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ポリープ状脈絡膜血管症に内頸動脈閉塞症を合併した1 例

2023年6月30日 金曜日

《原著》あたらしい眼科40(6):838.843,2023cポリープ状脈絡膜血管症に内頸動脈閉塞症を合併した1例石郷岡岳*1水野博史*1大須賀翔*1佐藤孝樹*1西川憲清*2喜田照代*1*1大阪医科薬科大学眼科学教室*2大山記念病院眼科CACaseofPolypoidalChoroidalVasculopathyComplicatedwithInternalCarotidArteryOcclusionGakuIshigooka1),HiroshiMizuno1),ShouOosuka1),TakakiSato,1)NorikiyoNishikawa2)andTeruyoKida1)1)DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalandPharmaceuticalUniversity,2)DepartmentofOphthalmology,OyamaMemorialHospitalC緒言:ポリープ状脈絡膜血管症(PCV)と内頸動脈閉塞症は,高血圧や喫煙など共通の危険因子を有する.今回PCVの経過観察中に網膜動脈分枝閉塞症(BRAO)や高血圧,内頸動脈閉塞症の診断に至った例を報告する.症例:50年の喫煙歴があるC70歳,男性.X年左眼CPCVと診断しアフリベルセプト硝子体注射(IVA)をC3回施行後,経過良好であったが,X+2年CBRAOを発症し,内科で脂質異常症・境界型糖尿病・高血圧症と診断された.X+3年,X+5年にCPCVが再燃しCIVAを施行した.その後蛍光眼底造影検査で腕網膜時間の延長を認め,頸動脈エコー検査で左内頸動脈閉塞と診断,網膜光凝固を施行した.最終CIVA施行後C2年経過時点でCPCVは鎮静化している.考按:BRAO発症時に内頸動脈病変が潜在していたと考えられた.本症のCBRAOや頸動脈病変とCIVAとの関連は低いが,IVA施行前に,高血圧の既往だけでなく長期の喫煙歴があれば,頸動脈病変の有無も視野に入れ,早期に頸動脈病変を検出することも大切と思われた.CPurpose:ToCreportCaCcaseCofCpolypoidalCchoroidalvasculopathy(PCV)complicatedCwithCinternalCcarotidCarteryCocclusion.CCasereport:AC70-year-oldCmanCwithCaChistoryCofCheavyCtobaccoCsmokingCwasCreferredCtoCourChospitalCforCaCdiagnosisCofCPCVCinChisCleftCeye.CForCtreatment,CheCreceivedCanCintravitrealCinjectionCofCa.ibercept(IVA)threeCtimes.CTwoCyearsClater,CheCdevelopedCbranchCretinalCarterialocclusion(BRAO)andCwasCdiagnosedCwithCdyslipidemia,CborderlineCdiabetesCmellitus,CandCsystemicChypertension.CThreeCyearsCafterCthat,CheCreceivedCthreeCIVAsCforCtheCdeterioratedCPCV.CFluorescienCangiohraphyCshowedCprolongationCofCtheCarm-to-retinaCcircula-tiontime.Heunderwentechocardiographyofthecarotidartery,whichrevealedaleftinternalcarotidarteryocclu-sion.Twoyearslater,thePCVwasquiescent.Conclusions:Inthiscase,internalcarotidarteryocclusionseemedtoCbeCanCunderlyingCfactorCatCtheConsetCofCBRAO.CThus,CophthalmologistsCshouldCsuspectCstenosisCofCtheCcarotidCarteryinPCVpatientswithalonghistoryoftobaccosmoking.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)40(6):838.843,C2023〕Keywords:ポリープ状脈絡膜血管症,網膜動脈分枝閉塞症,内頸動脈閉塞症,喫煙,高血圧.polypoidalCchoroi-dalvasculopathy,branchretinalarteryocclusion,internalcarotidarteryocclusion,smoking,hypertension.Cはじめに加齢黄斑変性(age-relatedCmaculardegeneration:AMD)の特殊型1)であるポリープ状脈絡膜血管症(poly-poidalCchoroidalvasculopathy:PCV)は日本人の滲出型AMDのC54.7%とされ,欧米に比べわが国ではCPCVが多い2).PCVはインドシアニングリーン蛍光造影検査(Indo-cyanineCgreenangiography:IA)で特徴的なポリープ状の脈絡膜血管拡張を示し,発症平均年齢はC60.72歳と報告されているが3),その発症メカニズムはいまだ明らかではない.わが国においてSakuradaらは,PCVにおける喫煙率が68.4%,全身疾患の有病率は高血圧症がC44.9%,心血管疾患がC8.3%,脳血管障害がC3.2%,糖尿病がC12.2%,末期腎臓病がC0.2%4),またCTaniguchiらは滲出型CAMDと頸動脈狭窄症の合併はC28.2%で,PCVを含むCAMDでの重症頸動脈〔別刷請求先〕石郷岡岳:〒569-8686大阪府高槻市大学町C2-7大阪医科薬科大学眼科学教室Reprintrequests:GakuIshigooka,M.D.,DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalandPharmaceuticalUniversity,2-7Daigaku-machi,Takatsuki-City,Osaka569-8686,JAPANC838(126)狭窄症はC8.9%と報告した5).さらに,網膜動脈分枝閉塞症(branchCretinalCarteryocclusion:BRAO)について荻野らは,AMD76眼中C1眼に認めたと報告しているが6),PCVとBRAO,頸動脈病変の合併についての報告はない.今回筆者らは,健康診断で身体疾患がなかったCPCVに対して,3回のアフリベルセプト硝子体内注射(intravitrealCinjectionCofafribercept:IVA)を行ったC2年後にCBRAOを発症し,内科へ紹介したところ高血圧症や境界型糖尿病の診断に至った.さらにそのC6年後,フルオレセイン蛍光造影検査(.uoresceinangiography:FA)の施行により,内頸動脈閉塞症などの全身疾患が他科との連携により明らかになった,長期間経過観察できたCPCVのC1例を報告する.CI症例患者:70歳,男性.主訴:左眼視力低下.家族歴:特記事項なし.喫煙歴:1日C20本C×50年既往歴:特記事項なし.身体疾患の既往なし.現病歴:X年C7月健康診断で左眼の視力低下と黄斑変性を指摘され,大阪医科薬科大学病院(以下,当院)紹介となった.初診時所見:視力は右眼C0.2(1.2C×sph+2.75D(cyl.0.50DAx80°),左眼C0.15(0.4×+2.00D),眼圧は右眼C14CmmHg,左眼C13CmmHgで,両眼とも軽度の白内障以外,前眼部中間透光体に異常は認めなかった.眼底検査で右眼に明らかな異常所見はなかったが,左眼黄斑部に網膜下出血がみられ(図1a),黄斑部光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)で,網膜色素上皮の不整と網膜下液(subretinal.uid:SRF)を認めた(図1b).CaFAでは左眼の腕網膜循環時間はC15秒で,黄斑部に早期からの蛍光漏出があり,IAでは左眼後期にポリープ病巣を認めた(図2).経過:左眼CPCVと診断し,7月,8月,9月とC3回連続してCIVAを施行した.その結果,SRFは消退し視力は(1.5)と良好に経過したため,X年C11月近医に逆紹介となった.CX+2年C6月,突然の左眼視力低下を自覚し,再び前医を受診した.左眼視力は(0.1)に低下,BRAOを発症しており,OCTでは下方網膜の白濁化と網膜内層の浮腫を認めた(図3a,b).BRAOの原因となる基礎疾患を調べるため内科に紹介したところ,脂質異常症・境界型糖尿病・高血圧症を指摘され,治療開始となった.飲酒時の意識消失発作もあり,冠動脈造影検査にて右冠動脈低形成を指摘されるも冠動脈狭窄は指摘されなかった.BRAOの発症C3カ月後,サルポグレラート・カリジノゲナーゼ・メコバラミン内服にて,左眼視力は(0.1)から(0.8)に改善したが,OCTでは下方網膜の菲薄化と網膜血管白鞘化がみられた(図3c,d).CX+3年C1月左眼視力低下を訴え予約外で当院を受診した.受診時視力は(0.1),後極部に出血性網膜色素上皮.離(hemorrhagicCretinalCpigmentCepithelialdetachment:HPED)と器質化した網膜下出血を認めた(図4a,b).PCVの再燃と診断しC4回目のCIVAを施行した.その後出血は器質化し,X+5年の時点で視力は(0.5)であった.禁煙を勧めたが喫煙を継続しており,高血圧や脂質異常と診断されてからの内科への通院は不定期で,内服も途切れがちで,X+5年C4月著明な高血圧症(236/115CmmHg)によるうっ血性心不全のため当院に救急搬送された.高血圧症や慢性腎臓病に対する加療により血圧はC130CmmHg程度まで改善した.IVA4回目施行よりC31カ月後の同年C9月,視力は(0.5)を維持していたが,視神経乳頭耳側に新たなCHPEDCb図1初診時a:左眼眼底写真.黄斑部に網膜下出血を認めた.b:左眼COCT画像.網膜下液を認めた.図2左眼蛍光造影写真a:FA21秒.Cb:FA6分.早期からの蛍光漏出を認めた.Cc:IA38秒.Cd:IA5分.後期にポリープ病巣を認めた.図3左眼BRAO発症時3カ月後a:発症時眼底写真.下方網膜は白濁化していた.Cb:OCT画像.網膜内層浮腫を認めた.Cc:3カ月後眼底写真.血管の白鞘化を認めた.d:OCT写真.下方網膜は菲薄化した.acbdf図4眼底写真とOCT画像a,b:X+3年1月.Cc,d:X+5年9月.Ce,f:X+7年7月.Cab図5X+6年2月左眼FA写真a:FA23秒.Cb:パノラマ写真.網膜動脈充盈遅延と耳側周辺部に無灌流域と毛細血管瘤を認めた.の出現とCSRFを認めた(図4c,d).PCVの再燃と判断してIVAをC12月までC3回連続施行した.HPEDは消退傾向となったが,左眼視力は(0.2)まで低下した.CX+6年C2月に再評価目的のためにCFAを再度施行したところ,FAの腕網膜時間はC23秒に延長しており,網膜動脈充盈は遅延していた.また耳側周辺部に無灌流域と毛細血管瘤の形成を認めた(図5).頸動脈エコー施行したところ,左総頸動脈でC71%の内腔狭小化と左内頸動脈起始部より血流シグナルは消失していたことから,左内頸動脈閉塞症と診断した.当院脳外科に紹介したところ,頭部単一光子励起コンピュータ断層撮影(singlephotonemissioncomputedtomo-graphy:SPECT)では脳血流低下は軽度であるため内頸動脈閉塞症は経過観察となったが,その後左眼の眼虚血による血管新生緑内障の発症予防目的のため無灌流域に網膜光凝固術を施行した.CX+6年C12月に左眼の白内障手術を施行した.