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ドルゾラミド塩酸塩/チモロールマレイン酸塩配合点眼液への切り替え経験

2013年2月28日 木曜日

《原著》あたらしい眼科30(2):261.264,2013cドルゾラミド塩酸塩/チモロールマレイン酸塩配合点眼液への切り替え経験早川真弘澤田有阿部早苗渡部広史石川誠藤原聡之吉冨健志秋田大学大学院医学系研究科医学専攻病態制御医学系眼科学講座EfficacyofSwitchingtoFixedCombinationofDorzolamide-TimololMasahiroHayakawa,YuSawada,SanaeAbe,HiroshiWatabe,MakotoIshikawa,ToshiyukiFujiwaraandTakeshiYoshitomiDepartmentofOphthalmology,AkitaUniversityGraduateSchoolofMedicine目的:多剤併用療法中の緑内障点眼をドルゾラミド/チモロール合剤に切り替えた経験の報告.対象および方法:原発開放隅角緑内障16例16眼において,プロスタグランジン(prostaglandin:PG)製剤とチモロールまたは炭酸脱水酵素阻害薬(carbonicanhydraseinhibitor:CAI)の2剤併用を,PG製剤とドルゾラミド/チモロール合剤に切り替えた場合と,PG製剤,CAI,チモロールの3剤併用をPG製剤とドルゾラミド/チモロール合剤に切り替えた場合の眼圧変化を調べた.結果:2剤併用からの切り替えでは有意な眼圧下降が得られ,3剤併用からの切り替えでは平均眼圧に有意な変化はみられなかったが,症例のなかには眼圧上昇するものがみられた.結論:ドルゾラミド/チモロール合剤は,成分単剤点眼でさらなる眼圧下降が必要な場合,単剤併用にてアドヒアランスの向上が目的の場合のいずれの切り替えにおいても有用であるが,アドヒアランスが良好な症例では切り替えによって眼圧下降効果の減弱が起こる可能性がある.Purpose:Toreportanexperienceofswitchingtothefixedcombinationofdorzolamide-timolol(FCDT)fromconcomitantuseofitscomponentsmedications.SubjectsandMethods:Insubjectscomprising16eyesof16casesofprimaryopenangleglaucoma,theintraocularpressure(IOP)-loweringeffectofFCDTwasevaluatedintwogroups:onewasusing2medications:prostaglandin(PG)andtimololorcarbonicanhydraseinhibitors(CAI),andswitchedtoPGandFCDT;theotherwasusing3medicationsofPG,CAI,andtimolol,andswitchedtoPGandFCDT.Results:Whentheswitchwasfrom2medications,IOPwassignificantlylowered.Whentheswitchwasfrom3medications,IOPdidnotstatisticallychanged,althoughitelevatedinsomecases.Therewasnodifferenceinsafetyaspectbetweenbeforeandafterswitching.Conclusion:SinceIOPmayelevateafterswitching,stayingwiththecurrentregimencouldbeanoptionwhenadherenceisgoodwiththreemedications.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(2):261.264,2013〕Keywords:ドルゾラミド塩酸塩/チモロールマレイン酸塩配合点眼液,切り替え試験,アドヒアランス,眼圧下降効果,安全性.fixedcombinationofdorzolamide-timolol,switchtest,adherence,intraocularpressureloweringeffect,safety.はじめに緑内障診療では目標眼圧を達成するために多剤併用を必要とすることがあるが,患者負担の増大によるアドヒアランスの低下が懸念され1),配合剤はその解決策の一つとして注目されている2).ドルゾラミド塩酸塩/チモロールマレイン酸塩配合点眼液(以下,ドルゾラミド/チモロール合剤)は,欧米では1998年に承認されており,10年以上の使用経験からその有効性と安全性についてすでに多数の報告がある3).わが国でも2010年よりドルゾラミド/チモロール合剤が使用可能となった.