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エタネルセプトからアダリムマブへの変更が奏効した強直性脊椎炎に伴うぶどう膜炎の1例

2019年12月31日 火曜日

《原著》あたらしい眼科36(12):1600.1603,2019cエタネルセプトからアダリムマブへの変更が奏効した強直性脊椎炎に伴うぶどう膜炎の1例杉澤孝彰石川裕人五味文兵庫医科大学眼科学教室CSuccessfulControlofAnkylosingSpondylitis-relatedUveitisafterSwitchingAnti-tumorNecrosisFactorInhibitorsTakaakiSugisawa,HirotoIshikawaandFumiGomiCDepartmentofOphthalmology,HyogoCollegeofMedicineC強直性脊椎炎(AS)は,原則片眼性の再発を繰り返すぶどう膜炎を併発する.今回,TNFa阻害薬であるエタネルセプト投与中のCASに合併した難治性ぶどう膜炎に対し,TNF-aモノクローナル抗体であるアダリムマブを変更導入し眼炎症が軽快した症例を経験したので報告する.32歳,男性.ASに伴うコントロール不良の脊椎炎に対しエタネルセプトが投与された.半年後,左眼霧視のため当科受診,矯正視力は右眼C1.5,左眼C0.5.右眼に虹彩後癒着,左眼に豚脂様角膜後面沈着物,前房蓄膿を認めた.左眼は硝子体混濁と網膜血管の蛇行拡張も認め,光干渉断層計で脈絡膜肥厚を認めた.ステロイド点眼にて治療開始するも後眼部炎症の改善が乏しいため,プレドニゾロン全身投与を開始した.軽快し漸減するも再発を繰り返すため初回治療からC11カ月後にエタネルセプトをアダリムマブへ変更した.その結果,1カ月で眼炎症さらには脊椎炎も軽快した.エタネルセプトは血清CTNFと結合し濃度を減らすが,アダリムマブはCTNFを放出する細胞そのものを阻害する.その機序の違いにより,異なる抗炎症効果をもたらすことが示唆された.CPurpose:AnkylosingCspondylitis(AS)isCaCformCofCarthritisCthatCisCchronicCandCmostCoftenCa.ectsCtheCspine.CAbout25%ofASpatientsalsoexperienceuveitis.Wereportacaseinwhichswitchinganti-tumornecrosisfactor(TNF)inhibitorsmayhavebeene.ectiveincontrollingocularin.ammationcausedbyAS-relateduveitis.Subjectandmethods:A35-year-oldmaleundergoingtreatmentwithanti-TNFagentEtanerceptforASatalocalclinicdevelopedCuveitisCinChisCleftCeyeC6CmonthsCafterCtheCinitiationCofCtreatment,CandCwasCsubsequentlyCreferredCtoCourChospitalduetoocularin.ammationthatcouldnotbecontrolled.Westartedtreatmentwithoralsystemiccortico-steroids,andswitchedfromEtanercepttotheanti-TNFagentadalimumab.Results:SwitchingfrometanercepttoadalimumabCultimatelyCcontrolledCtheCocularCin.ammation,CpossiblyCdueCtoCtheCfactCthatCunlikeCetanercept,CwhichCbindstoserumTNFandreducesconcentrations,adalimumabinducedanapoptosisofTNFproductioncells.Con-clusions:Switchinganti-TNFinhibitorsmaybee.ectiveincontrollingocularin.ammationcausedbyAS-relateduveitis,CthusCillustratingCtheCimportanceCofCkeepingCinCmindCtheCspeci.cCcharacteristicsCofCtheCanti-TNFCinhibitorCbeingusedfortreatment.