術後視力は(0.3).(0.4)となり,X+7年,滲出性変化は消退していた.最後のCIVAからC2年経過したCX+7年までCPCVは再発を認めず良好に経過している(図4e,f).CII考按本例はCPCVの治療および経過観察中にCBRAOや内頸動脈閉塞をきたした.PCVはポリープ状に脈絡膜血管が拡張することにより生じ,内頸動脈狭窄や閉塞は粥状動脈硬化により生じる.両者に直接の関係はないが,年齢だけでなく,高血圧症や喫煙歴など共通の危険因子1,6,7)があることから合併しやすいと想定される.本例では,1日C20本C×50年という長い喫煙歴があった.しかし当院初診時,健診で高血圧などの全身疾患は指摘されておらず,PCVの通院加療中にBRAOを発症したことにより内科受診を勧めたところ,高血圧や脂質異常症などの循環器系疾患が判明した.PCVを含むCAMDでの重症頸動脈狭窄症はC8.9%と報告されている5)ので,PCVを診察した場合に頸動脈病変が潜在している可能性を考えておく必要がある.また,高血圧はCPCVにおいて再発性網膜下出血の危険因子とされている8).PCVの治療は長期に及ぶことがあり,本例のように,眼科通院途中で高血圧治療を自己中断している場合もあるため,定期的に眼科医も全身状態を確認することは重要である.岡本らは,眼所見から頸動脈狭窄が疑われた患者についてFAとの関連を調べ,頸動脈エコーでの狭窄率がC100%であればCFAの腕網膜循環時間は平均C23.0C±6.1秒,50.90%でC17.4±4.8秒と報告した9).本例の場合,初診時は眼虚血によって生じる耳側周辺部出血斑を認めず,FAでの腕網膜循環時間はC15秒であり,積極的に頸動脈エコーを施行する理由がなかった.50%未満の頸動脈狭窄あるいは内壁にプラークの存在を否定できないと考えられるが,眼科初診時は脳虚血発作や一過性黒内障の自覚がないと頸動脈病変を疑いにくい.内頸動脈閉塞と診断されるC4年前のCX年C2月,BRAOの発症時に内科に原因精査を依頼したところ,脂質異常症・境界型糖尿病・高血圧・右冠動脈低形成を初めて指摘されたが,頸動脈エコー検査は施行していなかった.荻原らは,高血圧・糖尿病・脂質異常症など心血管の危険因子をもつC479名に頸動脈エコー検査を施行したところ,67.8%に動脈硬化性プラークを認め,喫煙者の有プラーク率はC84.6%と報告している10).本例のCBRAOの原因として,発症時にはすでに頸動脈壁にプラークが存在していた可能性が考えられたため11,12),禁煙を指導するとともに内科で高血圧などの診断がされたあとに頸動脈エコー検査が施行されたかを確認すべきであったと反省される.本例ではCX+6年C2月に再評価のため施行したCFAにおいて,腕網膜循環時間の遅延だけでなく耳側周辺部で無灌流域と毛細血管瘤を認めたことより眼虚血を疑った.そこで頸動脈エコー検査を施行することにより,初めて内頸動脈閉塞が診断された.頸動脈にできたプラークが破綻して急速に閉塞した場合に,遊離した栓子による脳梗塞と同時に眼底に多発する軟性白斑を認めたことを細井らは報告したが13),本例では内頸動脈閉塞と診断される直前に脳梗塞や眼底に軟性白斑がみられなかったことより,頸動脈狭窄が長期にわたり緩徐に進行し閉塞に至ったのではないかと推測される.また,内頸動脈閉塞に対し脳外科に紹介したところ,頭部SPECTでは脳血流低下は軽度であったため,内頸動脈内膜.離術・バイパス手術・ステント治療などは施行せず経過観察となった.慢性期内頸動脈完全閉塞症における血流の低下は眼球循環に影響を及ぼし,乳頭新生血管・血管新生緑内障などの眼虚血症候群が生じやすい14.16).本例の場合,網膜周辺部に無灌流域と毛細血管瘤を認めたため,血管新生緑内障の発生を危惧し光凝固を施行した.しかし,後極部網膜動脈壁からの蛍光色素透過性亢進がなければ虹彩新生血管は発生しにくく,周辺部に毛細血管瘤が存在してもC15年間悪化しなかった症例が報告されている17).本例ではCBRAOの既往により局所的な網膜酸素需要は低下していたと考えられ,しばらくCFAを施行しながら経過観察する余地があったと思われる.抗CVEGF薬の普及前に,加齢黄斑変性C76眼中C1眼にBRAOが発症したと報告6)されており,本症例におけるBRAOの発症は,3回目のCIVA施行からC20カ月後であったことより,抗CVEGF薬による副作用とは考えにくい.同様に,内頸動脈閉塞症に関しても抗CVEGF薬との因果関係は低いと考えられる.しかし,BRAOおよびその原因と考えられる頸動脈病変とCPCVは,高血圧症や喫煙など共通の危険因子を有しやすいと考えられる.抗CVEGF薬注射後に網膜動脈閉塞症による視力・視野障害や脳梗塞の発症はできる限り避ける必要があるため,初診時に喫煙歴を問診し,高血圧や頸動脈病変の有無を含めて既往歴を確認することは重要である.初診時の問診で既往歴なしと答えても,健診結果の確認や,眼科初診時に少なくとも血圧を測定しておけば,高血圧の有無を確認できる.高血圧症・糖尿病・脂質異常・喫煙は大血管障害を助長する1,18,19).PCV治療前にそれらの危険因子を有している場合,頸動脈エコー検査も視野に入れ,内頸動脈狭窄や閉塞の除外がなされているか確認することは有用である.また,PCVの治療は長期にわたる場合がある.最近では非侵襲的な光干渉断層計血管撮影(OCTangiography)検査の進歩によりCFA・IAを施行する機会がいっそう減少しているので,われわれ眼科医も,初診時の問診だけでなく再診時にも,本例のような頸動脈閉塞を早く見つけるために全身状態の把握は必要と思われる.本症例は,第C38回日本眼循環学会にて発表した.文献1)WongCW,YanagiY,LeeWKetal:Age-relatedmaculardegenerationCandCpolypoidalCchoroidalCvasculopathyCinCAsians.ProgRetinalEyeResC53:107-139,C20162)MarukoI,IidaT,SaitoMetal:ClinicalcharacteristicsofexudativeCage-relatedCmacularCdegenerationCinCJapaneseCpatients.AmJOphthalmolC144:15-22,C20073)AnantharamanCG,CShethCJ,CBhendeCMCetal:PolypoidalCchoroidalvasculopathy:PearlsCinCdiagnosisCandCmanage-ment.IndianJOphthalmolC66:896-908,C20184)SakuradaCY,CYoneyamaCS,CImasawaCMCetal:SystemicCriskfactorsassociatedwithpolypoidalchoroidalvasculop-athyCandCneovascularCage-relatedCmacularCdegeneration.CRetinaC33:841-845,C20135)TaniguchiCH,CShibaCT,CMaenoCTCetal:EvaluationCofCcarotidCatherosclerosis,CperipheralCarterialCdisease,CandCchronicCkidneyCdiseaseCinCpatientsCwithCexudativeCage-relatedmaculardegenerationwithoutcoronaryarterydis-easeorstroke.OphthalmologicaC233:128-133,C20156)荻野哲男,竹田宗泰,今泉寛子ほか:網膜血管病変に合併した加齢黄斑変性の臨床像.臨眼61:773-778,C20077)ZuoC,ZhangX,LiMetal:CaseseriesofcoexistenceofpolypoidalCchoroidalCvasculopathyCwithCotherCrareCfundusCdiseases.IntOphthalmolC39:987-990,C20198)ChungYR,SeoEJ,KimYHetal:HypertensionasariskfactorCforCrecurrentCsubretinalChemorrhageCinCpolypoidalCchoroidalCvasculopathy.CCanCJCOphthalmolC51:348-353,C20169)岡本紀夫,松下賢治,西村幸英ほか:内頸動脈狭窄と眼循環の関係について─蛍光眼底検査による検討─.眼紀C49:465-469,C199810)萩原信宏:頸動脈エコーC479症例の検討.北海道勤労者医療協会医学雑誌32:41-45,C201011)西川憲清,井口直己,本倉眞代ほか:網膜動脈閉塞症における頸動脈病変II.頸動脈エコーとドプラ血流検査からの検討.臨眼48:1117-1120,C199412)田宮良司,内田環,岡田守生ほか:血管閉塞症と閉塞誠頸動脈疾患との関連について.日眼会誌C100:863-867,C199613)細井千草,井口直己,岩橋洋志ほか:眼底所見からみた内頸動脈閉塞について.眼紀48:1062-1066,C199714)DrakouCAA,CKoutsiarisCAG,CTachmitziCSVCetal:TheCimportanceCofCophthalmicCarteryChemodynamicsCinCpatientsCwithCatheromatousCcarotidCarteryCdisease.CIntCAngiolC30:547-554,C201115)HayrehCSS,CZimmermanMB:OcularCarterialCocclusiveCdisordersCandCcarotidCarteryCdisease.COphthalmolCRetinaC1:12-18,C201716)NanaP,SpanosK,AntoniouGetal:Thee.ectofcarotidrevascularizationConCtheCophthalmicCartery.ow:system-aticCreviewCandCmeta-analysis.CIntCAngiolC40:23-28,C202117)西川憲清,北出和史,宮谷真子ほか:15年間経過観察できた眼虚血症候群のC1例.眼科63:677-685,C202118)FloraCGD,CNayakMK:ACbriefCreviewCofCcardiovascularCdiseases,CassociatedCriskCfactorsCandCcurrentCtreatmentCregimes.CurrPharmDesC25:4063-4084,C201919)梅村敏:第C1章高血圧の疫学.高血圧治療ガイドライン2019(日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会編),p4-12,日本高血圧学会,2019***

特発性内頸動脈解離による網膜動脈分枝閉塞症の1 例

2023年1月31日 火曜日

