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近視矯正によって内斜視が改善した一卵性双生児の1組

2015年1月30日 金曜日

154あたらしい眼科Vol.32,No.1,2015(154)154(154)0910-1810/15/\100/頁/JCOPY《原著》あたらしい眼科32(1):154.158,2015cはじめに近視を伴う内斜視に関する報告は少ないものの1.5),過去に乳児内斜視の10.2%6),非調節性内斜視の3.5%は近視である7)との報告がある.近視矯正を行うことで調節性輻湊を誘発し,さらに小児の内斜視は調節要素を伴っていることが多く,結果として眼位がより内斜すると考えられている.しかし,治療に関しては,近視の内斜視であっても屈折矯正を行うことで内斜視角が減少したとの報告3)や手術による予後が良好であるとの報告4),適切な屈折矯正とFresnel膜プリズム処方で良好な経過をたどった報告5)があり,近視の内斜視であっても屈折矯正を試みることが重要であるとしている3,5).また,一卵性双生児の斜視型の一致率は高く,73.88%8.10)と報告がある.今回,筆者らは,近視矯正によって内斜視が改善した一卵性双生児の1組を経験したので報告する.I症例〔症例1〕9歳,女児(一卵性双生児の妹).6歳10カ月頃に撮った写真で左眼が内に寄っているのに母親が気づき当院受診.出生週数32週2日,出生体重1,718g,正常分娩の低出生体重児.未熟児網膜症の発症はなし.発達異常なし.初診時(7歳)所見:右眼0.1(1.2×.1.75D(cyl.0.75DAx110°),左眼0.2(1.2×.1.75D).眼位はHirschberg法で正位.眼球運動は正常で両眼に下斜筋過動を認めた.輻湊〔別刷請求先〕橋本篤文:〒252-0375神奈川県相模原市南区北里1-15-1北里大学病院眼科Reprintrequests:AtsufumiHashimoto,CO.,DepartmentofOphthalmology,KitasatoUniversityHospital,1-15-1KitasatoMinamikuSagamihara252-0375,JAPAN近視矯正によって内斜視が改善した一卵性双生児の1組橋本篤文*1石川均*2清水公也*1*1北里大学病院眼科*2北里大学医療衛生学部ACaseofMonozygoticTwinswithEsotropiathatImprovedwithFullMyopicCorrectionAtsufumiHashimoto1),HitoshiIshikawa2)andKimiyaShimizu1)1)DepartmentofOphthalmology,KitasatoUniversityHospital,2)SchoolofAlliedHealthSciences,KitasatoUniversity一卵性双生児の斜視型の一致率は高い.また,近視矯正により内斜視が改善した報告は過去に少ない.今回,筆者らは,ほぼ同時期に内斜視を発症し,かつ近視矯正で内斜視が改善した9歳の一卵性双生児の女児1組を経験した.2症例とも初診時より内斜視を認め,眼位変動が大きかった.斜視角は裸眼と完全屈折矯正眼鏡で同程度であった.調節麻痺下(アトロピン点眼)屈折検査を行い,完全屈折矯正眼鏡を処方した.処方後,2症例とも斜視角の改善を認めた.近視を伴う内斜視でも屈折矯正を試みることが重要であると考えられた.また,この内斜視発症,良好な治療効果が一卵性双生児の姉妹に同時に生じていることは,眼科的諸因子や環境的因子のみならず遺伝的因子の関与が示唆された.Manycasesofmonozygotictwinsareknownshowtheconcordanceofstrabismicphenotypes.Inrarecases,esotropiamaybeimprovedbywearingeyeglasseswithfullmyopiccorrection.Herewereportacaseofmonozy-gotictwinswithmyopicesotropia.Uponexamination,the9-year-oldtwingirlswerefoundtohavedevelopedeso-tropiaatthesametime.Attheinitialpresentationtoourclinic,themeasurementsareunstable.However,theangleofdeviationwasrelativelystablewithfullmyopiccorrection.Foreachpatient,weprescribedmyopiceye-glasseswiththefullatropinizedcorrection,andtheesotropiasubsequentlyimproved.Thefindingsinthiscaseshowthatnotonlyocularandenvironmentalfactors,butalsogeneticfactorscancauseasimultaneousonsetofesotropiainmonozygotictwins,andthatcorrectionviatheuseofmyopiceyeglassesmightbeaneffectivetreat-mentforthemyopicesotropiainsuchcases.