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コンタクトレンズ関連角膜感染症全国症例調査

2009年9月30日 水曜日

———————————————————————- Page 10910-1810/09/\100/頁/JCOPY状,初診時視力,臨床所見,治療薬(点眼,眼軟膏,結膜下注射,内服,点滴),塗抹検鏡,分離培養,検出菌,外科的治療の有無,3 カ月後の転帰,3 カ月後の視力である.患者へのアンケートは CL の商品名,種類,装用方法,処方された施設,購入先,週当たりの装用日数,装用時間,週当たりの洗浄回数,こすり洗いの有無,レンズケースの交換頻度,定期検査の頻度,取り扱い説明書の有無,週当たりの消毒の頻度,消毒の種類,装用方法遵守の程度,1 日ディスポーザブルソフトコンタクトレンズ(SCL)の使用期間,2 週間頻回交換 SCL の使用期間,定期交換(1, 3 カ月)SCL の使用期間などである.2. 対象症例今回の検討期間は平成 19 年 4 月~平成 20 年 8 月中旬,症例数は 233 例,年齢は 9~90 歳(平均 28 歳),性別は女性 104 例,男性 129 例であった.3. 初診時視力初診時矯正視力(両眼症例は悪いほうの視力)は,光覚弁~手動弁が 43 例(18%),指数弁~0.03 が 51 例(22%),0.04~0.06 が 9 例(4%),0.07~0.09 が 6 例(3%),0.1~0.3 が 35 例(15%),0.4~0.6 が 27 例(12%),0.7以上が 40 例(17%),記載なしが 22 例(9%)であった.視力としては約 5 割が初診時視力 0.1 未満であり重症例が多かった.はじめに近年コンタクトレンズ(CL)は使い捨てレンズ,特に2 週間タイプが主流となっている.それに伴い CL ケアもマルチパーパスソリューション(MPS)が主流となっている.ここ数年わが国においてはアカントアメーバ角膜炎の急増が大きな問題である.この現象は 2 週間タイプレンズの増加,消毒効果の弱い MPS でのケアが関係していることが容易に想像される.CL ユーザーの CLケアも非常にばらつきがあり,一部のユーザーは非常に危ない使用方法をしているのを頻繁に見かける.このような状況から,日本コンタクトレンズ学会と日本眼感染症学会は共同で CL 関連角膜感染症全国調査を平成 19年 4 月から行っている.今回その調査結果の途中経過を中心に述べる.ICL関連角膜感染症全国調査平成 19 年 4 月から全国 224 施設で調査を開始した.対象は CL 装用が原因と考えられる角膜感染症で入院治療を要した症例である.各施設の担当医あてに症例入力画面(担当医に依頼する調査内容と患者用アンケート)を送付し,調査終了後にホームページに書き込んでもらった.調査期間は当初は 1 年間であったが,その後 1 年延長され計 2 年となった.1. 調査内容担当医への調査内容は,年齢,性別,左右,自覚症(9)ツꀀ 1167ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 589 8511ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 377 2ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 特集●コンタクトレンズ関連角膜感染症 あたらしい眼科 26(9):1167~1171,2009コンタクトレンズ関連角膜感染症 全国症例調査Surveillance of Contact Lens-Related Corneal Infections in Japan福田昌彦*———————————————————————- Page 21168あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,2009(10)メーバの 35 株,その他のグラム陰性桿菌の 24 株,セラチアの 18 株などであった.微生物が多く検出された部位は角膜病巣,CL ケースであった.グラム陰性桿菌(緑膿菌)とアカントアメーバが多かった.アカントアメーバが塗抹検鏡あるいは分離培養で確認されたのは全部で 55 例(24%)であった.5. 3カ月後の矯正視力1.0 以 上 が 85 例(36%),0.7~0.9 が 37 例(16%),0.4~0.6 が 30 例(13%),0.1~0.3 が 16 例(7%),0.07~0.09 が 0 例(0%),0.04~0.06 が 4 例(2%),指数弁~0.03 が 12 例(5%),光覚弁~手動弁が 3 例(1%),0が 1 例(0.4%),記載なしが 45 例(19%)であった(図1).0.1 未満に限ってみると 20 例(9%)であった.CL による角膜感染症の重症例では失明に至る高度の視力障害が発生することが確認された.4. 細菌検査塗抹検鏡が行われたのは 181 例(78%)であった.結果は表 1 に示す.微生物が検出された部位は角膜病巣,結膜 ,眼脂,CL,CL ケース,その他に分類した.検出された微生物種はグラム陽性球菌,グラム陽性桿菌,グラム陰性球菌,グラム陰性桿菌,糸状真菌,アカントアメーバに分類した.微生物が検出された頻度は角膜病巣,CL ケース,CL の順に多かった.最も多く検出された微生物はアカントアメーバの 44 検体とグラム陰性桿菌の 44 検体であった.この 2 種も角膜病巣,CL ケースから多く検出された.分離培養が行われたのは 218 例(94%)で微生物が検出されたのは 144 例で,検出率は 66%であった.結果は表 2 に示す.微生物種は黄色ブドウ球菌,表皮ブドウ球菌,コリネバクテリウム,セラチア,その他のグラム陰性桿菌,アスペルギルス,アカントアメーバに分類された.多く検出されたのは緑膿菌の 58 株,アカントア表 1塗抹検鏡(181/233,78%)菌種グラム陽性球菌24グラム陽性桿菌16グラム陰性球菌9グラム陰性桿菌44糸状菌3アカントアメーバ44角膜病巣1413425140結膜 210100眼脂100400CL201305CL ケース8642227その他000000 太字は特に多く注意を要するもの.〔下村嘉一:CL 関連角膜感染症全国調査.眼科プラクティス第 28 巻ツꀀ 眼感染症の謎を解く,p.356,文光堂,2009 より引用〕表 2分離培養(218/233,94%),検出率(144/218,66%),主要な菌のまとめ菌種黄色ブドウ球菌7表皮ブドウ球菌11コリネバクテリウム13緑膿菌58セラチア18その他のグラム陰性桿菌24アスペルギルス1アカントアメーバ35角膜病巣3464734032結膜 12411000眼脂01171000CL22182600CL ケース124261221117その他01020001 太字は特に多く注意を要するもの.〔下村嘉一:CL 関連角膜感染症全国調査.眼科プラクティス第 28 巻ツꀀ 眼感染症の謎を解く,p.356,文光堂,2009 より引用〕———————————————————————- Page 3あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,20091169(11)般眼科と眼科併設販売店が 40~50%であり,CL 量販店は 1/4 程度であった.医師の処方なし,インターネット,外国での購入も若干名認めた.取り扱い説明書をもらわなかった人も約 10%に認めた.8. CL装用スケジュールの遵守装用スケジュールについては,守っていたが 43 例(18%),ほぼ守っていたが 79 例(34%),ほとんど守っていなかったが 50 例(21%),全く守っていなかったが 8例(3%),記載なしが 53 例(23%)であった(図 4).レンズタイプ別にみると,終日装用レンズを終日が 1146. 使用レンズタイプ2 週間頻回交換 SCL が 127 例(54%),定期交換(1,3カ月)SCLが39例(17%),1日ディスポーザブルSCLが16例(7%),カラーCLが11例(5%),ガス透過性ハード CL が 7 例(3%),従来型 SCL が 7 例(3%),1 週間連続装用 SCL が 4 例(2%),ポリメチルメタクリレート(PMMA)素材ハード CL が 3 例(1%),オルソK レンズが 2 例(1%),不明が 17 例(7%)であった(図2 ).2 週間タイプが半数以上であり,その他はすべてのレンズタイプに発症していた.海外での報告があるように夜間に装用するタイプのオルソケラトロジーレンズでも発症が認められた.7. CL処方を受けた施設,購入先,取り扱い説明書処方を受けた施設は,一般眼科が 94 例(40%),CL量販店隣接眼科が 65 例(28%),眼鏡店内眼科が 29 例(12%),医師の処方なしが 9 例(4%),その他が 5 例(2%),一般病院,大学病院が 6 例(3%),記載なしが 25例(11%)であった.購入先は,眼科施設に併設する販売店が 117 例(50%),CL 量販店が 55 例(24%),眼鏡店が 20 例(9%),その他が 10 例(4%),インターネットが 7 例(3%),外国で購入が 2 例(1%),記載なしが 22 例(9%)であった(図 3).取り扱い説明書をもらったが 165 例(71%),もらわなかったが 27 例(12%),記載なしが 41 例(18%)であった.処方を受けた施設,実際の購入先では,予想に反し一19%36%16%13%7%5%2%1%1%:1.0以上:0.7~0.9:0.4~0.6:0.1~0.3:0.04~0.06:指数弁~0.03:光覚弁~手動弁:0:記載なし図 13カ月後の矯正視力〔図 1~10 は,福田昌彦:コンタクトレンズ関連角膜感染症の実態と疫学.日本の眼科 80:693-698, 2009 より引用〕9%50%24%9%3%4%1%:眼科に併設する販売店:CL量販店:眼鏡店:その他:インターネット:外国で購入:記載なし図 3CLの購入先ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 頻回交換ツꀀツꀀツꀀ 定期交換ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ カ ーツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 連 装用ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ ーツꀀツꀀツꀀツꀀ ルツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 明図 2使用レンズタイプツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 守ツꀀ いたツꀀツꀀ 守ツꀀ いたツꀀ とツꀀ 守ツꀀ いなツꀀ た 全 守ツꀀ いなツꀀ たツꀀツꀀ な 図 4CL装用スケジュールの遵守———————————————————————- Page 41170あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,2009(12)2 週間レンズ,1 日レンズでは約半数,定期交換(1,3 カ月)SCL では約 1/4 が決められた期間より長期に装用していた.10.消毒薬使用していた消毒薬あるいは保存薬は,MPS が 126例(54%),過酸化水素が 10 例(4%),煮沸が 1 例(0.4%),記載なしが 96 例(41%)であり,MPS が過半数であった.回答が得られなかったものも MPS が大勢を占めていると推測された.11.CLの洗浄,消毒,こすり洗いCL の洗浄に関しては,毎日が 87 例(37%),時々が32例(14%),週2~3回が23例(10%),週4~6回が20 例(9%),ほとんどしないが 18 例(8%),全くしないが 9 例(4%),ツꀀ その他が 8 例(3%),ツꀀ 記載なしが 36 例(15%)であった(図 7).CL の消毒に関しては,毎日が69 例(30%),時々が 20 例(8%),全くしないが 18 例(8%),ほとんどしないが 13 例(6%),週 4~6 が 13 例( 6 % ),ツꀀ 週 2 ~ 3 が 1 4 例 ( 6 % ),ツꀀ そ の 他 が 5 例 ( 2 % ),ツꀀ 記例,終日装用レンズを連続が 56 例,連続装用レンズを終日が 21 例,連続装用レンズを連続が 11 例,記載なしが 31 例(13%)であった.装用スケジュールをほとんどあるいは全く守っていなかったのは 1/4 であり,終日装用レンズを連続装用しているケースもみられた.9. レンズタイプ別の装用期間2 週間頻回交換 SCL(127 例)の使用期間は,2 週間以内が 46 例(36%),2~3 週間が 32 例(25%),3 週間~1 カ月が 21 例(17%),1 カ月を超えたが 15 例(12%),記載なしが 13 例(10%)であった(図 5).1 日 SCL(16例)の使用期間は,1 日が 6 例(38%),2~3 日が 4 例(25%),1~2 週間が 1 例(6%),2 週間~1 カ月が 2 例(13%),1 カ月を超えたが 1 例(6%),記載なしが 2 例(13%)であった(図 6).定期交換(1,3 カ月)SCL(39例)の使用期間は,決められた期間以内が 26 例(67%),超過した期間が 1 週間以内 1 例(3%),1~2 週間が 4 例(10%),2 週間~1 カ月が 2 例(5%),1 カ月を超えたが 4 例(10%),記載なしが 2 例(5%)であった.36%25%17%12%10%:2週間以内:2~3週間:3週間~1カ月:1カ月~:記載なし図 52週間頻回交換SCLの使用期間ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 日ツꀀツꀀツꀀ 日ツꀀツꀀツꀀ 週間ツꀀ 週間ツꀀ カ月ツꀀ カ月ツꀀツꀀツꀀ な 図 61日SCLの使用期間ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 日 時ツꀀ 週ツꀀツꀀ 回 週ツꀀツꀀ 回ツꀀ とツꀀツꀀ ない 全ツꀀ ないツꀀ のツꀀツꀀツꀀ な 図 7CLの洗浄ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 日 時ツꀀ 週ツꀀツꀀ 回 週ツꀀツꀀ 回ツꀀ とツꀀツꀀ ない 全ツꀀ ないツꀀ のツꀀツꀀツꀀ な 図 8CLの消毒———————————————————————- Page 5あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,20091171(13)約 3 割,定期検査をほとんどあるいは全く受けない人は約 3 割であった.おわりに細菌検査では緑膿菌を中心としたグラム陰性桿菌とアカントアメーバが多く検出された.検出部位は角膜病巣部と CL ケースが多かった.レンズタイプでは 2 週間頻回交換 SCL が約半数であった.CL の処方を受けたのは一般眼科と CL 量販店隣接眼科が多く,購入先は眼科施設に併設する販売店,CL 量販店が多かった.CL の洗浄を毎日しない人は約半数,CL の消毒を毎日しない人は約 4 割,こすり洗いを毎日しない人は約 7 割であった.レンズケース交換をほとんどあるいは全くしない人は約 3 割,定期検査をほとんどあるいは全く受けない人は約 3 割であった.CL の装用期間については 2 週間頻回交換 SCL,1 日 SCL では約半数,定期交換(1,3 カ月)SCL では約 1/4 が決められた期間より長期に装用していた.CL 装用に関連する重症の角膜感染症はグラム陰性桿菌とアカントアメーバが多く,特にアカントアメーバの急増が大きな問題であると考えられた.重症の感染を起こした症例の CL の扱い,定期検査に関する意識は非常に低いことが明らかとなった.CL は医師の定期検査が必要な高度管理医療機器で,危険を伴うものであり,使用期間,消毒,保管方法の遵守が大切であることのますますの啓発が必要であると考えられた.文献 1) 感染性角膜炎全国サーベイランス・スタディグループ:感染性角膜炎全国サーベイランス─分離菌・患者背景・治療の現況─.日眼会誌 110:961-972, 2006 2) 大橋裕一,鈴木崇,原祐子ほか:コンタクトレンズ関連細菌性角膜炎の発症メカニズム.日コレ誌 48:60-67, 2006 3) Nagington J, Watson PG, Playfair TJ et al:Amoebic infection of the eye. Lancet 2:1537-1540, 1974 4) 石橋康久:アカントアメーバ角膜炎 37 自験例の分析.眼科 44:1233-1239,2002 5) 糸井素純,植田喜一,岡野憲二ほか:インターネットによるコンタクトレンズ眼障害のアンケート調査.日コレ誌 50:111-121, 2008載なしが 81 例(34%)であった(図 8).CL のこすり洗いは,毎日が 43 例(18%),ほとんどしないが 37 例(16%),時々が 37 例(16%),全くしないが 36 例(15%),週2~3回が18例(8%),週4~6回が19例(8%),その他が 7 例(3%),記載なしが 37 例(16%)であった.CL の洗浄を毎日しない人は約半数,CL の消毒を毎日しない人は約 4 割,こすり洗いを毎日しない人は約 7割であった.12.レンズケース交換,CLの定期検査レンズケース交換は,3 カ月以内が 46 例(20%),6カ月以内が 20 例(9%),不定期が 43 例(18%),ほとんどしないが 43 例(18%),全くしないが 32 例(14%),その他が 12 例(5%),記載なしが 37 例(16%)であった(図 9).CL の定期検査は,1 カ月が 2 例(1%),3 カ月が53例(23%),6カ月が36例(15%),1年が10例(4%),不定期が 31 例(13%),ほとんど受けないが 28例(12%),全く受けないが 42 例(18%),その他が 2例(1%),記載なしが 29 例(12%)であった(図 10).レンズケース交換をほとんどあるいは全くしない人は20%9%18%18%5%14%16%:3カ月以内:6カ月以内:不定期:ほとんどしない:全くしない:その他:記載なし図 9レンズケース交換12%23%16%4%13%18%12%1%1%:1カ月:3カ月:6カ月:1年:不定期:ほとんど受けない:全く受けない:その他:記載なし図 10CLの定期検査