《原著》あたらしい眼科40(1):129.133,2023c特発性内頸動脈解離による網膜動脈分枝閉塞症の1例村田万里子*1,2牧山由希子*1*1康生会武田病院*2京都大学大学院医学研究科眼科学CACaseofBranchRetinalArteryOcclusionAssociatedwithIdiopathicInternalCarotidArteryDissectionMarikoMurata1,2)C,YukikoMakiyama1)1)KouseikaiTakedaHospital,2)DepartmentofOphthalmologyandVisualSciences,KyotoUniversityGraduateSchoolofMedicineC特発性内頸動脈解離が原因であった網膜動脈分枝閉塞症(BRAO)の症例を経験した.42歳,男性,突然の右眼視力視野障害,軽度の頭痛と左手指の感覚異常を自覚し救急外来受診.眼科診察において右眼CBRAOと診断,早期の脳神経外科との連携により内頸動脈解離が判明,内頸動脈ステント留置術が行われた症例を経験した.BRAOは眼虚血疾患の一つで,全身的にも緊急性の高い疾患が潜在している可能性が高く,速やかな内科,脳神経外科などと連携した診療が重要である.また,比較的若年例における網膜動脈閉塞症の原因疾患として,内頸動脈解離を鑑別診断に入れる必要があると考えた.CObjective:Toreportacaseofbranchretinalarteryocclusion(BRAO)intherighteyeassociatedwithidio-pathicinternalcarotidarterydissection.Case:A42-year-oldmalepresentedtotheemergencydepartmentwithsuddenlossoffullvisioninhisrighteye,mildheadache,anddysesthesiainhislefthand.WediagnosedBRAOinhisrighteye,andheadMRAshowedrightinternalcarotidarterydissection.Emergentcarotidstentingwasper-formedCwithinC3ChoursCafterCtheConsetCofCsymptoms,CandCaCgoodCoutcomeCwasCachieved.CConclusions:BRAO,CaCtypeofacuteretinalarterialischemia,isanophthalmicandsystemicemergency.IdiopathicinternalcarotidarterydissectionCshouldCbeCconsideredCasCaCcausativeCconditionCinCtheCdi.erentialCdiagnosisCofCrelativelyCyoungCpatientsCwithretinalarteryocclusion.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C40(1):129.133,C2023〕Keywords:網膜動脈分枝閉塞症,特発性内頸動脈解離,一過性黒内障.branchretinalarteryocclusion,idiopath-icinternalcarotidarterydissection,amaurosisfugax.Cはじめに特発性内頸動脈解離を含む脳動脈解離は,脳を灌流する動脈に生じる解離で,部位により頸動脈系と椎骨脳底動脈系に分けられ,若年脳卒中の原因として重要なものである.特発性内頸動脈解離は,年間発生率がC10万人当たりC2.6人と報告されているまれな疾患であり1),また,特発性内頸動脈解離により網膜動脈閉塞をきたしたとする報告はわずかである.今回,筆者らは,右眼の一過性視力障害を主訴に受診し,複数科の迅速な連携により,発症から短時間で眼科における右眼網膜動脈分枝閉塞症(branchCretinalCarteryocclusion:BRAO)の診断,原因となった特発性内頸動脈解離の特定,内頸動脈ステント留置術を施行し,良好な転帰が得られた症例を経験したので報告する.CI症例患者:42歳,男性.主訴:右眼の一過性霧視(一過性黒内障),視野障害.既往歴:うつ病.現病歴および経過:X年C11月CX日,16時C30分頃,電車内で突然の右眼霧視(右視野全体が真っ白で見えない),軽度の頭痛,左手指のしびれを自覚し,17時C22分,康生会武田病院救急外来を徒歩にて受診した.病院到着時,意識清〔別刷請求先〕牧山由希子:〒600-8558京都市下京区東塩小路町C841-5康生会武田病院眼科Reprintrequests:YukikoMakiyama,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,KouseikaiTakedaHospital,841-5,Higashishiokoji-cho,Shimogyou-ku,Kyoto600-8558,JAPANC図1視野欠損自覚変化の推移a:発症C1日目,アムスラーチャート:中心は見えるが左下視野欠損あり.Cb:発症C2日目(手術翌日),アムスラーチャート:前日の左下の視野欠損は消失,左上にC1カ所暗点の自覚あり.Cc:発症後C4日目,動的視野検査:同心円状にC3カ所暗点が検出.Cd:発症後C3カ月後,動的視野検査:暗点は検出されず.明,右眼の霧視は左下方の視野欠損へ変化し,四肢運動機能障害や顔面神経麻痺および構音障害は認めなかった.救急担当内科医が対応し,脳梗塞を疑い緊急で頭部CCTを施行したが異常所見を認めず,17時C40分,眼科疾患除外のため眼科コンサルトとなった.右眼に相対的瞳孔求心路障害(relativea.erentCpupillarydefect:RAPD)弱陽性,両眼とも前眼部には有意な所見を認めず,眼圧は正常であった(右眼13CmmHg,左眼C14CmmHg).時間外診療であったため視力検査は施行できていないが,眼科診察時点では右眼の中心視力は回復し,左下の視野欠損を自覚していた(図1a).眼底写真では,右眼網膜動脈第C1.2分岐付近に複数箇所の塞栓所見を認めた.周囲の網膜における色調変化は明らかではなかった(図2a,b).視野異常の部位と網膜動脈塞栓部位が一致したため,右眼CBRAOと診断し,眼球マッサージを施行した.一過性片眼性視力障害(一過性黒内障)による発症,その後の視野障害とCBRAOの所見より,内頸動脈病変が疑われ,脳神経外科当直にコンサルトし,18時C35分に頭部MRI,MRangiography(MRA)が施行された.MRIでは頭蓋内に明らかな病変は認めなかったが(図3a),MRAにおいて右内頸動脈近位部の内腔に線状の低信号域を認め(図3b),右内頸動脈解離が疑われた.前投薬として,アスピリンC200Cmg,クロピドグレル硫酸塩C300Cmg,シロスタゾール200Cmgの内服が行われ,19時C19分に血管造影開始.右内頸動脈起始部に解離を認め,特発性内頸動脈解離と診断された(図3c).血管造影に引き続き右内頸動脈ステント留置術を施行(塞栓捕捉用フィルターにて遠位血栓症のプロテクトを行ったあとに,ステント(PROTAGEC10×60Cmm)を留置,とくに合併症なく終了した(図3d).術翌日(第C2病日)の頭部CMRIでは,右頭頂葉末梢,中心後回に拡散強調像高信号域を認め,新規梗塞が疑われた(図3e).クロピドグレル硫酸塩C75Cmg,アスピリンC100Cmgの内服が開始となった.CTangiographyでは動脈内腔がステントにて確保されており(図3f),頸動脈エコーで血流異常は認めなかった.ベッドサイドにおける診察では,前日に比べ視野欠損の範囲は改善傾向であり,Amslerチャートでは,右眼上内側に小さな暗点をC1カ所認めるのみであった(図図2右眼眼底写真a:初診時.右眼耳上側眼動脈第C1.2分岐付近に動脈塞栓の疑い.b:aの枠内の拡大像.部分的に網膜動脈に塞栓子により血管閉塞していると思われる所見あり..c:発症後C4日目.塞栓子や網膜色調変化は明らかでない.d:cの枠内の拡大像.発症日に認められた塞栓子は認められず.1b).第C4病日には眼科外来での診察が可能となり,両眼ともに矯正視力C1.2,動的視野検査(Goldmann視野計)にてC3カ所の小さな暗点を認めた(図1c).眼底検査では塞栓変化や網膜色調変化を認めなかった(図2c,d).第C5病日には,CCTangiographyで内頸動脈腔が良好に描出されることを確認,第C13病日には,modi.edCRankinScale(mRS)scoreC1であり,自宅退院となった.3カ月後の矯正視力も両眼ともにC1.2,GPで暗点は認めず(図1d),眼底検査でも塞栓変化や網膜色調変化を認めなかった.術後C2年時点で,新規脳梗塞発症や眼科症状なく経過している.CII考察今回,筆者らは,片眼性の一過性視力障害(一過性黒内障)で発症し同側のCBRAOを認め,原因検索にて特発性内頸動脈解離が判明した症例を経験した.BRAOは血管性一過性単眼視力障害(transientCmonocularCvisionloss:TMVL),網膜中心動脈閉塞症(centralCretinalCarteryocclusion:CRAO)とともに急性網膜動脈虚血の一つであり,速やかな診断,治療を必要とする眼科的,全身的に緊急性の高い疾患である2).CRAOは,年間発生率10万人当たりC1.8.1.9人3,4)とまれな疾患であり,高齢者に多く,ピークはC80.84歳という報告もある4).原因として,内頸動脈病変や心疾患による塞栓症が多いとされ,血管炎性の場合もある.網膜動脈閉塞症の治療として,眼球マッサージ,前房穿刺,高浸透圧薬による眼圧低下,血管拡張薬,血栓溶解薬,高圧酸素療法などさまざまな治療が試みられてきたが,一貫した有効性を実証したものはない5).また,BRAOの長期視力予後はよいといわれており,リスクを伴う検査や治療は避けるべきである6).網膜動脈閉塞症と脳梗塞や心筋梗塞などの心血管イベントとの関連はよく知られており,MirらはCCRAOで入図3頭部MRI,MRA,血管造影,頸部CTangiography画像所見a:術前頸部CMRI画像:頭蓋内には明らかな異常所見認めず.Cb:術前CMRA画像:右内頸動脈(.)に動脈内腔の狭窄を疑う.Cc:血管造影画像:右内頸動脈起始部(.)に動脈狭窄像,内頸動脈解離と診断.d:血管造影画像:ステント留置後,内腔狭窄が解除されている(.).e:術翌日CMRI画像:右内頸動脈(中大脳動脈)領域の右中心後回に新鮮梗塞を認めた(.).f:術翌日CTangiography画像:ステントにて動脈内腔が確保されている.院中の脳梗塞発症率がC12.9%,心筋梗塞発症率がC3.7%と報告している7).また,急性脳梗塞はCCRAO患者のC27.76.4%,一過性片眼性視力障害のC11.8.30.8%に認めたとの報告もある2).一方,特発性内頸動脈解離の年間発生率はC10万人当たり2.6.5人とこちらも頻度は低く,平均発症年齢は約C44歳とされ,65歳以上はまれである1,8).原因により,外傷性,非外傷性(特発性)に分類されるが,非外傷性(特発性)ではMarfan症候群など基礎疾患や何らかの誘因があるものと,本症例のように原因不明なものに分けられる.特発性内頸動脈解離も脳梗塞や一過性脳虚血などの虚血性脳卒中の原因となる注意すべき脳血管障害である9).特発性内頸動脈解離は,虚血性脳卒中の原因としてはわずかC1.2%であるが,若年層の脳卒中の原因としてはC10.25%を占めており,若年・中年層の脳卒中の原因として上位にある8.11).脳卒中に至る機序として,狭窄による血流低下,arteryCtoartery(ACtoA)embolismによるものがあげられる11.13).特発性内頸動脈解離は基本的に可逆性の病変と推測されており,抗血栓療法などの保存的治療が推奨されている13,14).しかし,川崎らは,血行動態的虚血を認め内科治療抵抗性の進行症例では積極的な血行再建術が必要であり,非閉塞例ではステント留置術,完全閉塞例にはバイパス術が必要であると報告している13).また,保存的治療が選択された後に進行性に増悪し,ステント留置などの侵襲的治療が必要となる場合もあるなど,いまだ一定の治療方針が確立しておらず,個々のケースで判断する必要がある.本症例では発症から約C2時間半でステント留置の前処置としての抗血小板薬の内服,3時間以内に血管造影が開始され,確定診断に引き続き血管内ステント治療が施行された.発症翌日に新鮮脳梗塞がみつかったが,その後は眼科,脳外科的にも症状をきたす病変は認めず,良好な転帰を得た.本症例では,救急外来担当内科医,眼科医,脳神経外科医が連携して,迅速な診断,治療を行えたことが良好な予後にも寄与したと考えられる.2019年CAmeri-canAcademyofOphthalmologyガイドラインでは,症候性網膜動脈閉塞症はただちに脳卒中センターへ紹介し精査を開始することを推奨しており15),続発する虚血イベントのリスクを低減するための全身検索と早期の予防治療開始が重要である.