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(1):154.158,2015〕Keywords:内斜視,近視,一卵性双生児,完全屈折矯正.esotropia,myopia,monozygotictwins,fullcorrection.32,No.1,2015(154)154(154)0910-1810/15/\100/頁/JCOPY《原著》あたらしい眼科32(1):154.158,2015cはじめに近視を伴う内斜視に関する報告は少ないものの1.5),過去に乳児内斜視の10.2%6),非調節性内斜視の3.5%は近視である7)との報告がある.近視矯正を行うことで調節性輻湊を誘発し,さらに小児の内斜視は調節要素を伴っていることが多く,結果として眼位がより内斜すると考えられている.しかし,治療に関しては,近視の内斜視であっても屈折矯正を行うことで内斜視角が減少したとの報告3)や手術による予後が良好であるとの報告4),適切な屈折矯正とFresnel膜プリズム処方で良好な経過をたどった報告5)があり,近視の内斜視であっても屈折矯正を試みることが重要であるとしている3,5).また,一卵性双生児の斜視型の一致率は高く,73.88%8.10)と報告がある.今回,筆者らは,近視矯正によって内斜視が改善した一卵性双生児の1組を経験したので報告する.I症例〔症例1〕9歳,女児(一卵性双生児の妹).6歳10カ月頃に撮った写真で左眼が内に寄っているのに母親が気づき当院受診.出生週数32週2日,出生体重1,718g,正常分娩の低出生体重児.未熟児網膜症の発症はなし.発達異常なし.初診時(7歳)所見:右眼0.1(1.2×.1.75D(cyl.0.75DAx110°),左眼0.2(1.2×.1.75D).眼位はHirschberg法で正位.眼球運動は正常で両眼に下斜筋過動を認めた.輻湊〔別刷請求先〕橋本篤文:〒252-0375神奈川県相模原市南区北里1-15-1北里大学病院眼科Reprintrequests:AtsufumiHashimoto,CO.,DepartmentofOphthalmology,KitasatoUniversityHospital,1-15-1KitasatoMinamikuSagamihara252-0375,JAPAN近視矯正によって内斜視が改善した一卵性双生児の1組橋本篤文*1石川均*2清水公也*1*1北里大学病院眼科*2北里大学医療衛生学部ACaseofMonozygoticTwinswithEsotropiathatImprovedwithFullMyopicCorrectionAtsufumiHashimoto1),HitoshiIshikawa2)andKimiyaShimizu1)1)DepartmentofOphthalmology,KitasatoUniversityHospital,2)SchoolofAlliedHealthSciences,KitasatoUniversity一卵性双生児の斜視型の一致率は高い.また,近視矯正により内斜視が改善した報告は過去に少ない.今回,筆者らは,ほぼ同時期に内斜視を発症し,かつ近視矯正で内斜視が改善した9歳の一卵性双生児の女児1組を経験した.2症例とも初診時より内斜視を認め,眼位変動が大きかった.斜視角は裸眼と完全屈折矯正眼鏡で同程度であった.調節麻痺下(アトロピン点眼)屈折検査を行い,完全屈折矯正眼鏡を処方した.処方後,2症例とも斜視角の改善を認めた.近視を伴う内斜視でも屈折矯正を試みることが重要であると考えられた.また,この内斜視発症,良好な治療効果が一卵性双生児の姉妹に同時に生じていることは,眼科的諸因子や環境的因子のみならず遺伝的因子の関与が示唆された.Manycasesofmonozygotictwinsareknownshowtheconcordanceofstrabismicphenotypes.Inrarecases,esotropiamaybeimprovedbywearingeyeglasseswithfullmyopiccorrection.Herewereportacaseofmonozy-gotictwinswithmyopicesotropia.Uponexamination,the9-year-oldtwingirlswerefoundtohavedevelopedeso-tropiaatthesametime.Attheinitialpresentationtoourclinic,themeasurementsareunstable.However,theangleofdeviationwasrelativelystablewithfullmyopiccorrection.Foreachpatient,weprescribedmyopiceye-glasseswiththefullatropinizedcorrection,andtheesotropiasubsequentlyimproved.Thefindingsinthiscaseshowthatnotonlyocularandenvironmentalfactors,butalsogeneticfactorscancauseasimultaneousonsetofesotropiainmonozygotictwins,andthatcorrectionviatheuseofmyopiceyeglassesmightbeaneffectivetreat-mentforthemyopicesotropiainsuchcases.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(1):154.158,2015〕Keywords:内斜視,近視,一卵性双生児,完全屈折矯正.esotropia,myopia,monozygotictwins,fullcorrection. :右眼瞳孔径:右眼屈折値:左眼瞳孔径:左眼屈折値Diopter(mm)86420-2-4-6半暗室光視標調節視標眼位内斜視内斜視正位図1PlusoptiXS04R半暗室での調節視標,光視標の他覚的屈折値と瞳孔径と眼位PlusoptiXS04Rにて,半暗室での調節視標,光視標の他覚的屈折値と瞳孔径を測定した.