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Preperimetric Glaucomaに対するマイクロペリメーター MP-1 の有用性の検討

2015年8月31日 月曜日

《第25回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科32(8):1179.1182,2015cPreperimetricGlaucomaに対するマイクロペリメーターMP-1の有用性の検討福岡秀記*1日野智之*1森和彦*2木下茂*2*1国立長寿医療研究センター先端診療部眼科*2京都府立医科大学眼科UsefulnessoftheMP-1MicroperimeterforPreperimetricGlaucomaHidekiFukuoka1),TomoyukiHino1),KazuhikoMori2)andShigeruKinoshita2)1)DivisionofOphthalmology,DepartmentofAdvancedMedicine,NationalCenterforGeriatricsandGerontology,2)DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine目的:Preperimetricglaucoma(PPG)症例に対するマイクロペリメーター(MP-1:NIDEK)の有用性を検討した.対象および方法:網膜神経節細胞複合体(GCC)厚の菲薄化が観察され,Humphrey視野計(HFA)の30-2プログラムで視野異常が不検出であったPPG症例8例8眼(男性3例,女性5例,67±7.7歳).MP-1を用いて同一眼上下および他眼対応部位との網膜感度を比較し,GCC厚と網膜感度の相関についても検討した.結果:1例は固視不良のため解析不能であった.GCC厚菲薄化部位の網膜感度は他眼,同一眼の比較のいずれにおいても6例(86%)で低値を示し,そのうち2例(29%)に有意差があった.他眼との比較の1例(14%),上下との比較の3例(43%)でGCC厚と網膜感度の有意な相関が得られた.結論:一部のPPG症例においてHFAで検出不可能であった視野異常をMP-1で検出可能であった.Purpose:ToexaminetheusefulnessoftheMP-1microperimeter(NIDEK,Co.,Ltd,Gamagori,Japan)forpreperimetricglaucoma(PPG).Subjectsandmethods:Thisstudyinvolved8patients(3menand5women,meanage:67±7.7years)withPPG.UsingtheMP-1,wecomparedtheretinalsensitivityofthedamagedareawiththatoftheup-and-downoppositesideorthatofthecorrespondingsiteinthehealthyeye.Inaddition,weinvestigatedthecorrelationoftheganglioncellcomplex(GCC)thicknessandretinalsensitivity.Results:Ofthe8patients,1patientwasnotabletobeanalyzedduetopoorfixation.In2patients(29%),asignificantdifferencewasfoundbetweenthedamagedareaandtheup-and-downoppositesideorthecorrespondingsiteinthehealthyeye.StatisticallysignificantcorrelationwasfoundbetweenGCCthicknessandretinasensitivity,respectively,in3cases(43%)comparedwiththatoftheup-and-downoppositeside,andin1case(14%)comparedwiththecorrespondingsiteinthehealthyeye.Conclusion:ThefindingsofthisstudyshowthattheMP-1isabletodetectthefunctionaldamageinsomecasesofPPG.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(8):1179.1182,2015〕Keywords:極初期緑内障,マイクロペリメーター,神経節細胞複合体,網膜感度.preperimetricglaucoma,microperimeter,ganglioncellcomplex,retinalsensitivity.