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千葉労災病院における糖尿病黄斑浮腫に対する抗VEGF薬硝子体注射12カ月の治療成績

2017年5月31日 水曜日

《原著》あたらしい眼科34(5):744.748,2017c千葉労災病院における糖尿病黄斑浮腫に対する抗VEGF薬硝子体注射12カ月の治療成績高綱陽子*1岡田恭子*1大岩晶子*1山本修一*2*1千葉労災病院眼科*2千葉大学大学院医学研究院眼科学IntravitrealInjectionofAnti-VEGFDrugforDiabeticMacularEdemaYokoTakatsuna1),KyokoOkada1),ShokoOiwa1)andShuichiYamamoto2)1)DepartmentofOphthalmology,ChibaRosaiHospital,2)DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,ChibaUniversityGraduateSchoolofMedicine目的:糖尿病黄斑浮腫(diabeticmacularedema:DME)に対する抗VEGF薬硝子体注射12カ月の治療成績を検討する.対象および方法:千葉労災病院において2014年3.8月にDMEと診断され,抗VEGF薬硝子体注射後12カ月以上経過観察できた症例の視力(logMAR換算)と中心窩網膜厚(centralretinalthickness:CRT)について,治療前,治療1,2,3,6,9,12カ月後に検討した.3カ月以上前のステロイドTenon.下注射,毛細血管瘤への直接凝固などのDMEに対する先行治療は含まれる.結果:17人18眼.平均年齢64.8歳.平均HbA1C6.8%.3カ月までに使用した抗VEGF薬はすべてラニブズマブであり,3カ月間のラニビズマブ注射回数は平均1.7回で,その後の12カ月まででは,アフリルベセプトも含まれるが,抗VEGF薬総注射回数は2.4回.期間中,抗VEGF薬以外の追加治療は,ステロイドTenon.下注射2眼,閾値下凝固3眼,局所レーザー5眼.治療前の視力(logMAR換算)は0.524で,治療1,2,6,9カ月後で,それぞれ0.428,0.425,0.386,0.381となり,有意に改善した(1,2,6カ月後ではp<0.05,9カ月後ではp<0.01).3,12カ月後では有意差はなかった(3M:0.422,12M:0.424).CRTは,治療前540.8μmで,治療1,2,3,9,12カ月後ではそれぞれ407.4,398.9,415.2,391.7,386.2μmとなり,有意に改善した(1,2,12カ月後ではp<0.01,3,9カ月後ではp<0.05).6カ月後では有意差はなかった(6M:415.5μm).結論:当院でのDMEに対する抗VEGF薬硝子体注射12カ月の治療成績は,総注射回数2.4回で,治療効果は12カ月にわたり維持できていた.Purpose:Toevaluatethee.cacyofintravitrealinjectionofanti-VEGFdrugfordiabeticmacularedema(DME)overaperiodof12months.Methods:FromMarch2014toAugust2014,18eyesof12patientswithDMEwhoreceived0.5mganti-VEGFdrug(ranibizumab)werefollowedupfor12months.Best-correctedvisualacuity(BCVA)andopticalcoherencetomography-determinedcentralretinalthickness(CRT)wereevaluatedbeforeandat1,3,6,9and12months(M)afterthe.rstinjection.Results:Injectionincidenceaveraged1.7dur-ingthe.rstthreemonthsand2.4duringthe12months.BaselineBCVAandCRTwere0.52and544.8μm,respectively.Atmonths1,2,6and9,BCVAshowedsigni.cantdi.erence(1M:0.428,2M:0.425,6M:0.386,9M:0.381),thoughmonths3and12didnotshowsigni.cantdi.erence(3M:0.422,12M:0.424μm).Atmonths1,2,3,9and12,CRTshowedsigni.cantdi.erence(1M:407.4,2M:398.9,3M:415.2,9M:391.7,12M:386.2μm).Atmonth6,CRTdidnotshowsigni.cantdi.erence(6M:415.5μm).Conclusion:Anti-VEGFdrugise.ectiveforDMEduringa12-monthperiod,evenatupto2.4injections.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(5):744.748,2017〕Keywords:糖尿病黄斑浮腫,抗VEGF薬,ラニビズマブ,アフリルベセプト,併用療法,光凝固.diabeticmacu-laredema,anti-VEGFdrugs,ranibizmab,a.ibercept,combinedtherapy,photocoagulation.〔別刷請求先〕高綱陽子:〒290-0003市原市辰巳台東2-16千葉労災病院眼科Reprintrequests:YokoTakatsuna,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,ChibaRosaiHospital,2-16Tatsumidai-higashi,Ichihara,Chiba290-0003,JAPAN744(142)はじめにわが国における糖尿病患者数の動向は厚生労働省国民健康・栄養調査結果によれば,調査が始まった平成9年度の糖尿病が強く疑われる者の数は690万人であったのに対し,平成14年度では740万人,平成19年度では890万人,平成24年度では950万人となっている.また,糖尿病網膜症は,糖尿病罹病期間の延長とともに累積的に増加し,後天性視覚障害の主要な原因となってきた.最近の報告では,若い世代では,高齢者と比較し,重症な増殖網膜症の発症頻度が2倍近く高く,また,年齢別にまた進展と重症化の割合も,65歳以上の高齢者に比べ,40歳未満の若年者においてより高く,若年者では,重症化した網膜症患者が増えていることが示されている1).また,網膜症の重症度が増すにつれ,黄斑浮腫合併の割合も増えるとされており,働く世代における糖尿病黄斑浮腫(diabeticmacularedema:DME)への対策が社会的にも非常に重要になっていると考えられる.これまでにレーザー治療,90年代からは硝子体手術,ステロイド治療などが行われてきたが,さまざまな問題点もあり,黄斑浮腫に対する治療は十分確立されたものとはいえないものであった.このようななかで,筆者らは,マイクロパルスレーザーに取り組んできた2).マイクロパルスレーザーは,レーザー連続照射時間がきわめて短くなることにより,温度上昇が網膜色素上皮に限局し,側方にも広がらない特徴をもつもので,副作用の少ない低侵襲な治療として行ってきたが,12カ月の治療成績では,中心窩網膜厚の改善はできたが,視力は維持のみで,単独治療としては,まだ十分とはいえなかった2).DMEの病態解明が進み,血管内皮増殖因子(vas-cularendotherialgrowthfactor:VEGF)が,DMEの硝子体中では高濃度に存在していることが解明された3).