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血管新生緑内障に対する緑内障チューブシャント術 (プレートのあるもの)の中期成績

2022年11月30日 水曜日

《原著》あたらしい眼科39(11):1539.1543,2022c血管新生緑内障に対する緑内障チューブシャント術(プレートのあるもの)の中期成績豊田泰大徳田直人塚本彩香山田雄介北岡康史高木均聖マリアンナ医科大学眼科学教室CIntermediate-TermResultsofTubeShuntSurgeryforNeovascularGlaucomaYasuhiroToyoda,NaotoTokuda,AyakaTsukamoto,YusukeYamada,YasushiKitaokaandHitoshiTakagiCDepartmentofOphthalmology,St.MariannaUniversity,SchoolofMedicineC目的:血管新生緑内障(NVG)に対する緑内障チューブシャント手術の中期成績について検討した.対象および方法:NVGに対して緑内障チューブシャント手術(Baerveldt緑内障インプラント,Ahmed緑内障バルブ)を施行し,術後C36カ月経過観察可能であった連続症例C13例C13眼(65.8C±13.8歳)を対象とした.NVGの原因別に過去の緑内障手術回数,手術前後の眼圧,術後合併症,累積生存率について検討した.結果:NVGの原因は糖尿病網膜症C7例(DR群),網膜中心静脈閉塞症C6例(CRVO群)であった.過去の緑内障手術回数はCDR群でC3.3C±1.3回,CRVO群でC3.0C±0.9回であった.眼圧はCDR群では術前C37.7C±5.2CmmHgが術後C36カ月でC12.0C±4.6CmmHg,CRVO群では術前C40.3C±10.3CmmHgがC15.2C±4.8CmmHgと両群ともに有意に下降した.術後C36カ月の累積生存率はCDR群C71.4%,CRVO群83.3%であった.重篤な術後合併症としてCDR群で眼球癆をC1例に認めた.結論:NVGに対する緑内障チューブシャント手術は中期的にも有効な術式である.CPurpose:Toinvestigatetheintermediate-termresultsofglaucomatubeshuntsurgeryforneovascularglau-coma(NVG)C.CMethods:ThisCstudyCinvolvedC13CconsecutiveCNVGpatients(meanage:65.8C±13.8years)whoCunderwentglaucomatubeshuntsurgery(i.e.,BaerveldtorAhmed)andwhocouldbefollowedupfor36-monthspostoperative.CInCallCsubjects,CpreoperativeCandCpostoperativeCintraocularpressure(IOP)C,CpostoperativeCcomplica-tions,and3-yearsurvivalratewasexaminedaccordingtothecauseofNVG.Results:ThecausesofNVGwerediabeticCretinopathyCinC7patients(DRgroup)andCcentralCretinalCveinCocclusionCinC6patients(CRVOgroup)C.CAtC3-yearsCpostoperative,CIOPCwasCsigni.cantlyCdecreasedCinCbothCgroups,Ci.e.,CfromC37.7±5.2CmmHgCtoC12.0±4.6CmmHgCinCtheCDRCgroupCandCfromC40.3±10.3CmmHgCtoC15.2±4.8CmmHgCinCtheCCRVOCgroup,CandCtheCsurvivalCrateCwas71.4%CinCtheCDRCgroupCand83.3%CinCtheCCRVOCgroup.CConclusion:GlaucomaCtubeCshuntCsurgeryCforCNVGisane.ectiveprocedureintheintermediate-term.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C39(11):1539.1543,C2022〕Keywords:血管新生緑内障,緑内障チューブシャント手術,バルベルト緑内障インプラント,アーメド緑内障バルブ.neovascularglaucoma,tubeshuntsurgery,Baerveldtglaucomaimplant,Ahmedglaucomavalve.はじめに血管新生緑内障(neovascularglaucoma:NVG)は一般的に難治性緑内障といわれており,緑内障診療ガイドライン1)においてもCNVGに対する手術治療は代謝阻害薬を併用した線維柱帯切除術や緑内障チューブシャント手術を行うとされている.緑内障チューブシャント手術の際に使用するCglau-comaCdrainagedevices(以下,GDD)は,わが国ではC2012年にCBaerveldt緑内障インプラント(以下,バルベルト)が,2014年にCAhmed緑内障バルブ(以下,アーメド)が認可され,NVGをはじめとする難治性緑内障治療のつぎの一手として広く行われるようになった.NVGに対する緑内障チューブシャント手術の場合,聖マリアンナ医科大学病院(以下,当院)では使用可能となった時期が早かったことや,既報2)でより眼圧が下がるとされていたことを理由にバルベルトを〔別刷請求先〕豊田泰大:〒216-8511神奈川県川崎市宮前区菅生C2-16-1聖マリアンナ医科大学眼科学教室Reprintrequests:YasuhiroToyodaM.D.,DepartmentofOphthalmology,St.MariannaUniversity,SchoolofMedicine,2-16-1Sugao,Miyamae-ku,Kawasaki-shi,Kanagawa216-8511,JAPANC選択する症例が多かったが,アーメドが使用可能となってからは,術中に眼球虚脱が生じる可能性がある無硝子体眼にはアーメドも積極的に使用するようになった.そこで今回筆者らは当院におけるCNVGに対する緑内障チューブシャント手術の中期成績について後ろ向きに検討したので報告する.CI対象および方法2014年C6月.2017年C5月に当院にてCNVGに対して緑内障チューブシャント手術(バルベルトまたはアーメド)を施行し,術後C36カ月経過観察可能であった連続症例C13例C13眼(平均年齢C65.8C±13.8歳)を対象とした.NVGの原因別に過去の緑内障手術回数,チューブの留置部位(前房,硝子体腔),手術前後の眼圧の推移,薬剤スコアの推移,術後合併症,累積生存率について検討した.薬剤スコアは,緑内障点眼薬C1剤につきC1点(緑内障配合点眼薬についてはC2点),炭酸脱水酵素阻害薬内服はC2点として計算した.統計学的な検討は検討項目により,onewayANOVA,Mann-WhitneyU検定,Cc2検定,Loglank検定を使用し,p<0.05をもって有意差ありと判定した.なお本研究は診療録による後ろ向き研究である(聖マリアンナ医科大学生命倫理委員会C5455号).手術は全例,球後麻酔による局所麻酔で行った.GDDについては,バルベルトはCBG103-250,アーメドはCFP7を使用した.各CGDDは挿入前にチューブ内にオキシグルタチオン眼灌流・洗浄液(オペガードネオキット眼灌流液C0.0184%)により通水し,灌流良好であることを確認した.プレート部インプラント挿入は,上直筋と外直筋の間の耳上側または外直筋と下直筋の間の耳下側に行い,6-0オルソー糸付縫合針で強膜に固定した.バルベルトの場合,チューブをC8-0合成吸収糸で結紮し完全に閉塞させ,結紮部よりも末梢の表1対象の背景チューブにC10-0ナイロン糸の針でスリットをC1カ所作製した.前房または硝子体腔への穿刺はC23CG針で行い,チューブはC2Cmm程度挿入し,10-0ナイロン糸で強膜に固定した.挿入部よりも中枢側のチューブは自己強膜トンネルを作製して被覆した.チューブの挿入部位は,硝子体手術の既往のある症例は硝子体腔へ挿入し,硝子体手術の既往のない症例は前房へ挿入した.CII結果表1にCNVGの原因別の背景を示す.NVGの原因は糖尿病網膜症(diabeticretinopathy:DR)がC7例C7眼(DR群),網膜中心静脈閉塞症(centralCretinalCveinocclusion:CRVO)がC6例C6眼(CRVO群)であり,眼虚血症候群の症例はなかった.年齢はCDR群C59.0C±15.4歳,CRVO群C73.8C±5.6歳と両群間の年齢に有意差を認めた.両群間の視力,術前眼圧,薬剤スコア,角膜内皮細胞密度,眼軸長,過去の緑内障手術回数に有意差は認めなかった.GDDの種類とチューブの留置部位は,バルベルトのチューブを前房に留置した症例がCDR群でC1眼,CRVO群でC2眼,バルベルトのチューブを硝子体腔に留置した症例がCDR群でC5眼,CRVO群でC2眼,アーメドのチューブを硝子体腔に留置した症例がDR群でC1眼,CRVO群でC2眼であった.視力はClogMAR視力でCDR群は術前C1.6C±0.4,36カ月時点でC1.4C±1.4,CRVO群は術前C1.4C±0.6,36カ月時点でC1.0C±0.8と両群ともに術前後の視力に有意差は認めなかった.図1に術前後の眼圧推移を示す.DR群では術前C37.7C±5.2CmmHgが術後C36カ月でC12.0C±4.6CmmHg,CRVO群では術前C40.3C±10.3mmHgが術後C36カ月でC15.2C±4.8CmmHgと,両群ともに術前に比し有意な眼圧下降を示した(oneCwayCANOVAp<0.01).図2に術前後の薬剤スコアの推移を示す.DR群でC50DR群CRVO群(7例7眼)(6例6眼)p値C40年齢(歳)C59.0±15.4C73.8±5.6C0.04*眼圧(mmHg)3020術前ClogMR視力C1.6±0.4C1.4±0.6C0.48(少数視力)(0.01-0.1)(0.01-0.3)眼圧(mmHg)C37.7±5.2C40.3±10.3C0.56C薬剤スコア(点)C4.4±1.3C4.2±1.2C0.70C角膜内皮細胞密度C10(/mm2)C2492.3±788.8C1794.3±984.6C0.20眼軸長(mm)C23.4±0.9C23.5±1.3C0.86C0過去の緑内障C3.3±1.6C3.0±0.9C0.70観察期間(カ月)手術回数(回)図1術前後の眼圧推移硝子体手術の既往C6/7C4/6両群ともに術後C36カ月でも有意な眼圧下降が得られた.errormean±standarddeviation*:Mann-WhitneyUtestp<0.05bar:standarddeviation.061218243036薬剤スコア(点)543210術前眼圧3カ月9カ月15カ月21カ月27カ月33カ月術後1カ月6カ月12カ月18カ月24カ月30カ月36カ月観察期間図2術前後の薬剤スコア推移術後C36カ月で薬剤スコアは両群ともに有意に減少した.errorbar:standarddeviation.C表2術後合併症100CRVO群83.3%合併症DR群CRVO群p値80累積生存率(%)(n=7)(n=6)(c2検定)DR群71.4%2眼0眼(28.6%)(0%)60前房出血40一過性眼圧上昇3眼2眼(42.9%)(33.3%)200061218243036観察期間(カ月)図3Kaplan.Meier生存分析による累積生存率死亡定義:眼圧が観察期間中,2回連続で術前眼圧もしくは20mmHg以上を超えたとき.術後C36カ月でCDR群C71.4%,CRVO群C83.3%と有意差を認めなかった(Loglank検定Cp=0.69).は術前C4.4C±1.3点が術後C36カ月でC1.7C±2.1点,CRVO群では術前C4.2C±1.2点が術後C36カ月でC1.7C±1.6点と両群ともに術前に比し有意に減少した(oneCwayCANOVAp<0.01).図3にCKaplan-Meier生存分析による累積生存率を示す.術後眼圧がC20CmmHgをC2回連続で上回った時点,または再手術となった時点を死亡と定義した場合の累積生存率は,術後36カ月でDR群71.4%(7例中5例),CRVO群83.3%(6例中C5例)と有意差を認めなかった(Loglank検定p=0.69).表2に術後合併症を示す.DR群で前房出血C2眼,一過性眼圧上昇がCDR群でC3眼,CRVO群でC2眼,低眼圧がCCRVO(101)低眼圧(4CmmHg以下)0眼(0%)1眼(1C6.7%)C0.26眼球癆1眼(1C4.3%)0眼(0%)C0.33水疱性角膜症0眼(0%)0眼(0%)C.チューブ関連(閉塞・露出)0眼(0%)0眼(0%)C.複視0眼(0%)0眼(0%)C.群でC1眼に認められた.重篤な術後合併症としてはCDR群で眼球癆C1眼を認めた.チューブシャント手術で報告2.4)されている水疱性角膜症,チューブ露出,複視といった合併症は認めなかった.角膜内皮細胞密度は,DR群は術前C2,492.3C±788.8/mm2が術後C36カ月でC1,910.2C±906/mm2,CRVO群は術前C1,794.3C±984.6/mm2が術後C36カ月でC1,712C±956.8/mm2と,両群ともに術前後で有意差は認めなかった.CIII考按バルベルトやアーメドといったCGDDが使用可能となってからC5年以上が経過し,当院でもその成績を見直すことができる時期になった.当院で緑内障チューブシャント手術(プレートのあるもの)が行われた症例は落屑緑内障や外傷後の続発緑内障などもあったが,NVG症例がもっとも多くを占めていたため,今回CNVGに対する緑内障チューブシャント手術の中期成績について検討した.対象について,DR群とCCRVO群で術前の眼圧,薬剤スコア,眼軸長,過去の緑内障手術回数について有意差を認めなかったが,DR群はCCRVO群に比し年齢が有意に若くなっていた.これはCCRVOが加齢とともに有病率が高くなることが知られている5)疾患であるのに対して,DRによるNVGは若年者でも発症しうる疾患であることなどが影響していると考える.術後C36カ月時点での眼圧はCDR群ではC12.0C±4.6CmmHg,CRVO群ではC15.2C±4.8CmmHgで,既報6)のバルベルトを用いた緑内障チューブシャント手術の術後C36カ月時点の眼圧と同程度の結果であった.点眼スコアはCDR群では術前C4.4C±1.3点が術後C36カ月でC1.7C±2.1点,CRVO群では術前C4.2C±1.2点が術後C36カ月でC1.7C±1.6点と既報6)と同程度であった.チューブ留置部位についてCDR群,CRVO群ともにチューブを硝子体腔に留置する症例が多かった.チューブを硝子体腔に留置した症例は硝子体手術後の無硝子体眼であり,DR群のほうが硝子体腔へ留置した割合が高かった.これは硝子体手術が必要となる重篤な症例がCDR群に多く含まれたことが要因と考える.NVGに対して硝子体手術を併用したバルベルトを用いた緑内障チューブシャント手術の有効性が報告されている7).今後は硝子体出血と眼圧コントロール不良の状態を合併したCNVG症例にはこのような方法も検討すべきかと考える.なお,当院ではバルベルトについてはBG103-250を使用している.既報では眼圧下降効果がC350のほうが優れるとされているが,350ではC250よりも結膜切開範囲を広く行う必要がある.今回の対象はすべて以前の緑内障手術によって強い結膜瘢痕をきたしており,250を選択せざるをえなかった.また当院では保存強膜が使えずホフマンエルボーの被覆が困難であるため毛様体扁平部挿入タイプBG102-350は使用していない.累積生存率は術後眼圧がC20CmmHgをC2回連続で上回った時点,または再手術となった時点を死亡と定義した.術後36カ月でCDR群C71.4%,CRVO群C83.3%と既報8)のDR続発CNVGに対するアーメドを用いた緑内障チューブシャント手術のC3年生存率,無硝子体眼C62.5%,有硝子体眼C68.5%と比較しても良好な結果であった.重篤な合併症としてはCDR群で眼球癆C1例が存在した.その症例は硝子体手術後でバルベルトを硝子体腔に挿入した症例であったが,術後基礎疾患である糖尿病網膜症が悪化したことが眼球癆に至った原因と考えている.緑内障チューブシャント手術ではそのほかにも重篤な視機能に影響する合併症が報告されており9),手術に際して留意しておく必要がある.とくに水疱性角膜症については,難治性緑内障の場合,緑内障チューブシャント手術を行うよりも以前に緑内障手術が複数回施行され術前の角膜内皮細胞密度がすでに減少している症例が多いことや,チューブ挿入部位によってはチューブの角膜内皮細胞への接触や,チューブの水流による角膜内皮細胞密度の減少例も報告9)されている.今回の検討において角膜内皮細胞密度は両群ともに術前後で有意差こそ認められなかったが減少傾向であったため,今後も注意深い経過観察が必要と考える.なお,当院では角膜内皮細胞密度の減少例に対してはチューブの硝子体腔への留置を行っているが,そのような対応を行ってもなお角膜内皮細胞密度の減少が生じる10)という報告もあるため,角膜専門医との連携も必要かと考える.このように緑内障チューブシャント手術は視機能に影響する合併症が生じる危険があることを常に意識し,術前に患者によく説明する必要があると考える.CIV結論血管新生緑内障に対する緑内障チューブシャント手術は原因,過去の手術回数にかかわらず中期的にも有効な術式であるが,基礎疾患の悪化を含め視機能に影響する重篤な合併症も生じる可能性がある.文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン(第C4版).日眼会誌122:5-53,C20182)BudenzCDL,CBartonCK,CGeddeCSJCetal:Five-yearCtreat-mentCoutcomesCinCtheCAhmedCBaerveldtCcomparisonCstudy.OphthalmologyC122:308-316,C20153)GeddeCSJ,CSchi.manCJC,CFeuerCWJCetal:TubeCVersusTrabeculectomyCStudyCGroup:Three-yearsCfollow-upCofCtheCTubeCVersusCTrabeculectomyCstudy.CAmCJCOphthal-molC143:670-684,C20094)ChristakisCPG,CKalenakCJW,CTsaiCJCCetal:TheCAhmedCVersusCBaerveldtstudy:.ve-yearCtreatmentCoutcomes.COphthalmologyC123:2093-2102,C20165)RogersS,McIntoshRL,CheungNetal:TheprevalenceofCveinocclusion:pooledCdataCfromCpopulationCstudiesCfromtheUnitedStates,Europe,AsiaandAustralia.Oph-thalmologyC117:313-319,C20106)GeddeCSJ,CSchi.manCJC,CFeuerCWJCetal:TreatmentCout-comeCinCtheCTubeCVersusTrabeculectomy(TVT)studyCafter.veyearsoffollow-up.AmJOphthalmolC153:789-803,C20127)NishitsukaK,SuganoA,MatsushitaTetal:Surgicalout-comesafterprimaryBaerveldtglaucomaimplantsurgerywithCvitrectomyCforCneovascularCglaucoma.CPLoSCOneC16:e0249898,C20218)ParkCUC,CParkCKH,CKimCDMCetal:AhmedCglaucomaCstudyCduringC.veCyearsCofCfollow-up.CAmCJCOphthalmolCvalveCimplantationCforCneovascularCglaucomaCafterCvitrec-153:804-814,C2012CtomyCforCproliferativeCdiabeticCretinopathy.CJCGlaucoma10)MoriCS,CSotaniCN,CUedaCKCetal:Three-yearCoutcomeCofC20:433-438,C2011CsulcusC.xationCofCBaerveldtCglaucomaCimplantCsurgery.9)GeddeCSJ,CHerndonCLW,CBrandtCJDCetal:PostoperativeCActaOphthalmolC99:1435-1441,C2021complicationsintheTubeVersusTrabeculectomy(TVT)***

