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流行性耳下腺炎後に発症した小児両側性球後視神経炎の1例

2008年4月30日 水曜日

———————————————————————-Page1(147)???0910-181008\100頁JCLS《原著》あたらしい眼科25(4):569~572,2008?はじめに視神経炎が小児に発症することは比較的まれであるが,そのなかでも乳頭浮腫を伴う場合がほとんどで,球後視神経炎を呈するケースは非常に少ない1~4).流行性耳下腺炎は,ムンプスウイルスの耳下腺への感染により,有痛性の耳下腺腫脹や発熱をひき起こす疾患で,ときに角結膜炎やぶどう膜炎などの眼合併症をひき起こすといわれている5,6).今回,流行性耳下腺炎発症早期に球後視神経炎を発症した1症例を経験し,その臨床経過などに若干の知見が得られたので報告する.I症例患者:9歳,男児.主訴:両眼視力低下.既往歴:クローン病.現病歴:平成17年6月3日より,耳下腺の腫脹,40℃以上の発熱を自覚し,近医小児科受診.流行性耳下腺炎の診断にて加療したところ,数日で症状が軽快した.しかし,6月20日頃より両眼の視力低下を自覚するようになり,7月2日に近くの眼科を受診したところ両眼の視神経炎を疑われ,7月4日に西条中央病院眼科を受診した.〔別刷請求先〕三好知子:〒791-0295愛媛県東温市志津川愛媛大学大学院医学系研究科視機能外科学分野Reprintrequests:????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????-??????????????-???????????流行性耳下腺炎後に発症した小児両側性球後視神経炎の1例三好知子鈴木崇高岡明彦大橋裕一愛媛大学大学院医学系研究科視機能外科学分野BilateralRetrobulbarOpticNeuritisAssociatedwithMumpsInfectionina9-Year-OldMaleTomokoMiyoshi,TakashiSuzuki,AkihikoTakaokaandYuichiOhashi????????????????????????????????????????????????????????????????罹患後に発症した両側球後視神経炎の1例を報告した.症例は9歳,男児で,流行性耳下腺炎に罹患後2週間目に両眼の視力低下を自覚した.初診時,矯正視力は右眼0.09,左眼0.06で,両眼の対光反応の遅延と右眼のrelativea?erentpupillarydefectを認めたが,視神経乳頭など眼底に異常はなかった.流行性耳下腺炎ウイルスによる球後視神経炎と診断し,副腎皮質ステロイド薬の全身投与を開始したところ,治療後1カ月目より徐々に回復傾向を示し,3カ月の時点で両眼ともに矯正視力1.0まで回復した.流行性耳下腺炎に伴って発症した球後視神経炎は,視力回復が緩徐である可能性がある.Wereportthecaseofa9-year-oldmalewhocomplainedofvisualdisturbanceinbotheyestwoweeksaftermumpsinfection.Oninitialexamination,hisbest-correctedvisualacuitywas0.09ODand0.06OS.Thepupillaryreactioninbotheyeswassluggish,accompaniedbyrelativea?erentpupillarydefectinrighteyeinswinging?ashlighttest.Ophthalmoscopicexaminationsdemonstratednormalappearanceoftheopticdisc.Onthebasisofadiag-nosisofretrobulbaropticneuritiscausedbymumpsvirus,weinitiatedsystemicadministrationofcorticosteroids,whichwasfollowedwithinonemonthbygradualimprovementofvisualacuityinbotheyes.Best-correctedvisualacuityreturnedto1.0atthreemonthsaftertreatment.Inaretrobulbaropticneuritispatientwithmumpsinfec-tion,therestorationofgoodvisualacuitycantakealongtime.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(4):569~572,2008〕Keywords:小児,球後視神経炎,流行性耳下腺炎.child,retrobulbaropticneuritis,mumps.