今回筆者らは,原発開放隅角緑内障で多剤併用療法を受けている症例において,ドルゾラミド/チモロール合剤へ点眼を切り替えた症例を複数経験し,その眼圧〔別刷請求先〕澤田有:〒010-8543秋田市本道1-1-1秋田大学大学院医学系研究科医学専攻病態制御医学系眼科学講座Reprintrequests:YuSawada,M.D.,DepartmentofOphthalmology,AkitaUniversityGraduateSchoolofMedicine,1-1-1Hondo,Akita010-8543,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(127)261 下降効果と安全性について若干の知見を得たので報告する.I対象および方法対象は,秋田大学附属病院で多剤併用療法を受けている原発開放隅角緑内障患者16例16眼で,その内訳は,男性9例9眼,女性7例7眼である.平均年齢は63.6±11.6歳で,狭義原発開放隅角緑内障は7例7眼,正常眼圧緑内障は9例9眼であった.ドルゾラミド/チモロール合剤への切り替えは休薬期間を設けずに行われ,切り替え前の治療によりつぎの2通りに分けられた.一つは,プロスタグランジン(prostaglandin:PG)製剤と,0.5%チモロールまたは炭酸脱水酵素阻害薬(carbonicanhydraseinhibitor:CAI)(ドルゾラミドまたはブリンゾラミド)の2剤を併用していて,さらなる眼圧下降が必要な場合である(切り替えA).もう一つは,すでにPG製剤,CAI,チモロールの3剤を併用しているが,アドヒアランス向上の目的でCAIとチモロールをドルゾラミド/チモロール合剤に切り替えた場合である(切り替えB).対象数は,切り替えAが9例9眼,切り替えBが7例7眼であった.PG製剤の内訳はラタノプロスト5例,トラボプロスト5例,タフルプロスト4例,ビマトプロスト2例であり,切り替え前後でPG製剤の変更はなかった.これらの2つの場合について,切り替え4週後,12週後の眼圧をGoldmann圧平眼圧計で測定し,切り替え前の眼圧と比較した.また,点眼の副作用について,角膜上皮障害と結膜充血の程度を調べ,これらを切り替え前後で比較した.角膜上皮障害の程度はびまん性表層角膜炎の重症度A-D(area-density)分類に基づいて評価した4).角膜上皮障害の判定は,点眼麻酔の前にフルオレセインペーパーを生理食塩水で湿らせ点入し,判定した.結膜充血の程度は,結膜の血管が容易に観察できる(.),結膜に限局した発赤が認められる(1+),結膜に鮮赤色が認められる(2+),結膜に明らかな充血が認められる(3+)を基準として評価した.統計解析は,評価方法が同じ対象に対して4週,12週後に眼圧を調べる反復性測定なため,二元配置分散分析を用い,切り替え後の眼圧変化が有意かどうか調べた.II結果各症例について,切り替え前,切り替え4週後,12週後の眼圧と,角膜上皮障害,結膜充血の程度を表にて提示し表1切り替えA(PG+b.blockerまたはCAIからの切り替え)性別年齢(歳)切り替え前点眼眼圧(mmHg)角膜上皮障害結膜充血PGb-blockerCAI切替前4週後12週後切替日4週後12週後切替日4週後12週後女性男性女性男性男性男性女性女性女性765071766650714646TaBTaDBTTaBToBTaDLTToBToT22161514141517149201818182018141415181413151516201716000000000000A1D1A1D1A1D1000A1D1A1D1A1D100000001+0001+000000000000000000000〔PG〕L:ラタノプロスト,To:トラボプロスト,Ta:タフルプロスト,B:ビマトプロスト.〔b-blocker〕T:チモロール.〔CAI〕D:ドルゾラミド,B:ブリンゾラミド,PG:プロスタグランジン製剤,CAI:炭酸脱水酵素阻害薬.表2切り替えB(PG+b.blocker+CAIからの切り替え)性別年齢(歳)切り替え前点眼眼圧(mmHg)角膜上皮障害結膜充血PGb-blockerCAI切替前4週後12週後切替日4週後12週後切替日4週後12週後男性男性男性男性男性男性男性69487375506961LTDLTDBTBLTDToTDLTDToTD201618211418151817131420181821151521161722000000000A1D1000000000000000000001+1+000001+1+000〔PG〕L:ラタノプロスト,To:トラボプロスト,B:ビマトプロスト.〔b-blocker〕T:チモロール.〔CAI〕D:ドルゾラミド,B:ブリンゾラミド,PG:プロスタグランジン製剤,CAI:炭酸脱水酵素阻害薬.262あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013(128) た.表1は切り替えA,表2は切り替えBの結果である.平均眼圧の変化は,切り替えAでは切り替え前17.6±2.1mmHgから切り替え4週後15.8±2.2mmHg,12週後15.0±2.7mmHgで,切り替え後の眼圧下降は有意であった(p=0.0197).