コンタクトレンズ関連角膜感染症レビュー

2009年9月30日 水曜日

———————————————————————-Page10910-1810/09/\100/頁/JCOPY近になってようやく全国の多施設が共同し,プロスペクティブに症例を収集した調査結果1)が発表されたが,これも母数に関する調査はされていないため,客観的に発生頻度の絶対値を得ることや,各因子の相対的危険度を正確に相互比較することはできない.CL関連角膜感染症ではなく,CL装用が原因となった眼科救急受診者については,CLメーカーの調査から得た全国のCL装用者数を母数として,各種CLの相互比較2)がなされている.しかし,この手法には表1に示すような問題があるため,1,2の形態の調査報告では,表2に示すような2種の方法で対照を得ることが多い.以後,それぞれ「施設対照」「地域対照」と記述する.II調査対象となる因子CL関連角膜感染症に関わる因子として,通常,表3に示したようなCLに直接関わる要因と,それ以外の要因が調査される.CL関連角膜感染症症例と対照症例について,これらの各因子の分散分析,ロジスティック回帰分析などによって,統計的有意差,オッズ比とその信はじめにコンタクトレンズ(CL)装用は角膜感染症の大きな危険因子であるため,その発生要因,発生頻度などについて多くの調査がなされてきた.本稿では,CL関連角膜感染症の疫学的調査を主に,過去の論文をレビューする.I感染症調査の種類CL関連角膜感染症調査報告には,つぎのような種類がある1.CL関連角膜感染症の発生頻度調査2.CL関連角膜症における各因子の相対的危険度調査3.各施設におけるCL関連角膜症による受診患者調査1の形態の調査を行うためには母数,すなわちCLの使用者数全体の人数が必要となる.2の形態であれば,CLの使用者における各因子の割合がわかれば,人数の絶対値がなくとも相対的な危険度を評価することができる.しかし,わが国では3の各施設による個別の報告が多く,1,2に相当する調査の報告はほとんどない.最(3)1161I53000011311ビ1特集●コンタクトレンズ関連角膜感染症あたらしい眼科26(9):11611166,2009コンタクトレンズ関連角膜感染症レビューReviewofContactLens-RelatedCornealInictions稲葉昌丸*表1CL関連角膜感染症の対照を,全国のCL装用者人口とした際の問題点A調査対象地域における各種CLの装用比率が,全国平均と異なっていれば,誤った母数によって間違った発生頻度が導き出されてしまう.B調査施設の専門性や経済的な問題などのために,その施設に来院する患者の各種CLの装用比率が平均的なCL装用者と異なっていれば,これも誤った母数から間違った発生頻度を導くことになる.CCLメーカーや調査会社のアンケートなどで得られた使用者人口が正確であることを保証するものがない.学術的論文に使用するには,メーカーなどの承認が必要となる.———————————————————————-Page21162あたらしい眼科Vol.26,No.9,2009(4)ら11)による,CL関連外の眼疾患や全身疾患がある症例のほうが発症リスクが低いという報告は解釈がむずかしい.疾患を有し,自己の健康状態に注意している者のほうが,異常を感じたときに早期にCL中止,受診などの対策をとるためとも考えられる.若年,男性が危険因子となっているのも,これらの対応がおろそかであるとも解釈できる.喫煙が危険因子となっているのも,喫煙行為自体と同時に,自己の健康に配慮しない者が喫煙を行いやすいという要素が働いているのかもしれない.表5に示した危険因子のほかに,十分な対照をとった調査は頼限界などを求めるのが一般的な解析方法である.通常は無水晶体眼用CLや治療用CLは例外的なCLとして解析対象から外される.また12歳以下の症例も,正確なデータが聴取しにくい,症例数も少ないなどの理由で対象から外すことが多い.このような前提に基づき,これまでの各国の報告を表4,5315)に要約する.CL種別についてはハードCLの安全性が目立ち,危険因子としては連続装用,喫煙,若年,男性などが共通している.表5のMcNallyらの報告14)にある,CL関連眼既往症が危険因子となることは容易に理解できるが,Morgan表2CL関連角膜感染症調査における対照のとり方施設対照:調査施設に来院した他の患者を対照とする地域対照:調査施設の対象地域のCL使用者を対照とする調査期間内に来院した患者のうち,CL関連角膜感染症患者を除くCL装用者を対照とし,この対照群におけるCL種別,使用方法,CLケアや性別,喫煙習慣などの因子を調査し,CL関連角膜感染症患者群との比較を行う.これによって表1のACの問題点をクリアすることはできるが,他の疾患(通常,眼科疾患)のために調査施設に受診した使用者のみを対照としているため,健康で一般的なCL装用者が除外されており,必ずしも正確な対照とはならない.また,対照症例数は限定される.しかし,施設内のカルテ参照などによってデータが得られるため,比較的容易に対照を得ることができる.調査施設に来院する患者の居住地域を対象に,無差別に家庭を選び出して電話アンケートなどを行い,CL装用者がいれば装用CL種別や他の調査対象となる因子を聴取し,これを対照とする.具体的には,調査施設が属する地方自治体を対象としてその地方の住民にアンケートを行う,来院したCL関連角膜感染症患者と同じ郵便番号を持つ地域の住民に電話調査を行う,などの方法がある.対照症例数を自由に増やすことができる.調査を行った全数の中にCL装用者が占める割合を算出し,対象地域の人口と全国の人口を比較すれば,対象地域における各種CL装用者の絶対数を推定することもできる.しかし,アンケート調査には,対象から個人情報の収集や利用の許可を得るところから始まって多大な労力,費用が必要となる.また,装用者の絶対数を算出する際には,表1のAの問題点も存在する.表3CL関連角膜感染症に関して調査される因子CLに直接関わる因子それ以外の因子CLの種別(ハードCL,ソフトCL,シリコーンハイドロゲルCLなど)CLの装用方法(終日装用,連続装用,両者の混用など)使用日数(CLの交換方法)(1日,2週間,1カ月交換,不定期交換など)CL装用時間CLの度数使用しているCLケア用品の種類装用者の性別装用者の年齢装用者の居住地域装用者の経済状態医療機関の遠さ発症から受診までの間隔他の眼疾患の有無,既往歴全身疾患の有無,既往歴ステロイド,免疫抑制薬使用の有無CLケアの良否定期検査受診状況の良否手洗い習慣の良否喫煙習慣の有無CLを装用した状態での河川の水への曝露発症時期(季節)視力予後要した治療期間———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.9,20091163(5)因子として注目されている.まだ行われていないが,CLを装用したまま河川,湖などで泳ぐこと16),CLを装用したままシャワーを浴びたり,水道水をCLケア時に使用したりすること17)も危険表4CL関連感染症に関わる角膜合併症とCL種別等による危険性―その1報告者,年合併症観察・調査期間調査方法,対象対照結果,評価項目馬嶋ら3),1980年角膜浸潤1979年8月1980年4月無水晶体眼用EW・SCL装用者72例93眼なし期間中に3眼発症1年・1万眼当たり62.2眼に相当岩崎ら4),1988年角膜感染症が疑われる角膜潰瘍,角膜浸潤377カ月(平均24.8カ月)無水晶体眼用EW・SCL装用者3施設154例173眼なし期間中に18眼発症1年・1万眼当たり503.5眼に相当Scheinら5),1989年角膜潰瘍1986年11月1987年11月期間中に受診した潰瘍性角膜炎患者のうち,SCL装用者86例施設対照:61例地域対照:410例DW・SCLに対する相対的危険性〔対照のとり方(左欄)によって異なる〕DW・SCLのEW:8.969.55倍EW・SCLのDW:2.572.76倍EW・SCLのEW:10.1715.04倍EW継続日数が1日:2.43.6倍EW継続日数が27日:6.810.0倍EW継続日数が814日:11.837.9倍EW継続日数が15日以上:14.545.0倍Poggioら6),1989年角膜潰瘍1987年6月1日7月31日,8月1日9月30日期間中に5州の登録眼科医を受診した137例地域対照:10,404名1年1万眼当たり発生頻度およびDW・SCLに対する相対的危険性DW・SCL:4.1眼EW・SCL:20.9眼,5.15倍HCL:2.0眼,0.5倍RGPCL:4.0眼,1.0倍Matthewsら7),1992年細菌性および無菌性角膜炎1990年12月12日1991年3月27日期間中に受診したCL関連細菌性角膜炎6例,無菌性角膜炎10例施設対照:307例DW・HCLに対する相対的危険性EW・使い捨てSCL:8.12倍(細菌性角膜炎17.36倍,無菌性角膜炎4.24倍)DW・SCL,使い捨てでないEW・SCL,DW・使い捨てSCLについては有意差なしBuehlerら8),1992年角膜潰瘍1990年1月1992年6月期間中に受診した42例施設対照:210例DW・SCLに対する相対的危険性RGPCL:0.86倍EWSCL:1.84倍EW・使い捨てSCL:13.47倍Scheinら9),1994年角膜潰瘍1990年1月1992年6月期間中に受診した40例施設対照:180例DW・SCLに対する相対的危険性RGPCL:1.08倍EW・SCL:2.78倍使い捨てSCL(うち85%は習慣的EW,10%はEW経験あり):13.33倍Edmundsら10),2000年細菌性角膜炎11.5年間.累計観察期間は2200年×眼に相当シリコーンハイドロゲルCL連続装用者4,800例なし発症者なし1年1万眼当たり4.5眼未満に相当———————————————————————-Page41164あたらしい眼科Vol.26,No.9,2009(6)くの調査がなされており,多数の報告を比較,検討した論文16,1820)も多い.しかし,欧米ではSCLを習慣的,あるいは臨時に連続装用する患者が多い.表4に示したIII考察CL関連角膜感染症については本稿で示したように多表4CL関連感染症に関わる角膜合併症とCL種別等による危険性―その2報告者,年合併症観察・調査期間調査方法,対象対照結果,評価項目Morganら11),2005年角膜浸潤2003年1月25日2004年1月24日期間中に受診した118例施設対照:292例地域対照:55,414例DW・SCLに対する相対的危険性〔対照(左欄)のとり方によって異なる〕DW・RGPCL:0.420.46倍EW・SCL:有意差なし7.08倍EW・SHCL:有意差なし5.81倍1日使い捨てSCLは有意差なし重症角膜浸潤同上上記のうち,重症例38例同上DW・SCLに対する相対的危険性EW・SCL:15.16倍RGPCL,1日使い捨てSCL,EW・SHCLは有意差なしStapletonら12),2008年細菌性角膜炎2003年10月1日2004年9月30日期間中にオーストラリア全土およびニュージーランドの眼科施設を受診した285例地域対照:1,798例1年1万例当たり発生頻度DW・RGPCL:1.2例DW・SCL:1.9例DW/EW・SCL:2.2例1日使い捨てSCL:2.0例DW/EW・1日使い捨てSCL:4.2例DW・SHCL:11.9例DW/EW・SHCL:5.5例EW・SCL:19.5例EW・SHCL:25.4例重症細菌性角膜炎同上上記のうち視力低下例34例同上1年1万例当たり発生頻度DW・RGPCL:0例DW・SCL:0.4例DW/EW・SCL:0.2例1日使い捨てSCL:0例DW/EW・1日使い捨てSCL:0例DW・SHCL:1.1例DW/EW・SHCL:1.6例EW・SCL:4.0例EW・SHCL:2.8例Dartら13),2008年細菌性角膜炎2003年12月3日から2年間期間中に受診した367例施設対照:1,069例地域対照:639例定期交換DW・SCLに対する相対的危険性RGPCL:0.16倍1日使い捨てSCL:1.56倍(ただし,重症例では有意差なし)SHCL,その他のSCLは有意差なしDWに対するEWの相対的危険性DW/EW(週1回以下のEW):1.87倍EW:5.28倍DW:終日装用,EW:連続装用,DW/EW:時に連続装用を行うことがある終日装用,HCL:ハードCL,RGPCL:ガス透過性ハードCL,SCL:ソフトCL(シリコーンハイドロゲルCLを除く),SHCL:シリコーンハイドロゲルCL.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.9,20091165(7)ケアが不良となった例が含まれている可能性がある.また,信頼性が低いために姿を消した塩素消毒が,調査時期に一致して使用されていた地域もある.水道水の水質Stapletonら12)による「SHCL装用者に細菌性角膜炎が多い」という報告も,欧米ではSHCLが連続装用で使用されることが多いために,装用スケジュールやレンズ表5CL関連角膜感染症に関わる角膜合併症の危険因子報告者,年合併症観察・調査期間調査方法,対象対照危険因子Scheinら5),1989年角膜潰瘍表4参照表4参照表4参照喫煙:喫煙者は非喫煙者の2.694.17倍Poggioら6),1989年角膜潰瘍表4参照表4参照表4参照性別:DWSCLでは男性のほうが多い.EWSCLでは有意差なし地域差:EWSCLではニューハンプシャー州が他州(メイン,マサチューセッツ,ロードアイランド,ヴァーモント)に比し有意に少ない.DWSCLでは州による有意差なしMcNallyら14),2003年角膜浸潤1年間米国59施設でSHCLの1カ月間EWを行った658名なし年齢:1829歳は30歳以上より多い喫煙:30歳未満の喫煙者は同年齢の非喫煙者の2.7倍.全年齢では有意差なしCL関連眼既往症:過去にCL関連急性炎症を起こした例は既往がない例の7倍弱.角膜に瘢痕を認める例では4.1倍.期間中に角膜浸潤を起こしたものは6倍近く再発しやすいMorganら11),2005年角膜浸潤表4参照表4参照表4参照性別:男性は1.311.41倍喫煙:喫煙者は全症例では1.35倍,重症例では2.06倍眼疾患:角膜浸潤以外の眼疾患がないものは,あるものの1.77倍全身疾患:他の全身疾患がないものは,あるものの2.35倍季節:7月に対し2月は2.42倍,3月は3.63倍Keayら15),2006年細菌性角膜炎16カ月期間中にオーストラリア全土およびニュージーランドの眼科施設を受診した297例なし年齢:28歳以上は28歳未満より治療期間が長い治療開始時期:発症後12時間以上経過してから治療を開始した者は視力低下例が多く,治療期間が長い医療機関からの距離:医療機関から遠い者は視力低下の危険性が5.1倍検出菌:グラム陰性菌,ノカルジア菌,アカントアメーバ,真菌のいずれかが,検出された例では,グラム陽性菌のみ,または検出なしの例に比し視力低下の可能性が11.4倍.また,治療期間が長いCL種別:EW・SHCLはEW・SCLより治療期間が短いDartら13),2008年細菌性角膜炎表4参照表4参照表4参照性別:男性は1.48倍年齢:50歳以上は0.45倍週当たり装用日数:2日以下装用者に対し,35日装用者は3.46倍,67日装用者は6.05倍屈折:遠視例は近視例の1.77倍手洗い:CLケア前の手洗いを確実に行わない者は1.49倍略号は表4に同じ.———————————————————————-Page61166あたらしい眼科Vol.26,No.9,2009(8)es.ArchOphthalmol110:1559-1562,19928)BuehlerPO,SheinOD,StamlerJFetal:Theincreasedriskofulcerativekeratitisamongdisposablesoftcontactlensusers.ArchOphthalmol110:1555-1558,19929)SheinOD,BuehlerPO,StamlerJFetal:Theimpactofovernightwearontheriskofcontactlens─Associatedulcerativekeratitis.ArchOphthalmol112:186-190,199410)EdmundsFR,ComstockTL,ReindelWT:CumulativeclinicalresultsandprojectedincidentratesofmicrobialkeratitiswithPureVisionsiliconehydrogellenses.ICLC27:182-186,200011)MorganPB,EfronN,BrennanNAetal:Riskfactorsforthedevelopmentofcornealinltrativeeventsassociatedwithcontactlenswear.InvestOphthalmolVisSci46:3136-3143,200512)StapletonF,KeayL,EdwardsKetal:Theincidenceofcontactlens-relatedmicrobialkeratitisinAustralia.Oph-thalmology115:1655-1662,200813)DartJKG,RadfordCF,MinassianDetal:Riskfactorsformicrobialkeratitiswithcontemporarycontactlenses─Acasecontrolstudy.Ophthalmology115:1647-1654,200814)McNallyJJ,ChalmersRL,McKenneyCDetal:Riskfac-torsforcornealinltrativeeventswith30-nightcontinu-ouswearofsiliconehydrogellenses.EyeContactLens29:S153-S156,200315)KeayL,EdwardsK,NaduvilathTetal:Factorsaectingthemorbidityofcontactlens-relatedmicrobialkeratitis:Apopulationstudy.InvestOphthalmolVisSci47:4302-4308,200616)HoldenBA,SweeneyDF,SankaridurgPRetal:Microbialkeratitisandvisionlosswithcontactlenses.ContactLens&AnteriorEye29:S131-S134,200317)CavanaghHD,HoldenBA:Safety,safety,safety.EyeContactLens33:341,200718)StapletonF:Contactlens-relatedmicrobialkeratitis:WhatcanepidemiologicstudiestellusContactLens&AnteriorEye29:S85-S89,200319)KeayL,RadfordC,DartJKetal:Perspectiveon15yearsofresearch:Reducedriskofmicrobialkeratitiswithfrequent-replacementcontactlenses.EyeContactLens33:167-168,200720)KeayL,StapletonF,ScheinO:Epidemiologyofcontactlens-relatedinammationandmicrobialkeratitis:A20-yearperspective.EyeContactLens33:346-353,2007基準や,基本的な衛生習慣も国によって異なり,たとえば,日本では中水道ですら大腸菌は検出不可であるが,米国の上水道の水質基準では少数なら可とされている.他国の調査結果をそのまま日本に当てはめるのは問題である.CLやケア用品自体も急速に変化しており,現代の臨床に応用できるデータを得るには,日本において継続的な調査を行う必要がある.福田らの調査は,これに相当する初めての報告であるが,対照を得ていないのが難点である.対照の取り方には表2に示した2つの方法があるが,施設対照であれば,参加施設の協力さえ得られれば集計することが可能である.一症例に対して,同時期にその施設を受診したCL装用患者数名のデータを抽出することができれば,日本におけるCL関連角膜症の実態と,危険因子に関する理解は格段に深まる.実際には多くの労力が必要となるが,これからぜひ実現させねばならない作業である.文献1)福田昌彦:コンタクトレンズ関連角膜感染症の実態と疫学.日本の眼科80:693-698,20092)稲葉昌丸,佐野研二,濱野孝:コンタクトレンズによる眼科救急の実態.日コレ誌49:84-88,20073)馬嶋慶直,野川秀利,江崎淳次:高含水率ソフトコンタクトレンズの無水晶体眼に対するextendedwearについて.日コレ誌22:229-306,19804)岩崎直樹,井上徹,濱野孝ほか:無水晶体眼に対する高含水率ソフトコンタクトレンズの連続装用による障害について.日コレ誌30:38-43,19885)ScheinOD,GlynnRJ,PoggioECetalandtheMicrobialKeratitisStudyGroup:Therelativeriskofulcerativekeratitisamongusersofdaily-wearandextended-wearsoftcontactlenses:Acase-controlstudy.NEnglJMed321:773-778,19896)PoggioEC,GlynnRJ,ScheinODetal:Theincidenceofulcerativekeratitisamongusersofdaily-wearandextended-wearsoftcontactlenses.NEnglJMed321:779-783,19897)MatthewsTD,FrazerDG,MinassianDCetal:Risksofkeratitisandpatternsofusewithdisposablecontactlens-

序説:コンタクトレンズ関連角膜感染症の現状と課題

2009年9月30日 水曜日

———————————————————————- Page 10910-1810/09/\100/頁/JCOPYはない.現時点においては,関係者がお互いの知恵を出し合い,難局を乗り越える努力を続けていく必要がある.上述のような背景のなか,この特集では,CL 関連角膜感染症にフォーカスを当て,多様な視点から現状と課題を浮き彫りにすることに主眼を置いた.まず,稲葉昌丸先生には,コンタクトレンズ関連角膜感染症に関するこれまでの疫学調査報告をレビューしていただいた.諸外国に比較してわが国での取り組みは大幅に遅れており,実態をより明確に把握するため,コントロールされたスタディの実施が望まれるところである.ついで,福田昌彦先生からは,CL 学会と眼感染症学会が共同で行った重症コンタクトレンズ関連角膜感染症の全国調査の途中経過をご紹介いただいた.いくつかの学会ですでに発表された内容ではあるが,アカントアメーバとグラム陰性桿菌とが主要病原体であることが改めて確認できる.また,植田喜一先生と柳井亮二先生には,臨床的な視点からコンタクトレンズケアの現状と問題点を,森理氏には,基礎的な視点から MPS の消毒効果をシステマティックにご分析いただいた.いずれの立場からも,MPS による消毒効果の限界とレンズケアにおける『こすり洗いとすすぎ』の重要性を強調したメッセージが発信された.一方,江口洋先生からは,角膜感染症の温床といえるコン1,700 万人を超えようとするコンタクトレンズ(CL)ユーザーが存在するなか,安全で快適なレンズ装用を演出し,サポートすることは,われわれ眼科医に課せられた大きな責務であるといえる.しかしながら,酸素透過性の向上を軸とした CL 素材の進歩にもかかわらず,CL 協議会や眼科医会が例年実施している調査においても,眼障害の発生が一向に減る様子はなく,むしろ角膜感染症に象徴される重篤な眼合併症が増加傾向にある.問題なのは,こうした角膜感染症の患者の大半が若年層で,病原体によっては恒久的な視機能障害を残す危険性を有する点にある.これは,国家として,きわめて大きな社会的損失といえよう.さて,角膜感染症増加の背景の一つに,頻回交換ソフト CL の普及と,そのケアに密接に関連したマルチパーパスソリューション(MPS)の存在があると考えられる.レンズケースに保存されるタイプのCL は,緑膿菌やアカントアメーバなど,環境に棲息する病原体の汚染に晒されやすいことがよく知られており,特に,MPS でケアを行う場合には,消毒効果が高くない点から,コンプライアンスのよくないユーザーにおいては比較的容易に汚染が生じる素地がある.仮に,CL がすべて一日使い捨てレンズに一本化されるなら,この悪循環を断ち切ることも可能ではあろうが,急速な構造変革は望めそうに(1)ツꀀ 1159ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 感ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ ●序説 あたらしい眼科 26(9):1159 1160,2009コンタクトレンズ関連角膜感染症の 現状と課題Current Trends and Issues on Contact Lens-Related Microbial Keratitis大橋裕一*———————————————————————- Page 21160あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,2009(2)タクトレンズケース内の微生物汚染について,遺伝子タイピングを用いた興味深いアプローチをご紹介いただいた.CL 関連角膜感染症の病態を解明していくうえで,有用なツールになることが期待される.最後に,コンタクトレンズ関連角膜感染症の臨床に焦点を移し,頻度の高い細菌感染症については土至田宏先生から,最大の敵,アカントアメーバについては宇野敏彦先生から,診断,治療のエッセンスをご解説いただいた.第一線の眼科医として,患者の背景因子,臨床所見などから起炎菌を絞り込む能力をぜひ身につけておきたいものである.このように,CL 関連角膜感染症にかかわる課題は山積している.学会サイドとしては,重症感染症に的を絞り,眼感染症の専門家の所属する診療拠点を中心に,今後とも発生動向調査を継続していく予定であり,先にも述べた全国レベルの疫学調査へとつなげていきたいと考えている.政府による積極的な研究費の投下が望まれるところである.また,角膜感染症の増加を背景に立ち上がった MPS フォーラムの活動にも力を入れたい.本フォーラムは,眼感染症および CL 診療を専門とする眼科医,そして,MPS あるいは CL を販売する企業の実務担当者をメンバーとする自由な意見交換の場であり,フランクな議論のなか,解決策を地道に模索している.特に,レンズケアの重要性を示す啓発メッセージをMPS や CL のパッケージなどの目立つ場所に掲載するという合意が全会一致で得られたことは大きな成果であり,一部の企業ではすでに実行に移されている.その一方で,難敵であるアカントアメーバに対する消毒基準の設定は急務である.現在,こうしたレンズ消毒剤は主要細菌および真菌に対する比較的緩やかな基準のもと,医薬部外品として販売されているが,生じている合併症の重篤性を鑑みれば,グローバルな基準設定のなかで,その性能が再評価されるべきであろうと考える.今後は疾病予防に向けた横断的な臨床研究を活性化するとともに,国民への啓発活動を幅広く展開していく必要がある.まずは,個々の眼科医が日常の臨床において着実な指導を行うとともに,昨年度に立ち上げた眼科啓発会議などを基軸に,CL 装用におけるレンズケアの重要性を社会に根付かせていくよう,努力すべきである.

