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2週間頻回交換ソフトコンタクトレンズ装用上におけるクロモグリク酸ナトリウム点眼液(クモロール®PF点眼液2%)の安全性

2015年7月31日 金曜日

《原著》あたらしい眼科32(7):1047.1051,2015c2週間頻回交換ソフトコンタクトレンズ装用上におけるクロモグリク酸ナトリウム点眼液(クモロールRPF点眼液2%)の安全性小玉裕司小玉眼科医院SafetyStudyofSodiumCromoglicateOphthalmicSolution(CUMOROLPFOphthalmicSolution2%)in2-WeekFrequent-ReplacementSoftContactLensWearersYujiKodamaKodamaEyeClinicアレルギー性結膜炎治療用点眼剤のクロモグリク酸ナトリウム点眼液(クモロールRPF点眼液2%,以下,クモロールRPF点眼液)には防腐剤が添加されておらず,角結膜やソフトコンタクトレンズ(SCL)に対する影響がベンザルコニウム塩化物を防腐剤に使用している点眼薬よりも少ない可能性が考えられる.今回,健常者のボランティア5名を対象として4種類の2週間頻回交換SCL(アキュビューRオアシスR,2ウィークアキュビューR,メダリストRII,バイオフィニティR)装用中にクモロールRPF点眼液を点眼した場合の安全性およびSCLへの主成分ならびにホウ酸(ホウ素として)の吸着について検討を行った.その結果,SCL中に主成分およびホウ酸はSCLの種類によって検出されたが検出量はいずれもごく微量であり,フィッティングの変化も認められなかった.また,クモロールRPF点眼液による角結膜の障害や副作用は認められなかった.医師の管理のもとに定期検査を十分に行えば,SCL装用上においてクモロールRPF点眼液を使用しても,問題はないものと考えられた.SodiumCromoglicateOphthalmicSolution(CUMOROLPFOphthalmicSolution2%),whichisusedfortreatingallergicconjunctivitis,containsnopreservatives.Itsinfluenceonproducingkeratoconjunctivaldisordersandchangesinsoftcontactlenses(SCL)maythereforebelessthanthatofophthalmicsolutionsthatusebenzalkoniumchlorideasapreservative.Inthisstudy,5healthyadultvolunteersubjectswereinvestigatinginregardtothesafetyandSCLabsorptionoftheactiveingredientandboricacid(asboron)inCUMOROLPFOphthalmicSolution2%instilledinwearersof4typesof2-weekfrequentreplacementSCLs(2WEEKACUVUER,MedalistRII,ACUVUEROASYSR,andBiofinityR).TheactiveingredientandboricacidweredetectedineachtypeofSCL;however,thelevelsdetectedwereverylowandnochangewasobservedinthefitoftheSCL.Furthermore,nokeratoconjunctivaldisordersorotheradverseeffectswereobserved.Thefindingsofthisstudyshowthatwithsufficientperiodicinspectionsunderadoctor’ssupervision,theuseofCUMOROLPFOphthalmicSolution2%inthepresenceofanSCLisconsideredsafe.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(7):1047.1051,2015〕Keywords:クロモグリク酸ナトリウム点眼液,2週間頻回交換ソフトコンタクトレンズ,防腐剤,ホウ酸,副作用.sodiumcromoglicateophthalmicsolution,2-weekfrequentreplacementsoftcontactlens,preservatives,boricacid,adverseeffect.はじめに結膜障害が生じないか,防腐剤がCLに沈着することによっコンタクトレンズ(CL)装用上において点眼液を使用するてさらにその障害が重篤なものにならないかなどの心配があことについては,CL自体が変形しないか,防腐剤による角り,これまでに多くの研究がなされている1.13).とくにアレ〔別刷請求先〕小玉裕司:〒610-0121京都府城陽市寺田水度坂15-459小玉眼科医院Reprintrequests:YujiKodama,M.D.,KodamaEyeClinic,15-459Mitisaka,Terada,JoyoCity,Kyoto610-0121,JAPAN0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(125)1047 ルギー性結膜炎やドライアイなどの患者では,CLを装用したまま点眼薬を使用することを希望する症例が多く認められる14).筆者は過去に抗アレルギー点眼薬であるアシタザノラスト水和物点眼液,防腐剤フリーのヒアルロン酸ナトリウム点眼液の各種使い捨てソフトコンタクトレンズ(SCL)装用上点眼における安全性およびCLへの主成分ならびに添加物の吸着について検討を行い,医師の管理のもとに定期検査を十分に行えば問題がないことを報告した15.18).今回は防腐剤フリーの抗アレルギー点眼薬であるクロモグリク酸ナトリウム点眼液(クモロールRPF点眼液2%,以下,クモロールRPF点眼液)の各種2週間頻回交換SCL装用上点眼における安全性およびCLへの主成分ならびにホウ酸の吸着について検討を行ったので,その結果について報告する.I対象および方法1.対象ならびに使用レンズSCLの使用が可能な健常者のボランティア5名(年齢30.48歳,平均37歳,女性5名)を対象とした.なお,被験者には試験の実施に先立ち,試験の趣旨と内容について十分な説明を行い,同意を得た.2週間頻回交換SCLの中から含水性SCLとして2ウィークアキュビューR,メダリストRII,シリコーンハイドロゲルSCLとしてアキュビューRオアシスR,バイオフィニティRの計4種類のレンズを装用させた(表1).2.方法被験者の両眼にSCLを装用させた後,クモロールRPF点眼液を1回1滴,1日4回,両眼に点眼した.SCLのケア用品としては角膜上皮障害が少ないコンプリートRプロテクトを使用させた19).2週間経過して最終点眼10分後に被験者の両眼からSCLを装脱し,回収したSCLの1枚は主成分のクロモグリク酸ナトリウム定量用とし,他方の1枚はホウ酸定量用とした.回収したSCLは乾燥した蓋付きガラス容器に各1枚を入れ保管して郵送した.試験室に届いたSCLはコンタクトレンズ上の細菌や真菌などの繁殖を防ぐため35℃にて乾燥させた後,5℃の冷蔵庫内に保管した.全SCLが揃った時点で冷蔵庫から取り出して定量試験を開始した.a.クロモグリク酸ナトリウムの定量被験者から装脱・回収したSCLに吸着したクロモグリク酸を抽出し,高速液体クロマトグラフ法により定量した.高速液体クロマトグラフ法の直線性用標準溶液はクロモグリク酸ナトリウムを用いて,水/アセトニトリル溶液(85:15)で調製し,100,50,10,5,1,0.5μg/mlのものを使用した.サンプルのSCLは冷蔵庫から取り出し室温に戻した後,蓋付きガラス容器に精製水1mlを分注密栓し,60秒間ボルテックスミキサーで撹拌した.その後,1晩静置しクロモグリク酸を抽出した.検出には紫外吸光光度計(島津LC-2010)を使用した.b.ホウ酸(ホウ素)の定量被験者から装脱・回収したSCLをMilli-Q水で洗浄した後,6.8%硝酸10mlで溶解・抽出した液を検体とした.ICP(inductivelycoupledplasma)発光分光分析(島津ICPS8000)によりSCLに吸着していたホウ酸をホウ素として定量した.3.涙液検査試験開始前に涙液層破壊時間(BUT)計測とフェノールレッド綿糸法を実施した.BUTは1%フルオレセインナトリウムを硝子棒で滴下し,数回の瞬目を指示し,完全な瞬目後の角膜上涙液層が破綻するまでの時間を計測した.ドライアイの際には,ほとんどの症例で3秒以下となる.フェノールレッド綿糸法はゾーンクイックRという製品を用いて,下眼瞼外側にフェノールレッド綿糸法を挿入する.15秒後に取り出して,赤変した部分を測定する.正常では20mm以上で10mm以下をドライアイの疑いと考える.4.自覚症状点眼開始前,点眼開始1週間後,試験終了時に掻痒感,異物感,眼脂について問診した.表1使用レンズ使用レンズ酸素透過係数含水率中心厚(.3.00D)直径FDA(米国食品・医薬品局)分類se/2(cm.1110×値:〔Dkc)・(mlO2/ml×mmHg)〕(%)mmmm2ウィークアキュビューRグループIVメダリストRIIグループIIアキュビューRオアシスRグループIバイオフィニティRグループI2822103128585938480.0840.140.070.0814.014.214.014.01048あたらしい眼科Vol.32,No.7,2015(126) 5.細隙灯顕微鏡検査点眼開始前と点眼開始1週間後と試験終了後にフルオレセイン染色による角結膜の観察と眼瞼結膜および眼球結膜の充血,浮腫,乳頭の観察を行った.点眼開始前,点眼開始1週間後,試験終了SCL装脱前にSCLフィッティング状態の判定を行った.6.副作用投与期間中に発現した症状のうち,試験薬との因果関係が否定できないものを副作用とした.II結果自覚症状については点眼開始後試験終了時までにおいて,点眼開始前と比較して掻痒感,異物感,眼脂について問診するとともに装用感,乾燥感,見え方などについても問診した.その結果,とくに異常を訴える症例はなかった.涙液検査については,綿糸法,BUTともに正常領域であった.経過観察中,点眼投与による副作用は全例において認められなかった.以下に各SCLに吸着したクロモグリク酸ナトリウム,ホウ酸の定量結果(表2)と,細隙灯顕微鏡検査によって観察された結果を記す.SCLのフィッティングについては静止位置,瞬目によるレンズの動き,下眼瞼越しに親指を用いてレンズを押し上げてレンズの動きをみる方法を用いて判定した.