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複数回の角膜移植片不全例に対するBoston keratoprosthesisと全層角膜移植術の比較

2016年10月31日 月曜日

《原著》あたらしい眼科33(10):1503?1508,2016c複数回の角膜移植片不全例に対するBostonkeratoprosthesisと全層角膜移植術の比較森洋斉*1小野喬*1子島良平*1南慶一郎*1宮田和典*1天野史郎*2*1宮田眼科病院*2井上眼科病院ComparisonofBostonKeratoprosthesisandPenetratingKeratoplastyinEyesafterMultipleCornealGraftFailureYosaiMori1),TakashiOno1),RyoheiNejima1),KeiichiroMinami1),KazunoriMiyata1)andShiroAmano2)1)MiyataEyeHospital,2)InoueEyeHospital目的:複数回の角膜移植片不全例に対する人工角膜BostonkeratoprosthesisTypeI(BostonKPro)と全層角膜移植術(penetratingkeratoplasty:PKP)の臨床成績を比較した.対象および方法:対象は,2回以上の移植片不全の既往がある症例に対して,宮田眼科病院において1998?2015年に,BostonKPro(以下,KPro群)もしくはPKP(以下,PKP群)を行った症例である.診療録よりレトロスペクティブに調査した.人工角膜生着率と角膜透明治癒率を累積グラフト生存率とし,矯正視力,術中・術後合併症,追加治療の有無を両群で比較した.結果:KPro群は8例9眼,PKP群は12例18眼で,平均観察期間はそれぞれ56.0±21.5カ月,31.8±29.7カ月であった.術後5年の累積グラフト生存率は,KPro群が100%,PKP群が26%,術後7年では80%と19%であり,KPro群が有意に高かった(p<0.01).術後5年の矯正視力0.5以上の割合は,KPro群40.0%,PKP群5.9%で統計学的に差がなかったが(p=0.12),0.1以上の割合は,それぞれ80.0%,17.6%とKPro群が有意に良好であった(p=0.03).術後合併症の頻度は,両群間で差がなかった.結論:複数回の角膜移植片不全に対するBostonKProは,PKPと比較して,高い生存率と良好な視力の維持が期待できることが示唆された.Purpose:Tocomparetheoutcomesofrepeatpenetratingkeratoplasty(PKP)andBostontypeIkeratoprosthesis(BostonKPro)implantationineyesaftermultiplecornealgraftfailure.Methods:PatientswithmultiplegraftfailurewhounderwenteitherPKPorBostonKProatMiyataEyeHospitalduring1998and2015wereincluded.Graftsurvivalrate,best-correctedvisualacuity(BCVA)andcomplicationswereretrospectivelycomparedbetweenthetwogroups.Results:9eyesof8patientsunderwentBostonKProand18eyesof12patientsunderwentPKP.Meanfollow-upperiodinBostonKProandPKPwas56.0±21.5monthsand31.8±29.7months,respectively.CumulativegraftsurvivalratesinBostonKProandPKPwere100%and26%at5years(p<0.01)and80%and19%at7years,respectively.At5yearsaftersurgery,80.0%ofBostonKProand17.6%ofPKPattainedBCVAof20/200orbetter(p=0.03).Postoperativecomplicationratesweresimilarbetweenthetwogroups.Conclusion:BostonKProlikelyprovidesahigherrateofgraftsurvivalandbettervisualimprovementthanPKPineyesaftermultiplecornealgraftfailure.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(10):1503?1508,2016〕Keywords:人工角膜,全層角膜移植術,移植片不全,Bostonkeratoprosthesis.keratoprosthesis,penetratingkeratoplasty,graftfailure,Bostonkeratoproshesis.はじめに全層角膜移植術(penetratingkeratoplasty:PKP)は,角膜混濁や水疱性角膜症に対する治療法として有効であるが,複数回の移植片不全例などでは予後不良であることが報告されている1?4).これらPKPのハイリスク症例に対する治療法として,人工角膜が臨床使用されてきた.以前は,数多くの重篤な合併症のために普及には至らなかったが,素材やデザイン,術式の改良が行われ,近年では良好な術後成績が報告されている5?8).