ソフトコンタクトレンズ上から点眼可能な抗アレルギー剤(C3AL)の有効性および安全性の臨床的検討

2009年8月31日 月曜日

———————————————————————-Page1(137)11430910-1810/09/\100/頁/JCOPYあたらしい眼科26(8):11431152,2009c〔別刷請求先〕宮永嘉隆:〒134-0088東京都江戸川区西葛西5-4-9西葛西・井上眼科病院Reprintrequests:YoshitakaMiyanaga,M.D.,NishikasaiInoueEyeHospital,5-4-9Nishikasai,Edogawa-ku,Tokyo134-0088,JAPANソフトコンタクトレンズ上から点眼可能な抗アレルギー剤(C3AL)の有効性および安全性の臨床的検討宮永嘉隆*1,a村上晶*2中安清夫*3木村一弘*4勝海修*5佐野研二*6工藤昌之*7樋口裕彦*8糸井素純*9,b*1西葛西・井上眼科病院*2順天堂大学医学部附属順天堂医院眼科*3中安眼科クリニック*4井上眼科病院付属駿河台診療所*5西葛西井上眼科クリニック*6あすみが丘佐野眼科*7道玄坂糸井眼科医院*8ひぐち眼科*9糸井眼科医院(a:治験調整医師,b:医学専門家)ClinicalEvaluationofEcacyandSafetyofC3AL,anOphthalmicSolutionInstillablewithoutSoftContactLensRemovalYoshitakaMiyanaga1),AkiraMurakami2),KiyooNakayasu3),KazuhiroKimura4),OsamuKatsumi5),KenjiSano6),MasayukiKudo7),HirohikoHiguchi8)andMotozumiItoi9)1)NishikasaiInoueEyeHospital,2)DepartmentofOphthalmology,JuntendoHospital,JuntendoUniversitySchoolofMedicine,3)NakayasuEyeClinic,4)SurugadaiClinic,InoueEyeHospital,5)NishikasaiInoueEyeClinic,6)AsumigaokaSanoEyeClinic,7)DogenzakaItoiEyeClinic,8)HiguchiEyeClinic,9)ItoiEyeClinicC3ALは防腐剤として塩化ベンザルコニウムを含まず,ソフトコンタクトレンズの上から点眼可能な「目のかゆみ」などの外眼部炎症症状に有効な一般用医薬品の点眼薬として開発された.今回,ソフトコンタクトレンズを使用しており,装用中に「目のかゆみ」などの外眼部炎症に起因する自覚症状を有する患者104例に,ソフトコンタクトレンズの上からC3ALを2週間投与し,自覚症状に対する有効性および安全性について検討した.その結果,C3ALの点眼による自覚症状の改善率は,「目のかゆみ」で87.3%,「目の疲れ」で78.2%,「目のかわき」で83.3%,「目のかすみ」で81.6%,「異物感」で85.7%であった.また,点眼薬の副作用は「上眼瞼の皮膚のただれ」1件(発現率1.0%)のみで,その他の副作用は一切認められなかった.以上より,C3ALは外眼部炎症に伴う自覚症状の改善に有効であり,ソフトコンタクトレンズの上から点眼が可能な点眼薬であることが確認された.C3ALisanover-the-counter(OTC)ophthalmicsolutionforimprovingmildsymptomsofexternalocularinammation,suchaseyeitchiness,withouttheneedforsoftcontactlensremoval.TheecacyandsafetyofC3ALwereevaluatedin104patientswithmildexternalocularinammationwhousedsoftcontactlensesandnoticedsubjectivesymptomsofeyeitchinessetc.whilewearingthecontactlenses.C3ALwasadministeredfor2weeksinthepresenceofsoftcontactlenses.Improvementratesforvarioussymptomswere:eyeitchiness87.3%,eyefatigue78.2%,eyedryness83.3%,blurredvision81.6%andforeignbodysensation85.7%.Therewasonly1instanceofadversereaction:soreuppereyelid(incidence:1.0%).TheseresultssuggestthatC3ALiseectiveinimprovingmildsymptomsofexternalocularinammation,andissafeenoughtopermitinstillationwithoutsoftcontactlensremoval.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(8):11431152,2009〕Keywords:C3AL,ソフトコンタクトレンズの上からの点眼,外眼部炎症性疾患,アレルギー,安全性,一般用医薬品.C3AL,instillationwithoutremovingsoftcontactlenses,externalocularinammatorydisease,allergy,safety,over-the-counterdrug.———————————————————————-Page21144あたらしい眼科Vol.26,No.8,2009(138)はじめに近年,1日使い捨てソフトコンタクトレンズや頻回交換ソフトコンタクトレンズなどの登場により,ソフトコンタクトレンズ使用者が急増した.ソフトコンタクトレンズ使用者の多くは,軽度のドライアイや軽微な外眼部炎症に伴う自覚症状を伴っており,ソフトコンタクトレンズ上からの点眼薬を希望する人も少なくない.しかし,医療用医薬品・一般用医薬品を問わず,多くの点眼薬はソフトコンタクトレンズ上からの点眼は禁忌である.他覚所見が乏しいケースでは,ソフトコンタクトレンズの装用に伴う「目のかゆみ」,「目のかわき」,「目の疲れ」などの自覚症状に対して医薬品を処方するには,さまざまな制約があり,一般用医薬品の存在は必要不可欠である.一部,「目のかわき」や「目の疲れ」に対しては,ソフトコンタクトレンズ上からの点眼が可能な一般用医薬品の点眼薬(以下,「一般用点眼薬」とする)が存在するが,「目のかゆみ」に対しては,ソフトコンタクトレンズ上からの点眼が可能な一般用点眼薬はこれまで存在しなかった.ソフトコンタクトレンズ装用時に,「目のかゆみ」を生じた場合は,一般的にソフトコンタクトレンズをはずして点眼することが推奨されている2).しかし,レンズケアの問題や経済的な理由により,ソフトコンタクトレンズをはずさずに点眼薬を使用する人や,点眼薬を使用できないために目をこすってしまう人も少なくない.このような行為は,結果的に角結膜上皮を傷つけてしまい,症状を悪化させる可能性がある.また,ソフトコンタクトレンズをはずして点眼し,そのままレンズケアを行わないでレンズを再装用したためにトラブルにあう人も少なくない.このような状況のなか,「目のかゆみ」に対して有効なソフトコンタクトレンズの上から点眼が可能な点眼薬が望まれていた.そこで,医療機関での眼科的治療に至らない軽度のアレルギー性結膜炎などの外眼部炎症性疾患に伴う,「目のかゆみ」などの症状に対して,コンタクトレンズの上から点眼可能な新しい一般用点眼薬C3ALが開発された.C3ALは有効成分としてグリチルリチン酸二カリウム0.125%および塩酸ピリドキシン0.010%を含有しており,防腐剤としてソフトコンタクトレンズ上からの点眼においても安全性が高いとされるソルビン酸カリウム3,4)を配合している.C3AL配合成分のソフトコンタクトレンズへの吸着および残存については,含水性ソフトコンタクトレンズのグループIIVより各1種類と非含水性ソフトコンタクトレンズ1種類の計5種類を選択して,C3ALへの浸漬による吸着実験と生理食塩水への浸漬による放出実験を行い,レンズへの配合成分の残存は認められないことを確認した.ソフトコンタクトレンズの形状,外観,ベースカーブ,直径,レンズ度数,含水率といった物性にも影響はなかった.本試験では,軽度の外眼部炎症性疾患を伴うソフトコンタクトレンズ使用者で,装用中に「目のかゆみ」,「目の疲れ」,「目のかわき」,「目のかすみ(目やにの多いときなど)」,「異物感」の自覚症状を有する患者を対象として,C3ALの自覚症状に対する有効性および安全性について検討した.I試験方法1.医療機関および試験期間本試験は表1に示した7医療機関で2005年5月より同年11月の間に実施された.なお,本試験は治験審査委員会で審査・承認された後,ヘルシンキ宣言の倫理の概念,薬事法第14条第3項および同法第80条の2に規定する基準,ならびに「医薬品の臨床試験の実施の基準(GCP)」を遵守して実施された.2.対象試験期間中に表1に示す医療機関に来院した軽度の外眼部炎症性疾患(アレルギー性結膜炎,慢性結膜炎,乾性角結膜炎など)の患者で,ソフトコンタクトレンズ(表2,グループIIV)をほぼ毎日,終日装用または連続装用しており,装用中に「目のかゆみ」,「目の疲れ」,「目のかわき」,「目のかすみ(目やにの多いときなど)」,「異物感」の自覚症状を有する15歳以上の患者を対象とした(ただし,「目のかゆみ」の自覚症状を有さない患者は対象から除外した).なお,ソフトコンタクトレンズは,ほぼ毎日,終日装用ま表1実施機関および担当医師実施機関担当医師西葛西井上眼科クリニック勝海修,山田はづき,久間木哲子順天堂大学医学部附属順天堂医院村上晶,土至田宏中安眼科クリニック中安清夫井上眼科病院付属駿河台診療所木村一弘あすみが丘佐野眼科佐野研二道玄坂糸井眼科医院工藤昌之ひぐち眼科樋口裕彦表2ソフトコンタクトレンズのFDA分類グループ分類基準I含水率が50%未満で非イオン性であるものII含水率が50%以上で非イオン性であるものIII含水率が50%未満でイオン性であるものIV含水率が50%以上でイオン性であるもの※原材料ポリマーの構成モノマーのうち,陰イオンを有するモノマーのモル%が1%以上であるものをイオン性,1%未満であるものを非イオン性とする.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.8,20091145(139)たは連続装用していることを採用基準とした.治験責任医師または治験分担医師は,試験開始前に試験内容について被験者に十分に説明を行い,自由意思による同意を文書により得た(被験者が未成年者の場合は本人と同様に代諾者から文書による同意を得た).3.試験薬C3ALは100ml中にグリチルリチン酸二カリウムを0.125gと塩酸ピリドキシンを0.010g含有する点眼薬である.4.投与方法ソフトコンタクトレンズの上から,C3ALを1回12滴,1日56回,2週間点眼させ,投与開始時,1週間後,2週間後に,自覚症状の問診および眼科的検査を行った(表3).被験者には試験開始前のコンタクトレンズの使用状況を確認し,レンズケアを変更しないように指導した.試験期間中は,すべての点眼薬(医療用,一般用を問わず),並びにステロイド剤,非ステロイド系消炎鎮痛剤,抗精神病剤,抗ヒスタミン剤,抗アレルギー剤,眼精疲労などの効能を有するビタミン剤およびATP(アデノシン三リン酸)製剤など,C3ALの評価に影響を及ぼすと考えられる薬剤(外皮用剤による局所投与は除く)の併用は禁止した.5.観察,検査項目a.患者背景性別,年齢,診断名,ソフトコンタクトレンズの使用経験年数,現在使用している(試験薬の投与期間中に装用する)ソフトコンタクトレンズの種類と使用経験年月日,装用状況を調査した.b.自覚症状目のかゆみ,目の疲れ,目のかわき,目のかすみ(目やにの多いときなど),異物感の5項目について,表4に示す基準で,なし(0),軽度(1),中等度(2),重度(3)の4段階で判定した.表3試験スケジュール項目投与開始時1週間後(7±2日後)2週間後(14±3日後)・中止時患者背景○──症状程度自覚症状目のかゆみ,目の疲れ,目のかわき,目のかすみ(目やにの多いときなど),異物感○○○他覚所見眼瞼結膜充血,眼瞼結膜浮腫,眼瞼結膜濾胞,上眼瞼結膜乳頭増殖,眼球結膜充血,眼球結膜浮腫,輪部充血,角膜上皮障害,角膜浮腫,角膜血管新生フィッティング検査○○○コンタクトレンズ矯正視力検査○─○コンタクトレンズの表面検査○○○有効性自覚症状別改善度─○○安全性有害事象(副作用)─○○概括安全度──○表4自覚症状およびその程度症状程度目安目のかゆみ3(重度)2(中等度)1(軽度)0(なし)かゆくて我慢できないかゆい少しかゆいが我慢できるかゆくない目の疲れ3(重度)2(中等度)1(軽度)0(なし)疲れて我慢できない疲れる少し疲れるが我慢できる疲れはない目のかわき3(重度)2(中等度)1(軽度)0(なし)かわいて我慢できないかわく少しかわくが我慢できるかわかない目のかすみ(目やにの多いときなど)3(重度)2(中等度)1(軽度)0(なし)多量にでて朝,瞼がくっついている眼脂が多くて拭う必要あり眼脂が粘つく感じほとんどない異物感3(重度)2(中等度)1(軽度)0(なし)たえずゴロゴロして眼が開けられないゴロゴロするが努力すれば眼が開けられるときどきゴロゴロするない———————————————————————-Page41146あたらしい眼科Vol.26,No.8,2009(140)c.他覚所見眼瞼結膜充血,眼瞼結膜浮腫,眼瞼結膜濾胞,上眼瞼結膜乳頭増殖,眼球結膜充血,眼球結膜浮腫,輪部充血,角膜上皮障害,角膜浮腫,角膜血管新生の10項目について,表5の基準で判定した.なお,角膜上皮障害は原則としてフルオレセイン染色を行い観察した.d.コンタクトレンズ矯正視力検査使用したソフトコンタクトレンズによる矯正視力(コンタクトレンズ矯正視力)検査と追加矯正視力(コンタクトレンズ最高矯正視力)検査を実施した.e.フィッティング検査フィッティング検査は,細隙灯顕微鏡を用い,レンズフィッティング,安定位置および軸の回転(トーリックレンズのみ)について,それぞれ次の基準で評価した.フィッティング:Normal,Loose,Tight安定位置:中央,上方,下方,耳側方,鼻側方表5他覚所見およびその程度症状程度目安眼瞼結膜充血3(重度)2(中等度)1(軽度)0(なし)眼瞼結膜全体(上・下)の発赤で,個々の血管が識別不能眼瞼結膜全体(上・下)に多数の血管拡張眼瞼の一部分に数本の血管拡張所見なし眼瞼結膜浮腫3(重度)2(中等度)1(軽度)0(なし)上・下眼瞼結膜が水泡状に腫脹上・下眼瞼結膜が全体にびまん性に薄く腫脹する上・下眼瞼結膜にわずかに腫脹がある所見なし眼瞼結膜濾胞3(重度)2(中等度)1(軽度)0(なし)下眼瞼全体(円蓋部も含む)に全面にある下眼瞼全体(円蓋部も含む)に10十数個程度認める下眼瞼結膜円蓋部に数個認める所見なし上眼瞼結膜乳頭増殖3(重度)2(中等度)1(軽度)0(なし)瞼板部全面に直径0.61mmのものを認める瞼板部全面に直径0.30.5mmのものを認める瞼板部に一部,直径0.10.2mmのものを認める所見なし眼球結膜充血3(重度)2(中等度)1(軽度)0(なし)全体の血管が拡張して白眼の存在がわかりにくい多数の血管拡張がある数本の血管拡張がある所見なし眼球結膜浮腫3(重度)2(中等度)1(軽度)0(なし)結膜が膨隆し瞼裂外へ突出全体に薄くびまん性浮腫を認める一部分に浮腫を認める所見なし輪部充血3(重度)2(中等度)1(軽度)0(なし)全体の血管が拡張している多数の血管拡張があるわずかに血管拡張がある所見なし角膜上皮障害3(重度)2(中等度)1(軽度)0(なし)面状またはびらん点状多数で広範囲なもの(びまん性)点状少数で限局性のもの(スマイルマークパターンを含む)なし角膜浮腫3(重度)2(中等度)1(軽度)0(なし)角膜全体の浮腫実質の浮腫(Descemet膜皺襞を含む)上皮の浮腫なし角膜血管新生3(重度)2(中等度)1(軽度)0(なし)角膜輪部から2mm以上で多方向または実質内血管侵入角膜輪部から2mm以上角膜輪部から2mm未満なし———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.8,20091147(141)軸の回転※:回転なし,時計回りに()°回転,反時計回りに()°回転※:トーリックレンズの場合のみ実施f.コンタクトレンズの表面検査コンタクトレンズの表面検査は,細隙灯顕微鏡を用い,キズおよび汚れについてそれぞれ次の基準で評価した.キズ:0:なし(正常な取り扱いでも発生する最表面の微細なキズは,なしと評価する)1:軽度(局所的に観察される浅いキズ)2:中等度(広範囲に観察されるキズ)3:重度(装用上問題となるキズ)汚れ:0:なし1:軽度(局所的に観察される汚れ)2:中等度(広範囲に観察される汚れ)3:重度(装用上問題となる汚れ)6.評価項目a.有効性有効性の主要評価項目は自覚症状別改善度とし,1週間後,2週間後および中止時に評価を行った.投与開始時と比較した各症状の程度の推移は,次の判定基準に従い4段階で評価し,「軽減」と「消失」に該当する症例の割合を改善率として算出した.なお,有効性の評価は,投与開始前の自覚症状が左右眼で異なる場合は自覚症状の重いほうの眼を,同程度の場合は右眼をそれぞれ評価対象眼として行った.・消失:(3,2,1→0)・軽減:(3→2),(3,2→1)・不変:(3→3),(2→2),(1→1)・悪化:(0→1,2,3),(1→2,3),(2→3)(*症状の推移が(0→0)の場合,「開始日の症状なし」とした.)b.安全性安全性は,副作用の発現率により評価した.試験期間中に発現した有害事象について,「試験薬との関連性なし」,「試験薬との関連性不明」,「試験薬との関連性あるかもしれない」,「試験薬と明らかに関連性あり」の4段階で評価し,「関連性なし」と判断されたもの以外を副作用とした.試験終了時または中止時には,副作用内容を考慮して,概括安全度を「安全」,「ほぼ安全」,「やや問題あり」,「問題あり」,「非常に問題あり」の5段階で判定し,「安全」に該当する症例の割合を概括安全率として評価した.7.評価対象有効性については,1週間後(7±2日)または2週間後(14±3日後)のいずれかの来院日で自覚症状別改善度を評価された症例を対象とし,各症状の改善率とその95%信頼区間を算出した.安全性については,投与開始から2週間後(14±3日後)まで投薬された症例を対象とし(ただし,途中中止例・逸脱例についても,有害事象が発現した場合には安全性の評価対象に含めることとした),有害事象および副作用の発現率,概括安全率を算出した.II結果1.被験者の内訳本試験に組み入れられた総症例数は104例であり,全例にC3ALが投与された.このうち1例(2週間交換レンズ装用者)は,投与開始9日目に,洗浄の際にソフトコンタクトレンズを破損し,レンズの交換を行ったため,担当医師の指示により中止した.また,1例(1カ月交換ソフトコンタクトレンズ使用者)は,1週間後の来院日にレンズ洗浄時についたと考えられるキズがレンズに認められたことから,レンズを交換し,試験を継続したが,この症例は逸脱例として取り扱った.なお,これら2例は,1週間後の自覚症状別改善度のデータは得られたため,有効性については1週間後のみ採用とした(有効性評価対象症例数:1週間後104例,2週間後102例).安全性については,2週間後まで試験が継続表6患者背景背景因子症例数(%)性別男性23(22.1)女性81(77.9)年齢1519歳6(5.8)2029歳54(51.9)3039歳31(29.8)4049歳11(10.6)50歳2(1.9)平均値(最小値最大値)29.5(1656歳)診断名アレルギー性結膜炎86(82.7)慢性結膜炎4(3.9)乾性角結膜炎5(4.8)アレルギー性結膜炎,慢性結膜炎2(1.9)アレルギー性結膜炎,乾性角結膜炎7(6.7)ソフトコンタクトレンズの使用経験年数3カ月以上1年未満5(4.8)1年以上5年未満20(19.2)5年以上10年未満37(35.6)10年以上15年未満27(26.0)15年以上15(14.4)平均値(最小値最大値)8.5年(5カ月27年)———————————————————————-Page61148あたらしい眼科Vol.26,No.8,2009(142)されず,かつ2例ともに有害事象の発現が認められなかったため,評価対象から除外した(安全性評価対象症例数:102例).2.患者背景表6に患者背景,表7に試験期間中に使用したソフトコンタクトレンズの内訳を示した.対象者の年齢は1656歳であり,診断名は「アレルギー性結膜炎」が82.7%と最も多かった.試験に用いられたソフトコンタクトレンズの種類は,「頻回交換ソフトコンタクトレンズ」が67.3%と最も多かった.ソフトコンタクトレンズのFDA(米国食品医薬品局)分類でみると,グループ「I」,「II」,「IV」のレンズを使用していた.ソフトコンタクトレンズの装用状況では,「終日装用」が102例(98.1%)であり,「終日装用」における1日の平均装用時間は平均13.1時間であった.1週間の装用日数は,全例が週6日以上装用していた.なお,有効性の評価対象眼は,「右眼」が93例(89.4%)で,「左眼」が11例(10.6%)であった.3.有効性1週間後の自覚症状別の改善率は,それぞれ,「目のかゆみ」75.0%,「目の疲れ」66.1%,「目のかわき」68.6%,「目のかすみ(目やにの多いときなど)」70.3%,「異物感」85.7%であった(表8).また,2週間後の自覚症状別の改善率は,それぞれ,「目のかゆみ」87.3%,「目の疲れ」78.2%,「目のかわき」83.3%,「目のかすみ(目やにの多いときなど)」表7試験期間中に使用したソフトコンタクトレンズの内訳項目カテゴリー症例数(%)使用経験年数3カ月以上6カ月未満17(16.4)6カ月以上1年未満16(15.4)1年以上3年未満36(34.6)3年以上5年未満17(16.4)5年以上18(17.3)平均値(最小値最大値)2.4年(3カ月10年)種類使い捨て1日4(3.9)1週間2(1.9)その他0(0.0)(計)6(5.8)頻回・定期交換2週間70(67.3)1カ月23(22.1)3カ月0(0.0)その他0(0.0)(計)93(89.4)コンベンショナル(従来型)5(4.8)FDA分類I32(30.8)II28(26.9)III0(0.0)IV44(42.3)装用状況1日の平均装用時間終日装用10時間未満10(9.6)10時間15時間未満47(45.2)15時間24時間未満45(43.3)終日装用症例数102(98.1)平均値(最小値最大値)13.1(618時間)連続装用24時間2(1.9)1週間の装用日数5日以下0(0.0)6日8(7.7)7日96(92.3)———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.26,No.8,20091149(143)81.6%,「異物感」85.7%であった(表9).2週間後の「目のかゆみ」について,患者背景因子別に評価したところ(表10),診断名「アレルギー性結膜炎」で改善率が89.3%(75/84例)であった.ソフトコンタクトレンズのグループ別の改善率は,「I」で87.5%(28/32例),「II」で88.9%(24/27例),「IV」で86.0%(37/43例)であった.4.安全性有害事象は,102例中14例(18件)に発現した(発現率:13.7%).頻度の高かった有害事象は眼瞼結膜充血(4件:3.9%)で,次いで目のかわき,目のかすみ,異物感,角膜上皮障害(各3件:2.9%),眼球結膜充血(1件:1.0%)であった.点眼時の刺激感の報告はなかった.これらの有害事象のうち,レンズケアの不足や,ソフトコンタクトレンズ装用による一時的な症状出現といった理由により,13例(17件)については試験薬との因果関係はないと最終的に判断された.有害事象のうち,副作用と判断されたものは,試験薬との因果関係が不明と判定された「上眼瞼の皮膚のただれ(両眼)」1件のみであり,副作用の発現率は1.0%(1/102例)であった.この副作用発現症例については,プレドニゾロン眼軟膏0.25%の外用塗布により,試験終了後も症状の悪化と軽快をくり返したが,左上眼瞼の症状は投与終了から約3週間後に,右上眼瞼の症状は投与終了から約5週間後に消失を確認した.この症例はアトピー性皮膚炎を合併しており,以前より同症状をくり返していた.概括安全度は,副作用が発現した1例で「やや問題あり」(副作用が発現し,副作用に対する処置を必要としたが,試験薬投与の継続が可能)と判定された以外は,全例(101/102例)で「安全」と判定され,概括安全率は99.0%であった.コンタクトレンズ視力検査については,試験薬投与前後において問題となる変化は認められず,フィッティング検査およびコンタクトレンズの表面検査についても,試験期間中に問題は認められなかった.他覚所見においても,試験期間中問題となる所見はみられなかった(表11).III考察従来,ソフトコンタクトレンズ装用中に自覚する「目のかゆみ」などの外眼部炎症症状に対して,点眼薬を使用する場合には,ソフトコンタクトレンズをはずしてから点眼する必要があった.今回開発されたC3ALは,ソフトコンタクトレンズの上から点眼が可能である抗炎症成分配合の「目のかゆみ」に対応した初めての一般用点眼薬として開発された.そこで一般臨床試験を実施し,C3ALの「目のかゆみ」などの自覚症状に対する有効性と安全性について検討した.自覚症状をもつ軽度の外眼部炎症性疾患(アレルギー性結膜炎,慢性結膜炎,乾性角結膜炎など)の患者を対象に,ソフトコンタクトレンズの上から,1回12滴,1日56回,2週間C3ALを点眼した結果,自覚症状に対する改善率は「目のかゆみ」,「目のかわき」,「目のかすみ」および「異物感」の4つの自覚症状については80%以上であり,「目の疲れ」についても78.2%の改善率が得られた.C3ALの点眼による副作用は「上眼瞼の皮膚のただれ(両眼)」の1件のみで,発現率1.0%,概括安全率99.0%であ表8自覚症状別改善度(1週間後)自覚症状症例数消失軽減不変悪化改善率(%),(95%信頼区間)目のかゆみ10470826075.0(66.783.3)目の疲れ5633419066.1(53.778.5)目のかわき8655426168.6(58.878.4)目のかすみ(目やにの多いときなど)3726010170.3(55.585.0)異物感352825085.7(74.197.3)表9自覚症状別改善度(2週間後)自覚症状症例数消失軽減不変悪化改善率(%),(95%信頼区間)目のかゆみ10287213087.3(80.893.7)目の疲れ5541212078.2(67.389.1)目のかわき8466411383.3(75.491.3)目のかすみ(目やにの多いときなど)383105281.6(69.393.9)異物感352823285.7(74.197.3)———————————————————————-Page81150あたらしい眼科Vol.26,No.8,2009(144)った.コンタクトレンズに関する検査(コンタクトレンズ矯正視力検査,フィッティング検査,コンタクトレンズの表面検査)および他覚所見においても,C3ALの点眼による副作用はみられなかった.以上のことから,C3ALは「目のかゆみ」をはじめ,「目のかわき」などといった自覚症状に対して有効であり,ソフトコンタクトレンズの上から点眼しても表10「目のかゆみ」に対する背景因子別改善度(2週間後)項目症例数消失軽減不変悪化改善率(%),(95%信頼区間)性別男性231913087.0(73.2100.0)女性7968110087.3(80.094.7)年齢1519歳6402066.7(28.9100.0)2029歳534526088.7(80.197.2)3039歳312704087.1(75.398.9)4049歳10901090.0(71.4100.0)50歳22000100.0診断名アレルギー性結膜炎847419089.3(82.795.9)慢性結膜炎4301075.0乾性角結膜炎55000100.0アレルギー性結膜炎,慢性結膜炎22000100.0アレルギー性結膜炎,乾性角結膜炎7313057.1(20.593.8)ソフトコンタクトレンズの使用経験年数3カ月1年未満55000100.01年5年未満201415075.0(56.094.0)5年10年未満353113091.4(82.2100.0)10年15年未満272403088.9(77.0100.0)15年151302086.7(69.5100.0)使用経験年月数3カ月6カ月未満171502088.2(72.9100.0)6カ月1年未満141202085.7(67.4100.0)1年3年未満363204088.9(78.699.2)3年5年未満171412088.2(72.9100.0)5年181413083.3(66.1100.0)種類使い捨て1日4202050.01週間22000100.0頻回・定期交換2週間695928088.4(80.996.0)1カ月221903086.4(72.0100.0)コンベンショナル55000100.0FDA分類I322714087.5(76.099.0)II272403088.9(77.0100.0)IV433616086.0(75.796.4)1日の平均装用時間10時間未満99000100.010時間15時間未満463817084.8(74.495.2)15時間24時間未満453816086.7(76.796.6)24時間22000100.01週間の装用日数6日8512075.0(45.0100.0)7日9482111088.3(81.894.8)———————————————————————-Page9あたらしい眼科Vol.26,No.8,20091151(145)安全な薬剤であることが確認された.ソフトコンタクトレンズの上から点眼薬を投与すると,点眼薬中の成分がレンズに吸着,蓄積し,レンズの変形や薬剤による角結膜への影響の可能性がある.しかし,医療用点眼薬の研究では,点眼薬の成分や防腐剤などの添加物のソフトコンタクトレンズへの吸着や蓄積性について,臨床上問題となることはないとの報告がある58).塩酸レボカバスチン点眼液9,10)では,頻回交換ソフトコンタクトレンズや1日使い捨てソフトコンタクトレンズについて試験を行い,コンタクトレンズの上から点眼しても安全であることが報告されている.このような医療用点眼薬とは異なり,一般用点眼薬では医師による指導や定期検査が行われないため,より安全性の高いものが望まれる.今回,一般用点眼薬として開発されたC3ALは,ソフトコンタクトレンズへの成分の吸着やレンズの物性への影響がないことに加え,臨床試験においてC3ALによる副作用はほとんど認められなかったことから,ソフトコンタクトレンズの上から点眼できる安全な薬剤であることが示された.一般に外眼部の炎症症状が軽度の場合には,一般用点眼薬による対処を行っている人が多いと考えられ,ソフトコンタクトレンズの上から点眼が可能なC3ALは,「目表11他覚所見の推移他覚所見の程度0:なし1:軽度2:中等度3:重度眼瞼結膜充血投与開始時45(44.1)56(54.9)1(1.0)0(0.0)1週間後71(69.6)30(29.4)1(1.0)0(0.0)2週間後79(77.5)23(22.5)0(0.0)0(0.0)眼瞼結膜浮腫投与開始時72(70.6)28(27.5)2(2.0)0(0.0)1週間後89(87.3)13(12.7)0(0.0)0(0.0)2週間後95(93.1)7(6.9)0(0.0)0(0.0)眼瞼結膜濾胞投与開始時34(33.3)63(61.8)5(4.9)0(0.0)1週間後41(40.2)59(57.8)2(2.0)0(0.0)2週間後49(48.0)51(50.0)2(2.0)0(0.0)上眼瞼結膜乳頭増殖投与開始時73(71.6)27(26.5)2(2.0)0(0.0)1週間後76(74.5)25(24.5)1(1.0)0(0.0)2週間後78(76.5)23(22.5)1(1.0)0(0.0)眼球結膜充血投与開始時77(75.5)25(24.5)0(0.0)0(0.0)1週間後95(93.1)7(6.9)0(0.0)0(0.0)2週間後101(99.0)1(1.0)0(0.0)0(0.0)眼球結膜浮腫投与開始時87(85.3)15(14.7)0(0.0)0(0.0)1週間後102(100.0)0(0.0)0(0.0)0(0.0)2週間後102(100.0)0(0.0)0(0.0)0(0.0)輪部充血投与開始時96(94.1)6(5.9)0(0.0)0(0.0)1週間後99(97.1)3(2.9)0(0.0)0(0.0)2週間後100(98.0)2(2.0)0(0.0)0(0.0)角膜上皮障害投与開始時89(87.3)13(12.7)0(0.0)0(0.0)1週間後93(91.2)9(8.8)0(0.0)0(0.0)2週間後97(95.1)5(4.9)0(0.0)0(0.0)角膜浮腫投与開始時102(100.0)0(0.0)0(0.0)0(0.0)1週間後102(100.0)0(0.0)0(0.0)0(0.0)2週間後102(100.0)0(0.0)0(0.0)0(0.0)角膜血管新生投与開始時97(95.1)5(4.9)0(0.0)0(0.0)1週間後98(96.1)4(3.9)0(0.0)0(0.0)2週間後98(96.1)4(3.9)0(0.0)0(0.0)———————————————————————-Page101152あたらしい眼科Vol.26,No.8,2009(146)のかゆみ」などの不快感を自覚する人にとって,有用なものであると考えられる.今後このようなソフトコンタクトレンズの上から点眼が可能な一般用点眼薬の開発がいっそう望まれるが,一般用点眼薬については安全性を最重視すべきであり,症状が改善したら点眼をやめる,点眼薬を使い続けても症状が良くならない場合や,充血などが生じた場合などには,すぐに点眼薬の使用を中止し,眼科を受診するように指導を徹底するなどといった,一般消費者に対する啓蒙活動が必要不可欠であろう.文献1)高村悦子,雑賀寿和,藤島浩ほか:アレルギー性結膜炎とコンタクトレンズ.日コレ誌37:248-253,19952)水谷聡:コンタクトレンズとケア溶液,点眼薬─問題点とその対策─.日コレ誌37:35-39,19953)﨑元卓:治療用コンタクトレンズへの防腐剤の吸着.日コレ誌35:177-182,19934)水谷聡,伊藤康雄,白木美香ほか:コンタクトレンズと防腐剤の影響について(第1報)─取り込みと放出─.日コレ誌34:267-276,19925)百瀬隆行,伊藤延子:トラニラスト(リザベンR)点眼液による巨大乳頭結膜炎に対する効果とソフトコンタクトレンズへの吸着.あたらしい眼科18:1425-1428,20016)百瀬隆行,岩崎和佳子,安田勉:DisodiumCromogly-cate(インタールR)点眼によるソフトコンタクトレンズへの吸着について.眼臨81:1401-1404,19877)小玉裕司,北浦孝一:ソフトコンタクトレンズ装用上における点眼使用の安全性について.日コレ誌42:9-14,20008)小玉裕司:コンタクトレンズ装用上におけるアシタザノラスト水和物点眼液(ゼペリンR点眼液)の安全性.あたらしい眼科20:373-377,20039)小玉裕司:塩酸レボカバスチン点眼液(リボスチンR点眼液0.025%)の毎日交換ディスポーザブル・ソフトコンタクトレンズ(dailyDSCL)装用眼における角結膜に及ぼす影響.あたらしい眼科22:231-234,200510)渡邉潔:頻回交換ソフトコンタクトレンズ装用者にみられるアレルギー結膜炎に対する塩酸レボカバスチン点眼液の臨床効果.日コレ誌47:54-57,2005***