はじめに近年,光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)は,めざましい発達を遂げ,正確性・再現性が向上した.それにより網膜神経節細胞複合体(ganglioncellcomplex:GCC)厚の測定が可能になりGCCの菲薄化は認められるが通常の自動静的視野検査では視野欠損が検出できない状態がありpreperimetricglaucoma(PPG)と称し典型的な緑内障とは区別される.緑内障診療ガイドライン(第3版)1)では,「PPGは緑内障の前駆状態もしくは緑内障に類似した所見を示している正常眼もしくは他の疾患の一部が含まれると考えられ,原則的には無治療で慎重に経過観察する.しかしながら,高眼圧や,〔別刷請求先〕福岡秀記:〒474-8511愛知県大府市森岡町7丁目431国立長寿医療研究センター先端診療部眼科Reprintrequests:HidekiFukuoka,DivisionofOphthalmology,DepartmentofAdvancedMedicine,NationalCenterforGeriatricsandGerontology,7-430,Morioka,Obu474-8511,JAPAN0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(113)1179 強度近視,緑内障家族歴など緑内障発症の危険因子を有している場合や,初期の段階で緑内障性異常が検出できる可能性があるとされるその他の視野検査や眼底三次元画像解析装置により異常が検出される場合には,必要最小限の治療を開始することを考慮する.」とされ医師の判断により治療方針や治療開始時期が異なることが予想される.そこで筆者らは,より精密に眼底所見と対応する視野異常が確認できる眼底視野計を使用し,初期視野異常の検出の可能性について検討した.I対象および方法対象は2012年9月.2013年3月に,国立長寿医療研究センター(以下,当院)眼科通院中で光干渉断層計(RS3000:NIDEK)にてGCC厚の菲薄化が観察され,Hum-phrey視野計(HFA)の30-2プログラムで視野異常が検出されなかったPPG症例8例8眼(男性3例,女性5例,67±7.7歳)である.また,これらの症例は,GCCの正常な測定を阻む黄斑上膜や糖尿病網膜症などの網膜疾患のないことを確認したうえで,マイクロペリメーター(MP-1:NIDEK)のThresh.Strategy;4-2-1,Stimulus;GoldmannI,Fixation;singlecross1°,Background;whiteという測定条件を用いてGCC厚菲薄化部位の網膜感度を複数回測定した.同一眼の上下対応部位および他眼対応部位の網膜感度との比較(図1)を行うとともに,GCC厚をマニュアル操作(図2)により測定し,網膜感度との相関についても検討した.網膜感度の測定点とGCC厚の測定点は血管走行,黄斑や視神経の位置を参考にしながら可能な限り一致させた.なお統計的検討には対応のあるt検定とPearsonの積率相関分析を用い,有意水準を5%とした.上下対応部位他眼対応部位MP-1測定部位図1今回測定し比較した同一眼上下対応部位と他眼対応部位の図提示症例においては上下他眼を含め18点での解析であった.図2網膜神経節細胞(GCC)厚のマニュアル操作での測定左図交点でのGCC厚は87μmとわかる.1180あたらしい眼科Vol.32,No.8,2015(114) GCC菲薄部網膜感度の上下・他眼対応部位との比較#2018網膜感度(dB)1614121086420菲薄部上下他眼(#:p<0.01)GCC菲薄部・上下・他眼網膜感度とGCC厚との比較(左図:菲薄部上下,右図:菲薄部他眼)140140120120相関係数0.64p<0.05GCC厚(μm)相関係数0.42p=0.16GCC厚(μm)1008060401008060402002000510152005101520網膜感度(dB)網膜感度(dB)図3症例呈示上図:GCC菲薄部網膜感度の上下・他眼対応部位との比較,下図:GCC菲薄部・上下・他眼網膜感度とGCC厚との比較.菲薄部網膜感度の上下との比較で有意差を認め,上下網膜感度とGCC厚との間で有意に相関関係があった.上下対応部位との比較他眼対応部位との比較II結果1例(14%)2例1例(29%)4例(29%)(57%)(14%)2例4例(57%)1例は固視不良のため解析不能となり除外となった.GCC厚菲薄化部位の網膜感度は,他眼との比較,上下との比較のいずれにおいても6例(86%)で低値を示した(図3,症例を示す).