また,本症例のように血栓形成に関与するような基礎疾患のない,比較的若年発症の網膜動脈閉塞症では,原因疾患の鑑別として特発性内頸動脈解離も考慮に入れる必要があると考えた.本症例は時間外診療であったこと,眼科診断後すぐに脳神経外科診察,治療が行われたことより,蛍光造影検査,光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT,OCT血管撮影(angiography:OCTA)による塞栓部周囲網膜における血流障害や網膜層構造の変化に関しては評価ができていない.急を要するなかでも,とくに光干渉断層計(OCT,OCTA)は短時間で網膜,血管変化を評価できると考えられるため5),今後は撮像および評価に努めたい.CIII結語片眼性一過性単眼視力障害,軽度頭痛,左手指の異常感覚にて救急外来を受診後,眼科診察において右CBRAOと診断,早期の脳神経外科との連携により内頸動脈解離が判明,内頸動脈ステント留置術が行われた症例を経験した.BRAOは眼虚血疾患の一つで,全身的にも緊急性の高い疾患が潜在している可能性が高く,速やかな内科,脳神経外科などと連携した診療が重要であると考えられた.また,比較的若年例における網膜動脈閉塞症の原因疾患として,内頸動脈解離を鑑別診断に入れる必要があると考えた.文献1)SchievinkWI,MokriB,WhisnantJPetal:Internalcarot-idarterydissectioninacommunity.Rochester,Minnesota,C1987-1992.CStrokeC24:1678-1680,C19932)BiousseCV,CNahabCF,CNewmanNJ:ManagementCofCacuteCretinalischemia:followCtheCguidelines!COphthalmologyC125:1597-1607,C20183)LeavittJA,LarsonTA,HodgeDOetal:TheincidenceofcentralretinalarteryocclusioninOlmstedCounty,Minne-sota.AmJOphthalmolC152:820-823.Ce822,C20114)ParkSJ,ChoiNK,SeoKHetal:NationwideincidenceofclinicallyCdiagnosedCcentralCretinalCarteryCocclusionCinCKorea,C2008CtoC2011.COphthalmologyC121:1933-1938,C20145)MehtaCN,CMarcoCRD,CGoldhardtCRCetal:CentralCretinalCarteryocclusion:acutemanagementandtreatment.CurrOphthalmolRepC5:149-159,C20176)HayrehSS,PodhajskyPA,ZimmermanMB:Branchreti-nalCarteryocclusion:naturalChistoryCofCvisualCoutcome.COphthalmologyC116:1188-1194.Ce1181-e1184,C20097)MirTA,ArhamAZ,FangWetal:Acutevascularisch-emicCeventsCinCpatientsCwithCcentralCretinalCarteryCocclu-sionCinCtheCUnitedStates:ACnationwideCstudyC2003-2014.CAmJOphthalmolC200:179-186,C20198)RobertsonJJ,KoyfmanA:Cervicalarterydissections:Areview.JEmergMedC51:508-518,C20169)後藤淳:虚血性脳卒中:診断と治療の進歩IV.最近の話題1.脳動脈解離.日内会誌C98:1311-1318,C200910)DziewasCR,CKonradCC,CDragerCBCetal:CervicalCarteryCdissectionC─CclinicalCfeatures,CriskCfactors,CtherapyCandCoutcomein126patients.JNeurolC250:1179-1184,C200311)名古屋春満,武田英孝,傳法倫久ほか:特発性頸部内頸動脈解離10症例の臨床的検討.脳卒中C33:59-66,C201112)LucasC,MoulinT,DeplanqueDetal:StrokepatternsofinternalCcarotidCarteryCdissectionCinC40Cpatients.CStrokeC29:2646-2648,C199813)川崎和凡,勝野亮,宮崎貴則ほか:特発性内頸動脈解離5症例の臨床的検討.脳卒中の外科C43:130-135,C201514)RaoAS,MakarounMS,MaroneLKetal:Long-termout-comesCofCinternalCcarotidCarteryCdissection.CJCVascCSurgC54:370-374;discussion375,201115)FlaxelCJ,AdelmanRA,BaileySTetal:RetinalandophC-thalmicCarteryCocclusionsCpreferredCpracticeCpatternR.OphthalmologyC127:259-287,C2020***

14歳男児に発症した網膜動脈分枝閉塞症の1例

2018年12月31日 月曜日

《原著》あたらしい眼科35(12):1700.1703,2018c14歳男児に発症した網膜動脈分枝閉塞症の1例福井志保*1木許賢一*2山田喜三郎*3久保田敏昭*2*1別府医療センター眼科*2大分大学医学部眼科学教室*3大分県立病院眼科CACaseofBranchRetinalArteryOcclusionina14-Year-OldMaleShihoFukui1),KenichiKimoto2),KisaburoYamada3)andToshiakiKubota2)1)DepartmentofOphthalmology,BeppuMedicalCenter,2)DepartmentofOphthalmology,OitaUniversityFacultyofMedicine,3)DepartmentofOphthalmology,OitaPrefecturalHospitalC14歳男児に発症した網膜動脈分枝閉塞症を経験したので報告する.溶連菌感染後に右眼の視野異常を主訴に受診し,右眼の網膜動脈分枝閉塞症と両眼の網膜血管炎があった.全身的には無菌性髄膜炎の所見とわずかなCPR3-ANCAの上昇以外は異常はなかった.網膜血管炎に対してプレドニゾロンC30Cmgより内服漸減を行い,その間に黄色ブドウ球菌感染による硬膜外膿瘍をきたし,保存的に加療された.その際もCPR3-ANCAの軽度上昇があった.網膜血管炎の原因としてCANCA関連血管炎や溶連菌感染後の自己免疫学的機序による血管炎が考えられたが,明らかな原因疾患は不明であった.CWeCreportCaCcaseCofCbranchCretinalCarteryCocclusionCinCaC14-year-oldCmale,CwhoCvisitedCourCdepartmentCbecauseCofCvisualCdisturbanceCafterChemolyticCstreptococcalCinfection.CExaminationCdisclosedCbranchCretinalCarteryCocclusioninhisrighteyeandretinalvasculitisbilaterally.AsepticmeningitisandslightlyincreasedPR3-ANCAintheserumwereobserved.Hewastreatedwithprednisolonefromadoseof30Cmgdailyforretinalvasculitis.Dur-ingCtheCterm,CepiduralCabscessCcausedCbyCStaphylococcusCaureusCoccurred.CAtCtheCtime,CPR3-ANCACwasCagainCslightlyCincreasedCinCtheCserum.CANCA-associatedCvasculitisCorCautoimmune-relatedCvasculitisCwereCspeculatedCasCcausesoftheretinalvasculitisandbranchretinalarteryocclusion,butthespeci.ccauseswereunknown.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C35(12):1700.1703,C2018〕Keywords:網膜動脈分枝閉塞症,網膜血管炎,溶連菌感染,ANCA関連血管炎.branchretinalarteryocclusion,retinalvasculitis,hemolyticstreptococcusinfection,ANCA-associatedvasculitis.Cはじめに網膜動脈閉塞症は一般的に加齢に伴う動脈硬化や不整脈が原因となり,血栓や塞栓を原因として発症することが多く,高齢者に多い疾患である.若年者の網膜動脈閉塞症はまれで,心疾患,抗リン脂質抗体症候群や全身性エリテマトーデス(systemicClupusCerythematosus:SLE)などの膠原病,血液凝固異常などの基礎疾患を有する報告1.8)が多いが,原因不明のものもある11,12).今回,全身精査で明らかな原因疾患が不明の網膜動脈分枝閉塞症と両眼の網膜血管炎を併発した若年の症例を経験したので報告する.抗好中球細胞質抗体(anti-neutrophilCcytoplasmicCantibody:ANCA)の軽度上昇からCANCA関連血管炎の可能性や溶連菌感染後の自己免疫機序による血管炎の可能性が考えられた.I症例患者:14歳,男児.主訴:右眼視野異常.既往歴:左鼠径ヘルニア,僧帽弁閉鎖不全症(軽度),気管支喘息,アトピー性皮膚炎,犬・猫アレルギー.家族歴:父─乾癬,花粉症,母─アトピー性皮膚炎,弟─副鼻腔炎.生活歴:ハムスター飼育.現病歴:2010年C8月にC38℃台の発熱と頭痛が出現し,第3病日に小児科を受診した.咽頭拭い液溶連菌迅速検査が陽性で抗菌薬を処方された.第C8病日,発熱が持続するため別のかかりつけの小児科を受診し抗菌薬を変更され,第C10病〔別刷請求先〕福井志保:〒874-0011大分県別府市内竈C1473別府医療センター眼科Reprintrequests:ShihoFukui,M.D.,DepartmentofOphthalmology,BeppuMedicalCenter,1473Uchikamado,Beppu874-0011,CJAPANC1700(124)0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(124)C17000910-1810/18/\100/頁/JCOPY図1初診時右眼眼底写真視神経乳頭耳下側の白色病変と網膜の白濁があり,網膜動脈分枝閉塞症と診断した.図3初診時右眼眼底写真(赤道部)血管周囲に白色病変があった.日には解熱した.第C12病日の起床時に右眼の見えにくさを自覚し,翌日に前医眼科を受診し右眼網膜動脈分枝閉塞症を指摘され同日紹介受診した.初診時所見:視力は右眼C1.0(矯正不能),左眼C0.8(矯正1.0),眼圧は両眼ともにC11CmmHg,両眼の結膜充血があった.前房内炎症はなく,前医にて散瞳しており,中間透光体に異常はなかった.右眼眼底は視神経乳頭耳下側の動静脈交叉部に白色病変とそれより末梢の網膜の白濁があり,網膜動脈分枝閉塞症と診断した(図1).末梢静脈血管は怒張し,光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)では動脈閉塞部位は著明な網膜浮腫があり,隆起性の白色病変による動脈の圧迫が疑われた(図2a).