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ハードコンタクトレンズの動きの経時的変化

2011年6月30日 木曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(131)883《原著》あたらしい眼科28(6):883.885,2011cはじめにハードコンタクトレンズ(HCL)は,ソフトコンタクトレンズ(SCL)と比較して,酸素透過性が高い,光学性に優れる,耐久性が高い,および,重篤な角膜障害を生じにくいなど多くの利点を有している1).しかしながら,使い捨てSCLや頻回交換SCLの急速な普及に伴い,近年HCLの処方頻度は減少傾向にある.HCLが敬遠される最大の原因の一つに初装時の異物感があげられ2),イニシャルのトライアルレンズを装用した時点で強い異物感によりドロップアウトする症例も多い.このため,特にイニシャルのトライアルレンズには異物感の極力少ないレンズを選択することが大変重要である3).異物感の原因には,レンズの大きさ,べベル部分のデザイン,角膜の神経終末の分布などさまざまな要因が関与している.レンズの動きが大きすぎることも,異物感の大きな原因となり,見え方の安定感を欠く原因にもなる.逆に,レンズの動きが小さすぎることは,レンズの固着,涙液交換の低下,装用感の悪化およびレンズの外しにくさにつながり,角膜障害の原因となることもある.このように,瞬目時のレンズの動きを正確に評価することは大変重要であると考えられる.しかし,レンズの動きは,細隙灯顕微鏡により,mm単位で測定されているのが現状であり,検者個人の感覚によるところが大きく,これまで適切な評価方法がなかった.そこで今回筆者らは,画像解析を用いて,レンズの動きの新しい評価方法を考案し,HCL装用時の瞬目に伴うレンズの動きを経時的に検討した.また,レンズ処方時にレンズの動きを評価するタイミング,および,人工涙液によるレンズの動きの変化についても検討した.I対象および方法被検者はHCLの装用歴があり,近視または近視性乱視以外に眼疾患を有しない5例10眼(男性1例2眼,女性4例〔別刷請求先〕藤田博紀:〒270-1132千葉県我孫子市湖北台1-1-3藤田眼科Reprintrequests:HirokiFujita,Ph.D.,FujitaEyeClinic,1-1-3Kohoku-dai,Abiko-shi,Chiba270-1132,JAPANハードコンタクトレンズの動きの経時的変化藤田博紀*1,2馬場富夫*2田中直*2佐野研二*3*1藤田眼科*2桑野協立病院眼科*3あすみが丘佐野眼科TimeCourseChangesinHardContactLensMovementHirokiFujita1,2),TomioBaba2),TadashiTanaka2)andKenjiSano3)1)FujitaEyeClinic,2)KuwanoKyoritsuHospital,3)AsumigaokaSanoEyeClinicハードコンタクトレンズ(HCL)装用者5例10眼において,レンズ装用時のレンズの動きを録画し,1/30秒ごとに解析処理して,レンズの動きを数値的に評価した.HCL装用後のレンズの動きは,徐々に小さくなり,特に装用5分後までは,レンズの動きは急激に変化した.しかし,装用30分後のレンズの動きは,長時間装用後と比較して有意差がなかった.HCLのフィッティングの評価は,装用直後には避け,装用30分経過した後が望ましいと考えられた.また,人工涙液点眼により,レンズの動きは,人工涙液点眼前と比較して有意に大きくなった.Changesinthemovementofhardcontactlenses(HCL)duringwearwereanalyzedbymonitoringtheHCLevery1/30secondin10eyesof5HCLwearers.ResultsshowedthatalthoughHCLmovementdecreasedwithtimeafterHCLinsertion,significantchangeinmovementwasobservedwithin5minutesafterinsertion.However,therewasnostatisticallysignificantdifferencebetweenlensmovementat30minutesandat8hoursafterHCLinsertion.TheanalyticalresultsindicatethatinHCLwearers,HCLfitshouldnotbeevaluatedimmediatelyafterlensinsertion,butatleast30minutesafter.HCLmovementwassignificantlyincreasedbyuseofartificialtears.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(6):883.885,2011〕Keywords:ハードコンタクトレンズ,レンズの動き,人工涙液.hardcontactlens,lensmovement,artificialteardrops.884あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011(132)8眼)であり,平均年齢は35.2±11.2歳(25.47歳)であった.被検者には十分なインフォームド・コンセントを行った.今回用いたHCLは,サンコンマイルドIIR(サンコンタクトレンズ社製)で,直径8.8mmの球面レンズである.レンズの周辺部の6カ所にMETORONMARKER(PermanentInks社製)を用いてマーキングを施した(図1).ベースカーブについては,オートレフケラトメーターにて測定した角膜曲率半径をもとにトライアルエンドエラーでパラレルフィッティングに決定した.レンズ度数は+3.25..9.00Dであった.本レンズを用いて,レンズ装用直後,5分後,10分後,20分後,30分後,および8時間後のレンズの動きを録画した.