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2週間頻回交換ソフトコンタクトレンズ上におけるヒアルロン酸ナトリウム点眼液(ヒアルロン酸ナトリウムPF点眼液0.1% 「日点」)の安全性

2012年11月30日 金曜日

《原著》あたらしい眼科29(11):1549.1553,2012c2週間頻回交換ソフトコンタクトレンズ上におけるヒアルロン酸ナトリウム点眼液(ヒアルロン酸ナトリウムPF点眼液0.1%「日点」)の安全性小玉裕司小玉眼科医院SafetyStudyofSodiumHyaluronatePFOphthalmicSolution0.1%(NITTEN)for2-WeekFrequentReplacementSoftContactLensWearersYujiKodamaKodamaEyeClinic角結膜上皮障害治療用点眼剤のヒアルロン酸ナトリウム点眼液(ヒアルロン酸ナトリウムPF点眼液0.1%「日点」,以下,ヒアルロン酸PF点眼液)には防腐剤が添加されておらず,角結膜やソフトコンタクトレンズ(SCL)に対する影響が塩化ベンザルコニウムを防腐剤に使用している点眼液よりも少ない可能性が考えられる.今回,ドライアイを有するボランティアを対象として4種類の2週間頻回交換SCL(アキュビューRオアシスTM,2ウィークアキュビューR,メダリストRII,バイオフィニティR)装用中にヒアルロン酸PF点眼液を点眼した場合の安全性およびSCLへの主成分ならびにホウ酸(ホウ素として)の吸着について検討を行った.その結果,SCL中に主成分およびホウ酸はSCLの種類によって検出されたが検出量はいずれもごく微量であり,フィッティングの変化も認められなかった.また,ヒアルロン酸PF点眼液による角結膜の障害や副作用は認められなかった.医師の管理のもとに定期検査を十分に行えば,SCL装用上においてヒアルロン酸PF点眼液を使用しても,問題はないものと考えられた.SodiumHyaluronatePFOphthalmicSolution0.1%(NITTEN),whichisusedfortreatingkeratoconjunctivalepithelialdisorders,containsnopreservatives.Itsinfluenceonthekeratoconjunctivaandsoftcontactlenses(SCL)maythereforebelessthanthatofophthalmicsolutionsthatusebenzalkoniumchlorideasapreservative.HealthyadultvolunteerswhotendtohavedryeyewereincludedinthisstudyinvestigatingthesafetyandSCLabsorptionoftheactiveingredientandboricacid(asboron)inSodiumHyaluronatePFOphthalmicSolutioninstilledinwearersof4typesof2-weekfrequentreplacementSCL(2WEEKACUVUER,MedalistRII,ACUVUEROASYSTM,BiofinityR).ResultsshowedthatactiveingredientandboricaidweredetectedineachtypeofSCL;however,thelevelsdetectedwereverylowandnochangewasobservedintheSCLfitting.Furthermore,nokeratoconjunctivaldisordersorotheradverseeffectswereobserved.Withsufficientperiodicinspectionsunderadoctor’ssupervision,theuseofSodiumHyaluronatePFOphthalmicSolutioninthepresenceofSCLisconsideredsafe.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(11):1549.1553,2012〕Keywords:ヒアルロン酸ナトリウム点眼液,2週間頻回交換ソフトコンタクトレンズ,防腐剤,ホウ酸,副作用.sodiumhyaluronateophthalmicsolution,2-weekfrequentreplacementsoftcontactlens,preservative,boricacid,adverseeffect.はじめにいかという検討に関してはこれまでに多くの報告がある1.13).コンタクトレンズ(CL)装用上において点眼液を使用するしかし,点眼液には防腐剤以外にも主薬剤のほかに,等張化ことによって,点眼液に含まれる防腐剤が眼障害をきたさな剤,緩衝剤,可溶化剤,安定化剤,粘稠化剤などが含まれて〔別刷請求先〕小玉裕司:〒610-0121京都府城陽市寺田水度坂15-459小玉眼科医院Reprintrequests:YujiKodama,M.D.,KodamaEyeClinic,15-459Mitosaka,Terada,JoyoCity,Kyoto610-0121,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(99)1549 いる.そのなかで,防腐剤フリーの点眼液にも等張化剤あるいは緩衝剤として含まれているホウ酸による眼障害の検討も必要と考え,筆者はこれまでにヒアルロン酸PF点眼液の各種1日使い捨てソフトコンタクトレンズ(SCL)装用上点眼における安全性およびCLへの主成分ならびにホウ酸の吸着について検討を行い,医師の管理のもとに定期検査を十分に行えば問題がないことを報告した14).今回はヒアルロン酸PF点眼液の各種2週間頻回交換SCL装用上点眼における安全性およびCLへの主成分ならびにホウ酸の吸着について検討を行ったので,その結果について報告する.I対象および方法1.対象ならびに使用レンズSCLの使用が可能なドライアイ傾向を示すボランティア5名(年齢30.45歳,平均35歳,女性5名)を対象とした.なお,被験者には試験の実施に先立ち,試験の趣旨と内容について十分な説明を行い,同意を得た.2週間頻回交換SCLのなかから従来素材の含水性SCLとして2ウィークアキュビューR,メダリストRII,シリコーンハイドロゲルSCLとしてアキュビューRオアシスTM,バイオフィニティRの計4種類のレンズを装用させた(表1).2.方法被験者の両眼にSCLを装用させた後,ヒアルロン酸PF点眼液を1回2滴,2時間間隔で6回,両眼に点眼した.SCLのケア用品としては角膜上皮障害が少ないコンプリートRプロテクトを使用させた15).2週間経過して最終点眼10分後に被験者の両眼からSCLを装脱し,回収したSCLの1枚は主成分の精製ヒアルロン酸ナトリウム定量用とし,他方の1枚はホウ酸定量用とした.a.精製ヒアルロン酸ナトリウムの定量被験者から装脱・回収したSCLを1枚ずつカルバゾール硫酸法による発色法(紫外可視吸光度測定法)によりSCLに吸着していた精製ヒアルロン酸ナトリウムを定量した.b.ホウ酸(ホウ素)の定量被験者から装脱・回収したSCLをICP(inductivelycoupledplasma)発光分光分析によりSCLに吸着していたホウ酸をホウ素として定量した.3.涙液検査試験開始前に涙液層破壊時間(BUT)と綿糸法を実施した.4.自覚症状点眼開始前,点眼開始1週間後,試験終了時に掻痒感,異物感,眼脂について問診した.5.