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アレルギー性結膜疾患における涙液中amphiregulin値の検討

2016年8月31日 水曜日

《原著》あたらしい眼科33(8):1213?1217,2016cアレルギー性結膜疾患における涙液中amphiregulin値の検討野村真美稲田紀子庄司純日本大学医学部視覚科学系眼科学分野EvaluationofAmphiregulinLevelsinTearsofPatientswithAllergicConjunctivalDiseasesMamiNomura,NorikoInadaandJunShojiDivisionofOphthalmology,DepartmentofVisualSciences,NihonUniversitySchoolofMedicine目的:涙液中amphiregulin(AREG)値の眼アレルギー検査としての有用性の検討.対象および方法:対象は,アレルギー性結膜炎(AC)群11例,アトピー性角結膜炎(AKC)群18例,春季カタル(VKC)群27例およびコントロール群19例である.方法は,Schirmer試験紙に採取した涙液を検体として,enzyme-linkedimmunosorbentassay法により涙液中AREG濃度を測定し,カットオフ値(0.4ng/ml)以上を陽性,カットオフ値未満を陰性として,各群の陽性率について検討した.結果:涙液中AREGの陽性率は,AC群11例中7例,AKC群18例中11例,VKC群27例中11例であり,コントロール群(陽性:19例中1例)と比較して全群で有意に陽性率が高値であった(AC群:p<0.005,AKC群:p<0.001,VKC群:p<0.001,Fisher直接確率).涙液中AREG値は,感度51.8%および特異度94.7%であった.結論:涙液中AREG値は,眼アレルギー検査として有用である.Purpose:Toinvestigatetheusefulnessofamphiregulin(AREG)levelsintearsasanocularallergytest.SubjectsandMethods:Subjectsweredividedintothefollowingfourgroups:allergicconjunctivitis(AC)group(11patients),atopickeratoconjunctivitis(AKC)group(18),vernalconjunctivitis(VKC)group(27)andcontrolgroup(19).RegardingtearspecimenscollectedbySchirmertestpapers,AREGlevelsweredeterminedbyenzymelinkedimmunosorbentassay.Belowcutoffvalue(0.4ng/ml)wasdeemednegativeandabovecutoffvaluewasdeemedpositive;resultswereevaluatedastothepositiverateofeachgroup.Results:ThepositiveratesofAREGintearswere7of11,11of18and11of27intheAC,AKCandVKCgroups,respectively;allpositivegroupsratedsignificantlyhigherthanthecontrolgroup(ACgroup:p<0.005,AKCgroup:p<0.001,VKCgroup:p<0.001,Fisherdirectprobability).TheAREGlevelintearswas51.8%forsensitivityand94.7%forspecificity.Conclusion:TheAREGlevelintearsisusefulasanocularallergytest.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(8):1213?1217,2016〕Keywords:amphiregulin,アレルギー性結膜疾患,涙液検査.amphiregulin,allergicconjunctivaldiseases,teartest.はじめに1988年にヒト乳がん細胞から発見されたamphiregulin1)は,EGF(epidermalgrowthfamily)familyに分類され,細胞の増殖,生存,分化に重要な役割を果たしていることが知られている2).Amphiregulinは,おもにマスト細胞から産生されると考えられており,マスト細胞の脱顆粒とともに組織中に放出される.また,特異な環境下では,好酸球3)や好塩基球4)からの産生も報告されており,即時型アレルギー反応や感染症の病態への関与が検討されている.近年,amphiregulinの研究が進んでいる気管支喘息の領域では,amphiregulinが肺マスト細胞に多量に存在すること5),ヒト肺上皮細胞のムチン遺伝子の発現を増強させ粘液分泌を増強すること5),線維芽細胞の線維化を促進させることにより気管支のリモデリングに関与すること6)などが報告されている.また,気管支喘息以外のアレルギー疾患におけるamphiregulinの検討については,アトピー性皮膚炎7)やスギ花粉によるアレルギー性鼻炎8)などの報告がある.しかし,アレルギー性結膜疾患におけるamphiregulinの関与に関しては,不明な点が多く残されている.今回,筆者らはアレルギー性結膜疾患患者の涙液中amphiregulin濃度を測定し,涙液中バイオマーカーとしての有用性について検討を行った.I対象および方法本研究は,日本大学医学部附属板橋病院臨床研究審査会の承認を受けて実施した.1.対象対象は,2012年6月?2013年6月に日本大学医学部附属板橋病院眼科を受診し,かつアレルギー性結膜疾患診療ガイドライン9)の診断基準に従って季節性アレルギー性結膜炎,通年性アレルギー性結膜炎,アトピー性角結膜炎または春季カタルと準確定もしくは確定診断した56例である.準確定診断の方法は,局所のアレルギー素因として涙液総IgE検査(アレルウォッチR涙液IgE;わかもと製薬/日立化成)もしくは全身のアレルギー素因として血清中抗原特異的IgE抗体価検査のいずれかが陽性を示し,かつアレルギー性結膜疾患の臨床所見を有するものとした.確定診断は,眼脂塗抹標本検査(エオジノステインR染色;鳥居薬品)で好酸球が陽性,かつアレルギー性結膜疾患の臨床所見を有するものとした.アレルギー性結膜疾患56例を,季節性および通年性アレルギー性結膜炎からなるAC群11例,アトピー性角結膜炎からなるAKC群18例および春季カタルからなるVKC群27例に分けて検討した.