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琉球大学病院における小児外傷性黄斑円孔の臨床転帰

2023年9月30日 土曜日

《原著》あたらしい眼科40(9):1244.1248,2023c琉球大学病院における小児外傷性黄斑円孔の臨床転帰愛知高明今永直也北村優佳山内遵秀古泉英貴琉球大学大学院医学研究科医学専攻眼科学講座CClinicalOutcomesofPediatricTraumaticMacularHoleCasesSeenattheUniversityoftheRyukyusHospitalTakaakiAichi,NaoyaImanaga,YukaKitamura,YukihideYamauchiandHidekiKoizumiCDepartmentofOphthalmology,GraduateSchoolofMedicine,UniversityoftheRyukyusC目的:琉球大学病院における小児外傷性黄斑円孔の臨床転帰を報告する.対象および方法:対象はC2000.2020年に当科を受診したC18歳以下の外傷性黄斑円孔C17例C17眼(男性C16例,女性C1例,平均年齢C12.5±3.1歳).初診時視力,最終視力,光干渉断層計(OCT)による黄斑円孔の形態を後ろ向きに検討した.結果:自然閉鎖例がC7眼,硝子体手術症例がC10眼で,最終的に全例で円孔閉鎖した.平均ClogMAR視力は初診時C1.06±0.30から最終受診時C0.33±0.33と有意に改善した(p<0.01).初診時からC1カ月時点で最小円孔径や円孔底径が有意に縮小している症例では経過観察が選択されていた(291.6Cμmvs.83.6Cμm,p<0.05,449.1CμmCvs.189.3Cμm,p<0.05).一方,手術症例は初診時から1カ月時点で最小円孔径が有意に拡大していた(363.6CμmCvs.552.9Cμm,p<0.05).結論:円孔径が縮小している症例には経過観察が選択され,縮小を認めない症例には手術が選択されていた.最終的に全例で円孔閉鎖し,視力の改善が得られていた.CPurpose:Toreporttheclinicaloutcomesofpediatrictraumaticmacularhole(MH)casesseenattheUniver-sityCofCtheCRyukyusCHospital.CSubjectsandMethods:ThisCretrospectiveCobservationalCcaseCseriesCstudyCinvolvedC17eyesof17traumaticMHcases(16malesand1female,18yearsoldoryounger[meanage:12.5±3.1years])CseenCbetweenC2000CandC2020.CInCallCcases,Cbest-correctedCvisualacuity(BCVA)atCbothCinitialCandC.nalCvisitCandCopticalCcoherenceCtomographyC.ndingsCwereCevaluated.CResults:InCallC17Ceyes,CtheCMHclosed(spontaneousCclo-sure:n=7eyes;closureCpostCvitrectomysurgery:n=10eyes).CMeanBCVA(logMAR)signi.cantlyCimprovedCfrom1.06±0.30atbaselineto0.33±0.33at.nalfollow-up(p<0.01).Inthe7spontaneousMHclosurecases,themeanCMHCminimumCdiameterCandCtheCmeanCMHCbasalCdiameter,Crespectively,CatC1CmonthCwasCsigni.cantlyCdecreasedcomparedwiththoseattheinitialvisit(p<0.05).Inthe10eyesthatunderwentsurgery,themeanMHminimumdiameterat1monthwassigni.cantlyincreasedcomparedwiththatattheinitialvisit(p<0.05).Conclu-sions:InpediatrictraumaticMHcases,theeyeswithdecreasingMHdiametersat1monthaftertheinitialvisittendedCtoChaveCspontaneousCMHCclosure,CwhileCthoseCwithCincreasingCMHCdiametersCtendedCtoCrequireCsurgicalCtreatment.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)40(9):1244.1248,C2023〕Keywords:外傷性黄斑円孔,小児,硝子体手術,光干渉断層計,黄斑円孔径.traumaticmacularhole,pediatric,parsplanavitrectomy,opticalcoherencetomography,macularholediameter.Cはじめに外傷性黄斑円孔は,眼外傷によって黄斑に網膜全層または分層円孔を生じたものである1).特発性黄斑円孔はC60歳以上の女性に多くみられるが,外傷性黄斑円孔は若年者に多く発症し,小児での発症報告も少なくない2,3).小児の外傷性黄斑円孔は成人と同様に,自然閉鎖が認められる場合があり,かつ小児は成人よりも自然閉鎖率が高く1),硝子体手術のリスクが高いため,受傷後しばらくは経過観察されることが多い.一方で,過去の報告では受傷から硝子体手術までの期間が長かった症例は,早期に手術を受けた症例よりも円孔〔別刷請求先〕愛知高明:〒903-0215沖縄県中頭郡西原町字上原C207琉球大学大学院医学研究科医学専攻眼科学講座Reprintrequests:TakaakiAichi,DepartmentofOphthalmology,GraduateSchoolofMedicine,UniversityoftheRyukyus,207Uehara,Nishihara-cho,Nakagami-gun,Okinawa903-0215,JAPANC1244(122)が閉鎖しにくい可能性が指摘されており4),過度の経過観察は恒久的な視機能低下につながる可能性がある.このように,現状では小児の外傷性黄斑円孔の手術時期については適切な手術時期は定まっていない3).また,視力予後についても網膜.離の合併,網膜震盪,脈絡膜破裂,網膜色素上皮の損傷,経過中の網膜下脈絡膜新生血管や線維化など,外傷による網膜の損傷を合併するため,機能的な予後は不明なことが多いことが示唆されている1).今回筆者らは,琉球大学病院(以下,当院)を受診した小児の外傷性黄斑円孔患者における,視力予後と円孔閉鎖にかかわる因子に関して,文献的考察を加え検討したので報告する.CI対象および方法2000.2020年の間に当院において外傷性黄斑円孔と診断され,6カ月以上経過観察可能であったC18歳以下の患者(17例C17眼)を対象とした.対象症例の受傷機転,自然閉鎖あるいは手術までの日数,初診時視力,最終視力,光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)による黄斑円孔の形態(最小円孔径と円孔底径)について,診療録をもとに後ろ向きに検討した.自然閉鎖例および手術を要した代表症例のCOCT経過を,それぞれ図1,2に示す.本検討はヘルシンキ宣言に則り行い,琉球大学の人を対象とする医学系倫理審査委員会によって承認された.後ろ向き研究のため,研究内容を琉球大学のホームページに掲載し,オプトアウトの機会を提供した.図116歳,男性:ペットボトルで受傷a:初診時のCOCT.最小円孔径はC512Cμm,円孔底径はC522Cμmであった.Cb:初診時からC1カ月後のCOCT.最小円孔径はC192μm,円孔底径はC288Cμmで縮小傾向を認めた.Cc:最終受診時のOCT.受傷C58日後に黄斑円孔は閉鎖したが,網膜萎縮,脈絡膜損傷のため,最終視力は(0.6)であった.図213歳,男性:野球ボールで受傷a:初診時のCOCT.最小円孔径はC362Cμm,円孔底径はC1,580Cμmであった.Cb:初診時からC1カ月後のCOCT.最小円孔径はC551Cμm,円孔底径はC1,080Cμmと拡大傾向を認め,受傷C43日後に硝子体手術を施行し,黄斑部耳側の内境界膜を半周.離し円孔上に被覆した.Cc:術後C1カ月時点でのCOCT.円孔は閉鎖せず,受傷後C78日に再手術を施行し,鼻側の内境界膜を被覆した.Cd:最終受診時のCOCT.術後,黄斑円孔は閉鎖し,最終視力は(0.6)であった.表1全症例の臨床的特徴と転機初診時最終受傷から自受傷から初診時初診時症例年齢性別受傷原因経過然閉鎖まで手術まで最小円孔径円孔底径合併症視力視力の日数の日数(μm)(μm)1C7男野球バットC0.1C1.2経過観察C8C128C408C2C16男ペットボトルC0.04C0.6経過観察C58C512C522網膜振盪/網膜下出血/脈絡膜破裂3C18男交通外傷C0.06C0.2経過観察C38C232C417網膜振盪4C12男サッカーボールC0.2C0.6経過観察C42C247C480網膜振盪5C11男サッカーボールC0.2C0.9経過観察C29C316C480C6C12男野球バットC0.15C0.9経過観察C59C190C246網膜振盪7C11男野球ボールC0.05C0.4経過観察C32C416C991C8C14男野球ボールC0.15C0.3硝子体手術C99C316C917網膜下出血/脈絡膜破裂9C16男野球ボールC0.15C0.8硝子体手術C50C0C1,044脈絡膜破裂10C13男野球ボールC0.1C0.5硝子体手術C94C328C1,153C11C14男サッカーボールC0.03C0.2硝子体手術C106C530C980網膜振盪12C13男野球ボールC0.03C0.6硝子体手術C43C221C4,262網膜振盪/網膜下出血/脈絡膜破裂13C14男野球ボールC0.1C0.7硝子体手術C116C480C993網膜振盪14C14男野球ボールC0.15C0.5硝子体手術C120C664C1,762網膜振盪15C14男野球ボールC0.2C0.6硝子体手術C132C362C1,580網膜振盪/網膜下出血/再手術16C9女野球ボールC0.03C0.6硝子体手術C98C410C1,125C17C5男テニスボールC0.08C0.05硝子体手術C120C325C1,540網膜振盪/脈絡膜破裂II結果全症例の特徴と転機を表1に示す.性別は男性C16例,女性C1例,平均年齢はC12.5C±3.1歳(5.18歳)であった.受傷原因の内訳は野球ボールがC9例,サッカーボールがC3例,野球バットがC2例,テニスボールがC1例とスポーツに関する外傷がC83.3%であった.全症例のうち,円孔が自然閉鎖した症例がC7例で,受傷から円孔閉鎖までの平均期間はC43.0C±27.1日,硝子体手術を施行した症例はC10例で,受傷から手術までの平均期間はC97.8C±31.3日であった.手術後C1例は円孔閉鎖が得られず,再手術により円孔閉鎖し,最終的には全例が円孔閉鎖した.全例における初診時の平均ClogMAR視力はC1.07C±0.06で,円孔閉鎖後の平均ClogMAR視力はC0.33C±0.33と有意に改善した(p<0.01).自然閉鎖群の初診時平均ClogMAR視力はC1.02±0.29,円孔閉鎖後の平均ClogMAR視力はC0.22C±0.26,手術群の初診時平均ClogMAR視力はC1.08C±0.32,円孔閉鎖後の平均ClogMAR視力はC0.40C±0.36であり,両群間で初診時および円孔閉鎖後の視力において有意差はなかった.OCTで測定した最小黄斑円孔径および黄斑円孔底径は,自然閉鎖群では初診時の最小黄斑円孔径はC291.6C±133.7μm,黄斑円孔底径はC449.1C±109.0Cμm.手術群では初診時の最小黄斑円孔径はC363.6C±179.9Cμm,黄斑円孔底径は1,535.6±1,001.6Cμmであり,最小黄斑円孔径では有意差はなかったが,黄斑円孔底径は手術群で有意に大きかった(p<0.01).受傷後C2週間では,自然閉鎖群および手術群ともに,最小黄斑円孔径や黄斑円孔底径の有意な変化は認めなかった.受傷後C1カ月時点で,自然閉鎖群は最小黄斑円孔径C83.6±81.8Cμm,黄斑円孔底径C189.3C±131.8Cμmであり,有意に円孔径は縮小傾向であった(p<0.05)が,手術群では最小黄斑円孔径C552.9C±153.8μm,黄斑円孔底径C1,188.4C±675.0Cμmであり,最小黄斑円孔径が有意に拡大していた(p<0.05).自然閉鎖群と手術群それぞれの最小黄斑円孔径と黄斑円孔底径の経過を図3に示す.CIII考按外傷性黄斑円孔は眼球前方からの瞬間的な外力で眼球が圧排され,黄斑を含む網膜全体が遠心方向に牽引されることで生じると考えられている5).外力による黄斑部の進展によって生じるため,後部硝子体.離が生じていない若年者では,黄斑部網膜に接着した硝子体皮質が黄斑部と一緒に遠心方向に牽引され,外傷性黄斑円孔が生じやすい2,5).また,自然閉鎖の報告も多数あり,どの程度経過観察を行い硝子体手術に踏み切るかは,術者や施設に委ねられているのが現状である.成人を含めた外傷性黄斑円孔の自然閉鎖率は,既報ではabμmp<0.05μmp<0.056001,2005001,00040080030060020040010020000初診時2週4週8週初診時2週4週8週症例1症例2症例3症例4症例1症例2症例3症例4症例5症例6症例7症例5症例6症例7cμmp<0.05dμm9008007006005004003002001004,5004,0003,5003,0002,5002,0001,5001,0005000初診時2週4週8週0初診時2週4週8週症例8症例9症例10症例11症例12症例8症例9症例10症例11症例12症例13症例14症例15症例16症例17症例13症例14症例15症例16症例17図3自然閉鎖群と硝子体手術群の最小黄斑円孔径と黄斑円孔底径の経過a:自然閉鎖群の最小黄斑円孔径.初診時からC4週で有意に円孔が縮小した.Cb:自然閉鎖群の黄斑円孔底径.初診時からC4週で有意に円孔が縮小した.Cc:硝子体手術群の最小黄斑円孔径.初診時からC4週で有意に円孔が拡大した.Cd:硝子体手術群の黄斑円孔底径.円孔径に有意な変化はなかった.25.0.66.7%2,3,6,7)とかなりばらつきがあるが,小児の外傷性黄斑円孔ではC34.5.50%2,4,6,8)であり,成人とほぼ同等の自然閉鎖率である.筆者らの検討でも,41.2%の症例で自然閉鎖しており,既報と同等の結果であった.受傷から閉鎖までの期間は,既報ではC39.63日程度2,4)であり,本検討でも自然閉鎖群は平均C43日で円孔閉鎖を得られており,自然閉鎖はC2カ月前後に得られることが多い.一方,小児例においては,手術時に全身麻酔を必要とし,人工的な後部硝子体.離作製や水晶体温存での手術など,成人と比較し手術難度が高いことが問題となる.小児の外傷性黄斑円孔では自然閉鎖例が存在する以上,経過観察による円孔閉鎖を期待したくなるが,Millerら4)は受傷後C3カ月を超えた症例は硝子体手術の閉鎖率が低下することを報告している.また,過度の経過観察が弱視を惹起し,恒久的な視機能低下リスクになることが指摘されており2,8),受傷後C2.3カ月時点で円孔閉鎖が得られない場合は,小児であっても硝子体手術に踏み切る必要がある.小児外傷性黄斑円孔における硝子体手術は,成人に対する特発性黄斑円孔と同様に,円孔周囲の内境界膜.離を併用した硝子体手術が標準的な術式である.成人の外傷性黄斑円孔の閉鎖率は初回手術でC90%以上を達成した報告が多いが9,10),以前は小児外傷性黄斑円孔に対する硝子体手術は,後部硝子体と内境界膜の癒着が成人と比べて強く11),完全な後部硝子体.離を人工的に作製することは困難であり,網膜損傷,視野障害,硝子体出血が生じやすく,年齢が若い患者ほど手術成績が悪いことが指摘されていた5).しかし,近年では,Liuら2)は受傷後平均C13日の手術で,初回手術による閉鎖率はC14/18眼(77.8%),最終的に全例の円孔閉鎖を達成しており,Brennanら8)は受傷後平均C147日で内境界膜.離を併用した硝子体手術を施行し,初回閉鎖率C12/13眼(92.3%)を達成した.本検討でも内境界膜.離を併用した硝子体手術により,初回円孔閉鎖率はC9/10眼(90%),最終円孔閉鎖率はC100%であった.近年は黄斑円孔手術において,巨大円孔や陳旧性黄斑円孔のような難治性の黄斑円孔に,内境界膜翻転を併用した硝子体手術が考案され,円孔閉鎖率の大幅な改善がみられている12).本検討でも難治性症例では内境界膜翻転を併用していた.他にプラスミン併用硝子体手術13)やCbloodCcoating2)などの報告もあり,小児における外傷性黄斑円孔の治療成績も向上している.このことからも自然閉鎖の見込みが低いと考えられる場合は,積極的な硝子体手術を行い円孔の閉鎖を試みる価値があると思われる.一方で,どのような患者が黄斑円孔の自然閉鎖となるかは議論の余地がある.Chenら3)は初診時の円孔径が小さいこと,網膜内.胞がない症例は自然閉鎖する可能性が高いことを報告しているが,Liuら2)は円孔径がC400Cμm以上の症例でも,縮小傾向なら自然閉鎖の可能性があると指摘している.Millerら5)は同様に円孔径が縮小傾向なら自然閉鎖率が高いことを報告しており,初診時の円孔径は自然閉鎖とは関連しないと結論している.筆者らの検討では,初診時の時点では,最小円孔径は自然閉鎖群と手術群で有意差はなかったが,自然閉鎖群は初診時と比べて受診からC1カ月時点での最小黄斑円孔径や黄斑円孔底径が有意に縮小しており,逆に手術群では初診時と比べて受診からC1カ月時点での最小黄斑円孔径が有意に拡大していた.このことは,LiuやCMillerらの指摘と合致する.しかし,初診時と受診からC2週間時点での円孔径では,自然閉鎖群も手術群も円孔径は有意差がなかった点からは,少なくともC1カ月以上の経過観察が妥当と考えられる.しかし,受傷からC1カ月時点で黄斑円孔径が拡大傾向にあるのであれば,手術のリスクとベネフィットや患者の希望を考慮したうえで,手術時期を検討すべきであろう.今回の検討では,視力予後については自然閉鎖群と手術群で有意差はなく,どちらの群も初診時と比べて視力は改善しており,手術群でもC7/10眼(70.0%)で最終小数視力(0.6)以上を達成していた.過去の報告においても手術を要した症例でも術後は初診時より視力が改善し2,4,6,8),自然閉鎖群と視力予後は差がなかった2,6)ことが報告されている.Azevedoら14)は小児外傷性黄斑円孔の視力予後において,早期硝子体手術は安全で効果的な選択であり,手術のリスク/ベネフィット比は経過観察よりも優れていることを指摘した.一方で,外傷性黄斑円孔においては,外傷によるCellipsoidzoneや脈絡膜の損傷,網膜震盪や網膜.離の合併が,視力不良と関連することが知られており2,5),筆者らの検討でも最終小数視力が(0.3)以下の症例は,全例で網膜震盪や脈絡膜損傷を合併していた.解剖学的な黄斑円孔閉鎖が得られたとしても視力不良の患者が存在することは念頭に置くべきである.今回,当院における若年者外傷性黄斑円孔の臨床転帰を呈示した.成人の外傷性黄斑円孔と同じく,小児でも硝子体手術による黄斑円孔閉鎖によりある程度良好な視力が得られる可能性がある.自然閉鎖例もあり手術時期の判断はむずかしいが,硝子体手術による円孔閉鎖で視機能維持が期待できる場合も多数あるため,OCTによる黄斑円孔の形状変化を見逃さず,円孔の拡大があれば硝子体手術に踏み切る必要がある.文献1)Budo.CG,CBhagatCN,CZarbinMA:TraumaticCmacularhole:diagnosis,CnaturalChistory,CandCmanagement.CJCOph-thalmol2019;2019:58378322)LiuCJ,CPengCJ,CZhangCQCetal:Etiologies,Ccharacteristics,Candmanagementofpediatricmacularhole.AmJOphthal-molC210:174-183,C20203)ChenH,ChenW,ZhengKetal:Predictionofspontane-ousCclosureCofCtraumaticCmacularCholeCwithCspectralCdomainCopticalCcoherenceCtomography.CSciCRepC5:12343,C20154)MillerJB,YonekawaY,EliottDetal:Long-termfollow-upCandCoutcomesCinCtraumaticCmacularCholes.CAmCJCOph-thalmolC160:1255-1258Ce1,C20155)MillerJB,YonekawaY,EliottDetal:Areviewoftrau-maticmacularhole:diagnosisandtreatment.IntOphthal-molClinC53:59-67,C20136)YamashitaCT,CUemaraCA,CUchinoCECetal:SpontaneousCclosureCofCtraumaticCmacularChole.CAmCJCOphthalmolC133:230-235,C20027)ChenCHJ,CJinCY,CShenCLJCetal:TraumaticCmacularCholestudy:amulticentercomparativestudybetweenimmedi-ateCvitrectomyCandCsix-monthCobservationCforCspontane-ousclosure.AnnTranslMedC7:726,C20198)BrennanCN,CReekieCI,CKhawajaCAPCetal:Vitrectomy,CinnerClimitingCmembraneCpeel,CandCgasCtamponadeCinCtheCmanagementCofCtraumaticCpaediatricCmacularholes:aCcaseseriesof13patients.OphthalmologicaC238:119-123,C20179)KuhnF,MorrisR,MesterVetal:Internallimitingmem-braneCremovalCforCtraumaticCmacularCholes.COphthalmicCSurgLasersC32:308-315,C200110)BorC’iCA,CAl-AswadCMA,CSaadCAACetal:ParsCplanaCvit-rectomywithinternallimitingmembranepeelingintrau-maticmacularhole:14%p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瞬目異常を主症状とした小児Lid-Wiper Epitheliopathy の 2 症例