細隙灯顕微鏡検査点眼開始前と点眼開始1週間後と試験終了後にフルオレセイン染色による角結膜の観察と眼瞼結膜および眼球結膜の充血,浮腫,乳頭の観察を行った.点眼開始前,点眼開始1週間後,試験終了SCL装脱前にSCLフィッティング状態の判定を行った.6.副作用投与期間中に発現した症状のうち,試験薬との因果関係が否定できないものを副作用とした.II結果自覚症状については点眼開始後試験終了時までにおいて,特に異常を訴える症例はなかった.涙液検査については,綿糸法では正常領域であった.BUTは1眼で4秒,1眼で3秒の症例がある以外は正常領域であった.試験開始前において,5人10眼中3人4眼にドライアイと推察される下方に局在する微小な点状表層角膜症(superficialpunctatekeratopathy:SPK)が認められた.経過観察中,試験前に認められたSPKと同様なドライアイによると推察される下方に局在した微小なSPKが認められる症例は散見されたものの,点眼などによる副作用で認められるようなびまん性のSPKは認められなかった.以下に各SCLに吸着した精製ヒアルロン酸ナトリウム,ホウ酸の定量結果(表2)と,細隙灯顕微鏡検査によって観察された結果を記す.表1使用レンズ使用レンズFDA(米国食品・医薬品局)分類2ウィークアキュビューRグループIVメダリストRIIグループIIアキュビューRオアシスTMグループIバイオフィニティRグループI酸素透過係数Dk値:〔×10.11(cm2/sec)・(mlO2/ml×mmHg)〕2822103128含水率(%)58593848中心厚(.3.00D)(mm)0.0840.140.070.08直径(mm)14.014.214.014.01550あたらしい眼科Vol.29,No.11,2012(100) 表2SCLから検出された主成分およびホウ酸量使用SCL検出量(μg/SCL)精製ヒアルロン酸ナトリウムホウ素(ホウ酸として)2ウィークアキュビューR平均値±SDNDNDNDNDND─5.8(33.2)NDNDNDND5.8(33.2)メダリストRII平均値±SDNDNDNDNDND─NDNDNDNDND─アキュビューRオアシスTM平均値±SDNDNDNDND15152.6(14.9)1.6(9.2)3.6(20.6)3.1(17.7)1.8(10.3)2.5±0.8(14.3±4.6)バイオフィニティR平均値±SD1411NDNDND12.5NDNDNDNDND.検出限界(μg/SCL)100.2(1.1)SD:標準偏差,ND:検出限界以下.1.2ウィークアキュビューRa.SCLから検出された主成分およびホウ酸量主成分の精製ヒアルロン酸ナトリウムは5検体すべて検出限界以下であった.ホウ酸は5検体中1検体から検出され,吸着量は33.2μg/SCLであった.b.細隙灯顕微鏡検査点眼開始前に比べSCL装用中,装脱直後において症状が悪化した症例は認められず,SCLフィッティング状態も良好であった.10眼中2眼(いずれも試験開始前にSPKが認められた症例)においてSPKが認められたが,その程度は試験開始前と変化はなかった.2.メダリストRIIa.SCLから検出された主成分およびホウ酸量主成分のヒアルロン酸ナトリウム,ホウ酸ともに5検体すべて検出限界以下であった.b.細隙灯顕微鏡検査点眼開始前に比べSCL装用中,装脱直後において症状が(101)悪化した症例は認められず,SCLフィッティング状態は良好であった.10眼中すべてにSPKは認められなかった.3.アキュビューRオアシスTMa.SCLから検出された主成分およびホウ酸量主成分の精製ヒアルロン酸ナトリウムは5検体中1検体から検出され,吸着量は15μg/SCLであった.ホウ酸は5検体とも検出され,吸着量の平均は14.3±4.6μg/SCLであった.b.細隙灯顕微鏡検査点眼開始前に比べSCL装用中,装脱直後において症状が悪化した症例は認められず,SCLフィッティング状態も良好であった.10眼中1眼(試験開始前にもSPKが認められた症例)においてSPKが認められたが,その程度は試験開始前と変化はなかった.4.バイオフィニティRa.SCLから検出された主成分およびホウ酸量主成分の精製ヒアルロン酸ナトリウムは5検体中3検体が検出限界以下,1検体が14μg/SCL,1検体が11μg/SCLであった.ホウ酸は5検体すべて検出限界以下であった.b.細隙灯顕微鏡検査点眼開始前に比べSCL装用中,装脱直後において症状が悪化した症例は認められず,SCLフィッティング状態も良好であった.10眼中1眼(試験開始前にもSPKが認められた症例)においてSPKが認められたが,その程度は試験開始前と変化はなかった.III考按現在市販されている点眼液の60%には防腐剤として塩化ベンザルコニウム(BAK)が含まれているといわれている16).その他の防腐剤としてはパラベン類,クロロブタノールなどがある.筆者はBAKを含有した点眼液およびパラベン類,クロロブタノールを含有した点眼液をCL装用上において点眼させ,その安全性について検討し,問題がないことをこれまでに報告している17.19).しかし,点眼液には防腐剤以外にも添加物が含有されており,特にホウ酸は防腐剤フリーの点眼液においても等張剤や緩衝剤として配合されているため,CLへの吸着を検討しておく必要があると思われる.前回,ヒアルロン酸PF点眼液の各種1日使い捨てSCL装用上点眼における安全性およびSCLへの主成分ならびにホウ酸の吸着について検討を行い,医師の管理のもとに定期検査を十分に行えば問題がないことを報告した14).今回はヒアルロン酸PF点眼液の各種2週間頻回交換SCL装用上点眼における安全性およびSCLへの主成分ならびにホウ酸の吸着について検討を加えた.東原はホウ酸を含んだBAKフリーの人工涙液に各種SCLを4時間浸漬するとレンズの種類によっては,その直径が変化することを発表(東原尚代:ソフあたらしい眼科Vol.29,No.11,20121551 トコンタクトレンズと点眼液の相互作用.第64回日本臨床眼科学会のモーニングセミナー,2010.神戸)している.このことはレンズのフィッティングに変化をもたらす可能性を示唆したものである.しかし,前回の1日使い捨てSCLを使用した試験と同様に,今回の2週間頻回交換SCLを使用した試験においても,1回2滴の2時間間隔,1日6回点眼においてはレンズのフィッティングに影響は認められなかった.これまでにもCLを点眼液に浸漬してCL内における防腐剤の吸着量を測定した実験報告12)がなされているが,このような過酷な状況下における実験系と実際にCLを装用させて点眼液を使用させて行う臨床的な実験系では,後者は涙液動態による点眼液の希釈が経時的に行われているという点で,結果がかなり異なってくるものと推察する.実際,点眼した防腐剤の涙液中濃度は15分以内で1/10以下になるという報告がある16).日本におけるCLの市場においては,現在1日使い捨てSCLや2週間頻回交換SCLが増加傾向にありSCL市場の大半を占めるまでになった.また,1日使い捨てSCLや2週間交換SCLにも新しい素材であるシリコーンハイドロゲルを導入したものが市販されており普及が進んでいる.シリコーンハイドロゲルSCLは従来型素材のSCLの欠点である酸素透過性を改善するため,酸素透過性に優れたシリコーンを含む含水性の素材であるシリコーンハイドロゲルを用いることにより,低含水性でありながら高酸素透過性を実現したCLである.これにより,従来型ハイドロゲルSCLで問題となっていた慢性的な酸素不足による角膜障害や眼の乾燥感を軽減することが可能となった.しかし,シリコーンハイドロゲルSCLは従来型SCLと素材,表面処理,含水率などが異なるため,点眼液の主成分や添加物のCLへの吸着が異なる可能性が考えられる20).