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広義原発開放隅角緑内障におけるカルテオロール/ラタノプロスト 配合点眼剤単独への変更による1 年間の長期眼圧下降効果

2022年6月30日 木曜日

《原著》あたらしい眼科39(6):830.834,2022c広義原発開放隅角緑内障におけるカルテオロール/ラタノプロスト配合点眼剤単独への変更による1年間の長期眼圧下降効果杉本識央白鳥宙中元兼二西尾侑祐飛田悠太朗中野優治山崎将志大石典子武田彩佳高野靖子高橋浩日本医科大学眼科学教室COne-YearClinicalE.cacyofCarteolol/LatanoprostFixedCombinationinPrimaryOpenAngleGlaucomaandNormalTensionGlaucomaShioSugimoto,NakaShiratori,KenjiNakamoto,YusukeNishio,YutaroTobita,YujiNakano,MasashiYamazaki,NorikoOhishi,AyakaTakeda,YasukoTakanoandHiroshiTakahashiCDepartmentofOphthalmology,NipponMedicalSchoolC目的:広義原発開放隅角緑内障(POAG)におけるカルテオロール/ラタノプロスト配合点眼剤(以下,CAR/LAT)単独への変更によるC1年間の眼圧下降効果を後ろ向きに検討する.対象および方法:プロスタグランジン関連薬(以下,PG)単剤または異種のCPG/b遮断薬配合剤(以下,PG/b)単独からの切り替えで,CAR/LATを新規に処方した広義POAG患者のうち,緑内障手術歴のない連続C65例を対象とした.変更前と変更C1カ月後,3カ月後,6カ月後,12カ月後の眼圧をそれぞれ比較した.結果:PGからの変更では,眼圧(平均±標準偏差)は,変更前C14.9±3.2CmmHgに対して変更C12カ月後C12.8±2.1CmmHgで,変更前と比べて変更後のすべての時点で有意な眼圧下降を認めた(p<0.05).異種のCPG/bからの変更では,有意な変化はなかった(p=0.30).結論:広義CPOAGにおいて,PG単剤からCCAR/LATへの変更では,1年間有意な眼圧下降が得られ,また,異種のCPG/b単独からの変更では有意な眼圧変化はない.CPurpose:ToCinvestigateCtheClong-termCintraocularpressure(IOP)-loweringCe.ectCofCswitchingCtoCcarteolol/Clatanoprost.xedcombination(CAR/LAT)onlyinpatientswithprimaryopenangleglaucoma(POAG)ornormaltensionglaucoma(NTG).Methods:Inthisretrospectivestudy,themedicalrecordsof65patients(65eyes)withPOAGorNTGwhowerenewlyprescribedCAR/LATafterswitchingfromprostaglandinanalogue(PG)orpros-taglandinanalogue/beta-blocker(PG/b)timolol.xedcombination.IOPwascomparedbetweenatbaselineandat1-,3-,6-,CandC12-monthsCpostCswitch.CResults:IOPCwasCsigni.cantlyCdecreasedCatC12-monthsCpostswitch(12.8±2.1mmHg)inCcomparisonCwithCthatCatCbeforeCswitchingCfromPG(14.9±3.2mmHg)(p<0.05).CHowever,CnoCsigni.cantdi.erenceinIOPwasfoundbetweenpreandpostswitchfromPG/b(p=0.30).CConclusion:IOPwassigni.cantlydecreasedafterswitchingfromPGtoCAR/LATandwasmaintainedafterswitchingfromPG/bfor1year.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)39(6):830.834,C2022〕Keywords:カルテオロール/ラタノプロスト配合点眼剤,眼圧,変更,原発開放隅角緑内障.carteolol/latanoprost.xedcombination,intraocularpressure,switching,primaryopenangleglaucoma.Cはじめに現在,緑内障治療における視野維持効果についてエビデンスに基づいた唯一確実な治療法は眼圧下降であり,薬物治療が第一選択となる1).開放隅角緑内障の薬物治療においては,プロスタグランジン関連薬(以下,PG)が眼圧下降効果と点眼回数,副作用の面で良好な忍容性により第一選択薬としてもっとも使用されており,続いてCb遮断薬も第一選択になりうるとされる1).単剤での効果が不十分であるときには併用療法を検討するが,併用療法の際には患者のアドヒアランスやCQOLも考慮すべきであるため,配合点眼の使用がすす〔別刷請求先〕杉本識央:〒113-8603東京都文京区千駄木C1-1-5日本医科大学眼科学教室Reprintrequests:ShioSugimoto,M.D.,DepartmentofOphthalmology,NipponMedicalSchool,1-1-5Sendagi,Bunkyo-ku,Tokyo113-8603,JAPANC830(134)められる1,2).カルテオロール/ラタノプロスト配合点眼剤(以下,CAR/LAT)はCPGとCb遮断薬の配合点眼剤(以下,PG/Cb)の一つであり,また,Cb遮断薬としてカルテオロールを含有する唯一のCPG/Cbである.他のCPG/Cbに含有されるCb遮断薬であるチモロールと比較して,カルテオロールには眼表面の麻酔作用がほとんどないためにドライアイを生じにくく3),呼吸器系および循環器系の副作用を引き起こしにくい4,5)などのメリットがあり,実臨床において広く使用されているが,1年以上の眼圧下降効果に関する報告は少ない.そこで今回,広義原発開放隅角緑内障(primaryCopenangleCglaucoma:POAG)を対象に,CAR/LAT単独への変更によるC1年間の眼圧下降効果を後ろ向きに検討した.CI対象および方法2017年C1月.2018年C12月に日本医科大学付属病院緑内障外来で,PG単独または異種のCPG/Cbからの切り替えでCAR/LATを新規に処方した広義CPOAG患者のうち,緑内障手術歴のない連続C65例を対象とし,カルテレビューにより後ろ向きに調査した.前投薬(PGまたは異種のCPG/Cb)からCCAR/LATに切り替えた際の,変更前の眼圧と,変更C1カ月後(C±1週間),3カ月後(C±1カ月),6カ月後(C±1カ月),12カ月後(C±1カ月)の眼圧をそれぞれ比較した.眼圧測定は全例CGoldmann圧平式眼圧計を用い,測定時間が同じ時間帯(C±2時間)の眼圧値を採用した.眼圧の比較は,全対象での検討,前投薬がCPGまたはCPG/Cbでの種類別の検討および前投薬がCPGの症例のなかで病型分類別の検討を行った.なお,前投薬からCCAR/LATへの切り替えの際,原則として夜点眼を指示した.解析はC1例C1眼とし,両眼点眼症例は,乱数表を用いて対象眼をランダムに選択した.眼圧比較には反復測定分散分析,HsuのCMCB検定を用いた.有意確率はCp<0.05(両側検定)とした.眼圧下降率は欠損値がある場合には当該症例を除いて計算した.副作用で脱落した症例はC4例で,脱落した時点で眼圧の解析からは除外した.なお,本研究は日本医科大学付属病院の倫理委員会で承認を得た(受付番号CR1-05-1135).CII結果対象はC65例C65眼で,患者背景を表1に示す.広義CPOAGにおいて,PG単剤からの変更例(n=40)では,CAR/LATへの変更前の眼圧C14.9C±3.2CmmHg(n=40)に対して,変更C1カ月後C12.9C±2.1CmmHg(n=21),3カ月後C13.2C±2.6CmmHg(n=36),6カ月後C13.1C±2.0CmmHg(n=35),12カ月後C12.8C±2.1CmmHg(n=32)で,変更前に対する変更C1カ月後,3カ月後,6カ月後,12カ月後の平均眼圧変化値(下降率)はそれぞれC.2.1±2.1CmmHg(14.0%),C.1.9±2.8CmmHg(12.8%),.1.5±2.7CmmHg(10.3%),.1.9±3.1CmmHg(12.8%)であり,変更前と比較して変更後のすべての時点で眼圧は有意に下降していた(図1).PG単剤からの変更例のうち病型分類が狭義CPOAGの症例(n=17)では,CAR/LATへの変更前C17.6C±2.3CmmHg(n=17)に対して,変更C1カ月後C14.0C±2.1CmmHg(n=9),3カ月後C14.6C±2.5CmmHg(n=17),6カ月後C13.8C±2.1CmmHg(n=14),12カ月後C13.6C±1.7CmmHg(n=13)で,変更前に対する変更C1カ月後,3カ月後,6カ月後,12カ月後の平均眼圧変化値(下降率)はそれぞれC.2.9±1.8CmmHg(17.2%),C.3.0±3.1CmmHg(17.1%),3.4C±2.6CmmHg(19.9%),.3.6C±3.3CmmHg(20.9%)であり,すべての時点において有意な眼圧下降効果を認めた(p<0.05).一方で,病型分類が正常眼圧緑内障(normalCtensionglaucoma:NTG)の症例での眼圧の推移は,CAR/LATへの変更前C12.8C±2.0CmmHg(n=23)に対して,変更C1カ月後C12.0C±2.4CmmHg(n=12)で,3カ月後C11.9C±2.1CmmHg(n=19),6カ月後C12.6C±1.8CmmHg(n=21),12カ月後C12.3C±2.2CmmHg(n=19)であり,変更前に対する変更C1カ月後,3カ月後,6カ月後,12カ月後の平均眼圧変化値(下降率)はそれぞれC.1.6±2.4CmmHg(11.0%),C.1.0±2.2CmmHg(7.8%),.0.2±1.9CmmHg(2.3%),C.0.7±2.5CmmHg(5.3%)であり,変更C1カ月後の時点では眼圧は有意に下降していた(図2).広義CPOAGにおける異種のCPG/Cbからの変更例(n=25)では,CAR/LATへの変更前C14.5C±2.5CmmHg(n=25)に対して,変更C1カ月後C13.8C±2.9CmmHg(n=10),3カ月後C13.3±3.2CmmHg(n=22),6カ月後C13.4C±3.0CmmHg(n=23),12カ月後C14.4C±3.1CmmHg(n=20)で,変更前に対する変更C1カ月後,3カ月後,6カ月後,12カ月後の平均眼圧変化値(下降率)はそれぞれC.0.3±2.1CmmHg(2.1%),.1.3C±2.6CmmHg(8.9%),.1.4±2.4CmmHg(9.5%),.0.7±2.3CmmHg(4.0%)であり,すべての時点で眼圧変化は有意ではなかったが(p=0.30),1年間にわたって同程度の眼圧下降効果を維持した(図3).中止・脱落した症例は,副作用があったC4例(6.2%)のみであった.その内訳は,変更後C1カ月までに喘鳴,眼瞼色素沈着,眼瞼炎がそれぞれC1例ずつ,変更C9カ月後に結膜充血がC1例あり,それぞれ投薬中止となった.喘鳴の症例はトラボプロストからの変更例であり,トラボプロストに戻したところ症状は消失した.眼瞼色素沈着の症例はラタノプロスト/チモロールマレイン酸塩配合点眼薬からの変更例であり,変更後C1カ月の時点で症状の進行の訴えがあり,ドルゾラミド/チモロールマレイン酸塩配合点眼薬へ変更したところ症状は軽快した.眼瞼炎の症例はラタノプロスト/チモロール表1患者背景(平均値±標準偏差)C2014.9±3.2***p<*0.05年齢C61.7±12.5歳C18*13.2±2.612.9±2.113.1±2.0眼圧(mmHg)男性/女性30例/35例病型原発開放隅角緑内障(狭義):20例108n=40n=21n=36n=35n=32正常眼圧緑内障:45例6前投薬PG:40例42平均偏差+標準偏差ラタノプロスト35眼タフルプロスト3眼トラポプロスト2眼CPG/b:25例ラタノプロスト・チモロール12眼タフルプロスト・チモロール10眼トラポプロスト・チモロール3眼CMDC.3.9±5.3CdB中心角膜厚C559.1±47.6CμmCPG:PG関連薬.PG/Cb:PG/Cb遮断薬.MD:Humphrey視野プログラム中心C30-2SITA-standardによる平均偏差0変更前1M3M6M12M図1広義POAGにおけるPG単剤からCAR/LATへの変更例の眼圧の推移広義CPOAGにおいてCCAR/LATに変更後,眼圧はすべての時点で変更前より有意に下降していた(反復測定分散分析およびCHsuのCMCB検定,p<0.05).CNS14.4±3.11816眼圧(mmHg)141210864*p<0.05(n=17)20181620眼圧(mmHg)141210図3異種のPG/bからCAR/LATへの変更例の眼圧の推移8CAR/LATに変更後,すべての時点で有意な眼圧変化はなく,1C64年間にわたって同程度の眼圧下降効果を維持した(反復測定分散C2分析およびCHsuのCMCB検定,p<0.05)C0図2PG単剤からCAR/LATへの変更例の病型分類別眼圧の変更は同程度の眼圧下降効果を維持した.変更前1M3M6M12M推移CAR/LATに変更後,NTG群では変更C1カ月後で,狭義CPOAG群ではすべての時点で,眼圧は変更前より有意に下降していた(反復測定分散分析およびCHsuのCMCB検定,p<0.05).マレイン酸塩配合点眼薬で,眼瞼炎がありCCAR/LATに変更した症例であり,変更後も症状継続したため,投薬中止したところ症状は消失した.結膜充血の症例はラタノプロストからの変更例であり,タフルプロスト/チモロールマレイン酸塩配合点眼薬へ変更したところ症状は軽快した.CIII考按今回の研究では,広義CPOAGにおいてCPG単剤からCAR/LAT単独への変更はC1年間有意な眼圧下降が得られていた.NTGでは変更後C1カ月,狭義CPOAGではすべての時点で有意な眼圧下降があった.また,異種のCPG/CbからのPG単剤からCCAR/LATへの変更による眼圧下降効果に関する既報によると,広義CPOAG,高眼圧症を対象にした国内第CIII相試験6)ではラタノプロストからの変更前眼圧C20.1C±1.9CmmHgに対して眼圧下降幅は4週間後2.7C±0.2mmHg,8週間後C2.9CmmHgC±0.2CmmHgであった.中牟田らの広義POAG,続発緑内障を対象にした報告7)ではラタノプロストからの変更前眼圧C16.0C±2.8CmmHgに対して眼圧下降幅はC1カ月後C2.5C±1.4CmmHg,3カ月後C2.5C±1.7CmmHg,松村らの広義CPOAGを対象にした報告8)ではラタノプロストからの変更前眼圧C15.9C±2.9CmmHgに対して眼圧下降幅はC1カ月後C2.4±1.4mmHg,3カ月後C2.6C±1.7mmHg,6カ月後C2.3C±1.8CmmHg,12カ月後C2.3C±1.8CmmHgであった.本研究の広義CPOAGでの検討では,PG単剤からの変更で,変更前C14.9±3.2mmHgに対して眼圧下降幅はC1カ月後C2.1C±2.1mmHg,3カ月後C1.9C±2.8mmHg,6カ月後C1.5C±2.7mmHg,12カ月後C1.9C±3.1CmmHgであり,本研究の結果は既報に比(136)べやや眼圧下降が劣っていた.その原因として,まず既報と試験デザインおよび病型が異なることに加え,本研究では変更前眼圧が既報より低かったことが考えられる.また,本研究においても,NTGでは効果が弱いものの広義CPOAGとしては,その短期で得られた眼圧下降効果は変更C1年後まで維持されていた.このように,広義CPOAGにおいてCPG単剤からCCAR/LATへの変更は眼圧下降作用において少なくともC1年間にわたって有効といえる.ベースライン眼圧別のCCAR/LATの眼圧下降効果の検討に関して,国内第CIII相試験6)においてラタノプロストからの変更ではベースライン眼圧が高いほうが眼圧下降幅も大きかったことが報告されている.本研究においても,PG単剤からCCAR/LATへ変更後の病型分類別の眼圧下降幅は,狭義CPOAG(変更前C17.6C±2.3mmHg)では,変更C1カ月後2.9CmmHg,3カ月後C3.0CmmHg,6カ月後C3.4CmmHg,12カ月後C3.6CmmHgで,いずれも統計学的に有意な下降であったのに対し,NTG(変更前C12.8C±2.0CmmHg)では,変更C1カ月後C1.6mmHg,3カ月後C1.0mmHg,6カ月後C0.2mmHg,12カ月後C0.7CmmHgであり,変更C1カ月後を除き有意な下降はなかった.本研究のCNTG症例の変更前眼圧平均12.8CmmHgはかなり低い眼圧であるため,変更C1カ月後を除き有意な眼圧下降効果が得られなかった原因であると考えた.異種のCPG/CbからCCAR/LATへ変更による眼圧下降効果に関する既報は,髙田ら9)のトラボプロスト/チモロールマレイン酸塩配合点眼薬からの変更でC3カ月後まで同等の眼圧下降効果であったとの報告,Inoueら10)のラタノプロスト/チモロールマレイン酸塩配合点眼薬からの変更でC3カ月後まで同等の眼圧下降効果であったとの報告などがある一方で,勝部ら11)のラタノプロスト/チモロールマレイン酸塩配合点眼薬からの変更C6カ月後に平均C1.6CmmHgの有意な眼圧下降を認めたという報告もある.本研究では異種CPG/Cbからの変更C1カ月後,3カ月後,6カ月後,12カ月後のすべての時点で変更前から有意な眼圧変化はなく,1年間にわたって同様の眼圧下降効果を維持した.本研究でのCCAR/LATの副作用は,喘鳴,眼瞼色素沈着,眼瞼炎,結膜充血がそれぞれC1例ずつで,副作用出現率は6.2%であり,国内第CIII相試験6)でのC6.8%とほぼ同等であった.喘鳴の症例はCb遮断薬であるカルテオロールによる副作用と考えられ,トラボプロストへ変更したところ症状は消失した.当該患者は処方前の問診で喘息の既往歴はなかった.山野ら12)は,カルテオロールを開始後の喘息症状の出現率は,既往に喘息がある症例でC61.9%,既往に喘息がない症例でC1.2%であったと報告しており,問診で喘息の既往歴が確認されない場合にもCb遮断薬の全身性副作用にはあらためて留意する必要がある.眼瞼色素沈着はラタノプロストの副作用と考えられ,眼瞼炎や結膜充血もそれぞれCCAR/LATの既知の副作用である.CAR/LATはカルテオロールとラタノプロストの配合点眼剤であるため,点眼回数やアドヒアランスの面でのメリットがある反面,使用時にはC2成分の副作用への注意が必要である.本研究におけるC1年間での脱落例はわずかC4例(6.2%)であり,CAR/LAT単独治療は高い継続率であった.本研究の限界は,後ろ向きな調査であるため,評価期間に眼圧が測定されていない欠測値が少なからずあることである.しかし,本研究は後ろ向きではあるものの連続症例での検討で,変更C1カ月後を除けばその他の測定時点ではC80%以上の症例数があった.また,中止・脱落症例はわずかC4例でいずれもCCAR/LATの副作用による中止で,眼圧下降効果が不良と判断されて中止となった症例はなかったことから,解析結果に大きな影響はなかったと考える.結論として,広義CPOAG患者において,PG単剤または異種のCPG/CbからCCAR/LAT単独治療への変更は,1年間有意な眼圧下降あるいは同程度の眼圧下降効果が得られ有用であった.文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン(第C4版).日眼会誌C122:5-53,C20182)Oltho.CCM,CSchoutenCJS,CvanCdeCBorneCBWCetal:Non-compliancewithocularhypotensivetreatmentinpatientswithCglaucomaCorCocularChypertensionCanCevidence-basedCreview.OphthalmologyC112:953-961,C20053)YabuuchiY,HashimotoK,NakagiriNetal:Antiarrhyth-micCpropertiesCofC5-(3-tert-butylamino-2-hydroxy)pro-poxy-3,4-dihydrocarbostyrilhydrochloride(OPC-1085)C,anewlysynthesized,potentbeta-adrenoreceptorantagonist.CClinExpPharmacolPhysiolC4:545-559,C19774)NetlandPA,WeissHS,StewartWCetal:Cardiovasculare.ectsoftopicalcarteololhydrochlorideandtimololmale-ateCinCpatientsCwithCocularChypertensionCandCprimaryCopen-angleCglaucoma.CNightCStudyCGroup.CAmCJCOphthal-molC123:465-477,C19975)佐野靖之,村上新也,工藤宏一郎:気管支喘息患者に及ぼすCb-遮断薬点眼薬の影響:CarteololとCTimololとの比較.現代医療C16:1259-1263,C19846)YamamotoCT,CIkegamiCT,CIshikawaCYCetal:Randomized,Ccontrolled,CphaseC3CtrialsCofCcarteolol/latanoprostC.xedCcombinationCinCprimaryCopen-angleCglaucomaCorCocularChypertension.AmJOphthalmolC171:35-46,C20167)中牟田爽史,井上賢治,塩川美菜子ほか:ラタノプロスト点眼薬からラタノプロスト/カルテオロール塩酸塩配合点眼液への変更.臨眼C73:729-735,C20198)松村理世,井上賢治,塩川美菜子ほか:ラタノプロスト点眼薬からラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬への変更による長期投与.あたらしい眼科C37:467-470,C20209)髙田幸尚,宮本武,岩西宏樹ほか:他剤配合点眼からカルテオロール塩酸塩/ラタノプロスト配合点眼薬へ変更後の角膜上皮障害の変化.臨眼C72:1579-1584,C2018モロールマレイン酸塩配合点眼液からカルテオロール塩酸10)InoueCK,CPiaoCH,CIwasaCMCetal:Short-termCe.cacyCand塩/ラタノプロスト配合点眼液への切替え効果.臨眼C73:CsafetyCofCswitchingCfromCaClatanoprost/timololC.xedCcom-777-785,C2019Cbinationtoalatanoprost/carteolol.xedcombination.Clin12)山野千春,小林秀之,古田英司ほか:ミケランCR(カルテオCOphthalmolC14:1207-1214,C2020ロール塩酸塩)点眼液使用患者の既往と喘息関連事象の発11)勝部志郎,添田尚一,大越貴志子ほか:ラタノプロスト/チ生に関する検討.あたらしい眼科C34:445-449,C2017***