また,そのうち2例(29%)に有意差を認めた(図4).GCC厚と網膜感度との関係では他眼との比較では1例(14%),上下との比較では3例(43%)において有意な正の菲薄化部位が対応部位と比較して相関(表1)が得られた.III考按OCTは,丹野直弘2)が1990年に考案した世界初の技術である.当時の機器と比較し測定時間の短縮,分解能や再現性の向上など機能が格段に向上している.最近の報告ではGCC厚を用いた解析で糖尿病(RVO)などの網膜虚血性疾患3),Gaucher病などの網膜変性疾患4)や前部視路疾患5)の診断も有用であるとされ,とくに緑内障領域においては,網膜最内層の3層もしくは4層測定による診断が乳頭周囲網膜神経線維層厚のそれに匹敵する5)ことや,急性緑内障後眼においてGCC厚の菲薄化がみられ僚眼との鑑別に有用6)などの報告もされている.このような機器の進歩により,GCC(115)■低値(有意差あり)■低値■高値図4GCC厚菲薄化部位の平均網膜感度の比較厚の菲薄化という器質的な異常を認めるが,視野欠損という機能的な異常の出現していないPPGをとらえることが可能になった7,8).このとき注意すべきことは,黄斑前膜や網膜浮腫などGCC厚解析を阻害する疾患の存在下ではGCC厚解析が不正確になる可能性があり,今回の症例ではそのような疾患は合併していなかったことを確認した.PPGは上記のごとくOCTの進化によって注目されてきた疾患概念であるが,1991年には同様の所見の報告9)がされている.緑内障の進行過程はWeinrebら10)が提唱するように検出が不可能な時期,無症候性の時期,機能障害の時期にあたらしい眼科Vol.32,No.8,20151181 表1GCC菲薄部・上下・他眼網膜感度とGCC厚との比較症例ABCDEFGGCC菲薄部(上下)相関係数0.65*0.64*0.120.39*0.530.04.0.44GCC菲薄部(他眼)相関係数0.65*0.420.20.24.0.140.17.0.35*p<0.05分けられる.つまり視野障害出現時にはすでに緑内障性の構れ,今回の結果に影響を及ぼしたと考えられた.造変化が進行した時期であり,自動視野計に.5..10db今後さらなる機器の進化,医療の発展が期待され,PPGの感度低下を示す際,すでにGCCの20.40%が障害されて症例の視野障害をより早期に発見することが可能になるかもいることが明らかとされており11),早期発見が必要である.しれない.今回の一部PPG症例に対しMP-1が臨床的に有そこでshortwavelengthautomatedperimetry(SWAP),用であったことが,さらなる緑内障研究の発展に寄与するこfrequencydoublingtechnology(FDT)などで早期に視野異とを期待したい.常の検出を試み,構造には変化がなくとも視野に異常が出た場合には治療を考慮する必要がある.通常,Humphrey視野計の30-2プログラムで異常が認められない症例では,同利益相反:利益相反公表基準に該当なし装置で可能な10-2プログラムを次に施行することが多いと思われるが,今回の検討では行わなかった.その理由とし文献て,今回の症例には網膜アーケード血管の近傍内側のGCC1)緑内障診療ガイドライン(第3版):http://www.nichigan.厚菲薄化を認める症例が複数例存在し,10-2プログラムでor.jp/member/guideline/glaucoma3.jspは検出が不可能と判断したためである.2)丹野直弘:「光波反射像測定装置」日本特許第2010042号:1990今回8症例中1症例では固視が不良のため解析不能であっ3)AraszkiewiczA,Zozuli.ska-Zio.kiewiczD,MellerMetた.今回対象の平均年齢が60歳代後半と通常の緑内障発見al:Neurodegenerationoftheretinaintype1diabetic年齢よりも高く,高齢者医療に特化した当院特有のバイアスpatients.PolArchMedWewn122:464-470,2012がかかっている可能性が原因かもしれない.またMP-1自4)McNeillA,RobertiG,LascaratosGetal:RetinalthinninginGaucherdiseasepatientsandcarriers:resultsofa体はさまざまな設定条件で測定することができるが,今回のpilotstudy.MolGenetMetab109:221-223,2013検討対象がPPGであったため,厳格な条件を設定したこと5)AggarwalD,TanO,HuangDetal:Patternsofganglionも固視不良で除外された可能性があると考えられた.cellcomplexandnervefiberlayerlossinnonarteriticGCC厚菲薄化部位の網膜感度は,他眼との比較,上下とischemicopticneuropathybyFourier-domainopticalcoherencetomography.InvestOphthalmolVisSci53:の比較のいずれにおいても7例中6例で低値であることが示4539-4545,2012されたが,有意差があった症例は少なかった.