼後,長時間涙液層が安定している非ドライアイや,逆に開瞼後時間経過とともに加速度的に涙液層が不安定になる症例は正しく解析できる一方で,開瞼直後の状態が影響を受ける症例(開瞼不足,睫毛の映り込み,眼脂など),高度の角膜上皮障害を有する症例(高度SPKなど)では,解析が不正確になる場合があった.これら従来のCTSASの弱点を補うために,今回のCNewTSASでは大きく二つの改良を行っている.第一には情報量の増加と解析方法の改良である.従来のCTSASでは毎秒ごとにC1枚しか撮影できず,基準値(0秒)と各秒との差を変化量の加算ヒストグラムを用いて算出していたが,NewTSASではC1秒間にC10枚撮影することで情報量を増加させるとともに,毎秒算出される変化量をグラフ化する方式に変更した.また,情報量の増加により涙液層の状態をリアルタイムに捉えることができ,撮影したものを動画で見ることが可能になった.このことでCNewTSASはフルオレセイン染色時に得られる情報に近似できるようになった.第二はオフセット処理機能の搭載である.さまざまなアーチファクトが原因で開瞼直後からリングに乱れが生じた場合,その乱れを最初にオフセットすることで,その後のリンパターンARBUT:notbreakupパターンCSPKにより開瞼直後から変化量が過大評価されている図5NewTSAS実際の症例パターンCA:ブレークアップがみられない例(正常型).パターンCB:ブレークアップ面積が徐々に増加する例(標準ブレークアップ型).パターンCC:SPKが多くみられる例(SPK型).パターンCD:開瞼直後からブレークアップがみられる例(初期ブレークアップ型).A,Bは基本的にオフセット処理を行わずに解析可能である.CはCSPKにより開瞼直後から変化量が過大評価されているため,オフセット機能が作動している.Dは開瞼直後画像の歪み量は大きいが,オフセット処理を行うとマイナスになってしまう(点線)ため,オフセット機能は作動していない.グの乱れをより正しく評価することが可能になった.逆に,フはおよそ四つのパターンを示すことが推察された.すなわ涙液層破壊パターンの一つであるCspotbreak10)の症例では,ち,正常眼でみられるC10秒間閾値を超えないパターン(A:開瞼直後からの涙液層の不安定さによってリングが大幅に乱正常型),ドライアイ眼でよくみられる漸増パターン(CB:標れる.準備研究の段階において,CNewTSASの変化量グラ準ブレークアップ型),高度CSPKが存在するときにみられRBUT=0.58×FBUT+3.40(r=0.595)ROC曲線1210RBUT(秒)86420024681012Speci.cityFBUT(秒)図6FBUTとRBUTの相関とドライアイ診断に対するRBUTの感度・特異度RBUTとCFBUTとの間にはよい相関を認め,ROC曲線では感度:87.5%,特異度:68.6%(カットオフ値C5.0秒,AUC:0.816)であった.表1ドライアイ群と正常群におけるDEQS,FBUT,RBUTドライアイ群(n=8)正常群(n=35)p値CDEQSC24.8±10.2C7.4±7.8C0.002†FBUT(秒)C2.9±1.9C6.8±3.3C0.003†RBUT(秒)C3.9±2.1C7.6±3.2C0.004†t-test†:p<0.05ドライアイ確定例(2016年診断基準)はC8名(18.6%)であった.DEQS,FBUT,RBUTそれぞれにおいて両群間で有意差を認めた.る,初期から変化量が大きく,さらに経時的に漸増するパターン(C:SPK型),及び,SPKはみられないがCspotbreakなどのように開瞼直後の変化がもっとも大きくなるパターン(D:初期ブレーク型)である.今回のスクリーニング試験におけるそれぞれのパターンの発現割合をみてみると,A:19眼(44.2%),B:16眼(37.2%),C:8眼(18.6%),D:0眼(0%)であり,オフセット処理機能の有用性確認は,パターンCCのみにとどまった.なお,症例が得られなかったパターンCDについては,今後の検討に委ねたいと考える.本研究において,RBUTのカットオフ値をC2016年ドライアイ診断基準のCFBUTと同様であるC5秒とした場合,感度はC87.5%,特異度はC68.6%であった.RT-7000に搭載された従来のCTSASでカットオフ値を同じC5秒以下とした場合,感度はC77.8%,特異度はC70.0%4)であり,NewTSASは感度が上回り,特異度については,ほぼ同等となる結果であった.