なかでもMassachusettsEyeandEarInfirmary(MEEI)のDohlmanらによって開発されたBostonKeratoprosthesisTypeI9)(以下,BostonKPro)(図1)は,もっとも普及している人工角膜であり,2015年現在までに全世界で11,000例以上行われ,良好な視機能と長期の安定性が得られることが報告されている10?14).これまでに移植片不全に対するBostonKProとPKPを直接比較した報告はほとんどない15,16).そこで今回,複数回の移植片不全に対するBostonKProとPKPの術後長期成績を比較したので報告する.I対象および方法本研究は,宮田眼科病院において倫理審査委員会で承認を取得したうえで実施した.対象は,2回以上の移植片不全の既往がある症例のうち,1998年1月?2015年3月に宮田眼科病院でBostonKProを行った8例9眼(以下,KPro群)とPKPを行った12例18眼(以下,PKP群)である.なお,保存角膜による治療的なPKPを行った症例は除外した.BostonKProは,MEEIの推奨する基準(表1)を参考にして適応を判断し,患者に十分な説明のうえ,同意を取得した後,手術を行った.手術は,球後麻酔または全身麻酔下で行った.ドナー角膜は,両群ともに宮崎県アイバンクもしくはRockyMountainLionsEyeBankから提供されたものを使用した.BostonKProは,中心に3mm径の穴をあけた8.5mmのドナー角膜片をフロントパーツとバックプレートで挟み込み,ロックリングで固定し,移植片とした.次に強膜にフレリンガーリングを装着し,7.5?8mmのバロン式真空トレパンと角膜剪刀で角膜を切除した.その後,作製した移植片を10-0ナイロン糸にて端々縫合で縫着した.最後に,コンタクトレンズを装用して手術を終了した.PKPは,BostonKProと同様に角膜を切除した後,レシピエント角膜径より0.25?0.5mm大きく打ち抜いたドナー角膜片を,10-0ナイロン糸を用いて24針連続縫合した.両術式とも手術終了時にゲンタマイシンとデキサメタゾンの結膜下注射を行った.両術式ともに術後は,セフェム系もしくはニューキノロン系抗菌薬を3日間,プレドニゾロン(30mgより漸減)を内服とした.術後点眼は0.1%リン酸ベタメタゾンナトリウム点眼および0.5%レボフロキサシン点眼を4回/日とし,BostonKProは0.5%バンコマイシン点眼4回/日を併用して,最終的に1回/日は抗菌薬点眼を継続した.0.1%リン酸ベタメタゾンナトリウム点眼に関しては,経過に応じて点眼回数を漸減し,PKPは0.1%フルオロメトロン点眼2回/日を継続,BostonKProは中止とした.また,BostonKPro後は,ソフトコンタクトレンズを終日連続装用とし,週1回交換とした.検討項目は,人工角膜生着率と角膜透明治癒率(以下,両者をグラフト生存率と定義),矯正視力,術中・術後合併症の有無,追加治療の有無とし,診療録よりレトロスペクティブに調査して,両群で比較した.人工角膜生着の定義は,人工角膜の脱落および再移植を認めないものとした.透明治癒の定義は,移植片の透光部が透明で,不可逆性と考えられる角膜実質浮腫,拒絶反応や移植片への感染が細隙灯顕微鏡で認められなかったものとした.矯正視力は,術後1年および5年において合併症や追加治療の有無にかかわらず,経過観察可能であった症例で,小数視力0.5以上,0.1以上の割合を算出した.KPro群の眼圧は触診で判定した.拒絶反応の判定は,移植片の透明期を経た後に,とくに誘引のない移植片の浮腫や混濁,角膜後面沈着物,拒絶反応線,前房内細胞および充血の有無によって行い,ステロイド治療に対する反応性を参考にした.得られたデータは,平均値±標準偏差で表記した.統計学的解析は,術前背景,矯正視力,術後合併症の比較には,Mann-WhitneyUtestおよびFisher’sexacttest,術前後の視力の比較にはWilcoxonsigned-ranktestを使用した.また,グラフト生存率にはKaplan-Meiermethodを使用し,Log-ranktestを用いて比較した.統計解析の有意水準は5%とした.II結果1.症例の背景PKP群のうち,2眼は水晶体?外摘出術と眼内レンズ(intraocularlens:IOL)挿入術,1眼はIOL摘出術,1眼はIOL縫着術をPKPに併用した.両群の術前背景を表2に示す.手術時の年齢,性別,術後観察期間,PKPの既往回数は,両群で差がなかった.初回のPKPの原疾患は,両群ともに水疱性角膜症が最多であった.術前の眼合併症として,KPro群は,5眼に緑内障,2眼に真菌性角膜炎を認め,PKP群は,6眼に緑内障,1眼に真菌性角膜炎,1眼に兎眼(ハンセン病後)を認めた.2.グラフト生存率両群の累積グラフト生存率を図2に示す.術後5年における累積グラフト生存率は,KPro群が100%,PKP群が26%,術後7年ではそれぞれ80%と19%であり,累積グラフト生存率はKPro群が有意に高かった(p<0.01,Kaplan-Meiermethod,Log-ranktest).経過観察中に移植片不全となった症例は,KPro群で1眼,PKP群で15眼であった.移植片不全の原因は,KPro群では,真菌性角膜炎が1眼,PKP群では,拒絶反応が9眼,兎眼による角膜混濁が1眼,原因不明の内皮機能不全が5眼であった.3.矯正視力術前矯正視力は,KPro群がlogMAR2.07±0.38(小数視力,手動弁?0.02),PKP群がlogMAR2.06±0.52(小数視力,手動弁?0.09)であり,両群間に差はなかった.術後1カ月の矯正視力は,KPro群がlogMAR0.75±0.80(小数視力,指数弁?1.0),PKP群が?logMAR0.89±0.80(小数視力,手動弁?1.0)であり,両群ともに術前と比べて有意に改善した(それぞれp<0.01)が,両群間では差がなかった(p=0.47).術後1年における矯正視力0.5以上,0.1以上の割合は,ともにKPro群のほうが良好な傾向にあったが,両群間に統計学的に差はなかった(それぞれp=0.16,p=0.09)(表3).