2022年4月30日 土曜日

《原著》あたらしい眼科39(4):524.528,2022c瞬目異常を主症状とした小児Lid-WiperEpitheliopathyの2症例小林加寿子*1,2横井則彦*3外園千恵*3*1中日病院眼科*2名古屋大学大学院医学系研究科眼科学・感覚器障害制御学*3京都府立医科大学大学院視覚機能再生外科学CTwoCasesofLid-WiperEpitheliopathyinChildrenPresentingAbnormalBlinkingKazukoKobayashi1,2),NorihikoYokoi3)andChieSotozono3)1)DepartmentofOphthalmology,ChunichiHospital,2)DepartmentofOphthalmology,NagoyaUniversityGraduateSchoolofMedicine,3)DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicineC瞬目異常を主症状とし,レバミピド懸濁点眼液による治療が奏効した小児Clid-wiperepitheliopathy(LWE)のC2例を報告する.症例C1はC9歳,男児.5カ月前より瞬目異常に対し抗菌薬およびステロイドの点眼にて改善せず京都府立医科大学附属病院眼科に紹介された.左眼にCLWEと角膜上皮障害を認め,レバミピド懸濁点眼液開始後C6週間で治癒した.経過中右眼にも同様の所見を生じたが,同治療によりC2週間で治癒した.症例C2はC9歳,男児.1カ月前より瞬目異常と掻痒感を自覚し,抗アレルギー薬およびステロイドの点眼と抗アレルギー薬の内服にて改善せず紹介された.両眼の結膜炎,LWE,および角膜上皮障害を認め,レバミピド懸濁点眼液およびC0.1%フルオロメトロン点眼液による治療にて,6カ月で治癒した.LWEは小児では瞬目異常が主症状となる場合があることおよび,レバミピド懸濁点眼液がCLWEならびに瞬目異常の治療に有効であることが示唆された.CPurpose:ToCreportCtwoCcasesCoflid-wiperCepitheliopathy(LWE)inCchildrenCwhoCpresentedCwithCabnormalblinking(AB).CaseReports:Case1involveda9-year-oldmalewithABwhoshowednoimprovementfollowingaC5-monthCtreatmentCwithCantibioticCandCsteroidCeyeCdrops.CLWECandCcornealepithelialCdamage(CED)wasCobservedCinChisCleftCeye.CAllCsymptomsCresolvedCatC1.5CmonthsCafterCinitiatingCtreatmentCwithrebamipide(RBM)Ceyedrops.Duringthetreatmentcourse,LWEandCEDwereobservedinhisrighteye,yetresolvedviathesametreatment.CCaseC2CinvolvedCaC9-year-oldCmaleCwithCABCandCocularCitchiness.CThereCwasCnoCimprovementCafterCaC1-monthtreatmentwithtopicalandgeneralanti-allergymedicationandsteroideyedrops.Bilateralconjunctivitis,LWE,CandCCEDCwereCobserved,CyetCallCsymptomsCresolvedCatC6-monthsCafterCinitiatingCtreatmentCwithCRBMCandCsteroideyedrops.Conclusion:LWEinchildrencanresultinAB,andLWEandassociatedblinkabnormalitiescane.ectivelybetreatedwithRBMeyedrops.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)39(4):524.528,C2022〕Keywords:lid-wiperepitheliopathy,瞬目異常,角膜上皮障害,レバミピド懸濁点眼液,小児.lid-wiperepithe-liopathy,abnormalblinking,cornealepithelialdamage,rebamipideeyedrops,children.Cはじめに2002年,Korbらは,瞬目時に眼球表面と摩擦を生じる眼瞼下溝から上眼瞼の後縁に及ぶ眼瞼結膜部位をClidwiper,この部位の結膜上皮障害をClid-wiperCepitheliopathy(LWE)と命名した1).その後,Shiraishiらは,上眼瞼に比べて下眼瞼にCLWEの頻度が高いことを示し2),現在,LWEは上下のlidwiper領域の上皮障害として認知されるようになってきている.LWEの発症メカニズムとして,瞬目時の摩擦亢進が考えられており1),ドライアイと同様,さまざまな症状を引き起こす原因となる.今回,瞬目異常を症状とし,レバミピド懸濁点眼液による治療が奏効した小児CLWEのC2症例を経験したので報告する.〔別刷請求先〕橫井則彦:〒606-8566京都市上京区河原町通広小路上ル梶井町C465京都府立医科大学眼科学教室Reprintrequests:NorihikoYokoi,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,465Kajii-cho,Hirokoji-agaru,Kawaramachi-dori,Kamigyo-ku,Kyotocity,Kyoto606-8566,JAPANC524(132)I症例〔症例1〕患者:9歳,男児.既往歴:特記すべきことなし.現病歴:5カ月前に左眼の瞬目異常に母親が気づき,近医を受診.近医にて抗菌点眼液(オフロキサシン点眼液,左眼1日C2回)およびステロイド点眼液(0.1%フルメトロン点眼液,左眼C1日C2回)にて治療されたが,改善しなかったため,京都府立医科大学附属病院眼科を紹介されて受診した.初診時所見:視力は右眼:1.5(矯正不能),左眼:1.2(矯正不能).眼圧は非接触型眼圧計にて,右眼:14CmmHg,左眼:14CmmHgであった.左眼に下方優位のCLWEと,角膜下方に密な点状表層角膜症を認めた(図1).右眼にはCLWEも角膜上皮障害も認めなかった.経過:レバミピド懸濁点眼液を左眼にC1日C4回点眼で開始し,6週間後には,左眼の瞬目異常,LWEおよび点状表層角膜症は治癒した(図1).経過中,右眼にも左眼と同様の瞬目異常とCLWEを認めたが,レバミピド懸濁点眼液を右眼にもC1日C4回点眼で開始し,2週間で治癒した.〔症例2〕9歳,男児.既往歴:特記すべきことなし.現病歴:1カ月前より瞬目異常と掻痒感を自覚し,近医にて抗アレルギー点眼液(オロパタジン点眼液,両眼C1日C4回)およびステロイド点眼液(0.1%フルメトロン点眼液,両眼C1初診時日C2回)にて治療されたが,改善しなかったため,京都府立医科大学附属病院眼科を紹介されて受診した.初診時所見:視力は右眼:1.2(1.5×+0.50D),左眼:1.2(矯正不能),眼圧は非接触型眼圧計にて,右眼:11CmmHg,左眼:11CmmHgであった.両眼の下方眼瞼結膜に充血,乳頭形成,高度のCLWE,上方にも軽度のCLWEおよび角膜下方に,角膜上皮障害を認めた(図2,3上段).経過:オロパタジン点眼液は中止とし,レバミピド懸濁点眼液を両眼にC1日C4回,0.1%フルメトロン点眼液を両眼に1日C1回点眼として開始し,6カ月で瞬目異常,掻痒感,結膜充血,乳頭形成,LWEおよび角膜上皮障害は治癒した(図2,3下段).CII考按LWEは,その発症機序として,瞬目時の摩擦亢進が推定される,瞼板下溝から上眼瞼の後縁に及ぶClidwiper領域における上皮障害であり1),高齢者より若年者に多く,異物感,眼痛といったドライアイに類似したさまざまな症状を訴える.危険因子として,ソフトコンタクトレンズ(softcontactlens:SCL)装用,ドライアイなどが知られている1.3).SCL装用は,LWEが発見される最初の契機となった危険因子であり,SCL表面は,角膜表面に比べて涙液層が薄いことや水濡れ性が悪いことが,LWEの原因として考えられる.一方,ドライアイ,とくに涙液減少型ドライアイにおいては,治療後図1症例1の左眼a,b:角膜フルオレセイン染色所見(ブルーフリーフィルターによる観察所見).c~f:眼瞼結膜リサミングリーン染色所見.初診時にみられた点状表層角膜症(Ca)およびClid-wiperCepitheliopathy(Cc,e)は,レバミピド懸濁点眼液のC1日C4回開始C6週間後に,それぞれ治癒した(b,d,f).初診時治療後図2症例2の右眼a,b:角膜フルオレセイン染色所見(ブルーフリーフィルターによる観察所見).c~f:眼瞼結膜リサミングリーン染色所見.初診時にみられた角膜上皮障害(ただし,縦線状の外観を示すことから,掻痒感に起因する眼瞼擦過の影響も無視できない)(a)およびClid-wiperCepi-theliopathy(Cc,e.eでは眼瞼結膜に乳頭形成もみられる)は,レバミピド懸濁点眼液のC1日C4回およびC0.1%フルオロメトロン点眼液のC1日C1回点眼開始C6カ月後に,それぞれ治癒した(Cb,d,f).初診時治療後図3症例2の左眼a,b:角膜フルオレセイン染色所見(ブルーフリーフィルターによる観察所見).c~f:眼瞼結膜リサミングリーン染色所見.初診時にみられた角膜上皮障害(Ca)およびClid-wiperCepitheliopathy(Cc,e.eでは眼瞼結膜に乳頭形成もみられる)は,レバミピド懸濁点眼液のC1日C4回およびC0.1%フルオロメトロン点眼液のC1日C1回点眼開始C6カ月後に,それぞれ治癒した(Cb,d,f).潤滑作用をもつ涙液の不足のために,瞬目時の摩擦亢進が生じやすく,このことがCLWEが涙液減少型ドライアイに合併しやすい理由としてあげられる.LWEは,症状がない場合があり4),本症例のように小児やCSCL非装用眼でも発症する.今回の症例とドライアイの関連については,.uore-sceinbreakuptime(FBUT)やC.uoresceinbreakuppattern(FBUP)検査を試みたが,小児のため,正確な評価はできなかった.また,LWEは,一般に涙液減少型ドライアイを合併しやすいが,今回の症例では,涙液メニスカスの高さは正常範囲と考えられ,小児のためCSchirmerテストは施行できなかったが,結膜上皮障害がみられなかったことから,涙液分泌減少の合併はないと考えた.しかし,今回瞬目異常がみられたことを考慮すると,眼瞼けいれんで報告されている5)ような,涙液減少を伴わないCBUT短縮型ドライアイ,とくに水濡れ性低下型ドライアイが表現されていた可能性が考えられる.そして,今回の症例では,母親が気づいた瞬目異常が,LWEの診断につながったことは,注目に値する.小児に瞬目異常を起こす疾患には,チックなど内因性によるものや,心身障害といった全身疾患によるもの,顔面神経麻痺や,眼疾患によるものがある(表1).鑑別すべき疾患は多くはないが,とくに,チックや心身障害によるものは,小児科や精神科からのアプローチが主となり,診断や治療も複雑である.今回経験した症例のうち,1例目は患者自身の自覚症状はなかったが,母親が瞬目異常に気づいて受診しており,小児は年齢や成育の程度とも関連して,患者が症状を訴えない場合や訴えられない場合もあるため注意が必要と思われる.そして,小児で瞬目異常を認めた場合は,LWEのような,瞬目時の摩擦亢進が関係する眼表面疾患が原因である可能性も念頭において,鑑別診断を進めてゆく必要がある.瞬目時の摩擦亢進は,lidwiper領域の眼瞼結膜と眼球表面を構成する角膜および球結膜との間で生じ,眼瞼の背後で生じる病態のため,直接観察することができない.そのため,摩擦亢進の結果としての上皮障害からその病態を推察する必要がある.LWEは,フルオレセイン,ローズベンガル,あるいは,リサミングリーン染色でClidwiper領域の染色陽性所見として観察されるが,本症例ではC2例とも,下眼瞼を主体としてClidwiper領域に帯状のリサミングリーン染色陽性所見を認めた.LWEの頻度は上眼瞼よりも下眼瞼が高く,さらに下方CLWEでは,重症度が高いほど,眼瞼圧も高いことが知られることから,高い眼瞼圧は,下方CLWEの発症要因の一つと捉えることができる6).また,上眼瞼は眼瞼圧との明らかな関連はないが,瞬目は上下眼瞼の共同作業であるため,今回のC2例では,下眼瞼の眼瞼圧が高いことによって引き起こされる眼球運動変化や,それに基づく瞬目摩擦の亢進が上眼瞼にも影響して,LWEを発症した可能性がある.表1小児で瞬目異常を起こす原因チック重症心身障害(脳炎,てんかん,脳症など)顔面神経麻痺児童虐待眼疾患:結膜炎(感染性結膜炎,アレルギー性結膜炎,春期カタルなど)ドライアイ,コンタクトレンズ装用,マイボーム腺機能不全,lidwiperepitheliopathy,睫毛内反,睫毛乱生また,症例C2では,眼掻痒感を伴っていたことから,手指で眼瞼を掻くことが,瞬目時の摩擦を増強させ,LWEを増悪させた可能性もある.Yamamotoらによると下方のCLWEには高い眼瞼圧が関係しているとされ6),表1にあげた瞬目異常の原因となる眼疾患では,生理的な瞬目時よりも瞬目が強くなることでCLWEひいては瞬目摩擦による角膜上皮障害を伴いやすくなっている可能性があり,その視点から眼表面を観察する意義があると思われる.眼瞼圧は加齢に伴って減少し7),小児では眼瞼圧が高いと考えられるため,LWEを発症しやすい可能性がある.今回の症例では,下方のCLWEのみならず,それと摩擦を生じうる関係にある下方の角膜領域にフルオレセインで染色される上皮障害所見がみられたことから,両上皮障害部位の摩擦亢進による悪循環,ひいてはそれによって生じるさまざまな眼不快感によって,瞬目という上下眼瞼の一連の相互作用が影響を受け,瞬目異常の症状を引き起こしたと推測される.ただし,症例C2の右眼では,角膜上皮障害は,縦線状の外観を示しており,掻痒感に起因する眼瞼擦過の影響も無視できないと考えられる.LWEの治療としては,眼瞼結膜のClidwiper領域と眼球表面との瞬目摩擦の軽減が鍵となるが,そこには,眼瞼圧の減少,瞬目時の眼瞼速度の減少,涙液の粘度の減少,lidwiper領域と眼球表面を構成する角結膜表面の潤滑性の増加の切り口がある8).今回のC2症例で使用したレバミピド懸濁点眼液を含め,わが国で認可されているドライアイ治療薬は,涙液の潤滑性を高め,瞬目摩擦の軽減に寄与する可能性がある.涙液層の液層は水分と分泌型ムチンから構成されており,一方,眼表面上皮には,膜型ムチンが分布して,lidwiper領域と眼球表面の摩擦に対して潤滑性を発揮する.人工涙液やヒアルロン酸ナトリウム点眼液は涙液の水分量を一時的に増やすが,それぞれ,3分,5分程度の効果であり9),ムチン増加作用がないため,摩擦軽減効果は短時間と考えられる.一方,分泌型ムチンであるCMUC5ACを産生,分泌する杯細胞は,眼球結膜や眼瞼結膜,結膜.円蓋部,lidwiper領域に多く存在している10).レバミピド懸濁点眼液は,分泌型ムチンであるCMUC5ACを分泌する杯細胞をClidwiper領域で増加させるため11),lidCwiper領域の潤滑性が高まり,瞬目摩擦を効率よく軽減させる効果が期待できる.また,レバミピド懸濁点眼液は,角膜上皮における膜型ムチンであるMUC16を増加させ12),眼表面上皮の水濡れ性を高める効果も期待できる.さらに,レバミピド懸濁点眼液は,眼表面炎症に対する抗炎症作用も期待でき13),このことも,摩擦亢進の結果生じうる炎症の軽減,ひいては,眼不快感の軽減につながることが期待される.以上より,レバミピド懸濁点眼液は,水分分泌作用はないが,摩擦の鍵となるClidwiper領域で特異的に杯細胞を増加させて,分泌型ムチンを緩徐に増加させるとともに,膜型ムチンを増加させることでClidCwiper領域の瞬目摩擦を軽減し,LWEや,それに伴う角膜上皮障害に効果が期待できると考えられる.以上,今回,筆者らは,瞬目異常を伴う高度のCLWEに対して,レバミピド懸濁点眼液を使用し,2症例とも治癒し,その後の再発を認めていない.本剤投与によってClidCwiper領域で杯細胞が増加し,潤滑剤としての分泌型ムチンの産生が促され,さらに膜型ムチンの発現が亢進したことで,瞬目摩擦の悪循環が改善し,LWEが治癒したと推察している.また,レバミピド懸濁点眼液だけではなく,低力価ステロイド点眼液も,摩擦亢進の結果として生じる炎症に対して効果があったと思われる.レバミピド懸濁点眼液は,糸状角膜炎14),上輪部角結膜炎15)といった瞬目摩擦が関係しうる他の眼表面疾患に対して,有効であることが報告されており,本症例の経験から,小児のCLWEに対してもレバミピド懸濁点眼液は有効と考えられた.文献1)KorbDR,GreinerJV,HermanJPetal:Lid-wiperepithe-liopathyCandCdry-eyeCsymptomsCinCcontactClensCwearers.CCLAOJC28:211-216,C20022)ShiraishiCA,CYamaguchiCM,COhashiY:PrevalenceCofCupper-andlower-lid-wiperepitheliopathyincontactlenswearersandnon-wearers.EyeContactLensC40:220-224,C20143)白石敦,山西茂喜,山本康明ほか:ドライアイ症状患者におけるClid-wiperepitheliopathyの発現頻度.日眼会誌C113:596-600,C20094)KorbDR,HermanJP,GreinerJVetal:Lidwiperepithe-liopathyCandCdryCeyeCsymptoms.CEyeCContactCLensC31:C2-8,C20055)HosotaniY,YokoiN,OkamotoMetal:Characteristicsoftearabnormalitiesassociatedwithbenignessentialblepha-rospasmCandCameliorationCbyCmeansCofCbotulinumCtoxinCtypeAtreatment.JpnJOphthalmolC64:45-53,C20206)YamamotoY,ShiraishiA,SakaneYetal:Involvementofeyelidpressureinlid-wiperepitheliopathy.CurrEyeResC41:171-178,C20167)SakaiE,ShiraishiA,YamaguchiMetal:Blepharo-tensi-ometer:newCeyelidCpressureCmeasurementCsystemCusingCtactileCpressureCsensor.CEyeCContactCLensC38:326-330,C20128)加藤弘明,橫井則彦:瞬目摩擦の基礎理論とその診断.あたらしい眼科34:353-359,C20179)YokoiCN,CKomuroA:Non-invasiveCmethodsCofCassessingCthetear.lm.ExpEyeResC78:399-407,C200410)KnopCN,CKorbCDR,CBlackieCCACetal:TheClidCwiperCcon-tainsgobletcellsandgobletcellcryptsforocularsurfacelubricationduringtheblink.CorneaC31:668-679,C201211)KaseCS,CShinoharaCT,CKaseM:E.ectCofCtopicalCrebamip-ideongobletcellsinthelidwiperofhumanconjunctiva.ExpTherMedC13:3516-3522,C201712)UchinoCY,CWoodwardCAM,CArguesoP:Di.erentialCe.ectCofCrebamipideConCtransmembraneCmucinCbiosynthesisCinCstrati.edocularsurfaceepithelialcells.ExpEyeResC153:C1-7,C201613)TanakaCH,CFukudaCK,CIshidaCWCetal:RebamipideCin-creasesCbarrierCfunctionCandCattenuatesCTNFa-inducedCbarrierdisruptionandcytokineexpressioninhumancor-nealepithelialcells.BrJOphthalmolC97:912-916,C201314)青木崇倫,橫井則彦,加藤弘明ほか:ドライアイに合併した糸状角膜炎の機序とその治療の現状.日眼会誌C123:C1065-1070,C201915)TakahashiY,IchinoseA,KakizakiH:TopicalrebamipidetreatmentCforCsuperiorClimbicCkeratoconjunctivitisCinCpatientswiththyroideyedisease.AmJOphthalmolC157:C807-812,C2014C***

帯状角膜変性への治療的角膜切除術後に発症した高度の 角膜上皮下混濁に対しマイトマイシンC を併用した治療的 角膜切除術が奏効した小児の1 例

2021年12月31日 金曜日

《原著》あたらしい眼科38(12):1504.1508,2021c帯状角膜変性への治療的角膜切除術後に発症した高度の角膜上皮下混濁に対しマイトマイシンCを併用した治療的角膜切除術が奏効した小児の1例高原彩加稗田牧京都府立医科大学眼科学教室CARarePediatricCaseofSevereCornealOpacityPostPhototherapeuticKeratectomythatwasSuccessfullyTreatedwithPhototherapeuticKeratectomyandMitomycinCAyakaTakaharaandOsamuHiedaCDepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicineC症例はC10歳,男児.学校検診で視力低下を指摘され近医を受診し,虹彩炎を認めたため京都府立医科大学附属病院を紹介受診.両眼の虹彩炎,帯状角膜変性を認め点眼加療を開始,また不全型CBehcet病の診断で内服加療を開始した.右眼の帯状角膜変性が進行したため治療的角膜切除術(PTK)を施行したが,術後に右眼角膜中央部に上皮下混濁を生じ,ステロイド点眼にも反応なく増悪して高度な混濁となった.マイトマイシンCC(MMC)併用CPTKを行い,その後は軽度の角膜上皮下混濁を生じたものの明らかな増悪はなく,安定して経過している.低年齢で,帯状角膜変性へのCPTK後に高度の角膜上皮下混濁を呈したまれな症例であり,MMC併用によるC2度目のCPTKが混濁の改善,予防に有用であった.CAC10-year-oldCboyCwithCiridocyclitisCwasCreferredCtoCtheCDepartmentCofCOphthalmologyCatCKyotoCPrefecturalCUniversityofMedicineHospitalfromalocalphysicianafteraschoolexaminationrevealedvisionloss.Initialexami-nationCrevealedCbilateralCiridocyclitisCandCbandCkeratopathy,CandCheCwasCdiagnosedCwithCincompleteCBehcet’sCdis-ease.CEyeCdropsCandCoralCtreatmentCwereCinitiated,CyetCphototherapeutickeratectomy(PTK)wasClaterCperformedCdueCtoCtheCbandCkeratopathyCinChisCrightCeyeCprogressing.CPostCsurgery,CaCcornealChazeCdevelopedCthatCdidCnotCrespondtosteroidtreatment,whichultimatelyworsenedintoasevereopacity.PTKcombinedwithmitomycinC(MMC)wasthenperformed,andalthoughamildcornealhazedevelopedpostsurgery,itdidnotworsenandhasremainedstable.AlthoughthispediatriccaseofseverecornealhazefollowingPTKforbandkeratopathyisrare,asecondPTKwithMMCwase.ectiveforalleviationandstabilizationofthehaze.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)38(12):1504.1508,C2021〕Keywords:角膜上皮下混濁,治療的角膜切除術,マイトマイシンCC,小児,帯状角膜変性.cornealChaze,Cphoto-therapeutickeratectomy,mitomycinC,child,bandkeratopathy.Cはじめに治療的角膜切除術(phototherapeuticCkeratectomy:PTK)は,顆粒状角膜ジストロフィや帯状角膜変性といった表層性角膜混濁により視機能低下を呈する患者に対し,エキシマレーザーを照射することで沈着物や変性組織などを除去し,視機能の回復を図る手術方法である1).角膜ジストロフィと帯状角膜変性についてはC2010年より国内で保険収載されており,広く施行されている.PTK後には原疾患の再発や角膜上皮下混濁,感染といった合併症を生じることがあり,角膜上皮下混濁に対しマイト〔別刷請求先〕稗田牧:〒602-8566京都府京都市上京区河原町通広小路上ル梶井町C465京都府立医科大学眼科学教室Reprintrequests:OsamuHieda,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,465Kajii-cho,Hirokoji-dori,Kamigyo-ku,Kyoto602-8566,JAPANCマイシンCC(mitomycinC:MMC)を使って再度照射するという報告がある1).帯状角膜変性の原因としては特発性のほかに緑内障,ぶどう膜炎,シリコーンオイル注入眼,外傷といったものがあげられるが,帯状角膜変性におけるCPTK後の予後は良好である.再発はC10%未満と少なく,視力低下を生じるような強い角膜上皮下混濁の報告は知る限りない2,3).また,未成年に対するCPTKの成績は良好であり,角膜上皮下混濁は生じても軽度で,治療反応性も良いとされている4,5).今回筆者らは,小児に発症した帯状角膜変性に対するPTK後に高度の角膜上皮下混濁が出現し,MMC併用でのPTKの施行が奏効したC1例を経験したので報告する.CI症例患者:10歳,男児.既往歴に特記事項なし.祖母が関節リウマチで加療されている.2016年に学校検診で視力低下を指摘され同年C6月初旬に近医を受診.近医にて両眼のぶどう膜炎を指摘され,ベタメタゾンC0.1%点眼両眼C1日C3回とトロピカミド・フェニフレン塩酸塩点眼両眼C1日C1回の点眼を開始し,同月に精査加療目的に京都府立医科大学附属病院(以下,当院)眼科を紹介受診した.初診時の矯正視力は右眼がC0.9,左眼がC1.5であり,右眼優位の両眼の虹彩炎,右眼の虹彩後癒着と両眼の軽度の帯状角膜変性を認めた(図1).全身疾患を疑い当院小児科で精査を行い,口腔粘膜の再発性アフタ性潰瘍を認め,不全型Behcet病の診断でまずはイコサペント酸エチルによる治療を開始した.治療を行い,前眼部の炎症は初診からC1カ月ほどで軽減し,ベタメタゾンC0.1%点眼を漸減してC2017年C4月からはフルオロメトロンC0.1%点眼を両眼C1日C2回,トロピカミド・フェニフレン塩酸塩点眼を両眼C1日C1回でコントロールし,また眼圧の軽度上昇ありカルテオロール塩酸塩点眼両眼1日C1回も使用した.しかし,眼内炎症は軽減したものの残存し,右眼は徐々に虹彩後癒着が進行し,一時は.胞様黄斑浮腫の出現も認めた.小児科診察でも腸管病変を疑う症状が出現し,2017年C11月からはコルヒチンが追加された.右眼の帯状角膜変性が少しずつ進行し,瞳孔領を完全に覆い(図2)右眼矯正視力C0.1まで低下したため,2018年C10月,12歳時に右眼に対しCPTKを施行した.エキシマレーザー(VISXStarS4IR)を用いて角膜上皮ならびに角膜実質を合計C92Cμm切除した.術後右眼の投薬はガチフロキサシンC0.3%点眼C1日C4回,フルオロメトロンC0.1%点眼1日4回,トロピカミド・フェニフレン塩酸塩点眼C1日C1回,カルテオロール塩酸塩点眼C1日C1回とした.瞳孔領の角膜混濁は消失し,経過良好であったが,不全型CBehcet病による虹彩後癒着および白内障の進行があり,右眼矯正視力C0.08と視力の改善は得られなかった.術C3カ月後から右角膜中央部に角膜上皮下混濁を生じたため,角膜上皮下混濁治療目的にフルオロメトロンC0.1%点眼をベタメタゾンC0.1%点眼1日4回に変更した.しかし角膜上皮下混濁は角膜後面形状を変化させるほどに肥厚,悪化し,矯正視力C0.02まで低下した(図3).重篤な角膜混濁を生じたため,2019年C5月,13歳時に右眼の角膜上皮下混濁に対しCMMCを併用したCPTKを施行した.角膜上皮ならびに角膜実質を合計C151Cμm切除し,エキシマレーザー照射終了後にC0.02%CMMCをしみこませた円形スポンジを角膜中央部にC2分間接触させ,その後生理食塩水C200Cmlを用いて洗浄した.本症例に対するCMMCは適応外使用であるが,MMC使用のリスクを説明し,文書による患者本人および保護者の同意を得て使用した.術後はガチフロキサシンC0.3%点眼C1日C4回,フルオロメトロンC0.1%点眼C1日C4回を開始し,術C2カ月後までは明らかな角膜混濁の出現なく経過していたが,術C3カ月後から角膜C6時方向,12時方向に角膜上皮下混濁が出現した.しかし,初回手術後のように強い角膜混濁を呈することはなく進行も緩やかで,瞳孔領は保たれており視機能への影響は少ないと考えられ,ガチフロキサシンC0.3%点眼,フルオロメトロンC0.1%点眼をC1日C2回に減量した.右眼白内障の進行を認め,虹彩後癒着による瞳孔閉鎖も認めたため,経過中のC2020年C2月に右眼に対し白内障手術を施行し,術中に瞳孔閉鎖を解除した.術後は眼内炎症が強く,前房へのフィブリンの析出や,眼内レンズ上の沈着物を生じた.術後にC1日C4回使用していたベタメタゾンC0.1%点眼をC1日C6回に増量,またトロピカミド・フェニフレン塩酸塩点眼C1日C3回を追加してフィブリンは改善した.トリアムシノロンのCTenon.下注射を行ったところ,眼内レンズ上の沈着物は軽減したものの,現在に至るまで残存している.ほかには眼底所見に明らかな異常を認めず,瞳孔閉鎖も手術で解除したものの,2020年C5月の矯正視力は右眼がC0.08,左眼がC1.2と右眼は不良である.白内障手術後も角膜上皮下混濁の悪化や帯状角膜変性の再発を認めず,角膜所見は安定している(図4).CII考按本症例は小児のぶどう膜炎に続発した帯状角膜変性であったと考えられ,帯状角膜変性へのCPTK後に高度の角膜上皮下混濁を生じた.しかしCMMC併用による再CPTK後には瞳孔領の透明性が確保され,高度な角膜上皮下混濁の再形成を認めない.帯状角膜変性へのCPTKは一般的に予後良好であり,再発や合併症が生じることは少ない3,6).既報4,5)では,小児に対するCPTK後の角膜上皮下混濁の頻度はC0.約C20%であり,再発しても混濁は軽度で視機能には影響を及ぼさない.ステ図1初診時の前眼部写真図2初回PTK前の前眼部写真3時方向,9時方向の淡い帯状角膜変性,また虹彩後癒着帯状角膜変性が進行している.を認める.図3初回PTKから7カ月後a:前眼部写真.角膜中央部に強い白色の混濁を認める.Cb:前眼部COCT.高度の角膜上皮下混濁により角膜形状が変化している.図4MMC併用PTKから1年後a:前眼部写真.6時方向,12時方向に薄い角膜上皮下混濁の形成を認める.Cb:前眼部COCT.角膜中央部の角膜混濁は消失しており,角膜形状も保たれている.ロイド点眼への治療反応性がよく,術後C12.18カ月で角膜上皮下混濁は消失することが報告されている.本症例では経過中に角膜上皮下混濁の改善目的にベタメタゾンC0.1%点眼を使用した.点眼薬に含まれるリン酸塩添加物がカルシウム角膜沈着を招き,帯状角膜変性を再発させる可能性があった7).帯状角膜変性の再発はきたさなかったものの,点眼への反応は乏しく,視機能に影響を及ぼす高度の角膜上皮下混濁を生じた.PTKやレーザー屈折矯正角膜切除術(photorefractivekeratectomy:PRK)でのエキシマレーザー照射による角膜上皮切除は,サイトカイン放出を引き起こし,角膜実質細胞のアポトーシスを誘発する1).それに伴いコラーゲンやグリコサミノグリカンなどが生合成され,実質の再構築が行われるが,その際に細胞の過剰増殖が起こると,コラーゲンとグリコサミノグリカンが不規則な層状構造を形成して角膜実質に沈着し,強い角膜上皮下混濁を呈すると考えられている8,9).そのため角膜上皮治癒が遅延する症例では,術後の角膜上皮下混濁を形成するリスクが高くなる1,10).しかし,本症例では術後の上皮修復に問題を認めなかった.不全型Behcet病で眼内炎症の強い状態であったため,PTK後の上皮損傷に伴う炎症性サイトカインが賦活され,混濁形成に寄与した可能性があると考えられる.PTKやCPRK後の角膜上皮下混濁に対しては,細胞増殖抑制作用をもつCMMCを併用したエキシマレーザー照射が混濁の形成や再発予防に有効であると報告されており,海外ではとくにCPRK施行の際に広く併用されている.MMCを使用することで,角膜実質細胞の複製を阻害し,術後の角膜実質細胞密度ならびに細胞から生合成されるコラーゲン,プロテオグリカンの密度を減少させることにより,角膜上皮下混濁を予防できる11,12).MMCを使用すると角膜・強膜融解,角膜内皮細胞減少といった合併症を生じるリスクがあり,小児へのCMMCの使用はとくに慎重である必要がある.海外においてはCMMCを併用したエキシマレーザー手術が小児患者に対して施行されており,3歳児にCMMC併用CPRKを行いC1年の観察を行った報告13)や,11.81歳の患者に対しCMMC併用CPTKを施行し,平均C8.3カ月の観察を行ったという報告14)がある.いずれも手術は効果的であり,MMCの使用による重大な合併症も認めず安全であったと報告されている13,14).本症例においても安全に施行することができた.既報15)に基づいて角膜上皮下混濁をCgrade0.4(grade0:混濁なし,grade1:わずかな混濁,grade2:軽度混濁,Cgrade3:中等度混濁,grade4:高度混濁)にCgradingすると,MMC併用CPTK前はCgrade4に達していたが,術C1年後はCgrade2である.PTK後は初回,2回目ともに術後C3カ月ほどで角膜上皮下混濁が出現しはじめたが,初回CPTK角膜上皮下混濁のgrade432102018/102019/52019/112020/5初回PTKMMC併用PTK2019/12019/8図5角膜上皮下混濁のgradeの遷移grade0:混濁なし.grade1:わずかな網状の混濁.grade2:軽度混濁.grade3:中等度混濁,虹彩の詳細な観察が困難となる.Grade4:高度の混濁,肉眼でも観察できる.後には増悪が続き非常に高度な混濁を呈したのに対し,MMC併用CPTK後は混濁の進行は軽度で停止し,術後C1年を経過しても増悪を認めない(図5).既報ではCPTK,PRK後の高度の角膜上皮下混濁へのCMMC併用CPTKもしくはPRK後,約C50.80%の症例で軽度の角膜上皮下混濁の形成を認めたが,すべての症例において術前よりも混濁は軽減しており,視機能への影響を与えるほどの混濁は出現しなかったとされている9,16).本症例は既報の少ない低年齢で,PTK後に非常に強い角膜上皮下混濁を呈しており,膠原病による眼炎症のリスクもあった.MMCを併用したCPTKは角膜上皮下混濁の予防,軽症化に有用であり,今回のような危険性の高い症例に対しても安全な方法であると考えられる.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)NagpalCR,CMaharanaCPK,CRoopCPCetal:PhototherapeuticCkeratectomy.SurvOphthalmolC65:79-108,C20202)HiedaCO,CKawasakiCS,CYamamuraCKCetal:ClinicalCout-comesCandCtimeCtoCrecurrenceCofCphototherapeuticCkera-tectomyinJapan.MedicineC98:27,C20193)O’BrartDP,GartryDS,LohmannCPetal:Treatmentofbandkeratopathybyexcimerlaserphototherapeutickera-tectomy:surgicaltechniquesandlongtermfollowup.BrJOphthalmolC77:702-708,C19934)AutrataCR,CRehurekCJ,CVodickovaK:PhototherapeuticCkeratectomyCinchildren:5-yearCresults.CJCCataractCRefractSurgC30:1909-1916,C20045)KolliasAN,SpitzlbergerGM,ThurauSetal:Photothera-peuticCKeratectomyCinCChildren.CJCRefractCSurgC23:703-708,C20076)StewartCOG,CMorrellAJ:ManagementCofCbandCkeratopa-thyCwithCexcimerphototherapeuticCkeratectomy:visual,Crefractive,CandCsymptomaticCoutcome.Eye(Lond)C17:C233-237,C20037)水野暢人,福岡秀記,草田夏樹ほか:難治なカルシウム沈着をきたしたCStevens-Johnson症候群のC1例.あたらしい眼科C37:627-630,C20208)LeeCYC,CWangCIJ,CHuCFRCetal:ImmunohistochemicalCstudyofsubepithelialhazeafterphototherapeutickeratec-tomy.JRefractSurgC17:334-341,C20019)ShalabyCA,CKayeCGB,CGimbelHV:MitomycinCCCinCpho-torefractivekeratectomy.JRefractSurgC25:93-97,C200910)SalahT,elMaghrabyA,WaringGO:Excimerlaserpho-totherapeuticCkeratectomyCbeforeCcataractCextractionCandCintraocularlensimplantation.AmJOphthalmolC122:340-348,C199611)NettoMV,ChalitaMR,KruegerRR:Cornealhazefollow-ingCPRKCwithCmitomycinCCCasCaCretreatmentCversusCpro-phylacticuseinthecontralateraleye.JRefractSurgC23:96-98,C200712)KaisermanCI,CSadiCN,CMimouniCMCetal:CornealCbreak-throughChazeCafterCphotorefractiveCkeratectomyCwithCmitomycinC:IncidenceCandCriskCfactors.CCorneaC36:C961-966,C201713)CrawfordCCM,CFrazierCTC,CTorresCMFCetal:PediatricPRK(photorefractiveCkeratectomy)withCmitomycinCC(MCC)forCpersistentCanisometropicCamblyopia.CACcaseCreport.BinoculVisStrabologQSimmsRomanoC27:233-234,C201214)AyresCBD,CHammersmithCKM,CLaibsonCPRCetal:Photo-therapeutickeratectomywithintraoperativemitomycinCtoCpreventCrecurrentCanteriorCcornealCpathology.CAmJOphthalmolC142:490-492,C200615)RamCR,CKangCT,CWeikertCMPCetal:CornealCindicesCfol-lowingCphotorefractiveCkeratectomyCinCchildrenCatCleastC5Cyearsaftersurgery.JAAPOSC23:149,Ce1-149.e3,C201916)PorgesCY,CBen-HaimCO,CHirshCACetal:PhototherapeuticCkeratectomywithmitomycinCforcornealhazefollowingphotorefractiveCkeratectomyCforCmyopia.CJCRefractCSurgC19:40-43,C2003***