光視標で調節視標よりも近視の増大を認めた.近点は鼻根部まで可能.Titmusstereotests(TST)は裸眼にてfly(+),animal(3/3),circle(6/9).Alternateprismcovertest(APCT)は完全屈折矯正下にて遠見14prismdiopter(以下Δ),近見18Δの間欠性内斜視であり,融像除去により次第に斜視角が増大した.サイプレジン点眼下の自覚的屈折値は,右眼(1.2×.1.25D(cyl.0.75DAx150°),左眼(1.2×.1.25D(cyl.0.75DAx40°)であった.眼軸長は,右眼24.27mm,左眼24.24mm(IOLMasterTM,Zeiss社製)であった.初診から5カ月後,斜視角はAPCTにて裸眼,完全屈折矯正ともに遠見25.30Δ,近見35Δとやや増大したが,間欠性内斜視を保っていた.大型弱視鏡(ClementClark社製)では眼位変動が大きかったものの同時視は自覚的斜視角が+16Δ(スライド;ライオンとオリ),融像が.16Δ.+36Δ(base+16Δ)(スライド;うさぎ)で,立体視(スライド;バケツ,宇宙,パラシュート)も得られた.他覚的斜視角は+20Δであった.6カ月後,APCTにて裸眼で遠見40Δ,近見45.50Δの間欠性内斜視であり,近視矯正を行った完全屈折矯正下でも遠見40Δ,近見45.50Δの間欠性内斜視で,近見は近視矯正による調節量の増加によっても斜視角は増加しなかった.両眼視時の眼位,屈折値,瞳孔径を,PlusoptiXS04R(Plusoptix社製)を用い測定した.本装置は,両眼同時かつ連続で屈折値〔等価球面度数(D)〕,瞳孔径〔縦・横(mm)〕,眼位〔偏位角(°)〕が測定可能である.測定条件は完全屈折矯正下で半暗室下にて,視標は眼前1mで光視標,調節視標裸眼時内斜視眼鏡装用時正位図2症例1をそれぞれ呈示した.瞳孔径は縦径とした.結果は,半暗室,光視標で眼位は内斜視となり近視化し,調節視標で眼位は正位化し近視化はみられなかった(図1).瞳孔径は各視標とも6mm前後であった.10カ月後,裸眼での内斜視が恒常化したため,右眼(1.2×.2.50D(cyl.0.50DAx140°),左眼(1.2×.2.50D(cyl.1.00DAx10°)で完全屈折矯正眼鏡(アトロピン点眼下)を処方した.4カ月後,両眼ともに〔1.2×JetzigBrille(以下,JB)〕と良好な視力を得ており,TSTはJBにてfly(+),animal(3/3),circle(7/9)であった.斜視角はAPCTにてJBで遠見,近見ともに16Δの間欠性内斜視となり改善を認めた(図2).また,眼位変動は大きかったが,光視標でも正位を保つことがあり,調節視標にてさらに正位の頻度が増えた.AC/A比(調節性輻湊対調節比)は斜視角測定時,遠見での眼位が安定しなかったため,NearGradient法で測定したところ5.6Δ/Dであった.さらに,頭蓋内疾患の鑑別のため頭部CT(コンピュータ断層撮影)を施行したが異常はなかった.〔症例2〕9歳,女児(一卵性双生児の姉).主訴:学校検診で視力低下を指摘され当院受診.出生体重1,504g.未熟児網膜症の発症はなし.発達異常はなし.初診時(7歳5カ月)所見:右眼0.2(1.2×.2.50D),左眼0.15(1.2×.3.25D).眼位はHirschberg法で正位.内斜視.Krimsky法で16.18Δbaseout.眼球運動は正常で両眼に下斜筋過動を認めた.輻湊近点は鼻根部まで可能.あたらしい眼科Vol.32,No.1,2015155 TSTは裸眼にて内斜視のため立体視不可であった.症例1と同様に同日サイプレジン点眼下にて自覚的屈折値を確認した.右眼(1.2×.1.00D(cyl.1.00DAx170°),左眼(1.2×.1.75D)で,近視を認めた.眼軸長は右眼23.83mm,左眼23.78mm(IOLMasterTM)であった.1カ月後,TSTは裸眼,完全屈折矯正ともにfly(+),animal(3/3),circle(4/9)であった.斜視角はAPCTにて裸眼で遠見12Δ,近見25Δの間欠性内斜視であり,近視矯正を行った完全屈折矯正下でも,症例1と同様に斜視角に増大はなかった.大型弱視鏡にて,同時視は,自覚的斜視角が+6Δ(スライド;ライオンとオリ),融像が.14Δ.+22Δ(base+6Δ)(スライド;うさぎ)で,立体視(スライド;バケツ,宇宙,パラシュート)も得られたが,症例1同様,測定中の眼位変動が大きかった.他覚的斜視角は+8Δであった.患児が見えづらさを訴えたため,症例1と同時期にアトロピン点眼にて屈折検査を行った.右眼(1.2×.2.25D),左眼(1.2×.1.50D)で完全屈折矯正眼鏡を処方した.14カ月後,右眼,左眼ともに視力良好で,Hirschberg法で正位.TSTはJBにてfly(+),animal(3/3),circle(9/9)と改善し,斜視角はAPCTにてJB装用下で遠見,近見ともに8Δの内斜位と改善を認めた(図3).また,症例1同様AC/A比を測定したところ,NearGradient法にて3.4Δ/Dであった.頭部CTも施行したが,異常はなかった.双生児の卵性の鑑別に関しては,遺伝子DNAを用いて診断する方法が最も精度が高いとされている11).家族に十分な説明を行い,同意を得たうえで,DNA検査を依頼した.患児それぞれの口腔内粘膜を減菌された綿棒にて採取し,検体を送付した.STR(shorttandemrepeat)型検査12)にて,16locus(遺伝子情報)を比較し,それぞれの遺伝子型が完全に一致し,一卵性と判定した.II考按今回,筆者らは,同時期に同程度の屈折値,斜視角で内斜視を発症し,同じ治療法で症状が改善した一卵性双生児の女児1組を経験した.