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ブリモニジン酒石酸塩0.1%点眼液 使用成績調査のまとめ

2022年8月31日 水曜日

《原著》あたらしい眼科39(8):1139.1147,2022cブリモニジン酒石酸塩0.1%点眼液使用成績調査のまとめ川口えり子*1坂本祐一郎*1末信敏秀*1新家眞*2*1千寿製薬株式会社*2神奈川歯科大学附属横浜クリニックPost-MarketingStudyof0.1%BrimonidineTartrateOphthalmicSolutionErikoKawaguchi1),YuichiroSakamoto1),ToshihideSuenobu1)andMakotoAraie2)1)SenjuPharmaceuticalCo.,Ltd,2)KanagawaDentalUniversityYokohamaClinicCブリモニジン酒石酸塩点眼液(アイファガン点眼液C0.1%)の安全性および有効性を検討するため,承認後の使用成績調査にて,最長C24カ月にわたりプロスペクティブな観察を行った.副作用発現率はC15.43%(720/4,666例)であり,おもな副作用はアレルギー性結膜炎をはじめとする眼局所の事象であった.眼圧評価対象C2,625例における投与開始時の平均眼圧はC16.5C±4.7CmmHgであった.投与開始C3カ月.24カ月までの平均眼庄下降率はC13.5.15.2%であり,いずれの観察時点においても有意な眼圧下降が認められた(p<0.0001).また,病型,併用薬剤,切替薬剤にかかわらず,投与開始以降有意な眼圧下降を示した.ブリモニジン酒石酸塩点眼液の安全性および有効性に問題は認められず,有用であると考えられた.CPurpose:Toevaluatethesafetyande.cacyofbrimonidinetartrateophthalmicsolution(AIPHAGANCRCOph-thalmicSolution0.1%)forthetreatmentofglaucoma.PatientsandMethods:Inthisprospective,observational(uptoC24months)post-marketingCstudyCconductedCinCJapan,CaCtotalCofC4,666CglaucomaCpatientsCwereCincluded.CResults:OfCtheC4,666Cpatients,CtheCincidenceCrateCofCadverseCdrugreactions(ADRs)was15.43%(n=720patients),themainADRswereoculartopicaleventssuchasallergicconjunctivitis.Themeanintraocularpressure(IOP)inthe2,625patientswhowereincludedinanalysesofthechangesofIOPwas16.5±4.7CmmHgatbaseline.InCaddition,CAIPHAGANRCOphthalmicCSolution0.1%Csigni.cantlyCreducedCIOPCatCallCobservationalpoints(p<0.0001)C,andtheaveragerateofIOPreductionfrom3-to24-monthspoststartofadministrationrangedfrom13.5%to15.2%.Moreover,thelevelofIOPreductionwasnotin.uencedbyglaucomatype,concomitantdisorder,ordrugusedbeforeswitching.Conclusion:Our.ndingssuggestthatAIPHAGANCROphthalmicSolution0.1%issafeande.ectiveforthetreatmentofglaucoma.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C39(8):1139.1147,C2022〕Keywords:ブリモニジン,アイファガン点眼液C0.1%,安全性,有効性,眼圧.brimonidine,AIPHAGANoph-thalmicsolution0.1%,safety,e.cacy,intraocularpressure.はじめに緑内障は,わが国の失明原因の第C1位1)であり,緑内障診療ガイドライン2)では,「視神経と視野に特徴的変化を有し,通常,眼圧を十分に下降させることにより視神経障害を改善もしくは抑制しうる眼の機能的構造的異常を特徴とする疾患」と定義されている.治療方法には薬剤治療,レーザー治療,手術治療などがあるが,通常,緑内障治療薬の単剤投与より開始され,さらなる眼圧下降を求めて作用機序の異なる緑内障治療薬との併用や他の治療が実施される.ブリモニジン酒石酸塩はアドレナリンCa2受容体に選択的に作用し,房水産生の抑制およびぶどう膜強膜流出路を介した房水流出の促進により眼圧を下降させると考えられており3),わが国においては,2012年C1月にC0.1%ブリモニジン酒石酸塩(アイファガン点眼液C0.1%)として承認された.本剤は,それまでの緑内障治療薬とは異なる作用機序を有していたため,製造販売後においてはプロスタグランジン関連薬をはじめとする種々の緑内障治療薬と組み合わせて使用されることが想定された.また,緑内障以外の既往症や併用薬などのため,臨床試験では除外対象となっていた患者にも,承認後は広く投与される.このような上市後の使用実態に即〔別刷請求先〕川口えり子:〒541-0048大阪市中央区瓦町C3-1-9千寿製薬株式会社信頼性保証本部医薬情報企画部Reprintrequests:ErikoKawaguchi,MedicalInformationPlanningDepartment,Safety&QualityManagementDivision,SenjuPharmaceuticalCo.,Ltd.,3-1-9Kawara-machi,Chuo-ku,Osaka541-0048,JAPANCして本剤の有効性および安全性を検証することを目的として使用成績調査を実施した.CI調査の方法と成績1.調査方法「医薬品の製造販売後の調査及び試験の実施の基準に関する省令」(厚生労働省令第C17l号)に則り,中央登録方式によるプロスペクティブな観察研究を実施した(2012年C12月.2017年C12月).本剤の使用成績調査(以降,本調査)にかかる契約を締結した医療機関にて,目標症例数C3,000例として,2012年C12月.2015年C9月に初めて本剤投与を開始した緑内障または高眼圧症患者を登録対象とした.観察期間はC12カ月以上,最長C24カ月であり,調査項目は,患者背景(性別,年齢,合併症,既往歴,眼手術歴,前治療薬),併用薬,併用療法,眼科検査結果(投与開始前およびC3カ月ごとの眼圧,視野検査),有害事象とした.なお,本調査は介入を行わない観察研究であるため,本剤投与以前の緑内障治療内容,併用薬,併用療法,眼科検査機器や測定方法に制限は設けなかった.本調査は,独立行政法人医薬品医療機器総合機構による審査を経て実施した.C2.評価方法安全性については,本剤投与開始以降,少なくともC1回以上の観察が可能であった症例を対象として,副作用発現状況を評価した.また,本剤の特徴的な副作用である「アレルギー性結膜炎」については,「性別」「年齢」「アレルギー性疾患既往の有無」「角膜障害の有無」「結膜疾患の有無」「眼瞼疾患の有無」「他の緑内障治療薬の有無」「b遮断薬併用の有無」「緑内障治療薬以外の併用薬の有無」および「併用薬剤数」を共変量として,強制投入法によるロジスティクス多変量解析を行い,アレルギー性結膜炎発現のリスクを検討した.有効性については,眼圧評価対象症例の投与前眼圧と投与24カ月までのC3カ月ごとの眼圧値を対応のあるCt検定で評価した(Bon.eroni補正).眼圧推移対象症例は,投与開始からC360日以上,緑内障治療内容を変更することなく,本剤を継続投与した症例とした.評価眼はC1例C1眼とし,両眼投与症例においては投与開始時点の眼圧が高い方の眼(同値である場合は右眼)とした.さらに,本剤投与期間中に同一の測定法(Humphrey視野計,中心C30-2プログラムのSITA-StandardまたはCSITA-Fast)にて,5回以上視野検査を実施した眼を対象として,測定法ごとにC1年当たりのCmeandeviation(MD)値の変化量をCLinearMixedModelで推定した.すべての解析について,有意水準は両側5%とした.C3.結果全国C481の医療機関にてC4,886例が登録され,安全性評価対象症例としてC4,666例,眼圧評価対象症例としてC2,625例を収集した(図1).安全性評価対象症例の患者背景は表1に示したとおりであり,平均年齢はC68.7歳,原発解放隅角緑内障がもっとも多かった.また,最終観察時点である投与24カ月まで投与継続された症例はC3,074例であったことから,本調査における投与継続率はC65.9%であった.一方,最終観察時点までに投与中止に至ったC1,592例の中止理由は,再診なしC678例,副作用C520例,効果不十分C182例,有害事象C82例,その他C130例であった.C4.安全性副作用発現率はC15.43%(720/4,666例)であった.このうち,重篤な副作用はC11例C12件(眼圧上昇C4件,視野障害の進行C2件,糖尿病網膜症の増悪,糖尿病,糖尿病性腎症の悪化,脳血栓症,右大腿骨骨折および左上腕骨骨折各C1件)が認められたが,本剤と明確な関連があると判定された事象はなかった.おもな副作用(発現率C0.1%以上)は表2に示したとおりであり,アレルギー性結膜炎C241例(5.17%)をはじめ,結膜充血C102例(2.19%),眼瞼炎C88例(1.89%),結膜炎C50例(1.07%),点状角膜炎C48例(1.03%)など,眼局所における事象が多く認められた.眼局所以外では,浮動性めまいC21例(0.45%)および傾眠C14例(0.30%)が主たる事象であった.なお,アレルギー性結膜炎,結膜充血,霧視,浮動性めまいなど,自覚的な事象では,副作用による中止率が高い傾向にあった(表2).ロジスティクス多変量解析は,安全性評価対象症例C4,666例のうち,共変量とした背景因子に「不明」を含むC251症例を除いたC4,415例を対象とした.背景因子ごとのアレルギー性結膜炎の発現状況については,「性別」「アレルギー性疾患既往の有無」「結膜疾患の有無」および「緑内障治療薬以外の併用薬の有無」のC4因子で有意差が認められ,性別では「女性」,アレルギー性疾患既往の有無および結膜疾患の有無では「あり」のオッズ比が高かった.表には示していないが,結膜疾患の内訳としては,86.3%(909/1,053症例)において眼乾燥(Sjogren症候群を含む)あるいはアレルギー性結膜炎(季節性アレルギーおよび眼のアレルギーを含む)が認められ,それぞれの罹患症例におけるアレルギー性結膜炎の発現率は,眼乾燥でC6.77%(p=0.0400),アレルギー性結膜炎でC14.47%(p<0.0001)であり,非罹患症例に比して発現率が有意に高かった(Cc2検定).一方,「緑内障治療薬以外の併用薬の有無」では,「あり」のオッズ比が,「なし」より低かった(表3).C5.有効性図2に示したとおり,眼圧評価症例C2,625例の投与前眼圧はC16.5mmHg,投与C3.24カ月までの眼圧はC13.5.13.9mmHgであり,観察期間を通して安定した眼圧下降が認められた(p<0.0001).眼圧変化量は.2.9.C.2.6CmmHg,眼図1症例構成全国C481の医療機関にて登録されたC4,886例のうち,本剤投与後C1回以上観察のあったC4,666例を安全性評価対象症例として,副作用発現状況を確認した.また,本剤投与開始後,緑内障治療内容を変更することなく,360日以上継続投与した2,625例を眼圧評価対象症例として,3カ月ごとの眼圧推移を確認した.表1患者背景項目分類症例数(n=4,666)性別男2,118(45.4%)女2,548(54.6%)年齢(歳)平均±標準偏差C68.7±13.0最小値.最大値7.97病型*1原発開放隅角緑内障2,017(43.2%)正常眼圧緑内障1,926(41.3%)原発閉塞隅角緑内障165(3.5%)続発緑内障277(5.9%)高眼圧症185(4.0%)その他95(2.0%)合併症(眼)あり2,502(53.6%)なし2,164(46.4%)合併症(眼部以外)あり1,431(30.7%)なし2,440(52.3%)不明795(17.0%)眼手術歴あり1,671(35.8%)なし2,958(63.4%)不明37(0.8%)併用薬あり4,123(88.4%)なし533(11.4%)不明10(0.2%)併用療法あり178(3.8%)なし4,454(95.5%)不明34(0.7%)*1:本剤投与開始時点で緑内障・高眼圧症に罹患していなかったC1例を除外した.(131)あたらしい眼科Vol.39,No.8,2022C1141表2おもな副作用および中止状況副作用*1*2発現症例数(発現率%)中止症例数*3(中止率%)眼部665(C14.25)C.アレルギー性結膜炎241(C5.17)209(C86.72)結膜充血102(C2.19)90(C88.24)眼瞼炎88(C1.89)65(C75.58)結膜炎50(C1.07)36(C72.00)点状角膜炎48(C1.03)18(C37.50)霧視26(C0.56)23(C88.46)眼の異常感24(C0.51)19(C79.17)眼圧上昇22(C0.47)5(C22.73)眼乾燥21(C0.45)4(C19.05)眼そう痒症18(C0.39)17(C94.44)眼痛12(C0.26)10(C83.33)アレルギー性眼瞼炎10(C0.21)9(C90.00)眼刺激9(C0.19)6(C66.67)眼の異物感9(C0.19)9(C100.00)結膜濾胞8(C0.17)8(C100.00)視野欠損8(C0.17)1(C12.50)角膜びらん7(C0.15)5(C71.43)眼瞼紅斑6(C0.13)5(C83.33)眼瞼浮腫6(C0.13)5(C83.33)虹彩炎5(C0.11)0(C0.00)(その他)46(C.)C.眼部以外63(C1.35)C.浮動性めまい21(C0.45)19(C90.48)傾眠14(C0.30)10(C71.43)(その他)44(C.)C.*1:副作用名はCICH国際医療用語集CMedDRA/JCVersion20.1のCPT(基本語)を用いて分類した.*2:発現率C0.1%以上の事象を対象とした.*3:中止症例に複数の副作用が発現していた場合,すべての副作用の中止例数として計数した.圧変化率は.15.2.C.13.5%であった.このうち,本剤を新規で単剤投与したC357例の投与前眼圧はC17.2CmmHg,投与3.24カ月の眼圧はC13.8.14.2CmmHg,眼圧変化量はC.3.3..3.1mmHg,眼圧変化率はC.17.2.C.16.1%であった.その他,病型別,併用薬剤別,切替薬剤別で眼圧推移を検討した結果,投与後のすべての時点で有意な眼圧低下が認められた(図3~6).1年当たりのCMD値の変化量について,評価眼はC194例194眼(SITA-Standard群:54眼,SITA-Fast群:140眼)であった.測定法ごとの推定変化量はCSITA-Standard群は0.19CdB(標準誤差C0.14,p=0.1829),SITA-Fast群はC.0.08CdB(標準誤差C0.11,p=0.4507)であり,両群ともに有意な変化は認められなかった.CII考察本調査で認められた副作用の多くは眼局所における非重篤C1142あたらしい眼科Vol.39,No.8,2022な事象であった.ブリモニジン点眼投与時における代表的な事象である眼局所アレルギー反応の発現率は,既報においてはC9.25.7%である4.6).本調査においても,主たる眼局所事象はアレルギー反応であり,うちアレルギー性結膜炎の発現率はC5.17%であった.多変量解析によるアレルギー性結膜炎のリスク分析においては,結膜疾患あり,アレルギー性疾患既往あり,女性の集団におけるオッズ比が,1.805(p=0.0099),2.112(p=0.0087),1.810(p<0.0001)と有意に高かった.多変量解析対象症例で認められた主たる結膜疾患は,眼乾燥あるいはアレルギー性結膜炎であり,罹患症例における発現率が高かった.Manniら5)は,ブリモニジン点眼(0.2%)による眼局所アレルギー反応は,点眼薬に対するアレルギー既往を有する患者に多く認められ,また,眼局所アレルギー反応を示した患者では涙液量が有意に減少していたことを報告しており,類似した結果であったと考える.なお,女性のオッズ比が高かった要因としては,女性におけるアレルギー性疾患の既往あるいは結膜疾患の合併率が,それぞれ,60.7%あるいはC65.4%であり,男性における合併率(39.4%あるいはC34.6%)に比して高かったことに起因すると推察された.一方,緑内障治療薬以外の併用薬ありのオッズ比はC0.573(p=0.0427)であり,併用薬なしに比して有意に低かったが,おもな併用薬は人工涙液,角膜保護薬,ステロイド薬,抗アレルギー薬であった.このうち,ステロイド薬あるいは抗アレルギー薬の併用がアレルギー性結膜炎の発症あるいは増悪を抑制しうることは想像できるものの,他の併用薬による影響については,さらなる検討が必要と考える.このような併用薬による影響については,Cb遮断薬の点眼併用によるブリモニジン点眼起因の眼局所アレルギー反応の低減について言及されている7.9).そこで,多変量解析の変数としてCb遮断薬の点眼併用有無を組み入れたが,併用例におけるオッズ比はC1.114(p=0.5439)であり,低減傾向は認められなかった.これは,本調査が使用成績調査という性質上,併用薬に制限を設けておらず,本剤投与期間中に併用薬の変更が生じた症例が含まれるなど,既報と条件が異なるためと考えられた.一方,全身的な副作用としては,浮動性めまいC21例(0.45%)および傾眠C14例(0.30%)が代表的であったが,その発現率は,アドレナリンCa2受容体刺激作用を有する血圧降下剤(メチルドパ水和物錠,クロニジン塩酸塩錠,グアナベンズ酢酸塩錠)を上回るものではなかった3).以上のように,本調査においては,新たな安全性リスクを認めなかったが,最長C24カ月の観察期間においてC34.1%(1,592/4,666例)が本剤による治療から離脱しており,このうちC11.1%(520/4,666例)が副作用発現を理由として本剤投与を中止していた.Sherwoodら8)は,ブリモニジン点眼(0.2%)の12カ月観察における有害事象による投与中止率がC30.6%で(132)表3アレルギー性結膜炎の多変量解析結果背景因子オッズ比95%信頼区間p値男1C..性別女C1.810C1.348-2.430<0.0001*40歳未満C1C..年齢40歳以上C65歳未満C65歳以上C75歳未満C5.618C5.885C0.771-40.954C0.807-42.907C0.08860.080375歳以上C3.273C0.447-23.976C0.2432アレルギー性疾患既往*1なしCありC1C1.805C.1.153-2.826C.*0.0099角膜障害*2なしCありC1C1.121C.0.700-1.795C.0.6351結膜疾患*3なしCありC1C2.112C.1.208-3.690C.*0.0087眼瞼疾患*4なしCありC1C2.412C.0.957-6.081C.0.0619他の緑内障治療薬*5なしCありC1C0.599C.0.348-1.031C.0.0644Cb遮断薬の併用*5なしCありC1C1.114C.0.786-1.580C.0.5439緑内障治療薬以外の併用薬*5なしCありC1C0.573C.0.335-0.982C.*0.0427なしC1C..1剤C1.424C0.745-2.722C0.2847併用薬剤数*52剤C3剤C1.352C0.651C0.629-2.907C0.250-1.694C0.43960.37934剤以上C0.896C0.322-2.498C0.8340*1:本剤投与開始時点で以下のいずれかを合併している,または既往のある症例.アレルギー性結膜炎,アレルギー性眼瞼炎,アトピー性白内障,季節性アレルギー,アトピー性皮膚炎,アレルギー性皮膚炎,接触皮膚炎,アレルギー性鼻炎,薬疹,喘息.*2:本剤投与開始時点で以下のいずれかを合併している症例.角膜炎,角膜障害,眼乾燥,眼球乾燥症,Sjogren症候群,点状角膜炎,角膜びらん,潰瘍性角膜炎,真菌性角膜炎,角膜症,角膜浮腫,角膜白斑,角膜混濁,眼部単純ヘルペス,角膜血管新生,円錐角膜,角膜変性,角膜ジストロフィー,角膜瘢痕,ヘルペス眼感染.*3:本剤投与開始時点で以下のいずれかを合併している症例.眼乾燥,Sjogren症候群,眼球乾燥症,アレルギー性結膜炎,季節性アレルギー,眼のアレルギー,結膜炎,結膜充血,細菌性結膜炎,眼充血,結膜弛緩症.*4:本剤投与開始時点で以下のいずれかを合併している症例.アレルギー性眼瞼炎,眼瞼炎,眼瞼湿疹,マイボーム腺機能不全,眼瞼内反,眼瞼けいれん,眼瞼皮膚弛緩症,瞼板腺炎,霰粒腫,麦粒腫.*5:アレルギー性結膜炎発現症例では,当該事象発現までに眼部に使用した薬剤(発現時点で投与を中止していた薬剤を含む),未発現症例では,本剤投与期間中に眼部に使用したすべての薬剤を対象とした.あったと報告しており,本調査における投与中止率は既報をた,投与開始C3カ月後までの眼圧下降率は,全症例でC14.6上回るものではなかった.しかし,緑内障治療は永続を前提%,原発開放隅角緑内障でC15.9%,正常眼圧緑内障でC12.0とすることに鑑みると,本剤による治療中止後の治療選択肢%であり,いずれも統計学的に有意であった.緑内障治療のを用意しておくことも肝要であると考えられた.目的は,患者の視覚の維持,それに伴う生活の質の維持であ有効性について,2,625例における投与開始から投与C24り,現在,エビデンスの伴う唯一確実な治療法は眼圧下降でカ月までの眼圧推移の検討においては,病型,併用薬剤,切ある2).すなわち,視野障害に対する眼圧下降効果について替薬剤など,いずれの因子の影響も認められなかった.まは,1CmmHgの眼圧下降によりC10%視野障害の進行が抑制25全体(n=2,625)新規単剤投与(n=357)20(*有意差あり)眼圧(mmHg)15100投与期間(月)投与前投与C3カ月投与C24カ月眼圧眼圧変化量t検定変化率眼圧変化量t検定変化率(mmHg)(mmHg)(mmHg)(p)(%)(mmHg)(mmHg)(p)(%)眼圧評価対象症例C16.5±4.7C13.8±3.7C.2.7<C0.0001C.14.6C13.6±3.7C.2.7<C0.0001C.14.5新規単剤投与症例C17.2±5.0C13.8±3.9C.3.1<C0.0001C.17.1C14.0±3.8C.3.2<C0.0001C.17.2C図2眼圧推移(全体・新規)眼圧推移対象症例(全体)およびアイファガンを新規単剤投与した症例(新規)では,投与開始後,安定した眼圧下降を認め,24カ月時点の眼圧下降率は全体.14.5%,新規C.17.2%であった.C30POAG(n=1,136)NTG(n=1,182)PACG(n=69)SG(n=114)25眼圧(mmHg)OH(n=121)(*有意差あり)2015100投与前投与前投与C3カ月投与C24カ月眼圧(mmHg)眼圧(mmHg)変化量(mmHg)t検定(p)変化率(%)眼圧(mmHg)変化量(mmHg)t検定(p)変化率(%)CPOAGCNTGCPACGCSGCOHC18.0±4.6C14.0±2.9C16.6±5.8C20.2±6.7C22.5±3.8C14.9±3.8C12.2±2.7C13.4±3.7C15.3±4.9C18.0±3.5C.3.2.1.8.3.5.5.2.4.4<C0.0001C<C0.0001C<C0.0001C<C0.0001C<C0.0001C.15.9C.12.0C.16.7C.23.4C.18.0C14.6±3.8C12.1±2.6C13.4±3.1C14.9±4.8C18.0±3.3C.3.1.2.0.3.3.5.3.4.6<C0.0001C<C0.0001C=0.0004C<C0.0001C<C0.0001C.15.4C.12.5C.14.8C.21.8C.19.3POAG:原発開放隅角緑内障,NTG:正常眼圧緑内障,PACG:閉塞隅角緑内障,SG:続発緑内障,OH:高眼圧症.図3眼圧推移(病型別)病型にかかわらず安定した眼圧下降を認め,24カ月時点の眼圧下降率は,POAG15.4%,NTG12.5%,PACG14.8%,SG21.8%,OH19.3%であった.投与前投与C3カ月投与C24カ月眼圧眼圧変化量t検定変化率眼圧変化量t検定変化率(mmHg)(mmHg)(mmHg)(p)(%)(mmHg)(mmHg)(p)(%)PG関連薬C16.0±4.2C13.4±3.1C.2.7<C0.0001C.14.9C13.2±3.2C.2.6<C0.0001C.14.5Cb遮断薬C15.4±4.3C13.3±3.2C.2.3<C0.0001C.12.1C13.1±3.2C.2.3<C0.0001C.12.0CCAIC19.2±3.8C15.7±3.3C.3.3C0.0006C.16.0C15.0±3.0C.3.6C0.0167C.16.7PG関連薬:プロスタグランジン関連薬,Cb遮断薬:交感神経Cb受容体遮断薬,CAI:炭酸脱水酵素阻害薬.図4眼圧推移(併用薬剤別1)併用薬の種類にかかわらず安定した眼圧下降を認め,24カ月時点の眼圧下降率は,PG関連薬C14.5%,Cb遮断薬C12.0%,CAI16.7%であった.C25PG関連薬+β遮断薬(n=122)PG関連薬・β遮断薬配合剤(n=289)PG関連薬+CAI(n=99)20眼圧(mmHg)b遮断薬・CAI配合剤(n=73)15(*有意差あり)100投与前投与期間(月)投与前投与C3カ月投与C24カ月眼圧(mmHg)眼圧変化量(mmHg)(mmHg)t検定(p)変化率(%)眼圧変化量(mmHg)(mmHg)t検定(p)変化率(%)PG関連薬+b遮断薬CPG関連薬・Cb遮断薬配合剤CPG関連薬+CAICb遮断薬・CAI配合剤C16.8±5.4C16.1±4.5C17.3±4.7C17.4±5.7C14.0±4.8C13.5±3.7C14.7±3.4C14.2±3.6C.3.0.2.7.2.5.3.2<C0.0001C<C0.0001C<C0.0001C<C0.0001C.15.8C.15.2C.12.6C.15.2C13.7±4.0C13.0±3.2C14.9±4.5C13.7±3.4C.2.9.3.0.1.8C.3.7<C0.0001C<C0.0001C0.0003C<C0.0001C.15.6.16.9.9.8C.16.9図5眼圧推移(併用薬剤別2)2剤あるいは配合剤を併用した場合も有意な眼圧下降を認め,24カ月時点の眼圧下降率は,PG関連薬+b遮断薬C15.6%,PG関連薬・Cb遮断薬配合剤C16.9%,PG関連薬+CAI9.8%,Cb遮断薬・CAI配合剤C16.9%であった.(*有意差あり)PG関連薬(n=189)b遮断薬(n=103)CAI(n=113)遮断薬(n=66)投与期間(月)投与前投与C3カ月投与C24カ月眼圧(mmHg)眼圧(mmHg)変化量(mmHg)t検定(p)変化率(%)眼圧(mmHg)変化量(mmHg)t検定(p)変化率(%)PG関連薬Cb遮断薬CCAICa1遮断薬C15.1±4.0C16.9±4.4C15.9±4.7C14.9±3.6C13.5±3.3C14.0±3.1C13.6±4.7C12.9±2.8C.1.5.2.7.2.1.1.9<C0.0001C<C0.0001C<C0.0001C<C0.0001C.7.8C.14.2C.12.8C.12.1C12.8±3.2C14.0±3.3C13.3±3.6C13.2±3.2C.2.2.2.9.2.5.1.5C<C0.0001C<C0.0001C<C0.0001C0.0103C.12.5C.15.8C.13.9C.7.9a1遮断薬:交感神経Ca1受容体遮断薬.図6眼圧推移(切替薬剤別)他剤単剤からアイファガン単剤,他剤併用のうちC1剤またはC1成分をアイファガンへ切り替えた症例を含む.切替薬剤の種類にかかわらず有意な眼圧下降を認め,24カ月時点の眼圧下降率は,PG関連薬C12.5%,Cb遮断薬C15.8%,CAI13.9%,Ca1遮断薬C7.9%であった.され10),日本人に多くみられる正常眼圧緑内障11)では,30%の眼圧下降により視野障害の進行が抑制される12).本調査における本剤投与の開始は,主として追加あるいは他剤からの切替であり,2.6.2.9mmHgの眼圧低下が認められた.また,正常眼圧緑内障においてもC1.7.2.0CmmHgの眼圧低下が認められたことから,第二選択薬として,目標眼圧の達成に貢献できるものと考えられた.CIII結論本調査の結果,承認時までに得られていない安全性に関する新たなリスクは認められなかった.有効性においては,病型,併用薬,切替薬剤に関係なく,投与C24カ月まで安定した眼圧下降効果が得られることが確認できた.以上より,本剤は使用実態下においても有用な薬剤であると考えられ,緑内障治療において重要な役割を果たすことが期待される.謝辞:本調査にご協力を賜り,貴重なデータをご提供いただきました全国の先生方に,深謝申し上げます.利益相反:川口えり子,坂本祐一郎,末信敏秀(カテゴリーE:千寿製薬)文献1)MorizaneCY,CMorimotoCN,CFujiwaraCACetal:IncidenceCandCcausesCofCvisualCimpairmentCinJapan:theC.rst-nation-wideCcompleteCenumerationCsurveyCofCnewlyCcerti.edCvisuallyCimpairedCindividuals.CJpnCJCOphthalmolC63:26-33,C20192)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン(第C5版)3)独立行政法人医薬品医療機器総合機構ホームページ(医療用医薬品情報検索)https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/CiyakuSearch/4)SchumanCJS,CHorwitzCB,CChoplinCNTCetal:AC1-yearCstudyCofCbrimonidineCtwiceCdailyCinCglaucomaCandCocularChypertension.ArchOphthalmolC115:847-852,C19975)ManniCG,CCentofantiCM,CSacchettiCMCetal:DemographicCandclinicalfactorsassociatedwithdevelopmentofbrimo-nidineCtartrate0.2%-inducedCocularCallergy.CJCGlaucomaC13:163-167,C20046)BlondeauCP,CRousseauJA:AllergicCreactionsCtoCbrimoni-dineCinCpatientsCtreatedCforCglaucoma.CCanCJCOphthalmolC37:21-26,C20027)MotolkoMA:ComparisonCofCallergyCratesCinCglaucomaCpatientsCreceivingCbrimonidine0.2%CmonotherapyCversusC.xed-combinationCbrimonidine0.2%-timolol0.5%Cthera-py.CurrMedResOpinC24:2663-2667,C20088)SherwoodMB,CravenER,ChouCetal:Twice-daily0.2%CbrimonidineC.0.5%CtimololC.xed-combinationCtherapyCvsCmonotherapyCwithCtimololCorCbrimonidineCinCpatientsCwithCglaucomaCorCocularChypertension.CArchCOphthalmolC124:1230-1238,C20069)新家眞,福地健郎,中村誠ほか:ブリモニジン/チモロール配合点眼剤の原発開放隅角緑内障(広義)および高眼圧症を対象とした長期投与試験.あたらしい眼科C37:345-352,C202010)HeijlCA,CLeskeCM,CBengtssonCBCetal:ReductionCofCintra-ocularpressureandglaucomaprogression.ArchOphthal-molC120:1268-1279,C200211)IwaseA,SuzukiY,AraieMetal:Theprevalenceofpri-maryCopen-angleCglaucomaCinJapan:theCTajimiCstudy.COphthalmologyC111:1641-1648,C200412)CollaborativeCNormal-TensionCGlaucomaStudyCGroup:CComparisonCofCglaucomatousCprogressionCbetweenCuntreatedCpatientsCwithCnormal-tensionCglaucomaCandCpatientsCwithCtherapeuticallyCreducedCintraocularCpres-sures.AmJOphthalmolC126:487-497,C1998***

ブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬の処方パターンと 短期効果

2022年2月28日 月曜日

《原著》あたらしい眼科39(2):226.229,2022cブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬の処方パターンと短期効果井上賢治*1國松志保*2石田恭子*3富田剛司*1,3*1井上眼科病院*2西葛西・井上眼科病院*3東邦大学医療センター大橋病院眼科CExaminationofthePrescriptionsandShort-TermE.cacyofBrinzolamide/BrimonidineFixedCombinationEyeDropsforGlaucomaKenjiInoue1),ShihoKunimatsu-Sanuki2),KyokoIshida3)andGojiTomita1,3)1)InouyeEyeHospital,2)NishikasaiInouyeEyeHospital,3)DepartmentofOphthalmology,TohoUniversityOhashiMedicalCenterC目的:ブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬(以下,BBFC)処方症例の特徴と短期効果を後向きに調査する.対象および方法:2020年C6.9月にCBBFCが新規に処方されたC138例の患者背景と処方パターンを調査した.変更症例では変更前後の眼圧を比較した.結果:原発開放隅角緑内障C85例,正常眼圧緑内障C35例,その他C18例だった.眼圧はC15.3±5.0CmmHg,使用薬剤数はC3.6±1.3剤だった.BBFC変更C121例,追加C4例,変更追加C13例だった.変更薬剤はブリモニジン点眼薬+ブリンゾラミド点眼薬C62例,ブリンゾラミド点眼薬C29例などだった.眼圧はブリモニジン点眼薬+ブリンゾラミド点眼薬からの変更症例では変更前C14.2±3.0CmmHgと変更後C14.9±4.4CmmHgで同等だった.中止例はC14例(10.1%)で眼圧上昇C5例,掻痒感C3例などだった.結論:BBFC処方は同成分同士,含有薬剤からの変更が多かった.眼圧は同成分同士の変更では変化なく,安全性も良好だった.CPurpose:ToCinvestigateCpatientCcharacteristicsCandCshort-termCe.cacyCofCbrinzolamide/brimonidineC.xedcombination(BBFC)eyeCdropsCforCglaucoma.CSubjectsandmethods:ThisCretrospectiveCstudyCinvolvedC138patientsnewlyprescribedwithBBFCinwhomintraocularpressure(IOP)beforeandafterswitchingwereinvesti-gatedandcompared.Results:Inthe138patients,thediagnosiswasprimaryopen-angleglaucomain85,normal-tensionglaucomain35,andotherin18.ThemeanIOPvaluewas15.3±5.0CmmHg,andthemeannumberofmedi-cationsCusedCwasC3.6±1.3.CPrescriptionCpatternsCwereswitching(121patients),adding(4patients),CandCadding/switching(13patients).CInCtheCswitchingCgroup,C62CpatientsCswitchedCfromCbrinzolamide+brimonidineCandC29CpatientsCswitchedCfromCbrinzolamideCalone.CInCtheCpatientsCwhoCswitchedCfromCbrinzolamide+brimonidine,CnoCsigni.cantCdi.erenceCofCmeanCIOPCwasCobservedCbetweenCpreCandpostCswitching(i.e.,C14.2±3.0CandC14.9±4.4CmmHg,Crespectively).CPostCadministration,C14patients(10.1%)wereCdiscontinued.CConclusions:BBFCCwasCusedasswitchingfromallorpartofthesameingredients.Therewasnosigni.cantdi.erenceinIOPpostswitch-ingbetweenthesameingredients,andthesafetywassatisfactory.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)39(2):226.229,C2022〕Keywords:ブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬,処方パターン,眼圧,安全性,変更.brimonidine/brinzol-amide.xedcombination,prescriptionspattern,intraocularpressure,safety,switching.Cはじめに低下が問題となる2).そこでアドヒアランス向上のために配緑内障点眼薬治療においてはアドヒアランス維持,向上が合点眼薬が開発された.わが国ではC2010年にラタノプロス重要である.アドヒアランス低下は緑内障性視野障害の進行ト/チモロール配合点眼薬が使用可能になり,2019年C12月に関与している1).また,多剤併用治療ではアドヒアランスまでにC7種類が上市された.このC7種類の配合点眼薬の特徴〔別刷請求先〕井上賢治:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台C4-3井上眼科病院Reprintrequests:KenjiInoue,M.D.,Ph.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPANC226(94)は,すべての配合点眼薬にCb遮断点眼薬が配合されていることである.Cb遮断点眼薬の眼圧下降効果は強力である3).しかし,循環器系や呼吸器系の全身性副作用が出現することがあり,コントロール不十分な心不全,洞性徐脈,房室ブロック(II・III度),心原性ショックのある患者,重篤な慢性閉塞性肺疾患のある患者では使用禁忌である.そのためCb遮断点眼薬を配合しない配合点眼薬の開発が望まれていた.2020年C6月にブリモニジン点眼薬とブリンゾラミド点眼薬を配合したブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬(アイラミド)が使用可能となり,日本で実施された治験において良好な眼圧下降効果と高い安全性が報告された4,5).しかし,臨床現場でどのような患者にブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬が使用されているかを調査した報告は過去にない.そこで今回,ブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬が新規に投与された患者について,その処方パターン,短期的な眼圧下降効果と安全性を後ろ向きに検討した.CI対象および方法2020年C6.9月に井上眼科病院に通院中でブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬(1日C2回朝夜点眼)が新規に投与された緑内障あるいは高眼圧症患者C138例C138眼(男性70例,女性C68例)を対象とした.平均年齢はC68.2C±10.5歳(平均C±標準偏差)(33.87歳)であった.緑内障病型は原発開放隅角緑内障C85例,正常眼圧緑内障C35例,続発緑内障14例(ぶどう膜炎C7例,落屑緑内障C6例,血管新生緑内障C1例),原発閉塞隅角緑内障C1例であった.投与前眼圧は投与時の眼圧,投与後眼圧は投与後初めての来院時,2.3C±0.9カ月後,1.4カ月後に測定した.投与前眼圧はC15.3C±5.0mmHg,8.43CmmHgであった.ブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬が新規に投与された症例を,ブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬が追加投与された症例(追加群),前投薬を中止してブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬が投与された症例(変更群),複数の薬が変更,追加となった症例(変更追加群)に分けた.変更群では変更した点眼薬を調査した.変更群ではブリモニジン点眼薬とブリンゾラミド点眼薬,ブリモニジン点眼薬,ブリンゾラミド点眼薬から変更した症例についてはおのおの投与前後の眼圧を比較した.投与後の副作用と中止症例を調査した.配合点眼薬は薬剤数C2剤として解析した.診療録から後ろ向きに調査を行った.片眼該当症例は罹患眼,両眼該当症例は投与前眼圧が高いほうの眼を対象とした.変更前後の眼圧の比較には対応のあるCt検定を用いた.有意水準はCp<0.05とした.本研究は井上眼科病院の倫理審査委員会で承認を得た.研究情報を院内掲示などで通知・公開し,研究対象者などが拒否できる機会を保証した.図1変更症例の変更前薬剤II結果全症例のうち追加群はC4例(2.9%),変更群はC121例(87.7%),変更追加群はC13例(9.4%)であった.追加群は正常眼圧緑内障C2例,原発開放隅角緑内障C1例,続発緑内障(血管新生緑内障)1例であった.追加前眼圧はC19.5C±9.7CmmHg(14.34CmmHg),追加後眼圧はC13.3C±4.7CmmHg(9.20CmmHg)で,眼圧は追加前後で同等であった(p=0.100).使用薬剤はなしがC3例,ラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬がC1例であった.副作用出現症例と中止症例はなかった.変更追加群は原発開放隅角緑内障C9例,正常眼圧緑内障C2例,続発緑内障(ぶどう膜炎)2例であった.変更追加前眼圧はC20.5C±9.6CmmHg(10.43CmmHg),変更追加後眼圧はC15.0C±3.7CmmHg(10.20CmmHg)で,眼圧は変更追加前後で同等であった(p=0.051).使用薬剤数はC3.0C±1.8剤であった.変更追加後の副作用はC1例(眼刺激)で出現した.中止症例は眼圧下降不十分C1例,眼刺激C1例,眼圧が下降したため追加C1カ月以内に中止C1例であった.変更群の変更した点眼薬の内訳はブリモニジン点眼薬+ブリンゾラミド点眼薬C62例(51.2%)(以下,A群),ブリンゾラミド点眼薬C29例(24.0%)(以下,B群),ブリモニジン点眼薬C14例(11.6%)(以下,C群),その他C16例(13.2%)(以下,その他群)であった(図1).各群の変更前の平均薬剤数は,A群C4.3C±0.8剤,B群C3.1C±0.8剤,C群C2.8C±0.9剤,その他群C3.5C±1.1剤であった.平均使用点眼薬(ボトル)数は変更前CA群C3.7C±0.7本,B群C2.5C±0.7本,C群C2.4C±0.8本,変更後CA群C2.7C±0.7本,B群C2.5C±0.7本,C群C2.4C±0.8本であった.1日の平均点眼回数は,変更前CA群C6.2C±1.2回,B群C3.8C±1.2回,C群C4.0C±1.4回,変更後CA群C4.2C±0.7回,B群C3.8C±1.2回,C群C4.0C±1.4回であった.薬剤変更理由は,A群はアドヒアランス向上,B群,C群は眼圧下降不十分であった.その他群の変更理由は,視野障害進行C8例,眼圧下降不十分C4例,アドヒアランス向上C3例,副作用発現A群(ブリモニジン点眼薬+B群(ブリンゾラミド点眼薬からの変更)30ブリンゾラミド点眼薬からの変更)**p<0.00013025252015105201510500C群(ブリモニジン点眼薬からの変更)NS30変更前変更後変更前変更後眼圧(mmHg)16.12514.420151050変更前変更後図2変更症例の眼圧変化(*p<0.05,対応のあるCt検定)(不整脈)1例であった.眼圧はCA群では変更前C14.2C±3.0mmHg,変更後C14.9C±4.4CmmHgで,変更前後で同等であった(p=0.119)(図2).B群では変更前C15.0C±3.6CmmHg,変更後C12.6C±2.8CmmHgで,変更後に有意に下降した(p<0.0001).C群では変更前C16.1±5.6CmmHg,変更後C14.4C±4.3CmmHgで,変更前後で同等であった(p=0.150).投与後に副作用はC11例(8.0%)で出現した.その内訳は変更追加群では眼刺激C1例,変更群ではCA群で掻痒感C2例,視力低下C1例,結膜充血C1例,掻痒感+結膜充血C1例,B群で掻痒感C2例,掻痒感+眼瞼発赤C1例,めまいC1例,C群で眼刺激C1例であった.中止症例はC14例(10.1%)であった.その内訳は変更追加群で眼圧下降C1例,眼刺激C1例,眼圧下降不十分C1例,変更群ではCA群で眼圧上昇C3例,視力低下1例,掻痒感C1例,B群で掻痒感C1例,掻痒感+眼瞼発赤C1例,めまいC1例,C群で眼刺激C1例,眼圧上昇C1例,その他群で眼圧上昇C1例であった.CIII考按ブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬が新規に投与された症例を検討したが,さまざまな処方パターンがみられた.ブリモニジン/チモロール配合点眼薬の処方パターンの報告6)では,変更群がC93.7%を占めていた.変更群の変更した点眼薬の内訳は,ブリンゾラミド/チモロール配合点眼薬+ブリモニジン点眼薬からブリモニジン/チモロール配合点眼薬+ブリンゾラミド点眼薬への変更C53.4%,Cb遮断点眼薬18.3%,ブリモニジン点眼薬C8.3%などであった.ブリンゾラミド/チモロール配合点眼薬の処方パターンの報告7)では,変更群がC85.1%を占めていた.変更群の変更した点眼薬の内訳は,ドルゾラミド/チモロール配合点眼薬C43.4%,Cb遮断点眼薬+炭酸脱水酵素阻害点眼薬C34.9%,Cb遮断点眼薬16.9%,炭酸脱水酵素阻害点眼薬C4.2%などであった.同成分同士の変更がブリモニジン/チモロール配合点眼薬C53.3%,ブリンゾラミド点眼薬/チモロール配合点眼薬C78.3%と多く,今回(51.2%)もほぼ同様の結果であった.今回のブリモニジン点眼薬+ブリンゾラミド点眼薬からの変更(A群)では眼圧は変更前後で同等だった.海外で行われたブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬とブリモニジン点眼薬+ブリンゾラミド点眼薬併用の比較試験において眼圧下降は同等であった8).ただし海外のブリモニジン点眼薬の濃度はC0.2%で,日本のC0.1%製剤とは異なる.A群では平均使用薬剤数はC1剤,1日の平均点眼回数はC2.0回減少したので患者の点眼の負担は減少したと考えられる.一方,今回のブリンゾラミド点眼薬からブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬への変更(B群)では眼圧は変更後に有意に下降し,眼圧下降幅はC1.7C±4.2mmHg,眼圧下降率はC7.6C±20.2%であった.日本で行われた治験では,ブリンゾラミド点眼薬からの変更では眼圧は変更C4週間後に有意に下降し,ピーク時の眼圧下降幅はC3.7C±2.1CmmHg,眼圧下降率はC18.1±10.3%であった4).今回のブリモニジン点眼薬からブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬への変更(C群)では眼圧は変更前後で同等だった.日本で行われた治験ではブリモニジン点眼薬からの変更では眼圧は変更C4週間後に有意に下降し,ピーク時の眼圧下降幅はC2.9C±2.0CmmHg,眼圧下降率はC14.8C±10.3%であった5).今回の調査では日本で行われた治験5)より眼圧下降は不良であったが,変更前の使用薬剤数がC2.8C±0.9剤と多剤併用であったためと考えられる.また日本で行われた治験においても眼圧下降幅はブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬への変更した薬剤としてブリンゾラミド点眼薬症例(3.7C±2.1CmmHg)のほうがブリモニジン点眼薬症例(2.9C±2.0CmmHg)よりも大きかった.つまりブリモニジン点眼薬のほうがブリンゾラミド点眼薬よりも眼圧下降効果が強い可能性がある.メタアナリシスにおいても眼圧下降のピーク値はブリモニジン点眼薬(6.1CmmHg)はブリンゾラミド点眼薬(4.4mmHg)より強力であった9).今回変更後に副作用はC11例(8.0%)で出現した.その内訳は掻痒感C4例,眼刺激C2例,視力低下C1例,結膜充血C1例,めまいC1例,掻痒感+結膜充血C1例,掻痒感+眼瞼発赤1例であった.日本で行われたブリンゾラミド点眼薬からの変更の治験では副作用はC8.8%に出現した4).その内訳は霧眼C8.2%,点状角膜炎C2.7%,結膜充血C0.5%,眼脂C0.5%,眼の異物感C0.5%,眼刺激C0.5%,眼瞼炎C0.5%,眼乾燥C0.5%,硝子体浮遊物C0.5%などであった.日本で行われたブリモニジン点眼薬からの変更の治験では副作用はC12.9%に出現した5).その内訳は霧視C6.7%,眼刺激C2.8%,結膜充血C1.1%,眼の異常感C1.1%,結膜炎C1.1%,アレルギー性結膜炎0.6%,結膜浮腫C0.6%,眼脂C0.6%,点状角膜炎C0.6%などであった.副作用に関して今回調査と治験4,5)の結果を比較すると今回調査では掻痒感が多かったが,それ以外はほぼ同等だった.中止症例は今回はC10.1%であったが,治験では有害事象による中止症例はなかった4,5).今回,ブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬が新規に処方された患者を調査した.ブリモニジン点眼薬+ブリンゾラミド点眼薬からの変更がもっとも多く,ブリンゾラミド点眼薬,ブリモニジン点眼薬からの変更が続いた.ブリモニジン点眼薬とブリンゾラミド点眼薬からの変更とブリモニジン点眼薬からの変更では投与後に眼圧に変化はなく,ブリンゾラミド点眼薬からの変更では投与後に眼圧は有意に下降した.副作用はC8.0%に出現したが,重篤ではなかった.ブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬は短期的には良好な眼圧下降効果と高い安全性を示した.今後は長期的な経過観察による検討が必要である.文献1)ChenPP:BlindnessCinCpatientsCwithCtreatedCopen-angleCglaucoma.OphthalmologyC110:726-733,C20032)DjafariCF,CLeskCMR,CHayasymowyczCPJCetal:Determi-nantsCofCadherenceCtoCglaucomaCmedicalCtherapyCinCaClong-termCpatientCpopulation.CJCGlaucomaC18:238-243,C20093)LiCT,CLindsleyCK,CRouseCBCetal:ComparativeCe.ective-nessCofC.rst-lineCmedicationsCforCprimaryCopen-angleglaucoma:Asystematicreviewandnetworkmeta-analy-sis.OphthalmologyC123:129-140,C20164)相原一,関弥卓郎:ブリモニジン/ブリンゾラミド配合懸濁性点眼液の原発開放隅角緑内障(広義)または高眼圧症を対象とした第III相臨床試験─ブリンゾラミドとの比較試験.あたらしい眼科C37:1299-1308,C20205)相原一,関弥卓郎:ブリモニジン/ブリンゾラミド配合懸濁性点眼液の原発開放隅角緑内障(広義)または高眼圧症を対象とした第CIII相臨床試験─ブリモニジンとの比較試験.あたらしい眼科C37:1289-1298,C20206)小森涼子,井上賢治,國松志保ほか:ブリモニジン/チモロール配合点眼薬の処方パターンと短期的効果.臨眼C75:C521-526,C20217)井上賢治,藤本隆志,石田恭子ほか:ブリンゾラミド/チモロール配合点眼薬の処方パターン.あたらしい眼科C32:C1218-1222,C20158)Gandol.CSA,CLimCJ,CSanseauCACCetal:RandomizedCtrialCofbrinzolamide/brimonidineversusbrinzolamideplusbri-monidineforopen-angleglaucomaorocularhypertension.AdvTherC31:1213-1227,C20149)VanderValkR,WebersCA,SchoutenJSetal:Intraocu-larpressure-loweringe.ectsofallcommonlyusedglauco-madrugs:aCmeta-analysisCofCrandomizedCclinicalCtrials.COphthalmologyC112:1177-1185,C2005***

ブリンゾラミド/チモロール配合点眼薬とブリモニジン点眼薬 からブリモニジン/チモロール配合点眼薬とブリンゾラミド点 眼薬への変更

2021年8月31日 火曜日

《第31回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科38(8):951.954,2021cブリンゾラミド/チモロール配合点眼薬とブリモニジン点眼薬からブリモニジン/チモロール配合点眼薬とブリンゾラミド点眼薬への変更松村理世*1井上賢治*1國松志保*2石田恭子*3富田剛司*1,3*1井上眼科病院*2西葛西・井上眼科病院*3東邦大学医療センター大橋病院眼科CSwitchingtoBrimonidine/TimololFixedCombinationandBrinzolamidefromBrinzolamide/TimololFixedCombinationandBrimonidineRiyoMatsumura1),KenjiInoue1),ShihoKunimatsu-Sanuki2),KyokoIshida3)andGojiTomita1,3)1)InouyeEyeHospital,2)NishikasaiInouyeEyeHospital,3)DepartmentofOphthalmology,TohoUniversityOhashiMedicalCenterC目的:ブリモニジン/チモロール配合点眼薬とブリンゾラミド点眼薬へ変更した症例の眼圧下降効果と安全性を調査した.対象および方法:ブリンゾラミド/チモロール配合点眼薬とブリモニジン点眼薬を併用使用中の緑内障C29例29眼を対象とした.これらの点眼薬を中止しCwashout期間なしでブリモニジン/チモロール配合点眼薬とブリンゾラミド点眼薬へ変更した.変更前と変更C1回目来院時の眼圧を比較した.変更後の副作用と投与中止例を調査した.結果:眼圧は変更前C16.6C±4.2CmmHgと変更後C16.8C±4.7CmmHgで同等だった.副作用はC4例(13.8%)で出現し,内訳は見えづらいC2例,結膜充血C1例,刺激感C1例だった.投与中止例はC4例(13.8%)で,内訳は眼圧上昇C3例,見えづらいC1例だった.結論:ブリモニジン/チモロール配合点眼薬とブリンゾラミド点眼薬へ同成分の点眼薬から変更したところ,短期的には眼圧を維持でき,安全性も良好だった.CPurpose:ToCinvestigateCtheCIOP-loweringCe.cacyCandCsafetyCofCbrimonidine/timololC.xedCcombinationCandCbrinzolamide.SubjectsandMethods:Thisstudyinvolved29eyesof29patientsbeingadministeredacombinationtherapyofbrinzolamide/timolol.xedcombinationandbrimonidinewhowereswitchedtoacombinationtherapyofbrimonidine/timololC.xedCcombinationCandCbrinzolamideCwithoutCaCwashoutCperiod.CIntraocularpressure(IOP)atCbaselineCandCtheC.rstCvisitCafterCswitchingCwereCcompared.CAdverseCreactionsCandCdropoutsCwereCinvestigated.CResults:ThereCwasCnoCdi.erenceCinCIOPCatbaseline(16.6C±4.2CmmHg)andCatCtheC.rstvisit(16.8C±4.7CmmHg)C.Adversereactionsoccurredin4patients(13.8%);i.e.,blurredvisionin2,conjunctivalhyperemiain1,andirrita-tionCinC1.CFourpatients(13.8%)discontinuedCtheCadministration,CandCtheCreasonsCforCdiscontinuationCwereCincreasedCIOPCinC3CandCblurredCvisionCinC1.CConclusion:AfterCswitchingCtoCtheCcombinationCtherapyCofCbrimoni-dine/timolol.xedcombinationandbrinzolamidefrombrinzolamide/timolol.xedcombinationandbrimonidine,IOPwasmaintainedandthesafetywassatisfactoryintheshort-term.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C38(8):951.954,C2021〕Keywords:眼圧,ブリモニジン/チモロール配合点眼薬,ブリンゾラミド/チモロール配合点眼薬,緑内障,安全性.CintraocularCpressure,Cbrimonidine-timololC.xedCcombination,Cbrinzolamide-timololC.xedCcombination,Cglaucoma,Csafety.Cはじめに用中の患者は点眼薬を変更せざるをえない状況になった.筆2019年C11月中旬にブリンゾラミド/チモロール配合点眼者らは眼圧下降効果と副作用,アドヒアランスの観点から点薬(アゾルガ,ノバルティスファーマ)が突然供給停止とな眼薬の主剤がまったく変わらず,ボトル数やC1日の総点眼回った.そのためブリンゾラミド/チモロール配合点眼薬を使数が増加しない変更がもっともよいと考えた.〔別刷請求先〕松村理世:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台C4-3井上眼科病院Reprintrequests:RiyoMatsumura,M.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPANC0910-1810/21/\100/頁/JCOPY(103)C951表1点眼薬使用感のアンケート調査①充血は?□前より赤くならない□前と同じ□前より赤くなる②刺激は?□前よりしみない□前と同じ□前よりしみる③かゆみは?□前よりかゆくない□前と同じ□前よりかゆい④痛みは?□前より痛くない□前と同じ□前より痛い⑤かすみは?□前よりかすまない□前と同じ□前よりかすむ□変更した後のほうが良い□どちらも同じ□変更する前のほうが良い□充血しない□しみない□かゆくない□痛くない□かすまない□点眼瓶が使いやすい□味覚に変化がない□価格が安い□その他()表2点眼薬使用感のアンケート調査「問1」の結果前より良い同じ前の方が良い刺激感(しみる)2例6.9%23例79.3%4例13.8%かゆみ1例3.4%24例82.8%4例13.8%痛み0例0.0%27例91.3%2例6.9%同時期のC2019年C12月にブリモニジン点眼薬とチモロール点眼薬を配合したブリモニジン/チモロール配合点眼薬(アイベータ,ノバルティスファーマ)が使用可能となった.筆者らはブリンゾラミド/チモロール配合点眼薬とブリモニジン点眼薬の併用患者に対して,ブリモニジン/チモロール配合点眼薬とブリンゾラミド点眼薬への変更を行った.この変更では,2ボトル,1日C4回点眼を維持でき,アドヒアランスも維持できると考えた.今回,ブリンゾラミド/チモロール配合点眼薬が供給停止となったことを契機として,ブリンゾラミド/チモロール配合点眼薬とブリモニジン点眼薬併用中の患者に対して,ブリモニジン/チモロール配合点眼薬とブリンゾラミド点眼薬へ変更した際の短期的な眼圧下降効果と安全性を後ろ向きに検討した.CI対象および方法2019年C12月.2020年C1月にブリンゾラミド/チモロール配合点眼薬とブリモニジン点眼薬を使用しており,両点眼薬を中止し,washout期間なしでブリモニジン/チモロール配合点眼薬とブリンゾラミド点眼薬へ変更したC29例C29眼を対象とした.両眼該当例では眼圧の高い眼を,眼圧が同値の場合は右眼を,片眼症例では該当眼を解析対象とした.男性13例,女性C16例,平均年齢はC70.2C±9.9歳(平均値C±標準偏差C46.83歳)であった.緑内障病型は原発開放隅角緑内障C24例,落屑緑内障C4例,原発閉塞隅角緑内障C1例であった.変更前眼圧はC16.6C±4.2CmmHg(10.25CmmHg)であった.Humphrey視野検査プログラムC30-2SITA-StandardのCmeandeviation値は平均C.7.06±5.81CdB(C.18.53.0.11CdB)であった.緑内障使用薬剤数は平均C4.7C±0.6剤(4.6剤)であった.他の点眼薬は継続使用とした.配合点眼薬はC2剤とした.変更前と変更後C1回目(79.2C±38.6日後)の来院時の眼圧(Goldmann圧平眼圧計による)を比較した.眼圧変化量をC2CmmHg以上上昇,C±2CmmHg未満,2CmmHg以上下降に分けて解析した.変更前と変更後の点眼薬の使用感と好みを変更後C1回目の来院時にアンケートで調査した(表1).変更後の副作用,中止例を調査した.変更前後の眼圧の比較には対応のあるCt検定を用いた.有意水準はp<0.05とした.本研究は井上眼科病院の倫理委員会で承認を得た.研究の趣旨と内容を患者に開示し,患者の同意を文書で得た.CII結果眼圧は変更前C16.6C±4.2CmmHgと変更後C16.8C±4.7CmmHgで同等であった(p=0.7167).眼圧変化量はC2CmmHg以上上昇C6眼(20.7%),C±2mmHg未満C18眼(62.1%),2mmHg以上下降C5眼(17.2%)であった.アンケート結果を表2に示す.変更前後の眼の症状は充血,刺激感,かゆみ,痛み,かすみのすべてで同じがC72.4.91.3%と高率であった.変更前後の組み合わせの選択(問2C①)はどちらも同じC19例(65.5%),変更後が良いC5例(17.2%),変更前が良いC4例(13.8%)などだった.変更後が良い理由(5例)は,点眼瓶が使いやすいC4例,しみないC1例,かすまないC1例,充血しないC1例であった(問C2C②).変更前が良い理由(4例)は,充血しないC2例,しみないC2例,かゆくないC1例であった.変更後に副作用はC4例(13.8%)で出現し,その内訳は見952あたらしい眼科Vol.38,No.8,2021(104)えづらいC2例,結膜充血C1例,刺激感C1例であった.中止症例はC4例(13.8%)で,その内訳は眼圧上昇C3例,見えづらいC1例であった.継続症例はC25例(86.2%)であった.眼圧上昇症例は原発開放隅角緑内障C2例,落屑緑内障C1例であった.原発開放隅角緑内障症例の眼圧は各10mmHgから14CmmHgへ,12CmmHgからC22CmmHgへ上昇した.落屑緑内障症例の眼圧はC25CmmHgからC31CmmHgへ上昇した.3例とも変更後C1回目の来院時にブリンゾラミド/チモロール配合点眼薬とブリモニジン点眼薬に戻した.その後,原発開放隅角緑内障症例では眼圧は各C11CmmHgとC14CmmHgになり,変更前に戻った.落屑緑内障症例では眼圧はC30CmmHgのままで元に戻らなかった.見えづらさを訴えて中止した症例ではブリンゾラミド/チモロール配合点眼薬とブリモニジン点眼薬に戻したところ見えづらさは改善した.変更後のブリンゾラミド点眼薬は先発医薬品(エイゾプト,ノバルティスファーマ)使用がC3例,後発医薬品(センジュ,千寿製薬)使用がC26例であった.CIII考按ブリンゾラミド/チモロール配合点眼薬の供給停止を受けて,この配合点眼薬の変更に関して以下の四つの方法を検討した.C1.ブリンゾラミド点眼薬と同じ炭酸脱水酵素阻害薬であるドルゾラミド点眼薬を含んだドルゾラミド/チモロール配合点眼薬への変更.C2.ブリンゾラミド点眼薬とチモロール点眼薬併用への変更.C3.他にプロスタグランジン関連薬を使用している患者ではプロスタグランジン関連薬/チモロール配合点眼薬とブリンゾラミド点眼薬併用への変更.C4.他にブリモニジン点眼薬を使用している患者ではブリモニジン/チモロール配合点眼薬とブリンゾラミド点眼薬併用への変更.1の変更に関しては,ドルゾラミド/チモロール配合点眼薬からブリンゾラミド/チモロール配合点眼薬へ変更した報告では,刺激感はドルゾラミド/チモロール配合点眼薬で多く,霧視はブリンゾラミド/チモロール配合点眼薬で多かった1).この変更により副作用が出現し,アドヒアランスが低下する危険性を有していた.2の変更に関しては,患者にとって点眼ボトルとC1日の総点眼回数が増えるためにアドヒアランスが低下する2)可能性を有していた.3,4の変更に関しては変更後に点眼ボトルとC1日の総点眼回数が増加しないためにアドヒアランスを維持できると考えた.また,点眼薬の成分も同一のため新たな副作用の発現も少なく,眼圧も変化しないと予想した.しかし,国内ではビマトプロスト/チモロール配合点眼薬は使用できないためにビマトプロスト点眼薬を使用している患者ではこの変更は行うことができない.そこで今回はC3の変更を行った.今回点眼薬の主剤が同成分での変更を行ったところ,変更前後の眼圧に変化はなかった.しかし,個別の症例で検討すると,変更後に眼圧がC2CmmHg以上上昇した症例がC20.7%,2CmmHg以上下降した症例がC17.2%存在した.同成分の変更としてラタノプロスト点眼薬とゲル化チモロール点眼薬を中止し,ラタノプロスト/チモロール配合点眼薬へ変更した患者でのC36カ月後の眼圧変化量はC2CmmHg超上昇C10.0%,C±2CmmHg以内C77.0%,2CmmHg超下降C13.0%であった3).ドルゾラミド点眼薬とチモロール点眼薬を中止し,ドルゾラミド/チモロール配合点眼薬へ変更した患者でのC3カ月後の眼圧変化量はC2CmmHg超上昇C16.1%,C±2CmmHg以内C77.4%,2CmmHg超下降C6.5%であった4).主剤が同成分での変更においても変更後に眼圧は上昇したり,下降したりする患者が存在するので,変更後の注意深い経過観察が必要である.今回の眼圧上昇症例では全例で変更後に後発医薬品のブリンゾラミド点眼薬を使用していた.眼圧上昇した原因として後発医薬品が先発医薬品と同等の眼圧下降効果を有していない点5),調査時期が冬季であったため眼圧が上昇しやすかった点6),落屑緑内障症例では眼圧が変動しやすいことが影響した点7)などが考えられる.眼圧下降症例では全例で変更後に後発医薬品のブリンゾラミド点眼薬を使用していた.後述のように点眼瓶が使いやすくなり,アドヒアランスが向上した可能性がある.変更前後の眼の症状の変化は充血,刺激感,かゆみ,痛み,かすみともに同じが大多数を占めた.今回の点眼薬の変更では,主剤の成分に変更がなかったためと考えられる.変更前後の組み合わせの好みは変更前と変更後でほぼ同数だった.変更後が良い理由として,点眼瓶が使いやすいがもっとも多かった.今回の点眼薬の変更では変更前のブリモニジン点眼薬と変更後のブリモニジン/チモロール配合点眼薬は千寿製薬の平型容器で共通である.変更前のブリンゾラミド/チモロール配合点眼薬と変更後の先発医薬品のブリンゾラミド点眼薬はアルコンファーマのラウンド型容器で共通である.平型容器は持ちやすく,押しやすく,キャップの開閉が行いやすく,一方ラウンド型容器は押しにくく,液が出にくく,残量が見えにくいと報告されている8).ブリンゾラミド点眼薬の先発医薬品を使用した患者では変更前後の点眼瓶の形状はまったく同じである.ブリンゾラミド点眼薬の後発医薬品を使用した患者では点眼瓶が使いやすくなり,アドヒアランスが向上した可能性がある.点眼瓶の形状を考慮することも重要である.今回は調査期間中に新型コロナウイルス感染症の流行による緊急事態宣言発令などの影響で,変更後C1回目の来院が最(105)あたらしい眼科Vol.38,No.8,2021C953短C14日後.最長C176日後と差が出てしまい統一ができなかった.このことが変更後の結果に影響を及ぼした可能性も否定できない.今回,ブリンゾラミド/チモロール配合点眼薬とブリモニジン点眼薬を中止し,ブリモニジン/チモロール配合点眼薬とブリンゾラミド点眼薬へ変更した患者を検討した.主剤が同成分の変更のため短期的には眼圧は維持することができ,安全性や使用感も良好だった.このような点眼薬の変更は点眼薬選定の選択肢となりうると考える.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)AugerCGA,CRaynorCM,CLongsta.S:PatientCperspectivesCwhenCswitchingCfromCosopt(CR)(dorzolamide-timolol)toCAzarga.(brinzolamide-timolol)forCglaucomaCrequiringCmultipleCdrugCtherapy.CClinCOphthalmolC6:2059-2062,C2012C2)DjafariCF,CLeskCMR,CHayasymowyczCPJCetal:Determi-nantsCofCadherenceCtoCglaucomaCmedicalCtherapyCinCaClong-termCpatientCpopulation.CJCGlaucomaC18:238-243,C20093)InoueK,OkayamaR,HigaRetal:E.cacyandsafetyofswitchingCtoClatanoprost0.005%-timololCmaleate0.5%C.xed-combinationCeyedropsCfromCanCun.xedCcombinationCfor36months.ClinOphthalmolC8:1275-1279,C20144)InoueCK,CShiokawaCM,CSugaharaCMCetal:Three-monthCevaluationCofCdorzolamideChydrochloride/timololCmaleateC.xed-combinationCeyeCdropsCversusCtheCseparateCuseCofCbothdrugs.JpnJOphthalmolC56:559-563,C20125)津幡結美子,菊池順子,井上賢治ほか:Cb遮断点眼液の後発品処方への変更.日本の眼科C78:727-732,C20076)古賀貴久,谷原秀信:緑内障と眼圧の季節変動.臨眼C55:C1519-1522,C20017)KonstasAG,MantzirisDA,StewartWC:DiurnalintraocC-ularCpressureCinCuntreatedCexfoliationCandCprimaryCopen-angleglaucoma.ArchOphthalmolC115:182-185,C19978)中道晶子,高橋嘉子,井上賢治ほか:緑内障患者を対象とした点眼容器のアンケート調査報告.あたらしい眼科C37:C100-103,C2020C***954あたらしい眼科Vol.38,No.8,2021(106)