———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.25,No.4,2008(148)れなかった.血液検査では,ムンプスウイルスIg(免疫グロブリン)M抗体(EIA)40.4mg/d?(正常:0.80mg/d?以下),IgG抗体(EIA)13.48mg/d?(正常:2.0mg/d?以下)と上昇していた.髄液検査では,細胞数は29/3視野(正常:0~10/3mm3),蛋白質は10mg/d?(正常:15~40mg/d?),糖は60mg/d?(正常:50~80mg/d?)であり,ムンプスウイルスIgM抗体(EIA)11.14mg/d?(正常:0.80mg/d?以下),IgG抗体(EIA)3.1mg/d?(正常:2.0mg/d?以下)であった.髄液中のオリゴクローナルバンドは検出されなかった.神経学的検査において麻痺・感覚障害などは認めなかった.検査所見を表1に示す.経過:血清および髄液中のムンプスウイルス抗体価の上昇より,ムンプスウイルスによる球後視神経炎と診断し,入院翌日の7月5日より,副腎皮質ステロイド薬(以下,ステロイドと略す)パルス療法を1クール(ソルメドロール?30mg/体重kg/日を3日間)行い,その後7月8日よりプレドニン?25mg内服にて5日間経過観察した.しかし,右眼0.1,左眼0.06と矯正視力は改善しなかったため,再度ステロイドパルス療法を施行した.2クール目終了後の7月15日より,プレドニン?15mg内服にて経過観察したところ,2週後の7月29日には矯正視力が右眼0.2,左眼0.15と若初診時所見:視力は右眼0.09(矯正不能),左眼0.05(0.06×-0.25D?cyl-1.00DAx170?).眼圧は両眼とも15mmHgであった.対光反応は両眼とも遅延し,swinging?ashlighttestで,右眼にrelativea?erentpupillarydefect(RAPD)を認めた.前眼部,中間透光体に異常は認めず,眼底においても,視神経乳頭の発赤・腫脹,網膜血管の拡張・蛇行などの異常は観察されなかった(図1).中心フリッカー値(CFF)は右眼18Hz,左眼10Hzと両眼とも低下しており,パネルD-15を用いた色覚検査においても第1色覚異常を認めた.視野検査は患児の協力が得られず,施行できなかった.以上の所見より,両眼の球後視神経炎を疑い,即日入院となった.全身検索:頭部磁気共鳴画像(MRI)T2強調画像にて,橋部背側に斑状のhighintensityと前頭葉の皮質下白質にわずかなhighintensityを認めたが,脳室周辺の病変を観察さ表1初診時全身検査〔血液検査〕ムンプスウイルスIgM抗体(EIA):40.4mg/d?↑(陰性:0.80未満)ムンプスウイルスIgG抗体(EIA):13.48mg/d?↑(陰性:2.0未満)〔髄液検査〕細胞数:29/3mm3(正常:0~10/3mm3)蛋白質:10mg/d?(正常:15~40mg/d?)糖:60mg/d?(正常:50~80mg/d?)ムンプスウイルスIgM抗体(EIA):11.14mg/d?↑(陰性:0.80未満)ムンプスウイルスIgG抗体(EIA):3.1mg/d?↑(陰性:2.0未満)オリゴクローナルバンド:陰性〔頭部MRI〕T2強調画像にて,橋部背側に斑状のhighinten-sity前頭葉の皮質下白質にわずかなhighintensityを認めた.〔神経学的所見〕麻痺・感覚障害は認めず.図1初診時眼底写真視神経乳頭の発赤・腫脹や網膜血管の怒張・拡大は認めない.視力1.04030201000.5CFF(Hz)0.017/57/87/127/157/217/298/189/811/10ソルメドロール?点滴ブレドニン?内服30mg/kg/日治療———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.4,2008???(149)化症は否定的であると考えられた.本症例では,ムンプスウイルス感染に伴う炎症が視神経に波及し,球後視神経炎をひき起こしたのではないかと推察されるが,本症例が今後,多発性硬化症を発症する可能性も完全に否定はできないため,慎重に経過観察していく必要がある.ウイルス感染に続発することが多いこともあって,一般に,小児の視神経炎の治療にはステロイドの投与が有効である.本症例においても,ステロイドパルス療法を2クール行い,以後は維持量の長期内服で経過観察したが,本症例のステロイドに対する反応性は緩慢であり,視力は治療開始後3週間目からようやく改善し始め,完全回復までに約3カ月を要した.井上ら7)の報告では,ステロイドの反応性が良好であったが,駒井ら8),Khubchandaniら9)の報告においては,本症例と同様,視力回復までに3カ月以上を要している.Khubchandaniら9)は,ステロイド治療を行わなかった3例中2例において完全な視力回復が得られず,ステロイド治療を行った3例中1例の片眼のみに視力低下を認めたという.