術後5年における矯正視力0.5以上の割合は,両群間に統計学的に差はなかった(p=0.12)が,0.1以上の割合は,KPro群が有意に良好であった(p=0.03)(表3).4.術中・術後合併症両群ともに駆逐性出血や硝子体脱出など明らかな術中合併症は認めなかった.代表的な術後合併症の詳細を表4に示す.後面増殖膜は,バックプレートの穴に増殖膜を認めたのがKPro群で8眼あり,1眼のみ光学部後面にも認めた.感染性角膜炎については,KPro群では3眼で真菌性角膜炎が疑われ,PKP群では2眼が真菌性角膜炎,1眼は細菌と真菌の混合感染による角膜炎が疑われた.その他の術後合併症は,KPro群で?胞様黄斑浮腫2眼,硝子体混濁1眼,網膜?離1眼,黄斑前膜1眼,PKP群で外傷による移植片離開1眼,帯状角膜変性1眼を認めた.5.追加治療KPro群の光学部後面に増殖膜を認めた1眼のみ硝子体カッターで切除し,その後は再発を認めなかった.感染性角膜炎については,KPro群の3眼中1眼は,角膜融解をきたしたため,治療的PKPを行った.摘出した角膜移植片よりpolymerasechainreactionにてAspergillusが検出された.他の2眼は角膜病巣部の擦過物の鏡検・培養検査は陰性であったが,抗真菌薬の全身および局所投与の追加により改善したことから,真菌性角膜炎が疑われた.PKP群は,角膜擦過物の鏡検で糸状菌1眼,酵母様真菌1眼,グラム陽性球菌1眼を認め,酵母様真菌を認めた症例は,培養検査でCandidapalapsilosisを分離した.糸状菌の1眼は治療的PKPを行い,他の2眼は抗菌薬の局所投与に加えて,抗真菌薬の全身および局所投与にて瘢痕治癒した.KPro群において,触診にて高眼圧を認めた2眼でチューブシャント手術を行った.その後,1眼は視野欠損の進行は認めなかったが,1眼は進行を認めた.PKP群では,線維柱体切除術を1眼,毛様体光凝固術を1眼で行い,いずれも眼圧は下降したが,追加治療後数カ月で移植片不全に至った.KPro群の?胞様黄斑浮腫は,2眼ともに非ステロイド性抗炎症薬点眼の追加にて軽快し,硝子体混濁は,硝子体手術により改善した.PKP群の移植片離開に対しては,追加縫合を行った.III考察本研究で,複数回の移植片不全例に対する5年グラフト生存率は,BostonKProが100%,PKPが26%であり,BostonKProが有意に良好であった.これまでに,移植片不全例を対象としたBostonKProとPKPの術後長期成績を直接比較した報告はほとんどなく,Akpekら16)が術後2年の生存率において,BostonKProのほうがPKPに比べて良好であったことを報告しているのみである.Ahmadら17)は,過去の文献でMeta-analysisを行い,移植片不全例を対象としたBostonKProとPKPの術後長期成績を比較している.その結果,5年グラフト生存率は,BostonKProが75%,PKPが47%であり,BostonKProのほうが良好な結果であったとしている.PKPの再手術が予後不良因子である理由は,拒絶反応を発症しやすいためと考えられており2),本研究においてもPKP群の半数に拒絶反応を認め,移植片不全となった.また,PKPは既往回数が増えるほど,移植片不全となるリスクが増加することも報告されている18).一方,BostonKProは拒絶反応を生じても,光学部の透明性は保たれるため,視機能への影響がほとんどなく,移植片不全とはならない.また,現在のBostonKProは,ソフトコンタクトレンズの連続装用による眼表面の涙液保持19),バックプレートの穴からの角膜移植片へ前房水の供給20)など,デザインや術後管理の改善により,BostonKProの脱落,周辺組織の融解の頻度は稀となっている11,12,17).以上より,複数回の移植片不全例に対しては,適応基準を満たしているのであれば,BostonKProを選択するほうが再度PKPを行うより,長期予後が期待できると考えられる.今回,術後5年における矯正視力は,BostonKProがPKPと比較して良好であった.Meta-analysisの結果17)では,術後2年における矯正視力0.5以上の割合は,BostonKPro19.6%,PKP16%,矯正視力0.1以上の割合は,BostonKPro57.1%,PKP42%と報告されており,BostonKProのほうが長期にわたり良好な視力が得られることを示唆している.BostonKproはPKPに比べて,高いグラフト生存率だけでなく,光学的に乱視が少ないことが,良好な視力維持に寄与していると考えられる.これまでの報告を解析したAmericanAcademyofOphthalmologyによるレポート11)によると,BostonKPro後の平均観察期間20±10カ月で,矯正視力0.1以上の割合は45?89%,0.4以上が43?69%であると報告している.また,Srikumaranら12)は術後7年ともっとも長期経過を報告しており,矯正視力0.1以上の割合が50%と,長期的にも安定した視機能が維持できるこが確認されている.今回,BostonKProの術後合併症でもっとも頻度の高かったのは,バックプレートの穴およびフロントパーツ後面の増殖膜で9眼中8眼に認めた.これまでの報告でも,1?65%で発症するとされており11),もっとも頻度の高い術後合併症とされているが,視機能に影響する場合はNd:YAGレーザーや硝子体カッターで切除することが可能であるため,大きな問題とはならない8,21,22).本検討でも光学部後面に認めた増殖膜のみ切除し,視力は回復した.感染性角膜炎の発症頻度に関しては,BostonKProとPKPで差はなかった.BostonKPro後の感染性角膜炎の発症頻度は0?17.8%と報告されており11,23),さらに移植片不全例に対するBostonKPro後の発症頻度は,術後5年で2.9%程度である17).