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ブリモニジン酒石酸塩0.1%点眼液 使用成績調査のまとめ

2022年8月31日 水曜日

《原著》あたらしい眼科39(8):1139.1147,2022cブリモニジン酒石酸塩0.1%点眼液使用成績調査のまとめ川口えり子*1坂本祐一郎*1末信敏秀*1新家眞*2*1千寿製薬株式会社*2神奈川歯科大学附属横浜クリニックPost-MarketingStudyof0.1%BrimonidineTartrateOphthalmicSolutionErikoKawaguchi1),YuichiroSakamoto1),ToshihideSuenobu1)andMakotoAraie2)1)SenjuPharmaceuticalCo.,Ltd,2)KanagawaDentalUniversityYokohamaClinicCブリモニジン酒石酸塩点眼液(アイファガン点眼液C0.1%)の安全性および有効性を検討するため,承認後の使用成績調査にて,最長C24カ月にわたりプロスペクティブな観察を行った.副作用発現率はC15.43%(720/4,666例)であり,おもな副作用はアレルギー性結膜炎をはじめとする眼局所の事象であった.眼圧評価対象C2,625例における投与開始時の平均眼圧はC16.5C±4.7CmmHgであった.投与開始C3カ月.24カ月までの平均眼庄下降率はC13.5.15.2%であり,いずれの観察時点においても有意な眼圧下降が認められた(p<0.0001).また,病型,併用薬剤,切替薬剤にかかわらず,投与開始以降有意な眼圧下降を示した.ブリモニジン酒石酸塩点眼液の安全性および有効性に問題は認められず,有用であると考えられた.CPurpose:Toevaluatethesafetyande.cacyofbrimonidinetartrateophthalmicsolution(AIPHAGANCRCOph-thalmicSolution0.1%)forthetreatmentofglaucoma.PatientsandMethods:Inthisprospective,observational(uptoC24months)post-marketingCstudyCconductedCinCJapan,CaCtotalCofC4,666CglaucomaCpatientsCwereCincluded.CResults:OfCtheC4,666Cpatients,CtheCincidenceCrateCofCadverseCdrugreactions(ADRs)was15.43%(n=720patients),themainADRswereoculartopicaleventssuchasallergicconjunctivitis.Themeanintraocularpressure(IOP)inthe2,625patientswhowereincludedinanalysesofthechangesofIOPwas16.5±4.7CmmHgatbaseline.InCaddition,CAIPHAGANRCOphthalmicCSolution0.1%Csigni.cantlyCreducedCIOPCatCallCobservationalpoints(p<0.0001)C,andtheaveragerateofIOPreductionfrom3-to24-monthspoststartofadministrationrangedfrom13.5%to15.2%.Moreover,thelevelofIOPreductionwasnotin.uencedbyglaucomatype,concomitantdisorder,ordrugusedbeforeswitching.Conclusion:Our.ndingssuggestthatAIPHAGANCROphthalmicSolution0.1%issafeande.ectiveforthetreatmentofglaucoma.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C39(8):1139.1147,C2022〕Keywords:ブリモニジン,アイファガン点眼液C0.1%,安全性,有効性,眼圧.brimonidine,AIPHAGANoph-thalmicsolution0.1%,safety,e.cacy,intraocularpressure.はじめに緑内障は,わが国の失明原因の第C1位1)であり,緑内障診療ガイドライン2)では,「視神経と視野に特徴的変化を有し,通常,眼圧を十分に下降させることにより視神経障害を改善もしくは抑制しうる眼の機能的構造的異常を特徴とする疾患」と定義されている.治療方法には薬剤治療,レーザー治療,手術治療などがあるが,通常,緑内障治療薬の単剤投与より開始され,さらなる眼圧下降を求めて作用機序の異なる緑内障治療薬との併用や他の治療が実施される.ブリモニジン酒石酸塩はアドレナリンCa2受容体に選択的に作用し,房水産生の抑制およびぶどう膜強膜流出路を介した房水流出の促進により眼圧を下降させると考えられており3),わが国においては,2012年C1月にC0.1%ブリモニジン酒石酸塩(アイファガン点眼液C0.1%)として承認された.本剤は,それまでの緑内障治療薬とは異なる作用機序を有していたため,製造販売後においてはプロスタグランジン関連薬をはじめとする種々の緑内障治療薬と組み合わせて使用されることが想定された.また,緑内障以外の既往症や併用薬などのため,臨床試験では除外対象となっていた患者にも,承認後は広く投与される.このような上市後の使用実態に即〔別刷請求先〕川口えり子:〒541-0048大阪市中央区瓦町C3-1-9千寿製薬株式会社信頼性保証本部医薬情報企画部Reprintrequests:ErikoKawaguchi,MedicalInformationPlanningDepartment,Safety&QualityManagementDivision,SenjuPharmaceuticalCo.,Ltd.,3-1-9Kawara-machi,Chuo-ku,Osaka541-0048,JAPANCして本剤の有効性および安全性を検証することを目的として使用成績調査を実施した.CI調査の方法と成績1.調査方法「医薬品の製造販売後の調査及び試験の実施の基準に関する省令」(厚生労働省令第C17l号)に則り,中央登録方式によるプロスペクティブな観察研究を実施した(2012年C12月.2017年C12月).本剤の使用成績調査(以降,本調査)にかかる契約を締結した医療機関にて,目標症例数C3,000例として,2012年C12月.2015年C9月に初めて本剤投与を開始した緑内障または高眼圧症患者を登録対象とした.観察期間はC12カ月以上,最長C24カ月であり,調査項目は,患者背景(性別,年齢,合併症,既往歴,眼手術歴,前治療薬),併用薬,併用療法,眼科検査結果(投与開始前およびC3カ月ごとの眼圧,視野検査),有害事象とした.なお,本調査は介入を行わない観察研究であるため,本剤投与以前の緑内障治療内容,併用薬,併用療法,眼科検査機器や測定方法に制限は設けなかった.本調査は,独立行政法人医薬品医療機器総合機構による審査を経て実施した.C2.評価方法安全性については,本剤投与開始以降,少なくともC1回以上の観察が可能であった症例を対象として,副作用発現状況を評価した.また,本剤の特徴的な副作用である「アレルギー性結膜炎」については,「性別」「年齢」「アレルギー性疾患既往の有無」「角膜障害の有無」「結膜疾患の有無」「眼瞼疾患の有無」「他の緑内障治療薬の有無」「b遮断薬併用の有無」「緑内障治療薬以外の併用薬の有無」および「併用薬剤数」を共変量として,強制投入法によるロジスティクス多変量解析を行い,アレルギー性結膜炎発現のリスクを検討した.有効性については,眼圧評価対象症例の投与前眼圧と投与24カ月までのC3カ月ごとの眼圧値を対応のあるCt検定で評価した(Bon.eroni補正).眼圧推移対象症例は,投与開始からC360日以上,緑内障治療内容を変更することなく,本剤を継続投与した症例とした.評価眼はC1例C1眼とし,両眼投与症例においては投与開始時点の眼圧が高い方の眼(同値である場合は右眼)とした.さらに,本剤投与期間中に同一の測定法(Humphrey視野計,中心C30-2プログラムのSITA-StandardまたはCSITA-Fast)にて,5回以上視野検査を実施した眼を対象として,測定法ごとにC1年当たりのCmeandeviation(MD)値の変化量をCLinearMixedModelで推定した.すべての解析について,有意水準は両側5%とした.C3.結果全国C481の医療機関にてC4,886例が登録され,安全性評価対象症例としてC4,666例,眼圧評価対象症例としてC2,625例を収集した(図1).安全性評価対象症例の患者背景は表1に示したとおりであり,平均年齢はC68.7歳,原発解放隅角緑内障がもっとも多かった.また,最終観察時点である投与24カ月まで投与継続された症例はC3,074例であったことから,本調査における投与継続率はC65.9%であった.一方,最終観察時点までに投与中止に至ったC1,592例の中止理由は,再診なしC678例,副作用C520例,効果不十分C182例,有害事象C82例,その他C130例であった.C4.安全性副作用発現率はC15.43%(720/4,666例)であった.このうち,重篤な副作用はC11例C12件(眼圧上昇C4件,視野障害の進行C2件,糖尿病網膜症の増悪,糖尿病,糖尿病性腎症の悪化,脳血栓症,右大腿骨骨折および左上腕骨骨折各C1件)が認められたが,本剤と明確な関連があると判定された事象はなかった.おもな副作用(発現率C0.1%以上)は表2に示したとおりであり,アレルギー性結膜炎C241例(5.17%)をはじめ,結膜充血C102例(2.19%),眼瞼炎C88例(1.89%),結膜炎C50例(1.07%),点状角膜炎C48例(1.03%)など,眼局所における事象が多く認められた.眼局所以外では,浮動性めまいC21例(0.45%)および傾眠C14例(0.30%)が主たる事象であった.なお,アレルギー性結膜炎,結膜充血,霧視,浮動性めまいなど,自覚的な事象では,副作用による中止率が高い傾向にあった(表2).ロジスティクス多変量解析は,安全性評価対象症例C4,666例のうち,共変量とした背景因子に「不明」を含むC251症例を除いたC4,415例を対象とした.背景因子ごとのアレルギー性結膜炎の発現状況については,「性別」「アレルギー性疾患既往の有無」「結膜疾患の有無」および「緑内障治療薬以外の併用薬の有無」のC4因子で有意差が認められ,性別では「女性」,アレルギー性疾患既往の有無および結膜疾患の有無では「あり」のオッズ比が高かった.表には示していないが,結膜疾患の内訳としては,86.3%(909/1,053症例)において眼乾燥(Sjogren症候群を含む)あるいはアレルギー性結膜炎(季節性アレルギーおよび眼のアレルギーを含む)が認められ,それぞれの罹患症例におけるアレルギー性結膜炎の発現率は,眼乾燥でC6.77%(p=0.0400),アレルギー性結膜炎でC14.47%(p<0.0001)であり,非罹患症例に比して発現率が有意に高かった(Cc2検定).一方,「緑内障治療薬以外の併用薬の有無」では,「あり」のオッズ比が,「なし」より低かった(表3).C5.有効性図2に示したとおり,眼圧評価症例C2,625例の投与前眼圧はC16.5mmHg,投与C3.24カ月までの眼圧はC13.5.13.9mmHgであり,観察期間を通して安定した眼圧下降が認められた(p<0.0001).眼圧変化量は.2.9.C.2.6CmmHg,眼図1症例構成全国C481の医療機関にて登録されたC4,886例のうち,本剤投与後C1回以上観察のあったC4,666例を安全性評価対象症例として,副作用発現状況を確認した.また,本剤投与開始後,緑内障治療内容を変更することなく,360日以上継続投与した2,625例を眼圧評価対象症例として,3カ月ごとの眼圧推移を確認した.表1患者背景項目分類症例数(n=4,666)性別男2,118(45.4%)女2,548(54.6%)年齢(歳)平均±標準偏差C68.7±13.0最小値.最大値7.97病型*1原発開放隅角緑内障2,017(43.2%)正常眼圧緑内障1,926(41.3%)原発閉塞隅角緑内障165(3.5%)続発緑内障277(5.9%)高眼圧症185(4.0%)その他95(2.0%)合併症(眼)あり2,502(53.6%)なし2,164(46.4%)合併症(眼部以外)あり1,431(30.7%)なし2,440(52.3%)不明795(17.0%)眼手術歴あり1,671(35.8%)なし2,958(63.4%)不明37(0.8%)併用薬あり4,123(88.4%)なし533(11.4%)不明10(0.2%)併用療法あり178(3.8%)なし4,454(95.5%)不明34(0.7%)*1:本剤投与開始時点で緑内障・高眼圧症に罹患していなかったC1例を除外した.(131)あたらしい眼科Vol.39,No.8,2022C1141表2おもな副作用および中止状況副作用*1*2発現症例数(発現率%)中止症例数*3(中止率%)眼部665(C14.25)C.アレルギー性結膜炎241(C5.17)209(C86.72)結膜充血102(C2.19)90(C88.24)眼瞼炎88(C1.89)65(C75.58)結膜炎50(C1.07)36(C72.00)点状角膜炎48(C1.03)18(C37.50)霧視26(C0.56)23(C88.46)眼の異常感24(C0.51)19(C79.17)眼圧上昇22(C0.47)5(C22.73)眼乾燥21(C0.45)4(C19.05)眼そう痒症18(C0.39)17(C94.44)眼痛12(C0.26)10(C83.33)アレルギー性眼瞼炎10(C0.21)9(C90.00)眼刺激9(C0.19)6(C66.67)眼の異物感9(C0.19)9(C100.00)結膜濾胞8(C0.17)8(C100.00)視野欠損8(C0.17)1(C12.50)角膜びらん7(C0.15)5(C71.43)眼瞼紅斑6(C0.13)5(C83.33)眼瞼浮腫6(C0.13)5(C83.33)虹彩炎5(C0.11)0(C0.00)(その他)46(C.)C.眼部以外63(C1.35)C.浮動性めまい21(C0.45)19(C90.48)傾眠14(C0.30)10(C71.43)(その他)44(C.)C.*1:副作用名はCICH国際医療用語集CMedDRA/JCVersion20.1のCPT(基本語)を用いて分類した.*2:発現率C0.1%以上の事象を対象とした.*3:中止症例に複数の副作用が発現していた場合,すべての副作用の中止例数として計数した.圧変化率は.15.2.C.13.5%であった.このうち,本剤を新規で単剤投与したC357例の投与前眼圧はC17.2CmmHg,投与3.24カ月の眼圧はC13.8.14.2CmmHg,眼圧変化量はC.3.3..3.1mmHg,眼圧変化率はC.17.2.C.16.1%であった.その他,病型別,併用薬剤別,切替薬剤別で眼圧推移を検討した結果,投与後のすべての時点で有意な眼圧低下が認められた(図3~6).1年当たりのCMD値の変化量について,評価眼はC194例194眼(SITA-Standard群:54眼,SITA-Fast群:140眼)であった.測定法ごとの推定変化量はCSITA-Standard群は0.19CdB(標準誤差C0.14,p=0.1829),SITA-Fast群はC.0.08CdB(標準誤差C0.11,p=0.4507)であり,両群ともに有意な変化は認められなかった.CII考察本調査で認められた副作用の多くは眼局所における非重篤C1142あたらしい眼科Vol.39,No.8,2022な事象であった.ブリモニジン点眼投与時における代表的な事象である眼局所アレルギー反応の発現率は,既報においてはC9.25.7%である4.6).本調査においても,主たる眼局所事象はアレルギー反応であり,うちアレルギー性結膜炎の発現率はC5.17%であった.多変量解析によるアレルギー性結膜炎のリスク分析においては,結膜疾患あり,アレルギー性疾患既往あり,女性の集団におけるオッズ比が,1.805(p=0.0099),2.112(p=0.0087),1.810(p<0.0001)と有意に高かった.多変量解析対象症例で認められた主たる結膜疾患は,眼乾燥あるいはアレルギー性結膜炎であり,罹患症例における発現率が高かった.Manniら5)は,ブリモニジン点眼(0.2%)による眼局所アレルギー反応は,点眼薬に対するアレルギー既往を有する患者に多く認められ,また,眼局所アレルギー反応を示した患者では涙液量が有意に減少していたことを報告しており,類似した結果であったと考える.なお,女性のオッズ比が高かった要因としては,女性におけるアレルギー性疾患の既往あるいは結膜疾患の合併率が,それぞれ,60.7%あるいはC65.4%であり,男性における合併率(39.4%あるいはC34.6%)に比して高かったことに起因すると推察された.一方,緑内障治療薬以外の併用薬ありのオッズ比はC0.573(p=0.0427)であり,併用薬なしに比して有意に低かったが,おもな併用薬は人工涙液,角膜保護薬,ステロイド薬,抗アレルギー薬であった.このうち,ステロイド薬あるいは抗アレルギー薬の併用がアレルギー性結膜炎の発症あるいは増悪を抑制しうることは想像できるものの,他の併用薬による影響については,さらなる検討が必要と考える.このような併用薬による影響については,Cb遮断薬の点眼併用によるブリモニジン点眼起因の眼局所アレルギー反応の低減について言及されている7.9).そこで,多変量解析の変数としてCb遮断薬の点眼併用有無を組み入れたが,併用例におけるオッズ比はC1.114(p=0.5439)であり,低減傾向は認められなかった.これは,本調査が使用成績調査という性質上,併用薬に制限を設けておらず,本剤投与期間中に併用薬の変更が生じた症例が含まれるなど,既報と条件が異なるためと考えられた.一方,全身的な副作用としては,浮動性めまいC21例(0.45%)および傾眠C14例(0.30%)が代表的であったが,その発現率は,アドレナリンCa2受容体刺激作用を有する血圧降下剤(メチルドパ水和物錠,クロニジン塩酸塩錠,グアナベンズ酢酸塩錠)を上回るものではなかった3).以上のように,本調査においては,新たな安全性リスクを認めなかったが,最長C24カ月の観察期間においてC34.1%(1,592/4,666例)が本剤による治療から離脱しており,このうちC11.1%(520/4,666例)が副作用発現を理由として本剤投与を中止していた.Sherwoodら8)は,ブリモニジン点眼(0.2%)の12カ月観察における有害事象による投与中止率がC30.6%で(132)表3アレルギー性結膜炎の多変量解析結果背景因子オッズ比95%信頼区間p値男1C..性別女C1.810C1.348-2.430<0.0001*40歳未満C1C..年齢40歳以上C65歳未満C65歳以上C75歳未満C5.618C5.885C0.771-40.954C0.807-42.907C0.08860.080375歳以上C3.273C0.447-23.976C0.2432アレルギー性疾患既往*1なしCありC1C1.805C.1.153-2.826C.*0.0099角膜障害*2なしCありC1C1.121C.0.700-1.795C.0.6351結膜疾患*3なしCありC1C2.112C.1.208-3.690C.*0.0087眼瞼疾患*4なしCありC1C2.412C.0.957-6.081C.0.0619他の緑内障治療薬*5なしCありC1C0.599C.0.348-1.031C.0.0644Cb遮断薬の併用*5なしCありC1C1.114C.0.786-1.580C.0.5439緑内障治療薬以外の併用薬*5なしCありC1C0.573C.0.335-0.982C.*0.0427なしC1C..1剤C1.424C0.745-2.722C0.2847併用薬剤数*52剤C3剤C1.352C0.651C0.629-2.907C0.250-1.694C0.43960.37934剤以上C0.896C0.322-2.498C0.8340*1:本剤投与開始時点で以下のいずれかを合併している,または既往のある症例.アレルギー性結膜炎,アレルギー性眼瞼炎,アトピー性白内障,季節性アレルギー,アトピー性皮膚炎,アレルギー性皮膚炎,接触皮膚炎,アレルギー性鼻炎,薬疹,喘息.*2:本剤投与開始時点で以下のいずれかを合併している症例.角膜炎,角膜障害,眼乾燥,眼球乾燥症,Sjogren症候群,点状角膜炎,角膜びらん,潰瘍性角膜炎,真菌性角膜炎,角膜症,角膜浮腫,角膜白斑,角膜混濁,眼部単純ヘルペス,角膜血管新生,円錐角膜,角膜変性,角膜ジストロフィー,角膜瘢痕,ヘルペス眼感染.*3:本剤投与開始時点で以下のいずれかを合併している症例.眼乾燥,Sjogren症候群,眼球乾燥症,アレルギー性結膜炎,季節性アレルギー,眼のアレルギー,結膜炎,結膜充血,細菌性結膜炎,眼充血,結膜弛緩症.*4:本剤投与開始時点で以下のいずれかを合併している症例.アレルギー性眼瞼炎,眼瞼炎,眼瞼湿疹,マイボーム腺機能不全,眼瞼内反,眼瞼けいれん,眼瞼皮膚弛緩症,瞼板腺炎,霰粒腫,麦粒腫.*5:アレルギー性結膜炎発現症例では,当該事象発現までに眼部に使用した薬剤(発現時点で投与を中止していた薬剤を含む),未発現症例では,本剤投与期間中に眼部に使用したすべての薬剤を対象とした.あったと報告しており,本調査における投与中止率は既報をた,投与開始C3カ月後までの眼圧下降率は,全症例でC14.6上回るものではなかった.しかし,緑内障治療は永続を前提%,原発開放隅角緑内障でC15.9%,正常眼圧緑内障でC12.0とすることに鑑みると,本剤による治療中止後の治療選択肢%であり,いずれも統計学的に有意であった.緑内障治療のを用意しておくことも肝要であると考えられた.目的は,患者の視覚の維持,それに伴う生活の質の維持であ有効性について,2,625例における投与開始から投与C24り,現在,エビデンスの伴う唯一確実な治療法は眼圧下降でカ月までの眼圧推移の検討においては,病型,併用薬剤,切ある2).すなわち,視野障害に対する眼圧下降効果について替薬剤など,いずれの因子の影響も認められなかった.まは,1CmmHgの眼圧下降によりC10%視野障害の進行が抑制25全体(n=2,625)新規単剤投与(n=357)20(*有意差あり)眼圧(mmHg)15100投与期間(月)投与前投与C3カ月投与C24カ月眼圧眼圧変化量t検定変化率眼圧変化量t検定変化率(mmHg)(mmHg)(mmHg)(p)(%)(mmHg)(mmHg)(p)(%)眼圧評価対象症例C16.5±4.7C13.8±3.7C.2.7<C0.0001C.14.6C13.6±3.7C.2.7<C0.0001C.14.5新規単剤投与症例C17.2±5.0C13.8±3.9C.3.1<C0.0001C.17.1C14.0±3.8C.3.2<C0.0001C.17.2C図2眼圧推移(全体・新規)眼圧推移対象症例(全体)およびアイファガンを新規単剤投与した症例(新規)では,投与開始後,安定した眼圧下降を認め,24カ月時点の眼圧下降率は全体.14.5%,新規C.17.2%であった.C30POAG(n=1,136)NTG(n=1,182)PACG(n=69)SG(n=114)25眼圧(mmHg)OH(n=121)(*有意差あり)2015100投与前投与前投与C3カ月投与C24カ月眼圧(mmHg)眼圧(mmHg)変化量(mmHg)t検定(p)変化率(%)眼圧(mmHg)変化量(mmHg)t検定(p)変化率(%)CPOAGCNTGCPACGCSGCOHC18.0±4.6C14.0±2.9C16.6±5.8C20.2±6.7C22.5±3.8C14.9±3.8C12.2±2.7C13.4±3.7C15.3±4.9C18.0±3.5C.3.2.1.8.3.5.5.2.4.4<C0.0001C<C0.0001C<C0.0001C<C0.0001C<C0.0001C.15.9C.12.0C.16.7C.23.4C.18.0C14.6±3.8C12.1±2.6C13.4±3.1C14.9±4.8C18.0±3.3C.3.1.2.0.3.3.5.3.4.6<C0.0001C<C0.0001C=0.0004C<C0.0001C<C0.0001C.15.4C.12.5C.14.8C.21.8C.19.3POAG:原発開放隅角緑内障,NTG:正常眼圧緑内障,PACG:閉塞隅角緑内障,SG:続発緑内障,OH:高眼圧症.図3眼圧推移(病型別)病型にかかわらず安定した眼圧下降を認め,24カ月時点の眼圧下降率は,POAG15.4%,NTG12.5%,PACG14.8%,SG21.8%,OH19.3%であった.投与前投与C3カ月投与C24カ月眼圧眼圧変化量t検定変化率眼圧変化量t検定変化率(mmHg)(mmHg)(mmHg)(p)(%)(mmHg)(mmHg)(p)(%)PG関連薬C16.0±4.2C13.4±3.1C.2.7<C0.0001C.14.9C13.2±3.2C.2.6<C0.0001C.14.5Cb遮断薬C15.4±4.3C13.3±3.2C.2.3<C0.0001C.12.1C13.1±3.2C.2.3<C0.0001C.12.0CCAIC19.2±3.8C15.7±3.3C.3.3C0.0006C.16.0C15.0±3.0C.3.6C0.0167C.16.7PG関連薬:プロスタグランジン関連薬,Cb遮断薬:交感神経Cb受容体遮断薬,CAI:炭酸脱水酵素阻害薬.図4眼圧推移(併用薬剤別1)併用薬の種類にかかわらず安定した眼圧下降を認め,24カ月時点の眼圧下降率は,PG関連薬C14.5%,Cb遮断薬C12.0%,CAI16.7%であった.C25PG関連薬+β遮断薬(n=122)PG関連薬・β遮断薬配合剤(n=289)PG関連薬+CAI(n=99)20眼圧(mmHg)b遮断薬・CAI配合剤(n=73)15(*有意差あり)100投与前投与期間(月)投与前投与C3カ月投与C24カ月眼圧(mmHg)眼圧変化量(mmHg)(mmHg)t検定(p)変化率(%)眼圧変化量(mmHg)(mmHg)t検定(p)変化率(%)PG関連薬+b遮断薬CPG関連薬・Cb遮断薬配合剤CPG関連薬+CAICb遮断薬・CAI配合剤C16.8±5.4C16.1±4.5C17.3±4.7C17.4±5.7C14.0±4.8C13.5±3.7C14.7±3.4C14.2±3.6C.3.0.2.7.2.5.3.2<C0.0001C<C0.0001C<C0.0001C<C0.0001C.15.8C.15.2C.12.6C.15.2C13.7±4.0C13.0±3.2C14.9±4.5C13.7±3.4C.2.9.3.0.1.8C.3.7<C0.0001C<C0.0001C0.0003C<C0.0001C.15.6.16.9.9.8C.16.9図5眼圧推移(併用薬剤別2)2剤あるいは配合剤を併用した場合も有意な眼圧下降を認め,24カ月時点の眼圧下降率は,PG関連薬+b遮断薬C15.6%,PG関連薬・Cb遮断薬配合剤C16.9%,PG関連薬+CAI9.8%,Cb遮断薬・CAI配合剤C16.9%であった.(*有意差あり)PG関連薬(n=189)b遮断薬(n=103)CAI(n=113)遮断薬(n=66)投与期間(月)投与前投与C3カ月投与C24カ月眼圧(mmHg)眼圧(mmHg)変化量(mmHg)t検定(p)変化率(%)眼圧(mmHg)変化量(mmHg)t検定(p)変化率(%)PG関連薬Cb遮断薬CCAICa1遮断薬C15.1±4.0C16.9±4.4C15.9±4.7C14.9±3.6C13.5±3.3C14.0±3.1C13.6±4.7C12.9±2.8C.1.5.2.7.2.1.1.9<C0.0001C<C0.0001C<C0.0001C<C0.0001C.7.8C.14.2C.12.8C.12.1C12.8±3.2C14.0±3.3C13.3±3.6C13.2±3.2C.2.2.2.9.2.5.1.5C<C0.0001C<C0.0001C<C0.0001C0.0103C.12.5C.15.8C.13.9C.7.9a1遮断薬:交感神経Ca1受容体遮断薬.図6眼圧推移(切替薬剤別)他剤単剤からアイファガン単剤,他剤併用のうちC1剤またはC1成分をアイファガンへ切り替えた症例を含む.切替薬剤の種類にかかわらず有意な眼圧下降を認め,24カ月時点の眼圧下降率は,PG関連薬C12.5%,Cb遮断薬C15.8%,CAI13.9%,Ca1遮断薬C7.9%であった.され10),日本人に多くみられる正常眼圧緑内障11)では,30%の眼圧下降により視野障害の進行が抑制される12).本調査における本剤投与の開始は,主として追加あるいは他剤からの切替であり,2.6.2.9mmHgの眼圧低下が認められた.また,正常眼圧緑内障においてもC1.7.2.0CmmHgの眼圧低下が認められたことから,第二選択薬として,目標眼圧の達成に貢献できるものと考えられた.CIII結論本調査の結果,承認時までに得られていない安全性に関する新たなリスクは認められなかった.有効性においては,病型,併用薬,切替薬剤に関係なく,投与C24カ月まで安定した眼圧下降効果が得られることが確認できた.以上より,本剤は使用実態下においても有用な薬剤であると考えられ,緑内障治療において重要な役割を果たすことが期待される.謝辞:本調査にご協力を賜り,貴重なデータをご提供いただきました全国の先生方に,深謝申し上げます.利益相反:川口えり子,坂本祐一郎,末信敏秀(カテゴリーE:千寿製薬)文献1)MorizaneCY,CMorimotoCN,CFujiwaraCACetal:IncidenceCandCcausesCofCvisualCimpairmentCinJapan:theC.rst-nation-wideCcompleteCenumerationCsurveyCofCnewlyCcerti.edCvisuallyCimpairedCindividuals.CJpnCJCOphthalmolC63:26-33,C20192)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン(第C5版)3)独立行政法人医薬品医療機器総合機構ホームページ(医療用医薬品情報検索)https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/CiyakuSearch/4)SchumanCJS,CHorwitzCB,CChoplinCNTCetal:AC1-yearCstudyCofCbrimonidineCtwiceCdailyCinCglaucomaCandCocularChypertension.ArchOphthalmolC115:847-852,C19975)ManniCG,CCentofantiCM,CSacchettiCMCetal:DemographicCandclinicalfactorsassociatedwithdevelopmentofbrimo-nidineCtartrate0.2%-inducedCocularCallergy.CJCGlaucomaC13:163-167,C20046)BlondeauCP,CRousseauJA:AllergicCreactionsCtoCbrimoni-dineCinCpatientsCtreatedCforCglaucoma.CCanCJCOphthalmolC37:21-26,C20027)MotolkoMA:ComparisonCofCallergyCratesCinCglaucomaCpatientsCreceivingCbrimonidine0.2%CmonotherapyCversusC.xed-combinationCbrimonidine0.2%-timolol0.5%Cthera-py.CurrMedResOpinC24:2663-2667,C20088)SherwoodMB,CravenER,ChouCetal:Twice-daily0.2%CbrimonidineC.0.5%CtimololC.xed-combinationCtherapyCvsCmonotherapyCwithCtimololCorCbrimonidineCinCpatientsCwithCglaucomaCorCocularChypertension.CArchCOphthalmolC124:1230-1238,C20069)新家眞,福地健郎,中村誠ほか:ブリモニジン/チモロール配合点眼剤の原発開放隅角緑内障(広義)および高眼圧症を対象とした長期投与試験.あたらしい眼科C37:345-352,C202010)HeijlCA,CLeskeCM,CBengtssonCBCetal:ReductionCofCintra-ocularpressureandglaucomaprogression.ArchOphthal-molC120:1268-1279,C200211)IwaseA,SuzukiY,AraieMetal:Theprevalenceofpri-maryCopen-angleCglaucomaCinJapan:theCTajimiCstudy.COphthalmologyC111:1641-1648,C200412)CollaborativeCNormal-TensionCGlaucomaStudyCGroup:CComparisonCofCglaucomatousCprogressionCbetweenCuntreatedCpatientsCwithCnormal-tensionCglaucomaCandCpatientsCwithCtherapeuticallyCreducedCintraocularCpres-sures.AmJOphthalmolC126:487-497,C1998***