今回,ヒアルロン酸PF点眼液を用いて,シリコーンハイドロゲルSCLを含む4種類の2週間頻回交換SCL装用上点眼における安全性およびSCLへの主成分ならびにホウ酸の吸着について検討を行った.その結果,主成分である精製ヒアルロン酸ナトリウムはアキュビューRオアシスTMにおいて1検体に,バイオフィニティRにおいて2検体に吸着を認めた.1日6回点眼におけるヒアルロン酸ナトリウムの総量から考えると吸着したヒアルロン酸ナトリウムの量は5%以下であった.ホウ酸はSCLの種類によって検出されたが,検出量はいずれもごく微量であり,1日6回点眼におけるホウ酸の総量から考えると吸着したホウ酸およびホウ素量は1%以下であった.主成分の精製ヒアルロン酸ナトリウムの定量法はカルバゾール硫酸法による発色法(紫外可視吸光度測定法)を実施し,試料として直接CLを試験に供した.また,CL装用中の点眼使用によるSPKの悪化やCLフィッティング状態に異常は認められず,副作用も認められなかった.1552あたらしい眼科Vol.29,No.11,2012以上の結果より,医師の管理のもとに定期検査を十分に行えば,2週間頻回交換SCL装用上においてヒアルロン酸PF点眼液を使用しても,問題はほとんどないものと考えられた.文献1)岩本英尋,山田美由紀,萩野昭彦ほか:塩化ベンザルコニウム(BAK)による酸素透過性ハードコンタクトレンズ表面の変質について.日コレ誌35:219-225,19932)高橋信夫,佐々木一之:防腐剤とその眼に与える影響.眼科31:43-48,19893)平塚義宗,木村泰朗,藤田邦彦ほか:点眼薬防腐剤によると思われる不可逆的角膜上皮障害.臨眼48:1099-1102,19944)山田利律子,山田誠一,安室洋子ほか:保存剤塩化ベンザルコニウムによるアレルギー性結膜炎─第2報─.アレルギーの臨床7:1029-1031,19875)GassetAR:Benzalkoniumchloridetoxicitytothehumancornea.AmJOphthalmol84:169-171,19776)PfisterRR,BursteinN:Theeffectofophthalmicdrugs,vehiclesandpreservativesoncornealepithelium:Ascanningelectronmicroscopestudy.InvestOphthalmol15:246-259,19767)BursteinNL:Cornealcytotoxicityoftopicallyapplieddrugs,vehiclesandpreservatives.SurvOphthalmol25:15-30,19808)高橋信夫,向井佳子:点眼剤用防腐剤塩化ベンザルコニウムの細胞毒性とその作用機序─細胞培養学的検討─.日本の眼科58:945-950,19879)島﨑潤:点眼剤の防腐剤とその副作用.眼科33:533538,199110)濱野孝,坪田一男,今安正樹:点眼薬中の防腐剤が角膜上皮に及ぼす影響─涙液中LDH活性を指標として─.眼紀42:780-783,199111)中村雅胤,山下哲司,西田輝夫ほか:塩化ベンザルコニウムの家兎角膜上皮に対する影響.日コレ誌35:238-241,199312)水谷聡,伊藤康雄,白木美香ほか:コンタクトレンズと防腐剤の影響について(第1報)─取り込みと放出─.日コレ誌34:267-276,199213)河野素子,伊藤孝雄,水谷潤ほか:コンタクトレンズと防腐剤の影響について(第2報)─RGPCL素材におけるBAKの研究─.日コレ誌34:277-282,199214)小玉裕司:ソフトコンタクトレンズ装用上におけるヒアルロン酸ナトリウム点眼液(ヒアルロン酸ナトリウムPF点眼液0.1%「日点」)の安全性.あたらしい眼科29:665668,201215)小玉裕司,井上恵里:各種MultipurposeSolution(MPS)の角膜上皮に及ぼす影響.日コレ誌53:補遺S27-S32,201116)中村雅胤,西田輝夫:防腐剤の功罪.眼科NewSight②点眼液─常識と非常識─(大橋裕一編),p36-43,メジカルビュー社,199417)小玉裕司,北浦孝一:コンタクトレンズ装用上における点眼使用の安全性について.あたらしい眼科17:267-271,(102) 2000上におけるアシタザノラスト水和物点眼液(ゼペリン点眼18)小玉裕司:コンタクトレンズ装用上におけるアシタザノラ液)の安全性.あたらしい眼科26:553-556,2009スト水和物点眼液(ゼペリン点眼液)の安全性.あたらしい20)植田喜一,柳井亮二:シリコーンハイドロゲルコンタクト眼科20:373-377,2003レンズとマルチパーパスソリューション,点眼薬.あたら19)小玉裕司:シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ装用しい眼科25:923-930,2008***(103)あたらしい眼科Vol.29,No.11,20121553

ソフトコンタクトレンズ装用上におけるヒアルロン酸ナトリウム点眼液(ヒアルロン酸ナトリウムPF点眼液0.1%「日点」)の安全性

2012年5月31日 木曜日

《原著》あたらしい眼科29(5):665.668,2012cソフトコンタクトレンズ装用上におけるヒアルロン酸ナトリウム点眼液(ヒアルロン酸ナトリウムPF点眼液0.1%「日点」)の安全性小玉裕司*小玉眼科医院SafetyStudyofSodiumHyaluronatePFOphthalmicSolution0.1%(NITTEN)forSoftContactLensWearersYujiKodamaKodamaEyeClinic角結膜上皮障害治療用点眼薬のヒアルロン酸ナトリウム点眼液(ヒアルロン酸ナトリウムPF点眼液0.1%「日点」,以下,ヒアルロン酸PF点眼液)には防腐剤が添加されておらず,角結膜やソフトコンタクトレンズ(SCL)に対する影響が塩化ベンザルコニウムを防腐剤に使用している点眼薬よりも少ない可能性が考えられる.今回,ドライアイを有するボランティアを対象として4種類のSCL(ワンデーアキュビューRトゥルーアイTM,メダリストRワンデープラス,デイリーズRアクア,ワンデーアキュビューR)装用中にヒアルロン酸PF点眼液を点眼した場合の安全性およびSCLへの主成分ならびにホウ酸(ホウ素として)の吸着について検討を行った.その結果,SCL中に主成分は検出されず,ホウ酸はSCLの種類によって検出されたが検出量はいずれもごく微量であり,フィッティングの変化も認められなかった.また,ヒアルロン酸PF点眼液による角結膜の障害や副作用は認められなかった.