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片眼の網膜疾患患者の利き目の検討

2019年12月31日 火曜日

《原著》あたらしい眼科36(12):1596.1599,2019c片眼の網膜疾患患者の利き目の検討加藤舞松井孝子安田節子磯島結菜佐藤幸子田中敦子齋藤昌晃吉冨健志秋田大学医学部眼科学講座CDominantEyeSwitchinginPatientswithUnilateralRetinalDiseaseMaiKato,TakakoMatsui,SetsukoYasuda,YunaIsoshima,SachikoSato,AtsukoTanaka,MasaakiSaitoandTakeshiYoshitomiCDepartmentofOphthalmologyAkitaUniversityGraduateSchoolofMedicineC対象および方法:片眼の網膜疾患患者のうち患眼の視力がClogMAR1.0以下のC234名を対象に完全矯正視力,日常視力を測定した.利き目の判定にはCholeCincard法を用いた.判定結果から,健眼利き目群と患眼利き目群に分け,それぞれの健眼,患眼の完全矯正視力,日常視力および視力差について検討した.結果:Holeincard法で判定した利き目で,健眼が利き目であった群は,165名で患眼が利き目であった群はC69名であった.健眼,患眼の視力差は,完全矯正視力では健眼利き目群でClogMAR0.27±0.29,患眼利き目群でClogMAR0.17±0.21であった.日常視力では健眼利き目群でClogMAR0.42±0.36,患眼利き目群でClogMAR0.21±0.36であった.結論:片眼の網膜疾患患者では健眼が利き目の人が多いことがわかった.健眼利き目群の日常視力での健眼と患眼の視力差がClogMAR0.42であったことから,健眼を完全矯正して視力差をつけ,健眼と患眼の視力差をClogMAR0.4以上にすることが,患眼から健眼に利き目が切り替わる条件の一つになる可能性が示唆された.CPurpose:ToCinvestigateCdominantCeyeCswitchingCinCpatientsCwithCunilateralCretinalCdisease.CSubjectsandMethods:Inthisstudy,best-correctedvisualacuity(BCVA)anddailyvisualacuity(VA)weremeasuredin234patientswithunilateralretinaldiseaseandaVAof.1.0(LogMAR).Inallpatients,the‘holeincard’methodwasusedtodetectthedominanteye.Thepatientswerethendividedintothefollowingtwogroups:1)GroupA(thedominanteyewasthenormalhealthyeye)and2)GroupB(thedominanteyewasthea.ectedeye).Results:Ofthe234patients,therewere165inGroupAand69inGroupB.InGroupAandGroupB,themeandi.erenceofVA(LogMAR)betweenthehealthyeyeandthea.ectedeyewas0.27±0.29CandC0.17±0.21,respectively,andthemeandi.erenceofdailyVA(LogMAR)was0.42±0.36CandC0.21±0.36,respectively.Conclusions:Oftheunilater-alretinaldiseasepatientsinthisstudy,mostwereinGroupA.SincethemeandailyVAdi.erencebetweeneacheyeinGroupAwas0.42(LogMAR),itsuggeststhataVAofLogMAR0.4orhighermaybeoneoftheconditionsthatcausesthedominanteyetoswitchfromthea.ectedeyetothehealthyeye.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)36(12):1596.1599,C2019〕Keywords:利き目,holeincard法,加齢黄斑変性,中心性漿液性脈絡網膜症,網膜.離.dominanteye,holeincardtest,age-relatedmaculardegeneration,centralserousretinopathy,retinaldetachment.Cはじめに視力検査はさまざまな疾患の患者で行われる検査の一つである.片眼の網膜疾患患者の視力検査で,健眼を遮閉し患眼の視力を測定する際に,暗点や歪みなど,患眼での見えにくさを自覚し,訴える患者が多く存在している.しかし,網膜疾患などで片眼の視力が低下しても,日常視では両眼で見ているため,その患者が患眼の視力検査時に訴える見えにくさを日常生活の不自由さとして訴えることは少ないと思われる.赤座らは黄斑疾患患者の利き目の移動について検討し,術前に疾患眼が利き目であったC11例中C5例で,術後に利き目が健常眼に移動していた,と報告している1).高見らの報告では健常眼を対象に,利き目のレンズに遮閉〔別刷請求先〕加藤舞:〒010-8543秋田県秋田市本道C1-1-1秋田大学医学部眼科学講座Reprintrequests:MaiKato,DepartmentofOphthalmologyAkitaUniversityGraduateSchoolofMedicine,1-1-1Hondo,Akita010-8543,JAPANC1596(120)図1Holeincard法1左:被験者がCholeincardを持つ.右:検者が遮閉し利き目を判定する.図2Holeincard法2左:検者がCholeincardを持つ.右:被験者が覗き込む様子から利き目を判定する.