増殖糖尿病網膜症に続発した血管新生緑内障に対する 緑内障チューブシャント手術

2022年4月30日 土曜日

《第26回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科39(4):506.509,2022c増殖糖尿病網膜症に続発した血管新生緑内障に対する緑内障チューブシャント手術石黒聖奈桑山創一郎野崎実穂森田裕小椋祐一郎名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学CClinicalOutcomesofTube-ShuntSurgeryinCasesofProliferativeDiabeticRetinopathy-AssociatedNeovascularGlaucomaKiyonaIshiguro,SoichiroKuwayama,MihoNozaki,HiroshiMoritaandYuichiroOguraCDepartmentofOphthalmologyandVisualScience,NagoyaCityUniversityGraduateSchoolofMedicalSciencesC目的:増殖糖尿病網膜症に続発した血管新生緑内障に対して施行した緑内障チューブシャント手術の術後成績を後ろ向きに検討した.対象および方法:緑内障チューブシャント手術を施行しC12カ月以上経過を追えたC21例C23眼を対象とし,術前後の眼圧,点眼スコア,合併症を評価項目とした.結果:術後平均観察期間はC40.5±27.1カ月であった.術前平均眼圧はC27.8±10.6CmmHg,術後C12カ月平均眼圧はC14.6±4.9CmmHgと有意に低下(p<0.01)し,平均点眼スコアも術前C3.6±1.3,術後C1.6±1.7と有意に減少した(p<0.01).術後C1カ月以内の早期合併症は高眼圧(7眼),硝子体出血(4眼),脈絡膜.離(1眼),後期合併症は眼圧再上昇(5眼),硝子体出血(4眼)であった.結論:血管新生緑内障に対する緑内障チューブシャント手術は術後C1年において比較的良好な眼圧下降効果を認めた.CPurpose:ToCretrospectivelyCevaluateCtheCoutcomesCofCtube-shuntCsurgeryCinCcasesCofCproliferativeCdiabeticCretinopathy-associatedCneovascularglaucoma(NVG).CPatientsandMethods:ThisCstudyCinvolvedC23CeyesCofC21CNVGpatientswhounderwenttube-shuntsurgeryfromDecember2012toJune2019,andwhowerefollowedformorethan12-monthspostoperative.Mainoutcomemeasuresincludedintraocularpressure(IOP),numberofglau-comaCmedicationsCused,CandCsurgicalCcomplications.CResults:TheCmeanCfollow-upCperiodCwasC40.5±27.1Cmonths.CMeanCIOPCdecreasedCfromC27.8±10.6CmmHgCtoC14.6±4.9CmmHg(p<0.05),CandCtheCnumberCofCglaucomaCmedica-tionsCusedCdecreasedCfromC3.6±1.3CtoC1.6±1.7(p<0.01).CComplicationsCobservedCwithinC1-monthCpostoperativeCwereChighIOP(n=7eyes),Cvitreoushemorrhage(n=4eyes),CandCchoroidaldetachment(n=1eye),CandCthoseCobservedCbetweenC1-andC12-monthsCpostoperativeCwereChighIOP(n=5eyes)andCvitreoushemorrhage(n=4eyes).CConclusion:Tube-shuntCsurgeryCwasCfoundCrelativelyCe.ectiveCforCIOPCreduction,CdecreaseCofCglaucomaCmedicationsused,andcontrolofIOPinNVGpatientsfor1-yearpostoperative.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)39(4):506.509,C2022〕Keywords:バルベルト緑内障インプラント,アーメド緑内障バルブ,血管新生緑内障,増殖糖尿病網膜症,術後合併症,点眼スコア.Baerveldtglaucomaimplant,Ahmedglaucomavalve,neovascularglaucoma,proliferativedia-beticretinopathy,postoperativecomplications,numberofglaucomamedications.Cはじめに血管新生緑内障の閉塞隅角緑内障期には,従来,線維柱帯切除術が行われていたが,増殖糖尿病網膜症に続発する血管新生緑内障では,線維柱帯切除術の手術成績がとくに不良であることが知られている1).糖尿病網膜症に続発する血管新生緑内障の特徴として,比較的年齢が若く,硝子体手術をはじめとした手術既往を有している場合が多いため,線維柱帯切除術の術後の炎症や瘢痕形成に影響を与え,眼圧下降が得られにくいと考えられている2).わが国では,緑内障チューブシャント術がC2012年に保険〔別刷請求先〕野崎実穂:〒467-8601名古屋市瑞穂区瑞穂町字川澄1名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学Reprintrequests:MihoNozaki,M.D.,DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,NagoyaCityUniversityGraduateSchoolofMedicalSciences,Kawasumi1,Mizuho,Mizuho-ku,Nagoya,Aichi467-8601,JAPANC506(114)適用収載となり,マイトマイシンCC(mitomycinC:MMC)を併用した線維柱帯切除術が不成功に終わった場合や,手術既往により結膜の瘢痕化が高度な場合,線維柱帯切除術の成功が見込めない場合,また他の濾過手術が技術的に施行困難な場合が適応とされている3).さらに,血管新生緑内障に対する緑内障チューブシャント手術の有効性も報告されている4,5).当院でもC2012年から血管新生緑内障に対し緑内障チューブシャント術を施行しており,増殖糖尿病網膜症に続発する血管新生緑内障に対するバルベルト緑内障インプラント(BaerveldtCglaucomaCimplant:BGI)の術後C6カ月における良好な眼圧下降効果を報告している6).今回,アーメド緑内障バルブ(AhmedCglaucomavalve:AGV)を加えC12カ月以上経過を追えた増殖糖尿病網膜症に続発する血管新生緑内障に対する緑内障チューブシャント手術の手術成績について後ろ向きに検討したので報告する.CI対象および方法2012年C12月.2019年C6月に名古屋市立大学病院で増殖糖尿病網膜症に続発した血管新生緑内障に対し,緑内障チューブシャント手術を施行し,12カ月以上経過を追えたC21例23眼(男性C15例,女性C6例,平均年齢C54.9C±12.4歳)について検討した.術前,術後の視力・眼圧,術前・術後の点眼スコア(緑内障点眼薬をC1点,配合剤をC2点,炭酸脱水酵素阻害薬のC2錠内服をC2点),早期(術後C1カ月以内)・後期(術後C1カ月以降)合併症について検討した.今回使用したCBGIは,硝子体手術既往眼ではプレート面積がC350CmmC2でチューブにCHo.manElbowをもつCBG102-350,硝子体手術未施行眼ではプレート面積がC250CmmC2の前房タイプのCBG103-250である.術式は,強膜半層弁を作製し,チューブをC7-0あるいはC8-0バイクリル糸で結紮していたが,術後低眼圧の症例がみられたことから,その後は3-0ナイロン糸をステントとして留置する方法に変更した.術前に炭酸脱水酵素阻害薬内服下でも眼圧がC20CmmHg以上の場合では,9-0ナイロン糸でCSherwoodスリットを作製した.AGVはプレート面積がC184CmmC2のCFP7を使用し,全例毛様体扁平部に留置した.既報5)に基づき手術成功率(生存率)をCKaplan-Meier法で解析した.生存(手術成功)の定義は既報5)と同様に,①視力が光覚弁以上,②眼圧がC22CmmHg未満,5CmmHg以上,③さらなる緑内障手術の追加手術を行わない,のC3条件を満たすものとした.数値は平均値±標準偏差で記載し,統計学的検定にはCWilcoxon検定を用いCp<0.05を有意差ありとした.II結果BGIを18例20眼,AGVを3例3眼に施行した.BGIは前房タイプがC2眼,毛様体扁平部留置タイプがC18眼であった.AGVはC3眼とも毛様体扁平部に留置した.前房タイプを挿入したC1例C2眼を除き,硝子体手術未施行眼には,硝子体手術を併用し,チューブを毛様体扁平部に留置した.治療歴として,汎網膜光凝固および白内障手術は全例で施行されており,硝子体手術はC17眼(BGIではC15眼,AGVではC2眼)に行われ,術前に血管内皮増殖因子(vascularendothe-lialgrowthfactor:VEGF)阻害薬が投与されていたのはC8眼(BGI5眼,AGV3眼)であった.BGIを施行されたC4眼で線維柱帯切除術の既往があり,うちC2眼は複数回線維柱帯切除術が施行されていたが,硝子体手術は未施行であった.術後経過観察期間はC12.91カ月(40.5C±27.1カ月)であった.平均眼圧の推移は術前C27.8C±10.6CmmHg,1週間後C12.9±9.3CmmHg,1カ月後C14.5C±5.1CmmHg,3カ月後C14.9C±3.2CmmHg,12カ月後にはC14.6C±4.9CmmHgと,術前眼圧と比較し有意な眼圧下降を認めた(p<0.01).また,最終受診時もC12.7C±4.7CmmHgと有意に低下していた(p<0.01)(図1).また,logMAR視力はC0.2以上の変化を改善あるいは悪化としたとき,改善C10眼(43.5%),不変C6眼(26.0%),悪化C7眼(30.5%)で,logMAR視力は術前C1.40C±0.88,最終受診時はC1.36C±1.18と有意差は認めなかった.しかしながら,光覚弁消失となった症例がC2眼あり,どちらも術後眼圧再上昇に対し毛様体レーザーを施行した症例であった.点眼スコアは,術前のC3.6C±1.3から最終受診時C1.6C±1.7と有意な減少を認めた(p<0.01)(図2).術後C1カ月以内の早期合併症は,高眼圧をC7眼に認めた.3眼は薬物治療を開始した(表1).2眼は術後にCSherwoodslitを追加し,さらにチューブ結紮糸を抜糸したが,うちC1眼はそれでも眼圧コントロールがつかず,最終的に光覚弁消失となった.1眼はCSherwoodslitを追加,1眼はチューブ先端の硝子体切除を追加した.硝子体出血はC4眼でみられ,3眼で硝子体手術を行い,1眼は自然消退した.脈絡膜.離を伴う低眼圧がC1眼みられたが,脈絡膜.離は自然消退した.術後C1カ月以降の後期の合併症(表2)は,眼圧が再上昇しコントロール不良となったものがC5眼あった.3眼はMMCを併用しプレート周囲の被膜を切除したが,1眼はそれでも眼圧下降が得られず硝子体手術を併用しCBGIを毛様体扁平部に挿入,もうC1眼も眼圧下降が得られず毛様体レーザーをC3回施行したが視力は光覚弁消失となった.MMC併用プレート周囲被膜切除を施行しなかったC2眼中C1眼は毛様体レーザーを施行,1眼はCVEGF阻害薬硝子体内注射および汎網膜光凝固の追加を行い,その後眼圧上昇は認めていな654平均眼圧(mmHg)点眼スコア3210100図2術前・術後での点眼スコア緑内障点眼薬をC1点,配合剤をC2点,炭酸脱水酵素阻害薬のC2錠図1術前・術後での平均眼圧の推移内服をC2点とした.点眼部は術前のC3.6から最終受診時の時点で術前最終受診時Wilcoxonsignedranktest,*p<0.01術前1週1カ月3カ月6カ月1年最終受診時平均眼圧は術前と比較してC1週間後,1カ月後,3カ月後,6カ月後,12カ月後,最終受診時の時点で有意に下降していた(p<0.01).表1術後早期合併症(術後1カ月以内)高眼圧7眼(C30%)硝子体出血4眼(C17%)脈絡膜.離を伴う低眼圧1眼(C4%)高眼圧を認めたC7眼のうち,3眼に薬物治療を開始し,2眼はCSherwoodslitを追加しチューブ結紮糸を抜糸した.1眼はCSherwoodslit追加した.1眼はチューブ先端の硝子体切除を追加した.C1.01.6と有意な減少を認めた(p<0.01).表2術後後期合併症(術後1カ月以降)眼圧再上昇5眼(23%)硝子体出血4眼(17%)眼圧再上昇のC5眼のうち,3眼はCMMCを併用しプレート周囲の被膜を切除.1眼は毛様体レーザーを施行,1眼はCVEGF阻害薬硝子体内注射を行った.硝子体出血のC4眼のうち,2眼は硝子体手術,1眼は硝子体手術とCVEGF阻害薬硝子体内注射,1眼はCVEGF阻害薬硝子体内注射のみを行った.CIII考按0.8生存率0.60.40.20.0月数図3Kaplan.Meier生存曲線生存の基準を①視力が光覚弁以上,②眼圧はC22CmmHg036912今回筆者らは増殖糖尿病網膜症に続発した血管新生緑内障に対し緑内障チューブシャント手術を施行し,12カ月以上経過観察できたC23眼について後ろ向きに検討した.術後C1年の成功率はC78.9%であり,既報でもC1年後におけるCBGI手術の成功率C60.0%,AGV手術の成功率C90.0%と同様に良好な結果を得ている7).今回の検討では,血管新生緑内障に対する緑内障チューブシャント手術は,術後C1年において比較的良好な眼圧下降効果を認めた.術後後期の眼圧再上昇に対してCMMC併用のプレート周囲被膜切除術を行ったC3眼はすべてCBGI術後であり,うちC2眼は追加手術が必要となった.過去の報告でも,プレート周囲の被膜による眼圧再上昇例に対しては,プレート被膜切除よりも追加手術を施行したほうがよいことが示唆されている8,9)ため,現在当院ではCMMC併用プレート周囲被膜切除術は行わず,緑内障インプラント追加や毛様体レーザー追加をする方針をとっている.脈絡膜.離を伴う低眼圧がC1眼みられ脈絡膜.離は自然消退したが,この症例は術中にチューブの結紮のみを行った症例であった.この症例を経験後,3-0ナイロン糸をステント未満,5CmmHg以上,③さらなる緑内障手術の追加手術を行わない,のC3条件を満たすものを生存とした.生存率は術後3カ月後で84.2%,6カ月後でC78.9%,12カ月後もC78.9%であった.い.また,硝子体出血はC4眼に認め,2眼は硝子体手術(うちC1眼はC3回施行),1眼は硝子体手術およびCVEGF阻害薬硝子体内注射,1眼はCVEGF阻害薬硝子体内注射を行った.術後C3カ月の生存率はC84.2%,術後C6カ月およびC1年の生存率はC78.9%であった(図3).としてチューブに挿入するようになり,術後の脈絡膜.離は出現しなかったことから,3-0ナイロン糸によるステント留置は術後早期の脈絡膜.離を防ぐのに有効と考えられる.本研究の限界として,21例C23眼と症例数が少ない点,使用した緑内障チューブシャントも,BGI20眼に対しCAGVがC3眼と偏りがある点,硝子体手術の既往や術前のCVEGF阻害薬使用が術後合併症に及ぼす影響を論じるには症例が少ない点があげられる.また,血管新生緑内障も,急激に血管新生を生じた活動性の高いタイプや,新生血管の活動性は低いが周辺虹彩前癒着が高度で眼圧の高いタイプなど,さまざまな違いがある.今後,活動性の同じ血管新生緑内障に対して,術前にCVEGF阻害薬を使用したCBGIおよびCAGV施行症例数を同程度そろえ,その術後成績を検討する必要があると考える.今回の研究からも,緑内障チューブシャント手術は,増殖糖尿病網膜症に続発した血管新生緑内障に対し有効な術式と考えられた.今後も,術後の眼圧再上昇を防ぐ治療方針,合併症のより良い対処の確立が,緑内障チューブシャント手術の手術成績をさらに向上させると思われた.文献1)MeganCK,CChelseaCL,CRachaelCPCetal:AngiogenesisCinCglaucoma.ltrationsurgeryandneovascularglaucoma:Areview.SurvOpthalmolC60:524-535,C20152)TakiharaY,InataniM,FukushimaMetal:Trabeculecto-myCwithCmitomycinCCCforCneovascularglaucoma:prog-nosticfactorsforsurgicalfailure.AmJOphthalmolC147:C912-918,C20093)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン第C4版,20184)ShenCCC,CSalimCS,CDuCHCetal:TrabeculectomyCversusCAhmedGlaucomaValveimplantationinneovascularglau-coma.ClinOphthalmolC5:281-286,C20115)東條直貴,中村友子,コンソルボ上田朋子ほか:血管新生緑内障に対するバルベルト緑内障インプラント手術の治療成績.日眼会誌121:138-145,C20176)野崎祐加,富安胤太,野崎実穂ほか:血管新生緑内障に対するバルベルト緑内障インプラントの手術成績.あたらしい眼科35:140-143,C20187)SudaCM,CNakanishiCH,CAkagiCTCetal:BaerveldtCorCAhmedglaucomavalveimplantationwithparsplanatubeinsertionCinCJapaneseCeyesCwithCneovascularglaucoma:C1-yearoutcomes.ClinOphthalmolC12:2439-2449,C20188)RosentreterCA,CMelleinCAC,CKonenCWWCetal:CapsuleCexcisionandOlogenimplantationforrevisionafterglauco-madrainagedevicesurgery.GraefesArchClinExpOph-thalmolC248:1319-1324,C20109)ValimakiCJ,CUusitaloH:ImmunohistochemicalCanalysisCofCextracellularmatrixblebcapsulesoffunctioningandnon-functioningglaucomadrainageimplants.ActaOphthalmolC92:524-528,C2014***

抗血管内皮増殖因子薬硝子体注射が有効であった 増殖糖尿病網膜症に対する硝子体手術後の血管新生緑内障の1 例

2022年4月30日 土曜日

《第26回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科39(4):501.505,2022c抗血管内皮増殖因子薬硝子体注射が有効であった増殖糖尿病網膜症に対する硝子体手術後の血管新生緑内障の1例森秀夫宮保浩子大阪市立総合医療センター眼科CACaseofNeovascularGlaucomaafterVitrectomyforProliferativeDiabeticRetinopathyE.ectivelyTreatedbyRepeatedAnti-VascularEndothelialGrowthFactorInjectionsHideoMoriandHirokoMiyaboCDepartmentofOphthalmology,OsakaCityGeneralHospitalC抗血管内皮増殖因子(VEGF)薬硝子体内注射が眼圧制御と視力維持に有効であった血管新生緑内障(NVG)のC1例を報告する.症例は長期間糖尿病を放置したC72歳,男性.左眼視力は生来不良であった.今回右眼に白内障と増殖糖尿病網膜症を発症し,視力はC0.4に低下した.硝子体出血は認めなかった.球後麻酔下に白内障併施硝子体手術を施行中に不穏興奮状態となり,手術は中止に至った.術後は硝子体出血が著明であり,軽度の認知症の合併が判明した.全身麻酔での再手術を施行し,半年後視力C0.8を得た.手術C9カ月後CNVG(眼圧C40CmmHg)を発症した.濾過手術の前処置として抗CVEGF薬を硝子体内注射すると眼圧はC10CmmHg台に下降し,虹彩新生血管は消失した.認知症患者の唯一眼であり,濾過手術は中止した.その後C3.4カ月間隔でC2度CNVGが再燃し,その都度注射により眼圧制御と視力維持を得ている.NVGへの抗CVEGF薬注射は,手術の出血軽減目的の前処置として位置づけられるが,症例によっては継続注射が有効な場合もありうると思われた.CPurpose:Toreportacaseofneovascularglaucoma(NVG)aftervitrectomyforproliferativediabeticretinopa-thyCthatCwasCsuccessfullyCtreatedCbyCrepeatedCintravitrealCanti-vascularCendothelialCgrowthfactor(anti-VEGF)Cinjections.Casereport:A72-year-oldmalewithdiabetesmellitus(DM)presentedproliferativediabeticretinopa-thyinhisrighteye.Visualacuity(VA)(Snellenchart)inhisrighteyewas0.4,whilethatinhisleft-eyewaspoorsinceCchildhood.CHeChadCnotCundergoneCtreatmentCforCDMCforCaClongCtime.CForCtreatment,CvitrectomyCcombinedCwithCcataractCsurgeryCunderCretrobulbarCanesthesiaCwasCperformed.CHowever,CtheCpatientCbecameCagitatedCandCuncontrollablemid-surgery,sotheoperationwasdiscontinued.Postoperatively,markedvitreoushemorrhagewasobserved,andhewasdiagnosedwithmilddementia.Reoperationwassuccessfullyperformedundergeneralanes-thesia.At6-monthspostoperative,hisright-eyeVAimprovedto0.8,yetat9-monthspostoperative,NVGwithanintraocularpressure(IOP)of40CmmHgdeveloped.Anti-VEGFwasinjectedintravitreallyasanadjuncttherapyto.ltrationsurgery.TheIOPloweredto10-somethingmmHg,andtheirisneovascularizationdisappeared.SincethepatientChadCdementiaCandConlyChadCvisionCinChisCrightCeye,CtheCplannedC.ltrationCsurgeryCwasCcancelled.CNVGCrecurredtwiceatanintervalof3or4months,yetwassuccessfullytreatedeachtimeviainjectionofanti-VEGF.Conclusion:AlthoughCintravitrealCanti-VEGFCinjectionCisCgenerallyCconsideredCanCadjunctCtherapyCforCtheCreduc-tionofintraoperativehemorrhageinNVGpatients,repeatedinjectionscane.ectivelytreatrecurrentNVGinsomecases.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C39(4):501.505,C2022〕Keywords:糖尿病網膜症,血管新生緑内障,抗血管内皮増殖因子,硝子体内注射,認知症,唯一眼.diabeticreti-nopathy,neovascularglaucoma,anti-vascularendothelialgrowthfactor,intravitrealinjection,dementia,onlyeye.C〔別刷請求先〕森秀夫:〒630-0136奈良県生駒市白庭台C6-10-1白庭病院眼科Reprintrequests:HideoMori,M.D.,DepartmentofOphthalmology,ShiraniwaHospital,6-10-1Shiraniwadai,IkomaCity,Nara630-0136,JAPANC図1初診時右眼眼底写真黄斑近傍の硬性白斑を認める.明瞭な新生血管は認めない.はじめに血管新生緑内障(neovascularglaucoma:NVG)は糖尿病網膜症眼や網膜中心静脈閉塞症などの失明原因として重要である1).NVGに対する抗血管内皮増殖因子(vascularendo-thelialgrowthfactor:VEGF)薬の硝子体内注射は,汎網膜光凝固(panretinalphotocoagulation:PRP)や手術治療などの補助療法としての位置づけが一般的であるが1.3),今回唯一眼に発症したCNVGに対し抗CVEGF薬(アフリベルセプト)の継続的硝子体注射が眼圧コントロールと視力維持に有効であった症例を経験したので報告する.CI症例患者はC20年余り前に糖尿病を指摘され,短期間治療して血糖値が下がり,その後自己判断で治療せず放置していた72歳,男性.生来左眼の視力は不良であった.今回右眼の視力不良のため運転免許の更新ができず近医を受診し,糖尿病網膜症としてC2019年C8月下旬当科を紹介受診した.初診時視力はCVD=0.1(0.4×+2.25D(.cyl2.0DAx90°),VS=0.01(0.02×+2.0D(.cyl2.0DAx80°),眼圧は両眼ともC12CmmHgで,両眼に前.下白内障を認め,散瞳はC4Cmmと不良であった.虹彩新生血管は認めなかった.右眼眼底には黄斑近傍に硬性白斑を認め(図1),光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)にて硝子体による黄斑牽引と黄斑浮腫を認めた(図2).周辺網膜の視認性は不良であったが,著明な増殖膜は認めなかった.左眼眼底には黄斑を含む網脈絡膜萎縮を認めた(図3).散瞳不良かつ白内障があり,合併症の理解も不十分であったため,蛍光眼底造影(.uoresceinangiography:FA)は施行しなかった.なお,初診時空腹時血糖C132Cmg/dl,HbA1c7.1%,糖尿病腎症C2期であった.同年C9月初旬,水晶体再建術併施硝子体手術を球後麻酔にて施行した.後部硝子体は未.離で鼻側,上方,下方の中間周辺部に数カ所血管性増殖による癒着を認めた(図4).増殖膜を切除し,PRPを開始すると不穏興奮状態となり,手術開始よりC40分余りで中止に至った.術後は硝子体出血により眼底透見不能となり,軽度の認知症の存在も判明したため,初回手術のC16日後,全身麻酔で再手術(硝子体出血切除,黄斑部内境界膜.離,PRP)を施行した2).術後経過は良好でC6カ月後のC2020年C3月にはCRV=0.4(0.8C×.0.25D(.cyl0.5DAx90°)を得,黄斑形態も改善したため(図5),当科は終診とし近医での管理とした.このとき眼圧は16CmmHgであった.この後運転免許更新ができ,眼科的には無症状であったこと,COVID-19の外出自粛期間であったことなどから,実際には近医を受診していなかった.手術9カ月後のC5月末,霧視を自覚して術後初めて近医を受診し,NVG(眼圧C27CmmHg)を指摘され,降圧点眼C1剤を処方されてC6月初旬当科を紹介再診した.再診時,瞳孔縁全周に軽度の新生血管(前眼部写真では不明瞭)を認め,眼圧は40CmmHgであった.前房深度は正常で,矯正視力はC0.5であった.血糖値はC154Cmg/dl,HbA1c6.3%であった.認知症かつ唯一眼であるため全身麻酔による線維柱帯切除術をC5日後に予定したが,その前処置として即日アフリベルセプト2Cmgを硝子体内注射し,降圧薬点眼をC3剤とした.翌日から眼圧はC10CmmHg台に下降し,虹彩新生血管は消失した.その後C1カ月経過を観察したが変化はなかった.線維柱帯切除術にはさまざまな合併症のリスクがあり4),高齢,認知症,唯一眼であることを考慮して手術は中止とし,降圧薬点眼C3剤を続行しつつ近医にて週C2回眼圧をチェックし,NVGの再燃があればアフリベルセプト硝子体内注射で対処する方針とした.初回注射のC4カ月後虹彩新生血管が再発し,眼圧C31mmHgとなったためC2回目の硝子体内注射を施行し,新生血管の消失と眼圧正常化を得た.さらにそのC3カ月半後(2021年C1月中旬)新生血管の再燃と眼圧上昇(32CmmHg)をきたしたためC3回目の硝子体内注射を施行し,新生血管の消失と眼圧正常化を得た.この経過中視力はC0.5.0.8を維持しており,3回目の注射後現在まで約C2カ月を経過したが再発をきたしていない.CII考按本症例は認知症を伴う唯一眼に増殖糖尿病網膜症を発症し,硝子体手術により良好な視力を得た後,COVID-19の外出自粛も相まって無治療となり,術後C9カ月でCNVGを発症した.線維柱帯切除術を予定し,その前処置として施行したアフリベルセプト硝子体内注射が眼圧下降,視力維持に有効であったため手術を中止し,NVGの再燃の都度アフリベ図2初診時右眼OCT黄斑浮腫と硝子体牽引を認める.視力C0.4.図3初診時左眼OCT黄斑を含む網脈絡膜萎縮を認め,生来視力はC0.02と不良.ルセプト硝子体内注射を継続中のC1例である.NVGではあるが虹彩新生血管の程度は軽症で,明瞭な隅角閉塞も認めないことが良好な眼圧コントロールの要因と思われる.本症例はスリットランプでの詳細な観察で虹彩新生血管を認めたが,カラー前眼部撮影では明瞭に記録できなかった.近年発達した光干渉断層血管撮影(OCTangiography:OCTA)を前眼部に応用することにより,微細な虹彩新生血管を非侵襲的に描出し,その消長を追えた報告があり5),今後の普及が望まれる.NVGに対する抗CVEGF薬の硝子体内注射は,PRPの補助治療や手術での出血リスクを軽減する前処置として位置づけられる1.3).アフリベルセプトの薬剤添付文書にも「長期的な眼圧管理にあたっては標準的な治療法の併用を考慮する」と記載されている.本症例は硝子体手術時にCPRPを施行したが,術後C9カ月でCNVGを発症したことから,網膜無灌流領域の残存あるいは新たな発生が考えられ,アフリベルセプトが奏効している期間内にCFAGによる精査とレーザー凝固の追加が求められ図4右眼術中所見鼻側の血管性増殖膜を.で示す..は視神経乳頭.図5右眼術後半年のOCT黄斑形態の改善を認める.視力C0.8.る1,2).しかし,小瞳孔,認知症による理解力低下,唯一眼であることなどから実施できなかった.NVGの手術術式としてはわが国では線維柱帯切除術が選択されることが多い1.3,6)が,合併症として術中術後の前房硝子体出血,脈絡膜.離,術後の浅前房,低眼圧,上脈絡膜出血,濾過胞感染など種々の危険がある4).NVGに対する抗CVEGF薬投与の研究では,視力不良のNVG26眼をランダムにベバシズマブC2.5Cmg硝子体内注射群(14眼)とCsham群(生理食塩水結膜下注射,12眼)とに振り分け,4週ごとにC3回注射し,前向きに半年間観察したところ,前者に有意な眼圧下降と新生血管の退縮がみられた7)ことより,抗CVEGF薬はCNVGの手術治療の補助療法となりうるとしている.硝子体内注射群には眼圧C30CmmHg以上が10眼含まれ,4眼が注射後C21CmmHg以下に下降している.また,日本人を対象としたアフリベルセプトC2Cmgの第CIII相試験(VEGA試験)8)では,眼圧C25CmmHg超のCNVG50例に硝子体内注射がなされた結果,75.9%がC1回の注射でC13週間にわたり眼圧コントロールが得られ,この眼圧下降効果はアセタゾラミド内服に依存しないことが確認された(VEN-ERA試験)9).本症例はアフリベルセプト注射時に無硝子体眼であった.ウサギ10)やサル11)での動物実験では,無硝子体眼は抗VEGF薬の排出が正常眼より早いという報告があるが,臨床的に糖尿病黄斑浮腫に対する抗CVEGF薬の効果を無硝子体眼と有硝子体眼で比較した研究では,両者に差はなかったとされる12).今回の症例では初回のアフリベルセプト注射後4カ月,2回目の注射後C3.5カ月でCNVG再燃により再注射しているので,有硝子体眼の加齢黄斑変性に対する投与間隔と差はないと思われる.また,今回の症例のアフリベルセプト投与間隔は,有硝子体眼のCNVGが対象のCVEGA試験8)で示された効果持続期間と遜色ないか,それを上回る投与間隔であった.増殖糖尿病網膜症に対する抗CVEGF薬硝子体内注射の合併症として牽引性網膜.離の発症が知られているが13),本症例はもともと増殖膜の活動性は低く,さらに硝子体手術によって中間周辺部に認めた増殖膜は切除しており,牽引性.離が発症する危険はきわめて低い.本症例は初診時黄斑に硝子体牽引と浮腫がみられたため,内境界膜.離を施行2)し,視力と黄斑形態に改善がみられたが,牽引のないびまん性の糖尿病黄斑浮腫の場合,内境界膜.離は視力予後に無関係との報告がある14).本症例はCNVG発症後アフリベルセプトの継続注射をすることで,9カ月にわたりCNVGのコントロールと良好なCqual-ityCoflifeが得られているが,今後も綿密な経過観察が必要である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)赤木忠道:血管新生緑内障の治療.糖尿病網膜症診療のすべて.(北岡隆,吉村長久編),p312-317,医学書院,C20132)鈴間潔:硝子体手術.糖尿病網膜症診療のすべて.(北岡隆,吉村長久編),p276-287,医学書院,20133)SaitoCY,CHigashideCT,CTakedaCHCetal:ClinicalCfactorsCrelatedtorecurrenceofanteriorsegmentneovasculariza-tionCafterCtreatmentCincludingCintravitrealCbevacizumab.CAmJOphthalmolC149:964-972,C20104)AllinghamCRR,CDamjiCKF,CFreedmanCSFCetal:FilteringCsurgery,CPreventionCandCmanagementCofCcomplications.In:ShieldsC’CTextbookCofCGlaucoma.C6thCed,Cp501-511,CLippincottWilliams&Wilkins,Philadelphia,20115)野川千晶,坪井孝太郎,瓶井資弘:前眼部CopticalCcoher-encetomographyCangiographyによる虹彩新生血管の経時的観察ができたC2症例.日眼会誌124:802-807,C20206)野崎実穂,鈴間潔,井上真ほか:日韓糖尿病網膜症治療の現状についての比較調査.日眼会誌C117:735-742,C20137)YazdaniS,HendiK,PakravanMetal:Intravitrealbeva-cizumabCforCneovascularCglaucoma.CACrandomizedCcon-trolledstudy.JGlaucomaC18:632-637,C20098)InataniCM,CHigashideCT,CMatsushitaCKCetal:IntravitrealCa.iberceptCinCJapaneseCpatientsCwithCneovascularCglauco-ma:TheVEGArandomizedclinicaltrial.AdvTherC38:C1116-1129,C20219)InataniM,HigashideT,MatsushitaKetal:E.cacyandsafetyCofCintravitrealCa.iberceptCinjectionCinCJapaneseCpatientsCwithCneovascularglaucoma:OutcomesCfromCtheCVENERAstudy.AdvTherC38:1106-1115,C202110)CristoforidisCJB,CWilliamsCMM,CWangCJCetal:AnatomicCandpharmacokineticpropertiesofintravitrealbevacizum-abandranibizumabaftervitrectomyandlensectomy.Ret-inaC33:946-952,C201311)KakinokiCM,CSawadaCO,CSawadaCTCetal:E.ectCofCvitrec-tomyConCaqueousCVEGFCconcentrationCandCpharmacoki-neticsCofCbevacizumabCinCmacaqueCmonkeys.CInvestCOph-thalmolVisSciC53:5877-5880,C201212)芹沢聡志,井上順治,井上賢治:無硝子体眼における糖尿病黄斑浮腫に対する抗血管内皮増殖因子薬硝子体内投与の治療効果の検討.日眼会誌123:115-120,C201913)ArevaloCJF,CMaiaCM,CFlynnCJrCHWCetal:TractionalCreti-naldetachmentfollowingintravitrealbevacizumab(Avas-tin)inpatientswithsevereproliferativediabeticretinopa-thy.BrJOphthalmolC92:213-216,C200814)KumagaiCK,CHangaiCM,COginoCNCetal:E.ectCofCinternalClimitingCmembraneCpeelingConClong-termCvisualCoutcomesCfordiabeticmacularedema.RetinaC35:1422-1428,C2015***

