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レボフロキサシンの薬剤感受性結果とガチフロキサシン・モキシフロキサシン・セフメノキシムの感受性相関

2011年7月31日 日曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(121)1025《原著》あたらしい眼科28(7):1025?1028,2011cはじめに眼感染症治療薬として,抗菌スペクトルの広さからキノロン系点眼薬がエンピリック・セラピーとして用いられることが多く1~4),なかでもレボフロキサシン(LVFX)は安全性と組織移行性より第一選択薬として汎用されている.しかし,起因菌が確認されず,薬剤感受性試験の結果も判明していない状態での「とりあえずキノロン」といった安易な抗菌薬濫用は,耐性菌の誘導を招き,治療失敗となる原因の一つである.LVFXなどのキノロン薬耐性化に伴い3,5),より抗菌力の強いキノロン薬としてガチフロキサシンン(GFLX)やモキシフロキサシン(MFLX)が開発され2,5),キノロン系点眼薬の選択肢は増加した.その結果,抗菌力の強さに期待し,LVFXに耐性であった場合の第二選択薬としてGFLXやMFLXが選択されることもあり,最新のサンフォード感染〔別刷請求先〕木村圭吾:〒565-0871吹田市山田丘2-15大阪大学医学部附属病院臨床検査部Reprintrequests:KeigoKimura,LaboratoryforClinicalInvestigation,OsakaUniversityHospital,2-15Yamadaoka,Suita-city,Osaka565-0871,JAPANレボフロキサシンの薬剤感受性結果とガチフロキサシン・モキシフロキサシン・セフメノキシムの感受性相関木村圭吾*1西功*1豊川真弘*1砂田淳子*1上田安希子*1坂田友美*1井上依子*1浅利誠志*1,2*1大阪大学医学部附属病院臨床検査部*2同感染制御部SusceptibilityTestingofLevofloxacinandItsCorrelationtoGatifloxacin,MoxifloxacinandCefmenoximeKeigoKimura1),IsaoNishi1),MasahiroToyokawa1),AtsukoSunada1),AkikoUeda1),TomomiSakata1),YorikoInoue1)andSeishiAsari1,2)1)DivisionofClinicalMicrobiology,2)InfectionControlTeam,OsakaUniversityMedicalHospital眼科材料由来(61株)および他の臨床材料由来(19株)の計80株に対してレボフロキサシン(LVFX),ガチフロキサシン(GFLX),モキシフロキサシン(MFLX),セフメノキシム(CMX)の薬剤感受性を測定し,特にキノロン系抗菌薬3剤の相関関係を検討した.キノロン3剤の感受性結果は73株(91.3%)が一致し,LVFXが中等度耐性もしくは耐性を示した株(34株)のうちGFLX・MFLXの少なくとも1剤がLVFXに比し良好な感受性を示した株は6株(17.6%)であった.一方CMXに対しては,methicillin-susceptibleStaphylococcusspp.,Streptococcusspp.,Corynebacteriumspp.の90%以上が感受性を示した.したがってLVFX耐性時のGFLX・MFLXの安易な使用は避けるべきであり,上記細菌群に対してはむしろCMXが推奨された.Wecarriedoutsusceptibilitytestingoflevofloxacin(LVFX),gatifloxacin(GFLX),moxifloxacin(MFLX)andcefmenoxime(CMX)against61strainsfromocularclinicalisolatesand19strainsfromotherclinicalspecimens.Thecorrelationsbetweenthethreequinoloneantibioticswerealsostudied.Ofthe80strainsintotal,73strains(91.3%)exhibitedcommonresultsregardingthethreequinolones.Sixoutof34strainsshowedthatGFLXand/orMFLXweremorepotentthanLVFX,whichwasinterpretedasintermediatesusceptibilityorresistancetoLVFX.Ontheotherhand,over90%ofthemethicillin-susceptibleStaphylococcusspp.,Streptococcusspp.andCorynebacteriumspp.strainsweresusceptibletoCMX.CMXwasthereforerecommended,ratherthanthethreequinolones,againstthesestrains.