このことは,NewTSASが従来のCTSASと比較して,ドライアイスクリーニングにおける性能が向上したことを示唆している.CNewTSAS同様,NIBUTを測定する器機としてCKetato-graph5M(Oculus)5)やIDRA(SBMSistemi)6)がある.NewTSASについての解析方法は前述のとおりだが,これらの機器については解析方法の詳細は述べられていない.しかし,マイヤーリング像の初期の歪みやにじみを解析する点では同様である.ドライアイ診断基準は異なるが,Ketato-graph5Mでのドライアイ診断に対する感度はC84.1%,特異度はC75.6%(カットオフ値C2.65秒)5),IDRAでは感度C89%,特異度はC69%(カットオフ値C7.75秒)6),ROC曲線解析によるCAUCはCKetatograph5M:0.825,IDRA:0.841であり,今回得られたCNewTSASの数値は他機種のドライアイスクリーニング能力とは遜色ないものと考えられた.RBUTとCFBUTとの間にはCRBUT=0.58×FBUT+3.40(r=0.595)と良好な一次相関が認められたが,FBUTとRBUTが乖離した症例がいくつかみられた.横井によれば,FBUTは涙液層の菲薄化を,マイヤーリングの乱れを利用するCRBUTは油層を含めた涙液全層のブレークを反映しているため,RBUTを含めたCNIBUTはCFBUTよりも長くなるとされる11).したがって,FBUTではC1カ所でも小さなブレークが起こると,そのときの秒を測定値とするが,ブレークの範囲が狭いため,NewTSASではリング変化としてとらえきれず,RBUT=10秒という結果になったと考えられる.また,RBUTがCFBUTよりも短くなったC2眼では,FBUTはC10秒以上,明らかなブレークが見られなかったが,RBUTでは明らかに早期からリングの歪みが見られていた.今回,NewTSASでCRBUTを測定してからC15分間隔を開けてCFBUTを測定しているが,最初に持続開瞼してCRBUTを測定したことにより,過剰な涙液分泌が促され,FBUTの延長に影響を及ぼした可能性が考えられる.今回の研究はCNewTSASを用いたドライアイスクリーニングの有用性の評価を行うことが主目的であり,NewTSASの再現性については詳細に検討していない.続けて何回もの検査を行うことで涙液層に変化が生じる可能性もあるため,種々の条件設定のもとでの再現性試験を行うことで,CNewTSASのさらなる信頼性を検証することが必要と思われる.また,サンプルサイズも小さいため,スクリーニング検査におけるドライアイがC8眼にとどまっており,ROC曲線における感度と特異度を考慮すれば,今後より大きな対象を用いた研究を要すると思われる.CNewTSASでの動画がフルオレセインにおけるブレークアップパターン10)と連動できるようになれば,検査室におけるドライアイスクリーニングの検査を可能とし,ドライアイ診療に大きな変化をもたらすものと思われる.そのためにはさらに多くの情報量が必要になり,今後の機器の進化が期待される.結論として,NewTSASによる非侵襲的涙液層安定性の評価は,実臨床におけるドライアイのスクリーニングにおいて有用と考えられた.本論文の内容は角膜カンファランスC2023にて発表した.謝辞:本研究を行うにあたり,ご尽力いただきました,株式会社トーメーコーポレーションの山本聡氏に感謝申し上げます.利益相反白石敦カテゴリーF参天製薬高田英夫カテゴリーCE株式会社トーメーコーポレーション株式会社トーメーコーポレーションカテゴリーCP文献1)MengerCLS,CBronCAJ,CTongeCSRCetal:ACnon-invasiveCinstrumentforclinicalassessmentofthepre-cornealtear.lmstability.CurrEyeResC4:1-7,C19852)GotoT,ZhengX,KlyceSDetal:Anewmethodfortear.lmstabilityanalysisusingvideokeratography.AmJOph-thalmolC135:607-612,C20033)KojimaCT,CIshidaCR,