また,前眼部疾患を有していない健常成人19例をコントロール群とした.各群の症例数,平均年齢,性差,準確定診断および確定診断の内訳については表1に示した.2.涙液採取方法および涙液検体作製方法涙液は,Schirmer試験紙(SchirmertearproductionmeasuringstripsR,昭和薬品工業)を用いて両眼にSchirmer第1法を行い,Schirmer試験紙に涙液を採取した.涙液検体は,涙液を採取したSchirmer試験紙を0.5MNaCl,0.5%Tween20添加0.05Mリン酸緩衝液(phosphatebufferedsolution:PBS,pH7.2)中に一晩浸漬して涙液を溶出し,40倍希釈涙液を作製して検体として使用した.3.涙液中amphiregulin濃度の測定涙液中amphiregulin濃度は,RayBioHumanAmphiregulinELISAkit(RayBiotech社)を用いたenzyme-linkedimmunosorbentassay(ELISA)法で測定し,涙液amphiregulin値とした.また,本キットの測定レンジから,0.4ng/ml以上を陽性,0.4ng/ml未満(測定下限値未満)を陰性として,各群の陽性率ならびに感度と特異度について検討した.4.統計学的解析涙液amphiregulin値の各群間比較は,Kruskal-Wallis検定を用い,陽性率は,Fisher直接確率を用いて検討した.結果は,危険率5%未満を有意差ありと判定した.II結果1.涙液中amphiregulin値の陽性率および感度・特異度AC群,AKC群およびVKC群における涙液中amphiregulinの陽性率を表2,3,4に示した.AC群,AKC群およびVKC群ともにコントロール群と比較して有意に陽性率が高値であった(AC群:p<0.005,VKC群:p<0.001,VKC群:p<0.001).AC群,AKC群およびVKC群を対象とした涙液中amphiregulin値の感度および特異度を表5に示す.涙液中amphiregulin値によりアレルギー性結膜疾患を診断する場合の感度は51.8%,特異度は94.7%と算出された.また,3群のなかではAC群がもっとも感度が高値を示した.2.涙液中amphiregulin値涙液中amphiregulin値が陽性を示した検体の涙液中amphiregulin値は,AC群(n=7)で2.5(0.5?3.4)[中央値(レンジ)]ng/ml,AKC群(n=11)で0.9(0.5?9.6),VKC群(n=11)で1.3(0.4?4.8)で,各群の測定値に統計学的有意差はみられなかった(p=0.145,Kruskal-Wallis検定)(図1).また,コントロール群では,1例のみ陽性を示し,測定値は1.3ng/mlであった.3.代表症例今回の測定で涙液amphiregulin値が最高値を示した症例を提示する.症例は,35歳,男性.数年前よりアトピー性角結膜炎の診断で近医に通院し,憎悪と寛解とを繰り返していた.右眼の羞明,疼痛,流涙が増悪したため当科紹介受診となった.右眼前眼部所見を図2に示す.眼瞼結膜に明らかな巨大乳頭の所見はなかったが,ビロード状乳頭増殖と強い線維化がみられた(図2a).また,球結膜には高度の充血と輪部腫脹とがあり,角膜にシールド潰瘍がみられた(図2b).涙液amphiregulin値は9.6ng/mlと高値であった.III考按Amphiregulinは,EGFfamilyに属する成長因子の一つであり,おもにマスト細胞の脱顆粒で放出されるマスト細胞に関連の深い物質であると考えられている.一方,I型(即時型)アレルギー反応は,マスト細胞表面の高親和性IgE受容体(FceRI)に結合した抗原特異的IgE抗体と抗原(アレルゲン)とが反応することにより,マスト細胞が脱顆粒し,種々のケミカルメディエーターを放出することで発症するアレルギー反応である.したがって,マスト細胞の脱顆粒に関連する因子であるamphiregulinは,I型アレルギー反応の指標になる可能性が考えられる.今回筆者らは,涙液中amphiregulin値を測定することにより,涙液中amphiregulin値のアレルギー性結膜疾患における眼アレルギー検査としての有用性について検討した.今回検討した涙液中amphiregulin陽性率は,AC群,AKC群,VKC群ともにコントロール群と比較して有意に高値であることが判明した.また,感度および特異度に関しては,感度は51.8%,特異度は94.7%であった.現在,アレルギー性結膜疾患の診断用として日常診療に用いられている涙液検査法には,イムノクロマトグラフィ法を用いた涙液総IgE測定キット(アレルウォッチR涙液IgE,わかもと製薬/日立化成)がある.このキットにおけるアレルギー性結膜疾患での陽性率は72.2%であったと報告されている10).したがって,涙液中amphiregulin値は,感度の面ではやや低値であるものの,特異度は高値でありアレルギー性結膜疾患の診断には有用なマーカーであると考えられた.また,涙液中amphiregulin値に関しては,AKC群およびVKC群で高値の症例がみられるものの,全体としてはAC群,AKC群およびVKC群の群間で差はなかった.これまでにアレルギー性結膜疾患の診断上有用として報告されている涙液中バイオマーカーには,総IgEやeosinophilcationicprotein(ECP)などがある9,11).これらのバイオマーカーを用いた涙液検査は,アトピー性角結膜炎および春季カタルでは高値,季節性アレルギー性結膜炎では低値となることから,軽症例では診断率が低値となる問題点が指摘されていた.しかし,今回の涙液中amphiregulin値は,アレルギー性結膜疾患の各病型間でほとんど差がなかったことから,amphiregulinをバイオマーカーに用いた涙液検査は,適当なカットオフ値を設定することにより,有用な臨床検査と成りうる可能性が考えられた.一方,amphiregulinのバイオマーカーとしての可能性については,Kimら12)が,小児の気管支喘息患者では,喀痰中amphiregulin濃度が健常者と比較して有意に増加しており,喀痰中好酸球数および喀痰中eosinophilcationicprotein濃度と有意な正の相関,1秒量(FEV1)と有意な負の相関を認めたと報告していることから,気管支喘息の喀痰中バイオマーカーとして有望視されている.また,この報告では,小児気管支喘息患者の喀痰中amphiregulin濃度の平均は10.80pg/mlであったと報告されている.今回筆者らが測定した涙液中amphiregulin値は,中央値がもっとも高いAC群で2.5ng/ml(2.5×103pg/ml)と高値を示した.すなわち,アレルギー性結膜疾患患者の涙液検査では,高濃度のamphiregulinが検出されることが推測され,アレルギー性結膜疾患で陽性率が有意に上昇した結果になったと考えられた.