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不同視弱視症例における視力と立体視の関係

2010年7月30日 金曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPY(127)987《原著》あたらしい眼科27(7):987.992,2010cはじめに弱視治療,特に不同視弱治療の目標は,眼鏡装用による弱視眼の視力向上と良好な両眼視機能の獲得である.不同視弱視の治療においては,眼鏡装用のみで視力が改善しない場合には,弱視眼視力の改善のため健眼遮閉を行うことが行われている.しかし遮閉を行うことにより両眼視機能に関してはその発達の妨げになるので,これが治療におけるジレンマとなっている.言うまでもなく弱視治療においては早期発見,早期治療が望ましく,治療開始時期が早いほど治療効果が高いことはすでに報告されている1.6).不同視弱視,特に遠視〔別刷請求先〕勝海修:〒134-0088東京都江戸川区西葛西5-4-9西葛西井上眼科病院Reprintrequests:OsamuKatsumi,M.D.,NishikasaiInouyeEyeClinic,5-4-9Nishikasai,Edogawa-ku,Tokyo134-0088,JAPAN不同視弱視症例における視力と立体視の関係須藤真矢*1渡邉香央里*1小林薫*2勝海修*2宮永嘉隆*1*1西葛西井上眼科病院*2西葛西井上眼科こどもクリニックRelationbetweenVisualAcuityandStereopsisinPatientswithHyperopicAnisometropicAmblyopiaMayaSudo1),KaoriWatanabe1),KaoruKobayashi2),OsamuKatsumi2)andYoshitakaMiyanaga1)1)NishikasaiInouyeEyeHospital,2)NishikasaiInouyePediatricEyeClinic目的:遠視性不同視弱視症例において,健眼と弱視眼の視力の関係と立体視との相関について分析する.対象および方法:対象は西葛西井上眼科こどもクリニックを受診し,遠視性不同視弱視の診断のもとに通院,加療中の20名(男児8名,女児12名)であり,治療開始年齢は3歳.14歳3カ月(平均値61.6カ月),不同視の程度は平均4.29Dであった.治療方法は,屈折矯正眼鏡装用後,弱視眼の視力向上状態に応じ健眼遮閉を行った.その過程で定期的に立体視検査を行った結果から視力との相関関係を分析した.また経過観察中に不等像視の測定を眼鏡装用下で行い,立体視との関係についても分析を試みた.結果:弱視治療後に弱視眼の視力は全例1.2に到達し,そのうち13例(65%)が視力の改善後に40.60sec.arcの高度な立体視を獲得した.立体視を獲得するまでの期間は平均7.5カ月であった.健眼と弱視眼の視力差が2段階以内の場合に60sec.arc以上の立体視を獲得できた.結論:今回の分析結果より遠視性不同視弱視症例の治療過程では,弱視眼の視力改善後に,ある期間が経過してから,高度な立体視が確立される傾向があると考えられた.それ故,経過観察中に定期的に立体視検査を行うことの重要性が改めて再確認された.良好な立体視を獲得するためには,弱視眼と健眼の視力差を2段階以内にすることが重要ではないかと考えた.Purpose:Toanalyzethecorrelationbetweenbest-correctedvisualacuityandstereopsisinhyperopicanisometropicamblyopia.SubjectsandMethods:Subjectswere20children(8boys,12girls)withhyperopicanisometropiaamblyopia.Agesofinitialvisiontherapyrangedfrom3yearsoldtomorethan14yearsold(mean:61.6months).Meananisometropiawas4.29D.Spectacleswereprescribedbeforeandafterobservingtheimprovementofvisionintheamblyopiceye,occlusiontherapywasadded.StereopsiswasmeasuredwithTitmusStereoTestsandaniseikoniawasmeasuredwithKatsumi’smethod.Result:Theamblyopiceyereachedtheacuityof1.2inallcaseandin65%,gainedgoodstereopsisof60sec.orhigher,whichoccurredwithanaverageof7.5monthsafter.Goodstereopsiswasobtainedwhentheintraoculardifferenceofvisualacuitywastwolinesorless.Conclusion:Inpatientswithhyperopicanisometropicamblyopia,stereopsisdevelopsafteramblyopiaistreated.Goodstereopsiswillbeobtainedwhentheacuitydifferenceisequaltoorlessthan2lines.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(7):987.992,2010〕Keywords:不等像視,不同視,不同視弱視,立体視.aniseikonia,anisometropicamblyopia,hyperopia,stereopsis.988あたらしい眼科Vol.27,No.7,2010(128)性不同視弱視の治療においては,弱視眼の視力改善のみならず両眼視機能の獲得が重要であり,治療面においても両者のバランスを取ることが重要である.不同視弱視の症例はまず屈折麻痺下における他覚的屈折検査(主として検影法)の値を参考にして完全矯正眼鏡を装用し,短期間(通常2.3カ月)経過をみるのが一般的な治療開始法と思われる.今回は分析の対象となっていないが,完全矯正眼鏡を装用するだけで視力の改善をみる症例がかなり多くみられる.遮閉法は弱視眼の視力改善の程度が停止あるいは低下した時点で遮閉を開始するのが効果的と考えられる.弱視治療中は弱視眼の視力に検者の注意が集中し,立体視機能については,後回しになる場合が多い.今回筆者らはこのような弱視例において,健眼と弱視眼の視力差がどの程度であれば立体視が出はじめ,弱視眼の視力が1.0.1.2のレベルに到達した後,どれくらいの期間で良好な立体視が得られるかという2つの点について分析することを目的とした.また,今回は全例に不等像視測定も行い,その結果についても併記した.I対象および方法対象は,西葛西井上眼科こどもクリニックを受診した遠視性不同視弱視20名(男児8名,女児12名)である.図1は治療開始時の月齢を示したもので,3.14歳3カ月(月齢:36.171カ月,平均値±標準偏差:61.6±32.4カ月)である.今回の分析の対象となった20症例における眼位の内訳は外斜位13名,正位5名,内斜位1名,間欠性外斜視1名で,除外例としては顕性斜視を認めるもの,中間透光体および網膜に異常所見のある症例,以前にすでに弱視治療を他施設で行った症例である.また微小角斜視が疑われるものも除外した.これらの20症例における光学的矯正はすべて眼鏡により行われ,コンタクトレンズによる矯正を施された症例は含まれていない.西葛西井上眼科こどもクリニックにおける遠視性不同視弱視症例の治療方針は大体以下のごとくである.まず屈折麻痺下の他覚的屈折検査を基に完全矯正値の屈折矯正眼鏡を処方する.眼鏡の装用が可能となったうえで,眼鏡常用のみで弱視眼視力の改善状態を観察する.視力改善が不良な患児に対し遮閉法による1日1.2時間の健眼遮閉を家庭で行うよう指示する.その後,1.2カ月ごとの定期的視力検査を行い,眼鏡装用のみで視力の向上が良好な患児については,遮閉訓練を行わず3カ月程度の定期受診とした.受診時は全症例において視力検査,眼位検査,眼球運動検査,瞳孔反応検査などを含む眼科的諸検査を行い,また,定期的に立体視検査を行った.立体視検査にはTitmusStereoTests(StereoopticalCo.,USA)を使用した.そのなかのCircleの値をデータとして採用し,Circle5(100sec.arc)以上を「良好」な立体視,Circle7(60sec.arc)以上を「高度」な立体視とした.