病因別血管新生緑内障に対する線維柱帯切除術の長期成績

2022年3月31日 木曜日

《第26回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科39(3):354.357,2022c病因別血管新生緑内障に対する線維柱帯切除術の長期成績上杉康雄徳田直人山田雄介豊田泰大塚本彩香塚原千広佐瀬佳奈北岡康史高木均聖マリアンナ医科大学眼科学教室CLong-TermOutcomesofTrabeculectomyforEtiologicalNeovascularGlaucomaYasuoUesugi,NaotoTokuda,YusukeYamada,YasuhiroToyoda,AyakaTsukamoto,ChihiroTsukahara,KanaSase,YasushiKitaokaandHitoshiTakagiCDepartmentofOphthalmology,StMariannaUniversitySchoolofMedicineC目的:血管新生緑内障(NVG)に対する線維柱帯切除術の術後長期成績について原因別に検討する.対象および方法:NVGに対して線維柱帯切除術を施行し,術後C36カ月経過観察可能であったC35例C39眼を対象とした.NVGの原因別に手術成績について検討した.結果:NVGの原因は糖尿病網膜症C22例C26眼(DR群),網膜中心静脈閉塞症(CRVO)13例C13眼(CRVO群)であった.眼圧はCDR群では術前C36.6CmmHgが術後C36カ月でC12.4CmmHg,CRVO群ではC36.0mmHgがC13.0CmmHgと両群ともに有意に下降した.Kaplan-Meier法による累積生存率は術後C36カ月でDR群C73.1%,CRVO群C83.9%であった.術後合併症はCDR群で硝子体出血がC5例存在した.結論:NVGに対する線維柱帯切除術は長期的に有効な術式だが,DR症例では眼圧コントロールが良好であっても硝子体出血を生じる患者が存在する.CObjective:Toinvestigatethelong-termpostoperativeoutcomesoftrabeculectomyforetiologicallyneovascu-larglaucoma(NVG).SubjectsandMethods:Thisstudyinvolved39eyesof35patientswhounderwenttrabecu-lectomyforNVGandwhowerefollowedupfor36-monthspostoperative.Results:ThecausesofNVGweredia-beticretinopathy(DR)in26eyesof22cases(DRgroup)andcentralretinalveinocclusion(CRVO)in13eyesof13cases(CRVOgroup).IntheDRandCRVOgroups,themeanintraocularpressure(IOP)signi.cantlydecreasedfrom36.6CmmHgand36.0CmmHg,respectively,preoperative,to12.4CmmHgand13.0CmmHg,respectively,postopera-tive.At3-yearspostoperative,thecumulativesurvivalratesintheDRandCRVOgroupwere73.1%Cand83.9%,respectively.CPostoperativeCcomplicationsCincludedCvitreousChemorrhageCinC5CpatientsCDRCgroupCpatients.CConclu-sion:TrabeculectomyCforCNVGCwasCfoundCe.ectiveCoverCtheClong-termCperiodCpostCsurgery,Chowever,CvitreousChemorrhageoccurredinsomeDRpatientsdespitewell-controlledIOP.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)39(3):354.357,C2022〕Keywords:血管新生緑内障,線維柱帯切除術,糖尿病網膜症,網膜中心静脈閉塞症,続発緑内障.neovascularCglaucoma,trabeculectomy,diabeticretinopathy,centralretinalveinocclusion,secondaryglaucoma.Cはじめに血管新生緑内障(neovascularglaucoma:NVG)は糖尿病網膜症(diabeticretinopathy:DR)や網膜中心静脈閉塞症(centralCretinalCveinocclusion:CRVO)など網膜虚血性疾患が原因となり発症する続発緑内障である.低酸素誘導され硝子体中に分泌された血管内皮増殖因子(vascularendothe-lialgrowthfactor:VEGF)などの液性血管新生因子により隅角新生血管が形成され,房水流出抵抗が増加し眼圧上昇が生じる.治療法として線維柱帯切除術1),VEGF阻害薬投与2),緑内障チューブシャント手術3)などが行われ,その有効性が報告されている.線維柱帯切除術はCNVGに汎用される術式であるが,NVGの病因により術後経過が影響されるかについての検討は少ない.本研究ではCDRとCCRVOに続発したCNVGの術後経過を比較し,NVGに対する線維柱帯〔別刷請求先〕徳田直人:〒216-8511神奈川県川崎市宮前区菅生C2-16-1聖マリアンナ医科大学眼科学教室Reprintrequests:NaotoTokuda,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,StMariannaUniversitySchoolofMedicine,2-16-1Sugao,Miyamae-ku,Kawasaki-shi,Kanagawa216-8511,JAPANC354(92)0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(92)C3540910-1810/22/\100/頁/JCOPY切除術の手術経過が病因により影響されるかについて検討した.CI対象および方法本研究は診療録による後ろ向き研究である.対象はC2011年C3月.2017年C5月のC7年間に当院でCNVGと診断され線維柱帯切除術を施行され,術後C36カ月経過観察可能であった連続症例C35例C39眼である.平均年齢C66.1C±12.3歳であった.NVG群の原因疾患がCDRであったC22例C26眼をCDR群,原因疾患がCCRVOであったC13例C13眼をCCRVO群とし,両群の術前後の眼圧推移と薬剤スコアの推移,術後合併症について比較検討した.薬剤スコアは,抗緑内障点眼薬C1成分1点,緑内障配合点眼薬C2点,炭酸脱水酵素阻害薬内服C2点とした.また,Kaplan-Meier法による生存分析も行った.死亡の定義は,術後眼圧がC2回連続してC21CmmHg以上またはC5CmmHg未満を記録した時点,緑内障再手術を施行した時点,光覚喪失となった時点とした.術後経過観察期間中に抗緑内障点眼薬の追加となった症例も存在するが,その時点では死亡として扱わず生存とした.NVGに対する濾過手術の選択基準としては,線維柱帯切除術を基本とし,硝子体出血による視力低下を併発している症例のみ硝子体手術を併用した緑内障チューブシャント手術を選択した.線維柱帯切除術は全例円蓋部基底結膜弁で行った.結膜弁作製後,浅層強膜弁を作製しC0.04%マイトマイシンCCを結膜下に塗布し(作用時間は症例によって調整)生理食塩水100Cmlで洗浄,その後深層強膜弁を作製しCSchlemm管を同定し,深層強膜弁を切除,続いて線維柱帯を切除し周辺虹彩切除を行い,浅層強膜弁を縫合(4.7本)し,結膜を縫合し手術終了とした.全例同一術者(N.T.)により施行した.なお,2014年C2月以降に施行した症例については術前にベバシズマブの硝子体内注射(intravitrealbevacizumab:IVB)を施行した.IVBについては適応外使用につき聖マリアンナ医科大学生命倫理委員会C2566号で承認を受け,患者への説明と同意のもと行われた.統計学的な検討は対応のあるCt検定,Mann-WhitneyCUtest,chi-squaretestを使用し,p<0.05をもって有意差ありと判定した.CII結果表1に対象の背景について示す.年齢については,DR群はCCRVO群よりも有意に若かった(Mann-WhitneyCUCtestp<0.01).その他,術前眼圧,薬剤スコア,隅角所見(peripheralanteriorsynechia:PASindex),PASindex75%以上をCNVGの閉塞隅角期とした場合の割合,硝子体手術の既往,IVB実施のいずれにおいても両群間に有意差はなかった.図1にCDR群およびCCRVO群の術前後の眼圧推移を示す.眼圧は両群ともに術前と比較して有意に下降した(対応のあるCt検定p<0.01).図2にCDR群およびCCRVO群の術前後の薬剤スコアの推移を示す.薬剤スコアは両群ともに術前と比較して有意に下降した(対応のあるCt検定p<0.01).図3にCDR群およびCCRVO群のCKaplan-Meier生存分析による累積生存率を示す.術後C3年の累積生存率は,DR群でC73.1%,CRVO群でC83.9%であり両群間に有意な差は認められなかった(LoglankCtestCp=0.43).なお,術前IVB実施の有無で累積生存率を検討した結果,DR群についてはCIVB無群でC68.8%,IVB有群でC80.0%(Loglanktestp=0.56),CRVO群についてはCIVB無群でC88.9%,IVB有群でC75.0%(LoglankCtestCp=0.62)と有意な差は認められなかった.表2に術後合併症について示す.術後合併症は,硝子体出血がCDR群でC5眼(19.2%),水疱性角膜症がCCRVO群でC1眼(7.7%),眼球癆がCDR群でC1眼(3.8%)に認められた.硝子体出血を生じたCDR群のC5眼うちC3眼は硝子体手術を要した.術後C2段階以上の視力低下が生じた症例は,表1対象の背景DR群CRVO群22例26眼13例13眼p値年齢(歳)C61.2±12.2C76.0±4.0C0.0001*術前矯正視力C0.36±0.5C0.30±0.4C0.27*術前眼圧(mmHg)C37.4±10.9C36.4±5.7C0.84*術前薬剤スコア(点)C4.5±0.6C4.6±0.5C0.46*PASindex(%)C46.2±17.9C43.9±20.2C0.46*閉塞隅角期(PASindex≧75%)(%)C11.5C15.4C0.87**硝子体手術の既往(%)C19.2C23.1C0.89**線維柱帯切除術前CIVB(%)C57.7C69.2C0.73**PAS:peripheralanteriorsynechia,IVB:intravitrealbevacizumab.*:Mann-Whitneytest,**:chi-squaretest.(93)あたらしい眼科Vol.39,No.3,2022C355眼圧(mmHg)5040302010術前術後3カ月6カ月12カ月18カ月24カ月30カ月36カ月観察期間54321薬剤スコア(点)観察期間図2血管新生緑内障に対する線維柱帯切除術後の薬剤スコアの推移各群ともに術前と比較し術後有意な薬剤スコアの減少を示した.抗緑内障点眼薬1剤C1点,緑内障配合点眼薬C2点,炭酸脱水酵素阻害薬内服C2点.エラーバー:標準偏差.合併症表2術後合併症DR群CRVO群(n=26)(n=13)p値DR群0.673.1%Loglanktestp=0.435眼0眼C0.09**硝子体出血(19.2%)(0%)0眼1眼C0.15**水疱性角膜症(0%)(7.7%)1眼0眼C0.47**C061218243036眼球癆(3.8%)(0%)2段階以上の4眼3眼観察期間(カ月)視力低下(15.4%)(23.1%)C0.56**累積生存率図3Kaplan.Meier生存分析PDR群で硝子体出血を生じたC5眼中C3眼は硝子体手術を要した.死亡定義:眼圧が2回連続して21mmHg以上または**:chi-squaretest.4CmmHg未満を記録した時点,または緑内障再手術となった時点.(94)DR群でC4眼(15.4%),CRVO群でC3眼(23.1%)認められた.CIII考按本研究は経過観察期間C36カ月という比較的長期の経過を検討している.同様に長期経過観察を行っているCTakiharaらの報告1)では,1,2,5年後の手術成功率がそれぞれ62.6%,58.2%,51.7%であった.また,Higashideらの報告2)ではベバシズマブを併用し,平均経過観察期間C45カ月でC1,3,5年後の手術成功率がそれぞれC86.9%,74.0%,51.3%であった.本研究ではC3年後生存率がCDR群C73.1%CRVO群C83.9%でCHigashideらの報告に近い結果となった.これはDR群15眼(57.7%),CRVO群9眼(69.2%)にVEGF阻害薬を併用して隅角新生血管の活動性を低下させてから線維柱帯切除術を行っていることが要因と考えられた.また,当院では,線維柱帯切除術を狩野らの報告4)と同様に強膜二重弁を作製し深層強膜弁を切除する方法で行っているが,NVGについてはCSchlemm管同定後,深層強膜弁をさらに角膜側まで進めてから強角膜片切除を行うようにしている.この方法によりCPASが生じているCNVG症例に対しても術後に前房出血を生じることが少なくできるため,手術成績の向上に貢献した可能性があると考える.DR群とCCRVO群の背景を比較してみると,年齢はCDR群のほうがCCRVO群のよりも有意に若くなっていたが,これはCCRVOが動脈硬化を生じやすい高齢者に多いことが影響したものと考える.眼圧,薬剤スコア,PASindexについては両群で有意差を認めなかったことから,術前のCNVGの活動性に大差はなかったと考えられる.また,ベバシズマブ使用率にも差はなく,術後眼圧推移,術後薬剤スコア推移とも両群で同様の推移を示した.つまり原因疾患が異なっていても筆者らが行ったCNVGに対する線維柱帯切除術は眼圧下降効果,持続性ともに有効であったことが示唆される.一方術後合併症に関しては,DR群で硝子体出血が多くみられ,再手術症例,眼球癆に至った症例もみられた.DR群では房水流出にかかわる前眼部には十分な濾過効果が得られたにもかかわらず,硝子体出血を生じた理由としては,血糖コントロールの悪化が影響したと考える.線維柱帯切除術後に硝子体出血をきたした症例は,術後しばらくしてから血糖コントロールが再度悪化し,その後硝子体出血を発症している.DRに続発したCNVGでは術後も血糖管理が重要であることを再確認する結果となった.また,これはあくまで推測の域を出ないが,CRVOでは発症からCNVGに至る経過は短期間であり,眼底に血管増殖膜や硝子体出血などの重篤な変化が生じる前に緑内障手術となることが多い印象がある.それに対して,DR群ではCNVGに至る時点ですでに線維血管増殖や牽引性.離など眼底に重篤な病変を形成していることも多い.このような症例では緑内障術後,眼圧下降により眼底虚血はある程度改善されたとしても,術前から存在する不可逆性の眼底病変が術後血糖コントロール不良などを引き金に再燃する可能性が残っている.つまり,NVGに至るまでの背景の違いが術後合併症の差につながったとも考えられる.本研究は少数例の後ろ向き研究であり,より多数例での検討が必要である.また,DR群とCCRVO群に年齢に有意差があり,CRVO群のなかに眼虚血症候群の症例が存在していた可能性はあるが,眼底病因にかかわらずCNVGに対して線維柱帯切除術は有効であることが示唆された.近年ではVEGF阻害薬治療をCNVGの初期治療として行うことがVENERA/VEGA試験により有効であることが示され,単独治療でも眼圧コントロールができる症例が報告されている5,6).本研究が行われた時期では,こうした比較的軽度な患者も手術対象となっていたと考えられる.また,DRやCRVOに関しては以前よりもCVEGF阻害薬で黄斑浮腫治療を行う場合が多くなり,NVGに至る病態は以前と異なってきている可能性がある.VEGF阻害治療のみでコントロールできない重篤な患者においても,病因によって術後経過に差異がないかなど今後の検討を要する点である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)TakiharaY,InataniM,FukushimaMetal:Trabeculecto-myCwithCmitomycinCCCforCneovascularglaucoma:prog-nosticfactorsforsurgicalfailure.AmJOphthalmolC147:C912-918,C20092)HigashideCT,COhkuboCS,CSugiyamaK:Long-termCout-comesandprognosticfactorsoftrabeculectomyfollowingintraocularCbevacizumabCinjectionCforCneovascularCglauco-ma.PLoSOneC10:e0135766,C20153)ParkCUC,CParkCKH,CKimCDMCetal:AhmedCglaucomaCvalveCimplantationCforCneovascularCglaucomaCafterCvitrec-tomyCforCproliferativeCdiabeticCretinopathy.CJCGlaucomaC20:433-438,C20114)狩野廉,桑山泰明,水谷泰之:強膜トンネル併用円蓋部基底トラベクレクトミーの術後成績.日眼会誌C109:C75-82,C20055)InataniCM,CHigashideCT,CMatsushitaCKCetal:IntravitrealCa.iberceptCinCJapaneseCpatientsCwithCneovascularCglauco-ma:TheVEGArandomizedclinicaltrial.AdvTher38:C1116-1129,C20216)InataniM,HigashideT,MatsushitaKetal:E.cacyandsafetyCofCintravitrealCa.iberceptCinjectionCinCJapaneseCpatientsCwithCneovascularglaucoma:OutcomesCfromCtheCVENERAstudy.AdvTherC38:1106-1115,C2021(95)あたらしい眼科Vol.39,No.3,2022C357