医療用点眼剤の製剤情報と安全性

2021年6月30日 水曜日

《原著》あたらしい眼科38(6):699.704,2021c医療用点眼剤の製剤情報と安全性中田雄一郎*1向井健悟*1曽根高沙紀*1佐々勝彦*1向井淳治*2*1大阪大谷大学薬学部医薬品開発学講座*2大阪大谷大学薬学部臨床薬学教育センターCFormulationDataandSafetyofMedicalEyeDropsYuichiroNakada1),KengoMukai1),SakiSonetaka1),KatsuhikoSasa1)andJunjiMukai2)1)LaboratoryofDrugDevelopment,FacultyofPharmacy,OsakaOhtaniUniversity,2)EducationCenterforClinicalPharmacy,FacultyofPharmacy,OsakaOhtaniUniversityC目的:医療用点眼剤の原薬・製剤特性を解析することで点眼剤の製剤開発の傾向を知り,合わせて角膜障害との関連性を調査した.対象および方法:添付文書,インタビューフォームならびに審査報告書を資料として各種データを収集し解析を行った.角膜障害の調査はCPMDAの有害事象自発報告データベースを使用し,シグナルの検出はCReport-ingCOddsRatioを用いた.結果:緑内障点眼剤,抗菌点眼剤,抗アレルギー点眼剤,抗炎症点眼剤の計C352品目の原薬・製剤特性の調査の結果,差し心地(使用感)に影響する浸透圧やCpHは一部例外を除き,浸透圧比は約1,pHはC3.5.8.6の範囲内であることがわかった.可溶化剤はCTween80の使用割合が高く,防腐剤もベンザルコニウムの使用割合が高いことがわかった.角膜障害の発生頻度は緑内障点眼剤,抗炎症点眼剤で高かった.結論:可溶化剤,防腐剤とも使用される種類は限定され,緑内障点眼剤,抗炎症点眼剤は角膜障害に注意が必要である.CPurpose:Tobetterunderstandthetrendsineye-dropformulationdevelopment,weinvestigatedthecharac-teristicsofactiveingredientsandproducts,theirformulation,andformulation-relatedcornealdisorders.Methods:CForformulationanalysis,packageinserts,interviewforms,andpublishedreviewsofglaucoma,antibacterial,anti-allergic,andanti-in.ammatoryeyedrops(352items)wereused.ThePharmaceuticalsandMedicalDevicesAgen-cyCspontaneous-event-reportCdatabaseCwasCusedCtoCinvestigateCcornealCdisorders,CandCtheCReportingCOddsCRatioCwasCusedCtoCdetectCsignals.CResults:TheCpHCwasCwellCcontrolledCwithinCaC.xedrange(3.5-8.6CpH)C.CTheCosmoticCpressurewasgenerallyaround1.0,butsomeproductswereoutsidethenormalrange.Our.ndingsalsocon.rmedthatTween80andbenzalkoniumweremainlyusedasasolubilizerandapreservative,respectively.TheprimaryeyeCdropsCthatCmayCcauseCcornealCdisordersCwereCglaucomaCandCanti-in.ammatoryCeyeCdrops.CConclusion:ThetypesCofCsolubilizersCandCpreservativesCwasClimited,CsoCwarningCpatientsCaboutCpossibleCcornealCdisordersCmayCbeCrequiredwhenadministeringglaucomaandanti-in.ammatoryeyedrops.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C38(6):699.704,C2021〕Keywords:医療用点眼剤,先発品,後発品,防腐剤,角膜障害,安全性.medicaleyedrop,originalmedicine,genericmedicine,preservative,cornealdisorder,safety.Cはじめに点眼剤は結膜.などの眼組織に適用する無菌製剤であり1),ユニットドーズ製剤を除き,開封後も数週間にわたり使用を繰り返す製剤であることから,防腐剤の添加や処方の組み合わせも重要となる2).筆者らは点眼剤開発に役立つ情報を提示することを目的に緑内障点眼剤,抗アレルギー点眼剤の処方解析結果を報告している3,4).今回,新たに抗炎症点眼剤と抗菌点眼剤について同様の調査を行い,また緑内障点眼剤と抗アレルギー点眼剤についても情報を更新し,医療用点眼剤全般の処方データを解析した.加えて独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)の有害事象自発報告データベースを用いて医療用点眼剤の角膜障害についても調査を行い,処方成分との関連性について検討を行った.CI対象および方法PMDAのホームページ上5)で公開されている添付文書,〔別刷請求先〕中田雄一郎:〒584-8540大阪府富田林市錦織北C3-11-1大阪大谷大学薬学部医薬品開発学講座Reprintrequests:YuichiroNakada,Ph.D.,LaboratoryofDrugDevelopment,FacultyofPharmacy,OsakaOhtaniUniversity,3-11-1Nishikiori-kita,Tondabayashi,Osaka584-8540,JAPANCインタビューフォーム,審査報告書などから主薬や製剤の特性,処方データなどの各種情報を入手し,データベース化したのち,種々の解析を行った.調査対象はC2019年C4月までに上市され,現在日本国内で販売されている製品で,緑内障点眼剤C129製品,抗菌点眼剤C87製品,抗アレルギー点眼剤60製品,抗炎症点眼剤C76製品の計C352製品である.各薬効群の情報を調べる際,PMDAの添付文書の検索機能を用いてキーワード検索を行った.角膜障害の調査はCPMDAの有害事象自発報告データベース(JapaneseCAdverseCDrugCEventCReportdatabase:JADER)を使用した.調査対象の角膜障害の抽出には,医薬品規制用語集(MedicalDictionaryforRegulatoryActivi-ties:MedDRA)22.1の基本語(preferredterm:PT)について,特定の医学的状態に関連付けグループ化したMedDRA標準検索式(StandarizedCMedDRAQueries:SMQ)を使用した.角膜障害のCSMQはびまん性層状角膜炎,アトピー性角結膜炎,アレルギー性角膜炎などC97種類のPT(狭域)で構成されている.これらのCPT(有害事象)の発現について,JADERの報告で被疑薬とされ,投与経路が“眼”である医薬品について,関連する症例(識別番号)を抽出した.同一症例に対し複数の報告(同じCPT,医薬品)が登録されている重複報告に対しては,症例情報をもとに取り除き解析を行った6).シグナルの検出は,医薬品安全性評価において汎用されるCReportingCOddsRation(ROR)を用いた.シグナルの検出基準はC95%信頼区間(CI)の下限がC1を超えた場合,シグナルありと判断した7).CII結果と考察1.製品数と上市時期現在も使用されている各薬効群別の医療用点眼剤の上市時期の年代別推移を表1に示す.先発品でみると一番多く上市されたものはC1960年代では抗炎症点眼剤,1970年代以降は緑内障点眼剤であった.一方,後発品ではC1970年,1980年代は抗炎症点眼剤,1990年代以降は緑内障点眼剤の上市が多かった.なかでもC2000年代は抗菌点眼剤のオフロキサシン,2010年代は緑内障点眼剤のラタノプロストと抗菌点眼剤のレボフロキサシンの後発品が数多く上市されていた.C2.主薬濃度・pH・浸透圧・処方成分各薬効群の先発品・後発品別,製剤特性と調査対象製品数を表2に示す.多くの薬物濃度はC0.1.5%のレンジのなかに入るが,一部,低濃度の製品もあった.緑内障点眼剤の2008年販売のタプロス点眼液のタプルプロスト濃度が0.0015%と今回の調査対象の製品のなかでもっとも低く,抗アレルギー点眼剤ではC2000年に販売されているケタス点眼液のイブジラスト濃度C0.01%が最低濃度であった.抗炎症点眼剤ではC1982年販売のリンデロン点眼液が,0.01%で最低濃度であった.pHは薬効群に関係なくC3.5.8.6のレンジ内であった.涙液には緩衝能があり8),しかも涙液による希釈が急速に行われるため,点眼剤のCpH,浸透圧を必ずしも涙液のCpH,浸透圧に調整する必要はないと考えられる.各製品の浸透圧(生理食塩水に対する比)はほぼC1であったが,抗アレルギー製剤のクロモグリク酸CNaを配合する低浸透圧(約C0.15)のものや,レボカバスチン塩酸塩を配合する高浸透圧(2.3.3.8)のものがある.これらの製品は刺激により,眼の痒みを一時的に和らげている可能性も否定できない.先発品と後発品を比較してもCpH,浸透圧に大きな差はなく,たとえば,緑内障治療薬のキサラタン点眼液C0.005%の場合,pHはC6.5.6.9,浸透圧は約C1に対して,ベンザルコニウム塩化物(BAK)フリー点眼液を除く後発品C22品目のpHはC6.4.7.1,浸透圧はC0.9.1.1であった.これは先発品の規格に後発品メーカーが規格を合わせるためである.また,添加剤についても特許上問題がなければ,後発品メーカーは生物学的同等性や差し心地を考慮し,先発品と同種の添加剤を使用することが多い.しかし異なる場合もあり,前述のキサラタン点眼液の後発品は先発品の添加剤がCBAK,無水リン酸一水素ナトリウム,リン酸二水素ナトリウム一水和物,等張化剤であるのに対して,可溶化剤のポリソルベート80(Tween80)やポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(HCO)を使用している.これは先発品のキサラタン点眼液のCBAK濃度が防腐効力にプラスして可溶化能ももたせるために200Cppmと高く設定されているため9),可溶化能を別の添加剤に担わせ,BAK自身の濃度を低減させるのが目的であると考える.また,キサラタン点眼液C0.005%の後発品には差し心地の改善を狙い,等張化剤としてトロメタモール,濃グリセリンなどが添加されている製品もあった.C3.薬の溶解度と製品に使用されている可溶化剤先発品の原薬C59品目中,原薬の水に対する溶解度は「溶けにくい」8品目,「ほとんど溶けない」14品目,「きわめて溶けにくい」3品目の計C25品目で,全体の半分弱を占めていた(表3).点眼剤の添加剤として緩衝剤,等張化剤,pH調節剤,安定化剤,防腐剤がおもに含まれるが,そのうち,角膜に影響を及ぼす可能性の高い可溶化剤にはCTween80とCHCOが使用されており,調査対象の点眼剤ではおもにTween80が使用されていた(表4).緑内障点眼剤でCTween80が使用されていた製品は,「ほとんど溶けない」に分類されるラタノプロストを用いた後発医薬品が半数以上を占めていた.後発品でCHCOが使用されていた製品はチモロールマレイン酸塩製剤のリズモン点眼液0.25%,同C0.5%とラタノプロスト点眼液C0.005%「NP」,トラボプロスト点眼液C0.004%「ニットー」であった.抗菌点眼剤でCTween80が使用されていた製品は,「溶けにくい」表1製品の上市時期の年代別推移1959年以前C1960.C1969年C1970.C1979年C1980.C1989年C1990.C1999年C2000.C2009年C2010.C2019年緑内障点眼剤先発品C0C2C4C6C9C9C10後発品C0C0C0C2C23C21C43抗菌点眼剤先発品C0C0C0C3C1C6C1後発品C0C0C1C8C6C16C45抗アレルギー点眼剤先発品C0C0C0C1C2C5C1後発品C0C1C3C2C19C18C8抗炎症点眼剤先発品C1C9C2C4C0C3C1後発品C0C1C7C19C17C7C5表2製剤特性と調査対象製品数pH浸透圧(生理食塩液に対する比)濃度製品数(内懸濁剤製品数)緑内障点眼剤先発品4.4.C7.80.4.C1.50.0015.C4C40(2)後発品3.5.C8.50.6.C1.60.004.C2C89(2)抗菌点眼剤先発品4.5.C7.50.9.C1.150.3.C1.5C11(0)後発品4.5.C8.0約C0.8.C1.750.1.5C76(1)抗アレルギー点眼剤先発品4.0.C8.50.7.C1.10.01.C2C9(2)後発品4.0.C8.50.15.C3.80.025.C2C51(11)抗炎症点眼剤先発品4.0.C8.6約C0.8.C1.40.02.C1C20(5)後発品3.7.C8.6約C0.8.C1.150.01.C1C56(11)表3原薬の溶解度きわめて溶けやすい溶けやすいやや溶けやすいやや溶けにくい溶けにくいほとんど溶けないきわめて溶けにくい合計緑内障先発品C2C3C5C1C2C4C2C19点眼剤後発品C2C3C5C1C2C4C0C17抗菌先発品C1C5C0C2C3C2C0C13点眼剤後発品C2C5C0C1C2C3C1C14抗アレルギー先発品C0C3C0C1C1C3C1C14点眼剤後発品C0C4C0C1C2C3C1C11抗炎症先発品C0C4C0C2C2C5C0C13点眼剤後発品C1C6C0C2C1C2C0C12C表4製品中に使用されている可溶化剤の種類100Tween80CHCO製品数緑内障点眼剤先発品C6C0C40後発品C22C4C89抗菌点眼剤先発品C0C0C11後発品C8C1C76抗アレルギー先発品C1C0C9点眼剤後発品C21C0C51抗炎症点眼剤先発品C8C0C20後発品C21C4C56908070605040302010使用割合(%)に分類されるクロラムフェニコールの製剤や「やや溶けにくい」に分類されるレボフロキサシン水和物の製剤,抗アレルギー点眼剤では「ほとんど溶けない」に分類されるレボカバスチン塩酸塩の製剤である.抗炎症点眼剤では「ほとんど溶けない」に分類されるフルオロメトロンの製剤や,「溶けやすい」に分類されるブロムフェナクナトリウム水和物にもCTween80が使用されていた.これらの結果からCTween80やCHCOは可溶化剤だけでなく,安定化剤などの他の用途で使用された可能性もある.図1にCTween80の年代ごとの使用割合を示した.1980年代から抗菌点眼剤以外でCTween80の使用割合が増加傾向にあり,「溶けにくい」原薬の使用頻度が増加していると考えられた.C4.防腐剤薬効群と先発品・後発品に分けた医療用点眼剤の使用頻度の高い代表的な防腐剤〔BAK,クロロブタノール(CB),パラオキシ安息香酸エステル(PB),グルクロン酸クロルヘキシジン〕と防腐剤フリー容器(PFミニ点眼容器,PFデラミ容器)別の年代別製品数を表5に示す.緑内障点眼剤(先発品)40製品中,BAK含有製剤は計C27品目,CB含有製剤は7品目,PB含有製剤はC7品目,1回使い切りの防腐剤フリー点眼剤(ミニ点)はC3品目であった.後発品も先発品と同様にほとんどがCBAK含有製剤であった.ただし,防腐剤フリー容器に関しては,先発品がミニ点であるのに対して後発品は複数回投与が可能なCPFデラミ容器を用いた製品がC6品目上市されていた.先発品と後発品を合わせた抗菌点眼剤87製品中では,BAK含有製剤は計C6品目,CB含有製剤は1品目,PB含有製剤はC5品目,グルコン酸クロルヘキシジン含有製剤はC1品目であった.抗アレルギー点眼剤(先発品)9製品中では,BAK含有製剤はC7品目,PFミニ点はC1品目,抗アレルギー点眼剤(後発品)51製品中では,BAK含有製剤はC45品目,CB含有製剤はC1品目,PBはC8品目であった.抗炎症点眼剤(先発品)20製品中では,BAK含有製剤はC9品目,CB含有製剤はC7品目,PB含有製剤はC9品目であっ図1Tween80の使用割合た.一方,後発品C56製品中では,BAK含有製剤はC28品目,CB含有製剤はC10品目,PB含有製剤はC19品目でCPFデラミ容器はC2品目であった.現在でも先発品,後発品にかかわらずCBAKを防腐剤に用いる点眼剤が多く,BAK使用割合(表5)も経年的に増加傾向にあった.そのなかでC2000年代に緑内障点眼剤でCBAKの使用割合が一時的に低下しているのは,1990年代にすでにCBAK起因の角膜上皮障害,あるいは薬剤アレルギーが数多く報告され10,11),長期投与の多い緑内障点眼剤でCBAKの使用が控えられたためではないかと考える.その後も防腐剤による角膜障害・角膜神経障害が数多く報告されているが12,13),2010年代に逆にCBAKの使用割合が増加している.また,薬効群でCBAKの使用傾向は異なり,抗菌点眼剤では防腐剤がほとんど使用されておらず,抗炎症点眼剤もC1990年まではCCBやCPBも使用されていた.しかし,近年は短期投与の可能性もある抗アレルギー点眼剤,抗炎症点眼剤もBAKの使用割合は高止まり傾向にある.これら緑内障点眼剤,抗アレルギー点眼剤,抗炎症点眼剤でCBAKの使用頻度が高い原因として,複数回使用される無菌製剤である点眼剤の品質を担保するうえでCBAKに代わる防腐剤がないことがあげられる.とくに海外展開を考える場合,EuropeanMed-icineAgency(EMA)の厳しい防腐効力基準に合格するためにはCBAK以外の防腐剤を選択することはむずかしい.さらにCBAKの可溶化能が難溶性の薬物の可溶化に寄与している可能性(製剤の安定化),また高コストのCPFミニ点容器やPFデラミ容器などの機能性容器を用いても薬価に反映されないなどの課題がある.今後,品質を担保でき,安価でより安全な防腐剤やCPF容器の開発が望まれる.C5.角.膜.障.害PMDAの公開副作用データベースCJADERのC2004年C4月.2019年C4月の総報告件数はC586,504件であった.このう表5各種点眼剤の代表的な年代別防腐剤・防腐剤フリー容器使用実績1959年以前C1960.C1969年C1970.C1979年C1980.C1989年C1990.C1999年C2000.C2009年C2010.C2019年計緑内障先発品CBAKC0C0C2C6C6C8C5C27クロロブタノールC0C2C3C2C0C0C0C7パラオキシ安息香酸エステルC0C2C5C0C0C0C0C7PFミニ点眼容器C0C0C0C0C1C2C0C3点眼剤BAKC0C0C0C2C23C10C38C73後発品CクロロブタノールC0C0C0C0C1C0C0C1グルクロン酸クロルヘキシジンC0C0C0C0C0C2C0C2PFデラミ容器C0C0C0C0C0C5C1C6先発品CBAKC0C0C0C1C0C1C0C2抗菌点眼剤BAKC0C0C0C4C0C0C0C4クロロブタノールC0C0C0C1C0C0C0C1後発品Cパラオキシ安息香酸エステルC0C0C0C2C2C1C0C5グルクロン酸クロルヘキシジンC0C0C1C0C0C0C0C1先発品CBAKC0C0C0C1C2C4C0C7抗アレルギー点眼剤PFミニ点眼容器C0C0C0C0C0C1C0C1後発品CBAKC0C1C0C0C19C17C8C45クロロブタノールC0C0C0C0C0C1C0C1パラオキシ安息香酸エステルC0C0C3C2C1C2C0C8BAKC0C4C2C1C0C1C1C9先発品CクロロブタノールC1C2C0C3C0C1C0C7抗炎症点眼剤パラオキシ安息香酸エステルC1C5C0C1C0C2C0C9後発品CBAKC0C1C2C10C8C4C3C28クロロブタノールC0C0C2C3C4C0C1C10パラオキシ安息香酸エステルC0C0C5C8C5C0C1C19PFデラミ容器C0C0C0C0C0C2C0C2表6角膜障害(SMQ)のシグナルが検出された点眼剤のROR(95%CI)医薬品(一般名)薬効名報告数全報告数報告割合(%)ROR(95%CI)ジクロフェナクナトリウム抗炎症薬(非ステロイド)C16C20C80.021.38(7.08.64.58)ネパフェナク抗炎症薬(非ステロイド)C13C25C52.05.67(2.55.12.59)プロムフェナクナトリウム水和物抗炎症薬(非ステロイド)C5C13C38.53.16(1.02.9.76)トスフロキサシントシル酸塩水和物抗菌薬(ニューキノロン系)C6C9C66.710.21(2.53.41.13)ポリビニルアルコールヨウ素殺菌消毒薬(ヨウ素系)C3C6C50.05.04(1.01.25.11)ラタノプロスト緑内障治療薬(PG関連薬)C57C228C25.01.88(1.34.2.65)ブリンゾラミド・チモロールマレイン酸塩緑内障治療薬(Cb遮断薬+CAI)C9C29C31.02.29(1.03.5.11)ち,投与経路が眼の報告はC1,248件,角膜障害(SMQ)の報告はC822件,両者に共通する報告はC202件であった.これら投与経路が眼で角膜障害(SMQ)の症例について医薬品(一般名)別に集計するとC48製剤(276件)が抽出された.報告件数の多かった薬効群は,緑内障治療薬〔prostaglan-din(PG)関連薬〕,緑内障治療薬(Ca2遮断薬),緑内障治療薬〔炭酸脱水酵素阻害薬:carbonicanhydraseinhibitor(CAI)〕,抗炎症薬(非ステロイド系),抗菌薬(ニューキノロン系)などであった.このうち,角膜障害のシグナルの検出された点眼剤のCROR(95%CI)を表6に示す.緑内障治療薬で角膜障害のシグナル検出や報告件数が多かったのは,これらの薬剤が長期に使用され,また併用されることも多く,さらにCPG関連薬は難溶性の薬物で可溶化能を有するCBAKが比較的高濃度配合されている製品14)も一部あり,結果としてCBAKの曝露量が多くなった可能性も否定できない.福田らは培養家兎由来角膜細胞を用いた試験でBAKのC50Cppm溶液には細胞障害が少なったがC100Cppm溶液に中程度の障害があると述べ,ジクロフェナクナトリウム,ブロムフェナクナトリウム水和物の各点眼液には高度の細胞障害が認められたと報告している15).さらにジクロフェナクナトリウム点眼剤の細胞障害の度合いは,一部の製品に含まれる添加剤のクロロブタノールの濃度に比例するとことも報告されている16).臨床試験での角膜の障害については,ブリンゾラミド・チモロールマレイン酸,ジクロフェナクナトリウム,ネバフェナク,ブロムフェナクナトリウム水和物,トスフロキサシントシル酸塩水和物の各点眼剤とも添付文章にその記載がある.一方,ジクロフェナクナトリウムなどの抗炎症点眼剤やトスフロキサシントシル酸塩水和物の抗菌点眼剤は眼科の術後に用いられたり,何らかの角膜異常や創傷治癒に問題のある患者に用いられたりするため,原疾患の炎症の悪化に伴う角膜病変として報告された可能性も否定できない.JADERのデータベースは製品名ではなく主薬の一般名で登録されているため,製品の処方成分と角膜障害を直接結び付けて解析することができないが,主薬の特性や処方成分の使用傾向から角膜障害の原因を考察できる可能性があり,これらの結果が今後の点眼剤開発の一助になればと考える.CIII結論緑内障点眼剤,抗菌点眼剤,抗アレルギー点眼剤,抗抗炎症点眼剤の計C352製品の製剤特性を調査し,点眼剤にとって重要な差し心地(使用感)に影響する浸透圧やCpHは一部例外を除き,薬効群によらず浸透圧比は約1,pHはC3.7.8.6の範囲内であることがわかった.先発品,後発品によらず可溶化剤ではCTween80,防腐剤ではCBAKの使用割合が高く,さらにCJADERのデータベースを用いたシグナル検出法で,角膜障害を引き起こす可能性のある点眼剤を抽出し,その製品の成分との関連を一部考察することができた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)第十六改正日本薬局方:製剤総則6.目に投与する製剤6.1点眼剤.2)本瀬賢治:点眼剤.p76,南山堂,19843)中田雄一郎:医療用緑内障点眼剤の開発変遷の分析.薬剤学75:65-71,C20154)中田雄一郎,葛城秀:医療用抗アレルギー点眼薬の処方解析.あたらしい眼科35:1683-1687,C20185)https://www.pmda.go.jp/index.html6)独立行政法人医薬品医療機器総合機構:データマイニング手法の導入に関する検討結果報告書.2007年C3月.https://Cwww.pmda.go.jp/.les/000147997.pdf7)藤田利治:副作用評価におけるシグナル検出.薬剤疫学C14:27-36,C20098)本瀬賢治:点眼剤.p64,南山堂,19849)生杉謙吾:キサラタンとラタノプロストCPF.あたらしい眼科31:377-378,C201410)BaudouinC,deLunardoC:Short-termcomparativestudyofCtopical2%CcarteololCwithCandCwithoutCbenzalkoniumCchlorideCinChealthyCvolunteers.CBrCJCOphthalmolC82:39-42,C199811)葛西浩:点眼薬の副作用.臨眼53:217-221,C199912)BaudouinCC,CLabbeCA,CLiangCHCetal:PreservativesCineyedrops:thegood,thebadandtheugly.ProgRetinEyeResC29:312-334,C201013)VitouxM,KessalK,ParsadaniantzSetal:Benzalkoniumchloride-inducedCdirectCandCindirectCtoxicityConCcornealCepithelialCandCtrigeminalCneuronalcells:proin.ammatoryCandapoptoticresponsesinvitro.ToxicolLettC319:74-84,C202014)橋本友美,臼井智彦:緑内障点眼薬の防腐剤の影響.眼科グラフィック6:321-325,C201715)福田正道,佐々木洋:ニューキノロン系抗菌点眼薬と非ステロイド抗炎症点眼薬の培養家兎由来角膜細胞に対する影響.あたらしい眼科26:399-403,C200916)福田正道,山代陽子,荻原健太ほか:ジクロフェナクナトリウム点眼薬の培養家兎由来角膜細胞に対する障害性.あたらしい眼科22:371-374,C2005***

ビマトプロスト点眼液(ルミガン®点眼液0.03%)の使用成績調査(サブ解析)