切り替え後の時期でみると,4週後に眼圧下降傾向がみられ,12週後には有意な変化となった(p=0.0230).切り替えBでは,切り替え前の眼圧は16.1±2.5mmHg,切り替え4週後15.9±1.9mmHg,12週後18.4±3.0mmHgで,切り替え前後で眼圧に有意な変化はみられなかった(p=0.0961)が,個々の症例をみると,切り替え後に眼圧が上昇したものがみられた(表2).副作用は,切り替え前に軽度の角膜上皮障害がみられたものがあったが,切り替え後もその程度は同等であった.充血は,切り替えAでCAIを点眼していた症例において,切り替え後チモロールが加わることで充血が軽減したものがあった.III考按今回のドルゾラミド/チモロール合剤への切り替え経験では,チモロールまたはCAIの単剤をドルゾラミド/チモロール合剤に切り替えた場合は眼圧が有意に下降していた.チモロールとCAIの単剤併用を合剤に切り替えた場合は,切り替え後に有意な眼圧変化はみられなかったが,症例のなかには眼圧が上昇したものがみられた.角膜上皮障害と結膜充血の程度は切り替え前後でほぼ同等であった.緑内障の治療において,眼圧下降は唯一エビデンスが示されている治療法であり5),目標眼圧を達成するために多剤併用が必要となる場合も多い.薬剤の数が増えて点眼方法が複雑になるとアドヒアランスの低下が問題となる1)が,配合剤はこれを解決する手段となることが期待されている2).配合剤に期待される利点は,点眼方法の単純化(点眼回数の減少や,点眼に要する時間の短縮),あとに点眼した薬剤による先に点眼した薬剤の洗い流しの回避,点眼薬に含まれる防腐剤による角膜上皮障害の軽減,患者の経済的負担の軽減などで,これらが改善することにより患者の利便性が増し,アドヒアランスが向上することが期待される.わが国では2010年にドルゾラミド/チモロール合剤,ラタノプロスト/チモロール合剤,トラボプロスト/チモロール合剤が相ついで発売された.ドルゾラミド/チモロール合剤は欧米では10年以上前から使用されており,その治療成績についてはすでに多数の報告がある3).チモロールまたはドルゾラミドの単剤とドルゾラミド/チモロール合剤の眼圧下降効果を比較した報告では,合剤は成分単剤と比較して有意に眼圧を下降させたという8).また,ドルゾラミド/チモロール合剤1日2回点眼と,チモロール1日2回とドルゾラミド1日3回点眼の単剤併用の効果を比(129)較した無作為化コントロール研究では,合剤と単剤併用の眼圧下降効果および安全性は,3カ月の点眼にてほぼ同等であったという3).単剤併用から合剤に休薬期間なしに切り替えた,より実際の診療に近い設定で施行された研究でも,1年の経過観察期間で,合剤の眼圧下降効果は単剤併用と同等であったという3).一方,切り替え試験のなかには,切り替え後に眼圧は有意に下降したという報告もあり6.8),その原因として点眼方法の単純化による患者のアドヒアランスの向上があげられている.今回の筆者らの経験では,単剤からの切り替えでは有意な眼圧下降がみられた.チモロールとCAIの単剤併用からドルゾラミド/チモロール合剤への切り替えでは平均眼圧に有意な変化はみられなかったが,個々の症例のなかには切り替え後に眼圧が上昇したものがあった.これは,合剤に切り替えたことで単剤併用時よりも点眼回数が減って,3剤を確実に点眼していた場合には眼圧下降効果の減弱が起こる可能性があることを示唆している.このため,アドヒアランスが良く,3剤併用で眼圧下降が良好な場合には,合剤に切り替えずにそのままの治療を継続することも選択肢の一つであると思われる.また,角膜への影響については,ドルゾラミド/チモロール合剤はpHが5.5.5.8と酸性で点眼時に刺激感があり,チモロールによる涙液分泌低下の影響も加わって,角膜上皮障害を起こしやすいことが考えられる.今回の経験では角膜上皮障害を生じた症例は少なかったが,切り替え前から緑内障薬を多剤併用していたことを考え合わせると,実際はもっと高い頻度で障害が生じていた可能性がある.このことから,角膜上皮障害の判定方法について再度検討する必要があると思われた.以上,ドルゾラミド/チモロール合剤への切り替え経験について報告した.今回の経験では症例数が少なかったため,今後は症例数を増やし,同剤の効果をさらに検証していく必要がある.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)GreenbergRN:Overviewofpatientcompliancewithmedicationdosing:Aliteraturereview.ClinTher6:592-599,19842)KaisermanI,KaisermanN,NakarSetal:Theeffectofcombinationpharmacotherapyontheprescriptiontrendsofglaucomamedications.Glaucoma14:157-160,20053)StrohmaierK,SnyderE,DuBinerHetal:Theefficacyandsafetyofthedorzolamide-timololcombinationversustheconcomitantadministrationofitscomponents.Ophあたらしい眼科Vol.30,No.2,2013263 thalmology105:1936-1944,19984)宮田和典,澤充,西田輝夫ほか:びまん性表層角膜炎の重症度の分類.