点眼前と比較して,ルーズフィッティングになったり,タイトフィティングになった症例は認められなかった.1.2ウィークアキュビューRa.SCLから検出された主成分およびホウ酸量主成分のクロモグリク酸ナトリウムは5検体とも検出され,吸着量の平均は0.8±0.6μg/SCLであった.ホウ酸は5検体中1検体が検出限界以下,検出された4検体の吸着量の平均は11.3±2.3μg/SCLであった.b.細隙灯顕微鏡検査点眼開始前に比べSCL装用中,装脱直後において症状が悪化した症例は認められず,SCLフィッティング状態も良好であった.試験開始前には10眼中1眼に点状表層角膜症(superficialpunctatekeratopathy:SPK)が認められていた.試験終了時には10眼中3眼にSPKが認められたが,その程度はいずれも軽度でドライアイによるものと推察された.2.メダリストRIIa.SCLから検出された主成分およびホウ酸量主成分のクロモグリク酸ナトリウムは5検体とも検出され,吸着量の平均は5.8±2.3μg/SCLであった.ホウ酸は5検体とも検出され,吸着量の平均は14.1±5.7μg/SCLであった.(127)表2SCLから検出された主成分およびホウ酸量使用SCL検出量(μg/SCL)クロモグリク酸ナトリウムホウ素(ホウ酸として)2ウィークアキュビューR平均値±SD0.52.00.60.40.30.8±0.62.6(14.9)1.8(10.3)2.0(11.4)ND1.5(8.6)2.0±0.4(11.3±2.3)メダリストRII平均値±SD3.98.04.59.13.65.8±2.32.3(13.2)3.6(20.6)3.6(20.6)1.7(9.7)1.1(6.3)2.5±1.0(14.1±5.7)アキュビューRオアシスR平均値±SD1.22.21.51.60.41.4±0.6ND1.1(6.3)NDNDND1.1(6.3)バイオフィニティR平均値±SD2.96.03.43.02.33.5±1.31.9(10.9)2.0(11.4)1.6(9.2)1.2(6.9)ND1.7±0.3(9.6±1.8)検出限界(μg/SCL)0.10.2(1.1)SD:標準偏差,ND:検出限界以下.b.細隙灯顕微鏡検査点眼開始前に比べSCL装用中,装脱直後において症状が悪化した症例は認められず,SCLフィッティング状態は良好であった.試験開始前には10眼中7眼にSPKが認められていた.試験終了時には10眼中1眼にSPKが認められたが,その程度はいずれも軽度でドライアイによるものと推察された.3.アキュビューRオアシスRa.SCLから検出された主成分およびホウ酸量主成分のクロモグリク酸ナトリウムは5検体とも検出され,吸着量の平均は1.4±0.6μg/SCLであった.ホウ酸は5検体中4検体が検出限界以下,検出された1検体の吸着量は6.3μg/SCLであった.b.細隙灯顕微鏡検査点眼開始前に比べSCL装用中,装脱直後において症状が悪化した症例は認められず,SCLフィッティング状態も良好であった.試験開始前には10眼中3眼にSPKが認められあたらしい眼科Vol.32,No.7,20151049 た.試験終了時には10眼中2眼にSPKが認められたが,その程度はいずれも軽度でドライアイによるものと推察された.4.バイオフィニティRa.SCLから検出された主成分およびホウ酸量主成分のクロモグリク酸ナトリウムは5検体とも検出され,吸着量の平均は3.5±1.3μg/SCLであった.ホウ酸は5検体中1検体が検出限界以下,検出された4検体の吸着量の平均は9.6±1.8μg/SCLであった.b.細隙灯顕微鏡検査点眼開始前に比べSCL装用中,装脱直後において症状が悪化した症例は認められず,SCLフィッティング状態も良好であった.試験開始前には10眼中2眼にSPKが認められた.試験終了時には10眼中9眼にSPKが認められたが,その程度はいずれも軽度でドライアイによるものと推察された.III考按CL装用上において点眼液を使用させるか否かは議論の尽きないところである.しかし,CL装用を余儀なくされる患者において,点眼液を使用する際,その都度CLを外すのは手間もかかるし感染の機会が増加する危険性を孕んでいる.現在市販されている点眼液の60%には防腐剤としてベンザルコニウム塩化物(benzalkoniumchloride:BAK)が含まれているといわれている20).その他の防腐剤としてはパラベン類,クロロブタノールなどがあり,これらの防腐剤が角膜上皮障害をもたらすことは基礎および臨床の面から多くの報告がなされている5.11).筆者はBAKを含有した点眼液およびパラベン類,クロロブタノールを含有した点眼液をCL装用上において点眼させ,その安全性について検討し,問題がないことをこれまでに報告している14.16).また,点眼液には防腐剤以外にも添加物が含有されており,防腐剤フリーの点眼液においても等張化剤や緩衝剤として配合されているホウ酸の吸着について検討を行い,医師の管理のもとに定期検査を十分に行えば問題がないことをこれまでに報告している17,18).今回は防腐剤フリーの抗アレルギー点眼液であるクモロールRPF点眼液を用いて,シリコーンハイドロゲルSCLを含む4種類の2週間頻回交換SCL装用上点眼における安全性およびSCLへの主成分ならびにホウ酸の吸着について検討を行った.シリコーンハイドロゲルSCLはハイドロゲル素材のSCLの欠点であった酸素透過性を大幅に改善しているとともにその低含水性によって乾燥感を軽減できることが期待されている.しかし,シリコーンハイドロゲルSCLはハイドロゲル素材のSCLと素材,表面処理,含水率などが異なるため,点眼液の主成分や添加物のCLへの吸着が異なる1050あたらしい眼科Vol.32,No.7,2015可能性が考えられる.今回の実験ではハイドロゲル素材のSCL2種類とシリコーンハイドロゲルSCL2種類を選択した.その結果,主成分であるクロモグリク酸ナトリウムはすべてのSCLから検出されたが,検出量はいずれもごく微量であり,ハイドロゲル素材のSCLとシリコーンハイドロゲルSCL間で検出量に差は認められなかった.もっとも多く吸着を認めたメダリストRIIにおいても,1回1滴,4回点眼における1日投与総量から考えると吸着したクロモグリク酸ナトリウムの量は1%以下であった.ホウ酸はSCL6検体においては検出域以下であり14検体から検出されたが,検出量はいずれもごく微量であり,吸着を認めたメダリストRII,バイオフィニティRにおいても,1日投与総量から考えると吸着したホウ酸の量は1%以下であった.主成分と同様にハイドロゲル素材のSCLとシリコーンハイドロゲルSCL間で検出量に差は認められなかった.SCL装用者において瞳孔領下方の角膜に局在し,笑った人形の口の形状に似ているためスマイルマークパターンとよばれるSPKが認められることがよくある.この症状はSCL装用に伴う涙液の分布障害が関連していると考えられている.SCLは吸水性のため,SCLの表面にある涙液水層は薄く,この涙液水層上の涙液油層の伸展が妨げられることから,SCL表面にある涙液が蒸発しやすくなる22).この結果,CL内の水分だけでなく,CL下の涙液も少なくなる.瞬目が不完全となると,スマイルマークパターンSPKが生じやすくなると考えられているが,自覚症状がない場合,治療は必要ではなく軽度のドライアイとして経過観察のみでよいとされている.また,CL装用中の点眼使用によるSPKやCLフィッティング状態については,SPKにおいて症例数の増減は認められたものの,その程度はいずれも軽度でその形状から全症例とも前述したようなSCLを装用したことから生じるものと推察され,CLフィッティングにおいても点眼液使用による影響を受けた症例は認められなかった.以上の結果より,医師の管理のもとに定期検査を十分に行えば,2週間頻回交換SCL装用上においてクモロールRPF点眼液を使用しても,問題はほとんどないものと考えられた.文献1)岩本英尋,山田美由紀,萩野昭彦ほか:塩化ベンザルコニウム(BAK)による酸素透過性ハードコンタクトレンズ表面の変質について.日コレ誌35:219-225,19932)高橋信夫,佐々木一之:防腐剤とその眼に与える影響.眼科31:43-48,19893)平塚義宗,木村泰朗,藤田邦彦ほか:点眼薬防腐剤によると思われる不可逆的角膜上皮障害.臨眼48:1099-1102,19944)山田利律子,山田誠一,安室洋子ほか:保存剤塩化ベンザ(128) ルコニウムによるアレルギー性結膜炎─第2報─.アレルギーの臨床7:1029-1031,19875)GassetAR:Benzalkoniumchloridetoxicitytothehumancornea.AmJOphthalmol84:169-171,19776)PfisterRR,BursteinNL:Theeffectofophthalmicdrugs,vehiclesandpreservativesoncornealepithelium:Ascanningelectronmicroscopestudy.InvestOphthalmol15:246-259,19767)BursteinNL:Cornealcytotoxicityoftopicallyapplieddrugs,vehiclesandpreservatives.SurvOphthalmol25:15-30,19808)高橋信夫,向井佳子:点眼剤用防腐剤塩化ベンザルコニウムの細胞毒性とその作用機序─細胞培養学的検討─.日本の眼科58:945-950,19879)島﨑潤:点眼剤の防腐剤とその副作用.眼科33:533538,199110)濱野孝,坪田一男,今安正樹:点眼薬中の防腐剤が角膜上皮に及ぼす影響─涙液中LDH活性を指標として─.眼紀42:780-783,199111)中村雅胤,山下哲司,西田輝夫ほか:塩化ベンザルコニウムの家兎角膜上皮に対する影響.日コレ誌35:238-241,199312)水谷聡,伊藤康雄,白木美香ほか:コンタクトレンズと防腐剤の影響について(第1報)─取り込みと放出─.日コレ誌34:267-276,199213)河野素子,伊藤孝雄,水谷潤ほか:コンタクトレンズと防腐剤の影響について(第2報)─RGPCL素材におけるBAKの研究─.日コレ誌34:277-282,199214)小玉裕司,北浦孝一:コンタクトレンズ装用上における点眼使用の安全性について.あたらしい眼科17:267-271,200015)小玉裕司:コンタクトレンズ装用上におけるアシタザノラスト水和物点眼液(ゼペリン点眼液)の安全性.