2019年4月30日 火曜日

《原著》あたらしい眼科36(4):537.543,2019cビマトプロスト点眼液(ルミガンR点眼液0.03%)の使用成績調査(サブ解析)末信敏秀*1石黒美香*1北尾尚子*1川瀬和秀*2山本哲也*2*1千寿製薬株式会社研究開発本部育薬研究推進部*2岐阜大学大学院医学系研究科眼科学CSubanalysisofPost-marketingStudyofBimatoprostOphthalmicSolution(LUMIGANROphthalmicSolution0.03%)ToshihideSuenobu1),MikaIshikuro1),NaokoKitao1),KazuhideKawase2)andTetsuyaYamamoto2)1)MedicalScienceDepartment,SenjuPharmaceuticalCo.,Ltd.,2)DepartmentofOphthalmology,GifuUniversityGraduateSchoolofMedicineC本研究は,ビマトプロスト点眼液(ルミガンCR点眼液C0.03%)使用成績調査のサブ解析である.対象は,1年超の経過観察症例C3,219例のうち,プロスタグランジン関連薬+他の緑内障治療薬による前治療が,ビマトプロストへ切り替えられたC778例とした.その結果,前治療プロスタグランジン関連薬は,ラタノプロストC432例,トラボプロスト192例,タフルプロストC154例であった.ラタノプロスト+b遮断薬+炭酸脱水酵素阻害薬の組み合わせがC184例でもっとも多く,このうちラタノプロストのみがビマトプロストに切替えられたC177例では,切替時眼圧C16.8C±5.4CmmHgがC1カ月後にC14.6C±4.2CmmHgと有意に低下した.他の組み合わせからのビマトプロストへの切替え例においても,おおむね,統計学的に有意な眼圧下降が認められた.ビマトプロスト点眼液は,他のプロスタグランジン関連薬からの切替によって,さらなる眼圧下降効果が期待される薬剤であると考えられた.CThisCstudyCisCaCsubanalysisCofCtheCresultsCofCaCbimatoprostCophthalmicsolution(LUMIGANCRCophthalmicCsolu-tion0.03%)investigation.Among3,219casesfollowed-upformorethan1year,thetargetwas778casesinwhompretreatmentCwithCprostaglandinCanaloguesCandCotherCglaucomaCtherapeuticCdrugsCwasCswitchedCtoCbimatoprost.CThepretreatmentprostaglandinanalogueswerelatanoprostin432cases,travoprostin192cases,andta.uprostin154cases.Latanoprostplusbetablockerpluscarbonicanhydraseinhibitorwasthemostcommon,in184cases.Inthe177patientsinwhomonlylatanoprostwasswitchedtobimatoprost,therewassigni.cantdecreaseinintraocu-larpressure:16.8C±5.4CmmHgCatCtheCtimeCofCswitchingCandC14.6±4.2CmmHgCatConeCmonthClater.CStatisticallyCsigni.cantdecreaseinintraocularpressurewasalsoobservedinmanycasesofswitchingtobimatoprostfromoth-erCcombinations.CTheseCresultsCsuggestCthatCbimatoprostCmayChaveCanCadditionalCocularChypotensiveCe.ectCwhenCswitchingfromotherprostaglandinanaloguesandothercombinations.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C36(4):537.543,C2019〕Keywords:ビマトプロスト,ルミガンCR点眼液C0.03%,プロスタグランジン,安全性,有効性,眼圧.bimato-prost,LUMIGANRophthalmicsolution0.03%,prostaglandin,safety,e.cacy,intraocularpressure.はじめに緑内障は,わが国における主たる失明原因の一つであり,眼圧下降が唯一のエビデンスに基づく確実な治療法である1).眼圧下降の手段としては,薬物治療,レーザー治療,手術治療があげられるが,初期治療の第一選択は薬物治療である.なかでも,プロスタグランジン(prostaglandin:PG)関連薬は優れた眼圧下降効果を有し,全身性の副作用が少ないことから,第一選択薬として汎用されて久しい.PG関連薬による眼圧下降が,緑内障治療の第一義である視野障害進行抑制に有効であることが報告2)され,改めて眼圧下降の重要性が認識された.一方,PG関連薬に対するレスポンスには個体差が存在す〔別刷請求先〕末信敏秀:〒650-0047神戸市中央区港島南町C6-4-3千寿製薬株式会社研究開発本部育薬研究推進部Reprintrequests:ToshihideSuenobu,MedicalScienceDepartment,SenjuPharmaceuticalCo.,Ltd.,6-4-3Minatojima-Minamimachi,Chuo-ku,Kobe-shi,Hyogo650-0047,JAPANCるとともに,眼圧下降による視野障害進行の程度にも個体差が認められ,さまざまな治療選択肢を駆使しても視野障害が進行する例が存在する.PG関連薬であるラタノプロスト点眼液,トラボプロスト点眼液およびタフルプロスト点眼液においても,7.7.15.0%の割合でノンレスポンダーの存在が報告されている3).このようななか,ビマトプロスト点眼液(ルミガンCR点眼液C0.03%,以下,ビマトプロスト)がC2009年に新たな選択肢に加わり,上市後に実施した使用成績調査(2009年C10月.2015年C12月)において,その眼圧下降効果が証明された4).すなわち,原発開放隅角緑内障(primaryopenangleglaucoma:POAG),正常眼圧緑内障(normalCtensionCglau-coma:NTG),原発閉塞隅角緑内障(primaryCangleCclosureglaucoma:PACG),続発緑内障(secondaryCglaucoma:SG)および高眼圧症(ocularhypertension:OH)の病型別,新規単剤投与および前治療薬別,開始時眼圧値別のいずれにおいても投与C1カ月後に有意な眼圧下降が得られた.今回筆者らは,PG関連薬+他の緑内障薬による前治療が,ビマトプロストによる治療へ切替られた症例における眼圧推移に着目し,使用成績調査対象例のサブ解析(以下,本研究)を行ったので報告する.CI対象および方法1.研究デザイン本研究は,ビマトプロストの使用成績調査(以下,調査)にて集積された症例におけるサブ解析である.調査は,本剤の使用経験のない緑内障・高眼圧症患者を対象とし,中央登録方式でプロスペクティブに実施したものであり,調査方法の詳細,全般的な結果はすでに報告した4).調査では,投与開始後C1年を超える経過観察症例としてC3,219例,観察期間は原則C12カ月以上,最長C24カ月とし,投与開始日からC3カ月後,12カ月後およびC24カ月後までのC3分冊の調査票を各観察期間終了後に回収した.なお,医薬品医療機器総合機構によるプロトコルの審査を経て,調査を実施した.C2.解析対象集団ビマトプロスト投与開始時および投与後C24カ月後までに1時点以上の眼圧が測定された症例のうち,前治療としてPG関連薬(ラタノプロスト,トラボプロスト,タフルプロスト)+b受容体遮断薬(以下,Cb遮断薬),PG関連薬+炭酸脱水酵素阻害薬(carbonicCanhydraseinhibitor:CAI)またはCPG関連薬+b遮断薬+CAIが投与され,このうちCPG関連薬がビマトプロストに切り替えられた症例,ならびにビマトプロスト単剤治療に切り替えられた症例を対象とした.なお,PG関連薬,Cb遮断薬およびCCAI以外の緑内障薬が併用された症例は除外した.評価眼はC1症例C1眼とし,両眼投与の場合は投与開始時の眼圧が高い眼,開始時眼圧が同値の場合は右眼とした.ただし,投与期間中に内眼手術(レーザー治療を含む)を施行した眼は除外し,休薬期間がある場合は休薬前まで,中止症例は中止時までの眼圧値を評価対象とした.眼圧値は平均C±標準偏差を算出し,投与開始時と各経過観察時の眼圧を,Dunnett型の多重性調整を行った対応のあるCt検定で比較した.また,(開始時眼圧C.投与後眼圧)/開始時眼圧C×100(%)として,投与C1カ月後,3カ月後およびC24カ月後の眼圧下降率を算出した.本研究は事後解析であり,統計解析は千寿製薬にて行った.統計解析ソフトはCSAS9.4(SASInstituteInc.)を用い,有意水準は両側5%とした.CII結果1.解析対象集団の構成本研究の選択基準に該当する症例はC778例であった.患者背景は表1に示すとおりであり,性別,年齢および病型分布については調査全体4)と同様の傾向であった.また,図1に示したとおり,前治療として投与されていたCPG関連薬+b遮断薬Cand/orCAIの組み合わせのうち,ラタノプロスト+b遮断薬+CAIがC23.7%(184/778)でもっとも多かった.同様に,トラボプロストおよびタフルプロストにおいても,+b遮断薬+CAIの構成比がもっとも高かった.+CAIの組み合わせが,いずれのCPG関連薬においてももっとも少なかった.切替時の眼圧は,ラタノプロスト+b遮断薬でもっとも低く(15.9C±3.7CmmHg),タフルプロスト+CAIでもっとも高かった(19.1C±6.0CmmHg)(表2).これら解析対象の多くにおいて,PG関連薬のみがビマトプロストに切り替えられていたが,ビマトプロスト単剤に変更された症例が散見された.すなわち,ラタノプロスト前投与でC11.6%(50/432),トラボプロスト前投与でC8.9%(17/192),タフルプロスト前投与でC5.8%(9/154)がビマトプロスト単剤に変更されていた.PG関連薬のみが変更された症例におけるC1カ月後の眼圧下降率は,ラタノプロスト前投与,トラボプロスト前投与およびタフルプロスト前投与で,それぞれC12.6.14.3%,9.3.14.1%およびC15.2.16.4%であった.同様に,24カ月後の眼圧下降率は,それぞれC11.3.16.1%,11.7.16.9%およびC12.7.33.0%であった.また,ビマトプロスト単剤への切替例におけるC1カ月およびC24カ月後の眼圧下降率は,10.5%およびC8.0%であった.C2.眼.圧.推.移ラタノプロストのみがビマトプロストへ切替られた症例におけるC24カ月目までの眼圧推移は図2に示したとおりであり,+b遮断薬,+CAI,+b遮断薬+CAIいずれの群にお表1患者背景症例数(%)患者背景項目本研究(n=778)調査全体*(n=4,680)性別男性女性362(C46.5)416(C53.5)2,249(C48.1)2,430(C51.9)年齢(投与開始時)平均C±SDC最小.最大69.7±11.5歳C16.9C8歳67.9±12.8歳11.9C8歳病型(本剤投与眼)緑内障719(92.4)4,260(91.0)POAG(狭義)446(57.3)2,008(42.9)C│┌NTG176(22.6)1,752(37.4)C│CPACG34(4.4)185(4.0)C│CSG61(7.8)306(6.5)C└その他の緑内障2(0.3)9(0.2)COH27(3.5)216(4.6)その他(複数の使用理由を含む)32(4.1)204(4.4)POAG:原発開放隅角緑内障,NTG:正常眼圧緑内障,PACG:原発閉塞隅角緑内障,SG:続発緑内障,OH:高眼圧症.*:文献4)より改変して引用(性別の調査不能C1例が存在したが本表では除外).タフルプロスト前投与n=154,19.8%ラタノプロスト前投与n=432,55.5%図1前治療いても投与開始C1カ月以降,24カ月後までのすべての経過観察時点において,切替時に比べ有意な眼圧下降(p<0.05)を認めた.トラボプロストのみがビマトプロストへ切替られた症例におけるC24カ月後までの眼圧推移は図3に示したとおりであり,+b遮断薬+CAIにおいては,21カ月後を除く経過観察時点において,切替時に比べ有意な眼圧下降を認めた.一方,+b遮断薬ではC9カ月,18カ月およびC24カ月後でのみ有意な眼圧下降を認め,+CAIでは切替以降いずれの観察時点においても有意な眼圧下降を認めなかった.タフルプロストのみがビマトプロストへ切替られた症例におけるC24カ月後までの眼圧推移は図4に示したとおりであり,+b遮断薬ではC1カ月およびC9カ月後を除く観察時点において切替時に比べ有意な眼圧下降を認めた.また,+b遮断薬+CAIにおいては,24カ月後を除く経過観察時点において,有意な眼圧下降を認めた.一方,+CAIでは2カ月,表2追加解析対象一覧切替時眼圧切替後治療内容1カ月後眼圧3カ月後眼圧24カ月後眼圧前治療内容(成分)(平均C±SD)(成分)症例数平均C±SD下降率平均C±SD下降率平均C±SD下降率(mmHg)(mmHg)(%)(mmHg)(%)(mmHg)(%)LAT+b遮断薬C15.9±3.7BIM+b遮断薬C127C13.9±3.5C12.6C14.0±3.1C11.9C14.1±3.2C11.3CLAT+CAIC16.8±5.0BIM+CAIC78C14.4±4.3C14.3C14.7±3.7C12.5C14.2±4.1C15.5CLAT+b遮断薬+CAIC16.8±5.4BIM+b遮断薬+CAIC177C14.6±4.2C13.1C15.2±4.3C9.5C14.1±4.3C16.1CTRA+b遮断薬C16.6±3.0BIM+b遮断薬C33C15.0±3.6C9.6C14.8±2.5C10.8C13.8±2.6C16.9CTRA+CAIC16.2±4.5BIM+CAIC35C14.7±4.2C9.3C14.9±3.1C8.0C14.3±2.9C11.7CTRA+b遮断薬+CAIC17.7±4.3BIM+b遮断薬+CAIC107C15.2±4.1C14.1C15.1±3.9C14.7C15.5±4.1C12.4CTAF+b遮断薬C18.3±7.2BIM+b遮断薬C43C15.3±4.4C16.4C14.5±3.5C20.8C14.8±3.6C19.1CTAF+CAIC19.1±6.0BIM+CAIC23C16.2±4.0C15.2C16.5±4.5C13.6C12.8±3.2C33.0CTAF+b遮断薬+CAIC18.1±5.4BIM+b遮断薬+CAIC79C15.3±4.7C15.5C15.1±4.5C16.6C15.8±5.8C12.7CPG関連薬+b遮断薬Cor/andCAIC16.2±4.1BIM単剤C76C14.5±3.7C10.5C13.6±3.1C16.0C14.9±4.3C8.0C┌CLAT+b遮断薬C32C│CLAT+CAIC11C│CLAT+b遮断薬+CAIC7C│CTRA+b遮断薬C10C│CTRA+CAIC2C│CTRA+b遮断薬+CAIC5C│CTAF+b遮断薬C4C│TAF+CAIC2C└CTAF+b遮断薬+CAIC3C計C778CLAT:ラタノプロスト,TRA:トラボプロスト,TAF:タフルプロスト,BIM:ビマトプロスト.:トラボプロスト+b遮断薬→ビマトプロスト+b遮断薬:トラボプロスト+CAI→ビマトプロスト+CAI25眼圧(mmHg)201510123691215182124経過観察期間(月)123691215182124経過観察期間(月)図2ラタノプロストからビマトプロストに切り替えられた症例の眼圧推移図3トラボプロストからビマトプロストに切り替えられた症例の眼圧推移:タフルプロスト+b遮断薬→ビマトプロスト+b遮断薬:タフルプロスト+CAI→ビマトプロスト+CAI2520眼圧(mmHg)2015151010123691215182124経過観察期間(月)123691215182124経過観察期間(月)図4タフルプロストからビマトプロストに切り替えられた症例の眼圧推移12カ月,18カ月,21カ月およびC24カ月後で有意な眼圧下降を認めた.PG関連薬+b遮断薬Cand/orCAIのうち,76例がビマトプロスト単剤へ切替られ,以降の眼圧推移は図5に示したとおりである.すなわち,投与C1カ月.15カ月後まで有意な眼圧下降を認めた.CIII考按ラタノプロスト前治療からビマトプロストへの切替例では,+b遮断薬,+CAI,+b遮断薬+CAIのすべてのパターンにおいて,切替C1カ月以降C24カ月後まで有意な眼圧下降が認められた.ラタノプロストからビマトプロストへの切替による眼圧下降効果については多くの既報がある.Imasa-waら5)は,ラタノプロストからビマトプロスト切替C6週後図5PG関連薬+b遮断薬and/orCAIからビマトプロスト単剤に切り替えられた症例の眼圧推移の眼圧下降値はC1.7CmmHg(下降率:10.3%)であったと報告しており,本研究のC1カ月後の眼圧下降値であるC2.0.2.4mmHg(下降率:12.6.14.3%)は同程度であった.3カ月後の眼圧下降値はC1.6.2.1CmmHg(下降率:9.5.12.5%)であったことから,既報におけるC1.6CmmHg(下降率:9.4%)5),1.9CmmHg(下降率:11.9%)6),1.6CmmHg(下降率:12.1%)7)と同等であった.さらに,24カ月後の眼圧下降値はC1.8.2.7mmHg(下降率:11.3.16.1%)であり,有意な眼圧下降が認められた.Sontyら8)は,同様にラタノプロストからビマトプロストへの切替後の長期成績について報告しており,切替C24カ月後の眼圧下降値はC4.9.5.3CmmHg(下降率:21.2.23.8%)であり,切替時に比して有意であったと報告している.このようにビマトプロストは,さらなる眼圧下降を必要とするラタノプロスト治療例に対して,よい選択肢となりうると考えられる.トラボプロスト前治療からの切替例では,+b遮断薬の観察期間中に統計学的に有意な眼圧下降が認められた観察時点は,投与C9カ月,18カ月およびC24カ月後のみであり,ビマトプロストへの切替による効果は限定的であった.また,+CAIでの切替C1カ月,3カ月およびC24カ月後の眼圧下降率はC8.0.11.7%であったが,観察期間中を通じて統計学的に有意な眼圧下降は認められなかった.一方,+b遮断薬+CAI例では,切替C1カ月後の眼圧下降値はC2.5CmmHg(下降率:14.1%)で統計学的に有意であった.また,投与C21カ月後を除き,24カ月までの観察期間中を通じて有意な眼圧下降が認められた.ビマトプロストとトラボプロストの眼圧下降作用については,ビマトプロストが優れているとする報告9,10)が散見されるが,本研究のようにトラボプロストからビマトプロストへの切替後の眼圧推移に関する報告は見あたらない.一方,ビマトプロストからトラボプロスト/チモロール配合剤への切替時の眼圧推移については,ビマトプロストのノンレスポンダーからの切替C12週後の眼圧下降値はC3.8mmHgで有意であったとする報告11)のほか,PG関連薬(ラタノプロスト,トラボプロスト,タフルプロスト,ビマトプロスト)単剤からトラボプロスト/チモロール配合剤への切替後の眼圧はビマトプロスト前投与以外では有意に低下したとする報告12),さらには同配合剤とビマトプロスト単剤の眼圧下降効果は同等とする報告13)などがある.本研究においては,トラボプロスト+b遮断薬(33例)およびトラボプロスト+CAI(35例)の症例数が少なかったものの,トラボプロスト+b遮断薬+CAIはC107例が集積され,切替C1カ月以降,有意な眼圧下降が認められたことから,さらなる眼圧下降を必要とするトラボプロスト治療例に対しても,一定の効果が期待されるものと考える.タフルプロスト前治療からの切替例では,+b遮断薬の観察期間中では,投与C1カ月およびC9カ月後を除き,統計学的に有意な眼圧下降が認められた.また,+CAIでの眼圧下降率はC13.6.33.0%であったが,統計学的に有意な眼圧下降は一部の観察時点でのみしか認められなかった.一方,+b遮断薬+CAIでは,切替C1カ月後の眼圧下降値はC2.8CmmHg(下降率:15.5%)で統計学的に有意であった.また,投与24カ月後を除き,有意な眼圧下降が認められた.Rannoら14)は,PG関連薬からタフルプロストへの切替C3カ月後の眼圧値は,ラタノプロストおよびトラボプロスト前投与例では同等であったが,ビマトプロストからの切替例では有意に眼圧が上昇したと報告している.Hommerら15)は,PG関連薬からタフルプロストへの切替C12週後の眼圧値は,ラタノプロストおよびトラボプロスト前投与例では有意に下降したが,ビマトプロストからの切替例のみ有意な低下を認めなかったことを報告している.このように,さらなる眼圧下降を必要とするタフルプロスト治療例に対しても,一定の効果が期待される.PG関連薬+b遮断薬Cand/or+CAIからビマトプロスト単剤への切替例では,投与C1カ月後の眼圧下降値はC1.7CmmHg(下降率:10.5%)で統計学的に有意であった.したがって,多剤併用によってアドヒアランスの低下が疑われる症例については,ビマトプロスト単剤による治療に切替えることも選択肢として考慮される.このように,ビマトプロストによる眼圧下降効果については,現存するCPG関連薬からの切替時において一定の効果が期待される.一方,先の報告4)を含め,ビマトプロストは結膜充血やCDUES(deepeningCofCupperCeyelidsulcus)が一定頻度で発現することから,アドヒアランス低下を防止する意味でも注意深い経過観察が必要である.本研究は,ビマトプロスト投与期間中の観察記録データのサブ解析であり,ビマトプロストを他のCPG関連薬に切替えた際の眼圧推移については検討されていない.したがって,本研究の対象とした切替例における眼圧下降効果については,ビマトプロストに限定されるものと言及することはできない.また,先の報告4)のとおり,投与開始C1カ月時点の判定であるが,ビマトプロストの新規単剤投与例のC15.7%は眼圧下降率がC10%未満であり,他のCPG関連薬のよい適応であった可能性が示唆される.このほか,本研究の結果は,薬剤変更によるアドヒアランスの向上,十分な眼圧下降が得られた症例のみが評価された可能性などを考慮する必要はあるが,切替後C24カ月にわたって一定の持続的な眼圧下降が認められ,ビマトプロストは緑内障薬物治療の有用な選択肢であると考えられる.謝辞:調査に協力を賜り,データを提供いただきました全国の先生方に,深謝申し上げます.利益相反:本稿は,千寿製薬株式会社により実施された使用成績調査結果に基づき報告された.末信敏秀,石黒美香,北尾尚子は千寿製薬株式会社の社員である.山本哲也は本使用成績調査の医学専門家である.文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン(第C4版).日眼会誌122:5-53,C20182)Garway-HeathDF,CrabbDP,BunceCetal:Latanoprostforopen-angleCglaucoma(UKGTS):aCrandomised,Cmulti-centre,Cplacebo-controlledCtrial.CLancetC385:1295-1304,C20153)InoueCk,CSetogawaCA,CTomitaG:NonrespondersCtoCpros-taglandinanalogsamongnormal-tensionglaucomapatients.CJOculPharmacolTherC32:90-96,C20164)石黒美香,北尾尚子,末信敏秀ほか:ビマトプロスト点眼液(ルミガン点眼液C0.03%)の使用成績調査.あたらしい眼科35:399-409,C20185)ImasawaCM,CTanabeCJ,CKashiwagiCFCetal:E.cacyCandCsafetyCofCswitchingClatanoprostCmonotherapyCtoCbimato-prostCmonotherapyCorCcombinationCofCbrinzolamideCandClatanoprost.OpenOphthalmolJC7:94-102,C20166)SatoCS,CHirookaCK,CBabaCTCetal:E.cacyCandCsafetyCofCswitchingfromtopicallatanoprosttobimatoprostinpatientswithCnormal-tensionCglaucoma.CJCOculCPharmacolCTherC27:499-502,C20117)MaruyamaY,IkedaY,MoriKetal:Comparisonbetweenbimatoprostandlatanoprost-timolol.xedcombinationfore.cacyCandCsafetyCafterCswitchingCpatientsCfromClatano-prost.ClinOphthalmolC9:1429-1436,C20158)SontyCS,CDonthamsettiCV,CVangipuramCGCetal:Long-termCIOPCloweringCwithCbimatoprostCinCopen-angleCglau-comaCpatientsCpoorlyCresponsiveCtoClatanoprost.CJCOculCPharmacolTherC24:517-520,C20089)NoeckerRJ,EarlML,MundorfTKetal:Comparingbima-toprostCandtravoprostinblackAmericans.CurrMedResOpinC22:2175-2180,C200610)CantorLB,HoopJ,MorganLetal:Intraocularpressure-loweringCe.cacyCofCbimatoprost0.03%CandCtravoprostC0.004%inpatientswithglaucomaorocularhypertension.BrJOphthalmolC90:1370-1373,C200611)SchnoberCD,CHubatschCDA,CScherzerML:E.cacyCandCsafetyof.xed-combinationtravoprost0.004%/timolol0.5%inpatientstransitioningfrombimatoprost0.03%/timo-lol0.5%CcombinationCtherapy.CClinCOphthalmolC9:825-832,C201512)NakanoT,MizoueS,FuseNetal:FixedcombinationoftravoprostCandCtimololCmaleateCreducesCintraocularCpres-sureCinCJapaneseCpatientsCwithCprimaryCopen-angleCglau-comaCorCocularhypertension:analysisCbyCprostaglandinCanalogue.ClinOphthalmolC11:55-61,C201713)西村宗作,伊藤初夏,中西正典ほか:DynamicCContourTonometerを用いたトラボプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液とビマトプロスト点眼液の眼圧下降率の比較.あたらしい眼科31:1535-1539,C201414)RannoS,SacchiM,BrancatoCetal:AprospectivestudyevaluatingCIOPCchangesCafterCswitchingCfromCaCtherapyCwithCprostaglandinCeyeCdropsCcontainingCpreservativesCtoCnonpreservedta.uprostinglaucomapatients.SciWorldJ2012:804730,C201215)HommerCA,CKimmichF:SwitchingCpatientsCfromCpre-servedCprostaglandin-analogCmonotherapyCtoCpreserva-tive-freeta.uprost.ClinOphthalmolC5:623-631,C2011***

網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫を対象としたTenon囊下投与によるWP-0508ST(マキュエイド®眼注用40mg)の第III相試験