加齢黄斑変性症の治療薬としてすでに認可されていたラニビズマブが,DMEにおいても大規模臨床試験でその有用性が示され4,5),わが国においても,2014年には,ラニブズマブ,ついで,アフリルベセプトと2種類の抗VEGF薬にDMEの適応が拡大された.抗VEGF薬は,これまでのレーザーや,ステロイド治療に比較して,即効性があり,中心窩網膜厚(centralretinalthickness:CRT)の改善のみならず,視力も改善できるなど,これまで以上の大変優れた治療効果が示されたが,年間7,8回以上もの繰り返し投与が必要とされ,頻回の外来受診と高額な薬剤費用が大きな負担になってくると思われる.このような背景のもとで,筆者らは,DMEに対する治療として,抗VEGF薬硝子体注射を行うようになり,1年間の治療成績を診療録より後ろ向きにまとめたので報告する.I対象および方法2014年3.8月に千葉労災病院にて,DMEと診断され,抗VEGF薬硝子体注射を施行された症例で,その後12カ月以上経過観察できた症例の視力(logMAR値),CRTについて,治療前および治療1,2,3,6,9,12カ月後について診療録より後ろ向きに検討した.これらの症例で,DMEに対する治療歴がまったくないものは3眼で,先行治療があるものも多く含まれている.3カ月以上前に施行された,毛細血管瘤(microaneurysm:MA)へのレーザー5眼,汎網膜光凝固4眼,白内障手術施行2眼,2年前にDMEに対して硝子体手術施行の1眼である.3カ月以内に何らかの治療を受けているものはすべて除外した.硝子体手術については6カ月以上の経過が空いていることとした.基本的な治療方針としては,ラニビズマブ硝子体注射(intravitrealinjectionofranibizumab:IVR)を行い,その後は2段階以上の視力の悪化または20%以上のCRTの増悪があった場合には,再燃と考え,IVRを繰り返す方針であるが,患者の同意が得られない場合には,必ずしもその限りではない.6カ月以降での再注射には,新しく発売されたアフリルベセプト使用も含まれる.また,経過中にMAの出現がみられた場合や,造影検査で,無血管野の残存があった場合にはレーザー追加すること,また,硝子体注射を希望しない場合の追加治療として,マイクロパルスレーザーや,ステロイドTenon.下注射もできることをあらかじめ説明した.統計処理は,Wilcoxon順位和検定による.II結果18人19眼が対象で,6カ月までは全例が経過観察できたが,2眼は6カ月経過後に網膜症の活動性が増し,硝子体出血発症などのため硝子体手術適応となり,16人17眼について検討した.平均年齢64.5歳,平均HbA1C6.8%であった.3カ月までの抗VEGF薬は,すべてラニビズマブが用いられ,IVRの3カ月間の回数は平均1.7回で,3カ月以降12カ月までの期間で追加投与した抗VEGF薬には,アフリルベセプトも含まれているが,12カ月間の抗VEGF薬総注射回数は2.4回であった.期間中の抗VEGF薬硝子体注射以外の追加治療は,ステロイドTenon.下注射2眼,閾値下凝固3眼,局所レーザー5眼であった.視力(logMAR換算)は治療前0.524より,1,2,3,6,9,12カ月後でそれぞれ,0.428,0.425,0.422,0.386,0.381,0.424となり,1,2,6,9カ月後で有意に改善した(1,2,6カ月後ではp<0.05,9カ月後ではp<0.01).3,12カ月後では有意差はなかった(図1,表1).CRTは,治療前540.8μmより,1,2,3,6,9,12カ月後では,それぞれ407.4,398.9,415.2,415.5,391.7,386.2μmとなり,1,2,3,9,12カ月後では有意に改善した(1,2,12カ月後ではp<0.01,3,9カ月後では,0.7*p<0.05**p<0.01700*p<0.05,**p<0.010.6600*500*******0.5視力(logMAR)中心窩網膜厚(μm)0.40.34003002001000.20.10Before1M2M3M6M9M12M0Before1M2M3M6M9M12M図1視力(logMAR)の経過図2中心窩網膜厚の経過投与前,1,2,3,6,9,12カ月後の視力.投与前中心窩網膜厚(CRT)は,治療前540.8μmで,1カ月後0.524,1カ月後0.428,2カ月後0.425,3カ月後0.422,407.4,2カ月後398.9,3カ月後415.2,9カ月後391.7,6カ月後0.386,9カ月後0.381,12カ月後0.424とな12カ月後386.2μmとなり,1,2,3,9,12カ月後では,り,術後1,2,6,9カ月では有意に改善した(1,2,6有意に改善した(1,2,12カ月後ではp<0.01,3,9カカ月後ではp<0.05,9カ月後ではp<0.01).月後ではp<0.05).6カ月後では,有意差はなかった.表1視力(logMAR)の経過before1M2M3M6M9M12M視力(logMAR)0.524±0.0740.428±0.0730.425±0.0760.422±0.0890.386±0.0600.381±0.0700.424±0.074p値0.0150.0300.1550.0200.0010.083表2中心窩網膜厚の経過before1M2M3M6M9M12M中心窩網膜厚(mm)540.8±29.9407.4±25.3398.9±30.9415.2±27.7415.5±34.8391.7±23.3386.2±29.8p値0.0040.0020.0110.0550.0120.008p<0.05).6カ月後では有意差はなかった(図2,表2).代表的な症例を2例示す.〔症例1〕60歳,女性.3カ月以上前に,中心窩上方の毛細血管瘤へのレーザー施行歴はあるが,視力(0.6),CRT715μmで,漿液性.離を伴う黄斑浮腫が持続していた.IVRを1カ月ごとに2回行い,視力(0.7),CRT465μmとやや改善したが,3回目の注射は希望されなかったため,初回IVR施行から3カ月後にステロイドTenon.下注射を施行し,さらにその3カ月後に,まだ残存している毛細血管瘤へのレーザー光凝固を施行した.12カ月後の視力(0.5),CRT249μmと改善が認められた.網膜全体の出血斑,白斑も減少している(図3).〔症例2〕58歳,女性.3カ月以上前に,輪状行性白斑内の毛細血管瘤を凝固したが,視力(0.2),CRT653μmと黄斑浮腫が持続していた.IVRを1カ月ごとに3回行い,視力(0.4),CRT295μmと改善がみられた.6カ月後に再燃し,その後4回のアフリルベセプト硝子体内注射を行い,12カ月後の視力(0.5),CRT229μmと改善した.12カ月後の眼底では,抗VEGF薬投与前と比較し,眼底全体の硬性白斑や出血斑が著明に減少している(図4).III考按これまでに,DMEに対するIVRについては,大規模臨床試験4,5)により,その高い臨床効果は示されており,現在のDME治療の第一選択の位置にあることは明らかなものとなっている.しかしながら,大規模臨床試験での総投与回数は1年間で,7,8回以上となっており,繰り返しの注射は,さまざまな新たな問題につながっている.高額な医療費の経済的な負担のほか,頻回の外来通院は,患者側,医療者側にも負担になる.また,繰り返し注射は眼内炎のリスクにつながるものであり,そのような因子を考慮すると,大規模臨床試験の示す頻回の注射回数をそのまま実際の日常診療には適応しにくい.DMEの患者の硝子体中のサイトカインを調べた研究では,DME患者では,非常に高濃度のVEGFが発現しているが,それ以外にも,IL-6ほか,炎症性サイトカインもあり6),ステロイド投与は,理論的にも治療法として有効であると考えられる.また,血管透過性が亢進し,漏出しているMAがあれば,直接的凝固により,浮腫が速やかに改善でき図3症例1(60歳,女性)左:眼底写真.上段:注射前,中段:6カ月後,下段:12カ月後.右:OCT所見.上段より,注射前,1カ月後,2カ月後,3カ月後,6カ月後,12カ月後.3カ月以上前に,中心窩上方の毛細血管瘤へのレーザー施行歴はあるが,視力(0.6),中心窩網膜厚(CRT)715μm,漿液性.離を伴う黄斑浮腫が持続していた(写真上段).ラニビズマブ硝子体注射を1カ月ごとに2回行い,視力(0.7),CRT465μmとやや改善した(右3段目).3カ月後にステロイドTenon.下注射を施行し,さらに,残存する毛細血管瘤へのレーザーを6カ月後に施行した(眼底は左中段,OCTは右5段目).12カ月後では視力(0.5),CRT249μmと改善した(右下段).網膜全体の出血斑,白斑も減少している(左下段).視力の表示は小数視力による.ることは,1985年から推奨されており7),今回の症例においても,経過中に浮腫の原因となっていると思われるMAが新たに出現した場合には,凝固を行った.筆者らは,これまでにDMEに対するマイクロパルスレーザー閾値下凝固に取り組んできたが,色素上皮を刺激することにより,色素上皮のポンプ機能を賦活化し,網膜内浮腫を改善させるのではないかという作用機序を支持してきたが,即効性にはやや欠けるが,12カ月にわたる持続した治療効果を示し2),今回も追加治療として行っている.また,Takamuraらは,1回の抗VEGF薬投与でも,無血管野へのレーザー光凝固の併用により浮腫の再燃を抑制でき,レーザー光凝固が内因性のVEGFを減少させると考察しており8),今回の筆者らの治療図4症例2(58歳,女性)左:眼底写真.上段:注射前,中段:2カ月後,下段:12カ月後.右:OCT所見.上段より,注射前,1カ月後,2カ月後,3カ月後,6カ月後,12カ月後.3カ月以上前に,輪状行性白斑内の毛細血管瘤を凝固したが,視力(0.2),中心窩網膜厚(CRT)653μm,黄斑浮腫が持続していた(眼底左上段,OCT右上段).ラニビズマブ硝子体注射1カ月ごとに3回行い,3カ月後には視力(0.4),CRT295μmと改善した(OCT右4段)が,6カ月後に再燃がったので,さらに4回のアフリルベセプト硝子体内注射を行った.12カ月後の視力(0.5),CRT229μmと改善した(眼底左下段,OCT右下段).12カ月後の眼底(左下段)では,抗VEGF薬投与前と比較し,眼底全体の硬性白斑と出血斑が減少し,病期が改善している.視力の表示は小数視力による.においても,経過中に残存した無血管野が確認できた場合には,光凝固の追加を行うようにした.筆者らは,DMEの病態を考えると,このような異なる作用機序をもつ治療法を併用して対応することが重要ではないかと考えて治療に取り組んできたので,今回の治療成績は,純粋に抗VEGF薬のみの治療効果を検討したものではない.今回の対象でも,事前治療がまったくなかったものは3眼のみであり,残りの14眼はさまざまな事前治療があり,また,10眼についてレーザー,ステロイドなどの追加治療がなされている.したがって,1年間当たり平均2.4回の少ない注射回数にもかかわらず,有意な視力改善とCRTの改善がほぼ1年にわたり維持できたことは,併用療法も重要な役割を果たしたものと考えられる.また,12カ月後の眼底は,全体として,血管透過性亢進が改善し,浸出斑や出血斑が減少し,網膜症としての病期が軽快したと思われる症例も多く経験した.実際に,ラニビズマブ投与3年の治療成績では,病期を改善する効果もあると報告されている9).とくに若年層では,重症網膜症が増えている1)ことを考えると,抗VEGF薬の網膜症の改善効果については,今後もDMEへの治療効果とともに,注目していきたいところである.この論文の6カ月までの経過は,第20回日本糖尿病眼学会総会にて発表した.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)KatoS,TakemoriM,KitanoSetal:Retinopathyinolderpatientswithdiabetesmellitus.DiabetesResClinPract58:187-192,20022)TakatsunaY,YamamotoS,NakamuraYetal:Long-termtherapeutice.cacyofthesubthresholdmicropulsediodelaserphotocoagulationfordiabeticmacularedema.JpnJOphthalmol55:365-369,20113)AielloLP,AveryRL,ArriggPGetal:Vascularendothe-rialgrowthfactorinocular.uidofpatientswithdiabeticretinopathyandotherretinaldisorders.NEnglJMed331:1480-1487,19944)MitchellP,BandelloF,Schmidt-ErfurthUetal;RESTOREStudygroup:TheRESTOREstudy:ranibi-zumabmonotherapyfordiabeticmacularedema.Ophthal-mology118:615-625,20115)BrownDM,NguyenQD,MarcusDMetal;RIDEandRISEResearchgroup:Longtermoutcomesofranibizum-abtherapyfordiabeticmacularedema:the36-monthresultsfromtwophaseIIItrials:RISEandRIDE.Oph-thalmology120:2013-2022,20136)FunatsuH,NomaH,MiuraTetal:Associationofvitre-ousin.ammatoryfactorswithdiabeticmacularedema.Ophthalmology116:73-79,20097)EarlyTreatmentofDiabeticRetinopathyStudyResearchGroup:Photocoagulationfordiabeticmacularedema.ArchOphthalmol103:1796-1806,19858)TakamuraY,TonomatsuT,MatsumuraTetal:Thee.ectofphotocoagulationinischemicareastopreventrecurrenceofdiabeticmacularedemaafterintravitrealbevacizumabinjection.InvestOphthalmolVisSci55:4741-4746,20149)IpMS,DomalpallyA,SunJKetal:Long-terme.ectsoftherapywithranibizumabondiabeticretinopathyseveri-tyandbaselineriskfactorsforworseningretinopathy.Ophthalmology122:367-374,2015***

ラタノプロスト点眼単剤治療とチモロール・ドルゾラミド点眼併用治療の比較