ブリモニジン/ブリンゾラミド配合懸濁性点眼液の原発開放隅角緑内障(広義)または高眼圧症を対象とした第III相臨床試験─ブリンゾラミドとの比較試験

2020年10月31日 土曜日

《原著》あたらしい眼科37(10):1299.1308,2020cブリモニジン/ブリンゾラミド配合懸濁性点眼液の原発開放隅角緑内障(広義)または高眼圧症を対象とした第III相臨床試験─ブリンゾラミドとの比較試験相原一*1関弥卓郎*2*1東京大学大学院医学系研究科外科学専攻眼科学*2千寿製薬株式会社CPhaseIIIStudytoEvaluatetheE.cacyandSafetyofNovelBrimonidine/BrinzolamideOphthalmicSuspensionComparedwithBrinzolamideOphthalmicSuspensioninPatientswithPrimaryOpen-AngleGlaucoma(Broad-De.nition)orOcularHypertensionMakotoAihara1)andTakuroSekiya2)1)DepartmentofOphthalmology,GraduateSchoolofMedicineandFacultyofMedicine,TheUniversityofTokyo,2)SenjuPharmaceuticalCo.,Ltd.C0.1%ブリモニジン酒石酸塩/1%ブリンゾラミド配合懸濁性点眼剤(以下,SJP-0125)の眼圧下降効果および安全性をC1%ブリンゾラミド点眼剤(以下,ブリンゾラミド)と比較した.原発開放隅角緑内障(広義)または高眼圧症患者を対象に,ブリンゾラミドをC4週間投与した後,眼圧値がC18.0CmmHg以上のC423例にCSJP-0125またはブリンゾラミドをC4週間投与した.治療期C4週の眼圧変化値は,SJP-0125群C.3.7±2.1mmHg,ブリンゾラミド群C.1.7±1.9CmmHgで,群間差は.2.0CmmHg(95%信頼区間:C.2.4.C.1.5,p<0.0001)であり,SJP-0125のブリンゾラミドに対する優越性が検証された.副作用はCSJP-0125群C8.8%,ブリンゾラミド群C10.2%に発現し,両群で同程度であった.重篤な副作用も認められなかったことから,SJP-0125の安全性に問題はないと考えられた.CPurpose:ToCcompareCtheCintraocularpressure(IOP)-loweringCe.cacyCandCsafetyCofCtheC.xedCcombinationCophthalmicCsuspensionCofCbrimonidineCtartrate0.1%/Cbrinzolamide1%(SJP-0125)withCthoseCofCbrinzolamide1%(brinzolamide).Subjects:Thisstudyinvolved423patientswithprimaryopen-angleglaucomaorocularhyperten-sionwhoseIOPwas≧18.0CmmHgafterbrinzolamideadministrationfor4weeksandwhounderwentSJP-0125orbrinzolamideadministrationforanadditional4weeks.ThemeanIOPchangesatWeek4ofthetreatment-periodwere.3.7±2.1CmmHgintheSJP-0125groupand.1.7±1.9CmmHginthebrinzolamidegroup,andthedi.erencebetweenthetwogroupswas.2.0CmmHg(95%CI:.2.4to.1.5,p<0.0001)C,thusdemonstratingthesuperiorityofSJP-0125tobrinzolamide.IntheSJP-0125groupandthebrinzolamidegroup,treatment-relatedadverseevents(TRAEs)wereCobservedCin8.8%Cand10.2%,Crespectively,CandCtheCratesCinCbothCgroupsCwereCsimilar.CNoCseriousCTRAEsCwereCreported.CConclusion:SJP-0125CwasCfoundCe.ectiveCforCloweringCIOPCandCsafe,CwithCnoCseriousCTRAEs.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C37(10):1299.1308,C2020〕Keywords:ブリモニジン,ブリンゾラミド,配合剤,緑内障,比較試験.brimonidine,brinzolamide,.xedcombi-nationophthalmicsuspension,glaucoma,comparativestudy.Cはじめにである1).緑内障診療ガイドラインでは,薬物治療を行う場緑内障は進行性かつ非可逆的な視野障害を引き起こす疾患合は単剤療法から開始し,有効性が十分でない場合には多剤であり,エビデンスに基づいた唯一確実な治療法は眼圧下降併用(配合点眼剤を含む)を行うとされている1).一方,わ〔別刷請求先〕関弥卓郎:〒C650-0047神戸市中央区港島南町C6-4-3千寿製薬株式会社研究開発本部Reprintrequests:TakuroSekiya,ResearchandDevelopmentDivision,SenjuPharmaceuticalCo.,Ltd.,6-4-3Minatojima-Minamimachi,Chuo-ku,Kobe,Hyogo650-0047,JAPANCが国で承認されている配合点眼剤の有効成分の組み合わせはプロスタグランジン関連薬とCb遮断薬,炭酸脱水酵素阻害薬とCb遮断薬,a2作動薬とCb遮断薬のC3種のみであるため,これら以外の組み合わせの配合点眼剤の開発は治療の選択肢を拡大するという点で臨床的意義があると考える.また,緑内障に対して適切な治療が行われない場合,失明に至る可能性がある1)ため,早期発見と早期治療による視機能障害の進行抑制が重要となるが,自覚症状に乏しいことから点眼治療のアドヒアランスが悪いことが報告されており2.4),アドヒアランスの不良は緑内障が進行する重要な要因の一つとなっている1).多剤併用による治療を行う場合には,薬剤数および点眼回数を減らすことのできる配合点眼剤を使用することで,患者のアドヒアランスが向上すると考えられる.0.1%ブリモニジン酒石酸塩/1%ブリンゾラミド配合懸濁性点眼剤(以下,SJP-0125)は,Ca2作動薬であるブリモニジン酒石酸塩と炭酸脱水酵素阻害薬であるブリンゾラミドを有効成分とする配合点眼剤である.ブリモニジン酒石酸塩は,a2受容体を選択的に刺激し,毛様体上皮でCcyclicCade-nosinemonophosphate(cyclicAMP)産生を抑制して房水の産生を抑制し,さらに,ぶどう膜強膜流出路を介して房水流出を促進することで眼圧下降効果を示す5,6).ブリモニジン酒石酸塩点眼液は,わが国ではC2012年に千寿製薬株式会社が承認を得た緑内障治療薬(アイファガンCR点眼液C0.1%)であり,唯一のCa2作動薬である.臨床試験では他の緑内障治療薬と併用することでさらなる眼圧下降効果が得られており7,8),眼圧下降効果に相応しない視野維持効果があることも報告されている9).一方,ブリンゾラミドは炭酸脱水酵素阻害薬であり,II型炭酸脱水酵素を特異的に阻害して,CHCO3C.の生成を抑制することにより,Na+の能動輸送機構を抑制し,その結果房水の産生を抑制して眼圧を下降させる10,11).両剤は良好な眼圧下降効果と忍容性により,プロスタグランジン関連薬またはCb遮断薬の単剤では目標眼圧に達しない患者に対し,第二選択薬として併用されることが多い.また両剤は,プロスタグランジン関連薬またはCb遮断薬を副作用または禁忌のために使用できない患者にも使用されている.SJP-0125は作用機序の異なるC2成分を配合することから,各単剤よりも高い眼圧下降効果が期待できることに加えて,各単剤を併用するよりも患者の利便性が増し,アドヒアランスを向上させることが期待される.そこで,SJP-0125の第CIII相比較試験として,原発開放隅角緑内障(広義)または高眼圧症を対象に,SJP-0125の有効性(眼圧下降効果)および安全性について,SJP-0125の有効成分の一つであるC1%ブリンゾラミド点眼剤(以下,ブリンゾラミド)を対照に比較検討したので報告する.I方法1.実施医療機関および治験責任医師本治験は,表1に示す全国C45医療機関で実施した.治験開始に先立ち,すべての医療機関の治験審査委員会で審議され,治験の実施が承認された.本治験は,ヘルシンキ宣言に基づく倫理的原則,治験実施計画書,「医薬品,医療機器等の品質,有効性及び安全性の確保等に関する法律」第C14条第C3項および第C80条のC2に規定する基準ならびに「医薬品の臨床試験の実施の基準(GCP)に関する省令」などの関連規制法規を遵守して実施した.治験情報の登録は,UMIN-CTRに行った(UMIN試験ID:UMINC000028494).C2.目的原発開放隅角緑内障(広義)または高眼圧症を対象として,SJP-0125をC1日C2回C4週間点眼したときの有効性(眼圧下降効果)および安全性を,ブリンゾラミドを対照に比較検討する.さらに,参照群としてC0.1%ブリモニジン酒石酸塩点眼剤(以下,ブリモニジン)およびブリンゾラミドの併用群を設定し,SJP-0125の有効性および安全性が各単剤の併用と同程度であることを確認する.C3.対象原発開放隅角緑内障(広義)または高眼圧症と診断され,ブリンゾラミドをC4週間投与後の眼圧がC18.0CmmHg以上で,表2の基準に該当する患者を対象とした.すべての被験者から治験参加前に文書による同意を得た.C4.方法a.被験薬被験薬(SJP-0125)は,点眼剤C1Cml中にブリモニジン酒石酸塩をC1Cmg,ブリンゾラミドをC10Cmg含有する懸濁性点眼剤である.Cb.治験デザイン・投与方法本治験は,多施設共同無作為化単遮蔽(評価者遮蔽)並行群間比較試験として実施した.観察期にブリンゾラミドをC1回C1滴,1日C2回朝(8:00.10:00)および夜(20:00.22:00),両眼にC4週間点眼した後,治療期にCSJP-0125,ブリンゾラミド,ブリモニジンおよびブリンゾラミドの両剤のいずれかを,1回C1滴,1日2回朝および夜,両眼にC4週間点眼した.ブリモニジンおよびブリンゾラミドの併用群では,治験薬の点眼間隔はC10分以上C15分以内とした.治験デザインを図1に示した.治験薬は点眼容器を小箱に入れて封緘し,外観上の識別不能性を確保した.治験薬割付責任者が識別不能性を確認した後,治験薬の無作為割付を行った.被験者への割付は,観察期終了日(治療期開始日)の眼圧値のC2時間値および観察期終了日(治療期開始日)のC2時間値のスクリーニング検査日表1実施医療機関および治験責任医師実施医療機関治験責任医師医療法人社団山田眼科特定医療法人丸山会丸子中央病院医療法人社団いとう眼科医療法人社団悠琳会しぶや眼科クリニック医療法人社団優美会川口あおぞら眼科医療法人社団仁香会しすい眼科医院三橋眼科医院道玄坂加藤眼科成城クリニック医療法人社団ひいらぎ会若葉台眼科医療法人豊潤会松浦眼科医院医療法人社団富士青陵会なかじま眼科医療法人社団ムラマツクリニックむらまつ眼科医院医療法人社団優あい会小野眼科クリニック北川眼科医院医療法人社団シー・オー・アイいしだ眼科医療法人社団康順会丹羽眼科医療法人やすまつ佐藤眼科医院医療法人社団風帆会赤塚眼科はやし医院日本医科大学付属病院医療法人社団高友会立川通クリニック医療法人社団済安堂お茶の水・井上眼科クリニック医療法人社団浩仁医会水天宮藤田眼科大谷地裕明野原雅彦大原睦子渋谷裕子清水潔呉輔仁三橋正忠加藤卓次松﨑栄佐藤功松浦雅子中島徹村松知幸小野純治北川厚子石田玲子丹羽やす子佐藤圭吾林殿宣中元兼二高橋義徳岡山良子藤田浩司実施医療機関治験責任医師医療法人光耀会菊地眼科クリニック菊地琢也医療法人健究社スマイル眼科クリニック岡野敬大塚眼科クリニック大塚宏之医療法人社団律心会辻眼科クリニック辻一夫医療法人社団ケアライトさいとう眼科医院齋藤憲医療法人庸倫会スズキ眼科服部博之京都大学医学部附属病院赤木忠道かなもり眼科クリニック金森章泰医療法人社団おじま眼科クリニック尾島知成医療法人朔夏会さっか眼科医院属佑二医療法人中森眼科医院中森玄司医療法人圭明会原眼科病院原岳医療法人社団みすまるのさと会アイ・ローズクリニック安達京大阪大学医学部附属病院松下賢治慶應義塾大学病院結城賢弥琉球大学医学部附属病院古泉英貴杉浦眼科杉浦寅男医療法人稲本眼科医院稲本裕一医療法人湖崎会湖崎眼科湖崎淳尾上眼科医院尾上晋吾医療法人社団秀光会かわばた眼科川端秀仁医療法人社団うえだ眼科クリニック上田裕子表2おもな選択基準および除外基準おもな選択基準1)20歳以上の外来患者(日本人),性別不問2)両眼とも最高矯正視力がC0.3以上の者3)観察期終了日(治療期開始日)の眼圧値がC18.0CmmHg以上C31.0CmmHg以下の者おもな除外基準1)緑内障に対する手術またはレーザー療法,内眼手術(各種レーザー療法を含む),角膜移植術または角膜屈折矯正手術の既往のある者2)コンタクトレンズの装用が必要な者3)高度の視野障害がある者4)スクリーニング検査日の過去C180日以内に副腎皮質ステロイドの眼内注射,Tenon.下注射または結膜下注射を実施した者5)治験期間中に病状が進行するおそれのある網膜疾患を有する者6)原発開放隅角緑内障(広義),高眼圧症以外の活動性の眼科疾患を有する者7)がんに罹患している者,または重篤な全身性疾患を有する者8)脳血管障害,起立性低血圧,心血管系疾患などの循環不全を有する者9)角膜障害を有する者10)ブリモニジン酒石酸塩または他のCa2作動薬,ブリンゾラミドまたは他の炭酸脱水酵素阻害薬,スルホンアミド系薬剤,本治験で使用する薬剤の成分に対し,アレルギーまたは重大な副作用の既往のある者11)緑内障・高眼圧症に対する治療薬,副腎皮質ステロイド,交感神経刺激薬,交感神経遮断薬,副交感神経刺激薬,モノアミン酸化酵素阻害薬,抗うつ薬,炭酸脱水酵素阻害薬,抗コリン作用を含む治療薬,1日あたりC4.5Cgを超えるアスピリンの大量投与または別に規定したもの以外の眼局所の治療薬を使用する予定のある者12)治験責任医師または治験分担医師が本治験への参加が適切でないと判断した者スクリーニング検査日治療期観察期前治療4週4週現行治療(緑内障点眼剤の・ブリンゾラミドを点眼SJP-0125群:SJP-0125を点眼種類は問わない)または無治療・観察期終了日の0時間値およびブリンゾラミド群:ブリンゾラミドを点眼2時間値の眼圧値が18.0mmHg以上併用群:ブリモニジンおよび31.0mmHg以下の場合、治療期へブリンゾラミドを点眼移行する図1治験デザイン表3検査・観察スケジュール○:スクリーニング実施前に文書による同意を取得した.測定時点C7時間での眼圧,血圧・脈拍数は,原則測定した.からの眼圧変化値を因子とし,施設および各因子の群間のバランスを確保するため,動的に割付群を決定した.SJP-0125群,ブリンゾラミド群,併用群の割付比はC3:3:1とした.割付表は厳封し,開鍵時まで治験薬割付責任者が保管した.Cc.被.験.者.数SJP-0125群とブリンゾラミド群の眼圧下降の差をC1.0mmHg,共通の標準偏差を約C2.6CmmHgと推定,有意水準両側C5%,検出力C90%と設定し必要な評価被験者数を各群144例と算出した.併用群は参照群とし,評価被験者数を50例とした.中止脱落を考慮してCSJP-0125群,ブリンゾラミド群の目標被験者数を各群C160例,併用群をC56例,合計C376例と設定した.C5.検査・観察項目眼圧,最高矯正視力,細隙灯顕微鏡検査所見(結膜・眼瞼・角膜),眼底,視野,血圧・脈拍数の各検査を表3のスケジュールで実施した.眼圧は,Goldmann圧平眼圧計で朝の点眼前かつC8:00.10:00の間にC0時間値を測定し,点眼後はC2時間値および原則としてC7時間値を測定した.また,治験薬を投与された被験者に生じたすべての好ましくないまたは意図しない疾病またはその徴候を有害事象として収集した.治験薬との因果関係を否定できない場合は副作用と表4被験者背景(FAS)SJP-0125ブリンゾラミド併用合計項目分類(n=181)(n=176)(n=61)(n=418)性別男79(C43.6)87(C49.4)27(C44.3)193(C46.2)女102(C56.4)89(C50.6)34(C55.7)225(C53.8)年齢(歳)平均値±標準偏差C60.5±12.9C62.3±12.7C62.1±11.8C.最小値.最大値28.9C026.8C932.8C2C.対象疾患1原発開放隅角緑内障(広義)115(C63.5)121(C68.8)42(C68.9)278(C66.5)(有効性評価対象眼)原発開放隅角緑内障79(C43.6)89(C50.6)27(C44.3)195(C46.7)前視野緑内障36(C19.9)32(C18.2)15(C24.6)83(C19.9)高眼圧症66(C36.5)55(C31.3)19(C31.1)140(C33.5)緑内障治療薬2有127(C70.2)134(C76.1)46(C75.4)307(C73.4)無54(C29.8)42(C23.9)15(C24.6)111(C26.6)眼局所の合併症2有108(C59.7)102(C58.0)42(C68.9)252(C60.3)無73(C40.3)74(C42.0)19(C31.1)166(C39.7)眼局所以外の合併症有128(C70.7)122(C69.3)44(C72.1)294(C70.3)無53(C29.3)54(C30.7)17(C27.9)124(C29.7)治療期開始日の眼圧値(2時間値)低眼圧層390(C49.7)84(C47.7)32(C52.5)206(C49.3)(有効性評価対象眼)中眼圧層457(C31.5)57(C32.4)19(C31.1)133(C31.8)高眼圧層534(C18.8)35(C19.9)10(C16.4)79(C18.9)例数(%)C.:該当なし1:対象疾患は下のように定義した.原発開放隅角緑内障:以下の(1),(2)を満たす者前視野緑内障:以下の(2)を満たし治療が必要と判断された者(1)緑内障性視野異常の存在,(2)緑内障性視神経障害の存在2:左右眼どちらか一方でも該当した場合,有とした3:18CmmHg以上C20CmmHg未満4:20CmmHg以上C22CmmHg未満5:22CmmHg以上した.C6.併用薬および併用処置治験期間中,表2の除外基準に抵触する薬剤または処置の併用は禁止した.C7.評価方法および解析方法a.有効性最大の解析対象集団(fullanalysisset:FAS)を有効性の主たる解析対象集団とした.主要評価項目は,治療期C4週における治療期開始日からの眼圧変化値(2時間値)とした(優越性の検証).欠測値に対しては,lastCobservationCcarriedforward(LOCF)によりデータを補完した.副次評価項目は,治療期の各観察日(治療期C2週および治療期C4週)の眼圧値,治療期開始日からの眼圧変化値,眼圧変化率(それぞれのC0時間値,2時間値,7時間値,0時間値とC2時間値の平均値,0時間値とC2時間値とC7時間値の平均値)とした.t検定(有意水準両側C5%)によりCSJP-0125群およびブリンゾラミド群のC2群間で比較した.参照群との比較には検定を行わないこととした.眼圧値は,治療期開始日と投与後の各観察日の値をCpairedt検定(有意水準両側C5%)で比較した.また,治療期C4週の眼圧変化値および眼圧変化率(2時間値)を,対象疾患別および治療期開始日の眼圧値別に解析した.Cb.安全性治療期に組み入れられた被験者のうち,治験薬の投与を一度も受けなかった被験者,治療期開始日以降の再来院がないなどの理由により安全性が評価できなかった被験者を除外した集団を安全性解析対象集団(safetyset:SS)とした.有害事象,最高矯正視力,結膜・眼瞼・角膜所見,眼底,視野,血圧・脈拍数を評価した.有害事象は,発現割合(発現例数/SS例数)を算出した.最高矯正視力,結膜・眼瞼・角膜所見,血圧・脈拍数は治療期の治験薬投与前後を比較した.眼底および視野はスクリーニング検査日からの悪化の有無を比較した.CII結果1.被験者の構成同意を取得した被験者はC498例,観察期にブリンゾラミドの投与を開始したのはC483例であった.このうち無作為化され,治療期の投与を開始したのはC423例であった.治験完了例はC414例,治験未完了例はC9例であった.治療期の投与を開始したC423例(SJP-0125群C182例,ブ表5眼圧値,眼圧変化値および眼圧変化率の推移(FAS)測定時点CSJP-0125ブリンゾラミド併用0時間値治療期開始日眼圧値C20.7±2.0(1C81)C20.6±1.9(1C76)C20.5±2.0(61)治療期C2週眼圧値C18.5±2.5*†(1C80)C19.3±2.4*†(1C74)C18.2±2.4*(60)変化値C.2.3±2.0†(1C80)C.1.2±1.9†(1C74)C.2.3±2.1(60)変化率C.10.9±9.7†(1C80)C.5.9±9.2†(1C73)C.10.9±9.9(60)治療期C4週眼圧値C18.2±2.8*†(1C80)C19.0±2.7*†(1C73)C18.1±2.1*(59)変化値C.2.5±2.1†(1C80)C.1.6±2.0†(1C73)C.2.4±1.9(59)変化率C.12.3±10.2†(1C80)C.7.7±9.7†(1C73)C.11.6±8.4(59)2時間値治療期開始日眼圧値C20.1±2.0(1C81)C20.0±1.9(1C76)C19.8±1.8(61)治療期C2週眼圧値C16.5±2.4*†(1C80)C18.5±2.4*†(1C74)C16.7±2.6*(60)変化値C.3.6±2.2†(1C80)C.1.5±1.6†(1C74)C.3.2±2.1(60)変化率C.17.7±10.3†(1C80)C.7.7±7.8†(1C73)C.15.9±10.2(60)治療期C4週眼圧値C16.4±2.5*†(1C80)C18.3±2.6*†(1C73)C16.5±2.7*(59)変化値1C.3.7±2.1†(1C81)C.1.7±1.9†(1C76)C.3.4±2.4(60)変化率C.18.1±10.3†(1C80)C.8.5±9.3†(1C73)C.17.1±11.6(59)7時間値治療期開始日眼圧値C19.1±2.1(1C64)C19.2±2.1(1C57)C19.0±2.3(55)治療期C2週眼圧値C16.8±2.6*†(1C63)C18.0±2.4*†(1C54)C17.0±2.4*(54)変化値C.2.3±2.2†(1C63)C.1.1±1.9†(1C54)C.2.0±1.8(54)変化率C.12.0±11.4†(1C63)C.5.7±9.7†(1C54)C.10.2±9.1(54)治療期C4週眼圧値C16.8±2.5*†(1C63)C17.8±2.7*†(1C54)C16.7±2.2*(53)変化値C.2.2±2.1†(1C63)C.1.4±1.9†(1C54)C.2.3±1.7(53)変化率C.11.5±10.7†(1C63)C.7.4±9.8†(1C54)C.11.9±8.8(53)0時間値とC2時間値の平均値治療期開始日眼圧値C20.4±1.9(1C81)C20.3±1.9(1C76)C20.2±1.8(61)治療期C2週眼圧値C17.5±2.3*†(1C80)C18.9±2.3*†(1C74)C17.4±2.3*(60)変化値C.2.9±1.8†(1C80)C.1.4±1.5†(1C74)C.2.7±1.9(60)変化率C.14.3±8.7†(1C80)C.6.9±7.3†(1C74)C.13.4±8.9(60)治療期C4週眼圧値C17.3±2.5*†(1C80)C18.7±2.6*†(1C73)C17.3±2.2*(59)変化値C.3.1±1.9†(1C80)C.1.6±1.7†(1C73)C.2.9±1.9(59)変化率C.15.2±9.2†(1C80)C.8.2±8.5†(1C73)C.14.4±8.8(59)0時間値とC2時間値とC7時間値の平均値治療期開始日眼圧値C20.0±1.9(1C64)C19.9±1.9(1C57)C19.8±1.8(55)治療期C2週眼圧値C17.3±2.3*†(1C63)C18.6±2.2*†(1C54)C17.4±2.1*(54)変化値C.2.7±1.8†(1C63)C.1.3±1.4†(1C54)C.2.4±1.5(54)変化率C.13.6±8.7†(1C63)C.6.7±6.9†(1C54)C.12.4±7.3(54)治療期C4週眼圧値C17.2±2.4*†(1C63)C18.3±2.5*†(1C54)C17.1±2.1*(53)変化値C.2.8±1.7†(1C63)C.1.6±1.5†(1C54)C.2.7±1.5(53)変化率C.14.1±8.7†(1C63)C.8.2±7.9†(1C54)C.13.5±7.4(53)平均値±標準偏差(例数)眼圧値および変化値の単位:mmHg変化率の単位:%1:LOCFにより欠測データを補完した.*:p<0.0001(治療期C2週またはC4週の眼圧値Cvs治療期開始日の眼圧値Cpairedt検定,有意水準両側5%)C†:p<0.01(SJP-0125vsブリンゾラミドCt検定,有意水準両側5%)リンゾラミド群C177例,併用群C64例)をCSSとした.このC2.有効性うち,治療期開始日以降の有効性評価が可能な検査データの眼圧値,治療期開始日からの眼圧変化値および眼圧変化率ないC3例および除外基準に抵触したC2例を除くC418例(SJP-を表5,眼圧変化値の推移を図2,対象疾患別,治療期開始0125群C181例,ブリンゾラミド群C176例,併用群C61例)を日の眼圧値別の眼圧変化値および眼圧変化率(治療期C4週,FASとした.被験者背景(FAS)を表4に示した.2時間値)を表6,図3および図4に示した.主要評価項目である治療期C4週における眼圧変化値(2時間値)の平均は,SJP-0125群ではC.3.7±2.1CmmHg,ブリ0時間値1ンゾラミド群では.1.7±1.9CmmHgであり,統計学的に有0意な差を認め(点推定値:C.2.0mmHg,95%両側信頼区間:-1-2*.2.4.C.1.5CmmHg,p<0.0001),SJP-0125群のブリンゾラミド群に対する優越性が検証された.副次評価項目である治療期C2週および治療期C4週の眼圧値,眼圧変化値および眼圧変化率は,すべての測定時点で-3*-4-5SJP-0125ブリンゾラミド併用-6SJP-0125群のブリンゾラミド群に対する統計学的に有意な治療期開始日治療期2週治療期4週差を認めた(いずれもCp<C0.01).さらに,治療期C2週および2時間値治療期C4週の眼圧値は,いずれの群もすべての測定時点で投1与前と比較して統計学的に有意に低下した(いずれもCp<0.0001).併用群の眼圧下降効果は,SJP-0125群と同程度であった.また,対象疾患別および治療期開始日の眼圧値別に治療期4週の眼圧変化値および眼圧変化率(2時間値)を解析した結果,いずれの層も全体の解析結果と同じ傾向を示した.眼圧変化値(mmHg)0-1-4**-2-3-5-6SJP-0125ブリンゾラミド併用3.安全性治療期開始日治療期2週治療期4週治療期にCSJP-0125群,ブリンゾラミド群および併用群に7時間値発現した有害事象はそれぞれ47例(25.8%)59件,43例C1**-3眼圧変化値(mmHg)(24.3%)67件およびC12例(18.8%)13件であった.このうち副作用は,それぞれC16例(8.8%)22件,18例(10.2%)23件,7例(10.9%)7件で,各群の発現割合は同程度であった.治療期の副作用一覧を表7に示した.おもな副作用は,SJP-0125群では霧視C6例(3.3%),点状角膜炎C5例(2.7%),0-1-2-4-5-6SJP-0125ブリンゾラミド併用ブリンゾラミド群では霧視C11例(6.2%),点状角膜炎C4例(2.3%),味覚障害C3例(1.7%),併用群では眼刺激C2例(3.1%)であった.重度と判定された副作用はいずれの群にもなく,中等度と判定された副作用は併用群でC1例C1件(眼瞼紅斑)認めた.その他の副作用は軽度であった.副作用による中止は併用群でC2例(霧視,眼瞼紅斑)であった.副作用による死亡および重篤な副作用はなかった.最高矯正視力,結膜・眼瞼・角膜所見,眼底,視野,血圧・脈拍数には,臨床上問題となるような変動や所見はみられなかった.CIII考按SJP-0125の有効性を検証するにあたり,SJP-0125の有効成分の一つであり,わが国で第二選択薬として広く使用されているブリンゾラミドを対照に比較試験を行った.治療期C4週での眼圧変化値(2時間値)を比較した結果,SJP-0125群はブリンゾラミド群よりも優れた眼圧下降効果を示した.さらに,治療期C2週および治療期C4週のC0,2,7時間のすべての時点で,SJP-0125群はブリンゾラミド群よりも大きな眼圧下降を示し,1日を通して良好な眼圧下降効治療期開始日治療期2週治療期4週平均値±標準偏差,*:p<0.01(SJP-0125vsブリンゾラミドt検定,有意水準両側5%)図2眼圧変化値の推移果を示した.また,眼圧変化値および眼圧変化率は全測定時点でCSJP-0125群と併用群で同程度であった.これらのことから,SJP-0125はブリンゾラミド単剤から切り替えることで追加の眼圧下降効果が得られ,ブリモニジンとブリンゾラミドの併用から切り替えることで薬剤数を減らしかつ同程度の眼圧下降効果が得られると考える.プロスタグランジン関連薬,Cb遮断薬および炭酸脱水酵素阻害薬のC3剤併用でコントロール不良の患者を対象とした臨床研究では,ブリモニジンの追加投与で眼圧下降効果が得られることが確認されている12).このことから,ブリンゾラミドを第一選択薬であるプロスタグランジン関連薬またはCb遮断薬と併用している場合にも,ブリンゾラミドからCSJP-0125への切り替えによってさらなる眼圧下降効果が得られることが期待される.また,対象疾患別に解析した結果から,SJP-0125は原発開放隅角緑内障,前視野緑内障および高眼圧症のいずれに対しても眼圧下降効果を示すと考えられる.さらに,治療期開表6対象疾患別,治療期開始日の眼圧値別の眼圧変化値および眼圧変化率(治療期4週,2時間値)項目CSJP-0125ブリンゾラミド併用眼圧値(治療期開始日,2時間値)対象疾患原発開放隅角緑内障(広義)C20.0±2.0(1C15)C19.9±1.8(1C21)C19.9±2.0(42)原発開放隅角緑内障C20.1±2.2(79)C20.0±1.8(89)C19.6±1.6(27)前視野緑内障C19.7±1.4(36)C19.5±1.7(32)C20.6±2.4(15)高眼圧症C20.4±2.1(66)C20.4±2.1(55)C19.7±1.6(19)眼圧値(治療期開始日,2時間値)低眼圧層:1C8CmmHg以上C20CmmHg未満C18.6±0.5(90)C18.5±0.5(84)C18.5±0.6(32)中眼圧層:2C0CmmHg以上C22CmmHg未満C20.5±0.6(57)C20.4±0.5(57)C20.3±0.4(19)高眼圧層:2C2CmmHg以上C23.6±1.5(34)C23.2±1.3(35)C23.3±1.0(10)図3対象疾患別の眼圧変化率(治療期4週,2時間値)SJP-0125ブリンゾラミド併用低眼圧層中眼圧層高眼圧層眼圧変化率(%)0-5-10-15-20-25-30-35平均値±標準偏差低眼圧層:治療期開始日の眼圧値(2時間値)18mmHg以上20mmHg未満中眼圧層:治療期開始日の眼圧値(2時間値)20mmHg以上22mmHg未満高眼圧層:治療期開始日の眼圧値(2時間値)22mmHg以上図4治療期開始日の眼圧値別の眼圧変化率(治療期4週,2時間値)表7治療期の副作用一覧(SS)SJP-0125ブリンゾラミド併用副作用名1C(n=182)(n=177)(n=64)件数例数(%)件数例数(%)件数例数(%)全体C2216(C8.8)C2318(C10.2)C77(C10.9)眼障害C2015(C8.2)C2016(C9.0)C66(9C.4)霧視C66(3C.3)C1111(C6.2)C11(1C.6)点状角膜炎C75(2C.7)C54(2C.3)C00(0C.0)結膜充血C11(0C.5)C11(0C.6)C11(1C.6)眼脂C11(0C.5)C11(0C.6)C00(0C.0)眼の異物感C11(0C.5)C11(0C.6)C00(0C.0)眼刺激C11(0C.5)C00(0C.0)C22(3C.1)眼瞼炎C11(0C.5)C00(0C.0)C00(0C.0)眼乾燥C11(0C.5)C00(0C.0)C00(0C.0)硝子体浮遊物C11(0C.5)C00(0C.0)C00(0C.0)眼痛C00(0C.0)C11(0C.6)C00(0C.0)眼瞼紅斑C00(0C.0)C00(0C.0)C11(1C.6)眼そう痒症C00(0C.0)C00(0C.0)C11(1C.6)胃腸障害C00(0C.0)C00(0C.0)C11(1C.6)口内乾燥C00(0C.0)C00(0C.0)C11(1C.6)臨床検査C11(0C.5)C00(0C.0)C00(0C.0)視野検査異常C11(0C.5)C00(0C.0)C00(0C.0)神経系障害C11(0C.5)C33(1C.7)C00(0C.0)味覚異常C11(0C.5)C33(1C.7)C00(0C.0)1:副作用名はCICH国際医薬用語集CMedDRA/JVersion20.1のCPT(基本語)を用いて分類した.始日(2時間値)の眼圧値別に解析した結果から,SJP-012525.8%,ブリンゾラミド群でC24.3%,併用群でC18.8%であは投与開始前の眼圧値にかかわらず眼圧下降効果を示すと考り,各群での発現割合は同程度であった.副作用発現割合もえられる.3群間で同程度であり,いずれの群でも重篤な副作用は認め安全性に関しては,有害事象の発現頻度はCSJP-0125群でなかった.SJP-0125群で比較的発現頻度の高かった副作用は霧視(3.3%)および点状角膜炎(2.7%)であったが,これらはC0.1%ブリモニジン酒石酸塩点眼液またはC1%ブリンゾラミド点眼液において既知の副作用であり13,14),発現割合はブリンゾラミド群および併用群と同程度であった.このことから,4週間の使用ではCSJP-0125の安全性はブリンゾラミド単剤および併用療法と同様に良好であると考える.海外ではC0.2%ブリモニジン酒石酸塩/1%ブリンゾラミド配合懸濁性点眼剤(SIMBRINZACR,米国CAlconCResearch,Ltd.)が市販されている.単剤で眼圧コントロール不良または眼圧降下薬を多剤併用している開放隅角緑内障または高眼圧症患者のうち,休薬期間後の眼圧値がC9:00時点でC24.36CmmHg,11:00時点でC21.36CmmHgである患者を対象とした海外第CIII相試験では,0.2%ブリモニジン酒石酸塩/1%ブリンゾラミド配合懸濁性点眼剤群の投与開始日からの眼圧変化値(0,2,7時間値の平均)は投与C2週でC.7.6mmHg,3カ月でC.7.9CmmHg,6カ月でC.7.8CmmHgであり,投与後2週からC6カ月にかけて安定した眼圧下降効果が確認されている15).これらのことから,SJP-0125も同様に,本試験で検証したC4週間を超えて長期間投与した場合でも,安定した眼圧下降効果を示すことが期待される.また,投与C6カ月における有害事象の発現頻度はC0.2%ブリモニジン酒石酸塩/1%ブリンゾラミド配合懸濁性点眼剤群と各単剤群および併用群で同程度であったことから15,16),SJP-0125でも長期投与時の安全性に問題はないことが期待される.以上の結果より,SJP-0125は原発開放隅角緑内障(広義)または高眼圧症の患者に対して,既承認薬であるブリンゾラミド点眼剤に比べ眼圧下降効果は有意に大きく,その効果は1日を通じて良好であること,安全性に問題のないことを確認した.このことから,ブリンゾラミド単剤からCSJP-0125に変更することで,薬剤数および点眼回数を変えることなく,より優れた眼圧下降効果を得ることができると考えられる.この追加の眼圧下降効果は,第一選択薬とブリンゾラミドを併用している場合にブリンゾラミドをCSJP-0125に変更することでも得られると期待される.また,すでにCa2作動薬および炭酸脱水酵素阻害薬を併用している場合は,SJP-0125に変更することで併用治療と同程度の治療効果が得られることに加え,薬剤数および総点眼回数が減ることで患者のアドヒアランスが向上すると考えられる.SJP-0125はわが国初のCb遮断薬を含まない配合点眼剤であり,さらにプロスタグランジン関連薬も含まないことから,それら単剤で効果不十分またはそれらを使用できない患者に使用できる配合剤としても期待される.以上より,SJP-0125は緑内障治療において有用性の高い配合点眼液であると考える.文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内C1308あたらしい眼科Vol.37,No.10,2020障診療ガイドライン第C4版.日眼会誌122:5-53,C20182)GrayCTA,COrtonCLC,CHensonCDCetal:InterventionsCforCimprovingadherencetoocularhypotensivetherapy.CochraneDatabaseSystRevC2009:CD006132,C20093)QuigleyHA,FriedmanDS,HahnSR:Evaluationofprac-ticeCpatternsCforCtheCcareCofCopen-angleCglaucomaCcom-paredwithclaimsdata:theglaucomaadherenceandper-sistencystudy.OphthalmologyC114:1599-1606,C20074)TsaiJC,McClureCA,RamosSEetal:Compliancebarri-ersCinglaucoma:aCsystematicCclassi.cation.CJCGlaucomaC12:393-398,C20035)TorisCB,GleasonML,CamrasCBetal:E.ectsofbrimo-nidineConCaqueousChumorCdynamicsCinChumanCeyes.CArchCOphthalmolC113:1514-1517,C19956)BurkeCJ,CSchwartzM:PreclinicalCevaluationCofCbrimoni-dine.SurvOphthalmol41(Suppl1):S9-S18,19967)新家眞,山崎芳夫,杉山和久ほか:ブリモニジン点眼液の原発開放隅角緑内障および高眼圧症を対象とした臨床第III相試験─チモロールとの比較試験またはプロスタグランジン関連薬併用下におけるプラセボとの比較試験.日眼会誌C116:955-966,C20128)新家眞,坂本祐一郎:ブリモニジン点眼液C0.1%の臨床的有用性に関する多施設前向き観察的研究─使用成績調査中間報告.臨眼C71:859-867,C20179)KrupinT,LiebmannJM,Green.eldDSetal:Arandom-izedtrialofbrimonidineversustimololinpreservingvisu-alfunction:resultsfromthelow-pressureglaucomatreat-mentCstudy.AmJOphthalmolC151:671-681,C201110)中島正之:新しい緑内障治療薬:点眼用炭酸脱水酵素阻害剤.あたらしい眼科10:959-964,C199311)IesterM:BrinzolamideCophthalmicsuspension:aCreviewCofCitsCpharmacologyCandCuseCinCtheCtreatmentCofCopenCangleglaucomaandocularhypertension.ClinOphthalmolC2:517-523,C200812)松浦一貴,寺坂祐樹,佐々木慎一:プロスタグランジン薬,Cbブロッカー,炭酸脱水酵素阻害剤のC3剤併用でコントロール不十分な症例に対するブリモニジン点眼液の追加処方.あたらしい眼科31:1059-1062,C201413)新家眞,山崎芳夫,杉山和久ほか:ブリモニジン点眼液の原発開放隅角緑内障または高眼圧症を対象とした長期投与試験.あたらしい眼科29:679-686,C201214)MarchCWF,COchsnerCKI,CtheCBrinzolamideCLong-TermTherapyStudyGroup:Thelong-termsafetyande.cacyofCbrinzolamide1.0%(Azopt)inCpatientsCwithCprimaryCopen-angleCglaucomaCorCocularChypertension.CAmCJCOph-thalmolC151:671-681,C201115)AungCT,CLaganovskaCG,CHernandezCParedesCTJCetal:CTwice-dailyCbrinzolamide/brimonidineC.xedCcombinationCversusbrinzolamideorbrimonidineinopen-angleglauco-maCorCocularChypertension.CAmericanCAcademyCofCOph-thalmologyC121:2348-2355,C201416)GandoliSA,LimJ,SanseauACetal:Randomizedtrialofbrinzolamide/brimonidineversusbrinzolamideplusbrimo-nidineCforCopen-angleCglaucomaCorCocularChypertension.CAdvTherC31:1213-1227,C2014(132)