原発開放隅角緑内障(広義)における相対的瞳孔求心路障害 の検討

2022年3月31日 木曜日

《原著》あたらしい眼科39(3):367.370,2022c原発開放隅角緑内障(広義)における相対的瞳孔求心路障害の検討八鍬のぞみ加藤祐司蒲池由美子札幌かとう眼科CEstimationofRAPDinPrimaryOpenAngleGlaucomaandNormalTensionGlaucomaNozomiYakuwa,YujiKatoandYumikoKamachiCSapporoKatoEyeClinicC目的:相対的瞳孔求心路障害(relativea.erentpupillarydefect:RAPD)は視神経疾患の診断に有用な検査である.日常診療において左右差のある緑内障でもCRAPDを認めることがある.今回筆者らは緑内障でCRAPD陽性となる症例の特徴を検討したので報告する.対象:札幌かとう眼科通院中の原発開放隅角緑内障患者C75例で,内訳はCRAPD陽性C25例,RAPD陰性C50例である.方法:RAPDは,swingingC.ashlighttestをC2名の検者が独立して行い,一致した症例を陽性とした.同日に施行した視野検査と光干渉断層計検査の信頼できるCMD値(HumphreyFieldAnalyz-er,CSITA-Standard30-2)とCcpRNFL厚(Triton,トプコン)の左右差を計測し,RAPDの有無における群間差について検討した.結果:RAPD陽性群はCMD値とCcpRNFL厚の左右差が有意に大きかった.そのカットオフ値はCMD値で左右差C6.04CdB(AUC0.82),cpRNFL厚で左右差C15.0Cμm(AUC0.74)であった.結論:緑内障眼においても,MD値やCcpRNFL厚に左右差が認められる場合にはCRAPD陽性となることがある.RAPD陽性の際には左右差の大きい緑内障も鑑別疾患として考えて診療に当たるべきと考える.CPurpose:ToCinvestigateCtheCcharacteristicsCofCrelativeCa.erentCpupillarydefect(RAPD)inCcasesCofCprimaryCopenCangleCglaucoma(POAG)andCnormalCtensionCglaucoma(NTG)C,CasCitCisCaCusefulCtestCforCdiagnosingCopticCnerveCdiseaseCandCmayCbeCobservedCevenCinCglaucomaCcasesCwithClaterality.CSubjectsandMethods:ThisCstudyCinvolvedC75CPOAGCpatients(25CRAPDCpositives,C50CRAPDnegatives)seenCatCtheCSapporoCKatoCEyeCClinic,CSapporo,CJapan.CRAPDCwasCperformedCindependentlyCbyCtwoCexaminersCwithCtheCswingingC.ashlightCtest,withCtheCmatchingCcasesCdeemedCpositive.CIntereyedi.erencesCinCthereliablevisualC.ledCmeanCdeviation(MD)value(HumphreyCFieldCAna-lyzer,CSITACStandard30-2)andCcircumpapillaryCretinalCnerveC.berClayer(cpRNFL)thickness(TritonCSweptCSourceOCT,CTOPCON)performedConCtheCsameCday.CTheCdi.erencesCbetweenCtheCRAPDCpositiveCgroupCandCRAPDCnegativeCgroup,CasCwellCasCtheCROCcurves[i.e.,CareaCunderCtheCcurve(AUC)]C,CwereCexamined.CResults:IntereyeCdi.erencesCbetweenCMDCvalueCandCcpRNFLCthicknessCwereCsigni.cantlyClargerCinCtheCRAPDCpositiveCgroupCthanCinCtheCRAPDCnegativeCgroup.CTheCcutCo.CvalueCwasCanCMDCvalueCof6.04CdB(AUC0.82)andCaCcpRNFLCthicknessCof15Cμm(AUCCmayCbeCpositive.CWhenCRAPDCisCpositive,CdiagnosisCshouldCbeCcarriedCoutCwithCtheCpossibilityCofCglaucoma.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C39(3):367.370,C2022〕Keywords:相対的瞳孔求心路障害,原発開放隅角緑内障,正常眼圧緑内障,平均偏差,乳頭周囲網膜神経線維層厚.relativea.erentpupillarydefect(RAPD)C,primaryopenangleglaucoma(POAG)C,normaltensionglaucoma(NTG),meandeviation(MD)C,cpRNFLthickness.C0.RAPDthickness,cpRNFLorvalueMDindi.erencesintereyearethereifglaucoma,in:EvenCConclusion).47Cはじめに際にみられる感度の左右差を示す所見である.相対的瞳孔求心路障害(relativeCa.erentCpupillaryRAPDは近年Cpupillographyを用いた定量的評価が可能とdefect:RAPD)は視神経障害など対光反射の求心路異常のなったが,ペンライトC1本でできる簡便な手技(swinging〔別刷請求先〕八鍬のぞみ:〒065-0031北海道札幌市東区北C31条東C16丁目C1-22札幌かとう眼科Reprintrequests:NozomiYakuwa,M.D.,SapporoKatoEyeClinic,N31E16-1-22,Higashi-ku,Sapporo,Hokkaido065-0031,CJAPANC.ashlighttest)を用いることにより検出可能で,感度の高い所見である1).眼底所見の乏しい視神経疾患でCRAPDを検出することは診断的価値が非常に高く,swingingC.ashlighttestは現在でも臨床で広く使われている.視神経疾患はCRAPD,視力低下,限界フリッカ値の低下,視野障害などの所見を呈することが多いが,明らかなRAPDを呈する所見は視神経疾患においてとりわけ特徴的な所見である.瀧澤らはCRAPDx(コーナン・メディカル)によるCRAPDの測定は視神経疾患において高い感度と特異性があることを示し2),Satouらも,RAPDxによる視神経疾患患者の検出率はC75%であり,RAPDが視力,限界フリッカ値の改善に伴って改善することを報告している3,4).日常診療において,左右差のある緑内障患者でもCRAPDを認めることがある.緑内障とCRAPDの関連についてのわが国での報告は少なく,筆者らが調べた限りCTatsumiら5)とCOzekiら6)の報告のみであった.今回筆者らは緑内障眼でCRAPD陽性となる患者の特徴について後ろ向きに検討したので報告する.CI対象および方法2016年C1.6月に札幌かとう眼科に通院していた原発開放隅角緑内障(広義)患者を診療録に基づき後ろ向きに検討した.なお,本研究は札幌市医師会倫理委員会の承認を受けている.CHFA30-2(HumphryCFieldAnalyzer:HFA,SITACStandard30-2)の施行日にCswingingC.ashlighttest,光干渉断層計(OCT)(Triton,トプコン,3DCDiscCReportCw/topography)を施行した白内障手術を含む手術既往のない患者C75例を対象とした.HFA30-2において固視不良C3回以上の信頼係数の低い患者,OCTにおいてCImageQualityがC50%以下の患者,網脈絡萎縮などの眼底疾患のある症例は除外した.CSwinging.ashlighttestは半暗室でペンライトを用いて行い,独立したC2名の検者の結果が一致した患者を陽性とした.CSwingingC.ashlighttestの結果に基づき,対象をCRAPD陽性群と陰性群に分類した.また,HFA30-2のCMD値を同一患者の左右で比較し,高値をCbettereye,低値をCworseCeyeとした.検討項目は矯正視力,平均偏差(meandeviation:MD)値,パターン標準偏差(patternCstandarddeviation:PSD)値,乳頭周囲網膜神経線維層(circumpapillaryCretinalCnerveC.berlayer:cpRNFL)厚,等価球面度数として,bet-tereye,worseeyeそれぞれについて算出した.それぞれの項目について各群のCbettereyeとCworseeye,さらに両群間で比較を行った.また,MD値の左右差,cpRNFL厚の左右差を算出して両群間で比較した.統計学的検討は有意水準をC5%とし,各群のCbettereyeとCworseeyeの比較には対応のあるCt検定を,両群間の比較にはCt検定を用い,さらにCROC解析を行ってCRAPDの有無の判別に対するカットオフ値を求めた.CII結果対象C75例のうち,RAPD陽性C25例(男性C9例,女性C16例)RAPD陰性C50例(男性C21例,女性C29例),年齢はRAPD陽性群C56.6C±10.8歳,RAPD陰性群C56.2C±12.5歳,病型はCRAPD陽性群では原発開放隅角緑内障(primaryopenangleglaucoma:POAG)7例,正常眼圧緑内障(normaltensionglaucoma:NTG)18例,RAPD陰性群ではCPOAG8例,NTG42例であった.各群におけるCbettereyeとCworseeye間の比較では,両群ともCMD値,PSD値,cpRNFL厚において有意差を認めたが,矯正視力,等価球面度数において有意差はなかった.また,両群間においては,worseeyeの矯正視力,MD値,cpRNFL厚,bettereyeとCworseeyeのCPSD値に有意差を認め,年齢,性別,病型,等価球面度数において有意差はなかった(表1).MD値の左右差はCRAPD陽性群C7.52C±4.64CdB,RAPD陰性群C2.68C±1.99CdBであり,RAPD陽性群において有意に高値を示した(図1).cpRNFL厚の左右差においてもCRAPD陽性群C17.8C±14.0Cμm,RAPD陰性群C8.7C±6.0Cμmであり,RAPD陽性群において有意に高値を示した(図2).また,ROC解析により検討した結果,RAPDの有無を判別するカットオフ値は,MD値左右差C6.04CdB(AUC=0.82),cpRNFL厚左右差C15.0Cμm(AUC=0.74)であった(p<0.0001).NTGのみに関してCROC解析により検討した結果,n=18ではあるが,RAPD有無を判別するカットオフ値はCMD値左右差C6.04dB(AUC=0.84),cpRNFL厚左右差C15.0μm(AUC=0.74)となり,全体での検討結果と同様の結果であった(p<0.0001).CIII考按当院の両眼のCPOAG(広義)患者において,RAPD陽性となる症例の特徴を検討した結果,MD値の左右差はCRAPD陽性群において有意に高値を示し(p<0.0001),cpRNFL厚の左右差もCRAPD陽性群において有意に高値を示した(p<0.0001).RAPDの有無を判別するカットオフ値は,MD値左右差がC6.04CdB(AUC=0.82),cpRNFL厚左右差が15.0Cμm(AUC=0.74)であった.本研究からCNTGを主体とするわが国の緑内障でも,左右差がある場合にCRAPDが陽性になることが示唆された.Chewら7)はCPOAG患者をCRAPD群とCRAPD陰性の対照表1患者背景RAPD陽性群25例RAPD陰性群50例年齢(歳)C56.6±10.8C56.2±12.5性別(男性:女性)9:1C621:2C9病型(POAG:NTG)7:1C88:4C2矯正視力(logMAR値)bettereyeCworseeyeC.0.02±0.06C*0.06±0.14.0.03±0.08C*.0.01±0.11MD値(dB)CbettereyeCworseeyeC.1.94±2.35†C.9.16±5.32*†C.0.56±2.20†C.3.01±3.10*†PSD値(dB)CbettereyeCworseeyeC5.10±4.40*†C10.11±5.16*†C2.72±1.79*†C6.63±3.98*†cpRNFL厚(Cμm)CbettereyeCworseeyeC81.1±12.4†C64.2±13.5*†C87.2±13.0†C80.7±11.2*†cpRNFL厚Cworseeye対Cbettereye(%)C*77±14*91±9等価球面度数(D)CbettereyeCworseeyeC.4.20±2.66C.4.52±3.08C.3.30±3.62C.3.36±3.70*両群間に有意差あり(p<0.05).†bettereyeとCworseeye間に有意差あり(p<0.05).C35MD値左右差(dB)1210RAPD陽性群7.52±4.64dBRAPD陰性群2.68±1.99dB(p<0.001)図1MD値の左右差群(各Cn=25)に分け,網膜神経線維層(retinalnervefiberlayer:RNFL)厚,黄斑厚,MD値などにつきCswingingC.ashlighttestを用いたCRAPDとの関連を検討している.彼らの報告ではCRNFL厚の左右差はCRAPD群C17.8Cμm,対照群C5.1μmとCRAPD群で有意に厚く,MD値の左右差はRAPD群C8.62CdB,対照群C1.33CdBとCRAPD群で有意に高値であった.また,MD値の左右差がC9.5dB以上(AUC=0.92),RNFL厚の左右差がC14.6Cμm以上(AUC=0.94)になるとCRAPDを生じると報告している.さらに,RAPDはより障害された眼のCRNFL厚が他眼のCRNFL厚のC83%に減少すると生じ,その感度はC72%(95%信頼区間:0.51-0.88)特異度はC100%(95%信頼区間:0.86-1.00)と報告している.その他,Tathamら8)やCSarezkyら9)もCpupillometerを用いRAPD陽性群RAPD陰性群cpRNFL厚左右差(μm)302520151050RAPD陽性群17.8±14.0μmRAPD陰性群8.7±6.0μm(p<0.001)図2cpRNFL厚の左右差てCRAPDとCMD値の相関について報告している.わが国ではCTatsumiら5)が,緑内障患者におけるCswing-ing.ashlighttestによるCRAPD値(logunit)とCcpRNFL厚には有意な負の相関があり,RAPD陽性群C29例(このうち23例がCPOAG症例)の病期が進行している眼のCcpRNFL厚が軽症眼の約C73%になっていたと報告している.本研究でも進行眼のCcpRNFL厚は軽症眼の約C77%となっており,ほぼ同等の結果であった.また,NTG症例が主体の本研究とCPOAG症例が主体のChewら7),Tatsumiら5)の報告を比較すると,RNFL厚についてはほぼ同程度の左右差でCRAPD陽性となるが,MD値については本研究のほうが若干小さい左右差で陽性となっていた.これよりCPOAGよりもCNTGのほうがCMD値の左RAPD陽性群RAPD陰性群右差が小さくてもCRAPD陽性となる可能性が示唆された.対光反射の求心路は視神経から視交叉を経て両側の視索に入り,外側膝状体に至る直前で視路線維から分かれた線維に乗って,視蓋前域から両側のCEdinger-Westphal(EW)核へ達する経路をとる.遠心路はCEW核から動眼神経路を経て,毛様体神経節,短毛様体神経を介して瞳孔括約筋に至ることが知られている.この対光反射の求心路が非対称性に障害されることでCRAPDが生じる.緑内障の病態は網膜から視神経での障害が中心であり,求心路の障害である.対光反射の起源はおもに錐体・桿体の視細胞であるが,近年,縮瞳にかかわる新たな光受容体としてメラノプシン含有網膜神経節細胞(melonopsin-expressingCganglioncell:m-RGC)が発見され,さまざまな報告がされている10).m-RGC系の対光反射の特徴は青色のような短波長刺激でゆっくりと長く反応することであるが,青色刺激を用いることにより緑内障患者の障害が評価できるという報告もある11).CSwinging.ashlighttestは一般クリニックでも簡便にできる有用な検査であるが,主観的な方法である.近年はRAPDxをはじめとするCpupillographyを用いたCRAPDの定量的評価が可能となり,swinging.ashlighttestでは検出できない軽度のCRAPDも検出可能となっている1.4,6,8.12).これにより,視神経疾患の診断だけではなく,視神経疾患の早期発見あるいはその数値から経過を示す指標や疾患の鑑別につながる可能性がある.今回筆者らは日常診療で行える簡便な検査方法であるCswingingC.ashlighttestを用いたCRAPDの有無と緑内障との関連について検討した.今後は一般眼科医にも普及するような簡便な検査方法や診断治療につながるCpupillographyを用いた研究,さらにはCm-RGCの新しい知見を踏まえた研究が進展することを期待している.最後に,RAPDはおもに視神経疾患診断のツールと考えられているが,本研究のように左右差のある緑内障患者にも認められることがある.RAPD陽性の際には視神経炎などの視神経疾患だけでなく,左右差の大きい緑内障も鑑別疾患として考えて診療に当たるべきと考える.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)敷島敬悟:RAPDの見方と計測装置.日本の眼科C86:890-891,C20152)TakizawaCG,CMikiCA,CYaoedaK:AssociationCbetweenCaCrelativeCpupillaryCdefectCusingCpupillographyCandCinnerCretinalCatrophyCinCopticCnerveCdisease.CClinCOphthalmolC9:1895-1903,C20153)SatouCT,CIshikawaCH,CAsakawaCKCetal:EvaluationCofCaCrelativeCpupillaryCdefectCusingCRAPDxCdeviceCinCpatientsCwithCopticCnerveCdisease.CNeuroophthalmologyC40:120-124,C20164)SatouCT,CIshikawaCH,CGosekiT:EvaluationCofCaCrelativeCpupillaryCdefectCusingCRAPDxCdeviceCbeforeCandCafterCtreatmentCinCpatientCwithCopticCnerveCdisease.CNeurooph-thalmologyC42:146-149,C20185)TatsumiY,NakamuraM,FujiokaMetal:Quanti.cationofretinalnerve.berlayerthicknessreductionassociatedwithCaCrelativeCa.erentCpupillaryCdefectCinCasymmetricCglaucoma.BrJOphthalmolC91:633-637,C20066)OzekiN,YukiK,ShibaDetal:PupillographicevaluationofCrelativeCa.erentCpupillaryCdefectCinCglaucomaCpatients.CBrJOphthalmolC97:1538-1542,C20137)ChewCSS,CCunnninghamCWJ,CGambleCGDCetal:RetinalCnerve.berlayerlossinglaucomaticpatientswitharela-tiveCa.erentCpupillaryCdefect.CInvestCOphthalmolCVisCSciC51:5049-5053,C20108)TathamAJ,Meira-FreitasD,WeinrebRNetal:Estima-tionofretinalganglioncelllossinglaucomatouseyeswitharelativea.erentpupillarydefect.InvestOphthalmolVisSciC55:513-522,C20149)SarezkyCD,CKrupinCT,CCohenCACetal:CorrelationCbetweenintereyedi.erenceinvisual.eldmeandeviationvaluesCandCrelativeCa.erentCpupillaryCresponsesCasCmea-suredCbyCanCautomatedCpupilometerCinCsubejectsCwithCglaucoma.JGlaucomaC23:419-423,C201410)石川均:神経眼科の進歩瞳孔とメラノプシンによる光受容.日眼会誌117:246-269,C201311)KelbschC,MaedaF,StrasserTetal:Pupillaryrespons-esCdrivenCbyCipRGCsCandCclassicalCphotoreceptorsCareCimpairedinglaucoma.GraefesArchClinExpOphthalmolC254:1361-1370,C201612)瀧渕剛,三木淳司:RAPDの臨床価値.神眼C36:386-396,C2019C***