この録画した画像を,デジモ社の画像解析ソフトであるイメージトラッカー(PTV)を用いて1/30秒ごとに解析処理し,レンズの動きを数値的に評価した(図2).レンズの動きは,以下のようにして求めた.まず,図2のように任意のマーキングした2点AとBの中点であるCをレンズ上の固定点とした.瞳孔中心(D)を眼球上の固定点とし,レンズの位置Eは座標C─Dにより求めた.画像を1/30秒ごとにコマ送りすることにより,レンズの最も高いレンズ位置Emaxと最も低いレンズ位置Eminを求め,EmaxとEminの距離を測定した(図3).最後に,眼瞼にスケールを置いて撮影し,EmaxとEminの距離を実際の長さに換算し,レンズの動きと定義した(図4).また,長時間レンズ装用後における人工涙液点眼直後のレンズの動きについても,同様の方法にて検討した.図1マーキングしたレンズレンズの周辺部の6カ所にマーキングを施した.0.00.51.01.52.0直後5分10分20分30分長時間***NS経過時間レンズの動き(mm)図4レンズの動きの経時的変化装用30分後のレンズの動きは,長時間装用後と比較して有意差がなかった.*p<0.05,**p<0.01,NS:notsignificant.ABCD図2レンズの位置の決定方法任意のマーキングした2点AとBの中点であるCをレンズ上の固定点とした.瞳孔中心(D)を眼球上の固定点とし,レンズの位置Eは座標C─Dにより求めた.EminEmax図3レンズの動きの量の測定方法レンズの最も高いレンズ位置Emaxと最も低いレンズ位置Eminを求め,EmaxとEminの距離を測定した.(133)あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011885II結果レンズ装用直後,5分後,10分後,20分後,30分後,および8時間後のレンズの動きは,それぞれ1.59±0.67mm,1.15±0.59mm,1.01±0.50mm,0.98±0.50mm,0.76±0.37mm,0.58±0.25mmであり,経時的に小さくなった(図4).装用直後と5分後,および,装用20分後と8時間後では,pairedt検定にて,それぞれレンズの動きに有意差があった.しかし,装用30分後と8時間後ではレンズの動きに有意差がなかった.また,人工涙液点眼により,レンズの動きは1.70±0.62mmであり,人工涙液点眼前と比較して有意に大きくなった(図5).III考察現在HCLのフィッティングマニュアルでは,レンズの動きに関しては,適正な数値が示されていないことも多い.今回筆者らは,直径8.8mmの球面というわが国では一般的なデザインであるHCLのレンズ周辺に特殊な色素でマーキングを施し,そのマーキングを1/30秒で追随するという新しい方法で,レンズの動きを精密に測定した.今回得られたデータでは,レンズの動きは経時的に徐々に小さくなり,特に装用5分後までは,レンズの動きは急激に変化した.また,装用30分後のレンズの動きは,長時間装用後と比較して有意差がなくなった.臨床の現場では,HCL処方の際,レンズの動きの評価は,装用して間もなく行われることもある.しかし,以上の結果から,トライアルレンズ装用時のフィッティングの評価は,装用直後には避け,装用30分経過した後が望ましいと考えられた.特に,装用後短時間でフィッティングを評価し,実際に装用を開始してから装用感の不良などを訴える症例に対しては,定期検査の際,長時間装用した状態でのフィッティングも再評価する必要があると考えられた.ところで,HCL装用者のなかには長時間の装用や乾燥感に伴い,レンズが取り外しにくいと訴える症例が多い.その対処方法として,人工涙液点眼が推奨されている.人工涙液点眼がレンズの動きへ及ぼす影響については,SCLの装用時には,レンズの中心厚が厚くなり,また,レンズ下の涙液層が薄くなることによって,レンズの動きは小さくなるという報告もある4).しかし,今回の結果から,HCLの装用時には,人工涙液点眼はレンズの動きを大きくする効果があることが確認された.このため,HCLの動きの少なかったり,固着しやすかったりする症例に対し,積極的に人工涙液の点眼を指導しても良いと考えられた.ただし,人工涙液点眼のレンズの動きへの影響は,一時的な対処法にすぎず,レンズの修正など根本的な対処も必要である.今回のように,レンズの動きを正確に評価できる方法を確立することはCLの研究において大変意義深く,本方法はさまざまなレンズの評価研究に応用できると考えている.今後の課題としては,1)レンズのデザイン(直径や球面,非球面など),2)涙液交換率,3)レンズの装用感,4)qualityofvision,および5)角膜形状(角膜乱視),それぞれとレンズの動きとの関係などについても精査の予定である.使い捨てSCLや頻回交換SCLが主流となった現在でも,HCLにおいても,さまざまなレンズが開発され,装用感やqualityofvisionの改善が図られている.これらのレンズの動きを評価する際にも,本方法は新しい方法として大変有用である.ただし,本方法は,解析に多大な時間を要するため,マーキングなしで解析できる簡便な方法を開発する必要もある.文献1)藤田博紀:ハードコンタクトレンズ.眼科診療プラクティス27,標準コンタクトレンズ診療(坪田一男編),p262-272,文光堂,20092)FujitaH,SanoK,SasakiSetal:Oculardiscomfortattheinitialwearingofrigidgaspermeablecontactlenses.JpnJOphthalmol48:376-379,20043)藤田博紀,馬場富夫,佐野研二ほか:非球面大直径ハードコンタクトレンズの初装時における異物感の評価.あたらしい眼科24:835-837,20074)NicholsJJ,SinnottLT,King-SmithPEetal:Hydrogelcontactlensbindinginducedbycontactlensrewettingdrops.OptomVisSci85:236-240,2008***0.00.51.01.52.0長時間点眼後*レンズの動き(mm)図5人工涙液点眼によるレンズの動きの変化人工涙液点眼により,レンズの動きは有意に大きくなった.*p<0.01.