あたらしい眼科20:373-377,200316)小玉裕司:シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ装用上におけるアシタザノラスト水和物点眼液(ゼペリン点眼液)の安全性.あたらしい眼科26:553-556,200917)小玉裕司:ソフトコンタクトレンズ装用上におけるヒアルロン酸ナトリウム点眼液(ヒアルロン酸ナトリウムPF点眼液0.1%「日点」)の安全性.あたらしい眼科29:665-668,201218)小玉裕司:2週間頻回交換ソフトコンタクトレンズ上におけるヒアルロン酸ナトリウム点眼液(ヒアルロン酸ナトリウムPF点眼液0.1%「日点」)の安全性.あたらしい眼科29:1549-1553,201219)小玉裕司,井上恵里:各種MultipurposeSolution(MPS)の角膜上皮に及ぼす影響.日コレ誌53:補遺S27-S32,201120)中村雅胤,西田輝夫:防腐剤の功罪.眼科NewSight②点眼液─常識と非常識─(大橋裕一編),p36-43,メジカルビュー社,199421)植田喜一,柳井亮二:シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズとマルチパーパスソリューション,点眼薬.あたらしい眼科25:923-930,200822)MaruyamaK,YokoiN,TakamataAetal:Effectofenvironmentalconditionsonteardynamicsinsoftcontactlenswearers.InvestOphthalmolVisSci45:2563-2568,2004***(129)あたらしい眼科Vol.32,No.7,20151051

2週間頻回交換ソフトコンタクトレンズ上におけるヒアルロン酸ナトリウム点眼液(ヒアルロン酸ナトリウムPF点眼液0.1% 「日点」)の安全性

2012年11月30日 金曜日

《原著》あたらしい眼科29(11):1549.1553,2012c2週間頻回交換ソフトコンタクトレンズ上におけるヒアルロン酸ナトリウム点眼液(ヒアルロン酸ナトリウムPF点眼液0.1%「日点」)の安全性小玉裕司小玉眼科医院SafetyStudyofSodiumHyaluronatePFOphthalmicSolution0.1%(NITTEN)for2-WeekFrequentReplacementSoftContactLensWearersYujiKodamaKodamaEyeClinic角結膜上皮障害治療用点眼剤のヒアルロン酸ナトリウム点眼液(ヒアルロン酸ナトリウムPF点眼液0.1%「日点」,以下,ヒアルロン酸PF点眼液)には防腐剤が添加されておらず,角結膜やソフトコンタクトレンズ(SCL)に対する影響が塩化ベンザルコニウムを防腐剤に使用している点眼液よりも少ない可能性が考えられる.今回,ドライアイを有するボランティアを対象として4種類の2週間頻回交換SCL(アキュビューRオアシスTM,2ウィークアキュビューR,メダリストRII,バイオフィニティR)装用中にヒアルロン酸PF点眼液を点眼した場合の安全性およびSCLへの主成分ならびにホウ酸(ホウ素として)の吸着について検討を行った.その結果,SCL中に主成分およびホウ酸はSCLの種類によって検出されたが検出量はいずれもごく微量であり,フィッティングの変化も認められなかった.また,ヒアルロン酸PF点眼液による角結膜の障害や副作用は認められなかった.医師の管理のもとに定期検査を十分に行えば,SCL装用上においてヒアルロン酸PF点眼液を使用しても,問題はないものと考えられた.SodiumHyaluronatePFOphthalmicSolution0.1%(NITTEN),whichisusedfortreatingkeratoconjunctivalepithelialdisorders,containsnopreservatives.Itsinfluenceonthekeratoconjunctivaandsoftcontactlenses(SCL)maythereforebelessthanthatofophthalmicsolutionsthatusebenzalkoniumchlorideasapreservative.HealthyadultvolunteerswhotendtohavedryeyewereincludedinthisstudyinvestigatingthesafetyandSCLabsorptionoftheactiveingredientandboricacid(asboron)inSodiumHyaluronatePFOphthalmicSolutioninstilledinwearersof4typesof2-weekfrequentreplacementSCL(2WEEKACUVUER,MedalistRII,ACUVUEROASYSTM,BiofinityR).ResultsshowedthatactiveingredientandboricaidweredetectedineachtypeofSCL;however,thelevelsdetectedwereverylowandnochangewasobservedintheSCLfitting.Furthermore,nokeratoconjunctivaldisordersorotheradverseeffectswereobserved.Withsufficientperiodicinspectionsunderadoctor’ssupervision,theuseofSodiumHyaluronatePFOphthalmicSolutioninthepresenceofSCLisconsideredsafe.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(11):1549.1553,2012〕Keywords:ヒアルロン酸ナトリウム点眼液,2週間頻回交換ソフトコンタクトレンズ,防腐剤,ホウ酸,副作用.sodiumhyaluronateophthalmicsolution,2-weekfrequentreplacementsoftcontactlens,preservative,boricacid,adverseeffect.はじめにいかという検討に関してはこれまでに多くの報告がある1.13).コンタクトレンズ(CL)装用上において点眼液を使用するしかし,点眼液には防腐剤以外にも主薬剤のほかに,等張化ことによって,点眼液に含まれる防腐剤が眼障害をきたさな剤,緩衝剤,可溶化剤,安定化剤,粘稠化剤などが含まれて〔別刷請求先〕小玉裕司:〒610-0121京都府城陽市寺田水度坂15-459小玉眼科医院Reprintrequests:YujiKodama,M.D.,KodamaEyeClinic,15-459Mitosaka,Terada,JoyoCity,Kyoto610-0121,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(99)1549 いる.そのなかで,防腐剤フリーの点眼液にも等張化剤あるいは緩衝剤として含まれているホウ酸による眼障害の検討も必要と考え,筆者はこれまでにヒアルロン酸PF点眼液の各種1日使い捨てソフトコンタクトレンズ(SCL)装用上点眼における安全性およびCLへの主成分ならびにホウ酸の吸着について検討を行い,医師の管理のもとに定期検査を十分に行えば問題がないことを報告した14).今回はヒアルロン酸PF点眼液の各種2週間頻回交換SCL装用上点眼における安全性およびCLへの主成分ならびにホウ酸の吸着について検討を行ったので,その結果について報告する.I対象および方法1.対象ならびに使用レンズSCLの使用が可能なドライアイ傾向を示すボランティア5名(年齢30.45歳,平均35歳,女性5名)を対象とした.なお,被験者には試験の実施に先立ち,試験の趣旨と内容について十分な説明を行い,同意を得た.2週間頻回交換SCLのなかから従来素材の含水性SCLとして2ウィークアキュビューR,メダリストRII,シリコーンハイドロゲルSCLとしてアキュビューRオアシスTM,バイオフィニティRの計4種類のレンズを装用させた(表1).2.方法被験者の両眼にSCLを装用させた後,ヒアルロン酸PF点眼液を1回2滴,2時間間隔で6回,両眼に点眼した.SCLのケア用品としては角膜上皮障害が少ないコンプリートRプロテクトを使用させた15).2週間経過して最終点眼10分後に被験者の両眼からSCLを装脱し,回収したSCLの1枚は主成分の精製ヒアルロン酸ナトリウム定量用とし,他方の1枚はホウ酸定量用とした.a.精製ヒアルロン酸ナトリウムの定量被験者から装脱・回収したSCLを1枚ずつカルバゾール硫酸法による発色法(紫外可視吸光度測定法)によりSCLに吸着していた精製ヒアルロン酸ナトリウムを定量した.b.ホウ酸(ホウ素)の定量被験者から装脱・回収したSCLをICP(inductivelycoupledplasma)発光分光分析によりSCLに吸着していたホウ酸をホウ素として定量した.3.涙液検査試験開始前に涙液層破壊時間(BUT)と綿糸法を実施した.4.自覚症状点眼開始前,点眼開始1週間後,試験終了時に掻痒感,異物感,眼脂について問診した.5.細隙灯顕微鏡検査点眼開始前と点眼開始1週間後と試験終了後にフルオレセイン染色による角結膜の観察と眼瞼結膜および眼球結膜の充血,浮腫,乳頭の観察を行った.点眼開始前,点眼開始1週間後,試験終了SCL装脱前にSCLフィッティング状態の判定を行った.6.副作用投与期間中に発現した症状のうち,試験薬との因果関係が否定できないものを副作用とした.II結果自覚症状については点眼開始後試験終了時までにおいて,特に異常を訴える症例はなかった.涙液検査については,綿糸法では正常領域であった.BUTは1眼で4秒,1眼で3秒の症例がある以外は正常領域であった.試験開始前において,5人10眼中3人4眼にドライアイと推察される下方に局在する微小な点状表層角膜症(superficialpunctatekeratopathy:SPK)が認められた.経過観察中,試験前に認められたSPKと同様なドライアイによると推察される下方に局在した微小なSPKが認められる症例は散見されたものの,点眼などによる副作用で認められるようなびまん性のSPKは認められなかった.以下に各SCLに吸着した精製ヒアルロン酸ナトリウム,ホウ酸の定量結果(表2)と,細隙灯顕微鏡検査によって観察された結果を記す.