臨眼48:183-188,19945)SchulzerM,TheNormalTensionGlaucomaStudyGroup:Intraocularpressurereductioninnormal-tensionglaucomapatients.Ophthalmology99:1468-1470,19926)ChoudhriS,WandM,ShieldsMB:Acomparisonofdorzolamide-timololcombinationversustheconcomitantdrugs.AmJOphthalmol130:832-833,20007)GugletaK,OrgulS,FlammerJ:ExperiencewithCosopt,thefixedcombinationoftimololanddorzolamide,afterswitchfromfreecombinationoftimololanddorzolamide,inSwissophthalmologists’offices.CurrMedResOpin19:330-335,20038)BacharachJ,DelgadoMF,IwachAG:Comparisonoftheefficacyofthefixed-combinationtimolol/dorzolamideversusconcomitantadministrationoftimololanddorzolamide.JOculPharmacolTher19:93-96,2003***264あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013(130)

β遮断薬/炭酸脱水酵素阻害薬配合点眼液に切り替えた緑内障患者の効果および安全性

2012年2月29日 水曜日

《原著》あたらしい眼科29(2):253.257,2012cb遮断薬/炭酸脱水酵素阻害薬配合点眼液に切り替えた緑内障患者の効果および安全性武田桜子上村文松原正男東京女子医科大学東医療センター日暮里クリニックE.cacyandSafetyofSwitchtotheDorzolamide/TimololFixedCombinationinGlaucomaPatientsSakurakoTakeda,AyaUemuraandMasaoMatsubaraTokyoWomen’sMedicalUniversityMedicalCenterEast,NipporiClinic多剤使用している緑内障治療薬の種類を減らし,またはさらに眼圧を下げたい症例で,b遮断薬と炭酸脱水酵素阻害薬〔以下,CAI(carbonicanhydraseinhibitor)〕の配合点眼液(コソプトR配合点眼液,以下,b/CAI配合点眼液)に切り替えたときの眼圧,眼圧下降率およびアドヒアランスを調べた.32人の原発開放隅角緑内障,正常眼圧緑内障を6カ月にわたり調査した.b遮断薬とCAIを併用していた患者において,b/CAI配合点眼液への変更では,眼圧は有意な変化を示さず,b遮断薬のみ点眼の患者では,b/CAI配合点眼液への変更で眼圧は有意に変化した.84.2%の患者がb/CAI配合点眼液を続けたいと答えた.The.xedcombinationofdorzolamide/timolol(CosoptR)isapotentregimenforloweringintraocularpressure(IOP)andisexpectedtobebene.cialinreducingthenumberofinstillationsforbetterpatientcompliance.Enrolledinthisstudywere32glaucomapatientswithprimaryopen-angleglaucomaornormal-tensionglaucomawhohadbeentreatedwithtopicalanti-glaucomamedications.IOPandIOP-loweringratewereevaluatedat6monthsafterswitchingtoa.xedcombinationofdorzolamide/timolol.Theresultsindicatedthatthe.xedcombina-tionofdorzolamide/timololwasase.ectiveinloweringIOPastheconcomitantadministrationofdorzolamideandtimolol,andwasmoree.ectivethanbeta-blockermonotherapy.Oftheenrolledpatients,84.2%preferredtocon-tinueusingthe.xedcombinationofdorzolamide/timolol.