Computed Tomographyにより結核症の確定診断に至ったEales病の1例

2009年8月31日 月曜日

———————————————————————-Page1(133)11390910-1810/09/\100/頁/JCOPYあたらしい眼科26(8):11391142,2009cはじめにEales病は若年者にみられる網膜静脈周囲炎を伴う網膜出血で,病因として結核の重要性が指摘されているが,原因不明とされている.今回筆者らは若年者の両眼にみられた網膜出血から,胸部X線写真では所見が認められなかったがツベルクリン反応,胸部computedtomography(CT)などの検査により,最終的に結核の確定診断に至った症例を経験したので報告する.I症例患者:17歳,男性.高校3年生.主訴:視力が下がったような気がする.現病歴:3カ月ほど前から視力低下感があり,平成19年4月6日当科初診.両眼眼底に出血・血管白線化を認めた.既往歴:3歳時から気管支喘息.現在も発作予防のため予防的内服中.家族歴:2年前に父が結核に罹患.初診時所見(平成19年4月6日):外眼部異常なし.眼〔別刷請求先〕深尾真理:〒177-8521東京都練馬区高野台3-1-10順天堂練馬病院眼科Reprintrequests:MariFukao,M.D.,DepartmentofOphthalmology,JuntendoNerimaHospital,3-1-10Takanodai,Nerima-ku,Tokyo177-8521,JAPANComputedTomographyにより結核症の確定診断に至ったEales病の1例深尾真理*1工藤大介*1横山利幸*1村上晶*2*1順天堂練馬病院眼科*2順天堂大学医学部眼科学教室ACaseofEales’DiseasewithTuberculosisDiagnosedbyComputedTomographyMariFukao1),DaisukeKudo1),ToshiyukiYokoyama1)andAkiraMurakami2)1)DepartmentofOphthalmology,JuntendoNerimaHospital,2)DepartmentofOphthalmology,JuntendoUniversitySchoolofMedicine17歳,男性が視力低下感を主訴に受診した.両眼眼底に出血・血管白線化を認めた.ツベルクリン反応が強陽性であったが胸部X線写真では異常を認めず,その他の全身疾患も否定され,若年男性,網膜出血や血管の白線化といった典型的な臨床的特徴によりEales病と診断された.胃液・喀痰検査も陰性であったが,胸部computedtomography(CT)所見にて結核に特徴的な粒状網状影を認め結核症と診断された.抗結核治療が開始されると眼症状も改善した.胸部X線写真にて異常を認めない症例に対しても,ツベルクリン反応陽性であれば胸部CTでの検索を施行する必要があると考えられた.A17-year-oldmalewasreferredtouswithcomplaintofbilateraldecreasedvisualacuity.Ocularexaminationdisclosedretinalhemorrhagesandvascularsheathingsinbotheyes.Generalexaminations,includingchestX-ray,showednoabnormality,exceptingstronglypositivereactiononthetuberculintest.Thepatientwasinitiallydiag-nosedwithEales’disease,becauseofsuchtypicalclinicalfeaturesas:healthyyoungmale,bilateralretinalhemor-rhagesandvascularsheathings.Althoughgastricanalysisandsputumculturewerenegative,hewasdiagnosedwithtuberculosisbecausechestcomputedtomography(CT)revealedthespecificreticulonodularpatternfortuberculosis.Treatmentwithanti-tuberculousdrugsimprovedtheocularsymptoms.Wheneverthetuberculintestispositive,chestCTisnecessaryevenifthechestX-rayisnormal.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(8):11391142,2009〕Keywords:Eales病,網膜静脈周囲炎,結核,ツベルクリン反応.Eales’disease,retinalperiphlebitis,tuberculo-sis(TB),tuberculintest.———————————————————————-Page21140あたらしい眼科Vol.26,No.8,2009(134)位・眼球運動異常なし.視力は右眼0.3(0.7×1.0D(cyl0.5DAx5°),左眼0.4(1.0×1.0D(cyl1.5DAx175°).眼圧は右眼14mmHg,左眼14mmHg.前眼部には炎症細胞なし.瞳孔反応異常なし.眼底には両眼周辺部網膜に出血斑,血管白線化を認めた(図1a,b).血液検査所見(平成19年5月1日):赤血球4.3×106/μl,白血球6.6×103/μl,血小板2.5×105/μl,総コレステロール6.1g/dl,C-リアクティブ・プロテイン0.1,アスパラギン酸アミノ基転移酵素17U/l,アラニンアミノ基転移酵素13U/l,アンジオテンシン変換酵素8.2IU/l,血清蛋白分画正常,血清免疫グロブリンA177mg/dl,血清免疫グロブリンG591mg/dl,血清免疫グロブリンM113mg/dl,補体蛋白C389mg/ml,C427mg/ml,CH5047.5U/dl,B型肝炎ウイルス抗原(),B型肝炎ウイルス抗体(),C型肝炎ウイルス(),ヒト免疫不全ウイルス(HIV)(),梅毒定性(),トレポネーマ・パリダム抗体(),ツベルクリン反応12×18mm,硬結(),二重発赤(+).経過:両眼網膜出血を認め,ツベルクリン反応も強陽性であったものの,胸部X線写真では明らかな異常所見はなく,明らかな全身症状も認めなかったため,眼底所見よりEales病と診断し,同時に精査目的のため当院呼吸器内科にコンサルトした.呼吸器内科にて施行された喀痰,胃液検査では菌の検出を認めなかったが,CTを施行したところ左上肺野に結核に典型的な粒状網状影を認めた(図2a).さらに,気管支肺生検を施行したところ結核菌を検出し結核症の診断に至った.診断後は結核専門病院に転院となり抗結核療法による治療が開始され,イソニアジド・リファンピシン・エタンブトール・ピラジナミドの4剤併用療法を平成19年6月11日より6カ月間施行することとなった.本症例ではフルオレセインは皮内反応陽性のため使用できず,インドシアニングリーン蛍光眼底検査を施行したところ網膜血管の狭細化・閉塞所見を認めたので,両眼周辺部網膜に対し光凝固を開始した.平成19年5月9日,右眼に68spots,同年5月19日,左眼に291spots,条件はargongreen;400μm,150mW,0.5secにて施行.抗結核治療開始後は網膜出血,血管の白線化は改善した(図1c,d).視力は右眼0.3(1.0×1.0D(cyl0.5DAx5°),左眼0.4(1.2×1.0D(cyl1.5DAx175°)と矯正視力,眼底所見ともに改善を認めている.なお,治療開始後の胸部X線所見は初診時と比較し明らかな変化はなく異常は認められなかった.治療開始後の胸部CT所見acbd図1眼底写真上段:初診時(平成19年4月6日).a:右眼,b:左眼.両眼周辺部網膜に出血,血管白線化を認めた.下段:抗結核治療開始,約3カ月経過後(平成19年9月6日).c:右眼,d:左眼.両眼周辺部網膜の出血,血管の白線化は改善した.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.8,20091141(135)は治療開始前と比較し明らかに改善を認めた(図2b).II考按Eales病は1880年にHenryEalesが便秘や鼻出血を伴うが全身疾患や網膜の炎症もなく再発性網膜出血を起こした若年男性を報告したのが最初とされている.その後網膜静脈周囲炎を伴うことや,ステロイド投与により結核を発症した例などがあり病因としての結核の重要性が指摘された.そのほかにもMycobacteriumfortuitumやMycobacteriumchelonaeとの関連性を指摘する報告などがある1)が,一般的に原因不明の再発性網膜硝子体出血をEales病とよぶようになっている2).1.比較的若年男性(女性の3倍)・多くは両眼性(90%),2.ぶどう膜炎や全身疾患を伴わない原因不明の網膜静脈周囲炎(DukeElderの定義),3.イソニアジド内服投与などの治療的診断がEales病の診断に有用な基準とされているが,いまだ統一された疾患概念はない.Madhavanらによると,Eales病の報告のうちの6.2%から35%に全身性の結核が認められ,Eales病の硝子体あるいは黄斑部からの結核菌DNAの存在も指摘されている3)ことから,Eales病と結核菌あるいは抗酸菌の関係はきわめて密接と思われる.しかしEales病,眼結核症,特に結核性網膜静脈炎などについては現在一定の診断基準はなく,その概念はやや混乱している.安積4)によれば,結核性眼病変の診断は1.結核菌または結核病巣の検出〔①胸部X線,CT,②前房水polymerasechainreaction(PCR)〕,2.結核菌に対する免疫反応〔①細胞性免疫(ツベルクリン反応),②液性免疫〕,3.典型的な結核性眼病巣の存在,4.治療的診断(イソニアジド内服投与など),の4項目のうち3項目以上があてはまれば確定診断とすると述べられている.菌の直接検出があれば確定的だが,実際に臨床的には困難なため,画像による病巣の検出が重要となる.胸部X線は必須検査であるが,CTでは胸部X線写真で見つからなかった結核の肺内病変(小葉中心性粒状影,小葉内分岐構造,空洞形成,粟粒結節など)5)を検出できるという報告もあり6,7),X線検査で否定的な症例においても重要な検査と考えられる.個体の細胞性免疫を利用したツベルクリン反応は,日本ではBCG(BacilledeCalmetteetGuerin)ワクチンの接種により必ずしも結核の感染を示すものではないが補助的な検査としては非常に有用である.このほかに血清抗体価の検出も補助診断として有用とされており,感度,特異度ともに良好であるが,非結核性抗酸菌症などに陽性になる可能性やHIV(ヒト免疫不全ウイルス)陽性患者において感度が低下するなどの問題点がある.イソニアジド内服による治療的診断については,結果が偽陽性や偽陰性に生じる可能性があり,肝機能障害などの薬剤副作用の問題点もある8).結核とは結核菌(Mycobacteriumtuberculosis)による感染症で,結核菌は抗酸菌全体の約85%を占めるといわれている.世界保健機関の統計によると,世界では新規発病患者が年間800万人発生し,年間300万人の患者が死亡している.平成16年の日本国内の新患数は29,736人で,国内の結核死亡者数は年間2,328人と,この数字は先進国のなかではきわめて悪い数字である.平成17年,およそ50年ぶりに結核予防法が改正され,BCG接種の生後6カ月以内での接種が義務化され,高齢者や医療従事者などハイリスク群に定期健診を実施することとなった.このように,結核は決して過去の感染症ではなく,現在もわれわれにとって大きな脅威とな図2胸部CT所見a:治療前(平成19年5月9日).左上肺野に粒状網状影を認める.b:抗結核治療開始,約5カ月経過後(平成19年11月16日).左上肺野の粒状網状影は改善した.ab———————————————————————-Page41142あたらしい眼科Vol.26,No.8,2009(136)っている.本症例は初診時に両眼網膜出血・ツベルクリン反応強陽性以外の異常所見はなく,胸部X線写真,喀痰・胃液検査においても異常が認められず,臨床的にEales病と診断した.さらに胸部CT検査を施行したことにより結核病巣が検出され,結核の治療を行い,眼症状も改善することとなった.以上のことより,現在までに原因不明のEales病として報告された症例のなかにも,潜在的に結核症の症例が含まれており,より精査を施行することで原因治療がなされ,眼症状の改善に至る可能性もあったと考えられる.以上のことより,若年性の網膜出血をみた際はツベルクリン反応検査を行い,胸部X線写真で異常を認めない症例に対しても,胸部CTでの検索を積極的に施行する必要があると思われた.文献1)ThereseKL,DeepaP,ThereseJ:Associationofmyco-bacteriawithEales’disease.IndianJMedRes126:56-62,20072)六鹿秀夫,原彰,清水由規:若年者にみられた静脈周囲炎の硝子体出血の発生機序について.眼科30:663-666,19883)MadhavanHN,ThereseKL,GunishaPetal:PolymerasechainreactionfordetectionofMycobacteriumtuberculo-sisinepiretinalmembraneinEales’disease.InvestOph-thalmolVisSci41:822-825,20004)安積淳:結核性眼疾患.日本の眼科70:1043-1046,19995)村田喜代史,高橋雅士,古川顕ほか:気道感染症のCT像.日本医放会誌59:371-379,19996)DrapkinMS,MarkEJ:A38-year-oldmanwithfever,cough,andapleuraleusion.NEnglJMed335:499-505,19967)齋藤航:結核.臨眼61:210-215,20078)安積淳:抗結核薬による治癒試験.眼科42:1721-1727,2000***