表1使用レンズ使用レンズFDA(米国食品・医薬品局)分類2ウィークアキュビューRグループIVメダリストRIIグループIIアキュビューRオアシスTMグループIバイオフィニティRグループI酸素透過係数Dk値:〔×10.11(cm2/sec)・(mlO2/ml×mmHg)〕2822103128含水率(%)58593848中心厚(.3.00D)(mm)0.0840.140.070.08直径(mm)14.014.214.014.01550あたらしい眼科Vol.29,No.11,2012(100) 表2SCLから検出された主成分およびホウ酸量使用SCL検出量(μg/SCL)精製ヒアルロン酸ナトリウムホウ素(ホウ酸として)2ウィークアキュビューR平均値±SDNDNDNDNDND─5.8(33.2)NDNDNDND5.8(33.2)メダリストRII平均値±SDNDNDNDNDND─NDNDNDNDND─アキュビューRオアシスTM平均値±SDNDNDNDND15152.6(14.9)1.6(9.2)3.6(20.6)3.1(17.7)1.8(10.3)2.5±0.8(14.3±4.6)バイオフィニティR平均値±SD1411NDNDND12.5NDNDNDNDND.検出限界(μg/SCL)100.2(1.1)SD:標準偏差,ND:検出限界以下.1.2ウィークアキュビューRa.SCLから検出された主成分およびホウ酸量主成分の精製ヒアルロン酸ナトリウムは5検体すべて検出限界以下であった.ホウ酸は5検体中1検体から検出され,吸着量は33.2μg/SCLであった.b.細隙灯顕微鏡検査点眼開始前に比べSCL装用中,装脱直後において症状が悪化した症例は認められず,SCLフィッティング状態も良好であった.10眼中2眼(いずれも試験開始前にSPKが認められた症例)においてSPKが認められたが,その程度は試験開始前と変化はなかった.2.メダリストRIIa.SCLから検出された主成分およびホウ酸量主成分のヒアルロン酸ナトリウム,ホウ酸ともに5検体すべて検出限界以下であった.b.細隙灯顕微鏡検査点眼開始前に比べSCL装用中,装脱直後において症状が(101)悪化した症例は認められず,SCLフィッティング状態は良好であった.10眼中すべてにSPKは認められなかった.3.アキュビューRオアシスTMa.SCLから検出された主成分およびホウ酸量主成分の精製ヒアルロン酸ナトリウムは5検体中1検体から検出され,吸着量は15μg/SCLであった.ホウ酸は5検体とも検出され,吸着量の平均は14.3±4.6μg/SCLであった.b.細隙灯顕微鏡検査点眼開始前に比べSCL装用中,装脱直後において症状が悪化した症例は認められず,SCLフィッティング状態も良好であった.10眼中1眼(試験開始前にもSPKが認められた症例)においてSPKが認められたが,その程度は試験開始前と変化はなかった.4.バイオフィニティRa.SCLから検出された主成分およびホウ酸量主成分の精製ヒアルロン酸ナトリウムは5検体中3検体が検出限界以下,1検体が14μg/SCL,1検体が11μg/SCLであった.ホウ酸は5検体すべて検出限界以下であった.b.細隙灯顕微鏡検査点眼開始前に比べSCL装用中,装脱直後において症状が悪化した症例は認められず,SCLフィッティング状態も良好であった.10眼中1眼(試験開始前にもSPKが認められた症例)においてSPKが認められたが,その程度は試験開始前と変化はなかった.III考按現在市販されている点眼液の60%には防腐剤として塩化ベンザルコニウム(BAK)が含まれているといわれている16).その他の防腐剤としてはパラベン類,クロロブタノールなどがある.筆者はBAKを含有した点眼液およびパラベン類,クロロブタノールを含有した点眼液をCL装用上において点眼させ,その安全性について検討し,問題がないことをこれまでに報告している17.19).しかし,点眼液には防腐剤以外にも添加物が含有されており,特にホウ酸は防腐剤フリーの点眼液においても等張剤や緩衝剤として配合されているため,CLへの吸着を検討しておく必要があると思われる.前回,ヒアルロン酸PF点眼液の各種1日使い捨てSCL装用上点眼における安全性およびSCLへの主成分ならびにホウ酸の吸着について検討を行い,医師の管理のもとに定期検査を十分に行えば問題がないことを報告した14).今回はヒアルロン酸PF点眼液の各種2週間頻回交換SCL装用上点眼における安全性およびSCLへの主成分ならびにホウ酸の吸着について検討を加えた.東原はホウ酸を含んだBAKフリーの人工涙液に各種SCLを4時間浸漬するとレンズの種類によっては,その直径が変化することを発表(東原尚代:ソフあたらしい眼科Vol.29,No.11,20121551 トコンタクトレンズと点眼液の相互作用.第64回日本臨床眼科学会のモーニングセミナー,2010.神戸)している.このことはレンズのフィッティングに変化をもたらす可能性を示唆したものである.しかし,前回の1日使い捨てSCLを使用した試験と同様に,今回の2週間頻回交換SCLを使用した試験においても,1回2滴の2時間間隔,1日6回点眼においてはレンズのフィッティングに影響は認められなかった.これまでにもCLを点眼液に浸漬してCL内における防腐剤の吸着量を測定した実験報告12)がなされているが,このような過酷な状況下における実験系と実際にCLを装用させて点眼液を使用させて行う臨床的な実験系では,後者は涙液動態による点眼液の希釈が経時的に行われているという点で,結果がかなり異なってくるものと推察する.実際,点眼した防腐剤の涙液中濃度は15分以内で1/10以下になるという報告がある16).日本におけるCLの市場においては,現在1日使い捨てSCLや2週間頻回交換SCLが増加傾向にありSCL市場の大半を占めるまでになった.また,1日使い捨てSCLや2週間交換SCLにも新しい素材であるシリコーンハイドロゲルを導入したものが市販されており普及が進んでいる.シリコーンハイドロゲルSCLは従来型素材のSCLの欠点である酸素透過性を改善するため,酸素透過性に優れたシリコーンを含む含水性の素材であるシリコーンハイドロゲルを用いることにより,低含水性でありながら高酸素透過性を実現したCLである.これにより,従来型ハイドロゲルSCLで問題となっていた慢性的な酸素不足による角膜障害や眼の乾燥感を軽減することが可能となった.しかし,シリコーンハイドロゲルSCLは従来型SCLと素材,表面処理,含水率などが異なるため,点眼液の主成分や添加物のCLへの吸着が異なる可能性が考えられる20).今回,ヒアルロン酸PF点眼液を用いて,シリコーンハイドロゲルSCLを含む4種類の2週間頻回交換SCL装用上点眼における安全性およびSCLへの主成分ならびにホウ酸の吸着について検討を行った.その結果,主成分である精製ヒアルロン酸ナトリウムはアキュビューRオアシスTMにおいて1検体に,バイオフィニティRにおいて2検体に吸着を認めた.1日6回点眼におけるヒアルロン酸ナトリウムの総量から考えると吸着したヒアルロン酸ナトリウムの量は5%以下であった.ホウ酸はSCLの種類によって検出されたが,検出量はいずれもごく微量であり,1日6回点眼におけるホウ酸の総量から考えると吸着したホウ酸およびホウ素量は1%以下であった.主成分の精製ヒアルロン酸ナトリウムの定量法はカルバゾール硫酸法による発色法(紫外可視吸光度測定法)を実施し,試料として直接CLを試験に供した.また,CL装用中の点眼使用によるSPKの悪化やCLフィッティング状態に異常は認められず,副作用も認められなかった.1552あたらしい眼科Vol.29,No.11,2012以上の結果より,医師の管理のもとに定期検査を十分に行えば,2週間頻回交換SCL装用上においてヒアルロン酸PF点眼液を使用しても,問題はほとんどないものと考えられた.文献1)岩本英尋,山田美由紀,萩野昭彦ほか:塩化ベンザルコニウム(BAK)による酸素透過性ハードコンタクトレンズ表面の変質について.日コレ誌35:219-225,19932)高橋信夫,佐々木一之:防腐剤とその眼に与える影響.眼科31:43-48,19893)平塚義宗,木村泰朗,藤田邦彦ほか:点眼薬防腐剤によると思われる不可逆的角膜上皮障害.臨眼48:1099-1102,19944)山田利律子,山田誠一,安室洋子ほか:保存剤塩化ベンザルコニウムによるアレルギー性結膜炎─第2報─.アレルギーの臨床7:1029-1031,19875)GassetAR:Benzalkoniumchloridetoxicitytothehumancornea.AmJOphthalmol84:169-171,19776)PfisterRR,BursteinN:Theeffectofophthalmicdrugs,vehiclesandpreservativesoncornealepithelium:Ascanningelectronmicroscopestudy.InvestOphthalmol15:246-259,19767)BursteinNL:Cornealcytotoxicityoftopicallyapplieddrugs,vehiclesandpreservatives.SurvOphthalmol25:15-30,19808)高橋信夫,向井佳子:点眼剤用防腐剤塩化ベンザルコニウムの細胞毒性とその作用機序─細胞培養学的検討─.日本の眼科58:945-950,19879)島﨑潤:点眼剤の防腐剤とその副作用.眼科33:533538,199110)濱野孝,坪田一男,今安正樹:点眼薬中の防腐剤が角膜上皮に及ぼす影響─涙液中LDH活性を指標として─.眼紀42:780-783,199111)中村雅胤,山下哲司,西田輝夫ほか:塩化ベンザルコニウムの家兎角膜上皮に対する影響.日コレ誌35:238-241,199312)水谷聡,伊藤康雄,白木美香ほか:コンタクトレンズと防腐剤の影響について(第1報)─取り込みと放出─.日コレ誌34:267-276,199213)河野素子,伊藤孝雄,水谷潤ほか:コンタクトレンズと防腐剤の影響について(第2報)─RGPCL素材におけるBAKの研究─.日コレ誌34:277-282,199214)小玉裕司:ソフトコンタクトレンズ装用上におけるヒアルロン酸ナトリウム点眼液(ヒアルロン酸ナトリウムPF点眼液0.1%「日点」)の安全性.あたらしい眼科29:665668,201215)小玉裕司,井上恵里:各種MultipurposeSolution(MPS)の角膜上皮に及ぼす影響.日コレ誌53:補遺S27-S32,201116)中村雅胤,西田輝夫:防腐剤の功罪.眼科NewSight②点眼液─常識と非常識─(大橋裕一編),p36-43,メジカルビュー社,199417)小玉裕司,北浦孝一:コンタクトレンズ装用上における点眼使用の安全性について.あたらしい眼科17:267-271,(102) 2000上におけるアシタザノラスト水和物点眼液(ゼペリン点眼18)小玉裕司:コンタクトレンズ装用上におけるアシタザノラ液)の安全性.あたらしい眼科26:553-556,2009スト水和物点眼液(ゼペリン点眼液)の安全性.あたらしい20)植田喜一,柳井亮二:シリコーンハイドロゲルコンタクト眼科20:373-377,2003レンズとマルチパーパスソリューション,点眼薬.あたら19)小玉裕司:シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ装用しい眼科25:923-930,2008***(103)あたらしい眼科Vol.29,No.11,20121553