多施設による緑内障患者の治療実態調査2020 年版 ─正常眼圧緑内障と原発開放隅角緑内障─

2021年8月31日 火曜日

《第31回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科38(8):945.950,2021c多施設による緑内障患者の治療実態調査2020年版─正常眼圧緑内障と原発開放隅角緑内障─朴華*1井上賢治*2井上順治*1國松志保*1石田恭子*3富田剛司*2,3*1西葛西・井上眼科病院*2井上眼科病院*3東邦大学医療センター大橋病院眼科MulticenterSurveyStudyofGlaucomain2020:Normal-TensionGlaucomaandPrimaryOpenAngleGlaucomaHuaPiao1),KenjiInoue2),JunjiInoue1),ShihoKunimatsu-Sanuki1),KyokoIshida3)andGojiTomita2,3)1)NishikasaiInouyeEyeHospital,2)InouyeEyeHospital,3)DepartmentofOphthalmology,TohoUniversityOhashiMedicalCenterC目的:緑内障患者の実態調査から正常眼圧緑内障(NTG)と原発開放隅角緑内障(POAG)患者の患者背景と使用薬剤を調査する.対象および方法:2020年C3月C8日.14日に本研究の趣旨に賛同したC78施設に受診したC5,303例5,303眼を対象とした.患者背景と使用薬剤を調査し,NTGとCPOAG患者を比較した.結果:NTGC2,710例(51.1%),CPOAG1,638例(30.9%)だった.使用薬剤数はCPOAG(2.2C±1.4剤)がCNTG(1.6C±1.0剤)より有意に多かった(p<0.0001).単剤使用例では両病型ともプロスタグランジン(PG)関連薬がもっとも多かった.2剤使用例では両病型ともCPG/b配合剤がもっとも多かった.結論:NTGがCPOAGより多く,PG関連薬は単剤使用例,PG/Cb配合剤はC2剤使用例で第一選択となっていた.NTGとCPOAGでは使用薬剤数に差はあるが,使用薬剤はほぼ同様だった.CPurpose:Toinvestigatethecharacteristicsandappliedmedicationsinpatientswithnormal-tensionglaucoma(NTG)orprimaryopen-angleglaucoma(POAG)C.PatientsandMethods:Thismulticentersurveystudyinvolved5,303NTG/POAGpatientsseenat78medicalinstitutionsinJapanfromMarch8toMarch14,2020.Patientchar-acteristicsandthemedicationsusedwereinvestigatedandcomparedbetweenNTG/POAG.Results:Ofthe5,303patients,2,710(51.1%)werediagnosedasNTGand1,638(30.9%)werediagnosedasPOAG.ThemeannumberofCmedicationsCadministeredCforPOAG(2.2C±1.4)wasCsigni.cantlyCgreaterCthanCthatCforNTG(1.6C±1.0)(p<0.0001)C.CAsCforCtheCmonotherapyCandC.xed-combinationCtreatments,prostaglandin(PG)analogsCandCPG/b-block-ers,Crespectively,CwereCtheCmedicationsCmostCfrequentlyCadministered.CConclusion:OurC.ndingsCrevealedCmoreCNTGpatientsthanPOAGpatients.PGanalogswereusedinthemonotherapyand.xed-combinationPG/b-block-erswereusedinthecombinedtherapyas‘.rst-choice’medications,andnosigni.cantdi.erencewasfoundinthemedicationsusedbetweenNTGandPOAG.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C38(8):945.950,C2021〕Keywords:正常眼圧緑内障,原発開放隅角緑内障,薬物治療,多施設,配合点眼薬.normaltensionglaucoma,primaryopenangleglaucoma,medication,multipleinstitutions,.xedcombinationeyedrops.Cはじめに緑内障にはさまざまな病型があり,病型により治療方針は異なる1).緑内障診療ガイドライン1)には緑内障の病型別治療が記載されている.日本での緑内障の疫学調査として多治見スタディがあげられるが,多治見スタディでの緑内障有病率は正常眼圧緑内障(normalCtensionglaucoma:NTG)3.6%,原発開放隅角緑内障(primaryCopenangleCglaucoma:POAG)0.3%であった2).緑内障診療ガイドラインではNTG,POAGの診断は「原発開放隅角緑内障(広義)は慢性進行性の視神経症であり,視神経乳頭と網膜視神経線維層に形態的特徴(視神経乳頭辺縁部の菲薄化,網膜神経線維層欠損)を有し,他の疾患や先天異常を欠く病型,隅角鏡検査で〔別刷請求先〕朴華:〒134-0088東京都江戸川区西葛西C3-12-14西葛西・井上眼科病院Reprintrequests:HuaPiao,M.D.,NishikasaiInouyeEyeHospital,3-12-14Nishikasai,Edogawa-kuTokyo134-0088,JAPANC0910-1810/21/\100/頁/JCOPY(97)C945正常開放隅角(隅角の機能的異常の存在を否定するものではない.)とした.NTGは原発開放隅角緑内障(広義)のうち眼圧が常に統計学的に規定された正常値(20CmmHg)にとどまるもの,POAGは原発開放隅角緑内障(広義)のうち眼圧が統計学的に規定された正常値(20CmmHg)を超えるもの」と定義している.筆者らはベースライン眼圧の違いにより患者背景や治療薬の使い方が異なるか疑問を抱いた.そこで臨床現場で通院中の緑内障患者の実態を知る目的で多施設での調査をC2007年に初めて行った3).続いてC2009年4),2012年5),2016年6)に再調査を行った.そのなかでCNTGとPOAGの患者背景や薬物治療の相違を検討した3.6).前回調査6)からC4年が経過し,その間に眼圧下降の新しい作用機序を有する点眼薬(オミネデパグイソプロピル点眼薬)や配合点眼薬(ラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬,ブリモニジン/チモロール配合点眼薬)が使用可能となった.そこで今回,再び緑内障患者の実態調査を実施した.そのなかでCNTG患者とCPOAG患者に対する患者背景と薬物治療の相違を検討した.また,経時的変化を合わせて検討した.CI対象および方法2020年C3月C8.14日のC7日間に本試験の趣旨に賛同した78施設に外来受診したすべての緑内障および高眼圧症の患者を対象とした(表1).総症例数はC5,303例C5,303眼(男性2,347例,女性C2,956例),平均年齢はC68.7C±13.1歳(平均値C±標準偏差,11.101歳)であった.調査は各施設にアンケート用紙を郵送し,記入してもらう方法で行った.アンケート項目は,年齢,性別,病型,緑内障使用薬剤(投薬数,使用薬剤),レーザー既往歴,手術既往歴である.回収したアンケート用紙からCNTGとCPOAG患者の年齢(対応のないCt検定),性別,レーザー既往歴,手術既往歴を比較した(Cc2検定).同様に使用薬剤数,単剤・2剤使用例の内訳を比較した(Mann-WhitneyU検定,Cc2検定).配合点眼薬はC2剤として解析した.なお,前回調査6)までは点眼薬は先発医薬品と後発医薬品に分けて調査していたが,今回調査では薬剤は一般名での収集とした.さらに,2016年に同様の方法で行った前回調査6)の結果と比較した(Cc2検定).本研究は井上眼科病院の倫理審査委員会で承認を得た.CII結果1.病型全症例ではCNTG2,710例(51.1%),POAG1,638例(30.9%),続発緑内障C435例(8.2%),高眼圧症C286例(5.4%)などであった.性別はCNTGでは男性C1,116例,女性C1,594例,POAGでは男性C798例,女性C840例で,NTGで女性が有意に多かった(p<0.0001).平均年齢はCNTGC67.5±13.4歳,CPOAGC69.5±12.6歳で,POAGが有意に高かった(p<0.0001).レーザー既往ありはCNTG28例(1.0%),POAG46例(2.8%)で,POAGが有意に多かった(p<0.0001).手術既往ありはCNTG30例(1.1%),POAG185例(11.3%)で,POAGが有意に多かった(p<0.0001).C2.使用薬剤数平均薬剤数はNTGC1.6±1.0剤,POAGC2.2±1.4剤で,POAGが有意に多かった(p<0.0001).NTGでは使用薬剤なしC160例(5.9%),1剤C1,452例(53.6%),2剤C657例(24.2%),3剤C302例(11.1%),4剤C109例(4.0%),5剤C27例(1.0%),6剤C3例(0.1%)であった.POAGでは使用薬剤なしC130例(7.9%),1剤C490例(29.9%),2剤C373例(22.8%),3剤C317例(19.4%),4剤C207例(12.6%),5剤C103例(6.3%),6剤C18例(1.1%)であった.1剤使用症例はCNTGが有意に多く(p<0.0001),3.6剤使用症例はそれぞれCPOAGが有意に多かった(p<0.0001).C3.単剤使用症例の薬剤(図1)NTG(1,452例),POAG(490例)ともにプロスタグランジン(prostaglandin:PG)関連薬が圧倒的に多く,NTGではC961例(66.2%),POAGではC363例(74.1%)であった.PG関連薬はCPOAGが有意に多かった(p<0.05).Cb(ab)遮断薬はCNTG,POAGともにCPG関連薬のつぎに多く,NTGではC328例(22.6%),POAGではC86例(17.5%)であった.Cb(ab)遮断薬はCNTGが有意に多かった(p<0.05).Ca2刺激薬はNTGでは59例(4.1%),POAGでは8例(1.6%)で,NTGが有意に多かった(p<0.001).C4.2剤使用症例の薬剤(図2)NTG,POAGともに,PG/Cb配合点眼薬がもっとも多く(NTG303例C46.1%,POAG166例C44.5%),ついでCPG関連薬とCb(ab)遮断薬の併用が多かった(NTG86例C13.1%,POAG53例C14.2%).Cb(ab)遮断薬とCa2刺激薬の併用はCNTGではC31例(4.8%),POAGではC3例(0.8%)で,NTGが有意に多かった(p<0.001).C5.前回調査と病型の比較今回調査ではCNTG2,710例(51.1%),POAG1,638例(30.9%)で,開放隅角緑内障が約C82%を占めており,前回調査のCNTG2,197例(51.2%),POAG1,232例(28.7%)と同等だった.C6.前回調査と使用薬剤数の比較(図3)平均薬剤数はCNTGでは前回調査C1.5C±1.0剤,今回調査C1.6C±1.0剤で,POAGでは前回調査C2.1C±1.3剤,今回調査C2.2C±1.4剤であった.POAGが前回調査よりも平均薬剤数が有表1協力施設および協力医師名協力施設協力医師都道府県協力施設協力医師都道府県ふじた眼科クリニック藤田南都也北海道眼科中井医院中井倫子神奈川県中山眼科医院余敏子東京都さいとう眼科斎藤孝司神奈川県白金眼科クリニック西野由美子東京都あおやぎ眼科青柳睦美千葉県高輪台眼科クリニック社本真紀東京都本郷眼科吉川みゆき千葉県小川眼科診療所加藤美名子東京都吉田眼科吉田元千葉県もりちか眼科クリニック森近千都東京都のだ眼科麻酔科医院野田久代千葉県中沢眼科医院中澤正博東京都みやけ眼科野崎康嗣千葉県良田眼科良田夕里子東京都高根台眼科奈良俊作千葉県駒込みつい眼科三井義久東京都谷津駅前あじさい眼科田中まり千葉県菅原眼科クリニック菅原道孝東京都おおあみ眼科今井尚人千葉県うえだ眼科クリニック上田裕子東京都いずみ眼科クリニック泉雅子茨城県江本眼科江本有子東京都サンアイ眼科伏屋陽子茨城県えづれ眼科江連司東京都さいき眼科齋木裕埼玉県とやま眼科外山茂東京都林眼科医院林優埼玉県おおはら眼科大原重輝東京都石井眼科クリニック石井靖宏埼玉県的場眼科クリニック伊藤景子東京都やながわ眼科柳川隆志埼玉県篠崎駅前髙橋眼科髙橋千秋東京都ふかさく眼科深作貞文埼玉県かさい眼科笠井直子東京都たじま眼科・形成外科田島康弘埼玉県みやざき眼科宮崎明子東京都鬼怒川眼科医院鬼怒川雄一宮城県はしだ眼科クリニック橋田節子東京都さくら眼科・内科岡本寧一埼玉県にしかまた眼科簗島謙次東京都やなせ眼科矢那瀬淳一埼玉県久が原眼科芹沢聡志東京都博愛こばやし眼科小林一博長野県あつみ整形外科・眼科クリニック渥美清子東京都ヒルサイド眼科クリニック土田覚静岡県そが眼科クリニック蘇我孟志東京都あつみクリニック渥美清子静岡県早稲田眼科診療所尾崎良太東京都さいはく眼科クリニック瀬戸川章鳥取県井荻菊池眼科菊池亨東京都藤原眼科村木剛広島県ほりかわ眼科久我山井の頭通り堀川良高東京都大原ちか眼科大原千佳福岡県小滝橋西野眼科クリニック西野由美子東京都かわぞえ眼科クリニック川添賢志福岡県いなげ眼科稲毛佐知子東京都図師眼科医院図師郁子福岡県赤塚眼科はやし医院林殿宣東京都いまこが眼科医院藤川王哉福岡県えぎ眼科仙川クリニック江木東昇東京都槇眼科医院槇千里福岡県なかむら眼科・形成外科中村敏東京都むらかみ眼科クリニック村上茂樹熊本県西府ひかり眼科野口圭東京都川島眼科川島拓宮崎県東小金井駅前眼科三田覚東京都ガキヤ眼科医院我喜屋重光沖縄県後藤眼科後藤克博東京都札幌・井上眼科クリニック清水恒輔北海道おがわ眼科小川智美東京都大宮・井上眼科クリニック野崎令恵埼玉県立川しんどう眼科真藤辰幸東京都西葛西・井上眼科病院井上順治東京都だんのうえ眼科クリニック壇之上和彦神奈川県お茶の水・井上眼科クリニック岡山良子東京都綱島駅前眼科芝龍寛神奈川県井上眼科病院井上賢治東京都NTG(1,452例)POAG(490例)a2刺激薬**点眼CAIa2刺激薬**点眼CAI*p<0.05,**p<0.001,c2検定図1単剤使用症例の薬剤(c2検定,*p<0.05,**p<0.001)CNTG(657例)POAG(373例)b(ab)**b(ab)4.8%PG+a26.7%CAI/b配合点眼薬7.3%PG+b(ab)*p<0.05,**p<0.001,c2検定13.1%図22剤使用症例の薬剤(c2検定,**p<0.001)CPOAG2020年2.2±1.4剤*2016年2.1±1.3剤(*p<0.05)0剤1剤2剤3剤4剤5剤6剤7剤0剤1剤2剤3剤4剤5剤6剤7剤■2016年■2020年*p<0.05,Mann-Whitney-U検定,c2検定■2016年■2020年図3前回調査と使用薬剤数の比較(Mann-WhitneyU検定,c2検定,*p<0.05)意に増加し(p<0.05),NTGでは前回調査と同等だった(pC7.前回調査と単剤使用症例の比較(図4)=0.0749).NTG,POAGともに前回調査よりもCPG関連薬の使用割合が有意に減少した(p<0.0001,p<0.05).****NTGPOAG■2016年■2020年■2016年■2020年*p<0.05,**p<0.001,***p<0.0001,c2検定図5前回調査と2剤使用症例の比較(c2検定,*p<0.05,***p<0.0001)NTGではCPG関連薬がC74.0%からC66.2%(p<0.0001)へ有意に減少し,b(ab)遮断薬,a2刺激薬,ROCK阻害薬が増加したが,有意な増加はなかった.POAGではCPG関連薬がC80.2%からC74.1%(p<0.05)へ有意に減少し,b(ab)遮断薬,炭酸脱水酵素阻害薬(car-bonicCanhydraseinhibitor:CAI)が増加したが,有意な増加はなかった.またCNTG,POAGともに前回調査5)では未発売であったEP2受容体作動薬が今回調査では各々C5.5%,3.3%だった.C8.前回調査と2剤使用症例の比較(図5)NTGではCPG/b配合点眼薬はC31.4%からC46.1%と有意に増加した(p<0.0001).PG関連薬とCb(ab)遮断薬の併用はC28.5%からC13.1%と有意に減少し(p<0.0001),PG関連薬とCa2刺激薬の併用はC11.7%からC6.7%と有意に減少(p<0.001)した.CAI/b配合点眼薬,およびCPG関連薬とCCAIの併用はそれぞれ前回調査と同等だった.POAGではCPG/b配合点眼薬はC29.2%からC44.5%と有意に増加し(p<0.0001),PG関連薬とCb(ab)遮断薬の併用はC28.9%からC14.2%と有意に減少した(p<0.0001).CIII考按今回調査での緑内障病型は多治見スタディ2)や前回調査6)と同様で,NTG,POAG合わせて全緑内障患者のC80%近くを占めていた.病型ではCNTGで女性が男性より有意に多かった.若い女性のほうがコンタクトレンズ診療などでCNTGが発見されるケースなどが多いためと考えられる.平均年齢はCPOAGがCNTGに比べて有意に高かった.POAGは眼圧が高く,治療継続が良好な高齢者が多い可能性が考えられる.レーザー既往,手術既往はCPOAGがCNTGに比べて有意に多かった.使用薬剤数はCPOAGがCNTGと比べて有意に多かった.眼圧が高いCPOAGでは眼圧を下げるために薬物治療,レーザー,手術がより多く行われている可能性がある.前回調査との比較では病型は変化なかった.使用薬剤数はCPOAGで有意に増加,NTGでは同等だった.使用薬剤数は今回調査ではCNTGはC1剤がC53.6%で,前回調査(56.0%)と同様にC1剤使用例が過半数を占めていた.POAGではC1剤が今回調査C29.9%で,前回調査6)34.9%に比べて有意に減少し,4剤以上は今回調査C4剤C12.6%,5剤C6.3%と前回調査6)4剤C8.9%,5剤C4.5%よりも有意に増加した(p<0.05).配合点眼薬の使用促進により,点眼回数を増やすことなく薬剤の追加が可能になった.点眼ボトル数や点眼回数を減らすことにより,良好なアドヒアランスを保つことができると考えられる.単剤使用症例では,POAGがCNTGに比べてCPG関連薬が有意に多かった.POAGではCNTGよりも強い眼圧下降を期待するためと予想される.NTGではCPOAGと比べてCa2刺激薬が有意に多かった.NTG患者へのCa2刺激薬投与による視野障害進行速度が抑制されたという報告7)より神経保護効果を期待したことが原因と考えられる.一方,Cb(ab)遮断薬がCPOAGで有意に少ないのは,Cb(ab)遮断薬は全身性副作用出現の心配があり,循環器系,呼吸器系疾患を有する患者や高齢者では使用しづらい点が考えられる.実際にPOAG患者ではCNTG患者より有意に年齢が高かった.PG関連薬が今回調査ではCNTG66.2%,POAG74.1%で,前回調査(NTG74.0%,POAG80.2%)に比べて有意に減少した.新しい作用機序をもつCa2刺激薬,ROCK阻害薬やC2019年11月より使用可能になったCEP2受容体作動薬などの出現により点眼薬の選択肢が増えたことが原因と考えられる.2剤使用症例ではCb(ab)遮断薬とCa2刺激薬の併用がNTGがCPOAGに比べて有意に多かった.PG関連薬を使用できないケースでは,Ca2刺激薬の神経保護作用7)を期待してとくにCNTGで使用されたと考える.NTG,POAGともに前回調査と比べてCPG/Cb配合点眼薬が有意に増加し,PG関連薬とCb遮断薬の併用が有意に減少した.アドヒアランス向上を目的として,配合点眼薬の使用が増加した影響と考えられる.NTGではCPG関連薬とCa2刺激薬の併用例は前回調査と比べて有意に減少した.PG関連薬への追加投与としてCROCK阻害薬など新しい作用機序の薬剤との組み合わせが増加したためと考えられる.今回調査から薬剤は一般名でデータを収集した.もっとも多くの症例を集めた井上眼科病院とお茶の水・井上眼科クリニックC1,474例(27.8%)ではC2018年C10月より配合点眼薬を除くほとんどの薬剤を一般名として処方することにした.そのため患者が先発医薬品あるいは後発医薬品のどちらを使用しているかは診療録からは判別できなくなった.そこで収集方法を変更した.このため前回調査との比較では正確な解析が行えていない可能性もある.今回調査をまとめると使用薬剤数がCPOAGでCNTGに比べて有意に多かった.使用薬剤の内訳はほぼ同様であったが,POAGでCPG関連薬,NTGでCb(ab)遮断薬,Ca2刺激薬の使用がやや多い傾向がみられた.今後も新しい配合点眼薬や眼圧下降の新しい作用機序を有する点眼薬が使用可能になると予想される.薬物療法はさらに複雑化するので,今後も定期的に多施設で緑内障患者実態調査を行い,緑内障薬治療の実態把握に努めたい.謝辞:今回の実態調査の協力施設およびご協力いただいた先生を表C1へ記載する.この調査に参加していただき,診療録の調査,集計という,とても面倒な作業にご協力いただいた各施設の諸先生方に,深謝いたします.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン(第C4版).日眼会誌122:5-53,C20182)IwaseA,SuzukiY,AraieMetal:Theprevalenceofpri-maryopen-angleglaucomainJapanese.TheTajimistudy.COphthalmologyC111:1641-1648,C20043)塩川美菜子,井上賢治,森山涼ほか:多施設による緑内障患者の実態調査─正常眼圧緑内障と原発開放隅角緑内障.臨眼C62:1699-1704,C20084)添田尚一,井上賢治,塩川美菜子ほか:多施設における緑内障患者の実態調査C2009年度版─正常眼圧緑内障と原発開放隅角緑内障.臨眼C65:1251-1257,C20115)新井ゆりあ,井上賢治,富田剛司:多施設における緑内障患者の実態調査C2012年度版─正常眼圧緑内障と原発開放隅角緑内障.臨眼C67:673-679,C20136)新井ゆりあ,井上賢治,塩川美菜子ほか:多施設における緑内障患者の実態調査C2016年度版─正常眼圧緑内障と原発開放隅角緑内障.臨眼C71:1541-1547,C20177)KrupinT,LiebmannJM,Green.eldDSetal:Arandom-izedtrialofbrimonidineversustimololinpreservingvisu-alfunction:resultsCfromCtheCLow-PressureCGlaucomaCTreatmentStudy.AmJOpthalmolC151:671-681,C2011***

同一症例における白内障手術併用眼内ドレーン挿入術と内方線維柱帯切開術の術後早期成績について

2020年3月31日 火曜日

《原著》あたらしい眼科37(3):353?357,2020?同一症例における白内障手術併用眼内ドレーン挿入術と内方線維柱帯切開術の術後早期成績について塚本彩香徳田直人豊田泰大山田雄介伊藤由香里塚原千広佐瀬佳奈小島香北岡康史高木均聖マリアンナ医科大学眼科学教室EarlyPostoperativeResultsofaTrabecularMicro-BypassStentComparedtoAbInternoTrabeculotomyPerformedinConjunctionwithCataractSurgeryAyakaTsukamoto,NaotoTokuda,YasuhiroToyoda,YusukeYamada,YukariIto,ChihiroTsukahara,KanaSase,KaoriKojima,YasushiKitaoka,andHitoshiTakagiDepartmentofOphthalmology,StMariannaUniversity,SchoolofMedicine目的:白内障手術併用眼内ドレーン挿入術(iStent)と内方線維柱帯切開術(?LOT)の有用性を同一症例の左右眼で比較検討する.対象:両眼に白内障を伴う開放隅角緑内障症例10例20眼(74.5歳)を対象とした.緑内障が進行した眼に対し?LOTを施行しその僚眼にiStentを施行した.結果:眼圧は?LOT側で術前18.6±2.4mmHgが15.1±2.1mmHg,iStent側で18.7±3.1mmHgが13.3±2.1mmHgに有意に下降した.薬剤スコアは両術式ともに術前より有意に下降した.前房フレア値は?LOT側では術後30日で術前と有意差を認めなくなったが,iStent側では術後3日で術前と有意差を認めなくなった.角膜内皮細胞密度は両術式ともに術前と有意差を認めなかった.結論:?LOT,iStentともに術後早期において有効な術式である.iStentは術後の前房内炎症が少ない.Purpose:Tocomparethesafetyande?cacyofatrabecularmicro-bypassstent(iStent;GlaucosCorp.)tothatofabinternotrabeculotomy(?LOT)performedwithconcomitantcataractsurgeryineyeswithopen-angleglaucoma.Methods:?LOTwasperformedineyeswithprogressiveglaucomainoneeye,andiStentwasimplant-edinthecontralateraleyeofthesamesubject.Pre-andpostoperativeintraocularpressure(IOP)andchangesinanteriorchamber?arewereevaluated.Results:Tensubjectswereenrolled(meanage:74.5years).BaselineIOPwas18.7mmHg(iStent)and18.6mmHg(?LOT).Mean?nalIOPat6-monthspostoperativewas13.3mmHg(iStent)eyesand15.1mmHg(?LOT).Thepreoperativeanteriorchamber?arevalueinthe?LOTeyeswas9.6pc/ms,andreturnedtonormalby30-dayspostoperativewithavalueof10.2pc/ms.IntheiStenteyes,thepreop-erativeanteriorchamber?arevaluewas9.9pc/ms,andreturnedtonormalby3-dayspostoperativewithavalueof12.2pc/ms,thusdemonstratinglesspostoperativein?ammationintheiStenteyes.Conclusions:Duringtheear-lypostoperativeperiod,iStentand?LOTwerebothfoundtobee?ective,yetsafetywasfoundtobemorefavor-ableintheiStenteyesbasedonanteriorchamberin?ammation.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)37(3):353?357,2020〕Keywords:原発開放隅角緑内障,低侵襲緑内障手術(MIGS),内方線維柱帯切開術(?LOT),白内障手術併用眼内ドレーン(iStent)挿入術.primaryopenangleglaucoma,microinvasiveglaucomasurgery(MIGS),trabeculotomyabinterno,trabecularmicro-bypassstent(iStent).はじめに近年,緑内障手術領域において低侵襲緑内障手術(microinvasiveglaucomasurgery:MIGS)という概念が提唱され関心が高まってきている.MIGSは小切開創により線維柱帯付近にアプローチするため,組織への侵襲が少なく,安全性が高い手術といわれている1).現在,わが国で施行可能な〔別刷請求先〕徳田直人:〒216-8511神奈川県川崎市宮前区菅生2-16-1聖マリアンナ医科大学眼科学教室Reprintrequests:NaotoTokudaM.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,StMariannaUniversity,SchoolofMedicine,2-16-1Sugao,Miyamae-ku,Kawasaki-shi,Kanagawa216-8511,JAPANMIGSは線維柱帯を焼灼,切開していくTrabectome2),前房内から手術用隅角鏡を用いて線維柱帯を同定し切開していくmicrohookabinternotrabeculotomy(以下,?LOT)3),その他360-degreesuturetrabeculotomy4),マイクロパルス経強膜毛様体光凝固5)などがある.加えて,2016年にわが国でも開放隅角緑内障に対する白内障手術の際に線維柱帯,Schlemm管に挿入するチタン製のステントである白内障手術併用眼内ドレーン「iStent」6)が認可され,白内障手術併用眼内ドレーン挿入術(以下,iStent挿入術)が施行可能となった.現時点においてわが国で施行可能なMIGSは,マイクロパルス経強膜毛様体光凝固を除くすべてが流出路再建術であるため,眼圧下降効果は濾過手術には及ばないが,濾過手術で生じうる濾過胞感染をはじめとする重篤な合併症の危険性が少ないことが利点としてあげられる.MIGSについてわが国からの報告としては,Tanitoらによる?LOTの報告3)などがありその有効性,安全性が評価されているが,わが国からiStent挿入術を評価した報告は少ない7).今回,?LOTとiStent挿入術を同一症例の左右眼に施行し,有効性と安全性について比較検討した.I対象および方法2017年6月?2018年6月に聖マリアンナ医科大学病院にて,内眼手術の既往がない,両眼白内障を併発した原発開放隅角緑内障(primaryopenangleglaucoma:POAG)症例10例20眼(平均年齢74.5±8.2歳)を対象とした.Humphrey自動視野計によるmeandeviation(以下,MD値)がより低値の眼に対して水晶体再建術と?LOTを施行(以下,?LOT側),その僚眼に対してiStent挿入術を施行(以下,iStent側)し術後180日経過観察した.各術式の内容,術式の選択基準については術者(N.T.)より口頭で説明し,書面による同意を得た.術前後の眼圧推移,術後180日における眼圧下降率,薬剤スコアの推移,前房内の蛋白濃度(以下,前房内フレア値)の推移,角膜内皮細胞密度の変化,術後合併症について検討した.薬剤スコアは,抗緑内障点眼薬1剤につき1点(緑内障配合点眼薬については2点),炭酸脱水酵素阻害薬内服は2点として計算した.前房内フレア値の測定は前房蛋白細胞測定装置レーザーフレアーセルメーターFC-2000(興和)を使用した.角膜内皮細胞密度の測定にはNONCONROBOII(コーナン・メディカル)を使用した.手術は全例同一術者(N.T.)により施行された.手術方法は,?LOTではまずスワンヤコブオートクレーバルブゴニオプリズム(Ocular)と谷戸式abinternoトラベクロトミーマイクロフック直(Inami)を用いて,線維柱帯切開術を施行(上方下方2象限を除く約180°)し,その後水晶体再建術を施行し手術終了とした.iStent挿入術では,まず?LOT群同様,スワンヤコブオートクレーバルブゴニオプリズムを用い線維柱帯を同定し,鼻下側にiStentを挿入し,その後水晶体再建術を施行し手術終了とした.統計学的な検討は対応のあるt検定,またはMann-Whit-neyUtestを使用し,p<0.05をもって有意差ありと判定した.なお本研究は診療録による後ろ向き研究である(聖マリアンナ医科大学生命倫理委員会4029号).II結果表1に施行した術式別の背景を示す.術前眼圧,薬剤スコア,前房内フレア値,角膜内皮細胞密度に有意差は認めなかったが,MD値については両群間に有意差を認めた(Mann-WhitneyUtestp<0.01).図1に術前後の眼圧推移を示す.?LOT側では,術前18.6±2.4mmHgが術後180日で15.1±2.1mmHg,iStent側では,術前18.7±3.1mmHgが術後180日で13.3±2.1mmHgと両術式とも術前に比し有意な眼圧下降を示した(対応のあるt検定p<0.01).図2に術後180日における眼圧下降率を示す.?LOT側では18.3±11.0%,iStent側では27.2±16.0%であり,両術式の間に有意差は認めなかった.図3に術前後の薬剤スコアの推移を示す.?LOT側では,術前3.3±0.7点が術後180日で0.2±0.4点,iStent群では術前平均3.0±0.5点が術後180日で0.2±0.6点と両術式とも術前に比し有意な下降を示した(対応のあるt検定p<0.01).図4に術前後の前房フレア値の推移を示す.?LOT側では,術前平均9.6±2.6pc/msが術後14日で18.1±8.3pc/msと術後14日まで術前に比し有意に前房フレア値が高値であった(対応のあるt検定p<0.01).iStent側では術前9.9±2.3pc/msが術後1日のみ18.5±7.8pc/msと有意に高値(対応のあるt検定p<0.01)であったが,それ以降は術前と有意差を認めなかった.また,術後1日,3日,7日,14日の時点において?LOT側はiStent側よりも有意に前房フレア値が高くなっていた(Mann-WhitneyUtestp<0.01またはp<0.05).術前後の角膜内皮細胞密度の変化については?LOT側では術前2,762±140/mm2が術後2,594±167/mm2,iStent側では術前2,610±219/mm2が術後2,622±216/mm2と両術式とも術前と有意差を認めなかった.表2に術後合併症について示す.?LOT側では,前房出血8例(80%),飛蚊症4例(40%),虹彩前癒着1例(10%),一過性眼圧上昇1例(10%),iStent側では,前房出血が1例(10%),飛蚊症4例(40%),一過性眼圧上昇1例(10%),虹彩嵌頓1例(10%)であった.(mmHg)(点)(pc/ms)角膜内皮細胞密度(/mm2)表1対象の背景2762±1402610±2190.212520151050術前術後3日7日14日30日60日90日120日150日180日MD値(dB)?13.8±8.2?3.2±4.2<0.01mean±standarddeviation眼圧1日観察期間図1術前後の眼圧推移両術式とも術後速やかに眼圧下降が得られた.403020100?LOT側iStent側errorbar:standarddeviation0術前術後1日3日7日14日30日60日90日120日150日180日観察期間図2眼圧下降率術後6カ月の眼圧下降率は両術式で有意差を認めなかった.図3術前後の薬剤スコア推移術後6カ月で薬剤スコアは両術式で有意に減少した.100806040200術前術後1日術後3日術後7日術後14日術後30日図4術前後の前房内フレア値の推移表2術後合併症合併症?LOT側iStent側前房出血8例1例飛蚊症4例4例周辺虹彩前癒着1例0例一過性眼圧上昇1例1例虹彩陥頓0例1例III考按?LOT側は術後14日まで術前よりも有意に前房フレア値が高かった.iStent側は術後3日で術前と有意差がなくなった.今回の検討では,同一症例の左右眼に?LOT,またはiStent挿入術を施行しその術式の有効性,安全性について比較検討した.同一症例の左右眼で比較することで個体差というバイアスを最小限にできると考えたが,「白内障手術併用眼内ドレーン使用要件等基準」8)の適応基準の項目で「緑内障点眼薬で治療を行っている白内障を合併した軽度から中等度の開放隅角緑内障(POAG,落屑緑内障)の成人患者」と明記されているため,この基準に従い術式を検討した結果,MD値がより低値の眼に対して?LOT,その僚眼にiStent挿入術を施行することになった.そのため術前MD値は,?LOT側がiStent側よりも有意に低値になり,これが術後成績に影響した可能性があることを踏まえたうえで今回の結果について考察してみる.術後眼圧,薬剤スコアについては,両術式ともに術前に比し有意な下降を認め,両術式のPOAGに対する術後早期の有効性が示された.とくに術前に使用していた抗緑内障点眼薬を減量できたことは患者のアドヒアランス向上にもつながる可能性があり,意義深い結果と考える.Tanitoら3)は?LOTを施行した17眼24例について術前眼圧25.9±14.3mmHgが術後6カ月で14.5±2.9mmHgと有意な眼圧下降を示したと報告している.今回の筆者らの検討よりも術前眼圧が高いものの,良好な眼圧下降が得られているが,この報告では術後も術前の抗緑内障点眼薬を継続して使用している.しかし,今回の筆者らの結果とTanitoらの結果から,?LOTについては緑内障病型も関係すると思うが,抗緑内障点眼薬を併用することを前提にするならば,もう少し術前眼圧が高い症例にも適応があるかもしれない.iStent挿入術については邦人を対象とした報告としてShibaら7)は,iStentを2本挿入した10例について,術前22.0±3.0mmHgが術後半年で16.9±3.6mmHgと有意な眼圧下降を示したとしている.iStent挿入の数についてはKatzら9)はiStent挿入後12カ月における15mmHg以下のコントロール率について,iStentを1本のみ挿入した場合64.9%,2本の場合85.4%,3本の場合92.1%と報告しており,iStent挿入術の眼圧下降効果はiStentを挿入する数に依存する可能性があることを示唆している.しかし,今回の検討ではiStentを1本のみ挿入しただけでも術前よりも有意な眼圧下降が得られたことから,緑内障早期または中期の症例に対してよい適応と考える.今回の検討において両術式の眼圧下降率について有意差を認めなかった.?LOTのほうが線維柱帯,Schlemm管に広範囲に影響するため,iStent挿入術よりも良好な眼圧下降が得られるのではないかと予想していたが,両術式の間に有意差は認めないものの,iStent挿入術の眼圧下降率が?LOTの眼圧下降率よりも高い傾向がみられた.この原因としては,iStent側では?LOT側よりも緑内障病期が進行していないため,線維柱帯,Schlemm管以降の通過障害が少なく,高い眼圧下降効果が得られた可能性が考えられるが,これを証明するには両術式の病期をそろえた検討が必要であるため,今後の課題としたい.今回の検討でもっとも注目すべき事実としては,iStent挿入術後の前房フレア値の回復の早さと考える.?LOT側が術前と有意差がなくなるまでに14日以上かかったが,iStent側は術後3日目には術前と有意差がなくなっていた.これについてはiStent挿入術の手術侵襲の少なさが関係していると思われる.術後早期に社会復帰したいと考える白内障を併発した開放隅角緑内障患者にはiStent挿入術はよい適応かもしれない.合併症については,?LOT側では線維柱帯,Schlemm管を切開するため前房出血はほぼ必発であるため,それ自体には問題はないと考えるが,それが一過性眼圧上昇につながらないことが術後管理として求められる.今回の検討では?LOT側の30mmHg以上の一過性眼圧上昇は1症例認められたが,その症例は周辺虹彩前癒着(peripheralanteriorsynechia:PAS)を生じた症例であり,YAGレーザーでPASを解除後,眼圧は下降し術後6カ月では16mmHgと安定した.iStent挿入側で一過性眼圧上昇が生じた1症例は術後にiStentが虹彩に嵌頓した症例であった.これについてもYAGレーザーにより嵌頓を解除して眼圧下降を得た.Shibaら7)も虹彩嵌頓や前房出血による一過性眼圧上昇について述べており,濾過手術よりも比較的術後管理が容易とされる流出路再建術においても,術後の経過観察と管理は重要である.飛蚊症については両術式ともに40%ずつ認められたが,これは術後の前房内の炎症細胞,もしくは前房出血に起因するものであり,今回は全例で水晶体再建術を施行しているので自覚症状が生じやすかったのではないかと考える.以上,同一症例におけるiStent挿入術と?LOTの術後早期成績について検討した.両術式ともに初期から中期のPOAGに対して有効な術式と考える.とくにiStent挿入術は術後炎症が少ない点から術後炎症が生じやすい場合や,早期の職場復帰をめざす患者にとってはよい適応と考える.今回の検討では,両術式間に病期の差があったことや,両術式ともに白内障手術を同時に施行しているため,?LOT単独,iStent挿入術単独の効果が不明であることなどのバイアスが生じているが,これらの点についても今後の検討課題としたい.文献1)SahebH,AhmedII:Micro-invasiveglaucomasurgery:currentperspectivesandfuturedirections.CurrOpinOphthalmol23:96-104,20122)JordanJF,WeckerT,vanOterendorpCetal:Trabec-tomesurgeryforprimaryandsecondaryopenangleglau-comas.GraefesArchClinExpOphthalmol251:2753-2760,20133)TanitoM,SanoI,IkedaYetal:Short-termresultsofmicrohookabinternotrabeculotomy,anovelminimallyinvasiveglaucomasurgeryinJapaneseeyes:initialcaseseries.ActaOphthalmol95:354-360,20174)ChinS,NittaT,ShinmeiYetal:Reductionofintraocularpressureusingamodi?ed360-degreesuturetrabeculoto-mytechniqueinprimaryandsecondaryopen-angleglau-coma:apilotstudy.JGlaucoma21:401-407,20125)EmanuelME,GroverDS,FellmanRLetal:Micropulsecyclophotocoagulation:Initialresultsinrefractoryglauco-ma.JGlaucoma26:726-729,20176)SpiegelD,Garc?a-Feijo?J,Garc?a-S?nchezJetal:Coex-istentprimaryopen-angleglaucomaandcataract:pre-liminaryanalysisoftreatmentbycataractsurgeryandtheiStenttrabecularmicro-bypassstent.AdvTher25:453-464,20087)ShibaD,HosodaS,YaguchiSetal:Safetyande?cacyoftwotrabecularmicro-bypassstentsasthesoleprocedureinJapanesepatientswithmedicallyuncontrolledprimaryopen-angleglaucoma:Apilotcaseseries.JOphthalmol2017:9605461,20178)白内障手術併用眼内ドレーン会議:白内障手術併用眼内ドレーン使用要件等基準.日眼会誌120:494-497,20169)KatzLJ,ErbC,CarcellerGAetal:Prospective,random-izedstudyofone,two,orthreetrabecularbypassstentsinopen-angleglaucomasubjectsontopicalhypotensivemedication.ClinOphthalmol9:2313-2320,2015◆**