医師の管理の下に定期検査を十分に行えば,SCL装用上においてヒアルロン酸PF点眼液を使用しても,問題はないものと考えられた.SodiumHyaluronatePFOphthalmicSolution0.1%(NITTEN),whichisusedfortreatingkeratoconjunctivalepithelialdisorders,containsnopreservatives.Therefore,itsinfluenceonthekeratoconjunctivaandsoftcontactlens(SCL)maybelessthanthatofophthalmicsolutionsthatusebenzalkoniumchlorideasapreservative.HealthyadultvolunteerswhotendtohavedryeyewereincludedinthisstudyinvestigatingthesafetyandSCLabsorptionoftheactiveingredientandboricacid(asboron)inSodiumHyaluronatePFOphthalmicSolutioninstilledinwearersof4typesofonedaydisposableSCL(1-DAYACUVUERTruEyeTM,MedalistR1-DAYPLUS,DAILIESRAQUAand1-DAYACUVUER).ResultsshowedthattheactiveingredientandboricacidweredetectedineachtypeofSCL;however,thelevelsdetectedwereverylowandnochangewasobservedintheSCLfitting.Furthermore,nokeratoconjunctivaldisordersorotheradverseeffectswereobserved.Withsufficientperiodicinspectionsunderadoctor’ssupervision,theuseofSodiumHyaluronatePFOphthalmicSolutioninthepresenceofSCLisconsideredsafe.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(5):665.668,2012〕Keywords:ヒアルロン酸ナトリウム点眼液,ソフトコンタクトレンズ,防腐剤,ホウ酸,副作用.sodiumhyaluronateophthalmicsolution,softcontactlens,preservative,boricacid,adverseeffect.はじめにかという質問は,患者からのみならず医師(眼科医を含む)点眼液には有効となる主薬剤のほかに,等張化剤,緩衝剤,からもよく投げかけられる.特にソフトコンタクトレンズ可溶化剤,安定化剤,粘稠化剤,防腐剤などが含まれている.(SCL)においては,防腐剤のSCL内への貯留や蓄積の可能コンタクトレンズ(CL)装用上,点眼液を使用してもよいの性があり,SCL上の点眼液使用は禁忌であるという考え方〔別刷請求先〕小玉裕司:〒610-0121京都府城陽市寺田水度坂15-459小玉眼科医院Reprintrequests:YujiKodama,M.D.,KodamaEyeClinic,15-459Mitosaka,Terada,JoyoCity,Kyoto610-0121,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(85)665 が一般的である.しかし,臨床の場においてはCLを装用したまま点眼液を使用することが望ましい症例がアレルギー性結膜炎やドライアイの患者などを中心として少なからず認められる1).CL装用中に防腐剤を含有する点眼薬を使用した場合,CLに防腐剤が吸着,蓄積されることによってCLの変性をきたしたり2),吸着された防腐剤が角結膜に障害を与える可能性があるため,CLを装用したまま点眼することは原則として避けるよう指導されている3).点眼薬の防腐剤として最も汎用されているものは塩化ベンザルコニウム(BAK)であるが,BAKは角膜上皮障害や接触性皮膚炎などの副作用が問題視されている4.6).筆者は過去にBAKおよびBAK以外の防腐剤であるクロロブタノールとパラベン類(パラオキシ安息香酸メチル,パラオキシ安息香酸プロピル)を使用した点眼液のCL装用上点眼における安全性について検討を行い,医師の管理の下に定期検査を十分に行えば問題がないことを報告した7,8).しかし,主成分や防腐剤以外の添加物のCLへの吸着が問題となる可能性も考えられる.特にホウ酸は等張化剤あるいは緩衝剤として多くの点眼液(防腐剤フリーの点眼液も含む)に配合されており,そのCL装用上の使用による眼障害の可能性の検討が必要と考えられる.今回,ヒアルロン酸PF点眼液の各種ワンデータイプのSCL装用上点眼における安全性およびSCLへの主成分ならびにホウ酸の吸着について検討を行ったので,その結果について報告する.I対象および方法1.対象ならびに使用レンズSCLの使用が可能なドライアイ傾向を示すボランティア5名(年齢30.45歳,平均35歳,女性5名)を対象とした.なお,被験者には試験の実施に先立ち,試験の趣旨と内容について十分な説明を行い,同意を得た.ワンデータイプのSCLの中からワンデーアキュビューRトゥルーアイTM,メダリストRワンデープラス,デイリーズRアクア,ワンデーアキュビューRの4種類のレンズを装用させた(表1).2.方法被験者の両眼にSCLを装用させた後,ヒアルロン酸PF点眼液を1回2滴,2時間間隔で6回,両眼に点眼した.最終点眼後5分以内に被験者の両眼からSCLを装脱し,回収したSCLの1枚は主成分の精製ヒアルロン酸ナトリウム定量用とし,他方の1枚はホウ酸定量用とした.a.精製ヒアルロン酸ナトリウムの定量被験者から装脱・回収したSCLを1枚ずつカルバゾール硫酸法による発色法(紫外可視吸光度測定法)によりSCLに吸着していた精製ヒアルロン酸ナトリウムを定量した.b.ホウ酸(ホウ素)の定量被験者から装脱・回収したSCLをICP(inductivelycoupledplasma)発光分光分析によりSCLに吸着していたホウ酸をホウ素として定量した.3.涙液検査点眼開始前に涙液層破壊時間(BUT)計測と綿糸法を実施した.4.自覚症状点眼開始前,SCL装用中(2時間おき),SCL装脱直後に掻痒感,異物感,眼脂について問診した.5.細隙灯顕微鏡検査点眼開始前とSCL装脱直後にフルオレセイン染色による角結膜の観察と眼瞼結膜および眼球結膜の充血,浮腫,乳頭の観察を行った.点眼開始前,SCL装脱直前にSCLフィッティング状態の判定を行った.6.副作用投与期間中に発現した症状のうち,試験薬との因果関係が否定できないものを副作用とした.II結果自覚症状については点眼開始前,SCL装用中,SCL装脱後において,特に異常を訴える症例はなかった.涙液検査については,綿糸法では正常領域であった.BUTは1眼で4秒,1眼で3秒の症例がある以外は正常領域であった.試験開始前において,全例に軽度の角結膜上皮表1使用レンズ使用レンズFDA(米国食品・医薬品局)分類ワンデーアキュビューRトゥルーアイTMグループIメダリストRワンデープラスグループIIデイリーズRアクアグループIIワンデーアキュビューRグループIV酸素透過係数Dk値:〔×10.11(cm2/sec)・(mlO2/ml×mmHg)〕100222628含水率(%)46596958中心厚(mm)(.3.00D)直径(mm)0.08514.00.0914.20.1013.80.08414.2666あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012(86) 障害が認められた.経過観察中,点眼投与による副作用は全例において認められなかった.以下に各SCLに吸着した精製ヒアルロン酸ナトリウム,ホウ酸の定量結果(表2)と,細隙灯顕微鏡検査によって観察された結果を記す.1.ワンデーアキュビューRトゥルーアイTMa.SCLから検出された主成分およびホウ酸量結果を表2に示す.主成分の精製ヒアルロン酸ナトリウムは5検体すべて検出限界(10μg/SCL)に近い測定値であった.ホウ酸は1.1μg/SCLを超えるものは5検体中2検体から検出され,検出量はそれぞれ17.7μg/SCLおよび16.6μg/SCLであった.残りの3検体は検出限界(1.1μg/SCL)に近い測定値であった.b.細隙灯顕微鏡検査SCLフィッティング状態は良好であった.10眼中5眼において角膜上皮障害の軽減が認められた.