ガラクトースラット糖白内障モデルガラクトースラット糖白内障モデルの蛋白質解析

2009年8月31日 月曜日

———————————————————————-Page1(125)11310910-1810/09/\100/頁/JCOPYあたらしい眼科26(8):11311137,2009cはじめに糖尿病は若年者でも白内障を進行させることから,問題視されている1,2).ラットにガラクトースを投与し発生する糖白内障はヒト糖尿病白内障と類似点が多いことから,糖尿病白内障メカニズムの解明のためさまざまな研究3,4)が行われてきた.これまでの研究により糖白内障は,糖代謝異常により糖アルコールの蓄積が生じ,水晶体線維細胞が膨化,破壊され5),水晶体が混濁すると考えられている.水晶体は高蛋白質の組織であり蛋白質の恒常性は水晶体の透明性維持に重要であるが,糖白内障においては実際に生じている蛋白質変化を解析した報告は少ない.そこで今回筆者らは糖白内障の蛋白質変化に着目した.ラットにガラクトースを投与し,細隙灯を用いて糖白内障の進行を経時的に観察した.水晶体の透明性維持に重要な役割をもつと考えられる細胞骨格蛋白質6)を中心に水晶体蛋白質を分子生物学的および免疫組織学的に解析した.〔別刷請求先〕松島博之:〒321-0293栃木県下都賀郡壬生町北小林880獨協医科大学眼科学教室Reprintrequests:HiroyukiMatsushima,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,DokkyoMedicalUniversity,880Kitakobayashi,Mibu,Shimotsuga-gun,Tochigi321-0293,JAPANガラクトースラット糖白内障モデルの蛋白質解析武井千明*1向井公一郎*2松島博之*2妹尾正*2小原喜隆*1*1国際医療福祉大学*2獨協医科大学眼科学教室ProteinAnalysisUsingGalactosemicRatCataractModelChiakiTakei1),KoichiroMukai2),HiroyukiMatsushima2),TadashiSenoo2)andYoshitakaObara1)1)InternationalUniversityofHealthandWelfare,2)DepartmentofOphthalmology,DokkyoMedicalUniversityガラクトース糖白内障の観察と蛋白質変化を解析し糖尿病白内障の原因を検討した.生後9週齢のSprague-Daw-ley(SD)ラットを使用し,50%ガラクトース食餌群(糖白内障群),通常食餌群(対照群)を作製した.経時的に水晶体を細隙灯で観察し,水晶体の混濁をグレード分類した.2,4週に眼球を摘出して水晶体を採取し,蛋白質変化を解析した.細隙灯による観察結果では,糖白内障群は2週から周辺部皮質に軽度混濁が生じ経時的に進行し,4週目には高度の白内障に進行した.対照群ではいずれの時期にも混濁は観察されなかった.糖白内障群は蛋白質密度解析とウェスタンブロッティングで4週目に細胞骨格蛋白質領域のバンドの減少が確認された.免疫組織化学染色を行うと,糖白内障群では投与1週目より水晶体皮質表層に細胞配列と細胞骨格蛋白質の異常を認めた.糖白内障の進行性と細胞骨格蛋白質の関連性について考察した.Causesofcataractinthegalactose-inducedratcataractmodelwereclariedthroughobservationofcataractdevelopmentandanalysisofproteinchanges.Approximately9-weekoldSprague-Dawley(SD)ratswerepre-paredandseparatedinto2groups:thediabeticcataractgroup(50%galactose-fedrats)andthecontrolgroup(normallyfedrats).Theirlenseswereobservedviaslit-lampandgradedatselectedtimepoints.At2and4weeks,thelensesweredissectedfrombothgroupsandsubjectedtoproteinanalysis.Inthediabeticcataractgroup,slightopacicationwasobservedincorticalpartsat2weeks,developingintosevereopacicationat4weeks.Nosignicantchangeswereobservedinthecontrolgroup.Densitometryanalysisandwesternblottingshowedadecreaseincytoskeletalproteinsat4weeks.Immune-histologicalanalysisshowedabnormalitiesofcellalignmentandcytoskeletalproteinsinthesurfaceofthelenscortexafter1week.Changesinthecytoskeletalpro-teinsandthecauseofdiabeticcataractdevelopmentareconsidered.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(8):11311137,2009〕Keywords:糖白内障,ガラクトースラット白内障,細胞骨格蛋白質,蛋白質解析,ウェスタンブロッティング,免疫組織学.diabeticcataract,galactosemicratcataractmodel,cytoskeletalprotein,proteinanalysis,westernblot-ting,immunohistology.———————————————————————-Page21132あたらしい眼科Vol.26,No.8,2009(126)I対象および方法1.ラット糖白内障の観察生後9週齢約180gの雌のSprague-Dawley(SD)ラットを24匹用意し,無作為に2群に分けた.ラットの実験に関しては,動物実験の飼養および保管に対する基準(NationalInstitutesofHealthGuidelinesontheCareandUseofLaboratoryAnimalsinResearchおよびARVOStatementfortheUseofAnimalsinOphthalmicandVisionResearch)に基づいて行った.1群を対照群とし,通常食餌であるMF(飼育用)実験動物用固形試料(オリエンタル酵母工業株式会社)のみを与えた.もう1群を糖白内障群としてMF実験動物用固形飼料にガラクトースを50%含有させた飼料を与えた.給水は自由に取らせ,1匹当たり1日13gすべての飼料を食べていることを目視で確認した.実験開始から1週ごとに細隙灯を用いて,前眼部撮影を行った.細隙灯の観察結果をもとに白内障の進行をSippelの報告7)を基にGrade0から4に分類(表1)しグラフ化した.2.ラット糖白内障の水晶体蛋白質解析ガラクトース投与2,4週で6匹ずつ安楽死させ眼球摘出を行った.眼球摘出後,水晶体を採取し氷上に置くことで水晶体核部を混濁させる寒冷白内障を発症させ,水晶体核と皮質に分離し実験に使用するまで80℃で冷凍保存した.摘出した水晶体の蛋白質量が微量なため,単一個体の2眼を1つのサンプルとした.核と皮質をそれぞれ水溶性蛋白質と不水溶性蛋白質に分けるため,それぞれにホモジェネートバッファー(EGTA)(20mMsodiumphosphate+1.0mMethyl-eneglycol-bis(b-aminoethylether)-N,N,N¢,N¢-tetraa-ceticacid,pH7.0)を50μl加えてホモジェネートし,遠心分離(10,000g,10分間)を行い,得られた上清を別のマイクロチューブに移し,再び同じ操作を2回くり返した.上清成分を水溶性蛋白質,残った沈殿物を不溶性蛋白質として,不溶性蛋白質に8M尿素を加えて溶解し,解析に使用した.採取した蛋白質濃度をBCAProteinAssayKit(PIERCE)を用いて測定した.蛋白質濃度測定後,一次元電気泳動(ドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミド・ゲル電気泳動:SDS-PAGE)を,200Vで約1時間20分間行った.発色にはクーマッシーブルルアントブルー溶液を使用し,脱色後ゲルドライキット(TEFCO)を用いてゲルを乾燥保存した.電気泳動で得た蛋白質のバンドを量的に解析するためゲルをスキャナ(8bit/pixel)で取り込み,Scionimage(Scion社)を用いて蛋白質バンドを定量して,蛋白質全体量に対するバンド密度の割合を算出することで蛋白質密度解析を行った.統計学的解析にはWelcht検定を用い,p<0.05を有意差ありとした.また免疫学的に蛋白質を同定するためにウェスタンブロッティングを行った.上記と同じ方法を用いて電気泳動を行い,転写膜にはPVDF(polyvinylidenediuoride)膜を用いて26Vで2時間転写を行った.ブロッキング液には5%non-fat-dry-milk,0.1%Tween20溶液を用いた.一次抗体として抗ビメンチン抗体を200倍希釈,抗アクチン抗体を200倍希釈して使用し,二次抗体としてalkalinephos-対照群糖白内障群3週2週4週1週図1ラット糖白内障観察結果細隙灯を用いて撮影した水晶体の経時的変化の1例.上段の対照群ではすべての週で透明水晶体が確認された.下段の糖白内障群は,2週から泡状の淡い混濁が周辺部に発現し,3週,4週で混濁は後中心方向に向け増強した.表1ラット糖白内障グレード分類Grade0混濁なしGrade1赤道部の混濁Grade2赤道部から皮質1/2以下の混濁Grade3赤道部から皮質1/2以上の混濁Grade4水晶体中心部付近までの混濁細隙灯で観察した水晶体をGrade0からGrade4まで分類した.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.8,20091133(127)phataseconjugateのanti-mouseIgG抗体(Bio-Rad)を使用し,BCIP/NBT(5-bromo-4-chloro-3¢indolyphosphate/nitro-bluetetrazoliumchloride,Bio-Rad)で発色した.3.組織学的解析組織学的解析にはSDラット4匹を使用した.ガラクトース投与1,2週目に対照群と糖白内障群の1匹ずつ眼球を摘出し,カルノア固定を行った.脱水後,パラフィンに包埋し,4μmの組織切片を作製し,ヘマトキシリン・エオジン染色した.細胞骨格蛋白質の変化をみるために免疫組織染色を行い,一次抗体として抗ビメンチン抗体(SIGMA×100),抗アクチン抗体(MPbiomedicals×100)を使用し,ヒストファインSAB-PO(MULTI)キット(ニチレイ)を用いてストレプトアビジン・ビオチン法にて増感し,発色にはジアミノベンチジンを使用した.II結果1.ラット糖白内障の観察図1に対照群,糖白内障群の水晶体を細隙灯で観察した経過の1例を示す.対照群では,いずれの週においても混濁は生じていなかった.糖白内障群では2週から周辺部に泡状の混濁が発生し,3週では後中心部に向け混濁が強まり,4週には後全体に混濁が広がった.グレード分類したグラフを図2に示す.対照群では経過観察中,混濁のグレードは0のままであるが,糖白内障群では,経過とともに混濁が増強していた.2.ラット糖白内障の水晶体蛋白質解析SDS-PAGEにおいて核領域水溶性および不溶性蛋白質,皮質領域水溶性蛋白質では,対照群と糖白内障群の間で差を認めなかった(データ表示せず).皮質領域不溶性蛋白質のSDS-PAGE(図3)では,2週において対照群と糖白内障群に差異は確認できないが,4週では対照群に比べ,糖白内障群の高分子量領域の蛋白質量が減少していた.皮質領域不溶性蛋白質を構成する細胞骨格蛋白質であるビメンチンとアクチンの変化を蛋白質密度解析で定量した結果(図4),57kDaのビメンチン領域において2週では対照群と糖白内障群に有意差はないが,4週では対照群と比較して糖白内障群の蛋白質量は有意に減少していた(p<0.01).48kDaのアクチン領域においては,2,4週ともに有意差を認めなかった.図5に皮質領域不溶性蛋白質のウェスタンブロッティングの結果を示す.2週では対照群,糖白内障群ともに抗ビメンチン抗体,抗アクチン抗体により,ビメンチン,アクチンが検出された.4週では,対照群のバンドは検出されたが,糖白内障群の4週においてビメンチン,アクチンの抗体反応蛋白質量が低下していた.3.ラット糖白内障の組織学的解析ヘマトキシリン・エオジン染色を行った結果を図6に示す.対照群では投与1週,2週目で線維細胞の配列が確認できた.糖白内障群では投与1週目に赤道部から後の表層皮質にかけて線維細胞は膨潤し,細胞膜に融解がみられ皮質に空胞を呈していた.前,後付近の表層皮質も細胞配列の異常が生じていた.投与2週目では,赤道部に崩壊した線維細胞が多数存在し,前,後にも空胞を呈していた.抗ビメンチン抗体の免疫組織染色の結果を図7に示す.対照群では線維細胞の配列に沿って均一な陽性染色を認めたのに対して,糖白内障群では投与1週目から表層皮質の細胞配2週4週20011596513729207kDa20011596513729207kDa対照群糖白内障群対照群糖白内障群→図3皮質領域不溶性蛋白質のSDSPAGE皮質領域不溶性蛋白質のSDS-PAGEの結果を示す.2週では対照群と糖白内障群に明らかな差異は確認されないが,4週で糖白内障のバンドが減少,消失している(矢印部).012341234(週)Grade:対照群:糖白内障群n=6図2ラット糖白内障グレード分類結果対照群はすべての週でGrade0であったが,糖白内障群は週の経過とともに混濁が増強した.———————————————————————-Page41134あたらしい眼科Vol.26,No.8,2009(128)列異常が生じている部位に一致して不均一な陽性染色を認めた.2週では不均一な陽性染色はさらに強まり,前部,後部付近も変性傾向にあった.抗アクチン抗体で免疫染色した結果を図8に示す.抗ビメンチン抗体染色と類似して1週目の赤道部,2週目の前部など細胞配列異常が生じている部位に一致して不均一な染色を認めた.III考察糖尿病が白内障の発症要因となることはわかっているが,メカニズムについてはいまだ不明な点も多い.糖白内障の原因の一つとして,糖アルコールであるガラクチトールの蓄積が関与していると考えられているが,ガラクチトールの濃度を測定した報告8)では,50%のガラクトースを負荷したラットの水晶体で4.5から8.5日目に濃度がピークに達し白内障出現時期には濃度が低下していたとされている.このことからも単にガラクチトールの蓄積が直接水晶体を混濁しているのではなく,ガラクチトールの蓄積により生じるさまざまな障害により白内障が発生した可能性が示唆される.糖白内障の発症機序については他にも報告があり,糖代謝異常によるATP(アデノシン三リン酸)産生の低下や細胞膜の異常9),水晶体細胞内へのカルシウム流入によるカルパインなどのカルシウム依存性の蛋白質分解酵素が活性化し,細胞骨格蛋白質が分解される可能性を示唆している報告1012),線維細胞の膨化,崩壊による,無機イオン,アミノ酸,ミオイノシトールなどの細胞膜維持に関与物質の水晶体外漏出13)や,抗酸化作用のあるスーパーオキシドディスムターゼの活性が低下による蛋白質凝集の可能性を示唆した報告14)などがある.蛋白質密度()蛋白質密度()01234564週2週012345:対照群:糖白内障群*4週2週6ab図4蛋白質密度解析結果SDS-PAGEの蛋白質密度を解析した.aがビメンチン領域,bがアクチン領域.ビメンチン領域の4週の結果で対照群と糖白内障群に有意差を認めた(*:p<0.01).投与2週投与4週ab対照群糖白内障群対照群糖白内障群対照群糖白内障群対照群糖白内障群図5皮質領域不溶性蛋白質のウェスタンブロッティング結果皮質領域不溶性蛋白質を抗ビメンチン抗体(a),抗アクチン抗体(b)を用いてウェスタンブロッティングを行った結果を示す.2週ではビメンチン,アクチンの存在が確認できるが,4週の糖白内障群ではビメンチン,アクチンともに抗体の反応が低下,消失している.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.8,20091135(129)しかし,糖白内障における水晶体蛋白質の変化を検討した報告は少ない.筆者らは,以前より水晶体透明性維持と細胞骨格蛋白質の関係6)について着目しており,今回糖白内障モデルを用いて水晶体混濁と細胞骨格蛋白質変化について解析した.今回のモデルではガラクトース投与2週目から軽度の混濁が発症し,混濁は週の経過とともに増強した.細胞骨格蛋白質は水晶体の透明性維持に重要15,16)とされ,ビメンチンは,水晶体細胞の形状,透明性維持に関与17,18)し,アクチンは,水晶体細胞形状の維持と伸長,水晶体調節機能に関与する19)といわれている.ビメンチン,アクチンを含む細胞骨格蛋白質の減少は蛋白質間のネットワークを乱し,白内障の要因になる20)とされていることから,筆者らは細胞骨格蛋白質であるビメンチン,アクチンの変化に着目し,蛋白質解析を行った.しかし,蛋白質解析による細胞骨格蛋白質の変化は,混濁が進行した4週でのみ生じていた.そこで,白内障初期の細胞骨格の変化分布を追うために組織学的に細胞骨格を解析したところ,実験開始早期である1週,2週の糖白内障群で水晶体皮質部に細胞骨格蛋白質の異常が生じていることがわかった.今回の結果によりガラクチトールの蓄積,ATP産生の低下などが細胞骨格蛋白質を含んだ細胞膜の異常を発生させて初期の細胞骨格蛋白質の変化を生じ,活性化した蛋白質分解酵素によって細胞内の細胞骨格蛋白質が分解され,蛋白質漏出現象から後期の細胞骨格蛋白質の減少を生じたと考えた.白内障の発生原因は一つでなく,糖尿病白内障だけでもさまざまな組織化学的変化が複雑に絡み,水晶体蛋白質間のネットワークが破壊され,白内障が進行していく.細胞骨格蛋白質変化は糖白内障を発生させる要因の一つであるが,細胞骨格蛋白質変化を解明するだけでは糖白内障のメカニズムを解明することはできない.糖代謝異常によって生じる複雑な水晶体成分の変化を一つひとつ解明していくことが,糖白1週2週2週1週abc対照群糖白内障群図6組織学的解析ヘマトキシリン・エオジン染色上段が対照群,下段が糖白内障群を示し,a:赤道部,b:前部,c:後部の結果を各々示す.投与1週の対照群赤道部では水晶体上皮細胞が弧状形状を保ちながら水晶体核部に移動しているが,ガラクトース白内障群では細胞の配列は不均一で細胞間隙が開いている(↑).投与2週になると糖白内障群で前部,後部に空胞化がみられ,赤道部皮質では細胞配列の乱れが生じている.cap:水晶体,cortex:水晶体皮質,Bar=100μm.———————————————————————-Page61136あたらしい眼科Vol.26,No.8,2009(130)内障のメカニズム解明や,予防法の確立に重要であると思われる.本論文の要旨は,第47回日本白内障学会にて発表した.文献1)藤永豊:糖尿病性白内障.眼科MOOK8:220-233,19792)髙村佳弘,久保江理,赤木好男:糖尿病白内障.眼科45:1267-1275,20033)RobisonWGJr,HoulderN,KinoshitaJH:Theroleoflensepitheliuminsugarcataractformation.ExpEyeRes50:641-646,19904)DvornikE,Simard-DuquesneN,KramiMetal:Polyolaccumulationingalactosemicanddiabeticrats:controlbyanaldosereductaseinhibitor.Science182:1146-1148,19735)KinoshitaJH:Mechanismsinitiatingcataractformation.Proctorlecture.InvestOphthalmol13:713-724,19746)MatsushimaH,DavidLL,HiraokaTetal:Lossofcytoskeletalproteinsandlenscellopacicationinthesele-nitecataractmodel.ExpEyeRes64:387-395,19977)SippelT:Changesinthewater,protein,andgalactosecataractdevelopmentinrats.InvestOphthalmol5:568-575,19668)竹村俊彦:ガラクトース負荷ラットにおけるガラクチトールの影響について.阪市医誌39:233-252,19909)小原喜隆:病因.眼科学大系水晶体,p113-126,中山書店,199510)SandersonJ,MarcantonioJM,DuncanG:Ahumanlensmodelofcorticalcataract:Ca2+-inducedproteinloss,vimentincleavageandopacication.InvestOphthalmolVisSci41:2255-2261,200011)MarcantonioJM,DuncanG:Calcium-induceddegrada-tionofthelenscytoskeleton.BiochemSocTrans19:1148-1150,199112)YoshidaH,MurachiT,TsukaharaI:DegradationofactinandvimentinbycalpainII,aCa2+-dependentcysteineproteinase,inbovinelens.FEBSLett21:259-262,19841週2週2週1週abc対照群糖白内障群図7組織学的解析免疫組織染色(抗ビメンチン抗体)抗ビメンチン抗体組織免疫染色の結果.上段が対照群,下段が糖白内障群を示し,a:赤道部,b:前部,c:後部の結果を各々示す.投与1週の対照群赤道部では均一に抗ビメンチン抗体陽性部位が観察できた.糖白内障群では赤道部と後部に細胞配列の乱れが生じている部位に一致して抗ビメンチン抗体強陽性反応を認めた(*).投与2週でも糖白内障群では抗ビメンチン抗体強陽性反応がみられたが,空胞化のみられた部位には反応を認めない(※).———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.26,No.8,20091137(131)13)KinoshitaJH:Aldosereductaseinthediabeticeye.XLIIIEdwardJacsonMemorialLecture.AmJOphthalmol102:685-692,198614)橋本浩隆:糖尿病者白内障と非酵素的糖化反応の関係.日眼会誌102:34-41,199715)IrelandM,MaiselH:Evidenceforacalciumactivatedproteasespecicforlensintermediatelaments.CurrEyeRes3:423-429,198416)松島博之,小原喜隆,向井公一郎ほか:亜セレン酸白内障モデルにおける水晶体混濁減少に関する蛋白質の変動.日眼会誌104:377-383,200017)EliisM,AlousiS,LawniczakJetal:Studiesoflensvimentin.ExpEyeRes38:195-202,198418)SandilandsA,PrescottAR,CarterJMetal:VimentinandCP49/lensinfromdistinctnetworksinthelenswhichareindependentlymodulatedduringlensbrecelldierentiation.JCellSci108:1397-1406,199519)MousaGY,TrevithicJR:Actininthelens:chengesinactinduringdierentiationoflensepithelialcellsinvivo.ExpEyeRes29:71-81,197920)CapetanakiY,SmithS,HeathJP:Overexpressionofthevimentingeneintransgenicmiceinhibitsnormallenscelldierentiation.JCellBiol109:1653-1165,1994***1週2週2週1週abc対照群糖白内障群図8組織学的解析免疫組織染色(抗アクチン抗体)抗アクチン抗体組織免疫染色の結果.上段が対照群,下段が糖白内障群を示し,a:赤道部,b:前部,c:後部の結果を各々示す.投与1週対照群では均一な反応が確認できたが,糖白内障群の赤道部において抗アクチン抗体強陽性所見を認めた(*).投与2週糖白内障群では前部,後部においてアクチンの強陽性所見を認めた(*).