10年間以上経過観察を行っている原発開放隅角緑内障症例の視野障害進行

2019年2月28日 木曜日

《原著》あたらしい眼科36(2):286.290,2019c10年間以上経過観察を行っている原発開放隅角緑内障症例の視野障害進行井上賢治*1石田恭子*2富田剛司*2*1井上眼科病院*2東邦大学医療センター大橋病院眼科CVisualFieldProgressioninPrimaryOpenangleGlaucomaPatientswithFollow-upPeriodsofMoreThan10YearsKenjiInoue1),KyokoIshida2)andGojiTomita2)1)InouyeEyeHospital,2)DepartmentofOphthalmology,TohoUniversityOhashiMedicalCenterC目的:原発開放隅角緑内障の視野障害進行状況と,関連する因子を後ろ向きに検討する.対象および方法:10年間以上経過観察を行い,その間に緑内障手術や緑内障レーザー治療を行っていない原発開放隅角緑内障C304例C304眼を対象とした.Humphrey視野検査のCmeandeviation(MD)スロープを算出した.MDスロープに関連する因子(性別,年齢,病型,屈折値,観察開始時眼圧,眼圧変動幅,平均眼圧,使用薬剤数,薬剤増加数,観察開始時CMD値,中心角膜厚,白内障手術施行の有無)を検索した.結果:MDスロープはC.0.25±0.27CdB/年で,C.0.5CdB/年以下がC56例(18.4%)だった.MDスロープに関連する因子は年齢,使用薬剤数,薬剤増加数,観察開始時CMD値,観察開始時眼圧だった.結論:10年以上経過観察を行っている原発開放隅角緑内障での視野障害進行はC18.4%でみられた.高齢で観察開始時CMD値が良好な症例で視野障害進行のスピードが速く,注意を要する.CPurpose:ToretrospectivelyinvestigatevisualC.eldprogressionandcorrelatedfactorsinprimaryopen-angleglaucoma(POAG)patientsCwithCfollow-upCperiodsCofCmoreCthanC10years.CMethods:SubjectsCwereC304patients(304eyes)withPOAGwhowerefollowed-upformorethan10years,duringwhichnosurgeryorlasertreatmentforCglaucomaCwasCperformed.CMeandeviation(MD)slopeCbyCHumphreyCwasCcalculated.CFactorsCcorrelatingCwithCMDslope(gender,age,typeofdisease,refractivevalue,baselineMDandIOP,IOPrange,IOPaverage,numberofmedicationsCatCbaseline,CnumberCofCincreasedCmedications,CcentralCcornealCthicknessCandCsurgicalChistoryCofCcata-ract)wereCsearched.CResults:SlopeCgradeCwasC.0.25±0.27CdB/year,CwithC56patients(18.4%)beingClessCthanC.0.5CdB/Cyear.CFactorsCthatCcorrelatedCwithCMDCslopeCwereCage,CnumberCofCmedicationsCatCbaseline,CnumberCofCincreasedmedications,andMDandIOPatbaseline.Conclusions:VisualC.eldprogressionoflessthanC.0.5CdB/ywasobservedin18.4%ofsubjects.ElderlypatientswithincipientstageofMDatbaselinehadworseprognosis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C36(2):286.290,C2019〕Keywords:原発開放隅角緑内障,視野障害進行,MDスロープ,高齢,meandeviation値.primaryopenangleglaucoma,visualC.eldprogression,MDslope,elderlypatients,meandeviation.Cはじめに緑内障は視野障害をきたす疾患である.視野障害は改善することはなく,慢性進行性である.そのため緑内障治療は視野障害進行を抑制あるいは停止させることが最終目標となる.緑内障性視野障害の進行速度を示すCmeanCdeviation(MD)スロープは,無治療で経過観察した症例において正常眼圧緑内障(normalCtensionglaucoma:NTG)ではC.0.22CdB/年1),C.0.41CdB/年2),C.0.78CdB/年3),原発開放隅角緑内障(primaryCopenangleCglaucoma:POAG)ではC.0.46dB/年1)と報告されている.また,緑内障性視野障害の進行抑制に対して,唯一エビデンスが得られているのが眼圧下降である4).しかし,眼圧を十分に下降(眼圧下降率C30%以上)させても視野障害が進行する症例や,無治療でも視野障害が進行しない症例が存在する4).どのような症例で視野障害が〔別刷請求先〕井上賢治:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台C4-3井上眼科病院Reprintrequests:KenjiInoue,M.D.,Ph.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPANC286(156)進行するか判明すれば,緑内障の治療方針の参考となる.緑内障による視野障害進行を検討した報告は過去に多数あるが5.10),10年間以上の長期間にわたる視野障害進行を検討した報告は少ない9,10).また,300例以上の多数症例での報告は過去にない.そこで今回C10年間以上の長期にわたり経過観察できた多数症例の(広義)POAGの視野障害進行状況と視野障害進行に関連する因子を後ろ向きに検討した.CI対象および方法井上眼科病院に通院中で,10年間以上経過観察可能であった(広義)POAG304例C304眼を対象とした.対象の概要を表1に示す.組入基準として,Humphrey視野中心C30-2プログラムCSITAStandardの信頼性のあるデータがC16回以上得られた症例とした.信頼性のあるデータは固視不良20%以下,偽陽性C33%以下,偽陰性C33%以下とした.また,Humphrey視野検査によるCMD値がC.18.0CdB以上の症例とした.除外基準として経過観察中に選択的レーザー線維柱帯形成術(selectiveClasertrabeculoplasty:SLT)施行眼,緑内障手術施行眼とした.両眼該当例では右眼を対象とした.Humphrey視野検査によるCMDスロープを各症例で算出した.MDスロープに関連する因子を重回帰分析で解析した.従属変数はCMDスロープとした.独立変数は性別,観察開始時年齢,病型,観察開始時屈折値,観察開始時眼圧,経過観察中の眼圧変動幅,経過観察中の平均眼圧,観察開始時使用薬剤数,薬剤増加数,観察開始時CMD値,中心角膜厚,経過観察開始時の白内障手術施行有無とした.MDスロープC.0.5CdB/年以下とC.0.5CdB/年超の症例に分けて上記各因子の相違を解析した.さらに視野障害度による症例の検討を行った.具体的には観察開始時CMD値をC.6.0dB超(初期),C.12.0dB以上C.6.0dB以下(中期),C.18.0dB以上C.12.0CdB未満(後期)のC3群に分けて上記各因子とMDスロープの相違を解析した.MDスロープC.0.5CdB/年以下とC.0.5CdB/年超の症例の解析には,観察開始時年齢,観察開始時の屈折値,観察開始時眼圧,経過観察中の眼圧変動幅,観察開始時使用薬剤数,薬剤増加数,観察開始時CMD値はCMann-WhitneyU検定を,平均眼圧,中心角膜厚は対応のないCt検定を,性別,病型,白内障手術施行有無はCc2検定を使用した.視野障害度による症例の解析には,観察開始時年齢,観察開始時屈折値,観察開始時眼圧,経過観察中の眼圧変動幅,観察開始時使用薬剤数,薬剤増加数,中心角膜厚,MDスロープはCKruskal-Wallis検定を,3群に有意差があればCMann-WhitneyU検定を,平均眼圧はCone-wayANOVAを,3群に有意差があればCBonferroni-Dunn検定を,性別,病型,白内障手術施行有無はCc2検定を使用した.有意水準はp<0.05とした.表1対象の概要性別男性C135例,女性C169例観察開始時年齢C52.3±10.2歳(22.74歳)病型NTG185例,POAG119例観察開始時屈折値C.4.2±3.7D(C.17.0.+3.5D)観察開始時眼圧C15.7±2.3CmmHg(11.21mmHg)観察開始時使用薬剤数C1.8±1.2剤(0.4剤)観察開始時CMD値C.6.95±4.68CdB(C.17.69.+1.74dB)中心角膜厚C527.1±34.9Cμm(392.624Cμm)解析視野検査回数C24.0±4.8回(16.39回)平均観察期間C11.6±1.1年(10.14年)本臨床試験は井上眼科病院の倫理審査委員会で承認された.研究情報を院内掲示などで通知・公開し,研究対象者が拒否できる機会を保障した.CII結果全症例(304例)のCMDスロープはC.0.25±0.27CdB/年(平均値C±標準偏差),C.1.30.0.30dB/年だった.MDスロープがC.0.5dB/年以下の症例はC56例(18.4%),C.1.0CdB/年以下の症例はC7例(2.3%)だった(図1).MDスロープに関連する因子は観察開始時年齢,観察開始時眼圧,観察開始時使用薬剤数,薬剤増加数,観察開始時MD値だった(表2).観察開始時年齢が高いほど,観察開始時眼圧が低いほど,使用薬剤数が多いほど,薬剤増加数が多いほど,観察開始時CMD値が高値なほどで,MDスロープの値が小さかった(視野進行障害が早かった).MDスロープC.0.5CdB/年以下とC.0.5CdB/年超の症例の比較では,観察開始時年齢,薬剤増加数に有意差がみられた(表3).MDスロープがC.0.5dB/年以下の症例ではC.0.5CdB/年超の症例に比べて有意に年齢が高く(p<0.001),薬剤数が増加していた(p<0.01).視野障害度による症例比較では,緑内障病型は後期症例で初期症例に比べてCNTGが有意に少なかった(p<0.01,p=0.008)(表4).使用薬剤数は初期症例が中期症例,後期症例に比べて有意に少なかった.(p<0.001,p<0.001).白内障手術施行例は中期症例が初期症例に比べて有意に多かった(p<0.05).MDスロープは初期症例と中期症例が後期症例に比べて有意に低値だった(p<0.05).CIII考按緑内障患者の視野障害進行の検討は多数報告されている5.10)が,報告により対象,経過観察期間,視野障害進行判定が異なるのでその評価はむずかしい.NaitoらはCPOAG,CNTG156例を平均C7.6年間経過観察した5).MDスロープの有意な悪化を視野障害進行と定義したところ,視野障害進行例はC44.9%だった.視野障害進行例の特徴は,ベースライ(例)60535250403020100-1.3-1.2-1.1-1.0-0.9-0.8-0.7-0.6-0.5-0.4-0.3-0.2-0.10.00.10.20.3(dB/年)図1MDスロープの分布表2MDスロープに関連する因子独立変数p値Cb性別C0.6160C.0.029観察開始時年齢<C0.0001C.0.267病型C0.7683C.0.022観察開始時屈折値C0.2716C0.072観察開始時眼圧C0.0225C0.125経過観察中の眼圧変動幅C0.2502C.0.071経過観察中の平均眼圧C0.0862C0.128観察開始時使用薬剤数C0.0035C.0.215薬剤増加数C0.0001C.0.272観察開始時CMD値C0.0004C.0.214中心角膜厚C0.6054C.0.031白内障手術施行C0.1812C0.079表3MDスロープ.0.5dB/年以下と.0.5dB/年超の症例比較.0.5dB/年以下.0.5dB/年超項目C(有意に悪化)(有意な変化なし)p値56例C248例性別男性C21:女性C35男性C114:女性C134C0.249観察開始時年齢(歳)C57.5±11.9C52.3±10.3<C0.001病型(例)NTG33:POAGC23NTG152:POAGC96C0.744観察開始時屈折値(D)C.3.2±4.1C.4.2±3.6C0.065観察開始時眼圧(mmHg)C15.9±3.0C15.8±2.5C0.708経過観察中の眼圧変動幅(mmHg)C7.2±2.1C6.9±2.1C0.378経過観察中の平均眼圧(mmHg)C14.2±1.7C14.2±1.7C0.866観察開始時使用薬剤数(剤)C1.1±0.9C1.3±1.0C0.200薬剤増加数(剤)C1.1±1.1C0.6±0.8C0.001観察開始時CMD値(dB)C.5.77±3.55C.7.21±4.86C0.0957中心角膜厚(Cμm)C524.6±37.2C527.7±34.5C0.7002白内障手術施行あり4:なしC52ありC31:なしC217C0.257Cン眼圧が低い,眼圧下降率が低い,眼圧変動幅が大きいだっところ,視野障害進行例はC23.1%だった.視野障害進行例た.MuschらはCPOAG,色素緑内障C293例をC9年間経過観の特徴は最大眼圧が高い,眼圧変動幅が大きい,眼圧のばら察した6).MD値のC3CdB以上悪化を視野障害進行と定義したつき〔standarddeviation(SD)値〕が大きいだった.Fuku-表4視野障害度による症例比較.6.0CdB超C.12.0.C.6.0CdBC.12.0CdB未満項目(初期)151例(中期)99例(後期)54例p値性別男性C58:女性C93男性C48:女性C51男性C29:女性C25C0.093観察開始時年齢(歳)C53.3±10.8C53.8±11.3C52.6±10.3C0.777病型(例)NTG103:POAGC48NTG58:POAGC41NTG24:POAGC30C0.008観察開始時屈折値(D)C.3.8±3.6C.4.4±3.9C.4.2±3.6C0.388観察開始時眼圧(mmHg)C16.1±2.7C15.3±2.6C15.7±2.3C0.094経過観察中の眼圧変動幅(mmHg)C7.0±2.1C6.7±1.9C7.5±2.5C0.215経過観察中の平均眼圧(mmHg)C14.3±1.6C14.1±1.8C14.2±1.7C0.599観察開始時使用薬剤数(剤)C1.0±0.9C1.5±1.0C1.8±1.1<C0.001薬剤増加数(剤)C0.7±0.9C0.7±0.9C0.6±1.0C0.326中心角膜厚(Cμm)C528.6±34.4C530.6±36.5C516.7±32.0C0.062白内障手術施行ありC10:なしC141ありC19:なしC80あり6:なしC48C0.010MDスロープ(dB)C.0.28±0.13C.0.25±0.14C.0.15±0.13C0.01CchiらはCPOAG121例を平均C8.68年間,NTG166例を平均9.19年間経過観察した7).POAGのCMDスロープはC.0.51±0.63dB/年で,MDスロープに関連する因子は,性別(男性),観察開始時年齢,経過観察中の平均眼圧だった.NTGのMDスロープはC.0.35±0.41CdB/年で,MDスロープに関連する因子は観察開始時の年齢,観察開始時のCMD値,経過観察中の眼圧変動(SD)だった.KoonerらはCPOAG487例を平均C5.5年間経過観察した8).失明に至る症例の特徴を調査した.失明の定義は,矯正視力C20/200以下あるいは視野が中心C20°以内とした.失明に至る症例はC42.1%(205例/487例)で,その特徴は平均眼圧が高い,眼圧の変動が大きい,発見が遅れた,眼圧コントロール不良,コンプライアンス不良だった.KomoriらはCNTG78例を平均C18.3年間経過観察した9).MDスロープはC.0.30±0.29CdB/年だった.視野障害進行例をCMD値がC3CdB以上悪化とした場合には53.8%,MDスロープがC.0.5CdB/年以下とした場合にはC19.2%だった.視野障害進行の危険因子は視神経乳頭出血と経過観察中の眼圧変動だった.KimらはCNTG121例を平均C12.2年間経過観察した10).緑内障の進行を構造的変化と視野障害進行のいずれかとした場合にはC46.3%が該当した.危険因子は視神経乳頭出血と眼圧下降不良だった.今回の症例でのMDスロープはC.0.25±0.27CdB/年で,過去の報告7,9)より良好だった.また,MD値がC3CdB以上悪化した症例はC45.4%(138例/304例)で,Muschらの報告(23.1%)6),Komoriらの報告(19.2%)9)より視野障害進行例が多かった.今回CMDスロープに関連する因子として年齢,観察開始時使用薬剤数,観察開始時CMD値,観察開始時眼圧値,増加薬剤数があげられた.視野障害進行が早い(MDスロープ値が小さい)症例には年齢が高い,観察開始時の使用薬剤数が多い,観察開始時CMD値が高値,観察開始時眼圧が低値,使用薬剤数が増加という特徴がみられた.原因として年齢が高いほど余命を考えて緑内障手術は控える傾向となる.使用(159)薬剤が多い症例ではさらに薬剤を増やすことは困難なのでSLTや緑内障手術を施行することが多い.観察開始時CMD値が高値で初期の症例では,視野障害が進行する余地が大きい.言い換えるとCMD値が低値で後期の症例では,それ以上はなかなか進行しない.観察開始時眼圧が低値な症例では,加療がむずかしく,視野障害が進行しても経過観察する傾向がある.眼圧が高値な症例ではCSLTや緑内障手術を行う頻度も高い.使用薬剤数が増加した症例では視野障害が進行したために目標眼圧を下げる必要が生じた9)と考えられる.このことからたとえば他院で診療を行っている緑内障患者を初めて診察する場合は,年齢,使用薬剤数,MD値,眼圧を考慮し,その後の治療にあたる必要がある.FukuchiらはCMDスロープC.0.3CdB/年を基準としてCPOAG,NTG症例で各因子の相違を検討した7).POAG症例ではCMDスロープC.0.3CdB/年以下の症例ではC.0.3CdB/年超の症例に比べて,年齢は高く,経過観察期間は短く,経過観察開始時CMD値は良好で,平均眼圧は高く,経過観察中の最高眼圧が高く,最低眼圧が高く,平均眼圧下降率が不良だった.NTG症例ではCMDスロープC.0.3CdB/年以下の症例ではC.0.3CdB/年超の症例に比べて,経過観察中の最高眼圧が高く,眼圧変動幅が大きかった.今回の研究ではCMDスロープC.0.5CdB/年を基準として検討した.症例はCNTG(185例)がCPOAG(119例)より多かった.MDスロープC.0.5CdB/年以下の症例ではC.0.5CdB/年超の症例に比べて,年齢が高く,薬剤増加が多かった.Fukuchiらの報告7)と今回の研究の結果の共通点として年齢が高い症例はリスクが高いと考えられる.今回の研究の視野障害度による比較においても,初期症例(C.6.0CdB超)と中期症例(C.12.0CdB.C.6.0CdB)は後期症例(C.18.0CdB.C.12.0dB)に比べてCMDスロープが有意に小さかった.今回の研究の視野検査の経過観察開始時期はC2000年C1月.2007年C6月である.それ以前には視野検査はCHumphrey視野中心C30-2FullThresholdで行っていた.Humphrey視あたらしい眼科Vol.36,No.2,2019C289野検査のプログラムを中心C30-2SITAStandardへ変更したので,その時期を開始として検討した.そのため,すでに点眼薬治療中の症例も多く,各症例のベースライン眼圧は不明だった.理想的にはベースライン眼圧が判明し,治療開始時を観察開始時とするほうがよいが,今回は日常診療のなかでの評価を考えて,視野検査のプログラムを変更した時期を観察開始とした.したがって経過観察開始時に眼圧が高値,あるいは視野障害進行中の症例も含まれていた可能性がある.視野障害進行を検討したが,ベースラインからの視野障害進行の評価はできなかった.他にも今回の研究には問題点が多数ある.後ろ向き研究のためにさまざまな理由で来院中断となった症例は組入れされていない.治療強化の基準が定められていないので,点眼薬の追加や緑内障手術への移行のタイミングは症例ごとに異なっていた.視野障害が中心近傍に進行した症例では,Humphrey視野検査がC30-2プログラムからC10-2プログラムへ変更したり,Goldmann視野検査に変更したりするが,それらの症例は除外された.経過観察中に緑内障手術が行われた症例は除外されており,それらの症例では視野障害が進行している可能性が高い.眼圧測定時間は全症例で統一されておらず,症例ごとにおいても眼圧測定時間がほぼ同一の症例もあれば,さまざまな時間帯の症例も存在する.通院間隔も統一されておらず,眼圧測定回数も症例ごとに異なる.点眼アドヒアランスは評価されていないので,点眼薬をきちんと使用しているかは不明である.今回,10年間以上経過観察可能だったCPOAG症例の視野障害進行状況と視野障害進行に関連する因子を検討した.視野障害進行をCMDスロープC.0.5CdB/年以下と定義すると18.4%の症例が該当した.高齢で,多剤併用で,MD値が初期の症例で視野障害が進行しやすく,経過観察において注意を要する.文献1)HeijilA,BengtssonB,HymanLetal:Naturalhistoryofopen-angleCglaucoma.COphthalmologyC116:2271-2276,C20092)CollaborativeCNormal-TensionCGlaucomaStudyCGroup:CNaturalhistoryofnormal-tensionglaucoma.Ophthalmolo-gyC108:247-253,C20013)KosekiCN,CAraieCM,CYamagamiCJCetal:E.ectsCofCoralCbrovincamineonvisualC.elddamageinpatientswithnor-mal-tensionCglaucomaCwithClow-normalCintraocularCpres-sure.JGlaucomaC8:117-123,C19994)CollaborativeCNormal-TensionCGlaucomaStudyCGroup:CThee.ectivenessofintraocularpressurereductioninthetreatmentCofCnormal-tensionCglaucoma.CAmCJCOphthalmolC126:498-505,C19985)NaitoCT,CYoshikawaCK,CMizoueCSCetal:RelationshipCbetweenprogressionofvisualC.elddefectandintraocularpressureCinCprimaryCopen-angleCglaucoma.CClinicalCOph-thalmolC9:1373-1378,C20156)MuschCDC,CGillespieCBW,CNiziolCLMCetal:IntraocularCpressurecontrolandlong-termvisualC.eldlossinthecol-laborativeinitialglaucomatreatmentstudy.Ophthalmolo-gyC118:1766-1773,C20117)FukuchiCT,CYoshinoCT,CSawadaCHCetal:TheCrelationshipCbetweenthemeandeviationslopeandfollow-upintraocu-larpressureinopen-angleglaucomapatients.JGlaucomaC22:689-697,C20138)KoonerKS,AiBdoorM,ChoBetal:Riskfactorsforpro-gressionCtoCblindnessCinChighCtensionCprimaryCopenCangleglaucoma:ComparisonCofCblindCandCnonblindCsubjects.CClinicalOphthalmolC2:757-762,C20089)KomoriCS,CIshidaCK,CYamamotoT:ResultsCofClong-termCmonitoringofnormal-tensionglaucomapatientsreceivingmedicaltherapy:resultsofan18-yearfollow-up.GraefesArchClinExpOphthalmolC252:1963-1970,C201410)KimCM,CKimCDM,CParkCKHCetal:IntraocularCpressureCreductionwithtopicalmedicationsandprogressionofnor-mal-tensionglaucoma:aC12-yearCmeanCfollow-upCstudy.CActaOphthalmolC91:e270-e275,C201311)緑内障診療ガイドライン(第C4版).日眼会誌C122:5-53,C2018C***