CDogruCMCetal:ACnewCnoninvasiveCtearCstabilityCanalysisCsystemCforCtheCassessmentCofCdryCeyes.InvestOphthalmolVisSciC45:1369-1374,C20044)YamaguchiCM,CSakaneCY,CKamao,CTCetal:NoninvasiveCdryCeyeCassessmentCusingChigh-technologyCophthalmicCexaminationdevices.CorneaC35:S38-S48,C20165)HongJ,SunX,WeiAetal:Assessmentoftear.lmsta-bilityCinCdryCeyeCwithCaCnewlyCdevelopedCkeratograph.CCorneaC32:716-721,C20136)VigoL,PellegriniM,BernabeiFetal:Diagnosticperfor-manceCofCaCnovelCnoninvasiveCworkupCinCtheCsettingCofCdryeyedisease,JOphthalmol,C5804123,C20207)SakaneY,YamaguchiY,YokoiNetal:DevelopmentandvalidationCofCtheCdryCeye-RelatedCquality-of-lifeCscoreCquestionnaire.JAMAOphthalmolC131:1331-1338,C20138)島﨑潤,横井則彦ほか:ドライアイ研究会:日本のドライアイの定義と診断基準の改訂(2016年版).あたらしい眼科C34:309-313,C20179)IshikawaCS,CTakeuchiCM,CKatoN:TheCcombinationCofCstripCmeniscometryCandCdryCeye-relatedCquality-of-lifeCscoreisusefulfordryeyescreeningduringhealthcheck-up.Medicine(Baltimore)97:12969,C201810)YokoiCN,CGeorgievCGA,CKatoCHCetal:Classi.cationCofC.uoresceinbreakupCpatterns:aCnovelCmethodCofCdi.e-rentialCdiagnosisCforCdryCeye.CAmCJCOphthalmolC180:C72-85,C201711)横井則彦:BUT検査.眼科検査ガイド第C3版,飯田知弘ら編集.文光堂,p342-346,C2022***

ヘルペス性角膜炎における栄養障害性潰瘍の臨床像

2024年1月31日 水曜日

《原著》あたらしい眼科41(1):89.93,2024cヘルペス性角膜炎における栄養障害性潰瘍の臨床像石本敦子*1佐々木香る*1安達彩*1嶋千絵子*1西田舞*2髙橋寛二*1*1関西医科大学眼科学講座*2北野病院眼科CClinicalFeaturesofNeurotrophicUlcersinHerpesKeratitisAtsukoIshimoto1),KaoruSasaki1),AyaAdachi1),ChiekoShima1),MaiNishida-Hamada2)andKanjiTakahashi1)1)DepartmentofOphthalmology,KansaiMedicalUniversity,2)MedicalResearchInstituteKitanoHospitalC目的:ヘルペス性角膜炎に生じた栄養障害性潰瘍は,しばしば原疾患の再燃や真菌性角膜炎との判断が困難である.早期発見のため臨床像を明らかにする.方法:2012年C2月.2020年C10月に関西医科大学附属病院眼科,永田眼科で加療したC9例C9眼を後ろ向きに調べた.結果:原疾患が単純ヘルペス角膜炎のC8眼は複数回の上皮型・実質型の再発既往があり,帯状疱疹角膜炎のC1眼は遷延例であった.いずれも抗ウイルス剤軟膏を断続的に使用していた.膿性眼脂は認めず,3眼では樹枝状類似のフルオレセイン所見を,6眼では地図状類似の不整形上皮欠損を認めた.全例で病変部辺縁は直線状に隆起した白濁を呈し,潰瘍底はカルシウム沈着あるいは実質融解を認めた.