また乳頭耳側に出血を伴った白色病変があり,OCTでは網膜外層浮腫(図2b)を呈図2a右眼OCT画像(動脈閉塞部位)著明な網膜浮腫があり,白色病変による動脈の圧迫が疑われた.図4b左眼OCT画像(白色病変部位)網膜浮腫を呈していた.し,右眼赤道部にも血管周囲の白色病変(図3),左眼後極にも白色病変(図4a)とその部位の網膜浮腫(図4b)があり,両眼の網膜血管炎が疑われた.Goldmann動的視野検査では図2b右眼OCT画像(黄斑部)網膜外層浮腫を呈していた.図4a初診時左眼眼底写真後極に白色病変があった.(125)あたらしい眼科Vol.35,No.12,2018C1701図5初診時Goldmann動的視野検査右眼鼻上側の視野欠損があった.図6右眼眼底写真(入院後数日)白色病変の周囲に出血が出現していた.動脈閉塞部位に一致した右眼鼻上側の視野欠損があった(図5).蛍光眼底造影はフルオレセインの皮内テストが強陽性で施行できなかった.発症から約C2日が経過していたため動脈閉塞症に対する加療は行わず,原因精査のため小児科に入院となった.全身検査所見:白血球数C9,100/μl,血小板数C352,000/μl,CCRP1.29Cmg/dl,IgG2,013Cmg/dl,IgE3,730CIU/ml,CHC5058.5CU/mlと軽度上昇していた.血液凝固検査は正常範囲内で,各種ウイルス抗体価や自己抗体の上昇はなく,PR3-ANCAはC3.5CU/mlと正常上限であった.ツベルクリン反応は陰性であったが,ACE,リゾチームは正常範囲内で肺門リンパ節腫脹はなく,サルコイドーシスは否定的であった.ASO,ASKは陰性,結核,梅毒,トキソプラズマ,トキソカラ,猫ひっかき病などの感染はなかった.髄液細胞数図7右眼眼底写真(発症3カ月後)閉塞部位の動脈は白鞘化,狭細化していた.93/3Cμl(すべて単核球)と軽度増加しており,無菌性髄膜炎と診断された.胸部CX線,頭部CMRI,胸腹部CCT検査で異常はなく,心臓超音波検査では軽度の僧帽弁閉鎖不全症があったが,疣贅はなかった.経過および治療:右眼の網膜動脈分枝閉塞症と両眼の網膜血管炎,無菌性髄膜炎の所見があったが,全身的な基礎疾患や異常所見はなかった.入院後,新たな白色病変の出現はみられず,白色病変周囲にいずれも静脈閉塞に伴う出血が出現した(図6).何らかの自己免疫学的機序による網膜血管炎,それによる動脈閉塞症と考え,入院C12日目よりプレドニゾロンC30Cmg内服を開始した.動脈閉塞部位の白色病変と網膜浮腫は次第に軽快し,血管炎の悪化所見はなく退院となった.同年C10月,プレドニゾロンC2.5Cmg内服中に前胸部に水疱(126)が出現,40℃の発熱と心窩部痛,背部痛を伴い,CRP23.98Cmg/dlと高値で小児科に入院した.血液・喀痰培養で黄色ブドウ球菌を検出,Kaposi水痘様発疹症,硬膜外膿瘍と診断された.保存的に加療され,基礎疾患の検索を行うも異常はなかった.前回と同様にCIgEはC3,107IU/mlと高値で,PR3-ANCAはC3.9CU/mlと軽度陽性で,退院時にはC6.1CU/mlとさらに上昇していた.網膜動脈閉塞発症後C3カ月には,閉塞部位は動静脈交叉部位であったことが明瞭となり,同部位は動脈の白鞘化,狭細化を呈した(図7).現在視野欠損は残存しているが,血管炎などの再発はない.CII考按網膜動脈閉塞症が若年者に発症することは珍しく,心疾患1,2)や抗リン脂質抗体症候群3,4),SLE5),血管炎症候群6)などの全身疾患が基盤にあるものが多い.クリオフィブリノーゲン血症7,8)や貧血の合併9),経口避妊薬内服後の発症10)の報告も散見される.しかし,本症例のように明らかな原因が不明であったとする報告もあり,高橋らは若年者C3例の網膜動脈閉塞症を報告11),中野らは本症例と同様の溶連菌感染症の経過中に発症したC11歳女児の網膜中心動脈閉塞症を報告している12).本症例は軽度の僧帽弁閉鎖不全症があったが,心エコーでは感染性心内膜炎の所見や疣贅はなく,原因として考えにくい.また,両眼の網膜血管炎を併発しており,動脈炎による動脈閉塞が考えられた.動脈閉塞をきたしうる動脈炎としてCBehcet病や結核性網膜血管炎,梅毒性ぶどう膜炎などがあるが,いずれも否定的であった.また,溶連菌感染後に樹氷状血管炎を呈し,動脈閉塞を起こした報告13)もあるが,本症例では樹氷状血管炎の所見はなかった.本症例ではCPR3-ANCAの軽度上昇があり,プレドニゾロン内服後の感染時にはさらに上昇しており,ANCA関連血管炎が関連している可能性も考えられた.PR3-ANCAはWegener肉芽腫症に診断的特異性が高く,疾患活動性の指標になることが知られており,MPO-ANCAは顕微鏡的多発血管炎やアレルギー性肉芽腫性血管炎で高率に陽性となる.MPO-ANCA陽性の顕微鏡的多発血管炎では網膜動脈閉塞症の合併報告は多いが14,15),PR3-ANCA上昇,Wegen-er肉芽腫症に伴う報告例は少ない16).ANCA関連血管炎では小動脈から細動脈,毛細血管,細静脈までの比較的細い血管が障害されるが,本症例は全身的な血管炎の所見はなかった.また,ANCAは感染症や薬剤,全身性疾患に伴い誘導され上昇することが知られており,溶連菌の感染はCANCA上昇を誘導するとされる17).本症例はCANCA上昇は軽度で,感染時にさらに上昇していることから,感染に伴う上昇の可能性も十分に考えられた.本症例ではもともと気管支喘息やアトピー性皮膚炎,犬,(127)猫アレルギーの既往があり,血清CIgEも高値で,溶連菌感染後にアレルギー学的機序による網膜血管炎を発症した可能性がもっとも考えられた.しかし,蛍光眼底造影が施行できなかったため,動脈閉塞をきたした病態や血管炎の程度が把握できず,ステロイド治療効果も不明であった.ステロイド投与による易感染性がC2回目の感染症の誘因になった可能性が考えられ,ステロイド投与の適応や投与量については議論の余地があり,慎重に検討する必要がある.文献1)松村望,伊藤大蔵,大庭静子ほか:視野の自然緩解をみた網膜動脈分枝閉塞症のC1例.眼紀95:41-43,C20012)中村将一朗,小林謙信,高山圭:心房中隔欠損による奇異性塞栓により発症した若年の片眼性網膜中心動脈閉塞症の1例.あたらしい眼科C33:601-605,C20163)朝比奈章子,小松崎優子,中山玲慧ほか:6歳女児に生じた網膜動脈閉塞症のC1例.臨眼54:1191-1194,C20004)友利あゆみ,城間正,上門千時ほか:9歳男児に認められた網膜中心動脈閉塞症のC1例.臨眼C56:1117-1120,C20025)野本浩之,馬場哲也,梅津秀夫ほか:網膜動静脈の閉塞を呈した小児全身性エリテマトーデスのC2例.あたらしい眼科17:1441-1445,C20006)渡辺一順,加瀬学:網膜中心動脈閉塞症を呈したCP-ANCA陽性網膜血管炎.あたらしい眼科C17:1429-1432,C20007)田片将士,岡本紀夫,栗本拓治ほか:若年者にみられたクリオフィブリノーゲン血症が原因と考えられた網膜中心動脈閉塞症のC1例.臨眼61:625-629,C20078)RatraCD,CDhupperM:RetinalCarterialCocclusionsCinCtheyoung:SystemicassociationsinIndianpopulation.IndianJOphthalmolC60:95-100,C20129)冨田真知子,賀島誠,吉田慎一ほか:鉄欠乏性貧血の若年女性に発症した網膜中心静脈閉塞症と網膜中心動脈分枝閉塞の合併症例.臨眼60:1219-1222,C200610)StepanovA,HejsekL,JiraskovaNetal:TransientbranchretinalCarteryCocclusionCinCaC15-year-oldCgirlCandCreviewCoftheliterature.BiomedPapMedFacUnivPalackyOlo-moucCzechRepubC159:508-511,C201511)高橋寧子,堀内二彦,大野仁ほか:若年者の網膜動脈閉塞症のC3例.眼紀41:2258-2269,C199012)中野直樹,吉田泰弘,周藤昌行ほか:11歳女児の網膜中心動脈閉塞症.眼紀43:161-164,C199213)SharmaCN,CSimonCS,CFraenkelCGCetal:FrostedCbranchCangitisCinCanCoctogenarianCwithCinfectiveCendocarditis.CRetinCasesBriefRepC9:47-50,C201514)佐藤章子,宮川靖博,高野淑子:眼病変を合併したCChurg-Strauss症候群のC2例.臨眼60:509-514,C200615)吉武信,西村宗作,吉田朋代ほか:網膜動脈閉塞症を発症し治療開始されたCChurg-Strauss症候群のC1例.臨眼C66:1659-1663,C201216)福尾吉史,片岡康志,千羽真貴ほか:Wegener肉芽腫症に網膜中心動脈閉塞症を合併したC1例.眼紀C44:1552-1555,C199317)山村昌弘:血管炎症候群.内科117:915-920,C2016あたらしい眼科Vol.35,No.12,2018C1703

網膜動脈分枝閉塞症を続発したIntrapapillary Hemorrhage with Adjacent Peripapillary Subretinal Hemorrhage(IHAPSH)の1例

2016年11月30日 水曜日

《原著》あたらしい眼科33(11):1662?1665,2016c網膜動脈分枝閉塞症を続発したIntrapapillaryHemorrhagewithAdjacentPeripapillarySubretinalHemorrhage(IHAPSH)の1例佐藤茂内堀裕昭林仁堺市立総合医療センターアイセンターACaseofBranchRetinalArteryOcclusioninIntrapapillaryHemorrhagewithAdjacentPeripapillarySubretinalHemorrhageShigeruSato,HiroakiUchihoriandHitoshiHayashiDepartmentofOphthalmology,SakaiCityMedicalCenterIntrapapillaryhemorrhagewithadjacentperipapillarysubretinalhemorrhageの経過中に網膜動脈分枝閉塞症を生じた症例を経験したので報告する.症例は42歳,女性.主訴は右眼飛蚊症.初診時,矯正視力は両眼とも1.2,眼圧は右眼15mmHg,左眼17mmHgであった.右眼には軽度の硝子体出血および視神経乳頭鼻上側の乳頭部出血,視神経乳頭辺縁部鼻上側に網膜下出血を認めた.網膜動静脈の拡張や蛇行は認めなかった.無投薬で経過を観察したが,初診より5日後,視神経乳頭鼻側に小さな網膜動脈分枝閉塞症(BRAO)を認めた.全身検査を行ったが,有意な所見を認めなかった.初診より5日後からアスピリン100mg/日内服を開始したところ,出血は徐々に吸収され,飛蚊症は消失し,視力も保たれた.約7カ月の経過観察中に再出血や新たなBRAOの発症は認めなかった.Wereportthecaseofa42-year-oldfemalewhosufferedintrapapillaryhemorrhagewithadjacentperipapillarysubretinalhemorrhageanddevelopedanadjacentperipapillarybranchretinalarteryocclusioninherrighteye.Hermaincomplaintwasfloatersintherighteye.Ourinitialexaminationrevealedcorrectedvisualacuityof1.2inbotheyes,andintraocularpressureof15mmHgand17mmHgintherightandlefteyes,respectively.Ophthalmoscopicexaminationdisclosedmildvitreoushemorrhage,nasalintrapapillaryhemorrhageandadjacentperipapillarysubretinalhemorrhageinherrighteye.Fivedayslater,wefoundanadjacentperipapillarybranchretinalarteryocclusionintherighteye,andinitiatedprescriptionoforalaspirin(100mg/day).Thehemorrhagegraduallydisappearedandthefloatersfadedaswell.Visualacuitywasmaintained.Therehasbeennorecurrencethusfar.