さらに,内斜視に近視矯正すると眼位が裸眼時内斜視眼鏡装用時正位図3症例2表19歳,女児症例1(妹)症例2(姉)出生週数32週2日出生体重1,718g1,504g発症時期7歳頃7歳5カ月頃主訴内斜視視力低下調節麻痺下屈折値(アトロピン点眼,等価球面値)R:.2.75DL:.3.00DR:.2.25DL:.1.50D斜視角(最大時)遠見:40ΔE(T)近見:45.50ΔE(T)´遠見:12ΔE(T)近見:25ΔE(T)´変動大きい(SC=farbest)斜視角(眼鏡装用後)遠見:16ΔE(T)近見:16ΔE(T)´遠見:8ΔE(T)近見:8ΔE(T)´視標と眼位非調節視標より調節視標で良好融像幅(大型弱視鏡).16Δ.+36Δ(base+16Δ).14Δ.+22Δ(base+6Δ)AC/A比5.4Δ/D3.6Δ/D頭部CT異常なし(156) 悪化すると考えられている13)が,今回の症例では改善を認めた.近視矯正で内斜視の眼位が改善するような症例は過去に報告が少なく3.5),明確な考察はされていない.本症例は,器質的疾患による内斜視は否定的で,内斜視時に調節の増加は認めたものの,瞳孔は半暗室下ではあるが,縮瞳傾向ではなかったため調節痙攣は考えにくい.また,過去には状況依存性内斜視の報告14)がある.10歳頃の前思春期の女子に多く,部分調節性内斜視に続発し,日常眼位は比較的良好であるが,検査時に内斜視角が急激に増大するような特徴をもつ.本症例がもともと部分調節性内斜視であったかは不明であるが,症例2の主訴が内斜視ではなく視力低下であったことから,少なくとも症例2については日常眼位が良好であった可能性がある.両親への問診では,日常と検査時の内斜視の頻度や角度にあまり違いはないとのことで,状況依存性内斜視は否定的と考えた.内斜視の型に関しては,高AC/A比ではなく,発症時期が7歳頃ということから考えて後天基礎型内斜視が考えられたが,考察の域を超えない.本症例の特徴として近視の未矯正斜視角(裸眼)と完全屈折矯正斜視角にほぼ差がなく,調節視標で斜位を保つ頻度が多く,さらに融像幅が開散方向に大きいことや眼位変動が大きいことが挙げられる.これらのことから,しっかりとした明視を得ること,また患児の見づらさの訴えの改善も目的に,調節麻痺下での屈折検査を施行後,完全屈折矯正眼鏡処方を行った.結果として,像のボケがなくなり適切な調節を行うことができ,過度に輻湊していた眼位が改善し,両眼視が安定したと考えた.過去には,未矯正の近視の人が,ごく近距離を見続けることで内直筋のトーヌスが上昇し,機能的に優位な状態となったために輻湊を緩めることが少なくなって内斜視になる1)とするものや,低矯正または未矯正の近視の人が,明瞭な視覚をもつ近見を多く行い,不明瞭である遠見を行うことが稀であると,近見での輻湊が刺激,強化されて,しだいに開散の機能不全が起こる.さらに,筋は器質的に変化して固定化し開散不全型の内斜視になる2)とするものなどがある.これに対し,近視矯正で内斜視角の減少が認められた3)との報告や,適切な屈折矯正によって明瞭な遠方視が可能になり本来の開散力を使って眼位を安定させようとする力が働いたとする説もある5).つまり,近視を伴う内斜視でも適切な屈折矯正を試みることが重要である.さらに,本症例では,非調節視標(光視標)において眼位が内斜し,調節視標で改善した.調節視標は,見ようとするものに対しての適切な調節状態をつくり,調節を保たせる,調節をコントロールする視標15)といわれており,調節が安定したと考えられる.また,開散方向に融像幅が広いことから,調節目標の明視が開散方向の融像を可能にし,眼位の安定につながったと考えられた.双生児の斜視の一致率は一卵性双生児が73.88%8.10),二卵性双生児が35.40%8,9)と一卵性双生児で高いとされており,一卵性双生児で一致した斜視の種類は内斜視,調節性内斜視,乳児内斜視,恒常性外斜視,間欠性外斜視が挙げられる9,10).なかでも,内斜視では調節性内斜視,外斜視では間欠性外斜視が多いとしている10).屈折に関しても,一卵性双生児のほうが二卵性双生児よりも一致しやすい傾向16,17)がある.本症例も同様に斜視の型,屈折値がほぼ同じ傾向を認め,発症時期や同治療による予後も同じ傾向であった.斜視や屈折異常のはっきりとした遺伝形式はいまだ明らかにされていないが,一卵性双生児では遺伝的構成は同一とされ,斜視に関しても同じ型の斜視の発症や経過をとることが多いとされている18).さらに一卵性双生児の斜視の発症時期にずれのある症例では,その背景に近業が誘因になったり,言葉などに対する理解度の違いといった環境的要因も関係していると考えられ9),遺伝的要因や環境的要因の相互作用9,18,19)の関与が示唆されている.最後に,今後,本症例に関しては,定期的に屈折検査を行い,適切な眼鏡をかけていくことが眼位の維持には重要と考えた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)BielschowskyA:DasEinwartsschielenderMyopen.BerDtschOphthalmolGes.43:245-248,19222)Duke-ElderS,WybarK:Ocularmotilityandstrabismus.InSystemofOphthalmology,p605-609,HenryKimpton,London,19733)松井孝子,安田節子,阿部早苗ほか:近視矯正により内斜視角の減少がみられた1例.眼臨紀6:241,20134)村上環,曹美枝子,富田香ほか:近視を伴う後天内斜視の検討.日視会誌21:61-64,19935)宮部友紀,竹田千鶴子,菅野早恵子ほか:眼鏡とフレネル膜プリズム装用が有効であった近視を伴う後天性内斜視の2例.