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(2):253.257,2012〕Keywords:b遮断薬/炭酸脱水酵素阻害薬配合点眼液,切り替え試験,眼圧下降率.dorzolamide/timolol.xedcombi-nation,switching,intraocularpressureloweringrate.はじめに緑内障は,多治見スタディでわが国の有病率は5%と報告されている1)が,治療により回復,通院終了することのない慢性疾患であるため,高齢化に伴い今後日常診察での患者数は増え続けると予想される.緑内障治療には眼圧を恒常的に下げることが最も重要であり2),単剤で眼圧コントロールが不十分である際には多剤併用療法を行う必要がある.したがって罹患期間が増えるほど,また眼圧が高いほど多剤併用の患者数は増えていく傾向にある.しかし多種類の点眼を使用すると点眼に費やす時間や手間が増え,結果的にアドヒアランスの低下やqualityoflife(QOL)を下げる可能性がある.b遮断薬と炭酸脱水酵素阻害薬〔以下,CAI(carbonicanhydraseinhibitor)〕の配合点眼液であるコソプトR(0.5%チモロールマレイン酸塩/1%ドルゾラミド塩酸塩)配合点眼液(以下,b/CAI配合点眼液)は,色素沈着や睫毛などの変化がなく眼圧下降効果の高い配合点眼液として,海外では10年以上前から使用されており,2010年6月にわが国でも〔別刷請求先〕武田桜子:〒116-0013東京都荒川区西日暮里2-20-1ステーションポートタワー5階東京女子医科大学東医療センター日暮里クリニックReprintrequests:SakurakoTakeda,M.D.,TokyoWomen’sMedicalUniversityMedicalCenterEast,NipporiClinic5F,2-20-1Nishi-Nippori,Arakawa-ku,Tokyo116-0013,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(105)253表1前治療薬と変更内容変更前変更後症例数薬剤減少群(3剤→2剤)bから変更追加群(1剤→1剤)b遮断薬+CAI+PGb遮断薬b遮断薬+PG配合点眼液+PG配合点眼液配合点眼液+PG1964その他群CAI+PG配合点眼液+PG2PG配合点眼液1発売となった.これまでのところ,海外ではb/CAI配合点眼液とb遮断薬およびCAI併用との比較では,b/CAI配合点眼液がb遮断薬およびCAI併用と同等の効果3,4),もしくは上回っている5)といった報告がある.しかし日本で発売されているb/CAI配合点眼液はドルゾラミド塩酸塩濃度が1%であり,海外の2%と比べて低濃度であるので単純に引用することはできない.また現在,日本での長期点眼での眼圧推移や眼合併症に関する臨床報告はない.今回,多剤併用治療症例あるいは眼圧下降効果が不十分な症例をb/CAI配合点眼液へ切り替え,その効果をレトロスペクティブに調べ,併せて自覚症状,使用感,点眼遵守状況などの調査を実施したので報告する.I対象および方法対象は治療中の広義の原発開放隅角緑内障患者32例32眼(男性16例,女性16例,平均年齢67.0±10.5歳).病型は原発開放隅角緑内障(primaryopen-angleglaucoma:POAG)11例,正常眼圧緑内障(normaltension-glaucoma:NTG)21例である.b遮断薬とCAI,プロスタグランジン関連薬(以下,PG関連薬)の3剤からb遮断薬とCAIをb/CAI配合点眼液に切り替え,3種類から2種類へと総数を減少した群(以下,薬剤減少群とする),b遮断薬1剤からb/CAI配合点眼液1剤に変更追加した群(以下,bから変更追加群とする),他にPG関連薬とb遮断薬もしくはCAIの2剤併用からPG関連薬とb/CAI配合点眼薬への同数変更追加,およびPG関連薬からb/CAI配合点眼液への変更追加(以下,その他群とする)に分けて検討した(表1).評価観察期間は切り替え後6カ月としたが,その間で脱落した症例も脱落時点まで併せて調査した.眼圧評価対象眼は,両眼投与群では眼圧の高い眼を,眼圧が同等であれば右眼を,片眼性視野障害をきたしている眼では障害眼を対象とした.抗緑内障点眼液を2カ月以上連続して使用していない症例,半年以内にレーザー治療を含む内眼手術を受けた症例,ぶどう膜炎などの炎症性疾患,ステロイドの点眼または内服治療中の症例は解析対象から除外した.また,他の併用薬剤は変更しなかった症例を対象とした.併せて,自覚症状,使用感,点眼遵守状況について調査を行った.有意差検定について,点眼効果の判定は,切り替え時の眼圧測定値からの変化率を切り替え6カ月まで集計し,眼圧下降値をSteel’smultiplecomparisontestにて多重比較を,点眼遵守状況については切り替え前後でMann-Whitney-U検定を行い,p<0.05(両側)を有意とした.II結果6カ月の観察期間のうち,脱落例は3例,すべてその他群の症例であった.