ブリモニジン/ブリンゾラミド配合懸濁性点眼液の原発開放隅角緑内障(広義)または高眼圧症を対象とした第III 相臨床試験─ブリモニジンとの比較試験

2020年10月31日 土曜日

《原著》あたらしい眼科37(10):1289.1298,2020cブリモニジン/ブリンゾラミド配合懸濁性点眼液の原発開放隅角緑内障(広義)または高眼圧症を対象とした第III相臨床試験─ブリモニジンとの比較試験相原一*1関弥卓郎*2*1東京大学大学院医学系研究科外科学専攻眼科学*2千寿製薬株式会社CPhaseIIIStudytoEvaluatetheE.cacyandSafetyofNovelBrimonidine/BrinzolamideOphthalmicSuspensionComparedwithBrimonidineOphthalmicSolutioninPatientswithPrimaryOpen-AngleGlaucoma(Broad-De.nition)orOcularHypertensionMakotoAihara1)andTakuroSekiya2)1)DepartmentofOphthalmology,GraduateSchoolofMedicineandFacultyofMedicine,TheUniversityofTokyo,2)SenjuPharmaceuticalCo.,Ltd.C0.1%ブリモニジン酒石酸塩/1%ブリンゾラミド配合懸濁性点眼剤(以下,SJP-0125)の眼圧下降効果および安全性をC0.1%ブリモニジン酒石酸塩点眼剤(以下,ブリモニジン)と比較した.原発開放隅角緑内障(広義)または高眼圧症患者を対象に,ブリモニジンをC4週間投与した後,眼圧値がC18.0CmmHg以上のC355例にCSJP-0125またはブリモニジンをC4週間投与した.治療期C4週の眼圧変化値は,SJP-0125群C.2.9±2.0mmHg,ブリモニジン群C.2.4±2.0CmmHgで,群間差は.0.6CmmHg(95%信頼区間:C.1.0.C.0.1,p=0.0109)であり,SJP-0125のブリモニジンに対する優越性が検証された.副作用はCSJP-0125群C12.9%,ブリモニジン群C1.1%に認められた.重篤な副作用は認めず,おもな副作用は既知のものであったことから,SJP-0125の安全性に問題はないと考えられた.CPurpose:ToCcompareCtheCintraocularpressure(IOP)-loweringCe.cacyCandCsafetyCofCtheC.xedCcombinationCophthalmicCsuspensionCofCbrimonidineCtartrate0.1%/brinzolamide1%(SJP-0125)withCthoseCofCbrimonidineCtar-trate0.1%(brimonidine)C.Subjects:Thisstudyinvolved355patientswithprimaryopen-angleglaucomaorocularhypertension,whoseIOPwas≧18.0CmmHgafterbrimonidineadministrationfor4weeksandwhounderwentSJP-0125orbrimonidineadministrationforanadditional4weeks.ThemeanIOPchangesatWeek4ofthetreatment-periodCwereC.2.9±2.0CmmHgCinCtheCSJP-0125CgroupCandC.2.4±2.0CmmHgCinCtheCbrimonidineCgroup,CandCtheCdi.erencebetweenthetwogroupswas.0.6CmmHg(95%CI:.1.0to.0.1,Cp=0.0109)C,thusdemonstratingthesuperiorityCofCSJP-0125CtoCbrimonidine.CInCtheCSJP-0125CgroupCandCtheCbrimonidineCgroup,Ctreatment-relatedCadverseevents(TRAEs)wereCobservedCin12.9%Cand1.1%,Crespectively.CAlthoughCpreviouslyCreportedCTRAEsCassociatedwithbrimonidineorbrinzolamidecommonlyoccur,noseriousTRAEswereobserved.Conclusion:SJP-0125wasfounde.ectiveforloweringIOPandsafe,withnoseriousTRAEs.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C37(10):1289.1298,C2020〕Keywords:ブリモニジン,ブリンゾラミド,配合剤,緑内障,比較試験.brimonidine,brinzolamide,.xedcombi-nationophthalmicsuspension,glaucoma,comparativestudy.Cはじめに治療法は眼圧下降である1).わが国では単剤としてプロスタ緑内障治療の目的は患者の視機能を維持させることであグランジン関連薬,Cb遮断薬,Ca2作動薬,炭酸脱水酵素阻り,現在,緑内障に対するエビデンスに基づいた唯一確実な害薬,Rhoキナーゼ阻害薬,Ca1遮断薬,交感神経非選択性〔別刷請求先〕関弥卓郎:〒C650-0047神戸市中央区港島南町C6-4-3千寿製薬株式会社研究開発本部Reprintrequests:TakuroSekiya,ResearchandDevelopmentDivision,SenjuPharmaceuticalCo.,Ltd.,6-4-3Minatojima-Minamimachi,Chuo-ku,Kobe,Hyogo650-0047,JAPANC作動薬,副交感神経作動薬が承認されている.緑内障診療ガイドラインでは,薬物治療を行う場合まず単剤療法から開始し,目標眼圧に達していないなど有効性が十分でない場合には多剤併用(配合点眼剤を含む)を行うとされている1)が,わが国で承認されている配合点眼剤の有効成分の組み合わせはプロスタグランジン関連薬とCb遮断薬,炭酸脱水酵素阻害薬とCb遮断薬,Ca2作動薬とCb遮断薬のC3種のみである.そのため,上記以外の組み合わせで配合点眼剤を開発することは治療の選択肢を広げることができる点で臨床的意義があると考える.0.1%ブリモニジン酒石酸塩/1%ブリンゾラミド配合懸濁性点眼剤(以下,SJP-0125)は,Ca2作動薬であるブリモニジン酒石酸塩と炭酸脱水酵素阻害薬であるブリンゾラミドを有効成分とする配合点眼剤である.ブリモニジン酒石酸塩は房水産生を抑制し,ぶどう膜強膜路からの房水流出を促進することで眼圧下降効果を示す2).また,眼圧下降効果に相応しない視野維持効果があることも報告されている3).ブリンゾラミドは房水産生を抑制することで眼圧下降効果を示す4).そこで,SJP-0125の第CIII相比較試験として,原発開放隅角緑内障(広義)または高眼圧症を対象に,SJP-0125の有効性(眼圧下降効果)および安全性について,SJP-0125の有効成分の一つであるC0.1%ブリモニジン酒石酸塩点眼剤(以下,ブリモニジン)を対照に比較検討したので報告する.CI方法1.実施医療機関および治験責任医師本治験は,表1に示す全国C55医療機関で実施した.治験開始に先立ち,すべての医療機関の治験審査委員会で審議され,治験の実施が承認された.本治験は,ヘルシンキ宣言に基づく倫理的原則,治験実施計画書,「医薬品,医療機器等の品質,有効性及び安全性の確保等に関する法律」第C14条第C3項および第C80条のC2に規定する基準ならびに「医薬品の臨床試験の実施の基準(GCP)に関する省令」などの関連規制法規を遵守して実施した.治験情報の登録は,UMIN-CTRに行った(UMIN試験ID:UMINC000028493).C2.目的原発開放隅角緑内障(広義)または高眼圧症を対象として,SJP-0125をC1日C2回C4週間点眼したときの有効性(眼圧下降効果)および安全性を,ブリモニジンを対照に比較検討することを目的とした.C3.対象原発開放隅角緑内障(広義)または高眼圧症と診断され,ブリモニジンをC4週間投与後の眼圧がC18.0CmmHg以上で,表2の基準に該当する患者を対象とした.すべての被験者から治験参加前に文書による同意を得た.C4.方法a.被験薬被験薬(SJP-0125)は,点眼剤C1Cml中にブリモニジン酒石酸塩をC1Cmg,ブリンゾラミドをC10Cmg含有する懸濁性点眼剤である.Cb.治験デザイン・投与方法本治験は,多施設共同無作為化単遮蔽(評価者遮蔽)並行群間比較試験として実施した.観察期にブリモニジンをC1回C1滴,1日C2回朝(8:00.10:00)および夜(20:00.22:00),両眼にC4週間点眼した後,治療期にCSJP-0125またはブリモニジンをC1回C1滴,1日C2回朝および夜,両眼にC4週間点眼した.治験デザインを図1に示した.治験薬は点眼容器を小箱に入れて封緘し,外観上の識別不能性を確保した.治験薬割付責任者が識別不能性を確認した後,治験薬の無作為割付を行った.被験者への割付は,観察期終了日(治療期開始日)の眼圧値のC2時間値および観察期終了日(治療期開始日)のC2時間値のスクリーニング検査日からの眼圧変化値を因子とし,施設および各因子の群間のバランスを確保するため,動的に割付群を決定した.SJP-0125群,ブリモニジン群の割付比はC1:1とした.割付表は厳封し,開鍵時まで治験薬割付責任者が保管した.Cc.被.験.者.数SJP-0125群とブリモニジン群の眼圧下降の差を1.0mmHg,共通の標準偏差を約C2.6CmmHgと推定,有意水準両側C5%,検出力C90%と設定し,必要な評価被験者数を各群C144例と算出した.中止脱落を考慮してCSJP-0125群,ブリモニジン群の目標被験者数を各群C160例とし,合計C320例と設定した.C5.検査・観察項目眼圧,最高矯正視力,細隙灯顕微鏡検査所見(結膜・眼瞼・角膜),眼底,視野,血圧・脈拍数の各検査を表3のスケジュールで実施した.眼圧は,Goldmann圧平眼圧計で朝の点眼前かつC8:00.10:00の間にC0時間値を測定し,点眼後はC2時間値および原則としてC7時間値を測定した.また,治験薬を投与された被験者に生じたすべての好ましくないまたは意図しない疾病またはその徴候を有害事象として収集した.治験薬との因果関係を否定できない場合は副作用とした.C6.併用薬および併用処置治験期間中,表2の除外基準に抵触する薬剤または処置の併用は禁止した.C7.評価方法および解析方法a.有効性最大の解析対象集団(fullanalysisset:FAS)を有効性の表1実施医療機関および治験責任医師実施医療機関治験責任医師実施医療機関治験責任医師たかはし眼科髙橋俊明松村眼科医院松村明金沢大学附属病院杉山和久医療法人明和会宮田眼科病院大谷伸一郎医療法人社団豊栄会さだまつ眼科クリニック貞松良成医療法人陽山会井後眼科馬渡祐記医療法人社団深志清流会清澤眼科医院清澤源弘医療法人恕心会さめしま眼科鮫島基泰医療法人社団はしだ眼科クリニック橋田節子医療法人社団彩光会札幌かとう眼科加藤祐司たまがわ眼科クリニック關保中の島たけだ眼科竹田明野村眼科野村亮二東北大学病院津田聡吉村眼科内科医院吉村弦公益財団法人湯浅報恩会寿泉堂綜合病院神田尚孝医療法人社団緑泉会南波眼科南波久斌眼科君塚医院君塚佳宏医療法人大宮はまだ眼科濱田直紀医療法人誠療会尾﨏眼科クリニック尾﨏雅博医療法人大宮はまだ眼科西口分院福岡詩麻市橋眼科クリニック市橋慶之医療法人社団泰成会こんの眼科今野泰宏東京大学医学部附属病院坂田礼医療法人社団うえだ眼科クリニック上田裕子東京浜松町眼科クリニック南光太郎医療法人社団瑞英会野近眼科医院吉見裕美子藤井眼科藤井博明医療法人社団碧明会大沢眼科・内科大澤彰岸根公園眼科斉藤秀典武蔵小金井さくら眼科安田佳守臣国保直営総合病院君津中央病院中村洋介医療法人社団慶翔会両国眼科クリニック岩崎美紀医療法人天神疋田眼科医院*疋田直文東京医科大学病院丸山勝彦渡辺眼科渡辺純子いまい眼科今井雅仁大森町眼科クリニック天野由紀医療法人湘山会眼科三宅病院三宅豪一郎医療法人良仁会柴眼科医院柴宏治医療法人社団秀明会遠谷眼科遠谷茂東京慈恵会医科大学附属病院久米川浩一健康保険組合連合会大阪中央病院井上由美子諸星眼科クリニック諸星計草津眼科クリニック望月英毅西府ひかり眼科野口圭医療法人鈴木眼科クリニック鈴木亨医療法人社団ひいらぎ会若葉台眼科佐藤功医療法人宮本眼科宮本秀久医療法人かがやきくぼた眼科久保田泰隆望月眼科望月泰敬医療法人菅澤眼科医院菅澤啓二医療法人杏水会右田眼科右田雅義杉浦眼科杉浦寅男医療法人宮嶋会みやじま眼科宮嶋聖也*旧:医療法人福ビル疋田眼科医院表2おもな選択基準および除外基準おもな選択基準1)20歳以上の外来患者(日本人),性別不問2)両眼とも最高矯正視力がC0.3以上の者3)観察期終了日(治療期開始日)の眼圧値がC18.0CmmHg以上C31.0CmmHg以下の者おもな除外基準1)緑内障に対する手術またはレーザー療法,内眼手術(各種レーザー療法を含む),角膜移植術または角膜屈折矯正手術の既往のある者2)コンタクトレンズの装用が必要な者3)高度の視野障害がある者4)スクリーニング検査日の過去C180日以内に副腎皮質ステロイドの眼内注射,Tenon.下注射または結膜下注射を実施した者5)治験期間中に病状が進行するおそれのある網膜疾患を有する者6)原発開放隅角緑内障(広義),高眼圧症以外の活動性の眼科疾患を有する者7)がんに罹患している者,または重篤な全身性疾患を有する者8)脳血管障害,起立性低血圧,心血管系疾患などの循環不全を有する者9)角膜障害を有する者10)ブリモニジン酒石酸塩または他のCa2作動薬,ブリンゾラミドまたは他の炭酸脱水酵素阻害薬,スルホンアミド系薬剤,本治験で使用する薬剤の成分に対し,アレルギーまたは重大な副作用の既往のある者11)緑内障・高眼圧症に対する治療薬,副腎皮質ステロイド,交感神経刺激薬,交感神経遮断薬,副交感神経刺激薬,モノアミン酸化酵素阻害薬,抗うつ薬,炭酸脱水酵素阻害薬,抗コリン作用を含む治療薬,1日あたりC4.5Cgを超えるアスピリンの大量投与または別に規定したもの以外の眼局所の治療薬を使用する予定のある者12)治験責任医師または治験分担医師が本治験への参加が適切でないと判断した者スクリーニング検査日前治療現行治療(緑内障点眼剤の種類は問わない)または無治療図1治験デザイン表3検査・観察スケジュール○:スクリーニング実施前に文書による同意を取得した.測定時点C7時間での眼圧,血圧・脈拍数は,原則測定した.主たる解析対象集団とした.主要評価項目は,治療期C4週における治療期開始日からの眼圧変化値(2時間値)とした(優越性の検証).欠測値に対しては,lastCobservationCcarriedforward(LOCF)によりデータを補完した.副次評価項目は,治療期の各観察日(治療期C2週および治療期C4週)の眼圧値,治療期開始日からの眼圧変化値,眼圧変化率(それぞれのC0時間値,2時間値,7時間値,0時間値とC2時間値の平均値,0時間値とC2時間値とC7時間値の平均値)とした.t検定(有意水準両側C5%)によりCSJP-0125群およびブリモニジン群のC2群間で比較した.眼圧値は,治療期開始日と投与後の各観察日の値をCpairedt検定(有意水準両側5%)で比較した.また,治療期C4週の眼圧変化値および眼圧変化率(2時間値)を,対象疾患別および治療期開始日の眼圧値別に解析した.Cb.安全性治療期に組み入れられた被験者のうち,治験薬の投与を一度も受けなかった被験者,治療期開始日以降の再来院がないなどの理由により安全性が評価できなかった被験者を除外した集団を安全性解析対象集団(safetyset:SS)とした.有害事象,最高矯正視力,結膜・眼瞼・角膜所見,眼底,視野,血圧・脈拍数を評価した.有害事象は,発現割合(発現例数/SS例数)を算出した.最高矯正視力,結膜・眼瞼・角膜所見,血圧・脈拍数は治療期の治験薬投与前後を比較し表4被験者背景(FAS)SJP-0125ブリモニジン合計項目分類(n=173)(n=177)(n=350)性別男87(C50.3)91(C51.4)178(C50.9)女86(C49.7)86(C48.6)172(C49.1)年齢(歳)平均値±標準偏差C62.7±12.9C61.5±13.3C.最小値.最大値21.8C522.8C7C.対象疾患1原発開放隅角緑内障(広義)126(C72.8)126(C71.2)252(C72.0)(有効性評価対象眼)原発開放隅角緑内障87(C50.3)89(C50.3)176(C50.3)前視野緑内障39(C22.5)37(C20.9)76(C21.7)高眼圧症47(C27.2)51(C28.8)98(C28.0)緑内障治療薬2有137(C79.2)133(C75.1)270(C77.1)無36(C20.8)44(C24.9)80(C22.9)眼局所の合併症2有118(C68.2)112(C63.3)230(C65.7)無55(C31.8)65(C36.7)120(C34.3)眼局所以外の合併症有131(C75.7)131(C74.0)262(C74.9)無42(C24.3)46(C26.0)88(C25.1)治療期開始日の眼圧値(2時間値)低眼圧層3102(C59.0)105(C59.3)207(C59.1)(有効性評価対象眼)中眼圧層441(C23.7)41(C23.2)82(C23.4)高眼圧層530(C17.3)31(C17.5)61(C17.4)例数(%)C.:該当なし1:対象疾患は下のように定義した.原発開放隅角緑内障:以下の(1),(2)を満たす者前視野緑内障:以下の(2)を満たし治療が必要と判断された者(1)緑内障性視野異常の存在,(2)緑内障性視神経障害の存在2:左右眼どちらか一方でも該当した場合,有とした.3:18CmmHg以上C20CmmHg未満4:20CmmHg以上C22CmmHg未満5:22CmmHg以上た.眼底および視野はスクリーニング検査日からの悪化の有無を比較した.CII結果1.被験者の構成同意を取得した被験者はC452例,観察期にブリモニジンの投与を開始したのはC438例であった.このうちC355例が無作為化され,治療期の投与を開始した.治験完了例はC345例,治験未完了例はC10例であった.治療期の投与を開始したC355例(SJP-0125群C178例,ブリモニジン群C177例)をCSSとした.このうち,治療期開始日以降の有効性評価が可能な検査データのないC4例および除外基準に抵触したC1例を除くC350例(SJP-0125群C173例,ブリモニジン群C177例)をCFASとした.被験者背景(FAS)を表4に示した.C2.有効性眼圧値,治療期開始日からの眼圧変化値および眼圧変化率を表5,眼圧変化値の推移を図2,対象疾患別,治療期開始日の眼圧値別の眼圧変化値および眼圧変化率(治療期C4週,2時間値)を表6,図3および図4に示した.主要評価項目である治療期C4週における眼圧変化値(2時間値)の平均は,SJP-0125群ではC.2.9±2.0CmmHg,ブリモニジン群では.2.4±2.0CmmHgであり,統計学的に有意な差を認め(点推定値:C.0.6CmmHg,95%両側信頼区間:C.1.0.C.0.1CmmHg,p=0.0109),SJP-0125群のブリモニジン群に対する優越性が検証された.副次評価項目である治療期C2週および治療期C4週の眼圧値は,治療期C4週のC2時間値を除くすべての測定時点でCSJP-0125群のブリモニジン群に対する統計学的に有意な差を認めた(いずれもCp<0.05).また,治療期C2週および治療期C4週での眼圧変化値および眼圧変化率は,すべての測定時点でSJP-0125群のブリモニジン群に対する統計学的に有意な差を認めた(いずれもCp<0.05).さらに,治療期C2週および治療期C4週の眼圧値は,すべての測定時点で投与前と比較して統計学的に有意に低下した(いずれもp<0.0001).また,対象疾患別および治療期開始日の眼圧値別に治療期4週の眼圧変化値および眼圧変化率(2時間値)を解析した結果,いずれの層も全体の解析結果と同じ傾向を示した.表5眼圧値,眼圧変化値および眼圧変化率の推移(FAS)測定時点CSJP-0125ブリモニジン0時間値治療期開始日眼圧値C21.2±2.3(173)C21.1±2.4(177)治療期C2週眼圧値C19.0±2.8*††(171)C19.8±3.1*††(173)変化値C.2.2±1.9††(171)C.1.3±1.9††(173)変化率C.10.5±8.8††(171)C.6.1±9.3††(173)治療期C4週眼圧値C18.6±2.8*††(172)C19.5±3.2*††(173)変化値C.2.6±2.0††(172)C.1.6±2.0††(173)変化率C.12.2±9.4††(172)C.7.6±9.9††(173)2時間値治療期開始日眼圧値C19.9±2.1(173)C19.8±2.1(177)治療期C2週眼圧値C17.1±2.8*†(171)C17.8±2.9*†(173)変化値C.2.7±1.9††(171)C.2.0±2.1††(173)変化率C.14.0±9.9††(171)C.10.2±10.4††(173)治療期C4週眼圧値C16.9±2.9*(172)C17.5±2.9*(173)変化値1C.2.9±2.0†(173)C.2.4±2.0†(177)変化率C.14.8±10.3†(172)C.12.1±10.5†(173)7時間値治療期開始日眼圧値C19.6±2.6(163)C19.5±2.7(164)治療期C2週眼圧値C17.4±2.7*††(161)C18.4±3.1*††(159)変化値C.2.2±1.9††(161)C.1.1±2.3††(159)変化率C.10.8±9.7††(161)C.5.3±12.2††(159)治療期C4週眼圧値C17.3±2.8*††(161)C18.2±3.1*††(158)変化値C.2.3±1.9††(161)C.1.3±2.1††(158)変化率C.11.8±9.4††(161)C.6.3±10.9††(158)0時間値とC2時間値の平均値治療期開始日眼圧値C20.5±2.1(173)C20.5±2.2(177)治療期C2週眼圧値C18.0±2.6*††(171)C18.8±2.9*††(173)変化値C.2.5±1.6††(171)C.1.6±1.8††(173)変化率C.12.2±8.1††(171)C.8.2±8.9††(173)治療期C4週眼圧値C17.8±2.7*†(172)C18.5±2.9*†(173)変化値C.2.7±1.8††(172)C.2.0±1.8††(173)変化率C.13.5±8.7††(172)C.9.8±9.0††(173)0時間値とC2時間値とC7時間値の平均値治療期開始日眼圧値C20.2±2.2(163)C20.1±2.2(164)治療期C2週眼圧値C17.8±2.6*††(161)C18.7±2.8*††(159)変化値C.2.4±1.5††(161)C.1.4±1.6††(159)変化率C.11.8±7.6††(161)C.7.3±8.2††(159)治療期C4週眼圧値C17.6±2.6*†(161)C18.4±2.9*†(158)変化値C.2.6±1.6††(161)C.1.7±1.6††(158)変化率C.12.8±8.0††(161)C.8.7±8.6††(158)平均値±標準偏差(例数)眼圧値および変化値の単位:mmHg変化率の単位:%1:LOCFにより欠測データを補完した.*:p<0.0001(治療期C2週またはC4週の眼圧値Cvs治療期開始日の眼圧値Cpairedt検定,有意水準両側5%)C†:p<0.05C††:p<0.01(SJP-0125vsブリモニジンCt検定,有意水準両側5%)C3.安全性31件,2例(1.1%)2件であった.治療期にCSJP-0125群およびブリモニジン群に発現した有治療期の副作用一覧を表7に示した.おもな副作用は,害事象はそれぞれ50例(28.1%)68件および32例(18.1%)SJP-0125群では霧視12例(6.7%),眼刺激5例(2.8%),36件であった.このうち副作用は,それぞれC23例(12.9%)味覚異常C4例(2.2%),結膜充血C2例(1.1%),眼の異常感C2例(1.1%)および結膜炎C2例(1.1%),ブリモニジン群では0時間値1結膜充血C1例(0.6%)およびアレルギー性結膜炎C1例(0.6%)であった.-2**副作用はすべて軽度であった.副作用による中止はCSJP-0125群でC1例(結膜炎)あり,副作用による死亡および重篤な副作用はなかった.最高矯正視力,結膜・眼瞼・角膜所見,眼底,視野,血-3**-4-5SJP-0125ブリモニジン-6圧・脈拍数には,臨床上問題となるような変動や所見はみら治療期開始日治療期2週治療期4週れなかった.2時間値III考按SJP-0125の有効性を検証するにあたり,SJP-0125の有効成分の一つであり,わが国で第二選択薬として広く使用されているブリモニジンを対照に比較試験を行った.治療期C4週での眼圧変化値(2時間値)を比較した結果,SJP-0125群はブリモニジン群よりも優れた眼圧下降効果を示した.さら眼圧変化値(mmHg)-2-3*-4-5SJP-0125ブリモニジン-6に,治療期C2週および治療期C4週の0,2,7時間値のいずれ治療期開始日治療期2週治療期4週でもCSJP-0125群はブリモニジン群よりも優れた眼圧下降を7時間値1****-3-4示し,1日を通して良好な眼圧下降効果を示した.治療期C4週のC2時間値では,SJP-0125群のブリモニジン群に対する追加の眼圧下降効果はC0.6CmmHgに留まったが,0時間値およびC7時間値での追加眼圧下降効果はC2時間値よりも大きかった(図2).この結果から,ブリンゾラミドの炭酸脱水酵素阻害作用による終日にわたる基礎房水分泌の抑制作用が,ブ眼圧変化値(mmHg)0-1-2-5SJP-0125ブリモニジン-6リモニジンの眼圧下降効果を補完することで,SJP-0125は治療期開始日治療期2週治療期4週ブリモニジン単剤と比較してより良好なC1日を通した眼圧下降効果を示すと期待される.これらのことから,ブリモニジン単剤からCSJP-0125への切り替えは有用であると考える.0.1%ブリモニジン酒石酸塩点眼剤はプロスタグランジン関連薬と併用することでさらなる眼圧下降効果を示すことが国内第CIII相試験で確認されている5).またチモロールの単独治療で効果不十分の患者を対象とした海外第CIII相試験では,1%ブリンゾラミド懸濁性点眼剤により追加の眼圧下降効果が得られることが確認されている6).これらのことから,SJP-0125も作用機序が異なる他の緑内障治療薬と併用することで追加の眼圧下降効果を示すことが期待される.また,対象疾患別に解析した結果から,SJP-0125は原発開放隅角緑内障,前視野緑内障および高眼圧症のいずれに対しても眼圧下降効果を示すと考えられる.さらに,治療期開始日(2時間値)の眼圧値別に解析した結果から,SJP-0125は投与開始前の眼圧値にかかわらず眼圧下降効果を示すと考えられる.安全性に関しては,有害事象の発現頻度はCSJP-0125群で28.1%,ブリモニジン群でC18.1%,副作用の発現頻度はSJP-0125群でC12.9%,ブリモニジン群でC1.1%であり,いずれの群にも重篤な副作用は認めなかった.SJP-0125群で平均値±標準偏差,*:p<0.05**:p<0.01(SJP-0125vsブリモニジンt検定,有意水準両側5%)図2眼圧変化値の推移比較的発現頻度の高かった副作用は霧視(6.7%),眼刺激(2.8%),味覚異常(2.2%)であり,これらはC0.1%ブリモニジン酒石酸塩点眼剤またはC1%ブリンゾラミド懸濁性点眼剤で既知の副作用である7,8).もっとも頻度の高かった霧視はC1%ブリンゾラミド懸濁性点眼剤でもおもな副作用として報告されており,SJP-0125群でのみ認められた.また,1%ブリンゾラミド懸濁性点眼剤の点眼後,涙液の白濁化や涙液層の不安定化によって霧視が生じることが報告されている9,10)ことから,ブリンゾラミドを懸濁させた製剤であるCSJP-0125でも,同様の機序で霧視が発現した可能性が考えられる.これらのことから,各単剤と比較して,4週間の使用ではCSJP-0125の安全性に問題はないと考える.以上の結果より,SJP-0125は原発開放隅角緑内障(広義)または高眼圧症の患者に対して,既承認薬であるブリモニジンに比べ眼圧下降効果は有意に高く,その効果はC1日を通じて良好であること,安全性に問題のないことを確認した.ま表6対象疾患別,治療期開始日の眼圧値別の眼圧変化値および眼圧変化率(治療期4週,2時間値)項目CSJP-0125ブリモニジン眼圧値(治療期開始日,2時間値)対象疾患原発開放隅角緑内障(広義)C19.7±2.1(126)C19.5±2.0(126)原発開放隅角緑内障C19.6±2.1(87)C19.5±2.2(89)前視野緑内障C20.0±2.0(39)C19.5±1.6(37)高眼圧症C20.3±2.1(47)C20.6±2.3(51)眼圧値(治療期開始日,2時間値)低眼圧層:18CmmHg以上C20CmmHg未満C18.5±0.6(102)C18.5±0.5(105)中眼圧層:20CmmHg以上C22CmmHg未満C20.6±0.6(41)C20.5±0.5(41)高眼圧層:22CmmHg以上C23.5±1.9(30)C23.7±1.7(31)眼圧変化値(治療期C4週,2時間値)C1対象疾患原発開放隅角緑内障(広義)C.3.0±2.1(126)C.2.4±2.0(126)原発開放隅角緑内障C.3.1±2.0(87)C.2.4±2.1(89)前視野緑内障C.2.9±2.2(39)C.2.4±2.1(37)高眼圧症C.2.7±2.0(47)C.2.3±2.0(51)治療期開始日の眼圧値(2時間値)低眼圧層:18CmmHg以上C20CmmHg未満C.2.8±2.0(102)C.2.5±2.0(105)中眼圧層:20CmmHg以上C22CmmHg未満C.3.3±1.7(41)C.1.9±2.0(41)高眼圧層:22CmmHg以上C.2.8±2.5(30)C.2.6±2.3(31)眼圧変化率(治療期C4週,2時間値)対象疾患原発開放隅角緑内障(広義)C.15.5±10.5(125)C.12.5±10.9(123)原発開放隅角緑内障C.15.9±10.2(87)C.12.5±10.8(86)前視野緑内障C.14.5±11.2(38)C.12.4±11.1(37)高眼圧症C.13.1±9.7(47)C.11.1±9.6(50)治療期開始日の眼圧値(2時間値)低眼圧層:18CmmHg以上C20CmmHg未満C.15.3±10.8(102)C.13.5±10.8(103)中眼圧層:20CmmHg以上C22CmmHg未満C.15.9±8.6(41)C.9.2±9.8(39)高眼圧層:22CmmHg以上C.11.4±10.5(29)C.10.9±9.6(31)平均値±標準偏差(例数)眼圧値および変化値の単位:mmHg,変化率の単位:%1:LOCFにより欠測データを補完した.CSJP-0125ブリモニジン眼圧変化率(%)平均値±標準偏差図3対象疾患別の眼圧変化率(治療期4週,2時間値)眼圧変化率(%)SJP-0125ブリモニジン0低眼圧層中眼圧層高眼圧層-5-10-15-20-25-30(102)(103)(41)(39)(29)(31)(例数)平均値±標準偏差低眼圧層:治療期開始日の眼圧値(2時間値)18mmHg以上20mmHg未満中眼圧層:治療期開始日の眼圧値(2時間値)20mmHg以上22mmHg未満高眼圧層:治療期開始日の眼圧値(2時間値)22mmHg以上図4治療期開始日の眼圧値別の眼圧変化率(治療期4週,2時間値)表7治療期の副作用一覧(SS)副作用名1CSJP-0125(n=178)ブリモニジン(n=177)件数例数(%)件数例数(%)全体C3123(C12.9)C22(1C.1)眼障害C霧視C眼刺激C結膜充血C眼の異常感C結膜炎Cアレルギー性結膜炎C結膜浮腫C眼脂C点状角膜炎C27125222111122(C12.4)C12(C6.7)C5(2C.8)C2(1C.1)C2(1C.1)C2(1C.1)C1(0C.6)C1(0C.6)C1(0C.6)C1(0C.6)C20010010002(1C.1)0(0C.0)0(0C.0)1(0C.6)0(0C.0)0(0C.0)1(0C.6)0(0C.0)0(0C.0)0(0C.0)神経系障害C味覚異常C444(2C.2)C4(2C.2)C000(0C.0)0(0C.0)1:副作用名はCICH国際医薬用語集CMedDRA/JVersion20.1のCPT(基本語)を用いて分類した.た,各単剤の臨床試験結果より,SJP-0125を作用機序が異なる緑内障治療薬と併用することで追加の眼圧下降効果が期待されることから,各単剤と他の緑内障治療薬との併用で効果不十分な場合に,各単剤からCSJP-0125への切り替えが有効であると考えられる.さらに,SJP-0125はわが国で初めてのCb遮断薬を含まない配合点眼剤であり,プロスタグランジン関連薬も含まないことから,それらが使用できない患者にも使用できる配合剤として期待される.加えてCSJP-0125は眼圧下降効果に相応しない視野維持効果が報告されている3)ブリモニジン酒石酸塩を有効成分として含有することから,SJP-0125でも同様の効果が期待される.以上より,SJP-0125は緑内障治療において有用性の高い配合点眼剤であると考える.文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン第C4版.日眼会誌122:5-53,C20182)BurkeCJ,CSchwartzM:PreclinicalCevaluationCofCbrimoni-dine.SurvOphthalmol41(Suppl1):S9-S18,19963)KrupinT,LiebmannJM,Green.eldDSetal:Arandom-izedtrialofbrimonidineversustimololinpreservingvisu-alfunction:resultsfromthelow-pressureglaucomatreat-mentCstudy.AmJOphthalmolC151:671-681,C20114)IesterM:BrinzolamideCophthalmicsuspension:aCreviewCofCitsCpharmacologyCandCuseCinCtheCtreatmentCofCopenCangleglaucomaandocularhypertension.ClinOphthalmolC2:517-523,C20085)新家眞,山崎芳夫,杉山和久ほか:ブリモニジン点眼液の原発開放隅角緑内障および高眼圧症を対象とした臨床第III相試験─チモロールとの比較試験またはプロスタグランジン関連薬併用下におけるプラセボとの比較試験.日眼会誌116:955-966,C20126)MichaudCJE,CFrirenB:ComparisonCofCtopicalCbrinzol-amide1%CandCdorzolamide2%CeyeCdropsCgivenCtwiceCdailyinadditiontotimolol0.5%inpatientswithprimaryopen-angleCglaucomaCorCocularChypertension.CAmCJCOph-thalmolC132:235-243,C20017)新家眞,山崎芳夫,杉山和久ほか:ブリモニジン点眼液の原発開放隅角緑内障または高眼圧症を対象とした長期投与試験.あたらしい眼科29:679-686,C20128)MarchCWF,COchsnerCKI,CtheCBrinzolamideCLong-TermTherapyStudyGroup:Thelong-termsafetyande.cacyofCbrinzolamide1.0%(Azopt)inCpatientsCwithCprimaryCopen-angleCglaucomaCorCocularChypertension.CAmCJCOph-thalmolC151:671-681,C20119)石橋健,森和彦:二種類の炭酸脱水酵素阻害点眼薬投与に伴う霧視について.日眼会誌110:689-692,C200610)野口毅,川﨑史朗,溝上志朗ほか:ブリンゾラミド点眼後の霧視の発生機序.日眼会誌114:369-373,C2010***

