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片眼の高眼圧を伴う虹彩炎が初発症状であった再発性多発性軟骨炎の1例

2009年1月31日 土曜日

———————————————————————-Page1(109)1090910-1810/09/\100/頁/JCLSあたらしい眼科26(1):109112,2009cはじめに再発性多発性軟骨炎(relapsingpolychondritis:RP)は全身のムコ多糖やプロテオグリカンを多く含む組織(眼組織,鼻軟骨,耳介軟骨,内耳,喉頭気管支軟骨,関節軟骨,心弁膜,全身血管,腎臓など)に再発性の炎症およびそれに伴う組織の変形,破壊を生じる原因不明の炎症性疾患で,多彩な局所症状や全身症状を合併する.眼組織においては本疾患の5060%で炎症,変性や機能異常などの多彩な症状を呈し,全病期においては耳介軟骨炎,関節炎についで高い発症率である.本疾患の発症率は3.5人/100万人1)とまれであるが,眼組織において日常経験するあらゆる炎症所見に関係している可能性があり,適切な治療を行ううえで早期に本疾患を疑うことは重要であると考えられる.今回筆者らは片眼の虹彩炎〔別刷請求先〕内田真理子:〒629-0197京都府南丹市八木町八木上野25番地公立南丹病院眼科Reprintrequests:MarikoUchida,M.D.,DepartmentofOphthalmology,NantanGeneralHospital,25YagiUeno,Yagi-cho,Nantan629-0197,JAPAN片眼の高眼圧を伴う虹彩炎が初発症状であった再発性多発性軟骨炎の1例内田真理子*1伴由利子*1吉田祐介*1土代操*1山本敏也*2*1公立南丹病院眼科*2同耳鼻咽喉科ACaseofRelapsingPolychondritisOccurredbyUnilateralIritiswithOcularHypertentionMarikoUchida1),YurikoBan1),YusukeYoshida1),MisaoDoshiro1)andToshiyaYamamoto2)1)DepartmentofOphthalmology,2)DepartmentofOtolaryngology,NantanGeneralHospital70歳,男性,右眼視力低下を自覚,右眼虹彩炎と高眼圧があり,Posner-Schlossman症候群を疑われた.その後両上強膜炎および右耳介軟骨炎を発症し,プレドニゾロンの内服治療(30mg/日)に反応した.診断基準である,典型的な多発する炎症,ステロイド反応性の2項目を満たしたことにより再発性多発性軟骨炎と診断した.高眼圧の発症から診断までは約半年であった.初期の血液検査ではCRP(C反応性蛋白)値の上昇など,急性炎症の存在を示したが,抗Ⅱ型コラーゲン抗体の測定はステロイド治療の開始後に行われたため陰性であった.以後再発,寛解をくり返し,症状増悪時にはステロイドの増量が必要であった.ステロイドの減量をめざし,コルヒチン1mg/日またはシクロスポリン300mg/日内服を併用したが改善せず,現在もプレドニゾロン15mg/日内服を継続している.症状はほぼ軽快しているが,今後ステロイド内服に伴う眼合併症および全身合併症にも注意をしていく必要がある.A70-year-oldmalewithinitialsymptomsofvisualacuityloss,iritisandocularhypertensioninhisrighteyewassuspectedofhavingPosner-Schlossmansyndrome.Subsequently,hesueredepiscleritisinbotheyesandauricularchondritisintheleftear;theyrespondedwelltooralprednisolone30mg/d.Hewasdiagnosedwithrelapsingpolychondritis,inviewofthetypicalepisodeofcartilaginoustissueinammationanditsresponsetocor-ticosteroidtherapy.Itwasalmost6monthsfromtherstsymptomstoourdiagnosis.Laboratoryevaluationinitial-lyrevealedacuteinammatorychanges;circulatingautoantibodiestotypeIIcollagenwerenegativewhiletakingprednisolone15mg/d.Relapseagainoccurred,atwhichpointwehadtoincreasetheprednisolone.Wetriedadmin-isteringcolchicine1mg/dorcyclosporine-A300mg/dincombinationwithprednisolone,buttheyhadnorecogniz-ableeect.Thepatientisnowtakingprednisolone15mg/dandsymptomshavealmostcleared.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(1):109112,2009〕Keywords:再発性多発性軟骨炎,高眼圧,上強膜炎,虹彩炎,耳介軟骨炎,ステロイド療法,抗Ⅱ型コラーゲン抗体.relapsingpolychondritis,ocularhighpertentsion,episcleritis,iritis,auricularchondritis,corticosteroidtherapy,circulatingautoantibodiestotypeⅡcollagen.———————————————————————-Page2110あたらしい眼科Vol.26,No.1,2009(110)に伴う高眼圧の発症後に両上強膜炎を呈した後,右耳介軟骨炎を合併し,本疾患の診断に至った症例を経験したので報告する.I症例患者:70歳,男性.主訴:右眼視力低下.既往歴:特記すべきことなし.現病歴:2005年1月6日,上記主訴にて近医を受診したところ,右眼眼圧46mmHgと上昇があり,軽度の虹彩炎を伴いPosner-Scholssman症候群の診断となった.眼圧は眼圧下降薬点眼にて20mmHg前後にコントロールされたが,経過中両上強膜炎を発症し2005年3月12日精査目的で当科紹介となった.初診時所見:視力は右眼0.1(1.0×+2.5D(cyl1.25DAx90°),左眼0.15(0.7×+3.0D(cyl1.0DAx60°).眼圧はマレイン酸チモロール(チモプトールR)両眼2回/日,塩酸ドルゾラミド(トルソプトR)両眼3回/日点眼下にて,右眼20mmHg,左眼22mmHgであった.両眼とも角膜は透明で耳側上強膜に充血があり,前房内炎症はcell(+)であった.水晶体には中等度の白内障があったが,硝子体混濁や眼底には異常はなかった.隅角所見は両眼ともShaer分類grade2,右眼は3時-6時,左眼は8時-10時にかけ周辺虹彩前癒着の散在を認めたが結節は認めなかった.血液検査は白血球4,880/μlと正常値であったが,CRP(C反応性蛋白)4.1mg/dl,補体価58.7U,a1-globulin3.8%,a2-globulin9.7%,b-globulin11.1%,g-globulin25.4%,赤沈(60分値)52mmとそれぞれ上昇があり急性炎症を示す結果であった.リウマチ因子,抗核抗体や抗DNA抗体は陰性であった.その他ヘモグロビン12.6g/dl,MCV(平均赤血球容積)96.7,MCH(平均赤血球血色素量)32.3pg,MCHC(平均赤血球血色素濃度)33.4%と正球性正色素性貧血があった.II経過リン酸ベタメタゾンナトリウム(リンデロンR)両眼4回/日点眼にて約1カ月で両上強膜炎がほぼ軽快した.2005年5月右耳介の発赤腫脹を自覚(図1),耳鼻科にて右耳介軟骨炎と診断され,プレドニゾロン内服(30mg/日)を開始され,15mg/日まで漸減しながら約3カ月で寛解した.この時点で,上強膜炎およびステロイド投与に反応する耳介軟骨炎の合併を認めたことから,RPにおけるDamianiらの改革診断基準2)を満たし本症の診断となった.プレドニゾロン内服を10mg/日に漸減したところ両上強膜炎が再燃,プレドニゾロン20mg/日内服へ増量したが,再度10mg/日に自己判断で減量し,上強膜炎が悪化した(図2).