一方で,竹内ら8)は,スギ花粉症患者鼻汁中のamphiregulin濃度をELISA法で測定し,健常者とスギ花粉症患者とを比較した結果,スギ花粉症患者で高値を認めたものの,両群間に有意差はなかったとし,花粉症患者の鼻汁中amphiregulin濃度の中央値は317pg/mlであると報告している.この論文では,花粉症患者の鼻汁量が健常者と比較して多量であったため,花粉症患者の鼻汁中amphiregulin濃度が希釈されていた可能性を指摘している.今回の涙液中amphiregulin値は,濾紙法により採取した涙液をELISA法により測定したが,この測定には,ELISA測定に必要な検体量も考慮して40倍希釈涙液を用いた.そのため,測定下限値が0.4ng/ml(400pg/ml)となったが,喀痰中や鼻汁中のamphiregulin濃度から推察すると,涙液検査が偽陰性となった検体が存在し,感度が低値となった可能性が示唆された.今後,涙液中amphiregulin値を臨床検査として実用化するためには,特異度を維持しながら感度を上げる測定方法について検討する必要があると考えられた.また,Okumuraら5)は,amphiregulinがマスト細胞から分泌され,この反応はステロイドでは抑制されず,気道粘膜のマスト細胞におけるamphiregulin発現と気管支喘息患者でみられる気道のリモデリングとして知られるゴブレット(goblet)細胞の過形成とが相関することを報告している.これらの結果は,ステロイド治療に抵抗して気道のリモデリングが進行する気管支喘息患者の有用なバイオマーカーとなりうる可能性を示唆している.また,Tominagaら13)は,アトピー性皮膚炎マウスモデルの表皮において神経伸長作用をもつamphiregulinが顕著に増加していることを明らかにし,痒みの発現にamphiregulinの関与が示唆されると報告している.Amphiregulinの発現は,マスト細胞以外にも,アレルギー炎症に関与する好酸球ではgranulocyte-macrophagecolonystimulationfactor刺激により3),好塩基球ではinterleukin-3の刺激により発現がみられると報告され4),アレルギー炎症への関与も示唆されている.今回の実験結果により,涙液amphiregulin値は,アレルギー性結膜疾患の診断に有用な臨床検査と成りうる可能性が示された.しかし,今回の検討では,涙液中のamphiregulin濃度の増加に関する臨床的解釈については不明であった.涙液amphiregulin濃度の上昇が,マスト細胞の脱顆粒が主反応とされるI型アレルギー反応の即時相で生じるのか,アレルギー炎症が主反応とされる遅発相で生じるのか,または,ある種の増悪因子に関連して増加するのかについても疑問が残る点である.今後,涙液中amphiregulin濃度と病態との関連を検索するためには,結膜抗原誘発試験(conjunctivaantigenchallengetest:CACtest)などによる経時的な検討が必要であると考えられ,重症度との関連については臨床スコアなどとの比較により,これらの疑問点を解決することが臨床検査としての涙液amphiregulin検査の実用化に必要なことであると考えられた.文献1)ShoyabM,McDonaldVL,BradleyJGetal:Amphiregulin:Abifunctionalgrows-modulatingglycoproteinproducedbythephorbol12-myristate13-acetate-treatedhumanbreastadenocarcinomacelllineMCF-7.ProcNatlAcadSciUSA85:6528-6532,19882)FalkA,FrisenJ:Amphiregulinisamitogenforadultneuralstemcells.JNeurosciRes69:757-762,20023)MatsumotoK,FukudaS,NakamuraYetal:Amphiregulinproductionbyhumaneosinophil.IntArchAllergyImmunol149(Suppl1):39-44,20094)QiY,OperarioDJ,OberholzerCMetal:HumanbasophilexpressamphiregulininresponsetoTcell-derivedIL-3.JAllergyClinImmunol126:1260-1266,20105)OkumuraS,SegaraH:FceRI-mediatedamphiregulinproductionbyhumanmastcellsincreasesmucingeneexpressioninepithelialcells.JAllergyClinImmunol115:272-279,20056)WangSW,OhCK,ChoSHetal:Amphiregulinexpressioninhumanmastcellsanditseffectontheprimaryhumanlungfibroblasts.JAllergyClinImmunol115:287-294,20057)KubanovAA,KatuninaOR,ChikinVV:Expressionofneuropeptides,neurotrophins,andneurotransmittersintheskinofpatientswithatopicdermatitisandpsoriasis.BullExpBiolMed159:318-322,20158)竹内万彦,鈴木慎也,間島雄一ほか:スギ花粉症患者鼻汁中のamphiregulinの測定の試み.耳展51(補1):29-31,20089)アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン作成委員会:特集:アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン(第2版).日眼会誌114:829-870,201010)庄司純,内尾英一,海老原伸行ほか:アレルギー性結膜疾患診断における自覚症状,他覚所見および涙液総IgE検査キットの有用性の検討.日眼会誌116:485-493,201211)庄司純:涙液検査からみたアレルギー性結膜疾患.