ブリモニジン/チモロール配合点眼液の原発開放隅角緑内障(広義)および高眼圧症を対象とした長期投与試験

2020年3月31日 火曜日

《原著》あたらしい眼科37(3):345?352,2020?ブリモニジン/チモロール配合点眼液の原発開放隅角緑内障(広義)および高眼圧症を対象とした長期投与試験新家眞*1福地健郎*2中村誠*3関弥卓郎*4*1公立学校共済組合関東中央病院*2新潟大学大学院医歯学総合研究科眼科学分野*3神戸大学大学院医学研究科外科系講座眼科学分野*4千寿製薬株式会社Long-TermE?cacyandSafetyofNovelBrimonidine/TimololOphthalmicSolutioninPatientswithPrimaryOpen-angleGlaucoma(BroadDe?nition)orOcularHypertensionMakotoAraie1),TakeoFukuchi2),MakotoNakamura3)andTakuroSekiya4)1)KantoCentralHospital,TheMutualAidAssociationofPublicSchoolTeachers,2)DivisionofOphthalmologyandVisualScience,GraduateSchoolofMedicalandDentalSciences,NiigataUniversity,3)DepartmentofSurgery,DivisionofOphthalmology,KobeUniversityGraduateSchoolofMedicine,4)SenjuPharmaceuticalCo.,Ltdはじめに緑内障は多くの場合きわめて慢性に経過する進行性の疾患で,長期の点眼や定期的な経過観察を要し,かつ自覚症状がないことが多いことから,アドヒアランスの維持は治療の成否に大きくかかわる1).緑内障患者を対象としたアンケート調査では,薬剤数の増加により点眼回数に負担を感じる症例が有意に増え,点眼を忘れる頻度が高くなることが報告されている2).薬剤数および点眼回数を減らすことのできる配合点眼剤は,患者のアドヒアランスを向上させ,治療効果を上げることに貢献することが期待される.〔別刷請求先〕新家眞:〒158-8531東京都世田谷区上用賀6-25-1公立学校共済組合関東中央病院Reprintrequests:MakotoAraie,M.D.,Ph.D.,KantoCentralHospitaloftheMutualAidAssociationofPublicSchoolTeachers,6-25-1Kamiyoga,Setagaya-ku,Tokyo158-8531,JAPAN表1実施医療機関および治験責任医師実施医療機関治験責任医師渡辺眼科医院渡邉広己富士見台眼科浅野由香三橋眼科医院三橋正忠道玄坂加藤眼科加藤卓次成城クリニック松﨑栄医療法人社団はしだ眼科クリニック橋田節子医療法人社団ひいらぎ会若葉台眼科佐藤功たまがわ眼科クリニック關保医療法人社団富士青陵会なかじま眼科中島徹医療法人社団ムラマツクリニックむらまつ眼科医院村松知幸医療法人社団優あい会小野眼科クリニック小野純治医療法人社団橘桜会さくら眼科松久充子北川眼科医院北川厚子医療法人良仁会柴眼科医院柴宏治医療法人社団優美会川口あおぞら眼科清水潔赤羽しまだ眼科島田典明0.1%ブリモニジン酒石酸塩/0.5%チモロール配合点眼剤(以下,SJP-0135)は,a2作動薬であるブリモニジン酒石酸塩とb遮断薬であるチモロールマレイン酸塩を有効成分とする配合点眼剤である.ブリモニジン酒石酸塩は,a2受容体を選択的に刺激して,毛様体上皮においてcyclicadenos-inemonophosphate(cyclicAMP)産生を抑制して房水の産生を抑制し,さらに,ぶどう膜強膜流出路を介して房水流出を促進することで眼圧下降効果を示す3).0.1%ブリモニジン酒石酸塩点眼液(アイファガン点眼液0.1%)は,わが国では2012年に千寿製薬株式会社が承認を得た緑内障治療薬であり,唯一のa2作動薬である.臨床試験においては他の緑内障治療薬と併用することでさらなる眼圧下降効果が得られており4,5),眼圧下降効果に相応しない視野維持効果があることも報告されている6).チモロールマレイン酸塩はb遮断薬であり,毛様体上皮のb受容体を遮断して,cyclicAMP産生を抑制することにより,房水産生を抑制して眼圧下降効果を示す7,8).0.5%チモロール点眼剤(以下,チモロール)は,わが国では1981年に承認され,プロスタグランジン関連薬とともに第一選択薬として広く使用されている.わが国では,ブリモニジン酒石酸塩点眼剤の使用患者の約6割にb遮断薬が併用されている9).SJP-0135は,作用機序の異なる2成分を配合することにより各単剤よりも強い眼圧下降効果が期待されることに加えて,配合剤に変更することで点眼回数の減少に伴う患者の利便性向上が期待される.さらに,現在,わが国で承認されている配合点眼剤の有効成分の組合せはプロスタグランジン関連薬とb遮断薬,または炭酸脱水酵素阻害薬とb遮断薬の組合せのみであることから,わが国初のa2作動薬を含有した配合点眼剤であるSJP-0135は治療選択肢の拡大に貢献すると考えられる.今回は,SJP-0135の第III相長期投与試験として,原発開放隅角緑内障(広義)または高眼圧症を対象として,SJP-0135を長期点眼したときの有効性(眼圧下降効果)および安全性について検討したので報告する.I方法1.実施医療機関および治験責任医師本治験は,2017年1月?2018年6月に表1に示す全国16医療機関で実施した.治験開始に先立ち,すべての医療機関の治験審査委員会で審議され,治験の実施が承認された.本治験は,ヘルシンキ宣言に基づく倫理的原則,本治験実施計画書,「医薬品,医療機器等の品質,有効性及び安全性の確保等に関する法律」第14条第3項および第80条の2に規定する基準ならびに「医薬品の臨床試験の実施の基準(GCP)に関する省令」などの関連規制法規を遵守して実施した.治験の実施状況の登録は,UMIN-CTRに行った(UMIN試験ID:UMIN000026471).2.目的SJP-0135を52週間点眼したときの眼圧下降効果および安全性の検討を目的とした.3.対象対象は,原発開放隅角緑内障(広義)または高眼圧症と診断され,チモロールを4週間投与後の眼圧が15.0mmHg以上で,選択基準を満たし,除外基準に抵触しない患者とした.おもな選択基準および除外基準を表2に示した.なお,すべての被験者から治験参加前に,文書による同意を得た.4.方法a.被験薬被験薬は,点眼液1ml中にブリモニジン酒石酸塩を1.0mg,チモロールを5.0mg(チモロールマレイン酸塩として6.8mg)含有する水性点眼剤である.b.治験デザイン・投与方法本治験は,多施設共同非対照非遮閉試験として実施した.観察期開始日から既存の緑内障治療薬をチモロールに切り替え,両眼にそれぞれ1回1滴,1日2回(朝および夜),4週間点眼した後,治療期としてSJP-0135を,両眼にそれぞれ1回1滴,1日2回(朝および夜),52週間点眼した.c.症例数「致命的でない疾患に対し長期間の投与が想定される新医薬品の治験段階において安全性を評価するために必要な症例数と投与期間について(平成7年5月24日薬審第592号)」に基づき,評価症例数を100例とした.さらに中止脱落率表2おもな選択基準および除外基準おもな選択基準1)20歳以上の外来患者(日本人),性別不問2)両眼とも眼圧下降治療(点眼)を受けており,今後も継続が必要な者3)両眼とも最高矯正視力が0.3以上4)観察期終了日(治療期開始日)の眼圧値が15.0mmHg以上31.0mmHg以下おもな除外基準1)原発開放隅角緑内障(広義),高眼圧症以外の活動性の眼科疾患を有する者2)治験期間中に病状が進行するおそれのある網膜疾患を有する者3)コンタクトレンズの装用が必要な者4)高度の視野障害がある者5)脳血管障害,起立性低血圧,心血管系疾患などの循環不全を有する者6)緑内障に対する手術またはレーザー療法,内眼手術(各種レーザー療法を含む),角膜移植術または角膜屈折矯正手術の既往のある者7)スクリーニング検査日の過去180日以内に副腎皮質ステロイドの眼内注射,Tenon?下注射または結膜下注射を実施した者8)がんに罹患している者,または重篤な全身性疾患(例:肝障害,腎障害,心血管系疾患,内分泌系疾患)を有する者9)気管支喘息,気管支痙攣もしくは重篤な慢性閉塞性肺疾患を有するまたは既往のある者10)コントロール不十分な心不全,洞性徐脈,房室ブロック(II,III度)若しくは心原性ショックを有するまたは既往のある者11)肺高血圧による右心不全,うっ血性心不全,糖尿病性ケトアシドーシス,代謝性アシドーシスまたはコントロール不十分な糖尿病のある者12)ブリモニジン酒石酸塩または他のa2作動薬,チモロールマレイン酸塩または他のb遮断薬,本治験で使用する薬剤の成分に対し,アレルギーまたは重大な副作用の既往のある者13)緑内障・高眼圧症に対する治療薬,副腎皮質ステロイド,交感神経刺激薬,交感神経遮断薬,副交感神経刺激薬,モノアミン酸化酵素阻害薬,抗うつ薬および炭酸脱水酵素阻害薬を使用する予定のある者14)その他,治験責任医師または治験分担医師が本治験への参加が適切でないと判断した者を約20%程度と想定し,目標症例数を125例に設定した.5.検査・観察項目眼圧,最高矯正視力,結膜・眼瞼・角膜所見,眼底,視野,血圧・脈拍数および臨床検査の各検査および観察を表3のスケジュールで実施した.眼圧は,Goldmann圧平眼圧計で朝の点眼前を0時間値として8時?10時の間に測定し,点眼後は2時間値を測定した.有害事象は,治験薬を投与された被験者に生じたすべての好ましくないまたは意図しない疾病またはその徴候を収集した.治験薬との因果関係を否定できない場合は副作用とした.6.併用薬および併用処置治験期間中は,表2の除外基準に抵触する薬剤および処置の併用は禁止した.7.評価方法および解析方法a.有効性有効性は,最大の解析対象集団(fullanalysisset:FAS)を主たる解析対象集団とした.主要評価項目は,各観察日における治療期開始日からの眼圧変化値(2時間値)とし,要約統計量を算出し,投与後の推移を検討した.副次評価項目は,主要評価項目を除く,各観察日における治療期開始日からの眼圧変化値,眼圧値および眼圧変化率とし,要約統計量を算出し,各々の推移を検討した.眼圧値については,各測定時点における治療期開始日と投与後の各観察日をpairedt検定(有意水準両側5%)により比較した.b.安全性安全性は,治療期に組み入れられたすべての被験者のうち,SJP-0135の投与を一度も受けなかった被験者,初診時(治療期開始日)以降の再来院がないなどの理由により安全性が評価できなかった被験者を除外した集団を安全性解析対象集団(safetyset:SS)とし,有害事象,最高矯正視力,結膜・眼瞼・角膜所見,眼底,視野,血圧,脈拍数および臨床検査を評価し,有害事象の発現割合(発現例数/SS)を算出した.最高矯正視力,結膜・眼瞼・角膜所見,血圧,脈拍数および臨床検査は,SJP-0135投与前後の比較を行った.眼底および視野は,スクリーニング検査日からの悪化の有無について比較した.II結果1.被験者の構成同意を取得できた被験者は157例で,スクリーニング脱落例5例を除いた152例が観察期としてチモロールの投与表3検査・観察スケジュール観察期(4週)治療期(52週)スクリーニング検査日治療期開始日投与4,8,12,20,36,44週投与28,52週中止脱落時測定時点(時間)?02020202同意取得○背景因子●●点眼●●●最高矯正視力●●●●●結膜・眼瞼・角膜所見●●●●●●●眼圧●●●●●●●●●眼底●●●視野●●●血圧・脈拍数●●●●●●●●●臨床検査●●●点眼状況注1●●●●有害事象注1○:スクリーニング実施前に文書による同意を取得した.注1:投与16,24,32,40,48週でも実施した.を受けた.このうち観察期脱落例16例を除いた136例が治療期に組み入れられ,SJP-0135の投与を受けた.治験完了例は108例で,治験未完了例は28例であった.治療期に組み入れられ,SJP-0135を投与した136例全例をSSとした.SSから4例(除外基準に抵触2例,治療期開始日以降の適切な検査データなし2例)を除いた132例をFASとした.被験者背景(FAS)を表4に示した.2.有効性眼圧値の推移を図1に,眼圧値,眼圧変化値および眼圧変化率の推移を表5に示した.主要評価項目である治療期の眼圧変化値(2時間値)の平均値±標準偏差は,治療期投与4週から52週まで,?3.4±2.3??2.8±1.8mmHgの範囲で推移し,安定した眼圧下降効果が認められた.副次評価項目については,治療期の眼圧値の0時間値,2時間値および0時間値と2時間値の平均値は,いずれも治療期投与4週から52週まで,治療期開始日の眼圧値よりも低下し,すべての観察日で,投与前と比較して統計学的に有意な差を認めた(いずれもp<0.0001).治療期の眼圧変化値および眼圧変化率の0時間値および0時間値と2時間値の平均は,いずれも約?3??2mmHg,約?10??20%の範囲で推移した.眼圧変化値(2時間値)を対象疾患別に原発開放隅角緑内障(広義)[原発開放隅角緑内障,正常眼圧緑内障,前視野緑内障(高眼圧群,正常眼圧群)]および高眼圧症で層別解析した結果を表6に,治療期開始日(2時間値)の眼圧値別に,低眼圧層(15mmHg以上18mmHg未満,18mmHg以上20mmHg未満),中眼圧層(20mmHg以上22mmHg未満)および高眼圧層(22mmHg以上)に層別解析した結果を図2に示した.いずれの層別解析でも主要評価項目の結果と同様に,治療期投与4週から52週まで,いずれの層においても安定した眼圧下降効果が認められた.3.安全性有害事象は98例(72.1%)271件認めた.このうち,副作用は27例(19.9%)34件であった.副作用一覧を表7に示した.おもな副作用は,アレルギー性結膜炎12例(8.8%),点状角膜炎10例(7.4%),眼瞼炎3例(2.2%),結膜充血2例(1.5%)であった.重度と判定された副作用はなく,中等度と判定された副作用は2例(1.5%)2件(いずれもアレルギー性結膜炎)で,その他の副作用[25例(18.4%)32件]は軽度であった.治験薬投与の中止を必要とした副作用は9例(6.6%)に10件(アレルギー性結膜炎7件,眼瞼炎3件)認めた.死亡例,重篤な副作用はなかった.臨床検査値,バイタルサイン,身体的所見および安全性に関連する他の観察項目でも,臨床上問題となるような変動や所見に関連する副作用はなかった.表4被験者背景(FAS)項目分類SJP-0135(n=132)性別男女平均±値標準偏差最小値?最大値原発開放隅角緑内障(広義)原発開放隅角緑内障正常眼圧緑内障前視野緑内障(高眼圧群)前視野緑内障(正常眼圧群)高眼圧症有無有無有無58(43.9)74(56.1)年齢(歳)65.0±9.730?85対象疾患注1107(81.1)(有効性評価対象眼)30(22.7)45(34.1)15(11.4)17(12.9)25(18.9)緑内障治療薬注2132(100.0)0(0.0)眼局所の合併症注297(73.5)35(26.5)眼局所以外の合併症116(87.9)16(12.1)例数(%)注1:対象疾患は下のように定義した.原発開放隅角緑内障:以下の(1)(2)を満たす者前視野緑内障(高眼圧群):以下の(2)を満たし治療が必要と判断された者正常眼圧緑内障:以下の(1)(2)(3)すべてを満たす者前視野緑内障(正常眼圧群):以下の(2)(3)を満たし治療が必要と判断された者(1)緑内障性視野異常の存在,(2)緑内障性視神経乳頭の存在,(3)過去に眼圧値が21.0mmHg以上を示した既往がない.注2:左右眼どちらか一方でも該当した場合,有とした.0時間値242時間値2420201616121248122028364452観察日(週)48122028364452観察日(週)図1眼圧値の推移*p<0.0001(投与前との比較)pairedt検定,平均値±標準偏差(mmHg).眼圧値は,0時間値および2時間値とも治療期投与4週から52週まで,安定した眼圧下降効果が認められた.表5眼圧値,眼圧変化値および眼圧変化率の推移測定時点眼圧値(mmHg)眼圧変化値(mmHg)眼圧変化率(%)0時間値治療期開始日18.1±2.5(132)??治療期投与4週16.1±2.4*(130)?2.0±1.7(130)?11.1±8.5(130)治療期投与8週15.8±2.4*(129)?2.3±2.0(129)?12.2±10.0(129)治療期投与12週15.7±2.4*(126)?2.4±2.1(126)?13.1±10.9(126)治療期投与20週15.9±2.8*(124)?2.2±2.3(124)?11.9±12.2(124)治療期投与28週16.1±2.6*(119)?2.0±2.3(119)?10.4±12.4(119)治療期投与36週16.0±2.8*(115)?2.0±2.3(115)?10.6±12.5(115)治療期投与44週16.0±2.7*(108)?1.9±2.4(108)?10.4±12.9(108)治療期投与52週15.8±2.7*(108)?2.1±2.0(108)?11.6±11.0(108)2時間値治療期開始日17.5±2.3(132)??治療期投与4週14.7±2.6*(130)?2.8±1.8(130)?16.0±10.2(130)治療期投与8週14.5±2.4*(129)?3.0±1.9(129)?16.7±10.6(129)治療期投与12週14.1±2.3*(126)?3.4±2.3(126)?19.1±11.8(126)治療期投与20週14.3±2.4*(124)?3.2±2.2(124)?17.8±11.4(124)治療期投与28週14.4±2.4*(119)?3.1±2.2(119)?17.3±12.1(119)治療期投与36週14.1±2.5*(115)?3.3±2.2(115)?18.7±11.9(115)治療期投与44週14.5±2.4*(108)?2.8±2.1(108)?16.1±11.8(108)治療期投与52週14.5±2.6*(107)?2.9±2.2(107)?16.3±12.4(107)0時間値と2時間値の平均値治療期開始日17.8±2.3(132)??治療期投与4週15.4±2.3*(130)?2.4±1.4(130)?13.6±7.7(130)治療期投与8週15.2±2.3*(129)?2.6±1.7(129)?14.6±9.1(129)治療期投与12週14.9±2.2*(126)?2.9±1.9(126)?16.1±9.9(126)治療期投与20週15.1±2.5*(124)?2.7±2.0(124)?14.9±10.6(124)治療期投与28週15.2±2.3*(119)?2.5±2.0(119)?13.9±10.6(119)治療期投与36週15.1±2.5*(115)?2.6±2.0(115)?14.7±10.8(115)治療期投与44週15.2±2.4*(108)?2.4±2.0(108)?13.3±11.1(108)治療期投与52週15.1±2.5*(107)?2.5±1.8(107)?14.1±10.2(107)平均値±標準偏差(例数),*p<0.0001〔各VISIT(測定時点)?治療期開始日(測定時点)のpairedt検定有意水準:両側5%〕眼圧値,眼圧変化値および眼圧変化率は,治療期投与4週から52週まで,安定した眼圧下降効果が認められた.眼圧値は,すべての観察日で,投与前と比較して統計学的に有意な差を認めた.表6対象疾患別眼圧変化値(2時間値)対象疾患原発開放隅角緑内障(広義)高眼圧症原発開放隅角緑内障正常眼圧緑内障前視野緑内障(高眼圧群)前視野緑内障(正常眼圧群)治療期投与?2.7±1.9?2.2±2.0?2.8±1.9?3.0±1.8?2.7±1.9?3.4±1.64週(106)(29)(45)(15)(17)(24)治療期投与?3.2±2.1?3.2±1.9?3.3±2.5?2.8±1.8?3.2±1.7?4.3±2.812週(102)(28)(43)(14)(17)(24)治療期投与?2.9±2.2?2.9±2.0?3.1±2.4?2.0±2.2?3.3±1.8?3.8±2.328週(95)(26)(41)(13)(15)(24)治療期投与?2.7±2.1?2.2±2.3?3.1±2.0?1.9±2.3?3.0±1.8?3.5±2.452週(85)(21)(39)(11)(14)(22)平均値±標準偏差(例数)いずれの対象疾患でも眼圧変化値(2時間値)は,治療期投与4週から52週まで,安定した眼圧下降効果が認められた.低眼圧層(15mmHg以上18mmHg未満表7治療期副作用の発現割合低眼圧層(18mmHg以上20mmHg未満)中眼圧層(20mmHg以上22mmHg未満)0高眼圧層(22mmHg以上)-2-4-6-84122852観察日(週)図2治療期開始日(2時間値)の眼圧値別の眼圧変化値(2時間値)平均値±標準偏差(mmHg).いずれの眼圧層でも眼圧変化値(2時間値)は,治療期投与4週から52週まで,安定した眼圧下降効果が認められた.注1:副作用名はICH国際医薬用語集MedDRA/JVersion19.1のPT(基本語)を用いて分類した.おもな副作用は,アレルギー性結膜炎12例(8.8%),点状角膜炎10例(7.4%),眼瞼炎3例(2.2%),結膜充血2例(1.5%)であった.III考按わが国では数多くの作用機序の異なる緑内障治療薬が使用可能であるが,緑内障診療ガイドラインでは,薬物治療を行う場合,まず単剤(単薬)療法から開始し,目標眼圧に達していないなど,有効性が十分でない場合には多剤併用(配合点眼剤を含む)を行うとされている1).そのため,本治験では,チモロールからSJP-0135へ切り替えた場合の安全性および有効性を確認するため,観察期としてチモロールを4週間投与した後,観察期終了日の眼圧値が15.0mmHg以上であった患者を対象に,治療期としてSJP-0135に切り替えて52週間投与した.有効性に関しては,眼圧値は治療期のすべての測定時点において投与前と比較して統計学的に有意に低下し,治療期52週まで安定した眼圧下降効果を認めた.層別解析の結果,いずれの対象疾患(原発開放隅角緑内障,正常眼圧緑内障,前視野緑内障,高眼圧症)においても治療期投与4週から52週まで,安定した眼圧下降効果を認めた.また,治療期開始日(2時間値)の眼圧値別の層別解析の結果,いずれの層においても,治療期投与4週から52週まで,眼圧値はベースラインより2.0mmHg以上低下し,かつ安定した眼圧下降効果を認めた.以上より,SJP-0135はチモロール単剤から切り替えた場合はさらなる眼圧下降効果が期待でき,長期投与時でもその効果は減弱しないと考えられる.さらに,SJP-0135は対象疾患および投与開始前の眼圧値にかかわらず,眼圧下降効果を示すと考えられる.安全性に関しては,有害事象は72.1%,副作用は19.9%で認めたが,治療期52週を通じて重篤な副作用は認めなかった.比較的発現頻度の高かった副作用は,アレルギー性結膜炎(8.8%),点状角膜炎(7.4%)および眼瞼炎(2.2%)であり,いずれもアイファガン点眼液0.1%およびチモロール点眼液において既知の副作用であった.アイファガン点眼液0.1%では,長期投与によりアレルギー性結膜炎の発現頻度が高くなる傾向が認められており,投与52週におけるアレルギー性結膜炎の副作用発現頻度は18.4%である10).この値は今回の8.8%に比べて髙かった.海外では0.2%ブリモニジン酒石酸塩/0.5%チモロール配合点眼剤(COMBIGAN,米国Allergan,Inc.)が市販されている.COMBIGANの臨床試験において,投与12カ月を通してCOMBIGANの眼圧下降効果はチモロール単剤(1日2回)およびブリモニジン(1日3回)と比べて優れ,かつ安定していたことが確認されている11).このことから,SJP-0135も同様に,長期投与時をした場合でも各単剤に比べて髙い眼圧下降効果を示すと考える.また,安全性については投与12カ月におけるアレルギー性結膜炎の発現頻度は0.2%ブリモニジン酒石酸塩群(9.4%)に比べてCOMBIGAN群(5.2%)では約半数であり,有意に低いことが報告されている11).なお,a作動薬による細胞容積の減少および傍細胞流の増加による潜在的な炎症誘発因子の結膜組織内への侵入12)がb遮断薬により抑制される13)ことで,ブリモニジン由来の眼部アレルギーの発現頻度がチモロールにより低下するという報告があり,配合剤でのアレルギー性結膜炎の発現頻度減少の一つの仮説として考えられている14).そのため,SJP-0135においても,アイファガン点眼液0.1%に比べてアレルギー性結膜炎の発現頻度が低下する可能性がある.以上の結果より,原発開放隅角緑内障(広義)または高眼圧症の患者に対して,SJP-0135は52週間点眼したとき,安定した眼圧下降効果を維持し,安全性に問題のない治療薬となりうると考える.SJP-0135はわが国初のa2作動薬を含む配合点眼剤であること,SJP-0135への切り替えにより薬剤数および総点眼回数が減ることで患者の治療効果の向上が期待できることから,SJP-0135は緑内障治療の薬物療法において有用性の高い選択肢になると考える.文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン第4版.日眼会誌122:5-53,20182)高橋真紀子,内藤知子,溝上志朗ほか:緑内障点眼薬使用状況のアンケート調査“第二報”.あたらしい眼科29:555-561,20123)BurkeJ,SchwartzM:Preclinicalevaluationofbrimoni-dine.SurvOphthalmol41(S-1):S9-S18,19964)新家眞,山崎芳夫,杉山和久ほか:ブリモニジン点眼液の原発開放隅角緑内障および高眼圧症を対象とした臨床第III相試験─チモロールとの比較試験またはプロスタグランジン関連薬併用下におけるプラセボとの比較試験.日眼会誌116:955-966,20125)新家眞,坂本祐一郎:ブリモニジン点眼液0.1%の臨床的有用性に関する多施設前向き観察的研究―使用成績調査中間報告.臨眼71:859-867,20176)KrupinT,LiebmannJM,Green?eldDSetal:Arandom-izedtrialofbrimonidineversustimololinpreservingvisu-alfunction:resultsfromthelow-pressureglaucomatreat-mentstudy.AmJOphthalmol151:671-681,20117)LarssonLI:Aqueoushumor?owinnormalhumaneyestreatedwithbrimonidineandtimolol,aloneandincombi-nation.ArchOphthalmol119:492-495,20018)CoakesRL,BrubakerRF:Themechanismoftimololinloweringintraocularpressure:Inthenormaleye.ArchOphthalmol96:2045-2048,19789)2014年4月?2018年3月における縮瞳薬及び緑内障治療剤:局所用の使用状況.株式会社JMDC10)新家眞,山崎芳夫,杉山和久ほか:ブリモニジン点眼液の原発開放隅角緑内障または高眼圧症を対象とした長期投与試験.あたらしい眼科29:679-686,201211)SherwoodMB,CravenER,ChouCTetal:Twice-daily0.2%brimonidine-0.5%timolol?xed-combinationtherapyvsmonotherapywithtimololorbrimonidineinpatientswithglaucomaorocularhypertension:a12-monthran-domizedtrial.ArchOphthalmol124:1230-1238,200612)ButlerP,MannschreckM,LinSetal:Clinicalexperiencewiththelong-termuseof1%apraclonidine:Incidenceofallergicreactions.ArchOphthalmol113:293-296,199513)AlvaradoJA,MurphyCG,Franse-CarmanLetal:E?ectofbeta-adrenergicagonistsonparacellularwidthand?uid?owacrossout?owpathwaycells.InvestOphthalmolVisSci39:1813-1822,199814)AlvaradoJA:Reducedocularallergywith?xed-combination0.2%brimonidine-0.5%timolol.ArchOphthalmol125:717-718,2007◆**