日視会誌28:193-197,20006)ShaulyY,MillerB,MeyerE:Clinicalcharacteristicsandlong-termpostoperativeresultofinfantileesotropiaandmyopia.JPediatrOphthalmolStrabismus34:357-364,19977)VonNoordenGK:BinocularVisionandOcularMotility.fourthed,p307,CVMosby,StLouis,19908)PaulTO,HardageLK:Theheritabilityofstrabismus.OphthalmicGenetics15:1-18,19949)花岡玲子,牧野伸二,酒井理恵子ほか:自治医科大学弱視斜視外来を受診した双生児症例の検討.眼臨95:415-417,200110)MatsuoT,HayashiM,FujiwaraHetal:Concordanceofstrabismicphenotypesinmonozygoticversusmultizygoticあたらしい眼科Vol.32,No.1,2015157 twinsandothermultiplebirth.JpnJOphthalmol46:59-64,200211)大木秀一:簡便な質問紙による小児期双生児の卵生診断.母性衛生42:566-572,200112)原正昭:血清学検査・DNA検査.MedicalTechnology39:1022-1028,201113)西村香澄,佐藤美保:斜視と眼鏡.あたらしい眼科28(臨増):44-47,201214)奥英弘,内海隆,菅澤淳ほか:状況依存性内斜視のアモバルビタール点滴静注による診断法ならびに手術量の定量法について.臨眼44:1221-1224,199015)金谷まり子:間歇性外斜視の視能矯正的検査法.日視会誌28:21-28,200016)五十嵐智美,小塚勝,中村佳絵ほか:当科における一卵性双生児の斜視について.眼臨93:915-916,199917)TsaiMY,LinLL,LeeVetal:Estimationofheritabilityinmyopictwinstudies.JpnJOphthalmol53:615-622,200918)VonNoordenGK:BinocularVisionandOcularMotility.fourthed,p144-149,CVMosby,StLouis,199019)MaumeneeIH,AlstonA,MetsMBetal:Inheritanceofcongenitalesotropia.TransAmOphthalmolSoc84:85-93,1986***(158)

Prism Adaptation Test により術量決定を行った内斜視の術後成績

2013年3月31日 日曜日

《原著》あたらしい眼科30(3):419.422,2013cPrismAdaptationTestにより術量決定を行った内斜視の術後成績加藤浩晃*1,2稗田牧*2中井義典*2中村葉*2木下茂*2*1バプテスト眼科クリニック*2京都府立医科大学大学院医学研究科視機能再生外科学PreoperativePrismAdaptationinPatientswithEsotropiaHiroakiKato1,2),OsamuHieda2),YoshinoriNakai2),YouNakamura2)andShigeruKinoshita2)1)BaptistEyeClinic,2)DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine目的:外来診療時のみでPrismAdaptationTest(PAT)を行った内斜視手術の術後成績をレトロスペクティブに検討する.対象および方法:対象は京都府立医科大学附属病院において2003年から2010年までに共同性内斜視で10プリズム(Δ)以内の正位を目標としてPATにて術量を決定して手術を施行した症例で,術後1カ月以上経過観察が可能であった47例(男性18例,女性29例),年齢4.75歳(平均19.9±22.8歳)である.完全矯正下でPATを施行し,正位を目標に水平筋移動量を1mm当たり3Δで手術を行った.術後成績,術後斜視角が10Δ以内を手術成功と定義したときの手術成功率,術後の斜視角の推移,眼位矯正効果を検討した.結果:遠方眼位は30.6±11.4ΔからPATにて33.7±10.7Δに有意に増加した(p<0.01).PATを行った際の手術成功率は術後1年で72%,術後2年で71%であり,PATをしなかったと仮定した場合の成功率が術後1年で53%,術後2年で52%であることと比較すると,PATによる術量定量は良好な成績をもたらした.術後の斜視角は術後1カ月から2年の観察期間中で安定しており,明らかな戻りは認めず,眼位矯正量としても約3Δ当たり1mmという算定方法で安定した成績を示した.