臨眼59:142-148,200512)KimKW,JeeHM,ParkYHetal:Relationshipbetweenamphiregulinandairwayinflammationinchildrenwithasthmaandeosinophilicbronchitis.Chest136:805-810,200913)TominagaM,OzawaS,OgawaH,atal:AhypotheticalmechanismofintraepidermalneuriteformationinNC/Ngamicewithatopicdermatitis.JDermatolSci46:199-210,2007〔別刷請求先〕野村真美:〒173-8610東京都板橋区大谷口上町30-1日本大学医学部視覚科学系眼科学分野Reprintrequests:MamiNomura,DivisionofOphthalmology,DepartmentofVisualSciences,NihonUniversitySchoolofMedicine,30-1Oyaguchi-kamicho,Itabashi-ku,Tokyo173-8610,JAPAN0910-1810/16/\100/頁/JCOPY(131)1213表1対象症例の内訳1214あたらしい眼科Vol.33,No.8,2016(132)表2涙液中amphiregulin陽性率(AC群)表3涙液中amphiregulin陽性率(AKC群)表4涙液中amphiregulin陽性率(VKC群)表5アレルギー性結膜疾患に対する感度・特異度図1涙液中amphiregulin濃度病型別の涙液中amphiregulin濃度を比較したところ,各群間での統計学的有意差はみられなかった(p=0.145,Kruskal-Wallis検定).コントロール群では1例を除いたすべての症例でamphiregulineが陰性であった.図2涙液中amphiregulin濃度が高値を示したアトピー性角結膜炎症例症例は35歳,男性.右眼の眼瞼結膜にはビロード状乳頭増殖と強い線維化がみられる(a).右眼球結膜の充血,輪部堤防上隆起があり,角膜にシールド潰瘍がみられる(b).涙液中のamphiregulin濃度は9.6ng/mlであった.(133)あたらしい眼科Vol.33,No.8,201612151216あたらしい眼科Vol.33,No.8,2016(134)(135)あたらしい眼科Vol.33,No.8,20161217

アトピー性皮膚炎症例における細菌性角膜炎の検討

2015年4月30日 木曜日

556あたらしい眼科Vol.5104,22,No.3(00)556(92)0910-1810/15/\100/頁/JCOPY《第51回日本眼感染症学会原著》あたらしい眼科32(4):556.560,2015cはじめにアトピー性皮膚炎は,「増悪,寛解を繰り返す掻痒のある湿疹を主病変とする疾患であり,患者の多くはアトピー素因を持つ」と定義されている1).アトピー性皮膚炎の眼合併症として,円錐角膜,白内障および網膜.離などがあげられ,視力予後に関係する眼合併症として注意喚起されている2).一方,アトピー性皮膚炎のもう一つの合併症として皮膚感染症があげられる.アトピー性皮膚炎では皮膚の易感染性による感染性皮膚疾患として,ブドウ球菌,連鎖球菌による伝染性膿痂疹,単純ヘルペスウイルスによるカポジ(Kaposi)水痘様発疹症,伝染性軟属腫ウイルスによる伝染性軟属腫が多い.さらにこれらの感染性皮膚疾患から角結膜炎に波及し,伝染性膿痂疹ではカタル性結膜炎やブドウ球菌角膜炎3),カポジ水痘様発疹症では単純ヘルペス結膜炎および角膜炎4),伝染性軟属腫では濾胞性結膜炎がみられる5).しかしながら,アトピー性皮膚炎の易感染性を背景に発症する細菌性角膜炎の詳細については不明な点が多い.今回,筆者らは,アトピー性皮膚炎を有する症例に発症した細菌性角膜炎の特徴について検討した.〔別刷請求先〕庄司真紀:〒173-8610東京都板橋区大谷口上町30-1日本大学医学部視覚科学系眼科学分野Reprintrequests:MakiShoji,M.D.,DivisionofOphthalmology,DepartmentofVisualSciences,NihonUniversitySchoolofMedicine,30-1Oyaguchi-Kamichou,Itabashi-ku,Tokyo173-8610,JAPANアトピー性皮膚炎症例における細菌性角膜炎の検討庄司真紀*1,2稲田紀子*1庄司純*1*1日本大学医学部視覚科学系眼科学分野*2東京女子医科大学糖尿病センターStudyofBacterialKeratitisinPatientswithAtopicDermatitisMakiShoji1,2),NorikoInada1)andJunShoji1)1)DivisionofOphthalmology,DepartmentofVisualSciences,NihonUniversitySchoolofMedicine,2)DiabetesCenter,TokyoWomen’sMedicalUniversitySchoolofMedicineアトピー性皮膚炎を有する細菌性角膜炎症例の臨床的特徴を検討する目的で,患者背景,誘因,角膜炎の臨床所見,アレルギー性結膜疾患の有無,角膜擦過物からの検出菌および薬剤感受性について調査した.対象は,細菌性角膜炎に罹患したアトピー性皮膚炎患者34例(男性22例,女性12例)で,平均年齢は28.6歳±11.2歳(±標準偏差)である.角膜炎の誘因としては,コンタクトレンズ(CL)装用がもっとも多く17例(50%)で,アレルギー性結膜疾患の合併率は23例(68%)であった.角膜擦過物の細菌分離培養検査では19例23株で菌が検出され,methicillin-senstiveStaphylococcusaureus10株が最多であった.アトピー性皮膚炎患者の細菌性角膜炎の特徴は,CL装用者に発症するブドウ球菌角膜炎であった.Purpose:Toidentifytheclinicalcharacteristicsofmicrobialkeratitispatientswithatopicdermatitis.SubjectsandMethods:Thisstudyinvolved36patients(22malesand12females,meanage:28.6±11.2(±SD)years)withatopicdermatitiswhosufferedfrommicrobialkeratitis.Inallpatients,dataregardingpatientdemographics,precipitantsofkeratitis,clinicalobservationofkeratitis,presenceofallergicconjunctivaldiseases,andresultsofbacterialcultivationandantibioticsusceptibilitytestswereevaluated.Results:Forprecipitantsofkeratitis,contactlens(CL)wearwasmostcommon[17of34patients(50%)],andtheincidenceofcomplicationofallergicconjunc-tivaldiseaseswere23of34cases(68%).Inthecornealabrasionspecimensof19patients,23bacterialstrainsweredetectedbythebacterialcultivationtest,with10strainsofmethicillin-sensitiveStaphylococcusaureusbeingtheonesmostisolated.Conclusions:Inthisstudy,theclinicalcharacteristicofbacterialkeratitisinthepatientswithatopicdermatitiswasfoundtobestaphylococcalkeratitisthatdevelopedduetoCLwear.