さらに今回は全症例について,両眼間の知覚網膜像の大きさの差である不等像視を測定し,立体視との関係を調べた.不等像視の検査には,粟屋らによるNewAniseikoniaTests(NAT)の考えをもとに勝海らが開発した測定機器を用いた7).不等像視測定方法は両眼視を赤-緑フィルターにより分離して,測定するいわゆる直接法である7,8).視力の検定は得られた視力を最小分離角に変換し,さらにlogMAR(logarithmicminimumangleofresolution)として検討した.立体視の計算は視力と同様に立体視の値の逆数を常用対数として,統計計算を行った.立体視検査においてCircle1(800sec.arc)が認識できなかった場合には,便宜上1,000sec.arcとしてグラフ上に表記したが,立体視の統計計算のときにはこれは除外した.今回のデータの分析については,立体視値の経過観察中の変化についてはANOVAone-way法を使用し,F検定で有意であったときに,ScheffeのPostHoc検定を行い,p<0.05の場合に統計学的に有意とした.視力差と立体視,視力差と不等像視の検定についてはChi-square検定法(Yatesの補正を含んだ)を使用し,同じくp<0.05の場合に統計学的に有意とした.視力,立体視,そして不等像視測定の前には,両親にこれらの検査法について十分に説明し,了解を得てから行った.II結果図2は初診時における健眼および弱視眼の矯正視力を示すものである.健眼の視力は0.7.1.2(平均1.0,logMAR=0)であり,弱視眼のそれは0.1.0.7(平均0.25,logMAR=0.405)であった.健眼および弱視眼の矯正視力の差は4段階(視力1.2と0.7,logMARにて0.23の差).9段階(視力1.0と0.1,logMARにて1.00の差),(平均値±標準偏差:6.80±1.82段階)に分布していた.121086420症例数n=2036~4748~5960~7172~8384~9596~107108以上治療開始年齢(月)図1治療開始時の月齢分布縦軸は症例を数示したもので,横軸は治療開始時の月齢を示す.(129)あたらしい眼科Vol.27,No.7,2010989図3は初診時または数日後に行った調節麻痺下の他覚的屈折検査による健眼と弱視眼の屈折度,および不同視の程度(健眼と弱視眼の屈折度数の差)を示すものである.健眼の屈折値は等価球面度数(sphericalequivalence:SE)にて.0.75.+3.75Dに分布し,平均値±標準偏差値は1.45±1.21Dであった.一方の弱視眼の屈折値は等価球面度数にて+1.13.+7.88Dに分布し,平均値±標準偏差値は5.45±1.21Dであった.そして不同視の程度は2.13.7.00Dであり,平均値は4.29±1.73Dであった.図4は治療初期における立体視を示す.立体視はCircle8(50sec.arc)の症例から(1例),立体視が検出できない(Circle1が識別できない)症例まで認められた(4例).治療初期における立体視の平均値および中央値はそれぞれ239sec.arcと170sec.arcであった.図5は今回の分析対象の20症例における,立体視の向上していく推移を示したものである.弱視眼の視力は全症例が1.2に到達し,そのうち13例(65%)が,視力の向上後にCircle7(60sec.arc)以上の立体視を獲得した.獲得するまでの期間の平均値は7.46±4.86カ月であった.弱視眼の視力が1.2に到達した時点における立体視の平均値(および中央値)はそれぞれ96.5sec.arc(74.6sec.arc)であり,約6カ月後における立体視の平均値(および中央値)はそれぞれ72.8sec.arc(59.2sec.arc)であった.視力改善後約1年後においては平均値(および中央値)は55.7sec.arc(70.2sec.arc)と,立体視値が改善する傾向が認められたが,しかしながらこの立体視値の改善は統計的に有意ではなかった(ANOVAonewaytest,Ftest=1.699,p=0.125).図6に示した20症例において,経過観察中に立体視を測定して,健眼と弱視眼の視力の差と立体視との関連を示している.この図では視力の差を段階で示しているが,視力測定には通常の視標が代数学的配列の視力表を使用しているために,視力1段階の差は0.047.0.079logunitと若干異なる.