それぞれ1カ月,4カ月,5カ月後に配合点眼薬を中止した.理由は後述するが,いずれも眼圧上昇によるものではなかった.1.眼圧について全症例では,眼圧は切り替え前12.6±2.8mmHg(平均±標準偏差),切り替え時13.5±2.2mmHg,切り替え2週後で12.1±2.5mmHg,1カ月後で11.5±2.8mmHg,2カ月後で12.0±2.4mmHg,3カ月後で11.9±2.3mmHg,4カ月後で12.5±2.4mmHg,5カ月後で12.0±1.9mmHg,6カ月後で12.9±2.2mmHgであった.眼圧下降率は切り替え前から切り替え時に対して9.5±17.9%であったが,切り替え2週後.7.5±13.7%,1カ月後.14.4±17.1%,2カ月後.10.9±15.2%,3カ月後.11.3±12.5%,4カ月後.8.9±13.8%,5カ月後.10.0±14.0%,6カ月後.4.3±15.8%であり,6カ月後以外はすべて,切り替え時からの眼圧下降率に有意差が認められた(表2).切り替え後6カ月の眼圧において,b/CAI配合点眼液へ切り替え時の眼圧と比較して2mmHg以上の眼圧下降(以下,改善群とする)がみられたのは38.0%(11/29例),2mmHg以上眼圧が上昇した症例(以下,悪化群とする)は表2切り替え後の眼圧下降率(全症例)投与時期眼圧下降率(Mean±SD)p値*切り替え2週後.7.5±13.70.0126切り替え1カ月後.14.4±17.10.0010切り替え2カ月後.10.9±15.20.0094切り替え3カ月後.11.3±12.50.0003切り替え4カ月後.8.9±13.80.0008切り替え5カ月後.10.0±14.00.0016切り替え6カ月後.4.3±15.80.3172*:Steel-test(多重比較)(vs0週).254あたらしい眼科Vol.29,No.2,2012(106):悪化:不変:改善100%80%60%40%20%0%5411311621141全症例薬剤減少群bから変更群その他群図16カ月後における改善群,不変群,悪化群17.2%(5/29例),±2mmHg未満の変動(以下,不変群とする)は44.8%(13/29例)であり,82.8%でb/CAI配合点眼液に切り替えても,眼圧は改善あるいは維持された(図1).薬剤減少群(n=19)では,切り替え前12.5±2.5mmHg,切り替え時13.7±2.2mmHg,切り替え2週後12.7±2.0mmHg,1カ月後12.6±2.6mmHg,2カ月後12.3±1.8mmHg,3カ月後12.6±2.0mmHg,4カ月後13.2±2.1mmHg,5カ月後12.8±2.0mmHg,6カ月後13.6±1.9mmHgであった.眼圧下降率は切り替え前から切り替え時に対して11.6±21.4%であったが,切り替え2週後.3.5±12.7%,1カ月後.7.3±15.9%,2カ月後.8.4±16.2%,3カ月後.6.8±12.0%,4カ月後.3.1±12.6%,5カ月後.5.0±14.2%,6カ月後0.6±14.4%であり,いずれの期間においても切り替え時からの眼圧下降率は有意ではなかった(図2).切り替え後6カ月での眼圧において改善群,悪化群ともに21.1%(4/19例),不変群は57.9%(11/19例)であった.79%がb/CAI配合点眼液に切り替えても眼圧は改善あるいは維持された(図1).つぎに,bから変更追加群(n=6)では切り替え前14.5±3.7mmHg,切り替え時14.3±2.4mmHg,切り替え2週後12.2±4.0mmHg,1カ月後10.0±2.9mmHg,2カ月後12.6±3.4mmHg,3カ月後11.7±3.1mmHg,4カ月後12.0±2.7mmHg,5カ月後11.0±1.8mmHg,6カ月後11.3±1.4mmHgであった.眼圧下降率は切り替え前から切り替え時に対して0.3±9.2%であったが,切り替え2週後で.14.9±18.3%,1カ月後.30.7±13.3%,2カ月後.14.7±8.6%,3カ月後.19.4±7.9%,4カ月後.20.2±5.6%,5カ月後.18.7±10.2%,6カ月後.20.4±5.6%であり,切り替え後すべての投与時期において切り替え時からの眼圧下降率は有意であった(図2).切り替え6カ月後での眼圧はすべての症例(6例)が改善群に分類される2mmHg以上の眼圧下降を呈した(図1).その他群(n=7)では,切り替え前11.1±2.3mmHg,切り替え時12.3±1.8mmHg,切り替え2週後10.7±2.0mmHg,Δ%200-20-40:bから変更追加群:その他群-600週2週1月2月3月4月5月6月図2切り替え後の眼圧下降率(薬剤減少群,bから変更追加群,その他群)1カ月後9.9±2.0mmHg,2カ月後10.3±2.9mmHg,3カ月後10.0±1.1mmHg,4カ月後10.0±1.7mmHg,5カ月後10.8±1.0mmHg,6カ月後11.8±3.3mmHgであった.