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(4):556.560,2015〕Keywords:アトピー性皮膚炎,細菌性角膜炎,黄色ブドウ球菌,アレルギー性結膜疾患.atopicdermatitis,bacte-rialkeratitis,Staphylococcusaureus,allergicconjunctivaldisease.(00)556(92)0910-1810/15/\100/頁/JCOPY《第51回日本眼感染症学会原著》あたらしい眼科32(4):556.560,2015cはじめにアトピー性皮膚炎は,「増悪,寛解を繰り返す掻痒のある湿疹を主病変とする疾患であり,患者の多くはアトピー素因を持つ」と定義されている1).アトピー性皮膚炎の眼合併症として,円錐角膜,白内障および網膜.離などがあげられ,視力予後に関係する眼合併症として注意喚起されている2).一方,アトピー性皮膚炎のもう一つの合併症として皮膚感染症があげられる.アトピー性皮膚炎では皮膚の易感染性による感染性皮膚疾患として,ブドウ球菌,連鎖球菌による伝染性膿痂疹,単純ヘルペスウイルスによるカポジ(Kaposi)水痘様発疹症,伝染性軟属腫ウイルスによる伝染性軟属腫が多い.さらにこれらの感染性皮膚疾患から角結膜炎に波及し,伝染性膿痂疹ではカタル性結膜炎やブドウ球菌角膜炎3),カポジ水痘様発疹症では単純ヘルペス結膜炎および角膜炎4),伝染性軟属腫では濾胞性結膜炎がみられる5).しかしながら,アトピー性皮膚炎の易感染性を背景に発症する細菌性角膜炎の詳細については不明な点が多い.今回,筆者らは,アトピー性皮膚炎を有する症例に発症した細菌性角膜炎の特徴について検討した.〔別刷請求先〕庄司真紀:〒173-8610東京都板橋区大谷口上町30-1日本大学医学部視覚科学系眼科学分野Reprintrequests:MakiShoji,M.D.,DivisionofOphthalmology,DepartmentofVisualSciences,NihonUniversitySchoolofMedicine,30-1Oyaguchi-Kamichou,Itabashi-ku,Tokyo173-8610,JAPANアトピー性皮膚炎症例における細菌性角膜炎の検討庄司真紀*1,2稲田紀子*1庄司純*1*1日本大学医学部視覚科学系眼科学分野*2東京女子医科大学糖尿病センターStudyofBacterialKeratitisinPatientswithAtopicDermatitisMakiShoji1,2),NorikoInada1)andJunShoji1)1)DivisionofOphthalmology,DepartmentofVisualSciences,NihonUniversitySchoolofMedicine,2)DiabetesCenter,TokyoWomen’sMedicalUniversitySchoolofMedicineアトピー性皮膚炎を有する細菌性角膜炎症例の臨床的特徴を検討する目的で,患者背景,誘因,角膜炎の臨床所見,アレルギー性結膜疾患の有無,角膜擦過物からの検出菌および薬剤感受性について調査した.対象は,細菌性角膜炎に罹患したアトピー性皮膚炎患者34例(男性22例,女性12例)で,平均年齢は28.6歳±11.2歳(±標準偏差)である.角膜炎の誘因としては,コンタクトレンズ(CL)装用がもっとも多く17例(50%)で,アレルギー性結膜疾患の合併率は23例(68%)であった.角膜擦過物の細菌分離培養検査では19例23株で菌が検出され,methicillin-senstiveStaphylococcusaureus10株が最多であった.アトピー性皮膚炎患者の細菌性角膜炎の特徴は,CL装用者に発症するブドウ球菌角膜炎であった.Purpose:Toidentifytheclinicalcharacteristicsofmicrobialkeratitispatientswithatopicdermatitis.SubjectsandMethods:Thisstudyinvolved36patients(22malesand12females,meanage:28.6±11.2(±SD)years)withatopicdermatitiswhosufferedfrommicrobialkeratitis.Inallpatients,dataregardingpatientdemographics,precipitantsofkeratitis,clinicalobservationofkeratitis,presenceofallergicconjunctivaldiseases,andresultsofbacterialcultivationandantibioticsusceptibilitytestswereevaluated.Results:Forprecipitantsofkeratitis,contactlens(CL)wearwasmostcommon[17of34patients(50%)],andtheincidenceofcomplicationofallergicconjunc-tivaldiseaseswere23of34cases(68%).Inthecornealabrasionspecimensof19patients,23bacterialstrainsweredetectedbythebacterialcultivationtest,with10strainsofmethicillin-sensitiveStaphylococcusaureusbeingtheonesmostisolated.Conclusions:Inthisstudy,theclinicalcharacteristicofbacterialkeratitisinthepatientswithatopicdermatitiswasfoundtobestaphylococcalkeratitisthatdevelopedduetoCLwear.