結論:内斜視に対する手術では,術前にPATで術量決定を行ったほうが良好な術後成績が得られた.Purpose:ToretrospectivelyexaminethepostoperativeresultsofesotropiasurgeryperformedafteradministratingthePrismAdaptationTest(PAT)onlyduringtheperiodofambulatorycare.SubjectsandMethods:Thisstudyinvolved47patients(18malesand29females;agerange:4.75years;meanage:19.9±22.8years)whoshowedstableesodeviationwith10prismsorlessbyPAT.Foreachpatient,PATwasadministeredunderfullcorrectionandsurgerywasperformedonthelateralrectusmuscleand/ormedialrectusmuscleat3prismsper1mm,forthepurposeofright-eyerepositioning.Theprocedure’spostoperativesuccessrate(definedaspostoperativeangleofstrabismusoflessthan10prisms),thepostoperativeangleofstrabismusandtheeffectivenessofthesurgicalcorrectionofeyepositionwereexamined.Results:At1and2yearspostoperatively,thesuccessrateofthesurgicalprocedurewithPATperformedwas72%and71%,respectively,ascomparedwith53%and52%,respectively,withoutPATperformed.ThepreoperativeadministrationofPATthereforeyieldedgoodresults.Ineachpatient,thepostoperativeangleofstrabismusremainedstableduringthe2-yearfollow-upobservationperiod.Inaddition,thepositionofeachpatient’seyewassurgicallycorrectedandstabilizedviathecalculationmethodof3prismsper1mmofcorrection.Conclusions:Forpatientsundergoingesotropiasurgery,betterpostoperativeresultsareobtainedthroughthepreoperativeadministrationofPAT.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(3):419.422,2013〕Keywords:プリズムアダプテーションテスト,PAT,内斜視,内斜視手術,斜視角.PrismAdaptationTest,PAT,esotropia,esotropiasurgery,angleofstrabismus.〔別刷請求先〕加藤浩晃:〒606-8287京都市左京区北白川上池田町12バプテスト眼科クリニックReprintrequests:HiroakiKato,M.D.,BaptistEyeClinic,12Kamiikeda-cho,Kitashirakawa,Sakyo-ku,Kyoto606-8287,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(133)419 はじめに内斜視は眼位の定量に輻湊の影響が入りやすく,眼位の正確な定量が困難なため,斜視手術の精度が外斜視より不安定とされている.このためプリズムアダプテーションテスト(PrismAdaptationTest:PAT)を施行して手術成績を上げる試みが従来から検討されてきた1,2).PrismAdaptationStudyResearchGroupは,内斜視手術におけるPATの有用性を無作為化臨床比較試験で評価している.PATを行って0.10プリズム(Δ)に斜視角が安定して融像がある症例に対して最大斜視角を基準に手術を行った群(最大斜視角群)と,顕性斜視角を基準に手術を行った群(顕性斜視角群)の手術成績を比較すると,術後斜視角度が10Δ以内となった割合は最大斜視角群では89%に対し,顕性斜視角群では79%であり,PATにより検出された斜視角を基準に手術を行ったほうが過矯正になる割合は少なく,統計的有意差はないが安定した成績が得られる3)というものであった.その後同様の結果4.7)が報告されているが,わが国でも大月らがPATを行った内斜視手術の術後1年の手術成績として,プリズム中和時の度数を基準に手術を行った群とプリズム中和前の斜視角を基準に手術を行った群を比較すると,術後斜視角度が10Δ以内を手術成功と定義した場合,手術成功率はそれぞれ84%,78%であり,プリズム中和時の度数を基準に手術を行った群のほうでより良好な成績が得られたことを報告している8).これらの報告ではPATを入院のうえで術前5.7日間においてプリズムレンズを装用させて行っているが,現在では眼科手術に際し,入院して検査を行えないことも多い.そこで,今回筆者らは,入院ではなく外来診察時にPATを行い,内斜視手術における術前定量としての外来のみでのPATの有用性を検討したので報告する.I対象および方法1.対象の選択2003年4月から2010年12月までに京都府立医科大学附属病院眼科で,内斜視に対して手術を行った106例のうち,共同性内斜視であり外来のみでPATを行い,10Δ以内の正位を目標として術量を決定し手術を施行した症例で,術後1カ月以上経過観察が可能であった47例を対象とした.内訳は男性18例,女性29例,年齢は4.75歳(平均19.9±22.8歳)であった.2.屈折検査7歳以下の小児の場合は,0.5%アトロピン点眼を両眼に1日2回,1週間行い,それ以外は1%シクロペントレート点眼で調節麻痺をして屈折検査を行った.屈折異常があれば完全矯正の眼鏡を装用させた.420あたらしい眼科Vol.30,No.3,20133.