‘強膜弁無縫合非穿孔性トラベクレクトミー’ タグのついている投稿

強膜弁無縫合非穿孔性トラベクレクトミー(Free-flap Advanced NPT)の手術成績

2009年5月31日 日曜日

———————————————————————-Page1700あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009(00)19回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科26(5):700704,2009cはじめにAdvancednon-penetratingtrabeculectomy(ad-NPT)は,トラベクレクトミーと比較して重篤な合併症が少なく,比較的行いやすい術式であるが,術後の眼圧コントロールはトラベクレクトミーと比較するとやや劣るとの報告15)が多い.以前,筆者らはad-NPTの効果・安全性を維持しつつ,より良好な術後濾過胞の形成を目指して,強膜弁無縫合非穿孔性トラベクレクトミー(free-apadvancedNPT)を考案し,その手術成績を報告6)した.このときは,術後の前房形成不良の危険を最小限にするため,すべて白内障との同時手術の症例を対象としたが,特に重篤な合併症などはみられなかったため,今回は単独手術も施行した.札幌医科大学眼科(以下,当科)で行ったfree-apadvancedNPTの手術成績および単独手術と同時手術の比較検討を合わせて報告する.I対象および方法1.対象対象は,緑内障手術既往を問わない原発開放隅角緑内障で,当科でfree-apadvancedNPTを行い,1カ月以上経過観察できた18例27眼とした.年齢は平均68.1±5.4(60〔別刷請求先〕田中祥恵:〒060-8543札幌市中央区南1条西16丁目札幌医科大学医学部眼科学講座Reprintrequests:SachieTanaka,M.D.,DepartmentofOphthalmology,SapporoMedicalUniversitySchoolofMedicine,S1W16,Chuo-ku,Sapporo,Hokkaido060-8543,JAPAN強膜弁無縫合非穿孔性トラベクレクトミー(Free-apAdvancedNPT)の手術成績田中祥恵鶴田みどり片井麻貴石川太大黒幾代大黒浩札幌医科大学医学部眼科学教室OutcomesofFree-apAdvancedNon-penetratingTrabeculectomySachieTanaka,MidoriTsuruta,MakiKatai,FutoshiIshikawa,IkuyoOhguroandHiroshiOhguroDepartmentofOphthalmology,SapporoMedicalUniversitySchoolofMedicine強膜弁無縫合非穿孔性トラベクレクトミー(free-apadvancedNPT)を行い,その手術成績および単独手術と同時手術の比較について検討した.対象は術後1カ月以上経過観察できた原発開放隅角緑内障18例27眼(単独手術8例10眼,白内障手術との同時手術12例17眼).年齢は平均68.1±5.4(6081)歳,術後経過観察期間は11.6±7.6(124)カ月であった.平均眼圧は術前17.0±3.2mmHgであったのに対し,術後1,6,12カ月の眼圧は13.0±3.9mmHg,13.1±2.5mmHg,13.7±3.2mmHgと有意に低下し,術後12カ月での14mmHg以下へのコントロール率は70.6%であった.単独手術と同時手術では,手術成績に有意差はみられなかった.Weevaluatedthesurgicaloutcomeafterfree-apadvancednon-penetratingtrabeculectomy(NPT)andcom-paredfree-apadvancedNPTonlywithfree-apadvancedNPTplusphacoemulsicationandintraocularlensimplantation(combinedsurgery).Free-apadvancedNPTwasperformedin18eyesof27primaryopen-angleglaucomapatients(10eyesof8patientsunderwentfree-apadvancedNPTonly,17eyesof12patientsunder-wentcombinedsurgery).Meanagewas68.1±5.4years;meanfollow-upperiodwas11.6±7.6months.intraocularpressure(IOP)at1,6and12monthspostoperativelywas13.0±3.9mmHg,13.1±2.5mmHg,and13.7±3.2mmHg,respectively,signicantlylowerthanthebaselineIOPof17.0±3.2mmHg.TheprobabilityofIOPsuccessfullyreaching14mmHgat12monthswas70.6%.TherewasnosignicantdierenceineciencyofIOPreductionbetweenthefree-apadvancedNPTonlygroupandthecombinedsurgerygroup.