2010年11月30日 火曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPY(117)1599《原著》あたらしい眼科27(11):1599.1602,2010cはじめにエビデンスに基づいた唯一の緑内障治療は眼圧下降であることが大規模臨床試験で確認されており1,2),多くの症例では最初に点眼治療が行われる.点眼治療は,まず単剤を使用し,眼圧下降不十分ならば,他剤に変更するか多剤併用となる.多剤併用とする場合には,選択薬剤の副作用の発現やコンプライアンスの低下に十分に注意を払う必要がある.現在,緑内障治療点眼薬の第一選択は眼圧下降作用の強いプロスタグランジン関連点眼薬(以下,PG薬)か交感神経b遮断薬(以下,b遮断薬)であるが,PG薬が選択されることが多いと思われる.PG薬は眼圧下降作用が強くて全身的副作用が少ないため,高齢者や全身合併症を有する場合は使用しやすいものの,局所的副作用である睫毛成長促進や眼瞼色素沈着など3)美容的な問題のため使用しにくい場合もある.〔別刷請求先〕加畑好章:〒125-8506東京都葛飾区青戸6-41-2東京慈恵会医科大学附属青戸病院眼科Reprintrequests:YoshiakiKabata,M.D.,DepartmentofOphthalmology,TheJikeiUniversitySchoolofMedicine,AotoHospital,6-41-2Aoto,Katsushika-ku,Tokyo125-8506,JAPANラタノプロスト点眼単剤治療とチモロール・ドルゾラミド点眼併用治療の比較加畑好章*1中島未央*1後藤聡*1久米川浩一*1高橋現一郎*1常岡寛*2*1東京慈恵会医科大学附属青戸病院眼科*2東京慈恵会医科大学眼科学講座AComparisonofLatanoprostMonotherapywithTimolol-DorzolamideCombinedTherapyYoshiakiKabata1),MioNakajima1),SatoshiGoto1),KoichiKumegawa1),GenichiroTakahashi1)andHiroshiTsuneoka2)1)DepartmentofOphthalmology,TheJikeiUniversitySchoolofMedicine,AotoHospital,2)DepartmentofOphthalmology,TheJikeiUniversitySchoolofMedicine目的:0.5%チモロール点眼薬(T)を使用して効果不十分な緑内障症例に対して,ラタノプロスト点眼(L)単剤療法への切り替え群(A群):(T→L)と1%ドルゾラミド点眼(D)を追加した併用療法群(B群):(T+D)とに分け,両群の眼圧,中心角膜厚,血圧,脈拍を測定し比較した.対象および方法:A群13例13眼,B群13例13眼で,眼圧・中心角膜厚・血圧・脈拍を変更前,変更後3カ月,6カ月で測定し比較した.結果:変更後6カ月の眼圧低下率は,A群:.14.1±9.9%,B群:.14.1±20.4%,A,B群ともに変更後6カ月で有意に低下しており,A,B群間で有意差はなかった.中心角膜厚・血圧・脈拍については,変更前後で有意な変化はなかった.結論:T→LとT+Dでは同等の眼圧下降効果が認められた.中心角膜厚,血圧,脈拍に変化はなかった.Purpose:Tocomparelatanoprostmonotherapywithtimolol-dorzolamidecombinedtherapy.Methods:Patientsreceivinginadequatetreatmentwithtimolol0.5%(T)wererandomlyassignedtoAorBgroup.Agroup(13eyesof13patients)wasswitchedtolatanoprost(L)only;thiswasthemonotherapygroup(T→L).Bgroup(13eyesof13patients)wasswitchedtoacombinationofdorzolamide1%(D)and(T);thiswasthecombinedtherapygroup(T+D).Wemeasuredintraocularpressure(IOP),visualfield,centralcornealthickness,bloodpressureandheartratebeforeandat3and6monthsaftertheswitch,andcomparedtheresults.Results:ThepercentageofIOPreductionat6monthsaftertheswitchwas.14.1±9.9%inAgroupand.14.1±20.4%inBgroup.Inbothgroups,IOPhaddecreasedsignificantlyat6monthsafterswitching.TherewerenosignificantdifferencesbetweenAandBgroupsintermsofcentralcornealthickness,bloodpressure,heartrateorvisualfield.Conclusion:(T→L)and(T+D)exhibitedsimilareffectsintermsofIOPreduction.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(11):1599.1602,2010〕Keywords:ラタノプロスト,チモロール,ドルゾラミド,単剤療法,併用療法.latanoprost,timolol,dorzolamide,monotherapy,combinedtherapy.1600あたらしい眼科Vol.27,No.11,2010(118)一方,b遮断薬は第一選択薬としての歴史が長く,眼圧下降効果も比較的強いが,局所的副作用は少ないものの全身的副作用が懸念され,また長期の使用で効果が減弱する傾向がみられる4),という問題点を有している.単剤で効果が不十分な場合は,他剤へ切り替えるか併用療法となるが,炭酸脱水酵素阻害点眼薬(以下,CAI点眼薬)は,他の点眼薬と作用機序が異なり,しかも全身的・局所的な副作用が比較的少ないため,併用薬としてよく使用されている5,6).いままで,PG薬,b遮断薬,CAI点眼薬のさまざまな組み合わせの比較検討が報告7,8)されているが,PG薬単剤療法とb遮断薬・CAI点眼薬併用療法を比較した報告はわが国では少ない9,10).今回筆者らは,b遮断薬である0.5%チモロール点眼薬(0.5%チモプトールR点眼液)を使用して眼圧下降効果不十分な症例に対して,0.5%チモロール点眼薬からラタノプロスト点眼薬(キサラタンR点眼液)単剤療法への切り替え群と0.5%チモロール点眼薬にCAI点眼薬である1%ドルゾラミド点眼薬(1%トルソプトR点眼液)を追加した併用療法群とに分け,両群での眼圧,視野,中心角膜厚,血圧,脈拍の経過を測定し比較検討した.I対象および方法2007年9月~2009年3月に東京慈恵会医科大学附属青戸病院を受診した原発開放隅角緑内障,正常眼圧緑内障,高眼圧症の患者で,1カ月以上0.5%チモロール点眼薬(1日2回)を使用したが,効果不十分(視野の悪化が認められる症例,または原発開放隅角緑内障眼圧・高眼圧症の患者では眼圧18mmHg以上の症例,正常眼圧緑内障の患者では目標眼圧に達成しない症例)と判断された症例を対象とした.休止期間を設けず,封筒法を使用して無作為にA群:0.5%チモロール点眼薬からラタノプロスト点眼薬(1日1回)へ切り替えた単剤療法群,B群:0.5%チモロール点眼薬に1%ドルゾラミド点眼薬(1日3回)を追加した併用療法群の2群に分け,両群の眼圧,中心角膜厚,血圧,脈拍について比較検討した.両眼ともに治療している患者は,両眼とも点眼薬を変更し,右眼を解析対象とした.眼圧測定には,非接触型眼圧計(RTK-7700,ニデック社)を使用し,3回測定した平均値を測定値とした.測定時刻は症例ごとに一定とした.変更前,変更後3カ月目,6カ月目に測定し比較した.視野は変更前,変更後6カ月目に測定し,Humphrey静的視野計を使用したA群8例,B群5例のmeandeviation(MD)値,patternstandarddeviation(PSD)値を比較した.Humphrey静的視野計にて信頼度の低いA群5例,B群8例にはGoldmann動的視野計を使用して測定した.点眼薬による角膜厚への影響を検討するため,中心角膜厚を超音波パキメーター(AL-3000,トーメー社)を用いて,変更前,変更後3カ月目,6カ月目に測定し比較した.全身への影響のなかで,最も重要と考えられる循環器系への影響を検討するため,30分以上安静後の血圧(収縮期,拡張期),脈拍を変更前,変更後3カ月目,6カ月目に測定し比較した.統計学的処理は,群内比較にはpairedt検定,群間比較にはunpairedt検定を行い,有意水準をp<0.05として解析した.