原因として,6)福岡秀記,山中行人:急性原発閉塞隅角緑内障後眼の網膜神PPGはGCC厚菲薄化領域が狭い症例が多く,結果的に菲薄経節複合体厚と僚眼との比較.眼科手術28:280-284,2015化領域の感度が測定できた点数が少なかったことが影響して7)MwanzaJC,DurbinMK,BudenzDLetal:Profileandpredictorsofnormalganglioncell-innerplexiformlayerいると推測した.MP-1には眼底写真から測定部位を決定でthicknessmeasuredwithfrequency-domainopticalcoherきるマニュアル測定モードがあるが,実際には計画した場所encetomography.InvestOphthalmolVisSci52:7872に照射することはむずかしかった.7879,2011GCC厚と網膜感度の相関では,同一眼上下および他眼対8)MwanzaJC,DurbinMK,BudenzDLetal:Glaucomadiagnosticaccuracyofganglioncell-innerplexiformlayer応部位との網膜感度を比較し,一部の症例で有意差を認めthickness:comparisonwithnervefiberlayerandopticた.つまりGCC厚が薄いほど網膜感度が低値を示す傾向をnervehead.Ophthalmology119:1151-1158,2012認めた.他眼対応部位よりも同一眼上下との比較のほうが有9)SommerA,KatzJ,QuigleyHAetal:Clinicallydetect意差のある症例が多かったが,両者とも50%に満たなかっablenervefiberatrophyprecedestheonsetofglaucomatousfieldloss.ArchOphthalmol109:77-83,1991た.これには測定点が少なかったことが影響したと考えられ10)WeinrebRN,FriedmanDS,FechtnerRDetal:Riskる.また,日常臨床においてはじめに測定した眼の視野検査assessmentinthemanagementofpatientswithocularは集中力が保たれているのに対し,後に測定した他眼の視野hypertension.AmJOphthalmol138:458-467,2004検査では疲労などにより集中力が保たれない症例に遭遇する11)QuigleyHA,DunkelbergerGR,GreenWR.:Retinalganglioncellatrophycorrelatedwithautomatedperimetryinことがある.同様に左右眼の比較では集中力が異なるのに対humaneyeswithglaucoma.AmJOphthalmol15:453し,同一眼との比較では検査に対する集中力が同じと考えら464,19891182あたらしい眼科Vol.32,No.8,2015(116)

Microperimeter-1(MP-1TM)を用いた黄斑円孔術前後の 視機能評価

2012年5月31日 木曜日

《原著》あたらしい眼科29(5):691.695,2012cMicroperimeter-1(MP-1TM)を用いた黄斑円孔術前後の視機能評価鈴木リリ子*1,2高野雅彦*1飯田麻由佳*1大平亮*1塩谷直子*1清水公也*2*1国際医療福祉大学熱海病院眼科*2北里大学医学部眼科学教室UsingMicroperimeter-1(MP-1TM)forVisualFunctionEvaluationofMacularHolebeforeandafterSurgeryRirikoSuzuki1,2),MasahikoTakano1),MayukaIida1),RyoOhira1),NaokoShioya1)andKimiyaShimizu2)1)DivisionofOphthalmology,InternationalUniversityofHealthandWelfare,AtamiHospital,2)DepartmentofOphthalmology,KitasatoUniversitySchoolofMedicine目的:黄斑円孔(MH)術前後において,視機能評価にMicroperimeter-1(MP-1TM)を用いて固視安定度と網膜感度を評価し,視力および光干渉断層計(OCT)所見との関連性についても考察した.