眼圧下降率は切り替え前から切り替え時に対して11.6±9.9%であったが,切り替え2週後で.10.0±10.5%,1カ月後.19.7±12.0%,2カ月後.15.9±16.3%,3カ月後.16.4±13.3%,4カ月後.20.8±10.8%,5カ月後.16.3±11.7%,6カ月後.3.1±18.8%であり,切り替え2週後,2カ月後,6カ月後以外は切り替え時からの眼圧下降率に有意差が認められた(図2).切り替え6カ月後での眼圧は改善群,および悪化群がそれぞれ25.0%(1/4例),不変群は50.0%(2/4例)であり75%の症例で,切り替えても眼圧は改善あるいは維持された(図1).2.自覚症状について1カ月で脱落した症例以外について,切り替え2.3カ月後の時点で点眼時の自覚症状(しみる,充血,異物感,痛み,かゆみ,なんともない,その他)について検討した.しみると答えたのが25.0%(8/32例)であったが,いずれも点眼続行は可能と答えており,点眼続行に支障をきたすものではなかった.他に充血,異物感,痛み,かゆみなどの自覚はみられなかった.表3薬剤減少群での点眼遵守状況変更前変更後p値*n(%)n(%)ア)つけ忘れない1263.21368.41.0000イ)3週間に一度631.6526.3ウ)2週間に一度15.315.3エ)1週間に一度00.000.0オ)もっと忘れる00.000.0計19100.019100.0*:Mann-Whitney-U検定.(107)あたらしい眼科Vol.29,No.2,2012255表4薬剤減少群での点眼に関する患者評価点眼が減ったことに関する印象(重複回答あり)n(%)継続希望の有無n(%)ア)回数や種類が減って楽になった1666.7ア)続けたい1684.2イ)回数が減ってつけ忘れがなくなってきた625.0イ)前の目薬に戻したい00.0ウ)回数や種類が少ないと物足りない,心配00.0ウ)どちらでもよい315.8エ)なんとも思わない28.3計19100.0オ)その他00.0計24100.03.点眼遵守状況について薬剤減少群で,切り替え前後での点眼付け忘れ頻度は有意差(Mann-Whitney-U検定)がみられなかったが,回数や種類が減って楽になった(66.7%),つけ忘れがなくなってきた(25.0%)との回答が多かった(表3).b/CAI配合点眼液についての評価としては84.2%が続けたいと答え,前の点眼構成に戻したいと希望する症例はいなかった(表4).4.副作用および脱落例(3症例)すべてその他群の症例で認められた.PG関連薬単剤からb/CAI配合点眼液に変更した1症例では,点眼変更1カ月後に霧視感の訴えがあり角膜障害AD(Area-Density)分類A1D1がA1D3に増悪していたため点眼を元に戻した.PG関連薬とCAIからPG関連薬とb/CAI配合点眼液に変更したなかで,基礎疾患に成人型アトピーがあった症例に,眼瞼炎(眼瞼掻痒感,眼瞼発赤)が生じた.点眼3カ月後に発症したが,5mmHg程度の眼圧下降がみられ,本人の強い希望で5カ月まで継続したものの眼瞼炎の改善はなく中止とし,その後選択的レーザー線維柱帯形成術を施行した.PG関連薬とb遮断薬からPG関連薬とb/CAI配合点眼液とに切り替えた1例で,色素沈着や睫毛の剛毛化を理由に,併用のPG関連薬を一旦中止した.III考察緑内障は罹患期間や眼圧コントロール,病勢により多剤併用療法になることが多い.仲村らの報告6)によると,忘れずに点眼できる点眼本数は2.5±1.2本なので,点眼本数が3本になるとアドヒアランスが悪くなり点眼効果が十分発揮できない可能性がある.配合剤の使用によって,点眼本数を2本に減らすことができれば患者の時間および手間を減らすことができ,アドヒアランスが悪い患者ではそれを向上させ,できるだけ少ない負担で最大の効果がある点眼薬,点眼方法を選択,点眼指導することができる.配合剤を使用する長所としては前述に加えて,多剤併用に比べ眼に曝露される防腐剤の総量が減る,多剤併用の場合に点眼間隔が短く先に点眼した薬剤が洗い流されてしまうリスクを減らすことができるなどがあり,逆に短所としては単剤を併用時よりも点眼回数が減ることで,特にアドヒアランスが良い患者で眼圧下降効果の減弱が起こらないかという危惧がある.b遮断薬とPG関連薬の配合剤は,各単剤の使用と比べ眼圧も変わらないという報告がある7)が,含まれている本来2回点眼であるべきb遮断薬が,1日1回になることにより,本来の眼圧下降よりも若干効果が弱くなる可能性が懸念される.b遮断薬とCAIの配合点眼液であるb/CAI配合点眼液はb遮断薬の点眼回数は本来の1日2回点眼であるが,CAIの点眼回数は1日3回から2回になっており,同様に眼圧下降作用減弱の可能性が懸念される.しかしながら,ドルゾラミドにおいてはPG関連薬であるラタノプロストと併用した場合,1日3回と2回点眼で,眼圧下降は夕方18時の時点を除き同等であったという報告8)があることから,b遮断薬およびCAIそれぞれの特性をそのまま生かすことのできる配合点眼液である可能性もある.すなわち,純粋に点眼本数を減らすこと,あるいは眼圧下降効果を上げることが可能であるかもしれない.