2018年10月31日 水曜日

《原著》あたらしい眼科35(10):1418.1426,2018c網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫を対象としたTenon.下投与によるWP-0508ST(マキュエイドR眼注用40.mg)の第III相試験小椋祐一郎*1飯田知弘*2伊藤雅起*3志村雅彦*4*1名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学*2東京女子医科大学眼科学教室*3わかもと製薬株式会社臨床開発部*4東京医科大学八王子医療センター眼科Phase3ClinicalTrialofSub-Tenon’sInjectionofWP-0508ST(MaQaidROphthalmicInjection40mg)forMacularEdemainRetinalVeinOcclusionYuichiroOgura1),TomohiroIida2),MasakiIto3)andMasahikoShimura4)1)DepartmentofOphthalmology&VisualScience,NagoyaCityUniversityGraduateSchoolofMedicalSciences,2)DepartmentofOphthalmology,TokyoWomen’sMedicalUniversitySchoolofMedicine,3)ClinicalDevelopmentDepartment,WakamotoPharmaceuticalCo.,LTD.,4)DepartmentofOphthalmology,TokyoMedicalUniversityHachiojiMedicalCenterC網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫患者C50人を対象に,WP-0508STの有効性および安全性を検討するため多施設共同非遮蔽非対照試験を実施した.WP-0508ST20CmgをCTenon.下に単回投与し,投与後C12週とスクリーニング時の中心窩平均網膜厚の変化量を比較した結果,平均値は.150.0Cμm,95%信頼区間は.200.9..99.1Cμmであった.本治験において,あらかじめ有効性の基準として設定したC95%信頼区間上限の.100Cμmとの差はC1Cμm以内であり,平均値では十分な改善効果が認められ,中心窩平均網膜厚ではスクリーニング時と比較し有意な減少が示された.投与後12カ月までのおもな副作用は,眼圧上昇(14.0%),結膜充血(12.0%),結膜浮腫(10.0%),血中コルチゾール減少(10.0%)および血中トリグリセリド増加(8.0%)であり,水晶体混濁の発現率はC4.0%であった.いずれも軽度または中等度であり,外科的処置は行われなかった.以上より,網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫患者におけるCWP-0508STの有効性および安全性が確認された.CWeCconductedCaCmulticenter,Cnon-masked,CuncontrolledCstudyConC50CRetinalCVeinOcclusion(RVO)patientsCwithmacularedematoinvestigatethee.cacyandsafetyofWP-0508ST(MaQaidRCOphthalmicInjection40mg).Afterasinglesub-Tenon’sinjectionofWP-0508ST,wecomparedtheamountofchangeinmeancentralmacularthicknessbetweentimeofscreeningand12weekslater.Theresultsrevealedameanvalueof.150.0Cμmanda95%con.denceinterval(CI)of.200.9Cto.99.1Cμm,indicatingthatthedi.erenceinthe95%CIwaswithin1CμmoftheCmaximum95%CCICpreviouslyCsetCasCtheCcriteriaCfore.cacy(.100Cμm).CInCaddition,CtheCmeanCvalueCdemon-stratedsu.cientimprovement,andthemeancentralmacularthicknessshowedsigni.cantdecreasefromthetimeofCscreening.CTheCmajorCadverseCe.ectsCobservedCupCtoC12CmonthsCpost-administrationCwereCintraocularCpressureincrease(14.0%),conjunctivalChyperemia(12.0%),chemosis(10.0%),CdecreasedCbloodcortisol(10.0%)andCincreasedbloodtriglycerides(8.0%).Theincidenceoflensopacitywas4.0%.Allcasesweremildtomoderate,sosurgicalCtreatmentCwasCnotCperformed.CTheCaboveCresultsCindicateCthatCWP-0508STCisCe.ectiveCandCsafeCinCRVOCpatientswithmacularedema.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)35(10):1418.1426,C2018〕Key.words:網膜静脈閉塞症,網膜静脈分枝閉塞症,網膜中心静脈閉塞症,黄斑浮腫,有効性,安全性,トリアムシノロンアセトニド,Tenon.下投与,WP-0508ST.retinalveinocclusion,branchretinalveinocclusion,centralretinalveinocclusion,macularedema,e.cacy,safety,triamcinoloneacetonide,sub-Tenoninjection,WP-0508ST.C〔別刷請求先〕小椋祐一郎:〒467-8601愛知県名古屋市瑞穂区瑞穂町川澄1名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学Reprintrequests:YuichiroOgura,M.D.,Ph.D.,CDepartmentofOphthalmology&VisualScience,NagoyaCityUniversityGraduateSchoolofMedicalSciences,1Kawasumi,Mizuho-cho,Mizuho-ku,Nagoya,Aichi467-8601,JAPANC1418(106)はじめに網膜静脈閉塞症(retinalCveinocclusion:RVO)は,高血圧,糖尿病,高脂血症などが危険因子となり,血栓の形成により網膜静脈が閉塞し,網膜に出血,浮腫,毛細血管閉塞などの病態を引き起こす.RVOは網膜中心静脈閉塞症(cen-tralCretinalCveinocclusion:CRVO)と網膜静脈分枝閉塞症(branchCretinalCveinocclusion:BRVO)とに分類される.網膜浮腫が黄斑部に及ぶと黄斑浮腫となり,視力障害の原因となる.黄斑浮腫が遷延すると,慢性的かつ不可逆的な視力障害に至る.RVOによる黄斑浮腫は,糖尿病黄斑浮腫(dia-beticmacularedema:DME)についで頻度が高く,有病率はC40歳以上の成人のC2.1%であることが報告されている1).RVOの黄斑浮腫の治療には,格子状網膜レーザー光凝固術および硝子体手術が行われてきたが,2001年にCJonasら2)がトリアムシノロンアセトニド(triamcinoloneacetonide:TA)を硝子体内に注射することで,DMEに対する有効性を報告して以来CTAが使用されるようになった.その後,2002年にはCGreenbergら3)がCCRVOに伴う黄斑浮腫に,2004年にはCChenら4)がCBRVOに伴う黄斑浮腫にCTAの硝子体内投与による有効性を報告している.硝子体内投与は低頻度ながらも眼内炎が報告されているため5),国内では感染のリスクを軽減し低侵襲なTAのTenon.下投与(sub-Tenontriamcinoloneacetonideinjection:STTA)が臨床上多用されている.抗CVEGF薬は,特異的にCVEGFを阻害するため浮腫に対する治療効果が大きいが,頻回投与が必要とされていることから,患者への負担軽減および経済性のため,補助的治療としてCSTTAが選択されることもある.TAを有効成分とし無菌的に充.された粉末注射剤であるマキュエイドR(WP-0508)は,硝子体内手術時の可視化を目的に,2010年に手術補助剤として承認され,2012年には硝子体投与によるCDME治療の効能・効果が追加承認されている.さらにC2017年C3月には,Tenon.下投与によるDME,ぶどう膜炎およびCRVOに伴う黄斑浮腫の軽減に対する効能・効果が追加承認された.今回筆者らは,RVOに伴う黄斑浮腫の効能・効果承認のために実施された,多施設共同非遮蔽非対照試験の結果を報告する.本治験は,ヘルシンキ宣言に基づく倫理的原則,薬機法,薬事法施行規則,「医薬品の臨床試験の実施の基準(GCP)」および治験計画書を遵守し実施した.I対象および方法1..実施医療機関および治験責任医師本治験は,2014年C12月.2016年C6月に,表1に示した全国C13医療機関において実施された.治験の実施に先立ち,各医療機関の治験審査委員会において試験の倫理的および科学的妥当性が審査され,承認を得た.C2..対象表2に示したCRVOの分類基準6)に従い,BRVO(半側RVOを含む)およびCCRVOに伴う黄斑浮腫と診断された患者を対象とした.ただし,虚血型のCCRVOは被験者に対する安全性を考慮し,本試験からは除外した.表3にはおもな選択および除外基準を示した.なお開始前に,すべての被験者に対し本治験の内容を十分に説明し,自由意思による治験参加の同意書を得た.C3..試.験.方.法a..治験デザイン本治験は,多施設共同非遮蔽非対照試験とし,単群で実施した(第CIII相試験).Cb..治験薬・投与方法1バイアル中にCTA40Cmgを含有するCWP-0508STに生理食塩液をC1Cml加え,懸濁液C0.5Cml(TA20Cmg)を対象眼のCTenon.下に単回投与した.方法は以下の手順に従った.抗菌薬および麻酔薬を点眼後,耳側下方の角膜輪部より後方を結膜小切開し,切開創から挿入した鈍針を強膜壁に沿っ表.1治験実施医療機関一覧治験実施医療機関名治験責任医師名*桑園むねやす眼科竹田宗泰順天堂大学医学部附属浦安病院海老原伸行日本大学病院服部隆幸東京医科大学八王子医療センター野間英孝,安田佳奈子聖路加国際病院大越貴志子独立行政法人国立病院機構東京医療センター野田徹名古屋市立大学病院吉田宗徳名古屋大学医学部附属病院安田俊介大阪市立大学医学部附属病院河野剛也医療法人社団研英会林眼科病院林研医療法人出田会出田眼科病院川崎勉鹿児島大学医学部・歯学部附属病院坂本泰二鹿児島市立病院上村昭典*治験期間中の治験責任医師をすべて記載した(順不同).表.2網脈静脈閉塞症の分類基準網膜静脈分岐閉塞症網膜出血または顕微鏡下で観察される網膜静脈閉塞をC1象限以下に認める半側網膜静脈閉塞症網膜出血または顕微鏡下で観察される網膜静脈閉塞はC1象限を超え,4象限未満に認める網膜中心静脈閉塞症網膜出血または顕微鏡下で観察される網膜静脈閉塞はC4象限すべてに認める表.3おもな選択および除外基準選択基準(1)年齢が満C20歳以上(2)スクリーニング検査来院前C52週間以内に,対象眼がCBRVOまたはCCRVOに伴う黄斑浮腫と診断された者(3)対象眼の最高矯正視力(ETDRS)が,35文字からC80文字(小数視力換算でC0.1以上C0.8以下)である者(4)対象眼の中心窩平均網膜厚が,光干渉断層計[スペクトラルドメイン光干渉断層計(SD-OCT)]による測定でC300Cμm以上である者(5)対象眼の眼圧がC21CmmHg以下である者(6)自由意思による治験参加の同意を本人から文書で取得できる者除外基準(1)緑内障,虚血性CCRVO*,糖尿病網膜症,ぶどう膜炎,加齢黄斑変性症,偽(無)水晶体眼性.胞様黄斑浮腫,重度の黄斑上膜,中心性漿液性網脈絡膜症,虹彩ルベオーシス,強度近視の症状を対象眼に有する(2)いずれかの眼に活動性の眼内炎または非活動性のトキソプラズマ症が認められる(3)血清クレアチニンがC2.0Cmg/dl以上(4)治験薬投与前C52週以内に,対象眼に薬剤の硝子体内投与を実施(5)対象眼に薬剤の硝子体内投与を治験薬投与前C52週以内に実施(6)対象眼に副腎皮質ステロイド薬のCTenon.下または球後への投与を,治験薬投与前C24週以内に実施(7)対象眼にレーザー治療または内眼手術を,治験薬投与前C12週以内に実施(8)副腎皮質ステロイド薬,経口炭酸脱水酵素阻害薬,ワルファリンおよびヘパリンの投与を,治験薬投与前C4週以内に実施(9)妊婦または授乳婦(10)その他,治験責任医師または治験分担医師が不適と判断*蛍光眼底造影による無灌流領域がC10乳頭面積以上.て押し進め,後部CTenon.に懸濁液を投与した.投与後は抗菌薬にて感染予防処置を行った.C4..検査・観察項目検査・観察スケジュールを表4に示した.スクリーニング時に蛍光眼底造影検査を行い,黄斑浮腫の有無および無灌流領域の面積を判断した.中心窩平均網膜厚は,各実施医療機関で光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)を用いて対象眼の測定を行い,東京女子医科大学に設置されたCOCT判定会において専門家による判定を行った.観察項目はCETDRS(EarlyTreatmentCDiabeticRetinopathyStudy)チャートを用いた最高矯正視力,眼圧,細隙灯顕微鏡検査,眼底検査,血圧・脈拍数および臨床検査とした.治験薬投与後C12週を観察期間とし,この間は被験者の利益性から必要となる場合を除き,本治験の評価に影響を及ぼす併用治療(レーザー治療,内眼手術,高圧酸素療法,星状神経節ブロック,透析治療)は禁止とした.さらに,治験薬投与後12カ月まで追跡調査を実施した.C5..評価項目および方法a..有効性主要評価項目は,スクリーニング時と比較した投与後C12週(最終評価時)の中心窩平均網膜厚の変化量とし,各評価時期の中心窩平均網膜厚および最高矯正視力の推移と変化量を副次評価項目とした.12週以内に中止または脱落した場合は,もっとも遅くに測定されたデータを最終評価時データとして採用した.中心窩平均網膜厚の変化量は,以下の既報を参考に基準を定めた.1)RVOに対する非投与(Sham)群における中心窩平均網膜厚の変化量の平均値は.85Cμm,95%信頼区間は.101.43.C.68.57μm7),2)RVOにおける抗VEGF薬投与による黄斑浮腫改善の定義として,50Cμm以上の網膜厚の減少を設定した8,9).これらを指標にC.100μmを臨床的に改善効果が示された基準として設定し,本治験で得られた変化量のC95%信頼区間上限値がC.100Cμm以下であれば,WP-0508STの有効性が確認されたものとした.Cb..安全性治験薬投与後C12カ月までに発現した有害事象のうち,WP-0508STとの因果関係が否定できないものを副作用とし,最高矯正視力,眼圧,細隙灯顕微鏡検査,眼底検査,血圧・脈拍数および臨床検査の各項目について安全性を評価した.C6..解.析.方.法a..解析対象集団有効性は,最大の解析集団(FullAnalysisSet:FAS)とし,治験実施計画書に適合した解析対象集団(PerCProtocolSet:PPS)についても検討した.安全性は投与が実施され表.4検査・観察スケジュール観察項目スクリーニング時観察期間追跡調査投与日翌日1週4週8週12週中止時6,9,1C2カ月同意取得C●患者背景C●症例登録C●治験薬投与C●眼科検査光干渉断層計測定C●C●C●C●C●C●C●最高矯正視力C●C●C●C●C●C●C●眼圧C●C●C●C●C●C●C●C●細隙灯顕微鏡検査C●C●C●C●C●C●C●C●眼底検査C●C●C●C●C●C●C●眼底撮影C●C●C●蛍光眼底造影検査C●血圧・脈拍数C●C●C●C●臨床検査C●C●C●C●C●診察・問診C●C●C●C●C●C●C●妊娠検査C●併用薬・併用療法の検査C●C●C●C●C●C●C●C●有害事象C●Cたすべての被験者から得られたデータを対象とした.Cb..解.析.方.法中心窩平均網膜厚は,各評価時期および最終評価時おけるスクリーニング時からの変化量について要約統計量を算出し,対応あるCt検定を実施した.検定は両側検定で行い有意水準はC5%とした.最高矯正視力についても中心窩平均網膜厚と同様の解析で実施した.主要評価項目は,最終評価時の中心窩平均網膜厚の変化量についてC95%信頼区間を算出した.CII試.験.成.績1..被験者の内訳被験者の内訳を図1に示した.本治験の参加に同意し,スクリーニング検査を実施した被験者はC56例であり,50例が登録され全例で投与が実施された.このうち,8例が治験薬投与後C12週以内に中止・脱落し,42例がC12週間の観察期間を完了した.中止・脱落となった理由は,有害事象が発現し,治験責任医師または治験分担医師が中止すべきと判断したためがC7例(眼圧上昇,視力悪化などにより併用禁止薬および併用禁止治療が必要と判断),治験開始後に被験者が同意を撤回したためがC1例であった.12週間の観察期を完了したC42例のうち,2例が同意撤回により投与後C12週で本治験を終了した.その後C1例(治験薬投与後C7カ月で治験責任医師の判断で治験終了)を除くC39例がC12カ月までの安全性追跡調査を終了した.解析対象集団CFASの被験者背景を表5に示した.被験者のCRVO罹病期間は平均C2.22カ月であり,病型の内訳はBRVOがC45例,CRVOはC5例であった.C2..有効性投与が実施された被験者C50例のうち,FAS不採用例は認められなかった.1例でスクリーニング検査からC12カ月の追跡調査期間を通じて最高矯正視力検査の測定手順の逸脱があったため,最高矯正視力の有効性解析では当該C1例をPPS不採用とした.したがって,有効性解析対象集団のFASはC50例,PPSはC50例(最高矯正視力の解析ではCPPSはC49例)となった.Ca..主要評価項目に関する結果本治験の主要な解析対象集団CFASにおける,最終評価時の中心窩平均網膜厚を表6に示した.中心窩平均網膜厚の変化量の平均値(95%信頼区間下限.上限)はC.150.0Cμm(.200.9.C.99.1Cμm)であり,信頼区間の上限と設定したC.100Cμmとの差はC1Cμm以内であった.中心窩平均網膜厚はスクリーニング時と比較した対応あるCt検定で有意な減少が認められた(p<0.001).なおCPPSはCFASと同一の結果であった.また,病型別での中心窩平均網膜厚の変化量を表7に示した.BRVOがC.152.6μm(C.209.2.C.96.1μm),CRVO8例2例1例投与後12カ月追跡調査終了例数39例性別男C29(58.0)女C21(42.0)登録被験者数治験薬被験者数投与12週観察期間終了例数項目50例50例42例投与12週内中止・脱落例数投与12週時終了例数投与7カ月終了例数図.1被験者の内訳表.5被験者背景(FAS)解析対象被験者数C50C年齢(歳)平均値±標準偏差C64.7±8.0最小.最大47.77RVO罹病期間(カ月)平均値±標準偏差C2.22±2.41最小.最大0.133カ月未満C40(C80.0)3カ月以上C6カ月未満C6(C12.0)6カ月以上C4(8C.0)病型網膜静脈分枝閉塞症C45(90.0)網膜中心静脈閉塞症C5(10.0)中心窩平均網膜厚(μm)平均値±標準偏差C575.3±176.5最小.最大301.1047400Cμm未満C8(C16.0)400Cμm以上C500Cμm未満C11(C22.0)500Cμm以上C600Cμm未満C9(C18.0)600Cμm以上C22(C44.0)最高矯正視力(文字)平均値±標準偏差C67.1±9.5最小.最大41.80眼圧(mmHg)平均値±標準偏差C15.0±2.3最小.最大10.21被験者数(%)が.126.0Cμm(C.194.8.C.57.2Cμm)であった.Cb..副次評価項目に関する結果FASにおける中心窩平均網膜厚および変化量の推移を図2および表8に示した.各評価時期および最終評価時のスクリーニング時からの変化量は,投与後C1週より減少し,投与後のすべての観察期において有意な減少がみられた(いずれもp<0.001).また,FASにおける最高矯正視力および変化量の推移を図3および表9に示した.各評価時点におけるスクリーニング時からの中心窩平均網膜厚は,治験薬投与後4週から有意な文字数の改善がみられたが(4週でCp=0.023,8週およびC12週でCp=0.001),最終評価時は有意差が認められなかった.なおいずれもCPPSでもCFASと同一の結果であ表.6最終評価時における中心窩平均網膜厚(FAS)中心窩平均網膜厚中心窩平均網膜厚(μm)変化量(μm)被験者数C50C50平均値C±標準偏差C425.4±191.3C.150.0±179.1最小.最大184.0.C1018C.683.0.C31395%信頼区間(下限.上限)C─C.200.9.C.99.1対応あるCt検定p<C0.001C─表.7最終評価時における病型別中心窩平均網膜厚の変化量平均値±標準偏差最小.最大95%信頼区間病型被験者数(下限.上限)(μm)(μm)(μm)網膜静脈分枝閉塞症C45C.152.6±188.1C.683.0.313.0C.209.2.C.96.1網膜中心静脈閉塞症C5C.126.0±55.4C.197.0.C.69.0C.194.8.C.57.2C中心窩平均網膜厚(μm)8007006005004003002001000スクリーニング時図.2中心窩平均網膜厚の推移(FAS)平均値C±標準偏差.***:p<0.001対応あるCt検定.表.8中心窩平均網膜厚変化量の推移(FAS)1週後4週後8週後12週後最終評価時評価時期評価時期1週後4週後8週後12週後最終評価時被験者数C5046C44C42C50C平均値C±標準偏差(μm)C.84.0±114.1C.124.3±116.4C.167.9±155.0C.192.1±155.5C.150.0±179.1Cった.C3..安全性a..副作用治験薬投与後C12カ月までにC5%以上発現した副作用は,眼圧上昇,結膜充血,結膜浮腫,血中コルチゾール減少および血中トリグリセリド上昇であった(表10).なお重篤な副作用は認められなかった.治験薬投与後C12週以内に,スクリーニング時に認められた現病の悪化によりC8例が中止に至り,その内訳は,RVOの悪化C4例,一過性の視力低下C3例,黄斑浮腫の悪化C1例であった.これらはいずれも投与対象眼に発現し,程度は軽度から中程度の悪化とされ,治験薬との因果関係は「関係なし」と判定された.Cb..眼圧上昇および水晶体混濁投与対象眼での眼圧上昇はC7例(14.0%)に認められ,その内訳は治験薬投与後C12週までにC5例(10.0%),12週以降12カ月後までにC2例(4.0%)であった.これらC7例の眼圧上昇はC24CmmHg未満がC1例(2%),24CmmHg以上C30CmmHg未満がC5例(10.0%),30CmmHg以上がC1例(2.0%)であった.治験薬投与後C12週までにみられたC5例については,いずれも眼圧下降点眼薬の使用により,転帰は軽快または消失となった.12週以降C12カ月後までのC2例は,被験者への連最高矯正視力(文字)1009080706050403020100スクリーニング時1週後4週後8週後12週後最終評価時評価時期図.3最高矯正視力の推移(FAS)平均値C±標準偏差.*:p<0.05,**:p<0.01対応あるCt検定.表.9最高矯正視力変化量の推移(FAS)評価時期1週後4週後8週後12週後最終評価時被験者数C50474442C50C平均値±標準偏差(文字)C1.7±8.1C2.3±6.8C3.9±7.1C4.6±8.1C2.6±9.8C表.10副作用一覧副作用名発現数(%)CMedDRA/Jver.18.150例眼結膜浮腫眼脂水晶体混濁点状角膜炎硝子体.離硝子体浮遊物結膜充血前房内細胞眼圧上昇5例(1C0.0%)1例(2C.0%)2例(4C.0%)2例(4C.0%)1例(2C.0%)1例(2C.0%)6例(1C2.0%)1例(2C.0%)7例(1C4.0%)眼以外アラニンアミノトランスフェラーゼ増加1例(2C.0%)アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ増加1例(2C.0%)血中コルチゾール減少血中ブドウ糖増加血圧上昇血中トリグリセリド増加血中尿素減少血中尿素増加尿中ブドウ糖陽性白血球数減少好中球百分率増加単球百分率増加リンパ球百分率減少筋骨格痛体位性めまい頭痛5例(1C0.0%)2例(4C.0%)2例(4C.0%)4例(8C.0%)1例(2C.0%)1例(2C.0%)1例(2C.0%)1例(2C.0%)1例(2C.0%)1例(2C.0%)1例(2C.0%)1例(2C.0%)1例(2C.0%)2例(4C.0%)絡がとれなかったことおよび治験薬投与C12カ月時に眼圧上昇がみられたことから,転帰は不変と判定した.なお,WP-0508ST投与から眼圧上昇が発現されるまでの期間は,平均C100.1日(最小C29日,最大C357日)であり,持続した期間は平均C157日(最小C28日,最大C315日)であった.水晶体混濁はC2例(4%)で発現し,治験薬投与後C57日目およびC169日後にそれぞれC1例が認められ,細隙灯顕微鏡検査による水晶体混濁では,投与後C12カ月の時点でいずれもC1段階の進展であった(WHO分類).なおすべてにおいて外科的処置は行われなかった.CIII考察RVOは網膜内に分枝した静脈が閉塞するCBRVOと,視神経内で静脈が閉塞するCCRVOとに大別されるが,いずれも黄斑浮腫に起因して視力障害を引き起こす.黄斑浮腫の悪化にはCIL-6やCVEGFなどの炎症性サイトカインが関与するため10),これらを抑制するCTAは有効であることが報告されている11,12).黄斑浮腫は自然治癒する場合も認められるが,慢性化することも多く症例により予後には大きな違いがある.本治験における罹病期間の平均はC2.22カ月であるが,症状の悪化に伴い投与後C12週以内に中止となったC7例の罹病期間は平均0.86カ月であった.これらの患者は,VEGFや炎症性サイトカインが急激に産生され悪化したと推察された.そのため中止例により信頼区間幅が拡大し,最終評価時におけるC95%信頼区間上限があらかじめ設定した基準に及ばなかったと考えられた.しかし,その差異はC1Cμm以内とわずかであり,(112)投与後C12週における中心窩平均網膜厚はC.192.1Cμmの減少を示し,変化量のC95%信頼区間はC.240.5.C.143.6Cμmと信頼区間上限は.100Cμmを超える改善が示された.また,早期の時点(投与後C1週目)に中止となったC2例を除外した最終評価時の平均値は.163.4Cμm,信頼区間上限はC.114.8μmであり,投与後すべての観察期で中心窩平均網膜厚に有意差が認められたことからも,本治験におけるCWP-0508STの有効性は示されたと判断した.病型別の部分集団におけるそれぞれの中心窩平均網膜厚の変化量を既報と比較すると,TAの硝子体内投与による中心窩平均網膜厚の変化量は,BRVOではC.142Cμm11)およびCRVOではC.196Cμm12)に対し,本治験ではCBRVOはC.152.6μmおよびCCRVOではC.126.0Cμmと,CRVOでは報告された数値よりも改善効果が低かった.この背景には,CRVOの被験者数はわずかC5例であったため,例数不足により十分に評価されなかったことに起因していると考えられた.TAの局所投与は硝子体内やCTenon.下に行われるが,STTAのほうが効果はやや劣る可能性が報告されている13).STTAは投与されたCTAが強膜や短後毛様動脈を介して脈絡膜に移行するが,硝子体内投与は,TAが病変部である網膜に直接接触するためCSTTAよりも即効性に優れていると考えられる.しかし,本治験において最終評価時の中心窩平均網膜厚の変化量が.150Cμmであったこと,また投与後C12週の結果と比較しても,BRVOではCTAの硝子体内投与の報告11)と同程度であった.そのため,Tenon.下投与においても黄斑浮腫の改善効果は硝子体内投与と同等であることが期待される.硝子体内投与は,Tenon.下投与と比べると眼内炎のリスクが懸念され,またCTAによる眼圧上昇や水晶体混濁の副作用を軽減するためにも,日本ではCTenon.下投与が選択されることが多い.TAの硝子体内投与における眼圧上昇はC33.50%,白内障はC59.83%で発現する報告例があり14,15),またCWP-0508の硝子体内投与16)で報告された眼圧上昇(25.6.27.3%),白内障(15.2.23.5%)と比較しても本治験では半分程度の発現率であった.したがってCWP-0508STのCSTTAによるCRVOに伴う黄斑浮腫の改善は,副作用の軽減を目的とする意味においても十分有用であると考えられる.また,硝子体内投与に比べCSTTAは,外来などで比較的に簡易的に行えるメリットもある.しかし,ステロイドに対し過敏に反応して眼圧が上昇するステロイドレスポンダーが存在し,その頻度は原発開放隅角緑内障およびその血縁者,若年者,高度近視患者,糖尿病患者に多いことが報告されているため17),TAの投与には十分な配慮が必要となる.黄斑浮腫の治療に用いられる抗CVEGF薬は,浮腫を抑制する効果は高いものの,1.2カ月ごとに投与を繰り返す必要がある.一方CTAは抗CVEGF薬と比べ,即効性に劣るが持続期間は約C3カ月と長く,頻回投与が避けられる特徴がある.そこで抗炎症作用を有するCTAと抗CVEGF薬の併用による有効性が検討され,Choら18)はベバシズマブの硝子体内注射とCSTTAを組み合わせることによる中心窩平均網膜厚の改善効果を,またCMoonら19)はCSTTAにより抗CVEGF薬の投与間隔の延長が可能であることを報告している.これらの結果は,抗CVEGF薬による治療が必要とされながらも,長期的な継続使用が困難な患者にとっては一助となるものであろう.したがって,WP-0508STのCSTTAは,RVOに伴う黄斑浮腫治療法の選択肢の拡大に寄与するものである.利益相反:小椋祐一郎,飯田知弘,志村雅彦(カテゴリーCC:わかもと製薬㈱)文献1)YasudaM,KiyoharaY,ArakawaSetal:PrevalenceandsystemicriskfactorsforretinalveinocclusioninageneralJapanesepopulation:theHisayamaStudy.InvestOphthal-molVisSciC51:3205-3209,C20102)JonasCJB,CSofkerA:IntraocularCinjectionCofCcrystallineCcortisoneCasCadjunctiveCtreatmentCofCdiabeticCmacularCedema.AmJOphthalmolC132:425-427,C20013)GreenbergCPB,CMartidisCA,CRogersCAHCetal:IntravitrealCtriamcinoloneacetonideformacularedemaduetocentralretinalveinocclusion.BrJOphthalmolC86:247-248,C20024)ChenCSD,CLochheadCJ,CPatelCCKCetal:IntravitrealCtriam-cinoloneCacetonideCforCischaemicCmacularCoedemaCcausedCbyCbranchCretinalCvainCocclusion.CBrCJCOphthalmolC88:C154-155,C20045)MoshfeghiCDM,CKaiserCPK,CScottCIUCetal:AcuteCendo-phthalmitisCfollowingCintravitrealCtriamcinoloneCacetonideCinjection.AMJOphthalmolC136:791-796,C20036)TheCSCORECStudyCInvestigatorCGroup.CSCORECStudyCReport2:InterobserverCagreementCbetweenCinvestigatorCandCreadingCcenterCclassi.cationCofCretinalCveinCocclusionCtype.OphthalmologyC116:756-761,C20097)OZURDEXCGENEVACStudyGroup:Randomized,Csham-controlledCtrialCofCdexamethasoneCintravitrealCimplantCinCpatientswithmacularedemaduetoretinalveinocclusion.OphthalmologyC117:1134-1146,C20108)KreutzerCTC,CAlgeCCS,CWolfCAHCetal:IntravitrealCbeva-cizumabCforCtheCtreatmentCofCmacularCoedemaCsecondaryCtoCbranchCretinalCveinCocclusion.CBrCJCOphthalmolC92:C351-355,C20089)PriglingerSG1,WolfAH,KreutzerTCetal:IntravitrealbevacizumabCinjectionsCforCtreatmentCofCcentralCretinalCveinocclusion:six-monthCresultsCofCaCprospectiveCtrial.CRetinaC27:1004-1012,C200710)坂本泰二:黄斑浮腫に対する局所ステロイド薬治療.あたらしい眼科27:1333-1337,C201011)TheCSCORECStudyCResearchGroup:ACrandomizedCtrialCcomparingthee.cacyandsafetyofintravitrealtriamcin-oloneCwithCstandardCcareCtoCtreatCvisionClossCassociatedCwithCmacularCedemaCsecondaryCtoCbranchCretinalCveinCocclusion.ArchOphthalmolC127:1115-1128,C200912)TheCSCORECStudyCResearchGroup:ACrandomizedCtrialCcomparingthee.cacyandsafetyofintravitrealtriamcin-oloneCwithCstandardCcareCtoCtreatCvisionClossCassociatedCwithCmacularCedemaCsecondaryCtoCcentralCretinalCveinCocclusion.ArchOphthalmolC127:1101-1114,C200913)CardilloJA,MeloLA,CostaRAetal:Comparisonofintra-vitrealCversusCposteriorCsub-Tenon’sCcapsuleCinjectionCofCtriamcinoloneacetonidefordi.usediabeticmacularedema.OphthalmologyC112:1557-1563,C200514)DiabeticCRetinopathyCClinicalCResearchNetwork:Ran-domizedCtrialCevaluatingCranibizumabCplusCpromptCorCdeferredlaserortriamcinolonepluspromptlaserfordia-beticCmacularCedema.COphthalmologyC117:1064-1077,201015)DiabeticCRetinopathyCClinicalCResearchNetwork:Three-yearfollowupofarandomizedtrialcomparingfocal/gridphotocoagulationandintravitrealtriamcinolonefordiabet-icmacularedema.ArchOphthalmolC127:245-251,C200916)小椋祐一郎,坂本泰二,吉村長久ほか:糖尿病黄斑浮腫を対象としたCWP-0508(マキュエイドCR硝子体内投与)の第II/III相試験.あたらしい眼科31:138-146,C201417)RazeghinejadCMR,CKatzLJ:Steroid-inducedCiatrogenicCglaucoma.OphthalmicRes47:66-80,C201218)ChoCA,CChoiCKS,CRheeCMRCetal:CombinedCtherapyCofCintravitrealbevacizumabandposteriorsubtenontriamcin-oloneinjectioninmacularedemawithbranchretinalveinocclusion.JKoreanOphthalmolSocC53:276-282,C201219)MoonJ,KimM,SagongM:Combinationtherapyofintra-vitrealCbevacizumabCwithCsingleCsimultaneousCposteriorCsubtenonCtriamcinoloneCacetonideCforCmacularCedemaCdueCtobranchretinalveinocclusion.EyeC30:1084-1090,C2016***

緑内障患者に対するリパスジル塩酸塩水和物点眼液追加投与の眼圧下降効果と安全性の検討

2018年5月31日 木曜日

《第28回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科35(5):684.688,2018c緑内障患者に対するリパスジル塩酸塩水和物点眼液追加投与の眼圧下降効果と安全性の検討柴田真帆豊川紀子黒田真一郎永田眼科CE.cacyandSafetyofRipasudilOphthalmicSolutionasAdjunctiveTherapyinGlaucomaPatientsMahoShibata,NorikoToyokawaandShinichiroKurodaCNagataEyeClinic目的:リパスジル点眼液追加投与の眼圧下降効果と安全性の検討.対象および方法:2016年C4.6月にリパスジル点眼液を追加投与した緑内障患者C55例C77眼を対象とした.診療録から後ろ向きに検討し,追加前眼圧と追加後C1,C3,6,9,12カ月の眼圧値,経過中の有害事象につき検討した.結果:12カ月以上点眼継続例はC39眼(51%)であり,眼圧はC18.0±5.4CmmHgからそれぞれC14.9±3.1,15.2±3.1,15.5±3.7,15.1±4.4,14.9±3.7CmmHgと有意に下降し(1,3カ月p<0.05,6,9,12カ月p<0.01,ANOVA),平均眼圧下降率はC13.6%であった.追加前眼圧と眼圧下降幅に有意な正の相関を認めた.途中中止例C28眼の原因は有害事象(眼瞼炎とアレルギー性結膜炎)がC12眼,手術施行がC10眼,効果不十分がC6眼であった.併用点眼変更例C4眼と内服追加例C6眼については継続例から除外した.結論:リパスジル点眼液追加投与により眼圧下降効果を認め継続点眼したものは全体のC51%であった.眼局所の有害事象による点眼中止をC16%に認めた.CPurpose:Toevaluatethee.cacyandsafetyofripasudilophthalmicsolutionasadjunctivetherapyinglauco-ma.SubjectsandMethods:Intraocularpressure(IOP)changeandadversee.ectafteradjunctiveuseofripasudilwereCretrospectivelyCstudiedCinC77CeyesCofC55CglaucomaCpatients.CResults:AnCaverageCofC2.8±0.7Canti-glaucomamedicationswereinuseatstartup;39eyesreceivedcontinuoustreatmentfor12months.IOPatbaselineandat1,3,6,9and12monthsafterripasudiladditionwas18.0±5.4,C14.9±3.1,C15.2±3.1,C15.5±3.7,C15.1±4.4CandC14.9±3.7CmmHg,respectively,withsigni.cantIOPreductionatalltimeperiods.Therewassigni.cantpositivecorrelationbetweenCIOPCchangeCandCbaseline.CRegimenCwasCdiscontinuedCinC28CeyesCbecauseCofCblepharitis(9Ceyes),Callergicconjunctivitis(3),CglaucomaCsurgery(10)andCnoCIOP-loweringCe.ect(6).CPatientsCwhoCreceivedCadditionalCoralmedications(6)orCchangedCtoCotherCglaucomaCeyedrops(4)wereCexcludedCfromCtheCcontinuousCtreatmentCgroup.CConclusion:In51%ofthetotal,instillationwascontinuedwithIOP-loweringe.ect.Adversee.ects(16%)wereblepharitisandallergicconjunctivitis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)35(5):684.688,C2018〕Keywords:リパスジル点眼液,追加投与,眼圧,安全性.ripasudilophthalmicsolution,adjunctivetherapy,in-traocularpressure,safety.Cはじめにトリクスの産生抑制,傍CSchlemm管内皮細胞の透過性亢進リパスジル塩酸塩水和物点眼液(以下,リパスジル点眼液)により,主経路からの房水流出を促進して眼圧を下降させるは,Rhoキナーゼ(ROCK)阻害薬の緑内障点眼薬である.ものである1.3).緑内障治療において眼圧下降効果が唯一効その作用機序は,線維柱帯細胞の細胞骨格の変化や細胞外マ果の認められている緑内障進行阻止方法であることから,新〔別刷請求先〕柴田真帆:〒631-0844奈良市宝来町北山田C1147永田眼科Reprintrequests:MahoShibata,M.D.,Ph.D.,NagataEyeClinic,1147Kitayamada,Horai,Nara-city,Nara631-0844,JAPAN684(120)たな眼圧下降機序による緑内障点眼は治療の選択肢を増やし,追加点眼として選択薬の一つとなりうる.しかし,これまでの報告は緑内障病型と対象患者を限ったものであり,実際の臨床に基づく眼圧下降効果と安全性についての報告は少ない.今回,緑内障病型を問わずリパスジル点眼液の追加処方症例における眼圧下降効果と有害事象発生率について検討した.CI対象および方法永田眼科に通院中の緑内障患者で,緑内障病型は問わず,2016年C4月C1日.6月C30日までにリパスジル点眼液を追加処方した全症例を診療録から後ろ向きに検討した.なお,本研究は永田眼科倫理委員会で承認された.リパスジル点眼液追加前の眼圧と,処方C1,3,6,9,12カ月後の眼圧と有害事象を調査し,点眼継続例と途中中止例に分類した.継続例については眼圧下降効果を検討し,中止例についてはその原因を検索した.眼圧はCGoldmann圧平眼圧計で診療時間内に測定した.配合剤はC2剤として計算した.解析方法として,unpairedCt-test,CpairedCt-test,CKruskal-WallisCtest,chi-squareCtest,PearsonC’sCcorrelationCcoe.cientCtest,one-wayCanalysisCofCvariance(ANOVA)を用い,ANOVAで有意差がみられた場合はCDunnettの多重比較を行った.有意水準はp<0.05とした.CII結果表1に全症例と継続例の患者背景を示した.全症例C61例86眼のうち,自己都合で点眼しなかったC2例C4眼と来院のなかったC4例C5眼を除き,55例C77眼を対象とした.内訳は男性C29例C41眼,女性C26例C36眼,平均年齢C68.7C±12.1歳,追加前平均眼圧C18.8C±4.9CmmHg,平均緑内障点眼数C2.8C±0.7剤(meanC±SD)であった.このうち,12カ月以上点眼継続可能例はC39/77眼(51%)であった.途中リパスジル点眼圧(mmHg)201918171615141312前1M3M6M9M12M投与期間(mean±SE)図1継続例の眼圧経過点眼追加前に比較して全観察期間で有意な眼圧下降を認めた.*:p<0.05,**:p<0.01,one-wayANOVA+Dunnett’stestC眼液を継続しながら併用点眼の変更があったC4眼と,内服薬の追加処方があったC6眼の計C10眼(13%)は継続例の検討から除いた.図1に継続例C39眼における眼圧経過を示した.リパスジル点眼追加前の眼圧はC18.0C±5.4CmmHgであり,追加後C1,3,6,C9,C12カ月の眼圧は,それぞれC14.9C±3.1CmmHg,15.2C±3.1CmmHg,15.5C±3.7CmmHg,15.1C±4.4CmmHg,14.9C±3.7mmHgとすべての観察期間で有意に低下していた(1,3カ月p<0.05,6,9,12カ月p<0.01,one-wayANOVA+Dun-nett’sCtest).期間中の平均眼圧下降幅はC2.8C±0.3CmmHg,平均眼圧下降率はC13.6C±1.0%であった.図2に継続例C39眼におけるC12カ月後の眼圧下降率の分布を示した.開放隅角緑内障(primaryCopenCangleCglauco-ma:POAG),正常眼圧緑内障(normaltensionglaucoma:NTG),落屑緑内障(exfoliationCglaucoma:EXG),続発緑内障(secondaryCglaucoma:SG),混合緑内障(combined)の病型別では,眼圧下降率がC30%以上であったのはC3眼(7%;POAG2眼,EXG1眼),20.30%未満C12眼(31%;表1患者背景全症例継続例症例数55例77眼28例39眼性別男性29例41眼11例15眼女性26例36眼17例24眼年齢C68.7±12.1歳C69.7±10.1歳追加前眼圧C18.8±4.9CmmHgC18.0±5.4CmmHg点眼剤数*C2.8±0.7(1.4剤)C2.8C±0.6(2.4剤)内眼手術既往なし35眼17眼あり**42眼22眼緑内障病期初期13眼7眼中期22眼10眼後期42眼22眼*配合剤はC2剤として計算.(mean±SD)**すべての症例で術後C3カ月以上が経過.図2継続例における12カ月後の眼圧下降率の分布12カ月後の眼圧下降率がC30%以上であったのは継続例39眼中3眼,20.30%未満12眼,10.20%未満12眼,10%未満C12眼であった.C6M12M-5051015-5051015眼圧下降幅(mmHg)眼圧下降幅(mmHg)図3継続例における点眼追加前眼圧と眼圧下降幅リパスジル点眼追加C6カ月後,12カ月後とも点眼追加前眼圧と眼圧下降幅に有意な正の相関を認めた.6カ月後p<0.001,r=0.735,12カ月後Cp<0.001,r=0.719,PearsonC’sCcorrelationcoe.cienttest.CPOAG8眼,NTG1眼,SG3眼),10.20%未満C12眼(31%;POAG7眼,NTG3眼,EXG1眼,SG1眼),10%未満C12眼(31%;POAG6眼,NTG4眼,EXGC1眼,com-binedC1眼)であった.眼圧下降率に病型別で有意差を認めなかった(p=0.67,chi-squaretest).図3にリパスジル点眼液追加前眼圧と眼圧下降幅の相関を示した.点眼前眼圧と眼圧下降幅に正の相関を認めた(6カ月p<0.001,r=0.735,12カ月Cp<0.001,r=0.719,PearsonC’scorrelationCcoe.cientCtest).さらに,年齢とC6カ月後の眼圧下降幅に正の相関を認めた(p<0.01,r=0.534,PearsonC’scorrelationcoe.cienttest).継続例を併用薬剤数別に分類すると,追加前平均眼圧はC2剤併用群C16.3C±4.1CmmHg,3剤C18.8C±5.1CmmHg,4剤C18.5C±10.3CmmHgと追加前眼圧に有意差なく(p=0.22,Krus-kal-WallisCtest),リパスジル点眼追加後の平均眼圧下降率はそれぞれC14.0C±3.8%,13.1C±3.4%,13.8C±4.1%であり,併用薬剤数別の眼圧下降率に有意差を認めなかった(p=0.87,Kruskal-Wallistest).途中点眼中止例はC28/77眼(36%)であった.有害事象による点眼中止はC12/77眼(16%)であり,内訳は眼瞼炎C9眼(追加1カ月後中止1眼,6カ月4眼,8カ月2眼,12カ月2眼),アレルギー性結膜炎C3眼(6カ月C3眼)であった.眼瞼炎とアレルギー性結膜炎に対する局所加療を継続しながらリパスジル点眼を継続したものはなかった.有害事象による中止例C12眼の平均緑内障点眼数はC2.4C±0.8剤であり,それ以外C55眼の平均緑内障点眼数C2.7C±0.6剤と有意差を認めなかった(p=0.24,unpairedt-test).手術施行による点眼中止がC10眼(POAG2眼,NTG1眼,EXGC5眼,SGC1眼,発達緑内障C1眼),無効と判断され点眼中止となったものがC6眼(POAGC3眼,NTGC1眼,EXG1眼,SGC1眼)であった.手術施行による点眼中止例C10眼の追加前眼圧はC21.1C±4.0mmHg,追加後C1,3,6,9カ月の眼圧はそれぞれC22.0C±7.6CmmHg(10眼),17.2C±2.3CmmHg(5眼),18.0C±3.4CmmHg(4眼),17.0C±5.7CmmHg(2眼)であり,有意な眼圧下降を認めなかった(それぞれCp=0.68,p=0.09,p=0.40,p=0.80,pairedCt-test).無効中止例C6眼の追加前眼圧はC17.3C±2.1CmmHg,追加後C1,3カ月の眼圧はそれぞれC16.2C±2.3CmmHg(6眼),17.5C±2.0CmmHg(4眼)であり,有意な眼圧下降を認めなかった(それぞれCp=0.21,p=0.72,pairedt-test).副作用として眼瞼炎とアレルギー性結膜炎以外の結膜充血がC7/77眼(9%),表層角膜炎については点眼追加前から認めるものがC22/77眼(29%),そのうち点眼追加による悪化がC5/77眼(6%)あったが,いずれも中止となる症例はなく,全身の副作用も認めなかった.CIII考按今回,緑内障点眼加療中の患者に対するリパスジル点眼液の追加投与により,有意な眼圧下降が得られることが示された.平均眼圧下降幅はC2.8CmmHg,平均眼圧下降率はC13.6%であった.これらの結果は,従来の報告4.8)と矛盾しないものであり,多剤併用におけるリパスジル点眼液追加加療の眼圧下降効果が確認できたと考える.眼圧下降率に病型別で有意差を認めなかったことは,今回の研究にあるような病型においては追加点眼でさらなる眼圧下降が得られる可能性があると考えられるが,今回の対象眼には手術既往眼を含むため,病型と眼圧下降効果の正確な評価には多数例での検討を要すると考える.今回の研究で,点眼追加前眼圧と眼圧下降幅に有意な正の相関を認め,追加前眼圧の高いほうがより大きな眼圧下降を得られることが示された.これは過去の報告5,6)と矛盾しないと考える.さらに,今回は年齢と眼圧下降幅に有意な正の相関がみられた.過去にも同様の報告9)がなされているが,これについてはCROCK阻害薬のターゲット細胞としての線維柱帯細胞が減少していない病期や罹患期間を考慮する必要があると考えられ,今後多数例での検討が必要であると考える.リパスジル点眼を追加薬として評価するために,併用薬剤数の影響を検討した.今回C2.4剤の併用薬剤があったが,併用薬剤数別の眼圧下降効果に有意差を認めなかった.リパスジルの点眼追加効果は過去の報告10)同様,併用薬剤数の影響を受けにくいと考えられる.これはリパスジル点眼の新しい眼圧下降機序によるものと考えられ,多剤併用下における追加点眼として選択薬の一つとなりうることを示すと考える.今回の研究で点眼継続が中止となった有害事象は眼瞼炎とアレルギー性結膜炎であり,すべてリパスジル点眼の中止と眼局所加療によって軽快が得られた.その発現率はC16%であり,過去の報告4)と同様であった.発現時期はC1.12カ月とばらつきがあったが,点眼追加後C1カ月で眼瞼炎が発症した症例以外はC6カ月後以降の発症であった.過去の報告において,点眼追加後C3カ月の経過観察では眼瞼炎やアレルギー性結膜炎の発症による中止例は少なく5.8),点眼追加後C8週以降での発症が多いとする報告4)があることから,今回の研究のようにアレルギー性結膜炎や眼瞼炎は追加C6カ月後以降も発症し,眼瞼炎においてはC12カ月後も発症する傾向にあり,長期使用において念頭に置くべき副作用であると考えられる.また,これら有害事象による点眼中止症例の緑内障点眼数がそれ以外の症例と有意差を認めなかったことは,併用点眼数の多さが眼瞼炎とアレルギー性結膜炎の発症に関連しない可能性を示唆すると考えられた.有害事象の発現は診療時間内の他覚所見で判断したため,もっとも多いと考えられる一過性結膜充血に関しては評価できなかった.今回の充血症例は持続充血であると考えられ,過去の報告4,6)より少なく正確に評価できていない可能性があるが,充血による継続中止例は認めなかった.角膜上皮障害については,すでに多剤併用療法による角膜炎がみられたものの悪化症例については過去の報告5)と同様であり,角膜炎悪化による点眼中止症例はなく,多剤併用症例にも追加可能であると考えられた.今回点眼継続例と途中中止例に分類して検討したため,12カ月以上点眼が継続できたのは全体のC51%と約半数であったが,これは併用薬剤数が多く手術加療を検討しているような症例にリパスジル点眼液が追加されたことが要因の一つであると考えられる.つまり経過中の手術施行による点眼中止と炭酸脱水酵素阻害薬の内服追加による継続例からの除外をC16眼(21%)に認めた.手術施行以外に効果不十分・無効として中止となったものはC6眼(8%)であったが,手術介入の時期を含めこれらは主治医の判断によるものであり,点眼効果不十分の判断,点眼継続と中止の基準において評価判定が統一されていなかったため,無効例の検討については今後多数例での検証が必要であると考えられる.本研究は後ろ向き研究であり,その性質上結果の解釈には注意を要する.継続例と中止例の判断,有害事象発現率については上記のように正確に評価されていない可能性があるが,今回の検討では新たな眼圧下降機序をもつリパスジル点眼液の追加投与によって,多剤併用においてもさらなる眼圧下降が得られる可能性があると考えられた.CIV結論リパスジル点眼液は多剤併用中でも追加投与によってさらなる眼圧下降を得る可能性のある薬剤であると考えられた.有害事象は眼局所であり重篤なものはなかったが,長期にわたりその発現に注意すべきと考えられた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)HonjoM,TaniharaH,InataniMetal:E.ectofrho-asso-ciatedCproteinCkinaseCinhibitorCY-27632ConCintraocularCpressureCandCout.owCfacility.CInvestCOphthalomolCVisCSciC42:137-144,C20012)KogaCT,CKogaCT,CAwaiCMCetCal:Rho-associatedCproteinCkinaseCinhibitor,CY-27632,CinducesCalterationCinCadhesion,CcontractionCandCmobilityCinCculturedChumanCtrabecularCmeshworkcells.ExpEyeResC82:362-370,C20063)InoueT,TaniharaH:Rho-associatedkinaseinhibitors:anovelCglaucomaCtherapy.CProgCRetinCEyeCResC37:1-12,C20134)TaniharaH,InoueT,YamamotoTetal:One-yearclini-calCevaluationCofC0.4%Cripasudil(K-115)inCpatientsCwithCopen-angleCglaucomaCandCocularChypertention.CActaCOph-thalmolC94:e26-e34,C20165)中谷雄介,杉山和久:プロスタグランジン薬,Cbブロッカー,炭酸脱水酵素阻害薬,ブリモニジンのC4剤併用でコントロール不十分な緑内障症例に対するリパスジル点眼液追加処方.あたらしい眼科33:1063-1065,C20166)吉谷栄人,坂田礼,沼賀二郎ほか:緑内障患者に対するリパスジル塩酸塩水和物点眼液の眼圧下降効果と安全性の検討.あたらしい眼科33:1187-1190,C20167)杉山哲也,清水恵美子,中村元ほか:リパスジル点眼液の原発開放隅角緑内障に対する短期成績:眼圧・視神経乳頭血流に対する効果.あたらしい眼科33:1191-1195,C20168)InataniCH,CKobayashiCS,CAnzaiCYCetCal:E.cacyCofCaddi-pilotstudy.ClinDrugInvestigC37:535-539,CDOIC10.1007CtionalCuseCofCripasudil,CaCRho-kinaseCinhibitor,CinCpatientsC/s40261-017-0509-0,C2017withCglaucomaCinadequatelyCcontrolledCunderCmaximumC10)InoueCK,COkayamaCR,CShiokawaCMCetCal:E.cacyCandCmedicaltherapy.JGlaucomaC26:96-100,C2017safetyofaddingripasudiltoexistingtreatmentregiments9)MatsumuraCR,CInoueCT,CMatsumuraCACetCal:E.cacyCofCforCreducingCintraocularCpressure.CIntCOphthalmol:DOIripasudilasasecond-linemedicationinadditiontoapros-10.1007/s10792-016-0427-9,C2017taglandinCanalogCinCpatientsCwithCexfoliationCglaucoma:aC***