ブリモニジン/チモロール配合点眼液の原発開放隅角緑内障(広義)および高眼圧症を対象とした第III相臨床試験―チモロールとの比較試験

2020年3月31日 火曜日

《原著》あたらしい眼科37(3):336?344,2020?ブリモニジン/チモロール配合点眼液の原発開放隅角緑内障(広義)および高眼圧症を対象とした第II相臨床試験―チモロールとの比較試験新家眞*1福地健郎*2中村誠*3関弥卓郎*4*1公立学校共済組合関東中央病院*2新潟大学大学院医歯学総合研究科眼科学分野*3神戸大学大学院医学研究科外科系講座眼科学分野*4千寿製薬株式会社PhaseIStudytoEvaluatetheE?cacyandSafetyofNovelBrimonidine/TimololOphthalmicSolutionComparedwithTimololOphthalmicSolutioninPatientswithPrimaryOpen-angleGlaucoma(BroadDe?nition)orOcularHypertensionMakotoAraie1),TakeoFukuchi2),MakotoNakamura3)andTakuroSekiya4)1)KantoCentralHospitaloftheMutualAidAssociationofPublicSchoolTeachers,2)DivisionofOphthalmologyandVisualScience,GraduateSchoolofMedicalandDentalSciences,NiigataUniversity,3)DepartmentofSurgery,DivisionofOphthalmology,KobeUniversityGraduateSchoolofMedicine,4)SenjuPharmaceuticalCo.,Ltdはじめに緑内障は,わが国における視覚障害原因の第1位を占めているが1),根本治療法はなく,エビデンスに基づいた唯一確実な治療法は眼圧下降である2).緑内障診療ガイドラインでは,薬物治療を行う場合,まず単剤(単薬)療法から開始し,有効性が十分でない場合には多剤併用(配合点眼剤を含む)〔別刷請求先〕新家眞:〒158-8531東京都世田谷区上用賀6-25-1公立学校共済組合関東中央病院Reprintrequests:MakotoAraie,M.D.,Ph.D.,KantoCentralHospitaloftheMutualAidAssociationofPublicSchoolTeachers,6-25-1Kamiyoga,Setagaya-ku,Tokyo158-8531,JAPAN336(88)0910-1810/20/\100/頁/JCOPYを行うとされており2),多剤併用患者は年々増えている3?5).その一方で,アドヒアランスの低下や点眼剤に含まれる保存剤による角膜上皮障害,点眼間隔を十分に空けずに点眼することによる治療効果の減弱(洗い流し効果)などの多剤併用治療特有の問題も発生している6?8).それらを軽減または回避するため,多剤併用の際には配合点眼剤の使用による患者のアドヒアランスを考慮する必要がある2).現在,わが国で承認されている配合点眼剤の有効成分の組み合せはプロスタグランジン関連薬とb遮断薬,または炭酸脱水酵素阻害薬とb遮断薬の組合せのみであることから,上記以外の組み合わせの配合点眼剤の開発は治療の選択肢を拡大するという点において臨床的意義があると考える.0.1%ブリモニジン酒石酸塩/0.5%チモロールマレイン酸塩配合点眼剤(以下,SJP-0135)は,a2作動薬であるブリモニジン酒石酸塩とb遮断薬であるチモロールマレイン酸塩を有効成分とする,わが国初のa2作動薬を含む配合点眼剤である.ブリモニジン酒石酸塩は第二選択薬として使用される薬剤であり,房水産生抑制およびぶどう膜強膜流出促進することで眼圧下降効果を示す9).臨床試験においては他の緑内障治療薬と併用することでさらなる眼圧下降効果が得られている10).また,眼圧下降効果に相応しない視野維持効果があることも報告されている11).チモロールマレイン酸塩は第一選択薬として使用される薬剤であり,房水産生抑制により眼圧下降効果を示す12,13).わが国では,ブリモニジン酒石酸塩点眼剤の使用患者の約6割にb遮断薬が併用されている14).SJP-0135は作用機序の異なる両有効成分を配合していることから,相加的な眼圧下降効果が期待される.海外では,0.2%ブリモニジン酒石酸塩/0.5%チモロールマレイン酸塩配合点眼剤(COMBIGAN,米国Allergan,Inc.)が60を超える国と地域で承認,販売されている.今回は,SJP-0135の第III相比較試験として,原発開放隅角緑内障(広義)または高眼圧症を対象に,SJP-0135の有効性(眼圧下降効果)および安全性について,SJP-0135の有効成分の一つである0.5%チモロールマレイン酸塩点眼剤(以下,チモロール)を対照に比較検討したので報告する.I方法1.実施医療機関および治験責任医師本治験は,2017年3月?2017年12月に表1に示す全国67医療機関で実施した.治験開始に先立ち,すべての医療機関の治験審査委員会で審議され,治験の実施が承認された.本治験は,ヘルシンキ宣言に基づく倫理的原則,本治験実施計画書,「医薬品,医療機器等の品質,有効性及び安全性の確保等に関する法律」第14条第3項および第80条の2に規定する基準,ならびに「医薬品の臨床試験の実施の基準(GCP)に関する省令」などの関連規制法規を遵守して実施した.治験の実施状況の登録は,UMIN-CTRに行った(UMIN試験ID:UMIN000026472).2.目的SJP-0135を4週間点眼したときの有効性(眼圧下降効果)および安全性について,チモロールを対照に比較検討する.さらに,参照群として0.1%ブリモニジン酒石酸塩点眼剤(以下,ブリモニジン)およびチモロールの併用群を設定し,SJP-0135の有効性および安全性が各単剤の併用と同程度であることを確認する.3.対象対象は,原発開放隅角緑内障(広義)または高眼圧症と診断され,チモロールを4週間投与後の眼圧が18.0mmHg以上で,表2の基準に該当する患者とした.すべての被験者から治験参加前に文書による同意を得た.4.方法a.被験薬被験薬は,点眼剤1ml中にブリモニジン酒石酸塩を1.0mg,チモロールを5.0mg(チモロールマレイン酸塩として6.8mg)含有する水性点眼剤である.b.治験デザイン・投与方法本治験は,多施設共同無作為化単遮閉(評価者遮閉)並行群間比較試験として実施した.観察期にチモロールを両眼に1回1滴,1日2回(朝および夜),4週間点眼した後,治療期に,SJP-0135群はSJP-0135およびSJP-0135基剤(プラセボ)点眼剤,チモロール群はチモロールおよびプラセボ点眼剤,併用群(参照群)はブリモニジンおよびチモロールを,両眼に1回1滴,1日2回(朝および夜),4週間点眼した.治験薬の点眼間隔は5分以上10分以内とした.遮閉性を確保するため,SJP-0135群およびチモロール群ではプラセボ点眼剤を用い,すべての投与群で2剤の治験薬を点眼した.治験デザインを図1に示した.治験薬は点眼容器を小箱に入れて封緘し,外観上の識別不能性を確保した.治験薬の割付は,割付責任者が,識別不能性を確認したのち,無作為割付を行った.被験者への割付は,観察期終了日(治療期開始日)の眼圧値の2時間値および観察期終了日(治療期開始日)の2時間値のスクリーニング検査日からの変化値を因子とし,施設および各因子の群間のバランスを確保するため,動的割付を行った.SJP-0135群,チモロール群,併用群の割付比は,3:3:1とした.割付表は厳封し,開鍵時まで割付責任者が保管した.c.被験者数SJP-0135群とチモロール群の眼圧下降の差を1.0mmHg,共通の標準偏差を約2.8mmHgと推定し,有意水準両側5%,検出力90%と設定し,必要な評価被験者数を各群166例と表1実施医療機関および治験責任医師実施医療機関治験責任医師実施医療機関治験責任医師富士見台眼科浅野由香医療法人社団緑泉会南波眼科南波久斌三橋眼科医院三橋正忠医療法人かがやきくぼた眼科久保田泰隆道玄坂加藤眼科加藤卓次医療法人菅澤眼科医院菅澤啓二成城クリニック松﨑栄医療法人泰明堂福島アイクリニック狩野廉医療法人社団はしだ眼科クリニック橋田節子医療法人前田眼科前田秀高医療法人社団ひいらぎ会若葉台眼科佐藤功医療法人創夢会むさしドリーム眼科武蔵国弘たまがわ眼科クリニック關保尾上眼科医院尾上晋吾医療法人社団富士青陵会なかじま眼科中島徹医療法人稲本眼科医院稲本裕一医療法人社団ムラマツクリニックむらまつ眼科医院村松知幸医療法人湖崎会湖崎眼科湖崎淳医療法人社団優あい会小野眼科クリニック小野純治杉浦眼科杉浦寅男医療法人社団橘桜会さくら眼科松久充子ふじつ眼科藤津揚一朗北川眼科医院北川厚子医療法人社団鈴木眼科鈴木克佳医療法人良仁会柴眼科医院柴宏治新井眼科医院新井三樹東北大学病院津田聡医療法人杏水会右田眼科右田雅義福井大学医学部附属病院稲谷大松村眼科医院松村明東京大学医学部附属病院坂田礼医療法人慶明会宮崎中央眼科病院髙岸麻衣北里大学病院松村一弘姶良みやもと眼科宮本純孝岐阜大学医学部附属病院川瀬和秀医療法人陽山会井後眼科馬渡祐記熊本大学医学部附属病院井上俊洋医療法人恕心会さめしま眼科鮫島基泰株式会社日立製作所土浦診療健診センタ坪井一穂医療法人耕真会えとう眼科クリニック江藤耕太郎医療法人社団いとう眼科大原睦子新潟大学医歯学総合病院福地健郎医療法人社団悠琳会しぶや眼科クリニック渋谷裕子さいとう眼科齋藤代志明医療法人社団泰成会こんの眼科今野泰宏医療法人社団豊栄会さだまつ眼科クリニック貞松良成医療法人社団優美会川口あおぞら眼科清水潔医療法人社団済安堂お茶の水・井上眼科クリニック岡山良子医療法人社団恵香会やまぐち眼科クリニック山口恵子医療法人健究社スマイル眼科クリニック岡野敬医療法人社団深志清流会清澤眼科医院清澤源弘神戸大学医学部附属病院中村誠いまい眼科今井雅仁みなもと眼科皆本敦医療法人社団善春会若葉眼科病院吉野啓医療法人社団仁香会しすい眼科医院呉輔仁医療法人高橋眼科髙橋研一東海大学医学部付属東京病院山崎芳夫医療法人豊潤会松浦眼科医院松浦雅子東邦大学医療センター大橋病院石田恭子野村眼科野村亮二東海大学医学部付属病院中川喜博医療法人湘山会眼科三宅病院三宅豪一郎祇園すやま眼科クリニック須山貴子長坂眼科クリニック長坂智子みぞて眼科溝手秀秋吉村眼科内科医院吉村弦算出した.併用群は参照群とし,評価被験者数を55例とした.中止脱落を考慮し,SJP-0135群,チモロール群の目標被験者数を各群175例,併用群を58例,合計408例と設定した.5.検査・観察項目眼圧,最高矯正視力,眼科的所見(結膜・眼瞼・角膜),眼底,視野および血圧・脈拍数の各検査を表2のスケジュールで実施した.眼圧は,Goldmann圧平眼圧計で朝の点眼前を0時間値として8時?10時の間に測定し,点眼後は2時間値を測定した.有害事象は,治験薬を投与された被験者に生じたすべての好ましくないまたは意図しない疾病またはその徴候を収集した.治験薬との因果関係を否定できない場合表2おもな選択基準および除外基準おもな選択基準1)20歳以上の外来患者(日本人),性別不問2)両眼とも最高矯正視力が0.3以上3)観察期終了日(治療期開始日)の眼圧値が18.0mmHg以上31.0mmHg以下おもな除外基準1)緑内障に対する手術またはレーザー療法,内眼手術(各種レーザー療法を含む),角膜移植術または角膜屈折矯正手術の既往のある者2)コンタクトレンズの装用が必要な者3)高度の視野障害がある者4)スクリーニング検査日の過去180日以内に副腎皮質ステロイドの眼内注射,Tenon?下注射または結膜下注射を実施した者5)治験期間中に病状が進行するおそれのある網膜疾患を有する者6)原発開放隅角緑内障(広義),高眼圧症以外の活動性の眼科疾患を有する者7)がんに罹患している者,または重篤な全身性疾患(例:肝障害,腎障害,心血管系疾患,内分泌系疾患)を有する者8)脳血管障害,起立性低血圧,心血管系疾患などの循環不全を有する者9)気管支喘息,気管支痙攣もしくは重篤な慢性閉塞性肺疾患を有する,または既往のある者10)コントロール不十分な心不全,洞性徐脈,房室ブロック(II,III度)もしくは心原性ショックを有するまたは既往のある者11)肺高血圧による右心不全,うっ血性心不全,糖尿病性ケトアシドーシス,代謝性アシドーシスまたはコントロール不十分な糖尿病のある者12)ブリモニジン酒石酸塩または他のa2作動薬,チモロールマレイン酸塩または他のb遮断薬,本治験で使用する薬剤の成分に対し,アレルギーまたは重大な副作用の既往のある者13)緑内障・高眼圧症に対する治療薬,副腎皮質ステロイド,交感神経刺激薬,交感神経遮断薬,副交感神経刺激薬,モノアミン酸化酵素阻害薬,抗うつ薬,炭酸脱水酵素阻害薬,抗コリン作用を含む治療薬および眼局所の治療薬を使用する予定のある者14)その他,治験責任医師または治験分担医師が本治験への参加が適切でないと判断した者SCR注1前治療観察期治療期4週・現行治療(緑内障点眼薬の種類は問わない)または無治療・チモロールを点眼・観察期終了日の0時間値および2時間値の眼圧値が18mmHg以上31mmHg以下の場合,治療期へ移行する・SJP-0135群:SJP-0135+プラセボチモロール群:チモロール+プラセボ併用群:ブリモニジン+チモロールを点眼注1:スクリーニング検査日図1治験デザインは副作用とした.6.併用薬および併用処置治験期間中は,表3の除外基準に抵触する薬剤および処置の併用は禁止した.7.評価方法および解析方法a.有効性有効性は,最大の解析対象集団(fullanalysisset:FAS)を主たる解析対象集団とした.主要評価項目は,治療期の投与4週における治療期開始日からの眼圧変化値(2時間値)とした.欠測値に対しては,lastobservationcarriedfor-ward(LOCF)によりデータを補完した.副次評価項目は,治療期の投与4週における眼圧値,治療期開始日からの眼圧変化値,眼圧変化率(それぞれの0時間値,2時間値,7時間値,0時間値と2時間値の平均値および0時間値と2時間表3検査・観察スケジュール観察期(4週)治療期(4週)Visit1Visit2Visit3中止脱落時スクリーニング検査日観察期終了日(治療期開始日)4週─測定時点(時間)─027027027同意取得○背景因子●●点眼●●最高矯正視力●●●●結膜・眼瞼・角膜所見●●●●●●眼圧●●●(●)●●(●)●●(●)眼底●●●視野●●●血圧・脈拍数●●●(●)●●(●)●●(●)点眼状況●●●有害事象○:スクリーニング実施前に文書による同意を取得した.(●):7時間値を測定することに同意が得られた被験者について実施した.値と7時間値の平均値)とした.7時間値測定は,7時間値測定に同意が得られた被験者のみを対象とした.t検定(有意水準両側5%)によりSJP-0135群およびチモロール群の2群間で比較した.眼圧値については,治療期開始日と治療期の投与4週をpairedt検定(有意水準両側5%)により比較した.b.安全性安全性は,治療期に組み入れられたすべての被験者のうち,治験薬の投与を一度も受けなかった被験者,初診時(治療期開始日)以降の再来院がないなどの理由により安全性が評価できなかった被験者を除外した集団を安全性解析対象集団(safetyset:SS)とした.有害事象,最高矯正視力,結膜・眼瞼・角膜所見,眼底,視野,血圧および脈拍数を評価した.有害事象は,発現割合(発現例数/SS)を算出した.最高矯正視力,結膜・眼瞼・角膜所見,血圧および脈拍数は,治療期の治験薬投与前後を比較した.眼底および視野は,スクリーニング検査日からの悪化の有無について比較した.II結果1.被験者の構成同意を取得できた被験者は487例で,観察期としてチモロールの投与を開始したのは470例であった.このうち385例が無作為化され,治療期の投与を開始した.治験完了例は380例,治験未完了例は5例であった.治療期を開始した385例全例(SJP-0135群163例,チモロール群164例,併用群58例)をSSとした.このうち,治療期開始日以降の有効性評価が可能な検査データがなかった5例を除く380例(SJP-0135群159例,チモロール群163例,併用群58例)をFASとした.被験者背景(FAS)を表4に示した.2.有効性眼圧値ならびに治療期開始日からの眼圧変化値および眼圧変化率を表5に,治療期投与4週の眼圧変化値を図2に示した.主要評価項目である,治療期投与4週における眼圧変化値(2時間値)(LOCF)の平均は,SJP-0135群では?3.1±2.4mmHg,チモロール群では?1.8±2.1mmHgであり,統計学的に有意な差を認め(点推定値:?1.3mmHg,95%両側信頼区間:?1.8??0.9mmHg,p<0.0001),SJP-0135群のチモロール群に対する優越性を検証できた.副次評価項目の治療期投与4週における眼圧値,眼圧変化値,変化率は,2時間値および0時間値と2時間値の平均で,SJP-0135群のチモロール群に対する統計学的に有意な差を認めたが,0時間値は両投与群間で統計学的に有意な差を認めなかった(いずれもp<0.01).測定時点に7時間値を含む7時間測定同意症例の結果についても,同様であった(いずれもp<0.001).SJP-0135群およびチモロール群で,治療期投与4週における眼圧値は,すべての測定時点で投与前と比較して,統計表4被験者背景(FAS)項目分類SJP-0135(n=159)TIM(n=163)併用(n=58)合計(n=380)性別男75(47.2)72(44.2)24(41.4)171(45.0)女84(52.8)91(55.8)34(58.6)209(55.0)年齢(歳)平均値±標準偏差62.0±12.462.1±12.861.7±14.7?最小値?最大値32?8722?8520?87?対象疾患注1原発開放隅角緑内障(広義)115(72.3)121(74.2)43(74.1)279(73.4)(有効性評価対象眼)原発開放隅角緑内障80(50.3)86(52.8)26(44.8)192(50.5)前視野緑内障35(22.0)35(21.5)17(29.3)87(22.9)高眼圧症44(27.7)42(25.8)15(25.9)101(26.6)緑内障治療薬注2有128(80.5)124(76.1)47(81.0)299(78.7)無31(19.5)39(23.9)11(19.0)81(21.3)眼局所の合併症注2有113(71.1)104(63.8)37(63.8)254(66.8)無46(28.9)59(36.2)21(36.2)126(33.2)眼局所以外の合併症有116(73.0)114(69.9)42(72.4)272(71.6)無43(27.0)49(30.1)16(27.6)108(28.4)例数(%),TIM:チモロール?:該当なし注1:対象疾患は下のように定義した.原発開放隅角緑内障:以下の(1),(2)を満たす者前視野緑内障:以下の(2)を満たし治療が必要と判断された者(1)緑内障性視野異常の存在,(2)緑内障性視神経乳頭の存在注2:左右眼どちらか一方でも該当した場合,有とした.表5眼圧値,眼圧変化値および眼圧変化率測定時点SJP-0135TIM併用0時間値治療期開始日眼圧値(mmHg)19.9±1.9(159)20.2±1.7(163)20.3±1.8(58)治療期投与4週眼圧値(mmHg)18.1±2.5*(159)18.5±2.6*(163)17.9±2.2(58)変化値(mmHg)?1.8±2.3(159)?1.7±2.0(163)?2.3±1.9(58)2時間値変化率(%)?8.8±11.0(159)?8.6±9.9(163)?11.5±9.0(58)治療期開始日眼圧値(mmHg)19.7±1.8(159)19.7±1.9(163)19.8±1.8(58)治療期投与4週眼圧値(mmHg)16.6±2.4*†(159)17.9±2.7*†(163)16.8±2.2(58)変化値(mmHg)?3.1±2.4†(159)?1.8±2.1†(163)?3.0±2.2(58)変化率(%)?15.7±11.4†(159)?9.2±10.7†(163)?14.9±10.0(58)7時間値治療期開始日眼圧値(mmHg)18.9±2.4(137)19.2±2.1(137)19.5±2.2(47)治療期投与4週眼圧値(mmHg)16.9±2.7*†(136)18.1±2.5*†(137)17.1±2.5(47)変化値(mmHg)?2.0±2.2†(136)?1.1±2.0†(137)?2.3±2.1(47)変化率(%)?10.1±10.9†(136)?5.4±10.1†(137)?11.8±10.1(47)0時間値と2時間値の平均値治療期開始日眼圧値(mmHg)19.8±1.7(159)20.0±1.7(163)20.0±1.7(58)治療期投与4週眼圧値(mmHg)17.4±2.2*†(159)18.2±2.5*†(163)17.4±2.1(58)変化値(mmHg)?2.5±2.0†(159)?1.8±1.8†(163)?2.7±1.9(58)変化率(%)?12.3±9.6†(159)?8.9±9.2†(163)?13.2±8.7(58)0時間値と2時間値と7時間値の平均値治療期開始日眼圧値(mmHg)19.5±1.8(137)19.7±1.7(137)20.0±1.8(47)治療期投与4週眼圧値(mmHg)17.2±2.2*†(136)18.2±2.4*†(137)17.4±2.1(47)変化値(mmHg)?2.4±1.7†(136)?1.5±1.6†(137)?2.5±1.8(47)変化率(%)?12.0±8.4†(136)?7.5±8.2†(137)?12.7±8.3(47)平均値±標準偏差(例数),TIM:チモロール*:p<0.0001(SJP-0135およびチモロールの眼圧値について,治療期開始日と治療期投与4週をpairedt検定で比較した.有意水準:両側5%)†:p<0.01(SJP-0135vsチモロールt検定,有意水準:両側5%)00時間値2時間値-1-2-3-4-5-6■SJP-0135チモロール■併用7時間値(159)(163)(58)(159)(163)(58)(136)(137)(47)平均値±標準偏差,*:p<0.01(SJP-0135vsチモロールt検定,有意水準:両側5%)図2治療期投与4週の眼圧変化値(例数表6治療期副作用の発現割合安全性解析対象集団例数SJP-0135(n=163)TIM(n=164)併用(n=58)副作用名注1件数例数(%)件数例数(%)件数例数(%)全体2218(11.0)77(4.3)55(8.6)眼障害2118(11.0)66(3.7)44(6.9)点状角膜炎44(2.5)33(1.8)11(1.7)眼刺激44(2.5)22(1.2)11(1.7)結膜充血44(2.5)11(0.6)22(3.4)角膜びらん22(1.2)00(0.0)00(0.0)眼部不快感22(1.2)00(0.0)00(0.0)結膜浮腫11(0.6)00(0.0)00(0.0)アレルギー性結膜炎11(0.6)00(0.0)00(0.0)羞明11(0.6)00(0.0)00(0.0)閃輝暗点11(0.6)00(0.0)00(0.0)眼そう痒症11(0.6)00(0.0)00(0.0)眼障害以外11(0.6)11(0.6)11(1.7)徐脈00(0.0)11(0.6)00(0.0)耳そう痒症11(0.6)00(0.0)00(0.0)傾眠00(0.0)00(0.0)11(1.7)TIM:チモロール.注1:副作用名はICH国際医薬用語集MedDRA/JVersion19.1のPT(基本語)を用いて分類した.学的に有意な変化を認めた(いずれもp<0.0001).測定時点に7時間値を含む7時間測定同意症例の結果についても,同様であった(いずれもp<0.0001).併用群の治療期投与4週における眼圧変化値(2時間値)の平均は,?3.0±2.2mmHgであり,SJP-0135群の眼圧下降効果と同程度であった.3.安全性本治験でSJP-0135群,チモロール群および併用群に発現した有害事象はそれぞれ39例(23.9%)54件,29例(17.7%)34件および11例(19.0%)12件で,各投与群の発現割合は同程度であった.このうち副作用は,それぞれ18例(11.0%)22件,7例(4.3%)7件,5例(8.6%)5件で,各投与群の発現割合は同程度であった.副作用の発現割合を表6に示した.おもな副作用は,SJP-0135群では点状角膜炎4例(2.5%),眼刺激4例(2.5%),結膜充血4例(2.5%),角膜びらん2例(1.2%)および眼部不快感2例(1.2%),チモロール群では点状角膜炎3例(1.8%)および眼刺激2例(1.2%),併用群では結膜充血2例(3.4%)であった.重度と判定された有害事象はいずれの投与群にもなく,中等度と判定された有害事象はSJP-0135群に3例(1.8%)3件,チモロール群に1例(0.6%)1件,併用群に2例(3.4%)2件であり,その他は軽度であった.有害事象による中止例,死亡例,重篤な副作用はなかった.バイタルサイン,身体的所見および安全性に関連する他の観察項目でも,臨床上問題となるような変動や所見に関連する副作用はなかった.III考按今回,SJP-0135の有効性を検証するにあたり,SJP-0135の有効成分の一つであり,わが国でプロスタグランジン関連薬とともに第一選択薬として広く使用されているチモロールを対照薬として用い,比較試験を行った.有効性に関しては,治療期投与4週における2時間値の眼圧変化値および眼圧変化率の比較の結果,SJP-0135群のチモロール群に対する統計学的に有意な差を認めた.また,測定時点に7時間値を含む日内眼圧下降効果の検討において,眼圧変化値および眼圧変化率はともに,SJP-0135群で治療期投与4週の2時間値,7時間値,0時間値と2時間値の平均および0時間値と2時間値と7時間値の平均のいずれにおいても統計学的に有意な差を認め,1日を通して良好な眼圧下降効果を確認した.さらに,眼圧変化値および眼圧変化率は全測定時点において,SJP-0135群と参照群とした併用群で同程度であった.これらのことから,SJP-0135はチモロール単剤から切り替えることで,追加の眼圧下降効果が得られること,ブリモニジンとチモロールの併用から切り替えることで薬剤数を減らしかつ同程度の眼圧下降効果が得られると考える.SJP-0135と同様にチモロールと第二選択薬の配合点眼剤として,ドルゾラミド塩酸塩/チモロールマレイン酸塩点眼液(コソプト配合点眼液)およびブリンゾラミド/チモロールマレイン酸塩配合懸濁性点眼液(アゾルガ配合懸濁性点眼液)がわが国では販売されている.いずれの製剤においてもSJP-0135と同様に観察期にチモロール点眼液(1日2回)を点眼した国内第III相二重遮閉比較試験の報告がある.これらの治験開始時および終了時の2時間値の眼圧値(平均値±標準偏差)は,ドルゾラミド塩酸塩/チモロールマレイン酸塩点眼液で20.58±2.07mmHg,18.04±2.79mmHg15),ブリンゾラミド/チモロールマレイン酸塩配合懸濁性点眼液20.7±2.5mmHg,17.5±3.3mmHg16,17)であった.一方,本治験では,SJP-0135群における治験開始時および治療期4週の2時間値の眼圧値(平均値±標準偏差)は19.7±1.8mmHg,16.6±2.4mmHgであった.このことから,SJP-0135は他の配合点眼薬と同様に,チモロール単剤からの切り替えにより良好な眼圧下降効果を示すことが期待される.安全性に関しては,有害事象の発現割合はSJP-0135群で23.9%,チモロール群で17.7%,併用群で19.0%に認め,各投与群の発現割合は同程度であった.副作用発現割合も3群間で同程度であり,いずれの群においても重篤な副作用は認めなかった.SJP-0135群で比較的発現割合の高かった副作用は点状角膜炎(2.5%)および眼刺激(2.5%)であったが,これらは0.1%ブリモニジン酒石酸塩点眼液(アイファガン点眼液0.1%)およびチモロール点眼液において既知の副作用であり,発現割合はチモロール群および併用群と同程度であった.このことから,4週間の使用ではSJP-0135の安全性はチモロール単剤および併用療法と同様に良好であると考える.以上の結果より,SJP-0135は原発開放隅角緑内障(広義)または高眼圧症の患者に対して,既承認薬であるチモロール点眼剤に比べ眼圧下降効果は有意に高く,その効果は1日を通じて良好であること,さらに安全性に問題のないことを確認した.このことから,b遮断薬単剤からSJP-0135に変更することで,薬剤数および点眼回数を変えることなく,より高い眼圧下降効果を得ることができると考えられる.また,すでにa2作動薬およびb遮断薬を併用している場合は,SJP-0135に変更することで併用治療と同程度の治療効果が得られることに加え,薬剤数および総点眼回数が減ることで患者のアドヒアランスが向上すると考えられる.SJP-0135はa2作動薬であるブリモニジン酒石酸塩を有効成分として含有するわが国初の配合点眼剤である.ブリモニジン酒石酸塩は眼圧下降効果に相応しない視野維持効果が報告されていることから11),SJP-0135でも同様の効果が期待される.以上より,SJP-0135は緑内障治療において有用性の高い配合点眼液であると考える.文献1)MorizaneY,MorimotoN,FujiwaraAetal:IncidenceandcausesofvisualimpairmentinJapan:the?rstnation-widecompleteenumerationsurveyofnewlycerti?edvisu-allyimpairedindividuals.JpnJOphthalmol63:26-33,20192)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン第4版.日眼会誌122:5-53,20183)清水美穂,今野伸介,片井麻貴ほか:札幌医科大学およびその関連病院における緑内障治療薬の実態調査.あたらしい眼科23:529-532,20064)新井ゆりあ,井上賢治,塩川美菜子ほか:多施設による緑内障患者の治療実態調査2016年版─正常眼圧緑内障と原発開放隅角緑内障.臨眼71:1541-1547,20175)石澤聡子,近藤雄司,山本哲也:一大学附属病院における緑内障治療薬選択の実態調査.臨眼60:1679-1684,20066)溝上志朗:点眼アドヒアランスに影響する要因とその対処法.薬局65:1835-1839,20147)ChraiSS,MakoidMC,EriksenSPetal:Dropsizeandinitialdosingfrequencyproblemsoftopicallyappliedoph-thalmicdrugs.JPharmSci6:333-338,19748)FukuchiT,WakaiK,SudaKetal:Incidence,severityandfactorsrelatedtodrug-inducedkeratoepitheliopathywithglaucomamedications.ClinOphthalmol4:203-209,20109)BurkeJ,SchwartzM:Preclinicalevaluationofbrimoni-dine.SurvOphthalmol41(Suppl1):S9-S18,199610)新家眞,山崎芳夫,杉山和久ほか:ブリモニジン点眼液の原発開放隅角緑内障および高眼圧症を対象とした臨床第III相試験─チモロールとの比較試験またはプロスタグランジン関連薬併用下におけるプラセボとの比較試験.日眼会誌116:955-966,201211)KrupinT,LiebmannJM,Green?eldDSetal:Arandom-izedtrialofbrimonidineversustimololinpreservingvisualfunction:resultsfromthelow-pressureglaucomatreat-mentstudy.AmJOphthalmol151:671-681,201112)LarssonLI:Aqueoushumor?owinnormalhumaneyestreatedwithbrimonidineandtimolol,aloneandincombi-nation.ArchOphthalmol119:492-495,200113)CoakesRL,BrubakerRF:Themechanismoftimololinloweringintraocularpressure:Inthenormaleye.ArchOphthalmol96:2045-2048,197814)2014年4月?2018年3月における縮瞳薬及び緑内障治療剤:局所用の使用状況.株式会社JMDC15)北澤克明,新家眞;MK-0507A研究会:緑内障および高眼圧症患者を対象とした1%ドルゾラミド塩酸塩/0.5%チモロールマレイン酸塩の配合点眼液(MK-0507A)の第III相二重盲検比較試験.日眼会誌115:495-507,201116)YoshikawaK,KozakiJ,MaedaH:E?cacyandsafetyofbrinzolamide/timolol?xedcombinationcomparedwithtimololinJapanesepatientswithopen-angleglaucomaorocularhypertension.ClinOphthalmol8:389-399,201417)アゾルガ配合懸濁性点眼液添付文書.ノバルティスファーマ株式会社,2019◆**