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(11):1662?1665,2016〕Keywords:視神経乳頭周囲に網膜下出血を伴う乳頭部出血,網膜動脈分枝閉塞症,硝子体出血,網膜下出血,近視.intrapapillaryhemorrhagewithadjacentperipapillarysubretinalhemorrhage(IHAPSH),branchretinalarteryocclusion(BRAO),vitreoushemorrhage,subretinalhemorrhage,myopia.はじめに若年者に片眼性視神経乳頭部出血をきたす疾患として,視神経乳頭血管炎1),虚血性視神経症2),視神経乳頭部ドルーゼン3),後部硝子体?離に伴う乳頭部出血4,5),Leber特発性星芒状視神経網膜炎2,6,7),視神経乳頭部細動脈瘤8),視神経乳頭周囲に網膜下出血を伴う乳頭部出血(intrapapillaryhemorrhagewithadjacentperipapillarysubretinalhemorrhage:IHAPSH)2)などが報告されている.このなかで,IHAPSHは片眼性の視神経乳頭部出血に加え視神経乳頭部周囲網膜下出血を伴う症候群で,その原因としてさまざまな機序が考察されているものの,現在のところ詳細は不明である.硝子体出血を合併することもあり,飛蚊症の訴えにて受診され発見されることもある.出血は自然吸収傾向にあり,視力予後も良好で再発は少ないとされている2).今回,IHAPSHの経過観察中,視神経乳頭出血部位に近接した網膜動脈分枝閉塞症(branchretinalarteryocclusion:BRAO)を生じた症例を経験したので報告する.I症例患者:42歳,女性.主訴:右眼飛蚊症.既往歴:特記すべきものなし.現病歴:2015年2月より右眼の飛蚊症を自覚.近医受診したところ視神経乳頭部出血を指摘された.精査目的にて紹介となり,2日後に当科初診となった.初診時所見:視力は右眼0.05(1.2×sph?4.5D(cyl?0.5DAx60°),左眼0.1(1.2×sph?2.5D(cyl?0.5DAx150°).眼圧は右眼15mmHg,左眼17mmHgであった.右眼には軽度の硝子体出血および視神経乳頭鼻上側の乳頭部出血,その辺縁部に網膜下出血を認めた.網膜血管動静脈の拡張や蛇行は認めず,黄斑周囲の星芒状白斑も認めなかった(図1a).右眼前眼部は特記すべき所見を認めなかった.また,左眼には特記すべき所見を認めなかった.矯正視力良好であり,自覚症状も軽度であったため,投薬は行わず経過観察をすることとした.経過:初診より5日後再診したところ,飛蚊症が少し濃くなった印象があるとのことであった.検眼鏡的には,硝子体出血はかなり吸収されており,網膜下出血の増悪は認めないものの,若干の乳頭部出血の増加および視神経乳頭鼻側に小さなBRAOを認めた(図1b).同日施行したフルオレセイン蛍光眼底造影検査(fluoresceinangiography:FA)では,BRAO部を走行する動脈は動脈相早期ですでに充盈が始まっており,他の動脈に比して充盈遅延は認めなかった(図1c).また,網膜炎を疑うびまん性蛍光漏出や,網膜血管からのシダ状蛍光漏出,無血管領域,新生血管を認めなかった.視神経乳頭部は出血によるブロックと考える低蛍光を示したが,後期でも乳頭浮腫,血管腫や新生血管を疑う過蛍光は確認できなかった(図1d).OCTでは,視神経乳頭出血に一致した乳頭辺縁部の肥厚および網膜下出血と考える網膜下高反射像を認めた.また,硝子体出血と考えられる高反射も認めた.BRAO部では網膜内層の高反射を認めたが,視神経乳頭への硝子体牽引は明らかではなかった(図2a~d).本症例は中等度近視であり,3D解析を行ったところ傾斜乳頭の像を示した(図2e).中心フリッカー値は両眼ともに41Hzであった.全身検査では,心電図は正常範囲内で,心房細動は認めなかった.頸部エコーでは,両側頸動脈にプラークや狭窄を認めなかった.血液学的検査では,凝固能,抗核抗体やb2マイクログロブリン抗体を含めて有意な所見を認めなかった.本人と相談のうえ,アスピリン100mg/日内服を開始した.その後,出血は徐々に吸収され,飛蚊症の自覚も消失した.初診から約2カ月後にいったん受診が途絶えた.それに伴い,アスピリン内服も自己中断となった.初診から5カ月半後に再診されたところ,出血は完全に吸収されており,表在性視神経乳頭ドルーゼンを認めなかった(図3a).視力は維持されていたが,自動視野計では,右眼Mariotte盲点の耳側への拡大を認めた.初診から6カ月後のFAでは,ブロックは消失し,視神経乳頭部に浮腫,血管腫や新生血管を疑う過蛍光は認めなかった(図3b).BRAO領域は検眼鏡や造影検査を含め,通常の検査では確認が困難であったが,FA後のマルチカラー眼底撮影では,短波長(488nm)と中間波長(518nm)レーザー撮影において,BRAOの領域に一致して,明らかな色調変化が認められた(図3c,d).II考按今回筆者らは,IHAPSHの経過中にBRAOを続発したと考えられる症例を経験した.IHAPSHは,2004年にKokameらが10眼の臨床報告を行い提唱した症候群名である2).それ以前には,1975年のCibisらの報告4)に続き,わが国でも1981年以降に同様の所見を示す症例が相ついで報告され,1989年には廣辻らが10眼の臨床報告を行い,近視性乳頭出血との名称を提唱している5).Kokameらは,この症候群の特徴として①視神経乳頭部からの出血,②近視眼の傾斜乳頭で頻度が上昇する,③視神経乳頭の上方もしくは鼻側に出血することが多い,④急性発症で視力予後良好である,⑤同一眼に再発を認めないとの5つの特徴をあげているが,それ以外にも⑥出血は自然消退する,⑦神経や網膜に明らかなダメージを残さない,⑧アジア系に多くそれ以外の人種では稀,⑨女性に多い,⑩平均発症年齢は47歳などと述べている2).本症例は上記特徴に合致しており,IHAPSHであると考えた.BRAOについては,一般に塞栓源の検索が重要であるが,本症例では塞栓源は特定できなかった.また,特記すべき既往症はなく,発症年齢が比較的若く,血液検査でも凝固系や抗リン脂質抗体症候群を疑う異常所見を認めなかった.さらにIHAPSHの推定発症から1カ月以内に病変の直近に発症している.以上から本症例のBRAOはIHAPSHに続発したと考えた.IHAPSHと鑑別すべき疾患として,視神経乳頭血管炎1),虚血性視神経症2),視神経乳頭部ドルーゼン3),視神経乳頭部細動脈瘤8)を考慮した.まず,視神経乳頭血管炎であるが,全身疾患を伴わない若年性の網膜中心静脈閉塞症が高齢者の病態とは異なるとの考え方から,さまざまな名称でよばれてきた臨床概念である1).本症例では網膜血管の拡張・蛇行を認めず,視神経乳頭部の腫脹は軽度で,出血を認める上方?鼻側に限局しており,耳側?下方の視神経乳頭の腫脹は認めない(図1a~d,2a~e).FAでは網膜血管からのシダ状蛍光漏出など網膜中心静脈閉塞症に共通する所見を認めなかった.また,FAの後期像で視神経乳頭からの著明な蛍光漏出は認めなかった(図1d).以上のことから視神経乳頭血管炎は除外されると考える.虚血性視神経症では,視神経乳頭は急性期に閉塞部の蒼白浮腫と非閉塞部の発赤浮腫を認め,水平半盲などの閉塞部に一致した永続する視野障害を認めることが多い.本症例では,BRAOに伴うMariotte盲点の拡大を認めるのみで,視神経乳頭部出血に一致した視野障害を認めなかった.また,出血の吸収後の視神経乳頭に蒼白化を認めなかったことから除外した(図3a).視神経乳頭部ドルーゼンについては,出血吸収後に検眼鏡的には表在性の視神経乳頭ドルーゼンを認めなかった(図3a).しかし,超音波Bモード,CTなどを行っていないため,深部に潜在するドルーゼンは完全に否定できなかった.視神経乳頭部細動脈瘤は視神経乳頭部出血やBRAOを生じることがある8).しかし,本症例では視神経乳頭部血管瘤は検出されなかった(図3a,b).IHAPSHの原因は未解明であるが,その病因として近視に伴う脈絡膜乳頭境界部での解剖学的脆弱性5),後部硝子体?離に伴う視神経乳頭部牽引4),Valsalva手技による破綻性出血9)やLeber特発性星芒状視神経網膜炎などが考えられている2,6,7).今回の症例では,中等度近視で傾斜乳頭であるものの,OCTにおいて後部硝子体?離に伴う視神経乳頭部牽引は認めなかった(図2a~d).そのため,本症例に関して,硝子体牽引は病因の可能性としては低いと考えた.Valsalva手技による視神経乳頭部の破綻性出血については,発症直前のエピソードに関して積極的には問診を行ったわけではないものの,とくに申告はなく,また後日BRAOが続発したことを説明できない.Leber特発性星芒状視神経網膜炎は,黄斑部に星芒状白斑を伴う視神経網膜炎であるが,ネコひっかき病を含めたさまざまな原因で起こるとされており,IHAPSHに似た所見を示すことがあると報告されている6,7).ネコひっかき病はグラム陰性菌のBartonellahenselae感染が原因であると報告されているが,近年このBartonellahenselae感染とBRAOの関連が指摘されている10).Bartonellahenselaeは血管内皮に侵入する傾向がある11)ので,血管内皮のダメージの結果としての血管閉塞や血管増殖が想定されている12).本症例では,Bartonellahenselae感染の血液学的検索や猫の接触歴や飼育歴の聴取を行っていなかった.今後,IHAPSHとBartonellahenselae感染の関連については検討の価値があると考える.BRAO発症半年後,検眼鏡やFAではBRAO部を同定することが困難であった(図3a,b)しかし,OCTでは,網膜の限局性菲薄化が認められ,FA後のマルチカラー眼底撮影では短波長(488nm)と中間波長(518nm)レーザーにて撮像した画像では,はっきりと閉塞部を同定することができた(図3c,d).マルチカラー眼底撮影は陳旧性BRAOの閉塞領域を同定するのに有用である可能性がある.最後に,IHAPSHは自然軽快し,予後良好と報告されているが,BRAOを続発する可能性があるので,発症早期はBRAOの続発に注意すべきと考えられた.文献1)FongAC,SchatzH:Centralretinalveinocclusioninyoungadults.SurvOphthalmol37:393-417,19932)KokameGT,YamamotoI,KishiSetal:Intrapapillaryhemorrhagewithadjacentperipapillarysubretinalhemorrhage.Ophthalmology111:926-930,20043)LeeKM,HwangJM,WooSJ:Hemorrhagiccomplicationsofopticnerveheaddrusenonspectraldomainopticalcoherencetomography.Retina34:1142-1148,20144)CibisGW,WatzkeRC,ChuaJ.:Retinalhemorrhagesinposteriorvitreousdetachment.AmJOphthalmol80:1043-1046,19755)廣辻徳彦,布出優子,中倉博延ほか:近視性乳頭出血.