対象および方法:MH患者に対し手術を施行し,3カ月以上経過観察が可能であった9例9眼.視力,OCTによる黄斑形態,MP-1TMによる固視安定度,中心網膜感度,傍中心8点の網膜感度について検討した.結果:4眼で術後の視力改善,内節外節接合部(IS/OS)line連続,中心および傍中心網膜感度の改善がみられた.IS/OSlineが不連続であった3眼は,黄斑形態とMP-1TMの結果が乖離していた.結論:MH術前後の視機能評価には,視力やOCT所見以外に,MP-1TMによる中心と傍中心網膜感度の解析が有用と思われる.Objective:TomeasurefixationstabilityandretinalsensitivityusingMicroperimeter-1(MP-1TM)aftermacularhole(MH)surgery,andtoevaluaterelevancetovisualacuityandopticalcoherencetomography(OCT)findings.SubjectsandMethods:Studiedwere9eyesof9patientswhounderwentMHsurgerytogetherwithcataractsurgery,andhadatleast3months’follow-up.Visualacuity,macularmorphology(OCT),fixationstability,centralandparacentralretinalsensitivitieswereexamined.Results:Visualacuityimprovedaftersurgeryin4eyes,andOCTfindingsshowedinnersegment-outersegment(IS/OS)linetobecontinuous.Bothcentralandparacentralretinalsensitivitiesimproved.DiscontinuousIS/OSlinewasnotedin3eyes.TheseOCTfindingsandtheMP-1TMresultsweredissociated.Conclusion:InadditiontovisualacuityandOCTfindings,retinalsensitivityevaluationbyMP-1TMmaybeusefulforassessingvisualfunctionafterMHsurgery.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(5):691.695,2012〕Keywords:マイクロペリメーター,黄斑円孔,視機能評価,固視安定度,網膜感度.Microperimeter-1,macularhole,visualfunctionalevaluation,fixationstability,retinalsensitivity.はじめに1995年以降,Brooksによる内境界膜(ILM).離という手術手技の導入により,黄斑円孔(MH)の円孔閉鎖率が上昇したが,術後の評価は円孔の閉鎖率と視力が主体であった1).2006年に実用化されたspectral-domainopticalcoherencetomography(OCT)の登場によって,黄斑部網膜においての内節外節接合部(IS/OS)lineによる形態評価が可能となり,円孔閉鎖後の視力上昇は,IS/OSlineの連続性の回復に依存する可能性があるとされている2).さらに,黄斑疾患の視機能評価に,微小視野測定が可能なMicroperimeter-1(MP-1TM)が開発され,固視安定度や任意の部位における網膜感度の詳細な評価が可能となった3,4).今回,MH術前後における視機能評価にMP-1TMを用い,固視安定度と黄斑部網膜感度を評価し,視力およびOCT所見との関連性についても考察したので報告する.〔別刷請求先〕鈴木リリ子:〒252-0374相模原市南区北里1-15-1北里大学医学部眼科学教室Reprintrequests:RirikoSuzuki,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KitasatoUniversitySchoolofMedicine,1-15-1Kitasato,Minami-ku,Sagamihara,Kanagawa252-0374,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(111)691 I対象および方法国際医療福祉大学熱海病院眼科において,2009年8月.2011年5月までの22カ月間に硝子体手術を施行したMH患者14例14眼のうち,白内障手術(PEA+IOL)の同時手術を施行し,3カ月以上経過観察が可能であった9例9眼.