潰瘍底.爬,抗ウイルス薬軟膏の減量,ステロイドによる消炎にて治癒した.結論:ヘルペス性角膜炎経過途中の栄養障害性潰瘍の早期発見には,膿性眼脂の有無,病変部辺縁の形状や潰瘍底の性状を確認することが必要である.CPurpose:NeurotrophicCulcersCarisingCinCherpeticCkeratitisCareCoftenCdi.cultCtoCdetermineCasCrelapseCofCtheCunderlyingdiseaseorfungalkeratitis.ThepurposeofthisstudywastoclarifytheclinicalfeaturesofneurotrophiculcersCforCearlyCdetection.CPatientsandMethods:InCthisCretrospectiveCstudy,C9CeyesCofC9CpatientsCtreatedCatCtheCDepartmentofOphthalmology,KansaiMedicalUniversityandNagataEyeClinicfromFebruary2012toOctober2020wereexamined.Results:Ofthe9eyes,8wereherpessimplexkeratitisastheprimarydiseasewithahisto-ryofmultipleepithelialandparenchymalrecurrences,and1wasaprolongedcaseofherpeszosterkeratitis.Anti-viralCointmentsChadCbeenCintermittentlyCadministeredCinCallCeyes.CThereCwasCnoCoccurrenceCofCpurulentCdischarge,Cyet3eyeshaddendritic-like.uorescein.ndingsand6eyeshadgeographicirregularepithelialdefects.Inallcas-es,themarginsofthelesionswerecloudywhiteandlinearlyraised.Theulcerbasesshowedcalciumdepositionorparenchymalmelting.Healingwasachievedbycurettageofthebottomoftheulcer,reductionofthedoseofantivi-ralCointment,CandCadministrationCofCanti-in.ammationCsteroids.CConclusion:ForCearlyCdetectionCofCneurotrophicCulcersCduringCtheCcourseCofCherpeticCkeratitis,CitCisCnecessaryCtoCcon.rmCnoCpresenceCofCpurulentCdischarge,CtheCshapeofthemarginsofthelesion,andthenatureoftheulcerbase.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C41(1):89.93,2024〕Keywords:角膜ヘルペス,栄養障害性潰瘍,遷延性角膜上皮欠損,薬剤毒性,カルシウム沈着.herpeticsCkerati-tis,neurotrophiculcers,persistedcornealepithelialdefects,drugtoxicity,calciumdeposition.Cはじめに単純ヘルペスによる角膜ヘルペスは上皮型(樹枝状,地図状),実質型(円板状,壊死性),内皮型,そしてぶどう膜炎型に分類される1).また,水痘帯状疱疹ウイルスによる眼部帯状疱疹も角膜には偽樹枝状病変から多発性角膜上皮下浸潤をきたす.これらは再発の都度,三叉神経麻痺を生じ,しだいに不可逆性の知覚低下を招く.この三叉神経麻痺は,角膜上皮細胞の増殖能低下,接着能低下をきたすことが知られており,容易に不整形の上皮欠損を生じる2.7).上皮型の病変に上皮接着不全が生じた場合は遷延性上皮欠損となり,実質型に生じた場合は栄養障害性潰瘍として,とくに壊死性角膜炎によく併発する.