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(5):700704,2009〕Keywords:強膜弁無縫合非穿孔性トラベクレクトミー,手術成績,同時手術.free-apadvancedNPT,surgicaloutcome,combinedsurgery.700(120)0910-1810/09/\100/頁/JCLS———————————————————————-Page2あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009701(121)81)歳,術後経過観察期間は11.6±7.6(124)カ月であった.そのうち単独手術は8例10眼,白内障手術との同時手術は12例17眼であった(表1).2.術式手術方法を表2に示す.強膜内方弁切除までは,従来のマイトマイシンC(MMC)併用ad-NPTと同じである.その後,従来のad-NPTでは強膜外方弁を縫合するが,free-apadvancedNPTでは,縫合せずに整復するのみとした.手術終了時に前房深度を確認し,前房形成が不良の場合は,サイドポートよりbalancedsalinesolusion(BSS)を注入して前房を形成した.3.検討項目a)全体(単独手術+同時手術),単独手術,同時手術それぞれについて,術前後の眼圧,抗緑内障薬点眼数,術後処置,合併症につき検討した.眼圧はGoldmann圧平眼圧計を用いて,術後1,3,6(以後3カ月ごと)カ月に測定した.眼圧経過の判定は,術前後の平均眼圧を対応のあるt-検定を用いて検定した.また,眼圧下降率,眼圧コントロール率についても検討した.眼圧下降率(%)は術前眼圧術後眼圧/術前眼圧×100の式を用いて算出し,眼圧コントロール率はKaplan-Meier法を用いて検討した.そのエンドポイントは,①2回連続して14mmHgを超えた最初の時点,または②アセタゾラミドの内服や追加の緑内障手術を行った時点とした.抗緑内障点眼薬数の増減の判定は,術前の平均点眼薬数に対して,術後の平均点眼薬数をWilcoxonsignedranktestを用いて検定した.b)上記a)のそれぞれの項目について,単独手術と同時手術の比較を行った.2群間の統計学的検討方法は,平均眼圧の比較には対応のないt-検定,眼圧コントロール率の比較にはlog-ranktestを用い,抗緑内障点眼薬数の減少程度の比較には分散分析,術後処置・合併症の頻度の比較にはc2検定を用いた.II結果a),b)合わせて示す.1.眼圧経過術前後の眼圧経過を表3と図1に示す.全体において術前17.0±3.2mmHgの眼圧が,術後1カ月で13.0±3.9mmHg,3カ月で13.4±3.3mmHg,6カ月で13.1±2.5mmHg,12カ月後には13.7±2.7mmHg,最終観察時には14.0±3.6mmHgと有意に低下した(p<0.05).単独手術と同時手術の比較においては,同時手術のほうが単独手術よりも術後眼圧が低い傾向を示したが,統計学的な有意差は認めなかった.2.眼圧下降率術後の眼圧下降率を表4に示す.最終観察時における眼圧下降率は,全体では17.3±17.2%,単独手術では13.7±13.1%,同時手術では19.3±19.3%であった.表1患者背景全体18例27眼単独手術8例10眼同時手術12例17眼p値病型POAGPOAGPOAG年齢(歳)68.1±5.4(6081)65.6±2.5(6167)69.6±6.1(6081)<0.05術前眼圧(mmHg)17.0±3.2(1426)18.1±4.4(1426)16.2±2.0(1422)術後観察期間(カ月)11.6±7.6(124)10.6±6.5(121)12.1±8.4(124)手術既往*症例の重複含むLEC2眼PEA-IOL+VCS1眼ICCE1眼ECCE-IOL1眼PEA-IOL1眼ALT1眼SLT2眼LEC1眼LOT1眼POAG:原発開放隅角緑内障,LEC:トラベクレクトミー,PEA-IOL:超音波水晶体乳化吸引術+眼内レンズ挿入術,VCS:ビスコカナロストミー,ICCE:水晶体内摘出術,ECCE:水晶体外摘出術,ALT:レーザー線維柱帯形成術,SLT:選択的レーザー線維柱帯形成術,LOT:トラベクロトミー.表2術式1.結膜切開(fornix-base)2.強膜外方弁作製(4×4mmの四角形)3.0.02%マイトマイシンC塗布(3分間)4.生理食塩水250mlで洗浄5.同時手術ではPEA-IOL(角膜切開)6.強膜内方弁作製(4×3mmの四角形)7.線維柱帯内皮網擦過8.強膜内方弁を角膜側Descemet膜まで進める9.強膜内方弁切除10.強膜外方弁を整復(強膜弁は縫合しない)11.結膜縫合fornix-base:円蓋部基底,PEA-IOL:超音波水晶体乳化吸引術+眼内レンズ挿入術.———————————————————————-Page3702あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009(122)3.眼圧コントロール率眼圧コントロール率を図2に示す.術後12カ月の時点での14mmHg以下へのコントロール率は全体で70.6%,単独手術45.0%,同時手術88.3%であった.単独手術と同時手術において統計学的な有意差はみられなかった.4.