原発開放隅角緑内障(広義)に対する白内障単独手術

2016年7月31日 日曜日

《第26回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科33(7):1057〜1061,2016©原発開放隅角緑内障(広義)に対する白内障単独手術狩野廉桑山泰明岡崎訓子桑村里佳福島アイクリニックClinicalResultsofCataractSurgeryinPatientswithPrimaryOpen-AngleGlaucomaKiyoshiKano,YasuakiKuwayama,NorikoOkazakiandRikaKuwamuraFukushimaEyeClinic目的:原発開放隅角緑内障(広義)眼に対する白内障単独手術後の眼圧変化と,術後眼圧上昇に関連する因子について検討した.対象および方法:2014年8〜10月に当院で白内障単独手術を施行し,術後1カ月以上経過観察した原発開放隅角緑内障(広義)38例38眼を対象として後ろ向きに調査した.結果:術前,術翌日,1,3,6カ月後の眼圧(平均±標準偏差mmHg)はそれぞれ13.7±2.7,18.0±6.4(p<0.01),15.1±5.1(p<0.05),14.5±3.8(n.s.),13.8±3.3(n.s.)だった.点眼スコアは術前2.1±1.5から術6カ月後1.0±1.2に有意に減少した(p<0.05).術翌日10mmHg以上眼圧上昇したものが5眼(13.2%)あり,術前高眼圧が有意な関連因子だった(p<0.05).結論:原発開放隅角緑内障(広義)眼に対する白内障単独手術は,短期的に点眼1剤分の眼圧下降効果が期待できるが,一過性眼圧上昇に注意が必要である.Purpose:Toevaluatechangesinintraocularpressure(IOP)followingcataractsurgeryinpatientswithprimaryopen-angleglaucoma(POAG).Patientsandmethods:TheauthorsretrospectivelyreviewedpreoperativeandpostoperativeIOPin38consecutivePOAGpatientswhohadundergonecataractsurgerybetweenAugustandOctoberof2014andhadbeenfollowedupatleast1monthaftersurgery.Results:PreoperativeIOPwas13.7±2.7;meanIOPat1day,1month,3monthsand6monthsaftersurgerywas18.0±6.4(p<0.01),15.1±5.1(p<0.05),14.5±3.8(n.s.)and13.8±3.3(n.s.),respectively.Thenumberofglaucomamedicationsbeforeandat6monthsaftersurgerydecreasedto2.1±1.5and1.0±1.2,respectively(p<0.05).Fiveeyes(13.2%)werefoundtohaveanIOPincreaseof≧10mmHgonthedayaftersurgery,higherpreoperativeIOPshowingstatisticallysignificantcorrelationwiththeIOPspike(p<0.05).Conclusions:Theefficacyofcataractsurgeryseemstobealmostthesameasthatofonebottleofglaucomamedication,atleastintheshortterm.WehavetobewareoftransientincreaseinIOPfollowingcataractsurgeryoneyeswithPOAG.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(7):1057〜1061,2016〕Keywords:原発開放隅角緑内障,白内障手術,眼圧,点眼数,一過性眼圧上昇.primaryopen-angleglaucoma,cataractsurgery,intraocularpressure,numberofglaucomamedications,transientincreaseinintraocularpressure.はじめに緑内障の有病率は年齢とともに上昇し,白内障手術適応となることの多い70歳以上では10%にのぼると推測される1,2).緑内障を合併した白内障患者の頻度は多く,その術式の選択肢としては白内障単独手術と緑内障同時手術の2つが考えられる.白内障単独手術は手術時間が短く侵襲が少ないため,早期に視力回復が得られる一方で,術後眼圧コントロール悪化に伴う視野障害進行のリスクがある.緑内障同時手術は視力改善と眼圧下降の両方が一度の手術で得られ,点眼数減量などによるqualityoflife(QOL)の改善が期待できる反面,惹起乱視や収差増加など視機能に対する悪影響3,4)や眼内レンズの度数ずれが多いことが知られている5).以前わが国では,眼圧コントロール良好な原発開放隅角緑内障(広義)(primaryopen-angleglaucoma:POAG)眼に白内障単独手術(phacoemulsificationandaspiration:PEA)を施行すると,15.5〜26.6%の眼圧下降が得られると報告されてきた6,7)が,プロスタグランジン(PG)関連薬使用が緑内障治療の第一選択となった最近のわが国の報告では下降率−2.6〜9.9%と低い8〜11).術後の眼圧変化を予測することは,緑内障を合併した白内障眼の手術術式決定のうえで重要であり,今回筆者らはPOAGに対するPEA後の眼圧変化と,術後眼圧上昇に関連する因子について検討した.I対象および方法2014年8〜10月に当院でPEAを施行し,術後1カ月以上経過観察したPOAG38例38眼(両眼手術症例では先行眼のみ)を対象に,術前後の眼圧,点眼スコアを後ろ向きに調査した.PEAは全例耳側3mm切開で,角膜切開または強角膜切開で施行した.術中後囊破損した症例が1例あったが,硝子体脱出はなく眼内レンズは囊内固定であった.その他の症例は術中合併症もなく,全例眼内レンズは囊内固定だった.眼圧はGoldmann圧平眼圧計を用いて日中外来時間帯に測定し,術前眼圧は手術直近1回の値を用いた.患者背景を表1に示す.点眼スコアは配合剤を2,他の点眼と内服薬を1とした.術前に使用していた緑内障治療薬は術後いったんすべて中止し,経過に応じて再開した.術前後の眼圧を対応のあるt検定で,点眼スコアをWilcoxon符号順位検定で比較し,術翌日の5mmHgまたは10mmHg以上の眼圧上昇に関連する因子についてロジスティック回帰分析を用いて調べた.視野検査はHumphrey視野計のプログラムC30-2またはC10-2を用い,固視不良20%以上,偽陽性20%以上,偽陰性33%以上のいずれかに該当する信頼性の低い検査結果は除外した.II結果眼圧は術翌日から術1カ月後まで術前より有意に上昇していたが,以後は術前と同等のレベルに下降し,有意差はなかった(図1).点眼スコアは術後有意に減少し,経過とともに徐々に増加したが,術6カ月後の時点で術前より約1剤分有意に減少していた(図1).術前に炭酸脱水酵素阻害薬(carbonicanhydraseinhibitor:CAI)内服を使用していたものはなく,術後CAI内服を必要としたものが4眼あったが,術2カ月以降に使用していたものはなかった.術翌日の眼圧上昇は5mmHg以上が13眼(34.2%),10mmHg以上が5眼(13.2%)あった(図2).術翌日5mmHg以上の眼圧上昇と眼軸長には有意な関連があり(表2),長眼軸眼ほど眼圧上昇のリスクが高かった.また,若年齢ほど眼圧上昇しやすい傾向があったが,有意水準には達しなかった.術翌日10mmHg以上の眼圧上昇と術前眼圧には有意な関連があり(表2),術前眼圧が16mmHg以上のものは15mmHg以下のものに比較して有意に眼圧上昇をきたした(Fisher直接確率検定,p<0.05)(表3).術後2段階以上視力改善したものは16眼(42.1%)で,2段階以上視力低下したものはなかった.PEA前後で同一プログラムの検査結果がある15眼について,術後1dB以上MD値が改善したものは7眼(46.7%),3dB以上MD値が低下したものは2眼(6.7%)あった.感度低下した2眼はいずれも術後一過性に30mmHg以上の眼圧上昇をきたした症例であった.III考察POAGに対するPEA後の眼圧変化については,これまでの報告で−2.6〜26.6%と幅があるが,術前平均眼圧が18〜22mmHgの比較的高いものは下降率が15.5〜26.6%と大きい6,7,12,13)のに対し,15〜18mmHgの比較的低いものは−2.6〜11.2%と下降率が小さい8〜11,14,15).散布図で確認すると,術前眼圧に関係なく術後眼圧は15〜16mmHg,術後点眼スコアは1程度になることが多いことがわかる(図3).狭義POAGのなかでも術前眼圧が21mmHg以上のものは20mmHg以下のものより眼圧下降幅が大きいとの報告があるが6),わが国では1999年以降PG関連薬使用により眼圧コントロールがそれ以前より改善したため,術前眼圧が15〜17mmHgと低くなり,術後眼圧下降が得られにくくなったと考えられる.当院では術前眼圧が高めのものに対しては積極的に緑内障同時手術を選択しているため,本研究の症例群は過去の報告に比較して眼圧レベルがさらに低く,術前後の平均眼圧に差が出なかったものと思われる.また,多くの症例で緑内障第一選択薬であるPG関連薬が術前に投与されているのに対し,術直後には囊胞様黄斑浮腫のリスクを考慮して少なくとも1〜2カ月は投与を控える傾向にあり,眼圧下降が得られなかったもう一つの原因と考えられる.しかしながら点眼数は減少しており,眼圧コントロールとしては短期的には点眼1剤分の改善が得られていると思われた.白内障手術後の眼圧下降機序について,PEAが行われる以前の文献では房水産生低下16)や血液房水柵の変化17)などが考察されている.手術侵襲が少ないPEAについては,術前に房水流量が低下している症例は房水流出率が改善し,低下していない症例では変化がない18)ことから,PEA時の人工房水灌流による線維柱帯に沈着したグリコサミノグリカンの洗い流し効果や,線維柱帯障害による貪食細胞増加などが考えられている12)が,手術侵襲に伴う内因性PGF2放出によるぶどう膜強膜流出増加の可能性も推測されている15).PEAと同様に軽度の炎症惹起による眼圧下降効果が得られるものとしてレーザー線維柱帯形成術(lasertrabeculoplasty:LTP)があるが,LTPの眼圧下降率は20%前後19〜21),点眼数にして1剤程度と,PEA後と同等の下降効果が報告されている21,22).LTPの作用機序としては,細胞内メラニン顆粒破壊に伴うフリーラジカルや各種インターロイキン放出により,マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)活性上昇,マクロファージの細胞外物質貪食増加,Schlemm管内皮細胞有孔性増加などを通じて線維柱帯の房水流出抵抗が減少することが知られており23,24),PEAも手術侵襲によって同様の経路が活性化し,房水流出抵抗が減じている可能性が考えられる.PEA後に危惧される眼圧上昇の割合は,術翌日5mmHg以上上昇したものが34.2%と高頻度で,眼軸長が長いほど有意にリスクが大きく,若年齢ほど眼圧上昇しやすい傾向があった.術翌日10mmHg以上と著明に上昇したものは13.2%あり,術後28mmHg以上が13%10),30mmHg以上が23%25)などの過去の報告と同様の結果であった.とくに術前眼圧が16mmHg以上のものは10mmHg以上上昇するリスクが有意に大きく,視野悪化の要因となりうるため,周術期の管理に十分に注意が必要と思われる.術後眼圧上昇の原因としては術後炎症,粘弾性物質残留,ステロイド薬などが考えられるが,より侵襲の少ない手術,眼内レンズ挿入後の十分な前房灌流,ステロイド薬の必要最小限の投与などに注意をしていても,予想以上に眼圧上昇が生じることが明らかとなった.術後眼圧上昇の予防には,術後CAI内服26,27)や,術前あるいは術直後のb遮断薬28),a2刺激薬29),PG関連薬30)などの点眼が有効であるとされており,眼圧上昇や視野悪化のリスクが高い症例では予防投与を考慮する必要があると思われる.また,追加治療の必要性をより早く判断するため,術後眼圧が最高となる4〜6時間後28〜30)に眼圧測定を行うことも有用と考えられる.POAGを合併した白内障患者では,眼圧コントロールが良好であれば白内障単独手術,不良であれば緑内障同時手術を選択することに異論はないと思われるが,その具体的な境界は明確ではない.当院では眼圧レベルが高いものや病期が進行したものは積極的に緑内障同時手術を選択しているが,適応を限定した症例群においても白内障単独手術では術後10mmHg以上の一過性眼圧上昇をきたすものが1割以上あった.とくに術前眼圧16mmHg以上の症例では4割にのぼり,視野悪化の原因となった可能性のある症例もあった.今後そのような症例はより積極的に緑内障同時手術を選択するか,術後眼圧上昇に対する点眼・内服予防投与を考慮する必要があると思われた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)IwaseA,SuzukiY,AraieMetal:Theprevalenceofprimaryopen-angleglaucomainJapanese.Ophthalmology111:1641-1648,20042)YamamotoT,IwaseA,AraieMetal:TheTajimistudyreport2:PrevalenceofprimaryangleclosureandsecondaryglaucomainaJapanesepopulation.Ophthalmology112:1661-1669,20053)豊川紀子,宮田三菜子,木村英也ほか:緑内障手術の視機能への影響.臨眼62:461-165,20084)松葉卓郎,狩野廉,桑山泰明:IOLマスターを用いた線維柱帯切除術後の眼軸長測定.臨眼65:387-391,20115)有本剛,丸山勝彦,菅野敦子:白内障緑内障同時手術時の光学式ならびに超音波眼軸長測定装置による屈折誤差の比較.臨眼67:1525-1531,20136)松村美代,溝口尚則,黒田真一郎ほか:原発開放隅角緑内障における超音波乳化吸引術+眼内レンズ挿入術の眼圧経過への影響.日眼会誌100:885-889,19967)HayashiK,HayashiH,NakaoFetal:Effectofcataractsurgeryonintraocularpressurecontrolinglaucomapatients.JCataractRefractSurg27:1779-1786,20018)藤本裕子,黒田真一郎,永田誠:開放隅角緑内障に対するPEA+IOL後の長期経過.眼科手術16:571-575,20039)加賀郁子,稲谷大,柏井聡:緑内障眼の白内障手術術後眼圧変化.臨眼59:1131-1133,200510)尾島知成,田辺晶代,板谷正紀ほか:白内障単独手術を施行した原発開放隅角緑内障,正常眼圧緑内障,偽落屑緑内障眼の術後経過.臨眼56:1993-1997,200511)庄司信行:緑内障眼と眼内レンズ挿入術.あたらしい眼科23:153-158,200612)KimDD,DoyleJW,SmithMF:Intraocularpressurereductionfollowingphacoemulsificationcataractextractionwithposteriorchamberlensimplantationinglaucomapatients.OphthalmicSurgLasers30:37-40,199913)LeeYH,YunYM,KimSHetal:Factorsthatinfluenceintraocularpressureaftercataractsurgeryinprimaryglaucoma.CanJOphthalmol44:705-710,200914)MerkurA,DamjiKF,MintsioulisGetal:Intraocularpressuredecreaseafterphacoemulsificationinpatientswithpseudoexfoliationsyndrome.JCataractRefractSurg27:528-562,200115)MathaloneN,HyamsM,NermanSetal:Long-termintraocularpressurecontrolafterclearcornealphacoemulsificationinglaucomapatients.JCataractRefractSurg31:479-483,200516)BiggerJF,BeckerB:Cataractsandprimaryopen-angleglaucoma:theeffectofuncomplicatedcataractextractiononglaucomacontrol.Ophthalmology75:260-272,197117)HandaJ,HenryJC,KrupinTetal:Extracapsularcataractextractionwithposteriorchamberlensimplantationinpatientswithglaucoma.ArchOphthalmol105:765-769,198718)MeyerMA,SavittML,KopitasE:Theeffectofphacoemulsificationonaqueousoutflowfacility.Ophthalmology104:1221-1227,199719)LatinaMA,SibayanSA,ShinDHetal:Q-switched532-nmNd:YAGlasertrabeculoplasty(selectivelasertrabeculoplasty):amulticenter,pilot,clinicalstudy.Ophthalmology105:2082-2090,199820)狩野廉,桑山泰明,溝上志朗ほか:選択的レーザー線維柱帯形成術の術後成績.日眼会誌103:612-616,199921)FrancisBA,IanchulevT,SchofieldJKetal:Selectivelasertrabeculoplastyasareplacementformedicaltherapyinopen-angleglaucoma.AmJOphthalmol140:524-525,200522)NagarM,OgunyomadeA,O’BrartDPetal:Arandomized,prospectivestudycomparingselectivelasertrabeculoplastywithlatanoprostforthecontrolofintraocularpressureinocularhypertensionandopenangleglaucoma.BrJOphthalmol89:1413-1417,200523)GuzeyM,VuralH,SaticiAetal:IncreaseoffreeoxygenradicalsinaqueoushumourinducedbyselectiveNd:YAGlasertrabeculoplastyintherabbit.EurJOphthalmol11:47-52,200124)AlvaradoJA,AlvaradoRG,YehRFetal:Anewinsightintothecellularregulationofaqueousoutflow:howtrabecularmeshworkendothelialcellsdriveamechanismthatregulatesthepermeabilityofSchelemm’scanalendothelialcells.BrJOphthalmol89:1500-1505,200525)丸山幾代,勝島晴美,鎌田昌俊ほか:緑内障眼に対する白内障手術.眼科手術8:313-318,199526)RichWJ:Furtherstudiesonearlypostoperativeocularhypertensionfollowingcataractsurgery.TransOphthalmolSocUK89:639-647,196927)LewenR,InslerMS:TheeffectofprophylacticacetazolamideontheintraocularpressureriseassociatedwithHealon-aidedintraocularlenssurgery.AnnOphthalmol17:315-318,198528)Levkovitch-VerbinH,Habot-Wilner,BurlaNetal:Intraocularpressureelevationwithinthefirst24hoursaftercataractsurgeryinpatientswithglaucomaorexfoliationsyndrome.Ophthalmology115:104-108,200829)KatsimprisJM,SiganosD,KonstasAGPetal:Efficacyofbrimonidine0.2%incontrollingacutepostoperativeintraocularpressureelevationafterphacoemulsification.JCataractRefractSurg29:2288-2294,200330)AriciMK,ErdoganH,TokerIetal:Theeffectoflatanoprost,bimatoprost,andtravoprostonintraocularpressureaftercataractsurgery.JOculPharmacolTher22:34-40,2006表1背景因子因子性別男性17眼,女性21眼年齢68.2±8.5歳眼圧13.7±2.7mmHg点眼スコア2.1±1.5眼軸長24.8±1.9mmHumphrey視野MD値*−10.0±8.4dB無治療時最高眼圧**18.5±3.7mmHg内眼手術既往5眼(13.2%)レーザー線維柱帯形成術既往7眼(18.4%)濾過胞眼4眼(10.5%)*術前に測定していた28眼,**術前に測定していた21眼.図1眼圧・点眼スコア各時点の眼圧(mmHg),点眼数はそれぞれ術前13.7±2.7,2.1±1.5,術翌日18.0±6.4,0.0±0.0,1週後16.5±5.9,0.1±0.4,2週後14.6±3.6,0.3±0.7,1カ月後15.1±5.1,0.4±0.8,2カ月後13.8±3.3,0.6±0.9,3カ月後14.5±3.8,0.9±1.1,6カ月後13.8±3.3,1.0±1.2だった(*p<0.05,**p<0.01;対応のあるt検定).図2術翌日の眼圧変化:y=x,:回帰直線y=1.6276x−4.2028(相関係数r2=0.46874),:y=x+10(術前より10mmHg眼圧上昇)を示す.表2術翌日の眼圧上昇に関連する因子5mmHg以上上昇10mmHg以上上昇年齢0.05750.7718性別0.41740.8194術前眼圧0.28720.0255術前点眼スコア0.68790.2843術前MD*0.90080.4672無治療時最高眼圧**0.14760.9920眼軸長0.01660.9656左右0.92670.9785術者0.92670.9794術中合併症0.97930.9815手術既往0.48180.6312SLT既往0.16960.9782Bleb眼0.68380.4711*術前に測定していた28眼,**術前に測定していた21眼.表3術前眼圧と術翌日10mmHg以上の眼圧上昇眼圧上昇なし眼圧上昇あり術前眼圧≦15mmHg27(96.4%)1(3.6%)術前眼圧≧16mmHg6(60.0%)4(40.0%)Fisher直接確率検定,p<0.05.図3白内障手術前後の眼圧・点眼スコア文献6〜15の術前後眼圧および点眼スコアをプロットした.:y=x,左グラフの:y=0.8x(20%眼圧下降線),右グラフの:y=x−1,→:本報告.〔別刷請求先〕狩野廉:〒553-0003大阪市福島区福島5-6-16福島アイクリニックReprintrequests:KiyoshiKano,M.D.,FukushimaEyeClinic,5-6-16Fukushima,Fukushima-ku,Osaka553-0003,JAPAN0910-1810/16/¥100/頁/JCOPY(131)10571058あたらしい眼科Vol.33,No.7,2016(132)(133)あたらしい眼科Vol.33,No.7,201610591060あたらしい眼科Vol.33,No.7,2016(134)(135)あたらしい眼科Vol.33,No.7,20161061