遷延性上皮欠損ではCBowman層が保たれ,角膜実質の融解,菲薄化を伴わないが,栄養障害性潰瘍では角膜実質の融解,菲薄化,さらに長期の炎症によりカル〔別刷請求先〕石本敦子:〒573-1010大阪府枚方市新町C2-5-1関西医科大学眼科学講座Reprintrequests:AtsukoIshimoto,DepartmentofOphthalmology,KansaiMedicalUniversity,2-3-1Shinmachi,Hirakata573-1191,JAPANC図1代表症例1の前眼部所見a:ターミナルバルブをもつ典型的な樹枝状病変を認める.周囲には過去の上皮型を示す混濁を認める.Cb:当院初診時には直線的な白濁()した縁どりをもつ角膜潰瘍を認めた.白濁部はやや隆起しており,その内部の潰瘍底は軟化していた.Cc:栄養障害性潰瘍として加療開始C1カ月後.瘢痕を残して上皮は修復を完了した.シウム沈着を伴い,難治となる.ヘルペスによる栄養障害性潰瘍が多発したC1990年代に,森・下村らはその臨床的特徴として,潰瘍になる直前の病型は実質型(円板状C65%,壊死性C35%)が過半数(56%)を占め,また栄養障害性潰瘍診断時に,IDU頻回点眼がなされていた(47%)ことを報告した8).また,ヘルペスによる栄養障害性潰瘍の形成要因として,基盤である角膜実質の炎症による角膜上皮接着性の低下,およびCIDUの細胞毒性による上皮の修復障害,不適正なプライマリーケア(上皮型あるいは実質型ヘルペスに対する不適切なステロイドあるいは抗ウイルス剤の投与)を提示した8).抗ウイルス薬がCIDU点眼からアシクロビル眼軟膏へと変遷し,細胞毒性は少なくなったとはいえ上皮細胞への障害は弱くはなく,角膜ヘルペスの上皮型や実質型が何度も繰り返され上皮細胞の脆弱化が生じた場合,やはり栄養障害性潰瘍を発症し,ステロイドの投与の可否含めて治療に難渋することが多い.ヘルペスによる栄養障害性潰瘍は,ヘルペスウイルスそのものの増殖による悪化との鑑別が困難で,抗ウイルス薬が増量され,その薬剤毒性によりさらに難治化させることが多い.今回,栄養障害性潰瘍の早期発見のため,その臨床的特徴を明らかにした.CI方法本研究は関西医科大学医学倫理審査委員会の承認のもと(承認番号2021254),ヘルシンキ宣言に基づき,診療録を参照し後ろ向きに検討した.2012年C2月.2020年C10月に関西医科大学附属病院(以下,当院)眼科,永田眼科に紹介されたヘルペスによる栄養障害性潰瘍症例を対象とした.症例は9例9眼(男性6例,女性3例),年齢は79C±12歳(50.92歳)であった.患者背景,前眼部の臨床所見,治療経過を検討した.II結果[代表症例1]患者:74歳,女性.既往歴:糖尿病性網膜症により硝子体茎切除術を施行されていた.現病歴:10年程前から数回,左眼角膜ヘルペスの上皮型・実質型の再発を繰り返し,その都度,近医にてアシクロビル(ACV)眼軟膏やステロイド点眼で加療されていた.今回,1カ月前に上皮型を再発し,ACV眼軟膏をC1日C5回使用するも,次第に悪化したため,ACV耐性株を疑われ,1カ月後に当院紹介となった.1カ月前の前医での前眼部写真を図1aに示す.初診時所見:当院初診時,左眼視力(0.2C×sph.5.0D(cylC.4.0DAx10°),左眼眼圧12mmHg(緑内障点眼下),地図状類似の角膜潰瘍がみられ,潰瘍周囲が白濁化,一部直線化していた(図1b).潰瘍底では融解傾向で軟化した実質に一部カルシウム沈着があり,周囲には過去の上皮型病変による混濁がみられた.経過:栄養障害性潰瘍と判断し,紹介時に投薬されていたACV眼軟膏C5回,デキサメタゾン点眼C3回,緑内障点眼をすべて中止し,バラシクロビル(VACV)内服,プレドニゾロンC10Cmg内服,抗菌薬眼軟膏を処方した.潰瘍の縮小がみられたため,抗ウイルス薬やステロイドを内服からCACV眼軟膏C1回,0.1%フルオロメトロン点眼C2回,抗菌薬眼軟膏へ変更した.当院での治療開始C2週間後,潰瘍は縮小したものの上皮.離の遷延化がみられたため,治療用コンタクトレンズを装用のうえ,ACV眼軟膏C1回,0.1%フルオロメトロン点眼C2回に,抗菌薬点眼C4回,ヒアルロン酸CNa点眼C4回を追加した.当院初診約C1カ月で,すみやかに角膜潰瘍は治癒し,消炎を得た(図1c).