健眼と弱視眼との視力差から分析すると,視力差が2段階以0.20-0.2-0.4-0.6-0.8-1.0-1.2視力値(logMAR)1234567891011121314151617181920症例番号○:健眼●:患眼n=20図2治療開始前の矯正視力縦軸は視力を小数点表示したもので,横軸は症例を示す.視力を識別しやすくするために,視力の表記は小数点表記とした.2019181716151413121110987654321症例番号-50+5+10+15屈折度(D)(不同視=□+■)不同視=■-□()□:健眼■:患眼n=20図3不同視の程度の分布横軸は不同視の程度を示したもので,単位はdiopterである.縦軸は各症例を示し,それぞれの近視眼そして遠視眼屈折を示す.棒に長さが不同視の程度を示す.その症例番号は図1と一致する.543210症例数40506080100140200400800>800立体視(sec.arc,TST)図4治療開始前の立体視縦軸は症例数を,横軸は立体視値を示す.立体視値はTitmusStereoTest(TST)のCircleの値とそれに対応する実際値(sec.arc)を示す.96.572.855.71,0001001006経過期間(月)立体視(秒)12図5弱視眼の視力正常化した後の立体視の推移縦軸は立体視の値を対数表記したものであり,横軸は弱視眼視力正常化後の経過観察期間(単位:月)を示している.990あたらしい眼科Vol.27,No.7,2010(130)下ではCircle7(60sec.arc)以上の高度な立体視を示した症例が5症例であったのに対し,立体視がCircle6(80sec.arc)以下であったものは6症例であった.一方,視力差が3段階以上の場合には高度な立体視を示した症例はなく,9症例全例がCircle6(80sec.arc)以下であった.今回症例数は少ないが,図5から少なくとも,健眼と弱視眼の視力の差が2段階以内の場合には良好な立体視を得ることが可能であると考えられた(TotalChisquarevalue=5.455,p=0.020).図7は経過観察中に不等像視を測定し,立体視との関係を示したものであるが,ほとんどの症例で眼鏡による矯正後の不等像視は0.3%の範囲であり(平均値±標準偏差:0.90±0.87%),3%を超えるものは認められなかった.不等像視が2%以内の症例は16症例(80%)であり,そのうちCircle7(60sec.arc)以上の立体視を示したのは12症例(60%)であった.一方,不等像視が2%以上のものは4症例認められたが,そのうち3症例がCircle7(60sec.arc)以上の高い立体視を示した.不等像視と立体視の間には統計学的な有意な関連性は認められなかった(TotalChisquarevalue=0.159,p=0.69).図8は当クリニックで経過を観察できた1例の視力,および立体視を経時的に示したものである.〔症例〕6歳1カ月,男児.現病歴:3歳児検診で右眼の視力不良が発見され精査目的で受診となった.家族歴・既往歴:特記すべきことなし.初診時の屈折検査にて右眼の視力不良と不同視が疑われたため,数日後に調節麻痺屈折検査を施行した.その結果,屈折値は等価球面度数にて右眼+5.0D,左眼+1.75Dで,右眼の遠視性不同視弱視と診断された.ただちに矯正眼鏡を処方し,常用を指示した.しかしながらつぎの来院時の視力検査で右眼の矯正視力が0.4と不良であったため,1日1.2時間の健眼遮閉を開始した.図5に示すとおり,治療開始直後から弱視眼の視力が急速に向上し,その後は徐々に推移して治療開始から約11カ月で矯正視力1.2に到達した.立体視検査は約6カ月ごとに行い,治療初期はCircle1(800sec.98765立体視機能(Circle,TST)不等像視(%)4321040506080100140200400800>80000.51.01.52.02.53.04.0図7不等像視と立体視との相関縦軸は勝海法にて測定した不等像視(%)を表し,横軸は立体視[TitmusCircleの値とそれに対応する実際値(sec.arc)]を表す.白丸(○)は立体視値が100sec.arc以上の症例で,灰色の丸(●)は立体視値が140sec.arc以下の症例を示す.1(1.0)2(0.9)3(0.8)4(0.7)5(0.6)6(0.5)7(0.4)98765立体視機能(Circle,TST)視力の差(%)4321040506080100140200400800>800図6健眼と弱視眼の視力の差を段階で示した値と立体視との相関縦軸は視力の差を表し,横軸は立体視[TitmusStereoTestのCircleの値とそれに対応する実際値(sec.arc)]を表す.