斜視角の計測遠見は5m離れた距離に設置した点光源を,近見は30cm地点に置いた目標物を視標にAlternateprismcovertest(APCT)で斜視角を計測した.両眼視機能検査では遠見・近見ともに可能な限り融像の有無を判定した.融像の確認は遠見ならびに近見において視標が1つに見えるかどうかで確認を行った.4.PATによる斜視角測定法プリズムレンズ(フレネル膜プリズム検眼セット4000・5000:中央産業株式会社)を使用して検査を行った.両眼の視力差がなければプリズムジオプトリーを等分にしたプリズムレンズを両眼に装用し,両眼に視力差があれば,視力の良いほうに強めのプリズムジオプトリーのプリズムレンズを装用させた.30分後にAPCTを行い,融像を確認して斜視角が0.10Δ以内におさまり融像の確認ができればその斜視角で決定とした.一方,10Δ以上の内斜視もしくは外斜視が生じる場合は,再度プリズムレンズの変更を行い斜視角が10Δ以内に収まるようにプリズムジオプトリーを増減して斜視角を決定した.これを,決定した斜視角が同等の場合は2回で変動する場合は3回以上,検査日を変えて,外来のみで施行した.5.手術方法,手術定量輪部結膜切開もしくは放射状結膜切開で外眼筋を露出し,筋の付着部から内直筋後転術,外直筋切除術もしくは両方を施行した.後転術・切除術はともに筋を7-0ナイロン糸で強膜に3カ所縫合固定し,結膜は9-0シルク糸で縫合した.定量としては,斜視角3Δ当たり1mmとして計算した.6.検討項目,手術成績の判定PAT前後の斜視角の変化,術後の眼位変化,術後の斜視角の推移,眼位矯正量について検討を行った.術後の眼位に関しては,APCTにて10Δ以上の外斜視,10Δ以内の外斜視,正位,10Δ以内の内斜視,10Δ以上の内斜視の5つのカテゴリーに分類した場合のそれぞれの成績に加えて,術後10Δ以内に眼位が収まっている状態を手術成功と定義した場合の術後1年・2年における手術成功率を検討した.また,PATをしなかったと仮定した場合の術後眼位を『PATを施行した場合の術後斜視角+PATでの増加斜視角』と定義して,この場合の手術成功率も検討した.術後の斜視角の推移については術後1カ月,3カ月,6カ月,1年,1年半,2年において検討を行った.眼位矯正量に関しては,術前斜視角.残存斜視角を手術での矯正斜視角と考え,この矯正斜視角を筋移動量で除したものを眼位矯正量と定義し,術後1カ月,3カ月,6カ月,1年,1年半,2年の観察期間においてそれぞれ検討した.(134) II結果1.PAT前後の斜視角の変化遠見ではPAT前30.6±11.4ΔからPAT後で33.6±10.7Δと有意な増加がみられた(p<0.01).近見でもPAT前30.4±12.7ΔからPAT後に34.9±12.7Δと有意な増加がみられた(p<0.01)(図1).10Δ以上斜視角度が増加した症例は26.7%であった.2.術後成績術後の眼位は10Δ以上の外斜視,10Δ以内の外斜視,正位,10Δ以内の内斜視,10Δ以上の内斜視の5つのカテゴリーで分類すると,術後1年ではそれぞれ1例(3%),2例(6%),7例(22%),14例(44%),8例(25%)であり,術後2年ではそれぞれ1例(5%),1例(5%),5例(24%),9例(43%),5例(24%)であった.手術成功率は術後1年で72%(23/32例),術後2年では71%(15/21例)であった.PATをせずに手術を行った場合の術後眼位は,10Δ以上の外斜視,10Δ以内の外斜視,正位,10Δ以内の内斜視,10Δ以上の内斜視と分けると,術後1年ではそれぞれ1例(3%),2例(6%),2例(6%),13例(41%),14例(44%),術後2年では1例(5%),1例(5%),4例(19%),6例(29%),9例(43%)であり,PATを施行せずに手術を行った場合の眼位矯正成功率は,術後1年で53%(17/32例),術後2年で52%(11/21例)であった(表1).手術成功の割合は今回の結果では,PATをした症例のほうが高かった.3.術後の斜視角の推移術後の斜視角を術前,術後1カ月,3カ月,6カ月,1年,1年半,2年としたところ,遠見はそれぞれ33.6±10.7Δ,4.8±9.2Δ,4.8±7.0Δ,4.1±6.0Δ,6.0±6.8Δ,5.4±7.1Δ,5.8±6.8Δであり,近見はそれぞれ34.9±12.7Δ,6.3±6.5Δ,(PD)(PD)*6050403020100*6050403020100PAT前PAT後PAT前PAT後遠見*p<0.01近見図1PAT前後の斜視角の変化PAT前後で遠見・近見ともに斜視角の有意な増加がみられる.表1術後成績眼位PAT施行PATなし術後1年(n=32)術後2年(n=21)術後1年(n=32)術後2年(n=21)外斜視(≧10Δ)1(3%)1(5%)1(3%)1(5%)外斜視(1≪10Δ)2(6%)1(5%)2(6%)52%1(5%)4(19%)6(29%)正位72%7(22%)71%5(24%)53%2(6%)内斜視(1≪10Δ)14(44%)9(43%)13(41%)内斜視(≧10Δ)8(25%)5(24%)14(44%)9(43%)手術成功率はPATをしたほうが術後1年で72%,術後2年では71%であり,PATをしなかったほうの成功率(術後1年53%,術後2年52%)よりも高い.(PD/mm)(PD)7:遠見6:近見543210Pre1M3M6M1Y1.5Y2Y1M3M6M1Y1.5Y2Y(n=41)(n=38)(n=32)(n=26)(n=21)(n=41)(n=38)(n=32)(n=26)(n=21)図2術後の斜視角の推移図3眼位矯正量術後の斜視角は術後1カ月.2年の観察期間中で安定しており,眼位矯正量は術後1カ月,3カ月,6カ月,1年,1年半,2年明らかな戻りは認めなかった.