ガチフロ®点眼液0.3%の小児外眼部感染症患者に対する有用性

2016年4月30日 土曜日

《原著》あたらしい眼科33(4):577〜583,2016©ガチフロ®点眼液0.3%の小児外眼部感染症患者に対する有用性末信敏秀*1秦野寛*2*1千寿製薬株式会社研究開発本部育薬研究推進部*2ルミネはたの眼科ClinicalEffectivenessofGATIFLO®OphthalmicSolution0.3%inPediatricPatientswithBacterialOcularInfectionToshihideSuenobu1)andHiroshiHatano2)1)MedicalScienceDepartment,SenjuPharmaceuticalCo.,Ltd.,2)LumineHatanoEyeClinicガチフロ®点眼液0.3%の小児外眼部感染症患者に対する有用性を再検討した.上市後にプロスペクティブな連続調査方式にて実施した4調査から,安全性評価の対象として,新生児(27日以下)73例,乳児(28日以上1歳未満)131例,小児(1歳以上15歳未満)74例を集積した結果,副作用の発現を認めなかった.また,主要な疾患であった結膜炎および涙囊炎に対する医師判定による全般改善度(有効率)は,それぞれ98.5%および94.4%で高い有効率を示した.以上の結果,ガチフロ®点眼液0.3%は新生児期から年長小児期の細菌性外眼部感染症治療への寄与が期待される薬剤であると考えられた.ThisreviewaimstoevaluatetheclinicaleffectivenessofGATIFLO®ophthalmicsolution0.3%inpediatricpatientswithbacterialocularinfection.Inthesafetyevaluation,whichinvolved278cases(73newborns,131infantsand74children)from4studiesconductedusingtheprospectivecontinuousmethod,noadversedrugreactionswereobserved.Intheefficacyevaluation,theeffectiveratesinpatientswithconjunctivitisanddacryocystitiswere98.5%and94.4%,respectively.TheseresultssuggestthatGATIFLO®ophthalmicsolution0.3%isausefulmedicationfortreatingexternalbacterialinfectionsoftheeyeinnewborns,infantsandchildren.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(4):577〜583,2016〕Keywords:ガチフロキサシン,ガチフロ®点眼液0.3%,新生児,乳児,小児,安全性,有効性.gatifloxacin,GATIFLO®ophthalmicsolution0.3%,newborns,infants,children,safety,efficacy.はじめに新生児期,乳児期あるいは小児期(ここでは15歳未満)では,経口投与された薬剤の吸収,分布,代謝や排泄などの体内挙動が異なる1)ため,成人における成績を転用することは困難である2).したがって,小児の個別の発達過程に応じた適切な投薬に関するデータが必要となるが,一般的に,そのような情報は十分ではない.一方,細菌性外眼部感染症は疾患により年齢分布に特徴があるが,結膜炎は際立って小児に多く発症する.したがって,全身的影響が比較的少ない,すなわち,個々の小児の発達過程に基づく影響を最小限に抑えることを考慮した抗菌薬投与が選択されるべきであり,やはり点眼による局所投与が第一選択である3).このようななか,フルオロキノロン点眼薬が汎用されるようになって久しいが,経口薬と同様に点眼薬についても,とくに1歳未満の小児に対する臨床成績に関する報告は散見4〜6)される程度で,情報は相対的に不足している7).そこで,2004年9月に上市されたガチフロ®点眼液0.3%(以下,本剤)について,承認時には評価されていなかった「1歳未満の小児に対する有効性および安全性を評価することを目的とした調査(2005年6月〜2006年6月)」に加え,「新生児(生後27日以下)を対象とした調査(2007年5月〜2008年9月)」を実施し,その成績を報告した8,9).また,細菌学的効果の経年変化を検討することをおもな目的として計2回の調査(第1回:2005年12月〜2007年10月,第2回:2008年3月〜2010年1月)を実施10)するなかで,同じく小児集団に関する成績を得た.そこで今回は,これら4調査で集積された小児集団(15歳未満)における患者背景ならびに本剤の有用性について再検討したので報告する.I対象および方法表1に示すとおり,細菌性外眼部感染症(眼瞼炎,涙囊炎,麦粒腫,結膜炎,瞼板腺炎,角膜炎,角膜潰瘍)を対象として前向きに実施した4調査のうち,本剤が投与された小児症例(15歳未満)を対象とした.4調査成績の再検討項目は,患者背景である年齢,疾患名,本剤の使用状況,有害事象の発現状況および有効性評価とし,細菌学的効果に関する調査では本剤投与開始時における細菌検査とした.安全性は,副作用の発現率を評価した.有効性は,本剤投与開始後の臨床経過より担当医師が総合的に判断し,改善,不変および悪化の3段階で評価した.このうち改善症例を有効例,不変および悪化症例を無効例とした.細菌学的効果に関する調査にて採取された検体は,輸送用培地(カルチャースワブTM)を用いて検査施設である三菱化学メディエンス株式会社(現,株式会社LSIメディエンス)に輸送し,細菌分離と同定に供した.細菌学的効果に関する調査のほか,本剤投与開始時の検出菌に関する成績が任意で報告された症例を含め,年齢(日齢)と検出菌種の分布についてWilcoxon検定にて評価した.有意水準は5%とした.II結果1.評価対象症例4調査にて集積された安全性評価対象症例は新生児(生後27日以下)73例,乳児(生後28日以上1年未満)131例,小児(1歳以上15歳未満)74例の計278例であった(表1).さらに,細菌性外眼部感染症以外への投与8例(霰粒腫および眼感染症予防の各3例,結膜裂傷および乳児内斜視術後の各1例)および有効性評価が判定不能であった2例(涙囊炎2例)の計10例を除いた268例を有効性評価対象とした.2.安全性a.安全性評価対象症例の患者背景患者背景を表2に示す.最若齢は生後1日目の新生児であり,また,疾患別では結膜炎が70.1%(195/278例)でもっとも多く,ついで涙囊炎が13.7%(38/278例)であった.b.副作用発現率安全性評価対象とした278例において副作用の発現を認めなかった.3.有効性表3に示すとおり,結膜炎195例における有効率は98.5%であった.一方,涙囊炎に対する有効率は94.4%であり,疾患別ではもっとも低かった.涙囊炎36例ならびに結膜炎+涙囊炎6例は,いずれも新生児および乳児症例であり,また,平均投与期間が1カ月超と長かった.このほか,新生児には麦粒腫および角膜炎(角膜潰瘍を含む)症例は認められず,乳児では角膜炎(角膜潰瘍を含む)症例は認められなかった.4.初診時検出菌の分布a.小児区分別での初診時検出菌表4に示すとおり,新生児11例,乳児34例および小児50例の計95例から130株の初診時菌が検出された.その結果,グラム陽性菌の割合は新生児で70.6%(12/17)ともっとも高く,乳児で66.7%(32/48),小児で50.8%(33/65)であった.また,新生児ではcoagulasenegativestaphylococci(CNS)の割合が35.3%(6/17)ともっとも高かった一方で,Streptococcuspneumoniaeの検出例はなかった.乳児ではCorynebacteriumspp.,S.pneumoniaeおよびHaemophilusinfluenzaeの割合が,それぞれ20.8%(10/48),14.6%(7/48)および18.8%(9/48)で主要な検出菌であった.小児ではH.influenzaeの割合が35.4%(23/65)ともっとも高く,ついでCorynebacteriumspp.およびStaphylococcusaureusの割合が15.4%(10/65)と高かった.また,図1に示すとおり,10株以上が検出されたCNS,a-Streptococcusspp.,S.pneumoniae,Corynebacteriumspp.,H.influenzaeおよびS.aureusについて,由来患者の日齢分布について検討した結果,平均日齢±標準偏差はCNSで268±608日でもっとも低く,S.aureusで2,222±1,762日でもっとも高かった.b.疾患別での初診時検出菌表5に示すとおり,結膜炎ではH.influenzaeが33.0%(33/100)を占め,もっとも高かった.涙囊炎では際立って割合の高い菌種はなかったが,グラム陽性菌の割合が70.0%(14/20)と高く,Corynebacteriumspp.,a-Streptococcusspp.およびS.pneumoniaeの割合が15.0%(3/20)で主要であった.III考察新生児期,乳児期あるいは小児期では,経口投与された薬剤の吸収,分布,代謝や排泄などの体内挙動が異なる.たとえば,新生児では胃内pHが高いため,酸性条件下で不安定な薬剤(ペニシリンG,エリスロマイシンなど)の体内吸収が乳児や小児に比べ高いことが知られている11).しかしながら,小児を対象とした臨床試験成績に基づき,小児に対する適応を有する医薬品は限られている2,7).このようななか,小児への医薬品の投与は,成人用量を体重あるいは体表面積から換算して行われることが多く,“とりあえず”の治療としては許容されるかもしれないが,継続治療にあたっては小児の成長段階に応じたPK/PDに基づく個別化が必要である.一方,点眼療法に目を向けると,小児用として用法・用量を設定し,適応とした点眼薬はない.2006年に発売されたトスフロキサシントシル酸塩水和物点眼液では,小児を対象とした臨床試験が実施されたが,成人と同じ用法・用量の設定である.このように,フルオロキノロン点眼薬の適応となる外眼部感染症は小児特有の疾患ではなく,また,多くの代替薬が存在することから,本剤についても1歳未満の小児に対する用法・用量の設定を目的とした臨床試験は実施しなかったが,上市後の使用実態下においては経験的に使用される可能性が非常に高く,安全性および有効性について検討する必要があると考え,使用成績調査を行った.新生児および乳児における外眼部感染症への易感染性は,涙液分泌量が少ないことや,免疫機能が未発達であることに起因するものと理解すべきであろう12).すなわち,新生児および乳児における外眼部感染症の好発部位である結膜は粘膜であり,粘膜には全身免疫とは異なる免疫システムが構築されている.結膜では,病原体に対する防御に不可欠な抗原特異的分泌型IgAを効率的に誘導するメカニズムとして,結膜関連リンパ組織(conjunctiva-associatedlymphoidtissue:CALT)を中心とした結膜(粘膜)免疫システムが構築されている13).分泌された抗原特異的IgAは,二量体として涙液中に存在するが,生誕時にはIgAはほとんど分泌されず,6〜8歳で成人の60〜80%に達することが知られている14).このように,新生児では結膜(粘膜)の免疫機能が未成熟であり,早産児では粘膜自体が未成熟なため細菌感染を発症しやすい15).加えて,新生児涙囊炎や先天鼻涙管閉塞に伴う涙囊炎が多い16).本検討においても,新生児および乳児では結膜炎あるいは涙囊炎の割合が高かった.また,涙囊炎では他疾患に比べ投与期間が長い傾向にあった.すなわち,新生児および乳児期の涙囊炎は先天鼻涙管閉塞に起因することが多く,根治療法は外科的治療となる.しかしながら,先天鼻涙管閉塞は生後3カ月までに70%,生後12カ月までに96%が自然治癒(鼻涙管の開口)する17)ことから,外科的治療の施行時期については結論が出ていない.したがって,外科的治療の施行あるいは自然治癒まで,待機的に本剤が投与されたため,涙囊炎での投与期間が長くなったものと推察された.結膜炎の主要な起炎菌は,H.influenzaeおよびS.pneumoniaeであり,結膜囊からの分離頻度は,それぞれ29%および20%程度である15).本検討においても,結膜炎からの検出菌はH.influenzaeが33.0%でもっとも高かった.また,小児結膜炎由来のH.influenzaeおよびS.pneumoniaeは,その約90%が鼻咽腔由来株と同一クローンであることから,鼻咽腔は両菌種を主要な常在菌とする粘膜組織部位であり,小児の細菌性結膜炎は鼻感冒および発熱についで発症し,急性中耳炎を併発することが多い18).さらに,細菌性結膜炎の起炎菌は,小児涙囊炎発症への関与も示唆されており,S.pneumoniae,H.influenzaeおよびS.aureusが主要菌種と考えられている19).本検討では,検出株数が十分でない可能性があるがCorynebacteriumspp.,a-Streptococcusspp.およびS.pneumoniaeが主要な検出菌であった.小児の詳細区分での検出菌については,新生児ではCNSがもっとも多くWongらの報告20)と同様であり,年長小児では,S.aureusおよびH.influenzaeの分離頻度が上昇する傾向が認められ,Tarabishyらの報告21)と同様であった.筆者らは,本検討における主要検出菌であるH.influenzae,Corynebacteriumspp.,a-Streptococcusspp.,S.aureus,CNSおよびS.pneumoniaeについて,2005年,2007年および2009年の分離株に対するガチフロキサシンのMIC90を検討した結果,経年的な抗菌活性の減弱を認めなかった22).したがって,本剤は有用な治療選択肢と考えるが,Corynebacteriumspp.およびmethicillin-resistantS.aureus(MRSA)に対するMIC90は高い傾向にあったことから,Corynebacteriumspp.が起炎菌として疑われる際はセフメノキシム(CMX)を併用するなどの必要があると考える.一方,小児(15歳未満)の外眼部感染症からのMRSAの検出頻度は2〜3%程度10)で比較的低い.また,小児由来のMRSAのうち58〜66%程度は市中感染型(CA-MRSA,communityassociatedMRSA)で,病院内感染型MRSA(HA-MRSA,hospital-associatedMRSA)よりも優位を占める23,24).さらに,HA-MRSAが多剤耐性を示す一方で,CA-MRSAは多くの抗菌薬に感受性25)であることから,入院歴にも着目した薬剤選択の必要があると考えられる.以上のように,2004年の上市以降に実施した4調査における新生児73例,乳児131例および小児(15歳未満)74例に対する有用性について再検討した結果,ガチフロ®点眼液0.3%は,新生児期から年長小児期の外眼部感染症治療への寄与が期待される薬剤であると考えられた.文献1)KearnsGL,Abdel-RahmanSM,AlanderSWetal:Developmentalpharmacology─drugdisposition,action,andtherapyininfantsandchildren.NEnglJMed349:1157-1167,20032)ICH:Clinicalinvestigationofmedicalproductsinthepediatricpopulation.ICHharmonizedtripartiteguideline,20003)浅利誠志,井上幸次,大橋裕一ほか:抗菌点眼薬の臨床評価方法に関するガイドライン.日眼会誌119:273-286,20154)松村香代子,井上愼三:新生児,乳幼児,小児に対する0.3%オフロキサシン(タリビッド®)点眼液の使用経験.眼紀42:662-669,19915)大橋秀行,下村嘉一:新生児,乳幼児,小児の細菌性結膜炎に対する0.5%レボフロキサシン点眼薬の使用経験.あたらしい眼科19:645-648,20026)北野周作,宮永嘉隆,大野重昭ほか:新規ニューキノロン系抗菌点眼薬トシル酸トスフロキサシン点眼液の小児の細菌性外眼部感染症を対象とする非対照非遮蔽多施設共同試験.あたらしい眼科23:118-129,20067)ChungI,BuhrV:Topicalophthalmicdrugsandthepediatricpatient.Optometry71:511-518,20008)丸田真一,末信敏秀,羅錦營:ガチフロキサシン点眼液(ガチフロ®0.3%点眼液)の製造販売後調査─特定使用成績調査(新生児および乳児に対する調査)─.あたらしい眼科24:975-980,20079)丸田真一,末信敏秀,羅錦營:ガチフロキサシン点眼液(ガチフロ®点眼液0.3%)の製造販売後調査─特定使用成績調査(新生児に対する調査)─.あたらしい眼科26:1429-1434,200910)末信敏秀,川口えり子,星最智:ガチフロ®点眼液0.3%の細菌学的効果に関する特定使用成績調査.あたらしい眼科31:1674-1682,201411)越前宏俊:小児の生理と薬物動態.薬事54:213-218,201212)伊藤大藏:薬剤の選択と治療の実際―眼科領域感染症.周産期医学28:1333-1336,199813)清野宏,岡田和也:粘膜免疫システム─生体防御の最前線.日耳鼻114:843-850,201114)齋藤昭彦:小児の免疫機構.薬事54:219-222,201215)BuznachN,DaganR,GreenbergD:Clinicalandbacterialcharacteristicsofacutebacterialconjunctivitisinchildrenintheantibioticresistanceera.PediatrInfectDisJ24:823-828,200516)亀井裕子:小児眼感染症の最近の動向.臨眼57(増刊号):81-85,200317)YoungJD,MacEwenCJ:Managingcongenitallacrimalobstructioningeneralpractice.BMJ315:293-296,199718)SugitaG,HotomiM,SugitaRetal:GeneticcharacteristicsofHaemophilusinfluenzaandStreptococcuspneumoniaisolatedfromchildrenwithconjunctivitis-otitismediasyndrome.JInfectChemother20:493-497,201419)宮崎千歌:眼科薬物療法VII眼窩・涙道4涙小管炎,涙囊炎,先天性鼻涙管閉塞.眼科54:1490-1495,201220)WongVW,LaiTY,ChiSCetal:Pediatricocularsurfaceinfections:a5-yearreviewofdemographics,clinicalfeatures,riskfactors,microbiologicalresults,andtreatment.Cornea30:995-1002,201121)TarabishyAB,HallGS,ProcopGWetal:Bacterialcultureisolatesfromhospitalizedpediatricpatientswithconjunctivitis.AmJOphthalmol142:678-680,200622)末信敏秀,石黒美香,松崎薫ほか:細菌性外眼部感染症分離菌株のGatifloxacinに対する感受性調査.あたらしい眼科28:1321-1329,201123)AmatoM,PershingS,WalvickMetal:Trendsinophthalmicmanifestationsofmethicillin-resistantStaphylococcusaureus(MRSA)inanorthernCaliforniapediatricpopulation.JAAPOS17:243-247,201324)HsiaoCH,ChuangCC,TanHYetal:Methicillin-resistantStaphylococcusaureusocularinfection:a10-yearhospital-basedstudy.Ophthalmology119:522-527,201225)辻泰弘:メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA).薬局63:2515-2519,2012〔別刷請求先〕末信敏秀:〒541-0046大阪市中央区平野町2-5-8千寿製薬株式会社研究開発本部育薬研究推進部Reprintrequests:ToshihideSuenobu,MedicalScienceDepartment,SenjuPharmaceuticalCo.,Ltd.,2-5-8Hiranomachi,Chuo-ku,Osaka541-0046,JAPAN0910-1810/16/¥100/頁/JCOPY(95)577表1各調査の概要と評価対象症例調査名各調査における対象細菌検査の要否小児区分新生児計(生後27日以下)乳児(生後28日以上1年未満)小児(1歳以上15歳未満)①新生児に対する調査細菌性外眼部感染症任意(診療実態下)65――65②1歳未満の小児に対する調査細菌性外眼部感染症任意(診療実態下)3110―113③細菌学的効果に関する調査(第1回)細菌性外眼部感染症全例実施2113649④細菌学的効果に関する調査(第2回)細菌性外眼部感染症全例実施3103851合計安全性評価対象症例7313174278有効性評価対象症例(外眼部感染症)*6912574268*:細菌性外眼部感染症以外への投与例8例ならびに有効性判定不能2例を有効性評価から除外.578あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016(96)表2安全性評価対象278例の背景要因区分症例数年齢新生児(日齢)6日以下19(新生児計73例)7日以上13日以下1314日以上20日以下2421日以上27日以下17平均日齢(最小〜最大)13.6日(1〜27日)乳児(月齢)1カ月21(乳児計131例)2カ月133カ月184カ月115カ月146カ月77カ月118カ月79カ月910カ月811カ月12平均月齢(最小〜最大)5.6カ月(1〜11カ月)小児(年齢)1歳11(小児計74例)2歳123歳94歳105歳76歳37歳58歳29歳510歳311歳112歳413歳114歳1平均年齢(最小〜最大)5.4歳(1〜14歳)疾患名外眼部感染症270結膜炎195涙囊炎38麦粒腫23角膜炎(角膜潰瘍を含む)3結膜炎+涙囊炎6結膜炎+眼瞼炎2結膜炎+麦粒腫1結膜炎+その他2外眼部感染症以外8霰粒腫3眼感染症予防3結膜裂傷1乳児内斜視術後1表3有効性評価対象(外眼部感染症症例)268例の有効率と投与期間疾患名小児区分症例数有効率(%)投与日数Mean±SDMin〜Max結膜炎新生児5698.29.8±6.22〜30乳児8298.89.8±12.72〜97小児5798.29.5±6.53〜43計19598.59.7±9.52〜97涙囊炎新生児9100.075.7±65.612〜200乳児2792.627.0±21.14〜98小児0計3694.439.1±42.14〜200麦粒腫新生児0乳児9100.010.7±9.73〜34小児14100.017.1±24.34〜100計23100.014.6±19.83〜100角膜炎(角膜潰瘍を含む)新生児0乳児0小児3100.014.7±7.57〜22計3100.014.7±7.57〜22結膜炎+涙囊炎新生児3100.057.7±56.516〜122乳児3100.026.3±17.68〜43小児0計6100.042.0±41.28〜122その他の眼感染症(複数使用理由含む)新生児1100.014.0乳児4100.017.3±17.65〜43小児0計5100.016.6±15.35〜43表4小児区分と初診時検出菌小児区分(初診時検出結果が陽性であった症例数)新生児(11例)乳児(34例)小児(50例)計(95例)GrampositiveCorynebacteriumspp.1(5.9%)10(20.8%)10(15.4%)21(16.2%)a-Streptococcusspp.3(17.6%)5(10.4%)7(10.8%)15(11.5%)Staphylococcusaureus1(5.9%)3(6.3%)10(15.4%)14(10.8%)Coagulasenegativestaphylococci(CNS)6(35.3%)6(12.5%)2(3.1%)14(10.8%)Streptococcuspneumoniae7(14.6%)4(6.2%)11(8.5%)Streptococcussp.1(2.1%)1(0.8%)Lactobacillussp.1(5.9%)1(0.8%)Subtotal12(70.6%)32(66.7%)33(50.8%)77(59.2%)GramnegativeHaemophilusinfluenzae2(11.8%)9(18.8%)23(35.4%)34(26.2%)Acinetobacterspp.2(11.8%)1(2.1%)1(1.5%)4(3.1%)Moraxella(Branhamella)catarrhalis1(5.9%)1(2.1%)2(3.1%)4(3.1%)Nonglucosefermentativegramnegativerod(NFR)3(4.6%)3(2.3%)Stenotrophomonasmaltophilia1(2.1%)1(1.5%)2(1.5%)Pseudomonassp.1(2.1%)1(1.5%)2(1.5%)Pseudomonasaeruginosa2(4.2%)2(1.5%)Sphingomonaspaucimobilis1(1.5%)1(0.8%)Serratiamarcescens1(2.1%)1(0.8%)Subtotal5(29.4%)16(33.3%)32(49.2%)53(40.8%)Total174865130580あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016(98)図1検出菌別での由来患者の日齢分布表5疾患別の初診時検出菌疾患名(初診時検出結果が陽性であった症例数)結膜炎(73例)涙囊炎(14例)麦粒腫(6例)角膜炎(1例)その他(1例)計(95例)GrampositiveCorynebacteriumspp.16(16.0%)3(15.0%)2(25.0%)21(16.2%)a-Streptococcusspp.11(11.0%)3(15.0%)1(12.5%)15(11.5%)Staphylococcusaureus10(10.0%)2(10.0%)2(25.0%)14(10.8%)Coagulasenegativestaphylococci(CNS)11(11.0%)2(10.0%)1(100.0%)14(10.8%)Streptococcuspneumoniae8(8.0%)3(15.0%)11(8.5%)Streptococcussp.1(5.0%)1(0.8%)Lactobacillussp.1(100.0%)1(0.8%)Subtotal56(56.0%)14(70.0%)5(62.5%)1(100.0%)1(100.0%)77(59.2%)GramnegativeHaemophilusinfluenzae33(33.0%)1(5.0%)34(26.2%)Acinetobacterspp.3(3.0%)1(12.5%)4(3.1%)Moraxella(Branhamella)catarrhalis3(3.0%)1(5.0%)4(3.1%)Nonglucosefermentativegramnegativerod(NFR)2(2.0%)1(12.5%)3(2.3%)Stenotrophomonasmaltophilia1(1.0%)1(5.0%)2(1.5%)Pseudomonassp.1(1.0%)1(5.0%)2(1.5%)Pseudomonasaeruginosa1(1.0%)1(5.0%)2(1.5%)Sphingomonaspaucimobilis1(12.5%)1(0.8%)Serratiamarcescens1(5.0%)1(0.8%)Subtotal44(44.0%)6(30.0%)3(37.5%)53(40.8%)Total10020811130(99)あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016581582あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016(100)(101)あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016583