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(4):556.560,2015〕Keywords:アトピー性皮膚炎,細菌性角膜炎,黄色ブドウ球菌,アレルギー性結膜疾患.atopicdermatitis,bacte-rialkeratitis,Staphylococcusaureus,allergicconjunctivaldisease. あたらしい眼科Vol.32,No.4,2015557(93)I対象および方法1.対象対象は,2001年1月.2013年12月に日本大学医学部附属板橋病院眼科で加療し,かつ次の①および②の条件を満たした症例である(本研究は,日本大学医学部附属板橋病院臨床研究審査会の承認を得た).①アトピー性皮膚炎を発症している,もしくは既往を有する症例.②細菌性角膜炎と臨床診断し,角膜病巣部から細菌分離培養検査を施行した症例.2.方法本研究における検討項目は,患者背景,角膜炎の誘因,アレルギー性結膜疾患の有無,角膜炎の臨床所見,角膜擦過物からの検出菌,薬剤感受性試験結果の6項目である.a.患者背景・角膜炎の誘因初診時に,角膜炎発症時の年齢および性別について調査するとともに,問診の記録から角膜炎の発症に関連する誘因について調査した.b.アレルギー性結膜疾患の有無初診時の細隙灯顕微鏡所見から,アレルギー性結膜疾患の合併の有無について検討した.アレルギー性結膜疾患は,アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン6)に従って診断と病型分類を行った.c.角膜炎の臨床所見初診時の感染性角膜炎の所見として,角膜潰瘍の形状,角膜endothelialplaque,虹彩炎および前房蓄膿の有無について調査した.d.角膜擦過物からの検出菌・薬剤感受性試験細菌性角膜炎の原因菌検索として,角膜擦過物を直接チョコレート寒天培地に塗抹して細菌分離培養検査をするとともに薬剤感受性試験を行った.II結果1.年齢分布12年間の調査期間における対象症例数は,34例(男性22例,女性12例)であった.発症年齢は28.6±11.2歳(平均±標準偏差)で,発症のピークは25.29歳であり,おもに20代後半から30代前半に多く発症していた(図1).2.角膜炎の誘因細菌性角膜炎の誘因としては,コンタクトレンズ(contactlens:CL)装用がもっとも多く17例(50%)で,全体の半数を占めた.CLの種類の内訳は,ソフトCL装用が13例,ハードCL装用が4例(円錐角膜に対してハードCL装用3例を含む)であった.その他の誘因は,結膜異物2例,睫毛乱生1例,春季カタルの治療で免疫抑制薬点眼中の症例が1例であり,残りの13例(38%)は明確な誘因が判明しなかった(表1).3.合併するアレルギー性結膜疾患細菌性角膜炎に合併するアレルギー性結膜疾患は,アレルギー性結膜炎16例(47%),春季カタル4例(12%),巨大乳頭結膜炎3例(9%)で,アレルギー性結膜疾患の合併率は34例中23例(68%)であった(図2).さらに,合併するアレルギー性結膜疾患を,CL装用の有無で比較した.CL装用者,すなわちCLが誘因で発症した群においては,アレルギー性結膜炎10例(59%),巨大乳頭結膜炎3例(17%),春季カタル1例(6%)であり,アレルギー性結膜疾患の合併率は17例中14例(82%)であった.CL非装用者,すなわちCL以外の誘因で発症した群においては,アレルギー性結膜炎6例(35%)と春季カタル3例(18%)であり,合併率は17例中9例(53%)であった(図3).4.角膜病巣部からの細菌分離培養検査結果角膜病巣部からの細菌分離培養検査の結果は,34例中19図1発症年齢発症年齢は25.29歳にピークがみられ,おもに20代後半から30代前半に多く発症している.012345678910■:女性■:男性症例数(例)発症年齢5~9歳10~14歳15~19歳20~24歳25~29歳30~34歳35~39歳40~44歳45~49歳50~54歳55~59歳60~64歳表1感染性角膜炎の誘因誘因症例数(例)頻度(%)コンタクトレンズ(CL)装用1750ソフトCL13ハードCL1円錐角膜+ハードCL3結膜異物26睫毛乱生13免疫抑制薬点眼中13誘因不明1338合計34100あたらしい眼科Vol.32,No.4,2015557(93)I対象および方法1.対象対象は,2001年1月.2013年12月に日本大学医学部附属板橋病院眼科で加療し,かつ次の①および②の条件を満たした症例である(本研究は,日本大学医学部附属板橋病院臨床研究審査会の承認を得た).①アトピー性皮膚炎を発症している,もしくは既往を有する症例.②細菌性角膜炎と臨床診断し,角膜病巣部から細菌分離培養検査を施行した症例.2.方法本研究における検討項目は,患者背景,角膜炎の誘因,アレルギー性結膜疾患の有無,角膜炎の臨床所見,角膜擦過物からの検出菌,薬剤感受性試験結果の6項目である.a.患者背景・角膜炎の誘因初診時に,角膜炎発症時の年齢および性別について調査するとともに,問診の記録から角膜炎の発症に関連する誘因について調査した.b.アレルギー性結膜疾患の有無初診時の細隙灯顕微鏡所見から,アレルギー性結膜疾患の合併の有無について検討した.アレルギー性結膜疾患は,アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン6)に従って診断と病型分類を行った.c.角膜炎の臨床所見初診時の感染性角膜炎の所見として,角膜潰瘍の形状,角膜endothelialplaque,虹彩炎および前房蓄膿の有無について調査した.d.角膜擦過物からの検出菌・薬剤感受性試験細菌性角膜炎の原因菌検索として,角膜擦過物を直接チョコレート寒天培地に塗抹して細菌分離培養検査をするとともに薬剤感受性試験を行った.II結果1.年齢分布12年間の調査期間における対象症例数は,34例(男性22例,女性12例)であった.発症年齢は28.6±11.2歳(平均±標準偏差)で,発症のピークは25.29歳であり,おもに20代後半から30代前半に多く発症していた(図1).2.角膜炎の誘因細菌性角膜炎の誘因としては,コンタクトレンズ(contactlens:CL)装用がもっとも多く17例(50%)で,全体の半数を占めた.CLの種類の内訳は,ソフトCL装用が13例,ハードCL装用が4例(円錐角膜に対してハードCL装用3例を含む)であった.その他の誘因は,結膜異物2例,睫毛乱生1例,春季カタルの治療で免疫抑制薬点眼中の症例が1例であり,残りの13例(38%)は明確な誘因が判明しなかった(表1).3.合併するアレルギー性結膜疾患細菌性角膜炎に合併するアレルギー性結膜疾患は,アレルギー性結膜炎16例(47%),春季カタル4例(12%),巨大乳頭結膜炎3例(9%)で,アレルギー性結膜疾患の合併率は34例中23例(68%)であった(図2).