図2代表症例2の前医での前眼部所見ab,cd,efのC3時点で,いずれも偽樹枝状様の所見を呈するフルオレセイン陽性の上皮欠損を認め,寛解増悪を繰り返していた.図3代表症例2の前眼部所見a:当院初診時には直線的な白濁したやや幅広い縁取りをもつ角膜潰瘍を認めた().潰瘍底は触診にてカルシウム沈着を認め,非沈着部位は実質底が軟化していた.Cb:フルオレセイン染色では,カルシウム非沈着部位が陽性を示し,あたかも樹枝状様の所見を呈した.しかし,ターミナルバルブは認めない.Cc:栄養障害性潰瘍として加療し開始C1カ月後.カルシウムは用手的に除去した.瘢痕を残して上皮は修復を完了した.[代表症例2]患者:92歳,男性.現病歴:1年前に眼部帯状疱疹を罹患し,右眼角膜炎,虹彩炎が遷延化した.ACV眼軟膏,ステロイド点眼で加療するも,樹枝状様の上皮病変が形を変えて何度も再燃し,難治性ヘルペス性角膜炎として紹介された.前医での前眼部写真を示す(図2a~f).初診時所見:当院初診時,左眼視力C0.02(n.c.),左眼眼圧12CmmHg,不整形の潰瘍が認められ,潰瘍辺縁が白濁化,一部直線化していた(図3a).潰瘍底は鑷子による触診にて,軟化した実質とカルシウム沈着が混在していた.フルオレセイン染色では,樹枝状のように見える上皮欠損が観察された(図3b).経過:栄養障害性潰瘍を疑い,紹介時に投与されていたACV眼軟膏およびステロイド点眼を中止し,VACV内服,抗菌薬軟膏のみを処方した.しかし,厚いカルシウム沈着が途絶している部分が深掘れの潰瘍となり,上皮修復が困難であった.潰瘍底に沈着したカルシウムと実質軟化が上皮の創傷治癒を妨げていると判断し,27CG針で物理的にカルシウム沈着を.離除去し,実質底が平坦となるように軟化した実質を切除した.同時に治療用コンタクトレンズ装用のうえ,0.1%フルオロメトロン点眼C2回,ACV眼軟膏C1回,抗菌薬点眼C4回,ヒアルロン酸CNa点眼C4回を処方し,約C1カ月後に,上皮修復を得た(図3c).表1全症例のまとめ症年齢虹彩毛原因紹介時緑内障角膜所見辺縁治療例性別前医からの紹介内容様体炎の既往ウイルスACV使用点眼上皮欠損の形状直線化白濁化血管侵入Ca沈着SCL使用C174歳,女性難治性ヘルペス角膜炎〇CHSV〇〇地図状類似〇〇C×〇〇C286歳,男性難治性ヘルペス角膜炎〇CHSV〇C×地図状類似〇〇〇〇C×385歳,男性遷延性角膜上皮欠損〇CHSVC×〇地図状類似C×〇C××〇C483歳,女性遷延性角膜上皮欠損〇CHSV〇〇地図状類似〇〇C××〇C578歳,女性難治性ヘルペス角膜炎〇CHSV〇C×樹枝状類似〇〇C×〇C×670歳,男性角膜潰瘍(ヘルペス角膜炎既往)〇CHSVC××地図状類似〇〇〇C×〇C792歳,男性難治性ヘルペス角膜炎〇CVZV〇〇樹枝状類似〇〇C×〇〇C883歳,男性遷延性角膜上皮欠損〇HSV疑〇〇樹枝状類似〇〇C×〇〇C950歳,男性角膜潰瘍(ヘルペス角膜炎既往)不明CHSVC××地図状類似〇〇C××〇代表症例C1は症例番号1,代表症例C2は症例番号C7を示す.[全症例まとめ]症例C1,2を含むC9症例の一覧表(表1)を示す.全例,複数回のヘルペス再発の既往を持ち,難治性ヘルペス性角膜炎,遷延性角膜上皮欠損や角膜潰瘍として紹介された.ウイルスの活動性上昇や耐性化の懸念から,紹介時にCACV眼軟膏をC3回以上投与されていたものはC9例中C6例と多く,虹彩毛様体炎の併発の既往があり,緑内障点眼をしていたものも約半数にみられた.すべて今までに単純ヘルペスウイルス(HSV)に典型的な上皮型や実質型を繰り返していた既往があり,ウイルスCPCR検査は施行していないが,臨床所見および経過からCHSVによる病態と判断した.なお,症例C7は眼部帯状疱疹の発症に続いて出現した遷延性上皮欠損であり,原因ウイルスをCVZVとした.角膜知覚低下は全例にみられた.角膜所見は,いずれもフルオレセイン染色で,樹枝状病変あるいは地図状病変に類似の所見を示した.全例,潰瘍縁の白濁化がみられ,潰瘍縁は一部直線化していた.角膜実質は浮腫のため膨化して融解傾向であり,約半数に潰瘍底にカルシウム沈着を認めた.このカルシウム沈着の範囲は,鑷子で触診することで確認が容易であった.また,カルシウム沈着部位と非沈着部位が混在することで,樹枝状あるいは地図状類似のフルオレセイン染色所見を呈していた.