ブリモニジン点眼液追加投与による眼圧下降効果の検討

2020年2月29日 土曜日

《原著》あたらしい眼科37(2):223?225,2020cブリモニジン点眼液追加投与による眼圧下降効果の検討神谷隆行*1川井基史*1,2中林征吾*1善岡尊文*1吉田晃敏*1*1旭川医科大学眼科学教室*2あさひかわ眼科クリニックTheE?cacyofBrimonidineOphthalmicSolutionasanAdjunctiveTherapyforGlaucomaTakayukiKamiya1),MotofumiKawai1,2),SeigoNakabayashi1),TakafumiYoshioka1)andAkitoshiYoshida1)1)DepartmentofOphthalmology,AsahikawaMedicalUniversity,2)Asahikawagankaclinicはじめに0.1%ブリモニジン酒石酸塩点眼液(以下,ブリモニジン点眼液)はa2刺激薬の緑内障点眼薬である.その作用機序はぶどう膜強膜流出路からの房水流出促進と房水産生の抑制である.緑内障の唯一の治療法は眼圧下降であり,ブリモニジン点眼液を追加処方することで治療の選択肢が増える.今回,筆者らは旭川医科大学眼科において,既存の緑内障点眼薬で治療中であり眼圧下降効果が不十分でブリモニジン点眼液を追加投与した症例について,眼圧下降効果を診療録より後ろ向きに検討した.I対象および方法2012年11月?2017年4月に旭川医科大学病院に通院中で0.1%ブリモニジン点眼液を追加処方された97例153眼を対象とした.それぞれの患者について,ブリモニジン点眼液追加投与開始直前の受診3回分の平均眼圧値と追加投与開始直後の受診3回分の平均眼圧値を後ろ向きに調査し,点眼スコア別に追加前と追加後の眼圧下降値,下降率を比較した.配合剤点眼薬は2剤として解析した.なお,本研究は旭川医科大学倫理委員会で承認された.また,解析方法として,ブリモニジン点眼液追加投与開始前後の眼圧値の比較にはpairedt-testを用い,眼圧下降値の比較にはKruskal-〔別刷請求先〕神谷隆行:〒078-8510北海道旭川市緑が丘東2条1丁目1-1旭川医科大学眼科学教室Reprintrequests:TakayukiKamiya,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,AsahikawaMedicalUniversity,1-1Midorigaokahigashi2jo,Asahikawa,Hokkaido078-8510,JAPANWallistestを用い,いずれもp<0.05を有意水準とした.II結果表1に患者背景を示した.対象は97例153眼(男性59例,女性38例),年齢は72.1±12.1歳(平均値±標準偏差)であった.表2にブリモニジン点眼液追加投与開始前の点眼スコア別処方パターンを示した.内訳は1剤(ブリモニジン点眼液が2剤目として投与されたもの)が17眼(11.1%),2剤(ブリモニジン点眼液が3剤目として投与されたもの)が37眼(24.2%),3剤(ブリモニジン点眼液が4剤目として投与されたもの)が77眼(50.3%),4剤(ブリモニジン点眼液が5剤目として投与されたもの)が22眼(14.4%),追加前平均点眼スコアは2.7±0.86剤であった.病型は原発開放隅角緑内障(primaryopen-angleglaucoma:POAG)27眼,正常眼圧緑内障119眼,落屑緑内障11眼であった.患者全体として追加投与前眼圧は14.3±3.7mmHg,追加投与後眼圧は13.0±2.8mmHg,点眼スコア別では1剤が追加前15.7±3.3mmHg,追加後13.5±2.5mmHg,2剤が追加前13.3±3.3mmHg,追加後12.3±2.9mmHg,3剤が追加前14.0±2.9mmHg,追加後12.8±2.6mmHg,4剤が追加前16.0±6.0mmHg,追加後14.0±3.2mmHgであった.いずれも有意な眼圧下降を認めたが,スコア間では眼圧下降値に有意な差を認めなかった(p=0.12,Kruskal-Wallistset)(表3)また,図1にブリモニジン点眼液追加前眼圧と眼圧下降値の関係を示した.追加前眼圧と眼圧下降値は正の相関を認めた(p<0.001,r=0.6836,Pearson’scorrelationcoe?-cienttest).10%以上の眼圧下降を認めた症例は65眼(42.5表1患者背景症例数(男:女)97例153眼(59:38)年齢72.1±12.1歳追加前の点眼スコア2.7±0.86剤追加前眼圧14.3±3.7mmHg平均±標準偏差.%),20%以上の眼圧下降を認めた症例は27眼(17.6%),30%以上の眼圧下降を認めた症例は6眼(3.9%)であった.さらに,ブリモニジン点眼液追加前眼圧が15mmHg以下の症例(98眼)では79眼(80.6%)で眼圧下降効果を示した.III考按開放隅角緑内障では,眼圧下降が唯一の治療であり,緑内障点眼により治療を開始することが多いが,眼圧下降が不十分な場合や視野障害が進行する場合,点眼の追加や手術を検討する.今回,緑内障患者に対しブリモニジン点眼液を追加投与することで,有意な眼圧下降が得られることが示された.本研究での平均眼圧下降幅は1.4±2.4mmHg,平均眼圧下降率は7.9±13.3%であった.この値は既報と比較し同程度であり,当科においてもブリモニジン点眼液の追加投与による眼圧下降効果が確認できた.1mmHgの眼圧下降により視野障害進行のリスクが約10%減少することも知られており,ブリモニジン点眼液の追加処方により治療の選択肢が増えると考えられる.また,併用薬剤数の影響を検討するた表2追加前の点眼スコア別処方パターン点眼スコアパターン症例数1剤PG10b4CAI32剤PG+b12PG+CAI11b+CAI11PG+a12CAI+a113剤PG+b+CAI774剤PG+b+CAI+ROCK8PG+b+CAI+a114PG:プロスタグランジン関連薬,b:b遮断薬,CAI:炭酸脱水素酵素阻害薬,a1:a1遮断薬(ブナゾシン),ROCK:ROCK阻害薬(リパスジル).表3眼圧下降全体追加前の点眼スコア1剤2剤3剤4剤N15317377722追加前(mmHg)14.3±3.715.7±3.313.3±3.314.0±2.916.0±6.0追加後(mmHg)13.0±2.813.5±2.512.3±2.912.8±2.614.0±3.2差(mmHg)?1.4±2.4?2.2±1.7?0.9±1.3?1.2±2.1?2.0±4.3変化率(%)?7.9±13.3?12.9±10.0?6.4±9.9?7.7±12.8?7.7±20.3p値<0.001<0.001<0.001<0.0010.045変化率:各変化率の相加平均.め,ブリモニジン点眼液の追加投与前の点眼スコア別に調査してみたところ,今回2?4剤の併用薬剤があり,いずれの点眼スコアでも眼圧下降を示し,点眼スコアによる有意な差はなかった.これまでの多剤併用療法に対するブリモニジン点眼液追加投与による眼圧下降率は2剤目としての追加投与では11.8?18.2%1,3,4),3剤以上の多剤併用症例への追加投与では6.9?14.3%5,6)との報告がされているが,当科におけるブリモニジン点眼液追加投与による眼圧下降効果は既報と比較し,同程度と考えられる.緑内障点眼薬ではベースライン眼圧が高いほど,眼圧下降効果が高い傾向にあるが,今回の研究においてもブリモニジン点眼液追加前眼圧と眼圧下降値に有意な正の相関を認め,追加前眼圧が高いほど眼圧下降値も大きいことが示された.追加前眼圧が15mmHg以下という低い症例に限った場合にも80.6%の症例が眼圧下降を示しており,15mmHg以下の比較的眼圧が低い多剤併用中の症例においてもブリモニジン点眼液は有効であると考えられる.20100-10Y=0.4152x?4.618r=0.6836p<0.001眼圧下降N追加前眼圧10%以上下降65眼(42.5%)16.0±4.420%以上下降27眼(17.6%)17.2±5.130%以上下降6眼(3.9%)21.1±7.9図1追加前眼圧と眼圧下降幅の相関IV結論ブリモニジン点眼液は多剤併用例に対しても併用薬の数にかかわらず眼圧下降効果があり,追加前眼圧が15mmHg以下という低い症例においても有効であった.文献1)新家眞,山崎芳夫,杉山和久ほか:ブリモニジン点眼液の原発開放隅角緑内障または高眼圧症を対象とした長期投与試験.あたらしい眼科29:679-686,20122)LiuCJ,KoYC,ChengCYetal:E?ectoflatanoprost0.005%andbrimonidinetartrate0.2%onpulsatileocularblood?owinnormaltensionglaucoma.BrJOphthalmol86:1236-1239,20023)山本智恵子,井上賢治,富田剛司:ブリモニジン酒石酸塩点眼液のプロスタグランジン関連点眼液への追加効果.あたらしい眼科31:899-902,20144)林泰博,林福子:プロスタグランジン関連薬へのブリモニジン点眼液追加後1年間における有効性と安全性.あたらしい眼科69:499-503,20155)中島侑至,井上賢治,富田剛司:ブリモニジン酒石酸塩点眼液の追加投与による眼圧下降効果と安全性.臨眼68:967-971,20146)森山侑子,田辺晶代,中山奈緒美ほか:多剤併用中の原発開放隅角緑内障に対するブリモニジン酒石酸塩点眼液追加投与の短期成績.臨眼68:1749-1753,2014◆**

ブリモニジン点眼薬からリパスジル点眼薬への変更

2017年7月31日 月曜日

《第27回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科34(7):1031.1034,2017cブリモニジン点眼薬からリパスジル点眼薬への変更井上賢治*1塩川美菜子*1比嘉利沙子*1永井瑞希*1石田恭子*2富田剛司*2*1井上眼科病院*2東邦大学医療センター大橋病院眼科E.cacyandSafetyofSwitchingfromBrimonidinetoRipasudilKenjiInoue1),MinakoShiokawa1),RisakoHiga1),MizukiNagai1),KyokoIshida2)andGojiTomita2)1)InouyeEyeHospital,2)DepartmentofOphthalmology,TohoUniversityOhashiMedicalCenter目的:ブリモニジン点眼薬からリパスジル点眼薬に変更した症例の眼圧下降効果と安全性を後ろ向きに検討する.対象および方法:ブリモニジン点眼薬を中止してwashout期間なしでリパスジル点眼薬に変更した原発開放隅角緑内障38例38眼を対象とした.変更理由から眼圧下降不十分群と副作用出現群に分けて,変更前と変更1.2,3.4カ月後の眼圧を調査し,比較した.また,変更後の副作用,中止例を調査した.結果:眼圧は眼圧下降不十分群(19例),副作用出現群(19例)ともに,変更後に有意に下降した(p<0.05).眼圧下降幅と眼圧下降率は眼圧下降不十分群1.1.1.4mmHgと6.1.7.7%,副作用出現群1.7.2.3mmHgと8.4.11.8%だった.変更後の副作用は4例(10.5%),中止例は3例(7.9%)で,鼻出血,咽頭痛,レーザー治療施行各1例だった.結論:ブリモニジン点眼薬投与で眼圧下降が不十分であった患者および副作用が出現した患者に対しては,リパスジル点眼薬への変更が眼圧下降効果と安全性の面から有用である.Purpose:Weretrospectivelyinvestigatedthesafetyande.cacyofswitchingfrombrimonidinetoripasudil.Methods:Thirty-eighteyeswithprimaryopen-angleglaucomathatdiscontinuedbrimonidineandimmediatelybeganusingripasudilwereincluded.Intraocularpressure(IOP)at1-2monthsand3-4monthsafterswitchingwascomparedwithbaselineIOP.Patientsweredividedintotwogroupsbasedonreasonsforswitching:insu.cientIOPreductionoradversereactions.Adversereactionsandpatientswhodroppedoutofthestudywerealsoexamined.Results:Atotalof19patientshadinsu.cientIOPreductionand19patientsexperiencedadversereactions.IOPwassigni.cantlylowerinallpatientsafterswitching(p<0.05).Fourpatients(10.5%)hadadversereactionsand3patients(7.9%)droppedoutofthestudybecauseofnasalbleeding,sorethroatorlasersurgery.Conclusion:Incaseswithinsu.cientIOPreductionoradversereactions,switchingfrombrimonidinetoripasudilmaybeuseful.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(7):1031.1034,2017〕Keywords:ブリモニジン,リパスジル,眼圧,副作用,変更.brimonidine,ripasudil,intraocularpressure,ad-versereactions,switching.はじめに線維柱帯-Schlemm管を介する主経路からの房水流出促進作用を有する1)リパスジル点眼薬が使用可能となった.リパスジル点眼薬の治験では,単剤投与,プロスタグランジン関連点眼薬,b遮断点眼薬,プロスタグランジン/チモロール配合点眼薬への追加投与が行われ,良好な眼圧下降効果と安全性が示されている2.6).また,臨床現場においても多剤併用症例でのリパスジル点眼薬の追加投与による良好な眼圧下降効果と安全性が報告されている7.10).緑内障治療では点眼薬を使用しても眼圧下降が不十分な(目標眼圧に達しない)症例では他の点眼薬の追加,あるいは他の点眼薬への変更が推奨されている.また,点眼薬で副作用が出現した症例では,その点眼薬を中止し,他の点眼薬へ変更する.筆者らはリパスジル点眼薬の処方パターンと患者背景を調査し報告した11).リパスジル点眼薬が他の点眼薬から変更された21症例の前治療薬は,ブリモニジン点眼薬〔別刷請求先〕井上賢治:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台4-3井上眼科病院Reprintrequests:KenjiInoue,M.D.,Ph.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPAN0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(115)103110例(47.6%)が最多だった.リパスジル点眼薬を他の点眼薬から変更した際の眼圧下降効果,安全性の報告は過去にない.そこで今回,ブリモニジン点眼薬からリパスジル点眼薬に変更した症例の眼圧下降効果と安全性を後ろ向きに検討した.I対象および方法2014年12月.2016年3月に井上眼科病院に通院中の原発開放隅角緑内障患者で,ブリモニジン点眼薬がリパスジル点眼薬へ変更となった38例38眼を対象とした.男性15例,女性23例,年齢は66.7±11.9歳(平均値±標準偏差),42.87歳だった.変更理由は眼圧下降不十分群19例,副作用出現群19例だった.副作用の内訳はアレルギー性結膜炎11例,結膜充血3例,眼痛3例,傾眠2例だった.変更前使用点眼薬数は3.4±0.9剤だった.1剤が1例(2.6%),2剤が5例(13.2%),3剤が12例(31.6%),4剤が18例(47.4%),5剤が2例(5.3%)だった(表1).配合点眼薬は2剤,アセタゾラミド内服は錠数にかかわらず1剤として解析した.変更前眼圧は17.1±3.3mmHg,11.28mmHgだった.変更前のHumphrey視野検査プログラム中心30-2SITAStan-dardのmeandeviation値は.9.66±6.37dB,.26.92..1.97dBだった.ブリモニジン点眼薬の使用期間は8.2±8.1カ月間,1.32カ月間だった.ブリモニジン点眼薬を中止して,washout期間なしでリパスジル点眼薬(0.4%グラナテックR,1日2回点眼)に変更した.変更前と変更1.2カ月後,3.4カ月後の眼圧を調査し,比較した.変更1カ月後あるいは,3カ月後の眼圧を測定している症例ではその値を,変更1カ月後あるいは,3カ月後の眼圧を測定していない症例では各々変更2カ月後あるいは,4カ月後の眼圧を解析に用いた.変更後の眼圧下降幅,眼圧下降率を算出した.変更前と変表1変更前使用点眼薬使用薬剤数使用薬剤症例数1剤ブリモニジン1例2剤ブリモニジン+PG5例3剤ブリモニジン+PG/b配合剤4例ブリモニジン+PG+b3例ブリモニジン+PG+CAI3例ブリモニジン+b+CAI1例ブリモニジン+PG+/CAI/b配合剤1例4剤ブリモニジン+PG+CAI/b配合剤14例ブリモニジン+CAI点眼+PG/b配合剤1例ブリモニジン+CAI内服+CAI/b配合剤1例ブリモニジン+PG+b+a11例ブリモニジン+a1+PG/b配合剤1例5剤ブリモニジン+PG+CAI内服+CAI/b配合剤1例ブリモニジン+CAI点眼+a1+PG/b配合剤1例更1.2カ月後,3.4カ月後の眼圧を比較するためにスキャッタープロット/散布図を用いて解析した.変更後の眼圧下降幅を2mmHg以上下降,±1mmHg以内,2mmHg以上上昇の3群に分けた.変更理由をもとに対象を眼圧下降不十分群と副作用出現群の2群に分け,各々で変更前後の眼圧を比較した.変更後の副作用,中止例を調査した.両眼該当症例は右眼,片眼該当症例は患眼を解析に用いた.変更前後の眼圧の比較にはANOVA,Bonferroni/Dunn検定を用いた.有意水準はp<0.05とした.II結果全症例(38例)の眼圧は変更前17.1±3.3mmHg,変更1.2カ月後15.7±2.7mmHg,変更3.4カ月後15.6±3.3mmHgで,変更後に有意に下降した(p<0.0001).眼圧下降幅は変更1.2カ月後は1.2±1.7mmHgで,内訳は2mmHg以上下降14例(37.8%),±1mmHg以内21例(56.8%),2mmHg以上上昇2例(5.4%),変更3.4カ月後は1.8±2.1mmHgで,内訳は2mmHg以上下降15例(53.5%),±1mmHg以内12例(42.9%),2mmHg以上上昇1例(3.6%)だった(図1).眼圧下降不十分群(19例)の眼圧は変更前18.2±3.1mmHg,変更1.2カ月後16.5±2.4mmHg,変更3.4カ月後16.7±3.4mmHgで,変更後に有意に下降した(p<0.01).変更前と変更1.2カ月後,3.4カ月後の眼圧分布を図2に示す.眼圧が変更1.2カ月後に変更前と比べて上昇したのは4例(10.7%),不変だったのは8例(21.7%),下降したのは25例(67.6%)だった.眼圧が変更3.4カ月後に変更前に比べて上昇したのは4例(14.3%),不変だったのは4例(14.3%),下降したのは20例(71.4%)だった.眼圧下降幅は変更1.2カ月後は1.4±2.1mmHgで,内訳は2mmHg以上下降9例(50.0%),±1mmHg以内7例(38.9%),2mmHg以上上昇2例(11.1%),変更3.4カ月後は2.2±2.6mmHgで,内訳は2mmHg以上下降8例(66.7%),±1mmHg以変更1~2カ月後変更3~4カ月後2mmHg以上上昇,2mmHg以上上昇,2例,5.4%1例,3.6%図1眼圧下降幅(全症例)1032あたらしい眼科Vol.34,No.7,2017(116)変更前と変更1~2カ月後変更前と変更3~4カ月後変更1~2カ月後眼圧(mmHg)0051015202530変更前眼圧(mmHg)図2変更前後の眼圧変更1~2カ月後変更3~4カ月後変更1~2カ月後変更3~4カ月後2mmHg以上上昇,2mmHg以上上昇,0051015202530変更前眼圧(mmHg)2例,11.1%1例,8.3%図3眼圧下降幅(眼圧下降不十分群)内3例(25.0%),2mmHg以上上昇1例(8.3%)だった(図3).眼圧下降率は変更1.2カ月後6.8±12.1%,変更3.4カ月後11.0±12.7%だった.副作用出現群(19例)の眼圧は変更前16.1±3.2mmHg,変更1.2カ月後15.0±2.8mmHg,変更3.4カ月後14.9±3.0mmHgで,変更後は有意に下降した(p<0.05).眼圧下降幅は変更1.2カ月後は1.1±1.3mmHgで,内訳は2mmHg以上下降5例(26.3%),±1mmHg以内14例(73.7%),変更3.4カ月後は1.4±1.7mmHgで,内訳は2mmHg以上下降7例(43.8%),±1mmHg以内9例(56.2%)だった(図4).眼圧下降率は変更1.2カ月後6.1±7.6%,変更3.4カ月後8.1±10.4%だった.変更前にブリモニジン点眼薬により出現していた副作用は変更後に全症例で軽快あるいは消失した.変更後の副作用は4例(10.5%)で出現した.内訳は変更1カ月後に掻痒感,変更1カ月後に鼻出血,変更2カ月後に咽頭痛,変更3カ月後にアレルギー性結膜炎が各1例だった.変更後の中止例は3例(7.9%)だった.内訳は変更1カ月後に鼻出血,変更2カ月後に咽頭痛,変更3カ月後にレー図4眼圧下降幅(副作用出現群)ザー治療(選択的レーザー線維柱帯形成術)施行が各1例だった.III考按ブリモニジン点眼薬の眼圧下降率は単剤投与では20.9.23.6%12),プロスタグランジン関連点眼薬への2剤目としての追加投与では11.8.18.2%12.14),3剤以上の多剤併用症例への追加投与では6.9.14.3%15,16)と報告されている.一方,リパスジル点眼薬の眼圧下降率は単剤投与では7.5.29.0%2.5),プロスタグランジン関連点眼薬への2剤目としての追加投与では8.0.18.4%5,6),3剤以上の多剤併用症例への追加投与では15.5.21.5%7.10)と報告されている.緑内障病型,症例数,薬剤投与期間,投与前眼圧などが異なるので両剤を単純には比較できないが,両剤の眼圧下降効果はほぼ同等と考えられる.今回ブリモニジン点眼薬からリパスジル点眼薬への変更で眼圧下降不十分群,副作用出現群ともに眼圧が有意に下降した.変更前眼圧が高い症例のほうが眼圧下降が良好な場合が多いが,今回は図2に示すように,変更前眼圧の高低にかかわらず,良好な眼圧下降を示した.その理由として点眼薬の変更によりアドヒアランスが向上した,副作用が軽減したためにアドヒアランスが向上した,ブリモニジ(117)あたらしい眼科Vol.34,No.7,20171033ン点眼薬のノンレスポンダーの症例だった,あるいはリパスジル点眼薬の眼圧下降の作用機序がブリモニジン点眼薬と異なることなどが考えらえる.しかし,今回は前治療薬であるブリモニジン点眼薬の点眼アドヒアランスや眼圧下降効果は後ろ向き研究のため不明である.さらに眼圧測定時間は,患者ごとにはリパスジル点眼薬変更前後で同時刻としたが,リパスジル点眼薬の投与時間は患者ごとに一定ではなく,眼圧値がピーク値なのかトラフ値なのかは不明である.今後,前向き研究が必要と考える.リパスジル点眼薬の副作用は10.5%,中止例は7.9%で出現した.リパスジル点眼薬の治験では副作用として結膜充血,眼瞼炎,アレルギー性結膜炎,眼刺激感,結膜炎,掻痒感,角膜炎が出現し,また,中止例は0.35.8%だった2.6).副作用のうち,とくに結膜充血は55.9.96.4%と高頻度に出現した1,3.5)が,今回は出現しなかった.結膜充血は点眼後に一過性に出現するために診察時には出現していなかった,あるいは結膜充血が点眼後にほとんどの症例で一過性に出現すると説明したために患者が気にしなかった可能性がある.また,出現した副作用のアレルギー性結膜炎,掻痒感は治験や臨床報告にもみられたが,鼻出血と咽頭痛は報告がなく,リパスジル点眼薬との因果関係は不明である.しかし,両症例ともにリパスジル点眼薬の継続使用を望まず,点眼中止となり,その後症状は消失した.ブリモニジン点眼薬による副作用(アレルギー性結膜炎,結膜充血,眼痛,傾眠)はブリモニジン点眼薬中止後に全例で軽快,あるいは消失した.副作用出現症例ではその原因となる点眼薬を中止することが基本であり今回も効果的だった.また,リパスジル点眼薬使用後にアレルギー性結膜炎が出現した1例は,眼圧下降効果不十分群だった.両点眼薬でのアレルギー性結膜炎の発症機序は異なると考えられる.しかし,リパスジル点眼薬によるアレルギー性結膜炎は通常数カ月間使用後に出現するので,今回の3.4カ月間の短期の経過観察期間では過小評価された可能性がある.ブリモニジン点眼薬を使用中で眼圧下降不十分症例やブリモニジン点眼薬による副作用出現群では,リパスジル点眼薬への変更が眼圧下降効果と安全性の面から有用である.しかし今回は3.4カ月間という短期の経過観察期間であったので,今後も長期的な経過観察が必要である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)HonjoM,TaniharaH,InataniMetal:E.ectsofRho-associatedproteinkinaseinhibitorY-27632onintraocularpressureandout.owfacility.InvestOphthalmolVisSci42:137-144,20012)TaniharaH,InoueT,YamamotoTetal:Phase1clinicaltrialsofaselectiveRhokinaseinhibitor,K-115.JAMAOphthalmol131:1288-1295,20133)TaniharaH,InoueT,YamamotoTetal:Phase2ran-domizedclinicalstudyofaRhokinaseinhibitor,K-115,inprimaryopen-angleglaucomaandocularhypertension.AmJOphthalmol156:731-736,20134)TaniharaH,InoueT,YamamotoTetal:Intra-ocularpressure-loweringe.ectsofaRhokinaseinhibitor,ripa-sudil(K-115),over24hoursinprimaryopen-angleglau-comaandocularhypertension:arandomized,open-label,crossoverstudy.ActaOphthalmol93:e254-e260,20155)TaniharaH,InoueT,YamamotoTetal:One-yearclini-calevaluationof0.4%ripasudil(K-115)inpatientswithopen-angleglaucomaandocularhypertension.ActaOph-thalmol94:e26-e34,20166)TaniharaH,InoueT,YamamotoTetal:Additiveintra-ocularpressure-loweringe.ectsoftheRhokinaseinhibi-torripasudil(K-115)combinedwithtimololorlatano-prost:Areportof2randomizedclinicaltrials.JAMAOphthalmol133:755-761,20137)中谷雄介,杉山和久:プロスタグランジン薬,bブロッカー,炭酸脱水酵素阻害薬,ブリモニジンの4剤併用でコントロール不十分な緑内障症例に対するリパスジル点眼液の追加処方.あたらしい眼科33:1063-1065,20168)吉谷栄人,坂田礼,沼賀二郎ほか:緑内障患者に対するリパスジル塩酸塩水和物点眼液の眼圧下降効果と安全性の検討.あたらしい眼科33:1187-1190,20169)SatoS,HirookaK,NittaEetal:Additiveintraocularpressureloweringe.ectsoftheRhokinaseinhibitor,ripa-sudilinglaucomapatientsnotabletoobtainadequatecontrolafterothermaximaltoleratedmedicaltherapy.AdvTher33:1628-1634,201610)InazakiH,KobayashiS,AnzaiYetal:E.cacyoftheadditionaluseofripasudil,aRho-kinaseinhibitor,inpatientswithglaucomainadequatelycontrolledundermaximummedicaltherapy.JGlaucoma26:96-100,201711)井上賢治,瀬戸川章,石田恭子ほか:リパスジル点眼薬の処方パターンと患者背景および眼圧下降効果.あたらしい眼科33:1774-1778,201612)新家眞,山崎芳夫,杉山和久ほか:ブリモニジン点眼液の原発開放隅角緑内障または高眼圧症を対象とした長期投与試験.あたらしい眼科29:679-686,201213)山本智恵子,井上賢治,富田剛司:ブリモニジン酒石酸塩点眼薬のプロスタグランジン関連点眼薬への追加効果.あたらしい眼科31:899-902,201414)林泰博,林福子:プロスタグランジン関連薬へのブリモニジン点眼液追加後1年間における有効性と安全性.あたらしい眼科69:499-503,201515)中島佑至,井上賢治,富田剛司:ブリモニジン酒石酸塩点眼薬の追加投与による眼圧下降効果と安全性.臨眼68:967-971,201416)森山侑子,田辺晶代,中山奈緒美ほか:多剤併用中の原発開放隅角緑内障に対するブリモニジン酒石酸塩点眼液追加投与の短期成績.臨眼68:1749-1753,20141034あたらしい眼科Vol.34,No.7,2017(118)