SGLT2 阻害薬内服中に血管新生緑内障による急激な 視力低下をきたした2 型糖尿病症例

2021年5月31日 月曜日

《第25回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科38(5):567.572,2021cSGLT2阻害薬内服中に血管新生緑内障による急激な視力低下をきたした2型糖尿病症例上野八重子*1藤部香里*1石口絵梨*1野田浩夫*1徳田あゆみ*2近本信彦*3*1宇部協立病院内科*2宇部興産中央病院眼科*3近本眼科CACaseofType2DiabeteswithSuddenLossofVisionDuetoNeovascularGlaucomawhileTakingSGLT2InhibitorYaekoUeno1)CKaoriHujibe1)CEriIshiguchi1)CHirooNoda1)CAyumiTokuda2)andNobuhikoChikamoto3),,,,1)DepartmentofInternalMedicine,UbeKyoritsuHospital,2)DepartmentofOphthalmology,UbeKosanCentralHospital,3)ChikamotoEyeClinicC新規糖尿病治療薬CSGLT2阻害薬を内服中に血管新生緑内障による急激な視力低下をきたした糖尿病症例を報告する.症例はC40歳,男性.10年余り治療を放置しC4年前に他院にて前増殖網膜症を指摘されたが,自己判断で治療を中断し,2年前より宇部協立病院内科で治療を再開.高血糖に対しCSGLT2阻害薬をビグアナイド類と併用.血糖値は改善傾向で視力は維持されたが,8カ月後に急な左眼視力低下をきたし宇部協立病院眼科を受診.両眼とも黄斑浮腫はなく,高眼圧(右眼C22CmmHg,左眼C54CmmHg)と左眼角膜浮腫とびらん,左眼優位の虹彩ルベオーシスを認めた.頭頸部CMRAにて右内頸動脈CC3の軽度狭窄を認めた.両眼隅角に新生血管が多発しており汎網膜光凝固術にて右眼の視力は維持されたが,左眼は高眼圧による視神経萎縮で失明した.糖尿病網膜症が悪化する際には黄斑浮腫による視力低下を伴うことが多いが,この症例ではCSGLT2阻害薬内服によって黄斑浮腫が抑制された可能性がある.急な経過より眼虚血症候群との関連も否定できなかった.CPurpose:Toreportthecaseofa40-year-oldmalewithdiabeteswhosu.eredasuddendropinvisualacuity(VA)dueCtoCneovascularCglaucomaCwhileCtakingCSGLT2Cinhibitor,CaCnovelCantidiabeticCdrug.CCase:ThisCstudyCinvolvedCtheCcaseCofCaC40-year-oldCmaleCpatientCwithCdiabetesCinCwhomCtheCdiseaseCwasCleftCuntreatedCforCmoreCthan10years.Fouryearsprevious,hewasdiagnosedwithpre-proliferativeretinopathyatanotherhospital.Twoyearsago,hepresentedatourhospital,andatreatmentinvolvingthecombineduseofSGLT2inhibitorwithotherdrugsforhyperglycemiawasrestarted.HisbloodglucosewasimprovingandhisVAwaswell-maintained,yet8monthslater,heexperiencedasuddendropofVAinthelefteye.Highintraocularpressure(54mmHg)andcorne-aledemawereobserved,buttherewasnomaculaedemainbotheyes.MildstenosisofthecarotidarteryC3wascon.rmedCviaCaCheadCMRACexamination.CConclusion:SGLT2CinhibitorsCmayCimproveCmacularCedemaCdueCtoCtheCdiuretice.ect,fromthesuddenprogressconsideredtherelationshipwithocularischemicsyndrome.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C38(5):567.572,C2021〕Keywords:SGLT2阻害薬,糖尿病網膜症,血管新生緑内障,眼虚血症候群,黄斑浮腫.SGLT2inhibitor,diabeticretinopathy,neovacularglaucoma,ocularischemicsyndrome,maculaedema.Cはじめにナトリウムグルコース共輸送体C2(sodium/glucoseCcotransporter2:SGLT2)阻害薬は,近位尿細管において糖の再吸収を阻害して尿糖排泄量を増加させることにより血糖値を低下させる新規経口血糖降下薬である.2014年C4月に1剤目のイプラグリフロジンが発売された当初は高齢者への投与において脳血栓などのリスクが懸念されたが,その後の評価で脱水や全身状態に注意すれば年齢を限らず使用可能とされた1).発売後C5年以上を経過した現在では,血糖降下作用以外に心疾患や腎障害に対する効果についてエビデンスが〔別刷請求先〕上野八重子:〒755-0005山口県宇部市五十目山町C16-23宇部協立病院内科Reprintrequests:UenoYaeko,UbeKyoritsuHospital,16-23Gojumeyama,Ube,Yamaguchi755-0005,JAPANC0910-1810/21/\100/頁/JCOPY(87)C567蓄積されたことや,インスリン分泌を介さない作用機序によりC1型糖尿病にも適応が拡大されており,抗糖尿病薬において中心的位置を占めてきている.今回,糖尿病性合併症のある若年患者にCSGLT2阻害薬を使用したところ,血糖値は改善したが,血管新生緑内障による眼圧上昇により急激な視力低下をきたしたので,原因を考察しつつ症例を呈示する.CI症例患者:40歳代,男性.主訴:下腿浮腫.既往歴:27歳で糖尿病を指摘.ケトーシスでの入院歴あり(他県の病院).過去最大体重:110Ckg(20歳代)家族歴:特記すべきことなし.Ca2016年11月(内科初診時)現病歴:27歳で糖尿病を指摘されたが,10年以上治療を放置した.2015年に職場検診にて糖尿病・高血圧症・脂質異常症を指摘され,宇部興産中央病院内科で糖尿病治療(インスリン療法)を開始した.同院眼科で両眼に前増殖網膜症を指摘されたがC3カ月後には事情で内科・眼科ともに治療を中断.2016年C11月,産業医より受診を勧められ宇部協立病院内科を初診.現症および検査所見:体重C81Ckg,血圧C191/100CmmHg,脈拍C105/分,右眼視力C0.07(0.8),左眼視力C0.05(0.8),血糖C422Cmg/dl(食後C2.5時間),HbA1c12.1%,GOT14CU/l,GPT19CU/l,CgGTP27CU/l,総コレステロールC267Cmg/dl,中性脂肪C652Cmg/dl,HDLコレステロールC43Cmg/dl,LDLコレステロール127mg/dl,WBC8,200μl,RBC553μl,CHbC15.4Cg/dl,Ht47.5%,尿蛋白(3+),尿潜血(2+),尿b2018年3月(内科定期受時時,左眼の見えにくさあり)図1内科で施行した眼底検査所見a:初診時には小出血や少数の軟性白斑を認め,軽度の前増殖型網膜症の所見.Cb:視力が悪化するC1週間前の所見.左眼の透見性がやや低下している.左黄斑部上方には硬性白斑を認める.左眼(水平断)図2視力悪化時に初診した眼科での左眼OCTおよび前眼部所見OCTでは黄斑浮腫は認めない.左眼虹彩瞳孔縁に明らかなルベオーシスが出現している.左眼虹彩ルベオーシス左眼(垂直断)ケトン体(C.).眼底写真:両側網膜に点状出血と少数の軟性白斑を認める(図1a).C1.内科での治療経過糖尿病腎症C3期と診断し降圧薬とメトホルミンを開始したが,その後は半年間来院がなく,2017年C6月に内服治療を再開した.空腹時血糖C364Cmg/dlと高く,メトホルミンC500mgに加えてCSGLT2阻害薬のイプラグリフロジンC50Cmgを開始した.6週間は内服継続したが,その後C4カ月間にわたり中断し,2017年C12月に来院した.HbA1cはC13.2%で著明な高血糖があり,イプラグリフロジンC50CmgとメトホルミンC500Cmgで治療再開した.その後治療は継続し,3カ月後にはCHbA1c10.9%まで改善した.2018年C3月当院内科にて無散瞳眼底検査を施行したところ出血の増悪や新生血管を疑わす所見は認めなかったが,左黄斑部上方に硬性白斑を少数認めた(図1b).その際に左眼がやや見えにくいと訴えたため,中断していた眼科への早急な受診を勧めた.2018年C3月下旬,1週前より左眼が急に見えなくなったと近医眼科を初診.左眼の虹彩ルベオーシス,著明な高眼圧(左眼C48CmmHg)を指摘され,眼底検査では出血・白斑は少数で単純.前増殖網膜症の所見であった.視力は右眼C0.06(1.0),左眼C0.02(0.15).眼圧は右眼C20CmmHg,左眼48CmmHg.網膜光干渉断層計(opticalCcoherenceCtomogra-phy:OCT)にて両眼とも黄斑浮腫を認めず.左眼前眼部に虹彩ルベオーシスあり(図2).左眼ブリモニジン(アイファガン),ドルゾラミド(トルソプト),リパスジル(グラナテック),ラタノプロスト(キサラタン)の点眼開始.血管新生緑内障の診断で同眼科より以前の病院眼科に紹介されC2日後に受診した.C2.眼科での所見と治療経過眼圧上昇(右眼C14CmmHg,左眼C54CmmHg)を認め,左眼は角膜浮腫を認め中央に角膜びらんを伴っており(図3)強い眼痛あり.視力は右眼C0.06(1.0),左眼C0.02(0.03).両眼虹彩面に新生血管(右眼<左眼)・右眼隅角全周に新生血管あり.左眼隅角は浮腫とびらんのため観察できなかったが,閉塞隅角であると推測され,両眼血管新生緑内障および両眼増殖糖尿病網膜症と診断した.両眼グラナック,キサラタン点眼,左眼アイファガン,トルソプト点眼に変更し,左眼オフロキサシン(タリビッド)眼軟膏を開始した.蛍光眼底検査は未施行であったが両眼虹彩ルベオーシスを認めるなど両眼に血管閉塞病変が強く疑われ,頸動脈および頭蓋内疾患検索のため,再初診C4日後に脳外科に紹介となった.頭頸部MRAを施行し右内頸動脈CC3に軽度の狭窄所見があり,反対側同部位にも石灰化を認めたが内頸動脈閉塞は認めず,脳外科的には問題なしとされた(図4).同日には左眼の角膜びらんが改善したため,再初診C1週後より両眼の汎網膜光凝固療法を開始.左眼視力(0.2p)で左眼隅角に著明な新生血管を認め抗血管内皮増殖因子(vasucularCendtherialCgrowthfactor:VEGF)薬注射を勧めたが費用の面で同意を得られなかった.そのC1週後には両眼虹彩炎が確認されベタメタゾンリン酸エステルナトリウム液(リンベタ)を開始した.右眼の眼圧は正常化したが左眼は眼圧降下治療に抵抗し高眼圧a右眼b左眼c左眼前眼部図3病院眼科紹介(再初診)時の所見a:軽度の前増殖網膜症が疑われる所見.Cb:角膜浮腫のため眼底を透見できない.Cc:角膜びらんを認める.図4頭部MRAの所見右内頸動脈CC3に軽度狭窄を認め,左内頸動脈同部位にも石灰化がめだつ(C.).(頸部CMRAでは有意な狭窄所見なし)と強度の眼痛が続いた.線維柱帯切除術は視力の回復があまり期待できず患者も消極的であり施行していない.7カ月後に行った右眼蛍光造影検査では光凝固の頻回施行にもかかわらず,右眼網膜血管からの漏出像や無血管領域を認めた(図5).左眼は角膜混濁があり施行困難であった.2019年C7月にCOCTを施行し両眼とも黄斑所見に異常は認めず.右眼視力はC0.05(0.7)と比較的維持されたが,左眼は高眼圧の持続で視神経萎縮をきたし光覚(-)となった.内科的には治療中断がなくCSGLT2阻害薬も継続している.2018年C10月にはCHbA1c8.0%,2020年C4月現在ではCHbA1c6.6%と改善している.CII考察血管新生緑内障により急激な視力低下を生じた症例を経験し,SGLT阻害薬投与との関連について検討した.SGLT2阻害薬は腎症や心血管障害への好影響が認められており3),CAmericanCDiabetesAssociation(ADA)およびCEuropeanCAssociationCforCtheCStudyCofDiabetes(EASD)のCconsen-susreportにおいてC.rst-lineの薬剤としても推奨されるに至っており糖尿病臨床において使用頻度が増加している4).イプラグリフロジンと同効薬であるエンパグリフロジンについての大規模スタディ(EMPA-REGOUTCOME)では網膜症への影響についてサブ解析が報告されている5).7,020人(平均年齢:63.1C±8.6歳,HbA1c:8.07C±0.85%)について平均C3.1年のフォローの結果,網膜症出現や悪化の頻度はエンパグリフロジン群ではC1.6%とCplaceboのC2.1%を下回り,改善していると評価されているが有意差はない(HR0.78,p=0.1732).同報告のなかでエンパグリフロジン群の失明は4例でCplaceboにおける失明C2例より多かったが,少数のた図5光凝固療法開始7カ月後の蛍光眼底写真(右眼)頻回の光凝固にもかかわらず,網膜血管からの漏出や無血管領域を認める.左眼は角膜混濁にて撮影不能であった.め有意差検定はされておらず失明例の詳細も不明である.一方,SGLT2阻害薬には黄斑浮腫を改善する効果があることが複数症例での検討や後ろ向き研究により報告されている6,7).津田らがまとめたC1996年の報告では,長期放置後の治療開始時に単純網膜症や前増殖網膜症を認めC6カ月以内に悪化した症例では,ほぼ全例で黄斑症を合併していたとされ,0.7以下の視力低下の原因はすべて黄斑症であったとされている8).今回の症例では糖尿病性腎症およびネフローゼ症候群を合併しており,治療開始時に前増殖網膜症の初期と診断されていたため,当初より網膜症の悪化や黄斑浮腫の発症が懸念されていた.緑内障による視力低下発症時に初診した近医眼科でC2018年C3月下旬に施行した左眼COCTにて黄斑浮腫をまったく認めなかった点が,糖尿病治療放置症例としてはやや異例の経過であった.当院内科初診時のC2016年11月に施行した左眼眼底写真では認めなかった硬性白斑が2018年C3月の眼底写真では少数出現しており,このC1年C4カ月の間に何らかの網膜浮腫が存在したことを示唆すると思われた.SGLT2阻害薬の投与で黄斑浮腫が抑制された可能性もあるが,高度に虚血を伴った増殖網膜症でも黄斑浮腫を伴わない症例も存在する.左眼COCTでは虚血を示唆する所見は認めなかったが,蛍光造影検査が未施行であるため正確な評価はむずかしい.黄斑浮腫の存在や硝子体出血で生ずる視力低下を自覚することなく,血管新生緑内障が悪化するまで眼科を受診しなかったことで高度な視力障害に至ったと考えられた.一方,突然の視力低下をきたしたもう一つの背景として眼虚血症候群(ocularCischemicsyndrome:OIS)がベースとなった可能性について検討した.この患者の特徴としてC40歳代という若年にもかかわらず頭部CMRAにて眼動脈の分岐部近傍の右内頸動脈CC3部分に狭窄を認めた.左内頸動脈の同部位にも石灰化があり,血管新生緑内障発症の背景として,もともと眼循環に異常があった可能性が否定できない.動脈硬化に関連した糖尿病網膜症とCOISの関連についての総説9)によれば,内頸動脈閉塞のない症例でも眼虚血に起因すると考えられる血管新生緑内障の報告がある.OISのC20%は両側性に病変を生ずるとされる.また,白内障手術など眼科的処置の際には脳血管障害の状態や眼循環を評価することが重要とされている.この症例が病院眼科を再初診した際には,角膜浮腫とびらんにより左眼眼底は透見不能で蛍光造影検査は施行できず,7カ月後に右眼蛍光造影検査を行った結果では蛍光色素の流入遅延や腕網膜循環遅延は認められなかったため,積極的にCOISと診断する根拠に乏しい.しかし,当院にて行った頸動脈エコーでは左内頸動脈起始部付近にC1.7CmmのCsoftplaqueを認め,左内頸動脈の最高血流速度はC24Ccm/秒と異常低値を示し,右側はC38Ccm/秒とやや低値であり,かつ左右の速度に有意な差があった.当症例は糖尿病歴が長く両眼前眼部に多数の新生血管を認めており,血管新生緑内障は増殖糖尿病網膜症に起因する続発緑内障と考えるのが一般的である.しかし,眼底所見では増殖性変化を認めないまま隅角ルベオーシスまで急激に進行したことより,動脈硬化の進行をベースとした左右内頸動脈の血流速度低下が眼循環低下に関連した可能性もあると考えた.この症例で使用したCSGLT2阻害薬と眼虚血との関連についての報告は検索した範囲にはなく,イプラグリフロジンの発売後調査の結果により両者の関連を検討した.イプラグリフロジン発売直後C2014年C4月.8月までの短期間にC12例の脳梗塞が報告されており,開始後C9日目で発症したという症例報告もあった10).イプラグリフロジン販売後C1年半での調査では重篤な眼障害がC6件あり,糖尿病網膜症C1件,虚血性視神経症C1件,網膜動脈閉塞症がC1件,眼瞼浮腫C5件のうち2件が重篤とされていた.さらに涙器障害C1件が重篤とされていた(詳細な情報はない).眼圧については言及がなく,眼痛・霧視・視力障害など緑内障や眼圧上昇との関連が否定できない症状がC8例あった.これらがCSGLT2阻害薬に直接起因する副作用であるかどうかは不明であるが,いずれにしても投与開始時に生ずる脱水や低血圧症が脳梗塞や網膜循環不全に関連する可能性については軽視できず,今後もSGLT2阻害薬使用症例における眼合併症への影響を考慮した経過観察が必要と考えられた.CIII結語若年者であっても重症かつ病歴の長い糖尿病患者に新規糖尿病治療薬CSGLT2阻害薬を使用する際には,動脈硬化症を評価し,眼虚血リスクのある症例では血管新生緑内障の発生に注意する必要がある.眼圧や前眼部変化について眼科での定期的なチェックが望ましい.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)SinclairCJ,CBodeCB,CHarrisS:E.cacyCandCsafetyCofCcana-gli.ozininindividualsaged75andolderwithtype2dia-betesmellitus:Apooledanalysis.JAmGeriatrSocC64:C543-552,C20162)橋本洋一郎,米村公伸,寺崎修司ほか:総説眼虚血症候群─神経超音波検査の役割─.Neurosonology17:55-61,C20043)DaviesCJ,CD’AlessioCA,CFradkinCJCetal:ManagementCofChyperglycemiaintype2diabetes,2018.AconsensusreportbyCtheCAmericanCDiabetesAssociation(ADA)andCtheCEuropeanCAssociationCforCtheCStudyCofDiabetes(EASD)C.CDiabetesCareC41:2669-2701,C20184)ZinmanB,WannerC,LachinMetal:EMPAREGOUT-COMECInvestigators.CEmpagli.ozin,CcardiovascularCout-comes,CandCmortalityCinCtypeC2Cdiabetes.CNCEnglCJCMedC373:2117-2128,C20155)InzucchiE,WannerC,HehnkeUetal:Retinopathyout-comesCwithCempagli.ozinCversusCplaceboCinCtheCEMPA-REGOUTCOMETrial.DiabetesCare2019CJan;dc1813556)前野彩香,前田泰孝,宮崎亜希ほか:SGLT2阻害薬で改善を認めた糖尿病黄斑浮腫のC4症例.糖尿病61:253,C20187)MienoCH,CYonedaCK,CYamazakiM:TheCe.cacyCofCsodi-um-glucoseCcotransporter2(SGLT2)inhibitorsCforCtheCtreatmentCofCchronicCdiabeticCmacularCoedemaCinCvitrect-omisedeyes:aCretrospectiveCstudy.CBMJCOpenCOphthal-molC3:e000130,C20188)津田晶子,千葉泰子,矢田省吾ほか:長期間血糖コントロール不良放置例C39例における治療開始後の網膜症の変化─黄斑症の重要性について.糖尿病C39(Suppl1):305,19969)吉成元孝:眼外循環と糖尿病網膜症.糖尿病C47:786-788,C200410)阿部眞理子,伊藤裕之,尾本貴志ほか:SGLT2阻害薬の投与開始後C9日目に脳梗塞を発症した糖尿病のC1例.糖尿病C57:843-847,C2014***