ソフトコンタクトレンズ装用上におけるヒアルロン酸ナトリウム点眼液(ヒアルロン酸ナトリウムPF点眼液0.1%「日点」)の安全性

2012年5月31日 木曜日

《原著》あたらしい眼科29(5):665.668,2012cソフトコンタクトレンズ装用上におけるヒアルロン酸ナトリウム点眼液(ヒアルロン酸ナトリウムPF点眼液0.1%「日点」)の安全性小玉裕司*小玉眼科医院SafetyStudyofSodiumHyaluronatePFOphthalmicSolution0.1%(NITTEN)forSoftContactLensWearersYujiKodamaKodamaEyeClinic角結膜上皮障害治療用点眼薬のヒアルロン酸ナトリウム点眼液(ヒアルロン酸ナトリウムPF点眼液0.1%「日点」,以下,ヒアルロン酸PF点眼液)には防腐剤が添加されておらず,角結膜やソフトコンタクトレンズ(SCL)に対する影響が塩化ベンザルコニウムを防腐剤に使用している点眼薬よりも少ない可能性が考えられる.今回,ドライアイを有するボランティアを対象として4種類のSCL(ワンデーアキュビューRトゥルーアイTM,メダリストRワンデープラス,デイリーズRアクア,ワンデーアキュビューR)装用中にヒアルロン酸PF点眼液を点眼した場合の安全性およびSCLへの主成分ならびにホウ酸(ホウ素として)の吸着について検討を行った.その結果,SCL中に主成分は検出されず,ホウ酸はSCLの種類によって検出されたが検出量はいずれもごく微量であり,フィッティングの変化も認められなかった.また,ヒアルロン酸PF点眼液による角結膜の障害や副作用は認められなかった.医師の管理の下に定期検査を十分に行えば,SCL装用上においてヒアルロン酸PF点眼液を使用しても,問題はないものと考えられた.SodiumHyaluronatePFOphthalmicSolution0.1%(NITTEN),whichisusedfortreatingkeratoconjunctivalepithelialdisorders,containsnopreservatives.Therefore,itsinfluenceonthekeratoconjunctivaandsoftcontactlens(SCL)maybelessthanthatofophthalmicsolutionsthatusebenzalkoniumchlorideasapreservative.HealthyadultvolunteerswhotendtohavedryeyewereincludedinthisstudyinvestigatingthesafetyandSCLabsorptionoftheactiveingredientandboricacid(asboron)inSodiumHyaluronatePFOphthalmicSolutioninstilledinwearersof4typesofonedaydisposableSCL(1-DAYACUVUERTruEyeTM,MedalistR1-DAYPLUS,DAILIESRAQUAand1-DAYACUVUER).ResultsshowedthattheactiveingredientandboricacidweredetectedineachtypeofSCL;however,thelevelsdetectedwereverylowandnochangewasobservedintheSCLfitting.Furthermore,nokeratoconjunctivaldisordersorotheradverseeffectswereobserved.Withsufficientperiodicinspectionsunderadoctor’ssupervision,theuseofSodiumHyaluronatePFOphthalmicSolutioninthepresenceofSCLisconsideredsafe.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(5):665.668,2012〕Keywords:ヒアルロン酸ナトリウム点眼液,ソフトコンタクトレンズ,防腐剤,ホウ酸,副作用.sodiumhyaluronateophthalmicsolution,softcontactlens,preservative,boricacid,adverseeffect.はじめにかという質問は,患者からのみならず医師(眼科医を含む)点眼液には有効となる主薬剤のほかに,等張化剤,緩衝剤,からもよく投げかけられる.特にソフトコンタクトレンズ可溶化剤,安定化剤,粘稠化剤,防腐剤などが含まれている.(SCL)においては,防腐剤のSCL内への貯留や蓄積の可能コンタクトレンズ(CL)装用上,点眼液を使用してもよいの性があり,SCL上の点眼液使用は禁忌であるという考え方〔別刷請求先〕小玉裕司:〒610-0121京都府城陽市寺田水度坂15-459小玉眼科医院Reprintrequests:YujiKodama,M.D.,KodamaEyeClinic,15-459Mitosaka,Terada,JoyoCity,Kyoto610-0121,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(85)665 が一般的である.しかし,臨床の場においてはCLを装用したまま点眼液を使用することが望ましい症例がアレルギー性結膜炎やドライアイの患者などを中心として少なからず認められる1).CL装用中に防腐剤を含有する点眼薬を使用した場合,CLに防腐剤が吸着,蓄積されることによってCLの変性をきたしたり2),吸着された防腐剤が角結膜に障害を与える可能性があるため,CLを装用したまま点眼することは原則として避けるよう指導されている3).点眼薬の防腐剤として最も汎用されているものは塩化ベンザルコニウム(BAK)であるが,BAKは角膜上皮障害や接触性皮膚炎などの副作用が問題視されている4.6).筆者は過去にBAKおよびBAK以外の防腐剤であるクロロブタノールとパラベン類(パラオキシ安息香酸メチル,パラオキシ安息香酸プロピル)を使用した点眼液のCL装用上点眼における安全性について検討を行い,医師の管理の下に定期検査を十分に行えば問題がないことを報告した7,8).しかし,主成分や防腐剤以外の添加物のCLへの吸着が問題となる可能性も考えられる.特にホウ酸は等張化剤あるいは緩衝剤として多くの点眼液(防腐剤フリーの点眼液も含む)に配合されており,そのCL装用上の使用による眼障害の可能性の検討が必要と考えられる.今回,ヒアルロン酸PF点眼液の各種ワンデータイプのSCL装用上点眼における安全性およびSCLへの主成分ならびにホウ酸の吸着について検討を行ったので,その結果について報告する.I対象および方法1.対象ならびに使用レンズSCLの使用が可能なドライアイ傾向を示すボランティア5名(年齢30.45歳,平均35歳,女性5名)を対象とした.なお,被験者には試験の実施に先立ち,試験の趣旨と内容について十分な説明を行い,同意を得た.ワンデータイプのSCLの中からワンデーアキュビューRトゥルーアイTM,メダリストRワンデープラス,デイリーズRアクア,ワンデーアキュビューRの4種類のレンズを装用させた(表1).2.方法被験者の両眼にSCLを装用させた後,ヒアルロン酸PF点眼液を1回2滴,2時間間隔で6回,両眼に点眼した.最終点眼後5分以内に被験者の両眼からSCLを装脱し,回収したSCLの1枚は主成分の精製ヒアルロン酸ナトリウム定量用とし,他方の1枚はホウ酸定量用とした.a.精製ヒアルロン酸ナトリウムの定量被験者から装脱・回収したSCLを1枚ずつカルバゾール硫酸法による発色法(紫外可視吸光度測定法)によりSCLに吸着していた精製ヒアルロン酸ナトリウムを定量した.b.ホウ酸(ホウ素)の定量被験者から装脱・回収したSCLをICP(inductivelycoupledplasma)発光分光分析によりSCLに吸着していたホウ酸をホウ素として定量した.3.涙液検査点眼開始前に涙液層破壊時間(BUT)計測と綿糸法を実施した.4.自覚症状点眼開始前,SCL装用中(2時間おき),SCL装脱直後に掻痒感,異物感,眼脂について問診した.5.細隙灯顕微鏡検査点眼開始前とSCL装脱直後にフルオレセイン染色による角結膜の観察と眼瞼結膜および眼球結膜の充血,浮腫,乳頭の観察を行った.点眼開始前,SCL装脱直前にSCLフィッティング状態の判定を行った.6.副作用投与期間中に発現した症状のうち,試験薬との因果関係が否定できないものを副作用とした.II結果自覚症状については点眼開始前,SCL装用中,SCL装脱後において,特に異常を訴える症例はなかった.涙液検査については,綿糸法では正常領域であった.BUTは1眼で4秒,1眼で3秒の症例がある以外は正常領域であった.試験開始前において,全例に軽度の角結膜上皮表1使用レンズ使用レンズFDA(米国食品・医薬品局)分類ワンデーアキュビューRトゥルーアイTMグループIメダリストRワンデープラスグループIIデイリーズRアクアグループIIワンデーアキュビューRグループIV酸素透過係数Dk値:〔×10.11(cm2/sec)・(mlO2/ml×mmHg)〕100222628含水率(%)46596958中心厚(mm)(.3.00D)直径(mm)0.08514.00.0914.20.1013.80.08414.2666あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012(86) 障害が認められた.経過観察中,点眼投与による副作用は全例において認められなかった.以下に各SCLに吸着した精製ヒアルロン酸ナトリウム,ホウ酸の定量結果(表2)と,細隙灯顕微鏡検査によって観察された結果を記す.1.ワンデーアキュビューRトゥルーアイTMa.SCLから検出された主成分およびホウ酸量結果を表2に示す.主成分の精製ヒアルロン酸ナトリウムは5検体すべて検出限界(10μg/SCL)に近い測定値であった.ホウ酸は1.1μg/SCLを超えるものは5検体中2検体から検出され,検出量はそれぞれ17.7μg/SCLおよび16.6μg/SCLであった.