表2SCLから検出された主成分およびホウ酸量使用SCL検出量(μg/SCL)精製ヒアルロン酸ナトリウムホウ素(ホウ酸として)ワンデーアキュビューRトゥルーアイTM平均値±SD141612131514±1.60.3(1.7)3.1(17.7)0.3(1.7)2.9(16.6)0.4(2.3)1.4±1.5(8.0±8.4)メダリストRワンデープラス平均値±SDNDNDNDNDND─NDNDNDNDND─デイリーズRアクア平均値±SD──────3.7(21.2)3.4(19.4)2.3(13.2)2.1(12.0)1.3(7.4)2.6±1.0(14.6±5.6)ワンデーアキュビューR平均値±SDNDNDNDNDND─0.3(1.7)0.5(2.9)NDNDND0.4±0.1(2.3±0.8)検出限界(μg/SCL)100.2(1.1)SD:標準偏差,ND:検出限界以下.(87)2.メダリストRワンデープラスa.SCLから検出された主成分およびホウ酸量主成分の精製ヒアルロン酸ナトリウム,ホウ酸ともに5検体すべて検出限界以下であった.b.細隙灯顕微鏡検査SCLフィッティング状態は良好であった.10眼中2眼において角膜上皮障害の軽減が認められた.3.デイリーズRアクアa.SCLから検出された主成分およびホウ酸量主成分の精製ヒアルロン酸ナトリウムは本定量法では測定できなかった.ホウ酸は5検体すべてから検出され,平均検出量は14.6±5.6μg/SCLであった.b.細隙灯顕微鏡検査SCLフィッティング状態は良好であった.10眼中2眼において角膜上皮障害の軽減が認められた.4.ワンデーアキュビューRa.SCLから検出された主成分およびホウ酸量主成分の精製ヒアルロン酸ナトリウムは5検体すべて検出限界以下であった.ホウ酸は5検体中3検体が検出限界以下,2検体が検出限界に近い測定値であった.b.細隙灯顕微鏡検査SCLフィッティング状態は良好であった.10眼中6眼において角膜上皮障害の軽減が認められた.III考按現在市販されているほとんどの点眼薬には防腐剤としてBAK,パラベン類,クロロブタノールなどが含有されており,これらの防腐剤が角膜上皮に障害をもたらすことは基礎および臨床の面から多くの報告がなされている9.15).また,防腐剤はCLに吸着することが報告されている2,16.19).筆者はBAKよりも角膜上皮に対する影響が少ないクロロブタノールとパラベン類を防腐剤に使用した点眼液の従来型SCL装用上点眼における安全性について検討を行い,問題がないことを報告した7)が,点眼薬には防腐剤以外にも添加物が含有されており,特にホウ酸は等張化剤や緩衝剤として多くの点眼液に配合されているため,SCLへの吸着を検討しておく必要があると思われる.東原はホウ酸を含んだBAKフリーの人工涙液に各種SCL(O2オプティクス,エアオプティクスTM,2Wプレミオ,アキュビューRオアシス,ワンデーピュア,ワンデーアキュビューR,デイリーズRアクアコンフォートプラス,デイリーズRアクア)を4時間浸漬するとレンズの種類によっては,その直径が変化することを発表(東原尚代:ソフトコンタクトレンズと点眼液の相互作用.第64回日本臨床眼科学会モーニングセミナー,2010,神戸)している.このことはレンズのフィッティングに変化をもたらす可能性を示唆したものあたらしい眼科Vol.29,No.5,2012667 である.しかし,今回の実験のような1回2滴の2時間間隔,1日6回点眼においてはレンズのフィッティングに影響は認められなかった.点眼した防腐剤の涙液中濃度は比較的速やかに涙液により希釈され,15分以内で1/10以下になるという報告がある21).どのくらいの頻回点眼でレンズサイズへの影響が認められるのかは今後の検討を待たねばならないが,少なくとも15分以上の間隔を空ければ問題ないと考えられる.日本におけるCLの市場は1日交換終日装用SCLが増加傾向にあり,筆者自身の症例では約30%を占める.また,1日交換終日装用SCLにも新しい素材であるシリコーンハイドロゲルを導入したものが市販されており普及が進んでいる.シリコーンハイドロゲルSCLは従来型素材のSCLの欠点である酸素透過性を改善するため,酸素透過性に優れたシリコーンを含む含水性の素材,シリコーンハイドロゲルを用いることにより,低含水性でありながら高酸素透過性を実現したSCLである.これにより,従来型SCLで問題となっていた慢性的な酸素不足による角膜障害や眼の乾燥感を軽減することが可能となった.しかし,シリコーンハイドロゲルSCLは従来型SCLと素材,表面処理,含水率などが異なるため,点眼薬の主成分や添加物のSCLへの吸着が異なる可能性が考えられる19).今回,ヒアルロン酸PF点眼液を用いて,シリコーンハイドロゲルSCLを含む4種類のワンデータイプのSCL装用上点眼における安全性およびSCLへの主成分ならびにホウ酸の吸着について検討を行った.その結果,ホウ酸はSCLの種類によって検出されたが,検出量はいずれもごく微量であり,主成分である精製ヒアルロン酸ナトリウムはSCLへの吸着が認められなかった.主成分の精製ヒアルロン酸ナトリウムの定量法はカルバゾール硫酸法による発色法(紫外可視吸光度測定法)を実施し,試料として直接SCLを試験に供したが,デイリーズRアクアにおいてはSCL中の色素がカルバゾールと化学反応して発色定量を妨害したと思われ測定不能であった.そこで,新たにSCLをヒアルロン酸PF点眼液に24時間浸漬した試験を追加した.SCLを浸漬した後のヒアルロン酸PF点眼液を試料として測定し,吸着量を算出した.その結果,試料液中の精製ヒアルロン酸ナトリウムは減少せず,SCLへの吸着は認められなかった.このことから,今回測定不能であったデイリーズアクアへの精製ヒアルロン酸ナトリウムの吸着はないと考えられる.また,SCL装用中の点眼使用による症状の悪化やSCLフィッティング状態に異常は認められず,副作用も認められなかった.以上の結果より,医師の管理の下に定期検査を十分に行えば,SCL装用上においてヒアルロン酸PF点眼液を使用しても,問題はほとんどないものと考えられた.668あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012文献1)小玉裕司,北浦孝一:コンタクトレンズ装用上における点眼使用の安全性について.あたらしい眼科17:267-271,20002)岩本英尋,山田美由紀,萩野昭彦ほか:塩化ベンザルコニウム(BAK)による酸素透過性ハードコンタクトレンズ表面の変質について.日コレ誌35:219-225,19933)上田倫子:眼科病棟の服薬指導4.月刊薬事36:13871397,19944)高橋信夫,佐々木一之:防腐剤とその眼に与える影響.眼科31:43-48,19895)平塚義宗,木村泰朗,藤田邦彦ほか:点眼薬防腐剤によると思われる不可逆的角膜上皮障害.臨眼48:1099-1102,19946)山田利律子,山田誠一,安室洋子ほか:保存剤塩化ベンザルコニウムによるアレルギー性結膜炎─第2報─.アレルギーの臨床7:1029-1031,19877)小玉裕司:シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ装用上におけるアシタザノラスト水和物点眼液(ゼペリン点眼液)の安全性.あたらしい眼科26:553-556,20098)小玉裕司:コンタクトレンズ装用上におけるアシタザノラスト水和物点眼液(ゼペリン点眼液)の安全性.