水痘罹患後に再発性角膜ぶどう膜炎を呈した小児の1例

2015年5月31日 日曜日

《第48回日本眼炎症学会原著》あたらしい眼科32(5):725.728,2015c水痘罹患後に再発性角膜ぶどう膜炎を呈した小児の1例松島亮介鈴木潤臼井嘉彦坂井潤一後藤浩東京医科大学臨床医学系眼科学分野ACaseofRecurrentKeratouveitisthatDevelopedafterChickenpoxinaYoungGirlRyosukeMatsushima,JunSuzuki,YoshihikoUsui,Jun-ichiSakaiandHiroshiGotoDepartmentofOphthalmology,TokyoMedicalUniversityHospital水痘帯状ヘルペスウイルス(VZV)感染後に角膜ぶどう膜炎を繰り返した小児の1例を報告する.症例は7歳の女児.右眼の充血を主訴に来院し,初診時の右眼矯正視力は0.9,右眼眼圧は29mmHgで,前房内に軽度の炎症細胞がみられたが角膜後面沈着物はなく,眼底にも異常はなかった.2カ月前に水痘に罹患し,その後も微熱が続いていた.1週間後に豚脂様角膜後面沈着物,角膜浮腫および線維素の析出を伴う前部ぶどう膜炎が出現し,右眼視力は0.02に低下した.このときの前房水中ウイルスDNAの検索の結果は陰性であったが,2週間後に再検したところVZVDNAが検出されたためバラシクロビルの内服を開始した.以後2回にわたり前房内炎症が再燃した.輪状の角膜上皮下混濁が残存しているものの,矯正視力は1.2を維持している.角膜ぶどう膜炎を繰り返した小児例の診断と治療に,複数回にわたる前房水を用いたウイルスDNAの検出が有用であった.Wereportacaseofrecurrentjuvenilekeratouveitisfollowingvaricellazostervirus(VZV)infection.A7-yearoldgirlpresentedwithhyperemiainherrighteye.Shehadcontractedchickenpoxwithpersistentlow-gradefever2-monthspriortopresentation.Slit-lampexaminationrevealedinflammatorycellsintheanteriorchamberwithnokeraticprecipitate.Fundusexaminationshowednoabnormalfindings.Oneweeklater,herrighteyeshowedanterioruveitiswithkeraticprecipitateandcornealedema,andvisualacuity(VA)decreasedto0.02.AqueoushumorwassampledrepeatedlyforpolymerasechainreactionexaminationofviralDNA.Thesamplecollectedattheinitialvisitwasnegativeforallvirusestested,butthesamplecollectedduringrelapse2-weekslaterrevealedVZVDNA.Thus,oralvalacycloviradministrationwasinitiatedfortreatment.Subsequently,thepatienthadtwoadditionalrelapsesofanteriorchamberinflammation.Althougharing-shapedsubepithelialcornealopacityremained,herVAwasmaintainedat1.2.TheseclinicalfindingssuggestthatrepeatedsamplingofaqueoushumorforthedetectionofviralDNAisusefulforthediagnosisandtreatmentofrecurrentjuvenilekeratouveitis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(5):725.728,2015〕Keywords:小児,水痘,角膜ぶどう膜炎,再発.juvenile,chickenpox,keratouveitis,recurrence.はじめに水痘帯状ヘルペスウイルス(varicellazostervirus:VZV)は神経向性のウイルスであり,その多くが小児期から若年期に初感染し,水痘を発症する.その後,三叉神経節や脊髄知覚神経節などの知覚神経節に潜伏感染し,宿主の細胞性免疫の低下に伴い再活性化し,帯状疱疹を引き起こすことが知られている1,2).ヘルペス性角膜ぶどう膜炎は潜伏感染した単純ヘルペスウイルス(herpessimplexvirus:HSV)やVZVの再活性化時に発症し,成人発症例の報告は多いが,小児期にHSVやVZVの初感染後に角膜ぶどう膜炎を発症した報告は稀である3.6).ヘルペス性ぶどう膜炎の診断は,前房水や硝子体液などの眼内液からのウイルスDNAの検出,もしくは眼内と血液中のウイルス抗体価を比較して抗体率を求めることが直接的な証明となるが7,8),小児では眼内液を採取することは困難であるため,異なる時期に採取した血清抗体価の比較によりウイルスの関与を間接的に証明する場合がほとんどである4.6).今回筆者らは,水痘感染後に発症した角膜ぶどう膜炎の,眼内液よりウイルスDNAを検出し,確定診断に至った小児例を経験したので報告する.〔別刷請求先〕松島亮介:〒160-0023東京都新宿区西新宿6-7-1東京医科大学臨床医学系眼科学分野Reprintrequests:RyosukeMatsushima,M.D.,DepartmentofOphthalmology,TokyoMedicalUniversityHospital,6-7-1Nishishinjuku,Shinjuku-ku,Tokyo160-0023,JAPAN0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(115)725 I症例患者:7歳,女児.主訴:右眼充血.既往歴:2011年12月末水痘.家族歴:特記事項なし.現病歴:2011年12月に水痘に罹患し,その後も熱が続いていた.2012年2月中旬に熱発(37℃台)を認め,2月27日から右眼の充血を自覚していた.3月3日に近医眼科を受診し,虹彩毛様体炎の診断のもと,抗菌薬,ステロイド薬,散瞳薬の点眼薬を処方され,3月5日東京医科大学病院眼科を紹介受診となった.初診時所見:視力は右眼0.6(0.9×sph.1.50D),左眼1.5(矯正不能),眼圧は右眼28mmHg,左眼15mmHgであった.右眼は軽度の毛様充血を認め,前房内に炎症細胞(1+)図1発症から12日後の右眼前眼部写真強い結膜充血と豚脂様角膜後面沈着物,角膜浮腫,繊維素の析出がみられる.を認めたが,角膜後面沈着物はみられなかった.右眼眼底には異常所見を認めなかった.左眼には異常はなかった.全身検査所見:末梢血液像では白血球数5,300/μl,ヘモグロビン(Hb)12.7g/dl,血小板数34.2万/μlと異常はなく,生化学検査ではアンギオテンシン変換酵素(ACE)24.8IU/I(正常範囲8.3.21.4),カルシウム(Ca)10.4mg/dl(正常範囲8.2.10.2)と軽度の上昇を認めたが,リウマチ因子(RF)定量5IU/ml未満,抗ストレプトリジンO抗体(ASLO)88.0IU/ml,b2ミクログロブリン1.07mg/l,尿中Nアセチルグルコサミニダーゼ(NAG)3.4U/I(正常範囲7以下)と正常で,胸部X写真にも異常所見を認めなかった.経過:炎症所見が軽度であったため改めて散瞳薬のみを処方したが,発症12日目に右眼矯正視力が0.02まで低下し,毛様充血の増悪,豚脂様角膜後面沈着物,角膜浮腫と内皮炎の出現,前房内に線維素の析出を認めた(図1).片眼性虹彩毛様体炎で眼圧上昇や豚脂様角膜後面沈着物を認めたことからヘルペスウイルス虹彩毛様体炎を疑い,同日に診断確定目的に局所麻酔下で前房穿刺を施行した.検体量が少量であったため抗体価は測定せず,multiplexPCR(polymerasechainreaction)法による検索を行ったがウイルスDNAは検出されなかった.同時にベタメタゾン2mgの結膜下注射を施行したところ,まもなく前房炎症と角膜浮腫は軽快し,右表1各種ウイルスに対する血清抗体価発症VZV(CF)麻疹(HI)HSV(CF)ムンプス(CF)CMV(CF)26日目168<4<4<46カ月後41年3カ月後<4CF:補体結合反応,HI:赤血球凝集抑制.図2発症から1カ月後の左眼前眼部写真結膜充血や角膜浮腫は改善している.図3発症1年3カ月後の左眼前眼部写真輪状の角膜上皮下混濁が残存しているが,視力は1.2を維持している.726あたらしい眼科Vol.32,No.5,2015(116) 眼矯正視力は0.6まで改善した.しかし,2週間後(発症26日目)には再び右眼矯正視力が0.2まで低下し,角膜浮腫や角膜後面沈着物の再燃も認めた.やはり,ウイルスの関与が疑わしいため,HSV,VZV,サイトメガロウイルス,ムンプス,麻疹に対する血清抗体価を測定した(表1).また,同日に再度前房穿刺を行い,PCR検査のみを施行するとともにアシクロビル眼軟膏による治療を開始した.その後,血清抗体価でVZVが補体結合反応(CF)法で16倍,前房水からVZVが440コピー/mlみられたためVZVによる角膜ぶどう膜炎と診断し,バラシクロビル1,500mg/日の内服を開始した.初診から1カ月後には結膜充血や角膜浮腫は改善し(図2),右眼矯正視力も1.2まで改善した.その後,右眼は6カ月後,1年3カ月後に初回の角膜ぶどう膜炎と同様の角膜浮腫と内皮炎を認めたが,角膜後面沈着物はなく前房炎症も軽度であったため前房穿刺は行わず,ステロイド薬の点眼のみで加療した.平成26年7月現在,右眼は角膜上皮下混濁の残存(図3)と角膜内皮細胞数の軽度減少(右眼2,667/mm2,左眼3,344/mm2)がみられるが,虹彩萎縮や瞳孔不整はなく,矯正視力は1.2を維持している.II考按小児ぶどう膜炎はぶどう膜炎全体の3.7%と報告されており,背景が特定可能な疾患としてはサルコイドーシスや間質性腎炎ぶどう膜炎症候群,若年性慢性虹彩毛様体炎が多く9.12),ヘルペスウイルスによるぶどう膜炎は稀である.一方,水痘初感染に伴う眼症状としては眼瞼の皮疹や結膜炎が多く,角膜炎や虹彩炎がみられることは少ない13,14).本症例では初診時こそ豚脂様角膜後面沈着物はみられなかったが,片眼性で眼圧上昇を認め,その後に角膜浮腫や豚脂様角膜後面沈着物が出現したため,臨床的にヘルペス性角膜ぶどう膜炎が疑われた.角膜ぶどう膜炎の原因としてVZVはHSVに比べ頻度が低いものの,前房炎症の程度は強いとされている15).本症例でも著明な角膜浮腫や視力低下をきたしており,小児にみられる比較的激しい角膜ぶどう膜炎の原因としてVZVの関与を考慮する必要があると考えられた.水痘罹患後に角膜ぶどう膜炎が発症する時期として,過去の報告では皮疹出現から3.10日目が多いとされるが4,14),なかには皮疹から1.2カ月後に角膜ぶどう膜炎が発症した報告もみられる5,6).今回の症例ではぶどう膜炎の発症は皮疹の発症から2カ月経過しており,水痘の罹患後,数カ月の間はVZVによるぶどう膜炎が発症する可能性があることに十分注意する必要があると考えられた.これまで水痘後の角膜ぶどう膜炎で前房水中のウイルス量を調べた報告はない.本症例の前房内のウイルスは初回検査時には検出されず,2回目の検査時においても440コピー/(117)mlであり,成人にみられるVZV虹彩炎と比べてきわめて少なかった.一般に水痘後の角膜ぶどう膜炎は軽症で自然治癒する場合が多いとされているが5,6,14),ウイルス量が少ないことが影響しているのではないかと考えられた.また,虹彩萎縮や瞳孔不整などの後遺症もみられなかったことから,ウイルスが三叉神経に沿って眼内に浸潤する成人の眼部帯状疱疹に伴うぶどう膜炎や皮疹を伴わないぶどう膜炎(zostersineherpete)と,水痘後の角膜ぶどう膜炎ではウイルスの感染経路が異なることが推測された.また,再発時の眼所見は前房炎症が弱く,おもに角膜浮腫や内皮炎が認められた.血清抗体価の上昇もみられなかったことから,角膜実質や内皮に残存したウイルス抗原に対する免疫反応が原因ではないかと考えられた.小児ぶどう膜炎は一般に自覚症状の訴えが少なく,発見が遅れることが多い.充血も少ないことから“whiteuveitis”と形容され,眼科初診時にはすでに帯状角膜変性や虹彩後癒着,併発白内障の進行をきたしていることがある12).今回の症例は7歳と低年齢であったが,初回の検査では陰性であったものの2回にわたり前房穿刺を行ったことで,比較的早期に原因が判明し,適切な治療を行うことができた.角膜上皮下混濁が残存しているものの視機能は良好に維持されたことから,前房水を用いたウイルスDNAの検出が有用であったと考えられた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)須賀定雄:ウイルスの潜伏感染と活性化.2.水痘帯状疱疹.治療学32:16-19,19982)森康子:水痘帯状疱疹ウイルスの潜伏感染,再活性化と病態.化学療法の領域26:1188-1195,20103)大黒浩,宮部靖子,今泉寛子ほか:帯状疱疹ウイルスによるぶどう膜炎の2小児例.臨眼51:51-54,19974)田中寛,丸山和一,安原徹ほか:水痘発症後の小児ぶどう膜炎の1例.臨眼64:1723-1727,20105)WilhelmusKR,HamillMB,JonesDB:Varicelladisciformstromalkeratitis.AmJOphthalmol111:575-580,19916)deFreitasD,SatoEH,KellyLDetal:Delayedonsetofvaricellakeratitis.Cornea11:471-474,19927)SugitaS,ShimizuN,WatanabeKetal:UseofmultiplexPCRandreal-timePCRtodetecthumanherpesvirusgenomeinocularfluidsofpatientswithuveitis.BrJOphthalmol92:928-932,20088)VanderLelijA,OoijmanFM,KijlstraAetal:Anterioruveitiswithsectoralirisatrophyintheabsenceofkeratitis:adistinctclinicalentityamongherpeticeyediseases.Ophthalmology107:1164-1170,20009)疋田伸一,園田康平,肱岡邦明ほか:北部九州における内あたらしい眼科Vol.32,No.5,2015727 因性ぶどう膜炎の統計.日眼会誌116:847-855,201210)盛岡京子,原田敬志,矢ヶ崎悌司ほか:名古屋大学医学部附属病院眼科における小児ぶどう膜炎の統計.眼臨85:1155-1159,199111)高野繁,坂井潤一,高橋知子ほか:当教室における小児ぶどう膜炎の統計的観察.眼臨85:825-830,199112)南場研一,水内一臣:小児ぶどう膜炎.OCULISTA5:65-68,201313)LeeWB,LiesegangTJ:Herpeszosterkeratitis.Cornea3rded(edbyKrachmerJH,MannisMJ,HollandEJ),1,p985-1000,Mosby,StLouis,201114)石原麻美,大野重昭:ヘルペス性ぶどう膜炎.新図説臨床眼科講座2(小口芳久編),p156-158,メジカルビュー社,200015)宇野敏彦:角膜ぶどう膜炎.眼科診療プラクティス92(臼井正彦編,薄井紀夫編),p24-25,文光堂,2003***728あたらしい眼科Vol.32,No.5,2015(118)