しかしながら,抗菌薬の永続点眼による耐性菌の出現やソフトコンタクトレンズの連続装用により真菌感染のリスクが上昇していることが危惧されている24).本検討におけるBostonKPro群で感染性角膜炎が疑われた3眼全例で,起因菌は真菌が疑われた.現在のMEEIが推奨する術後抗菌点眼薬のレジメには,抗真菌薬の継続使用については記されておらず,予防のためにはアンホテリシンBを2?3カ月に1週間程度内服したほうが望ましいとしている.今後,真菌感染予防に関する術後管理の確立が望まれる.術後の視野欠損の進行に関しては,BostonKProとPKPで差がなかった.両術式ともに術後は高頻度で緑内障となることが知られている.その理由として,複数回の移植を行うことによる隅角癒着の進行や,長期のステロイド点眼薬の使用などが考えられている25?27).BostonKPro症例の36?76%28?31)で術前から緑内障を合併しており,術後の高眼圧は15?40%に生じる29,31)と報告されている.本検討でも,9眼中5眼に術前から緑内障を認め,そのうち2眼でBostonKPro後にチューブシャント手術を要した.しかし,BostonKPro後は,触診のみで眼圧を評価しなければならないため,眼圧の評価が困難であり,緑内障手術の適応判断が遅れる可能性がある.Crnejら32)は,BostonKProの術前もしくは同時にチューブシャント手術をするほうが,術後に手術を行うよりも高い生存率が得られることを報告しており,術前から緑内障を認める症例では積極的に考慮したほうがよいかもしれない.本研究は,症例数が限られており,両群間で視機能や術後合併症の頻度に差が出なかった可能性がある.しかし,現在の人工角膜移植術の位置づけは,PKPのハイリスク症例に対する方法であり,その特性上単一施設で症例数を増やすことは困難である.今後,多施設共同研究などにより,わが国における人工角膜移植術の背景や術後成績を検討することが期待される.また,近年ではPKP後の移植片不全に対して,角膜内皮移植術の選択肢もあり33,34),PKPの再手術と比較して,良好な視機能とグラフト生存率が得られることが報告されている35).さらなる検討が必要であると考えられる.以上より,複数回の角膜移植片不全に対するBostonKProは,真菌感染や緑内障などの術後合併症に注意を要するが,PKPと比較すると,高いグラフト生存率と良好な視力維持が期待できることが示唆された.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)InoueK,AmanoS,OshikaTetal:A10-yearreviewofpenetratingkeratoplasty.JpnJOphthalmol44:139-145,20002)ThompsonRWJr,PriceMO,BowersPJetal:Long-termgraftsurvivalafterpenetratingkeratoplasty.Ophthalmology110:1396-1402,20033)Yalniz-AkkayaZ,BurcuNurozlerA,YildizEetal:Repeatpenetratingkeratoplasty:indicationsandprognosis,1995-2005.EurJOphthalmol19:362-368,20094)PatelHY,OrmondeS,BrookesNHetal:TheNewZealandNationalEyeBank:survivalandvisualoutcome1yearafterpenetratingkeratoplasty.Cornea30:760-764,20115)FukudaM,HamadaS,LiuCetal:Osteo-odonto-keratoprosthesisinJapan.Cornea27Suppl1:S56-61,20086)NgakengV,HauckMJ,PriceMOetal:AlphaCorkeratoprosthesis:anovelapproachtominimizetherisksoflong-termpostoperativecomplications.Cornea27:905-910,20087)AlioJL,AbdelghanyAA,Abu-MustafaSKetal:Anewepidescemetickeratoprosthesis:pilotinvestigationandproofofconceptofanewalternativesolutionforcornealblindness.BrJOphthalmol99:1483-1487,20158)ZerbeBL,BelinMW,CiolinoJBetal:ResultsfromthemulticenterBostonType1KeratoprosthesisStudy.Ophthalmology113:779e1-e7,20069)DohlmanCH,SchneiderHA,DoaneMG:Prosthokeratoplasty.AmJOphthalmol77:694-670,197410)RudniskyCJ,BelinMW,GuoRetal:VisualacuityoutcomesoftheBostonKeratoprosthesisType1:MulticenterStudyResults.AmJOphthalmol162:89-98,e1,201611)LeeWB,ShteinRM,KaufmanSCetal:Bostonkeratoprosthesis:Outcomesandcomplications:AreportbytheAmericanAcademyofOphthalmology.Op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複数回の角膜移植片不全に対してBoston Keratoprosthesis移植術を行い1年以上経過観察できた3症例