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(7):1025?1028,2011〕Keywords:レボフロキサシン,ガチフロキサシン,モキシフロキサシン,セフメノキシム,キノロン系抗菌薬.levofloxacin,gatifloxacin,moxifloxacin,cefmenoxime,quinolone.1026あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011(122)症治療ガイド6)では,急性の細菌性角膜炎に対しては両薬剤が第一・第二選択薬として推奨されているが,はたして,LVFX治療無効後のGFLX・MFLXの使用は真に適切であるといえるであろうか.今回筆者らは,LVFX耐性時のGFLX・MFLXの有効性を検証し,「実際に,GFLX・MFLXの2剤は使用可能なのか」という眼科医の疑問に回答するため,眼科材料由来の検出菌株を中心にLVFX・GFLX・MFLXの3剤およびセフェム系唯一の点眼薬であるセフメノキシム(CMX)の薬剤感受性を比較検討した.特にキノロン系点眼薬の3剤の使用方法に関して一つの提言をしたい.I対象および方法1.検査対象菌株2003年に実施された感染性角膜炎全国サーベイランス7)にて収集された分離菌および当院で検出された眼科材料由来の検出菌より,methicillin-resistantStaphylococcusaureus(MRSA)を8株,methicillin-susceptibleStaphylococcusaureus(MSSA)を4株,methicillin-resistantStaphylococcusepidermidis(MRSE)を6株,methicillin-susceptibleStaphylococcusepidermidis(MSSE)を7株,Pseudomonasaeruginosa(P.aerugonosa)を7株,Streptococcuspneumoniae(S.pneumoniae)を9株,S.peumoniaeを除くStreptococcusspp.を10株,Corynebacteriumspp.を10株使用した.さらに当検査室保存株より血液由来株15株(MRSA:2株,MSSA:6株,MRSE:4株,MSSE:3株),髄液由来株1株(S.pneumoniae),およびキノロン耐性のP.aeruginosaとしてmultidrugresistantP.aeruginosa(MDRP)を3株加え,合計80株を検査対象菌株とした.また,精度管理株はStaphylococcusaureusATCC25,923株,P.aeruginosaATCC27,853株,EscherichiacoliATCC25,922株を用いた.2.試験薬剤LVFX,GFLX,MFLXおよびCMXの4薬剤を使用した.3.薬剤感受性試験方法センシ・ディスクTM(BD)を用いたKirby-Bauer法にて感受性試験を実施した.試験用培地は,Staphylococcusspp.およびP.aeruginosaに対してはMuellerHintonAgar(BD)を,一方S.pneumoniae,Streptococcusspp.およびCorynebacteriumspp.に対してはMuellerHintonAgarwith5%SheepBlood(BD)を使用した.各薬剤の感受性判定は,センシ・ディスクTMの添付文書(判定表)に従い判定した.判定基準の記載のないP.aeruginosa,Streptococcusspp.に対するMFLXの感受性結果,およびCorynebacteriumspp.に対する4剤の感受性結果は,すべてS.pneumoniaeの判定基準を用いて判定を行った.II結果1.キノロン3剤(LVFX・GFLX・MFLX)の感受性相関(表1)全80株のうち73株(91.3%)がキノロン3剤の感受性結果(感受性:S,中等度耐性:I,耐性:R)が一致した.MRSAは,10株すべてがキノロン3剤にRを示した.MSSAは1株(No.15)のみLVFX:Rであり,その株はMRSA同様3剤ともRであった.残り9株はキノロン3剤がすべてSで一致した.MRSEは,今回検証した菌株のうちキノロン3剤の感受性結果に最も差が生じた細菌群であり,3株(No.22,23,28)においてLVFXに比しGFLXまたはMFLXが有効である結果が得られた.この3株の感受性結果はLVFX/GFLX/MFLXの順にR/I/I,I/S/S,R/R/Iであった.一方,他の3株(No.27,29,30)はキノロン3剤ともRで一致,1株(No.21)はIで一致,残り3株はSで一致した.MSSEは,3剤の感受性結果に差が生じた株は存在せず,3株(No.33,34,38)はRで一致,1株(No.32)はIで一致,残り6株はSで一致した.P.aeruginosaは,LVFXおよびGFLXがI,MFLXがRという他菌種とは異なる結果を示した株(No.46)が1株確認された.MDRP(No.48,49,50)については3株すべてキノロン3剤に耐性を示し,GFLXおよびMFLXの有効性は示されず,残り6株はSで一致した.Streptococcusspp.