さらに,合併するアレルギー性結膜疾患を,CL装用の有無で比較した.CL装用者,すなわちCLが誘因で発症した群においては,アレルギー性結膜炎10例(59%),巨大乳頭結膜炎3例(17%),春季カタル1例(6%)であり,アレルギー性結膜疾患の合併率は17例中14例(82%)であった.CL非装用者,すなわちCL以外の誘因で発症した群においては,アレルギー性結膜炎6例(35%)と春季カタル3例(18%)であり,合併率は17例中9例(53%)であった(図3).4.角膜病巣部からの細菌分離培養検査結果角膜病巣部からの細菌分離培養検査の結果は,34例中19図1発症年齢発症年齢は25.29歳にピークがみられ,おもに20代後半から30代前半に多く発症している.012345678910■:女性■:男性症例数(例)発症年齢5~9歳10~14歳15~19歳20~24歳25~29歳30~34歳35~39歳40~44歳45~49歳50~54歳55~59歳60~64歳表1感染性角膜炎の誘因誘因症例数(例)頻度(%)コンタクトレンズ(CL)装用1750ソフトCL13ハードCL1円錐角膜+ハードCL3結膜異物26睫毛乱生13免疫抑制薬点眼中13誘因不明1338合計34100 例(56%)で菌が検出された.同一症例から複数菌の検出が認められた4例を含め,検出株数は23株であった.結果を図4に示す.検出菌は多い順に,メチシリン感受性黄色ブドウ球菌(methicillin-senstiveStaphylococcusaureus:MSSA)10株,メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin-resistantStaphylococcusaureus:MRSA)4株,コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(coagulase-negativeStaphylococcus:CNS)3株であり,ブドウ球菌属が23株中17株を占めた.5.薬剤感受性試験結果角膜病巣部から分離された黄色ブドウ球菌14株(MSSA10株,MRSA4株)に対する薬剤感受性試験結果を表2に示す.今回の臨床分離株に対するセフェム系およびカルバペネム系抗菌薬の薬剤感受性は良好であり,また抗菌点眼薬として使用される抗菌薬のなかでは,ゲンタマイシンで4株,エリスロマイシンで2株,レボフロキサシンで1株の耐性菌がみられた.MRSAに対する治療薬として使用されているバンコマイシンでは全株に感受性があり,アルベカシンでは1株の耐性菌がみられた.16例(47%)4例(12%)3例(9%)11例(32%)34例■:アレルギー性結膜炎■:春季カタル:巨大乳頭結膜炎■:所見なし図2感染性角膜炎に合併するアレルギー性結膜疾患アレルギー性結膜疾患は,34例中23例(68%)に合併している.6.アトピー性皮膚炎症例に合併したブドウ球菌角膜炎の前眼部所見の特徴ブドウ球菌角膜炎と確定診断された17例について,前眼部所見の特徴から軽症から重症の4つのグループに分類した.分類は,角膜膿瘍の形状(小円形,不整形,角膜のびまん性混濁)と前房蓄膿の有無とで行った.小円形の角膜潰瘍を呈し前房蓄膿を伴わないグループをG1,不整形膿瘍に前房蓄膿を伴わないグループをG2,不整形膿瘍に前房蓄膿を伴うグループをG3,角膜のびまん性混濁を認めるグループをG4とした.G17例,G25例,G34例,G41例に分類された(図5).III考按アトピー性皮膚炎症例に発症した細菌性角膜炎は,12年間の観察期間で34例であり,おもな発症誘因はCL装用(17■:アレルギー性結膜炎■:春季カタル:巨大乳頭結膜炎■:所見なし1例3例(17%)3例(18%)6例(35%)3例(18%)3例(18%)8例(47%)10例(59%)CLあり(17例)CLなし(17例)(6%)図3コンタクトレンズ装用の有無とアレルギー性結膜疾患の有無コンタクトレンズ(CL)装用者では17例中14例(82%)にアレルギー性結膜疾患の合併がみられ,非CL装用者では17例中9例(53%)にアレルギー性結膜疾患の合併がみられる.検出菌株数(株)菌陰性15例(44%)菌検出19例(56%)ブドウ球菌属17/23株(74%)MSSA(methicillin-senstiveStaphylococcusaureus)MRSA(methicillin-resistantStaphylococcusaureus)CNS(coagulase-negativeStaphylococcus)GroupCStreptcoccus*a-Staphylococcus*Corynebacteriumsp.*Propionibacteriumacnes**Pseudomonasaeruginosa計10431112123株*MSSAと同時検出.**1株のみMSSAと同時検出.図4細菌分離培養結果角膜病巣部からの細菌分離培養から菌が検出された症例は,34例中19例(56%)である.同一症例から複数菌が検出された4例を含め,延べ23株の菌が検出され,17株(74%)がブドウ球菌属である.(94) 表2薬剤感受性試験結果(感受性株数/検体数)MSSA(感受性株数/検体数)SBT/IPM/PCGCEZABKGMEMCLDMMINOVCMSTLVFXTEICABPCCS8/81/810/108/99/107/105/79/109/1010/108/97/78/8MRSA(感受性株数/検体数)ABKGMCLDMMINOVCMSTLVFXTEIC4/42/32/32/34/44/41/22/2SBT/ABPC:スルバクタム/アンピシリン,PCG:ベンジルペニシリン,CEZ:セファゾリン,IPM/CS:イミペネム/シラスタチン,ABK:アルベカシン,GM:ゲンタマイシン,EM:エリスロマイシン,CLDM:クリンダマイシン,MINO:ミノサイクリン,VCM:バンコマイシン,ST:スルファメトキサゾール/トリメトプリム,LVFX:レボフロキサシン,TEIC:テイコプラニンG1G2G3G4角膜膿瘍の形状小円形不整形不整形びまん性混濁前眼部写真前房蓄膿××○透見不可その他Endothelialplaque形成(1例)Endothelialplaque形成(3例)症例数(例)7541図5アトピー性皮膚炎症例に合併したブドウ球菌角膜炎の前眼部所見の特徴(17例)角膜炎の病態を角膜膿瘍の形状と前房蓄膿の有無によって,G1.G4に分類した.G1,G2に分類される症例が多いが,前房蓄膿を伴うG3,非典型的なG4症例もみられる.例)であった.装用していたCLの種類は,ソフトCLが14例と多く,ハードCL装用者4例であった.アレルギー性結膜疾患の合併率は68%であったが,所見のない症例もあり,アレルギー性結膜疾患と細菌性角膜炎との関連は不明であった.しかしながら,CL装用が誘因となった感染性角膜炎症例では,CL装用以外を誘因とする感染性角膜炎症例と比較して統計学的有意差はみられなかったものの,アレルギー性結膜疾患を合併している症例が多かった.