2011年8月31日 水曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(131)1191《原著》あたらしい眼科28(8):1191?1196,2011cはじめに全層角膜移植術(penetratingkeratoplasty:PKP)は,水疱性角膜症や角膜白斑などの疾患に対して有効な治療法であるが,症例によっては,拒絶反応,感染などの合併症により角膜移植片不全となり,再移植が必要となることも少なくない.しかし,複数回の移植片不全の既往がある症例は,拒絶反応のリスクが高く,強力な免疫抑制を必要とするものの,その予後は不良であることが多い1).そのような複数回の角膜移植片不全をきたした症例に対する治療の一つとして,人工角膜が臨床使用されてきた.わが国でもおもに1960年代~1970年代に人工角膜移植が行われたが,短期間で人工角膜の脱落などの重篤な合併症を起こすことが多く,普及しなかった.最も症例数が多い報告で,早野の10例報告があり,半数の症例が2年以内に脱落している2).また,杉田らは3例中1例が1年以内に光学部前面の結膜増殖を認めたと報告している3).〔別刷請求先〕森洋斉:〒885-0051都城市蔵原町6-3宮田眼科病院Reprintrequests:YosaiMori,M.D.,MiyataEyeHospital,6-3Kurahara-cho,Miyakonojo,Miyazaki885-0051,JAPAN複数回の角膜移植片不全に対してBostonKeratoprosthesis移植術を行い1年以上経過観察できた3症例森洋斉子島良平南慶一郎宮田和典宮田眼科病院ThreeCasesofBostonKeratoprosthesisImplantationforRepeatedGraftFailureObservedforMoreThanOneYearYosaiMori,RyoheiNejima,KeiichiroMinamiandKazunoriMiyataMiyataEyeHospital目的:複数回の角膜移植片不全の既往がある症例に対してBostonkeratoprosthesis(BostonKPro)移植術を行い,1年以上経過観察ができた3例を経験したので報告する.症例:症例1は72歳,女性,症例2は69歳,男性,症例3は87歳,女性である.全例複数回の全層角膜移植術(PKP)の既往があり,術前矯正視力はそれぞれ10cm指数弁,0.02,0.02であった.さらなるPKPでは予後不良と考えられ,BostonKPro移植術の適応と判断し,手術を行った.術後矯正視力は,症例1が術後28カ月で10cm指数弁,症例2が術後25カ月で1.0,症例3が術後18カ月で0.6であった.症例1は,移植後の眼圧上昇のために緑内障シャント手術を行った.観察期間においては,人工角膜の脱落,ドナー角膜片の融解,重篤な感染症などの合併症,さらに視野欠損の進行は,全例で認めていない.結論:BostonKProは,複数回の角膜移植片不全をきたした症例の視機能回復に対して,有効な治療法の一つであると考えられる.ThreecasesunderwentBostonkeratoprosthesis(BostonKPro)implantationforrepeatedgraftfailure.Thefirstcasewasa72-year-oldfemale,thesecondwasa69-year-oldmaleandthethirdwasan87-year-oldfemale.Allunderwentmultiplepenetratingkeratoplastywithgraftfailures.Preoperativebest-correctedvisualacuities(BCVA)werecountingfingersat10cm,0.02and0.02,respectively.Sinceaprognosisofadditionalpenetratingkeratoplastyinthesecasescouldnotbeanticipated,BostonKProimplantationwasdecided.PostoperativeBCVAwascountingfingersat10cmat28months,1.0at25monthsand0.6at18months,respectively.Thefirstcaseunderwenttube-shuntimplantationduetopostoperativeintraocularpressureelevation.Therehavebeennoseriouspostoperativecomplications,includingkeratoprosthesisextrusion,donorcorneanecrosis,infection,orprogressivelossofvisualfield.TheBostonKProprovidesvisualrecoveryforpatientswithrepeatedgraftfailures.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(8):1191?1196,2011〕Keywords:人工角膜,角膜移植,移植片不全.keratoprosthesis,penetratingkeratoplasty,graftfailure.1192あたらしい眼科Vol.28,No.8,2011(132)1960年代にハーバード大学MassachusettsEyeandEarInfirmary(以下,MEEI)のDohlmanらによって開発された人工角膜Bostonkeratoprosthesisは,1974年に初めて臨床報告された4).