残りの3検体は検出限界(1.1μg/SCL)に近い測定値であった.b.細隙灯顕微鏡検査SCLフィッティング状態は良好であった.10眼中5眼において角膜上皮障害の軽減が認められた.表2SCLから検出された主成分およびホウ酸量使用SCL検出量(μg/SCL)精製ヒアルロン酸ナトリウムホウ素(ホウ酸として)ワンデーアキュビューRトゥルーアイTM平均値±SD141612131514±1.60.3(1.7)3.1(17.7)0.3(1.7)2.9(16.6)0.4(2.3)1.4±1.5(8.0±8.4)メダリストRワンデープラス平均値±SDNDNDNDNDND─NDNDNDNDND─デイリーズRアクア平均値±SD──────3.7(21.2)3.4(19.4)2.3(13.2)2.1(12.0)1.3(7.4)2.6±1.0(14.6±5.6)ワンデーアキュビューR平均値±SDNDNDNDNDND─0.3(1.7)0.5(2.9)NDNDND0.4±0.1(2.3±0.8)検出限界(μg/SCL)100.2(1.1)SD:標準偏差,ND:検出限界以下.(87)2.メダリストRワンデープラスa.SCLから検出された主成分およびホウ酸量主成分の精製ヒアルロン酸ナトリウム,ホウ酸ともに5検体すべて検出限界以下であった.b.細隙灯顕微鏡検査SCLフィッティング状態は良好であった.10眼中2眼において角膜上皮障害の軽減が認められた.3.デイリーズRアクアa.SCLから検出された主成分およびホウ酸量主成分の精製ヒアルロン酸ナトリウムは本定量法では測定できなかった.ホウ酸は5検体すべてから検出され,平均検出量は14.6±5.6μg/SCLであった.b.細隙灯顕微鏡検査SCLフィッティング状態は良好であった.10眼中2眼において角膜上皮障害の軽減が認められた.4.ワンデーアキュビューRa.SCLから検出された主成分およびホウ酸量主成分の精製ヒアルロン酸ナトリウムは5検体すべて検出限界以下であった.ホウ酸は5検体中3検体が検出限界以下,2検体が検出限界に近い測定値であった.b.細隙灯顕微鏡検査SCLフィッティング状態は良好であった.10眼中6眼において角膜上皮障害の軽減が認められた.III考按現在市販されているほとんどの点眼薬には防腐剤としてBAK,パラベン類,クロロブタノールなどが含有されており,これらの防腐剤が角膜上皮に障害をもたらすことは基礎および臨床の面から多くの報告がなされている9.15).また,防腐剤はCLに吸着することが報告されている2,16.19).筆者はBAKよりも角膜上皮に対する影響が少ないクロロブタノールとパラベン類を防腐剤に使用した点眼液の従来型SCL装用上点眼における安全性について検討を行い,問題がないことを報告した7)が,点眼薬には防腐剤以外にも添加物が含有されており,特にホウ酸は等張化剤や緩衝剤として多くの点眼液に配合されているため,SCLへの吸着を検討しておく必要があると思われる.東原はホウ酸を含んだBAKフリーの人工涙液に各種SCL(O2オプティクス,エアオプティクスTM,2Wプレミオ,アキュビューRオアシス,ワンデーピュア,ワンデーアキュビューR,デイリーズRアクアコンフォートプラス,デイリーズRアクア)を4時間浸漬するとレンズの種類によっては,その直径が変化することを発表(東原尚代:ソフトコンタクトレンズと点眼液の相互作用.第64回日本臨床眼科学会モーニングセミナー,2010,神戸)している.このことはレンズのフィッティングに変化をもたらす可能性を示唆したものあたらしい眼科Vol.29,No.5,2012667 である.しかし,今回の実験のような1回2滴の2時間間隔,1日6回点眼においてはレンズのフィッティングに影響は認められなかった.点眼した防腐剤の涙液中濃度は比較的速やかに涙液により希釈され,15分以内で1/10以下になるという報告がある21).どのくらいの頻回点眼でレンズサイズへの影響が認められるのかは今後の検討を待たねばならないが,少なくとも15分以上の間隔を空ければ問題ないと考えられる.日本におけるCLの市場は1日交換終日装用SCLが増加傾向にあり,筆者自身の症例では約30%を占める.また,1日交換終日装用SCLにも新しい素材であるシリコーンハイドロゲルを導入したものが市販されており普及が進んでいる.シリコーンハイドロゲルSCLは従来型素材のSCLの欠点である酸素透過性を改善するため,酸素透過性に優れたシリコーンを含む含水性の素材,シリコーンハイドロゲルを用いることにより,低含水性でありながら高酸素透過性を実現したSCLである.これにより,従来型SCLで問題となっていた慢性的な酸素不足による角膜障害や眼の乾燥感を軽減することが可能となった.しかし,シリコーンハイドロゲルSCLは従来型SCLと素材,表面処理,含水率などが異なるため,点眼薬の主成分や添加物のSCLへの吸着が異なる可能性が考えられる19).今回,ヒアルロン酸PF点眼液を用いて,シリコーンハイドロゲルSCLを含む4種類のワンデータイプのSCL装用上点眼における安全性およびSCLへの主成分ならびにホウ酸の吸着について検討を行った.その結果,ホウ酸はSCLの種類によって検出されたが,検出量はいずれもごく微量であり,主成分である精製ヒアルロン酸ナトリウムはSCLへの吸着が認められなかった.主成分の精製ヒアルロン酸ナトリウムの定量法はカルバゾール硫酸法による発色法(紫外可視吸光度測定法)を実施し,試料として直接SCLを試験に供したが,デイリーズRアクアにおいてはSCL中の色素がカルバゾールと化学反応して発色定量を妨害したと思われ測定不能であった.そこで,新たにSCLをヒアルロン酸PF点眼液に24時間浸漬した試験を追加した.SCLを浸漬した後のヒアルロン酸PF点眼液を試料として測定し,吸着量を算出した.その結果,試料液中の精製ヒアルロン酸ナトリウムは減少せず,SCLへの吸着は認められなかった.このことから,今回測定不能であったデイリーズアクアへの精製ヒアルロン酸ナトリウムの吸着はないと考えられる.また,SCL装用中の点眼使用による症状の悪化やSCLフィッティング状態に異常は認められず,副作用も認められなかった.以上の結果より,医師の管理の下に定期検査を十分に行えば,SCL装用上においてヒアルロン酸PF点眼液を使用しても,問題はほとんどないものと考えられた.668あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012文献1)小玉裕司,北浦孝一:コンタクトレンズ装用上における点眼使用の安全性について.あたらしい眼科17:267-271,20002)岩本英尋,山田美由紀,萩野昭彦ほか:塩化ベンザルコニウム(BAK)による酸素透過性ハードコンタクトレンズ表面の変質について.日コレ誌35:219-225,19933)上田倫子:眼科病棟の服薬指導4.月刊薬事36:13871397,19944)高橋信夫,佐々木一之:防腐剤とその眼に与える影響.眼科31:43-48,19895)平塚義宗,木村泰朗,藤田邦彦ほか:点眼薬防腐剤によると思われる不可逆的角膜上皮障害.臨眼48:1099-1102,19946)山田利律子,山田誠一,安室洋子ほか:保存剤塩化ベンザルコニウムによるアレルギー性結膜炎─第2報─.アレルギーの臨床7:1029-1031,19877)小玉裕司:シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ装用上におけるアシタザノラスト水和物点眼液(ゼペリン点眼液)の安全性.あたらしい眼科26:553-556,20098)小玉裕司:コンタクトレンズ装用上におけるアシタザノラスト水和物点眼液(ゼペリン点眼液)の安全性.あたらしい眼科20:373-377,20039)GassetAR:Benzalkoniumchloridetoxicitytothehumancornea.AmJOphthalmol84:169-171,197710)PfisterRR,BursteinN:Theeffectofophthalmicdrugs,vehiclesandpreservativesoncornealepithelium:Ascanningelectronmicroscopestudy.InvestOphthalmol15:246-259,197611)BursteinNL:Cornealcytotoxicityoftopicallyapplieddrugs,vehiclesandpreservatives.SurvOphthalmol25:15-30,198012)高橋信夫,向井佳子:点眼剤用防腐剤塩化ベンザルコニウムの細胞毒性とその作用機序─細胞培養学的検討─.日本の眼科58:945-950,198713)島﨑潤:点眼剤の防腐剤とその副作用.眼科33:533538,199114)濱野孝,坪田一男,今安正樹:点眼薬中の防腐剤が角膜上皮に及ぼす影響─涙液中LDH活性を指標として─.眼紀42:780-783,199115)中村雅胤,山下哲司,西田輝夫ほか:塩化ベンザルコニウムの家兎角膜上皮に対する影響.日コレ誌35:238-241,199316)水谷聡,伊藤康雄,白木美香ほか:コンタクトレンズと防腐剤の影響について(第1報)─取り込みと放出─.日コレ誌34:267-276,199217)河野素子,伊藤孝雄,水谷潤ほか:コンタクトレンズと防腐剤の影響について(第2報)─RGPCL素材におけるBAKの研究─.日コレ誌34:277-282,199218)﨑元卓:治療用コンタクトレンズへの防腐剤の吸着.日コレ誌35:177-182,199319)植田喜一,柳井亮二:シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズとマルチパーパスソリューション,点眼薬.あたらしい眼科25:923-930,200820)中村雅胤,西田輝夫:防腐剤の功罪.眼科NewSight②点眼液─常識と非常識─(大橋裕一編),p36-43,メジカルビュー社,1994(88)

ホウ酸含有点眼剤組成の抗菌メカニズム

2010年4月30日 金曜日