そのため,プレドニゾロン15mg/日内服を継続して約1カ月で左眼症状はほぼ軽快した.抗Ⅱ型コラーゲン抗体検査は本人の承諾がなく未施行であったが,この時点で承諾を得られ調べたところ陰性であった.眼圧下降薬点眼下にて両眼圧が20mmHgを超えることもあり,ステロイド緑内障の発症を危惧しプレドニゾロン内服減量を目的にコルヒチン(コルヒチンR)1mg/日内服併用やシクロスポリン(ネオーラルR)300mg/日内服併用を試みたが,症状は改善せず,ステロイドの減量はむずかしかった.その後も強膜炎および耳介軟骨炎の再燃がみられ,さらに2007年9月左耳の耳鳴りを自覚,左内耳障害を疑い耳鼻咽喉科にてコハク酸ヒドロコルチゾンナトリウム(サクシゾンR)を500mg/日より経静脈的に漸減投与され(500mg/日×3日,400mg/日×2日,300mg/日×2日,200mg/日×図1右耳介軟骨炎2005年5月,右耳介の発赤,腫脹がある.図2右上強膜炎再燃時2005年12月,上強膜全体に強い充血がみられる.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.1,2009111(111)2日,100mg×3日),上強膜炎および耳鳴りともに軽快した.現在もプレドニゾロン内服(15mg/日)を続けている.現在までのところ関節炎や呼吸器症状はない.眼圧は眼圧下降薬点眼下にて正常範囲内にあり視野異常はないが,両眼ともに皮質白内障に進行している.以上の経過を図3に示す.III考按RPは1923年にJaksch-Wartenhorstにより報告されて以来現在までに約1,000例ほど報告されてきている1).本疾患の原因は明らかではないが,自己免疫疾患の合併率が30%と高率でありムコ多糖類を多く含む組織を選択的に障害することや,急性期の約30%に抗Ⅱ型コラーゲン抗体の上昇を認めること3),ステロイドや各種の免疫抑制薬に有効性を認めることから免疫異常が原因であると考えられている.好発年齢は4060歳だが新生児から90歳代まで報告がある4).性差はなく,遺伝性は報告されていない.初発症状で高率なのが鼻軟骨炎の約20%,眼症状の19%,呼吸器症状の14%である.全病期において最も発症率が高いのは耳軟骨炎の95%,ついで多いのは関節炎の5080%となっており,眼疾患や鼻軟骨炎も約5060%とそれらについで高率に発症する.気道閉塞,肺炎,心弁膜症,腎障害などにより1986年では10年生存率が55%であったが,早期にステロイド治療などを開始されるようになったため1998年で8年生存率は94%となっている.眼症状として最も多いのが結膜炎,上強膜炎,強膜炎で鼻軟骨炎や関節炎と平行して再燃,寛解をくり返すことが多い.強膜炎の3.1%が本症と診断されたという報告もある5).その他ぶどう膜炎(25%),角膜炎(10%),網脈絡膜炎(10%),静脈分枝閉塞症,虚血性視神経症,眼瞼浮腫,眼窩偽腫瘍,外眼筋炎などが報告されており,全眼組織が本疾患で炎症を生じる可能性がある6).本疾患の診断は1976年にMcAdamらが提案した診断基準を,DamianiとLevineら2)が1979年に拡大したものが多く用いられている.診断においては,合併する局所症状の組み合わせが基準となるため,発症から診断までの期間は長く68%の症例で1年以上を要し,平均は2.9年ほどである.検査所見では赤沈値の亢進,CRP上昇やポリクローナルなグロブリン値上昇などの急性炎症の所見以外に正球性正色素性貧血を認めることが多い.その他急性期の約30%に抗Ⅱ型コラーゲン抗体3)が陽性になるため診断確定の補助となる.またCRPは症状の増悪,軽快に平行して変動することが多く本疾患の活動性の指標になりうる.しかし,抗Ⅱ型コラーゲン抗体は慢性関節リウマチやMeniere病でも陽性となるため本疾患特異的な抗体ではない7).本症例においては,片眼の軽度虹彩炎と眼圧上昇という非典型的な初発症状で発症したが,3カ月後に上強膜炎を,5カ月後には耳介軟骨炎を発症し,約6カ月と平均に比べ比較的早期に診断が可能であった.