年齢は62.73歳(平均67歳).性別は男性4例4眼,女性5例5眼.Gassの新分類によるMHの病期分類の内訳は,Stage2が3眼,Stage3が2眼,Stage4が4眼であった.白内障手術を施行後,23あるいは25ゲージシステムによる小切開硝子体手術を行った.全例トリアムシノロンアセトニド(ケナコルトTM)を使用し,内境界膜.離を施行した.20%SF6(六フッ化硫黄)あるいはroomairにてタンポナーデを行い,腹臥位とした.術後OCT(OCT-1000MARKII,トプコン社)にてMHの閉鎖を確認後,腹臥位解除とした.ab図1術後の黄斑部網膜OCT像a:IS/OSline連続例,b:IS/OSline不連続例.視力,OCTによる黄斑形態(IS/OSlineと中心窩網膜厚)MP-1TM(Microperimeter-1,NIDEK社)による固視安定度,(,)中心網膜感度および傍中心8点の網膜感度についてそれぞれ検討した.術前および術後3カ月の視力は,少数視力をlogMAR(logarithmicminimumangleofresolution)値に換算し,0.2以上の変化を改善もしくは悪化とした.中心窩網膜のIS/OSlineの連続性については,lineモードOCT白黒画像を3人の医師で判定した(図1a,b).中心窩網膜厚は,OCT画像の中心窩から色素上皮までの2点間の距離をマニュアルモードで測定した(図2).固視安定度は,測定された固視点分布をパーセンテージで表示し,MP-1TMの固視安定度判定基準(図3)に従い,安定,やや不安定,不安定のいずれかに判定した.なお,MP-1TMにおける網膜感度の表示は,0.20dBとデシベル表示であり,得られた測定値はカンデラ(cd/m2)に換算して平均し,再度デシベル表示に変換した(表1).網膜感度は,網膜中心部の感度と,中心から2°離れた8点の傍中心部の感度を用い(図4),術前後1dB以上の変化をもって,改善・不変・悪化と判定した.II結果全症例でMHは閉鎖した.腹臥位の期間は,術後4.7日(平均期間5.3日)であった.術後3カ月の視力は,7眼が改図2術後の中心窩網膜厚術後の中心窩網膜厚は,OCTのマニュアルモードを用いて,中心窩から色素上皮までの厚さを測定.図3固視安定度の判定黄斑部を中心とした,直径2°の円に75%以上の固視点がある場合は安定,直径2°の円に75%未満の固視点があり,直径4°の円に75%以上がある場合はやや不安定,直径4°の円に75%未満の固視点がある場合は不安定と判定した.安定やや不安定不安定692あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012(112) 表1網膜感度の対照表HFA(dB)MP-1TM(dB)cd/m2140127.33151101.1416280.3417363.8218450.6919540.2720631.9921725.4122820.1823916.03241012.74251110.1226128.0427136.3828145.0729154.0330163.231172.5432182.0233191.6134201.28HFA(Humphreyfieldanalyzer)およびMP-1TMでの網膜感度の対照.網膜感度(dB)と網膜照度(cd)の換算表.図4網膜感度の判定黄斑中心部の感度(中心感度),および中心から2°離れた8点の傍中心部の感度(傍中心感度)を計測.…………….善,2眼が不変であり,視力の悪化例はなかった.OCTでの中心窩のIS/OSlineは,6眼が連続,3眼は不連続であった.中心窩網膜厚の平均は199.3μmであり,中心窩網膜厚と術後3カ月の視力との間に相関はみられなかった(p=0.54,r=0.24).術前・術後の固視安定度を示した(図5).術前・術後とも8眼が安定,やや不安定は1眼のみ(症例①)で,不安定と判定された症例はなかった.中心網膜感度は,術前平均6.2dB,術後平均12.2dBと有意な改善を認めた(Wilcoxonsignranktest,p=0.02).6眼で改善,3眼で不変であった(図6).中心から2°離れた8点の傍中心網膜感度は,術前平均13.2dB,術後平均16.5dB(113)(%)1009080706050:術前:術後403020100①②③④⑤⑥⑦⑧⑨症例図5術前・術後の固視点分布中心から2°以内の固視点の割合を示す(%).症例①のみ固視安定度判定(図3)からやや不安定とされた.