0.1%ブリモニジン酒石酸塩点眼液追加投与後の眼圧下降効果と副作用

2016年5月31日 火曜日

《原著》あたらしい眼科33(5):729〜734,2016©0.1%ブリモニジン酒石酸塩点眼液追加投与後の眼圧下降効果と副作用宮本純輔徳田直人三井一央宗正泰成北岡康史高木均聖マリアンナ医科大学眼科学教室Efficacyof0.1%BrimonidineTartrateOphthalmicSolutiononIntraocularPressureReductionandSideEffectJunsukeMiyamoto,NaotoTokuda,KazuhisaMitsui,YasunariMunemasa,YasushiKitaokaandHitoshiTakagiDepartmentofOphthalmology,StMariannaUniversitySchoolofMedicineプロスタグランジン(PG)関連薬使用中の患者に0.1%ブリモニジン酒石酸塩点眼液(以下,ブリモニジン)を追加し,眼圧下降効果とその持続性について検討した.PG関連薬を含む抗緑内障点眼薬使用中の緑内障患者のうち,ブリモニジン追加後12カ月以上経過観察可能であった33例50眼(平均年齢61.1±17.4歳)に対して,ブリモニジン追加前後の眼圧と眼圧下降率の推移,ブリモニジン追加後の眼圧下降効果の維持について生存分析により検討した.ブリモニジン追加前眼圧16.0±4.0mmHgが追加後12カ月で14.6±3.2mmHgと有意な眼圧下降を認めた.眼圧下降率はブリモニジン追加後12カ月で平均8.7%であった.ブリモニジン追加後12カ月の累積生存率は,単剤群46.7%,2剤併用群55.0%,3剤併用群46.7%であった.PG関連薬使用中の症例に対するブリモニジン追加はさらなる眼圧下降効果が得られる.Weexaminedtheeffectof0.1%brimonidinetartrateophthalmicsolution(brimonidine)onintraocularpressure(IOP)reductioninpatientsusingprostaglandin(PG)analogs.ThepersistenceofIOPreductionwasalsoexamined.Thisstudyincluded33glaucomapatients(50eyes,meanage=61.1±17.4years)whowereusingaPGanalogoranotherophthalmicantiglaucomaagent.Allsubjectswerefollowedforatleast12monthsaftertheadditionofbrimonidinetotheirmedicationregimen.Usingsurvivalanalysis,weexaminedIOPchangewithbrimonidineuse,IOPreductionrateandIOPreductionmaintenancefollowingbrimonidineaddition.IOPbeforebrimonidineuse(16.0±4.0mmHg)wassignificantlyhigherthanafterbrimonidineuse(14.6±3.2mmHg).MeanIOPreductionratewas8.7%after12monthsofbrimonidineuse.TheseresultsdemonstratethataddingbrimonidinecanfurtherreduceIOPinglaucomapatientsalreadyusingPGanalogs.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(5):729〜734,2016〕Keywords:緑内障,ブリモニジン,プロスタグランジン関連薬.glaucoma,brimonidine,prostaglandinanalogs.はじめにブリモニジン酒石酸塩点眼液(以下,ブリモニジン)はアドレナリンa2受容体作動薬であり,選択的にアドレナリンa2受容体を刺激することで房水産生の抑制とぶどう膜強膜流出路からの房水流出促進の2つの機序により眼圧下降効果を発揮する抗緑内障点眼薬である1,2).ブリモニジンの眼圧下降効果については交感神経b遮断薬(以下,b遮断薬)であるマレイン酸チモロール(以下,チモロール)と比較するとやや劣るものの,プロスタグランジン(prostaglandin:PG)関連薬併用下におけるブリモニジンの追加投与は有意な眼圧下降を認めたと報告されている3).ブリモニジン単剤の有効性も示されてはいるものの4),これらの報告を含めて臨床におけるブリモニジンの使用方法を振り返ると,ブリモニジンは作用機序が異なる既存の抗緑内障点眼薬との併用が選択しやすい印象が強い5,6).また,ブリモニジンを点眼した群とチモロールを点眼した群とでは,眼圧下降効果は同程度であったものの,視野異常の進行速度はブリモニジンのほうが緩やかであったという報告もあり7),ブリモニジンは臨床における神経保護効果についても期待されている.これらの報告を参考に,聖マリアンナ医科大学(以下,当院)緑内障外来におけるブリモニジンの使用法は,使用中のPG関連薬が有効であると思われる患者に,さらなる眼圧下降効果を期待してブリモニジンを追加投与することが多くなっている.実際,これにより眼圧下降が得られることは多いが,慢性疾患である緑内障においては,その状態がいつまで持続できるかが大きな問題となる.そこで今回筆者らは,PG関連薬使用中の症例に対して,ブリモニジンの追加投与後の眼圧下降効果とその持続性,また副作用についても検討したので報告する.I対象および方法当院緑内障外来にて6カ月以上PG関連薬を含む抗緑内障点眼薬使用中の緑内障患者のうち,ブリモニジンを追加投与し,その後12カ月以上経過観察可能であった33例50眼(平均年齢61.1±17.4歳)を対象とした.対象の緑内障病型は,原発開放隅角緑内障(primaryopenangleglaucoma:POAG)27眼,正常眼圧緑内障(normaltensionglaucoma:NTG)14眼,原発閉塞隅角緑内障(primarycloserangleglaucoma:PACG)5眼,続発緑内障(secondaryglaucoma:SG)4眼であった.対象のブリモニジン追加前の抗緑内障点眼薬については,PG関連薬単独が15眼(以下,単独群),PG関連薬とb遮断薬の併用が20眼(以下,2剤併用群),PG関連薬とb遮断薬と炭酸脱水酵素阻害薬(carbonicanhydraseinhibitor:CAI)の併用が15眼(以下,3剤併用群)であった.なお,全症例のうち,8例13眼(26.0%)において緑内障配合点眼薬が使用されていた.2剤併用群にはラタノプロストとチモロールマレイン酸塩の配合点眼液(ザラカム®配合点眼液)が4例8眼,3剤併用群にはドルゾラミド塩酸塩とチモロールマレイン酸塩の配合点眼液(コソプト®配合点眼液)とPG関連薬の組み合わせが4例5眼存在した.ブリモニジン追加前後の眼圧と眼圧下降率の推移については,まず全症例で検討し,その後併用薬数別にも検討した.ブリモニジン追加後の眼圧下降効果の維持については,併用薬数別にKaplan-Meier生存分析法を用いて検討した.死亡の定義は,ブリモニジン追加後,ブリモニジン追加前眼圧を上回る時点が2回連続記録された時点,副作用などの理由でブリモニジンを中止した時点,緑内障手術を施行した時点とし,Logrank-testにより検定を行った.また,ブリモニジン追加後の副作用の出現頻度,種類についても検討した.II結果図1にブリモニジン追加前後の眼圧推移を示す.ブリモニジン追加前の眼圧は平均16.0±4.0mmHgであり,ブリモニジン追加後1カ月より,ブリモニジン追加後7カ月,8カ月の時点を除くすべての経過観察時点においてブリモニジン追加前よりも有意な眼圧下降を示した.図2にブリモニジン追加後の眼圧下降率の推移を示す.ブリモニジン追加後1カ月,2カ月の眼圧下降率はそれぞれ10.8±10.1%,12.3±16.6%であり,その後は10%未満で推移した.図3に併用薬数別のブリモニジン追加前後の眼圧推移を示す.ブリモニジン追加前の眼圧は,単剤群15.2±2.4mmHg,2剤併用群16.1±5.1mmHg,3剤併用群16.7±3.5mmHgであり,3群間に有意差を認めなかった(Dunn’stest).単剤群,2剤併用群ともにブリモニジン追加後2カ月まではブリモニジン追加前に比し有意な眼圧下降を維持したが,ブリモニジン追加後3カ月以降は有意差を認めず推移した.3剤併用群については,ブリモニジン追加後7カ月まではブリモニジン追加前に比し有意な眼圧下降を維持したが,ブリモニジン追加後8カ月以降は有意差を認めず推移した.図4に併用薬数別のブリモニジン追加後の眼圧下降率の推移を示す.単剤群,2剤併用群ではブリモニジン追加後2カ月までは眼圧下降率が10%以上であったが,それ以降は10%未満で推移した.3剤併用群では,ブリモニジン追加後7カ月までは眼圧下降率が10%以上で推移し,それ以降10%未満となった.図5に併用薬数別にブリモニジン追加後の眼圧下降の持続性を示す.ブリモニジン追加後12カ月の累積生存率は,単剤群で46.7%,2剤併用群で55.0%,3剤併用群で46.7%と3群間に有意差を認めなかった(Logranktestp=0.828).なお,各群の死亡理由については,単剤群では,ブリモニジン追加後にブリモニジン追加前眼圧を上回る時点が2回連続で記録された症例(以下,ブリモニジン効果不十分症例)が4例6眼,眼瞼炎が1例2眼,2剤併用群では,ブリモニジン効果不十分症例が3例4眼,選択的レーザー線維柱帯形成術(selectivelasertrabeculoplasty:SLT)施行症例が1例1眼,観血的緑内障手術となった症例が1例2眼,眼瞼炎が1例2眼,3剤併用群では,ブリモニジン効果不十分症例が1例2眼,SLTが1例2眼,観血的緑内障手術が1例2眼,肉芽腫性ぶどう膜炎を伴う眼圧上昇をきたした症例が1例1例,幻覚が1例1眼であった.図6にブリモニジン追加後の副作用とその出現頻度について示す.経過観察期間中にブリモニジン追加投与後,50眼中13眼(26.0%)に副作用が認められた.副作用の詳細は,眼瞼炎が3例6眼(46.1%),結膜蒼白が3例5眼(38.5%),幻視が1例1眼(7.7%),肉芽腫性ぶどう膜炎を伴う眼圧上昇が1例1眼(7.7%)であった.眼瞼炎が認められた2例4眼は自覚症状が強かったためブリモニジンを中止した.結膜蒼白については患者側から否定的な意見がなかったため,すべての症例においてブリモニジンを継続することができた.幻視が認められた1例と肉芽腫性ぶどう膜炎を伴う眼圧上昇をきたした1例については,ともにブリモニジン中止後,改善傾向を認めた.III考察ブリモニジンがわが国で使用可能となったのは2012年と比較的まだ日が浅いため,緑内障診療ガイドライン8)にはその使用法については明示されていないが,過去の報告3~6)を参考にすると,ブリモニジンはPG製剤を第1選択薬とした場合の第2選択薬以降の併用薬として使用されていることが多いと考える.そこで今回,ブリモニジンを第2選択薬または第3選択薬,第4選択薬とした場合の効果とその持続性について検討した.今回,ブリモニジン追加後の眼圧下降効果は全症例でみた場合,追加後7カ月,8カ月の時点を除く12カ月まで有意な眼圧下降を示しており,ブリモニジン追加の有効性が示された.しかし,眼圧下降率でみるとおおむね10%以下で推移していた.ブリモニジン追加投与後の眼圧下降率については短期投与ではLeeら9)は17.9%,長期投与では新家ら4)は15.0%と報告している.今回の結果が既報と比べて低かった理由として,まずはブリモニジン追加投与前の眼圧が既報と比べ低値であったことが考えられる.対象のなかにNTGが14眼(28.0%)含まれており,それらの平均眼圧は13.6±2.2mmHgと他の病型群(POAG群:16.7±4.0mmHg,PACG群:17.1±5.4mmHg,SG群17.5±5.3mmHg)に比較して有意差は認めないものの低値であった(Kruskal-Wallistestp=0.058).また,ブリモニジン追加後の眼圧,および眼圧下降率に注目すると,どちらも標準偏差が比較的大きく,今回の検討についてはブリモニジンの効果が症例ごとに異なるという印象を受けた.これについても,対象の緑内障病型が多岐にわたっていたことが影響している可能性があり,今後ブリモニジンの追加効果について緑内障病型別に検討することも必要かと考える.つぎに,併用薬数別のブリモニジン追加前後の眼圧推移をみると,単剤群,2剤併用群よりも3剤併用群でより長期間有意な眼圧下降を示した.眼圧下降率でみても,3剤併用群のみブリモニジン追加後7カ月まで10%以上の眼圧下降が維持されていた.多剤併用時のブリモニジン追加投与についてはさまざまな報告があるが,わが国で使用されているブリモニジンに限ると,森山ら10)の報告があり,その有効性が指摘されている.今回の筆者らの結果も多剤併用時のブリモニジン追加投与の有効性が認められたが,この結果については3剤併用群が単剤群,2剤併用群と比較し有意差を認めないものの,ブリモニジン追加前眼圧が高かったことが影響している可能性も考えられる.しかし,3剤併用時に4剤目としてブリモニジンを追加することが有効であったことは,緑内障手術が積極的に行うことができない場合などにはブリモニジン追加が選択肢の一つとなる可能性を示唆していると考える.ブリモニジン追加後の持続性については,3群ともに約半数の症例がブリモニジン追加後12カ月間眼圧下降を維持できたことを示している.単剤群,2剤併用群に関しては,目標眼圧がクリアできない場合に抗緑内障点眼薬の変更,または追加がしやすいが,3剤併用群でブリモニジン追加後しばらくしてから眼圧コントロールが悪くなるような症例は,その後多くが緑内障手術を施行されていた.しかし,この結果は約半数の症例においてブリモニジン追加により緑内障手術が回避できたという解釈も可能であり,今後緑内障手術が必要な症例に対して追加してみる価値があるのではないかと考える.ブリモニジンの副作用としては結膜炎,眼瞼炎,点状表層角膜炎,充血,結膜蒼白,虹彩炎,眩暈,血圧低下,徐脈などがあるが,頻度としてはアレルギー性結膜炎が多いとされている4~6).今回の対象において副作用が発現した13眼中,アレルギー性と思われる眼瞼炎が6眼(46.1%),結膜蒼白5眼(38.5%)と比較的多く認められた.眼瞼炎が認められた症例のうち,自覚症状が強くブリモニジンが中止となった症例が2例4眼存在した.結膜蒼白については,患者側から否定的な意見がなかったため,すべての症例においてブリモニジンを継続することができた.ブリモニジン追加後に幻視を自覚した1例については,ブリモニジンと同じくアドレナリンa2受容体作動薬であるクロニジンは,血液脳関門を通過しやすいため中枢神経症状を生じやすいことが報告されている11).ブリモニジンについては血液脳関門を通りづらいとされているが,今回生じた幻視とブリモニジンとは何らかの関係があるかもしれないため,今後さらなる検討を要する.ブリモニジン追加3日後に肉芽腫性ぶどう膜を発症し眼圧上昇が認められた症例が1例あり,一時的に視力低下をきたしたため即座にブリモニジンを中止としリン酸ベタメタゾン点眼を使用した.その後,肉芽腫性ぶどう膜炎は速やかに消退し,眼圧もブリモニジン追加前の値に戻った.本症例はもともと基礎疾患として糖尿病があり,無硝子体眼であり,肉芽腫性ぶどう膜炎を発症しやすい状態であったかもしれないが,ブリモニジン追加後3日目に肉芽腫性ぶどう膜炎が生じたことや,ブリモニジン中止後肉芽腫性ぶどう膜炎が速やかに改善したこと,加えて過去にも同様の報告12)があることなどを考えると,今回の肉芽腫性ぶどう膜炎の発症にブリモニジンは何らかの関与をしているのではないかと思われる.今後ぶどう膜炎既往のある患者に対するブリモニジン追加投与は注意が必要であると考える.以上,ブリモニジンの追加後の眼圧下降効果とその持続性について検討した.今回の検討において,ブリモニジン追加による眼圧下降効果は認められ,とくに3剤併用群においても眼圧下降効果が認められる症例が存在することが示された.また,その効果は約半数の症例でブリモニジン追加後12カ月間持続した.これらの結果からブリモニジン追加投与の有効性は示されたが,症例によってはブリモニジン特有の副作用が生じることもあるため,それを理解したうえでブリモニジン追加投与は行うべきであると考える.また,今回の対象においては,症例ごとにブリモニジン追加による効果に差があったように思われ,今後は緑内障病型,ブリモニジン追加前の眼圧値などにも配慮して検討する必要があると考える.文献1)TorisCB,GleasonML,CamrasCBetal:Effectsofbrimonidineonaqueoushumordynamicsinhumaneyes.ArchOphthalmol113:1514-1517,19952)BurkeJ1,SchwartzM:Preclinicalevaluationofbrimonidine.SurvOphthalmol41(Suppl1):S9-S18,19963)新家眞,山崎芳夫,杉山和久ほか:ブリモニジン点眼液の原発開放隅角緑内障または高眼圧症を対象とした長期投与試験.あたらしい眼科29:679-686,20124)新家眞,山崎芳夫,杉山和久ほか:ブリモニジン点眼液の原発開放隅角緑内障および高眼圧症を対象とした臨床第III相試験チモロールとの比較試験またはプロスタグランジン関連薬併用下におけるプラセボとの比較試験.日眼会誌116:955-966,20125)俣木直美,齋藤瞳,岩瀬愛子:ブリモニジン点眼液の追加による眼圧下降効果と安全性の検討.あたらしい眼科31:1063-1066,20146)林泰博,林福子:プロスタグランジン関連薬へのブリモニジン点眼液追加後1年間における有効性と安全性.臨眼69:199-203,20157)KrupinT,LiebmannJM,GreenfieldDSetal:Arandomizedtrialofbrimonidineversustimololinpreservingvisualfunction:resultsfromthelowpressureglaucomatreatmentstudy.AmJOphthalmol151:671-681,20118)日本緑内障学会:緑内障診療ガイドライン(第3版).日眼会誌116:5-46,20129)LeeDA,GornbeinJA:Effectivenessandsafetyofbrimonidineasadjunctivetherapyforpatientswithelevatedintraocularpressureinalarge,open-labelcommunitytrial.JGlaucoma10:220-226,200110)森山侑子,田辺晶代,中山奈緒美ほか:臨床報告多剤併用中の原発開放隅角緑内障に対するブリモニジン酒石酸塩点眼液追加投与の短期成績.臨眼68:1749-1753,201411)MarquardtR,PillunatLE,StodtmeisterR:Ocularhemodynamicsfollowinglocaladministrationofclonidine.KlinMonblAugenheilkd193:637-641,198812)BylesDB,FrithP,SalmonJF:Anterioruveitisasasideeffectoftopicalbrimonidine.AmJOphthalmol130:287-291,2000〔別刷請求先〕宮本純輔:〒216-8511川崎市宮前区菅生2-16-1聖マリアンナ医科大学眼科学教室Reprintrequests:JunsukeMiyamoto,DepartmentofOphthalmology,StMariannaUniversitySchoolofMedicine,2-16-1Sugao,Miyamae-kuKawasaki-shi216-8511,JAPAN図1ブリモニジン追加前後の眼圧推移眼圧はブリモニジン追加後1カ月より,追加後7カ月,8カ月の時点を除くすべての経過観察時点において,ブリモニジン追加前よりも有意な下降を示した.図2ブリモニジン追加後の眼圧下降率の推移ブリモニジン追加後1カ月,2カ月の眼圧下降率はそれぞれ10.8±10.1%,12.3±16.6%であり,その後は10%未満で推移した.図3ブリモニジン追加前後の眼圧推移(併用薬数別)単剤群,2剤併用群ともにブリモニジン追加後2カ月まではブリモニジン追加前に比し有意な眼圧下降を維持した.3剤併用群は,ブリモニジン追加後7カ月まではブリモニジン追加前に比し有意な眼圧下降を維持した.図4ブリモニジン追加後の眼圧下降率の推移(併用薬数別)単剤群,2剤併用群ではブリモニジン追加後2カ月までは眼圧下降率が10%以上であった.3剤併用群では,ブリモニジン追加後7カ月までは眼圧下降率が10%以上で推移した.図5ブリモニジン追加後の眼圧下降の持続性(併用薬数別)ブリモニジン追加後12カ月の累積生存率は,単剤群で46.7%,2剤併用群で55.0%,3剤併用群で46.7%であった.図6ブリモニジン追加後の副作用ブリモニジン追加投与後の副作用は,眼瞼炎が6眼(46.1%),結膜蒼白が5眼(38.5%),幻視1眼(7.7%),肉芽腫性ぶどう膜炎を伴う眼圧上昇が1眼(7.7%)に認められた.0910-1810/16/¥100/頁/JCOPY(105)729730あたらしい眼科Vol.33,No.5,2016(106)(107)あたらしい眼科Vol.33,No.5,2016731732あたらしい眼科Vol.33,No.5,2016(108)(109)あたらしい眼科Vol.33,No.5,2016733734あたらしい眼科Vol.33,No.5,2016(110)

プロスタグランジン関連薬単剤使用例へのブリモニジン点眼液の追加後6カ月間における有効性と安全性

2014年6月30日 月曜日

《第24回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科31(6):917.921,2014cプロスタグランジン関連薬単剤使用例へのブリモニジン点眼液の追加後6カ月間における有効性と安全性林泰博*1,2林福子*2*1清川病院眼科*2林眼科クリニックEfficacyandSafetyofAddingBrimonidine0.1%toProstaglandinAnalogueTreatmentfor6MonthsYasuhiroHayashi1,2)andSachikoHayashi2)1)DepartmentofOphthalmology,KiyokawaHospital,2)HayashiEyeClinic目的:プロスタグランジン関連薬で治療中の緑内障患者に,2剤目としてブリモニジン点眼を追加したときの有効性と安全性について報告する.対象および方法:3カ月以上プロスタグランジン関連薬で治療中の緑内障患者18例27眼を対象とした.男性4例,女性14例で,年齢は38.86歳,平均74歳である.0.1%ブリモニジン点眼を追加し,1カ月後,3カ月後,6カ月後に眼圧,血圧,脈拍数を測定した.また局所の安全性は角膜障害,充血,掻痒感について評価した.結果:ブリモニジン開始前の平均眼圧は12.2±3.3mmHg,1カ月後は10.2±2.2mmHg(p<0.0001),3カ月後は9.7±1.8mmHg(p<0.0001),6カ月後は10.3±2.6mmHg(p<0.0005)と,いずれも有意に低下した.拡張期血圧は点眼追加1カ月後,6カ月後で有意に下降し,脈拍数は点眼追加1カ月後に有意に増加したが自覚症状はなかった.眼局所の副作用も有意な変化は認めなかった.結論:プロスタグランジン関連薬で治療中の緑内障患者へのブリモニジン点眼追加により,さらなる眼圧下降効果が得られ,眼圧下降効果は6カ月間持続した.Purpose:Toreporttheeffectofaddingbrimonidineophthalmicsolutiontotopicaltreatmentwithprostaglandinanalogue.SubjectsandMethod:Thisstudyinvolved27eyesof18patients(4males,14females;agerange:38to86years,average74years)whowerebeingtreatedbytopicalprostaglandinanaloguefor3monthsorlonger;theystartedreceiving0.1%brimonidineadditionally.Intraocularpressure(IOP),bloodpressure,pulserate,ocularsurfacedamage,conjunctivalinjectionanditchingwerecheckedafter1,3and6monthsoftreatment.Result:IOPaveraged12.2±3.3mmHgbeforeadditionaltreatment,10.2±2.2mmHg(p<0.0001)after1month,9.7±1.8mmHg(p<0.0001)after3months,and10.3±2.6mmHg(p<0.0005)after6months.IOPthusdecreasedsignificantlyafteradditionaltreatment.Diastolicbloodpressuredecreasedsignificantlyafter1monthand6monthsoftreatment.Pulserateincreasedsignificantlyafter1monthoftreatment,withoutsubjectivesymptoms.Nostatisticaldifferenceinocularsymptomswasobservedatanyobservationtime.Conclusion:BrimonidineophthalmicsolutionaddedtotopicaltreatmentwithprostaglandinanalogueinducedfurtherdecreaseinIOPfor6months.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(6):917.921,2014〕Keywords:ブリモニジン,プロスタグランジン,眼圧,安全性,緑内障.brimonidine,prostaglandin,intraocularpressure,safety,glaucoma.はじめに緑内障治療における唯一のエビデンスが眼圧下降によるものであり,その中心となるのが緑内障点眼薬である.緑内障点眼液はまず単剤で開始し,単剤で目標眼圧に達することができない場合は緑内障ガイドラインに基づき薬剤の変更を図り,なお目標眼圧に達することができない場合は薬剤の追加(多剤併用療法)となる1).多剤併用療法の基本は薬理作用の異なる薬剤を組み合わせることであり,第一選択薬として広く使用されているプロスタグランジン(PG)関連薬に追加する場合,薬理作用が重複しないことが望ましい.ブリモニジ〔別刷請求先〕林泰博:〒248-0006神奈川県鎌倉市小町2-13-7清川病院眼科Reprintrequests:YasuhiroHayashi,DepartmentofOphthalmology,KiyokawaHospital,2-13-7Komachi,Kamakura-shi2480006,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(143)917 ン点眼液は交感神経a2アドレナリン受容体作動薬であり,房水産生抑制と,ぶどう膜強膜流出路を介した房水流出促進という2つの機序による眼圧下降作用をもつことから,海外ではPG関連薬2.5)やb遮断薬6,7)に追加する,あるいはb遮断薬との配合剤といった使われ方で広く普及している.しかし,わが国でブリモニジンは2012年1月に承認されたばかりであり,国内の報告は少ない.また,海外では1996年の承認後,点眼液の濃度や防腐剤が変遷しており,海外の報告とわが国の報告を単純に比較することはむずかしく,わが国での知見の蓄積が待たれる.今回筆者らは,前回の報告8)からさらに観察期間を延長し,ブリモニジン点眼液をPG関連薬単剤に追加した際の有効性,安全性につき検討したので報告する.I対象および方法2012年5月.2013年2月の間で3カ月以上PG関連薬を単剤で使用中の患者のうち,目標眼圧に達していない緑内障患者に十分な説明のうえ,ブリモニジン点眼液を勧め,同意を得た症例を対象とした.対象は18例27眼,平均年齢73.8±13.5歳(38.86歳,男性4例,女性14例).病型は狭義原発開放隅角緑内障が4例7眼,正常眼圧緑内障が13例19眼,原発閉塞隅角緑内障が1例1眼であった.使用中のPG関連薬の内訳はラタノプロスト点眼液が10例16眼,トラボプロスト点眼液が2例2眼,タフルプロスト点眼液が4例6眼,ビマトプロスト点眼液が2例3眼であった.ブリモニジン点眼液を追加投与前の視野障害の程度は,Goldmann動的視野検査で経過観察した症例が11例17眼で,その内訳は湖崎分類9)でII期までの早期症例が9眼,中期に相当するIII期が6眼,晩期に相当するIV期以降が2眼であった.Humphrey静的視野プログラム30-2で経過観察した症例が5例6眼で,その内訳はAnderson分類10)でmeandeviation(MD)>.6dBの初期症例が2眼,.6dB≧MD>.12dBの中期症例が3眼,.12dB≧MDの後期症例が1眼であった.Octopus静的視野プログラム32で経過観察した症例が2例4眼で,その内訳はMD<6dBの症例が2眼であった.湖崎分類,MD値が早期の症例でも固視点近傍の視野障害が著明な症例が多かった.眼圧はブリモニジン点眼液を追加投与前,追加投与1カ月後,3カ月後,6カ月後のほぼ同時刻に同一検者がGoldmann圧平眼圧計にて測定を行った.血圧および脈拍数は,座位にて5分間,安静にした後に上腕動脈での収縮期血圧,拡張期血圧,脈拍数を測定した.眼局所の副作用については,充血は「正常範囲(0点),軽度(1点),中等度(2点),重度(3点)」,掻痒感は「痒くない(0点),少し痒い(1点),痒いが自制内(2点),痒みが強く点眼継続困難(3点)」のそれぞれ4段階で評価した.点状表層角膜症はAD(area-density)分類11)を用いて評価した.統計学的検定は眼圧,血圧,脈拍数は対応のあるt検定にて,充血などのスコアはWilcoxon符号付順位和検定にて解析を行い,p<0.05を有意水準とした.II結果1.有効性ブリモニジン点眼液を追加投与前の平均眼圧は12.2±3.3mmHg,追加1カ月後の平均眼圧は10.2±2.2mmHg(p<0.0001),追加3カ月後の平均眼圧は9.7±1.8mmHg(p<0.0001),追加6カ月後の平均眼圧は10.3±2.6mmHg(p<0.0005)であり,各時点で有意に下降した(図1.4).眼圧下降幅は追加1カ月後2.0±2.0mmHg,追加3カ月後2.5±2.7mmHg,追加6カ月後1.9±2.2mmHgで,眼圧下降幅に差はなかった(p=0.61).眼圧下降率は追加1カ月後14.3±13.8%,追加3カ月後17.0±17.8%,追加6カ月後13.9±15.1%であった.ブリモニジン点眼液を追加したことで目標眼圧に達した症例は27眼中19眼(70.4%)であった.2.安全性ブリモニジン点眼液を追加投与前の収縮期血圧は135.1±22.0mmHg,追加1カ月後は131.6±20.9mmHg(p=0.41),追加3カ月後は133.2±21.7mmHg(p=0.61),追加6カ月後は135.3±19.3mmHg(p=0.97)であり,各時点で有意差を認めなかった(図5).ブリモニジン点眼液を追加投与前の拡張期血圧は79.4±12.1mmHg,追加1カ月後は74.5±10.0mmHg(p<0.05),追加3カ月後は74.1±11.0mmHg(p=0.09),追加6カ月後は74.1±11.3mmHg(p<0.05)であり,ブリモニジン点眼液を追加1カ月後,6カ月後で拡張期血圧が有意に下降した(図6).ブリモニジン点眼液を追加投与前の脈拍数は71.1±12.8回/分,追加1カ月後は75.1±11.3回/分(p<0.05),追加3カ月後は73.1±12.0回/分(p=0.25),追加6カ月後は72.4±11.5回/分(p=0.50)であり,ブリモニジン点眼液を追加1カ月後で脈拍数が有意に増加した(図7).充血スコアはブリモニジン点眼液を追加投与前が1.2±0.6,追加1カ月後では1.0±0.5(p=0.14),追加3カ月後では1.0±0.5(p=0.12),追加6カ月後では1.3±0.4(p=0.77)で,いずれの時点でも差はなかった.掻痒感スコアはブリモニジン点眼液を追加投与前が0.1±0.3,追加1カ月後では0.3±0.5(p=0.14),追加3カ月後では0.0±0.0(p=1.00),追加6カ月後では0.2±0.5(p=0.14)で,いずれの時点でも差はなかった.角膜スコア(A+D)はブリモニジン点眼液を追加投与前が0.6±1.0,追加1カ月後では0.4±0.9(p=0.60),追加3カ月では0.4±0.8(p=0.28),追加6カ月後では0.5±0.9(p=0.81)で,いずれの時点でも差はなかった.観察期間中に点眼継続不可能な症例は認めなかった.918あたらしい眼科Vol.31,No.6,2014(144) 20181816161414(p<0.0001)(p<0.0001)(p<0.0005)12追1カ月後眼圧(mmHg)追加3カ月後眼圧(mmHg)眼圧(mmHg)12108642108642000追加前1カ月3カ月6カ月2468101214161820経過期間追加前眼圧(mmHg)図1眼圧の推移図2眼圧変化の散布図(追加1カ月後)各時点で有意な眼圧の下降を認めた.直線はy=xを示す.ブリモニジン点眼液を追加1カ月後で眼圧は有意に下降した.20181614121086422018161412108642追加6カ月後眼圧(mmHg)000024681012141618202468101214161820追加前眼圧(mmHg)追加前眼圧(mmHg)図3眼圧変化の散布図(追加3カ月後)図4眼圧変化の散布図(追加6カ月後)直線はy=xを示す.ブリモニジン点眼液を追加3カ月後直線はy=xを示す.ブリモニジン点眼液を追加6カ月後で眼圧は有意に下降した.で眼圧は有意に下降した.180100収縮期血圧(mmHg)拡張期血圧(mmHg)90807060160140120(p<0.05)(p<0.05)1008060402050403020100追加前1カ月3カ月6カ月経過期間図5収縮期血圧の推移各時点で有意差を認めなかった.III考按今回報告したPG関連薬単剤に対するブリモニジン点眼液の追加効果についての検討は少なく,国内では新家らの市販前調査12)と,筆者らによる3カ月という短期での検討8)のみである.新家らはPG関連薬を使用中の症例に対しブリモニ(145)0追加前1カ月3カ月6カ月経過期間図6拡張期血圧の推移ブリモニジン点眼液を追加1カ月,6カ月で有意な拡張期血圧の下降を認めた.ジン点眼液を追加投与し,追加52週間後でベースライン眼圧18.7mmHgから15.9mmHgまで下降したと報告している.筆者らの短期検討ではPG関連薬を使用中の症例に対しブリモニジン点眼液を追加投与し,追加3カ月後でベースライン眼圧12.2mmHgから9.7mmHgまで下降した.つぎに海外で3カ月以上の観察期間を設けた報告を参照しあたらしい眼科Vol.31,No.6,2014919 脈拍数(回/分)1009080706050403020100(p<0.05)追加前1カ月3カ月6カ月経過期間図7脈拍数の推移ブリモニジン点眼液を追加1カ月で有意な脈拍数の増加を認めた.てみる.Feldmanら2)はトラボプロスト単剤を使用中の症例に対しブリモニジン点眼液(0.15%製剤)を追加投与し,追加3カ月後でベースライン眼圧21.7mmHgから19.6mmHgまで下降したと報告している.Dayら3)はラタノプロスト単剤を使用中の症例に対しブリモニジン点眼液(0.1%製剤)を追加投与し,追加3カ月後でベースライン19.6mmHgから16.3mmHgまで下降したと報告している.またBourniasら4)はPG関連薬単剤を使用中の症例に対しブリモニジン点眼液(0.15%製剤)を追加投与し,追加4カ月後でベースライン21.9mmHgから17.1mmHgまで午前10時の測定時点で下降し,午後4時の測定時点でベースライン20.2mmHgから16.4mmHgまで下降したと報告している.ただしBourniasらによる報告は点眼回数が1日3回である.O’Connorら5)はラタノプロスト単剤を使用中の症例に対しブリモニジン点眼液を追加投与し,追加1年後でベースライン眼圧21.0mmHgから19.0mmHgまで下降したと報告している.これらの結果は,筆者らの報告以外,いずれも対象が狭義原発開放隅角緑内障,高眼圧症,落屑緑内障を中心に構成された報告であるため,追加前のベースライン眼圧は本研究より高めであるが,眼圧下降幅はおよそ2.3mmHgで,今回の筆者らの結果と同等であり,追加前のベースライン眼圧が低めであってもブリモニジン点眼液の追加投与は有効であると思われる.海外の報告はブリモニジン点眼液の濃度の違い,点眼回数の違い,対象症例の病型の違い,人種差があるため今後わが国でも病型ごとの検討をしていく必要があると思われる.また,ベースライン眼圧が同様に低い研究と比較してみると,田邉らは新規にPG関連薬を投与して,トラボプロストでは13.4mmHgから11.2mmHgへ,タフルプロストでは13.0mmHgから11.1mmHgへ,ビマトプロストでは12.9mmHgから11.1mmHgへ下降したとしている13).試験デザインは異なるものの,このPG関連薬の眼圧下降効果は今回のブリモニジンのものと同等で,第二選択薬として920あたらしい眼科Vol.31,No.6,2014考えられているブリモニジンの眼圧下降効果としては良好な結果と思われる.ただし24時間を通じて安定した眼圧下降効果を示すPG関連薬と比べ,ブリモニジンは眼圧下降効果のピーク値とトラフ値の差が大きいことが指摘されており14,15),今回の結果が24時間を通じて保たれていたものかどうかについては,日内変動を考慮した検討が必要であると思われた.今回の結果ではブリモニジンの追加で眼圧はさらに下降したにもかかわらず8眼ではさらに視野障害が進行した.今回対象となった症例は,PG関連薬単剤ですでに平均眼圧が12.2mmHgまで下がっていても,視野障害が進行している症例であり,これらの症例は眼圧以外の影響も強く働いている可能性が示唆された.全身性副作用に関しては,今回の結果ではブリモニジン点眼液を追加1カ月後,6カ月後で拡張期血圧の低下と,追加1カ月後で脈拍数の増加を認めたが自覚症状はなく,投与中止となるものはなかった.新家らの報告16)でも点眼2時間後に収縮期血圧,拡張期血圧ともに有意に下降したが臨床上問題となるものはなかったと報告している.しかし,筆者らによるブリモニジン点眼の早期報告17)のように,著明に血圧が低下する症例もあり,その影響には個人差があると思われる.新規処方の際には点眼後の涙.圧迫などの基本的操作を今一度確認する必要があると思われる.局所の副作用では充血スコア,掻痒感スコア,角膜障害スコアのいずれも変化はなかった.ブリモニジンは眼圧下降薬としての作用以外にも,a2アドレナリン受容体作動薬としての血管収縮作用があり,海外ではその特性を生かして硝子体注射後の結膜下出血予防への使用18),その他にも屈折矯正手術後の充血,結膜下出血予防に使用している報告19)もある.ブリモニジンには副作用としてアレルギー性結膜炎,充血の発生がかねてより報告20)されているが,今回充血スコアに影響が出なかったのはブリモニジンの血管収縮作用と相殺されたのではないかと思われた.前回の3カ月での報告から観察期間を延長したが,有効性,安全性ともに臨床上問題となることはなかった.本研究はPG関連薬にブリモニジン点眼液を追加するというデザインの研究であったが,PG関連薬間での差については検討しておらず,それが結果に影響した可能性も否定できない.海外でもPG関連薬の種類によるブリモニジン点眼液の追加効果について検討した報告はなく,これからの課題である.今後さらに観察期間を延ばし検討するとともに,正常眼圧緑内障が多いというわが国の特徴を考慮して病型別に評価していく必要があると思われた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし(146) 文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン(第3版).日眼会誌116:3-46,20122)FeldmanRM,TannaAP,GrossRLetal:Comparisonoftheocularhypotensiveefficacyofadjunctivebrimonidine0.15%orbrinzolamide1%incombinationwithtravoprost0.004%.Ophthalmology114:1248-1254,20073)DayDG,HollanderDA:Brimonidinepurite0.1%versusbrinzolamide1%asadjunctivetherapytolatanoprostinpatientswithglaucomaorocularhypertension.CurrMedResOpin24:1435-1442,20084)BourniasTE,LaiJ:Brimonidinetartrate0.15%,dorzolamidehydrochloride2%,andbrinzolamide1%comparedasadjunctivetherapytoprostaglandinanalogs.Ophthalmology116:1719-1724,20095)O’ConnorDJ,MartoneJF,MeadA:Additiveintraocularpressureloweringeffectofvariousmedicationswithlatanoprost.AmJOphthalmol133:836-837,20026)SimmonsST,EarlML;Alphagan/XalatanStudyGroup:Three-monthcomparisonofbrimonidineandlatanoprostasadjunctivetherapyinglaucomaandocularhypertensionpatientsuncontrolledonbeta-blockers:toleranceandpeakintraocularpressurelowering.Ophthalmology109:307-314,20027)RuangvaravateN,KitnarongN,MetheetrairutAetal:Efficacyofbrimonidine0.2percentasadjunctivetherapytobeta-blockers:acomparativestudybetweenPOAGandCACGinAsianeyes.JMedAssocThai85:894-900,20028)林泰博,林福子:プロスタグランジン関連薬単剤使用例へのブリモニジンの追加効果.臨眼67:1889-1892,20139)湖崎弘,井上康子:視野による慢性緑内障の病気分類.日眼会誌76:1258-1267,197210)AndersonDR,PatellaVM:Automatedstaticperimetry.2nded,p121-190,Mosby,St.Louis,199911)MiyataK,AmanoS,SawaMetal:Anovelgradingmethodforsuperficialpunctuatekeratopathymagnitudeanditscorrectionwithcornealepithelialpermeability.ArchOphthalmol121:1537-1539,200312)新家眞,山崎芳夫,杉山和久ほか:ブリモニジン点眼液の原発開放隅角緑内障または高眼圧症を対象とした長期投与試験.あたらしい眼科29:679-686,201213)田邉祐資,菅野誠,山下英俊:正常眼圧緑内障に対するトラボプロスト,タフルプロスト,ビマトプロストの眼圧下降効果の検討.あたらしい眼科29:1131-1135,201214)ChengJW,CaiJP,WeiRL:Meta-analysisofmedicalinterventionfornormaltensionglaucoma.Ophthalmology116:1243-1249,200915)vanderValkR,WebersCA,LumleyTetal:Anetworkmeta-analysiscombineddirectandindirectcomparisonsbetweenglaucomadrugstorankeffectivenessinloweringintraocularpressure.JClinEpidemiol62:1279-1283,200916)新家眞,山崎芳夫,杉山和久ほか:ブリモニジン点眼液の原発開放隅角緑内障または高眼圧症を対象とした臨床第III相試験-チモロールとの比較試験またはプロスタグランジン関連薬併用下におけるプラセボとの比較試験.日眼会誌116:955-966,201217)林泰博,北岡康史:ブリモニジン点眼液の眼圧下降効果と安全性.臨眼67:597-601,201318)KimCS,NamKY,KimJY:Effectofprophylactictopicalbrimonidine(0.15%)administrationonthedevelopmentofsubconjunctivalhemorrhageafterintravitrealinjection.Retina31:389-392,201119)NordenRA:Effectofprophylacticbrimonidineonbleedingcomplicationsandflapadherenceafterlaserinsitukeratomileusis.JRefractSurg18:468-471,200220)MundorfT,WilliamsR,WhitcupSetal:A3-monthcomparisonofefficacyandsafetyofbrimonidine-purite0.15%andbrimonidine0.2%inpatientswithglaucomaorocularhypertension.JOculPharmacolTher19:37-44,2003***(147)あたらしい眼科Vol.31,No.6,2014921