Purtscher様網膜症で血管新生緑内障を合併し手術に至った1例

2020年11月30日 月曜日

《原著》あたらしい眼科37(11):1449.1454,2020cPurtscher様網膜症で血管新生緑内障を合併し手術に至った1例西島崇敬田中克明武田義玄高木理那榛村真智子木下望髙野博子蕪城俊克梯彰弘自治医科大学附属さいたま医療センター眼科CACaseofPurtscher-likeRetinopathywithNeovascularGlaucomaLeadingtoSurgeryTakayukiNishijima,AkihiroTanaka,YoshiharuTakeda,RinaTakagi,MachikoShinmura,NozomiKinoshita,HirokoTakano,ToshikatsuKaburagiandAkihiroCKakehashiCDepartmentofOphthalmology,JichiMedicalUniversitySaitamaMedicalCenterC緒言:整形外科手術施行後の患者がCPurtscher様網膜症に血管新生緑内障を合併し,手術に至ったC1例を報告する.症例:74歳,男性.当院整形外科にて両側大腿骨頭壊死に対して両側人工股関節置換術を施行された.手術後C18日目に右眼の視力低下を訴え,当科を受診となった.初診時の矯正視力は右眼(0.02),左眼(1.2).両眼底に軟性白斑を認めた.病歴と所見より,Purtscher様網膜症と診断した.初診時よりC2日後に右眼眼圧上昇,隅角出血,蛍光造影検査時に前房内へのフルオレセイン漏出もみられ,血管新生緑内障と診断した.右内頸動脈の高度狭窄と右後頭葉梗塞が確認されたため,眼虚血が強く緊急性が高いと判断し,硝子体手術併用アーメド緑内障インプラントおよび術中に網膜光凝固を施行した.術後の眼圧は安定し,現在は矯正視力C0.3まで改善している.結論:Purtscher様網膜症からも虚血の程度によっては早期に血管新生緑内障に至る場合もあり,経過観察は慎重に行うべきと考える.CPurpose:ToreportacaseofapatientwithcombinedPurtscher-likeretinopathyandneovascularglaucoma(NVG)postorthopedicsurgery.Casereport:A74-year-oldmancomplainedofdecreasedcorrectedvisualacuity(VA)inhisrighteye18-daysafterbilateralhip-replacementsurgery.Inhisrightandlefteye,theVAwas0.02and1.2,respectively,andfundusexaminationrevealedsoftexudates.At2-dayspostinitialpresentation,increasedintraocularpressure(IOP)andC.uoresceinCleakageCintoCtheCanteriorCchamberCwereCobserved,CandCheCwasCdiag-nosedCwithCNVG.CSevereCstenosisCofCtheCrightCinternalCcarotidCarteryCandCrightCoccipitalClobeCinfarctionCwereCcon.rmed.COcularCischemiaCwasCjudgedCtoCbeCstrongCandCofCurgentCconcern,CthusCresultingCinCAhmedCglaucomaCvalveimplantationcombinedwithvitreoussurgerybeingimmediatelyperformed.Postsurgery,theIOPwasstableandCtheCright-eyeCcorrectedCVACimprovingCtoC0.3.CConclusion:EvenCinCPurtscher-likeCretinopathyCcases,CNVGCmaydevelopearlydependingonthedegreeofischemia.Thus,strictfollow-upisrequired.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C37(11):1449.1454,C2020〕Keywords:Purtscher様網膜症,Purtscher網膜症,血管新生緑内障,アーメド緑内障インプラント.Purtscher-likeretinopathy,Purtscher’sretinopathy,neovascularglaucoma,Ahmedglaucomavalveimplantation.CはじめにPurtscher網膜症およびCPurtscher様網膜症は網膜血管閉塞性疾患である1).Purtscher網膜症が外傷に起因する網膜血管閉塞性疾患であるのに対し,Purtscher様網膜症は全身疾患や手術手技などに起因して発症する網膜血管閉塞性疾患である2).Purtscher網膜症はC1910年にCPurtsherが頭部打撲の患者で報告したものが最初であり,典型的な所見は両眼の眼底に多発する綿花状軟性白斑と網膜内出血である3).今回,筆者らは人工股関節置換術後の患者がCPurtscher様網膜症を発症し,内頸動脈狭窄を合併して血管新生緑内障を発症したため手術に至ったC1例を経験したので報告する.〔別刷請求先〕西島崇敬:〒330-0834埼玉県さいたま市大宮区天沼町C1-847自治医科大学附属さいたま医療センター眼科Reprintrequests:TakayukiNishijima,DepartmentofOphthalmology,JichiMedicalUniversitySaitamaMedicalCenter,1-847CAmanumacho,Oomiyaku,Saitama-shi,Saitama330-0834,JAPANCab図1両眼の眼底写真a:初診時.両側で綿花様白斑(Purtscher.ecken)の散在がみられた.Cb:術後.両側で綿花様白斑は軽快がみられた.I症例患者:74歳,男性.初診日:2017年C8月8日.主訴:右眼の視力低下.既往歴:虫垂炎,高血圧,高脂血症,再生不良性貧血,両眼内レンズ挿入眼.現病歴:自治医科大学附属さいたま医療センター(以下,当院)の整形外科にて大腿骨頭壊死に対して両側人工股関節置換術を施行された.手術施行後C18日目,右眼の視力低下を訴えて当院眼科(以下,当科)を受診となった.初診時所見:視力は右眼C0.01(0.02),左眼C1.2(1.2).眼圧は右眼C23CmmHg,左眼C14CmmHgであった.前房は保たれており,炎症細胞を認めず,角膜は混濁や浮腫なく,その他の前眼部所見にとくに異常は認められなかった.両眼の眼底所見としては,多発する軟性白斑を認めた(図1a).Gold-mann視野計による視野検査では,右眼の中心暗点,両眼の左下C1/4盲がみられた(図2a).視野所見から脳梗塞の合併を疑い,初診日の翌日に頭部CMRI/頸部CMRAを施行した.精査の結果,右後頭葉に脳梗塞所見を認めた.また,右内頸動脈に高度狭窄を認めた(図3).以上の病歴と所見より,Purtscher様網膜症の診断に至った.経過:初診時よりC2日後に右眼の眼圧上昇(36CmmHg),隅角出血を認めた.フルオレセイン蛍光造影検査では右眼に著明な造影剤の灌流遅延を認めた(図4).角膜混濁のため隅角,虹彩に新生血管は確認できなかったが,不鮮明ではあるが,前房内へのフルオレセインの漏出がみられ,血管新生緑内障と診断した.まずは網膜光凝固も考慮したが,角膜浮腫が強く施行を断念した.同日,アスピリンC100Cmg内服,降圧薬点眼(ラタノプロスト,ブリモニジン酒石酸塩,リパスジル塩酸塩水和物,ドルゾラミド塩酸塩,チモロールマレイン酸塩),アセタゾラミドC1,000Cmg内服,D-マンニトール点滴を開始し,網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮の合併も疑い抗血管内皮増殖因子薬(アフリベルセプト)硝子体注射を施行した.初診後C7日目にはいったんは眼圧C6CmmHgまで改善がみられた.しかし,右内頸動脈の高度狭窄と右後頭葉梗塞も認めており,眼虚血が強く,急性発症で予後不良症例と判断し,初診後C8日目に硝子体手術併用アーメド緑内障インプ図2両側の動的視野検査a:初診時.右眼の中心暗点,両眼の左下C1/4盲あり.Cb:術後.中心暗点の残存を認めるものの,左下C1/4盲はやや改善がみられた.ラントおよび術中に網膜光凝固を施行した.アーメド緑内障インプラントは,前房留置用を硝子体扁平部よりチューブを硝子体腔に留置した(院内臨床倫理委員会承認済).初診後16日目にアスピリンC100Cmg,クロピドグレル硫酸塩C75Cmgに内服変更し,初診後C21日目に当院脳神経外科にて内頸動脈狭窄に対して頸動脈ステント留置術が施行された(図5).術後はおおむね眼圧C15CmmHg程度で安定して経過し,現在は眼底の白斑は改善しており(図1b),矯正視力C0.3まで改善が得られている.視野は中心暗点の残存を認めるものの,左下C1/4盲はやや改善を認めた(図2b).CII考按Purtscher網膜症はC1910年にCOtmarPurtscherにより,樹から落下した頭部外傷の症例で報告された網膜の血管閉塞性疾患である1).手術手技,全身疾患,急性膵炎,腎不全,結合組織病などの外傷以外が原因のものはCPurtscher様網膜症とされている2).原因は多岐に及び,重量挙げ4)や落雷5)などによる発症も報告されている.多くが両眼性で,視力障害は外傷や関連する疾患から数時間から数日遅れて発症し,中心暗点,傍中心暗点,弓状暗点などの視野障害もみられる.眼底所見としては網膜綿花様白斑,火炎状シミ状出血の所見がみられ,蛍光造影検査では網膜細動脈レベルでの閉塞による灌流遅延,後期相での遅延漏出,視神経からの漏出がみられることもある.以上の臨床所見と蛍光造影検査所見から診断に至る.今回の症例は,整形外科的手術後に視力低下を主訴に発症した症例であり,両眼の網膜に綿花様白斑を認め,蛍光造影検査では灌流遅延を認めていた.また視野検査結果より右後頭葉に脳硬塞を認め,右内頸動脈狭窄も認めていたことから,本症例では,もともと内頸動脈狭窄狭窄に伴う眼虚血の状態が起きており,手術に伴うCPurtscher様網膜症が関与して右眼の血管新生緑内障が急激に進んだと考える.治療としては,本来は予後良好のため多くは経過観察,もしくはステロイド投与で視機能の改善が報告されている6)が,エビデンスのある治療法はいまだに確立されていない.大部分の患者で治療なしでC1.3カ月で外傷前レベルに戻る視覚機能の緩徐な経過をたどることが多く,予後は比較的良好な疾患とされている2,6).本症例では硝子体注射を施行して一時的に高眼圧状態の解除はできたものの,高眼圧に伴う角膜の浮腫が強いために網膜光凝固がむずかしく,また,内図3頭部MRI,頸部MRA右後頭葉に脳梗塞所見,右内頸動脈に高度狭窄を認めた.図4両眼のフルオレセイン蛍光造影検査右眼に造影剤の著明な灌流遅延を認めた.頸動脈狭窄症を合併しているため眼虚血症状のさらなる増悪ると考えられる.の可能性も考えられたため,手術を行った.眼虚血が軽度の本疾患の明確な病態はいまだ解明されていないが,虚血再場合であれば経過観察で対処が可能な症例が多いとされてい灌流障害による毛細血管レベルの障害が両眼に起こったものるが,本症例のように新生血管緑内障を合併するような高度と考える.本症例は以前に筆者らが報告した急性心筋梗塞にな虚血を認める場合は,手術による積極的な加療も適応とな対する経皮的冠動脈形成術後の網膜症8)に酷似した所見,臨術前術後図5右内頸動脈造影検査右内頸動脈狭窄に対して頸動脈ステント留置術が施行され,内頸動脈の狭窄の改善認めた.床経過である.経皮的冠動脈形成術後による虚血再灌流障害が起こり,その結果として白血球が活性化され毛細血管レベルでのCretinalleukostasisが惹起され,眼底に出血や軟性白斑が認められたと推察している.本症例では,慢性的内頸動脈狭窄が手術を契機に一過性の内頸動脈の完全閉塞を惹起し,その結果として虚血再灌流障害が発生し経皮的冠動脈形成術後の網膜症とほぼ同様な病態で発症したものと推測される.とくに右眼は右内頸動脈閉塞に伴う網膜虚血そのものも関与したため,血管新生緑内障までに至ったものと思われる.本症例のように血管新生緑内障にはバルベルト緑内障インプラントやアーメド緑内障バルブインプラント挿入も適応となる9).今回はアーメド緑内障バルブ挿入術を施行した.アーメド緑内障バルブは調圧弁をもつドレナージ装置であり,シリコーン製のチューブと内圧C8.12CmmHgで開く調圧弁をもつプレートから構成されている.チューブを眼内に差し込み,流出する房水をプレート部分でその周囲に形成される結合組織の被膜を通して周囲組織に吸収させることで眼圧を下げる構造となっている.アーメド緑内障バルブはこのような構造により術直後の低眼圧が起こりにくいという特徴をもち,当科では重症緑内障患者に対して良好な手術成績を残している10,11).過去の論文検索において,Purtscher網膜症またはCPurtscher様網膜症で血管新生緑内障を合併した症例は筆者らの知る限りではC2例のみである12,13)が,本症例のように手術に至った症例報告はない.そのC2例では狭心症,糖尿病,急性腎不全などの基礎疾患歴や合併疾患あるが,2例のいずれの症例においても眼症状が出現してからC1カ月以降に血管新生緑内障を認めている.一方,本症例では,もともとの内頸動脈による重度の眼虚血があり,手術後のCPurtscher様網膜症が契機となって急激に新生血管緑内障が引き起こされたと考える.Purtscher様網膜症は予後良好な疾患とされているが,虚血の程度によっては早期に血管新生緑内障に至る場合もあり,経過観察は慎重に行うべきであると考える.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)PurtscherO:NochCunbekannteCBefundeCnachCSchadel-trauma.BerDeutschOphthalmolGesC36:94-301,C19102)AgrawalCA,CMcKibbinMA:PurtscherC’sCandCPurtscher-likeretinopathies:aCreview.CSurvCOphthalmolC51:129-136,C20063)ProencaCPinaCJ,CSsi-Yan-KaiCK,CdeCMonchyCICetal:Purtscher-likeretinopathy:casereportandreviewoftheliterature.JFrOphtalmolC31:609,C20084)KocakN,KaynakS,KaynakTetal:UnilateralPurtscher-likeCretinopathyCafterCweight-lifting.CEurCJCOphthalmolC13:395-397,C20035)SharmaA,ReddyYCVG,ShettyAPetal:ElectricshockinducedPutsches-likeretinopathy.IndianOphthalmolC7:C1497-1500,C20196)AtabayCC,CKansuCT,CNurluCGCetal:LateCvisualCrecoveryCafterintravenousmethylprednisolonetreatmentofPurtscher’sretinopathy.AnnOphthalmolC25:330-333,C19937)MiguelCAIM,CHenriquesCF,CAzevodoCLERCetal:SystemicreviewCofpurtscher-likeCretinopathyies.CEye(Lond)C27:C1-13,C20138)KinoshitaCN,CKakehashiCA,CYasuCTCetal:ACnewCformCofCretinopathyCassociatedCwithCmyocardialCinfarctionCtreatedCwithpercutaneouscoronaryintervention.BrJOphthalmolC88:494-496,C20049)SudaM,NakanishiH,AkagiTetal:BaerveldtorAhmedglaucomaCvalveCimplantationCwithCparsCplanaCtubeCinser-tioninJapaneseeyeswithneovascularglaucoma:1-yearoutcome.ClinOphthalmolC12:2439-2449,C201810)上原志保,小林未奈,髙木理那ほか:増殖糖尿病網膜症に続発する血管新生緑内障に対する毛様体扁平部バルベルト緑内障インプラントの初期成績.あたらしい眼科C33:291-294,C201611)髙木理那,小林未奈,田中克明ほか:重症緑内障に対するアーメド緑内障バルブインプラント術の初期成績.あたらしい眼科35:116-119,C201812)KurodaCM,CNishidaCA,CKikuchiCMCetal:PurtscherC’sCreti-nopathyfollowedbyneovascularglaucoma.ClinOphthal-molC7:2235-2237,C201313)SanchezCVicenteCJL,CCastillaCMartinoCM,CContrerasCDiazCMetal:Purtscher-likeretinopathyprecedingacuterenalfailure.ArchSocEspOftalmolC93:198-201,C2018***

眼虚血症候群による血管新生緑内障に対してマイクロパルス毛様体光凝固術を施行した1例

2020年8月31日 月曜日

《第30回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科37(8):989.993,2020c眼虚血症候群による血管新生緑内障に対してマイクロパルス毛様体光凝固術を施行した1例牧野想*1,2藤代貴志*2杉本宏一郎*2坂田礼*2村田博史*2朝岡亮*2本庄恵*2相原一*2*1国立国際医療研究センター病院眼科*2東京大学医学部附属病院眼科CMicropulseCyclophotocoagulationforNeovascularGlaucomaCausedbyOcularIschemicSyndromeSoMakino1,2)C,TakashiFujishiro2),KoichiroSugimoto2),ReiSakata2),HiroshiMurata2),RyoAsaoka2),MegumiHonjo2)andMakotoAihara2)1)DepartmentofOphthalmology,CenterHospitalofNationalCenterforGlobalHealthandMedicine,2)DepartmentofOphthalmology,TheUniversityofTokyoHospitalC目的:内頸動脈狭窄に伴う眼虚血症候群による血管新生緑内障に対して内頸動脈血行再建術を施行した場合,術後に急激な眼圧上昇をきたすという報告がある.今回,頸動脈ステント留置術(carotidarterystenting:CAS)に先行したマイクロパルス毛様体光凝固術(micropulsecyclophotocoagulation:MPCPC)で眼圧コントロールできた症例を報告する.症例:68歳,男性.右視野異常を自覚し前医受診,開放隅角緑内障の診断で眼圧降下薬点眼を開始されたが,その後眼圧の再上昇と急速な視野障害の進行あり当院紹介となった.右眼矯正視力低下,眼圧高値,虹彩ルベオーシス,全周隅角閉塞を認めた.頸動脈超音波検査で右内頸動脈高度狭窄あり,右眼虚血症候群による血管新生緑内障と診断,脳外科のCCASに先行して右眼CMPCPCを施行した.CAS後,虹彩ルベオーシス消退と眼圧低下を認め,以後経過良好である.結論:内頸動脈狭窄に伴う血管新生緑内障に対して,CASに先行したCMPCPCで急激な眼圧上昇を抑えることができた.CPurpose:Toreportacaseofneovascularglaucoma(NVG)causedbyocularischemicsyndrome(OIS)follow-inginternalcarotidartery(ICA)stenosisinwhichintraocularpressure(IOP)wascontrolledbymicropulsecyclo-photocoagulation(MPCPC)C.Casereport:A68-year-oldmalewhohadbeenusingeye-dropmedicationforlower-ingincreasedIOPdueopen-angleglaucomainhisrighteyewasreferredtoourhospitalaftertheIOPonce-againincreasedandvisual-.elddefectworsened.Examinationofhisrighteyerevealedavisualacuityof(0.2)C,anIOPof21CmmHg,CrubeosisCiridis,CandCaCclosedCangleCbyCperipheralCanteriorCsynechia.CCarotidCultrasonographyCshowedCseverestenosisoftherightICA,andwediagnosedNVGcausedbyOIS.WeperformedMPCPC,followedbycarot-idarteryCstenting(CAS)C.AfterCCAS,CtheCrubeosisCiridisCfadedCandCIOPCdecreased,CandCtheCpatientCmadeCsteadyCprogress.Conclusion:ForNVGcausedbyICAS,MPCPCfollowedbyCAScansuppressasuddenriseinIOP.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C37(8):989.993,C2020〕Keywords:眼虚血症候群,血管新生緑内障,内頸動脈狭窄症,内頸動脈ステント留置術,マイクロパルス毛様体光凝固術.ocularischemicsyndrome(OIS)C,neovascularglaucoma(NVG)C,internalcarotidarterystenosis(ICAS)C,carotidarterystenting(CAS)C,micropulsecyclophotocoagulation(MPCPC)C.Cはじめにによる急性の視力低下・視野障害と,慢性的な循環不全によ内頸動脈狭窄症(internalcarotidarterystenosis:ICAS)る眼虚血症候群(ocularCischemicsyndrome:OIS)に分けに伴う眼症状は,内頸動脈内壁から.脱したプラークの塞栓られる1).OISは多彩な眼症状を呈するが,そのなかでも血〔別刷請求先〕牧野想:〒113-0033東京都文京区本郷C7-3-1東京大学医学部附属病院眼科Reprintrequests:SoMakino,M.D.,DepartmentofOphthalmology,TheUniversityofTokyoHospital7-3-1Hongo,Bunkyo-ku,Tokyo113-0033,JAPANCabc図1前医における右眼のHumphrey視野検査の経過a:X.1年C10月施行.上図:右眼.上方と鼻側下方の視野欠損を認める.下図:左眼.有意な視野欠損は認めない.b:2週間後.下方の視野障害の悪化傾向を認める.Cc:3カ月後.中心鼻側下方の視野障害の悪化傾向を認める.管新生緑内障(neovascularglaucoma:NVG)を生じた際には治療に難渋することが多い1).OISに伴うCNVGの加療は汎網膜光凝固術が標準的であるが,対症療法にすぎず,効果は限定的ないし無効であるという報告も多い2).さらに,ICASに伴うCOISによるCNVGに対する根本的治療は内頸動脈血行再建術であるが,施行後には急激な眼圧上昇をきたすという報告もある3).今回,東京大学医学部附属病院(以下,当院)眼科にて,ICASに伴うCOISに合併したCNVGと診断し,内頸動脈血行再建術前にマイクロパルス毛様体光凝固術を施行して眼圧コントロールができたC1例を経験したので報告する.CI症例症例はC68歳,男性.狭心症の既往があり,約C20年前に経皮的冠動脈形成術をC3カ所施行されて以降,アスピリン100CmgとクロピドグレルC75Cmgを内服している.飲酒歴はないが,10本/日C×40年間の喫煙歴がある.CX.1年C8月に右眼の視力低下とまだら状の視野異常を自覚され,前医を受診.初診時の右眼矯正視力は(0.3C×sphC.1.0D(cyl.0.5DAx60°),右眼眼圧は18mmHgであった.X.1年C10月にCHumphrey視野検査(HumphreyC.eldanalyzer:HFA)30-2が施行され,右眼の上方と鼻側下方の視野欠損を認めた(図1a).頭蓋内精査目的に磁気共鳴画像診断装置(magneticCresonanceimaging:MRI)画像検査施行のうえで脳外科にコンサルトされたが,全脳と視神経に異常所見は認めなかった.以上から,右眼開放隅角緑内障の診断で,カルテオロール塩酸塩/ラタノプロスト右眼1回/日にて点眼加療が開始された.点眼加療開始後C2週間で右眼眼圧はC15CmmHgまで低下したが,HFA30-2において右眼下方の視野障害は悪化傾向であった(図1b).3カ月後のCX年C1月には右眼眼圧はC21CmmHgに再上昇し,HFA30-2において右眼の中心鼻側下方の視野障害の悪化傾向を認めた(図1c)ため,精査加療目的に当院眼科外来に紹介となった.当院初診時の視力は右眼0.15(0.2C×sph.0.50D(cyl.0.75CDAx60°),左眼0.7p(1.0pC×sph.1.00D(cyl.0.50DCAx140°)であり,眼圧は右眼C21mmHg,左眼C12mmHgであった.瞳孔径は右眼C4Cmm,左眼C2.5Cmmと左右差を認め,直接対光反射も右眼は遅鈍,左眼は迅速であったが,swingingC.ashlighttestにおいて両眼ともに縮瞳は維持されていた.細隙灯顕微鏡検査において,右眼に虹彩ルベオーシス,両眼白内障軽度を認める以外は,前眼部に異常所見は認めなかった(図2a,b).隅角鏡検査において,右眼は下方のみCSha.er分類でCGrade3,その他CGrade0で周辺虹彩前癒着による閉塞を認めた.左眼は全周CGrade4であった.眼底検査では色調の左右差や出血,白斑,動脈狭窄などの明らかな異常所見は認めなかった.以上から,右眼CNVGと診断し,原因精査目的に同日に血液検査と頸動脈超音波検査を施行した.血液検査においては,活性化部分トロンボプラスチン時間(activatedCpartialCthromboplastintime:APTT)36.3秒,フィブリノゲンC401Cmg/dlと軽度凝固能異常を認める以外は,炎症反応や糖尿病を含めた全身疾患を示唆する所見は認めなかった.頸動脈超音波検査においては右内頸動脈(internalCcarotidartery:ICA)近位部高度狭窄を認め,遠位部は血流速度の低下を認め,右眼CNVGの原因として右abc図2細隙灯顕微鏡検査写真a:初診時の右眼(左図)と左眼(右図)の前眼部写真.瞳孔径の左右差と右眼の虹彩ルベオーシスを認める.Cb:初診時.右眼の虹彩ルベオーシス(.)を認める.Cc:CAS施行C2週間後.右眼の虹彩ルベオーシスは消退した.図3フルオレセイン蛍光眼底造影写真a:動脈相,b:静脈相.明らかな無灌流域や虚血部位の存在は認めない.ICASによるCOISが考えられた.脳神経外科にコンサルトし,右眼CNVGに対して,本症例においては狭心症の既往から追加で施行された頭部磁気共鳴血管画像(magneticresonance抗血小板薬C2剤を内服もしており,線維柱帯切除術などの手angiography:MRA)においても右CICA高度狭窄の所見で術は出血のリスクが高いと考えた.また,内頸動脈血行再建あり,脳神経外科にて頸動脈造影検査,さらにその翌週に内術後の眼圧上昇のリスクも考慮し,CASに先行して右眼マ頸動脈ステント留置術(carotidarterystenting:CAS)が予イクロパルス毛様体光凝固術(micropulseCcyclophoto-定された.coagulation:MPCPC,power2,000CmW,dutyCcycleC31.1C%,上下半周C80秒ずつ照射)を施行した.2週間後にCCASが施行され,頸動脈の良好な拡張と頭蓋内CICAへの流入の改善を確認したうえで手術は終了した.CAS施行C2週間後の眼科再診時には,隅角閉塞所見は著変ないものの,虹彩ルベオーシスは消退(図2c)し,眼圧も右眼C10CmmHg(左眼C10CmmHg)まで下降した.MPCPC施行後約C5週間の時点で眼圧は右眼C17CmmHg,左眼C17CmmHgと有意な上昇は認めないものの,右眼結膜充血軽度,角膜全面の点状表層角膜炎,前房内セルC0.5+を認め,遷延性虹彩毛様体炎が疑われたためサンベタゾン点眼(右眼C4回/日)を追加した.そのC1カ月後には右眼の前房内炎症は改善したため,サンベタゾン点眼は中止した.このとき,右眼C19mmHg,左眼C16CmmHgと軽度右眼眼圧上昇を認めたが,以降はCMPCPCとCCAS施行後C8カ月までの経過において右眼眼圧C12.16CmmHg,左眼眼圧C12.15CmmHgと眼圧コントロールは良好であった.一方,右眼の視力はCMPCPCとCAS施行直後の(0.2Cp)からC8カ月後には(0.05)と低下傾向にあったが,原因は白内障の進行であると考えられた.CAS施行後C4カ月にはフルオレセイン蛍光眼底造影検査(.uoresceinCfundusangiography:FAG)を施行し(図3),明らかな無灌流域や虚血部位の存在はないことを確認し,汎網膜光凝固術の必要性はないと判断した.CII考按ICASに伴う慢性的な循環不全によりCOISは引き起こされる1)が,OISはとくに高度狭窄から完全閉塞に至った頸動脈病変によって同側性に引き起こされる4).本症例においても頸動脈超音波検査やCMRA検査において右CICAの高度狭窄が明らかとなり,これに伴い右眼COISが引き起こされたと考えられた.OISは多彩な所見を呈する疾患であり,前眼部所見としては対光反射減弱,ぶどう膜炎,白内障,虹彩萎縮,虹彩ルベオーシス,後眼部所見としては点状または斑状の網膜出血,軟性白斑,網膜動脈の狭小化,網膜や視神経乳頭の新生血管,硝子体出血を認めることがあり,とくに前眼部病変より後眼部病変のほうが高頻度に出現するとされる5).一方,本症例においては眼底における虚血を疑う所見に乏しかったが,前眼部に対光反射減弱,虹彩ルベオーシスを認めた.NVGは局所的な血管新生刺激による線維血管膜の増殖に伴う房水流出抵抗の増大によって起こる高眼圧状態とそれによって引き起こされる緑内障であり,3大原因疾患として,糖尿病網膜症(33%),網膜中心動脈閉塞症(33%),眼虚血症候群(13%)があげられ6),これらの疾患でCNVGの原因の約C80%を占める.つまり,NVGを疑った際にはこれらの疾患の可能性を考える必要がある.さらに,本症例のように眼底所見からは糖尿病網膜症を疑う両眼性の網膜出血や白斑,網膜中心動脈閉塞症を疑う網膜色調の変化などの特徴的所見を認めない場合には,とくにCOISを疑い,頸動脈病変の有無の検索目的に頸動脈超音波検査の施行,血管炎などの全身疾患の有無の検索目的に採血検査の施行が必要であると考えられる.また,検鏡的には判断困難な虚血の状態の確認目的にCFAGも有用であると考えられたが,肝機能・腎機能などの他臓器を含めた全身状態の確認ができていなかったこと,頸動脈超音波検査においてCICAの狭窄部位遠位の血流は速度の低下はあるものの保たれていたこと,脳神経外科での精査加療が急がれると判断したことから,本症例では術前には行わなかった.本症例では,全身状態の確認ができ,脳神経外科によるCCAS施行後の経過も安定した時点でCFAGを施行し,明らかな無灌流域や網膜・視神経乳頭新生血管の存在は認めなかった.ICASに伴うCOISの症例において,ICAの血行再建によって虹彩ルベオーシスの消退,眼底における白斑の消失,視力などの視機能改善が得られたという報告がある7).また,ICASの症例においては,おもに外頸動脈から側副血行路が形成されることにより眼動脈血流は維持される場合も多いとされ,本症例においても頸動脈超音波検査の結果も考慮すると,側副血行路が形成された可能性や,慢性的な比較的虚血状態にはあるものの,網膜血流の完全な途絶はなかった可能性が考えられた.一方,ICASに伴うCOISに続発したCNVGの症例において,ICA血行再建により急激な眼圧上昇を認めたという報告もある3,8).これは,とくに慢性の経過にて閉塞隅角をきたした場合,低下していた房水産生機能が血行再建により回復することによって眼圧上昇を生じると考えられている9).そのため,閉塞隅角をきたした症例においては,CASなどのICA血行再建術前に房水産生機能の抑制や房水排出機能の促進を図る必要がある.さらに,OISに伴うCNVGの標準的加療は汎網膜光凝固術であるが,対症療法にすぎず効果は限定的ないし無効であるという報告も多く2),また,標準術式である線維柱帯切除術においては新生血管からの出血が必発で手術予後は不良である6).さらに,本症例においては抗血小板薬をC2剤内服しており,手術における出血リスクはさらに高い状態であると考えられたため,観血的治療は予後不良であると予想された.以上から,MPCPCによる加療を行った.本症例で施行したCMPCPCは,経強膜的に毛様体へ短時間でCon-o.するレーザーエネルギーを当て,onサイクルで熱障害を与え,o.サイクルで冷却し組織を保護する方法であり,毛様体の炎症による房水産生低下と細胞生化学的カスケードの活性化によるぶどう膜流出路からの房水排出促進により眼圧下降が得られると考えられている10,11).従来の毛様体光凝固術に比べて,組織障害が少なく,眼球癆や交感性眼炎といった重大な合併症の報告が少ない非観血的治療法である12).本症例のように,眼圧下降が望まれるが線維柱帯切除術などの観血的治療において出血リスクが高い症例において,MPCPCは有用な治療の選択肢であることが示せた.さらには,ICASに伴うCNVGの加療において,CAS施行後に新生血管の病勢が軽減されたうえで線維柱帯切除術などの観血的治療を検討する際の事前治療手段としてもCMPCPCは有用である可能性を示せた.今回筆者らは,ICASに伴うCOISによりCNVGを生じて閉塞隅角をきたした本症例において,MPCPCをCCASに先行して施行したことにより,ICA血行再建術後の急激な眼圧上昇を予防することができた.MPCPCは,高眼圧を伴うICASに対する血行再建術を,重大な眼合併症なく速やかに施行するための事前治療手段の一つとして有効である可能性がある.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)栂野哲也,福地健郎,太田亜紀子ほか:内頸動脈閉塞症に伴う血管新生緑内障のC1例.眼紀C55:889-894,C20042)梶浦祐子,安積淳,井上正則:眼虚血症候群:その臨床経過と治療成績.臨眼C46:1022-1024,C19923)佐藤茂,西田武生,内堀裕明ほか:眼虚血症状より内頸動脈狭窄症が発見され,CarotidArteryCStentingを施行した3例.あたらしい眼科C33:606-612,C20164)KimCYH,CSungCMS,CParkSW:ClinicalCfeaturesCofCocularCischemicCsyndromeCandCriskCfactorsCforCneovascularCglau-coma.KoreanJOphthalmolC31:343-350,C20175)Terelak-BorysB,SkoniecznaK,Grabska-LiberekI:Ocu-larCischemicCsyndrome─aCsystematicCreview.CMedCSciCMonitC18:RA138-144,C20126)HavensSJ,GulatiV:Neovascularglaucoma.DevOphthal-molC55:196-204,C20167)矢澤由加子,佐藤祥一郎,板橋亮ほか:ステント留置術が有効であった左総頸動脈起始部狭窄による眼虚血症候群の1例.臨床神経学C51:114-119,C20118)福永健作,井上正則:頸動脈内膜血栓.離術後に眼圧上昇をみた眼虚血症候群のC1例.眼紀52:960-964,C20019)CoppetoCJR,CWandCM,CBearCLCetal:NeovascularCglauco-maandcarotidarteryobstructivedisease.AmJOphthal-molC99:567-570,C198510)LiuCGJ,CMizukawaCA,COkisakaS:MechanismCofCintraocu-larCpressureCdecreaseCafterCcontactCtrans-scleralCcontinu-ouswaveNd:YAGlasercyclophotocoagulation.Ophthal-micResC26:65-79,C199411)FeaAM,BosoneA,RolleTetal:Micropulsediodelasertrabeculoplasty(MDLT):aCphaseCIICclinicalCstudyCwithC12monthsfollow-up.ClinOphthalmolC2:247-252,C200812)MaCA,CYuCSWY,CWongCJKW.CMicropulseClaserCforCtheCtreatmentCofglaucoma:ACliteratureCreview.CSurvCOph-thalmolC64:486-497,C2019***