小児細菌性外眼部感染症に対するトスフロキサシントシル酸塩水和物点眼液0.3%の臨床的評価および原因菌の薬剤感受性

2014年12月31日 水曜日

《原著》あたらしい眼科31(12):1857.1866,2014c小児細菌性外眼部感染症に対するトスフロキサシントシル酸塩水和物点眼液0.3%の臨床的評価および原因菌の薬剤感受性大野重昭*1田中知暁*2久志本理*3*1医療法人社団愛心館愛心メモリアル病院眼科*2富山化学工業株式会社綜合研究所製品企画部*3富山化学工業株式会社開発管理部ClinicalEvaluationofTosufloxacinTosilateOphthalmicSolution0.3%fortheTreatmentofExternalBacterialOcularInfectioninChildrenandSusceptibilityofthePathogenicBacteriatoTosufloxacinShigeakiOhno1),TomoakiTanaka2)andSatoruKushimoto3)1)DepartmentofOphthalmology,AishinMemorialHospital,2)ProductPlanningDepartment,ToyamaChemicalCo.,Ltd.,3)DataScienceandAdministrationDepartment,ToyamaChemicalCo.,Ltd.トスフロキサシン(tosufloxacin:TFLX)トシル酸塩水和物点眼液0.3%の特定使用成績調査より15歳未満の小児の症例を抜粋し,小児の細菌性外眼部感染症に対するTFLXトシル酸塩水和物点眼液0.3%の有効性と安全性を検証した.また,小児由来の原因菌の薬剤感受性を測定した.TFLXトシル酸塩水和物点眼液0.3%は,小児の外眼部感染症を認めた症例に対する有効率は96.4%(449/466例),細菌学的効果は86.7%(202/233例)であった.原因菌477株全株に対するTFLXのMIC50は≦0.06,MIC90は0.25μg/mLであった.主要な原因菌であるHaemophilusinfluenzae,StreptococcuspneumoniaeおよびStaphylococcusaureusに対してTFLXのMIC50はそれぞれ≦0.06,0.12および≦0.06μg/mLであり,moxifloxacin(MFLX)と同程度,levofloxacin(LVFX)より1.4倍,gatifloxacin(GFLX)より1.2倍,cefmenoxime(CMX)より1.32倍以上,gentamicin(GM)より8.32倍,erythromycin(EM)より32.2,048倍以上強い抗菌活性を示した.また,TFLXのMIC90はそれぞれ≦0.06,0.12および32μg/mLであり,LVFXより1.8倍,GFLXの1/4.2倍,MFLXの1/4.1倍,CMXより1.8倍以上,GMより4.64倍,EMより4.1024倍以上強い抗菌活性を示した.副作用発現率は0.2%(1/470)であった.Theefficacyandsafetyoftosufloxacin(TFLX)tosilateophthalmicsolution0.3%forthetreatmentofexternalbacterialocularinfectioninpediatricpatientswereevaluatedinaspecifiedpost-marketingsurveillance.Antibacterialactivitiesagainstpathogenicbacteriaisolatedfrompediatricpatientswerealsomeasured.Theclinicalefficacy(efficacyrate)andbacteriologicalefficacy(bacteriologicaleradicationrate)ofTFLXtosilateophthalmicsolution0.3%were96.4%(449/466patients)and86.7%(202/233patients),respectively.TheMIC50andMIC90valuesofTFLX,anactiveformofTFLXtosilateophthalmicsolution,againstthetotalpathogenicbacteriawere≦0.06μg/mLand0.25μg/mL,respectively.TheMIC50valueofTFLXwas≦0.06,0.12,and≦0.06μg/mLagainstHaemophilusinfluenzae,Streptococcuspneumoniae,andStaphylococcusaureus,respectively,thepredominantpathogensinthissurveillance.TFLXexhibitedantibacterialactivityidenticaltomoxifloxacin(MFLX),and1-4,1-2,1-32,8-32,and32-2,048foldmorepotentantibacterialactivitythanlevofloxacin(LVFX),gatifloxacin(GFLX),cefmenoxime(CMX),gentamicin(GM),anderythromycin(EM),respectively.TheMIC90valueofTFLXwas≦0.06,0.12,and32μg/mLagainstH.influenzae,S.pneumoniaeandS.aureus,respectively,andTFLXexhibited1-8,1/4-2,1/4-1,1-8,4-64,and4-1024foldmorepotentantibacterialactivitythanLVFX,GFLX,MFLX,CMX,GM,andEM,respectively.Anadversedrugreactionwasobservedin1of470patients(0.2%).〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(12):1857.1866,2014〕〔別刷請求先〕大野重昭:〒065-0027札幌市東区北27条東1丁目1-15医療法人社団愛心館愛心メモリアル病院眼科Reprintrequests:ShigeakiOhno,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,AishinMemorialHospital,1-15North27East1,Higashi-ku,Sapporo065-0027,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(119)1857 Keywords:トスフロキサシントシル酸塩水和物点眼液,トスフロキサシン,小児,製造販売後調査,薬剤感受性,有効性,安全性.tosufloxacintosilateophthalmicsolution,tosufloxacin,pediatricpatient,post-marketingsurveillance,antibacterialactivities,clinicalefficacy,safety.はじめにトスフロキサシン(tosufloxacin:TFLX)トシル酸塩水和物点眼液0.3%(販売名:オゼックスR点眼液0.3%,トスフロR点眼液0.3%)は,2006年に上市されたニューキノロン系抗菌点眼薬であり,新生児を含む小児を対象とした臨床試験を行い,国内で初めて小児に対する用法・用量が認められた抗菌点眼薬である.今回,TFLXトシル酸塩水和物点眼液0.3%の特定使用成績調査より15歳未満の小児の症例を抜粋し,小児における細菌性外眼部感染症に対するTFLXトシル酸塩水和物点眼液0.3%の有効性と安全性,ならびに小児における外眼部感染症由来菌の各種抗菌薬に対する薬剤感受性を評価した.I材料および方法1.使用症例「オゼックス/トスフロ点眼液0.3%特定使用成績調査─低頻度臨床分離株の集積とオゼックス/トスフロ点眼液の有効性と安全性の確認─」1)1,269例および「オゼックス/トスフロ点眼液0.3%特定使用成績調査─新生児の細菌性外眼部感染症に対するオゼックス/トスフロ点眼液の有効性と安全性の検討─」2)57例のうち,15歳未満の小児の症例485例を抜粋した.なお,0歳児において,生後4週未満を新生児,生後4週.1歳未満を乳児に区分した.2.症例の組み入れ,有効性,安全性の基準a.症例の組み入れ基準眼瞼炎,涙.炎,麦粒腫,結膜炎,瞼板腺炎,角膜炎(角膜潰瘍を含む)と診断された以下の患者を対象とした.①細菌性外眼部感染症の症状が明らかに認められ,本剤投薬前に細菌学的検査の実施を予定している患者.②本剤投薬開始時に,他の抗菌薬の併用が必要ないと判断された患者.③再来院でき,経過観察が可能な患者.ただし,以下の患者は安全性解析の対象から除外した.①本剤の成分およびキノロン系抗菌薬に対し過敏症の既往歴のある患者.②本調査に一度組み入れられたことのある患者.③用法・用量を逸脱した患者.④その他,担当医師が対象として不適当と認めた患者.また,以下の患者は有効性解析の対象から除外し,これらの患者から検出された菌株は感受性測定の対象から除外した.1858あたらしい眼科Vol.31,No.12,2014①本剤投薬前に,他の抗菌薬が使用された患者.②投薬開始直前および投薬7日後までに所定の観察が実施されていない患者.③投薬開始直前および投薬7日後までに所定の検査が実施されていない患者.④投薬開始直前の細菌学的検査において細菌が陰性であった患者.また,対象眼重症度は担当医師判定で行った.b.有効性判定基準担当医師が,投薬開始直前,投薬期間中ならびに投薬終了時に下記の自覚症状,他覚的所見について観察を行い,症状および所見の程度を,3+:強度または多量,2+:中等度または中等量,1+:軽度または少量,±:ごく軽度またはごく少量,.:なし,の5段階で評価した.ただし,1歳未満の乳児は自覚症状の訴えを確認できないため,他覚的所見のみで判定した.自覚症状:流涙,異物感,眼痛,羞明,霧視,そう痒感他覚的所見:眼脂,結膜充血,結膜浮腫,眼瞼発赤,眼瞼腫脹,流涙,角膜浮腫,角膜浸潤,涙.膿汁逆流担当医師が,投薬前後の症状の推移から総合的に判断し,臨床効果を1:有効,2:無効,で判定した.有効率の算出は,有効例数/(有効例数+無効例数)×100(%)とし,判定不能の症例は有効率の母数から除いた.c.安全性判定基準本剤の投与中に生じたあらゆる好ましくない,あるいは意図しない徴候,症状,または病気のうち,本剤との因果関係が明確に否定できないものを副作用とした.3.使用菌株「オゼックス/トスフロ点眼液0.3%特定使用成績調査」1,2)において2006.2009年に分離された菌株のうち,小児からの分離菌株を用いた.試験菌株は試験実施までスキムミルクを用い.70℃以下に凍結保存したものを用いた.4.使用薬剤被験薬剤として,TFLX,levofloxacin(LVFX),gatifloxacin(GFLX),moxifloxacin(MFLX),cefmenoxime(CMX)gentamicin(GM),erythromycin(EM)の7薬剤を用いた.(,)また,Staphylococcusspp.にはoxacillin(MPIPC),Streptococcuspneumoniaeにはbenzylpenicillin(PCG),Haemophilusinfluenzaeにはampicillin(ABPC)を追加した.5.薬剤感受性測定本研究では生育が認められた菌について,病原性などを考(120) 慮しグループ分類した採用基準(表1)から上位のグループに属する菌を原因菌とし,本剤の最小発育阻止濃度(MIC)を測定した.MICの測定は,ClinicalandLaboratoryStandardsInstitute(CLSI)標準法に準じた微量液体希釈法3.6)で行った.測定にはフローズンプレート(栄研化学)を用いた.プレートは.70℃以下に保存した.測定濃度範囲は128.0.06μg/mLの2倍希釈系列,12段階とした.ただし,TFLXは16.0.06μg/mLの9段階とした.感性および耐性株の分類は,CLSIの規定4)を参考とし,StaphylococcusaureusはMPIPCのMIC値が2μg/mL以下のものを感性株(methicillin-susceptibleS.aureus:MSSA),4μg/mL以上のものを耐性株(methicillin-resistantS.aureus:MRSA)とした.S.pneumoniaeはPCGのMIC値が0.06μg/mL以下のものを感性株(penicillin-susceptibleS.pneumoniae:PSSP),0.12.1μg/mLのものを中程度耐性株(penicillin-intermediate-resistantS.pneumoniae:PISP),2μg/mL以上のものを耐性株(penicillin-resistant表1原因菌のGroup分類GroupIStaphylococcusaureusStreptococcuspyogenes(GroupA)StreptococcuspneumoniaeEnterococcussp.Citrobactersp.Enterobactersp.Escherichiasp.Proteussp.Morganellasp.SerratiamarcescensOtherEnterobacteriaceaeNeisseriagonorrhoeaeOtherNeisseriaOtherMoraxellaAcinetobactersp.Achromobactersp.Haemophilussp.PseudomonasaeruginosaOtherPseudomonassp.GroupIIStreptococcusagalactiae(GroupB)Streptococcus(GroupC)OtherStreptococcus(GroupD,G;nongrouped;viridans)Branhamella(Moraxella)catarrhalisGroupIIIStaphylococcusepidermidisOthercoagulasenegativeStaphylococcusMicrococcussp.Bacillussp.Corynebacteriumsp.(diphtheroids)PropionibacteriumacnesS.pneumoniae:PRSP)とした.H.influenzaeはCLSIに基準がないため,b-lactamase産生性が陰性で,ABPCのMIC値が1μg/mL以下のものを感性株(b-lactamase-nonproducingABPC-susceptibleH.influenzae:BLNAS),2μg/mL以上のものを耐性株(b-lactamase-negativeABPC-resistantH.influenzae:BLNAR)とした.b-lactamase定性試験はニトロセフィンスポットプレート法にて実施した.II結果1.症例構成症例構成を図1に示す.各試験から抜粋された小児の総症例数485例のうち470例を安全性解析対象症例および有効性解析対象症例とした.そこから投薬開始時に菌が陰性であったなどの理由で除外された75例を除いた395例を原因菌別臨床効果解析対象症例とした.さらに,これらから投与後の菌検査が実施されていないなどの理由で除外された162例を除いた233例を細菌図1症例構成原因菌別臨床効果集計対象症例395例安全性解析対象症例470例有効性解析対象症例470例調査完了症例485例細菌学的効果解析対象症例233例安全性解析集計対象除外症例目的外使用で1日1回のみ投薬された症例8例1日7回以上投薬された症例3例その他4例計15例有効性解析集計対象除外症例0例原因菌別臨床効果集計対象除外症例投薬開始時に菌陰性化30例臨床効果が判定不能23例その他22例計75例細菌学的効果解析対象除外症例後検査なし160例臨床効果が判定不能2例計162例(121)あたらしい眼科Vol.31,No.12,20141859 学的効果解析対象症例とした.2.患者背景安全性解析対象症例および有効性解析対象症例470例における人口統計学的およびその他の基準値の特性を表2に示す.年齢別の患者数は0歳(乳児)が最も多く,全体の29.6%(139/470例)を占めた.ついで3.5歳が24.0%(113/470例),1.2歳が23.4%(110/470例),0歳(新生児)が15.5%(73/470例),6.14歳が7.4%(35/470例)の順であった.対象疾患別では結膜炎が83.8%(394/470例)と最も多く,ついで涙.炎が8.9%(42/470例),麦粒腫が4.7%(22/470例),眼瞼炎が2.3%(11/470例),角膜潰瘍が0.2%(1/470例)の順であった.対象眼重症度は重症が4.0%(19/470例),中等症が57.0%(268/470例),軽症が38.9%(183/470例)であった.3.分離材料原因菌別の分離頻度を図2Aに示す.小児眼感染症患者の有効性解析対象症例470例の原因菌477株のうち,H.influenzaeが196株(41.1%)で最も多く,ついでS.pneumoniaeが79株(16.6%),S.aureusが55株(11.5%),a-hemolyticStreptococcusが34株(7.1%),Corynebacteriumspp.が28株(5.9%),Staphylococcusepidermidisが26株(5.5%),Moraxellacatarrhalisが23株(4.8%)であった.年齢別の原因菌は,0歳(新生児)ではS.aureusが一番多かったが,その他の年齢ではいずれもH.influenzaeが一番多かった.また,原因菌をグラム陽性菌とグラム陰性菌に分けると,0歳(新生児),0歳(乳児)および6.14歳ではグラム陽性菌がそれぞれ89.6%,51.4%および70.0%と過半数を占めており,1.2歳および3.5歳ではグラム陰性菌がそれぞれ75.2%および62.2%と過半数を占めていた(図2B).4.原因菌の薬剤感受性原因菌477株全株に対する各抗菌薬の抗菌活性(MICrange,MIC50およびMIC90)を表3に示す.TFLXのMIC50は≦0.06,MIC90は0.25μg/mLであった.その他の抗菌薬のMIC90をTFLXと比較すると,TFLXはMFLXと同程度,LVFXの4倍,GFLXの2倍,CMXの16倍,GMの64倍,EMの512倍以上の強い抗菌活性を示した.おもな菌種のMIC50およびMIC90を図3に示す.a.H.infl196株:うちBLNAS104株,BLNAR75株)BLNASに対するMIC50はTFLX,LVFX,GFLX,MFLXおよびCMXが≦0.06μg/mL,ついでGMが1μg/mL,EMが4μg/mLであった.MIC90はTFLX,LVFX,GFLXおよびMFLXが≦0.06μg/mL,ついでCMXが0.25μg/mL,表2人口統計学的およびその他の基準値の特性背景因子結膜炎n=394(83.8)涙.炎n=42(8.9)麦粒腫n=22(4.7)眼瞼炎n=11(2.3)角膜潰瘍n=1(0.2)合計n=4700歳(新生児)0歳(乳児)64(16.2)102(25.9)9(21.4)29(69.0)0(0)1(4.5)0(0)7(63.6)0(0)0(0)73(15.5)139(29.6)年齢(歳)1.2歳3.5歳100(25.4)102(25.9)3(7.1)1(2.4)4(18.2)9(40.9)3(27.3)1(9.1)0(0)0(0)110(23.4)113(24.0)6.14歳26(6.6)0(0)8(36.4)0(0)1(100)35(7.4)性別男女224(56.9)170(43.1)20(47.6)22(52.4)7(31.8)15(68.2)5(45.5)6(54.5)0(0)1(100)256(54.5)214(45.5)軽症159(40.4)7(16.7)8(36.4)9(81.8)0(0)183(38.9)対象眼重症度中等症223(56.6)31(73.8)12(54.5)2(18.2)0(0)268(57.0)重症12(3.0)4(9.5)2(9.1)0(0)1(100)19(4.0)眼の基礎疾患・なし368(93.4)30(71.4)21(95.5)10(90.9)1(100)430(91.5)合併症あり26(6.6)12(28.6)1(4.5)1(9.1)0(0)40(8.5)本剤投薬前6日以内の抗菌薬治療なしあり不明379(96.2)10(2.5)5(1.3)24(57.1)15(35.7)3(7.1)22(100)0(0)0(0)10(90.9)0(0)1(9.1)1(100)0(0)0(0)436(92.8)25(5.3)9(1.9)眼科領域のなし328(83.2)35(83.3)19(86.4)10(90.9)1(100)393(83.6)併用薬あり66(16.8)7(16.7)3(13.6)1(9.1)0(0)77(16.4)眼科領域以外の併用薬なしあり不明381(96.7)12(3.0)1(0.3)40(95.2)2(4.8)0(0)16(72.7)6(27.3)0(0)9(81.8)2(18.2)0(0)1(100)0(0)0(0)447(95.1)22(4.7)1(0.2)症例数(%)1860あたらしい眼科Vol.31,No.12,2014(122) AAcinetobacterspp.TheothersB小児原因菌n=477H.influenzae196,41.1%S.pneumoniae79,16.6%S.aureus55,11.5%a-hemolyticStreptococcus34,7.1%Corynebacteriumspp.28,5.9%M.catarrhalis23,4.8%S.epidermidis26,5.5%25,5.2%11,2.3%0%20%40%60%80%100%6~14歳3~5歳1~2歳0歳(乳児)0歳(新生児)■Streptococcuspneumoniae■Staphylococcusaureus■a-hemolyticStreptococcus■Corynebacteriumspp.■Staphylococcusepidermidis■陽性菌その他■Haemophilusinfluenzae■Moraxellacatarrhalis■陰性菌その他図2原因菌別分離頻度および年齢別のグラム陽性菌とグラム陰性菌の比率表3原因菌に対する各抗菌薬の抗菌活性抗菌薬TFLXLVFXGFLXMFLXCMXGMEMMIC(μg/mL)RangeMIC50≦0.06.>16≦0.06≦0.06.>1280.12≦0.06.128≦0.06≦0.06.64≦0.06≦0.06.>1280.25≦0.06.>1281≦0.06.>1284MIC900.2510.50.25416>1280.010.1MIC501101001,0000.010.1MIC90110(μg/mL)1001,000S.pneumoniae(79)PSSP(47)PISP/PRSP(32)S.aureus(55)MSSA(44)MRSA(11)a-hemolyticStreptococcus(34)Corynebacteriumspp.(28)S.epidermidis(17)H.influenzae(196)BLNAS(104)BLNAR(75)M.catarrhalis(23)TFLXLVFXGFLXMFLXCMXGMEM図3各菌種のMIC50およびMIC90GMが2μg/mL,EMが8μg/mLであった.BLNARに対およびMFLXが≦0.06μg/mL,ついでCMXが0.5μg/するMIC50はTFLX,LVFX,GFLXおよびMFLXが≦0.06mL,GMが2μg/mL,EMが8μg/mLであった.μg/mL,ついでCMXが0.25μg/mL,GMが1μg/mL,EMが4μg/mLであった.MIC90はTFLX,LVFX,GFLX(123)あたらしい眼科Vol.31,No.12,20141861 表4疾患別および重症度別の臨床効果(有効率)臨床効果有効率(%)95%信頼区間(%)有効無効判定不能合計対象疾患結膜炎38110339497.495.3.98.8涙.炎35614285.470.8.94.4麦粒腫22002210084.6.100眼瞼炎11001110071.5.100角膜潰瘍010100.97.5重症度別軽症1802118398.996.1.99.9中等症25312326895.592.2.97.6重症16301984.260.4.96.6合計44917447096.494.2.97.9有効率,95%信頼区間の算出に関しては,分母から判定不能を除く.信頼区間は,F分布に基づく正確な信頼区間を算出した.b.S.pneumoniae(79株:うちPSSP47株,PISP/PRSP32株)PSSPに対するMIC50はTFLXが≦0.06μg/mL,ついでMFLXおよびCMXが0.12μg/mL,GFLXが0.25μg/mL,LVFXが0.5μg/mL,EMが2μg/mL,GMが4μg/mLであった.MIC90はTFLXおよびMFLXが0.12μg/mL,ついでGFLXおよびCMXが0.25μg/mL,LVFXが1μg/mL,GMが8μg/mL,EMが>128μg/mLであった.PISP/PRSPに対するMIC50はTFLXおよびMFLXが≦0.06μg/mL,ついでGFLXが0.12μg/mL,LVFXおよびCMXが0.5μg/mL,GMおよびEMが8μg/mLであった.MIC90はTFLXおよびMFLXが0.12μg/mL,ついでGFLXが0.25μg/mL,LVFXおよびCMXが1μg/mL,GMが16μg/mL,EMが>128μg/mLであった.c.S.aureus(55株:うちMSSA44株,MRSA11株)MSSAに対するMIC50はTFLX,GFLXおよびMFLXが≦0.06μg/mL,ついでLVFXが0.12μg/mL,GMおよびEMが0.5μg/mL,CMXが2μg/mLであった.MIC90はGFLXおよびMFLXが1μg/mL,ついでTFLX,LVFXおよびCMXが2μg/mL,GMが128μg/mL,EMが>128μg/mLであった.MRSAに対するMIC50はGFLXおよびMFLXが8μg/mL,TFLXが>16μg/mL,LVFXおよびCMXが32μg/mL,GMが64μg/mL,EMが>128μg/mLであった.MIC90はMFLXが8μg/mL,ついでGFLXが16μg/mL,TFLXが>16μg/mL,LVFXが64μg/mL,CMX,GMおよびEMが>128μg/mLであった.5.臨床効果a.臨床効果有効性解析対象症例470例における疾患別および重症度別の臨床効果(有効率)とその95%信頼区間を表4に示す.有効性解析対象症例において全体の臨床効果は96.4%(449/466例)であった.各対象疾患に対する有効率は,結膜炎が97.4%(381/391例),涙.炎が85.4%(35/41例),麦粒腫が100%(22/22例),眼瞼炎が100%(11/11例)であり,角膜潰瘍(0/1例)を除き,85%を超えていた.また,重症度別の有効率は,軽症で98.9%(180/182例),中等症で95.5%(253/265例),重症で84.2%(16/19例)であった.b.原因菌別臨床効果原因菌別臨床効果解析対象症例395例における原因菌別の臨床効果(有効率)とその95%信頼区間を表5に示す.本試験において検出された原因菌に対する単独菌感染症例は335例(グラム陽性菌:145例,グラム陰性菌:190例)2菌種の複数菌感染症例は56例,3菌種の複数菌感染症例(,)は4例であった.単独菌感染症例でのトスフロキサシントシル酸塩水和物点眼液0.3%による臨床効果は,H.influenzaeで100%(160/160例){BLNASが100%(88/88例),BLNARが100%(58/58例)},S.pneumoniaeで95.9%(47/49例){PSSPが100%(31/31例),PISP/PRSPが88.9%(16/18例)},a-hemolyticStreptococcusで100%(29/29例),S.aureusで89.7%(26/29例){MSSAが90.0%(18/20例),MRSAが88.9%(8/9例)},M.catarrhalisで100%(20/20例)であった.また,複数菌に感染した症例の臨床効果は,2菌種では98.1%(53/54例),3菌種では100%(4/4例)であった.6.細菌学的効果細菌学的効果解析対象症例233例(グラム陽性菌:92例,グラム陰性菌:103例,複数菌感染:38例)における細菌学的効果(消失率)およびその95%信頼区間を表6に示す.全対象症例における細菌学的効果は86.7%(202/233例)1862あたらしい眼科Vol.31,No.12,2014(124) 表5原因菌別臨床効果(有効率)原因菌臨床効果合計(例)有効率(%)95%信頼区間(%)有効無効判定不能単独菌感染グラム陽性菌S.pneumoniae47215095.986.0.99.5PSSP31013210088.8.100PISP/PRSP16201888.965.3.98.6a-hemolyticStreptococcus29013010088.1.100S.aureus26302989.772.6.97.8MSSA18202090.068.3.98.8MRSA810988.951.8.99.7S.epidermidis14101593.368.1.99.8S.capitis10011002.5.100CoagulasenegativeStaphylococcus110250.01.3.98.7Corynebacteriumspp.17101894.472.7.99.9小計1358214594.489.3.97.6グラム陰性菌H.influenzae1600016010097.7.100BLNAS88008810095.9.100BLNAR58005810093.8.100M.catarrhalis20002010083.2.100Acinetobacterspp.410580.028.4.99.5P.aeruginosa300310029.2.100K.pneumoniae10011002.5.100Moraxellaspp.010100.97.5小計1882019098.996.2.99.9複数菌感染2菌種53125698.190.1.1003菌種400410039.8.100合計38011439597.295.0.98.6有効率,95%信頼区間の算出に関しては,分母から判定不能を除く.信頼区間は,F分布に基づく正確な信頼区間を算出した.であった.また,グラム陽性菌に対しては84.8%(78/92例),グラム陰性菌に対しては89.3%(92/103例)であった.7.安全性および副作用発現症例安全性解析対象症例470例における副作用について表7に示す.全対象症例における副作用発現率は0.2%(1/470例)であり,眼瞼炎を発現した1件で投与日数1日,1日量1滴の結膜炎の6カ月女児であった.III考察今回,筆者らは,TFLXトシル酸塩水和物点眼液0.3%の特定使用成績調査より,小児の結果を抜粋し,新生児を含む小児に対する有効性および安全性を検証した.同時に,小児より分離された原因菌を用いて各種抗菌薬の薬剤感受性を測定した.本調査におけるTFLXトシル酸塩水和物点眼液0.3%の臨床効果(有効率)は全体で96.4%(449/466例)であり良好な成績であった.対象疾患別では,最も頻度の高かった結膜(125)あたらしい眼科Vol.31,No.12,20141863 表6原因菌別細菌学的効果原因菌細菌学的効果合計(例)消失率(%)95%信頼区間(%)消失推定消失一部消失消失せず単独菌感染グラム陽性菌S.pneumoniae210072875.055.1.89.3PSSP110041573.344.9.92.2PISP/PRSP100031376.946.2.95.0a-hemolyticStreptococcus163012095.075.1.99.9S.aureus122051973.748.8.90.9MSSA91001010069.2.100MRSA3105944.413.7.78.8S.epidermidis111011392.364.0.99.8S.capitis100011002.5.100CoagulasenegativeStaphylococcus010011002.5.100Corynebacteriumspp.100001010069.2.100小計7170149284.875.8.91.4グラム陰性菌H.influenzae6910108087.578.2.93.8BLNAS430064987.875.2.95.4BLNAR181032286.465.1.97.1M.catarrhalis130001310075.3.100Acinetobacterspp.5000510047.8.100P.aeruginosa2001366.79.4.99.2K.pneumoniae100011002.5.100Moraxellaspp.100011002.5.100小計91101110389.381.7.94.5複数菌感染2菌種264513683.367.2.93.63菌種2000210015.8.100合計1901252623386.781.6.90.8消失率の算出に関しては,消失および推定消失を合わせて消失とした.信頼区間は,F分布に基づく正確な信頼区間を算出した.表7副作用発現率と内訳副作用発現件数/解析対象例数1/470発現率(%)0.295%信頼区間(%)0.0.1.2内訳眼瞼炎1件信頼区間は,F分布に基づく正確な信頼区間を算出した.炎は97.4%(381/391例)であった.本調査の臨床効果は,申請時の12歳以上の患者を対象としたオープン試験の成績7)(有効率:全体で93.7%,結膜炎に対して93.8%)よりもやや高かった.原因菌別の臨床効果では,単独菌感染症例に対して,97.0%(323/333例)の有効率であった.菌別では,BLNAR,PISP/PRSP,MRSAにそれぞれ100%,88.9%,88.9%と,耐性株を含む主要な菌種に対して高い臨床効果を示した.細菌学的効果(消失率)は全体で86.7%(202/233例)であった.これも申請時の結果〔消失率:79.2%(114/1441864あたらしい眼科Vol.31,No.12,2014(126) 例)〕7)と比較してやや高かった.原因菌別の分離頻度では,H.influenzaeが最も高く40%程度を占めていた.ついでS.pneumoniae,S.aureus,a-hemolyticStreptococcusの順に分離頻度が高かった.秋葉らは4歳未満の乳幼児107例の細菌性結膜炎から検出された検出菌82株において,H.influenzaeが52.4%と最も多く,ついでS.pneumoniaeの20.7%,S.aureusの7.3%であったと報告しており8),今回の結果は既報と同じ傾向を示していた.さらに,月齢別でのグラム陽性菌とグラム陰性菌の比率において,生後1.6カ月ではS.pneumoniaeやS.aureusなどのグラム陽性菌が過半数を占めていたが,それ以降グラム陰性菌の比率が増え,生後25.48カ月ではグラム陰性菌が100%になったことを報告している8).今回も同様の傾向がみられ,新生児ではグラム陽性菌が89.6%と過半数を占めていたが,徐々にその比率が下がり,1.2歳ではグラム陽性菌が24.8%を占めていた.また,3.5歳,6.14歳と年齢が上がるにつれて再びグラム陽性菌の比率が増え,6.14歳ではグラム陽性菌が70.0%を占めていた.松本らは,全症例中73.3%が40歳以上を占める集団の解析において,グラム陽性菌が全体の67.4%を占めていたことを報告しており9),年齢の上昇に伴い再びグラム陽性菌が主要な原因菌となることが示唆された.今回分離された原因菌において,S.pneumoniaeでは,79株のうち40.5%がPISPまたはPRSPであった.PISPまたはPRSPに対するLVFXのMIC90は1μg/mLであったが,その他のキノロン系抗菌薬のMIC90は0.12または0.25μg/mLであり,強い抗菌活性を示した.一方で,EMはMIC90が>128μg/mLであり,耐性化が認められた.S.aureusでは,20.0%がMRSAであった.2004年から2007年に細菌性結膜炎患者から分離された検出菌において,S.aureus97株中19.6%(19株)がMRSAであったことを松本らが報告している9)が,今回のMRSAの分離頻度と類似していた.MRSAは今回感受性測定を実施したいずれの抗菌薬に対しても感受性の低下が認められた.H.influenzaeでは,196株のうち38.3%の75株がBLNARであった.堀らは市中病院における外眼部感染症から分離されたH.influenzae412株のうち,BLNARは46.6%の192株であったと報告しているが10),今回の結果でも40%近くの分離頻度であった.BLNARに対して,キノロン系抗菌薬のMIC90はいずれも≦0.06μg/mLであり,強い抗菌活性を示した.H.influenzaeは小児の細菌性結膜炎の主要な起炎菌であるが,今回の結果からはキノロン系抗菌薬はBLNARに対して強い抗菌活性を示した.副作用は,安全性解析対象症例470例中,6カ月の結膜炎女児に発現した眼瞼炎1件であった.本結果からは安全であると考えられるが,今後も情報収集に努める必要がある.(127)近年,成人領域ではキノロン耐性のH.influenzaeも分離され11),S.pneumoniaeもキノロン耐性化率の上昇が懸念される.小児では,生後6カ月から5歳くらいまでは自己の免疫能が未熟なため,S.pneumoniaeやH.influenzaeの鼻咽頭の健常保菌率が50.60%程度と非常に高い12,13).このように普段から病原菌を保菌している小児に対し,広くキノロン系抗菌点眼薬を使用すれば,キノロン耐性H.influenzaeやS.pneumoniaeが生じやすくなることは容易に想像できる.眼科医の小児に対するキノロン系抗菌薬の処方については今後さらに十分検討していくことが重要である.しかしながら,病状の経過を自分で表現できない子供の場合,小児眼感染症が重症化する前に短期間でしっかりと病原菌をたたき,治療を行うことは重要であると考える.また,TFLXトシル酸塩水和物点眼液の「用法用量に関連する使用上の注意」には,「小児においては,成人に比べて短期間で治療効果が認められる場合があることから,経過を十分観察し,漫然と使用しないよう注意すること」と注意喚起もされ,短期治療を念頭に処方されていることから,TFLXトシル酸塩水和物点眼液により耐性菌を生じやすくする恐れは必ずしも高くないと考える.一方,CMXなどのb-ラクタム系薬も治療の選択肢として有効ではあるが,TFLXに比し主要な眼感染症起因菌に対し抗菌活性が劣る.また,近年,眼感染症起因菌においても,バイオフィルム形成が臨床的に問題となっており,バイオフィルム形成菌に対してはb-ラクタム系薬よりもキノロン系薬を,また,キノロン系薬のなかでも目標とする菌に対して,より強い抗菌活性を示す薬剤を選択すべきである14)といわれている.小児の眼感染症は早期に十分治療しなければ,将来のある幼小児の視機能を損ないかねないこともある.キノロン系薬は耐性菌の出現にも十分注意を払う必要があることも念頭におきながら,キノロン系薬での治療が有効であると思われる症例では,短期間で集中的に治療を行うことも重要である.以上,本調査で分離された原因菌の分離頻度ならびに耐性化率は,これまでの報告と同様の傾向が認められた.また,臨床効果ならびに細菌学的効果ともに申請時の試験と比べて低下は認められなかった.耐性菌の動向に注意を払う必要はあるが,小児の細菌性外眼部感染症においてTFLXトシル酸塩水和物点眼液0.3%は高い有効性と安全性を有する薬剤であると考えられた.文献1)西田輝夫,宮永嘉隆,大野重昭:トスフロキサシントシル酸塩水和物点眼液の有効性・安全性および低頻度分離株に対する有効性の確認.臨眼68:1509-1519,20142)宮永嘉隆,東範行,大野重昭:新生児の外眼部細菌感染あたらしい眼科Vol.31,No.12,20141865 症に対するトスフロキサシントシル酸塩水和物点眼液の有効性と安全性の検討.臨眼65:1043-1049,20113)ClinicalandLaboratoryStandardsInstitute.Methodsfordilutionantimicrobialsusceptibilitytestsforbacteriathatgrowaerobically;Approvedstandard-seventhedition.M7-A7.CLSI,Wayne,PA,20064)ClinicalandLaboratoryStandardsInstitute.Performancestandardsforantimicrobialsusceptibilitytesting;seventeenthinformationalsupplement.M100-S17.CLSI,Wayne,PA,20075)ClinicalandLaboratoryStandardsInstitute.Methodsforantimicrobialdilutionanddisksusceptibilitytestingofinfrequentlyisolatedorfastidiousbacteria;Approvedguideline.M45-A.CLSI,Wayne,PA,20066)ClinicalandLaboratoryStandardsInstitute.Methodsforantimicrobialsusceptibilitytestingofanaerobicbacteria;Approvedstandard-seventhedition.M11-A7.CLSI,Wayne,PA,20077)北野周作,宮永嘉隆,大野重昭ほか:新規ニューキノロン系抗菌点眼薬トシル酸トスフロキサシン点眼液の細菌性外眼部感染症を対象とするオープン試験.あたらしい眼科23:68-80,20068)秋葉真理子,秋葉純:乳幼児細菌性結膜炎の検出菌と薬剤感受性の検討.あたらしい眼科18:929-931,20019)松本治恵,井上幸次,大橋裕一ほか:多施設共同による細菌性結膜炎における検出菌動向調査.あたらしい眼科24:647-654,200710)堀武志,秦野寛:急性細菌性結膜炎の疫学.あたらしい眼科6:81-84,198911)YokotaS,OhkoshiY,SatoKetal:Emergenceoffluoroquinolone-resistantHaemophilusinfluenzaestrainsamongelderlypatientsbutnotamongchildren.JClinMicrobiol46:361-365,200812)HashidaK,ShiomoriT,HohchiNetal:NasopharyngealHaemophilusinfluenzaecarriageinJapanesechildrenattendingday-carecenters.JClinMicrobiol46:876-881,200813)HashidaK,ShiomoriT,HohchiNetal:NasopharyngealStreptococcuspneumoniaecarriageinJapanesechildrenattendingday-carecenters.IntJPediatrOtorhinolaryngol75:664-669,201114)井上幸次,池田欣史,藤原弘光ほか:眼感染症由来Staphylococcusepidermidisが形成したInVitroバイオフィルムに対するトスフロキサシン点眼液の殺菌効果.あたらしい眼科29:91-98,2012***1866あたらしい眼科Vol.31,No.12,2014(128)