症例数は少ないが,この成績よりステロイド投与は本疾患の治療に基本的に有効であるといえよう.症例によっては,視力回復の速度が緩徐であることを念頭に置き,注意深く経過観察していく必要がある.わが国では,ムンプスワクチンは予防接種法に定められた勧奨接種に含まれていないため,ムンプスウイルスによる流行性耳下腺炎を発症する患児も少なくないと思われる.ムンプスウイルスが関与した小児の視神経炎の報告は少なく,筆者らが調べた限りでは,視神経乳頭炎がわが国で2例,海外で5例,球後視神経炎は海外の3例のみである7~10).表2にまとめを示す.症例のなかには,視力が回復していない症例も散見される.特に球後視神経炎は診断がむずかしく,治療が遅れることも予測されるため,流行性耳下腺炎後に視力低下を示した症例では,球後視神経炎を念頭に注意深く観察し,本疾患が疑われる場合は,早期のステロイド療法の開始が重要であると思われる.干の向上が認められたため,ステロイド内服を図2に示すように継続,漸減した.その後,徐々に改善傾向を示し,9月8日には矯正視力が右眼0.8,左眼0.9,CFFは右眼40Hz,左眼38Hzまで回復したため,ステロイド内服を漸減中止した.11月10日には矯正視力が右眼1.0,左眼0.9まで回復し,現在も経過観察中であるがその後再発は認めていない.臨床経過を図2に示す.II考察小児の視神経炎は比較的まれであり,成人の視神経炎とは異なる臨床的特徴を有している.すなわち,一般に両眼性で,視神経乳頭の発赤・腫脹や網膜血管の怒張・拡大など視神経乳頭炎の病像を示すことが多く,球後視神経炎を呈することはきわめて少ない1~4).したがって,本症例のように球後視神経炎で発症した場合,眼底所見のみで判断することは困難なため,視力検査,CFF,対光反応などを参考に診断を進めていくが,視力検査やCFF,視野測定などの自覚的検査で協力を得られない場合,唯一の他覚所見である対光反応の診断的価値はきわめて高い.本症例は,幸い両眼発症で,患児が視力低下を早期に訴えたため,視神経障害を疑い慎重に検査を進めることができたが,対光反応は,やはり診断の大きなよりどころとなった.小児の視神経炎にはウイルス感染が関与していることが多く1~4),発症前に発熱などの感冒症状や脳炎・髄膜炎などが先行する場合が多い.本症例においても,発症の2週間前に先行する急性耳下腺炎がみられた.当科初診時(急性耳下腺炎発症後2週間目)の検査で,髄液中の細胞数は軽度増加し,ムンプスウイルスのIgM抗体価の上昇もみられた点から,明らかな神経学的異常は認めなかったものの,非症候性のウイルス性髄膜炎を生じていた可能性は十分にある.MRIのT2強調画像では,多発性硬化症に特徴的な所見は観察されず,また,髄液中に蛋白質増加はなく,オリゴクローナルバンドも陰性であり,現時点においては,多発性硬表2流行性耳下腺炎後に発症した視神経炎の報告のまとめ年齢(歳)性別罹患眼発症時視力乳頭所見治療視力経過文献11107155741067女性男性女性男性男性女性女性男性男性女性左両両右両両両両右両光覚(+)光覚(-)手動弁(0.1)正常光覚(-)———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.25,No.4,2008(150)5)佐野友紀,阿部達也,笹川智幸ほか:流行性耳下腺炎に併発した角膜内皮炎の1例.臨眼58:441-444,20046)中川裕子,徳島邦子,中川尚:眼圧上昇を伴う重篤な角膜ブドウ膜炎を呈したムンプス角膜炎の1例.眼紀54:429-432,20037)井上結香子,西崎雅也,野村耕治ほか:ムンプス感染症を契機に発症した小児視神経症の1例.臨眼101:1184-1188,20078)駒井好子,渡辺敏明,吉村弦ほか:流行性耳下腺炎後に見られた小児視神経炎の1例.眼紀39:140-144,19889)KhubchandaniR,RaneT,AgarwalPetal:Bilateralneu-roretinitisassociatedwithmumps.???????????59:1633-1636,200210)GnananayagamEJ,AgarwalI,PeterJetal:Bilateralret-robulbarneuritisassociatedwithmumps.??????????????????25:67-68,2005また,ムンプスウイルスは,涙腺炎,角膜炎(特に角膜内皮炎),虹彩炎,結膜炎,強膜炎などの多彩な眼合併症をひき起こすことが知られている5,6,9).ムンプスウイルス感染を発症した患児については,視神経炎をはじめとする上記の眼合併症に注意しながら,眼科医,小児科医が連携をとりながら診療していくべきである.文献1)KennedyC,CarrollFD:Opticneuritisinchildren.???????????????63:747-755,19602)大塚賢二:小児の視神経炎.眼科38:275-279,19963)中尾雄三,大本達也,下村嘉一:小児視神経炎について.眼紀34