糖尿病黄斑浮腫の治療経過中に両眼の血管新生緑内障を生じた1例

2018年11月30日 金曜日

《原著》あたらしい眼科35(11):1550.1553,2018c糖尿病黄斑浮腫の治療経過中に両眼の血管新生緑内障を生じた1例呉香奈白矢智靖荒木章之加藤聡東京大学医学部附属病院眼科CACaseofBilateralNeovascularGlaucomaduringtheCourseofTreatmentforDiabeticMacularEdemaKanaKure,TomoyasuShiraya,FumiyukiArakiandSatoshiKatoCDepartmentofOphthalmology,UniversityofTokyoHospitalC糖尿病黄斑浮腫の患者(68歳,女性)に対して抗CVEGF(vascularendothelialgrowthfactor)療法を行ったところ,両眼に血管新生緑内障を生じ,治療に苦慮した症例を経験したので報告する.糖尿病網膜症に対し両眼網膜光凝固術を開始し,糖尿病黄斑浮腫の悪化を認めたため,右眼から抗CVEGF療法を開始したところ,先に左眼の血管新生緑内障を発症し,そのC6カ月後に右眼も血管新生緑内障を発症した.その後,網膜光凝固術の追加により鎮静化した.本症例では結果的に透析導入によって糖尿病黄斑浮腫の改善が得られたが,全身状態も踏まえて抗CVEGF療法の適応やタイミングを考慮する必要があると考えられた.また,抗CVEGF治療中も血管新生緑内障の発症について常に念頭に置く必要があると考えられた.CWeencounteredthecaseofa68-year-oldfemalewhodevelopedbilateralneovascularglaucoma(NVG)afterundergoinganti-vascularendothelialgrowthfactor(VEGF)therapyfordiabeticmacularedema(DME),exacerbat-edbyCpanretinalCphotocoagulation(PRP)forCdiabeticCretinopathy.CAfterCanti-VEGFCtherapyCinitiationCinCtheCrightCeye,CtheCleftCeyeCdevelopedNVG;theCrightCeyeCdevelopedCNVGC6monthsClater.CItCsubsidedCafterCadditionalCPRPCwasperformed.WefoundthatC.uorescenceangiographywasusefulinevaluatingthetherapeutice.ectofphotoco-agulation.Also,althoughinthiscaseDMEimprovementwasachievedafterdialysisinitiation,itseemsnecessarytoalsoconsidertheindicationandtimingofanti-VEGFtherapybasedonthegeneralconditionofthepatient.TheriskofNVGmustbekeptinmindwhenplanninganti-VEGFtherapy.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)35(11):1550.1553,C2018〕Keywords:糖尿病黄斑浮腫,血管内皮増殖因子,血管新生緑内障,蛍光眼底造影検査.diabeticmacularedema,vascularendothelialgrowthfactor,neovascularglaucoma,C.uoresceinangiography.Cはじめに抗CVEGF(vascularCendothelialCgrowthfactor)薬の登場によって糖尿病黄斑浮腫の治療は変貌を遂げ,大規模臨床研究では積極的な抗CVEGF薬の投与により,従来のレーザー治療よりも浮腫軽減効果や視力改善について,より良好な成績が示されている1,2).わが国の網膜専門家に対する調査では,70%以上の医師がびまん性糖尿病黄斑浮腫に対する第一選択であると報告されている3).しかし,その一方で臨床研究の結果によるエビデンスと実臨床における治療マネージメントに相違もみられ3),臨床研究のプロトコールに沿った治療を行うことはきわめてむずかしいと考える.今回,筆者らは糖尿病黄斑浮腫の抗CVEGF療法を含めた治療経過中に網膜症が増悪し,汎網膜光凝固術(panretinalphotocoagu-lation:PRP)を行うも不十分であったため,結果として両眼の血管新生緑内障の発症をきたし,治療に苦慮した症例を経験したので報告する.〔別刷請求先〕呉香奈:〒113-8655東京都文京区本郷C7-3-1東京大学医学部附属病院眼科Reprintrequests:KanaKure,M.D.,DepartmentofOphthalmology,UniversityofTokyoHospital,7-3-1,Hongo,Bunkyo-ku,Tokyo113-8655,JAPANC1550(102)図1初診時の前眼部と眼底写真およびOCT所見(2014年2月)図2初診時の蛍光眼底造影写真(2014年3月)両眼に広範囲の無灌流領域が存在し,右眼鼻上側に網膜新生血管を認める.I症例患者:68歳,女性.主訴:両眼の霧視,歪視.眼科既往歴:特記事項なし.全身既往歴:50歳時にC2型糖尿病を指摘される,63歳頃糖尿病性腎症の疑い.家族歴:特記事項なし.現病歴:1カ月前からの両眼の歪視と霧視で近医眼科を受診した.糖尿病による網膜症が疑われ,当院糖尿病代謝内科へ紹介.まもなく血糖コントロール目的で入院,その後網膜症精査目的でC2014年C2月に当科へ紹介となった.全身検査所見:糖尿病代謝内科初診時の採血結果は,総コレステロールC298Cmg/dl,CBUNC17.8Cmg/dl,CCreC0.64Cmg/dl,WBC7,600Cμl,RBC353万Cμl,PLT30.5万Cμl,HbA1cC11.7%.尿糖C4+,尿蛋白C2+,ケトン体(-).血圧はC160/74mmHg.頸動脈エコーでは両側に狭窄性病変なし.糖尿病治療開始後のCHbA1cの推移は,9.8%(2カ月後),7.1%(4カ月後),6.7%(6カ月後),6.4%(8カ月後)であった.当科初診時所見:視力は,右眼C0.2(0.3×+0.50D),左眼0.3(矯正不能),眼圧は右眼C15CmmHg,左眼C15CmmHgであった.両眼に軽度の白内障が認められ,両眼底に点状,しみ状の網膜出血,硬性白斑および軟性白斑が散在し,さらに光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)で漿液性網膜.離を伴う黄斑浮腫を認めた(図1).また,フルオレセイン蛍光眼底造影検査(.uoresceinangiography:FA)では右眼上鼻側に網膜新生血管,さらに両眼に多象限に及ぶ広範囲の無灌流領域が確認された(図2).CII経過両眼のCPRPを開始したが,左眼C3回,右眼C2回の光凝固が終了した時点で両眼の黄斑浮腫が増悪し(図3),2014年6月には両眼視力が(0.15)まで低下した.検眼鏡的所見でも両眼に一部凝固斑が不足している領域を認めていたが,自覚的にも視力低下が著しく,PRPの完成よりも視力回復を優先し,抗CVEGF療法〔2回+PRN(proCrenata:必要時投与)〕で浮腫を軽減させたのちに再度レーザーを追加する方針とした.しかし,内科での精査受診や家庭の事情もあ図3汎網膜光凝固術開始後の両眼OCT所見(2014年5月)両眼にCPRPを行っている途中で,黄斑浮腫の増悪所見を認めた.図4汎網膜光凝固術後の蛍光眼底造影写真(2015年7月)両眼に無灌流領域が残存している.図5透析導入前(2015年9月:写真左)および透析導入後(2016年4月:写真右)の右眼OCT所見人工透析の導入とともに,速やかに黄斑浮腫の改善がみられた.り,結果的にC3カ月後のC2014年C9月に右眼ラニビズマブ(ルセンティスCR)の硝子体注射(IVR:intravitrealCranibi-zumab)を行った.右眼のCIVR施行C2週間後に左眼の眼圧がC39CmmHgと上昇し,隅角所見は開放隅角,ルベオーシスを認め,また虹彩にもルベオーシスが検出され,血管新生緑内障と診断した.当日左眼のCPRPを完成させ,その後もレーザーを追加し,眼圧は正常化した.また,右眼については予定どおり初回からC1カ月後にC2回目のCIVRを行った.網膜光凝固術の評価目的でCFAを予定したが,血圧の上昇(186/90CmmHg)のほか,両下肢の浮腫,尿量減少,全身倦怠感の出現をきたし,かつ内科入退院を繰り返したため,施行を見送った.その際,右眼の血管新生緑内障の発症リスクを考慮し,PRPを完成させた.その後の隅角検査ではルベオーシスは認めず,また両眼の黄斑浮腫は経過とともに改善傾向にあり,PRPの完成によって網膜症も鎮静化していたと判断した.右眼C2回目CIVRからC4カ月後のC2015年C2月再診時に右眼後.下白内障によって(0.2)から(0.09)へ視力が低下し,かつ眼底の透見も不十分となったため手術を検討したが,体調不良のため実際に手術を予定したのは,さらにそのC5カ月後であった.その後,2015年C7月の右眼白内障手術前日に右眼眼圧が26CmmHgと上昇,隅角所見は開放隅角,ルベオーシスは認めなかったが,虹彩にルベオーシスが確認され,血管新生緑内障と診断した.同日に透見可能な範囲でレーザーを追加し,さらに手術の影響による前房出血や網膜症活動性の上昇を危惧し,右眼にC3回目のCIVRも行った.右眼手術は合併症なく終了し,術後矯正視力は(0.2)まで回復した.全身状態の確認のもとCFAを再検したところ,検眼鏡的にはすでに両眼底にCPRPが完成したと考えられていたが,両眼に無灌流領域が残存しており(図4),この領域にレーザーを追加した.その後虹彩ルベオーシスは完全に消失し,以後眼圧は安定した.腎機能は増悪傾向にあり,2016年C3月に透析導入となったが(右眼白内障手術C9カ月後),右眼のわずかに残存していた黄斑浮腫も改善が得られた(図5).左眼は薬物療法を施行せずに黄斑浮腫が改善,経過中に後.下白内障が進行したため手術を施行し,視力は両眼(0.4)が得られている.CIII考按抗CVEGF療法によって網膜症の改善や新生血管が抑制されることが示されており4,5),本症例においても抗CVEGF療法を行った眼は僚眼と比較して一定期間が経過してから血管新生緑内障を発症しており,網膜症の活動性が抑制されていた可能性が考えられる.すなわち抗CVEGF療法は,治療を中断した際に活動性が再燃することが懸念されるため,虚血網膜の有無に対しても十分に評価することが重要である.また,全身状態が悪化した場合,投与を継続できなくなる可能性も考慮し,網膜光凝固術を早めに行い,虚血の進行を防ぐことが重要であると考えた.血管新生緑内障を発症した場合には徹底的したCPRPが必要とされ6),本症例でも検眼鏡的には完成していた.しかし,FAによって無灌流領域の残存が確認され,その有用性を改めて認識した.ただし,本症例のように高血圧を合併している症例に対してCFAを行う際には,十分に血圧をコントロールすることが勧められている7).しかし,糖尿病患者では,その他にも全身疾患を合併していることもあり,本来必要な情報であるCFAを施行できない場合もある.近年,造影剤を必要としないCOCTangiographyが注目されているが,市販機種の画角は最大C10C×10mmからC12C×9Cmm程度であり,眼底周辺部において十分虚血の評価が可能な技術には至っていない.今後はさらなる広画角化や精度の向上が期待される.本症例では最終的に透析導入によって残存していた右眼黄斑浮腫の改善が得られた.糖尿病腎症による腎機能低下により,全身血管の血漿膠質浸透圧が低下する.透析導入することで浸透圧が改善され,結果的に黄斑浮腫が改善するといわれている.透析導入することでを糖尿病黄斑浮腫を治療するうえで,透析導入が予測される症例については,抗CVEGF療法の適応やタイミングを再考慮する必要があり,また抗VEGF治療中も血管新生緑内障の発症について常に念頭に置き,適宜隅角検査を行う必要があると考えられた.文献1)ElmanCMJ,CAielloCLP,CBresslerCNMCetal:RandomizedCtrialevaluatingranibizumabpluspromptordeferredlaserorCtriamcinoloneCplusCpromptClaserCforCdiabeticCmacularCedema.OphthalmologyC117:1064-1077,C20102)KorobelnikJF,DoDV,Schmidt-ErfurthUetal:Intravit-reala.iberceptfordiabeticmacularedema.Ophthalmolo-gyC121:2247-2254,C20143)OguraY,ShiragaF,TerasakiHetal:Clinicalpracticepat-terninmanagementofdiabeticmacularedemainJapan:CsurveyCresultsCofCJapaneseCretinalCspecialists.CJpnCJCOph-thalmolC61:43-50,C20174)BrownCDM,CNguyenCQD,CMarcusCDMCetal:Long-termCoutcomesCofCranibizumabCtherapyCforCdiabeticCmacularedema:theC36-monthCresultsCfromCtwoCphaseCIIItrials:CRISEandRIDE.OphthalmologyC120:2013-2022,C20135)HeierCJS,CKorobelnikCJF,CBrownCDMCetal:IntravitrealA.iberceptforDiabeticMacularEdema:148-WeekResultsfromtheVISTAandVIVIDStudies.OphthalmologyC123:C2376-2385,C20166)安藤文隆:糖尿病網膜症の治療の進歩血管新生緑内障の治療.眼科C39:41-47,C19977)湯澤美都子,小椋祐一郎,高橋寛二ほか:眼底血管造影実施基準(改訂版).日眼会誌C115:67-75,C2011***