光干渉断層計を用いて神経節細胞複合体厚および乳頭周囲網膜神経線維層厚の経時的変化を観察できた小児外傷性視神経症の1例

2014年5月31日 土曜日

《原著》あたらしい眼科31(5):763.768,2014c光干渉断層計を用いて神経節細胞複合体厚および乳頭周囲網膜神経線維層厚の経時的変化を観察できた小児外傷性視神経症の1例荒木俊介*1後藤克聡*1水川憲一*1三木淳司*1,2山下力*1,2仲河正樹*1桐生純一*1*1川崎医科大学眼科学教室1*2川崎医療福祉大学医療技術学部感覚矯正学科ACaseofPediatricTraumaticOpticNeuropathywithThinningofGanglionCellComplexandCircumpapillaryRetinalNerveFiberLayerThicknessUsingOpticalCoherenceTomographySyunsukeAraki1),KatsutoshiGoto1),KenichiMizukawa1),AtsushiMiki1,2),TsutomuYamashita1,2),MasakiNakagawa1)andJunichiKiryu1)1)DepartmentofOphthalmology,KawasakiMedicalSchool,2)DepartmentofSensoryScience,FacultyofHealthScienceandTechnology,KawasakiUniversityofMedicalWelfare目的:小児の外傷性視神経症(TON)において,スペクトラルドメイン光干渉断層計(SD-OCT)を用いて神経節細胞複合体(GCC)厚および乳頭周囲網膜神経線維層(cpRNFL)厚の経時的変化を観察できた1例を報告する.症例:11歳,男児.左眼窩縁付近を打撲後に視力低下を自覚.左眼視力0.1,相対的瞳孔求心路障害と中心フリッカー値低下を認め,左眼TONと診断.ステロイドパルス療法後,視機能が改善したにもかかわらず,GCC厚およびcpRNFL厚は,受傷後から不可逆的な菲薄化が進行した.結論:小児のTONにおいて,受傷後から経時的に神経節細胞や神経線維の萎縮を捉えることができた.自覚的検査の信頼性が低い幼小児において,SD-OCTを用いたGCC厚やcpRNFL厚の測定は,短時間で容易に構造的変化を捉えることができ,病態把握や経過観察およびTON診断の一助としても有用であると考えられる.Purpose:Wereportachildwithtraumaticopticneuropathy(TON)inwhichthetimecourseofganglioncellcomplex(GCC)andcircumpapillaryretinalnervefiberlayer(cpRNFL)thinningwereobservedusingspectral-domainopticalcoherencetomography(SD-OCT).Case:An11-year-oldmalerealizedvisuallossinhislefteyeaftertraumaticinjurytothelateralorbitalmargin.Correctedvisualacuitywas0.1.RelativeafferentpupillarydefectOSanddecreasedcriticalflickerfrequencyOSwerenoted,andhewasdiagnosedwithTONOS.Althoughvisualfunctionimprovedaftersteroidpulsetherapy,GCCandcpRNFLthinningsubsequentlyprogressed.Conclusion:WewereabletodetectlongitudinalchangesinganglioncellandretinalnervefiberatrophyinpediatricTON.Inyoungchildrenwithlowreliabilityinsubjectivetesting,SD-OCTcaneasilydetectstructuralchange,soisconsideredusefulforpathologicalassessment,follow-upanddiagnosisofTON.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(5):763.768,2014〕Keywords:外傷性視神経症,小児,光干渉断層計,神経節細胞複合体厚,乳頭周囲網膜神経線維層厚.traumaticopticneuropathy,child,opticalcoherencetomography,ganglioncellcomplexthickness,circumpapillaryretinalnervefiberlayerthickness.〔別刷請求先〕荒木俊介:〒701-0192倉敷市松島577川崎医科大学眼科学教室1Reprintrequests:SyunsukeAraki,DepartmentofOphthalmology,KawasakiMedicalSchool,577Matsushima,Kurashiki701-0192,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(137)763 はじめにスペクトラルドメイン光干渉断層計(spectral-domainopticalcoherencetomography:SD-OCT)では,スキャンスピードと空間解像度の向上に伴い,網膜各層のセグメンテーションが可能となった.RTVue-100R(Optovue社)では網膜神経線維層(retinalnervefiberlayer:RNFL)・神経節細胞層(ganglioncelllayer:GCL)・内網状層の3層をまとめて神経節細胞複合体(ganglioncellcomplex:GCC)として測定することが可能である.GCC厚の菲薄化は,網膜神経線維と軸索輸送障害に伴う網膜神経節細胞の障害を反映していると考えられており,緑内障性視神経症ではGCC厚が菲薄化するとされている1).また,GCC厚測定における緑内障の診断力は乳頭周囲網膜神経線維層(circumpapillaryretinalnervefiberlayer:cpRNFL)厚の測定に匹敵すると報告されており2),その有用性は高い.神経眼科領域においても多発性硬化症や視神経炎において,脱髄や炎症に伴う網膜神経線維や神経節細胞の萎縮を経時的に捉えるために,SD-OCTを用いてGCC厚やcpRNFL厚の検討がなされている3,4).以前に,筆者らは小児の視神経乳頭炎において治療により視機能が改善したにもかかわらずGCC厚が不可逆的に菲薄化したことを報告した5).外傷性視神経症(traumaticopticneuropathy:TON)においては,これまでtime-domeinOCTやscanninglaserpolarimeterを用いて黄斑部網膜厚やcpRNFL厚の菲薄化が報告されているが6.8),SD-OCTを用いたGCC厚やcpRNFL厚の経時的変化に関する報告は少なく9),小児での報告は筆者らの知る限りではない.今回,SD-OCTを用いてGCC厚およびcpRNFL厚の経時的変化を観察できた小児のTONの1例を報告する.なお,本研究は本学倫理委員会の承認を得ており,また,患者の同意を得て実施した.I症例患者:11歳,男児.主訴:左眼視力低下.既往歴,家族歴:特記事項なし.現病歴:2011年12月25日,サッカー中に友人の頭部で左眼窩縁付近を打撲し,視力低下を自覚したため近医を受診した.左眼のTONを疑われ,その翌日に川崎医科大学附属病院眼科を紹介受診となった.初診時所見:視力は右眼1.5(矯正不能),左眼0.1(矯正不能),眼圧は右眼15mmHg,左眼15mmHgであった.対光反射は左眼の直接反射が弱く,相対的瞳孔求心路障害(relativeafferentpupillarydefect:RAPD)が陽性,ハンディフリッカHFR(NEITZ)による中心フリッカー(criticalflickerfrequency:CFF)値は右眼41Hz,左眼15.20Hzで764あたらしい眼科Vol.31,No.5,2014あった.Goldmann視野検査では,右眼は正常,左眼は中心10°以内の中心暗点および下方の水平半盲傾向を認めた(図1a).前眼部,中間透光体,眼底に異常所見はなく,磁気共鳴画像検査,コンピュータ断層撮影法検査においても眼窩および視神経に異常を認めなかった.以上の結果より,左眼TONと診断した.経過:即日入院とし,ソル・メドロールR1,000mgによるステロイドパルス療法を2クール施行した.左眼視力の経過は受傷後翌日で(0.1),1カ月で(0.5),3カ月で(0.6),8カ月で(0.5),12カ月で(0.4)であった.CFF値は受傷後翌日で15.20Hz,1カ月で25Hz,3カ月で33Hz,8カ月で38Hz,12カ月で36Hzであった.また,12カ月後のGoldmann視野検査では,中心暗点の改善および下方視野の拡大を認めたが,下方の暗点は残存した(図1b).SD-OCT(RTVue-100R,Optovue社)による平均GCC厚は,受傷後翌日,1カ月,3カ月,8カ月,12カ月において,右眼でそれぞれ,96.63μm,97.06μm,97.18μm,98.13μm,99.13μm,左眼で95.28μm,72.95μm,72.67μm,64.44μm,64.08μmであった(図2a).左眼の平均GCC厚は,健眼である右眼と比較し,受傷後翌日で1.4%,1カ月で24.8%,3カ月で25.2%,8カ月で34.3%,12カ月で35.4%減少していた.GCCThicknessMapでは,右眼は経過を通じて明らかな変化はみられなかったが,左眼では経過とともに中心窩周囲,特に鼻側と上方で菲薄化が進行した(図2b).平均cpRNFL厚は受傷後翌日,1カ月,3カ月,8カ月,12カ月において,右眼でそれぞれ116.35μm,113.67μm,114.54μm,118.17μm,114.12μm,左眼で108.86μm,81.3μm,67.85μm,61.12μm,64.25μmであった(図3a).左眼の平均cpRNFL厚は,健眼である右眼と比較し,受傷後翌日で6.4%,1カ月で28.5%,3カ月で40.8%,8カ月で48.3%,12カ月で43.7%減少していた.cpRNFLThicknessMapでは,右眼は経過を通じて明らかな変化はみられなかったが,左眼では,経過とともに菲薄化が進行し,特に上方および耳側で顕著であった(図3b).さらに,平均cpRNFL厚を視神経乳頭上方,耳側,下方,鼻側の4象限に分けた象限別平均cpRNFL厚は,受傷後翌日,1カ月,3カ月,8カ月,12カ月において,それぞれ上方が右眼で145μm,146μm,138.5μm,151.5μm,138μm,左眼で127.5μm,96μm,70μm,74μm,80.5μmであった.耳側が右眼で82μm,94.5μm,97.5μm,103μm,93.5μm,左眼で87.5μm,44μm,39μm,35.5μm,41μmであった.下方が右眼で157μm,145μm,150μm,147.5μm,153.5μm,左眼で152μm,117μm,98μm,89μm,93μmであった.鼻側が右眼で81.5μm,69.5μm,72.5μm,70μm,71μm,左眼で68.5μm,67.5μm,63.5μm,(138) ab図1左眼Goldmann視野所見の経過a:受傷後翌日.中心10°以内の中心暗点および下方の水平半盲傾向を認めた.b:受傷後12カ月.中心暗点の改善および下方視野の拡大を認めたが下方の暗点は残存した.a1051009590858075706560受傷後翌日1カ月3カ月8カ月12カ月:右眼GCC厚:左眼GCC厚GCC厚(μm)b:GCCThicknessMap右眼左眼図2平均GCC厚の経時的変化a:平均GCC厚の経時的変化.左眼の平均GCC厚は受傷後1カ月で右眼に比べ急激な菲薄化を認め,その後,経過とともに減少傾向にあった.b:GCCThicknessMap.左眼において,経過とともに中心窩周囲,特に鼻側と上方で菲薄化が進行した.GCC:ganglioncellcomplex.(139)あたらしい眼科Vol.31,No.5,2014765 cpRNFL厚(μm)a1251151059585756555:右眼cpRNFL厚:左眼cpRNFL厚受傷後翌日1カ月3カ月8カ月12カ月b:cpRNFLThicknessMap右眼左眼図3平均cpRNFL厚の経時的変化a:平均cpRNFL厚の経時的変化.左眼の平均cpRNFL厚は平均GCC厚と同様に,受傷後1カ月で右眼に比べ急激な菲薄化を認め,その後,経過とともに減少傾向にあった.b:cpRNFLThicknessMap.左眼において,経過とともに菲薄化が進行し,特に上方および耳側で顕著であった.cpRNFL:circumpapillaryretinalnervefiberlayer,GCC:ganglioncellcomplex.46μm,42μmであった(図4).解析に用いたデータは,SignalStrengthIndexが50以上得られたデータとし,固視不良やセグメンテーションエラーがある場合は複数回の測定を行い,最も信頼性のあるデータを採用した.受傷後翌日では,平均GCC厚および平均cpRNFL厚ともに右眼(健眼)と左眼(患眼)で大きな差がみられなかったが,その後,受傷後1カ月で左眼視力は改善を認めたにもかかわらず,平均GCC厚および平均cpRNFL厚はともに減少した.また,象限別平均cpRNFL厚では受傷後翌日において,欠損のあった下方視野に対応する上方cpRNFL厚は右眼に比べて左眼で軽度減少していた.その後,12カ月後では右眼に比べて左眼は全象限においてcpRNFL厚の減少を認めた.766あたらしい眼科Vol.31,No.5,2014II考按小児のTONにおいて視力やCFF値などの視機能が改善したにもかかわらず,GCC厚やcpRNFL厚は経過とともに急速に菲薄化が進行し,受傷後12カ月においても菲薄化が残存した.TONは,広義にはいくつかの分類に分けられるが,眉毛部外側の鈍的打撲により介達性に同側の視神経機能が急激に障害されるものが一般的である.その病態は,衝撃が眼窩上壁の骨を経由して介達性に視神経管に到達した際,視神経管内視神経部で浮腫や出血が生じ,視神経を圧迫することが主たるものと考えられている10).本症例では,左眼窩縁付近の鈍的衝撃の直後に,同側の急激な視神経機能の低下を認めた.また,開放性の損傷はなく,視神経管骨折や眼球直後に生じる視神経乳頭離断も認めなかったことから,眼窩後方の(140) 右眼160140120cpRNFL厚100:上方:耳側80:下方:鼻側604020受傷後翌日1カ月3カ月8カ月12カ月160140120cpRNFL厚100:上方:耳側80:下方:鼻側604020図4象限別平均cpRNFL厚の経時的変化受傷後翌日において,上方cpRNFL厚が右眼に比べて左眼で軽度減少していた.その後,左眼は受傷後12カ月では全象限においてcpRNFL厚の減少を認めた.cpRNFL:circumpapillaryretinalnervefiberlayer.視神経管近傍に生じたいわゆる狭義の介達性TONであったと考えられる.TONにおけるSD-OCTを用いたGCC厚およびcpRNFL厚の検討については,Kanamoriら9)が成人例においてGCC厚およびcpRNFL厚は,受傷後2週目から健眼に比べて有意に減少しはじめ,20週間後には頭打ちになることを報告し,機能検査でしか捉えられなかった受傷後の経過を構造的に評価している.本症例においても治療後に視力や視野などの視機能が改善したにもかかわらず,受傷後1カ月からGCC厚およびcpRNFL厚の減少が認められた.TONにおけるGCC厚とcpRNFL厚の菲薄化は,浮腫や出血による視神経圧迫に伴う軸索損傷が原因の不可逆的なGCLやRNFLの萎縮を捉えたものと考えられる.しかし,本症例では受傷後翌日から受傷後1カ月までGCC厚およびcpRNFL厚の評価が行えておらず,菲薄化が検出されはじめる詳細な期間については検討できていない.また,cpRNFL厚の象限別検討では,受傷後翌日で健眼に比べて,患眼の上方cpRNFL厚が軽度減少していた.これまで,TONでは急性期におけるcpRNLF厚は正常か網膜神経線維の増大による肥厚を示す11)とされている.しかし,(141)cpRNFL厚(μm)cpRNFL厚(μm)左眼受傷後翌日1カ月3カ月8カ月12カ月受傷後早期にcpRNFL厚の有意な変化が捉えられるかどうかについては,今後症例数を増やし詳細な検討が必要である.これまで視神経炎においてcpRNFL厚の減少と視力や視野の障害に相関があると報告されている12,13)が,TONではGCC厚およびcpRNFL厚と視機能の相関についての報告はない.しかし,乳頭黄斑線維がおもに障害される視神経炎と異なり,TONでは視神経実質内の浮腫の部位により,さまざまな視野変化が起こりうることから視力や中心視野との相関は一様でないことが推察される.本症例では,GCC厚やcpRNFL厚の菲薄化が進行したにもかかわらず視力や視野が保持されていた.その理由として,Quigleyら14)はGoldmann視野計では網膜神経節細胞の約50%が障害されないと中心視野の異常を検出できないと報告しており,本症例でも視力検査やGoldmann視野検査ではGCC厚やcpRNFL厚の形態的変化が網膜神経節細胞の余剰性により機能異常として検出できなかった可能性が考えられる.TONの診断は,眉毛部外側の打撲の既往と視力・視野障害,RAPDの存在があれば,診断は比較的容易であるが,幼小児においては自覚的な訴えが曖昧なことが多く,外傷による皮下出血や挫滅創のない場合には診断が困難である15).このような場合,swingingflashlighttestによるRAPDの検出がほとんど唯一の他覚的所見であるとされてきたが,GCC厚やcpRNFL厚の測定は他覚的にGCLやRNFLの萎縮を捉えることができ,自覚的検査の信頼性が低い幼小児において,病態把握や経過観察に有用であると考えられる.また,幼小児のTONにおいて鑑別すべき疾患としては,外傷をきっかけとした心因性視覚障害16)や弱視17)などがあげられる.弱視眼ではGCC厚の菲薄化は認めないと報告されており18),弱視や心因性視覚障害とTONをはじめとする視神経疾患との鑑別の一助としてもGCC厚およびcpRNFL厚の測定は有用であると思われる.今回,小児のTONにおいて,SD-OCTを用いたGCC厚およびcpRNFL厚の測定により,不可逆的なGCLやRNFLの萎縮を捉えることができた.SD-OCTは,短時間の固視や座位の保持が可能であれば幼小児でも比較的容易に撮影が可能であるため,GCC厚やcpRNFL厚の測定が幼小児の視神経疾患における病態把握,経過観察および診断の一助としても有用であると考えられる.今後,TONにおけるGCC厚およびcpRNFL厚の減少と視機能との相関について,症例数を増やしてさらに詳細な検討を行う予定である.文献1)MorookaS,HangaiM,NukadaMetal:Wide3-dimensionalmacularganglioncellcompleimagingwithspectral-domainopticalcoherencetomographyinglaucoma.Investあたらしい眼科Vol.31,No.5,2014767 OphthalmolVisSci53:4805-4812,20122)KimNR,LeeES,SeongGJetal:Structure-functionrelationshipanddiagnosticvalueofmacularganglioncellcomplexmeasurementusingFourier-domainOCTinglaucoma.InvestOphthalmolVisSci51:4646-4651,20103)FjeldstadC,BembenM,PardoG:Reducedretinalnervefiberlayerandmacularthicknessinpatientswithmultiplesclerosiswithnohistoryofopticneuritisidentifiedbytheuseofspectraldomainhigh-definitionopticalcoherencetomography.JClinNeurosci18:1469-1472,20114)SycSB,SaidhaS,NewsomeSDetal:Opticalcoherencetomographysegmentationrevealsganglioncelllayerpathologyafteropticneuritis.Brain135:521-533,20125)後藤克聡,水川憲一,三木淳司ほか:神経節細胞複合体の急激な菲薄化を認めた小児視神経炎の2例.日眼会誌117:1004-1011,20136)VessaniRM,CunhaLP,MonteiroML:Progressivemacularthinningafterindirecttraumaticopticneuropathydocumentedbyopticalcoherencetomography.BrJOphthalmol91:697-698,20077)MedeirosFA,MouraFC,VessaniRMetal:Axonallossaftertraumaticopticneuropathydocumentedbyopticalcoherencetomography.AmJOphthalmol135:406-408,20038)MiyaharaT,KurimotoY,KurokawaTetal:Alterationsinretinalnervefiberlayerthicknessfollowingindirecttraumaticopticneuropathydetectedbynervefiberanalyzer,GDx-N.AmJOphthalmol136:361-364,20039)KanamoriA,NakamuraM,YamadaYetal:Longitudinalstudyofretinalnervefiberlayerthicknessandganglioncellcomplexintraumaticopticneuropathy.ArchOphthalmol130:1067-1069,201210)河合一重:外傷.眼科診療プラクティス12やさしい神経眼科(安達惠美子編),p60-63,文光堂,199411)藤本尚也,横山暁子:視神経疾患のOCTとHumphrey静的視野検査.あたらしい眼科29:743-749,201212)NovalS,ContrerasI,RebolledaGetal:Opticalcoherencetomographyversusautomatedperimetryforfollow-upofopticneuritis.ActaOphthalmolScand84:790-794,200613)CostelloF,HodgeW,PanYIetal:Trackingretinalnervefiberlayerlossafteropticneuritis:aprospectivestudyusingopticalcoherencetomography.MultScler14:893-905,200814)QuigleyHA,AddicksEM,GreenWR:Opticnervedamageinhumanglaucoma.III.Quantitativecorrelationofnervefiberlossandvisualfielddefectinglaucoma,ischemicneuropathy,papilledema,andtoxicneuropathy.ArchOphthalmol100:135-146,198215)三村治:眼のかすみを起こす疾患視神経疾患.あたらしい眼科27:191-195,201016)鈴木利根,瀬川敦,杉谷邦子ほか:中学・高校の運動部活動に関連し外傷を契機とした心因性視力障害.眼臨101:708-711,200717)波田順次,中筋康夫,中村誠ほか:健眼遮閉により視力改善をみた小児外傷性視神経症の1例.眼臨93:204-206,199918)FiratPG,OzsoyE,DemirelSetal:Evaluationofperipapillaryretinalnervefiberlayer,maculaandganglioncellthicknessinamblyopiausingspectralopticalcoherencetomography.IntJOphthalmol6:90-94,2013***768あたらしい眼科Vol.31,No.5,2014(142)