———————————————————————-Page1518あたらしい眼科Vol.27,No.4,2010(00)518(102)0910-1810/10/\100/頁/JCOPY46回日本眼感染症学会原著》あたらしい眼科27(4):518522,2010cはじめに防腐剤は,製剤の無菌性維持や開封後の微生物の二次汚染防止を目的として広く用いられている.一般用点眼剤では,塩化ベンザルコニウムやグルコン酸クロルヘキシジン,パラベンなどの抗菌剤が防腐剤として用いられている.これら防腐剤のうち,塩化ベンザルコニウムは,正常な涙液動態を示す場合,通常の用法・用量の範囲ではほとんど影響を与えないが,頻回点眼や長期点眼により,角膜・結膜へのダメージや涙液動態の悪化を生じる可能性が指摘されている13).これらの課題を解決するため,筆者らは,塩化ベンザルコニウムなどの防腐剤を使用しなくても,保存効力を発揮する技術を確保するため,抗菌剤やキレート剤,緩衝剤,安定剤などの点眼剤に配合可能な成分の抗菌効果を検討した.その結果,緩衝剤であるトロメタモール,ホウ酸およびキレート剤〔別刷請求先〕片岡伸介:〒256-0811小田原市田島100ライオン株式会社研究開発本部生命科学研究所Reprintrequests:ShinsukeKataoka,LionCorporation,LifeScienceResearchLaboratories,ResearchandDevelopmentHeadquarters,100Tajima,Odawara,Kanagawa256-0811,JAPANホウ酸含有点眼剤組成の抗菌メカニズム瀧沢岳*1片岡伸介*1小高明人*1小池大介*1服部学*1海老原伸行*2村上晶*2*1ライオン株式会社研究開発本部*2順天堂大学医学部眼科学教室AntimicrobialActivitiesandMechanismsofNewCompositionforEyedropsContainingBorateTakeshiTakizawa1),ShinsukeKataoka1),AkitoOdaka1),DaisukeKoike1),ManabuHattori1),NobuyukiEbihara2)andAkiraMurakami2)1)LionCorporation,ResearchandDevelopmentHeadquarters,2)DepartmentofOphthalmology,JuntendoUniversitySchoolofMedicine一般用点眼剤において防腐剤として使用されている塩化ベンザルコニウムは,頻回点眼・長期点眼により,角膜にダメージを与える可能性が指摘されている.筆者らは,既存の防腐剤を含まなくても保存効力を発揮する点眼剤組成を検討したところ,緩衝剤や安定剤として用いられるトロメタモール(トリス)・ホウ酸・EDTA(エチレンジアミン四酢酸)を一定比率で混合した組成が優れた抗菌効果を示すことを見出した.この抗菌効果の作用機序について解析したところ,本組成は,細菌・真菌に対して相乗的な増殖抑制効果(静菌効果)を示すこと,また,細菌の遺伝子合成や蛋白質合成に必須となるアミノアシルtRNA合成酵素を阻害していることを明らかにした.本組成が有する細菌および真菌に対する幅広い静菌効果は,点眼剤の保存効力組成としてだけでなく,近年問題視されているコンタクトレンズに対するカチオン性殺菌剤の吸着と,それにより生じる角膜障害に対して有用な手段の一つになると考えている.Benzalkoniumchloride(BAC),usedasanophthalmicpreservativeineyedrops,hasbeenshowntocausedam-agetothecorneaandconjunctivawithlong-termorfrequentuse.Wefoundthataneyedropcompositioncontain-ingtris-hydroxylmethyl-aminomethane(Tris),borateandethylendiaminetetraaceticacid(TBE)hadbroad-spec-trumantimicrobialactivitywithoutpreservatives.Analysisoftheactivitydemonstratedthatthroughthecombinationofthevariousingredients,TBEhadsynergisticactivitiesagainstbacteriaandfungi.Moreover,TBEsuppressedDNAbiosynthesisandaminoacyl-tRNAsynthetaseactivity,whichplaycentralrolesinproteinbiosyn-thesisinbacteria.TheseresultssuggestthatTBEwouldbeausefulcompositionnotonlyforeyedropswithoutpreservatives,butalsoasapreventiveagentforcornealdisordercausedbycontactlensadsorptionofcationicsur-factant.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(4):518522,2010〕Keywords:防腐剤,抗菌効果,トロメタモール,ホウ酸,EDTA.preservative,antimicrobialactivity,tris-hydroxylmethyl-aminomethane(Tris),borate,EDTA.———————————————————————-Page2あたらしい眼科Vol.27,No.4,2010519(103)(安定剤)であるEDTA(エチレンジアミン四酢酸)を一定比率で混合することによって高い抗菌作用を発揮することを新たに見出した.今回,筆者らは,本組成の抗菌作用機序を検討したので報告する.I実験材料および方法1.試験菌日本薬局方の点眼剤保存効力試験に指定される試験菌種であるEscherichiacoliNBRC3972,PseudomonasaeruginosaNBRC13725,StaphylococcusaureusNBRC13276,CandidaalbicansNBRC1594,AspergillusnigerNBRC9455を(独)製品評価技術基盤機構より入手し,本研究の試験菌として用いた.2.方法薬剤の抗菌力を評価するために,各試験菌の生存曲線の作成,最小発育阻止濃度(MIC)測定および顕微鏡による形態観察を行った.評価薬剤は,トロメタモール(1.0mg/ml)・ホウ酸(10mg/ml)・EDTA(1.0mg/ml)の混合組成(以下,TBE),点眼剤の防腐剤として用いられている塩化ベンザルコニウム,グルコン酸クロルへキシジンおよび保存剤であるソルビン酸カリウム(ともに和光純薬)を用いた.なお,生存曲線の検討においては,各薬剤の抗菌・殺菌活性を比較するため,塩化ベンザルコニウム,グルコン酸クロルへキシジンおよびソルビン酸カリウムの濃度を,点眼剤で使用される510倍である500ppmに設定して実験に用いた.生菌数測定は,寒天平板法により行った.培地はソイビーン・カゼインダイジェスト(SCD)培地(細菌用)およびグルコース・ペプトン(GP)培地(真菌用)を使用した(ともに日本製薬).試験菌の前培養液を接種後32.5℃で静置培養し(A.nigerのみ22.5℃で培養),経時的に菌液を採取し,生菌数(colonyformationunit:CFU)を測定した.MIC測定は,日本化学療法学会標準法である微量液体希釈法4)に準拠した.各試験菌を,TBEを含むMuller-Hinton培地(DIFCO),またはGP培地にて35℃で24時間静置培養後,試験菌の発育を阻止する最小薬剤濃度を算出した.発育陽性の判定基準は肉眼的に混濁または1mm以上の沈殿が認められた場合とし,発育阻止の判定基準は,肉眼的に混濁または沈殿が認められない場合とした.また,発育阻止が認められた薬剤濃度において,寒天平板法にて生菌の有無から最小殺菌濃度の判定を行った.TBE含有培地中の試験菌の形態は,TBE処理24時間後,菌体を2.5%グルタールアルデヒドにより固定化し,エタノール脱水および臨界点乾燥(日立)を行い,走査型電子顕微鏡(SEM,日立)により観察した〔A.nigerのみ光学顕微鏡(オリンパス)で観察した〕.菌体内のホウ酸濃度測定は,10mg/mlホウ酸を含む生理食塩水(大塚製薬)に試験菌をOD660=1.0となるように加え,一定時間薬剤曝露後,煮沸によって菌体細胞質画分を調製し,誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP-MS,アプライドバイオシステムズ)を用いて,画分中のホウ酸を定量した.DNA生合成能評価は,[3H]-チミジン(アマシャム)を添加した薬剤含有培地にて,試験菌を32.5℃で静置培養し,経時的に採取した菌液の放射活性をシンチレーションカウン0127024681012Log10CFU/ml培養日数(day)培養日数(day)培養日数(day)培養日数(day)培養日数(day)0127024681012Log10CFU/ml0127024681012Log10CFU/ml0127024681012Log10CFU/ml0127024681012Log10CFU/mlacebd図1薬剤存在下における試験菌の生存曲線a:E.coli,b:P.aeruginosa,c:S.aureus,d:C.albicans,e:A.niger.:control:ソルビン酸:TBE:塩化ベンザルコニウム:グルコン酸クロルへキシジン———————————————————————-Page3520あたらしい眼科Vol.27,No.4,2010(104)ター(アロカ)により測定し,被検菌の[3H]-チミジン取り込み量を測定した.アミノアシルtRNA合成活性評価は,E.coli由来アミノアシルtRNA合成酵素(Sigma),[14C]-リシン(アマシャム)およびtRNA(Sigma)を評価薬剤存在下で反応させ,合成される[14C]-リシン-tRNA複合体量についてシンチレーションカウンターを用いて測定した.3.統計解析菌体内のホウ酸濃度の解析は,Tukey-Kramertest(Yukms,StatLight)により行った.II結果1.薬剤存在下における試験菌の生存曲線TBE,塩化ベンザルコニウム(500ppm),グルコン酸クロルヘキシジン(500ppm)を各々添加した栄養培地で試験菌を培養した.その結果,殺菌剤の塩化ベンザルコニウムおよびグルコン酸クロルヘキシジン存在下では,培養開始24時間後にすべての菌が検出限界以下となった.これに対しTBE存在下では,E.coli,P.aeruginosa,S.aureus,C.albicans,の4菌の生菌数は24時間後に初発菌数の10%,1週間後に0.10.01%まで減少し,A.nigerの生菌数は1週間後に約10%に減少した(図1).2.薬剤の最小発育阻止濃度(MIC)比較TBE各成分のうち,ホウ酸は単独でも試験菌5菌に対し,弱い発育阻害効果が認められた.また,EDTAは細菌に対し弱い発育阻害効果を示した.トロメタモールの発育阻害効果は5菌種ともに認められなかった.