血管新生緑内障に対するバルベルト緑内障インプラントの手術成績

2018年1月31日 水曜日

《第22回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科35(1):140.143,2018c血管新生緑内障に対するバルベルト緑内障インプラントの手術成績野崎祐加富安胤太野崎実穂森田裕吉田宗徳小椋祐一郎名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学CClinicalExperiencewithBaerveldtGlaucomaImplantinNeovascularGlaucomaYukaNozaki,TanetoTomiyasu,MihoNozaki,HiroshiMorita,MunenoriYoshidaandYuichiroOguraCDepartmentofOphthalmologyandVisualScience,NagoyaCityUniversityGraduateSchoolofMedicalSciences目的:増殖糖尿病網膜症に続発した血管新生緑内障に対して施行した,バルベルト緑内障インプラント(BGI)手術の術後成績を後ろ向きに検討した.対象および方法:BGI手術(前房タイプC2眼,硝子体タイプC10眼)を施行した10例C12眼を対象とした.術前後の眼圧,点眼スコア,合併症について検討した.結果:平均年齢C52.2歳,術後経過観察期間はC26.7±13.2カ月で,平均眼圧は術前C31.3±102.mmHgから術後C6カ月C13.9±4.6CmmHgと有意に低下し(p<0.05),平均点眼スコアは術前C4.2±0.8から術後C1.8±1.9と有意に減少した(p<0.05).術後C1カ月以内の早期合併症は,一過性高眼圧(7眼),硝子体出血(3眼),脈絡膜.離(2眼)であった.後期合併症はC3眼で硝子体出血,プレート周囲の線維性増殖組織による高眼圧を認めた.結論:血管新生緑内障に対するCBGI手術は,短期的には良好な眼圧下降効果を認めた.CPurpose:ToCevaluateCtheCe.cacyCofCtheCBaerveldtCglaucomaCimplant(BGI)inCneovascularCglaucoma(NVG)CassociatedCwithCproliferativeCdiabeticCretinopathy.CPatientsandMethod:TenCpatients(12Ceyes)whoCunderwentBGIwereevaluated.Outcomeassessmentswereintraocularpressure(IOP),numberofglaucomamedicationsandcomplications.Results:Meanagewas52.2yearsandaveragefollow-upperiodwas26.7months.MeanIOPwassigni.cantlydecreased,from31.3±10.2CmmHgto13.9±4.6CmmHg(p<0.05).Thenumberofglaucomamedicationswasalsosigni.cantlydecreased,from4.2±0.8CtoC1.8±1.9(p<0.05).ComplicationsincludedhighIOP(7eyes),vit-reoushemorrhage(3eyes),choroidaldetachment(2eyes)within1monthofsurgery.Latecomplicationswerevit-reousChemorrhage(3Ceyes)andChighCIOP(3Ceyes).CTheCsuccessCrateCwasC90.1%CatCmonthC6.CConclusion:BGIise.ectiveincontrollingIOPelevationassociatedwithNVG.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)35(1):140.143,C2018〕Keywords:バルベルト緑内障インプラント,血管新生緑内障,増殖糖尿病網膜症,術後合併症,点眼スコア.CBaerveldtglaucomaimplant,neovascularglaucoma,proliferativediabeticretinopathy,postoperativecomplications,Cnumberofglaucomamedications.Cはじめに血管新生緑内障に対する治療は,開放隅角期では,網膜虚血を改善させるために,汎網膜光凝固や血管内皮増殖因子(vascularCendothelialCgrowthCfactor:VEGF)阻害薬などが用いられるが,虚血を改善しても眼圧が下降しない場合や,閉塞隅角期には,線維柱帯切除術が多く施行されてきた.しかし,血管新生緑内障に対する線維柱帯切除術の手術成績は,術後の出血や炎症による瘢痕形成のため,他の緑内障に対する成績よりも不良である1,2).VEGF阻害薬を併用することにより血管新生緑内障に対する線維柱帯切除術の成績は良好になるという報告3)もあるが,長期手術成績はCVEGF阻害薬併用有無で変わらないともいわれている4).また,血管新生緑内障の約三分の一は,糖尿病網膜症が原因と報告されているが5),糖尿病網膜症に続発する血管新生緑内障の特徴としては,比較的年齢が若いこと,硝子体手術を含む複数回の手術既往がある場合が多い点があげられる.〔別刷請求先〕野崎実穂:〒467-8601名古屋市瑞穂区瑞穂町字川澄1名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学Reprintrequests:MihoNozaki,M.D.,DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,NagoyaCityUniversityGraduateSchoolofMedicalSciences,Nagoya467-8601,JAPAN140(140)0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(140)C1400910-1810/18/\100/頁/JCOPY若年者,硝子体手術既往は,線維柱帯切除術の予後不良因子としても知られていることから2,6),糖尿病網膜症に続発する血管新生緑内障に対して,線維柱帯切除術以外の術式が望まれている.一方,バルベルト緑内障インプラント(Baerveldtglauco-maimplant:BGI)は,複数回の緑内障手術が無効であった症例や結膜瘢痕症例など,難治性緑内障に対して,眼圧下降効果が期待されており7),血管新生緑内障に対する有効性も国内からいくつか報告されている8.10).2012年C4月から,わが国でCBGI手術が保険収載され,名古屋市立大学病院でもC2012年から血管新生緑内障に対するCBGI手術を施行している.今回,術後C6カ月以上経過を追えた,増殖糖尿病網膜症に続発した血管新生緑内障に対するCBGIの手術成績について,後ろ向きに検討したので報告する.CI対象および方法対象はC2012年C12月.2016年C3月に,名古屋市立大学病院で増殖糖尿病網膜症に続発した血管新生緑内障に対し,BGI手術を施行し,術後C6カ月以上経過観察できたC10例C12眼(男性C7眼,女性C5眼,平均年齢C52.2C±12.2歳)であった(表1).術前,術後の眼圧,術前・術後の点眼スコア(緑内障点眼薬をC1点,配合剤をC2点,炭酸脱水酵素阻害薬のC2錠内服をC2点とした),早期(術後C1カ月以内)・後期(術後C1カ月以降)の術後合併症について検討した.今回使用したCBGIデバイスは,硝子体手術既往眼ではプレート面積がC350CmmC2でチューブにCHo.manCelbowをもつBG102-350を使用し,硝子体手術未施行眼ではプレート面積がC250CmmC2の前房タイプのCBG103-250を挿入した(現在は当院で用いていない).術式は,強膜半層弁を作製し,チューブをC7-0あるいはC8-0バイクリル糸で完全閉塞するまで結紮し,術前に炭酸脱水酵素阻害剤内服下でも眼圧が20CmmHg以上の症例では,9-0ナイロン糸でCSherwoodスリットを作製した.強膜弁はC9-0ナイロン糸で縫合し,結膜はC8-0バイクリル糸で縫合した.チューブ内へのステント留置は行わなかった.生存(手術成功)の定義は,①視力が光覚弁以上,②眼圧はC22CmmHg未満,5CmmHg以上,③さらなる緑内障手術の追加手術を行わない,のC3条件を満たすものとした.生存率をCKaplan-Meier法で解析した.数値は平均値C±標準偏差で記載し,統計学的検定にはCWilcoxon検定を用いCp<0.05を有意差ありとした.CII結果10例C12眼のうち,使用したCBGIデバイスは,前房タイプがC2眼,経毛様体扁平部タイプがC10眼であった.治療の既往として,汎網膜光凝固,白内障手術は全例C12眼で施行されており,硝子体手術はC10眼,線維柱帯切除術はC4眼で既往がありC4眼中C2眼は複数回線維柱帯切除術が施行されていたが,硝子体手術は未施行だった(表1).BGI手術までに,汎網膜光凝固術を除いて平均C2.6回の手術既往があった.術前にCVEGF阻害薬の硝子体注射を行ったのはC12眼中C1眼のみであった.術後経過観察期間は平均C26.7C±13.2(6.54)カ月であった.全症例における術前平均眼圧はC31.3C±10.2CmmHg,術翌日にはC13.0C±10.3CmmHgまで低下を認めた.1週間後にはC10.4±3.3CmmHg,1カ月後にはC15.9C±7.6CmmHg,3カ月後にはC14.3C±3.7CmmHg,6カ月後にはC13.9C±4.6CmmHgと有意な低下を認めた(p<0.05)(図1).また,平均点眼スコアは術前のC4.2C±0.8から,術後C6カ月の時点でC1.8C±1.9と有意な減少を認めた(p<0.05)(図2).LogMAR視力は,術前C1.5C±0.7,術後C6カ月の時点でC1.4C±0.7と有意差は認めなかった(p=0.82).角膜内皮細胞密度は,全例では経過を追えなかったが,術前C2579.5C±315.0/Cmm2,術後C6カ月でC2,386.2C±713.4/mm2(n=6)と有意な減少はみられなかった.術後C1カ月以内の早期合併症は,硝子体出血をC3眼に認め,2眼に硝子体手術を施行した.さらに低眼圧による脈絡膜.離をC2眼に認め,そのうちC1眼にチューブ結紮を追加施行した.チューブ先端に硝子体が嵌頓していたC1眼を含むC7眼で一過性高眼圧を認め,1眼にCSherwoodスリット追加,1眼に硝子体手術を施行しチューブ先端の硝子体嵌頓を解除した.術後C1カ月以降の後期合併症は,3眼に硝子体出血を認め,硝子体手術を施行した.また,プレート周囲の線維性増殖組織(被膜)形成による高眼圧をC3眼で認め,線維性被膜を切開除去し,マイトマイシンCCを使用しプレート周囲の癒着を解除した.生存率は術後C6カ月後でC90.1%,1年後でC68.2%,3年生存率はC68.2%であった(図3).緑内障の追加手術を必要とした症例は,前房型CBGIを挿入したC38歳のC1例C2眼と,硝子体型CBGIを挿入したC52歳のC1眼のC3眼に認めた.前房型CBGIを挿入した症例では,右眼は術後C1カ月後には眼圧がC33CmmHgまで上昇したため,点眼薬C3剤,炭酸脱水酵素阻害薬内服を開始したが,その後も眼圧がC22CmmHgを超えており,この症例がC6カ月時点での死亡例となった.2年後にマイトマイシンCCを併用したプレート上の線維性増殖組織を除去したが,その後も再度眼圧上昇を認めたため,2年C7カ月後に硝子体手術を行いCBGI経毛様体扁平部タイプを再挿入した.左眼は術後C10カ月に眼圧が再上昇したため,右眼と同様にマイトマイシンCCを併用しプレート周囲の線維性増殖組織除去を施行し,以後は点眼のみで眼圧は安定していた.もうC1眼はC52歳の症例であり,術後眼圧コントロ(141)あたらしい眼科Vol.35,No.1,2018C141表1対象の内訳症例性別年齢周辺虹彩前癒着HbA1c(%)白内障手術硝子体手術線維柱帯切除術C1男C65なしC8.6〇〇(1)C2女C7580%C6.3〇〇(1)C3女C38100%C6.2〇〇(3)C4女C38100%C6.5〇〇(2)C5男C4325%C5.7〇〇(2)〇(1)C6女C5850%C7.1〇〇(1)C7女C58なしC7.1〇〇(2)〇(1)C8男C52なしC6.6〇〇(2)C9男C50なし不明〇〇(1)C10男C3910%C9.6〇〇(1)C11男C6725%C11.1〇〇(1)C12女C56なしC6.4〇〇(1)全例で白内障手術が施行されており,2眼を除いてC10眼で硝子体手術の既往があった.45405353041500術前術翌日1週間後1カ月後3カ月後6カ月後術前術後図1術前・術後での平均眼圧の推移図2術前・術後での平均点眼スコアの推移平均眼圧は術前と比較して術翌日,1週間後,1カ月後,3カ月術前のC4.25本から術後C6カ月の時点でC1.8本と後,6カ月後の時点で有意に下降していた(p<0.05).C有意な減少を認めた(p<0.05).C平均眼圧(mmHg)25点眼スコア320*15210ールは良好だったが,10カ月後に眼圧が再上昇したため,マイトマイシンCCを併用したプレート上線維性増殖組織除去を行ったものの,その後も高眼圧が続くため,レーザー毛様体破壊術を施行した.CIII考按今回筆者らは増殖糖尿病網膜症に続発した血管新生緑内障に対してCBGI手術を施行し,6カ月以上経過観察できたC1220406080100120140160180眼について,後ろ向きに検討し,生存率はC6カ月でC90.1%,1年でC68.2%,2年でもC68.2%であった.BGI手術成績を,非血管新生緑内障と血管新生緑内障に分けて検討した海外の報告では,BGI手術成功率(1年)は非血管新生緑内障ではC79%であったが,血管新生緑内障では40%で有意に低く,自然消退しない硝子体出血がもっとも多い(17%)合併症であった12).2012年にわが国でもCBGI手術が承認されてから,国内からも血管新生緑内障を含む難治緑内障に対するCBGI手術成績がいくつか報告されている8.11).生存率の定義が多少異なるものもあり,今回の筆者らの検討のように増殖糖尿病網膜週数図3Kaplan.Meier生存曲線生存の基準を①視力が光覚弁以上,②眼圧はC22CmmHg未満,5CmmHg以上,③さらなる緑内障手術の追加手術を行わないの3条件を満たすものとした.生存率は術後C6カ月後(n=12)で90%,1年後(n=11)でC68.2%,2年生存率(n=11)はC68%であった.C症に続発する血管新生緑内障に限定はされていないが,成功率はC76.2.90.1%(1年),90.1.93.3%(2年)と非常に良好な成績が報告されている8.11).(142)今回の筆者らの検討では,硝子体出血を術後早期にも晩期にもC12眼中C3眼(25%)に認めている.東條らの報告では,35眼中C27眼(77.1%)に術前にCVEGF阻害薬の硝子体内注射を行っており,術後の硝子体出血はC35眼中C2眼(6%)に認めたのみであった.晩期の硝子体出血の原因は,汎網膜光凝固が不十分でCVEGF産生が抑えられていなかったことも原因と思われるが,筆者らの検討した症例のうち,術前にVEGF阻害薬の硝子体内注射を行ったのはC1眼のみであったことから,今後CBGI手術前にCVEGF阻害薬の硝子体内注射を併用すれば,術後早期の硝子体出血は減らせる可能性も考えられる.また,緑内障手術の追加が必要となったC3眼は,プレート周囲に線維性被膜が形成され眼圧が再上昇しており,3眼中C2眼は前房タイプのCBGI手術を施行していた.当院ではプレート面積がC250CmmC2の前房タイプのCBG103-250を当初使用していたが,今回検討したC2眼を含め術後の眼圧コントロール不良例が多い印象があり,現在はプレート面積C350CmmC2のCBG101-350を使用している.線維柱帯切除術やチューブシャント手術は,Tenon.下に房水を導く濾過手術であり,房水はCTenon.下では被膜に覆われるが,過剰に被膜形成が進むと眼圧上昇が起こる.国内の他の施設からは,プレート周囲の線維性被膜形成の報告はみられていないが,Rosentreterらは,プレート周囲の被膜による眼圧再上昇症例に対して,プレート周囲の被膜切開を施行した群と,緑内障インプラントの追加手術を行った群を比較し,被膜切開群では,有意に術後の眼圧が高く,さらに追加の手術が必要な症例がみられたと報告し,被膜切開では長期に眼圧下降させられないとしている13).今回の筆者らの検討した症例でも,3眼中C2眼はマイトマイシンCCを併用してプレート周囲の線維性被膜切開をしても眼圧の再上昇があり,1眼では硝子体手術および経毛様体扁平部タイプのCBGIを追加,もうC1眼は視力が術前(0.02)から光覚弁となったため毛様体破壊術を追加した.プレート周囲の被膜を免疫組織学的に検討した報告では,眼圧上昇を伴う被膜のほうが,より多くのフィブロネクチン,テネイシンやラミニン,IV型コラーゲンを認め,活動性の高い創傷治癒機転が働いていることが示唆されている14)ことから,BGI後いったん被膜が形成され眼圧上昇した際には,マイトマイシンCCを併用した被膜切開でも無効になる可能性が高く,初めからCBGIの追加含め,他の手術の追加を考慮するべきかもしれない.しかし,増殖糖尿病網膜症に続発する血管新生緑内障では,輪状締結術がすでに施行されている症例や,複数の象限で線維柱帯切除術が施行されている症例もあり,追加の手術の選択にも難渋することが少なくない.今後,できるだけ過剰な被膜形成を惹起しないCBGI手術の術式や薬物併用などの確立が,増殖糖尿病網膜症に続発する血管新生緑内障に対するCBGI手術の治療成績を上げるうえで重要になると思われた.(143)利益相反:小椋祐一郎(カテゴリーCF:ノバルティスファーマ株式会社),吉田宗徳(カテゴリーCF:ノバルティスファーマ株式会社)文献1)KiuchiCY,CSugimotoCR,CNakaeCKCetCal:TrabeculectomyCwithmitomycinCfortreatmentofneovascularglaucomaindiabeticpatients.OphthalmologicaC220:383-388,C20062)TakiharaY,InataniM,FukushimaMetal:Trabeculecto-myCwithCmitomycinCCCforCneovascularCglaucoma:prog-nosticfactorsforsurgicalfailure.AmJOphthalmolC147:C912-918,C20093)SaitoY,HigashideT,TakedaHetal:Bene.ciale.ectsofpreoperativeCintravitrealCbevacizumabConCtrabeculectomyCoutcomesinneovascularglaucoma.ActaOphthalmolC88:C96-102,C20104)TakiharaCY,CInataniCM,CKawajiCTCetCal:CombinedCintra-vitrealCbevacizumabCandCtrabeculectomyCwithCmitomycinCCversustrabeculectomywithmitomycinCaloneforneo-vascularglaucoma.JGlaucomaC20:196-201,C20115)BrownCGC,CMagargalCLE,CSchachatCACetCal:NeovascularCglaucoma.CEtiologicCconsiderations.COphthalmologyC91:C315-320,C19846)InoueT,InataniM,TakiharaYetal:Prognosticriskfac-torsforfailureoftrabeculectomywithmitomycinCaftervitrectomy.JpnJOphthalmolC56:464-469,C20127)植田俊彦,平松類,禅野誠ほか:経毛様体扁平部CBaer-verdt緑内障インプラントの長期成績.日眼会誌115:581-588,C20118)小林聡,竹前久美,杉山祥子:血管新生緑内障に対するバルベルト緑内障インプラントの治療成績.臨眼C79:C1251-1257,C20169)宮城清弦,藤川亜月茶,北岡隆:経毛様体扁平部挿入型バルベルト緑内障インプラントの手術成績と合併症.あたらしい眼科33:1183-1186,C201610)東條直貴,中村友子,コンソルボ上田朋子ほか:血管新生緑内障に対するバルベルト緑内障インプラント手術の治療成績.日眼会誌121:138-145,C201711)石塚匡彦,忍田栄紀,町田繁樹:無硝子体眼におけるバルベルト緑内障インプラントを用いたチューブシャント手術の短期成績.臨眼71:605-609,C201712)CampagnoliCTR,CKimCSS,CSmiddyCWECetCal:CombinedCparsCplanaCvitrectomyCandCBaerveldtCglaucomaCimplantCplacementCforCrefractoryCglaucoma.CIntCJCOphthalmolC8:C916-921,C201513)RosentreterCA,CMelleinCAC,CKonenCWWCetCal:CapsuleCexcisionandOlogenimplantationforrevisionafterglauco-madrainagedevicesurgery.GraefesArchClinExpOph-thalmolC248:1319-1324,C201014)ValimakiCJ,CUusitaloCH:ImmunohistochemicalCanalysisCofCextracellularmatrixblebcapsulesoffunctioningandnon-functioningglaucomadrainageimplants.ActaOphthalmolC92:524-528,C2014あたらしい眼科Vol.35,No.1,2018C143