治療は,紹介時CACV軟膏を使用していた症例は全例中止し,バルトレックスC1日C2錠(分2)内服に変更,抗菌薬眼軟膏使用でガーゼ閉瞼を行った.虹彩炎の活動性があるものや血管侵入を伴う壊死型などはプレドニゾロンC1日C10Cmg内服あるいはフルオロメトロン点眼C2回を併用した.紹介時に細菌感染の併発が疑われたもの(9例中C2例)は,抗菌薬点眼を追加した.緑内障点眼を使用しているものは一度中止し,眼圧が高い場合は炭酸脱水酵素阻害薬の内服に切りかえた.抗ウイルス薬や緑内障点眼の中止と抗菌薬眼軟膏による保湿を2週間行っても上皮欠損が治癒しない症例は,DSCLを装用させた.既往に虹彩毛様体炎を複数回再発があり,リン酸ベタメタゾン点眼を繰り返し使用されているものはカルシウム沈着が強く,上皮欠損修復には物理的カルシウム除去が必要であった.栄養障害性潰瘍の診断後,治癒までの期間は平均約C1カ月であった.CIII考按栄養障害性潰瘍の形成要因には,角膜知覚障害,涙液減少,Bowman膜損傷,実質障害,抗ウイルス薬の毒性があるとされている2,8).今回の症例でも,上皮型・実質型の角膜ヘルペスの再発繰り返しによる角膜知覚低下やCBowman膜,実質の損傷が潜在していたと考えられる.角膜ヘルペスの患者では角膜知覚の低下は角膜神経の密度と数に強く相関し,病気の重症度に相関して患眼の神経密度が低下する3,4).発症からC3年程度経過すると,神経再生を認め,神経密度の回復の傾向がみられるが,健常者に比べ優位に低く,角膜知覚の低下は改善しない9).基底細胞下神経叢の神経の形態と密度の低下は角膜ヘルペスの発症回数が多いほど,著明であり4,10),とくに壊死性角膜炎で強かった.以上より,角膜ヘルペスの再発の繰り返しが,より強い非可逆的な三叉神経麻痺を生じ,角膜上皮細胞の増殖能低下をきたし,栄養障害性潰瘍を引き起こしやすくなると思われる.加えて今回の症例で栄養障害性潰瘍へと悪化する原因として,虹彩毛様体炎や続発緑内障に対し投与された緑内障点眼やリン酸ベタメタゾン点眼による薬剤毒性やカルシウムが沈着が影響したと考えられる.森ら8)は,実質型の複数回既往が栄養障害性潰瘍の危険因子であると述べており,今回の検討でも,同様の傾向が確認された.ウイルスそのものの増殖による所見とウイルスに対する免疫反応による所見が混在するヘルペス性角膜炎の治療では,ACV眼軟膏とステロイド投与の適正なバランスを保つことが困難である場合が多いと考えられる.たとえば,今回の症例の既往歴でも上皮型と実質型を併発した角膜ヘルペスにおいて,ACV眼軟膏投与と同時にステロイドを急に中止し実質炎を誘発したり,上皮型が治癒した時点でステロイドを続行したままCACV眼軟膏を中止することで上皮型の再発を招くという現状が確認された.このような経過中,栄養障害性潰瘍を発症しているにもかかわらず,不整形の上皮欠損をウイルスの再燃と判断してCACV眼軟膏が増量もしくは漫然と継続されることで,さらに難治化させる例が多いことが明らかとなった.栄養障害性潰瘍の臨床所見として,実質炎再発や薬剤毒性により実質が融解し,上皮細胞の増殖や伸展が妨げられるため,潰瘍辺縁部で上皮細胞が滞るため盛り上がり,膨隆や白濁化があげられる.今回の症例では,潰瘍縁が一部直線化しているものが多かった.通常,微生物感染などによる上皮欠損は不整形を示すが,栄養障害性潰瘍の場合は,伸展が滞った上皮細胞が潰瘍辺縁で直線の形状を形成すると考えられる.また長期の炎症に加え,ACV眼軟膏やベタメタゾン点眼などにより潰瘍底にカルシウム沈着が生じ,さらに上皮欠損が難治化する傾向にあった.栄養障害性潰瘍の発症機序から,治療のポイントは①上皮の増殖・伸展を促すこと,②潰瘍底を平坦化し,健常な状態に近づけること,③適度な保湿と消炎,④眼瞼による摩擦軽減であると思われる.具体的には,角膜上皮の増殖能を低下させるCACV眼軟膏を中止し内服に変更することや,防腐剤フリーの点眼薬の選択,保湿のための生理食塩水点眼などがある.カルシウムを物理的に除去し,軟化した潰瘍底を切除することも必要であり,さらに安静のために抗菌薬眼軟膏と圧迫眼帯を行い,場合によって治療用コンタクトレンズ使用も検討する.消炎が必要なためステロイドを使用するが,既往歴における上皮型の再発頻度によって,再発がない場合は点眼を,多い場合には内服を選択した.ただしステロイド使用中は必ず,抗ウイルス薬を局所少量あるいは内服のいずれかを投与し,再発防止を図った.