硝子体出血を伴った血管新生緑内障に対するBevacizumabの硝子体内注射の効果

2009年8月31日 月曜日

———————————————————————-Page11126あたらしい眼科Vol.26,No.8,2009(00)1126(120)0910-1810/09/\100/頁/JCOPY19回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科26(8):11261130,2009cはじめに網膜虚血が発症の主因である血管新生緑内障(NVG)の治療は網膜光凝固(PC)が基本である.しかしながら,硝子体出血が存在する場合は眼底が透見できず,汎網膜光凝固はできない.出血の吸収が長引けば,その間にNVGが進行する可能性もある.したがって,このような場合は硝子体手術を施行する必要がある1).NVG患者では硝子体および前房水中の血管内皮増殖因子(VEGF)濃度が上昇2)し,隅角新生血管の形成に関与しているため,抗VEGF薬であるbevacizumabの硝子体内注射(IVB)はNVGの治療として有効35)とされている.また,IVBは硝子体出血の吸収を速めると報告6)されている.このように,IVBは硝子体出血を伴ったNVGに有効である可能性があり,IVBは硝子体手術と比較し患者負担が少ないと予想される.今回筆者らは,硝子体出血を伴ったNVG症例に対してIVBを行ったので,その効果を報告する.〔別刷請求先〕北善幸:〒153-8515東京都目黒区大橋2-17-6東邦大学医療センター大橋病院眼科Reprintrequests:YoshiyukiKita,M.D.,DepartmentofOphthalmology,TohoUniversityOhashiMedicalCenter,2-17-6Ohashi,Meguro-ku,Tokyo153-8515,JAPAN硝子体出血を伴った血管新生緑内障に対するBevacizumabの硝子体内注射の効果北善幸高木誠二北律子富田剛司東邦大学医療センター大橋病院眼科/東邦大学医学部眼科学第二講座IntravitrealBevacizumabintheTreatmentofNeovascularGlaucomawithVitreousHemorrhageYoshiyukiKita,SeijiTakagi,RitsukoKitaandGojiTomitaDepartmentofOphthalmology,TohoUniversityOhashiMedicalCenter/SecondDepartmentofOphthalmology,TohoUniversitySchoolofMedicine硝子体出血を伴った血管新生緑内障(NVG)3例3眼に対してbevacizumabの硝子体内注射(IVB)〔1.25mg(0.05ml)〕を行ったのでその効果を報告する.NVGのstageはpreglaucomastageが2眼,open-angleglaucomastageが1眼であった.経過観察期間は9.0±2.9カ月であった.IVB直前の眼圧は平均20.7±2.5mmHg.IVB後,平均16.3±1.7mmHgに低下した.IVB後1カ月の時点で,隅角新生血管はすべての症例で消失した.2眼は硝子体出血も消失し網膜光凝固ができ硝子体手術を回避できた.1眼は,硝子体出血が消失せず硝子体手術が必要となった.硝子体出血を伴ったNVGに対するIVBは,眼圧下降効果と硝子体出血の吸収促進効果が期待でき,有効な治療法として検討に値すると思われた.Wereporttheeectofintravitrealbevacizumab(IVB)〔1.25mg(0.05ml)〕in3patients(3eyes)intreatingneovascularglaucoma(NVG)withvitreoushemorrhage.TheNVGstagewaspreglaucomain2eyes,andopen-angleglaucomastagein1eye.Thenalfollow-upperiodwas9.0±2.9months.Theaverageintraocularpressure(IOP)justbeforeIVBwas20.7±2.5mmHg.IOPreducedtoanaverageof16.3±1.7mmHgafterIVB.At1monthoffollow-up,completeregressionofNVGwasseeninallcases.In2eyes,vitrectomycouldbeavoidedthankstovitreoushemorrhageregression,enablingadjuvantretinalphotocoagulation.Vitrectomywasnecessaryinoneeyefortheincompleteresolutionofvitreoushemorrhage.IVBresultedinmarkedregressionofvitreoushemorrhageandledtorapidIOPreductioninNVGwithvitreoushemorrhage.IVBshouldbeconsideredaneectivetreatment,andmaybeusedadjunctivelyinmanagingNVGwithvitreoushemorrhage.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(8):11261130,2009〕Keywords:bevacizumab,血管新生緑内障,硝子体出血.bevacizumab,neovascularglaucoma,vitreoushemor-rhage.———————————————————————-Page2あたらしい眼科Vol.26,No.8,20091127(121)I対象および方法2007年2月6月までの期間に東邦大学医療センター大橋病院で硝子体出血を伴ったNVGのためIVBを施行した3例3眼を対象とした.IVBの適応は,PCが不可能な程度の硝子体出血を伴ったNVGで,硝子体出血が消失しPCの追加治療をすることによって眼圧コントロールができる可能性があり,眼底の状態からも硝子体手術の必要性が少ないと判断した症例とした.Closed-angleglaucomastageのNVGは適応外とした.内訳は,男性2例2眼,女性1例1眼で,年齢は平均54.3歳であった.硝子体出血の原因疾患は増殖糖尿病網膜症(PDR)が2眼,網膜中心静脈閉塞症(CRVO)が1眼であった.NVGstageはpreglaucomastageが2眼,open-angleglaucomastageが1眼であった.IVB直前の眼圧(平均±SD)は20.7±2.5mmHgであった.IVBは本院倫理委員会の承認を得て文書によるインフォームド・コンセントを取得のうえ,施行した.手術室において術野をポビドンヨードで消毒した.そして,結膜下麻酔を施行し,32ゲージ針を用いてbevacizumab1.25mg(0.05ml)を角膜輪部から3.5mm後方の毛様体扁平部より硝子体内に注射した.眼圧調整の目的で前房穿刺を行った.IVB前後の隅角鏡検査による隅角所見およびGoldmann圧平眼圧計による眼圧を比較した.また,硝子体出血の消退を診察した.眼圧測定は注射後1日目と注射後1カ月までは1週間おきに施行し,その後は23週間おきに施行した.II症例と経過〔症例1〕70歳,女性.主訴:左眼視力低下.現病歴:左眼CRVO(図1)の診断のもと7カ月前に組織プラスミノーゲンアクチベーターの硝子体内注射施行.その後,来院しなくなった.数日前から主訴出現し来院した.眼所見:視力右眼(1.2×cyl1.50DAx90°),左眼30cm指数弁.眼圧右眼16mmHg,左眼20mmHg.左眼隅角および虹彩新生血管(図2)を認め,周辺虹彩前癒着(PAS)はなかった.硝子体出血のため,眼底は透見不能であったが,超音波検査では網膜離を認めなかった.経過:左眼CRVOによる硝子体出血を伴ったNVG(pre-glaucomastage)と診断し,IVBを施行した.IVB前の眼圧は20mmHgであった.IVBから1週間後眼圧14mmHgになり,24日後には眼圧は13mmHgに下降し,隅角新生血管は減少し,硝子体出血も減少していた(図3a,b).そのため,汎網膜光凝固を開始した.1カ月後の眼圧は17mmHg,2カ月後の眼圧18mmHgであった.10カ月後,左眼視力(0.08×2.00D),眼圧は降圧剤の点眼なしで18mmHg.検眼鏡的には虹彩および隅角新生血管や硝子体出血の再発を認めない.〔症例2〕49歳,男性.主訴:左眼視力低下.現病歴:左眼のPDR,硝子体出血,NVG(preglaucomastage)のため,14カ月前に硝子体手術施行.術後,隅角および虹彩新生血管は消失していたが,術後9カ月目より,虹彩新生血管が出現した.眼圧上昇がないため,経過観察した.10日前より主訴出現し来院.眼所見:視力右眼(0.7×0.50D(cyl0.75DAx60°),左眼手動弁.眼圧右眼16mmHg,左眼18mmHg.左眼の虹彩と隅角に新生血管(図4)を認めたがPASはなかった.左眼白内障を軽度認めた.硝子体出血のため眼底は透見不可能であったが,超音波検査では網膜離を認めなかった.図1初診時眼底写真左眼に網膜中心静脈閉塞症がある.耳下側に光凝固が施行されている.図2前眼部蛍光造影(59秒)虹彩新生血管を認める.———————————————————————-Page31128あたらしい眼科Vol.26,No.8,2009(122)経過:左眼硝子体手術後の強膜創血管新生による硝子体出血が疑われ,硝子体出血を伴ったNVG(preglaucomastage)と診断した.1カ月間,経過観察したが改善しないのでIVBを施行した.IVB前眼圧16mmHg.IVBから1週間後眼圧20mmHgで硝子体出血は減少傾向があった.1カ月後の眼圧は18mmHgで隅角新生血管は消失した.2カ月後,眼圧18mmHg,硝子体出血は消失し汎網膜光凝固が不十分であったので,さらにPCを追加(415発)した.12カ月後,左眼視力(1.2×+0.25D(cyl0.75DAx90°),眼圧は降圧剤の点眼なしで19mmHg.硝子体出血や虹彩および隅角新生血管の再発を認めない.〔症例3〕44歳,男性.主訴:左眼視力低下.現病歴:左眼PDR,NVG(preglaucomastage)の診断のもと他院より紹介された.初診時所見:視力右眼(0.9×3.25D(cyl1.25DAx90°),左眼(0.05×3.00D(cyl1.25DAx90°).眼圧右眼14mmHg,左眼14mmHg.虹彩および隅角に新生血管を認めたが,PASはなかった.眼底は両眼PDRであった.経過:眼科的治療が未施行なので,PCを開始した.その3カ月後より硝子体出血が出現した(図5).その後,硝子体出血が増加,眼圧が24mmHgに上昇しNVGのopen-angleglaucomastageになった.以前のフルオレセイン蛍光眼底造影では黄斑部の虚血が強く視力改善には限界があり,牽引性網膜離がなかったのでIVBを予定した.注射前眼圧は2%カルテオロール塩酸塩(2%ミケランR)点眼液を点眼し24mmHg.IVBから1週間後眼圧は12mmHg,隅角新生血管は消失した.1カ月後の眼圧は14mmHg,硝子体出血は減少傾向を認めたが,PCの追加はできなかった.超音波検査では牽引性網膜離の出現はなかった.2カ月後,眼圧は14mmHg.5カ月後,眼圧は12mmHg,隅角および虹彩新生血管は消失したままであったが,硝子体出血が消失しない図3IVBから24日後a:フルオレセイン蛍光眼底造影(3分47秒):硝子体出血がほぼ消退した.無灌流域がある.b:前眼部蛍光造影(59秒):蛍光漏出が軽減している.図4前眼部蛍光造影(95秒)虹彩新生血管がある.図5眼底写真硝子体出血が出現してきている.———————————————————————-Page4あたらしい眼科Vol.26,No.8,20091129(123)ため,硝子体手術を施行した.III結果IVB後1カ月の時点で,検眼鏡的には隅角新生および虹彩新生血管の消失が全例にみられた.IVB後1カ月の眼圧は降圧剤の点眼治療なしで平均16.3±1.7mmHgとなり,全例で正常眼圧を保てた.硝子体出血は2眼で消失しPCができ硝子体手術が回避できたが,1眼は消退傾向があったがPCはできず硝子体手術が必要となった.経過観察期間(症例3は硝子体手術までの期間)は9.0±2.9カ月であり,この時点での眼圧は16.3±3.1mmHg,検眼鏡的に隅角および虹彩新生血管は消失したままであった.IVBによる眼局所および全身の合併症はなかった.IV考按一般的にNVGに対する治療は,隅角などの新生血管の活動性を弱め消退させることが第一であり,このため,いずれの病期にも赤道部を越える広範かつ高密度の汎網膜光凝固を実施することが重要である7).しかし,硝子体出血があるとPCができず硝子体手術を施行し術中にPCをするか網膜冷凍凝固をする必要がある.現在,硝子体出血を伴ったNVGに対しては,硝子体出血で十分なPCができない場合は早期の硝子体手術が必要とされている8).これはNVGを伴った糖尿病網膜症に対する硝子体手術成績の報告8)で,術前が正常眼圧群は術後も96%が眼圧正常であったのに対し,術前が高眼圧群は術後に緑内障手術の追加をしても58%しか眼圧が正常にならず,眼圧上昇する前に硝子体手術をしたほうが術後の眼圧コントロールが良好であるためである.最近,IVBがNVGに対して使用され,隅角新生血管や虹彩新生血管が減少し,眼圧も下降したと報告35)されている.ただし,closed-angleglaucomastageでは,IVB後93%に緑内障手術が必要であったと報告9)されている.また,硝子体出血を伴うPDRに対し,SpaideらはIVBを施行し硝子体出血の吸収に有効であったと報告6)している.これらのことより今回は,硝子体出血を伴ったpreglauco-mastageおよびopen-angleglaucomastageのNVGに対して早期硝子体手術ではなくIVBを行った.IVB施行後,硝子体出血が消退するのを待つ間にPASが出現し房水流出路が閉塞し眼圧のコントロールが困難になることが危惧されたが,IVB後に隅角新生血管は消失し,眼圧は下降または維持でき,PASが出現することはなかった.そして,その間に3例中2例で硝子体出血が吸収し,PCの追加をすることができ,硝子体手術を回避することができた.今回の症例を初めから硝子体手術を施行した場合,佐藤らの報告8)のように,術後の眼圧コントロールは良好である可能性がある.ただ,一般的には硝子体手術は入院が必要であり,手術時間もIVBと比較して長く患者負担が少なくない.そのため,IVBは硝子体出血を伴ったNVGに対し,硝子体出血が消退する期間のNVGの進行を予防しPCを可能とすることより患者負担の少ない治療の一つになると思われた.この3例の内訳は,CRVOによる硝子体出血が1眼,PDRによる硝子体出血が1眼,PDRに対する硝子体手術後の硝子体出血が1眼であった.以前筆者らは硝子体手術後のNVGに対するIVBは,無硝子体眼であるため,bevacizum-abの半減期が短くなっており効果が十分ではないと報告10)したが,NVGがpreglaucomastageであれば無硝子体眼であっても効果が得られると思われた.PDRが原因の症例3においては眼圧下降やPASの出現の予防には有用であったが,硝子体出血の消退には効果がなく硝子体手術が必要となった.重症のPDRに対しIVBを行うと,膜の収縮を増強し牽引性網膜離が5.2%に生じた11)り,黄斑偏位が生じたと報告12)されているため,IVB後に経過観察することで牽引性網膜離が黄斑部に及び視力予後を不良にする可能性がある.症例3は初診時から黄斑部がフルオレセイン蛍光眼底造影上で虚血になっており,視力予後が不良であると考えられたためIVBを施行したが,牽引性網膜離は出現することはなかった.今後,硝子体出血を伴ったPDRにIVBを行う際には,IVB後に超音波検査で注意深く経過観察し,牽引性網膜離が出現または悪化するような場合は硝子体手術を施行する必要があり,また,黄斑偏位は超音波検査では判断が困難であるが,眼底検査を注意深く行い硝子体出血が減少し,黄斑偏位が疑われる場合は硝子体手術を施行する必要がある.今回はNVG症例であっても開放隅角で眼圧上昇がみられないか軽度の症例であったので,良好な経過をたどった例があったが,今後,どの程度までの眼圧上昇には有効であるかなど検討する必要がある.Bevacizumabの硝子体注射は1,000人に1人の確率で眼内炎などの危険が伴うと報告されている13)が,硝子体出血を伴ったNVGに対するIVBは慎重に症例を選べば,硝子体手術を回避し患者負担を減らすことができる非常に有用な方法と考えられた.文献1)松村美代:糖尿病網膜症による血管新生緑内障に取り組んで.眼紀58:459-464,20072)AielloLP,AveryRL,ArriggPGetal:Vascularendothe-lialgrowthfactorinocularuidofpatientswithdiabeticretinopathyandotherretinaldisorders.NEnglJMed331:1480-1487,19943)DavidorfFH,MouserJG,DerickRJ:Rapidimprovementofrubeosisiridisfromasinglebevacizumab(Avastin)injection.Retina26:354-356,20064)MasonJOIII,AlbertMAJr,MaysAetal:Regressionof———————————————————————-Page51130あたらしい眼科Vol.26,No.8,2009(124)neovascularirisvesselsbyintravitrealinjectionofbevaci-zumab.Retina26:839-841,20065)IlievME,DomigD,Wolf-SchnurrburschUetal:Intravit-realbevacizumab(Avastin)inthetreatmentofneovascu-larglaucoma.AmJOphthalmol142:1054-1056,20066)SpaideRF,FisherYL:Intravitrealbevacizumab(Avas-tin)treatmentofproliferativediabeticretinopathycompli-catedbyvitroushemorrhage.Retina26:275-278,20067)佐藤幸裕:血管新生緑内障と汎網膜光凝固.眼科診療プラクティス3,レーザー治療の実際(田野保雄ほか編),p178-181,文光堂,19938)佐藤幸裕,佐藤わかば,李才源ほか:虹彩隅角新生血管を伴う糖尿病網膜症に対する硝子体手術の長期予後.眼紀49:997-1001,19989)WakabayashiT,OshimaY,SakaguchiHetal:Intravitre-albevacizumabtotreatirisneovacularizationandneovas-cularglaucomasecondarytoischemicretinaldiseasesin41consecutivecases.Ophthalmology115:1571-1580,200810)北善幸,高木誠二,北律子ほか:硝子体手術後に発症した血管新生緑内障に対しBevacizumab(AvastinR)の硝子体内注射を施行した4例.あたらしい眼科25:1719-1723,200811)ArevaloJF,MaiaM,FlynnHJretal:Tractionalretinaldetachmentfollowingintravitrealbevacizumab(Avastin)inpatientswithsevereproliferativediabeticretinopathy.BrJOphthalmol92:213-216,2008,Epub26Oct200712)北善幸,佐藤幸裕,北律子ほか:Bevacizumabの硝子体内注射で硝子体手術時期が延期できた増殖糖尿病網膜症の1例.あたらしい眼科25:885-889,200813)JonasJB,SpandauUH,RenschFetal:Infectiousandnoninfectiousendophthalmitisafterintravitrealbevaci-zumab.JOculPharmacolTher23:240-242,2007***