原発開放隅角緑内障の全身的危険因子の検討

2015年11月30日 月曜日

《原著》あたらしい眼科32(11):1609.1613,2015c原発開放隅角緑内障の全身的危険因子の検討三戸千賀子*1池田陽子*2,3森和彦3山田裕美*3津崎さつき*2長谷川志乃*2上野盛夫*3中野正和*4吉井健悟*5木下茂*3*1三戸眼科*2御池眼科池田クリニック*3京都府立医科大学眼科学*4京都府立医科大学ゲノム医科学*5京都府立医科大学基礎統計学AnalysisoftheSystemicRiskFactorsofPrimaryOpen-angleGlaucomaandNormal-tensionGlaucomaChikakoSannohe1),YokoIkeda2,3),KazuhikoMori3),HiromiYamada3),SatsukiTsuzaki2),ShinoHasegawa2),MorioUeno3),MasakazuNakano4),KengoYoshii5)andShigeruKinoshita3)1)SannoheEyeClinic,2)Oike-IkedaEyeClinic,3)DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,4)DepartmentofGenomicMedicalSciences,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,5)DepartmentofMedicalStatistics,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine広義原発開放隅角緑内障(POAG)の患者においてbodymassindex(BMI)を含む全身的なリスク因子(RF)を検討した.対象は2010年6月.2013年11月に三戸眼科と御池眼科池田クリニックに通院中の患者;原発開放隅角緑内障(以下,狭義POAG)119例,正常眼圧緑内障(NTG)378例,および2005年3月.2013年11月に京都府立医科大学にて緑内障正常外来を受診して正常と判定された正常対照644例である.これらの3群でBMI,糖尿病,心疾患,高血圧,高脂血症,年齢,性別,緑内障家族歴の有無を調査し,強制投入法による多重ロジスティック回帰分析を行った.その結果,BMIが高いことは狭義POAGに対してオッズ比0.75で保護因子となり,逆にBMIが低いことがRFとなった.高血圧はNTGに対してRF(オッズ比1.67)となった.また,緑内障家族歴(オッズ比2.61)と糖尿病(オッズ比3.40)は狭義POAGとNTGの両者に対してRFとなった.Thisstudyinvolved1141subjects:119POAGpatients,378NTGpatientsand644age-matchednormalcon-trolsubjects.GlaucomapatientswereenrolledatSannoheEyeClinicandOike-IkedaEyeClinic.Thenormalcon-trolsubjectswereenrolledatKyotoPrefecturalUniversityofMedicine,andwerediagnosedbyglaucomaspecial-istsasnormalafterseveralophthalmicexaminations,includingopticdiscimagingandvisual.eldtesting.BMI,presenceofsystemicdiseases(diabetesmellitus,heartdisease,hypertensionandhyperlipidemia),genderandfamilialhistoryofglaucomawereevaluatedinrelationtoglaucomatype(POAGorNTG),usingstepwiselogisticregressionanalysis.Thesystemicriskfactors(RF)betweenNTGandPOAGweredi.erentfromourdataset;HT(oddsratio:1.67)wasRFforNTG;highBMI(oddsratio:0.749)wasprotectiveforPOAG.Familialhistoryofglaucoma(oddsratio:2.610)andDM(oddsratio:3.400)werealsosigni.cantRFforbothPOAGandNTG.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(11):1609.1613,2015〕Keywords:BMI,原発開放隅角緑内障,正常眼圧緑内障,多重ロジスティック解析,リスク因子.bodymassin-dex,primaryopenangleglaucoma,normaltensionglaucoma,logisticregressionanalysis,riskfactor.はじめにこれまでに原発開放隅角緑内障(primaryopenangleglaucoma:POAG)発症の危険因子として多くの因子が報告されている1.6).これらのなかには家族歴4,7),遺伝子8)などの遺伝要因のみならず,近視3,9)や糖尿病1,5,10,11),肥満1),高血圧1,10,12,13),高脂血症14),加齢3,4),眼圧3,4,15),酸化ストレス16)などの環境要因があり,これらの因子は緑内障の病態に複雑に関連しているものと考えられる.しかしながら報告によっては結果が異なる因子も存在している.糖尿病,肥満や高脂血症,血圧などメタボリックシンドロームにおいて〔別刷請求先〕森和彦:〒602-0841京都市上京区河原町通広小路上ル梶井町465京都府立医科大学眼科学教室Reprintrequests:KazuhikoMori,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,465Kajii-cho,Hirokoji-agaru,Kawaramachi-dori,Kamigyo-ku,Kyoto602-0841,JAPAN0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(97)1609は,POAGに対して危険因子と保護因子5,17.22)の両者が報告されているし,関係なし3,19,23,24)とする報告もある.たとえばNewman-Caseyら1)は白人女性において肥満はPOAGの大きな危険因子になると報告しているが,多治見スタディ3)ではbodymassindex(BMI)とPOAGの間に関連はなかったと報告している.また,Asraniら18)は低いBMIが正常眼圧緑内障(normaltensionglaucoma:NTG)の危険因子になると報告しており,バルバドススタディ19)でもアフリカ人種において低いBMIがNTGの危険因子になると報告されている.Pasqualeら5)とRamdasら17)は女性においてBMIが高値であれば緑内障になりにくいと報告している.一方,高脂血症はOhら14)が眼圧を上昇させる可能性があると報告しており,Leungら21)は高脂血症の治療が緑内障の危険性を減弱させると報告している.Newman-Caseyら1)は糖尿病のみであれば35%,高血圧のみであれば17%,糖尿病と高血圧の両者を有する場合は48%も緑内障発症の危険が高くなるが,高脂血症のみでは5%危険性を減らし,かつ高脂血症と糖尿病,高血圧が合併した場合もその危険性を減らすと報告している.また,POAGのリスクバリアントとして報告されているCDKN2B-AS18)は染色体9番21領域に存在しており,この領域は糖尿病25),心臓病26),など全身疾患のリスクバリアントとしても共通しており,遺伝的にもかかわりがある可能性がある.このようにPOAG発症や病態にはさまざまな因子が関与しているが,これまでの報告では生活習慣病とPOAGとの関連について十分にコンセンサスが得られる結果が出ているとは言いがたい.そこで今回,筆者らはPOAGのBMIを含んだ全身的な危険因子について,狭義POAG群,NTG群,正常対照(normaltension:NC)群において比較検討を行った.I対象および方法対象は総計1,141例で,その内訳は狭義POAG119例(男女比66:53,平均年齢65.8±10.7歳),NTG378例(男女比227:151,平均年齢64.3±12.2歳)およびNC644例(男女比190:454,平均年齢63.8±8.1歳)である(表1).狭義POAG群とNTG群は2010年6月.2013年11月に青森県青森市の三戸眼科と京都府京都市の御池眼科池田クリニックおよび京都府立医大附属病院眼科に通院していた患者である.緑内障の診断は日本緑内障学会ガイドラインに基づいて行った,NC群は2005年3月.2013年11月に京都府立医科大学にて緑内障正常外来を受診したボランティアである.この外来にはこれまでに緑内障といわれたことがないという条件で参加が可能である.受診者には視神経乳頭,視野検査を含む眼科学的な諸検査〔眼底写真,レフ,ケラト,FDT/Humphrey30-2SITAStandard,GDx,HRT,オプトビュー/ニデックOCT,ビサンテまたはカシア,IOLマスター,スペキュラ,ペンタカム,スリット(前眼部,後眼部),ノンコンタクト眼圧/アプラネーション眼圧,隅角鏡,〕を実施し,緑内障専門医が診察を行い,最終的に複数の緑内障専門医により正常と判定された症例である(表1).これらの3群でBMI,糖尿病,心疾患,高血圧,高脂血症,性別,緑内障家族歴の有無を問診にて聴取し,その結果を強制投入法による多重ロジスティック回帰分析で解析を行った.統計解析にはTheRsoftware(version3.0.2)を用い,有意水準は5%未満とした.II結果広義POAGとNC群を比較した結果,緑内障家族歴(オッズ比:2.46,p<0.001),糖尿病(オッズ比:3.30,p<0.001),高血圧(オッズ比:1.72,p=0.006)は広義POAGの危険因子(RF)となった(表2).狭義POAG群とNC群を比較すると,BMI(オッズ比:0.75,p=0.018)は,狭義POAGに対して保護的に作用し,糖尿病(オッズ比:6.11,p=0.025)と緑内障家族歴(オッズ比:5.32,p=0.011)はRFとなった(表3).一方,NTGとNC群の比較では,糖尿病(オッズ比:3.12,p<0.001),緑内障家族歴(オッズ:2.31,p<0.001),高血圧(オッズ比:1.67,p=0.010)がRFであった(表4).各病型で男女比が異なるため,BMIと性別の相互作用の検討を行った.各病型にBMIと性別との関係を示す相互作用項を加えて多重ロジスティクス回帰分析を行った.広義POGAとNC群,狭義POGA群とNC群,NTG群とNC群表1対象の内訳表2正常対照群VS広義POAG群の多重ロジスティクス回帰分析の結果対象n(男性/女性)年齢(歳)BMI(kg/m2)緑内障家族歴(%)糖尿病(%)高血圧(%)高脂血症(%)POAG群NTG群NC群119(66/53)378(227/151)644(190/454)65.8±10.764.3±12.263.8±8.122.5±3.222.8±3.222.2±2.937.722.59.647.116.24.566.040.920.526.714.211.21610あたらしい眼科Vol.32,No.11,2015(98)偏回帰係数標準誤差p値オッズ比95%信頼区間定数.0.590.89───性(男性).0.290.180.1020.750.53.1.06年齢.0.020.010.0340.980.96.1.00BMI0.030.030.3681.030.97.1.08緑内障家族歴0.900.22<0.0012.461.59.3.82糖尿病1.190.29<0.0013.301.87.5.84高脂血症.0.460.300.1240.630.35.1.13高血圧0.540.200.0061.721.17.2.52心疾患0.240.320.4461.280.68.2.40表3正常対照群VS狭義POAG群の多重ロジスティクス回帰分析の結果偏回帰係数標準誤差p値オッズ比95%信頼区間定数4.553.38───性(男性).1.510.640.0190.220.06.0.78年齢.0.030.030.3420.970.91.1.03BMI.0.290.120.0180.750.59.0.95緑内障家族歴1.670.660.0115.321.46.19.5糖尿病1.810.810.0256.111.26.29.7高脂血症.0.481.100.6630.620.07.5.38高血圧0.880.670.1912.410.65.8.96心疾患0.001.150.9981.000.11.9.48表4正常対照群VSNTG群の多重ロジスティクス回帰分析の結果偏回帰係数標準誤差p値オッズ比95%信頼区間定数.1.040.91───性(男性).0.210.180.2550.810.57.1.16年齢.0.020.010.0400.980.96.1.00BMI0.040.030.1561.040.98.1.10緑内障家族歴0.840.23<0.0012.311.47.3.62糖尿病1.140.30<0.0013.121.74.5.60高脂血症.0.440.300.1470.640.36.1.17高血圧0.510.200.0101.671.13.2.47心疾患0.260.330.4211.300.69.2.47のモデルにおいて交互作用項の有意差は認められなかった.よってBMIと性別の説明変数間の相互作用はみられなかった.III考按全身疾患と緑内障の関係を見た過去の大規模な報告の一覧1.5)と今回の結果を表5に示した.結果は報告によりさまざまであり,検査の方法や対象選択も一定ではないため単純に比較することはむずかしい.今回,緑内障家族歴が両病型で有意にRFとなったが,これは以前からの報告と矛盾しない.また今回はPOAGのRFとして低BMIが有意となった.BMIに関しては関係なしとする報告3,23),高いことがRFになるという報告1),逆に低いことがRFになるという報告2,5,17.21)があり,一定のコンセンサスは得られていない.Berdablら2)は,低脳脊髄圧はOAGのRFと報告しており,脳脊髄圧とBMIが正比例するので,結果としてBMIが低いと脳脊髄圧も低くなり,OAGの発症リスクを高めている可能性があると報告している.また,Asraniら18)は低BMIの人では高BMIの人よりも血管調整不良(vasculardysregu-lation)を起こしやすいとし,これらの要因がRFとして働いている可能性があると報告している.また,今回の結果では高血圧がNTGのRFとなった.高血圧に関しても,関係なしとの報告3,23,24),高いとRFになるという報告1,10,20,21),逆に低いとRFになるとの報告4,20)があり,これも一定のコンセンサスが得られていない.高血圧が眼圧を上げるという報告3,23)は多くみられるが,緑内障の(99)あたらしい眼科Vol.32,No.11,20151611表5全身的要因と緑内障の関連性の報告一覧報告者症例数(case/control)緑内障病型と症例数危険因子BMIHTDMHLHDFHNewman-CaseyPAら1)55,090/2,127,225OAG55,090+++++(low)BerdahlJPら2)4,235/0POAG4235+(low)SuzukiYら3)119/2,556NTG119―――+LeskeMCら4)125/3,077OAG125+(low)―+PasqualeLPRら5)980/1,689,374POAG657―――NTG323+(low)三戸ら497/644POAG119+(low)―+――+NTG378―+HT:高血圧,DM:糖尿病,HL:高脂血症,HD:心疾患,FH:緑内障家族歴.BMI:bodymassindex.RFになるという報告10,12,13)は多くない.血圧が高いことが緑内障のRFになると考えられる3つの説がある.1番目に毛細動脈の灌流圧上昇により毛様動脈圧が上昇し,前房水の産生が増えることによる眼圧上昇が関与する可能性である12).2番目に視神経に栄養を送る終末小血管の動脈硬化性のダメージと硬化があり,それにより緑内障性の神経障害を起こす可能性である13).3番目が降圧薬内服により,血圧が下降し,眼灌流圧が下がり視神経線維にダメージを与える可能性である1).今回の結果はNTGではPOAGよりも血管や血流の要因が強く働いている可能性が示唆された.糖尿病は狭義POAGとNTGの両者のRFという結果となった.糖尿病もまた関係なしとする報告3,6,19,23,24)とRFとなる1,10,11)という両方の結果が報告されている.Sza.ikら11)は糖尿病は全身疾患であり,広範囲の血管内皮機能不全が起こり,視神経に栄養を送る小血管の機能障害が視神経障害を引き起こす可能性があると報告している.またDM患者は概してBMIが高いため,高血糖や肥満が眼圧上昇にかかわっている可能性もある.また広義POAGやNTGにかかわるCDKN2BAS-1と同じ9p21領域に2型糖尿病もかかわると報告がある25).これらの要因が両病型にかかわることでRFとなった可能性が示唆される.ただし多治見スタディ3,23)では糖尿病はPOAGとは関連がないと報告されており,同じ日本人との報告としては結果が異なったものとなった.今回の対象症例が診療所を主体としたものであり,診療所では内科からの紹介で糖尿病の眼底検査を依頼されることも多いので,選択バイアスがかかった可能性も否定できない.IVまとめ今回の筆者らの結果では,低いBMIが狭義POAG,高血圧がNTGのRFとなり,緑内障家族歴と糖尿病はPOAGとNTGの両者(広義POAG)のRFとなった.生活習慣病と緑内障の関係を検討する報告は海外には多いが,日本では少ない.日本人は欧米人に比べるとBMIの正常者の割合が有意に高いが,インスリン分泌能が低いために糖尿病になりやすいという体質を持っていると報告されている27).また日本人では眼圧の低い緑内障が非常に多いという特性がある28).今後,さらに症例を増やし,各々の項目を単独あるいは組み合わせて検討することにより,食生活の欧米化が進む今後の日本の緑内障患者の予防に役立つのではないかと期待している.これらの要旨は,第25回日本緑内障学会で発表した.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)Newman-CaseyPA,TalwerN,NanBetal:Therelation-shipbetweencomponentofmetabolicsyndromeandopen-angleglaucoma.Ophthalmology118:1318-1326,20112)BerdablJP,FleischmanD,ZaydlarovaJetal:Bodymassindexhasalinearrelationshipwithcerebrospinal.uidpressure.InvestOphthalmolVisSci53:1422-1427,20123)SuzukiY,IwaseA,AraieMetal:Riskfactorforopen-1612あたらしい眼科Vol.32,No.11,2015(100)angleglaucomainaJapanesepopulation:theTajimiStudy.Ophthalmology113:1613-1617,20064)LeskeMC,WuSY,HennisAetal:Riskfactorforinci-dentopen-angleglaucoma.TheBarbadosEyeStudy.Ophthalmology115:85-93,20085)PasqualeLPR,WilletWC,RosnerBAetal:Anthropo-metricmeasuresandtheirrelationtoincidentprimaryopen-angleglaucoma.Ophthalmology117:1521-1529,20106)TanGS,WongTY,FongCWetal:Diabetesmetabolicabnormalitiesandglaucoma:theSingaporeMarayEyeStudy.ArchOphthalmol127:1354-1361,20097)TielschJM,KatzJ,SommerAetal:Familyhistoryandriskofprimaryopen-angleglaucoma:TheBaltimoreEyeSurvey.ArchOphthalmol112:69-73,19948)NakanoM,IkedaY,TokudaYetal:CommonvariantsinCDKN2B-AS1associatedwithoptic-nervevulnerabilityofglaucomaidenti.edbygenome-wideassociationstudiesinJapanese.PLoSOne7:e33389,20129)MitchellP,HourihanF,SandbachJetal:Therelation-shipbetweenglaucomaandmyopia:theBlueMountainsEyeStudy.Ophthalmology106:2010-2015,199910)ChopraV,VarmaR,FrancisBAetal:LosAngelesLati-noEyeStudyGroup.Type2diabetesmellitusandtheriskofopen-angleglaucoma:theLosAngelesLatinoEyeStudy.Ophthalmology115:227-232,200811)Sza.ikJP,RusinP,Zaleska-ZmijewskaAetal:ReactiveoxygenspeciespromotelocalizedDNAdamageinglauco-ma-iristissuesofelderlypatientsvulnerabletodiabeticinjury.MutatRes697:19-23,201012)ShioseY,KawaseY:Anewapproachtostrati.ednor-malintraocularpressureinageneralpopulation.AmJOphthalmol101:714-721,198613)WolfS,ArendO,SponselWEetal:Retinalhemodynam-icsusingscanninglaserophthalmoscopyandhemorheolo-gyinchronicopen-angleglaucoma.Ophthalmology100:1561-1566,199314)OhSW,LeeS,ParkCetal:Elevatedintraocularpres-sureisassociatedwithinsulinresistanceandmetabolicsyndrome.DiabetesMetabResRev21:434-440,200515)LevineRA,DemirelS,FanJetal:OcularHypertensionTreatmentStudyGroup:Asymmetriesandvisual.eldsummariesaspredictorsofglaucomaintheocularhyper-tensiontreatmentstudy.InvestOphthalmolVisSci47:3896-3903,200616)EnginKN,YemisciB,YigitUetal:Variabilityofserumoxidativestressbiomarkerrelativetobiochemicaldataandclinicalparametersofglaucomapatients.MolecularVision16:1260-1271,201017)RamdasWD,WolfsRC,HofmanAetal:Lifestyleandriskofdevelopingopen-angleglaucoma:TheRotterdamStudy.ArchOphthalmol129:767-772,201118)AsraniS,SamuelsB,ThakurMetal:Clinicalpro.lesofprimaryopenangleglaucomaversusnormaltensionglau-comapatients:apilotstudy.CurrEyeRes36:429-435,201119)LeskeMC,ConnellAM,WuSYetal:Riskfactorforopen-angleglaucoma.TheBarbadosEyeStudy.ArchOphthalmol113:918-924,199520)KaiserHJ,FlammerJ:Systemichypotension:Ariskfac-torforglaucomatousdamage?Ophthalmologica203:15-18,199121)LeungDY,LiFC,KwongYYetal:Simvastatinanddis-easestabilizationinnormaltensionglaucoma:acohortstudy.Ophthalmology117:471-476,201022)DeCastroDK,PunjabiOS,BostromAGetal:E.ectofstatindrugsandaspirinonprogressioninopen-angleglaucomasuspectsusingconfocalscanninglaserophthal-moscopy.ClinExpOphthalmol35:506-513,200723)KawaseK,TomidokoroA,AraieMetal:Ocularandsys-temicfactorsrelatedtointraocularpressureinJapaneseadults:theTajimiStudy.BrJOphthalmol92:1175-1179,200824)QuigleyHA,WestSK,RodriguezJetal:Theprevalenceofglaucomainapopulation-basedstudyofHispanicsub-jects:ProyectoVER.ArchOphthalmol119:1819-1826,200125)ScottLJ,MohlkeKL,BonnycastleLLetal:Agenome-wideassociationstudyoftype2diabetesinFinnsdetectsmultiplesusceptibilityvariants.Science316:1341-1345,200726)HarismendyO,NotaniD,SongXetal:9p21DNAvari-antsassociatedwithcoronaryarterydiseaseimpairinter-feron-gsignallingresponse.Nature470(7333):264-268,201127)KodamaK,TojjarD,YamadaSetal:Ethnicdi.erencesintherelationshipbetweeninsulinsensitivityandinsulinresponse.DiabetesCare36:1789-1796,201328)IwaseA,SuzukiY,AraieMetal:Theprevalenceofpri-maryopen-angleglaucomainJapanese:theTajimiStudy.Ophthalmology111:1641-1648,2004***(101)あたらしい眼科Vol.32,No.11,20151613

Dynamic Contour Tonometerを用いたトラボプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液とビマトプロスト点眼液の眼圧下降率の比較