白丸(○)は立体視値が100sec.arc以上の症例を示し,灰色の丸(●)は立体視値が140.400sec.arc,そして黒丸(●)は800sec.arc以下の症例を示す.8001006080501.02.00.3980.699-0.1760.0790.010.11.00.20.30.40.50.82.01.2424854月齢(Age,Months)視力視力(logMAR)6066図8症例1の治療経過縦軸は視力,縦軸左は視力を対数表示したもの,右は視力をlogMAR表示している.横軸は経過観察期間(月)を示す.白丸(○)は健眼視力,黒丸(●)は弱視眼視力を示し,四角(■)は立体視値を示す.不等像視の測定は最終検査で行われている(矢印).(131)あたらしい眼科Vol.27,No.7,2010991arc)であったが,弱視眼の視力が0.6となった約半年後はCircle5(100sec.arc),1.2に到達した時点でCircle6(80sec.arc)と改善した.視力が両眼とも1.2になってから,6カ月後にCircle7(60sec.arc),そして1年後にCircle8(50sec.arc)と改善した.III考按良好な立体視を獲得するためには,まず弱視眼の視力の向上が必要であることは,多くの臨床的経験からも理解できることである.今回の分析により,立体視の獲得は弱視眼の視力,特に健眼と弱視眼の視力の関係に大きく影響されることがわかった.弱視眼の矯正視力が低い場合(たとえば0.3.0.6くらい)には健眼と弱視眼との中心窩における網膜像の質の差が大きいと思える,すなわち,弱視眼のそれはまだぼけた状態であり,両眼間における良好な立体視の確立はむずかしい.立体視の良好なレベルは以前より粟屋によってCircle5(100sec.arc)以上といわれている.今回は粟屋の考えを取り入れ,Circle5(100sec.arc)以上を“良好”な両眼視機能,Circle7(60sec.arc)以上を“高度”な立体視と考えた.高度な立体視に到達する条件(健眼と弱視眼の視力差)を調べたところ,健眼と弱視眼の視力の差が少なくとも2段階以下であることが示唆された.今回筆者らの使用した視力表の各指標は代数学的配列をしており,各段階の視力差は一定ではない.今回の検討では健眼が1.2で弱視眼が0.9以上の場合(logMAR値に換算すると視力差は0.176以内)にCircle7(60sec.arc)以上の高度の立体視が得られた.このことにより,弱視眼視力を速やかにこのレベルにもっていくことが第一の目標と考えてよいと思われる.今回の症例では60sec.arc以上の立体視を示したのは5症例であったが,それらはすべて視力差が2段階以内であった.しかし視力差が2段階以下であっても立体視がCircle6(80sec.arc)以下の症例も6例あった.これは立体視を測定した時期の問題であると考える.立体視がCircle6(80sec.arc)以下の症例も経過観察中にCircle7(60sec.arc)以上に改善することもあると考える.すなわち,眼鏡装用した期間が短ければ立体視の発達はまだ十分でなく,装用期間が長ければ立体視はより良好になると思われる.つぎに,今回の分析でさらに明らかになったことは弱視眼が正常視力に到達してからも,高度な立体視はすぐ出現せず,一定の期間を経過してから良好な値を示すということである.結果中の症例で示したように,40.60sec.arcの“高度”な立体視を得たのは,弱視眼の視力が1.2に到達してから1年近く経過した後であった.その機序としては眼鏡装用と遮閉訓練により弱視眼の視力が向上していく過程で,両眼の中心窩に明瞭な網膜像が得られるようになったこと,これによって融像可能となる機会が増え,徐々に立体視が発達してきたためと考えられる.この1年という経過は,いわば,視力の向上という2次元的機能から3次元的機能(立体視の獲得)への移行期間と考えられる.池淵9)の報告によれば,弱視眼の視力が0.2から0.4に達したときに,立体視(.)であったものが突然200sec.arcの立体視を得る症例もあったと報告している.