本研究は,ヘルシンキ宣言を遵守しており,東京慈恵会医科大学での倫理委員会の承認を得た後に,患者から文書でのインフォームド・コンセントを得て,その書面を保存した.II結果6カ月以上経過観察を行えた26例26眼(男性12例,女性14例)で,A群:13例13眼(男性7例,女性6例),B群:13例13眼(男性5例,女性8例)を解析対象とした.平均年齢は67.8±11.7歳(42~84歳)であった.緑内障の病型は,A群:原発開放隅角緑内障6例,正常眼圧緑内障7例,高眼圧症0例,B群:原発開放隅角緑内障4例,正常眼圧緑内障7例,高眼圧症2例であった.平均年齢はA群70.6±10.4歳,B群64.7±13.0歳で,A,B群間に有意差はなかった(p=0.22).屈折は,等価球面度数でA群.1.53±1.93D,B群.0.23±3.26Dで,A,B群間に有意差はなかった(p=0.11).眼圧値の経過は,A群:変更前16.9±3.6mmHg,変更後3カ月目15.5±3.1mmHg(p=0.088),6カ月目14.5±3.3mmHg(p<0.001),B群:変更前18.2±5.5mmHg,変更後3カ月目15.5±4.9mmHg(p<0.05),6カ月目15.5±5.1mmHg(p<0.05)であり,変更前と比較してA群では変更後6カ月目に,B群では変更後3カ月目,6カ月目で有意に下降していた(図1).眼圧下降率は,A群:変更後3カ月目で.7.0±14.1%,6図1点眼変更前後の眼圧値○:A群(n=12),●:B群(n=12).*p<0.05,**p<0.001(pairedt-test).252015105変更前眼圧(mmHg)6カ月後*3カ月後***(119)あたらしい眼科Vol.27,No.11,20101601カ月目で.14.1±9.9%であるのに対して,B群:変更後3カ月目で.13.8±15.2%,6カ月目.14.1±20.4%であり,両群とも,ほぼ同様の眼圧下降を認めた.A群とB群との比較では,変更後3カ月目(p=0.25),6カ月目(p=0.99)で有意差はなかった.静的視野については,A群:MD値は変更前.6.06±9.19dB,変更後6カ月目.5.73±8.30dB(p=0.57),PSD値は変更前5.53±4.78dB,変更後6カ月目6.06±4.71dB(p=0.35)であるのに対して,B群:MD値は変更前.2.72±2.88dB,変更後6カ月目.1.42±2.65dB(p=0.07),PSD値は変更前4.27±2.06dB,変更後6カ月目3.25±2.43dB(p=0.15)であり,両群ともに変更前と比較して変更後6カ月目で有意差はなかった.Goldmann動的視野計を使用したA群5例,B群8例では,変更前,変更後6カ月目で変化は認めなかった.中心角膜厚,血圧,脈拍については,両群ともに変更前と比較して変更後3カ月目,6カ月目でいずれも有意差を認めなかった(表1).中心角膜厚は,A群とB群との比較では変更前(p=0.06),変更後3カ月目(p=0.09),6カ月目(p=0.08)で有意差を認めなかった.III考按欧米ではチモロール点眼薬とドルゾラミド点眼薬の配合剤(CosoptR)がすでに使用可能であり,ラタノプロスト点眼薬単剤投与との比較は多数報告されていて,ほぼ同等の眼圧下降といわれている11,12).本研究において,チモロール点眼薬からラタノプロスト点眼薬へ変更したときの眼圧下降率は変更後6カ月で.14.1±9.9%,チモロールにドルゾラミドを追加したときの眼圧下降率は.14.1±20.4%であった.両群ともに,ベースライン時と比較し同程度の有意な眼圧下降を認め,両群間は同程度の眼圧下降であり,過去の報告11,12)と同じであった.眼圧測定には,非接触型眼圧計を使用した.当院では普段の診療において非接触型眼圧計を使用しており,本研究での対象患者も日常診療では非接触型眼圧計での測定値で経過観察していた.本研究では,得られた眼圧値や中心角膜厚の値に,正常値からの大幅な逸脱がなかったため,非接触型眼圧計での測定値を採用した.静的視野検査においても両群間で有意な変化を認めなかったが,今回は症例数が少なく,観察期間も短かった.さらに,静的視野検査の信頼度が低く,動的視野検査を行っている症例もあるため,今回の結果は参考値として検討した.今後長期にわたる検討が必要であると思われた.中心角膜厚によって,眼圧値や薬剤浸透に影響を及ぼすと報告されている13).本研究では,両群ともに点眼変更前と比較して有意差を認めず,A群とB群との比較でも有意差を認めなかった.したがって,本研究の結果に対する中心角膜厚の影響は少ないと考えられた.CAI点眼薬は毛様体に存在する炭酸脱水酵素II型を阻害し房水産生を抑制する14)が,炭酸脱水酵素II型は角膜内皮にも存在するため,角膜にも影響を与える可能性がある.同じCAI点眼薬であるブリンゾラミド点眼薬での報告では,角膜内皮への影響があるとは結論されていない15)が,内皮細胞数の減少した症例にドルゾラミド点眼薬やブリンゾラミド点眼薬を投与し,角膜浮腫をきたした報告16)があるため,使用に際しては注意が必要である.今回は角膜内皮数の検討は行っていないが,CAI点眼薬が原因と思われる角膜浮腫などの合併症はみられなかった.CAI点眼薬は,古くより経口・点滴投与も行われてきた薬剤であり,現在もアセタゾラミドが使用されている.しかし経口・点滴投与はさまざまな全身的副作用があり,長期連用が困難である17).CAI点眼薬は,内服での副作用を軽減するため開発された薬剤であり,PG薬とともに重篤な全身的副作用の報告は少ない.本研究でも循環器系に対する影響は両群とも認めなかった.本研究の結果,チモロール点眼薬からラタノプロスト点眼薬への変更,チモロール点眼薬にドルゾラミド点眼薬の追加では同等の眼圧下降を認め,角膜や循環器系への影響も差がなかった.このことから,b遮断薬で効果不十分な症例にお表1点眼変更前後の血圧,脈拍,中心角膜厚(平均値±標準偏差)A群B群点眼変更前変更後3カ月変更後6カ月点眼変更前変更後3カ月変更後6カ月収縮期血圧(mmHg)131.5±16.7132.5±20.0(p=0.85)134.5±19.2(p=0.62)133.3±12.9133.8±16.2(p=0.89)134.8±13.8(p=0.67)拡張期血圧(mmHg)75.5±10.480.0±9.4(p=0.22)80.3±11.9(p=0.18)79.8±12.577.9±13.6(p=0.46)78.8±11.0(p=0.67)脈拍数(回/分)70.1±9.674.1±12.4(p=0.11)71.5±12.1(p=0.45)72.7±11.068.0±8.0(p=0.17)69.2±7.8(p=0.27)中心角膜厚(μm)567.9±42.7567.4±41.8(p=0.85)562.4±40.6(p=0.08)539.2±38.4536.2±34.7(p=0.23)536.6±34.5(p=0.34)1602あたらしい眼科Vol.27,No.11,2010(120)いては,PG薬へ変更するかわりに,CAI点眼薬を追加する手段も選択肢の一つになりうると考えられた.CAI点眼薬の追加は,PG薬への変更より美容的副作用の点で利点があり,有用である.しかし,点眼回数が多くなるため,コンプライアンスの低下には十分に注意を払う必要がある.点眼薬の効果を保ちつつコンプライアンスを低下させないためにも,わが国での配合剤導入が待たれる.文献1)TheAdvancedGlaucomaInterventionStudy(AGIS)7:Therelationshipbetweencontrolofintraocularpressureandvisualfielddeterioration.AmJOphthalmol130:429-440,20002)KassMA,HeuerDK,HigginbothamEJ:TheOcularHypertensionTreatmentStudy:Arandomizedtrialdeterminesthattopicalocularhypotensivemedicationdelaysorpreventstheonsetofprimaryopen-angleglaucoma.ArchOphthalmol120:701-713,20023)北澤克明:ラタノプロスト点眼液156週間長期投与による有効性および安全性に関する多施設共同オープン試験.