抗緑内障点眼薬数(表5)点眼薬数は,単独手術,同時手術ともに,術後抗緑内障点眼薬数は有意に減少した(p<0.05).単独手術と同時手術では有意な差はみられなかった.5.術後処置(表6)YAG-laserによるgonio-punctureを施行して,眼圧調整をしたものは全体では16眼(59.3%)で,術後平均7.9±10.5(124)日に施行されていた.単独手術と同時手術においてgonio-punctureの施行率に有意差はみられなかった.Gonio-punctureの施行時期は,同時手術のほうが単独手術表3術前後の眼圧術前1カ月3カ月6カ月12カ月最終観察時全体17.0±3.213.0±3.9**13.4±3.3*13.1±2.5**13.7±2.7**14.0±3.6**単独手術18.4±4.4(n=10)14.6±4.5(n=10)13.8±4.2*(n=9)13.6±2.2**(n=8)15.2±3.4(n=6)15.7±3.6同時手術16.2±2.0(n=17)12.1±3.3**(n=17)13.3±2.7**(n=13)12.7±2.7**(n=12)12.8±1.9**(n=10)13.0±3.3***p<0.05,**p<0.01.(mmHg)全体においては,術前に比べ術後有意に眼圧は下降した.単独手術と同時手術の比較においては,同時手術のほうが単独手術よりも術後眼圧が低い傾向を示したが,統計学的な有意差はみられなかった.表4眼圧下降率(%)の推移術後1カ月3カ月6カ月12カ月最終観察時全体23.2±20.018.4±17.317.9±14.914.7±13.617.3±17.2単独手術19.6±22.3(n=10)21.0±18.8(n=10)17.1±13.7(n=9)12.4±16.8(n=8)13.7±13.1(n=6)同時手術25.3±18.9(n=17)16.7±16.7(n=17)18.5±16.3(n=13)16.1±12.1(n=12)19.3±19.3(n=10)0510152025術前13612眼圧(mmHg)経過観察期間(月):全体:単独手術:同時手術図1術前後の眼圧経過率術後経過術術図2眼圧コントロール率術後12カ月での14mmHg以下へのコントロール率は全体で70.6%,単独手術45.0%,同時手術88.3%であった.表5抗緑内障点眼薬数全体単独手術同時手術術前3.7±1.14.3±1.33.3±0.7術後(最終観察時)0.9±1.11.4±1.20.5±0.8(剤)単独手術,同時手術ともに,術後抗緑内障点眼薬数は有意に減少した(Wilcoxonsignedranktest).2群間において有意な差はみられなかった(分散分析).表6術後処置:YAG-lasergonio-puncture全体単独手術同時手術眼数施行時(日)16(59.3%)7.9±10.56(60%)2.3±1.5(15)10(58.8%)11.3±12.2(124)単独手術と同時手術において有意な差はみられなかった(c2検定).***———————————————————————-Page4あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009703(123)よりも遅かった.Gonio-puncture施行後の眼圧推移を図3に示す.同時手術群はgonio-puncture直後より有意に眼圧下降が得られたが,単独手術群は翌日になると眼圧が再上昇し,その後下降していく傾向がみられた.6.術後併発症術後併発症を表7に示す.全体としては,術後早期併発症として軽度中等度の浅前房を4眼(29.3%),軽度中等度の前房出血を3眼(11.1%),5mmHg以下の低眼圧を2眼(7.4%)に認めたが,いずれも保存療法で数日のうちに軽快した.また経過観察中1眼(3.7%)にgonio-puncture部位に虹彩嵌頓を認めたが,嵌頓虹彩へのYAG-laserおよびlasergonioplastyにて解除され,以後眼圧コントロールも良好であった.輪部結膜切開部位から房水漏出がみられたものが3眼(11.1%)あったが,いずれもヒアルロン酸製剤の点眼で軽快した.単独手術と同時手術の比較では,前房出血のみ,単独手術と同時手術とで発症率に有意差がみられた(p<0.05).III考按筆者らはad-NPTの安全性を維持しつつ,より良好な濾過胞形成を目指して,free-apadvancedNPTを考案し,その手術成績を報告した6).その手術成績から,free-apadvancedNPTはad-NPT同様の眼圧下降効果および安全性を有すること,下降した眼圧を維持するためには,適宜YAGlasertrabeculopuncture(YLT)を施行して濾過量を調整していくことが必要であることがわかった.Free-apadvancedNPTでは強膜弁を縫合しないため,術後のlasersuturelysisが不要であるため,術後処置が軽減されるという利点をもつ.その反面,術後の過剰濾過・前房形成不良などの併発症が増すことが懸念される.このため,前回はすべて白内障との同時手術で行ったが,術後重篤な合併症などを認めなかったため,今回はfree-apadvancedNPTの単独手術も施行し,同時手術と単独手術の比較検討も行った.ad-NPTの術後眼圧については,黒田1)が術後12カ月で,単独手術13.4mmHg,白内障との同時手術では13.0mmHgと報告している.