今回,b遮断薬とCAI,PG関連薬の3剤からb/CAI配合点眼液とPG関連薬の2剤に減らした薬剤減少群では,いずれの期間においても眼圧下降率は有意ではなかったが,剤数は減ったものの薬剤内容は同一であるため,当然の結果ということができる.b遮断薬1剤からb/CAI配合点眼液1剤へ切り替えたbから変更追加群では,すべての投与時期において眼圧下降値は有意だったことからみて,CAIが追加された効果が現れていると考えられる.PG関連薬とb遮断薬もしくはCAIの2剤併用からPG関連薬とb/CAI配合点眼液の2剤投与,およびPG関連薬からb/CAI配合点眼液への投与に切り替えた症例は少数例のためその他群として包括したが,2週間後,2カ月後,6カ月後を除き,切り替え前と比べ有意に効果が認められた.b/CAI配合点眼液と,b遮断薬とCAIで効果は同等という海外の論文3,4)の報告は「はじめに」で述べたように,ドルゾラミド塩酸塩濃度が日本と異なる.かつ方法もb遮断薬とCAIからb/CAI配合点眼液への切り替え,もしくは無作為に緑内障患者をb/CAI配合点眼液使用群とb遮断薬お256あたらしい眼科Vol.29,No.2,2012(108)よびCAI併用群に振り分けた前向き切り替え試験などである.今回はPG関連薬も併用しており,また,後ろ向き試験であり,まったく同様の組み合わせ,検討ではない.しかし,併用していたPG関連薬の変更例はなく,今回のPG関連薬を併用したままb遮断薬とCAIからb/CAI配合点眼液へ切り替えた症例で有意な変化がみられなかったという今回の結果は,ほぼ同様の結果とみてよいのではないだろうか.それに加え,全症例において唯一眼圧下降率に有意差がみられなかった切り替え6カ月後でさえ,82.8%が良好な眼圧改善効果を示した.b遮断薬単独からの変更追加群ではすべての症例で2mmHg以上の眼圧下降が得られ,CAI追加の効果がみられた.b遮断薬とCAI,PG関連薬の3剤からb遮断薬とCAIをb/CAI配合点眼液に切り替えた薬剤減少群では,不変群が57.9%と多かったものの,改善群も21.1%あり,点眼変更を試みる価値はある.点眼開始2.3カ月後の調査では,変更前後でつけ忘れ頻度について変わりはなかったが,回数が減り楽になったと答えたのが66.7%,この配合剤を続けたいと希望した症例が84.2%と非常に多かったことから,b/CAI配合点眼液に変更することにより,心理的,時間的負担を軽くできたと考えられる.また,点眼時にしみるのは薬剤のpHが5.5.5.8であることに基づくと思われる.国内で施行された第III相二重盲検比較試験でも9)眼刺激症状として7.9%と報告されている.しかし,今回その多くがしみるが数日で慣れた,しみなくなった,継続したいと答えており,前述の眼圧下降効果を総合すると,客観的および主観的両面から,b/CAI配合点眼液は有用な薬剤と思われる.しかし,今回変更による副作用もあったことから,b遮断薬,CAIそれぞれの欠点が表出する可能性があり,注意が必要である.文献1)IwaseA,SuzukiY,AraieMetal:Theprevalenceofpri-maryopen-angleglaucomainJapanese,TheTajimiStudy.Ophthalmology111:1641-1648,20042)TheAGISInvestigators:Theadvancedglaucomainter-ventionstudy(AGIS):7.Therelationshipbetweencon-trolofintraocularpressureandvisual.elddeterioration.AmJOphthalmol130:429-440,20003)HutzelmannJ,OwensS,SheddenAetal:Comparisonofthesafetyande.cacyofthe.xedcombinationofdorzol-amide/timololandtheconcomitantadministrationofdor-zolamideandtimolol:aclinicalequivalencestudy.Inter-nationalClinicalEquivalenceStudyGroup.BrJOphthal-mol82:1249-1253,19984)FrancisBA,DuLT,BerkeSetal:Comparingthe.xedcombinationdorzolamide-timolol(Cosopt)toconcomitantadministrationof2%dorzolamide(Trusopt)and0.5%timolol-arandomizedcontrolledtrialandareplacementstudy.JClinPharmTher29:375-380,20045)ChoudhriS,WandM,ShieldsMB:Acomparisonordor-zolamide-timololcombinationversustheconco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