この人工角膜には,眼瞼,涙液機能が良好な患者用のTypeIと重篤な眼表面疾患患者用のTypeIIがあり,TypeIは1992年にFDA(FoodandDrugAdministration)の承認を得ている.BostonTypeIkeratoprosthesis(以下,BostonKPro)は,光学部がPMMA(ポリメチル・メタクリレート)製の人工角膜で,ドナー角膜片(キャリア角膜)に装着して患眼に縫合される.MEEIの推奨では,視力が0.05以下で,PKPで予後不良と予想される症例をBostonKProの良い適応としている.また,除外基準として,末期の緑内障や網膜?離,涙液異常がある症例をあげており,さらに眼類天疱瘡,Stevens-Johnson症候群など自己免疫性疾患がある症例は避けたほうがよいとしている(表1).以前はBostonKProも,他の人工角膜と同様に,人工角膜の脱落と周囲組織の融解5,6),細菌性眼内炎7),人工角膜後面の増殖膜8~10),緑内障11)など数多くの重篤な術後合併症を起こしていた.バックプレートに穴が開いていないモデルを使用していた1990年代は,半数以上で周辺組織の融解を起こしたと報告されている5).また,当時は術後管理も確立しておらず,Nouriらによれば,10%以上の症例で感染性眼内炎を発症したと報告している7).しかし,人工角膜のデザインや素材の改良,術後管理の改善を重ねることで,現在では,適切な術後ケアを行うことにより,長期の安定性も確立してきている8~10,12).これまでに全世界で4,500例以上が臨床使用されているが,わが国での臨床使用の報告はされていない.筆者らは,複数回の角膜移植片不全をきたした症例に対してBostonKPro移植術を行った.基本的にはMEEIの推奨する適応に準じたが,宮田眼科病院(以下,当院)では僚眼の視力低下という項目は除外した.その理由として,患者のqualityofvision向上に両眼の視機能は重要であること,BostonKProの良好な術後成績が報告されており,PKPをくり返すより患者に負担が少ない可能性があることがあげられる.今回BostonKPro移植術を行い,1年以上経過観察できた症例を経験したので報告する.I症例〔症例1〕72歳,女性.主訴:右眼視力低下.現病歴:幼少時に両眼外傷により,左眼は義眼となった.1991年,右眼に緑内障,白内障の同時手術を施行し,その後,無水晶体性水疱性角膜症を発症.2003年に2回PKPを行うも,いずれも1年以内に移植片不全となった.以後,経過観察していたが,2007年2月27日,右眼の加療目的にて当院を紹介受診となった.初診時視力は,右眼10cm指数弁(n.c.)で,眼圧は22mmHgであった.前眼部所見は角膜移植片不全,無水晶体眼を認め,眼底所見は,視神経萎縮と豹紋状眼底を認めた.緑内障による視野進行の程度は,動的視野検査にて湖崎分類でⅣ期であった.晩期緑内障であり,PKPによる視力改善は困難であると考え,外来にて経過観図1各症例のBostonKPro移植術前(左)と移植後(右)全例人工角膜およびキャリア角膜は良好に生着している.症例2,3では半数以上のバックプレートの穴に増殖膜を認めている.a:症例1(移植後28カ月)b:症例2(移植後25カ月)c:症例3(移植後18カ月)表1MEEIが推奨するBostonKProの適応基準(1)0.05以下の視力で,僚眼も視力が低下している(2)複数回の角膜移植片不全の既往が有り,さらなる角膜移植で予後を期待できない(3)末期の緑内障,網膜?離がない(4)自己免疫性疾患(類天疱瘡,Stevens-Johnson症候群,ぶどう膜炎など)がない(5)瞬目が可能で,涙液不全がない(133)あたらしい眼科Vol.28,No.8,20111193察していた.しかし,2007年9月28日受診時,右眼視力は手動弁(n.c.),角膜移植片の混濁も進行し,眼底も透見不能となった(図1a).患者の手術に対する強い希望もあったため,BostonKPro移植術の適応と判断した.手術前所見:〔視力〕右眼手動弁(n.c.).〔眼圧〕右眼19mmHg.〔前眼部所見〕右眼角膜移植片不全,無水晶体眼.〔後眼部所見〕透見不能であったが,超音波B-mode検査にて網膜?離などの疾患はなく,動的視野検査にて湖崎分類でV-b期の緑内障性変化を認めた.BostonKProの使用については,当院倫理委員会で審査,承認を取得し,患者に十分なインフォームド・コンセントをしたうえで,2008年1月8日右眼BostonKPro移植術を行った.なお,術前より0.005%ラタノプロスト点眼1回/日,2%カルテオロール点眼2回/日を使用しており,術後も続行とした.手術方法:BostonKProは,光学部であるフロントパーツ,人工角膜のキャリアとなる角膜移植片,フロントパーツを角膜移植片に固定するためのバックプレートおよびチタン製ロックリングから構成される(図2)13).BostonKProの組み立ては,以下のように行った.まず,8.5mmのドナー角膜片に,専用パンチで中心に3mmの穴を空け,キャリア角膜片を作製した.横径6mm,前後長約3mmのフロントパーツと,8.5mm径,0.6~0.8mm厚のバックプレートでキャリア角膜片を挟み込み,ロックリングで人工角膜を固定した(図3a~c)14).手術は全身麻酔下で,通常のPKPと同様に,フレリンガー(Fliering)リングを装着し,8mmのバロン式真空トレパンおよび角膜尖刀で角膜を切除した後,作製した移植片を10-0ナイロン糸にて端々縫合で縫着した.前房洗浄を行い,創口からの漏出がないことを確認して,ステロイドの結膜下注射を行い,コンタクトレンズを装用して手術を終了した(図3d).