溝口2)は単独手術で術後6カ月13.9mmHg,12カ月13.6mmHg,山本ら7)は3カ月で,単独手術,同時手術合わせて13.5mmHgと報告している.Free-apadvancedNPTの術後眼圧については,前回,筆者らは同時手術では,術後3カ月で12.9mmHgと報告6)した.今回のfree-apadvancedNPTの結果は,術後12カ月の眼圧13.7mmHgとこれまでのad-NPTの報告1,2,7)と同等であり,また前回の筆者らの報告とも同等であった.しかしながら,14mmHg以下へのコントロール率は全体で70.6%と穿孔性トラベクレクトミー4,8)には及ばなかった.ad-NPTにおける単独手術と白内障との同時手術の術後眼圧に関しては,Kurodaら9)は単独手術と同時手術では,術後眼圧コントロール率に有意差はなかったと報告している.今回筆者らの行ったfree-apadvancedNPT単独手術と同時手術の比較では,統計学的な有意差はなかったが,同時手術のほうが単独手術よりも術後眼圧が低い傾向を示した.この理由としては,単独手術群のほうに緑内障手術既往例が多いことが関係している可能性が考えられた.抗緑内障薬点眼数に関しては,術前に比べ,術後有意に減少しており,これまでのad-NPTでの報告1,2,7)と同様であった.術後gonio-punctureの施行に関しては,初期の報告においては,黒田1)が4/56眼(7.1%),溝口2)は2/32眼(6.3%)と報告しているが,積極的に施行した場合では,山本ら7)は9/14眼(64.3%)と報告し,前回の筆者らのデータでも5/10眼(50%)程度であった.今回も,眼圧上昇傾向や,濾過胞の縮小傾向がみられた場合に積極的に施行したため,施行率が60%程度になったと思われる.単独手術と同時手術の比較では,施行率に差はなかったが,施行時期に関しては,同時手術のほうが遅かった.術後の併発症に関しては,単独手術で,同時手術に比べて,前房出血が多くみられた.症例数が少なく,原因は不明であるが,今後症例数を増やして,再度検討が必要と考えている.懸念された前房形成不全はみられず,free-ap表7術後併発症全体単独手術同時手術p値浅前房4(29.3%)04前房出血3(11.1%)30<0.01低眼圧(5mmHg以下)2(7.4%)02虹彩嵌頓1(3.7%)01Seidel陽性3(11.1%)21前房出血のみ,単独手術と同時手術とで発症率に有意差がみられた(c2検定).前直後翌日1W1M経過観察期間3M6M9M12M*p<0.0135302520151050眼圧(mmHg):全体:単独:同時*****図3Gonio-puncture施行後の眼圧の推移同時手術群はgonio-puncture直後より有意に眼圧下降が得られたが,単独手術群は翌日になると眼圧が再上昇し,その後下降していく傾向がみられた.———————————————————————-Page5704あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009(124)advancedNPTは単独手術,同時手術ともにad-NPT同様,術後併発症の少ない安全な術式と思われた.文献1)黒田真一郎,溝口尚則,寺内博夫ほか:Non-PenetratingTrabeculectomyを改良した緑内障手術(advancedNPT:仮称)の評価.あたらしい眼科17:845-849,20002)溝口博夫:AdvancedNPT─テクニックと中期成績─.眼科手術14:305-309,20013)福地健郎,阿部春樹:非穿孔性線維柱帯切除術(NPT)術式と中期成績.眼科手術14:311-314,20014)FukuchiT,SudaK,HaraHetal:MidtermresultandtheproblemsofnonpenetratinglamellartrabeculectomywithmitomycinCforJapaneseglaucomapatients.JpnJOph-thalmol51:34-40,20075)川嶋美和子,山崎芳夫,水木健二ほか:原発開放隅角緑内障に対する非穿孔性線維柱帯切除術の術後成績の検討.日眼会誌108:103-109,20046)大黒浩,大黒幾代,山崎仁志ほか:理想的な術後濾過胞形成を目指した強膜弁無縫合非穿孔性トラベクレクトミー(Free-apAdvancedNPT)の手術成績.あたらしい眼科23:515-518,20067)山本陽子,大黒幾代,大黒浩ほか:弘前大学眼科における改良非穿孔トラベクレクトミーの手術成績.あたらしい眼科22:813-816,20058)FontanaH,Nouri-MahdaviK,LumbaJetal:Trabeculec-tomywithmitomycinC.Ophthalmology113:930-936,20069)KurodaS,MizoguchiT,TerauchiHetal:Advancednon-penetratingtrabeculectomy(advancedNPT)andcom-binedsurgeryofadvancedNPTandphacoemulsicationandintraocularlensimplantation.SeminOphthalmol16:172-176,2001***