臨眼60:2047-2054,20064)徳岡覚:b遮断薬:新図説臨床眼科講座,第4巻緑内障(新家眞編),p214-216,メジカルビュー社,19985)柴田真帆,湯川英一,新田進人ほか:混合型緑内障患者に対する1%ドルゾラミド点眼追加投与の眼圧下降効果.臨眼59:1999-2001,20056)緒方博子,庄司信行,陶山秀夫ほか:ラタノプロスト単剤使用例へのブリンゾラミド追加による1年間の眼圧下降効果.あたらしい眼科23:1369-1371,20067)廣岡一行,馬場哲也,竹中宏和ほか:開放隅角緑内障におけるラタノプロストへのチモロールあるいはブリンゾラミド追加による眼圧下降効果.あたらしい眼科22:809-811,20058)ItoK,GotoR,MatsunagaKetal:Switchtolatanoprostmonotherapyfromcombinedtreatmentwithb-antagonistandotherantiglaucomaagentsinpatientswithglaucomaorocularhypertension.JpnJOphthalmol48:276-280,20049)小嶌祥太,杉山哲也,柴田真帆ほか:ラタノプロスト単独点眼からチモロール・ドルゾラミド併用点眼へ切り替え時の眼圧,視神経乳頭血流の変化.あたらしい眼科26:1122-1125,200910)SakaiH,ShinjyoS,NakamuraYetal:Comparisonoflatanoprostmonotherapyandcombinedtherapyof0.5%timololand1%dorzolamideinchronicprimaryangleglaucoma(CACG)inJapanesepatients.JOculPharmacolTher21:483-489,200511)FechtnerRD,McCarrollKA,LinesCRetal:Efficacyofthedorzolamide/timololfixedcombinationversuslatanoprostinthetreatmentofocularhypertensionorglaucoma:combinedanalysisofpooleddatafromtwolargerandomizedobserverandpatient-maskedstudies.JOculPharmacolTher21:242-249,200512)KonstasAG,KozobolisVP,TsironiSetal:Comparisonofthe24-hourintraocularpressure-loweringeffectsoflatanoprostanddorzolamide/timololfixedcombinationafter2and6monthsoftreatment.Ophthalmology115:99-103,200813)BrandtJD,BeiserJA,GordonMOetal:CentralcornealthicknessandmeasuredIOPresponsetotopicalocularhypotensivemedicationintheOcularHypertensionTreatmentStudy.AmJOphthalmol138:717-722,200414)MarenTH:Carbonicanhydrase:Generalperspectivesandadvancesinglaucomaresearch.DrugDevRes10:255-276,198715)井上賢治,庄司治代,若倉雅登ほか:ブリンゾラミドの角膜内皮への影響.臨眼60:183-187,200616)安藤彰,宮崎秀行,福井智恵子ほか:炭酸脱水酵素阻害薬点眼後に不可逆的な角膜浮腫をきたした1例.臨眼59:1571-1573,200517)KonowalA,MorrisonJC,BrownSVetal:Irreversiblecornealdecompensationinpatientstreatedwithtopicaldorzolamide.AmJOphthalmol127:403-406,199918)安田典子:炭酸脱水酵素阻害剤長期使用上の注意.眼科29:405-412,1981***

アレルギー性結膜炎に対する塩酸オロパタジン点眼液の臨床効果─併用療法との比較─

2008年11月30日 日曜日

———————————————————————-Page1(83)15530910-1810/08/\100/頁/JCLSあたらしい眼科25(11):15531556,2008cはじめにアレルギー性結膜炎は,アレルゲンが結膜に侵入にすることに起因するⅠ型アレルギー反応である.免疫グロブリンE(IgE)抗体を介してマスト細胞からメディエーター(ヒスタミン,セロトニン,ロイコトリエンなど)が遊離することによりひき起こされる一連の炎症性疾患である.日本における〔別刷請求先〕小木曽光洋:〒108-8329東京都港区三田1-4-3国際医療福祉大学三田病院眼科Reprintrequests:TeruhiroOgiso,M.D.,DepartmentofOphthalmology,InternationalUniversityofHealthandWelfareMitaHospital,1-4-3Mita,Minato-ku,Tokyo108-8329,JAPANアレルギー性結膜炎に対する塩酸オロパタジン点眼液の臨床効果─併用療法との比較─小木曽光洋高野洋之川島晋一藤島浩国際医療福祉大学三田病院眼科ClinicalEcacyofOlopatadineHydrochlorideOphthalmicSolutionforAllergicConjunctivitis:ComparisonWithCombinationTherapyUsingAnti-HistamineandMastCellStabilizerOphthalmicSolutionsTeruhiroOgiso,YojiTakano,ShinichiKawashimaandHiroshiFujishimaDepartmentofOphthalmology,InternationalUniversityofHealthandWelfareMitaHospital2006年に発売された塩酸オロパタジン点眼液(パタノールR)にはヒスタミンH1受容体拮抗作用とメディエーター遊離抑制作用の2つの薬理作用を有することが示されている.今回,筆者らは,塩酸オロパタジン点眼液のアレルギー性結膜炎に対する臨床効果をH1拮抗薬とメディエーター遊離抑制薬の併用療法と比較検討したので報告する.眼痒感が中等度以上のアレルギー性結膜炎の患者27例を対象として,塩酸オロパタジン点眼液・人工涙液の併用投与群と塩酸レボカバスチン(リボスチンR)点眼液・クロモグリク酸ナトリウム(インタールR)点眼液の併用投与群に無作為に分け,上記薬剤をそれぞれ1回12滴,1日4回,7日間投与し,経時的に両群比較検討した.両群ともに自覚症状,他覚所見の有意な改善を認めた.点眼1日目において,塩酸オロパタジン点眼群が併用療法群より有意に眼痒感スコアを抑制した.他覚所見,使用感,満足度は両群間で有意な差は認められなかった.また,両群ともに点眼による角膜上皮障害の悪化は認められなかった.