経過:術後は,通常のPKPと同様にレボフロキサシン(250mg)内服3日間とプレドニゾロン内服(30mgより漸減)に加えて,0.1%リン酸ベタメタゾンナトリウム点眼4回/日,0.5%レボフロキサシン点眼4回/日に0.5%バンコマイシン点眼4回/日を併用した.また,コンタクトレンズの24時間連続装用とし,週1回交換した.移植後1週,人工角膜およびキャリア角膜の生着は良好で,視力は20cm指数弁(n.c.),眼圧は触診法でやや高い状態であった.その後も眼圧高値が続いたため,移植後2カ月で緑内障シャント手術(Seton手術)を行った.その後,眼圧は落ち着き,移植後28カ月現在,視力10cm指数弁(n.c.)で,視野も進行を認めず,経過良好である(図1a).〔症例2〕69歳,男性.主訴:左眼視力低下.現病歴:1990年,他院で両眼白内障手術を行い,その後左眼に水疱性角膜症を発症した.PKPを2回行ったが移植片不全となり,セカンドオピニオン目的で2005年6月20日当院を受診した.初診時視力は右眼0.3(1.5×?1.0D(cyl?1.0DAx110°),左眼10cm指数弁(n.c.).左眼に角膜移植片不全を認め,眼底は透見不能であったが,超音波Bmode検査,動的視野検査にて特記すべき異常を認めなかった.PKPの適応と判断し,2006年4月25日左眼PKP施行.図2BostonKProの構成フロントパーツ,ドナー角膜移植片,バックプレートおよびチタン製ロックリングの4つのパーツから構成される.(文献13より)ドナー角膜片フロントパーツバックプレートロックリング図3BostonKProの組み立てと手術トレパンで角膜移植片を打ち抜いた後,直径3mmの専用パンチで中心に穴を空ける(a,b).そして,フロントパーツに打ち抜いた角膜移植片とバックプレートをはめ込み,ロックリングで挟み込んで組み立てる(c).全層角膜移植術と同様に,組み立てた人工角膜移植片を10-0ナイロン糸にて端々縫合で縫着する(d).(文献14より)acbd1194あたらしい眼科Vol.28,No.8,2011(134)術後最高矯正視力(1.0)まで得られたが,拒絶反応をくり返し,角膜移植片不全となり,2007年5月21日時点で視力0.02(n.c.)であった(図1b).右眼の視力は良好であったが,左眼はさらなるPKPでは予後不良と考られため,患者に十分なインフォームド・コンセントをしたうえでBostonKPro移植術の適応と判断した.手術前所見:〔視力〕右眼0.5(1.5×?0.5D(cyl?1.0DAx110°),左眼0.02(n.c.).〔眼圧〕右眼19mmHg,左眼17mmHg.〔前眼部所見〕左眼は角膜移植片不全,両眼ともに眼内レンズ挿入眼.〔後眼部所見〕右眼は特記すべき異常なし.左眼は透見不能であったが,超音波B-mode検査にて網膜?離などの疾患はなく,動的視野検査にて中心暗点や緑内障性視野変化はみられなかった.経過:2008年3月10日に左眼BostonKPro移植術を行った.手術は全身麻酔下で合併症なく終了した.術後管理は症例1と同様に行った.移植後2週で,左眼視力1.0(n.c.)であり,眼圧は触診法で左右差を認めなかった(右眼眼圧12mmHg).人工角膜およびキャリア角膜の生着も良好で,中間透光体,眼底に特記すべき異常を認めなかった.移植後1カ月より,バックプレートの穴に増殖膜が出現し,移植後6カ月で半数以上の穴に認めたが,光学系に影響しないため経過観察とした(図1b,4).移植後25カ月現在,光学部後面にも軽度の増殖膜を認めているが,左眼視力0.6(1.0×?2.25D)が維持されており,ドナー角膜片の融解,緑内障,重篤な感染症などの合併症は認めず,経過観察中である.〔症例3〕87歳,女性.主訴:右眼視力低下.現病歴:1985年に他院で両眼レーザー虹彩切開術の既往があり,右眼の視力低下を主訴に1994年8月1日当院初診となった.初診時視力は右眼10cm指数弁(n.c.),左眼0.3(0.5×?0.5D(cyl?1.0DAx70°),右眼に水疱性角膜症を認めた.外来で経過観察していたが,その2年後に左眼も水疱性角膜症を発症した.左眼に対しては1998年にPKP+白内障手術を行った.術後に眼圧コントロール不良になり,2000年に線維柱帯切除術を行ったが,視野の進行を認め,晩期緑内障となった.右眼に対しては2004年にPKP+白内障手術,2007年にPKPを行ったが,いずれも拒絶反応をくり返し,角膜移植片不全となった(図1c).両眼ともにPKPでは予後不良であり,左眼は晩期緑内障であることから,右眼をBostonKPro移植術の適応と判断した.手術前所見:〔視力〕右眼0.02(n.c.),左眼手動弁(n.c.).〔眼圧〕右眼18mmHg,左眼22mmHg.〔前眼部所見〕両眼ともに角膜移植片不全,眼内レンズ挿入眼.〔後眼部所見〕両眼ともに透見不能であったが,超音波B-mode検査にて網膜?離などの疾患はなかった.動的視野検査では左眼に湖崎分類でIV期程度の緑内障性変化を認めたが,右眼は中心暗点や緑内障性視野変化はみられなかった.経過:患者に十分なインフォームド・コンセントをしたうえで,2009年1月6日右眼BostonKPro移植術を行った.手術は全身麻酔下で合併症なく終了した.角膜径が10.0mmで小さかったため,7.0mm径のバックプレートを使用した.術後管理は症例1と同様に行った.移植後2週で,右眼視力0.4(0.7×+2.5D(cyl+1.0DAx90°)であり,眼圧は触診法で左右差を認めなかった(左眼眼圧17mmHg).人工角膜およびキャリア角膜の生着も良好で,中間透光体,眼底に特記すべき異常を認めなかった.移植後2カ月より,バックプレートの穴に増殖膜を認めたが,光学系に影響しないため経過観察とした.移植後6カ月,結膜充血と眼脂を認めたため,結膜?培養を行った.ニューキノロン耐性の表皮ブドウ球菌が検出されたため,耐性菌による細菌性結膜炎と診断し,感受性のある0.5%ミノサイクリン点眼に変更した.変更後は,徐々に結膜充血,眼脂は軽減した.