これに対し,TBE混合系では,試験菌5菌に対し,TBE各成分単独の場合よりも低い濃度で発育阻害効果を示し,抗菌力の向上が認められ表1薬剤の各試験菌発育に対する最小阻害濃度(MIC)試験菌MIC(mg/ml)単成分系混合系(トロメタモール:ホウ酸:EDTA=1:10:1)トロメタモールホウ酸EDTAトロメタモールホウ酸EDTAE.coli>3220160.55.00.5P.aeruginosa>3220160.55.00.5S.aureus>3210160.55.00.5C.albicans>325>320.0630.630.063A.niger>322.5>320.0320.320.032abcdeTBEなしTBEあり図2薬剤存在下における試験菌の顕微鏡写真a:E.coli,b:P.aeruginosa,c:S.aureus(SEM×10,000),d:C.albicans(SEM×5,000),e:A.niger(microscopy×600).———————————————————————-Page4あたらしい眼科Vol.27,No.4,2010521(105)た(表1).また,TBEの最小殺菌濃度(MBC)を測定した結果,ホウ酸の飽和濃度付近(50mg/ml)まで上昇させても,試験菌5菌の死滅は認められなかった.3.薬剤存在下での菌体形態TBE存在下において,各細菌ともに増殖および凝集能の低下が認められ,P.aeruginosaでは伸長抑制が観察された.また,C.albicansは菌糸形で病原性を示す5)が,TBEはこの菌糸形成を抑制し,また,A.nigerでは胞子の発芽が抑制されていた(図2).4.ホウ酸の菌体内流入量E.coli,P.aeruginosaおよびS.aureusの3菌種ともに,細胞質画分からホウ酸が検出された.また,ホウ酸の流入速度はトロメタモール・EDTAを併用した場合,3菌種ともホウ酸単独条件あるいは2成分混合条件下よりも細胞質内ホウ酸量の有意な増加が認められた(p<0.01)(図3).5.細菌遺伝子合成能に対する薬剤の影響DNA生合成能を評価したところ,指標とした[3H]-チミジンの取り込み量は,TBE存在下では,3菌種ともにDNA合成阻害剤であるシプロフロキサシン塩酸塩(和光純薬)と同レベルまで低下し,培養開始36時間後には[3H]-チミジンの取り込みが停止していた(図4).6.アミノアシルtRNA合成酵素に対する薬剤の影響E.coli由来アミノアシルtRNA合成酵素活性に対する放散の影響を検討したところ,本酵素活性は,ホウ酸濃度依存的に低下することが確認された(図5).III考察今回検討したトロメタモール・ホウ酸・EDTAの混合組成(TBE)の各成分は,一般用点眼剤においては,通常,緩衝剤や安定剤として用いられているが,その配合量を調整することにより,細菌および真菌の増殖を抑制することが明らかとなった.増殖曲線の解析から,TBEは一般用点眼剤の防0.00.51.01.52.02.5B****************B+ET+BTBEホウ酸量(pg/CFU)0.00.20.40.60.81.01.2BB+ET+BTBEホウ酸量(pg/CFU)0.00.20.40.60.81.01.2BB+ET+BTBEホウ酸量(pg/CFU)abc図3薬剤処理15分後の菌体内ホウ酸濃度a:E.coli,b:P.aeruginosa,c:S.aureus.T:0.1%トロメタモール,B:1.0%ホウ酸,E:0.1%EDTA.*:p<0.05,**:p<0.01(Tukey-Kramer)05010015020025030035000.511.52ホウ酸濃度()Lysyl-tRNA合成酵素活性(units/mgprotein)図5ホウ酸のアミノアシルtRNA合成酵素阻害活性3H×1,000dpm)[3H]-チミジン取込量(×1,000dpm)[3H]-チミジン取込量(×1,000dpm)培養時間(hr)02040608010004812162024培養時間(hr)04812162024培養時間(hr)04812162024abc010203040020406080100120図4薬剤存在下における細菌の[3H]チミジン取込量a:E.coli,b:P.aeruginosa,c:S.aureus.◇:control,□:TBE,△:シプロフロキサシン(10ppm).———————————————————————-Page5522あたらしい眼科Vol.27,No.4,2010(106)腐剤として使用される塩化ベンザルコニウムのように速やかに菌を死滅させるのではなく,菌の生菌数を徐々に減少させる特徴を示すことが明らかとなった(図1).また,TBE各成分濃度をホウ酸の飽和濃度である5倍濃度まで高めた場合において同様の検討を行ったが,増殖抑制効果は高まるものの菌を死滅させるには至らないことが明らかとなった(Datanotshown).これらの結果から,TBEは,殺菌剤が示す殺菌作用ではなく,静菌作用によって細菌および真菌の増殖を抑制していると考えられた.つぎに,TBE各成分の細菌および真菌増殖に対する影響を明らかにするため,各成分のMICを検討した.各成分単独の場合と比較して,TBEでは,細菌および真菌の発育抑制効果が相乗的に高まること,特に真菌に対してその傾向が顕著になることを明らかにした(表1).TBE各成分のうち,ホウ酸は細菌および真菌に対して,また,EDTAは細菌に対してそれぞれ発育抑制効果を有することが確認されたが,その効果は弱いものであった.これらの結果から,TBEにおける静菌作用の主たる効果はホウ酸が担っており,トロメタモールやEDTAは,ホウ酸の発育抑制作用を何らかの形で高めていると考えられた.殺菌剤である塩化ベンザルコニウムは,菌体表層を破壊し,それに伴い細胞同士が凝集することが報告されている6).これに対し,試験菌の顕微鏡観察結果からは,TBE存在下での明確な菌体の変形や外膜損傷は認められなかった(図2).これらの結果から,塩化ベンザルコニウムとは異なり,TBEは菌体表層の破壊を起こさずに増殖抑制効果を発揮していると考えられる.ICP-MSによる細菌内ホウ酸濃度の測定結果から,E.coli,P.aeruginosaおよびS.aureusの3菌種において,ホウ酸の菌体内への流入が確認され(図3),また,ホウ酸流入量はトロメタモールおよびEDTAの共存下において増加することが明らかとなった(図3).EDTAについては,グラム陰性菌体表層を形成するリポ多糖(LPS)分子間に存在する2価金属イオンをキレートすることによって,また,トロメタモールについては,LPSの金属イオン結合サイトに結合することによって,菌体表層構造に変化を与える可能性が指摘されている7).これらのことからTBEは,EDTAとトロメタモールの菌体への直接作用によってホウ酸の菌体内への透過性が向上していると考えられる.グラム陽性菌や真菌のホウ酸流入経路やトロメタモールおよびEDTA共存下での透過性作用機序は不明な点が多いため,抗菌活性との関連を含めて,今後,詳細を検討する予定である.細菌遺伝子生合成,蛋白質生合成に対するTBEの影響を検討したところ,TBE存在下では,遺伝子生合成が抑制され,アミノアシルtRNA合成酵素活性も阻害されることが明らかになった(図4,5).遺伝子合成能評価指標であるチミジンはDNAを構成する塩基の一つであり,この塩基の菌体内への取り込みが抑制され,菌体の遺伝子生合成が抑制,または停止したと考えられる.また,アミノアシルtRNA合成酵素は,蛋白質合成の翻訳過程において必須の酵素であり,本酵素の阻害は蛋白質合成に大きく影響すると考えられる8).また,アミノアシルtRNAは細菌のペプチドグリカン形成にも関与しており9),本酵素の阻害により菌体表層構造の形成も影響を受ける可能性が考えられる.これらの結果から,TBE存在下では,菌体の増殖や生存に必要な遺伝子生合成および蛋白質生合成が低下し,菌体の増殖が抑制されると考えられた.以上の結果から筆者らは,緩衝剤や安定剤として配合されているトロメタモール,ホウ酸,EDTAの3成分を一定比率で配合した組成,すなわち,TBEの細菌および真菌に対する増殖抑制効果と作用機序の一部を明らかにした.TBEが有する細菌および真菌に対する幅広い抗菌作用は,点眼剤の防腐剤フリー組成としてだけでなく,近年問題視されているコンタクトレンズに対する塩化ベンザルコニウムなどのカチオン性殺菌剤の吸着とそれにより生じる角膜障害に対して有効な手段の一つになると考えている.文献1)BursteinNL:Preservativecytotoxicthresholdforben-zalkoniumchlorideandchlorhexidinedigluconateincatandrabbitcorneas.InvestOphthalmolVisSci19:308-313,19802)植田喜一,柳井亮二:シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズとマルチパーパスソリューション,点眼薬.あたらしい眼科25:923-930,20083)CuijuX,DongC,JingboLetal:Arabbitdryeyemodelinducedbytopicalmedicationofapreservativebenzalko-niumchloride.InvestOphthalmolVisSci49:1850-1856,20084)高鳥浩介:抗菌剤の効力評価.誰でもわかる抗菌の基礎知識(高麗寛紀,芝崎勲,高鳥浩介ほか編),p99-108,テクノシステム,19995)西川朱實:カンジダの菌学.真菌誌48:126-128,20076)SakagamiY,YokoyamaH,NishimuraHetal:MechanismofresistancetobenzalkoniumchloridebyPseudomonasaeruginosa.ApplEnvironMicrobiol55:2036-2040,19897)MarttiV:Agentsthatincreasethepermeabilityoftheoutermembrane.MicrobiolRev56:395-411,19928)RockFL,MaoW,YaremchukAetal:Anantifungalagentinhibitsanaminoacyl-tRNAsynthetasebytrappingtRNAintheeditingsite.Science316:1759-1761,20079)RajBhandraryUL,SollD:Aminoacyl-tRNAs,thebacteri-alcellenvelope,andantibiotics.ProcNatlAcadSciUSA105:5285-5286,2008