塩酸オロパタジン点眼液は早期に2つの作用で痒を抑制していると考えられた.Olopatadineophthalmicsolutionreportedlyhasbothanti-histamine-andmastcell-stabilizingactions.Wecom-paredtheclinicalecacyofolopatadineophthalmicsolutionforallergicconjunctivitiswithacombinationofH1receptorantagonist-andmastcell-stabilizingeyedrops.Subjectsofthisprospectiverandomizedclinicalstudycom-prised27patientswithallergicconjunctivitiswithmorethanmoderateitching.Thesubjectsweredividedintotwogroups:onegroupwasinstilledwitholopatadineophthalmicsolutionandarticialteardrops;theothergroupwasinstilledwithlevocabastineophthalmicsolutionandcromoglicateophthalmicsolution(fourdosesdaily,1-2drops/dose,for7days).Symptomsandclinicalsignsweresignicantlyimprovedinbothgroupsaftertreatment.At1dayaftercommencementoftreatment,olopatadinewasfoundtobemoreeectivethancombinationtherapyinreduc-ingitching.Nosignicantdierencesbetweenthegroupswereobservedinobjectivendings,comfortorsatisfac-tion.Exacerbationofcornealepitheliallesionswasnotobservedineithergroup.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(11):15531556,2008〕Keywords:塩酸オロパタジン,アレルギー性結膜炎,ヒスタミンH1受容体拮抗作用,メディエーター遊離抑制作用,併用療法.olopatadinehydrochloride,allergicconjunctivitis,H1-selectivehistamineantagonist,anti-allergicagent,combinationtherapy.———————————————————————-Page21554あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008(84)アレルギー性結膜炎の罹患率は疫学調査によると全人口の1520%と報告されている1).治療薬としては抗アレルギー薬とステロイド点眼薬が中心に用いられている.ステロイド点眼薬には即効性や強力な抗アレルギー作用があるが,眼圧上昇などの副作用の発現の危険性があるため,一般的には抗アレルギー点眼薬が第一選択として用いられる2).抗アレルギー点眼薬は,メディエーター遊離抑制薬とヒスタミンH1受容体拮抗薬に大別される.これまで日本で承認されているヒスタミンH1受容体拮抗薬は塩酸レボカバスチン(リボスチンR)とフマル酸ケトフェチン(ザジテンR)のみであったが,2006年10月に塩酸オロパタジン(パタノールR)が追加された.塩酸オロパタジンは選択的ヒスタミンH1受容体拮抗作用3),化学伝達物質遊離抑制作用4,5)の両作用を有するが,その経口薬であるアレロックR錠は日本では2001年より発売され,アレルギー性鼻炎,蕁麻疹,皮膚疾患に伴う痒に対して用いられている.今回,アレルギー性結膜炎患者を対象として,両作用を有するといわれている塩酸オロパタジン点眼液単剤治療とヒスタミンH1受容体拮抗薬/メディエーター遊離抑制薬の併用療法の臨床効果を比較検討したので報告する.I対象および方法本試験は飯田橋眼科クリニック,市川シャポー眼科,品川イーストクリニック,藤島眼科医院,谷津駅前あじさい眼科の5医療施設により実施された.1.対象中等度以上の眼痒感を有するアレルギー性結膜炎と診断される患者のうち,表1の基準を満たすものを対象とした.2.試験方法0.1%塩酸オロパタジン点眼液・人工涙液の併用投与群(以下,P+A群)と0.025%塩酸レボカバスチン点眼液・クロモグリク酸ナトリウム点眼液の併用投与群(以下,L+I群)の2群に,封筒法による無作為化を実施し,上記薬剤をそれぞれ1回12滴,1日4回(朝・昼・夕および就寝前),7日間投与した.なお,試験期間中の副腎皮質ステロイド薬,非ステロイド性抗炎症薬,血管収縮薬,抗ヒスタミン薬,抗アレルギー薬の使用は禁止とした.3.観察項目a.患者背景試験薬投与開始前に,患者の性別,年齢,合併症,既往歴,併用禁止薬の使用歴,眼手術歴について調査した.b.臨床症状第1回来院時(0日目)と第2回来院時(7日目)に他覚所見(眼瞼結膜充血,眼球結膜充血,眼球結膜浮腫,角膜上皮障害)および使用感(0=大変満足している10=全く満足してない),患者満足度(0=大変満足している10=全く満足してない)について評価した.c.アレルギー日記患者にアレルギー日記を配布し,毎日,痒感の程度,点眼状況を記録させ,7日後に回収した.d.統計・解析法他覚所見(眼瞼結膜充血,眼球結膜充血,眼球結膜浮腫,角膜上皮障害),使用感および満足度に関してはpairedt-testにて,眼痒感スコアに対してはmulti-variateanalysisにて解析を施行した.II結果1.対象患者の構成本試験では,38例(P+A群:20例,L+I群:18例)が登録され,1週間後に来院しなかった症例が9例(P+A群:3例,L+I群:6例)あった.再来院しなかった症例のうち,P+A群2例,L+I群3例ではアレルギー日記も回収できなかった.アレルギー日記回収症例は33例(P+A群:18例,L+I群:15例)で,プロトコール逸脱は3症例(P+A群:2例,L+I群:1例)であった.逸脱理由は全症例とも併用禁止薬を使用したためであった.2.患者背景表2に本試験の患者背景を示した.患者は年齢1980歳表1選択基準および除外基準[選択基準]1年齢:13歳以上2性別は問わない3全ての指導に従い,規定の来院日に来院できる患者4試験期間中に併用禁止薬の投与を中止できる患者5Ⅰ型アレルギー反応(結膜浸潤好酸球の同定,血清抗原特異的IgE測定,皮膚テスト)のいずれかが陽性の患者[除外基準」1アレルギー性結膜炎以外の疾患により,薬効評価に影響を及ぼす眼掻痒感および充血を有している患者2本剤の成分に対して過敏症の既往歴のある患者3眼感染症(細菌,ウイルス又は真菌など),重症ドライアイ,再発性角膜びらんがある患者43カ月以内に持続性副腎皮質ステロイドの結膜下注射による治療を受けた患者53カ月以内にステロイド薬の全身投与を受けた患者6免疫療法(脱感作療法,変調療法など)を受けた患者7試験期間中に手術の予定がある患者8コンタクトレンズの装用を中止できない患者9妊婦,授乳婦10担当医師が試験参加は不適当と判断した患者———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.11,20081555(85)で,アレルギー性結膜炎の原因はスギ花粉が23例,スギ花粉以外が7例であった.P+A群,L+I群の両群間において,性別,年齢,スギ花粉症の有無,合併症の有無で有意差は認めなかった.3.有効性他覚所見については点眼開始後7日目において,P+A群,L+I群の両群ともに,眼瞼結膜充血,眼球結膜充血,眼瞼結膜浮腫(図1)のスコアを有意に改善したが,両群の間には有意な差は認めなかった.両群ともに点眼による角膜上皮障害の悪化は認められなかった.点眼開始後7日目における点眼薬の使用感(図2),満足度(図3)は両群ともおおむね良好であったが,両群間において有意な差は認めなかった.眼痒感については,点眼開始後1日目においてP+A群がL+I群に比べ有意に眼痒感スコアを抑制した(図4).