は3株(No.51,59,60)がキノロン3剤ともRで一致,残り7株はSで一致した.S.pneumoniaeは1株(No.62)のみLVFX:Rであり,この株はGFLX:R,MFLX:Iであった.残り9株はSで一致した.Corynebacteriumspp.は,キノロン3剤の感受性結果に差が生じた株が2株(No.71,72)確認され,この2株の感受性結果はLVFX/GFLX/MFLXの順にI/S/S,R/R/Iであった.一方,他の2株(No.73,79)はRで一致,残り6株はSで一致した.2.CMXの感受性結果(表1)CMXは,MRSA,MRSE,P.aeruginosaを除く細菌群50株のうち49株(98%)において感受性を示した.III考察キノロン系点眼薬は,眼感染症治療や術前後の感染予防に広く使用されている.オフロキサシンなどのolderfluoroquinolonesとよばれるキノロン系抗菌薬の耐性化が問題視された後,LVFX,GFLXそしてMFLXが開発され点眼薬として承認されてきた経緯がある.なかでも特にLVFXは使用頻度が高いが,MRSAに対しては感受性率0%,コアグラーゼ陰性ブドウ球菌に対しては感受性率10%との報告1,2)も存在し,その使用には注意が必要であり,感受性試験実施の重要性が指摘されている.(123)あたらしい眼科Vol.28,No.7,20111027今回筆者らは,LVFX:Rのとき,GFLXやMFLXをその代替薬として使用できるかを確認するため,各菌種に対する薬剤感受性試験を実施した.LVFXがIもしくはRを示した株(34株)のうち,GFLXおよびMFLXのうち少なくとも1剤がLVFXに比し良好な感受性を示した株は6株(17.6%)であった.今回は最小発育阻止濃度(MIC)を測定していないため,各キノロン薬の詳細なMIC値による優劣比較は困難であるが,少なくともGFLXおよびMFLXはLVFXに比し特にグラム陽性菌に対して有意に抗菌力が強いとの多くの報告1,2,5,8)とは異なる結果であり,LVFX耐性時のGFLXおよびMFLXの使用を推奨できる結果ではなかった.グラム陰性菌に対するGFLX・MFLXの抗菌力は,グラム陽性菌の場合と同様,LVFXと同等であり,特にこの2剤が優れているという結果は得られなかった.グラム陰性菌に対し,キノロン3剤の間に優劣は認められなかったという筆者らの報告は,Matherら1),Kowalskiら2)の報告と一致する.キノロン系抗菌薬は,DNA複製に関与するDNAジャイレースとトポイソメラーゼⅣを阻害することにより作用する.したがって,細菌がキノロン耐性を獲得するためには,細菌DNAのキノロン耐性決定領域に存在するDNAジャイレースのサブユニットA遺伝子(gyrA)およびトポイソメラーゼⅣのサブユニットC遺伝子(parC)に変異が加わる必要があるといわれている.細菌がGFLX・MFLXに耐性となるためには,gyrAおよびparC両者の同時変異が必要であるため,LVFXに比し耐性は獲得しにくく,感受性の低下も少ないと考えられている2,4,8,9).しかし,今回の検討では,LVFX:Rの株(29株)のうち25株(86.2%)が他2剤のキノロンも同様にRであった.これは,薬剤間の交差耐性機構などによりすでに両遺伝子に変異を有している株が多く存在している可能性が高いことを強く示唆しているため,LVFX:Rの株に対して安易にGFLXやMFLXを使用すべきではないとの結論となる.通常の薬剤感受性検査では,多種類の抗菌薬を同時に測定するため代表薬剤であるLVFX以外のキノロン系薬剤を複数同時に測定することはルーチン検査ではきわめて煩雑である.このため臨床からは,「LVFX:Rのとき,GFLXやMFLXは使用可能なのか.その2剤の感受性試験も追加で実施してほしい」との問い合わせが多く,今回の検討はそのような検査依頼に応えるため実施したものである.GFLXお表1LVFX,GFLX,MFLX,CMXの感受性結果一覧MRSAMSSAMRSEMSSENo.LVFXGFLXMFLXCMXNo.LVFXGFLXMFLXCMXNo.LVFXGFLXMFLXCMXNo.LVFXGFLXMFLXCMX1RRRR11SSSS21IIIR31SSSS2RRRR12SSSS22RIIR32IIIS3RRRR13SSSS23ISSR33RRRS4RRRR14SSSS24SSSR34RRRS5RRRR15RRRS25SSSR35SSSS6RRRR16SSSS26SSSR36SSSS7RRRR17SSSS27RRRR37SSSS8RRRR18SSSS28RRIR38RRRS9RRRR19SSSS29RRRR39SSSS10RRRR20SSSS30RRRR40SSSSP.aeruginosaStreptococcusspp.(S.pneumoniaeを除く)S.pneumoniaeCorynebacteriumspp.No.LVFXGFLXMFLXCMXNo.LVFXGFLXMFLXCMXNo.LVFXGFLXMFLXCMXNo.LVFXGFLXMFLXCMX41SSSI51RRRS61SSSS71ISSS42SSSI52SSSS62RRIS72RRIS43SSSI53SSSS63SSSS73RRRS44SSSI54SSSS64SSSS74SSSS45SSSI55SSSS65SSSS75SSSS46IIRR56SSSS66SSSS76SSSS47SSSI57SSSS67SSSS77SSSS48RRRR58SSSS68SSSS78SSSS49RRRR59RRRS69SSSS79RRRR50RRRR60RRRS70SSSS80SSSS感受性(S),中等度耐性(I),耐性(R)と表記し,各菌に対するLVFX,GFLX,MFLXおよびCMXの感受性結果を示した.