において約3mm程度で大きな変動はなかった.6050403020100-10:遠見:近見(135)あたらしい眼科Vol.30,No.3,2013421 5.8±7.7Δ,6.3±7.6Δ,5.9±8.1Δ,5.8±9.3Δ,4.3±8.7Δと,いずれも術前に比べて術後1カ月の時点で有意に斜視角が減少していた(p<0.01).また,術後1カ月から2年の観察期間中で眼位は安定しており,明らかな戻りは認めなかった(図2).4.眼位矯正量(Δ.mm)術後1カ月,3カ月,6カ月,1年,1年半,2年における眼位矯正量は,遠見でそれぞれ3.1±0.9Δ/mm,3.1±0.9Δ/mm,3.3±0.8Δ/mm,3.2±1.1Δ/mm,3.1±1.1Δ/mm,3.3±1.2Δ/mmであり,近見ではそれぞれ3.1±0.9Δ/mm,3.2±0.9Δ/mm,3.2±0.9Δ/mm,3.3±1.0Δ/mm,3.3±1.2Δ/mm,3.5±1.1Δ/mmであった(図3).統計学的に有意な変化は認められなかった.III考按今回,内斜視手術の術量決定に際して,入院ではなく外来診察時のみでPATを行い,その手術成績を検討した.PATの前後においては,遠見で平均約3Δ,近見で約4.5Δの有意な斜視角の増加が認められた.PATにより術量を決定した場合の手術成功率は術後1年で72%,術後2年で71%であり,PATをせずに手術を行った場合は成功率が術後1年で53%,術後2年で52%であることと比較すると良好な成績であった.また,術後の斜視角は術後1カ月から2年における観察期間中で眼位は安定しており,明らかな戻りも認めず眼位矯正量としても約3Δ/mmで安定していた.今回の報告が既報と大きく違う点は,PATを入院のうえ5.7日かけてプリズムレンズ装用をさせて行っているのではなく,外来時に30分程度のPATを行い,10Δ以内におさまる斜視角において術量を決定している点であり,既報よりもPATが簡便だということである.この簡便なPATであっても顕性斜視角のみで内斜視手術を行う場合に比べて良好な手術成績が認められた.PATを行わず顕性斜視角で内斜視手術をする場合は最大融像幅における斜視角を検出できていないため,術後に低矯正になる可能性が高いと考えられる.また,既報のPrismAdaptationStudyResearchGroupや大月らの報告では,術後斜視角度が10Δ以内となった割合はそれぞれPAT群では89%,84%であったのに対して,PATを行わず顕性斜視角にて手術を行った群ではそれぞれ79%,78%であり,それぞれの成績が今回の筆者らの報告よりも良好であった.これは,筆者らの術前の融像の確認に原因があるのではないかと考えている.大月らはPATをした際にBagolini線条レンズを装用して融像の確認を行っていたが,筆者らは複視の自覚による融像の確認は行ったが,全例でBagolini線条レンズを使っての網膜対応の確認までは行っておらず,厳密には融像のない症例が混じっていた可能性が考えられる.プリズム中和に対して融像反応を示さない症例は手術成功率が低い2)とされており,Bagolini線条レンズを装用して網膜対応の確認を行っていなかったためこのような手術成功率が低い症例が混じり,PAT施行群ならびにPATを行わなかった群それぞれの手術成績が低下したと考えられる.少数例だがBagolini線条レンズ検査で融像が確認できた症例では良好な術後成績が得られていた.内斜視手術では術後の低矯正を防ぎ術後成績を向上させるためにも,術前のPATによる術量の決定が有効であると考えられた.今回の報告では術後経過も良好で術後の眼位も安定しているが,経過観察期間としては2年程度であり,さらに今後長期にわたる経過観察が必要である.文献1)ScottWE,ThalackerJA:Preoperativeprismadaptationinacquiredesotropia.Ophthalmologica189:49-53,19842)大月洋,中山緑子,岡山英樹ほか:手術を前提としたプリズム視能矯正.日眼会誌90:1707-1713,19863)PrismAdaptationStudyResearchGroup:Efficacyofprismadaptationinthesurgicalmanagementofacquiredesotropia.ArchOphthalmol108:1248-1256,19904)BurkeJP,ScottWE,StewartSA:Pre-operativeprismadaptationinacquiredestropia.BrOrthoptJ51:41-44,19905)RepkaMX,ConnettJE,ScottWE:Theone-yearsurgicaloutcomeafterprismadaptationforthemanagementofacquiredesotropia.Ophthalmology103:922-928,19966)HwangJM,MinBM,ParkSCetal:Arandomizedcomparisonofprismadaptationandaugmentedsurgeryinthesurgicalmanagementofesotropiaassociatedwithhypermetropia:one-yearsurgicaloutcomes.JAAPOS5:31-34,20017)Veronneau-TroutmanS:Prismadaptationtest(PAT)inthesurgicalmanagementofacquiredesotropia.ArchOphthalmol109:765-766,19918)大月洋,長谷部聡,田所康徳ほか:後天性内斜視に対するプリズム中和の評価.日眼会誌96:910-915,1992***422あたらしい眼科Vol.30,No.3,2013(136)