眼虚血症状より内頸動脈狭窄症が発見され,Carotid Artery Stentingを施行した3例

2016年4月30日 土曜日

《原著》あたらしい眼科33(4):606〜612,2016©眼虚血症状より内頸動脈狭窄症が発見され,CarotidArteryStentingを施行した3例佐藤茂*1西田武生*2内堀裕昭*1横田千里*2中島義和*2林仁*1*1市立堺病院眼科*2市立堺病院脳神経外科ThreeCasesofInternalCarotidArteryStenosisDiagnosedfromOcularIschemicSymptomsandTreatedwithCarotidArteryStentingShigeruSato1),TakeoNishida2),HiroakiUchihori1),ChisatoYokota2),YoshikazuNakajima2)andHitoshiHayashi1)1)DepartmentofOphthalmology,SakaiMunicipalHospital,2)DepartmentofNeurosurgery,SakaiMunicipalHospital背景:眼虚血症状から中等度〜高度内頸動脈狭窄症(internalcarotidarterystenosis:ICAS)が発見され,頸動脈ステント留置術(carotidarterystenting:CAS)を施行した3例を報告する.症例報告:症例1は網膜中心動脈閉塞症の精査で可動性プラークを伴う中等度ICASを認めた.CAS後,経過観察期間内には脳虚血発作は発症しなかったが,視機能改善は得られなかった.症例2は急激な視力低下に対する精査で高度ICASを認めたためCASを施行した.術後,眼圧コントロール不良となり線維柱帯切除術を施行した.その結果,視力・視野ともに維持できた.症例3は一過性黒内障の精査で両側高度ICASを認めた.両側にCASを施行したが,術後眼圧コントロール不良となり,両眼に線維柱帯切除術を施行した.その結果,視力・視野ともに維持できた.結論:眼虚血症状を示す症例には,ICASスクリーニングを行うことが重要である.高度ICASでは,短期間に血管新生緑内障を発症することがあるので注意を要する.また,ICASの治療に際しては脳外科と眼科の連携が非常に重要である.Background:Wereportthreecasesdiagnosedwithmoderate/severeICASbasedoneyeischemicsymptomsandtreatedwithCAS.Casereports:Case1:ModerateICASwithmobileplaquewasrevealedbydetailedexaminationofretinalcentralarteryocclusion.AlthoughsubsequentCASsuccessfullypreventedmajorischemicstroke,visualfunctionwasnotimproved.Case2:AfterconfirmationofleftsevereICAS,whichhadcausedseverevisualimpairment,CASwasperformed.IntraocularpressurecontrolbecamepoorafterCAS.Thepatientthenreceivedtrabeculectomy,andvisualfunctionwasmaintained.Case3:BilateralsevereICASwasdetectedbydetailedexaminationofamaurosisfugax.AfterbilateralCAS,bilateralintraocularpressurecontrolbecamepoor.Trabeculectomywasperformedbilaterally.Visualfunctionwasthenmaintained.Conclusion:Carotidarteryscreeningshouldbeconsideredforpatientswithocularischemicsymptoms.PatientswithsevereICASmaydeveloprubeoticglaucomarapidly.ClosecooperationbetweenophthalmologistsandneurosurgeonsisimportantforthemanagementofpatientswithICAS.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(4):606〜612,2016〕Keywords:内頸動脈狭窄症,眼虚血症候群,血管新生緑内障,網膜中心動脈閉塞症,頸動脈ステント留置術.internalcarotidarterystenosis(ICAS),ocularischemicsyndrome,neovascularglaucoma,retinalcentralarteryocclusion,carotidarterystenting(CAS).はじめに内頸動脈狭窄症(internalcarotidarterystenosis:ICAS)は症状の有無から症候性と無症候性に分類され,血管造影による狭窄の程度からは一般に軽度(30〜49%),中等度(50〜69%),高度(70%以上)とされる(脳神経外科疾患情報ページ,NeuroinfoJapan,http://square.umin.ac.jp/neuroinf/index.html).ICASに伴う眼症状も大きく2つのタイプに分けられる.一つは内頸動脈内壁に形成されたプラークの剝脱に起因する塞栓により急激な視力低下もしくは視野障害を引き起こすタイプ(たとえば,一過性黒内障,網膜動脈閉塞症,虚血性視神経症など),もう一つは慢性の循環不全によるいわゆる眼虚血症候群である1).眼虚血症候群の多彩な眼合併症のなかでもとくに血管新生緑内障が重要で,いったん発症すると治療に抵抗性で,視力予後は非常に悪い1).従来,高度ICASに対しては頸動脈内膜剝離術が標準的治療として行われてきた2).しかし,手術侵襲が大きく,外科的手術リスクあるいは麻酔リスクが高い症例には行えず,適応が限られるという問題点があった.近年,血管内治療の進歩により,より低侵襲の頸動脈ステント留置術(carotidarterystenting:CAS)が導入され,頸動脈内膜剝離術に比して遜色のない手術成績が報告されている3,4).今回,網膜中心動脈閉塞症(retinalcentralarteryocclusion:CRAO)もしくは虹彩新生血管から中等度〜高度ICASが発見され,CASを施行した3例を経験したので報告する.I症例〔症例1〕78歳,男性.主訴:左眼の急激な視力低下.既往歴:2004年12月両眼水晶体再建術,糖尿病,高脂血症,喫煙30本/日×60年,飲酒過多,慢性硬膜外血腫術後,胃潰瘍術後.現病歴:2014年8月,突然左眼の急激な視力低下を自覚した.近医にて左眼のCRAOを指摘され,塞栓源の検索目的にて市立堺病院(以下,当院)眼科へ紹介となり,発症より1週間後に初診となった.初診時所見:矯正視力右眼(1.0),左眼(0.01).眼圧右眼15mmHg,左眼10mmHg.左眼relativeafferentpupillarydefect陽性.前眼部,中間透光体に特記すべき所見は認められなかった.左眼眼底に網膜動脈の高度狭細化と分節状血柱が認められた.また,後極部網膜は浮腫状で,黄斑部はいわゆるcherryredspotを呈し(図1a),フルオレセイン蛍光眼底造影検査(fluoresceinangiography:FA)では静脈注射後1分経過しても周辺の動脈が完全に造影されず,とくに下方の動脈は後期でも造影されなかった(図1b).右眼の眼底および蛍光眼底所見に特記すべき所見は認められなかった.経過:発症後1週間経過しており,動脈閉塞も非常に高度のため,血栓溶解薬の投与は視機能の改善効果よりも副作用のリスクが上回ると判断して見送ることとした.塞栓源の検索のため,心エコーおよび頸部エコーを施行した.心エコーでは有意な所見は認めなかったが,頸部エコーでは,左内頸動脈狭窄率54%(ECST法),peaksystolicvelocity=0.52m/sであり,左頸動脈分岐部で,拍動に一致して動く石灰化を伴う7×4mmの可動性プラークを認めた(図1c).さらに右内頸動脈の狭窄(狭窄率64%,ECST法)も認めた.即座に当院脳神経外科へ紹介したところ,頭部MRIで比較的新しい脳梗塞を認めたため,網膜中心動脈以外にも塞栓が飛んでいるとの判断にて,当院脳神経外科へ緊急入院となった.眼科初診より5日後,左頸動脈に対して,可動性プラークを飛散させないように,バルーン付ガイディングカテーテルを用い総頸動脈血流を遮断かつ血液を逆流させた状態でCASを行った.術後のMRIでは微小脳梗塞を数カ所認めるのみで,神経学的な症状は認められなかった.CAS後の頸部エコーでは可動性プラークがステントで押さえられ,ステント内の血流は良好であることが確認された.しかし,網膜動脈の血行改善は限定的であり(図1d),CAS術後3カ月の左眼視力は指数弁であった.今後右眼のICASに対しても狭窄の進行や症状が出現すればCASを行う予定であり,脳神経外科と眼科で注意深く経過観察する予定にしている.〔症例2〕71歳,男性.主訴:左眼視力低下.既往歴:脳梗塞(2009年),糖尿病,糖尿病網膜症,狭心症(ステント留置後,低用量アスピリン,クロピドグレル内服中),大腸ポリープ,貧血,喫煙(20本/日×54年),飲酒(ビール700〜1,050ml/日)現病歴:2013年末ごろより左眼の霧視を自覚.起床後1時間位はとくに強く感じていた.2014年3月急激な左眼の視力低下を自覚したため近医を受診した.再診時矯正視力右眼(0.9)左眼(0.3),FAにて左腕網膜時間の著明な遅延を認めるとのことで2014年4月当院眼科紹介となった.初診時所見:矯正視力右眼(1.2),左眼(0.5),眼圧右眼16mmHg,左眼20mmHg.前眼部は瞳孔径右眼約2mm,左眼約4mmで左右差を認めた.中間透光体として両眼に核白内障が認められた.右眼底に小さな軟性白斑を1カ所のみ認められたが,左眼に網膜動脈の高度狭細化,しみ状出血,軟性白斑を認められ,左右差が明らかであった(図2a).Goldmann視野計にて左眼の傍中心暗点と鼻側の感度低下を認めた.経過:頸部エコーでは,左ICAは分岐直後より血流信号が乏しく,描出不良で高度狭窄もしくは閉塞が疑われた.右ICAは狭窄があるものの石灰化で狭窄率は評価できないとのことであった.頭部MRIでは左前頭部深部白質に複数の陳旧性ラクナ梗塞を認め,慢性虚血性変化を指摘された.頭部MRAでは左ICAは描出されず,左中大脳動脈は非常に淡く描出されていた.前交通動脈は代償性によく描出されていた.右ICAは石灰化を伴う若干の狭窄を認めるのみであった.5月初旬のFAでは,左眼の腕網膜時間は19秒と延長を認め,網膜内灌流時間の著明な延長を認めた.また,左眼では全周にわたり網膜血管からシダ状の蛍光漏出を認めた.さらに,視神経乳頭も過蛍光を示したが,無灌流領域や網膜新生血管は認めなかった(図2b).右眼に特記すべき所見を認めなかった.以上より,左眼の網膜光凝固開始は,内頸動脈の血行再建が可能か否かの脳外科的判断を待って決めることとした.5月下旬に施行された脳血管撮影では,左内頸動脈は分岐部より99%狭窄しており,眼動脈へは外頸動脈から逆行性かつ遅延して血流が認められた.右内頸動脈は45%の狭窄を認めた.血管造影検査直後から左眼眼痛を自覚し,見えなくなったとのことで同日に眼科を再診された.左眼矯正視力(0.01),左眼眼圧30mmHg.前眼部に著明な結膜充血,瞳孔領に著明な虹彩新生血管と軽度虹彩後癒着が認められた(図2c).隅角検査では下方にanglehyphemaを認め,全周Scheie分類IV度であった.眼底は著変なく,cherryredspotは認められなかった.そのため,チモロール,ブリンゾラミド,ラタノプロスト点眼および汎網膜光凝固を開始した.虹彩後癒着防止目的にてミドリンP®点眼,アトロピン点眼も開始した.翌日には虹彩新生血管は変化ないものの,前房出血は軽度増加した.しかし,左眼矯正視力(0.3),左眼眼圧16mmHgまで改善した.その後,点眼にて眼圧コントロールは可能であった.7日後に2回目の汎網膜光凝固を行い計1,191発施行した.血管造影から8日後脳神経外科にて左CASを施行し,術翌日の頸動脈エコーにて血行再建が確認された.CAS施行6日後に眼科再診したところ,見え方は楽になったとのことであり,左眼矯正視力(0.3)であったが,眼圧が35mmHgまで上昇していた.ブリモニジン点眼を追加するも眼圧下降は得られなかったため,CAS施行21日後左眼に対してマイトマイシンC併用線維柱帯切除術および水晶体再建術を施行した.手術は耳上側円蓋部基底結膜切開とし,強膜弁は3mm×3mm+2.5mm×2.5mmの二重強膜弁で行い,水晶体再建は2.4mm耳側角膜切開で行った.術中,虹彩切除に伴う軽度前房出血を認めた.出血による急速な流出路の閉塞・癒着形成を考慮し,術翌日より積極的にレーザー切糸および眼球マッサージを行った.しかし,最終的にすべての縫合糸を切断しても高眼圧が持続し,濾過胞の形成不良を認めたため,術後1週間にて濾過胞再建術を行った.強膜弁を挙上すると,凝血塊が完全に流出路を塞いでいることが確認できたため,凝血塊を除去し,再度MMCの塗布を行った.再建術後は前房出血もみられず,眼圧も安定した.また,眼圧下降に伴い虹彩新生血管は急速に退縮した.(図2d)CAS施行7カ月後の最終受診時は左眼視力(0.9),眼圧15mmHgであり,抗緑内障薬から離脱できている.網膜のしみ状出血も軽減した(図2e).視野は比較的保たれており,傍中心暗点が消失していた.術後3カ月のFAでは網膜内循環時間が著明に改善し,網膜血管からのシダ状漏出は消失していた(図2f).〔症例3〕65歳,男性.主訴:左眼一過性黒内障.既往歴:2014年4月両眼水晶体再建術,糖尿病,高血圧,慢性心不全,大動脈分岐部慢性閉塞症(Leriche症候群)現病歴:2014年7月左眼の一過性黒内障が日に数回起こるとの訴えがあり,当院循環器内科より同月眼科紹介となった.初診時所見:矯正視力は右眼(1.2),左眼(0.4).眼圧は右眼12mmHg,左眼15mmHgであった.前眼部は瞳孔領を含む虹彩面上には新生血管を認めなかった.中間透光体は特記すべき所見を認めなかった.眼底は右眼に数カ所の点状出血および小さな軟性白斑,左眼には多発する軟性白斑を認めた(図3a,b).ICASを疑うも,すでに循環器内科より頭部MRIおよびMRA検査予約がされていたため,検査後の再診とした.初診より12日後に再診したところ,頭部MRIでは左後頭葉内側を含む多発脳梗塞が指摘され,頭部MRAでは左後大脳動脈末梢がやや描出不良とのことのみであった.しかし,細隙灯顕微鏡検査にて両眼に著明な虹彩新生血管を認めた(図3c,d).眼虚血症候群を強く疑い,両眼の汎網膜光凝固を開始するとともに緊急頸部エコーを施行した.その結果,左右内頸動脈に有意狭窄を認め,右狭窄率51%(ECST法),peaksystolicvelocity=2.3m/s,左狭窄率63.2%(ECST法),peaksystolicvelocity=2.7m/sで加速血流を認めた.速やかに脳神経外科へ紹介し,脳血管撮影による精査を行ったところ,狭窄率はNASCET法にて右83%,左75%と高度狭窄を認めた(図3e).その後,光凝固を追加し,合計右眼864発,左眼865発施行した.初診より19日後の眼圧はドルゾラミド/チモロール点眼1日2回点眼下で,右眼23mmHg,左眼22mmHgであったので,トラボプロスト点眼両1回/日を追加処方した.循環器内科からは高度の弁膜症があり全身麻酔は許可できない状態とのことであった.また,大動脈分岐部慢性閉塞症(Leriche症候群)を合併していたため,通常の大腿動脈からのアプローチは不可能と判断され,両側とも局所麻酔下で右上腕動脈からのアプローチにてCAS(左7月下旬,右8月上旬)が施行された(図3f).左CAS施行2日後に右眼43mmHg,左眼39mmHgと上昇を認めたため,CAS術後右眼232発,左眼54発光凝固を追加し,塩酸ブリモニジン点眼両眼1日2回,アセタゾラミド内服500mgを追加処方した.その結果,右眼眼圧は20台前半,左眼眼圧は20台後半で推移した.両眼の虹彩新生血管は著変を認めなかった.アセタゾラミドを中止すると両眼ともに眼圧が20台後半まで上昇するため,左CAS術後28日目に左眼に対し,右CAS術後28日目に右眼に対して耳上側円蓋部基底結膜切開によるマイトマイシンC併用線維柱帯切除術施行した.強膜弁は3mm×3mm+2.5mm×2.5mmの二重強膜弁で行った.両眼とも虹彩切除による前房出血は非常に軽度であり,速やかに眼圧の下降が得られた.眼圧の下降に伴い両眼とも急速に虹彩新生血管は退縮した.2015年1月の再診時,矯正視力は右眼(1.2)左眼(1.0).眼圧は右眼12mmHg,左眼9mmHgであり,抗緑内障薬から離脱でき,左後頭葉の脳梗塞に伴うと考えられる右下1/4半盲を認めるものの,視野は比較的保たれている.II考按ICASの原因は粥状動脈硬化であり,プラークの剝脱による広範な脳塞栓を起こせば,生命にかかわる疾患である.また,ICASは高度狭窄をきたすまで自覚症状が出にくく5),早期に発見するためには,スクリーニング検査が重要となる.スクリーニングとしては非侵襲検査である頸動脈エコーもしくはMRAが適している.とくに頸部エコーは検者の技量に左右されるという欠点はあるものの,簡便で患者の経済的負担も軽い.MRAに関しては,一般に頭部MRAでは頸部頸動脈は撮影範囲外になるということに注意が必要である.事実,症例3では頭部MRAでは撮影範囲外であったために頸部の高度ICASを発見できなかった.事前に自分が所属する施設のMRA撮影条件や範囲を確認しておくことが重要で,ICASを疑う症例では,頸部頸動脈も適切に検査されているか注意が必要である.症例3では急速に虹彩新生血管が発生した.初診時には虹彩面上には認めなかったにもかかわらず,12日後には両眼に累々と形成された.初診時に隅角検査を行っていないので,隅角にはすでに新生血管の形成があった可能性はある.眼虚血症候群を疑った場合,可能であれば,速やかにFAにて灌流状態を評価すべきである.腕網膜時間の著明な延長やシダ状蛍光漏出など,高度な眼虚血を疑う症例については,頸動脈のスクリーニング検査も併せて行い,治療方針を決定することになるが,治療が一段落するまでは再診の間隔を短くし,虹彩面上および隅角の新生血管の発生を見逃さないよう注意することが特に重要と思われた.症例2,3ともに著明な虹彩新生血管を形成したにもかかわらず,眼圧上昇は比較的軽度で点眼および内服でコントロール可能であった.しかし,CAS直後から眼圧上昇を認めた.これは,既報にもあるように眼虚血により房水産生も低下していたためであり,CASにより血行が再建されると房水産生が回復し急速に眼圧が上昇したと考えられる5,6).虹彩新生血管を伴う症例ではCAS後の急激な眼圧上昇にとくに注意すべきと再認識した.症例3ではCAS術前の眼圧はドルゾラミド/チモロール点眼1日2回点眼下で,右眼23mmHg,左眼22mmHgであったが,CAS後の眼圧上昇を見越してトラボプロスト点眼両眼1回/日追加処方した.しかし,CAS後眼圧はさらに上昇し,そのコントロールには光凝固の追加と最大許容量の投薬が必要であった.CASの術前から最大許容量の眼圧降下薬を処方すべきかどうかついては,今後の検討課題である.症例2,3は,血管新生緑内障を発症したにもかかわらず,CASと線維柱帯切除術の併施にて良好な視機能を維持することができた.しかし,一般に血管新生緑内障は手術成績が悪く,予後が不良であるとされている1,7,8).血管新生緑内障に対しては線維柱帯切除術が標準術式であるが,新生血管からの出血が必発で,流出路を凝血塊が閉塞してしまう.症例2では,強膜弁下に凝血塊が詰まり,濾過胞再建術を1回要したが,症例3では両側とも凝血塊の問題は生じなかった.CASで血行再建を行い,虚血状態を改善してから手術を行ったため,虹彩新生血管の病勢が弱まって,前房出血が少なかった可能性がある.また,最終的な新生血管の退縮は3眼ともに線維柱帯切除術後の眼圧下降に連動していた.以上から,CAS後の眼圧コントロール不良症例には,積極的に線維柱帯切除術を行うべきと考える.近年,抗VEGF抗体などのVEGF抑制作用を有する生物製剤の線維柱帯切除術前投与が手術成績向上に有用であると報告されている8,9).しかし,抗VEGF抗体は脳梗塞症例には注意が必要とされており,高度ICAS症例は脳梗塞を含む全身合併症があることが多く,特段の注意を要する.実際,2例のICASに伴う血管新生緑内障に対して抗VEGF抗体(Avastin®)を硝子体注射したところ,2例ともにCRAOを発症したとの報告もある10).現在のところ,血管新生緑内障に対して保険適応のあるVEGF抑制作用を有する生物製剤は存在しない.以上より,筆者らは今回の症例に対してはVEGF抑制作用を有する生物製剤は使用しなかった.使用せざるを得ない場合には,厳格なインフォームド・コンセントと倫理委員会の承認が必要と考える.近年,線維柱帯切除術以外の術式として,チューブシャント手術が脚光を浴びているが,今後ICASによる血管新生緑内障に対する第一選択の術式となるかは不明である.今回,眼虚血症候群を呈した症例2,3の3眼で汎網膜光凝固を施行した.汎網膜光凝固をどのような症例に行うかの判断はむずかしいが,新生血管を認めない症例や認めても解放隅角期で眼圧上昇がない症例にはCAS術前に積極的に行う必要はないように思われる.しかし,閉塞隅角期に入り眼圧上昇をきたした症例は眼内VEGF濃度を減らすことが重要で,前述のように,眼虚血症候群に対して適応のある抗VEGF製剤が存在しない現状では速やかに汎網膜光凝固を行うべきであると考える.内頸動脈に高度狭窄をきたすような症例の多くは,高齢かつ何らかの全身合併症をもっていることを考えると,CASにより低侵襲で根治療法が行えることは非常に有用である.CASはわが国では2008年4月に保険適応となったが,それ以降もCAS用デバイスの進歩は著しく,さまざまな有用なデバイスやアプローチ法が開発されている.たとえば,本報告の症例1のように可動性プラークがある症例には,比較的目の細かいclosed-cellstentであるCarotidWallStent®が使用され,プラークがステント腔内に突出しないように配慮されている.また,症例3のように胸部や腹部大動脈に何らかの病変があるため従来は大腿動脈アプローチでのCASでは治療が困難と考えられていた症例でも,上腕動脈から治療できるようになってきている.また,CASによる塞栓性合併症の原因は手技中に血管腔内に出てくるデブリであるが,このデブリを回収するデバイスも,狭窄遠位をブロックするバルーンやフィルター,狭窄近位をブロックするバルーンガイディングカテーテルなど複数の選択があり,患者の病態に応じて最適な方法が取られている.症例1では視力改善は困難であったものの,可動性プラークに対してCASを行うことで,生命を脅かす脳梗塞のリスクを回避することができた.中等度〜高度ICASを認めた際には,高齢者や全身合併症のあるハイリスク症例であっても,積極的に脳神経外科へ紹介し,根治術の可能性を探るべきであると考える.最後に,高度〜中等度ICASの加療にあたっては,脳神経外科と眼科の密な連携が非常に重要であることを強調したい.文献1)栂野哲也,福地健郎,太田亜紀子ほか:内頸動脈閉塞症に伴う血管新生緑内障の1例.眼紀55:889-894,20042)GoldsteinLB,AdamsR,AlbertsMJetal:Primarypreventionofischemicstroke:aguidelinefromtheAmericanHeartAssociation/AmericanStrokeAssociationStrokeCouncil:cosponsoredbytheAtheroscleroticPeripheralVascularDiseaseInterdisciplinaryWorkingGroup;CardiovascularNursingCouncil;ClinicalCardiologyCouncil;Nutrition,PhysicalActivity,andMetabolismCouncil;andtheQualityofCareandOutcomesResearchInterdisciplinaryWorkingGroup:theAmericanAcademyofNeurologyaffirmsthevalueofthisguideline.Stroke37:1583-1633,20063)ManteseVA,TimaranCH,ChiuDetal:TheCarotidRevascularizationEndarterectomyversusStentingTrial(CREST):stentingversuscarotidendarterectomyforcarotiddisease.Stroke41:S31-S34,20104)CremonesiA,CastriotaF,SeccoGGetal:Carotidarterystenting:anupdate.EurHeartJ21:1-9,20145)高木麻起子,河原彩,杉山哲也ほか:内頸動脈内膜剝離術後に増悪した血管新生緑内障の1例.臨眼59:349-352,20056)福永健作,井上正則:内頸動脈内膜血栓剝離術後に眼圧上昇をみた眼虚血症候群の1例.1眼紀52:960-964,20017)HavensSJ,GulatiV:Neovascularglaucoma.DevOphthalmol55:196-204,20168)HorsleyMB,KahookMY:Anti-VEGFtherapyforglaucoma.CurrOpinOphthalmol21:112-117,20109)SaitoY,HigashideT,TakedaHetal:Beneficialeffectsofpreoperativeintravitrealbevacizumabontrabeculectomyoutcomesinneovascularglaucoma.ActaOphthalmol88:96-102,201010)HigashideT,MurotaniE,SaitoYetal:Adverseeventsassociatedwithintraocularinjectionsofbevacizumabineyeswithneovascularglaucoma.GraefesArchClinExpOphthalmol250:603-610,2012〔別刷請求先〕佐藤茂:〒593-8304大阪府堺市西区家原寺町1-1-1市立堺病院眼科Reprintrequests:ShigeruSatoM.D.,Ph.D.DepartmentofOphthalmology,SakaiMunicipalHospital,1-1-1Ebaraji-cho,Nishi-ku,SakaiCity,Osaka593-8304,JAPAN606(124)0910-1810/16/¥100/頁/JCOPY図1症例1a:初診時の左眼眼底写真.網膜動脈の高度狭細化と分節状血柱を認める.後極部網膜は浮腫状で,黄斑部はcherryredspotを呈す.b:左眼FA(静注後1分).動脈が完全に造影されていない.c:頸動脈エコーにて,左頸動脈球部に可動性プラークを認める.d:CAS後約1カ月の左眼FA(静注後1分).網膜循環は若干の改善に留まる.(125)あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016607図2症例2a:初診時左眼眼底写真.網膜動脈の狭細化,軟性白斑および斑状出血を認める.b:左眼CAS術前FA(静注後1分).静脈はまだ充盈されておらず,網膜内循環時間の著明な延長を認める.c:初診から1カ月後の左眼前眼部写真.虹彩新生血管を認める.d:線維柱帯切除術後,急速に虹彩新生血管は退縮した.e:CAS術後7カ月の眼底写真.軟性白斑の消失と斑状出血の軽減を認める.f:CAS術後3カ月のFA(静注後1分).静脈もすでに充盈されており,明らかな網膜内循環時間の改善を認める.608あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016(126)(127)あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016609図3症例3a:右眼初診時眼底写真,b:左眼初診時眼底写真.右眼は数カ所の点状出血と小さな軟性白斑を認める.左眼は軟性白斑が多発している.c:右眼前眼部写真,d:左眼前眼部写真.初診より12日後.両眼とも著明な虹彩新生血管を認める.e:右血管造影CAS術前.➡:著明な狭窄を認める.f:CAS術直後.➡:狭窄部位がステントで拡張されていることがわかる.610あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016(128)(129)あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016611612あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016(130)