非感染性ぶどう膜炎に伴う黄斑浮腫を対象としたTenon囊下投与によるWP-0508ST(マキュエイド®眼注用40mg)の第III相試験

2018年4月30日 月曜日

《原著》あたらしい眼科35(4):552.559,2018c非感染性ぶどう膜炎に伴う黄斑浮腫を対象としたTenon.下投与によるWP-0508ST(マキュエイドR眼注用40.mg)の第III相試験後藤浩*1志村雅彦*2宮井裕子*3飯田知弘*4*1東京医科大学臨床医学系眼科学分野*2東京医科大学八王子医療センター眼科*3わかもと製薬株式会社臨床開発部*4東京女子医科大学眼科学教室Phase3ClinicalTrialofSub-TenonInjectionofWP-0508ST(MaQaidROphthalmicInjection40mg)forMacularEdemainNoninfectiousUveitisHiroshiGoto1),MasahikoShimura2),HirokoMiyai3)andTomohiroIida4)1)DepartmentofOphthalmology,TokyoMedicalUniversity,2)DepartmentofOphthalmology,TokyoMedicalUniversityHachiojiMedicalCenter,3)ClinicalDevelopmentDepartment,WakamotoPharmaceuticalCo.,Ltd.,4)DepartmentofOphthalmology,TokyoWomen’sMedicalUniversityWP-0508ST(マキュエイドR眼注用C40Cmg)のCTenon.下投与における有効性および安全性を確認するため,非感染性ぶどう膜炎に伴う黄斑浮腫を有する患者C40例を対象に,多施設共同非遮蔽非対照試験を実施した.投与後C8週における中心窩網膜厚のスクリーニング時からの変化量は,臨床的に有効であると判断される基準として設定したC95%信頼区間の上限値.50Cμmを上回る改善であった.また,投与後C12週までの中心窩網膜厚,最高矯正視力および炎症スコア(前房細胞数および前房フレア)の推移において,スクリーニング時と比較して有意な改善が認められた.おもな副作用としては,眼圧上昇(15.0%),血中コルチゾールの減少(10.0%)および水晶体混濁進展(5.0%)がみられた.眼圧上昇例は眼圧下降薬の点眼または内服によりコントロール可能であった.水晶体混濁例は白内障手術に至ったが,視力予後は良好であった.WP-0508STは非感染性ぶどう膜炎に伴う黄斑浮腫治療の選択肢として有用であると考えられる.ToCevaluateCtheCe.cacyCandCsafetyCofCsub-TenonCinjectionCofCWP-0508ST(MaQaidRCOphthalmicCInjection40Cmg),CweCconductedCaCmulticenter,Copen-label,CuncontrolledCstudyConC40CsubjectsCwithCmacularCedemaCinCnon-infectiousuveitis.Theresultsindicatedthatthechangeincentralmacularthickness(CMT)at8weeksaftertheadministrationshowedimprovementexceedingtheupperlimitofthe95%con.denceintervalof.50Cmm,thecri-terionCforCclinicalCe.ectiveness.CInCaddition,CCMT,Cbest-correctedCvisualCacuityCandCin.ammationCscore(anteriorchamberCcellCcountCandCanteriorCchamberC.are)observedCupCtoC12CweeksCpost-administrationCindicatedCaCsigni.-cantCimprovementCfromCbaseline.CTheCmainCadverseCdrugCreactionsCwereCelevatedCintraocularCpressure(15.0%),decreasedbloodcortisol(10.0%),andprogressionoflensopacity(5.0%).Itwaspossibletocontroltheintraocularpressurewiththeeyedropsorinternalmedicinesforglaucoma.Thecaseswithlensopacityrequiredcataractsur-gery,CbutCtheCprognosisCforCvisualCacuityCwasCsatisfactory.CTheseCresultsCsuggestCthatCWP-0508STCisCanCe.ectiveCtherapeuticoptionforthetreatmentofmacularedemainnoninfectiousuveitis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)35(4):552.559,C2018〕Key.words:非感染性ぶどう膜炎,黄斑浮腫,トリアムシノロンアセトニド,Tenon.下投与,有効性,安全性,WP-0508ST.noninfectiousCuveitis,CmacularCedema,CtriamcinoloneCacetonide,Csub-tenonCinjection,e.cacy,Csafety,CWP-0508ST.C〔別刷請求先〕後藤浩:〒160-0023東京都新宿区西新宿C6-7-1東京医科大学臨床医学系眼科学分野Reprintrequests:HiroshiGoto,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,TokyoMedicalUniversity.6-7-1Nishi-Shinjyuku,Shinjyuku,Tokyo160-0023,JAPAN552(134)はじめにぶどう膜炎は,その病因から非感染性ぶどう膜炎と感染性ぶどう膜炎に分類されるが,2009年の日本眼炎症学会によるわが国におけるぶどう膜炎の原因疾患調査では,サルコイドーシス,Vogt-小柳-原田病,急性前部ぶどう膜炎など,その上位はいずれも非感染性ぶどう膜炎が占めていた1).非感染性ぶどう膜炎の治療としては,第一に副腎皮質ステロイド薬(ステロイド)の局所投与または内服が行われ,これらの治療で効果不十分の場合にはシクロスポリン,メトトレキサートなどの免疫抑制薬治療が行われるのが一般的である2).ステロイドによる治療においても,可能な限り局所投与での治療から試みることが原則となる3).ぶどう膜炎はその原因にもよるが予後不良に至ることも珍しくなく,ぶどう膜炎患者の約C35%が重度の視覚障害あるいは社会的失明に至ることが報告されている4,5).一方,ぶどう膜炎患者の約C3割が黄斑浮腫を伴うことが知られている4).黄斑浮腫の慢性化は視細胞に不可逆的な障害をきたし,恒久的な視力障害に至ることが危惧されるため,治療時期を逃がさずに黄斑浮腫を抑制することが重要である.トリアムシノロンアセトニド(triamcinoloneCacetonide:TA)を有効成分としたCWP-0508ST(マキュエイドCR眼注用40Cmg)は,硝子体手術時の硝子体可視化薬および硝子体内投与による糖尿病黄斑浮腫治療薬として製造販売承認を取得しており,2017年C3月にCTenon.下の投与経路において「糖尿病黄斑浮腫,網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫及び非感染性ぶどう膜炎に伴う黄斑浮腫の軽減」の効能・効果の追加承認を取得した.本報告では,「非感染性ぶどう膜炎に伴う黄斑浮腫の軽減」の効能・効果承認のために実施された多施設共同非遮蔽非対照試験の結果を報告する.本治験は,ヘルシンキ宣言に基づく倫理的原則,薬事法,薬事法施行規則,「医薬品の臨床試験の実施の基準(GCP)」,ならびに治験実施計画書を遵守し実施された.CI対象および方法1..実施医療機関および治験責任医師本治験はC2015年C1月.2016年C7月に全国C13医療機関において,各々の治験責任医師のもと実施された(表1).試験実施に先立ち,各医療機関の治験審査委員会において試験の倫理的および科学的妥当性が審査され,承認を得た.C2..対象対象患者は,活動性の眼感染(ウイルス,細菌,真菌,寄生虫,原虫など)を除いた,非感染性ぶどう膜炎に伴う黄斑浮腫を有する患者とした.おもな選択・除外基準は表2に示した.本治験の開始に先立ち,すべての被験者に対して試験の内容を十分に説明し,自由意思による治験参加の同意を本表.1治験実施医療機関一覧治験実施医療機関名治験責任医師名*北海道大学病院南場研一東北大学病院丸山和一順天堂大学医学部附属浦安病院海老原伸行日本医科大学付属病院堀純子東京医科大学病院毛塚剛司東京大学医学部附属病院蕪城俊克東京医科歯科大学医学部附属病院高瀬博東京慈恵会医科大学附属病院酒井勉,久米川浩一名古屋市立大学病院吉田宗徳JCHO大阪病院大黒伸行山口大学医学部附属病院園田康平,柳井亮二宮田眼科病院宮田和典淀川キリスト教病院中井慶*治験期間中の治験責任医師をすべて記載した(順不同).人から文書にて取得した.C3..試.験.方.法a..治験デザイン本治験は,多施設共同非遮蔽非対照試験として実施した.Cb..治験薬・投与方法1バイアル中にCTAC40Cmgを含有するCWP-0508STに生理食塩液をC1Cml加え,懸濁液C0.5Cml(TA20Cmg)を対象眼のCTenon.下に単回投与した.方法は以下の手順に従った.抗菌薬および麻酔薬を点眼後,結膜円蓋部下耳側に剪刀を用いて小切開を加え,切開創から挿入した鈍針を強膜壁に沿って眼球後方まで針先を押し進め,後部CTenon.に懸濁液を投与した.投与後は抗菌薬の点眼による感染予防処置を行った.C4..検査・観察項目検査・観察スケジュールを表3に示した.まず,蛍光眼底造影検査によって黄斑浮腫の有無を確認し,選択基準の判定および糖尿病網膜症などの除外基準の判定を行った.中心窩網膜厚は光干渉断層計(opticalCcoherenceCtomography:OCT)を用い,中心窩から半径C0.5Cmm範囲の平均網膜厚の値を評価した.なお,実施医療機関で撮像されたCOCT画像については,東京女子医科大学に設置されたCOCT判定会にて専門家による判定が行われた.最高矯正視力の測定はEarlyCTreatmentCDiabeticCRetinopathyCStudy(ETDRS)チャートを用いて行った.その他,眼圧,細隙灯顕微鏡検査,眼底検査,血圧・脈拍数および臨床検査を観察項目とした.投与後に認められた臨床上好ましくない疾病あるいは徴候を収集し,有害事象として評価した.なお,投与後C12週までを「観察期間」とし,対象疾患に対する併用治療(ステロイドの全身投与や抗CVEGF薬の局所投与,硝子体手術,レーザー治療など)および視力に影響を及ぼす可能性のある処置(白内障手術,緑内障手術など)を禁止とした.ただし,表.2おもな選択および除外基準選択基準(1)年齢がC20歳以上C80歳未満(2)対象眼が非感染性ぶどう膜炎に伴う黄斑浮腫と判断された者(3)対象眼の視力がCETDRS視力表を用いてC20文字からC80文字(小数視力換算でC0.05以上C0.8以下)(4)対象眼の中心窩網膜厚が,OCTによる測定でC300Cμm以上(5)対象眼の眼圧がC21CmmHg以下(6)自由意思による治験参加の同意を本人から文書で取得できる者除外基準(1)対象眼に,網膜静脈閉塞症,糖尿病網膜症,加齢黄斑変性症,偽(無)水晶体眼性.胞様黄斑浮腫,重度の黄斑虚血,重度の黄斑上膜,中心性漿液性網脈絡膜症,虹彩ルベオーシスまたは強度近視の症状を有する(2)対象眼に,細隙灯顕微鏡検査,眼底検査またはCOTCによる中心窩網膜厚の評価および測定が困難なほどの透光体混濁(網膜前・硝子体出血,または水晶体混濁など)を認める(3)対象眼に,角膜上皮.離または角膜潰瘍を有する(4)対象眼に,緑内障,高眼圧症または既往歴を有する(5)対象眼に眼内悪性リンパ腫を有する(6)コントロール不能な全身性疾患を有する(7)全身衰弱,重篤な心疾患,重篤な脳血流障害または肝硬変を有する(8)対象眼への硝子体手術が治験薬投与前C52週以内に実施(9)対象眼への副腎皮質ステロイド薬のCTenon.下または球後への投与が治験薬投与前C24週以内に実施(10)対象眼への薬剤の硝子体内投与が治験薬投与前C24週以内に実施(11)免疫抑制薬,免疫調節薬,代謝拮抗薬またはアルキル化薬の投与が治験薬投与前C24週以内に実施(12)対象眼へのレーザー治療または内眼手術が,治験薬投与前C12週以内に実施(13)副腎皮質ステロイド薬,経口炭酸脱水酵素阻害薬,抗CTNF-a抗体薬,ワルファリンまたはヘパリンの投与が,治験薬投与前C4週以内に実施(14)妊婦または授乳婦(15)その他治験医師または治験分担医師が不適と判断表.3検査・観察スケジュール観察項目スクリーニング時観察期間追跡調査投与日翌日週1週4週8週12中止時6,9,1C2カ月同意取得C●患者背景C●症例登録C●治験薬投与C●眼科検査光干渉断層計測定C●C●C●C●C●C●C●最高矯正視力C●C●C●C●C●C●C●眼圧C●C●C●C●C●C●C●C●細隙灯顕微鏡検査C●C●C●C●C●C●C●C●眼底検査C●C●C●C●C●C●C●眼底撮影C●C●C●C●蛍光眼底造影検査C●血圧・脈拍数C●C●C●C●臨床検査C●C●C●C●C●診察・問診C●C●C●C●C●C●C●妊娠検査C●併用薬・併用療法の検査C●C●C●C●C●C●C●C●有害事象C●C表.4前房細胞数の判定基準スコア00.5+1+2+3+4+SUNCWorkingCGroupによるスコア分類(視野サイズは縦C1CmmC×横C1Cmmのスリット光)被験者の利益性を優先し治療が必要とされた場合は本治験を中止・終了とした.C5..評価項目および方法a..有効性主要評価項目は,中心窩網膜厚のスクリーニング時からの変化量とした.臨床的に有効であると判断される基準をC.50Cμmと設定し,95%信頼区間の上限がC.50Cμmを上回る改善であればCWP-0508STの有効性が確認されるものとした.評価時点は投与後C8週とし,8週より前に中止または脱落した症例についても最終検査日のデータを評価に含めた.副次的評価項目は,中心窩網膜厚の推移,EDTRSチャートによる最高矯正視力の推移,炎症スコア(前房細胞数,前房フレア)の投与後C12週までの推移とした.Cb..安全性投与後C12カ月までに発現した有害事象および副作用,最高矯正視力,眼圧,細隙灯顕微鏡検査,眼底検査,血圧・脈拍数,臨床検査の各項目を評価した.C6..解.析.方.法a..解析対象集団主要な有効性解析対象集団は,最大の解析対象集団(fullanalysisCset:FAS)とし,治験実施計画書に適合した解析対象集団(PerProtocolSet:PPS)についても検討した.安全性の解析は,治験薬の投与が行われたすべての症例を対象とした.Cb..解.析.方.法主要評価項目は,中心窩網膜厚の変化量について要約統計量およびC95%信頼区間を算出した.副次的評価項目は,中心窩網膜厚および最高矯正視力について,各評価時点における要約統計量を算出し,対応あるCt検定を実施した.また,炎症性スコアはCStandardizedCUveitisCNomenclature(SUN)ワーキンググループが報告した基準(表4および表5)6)に従ってスコア化し,Wilcoxonの符号付順位和検定を行った.検定は両側検定で行い,有意水準は5%とした.C表.5前房フレアの判定基準II試.験.成.績1..被験者の内訳被験者の内訳を図1に示した.本治験の参加に同意し登録された被験者数はC41例であった.登録された被験者のうち1例が治験薬投与前に黄斑浮腫が改善したため投与未実施となり,投与実施被験者数はC40例となった.そのうちC6例が投与後C12週以内に中止・脱落し,12週間の観察期を完了した被験者数はC34例であった.投与後C12週以内の中止・脱落理由は,「有害事象の発現により併用禁止薬又は併用禁止療法の処置の必要性が生じたため」がC4例,「黄斑浮腫の再発及び合併症の治療のため」がC2例であった.12週間の観察期を完了したC34例は投与後C6カ月,9カ月の追跡調査へ移行し,投与後C12カ月の追跡調査終了前に同意撤回したC2例を除くC32例が全追跡調査を終了した.被験者背景(FAS)を表6に示した.表.6被験者背景(FAS)項目例数解析対象被験者数C39男11(28.2%)性別女28(71.8%)平均値±標準偏差C59.5±15.22年齢(歳)[最小値.最大値][23.78]サルコイドーシス13(33.3%)Vogt-小柳-原田病1(2.6%)Behcet病4(10.3%)ぶどう膜炎の原因分類その他21(53.8%)急性前部ぶどう膜炎2(9.5%)炎症性腸疾患に伴うぶどう膜炎1(4.8%)分類不能のぶどう膜炎18(85.7%)ぶどう膜炎罹病期間(年)平均値±標準偏差C3.95±5.376ぶどう膜炎に伴う黄斑浮腫罹病期間(年)平均値±標準偏差C1.93±4.433平均値±標準偏差C484.5±189.54中心窩網膜厚(μm)[最小値.最大値][307.1351]平均値±標準偏差C64.2±12.44最高矯正視力(文字)[最小値.最大値][32.80]平均値±標準偏差C14.2±2.74眼圧(mmHg)[最小値.最大値][9.20]020(C51.3%)C0.5+8(2C0.5%)C前房細胞数C1+2+8(2C0.5%)C2(5C.1%)C3+1(2C.6%)C炎症スコア4+0(0C.0%)029(C74.4%)C1+9(2C3.1%)C前房フレアC2+1(2C.6%)C3+0(0C.0%)C4+0(0C.0%)2..有効性投与が実施された被験者C40例のうち,1例で除外基準に抵触(投与前より経口炭酸脱水酵素阻害薬使用)があり,FASおよびCPPS不採用となった.有効性データの取り扱いはすべてCFASとCPPSで同一であった.Ca..主要評価項目に関する結果評価時の中心窩網膜厚およびスクリーニング時からの変化量の結果を表7に示した.中心窩網膜厚のスクリーニング時からの変化量は,C.114.0(C.160.9.C.67.1)μm[平均値(95%信頼区間下限.上限)]であり,95%信頼区間の上限はあらかじめ設定した基準である.50Cμmを上回る改善が認められた.Cb..副次的評価項目に関する結果投与後C12週までの中心窩網膜厚の推移を図2に,変化量を表8に示した.各評価時点の中心窩網膜厚は,スクリーニング時:484.5C±189.54Cμm(平均値C±標準偏差,以下同様)投与後C1週:405.0C±191.24Cμm,4週:381.9C±162.26Cμm,,8週:374.5C±135.57Cμm,12週:371.8C±153.11Cμmと,スクリーニング時に比較していずれの評価時点においても有意な改善がみられた(すべてp<0.001).投与後C12週までの最高矯正視力の推移を図3に,変化量を表9に示した.各評価時点のスクリーニング時からの最高矯正視力は,スクリーニング時:64.2C±12.44文字,投与後1週:69.1C±11.49文字,4週:72.6C±9.89文字,8週:74.1C±9.99文字,12週:74.9C±9.10文字と,スクリーニング時に比較していずれの評価時点においても有意な改善がみられた(すべてp<0.001).投与後C12週までの炎症スコア(前房細胞数,前房フレア)表.7評価時の中心窩網膜厚(FAS,解析対象被験者数39例)中心窩網膜厚中心窩網膜厚変化量平均値±標準偏差対応あるCt検定平均値±標準偏差スクリーニング時評価時C[95%信頼区間(下限.上限)].114.0±144.59484.5±189.54C370.5±128.89p<0.001C[.160.9.C.67.1](単位:μm)70010090中心窩網膜厚(μm)600最高矯正視力(文字)80706050403020500400300200100100スクリー1週後4週後8週後12週後0スクリー1週後4週後8週後12週後ニングニング評価時期評価時期図.2中心窩網膜厚の推移(FAS)図.3最高矯正視力の推移(FAS)平均値±標準偏差.***:p<0.001,対応あるCt検定.平均値±標準偏差.***:p<0.001,対応あるCt検定.表.8中心窩網膜厚変化量の推移(FAS)評価時期1週後4週後8週後12週後解析対象被験者数C39C35C35C33中心窩網膜厚変化量(μm,平均値C±標準偏差)C.79.5±84.61C.110.3±111.91C.121.5±150.23C.115.3±115.85表.9最高矯正視力変化量の推移(FAS)評価時期1週後4週後8週後12週後解析対象被験者数C39C35C35C33最高矯正視力変化量(改善文字数,平均値±標準偏差)C4.9±7.04C8.4±7.76C10.3±8.32C9.8±8.68Cの推移を図4および図5に示した.前房細胞数の推移については,スクリーニング時に比較していずれの評価時点においても有意な改善がみられた(すべてCp<0.001).前房フレアの推移については,投与後C1日およびC1週では有意な改善がみられなかったものの,投与後C4週,8週,12週においては有意な改善がみられた(すべてp<0.01).C3..安全性a..副作用有害事象のうち被験薬との因果関係が否定できないものを副作用とし,結果を表10に示した.投与後C12カ月までに発現した副作用はC40例中C12例(30.0%)であり,発現率C5.0%以上の副作用は,眼圧上昇C6例(15.0%),血中コルチゾール減少C4例(10.0%),水晶体混濁C2例(5.0%)であった.血中コルチゾール減少については,いずれも軽度および投与初期の一過性の発現であり処置なしで回復した.投与後C12週以内に有害事象が発現し,中止に至った被験者について,いずれも治験薬との因果関係は認められなかった.ニング評価時期図.4前房細胞数の推移(FAS)平均値±標準偏差.###:p<0.001,Wilcoxonの符号付順位和検定.表.10副作用一覧器官別大分類(SOC)発現率基本語(PT)発現例数(%)解析対象被験者数C40眼障害結膜出血C1C2.5眼痛C1C2.5水晶体混濁C2C5.0網膜出血C1C2.5視力低下C1C2.5眼圧上昇C6C15.0臨床検査血中コルチゾール減少C4C10.0血中ブドウ糖増加C1C2.5血中トリグリセリド増加C1C2.5CMedDRA/Jver.18.1Cb..眼圧上昇に関する評価眼圧上昇が認められたC6例の内訳は,24CmmHg以上C30mmHg未満がC3例,30CmmHg以上がC2例,眼圧上昇の程度不明がC1例であった.投与から眼圧上昇発現日までの期間は56.0(8.98)日[平均値(最小値.最大値),以下同様]であり,眼圧上昇の持続期間はC194.5(28.345)日であった.6例のうち,無処置で消失したC1例を除くC5例では眼圧下降薬の点眼または内服により転帰は消失または軽快となり,ろ過手術などの外科的処置に至った症例はみられなかった.Cc..水晶体混濁に関する評価水晶体混濁の進展が認められたC2例の投与から混濁の進展が認められるまでの期間は,231.5(218およびC245)日[平均(最小値および最大値)]であった.WHO分類7)を用いた進展段階判定では,それぞれ混濁なしまたは軽度からC1段階の進展であった.これらC2例については白内障手術が施行され,1例は入院を伴う白内障手術のため重篤な副作用と判断スクリー1日後1週後4週後8週後12週後ニング評価時期図.5前房フレアの推移(FAS)平均値±標準偏差.##:p<0.01,Wilcoxonの符号付順位和検定.された.手術後の転帰は消失であった.CIII考察非感染性ぶどう膜炎の原因は,Behcet病,Vogt-小柳-原田病,サルコイドーシスなど,多くの場合が全身疾患と関連しており1),自己免疫反応などにより産生された炎症性因子が血液を介してぶどう膜組織に到達し,眼内炎症を惹起しているものと考えられる.ぶどう膜炎の遷延により,眼内にサイトカインなどを産生する炎症細胞の浸潤に加え,壊死細胞や滲出液が貯留する.とくに黄斑部には滲出液が生じやすく,大部分は中心窩周囲の内顆粒層と外網状層に滲出液が貯留し,.胞様黄斑浮腫となることが多い.黄斑浮腫は原疾患によって発生頻度や性状が異なることが知られているが,たとえばCBehcet病ではびまん性黄斑浮腫または.胞様黄斑浮腫を生じる可能性がある.TAには炎症性物質の産生抑制作用のほか,血管透過性亢進抑制および血液網膜関門の破綻を改善する作用機序があり,ぶどう膜炎に併発する黄斑浮腫に対しても有効であると考えられている8,9).TAの黄斑浮腫治療としては,2001年にCJonas10)が糖尿病黄斑浮腫を対象としてCTA硝子体内投与により浮腫が軽減することを報告して以来,国内外での報告が相つぎ,ぶどう膜炎に伴う黄斑浮腫に対しても多くの報告でCTAのCTenon.下および硝子体内投与の有効性が確認されている11,12).Sugarら13)は非感染性ぶどう膜炎患者にフルオシノロンの眼内インプラント治療を行った結果,中心窩網膜厚がC20%以上改善した患者群では,平均C11.0文字の最高矯正視力の改善を報告している.本治験ではこの報告を参考に中心窩網膜厚の変化量のC95%信頼区間の上限をC.50Cμmとして設定した.その結果,主要評価項目である中心窩網膜厚の変化量は基準を上回る.67.1Cμmの改善を示し,WP-0508STの有効性が確認された.また,最高矯正視力の変化量は,投与後C(140)12週で平均C9.7文字とCETDRS視力表で約C2段階(10文字)に相当する改善が認められ,Sugarら13)の報告と同様,中心窩網膜厚の改善に伴う視力の改善が確認され,その改善値もほぼ同様の結果となった.炎症スコア(前房細胞数,前房フレア)についても有意な改善が認められ,前眼部炎症に対する抑制効果が示された.安全性については,TAの眼内投与におけるおもな副作用として眼圧上昇や水晶体混濁が知られている.Levinら14)はTAのCTenon.下投与における眼圧上昇の発現率はC47眼中9眼(19%)であったことを報告しており,本治験においても同程度の発現頻度であった.もともとぶどう膜炎では,その合併症として眼圧上昇をきたすことがあるため15),WP-0508STの使用に際しては眼圧コントロール不良な患者やステロイドレスポンダーへの投与を避けること,また眼圧上昇の徴候がみられた場合は速やかに眼圧下降薬点眼による治療を行うことなどの十分な注意が必要である.水晶体混濁について吉村ら16)は,TATenon.下投与後C44眼中C8眼(18%)に後.下白内障が認められ,その発症時期は平均で投与後8.8カ月であったと報告している.本治験における水晶体混濁進展時期は,平均で投与後C8.3カ月であり,吉村らの報告と類似していた.このようにCTACTenon.下投与による白内障の発症および進展は,投与から時間が経過した後に認められていることから,WP-0508ST投与後は長期的な経過観察が必要であると考えられる.何らかの病原性微生物によって発症する感染性ぶどう膜炎に対してステロイドを使用することは,炎症の増悪や病巣の拡大など重篤な副作用が懸念されることから17),ぶどう膜炎の診断は慎重に行い,感染性ぶどう膜炎が疑われる場合には安易にCWP-0508STを使用しないことが重要であることはいうまでもない.以上,WP-0508STの非感染性ぶどう膜炎に伴う黄斑浮腫の改善効果が確認された.また,視力障害や失明のリスクを考えると,その副作用は十分忍容されるものと考えられ,WP-0508STの本疾患に対する有用性が示された.利益相反:後藤浩,志村雅彦,飯田知弘:カテゴリーCC:わかもと製薬㈱文献1)OhguroN,SonodaKH,TakeuchiMetal:The2009pro-spectiveCmulti-centerCepidemiologicCsurveyCofCuveitisCinCJapan.JpnJOphthalmol56:432-435,C20122)蕪木俊克:ぶどう膜炎の最近の治療.眼科C50:435-443,C20083)蕪木俊克:これからの非感染性ぶどう膜炎の治療戦略.あたらしい眼科34:505-511,C20174)RothovaA,Suttorp-vanSchultenMS,FritsTre.ersWetal:CausesCandCfrequencyCofCblindnessCinCpatientsCwithCintraocularCin.ammatoryCdisease.CBrCJCOphthalmolC80:C332-336,C19965)NussenblattCRB:TheCnaturalChistoryCofCuveitis.CIntCOph-thalmol14:303-308,C19906)JabsCDA,CNussenblattCRB,CRosenbaumCJT:Standardiza-tionCofCuveitisCnomenclatureCforCreportingCclinicalCdata.CResultsCofCtheCFirstCInternationalCWorkshop.CAmCJCOph-thalmol140:509-516,C20057)ThyleforsB,ChylackLTJr,KonyamaKetal:Asimpli-.edCcataractCgradingCsystem.COphthalmicCEpidemiolC9:C83-95,C20028)橋田徳康:ステロイドなどの局所投与(点眼と眼周囲注射).あたらしい眼科34:469-474,C20179)FlomanCN,CZorCU:MechanismCofCsteroidCactionCinCocularin.ammation:InhibitionCofCprostaglandinCproduction.CInvestOphthalmolVisSci16:69-73,C197710)JonasCJB,CSofkerCA:IntraocularCinjectionCofCcrystallineCcortisoneCasCadjunctiveCtreatmentCofCdiabeticCmacularCedema.AmJOphthalmolC132:425-427,C200111)OkadaCAA,CWakabayashiCT,CMorimuraCYCetCal:Trans-Tenon’sCretrobulbarCtriamcinoloneCinfusionCforCtheCtreat-mentofuveitis.BrJOphthalmol87:968-971,C200312)AtmacaCLS,CYalcindaC.FN,COzdemirCO:IntravitrealCtri-amcinoloneacetonideinthemanagementofcystoidmacu-laredemainBehcet’sdisease.GraefesArchClinExpOph-thalmol245:451-456,C200713)SugarCEA,CJabsCDA,CAltaweelCMMCetCal:IdentifyingCaCclinicallymeaningfulthresholdforchangeinuveiticmacu-larCedemaCevaluatedCbyCopticalCcoherenceCtomography.CAmJOphthalmol152:1044-1052,C201114)LevinDS,HanDP,DevSetal:Subtenon’sdepotcortico-steroidCinjectionsCinCpatientsCwithCaChistoryCofCcorticoste-roid-inducedCintraocularCpressureCelevation.CAmJOph-thalmol133:196-202,C200215)蕪城俊克,川島秀俊:ぶどう膜炎併発緑内障における手術の適応・術式の選択・術後処置.あたらしい眼科C21:13-19,C200416)吉村将典,平野佳男,野崎美穂ほか:トリアムシノロン局所投与後の後.下白内障の発症頻度.日眼会誌C112:786-789,C200817)高瀬博:感染性ぶどう膜炎.OCULISTA5:69-77,C2013***