激症型サイトメガロウイルス網膜炎を発症しガンシクロビル全身投与で良好な視力を得た小児の1例

2012年5月31日 木曜日

《原著》あたらしい眼科29(5):697.699,2012c激症型サイトメガロウイルス網膜炎を発症しガンシクロビル全身投与で良好な視力を得た小児の1例武田祐介山下英俊山形大学医学部眼科学講座ACaseofFulminantCytomegalovirusRetinitisinaChild,withGoodPrognosisfollowingSystemicGanciclovirTreatmentYusukeTakedaandHidetoshiYamashitaDepartmentofOphthalmologyandVisualScience,YamagataUniversitySchoolofMedicine激症型サイトメガロウイルス網膜炎を発症したが,ガンシクロビル全身投与で良好な視力を得た小児の1例について報告する.症例は11歳の女児で,左中耳炎を契機に左上咽頭部の横紋筋肉腫と診断された.山形大学医学部附属病院小児科に入院し,化学療法と放射線療法を施行.約1年後に10日前からの右眼の暗黒感を主訴に当科を受診.視力は右眼(0.5)で,眼底所見および,採血で白血球中サイトメガロウイルス抗原が陽性であったことより,右眼のサイトメガロウイルス網膜炎と診断した.ガンシクロビル静脈内投与を開始.その後,網膜炎は軽快し,約1カ月後には右眼(1.0)まで改善した.サイトメガロウイルス網膜炎において,全身状態を評価して,ただちに全身的な治療薬投与によって治療を開始することが有効と思われた.早期治療により硝子体注射などが回避できれば,特に小児の場合は,身体的・心理的負担が軽減できると考えられた.Wereportacaseoffulminantcytomegalovirusretinitisinachild,withgoodprognosisfollowingsystemicganciclovirtreatment.Thepatient,an11-year-oldfemalewithleftotitismedia,wasdiagnosedwithrhabdomyosarcomaattheleftrhinopharynx.ShewasreferredtotheDepartmentofPediatricsofYamagataUniversityHospital,andunderwentchemotherapyandradiotherapy.Oneyearlater,shevisitedourclinicwithaphoseinherrighteye;visualacuityintheeyewas(0.5).Clinicalfindingsofvoluminoushardexudate,withprominenthemorrhageandpositiveassayresultsforcytomegalovirus-antigenemiainwhitebloodcells,suggestedcytomegalovirusretinitisintherighteye.Intravenousgancicloviradministrationasinitialtherapyrelievedtheretinitisafteronemonthoftreatment.Visualacuityimprovedto1.0.Thiscaseshowsthatsystemicadministrationofganciclovircanbeeffectiveforcytomegalovirusretinitis,inlieuofintravitrealinjection.Thistreatmentmodalityisusefulinchildren.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(5):697.699,2012〕Keywords:サイトメガロウイルス網膜炎,小児,ガンシクロビル,全身投与.cytomegalovirusretinitis,child,ganciclovir,systemicadministration.はじめにサイトメガロウイルス網膜炎はおもに易感染性宿主に認められ,これまで後天性免疫不全症候群や血液疾患に関わる報告が多数なされてきた1).筆者らは悪性腫瘍治療中にサイトメガロウイルス網膜炎を発症したが,治療により改善した小児の1例を経験した.全身状態が不良な際には硝子体注射が選択されることもあるが,今回は全身治療により良好な視力を得ることができたので報告する.I症例患者:11歳,女児.主訴:右眼の眼前暗黒感.既往歴:特記事項なし.現病歴:平成22年6月下旬に近医耳鼻科で左中耳炎とし〔別刷請求先〕武田祐介:〒990-9585山形市飯田西2-2-2山形大学医学部眼科学講座Reprintrequests:YusukeTakeda,M.D.,DepartmentofOphthalmologyandVisualSciences,YamagataUniversitySchoolofMedicine,2-2-2Iidanishi,YamagataCity990-9585,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(117)697 ababて加療されたが,耳閉感と鼻閉が改善しなかった.内視鏡検査とX線検査を施行したところ,腫瘍性病変が疑われた.CT(コンピュータ断層撮影)とMRI(磁気共鳴画像)で左上咽頭部の腫瘍と,両頸部の小リンパ節を認め,生検の結果は横紋筋肉腫であった.同年8月6日に化学療法施行目的に山形大学医学部附属病院小児科に入院した.8月7日より横紋筋肉腫の中等度リスク群として化学療法(ビンクリスチン,アクチノマイシンD,シクロフォスファミドの3剤併用)を開始し,11月5日から放射線療法を併用した.化学療法は計14クール,放射線治療は計50.4Gy施行した.平成23年8月2日,治療の効果判定で小児科入院中に,10日前からの右眼の眼前暗黒感を主訴に眼科を受診した.初診時の眼所見:視力は右眼0.3(0.5×sph+0.5D),左眼1.5(矯正不能),眼圧は右眼17mmHg,左眼17mmHgで,両眼とも前眼部に炎症所見は認めなかった.眼底検査で右眼の視神経乳頭を中心として,鼻側から上方にかけて白色病変と出血を認めた(図1).黄斑部にも病変は及んでいた.中心窩・傍中心窩には漿液性網膜.離を認めたが,白色病変と出血は認めなかった.左眼の眼底には特記事項は認めなかった.初診時の全身所見:末梢血の血液検査では,白血球数1,860/μl,赤血球数331万/μl,血小板21.3万/μl,Hb(ヘモグロビン)10.9g/dlと,特に白血球数が低値であった.化学療法は,約1カ月前に終了していた.眼科受診の約2週間前に白血球数が640/μlまで低下したが,その後,増加傾向にあった.経過:特徴的な眼底所見と,化学療法による易免疫状態から,右眼のサイトメガロウイルス網膜炎を疑った.小児科入院中であったため,ただちに採血を依頼したところ,白血球中サイトメガロウイルス抗原(以下,アンチゲネミア検査)が陽性(14.19/スライド)であった.臨床経過と眼底所見から,右眼の激症型サイトメガロウイルス網膜炎と診断した.他の臓器には明らかなサイトメガロウイルス感染を示唆する所見は認めなかった.また,抗体検査では,サイトメガロウイルスIg(免疫グロブリン)Gが陽性,IgMは陰性であった.小児科での入院を継続し,初期療法として,8月3日より160mg(5mg/kg/回)1日2回の静注を施行した.その後,骨髄抑制は認めず,明らかに眼底所見が改善したため,初期投与量で継続した.治療開始30日目となる9月1日には眼底の白色病変と出血はさらに軽快し,アンチゲネミア検査の結果は陰性化した.経過良好のため,維持療法として9月6日にパラガンシクロビル900mg/日の内服に移行した.図1初診時の眼底写真と光干渉断層計像図2約2カ月後の眼底写真と光干渉断層計像a:網膜血管に沿う出血を伴った白色病変.a:網膜出血と白色病変は明らかに減少した.b:漿液性網膜.離を認める.b:漿液性網膜.離は消失した.698あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012(118) その後も眼底所見で再燃を認めなかった.そもそもの治療対象であった左上咽頭部の横紋筋肉腫は画像検査上消失してリンパ節転移も認めなかったため,9月13日に退院し,以後,眼科・小児科ともに外来通院となった.9月20日の受診時には右眼の眼前暗黒感は消失して,下方視野障害を自覚するのみとなった.視力は右眼0.6(1.0×sph.0.5D)まで改善した(図2).II考按サイトメガロウイルス網膜炎の診断は,眼底所見,眼局所の感染の証明,全身における感染の証明,免疫不全状態にあることを総合的に判断するべきとされている2).本症例では,左上咽頭部横紋筋肉腫の治療のために長期にわたる化学療法が施行され,免疫不全の状態にあった.血液検査から全身におけるサイトメガロウイルス感染が証明された.アンチゲネミア検査は,眼内ではなく末梢血中における評価であり,網膜炎があっても陰性の場合があること,再燃のマーカーとなりにくいことなどの過去の報告3.5)に留意する必要がある.本症例では眼底が典型的な激症型サイトメガロウイルス網膜炎の所見を示していた.前房内に炎症所見を認めなかったため,前房穿刺で検体を採取し,polymerasechainreaction(PCR)による検査を行うことは,意義が少ないものと判断した.以上より,右眼のサイトメガロウイルス網膜炎と診断し早急に治療を開始した.ガンシクロビル点滴を開始後,眼底所見の明らかな改善を認め,治療的診断をすることもできた.サイトメガロウイルス網膜炎の治療法は,点滴治療としてはガンシクロビル,ホスカルネット,内服治療ではバルガンシクロビルがある.しかし,副作用としてガンシクロビルには骨髄抑制が,ホスカルネットには腎障害があり,全身的にこれらが投与困難な場合には,ガンシクロビルの硝子体注射が選択肢としてあげられる.ガンシクロビル硝子体注射の有効性はわが国でも報告されており6),外来通院が可能となる利点もある.本症例では,化学療法・放射線療法施行後で小児科入院中であったため,小児科管理のうえで,初期投与量であるガンシクロビル5mg/kg/回,1日2回の静注で治療を開始した.その後,明らかな骨髄抑制を認めなかったため,減量や薬剤変更などせず治療継続ができた.バルガンシクロビル内服に移行後も再燃を認めず,最小限の侵襲で治療することができた.骨髄抑制によりガンシクロビル継続が困難であった場合には,ホスカルネット静注への変更かガンシクロビル硝子体注射が必要であったと考えられる.治療の効果判定としては,眼底検査(受診ごとに眼底写真施行)と,採血によるアンチゲネミア検査をおもに用いた.初診時に病変は黄斑部まで及んでいたが,治療により右眼視力は(0.5)から(1.0)まで回復した.これは,白色病変が中心窩や傍中心窩まで及んでおらず,視力低下の主体が漿液性網膜.離であったためと考えられる.治療開始が遅れた場合や初期治療に反応しなかった場合は,視力回復は困難であったと予想される.白色病変の領域は沈静化して萎縮巣となったが,外来通院後も網膜裂孔や網膜.離は認めていない.本症例は,後天性免疫不全症候群によるものではなく,このまま免疫状態の改善が続き,化学療法再開の予定がなければ,バルガンシクロビル内服の終了も十分に期待できる.後天性免疫不全症候群や血液疾患だけでなく,悪性腫瘍の治療中に発症するサイトメガロウイルス網膜炎にも十分に注意する必要がある.サイトメガロウイルス網膜炎を疑った場合,ただちに全身状態を評価して,治療開始することが有効であると思われた.本症例では治療に反応し,ガンシクロビルの点滴が継続できたため,順調に内服・外来治療に移行することができた.結果的に,良好な視力を得ることができた.早期治療により薬剤の変更や硝子体注射などが回避できれば,特に小児の場合は,身体的・心理的負担が大きく軽減できるとも考えられた.文献1)HollandGN,PeposeJS,PettitTHetal:Acquiredimmunedeficiencysyndrome,ocularmanifestations.Ophthalmology90:859-873,19832)永田洋一:サイトメガロウイルス感染.あたらしい眼科20:321-326,20033)PannutiCS,KallasEG,MuccioliCetal:Cytomegalovirusantigenemiainacquiredimmunodeficiencysyndromepatientswithuntreatedcytomegalovirusretinitis.AmJOphthalmol122:847-852,19964)HoshinoY,NagataY,TaguchiHetal:Roleofthecytomegalovirus(CMV)-antigenemiaassayasapredictiveandfollow-updetectiontoolforCMVdiseaseinAIDSpatients.MicrobiolImmunol43:959-96519995)WattanamanoP,ClaytonJL,KopickoJJetal:ComparisonofthreeassaysforcytomegalovirusdetectioninAIDSpatientsatriskforretinitis.JClinMicrobiol38:727-732,20006)藤野雄次郎,永田洋一,三好和ほか:AIDS患者に発症したサイトメガロウイルス網膜炎に対するガンシクロビル硝子体注射療法.日眼会誌100:634-640,1996***(119)あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012699

治癒までに長期経過を辿った水痘角膜炎の2 症例

2012年4月30日 月曜日

《原著》あたらしい眼科29(4):549.553,2012c治癒までに長期経過を辿った水痘角膜炎の2症例萩原健太*1,2北川和子*1佐々木洋*1*1金沢医科大学眼科学*2公立宇出津総合病院眼科TwoCasesofVaricellaKeratitisRequiringLong-termTreatmentforCureKentaHagihara1,2),KazukoKitagawa1)andHiroshiSasaki1)1)DepartmentofOphthalmology,KanazawaMedicalUniversity,2)DepartmentofOphthalmology,UshitsuGeneralHospital水痘角膜炎の2症例を経験した.水痘発症後1カ月以内に2例とも右眼に発症している.症例1は3歳,女児で,眼瞼腫脹,結膜充血・濾胞,表層点状角膜症,円板状角膜浮腫がみられた.症例2は4歳,女児で,毛様充血,円板状角膜浮腫,虹彩炎がみられた.抗ウイルスIgG(免疫グロブリンG)抗体価は,単純ヘルペスウイルスは陰性で,水痘・帯状ヘルペスウイルスは陽性であった.水痘角膜炎と診断し,ステロイド,アシクロビル局所投与を主体に治療を行ったが,ステロイド漸減とともに再燃を繰り返した.治癒までに症例1では11年,症例2では2年間を要した.角膜病変はその後両者ともリング状となり,長期治療を要した症例1では瘢痕残存による不正乱視が残存し,ハードコンタクトレンズ装用で視力の改善をみた.2例とも最終矯正視力は1.0以上となった.経過中を含め角膜内皮細胞には異常はみられず,細胞減少もなかった.Wereport2casesofvaricellakeratitis,occurringinthepatient’srighteyeslessthan1monthaftersufferingvaricella.Case1,a3year-oldfemale,developedlidswelling,conjunctivalhyperemiaandfollicleformation,superficialpunctuatekeratopathyanddisciformcornealedema.Case2,a4-year-oldfemale,developedciliaryinjection,disciformcornealedemaandiritis.Sincetheanti-viralimmunoglobulinG(IgG)antibodytovaricella-zosterviruswaspositive,thoughthattoherpessimplexviruswasnegative,bothcaseswerediagnosedasvaricellakeratitisandtreatedmainlywithtopicalacyclovirandcorticosteroid.However,bothpatientsrepeatedlysufferedrecurrencesasthecorticosteroidwastaperedoff;ittook11yearsforcase1tobecuredand2yearsforcase2.Althoughthedisciformedemasresultedinring-shapedscar,bothpatientsrecoveredgoodcorrectedvision.Still,case1hadtowearahardcontactlensduetoremainingsevereirregularastigmatism.Specularmicroscopicstudiesshowednoabnormalitiesintheircornealendothelialcells.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(4):549.553,2012〕Keywords:水痘,円板状角膜炎,小児,ステロイド,再燃.varicella,disciformkeratitis,children,corticosteroids,recurrence.はじめに水痘は一般的な疾患であり,種々の眼合併症が報告されている.結膜炎(4%),眼瞼炎(7%),点状角膜症(12%),虹彩炎(25%)などが多い1)が,水痘に合併する角膜炎はきわめてまれであり,報告例も少ない3.8,10.12).水痘角膜炎は水痘罹患後に三叉神経節に潜伏した水痘・帯状疱疹ウイルス(varicella-zostervirus:VZV)が1.4カ月後に再活性化し12),神経向性に角膜中央で免疫反応による病変をひき起こす病態であると考えられている.筆者らは,これまでに2例の水痘角膜炎を経験した.症例1は1999年に初期経過を報告9)したが,ステロイドの漸減による再燃を繰り返し,その後10年以上に及ぶ治療が必要であった.症例2も再燃を繰り返したが約2年間の経過で治癒した.この2症例の臨床経過とともに,わが国における水痘角膜炎の発症状況について考察したので報告する.I症例〔症例1〕3歳,女児.主訴:右眼瞼腫脹,流涙.初診:1997年11月21日.〔別刷請求先〕萩原健太:〒920-0293石川県河北郡内灘町大学1-1金沢医科大学眼科学Reprintrequests:KentaHagihara,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KanazawaMedicalUniversity,1-1Daigaku,Uchinada,Kahoku,Ishikawa920-0293,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(115)549 既往歴:アレルギーなし.現病歴:1997年10月に水痘に罹患.11月6日より発熱,両側耳下腺の腫脹を認め,小児科で流行性耳下腺炎(以下,ムンプス)と診断され治療を受けていた.11月8日より右眼の羞明・眼痛・眼瞼腫脹・充血を自覚し,11月15日に近医眼科を受診.右眼中心部角膜混濁および毛様充血を認めオフロキサシン,プロラノプロフェンの点眼を受けたが改善しないため,金沢医科大学病院眼科(以下,当科)へ紹介された.初診時所見:視力は右眼:0.5(0.6×+0.5D),左眼:0.7(矯正不能).左眼は特に異常がなかったが,右眼には眼瞼腫脹,結膜の濾胞・乳頭,毛様充血,角膜実質全層にわたる広範囲の円板状混濁,びまん性表層角膜炎を認めた.前房,中間透光体,眼底には異常はみられなかった.検査所見:血清ウイルス抗体価は,抗VZV抗体価(蛍光抗体法):Ig(免疫グロブリン)M抗体10倍未満(陰性),IgG抗体640倍(陽性),抗ムンプスウイルス抗体価(enzymeimmunoassay:EIA法):IgM抗体13.01(陽性),IgG抗体40.5(陽性),補体結合法:8倍(陽性)であった.抗単純ヘルペスウイルス(HSV)抗体はIgG抗体,IgM抗体ともに陰性であった.経過:まず,角膜炎が水痘によるものか,ムンプスによるものかの鑑別を行った.ムンプスでは罹患後5日程度で発症し1カ月以内に自然治癒傾向があるのに対して,水痘では罹患後1カ月くらい後に円板状角膜混濁と浮腫が出現し,リング状瘢痕を残すことが多く,ステロイドが有効だが再燃傾向を認めることより,本例は水痘角膜炎と診断した.前報9)で詳細に鑑別を行っているが,今回はその後の長期経過の観察により,より確定的となった.抗体は両者とも陽性であり,感染既往の証拠とはなるが,鑑別の手段にはならなかった.治療としてベタメタゾン点眼1日4回,硫酸アトロピン点眼1日2回,アシクロビル眼軟膏1日4回を投与した.しかし角膜浮腫が出現してきたため(図1左),プレドニゾロン20mg,アシクロビル400mg全身投与追加した.その後角図1症例1の右眼前眼部写真(右:初診時,左:退院後)図2症例1における退院後の角膜内皮所見患眼(右眼)は左眼と比較して角膜内皮細胞数の減少は認めなかった.また変動係数(CV)の増大や,六角形細胞の出現頻度(6M)の減少も認めなかった.550あたらしい眼科Vol.29,No.4,2012(116) 図3症例1の治癒時の角膜形状リング状の混濁が残存し,強い角膜乱視が存在.膜混濁,角膜浮腫が徐々に改善したため,プレドニゾロン漸減中止し,治療開始1カ月後に退院となった.退院後,ステロイド点眼・アシクロビル眼軟膏漸減時に再燃を繰り返し,その都度,ステロイド局所投与の増量で対処したが,浸潤と瘢痕の混在するリング状病変となった(図1右).ステロイド緑内障の発症はなかった.また,右眼の弱視予防目的として健眼遮閉を一時併用した.経過中,角膜内皮細胞の異常や減少は認めなかった(図2).2009年になり点眼薬を中止しても炎症が消退した状態となり,治癒と判断したが,角膜にリング状の瘢痕による強い不正乱視(図3)が残存した.角膜不正乱視に対してハードコンタクトレンズ(HCL)装用を開始した(ニチコンうるるUV8.05mm/.3.00D/8.9mm).2011年現在まで再発はなく,視力は0.15(1.0×HCL)と安定している.〔症例2〕4歳,女児.主訴:右眼の充血.初診日:2002年7月27日.既往歴:気管支喘息.現病歴:2002年6月中旬水痘に罹患.2002年7月上旬より右眼の充血,右眼を擦るようになり,2週間経っても症状が改善しないことから近医眼科を受診,右眼内の炎症を指摘されレボフロキサシン点眼・ベタメタゾン点眼・トロピカミド点眼処方されたが,改善しないため当科へ初診となった.初診時所見:視力は右眼0.03(矯正不能),左眼0.4(0.6×cyl.1.5DAx20°).左眼に特に異常はなかった.右眼結膜に毛様充血,角膜中央部に円板状混濁,角膜裏面沈着物,角膜内皮障害,前房に中等度の炎症細胞の出現を認めた.中間透光体・眼底に異常はみられなかった.検査所見:血清抗VZV抗体価(蛍光抗体法)は,IgM抗体10倍未満(陰性),IgG抗体160倍(陽性)であった.抗図4症例2の右眼前眼部写真(退院後)図5症例2における治癒時の角膜内皮所見患眼(右眼)は左眼と比較して角膜内皮細胞数の減少は認めなかった.CV,6Mについても健眼との差はなかった.(117)あたらしい眼科Vol.29,No.4,2012551 HSV抗体はIgM抗体,IgG抗体ともに陰性であった.経過:本例も症例1と同様に水痘発症後1カ月程度で発症した円板状角膜炎であり,水痘角膜炎と診断した.抗VZVIgG抗体も陽性であった.入院後,治療としてベタメタゾン点眼1日4回,アシクロビル眼軟膏1日4回を開始した.円板状混濁および毛様充血が軽快したため,5日後退院となった.退院後はアシクロビル内服2週間併用し,ステロイド点眼・アシクロビル眼軟膏漸減を行っていったが,円板状混濁が改善するとともにリング状混濁が出現してきた(図4).ステロイド漸減により再燃が認められ,一時的にステロイド点眼を増量し,その後ゆっくり漸減を行ったところ,2004年10月に浸潤は消失した.その後,点眼治療を中止したが,2011年現在まで再発はみられていない.なお,経過中,ステロイド緑内障はみられなかった.角膜瘢痕や不正乱視はなく,最終視力は0.4p(1.2×+0.75D(cyl.2.0DAx170°)であった.経過中角膜内皮細胞の浮腫や減少は認めなかった(図5).II考按水痘罹患後数週間.数カ月に発症する円板状角膜炎はまれな疾患である.水痘罹患後約1週間に角膜実質浮腫を主体とし短期間で治癒する急性期発症の角膜炎とは区別される17,18).水痘罹患の既往が必ずあり,眼瞼周囲の水痘の皮疹の瘢痕が鑑別の助けとなることがある1,2,14).症例1はムンプスの罹患もあったが,それ以前に水痘に罹患していることが判明し,両疾患の鑑別が重要であると考えられた.ムンプスは通常角膜に瘢痕形成など残さず,平均20日以内に速やかに回復し,病変の再燃がみられることはない.また,病変の主座が水痘では角膜実質であるのに対して,ムンプスによる角膜炎では内皮炎であり,角膜内皮細胞密度の減少を認める点でも鑑別となる13).症例1では,発症時期,角膜所見,ステロイド治療依存性の長期間に及ぶ角膜炎があり,角膜内皮細胞の減少がないことから,水痘によるものと考えられた.症例2は発症の約3週間前に水痘の罹患の既往があり,VZVに対する抗体価も陽性であったこと,円板状混濁を認めたこと,再燃を繰り返したことから水痘角膜炎と診断した.角膜内皮細胞密度の減少もみられなかった.同様な円板状角膜炎をきたすHSVによる角膜炎との鑑別はむずかしいが,涙液PCR(polymerasechainreaction)や抗体血清価が鑑別の助けとなる1).今回は2症例とも抗HSV抗体価は陰性であり,その感染は否定された.水痘角膜炎の病態の主体はウイルスに対する免疫反応であると考えられる.症例1,症例2ともに,慢性期に角膜にリング状浸潤が出現しており,免疫輪と考えられることからⅢ表1わが国での水痘角膜炎における他施設との比較ステロイドアシクロビル発症までの期間発表年症例局所投与内服局所投与初診時視力治療期間治療後視力文献19885歳女児○──1カ月0.4約4カ月1.23)19925歳○──2カ月0.67年9カ月不明6)19922歳○──3カ月0.027年7カ月不明6)19925歳○──3週0.66年2カ月不明6)19929歳○──3週0.64年不明6)19923歳○──1カ月測定不能2年不明6)19924歳○──3週0.31年6カ月不明6)19925歳○──1カ月0.51年4カ月不明6)19923歳○──1カ月0.021年不明6)19881歳女児○○─2日測定不能不明※4)19905歳男児○──4日測定不能不明1.05)19902歳女児○─○1カ月測定不能不明0.055)199313歳女児─○○2週0.9約2週間1.27)19983歳女児○○○6カ月不明約2カ月0.98)20013歳女児○○○2カ月不明約1カ月1.010)20027歳女児○○○4カ月0.3約2週間2.011)20113歳女児○○○1カ月約11年1.5症例120114歳女児○─○1カ月約2年1.2症例2※10m先の母親の顔を同定できる.552あたらしい眼科Vol.29,No.4,2012(118) 型免疫反応の関連も示唆される.治療にはステロイド局所投与が有効との報告があるが,再発を繰り返し角膜混濁を残す症例も認められる12).治療は,アシクロビル眼軟膏とステロイド点眼の併用療法が推奨されている1).上皮病変を伴う場合には角膜上皮から蛍光抗体法によりVZVが検出されたとする報告もあり14),アシクロビル眼軟膏も必要であると考えられる.しかし,症例1のように炎症が重篤な場合にはステロイドの全身投与が必要となる場合もある.急性期以降ではステロイド点眼漸減時に再燃を繰り返し,ステロイド点眼からの離脱に難渋した.ステロイド離脱が困難となる場合もあり,漸減は慎重にゆっくり行うことが必要と思われた.表1にこれまでわが国で発表された水痘角膜炎についてまとめてみた3.5,7,8,10.12).性別は判明しているなかでは女児に多く(11例中10例),年齢は3歳前後が多かった.治療ではステロイドの局所および全身投与,アシクロビルの局所投与により治療期間は2週間.2年で,再発により視力低下を認める症例もあった.また,中川ら6)の水痘角膜炎症例8例8眼では,角膜所見の改善とともにステロイド点眼を漸減していったが,8例中4例において角膜実質の浸潤と浮腫の再燃を認めている.4回の再燃をきたした症例もあった.再燃時にはステロイド点眼増量が著効するが,ステロイドからの離脱時には再燃が多いため慎重を要する.角膜内皮細胞の減少を伴った強い障害例の報告6)もある.今回の2症例では治療期間は長期を要し,比較的強い実質病変を認めたが,角膜内皮細胞数の減少はなく,症例により内皮あるいは実質と炎症の首座が異なる可能性も考えられる15,16).また,消炎しても,瘢痕性の混濁やそれに伴う不正乱視による弱視の可能性もあり,アイパッチを用いた弱視訓練が必要となる.本症例1においても健眼遮閉とHCLの使用で不正乱視を矯正して良好な視力を得ることができたと考えられる.本症例は第47回日本眼感染症学会で発表した.文献1)井上幸次:〔眼感染症の謎を解く〕眼感染症事典強角膜炎水痘角膜炎.眼科プラクティス28:114-115,20092)石倉涼子:〔眼感染症Now!〕まれな眼感染症も覚えておこう水痘角膜炎について教えてください.あたらしい眼科26(臨増):118-119,20103)釣巻穰,大原國俊:水痘によると思われる小児角膜実質炎の1例.眼臨82:1092-1095,19884)八重康夫:眼障害のみられた小児水痘症の1例.眼臨82:1668,19885)井上克洋,秦野寛:水痘性角膜炎の2例.眼臨84:1443-1445,19906)中川裕子:水痘による円板状角膜炎─臨床像と角膜内皮所見─.眼臨86:1017-1021,19927)遠藤こずえ,津田久仁子,北川文彦ほか:水痘後に発症した角膜実質炎の1症例.眼臨87:904,19938)小野寺毅,吉田憲史,小林貴樹ほか:水痘性角膜炎の1例.眼臨92:1664,19989)永井康太,藤沢来人,北川和子:水痘,流行性耳下腺炎罹患後に出現した角膜実質炎の1症例.眼科41:101-106,199910)柴原玲子,皆本敦,中村弘佳ほか:水痘罹患後遅発性角膜炎.眼紀52:228-230,200111)中村曜祐,佐野雄太,北原健二:水痘罹患後に生じた角膜実質炎の1例.あたらしい眼科19:1203-1205,200212)井上幸次:VaricellaKeratitis.あたらしい眼科21:13571358,200413)笠置裕子:MumpsKeratitisの小児の角膜内皮細胞.眼紀35:198-202,198414)UchidaY,KanekoM,HayashiK:Varicelladendritickeratitis.AmJOphthalmol89:259-262,198015)KhodabandeA:Varicellaendotheliitis:acasereport.EurJOphthalmol19:1076-1078,200916)KhanAO,Al-AssiriA,WagonerMD:Ringcornealinfiltrateandprogressiveringthinningfollowingprimaryvaricellainfection.JPediatrOphthalmolStrabismus45:116-117,200817)Pavam-LangstonD:PrinciplesandPracticeofOphthalmology.JakobiecAed,Thirdedition,p661-663,Elsevier,Philadelphia,200818)ArffaRC:Grayson’sDiseasesoftheCornea.Fourthedition,p306-307,Mosby,StLouis,1997***(119)あたらしい眼科Vol.29,No.4,2012553