表2患者背景P+AL+ITestp値性別男性女性7959c2検定0.6540年齢(歳)20未満2029303940495059606970以上04701221231421U検定0.5935MinimumMaximum21801971平均±SD(歳)41.3±19.245.2±16.3アレルゲンスギ花粉非スギ花粉115122c2検定0.2731合併症アトピー性皮膚炎ドライアイ鼻側ポリープ100021c2検定0.1353**:p<0.01(vs.Baseline)*:p<0.05(vs.Baseline)Paired?-testMean±SD:眼瞼結膜充血P+A:眼瞼結膜充血L+I:眼球結膜充血P+A:眼球結膜充血L+I:眼球結膜浮腫P+A:眼球結膜浮腫L+I:角膜上皮障害P+A:角膜上皮障害L+I**********3210-1スコア0日目(n=16)(n=11)7日目(n=16)(n=11)P+AL+I図1投与後の各所見のスコアスコア+A(n=15)L+I(n=12)Mean±SD図2点眼薬の使用感(0=大変満足している,10=全く満足していない)876543210スコアP+A(n=15)L+I(n=12)Mean±SD図3点眼薬の満足度(0=大変満足している,10=全く満足していない)*:p<0.05(vs.L+I)Multi-variateanalysisMean±SD0-1-2-3-4-5-6-7-8-9スコアの変化量P+A(n=14)L+I(n=13)0日目(n=14)(n=13)1日目(n=14)(n=11)2日目(n=14)(n=11)3日目(n=14)(n=12)4日目(n=14)(n=11)5日目(n=14)(n=11)6日目(n=12)(n=10)7日目:P+A:L+I*図4眼痒感スコアの推移———————————————————————-Page41556あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008(86)本試験中に両群とも副作用はみられなかった.III考察筆者らはすでにヒスタミンH1受容体拮抗薬単独よりもメディエーター遊離抑制薬との併用療法のほうが有意にアレルギー炎症を軽減することを報告している8).このことから両治療薬を同時に使用するほうがアレルギー性結膜炎に対しより効果的であると考えられる.塩酸オロパタジンにはヒスタミンH1受容体拮抗作用とメディエーター遊離抑制作用の2つの薬理作用を有することが非臨床試験において示されている.そこで,今回筆者らは両作用をもつ塩酸オロパタジン点眼液を投与した場合と,ヒスタミンH1受容体拮抗作用をもつ塩酸レボカバスチン点眼液およびメディエーター遊離抑制作用をもつクロモグリク酸ナトリウム点眼液を併用投与した場合において,臨床的に他覚所見,痒感,使用感,満足度について比較検討してみた.結果としては,他覚所見,使用感,満足度は両群間で有意な差は認められなかった.唯一,点眼開始後1日目において,塩酸オロパタジン点眼群が併用療法群より有意に眼痒感を抑制した.眼痒感は三叉神経終末のヒスタミンH1受容体を介して伝達されるため,点眼開始後1日目においての痒感に対する効果の差は塩酸オロパタジンが塩酸レボカバスチンよりも多くのヒスタミンH1受容体に結合したためだと考えられる.実際,非臨床試験において塩酸オロパタジンはヒスタミン受容体のH1受容体選択性が塩酸レボカバスチンより高いことが示されている3).今回の試験では日本で承認されている濃度で実施したため,塩酸オロパタジンの濃度が0.1%であるのに対し塩酸レボカバスチンは0.025%であるため(米国では塩酸レボカバスチンは0.05%で承認され販売されている),両者の濃度の違いも効果に影響していると思われる.大野らは無症状期の花粉症患者を対象に0.1%塩酸オロパタジン点眼液と0.025%塩酸レボカバスチン点眼液の有効性を結膜抗原誘発試験にて比較検討しているが,塩酸オロパタジン点眼のほうが塩酸レボカバスチン点眼よりも痒感の抑制に有効であり,点眼後のレスポンダーの割合も高いことを報告している.この塩酸オロパタジン点眼のレスポンダーの割合の高いことも,点眼開始後1日目における痒感に対する効果の差につながったと思われる.点眼開始後27日目において両群間において痒感に有意差が生じなかった.また,7日目における他覚所見でも両群間において有意差が認められなかった.非臨床試験において,塩酸オロパタジンは濃度依存性にヒト結膜マスト細胞からのヒスタミン遊離を抑制したり4),ヒト結膜上皮細胞からIL(インターロイキン)-6,IL-8の遊離を抑制したり10)することなどが示されており,これらのメディエーター遊離抑制作用ももつことが両群間において差が生じなかったことに関連していると思われた.今回の検討で点眼1日目において塩酸オロパタジン点眼群が併用療法群より有意に眼痒感スコアを抑制した.痒みに対する即効性が期待される疾患において早期に有意差が出たことは,本剤が臨床的にも有用であることを示していると思われる.文献1)東こずえ,大野重昭:アレルギー性眼疾患.1概説.NEWMOOK眼科6,p1-5,金原出版,20032)日本眼科医会アレルギー眼疾患調査研究班:「アレルギー性結膜疾患の診断と治療のガイドライン」.大野重昭(編):日本眼科医会アレルギー眼疾患調査研究班業績集,日本眼科医会,19953)SharifNA,XuSX,YanniJM:Olopatadine(AL-4943A):ligandbindingandfunctionalstudiesonanovel,longact-ingH1-selectivehistamineantagonistandanti-allergicagentforuseinallergicconjunctivitis.JOculPharmacolTher12:401-407,19964)YanniJM,MillerST,GamacheDAetal:Comparativeeectsoftopicalocularanti-allergydrugsonhumancon-junctivalmastcells.AnnAllergy79:541-545,19975)CookEB,StahlJL,BarneyNPetal:OlopatadineinhibitsTNFareleasefromhumanconjunctivalmastcells.AnnAllergy84:504-508,20006)アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン編集委員会:アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン.日眼会誌110:99-140,20067)UchioE,KimuraR,MigitaHetal:Demographicaspectsofallergicoculardiseasesandevaluationofnewcriteriaforclinicalassessmentofocularallergy.GraefesArchClinExpOphthalmol246:291-296,20088)FujishimaH,FukagawaK,TanakaMetal:TheeectofacombinedtherapywithahistamineH1antagonistandachemicalmediatorreleaseinhibitoronallergicconjunctivi-tis.Ophthalmologica222:232-239,20089)大野重昭,内尾英一,高村悦子ほか:日本人のアレルギー性結膜炎に対する0.1%塩酸オロパタジン点眼液の有効性と使用感の検討─0.025%塩酸レボカバスチン点眼液との比較─.臨眼61:251-255,200710)YanniJM,WeimerLK,SharifNAetal:Inhibitionofhis-tamine-inducedhumanconjunctivalepithelialcellresponsesbyocularallergydrugs.ArchOphthalmol117:643-647,1999***