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)36(12):1600.1603,C2019〕Keywords:再発性ぶどう膜炎,強直性脊椎炎,TNFa阻害薬,アダリムマブ,エタネルセプト.relapseduveitis,ankylosingspondylitis,anti-tumornecrosisfactorinhibitor,adalimumab,etanercept.Cはじめに過をとるリウマチ性の疾患で,若年男性に多く発症すること強直性脊椎炎(ankylosingspondylitis:AS)は,脊椎や四が知られている.ASでは,急性前部ぶどう膜炎を約C25%に肢関節の疼痛ならびに運動制限を特徴とした慢性進行性の経合併する1)といわれており,ステロイド治療に抵抗性がみら〔別刷請求先〕杉澤孝彰:〒663-8501兵庫県西宮市武庫川町C1-1兵庫医科大学眼科学教室Reprintrequests:TakaakiSugisawa,M.D.,DepartmentofOphthalmology,HyogoCollegeofMedicine,1-1Mukogawa-cho,Nishinomiya-city,Hyogo663-8501,JAPANC1600(124)れる場合もあったが,近年は抗Ctumornecrosisfactor(TNF)療法が視力予後を改善することが示されてきている2).今回筆者らは,ASに併発した難治性ぶどう膜炎に対し,TNFCa阻害薬をエタネルセプトからアダリムマブへ変更したことにより,炎症寛解に至ったC1例を経験したので報告する.CI症例35歳,男性.主訴は左眼霧視と充血.近医眼科で抗菌薬点眼・ステロイド点眼・散瞳薬点眼にて加療されていたが軽快しないため当院紹介受診となった.10年来のCASに対するステロイド内服やインフリキシマブ投与の既往があり,直近C5年はエタネルセプトが投与され,全身状態は寛解状態であった.当院初診時の矯正視力は右眼(1.5),左眼(0.5),眼圧は右眼C14CmmHg,左眼C13CmmHg.右眼に虹彩後癒着と前房細胞(+),左眼に急性前部ぶどう膜炎様の前房蓄膿,網膜表層の不整,硝子体混濁を認め,OCTにて中心窩脈絡膜肥厚(右眼C280Cμm,左眼C470Cμm)を認めた(図1).ASの経過観察のため当院整形外科,膠原病内科通院中であり全身状態は良好,齲歯などもなく,採血にて炎症反応検出感度以下であり,B型肝炎・C型肝炎・梅毒・結核・ヒトCT細胞白血病ウイルス(HTLV)などの感染症検査はすべて陰性,また胸部CX線写真にても特記すべき異常を認めなかったため,臨床的に感染性ぶどう膜炎の可能性は低く,前房水採取などは施行しなかった.前房水CPCRなどを施行していないので,完全には感染性ぶどう膜炎を否定できないが,AS併発ぶどう膜炎を第一に考え,前医からの局所点眼加療に加えて左眼にはトリアムシノロンアセトニドCTenon.下注射(STTA)を行った.局所治療のみでは消炎不十分と判断し,1週後にはステロイド内服(プレドニゾロン)30Cmgを開始した.プレドニゾロン内服開始後,両眼とも前房細胞や角膜後面沈着物,硝子体混濁などの炎症所見は改善した.経過中に明らかな前眼部,後眼部の炎症所見の再燃はみられずプレドニゾロンを漸減したが,再診日ごとに脈絡膜厚を測定し,脈絡膜厚の増大を認めた際はCsubclinicalな再発と捉え,STTA投与を行った.プレドニゾロン内服開始C10カ月後,1Cmgの内服中であったが,右眼に前房細胞(+++)と色素性角膜後面沈着物を伴う前眼部炎症を認め,左眼には硝子体混濁と脈絡膜厚の再肥厚がみられた(図2左).再発性ぶどう膜炎であり,すでにエタネルセプト投与中でもあったため,TNFCa阻害薬の変更を内科に打診し,アダリムマブへと変更した.変更後C1カ月で両眼とも前房細胞は消失,4カ月で後眼部硝子体細胞や脈絡膜厚などの両眼炎症所見は改善(図2右)し,プレドニゾロン内服中断となった.その後C1年以上再発なく経過している.臨床経過を図3に示した.II考按ASは,脊椎や四肢関節の疼痛ならびに運動制限を特徴として慢性進行性の経過をとるリウマチ性疾患である.治療法として,非ステロイド性抗炎症薬,ステロイドの局所注射,サラゾスルファピリジンなどが用いられてきたが,近年は生物学的製剤であるCTNFCa阻害薬が使われる機会が増えてきている.AS加療に認められている生物学的製剤はエタネルセプト,インフリキシマブ,アダリムマブがある.エタネルセプトはTNFの可溶性受容体抗体であり,インフリキシマブとアダリムマブはモノクローナル抗体である3).エタネルセプトの作用機序はCTNFa/bの中和であり,インフリキシマブやアダリムマブなどのモノクローナル抗体の作用機序はCTNFCaの中和とCTNF産生細胞そのものの障害である.ASの眼科的併発症状として急性前部ぶどう膜炎があげられ,その発症率は約C25%程度であるといわれている1).前部ぶどう膜炎は,ステロイドや散瞳薬で治療されることが多いが,遷延することもある.TNFCa阻害薬の一つであるアダリムマブは,これまで関節リウマチ,強直性脊椎炎,若年性特発性関節炎,関節症性乾癬,尋常性乾癬,潰瘍性大腸炎,Crohn病,Behcet病などの疾患に対し保険適用のある生物学的製剤であったが,2016年C9月に眼科領域として非感染性の中間部・後部・汎ぶどう膜炎に保険適用となった.すなわちCAS患者においては,ASに対してCTNFCa阻害薬が投与されている場合と,眼科医が難治性のぶどう膜炎に対してCTNFa阻害薬を処方する場合が生じうる.本症例は,ASに対してエタネルセプト治療下で両眼ぶどう膜炎を発症し,最初はステロイドに反応したが,エタネルセプトとステロイドの継続治療下で両眼のぶどう膜炎が再発した.ぶどう膜炎のコントロール不良の原因として,①現行の治療での抗炎症効果不十分,②エタネルセプトそのものによる副作用としてのぶどう膜炎惹起,の二つの可能性が考えられた.