移植後18カ月現在,左眼視力0.6(n.c.)が維持されており,ドナー角膜片の融解,緑内障,重篤な感染症などの合併症は認めず,経過観察中である(図1c).II考按今回の症例は,全例人工角膜の生着が良好であり,周囲組織の融解,重篤な感染症なども認めず,1年以上経過良好であった.ソフトコンタクトレンズの連続装用やバックプレートの穴を開けることで,涙液,前房水からの角膜移植片への栄養補給が可能となり,人工角膜の脱落や周囲組織の融解は,非常にまれな合併症となっている5,15).17施設におけるMulticenterBostonType1KeratoprosthesisStudyによれ図4BostonKPro移植後12カ月の前眼部OCT画像前眼部OCTでバックプレートの穴に均一な高輝度像を認める(矢印).(135)あたらしい眼科Vol.28,No.8,20111195ば,141眼に対してBostonKPro移植術を行い,平均観察期間8.5カ月で,全体の57%が術後視力0.1以上得られており(術前視力は96%が0.1以下),95%で人工角膜の生着が維持されていると報告している8).Bradlyらは,30眼に対してBostonKPro移植術を行い,平均観察期間19カ月で,全体の77%が術後視力0.1以上得られており(術前視力は83%が0.1以下),83.3%で人工角膜の生着が維持されていると報告している12).光学部後面の増殖膜は,BostonKPro術後の合併症のなかで最も頻度が高く,AldaveらはBostonKPro移植眼全体の44%に認めたと報告している10).しかし,対処法が確立しており,新生血管がない場合はYAGレーザーで切除,新生血管が進入した場合は,硝子体カッターで切除が可能である8,16).今回,全例でバックプレートの穴に増殖膜を認め,うち1例は光学部後面にも認めていた.現在のところ,視機能に影響していないため,経過観察としている.今回の症例では,現在のところ感染性眼内炎の発症は認めていない.Nouriらの報告では,細菌性眼内炎の危険因子に術前の原疾患をあげており,眼類天疱瘡,Stevens-Johnson症候群,角膜化学熱傷後などの症例でなければ,細菌性眼内炎の発症はまれであるとしている7).Durandらは,キノロン系点眼とバンコマイシン点眼の投与下で,細菌性眼内炎の発症を認めていないと報告している17).しかし,広域スペクトルの抗生物質を予防的に継続点眼することにより,耐性菌の出現を促す可能性が危惧される.実際に症例3で,結膜炎を発症し,薬剤耐性菌の検出を認めた.現在のところ,バンコマイシン耐性菌による眼内炎の報告はされていないが,BostonKPro移植眼における耐性菌の検出について,術前後で結膜培養を行い,prospectiveに調査することが必要であると考えられる.さらに,術後はコンタクトレンズの連続装用が必要になるため,真菌感染のリスクが高くなるとの報告もある18).ゆえに,コンタクトレンズの交換や洗浄を徹底し,定期観察することで感染予防に努めることが重要である.現在,最も注意を要する術後合併症は,緑内障と報告されている11).今回,晩期緑内障であった症例1でSeton手術を行い,その後は視野進行を認めていない.BostonKPro移植後は,眼圧測定が困難となるため,眼底検査,視野検査を定期的に行い,進行があれば治療を開始する.通常の抗緑内障点眼が有効であるが,手術が必要な場合は,緑内障シャント(Ahmedバルブシャントなど)を用いたSeton手術を行う8,11).今回の症例1でも,Seton手術により良好な眼圧コントロールが維持されていると考えられた.Banittらの報告では,眼圧コントロールが不良な症例や進行性の緑内障症例に対して,BostonKPro移植術の3~6カ月前にSeton手術もしくは毛様体光凝固術を行うことが推奨されており19),今後,症例1のような晩期緑内障症例では検討してもよいと考えられる.また,症例3のようなレーザー虹彩切開術後の浅前房症例では,続発緑内障のリスクがあるため慎重に行う必要がある.そのような症例では小児用のサイズ(7.0mm)のバックプレートを選択するとよいと考えられる.人工角膜BostonKProは,術後コンタクトレンズの管理や抗生物質の継続使用,眼圧測定が困難になるなどの注意点があるものの,煩雑な手術手技を必要とせず,通常の角膜移植の経験があれば手術可能であり,適切な術後ケアを行うことにより,長期の安定性が期待できる.BostonKProは,複数回の角膜移植片不全をきたした患者の視力改善に対して,非常に有効な治療法の一つであると考えられる.文献1)原田大輔,宮田和典,西田輝夫ほか:全層角膜移植後の原疾患別術後成績と内皮減少密度減少率の検討.臨眼60:205-209,20062)早野三郎:人工角膜移植の臨床(長期観察).日眼会誌75:1404-1407,19713)杉田潤太郎,杉田慎一郎,杉田雄一郎ほか:人工角膜移植.眼臨80:1375-1378,19864)DohlmanCH,SchneiderHA,DoaneMG:Prosthokeratoplasty.AmJOphthalmol77:694-700,19745)Harissi-DagherM,KhanBF,SchaumbergDAetal:ImportanceofnutritiontocorneagraftswhenusedasacarrieroftheBostonKeratoprosthesis.Cornea26:564-568,20076)YaghoutiF,NouriM,AbadJCetal:Keratoprosthesis:preoperativeprognosticcategories.Cornea20:19-23,20017)NouriM,TeradaH,Al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