ラタノプロスト単独点眼からチモロール・ドルゾラミド併用点眼へ切り替え時の眼圧,視神経乳頭血流の変化

2009年8月31日 月曜日

———————————————————————-Page11122あたらしい眼科Vol.26,No.8,2009(00)1122(116)0910-1810/09/\100/頁/JCOPY19回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科26(8):11221125,2009cはじめに現在,原発開放隅角緑内障(POAG)の治療にはラタノプロスト点眼薬が第一選択薬として使用されることが多く,眼血流に及ぼす作用に関しては,測定部位や測定方法により多少異なる結果が報告されているが,おおよそ不変あるいは増加作用があると考えられる1).しかし,ラタノプロストのノンレスポンダーの存在や局所副作用の問題などから,古くから使用されているチモロール点眼薬やチモロール点眼薬とドルゾラミド点眼薬の併用療法に切り替えられることがあり,海外ではチモロールとドルゾラミドの合剤(CosoptR)も使用されている.チモロール点眼薬単独では眼循環に影響を与えないとする報告が多い1).ドルゾラミド点眼薬は毛様体の炭酸脱水酵素を阻害2)して眼圧を下降させるとともに,その眼血流増加作〔別刷請求先〕小嶌祥太:〒569-8686高槻市大学町2-7大阪医科大学眼科学教室Reprintrequests:ShotaKojima,M.D.,DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollege,2-7Daigaku-machi,Takatsuki,Osaka569-8686,JAPANラタノプロスト単独点眼からチモロール・ドルゾラミド併用点眼へ切り替え時の眼圧,視神経乳頭血流の変化小嶌祥太杉山哲也柴田真帆植木麻理池田恒彦大阪医科大学眼科学教室ChangesinIntraocularPressureandOpticNerveHeadMicrocirculationResultingfromTimorol-DorzolamideCombinedTherapyafterLatanoprostTreatmentShotaKojima,TetsuyaSugiyma,MahoShibata,MariUekiandTsunehikoIkedaDepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollege目的:今回筆者らはラタノプロスト単独点眼(L)からチモロール単独点眼(T),さらにドルゾラミド併用(T+D)に変更したときの,眼圧および視神経乳頭血流の変化を調べた.方法:対象は広義の原発開放隅角緑内障(POAG)7名10眼,Lで治療するも眼圧が16mmHg以上の症例とした.方法として4週間以上Lで治療を受けた後,Tで4週間,T+Dで4週間治療を行い,それぞれの切り替え直前および最終日に眼圧,血圧・脈拍,視神経乳頭血流(SBR値:レーザースペックル法)を測定した.また,眼圧と平均血圧から眼灌流圧を計算して検討した.結果:眼圧,平均血圧,脈拍,眼灌流圧はいずれもLと比較しT+Dで有意に低下していた.SBR値は変化しなかった.結論:POAGにおいては,Lと比較してT+Dは有意に眼圧が下降した.今回眼灌流圧が低下し,視神経乳頭血流が変化を示さなかったことより,T+Dによって末梢血管抵抗が減弱することが示唆された.Westudiedchangesinintraocularpressure(IOP)andopticnerveheadmicrocirculationaftertherapywithtimolol(T)onlyortogetherwithdorzolamide(T+D)afterlatanoprosttreatment(L).Subjectscomprised7prima-ryopen-angleglaucoma(POAG)patientswithIOP16mmHgorhigherdespitetreatmentwithL.After4weeksormoreofL,patientsreceivedTfor4-weeks,followedby4weeksofT+D.IOP,bloodpressure(BP),pulserateandopticnerveheadbloodow〔squareblurrate(SBR):laserspecklemethod〕weremeasuredattheendofthe4thweek.Ocularperfusionpressure(OPP)wascalculatedfromIOPandmeanBP.T+DcausedsignicantdecreasesinIOP,meanBP,pulserateandOPPbutinSBRcomparedwithL.T+DsignicantlydecreasedIOP.T+DdecreasedOPPbutbloodowintheopticnervehead,indicatingthatT+Ddecreasestheperipheralvascularresistanceanddilatesbloodvessels.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(8):11221125,2009〕Keywords:ドルゾラミド,チモロール,ラタノプロスト,原発開放隅角緑内障,視神経乳頭血流.dorzolamide,timolol,latanoprost,primaryopen-angleglaucoma,opticnerveheadbloodow.———————————————————————-Page2あたらしい眼科Vol.26,No.8,20091123(117)用が報告3,4)されているが,変化がなかったとする報告5)もある.そこで今回,広義のPOAG患者においてラタノプロスト単独点眼からチモロール単独点眼,さらにドルゾラミド併用に変更したときの,眼圧や視神経乳頭血流の変化を調べた.I対象および方法対象は大阪医科大学附属病院眼科に受診中の広義のPOAGで,ラタノプロスト単独点眼にて治療するも眼圧が16mmHg以上である7名(平均年齢59.9±14.0歳,男性4名,女性3名)である.糖尿病など重篤な全身疾患をもつ症例,眼血流に影響を及ぼす可能性のある薬剤(bブロッカー,Ca拮抗薬,炭酸脱水酵素阻害薬,アスピリン,ニトログリセリンなど)を使用している症例は対象から除外した.また,視力や視野が著しく不良または固視が不良で安定した血流測定が困難であった眼は除外し計10眼にて検討した.他科からの処方は試験期間中,原則として変更しないこととした.本研究の実施にあたっては大阪医科大学倫理委員会の承認を得たうえで,対象者には説明して文書による同意を得た.これら対象患者にラタノプロスト点眼を4週間以上行った(L)後に,チモロール点眼を4週間行い(T),最後にチモロール+ドルゾラドミド点眼4週間(T+D)行った.それぞれの点眼切り替え直前および最終日に眼圧,血圧・脈拍,視神経乳頭血流を測定した.測定はすべて午前9時から11時までの間に行った.視神経乳頭血流はレーザースペックル法を用いて,0.5%塩酸トロピカミド散瞳下にて,血流速度および組織血流量の指標であるsquareblurrate(SBR)値6)を測定した.測定部位として視神経乳頭耳側の表在血管の見えない部位を選んだ.また,平均血圧と眼圧から眼灌流圧を次式により算出し検討した.平均血圧=拡張期血圧+1/3(収縮期血圧拡張期血圧)眼灌流圧=2/3平均血圧眼圧統計学的検討は各群間にて対応のあるt検定を用い,有意水準はp<0.05とした.II結果眼圧はLと比較し,Tでは有意な変化は生じなかったが,T+Dでは有意に低下し,その差は平均2.1mmHgであった(表1,図1).平均血圧はLと比較し,Tでは有意な変化は生じなかったが,T+Dで有意に低下した(表1).脈拍はLと比較し,Tでは有意な変化は生じなかったが,T+Dで有表1ラタノプロスト単独点眼(L)から,チモロール単独点眼(T),チモロール+ドルゾラミド併用点眼(T+D)へ変更したときの各パラメータの変化とLに対する有意差ラタノプロスト(L)チモロール(T)チモロール+ドルゾラミド(T+D)眼圧(mmHg)15.4±2.016.3±2.7(0.0947)13.3±2.3(0.0082)**平均血圧(mmHg)102.1±16.4102.6±13.2(0.8652)95.1±15.0(0.0036)**脈拍(拍/分)72.1±10.366.7±8.8(0.1601)67.4±8.2(0.0098)**眼灌流圧(mmHg)53.1±8.951.8±5.9(0.4562)50.6±8.2(0.0264)*SBR7.00±1.897.12±1.89(0.6956)7.52±2.46(0.1568)平均±標準偏差.()内はLに対する有意差(p値).**:p<0.01,*:p<0.05,(pairedt-test),n=10.101520ラタノプロストチモロールチモロール+ドルゾラミド眼圧(mmHg)**図1ラタノプロスト単独点眼(L)から,チモロール単独点眼(T),チモロール+ドルゾラミド併用点眼(T+D)へ変更したときの眼圧の変化眼圧はL(15.4±2.0mmHg)と比較し,T(16.3±2.7mmHg)では有意な変化は生じなかった(p=0.0947)が,T+D(13.3±2.3mmHg)で有意に低下した(平均±標準偏差,**:p=0.0082,n=10).404550556065*ラタノプロストチモロールチモロール+ドルゾラミド眼灌流圧(mmHg)図2LからT,T+Dへ変更したときの眼灌流圧の変化眼灌流圧はL(53.1±8.9mmHg)と比較し,T(51.8±5.9mmHg)では有意な変化は生じなかった(p=0.4562)が,T+D(50.6±8.2mmHg)で有意に低下した(平均±標準偏差,*:p=0.0264,n=10).———————————————————————-Page31124あたらしい眼科Vol.26,No.8,2009(118)意に低下した(表1).眼灌流圧はLと比較し,Tでは有意な変化は生じなかったが,T+Dで有意に低下した(表1,図2).視神経乳頭SBR値はLと比較し,Tでは有意な変化は生じず,T+Dでも減少しなかった(表1,図3).III考按今回の筆者らの結果では,開放隅角緑内障眼においてラタノプロスト点眼と比較してチモロール+ドルゾラミド点眼は有意に眼圧を下降させた.さらに,チモロール単独点眼よりもチモロール+ドルゾラミド併用点眼が平均眼圧が下降したことから,今回の対象群においてはドルゾラミドが眼圧下降に効果的であった.これらのことから,ラタノプロストとチモロール点眼では差がなく,ドルゾラミドの追加が有効であると考えられ,ラタノプロストやチモロール点眼で十分な眼圧下降効果が得られない場合に,従来の報告どおりドルゾラミドの追加が有効であると考えられた.さらに今回ラタノプロスト点眼と比較してチモロール点眼では血流の有意な変化は認められず,これはラタノプロストやチモロール点眼が血流に変化を与えにくいという過去の報告1)と合致する.つぎにドルゾラミドとチモロール併用による眼血流への影響に関して4週間のラタノプロスト点眼とドルゾラミド+チモロール点眼との血流の比較をした研究7)では,POAGにおいてラタノプロスト点眼ではpulsatileocu-larbloodow(POBF)に変化を及ぼさなかったものの,ドルゾラミド+チモロール点眼ではPOBFが有意に増加したと報告されている.ここでPOBFは脈絡膜血流由来とされているが明確ではない.また,colordopplerimaging(CDI)で測定した球後血流には変化がなかったが,網膜血流の一部が蛍光色素による測定で増加したという報告8)もあり,部位によって血流の変化は一定していない.さて今回の結果では,4週間のドルゾラミド+チモロール点眼によってラタノプロスト点眼と比較して有意な視神経乳頭血流の変化は生じなかった.この原因としてチモロール点眼を8週間行ったことにより血圧が低下9)し,その結果眼灌流圧が低下したことが考えられる.眼灌流圧が低下したにもかかわらず視神経乳頭血流は変化しなかったことから,チモロール+ドルゾラミドによる末梢血管抵抗減弱の可能性が示唆された.一方,レーザースペックル法を用いてドルゾラミドとブリンゾラミドの点眼の視神経乳頭血流への影響を調べた報告5)では,両剤とも2週間点眼にて健康成人の視神経乳頭循環に影響がなかったとしている.ただ,この報告は非緑内障眼が対象であり,点眼期間も2週間であったため,ドルゾラミドの視神経乳頭循環に及ぼす効果も今回より少なかったのではないかと推測できる.ドルゾラミドの投与により組織血流が増加するが,そのメカニズムは明確にされておらず,炭酸脱水酵素阻害作用により細胞内間隙のpHが上昇して血管径が拡大されるという推測もされるが,ドルゾラミドの細胞外pH非依存性動脈拡張作用10)も報告されている.いずれにしても今回対象となったラタノプロスト単独点眼で16mmHg以上の広義のPOAG症例においては,ラタノプロスト点眼と比較してチモロールとドルゾラミド併用点眼により有意に(約2mmHg)眼圧が下降した.さらに,この併用療法では視神経乳頭の末梢血管抵抗が減弱する(血管拡張作用がある)ことが示唆された.今後は視野などに及ぼす臨床的意義をさらに検討する必要があると思われる.最後に本研究の欠点として,無治療時の眼圧・循環器系因子などの詳細なデータが取られていないことから,広義のPOAGといえどもラタノプロストに対して眼圧下降反応性が悪いとは限らない対象であること,n=10しかないことがあげられる.今後のさらなる詳細な研究には対象群のベースラインデータが必要である.文献1)富所敦男:1.緑内障.V疾患と眼循環NEWMOOK眼科(大野重昭,吉田晃敏,水流忠彦編集主幹,張野正誉,桐生純一,玉置泰裕編),7巻,p164-172,金原出版,20042)MarenTH,ConroyCW,WynnsGCetal:Ocularabsorp-tion,bloodlevels,andexcretionofdorzolamide,atopicallyactivecarbonicanhydraseinhibitor.JOculPharmacolTher13:23-30,19973)TamakiY,AraieM,MutaK:Eectoftopicaldorzol-amideontissuecirculationintherabbitopticnervehead.JpnJOphthalmol43:386-391,19994)ArendO,HarrisA,WolterPetal:Evaluationofretinalhaemodynamicsandretinalfunctionafterapplicationofdorzolamide,timololandlatanoprostinnewlydiagnosedopen-angleglaucomapatients.ActaOphthalmolScand45678910ラタノプロストチモロールチモロール+ドルゾラミドSBR†図3LからT,T+Dへ変更したときの視神経乳頭循環の変化視神経乳頭SBR値はL(7.00±1.89mmHg)と比較し,T(7.12±1.89mmHg)では有意な変化は生じず(p=0.6956),T+D(7.52±2.45mmHg)でも減少しなかった(平均±標準偏差,†:p=0.1568,n=10).———————————————————————-Page4あたらしい眼科Vol.26,No.8,20091125(119)81:474-479,20035)廣石悟朗,廣石雄二郎,長谷川裕平ほか:炭酸脱水酵素阻害点眼薬による視神経乳頭循環への影響.臨眼62:733-737,20086)新家眞,玉置泰裕,永原幸ほか:眼内循環.レーザースペックル法による生体眼循環測定.装置と眼科研究への応用.日眼会誌103:871-909,19997)JanulevicieneI,HarrisA,KagemannLetal:Acompari-sonoftheeectsofdorzolamide/timololxedcombinationversuslatanoprostonintraocularpressureandpulsatileocularbloodowinprimaryopen-angleglaucomapatients.ActaOphthalmolScand82:730-737,20048)HarrisA,Jonescu-CuypersCP,KagemannLetal:Eectofdorzolamidetimololcombinationversustimolol0.5%onocularbloodowinpatientswithprimaryopen-angleglaucoma.AmJOphthalmol132:490-495,20019)NelsonWL,FraunfelderFT,SillsJMetal:Adverserespiratoryandcardiovasculareventsattributedtotimololophthalmicsolution,1978-1985.AmJOphthalmol102:606-611,198610)JosefssonA,SigurdssonSB,BangKetal:Dorzolamideinducesvasodilatationinisolatedpre-contractedbovineretinalarteries.ExpEyeRes78:215-221,2004***

カルテオロール塩酸塩持続性点眼液とカルテオロール塩酸塩点眼液の眼圧降下の比較

2009年8月31日 月曜日

———————————————————————-Page1(113)11190910-1810/09/\100/頁/JCOPY19回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科26(8):11191121,2009cはじめに日本においても1日1回点眼のカルテオロール持続性点眼液が発売となった.カルテオロール持続性点眼液は,カルテオロール点眼液にアルギン酸を添加することで粘性を高めて,1日1回の点眼を可能にしている.点眼回数を減らすことで,アトヒアランスを上げることが期待できる1).カルテオロール持続性点眼液の眼圧下降効果はカルテオロール点眼液と比較して有意差はみられないと報告されているが,カルテオロール塩酸塩点眼液からカルテオロール持続性点眼液への切り替えによる眼圧の変動状況を検討した報告は少ない.〔別刷請求先〕新夕愛:〒153-8515東京都目黒区大橋2-17-6東邦大学医療センター大橋病院眼科Reprintrequests:AiNitta,M.D.,DepartmentofOphthalmology,TohoUniversityOhashiMedicalCenter,2-17-6Ohashi,Meguro-ku,Tokyo153-8515,JAPANカルテオロール塩酸塩持続性点眼液とカルテオロール塩酸塩点眼液の眼圧降下の比較新夕愛竹山明日香北善幸富田剛司東邦大学医学部眼科学第二講座ComparisonofHypotensiveEectsbetweenStandardCarteololandLong-ActingCarteololEyedropsAiNitta,AsukaTakeyama,YoshiyukiKitaandGojiTomitaSecondDepartmentofOphthalmology,TohoUniversitySchoolofMedicine目的:カルテオロール塩酸塩持続性点眼液の眼圧下降効果についてレトロスペクティブに比較検討した.対象および方法:対象は東邦大学にてカルテオロール塩酸塩点眼液を使用されていて持続性点眼液に変更した13名26眼,平均年齢73.8歳.眼圧下降点眼薬はカルテオロール塩酸塩点眼液を含めた平均1.88種類(13種類)を使用していた.点眼していた患者の内訳は原発開放隅角緑内障(POAG)が10眼,正常眼圧緑内障が14眼,高眼圧症が2眼であった.変更前2回の平均眼圧と変更後2回の平均眼圧を比較検討した.さらに,眼圧の季節変動の影響を考慮して,投与1年前の同時期の眼圧との関連を評価した.結果:変更後平均経過観察期間は4.1カ月.変更前の眼圧(平均±SD)は13.5±2.6mmHg,変更後の眼圧は13.8±1.9mmHgであった.変更前に比べて変更後に眼圧上昇を認めたのは26眼中11眼で有意差は認められなかった(t検定,p=0.354).変更後眼圧上昇を認めた11眼中,1年前の同時期に眼圧上昇を認めたのは11眼中2眼であった.結論:持続性点眼液は変更前と比較し眼圧はほぼ一定であったが,変更後眼圧が上昇する症例も散見された.Toevaluatethehypotensiveeectsoflong-actingcarteololeyedrops,weswitchedfromstandardtolong-act-ingcarteololeyedropsin26eyesof13glaucomapatientswhohadbeentreatedwithstandardtypecarteololeye-dropsfor1yearorlonger.Averagepatientagewas73.8years(range:4482yrs).Onaverage,1.88typesofocularhypotensiveeyedropshadbeenusedbeforetheswitchtolong-actingcarteolol.Wecomparedintraocularpressure(IOP)readingsobtainedbyGoldmannapplanationtonometerbeforeandafterthechangetolong-actingcarteololeyedrops.WealsoevaluateddierenceinmagnitudeofIOPchangesbetweenayearagoandthepresent.AverageIOP(±SD)beforeandatabout4monthsafterswitchingwas13.5±2.6mmHgand13.8±1.9mmHg,respectively.Although11of26eyesshowedanincreaseafterswitching,thedierencewasnotsignicant(p=0.354).Twoof11eyesthatshowedanIOPincreaseafterswitchinghadalsoshowedanincreaseduringthesameseasononeyearpreviously.TherewasnosignicantdierenceinIOPbetweenbeforeandafterswitchingfromstandardtolong-actingcarteololeyedrops.However,severalindividualeyesshowedIOPincreaseafterswitching,thoughtheincreaseseemedtobewithintherangeofseasonalIOPvariation.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(8):11191121,2009〕Keywords:緑内障,カルテオロール,眼圧,比較.glaucoma,carteolol,intraocularpressure,comparison.———————————————————————-Page21120あたらしい眼科Vol.26,No.8,2009(114)そこで,今回は季節変動を考慮し,持続性点眼液への変更による眼圧下降効果を検討した.I対象東邦大学医療センター大橋病院の眼科外来(以下,当科)において,カルテオロール塩酸塩(1日2回点眼)を点眼されていて,持続性点眼液のカルテオロール持続性点眼液に変更した13名26眼を対象とした.点眼液変更は平成19年9月から1月頃にかけて行われ,変更時にはwashout期間なしで切り替えを行った.受診時の年齢分布は4482歳(平均73.8歳)で男性7名,女性6名であった.変更時に使用していた眼圧下降点眼液数はカルテオロール塩酸塩のみの1種が7眼,2種が15眼,3種が4眼で平均1.88種類であった.使用していた点眼液の内訳はラタノプロスト点眼液が16眼,イソプロピルウノプロストンが2眼,ドルゾラミドが1眼であった.緑内障の内訳は原発開放隅角緑内障(POAG)が5例10眼,正常眼圧緑内障(NTG)が7例14眼,高眼圧症(OH)が1例2眼であった.カルテオロール塩酸塩を1年以上当院にて使用されている症例を対象としたが,経過観察中にアセタゾラミド内服を追加した症例,持続性点眼液へ変更するまでの期間に眼圧下降点眼液の変更や追加した症例,内眼手術やレーザー手術を行った症例は今回の対象から除外した.II方法カルテオロール持続性点眼液への変更前2回の平均眼圧と,変更後2回の平均眼圧をレトロスペクティブに比較検討した.季節変動の影響も考慮して,カルテオロール持続性点眼液へ変更する前後と1年前の同時期の眼圧との関連も比較評価した.眼圧値はGoldmann圧平眼圧計を用い,当科受診時に1回のみ座位で測定しその値を評価した.測定眼圧は10時から14時の間に測定し,同一症例での測定時間は一定化した.統計的解析法として,割合の差の検定にはc2検定を用い,平均値の差の検定には,対応のあるt検定および対応のないt検定を用いた.有意水準はp<0.05とした.III結果カルテオロール持続性点眼液への変更前の平均眼圧±標準偏差は13.5±2.6mmHgであったが,変更後のそれは13.8±1.9mmHgであり,変更前と変更後の値で有意差は認められなかった(対応のあるt検定,p>0.1).変更前は来院時に測定された眼圧値3回分の眼圧の平均を,変更後は2回分の眼圧の平均を求め平均眼圧とした.各症例の,眼圧の変動を図1に示した.カルテオロール持続性点眼液への変更で有意差はみられなかったものの,変更後の眼圧が変更前に比べて数値上上昇した症例は26眼中11眼(42.3%)であった.副作用については受診時に調査したが,今回の症例では特にみられなかった.緑内障の病型別による比較(表1)において,POAGでは眼圧上昇が2眼,眼圧下降が5眼,不変が3眼であった.NTGでは眼圧上昇7眼,眼圧下降6眼,不変1眼.OHでは眼圧上昇2眼,眼圧下降0眼,不変0眼であった.病型と眼圧の変化に関連性はみられなかった(c2検定,p>0.1).眼圧下降点眼剤数による比較(表2)では,1種類点眼7眼中で眼圧上昇を示したのは2眼,眼圧低下は5眼であった.2種類点眼では15眼中,眼圧上昇は8眼,不変1眼,低下6眼であった.3種類点眼では4眼中,眼圧上昇は1眼,不変3眼であった.眼圧上昇群での平均点眼剤数は1.91種類.眼圧不変群では2.75種類,眼圧下降群では1.55種類であり,点眼剤数と眼圧の変動に関連がみられた(c2検定,p=0.04).つぎに季節変動を考慮して,1年前の眼圧との変化を比較した.約1年前に同時期に測定した眼圧は14.2mmHg(秋:9,10,11月冬:12,1,2月)から13.8mmHg(冬春:4,5,6月)という変動をしていた(図2).今回,カルテオロール持続性点眼液に変更した変更前眼圧79111315171921眼圧(mmHg)投与前投与後図1変更前と変更後の眼圧変化表1緑内障病型による比較眼圧上昇眼圧下降眼圧不変NTG7(4/3)6(2/4)1(0/1)POAG2(2/0)5(1/4)3(3/0)OH2(2/0)0(0/0)0(0/0)症例数(男性/女性)表2点眼剤数による比較1種類2種類3種類眼圧上昇2眼8眼1眼眼圧不変0眼1眼3眼眼圧下降5眼6眼0眼———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.8,20091121(115)は,13.5mmHg(秋冬)から13.8mmHg(冬春)と有意差はみられなかった.約1年前眼圧と今回の点眼変更時の眼圧変動幅を各々の症例別に図3に示した.1年前の眼圧と今回の眼圧の変動幅を比較検討したところ有意差は認められなかった(対応のないt検定,p=0.060).持続性点眼液に変更後,眼圧上昇を示したのは13眼であったが,1年前の同時期に眼圧上昇を認めたのは11眼中2眼であった.IV考察カルテオロール持続性点眼液の眼圧下降効果は従来のカルテオロール点眼液と比較して差はないと報告されている2,3).今回は季節変動を考慮し,約1年前の眼圧変動とカルテオロール点眼液から持続性点眼液への変更における眼圧下降効果を検討したところ,点眼前後で眼圧値に有意な差は認められなかった.したがって,持続性点眼液は従来のカルテオロール点眼液とほぼ同等の眼圧下降効果を示すことが確認されたと考えた.しかし,変更前に比べて変更後に眼圧値が高かった例が26眼中11眼あった.このことが,単に各眼による眼圧変動によるものか他に要因がありうるのか,特に眼圧の季節変動を中心に検討を加えてみた.眼圧の季節変動は夏に比べて冬に0.81.0mmHg程度眼圧が上昇する傾向にあると報告されている4,5).今回の点眼の変更は秋から春にかけて行われ,季節においても一般的に眼圧は上昇する時期であると考えられる.1年前の同時期の眼圧変動と,今回点眼液切り替え後の変動との間に有意差は認められなかったものの,変更前に比べて変更後に眼圧値が高かった症例が多かったことに影響したものと考えた.井上ら6)はカルテオロール点眼液から持続性点眼液へ今回と同様にwashout期間なしで切り替えた群で検討を行っている.この検討では眼圧測定が点眼液変更後と切り替え時の変動幅を検討し,持続性点眼液への変更で眼圧が有意に下降したと報告している.しかし,眼圧変動が1mmHg以内の症例が投与34カ月後で91.7%と多く,眼圧の変動における季節変動,日日変動,体位変動などを考慮すると臨床的には眼圧は変化しなかったと示されている.点眼剤数と眼圧下降効果による比較において,関連性がみられていた.1種のみだと眼圧下降を示した症例が多く,3種では少ない傾向がみられた.これは,点眼剤数が増加するとアトヒアランスが低下するためと考えられる.しかし,症例数が少ないため,今後さらに症例数を増やしての検討が必要と考えられた.今回,カルテオロール持続性点眼変更時の眼圧変動について眼圧季節変動も考慮に入れた検討を行った.しかし,眼圧は季節変動だけでなく日日変動もあり外来で測定された眼圧は,その患者のその瞬間の眼圧にすぎず,深夜や早朝に眼圧変動が起こっていることも考えられる7).そのため,カルテオロール点眼液と同様の眼圧下降を認めたカルテオロール持続性点眼液であるが,今後点眼液変更による眼圧下降効果は眼圧の季節変動のみにとどまらず日日変動も考慮し測定していく必要があると考えられた.文献1)生島徹,森和彦,石橋健ほか:アンケート調査による緑内障患者のコンプライアンスと背景因子との関連性の検討.日眼会誌110:497-503,20062)TeiaquadC,RomanetJ-P,NordmannJ-Petal:Eci-encyandsafetyoflong-actingcarteolol1%oncedaily:adouble-masked,randomizedstudy.JFrOphtalmol26:131-136,20033)DemaillyP,AllaireC,TrinquamdC,FortheOnce-dailyCarteololStudyGroup:Ocularhypotensiveecacyandsafetyofoncedailycarteololalginate.BrJOphthalmol85:921-924,20014)佐々木あかね,土坂寿行,金恵媛:緑内障患者における眼圧の季節変動.あたらしい眼科13:281-283,19965)古吉直彦,布田龍佑:眼圧季節変動に関する臨床研究.眼紀37:281-285,19866)井上賢治,野口圭,若倉雅登ほか:原発開放隅角緑内障(広義)患者における持続型カルテオロール点眼薬の短期効果.あたらしい眼科25:1291-1294,20087)原岳,橋本尚子:効率よく日内眼圧測定を行うには?.あたらしい眼科25(臨増):42-44,20087911眼圧(mmHg)131517192123251年前今回秋冬冬春秋冬冬春図21年前眼圧との比較年前回【冬~春眼圧】―【秋~冬眼圧】-6-4-20246図31年前眼圧との眼圧変動幅比