キノロン3剤の結果に乖離のみられた菌については■で表現した.1028あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011(124)よびMFLXがLVFXに比し有効である場合はむしろ少なく,比較検討した80株中73株(91.3%)がLVFXと同様の感受性結果であったため,GFLXおよびMFLXの感受性結果は,LVFXの結果から十分推定可能であることが示唆された.したがって,微生物検査室の対応として,国内で使用可能なキノロン系点眼薬6種すべての感受性を試験する必要はなく,広く使用されているLVFXを試験することで十分であると思われた.前述の眼科医からの依頼に対する回答としては,「LVFX:Rのとき,GFLXおよびMFLXも80%以上同様にRですので,感受性結果は同一と考えてください.」との回答が適当と考える.一方CMXは,MSSA,MSSE,Streptococcusspp.,S.pneumoniaeおよびCorynebacteriumspp.の各々に対して90%以上の感受性を示した.キノロン3剤がIもしくはR,しかしCMX:Sを示す株も11株存在し,キノロン薬以上の有効性が期待できる場合があることが示唆された.加茂ら9)はCorynebacteriumspp.,MSSA,Streptococcusspp.に対して,CMXはLVFX・GFLXに比し同等以上の感受性を有していたと報告しており,渡邉ら4),宇野ら10)は上記の同様の菌種に対して,CMXがLVFX・GFLX・MFLXに比し同等かそれ以上に低いMIC90を示した,と報告している.菌種によっては,CMXがキノロン薬以上の有効性を示した筆者らの結果と一致する.以上,キノロン3剤の薬剤感受性センシ・ディスクTM(BD)を用いたKirby-Bauer法にて比較検討した結果,90%以上の株で感受性結果が一致しており,GFLXおよびMFLXの2剤が特に有用性が高いとは言い難い結果であった.眼感染症治療に際しては,基本に戻り,塗抹・培養検査を実施し起因菌の特定と薬剤感受性試験の実施が重要である.文献1)MatherR,KarenchakLM,RomanowskiEGetal:Fourthgenerationfluoroquinolones:newweaponsinthearsenalofophthalmicantibiotics.AmJOphthalmol133:463-466,20022)KowalskiRP,DhaliwalDK,KarenchakLMetal:Gatifloxacinandmoxifloxacin:aninvitrosusceptibilitycomparisontolevofloxacin,ciprofloxacin,andofloxacinusingbacterialkeratitisisolates.AmJOphthalmol136:500-505,20033)BlondeauJM:Fluoroquinolones:mechanismofaction,classification,anddevelopmentofresistance.SurvOphthalmol49:S73-S78,20044)渡邉雅一,石塚啓司,池本敏雄:モキシフロキサシン点眼液(ベガモックス点眼液TM0.5%)の薬理学的特性および臨床効果.日本薬理学雑誌129:375-385,20075)DuggiralaA,JosephJ,SharmaSetal:Activityofnewerfluoroquinolonesagainstgram-positiveandgram-negativebacteriaisolatedfromocularinfections:aninvitrocomparison.IndianJOphthalmol55:15-19,20076)戸塚恭一,橋本正良:サンフォード感染症治療ガイド2010,第40版,p26,ライフサイエンス出版,20107)感染性角膜炎全国サーベイランス・スタディグループ:感染性角膜炎全国サーベイランス─分離菌・患者背景・治療の現状─.日眼会誌110:961-972,20068)HwangDG:Fluoroquinoloneresistanceinophthalmologyandthepotentialrolefornewerophthalmicfluoroquinolones.SurvOphthalmol49:S79-S83,20049)加茂純子,山本ひろ子,村松志保:病棟・外来の眼科領域細菌と感受性の動向2001~2005年.あたらしい眼科23:219-224,200610)宇野敏彦,大橋裕一,下村嘉一ほか:外眼部細菌性感染症由来の臨床分離株に対するモキシフロキサシンの抗菌活性.あたらしい眼科23:1359-1367,2006***