あたらしい眼科20:373-377,20039)GassetAR:Benzalkoniumchloridetoxicitytothehumancornea.AmJOphthalmol84:169-171,197710)PfisterRR,BursteinN:Theeffectofophthalmicdrugs,vehiclesandpreservativesoncornealepithelium:Ascanningelectronmicroscopestudy.InvestOphthalmol15:246-259,197611)BursteinNL:Cornealcytotoxicityoftopicallyapplieddrugs,vehiclesandpreservatives.SurvOphthalmol25:15-30,198012)高橋信夫,向井佳子:点眼剤用防腐剤塩化ベンザルコニウムの細胞毒性とその作用機序─細胞培養学的検討─.日本の眼科58:945-950,198713)島﨑潤:点眼剤の防腐剤とその副作用.眼科33:533538,199114)濱野孝,坪田一男,今安正樹:点眼薬中の防腐剤が角膜上皮に及ぼす影響─涙液中LDH活性を指標として─.眼紀42:780-783,199115)中村雅胤,山下哲司,西田輝夫ほか:塩化ベンザルコニウムの家兎角膜上皮に対する影響.日コレ誌35:238-241,199316)水谷聡,伊藤康雄,白木美香ほか:コンタクトレンズと防腐剤の影響について(第1報)─取り込みと放出─.日コレ誌34:267-276,199217)河野素子,伊藤孝雄,水谷潤ほか:コンタクトレンズと防腐剤の影響について(第2報)─RGPCL素材におけるBAKの研究─.日コレ誌34:277-282,199218)﨑元卓:治療用コンタクトレンズへの防腐剤の吸着.日コレ誌35:177-182,199319)植田喜一,柳井亮二:シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズとマルチパーパスソリューション,点眼薬.あたらしい眼科25:923-930,200820)中村雅胤,西田輝夫:防腐剤の功罪.眼科NewSight②点眼液─常識と非常識─(大橋裕一編),p36-43,メジカルビュー社,1994(88)

ヒアルロン酸ナトリウム点眼液の角膜細胞に対する影響の検討

2011年4月30日 土曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(93)549《原著》あたらしい眼科28(4):549.552,2011c〔別刷請求先〕福田正道:〒920-0293石川県河北郡内灘町大学1-1金沢医科大学眼科学Reprintrequests:MasamichiFukuda,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,KanazawaMedicalUniversity,1-1Daigaku,Uchinadamachi,Kahoku-gun,Ishikawa920-0293,JAPANヒアルロン酸ナトリウム点眼液の角膜細胞に対する影響の検討福田正道矢口裕基藤田信之稲垣伸亮長田ひろみ柴田奈央子佐々木洋金沢医科大学眼科学EffectofSodiumHyaluronateEyedropsonCornealCellsMasamichiFukuda,HiromotoYaguchi,NobuyukiFujita,ShinsukeInagaki,HiromiOsada,NaokoShibataandHiroshiSasakiDepartmentofOphthalmology,KanazawaMedicalUniversity目的:市販のヒアルロン酸ナトリウム点眼液0.1%の角膜上皮細胞に対する安全性を従来の培養家兎由来角膜細胞株(SIRC)による評価法(invitro)および角膜抵抗測定装置を用いた評価法(invivo)により評価した.方法:SIRCにヒアレインR点眼液0.1%(以下,ヒアレイン),アイケアR点眼液0.1%(以下,アイケア),ティアバランスR点眼液0.1%(以下,ティアバランス)およびベンザルコニウム塩化物0.02%溶液(以下,BAK)を0,5,10,15,30および60分接触した際の細胞数を測定し,各測定時点の細胞数から細胞生存率(%)を算出した.また,角膜抵抗測定法では家兎の結膜.内に各点眼液およびBAKを5分ごと5回点眼し,点眼終了2分後の角膜抵抗(CR)を測定した.結果:Invitroによる評価ではヒアレインは接触時間の増加に伴い,生存率は徐々に減少し,接触60分後では64.3%まで減少した.一方,アイケアでは接触60分後で89.2%,ティアバランスでは92.7%とほぼ同程度の生存率を示し,細胞障害性はほとんど認められなかった.なお,BAKでは接触8分後で24.2%まで生存率は減少した.Invivoで一般的に汎用されている角膜染色による障害性評価ではBAK以外のいずれの製剤にも障害性は認められなかった.角膜抵抗測定法(CR比)による評価においても点眼前に対するCR比はヒアレインでは105.4±5.0%,アイケアでは110.8±16.4%,ティアバランスでは110.8±2.1%,BAKでは67.0±10.3%であった.結論:今回,従来から汎用されている角膜染色による障害性評価およびCR比によるinvivoでの評価においてはBAK以外のヒアルロン酸点眼液で角膜障害性は認められなかったものの,invitro試験の結果から,ティアバランスとアイケアの角膜障害性はほとんどなく,角膜障害はBAK>ヒアレイン>ティアバランス=アイケアの順であった.Purpose:Theeffectofcommerciallyavailableeyedropscontaining0.1%sodiumhyaluronateoncornealepithelialcellswasevaluatedinvitrobyaconventionalmethodusingculturedstatensseruminstitutrabbitcornea(SIRC)cells,andinvivobycornealresistance(CR)measurement.Methods:CulturedSIRCcellswereincubatedwithHyaleinR0.1%eyedrops(Hyalein),EyecareR0.1%eyedrops(Eyecare),TearbalanceR0.1%eyedrops(Tearbalance)or0.2%benzalkoniumchloridesolution(BAK)for0,5,10,15,30and60min;thecellswerethencountedateachtimepointtocalculatethecellsurvivalrate(%).TomeasureCR,eachoftheeyedropsandBAKwereadministeredtotheconjunctivalsacsoftherabbits5timesevery5min;CRwasmeasured2minafteradministration.Results:TheinvitroevaluationshowedthatcellsurvivalratesgraduallydecreasedascellcontacttimewithHyaleinincreased.After60minofcellcontactwithHyalein,theratedecreasedto64.3%.Ontheotherhand,cellsurvivalratesafter60minofcontactwithEyecareandTearbalancewere89.2%and92.7%,respectively,almostcomparablerates;almostnocelldamagewasobservedaftercontactwithEyecareandTearbalance.Incontrast,BAKdecreasedthecellsurvivalrateto24.2%after8minofcontactwiththecells.Thecornealstainingexaminationwidelyusedforinvivoassessmentofcornealinjuriesdisclosednodifferencesbetweentheeyedrops,exceptingBAK.CRratio,asdeterminedbyCRmeasurementbeforeandaftereyedropadministration,was105.4±5.0%forHyalein,110.8±16.4%forEyecare,110.8±2.1%forTearbalanceand67.0±10.3%forBAK.Conclusion:Inthisstudy,cornealinjuryinvivoevaluationbywidelyusedconventionalcornealstainingandCRratiomeasurementdisclosednocornealinjuriescausedbysodiumhyaluronateeyedrops,exceptingBAK.TheresultsofinvitroexaminationindicatedthatTearbalanceandEyecaredidnotcausecornealcelldamage.Resultsshowedthatthe550あたらしい眼科Vol.28,No.4,2011(94)はじめにヒアルロン酸ナトリウム点眼液はSjogren症候群,Stevens-Johnson症候群,眼球乾燥症候群(ドライアイ)などの内因性疾患および術後,薬剤性,外傷,コンタクトレンズ(CL)装用などによる外因性疾患に伴う角膜上皮障害治療用点眼薬として,わが国では1995年から発売されている.その作用機序はヒアルロン酸ナトリウムが自身の保水性とともに,フィブロネクチンと結合し,その作用を介して上皮細胞の接着,伸展を促進するといわれている1~4).本剤の眼科臨床での貢献度は大きく,先発品のヒアレインRに加えて後発品が多数開発され市販されている.筆者らは先にヒアレインRおよび各後発品について培養家兎由来角膜細胞(SIRC)株による評価法(invitro)を用いて角膜上皮細胞に対する安全性を評価し,各点眼液に含まれる添加物の違いにより角膜上皮細胞に対する影響が異なることを確認している5).今回,SIRCによる評価法(invitro)に加え,角膜抵抗測定装置による評価法(invivo)を用いて,各ヒアルロン酸ナトリウム点眼液の角膜上皮への影響を検討した.I実験材料1.試験薬剤(表1)ヒアルロン酸ナトリウム点眼液0.1%にはヒアレインR点眼液0.1%(以下,ヒアレイン)〔参天製薬(株)〕,アイケアR点眼液0.1%(以下,アイケア)〔科研製薬(株)〕,ティアバランスR点眼液0.1%(以下,ティアバランス)〔千寿製薬(株)〕および,ベンザルコニウム塩化物0.02%溶液(以下,BAK)〔東京化成(株)〕を使用した.2.使用動物ニュージーランド成熟白色家兎(NZW;体重3.0~3.5kg,雄性,16羽)を本実験に使用した.動物の使用にあたり,金沢医科大学動物使用倫理委員会の使用基準に従うとともにARVO(TheAssociationforResearchinVisionandOphthalmology)のガイドラインに従い,動物への負担配慮を十分に行い施行した.3.使用細胞株使用細胞株はSIRC(ATCCCCL60),10%fetalbovineserum(FBS)添加Dulbecco’smodifiedEagle’smedium(DME)培地で37℃,5%CO2下で培養した.4.角膜抵抗測定装置角膜電極は弯曲凹面に関電極および不関電極を同心円状に配設し,両電極が測定時に家兎の角膜表面に接するようにした.電気抵抗計装置から関電極および不関電極間に電流を通電し,その電気抵抗を測定することで角膜の電気抵抗を測定した6).角膜抵抗値(CR)の測定にはつぎのような筆者らが開発した角膜抵抗測定装置〔CRD(Cornealresistancedevice)Fukudamodel2007〕を用いた6).角膜CL電極(メイヨー製)とファンクション・ジェネレータ(Dagatron,Seoul,Korea),アイソレーター(BSI-2;BAKElectronics,INC.USA)およびPowerLabシステム(ADInstruments,Australia)を使用した.角膜CL電極はアクリル樹脂製でウサギ角膜形状に対応すcornealepithelialdamageobservedwas,intheorderofdecreasingseverity,BAK>Hyalein>Tearbalance=Eyecare.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(4):549.552,2011〕Keywords:角膜抵抗,培養家兎由来角膜細胞株,ヒアルロン酸ナトリウム点眼液,角膜上皮障害,生体眼.cornealresistance,culturedstatensseruminstitutrabbitcorneacells,sodiumhyaluronateeyedrops,cornealepithelialdamage,livingeyes.表1試験製剤とその添加物製品名ヒアレインティアバランスアイケア(処方変更前)アイケア(処方変更後)添加物防腐剤ベンザルコニウム塩化物クロルヘキシジングルコン酸塩ベンゼトニウム塩化物クロルヘキシジングルコン酸塩液その他イプシロン-アミノカプロン酸,エデト酸ナトリウム,塩化カリウム,塩化ナトリウム,pH調節剤ホウ酸,ホウ砂,塩化ナトリウム,塩化カリウムリン酸二水素カリウム,リン酸水素ナトリウム水和物,塩化ナトリウム,エデト酸ナトリウム水和物,ポリソルベート80トロメタモール,pH調節剤,等張化剤pH6.0~7.06.5~7.56.0~7.06.8~7.8浸透圧比0.9~1.10.9~1.10.9~1.10.9~1.1製造販売元参天製薬㈱千寿製薬㈱科研製薬㈱科研製薬㈱(95)あたらしい眼科Vol.28,No.4,2011551る直径とベースカーブを有している.弯曲凹面に設けられた関電極および不関電極の材質はいずれも金で,その外径(直径)は,それぞれ12mm,4.8mm,幅が0.8mm,0.6mmである.測定条件は,交流周波数:1,000Hz,波形:duration,矩形波:5ms,電流:±50μAで設定した.II実験方法1.SIRCによる評価(invitro)SIRC(2×105cells)を35mmdishで10%FBS添加DME培地37℃,5%CO2下でコンフルエント状態になるまで5日間培養後,各点眼液(1,000μl)あるいはBAKを0~60分間接触後,細胞数をコールターカウンター法で測定した.薬剤非接触細胞での細胞数を100として,細胞生存率(%)を算出した.2.角膜抵抗測定法による評価(invivo)(図1)成熟白色家兎の結膜.内に各点眼液あるいはBAKを5分ごと5回(1回50μl)点眼し,点眼終了2分後の角膜抵抗(CR)を測定した.1群に家兎4眼を使用した.CRの測定法には角膜抵抗測定装置を用い,CR値(W)とCR比(%)の算出はつぎのように行った.CR(W)=電圧(V)/電流(A)=(mV×10.3)/(100μA×10.6)CR比(%)=点眼後のCR×100/点眼前のCR3.フルオレセイン染色法による角膜障害の評価各点眼薬による角膜上皮障害の有無は点眼終了2分,30分,60分後に1%フルオレセインナトリウム溶液2μlを結膜.