1年以上角膜内に生息したPenicillium属による角膜真菌症の1例

2009年8月31日 月曜日

———————————————————————-Page1(107)11130910-1810/09/\100/頁/JCOPY45回日本眼感染症学会原著》あたらしい眼科26(8):11131117,2009cはじめに糸状菌による角膜真菌症は,一般的に遷延化しやすい.初期治療に抵抗する症例は31%であり1),角膜真菌症の治療期間は平均2575日と報告されている2,3).2025%の角膜真菌症では治療的角膜移植を要し,その手術までの期間については19±40日あるいは530日間と報告されている4,5).今〔別刷請求先〕佐々木香る:〒860-0027熊本市西唐人町39番地出田眼科病院Reprintrequests:KaoruAraki-Sasaki,M.D.,IdetaEyeHospital,39Nishi-Tohjinmachi,Kumamoto860-0027,JAPAN1年以上角膜内に生息したPenicillium属による角膜真菌症の1例山本恭三*1佐々木香る*1砂田淳子*2園山裕子*1石川章夫*3刑部安弘*3天野史郎*4浅利誠志*2出田秀尚*1*1出田眼科病院*2大阪大学医学部付属病院臨床検査部*3東京医科大学病理学講座*4東京大学医学部眼科学教室KeratomycosisCausedbyPenicilliumsp.SurvivinginCorneaforOver1Year:CaseReportTakamiYamamoto1),KaoruAraki-Sasaki1),AtsukoSunada2),HirokoSonoyama1),AkioIshikawa3),YasuhiroOsakabe3),ShiroAmano4),SeishiAsari2)andHidenaoIdeta1)1)IdetaEyeHospital,2)DepartmentofMedicalTechnology,OsakaUniversityHospital,3)DepartmentofPathology,TokyoMedicalUniversity,4)DepartmentofOphthalmology,UniversityofTokyoSchoolofMedicine長期間角膜内に生息した角膜真菌症を経験した.症例は78歳,男性,右眼.他院にてPenicillium属による角膜真菌症と診断され,ピマリシンとミカファンギンナトリウム局所頻回投与にて加療されたが寛解・再燃をくり返し,1年以上も上皮欠損が持続するため出田眼科病院を紹介された.薬剤毒性と判断し,抗真菌薬を減量したところ,角膜実質深部の羽毛状病変,endothelialplaqueの出現を認めたため,ボリコナゾール点眼,ピマリシン眼軟膏,イトリゾール内服に変更した.角膜実質表層切除にて採取した組織からPenicillium属が多数分離された.E-testR,ASTYRに基づいた感受性試験で,ボリコナゾールは高い薬剤感受性を示したが,ミカファンギンナトリウムの感受性はボリコナゾールに比して低いことが示された.ボリコナゾールとミコナゾールの頻回点眼にて臨床所見は改善するも,菲薄化が進行し,治療的全層角膜移植を要した.Penicillium属は,感受性の低い抗真菌薬加療によって,1年以上静菌的に角膜内に生息しうることが示唆された.Wereportacaseofkeratitiscausedbyfungusthatsurvivedinthecorneaforalongperiod.Thepatient,a78-year-oldmalediagnosedwithkeratomycosiscausedbyPenicilliumsp.inhisrighteye,wasreferredtous1yearafteronset.Hesueredrepeatedepisodesofkeratomycosisremissionandrelapse,withpersistentepithelialdefect,despitefrequentinstillationoftopicalpimaricinandmicafunginsodium.Hyphalgrowthpatternsandanendothelialplaquedevelopedaftertheeyedropusewastaperedo,sowechangedthetreatmentregimentotopi-calvoriconazole,pimaricinointmentandoralitraconazole.ThePenicilliumsp.wasisolatedfromcornealbiopsies.E-testRandASTYRshowedthatvoriconazolehadhighantifungalactivityincomparisontomicafunginsodium.Theulceratedcorneabecamethinnerdespitefrequentinstillationoftopicalvoriconazoleandmiconazole,sothera-peuticpenetratingkeratoplastywaseventuallyperformed.Penicilliumsp.cansurviveinthecorneaforoverayearwithinsucientlyeectiveantifungaltherapy.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(8):11131117,2009〕Keywords:角膜真菌症,ペニシリウム,感受性,治療的角膜移植,ボリコナゾール.keratomycosis,Penicillium,antifungalactivity,therapeuticpenetratingkeratoplasty,voriconazole.———————————————————————-Page21114あたらしい眼科Vol.26,No.8,2009(108)回,筆者らは,抗真菌薬を頻回に点眼しているにもかかわらず,1年以上の長期間にわたって穿孔することなく角膜内に生息したPenicillium属による角膜真菌症を経験したので報告する.I症例および所見患者:78歳,男性.主訴:右眼の異物感.内科既往歴:ヘモグロビンA1C(HbA1C)7%前後の糖尿病,高血圧症,狭心症.眼科既往歴:特記すべきことなし.家族歴:特記すべきことなし.現病歴:2007年2月頃に右眼の異物感と充血を自覚したため,近医眼科を受診した.病巣擦過物よりPenicillium属が検出され,角膜真菌症としてピマリシン5%点眼1時間ごと,ミカファンギンナトリウム0.1%点眼1時間ごと,フルコナゾール全身投与で加療された.一旦軽快したが,点眼のコンプライアンスの低下もあり,寛解・再燃をくり返した.1年以上経過するも,上皮欠損が残存するため,加療目的で2008年2月に出田眼科病院(以下,当院)を紹介受診した.角膜掻爬や感受性検査の施行歴はなかった.初診時(第0病日)所見:矯正視力は右眼10cm指数弁,左眼0.8.角膜中央に一部菲薄化を伴う潰瘍と遷延性上皮欠損を認めたが,毛様充血は軽度で,角膜後面沈着物やDescemet膜皺襞,endo-thelialplaque,前房蓄膿は認めなかった(図1).両眼に軽度の白内障を認めたが,角膜混濁のため,眼底の詳細な観察は不能であった.II治療経過と結果当院初診時,ピマリシン5%点眼1時間ごと,ミカファンギンナトリウム0.1%点眼1時間ごと,レボフロキサシン点眼1日4回を投与されていた.潰瘍底は硬く乾燥した感じであること,辺縁は白く隆起した遷延性上皮欠損様であること,毛様充血や実質内細胞浸潤が非常に軽度であったことから真菌症の活動性は低く,主として薬剤毒性による遷延性角膜上皮欠損と判断し,ピマリシン5%点眼1回/日,ミカファンギンナトリウム0.1%点眼(ファンガードR注射液を生理食塩水で0.1%に調整して使用)6回/日に減量した.治療経過を図2に示す.抗真菌薬減量の翌日(第1病日),臨床所見の急激な悪化を認めた.角膜実質浮腫とともにendothelialplaqueが明瞭となり,毛様充血,流涙が高度となり,上皮欠損部も拡大した(図3).真菌がまだ生存しているとの判断で,抗真菌療法を強化する目的で,ボリコナゾール1%点眼(ブイフェンドR注射液を生理食塩水で1%に調整して使用)6回/日を追加,ピマリシン眼軟膏3回/日塗布に変更し,イトラコナゾール150mg/日内服に治療を変更した.第8病日には実質浮腫,細胞浸潤は減少し,endothelialplaqueは縮小した.しかし遷延性上皮欠損が持続するため,潰瘍底の壊図1初診時の右眼前眼部写真角膜中央に一部菲薄化を伴う潰瘍と遷延性上皮欠損を認めるが,毛様充血や実質内細胞浸潤が非常に軽度.眼軟膏点眼内服点第病日結膜下注射ピマリシン眼軟膏ピマリシン5ミカファンギンナトリウム0.1ボリコナゾール1ミコナゾール0.1レボフロキサシンイトラコナゾールボリコナゾールボリコナゾール時間ごと1×1時間ごと4×0(初診)18(実質切除)28(実質切除)36(全層移植)図2治療経過図3抗真菌薬減量翌日の前眼部写真角膜実質浮腫,endothelialplaque,毛様充血が高度となり,上皮欠損部が拡大した.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.8,20091115(109)死組織を除去する目的と,真菌の存在部位を確認する目的で,表層角膜切除術を施行し,組織診,培養,感受性試験を行った.組織診では,切除した角膜実質全層にわたってPAS(過ヨウ素酸Schi染色)陽性の菌糸が多数,確認された.角膜切除物および擦過物をSabouraud寒天培地にて26℃で培養し,発育コロニーをラクトフェノールコットンブルー染色にて検鏡したところ,青色の筆状構造がみられ,Penicillium属と同定された(図4).抗真菌薬感受性試験用キットのE-testR(ABBiodisk社,薬剤濃度勾配法)による最小発育阻止濃度(minimuminhibi-toryconcentration:MIC)測定結果(図5)では,ボリコナゾールのMICが0.125μg/mlと最小であった.ASTYR(極東)によるMIC測定結果では,ミコナゾールとミカファンギンナトリウムのMICは2.0μg/mlであり,ボリコナゾールに比べて感受性は低かった.本菌は,ASTYR本来の方法では測定困難なため,指定の培地で分生子を104個に調整後,各穴に接種し,測定を行った.Penicillium属を含む糸状菌は明確なブレークポイントが定められていないため,「深在性真菌症の診断・治療ガイドライン2007」を参考にし,投薬後の前房内および硝子体内薬剤濃度よりもMICが低いボ42272oab図4表層角膜切除片の組織診と培養結果a:角膜実質切除片の全領域にPAS陽性の菌糸を多数検出.b:Penicillium属が分離・培養された.①:ボリコナゾール②:アムリシンB③:5-FC:フルコナゾール:イトラコナゾール①③②図5EtestRによる感受性試験結果ボリコナゾールの周囲に大きな阻止帯を認めた.接種薬液量:各50μl,培養条件:25℃・3日間,培地:RPMI寒天培地.ab図6全層移植前の前眼部写真と切除組織a:全層移植直前の右眼前眼部写真.角膜中央の遷延性上皮欠損は縮小し,実質内細胞浸潤はごく軽度.b:切除角膜片組織.実質中層に菌糸(矢印)をわずかに認める.———————————————————————-Page41116あたらしい眼科Vol.26,No.8,2009(110)リコナゾールを高感受性,MICが高いミコナゾールとミカファンギンナトリウムを低感受性と判定した.角膜表層切除の翌日,再び臨床所見は悪化した.前房蓄膿,プラーク,毛様充血の悪化を認め,角膜真菌症の活動性が上昇したと思われた.組織診にて,まだ相当量の真菌が生存していたことから,ボリコナゾールの点眼回数を1時間ごとに増加したところ,約2週間で再び臨床所見は改善した.そこで,治療効果判定目的で第28病日に再度角膜実質切除を施行し,切除組織を培養したところ,依然としてPenicil-lium属が分離培養された.感受性試験結果に基づいて,0.1%ミコナゾール(フロリードR注射液を生理食塩水で0.1%に調整して使用)の1時間ごと点眼,ボリコナゾール結膜下注射と全身投与を追加し,臨床所見はさらに改善したが,菲薄化が進行し,患者の強い要望もあったため,第39病日に保存角膜を用いた全層角膜移植を施行した.その切除組織では,角膜実質中層にわずかな菌糸を認めるのみであった(図6).術後は2カ月かけて抗真菌薬を漸減中止するも真菌症の再発は認めず,抗真菌薬中止5カ月後,新鮮角膜を用いた全層角膜移植と水晶体再建術を施行し,2008年12月20日現在,右眼矯正視力は(0.3×sph+0.5D(cyl6.0DAx60°)である.III考按真菌の角膜感染が成立した後,真菌因子,薬剤因子,角膜因子が病態の進行に影響を及ぼす.真菌因子は,菌種と菌量であり,薬剤因子は,薬剤感受性,角膜透過性と毒性,角膜因子は,炎症反応の程度や創傷治癒力である.これらのバランスにより遷延化することがある.角膜真菌症の起因菌同定には角膜擦過物の塗抹検査,培養検査が重要であるが,その活動性については臨床所見から推測する必要がある.本症例では,初診時,潰瘍底は硬く乾燥した遷延性上皮欠損様であったこと,毛様充血や実質内細胞浸潤が非常に軽度であったことから薬剤毒性と判断し抗真菌薬を減量したところ,急激に悪化,再燃した.このことから,初診時の病態として,角膜内に真菌は静菌的に生存していたことが示唆された.すなわち1年前に分離されていたPenicillium属が当院初診時まで継続して生息していたと考えられる.Candida属は長期にわたって角膜に生息し,白色針状および分枝状の実質内混濁,無痛性で角膜や前房内に炎症所見が乏しいことを特徴とするinfectiouscrystallinekeratopathyの病態を示しうることが報告されている6).今回の症例は細隙灯顕微鏡観察にて,crystallinekeratopathyに特徴的な結晶様所見がみられなかったこと,定期的に明らかな炎症所見をくり返していたことなどから,infectiouscrystallinekeratopathyの病態を示さず長期間角膜内に生息したまれな角膜真菌症と考えられた.今回の原因菌が,長期間角膜内に生息した理由として,①原因菌の低い毒性,②低感受性抗真菌薬の使用,③潰瘍底における壊死性物質による創傷治癒阻害と薬剤透過性阻害の3つがあげられる.Penicillium属は,大気中,土壌,植物を中心とした生活環境中に広く生息する糸状菌であるが,Fusarium属やAspergillus属などが角膜破壊傾向が強く,角膜穿孔率が高いのに比して1),増殖が遅く,病原性,活動性が低い.そのため角膜真菌症にしては臨床像が鎮静化されてみえる場合があると思われる.既報のPenicillium属による角膜真菌症によると,難治で角膜移植を要した例もある7,8)が,薬剤のみで比較的速やかに瘢痕治癒した症例もある2,9).さらに,感受性試験結果から,ボリコナゾールは高い薬剤感受性を,当院初診時まで近医で頻回点眼されていたミカファンギンナトリウムの感受性はボリコナゾールに比して低く,静菌的作用にとどまる可能性が示された.この感受性の低い抗真菌薬使用によって,Penicillium属を静菌的に長期間角膜内に生存させた可能性が示唆される.加えて,長期間の上皮欠損により潰瘍底に壊死物質が蓄積され,これが除去されなかったことによって,抗真菌薬の角膜内移行を妨げたことも,長期生息につながったと考えられる.このように遷延化させないためには,糸状菌に対しても薬剤感受性試験を行うことの重要性が高まりつつある10).現在,抗菌薬投与の指標として行われている感受性検査は,敗血症や呼吸器感染症などに対する全身投与を考慮したMIC測定であるが,その測定濃度と点眼薬としての用いる濃度とは約10100万倍異なるため薬剤選択の目安にはなるが,実際の臨床効果と必ずしも一致しない.また,糸状菌に対する抗真菌薬の感受性測定はいまだ明確に確立されておらず,現在市販されているキットを用いてすべての薬剤の感受性測定を行うのは困難である.今回は,ミコナゾールおよびミカファンギンナトリウムの感受性傾向を知るため,ASTYRとE-testRとの相関は不確実ではあるが,両キットを併用し測定を行った.一般的にE-testRによる感受性検査結果は,感染性角膜炎の薬剤選択の目安にはなるが,実際の臨床効果と必ずしも一致しないとされている1113).しかし,本症例では,E-testRで高度感受性を示したボリコナゾールを中心とした抗真菌薬治療に変更してからは徐々に臨床所見も改善し,切除片の病理組織でも菌糸は減少し,その治療効果は明らかであった.糸状菌による角膜炎の視力予後は不良であり,同一菌種であっても感受性に差があることが多い14)ので,ボリコナゾールなどの新しい薬剤も含めた感受性試験のデータ蓄積が必要であると考える.ボリコナゾールは新しいアゾール系の抗真菌薬であり,広い抗真菌スペクトルを有し,従来の抗真菌薬に抵抗性であったFusarium属やAspergillus属にも有効例が報告されている.1%ボリコナゾール点眼は,角膜上皮のタイトジャンクションが障害されていなくても角膜透過性が良好で,安全性———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.8,20091117(111)が高いことが報告されている15).筆者らが検索した限り,Penicillium属による角膜真菌症に対してボリコナゾール点眼が有効であったという報告はなく,今後は治療薬の選択肢になると考えられた.今回Penicillium属は,感受性の低い抗真菌薬投与の下,1年以上もの間,角膜内に生息しうることが示された.角膜真菌症の遷延化,重症化を防ぐには,感受性試験が必須であり,その治療効果判定には,臨床所見の評価とともに組織採取による診断および培養も重要であると考えられた.文献1)LalithaP,PrajnaNV,KabraAetal:Riskfactorsfortreatmentoutcomeinfungalkeratitis.Ophthalmology113:526-530,20062)妙中直子,日比野剛,福田昌彦ほか:近畿大学眼科で1995年より経験した11例の角膜真菌症の検討.眼紀48:883-886,19973)鈴木崇,宇野敏彦,宇田高広ほか:糸状菌による角膜真菌症における病型と予後の検討.臨眼58:2153-2157,20044)VemugantiGK,GargP,GopinathanUetal:Evaluationofagentandhostfactorsinprogressionofmycotickerati-tis:Ahistologicandmicrobiologicstudyof167cornealbuttons.Ophthalmology109:1538-1546,20025)XieL,DongX,ShiW:Treatmentoffungalkeratitisbypenetratingkeratoplasty.BrJOphthalmol85:1070-1074,20016)MatsumotoA,SanoY,NishidaKetal:Acaseofinfec-tiouscrystallinekeratopathyoccurringlongafterpene-tratingkeratoplasty.Cornea17:119-122,19987)濱生仁子,足立格郁,鈴木克佳ほか:治療的全層角膜移植術が奏効した角膜真菌症の1例.臨眼57:363-366,20038)石倉涼子,池田欣史,山崎厚志ほか:Aspergillus角膜真菌症に対する治療的角膜移植後1年でPenicillium感染を起こした1例.あたらしい眼科25:379-383,20089)高橋信夫,北川和子,桜木章三ほか:角膜真菌症の治療経験.眼紀34:972-979,198310)InoueT,InoueY,AsariSetal:UtilityofEtestinchoos-ingappropriateagentstotreatfungalkeratitis.Cornea20:607-609,200111)QiuWY,YaoYF,ZhuYFetal:Fungalspectrumidentiedbyanewslidecultureandinvitrodrugsuscep-tibilityusingEtestinfungalkeratitis.CurrEyeRes30:1113-1120,200512)LalithaP,ShapiroBL,SrinivasanMetal:AntimicrobialsusceptibilityofFusarium,Aspergillus,andotherla-mentousfungiisolatedfromkeratitis.ArchOphthalmol125:789-793,200713)砂田淳子,上田安希子,井上幸次ほか:感染性角膜炎全国サーベイランス分離菌における薬剤感受性と市販点眼薬のpostantibioticeectの比較.日眼会誌110:973-983,200614)XieL,ZhaiH,ZhaoJetal:AntifungalsusceptibilityforcommonpathogensoffungalkeratitisinShandongProv-ince,China.AmJOphthalmol146:260-265,200815)HariprasadSM,MielerWF,LinTKetal:Voriconazoleinthetreatmentoffungaleyeinfections:areviewofcur-rentliterature.BrJOphthalmol92:871-878,2008***