ビマトプロスト点眼液(ルミガン®点眼液0.03%)の使用成績調査

2018年3月31日 土曜日

《原著》あたらしい眼科35(3):399.409,2018cビマトプロスト点眼液(ルミガンR点眼液0.03%)の使用成績調査石黒美香*1北尾尚子*1末信敏秀*1川瀬和秀*2山本哲也*2*1千寿製薬株式会社研究開発本部育薬研究推進部*2岐阜大学大学院医学系研究科眼科学Post-marketingStudyofBimatoprostOphthalmicSolution(LUMIGANROphthalmicSolution0.03%)MikaIshikuro1),NaokoKitao1),ToshihideSuenobu1),KazuhideKawase2)andTetsuyaYamamoto2)1)MedicalScienceDepartment,SenjuPharmaceuticalCo.,Ltd.,2)DepartmentofOphthalmology,GifuUniversityGraduateSchoolofMedicineビマトプロスト点眼液(ルミガンCR点眼液C0.03%)の使用実態下における安全性,有効性の確認および問題点の検出などを目的として,ビマトプロスト点眼液が新たに投与された緑内障・高眼圧症患者を対象に,プロスペクティブな中央登録方式で使用成績調査を実施した.最長C24か月の観察において,副作用はC4,680例中C2,310例(49.36%)に認められ,おもな副作用は結膜充血C27.05%などの眼局所の事象であった.眼圧評価対象C4,396例における平均眼圧は投与開始時C18.8C±6.2CmmHgで,投与開始C1か月目以降のすべての観察時点において有意(p<0.0001)な下降を示し,24か月目の平均眼圧下降率はC18.2C±19.1%であった.また,いずれの病型においても投与C1か月目以降,有意な眼圧下降を示した.ビマトプロスト点眼液は副作用が一定程度発現するが,持続的な眼圧下降効果が認められ,有用な薬剤であると考えられた.Thisprospectivestudyaimstoevaluatethesafetyande.cacyoftopicalbimatoprost(LUMIGANCRCophthalmicsolution0.03%)onpatientswithglaucomaorocularhypertension(OH)C.Weenrolledpatientswhoreceivedanini-tialdoseofbimatoprost.Adversedrugreactions(ADRs)wereobservedin2,310outof4,680patientsduringthestudyperiod(upto24months).Oculareventssuchasconjunctivalhyperemia(incidencerate27.05%)comprisedtheCmajority.CMeanCintraocularCpressure(IOP)inC4,396CpatientsCwasC18.8C±6.2CmmHgCatCbaseline,Cdecreasingsigni.cantlyCatCallCobservationCpointsCafterC1Cmonth(p<0.0001)C.CAverageCIOPCreductionCrateCatC24CmonthsCwasC18.2±19.1%.CSigni.cantCIOPCreductionCwithCbimatoprostCwasCnotCassociatedCwithCanyCglaucomaCtypeCorCOH.CAlthoughsomeADRswereobservedwithitsuse,bimatoprostshowedsigni.canthypotensivee.ectinpersistent-ly.TheseresultssuggestthattopicalbimatoprostisanalternativetreatmentforglaucomaandOH.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C35(3):399.409,C2018〕Keywords:ビマトプロスト,ルミガンCR点眼液C0.03%,プロスタグランジン,安全性,有効性,眼圧.bimato-prost,LUMIGANRophthalmicsolution0.03%,prostaglandin,safety,e.cacy,intraocularpressure.はじめに緑内障治療の目的は視機能の維持であり,眼圧下降がエビデンスに基づく唯一の確実な治療法である1).1CmmHgの眼圧下降により緑内障性視野障害の進行リスクは約C10%低減する2).眼圧下降には,薬物治療,レーザー治療,観血的手術治療の選択肢があるが,通常は点眼薬による治療が開始される.すでに多くの緑内障治療点眼薬が存在するなかで,プロスタグランジン(prostaglandin:PG)関連薬は優れた眼圧下降効果を有し,全身性の副作用が少ないことから,第一選択薬として使用されている.国内では,1994年にイソプロピルウノプロストン点眼液が発売されて以降,ラタノプロスト点眼液,トラボプロスト点眼液,タフルプロスト点眼液が〔別刷請求先〕石黒美香:〒541-0048大阪市中央区瓦町C3-1-9千寿製薬株式会社研究開発本部育薬研究推進部Reprintrequests:MikaIshikuro,MedicalScienceDepartment,SenjuPharmaceuticalCo.,Ltd.,3-1-9,Kawara-machi,Chuo-ku,Osaka541-0048,JAPAN上市され汎用されており,PG関連薬による眼圧下降治療が視野障害進行の抑制に有効であったことがプラセボを対照としたランダム化比較試験により立証されている3).このように,眼圧下降を目的とした薬物治療は欠かせないものとなる一方で,薬剤の効果には個人差があり,PG関連薬を使用しても十分な眼圧下降が得られない,いわゆるノンレスポンダーが,いずれの薬剤においても一定の割合で存在することが知られている.2009年に発売されたビマトプロスト点眼液(ルミガンCR点眼液C0.03%,以下,本剤)は,新規に合成されたプロスタマイド誘導体で,強力な眼圧下降作用をもつCPG関連薬であり,緑内障治療における第一選択薬に新たな選択肢として加わった.一方,医薬品開発段階の臨床試験(治験)では,厳格なクライテリアに基づき患者が選択され,併用薬などについても厳格に管理されるが,臨床現場においては,年齢,合併症,併用薬など,さまざまな点で治験の様相と異なることから,治験で得られた情報だけでは十分とはいえず,市販後においても安全性,有効性の情報を収集・評価し,医療関係者へ提供することにより,適正使用の確保を図ることが重要となる.そこで今回,製造販売後の使用実態下における安全性,有効性の確認および問題点の検出などを目的として,2009年10月.2015年C12月まで使用成績調査(以下,本調査)を実施し,本剤の安全性および有効性(眼圧下降効果)について検討したので報告する.CI対象および方法1.調.査.方.法本調査は,本剤の使用経験のない緑内障・高眼圧症患者を対象とし,「医薬品の製造販売後の調査及び試験の実施の基準に関する省令」(厚生労働省令第C171号)に則り,プロスペクティブな中央登録方式で実施した.2009年C10月.2012年C11月の症例登録期間に,契約医療機関において新たに本剤を投与開始した症例について,投与開始日からC14日以内に中央登録センターにCFAXすることで症例登録した.目標症例数は投与開始後C1年を超える経過観察症例として3,000例,観察期間は原則C12か月以上,最長C24か月とし,投与開始日からC3か月目,12か月目およびC24か月目までの3分冊の調査票を各観察期間終了後に回収した.調査項目は,性別,年齢,病型,合併症,本剤の投与状況,前治療薬(本剤投与前C1か月以内に使用した薬剤),併用薬,併用療法(薬物以外の療法),臨床経過(他覚所見,眼科検査),有害事象,有効性評価などとし,他覚所見および眼科検査には,結膜充血スコア,角膜フルオレセイン染色スコア,眼瞼色素沈着/虹彩色素沈着/睫毛異常の有無と推移,視力値,眼圧値,視野障害の進行有無を設定して,イベント発生を検出した.また,有害事象が発現し本剤投与を中止または終了した症例は,原則C6か月後に回復性(転帰)を確認した.なお,本調査は介入を行わない観察研究であるため,治療歴,併用する薬剤および療法,眼科検査の測定機器や測定方法などに制限は設けなかった.本調査は,医薬品医療機器総合機構による調査計画書の審査を経て,実施されたものである.C2.評.価.方.法安全性の評価対象は,投与開始以降C3か月目までに再来院のあった症例とした.本剤投与中あるいは投与後に発現した医学的に好ましくない事象(疾患,自他覚症状,臨床検査値の異常変動)を有害事象として収集し,そのうち本剤との因果関係を否定できないと判断されたものを副作用として取り扱った.副作用は,ICH国際医薬用語集日本語版(MedicalDictionaryCforCRegulatoryCActivities/J:MedDRA/J)ver-sionC20.0に基づき下層語にて分類し,発現数および発現頻度を算出した.また,重篤な副作用を検討した.主要な副作用については,1か月目,2か月目,3か月目,6か月目,12か月目およびC24か月目時点における累積発現率ならびに発現症例における本剤中止率を検討した.さらに,PG関連薬の特徴的な副作用であるくぼんだ眼(deepeningofuppereyelidsulcus:DUES)について,発現ならびに本剤中止後の転帰に影響を及ぼす患者背景等因子を探索するため,Cox比例ハザードモデルによる多変量解析で検討し,ハザード比およびC95%信頼区間を求めた.転帰は,担当医師による,回復,軽快,未回復,回復したが後遺症あり,死亡および不明のC6区分での判定とした.眼圧下降効果の評価は,安全性評価対象症例のうち,投与開始時および投与後C24か月目までにC1時点以上の眼圧が測定された症例を対象に,眼圧の推移を検討した.評価眼はC1症例C1眼とし,両眼投与の場合は投与開始時の眼圧が高い眼,開始時眼圧が同値の場合は右眼とした.ただし,投与期間中に眼手術を施行した眼は除外し,休薬期間がある場合は休薬前まで,中止症例は中止時までの眼圧値を評価対象とした.眼圧の推移は,眼圧評価対象全例に加え,病型別,治療薬の使用状況別,開始時眼圧値別にも検討した.眼圧および眼圧下降率は平均±標準偏差を算出し,投与開始時と各経過観察時の眼圧を,Dunnett型の多重性調整を行った対応のあるCt検定で比較した.なお,眼圧下降率は,(開始時眼圧C.投与後眼圧)/開始時眼圧C×100(%)として算出した.統計解析は,本調査計画に則り株式会社CCACクロアで実施した.副作用の発現と転帰に影響を及ぼす因子の検討(Cox比例ハザードモデルによる多変量解析)については,解析計画策定以降に検討の必要があると判断し,千寿製薬にて追加解析を行った.統計解析ソフトはCSASC9.2およびSAS9.3(SASInstituteInc.)を用い,有意水準は両側5%とした.CII結果1.症.例.構.成528施設C1,288名の医師と契約締結し,504施設からC5,083例の調査票を収集した.このうち初診時以降に再来院がなかった症例などのC403例を除いたC4,680例を安全性評価対象症例,さらに,4,396例を眼圧評価対象症例とした(図1).C2.患.者.背.景安全性評価対象症例の患者背景を表1に示した.男性48.1%,女性C51.9%,平均年齢C67.9C±12.8歳,病型(担当医師に基づく診断名)は,狭義の原発開放隅角緑内障(primaryopenCangleCglaucoma:POAG)42.9%,正常眼圧緑内障(normalCtensionCglaucoma:NTG)37.4%,原発閉塞隅角緑内障(primaryCangleCclosureCglaucoma:PACG)4.0%,続発緑内障(secondaryCglaucoma:SG)6.5%,高眼圧症(ocu-larhypertension:OH)4.6%で,原発開放隅角緑内障(広義)がC80.3%を占めた.本剤投与前に緑内障治療点眼薬を使用していた症例は58.9%(2,758/4,680例)で,2,422例がCPG関連薬で前治療を行っており,そのうち,53.7%(1,301例)がラタノプロストからの切替え症例であった.一方,点眼治療をしていなかった症例はC39.1%であった.また,投与期間中にC43.4%の症例で他の緑内障治療点眼薬が併用された.平均投与期間はC491.7C±270.7日で,12か月(360日)以上投与された症例はC67.2%(3,143/4,680例)であった.1,859例において,24か月目までの観察期間中に投与中止または終了したことが報告され,中止理由の内訳は「転院または来院なし」45.6%(847例)「有害事象」31.8%(591例),「効果不十分」11.7%(217例),などであった(表2).C3.安全性安全性評価対象症例C4,680例のうち,49.36%(2,310例)に副作用が認められた(図1).発現率C0.1%以上の副作用は表3に示したとおりで,主要な副作用は,結膜充血C1,266件,眼瞼色素沈着C704件,睫毛の成長C655件,点状角膜炎および虹彩色素過剰が各C376件,DUES163件,睫毛剛毛化C158件,角膜びらんC157件,眼圧上昇C129件などの眼局所における事象であった.重篤な副作用としては,眼圧上昇C13件,視力低下C2件,角膜びらん,水疱性角膜症,白内障,白内障増悪,ぶどう膜炎,網膜静脈分枝閉塞,網膜中心静脈閉塞,ポスナー・シュロスマン症候群,前立腺癌,うつ病の増悪,脳梗塞およびてんかん各C1件が認められた.3.0%以上認められた副作用について,初発発現時期ならびに発現症例における本剤中止率を表4に示した.結膜充血のC59.4%が投与後C1か月目までに発現し,3か月目までには,眼瞼色素沈着,睫毛の成長,点状角膜炎,睫毛剛毛化,および角膜びらんの約C50%が発現した.投与を中止または終了した症例は,結膜充血の発現例でC44.6%(565/1,266例),眼瞼色素沈着の発現例でC39.2%(276/704例),睫毛の成長の発現例でC31.9%(209/655例),点状角膜炎の発現例で37.5%(141/376例),虹彩色素過剰の発現例でC30.3%(114/376例),DUES発現例でC74.8%(122/163例),睫毛剛毛化の発現例でC29.1%(46/158例),および角膜びらん発現例でC38.9%(61/157例)であった.DUES発現例で中止率が高く,このうち「有害事象」を理由として投与中止された割合はC70.6%(115/163例)であった.また,122例の投与中止例のうち,72.1%(88例)でCDUESの回復・軽快が確認され,最長C775日の追跡調査における未回復の割合は15.6%(19例)であった.DUESの発現ならびに本剤中止後の転帰(回復・軽快)に影響を及ぼす患者背景等因子について,Cox比例ハザードモデルを用いた多変量解析での検討結果を表5および表6に示した.発現への影響が想定される因子として,性別,年齢,全身性の主要合併症(高血圧,糖尿病および高脂血症)の有無,前治療CPG関連薬の有無を検討項目とし,一方,転帰に関しては,本剤投与期間も検討因子とした.DUES発現に関連する因子として,女性(ハザード比2.40,p<0.0001),糖尿病(ハザード比0.50,p=0.0298),および前治療CPG関連薬(ハザード比C0.50,p<0.0001)に有意差を認め,DUESの回復・軽快に関連する因子としては,本剤投与期間(ハザード比C0.81,p=0.0010)に有意差を認めた.C4.眼圧下降効果眼圧評価対象症例C4,396例の投与開始時の眼圧(平均C±標準偏差)は,18.8C±6.2CmmHgであった.開始時以降C24か月目までの眼圧推移は図2に示したとおりであり,投与開始C1か月目以降すべての経過観察時点において,投与開始時に比べ有意な眼圧下降を認め(p<0.0001),24か月目の眼圧は表1患者背景患者背景項目症例数(%)男性2,249(C48.1)性別女性2,430(C51.9)調査不能1(0C.0)年齢(投与開始時)病型(本剤投与眼)投与期間40歳未満40歳以上C65歳未満65歳以上C75歳未満75歳以上平均値±標準偏差C最小.最大緑内障POAG(狭義)NTGPACGSGその他の緑内障OHその他(複数の使用理由を含む)30日未満30日以上C60日未満60日以上C90日未満90日以上C180日未満180日以上C360日未満360日以上C540日未満540日以上C720日未満720日以上不明平均値±標準偏差C145(3.1)1,477(31.6)1,475(31.5)1,583(33.8)67.9±12.811.984,260(91.0)2,008(42.9)C1,752(37.4)C185(4.0)C306(6.5)9(0.2)C216(4.6)204(4.4)1,577(33.7)3,103(66.3)3,281(70.1)1,399(29.9)70(1.5)3,869(82.7)741(15.8)68(1.5)3,874(82.8)738(15.8)1,798(38.4)2,340(50.0)542(11.6)1,094(23.4)1,328(28.4)336(7.2)1,829(39.1)93(2.0)1,301(53.7)531(21.9)520(21.5)70(2.9)あり2,032(43.4)なし2,648(56.6)443(9.5)4,212(90.0)25(0.5)225(4.8)228(4.9)214(4.6)420(9.0)450(9.6)376(8.0)1,614(34.5)1,153(24.6)0(0.0)491.7±270.7眼手術歴(本剤投与眼)合併症(眼疾患)合併症(肝疾患)合併症(腎疾患)合併症(その他の疾患)本剤投与前の緑内障点眼治療本剤へ切替え前のPG関連薬(多剤併用を含む)緑内障治療の併用点眼薬(本剤投与眼)併用療法(非薬物療法)ありなしありなしありなし不明ありなし不明ありなし不明PG関連薬(配合剤を含む)PG関連薬+PG関連薬以外PG関連薬以外前治療なし不明他ラタノプロスト(配合剤を含む)トラボプロスト(配合剤を含む)タフルプロストイソプロピルウノプロストンありなし不明POAG:原発開放隅角緑内障,NTG:正常眼圧緑内障,PACG:原発閉塞隅角緑内障,SG:続発緑内障,OH:高眼圧症,PG:プロスタグランジン.402あたらしい眼科Vol.35,No.3,2018(120)表2投与中止理由表3副作用発現状況(0.1%以上発現した副作用)中止理由症例数*構成比(%)転院または来院なしC847C45.6有害事象C591C31.8効果不十分C217C11.7その他C180C9.7複数の理由C24C1.3計C1,859C100.0*両眼投与例では,両眼ともに中止した症例.14.4±3.9CmmHg,眼圧下降率(平均C±標準偏差)はC18.2C±19.1%であった.病型別では,POAG,NTG,PACG,SG,OHのいずれにおいても,投与開始C1か月目以降のすべての観察時点で有意に眼圧が下降し,24か月目の下降率はC15.7.24.7%であった(図3).緑内障治療点眼薬の使用状況別の眼圧推移は,図4に示したとおりであり,点眼前治療がなく観察期間中を通して本剤単剤が投与された新規単剤投与群,PG関連薬から本剤単剤への切替え群,Cb受容体遮断薬(以下,Cb遮断薬)単剤から本剤単剤への切替え群,ならびにCb遮断薬への本剤単剤追加群において,各観察時点の眼圧は有意に下降した.24か月目の眼圧下降率は,新規単剤投与群およびCb遮断薬単剤から本剤単剤切替え群でC23.4%,Cb遮断薬への本剤単剤追加群でC22.5%,PG関連薬から本剤単剤切替え群で13.8%であった.さらに新規単剤投与症例を投与開始時の眼圧値別に検討したところ,開始時眼圧が20mmHg以上,15CmmHg以上C20CmmHg未満およびC15CmmHg未満のいずれの症例群でも,投与開始C1か月目以降すべての観察時点で有意な眼圧下降を示し,開始時眼圧が高い症例ほど眼圧下降率が高い傾向を認めた(図5).新規単剤投与症例において,投与開始後C1か月目の眼圧下降率がC10%未満であった症例はC181例(15.7%)存在した.病型別ではCNTGおよびCOH,開始時眼圧別では開始時眼圧の低い症例群ほど,眼圧下降率C10%未満の割合が高かった(表7).CIII考按本調査は,本剤の販売開始に伴いC2009年C10月.2015年12月に実施し,全国の医療機関より安全性評価対象症例としてC4,680例,眼圧評価対象症例としてC4,396例を集積した.24か月の観察において副作用は,安全性評価対象C4,680例中C2,310例C49.36%と高頻度に認められた.副作用発現件数はC4,635件であり,そのうちC4,586件C98.9%が眼局所の副作用であった.PG関連薬は全身性の副作用が少ない反面,眼局所に特徴的な副作用が発現する.PG関連薬の代表的な眼局所副作用として,結膜充血,眼瞼や虹彩の色素沈着,睫(121)C副作用の種類発現数(%)眼局所の副作用C4,586結膜充血1,266(27.05)眼瞼色素沈着704(15.04)睫毛の成長655(14.00)点状角膜炎376(8.03)虹彩色素過剰376(8.03)くぼんだ眼(DUES)163(3.48)睫毛剛毛化158(3.38)角膜びらん157(3.35)眼圧上昇129(2.76)睫毛乱生56(1.20)眼そう痒症49(1.05)眼乾燥40(0.85)眼刺激36(0.77)眼瞼炎28(0.60)眼痛28(0.60)結膜炎27(0.58)眼の異物感25(0.53)視力低下24(0.51)アレルギー性結膜炎18(0.38)眼の違和感18(0.38)眼瞼の多毛症17(0.36)眼の異常感13(0.28)白内障12(0.26)眼精疲労11(0.24)霧視11(0.24)眼瞼皮膚炎10(0.21)眼瞼紅斑10(0.21)黄斑浮腫10(0.21)眼瞼そう痒症10(0.21)眼瞼浮腫9(0.19)眼瞼縁炎9(0.19)眼乾燥感8(0.17)糸状角膜炎8(0.17)白内障増悪7(0.15)結膜下出血7(0.15)眼脂5(0.11)*麦粒腫5(0.11)虹彩炎5(0.11)乾性角結膜炎5(0.11)ぶどう膜炎5(0.11)その他(<0.10%)C76眼局所以外の副作用C49頭痛6(0.13)その他(<0.10%)C43*:添付文書の「使用上の注意」から予測できない副作用(2015年C7月改訂の添付文書に基づく)毛の伸長・増加,prostaglandinCassociatedCperiorbitopathy(PAP)などが報告されており4),本剤にも含有される防腐剤のベンザルコニウム塩化物の長期曝露により,角膜上皮障害が生じることも知られている.本調査で認められた主要な副表4副作用発現時期と中止率累積発現率*(%)有害事象を副作用の種類発現数中止率(%)理由とする1か月2か月3か月6か月12か月24か月中止率(%)結膜充血C1,266C59.4C72.3C81.2C91.4C96.3C100.0C44.6C24.5眼瞼色素沈着C704C17.8C34.2C52.0C74.3C88.1C100.0C39.2C25.3睫毛の成長C655C10.8C27.3C46.9C73.1C89.6C100.0C31.9C16.2点状角膜炎C376C24.0C37.6C49.9C65.9C84.8C100.0C37.5C17.6虹彩色素過剰C376C13.4C25.5C39.4C67.3C85.3C100.0C30.3C11.7CDUESC163C16.0C21.8C36.5C59.6C76.3C100.0C74.8C70.6睫毛剛毛化C158C17.9C35.9C51.3C73.7C93.6C100.0C29.1C14.6角膜びらんC157C26.8C40.1C52.9C71.3C89.8C100.0C38.9C21.0*:発現時期不明の症例を除外して算出.表5Cox比例ハザードモデル分析によるDUES発現に影響する因子の検討因子リファレンスハザード比95%信頼区間p値性別男性C2.401.64.3.50<0.0001年齢連続量(10歳あたり)C1.060.92.1.21C0.4389高血圧なしC1.130.75.1.69C0.5702糖尿病なしC0.500.27.0.94C0.0298高脂血症なしC1.140.61.2.16C0.6781前治療(PG関連薬)なしC0.500.35.0.70<0.0001表6Cox比例ハザードモデル分析によるDUESの回復・軽快に影響する因子の検討因子リファレンスハザード比95%信頼区間p値性別男性C0.670.38.C1.16C0.1484年齢連続量(1C0歳あたり)C1.010.81.C1.25C0.9481高血圧なしC1.240.64.C2.41C0.5180糖尿病なしC0.930.28.C3.07C0.8987高脂血症なしC0.970.36.C2.66C0.9591前治療(PG関連薬)なしC0.630.39.C1.04C0.0699本剤投与期間連続量(9C0日あたり)C0.810.71.C0.92C0.0010C作用は,結膜充血C27.05%,眼瞼色素沈着C15.04%,睫毛の成長C14.00%,点状角膜炎C8.03%,虹彩色素過剰8.03%,DUES3.48%,睫毛剛毛化C3.38%,角膜びらんC3.35%などであり,おおむね既報と同様であった.重篤な副作用がC27件あったが,そのうち眼圧上昇および視力低下については,半数において効果不十分によるものと判定されており,原疾患の進行によるものと推察された.また,その他の重篤事象も含め,投与後の発症あるいは判定不能などの理由により,因果関係を否定されなかったものが大部分であり,本剤との関連性が明確な事象は少なかった.投与開始からの初発時期は,結膜充血の約C60%がC1か月目まで,眼瞼色素沈着,睫毛の成長,点状角膜炎,睫毛剛毛化および角膜びらんの約C50%がC3か月目までに認められた.虹彩色素過剰およびCDUESを含めた主要な眼局所の副作用において,累積発現率はC6か月目までに約C60%以上を示し,以降C24か月目まで経時的に発現率が上昇していることから,投与期間中を通じた観察が重要であり,とくに投与早期は注意深く経過観察する必要があると考えられる.24か月目までにC1,859例と多数の症例で本剤の投与中止・終了が報告され,その中止理由の内訳は「転院または来院なし」(847例)がもっとも多く,ついで「有害事象」(591例)が多かった.「転院または来院なし」では,そのC41.0%(347例)がC3か月目までの投与開始早期に中止となっていた.また,847例中C444例が本剤投与前に緑内障の点眼治療を行っていない新規症例であり,新規症例で投与早期に来院が途絶えた割合が高かった.来院が途絶えた真の理由は定かではないが,自己判断で中止した症例の存在が推察され,患者自身が本剤による治療の必要性を理解し納得したうえで治療を継3025201510眼圧(mmHg)0開始時12369121518212424か月目経過観察期間(月)眼圧下降率n=(4,396)(3,412)(2,731)(3,420)(2,680)(2,799)(2,191)(2,130)(2,015)(1,812)18.2±19.1%(2,795)*:p<0.0001(vs開始時)図2眼圧評価対象全例の眼圧推移30252015100眼圧(mmHg)POAG(1,981)(1,542)(1,276)(1,278)(1,604)(1,278)(1,336)(1,048)(1,004)(964)(868)経過観察期間(月)24か月目眼圧下降率19.4±19.9%NTG(1,704)(1,310)(1,076)(1,008)(1,291)(1,000)(1,037)(828)(816)(757)(703)15.7±16.5%PACG(170)(139)(106)(109)(127)(97)(108)(85)(82)(78)(66)17.2±25.2%SG(303)(249)(205)(198)(227)(177)(173)(130)(127)(123)(86)24.7±23.2%OH(217)(156)(120)(125)(156)(119)(131)(91)(92)(83)(83)21.0±17.1%*:p<0.0001(vs開始時)図3病型別の眼圧推移30252015100眼圧(mmHg)新規単剤(1,443)(846)(1,020)(744)(760)(588)(563)(555)(494)(1,151)(797)PG関連薬/開始時12369121518212424か月目経過観察期間(月)眼圧下降率23.4±16.3%本剤切替えb遮断薬/本剤切替えb遮断薬に本剤追加(850)(624)(530)(545)(653)(522)(529)(422)(416)(363)(339)13.8±17.6%(100)(79)(59)(62)(67)(50)(55)(38)(37)(35)(33)23.4±13.5%(48)(33)(37)(26)(34)(32)(32)(23)(26)(22)(21)22.5±17.4%*:p<0.0001,††:p<0.001(vs開始時)図4緑内障治療点眼薬の使用状況別の眼圧推移3025開始時123691215182124眼圧(mmHg)201510020mmHg以上(549)(430)(296)(302)(388)(280)(296)(218)(212)(210)(182)15mmHg以上経過観察期間(月)24か月目眼圧下降率31.6±14.9%(565)(455)(346)(302)(412)(297)(303)(237)(232)(227)(203)20.6±13.9%20mmHg未満15mmHg未満(329)(266)(204)(193)(220)(167)(161)(133)(119)(118)(109)14.8±16.7%*:p<0.0001(vs開始時)図5開始時眼圧値別の眼圧推移(新規単剤投与症例)表7新規単剤投与症例の1か月目の眼圧下降率眼圧(mmHg)眼圧下降率眼圧下降率開始時1か月目(%)10%未満新規単剤投与全例C18.7±5.8C13.7±3.7C24.7±15.815.7%(C181/1,151)病型CPOAGC21.8±5.0C15.5±3.6C28.3±15.111.0%(C41/372)CNTGC15.5±2.8C12.1±2.5C21.2±14.418.8%(C120/638)CPACGC20.3±4.9C14.3±3.5C26.3±12.213.0%(C3/23)CSGC27.6±9.7C15.6±5.3C38.6±21.29.8%(C5/51)COHC24.6±4.3C17.6±4.4C28.1±19.118.8%(C12/64)開始時眼圧20CmmHg以上C24.4±5.0C16.3±3.8C32.1±15.47.2%(C31/430)15CmmHg以上C20CmmHg未満C16.8±1.4C13.0±2.4C22.6±13.415.4%(C70/455)15CmmHg未満C12.5±1.5C10.5±2.2C16.5±15.430.1%(C80/266)続し,経過観察のために定期的に受診すること,すなわちアドヒアランス改善の必要性が示唆された.「有害事象」を理由に中止した症例においては,1か月目までの中止がC171例(28.9%)と突出して多く,このうちC109例が結膜充血の発現症例であった.すなわち,投与開始早期に好発する結膜充血を理由に治療から脱落する症例が多いことが示唆された.一方,副作用発現例について述べると,結膜充血および眼瞼色素沈着を発現した症例では,約C25%が有害事象を理由に本剤を中止した.結膜充血は点眼開始時にとくに強く,投与継続により症状が軽減することが多い.Arcieriらは,ラタノプロスト,ビマトプロストおよびトラボプロストの投与群で,結膜充血スコアは投与C1週間後に有意に上昇し,15日後に最大となり,1か月後に低下しはじめたと報告している5).また,眼瞼色素沈着は洗顔前に点眼することで発現を抑制できる可能性がある.したがって,治療開始時に患者への副作用の説明や点眼指導を十分に行うことにより,有害事象による脱落を低減できる余地があると考える.日本人のCDUES発現頻度は,投与前後の写真を比較した結果によると,ビマトプロストのC1.6か月投与でC44.60%6),3か月以上投与でC60%7)と報告されているが,本調査ではC3.48%であり大きく乖離していた.その要因として,治験時の発現頻度がC2.17%(7/323例)であり,調査開始当時は現在と比較しCDUESの認知度が低かったこと,ならびに脱落症例が多かったことが考えられた.また,患者自身による自覚と写真による客観的判定とは一致率が低く7),自覚できないほど軽度の変化も写真では検出されることから,写真判定による緻密な評価を調査項目としなかったことが発現率の乖離にもっとも強く影響したと考えられた.Aiharaらは,ラタノプロストからビマトプロストへ変更した症例でCDUES発現群と非発現群の背景因子を比較した結果,高年齢および非近視眼でCDUESの発現頻度が高く,性別および眼圧下降値は関連がなかったと報告している6).今回,DUES発現に影響する因子の検討において,性別,糖尿病の有無,前治療CPG関連薬の有無に有意差があった.一方,DUESの回復・軽快に関連する有意な因子は,本剤投与期間のみであった.女性の発現リスクが男性のC2.4倍であった結果は既報と相違していたが,写真判定をしていないこと,およびCDUESが美容的な副作用であることを勘案すると,美容上の変化に敏感な女性における自覚症状の訴えが強く反映された可能性がある.また,糖尿病症例はCDUES発現のハザード比が低かった.糖尿病患者は概してCBMIが高いため,眼瞼の変化が不明瞭であった可能性や,糖尿病治療薬の使用による影響などが推察されるが,当該症例群に関する周辺情報の収集が不十分であり,詳細を検討することはできなかった.前治療CPG関連薬の使用例では発現リスクが低下し,回復・軽快のハザード比も,有意差はないが低い傾向にあった.前治療にCPG関連薬を使用していた症例のなかには,認識の有無にかかわらず,本剤開始時点ですでに眼瞼の変化が出現していた症例が存在し,本剤投与後の眼瞼の変化量が小さかったことにより,DUES検出率が低下した可能性が考えられた.ただし,いったんイベントと判断される変化が生じたときは,PG関連薬の非使用例よりも回復しづらいと推察される.本剤中止後にはCDUESのC72.1%が回復・軽快したが,本剤投与期間についての回復・軽快のハザード比はC0.81であり,投与の長期化に伴い回復しづらくなる傾向が示唆された.なお,中止後の使用薬剤は調査しておらず,その関連は不明であった.前治療CPG関連薬の有無別での副作用発現率は,結膜充血20.89%およびC34.32%,眼瞼色素沈着C12.72%およびC18.01%,虹彩色素過剰C6.36%およびC10.02%,睫毛の成長C11.81%およびC16.81%,睫毛剛毛化C2.81%およびC4.06%,睫毛乱生C0.70%およびC1.71%であり,いずれの事象も前治療にCPG関連薬を使用した症例,すなわち他のCPG関連薬からの切替え例で発現率が低かった.ラタノプロスト治療後にビマトプロストを投与した集団で,結膜充血の発現が有意に低かった報告8)があり,本調査でも結膜充血は同じ傾向であった.また,結膜充血を含めこれらの事象はCPG関連薬の代表的副作用であり,発現に対する前治療CPG関連薬の影響は,前述のDUESと同様であると思われた.ビマトプロストの長期投与時の眼圧下降効果は,これまでに複数報告されている.投与前眼圧C25.0CmmHgの患者で点眼C24か月の眼圧下降値がC7.8CmmHg9),新たにCPOAGと診断され,投与前眼圧C24.7CmmHgの患者でC2年後の眼圧下降率がC32.0%10),投与前眼圧C16.7CmmHgのCNTG患者でC24か月後の眼圧下降率がC18.6%11),ラタノプロストで効果不十分なためビマトプロストに変更した,投与前眼圧が右眼C23.1mmHg,左眼C22.3CmmHgの患者では6.24か月後の眼圧下降率が右眼C17.8.22.0%,左眼C15.0.24.0%12)であり,いずれの報告もC24か月以上の長期にわたり眼圧下降効果が認められたことを示しているが,200例未満を対象とした評価結果であった.今回,眼圧評価対象C4,396例における眼圧下降効果を検討したところ,開始時眼圧はC18.8CmmHgで,投与開始C1か月目以降のすべての観察時点で有意に眼圧が下降し,24か月目の眼圧下降率はC18.2%であった.病型別,緑内障治療点眼薬の使用状況別,ならびに新規単剤投与症例の投与開始時の眼圧値別で眼圧推移を検討した結果,いずれも有意な眼圧下降を認め,緑内障病型や開始時眼圧を問わず,他の緑内障治療点眼薬からの切替えおよび併用でもC24か月目まで眼圧下降効果は継続した.なお,治療効果を判定するには無治療時の眼圧を把握することが重要であり,無治療時の眼圧が低いほど目標眼圧を低く設定1)し治療が進められる.すなわち,本調査において,とくに新規単剤投与で投与開始時C15CmmHg未満の症例においても,1か月後に有意な眼圧下降が認められたことの意義は大きい.本調査では,ウノプロストンもCPG関連薬として取り扱った.また,PG関連薬とCPG関連薬/Cb遮断薬配合剤とを明確に区別することができなかった.よって,緑内障治療点眼薬の使用状況別の検討における「PG関連薬から本剤単剤への切替え」群の眼圧推移は,ウノプロストンからの切替え症例およびCPG関連薬/Cb遮断薬配合剤からの切替え症例を含む結果である.また,Cb遮断薬から本剤へ切替えた群と本剤を追加した群とのC24か月目の眼圧下降率が同程度であったが,両群の患者背景などに相違があったためと推察された.新規単剤投与症例では,投与開始C1か月目において眼圧下降率C10%未満の症例がC15.7%あり,その割合は,病型別ではCNTGおよびCOH,開始時眼圧別では開始時眼圧が低い症例群で高い傾向が認められた.PG関連薬のノンレスポンダーを検討した報告では,眼圧下降率C10.0%未満をノンレスポンダーと定義した場合,ラタノプロストのC1.6か月投与でC14.3.20.9%13,14),タフルプロストのC12.48週投与で12.8.18.2%15)であったとされ,直接比較はできないが,本剤においてもノンレスポンダーは同程度存在することが推察された.しかしながら,ノンレスポンダーの定義は明確ではなく,1か月目の眼圧下降率のみで判定することは困難であり,アドヒアランス不良の可能性などもあることから,判定にはさらなる検討が必要である.緑内障は慢性に経過する進行性の疾患であり,視野障害の進行を抑制するためには,長期間にわたって眼圧を良好にコントロールする必要がある.今回の検討結果は,前治療の効果や反応性,薬剤変更によるアドヒアランスの向上,目標眼圧が達成された症例のみが評価された可能性など,さまざまなバイアスの存在が考えられるものの,本剤投与によりC24か月にわたって一定の持続的な眼圧下降が認められ,新規単剤投与例でのC24か月目の眼圧下降率がC23.4%であったことは,視野維持への寄与が十分に期待できる結果と考えられる.また,緑内障薬物治療の原則は必要最小限の薬剤と副作用で最大の効果を得ること1)であり,単剤での治療をめざすため,ノンレスポンダーを含め効果が不十分な場合,薬剤耐性が生じた場合は,他の薬剤への変更が検討されることとなる.本調査でCPG関連薬からの切替え症例においても有意な付加的眼圧下降が認められたことから,他のCPG関連薬の投与症例で薬剤変更が必要となった場合にも,本剤は有用な選択肢となると考えられた.一方で,副作用が高頻度に発現することが改めて確認された.副作用の種類はおおむね従来の報告から推定される範囲にあると判断されるが,主要な副作用の発現例ではC29.1.74.8%が投与中止に至っており,投与に際しては引き続き注意深く経過観察を行い,眼圧下降と副作用のバランスを図りながら総合的に投与継続の可否を判断する必要があると考える.謝辞:本調査にご協力を賜り,貴重なデータをご提供いただきました全国の先生方に,深謝申し上げます.利益相反:本稿は,千寿製薬株式会社により実施された使用成績調査結果に基づき報告された.石黒美香,北尾尚子,末信敏秀は千寿製薬株式会社の社員である.文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン(第C3版).日眼会誌116:3-46,C20122)LeskeCMC,CHeijlCA,CHusseinCMCetCal:FactorsCforCglauco-maCprogressionCandCtheCe.ectCofCtreatment:theCearlyCmanifestCglaucomaCtrial.CArchCOphthalmolC121:48-56,C20033)Garway-HeathDF,CrabbDP,BunceCetal:LatanoprostforCopen-angleCglaucoma(UKGTS):aCrandomised,Cmulti-centre,Cplacebo-controlledCtrial.CLancetC385:1295-1304,20154)地庵浩司,木内良明:プロスタグランジン関連薬の臨床.眼科C58:1435-1440,C20165)ArcieriCES,CSantanaCA,CRochaCFNCetCal:Blood-aqueousCbarrierCchangesCafterCtheCuseCofCprostaglandinCanaloguesinCpatientsCwithCpseudophakiaCandCaphakia:aC6-monthCrandomizedtrial.ArchOphthalmolC123:186-192,C20056)AiharaM,ShiratoS,SakataR:IncidenceofdeepeningoftheCupperCeyelidCsulcusCafterCswitchingCfromClatanoprostCtobimatoprost.JpnJOphthalmolC55:600-604,C20117)InoueCK,CShiokawaCM,CWakakuraCMCetCal:DeepeningCofCtheCupperCeyelidCsulcusCcausedCbyC5CtypesCofCprostaglan-dinanalogs.JGlaucomaC22:626-631,C20138)KurtzCS,CMannCO:IncidenceCofChyperemiaCassociatedCwithbimatoprosttreatmentinnaivesubjectsandinsub-jectsCpreviouslyCtreatedCwithClatanoprost.CEurCJCOphthal-molC19:400-403,C20099)CohenCJS,CGrossCRL,CCheethamCJKCetCal:Two-yearCdou-ble-maskedCcomparisonCofCbimatoprostCwithCtimololCinCpatientswithglaucomaorocularhypertension.SurvOph-thalmolC49:S45-S52,C200410)KaraCC,C.enCEM,CElginCKUCetCal:DoesCtheCintraocularCpressure-loweringCe.ectCofCprostaglandinCanaloguesCcon-tinueCoverCtheClongCterm?CIntCOphthalmolC37:619-626,C201711)InoueCK,CShiokawaCM,CFujimotoCTCetCal:E.ectsCofCtreat-mentwithbimatoprost0.03%for3yearsinpatientswithnormal-tensionglaucoma.ClinOphthalmolC8:1179-1183,C201412)SontyCS,CDonthamsettiCV,CVangipuramCGCetCal:Long-termCIOPCloweringCwithCbimatoprostCinCopen-angleCglau-comaCpatientsCpoorlyCresponsiveCtoClatanoprost.CJCOculCPharmacolTherC24:517-520,C200813)井上賢治,泉雅子,若倉雅登ほか:ラタノプロストの無効率とその関連因子.臨眼C59:553-557,C200514)小松務,上野脩幸:広義の原発開放隅角緑内障に対するラタノプロスト点眼の眼圧下降効果.眼臨C100:492-495,C200615)中内正志,岡見豊一,山岸和矢:正常眼圧緑内障患者におけるタフルプロスト点眼液の長期眼圧下降効果.あたらしい眼科C28:1161-1165,C2011C***