膜を貼り,視力を低下させ,利き目が切り替わる視力値を測定したものがある2).不自由さを感じない理由は両眼で見ていることに加え,片眼の網膜疾患の発症により健眼と患眼に視力差が生じ,利き目が健眼に切り替わったことで,患眼があまり使われなくなった可能性を考え,今回筆者らは,健眼と患眼の利き目の割合と視力差について検討した.CI対象および方法対象は,2018年C5.10月に当院の網膜硝子体外来を受診した片眼の網膜疾患患者のうち,患眼の視力がClogMAR1.0以下のC234名(男性C153名,女性C81名),平均年齢はC67.8C±13.6歳(男性C67.8歳女性C67.7歳)で,疾患名は加齢黄斑変性(117名),中心性漿液性脈絡網膜症(29名),網膜.離(36名),黄斑前膜(11名),黄斑円孔(7名)などであった.方法は,他覚的屈折検査を行い,完全矯正視力,日常視力,利き目を測定した.今回用いた日常視力とは,普段使用している眼鏡やコンタクトレンズの視力,使用していない人は裸眼視力とした.利き目の判定は,完全矯正レンズを装用し,視力に応じたCLandolt環を視標にCholeincard法で行った.CHoleincard法C1は被験者本人に,holeincardを持った腕を伸ばし,holeincardの穴の中央に視標を合わせるよう指示した.その後,検者が片眼ずつ遮閉をして,視標が消えたかどうかを聞き,利き目を判定した(図1).HoleCincard法2は検者がCholeCincardを被験者の眼前に掲げ,被験者にCholeincardを覗き込んで視標を見るよう指示し,どちらの眼で覗いたかを観察して,利き目を判定した(図2).HoleCincard法1を2回,holeincard法2を1回,合計3回holeincard法を施行し,3回すべて同じ結果が得られた眼を利き目とした.判定結果から,健眼利き目群と患眼利き目群に分け,それぞれの健眼,患眼の完全矯正視力,日常視力および健眼と患眼の視力差について検討した.1.001.000.52±0.370.900.800.700.27±0.290.600.500.400.300.200.100.00-0.10II結果対象の片眼の網膜疾患患者C234名の利き目の割合は,健眼利き目群C165名(70.5%),患眼利き目群C69名(29.5%)で健眼が利き目の割合が多かった.疾患眼の左右の割合は右眼113名(48.3%)で左眼C121眼(51.7%)で左右差はみられなかった.利き目群の健眼および患眼の完全矯正視力は,健眼Clog-MAR.0.01±0.09,患眼ClogMARC0.27±0.29であった.また患眼利き目群の健眼および患眼の完全矯正視は,健眼ClogMAR.0.02±0.08,患眼ClogMARC0.15±0.23であった(図3).健眼利き目群の健眼および患眼の日常視力は,健眼ClogMARC0.15±0.23,患眼ClogMARC0.52±0.37であった.また患眼利き目群の健眼および患眼の日常視力は,健眼Clog-MAR0.10±0.18,患眼ClogMAR0.36C±0.34であった(図4).完全矯正視力と日常視力の健眼,患眼の視力差を健眼利き目群と患眼利き目群で調べた結果は,完全矯正視力では健眼利き目群でClogMAR0.27C±0.29,患眼利き目群でClogMAR0.17C±0.21であった.日常視力では健眼利き目群でClogMAR0.42C±0.36,患眼利き目群でClogMAR0.21±0.36で対応のないCt検定で有意差を認めた(表1).CIII考按今回の検討で,片眼の網膜疾患患者では,健眼利き目群165名,患眼利き目群C69名で健眼が利き目の人が多いことがわかった.健常眼の利き目は右眼がC70%で左眼がC30%で,網膜疾患患者では,初診時に右眼が利き目であったものがC51%で左眼がC49%という赤座らの報告がある.今回も,疾患眼の左右の割合に差がなかったのにもかかわらず,健眼が利き目の割合が多かったことから,網膜疾患の発症により利き目が移動した可能性が考えられた.このことから,片眼の網膜疾患患者では利き目である健眼を使用する0.900.800.700.600.500.400.300.200.100.00-0.10図4日常視力の比較表1健眼・患眼の視力差健眼利き目群(n=165)患眼利き目群(n=69)C*p対応のないCtCtest*完全矯正C0.27±0.29C0.17±0.21Cp=0.3584日常視C0.42±0.36C0.21±0.36p<C0.0001機会が多いことにより,日常生活で不自由さを訴える人が少ないと考えた.各眼の矯正視力(1.2)以上の健常眼を対象に,利き目のレンズに遮閉膜を貼り,視力を低下させ,利き目が切り替わる視力値を測定した高見らの報告がある2).覗き孔法行ったときの利き目の切り替わる視力値は,利き目の優位性が強い群(覗き孔法,利き眼側指差し法,非利き眼側指差し法のC3種類の利き目検査の結果がすべて左右どちらかに一致している群)でClogMAR0.75,弱い群(3つの検査結果が一致せず左右ばらつきがみられた群)でClogMAR0.54まで,利き目の視力を下げたときに利き目が切り替わったという報告だった2).今回は,健眼利き目群の日常視力での健眼と患眼の視力差が平均ClogMAR0.42であったことから,健眼と患眼の視力差がClogMAR0.4以上あることが,患眼から健眼に利き目が切り替わる条件となる可能性が考えられた.患眼が利き目の人も,利き目が切り替われば日常生活の不自由さが軽減すると考えられる.普段,患眼の視力にばかり注意が向きがちだが,利き目が切り替わる視力差がClogMAR0.4以上である可能性が示されたことから,健眼の視力にも注目し,健眼を完全矯正して健眼と患眼の視力差をつけることが,日常生活の見え方の質を上げる一つの方法ではないかと考えた.しかし,患眼利き目群にも,健眼と患眼の視力差がClogMAR0.4以上の人も存在したため,利き目が切り替わる因子は視力のみの影響ではないと考えられる.今後視力以外の因子についても検討が必要であると考えた.文献き目の移動.日眼会誌111:322-326,C20172)高見有紀子,赤池麻子,岡井佳恵ほか:利き眼の程度の定1)赤座英里子,藤田京子,島田宏之ほか:黄斑疾患患者の利量化について.眼紀52:951-955,C2001***