2014年10月31日 金曜日

《原著》あたらしい眼科31(10):1535.1539,2014cDynamicContourTonometerを用いたトラボプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液とビマトプロスト点眼液の眼圧下降率の比較西村宗作伊藤初夏中西正典植田良樹市立長浜病院眼科DynamicContourTonometerUsedtoCompareEffectsofTravoprost/TimololMaleateandBimatoprostinPrimaryOpen-AngleGlaucomaShusakuNishimura,HatsukaIto,MasanoriNakanishiandYoshikiUedaDepartmentofOphthalmology,NagahamaCityHospital目的:トラボプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液(以下,DT)とビマトプロスト(以下,LG)の眼圧下降をdynamiccontourtonometer(DCT)を用いて評価し,Goldmannapplanationtonometer(GAT)とも比較を行った.症例および方法:原発開放隅角緑内障29症例51眼.無点眼時と,DTあるいはLG点眼後の眼圧を計測した.結果:GAT,DCTともに眼圧は有意に下降し,DT群とLG群の2群比較では両点眼薬の下降効果に有意差はなかった.無点眼時眼圧値で全体を2群に分けた場合,LGはDCT測定値において,低い眼圧の群で有意な眼圧下降をみた.結論:DTとLGはともにGATと同様DCTでも有効な眼圧下降を示した.Purpose:Tocomparetheeffectsoftravoprost/timololmaleate(DT)andbimatoprost(LG)inprimaryopen-angleglaucomaonintraocularpressure(IOP)asassessedusing2instruments:Dynamiccontourtonometer(DCT)andGoldmannapplanationtonometer(GAT).PatientsandMethod:Participantscomprised29patients(51eyes)withopen-angleglaucoma(26cases);allwereofJapaneseorigin.PatientswereswitchedbetweenDTandLGafteranuntreatedbaselineperiod.Result:BothmedicationssignificantlyreducedmeanIOPfrombaseline;therewasnosignificantdifferencebetweenthem.Whenthecasesweredividedinto2groupswithuntreatedDCTvalue,however,thelowerIOPgroupshowedsignificantreductiononlywithLG,notwithDT.Conclusions:DTandLGsignificantlyreducedmeanIOPfrombaseline,asassessedusing2instruments:DCTandGAT.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(10):1535.1539,2014〕Keywords:デュオトラバR,ルミガンR,dynamiccontourtonometer(DCT),原発開放隅角緑内障,眼圧.Duo-TravR,LumiganR,dynamiccontourtonometer(DCT),open-angleglaucoma,intraocularpressure.はじめに緑内障は多因子疾患といわれ1),ミオシリン遺伝子の変異とのかかわり2)や,一塩基多型3)についても近年報告がある.その本体は神経障害であり,緑内障の進行の遅延については,眼圧下降のみが有効性を示されている4).日常診療においては点眼薬が用いられ,近年プロスタグランジン製剤が眼圧下降効果の強さで多く使われている5).緑内障の治療において点眼薬のアドヒアランスが重要視されている.点眼種数,回数が少ないことが治療行動により有効に働くとされている6).プロスタグランジン製剤は1日1回の点眼であり,ほかに,アドレナリンb受容体阻害薬(bブロッカー)にも1日1回のものが現れている7).bブロッカーは総じてプロスタグランジン製剤より効果が弱いとされるが8),この2成分を配合することでより強い効果を求める合剤も一般化している.筆者らは以前に,3種のプロスタグランジン製剤について,dynamiccontourtonometer(DCT)〔別刷請求先〕西村宗作:〒526-8580滋賀県長浜市大戌亥町313市立長浜病院眼科Reprintrequests:ShusakuNishimura,DepartmentofOphthalmology,NagahamaCityHosptal,313Oh-inui-cho,Nagahama5268580,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(113)1535 を用いて眼圧降下率の比較を行った9).DCTはGoldmann圧平式眼圧計(GAT)では検出できない,各点眼の効果の違いを評価するのに有用であった.DCTは圧センサーを用いた眼圧測定方法で,角膜厚の影響を受けにくく,拡張期眼圧とともに眼球脈波(ocularpulseamplitude:OPA)も測定することができ,拡張期眼圧にOPAの値を加えることによって収縮期眼圧も測定することができるものである10,11).DCTは小数点以下一桁まで表示することができるため,精度が確保できるのであれば,より低眼圧領域での正確な解析に有用と考えられる.眼圧下降薬剤に関しては,その後も新規薬剤が開発され,臨床現場に導入されている.そこで,1日1回点眼を用法とするもので眼圧下降効果について検証を行うことにした.以前に3種点眼薬(ラタノプロスト,タフルプロスト,トラボプロスト)のなかで最も眼圧下降の大きいと,筆者らの報告したトラボプロストにbブロッカーを加えて,さらに高い眼圧下降率の期待できると考えられる12)トラボプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液(デュオトラバR配合点眼液:以下,DT)と,やはり大きな眼圧下降を示すといわれる13)プロスタグランジン製剤であるビマトプロスト点眼液(ルミガンR:以下,LG)に関し,GATとDCTを用いて,眼圧下降の比較と評価を行った.I対象および方法市立長浜病院を2011年6月から2013年4月までに受診した,日本人の原発開放隅角緑内障29症例51眼を対象とした.うち狭義原発開放隅角緑内障15症例27眼であった.男性13例23眼,女性16例28眼,年齢69.8±10.2歳(平均±標準偏差:39.88歳),有水晶体眼44眼,偽水晶体眼7眼であった.対象から屈折度(等価球面度数)が.6.0D以上もしくは眼軸長27mmを超える強度近視眼を除外した.測定値は個人情報とまったく分離してデータ解析に用いられた.点眼の選択については各症例について適切なものを比較のうえ行うことが望ましいとされており14),実際の処方や変更については文書による受診者の了解と同意のうえで行った.データの収集と公開に関しては当院の倫理委員会の承認を得た.すべての手順はヘルシンキ宣言の指針に基づいて行われた.眼圧測定とデータ収集については,筆者らが以前行った,ラタノプラストとチモロールの比較検討15)やプロスタグランジン製剤の比較検討9)の報告と同様に行っている.すなわち,点眼治療開始前もしくは点眼中の症例は最低2週間の無点眼(wash-out)期間を設け,wash-out後の眼圧をベースライン(BL)眼圧とした.その後DTおよびLGを1剤ずつ2.4週間順次使用し,それぞれの点眼後の眼圧を計測した.2種類の点眼の順番は無作為とし,順番の違いによっての下1536あたらしい眼科Vol.31,No.10,2014降率の違いについて検討はしていない.無作為の内訳はDT.LG.無点眼の順番が7例12眼,LG.無点眼.DTの順番が1例2眼,LG.DT.無点眼の順番が2例2眼,無点眼.DT.LGの順番が6例10眼,無点眼.LG.DTの順番が13例25眼であった.測定時間帯は各症例について,午前もしくは午後のなかでなるべく統一した.もとの眼圧領域による効果の違いを検証するため,症例を無点眼時DCT値でほぼ症例数が均等になるように2分し,18mmHg以下(n=24)の低眼圧群と18.1mmHg以上(n=27)の高眼圧群で分けた.眼圧はGAT(Haag-Streit社)およびDCT(ZeimerOphthalmic社,Pascal)で測定した.GAT測定眼圧(GAT値),DCT測定眼圧(DCT値)とOPAを解析に使用した.DCTの測定値はQ=1.5のうち精度が上位の1,2,3を用いた.統計学的検討にはpaired-t検定を用い,p<5%を有意とした.II結果点眼前後のGAT眼圧比較を図1に示した.BLのGAT眼圧は17.8±3.8mmHgであった.点眼後眼圧はDT使用下13.9±2.9mmHg,LG使用下14.2±3.4mmHgであった.2剤とも有意にBLより眼圧下降を認め,2剤間に有意差は認めなかった.GATでの平均眼圧降下率の比較を図2に示した.平均眼圧下降率はDT,LGの順に30.0±26.2%,28.4±23.9%であった.2剤間では有意差は認められなかった.各種点眼ごとに緑内障点眼前後各症例のDCT値を図3に示した(a:DT,b:LG).なお,無点眼時の眼圧と下降値は相関係数DT:0.47,LG:0.63であり,回帰直線を図中に直線で示した.点眼前後のDCT値を図4に示した.無点眼下での平均DCT値は19.2±3.8mmHgであり,DTでは16.8±3.9mmHg,LG17.0±4.6mmHgに,ともに有意に下降した.2剤間の点眼前後のDCT下降値に有意差はなかった.DCT値の下降率の比較を図5に示した.平均眼圧下降率はDT,LGの順に16.0±25.3%,16.7±24.3%であった.2剤間のDCT下降率に有意差は認められなかった.点眼前後のOPA値を図6に示した(a:DT,b:LG).無点眼下での平均値は2.7±1.0mmHg,DTでは2.5±1.1mmHg,LGでは2.4±0.8mmHg.LGでは無点眼に比べ有意に下降を認めた.2剤間の点眼前後のOPA値の下降に有意差は認められなかった.なお,DCT+OPA値についてもDCT値同様に解析を行ったが,DCT値と同様の結果が得られた.もとの眼圧領域による効果の違いを検証するため,症例を無点眼時DCT値でほぼ2分し,18mmHg以下(n=24)と18.1mmHg以上(n=27)で分けた.18.1mmHg以上の群では,DCT値(図7a),DCT+OPA値(図7b)ともにDTも(114) 252060504015有意差なし有意差なし51000BLDTLGDTLG図1点眼前後のGAT眼圧の比較図2点眼前後のGAT眼圧下降率の比較4025下降率(%)眼圧(mmHg)眼圧(mmHg)下降率(%301020a有意差なし150BLDTLG10図4点眼前後のDCT眼圧下降値の比較507010203040aBL(mmHg)635203015DT(mmHg)251020540b535DT(mmHg)4303LG(mmHg)252201150105BL(mmHg)70b0510152025303540BL(mmHg)6図3DCT眼圧値の点眼前後の変化50123456LG(mmHg)432a:DT,b:LG.図中の実線は回帰直線.50図5点眼前後のDCT眼圧下降率の比較DTLG有意差なし4013002010BL(mmHg)01234560-10図6DCT脈圧(OPA)の点眼前後変化a:DT,b:LG.図中の実線は回帰直線.(115)あたらしい眼科Vol.31,No.10,20141537 30b30a25252020有意差あり有意差あり00BLDTLGBLDTLG30有意差なし有意差なし眼圧(mmHg)眼圧(mmHg)眼圧(mmHg)1515101055d30c2525眼圧(mmHg)2020151510105500BLDTLGBLDTLG図7低眼圧群(n=24)と高眼圧群(n=27)におけるDCT眼圧下降値の比較a:低眼圧群DCT眼圧下降値,b:低眼圧群DCT+OPA眼圧下降値,c:高眼圧群DCT眼圧下降値,d:高眼圧群DCT+OPA眼圧下降値.DT43%LG27.5%無効27.5%同効果2%らに,眼圧値で2群に分けたところ,低眼圧群ではLGにおいて,DCTで有意な眼圧下降がみられた.以前筆者らは,トラボプロストがラタノプロストなどに比べてより眼圧下降に有効であることを示した8).DTはそれにbブロッカーを配合したものであり,GATを用いて得られた結果からは,さらに強い効果が得られるとされている16,17).今回,LGよりもDTのほうが,より有効な症例が多くみられ,効果の強さを示している.一方で,bブロッカーは喘息悪化などの副作用から実際の使用上禁忌になる場合が考えられるので,LGが同程度の下降を示したということ図8DCT眼圧下降率に基づいて処方した全症例の点眼内訳LGも有意に下降した.DTとLG使用下のDCT値の下降値およびDCT+OPA値の下降値に有意差はなかった.18mmHg以下の群ではDCT値(図7c)とDCT+OPA値(図7d)の点眼前後はともにDTは有意差なく,LGでのみ有意に下降をみた.DCT眼圧下降率に基づいて処方した全症例の点眼内訳を図8に示す.2剤とも10%以下の眼圧下降率を示したものは無効とした.DTは43%(22眼),LG27.5%(14眼),無効は27.5%(14眼),両者同等であったのは2%(1眼)であった.III考按DTとLGは,ともに眼圧下降作用については,GATとDCTいずれの計測方法においても同等に有効であった.さ1538あたらしい眼科Vol.31,No.10,2014は,bブロッカー使用禁忌の症例に対しても点眼使用が可能であり,臨床使用上大きな意味がある.無点眼時の眼圧と,眼圧の下降値にはある程度の相関があった.すなわち,18.1mmHg以上の高い眼圧であれば,眼圧が大きく下降する傾向があった.18mmHg以下の低い眼圧では,眼圧下降値も小さい傾向があり,よりスケールの粗いGATでは差の検出がむずかしくなる.今回も,より低い眼圧領域では,DCTで計測したところ,LGのみに有意な下降がみられている.精密に眼圧の表示のされるDCTは精度が確保できれば,より低眼圧領域での治療薬選択に役立つと考えられる.OPAを全体的に下げるプロスタグランジン製剤と異なって,bブロッカーに関しては,点眼使用後のOPAの値が,より低眼圧領域ではむしろ上昇する傾向のあることが報告されている15).今回筆者らの結果ではOPAの上昇は認めなかったが,OPA+DCTにおいて低眼圧領域でLGのみ有意差(116) を認めた.そのためbブロッカーを配合したDTに比べて低眼圧領域症例にはLGがより好ましい可能性がある.文献1)真島行彦:眼科検査診断法,個別化医療の時代にむけての遺伝子診断.日眼会誌108:863-886,20042)KubotaR,NodaS,WangYetal:Anovelmyosin-likeprotein(myocilin)expressedintheconnectingciliumofthephotoreceptor:molecularcloning,tissueexpression,andchromosomalmapping.Genomics41:360-369,19973)中野正和,池田陽子,徳田雄市ほか:緑内障における視神経乳頭の脆弱性に関するCDKN2B-AS1上のバリアントの同定.PLoSONE7:e33389(3)4)TheAGISInvestigators:TheAGISGlaucomaInterventionsStudy(AIGS):7.Therelationshipbetweencontrolofintraocularpressureandvisualfielddeterioration.AmJOphthalmol130:429-440,20005)AlexanderCL,MillerSJ,AbelSR:Prostaglandinalnalogtreatmentofglaucomaandocularhypertension.AnnPharmacother36:504-511,20026)植田俊彦,笹元威宏,平松類ほか:緑内障における患者教育が眼圧下降とその持続に及ぼす効果.あたらしい眼科28:1491-1494,20117)二見要介:1日1回点眼bブロッカーマレイン酸チモロール(チモプトールXE)からはじまる新しい緑内障治療戦略.PharamaMedica18:217-220,20008)相原一:緑内障薬物治療薬の現状と未来.日本薬理学雑誌135:129-133,20109)白木幸彦,山口孝泰,梅基光良ほか:DynamicContourTonometerを用いた,ラタノプロスト,トラボプロスト,タフルプロストの眼圧降下率の比較.あたらしい眼科27:1269-1272,201010)冨山浩志,石川修作,新垣淑邦ほか:DynamicContourTonometer(DCT)とGoldmann圧平眼圧計,非接触型眼圧計の比較.あたらしい眼科25:1022-1026,200811)KaufmannC,BachmannLM,ThielMA:ComaprisonofdynamiccontourtonometrywithGoldmannapplanationtonometry.InvestOpthalmolVisSci45:3118-3121,200412)佐藤出,北市伸義,広瀬茂樹ほか:プロスタグランジン製剤・b遮断薬からトラボプロスト・チモロールマレイン酸塩配合液への切り替え効果.臨眼66:675-678,201213)新家眞,北澤克明:原発開放隅角緑内障または高眼圧症を対象とした0.03%ビマトプロスト点眼剤の長期投与試験.あたらしい眼科28:1209-1215,201114)日本緑内障学会:緑内障診療ガイドライン.日眼会誌107:125-157,200315)山口泰孝,梅基光良,木村忠貴ほか:DynamicContourTonometerを用いた緑内障視野障害様式の検討.あたらしい眼科27:821-825,201016)ArendKO,RaberT:Observationalstudyresultsinglaucomapatientsundergoingaregimenreplacementtofixedcombinationtravoprost0.004%/timolol0.5%inGermany.JOculPharmacolTher24:414-420,200817)KonstasAG,MikropoulosD,HaidichABetal:Twentyfour-hourintraocularpressurecontrolwiththetravoprost/timolmaleatefixedcombinationcomparedwithtravoprostwhenbotharedosedintheeveninginprimaryopen-angleglaucoma.BrJOphthalmol93:481-485,2009***(117)あたらしい眼科Vol.31,No.10,20141539

原発開放隅角緑内障に対する強膜深層弁切除併用360°スーチャートラベクロトミー変法の治療成績

2014年2月28日 金曜日

《原著》あたらしい眼科31(2):271.276,2014c原発開放隅角緑内障に対する強膜深層弁切除併用360°スーチャートラベクロトミー変法の治療成績佐藤智樹*1平田憲*2*1佐藤眼科*2佐賀大学医学部眼科SurgicalOutcomeofModified360°SutureTrabeculotomywithDeepSclerectomyinEyeswithPrimaryOpen-AngleGlaucomaTomokiSato1)andAkiraHirata2)1)SatoEyeClinic,2)DepartmentofOphthalmology,SagaUniversityFacultyofMedicine強膜深層弁切除併用360°スーチャートラベクロトミー変法(360°LOT+DS)の治療成績について検討した.2011年4月から2013年2月に原発開放隅角緑内障(POAG)に対し,佐藤眼科で360°LOT+DSを施行した35例35眼で,それ以前に強膜深層弁切除併用120°トラベクロトミー(120°LOT+DS)を施行した24例24眼を対照群とした.全例,白内障手術を併用し,術後12カ月の眼圧経過,投薬スコア,合併症をレトロスペクティブに比較した.両群ともに術後全経過を通じ術後眼圧は有意に低下した.14もしくは16mmHgを基準値とした眼圧生存率は術後12カ月でいずれも360°LOT+DS群が有意に高かった.投薬スコアは両群ともに有意に低下したが,両群間に差はなかった.術後一過性高眼圧,前房出血(hyphema)を認めたが,その割合は両群間に差はなかった.360°LOT+DSは120°LOT+DSに比べ,より低い術後眼圧が得られる可能性がある.Weevaluatedthesurgicaloutcomesofmodified360°suturetrabeculotomycombinedwithdeepsclerectomy(360°LOT+DS).Enrolledinthisstudywere35eyesof35patientswithprimaryopen-angleglaucoma(POAG)whounderwent360°LOT+DSfromApril2011toFebruary2013atSatoEyeClinic.Usedascontrolswere24eyesof24patientswithPOAGthathadundergone120°trabeculotomy(120°LOT+DS)beforeApril2011.Phacoemulsificationandintraocularlensinsertion(PEA+IOL)wereperformedatthesametimeinalleyes.Thetimecourseofintraocularpressure(IOP)for12monthsaftersurgery,administrateddrugscore,incidenceoftransientelevationofIOP,hyphemaandblebwerecomparedandanalyzedretrospectively.BothgroupsshowedsignificantlyreducedIOPpostoperatively,thoughIOPsurvivalrateinthe360°LOT+DSgroupwassignificantlyhigherthaninthecontrols.Nosignificantdifferencebetweenthegroupswasnotedintermsofdrugscore,transientIOPelevationincidenceorhyphema,butblebincidencewassignificantlyhigherinthe360°LOT+DSgroupthaninthecontrols.Resultsindicatethat360°LOT+DSmayoffergreaterpostoperativeIOPsurvivalthan120°LOT+DS.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(2):271.276,2014〕Keywords:360°スーチャートラベクロトミー変法,強膜深層弁切除,原発開放隅角緑内障.modified360°suturetrabeculotomy,deepsclerectomy,primaryopen-angleglaucoma.はじめにトラベクロトミー(trabeculotomy)は,Schlemm管内壁を切開することで比較的安全に眼圧下降が得られる術式であるが,強膜深層弁切除(deepsclerectomy)やSchlemm管外壁開放術(sinusotomy)を併用しても10台半ばの眼圧にとどまる1.5).トラベクロトミーは金属プローブ(トラベクロトーム)を用いて120°の範囲でSchlemm管を切開する方法(120°トラベクロトミー)が一般的であるが,1995年にBeckらが先天緑内障に対してプロリン糸を用いて線維柱帯を360°切開する術式(360°トラベクロトミー)を報告した6).〔別刷請求先〕佐藤智樹:〒864-0041熊本県荒尾市荒尾4160-270佐藤眼科Reprintrequests:TomokiSato,SatoEyeClinic,4160-270Arao,AraoCity,Kumamoto864-0041,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(111)271 85%が点眼なしで眼圧が22mmHg以下になったとしているが,全周糸が回ったのは26眼中11眼と半数以下であり,その他の緑内障での効果は不明であった6).陳らは5-0ナイロン糸を用い,手術手技を改良することで線維柱帯を360°切開する確率を90%にまで向上させ,術後12カ月で13.1mmHgの眼圧が得られたと報告した7,8).また,後藤らは,360°スーチャートラベクロトミー変法に強膜深層弁切除を併施することで,術後9カ月の平均眼圧が13.7mmHgであったと報告した9).しかしながら,同一施設で強膜深層弁切除を併施した120°トラベクロトミーと強膜深層弁切除を併施した360°スーチャートラベクロトミー変法の手術成績を比較した報告はない.今回筆者らは,原発開放隅角緑内障(POAG)に対し,強膜深層弁切除併用360°スーチャートラベクロトミー変法(360°LOT+DS)を施行し,それ以前に施行した強膜深層弁切除併用120°トラベクロトミー(120°LOT+DS)の術後眼圧経過について比較検討した.I対象および方法1.対象2011年4月から2013年2月に佐藤眼科で白内障手術を併用した強膜深層弁切除併用360°スーチャートラベクロトミー変法を施行したPOAG連続症例35例35眼(360°LOT+DS群)を,2010年4月から2011年3月に白内障手術を併用した強膜深層弁切除併用120°トラベクロトミーを施行したPOAG症例24例24眼(120°LOT+DS群)を対照群としてレトロスペクティブに比較検討した.手術は全症例同一術者が行った.2011年4月から2013年2月までに,佐藤眼科で白内障手術を併用し,POAGに対して強膜深層弁切除併用スーチャートラベクロトミー変法を行ったのは45例69眼あったが,そのうち予定どおり360°Schlemm管切開できたのは35例51眼であった.解析対象を1症例に対し1眼とするため,片眼に同一手術を施行した患眼を対象から除外し,360°LOT+DS群は35例35眼を解析対象とした.表1患者背景360°LOT120°LOT+DS群+DS群p値症例数35例35眼24例24眼年齢(±標準偏差)76.0±7.079.0±5.00.080性別(男/女)12/238/161.00†術前眼圧(mmHg)18.6±3.319.5±3.40.342投薬スコア1.1±1.40.7±0.90.357‡平均観察期間(カ月)13.6±7.529.4±8.7<0.001**:unpairedt検定,†:Fisher正確検定,‡:Wilcoxon順位和検定.360°LOT+DS:強膜深層弁切除併用360°スーチャートラベクロトミー変法.120°LOT+DS:強膜深層弁切除併用120°トラベクロトミー.両群ともに手術の施行にあたり,術式および考えられる効果と合併症について説明し,本人と家族の同意を得た.両群の術前患者背景を表1に示す.平均観察期間は,360°LOT+DS群が13.6±7.5カ月,120°LOT+DS群が29.4±8.7カ月と群間に有意差があったため,術後眼圧・投薬スコアの比較は12カ月までとした.2.手術術式a.強膜深層弁切除併用360°スーチャートラベクロトミー変法上方結膜を温存するため,全例耳側より手術を行った.円蓋部基底で結膜切開を行い,露出させた強膜に4mm×4mm,厚さ1/2強膜厚の第一強膜弁を作製し,その内側に3×3mmの第二強膜弁を作製した.Schlemm管内壁を露出させた後,粘弾性物質をSchlemm管内に注入し,熱加工して先端を丸くした5-0ナイロン糸をSchlemm管に挿入,全周通糸し,対側から5-0ナイロン糸を引き出した.前房内ab図1360°スーチャートラベクロトミー変法の手術手技の模式図a:5-0ナイロン糸をSchlemm管に挿入,全周通糸し,対側に作製した角膜サイドポートから糸を引き出し,両側の糸をゆっくり引き抜くことで360°線維柱帯切開を行う.b:糸がSchlemm管を全周通過できない場合,その領域のみ線維柱帯の切開を行い,糸を引き抜き,残った側のSchlemm管へ再度通糸し,同様に残り半周の切開を行う.272あたらしい眼科Vol.31,No.2,2014(112) を粘弾性物質で満たし,線維柱帯・Schlemm管内壁部(ウインドウ)の角を30G針にて小さな切開を行い,同部位から糸を前房内に通糸し,ウインドウと対側に作製した角膜サイドポートから糸を引き出し,両側の糸をゆっくり引き抜くことで360°線維柱帯切開を行った(図1a).糸がSchlemm管を全周通過できない場合,たとえば180°通したところで糸がそれ以上動かなくなった場合は,その領域のみ線維柱帯の切開を行い,糸を引き抜き,残った側のSchlemm管へ再度糸を通して同様に対側の角膜サイドポートから糸を引き出して残り半周の切開を行った(図1b).引き続き同一創より超音波水晶体乳化吸引術および眼内レンズ挿入術(PEA+IOL)を施行し,第二強膜弁を切除し,術後一過性高眼圧を抑制する目的で濾過胞ができるよう,房水がやや漏れるくらいに第一強膜弁を1.4糸縫合した.結膜を10-0ナイロン糸で房水が漏れないように連続縫合し,手術を終了した.b.トラベクロトームを使用した強膜深層弁切除併用120°トラベクロトミー上記と同様に,円蓋部基底で結膜切開を行い,露出させた強膜に4mm×4mm,厚さ1/2層の第一強膜弁を作製し,その内側に3×3mmの第二強膜弁を作製した.Schlemm管を露出させた後,トラベクロトームを両側のSchlemm管に挿入し,Schlemm管内壁を合計120°切開した.同一創よりPEA+IOL施行,第二強膜弁を切除し,術後一過性高眼圧を抑制する目的で濾過胞ができるよう,房水がやや漏れるくらいに第一強膜弁を1.4糸縫合した.結膜を10-0ナイロン糸で房水が漏れないように連続縫合し,手術を終了した.3.検討項目,統計学的評価検討項目は,1.眼圧経過,2.投薬スコアの経時変化,3.合併症の3項目とした.眼圧経過は,手術直前3回の平均値を術前眼圧,術後1カ月,3カ月,6カ月,9カ月,12カ月の眼圧を術後眼圧とし,術前後の比較を行った.さらに術式間の眼圧を比較した.また,術後眼圧評価としてKaplanMeier法による生存解析を行い,術式間で比較した.死亡の定義は,術後1カ月以降で16mmHg,14mmHgの目標眼圧を2回連続で超えた最初の時点,炭酸脱水酵素阻害薬の内服を併用した時点,緑内障手術を追加した時点のいずれかとした.投薬スコアは緑内障点眼薬1点,炭酸脱水酵素阻害薬内服を2点とした.合併症は術後1カ月以内の術後早期合併症を検討した.検討項目は,トラベクロトミーに高頻度で起こるとされる前房出血(hyphema),術後一過性高眼圧の頻度とそれが正常化するまでの時間,また,両群ともに一過性高眼圧を抑制する目的で濾過胞を意図的に形成するため,その頻度および濾過胞関連合併症として低眼圧,脈絡膜.離,低眼圧黄斑症,濾過胞感染についても検討した(表2).術後一過性高眼圧は術後1カ月以内に30mmHg以上になった場合,前房出血は(113)表2合併症360°LOT120°LOT+DS+DSp値前房出血(hyphema)9/35(25.7%)4/24(16.7%)0.529*術後一過性高眼圧8/35(22.9%)3/24(12.5%)0.498*濾過胞22/35(62.9%)7/24(29.2%)0.017*濾過胞関連合併症4mmHg以下の低眼圧1/35(2.9%)2/24(8.3%)0.561*脈絡膜.離0/0(0%)0/0(0%)─低眼圧黄斑症0/0(0%)0/0(0%)─濾過胞感染0/0(0%)0/0(0%)─*:Fisher正確検定.360°LOT+DS:強膜深層弁切除併用360°スーチャートラベクロトミー変法.120°LOT+DS:強膜深層弁切除併用120°トラベクロトミー.1mm以上のhyphemaを伴った場合,濾過胞は結膜の隆起を認める場合と定義し,前房出血と濾過胞の有無はカルテの記載と前眼部写真をもとに判定した.低眼圧は4mmHg以下の場合,脈絡膜.離,低眼圧黄斑症は検眼鏡的に認めた場合と定義した.統計学的解析にはJMP10.0.2(SASInstituteJapan株式会社)を用いた.術前患者背景における年齢,術前眼圧はunpairedt検定,性別比はFisher正確検定,投薬スコアはWilcoxon順位検定を行った.術前後の眼圧比較はMANOVA,術式間の眼圧比較はunpairedt検定,術後眼圧の生存解析,術式間の比較にはlog-rank検定を行った.投薬スコアの経時変化はKruskal-Wallis検定を行った.合併症の頻度はFisher正確検定を用い,それが正常化するまでの時間をunpairedt検定を用いて検討した.p<0.05を有意とした.II結果術前の患者背景を表1に示す.両群間の患者背景(年齢,術前眼圧,性別,投薬スコア)に有意差はなかった.1.眼圧経過360°LOT+DS群と120°LOT+DS群の眼圧経過を図2に示す.360°LOT+DS群は術前眼圧が18.8±0.6mmHg(平均±標準誤差)であるのに対し,術後1,3,6,9,12カ月後の眼圧はそれぞれ13.6±0.5mmHg,11.4±0.3mmHg,12.4±0.4mmHg,12.3±0.4mmHg,13.1±0.5mmHgと,全経過を通じ眼圧は有意に変化し(p<0.0001,MANOVA),術前に比しすべての期間で有意に低下していた(各々p<0.05,Dunnet’smultiplecomparison検定).120°LOT+DSでは,術前眼圧が19.5±0.7mmHg(平均±標準誤差)で,術後1,3,6,9,12カ月後の眼圧はそれぞれ15.1±0.7mmHg,13.3±0.6mmHg,13.5mmHg,14.3±0.6mmHg,14±0.5mmHgと全経過で眼圧は有意に変化し(p<0.0001,MANOVA),すべての期間で術前に比べ有意に低下していあたらしい眼科Vol.31,No.2,2014273 20a1008015**:360°LOT+DS:120°LOT+DS:360°LOT+DS:120°LOT+DS生存率(%眼圧(mmHg)6040201050036912術後観察期間(月)0術前36912b100術後観察期間(月)80図2術前および術後眼圧経過360°LOT+DS群および120°LOT+DS群いずれも術前に比して,術後有意に眼圧は下降した(両群ともにp<0.05,MANOVAおよびDunnet’smultiplecomparison検定).*:360°LOT+DS群の術後眼圧は120°LOT+DS群に比べ,術後3,9カ月の時点で有意に下降していた(各々p=0.003,p=0.008,unpairedt検定).た(各々p<0.05,Dunnet’smultiplecomparison検定).両群間の眼圧を比較すると,360°LOT+DS群の術後眼圧は120°LOT+DS群に比べ術後3,9カ月の時点で有意に下降していた(各々p=0.003,p=0.008,unpairedt検定).Kaplan-Meierによる生存解析の結果を示す(図3).12カ月の時点での16mmHg以下の生存率は360°LOT+DS群は100.0%,120°LOT+DS群は78.8%であり,360°LOT+DS群が有意に高かった(p=0.009,log-rank検定,図3a).術後12カ月の時点での14mmHg以下の生存率においても360°LOT+DS群は86.9%,120°LOT+DS群は46.9%で,360°LOT+DS群のほうが有意に高かった(p=0.003,log-rank検定,図3b).2.投薬スコアの経時変化360°LOT+DS群と120°LOT+DS群の投薬スコアを表3に示す.360°LOT+DS群は術前投薬スコアが1.1±1.4(平均±標準誤差)であるのに対し,術後1,3,6,9,12カ月後の投薬スコアはそれぞれ0.1±0.1,0.1±0.1,0.1±0.1,0.2±0.1,0.4±0.8と,全経過を通じ投薬スコアは有意に変化し(p<0.0001,Kruskal-Wallis検定),術前に比しすべての期間で有意に低下していた(各々p<0.05,Dunnet’smultiplecomparison検定).120°LOT+DS群においても全経過を通し,投薬スコアは有意に変化し(p=0.004,KruskalWallis検定),術前に比べてすべての期間で有意に下降した(いずれもp<0.05,Dunnet’smultiplecomparison検定).各期間において,術式間には有意差は認めなかった.3.合併症前房出血(hyphema)の頻度は,360°LOT+DS群では9274あたらしい眼科Vol.31,No.2,2014:360°LOT+DS:120°LOT+DS生存率(%)6040200図3Kaplan.Meier法による眼圧の生存解析a:16mmHg以下のKaplan-Meier生存曲線.術後12カ月の時点で360°LOT+DS群の生存率は100.0%,120°LOT+DS群は78.8%であり,360°LOT+DS群が有意に高かった(p=0.009,log-rank検定).b:14mmHg以下のKaplan-Meier生存曲線.術後24カ月の時点で360°LOT+DS群の生存率は86.9%,120°LOT+DS群は46.9%で,360°LOT+DS群のほうが有意に高かった(p=0.003,log-rank検定).表3点眼スコアの経過036912術後観察期間(月)360°LOT+DS120°LOT+DS術後(カ月)投薬スコア投薬スコア眼数(平均±標準誤差)眼数(平均±標準誤差)1350.1±0.1*240.0±0.0*3350.1±0.1*240.1±0.1*6330.1±0.1*230.1±0.1*9250.2±0.1*230.1±0.1*12200.4±0.8*230.2±0.1**:p<0.05(Kruskal-Wallis検定およびDunnet’smultiplecomparison検定).360°LOT+DS:強膜深層弁切除併用360°スーチャートラベクロトミー変法.120°LOT+DS:強膜深層弁切除併用120°トラベクロトミー.眼(25.7%),120°LOT+DS群は4眼(16.7%),360°LOT+DS群のほうが高い傾向にあったが,両群間に有意差は認めなかった(p=0.529,Fisher正確検定).前房出血(hyphema)が吸収されるまでに要した時間は,360°LOT+DS群で平均5.1±2.3日,120°LOT+DS群で3.3±2.9日で両群間に有意差を認めなかった(p=0.256,unpairedt検定)が,(114) 360°LOT+DS群の2例(5.7%)において5mm以上のhyphemaを伴う多量の前房出血を認めたため1週間後に前房洗浄を行った.術後一過性高眼圧の頻度は,360°LOT+DS群では8眼(22.9%)であり,120°LOT+DS群で3眼(12.5%)に比べて高い傾向にあったが,両群間に有意差は認めなかった(p=0.498,Fisher正確検定).30mmHg以下に下降するまでの時間は,360°LOT+DS群は2.9±2.1日,120°LOT+DS群は2.7±2.1日と両群間に有意差は認めず(p=0.891,unpairedt検定),追加手術を要するものはなかった.濾過胞の頻度は,360°LOT+DS群では22眼(62.9%),120°LOT+DS群は7眼(29.2%)と360°LOT+DS群は120°LOT+DS群に比べて有意に高い頻度で濾過胞を認めた(p=0.017,Fisher正確検定).濾過胞消失までの時間は,360°LOT+DS群では5.9±4.0日,120°LOT+DS群は6.0±7.1日と両群間に有意差は認めなかった(p=0.967,unpairedt検定).過剰濾過により4mmHg以下の低眼圧をきたしたものは360°LOT+DS群では1眼(2.9%),120°LOT+DS群は2眼(8.3%)あり,保存的経過観察にてそれぞれ4日,4.2±4.2日で眼圧は正常化した.その他,濾過胞関連の脈絡膜.離,低眼圧黄斑症,濾過胞感染は両群ともにみられなかった.III考按陳らは360°スーチャートラベクロトミー変法単独手術により術後12カ月の平均眼圧は13.1mmHgであったと報告し7,8),後藤らは強膜深層弁切除併用360°スーチャートラベクロトミー変法に白内障手術を併施して術後9カ月後の平均眼圧は13.7mmHg,術後6カ月での14mmHg以下の生存率は71.4%であったと述べている9).佐藤眼科での360°LOT+DS群は術後12カ月まで13mmHg前後で推移し,14mmHg以下の生存率は術後12カ月で86.9%と,過去の報告とほぼ同等かやや良好な結果であった.また,120°LOT+DS群は術後平均眼圧が14mmHg以下の生存率は46.9%と過去の報告とほぼ同等であったが1.5),360°LOT+DS群は120°LOT+DS群に比し術後眼圧は有意に下降し,生存率も高かった.投薬スコアは360°LOT+DS群,120°LOT+DS群ともに術前に比べ術後12カ月まで有意に下降したが,両群間に差は認めなかった.360°LOT+DS群が120°LOT+DS群よりも眼圧が下降したのは,広範囲のSchlemm管を切開することでより広範囲の集合路が開放されたためではないかと考えられた.前房出血の頻度と前房出血が吸収されるまでの時間は両群間で有意差を認めず,120°トラベクロトミーの過去の報告1,3)と同様に360°LOT+DS群も1週間以内に前房出血は吸収(115)され,Schlemm管の切開幅による前房出血への影響はみられなかった.1カ月以内の30mmHg以上の術後一過性高眼圧の頻度も両群間で有意差を認めず,陳らの360°スーチャートラベクロトミー変法単独手術における一過性高眼圧の割合は120°トラベクロトミーに比べて差はなかったとする報告7)と同様であり,Schlemm管の切開幅の差により術後一過性高眼圧の割合に差はないようであった.しかし,陳らは強膜深層弁切除を併用しない360°トラベクロトミー単独手術での30mmHg以上の術後一過性高眼圧の割合が50%と報告しており7),強膜深層弁切除を併用した今回の360°LOT+DS群の22.9%より高いようである.今回の報告では,両群ともに術後の一過性高眼圧を抑制する目的で,強膜深層弁切除を併用し,意図的に濾過胞を作製している.一般的な120°トラベクロトミーにSchlemm管外壁開放術や強膜深層弁切除を併用することで術後一過性高眼圧が抑制されるといわれている1.5)が,360°スーチャートラベクロトミー変法においても強膜深層弁切除を併用することで術後の一過性高眼圧が抑制された可能性があった.また,濾過胞がみられた頻度は360°LOT+DS群で有意に高い傾向にあったが,360°LOT+DS群では前房に糸を挿入する際にウインドウの両端に小さな穴が開いてしまうため,120°LOT+DS群よりも強膜弁から結膜下への房水漏出量が多かったのが原因と考えられた.両群ともに,濾過胞は両群ともに平均1週間弱で消失したため,トラベクレクトミーにみられる長期にわたる濾過効果や,低眼圧や感染症などの濾過胞関連合併症の危険性はないと考えられた.今回の検討では,緑内障点眼薬にて加療中の患者で,白内障手術を希望した際に360°スーチャートラベクロトミー変法を施行した症例も含まれるため,術前眼圧が18.6mmHgと高くなかったが,術後12カ月間の眼圧下降効果が良好に保たれていたことは,より低い目標眼圧を必要とする正常眼圧緑内障においても本術式は適応できる可能性があると考えられた.一方,今回の対象症例の手術期間に強膜深層弁切除併用360°スーチャートラベクロトミー変法を試みたものの,ナイロン糸がSchlemm管にスムーズに挿入できない,または早期穿孔などにより切開範囲が240°以下となった症例が18眼あり,今回の検討対象となった51眼を合わせると,成功率は74%にとどまった.強膜深層弁切除併用360°スーチャートラベクロトミー変法は,引き続きより多くの長期経過を検討する必要があるものの,13mmHg前後に眼圧を下降させる可能性がある術式であると考えられた.文献1)三木貴子,松下恭子,内藤知子ほか:シヌソトミー併用線あたらしい眼科Vol.31,No.2,2014275 維柱帯切開術の長期術後成績.臨眼64:1691-1695,20102)南部裕之,城信雄,畔満喜ほか:下半周で行った初回Schlemm管外壁開放術併用線維柱帯切開術の術後長期成績.日眼会誌116:740-750,20123)後藤恭孝,黒田真一郎,永田誠:原発開放隅角緑内障におけるSinusotomyおよびDeepSclerectomy併用線維柱帯切開術の長期成績.あたらしい眼科26:821-824,20094)松原孝,寺内博夫,黒田真一郎ほか:サイヌソトミー併用トラベクロトミーと同一創白内障同時手術の長期成績.あたらしい眼科19:761-765,20025)溝口尚則,黒田真一郎,寺内博夫ほか:開放隅角緑内障に対するシヌソトミー併用トラベクロトミーの長期成績.日眼会誌100:611-616,19966)BeckAD,LynchMG:360degreestrabeculotomyforprimarycongenitalglaucoma.ArchOphthalmol113:12001202,19957)ChinS,NittaT,ShinmeiYetal:Reductionofintraocularpressureusingamodified360-degreesuturetrabeculotomytechniqueinprimaryandsecondaryopen-angleglaucoma:apilotstudy.JGlaucoma21:401-407,20128)陳進輝:360°SutureTrabeculotomy変法.眼科手術25:235-238,20129)後藤恭孝,黒田真一郎,永田誠:全周線維柱帯切開術の短期成績.眼科手術22:101-105,2009***276あたらしい眼科Vol.31,No.2,2014(116)