(dB)20181614121086420図6術前・術後の中心網膜感度黄斑中心部の術前後の感度と平均値を示す.術前中心網膜感度は平均6.2dB,術後は12.2dB.(dB)平均(12.2)平均(6.2)術前術後20181614121086420図7術前・術後の傍中心8点の網膜感度黄斑中心部より2°離れた8点の網膜感度と平均値を示す.術前傍中心網膜感度は平均13.2dB,術後は16.5dB.1例のみ網膜感度の悪化がみられた.と有意な改善を認めた(Wilcoxonsignranktest,p=0.02).8眼で改善し,症例⑥の1眼のみわずかに悪化(17.5dBから15.5dB)がみられた(図7).全症例の術後視力,OCTでのIS/OSline,中心窩網膜厚,MP-1TMでの固視安定度,中心網膜感度,傍中心8点の網膜あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012693平均(16.5)平均(13.2)術前術後 表2全症例結果症例MH分類矯正視力術前→術後中心窩網膜厚(μm)IS/OSline固視安定度中心網膜感度(dB)術前→術後傍中心網膜感度(dB)術前→術後①3改善0.3→0.8248連続やや不安定不変6→6改善12.0→14.5②4改善0.3→0.9199不連続安定改善4→10改善13.5→16.5③2改善0.7→0.9224連続安定改善6→12改善8.5→13.5④2改善0.2→0.6168連続安定改善0→12改善15.0→17.0⑤2不変0.4→0.5265不連続安定改善2→14改善11.5→16.5⑥4改善0.3→1.0220連続安定不変12→12悪化17.5→15.5⑦3不変0.5→0.6166不連続安定不変10→10改善8.9→16.5⑧4改善0.5→1.0149連続安定改善6→20改善18.5→19.5⑨4改善0.5→0.9155連続安定改善10→14改善13.5→19.5感度を表2に示した.術後視力の改善がみられ,かつIS/OSlineの連続性が回復していた症例③,④,⑧および⑨の4眼では,MP-1TMでの中心網膜感度と傍中心網膜感度がいずれも改善しており,網膜外層形態の回復と視機能の改善に一致がみられた.しかし,術後3カ月においてもIS/OSlineが不連続であった3眼のうち,症例②および⑤の2眼では,中心網膜感度および傍中心網膜感度がいずれも改善しており,症例⑦では中心網膜感度は不変であったが,傍中心網膜感度の改善がみられた.III考按従来,黄斑疾患の視機能評価は,視力が主体となっており,MHの治療成績も円孔の閉鎖率と術後視力で評価されていた.Kellyらにより初めて報告された黄斑円孔に対する硝子体手術5)では,円孔閉鎖率は58%,視力改善率は42%であった.その後,内境界膜.離術の併施導入により,円孔の閉鎖率は格段に向上した6,7).さらに,spectral-domainOCTの登場によって2),IS/OSlineなど黄斑形態の詳細な描出が可能になり,術後の視力改善は,IS/OSlineの連続性回復に依存するとの報告がされている8,9).MH術後視力の予後因子には,術後中心窩網膜厚などが関与していたという報告8,9),MH術後の視力と中心窩網膜厚の間に正の相関があったとの報告10)や相関はなかったとの報告11)があるが,今回の筆者らの検討では,いずれにおい694あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012ても相関関係はみられなかった.術後の固視安定度に関して,今回の検討では,9眼中8眼で術前すでに固視点の安定がみられていた.実際,術前に固視点の多くは,中心窩もしくはその上方に集中して認められていた.このため,術後黄斑円孔が閉鎖しても固視安定度には大きな変化がみられなかったと考えられる.MP-1TMは,眼底カメラの赤外照明で眼底像を確認しながら,静的量的視野検査(網膜視感度測定)を行う.このとき,オートトラッキング機能によりあらかじめ設定した測定点を,正確に繰り返し測定することができる.その後,カラー眼底写真と赤外眼底写真を元にした網膜視感度測定結果を重ね合わせることによって,眼底写真上に網膜感度の表示が可能である.Richter-Muekschらは,MH術後3カ月の視力改善率が47.3%であったのに対し,MP-1TMでの網膜感度の改善率が68.4%であったと報告している12).今回の筆者らの検討でも,術後3カ月で視力不良であっても,MP-1TMによる解析で網膜感度の改善が認められた症例が存在した.事実,術後視力に改善がみられなくても,「見やすくなった」,「見えにくいところがなくなった」など,患者の満足度が高い症例を経験する.さらに,今回の検討では,OCTによるIS/OSlineの不連続の症例でも,MP-1TMでの網膜感度の改善がみられた症例が存在した.