眼紀40:2787-2794,19896)KokameGT:Intrapapillary,peripapillaryandvitreoushemorrhage[letter].Ophthalmology102:1003-1004,19957)CassonRJ,O’DayJ,CromptonJL:Leber’sidiopathicstellateneuroretinitis:differentialdiagnosisandapproachtomanagement.AustNZJOphthalmol27:65-69,19998)MitamuraY,MiyanoN,SuzukiYetal:Branchretinalarteryocclusionassociatedwithruptureofretinalarteriolarmacroaneurysmontheopticdisc.JpnJOphthalmol49:428-429,20059)里見あづさ,大原むつ:Valsalva手技が誘因と思われる若年者乳頭出血の1例.眼臨90:981-983,199610)Eiger-MoscovichM,AmerR,OrayMetal:RetinalarteryocclusionduetoBartonellahenselaeinfection:acaseseries.ActaOphthalmol94:e367-e370,201611)KirbyJE:InvitromodelofBartonellahenselae-inducedangiogenesis.InfectImmun72:7315-7317,200412)PinnaA,PugliaE,DoreS:Unusualretinalmanifestationsofcatscratchdisease.IntOphthalmol31:125-128,2011〔別刷請求先〕佐藤茂:〒593-8304大阪府堺市西区家原寺町1-1-1堺市立総合医療センターアイセンターReprintrequests:ShigeruSatoM.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,SakaiCityMedicalCenter,1-1-1Ebaraji-cho,Nishi-ku,Sakai,Osaka593-8304,JAPAN1662(124)0910-1810/16/\100/頁/JCOPY図1眼底写真およびFAa:初診時右眼眼底写真.視神経乳頭鼻上側に出血,網膜下出血,浮腫を認める.網膜血管の拡張は認めない.b:初診から5日後.視神経乳頭部出血の軽度増加と視神経乳頭鼻側にBRAOを認める.c:FA早期像.BRAO部の動脈の充盈を認める.d:FA後期像.網膜血管からの蛍光漏出や視神経乳頭部の著明な過蛍光を認めない.(125)あたらしい眼科Vol.33,No.11,20161663図2OCT像a,b:OCTの網膜下出血部のスキャン位置と断層像.b:出血部に一致した網膜肥厚と網膜下出血と思われる反射を認める.硝子体には出血と思われる点状高反射を認めるが,明らかな後部硝子体?離を認めない.c,d:OCTのBRAO部のスキャン位置と断層像.d:網膜内層に高反射像を認める.e:右視神経乳頭部のOCTによる3D再構成像.傾斜乳頭を認める図3眼底写真とマルチカラー眼底写真a:初診から5カ月半後の右眼眼底写真.出血は吸収され,血管瘤や表在性の視神経乳頭部ドルーゼンを認めない.BRAO部は同定できない.b:初診から6カ月後のFA後期像.視神経乳頭部に異常所見を認めない.BRAO部は同定できない.c,d:FA後のマルチカラー眼底撮影(c=488nm,d=518nm)BRAO部が同定可能.1664あたらしい眼科Vol.33,No.11,2016(126)(127)あたらしい眼科Vol.33,No.11,20161665

網膜動脈分枝閉塞症を発症後に血管新生緑内障を併発し予後不良であった眼虚血症候群の1 例

2010年11月30日 火曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPY(135)1617《原著》あたらしい眼科27(11):1617.1620,2010cはじめに血管新生緑内障(NVG)は網膜中心静脈閉塞症(CRVO)や糖尿病網膜症などの網膜の虚血により血管内皮増殖因子が産生されて虹彩や隅角に新生血管が生じ発症する緑内障であり,視力予後不良の難治性の緑内障である1).一方,眼虚血症候群は内頸動脈狭窄症などにより慢性に眼循環が障害されると発症する疾患で2),NVGの主要な原因の一つである1).他方,網膜動脈分枝閉塞症(BRAO)は網膜動脈の塞栓症で,根幹部の塞栓症である網膜中心動脈閉塞症(CRAO)に比べ,視力予後が良好であることが多いとされる3).今回,筆者らは非典型的な上方2象限の広範囲なBRAOが発症し,その約1.2カ月後にNVGを併発した眼虚血症候群の1例を経験した.眼虚血症候群にBRAOやNVGが続発した1例と考えられたが,その特徴や経過について報告する.〔別刷請求先〕奥野高司:〒569-8686高槻市大学町2-7大阪医科大学眼科学教室Reprintrequests:TakashiOkuno,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollege,2-7Daigaku-machi,Takatsuki,Osaka569-8686,JAPAN網膜動脈分枝閉塞症を発症後に血管新生緑内障を併発し予後不良であった眼虚血症候群の1例奥野高司*1,2長野陽子*1池田佳美*1菅澤淳*1,2奥英弘*2池田恒彦*2*1香里ヶ丘有恵会病院眼科*2大阪医科大学眼科学教室ACaseofNeovascularGlaucomaTriggeredbyBranchRetinalArteryOcclusionPossiblyResultingfromOcularIschemicSyndromeTakashiOkuno1,2),YokoNagano1),YoshimiIkeda1),JunSugasawa1,2),HidehiroOku2)andTsunehikoIkeda2)1)DepartmentofOphthalmology,Korigaoka-YukeikaiHospital,2)DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollege比較的広範囲な網膜動脈分枝閉塞症(BRAO)を発症後に血管新生緑内障(NVG)を併発した眼虚血症候群の1例について報告する.症例は,慢性腎不全や弁膜症による慢性心不全で経過観察中であった69歳,女性.右眼中心視力の急激な低下(0.01)を自覚した.右眼の上方網膜は浮腫状で下方の網膜動静脈は狭細化し,フルオレセイン蛍光眼底造影検査では腕網膜時間の遅延とともに右眼の上方の2象限の網膜動脈への造影剤の流入遅延があり,右眼の眼虚血症候群に比較的広範囲なBRAOが併発したと考えられた.BRAO発症の1.2カ月後に右眼にNVGが発症し,4カ月後に残存視野も障害され,右眼視力は手動弁となった.眼虚血症候群や心不全で眼灌流圧が低いため,非典型的な広範囲のBRAOが発症し,その後眼虚血症候群によるNVGを併発した可能性が考えられた.Wereportacaseofocularischemicsyndromefollowedbyneovascularglaucoma(NVG)thatdevelopedafterrelativelybroadbranchretinalarteryocclusion(BRAO).Thepatient,a69-year-oldfemalesufferingfromchronicrenalandcardiacfailureduetovalvulardisorder,presentedatourhospitalcomplainingofarapiddecreaseofvisualacuityinherrighteye(0.01).Examinationdisclosedthatthesuperiorpartoftheretinaintheeyewasedematous.Fluoresceinangiographyshoweddelayedfillingtotheupper-halfretinalartery,aswellasdelayedarm-retinaltime.Onthebasisofthesefindings,wediagnosedherrighteyeasrelativelybroadBRAOoccurringwithocularischemicsyndrome.NVGdeveloped1-2monthslater;theremainingvisualfielddisappearedandvisualacuitydecreasetohandmotioninherrighteyeat4months.LowerocularperfusionpressureduetoocularischemicsyndromeandcardiacfailureprobablycausedatypicalbroadBRAO;theNVGthenoccurredsecondarytoocularischemicsyndrome.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(11):1617.1620,2010〕Keywords:網膜動脈分枝閉塞症,血管新生緑内障,眼虚血症候群,半側網膜中心動脈閉塞症.branchretinalarteryocclusion,neovascularglaucoma,ocularischemicsyndrome,hemi-centralretinalarteryocclusion.1618あたらしい眼科Vol.27,No.11,2010(136)I症例呈示患者:69歳,女性.主訴:右眼の急激な視力低下.現病歴:平成20年4月初め頃に急激な視力低下を自覚したが自力で外出困難な全身状態であったため,平成20年4月10日になって香里ヶ丘有恵会病院(当院)眼科を再受診した.既往歴:5年前より中等度の白内障,網膜動脈硬化症,20mmHg台前半の高眼圧症などにて当院眼科で経過観察中であった.視野は,平成18年(急激な視力低下を自覚する以前の最終検査)時点では緑内障性の視野異常はなかった.また,慢性腎不全のため当院で透析中であり,僧帽弁狭窄症と大動脈弁狭窄症を伴う慢性心不全があり,しばしば低血圧となった.弁膜症手術は全身状態より不適応のため,当院内科で保存的に経過観察中であった.平成20年3月31日に右眼の違和感を自覚して時間外に当院の眼科受診をしているが,視力や眼圧は以前の受診時と変化がなく,中等度の白内障があるものの,前眼部,中間透光体,眼底に異常なく,血管閉塞や網膜浮腫などの所見もなかった.初診時所見(平成20年4月10日):視力は右眼(0.01×sph+0.5D),左眼(0.9×sph+1.0D).眼圧は右眼27mmHg,左眼15mmHg.前眼部,中間透光体には中等度白内障を認めた.写真ではやや不明瞭であるものの検眼鏡的には右眼の上方に網膜の浮腫があり(図1の矢印),一部は軟性白斑様になっていた(図1).さらに,網膜下方の動脈は白線化し,静脈が狭細化していた.右眼上方のBRAOが発症したことが疑われたため,フルオレセイン蛍光眼底造影検査(FA)を行い,上方2象限の網膜動脈の循環障害を確認した(図2).以上より,右眼上方の比較的広範囲なBRAOが数日前に発症したと考えた.一方,FA検査の直前の血圧は172/90mmHgで,検査後の血圧は180/86mmHgと比較的高血圧であったが,右眼の腕網膜時間は32秒と遅延しており,脈絡膜毛細血管への蛍光流入によるいわゆる脈絡膜フラッシュも32秒程度であった.後期像は,右眼下方の周辺部に透過性亢進があった.左眼には初期,後期ともに特に異常を認めなかった.Goldmann動的視野検査では,BRAOの発症部に対応する部位の一部に視野が残存し,それ以外の部位に逆に視野障害がみられた.