緑内障患者に対するリパスジル塩酸塩水和物点眼液の眼圧下降効果と安全性の検討

2016年8月31日 水曜日

《第26回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科33(8):1187?1190,2016c緑内障患者に対するリパスジル塩酸塩水和物点眼液の眼圧下降効果と安全性の検討吉谷栄人*1坂田礼*1沼賀二郎*1本庄恵*1,2*1東京都健康長寿医療センター眼科*2東京大学医学部附属病院眼科EfficacyandSafetyofRipasudilOphthalmicSolutioninEyesofPatientswithGlaucomaMasatoYoshitani1),ReiSakata1),JiroNumaga1)andMegumiHonjo1,2)1)DepartmentofOphthalmology,TokyoMetropolitanGeriatricHospital,2)DepartmentofOphthalmology,UniversityofTokyoSchoolofMedicine目的:日本人緑内障患者におけるリパスジル点眼液(グラナテックR点眼液0.4%)の有効性と安全性を検討すること.対象および方法:緑内障点眼下でも目標眼圧に到達しない症例のなかで,リパスジル点眼液を追加した症例を後ろ向きに検討した.投与開始後1カ月目,2カ月目,3カ月目の眼圧値および安全性について検討した.結果:投与開始前の眼圧は18.6±4.2mmHgであり,追加投与後1カ月目14.6±2.5mmHg(p<0.005),2カ月目15.3±3.4mmHg(p<0.005),3カ月目14.8±2.3mmHg(p<0.05)であった.3カ月間を通しての副作用として,結膜充血4例4眼,掻痒感1例1眼,眼刺激感1例1眼を認めたが,いずれも中止には至らなかった.結論:目標眼圧に到達しない緑内障患者において,リパスジル点眼液は追加投与による副作用も少なく,さらなる眼圧下降を得ることが期待できる薬剤であると考えられた.Purpose:Toevaluatetheefficacyandsafetyofripasudilophthalmicsolutionintheeyesofpatientswithglaucoma.SubjectsandMethods:Subjectscomprised14eyesof14patientstreatedwiththemultiplecombinedtherapyforglaucoma.Weexaminedintraocularpressure(IOP)changeandadverseeffectsafteradjunctionofripasudilophthalmicsolution.Results:ThemeanbaselineIOPwas18.6±4.2mmHg.At1,2and3months,IOPwas14.6±2.5mmHg,15.3±3.4mmHgand14.8±2.3mmHgrespectively;significantIOPreductionwasobserved.TherewasnosignificantcorrelationbetweenIOPreductionrateandage.Adverseeffectswerehyperemia(4eyes),itching(1eye),andeyeirritation(1eye).Nopatientsdiscontinuedbecauseofadverseeffects.Conclusion:RipasudilophthalmicsolutionwaseffectiveinsafelyreducingIOPinpatientswithglaucoma.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(8):1187?1190,2016〕Keywords:リパスジル点眼液,緑内障,ROCK阻害薬,安全性,眼圧.ripasudilophthalmicsolution,glaucoma,Rhokinaseinhibitor,safety,intraocularpressure.はじめに緑内障においては,眼圧下降治療が依然として唯一確実に効果が認められている治療法であるため1),新たな眼圧下降機序の薬物の開発は治療の選択肢を拡大するという点において非常に有意義であると考えられる.リパスジル塩酸塩水和物点眼液(グラナテック点眼液0.4%R,以下リパスジル点眼液)は,日本で研究,開発されたROCK(Rho-associatedcoiled-coilformingkinase)阻害薬の緑内障点眼液であり,その作用機序は,Rhoの標的蛋白質のセリン・スレオニンキナーゼであるROCKを阻害し,線維柱帯細胞の形態の変化,細胞外マトリクス産生抑制,傍Schlemm管内皮細胞の透過性亢進を通じて,主経路である経Schlemm管房水流出路での房水流出を促進することで眼圧下降をもたらすとされる2?4).これまでの報告によると,第I相臨床試験においては,健常男性において点眼投与2時間後,単剤で平均4.0mmHgの眼圧下降効果が認められた.第II相臨床試験では開放隅角緑内障患者または高眼圧症患者において単剤で平均3.5mmHgの眼圧下降効果が認められた.第III相臨床試験では0.5%チモロール点眼液に追加した群では平均2.4mmHgの相加的な眼圧下降効果,0.005%ラタノプロスト点眼液に追加した群では平均2.2mmHgの相加的な眼圧下降効果が認められた5?7).52週にわたる長期投与においても,単剤においては平均2.6mmHgの眼圧下降効果を認め,プロスタグランジン関連薬に追加した群では平均1.4mmHgの相加的な眼圧下降効果,b遮断薬に追加した群では平均2.4mmHgの相加的な眼圧下降効果,プロスタグランジン関連薬とb遮断薬の併用に追加した群では平均2.2mmHgの相加的な眼圧下降効果がそれぞれ認められている8).同時にその報告によると,副作用として結膜充血74.6%,眼瞼炎20.6%,アレルギー性結膜炎17.2%で,全症例352症例のうち51症例が眼瞼炎またはアレルギー性結膜炎のために中止となっている.ただし点眼中止後は,必要に応じた加療により症状は全例軽快したとされている8).一方で開放隅角緑内障患者または高眼圧症患者における点眼開始後の24時間眼圧においては,単剤のリパスジル点眼液投与後から1時間から7時間は有意な眼圧下降効果を認め,初回の点眼投与2時間後において平均6.4mmHgの眼圧下降効果を認めたと報告されている9).その他のROCK阻害薬に関する報告では,糖尿病網膜症におけるROCK阻害薬による血管障害の制御の可能性に関して報告があり,血管内皮細胞障害阻害作用や白血球接着阻害による糖尿病網膜症の微小血管障害の病態制御の可能性が期待されている10).また,ROCK阻害薬の一種であるY-27632による角膜内皮の創傷治癒促進が指摘され,Fuchs角膜内皮ジストロフィによる初期の水疱性角膜症における角膜内皮機能の回復と視力回復が得られた報告もある11).リパスジル点眼液は2014年12月に世界に先駆けて販売が開始されたが,実際の臨床に基づく有効性と安全性の報告は皆無である.今回,緑内障点眼下でも目標眼圧に到達しない症例のなかで,リパスジル点眼液を追加した症例を後ろ向きに検討した.I対象および方法東京都健康長寿医療センター眼科に通院中の日本人緑内障患者を検討対象とした.緑内障の病型は問わず,緑内障点眼下でも目標眼圧(ベースライン眼圧より20%下降)に到達しない症例のなかで,2015年1?8月に,リパスジル点眼液を追加した症例を後ろ向きに検討した.なお,本研究は東京都健康長寿医療センターの倫理委員会で承認された.対象症例を1例1眼としてランダムに選択したが,リパスジル点眼液が両眼に投与された症例では,眼圧下降率の少ない眼あるいは内眼手術の既往歴のない眼を対象とした.Goldmann圧平眼圧計(Haag-Streit社,スイス)による診療時間内の眼圧測定,リパスジル点眼液開始前のHumphrey自動視野計(Carl-Zeiss社,ドイツ)SITA-Fast30-2の信頼性のある視野検査結果(固視不良,偽陽性,偽陰性それぞれ20%以下)を採用した.安全性の評価は,患者の自覚症状や細隙灯顕微鏡検査による他覚的評価を参考とした.経過観察中,目標眼圧に到達せず追加の緑内障治療を必要とした症例,転医した症例,データが得られなかった症例はその都度除いた.1カ月ごとの眼圧下降効果の評価は,投与開始後の得られたデータ群とその各々に対応する投与前のデータ群との比較により評価し,データが得られなかった症例の投与前のデータは除外した.主要評価項目は点眼追加後の眼圧経過であり,1カ月ごとの眼圧下降効果に関してはpairedt-testを用いた.また,副次的に投与後の眼圧の下降量と年齢,投与前眼圧値との相関関係に関して検討を行い,それぞれ,Spearmans’scorrelationcoefficientbyranktest,Peason’scorrelationcoefficienttestを用いて検討を行った.統計解析ソフトはStatcelver3を使用し,有意水準はp<0.05とした.II結果対象患者を表1に示す.リパスジル点眼液追加投与前の眼圧は18.6±4.2mmHgであり,追加投与後の眼圧値は,1カ月目で14.6±2.5mmHg(p<0.005),2カ月目で15.3±3.4mmHg(p<0.005),3カ月目で14.8±2.3mmHg(p<0.05)であった(図1).それぞれの眼圧下降量は1カ月目で3.8±1.1mmHg,2カ月目で3.4±0.9mmHg,3カ月目で3.3±1.4mmHgであった.追加投与開始後の眼圧下降量と年齢の間には有意な相関関係を認めなかった(1カ月目:r=0.13,p=0.69,2カ月目:r=?0.20,p=0.53,3カ月目:r=0.29,p=0.45).一方,眼圧下降量と追加前眼圧との間には,有意な正の相関関係を認めた(1カ月目:r=0.80,p<0.01,2カ月目:r=0.65,p<0.05,3カ月目:r=0.84,p<0.01).安全性の評価では,結膜充血4眼(1カ月目3眼,3カ月目1眼),掻痒感1眼(3カ月目1眼),眼刺激感1眼(1カ月目1眼)を認めた(重複あり)が,いずれも中止となる症例はなく,全身の副作用も認めなかった.III考按今回,眼圧コントロールが不十分であった緑内障患者に対して,リパスジル点眼液の追加投与を行った症例を後ろ向きに検討した.点眼数は投与追加前の平均3.1剤から追加後の平均4.1剤に増えた(配合剤は2剤として計算した)ものの,点眼追加後1カ月目から3カ月目において,いずれも有意な眼圧下降効果が得られていた.また,臨床上中止に至るような眼局所の副作用もなく,安全性も担保されていると考えられた.また,年齢と眼圧下降量には相関関係を認めなかったが,一方で,追加前眼圧と眼圧下降量に関しては有意な正の相関関係を認め,追加前の眼圧が高いほうがより強い眼圧下降量を得られることが期待される.ただし,今回の検討では症例数が少ないため,今後さらなる多症例数での検討が必要である.これまでの緑内障治療薬は,プロスタグランジン関連薬を柱に,b遮断薬,炭酸脱水酵素阻害薬,a2刺激薬を組み合わせることで眼圧管理を行ってきたが,リパスジル点眼液はこれら既存の点眼薬と作用機序が異なることから,新たな治療薬の選択肢となりうる.全身的な副作用も皆無であり,今後併用療法の一つの柱になるのでないかと考えられた.リパスジル点眼液追加投与後も目標眼圧に到達しなかった症例は4例4眼であり,2眼は開放隅角緑内障(83歳,女性と54歳,女性)で併用点眼薬を変更,1眼は落屑緑内障の76歳,女性で線維柱帯切開術を施行,1眼は開放隅角緑内障の74歳,女性でチューブシャント手術をそれぞれ施行された.安全性の検討に関して,今回の14眼で使用中止となるような重篤な副作用は認められなかった.もっとも頻度が高いと考えられた結膜充血は,3カ月間で14眼中4眼(29%)に認められた.ただし,診療時間内における患者の自覚症状の聴取,もしくは細隙灯顕微鏡検査による他覚的評価を評価対象としたため,その評価判定基準は統一されておらず,今後の検討を要すると考えられた.緑内障点眼薬においては,結膜充血などの眼局所の副作用による点眼アドヒアランスの低下が懸念されるため,リパスジル点眼液で頻度の高い結膜充血の動態を把握しておくことはアドヒアランスを維持するうえで非常に重要と思われる.アレルギー性結膜炎や眼瞼炎など他の副作用も含め,母数を増やし,より長期的な経過観察が必要と考えられた.本研究は後ろ向き研究であり,その性質上,避けられないいくつかの問題点があげられる.まず症例数が少ない(n=14)ため,眼圧下降効果や相関の有意性を正確に評価することが困難であり,今後さらに母数を増やす必要がある.つぎに,今回の検討対象に含まれるのはあらゆる病型の緑内障であり,かつ手術既往眼も含めたため,病型別の眼圧下降効果を正確に評価することが困難であった.つぎに,診療録記載に基づく安全性評価であり,その評価基準は一定していないため,今後は決められた評価基準を作成し評価していく必要がある.そして最後に,今回は3カ月間という短期の報告であるため,今後はさらに長期にわたる点眼評価を行っていく必要がある.このように多くの問題点は含有するが,今回の検討からは,目標眼圧に到達しない日本人緑内障患者において,リパスジル点眼液は追加投与による副作用も少なく,さらなる眼圧下降効果を得ることができる薬剤であると考えられた.IV結論目標眼圧に到達しない緑内障患者において,リパスジル点眼液は追加投与による副作用も少なく,さらなる眼圧下降を得ることができる薬剤であると考えられた.文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障ガイドライン(第3版).日眼会誌116:3-46,20122)中庄司幹子:新薬のプロフィルグラナテック点眼液0.4%.ファルマシア51:240,20153)本庄恵:Rho-associatedkinase(ROCK)阻害薬の緑内障治療薬としての可能性.日眼会誌113:1071-1081,20094)本庄恵:緑内障の新薬1:ROCK阻害薬.あたらしい眼科32:775-781,20155)TaniharaH,InoueT,YamamotoTetal:Phase1clinicaltrialsofaselectiveRhokinaseinhibitor,K-115.JAMAOphthalmol131:1288-1295,20136)TaniharaH,InoueT,YamamotoTetal:Phase2randomizedclinicalstudyofaRhokinaseinhibitor,K-115,inprimaryopen-angleglaucomaandocularhypertension.AmJOphthalmol156:731-736,20137)TaniharaH,InoueT,YamamotoTetal:Additiveintraocularpressure-loweringeffectsoftheRhokinaseinhibitorripasudil(K-115)combinedwithtimololorlatanoprost:Areportof2randomizedclinicaltrials.JAMAOphthalmol133:755-761,20158)TaniharaH,InoueT,YamamotoTetal:One-yearclinicalevaluationof0.4%ripasudil(K-115)inpatientswithopen-angleglaucomaandocularhypertension.ActaOphthalmol4:DOI:10.1111/aos.12829,20159)TaniharaH,InoueT,YamamotoTetal:Intra-ocularpressure-loweringeffectsofaRhokinaseinhibitor,ripasudil(K-115),over24hoursinprimaryopen-angleglaucomaandocularhypertension:arandomized,open-label,crossoverstudy.ActaOphthalmol93:e254-e260,201510)有田量一:糖尿病性網膜微小血管障害のメカニズムとROCK阻害薬による病態制御の可能性.日眼会誌115:985-997,201111)小泉範子:Rhoキナーゼ(ROCK)阻害薬を用いた新しい角膜内皮疾患治療の開発.日の眼科83:1324-1328,2012〔別刷請求先〕吉谷栄人:〒173-0015東京都板橋区栄町35-2東京都健康長寿医療センター眼科Reprintrequests:MasatoYoshitani,DepartmentofOphthalmology,TokyoMetropolitanGeriatricHospital,35-2Sakaetyou,Itabashiku,Tokyo173-0015,JAPAN0910-1810/16/\100/頁/JCOPY(105)11871188あたらしい眼科Vol.33,No.8,2016(106)表1患者背景背景因子症例数14例14眼性別男性5例,女性9例年齢70.2±12.2歳(51?92)MD?12.46±10.10dB(?29.01??0.53)PSD9.91±4.75dB(1.67?15.13)眼圧18.6±4.2mmHg(12?25)点眼剤数※3.1±0.9剤(1?4)病型原発開放隅角緑内障7例7眼落屑緑内障3例3眼続発緑内障2例2眼原発閉塞隅角緑内障2例2眼手術既往歴白内障手術5例5眼線維柱帯切開術1例1眼線維柱帯切除術1例1眼隅角癒着解離術1例1眼MD:meandeviation.PSD:patternstandarddeviation.※配合剤は2剤として計算図1リパスジル点眼液投与開始後の眼圧経過リパスジル点眼追加後,有意な眼圧下降が維持された.(107)あたらしい眼科Vol.33,No.8,201611891190あたらしい眼科Vol.33,No.8,2016(108)