すなわち,術後のIS/OSlineの連続性の獲得と網膜感度上昇が必ずしも一致しておらず,黄斑形態としてのIS/OSlineが不連続であっても,黄斑機能である網膜感度が改善しているといった形態と機能の乖離(114) がみられた.MP-1TMは感度測定と同時に,初回測定時,赤外眼底写真で眼底像の特徴を記憶させ,参照エリアとすることができる.この参照エリアが症例ごとに記憶されているため,術後に固視が移動しても13),術前と同位置の網膜感度の測定ができ,さらに長期にわたり同一部位の測定が可能である(フォローアップ検査).しかし,MH術前後でのMP-1TMの最適な測定プログラムや固視目標などの検討も要するとの報告4)もあり,より精度の高い測定のためには,さらなる解析,検討が必要である.MHの術後視力が最高視力に達するには,術後10カ月から1年,場合によっては3年以上の経過を要したとの報告14.16)もある.固視安定度や網膜感度も今後さらに改善していく可能性があり,長期経過の検討も必要である.同一患者の同一部位についてフォローアップを行うことが可能なMP-1TMは,高い精度と再現性が得られるため,長期にわたる視機能評価にも有用である.文献1)BrooksHL:ILMpeelinginfullthicknessmacularholesurgery.VitreoretinalSurgTechnol7:2,19952)板谷正紀:光干渉断層計の進化がもたらす最近の眼底画像解析の進歩.臨眼61:1789-1798,20073)豊田綾子,五味文,坂口裕和ほか:MP-1における黄斑浮腫治療前後の視機能評価.眼紀57:640-645,20064)宇田川さち子,今井康雄,松本行弘ほか:MP-1とスペクトラルドメイン光干渉断層計による特発性黄斑円孔術前後の評価.眼臨紀3:483-487,20105)KellyNE,WendelRT:Vitreoussurgeryforidiopathicmacularhole.Resultofapilotstudy.ArchOphthalmol109:654-659,19916)YoonHS,BrooksHL,CaponeAetal:Ultrastructuralfeaturesoftissueremovedduringidiopathicmacularholesurgery.AmJOphthalmol122:67-75,19967)砂川尊,中村秀夫,早川和久ほか:特発性黄斑円孔の硝子体手術成績.眼臨97:629-632,20038)草野真央,宮村紀毅,前川有紀ほか:特発性黄斑円孔術前後視力と光干渉断層計所見の関連性の検討.臨眼63:539543,20099)BabaT,YamamotoS,AraiMetal:Correlationofvisualrecoveryandpresenceofphotoreceptorinner/outersegmentjunctioninopticalcoherenceimagesaftersuccessfulmacularholerepair.Retina28:453-458,200810)小松敏,伊藤良和,高橋知里ほか:光干渉断層計を用いた特発性黄斑円孔手術後の中心窩網膜厚と視力の関係.臨眼59:363-366,200511)沖田和久,荻野誠周,渥美一成ほか:特発性黄斑円孔に対する網膜内境界膜.離後の網膜厚.臨眼57:305-309,200312)Richter-MuekschS,Vecsei-MarlovitsPV,StefanGSetal:Functionalmacularmappinginpatientswithvitreomacularpathologicfeaturesbeforeandaftersurgery.AmJOphthalmol144:23-31,200713)YanagitaT,ShimizuK,FujimuraFetal:Fixationpointaftersuccessfulmacularholesurgerywithinternallimitingmembranepeeling.OphthalmicSurgLasersImaging40:109-114,200914)熊谷和之,荻野誠周,出水誠二ほか:硝子体,白内障,眼内レンズ同時手術後,最高視力に達するまでの期間.臨眼53:1775-1779,199915)高島直子,小野仁,三木大二郎ほか:特発性黄斑円孔手術の予後.眼科手術17:429-433,200416)中村宗平,熊谷和之,古川真里子ほか:黄斑円孔手術後の長期視力経過.臨眼56:765-769,2002***(115)あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012695