症例の所見に応じて,抗ウイルス薬とステロイドのバランスを決定し,症例の既往歴に応じて投与方法を決定する必要があると考えられた.今回の症例から,大部分の栄養障害性潰瘍は保存的治療で治癒する可能性があると思われた.角膜移植はステロイド長期使用を余儀なくされるため,ヘルペス性角膜炎の再発を惹起しうる.栄養障害性潰瘍を早期に鑑別できれば,保存的に治癒させることは容易であると思われる.CIV結論ヘルペスによる角膜炎の治療経過において,栄養障害性潰瘍に気づかず,難治性角膜ヘルペスとしてCACV眼軟膏を続行すると,さらに難治化させる.栄養障害性潰瘍の臨床的特徴に早期に気づき,患者背景,投薬内容をもとに,治療方針の方向転換を行うことが大切であると考えられた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)大橋裕一:角膜ヘルペス─新しい病型分類の提案─.眼科C37:759-764,C19952)Ruiz-LozanoCRE,CHernandez-CamarenaCJC,CLoya-GarciaCDCetal:TheCmolecularCbasisCofCneurotrophicCkeratopa-thy:DiagnosticCandCtherapeuticCimplications.CaCreview.COculSurfC19:224-240,C20213)PatelCDV,CMcGheeCN:InCvivoCconfocalCmicroscopyCofChumanCcornealCnervesCinChealth,CinCocularCandCsystemicCdisease,CandCfollowingCcornealsurgery:aCreview.CBrJOphthalmolC93:853-860,C20094)NagasatoD,Araki-SasakiK,KojimaTetal:Morphologi-calCchangesCofCcornealCsubepithelialCnerveCplexusCinCdi.erentCtypesCofCherpeticCkeratitis.CJpnCJCOphthalmolC55:444-450,C20115)CruzatA,QaziY,HamraP:InvivoconfocalmicroscopyofCcornealCnervesCinChealthCandCdisease.COculCSurfC15:C15-47,C20176)EguchiCH,CHiuraCA,CNakagawaCHCetal:CornealCnerveC.berstructure,itsroleincornealfunction,anditschangesCincornealdiseases.BiomedResIntC2017:3242649,C20177)OkadaCY,CSumiokaCT,CIchikawaCKCetal:SensoryCnerveCsupportsepithelialstemcellfunctioninhealingofcornealepitheliuminmice:theroleoftrigeminalnervetransientreceptorCpotentialCvanilloidC4.CLabCInvestC99:210-230,C20198)森康子,下村嘉一,木下裕光ほか:ヘルペスのよる栄養障害性角膜潰瘍の形成要因.あたらしい眼科C7:119-122,C19909)FalconCMG,CJonesCBR,CWiliamsCHPCetal:ManegementCofCherpeticeyedisease.TransCOphthalmolSocUKC97:345-349,C197710)HamrahP,CruzatA,DastjerdiMHetal:Cornealsensa-tionCandCsubbasalCnerveCalterationsCinCpatientsCwithCher-pesCsimplexkeratitis:anCinCvivoCconfocalCmicroscopyCstudy.OphthalmologyC117:1930-1936,C201011)MoeinHR,KheirkhahA,Mull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