治療:視野が残存していることより,ある程度の視機能改図2右眼フルオレセイン蛍光眼底造影A:39秒,B:6分56秒.腕網膜時間は32秒で,脈絡膜毛細血管への蛍光流入は遅延していた.Aの39秒では脈絡膜や下方の網膜動脈への蛍光は流入したが,上方の2象限の網膜動脈への蛍光流入は遅延していた.B:下方網膜に無灌流領域様の網膜毛細血管からの蛍光が低蛍光となっている領域があった.AB図1網膜動脈分枝閉塞症発症時(平成20年4月10日)眼底A:右眼,B:左眼.右眼の上方に網膜の浮腫(矢印の部位)があり,一部は軟性白斑様になっていた.視神経乳頭の耳上側に線状出血があった.一方,下方の網膜血管も動脈が白線化するとともに静脈が狭細化していた.AB(137)あたらしい眼科Vol.27,No.11,20101619善が得られる可能性も考えたが,すでに発症して数日が経過していること,毛様動脈に血流回復がみられたこと,抗凝固療法による脳出血のリスクが考えられること,本人も積極的な治療を望まれないことなどから経過観察とした.経過:右眼の眼圧は次第に上昇し,4月21日には眼圧は右眼28mmHg,左眼13mmHgとなった.NVGを疑い隅角や虹彩を確認したが新生血管はみられなかった.高眼圧症の増悪と考えラタノプロスト(キサラタンR)とブリンゾラミド(エイゾプトR)を処方した.独り暮らしであり体調不良時には点眼を行うことができないこともあり眼圧は変動したが,5月8日には眼圧は右眼18mmHg,左眼15mmHgとなっていた.しかし,その後,僧帽弁狭窄症と大動脈弁狭窄症を伴う慢性心不全は次第に悪化したため,眼科受診と点眼を自己中断した.6月3日に心不全の保存的加療目的にて内科に入院となったため,6月12日に眼科を約1カ月ぶりに受診したが,眼圧は右眼42mmHg,左眼15mmHgとなっており,中断されていたラタノプロストとブリンゾラミドの点眼を再開した.しかし,6月17日の受診時,点眼を行っても眼圧は右眼44mmHg,左眼13mmHgであり,隅角および虹彩の新生血管を認めたため,NVGが発症したと診断した.眼痛がごく軽度であったことと,全身状態が不良で独力で離床が困難となったことから積極的な治療は行わずに経過観察とした.視力は眼圧上昇後もしばらくの間変化せず,6月12日,視力は右眼(0.01×sph+0.5D),左眼(0.5×sph+1.0D),7月4日,右眼(0.01×sph+0.5D),左眼(0.5×sph+1.0D)であったが,全身状態が改善しないため積極的な治療ができないまま,8月21日には右眼の残存視野が消失した.視力も,右眼30cm手動弁,左眼(0.6×sph+1.0D)となり,その後,右眼の視力と視野は回復しなかった.右眼の視神経乳頭の陥凹は次第に拡大し(図3矢印),網膜血管は狭細化したが,BRAOを発症した部位の静脈径は比較的保たれていた(図3).右眼のNVG発症後1年以上経過観察したが,左眼に変化はなかった.僧帽弁狭窄症と大動脈弁狭窄症を伴う慢性心不全は平成21年4月頃に一時軽快したものの次第に悪化し,平成21年6月17日に死去された.II考按本例では,FA検査時には高血圧であったにもかかわらず腕網膜時間が遅延していたことより右側の内頸動脈狭窄症などの循環障害があると推測されるうえに,日常的に心臓弁膜症による心不全のため低血圧となることが多く,右眼の眼灌流圧が低い状態で慢性的な眼虚血状態にあったと考えられる.さらにBRAO発症時の眼底で右眼のBRAO領域以外の網膜動脈も白線化するとともに網膜静脈が狭細化していることや,FAでBRAO領域以外にも無灌流領域様の領域や静脈壁からの蛍光漏出があるなどの眼虚血症候群の特徴2)がみられたこと,視野検査でBRAOによる視野障害部位以外の視野も障害されていたことより,今回のBRAO発症以前に右眼に眼虚血症候群が発症しており,これによる視野障害があったと考えられた.眼虚血症候群はNVGの主要な原因である1)ため,本例でも眼虚血症候群が増悪し,NVGが続発した可能性が最も高いと考えられた.一方,左眼には同様の所見がなかったことより,眼虚血症候群は右眼のみと考えられた.一般にBRAOでは視力予後は良好なことが多いとされている3)が,今回,BRAOで急激な視力低下をきたした.さらに,FAで上方2象限の網膜動脈分枝で充盈が遅延しており,本例はhemi-CRAOと分類されることもある広範囲なBRAOを発症したと考えた.検眼鏡的には確認できる網膜浮腫の範囲は比較的狭い範囲で,写真ではさらに不鮮明であったが,これはBRAO発症後数日経過しているため,発症直後に比べ網膜浮腫が軽減したためと推測した.網膜動脈閉塞症をCRAO,BRAO,hemi-CRAOに分類した報告4)では,hemi-CRAOは網膜動脈閉塞症のうち約7%程度に発症すると報告されており,14%程度のBRAOに比べまれな網膜動脈閉塞症と考えた.ところで,hemi-CRVOはよく用いられる表現であるが,網膜動脈閉塞症ではCRAOとBRAOとに分類する報告5)が多く,hemi-CRAOは一般的な表現ではないようであるため,今回は非典型的ではあるがBRAOと表現することとした.BRAOによりNVGが発症したとする報告6)やCRAOの図3右眼眼底(網膜動脈分枝閉塞症発症の約1年後,平成21年4月7日)約1年前の図1に比べ視神経乳頭の陥凹(血管の屈曲部を矢印で示す)は拡大していた.網膜動脈は狭細化していたが,上方の網膜動脈分枝閉塞症の部位に相当する網膜静脈の血流は比較的保たれていた.1620あたらしい眼科Vol.27,No.11,2010(138)15.16%にNVGが発症するとの報告7,8)もあるが,CRAOの2.5%のみにNVGが発症するとの報告5)もあり,NVGの原因としてBRAOは比較的稀と考えられる.今回,BRAO発症後にNVGを発症したため,当初,広範囲なBRAOに続発したNVGとも考えたが,FAなどについて再度検討した結果,眼虚血症候群の発症が確認され,眼虚血症候群に続発したNVGと結論できた.一方,頸動脈病変が網膜動脈閉塞症の原因として最も多い4)とされており,眼虚血症候群とCRAOとの合併は多く報告2,9,10)されている.さらに,眼虚血症候群6例の検討で1例にBRAOを発症したとする報告11)もあり,本例のBRAOも眼虚血症候群に続発した可能性が考えられた.また,眼虚血症候群により眼灌流圧が低下するなど網膜動脈閉塞症の発症しやすい状態であったため,今回のような非典型的な広範囲のBRAOが発症した可能性が考えられた.これまでの網膜動脈閉塞症によるNVGの報告によると,BRAOによる視覚障害の約6週後にNVGが発症しており9),CRAOでも発症の約1カ月後にNVGが発症することが多いとされる12,13).今回,広範囲なBRAOが発症した約1.2カ月後にNVGが発症しており,BRAOが眼虚血症候群によるNVG発症を促進した可能性もあると考えた.CRAOにおける検討で,網膜の虚血が急速に生じた場合は血管新生が起こらず,緩徐に進行した場合に血管新生が生ずるとされている14).今回のBRAOは広範囲であり,閉塞部位の視野の一部が発症後も数カ月間にわたり残存していたうえに,1年以上にわたりBRAOで閉塞した部位の静脈の血管径も保たれていたため,再疎通後の血流が比較的保たれていたと考えられる.このため,通常のBRAOに比べ比較的広範囲の網膜虚血が緩徐に進行して緩やかに網膜の壊死が起こり,NVGで増加することが報告されているvascularendothelialgrowthfactor(VEGF)などの血管新生因子15,16)が比較的多く産生された可能性が考えられる.通常のBRAOにおいても硝子体中でVEGFが増加することが報告17)されているが,今回の症例でも以上のような機序により血管新生因子が比較的多く産生されNVGの発症を促進した可能性が考えられた.文献1)Sivak-CallcottJA,O’DayDM,GassJDetal:Evidencebasedrecommendationsforthediagnosisandtreatmentofneovascularglaucoma.Ophthalmology108:1767-1776,20012)MendrinosE,MachinisTG,PournarasCJ:Ocularischemicsyndrome.SurvOphthalmol55:32-34,20103)飯島裕幸:網脈絡膜循環障害の機能と形態.眼臨紀2:812-819,20094)SchmidtD,SchumacherM,FeltgenN:Circadianincidenceofnon-inflammatoryretinalarteryocclusions.GraefesArchClinExpOphthalmol247:491-494,20095)HayrehSS,PodhajskyPA,ZimmermanMB:Retinalarteryocclusion:associatedsystemicandophthalmicabnormalities.Ophthalmology116:1928-1936,20096)YamamotoK,TsujikawaA,HangaiMetal:Neovascularglaucomaafterbranchretinalarteryocclusion.JpnJOphthalmol49:388-390,20057)HayrehSS,PodhajskyP:Ocularneovascularizationwithretinalvascularocclusion.II.Occurrenceincentralandbranchretinalarteryocclusion.ArchOphthalmol100:1585-1596,19828)DukerJS,SivalingamA,BrownGCetal:Aprospectivestudyofacutecentralretinalarteryobstruction.Theincidenceofsecondaryocularneovascularization.ArchOphthalmol109:339-342,19919)安積淳,梶浦祐子,井上正則:内頸動脈循環不全にみられる眼所見の検討.神経眼科9:189-195,199210)田宮良司,内田璞,岡田守生ほか:網膜血管閉塞症と閉塞性頸動脈疾患との関係について.日眼会誌100:863-867,199611)JacobsNA,RidgwayAE:Syndromeofischaemicocularinflammation:sixcasesandareview.BrJOphthalmol69:681-687,198512)小島啓彰,増田光司,加藤勝:網膜中心動脈閉塞症に続発した血管新生緑内障の1例.眼臨94:1233-1237,200013)大井智恵,福地健郎,渡辺穣爾ほか:血管新生緑内障を併発した網膜中心動脈閉塞症の1例.眼紀43:1303-1309,199214)向野利寛,魚住博彦,中村孝一ほか:網膜中心動脈閉塞症の病理組織学的研究.臨眼42:1221-1226,198815)TripathiRC,LiJ,TripathiBJetal:Increasedlevelofvascularendothelialgrowthfactorinaqueoushumorofpatientswithneovascularglaucoma.Ophthalmology105:232-237,199816)SoneH,OkudaY,KawakamiYetal:Vascularendothelialgrowthfactorlevelinaqueoushumorofdiabeticpatientswithrubeoticglaucomaismarkedlyelevated.DiabetesCare19:1306-1307,199617)NomaH,MinamotoA,FunatsuHetal:Intravitreallevelsofvascularendothelialgrowthfactorandinterleukin-6arecorrelatedwithmacularedemainbranchretinalveinocclusion.GraefesArchClinExpOphthalmol244:309-315,2006***