このレベルの立体視は両眼の視力レベルがそろわなくても獲得できることが示されているが,今回筆者らが明らかにしたように,左右の視力レベルが揃ってもすぐに高度な立体視が得られるわけではないことを考慮し,弱視眼があるレベルの視力に達しても継続的に立体視を測定する必要があると考える.両眼視が成立するための条件として,不等像視の有無を調べることも欠かせない.今回,全例で不等像視を測定したが,立体視が“良好”あるいは“高度”なときはほとんど,不等像視の値が3%以内であり,これはKatsumiらの実験結果と一致する10).遠視性不同視例では,矯正眼鏡装用下における不等像視値がより少ないことは,増田らによりすでに報告されている8).これは,遠視性不同視症例ではKnappの法則が成立しているということである11).今回の分析結果では,ほとんどの症例の不等像視が1%以下であった.この結果より,不同視と不等像視の相関を求めることはできなかったが,良好な立体視を得るためには不等像視が存在しないか,最大でも3%以下であることが必要条件であると思われる.不同視症例で両眼視力が良好なのにもかかわらず立体視が不良な場合は,不等像視が残存していることが考えられ,その結果により矯正度をもう一度見直す必要があると考えられる.最後に筆者らの呈示した症例であるが,この症例は比較的弱視眼の視力の改善が順調であった症例と考えられる.この症例では,両眼の視力の差がかなり大きいときに,池淵9)が報告したように200.800sec.arcの低いレベルの立体視が出現しはじめるが,60sec.arc以上のような高度な立体視が得られるのは,両眼の視力が1.2に達してから1年近く経過してからであるという事実である.このような傾向については他の症例でも多く認められた.このことより,200.800sec.arcという低いレベルの立体視と60sec.arc以上の高い立体視とはその成立条件はかなり異なっていると考えられる.文献1)KivlinJD,FlynnJT:Therapyofanisometropicamblyopia.JPediatrOphthalmolStrabismus18:47-56,19812)野村代志子,熊谷和久,田中謙剛ほか:不同視弱視の遮蔽法の治療効果.眼紀39:643-650,19883)KutschkePJ,ScottWE,KeechRV:Anisometropicamblyopia.Ophthalmology98:258-263,19914)LithanderJ,SjostrandJ:Anisometropicandstrabismicamblyopiaintheagegroup2yearsandabove:apro992あたらしい眼科Vol.27,No.7,2010(132)spectivestudyoftheresultsoftreatment.BrJOphthalmol75:111-116,19915)新田順福,藤田聡,三田真理子ほか:岩手医科大学における不同視弱視に対する遮閉治療の検討.眼紀54:205-210,20036)StewartCE,MoseleyMJ,StephensonDAetal:Treatmentdose-responseinamblyopiatherapy:themonitoredocclusiontreatmentofamblyopiastudy.InvestOphthalmolVisSci45:3048-3054,20047)粟屋忍,菅原美幸,堀部福江ほか:新しい不等像視検査表“NewAniseikoninaTests”の開発とその臨床的応用について.日眼会誌86:217-222,19828)増田麗子,勝海修,福嶋紀子ほか:遠視性不同視弱視症例における不等像視の測定.日本視能訓練士協会誌36:37-43,20079)池淵純子:弱視治療における視力の向上と立体視との関係.日本視能訓練士協会誌27:65-72,199910)KatsumiO,TaninoT,HiroseT:Effectofaniseikoniaonbinocularfunction.InvestOphthalmologyVisSci26:601-604,198611)KnappH:Theinfluenceofspectaclesontheopticalconstantsandvisualacutenessoftheeye.ArchOphthalmolOtol1:377,1869***