図3発症より現在までの経過上強膜炎耳介軟骨炎内右右右耳介耳介耳り———————————————————————-Page4112あたらしい眼科Vol.26,No.1,2009(112)本症例は発症12カ月の時点で抗Ⅱ型コラーゲン抗体の上昇がなかったが,すでにステロイド内服を開始していたことや急性期でなかったことが一因であると思われる.また,CRP値は耳介軟骨炎の増悪に一致して上昇する傾向を認めたが,上強膜炎とは関連性がなかった.治療法としてのガイドラインはないが,抗炎症薬,免疫抑制薬,抗悪性腫瘍薬に有効性が報告されている.軽微な局所症状のみであれば非ステロイド系抗炎症薬8)の内服,より重症と判断される場合はダプソン9)やステロイド(0.51mg/kgより開始)の全身投与,ステロイドパルス療法の施行,その他シクロホスファミド,アザチオプリン,シクロスポリン10),メソトレキセートやコルヒチン8)などの単独投与またはステロイドとの併用の有効性が報告されている.症状が強い場合シクロホスファミドやアザチオプリンを第一選択とする場合もある11).また,アザチオプリンやメソトレキセート内服併用がステロイド減量に有効だったとの報告もある12).眼局所に対してはステロイド結膜下注射なども有効である.本症例ではプレドニゾロンに反応したが,減量すると増悪や再発を起こした.コルヒチン併用,シクロスポリン併用については明らかな効果がなかった.本症例は,片眼の虹彩炎および高眼圧にて発症したが,後に上強膜炎および耳介軟骨炎を合併しRPの診断となった.現在のところ発症時の主症状が高眼圧であった報告はほかに認めないが,高眼圧を伴う軽度の虹彩炎であっても本疾患を疑う必要性があると思われる.本症例の治療においてはプレドニゾロン内服を減量すると増悪するため維持量を継続せざるをえず,ステロイド内服によるステロイド緑内障および全身合併症にも注意をしていくことが重要である.文献1)GergelyP,PoorG:Relapsingpolychondritis.BestPractResClinRheumatol18:723-738,20042)DamianiJM,LevineHL:Relapsingpolychondritis.Oph-thalmology93:681-689,19863)FoidartJM,AbeS,MartinGRetal:AntibodiestotypeIIcollageninrelapsingpolychondrites.NEnglJMed299:1203-1207,19784)ArundellFW,HaserickJR:Familialchronicatrophicpolychondritis.ArchDermatol82:439-440,19605)JabsDA,MudunA,DunnJPetal:Episcleritisandscleri-tis.AmJOphthalmol130:469-476,20006)PeeboBB,MarkusP,FrennessonC:Relapsingpolychon-dritis:ararediseasewithvaryingsymptoms.ActaOph-thalmolScand82:472-475,20047)垣本毅一,真弓武仁:抗Ⅱ型コラーゲン自己抗体.日本臨牀63:643-645,20058)MarkKA,FranksAGJr:Colchicineandindomethacinforthetreatmentofrelapsingpolychondritis.JAmAcadDermatol46:S22-24,20029)MartinJ,RoenigkHHJr,LynchWetal:Relapsingpoly-chondritiswithdapsone.ArchDermatol112:1272-1274,197610)OrmerodAD,ClarkLJ:Relapsingpolychondritistreat-mentwithcyclosporineA.BrJDermatol127:300-301,199211)LetkoE,ZarakisP,BaltatzisSetal:Relapsingpoly-chondritis:Aclinicalreview.SeminArthritisRheum31:384-395,200212)TrenthamDE,LeCH:Relapsingpolychondritis.AnnInternMed129:114-122,1998***