ブリモニジン点眼液の原発開放隅角緑内障または高眼圧症を対象とした探索的試験

2012年9月30日 日曜日

《原著》あたらしい眼科29(9):1303.1311,2012cブリモニジン点眼液の原発開放隅角緑内障または高眼圧症を対象とした探索的試験新家眞*1山崎芳夫*2杉山和久*3桑山泰明*4谷原秀信*5*1公立学校共済組合関東中央病院*2日本大学医学部視覚科学系眼科学分野*3金沢大学医薬保健研究域視覚科学(眼科学)*4福島アイクリニック*5熊本大学大学院生命科学研究部視機能病態学分野AnExploratoryStudyofBrimonidineOphthalmicSolutioninPatientswithPrimaryOpenAngleGlaucomaorOcularHypertensionMakotoAraie1),YoshioYamazaki2),KazuhisaSugiyama3),YasuakiKuwayama4)andHidenobuTanihara5)1)KantoCentralHospital,TheMutualAidAssociationofPublicSchoolTeachers,2)DivisionofOphthalmology,DepartmentofVisualSciences,NihonUniversitySchoolofMedicine,3)DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,KanazawaUniversityGraduateSchoolofMedicalScience,4)FukushimaEyeClinic,5)DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,KumamotoUniversityGraduateSchoolofMedicalSciencesブリモニジン酒石酸塩点眼液(以下,ブリモニジン)の探索的臨床試験として,原発開放隅角緑内障および高眼圧症を対象に0.1%または0.15%製剤の1日2回,4週間点眼による眼圧下降効果および安全性を,プラセボを対照として比較検討した.主要評価項目に設定した投与4週間後の0時間値および2時間値の眼圧変化値において,0.1%群および0.15%群はいずれもプラセボに比べ有意な眼圧下降を示した.また,0.1%群と0.15%群の眼圧下降効果および副作用発現頻度に差はなく,副次評価項目の眼圧変化率,目標眼圧達成率やノンレスポンダー率においても主要評価を支持する結果を得た.眼科学的検査,血圧・脈拍数や臨床検査においても臨床的に問題となる変動はなく,本剤の忍容性が確認できた.以上の結果より,ブリモニジンはプラセボよりも有意な眼圧下降作用を有し,わが国における臨床至適濃度は0.1%濃度が妥当と判断した.This4-weekexploratoryclinicalstudysoughttodeterminetheintraocularpressure(IOP)-loweringefficacyandsafetyoftopical0.1%and0.15%brimonidinetartrateappliedtwicedailyinpatientswithprimaryopenangleglaucomaorocularhypertension.Comparedtothevehiclealone,0.1%and0.15%brimonidinesignificantlydecreasedthemeanIOPchangefrombaselineat0and2hatweek4.NodifferencewasseenbetweentheIOP-loweringeffectsandincidenceofadversesideeffectsof0.1%and0.15%brimonidine.Percentchangesfrombaseline,achievementoftargetpressureandnonresponderrateatthesecondaryendpointsupporttheresultsobtainedattheprimaryendpoint.Theabsenceofclinicallysignificantchangesonophthalmologicalandlaboratoryexaminations,andinbloodpressureandpulserate,confirmedthetolerabilityofbrimonidine.Topical0.1%and0.15%brimonidinearesignificantlymoreefficaciousinloweringIOPthanisthevehiclealone.Withcomparableefficacyandtolerability,0.1%brimonidineisclinicallysuperiorto0.15%.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(9):1303.1311,2012〕Keywords:ブリモニジン,緑内障,高眼圧症,探索的臨床試験,選択的アドレナリンa2作動薬.brimonidine,glaucoma,ocularhypertension,exploratoryclinicalstudy,selectivea2-adrenergicagonist.はじめにまざまな緑内障治療薬が上市されており,なかでも原発開放わが国ではプロスタグランジン(PG)関連薬や交感神経b隅角緑内障においてはPG関連薬やb遮断薬が優れた眼圧下受容体遮断薬,炭酸脱水酵素阻害薬,交感神経a1受容体遮降効果により第一選択薬として使用されている.しかし,b断薬,非選択性交感神経刺激薬,副交感神経刺激薬などのさ遮断薬の心肺機能に及ぼす影響やPG関連薬に特異的な副作〔別刷請求先〕新家眞:〒158-8531東京都世田谷区上用賀6-25-1公立学校共済組合関東中央病院Reprintrequests:MakotoAraie,M.D.,Ph.D.,KantoCentralHospital,TheMutualAidAssociationofPublicSchoolTeachers,6-25-1Kamiyoga,Setagaya-ku,Tokyo158-8531,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(127)1303 用が危惧される症例では,機序の異なる治療薬の選択が必要となってくる.また,高眼圧症または初期の緑内障患者であっても,単剤治療では十分な効果が得られない症例が多々存在することも事実である.緑内障治療における薬剤耐性の状況として,OcularHypertensionTreatmentStudy(OHTS)1)では目標眼圧を達成するために5年目で約40%が2剤以上を必要とし,CollaborativeInitialGlaucomaTreatmentStudy(CIGTS)2)では2年で2剤以上を必要とした症例が75%以上と報告されている.緑内障に対する薬物療法の選択肢を広げざるをえない背景には,このような単剤治療のみでは目標眼圧の維持が困難な症例の存在や継続投与によって生じる薬剤耐性の問題があげられる.非選択性交感神経刺激薬のエピネフリン製剤やa1遮断薬,b遮断薬などのアドレナリン受容体をターゲットとした緑内障治療薬は,わが国においても比較的古くから臨床の場に供されてきた.一方,交感神経受容体サブタイプの一つであるa2受容体をターゲットとした緑内障治療薬の開発も過去に試みられており,海外では選択的アドレナリンa2作動薬として1960年代初めに合成されたクロニジンに期待が寄せられた.しかし,クロニジンは眼圧下降作用を有するものの点眼においても中枢性の血圧下降作用を示し,ボランティアの50%で拡張期血圧を30mmHgまで低下させる3)などの副作用により臨床応用には至っていない.ついで,1970年代に合成されたアプラクロニジンは,p-アミノ基の導入により親水性が増加したため中枢性の全身的な副作用は減少したもののヒドロキノン様構造が酸化を受けやすく,生体成分のチオール基と共有結合しハプテン化され4),長期使用では約半数が眼局所のアレルギーにより点眼中止を余儀なくされた5).また,眼圧下降効果を示さなかった症例の割合が投与3.6週間後に24%,投与7.8週間後には57%と高率に認められている6).そのため長期投与が必須となる緑内障や高眼圧症に対する開発は断念され,レーザー手術後の一過性の眼圧上昇の防止を目的とした限定的な使用に留まっている.一方,ブリモニジンはヒドロキノン様構造をもたず,アプラクロニジンにアレルギー反応を示す症例にも交差反応は示さず,全身性の副作用が少ないアドレナリンa2作動薬として唯一,ブリモニジン酒石酸塩点眼液として開放隅角緑内障または高眼圧症に対する適応を取得した緑内障治療薬である.本剤はアプラクロニジンに比べa1受容体よりもa2受容体に高い親和性を示し,既存の緑内障治療薬とは異なる房水産生抑制作用とぶどう膜強膜流出路からの流出促進作用の2つの眼圧下降機序を有する7).また,眼圧コントロール不良例や前治療薬に副作用を生じた症例8)あるいは他剤との併用による高い有効性と忍容性が報告されており9,10),単剤あるいは併用治療のみならずチモロールとの配合剤としても豊富な使用実績を有している.海外では米国アラガン社が1996年に保存剤として塩化ベンザルコニウム(BAK)を含有した0.2%製剤の米国承認を取得し,その後,保存剤を亜塩素酸ナトリウム(PURITER:以下,Purite)に変更するなどの処方改良が加えられ,現在では0.2%ブリモニジンBAK製剤と同等の眼圧下降作用を有する0.15%ブリモニジンPurite製剤が汎用されている.しかし,これまでに日本人におけるブリモニジンの使用経験はないことから,国内においても用量反応性の検討が必要と考え今回,原発開放隅角緑内障および高眼圧症を対象に0.1%ブリモニジンPuriteまたは0.15%ブリモニジンPurite製剤の1日2回,4週間点眼による眼圧下降効果と安全性を,プラセボを対照として探索的に検討したので報告する.I方法本臨床試験は,開始に先立ちすべての実施医療機関の治験表1実施医療機関および治験責任医師実施医療機関治験責任医師かつしま眼科勝島晴美中の島たけだ眼科竹田明さいたま赤十字病院眼科小島孚允春日部市立病院眼科水木健二大宮はまだ眼科濱田直紀真仁会小関眼科医院小関信之日本大学医学部附属板橋病院眼科山崎芳夫東京医療生活協同組合中野総合病院眼科鈴村弘隆レニア会武谷ピニロピ記念きよせの森総合病院眼科武井歩済安堂お茶の水・井上眼科クリニック井上賢治オリンピア会オリンピア眼科病院井上立州善春会若葉眼科病院吉野啓吉川眼科クリニック吉川啓司蒔田眼科クリニック杉田美由紀湘南谷野会谷野医院谷野富彦富山県立中央病院眼科岩瀬剛金沢大学附属病院眼科杉山和久恩賜財団福井県済生会病院眼科齋藤友護,棚橋俊郎千照会千原眼科医院千原悦夫厚生年金事業振興団大阪厚生年金病院眼科狩野廉創正会イワサキ眼科医院岩崎直樹湖崎会湖崎眼科湖崎淳尾上眼科医院尾上晋吾杉浦眼科杉浦寅男研英会林眼科病院林研熊本大学医学部附属病院眼科稲谷大NTT西日本九州病院眼科布田龍佑熊本市立熊本市民病院眼科有村和枝陽幸会うのき眼科鵜木一彦上野眼科医院木村泰朗広田眼科広田篤永山眼科クリニック永山幹夫1304あたらしい眼科Vol.29,No.9,2012(128) 審査委員会で審議を受け,承認を得たうえで医薬品の臨床試験の実施の基準(GCP)に関する省令などの関連規制法規を遵守し,2006年4月から10月の間に表1に示す32施設で実施した.対象患者は,有効性評価対象眼が原発開放隅角緑内障または高眼圧症と診断された満20歳以上の男女で,試験参加に先立ち文書による同意が得られ,表2の採用基準に該当する症例とした.表2対象被験者のおもな採用・除外基準おもな採用基準1)両眼とも矯正視力が0.7以上の者2)両眼とも眼圧値が31mmHg以下3)原発開放隅角緑内障は,有効性評価対象眼の眼圧値が18.0mmHg以上4)高眼圧症は,有効性評価対象眼の眼圧値が22.0mmHg以上おもな除外基準1)緑内障,高眼圧症以外の活動性の眼科疾患を有する者2)治験期間中に病状が進行する恐れのある網膜疾患を有する者3)角膜屈折矯正手術,濾過手術,線維柱帯切開術および内眼手術(緑内障に対するレーザー療法を含む)の既往を有する者4)コンタクトレンズの装用が必要な者5)a2作動薬にアレルギーまたは重大な副作用の既往のある者6)a作動薬,a遮断薬,b作動薬,b遮断薬,モノアミン酸化酵素阻害薬,アドレナリン増強作用を有する抗うつ薬,中枢神経抑制薬の使用が必要な者7)肝障害,腎障害,うつ病,Laynaud病,閉塞性血栓血管炎,起立性低血圧,脳血管不全,冠血管不全,重篤な心血管系疾患などの循環不全を有する者8)高度の視野障害がある者9)圧平眼圧計による正確な眼圧の測定に支障をきたすと思われる角膜異常のある者10)その他,治験責任医師または治験分担医師が本治験に適切でないと判断した者被験薬は1mL中にブリモニジン酒石酸塩1.0mgまたは1.5mgを含有し,Puriteを保存剤として有し,対照薬のプラセボは被験薬の基剤を用いた.試験薬剤は1日2回,朝(8:30.10:30)と夜(20:00.22:00)に両眼に1滴ずつ4週間点眼した.本試験は二重盲検法により実施し,3群の試験薬剤は北里大学薬学部臨床薬学研究センター・臨床薬学部門の小宮山貴子がプラセボとの外観上の識別不能性を確認したうえで無作為割付けを行った.試験参加前に緑内障の薬物治療を受けていた患者に対しては,交感神経遮断薬またはPG製剤は4週間以上,副交感神経作動薬,炭酸脱水酵素阻害薬または交感神経作動薬は2週間以上の休薬期間を設けた.その他,ステロイド薬についても1週間以上の休薬期間を設けたが,眼瞼周囲を除く皮膚局所投与については休薬不要とした.検査および観察項目と治験スケジュールを表3に示す.眼圧はGoldmann圧平眼圧計で朝の点眼前を0時間値として8:30.10:30の間に,点眼後は2時間値の測定を行った.視力検査は遠見視力表を用い,角膜・結膜・眼瞼所見は無散瞳下で細隙灯顕微鏡を用いて観察した.角膜所見の判定基準はAD(Area-Density)分類11)を用い,結膜・眼瞼所見(結膜充血,結膜浮腫,眼瞼紅斑,眼瞼浮腫,結膜濾胞)は4または5段階に程度分類し,結膜充血および結膜濾胞は標準写真を用いて判断した.眼底所見は検眼鏡などを用いて緑内障性異常の有無および垂直陥凹/乳頭径比(vC/D比)を記録した.視野検査は自動静的視野計を用いた.血圧(収縮期,拡張期)・脈拍数は5分間安静後,座位の状態で測定した.臨床検査は血液学的検査および血液生化学的検査をファルコバイオシステムズで実施した.当該治験薬との因果関係の有無にかかわらず,治験薬を点眼した被験者に生じたすべての好ましくないまたは意図しない疾病あるいはその徴候を有害事象として扱い,治験薬との因果関係が否定できない有害事象表3治験スケジュール時期*スクリーニング項目背景因子調査●視力検査●角膜・結膜・眼瞼所見眼圧検査●眼底検査・写真●視野検査●血圧・脈拍数臨床検査有害事象休薬投与開始日投与2週間後投与4週間後0時間2時間0時間2時間0時間2時間●●●●●●●*:下段,測定ポイント(時間).(129)あたらしい眼科Vol.29,No.9,20121305 を副作用とした.治験期間中は表2の除外基準に抵触する薬剤および処置の併用は禁止し,その他の眼圧に影響を及ぼす可能性のある薬剤の新たな処方や治験期間中の用法用量の変更は行わないものとした.有効性の評価は,PerProtocolSet(PPS:治験実施計画書に適合した解析対象集団)を主たる解析対象集団とした.主要評価項目は,投与4週間後の眼圧変化値(0時間値,2時間値)とし,Dunnett型の多重比較法によりプラセボとの比較を行った.副次評価項目は,投与2週間後の眼圧変化値と2および4週間後の眼圧変化率とし,Dunnett型の多重比較法によりプラセボとの比較を行った.また,2および4週間後に眼圧値が19mmHg以下に達した症例の割合(眼圧値の目標眼圧達成率),眼圧変化率が.20%以上に達した症例の割合(眼圧変化率の目標眼圧達成率)および.10%に達しなかった症例の割合(ノンレスポンダー率)を求め,c2検定またはFisherExact検定による薬剤群間比較を行った.さらに,0時間値と2時間値の平均値を算出し,主要評価項目および副次評価項目の集計ならびに解析を行った.安全性の評価として実施した血圧および脈拍数は,薬剤ごとに投与開始日と投与後の各観察時点の変化を1標本t検定で比較した.いずれも有意水準両側5%とし,解析ソフトはSASforWindowsRelease8.2(SASInstituteJapan)を用いた.また,視力・角膜・結膜・眼瞼所見・眼底・視野・臨床検査は各項目について薬剤ごとに投与前後の比較を行った.目標症例数については,少なくとも0.15%ブリモニジン群がプラセボ群に対して投与4週間後の眼圧変化値で統計学的に有意に優れていること示すため,有意水準両側5%,検出力80%の条件で必要症例を算出し,さらに試験実施中の中止,脱落を考慮して1群40例と設定した.II結果試験薬剤を投与した症例は0.1%ブリモニジン群44例,0.15%ブリモニジン群45例およびプラセボ群44例で,これらの症例はすべて安全性解析対象とした.PPS採用症例は0.1%ブリモニジン群43例,0.15%ブリモニジン群43例およびプラセボ群42例で,その背景因子を表4に示す.眼圧値,眼圧変化値および眼圧変化率の推移をそれぞれ図1,表5および表6に示す.主要評価項目である4週間後の眼圧変化値(0時間値,2時間値)は,いずれの観察時点においても0.1%ブリモニジン群,0.15%ブリモニジン群ともに表4被験者背景(PPS)項目0.1%ブリモニジン0.15%ブリモニジンプラセボ性別男性221915女性212427年齢(歳).6426282965.171513平均57.659.055.3緑内障診断名(有効性評価対象眼)原発開放隅角緑内障(広義)212320高眼圧症222022眼圧値(mmHg)2724:0.1%ブリモニジン21:0.15%ブリモニジン:プラセボ1815投与2週4週投与2週4週投与2週4週開始日開始日開始日0時間値2時間値0,2時間平均値図1眼圧値の推移平均値±標準偏差.0,2時間平均値は0時間値と2時間値の平均値を示す.1306あたらしい眼科Vol.29,No.9,2012(130) 表5眼圧変化値の推移および薬剤群間の比較平均値±標準偏差(例数)プラセボvs0.1%プラセボvs0.15%観察時点0.1%0.15%差の差のブリモニジンブリモニジンプラセボ平均値p値*平均値p値*0時間値投与開始日22.1±2.1(43)22.4±2.7(43)22.2±2.3(42)────2週間後.3.1±1.8(43).3.3±2.3(43).1.5±1.9(41).1.6p=0.0006.1.8p=0.00014週間後.3.7±2.0(43).3.4±2.2(43).2.3±2.2(42).1.4p=0.0055.1.2p=0.02302時間値投与開始日21.7±2.5(43)21.8±3.0(43)21.6±2.4(42)────2週間後.4.7±2.5(43).4.8±2.3(43).2.2±2.3(41).2.5p<0.0001.2.6p<0.00014週間後.5.1±2.5(43).4.9±2.0(43).2.3±2.4(42).2.9p<0.0001.2.7p<0.00010時間値と2時間値の平均投与開始日21.9±2.2(43)22.1±2.8(43)21.9±2.3(42)────2週間後.3.9±1.9(43).4.1±2.0(43).1.9±1.8(41).2.1p<0.0001.2.2p<0.00014週間後.4.4±1.9(43).4.2±1.8(43).2.3±2.2(42).2.1p<0.0001.1.9p<0.0001単位:mmHg,差の平均値:[ブリモニジン.プラセボ],*:Dunnettの多重比較.表6眼圧変化率の推移および薬剤群間の比較平均値±標準偏差(例数)プラセボvs0.1%プラセボvs0.15%観察時点0.1%0.15%差の差のブリモニジンブリモニジンプラセボ平均値p値*平均値p値*0時間値投与開始日22.1±2.1(43)22.4±2.7(43)22.2±2.3(42)────2週間後.14.1±8.0(43).14.8±9.8(43).6.5±8.2(41).7.6p=0.0002.8.3p<0.00014週間後.16.4±8.9(43).15.1±9.6(43).10.1±9.9(42).6.3p=0.0049.5.0p=0.03062時間値投与開始日21.7±2.5(43)21.8±3.0(43)21.6±2.4(42)────2週間後.21.8±11.2(43).21.8±9.4(43).9.9±10.4(41).11.9p<0.0001.11.9p<0.00014週間後.23.2±10.7(43).22.4±8.0(43).10.3±10.8(42).12.9p<0.0001.12.1p<0.00010時間値と2時間値の平均投与開始日21.9±2.2(43)22.1±2.8(43)21.9±2.3(42)────2週間後.18.0±8.7(43).18.3±8.7(43).8.3±7.8(41).9.7p<0.0001.10.0p<0.00014週間後.19.9±8.2(43).18.7±7.6(43).10.3±9.8(42).9.7p<0.0001.8.4p<0.0001単位:%,差の平均値:[ブリモニジン.プラセボ],*:Dunnettの多重比較.プラセボ群に比べ統計学的に有意な眼圧下降を示した.0.1%ブリモニジン群と0.15%ブリモニジン群の眼圧変化値に大きな違いはなかった.副次評価として,各観察時点における眼圧変化値および眼圧変化率を薬剤群間で比較した結果,すべての観察時点において主要評価の結果と同様に0.1%および0.15%ブリモニジン群はプラセボ群に比べ有意な眼圧下降効果を示し,両濃度間の眼圧下降効果に大きな違いはなかった.投与2週間後および4週間後の眼圧値が19mmHg以下になった眼圧値の目標眼圧達成率,眼圧変化率が.20%以上になった眼圧変化率の目標眼圧達成率および眼圧変化率が.10%に達しなかったノンレスポンダー率をそれぞれ表7,表8および表9に示す.眼圧値の目標眼圧達成率は,0.1%ブリモニジン群はすべての観察時点において,0.15%ブリモニジン群は4週間後の0時間値を除き,プラセボ群に比べ有意に高かった.眼圧変化率の目標眼圧達成率は,0.1%ブリモニジン群は2週間後の0時間値を除き,0.15%ブリモニジン群は4週間後の0時間値を除きプラセボ群に比べ有意に高かった.ノンレスポンダー率については,0.1%および0.15%ブリモニジン群はすべての観察時点においてプラセボ群に比べ有意に低かった.なお,0.1%と0.15%製剤の眼圧値の目標眼圧達成率,眼圧変化率の目標眼圧達成率およびノンレスポンダー率には有意な差はなかった.その他の解析として,各観察時点における眼圧の0時間値と2時間値の平均値を用いて同様の解析を行った結果,0.1%および0.15%ブリモニジン群はすべての観察時点においてプラセボ群に比べ有(131)あたらしい眼科Vol.29,No.9,20121307 表7眼圧値の目標眼圧達成率(19mmHg以下)の薬剤群間比較目標眼圧達成率(%)薬剤群間比較観察時点0.1%ブリモニジン0.15%ブリモニジンプラセボプラセボvs0.1%プラセボvs0.15%0.1%vs0.15%0時間2週間後55.855.831.7p=0.0261†p=0.0261†p=1.0000†4週間後67.458.140.5p=0.0126†p=0.1034†p=0.3722†2時間値2週間後76.781.451.2p=0.0147†p=0.0034†p=0.5960†4週間後88.486.057.1p=0.0015‡p=0.0031†p=1.0000‡0時間値と2時間値の平均2週間後69.872.136.6p=0.0023†p=0.0011†p=0.8123†4週間後79.174.450.0p=0.0050†p=0.0202†p=0.6097†目標眼圧達成率:眼圧値が19mmHg以下に達した症例の割合.†:c2検定,‡:FischerExact検定.表8眼圧変化率の目標眼圧達成率(.20%以上)の薬剤群間比較目標眼圧達成率(%)薬剤群間比較観察時点0.1%ブリモニジン0.15%ブリモニジンプラセボプラセボvs0.1%プラセボvs0.15%0.1%vs0.15%0時間2週間後23.332.69.8p=0.1433‡p=0.0158‡p=0.3362†4週間後39.537.219.0p=0.0382†p=0.0629†p=0.8245†2時間値2週間後53.553.57.1p=0.0005†p=0.0005†p=1.0000†4週間後60.567.416.7p<0.0001†p<0.0001†p=0.5005†0時間値と2時間値の平均2週間後39.548.89.8p=0.0022‡p=0.0001‡p=0.3851†4週間後53.548.819.0p=0.0010†p=0.0038†p=0.6661†目標眼圧達成率:眼圧変化率が.20%以上に達した症例の割合.†:c2検定,‡:FischerExact検定.表9ノンレスポンダー率の薬剤群間比較ノンレスポンダー率(%)観察時点0.1%ブリモニジン0.15%ブリモニジンプラセボプラセボvs0.1%0時間2週間後37.223.368.3p=0.0044†4週間後18.625.652.4p=0.0011†2時間値2週間後14.011.653.7p=0.0001†4週間後7.09.350.0p<0.0001‡0時間値と2時間値の平均2週間後27.920.963.4p=0.0011†4週間後18.67.052.4p=0.0011†ノンレスポンダー率:眼圧変化率が.10%に達しなかった症例の割合.†:c2検定,‡:FischerExact検定.薬剤群間比較プラセボvs0.15%p<0.0001†p=0.0113†p<0.0001‡p<0.0001‡p<0.0001†p<0.0001‡0.1%vs0.15%p=0.1589†p=0.4355†p=1.0000‡p=1.0000‡p=0.4514†p=0.1951‡1308あたらしい眼科Vol.29,No.9,2012(132) 表10副作用一覧薬剤0.1%ブリモニジン0.15%ブリモニジンプラセボ安全性解析対象例数444544【MedDRA(Ver.10.0)PT】例数(%)件数例数(%)件数例数(%)件数全体6(13.6)76(13.3)92(4.5)2点状角膜炎4(9.1)46(13.3)71(2.3)1結膜浮腫001(2.2)100結膜充血1(2.3)11(2.2)100眼の異常感1(2.3)10000眼刺激1(2.3)10000眼瞼.痒症00001(2.3)1意な眼圧下降効果を示す一方で,0.1%と0.15%ブリモニジン群の眼圧下降効果に差はなかった.発現した有害事象は,0.1%ブリモニジン群11例(25.0%)13件,0.15%ブリモニジン群14例(31.1%)21件,プラセボ群10例(22.7%)11件であった.このうち副作用は0.1%ブリモニジン群6例(13.6%)7件,0.15%ブリモニジン群6例(13.3%)9件,プラセボ群2例(4.5%)2件で,表10に示すようにすべて眼局所の障害で,発現した副作用のなかでは点状角膜炎の頻度が高かった.重症度としては0.1%ブリモニジン群の点状角膜炎1例1件が中等度と判定された以外はいずれも軽度で,0.1%ブリモニジン群と0.15%ブリモニジン群の副作用の発現頻度に差はなかった.死亡例,重篤な副作用および薬剤の投与中止を必要とするような重要な副作用はなかった.角膜・結膜・眼瞼所見,視力検査,視野検査および眼底検査に臨床上問題となる変動はなかった.バイタルサインの血圧および脈拍数で,試験薬剤投与後に統計学的に有意な低下が散見されたものの変動幅は小さく,臨床上問題となる変動はなかった.また,臨床検査についても治療の対象となるような異常変動はなかった.III考察今回のプラセボを対照とした0.1%および0.15%ブリモニジンPurite製剤の1日2回,4週間投与による用量反応試験において,主要評価とした投与4週間後のトラフに相当する0時間の眼圧変化値は,プラセボ群の.2.3±2.2mmHgに対し0.1%ブリモニジン群は.3.7±2.0mmHg,0.15%ブリモニジン群は.3.4±2.2mmHgと両群とも有意な低下を示した.また,ピークに相当する2時間後においてもプラセボ群の.2.3±2.4mmHgに対し,それぞれ.5.1±2.5mmHg,.4.9±2.0mmHgとブリモニジン群はいずれも統計学的に有意な眼圧下降作用を示した.本剤は日本人においても有意な眼圧下降作用を有し,0.1%ブリモニジンPurite製剤が海外で承認されている0.15%ブリモニジンPurite製剤と同等の眼圧下降作用を有することが確認できた.この眼圧下降作用は炭酸脱水酵素阻害薬の0.5%塩酸ドルゾラミド点眼液を(133)1日3回または1%ブリンゾラミド点眼液を1日2回点眼したときと同等あるいはそれ以上の効果を示唆する結果であった12,13).また,副次評価項目には臨床に即した評価として,日本緑内障診療ガイドライン14)で推奨されている緑内障初期症例に対する目標眼圧19mmHg以下の症例,無治療時眼圧からの眼圧下降率20%以上の症例の割合を含め,眼圧下降率が10%未満のノンレスポンダー率を設定したが,これらの副次評価においても本剤の主要評価を支持する結果を得た.米国でブリモニジンの開発初期に実施された0.08%,0.2%および0.5%ブリモニジンBAK製剤による用量反応試験では,0.2%群と0.5%群の継続投与による眼圧下降作用に明らかな違いはなく,いずれも0.08%群に対して有意な眼圧下降作用を示し,安全性の面では0.2%群が優れることからブリモニジンの至適濃度として0.2%が選択されている15).その後,この0.2%ブリモニジンBAK製剤の保存剤をPuriteに変更するとともに,pHを中性領域に変更することで眼内移行性が約1.4倍向上し16),臨床的にも0.15%ブリモニジンPuriteが0.2%ブリモニジンBAK製剤と同等の眼圧下降作用を有することが確認されている17).さらに,0.2%ブリモニジンBAK製剤と0.15%ブリモニジンPuriteあるいは0.2%ブリモニジンPurite製剤の3用量による長期投与試験の結果,0.15%ブリモニジンPurite製剤は,0.2%ブリモニジンBAK製剤および0.2%ブリモニジンPurite製剤と同等の眼圧下降作用を示す一方で,アレルギー性結膜炎や口内乾燥などの発現率が有意に少ないことが確認され18),2001年にFDA(FoodandDrugAdministration)の承認を取得している.国内の臨床試験に用いた0.15%ブリモニジンPurite製剤は,米国で0.2%ブリモニジンBAK製剤と同等の眼圧下降作用が確認された製剤である.その主薬濃度のみを変更した0.1%ブリモニジンPurite製剤が,わが国においては0.15%ブリモニジンPurite製剤と同様の眼圧下降作用とプロファイルを示したことから,間接的な比較にはなるものの日本人に対する0.1%ブリモニジンPurite製剤は,これまで海外で汎用されてきた0.2%ブリモニジンBAK製剤あたらしい眼科Vol.29,No.9,20121309 とも同等の眼圧下降作用を有すると考えられる.現在,緑内障治療薬の薬効評価は眼圧下降作用を指標として検討されているが,緑内障に対する最終的な治療目的は視神経障害の進行阻止である.目標眼圧の維持は緑内障の進行を抑制するうえで有効な手段ではあるものの,眼圧は代替評価項目(サロゲートエンドポイント)であることから近年,改めて視神経乳頭の血流改善や網膜神経節細胞に対する直接的な神経保護治療が注目されつつある.ブリモニジンは角膜透過性が高く,薬理作用が期待できる濃度が点眼で網膜や硝子体に到達しており19.21),虚血再灌流モデルやグルタミン酸硝子体内注入あるいは眼圧上昇動物モデルに対する点眼投与で網膜神経節細胞のアポトーシスを抑制することが報告されている22,23).また,臨床研究においても0.2%ブリモニジンBAK製剤の点眼により正常眼圧緑内障の視野障害の進行がチモロール点眼液よりも少なかったという結果24)や開放隅角緑内障のコントラスト感度が改善したなど25),神経保護作用を示唆する結果が報告されている.これらの神経保護作用を支持する根拠の一つとして,前述の点眼投与による網膜への移行性があげられる.ブリモニジンのa2受容体に対する親和性を示す平衡定数値は約2nMに対し26),有水晶体眼の網膜硝子体手術患者へ0.15%ブリモニジンPurite製剤を点眼したときの硝子体内濃度は12.5nMとの報告があり21),また,サルに14C-ブリモニジン点眼液を投与した移行性試験では,硝子体よりも網脈絡膜に高い放射能濃度が認められている19).従来,点眼による後極部網脈絡膜への移行は非常に少ないと考えられていたが,眼球壁に沿った結合織中の拡散によっても点眼投与した薬物が短時間で網脈絡膜に高濃度で到達することが報告されている27,28).0.1%ブリモニジンPurite製剤の組織移行性については今後さらなる検討が必要となるものの従来の報告結果は,0.1%ブリモニジンPurite製剤においても点眼後に,神経保護作用が期待できる濃度が網脈絡膜へ到達する可能性を否定するものではないと考える.安全性に関しては,海外の臨床試験17,18,29)で比較的,発現頻度の高いアレルギー性結膜炎,結膜濾胞および口内乾燥の報告はなく,結膜充血も0.1%群および0.15%群に1例のみであった.一方,これまでは報告の少なかった点状角膜炎が0.1%群に4例,0.15%群に6例と比較的高い発現頻度を示した.本試験では角膜所見をAreaとDensityによる9段階で評価するAD分類を用いたことで,初期の微細な角膜上皮の変化の検出が可能になったことが一因と考えられる.なお,発現した点状角膜炎はすべて無治療での継続治療の間に消失しており,本剤の臨床使用における忍容性に支障を及ぼすものではなかった.また,両群に発現した副作用はすべて眼局所の症状・所見で,0.1%群と0.15%群の発現頻度や重症度に大きな違いはなく,臨床検査やバイタルサインの血圧1310あたらしい眼科Vol.29,No.9,2012および脈拍数に対する影響も少ないことが確認できた.以上のプラセボを対照とした0.1%および0.15%ブリモニジンPurite製剤の1日2回,4週間点眼による眼圧下降作用と安全性に関する検討結果から,わが国における原発開放隅角緑内障および高眼圧症に対するブリモニジンPurite製剤の至適濃度は0.1%が妥当と判断した.謝辞:本臨床研究にご参加いただきました諸施設諸先生方に深謝いたします.文献1)KassMA,HeuerDK,HigginbothamEJetal;TheOcularHypertensionTreatmentStudy:Arandomizedtrialdeterminesthattopicalocularhypotensivemedicationdelaysorpreventstheonsetofprimaryopen-angleglaucoma.ArchOphthalmol120:701-713,20022)LichterPR,MuschDC,GillespieBWetal:CIGTSStudyGroup:InterimclinicaloutcomesintheCollaborativeInitialGlaucomaTreatmentStudycomparinginitialtreatmentrandomizedtomedicationsorsurgery.Ophthalmology108:1943-1953,20013)RobinAL:Theroleofapraclonidinehydrochlorideinlasertherapyforglaucoma.TransAmOphthalmolSoc87:729-761,19894)ThompsonCD,MacdonaldTL,GarstMEetal:Mechanismsofadrenergicagonistinducedallergybioactivationandantigenformation.ExpEyeRes64:767-773,19975)ButlerP,MannschreckM,LinSetal:Clinicalexperiencewiththelong-termuseof1%apraclonidine.Incidenceofallergicreactions.ArchOphthalmol113:293-296,19956)AraujoSV,BondJB,WilsonRPetal:Longtermeffectofapraclonidine.BrJOphthalmol79:1098-1101,19957)TorisCB,CamrasCB,YablonskiME:Acuteversuschroniceffectsofbrimonidineonaqueoushumordynamicsinocularhypertensivepatients.AmJOphthalmol128:8-14,19998)LeeDA:Efficacyofbrimonidineasreplacementtherapyinpatientswithopen-angleglaucomaorocularhypertension.ClinTher22:53-65,20009)LeeDA,GornbeinJA:Effectivenessandsafetyofbrimonidineasadjunctivetherapyforpatientswithelevatedintraocularpressureinalarge,open-labelcommunitytrial.JGlaucoma10:220-226,200110)SchumanJS,BrimonidineStudyGroups1and2:Effectsofsystemicbeta-blockertherapyontheefficacyandsafetyoftopicalbrimonidineandtimolol.Ophthalmology107:1171-1177,200011)宮田和典,澤充,西田輝夫ほか:びまん性表層角膜炎の重症度の分類.臨眼48:183-188,199412)北澤克明:原発開放隅角緑内障および高眼圧症に対するMK-5070.5%点眼液の第III相比較試験─0.25%マレイン酸チモロール点眼液との多施設共同群間比較試験.眼紀45:1023-1033,199413)北澤克明,三嶋弘,阿部春樹ほか:原発開放隅角緑内障(134) 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