ソフトCL装用者の場合,アレルギー性結膜炎を合併することによりソフトCLの汚れや固着などが生じやすくなり,感染性角膜炎のリスクファクターになる可能性があり,CLの処方,ケア方法には注意を要する.また,ハードCL装用者4例のうち3例は円錐角膜患者であり,CLを使用せざるえない症例も多い.アトピー素因を有する円錐角膜患者がハードCLを装用する場合には,注意すべき合併症としてブドウ球菌角膜炎が以前から指摘されている.さらに黄色ブドウ球菌角膜炎を発症した場合には,急性水腫様の角膜所見を呈することが多いとされ7,8),鑑別に注意を要することが指摘されている.本症例においても円錐角膜患者から分離された細菌はMRSAであり,また感染性角膜炎の所見は小円形から類円形であり,既報と類似した所見であったと考えられた.アトピー性皮膚炎症例では,アレルギー性結膜疾患があっても視力矯正を優先してハードCLを装用する場合,およびアレルギー性結膜疾患,とくに軽症のアレルギー性結膜炎の合併が自覚されないままソフトCL装用を始める場合が,感染性角膜炎の重要な危険因子となりうると考えられた.角膜擦過物からの細菌分離培養検査では23株が検出されたが,23株中17株がブドウ球菌属であった.通常,CL関連角膜感染症の原因菌は緑膿菌が多いが,本検討で緑膿菌が検出された1例は免疫抑制薬使用中の春季カタル症例であり,CL装用者から緑膿菌は検出されなかった.アトピー性皮膚炎では,皮膚に黄色ブドウ球菌が定着(colonization)または感染(infection)することが多いとされている9).Parkら10)は黄色ブドウ球菌が皮膚に定着する頻度は,急性期の症例で74%,慢性期の症例で38%,健常対照で3%であったとし,黄色ブドウ球菌の定着が急性期の増悪(95)あたらしい眼科Vol.32,No.4,2015559 因子として注目すべきであるとしている.また,アトピー性角結膜炎症例における結膜.内細菌分離培養結果においてもブドウ球菌属が分離される頻度が高いことが報告されている11).したがって,アトピー性皮膚炎に合併する細菌性角膜炎の原因菌としてブドウ球菌属が多くみられたことは,皮膚からの持ち込み感染,結膜.内細菌の感染などの可能性があると考えられた.今回分離されたブドウ球菌属でかつ薬剤耐性であった菌株はMRSA4株であり,MRCNSはみられなかった.他の株ではセフェム系およびフルオロキノロン系抗菌薬が良好な感受性を示したが,ゲンタマイシンに耐性を示す株がみられた.感染性角膜炎診療ガイドライン12)では,グラム陽性菌による細菌性角膜炎に対する治療には,セフェム系抗菌薬とフルオロキノロン系抗菌薬との併用療法が推奨されているが,今回の臨床分離株の薬剤感受性試験結果からも同様の治療が推奨されると考えられた.また,MRSAに対しては,バンコマイシン軟膏が上市されているほかアミカシンやアルベカシンの自家製剤の使用も報告されている13).しかし,今回の臨床分離株のなかにもアルベカシンに対する耐性株が検出されていることから,耐性菌をさらに増やさないためにも,これらの薬剤の乱用は避けるべきであると考えられた.17例のブドウ球菌角膜炎の重症度は軽症から重症までみられ,4グループ(G1.G4)に分類した.ブドウ球菌角膜炎は表在性膿瘍を形成し,グラム陰性菌感染症に比べて比較的軽症であるとされ,病巣の特徴として円形,類円形または三日月状やひょうたん型の不整型潰瘍とその周囲を取り囲む細胞浸潤があげられている14.16).本検討では,12例が前房蓄膿のないG1,G2であったが,前房蓄膿がみられたG3が4例,もっとも重症であったG4の病巣は非典型的であった.G4の症例はシールド潰瘍に細菌感染した症例であり,基礎疾患の重症度によって修飾され重症化した症例であると考えられた.したがって,アトピー性皮膚炎に合併するブドウ球菌角膜炎は重症化する症例もみられることから,薬剤感受性検査を含めた細菌学的検査を行いながら注意して治療を進める必要があると考えられた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)日本皮膚科学会アトピー性皮膚炎診療ガイドライン作成委員会:アトピー性皮膚炎診療ガイドライン.日皮会誌119:1515-1534,20092)ChenJJ,ApplebaumDS,SunGSetal:Atopickeratoconjunctivitis:Areview.JAmAcadDermatol70:569-575,20143)佐藤敦子,岩﨑隆,庄司純ほか:伝染性膿痂疹に合併した角膜膿瘍の1例.日眼会誌102:395-398,19984)塚本裕次,井上幸次,前田直之ほか:アトピー素因のある円錐角膜患者に発症した上皮型角膜ヘルペスの4例.眼紀50:229-232,19995)InoueY:Ocularinfectionsinpatientswithatopicdermatitis.IntOphthalmolClin42:55-69,20026)アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン編集委員会:アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン(第2版).日眼会誌114:829-870,20107)西田幸二,井上幸次,中川やよいほか:両眼にAcuteHydrops様所見を呈した角膜感染症の1例.あたらしい眼科7:263-266,19908)遠藤純子,﨑元暢,嘉村由美ほか:急性水症様所見を呈する細菌感染を生じた円錐角膜の2症例.眼科42:711714,20009)菅谷誠:アトピー性皮膚炎と細菌感染.アレルギーの臨床32:497-501,201210)ParkHY,KimCR,HuhISetal:Staphylococcusaureuscolonizationinacuteandchronicskinlesionsofpatientswithatopicdermatitis.AnnDermatol25:410-416,201311)田渕今日子,稲田紀子,庄司純ほか:アトピー性角結膜炎におけるブドウ球菌の関与に関する検討.日眼会誌108:397-400,200412)日本眼感染症学会感染性角膜炎診療ガイドライン第2版作成委員会:感染性角膜炎診療ガイドライン(第2版).日眼会誌117:467-509,201313)大.秀行:眼感染症Now!薬剤耐性の問題点は?MRSAの治療を教えてください.あたらしい眼科26:139-141,201014)稲田紀子,庄司純,齋藤圭子ほか:アトピー素因を有する患者に合併した角膜感染症の4症例.眼科43:11111115,200115)田渕今日子,稲田紀子,庄司純ほか:アトピー性皮膚炎患者に発症したブドウ球菌性角膜潰瘍の2症例.眼科45:1469-1473,200316)庄司純:細菌性角膜潰瘍.臨眼57:162-169,2003***(96)