緑内障眼・視神経乳頭血流の波形変化:LSFG-NAVITMによる解析

2012年7月31日 火曜日

《第22回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科29(7):984.987,2012c緑内障眼・視神経乳頭血流の波形変化:LSFG-NAVITMによる解析杉山哲也柴田真帆小嶌祥太植木麻理池田恒彦大阪医科大学眼科学教室AnalysisofWaveformsObtainedfromPeriodicChangeinOpticNerveHeadBloodFlowofGlaucomaPatientsUsingLaserSpeckleFlowgraphy-NAVITMTetsuyaSugiyama,MahoShibata,ShotaKojima,MariUekiandTsunehikoIkedaDepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollege目的:レーザースペックルフローグラフィ(LSFG)によって視神経乳頭血流の波形解析を行い,緑内障性視野障害との関連を検討した.対象および方法:対象は広義・原発開放隅角緑内障(POAG)34例と正常対照20例,各1眼を用いた.LSFG-NAVITMによって血流波形パラメータを算出し,再現性やHumphrey視野meandeviation(MD)値,MDslopeとの間の関連を検討した.結果:変動係数はPOAG,正常対照ともにおおむね10%未満で良好な再現性を示した.Skew,Blowouttime(BOT)はMD値との間に有意な相関を認めた.また,局所虚血型乳頭において,MDslopeとBOT,Fallingrateとの間には有意な相関を認めた.結論:視神経乳頭血流の波形解析によるパラメータがPOAGの進展に関与している可能性が示唆された.Purpose:Toinvestigatethecorrelationbetweenglaucomatousvisualfielddefectandwaveformsobtainedfromperiodicchangeinopticnervehead(ONH)bloodflow,usinglaserspeckleflowgraphy(LSFG).SubjectsandMethods:Subjectscomprised34patientswithprimaryopenangleglaucoma(POAG)and20normalvolunteers.SeveralindiceswerecalculatedfromthebloodflowwaveformsusingLSFG-NAVITM;reproducibility,relationshipbetweentheseindicesandmeandeviation(MD)valuesorMDslopesobtainedbyHumphreyvisualfieldanalyzerwereevaluated.Results:Coefficientsofvariationweremostlyunder10%inPOAGpatientsandnormalvolunteers.Skewandblowouttime(BOT)showedsignificantrelationshipswithMDvalues.BOTandfallingrateshowedsignificantrelationshipwithMDslopeinfocalischemictype,asassignedtoONHappearance.Conclusion:TheseresultssuggestthatsomeindicesobtainedfromtheONHbloodflowwaveformmightberelatedtothedevelopmentofPOAG.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(7):984.987,2012〕Keywords:レーザースペックルフローグラフィ,視神経乳頭血流,波形解析,原発開放隅角緑内障,MD値.laserspeckleflowgraphy,opticnerveheadbloodflow,analysisofwaveform,primaryopenangleglaucoma,meandeviation.はじめにパルスドップラ法などによる頸動脈,冠動脈などの血流波形解析は従来から臨床的に行われているが,眼血流についても最近,レーザースペックル法によって可能になり,動脈硬化や網膜静脈閉塞症などとの関連が検討され始めている1,2).一方,緑内障性視神経障害への眼循環障害の関与を示唆する報告はこれまでも多くなされているが,緑内障と動脈硬化との関連の有無については有るとするもの3.6)と無いとするもの7,8)の両者がある.今回,筆者らは視神経乳頭血流の波形解析を緑内障患者において行い,緑内障病期や視野障害進行との関連について検討した.I対象および方法対象は大阪医科大学附属病院眼科外来通院中の広義・原発〔別刷請求先〕杉山哲也:〒569-8686高槻市大学町2-7大阪医科大学眼科学教室Reprintrequests:TetsuyaSugiyama,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollege,Daigaku-machi,Takatsuki,Osaka569-8686,JAPAN984984984あたらしい眼科Vol.29,No.7,2012(108)(00)0910-1810/12/\100/頁/JCOPY 開放隅角緑内障(POAG)患者および正常対照者のうち本研究参加に同意を得られた例である.POAGは乳頭陥凹拡大や乳頭辺縁部の狭小化,網膜神経線維層欠損など緑内障性視神経障害があり,隅角検査で正常開放隅角であり,Humphrey自動視野検査(プログラム中心30-2SITAスタンダード)で以下の基準(1)(2)のいずれかを連続する2回の検査で認める者とした.(1)(,)緑内障半視野検査で正常範囲外もしくはパターン標準偏差でp<5%であること,(2)パターン偏差確率プロットでp<5%の点が最周辺部でない検査点に3つ以上連なって存在し,かつそのうち1点がp<1%であること.POAGのうち他の眼疾患の合併,手術歴を有する者は除外した.正常対照者は正常眼圧・正常開放隅角であり,精密眼底検査にて緑内障性視神経障害を認めず,軽度.中等度近視(.7D以下の近視),軽度白内障(Grade1以下の白内障)以外の眼疾患を認めない者とした.いずれの群からも糖尿病,高血圧,治療を要する高脂血症を合併する例や喫煙者は除外した(問診を主としたが,内科での血液検査結果も参考にした).POAGは34例で,緑内障病期(Anderson分類9))の内訳は初期群16例,中期群10例,後期群8例,また正常対照は20例であった.POAG各群および正常対照群の年齢,性別,眼圧,Humphrey視野meandeviation(MD)値,MDslope,緑内障点眼の内訳は表1のごとくであるが,MD値以外は群間に有意差は認めなかった.POAG群では本研究期間中を通して同様の点眼治療を継続していたが,表1のごとく治療点眼薬に偏りはなかった(c2検定).また,POAGは全例両眼性であり,すべての対象において解析眼を無作為に選択し,1例1眼としてデータを使用した.血流測定・解析には,レーザースペックルフローグラフィ(LAFG-NAVITM,ソフトケア,福岡)を用いた.0.5%トロピカミド(ミドリンMR,参天製薬,大阪)で散瞳後,同一検者が視神経乳頭血流の測定を同一眼について3回ずつ行い,その後,波形解析を行った.LSFG測定ソフト(ソフトケア,福岡)で記録したスペックル画像からLSFG解析ソフト,プラグインlayerviewer(いずれもソフトケア)を用いて,視神経乳頭全体を選択し,血流波形の特徴を示すパラメータ(Fluctuation,Skew,Blowoutscore,Blowouttime,Risingrate,Fallingrate)を算出した〔ソフトケア.LSFGAnalyzerInstructionManual(Rev.1.16),2011〕.これらはこの解析ソフト用に独自に開発されたパラメータであり,それぞれ以下の意義をもつと考えられている.1)Fluctuation:分散に相当する血流の変動率であり,血流の不安定さを表す指標である.2)Skew:分布の非対称性(歪度)を表し,確立密度関数の偏りの違いを示す統計量,確立変数の三次モーメントで定義されている.3)Blowoutscore:次式によって算出され,血流の通り抜けやすさ(血管抵抗の逆数)を表す指標とされる.(1.AC/2DC)×100(%).ただし,AC:血流の最大値.最小値,DC:血流の平均値.4)Blowouttime(BOT):次式によって算出され,高い血流値が維持されている時間の割合(末梢への血流供給の十分さ)を表すとされ,CW/Fから算出された.ただし,C:比例定数W:半値(最大値.最小値)以上を呈した時間,F:1心拍の時間.5)Risingrate:波形の上昇領域のAreaundercurveの面表1対象の背景正常対照初期群POAG中期群後期群例数2016108年齢(歳)59.0±12.259.8±11.860.3±11.964.9±5.8性別(男/女)8/126/104/64/4眼圧(mmHg)13.4±2.112.0±2.513.2±2.612.9±2.6MD(dB).0.03±0.87.3.02±1.39.8.78±2.48.13.32±3.25MDslope(dB/year).0.18±0.64.0.11±1.26.1.02±1.58緑内障点眼の内訳(例数)PG剤865b遮断薬532その他422なし430POAG:広義・原発開放隅角緑内障,PG:プロスタグランジン.(平均±標準偏差)(109)あたらしい眼科Vol.29,No.7,2012985 積比から算出され,急速に上昇するほど大きい値となる.6)Fallingrate:波形の下降領域のAreaovercurveの面積比から算出され,急速に下降するほど大きい値となる.各々3回の血流測定の再現性を表す指標として変動係数を下記の式によって算出した.変動係数=(標準偏差/平均値)×100(%)視野障害進行の指標としてMDslopeを用いた.すなわち,血流測定以後,2年以上(平均±標準偏差:28.7±5.2カ月)にわたり5回以上(平均±標準偏差:5.09±0.29回)のHumphrey視野MD値を測定し,MDslopeを求めた.血流波形パラメータと年齢,眼圧,平均血圧,眼灌流圧との間の関連性の有無についてPearsonの相関係数を求め,有意性を検定した.POAG群においては同様に血流波形パラメータと視野MD値,MDslopeとの間の相関の有無を検討し,また乳頭形態分類(Nicolelaら10))によって局所虚血型,加齢性硬化型,近視型,全体的拡大型の4群に分けたうえ,これらの関連性の有無を検討した.II結果血流波形の各パラメータの変動係数は表2のごとくで,最20-2y=3.302-0.90xr=0.37,p=0.032-4-6-8-10-12MD値(dB)-14-16-1867891011121314151617も大きいSkewが約11%であったが,他のパラメータはいずれも10%未満であり,またPOAG群と正常対照群の間に有意差は認めなかった.POAGにおいて視野MD値と各パラメータの間の関連を検討した結果,有意な相関を認めたのはSkewとBOTで,前者は負の,後者は正の相関を認めた(図1,2).眼圧,平均血圧,眼灌流圧と各パラメータの間の関連性を検討した結果,いずれも有意な相関は認めなかった.つぎに,POAGにおいてMDslopeと各パラメータの間の関連性を検討した結果,POAG全体では有意な相関はみら表2血流波形パラメータの変動係数正常対照POAGFluctuation6.39±3.645.46±5.40Skew11.30±9.3711.06±11.71Blowoutscore1.83±1.061.84±2.81Blowouttime6.75±4.985.95±6.95Risingrate5.90±3.314.98±3.36Fallingrate6.05±5.214.49±4.29POAG:広義・原発開放隅角緑内障.(%,平均±標準偏差)20-2y=-26.469+0.386xr=0.34,p=0.046MD値(dB)-4-6-8-10-12-14-16-184244464850525456586062SkewBlowouttime図1視野MD値とSkewの相関図2視野MD値とBlowouttimeの相関視野MD値はSkewとの間に有意な負の相関を認めた.視野MD値はBlowouttimeとの間に有意な正の相関を認めた.1.21.2MDslope(dB/year)10.80.60.40.20-0.2-0.4y=13.352-1.016xr=0.80,p=0.009y=-5.874+0.121xr=0.61,p=0.049MDslope(dB/year)10.80.60.40.20-0.2-0.4-0.6-0.6-0.8-0.81212.212.412.612.81313.213.413.6424446485052545658FallingrateBlowoutTime図3局所虚血型POAG眼におけるMDslopeとFllingrate図4局所虚血型POAG眼におけるMDslopeとBlowoutの相関timeの相関MDslopeはFallingrateとの間に有意な負の相関を認めた.MDslopeはBlowouttimeとの間に有意な正の相関を認めた.986あたらしい眼科Vol.29,No.7,2012(110) れなかった.乳頭形態分類では局所虚血型9例,加齢性硬化以上,視神経乳頭の血流波形解析によって,動脈硬化性変型7例,近視型11例,全体的拡大型7例であったが,局所化を含む血流動態の変化がPOAGの病態や進展に関与して虚血型においてのみ,MDslopeとFallingrateとの間に負いることが示唆されたが,臨床的意義をより明らかにするたの,BOTとの間に正の有意な相関をそれぞれ認めた(図3,めにはさらなる検討が必要であると考える.4).III考按利益相反:利益相反公表基準に該当なし今回の検討の結果,POAGおよび正常対照の視神経乳頭血流波形パラメータは変動係数が1.8%から11.3%であった.文献視神経乳頭において同様の血流波形パラメータの変動係数を1)岡本兼児,高橋則善,藤居仁:LaserSpeckleFlowgra検討した報告はこれまでになく,直接比較はできないが,同phyを用いた新しい血流波形解析手法.あたらしい眼科じレーザースペックル法で正常者・視神経乳頭血流〔NB26:269-275,2009(normalblur)値〕を測定した再現性指数は11.7%と報告さ2)小暮朗子,田村明子,三田覚ほか:網膜静脈分枝閉塞症れており11),筆者らは今回と同じLAFG-NAVITMで正常者における静脈血流速度と黄斑浮腫.臨眼65:1609-1614,2011とPOAGの視神経乳頭血流〔MBR(meanblurrate)値〕を3)OmotiAE,EdemaOT:Areviewoftheriskfactorsin測定した際の変動係数がいずれも10%未満であったと報告primaryopenangleglaucoma.NigerJClinPract10:している12).また,laserDopplerflowmetryによって正常79-82,2007者と緑内障患者(高血圧なし)の視神経乳頭血流(Flow)を4)Pavljasevi.S,As.eri.M:Primaryopen-angleglaucomaandserumlipids.BosJBasicMedSci9:85-88,2009測定した際の変動係数は各々21%,13%であったと報告さ5)GungorIU,GungorL,OzarslanYetal:Issymptomaticれている13).これらと比較しても今回測定した視神経乳頭血atheroscleroticcerebrovasculardiseaseariskfactorfor流波形パラメータは再現性が良好であり,各種の解析に適しnormal-tensionglaucoma?MedPrincPract20:220-224,たものと考えられた.なお,今回は病期ごとに年齢を合致さ20116)SiasosG,TousoulisD,SiasosGetal:Theassociationせ,かつ特別な全身疾患を有する例を除外したPOAGにつbetweenglaucoma,vascularfunctionandinflammatoryいての検討なので,加齢や他疾患の影響を受けず,緑内障のprocess.IntJCardiol146:113-115,2011病態と血流波形パラメータとの関連の検討ができたと考えら7)deVoogdS,WolfsRC,JansoniusNMetal:Atheroscleroれる.sis,C-reactiveprotein,andriskforopen-angleglaucoma:theRotterdamstudy.InvestOphthalmolVisSci47:POAGにおいて視野MD値とSkew,BOTとの間に有意3772-3776,2006な相関を認めたことより,緑内障性視野障害と血流波形との8)ChibaT,ChibaN,KashiwagiK:Systemicarterial間に何らかの関連があることが推察された.Skewは動脈硬stiffnessinglaucomapatients.JGlaucoma17:15-18,化度を反映すると考えられており1),緑内障の病態に動脈硬20089)AndersonDR,PatellaVM:AutomatedStaticPerimetry,化が関連している可能性が示唆された.BOTは末梢への血2ndedition,p121-190,Mosby,StLouis,1999流維持の十分さを示す値であることから,末梢血流の維持が10)NicolelaMT,DranceSM:Variousglaucomatousoptic保たれているかどうかも緑内障の病態に関連していることがnerveappearances:clinicalcorrelations.Ophthalmology示唆された.103:640-649,199611)TamakiY,AraieM,TomitaKetal:Real-timemeasureまた,血流波形解析後(約2年間)のMDslopeとBOTmentofhumanopticnerveheadandchoroidcirculation,やFallingrateが局所虚血型の症例において有意に相関してusingthelaserspecklephenomenon.JpnJOphthalmolいたことより,POAGの少なくとも一部では血流波形が緑41:49-54,1997内障進行の予測因子となり得る可能性が示唆された.BOT12)柴田真帆,杉山哲也,小嶌祥太ほか:LSFG-NAVITMを用いた視神経乳頭辺縁部組織血流の領域別評価.あたらしいに関しては緑内障病期との関連のみならず,進行との関連も眼科27:1279-1285,2010認めたことより,末梢血流の維持が緑内障の病態に深く関わ13)GrunwaldJE,PiltzJ,HariprasadSMetal:Opticnerveっている可能性が示唆された.また,Fallingrateは血流波bloodflowinglaucoma:effectofsystemichypertension.形の下降領域の急峻さを反映するものであり,動脈硬化性変AmJOphthalmol127:516-522,1999化が緑内障の進行と関わる一因子であると考えられた.***(111)あたらしい眼科Vol.29,No.7,2012987