汎用性点眼抗菌薬の小児における臨床評価基準

2012年3月31日 土曜日

《原著》あたらしい眼科29(3):425.429,2012c汎用性点眼抗菌薬の小児における臨床評価基準宮永嘉隆*1西田輝夫*2大野重昭*3*1西葛西・井上眼科病院*2山口大学*3北海道大学大学院医学研究科炎症眼科学講座ClinicalEvaluationCriteriaforGeneralPurposeAntibacterialEyedropsforChildrenYoshitakaMiyanaga1),TeruoNishida2)andShigeakiOhno3)1)NishiKasaiInouyeEyeHospital,2)YamaguchiUniversity,3)DepartmentofOcularInflammationandImmunology,HokkaidoUniversityGraduateSchoolofMedicine目的:トスフロキサシントシル酸塩水和物0.3%点眼液の製造販売後調査で集積した外眼部細菌感染症症例を用い,小児臨床評価基準について検討した.方法:「汎用性抗生物質等点眼薬の市販後調査における評価基準」(あたらしい眼科15:1735-1737,1998)をもとに新生児,乳児,幼児,学童の所見・症状の合計スコアを成人と比較した.小児臨床評価基準は,所見・症状の観察項目,効果判定の係数について検討し,細菌学的効果を指標として検証した.結果:新生児,乳児,幼児の点眼開始日スコアは成人の48.8.64.8%であった.小児臨床評価基準は,他覚所見を観察項目とし,新生児,乳児では判定時スコアが点眼開始日スコアの係数:1/2以下,幼児では係数:1/3以下になった場合を改善とした.結論:小児臨床評価基準は,製造販売後における小児の臨床評価に適用でき,今後の点眼抗菌薬の調査に示唆を与えるものと考えられた.Purpose:Toestablishpediatricclinicalevaluationcriteriaforbacterialexternaleyeinfectionsinpost-marketingsurveillanceoftosufloxacintosilatehydrate0.3%eyedrops.Method:Totalscoresforobjectivefindingsandsymptomsbasedon“Evaluationcriteriainpost-marketingsurveillanceofgeneralantibiotics”(JournaloftheEye15:1735-1737,1998)amongneonate,infant,youngchildandschool-agechildwerecomparedtothoseofadults.Assessmentcriteriaforchildrenwereinvestigatedinregardtoobservationitemsaswellasthecoefficientsofdeterminationofeffects,thecoefficientsbeingdefinedusingbacteriologicaleffectsasindicators.Results:Totalscoresforneonate,infantandyoungchildatstartofinstillationrangedfrom48.8%to64.8%ofthoseforadults.Theinvestigationitemsincludedonlyobjectiveparametersfortheagecategoriesofneonate,infantandyoungchild.Wejudgedimprovementtobeadecreaseintotalscore,fromstartofinstillationto≦1/2forneonateandinfant,and≦1/3foryoungchild.Conclusion:Thepediatricclinicalevaluationcriteriadevelopedherecanbeappliedtochildreninpost-marketingsurveillance.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(3):425.429,2012〕Keywords:トスフロキサシン(TFLX),点眼液,評価基準,小児,製造販売後調査.tosufloxacintosilate,eyedrops,evaluationcriteria,children,post-marketingsurveillance.はじめに医療用医薬品は,製造販売後において治験時と比較して背景の異なるさまざまな患者に使用される.したがって,当該医薬品の使用実態下における有効性および安全性を確認する製造販売後調査は重要な位置付けにある.一方,製造販売後調査は多地域の施設において専門,非専門を問わず実施されるため,客観的な評価を行う臨床評価基準が必要である.点眼抗菌薬の製造販売後調査における臨床評価基準は,他覚所見および自覚症状の推移をもとに金子らにより作成された「汎用性抗生物質等点眼薬の市販後調査における評価基準」1)(以下,従来の臨床評価基準,表1)が報告されている.トスフロキサシントシル酸塩水和物0.3%点眼液(以下,TFLX点眼液)は,小児症例に対する治験を実施し2,3),小児への適用を取得したわが国初の点眼抗菌薬である.今回,筆者らはTFLX点眼液の承認後に実施された製造販売後調査における小児の所見・症状の推移などをもとに,新たに小児〔別刷請求先〕宮永嘉隆:〒134-0088東京都江戸川区西葛西5-4-9西葛西・井上眼科病院Reprintrequests:YoshitakaMiyanaga,M.D.,NishiKasaiInouyeEyeHospital,5-4-9Nishikasai,Edogawa-ku,Tokyo134-0088,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(137)425 表1汎用性抗生物質等点眼薬の市販後調査における臨床評価基準他覚所見:結膜充血,眼瞼発赤,眼瞼腫脹,角膜浮腫,角膜浸潤,涙.膿汁逆流,その他観察項目の他覚所見自覚症状:眼脂,流涙,異物感,眼痛,羞明,霧視,掻痒感,その他の自覚症状症状のスコア化各観察項目を3点,2点,1点,0.5点,0点の5段階で評価する観察時期点眼開始時および点眼後14(±2)日症状スコアの推移に基づく判定改善:14(±2)日以内に合計スコアが1/4以下になった場合改善せず:14(±2)日で合計スコアが1/4以下にならない場合○日で改善せず:14(±2)日の症状観察結果はないが,それまでの観察実施日の合計スコアが1/4以下にならない場合症状の軽重による係数の補正点眼開始時の合計スコアが5点以上10点未満では,14(±2)日以内の合計スコアが1/3.5以下,点眼開始時の合計スコアが10点以上では,14(±2)日以内の合計スコアが1/3以下で改善とする疾患による留意事項涙膿炎では,経過中に示した「流涙」の最低スコアを合計スコアから減点する(金子ら1),「汎用性抗生物質等点眼薬の市販後調査における評価基準」を一部改変)表2原因菌のGroup分類の臨床評価の基準(以下,小児臨床評価基準)を作成したので報告する.I小児と成人の各種背景の比較1.対象および方法a.対象症例2006年10月から2009年9月にわたり実施したTFLX点眼液の製造販売後調査「低頻度臨床分離株の集積とTFLX点眼液の有効性と安全性の確認」および「新生児の細菌性外眼部感染症に対するTFLX点眼液の有効性と安全性の検討」4)において収集した症例のうち,所定の観察時期に所見・症状のスコア化を実施した742例(小児318例,成人424例)を対象症例とした.なお,小児は新生児(生後4週未満)49例,乳児(生後4週.1歳未満)82例,幼児(1.6歳未満)166例,学童(6.15歳未満)21例に区分した.b.細菌検査および細菌学的効果点眼開始日および判定日(小児では点眼7日後±2日以内,成人では点眼14日後±2日以内)に病巣部,眼脂などの分泌物の細菌検査を実施し,原因菌を特定した.なお,原因菌は検出された菌のうち,表2に示すグループ分類において最上位のグループに属する菌を採用した.細菌学的効果は,点眼開始時の検出菌が判定日に検出されなかった場合を消失とした.c.所見・症状スコア観察項目は,従来の評価基準1)をもとに,他覚所見としてGroupIStaphylococcusaureusStreptococcuspyogenes(GroupA)StreptococcuspneumoniaeEnterococcussp.Citrobactersp.Enterobactersp.Escherichiasp.Proteussp.Morganellasp.SerratiamarcescensOtherEnterobacteriaceaeNeisseriagonorrhoeaeOtherNeisseriaOtherMoraxellaAcinetobactersp.Achromobactersp.Haemophilussp.PseudomonasaeruginosaOtherPseudomonassp.GroupIIStreptococcusagalactiae(GroupB)StreptococcusGroupCOtherStreptococcus(GroupD,G;nongrouped;viridans)Branhamella(Moraxella)catarrhalisGroupIIIStaphylococcusepidermidisOthercoagulasenegativeStaphylococcusMicrococcussp.Bacillussp.Corynebacteriumsp.(diphtheroids)Propionibacteriumacnes結膜充血,眼瞼発赤,眼瞼腫脹,角膜浮腫,角膜浸潤,涙.膿汁逆流,その他の他覚所見,自覚症状として眼脂,流涙,異物感,眼痛,羞明,霧視,掻痒感,その他の自覚症状とし見・症状を程度に応じ,.(0点:なし),±(0.5点:ごくた.観察時期は点眼開始日および判定日(小児では点眼7日軽度またはごく少量),+(1点:軽度または少量),2+(2後±2日以内,成人では点眼14日後±2日以内)とし,各所点:中等度または中等量),3+(3点:強度または多量)の5426あたらしい眼科Vol.29,No.3,2012(138) 表3年齢別の細菌学的効果年齢例数消失例数消失率(%)新生児201575.0乳児403587.5幼児907987.8学童111090.9成人30725482.7判定日に細菌検査を実施した症例を対象とした.段階でスコア化しその平均値を求めた.d.統計解析Fisherの直接確率法を用い,有意水準は両側5%とした.2.結果a.細菌学的効果年齢別の細菌学的効果を表3に示す.新生児の菌消失率は他の年齢と比べやや低かったが,すべての年齢で有意差を認めなかった(p=0.552).b.所見・症状スコア年齢別の所見・症状スコアを表4に示す.点眼開始日の合計スコアは新生児,乳児では成人の約50%,幼児では成人の約65%であり,学童では成人と同程度であった.項目別では,自覚症状の異物感,眼痛,羞明,霧視,掻痒感は新生児で認められず,乳児では掻痒感をわずかに認めたのみであった.また,幼児のこれらの項目のスコアは成人と比べ低かった.一方,判定日の合計スコアは,新生児,乳児,学童では成人と同程度であり,幼児では成人の50%以下であった.II小児臨床評価基準の作成と検証1.小児臨床評価基準案の作成前述のとおり,点眼開始日の合計スコアは新生児,乳児,幼児で成人との差が大きかったことから,従来の臨床評価基準の観察項目,判定方法を改変し,新生児,乳児,幼児を対象とした小児臨床評価基準の作成を試みた.観察項目は,他覚所見のみとした.すなわち,異物感,眼痛,羞明,霧視,掻痒感を観察項目から削除し,さらに眼脂,流涙を他覚所見の観察項目とした.判定方法は,従来の臨床評価基準と同様に判定日の合計スコアが点眼開始日の合計スコアの『係数』以下になった場合を改善とする案1,点眼開始日の合計スコアを『係数』倍した後,従来の臨床評価基準で評価する案2について検討した.係数は,点眼開始日の合計スコアの差から,案1では係数を1/2,1/2.5,1/3,案2では係数を1.5,2と幅を持たせた.すなわち,案1は,点眼開始日の合計スコア3.56(新生児)が,係数1/2,1/2.5,1/3である1.78,1.42,1.19以下になった場合を改善とし,案2は点眼開始日の合計スコア3.56の1.5倍,2倍である5.34,7.12とし,従来の臨床評価基準で評価するものである.妥当性は,それぞれの改善率が細菌学的効果と同程度であることを指標とした.なお,案1,案2ともに従来の臨床評価基準よりも緩和されるため,疾患による留意を行わなかった.さらに,案1では症状の軽重による係数の補正を行わな表4所見・症状スコア開始時判定時観察項目新生児乳児幼児学童成人新生児乳児幼児学童成人他覚所見自覚症状結膜充血0.930.791.211.451.420.180.160.140.330.22眼瞼発赤0.110.310.410.930.590.010.050.030.120.08眼瞼腫脹0.120.170.300.740.440.030.0300.120.05角膜浮腫0.010.010.010.020.080000.020.01角膜浸潤0.010.010.010.100.0900000.01涙.膿汁逆流0.140.250.030.050.080.040.090.0100.03その他0.1300.0400.040.0200.0200.004小計1.461.542.003.292.740.290.340.190.600.40眼脂1.701.611.601.431.620.490.370.140.310.27流涙0.400.640.370.450.790.160.260.020.020.17異物感000.270.670.80000.010.070.11眼痛000.200.950.61000.010.070.05羞明000.060.070.21000.00300.03霧視000.060.050.22000.00300.03掻痒感00.020.170.380.3200.010.010.100.04その他0000000000小計2.102.272.734.004.570.650.630.200.570.70合計スコア3.563.814.737.297.300.940.980.391.171.10(139)あたらしい眼科Vol.29,No.3,2012427 表5小児臨床評価基準案による改善率小児臨床評価基準案係数新生児改善率乳児幼児1/2%(例数)83.7(41/49)82.9(68/82)97.0(161/166)案1*11/2.5%(例数)73.5(36/49)73.2(60/82)94.0(156/166)1/3%(例数)65.3(32/49)70.7(58/82)91.6(152/166)案2*21.52%(例数)73.5(36/49)73.2(62/82)94.0(156/166)%(例数)83.7(41/49)90.2(74/82)97.0(161/166)*1判定日スコアが点眼開始日スコアの『係数』以下で改善とする.*2点眼開始日スコアを『係数』倍し,成人評価基準で評価する.かった.2.小児臨床評価基準案の評価小児臨床評価基準の案1,案2における改善率を表5に示す.案1の改善率は案2より低い傾向が認められたが,案1の新生児,乳児の係数1/2としたときの改善率83.7%,82.9%,幼児の係数1/3としたときの改善率91.6%は,細菌学的効果に近似した結果が得られた.以上より,小児の細菌性外眼部感染症に対するTFLX点眼液の製造販売後調査における臨床評価基準を表6のとおり定めた.III考按小児への適用を取得する薬剤が近年増加しているが,治験時の症例数が十分ではない場合も多いため,製造販売後に小児に対する有効性や安全性を改めて確認することは重要である.一方,製造販売後調査において小児を対象とした臨床評価基準の公表は少なく,点眼抗菌薬においても成人臨床評価基準が公表されているのみである.TFLX点眼液の製造販売後調査の結果は,他のフルオロキノロン系抗菌薬で小児を対象とした製造販売後調査の結果5,6)と比較して,疾患構成等が近似したものであり偏りがないと考えられたので,小児臨床評価基準の作成に使用した.従来の臨床評価基準は,他覚所見・自覚症状の観察項目をスコア化しその合計スコアより評価を行うことから,各年齢におけるスコアの違いを検討した.その結果,新生児,乳児,幼児で点眼開始日の合計スコアに大きな差が認められたが,学童の点眼開始日の合計スコアは成人と同程度であった.そこで,新生児,乳児,幼児を対象とした小児臨床評価基準の作成を試みた.観察項目は,点眼開始日の各スコアに基づき検討した.新生児,乳児では発語の関係から自覚症状を訴えることがなく,幼児も自ら症状を明確に表現することが困難であると考えられたため,自覚症状を観察項目から削除した.さらに成人では自覚症状としている眼脂,流涙は,担当医師の確認が可能であることから他覚所見項目とした.すなわち,新生児,乳児では,生体防御系の成熟度の違いに加え眼脂や流涙の自発的な除去が困難であり,生理的眼脂と病的眼脂の区別が容易でない7)ため,他覚所見として評価することを考えた.また,自発的な除去が困難であることが影響し,新生児,乳児では判定日に眼脂,流涙スコアが残り,幼児の合計スコアと比較して高い結果となることがわかったが,小児臨床評価基準の係数を,新生児,乳児では1/2,幼児では1/3に変更することで改善率に与える影響を吸収できる結果となった.小児を対象としたTFLX点眼液の臨床試験2,3)では,治験時の臨床評価ガイドラインに基づき,「推定起因菌が4日目に消失し,かつ臨床症状のスコア合計が8日目に1/4以下になったもの」を著効,「推定起因菌が4日目に消失し,かつ臨床症状のスコア合計が8日目に1/2以下になったもの」および「推定起因菌が消失しなくても,8日目までに臨床症状のスコア合計が1/3以下になったもの」を有効と判定しており,今回作成した小児臨床評価基準は治験時の基準とほぼ整合がとれたものとなった.以上,今回作成した小児臨床評価基準は,小児を対象とし表6小児臨床評価基準【新生児,乳児,幼児】観察項目他覚所見:結膜充血,眼瞼発赤,眼瞼腫脹,角膜浮腫,角膜浸潤,涙.膿汁逆流,眼脂,流涙,その他の他覚所見観察時期点眼開始時および点眼後7日(±2日)症状スコアの推移に基づく判定改善:7日±2日以内に合計スコアが1/2(幼児は1/3)以下になった場合改善せず:7日±2日以内に合計スコアが1/2(幼児は1/3)以下にならない場合○日で改善せず:14(±2)日の症状観察結果はないが,それまでの観察実施日の合計スコアが1/2(幼児は1/3)以下にならない場合【学童】成人臨床評価基準を適用する428あたらしい眼科Vol.29,No.3,2012(140) た製造販売後調査の臨床評価に十分適用できるものである.今後は小児を対象とした製造販売後調査における活用を広め,問題点などについてさらに検討していきたいと考える.謝辞:本研究に多大なご指導,ご協力を賜りました故北野周作先生に厚く御礼申し上げます.本論文の要旨は第47回日本眼感染症学会にて発表した.文献1)金子行子,内田幸男,北野周作ほか:汎用性抗生物質等点眼薬の市販後調査における評価基準.あたらしい眼科15:1735-1737,19982)北野周作,宮永嘉隆,大野重昭ほか:新規ニューキノロン系抗菌点眼薬トシル酸トスフロキサシン点眼液の小児の細菌性外眼部感染症を対象とする非対照非遮蔽他施設共同試験.あたらしい眼科23(別巻):118-129,20063)北野周作,宮永嘉隆,大野重昭ほか:新規ニューキノロン系抗菌点眼薬トシル酸トスフロキサシン点眼液の小児細菌性結膜炎患者に対する有効性の成人細菌性結膜炎患者との比較検討.あたらしい眼科23(別巻):130-140,20064)宮永嘉隆,東範行,大野重昭:新生児の外眼部細菌感染症に対するトスフロキサシントシル酸塩水和物点眼液の有効性と安全性の検討.臨眼65:1043-1049,20115)丸田真一,末信敏秀,羅錦營:ガチフロキサシン点眼液(ガチフロR点眼液0.3%点眼液)の製造販売後調査─特定使用成績調査(新生児に対する調査)─.あたらしい眼科26:1429-1434,20096)丸田真一,末信敏秀,羅錦營:ガチフロキサシン点眼液(ガチフロR点眼液0.3%点眼液)の製造販売後調査─特定使用成績調査(新生児および乳児に対する調査)─.あたらしい眼科24:975-980,20077)亀井裕子:主訴からみた眼科疾患の診断と治療(18.眼脂).眼科45:1665-1671,2003***(141)あたらしい眼科Vol.29,No.3,2012429