内に点眼し,細隙灯顕微鏡下で観察した.4.統計学的処理検定法はStudent’st-testで行い,有意水準は0.05未満とした.III結果1.SIRCによる評価(invitro)ヒアレインでは接触時間の経過とともに,徐々に生存率は減少し,接触60分後では64.3%まで減少した.一方,アイケアでは接触60分後で89.2%,ティアバランスでは92.7%とほぼ同程度の生存率を示し,細胞障害性はほとんどみられなかった.薬剤と培養細胞の接触時間が30分以上経過するとヒアレインと2種点眼液の細胞障害の程度に有意な差が生じた(p<0.05).BAKの接触8分後では24.2%まで生存率は減少した(図2).2.角膜抵抗測定法による評価(invivo)角膜抵抗測定法によるCR比は,ヒアレインが105.4±5.0%(平均±標準偏差)であったのに対して,アイケアでは110.8±16.4%,ティアバランスでは110.8±2.1%であった.3種点眼液間には有意差はなく,いずれも角膜抵抗測定法によるCR比の低下はなかった.BAKでは67.0±10.3%まで低下した(表2).3.フルオレセイン染色法による角膜障害の評価(invivo)フルオレセイン染色によるAD分類では,どの点眼薬においても,A0D0であった.BAKでは溶液接触2分後ではA2D2程度の障害がみられた.IV考按ヒアルロン酸ナトリウム点眼液は1995年にヒアレインが発売になり,その後後発品が多数発売されている.いずれの後発品も先発品のヒアレインとの生物学的同等性試験により表2角膜抵抗測定法による評価(invivo)試験製剤角膜抵抗(CR)比(%)アイケアR点眼液0.1%110.8±16.4ティアバランスR点眼液0.1%110.8±2.1ヒアレインR点眼液0.1%105.4±5.0ベンザルコニウム塩化物0.02%溶液67.0±10.3図1角膜抵抗測定装置(Current=±50μA,Frequency=1,000Hz)IsolatorPowerLabTrigger(Functiongenerator)ContactlenselectrodesComputer+-図2培養家兎由来角膜細胞による評価(invitro)100120806040200020406080生存率(%)時間(分)**:アイケア(0.1%):ヒアレイン(0.1%):ティアバランス(0.1%):BAK(0.02%)*:p<0.05%552あたらしい眼科Vol.28,No.4,2011(96)効果に差がないことは認められているが,主成分であるヒアルロン酸ナトリウム以外の添加物(防腐剤,溶解補助剤,界面活性剤,他)が異なるために,安全性,特に点眼液で重要な角膜障害性については同一とはいえない.そこで,すでに筆者らはSIRCに対する影響に関する検討を行い,先発品ヒアレインおよびヒアレインミニ,後発品(アイケア,ヒアール,ヒアロンサン,ティアバランス)のヒアルロン酸ナトリウム点眼液0.1%の安全性を評価した結果,配合されている防腐剤の影響が大きく,ベンザルコニウム塩化物とベンゼトニウム塩化物は角膜障害性が大きく,エデト酸ナトリウムの関与が考えられ,クロルヘキシジングルコン酸塩やパラベン類の角膜への影響は比較的小さいものと考えられた5,8,9).今回使用したアイケアは前回使用のアイケア中の防腐剤であるベンゼトニウム塩化物をクロルヘキシジングルコン酸塩液に変更した.変更理由としては,アイケアが角膜上皮障害の治療薬であるため,点眼液に必要な保存効力を維持しながら,さらに,細胞障害性を軽減させることである.対照点眼液としてティアバランス,ヒアレインを用いて比較検討した.その結果,処方変更後のアイケアを接触させたときの細胞生存率はティアバランスとほぼ同等で,角膜上皮障害はほとんどみられなかった.処方変更後のアイケアとリン酸緩衝液を比較検討したところ,ほぼ同等の結果が得られた.さらにこの結果を,すでに筆者らが報告したベンゼトニウム塩化物を含む処方変更前のアイケアの結果と比較すると,有意に角膜障害性が軽減されていた.先発品であるヒアレインでは既報とほぼ一致する細胞障害性を示したことは,ベンゼトニウム塩化物やベンザルコニウム塩化物はクロルヘキシジングルコン酸塩に比べ細胞障害性が強いことを示すものであった5).Invivoの実験ではいずれの点眼液においても生体眼でのCR値の低下はみられず,フルオレセイン染色においても角膜上皮障害は確認されなかった.この点はinvitroの成績とは大きく異なり,invivoでは細胞障害を生じにくい傾向がみられたが,この原因は涙液や角膜上皮細胞の生理的条件が異なるためと推測している.しかし,ヒアルロン酸ナトリウム点眼液はドライアイなどすでに角膜に障害がある患者に使用される薬剤であり,本実験で行った正常家兎眼での結果をそのまま適応して考えることはできない.ドライアイ患者などのハイリスク群では,添加剤の角膜障害性の影響はより大きくなることが予想されるため,十分注意が必要である.今回,市販の各種ヒアルロン酸ナトリウム点眼液の角膜障害性をSIRC細胞で評価した結果,薬剤と培養細胞の接触時間が30分以上経過すると各点眼液の細胞障害の程度に有意な差が生じた.検討した点眼液の角膜障害性はクロモグリク酸ナトリウム点眼液やジクロフェナクナトリウム点眼液あるいはマレイン酸チモロール点眼液に比べて少なかった7,8)が,治療の対象となる疾患が角膜障害を有する点でこれらの薬剤での結果と同一レベルの安全基準で評価することはできない.ヒアルロン酸ナトリウム点眼液の障害性は配合されている添加物,特にベンザルコニウム塩化物やベンゼトニウム塩化物などの第四アンモニウム塩による影響が大きいと考えられた.正常な生理的条件下であれば,これらの防腐剤を含むヒアルロン酸ナトリウム点眼液であっても角膜障害は発症しにくいと考えるが,涙液量が少なく角膜上皮の状態が悪い症例においては,より角膜障害を生じにくい薬剤の選択が重要であると考える.文献1)LaurentTC:Biochemistryofhyaluronan.ActaOtolaryngolSuppl442:7-24,19872)GoaKL,BenfieldP:Hyaluronicacid.Areviewofitspharmacologyanduseasasurgicalaidinophthalmology,anditstherapeuticpotentialinjointdiseaseandwoundhealing.Drugs47:536-566,19943)北野周作,大鳥利文,増田寛次郎:0.3%ヒアルロン酸ナトリウム点眼液の重症角結膜上皮障害に対する効果.あたらしい眼科10:603-610,19934)NishidaT:Extracellularmatrixandgrowthfactorsincornealwoundhealing.CurrOpinOphthalmol4:4-13,19935)福田正道,山本佳代,佐々木洋:ヒアルロン酸ナトリウム点眼液の培養家兎角膜細胞に対する障害性.医学と薬学56:385-388,20066)福田正道,山本佳代,高橋信夫ほか:角膜抵抗測定装置による角膜障害の定量化の検討.あたらしい眼科24:521-525,20077)福田正道,佐々木洋:オフロキサシン点眼薬とマレイン酸チモロール点眼薬の培養角膜細胞に対する影響と家兎眼内移行動態.あたらしい眼科26:977-981,20098)福田正道,佐々木洋:ニューキノロン系抗菌点眼薬と非ステロイド抗炎症点眼薬の培養家兎由来角膜細胞に対する影響.あたらしい眼科26:399-403,20099)福田正道,村野秀和,山代陽子ほか:グルコン酸クロルヘキシジン液の培養角膜上皮細胞に対する影響.眼紀56:754-759,2005***