とくに②の可能性について,海外ではエタネルセプトによるぶどう膜炎の惹起の報告があり4,5),エタネルセプトはその作用機序から,マクロファージなどのCTNF産生細胞は傷害しないため,TNF以外の炎症性サイトカインの産生が続いた結果,炎症を惹起するという機序が考察されている.また,エタネルセプト使用中のCAS患者において,Crohn病などの炎症性腸疾患が発症しやすいという報告もある6).いずれもアダリムマブへの変更でCASと腸疾患の良好なコントロールが得られたと記されている.このメカニズムについては明らかにされておらず,サイトカインの不均衡が原因の一つではないかと示唆されている7).本症例においては,結果的にエタネルセプトをアダリムマブに変更したことにより,速やかな眼炎症・ぶどう膜炎の寛図1初診時所見(左眼)図2再発時と寛解後の比較左:治療開始後C10カ月,炎症再燃.右:アダリムマブ導入後C3カ月,炎症寛解.C58035プレドニゾロン投与量(mg)560540520500480460440420中心窩脈絡膜厚(μm)3025201510504444442424411カ月時週週週週週週週週週週図3臨床経過週解を得た.今回後部ぶどう膜炎の経過をみるにあたって,EDI-OCTによる中心窩脈絡膜厚の変化を参考にしている.これはCBehcet病やCVogt・小柳・原田病などのぶどう膜炎にて活動期では休止期と比べ中心窩脈絡膜厚が有意に厚いという報告をもとにしているが,AS併発ぶどう膜炎について述べた文献はないため後眼部炎症の程度を即座に把握するための参考程度としている8,9).本症例の経過から,同じCTNFCa阻害薬でもその効果に違いがあることが確認された.TNFCa阻害薬は眼科領域でも今後使用される機会が増えてくると考えられるが,それぞれの薬剤の機序や副作用は異なっており,製剤変更により病状の改善が得られる可能性があることを知っておかねばならない.ぶどう膜炎はリウマチなどの全身性疾患に関連して生じることも多く,すでに他科から生物学的製剤が投与されていることもあると考えられることから,現在患者が使用している薬剤についての把握は重要である.文献1)井上久:我が国の強直性脊椎炎(AS)患者の実態.第C3回患者アンケート調査より..日本脊椎関節学会誌III:29-34,C20112)FabianiCC,CVitaleCA,CLopalcoCGCetal:Di.erentCrolesCofCTNFCinhibitorsCinCacuteCanteriorCuveitisCassociatedCwithCankylosingCspondylitis:stateCofCtheCart.CClinCRheumatolC35:2631-2638,C20163)天野宏一:TNF阻害薬.日内会誌100:2966-2971,C20114)WendlingCD,CJoshiCA,CReillyCPCetal:ComparingCtheCriskCofCdevelopingCuveitisCinCpatientsCinitiatingCanti-tumorCnecrosisCfactorCtherapyCforankylosingCspondylitis:anCanalysisofalargeUSclaimsdatabase.CurMedResOpinC30:2515-2521,C20145)LieE,LindstromU,Zverkova-SandstromTetal:Tumornecrosisfactorinhibitortreatmentandoccurrenceofante-riorCuveitisCinankylosingCspondylitis:resultsCfromCtheCSwedishCbiologicsCregister.CAnnCRheumCDisC76:1515-1521,C20176)ToluS,RezvaniA,HindiogluNetal:Etanercept-inducedCrohn’sCdiseaseCinankylosingCspondylitis:aCcaseCreportCandCreviewCofCtheCliterature.CRheumatolCIntC38:2157-2162,C20187)JethwaCH,CMannS:CrohnC’sCdiseaseCunmaskedCfollowingCetanercepttreatmentforankylosingspondylitis.BMJCaseRep,C20138)KimCM,CKimCH,CKwonCHJCetal:ChoroidalCthicknessCinCBehcet’suveitis:anCenhancedCdepthCimaging-opticalCcoher-enceCtomographyCandCitsCassociationCwithCangiographicCchanges.InvestOphthalmolVisSciC54:6033-6039,C20139)MarukoCI,CIidaCT,CSuganoCYCetal:SubfovealCchoroidalCthicknessCafterCtreatmentCofCVogt-Koyanagi-HaradaCdis-ease.RetinaC31:510-517,C2011***